北山雫は魔法科高校の劣等生 (ひきがやもとまち)
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プロローグ「北山雫はひねくれている」

雫が好きすぎてヒロインにしたいと思っていたのに、気付いたら主人公にしてました。

なお、今作の雫の口調は某ギャルゲーヒロインを基にしており、
原作と比べて大分読みづらくなっております。
ご不満に感じましたらご一報ください。すぐに訂正いたします。


 私の前世はあっけなく死んだ。

 なんの事件もなく、なんのドラマもなく、なんの悲喜劇もなく、実にあっさりとした幕引きだった。

 

 

 ーーなのに私が今もこうして「生きていられる」のは、神様か悪魔様か、もしかしたら聖杯様によって転生させられたからなんだと、思う。

 まったく・・・本当に迷惑な話。

 死んだ人間をむりやり呼び戻しておいて何の説明もない。

 おまけに、生まれ変わった“ここ”は元いた世界とは違うし、私自身も性別が変わった。

 今の私は北山雫という名前の女の子。無表情で無感動なのがデフォルトみたいで、あんまり感情が揺れないし、揺れても顔に出にくい、いわゆる無口系無表情キャラ。

 

 別に前世の私もお喋りじゃなかったから違和感は少ない。けど、それでも男から女になると色々と齟齬が、ある。両親とのコミュニケーションも、すっごく、大変。

 

 そんなデメリットばかりの異世界転生。

 でも、嬉しかったのは、自我を引き継げた、こと。

 記憶は引き継げたけど、代わりに人格が大きく変わるタイプの転生物は、多い。私は記憶は引き継がなくても良いから、自我だけはーー正しくは“性格”だけはどうしても引き継ぎたいと思って、いた。

 

 だってーー私は生まれ変わっても“ひねくれ者”で、いたかった・・・から。

 

 ずっと・・・願って、いた。

 死んだ後も、生まれ変わった後も、天国に上った後も、地獄に堕ちた後も、私はひねくれ者であり続けたいって。

 

 だから、その夢が叶ったのは素直に嬉しい・・・と、思う。

 

 ・・・ううん。ひねくれ者が“素直”なんて言葉を使っちゃ、ダメ。何か他の表現を・・・・・・・・・思いつかない。後で考えて、みる。

 

 

 ・・・・・・とにかく、そんな風にしてひねくれ者からひねくれ少女になった私だけど、今ちょっと困った事態に陥ってる。

 

 それを解決する事は、出来る。

 

 でも、それには親の協力が必要不可欠だから・・・難しい。

 だって、ひねくれ者は親に何かを頼んだりしちゃ、ダメ・・・だから。

 全部、自分でやらないといけない・・・から。

 なによりも、これは本来私が解決すべき問題。人の手なんか借りたく、ない。

 実際、私一人でも解決できる程度の問題。・・・・・・ただ、それをするには年齢がほんのちょっとだけ・・・足り、ない・・・。

 ただ、それだけが・・・問題。私は、悪く・・・ない。私が、出来ない訳じゃない・・・ない、もん・・・。

 

 ・・・悩みに悩んだ末、百億万歩譲ってお父さんに頼むことにした。

 それが一番効率的だからで、別に私が自分には不可能だと認めた訳じゃない。・・・事実、可能なんだから、言い訳じゃ、ない。・・・ない、もん。

 

 これは不可抗力と止むにやまれぬ事情が重なったやむを得ない結果。だから私には後ろめたさも気負う必要もまったく、ない。これっぽちも、ない。

 胸を張って、堂々とお父さんに協力するように命令すればいい、ただそれだけ。

 心の底から、不本意。だけど仕方ないから私はお父さんにおねがーーもとい、命令するために書斎へと、向かう。

 向かって、着いて、そして書斎の扉の前で・・・躊躇している。

 

「・・・解決可能なのに・・・あとたった数年だけ年齢が上だったら一人で出来たのに・・・・・・」

 

 俯いて唇を噛みしめながら、私は自己の正当性を主張する。

 だって、これは紛れもない事実だから。

 本当に、私が二十代だったら簡単に解決できていた問題。何の苦労もなく、誰かの力を頼る必要も、なく。私、一人で。自分、一人で。解決、できた・・・のに。

 

「・・・転生物の神様は、理不尽。転生者には例外なくチートを与える、べき・・・」

 

 私は、これこそ真理だと思う。

 転生なんていう摩訶不思議な現象に巻き込まれたのに、なんの力も貰えないなんて絶対、変。絶対に、おかしい。巻き込んだ以上は責任を取るべき。

 

 ・・・・・・・・・でも、実際問題、今この場では無理なのが・・・現実。

 

 だから・・・すごく嫌だけど・・・やりたくなんかないけど・・・本当はやっちゃイケないんだけど・・・・・・・・・

 

 トントン・・・。

 

「・・・お父さん、入っていい? “お願い”・・・が、あるの・・・」

 

 人生で、前世も今生も併せて初めての経験。

 死んでもやりたくなかったこと、やるぐらいなら死のうと思っていたこと、それをすれば私のアイデンティティーが崩壊するだろうと非難し続けてきたこと・・・・・・

 

 

 “お父さんへのおねだり”を・・・今、私はやろうとしていた・・・。

 

 

 思わず屈辱で消え入りそうになる声を、無理矢理絞り、出す。

 運の良いことに、感情が声に出にくい体質が功を湊して相手は気づいて、ない。私はこの身体に、神の愛を・・・感じた。

 

 ・・・これなら、ほんのちょっとだけだけど、神様に感謝してもいい・・・・・・かもしれない。

 

 ここは、乗り切る。隠して、乗り切る。

 私は扉の前で一人静かに、そして小さくガッツポーズを、取る。

 

『ん? 雫か。お前からお願いなんて珍しいな。

 とりあえず、入ってきなさい』

 

 扉の奥から風格を感じさせる声が聞こえてきて、私は・・・ちょっとだけ震えた。

 

 ・・・別に怖い訳じゃ・・・ない。断じて、違う。これは・・・そう、武者震い。生まれて初めての経験に心が高ぶっている・・・それ、だけ。けっして、気圧された訳じゃ、ない。

 

「・・・し、失礼し、ます」

 

 ・・・敬語になったのは・・・室内に入る際には当然の礼儀。噛んでしまったのも・・・普段あんまり話す機会がない相手だったから緊張した・・・じゃなくて、戸惑っただけ・・・なんだから。

 ・・・別にお父さんに怒られたような気がして怯えた訳じゃ、ない。お父さんなんか、怖く・・・ない。怖くない・・・もん。

 

「・・・すー、はー、すー、はー・・・」

 

 大きく深呼吸してから書斎に入る。すると、そこにはーー「船長さん」がいた。

 

 椅子に深く腰掛けた中年の男性がテレビや雑誌で見たことのある船長さんの格好をしたお父さんが、そこに座って・・・居た。

 ギリシャ帽を目深に被り飾りボタンの付いたジャケットを着込み、ご丁寧にパイプまで咥えてる。

 前世から今まで写真では何度も見たことがあるけど、実際にお目にかかった事なんてあるはずない。

 もしかしたら都市伝説なんじゃないかなと疑っていた存在が目の前に実在している事実に、私は思わず固まって口を開けてぽかーんとしながら凝視し続けてしまった。

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 ・・・それから何分かが過ぎ去り、室内において静寂だけが時間と一緒に流れて、

 

「・・・・・・・・・・・・くっ、くく・・・・・・」

 

 やがて、お父さんが我慢できないとばかりに、取り繕っていた表情を崩して忍び笑いを漏らし始める。

 そして、どんどん笑いが声が大きくなっていって・・・最後はお腹を抱えて大笑いし始めた。

 

「・・・・・・え、と・・・あ、の・・・・・・なん、な、の・・・?」

 

 何がなんだか分からなくて唖然としている私に、笑いすぎて涙目のお父さんが、お腹を押さえて苦しそうにしながらも解説してくれる。

 

「・・・すまない・・・っ、雫がきた時に驚かせようと思って書斎にいるときはいつもこの格好をしていたのだが・・・まさか、ここまで効果があるとは予想外すぎて・・・あ、あの雫がそんな間の抜けた表情を・・・く、苦しい、腹が痛い・・・!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!(カァーーーーッ!!!)」

 

 私は、自分の顔がヤカンみたいに沸騰していくのを自覚する。

 今鏡を見れば、顔中が真っ赤に染まって茹で蛸みたいになっている自分が写るだろうという事は言われるまでもなく、分かる。

 認めたくない・・・でも、厳然たる事実だって、分かる。

 

(悔しい!恥ずかしい!悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい悔しい恥ずかしい!!!)

 

 頭の中がその二言だけでいっぱいになる。

 これほどの辱めは生まれ変わる前から今まで経験した事が、ない。

 ひねくれ者にとっては、これ以上ない、恥辱。

 反撃手段を考えることも出来ないし、考えようという発想すらも思いつかないくらいに・・・恥ずかしい。

 激しい羞恥心に襲われて、俯きながら口元を震わせている私に、ようやく笑いを納めたお父さんが、私に向かってさっきのとは違う穏やかな笑顔を向けてくる。

 

 なんだか・・・その笑顔だけでちょっとだけ、安心して・・・許しそうになって・・・ううん、許さないし、許しちゃイケない・・・ダメ、絶対に・・・!

 

 

「・・・さて、これで緊張は解れただろう?

 なにかをお願いしたいのだったらそんなに堅くならずに、遠慮なく言ってみなさい。娘からのお願いに嫌な顔をする親など滅多にいないよ。

 少なくとも、私はそんな例外ではない。・・・だから、怖がらずに安心しておねだりしてもいいんだよ?」

 

 ・・・お父さん・・・私のこと見透かして・・・た・・・?

 

 実年齢五十過ぎ、でも剽軽な雰囲気のせいで四十前後にしか見えない私の父北山潮、世界規模の影響力を持っている大企業の経営者で『企業連合』の一員でもある、北方潮というビジネスネームを持たなければプライベートを確保する事すらも許されない経済界の大立て者。・・・・・・肩書きがちょっと怖ーーくない。ちっとも怖くない。全然平気。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・怖がってない」

 

 ・・・これは、さっきのお父さんの言葉に返事を返した・・・それだけ。いまの私が怖がってないのは、事実。

 最初に大分長く間が空いたのは・・・・・・そう、考え事をしていたから。うん、きっとそう。・・・じゃなくて、絶対に、そう。

 

 だから・・・感謝なんかして、ない。ひねくれ者は、親に感謝しちゃ、ダメ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・でも、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あり、がと・・・・・・・・・・・・・・・」

「ーーん? すまない、よく聞こえなかった。どうにも年をとったせいか耳が遠くてイカン。

 出来れば、年寄りを哀れんで、もう一度だけ言ってもらっていいだろうか?」

 

 ・・・・・・お父さんの言葉に、私はちょっとだけ、迷う。

 ひねくれ者は上から目線が、基本。

 下手に出てくる相手には強気に出る、べき。

 だから、哀れみを与えることはひねくれ者として、とても・・・正しい。

 

 正しいけど・・・ちょっと、難しい。

 今、哀れみを与えようとすれば、私がもう一度あの言葉を・・・あ、ありがとーーううん、最後まで言っちゃダメ。この言葉は、ダメ。ひねくれ者が使っちゃいけない言葉のトップランカー。絶対に、ダメ。

 

 でも・・・哀れみは、したい。

 哀れんで、感謝、したい。

 ありがとうって、言いたい。

 言って・・・哀れみたい。ひねくれ、たい。

 

「あ・・・あ、あり・・・ありが・・・・・・ありが、と・・・・・・」

「ーーううん? すまん、私の出来損ないの耳では優秀な雫の綺麗な声は聞き取り辛いらしい。出来れば大声で言ってもらえないか?この老いぼれに冥土の土産を与えてくれ。・・・頼む」

「・・・・・・・・・・・・・・・!!」

 

 たの・・・まれた。頭を・・・下げられた。

 冥土の土産を送るのは、ひねくれ者の・・・絶対法則。

 これは・・・ひねくれ者としては、強気に、そして偉そうに哀れまなくちゃ、ダメ。冥土の土産を送らないのは・・・絶対に、ダメ。

 だから・・・大声で・・・あの言葉を・・・言わなくちゃ・・・・・・ダメ。

 

 ダメ、だから・・・。言わなきゃ、ダメ・・・だから・・・・・・私は・・・頑張って・・・言う。

 

「あ、あ、あ、あ・・・・・・・・・・・・ああああありがちょうごじゃいまちた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・噛んだのは、ひねくれる事が嬉しすぎた・・・だけ。失敗は・・・・・・して、ない。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・なに、この可愛い生き物。可愛すぎて生きるのが辛い・・・・・・・・・」

「・・・?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ。年寄りは独り言が多くてな」

 

 思わず顔を真っ赤にして叫ぶようにひねくれた私の言葉に、お父さんはなぜか不思議そうな声で謎のつぶやきを漏らして私を見詰めてきた。

 とりあえず視線で問いかけたら、この返事。

 

 ・・・なんでだろう・・・? 今の私のひねくれには文句の付け所がないはずなのに・・・。ないはず・・・だよ、ね・・・?

 

「とりあえず、御馳走様。大変、おいしゅう御座いました。もう私に思い残すことは無くなった。我が人生に一片の悔い無し。

 さぁ、何でも好きなものをおねだりしてごらん! 北山家の財力と権力と人脈のすべてをつかって何でも用意してやろう!

 無人島でもカジノでも株でも・・・あ! だが男だけは用意しないぞ!雫にはまだまだ早すぎるからな!いいか?これだけは絶対だぞ!」

「い、いらない、そんなの・・・」

「本当だな!? こればっかりはお父さん絶対許さないからな!嘘だったらその可愛らしい小さなお尻を百回叩くぞ!泣くまで叩くぞ!泣いても叩くぞ!いいか?判ったな!?」

「ひ、ひゃい!わ、わかりました・・・」

 

 思わず敬語になるほどこわーーくない。怖くなんかない。全然、怖くなんかなかった。

 

 ・・・でも、ちょっと用事が出来たから早くお願いを済ませて・・・トイレ・・・に、行きたい・・・。漏れそ・・・・・・なんでも、ない。

 

「そ、それでお願いなんだけど・・・」

 

 ごくり、と唾を飲み込む。

 今回は怖い訳じゃない。・・・いや、さっきから一度も怖がったことはないけど。それだけじゃ、ない。

 怖いんじゃなくて、緊張している。

 だって・・・このお願いはこの世界では・・・あまりにも「普通じゃない」から・・・。

 この「異世界」の特殊で特別な、選ばれた者たちの間では・・・大変異常で・・・普通は、理解されない、こと。

 

 謂わば、この世界における「特権」の放棄。

 将来を狭めて、栄達から遠ざかり・・・エリートがエリートをやめて、凡人になることを望む、異常者の、行動。

 高校入学時に「一科生」ではなくなる可能性が高くなる、本来あり得ない、選択。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私・・・魔法師の子供たちがいない、普通・・・の中学校に転校、したい・・・」

 

つづく




今作の雫はヘタレで意地っ張りです。
作者の妄想が入り込みすぎてしまっておかしな事になっていますね。

次回は雫と司波兄弟の出会いです。ほのかも出ますが、ちょっと性格が変になってます。
ほのかファンの方にはあらかじめ謝罪を。ごめんなさいです。


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1話「北山雫は地位が低い」

すいません!最初に今作のオリジナル設定の説明を少しと思ったら1話丸ごと使っちゃいました!本格的な本編は次回になります、ごめんなさい!

もうほんと、自分の説明の下手さに嫌気がさします。
もう少し簡素にできるようになりたいです。
それと、ほのかと深雪の本格出演も次回ですし、達也が無駄に暑いのも今回限りです。
ご迷惑をお掛けしますが作者にとっても予定外の回なので、どうか理解下さい。


「雫、お早う。今日もテンション低いわね」

「お早う、雫。貴女にしては珍しく早起きね。傘を持ってきた方がよかったかしら?」

「・・・雫、寝癖は直してこいといつも・・・ああ、もういい。俺がやってやるからこっちに来い」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三人とも、朝からヒド、い・・・・・・・・・」

 

 登校直後に泣かさ・・・軽いジャブを食らわせられたせいで、ちょっとだけやる気が、下がった。

 非難を込めた視線を向けたのに、三人とも小動物を愛でるみたいな視線を返してくるだけ。・・・理不尽すぎ、る・・・。

 

 光井ほのか、司波深雪、司波達也。

 声をかけられた順番に並べたこの三人が、私のクラスメイトでともだ・・・比較的仲のいい知り合い。

 ほのかだけは幼馴染として昔からずっと一緒だけど、同じ名字を持つ二人(言うまでもなく兄妹だけど、全然似てない)の男女は転校直後に出来た、たいせ・・・つ、と言うほどではないけど、まぁ、赤の他人よりかはずっと大切な人たち。

 

 ほのかは、お下げ髪の元気で明るい女の子。「エレメンツ」っていう特殊な血統の持ち主で、思いこみが激しいのが特徴。胸がおっきいから私と一緒にいると、よく男子にからかわれる。・・・その後の出来事は、思い出したく・・・ない。

 

 深雪は、信じられないくらい綺麗で、アイドルよりも美人さんな美少女。十師族の一員でもないのに、魔法の才能はそれ以上。成績優秀で品行方正その上お兄さん思い。良妻賢母の鏡だけど・・・もの凄く、ブラコン。

 

 達也さんは、いわゆる完璧超人。見た目はちょっとした美形レベルだけど、それ以外のスペックが高すぎる。「妹の深雪と違って魔法は得意じゃない」て言ってたけど、魔法なんか必要ないくらいの身体能力がある。・・・やっぱり、もの凄いシスコン。

 

 

 

 ・・・こうして見ると、私以外にまともな人間がいなーーー

 

「雫? なにか失礼なことを考えてはいないかしら?」

「ねぇ、雫は聞いたことある? 最近、二階の女子トイレが改装中で誰も入っちゃいけないんだって。後で私たち三人だけで行ってみようか?」

「・・・・・・・・・・・・なんで、も・・・ない、です・・・・・・・・・(ガクガクブルブル)」

 

 ・・・とても良い笑顔で私をOHANASHIAIに誘ってくる二人の美少女。・・・・・・絶対、行かない。死んでも、行かない。転生しても、行くもん、か・・・。

 

 私たち三人は、あんまり共通点が、ない。

 ほのかと私でさえも、通っていた小学校が同じというくらい。司波の名字二人は言うまでもなく兄妹だけど、ほんの半年くらい前までは仲が悪かった、らしい。・・・今のイチャラブカップルからは・・・まるで想像できな、い。

 

「・・・(にっこり)」

「・・・(ガクブル)」

 

 ・・・深雪からにらま・・・笑顔を向けられた私は、視線、じゃなくて話題をそら・・・変える。・・・けっして逃げて、ない。

 

「・・・そう言えば、昨日の達也さんの発言には驚かされた」

「ん? なんの話だ?」

「達也さんたちのご両親が、あのFLTの重役だって話」

 

 FLT、フォア・リーブス・テクノロジー。最近異常な速度で業績を上げ続けている国内CADメーカー。元々は魔法工学関係の部品メーカーとしてしか知られていなかったけど、数ヶ月前に謎の天才魔工師トーラス・シルバーが彗星のように現れてからは、ずっと注目の的。・・・凄い。

 その上、達也さんのお父さんは、そのFLTの最大株主らしい。・・・凄すぎる。

 

「頭脳も、運動神経も、可愛い妹も、莫大なお金までも持ってるなんて・・・達也さん、超リア充。・・・私たち、非リア充の・・・怨敵」

「・・・・・・いや、どう考えてもあの北方潮の娘である雫の方が・・・リアジュウ?とやらだと思うんだが・・・」

 

 リア充について詳しくない実在するリア充の達也さんは、発音が怪しい。・・・なんとなく、優越感。

 

 それは、それとし、て・・・

 

「・・・・・・そう、かな・・・?」

 

 私は、こてんと首を傾げて考えて、みる。

 ・・・・・・うん、分から、ない。

 

 なんで・・・私がリア充になるんだろう・・・?

 

「・・・・・・うちの商品、魔法師たちにはあんまり、需要ない、よ・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・必要なのか、それ。むしろ、「あの大発明」で魔法師以外、ほぼ全ての支持を得た今となっては、魔法協会はおろか十師族でさえも無視することが難しくなっている会社だというのに・・・・・・」

 

 達也さんが非難がましい目つきで、ちょっと睨んでくる。こわ・・・くはないけど、視線と話題は、逸らす。ひねくれ者は、挑まない。

 

「あの大発明って・・・なに?」

 

 当然の質問をしただけなのに、なぜか達也さんの視線がさらに厳しさを増したけど・・・なん、で・・・?こわ・・・くない。怖くない、もん・・・(ガクブル)

 

 暫くおびえ・・・小さくなっている私を見下ろしていた達也さんは、大げさに溜息を付いてから説明してくれる。

 まずは、その発明の名前から。

 

「超簡易魔法式の限定的な技術保存」

 

 ちょうかんいまほ・・・難しい。漢字は、苦手じゃないけど、嫌い。・・・私、字が下手・・・だから。

 

「「あ~・・・・・・」」

 

 私が頭を捻っている横で、なぜか女友達二人がうんざりしたような声を出した。・・・なにか、嫌な事でもあったの、かな?

 

「あれが発表されたときは・・・辛かったなぁ・・・」

「そうね・・・一日中同じ内容のニュースばかりを全てのテレビ局がやるのだもの・・・・・・それも、一週間ずっと・・・」

 

 その時のことを思い出したのか、もの凄くテンションが下がる二人。

 私は・・・記憶に、ない。その頃はたぶん、弟と新作ゲームで遊んで、た。

 

「待つんだ二人とも。これはそれ程の大発明なんだぞ?

 魔法どころか魔法師の存在をも変えて、社会的地位の向上までも可能とする世紀の大発明なんだ。間違いなく人類史に、今世紀における三大発明の一つとして記録されるだろうオーバーテクノロジーだ。

 ・・・・・・魔工技師の夢なんだぞ? もう少し興味を持っても罰は当たらないと思うんだが・・・」

 

 普段は物静かな達也さんが、珍しく熱弁を振るってる。

 そう言えば、達也さんは魔工技師志望だって言ってた気がする。将来目指してる職業の新技術には興味が沸くの、かな・・・?

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・でも、

 

「・・・・・・・・・魔法で動く電化製品が三大発明?」

「“魔法師がそばにいなくても”魔法で動く電化製品、だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・違う、の?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 だから、そのこわ・・・キツい目で睨むのやめて、よ・・・。

 お父さんの会社でやってることなんて、会長の娘でしかない素人の私には、わかんない、よ・・・。

 

 ・・・一応知っているのは、うちのグループが傘下の一つとして買収した会社の一つを、特殊な魔法技術組込製品販売を専門にした子会社として改名したこと。

 それと・・・その会社の取り扱ってる商品は、サイオンを燃料にして魔法で動く電化製品だけ、だった・・・はず。・・・だよ、ね・・・?

 

 ううう・・・記憶が曖昧・・・。サイオンとかプシオンとか名前が厨二っぽくて、分かんないんだよぅ・・・。内容と用法さえ理解すれば、それでいいんじゃない、か・・・な・・・?

 

 と、とりあえず達也さんの説明を、聞こう・・・聞いて分からない部分は質問、しよう。・・・聞けば教えてくれる・・・よね?・・・怒ったりしないよ、ね・・・?

 

「・・・CADに組み込まれている感応石という名の合成物質には、サイオン信号と電気信号を相互に変換する効果がある。つまり、魔法師から供給されたサイオンを使って電子的に魔法の起動式を出力できるようにしたんだ。

 起動式は魔法の設計図で、この中には呪文やシンボル、組み替えられた印など「超能力者」などと呼ばれていた頃の初期魔法師たちが魔法を使うには必須だった物が詰まっている。

 CADはこれらの代わりであり、魔法の発動を簡略化し、ほぼ一瞬での発動を可能にした物だ」

「それぐらい知って・・・ごめんなさい、黙って・・・聞き、ます・・・」

 

 だから、おねが・・・出来れば睨まないで・・・下さい。

 

「・・・だが、現実問題として魔法式は時間経過と共に消滅する。重ね掛けする事で効果は持続するが、それは表に現れている部分に過ぎない。実際は消滅した魔法式と同じ物を改めて掛け直しただけで、到底、効果を延長させたと言える高等技術じゃない。こんな物は断じて“保存”などではない」

 

 ・・・達也さん・・・いつもより、よくしゃべる・・・ね。

 ・・・もしかして・・・燃えて、る・・・? 

 

「だが、『彼』の発明した超簡易魔法式は、本来ならば意識して理解するなど到底不可能な情報量を持つ魔法式を、中学校の数式レベルにまで簡略化ーーいや、あれはもう簡略化などと言う単純な行為じゃないな。本質の全てを見抜いた上での“組み替え”だ。

 オリジナルと全く同じ部品だけを使って全く新しいコストパフォーマンスに優れた品物へと生まれ変わらせた。これは謂わば、神の御業に等しい本当の意味での“再生”だ」

「・・・・・・ふ~ん・・・・・・」

「これによって、長らく加重系魔法の三大難問の一つとされてきた「常駐型重力制御魔法による熱核融合炉の実現」は大いに現実味を増したと言える。少なくとも、魔法式の保存が絶対不可能ではない事が示された訳だからな」

「はぁ・・・」

「もちろん、超簡易魔法式を通常の魔法式にするには時間も資金もかかるだろうが、研究次第では可能性がある。

 これからの時代は戦争どころじゃなくなるぞ。なにしろ、戦っている間に第三国との技術差が広がっていくのは目に見えているんだからな。戦争よりも開発研究に重きが置かれ、魔法は平和利用による経済的貢献がメインになるだろうな。そして戦場は研究室や市場へと移り、戦い方が変わると同時に魔法師のあり方までもが変わる。変わらなければ生き残れない時代がくる。

 ーー俺は、魔工技師の端くれとしてだけでなく、一人の技術者として、この時代を技術によって作り上げた『彼』を心から尊敬する。・・・雫、魔法師が兵器ではなくなる日は、そう遠くないぞ」

「そ、そうです、か・・・」

 

 な、なんだろう・・・。今日の達也さんは雰囲気が違う・・・と言うか、違いすぎて別人にしか見え、ない。話が、長・・・い。

 “兵器として生み出された魔法師”に何か嫌な思いをさせられた経験でもあるのか、な・・・?

 達也さんの家はCAD開発メーカーの重役なんだし、魔法師からは感謝はされても嫌がらせとかはされないと、思うんだけど・・・。

 

 ・・・でも、個人的にはあり、そう。

 達也さん、敵作りやすいし、基本的に人が悪くて極悪にーーー

 

「・・・雫、話を聞いてたか?」

「聞いてまし、た。一言一句聞き逃してま、せん。余計なことも、考えてませ、ん」

 

 ーーこわ・・・ちょっとだけビクってなるよ・・・。にらまな・・・キツい目でこっちを見ないで、よ・・・。

 

「・・・ほのか、お兄さまのお話、理解できたかしら・・・?」

「なんと・・・なく・・・?」

 

 絶対に理解できてない声で、ほのかが深雪の質問に答えているのが聞こえた。よく見たら、二人とも帰ってきたばかりみた、い。

 さっきから静かだと思っていたら、達也さんが話すのに夢中になっている間に昼食用のパンを買いに行ってたらしい。二人とも、両手にメロンパンを持ってる。

 うちの購買で一番人気の品で、毎日手作り弁当を持ってきてた深雪でさえハマる、絶品。

 

 ・・・・・・あれ? 私の分、は・・・? 私を生け贄にしたのに、ご褒美ない・・・の?

 

 ・・・私・・・お昼ご飯持ってくるの、忘れたの、に・・・。

 

「ま、まぁ、達也さんがそんなに凄いって言うんですから凄いんでしょうね! その・・・か、かん・・・げんて・・・? ーー技術保存は!」

 

 達也さん大好きっ子のほのかが精一杯よいしょする。

 でも、ほのか・・・全然言えてない・・・。内容もたぶん理解できてない、と思う。

 ほのかは成績いいけど、科学系はそれほど得意じゃないし。・・・達也さんに好かれるために勉強頑張ってるらしいから、将来的には理解できるようになるといい、ね。

 

 それよりも、私のお昼ご飯・・・。

 まだ、朝なのに・・・ひもじくさせ・・・ない、で・・・。

 

「ですがお兄さま。簡易式とは言え魔法式と言うことは、それを使用した電化製品は魔工技師でなければ調整できないのでしょう?

 それでは故障しやすい家電製品には向いていない技術だと思うのですが・・・」

 

 深雪が達也さんに質問してるけど、私の視線からは、目を逸らしてる。・・・パンも、隠してる。

 ほのかは・・・視線が合った瞬間に、凄い勢いで逸らされ、た。

 二人とも、買うときに私のこと・・・絶対・・・忘れてた・・・。

 大柄で、購買の人混みを潜って行くのには足手まといな達也さんを足止めしたのは、私、なの・・・に・・・。

 

「いいや、深雪。その心配はない。

 言ったろう? 『彼』は魔法式を“組み替えた”と。

 さっき言ったとおり、超簡易魔法式は中学生レベルの数式で出来ている。機能や期間、使用限界やエネルギー量など、可動するのに必要なありとあらゆる物の数値を限定し、調整し、書き換えた。

 一つの機能のみに特化したからこそ実現できたことだろうが・・・ここまで凄まじい単純化は他に類を見ないな。なにしろ魔工技師ではなく、魔法が使えない普通の技術者たちが調整や入力が出来るレベルだ。

 ・・・正直、ここまで平凡な数値にされてしまうと“眼”で視ている俺としては複雑な気分なんだが・・・」

「・・・め?」

「なんでもない、気にするな。それよりも今は『彼』のことだ。

 雫、揚げ足を取って話題を逸らそうとするのはお前の悪い癖だ。見苦しいだけだから止めなさい」

「ひぐ・・・ごめ・・・な、さい・・・」

 

 ・・・え? 今のは私が悪い、の・・・?

 

「この発表はすでに世界中に影響を与えている。

 魔法は軍事利用するべき物というのが一般認識だった、あのUSNAの大統領が「国家の方針を大きく変更する時期が来た」と発言したほどだからな。今まで誰にも考えられなかった異常事態だ」

「・・・ゆーえすえぬえー?」

「・・・雫、お前には後ほど世界情勢についての特別授業をしてやろう。来週の現代社会のテストで満点が取れるようにな。・・・悦べ」

「ひぅ・・・おね、が・・・しましゅ・・・」

 

 こ、こわ・・・い程ではないけど、ちょっとだけ怖い・・・かな?くらいには迫力が、な、なくも、ない。

 ちなみに、私の現代社会のテストは前回15点。

 ・・・これが一週間で満点になる・・・特別授業・・・スパルタ・・・じゃ・・・すまな、そう・・・(ガタガタブルブル)。

 

「USNAの方針変換がこの件に与える影響は計り知れない。

 なにしろあの国は、魔法の民生使用を下等なことと見做してきた国家の代名詞だ。その国が方針を変更せざるを得ないほどの経済効果が期待できる新技術・・・ループ・キャストでは市場の大きさで負けるな。トーラス・シルバーも肝を冷やしているだろう。

 ・・・まぁ、『彼』が魔工技師ではなく、ただの技術者だと思われるのがせめてもの救いだろうが・・・」

「・・・? どうしてでしょうか? 魔法式を改造したならば『彼』も魔工技師と考えるのが妥当では?」

「あれは、魔法を使う者が思いつく組み替え方じゃないよ。難解で高度な方程式を、わざわざ単純で幼稚な計算式へと組み替えるなんて、エリート意識が強い魔法師には不可能だ。そもそも発想すら出来ないだろうさ」

「つまり、『彼』は魔法が使えないから発想が幼稚だったって事ですよね? じゃあ、やっぱり達也さんのおうちの会社で働いてるトーラス・シルバーさんの方が凄いって事じゃないですか! そんなお家を持ってる達也さんもやっぱり凄いです!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・幼稚じゃない、もん・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・ん? 何か言ったか、雫」

 

 ボソっと呟いたら達也さんに聞き取られた。

 あんまり言わない方がいい気が、しなくもない・・・けど。

 でも・・・幼稚なんて表現を放置するのは・・・ひねくれ者には・・・不可能。

 

 だから・・・言う。

 告白・・・す、る。

 

「私は、幼稚じゃ・・・ない・・・」

「「「・・・え?」」」

 

 

 

 

「私が考えた魔法式は・・・勝手に変な名前が付けられて読めなくなったけど・・・書いたのもジャポニカ学習帳だけど・・・書いた私自身は・・・幼稚じゃない・・・もん・・・・・・・・・」

 

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頑張って告白したのに、なぜか達也さんのお家で六時間もOHANASHIAIされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・ご飯・・・・・・・・・

つづく




超簡易魔法式は雫を平和的にUSNAに留学させるためのこじ付けです。
流して下さると嬉しいです。
基本的にバトルを書くのが苦手なので平和的ストーリー展開を目指した結果、
無理やりにこうしました。
科学的根拠は皆無です。そこも流してください。

書きたかったほのかと深雪が殆ど書けなかったので、すぐに次話を書き始めます。そして、二人を出して活躍させます。
可能な限り早く更新するつもりです。


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2話「北山雫は正体を隠せない」

更新遅れて申し訳ありません。
他の作品を書いていたのも有りますが、
今回で中学編を終わらせようと一から書き直してました。
次回から高校編スタートです。

ちなみに、今作のヒロインは真由美さんを予定しております。
原作では小悪魔なのに達也さんにあしらわれていた彼女ですが、
今作では雫限定で小悪魔なドSです。
可愛く書けるように頑張ります。


 夕日に照らされた司波家のリビング。

 その中央で、私は達也さんにしからーーちょっとした注意をされて、る。

 

「さて・・・とりあえず、このバカについて確認して置かなければいけない事がある」

「・・・・・・・・・・・・バカ・・・って・・・・・・・・・」

「なにか文句があるのか? 雫。言いたいなら今のうちに言っておくといい。言えなくなってから後悔しても遅いぞ」

「なにも、な・・・です・・・ゆる・・・ゆるし・・・(ガクガクブルブルビクビク)」

 

 こ、殺され・・・る、の?

 転生者でも・・・死ぬの、は・・・怖いんだ・・・よ・・・?

 

「まぁまぁ、お兄様。このおバカさんも反省してはいないでしょうが、怖がってはおりますから、少しくらいは手加減してあげてもよいのでは?」

「そうだよねぇー。このバカにしては珍しく命乞いしてるのを隠そうとしてないし。ちょっとぐらいなら手加減してあげるべきですよ」

 

 ・・・さすがに、これはヒド、い・・・。

 二人とも・・・ぜんぜん、フォローしてない、し・・・バカじゃ、ない、もん・・・。

 

「まぁ、雫がバカだということは今更確認の必要もないんだが」

 

 止め・・・刺され、た・・・。

 

「別の件で確認したい事がある。雫、ひとつひとつ確かめていくぞ。

 まず一つ目は、超簡易魔法式製品を取り扱っている北方グループの子会社「マウンテン」は北山の「山」から取ったな?」

「・・・う、ん・・・」

「次だ。

 マウンテンの製品に書かれているロゴマークの「ノース」は北山の「北」から取ったな?」

「・・・・・・う、ん・・・・・・」

「次だ。

 超簡易魔法式の開発者「ルイ」は雫を「涙」と書いて「るい」と読ませたな?」

「・・・・・・・・・う、ん・・・・・・・・・・・・」

「最後だ。

 お前ーー正体を隠す気はあるんだろうな?」

「え・・・と・・・・・・」

 

 これには、ちょっと、迷う。

 答えは決まって、る。けど・・・答えた、ら、怒られそうな、気がす、る・・・・・・。

 

 で、でも・・・頑張って、みる・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ・・・そ、の・・・・・・・・・・・・隠さないと・・・ダメ・・・な、の・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「深雪、雫に抱かせるために地下室から重石を取ってきてくれ。こいつには口で言うより体に教え込んだ方が早い」

「承知しました、お兄様。数は五個もあれば十分でしょうか?」

「大丈夫だよ、足りなくなったら深雪の魔法で氷を作ればいいんだもん。石と違って冷たさも有るから拷問にはピッタリだよ」

「こらこら、ほのか。女の子が物騒な事を言うんじゃない。

 拷問なんて言い方じゃなくて教育と言っておけば、とりあえずは収まるんだからな」

「そうよ、ほのか。雫のせいで私たちまで被害が及んだら大変でしょう?」

「あ、そうか。ごめんなさい達也さん、うっかりしてました! 雫一人を痛めつけるだけで良かったんでしたね。これからはそうしますね」

「・・・・・・・・・・・・!!!!!!(ブンブンブンブンブン!!!)

 

 必死に頭を振って、命乞いを、して、みる。

 

 このままだ、と・・・殺され・・・る・・・!

 

 しばらく間、氷の視線で、私を見下ろして・・・ううん、はっきりと見下してる達也さん、は・・・やがて大きくため息を吐い、てーー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・反省したか?」

「・・・・・・・・・・・・!!!!(コクコクコクコクコク!!!)」

 

 全力でうなず、く。

 それでも達也さんは満足してな、い。

 おもむろに、私を見下し、てーー

 

「よし。それじゃあ言ってみなさい。

『ごめんなさい』と」

「!!??」

 

 そ、それ、は・・・・・・。

 

「どうした? お前がよく使ってる言葉だぞ。今更なにを躊躇うことがあるんだ?」

「そうよ、雫。貴女いつもお兄様にむかって「ごめ、な・・・さい」って言ってるじゃない」

「うんうん、そうそう。涙目で達也さんを見上げて、まるで子犬みたいになって謝ってるよね~」

「・・・・・・・・・!!!(ブンブンブンブン!!!)」

 

 そ、そんな事・・・な・・・くはない、けど・・・。

 あれ、は、不可抗力、で・・・条件、反射、でしか、なくて・・・!

 

 だから、私、は、「ごめんなさい」なんて言葉、は、使わない・・・もん!

 ひねくれ者は・・・ごめんなさい、は・・・言わ、ない!

 

「どうした雫? 謝らないのか? じゃあ反省しているとは思えないな」

「そ、そん・・・な・・・・・・!」

「そうね。お兄様に謝らないのに、反省してるなんてとうてい思えないわ。雫、貴女にはやっぱりお仕置きが必要みたいね」

「ひ、ぅ・・・・・・」

「うん、私もそう思う。雫ってたまに調子乗るときあるし、この機会にきつーくお仕置きしちゃおうよ! 一生忘れられないようなのを♪」

「ひゃ、う・・・・・・」

 

 い、いや、ぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめ、ごめ・・・な、さ・・・・・・・・・ぃ・・・・・・なんて、言わない・・・もん!」

 

 

 

 

「言っているわよ」

「言ってるじゃない」

「言っているな」

 

 三人からの視線が、何故、か・・・可哀想な物を見る目、に・・・なってるのは、なんでだろ、う・・・?

 

 そんな中、達也さんだけは、絶望した様な表情、で、頭を抱えてぶつぶつ言いだし、た。

 

 悩み事・・・か、な・・・?

 

 

 

 

「・・・・・・どうする? ここまでバカだというのは、さすがに予想外すぎだぞ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本気でどうすればいいんだ、これ・・・・・・?

 少佐や師匠に頼ってどうにかなるレベルなのか・・・・・・? 超簡易魔法式の影響で四葉の力は弱体化しているし、トーラス・シルバーは商売敵だ。ミスト・ディスバージョンやグラム・ディスバージョンなんか使い所がまったくない・・・。フラッシュ・キャストやエレメンタル・サイトどころか『再成』でさえ役に立たないし、マテリアル・バーストなんて一体何に使えと言うんだ・・・?

 神の如き魔法などと煽てられていたが、平和利用が全然出来ないナマクラじゃないか・・・・・・!」

 

 ・・・? なんだろう。よくわかんない単語ばっかり・・・。

 

 もしかして、達也さん・・・は、

 

「厨、二・・・?」

「殺していいか?」

「ひぅっ! ご、ごごごごめんなさい・・・!」

 

 こ、こわ、怖かった・・・!

 今までで、一番、怖かった!

 あれ、絶対に、本気だった・・・!

 目が、ぜんぜん、笑って、なかった・・・!

 むしろ、完全に、殺す気しか、なかった・・・!

 他の感情が、なにも、なかった・・・!

 

 これは、もう、しゃべっちゃ・・・ダメ・・・。

 しゃべった、ら・・・・・・殺され、る・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どう致しましょうか、お兄様。叔母様のお力を持ってしてもこれは・・・。むしろ、なぜここまであからさますぎる名前で今の今までバレずに済んでいたのか解りかねます」

「・・・おそらく、あからさますぎて誰も本気にしなかったんだろう。当然だな、エクストラだってこんなに捻りのない名前は名乗らない。・・・と言うよりも、小学生でもないのにどうしてこの程度の発想しかできなかったんだ、あのバカは・・・」

「仕方がないのかもしれません。なにしろ、あの雫ですし・・・」

「・・・・・・その一言で納得できてしまう辺り、あれはあれで大物なのかもしれないがな。・・・・・・しかし・・・よく考えてみれば、俺はアイツに負けたのか・・・・・・」

「しっかりなさって下さい、お兄様! 猿と人間では考えることが違うのは当たり前です!たまたま木から実を採る技術で負けただけではありませんか。大丈夫です、これから挽回していきましょう!」

「・・・深雪・・・。・・・ああ、そうだな。弱気を見せてすまなかった。次は必ず勝ってみせるよ。俺も猿に負けたままでは終われないからな」

「その意気です、お兄様! 深雪はお兄様の勝利を信じております!」

 

 

 

「・・・・・・(ビクビクビクビクビク)」

 

 部屋の隅で蹲る私を無視して会議・・・? か、なんだかは、進んでいるみた、い・・・。

 でも、内容は、よく・・・ううん、ぜんぜんわかんない、い・・・。

 

 え、と・・・・・・ひょっと、した、ら・・・・・・

 

「もしかして、達也さんは・・・・・・ラノベ作家さ、ん・・・・・・?」

「深雪、そこにあるCADを取ってくれ。シルバーモデルの最新型。ミスト・ディスバージョンに特化した試作品だ」

「お待ち下さい、お兄様。ここは深雪にやらせては頂けないでしょうか?

 ・・・・・・ニブルヘイムを最大出力で使います」

「ひぃ・・・! ご、ごごごごご、ごめ、ごめ、ごめ、ごめん、なさ、いぃ・・・・・・!?」

 

 なんだか、よく、わかんないけど・・・すごい魔法を食らわされ、る・・・!?

 

 なんで、こんな目にあう、の・・・!? 私が、なに、した・・・の・・・!?

 

「・・・・・・おい、雫。『精神構造干渉』で感情の一部が消えている俺にも怒りは有るんだ。その上で聞いてやる。お前は『どっち』を選ぶ」

「ど、どどど・・・どっち、と、は・・・・・・?」

「来年の高校受験で俺たちと同じ魔法科第一高校に進学して俺の庇護を受けるか、それともーー」

 

 ぐっ、と達也さんが拳を握りしめ、た。

 

 ごぎ、っていう、スゴく嫌な音が、した。

 

「・・・・・・!!! しししししします! しますから、お願いですから、たたたたた助け・・・・・・!!!」

 

 呂律が回らな、い・・・!

 怖くて何も、考えられ、ない・・・!

 なんで、私・・・こんな地獄に、転生させられた、の・・・!?

 

「・・・よし。なら、明日から受験勉強開始だ。お前の今の成績だと百二十パーセント以上の確率でウィードにもなれないから、殺す気で教えてやる。死ぬ気で学べ」

「は、ははははははいぃぃぃ・・・!」

 

 こ、こわ、こわ、こわ・・・・・・!

 

「・・・さて、一応話は付いたな。これで暫くは時間が稼げるか。

 ーーおい、ほのか。いい加減に起きなさい。もうそろそろ帰らないとご両親が心配してるぞ」

「・・・ふぇ・・・? ・・・はっ! す、すいません、達也さん! お話の内容が深すぎて、思わず眠ってしまいました! 次からはちゃんと聞きます!」

「いや、いいんだ。大した内容じゃなかったからね。ただ、進学先の学校を第一高校に決めて、雫も来るらしいから一緒に受験勉強をしようと言っていただけさ」

「第一高校に、ですか? じ、じゃあ、私も行きます! だから、その、あの・・・私にも勉強を教えては頂けないでしょうか・・・?」

「勿論だよ。俺に教えられる範囲だったら、喜んで」

「達也さん・・・! やっぱり優しいんですね!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほのか、それ、絶対に騙されて・・・・・・・・・

 

「ーー雫」

「達也さんは、優しい。これ、絶対(ガクガクブルブル)」

 

 ・・・なんで、ほのかと私で、こうまで扱いが、違う・・・の・・・?

 

 

 

 

 こうして、マホーカだいいちコーコーっていう学校を目指すことになった私に、は・・・翌日じゃなくて今夜から、山と同じくらい大量の問題集が送られてき、た。

 

 入っていた手紙にはーー

 

「お前の部屋なら入りきるだろ?広い部屋でよかったな。明日までに半分は終わらせておけ」

 

 ーーって、書いてあった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・前の中学校に、戻り、たい、な・・・・・・

 

つづく



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3話「北山雫は本当に魔法科高校の劣等生」

ようやっと更新できました。お待たせしすぎてすいません。
来年からアニメ再放送が始まるそうなので一話から観なおしたのが失敗でした。
カッコよすぎて自分でもカッコいいのが書きたくなってしまいこっちはおざなりに。
気付けば数カ月もたっていて驚きました。

厨二アニメは卒業後も厨二を惹きつけます。皆さんもお気を付けて。


なお、いい加減タイトル詐欺をどうにかしたかったので改題しました。
「どこが劣等生なんだ? むしろ超優等生じゃね?」という原作へのツッコミもかねて正真正銘本物の劣等生(ただの落ちこぼれとも言う)北山雫の物語が本格的に始まります。
次話は急ぎますのでどうか見捨てないで下さい、お願いします。


「納得できません。何故お兄様が新入生総代をお勤めになれないのですか? 入試の成績はトップだったじゃありませんか!

 本来ならばわたしではなく、お兄様が新入生総代を勤めるべきですのに!」

「深雪・・・お前、雫に入試結果を手に入れるように脅しただろう?」

「ーー雫、貴女も貴女よ。お兄様に付きっきりで家庭教師をしてもらっておきながら、どうして二科生なの? 貴女この一年間ちゃんと勉強していた?

 ・・・もしも、お兄様の授業を聞き逃してたのだとしたら、その時は・・・」

「き、聞いてまし、た! 聞いてた、もん!

 ・・・お菓子と、か、ゲームに浮気なん、かしてないから、ね・・・?(ビクビク)」

 

 いきな、り矛先をこっちに向けられ、た。悪いのは深雪なの、に・・・。

 

 

 

 一年経って、も私たちの関係は変わって、ない。

 制服が中学校のセーラー服、と学ランからスカートの裾が長すぎ、て動きづらいドレスみたいなの、と軍服かナニカっぽい変なの、に変わっただ、け。

 

 あと、高校生になって支給され、た制服の胸には花なのかよく分かんな、い変なマークが付いて、る。

 これ、が魔法科高校におい、て「ぶるーむ」と「ういーど」を区別してるって達也さんが言って、た。・・・けど、よく分かんな、かった・・・。

 

「達也さん。「ぶるーむ」と「ういーど」って、どう違う、の・・・?」

「よし、雫。これから屋上に行こう。感情をなくして以来、久しぶりに切れてしまいそうだ」

「な、なん、で!? どうし、て!? 私がなにした、の!?(ガタガタぶるぶる)」

 

 高校生になって、も達也さんは相変わらず、だ・・・。

 相変わらず理不尽、で横暴・・・。暴力はいけないと思い、ます。

 

「ーーまぁ、いいだろう。今日は俺にとっても記念日だ。特例で特別授業は明日にしてやる」

「・・・できれ、ば永遠にして欲しく、ない・・・(ぼそっ)」

「なにか言ったか雫? おまえの声は小さいから大きな声で喋るように意識しろと言っておいたはずだが、まさか忘れたのか?(バキボキ)」

「お、おぼえて、ます!忘れてま、せん!

 ・・・あと、何も言ってない・・・よ?(ガタガタガタ)」

 

 内股になって必死に漏れそうなの、を耐えてる私に達也さん、はジッと見下ろす視線で睨んでたけ、ど他の人が自分を呼んでるのを聞いて、諦めたみたい、にため息をついた。

 

「やれやれ。新設されたばかりで教師すら規定人数に達していないとはいえ、新入生を運営にまで関わらせるのは流石にどうかと思うんだがな・・・」

「それは、お兄様のお力を学園執行部を含む、世間と国が認めざるを得なくなったという何よりの証! 積年の恨みが晴らされたような素晴らしい気分です!

 ーーああ、深雪はこの日をどんなに待ち望んでいたことか・・・」

 

 深雪がどこかにトリップし、た。最近ではよく見るこうけ、い。

 今、達也さんが着ている制服、が届けられて以来、深雪はいつもこん、な感じ。毎日頭の中がお花ばた、け。

 

 達也さんが着ているの、も魔法科第一高校の男子用制服ら、しい。

 でも、一カ所だけちが、う。

 胸に、は他のよりも変なかたち、の歯車っぽい何かがエンブレムとして付けられて、る。これが魔法工学科のシンボ、ル。・・・ら、しい。教えてもらったけ、どよく分かんなかったからあいま、い。

 

「まさか、俺が新設された魔法科高校工学科初の主席入学者として生徒会長の隣に立つ日が来るとはな・・・。一年前までは考えたこともなかったが・・・これはこれで悪い気はしない。むしろ、清々しくさえある。

 ーー人に認められるというのは、こんなにも嬉しいものだったんだな。ちゃんと感情を失う前には体験し、知識としては知っていたはずなのに、生まれて初めて感じるような・・・不思議な感覚だ」

「ーーっ! お兄様に感情がお戻りに・・・!

 まるで神様が起こしてくださった奇跡みたい・・・」

 

 ・・・・・・・・・・・・?

 なんのはな、し?

 

 この兄弟はときど、き二人だけで別世界に行く時があってこま、る。

 厨二病は中学と一緒に卒業した方がいいとおも、う。

 こう言う時にほのかは役に立た、ない。いつも「達也さんかっこいい!」で済んじゃうか、ら。

 でも今、ほのかはい、ない。家の用事で遅れるら、しい。

 ほのかがいないと私は起きられ、ない。だから、達也さん達が起こしに来てくれ、た。

 

「さて、それじゃ俺と深雪は入学式の際にそれぞれ総代を勤めるための準備があるから先に行くぞ。暇をつぶすのは良いが、遅れずに来いよ雫。

 ーー朝に弱すぎるお前を入学初日から遅刻させない為だけに、俺たちは式が始まる二時間前なんて時間帯に登校してきたんだからな?」

「・・・は、い。感謝して、ます。いつもいつも迷惑ばかりかけ、てすみませ、ん・・・(ぺこぺこ)」

「うむ。行ってよし」

「失礼しま、す(オドオド)」

 

 ・・・あ、れ? これって入学面接のために教えられ、た挨拶の仕方だ、よね? どうして普通に達也さんに、もやっちゃって、る?

 

 ・・・もしかし、て洗脳されて、た・・・?

 

「・・・・・・(ぶんぶんぶん!!!)」

 

 怖くなったか、ら全力で頭を振って誤魔化し、た。

 私はなにもされて、ない。達也さんは良いひ、と。達也さんは優し、い。達也さんは洗脳なんかし、ない。

 だから大丈夫。大丈夫だいじょうぶダイジョウブーー

 

「ね、ねぇ貴女、大丈夫? なんだか顔色が悪い・・・って言うよりかは、表情が抜けて瞳からハイライトが消えかかってるんだけど・・・」

「・・・・・・あ。

 ーー生還でき、た」

「何が!?何処に!? あと、何処から!? むしろ何があったの!? 日本の高校には何が住んでて何が行われてるの!?怖すぎるから、来日したばかりの外国人の前でそう言うこと言うのやめてくれないかしら!

 貴女たち日本人は自分の国がどういうイメージを持たれているのか、もっと意識するべきだとワタシは思う!」

「・・・・・・? 金髪さ、ん?」

 

 意識が戻ってき、たら目の前に綺麗な金髪さんが、いた。

 リボンふたつで長めのツインテールにし、てる外人さん。瞳は青、い。

 美人さんなのにツインテールなのはこだわりか、な? 日本だ、と子供っぽいイメージがあるけ、ど。この人には似合って、る。

 

「・・・? えっと・・・だ、れ・・・?」

「ああ、自己紹介すらしていなかったわね。ごめんなさい、貴女が余りにおバカなことを言い出すものだから。それじゃあ改めまして。

 私は「アンジェリーナ・クドウ・シールズ」USNAから来たわ。アンジーって呼ばれてた時期もあるけど、今はリーナで通ってるから貴女もそう呼んで。魔法工学科を志望したんだけど、落ちちゃったから魔法科一科生になったの。貴女も同じ新一年生なんでしょ? 今日からよろしくね。

 ーーそれで? 貴女のお名前は教えていただけないのかしら? 不思議の国からやってきた寝坊助アリスさん」

「寝坊助じゃない、もん・・・。

 目が覚めてもお布団から出れな、くて二度寝しちゃうだけだ、もん・・・」

「もっと悪いわよ! ミドルスクールの学生でもないのに、どうして朝が起きられないの! 朝起きたらグラウンド十周は基本でしょう!?」

「・・・たぶん、一周目半ばでバテるとおも、う・・・」

「子供かっ!」

 

 怒鳴ってばかり、のアンジーじゃなく、てリーナ。

 ・・・ちょっとだけ、こわ・・・くない。ビクってなっただ、け。

 

「ああ、もう! とにかく貴女の名前教えなさいよ! こっちだけ名乗らせておいて自分の名前は教えないってフェアじゃないでしょうが!」

「・・・自分から勝手に言い出し、ただけなの、に・・・(ぽそっ)」

「なに!?なんか言いたい事あるの!?」

「なんに、も言ってな、です・・・(こわ、こわ・・・ガクブル)」

「だったら早く名乗る!

 3数え終わるまでに名乗ってなかったら、お尻ペンペンだからね!」

「ひぐっ・・・。き、北山し、ずく、です・・・」

「1・・・はい終了!

 修正!歯を喰しばれぇ!」

「2と3、は・・・!?」

「そんな数字は知らないって言うのが日本の伝統だって、ワタシは聞いた!」

「そ、それはまちが・・・ひぎぃっ!」

 

 お、お尻叩かれ、た・・・。

 い、痛ひよぉ・・・。

 

「・・・あら? 意外とスパンキングするのって快感ね・・・。私ソッチ系の才能もあるのかしら? せっかくオタクの国日本に来たんだから、そういうお店も覗いてみようかな。

 ーーどうせもう、私がやらなきゃいけない「使命」なんて何処にも無いんだし・・・」

 

 お空を見上げ、て爽やかに微笑むリーナ。

 ・・・でも、その下で私はお尻を擦りなが、らうずくまってる、よ・・・?

 まわりからは変な目で見られてる、の分かって、る? 気づいてか、ら八つ当たりしないで、ね・・・? また、お尻叩かれるのイヤだ、よ・・・?

 

「ーーて、ヤバっ!もう式が始まる寸前じゃないの! シズクのせいで遅刻しそうだわ!どうしてくれるのよ!」

「私のせいじゃないと思う、よ・・・?」

「いいから責任とって式場まで案内する! ほら、走って。ぐずぐずしない!

 上官命令が聞けない者には軍紀違反の咎で、お尻ペンペンの刑を強制執行する! わかったかウジ虫ども!」

「私、リーナの部下じゃないの、に・・・」

「じゃあ、今この時から貴女はワタシの部下でワタシは貴女の上官よ。いいわね? お返事は、シズク?」

「ううぅ・・・は、い・・・」

「声が小さい! もう一度!」

「は、い・・・」

「しゃべる前と後にイエス・マムを付けろぉ!

 ーーさもないと、お尻ペンペンだぞ~?」

「・・・は、い。イエ、ス・マム・・・」

「聞き取りづらい! さっそく懲罰!」

「暴力はんた、い・・・民主化き、ぼう・・・人権せんげ、ん・・・」

 

 なんだ、かスゴく楽しそうなリーナにお尻叩かれなが、ら走る私たちをいろんな人、が笑って、る。

 

 ううぅ・・・恥ずか、しい・・・。

 

 入学式が行われるの、は講堂。

 座席の指定はないけ、ど席の分布には規則性があ、る。・・・って、達也さんが昨日言って、た。

 

 でも、実物を見てみて、もよく分かんな、い。

 前も後ろもバラバ、ラ。「左胸を見れば分かる」って言われたけ、どそっちもバラバ、ラ。何で判断するものな、の・・・?

 

「ふーん。これが日本の魔法科ハイスクールの入学式場なのね~。分かりやすい席配置で助かるわ。優しいのね日本人って。さすがは「おてなし」の国。

 ・・・大和撫子なお嫁さんも将来の選択肢に入れておいた方がいいかしら?」

「・・・? 分かりやすい、の?」

 

 ? どこ、が?

 

「ん? ええ、分かりやすいわよ。だってほら、見てみなさいよ、あの表情の差を。完全に勝者と敗者に別れているわ。

 ーーふっ、負け犬の末路はいつも惨めなものね・・・」

 

 リーナがなにか言って、る。でも私は言われたとおり、に人の顔を見てたから聞こえな、かった。

 確かに言われてみ、れば表情がち、がう。

 嬉しそう、に他の人たちと会話してる人たち、はバラバラに散らばってる。

 悔しそう、に黙ってる人たち、は一カ所に固まって、る。

 

 前者が多数派、で後者が少数派だとおも、う。

 あと、多数派の人たち、は左胸のエンブレムに関係なく集まって、て少数派の人たち、はエンブレムがある人たちだけみた、い。

 

「・・・? な、んで・・・?」

「さぁ? そんなことより早く座りましょうよ。出遅れたせいでいい見物席は残ってなさそうだけど。せっかくだからワタシがこの国にきた事情も答辞の最中に教えてあげるわ。

 光栄に思いなさいよ~? なにしろ元々は国家機密だったんだから。本来なら貴女が知ってしまった瞬間に抹殺してたわね」

「・・・・・・・・・(ガタガタガタガタ)」

 

 そんなこ、と教えてくれなくてもいいの、に・・・。

 でもリーナは勝手に話しだ、す。それも結構声がおお、きい。スゴく声が響くか、ら歌が上手かもしれな、い。

 

 ・・・でも今答辞をしてる、の深雪なんだけ、ど・・・。

 ・・・・・・こ、殺されたりし、ないよ、ね・・・?

 

「ーーと言うわけで、超簡易魔法式の発表以降USNAは経済開発へと方針を変更したんだけど、もともとが軍事利用以外は考えてこなかった国だから当然いろんな国に差を付けられちゃってて勝負にならない。だったら要人を誘拐しちゃえってことで行ってみたら最新の超簡易魔法式防犯装置がわんさか有って蟻が這い出る隙間もなし。「一等星」を含むスターズ主力メンバーの大半が拘束されちゃってね。

 なんとか脱出できた残存兵力も中隊規模すら保てない有様。こんな部隊が国に帰ってきても戦力としては使い物にならないし、回復するにはお金がかかって、お金がないから誘拐しようとして失敗したわけで。

 ーー結果、ワタシたちスターズはお払い箱。敵国に捕まった連中を捕虜扱いされると厄介だからって理由で「我が国とは無関係なテロリストです」って公式発表までされちゃってさぁ~。もう、散々だったわ。

 んで、当たり前のように部隊は自然消滅。メンバーは散り散りになって今は何処でどうしているのやら。ワタシにいたっては頭の中身だけでも確保しようと追っ手を放たれて命まで狙われる始末。頭きたから追っ手の目の前でブリオネイクへし折って燃やしてやったわ。

 いや~、気持ちよかったー。まぁ、日米共同極秘研究で、しかも破棄されたはずの超兵器で唯一作れた奴が墓の下に埋まっちゃってる今じゃ複製すらできない代物をぶっ壊しちゃったら逃げ場なんて無いわよね。

 こうなりゃ自棄だと思って日本政府と交渉したら一般人としてなら受け入れてもいいってさ。魔法の使用制限はあるし違反したら即座に強制送還される条件だけど、破格過ぎると思わない?

 はぁ~、やっぱスゴいわ超簡易魔法式。あれ持ってる会社の本社が国内にあるってだけでここまでムリが通せるんだもんね~。USNAが目の色変えるのも納得させられるわ~」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ん? なに黙っちゃってんの? ・・・もしかして、同情してくれてるの・・・?

 ーーい、いやだなぁ~、そう感じにさせない様にわざと露悪的ではすっぱな言い方したのに、貴女のそれで台無しじゃないのよ~もぉ。

 ・・・でも、さっきあったばかりの相手を心配してくれて嬉しくなくはない・・・かな? あ、あはは、ちょっと照れるねーー」

「・・・・・・ぐぅ」

 

 スパコーン!

 

「いた、い・・・」

「ふんっ!」

 

 寝てた、ら頭ぶたれ、た・・・。

 リーナのお話ながいんだ、もん・・・。

 

「・・・ねぇ、リーナ。聞いてみてい、い?」

「なによ? 別に構わないけど、くだらない質問だったら、今度はお尻以外をペンペンするわよ」

「どこ、を・・・!?」

 

 お尻以外ってど、こ・・・!? 範囲が広すぎるとおも、う!

 

「え、えっと、ね? もしかしたらなんだけ、ど。ほんのちょっとだけ気になっただけなんだけ、ど・・・」

「だからなに? ・・・あー、そういう事。私の正体が十三使徒の一人、アンジー・シリウスだって事に気づいて怖くなーー」

「“すたーず”って、英語だよ、ね・・・?

 リーナってもしかし、て・・・アメリカ人さ、ん・・・?」

 

 すぱぱぱこーーん!!

 

 ・・・お尻、とおっぱい叩かれ、た・・・。

 お尻「以外」をペンペンするって言ったの、にお尻、も叩かれ、た・・・。

 

「リーナのウソつ、き・・・」

「お尻“は”叩かないとは言ってないわ!」

 

 それはきべ、ん・・・。

 

「それよりも! なんなのよ貴女! どうしてスターズを知らないの!?

 軍事的な常識で魔法師は国家戦力で魔法科高校は魔法師の育成機関なんでしょう!? ワタシなにか間違っていましたかしら!?」

「え、と・・・わかんな、いです・・・」

 

 すぱぱぱぱこーーーん!!!

 

「魔法科高校ってなんだーーーっ!!!」

「うう・・・お尻とおっぱ、いにビンタはひど、い・・・」

 

 リーナが追放されたの、は性格のせいだとおも、う・・・。

 ところ、で周りがすごく静かだけ、ど。式は終わったのか、な・・・?

 

 

 

 

 

 

 

「お二人とも、今がどういう時間で何をしている最中か理解できていますか?」

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・(がたがたがたがた)」」

 

 私たちは思わ、ず抱きしめあって怯え、た。

 そこには魔女がい、た。

 黒くてフワフワした長いくろかみ、の綺麗な女の、こ。

 可愛いけ、ど多分私より年上だとおも、う。

 

 

 でも、一番のとくちょう、は・・・悪魔みたいな笑顔を浮かべ、て私たち二人に「おいでおいで」しているとこ、ろ・・・。

 

「あうあうあう・・・・・・(ビクビクがたがた)」

「せせ、生徒会長さん・・・? ああ、あのですね? これには色々と深い事情があると言いますかないと言いますか・・・」

「連行してください」

「「はっ!」」

 

「「い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」」

 

 背の高いイケメンさん、とゴツゴツしている髪の短いマッチョさん、に羽交い締めにされ、て私たち二人だけ、が式場を後にさせられ、る。

 

「た、たつ、達也さ・・・!」

「・・・雫。骨は拾ってやらん」

「見捨てられ、た・・・!?」

 

 私は哀れみと同情と、ほんのちょっとの侮蔑を込め、て見下ろしてくる達也さんにも見捨てら、れて何処かへ連れて行かれ、る。

 

 

 

 

 

 

 やっぱ、り・・・普通の高校が良かった、な・・・・・・。

 

つづく




本編開始と同時にこれか・・・自分でも書いてて呆れます。

なお、今作のリーナは信じていたものすべてに裏切られただけでなく長い逃亡生活ですっかりやさぐれています。
割と箱入りでしたからね原作の彼女。国の庇護が無い状態で国外逃亡すればこうなるかなと妄想した次第です。
それと日本では超簡易魔法式の研究開発こそが重要視された結果、魔法工学科を急速に発足させざるを得なくなりました。と言うオリ設定です。

何度でも言いますがこの作品はフィクションです。登場するすべてのモノは原作と一切関係しておりません。


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4話「北山雫は嫌な女子会へと無理やり招かれる」

更新遅れまくってしまい、申し訳ございませんでした!
一度は打ち切りも考えたのですが、新スタイルの書き方に切り替えたおかげでようやく書き始められた次第です。
新しい手法で書いているので1話1話が今までより短くなりますが、その分作者の妄想全てをぶち込み、とにかく可愛い雫を書くことに注力した作品に変わってしまいましたが、それでも良いという方のみがお読みください。

なお、今話から今作は完全にギャグ作品へと移行しますのでそのおつもりで。


「入学式でも紹介しましたけど、どうせ貴女たちは聞いていなかったでしょうから、もう一度だけ紹介してあげますね。

 私は七草真由美。ここ魔法科第一高校の生徒会長で三年生です。

 私の隣が 会計の市原鈴音、通称リンちゃん。その隣は知らないでしょう? 風紀委員長の渡辺摩利、荒事専門の風紀委員から「姐さん」なんて呼ばれて畏怖されてる怖~いお姉さん。

 貴女たちとは特に親しくなるでしょうから、きちんと挨拶しておくのよ?」

「貴様等の修正をたった今仰せつかった渡辺摩利だ。本来の風紀委員業務からは外れる仕事だが是非もない、性根の腐りきった貴様等の根性を一年間で叩き直してやるつもりだから覚悟しておくように」

「「・・・・・・(ガタガタガタガタ)」」

 

 私とリーナ、はお互いを抱きしめあって震え、ていた。

 なに、この人た、ち・・・!? なんでこんな、に殺気立ってる、の!? こわ・・・い程ではないけ、ど漏らしそうだ、よ・・・?

 

「とりあえず、入学最初の質問だ。

 ーー地獄と煉獄、どちらを選ぶ?」

「「どっちも嫌です!(で、す!)」」

「そうか。なら、私の一存で両方にしよう。それならば異論はあるまい?」

「大有りです!(で、す!)」

「摩利、さすがにそれはやりすぎよ。問題になっちゃうわ。

 ーー権力や財力、コネなんかは、こう言う時にこそ使わないと」

「そうか、迂闊だった。

 お前の実家で特殊訓練を受けさせれば多少なりとも更正するし、言い訳のしようもあると言うものーー」

「「ごめんなさいでした!(でし、た!)

 以後は気をつけますので(の、で)、どうか勘弁してください!(さ、い!)」」

 

 私た、ち土下座。

 額を床に擦り付け、て謝り倒、す。必死に命乞、い。

 

 頭の上に冷たい視線を雨みたいに感じるけ、ど激しさは和らい、だ。

 これならもしかし、て許してくれたり、はーー

 

「ーー分かりました。なら今回の件は特別に、お尻ペンペンで許してあげましょう」

「ま、た!? なんでいつ、もお尻ペンペンな、の・・・!?」

「いえ、なんとなく。貴女を見ていると、なんだかお尻を叩いてあげたくなるので」

「りふじ、ん!?」

 

 お尻を叩きたくな、る見た目ってな、に!? 触りたくなる、じゃ、ない、の!?

 しかも、私げんて、い!?

 

「で、では会長。私に対する罰則は無しと言うことで・・・?」

「ああ、リーナさんには別口として学内で行われるあらゆる部活動に無報酬でのお手伝いをと」

「ブラックすぎる! 日本人のワーカーホリックぶりも大概にして!

 あと、それを当然のようにアメリカ人にも適用しないで! 自由の国の人間にタダ働きは地獄すぎます!」

「なるほど。ならば風紀委員の方で報酬は用意しよう。

 ーーとりあえず、肉体労働系のバイト斡旋でも構わないな?」

「構いますよ!? しかもそれ、風紀委員が身銭切っていませんよね! ただ体のいい低賃金労働者を確保したいだけですよね!?」

「お勧めは地下鉄工事の荷運びだが・・・」

「ワタシ女子高生ですよ!?女子高生なんですよ!?

 それも結構可愛い容姿をした花の乙女に、なんて事させようとしているんですか!」

「知らんな。女にとって同性の可愛さなど評価の埒外だ。どうでもいい。

 いやむしろ可愛さ余って嫉妬百二十パーセントになり、この場でシバき倒してしまおうという発想さえもが・・・」

「異性の目がない場所での女子、コエーーーーっ!!」

 

 あびきょうか、ん。

 リーナも私、もあびきょうかん。

 生徒会のひとたち、は氷のたいお、う。

 

 なに、この格、差・・・? これが“ぶるーむ”と“ういーど”な、の・・・?

 ぶるーむとういーど。怖、い・・・(がくがくぶるぶる)

 

「はぁ、これじゃあ埒があかないわね。やっぱり異性の目を気にして男性陣を追い出したのは失敗だったかしら?」

「仕方があるまい。誰だって異性に自分の本性など知られたくはないものさ。それが醜い女の情念ともなれば尚更な。

 その点では間違った選択だったとは思っていないが、埒があかないのは事実だ。

 ここは公平を期して、誰か一人くらい男子を招き入れてやるべきだろうか・・・?」

 

 風紀委員さん。お外で待って、る男性陣は授業に遅刻してる、よ? 責任問って入れてあげよう、よ。

 

 トントン。

 

「会長、そろそろ宜しいでしょうか?

 いい加減、我々にも予定というものがありましてーー」

「あ、ちょうど良かったわはんぞーくん。あなたに判断を委ねますので、適切に処理してください。お願いするわね?」

「は? えっとその、まず状況自体がよく分かっていないのでーーっ!? 頑張りますっ!任せてください!

 この服部形部少丞半蔵、不肖の身ながら必ずや会長の期待に応えてご覧に入れましょう!」

 

 ・・・? なんで途中か、ら急にやる気だした、の?

 会長さんの顔、がよく見えなかったけ、ど、あの時なにか見たのか、な?

 

「シズク、こっちへいらっしゃい。あの男とだけは仲良くなっちゃダメだからね?」

「同感だな。・・・女の敵め」

「・・・?」

 

 なん、で急に団結してる、の? さっきま、で仲悪かった気がする、よ?

 

「ーーさて。大まかな流れは今の会長から伺った話で理解した。

 北山、シールズ。お前たちにはこれから、俺と模擬戦をしてもらう。まさか自分たちが辞退できる身分だなどとは思っていないだろうな?」

「へぇ・・・」

「・・・?」

 

 “もぎ専”・・・? もぐこと専門の人? ザイトルクワエから薬草もぐ、の? 強いよあの、木。モモンガ様たちが強かっただけ、で。

 

「なるほどね。正当な試合ということにすればシゴキもイビりも懲罰には当たらないって事ね。なかなか素敵なこと考えつくじゃない、生徒会モブ委員さん。ちょっとだけ見直しちゃったわ」

「!! 俺はモブなどではない! 正式に任命されている副会長だ!」

「あ~ら、ごめんなさーい。あんまりにも周囲の雑魚共とかぶってたから見分けがつかなくって。

 少なくとも今この部屋にいる中ではアナタが一番、モブ臭にまみれているわよ?」

「言わせておけば・・・!」

「やめなさい、はんぞーくん。魔法師は事象をあるがままに捕らえ、冷静に対処できなくてはいけません。今のあなたでは思わぬ失敗を招きかねませんよ?

 それにも勝り何よりも、この模擬戦はあなたの側から挑んだこと。挑発に挑発で返されたからと言って怒る道理もないでしょう?」

「はっ! 仰るとおりであります! 自分が軽率でした! 申し訳ありません!」

「宜しい。では、今度こそちゃんとお願いしますね?

 くれぐれもあなたのミスで責任問題を起こさないよう、厳に留意すること。良いですね?」

「ははっ! 承知いたしました!」

 

 ・・・・・・なんだか軍人さんみたいな人だけ、ど。今のやりとりってもしかし、てーー。

 

「「トカゲの尻尾切りだったよう、な・・・?(だったんじゃないかしら?)」」

 

 リーナのと被った私の言葉、は、はん、はん・・・えーと、忍者ハットリくんには聞こえなかったみたい、で意気揚々と元気いっぱいな歩調で歩いていっ、た。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーあれ? 私の意見、は・・・?」

「無いわよ? 貴女にははじめっから発言権なんて」

 

 ヒド、い・・・。

 

つづく



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5話「北山雫は弱いけど勝った」

遅くなりすぎてごめんなさい。前話の時点でネタは上がっていたため「じゃあ後回しでいいや」と高をくくり過ぎました。気が付けばかなりの時間が経ってたみたいで驚いてます。

今話は達也目線での話です。気付かぬうちに時間が経ち過ぎていて色々忘れているためか、雫の口調が相変わらずブレブレです。
読み返しながら直すつもりですので、今はお気になさらずに。


「準備はいいか? ーー始め!」

「ぐはぁっ!?」

『え!? 早っ!? もう決着!?』

 

 服部先輩とクドウとの模擬戦は開始直後に一撃で壁まで吹き飛ばされた服部先輩の敗北をもって、一瞬で決着した。

 

「あのはんぞーくんが、一瞬で・・・」

「クドウは特殊な事情故に工学科を志望して一科に配属されましたが、実力では一科の主席合格者とほぼ同格です。やんごとない身分の方より直々に魔法の使用制限を厳命されているとは言え、所詮チャンバラごっこの延長上にあるのが学生同士で行われる模擬戦である以上、彼女が学生に敗れる道理がありません。

 ましてや彼女の場合は実技で試される魔法力評価基準すべてで服部副会長を既に超えてもいますし、この結果は出るべくして出た当然の帰結ですよ」

「容赦ないわね達也君・・・・・・」

 

 会長から、やや引き気味な反応をされてしまうが事実である。致し方がない。

 なにしろ元スターズの隊長にして十三使徒の一人だ。

 魔法科高校は将来的に日本の戦力として活躍できる魔法師の育成こそが主目的であり、本校の生徒会役員たちは全国の魔法科高校に在学している生徒すべてを併せた上でも尚、優秀な人材に恵まれた精鋭揃いと言っていい。

 中でも飛び抜けているのは七草会長だが、服部副会長とて実力は決して低くはあるまい。少なくとも成績順位においては二年生の中でトップクラスなのだ。早々容易く倒せる相手ではないだろう。

 

 ーーが、何事にも相手が悪すぎるという例外は存在する。今回の件はその典型・・・というには些か異質に過ぎるな。本来ならあり得ない組み合わせであるのも事実ではある事だし。

 

「ほぇ・・・すご、いね。達也さん、今の見え、た?」

 

 いつもどおりに戦いの内容そのものが見えていなかったらしい雫が、惚けた口調で尋ねてくる。これから戦うのはお前なんだぞ? ・・・と言ってやりたいところだが、わざわざ好き好んでバカにさらなるバカ化を促す必要もあるまい。

 容易くテンパり、テンパっても結果は変わらない奴なのだから、言うだけ時間と労力の無駄と言うものだ。

 

 ・・・どのみち始めから結果が見えている勝負。一石を投じることさえできないのなら、その手間さえ惜しむのは当然と言えよう。なにしろこの勝負『成立さえしない』のだから・・・。

 

 

「大丈夫ですか? 服部副会長。もし御身体に異常が見られるようでしたら、直ぐにでも保健室へ。魔法師は体が資本です。つまらない事で余計なお怪我をなさる必要はないと思われますが・・・」

「ーーはっ!? お、俺はなにを・・・? まさか負けて・・・いいや司波! 試合は続行する!

 なんとしても模擬戦で会長に良いところを見せてポイントアップを図らねば、割が合わない!」

「しっかりしてください副会長。本音がダダ漏れです。建前の“た”の字も残っていない。魔法師はいついかなる時も冷静でなければーー」

「うおおおっ! 次は勝つ! 次こそ勝つ!

 一年生などに負けたままでは俺のメンツが! 俺のイメージが! なによりも会長の好感度がぁぁぁぁっ!!」

 

 ーー駄目だな、この人は。本筋であるはずの会長自身からゴミを見る目で見られていることに全く気付いていない。

 ・・・もしかして本当に頭でも打ったのか? あるいは雫のバカさに汚染されたのか?

 

 ・・・ふむ。なんとなく後者の方が可能性が高い気がするな。後で診察してやるとしよう。

 バカとの付き合いが長いぶん、バカに汚染された人間を直すのを俺は得意としているからな。アフターケアだ。

 

「ーーでは、第2試合を始めます。両者、前に出てください」

 

 俺の言葉に服部副会長は素直に応じて前へ出ると構えを取る。

 右手を伸ばし、左手首に嵌めている腕輪型CADに指を置く。

 

 対する雫は・・・やはりと言うべきか、未だに元の場所で小首を傾げて不思議そうにしている。間違いようもなく、模擬戦の意味がわかっていない。理解もしていないだろう。

 

 ーーと言うかこいつ、まさかとは思うが『試合』という単語自体知らないなんて事はないだろうな・・・?

 普通で考えれるのであれば有り得ない疑問だとは思う。

 だが、北山雫のバカさ加減に限って言えば、有り得ないという事こそ有り得ない。

 何だって起こりえるのだ。バカ行動と呼べる行動だったら何だって出来る。ある意味で神の如きバカさと言っても差し支えないだろう。

 無論。そんな無能な神がいるとは思えんが・・・。

 

 とは言え、だ。一応俺は雫の父親である北山潮氏から直々に家庭教師を依頼された身。中途半端は俺のプロ意識に差し支えかねない。この程度の講義はしておいてやるか。

 

「雫。模擬戦とは戦うことだ。この場合で言うなら相手は服部副会長で、対戦相手がお前になる。

 ルールは簡単。相手より早く魔法を発動させて、相手を壁まで吹き飛ばせばいい。

 素手や足などを使った肉弾攻撃は禁止だが・・・お前にはそもそも無理なので、これに関しては無視していいだろう。

 とにかく魔法だけを使った勝負で、先に魔法を相手に当てて吹き飛ばせば勝ちだ。分かったな?」

「・・・う、ん。わかっ、た。つまりスマッシュブラザーズで、しょ?」

「・・・なぜそこで旧世紀のテレビゲームが例えに出るのかよく分からんが・・・しかし間違ってはいない。少なくとも完全なる見当違いではないだけ、お前的には及第点をやれるレベルだ。要点だけは押さえている。要点だけだがな」

「うん・・・この前一緒に遊ん、で楽しかっ、た・・・」

「あの時か・・・俺は北山氏から凄い目で睨まれたが・・・そう言えば確かに対戦プレイをしたゲームの中にスマブラがあったな。

 なら問題ない。いつも通りにやればいい。どうせお前に期待している者など誰も居ないから、気楽にいけ」

「・・・うん。わかった。気楽にい、く」

 

 いつものペースを崩すことなく納得した雫は、自分用のCADを入れた黒いアタッシュケースを深雪から受け取り中身を取り出す。

 見た感じだけで言うならオーソドックスな、腕輪形態の汎用型CAD。通常であるなら全部で九つあるキーの内、三つのキーを叩くだけで魔法が発動する。

 深雪であるなら登録可能上限を越える九十九以上の魔法を登録しても少なすぎるのだが、これが本物の劣等生である雫になると桁が異なる。

 

「あら、雫さんもはんぞーくんと同じで汎用型なのね。魔法師が聞いてよい事ではないのかもしれないけど、いったい何個の魔法が登録してあるのか気にはなるわね」

 

 七草会長が如何にもな魔法師らしい理由で魔法師らしい興味を持たれたようだ。

 せっかくだ。教えておこう。どのみち知られたところで大した意味も効果もないことだしーー。

 

「九個です」

「・・・はい? 達也君、今なんて・・・」

「ですから九個です。雫の使うCADには九個しか魔法は登録されていません。キー1つに付き魔法が1つだけ発動できる仕組みになっているんです。

 それ以上の魔法も、それ以外の魔法も、登録されたことは一度としてありません」

「それ、旧式以下のスペックなんじゃない!?」

「と言うより、スペックを上げると雫の能力の方がCADに付いていけません。性能に振り回されます。

 なにより彼女の演算能力では、九個以上の魔法を使い分けることなど不可能です。頭の方が先にパンクしてしまう。登録してある魔法の九個という数はCADではなく、むしろ雫の頭の登録可能上限を示している数なのです」

「どこまでバカなら気が済むのよあの子!?」

 

 会長、それは俺が常日頃から疑問に思っていることですので今更すぎるかと。

 

「お待た、せ」

「ああ。相変わらず九個以上を使い分けるには処理能力が足りないようだな」

「う、ん。・・・九個って、多すぎ、る・・・」

「多いの!? 九個って多すぎる数だったの!?」

 

 会長が本気で驚いているな。無理もないことではあるが・・・

 

「では改めて、両者は所定の位置へ。・・・雫、もう少し前だ前。怖いからって後ろへ下がろうとするな。

 あと、これは先ほど言い忘れていたんだが、魔法の発動準備は試合開始の合図があるまで無しだ。CADも合図があるまで起動させるな。これが模擬戦のルールだぞ。

 ・・・理解できたか?」

「う・・・ん。なんとな、く・・・?」

「だろうな・・・じゃあお前にも分かりやすく例えてやる。

 ランプが点灯中からBボタンを押しておく、ロケットスタートは無しだ。これなら理解できるだろう?」

「あ・・・分かっ、た。フライングはなしなんだ、ね・・・?」

「よし、偉いぞ。よく理解できた。二十三点を与えてやろう」

「わーい・・・」

「今ので二十三点!? え?あれ? それって高いの低いのどっちなの!?

 あまりにも低レベルすぎて基準がサッパリ分からない!」

 

 会長が頭を抱えているが、こればかりは雫と長年付き合わなければ理解できない評価基準なのだから理解できなくても仕方がない。

 魔法師には時として諦めることも必要だからな。

 

「ではーー始め!」

 

 先ほどから意外性のありすぎる展開に付いていけず、動かない女性像と化している渡辺先輩に成り代わり、今度の試合も俺がジャッジを務める。

 ――とは言え今回も前回もやることは変わらず結果もさして変わらないのだから、気楽な身分といってもいい役割なのだがな・・・。

 

「・・・え、い・・・。ポチッと、な」

「ぐはぁっ!?」

「試合終了。勝者、北山雫」

 

 二度も続けば嫌でも慣れる。俺は淡々と勝ち名乗りをした後、敗者たる服部先輩の体を診察するため歩み寄ろうとしたのだが・・・。

 

「ち、ちょっと待て。今の魔法は・・・予め用意していた遅延発動型魔法を使用した・・・訳ではないのだろうな、あの様子だと・・・」

 

 フリーズから回復したらしい渡辺先輩が、自らの疑問に自ら否定の答えを返しつつ俺を呼び止める。

 肝心の雫は「ちえん・・・ジャッキー・チエン?」と、いつも通りに訳の分からないことを口走っているが、いつも通りなので流すことにする。

 

「遅延発動型の魔法ではありません。正真正銘、ただの超簡易魔法式による初級魔法です」

「超簡易魔法式って・・・あれは民需用で、戦闘用に使える代物じゃないだろう!?」

「CADは魔法を最速で発動するツールであり、CADを使った魔法発動の速さが魔法実技における成績を決める上で最大の評価ポイントです。

 ならばボタン一つで魔法が発動する超簡易魔法式に、人間の魔法師が魔法発動の速さで敵うことは決して出来ない。相手に重傷を負わせてはいけない為、威力の高い高度な魔法を使用できない模擬戦では圧倒的に有利だと断言できるでしょう。

 実技試験における魔法力の評価基準は、魔法を発動する速度、魔法式の規模、対象物の情報を書き換える強度で決まりますが、今後は多数変化も加えた方がいいかもしれませんね。

 書き換えと規模で超簡易魔法式は大きく水を開けられては居ても、発動までの速度では他の追随を許しませんから。対処するには別の物を入れて混ぜ返すのが一番手っ取り早いですし、なによりも楽で受け入れやすい。時代の変化に対応し切れていない生徒にも順応しやすいことでしょう」

 

 唖然として黙り込む先輩方を後目に、俺は服部副会長の側へと寄って肩を揺する。

 「ううん・・・」とうなり声を上げながら目を覚ました彼に、俺はホッとして息を付いた。

 ああ、よかった。これで俺も、後顧の憂いなくーー

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか」

「え・・・・・・?」

 

 なに言ってんだこいつ、正気か・・・? そう言いたげな表情の副会長だが、俺は本気だ。ついでに言えば正気でもある。

 冷静に、的確に、戦機を捉えて今しかないと踏んだからこそ、こうして勝負を挑んでいるのだ。

 

「副会長は実技の成績が悪く、新設されたばかりの工学科から禄な実績もないのに生徒会入りを果たした俺が以前からお気に召さないご様子だとお聞きしました。

 出来るなら今この場をお借りして、魔法師としての俺の実力を示させていただきたいのですが」

「え、いや、その、今はちょっと・・・」

「魔法師は国防の要。何時いかなる時も冷静に、そして勇敢に敵と戦い、立ち向かえなくてはいけません。敵前逃亡など言語道断。挑まれて尻尾を巻いて逃げる臆病者が、どの様にして国難に立ち向かえるというのですか?」

「・・・・・・」

 

 真っ青になってプルプル震え出す服部副会長を安心させるため、俺は力強く彼の肩を掴んで笑顔を向ける。

 

「大丈夫です、服部副会長。安心してください。俺の見た限り、貴方は一科生の中でもとりわけ優秀な学生だ。たかだか新入りの工学科に負けるわけがありません。貴方の勝利は揺るぎませんよ。

 ーーなので俺も、胸をお借りするつもりで全力で行かせていただきます」

 

 最後らへんで彼の顔色が病的な青さに達したが、まぁ気のせいだろう。

 事象をあるがままに、冷静に、論理的に認識できなければ優秀な魔法師にはなれない。

 二科生の雫よりも優秀な一科生で、二科生よりも一科生の方が優れているに決まっていると信じきれるほどの実力をお持ちの副会長様が、まさか実技では最低クラスの俺如きに怯えるはずなど無いのだからーー

 

 

 

 

 

「うわ・・・あの顔、マジ引くわー・・・。ねぇ、アナタのお兄さんってもしかしなくても怖い人?」

「ああ・・・倒せる敵は倒せるときに徹底的に叩き潰すなんて。流石はお兄様です・・・」

「ダメだわこれ、兄妹ともども頭少しおかしいわこれ。

 ねぇ雫、アナタの試合も終わったんでしょ? だったら一緒に教室行きましょうよ。

 入学早々、上級生の生徒会役員の不興を買って返り討ちにしてやりましたなんて、ジャパニーズゴクドーっぽくて格好良く思われないかしら? あらやだ、ワタシったら入学早々に有名人?」

「・・・ん、と・・・リーナは試合の前か、ら有名人だとおも、う」

「あら。何故そう思うのかしら? ワタシなにか特別なことした?」

「うん、と・・・私のお尻をたたいて追いかけ、た・・・痛い痛い、お尻痛い、叩かない、で・・・!」

「上官反抗罪は、お尻ペンペンで有罪だー!」

「痛い痛い、お尻がいた、い・・・なんで私のお尻ばっか、り・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「摩利・・・私たち、必要だったのかしら・・・?」

「何を言っているんだ真由美。お前はまだ良い方だったぞ?

 ・・・・・・私なんか完全に空気だったからな・・・・・・」

 

 

「・・・・・・(市原リンちゃん)」

「・・・・・・(中条あーちゃん)」

 

つづく




補足:雫が使った魔法は副会長のと同じ物です。どちらも同じく初級の簡単なもので、発動までの短さが売りなようなので登録されてた設定です。
あと、非殺傷系なので雫には丁度良いかな~と。


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6話「北山雫は、今日もまた気付かない」

久方ぶりの更新となります。お待たせしちゃってごめんなさい。ネタそのものは大分以前から出来上がっていたのですが、なんやかんやしている内に物凄い時間が流れてました・・・。

次からは可能な限りネタが思いついた順番に書き上げるよう努力致します。



注:最近、地の文を書くのが嫌いではなくとも下手にはなっているらしく、説明文などで不分明な点が多くなっていると思われますので気になりましたらご指摘ください。


 朝はや、く。私たちは三人一緒、にお寺を目指し、て坂道を上って、た。

 

「お兄様、少しペースを落としましょうか・・・?」

「いや、それではトレーニングにならない」

 

 達也さん、は相変わらずのチートっぷり、でローラーブレードを履いてる深雪、と同じ速度のぴょんぴょんジャンプいど、う。

 

 達也さんってもしかしなくて、も忍者さん? だからシショーさんに弟子入りしてる、のかな?

 

「この程度の速度がお兄様にとって苦ではないことくらい、深雪にもわかっております。

 ですが・・・幾らお兄様でも、余計な重りを乗せて走るのはいささか辛いのではないかと・・・」

「大丈夫だ、深雪。こいつは普段から俺にとっての重りになってる。今更背中に背負ってジョキングコースを走るくらい、然したる労も感じはしないさ」

「二人と、もひどい・・・」

 

 達也さんにおんぶされてる私は背中にしがみつきなが、ら背中で文句を言ったけど無視され、た。・・・やっぱりひど、い・・・。

 

 

 今、私たちが走っているの、は達也さんの通って、る格闘技きょうし、つへ続くさかみ、ち。

 達也さんは人間じゃないか、ら車もバイクも使わず、にBダッシュで移動できる、の。

 

 ・・・前から思ってたけ、ど達也さんの正体って、やっぱりいぎょush・・・

 

「・・・雫?」

「(ビクッ!)な、何も思ってない、よ深雪・・・?」

 

 背後から吹き寄せてく、る吹雪のプレッシャーに怯えなが、ら私たちは寺小屋教室への道をひたはし、る。

 

 でも、達也さ、ん。出来れば少しスピード落としてほしいか、も。

 

 後ろから付いてきてる深雪の視線、が痛すぎる、よ・・・?

 

 

 

 

 

「でぇいっ! ・・・ぐおぁっ!?」

「てやぁぁぁっ!! ・・・うおわぁっ!?」

「こなくそ! ・・・なにぃっ!?」

 

 お寺の境内で達也さん、とお坊さんたちが戦って、る。

 たぶん、お坊さんたちはソウヘイさんたちなんだとおも、う。前世で見た大河ドラマによく出て、たから知って、る。

 

「あの人たちって、最後はやっぱりお寺、とファイヤーされちゃう、の・・・?」

「雫、あなたには後ほどお勉強の時間を義務づけます。今日は日本史を中心にね」

「ひうっ!? は、はい・・・・・・(がたがたがたがた)」

 

 達也さんのシュギョーに来ているはずなの、になぜか毎回わたしがお勉強させられちゃうのはなんでだ、ろ・・・?

 

「いやー、相変わらず雫くんは小動物みたいで愛くるしいねぇ。そんなにビクビクしている姿を見せられたら、僕も思わず悪戯しちゃいそうになるよ? こんな風にね」

「ひゃっ!?」

 

 だ、誰かにお尻触られ、た・・・!?

 

「先生・・・・・・っ!! 気配を消して雫の背後に忍び寄り、お尻を撫でないでくださいとあれほど申し上げたじゃありませんか・・・!」

「いや? 消してないし、忍び寄ってもいないよ?

 僕は由緒正しい『忍び』だからねぇ。強者の背後に忍び寄るのは性みたいなものだけど、さすがに小ウサギを相手にして忍術を使うのは忍術使いの道に悖る行為だよ」

「・・・・・・雫?」

「ひぇっ!? な、なんで私の方をにらむ、の・・・!? 悪いのは私じゃないよ、ね・・・!?」

 

 そしてなぜか毎回行われ、るシショーさんのイタズラ、と、その後のお説教タイ、ム。

 

 ・・・つら、い・・・。

 

 

「うーん、いつ見ても雫くんは愛らしいし、深雪くんは可憐で魅力的だね。どちらのお尻にしようか僕も毎回悩んでしまうよ。まったく、仏門に入って俗世と縁を切った僕に我慢を強制しなくてはならないほどに恵まれた環境。・・・ふむ、これはあれだね。所謂一つのリア充爆発しろっ!って、奴なのかな?」

「先生・・・? そんな世俗にまみれた言葉をいったいどこでお知りになられたのですか?

 ・・・・・・元凶を正したく思いますので、お教えいただきたいのですが・・・?」

「だからなん、で私をにらむ、の・・・!?」

 

 ひど、い・・・! 幾らなんで、も扱いがヒドすぎ、るよ!

 

「いやまぁ、普通に雫くんから貸してもらったライトノベルからなんだけどね?」

「雫・・・・・・言い残すことは?」

「なんで遺言か、ら・・・!? 裁判、は・・・!?」

 

 異端審問会より扱いがヒド、い・・・!

 

「うんうん、良いね良いね初々しいね。真新しい制服を着て仲睦まじく戯れ合う、小ウサギとシャム猫。実に目の保養になる光景だ。生きてて良かった・・・ムッ?」

 

 パシッ!

 

「師匠? 中年男性による女子学生へのセクハラ行為は犯罪です。訴えられたくなければ少し落ちついてもらえませんか」

「・・・やるね、達也くん。僕の弱みに付け込むと、はっ」

 

 私が怒られてる近くで、は達也さんとシショーさんの格ゲーみたいなバトルが行われて、る。

 

 なんだかよく分からな、い・・・・・・。

 

 

 

 私が中学二年生の時に転校してきたときに、ははじめていたらしい達也さんちの朝の日課。お寺でのシュギョー。

 最初はドラゴンボールの亀仙流みたいなのを期待していた私、はすぐに厳しい現実に打ちのめされ、る。・・・坂道が辛かった、のだ・・・。

 

「・・・ここまで体力のない魔法師も、今時珍しいかもしれないねぇ・・・」

 

 あのとき見せたシショーさんの哀れみの視線、は痛かった・・・。

 

「先生、どうぞ。お兄様もいかがですか」

「達也さん、へい、き? 怪我してたとこな、い? あったら手当がんばる、よ?」

「おお、深雪くんに雫くんもありがとう。それから達也くんは少しだけ死んでなさい」

「・・・少しだけ待っててくれないか深雪。直ぐにでも回復して、お前たちの側に行くから」

 

 汗みずくで立ち上がろうとしてる達也さん、をニヤニヤ笑いを浮かべて見てるシショーさ、ん。二人はとっても仲良、し。

 

 その後、いつも通りに深雪が達也さんに寄り添って、汚れたスカートに魔法かけてからお食事か、い。

 

「お兄様、朝ご飯にしませんか? 今日は雫も一緒になって作ったんですよ? 先生もよろしければご一緒に」

「がんばりまし、た・・・!(ふんす)」

「ああ、ありがとう。いただくよ」

「そうだね。こんなハーレム状態を男一人に味あわせるなんて、仏様が許しても独身の僕が許さない。ご相伴させていただこう」

 

 

 

 縁側でサンドイッチを頬張る達也さんとシショーさん。

 深雪は一切れ食べてから、は達也さんのお世話で付きっきり。

 私も小食だか、ら二つ食べ終えてからはシショーさんのお世話に回って、る。

 

 笑顔で差し出したお茶を飲んでるシショーさん、は時々悪そうな笑顔で私たちを眺めたりもす、る。

 ・・・・・・??? なにか、な?

 

「もう体術だけならともかく、男としては達也くんに敵わないのかもしれないねぇ・・・」

「師匠・・・ですから俺たちはそういう関係ではないと、あれほど何度も口を酸っぱくして申し上げてるじゃないですか・・・。いい加減、モテない中年男の被害妄想はやめて頂きたいのですが?」

「ハーレムは幾つになっても男にとってのロマンだ。それが解らないほど今の君は枯れてはいないと僕は見てるんだけどね、達也くん?」

「・・・・・・」

「君も、もう少し素直になりたまえ。惚れてくれた可愛い女の子に報いるのは男の甲斐性であり、義務だ。想いを知っていて気づかないフリをするのも、想いに対して応えられない身体なんだと偽り続けるのも、男らしくないし最低な屑野郎の行為だと僕は信仰してるんだよ」

「「・・・・・・???」」

 

 男の子二人によ、るよく分からないかい、わ。

 

 私たち女の子二人、は大人しく首を傾げてお茶くみちゅ、う。

 

 ・・・あ、れ? 私ってたしか・・・元男の子だったはずだよ・・・ね?

 

 

 

 ぷおおおおおおおおっーーーーー

 

 

 駅のホームに小型の電車が入ってきて、私たちはそれに乗、る。

 ほのかとは次の駅で合流するよて、い。

 家が微妙な距離にあ、る私た、ち。途中から私も無理矢理つき合わされ出し、た朝のシュギョー。それが終わってから私たちの登校風景が訪れるみた、い。

 

「お兄様、実は昨日の晩。あの人たちから電話がありまして」

「あの人たち? ああ・・・それで、親父たちがまたお前に仲介を頼んででもきたのか?」

 

 端末でニュースを見ていた達也さん、に深雪がどうでも良いことを言うような口調で話しかけ、た。

 こういう興味のないことについて話す口調は、いくらドSの深雪でも珍し、い。

 

「はい、その通りです。

 まったく、あの人たちは・・・一度は捨てた息子に縋る以外、会社を維持していくのは不可能なご時世になったというのに、未だ実利のない見栄やプライドにこだわってお兄様にはメール一本おくれず、出来るのはせいぜい娘に泣きつくのが関の山。

 本当に、よくあの体たらくで会社重役を続けていられるものですね。親の顔が見てみたいとはこのことです」

 

 深雪・・・私以外にもけっこうヒドい、ね・・・?

 

 達也さんは「まぁまぁ」といった感じでいなしなが、ら「落ち着けって、深雪。向こうも中々に必死な状況なんだから」と、手を握ってあやして上げてる光景は、まるで美少女の妹を言葉でだまして利用する、悪のお兄さんのようでーー

 

「「・・・雫?」」

「なんでもな・・・です・・・・・・(がたがたぶるぶるがたぶるぶる)」

 

 いつも通り私が冷凍ビームで撃墜され、る。

 兄弟二人で合計四本撃ちは卑怯だと思いま、す・・・。

 

「・・・会社の経営を手伝えという親父を無視して進学を決めたんだ。そりゃあ、社内での立場は相当悪くなっていることだろう。祝いを寄越せるはずがないし、余裕すらもないんじゃないかな?

 親父の性格も能力も、社内での地位がお飾りでしかないことも、お前は知っているだろう?」

「自分の親がその程度の人間でしかなかった事実に、腹が立っているのです。だいたい、お兄様に学校を辞めさせてCAD開発に尽力していただきたいなら自分の方から頭を下げて「お願いします」と言うのが筋というものですのに、その程度のことさえプライドが邪魔をして実行できないなんてチャンチャラ可笑しいではありませんか」

 

 話してる最中に怒りがぶり返してきたの、か深雪の口調が段々怖くなってい、く。

 て言うか、こわ、こわ、怖いぃぃ・・・!!!

 

「そもそもあの人たちは、どれだけお兄様の臑を齧り続ければ気が済むのでしょうか?

 十五歳の高校に進学したばかりの少年に地位の保身を無心するなど、非常識だとはお思いになりませんか?」

「親父も小百合さんも、自分が所詮、俺を繋ぎ止めておくために飼い殺されてる飼い犬に過ぎないのだと認めたくはないのさ。

 これまでは通じていた自分たちの都合が無価値と断じられるなんて、つい数年前までは夢にも思っていなかっただろうからな・・・」

 

 ぽふ。

 

「・・・? 達也さ、ん? ・・・な、に?」

 

 理由は分からないけ、ど達也さんはたまに私の頭に手を置いてワシャワシャしたが、る。でも、今回のはただ手をおいただ、け。

 

 ・・・??? なんだか今日は不思議な達也さ、ん・・・。

 

「生来の才能だけでは魔法は使えない。魔法を使うには長期間の修学と訓練が必要となる。それらの事実に目をつむり見ても見えないフリをして、魔法師は生まれつき才能があって特別だから、自分たちより高い給料をもらえる地位についてられるのだ。・・・それが旧来の魔法社会で当たり前のように通じた価値基準だったが、今はもうそうじゃない。

 世界長者番付にはじまって、世界中のあらゆる場所で才能よりも『工夫』がものを言う社会となった。そうでもしなければ先進国に置いて行かれて寂れ果てる未来しか待っていないのだから魔法師を戦力として優遇していた国でも、この波には逆らいきれない。

 逆らってもいずれは飲み込まれるならばと、強いだけで工夫のない魔法師を『才能に溺れず自分でも考えろ』とばかりに様々なカリキュラムに強制参加させて落ちれば免職、断るならば左遷。

 超実力主義経済が確立された今の時代に、才能がないことを言い訳にしたままの人たちは生き残れない。そういう現実が目の前に壁となって立ちはだかっている以上、弱さを理由に逃げ出す人は誰も相手にしなくなってしまう。

 付いてこれないならば、付いて来たくないなら勝手にしろと、その人たちだけを置いてけぼりにして社会全体がすさまじい早さで加速度的に進歩していってしまってる。

 この時代に・・・彼らのような人間が生き辛いのは理解できないわけじゃない。俺の中にもそういう気持ちは、確かにあった」

 

 ふと、遠い目をしていた達也さんの目が微妙に腐って・・・え? なん、で!? 私なにかした、の・・・!?

 

 

「ーーただまぁ、立ち止まっていたら馬鹿に置いて行かれてしまうのが癪に思えて、仕方なしに努力してきた俺に親父たちを罵倒する資格があるかどうかは微妙なのでね。

 現在のところは今までの事に対する慰謝料として口利きしてやろうかと・・・」

「なるほど、真綿で首を徐々に絞めつけながら殺すと言うわけですね。さすがは、お兄様です」

「??????」

 

 なんだか今日は、みんなが不思議な会話をする不思議な日だ、なぁ。

 

『まもなく、魔法科第一高校前に到着いたします』

 

 あ。着い、た。今日から第二の高校生活初の授業で、す。

 がんばろ、う。(ふんす)

 

つづく



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7話「北山雫は、朝からガチすぎる修羅場とエンカウントする」

先ほど、途中からの一文を付け足しました。
「追加分です」の添え書きと、言い訳じみた解説も記載されています。


「雫、いい? よーく聞いて覚えるのよ? 貴女のクラスは二科生側の校舎にある1年E組で、座席は端末ごとに番号が刻印されていて、貴女の番号は・・・・・・」

 

 俺の眼前では、妹の深雪による雫のための『魔法科第一高校初登校時に守らなくてはいけないこと講習』が行われており、入学式の時と同様に時間を圧迫し続けていた。

 毎度の事ながら深雪の雫にたいする過保護は度が過ぎていると言わざるを得ない。少しは周囲からの視線も気にするべきだと思うのだが、それを言おうものなら必ず

 

「まぁ・・・! ではお兄様は雫がなにも教わらずに人並み水準の生活がこなせるとでも想っておいでなのですか!?」

 

 ーーと、なぜか俺自身が説教の対象に加えられるという謎現象が発生してしまうので手が出せないし口も出せない。深雪の傍らで黙り込み、ただただ講習が終わるのを待ち続けるだけである。

 

「ーー要約するとこんなものだけれど・・・雫。理解できたかしら?」

「・・・う、ん。半分くらい、は・・・?」

「なぜ疑問系・・・。まぁ、いいわ。とりあえず初日だけでも乗り切れれば、次から少しは勝手が分かるもの。今日は教室についたときに挨拶するのを忘れなければそれで良し」

「う、ん・・・。行ってくる、ね?」

「はい、いってらっしゃい。お昼になったら食堂にきて一緒に食べましょう? わたくしは出来るだけ目立つ場所に席を取っておくから」

「は、い。いってきま、す」

 

 パタパタと。小さく手を振り、校舎の異なる俺たちの方を幾度となく振り返りつつも二科の校舎へと入ってゆく雫を見送りながら俺は、兄として妹にたいする苦言を呈していた。

 

「深雪。幼馴染みを大切に扱う気持ちは尊いものだと理解はしているが・・・あまりにも度が過ぎてきてはいないだろうか? このままだと雫はお前にスポイルされてしまいそうなんだが・・・」

 

 俺の言葉に深雪は、さも心外だと言いたげな表情で俺を見上げて。

 

「お言葉ですがお兄様、それは誤解です。わたくしは幼馴染みとしての領分を常に弁えた上で行動し、発言しております。けっして雫に行き過ぎた教育など施したことはございません」

「そうなのか? とてもそう言う風には見えないんだが・・・」

「誤解です。それに、そう言うお兄様こそ叔母様にたいして雫の護衛という名目の元、二科への編入は可能かどうかの打診をされたと葉山さんから聞き及んでおりますが?」

 

 葉山さん・・・要らぬ事まで深雪に吹き込んでくれたものだ。おかげで誤解を解くために、また時間を費やす必要が生じてしまったな。

 

「それこそ誤解だよ、深雪。魔法師は国防のためにこそ発展した職種だ。国法を守り、守らせる側に立つ魔法師である俺たちが校則すら遵守しようとせずにねじ曲げるなど許されることでは決してない。

 俺が叔母上に願い出たのは雫の才能が他国に漏れることによって生じる国家のリスクを考慮したからであって、魔法師としての義務を果たしたに過ぎない。今までは一般中学に通う普通の学生だったが、今日からは魔法師を育成するための国立機関魔法科第一高校の一員になるんだ。生徒として当然のことをしたまでだよ」

「また、その様な理屈で深雪を言いくるめようとして! 深雪はいつまでも騙されやすく、扱いやすい子供ではないのです! 今日こそはちゃんと説明していただきます!」

「・・・困ったな。俺は本当のことを言っているだけなんだが・・・」

 

 俺は誠実に、そして誠意を込めて妹の深雪を説得し、時間こそ掛かりはしたが納得させることに成功した。

 とはいえ、最後に言い捨てていった「わかりました。続きはお昼にでも」の一言から見て、まだ根に持ってはいるらしい。

 

「やれやれ。深雪もまだまだ甘え足りない年頃だな」

 

 呟き、肩をすくめてから俺も自らが通う事になる新設された新校舎『魔法工学科』の入り口へと入っていく。

 鬼がでるのか、蛇がでるか・・・実力試しといかせてもらうとしようか? 魔法科第一高校魔法工学科よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え。なに、あれ・・・? 嘘、本当に? 本当に実在してたの? ジャパンが誇る伝統文化チューニって、本当に実在している生き物だったんだ・・・。

 始めて見たわ、写メ取っときましょう・・・って、あれ!? 端末に写メール機能がない!? Why!?

 チューニがいるジャパニーズの魔法学校にはあって当然のはずなのに!」

 

 

『(今年はなんだか変な新入生が多い気がするなー・・・)』

 

 

 

「たっつやさーーーん! 私も遅ればせながら到着しましたよーーーっ!!

 ・・・・・・って、私今回の出番これだけですか!?」

 

 

 

 

 

「おはよ~」

「・・・?」

 

 入ったばかり、の一年E組、で後ろから声をかけられて驚い、た。

 振り返ってみた、らオレンジっぽい髪色、の女の子が笑って、た。

 

「・・・??? えっ、と・・・おはようございま、す・・・?」

 

 誰かは分からなかったけ、ど深雪に教わった挨拶をす、る。

 ・・・けっして後で怒られたくないからじゃな・・・い事もないことはな、い。

 

「ああ、あたしは千葉エリカ。エリカでいいわ。貴女は北山雫さんでしょ?」

「??? なんで私のなま、え・・・」

「そりゃ、昨日の今日だし。入学式にあれだけインパクトある呼ばれ方をされてる女生徒って、魔法科高校の歴史上でも他にはいないんじゃないかしらね?」

 

 そ、なんだ・・・。はじめて知っ、た・・・。

 

「ね、あたしも貴女のこと雫って呼ばせてもらっていい? なんだか貴女とは問題児同士、気が合いそうだと思ったのよね~」

「う、ん。別にいい、よ? むしろ、雫って呼んでくれると嬉しいか、も・・・。

 北山って呼ばれることあんまりないか、ら、呼ばれても気付かないことある、し・・・」

「それは問題児じゃなくて、ただの問題行動だと思うわよ!?」

 

 友情成立直後に裏切られ、た・・・。

 

「ま、まぁまぁエリカちゃん落ち着いて・・・」

 

 ・・・? 今度はメガネの女の子が来、た。

 

「あ、北山さんの方からは、はじめましてだったね。

 私、柴田美月って言います。入学式の時は近くの席から貴女と金髪の娘のやりとりを見ていた一人です。今日からはクラスメイトとして、よろしくお願いしますね」

「はじめまし、て、よろしくお願いしま、す」

「・・・なんだろう。礼儀正しいマナー通りの挨拶に、何だか仲間外れ感が・・・」

「うん。その想いはたぶん、あってると思うよ?」

「出会ってから二日目で酷すぎる!?」

 

 ようこ、そ。ぼっちの楽園、へ。

 

 

 みんなで笑いあって雰囲気良くなったなと思ったか、ら、私は深雪に言われたとおりに端末で番号探し、て席に着い、た。

 ここからは達也さんのマネし、てカリギュラム? って言うの、を書き写していく。

 

 そした、ら横から男子生徒が覗いてき、てビックリして、た。

 

「うわ、今時キーボードオンリーで入力する奴も珍しいが、寄りにもよって手書きかよ・・・って、そのノート『ジャポニカ学習帳』じゃねぇか! しかもほとんど白紙状態の未使用品!

 大昔のモラル崩壊時代に、男子小学生が授業サボって暇つぶしにウン○書いてたとか言う伝説の逸品ーー」

「ふんっ!!」

「ぐはぁっ!?」

「・・・下品なのは、いけないと思います」

 

 ・・・・・・なにがあった、の・・・?

 

 

 

【ーー5分後にオリエンテーションを始めますので、自席で待機してください。IDカードを端末にセットしていない生徒は、速やかにセットしてください】

 

 そんな文章が流れてきたか、ら、さっき倒されてた男子生徒の西城レオンハルトさんに教えてあげ、る。

 

「おう・・・サンキューな・・・。それとだが、俺のことはレオでいいぜ? よろしくな。

 ・・・顎が痛くて、脳が揺れるし視界がブレる・・・あの女、ぜってーなんか習ってやがったな・・・」

 

 フラフラしながら席に戻るレオ君を見送ってか、ら教室の前の扉が開い、て。

 

「はじめまして。私はこの学校で総合カウンセラーを勤めている小野遥です。皆さんの相談相手となり、適切な専門分野のカウンセラーが必要な場合はそれを紹介するのが私たち総合カウンセラーの役目となります」

 

 オッパイの大き、な女教師の人が入ってき、た。

 

「その職質上、どうしても新設された魔法工学科の生徒たちに比重が偏りがちになると思われますが、そのことで皆さんが不安や不満を抱かないように調整するのも私たちにとっては大事な仕事ですので、いつでも気軽に頼ってくださいね」

 

 そう言ってから頭を下げ、て教卓の何かを操作する、と、教室の前の方にあるスクリーンに男の人が映し出されて「このクラスは私と、この柳沢先生が担当します」って言われ、た。

 

 その後にいろいろ説明されて、半分くらいは覚えることができてきた頃に

 

「・・・それでは既に履修登録を終了した人は、退室しても構いません。その際、IDカードを忘れないでくださいね」

 

 で、締めくくられ、た。

 

 

「雫、お昼まで何して過ごす? あたしは暇つぶしに適当な部活動を見学しに行こうと思ってるんだけど、貴女も来る?」

「・・・ん。い、く・・・」

 

 エリカに誘われたから付いてい、く。

 友達、と部活けんが、く。前世の小学校以来だから楽し、み・・・(わくわく)

 

 

 

 そし、て・・・・・・・・・。

 

「案外・・・普通だったわね・・・」

「う、ん・・・もっとスゴい、の期待して、た・・・」

「お前ら・・・一応とはいえ、国立の教育機関に所属する部活動にいったい何を期待してたんだ・・・?」

「いや~」

「えっ、と・・・」

 

 ・・・・・・・・・・・・虹野さんと、か?

 

注:後日、部員勧誘期間中だったので猫かぶってただけであることが判明しました。

  暴走はしても部員は集まると言う結果を出してるのが証拠の、魔法科高校学生たちです。

 

 

 

 

 そして、お昼休、み。

 

 

「ん・・・雫か。どうやら俺たち以外の保護者が確保できたようで何よりだな」

「達也さ、ん。ひど・・・い・・・」

「知り合いかい、達也? なんなら僕は席を外すけど・・・って、エリカ!? 何故きみがここに!?」

「あれ、ミキじゃない。

 この前、工学科ができたお陰で一科に入る予定だった子がそっちに行って、二科に入る予定だったアンタが繰り上げで一科生になれたの聞かされてから三日しか経ってないけど久しぶりー。元気してた?」

「いつもは一言多い君だけど、今のは一言以外全部多かったな! それから、僕の名前は幹比古だ!」

「・・・この状況でもそこにこだわれるアンタは、たまに本気でスゴいと思うわ・・・」

「お、なんだなんだ。もしかしなくても修羅場か~? だったら俺も混ぜろよ! 火事と喧嘩は俺の華だぜ!」

「ちょ、ちょっと西城君! 食堂で暴れたりしちゃダメだよ! 食事は静かに食べなくちゃ!」

 

 

「・・・・・・・・・雫、個性的な仲間を得られた様で何よりだ。お陰で俺の胃痛と頭痛の種が更に増えてしまったよ」

「・・・ごめんなさ、い・・・」

 

 

 ・・・いつも思うけ、ど、これって私のせいなのか、な・・・?

 

 

 

 

「おい、キミたち。ここの席を譲ってくれないか?」

 

『あぁ?』

 

 う、わ・・・。柄悪いへん、じ・・・。

 相手の人は怒ってないか、な・・・?

 

 ーーうん、よかった。怒ってな、い。ちょっとビクってなってるだ、け。これくらいならへーき。私もよくや、る。

 

 相手の男子生徒さん、は「こほん」って咳払いしてか、ら胸を張って・・・ん? 胸のマークを張って・・・なのか、な? とにかく胸を前に出しながら私たちに何かを言い出し、た。

 

 ・・・男の人の胸が前にでて、て気持ち悪かったか、ら私は聞いてなかったけ、ど・・・。

 

「二科は一科の「ただの補欠」だ。授業でも食堂でも一科生が使いたいと言えば席を譲るのが当然だろう? 僕はここで司波さんと一緒に食事をしたいんだよ。

 と言うわけで、席を譲ってくれないか? 補欠くん」

 

 

 

 

「・・・あら、だったらアンタたちこそどっか行ってくんない? 目障りだから。

 実戦では物の役にも立たないくせに学校では秀才だからとエバり散らす蛙を見ているのが、今のワタシには他の何より腹立たしくなっているのよね」

 

 ・・・あ、れ? この声、は・・・。

 

「Hello.雫。一日ぶりね。元気してた? ワタシ、貴女みたいに身の程を弁えてる魔法師って本当に大好きよ。日本的で奥ゆかしくて。

 過去の栄光を忘れられずに、それでいて自分一人では行動も起こせない不満と不安を自分より弱い者にぶつけて発散しようとする意気地なしよりよっぽど日本人らしくてステキだわ。

 と言うわけなので、私の友達から席を奪わないで下さらない? レギュラーから補欠落ちした二軍メンバーくん?」

 

 

 

 

追加分です

 

本来なら今少しアホな展開を考えたのですが、ほのかが仲間になってる都合上、下校時における彼女のポジションを森崎くんにやってもらいたくて今回は真面目に徹しました。ご了承ください。

 

 

 

 魔法科第一高校1年A組の教室の扉を開けたとき、ワタシは「イヤな場所に来ちゃったなぁー」と心底から後悔してた。押さえ難いほどの負の情念に満ちあふれていて窒息仕掛けるかと思ったからである。

 

 自らを生まれつき優れた者だとする優越感。自分たちから見て下の者に抱いていた被虐の愉悦。約束された名誉、光あふれる人生、未来は自分たちのためにあると信じて疑わなかった者特有の臭いに満たされていると同時に、それらは真逆の感情さえもを内包していた。

 

 生まれついての才能が認められない敗北感。自分たちから見て下の者が称賛を浴びているのを見て抱く憎しみと嫉妬。約束されていたはずの人生、光が閉ざされた人生、自分たちのものだった場所に平然と居座る赤の他人。

 

 それら他者の犠牲による自分の成功を疑っていなかった者、過ぎりし過去を見ながら今を生きている者特有の腐臭が鼻を突く。

 

 ーーよし、帰ろう。登校二日目だけど、自衛隊の寄宿舎にでも泊まり込ませてもらえないか試してみよう。最悪の場合は野宿でもいいんだし。逃亡生活ですっかり慣れて、やさぐれちゃったワタシだし。

 

 到着直後にきびすを返そうとしたワタシだけど、視界に映った黒と明るい茶色の頭が心に引っかかって足を止めさせてくれた。

 

 明るい色の子は純粋に、笑顔が裏表なくて気に入っただけなんだけど、黒髪の方はどこかで会ってた気が・・・・・・ああ、昨日のアレね。あの時に会ってたわけか。それなら納得。

 なんだかドタバタしていてゆっくり出来なかったけど、シズクとも仲良さそうだったし、挨拶ぐらいはしといて損はないでしょ。

 イヤなら普通に帰ればいいだけ。今さっきやろうとしたことやるのに抵抗する理由もないし。

 

 その程度の気持ちで声をかけてみただけのミユキとホノカとは、即日の内に友達になってた。

 共通の話題としてミユキと同じ髪色のアホの子が話題として使いやすかったって言うのもあるけれど、単純に今の一科生教室に清涼剤を求めている点で意見が一致していたことも大きいとは思ってる。

 とにかく、今の1年A組には一人でいたくない。共通する思いから行動を共にし続けてたワタシたちだったけど思わぬ所で裏目にでることになった。

 

 ミユキが入学式で新入生総代を務めていたのは周知の事実だけど、その事実について来日してから日が浅いワタシと、生来のお人好しっぽいホノカは認識が不足しすぎていたのだ。

 

 ミユキに近寄ってきた生徒の一人にたいして丁寧に対応していると、多分おこぼれ的な理由でなんだろうけどワタシたち二人にもお声がかけられた。

 別にこの時点では教室に漂ってる雰囲気全体が息苦しいだけであって、生徒一人一人に鬱屈した感情があるわけじゃなかったし少しくらいなら実力見せてあげてもいっか、と気楽な調子で過去の経歴の表向きの部分を諳んじて、ホノカも顎に人差し指を当てながら天井を向いて思い出しながら今までの成績について答えると教室全体がワッと爆発した。

 怒号にも似た歓喜に湧く1年A組の教室で、ワタシたち三人だけが呆然と取り残されていた。

 

 後で知ったところによるとA組は生徒会に嘆願書を出したくて、旗頭を求めていたらしい。生徒会が見たときに即決で捨てられるようなことがないだけのネームバリューをもつ差出人としての旗頭を。

 

 さっきまでと大違いのテンションに嫌気が差したワタシは、引き攣りながらも必死で笑顔を保っているミユキをおいて教室を出て当てもなく彷徨っていたところ、遠くの方で聞き覚えのある感じの騒ぎ声が聞こえた気がして行ってみたら案の定。

 シズクも混ざってワイワイガヤガヤしてるの見せられた瞬間に、教室のことは放っておいて仲間入りしようとしたワタシなんだけど、イヤなことって言うのは続くもの。

 教室においてきたミユキも逃げてきてたのか食堂にいて、A組所属の男子生徒に言い寄られてるシーンに出くわしちゃってせいで、負い目から入るに入れず逃げるに逃げられなくなってしまう。

 

 

 どうしたものかしら? そんな風に考えてたワタシの耳朶を、こんな戯言が不快に刺激してくる。

 

「二科は一科の「ただの補欠」だ。授業でも食堂でも一科生が使いたいと言えば席を譲るのが当然だろう? 僕たちはここで司波さんと一緒に食事をしたいんだよ。

 と言うわけで、席を譲ってくれないか? 補欠くん」

 

 

 ーーこれを聞いた瞬間。ワタシに中でなにかが切れた。

 

 元々いろいろ抱え込んでた今日この頃だったんだけど、この台詞は1年A組の現状を見ている者にとっては許し難いほど醜悪すぎるものだった。

 

 そのせいで最初にはなった警告の一言が宣戦布告ばりにドギツいものになっちゃったけど言っちゃったものは仕方がないし、今まで言えなかったこと全部この人にーーええ~と・・・そう! モリモリくんに聞いてもらってワタシはすっきりしちゃいましょう!

 

 

「く、クドウさん・・・きみは・・・」

「ーーだいたい、優秀な魔法師だからって理由で上から目線なのが訳わかんないのよね。

 魔法師を国が優遇するのは国防のためであって、国家と国民を守るためなんでしょ? 自分より弱い人たちを守るためにこそ貴男たちは強さを磨くための場所を税金で運営してもらっているのでしょう?

 なのに魔法の才能がないから、自分よりも下だからって理由で自分たちのために譲るのが当然って思想は変だと思わなかったの? どう見たって生まれから来る階級差別、身分や家柄を尊重しあって生まれた家ですべてが決まる中世的差別制度時代の再現じゃないの。

 現代日本を守るべき魔法師が中世ヨーロッパみたいな事してて恥ずかしく思わないですむものなのかしらね。ワタシにはぜんぜんわかんないわ」

「・・・・・・それは!!!」

「そ・れ・に! 魔法の才能は魔法師だけの才能だけど、それが特別に感じるのは国防に使ってた国家が情報操作していただけで、宣伝の効果による錯覚に過ぎないわ。

 優れた魔法の才能を持つ者は魔法力増強に特化した教育を受けるから、必然的に魔法技術者たちとは得意分野同士で渡り合えない。

 彼らのフィールドでワタシたちは負ける。ワタシたちのフィールドで彼らは勝てない。ただ、それだけよ。才能の差なんてものはない。

 もって生まれた才能の種類が違うだけなのに、同じ分野でしか比べる基準を教えられなかった自分自身の無知さを恥じて、今すぐ勉強に取りかかりなさい! さぁ、早く!

 グズグズしてるとお尻けっ飛ばすわよ!」

 

 ビューーーーーッン!!! っと、脱兎の如くスピードで走り去っていった・・・えっと・・・そう、モリモリ君。

 

 言いたいこと言ってすっきりしたワタシは、あらためて部下から格上げしてあげた下僕のシズクに向き直ろうと髪をかき揚げながら振り返ってーー

 

 

 

「・・・・・・(こっくり・・・こっくり・・・)」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 長広舌過ぎたワタシの名言を聞き流し、隣の男に肩貸してもらって船を漕いでる雌奴隷にげんこつ食らわしてやろうと決意して、のっしのっしと近づいて行くのだった。

 

つづく




説明:
今作における森崎くんは、復古主義者筆頭みたいな立ち位置でのスタートとなります。


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8話「超簡易魔法式VSブルームの魔法」

年末故なのか予定していた電池の補充が出来ず、テンパりながら完成させたために書くはずだった部分とかが抜けちゃってるかもしれません。その時は本当に申し訳ございませんと、先に謝っておきます。

今回の話は雫と達也の関係性――正しくは「ルイ」と「トーラス・シルバー」との繋がりについて軽く触れる事を主目的としております。
ついでとして、ブランシュが手段を選ぶ余裕がなくなってることも僅かながら描写されており、それらをメインにする必要上の理由から超簡易魔法式を過剰なまでに持ち上げております。
その点を考慮しつつお読みください。後からのご指摘は出来れば無用に願えれば正直言って助かります。

注:「リーナのキャラ崩壊」タグを付け足しました。
詳しい改変内容は今話の後書きで。


「ほら、雫。ちゃんと立てる? 一人で歩ける? 辛くなったらワタシに言うのよ? 

 脳味噌が入ってない女の子一人くらい持ち歩いても、苦には感じない程度の強さはあるつもりだから」

「ん・・・。ありが、とリーナ・・・」

 

 フラフラしなが、ら私はマホーカ高校の校門に向かって歩いて、た。

 

 あれから時間が過ぎてい、て放課後。仲良くなったみんなと帰ってるんだけ、ど。

 

「・・・なんで私だ、け保健室で寝ていた、の・・・? 頭グワングワンして思い出せな、い・・・」

「だからさっき説明したじゃないの。いい? もう一度教えてあげるから、今度こそ忘れずに覚えておくのよ?

 あの後、逃げ去っていったモリモ・・・と? うん、そう。モリモト君が逃げていってから雫は転んでテーブルに頭をぶつけたの。それで気絶したあなたを私が。ワ・タ・シ・が! 保健室まで運んでいってあげたのよ。

 この私におんぶされて看護までしてもらえるなんて、本来だったら一生に一度もない幸運なんだから感謝なさい。わかった?」

「う、ん・・・。でもそ、れ本当な、の? なんだか嘘っぽーー」

「本当よ。保険の先生のーーえっと・・・そう! おっぱい先生もそう証言してくださっていたんだから間違いなんてあるわけないわ! ええ、絶対によ。

 現場に立つ公務員の判断と決断が、間違いであるはずがない!」

「そ、なんだ・・・。わかっ、た」

 

 私を支えてくれて、るリーナに説明してもらって納得し、た私は、なんとか一人で歩こうと頑張ってみ、る。

 

「ああ、ほら危ない! もう、本当に私がいないとダメダメなのね雫は」

「うん・・・ごめ、んリーナ」

「今度からはもっと早く私を頼りなさい? そして二度と私のいないところでパーティーを始めないよう気をつけること。いい? わかったかしら? 絶対だからね?」

「うん・・・は、い・・・」

「よろしい! 雫は本当に良い子ね~。良い子良い子~♪」

 

 痛い頭をナデナデしてくれるリーナ、は達也さんと違って優し、い。

 

「雫・・・なんて騙されやすい子・・・」

「あれはもう、魔法とは違うひとつの才能と言ってもいいのではないかと思えてきたな・・・」

 

 遠くで達也さん、と深雪がなにか言ってる気がす、る。

 

 何のお話ししてるのかなと思った、ら

 

 

「僕たちは司波さんに相談したいことがあるんだ! だからクラスメイトとして占有権を主張している! それのどこがいけない!? なにが悪い!?」

「占有権だなんて・・・横暴です! 深雪さんはあなたたちの所有物ではないんですよ! 人のことを何だと思っているんですか!?」

 

 あう・・・大きな声で頭グワングワン・・・。

 

「深雪、落ち着け。彼らにだって悪気があるわけじゃないんだ」

「・・・ええ、分かっておりますわお兄様。ですが彼らのあれは余りにも・・・!!」

「あれは完全に我を忘れている状態だな。おそらく誰かに煽動された結果だろう。

 最近ではブルームによる校則違反が後を絶たないと、風紀委員長の渡辺先輩がボヤいていたからな。彼らは彼らで守るべきものために必死なんだよ。たとえそれが間違ったものであったとしても、彼らにとっては守る価値のある物なんだ。それは無闇に否定してはいけないよ?」

「お兄様・・・! なんてお優しい心を・・・深雪は、深雪はもうそれだけでーー!!」

 

 

 

 

「それに、深雪さんはあなたたちの物なんかじゃありません! 深雪さんはお兄さんの物なんです!」

 

「ふん! あんなスペアが司波さんに釣り合うとでも思っているのか? ましてやウィード如きが僕たちブルームと比べられる対象になり得るとでも?

 バカバカしい! 戯言なんか口にしてないで早く司波さんを僕たちの元へーー」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「おい待て深雪、落ち着け落ち着こう相手も人だ、話せば分かる。きっと分かってくれるから・・・!」

「いいえ、お兄様。あれは人ではありません。ゴミです。ゴミは塵一つ残さず綺麗に掃除するのが司波家の炊事洗濯その他を担うわたくしの役目。見事お役目を果たしてご覧に入れましょう・・・」

「深雪! 待て! いくら頭にきたからってそれは拙い! せめて! せめて光学系の魔法で気絶させる程度の威力に抑えてくれ! 魔法科高校の校舎内で「ニブルヘイム」を使用するのは前代未聞にも程があるぞ!?」

 

 ううぅ・・・近くで大きな声を出さない、で・・・頭グワングワングワ~ン・・・。

 

「ふっ。安心しなさいミユキ。ここはワタシが綺麗にまとめて解決してあげるわ!」

「「リーナ!?」」

 

 ・・・隣で私を支えてたリーナが大声で、グワングワン・・・。

 

 

 

 

「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか?」

「どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」

「ハッ、おもしれぇ! 是非とも教えてもらおうじゃねぇか」

「面白そうね。バカ一人に任せるのは可愛そうだし、あたしも参戦してあげるから恩に着なさい」

「恩着せがましいぞテメェ!」

「だから恩に着せてるって言ってるじゃない」

「僕たちのこと無視して、バカにしてるだろお前らーーーーー!」

 

 

 

「待ちなさい!」

 

 

 

 

 シーーーーーーーーーーーーッン・・・って、リーナの大声で静かになって、私の頭はグワグワグワーーーン・・・。

 

 

 

「自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則で禁止されている以前に犯罪行為よ!

 どうしても使いたいというなら相手になってやろうじゃない!

 このーー超簡易型魔法式による防犯装置がね!」

 

 

 

 

『お前が(アンタが)相手をするんじゃないのかよっ!?』

 

 

 

 

 その場にいるぜんい、ん(達也さんと深雪いが、い)みんなで大声だしてグワングワーン・・・。

 

 

「あら、そんなの当たり前じゃない。ワタシ、魔法科高校に所属する一生徒に過ぎないのよ?

 仮に魔法を使わないで倒したとしても喧嘩両成敗で処罰の対象になっちゃうじゃないの。

 ワタシ、他人のために悪を倒して罰せられるなんて絶対にイヤよ?

 お給料でないし、家追い出されかねないし」

 

『素直で正直! でも、なんか凄くムカつく!!』

 

「さぁ、貴方たち! 魔法だろうと何だろうと、使えるものなら使ってみなさい!

 どんな魔法を使おうとも、魔法科高校が必要経費で設置した最新鋭の超簡易魔法式による防犯トラップには通用しないと言うことを教えてあげるわ!」

 

 

 

 

 

「なぁ、なんでアイツが偉そうに語ってんだ? 別にアイツが開発者って訳じゃないんだよな?」

「むしろ、完全に部外者なんじゃないかしら? 彼女ってアルバイトでマウンテンの売り子やった事があるだけみたいなこと、会ったときに言ってた気がするんだけど」

「・・・本気でなんで偉そうに語ってるんだ、あの女は・・・」

 

「お兄様・・・。わたくし、ほんの少しだけですが怒りが収まりました。ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありませんでした」

「いいんだよ深雪。分かってくれて、ニブルヘイムを撃たないで済みさえすればそれで良いんだ・・・」

 

 頭グワングワーン・・・。

 

 

 

 

 

「くそ! こうなりゃ自棄だ! 俺の使える最高難度の対人攻撃魔法で・・・!!」

 

 ーーあ。今いっしゅんだけ意識が戻ってきたときに、リーナが「ふっ」って笑った気がす、る。

 

「食らぇぇぇぇっ!」

 

 

 ボヘェェェェェェェ~・・・♪

 

 

 キューーーーーーーーッン。

 

 

 シュボッ!

 

 

 ドガシャンッ!

 

 

 グワングワングワ~ン・・・・・・ぱたり。

 

 

 ・・・え? 私と同じになって、る人に降ってきた、の・・・タライ?

 

 

『も、森崎ーーーーーーーーーーっ!?』

 

「おーーーーーほっほっほっほ! これよ! これこそが最新の超簡易魔法式の性悪防犯装置の威力なのよ!

 魔法発動の際に流すサイオンの独特な音を関知する事のみに特化した超簡易魔法式が編み込まれた装置が学内各所に設置されていて、これをコンピューターが学校内の防犯用マザーコンピューターへとデータを送信、撃ち出されたタライの落下地点は送られてきたデータを元にしてコンピューターが割り出したものを使用。

 後は近くまで飛んできたのを最初の奴の隣に設置されてる別の簡易魔法式で再調整しつつ、落下の衝撃そのものを低減させる装置にも連結されていて痛み自体は大したことない。

 でも、見た目タライで中身空っぽの中に波で酔わせる悪質な魔法が封入されてるから魔法使おうとして意識を集中していた魔法師にとっては堪ったもんじゃないわよね!

 まさに外道! コストはかかるけど防犯装置としては破格の高性能ぶりで安全面的にも完璧! 強い魔法師には弱くなってるときに不意打ちで倒せと言う性悪根性が透けて見えるようだわ! 

 やはり、最近ルイとトーラス・シルバーが懇意にしだしていて、アイデアを提供しあってるって噂は本当だったみたいね! そのお陰でお飾り社長の司波なんとかは慰留されてるらしいけど、そんな小物はどうでもいいわ! それよりトーラスとルイよ!

 まさに史上最悪の性悪コンビ! 魔法と魔法師の歴史を変えた狂気の天才二人ども!

 最低だわ! 死ねばいいのに! ファックファックファーーーック!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「深雪。落ち着いてくれ、頼むから・・・。身体は癒せるし体力も戻るんだが、さすがに精神的疲労まではどうにもならない・・・。

 今日はもう、これ以上の事が起きたときに対処できる自信は・・・今の俺にはない」

 

 

 

「だから、なんでアイツが偉そうにしてるんだよ・・・。しかも罵ってるし・・・」

「目立ちたがり屋なんじゃないの? あの子意外とお祭り騒ぎとか好きそうな気がするし。今度一緒にカラオケ行かないか誘ってみよっかな~?」

 

 

 

 頭、グワングワングワ~~~~~~~~ン・・・・・・ぱたり。

 

 

 

 

 

「あなたたち! そこで何をしているの!? 自衛目的以外の魔法による対人攻撃は校則違反だから、怪我しない程度に攻撃されてしまう可能性があるって入学案内に書いてあったでしょう!?」

「真由美・・・確かに書いてあったが、ほんの小さな枠内だけだったんだが・・・?」

「うっ・・・。し、仕方ないのよ摩利。発売時期が早まって、入学時期に間に合いそうだったから購入を急いだらパンフレットに割くための時間が取れなくなっちゃったんだから!

 大体、これもそれも全部ぜーんぶ貴女たち風紀委員の負担を少しでも減らしてあげようと頑張った結果じゃないの! 新入部員歓迎の時期にやらかすバカが増えて困るって貴女この前も言ってたでしょう!?」

「これはこれで出動回数が増える事案が多くなりそうな対応なんだがなー・・・」

 

 誰か・・・頭・・・グワングワンぐ、わ・・・ん・・・・・・。

 

つづく




リーナの人格改変に関する理由説明:

国の命令で仲間殺しまでさせられながら国に捨てられ、貧乏な逃亡生活も味わったために保身を覚えたリーナですが、根っ子の部分は変わっておらず「良いものは良い、悪いものは悪いと思う」とする暗殺どころか軍人にさえ向いてない性格は昔のままです。

ただし、以前と違って「無条件に信じ込んで多くの物を失った事」「道を選びはしたけど、選択肢自体は与えられた物だけだったこと」等が理由となって「自分の出し方」を考える様になったと言うオリ設定です。

感情に走り易くはあっても我慢の限界に行きつくまでの距離が延びてます。総距離が伸びた分だけ、怒りや憎しみを制御できるようになってもいます。

でも距離が長くなっただけなので、キレる時にはキレますし感情に走る時には走ります。
アンジー・シリウスの役割は二度とご免だとも感じてます。結果的に守れたものが少なすぎましたから。

最後に、今まで素直になり辛かった分だけ「好き」は前面に出せるようになりました。
とはいえ簡易魔法式にはコテンパンにやられた記憶は生々しく残っているので、罵倒とともに褒め称えたり感謝したりしか出来なくなってるツンデレさん設定となってます。


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9話「流石です、リーナさん!(オマケとして雫もです。一応は)」

久し振りの投稿となります。大好きな作品なのに何故か毎回のように後回しになるのは何故なんでしょうか? 不思議です。

遅れたせいもあって今回は駆け足です。達也の風紀委員としての初仕事は終盤で少し触れるだけで終わります。時間軸が微妙ですので解り辛いと思った方はお知らせしていただければ説明させて頂きます。
とは言え、自分でも長い間開けてしまったせいで記憶違いが生じている可能性が否定できないのが悲しい所です。マジで本当にごめんなさい・・・。


「う、わ・・・・・・」

「これは・・・想定外の事態になったわね・・・」

 

 私とリーナ、は、授業が終わって校舎から出た、ら門に続いてる道でコミックマーケットが出来てい、た。すごい人だか、り・・・。

 

「こ、これ本当にぜんぶクラブ勧誘な、の・・・?(びくびく)」

「聞いた話からすると、そうなんじゃない?

 正直タツヤから最初に聞いたときは『平和な日本のスクールでなに言ってんのよHAHAHA!』って気分だったんだけど・・・見くびりすぎてたわね。神秘とサムラーイの国ニッポンの底力を。これは確かにアメリカのフェスティバルに勝るとも劣らないパゥワーを感じさせられるわ・・・」

「なん、で片言な、の? 英語・・・リーナって、アメリカ人じゃなかった、の・・・?」

 

 ごくごくたまーにだけ、どエセ外人ぽくなる友達のリーナ。理由はふめ、い。

 

「ああ、コレのこと? 気にしなくていいわよ別に、大したことじゃないから」

「そうな、の・・・?」

「ええ。ーーーーただ単に『アメリカにいた頃のワタシってどうやってたんだっけ?』って思い出す努力が必要になるくらいには日本に馴染んできているだけだから」

「それ、は大変なんじゃないか、な・・・!?」

 

 生まれ故郷を忘れるのは良くないと思いま、す!

 

「まぁ、ワタシのことはひとまず置いておくとしてさ。いま問題なのはアンタの方よ雫」

「・・・?? わた、し?」

「ザッツライト。あなた、学校から外に出るためには絶対に通り抜けなきゃならないこの道走り抜けられる? もしくは揉みくちゃにされてもいいから、生きてこの学校から脱出可能だったりする?」

「・・・・・・・・・(ふるふるふるふる)《注:首を振る擬音。縋るような子犬の目でアイフル》」

「・・・そうなるでしょうねー、どう考えても絶対に」

 

 はぁ、とため息をつくリーナ。

 うぅぅ・・・迷惑かけてごめんなさ、いーーーなんて言わないも、ん! ひねくれ者は謝ったりしな、いの!

 

「ふむ、仕方がないわね。やはりここは必殺魔法を使用するとしましょう」

「ひ、必殺まほ、う?」

「そう、必殺魔法よ。名付けて『召喚獣を召還する魔法』略して召喚魔法よ。ジャパンの古い文献でいっぱい見つけたから、あとで雫にもいくつか貸してあげるわね。オススメよ? ワタシ的にはバハムルなんかが好みだったわ」

 

 あ、それ私も子供の頃に持って、た。前世のだけ、ど。

 

「さぁ、そういうわけで出てきなさい! いつでもどこでも呼べば出てくる便利な存在『召喚獣』!

 またの名を、『なんかよく分かんない事態解決用秘密兵器人間シバ神タツーヤ』!!

 出てきた瞬間、相手は死ぬわ! 携帯電話をスイッチ・オーーッン‼」

 

 

 

 ピ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・で? 今回俺が訳分からんくだらない用事で委員会の活動中であるにも関わらず呼び出されたのは全てあそこで寝ている馬鹿が悪いのであって、お前が原因ではないんだよな、雫?」

「は、はい・・・! そうで、す。その通りで、す・・・!! 私は今回ぜんぜんまったく関わり合っておりませ、ん・・・!!!(ガクガクブルブルびくんびくん!!)」

「・・・・・・・・・ぴくぴく(指の痙攣を返事代わりとしている。ただの屍にはなっていないようだ。少なくとも今はまだ・・・)」

 

 召喚獣(名前は『タツヤ・サン』だった、よ・・・)を呼び出すことに成功したリーナ、は、出てきた瞬間に死なされて、た。

 「事と次第によっては次はお前の番だ・・・」な目つきで睨みつけてくる達也さん、が怖、こわ、こわ・・・!!!(ガクガクガクガク!!)

 

「・・・まったく。この忙しいときにお前たちは問題ばかり増やしてくれる・・・」

「ひぅっ・・・!」

 

 達也さんの右手が伸びて、私の方に向かってきたか、ら反射的に目をつぶってプルプルしてたんだけ、ど・・・・・・あれ? 痛くな、い? まだお仕置きされてない、の・・・?

 

「・・・・・・?」

 

 ビクビクしながら目を開けた、ら、達也さんの右手が目の前にあっ、た。

 そのまま動かさないでジッとしてたか、ら、なんでかな?と思って達也さんの顔を見、る。

 

 達也さん、は窓の外を観察しなが、ら帰り道のルートを考えているみたい、で私のことは見てくれなかったけ、ど、ちゃんと説明はしてくれ、た。

 

「ほら、早く握れ。どうせお前一人であの中を通り抜けて、無事に家まで帰り着くなんて絶対に不可能なんだろう? だったら俺がひとっ走りしてきてやった方が早い」

「・・・いい、の?」

「心配してくれなくても、先輩たちから許可は取ってある。正直なところお前たち二人がこの時期の校内に残り続けられても心配事が増えるばかりだから「それならいっそ」と渡辺先輩が思い切って割り切られた。

 俺は他のメンバーよりもこなさなければならないノルマを増やす代わりとして通常よりもだいぶ早く上がり、お前たちを家まで送り届けるよう命令されている。遠慮する必要はない」

 

 ・・・たまに。本当にたまにだけだけ、ど、優しくしてくれる達也さん、は卑怯だと思いま、す。もっと普段から優しくして欲しいで、す。

 

「う、ん・・・。じゃあ遠慮な、く・・・」

「ああ。ーーとは言え俺も、異性をエスコートする経験は多くない。よくて中学生時代の深雪に何度かしてやったぐらいしか覚えがない程度だ。たしょう揺れるかもしれんが、我慢しろよ?」

「う、ん・・・(ぎゅっ)」

 

 

 ・・・こうしてダメっ子お姫様を完璧(能力だけはね)王子様はお姫様抱っこじゃないけど、手と手を取り合って放課後の校舎内から一路逃げだし逃避行ならぬ登下校へ。

 

 

 その後、残された完璧お姫様が校舎内を適当に歩いていたところ。

 

 

「あ、反魔法国際政治団体テロリストの一員だ。殺さない程度に魔法食らわしとこ。えい」

「うぎゃぎゃぎゃぎゃっ!?」

「スタンガンを応用した身体を傷つけないで相手を失神させるだけの魔法だけど、アンペア数が高いから意識を回復した後も頭痛や嘔吐、動悸息切れ倦怠感に悩まされることになるとは思うけど、犯罪者になって経歴に泥塗るよりかは遙かにマシでしょ?

 これに懲りたら『犯罪はバレて捕まらなければいい』なんて甘ったれた屁理屈は捨てて真面目に生きなきゃダメよ?

 魔法師が道を間違えちゃったりすると怖~い魔法師があなたを始末しにきちゃうかも知れないから。ーーー昔の私みたいに・・・ね?」

 

 

 斯くして誰も知らないところで反魔法国際政治団体ブランシュの下部組織エガリテの構成員が次々と辞めていくという異常事態がエガリテ内部でのみ発生していることを、エガリテと関係のない全ての人たちは知る由もない。

 

 ブランシュ日本支部リーダーの司一は様々な手を講じるがどれも効果がパッとしない理由が理解できなくて歯噛みしていたのだが、これには彼は知らない事情が存在していた。

 

 実は、光信号を使った彼の催眠術とリーナが多用しまくっていた非殺傷用の暴徒鎮圧『電撃バチバチ失神』魔法の相性は最悪であり、催眠なんて電気ショックを一発食らえば綺麗サッパリ消え去ってしまうので本気で意味ない光信号に過ぎなくなっていたりしたのである。

 

 ただし、当の本人は司本人のことを知らなかったから、互いに全く意図しない偶発事として起きまくり、連鎖的に続発しまくっていたのであった。

 

 

 そんな中、とある事件が勃発する。

 剣道部と剣術部のデモンストレーション中に起きた衝突により、ウィードの達也がブルームの使った振動系・近接戦闘用魔法『高周波ブレード』をキャスト・ジャミングもどきで無効化させてしまうという魔法社会の常識を覆すかもしれない珍事件が起きてしまったのだった。

 

 

 

 

「マジかよ・・・具体的にどうするかまでは全くわからねぇが、おおよその理屈は理解できたぜ。

 だがよ、何でそれがオフレコなんだ? 特許取ったら儲かりそうな技術だと思うんだがな」

「あー、この話もオフレコで頼みたいんだが?」

「おう」

「ええ」

「はい」

「・・・・・・ちゅー(ジュース飲んでるから話聞いてないアホ娘)」

 

「ーーーこの技術はな。実のところ半ば以上が既に完成している。そこでジュース飲んでるアホの書いたジャポニカ学習帳の中でだ」

「「「ふぉう!?」」」

「が、その結果として効果の及ばない魔法とそうでない魔法とが明確になった。なりすぎてしまった。今のまま世に出したりしたら、ますます魔法師社会で経済格差が広まるばかりだろうから自重することにしたんだよ。

 ーーーこういう偶然から生じた魔法理論や、理屈抜きにしたデタラメな使い方しか今はまだ出来ない魔法を体系化することに関してだけは、俺はコイツを上回れたことが一度もないのさ・・・。

 『天才より強いモノは天然』という旧世紀の理論は正しかったという事なのかぁぁぁっ!!!」

「お兄様! しっかりなさってください! お兄様はいつも考え過ぎる癖がおありだから気にしすぎているだけですわきっと! ですから大丈夫です!

 雫は「なんとなく」でやってるだけであって、お兄様のように展開中の起動式を読みとるなんていう神業は一生かかってもできるようにはなりませんから!」

 

 

「・・・いや、それだけでも凄すぎねぇか? 感覚だけで魔法打ち消せるってなんだよ・・・」

「うちの道場でも、そこまでの感覚派はいないわよね間違いなく絶対に・・・」

「はぁ~・・・。達也さんも雫さんも凄いんですねぇー」

 

「・・・・・・??? ずぞー(相変わらず訳わかんないまま氷に残ったジュースを飲み干そうとしているアホ娘)」

 

 

つづく




設定説明:
今作リーナは始末屋だった自身の過去について思う所があるため、魔法師の犯罪を未然に防止することを重視しています。
一方で、未遂で済んでる犯罪者予備軍を生徒会とかに密告したりする気はなく、あくまで自分個人による不意打ちと奇襲で「犯罪のリスク」を知らせるだけに留めているなど正義と秩序の基準が微妙に曖昧になってもいます。

信じていた組織に裏切られ、過去に犯してきた行為を罪と認めて払拭した訳でもない今の彼女としてはこれが精いっぱいと言うオリジナル設定が採用されてますのでご承知おきくださいませ。


*次回予告として願望交じりですけど、雫のCADを達也に調整してもらう『下着イベント』がやれたらやってみたいところですね。


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10話「世界を揺るがす“天然”(だが自覚はない)」

前回の更新が前々回よりも半年近くたってからのことだった事実を感想で知らされたことから予定を元に戻し、原作2巻目ラストの戦闘シーンへとつながる布石を兼ねた話を出させて頂きたいとおもいます。

気付かなかったとはいえ、滅茶苦茶長い間ほったらかしにしてしまっていて申し訳ございませんでした。

なお、ゆっくり考える筈だった雫のCAD調整回は別の機会にさせて頂きたいと思います。

追記:
一部書き忘れてた分を付け足しました。
分かり易く文の頭に『※』を付けておきました。


 ーー超簡易魔法式によって世界から武力対立の図式が消え、経済戦争という形に各国の対立が変わったことにより魔法差別の撤廃を掲げていた政治団体が内部分裂をはじめているーー。

 

 自宅のリビングにおいて風間少佐から『その話』を聞いたのは、皮肉なことに壬生沙也加先輩から剣道部に誘われた日の深夜にだった。

 

 彼女はカフェで、俺に向けてこう訴えかけてきていた。

 

 

『超簡易魔法式は確かに世の中と社会に変化をもたらしはしたけれど、それでも世界は一朝一夕で変わるものじゃない。

 人の心と社会によって生み落とされた差別という名の歪みは、たった一つの発明品で覆せるほど単純なものなんかじゃないから・・・』

 

 

 一定の真理を含んだ言葉であったと高く評価していたのだが、それでも事実は小説より奇なりだ。

 どうやら世界は彼女が思っているより単純でシンプルな、原始的な真理によって動かされているらしい。

 

 即ち、『金と力』。

 

 それが世界と人の心とを動かす最たる物。

 おそらくはそれが現実なのだと、今の俺はそう思っている・・・。

 

『まだ裏は取れてないのだが、ウクライナ・ベラルーシ再分離独立派がスポンサーである大亜連合のコントロールを離れ、独自の判断と方針のもと勝手な行動を起こし始めているらしい。

 魔法師を主戦力とした戦闘が遠ざかったことで対魔法師用軍需物資だったアンティナイトの価値と価格が暴落し、各国政治団体のスポンサーを一手に引き受けていた大亜連合が「利益無し」と判断して手を引いたことで暴走しだしたと言うことだろう。

 日本にも支部があることは以前より確認していたのだが、先日判明した所在地が微妙な位置にあるのでな。下手に刺激して自爆でもされたら叶わん場所にあるのだ。すまないとは思うのだが、詳細は省かせてくれ』

「事情はお察ししておりますので、お気になさらないでください。少佐。ご連絡していただけたことに感謝致します」

 

 俺は礼儀正しく、礼儀だけを守って頭を下げる。

 詳細は省くとのことだったが、ここまでの内容を俺に聞かせてきた時点で魔法科第一高校が奴らにとっての攻撃目標と目されているのは自明の理だ。利害が一致しているが故の同盟関係としては十分すぎるほどの礼儀を示してくれたと言えるだろう。

 

 一方で、ここまで伝えておきながら詳細は伝えないと言ってくる少佐の胸の内も予想は付いている。

 

『そこでと言うわけではないのだが・・・達也。まだルイの正体について開かす気にはなれんかね?

 世界を動かしている流れの中心には常に“彼”がいた。今や彼はあらゆる目的で世界中のあらゆる組織から狙われている身なのだよ、何らかのアクシデントに巻き込まれてからでは遅い。彼にもしものことが及ばないよう我々もまた警護につくべきだと私は考えているのだが・・・・・・』

 

 思わず俺は唇の端を歪めて嗤う、苦笑を漏らしてしまっていた。

 なるほど、これが『相手の意図が読めてしまったときに感じる苦々しい気持ち』か・・・。初めて感じたが、微妙に悪くない。

 

「・・・申し訳ありません、少佐。相手は世界に影響力を持つ北山グループのVIPです。いくら共同開発を提案してもらったとはいえ、俺個人の判断だけで正体を開示するには地位が高すぎる相手ですので、どうかお許しを・・・」

 

 俺は礼儀正しく頭を下げて、相手からの『要求を拒絶』する。

 何のことはない、風間少佐は「これ以上の情報開示を求めるのなら、お前の方からも出すものを出せ」と言ってきただけなのである。

 

『・・・・・・そうか。いや、お前の言うことの方が今回は正しい。出直させてもらうとしよう。それではな』

 

 

 通話が切れ、ブラックアウトした画面を眺めながら俺は考えてみる。

 果たして今の返答は、俺の心からでた本心だったのだろうか?

 

 そして、思考し始めた直後に答えがでた。半分は間違いなく本心だったし、残り半分も嘘をついてはいかなかっただろうと。

 

 北山グループに関しては嘘を言う必要性そのものがない。少佐たちに悪いとは思うが、はっきり言って基盤を持たない一○一は日本という国あっての組織でしかない。

 いくら札付きの厄介者部隊を気取ったところで「どうしても」というお達しが御上から届けられた時には、その意向に従わざるを得ないのが国家という名の巨大組織に属する小規模組織の限界なのだから、これは仕方がない。

 

 とは言え、いざという時に自衛能力皆無の雫を預けるには危険すぎる部隊であるのも確かなので、今はまだ雫には対外的に平凡な魔法科高校の劣等生でい続けてもらう必要性が絶対的に存在する。

 

「・・・いや、周りの者たち以上にあいつ自身が自分のことを劣等生だと思いこんでいるわけだから、「対外的に」と言う言い方は正しくないのか・・・?

 ーーーそもそもあいつ、本当に自分のことを劣等生だと認識できているのだろうか・・・。俺に脅されて入った場所に怒られたくないから通っているだけみたいな感覚でいられた場合には、俺の今交わした会話はいったい・・・・・・」

 

 時々本気で考えてることが分からなくなるバカの思考は、エレメンタル・サイトを使っても中身が見通せるようにはならない。どこまで行ってもアイツ一人の頭の中で妙な理屈から生み出されたアイデアに世界中が振り回されてるだけだと解釈したならバカが適当にやって世界を救った英雄譚にでもなるのだろうか? ・・・あまり読みたくない伝記が後世では100万部ぐらい売れていそうで少し怖いな・・・。

 

 

「まぁ、いい。とりあえずは明日からはじまる本格的な魔法実習についての予習だ。工学科といえども何もしないわけにはいかないはずだからな。やっておいて損はない」

 

 こうして俺の夜は過ぎていき、平和的な朝を迎えて平和的に学校へとむかい、平々凡々な成績でテストをクリアすることに成功したのだった。

 

 ・・・・・・さて。雫たち二科生のクラスのテストではどんな状況になってしまっているのだろうか。面倒ごとに巻き込まれていなければよいのだが・・・・・・。

 

 

 ※しかし、それにしても・・・・・・。

 

 

 

「仮に話すべき時が来て、少佐たちにルイの正体があのバカだと明かしたとしても、信じてもらえるだろうか・・・? それが魔法の実技試験以上に難しい一番の課題なんだが・・・」

 

 アイツの考えてる事も分かり難いが、それ以上にアイツの正体を聞かされた時の世間の反応はもっと解らん。予測不能過ぎている。いくら慎重にふるまっても過ぎると言う事はないだろう。

 

 アイツの正体を開示しないもう半分の理由が『言っても信じてもらえるかどうか解らない』と言う辺り、つくづく予測できない不確定因子の塊みたいな奴だと思わずにはいられない。

 

 

「・・・明日は本当に何も起こさないでくれよ、雫・・・。いい加減、俺の拳も限界だからな・・・?」

 

 

 

 

「一〇六一ms・・・惜しい! あと少しで手が届いた距離まできたってのに!」

「バカね、時間を距離で表現するのは光の単位でよ。こんな短距離に用いてどうする気なのよ?」

「エリカちゃん・・・・・・一〇五三msで現在最下位だよ?」

「あああぁ! 言わないで! せっかく目の前に広がる辛い現実から目を背けるために手頃な弱者をイビって憂さ晴らししてたのに!」

「ご、ごめんなさい・・・って言ってもいいのかな? 今の言葉って・・・」

「ううん、いいのよ美月。悪いのはあなたでも私でもなくて、世界の方なんだから。

 でも、どんなに厳しかろうと現実を直視して前を向かなくちゃ人は生きていけないものね・・・だから私は、この辛い現実をぶっ殺す!」

「え、エリカちゃーーーっん!? それ魔法科高校に通っている魔法師が言っちゃうと色々と問題がありそうな発言なんだけどーーーっ!?」

 

「・・・テメェの三文喜劇なんざどうでもいいんだが、いい加減、自分のペアがクリアしない限り居残り続けなきゃならない現実を直視しろよ・・・。

 俺を玩具にしてタイム落ちたら、テメェだけ合格しても帰れないんだぜ? 俺たち・・・」

「ああっ!? しまったぁぁぁぁぁっっ!!!!?」

「エリカちゃん・・・・・・」

 

 

 隣、で実技試験の居残りさせられて、るエリカとレオン・・・ハルト?が、仲良く「笑点」風コメディーを繰り広げてるなか。私もがんばって次で終わらせよう、とセイシンシューチュー。

 

 

「ん~・・・・・・えい! ーーあ、できた。二五〇msだった・・・」

「「マジで!?」」

「ーーっ!?(いきなり大声出されて思わずビクンっ!)」

 

 び、ビックリした・・・。いきなり大声出すんだ、もん・・・。

 

「おいおい、幾らなんでもその数値はおかしいだろ? 今さっきエリカと似たり寄ったりな記録を出したばかりな二科生が叩き出せる数じゃねーって! ・・・・・・あ、本当だわ。本当に二五〇切ってるわ。・・・マジ引くわー・・・」

「むしろ私と同数がでる前にやった二度目には、合格基準を五〇以上下回ってたはずなのに・・・この一人格差社会はいったい・・・」

「エリカちゃん・・・雫ちゃんが最初にやった時には合格まで〇コンマ一秒以下の誤差しかなかったんだよ・・・?」

「「マジで!? 演算して使うのが現代の魔法なのに!? 一体どういう作りになってんの!? こいつの頭の中身って!!」」

 

 う、うん・・・? なんだかよく分からないけ、ど・・・・・・怒って、る?

 

「え、っと・・・これはそ、の・・・・・・何となーーー」

 

 く。と続けようとしたところ、で私は止まった。

 考えてみた、ら、いつもこの言葉を言ったとき、に達也さんから怒られてる気がす、る。ひねくれ者は屁理屈が得意なひ、と。だから私も理屈はとく、い。頭でものを考える頭でっかち、なひねくれ者が正しいひねくれも、の。

 

「えと、ね? これにはコツ・・・みたいなのがあって、それが出来た時に、はスゴく上手くいく、の。出来なかった時に、はダメな結果しか出せない、の」

「ふむふむ、なるほど。一理あるわね。確かに剣術の技とかでも似たようなことはよくあるし・・・」

「って言うか、ほぼ全ての事柄に共通している常識的意見だった気がするけどな、オレ的な視点で、見た場合には」

 

 う、ん。二人とも喜んでくれてるっぽ、い。ここでいい所を見せておけ、ば後で達也さんから怒られる回数が減らしてもらえるかもしれな、い。

 

 がんばって、どう伝えればわかりやすい、か考えてみ、る。

 

 

 

「んと、ね? 頭の中のポーンとなってる所、をぽいっとし、て。ふわっと出てきた部分、をキュッとなったら答えがココになるで、しょ? そしたら後、はーーー」

 

 

 

「うん、ありがとう雫。大変よくわかったからもういいわ」

「だな。こいつの考えてることが誰にも理解できない理由がハッキリ分かったのも含めてスッキリしたぜ! 要は繰り返し練習あるのみってことだな! そう言うのは得意だ! うおおおおっ! やぁぁってやるぜ!」

「あー、もー! 暑っ苦しいわね! 猪じゃないんだから、少しくらい熱下げなさいよ!

 でも、今回だけは私も似たようなことやりたい気分だわ。いいじゃない、乗ってあげる。特別に。感謝しなさいよね?」

「・・・いや、唐突にそこで偉ぶられても意味わかんないんだけど・・・。つか、よく考えてみりゃ久し振りな気がすな、このやり取りも」

「そういえばそうかもねー。ま、いいじゃない。今回の居残り授業に限ってだけど、アンタと私はペアで一蓮托生コンビ。早くクリアして帰る為にも力を合わせて頑張りましょ!」

「おうよ! それじゃあ行くぜ相棒!」

 

『うおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!』

 

「・・・二人とも、一一〇〇ms代だね・・・。二人とも、頭で考えなきゃいけない現代魔法を使おうとしているときに叫んだりするから、集中が途切れて思考がバラバラになっちゃったんだよ~・・・」

 

 

『・・・・・・やっぱりアンタ(お前)とは反りが合わない! コンビ解散だ!(よ!)』

 

 

 早、い!?




注:
今作の雫は天才ではないですので今回の結果も才能によるものではありません。
ぶっちゃけ『運』です。

魔法を感覚で使っているため時折うまくハマる事があり、その時にぶつかると良い結果が出ます。
要するに『パルプンテ』みたいなもんだと思っといてくださいませ。


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11話「講堂事件? 勃発す。だが講堂内は平和である」

途中幾つかのイベントを素っ飛ばす形で講堂事件が始まるまでの回です。
いい加減『九校戦編』に行きたかったのです。申し訳ない。

今回は達也さんの形がけっこう多いです。雫は途中から少しです。相変わらずのリーナと一緒です。そろそろ「ほのか」を出したいぞー!(原作でこの辺りだと使い勝手が難しい。優等生の方だったらいけたかな?)


 風間少佐から連絡を受けた翌日のテストより一週間、魔法科第一高校は概ね平和な日々を満喫することを許されていた。

 細々としたトラブルは無数に発生していたし、肝心のバカが引き金となってはじまる騒動は不定期的に際限なく発生していたが、周囲にある環境のほうが彼女に適応してしまったらしく学校側が慣れてしまって大した事件にまで発展することなく終息する。

 

 そんな日々だ。これを平和と呼ばずしてなんと呼べばいいのだろうか?

 俺、司波達也は望み求めていた平穏な学校生活をようやく手に入れたと安堵していた。

 

 所詮、束の間の平和に過ぎないであろうことを重々承知していながらではあったが・・・。

 

 

『全校生徒の皆さん!』

 

 突然に、ハウリング寸前の大音量が教室内に設置されたスピーカーから飛び出した。

 現時刻は授業が終わった直後、放課後の冒頭。各々の生徒たちが帰り支度を始めようとしていた頃合いに起きた出来事。

 戦闘とも差別意識とも無縁ではないが一番距離のある魔法科高校に新設された新たな学科、魔法工学科の生徒たちに荒事への耐性がある訳もないため少なくない生徒が慌てふためく。

 

『ーー失礼しました。全校生徒の皆さん! 僕たちは学内差別撤廃を目指す有志同盟です。僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

 

 ボリュームの絞りをミスったからなのか、スピーカーからはもう一度、今度は決まり悪げな声で同じセリフが流れ出す。

 

 

「やあ、達也。なんだか大変なことになってるみたいだけど、君は行かなくていいのかい?」

「幹比古か。いや、俺も今から行こうと思っていたところだったんだが・・・用があるならお前の方を優先するぞ? どうせ行くまでもなく解決を見る事件モドキに過ぎないからな」

「??? それはどういう・・・」

「放送を聞いていればわかる」

 

 俺は入学式で出会ったときからの友人、吉田幹比古に曖昧な説明だけをして席を立つ。あり得ないとは思うが、緊急事態になった時のため即応できるようにしておくのは当たり前の処置だからな。

 

 とはいえ所詮、保険でしかない。本命で片が付いてくれるに越したことはない。

 

『聞いてください、生徒の皆さん! 僕たちは・・・・・・うわっ!? なんだこのバルーンは!? 壁に向かって押しつけてくるのに壊せないぞ!?』

『どけ! 俺がやる! どうせ魔法で強化されてるだけだ! こいつを使えば魔法を無効化・・・・・・させられないぃぃぃぃっ!? な、なんでどうして何故なんだーっぶワフ!?』

 

 スピーカーから流れ出てくる阿鼻叫喚。俺は唖然とした顔をしている幹比古に向かって「ほらな、言った通りだったろ?」と、声には出さずにジェスチャーだけで伝えてやる。

 

「・・・超簡易魔法式による防犯トラップかい?」

「ご名答。あれはバルーン自体にはなんらの細工もされてない普通の民需用品だが、噴出口に魔法式が据え付けられていてな。音をはじめとしたノイズ等を前方に展開している風船の内部で乱反射させてしまうから物理攻撃以外は効果が薄い。

 一方でバルーンだから殴打武器には強く、刃物を学校内に持ち込むのは差し障りがあり過ぎる。文房具でも持っていたら別ではあるが・・・ふつう放送室をジャックするような時に文房具を持ち込む奴はいないだろう?」

「・・・相変わらず悪辣な・・・・・・」

 

 幹比古の顔が歪むが、そもそも防犯とは犯罪を未然に防ぐことであって撃退を目的としたものではない以上、不意打ちだろうとなんだろうと寸前で止められるなら本分を果たしていると言える。

 

 少なくともアレを開発した張本人として、俺はそういう風に考えていた。

 

 

「さて、事件は片づいたみたいだが・・・風紀委員会に籍を置いている身としては、事後処理ぐらい手伝いに行かなければならないのだろうな。悪いが行かせてもらうぞ幹比古?」

「ああ、僕のことは気にしなくていいよ。単に魔法のことでこの前みたいなコツを聞かせてくれたら嬉しいなと思って来ただけだから。また今度でいい。じゃあね」

 

 友人に見送られた俺は放送室へ到着し、回収というか救出したと言うべきなのか、なにやら消耗しきった様子の放送室ジャック犯たちを見つけて多少いたたまれなくなったが役目である。七草会長の背後にたって彼らの音沙汰が決まるのを待つ。

 

 結果、七草会長は彼らとの間に話し合いの場を設けるため明日の放課後、講堂で公開討論会を行うことになる旨を翌日になってから聞かされたることになる。

 

 その日の夜に俺は師匠の元へ会いに行って、有志同盟とやらを仕切っている司兄弟の事柄についてを聞き出すと会当日に備えた。

 

 そしてーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ふ、わ・・・っ。なんだ、か人が多い、ね?」

「そうねー。大半がワタシたちと同じで暇だから見物しにきた野次馬だとは思うけど、それでもこれだけ集まってきてたのは予想外だったわ。

 日本人は勤勉って聞いてたけど・・・案外ヒマしてるものなのかしらね?」

「リーナ・・・それ、私たちに言う権利はないと思う、よ・・・?」

「・・・・・・シズクのくせに常識を口にするとは生意気な! 久しぶりにお仕置きお尻ペンペーン!」

「りふ、じん・・・っ!?」

 

 今日もリーナの暴君ぶり、は変わらない・・・うう、お尻痛、い・・・。

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォンッ!!!!

 

 

「ーーっ!?(ビクッ!!) な、なんのお、と!?」

「携行可能なミサイルランチャーを用いた攻撃音ね。音量から見て、爆発場所はここから少し離れた場所でひとつ、講堂の出入り口でもうひとつ。

 セオリーで行くなら、次はガス弾か発煙筒を投擲した後にガスマスクで武装した特殊部隊を突入させる。正面きって挑んだら負けてしまう少数勢力で拠点を制圧するには有効な手ではあるけれど・・・・・・」

「い、や落ち着いてる場合じゃないと思う、よ・・・!?」

 

 普通、は爆発起きたら慌てふためくものなんじゃないのか、な!?

 

「まぁ、ひとまずは落ち着きなさいシズク。混乱を起こして、起こした混乱を拡大させて乗じるのがテロリストのセオリーなんだから、相手のペースに乗ったりしたら敗けるわよ? 緊急事態の時こそ冷静で客観的に正しい判断が必要になるものなのよ」

「そ、そうな、の・・・?」

「ええ、そういうものなのよ。だからシズク、ひとまずは寝癖を直してヨダレを拭きなさい。さっきから垂れっぱなしになってるから」

「あ、う・・・」

 

 女の子に指摘され、て少しだけ悔し、い。ひねくれ者、が女の子に弱味を握られるのは悪いこ、と。

 

「あ~、ほら。男の子じゃないんだから、服の袖で口元拭おうとするのはやめなさい。

 あなた見た目はそこそこ可愛いんだから、もっと女の子らしさを磨かないとダメよ?

 ほら、こっちに着て。ワタシが拭いてあげるから」

「う、ん・・・リーナ、ありが、と・・・」

「いーからいーから、気にしなくていいから、役得みたいなものだから。うふふのふ~♪」

 

 ?? なんで機嫌良さそ、う?

 

 

 ガッシャーーーーッン!!!

 

 シュボォォォォォッン!!!

 

「ガス弾か!? 煙を吸い込まないように・・・・・・っ!!」

「大丈夫よハンゾー君! 私に任せて!」

「会長!? しかし・・・っ!!」

 

 

 シュボォォォォォ・・・・・・・・・・・・シュルルルルルルル・・・・・・・・・

 

 

『あれ!? なんか戻ってきた・・・・・・ぎゃーーーーーーーーーっ!?』

 

 ズドォォォォォン!!!

 

 

 ・・・・・・えっと・・・。なにが起きたのか、な・・・?

 

 

「ーー会長、私の目はおかしくなっているのでしょうか? なんだか今、窓ガラスを破って飛び込んできたガス弾とおぼしき弾頭が飛んできた方向にそのまま戻っていったように見えたのですが・・・・・・」

「さすがねハンゾー君。世界最大の簡易魔法式メーカー《マウンテン》が誇る最新鋭の防犯設備『反射ガラス』の性能に気づくだなんてお目が高いわ!」

「反射ガラス!? え、でも窓ガラスは割れたままなんですけど・・・」

「そりゃそうよ。だって割って入ってきたものを戻すだけの仕掛けなんだもの。簡易魔法式は高度な魔法式を必要とする魔法は組み込めないからこそ簡易魔法式なのよ?」

 

 会長さん、と忍者ハットリくんが話してい、て。

 そこに達也さん、がニュッと現れ、る。・・・師匠さんのマ、ネ?

 

「・・・なるほど。つまり、時間を巻き戻して無かったことにしたり、完全に元に戻してしまう類の魔法ではなくて、ただ単にベクトルの流れを逆向きにするだけの魔法式というわけですね。それも大した威力のあるものは防ぐことは出来ないと?」

「良くできました、達也君。お姉さんからハナマルをあげましょう!」

「結構です、いりません。それよりかは生徒会予算の帳簿には載っていなかった防犯設備について市原先輩がお話があるとのことでしたので、聞いて差し上げてください」

「た、達也君! お願いだからお姉さんを助けてちょうだい! あなたがフォローしてくれたら、まだ間に合うかもしれないから! だからーーー」

「失礼、渡辺先輩に呼ばれたので俺は行かなくてはならなくなりました。申し訳ありませんが、続きは後ほどにでも。それでは」

「た、達也くーーーーーーーーーーーーーーーーーっん!?」

「会長、あなたの果たすべき役割は彼について行くことではありません。全体の混乱を収めることであり、収めた後に・・・・・・しっかりと罰を受けることにあります」

「いーーーーやーーーーーーーーっ!?」

 

 

 

 

 

「・・・なん、で壇上でもあびきょうか、ん・・・?」

「トーヨーの学校にある七不思議のひとつって奴かもしれないわね・・・。怖い場所なのね、トーヨーって・・・」

 

 

 私とリーナ、絶句。

 そして聞こえてく、る鉄砲撃つときの音、と色んな人が怒鳴りあうこ、え。

 

 

「!!! 敵が突入してきたわね! ワタシたちの出番だわ! 行くわよシズク!

 正義をお題目にして悪をぶっ倒しまくる子供の夢の象徴、正義の味方ごっこでストレス解消するために!」

 

 ちびっ子、の夢が木っ端みじ、ん!?

 

つづく

 

 

次回予告

 

「うおおおおっ! 《パンツァー》!!!」

「ぐおっ!?」

「ぎゃっ!? テメェ!魔法も禄に使えないウィード以下の一般人の分際で、ブルームの俺がいる方に飛んでくるんじゃねぇ! ぶち殺すぞこの野郎!」

「なんだとこの、落ちぶれたのを戦力として拾ってやった恩を忘れやがって! 似非エリートの分際で!」

「うるせぇ! 俺たちは日本の最先端魔法研究資料を手に入れて復権したかっただけだ! テメェらなんざ初めっから捨て駒なんだよ雑魚野郎どもが!」

「んだと、この! アンティナイt・・・ぶっ!?」

 

レオ「お前ら・・・敵が目の前にいるのに何やってんだよ・・・」

司一「アイツらはいったい、何をやっているんだぁぁぁぁっ!?」




補足説明:『反射ガラス』について
1、七草会長が勝手に呼んでる名前なので正式名称は別にあります。
2、本当は防犯用じゃなくて野球ボールとかが誤って飛んで来た時などに被害を減らすための簡易魔法式です。
3、防犯用という名目にした方が予算が誤魔化しやすかったから防犯用と主張している面白い物好きな会長さんでした。


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12話「彼は達也さんの皮をかぶったナニカです」

気合入れたら入れすぎました。あんまし良くない出来ですが、講堂事件はさっさと終わらせたい気持ちが強いですので出しときます。
次回こそ原作一章目の完結まで行きたいと切に願っております・・・!!

注:前話以上に雫に出番が少ないです。チラッとしか出てきません。
居ないとは思いますけど今作雫のファンの方がいましたらご注意をば。


「ーーあ? こりゃ一体、何の騒ぎの音だ?」

「・・・爆発音みたいね。たぶん、炸裂焼夷弾。飛び道具は専門じゃないから詳しくないんだけど、一般人が魔法師相手にするときに使う比較的ポピュラーな武装だから当たらずとも遠からずだと思うんだけど・・・」

 

 俺一人が自主練していた放課後の闘技場にエリカがやってきて、互いが互いの練習風景を見ながら何やかやと言い合ってたら、遠くの方から爆発音が聞こえてきた。

 闘技場は使用目的が荒っぽいから発生する音も通常の授業で出る音とは比較にならないほど大きい分だけ防音性能も他よりかはだいぶ高めだ。

 

 それでもこれだけ大きいって事は、結構近くで馬鹿でかい爆発をおこさせてる爆弾魔野郎が来ているってわけで。

 

「なんか物騒でキナ臭い匂いがするわね。おもしろそうだから、アンタも一緒に見に行きましょ」

「・・・自分で物騒とか言いながら『おもしろそう』で見に行けるお前が、ほかの誰より物騒だと思うのは俺だけか・・・?」

 

 むしろコイツが学校内で爆発起こしまくってる人間炸裂弾じゃねえのかなと思いながら後に付いていくと、校門の前に見た目は普通のトラックが止められていて、中から服装はともかく色が迷彩色で統一されてるとしか思えない銃で武装した男たちが飛び出してきているのが見えた。

 

 さらには、これを予測して警戒していたらしい風紀委員ぽい黒塗りの奴らに味方のはずの一科生から攻撃を加えられて混乱しているうちに映画とかに出てくるミサイルランチャーみたいなのを背負った一人が弾をぶっ放し壁を爆発させていた。

 

 

「これはちょっと・・・相応の準備をしてこないと、危なっかしくて祭り見物も楽しめそうにないわ。レオ、私は事務室に行ってホウキ返してもらってくるから後お願い。

 少しぐらいなら良いけど、私が戻ってくる前に獲物を独り占めして食べ尽くしてたら許さないからね?」

「だから怖いってお前が! なんなんだよ、お前は本当に! 鞍馬山で育った牛若丸かなんかか!?」

 

 山に関連した歴史知識でとっさに出てきたのが、世間一般で有名じゃない方のブラックな源義経伝説だった辺り、俺も相当焦ってたんだろう。自分では落ち着いてるつもりだったが、やっぱ戦いになると血が滾るのが漢ってもんだからなぁっ!!

 

「あら、よくわかったわね。その通り、わたしは天狗の小山で育てられた殺人マシーンな美少女なのよ。だから警告破ると生首さらして強制的に京都観光させちゃうから。じゃあね」

「・・・・・・・・・え?」

 

 言い捨てて去っていったエリカの野郎の捨て台詞が、めちゃくちゃイヤ~な歴史知識を思い起こさせて滾っていた血が急速に縮んでいくのを感じる。

 

「と、とりあえず敵倒し尽くすよりも、達也たちから説明聞くほうが先だよな! うむ! だってアイツ風紀委員だし! 俺たち一般生徒だし!」

 

 こうして俺は手加減しながら敵倒して達也たちがくるのを待つことにした。

 来たとしても俺に気づくかわからないとか、そもそも校門の方にくる保証はないとかの細かい部分は一先ずおいといて敵を殴ろう。話は殴って気絶させてからでも遅くはないはずだ。たぶんだけれども!

 

「うおりゃぁぁぁぁっ!!!!」

 

 こうして俺にとっての講堂事件での戦闘が幕を開ける。

 ・・・・・・・・・・・・はずだったのだが。

 

 

 

 

 

 

「ーーん? あれは・・・レオか?」

 

 爆発のあったらしい実技棟を目指して走っていた俺と深雪は、まだ少し距離のある場所に見慣れたクラスメイトが所在なさげな面持ちで呆然と立ち尽くしているのを見つけて意外そうな声を出してしまっていた。実際、意外に感じていたからだ。

 

 てっきりコイツの性格上、こんな事態に陥ったときには問答無用で殴りに行って戦の先駆けとなりたそうな印象を抱いていたのだがな・・・。

 

 

「あー、そのなんだ。なぁ達也。このバカ騒ぎはいったい何なんだ?」

 

 やがて接近してくる俺たちに気づいたらしいレオが、困ったような表情を浮かべて訪ねかけてきながら『その情景』が起きてる箇所を指さして教えてくれた。

 

 そちらにいたのは校舎内に潜入していた黒服のテロリストたちだった。サブマシンガンで武装しているが、中にはアンティナイトの腕輪をはめてる奴も見受けられる。

 

 そいつらが、そいつ等同士で、今にも殺し合いに発展しそうな激しい啀み合いを各所で演じ合っていた。

 

 

『貴様等どこに行く気だ!? 我々は本隊のための陽動だと作戦前のブリーフィングで通達しておいたのに聞いていなかったのか!?』

『うるせぇ! 俺たちが欲しかったのは日本が秘蔵している魔法技術開発関連の極秘データだけだ! あれを可能な限り閲覧して力を高めれば俺はまだまだ上に昇れる・・・超簡易魔法式の世に変わったって魔法師として食ってける才能の持ち主なんだよ!

 お前ら無知で無能なウィード以下の一般人に捨て駒として利用されて堪るものか! 必ず出し抜いてやる!』

『てめぇ! 落ちぶれた元エリートの分際で、傭兵として雇ってやった俺たちエガリテに喧嘩売りやがったな!? 絶対に許さねぇ! 自慢の魔法が使えなくなって悔い改めやがれ! 《キャスト・ジャミング》!!!』

『ぐあああああっ!?』

『おい、バカやめろ!? 傭兵として雇ったブルームたち以外にも味方の魔法師がいることを忘れたのか!?』

『あ』

『ぐ、うううぅぅぅぅ・・・・・・くそがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 俺たち魔法師による正しい統治を目指す有志同盟の大儀をなめるんじゃねぇぇぇぇぇっ!!!!!』

『あっ!? お前、オレのサブマシンガンを奪ってなにをすーーぎゃっ!?』

『ふはははははははっ!!!! 魔法が使えなければ自分の身ひとつ守れやしない才能の無さを思い知って後悔しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!』

 

 ダダダダダダダダダダダダダっっ!!!!

 

『くそっ! このままでは・・・やむを得ない! 応戦だ! まずは獅子身中の虫を叩き潰せ! 平和ボケした学生どもは後回しでいい!!!!』

 

 

 

 

『『うおおおおおっ!!!! くたばれ魔法師(反魔法主義者)どもーーーっっ‼‼』』

 

 

 

 ダダダダダダダダダダダダダっっ!!!!

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 ・・・・・・俺はレオと並んで茫然自失となりかけながらもその光景を、たっぷり三十秒ほど眺めてから静かに口を開いていた。

 

「なぁ、レオ」

「おう、なんだ達也?」

「・・・あれは一体なにをやっているんだ・・・?」

「・・・・・・いや、それオレがお前に聞いた質問・・・・・・」

 

 冗談だと返しながら、俺は内心で頭を抱えざるをえなくなっていた。

 ・・・離反した敵を味方に引き込むのはわかるし、呉越同舟が長続きするものではないから一回切りの使い捨てとして参戦させるというのも理解できる。正当な戦術と呼んでいいだろう。

 

 ーーそれなのに何故こんなバカすぎる結果を招いてしまうのだ?

 簡易魔法式の影響で世の中が変わってから世界の人々は、急速にアホさ加減を増して行っているような気がしてならないのは俺だけなのか・・・? 最近こういう場面に出くわす度に、身近にいるバカの顔が頭に浮かんできて困っているのだが・・・。

 

 俺は軽く頭を振って雑念を追い払うと、レオが求めている返答内容ーー具体的な作戦指示を伝えておくことにした。・・・もっともレオ自身どうすればいいのか判っているのだろうが、“判っているからこそ”自分以外の誰かの口から直接言って欲しい内容というのは現実に実在しているものだったから。

 

 

「だがな、レオ。悪いとは思うがこの状況下で俺たちが選べる選択肢は一つしかない。

 敵同士が同士討ちするのに任せて距離を置きながら包囲して、双方ともに疲弊しきったタイミングで一気に攻めかけ包囲殲滅する。これしかない」

「だよなぁ・・・やっぱそれしかないんだよなぁー、現実的に考えて・・・」

「好みじゃないのは分かるが・・・受け入れろ。あの混乱の中に飛び込んでいったりしたら予期せぬ攻撃で要らぬ怪我して損するだけだと思うぞ?」

「・・・だよなぁー。さっきからそれやろうとして怪我した奴らが運ばれてってるの見てたから、オレも決断できずに困ってたわけでし・・・」

「・・・・・・もう居たのか、あの中に突入していった勇者たち(バカたち)が・・・・・・」

 

 今は亡き母さんよ。俺は今、生まれて初めてあなたの魔法で施された感情と引き替えに限られた魔法の才を得られたことを感謝しても良いのではないかと思えてきているよ。

 今の世の中、あまりにも人が・・・・・・バカすぎる・・・・・・。

 

 

「おーい、レオ! ホウキ! ・・・・・・っと、もう援軍到着してたのか」

 

 エリカが事務室のある方向からCADを抱えて姿を見せる。適切な対応に心が安らぐのを感じてホッとしてしまう。戦場依存症でもないのに正しい戦闘が行える戦士を見て帰ってきた気持ちになっている辺り、俺は自分で思っていたよりずっと疲れているようだ。

 

(よし、今回の一件が終わったら休暇を取ろう。絶対にだ)

 

 そう決意しながらCADを受け取り、深雪にも渡しエリカに事情を説明していると「そういえばさー」思い出したように突然話題を変えられて驚いてしまったが、彼女の気まぐれはいつものことだと慣れた調子で話の続きを待つ。

 

 エリカは走ってくる途中で見かけた『スゴく強い女生徒』について語りだし、俺は我知らず特定の人物を頭に思い浮かべてイヤな予感に心を震わせていたところ、

 

「あ、あの子だわ。あのスッゴく綺麗だけどちょっと変な外人さん。たしか雫の友達じゃなかったっけ? 戦うところは初めて見たけど、あの子ものすごく強いのね。ビックリしちゃったわ」

「・・・・・・・・・」

 

 俺は消されているはずの心を意識的に殺して揺さぶられないよう注意しながら、ゆっくりゆっくり振り向くと。

 そこにいたのは案の定と言うか、他の候補が居るなら出てきて変わってもらいたいと心の底から希求してしまう元スターズの総隊長アンジェリーナ・シリウスが、猛然とテロリストたちが同士討ちしている輪の中に飛び込んでいって暴れ周り、混乱を拡大させまくっては収拾しようとする一部良識派の敵の意図を刈り取りまくっていた。

 

 

 

 

「ホアチャーーー!! ワタシは大東亜連合の特殊部隊『星一号』の隊長、リィ・アン! 貴様ら用済みとなったグラッチェ(ブランシェのこと)を始末するために派遣されてきた殺し屋よ!

 さぁ、殺されるのが怖くない奴がいたらかかってきなさい! かかってこないならワタシの方から仕止めにいくつもりだから、そのつもりでね!」

 

『なんだこの理不尽な女はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もはや何も言うまい。

 

 

「どうかしたの達也君? 顔色悪いわよ? ーーもしかしてイヤな思い出のある知り合いだったりした?」

「いや、何でもないんだ。彼女のことも含め、気にしなくていい。あれはただのアメリカ軍特殊部隊式魔法格闘術暗殺特化型を達人レベルで極めているだけで、進む先に立ちはだからない限りは害はない存在だからな。

 せいぜい、『敵を見つけたら突貫して殲滅するまで戦いをやめない、コントロールを受け付けなくなったバーサーカー』とでも思っておいてくれたらそれでいい」

「・・・いや、そんな歩く核弾頭を気にしなくていいんだったら、俺たちは何を気にして戦えばいいんだよ・・・」

「問題ない。世の中には『コントロールは利くし勝手に爆破することもないが、自分で押した爆破スイッチがどのような効果をもたらすのか予想しても意味がないキテレツ爆弾』が、人の姿をとって実在しているからな」

『あー・・・・・・』

「??? えっ、と・・・・・・な、に・・・?」

 

 二人が「納得した」と言い足そうな表情でうなずき、保護者役なのか保護される役なのかよく分からないクドウに連れられてきていたらしい雫がトコトコ駆け寄ってきて話しかけてくる。・・・オールメンバー揃い踏みだな。まったく嬉しく感じられない面子ではあったが。

 

 

「・・・まだここにいたの? 彼らの狙いは図書館よ。こちらを襲ったのは陽動でしかない、主力は既に侵入しているわ。壬生さんもそっちにいるわ」

「小野先生・・・」

 

 入学式で俺のクラスにも顔を出しにきたカウンセラーの小野遙先生だった。

 正直、濃すぎる面子に囲まれた日常を生きてる身としてさほど印象深い人ではないのだが、今回ばかりは彼女が適任である以上、待っているしかなかった主演女優の登場に心からホッとさせられる。

 やれやれ、これでようやく解決の目処が立ったな。さすがに疲れた・・・。

 

「後ほどご説明いただいてもよろしいですか?」

「却下します。・・・と言いたいところだけど、そうも行かないでしょうね。

 ーーでも、その代わり一つお願いしても良いかしら? 壬生さんに機会を与えてあげて欲しいの」

 

 そこから始まる『カウンセラー小野遙としてのお願い内容』は、予測できていたものだったため割愛させてもらう。こうなると分かっていたからこそ待っていたのだから、これ以上面倒ごとに頭を悩まされるのは御免被りたい。

 

「・・・私の力が足りなかったのでしょうね。結局、彼らに漬け込まれてしまった・・・だから!」

「甘いですね。余計な情けで怪我をするのは自分だけとは限らないんですよ?」

「ーーっ!?」

 

 俺の返答の激しさに衝撃を受けて「くしゃり」と表情をゆがませる彼女。

 よし、ここだ。ここで突けば彼女は確実にこちら側へ廻る・・・!!

 

 

「・・・で、でも彼女は剣道選手としての実績と二科生としての評価のギャップに悩まされて・・・」

 

 言い訳じみた無意味な言葉の羅列を並べ立てる小野先生に、俺は意識して作った柔らかい笑顔を向けて先ほどより柔らかくした声音でもって優しく前言を翻して差し上げる。

 

「・・・安心してください、小野先生。俺は所詮、魔法科高校に所属している一生徒にすぎない民間人の少年です。

 如何に相手がテロリストであり、壬生先輩が彼らに荷担するような行動を取っているとはいえ、明確な殺意を示したわけでもない同じ魔法科高校の生徒を殺してしまったのでは法律的にも世間的にも問題がありすぎます。最悪と言わず順当にいって学校を辞めさせられるのは確実でしょう。かわいい妹の深雪を置いて、そんな薄情な真似はできませんよ」

「司波君・・・」

「彼女が殺意を込めて真剣で切りかかって来た場合には相応の対処をせざるを得ませんが・・・そこまで行かない限り彼女の身の安全は確約させてもらいます。ですから安心してください」

「あ、ありがとう司波君! この恩は一生忘れないわ! 私にできることがあるなら何でも言ってみてちょうだい! 可能な限り便宜を図らせてもらうから!」

 

 よし、言質は取ったぞ。後は追いつめるだけだ。

 

「では、今おっしゃった約束事を早速履行していただきましょう。今すぐ職員室に赴いて、全校生徒及び職員にテロリスト共の内紛に介入しようとせず数が減るのを待つよう指示を出してきてください。早急にです」

「え・・・?」

「どうしました小野先生? まさか俺たちに『今やることを』お願いしに来ておきながら、自分が払うべき恩返しは終わった後の成功報酬ですますつもりだったのではないでしょうね?

 危険な仕事を一介の学生にお願いするわけですから、報酬の半分は前払いするのが常識ですよ?」

「え、いや、あの、その・・・お、終わった後にテロリストたちの拠点に関するデータを提供するとかじゃ・・・ダ、メ・・・?」

「契約書が存在しない口約束での成功報酬でテロリストの仲間入りを果たしている生徒を無傷で連れ帰れと? 話になりませんね。

 だいたい自分の正体すら明かしていない先生が約束を守ってくれる保証などどこにもないのですから、せめて行動で示していただきたいものです」

「う、ぐ・・・ぐぐぐぅぅ・・・・・・」

「で? どうなさるのです? 先ほど先生自身がおっしゃっていたように無駄な時間を費やしすぎてしまいました。早く決めなければ手遅れになってしまう可能性も無いと保証することもまた誰にもできないのですが?」

「う、ううううううぅぅぅ・・・・・・わ、わかりましたよ! 言ってきますよ! 言ってくればいいんでしょう!? 私に、日本の学校の先生方にむかって『共食いやりたい奴らは勝手にやらせておけばいい』ってヒトデナシ発言をしてくればいいんでしょ!?」

「はい、その通りです先生。引き受けてくださって助かりましたよ。やはり教師陣の中の誰かが言い出さないと角が立ちますし、先生方も責任転嫁して命令には従おうとしないでしょうからね。

 では、俺たちは行きます。壬生先輩を救うためにも急いでね。

 深雪、レオ、エリカ、あとついでに雫も。みんな行くぞ!」

『お、おーっ!』

「??? お、おー・・・?」

 

 背中を向けてトボトボと走り去っていく小野先生とは真逆に意気揚々と図書室へと向かう俺の足は快調だ。今日一番の絶好調といえるだろう。やはり先人は偉大だな。『備えあれば憂いなし』という至言を残してくれたのだから。

 

「おい、達也。さっきの態度はちょっと冷たいんじゃないか?」

 

 後ろから付いてきてるレオが言って、

 

「私はまぁ、前から達也くんって性格悪いなぁーって思ってたから態度自体は気にならなかったけど・・・でも、そんなことより今更行っても遅すぎるんじゃないの?

 仮に超簡易魔法式の防犯装置を新たに追加してたとしても、さすがに時間を浪費しすぎちゃってるし・・・」

 

 レオと並んで付いてきているエリカが言った。

 俺は知らず口元がゆるむのを抑えきれない。

 

「ーー二人とも、超簡易魔法式の特性がよく理解できていないみたいだな」

『え?』

「いいかい? 超簡易魔法式の長所は誰でも『簡単な魔法なら』同じ効果を発揮できる道具を作り出せるようになったと言うだけであって、強力な魔法の使用には未だ手が届いていない。使い方としては奇襲が基本だ。正面から力と力をぶつかり合う戦いには全くと言っていいほど向いていない。

 セキュリティに用いる際にもこれは同様だ。正面から突破しようとしてくる相手を横合いから騙し討ちするタイプのトラップしか存在していない。ここまでは分かるか?」

「う、うん。それが一体なんの役に立つの?」

「勘違いされがちだが、窃盗に対する備えには二種類ある。

 盗まれないようにする防犯と、敢えて盗ませた後で捕まえるための怪我人を出しづらくする防犯とだ」

「「・・・・・・・・・」」

「伝統ある魔法科高校の防犯システムは、基本的に前者であると推測できる。当然、仕掛けられているのは図書館内に限定されていて、その強度は日本国内でもトップレベルのはずだ。

 その一方で貴重品が隠されている場所を察知させないために、図書館の警備そのものは他より一段階か二段階ほど上な程度。隠蔽の必要性から、力押しでも破れないほど厳重には施されていない。

 むろん、力付くで突破するには相応以上の疲弊を要求されるのは言うまでもないことではあるがな。

 そして突入時とは逆に逃亡時には最短距離で逃げ道を突き進めるようなルートを探しておくのが少数での奇襲作戦においては基本でもある」

「「・・・・・・・・・」」

「なら、後は簡単だ。逃げ道に超簡易魔法式のトラップを仕掛けておけばいい。それだけで全てが解決できる。

 人がもっとも安心して油断するのは、危険から逃げ延びて安全地帯まで無事に帰ってきたことを心の底から実感したときなんだ。「あー、良かった。これでもう安心だ・・・」そう思ったときにこそ人はもっとも油断して無防備になるものなんだよ。

 たとえその逃走経路の安全性が、敵によって用意され保証された罠へと続くパン屑でしかなかったとしても、事実に気付くまでは逃亡者にとってその道は希望へ続く安全な逃げ道に違いないのだから・・・・・・」

「え。じゃあ、さっきの遙ちゃんにしていた交渉は・・・」

「こちらの持ってない情報を提供してくれる相手からの要求は、容れる以外に選べる選択肢は存在しないだろう?

 自分より優位にある相手と対等な立場で交渉するためにはまず相手だけが持っている優位性を奪い、第三者を巻き込むことで既成事実化する。ただしい同盟関係を築くための守るべきセオリーだよ」

 

“相手が精神的に無防備になっているところで説得すべき”と主張したファシストは悪魔的な天才だと俺は思う。

 

 

『う、うわー・・・・・・』

 

 俺が長い説明を伝え終えた時、付いてきていた四人の反応は三種類だった。

 

 エリカとレオは俺のことをヒトデナシか悪人か、もしくは悪魔であるかのような目で見てくるし。

 

「流石です! お兄様!」

 

 妹の深雪は、瞳に星をいつもより多く宿しながら心からの賞賛を送ってくれてるし。

 

 

 雫はーーーー

 

「ねぇ、達也さ、ん」

「ん? なんだ雫。今の説明で何か分からないところがあったのか?」

「う、ん・・・。今のおはな、しって・・・何のことを言ってた、の?

 あと、いま達也さんた、ちなにやってる、の・・・・・・?」

 

『そこから!? え、一体どこから分からないまま付いてきたのアンタ!?』

 

 ・・・・・・そもそも俺の言ってる言葉を理解できる土壌が耕かされていなかった・・・・・・。

 

 

 やはりこのバカを目の届かないところに放置して戦いの場に赴くのは・・・・・・ダメだ!絶対に・・・。

 

つづく



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13話「北山雫は魔法科高校の劣等生『入学編END』」

入学編ラストの回です。九校戦編に行くため駆け足になっちゃったことを謝罪します。ごめんなさい。次回から雫を元通り活躍させたいと思っております。

そして今回、一番活躍するため「あの娘」が参戦・・・!?


 ーーこれは、当時の時点で俺が知る由もない裏事情についてなのだが。

 図書館めざして走っていた俺、司波達也はいくつかの勘違いをしていたことに未だ気づいていなかった。

 

 1つは、小野先生が言っていた「こちらで暴れているのは陽動で、主力は本命の図書館に向かった」という情報を俺は「主力=最高戦力」と解釈してしまってこと。

 

 あの表現は小野先生の主観から見た敵状であり、ブランシェのリーダーである司一の主観とは必ずしも一致しない。

 奴がこのとき主力と考えていたのは「落ち目になった自分を裏切らないと信じられるほど洗脳し尽くした特殊工作員」であって、暴れるだけしか脳がない戦闘力に特化した捨て駒兵士たちではなかったのである。

 

 そのため、図書館に向かっていた主力は忠誠心過多、戦闘力過小な工作員ばかりで構成されており、戦力的には敵の主力は捨て駒として切り捨てる予定の暴れている方だったのだ。

 ・・・事件後にこれを知ったエリカは激しく憤り、レオを生け贄に捧げることでようやく沈静化し、俺はレオに謝罪の意味を込めて奢らされたビンテージ物のスポーツシューズ代金を失う羽目になるのだが・・・所詮は余談である。

 

 このとき重要だったのは今一つある勘違いについてだ。

 

 俺はこの時点で敵の動きを計算によって見抜いていたが、味方の中に個人的感情で動いて結果的に敵の意図を挫いていた人物が存在する可能性を微塵も考慮していなかった。既存の概念にとらわれないアイデアが売りのトーラス・シルバーが、とんだ権威主義に陥っていたものだと反省するしかない。

 これでは雫を追い越すにはまだまだ時間がかかりそうだな・・・・・・・・・・・・ちくしょうめ。

 

 

 ーー閑話休題。

 その個人的感情で動いて、敵の意図を挫いていた人物を俺は以前から知っていた。旧知の知り合いではあるが、知己とは呼べない。その程度の親密度しかない相手なのだが・・・ふむ。ーーーまさか、あいつがなぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 特別閲覧室へと続く、他と比べても一際ほそい廊下の前で私、壬生紗耶香はひとり自問自答していた。

 

(法による差別の撤回と、平等な社会を作るのが私たちの目的だったはずなのに・・・なぜ? どうして? 彼らは争い合わなくてはならなくなってるの!?)

 

 ーー私の目の前では今、二人の男性が死闘を繰り広げていた。

 一科生と二科生、ブルームとウィードという、ある意味で今の状況を象徴しているような取り合わせだったけど、この戦いはなんだかとてつもなく歪なように私には思えてならないのだ。

 

 

「もう諦めろ森崎! いくら魔法技能の才能に恵まれた一科生と言えども、キャスト・ジャミングで魔法を封じられた状態のまま、しかも素手で俺に勝つことは出来ない!」

 

「舐めないでもらいましょう司甲先輩! 森崎一門は副業としてのボディガード業務の方が社会的認知度は高い家系です! 《クイック・ドロウ》でさえ副産物にすぎないほどにね! 守りきる戦いでなら、俺は魔法無しでも十分に戦える!!」

 

 

 剣道部の主将で、ブランシュ日本支部リーダーの弟さんでもある司甲先輩と、一年生で一科生で風紀委員でもある森崎駿君がキャスト・ジャミングによって魔法が封じられた状態で接近戦を繰り広げ続けていたのだ。

 

「森崎! 辰巳も沢木も兄さんが部下に命じて足止めしてくれている! 増援がくる気配もない! この場で戦ってる最後の一人はお前だけ・・・だというのに何故だ!? なぜ、そうまでして俺たちの前に立ちふさがる!? そこまでして守りたいほど魔法の才能による社会的優遇措置を失うのが惜しいのか!?」

「ーーそんなものは関係ない! 魔法は人間が持つ技能の一つで、超簡易魔法式も人が魔法の力を使えるようにするという意味では魔法師の術式と同じでしかない!

 なら、簡易魔法式に俺たち魔法師の仕事が奪われるのは、俺たち魔法師の技能が簡易魔法式より劣っていたと言うだけだ! 劣っているなら越えればいいだけのこと!

 ブルームもウィードも、敵に負けて劣っていると思い知らされた自分が自信を取り戻すには努力しかない! その事実に今回の事件でようやく気づけました!」

 

「・・・・・・っ!?」

 

 ーーそうよ! それさえ出来ていたら私にだって、もしかしたら・・・っ!!

 

「ですから司先輩! 俺は、その点についてだけはあなたに感謝しています!

 その礼として・・・俺は俺の磨き上げてきた技術で、あなたの幻想をぶち壊す!!」

「くぅ・・・っ!?」

「ーーーっ!!」

 

 森崎君がはなった一言で、司主将がうめき、私は息を飲まされる。

 この瞬間。私は・・・私たちは本当の意味で“彼らの努力に負けた”ことを自覚した。

 

「も、も・・・森崎ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!!!」

 

 追いつめられた司主将が、全身全霊を込めた捨て身の一斬を放つため飛び出す。

 ・・・明らかな相打ち狙い。だと言うのに森崎君は躱して横からの一撃を放とうとしない。

 

「こい! 司主将! 魔法師は何もかも理想的に収められるスーパーマンじゃないから、こういう風にしかあなたを助ける術を俺は持たない! その事実を他の誰より俺自身が思い知るためにも、俺はあなたの一撃を正面から打ち破る!!!!」

 

 彼は防ぐために退かず、倒すため前に出る。司主将を倒して守るためにも前に出る。

 守る対象より後ろにいたのでは守れない。だからこそ前に出る。

 二人の叫びと身体がぶつかり合おうとした、まさにその瞬間・・・!!!

 

 

「森さき何この光マブシはべしっっ!?」

「司主しょおの光マブシへぶしっっ!?」

 

 

 ・・・・・・いきなり目の前に光の球が現れて、激しく明滅するのを見させられた私たちは三人共に気絶して床に伸び、事件が終わって保健室で治療してもらってるときに目覚めるまで眠り続けて目覚めることはなかった。

 

 こうして、何が起きたのかよくわからない内に私にとっての事件は終わりを迎えさせられることになる。

 

 余談だが、この一件でなんの見せ場も山場も与えられなかったことを自分に才能がなかったせいだと激しく自己嫌悪していた私を支えてくれた剣術部の桐原君と事件後にお付き合いすることになる私だが。それはまた別の話として別のところで語りたい。

 今はとにかく、おやすみなさい。ぐー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「達也さん、私たちが行こうとしている部屋の前で邪魔してた人たちには、眠ってもらいました。どうでしたか!? 私、お役に立てていましたか!?」

「あ、ああ。ご苦労様ほのか。ありがとう、助かったよ本当に・・・」

 

 笑顔で私にお礼を言ってくれる達也さん! それだけで胸がいっぱいになって嬉しさのあまり魔法の制御を誤ってしまいそうになりますよね! 本当に!

 

 みなさん、お久しぶりです! 光井ほのかです! 誰に向かって自己紹介してるのか自分でもよくわかんないですけど関係ないです! 舞い上がっちゃってますからね!

 

 最近、達也さんのまわりで色々起きてるのは聞いてましたし、私も注意深くストーキ・・・こほん。達也さんの周囲に不審人物がいないか警戒してたんですけど運悪く出てきたところに出会せなくてストレスの溜まり具合がマッハでした! 

 だから今日こそは!と思って、達也さんの名前を叫びながら学校中を走り回ってやっと見つけることが出来た達也さんたち。急いでるようでしたから単刀直入に用件をお聞きしたら「図書館に悪い人たちが入り込んだから退治しにいく」そうなんです!

 さすがです達也さん! ヒーローですね! 吉備団子はいりませんから私も連れていってください!とお願いしたら快く受け入れてくれて。

 

 しかもですよ!しかもですよ!? あの達也さんが私に! この光井ほのかにこう言ってくれたんです!!

 

『実は急いでいてな。出来るだけ無駄な戦闘は避けたいと思っていたから、ほのかと会えた俺たちは運が良かった。

 もし敵に見つかったとしても、ほのかが何とかしてくれるだろう?』

 

 ・・・って! きゃーーーーーーーーーっっ!!!!!☆☆☆☆☆

 達也さんにここまで熱烈なお願いされたのは初めてだった恋する乙女にとって、ここでやる気を見せなければいつ見せるというの!? 今でしょ!?

 

 そんな風にやる気出しまくって洗脳用魔法《イビル・アイ》を使ったら、出力の調整を間違えて魔法が届く範囲内にいた図書館の中にいる人たち全員にかけちゃったみたい。・・・恋する女の子は時々やりすぎちゃったりもします。テヘ☆

 

 

 

 

「まぁ、今回は敵がテロリストで殺したとしてもたぶん、言い訳は立つと思うが・・・普段は使用を控えような、ほのか? さすがに君たち二人の仲良しコンビを同時に相手取って勝てると思うほど俺の胃は奢っていないつもりからな? 本当に・・・」

「またまた~。達也さんったら冗談ばっかりー♪ 魔法力はともかく、私たち程度が達也さんに及ばないことぐらい自覚してますから気を使ってくれなくても大丈夫ですよ~♪

 でも、お世辞とわかっていても達也さんに誉めてもらえるのは嬉しいですから頑張ります!」

「・・・・・・・・・」

 

 ・・・やはり、ほのかを同行させたのは失敗だったかもしれない。俺はこのとき本気で後悔し始めていた。

 

 それを加速させるように届いてくる、想定外な二つの報告。

 

 

『おーい、学校一の苦労学せーい。こっち来て見ろよ、逃げだそうとしてたっぽいテロリストが伸びてるぜ?』

『こっちの閲覧室内には護衛役の精鋭っぽい連中が伸びてるわね。何かあったのかしら?』

 

 

「・・・・・・ほのか、頑張らなくても今日はもう既にして、君がナンバー1だ・・・」

「??? ――なんだかよく分かりませんけど、誉めていただきありがとうございます!」

 

 普段から割と思い込みが強い一面を見せている彼女は、一度こうと決めたらテコでも動こうとしない場面が時として多発する。

 その事実を長いつきあいで熟知していた俺は、こういう時のほのかを説得するのは無駄だと判断して穏便な言葉で同行を許可したのだが・・・・・・どこで失敗したのだろうか? まるで思い当たらない。

 思い当たらないが、早急にこの場を移動しないと拙かろう危機的状況に陥っていることだけは理解できていた。

 

「こいつらの計画は失敗した。なら、これ以上ここに留まっても意味がない。残党が駆けつけてくる前に、ここを離れよう。

 白蟻はいくら駆除しても巣穴をつぶさない限り、根本的問題は解決しないことだしな・・・」

 

 

 逃げるための方便ではあったが、単なるその場限りの口実という訳でもなかった。

 なぜなら俺たちはこの後すぐに白蟻の巣を駆除するため、テロリスト共のアジトへ乗り込んでいって退治してしまったからである。

 

 小野先生から先の契約通りに敵の情報を(タダで)入手した俺が仲間たちーー正確には一部だけで十分すぎる戦力だったのだがーーを引き連れて敵の本拠へ乗り込む旨を生徒会長および風紀委員長へ伝えると即座に「危険すぎる!許可できない」との決定が言い渡された。

 役割上、適切な判断であり決定でもあったから俺に不満はないのだが。・・・ただ、今回に限っては無用な心配だったと裏事情を知る者として思わずにはいられない。知っているとは残酷なものだったんだなぁ・・・。

 

 

「学外のことは警察に任せるべきだわ」

「そして壬生先輩を、強盗未遂で家裁送りにするんですか?」

 

 ほのかの魔法によって眠らされて目を覚まさない(要するに遠因は俺)壬生紗耶香先輩をダシに説得するのは気が引けたのだが・・・やむを得まい。下手をしたらテロリストを鎮圧した最大の功労者まで実刑判決を受けかねないからな。ここは多少強引にでも手柄というか、貸しを作っておくにしくはない。

 

「なるほど、警察の介入は好ましくない。だからといって、このまま放置することもできない。同じような事件を起こさせない為にはな。

 だがな、司波。相手はテロリストだ。下手をすれば命に関わる。俺も七草も渡辺も、当校の生徒に命を懸けろとは言えん」

「当然だと思います。最初から委員会や部活連の力を借りるつもりはありませんでしたから」

 

 ・・・そこから始まるビジネスの世界で鍛え上げた詭弁ハッタリ美辞麗句、結果良ければ全て良しの巧言令色パレード。伊達に雫の幼馴染みはやっていないし、ルイのビジネスパートナー、トーラス・シルバーもやっていないのだ。

 

 なるほど、確かに相手は大物。十師族が一家、十文字家の次期当主である十文字克人だ。経験に偏りがある今の俺では部分的に勝ち目のない強敵ではあるだろうが・・・生憎と俺一人で相手をする気は端から存在していない。

 

 なぜなら俺はトーラス・シルバー。世界に冠たる北山グループ傘下の企業であり、CAD開発技術で世界を牽引している『ノース』の天才技術者ルイと業務提携を結んでいる身なのだ。役割上、当然のように北方潮からも色々手ほどきを受けさせられているのである。・・・・・・“いろいろ”と・・・。

 

「壬生先輩のためだけではありません。自分の生活空間がテロの標的にされたのですから、俺はもう当事者ですよ。

 自分たちの平和な日常を守るためには、魔法師であろうと一般人であろうと自衛しなければならないときがある。それは平和な今を生きる俺たちすべての日本人にとって当然の権利であり義務でもあります。違いますか会長?」

「それは・・・でも、だけど・・・」

「なにも敵を殲滅しようなどとは思っていません。ですが、敵の拠点がこちらを攻撃可能な状態で目の前に設営された以上、攻勢防御のため攻撃拠点だけでも潰しておくのは自衛の範囲内行動だと俺は考えます。それは敵からの攻撃を防ぐための反撃であって、敵本拠への攻撃意志は欠片ほどもないからです。ざっと攻めて、さっと退く。コレでよくはありませんか七草会長?」

「あう、あう、あう・・・・・・」

 

 頭痛が増すだけだから細かい部分は省略するが、経済界の大立て者・北方潮から直々に手ほどきを受けた(受けさせられたと表現するのは得られた物の膨大さから遠慮したい)俺の交渉術は、本来畑違いの商談において全十師族の長たちに勝るものだと確信している。・・・本当に色々と言われているのだからな。いろいろと。

 

 

 ーー結果。小野先生から提供していただいた敵本拠の位置を材料に使って総責任者の会長相手におこなった交渉の甲斐はあり(失礼ながら十文字会頭は現場責任者にすぎないので、総責任者が「うん」と頷いた決定には従わなくてはならない立場にある)全会一致で俺たちの作戦は黙認されることが決定された。

 

 短時間の間に憔悴しきっていた会長たちに見送られながら車へと急ぐ俺たちだったが、ここで思わぬ助っ人に参入された。

 

 

「・・・言いくるめられた気もするが、序列の秩序には従おう。ただし、車は俺が用意する。十師族に名を連ねる十文字家の者として、これだけは一歩たりとも妥協できん。わかったな? 一年生で平の風紀委員司波達也よ」

「よう、司波兄。俺も参加させてもらうぜ。剣道部員として十文字部活連会頭の許可は得てるんだ、異論はないだろう?」

 

 

 詭弁には詭弁を。序列には序列を。組織の秩序には組織の秩序というわけである。・・・存外、現代に生きる魔法使いを育成するための教育機関、魔法科高校は俗っぽい・・・。

 

「はぁ・・・俺は別にかまいませんが・・・・・・期待していた展開にならなくても落胆されないで頂けると助かります」

「「????」」

 

 二人は訳が分からないと言う顔をしていたが・・・・・・すぐに思い知ることになる。

 

 

 才能に溺れることなく研磨され続けた本物の力と、努力もせず人を利用して伸し上がることしかしてこなかった贋作との間に広がる絶対的な性能差というものを・・・っ!!

 

 

「ようこそ諸君、僕が“元”ブランシュ日本支部のリーダー、司一だ。もっとも今日でこの肩書きともオサラバするので覚えておいていただかなくて結構だがね。

 スポンサーもなく、資金は下りず、今回の一件で残っていた最後の軍資金も尽きた! ブランシュはもう終わりだ! 僕は、沈みゆく泥船にしがみつくほどバカではない!

 ・・・本心を白状するならば、魔法科高校に秘蔵されている極秘データを盗みだして海外に高飛びする予定でいた。金になりそうなデータだけを抽出して逃げ出すだけなら時間的にも猶予はあると思っていたからね。

 組織の理念を信じ貫くバカ共全員は養いきれない。どのみち捨てるのなら金を手に入れるために、今使い潰してしまえばいいとも思っていた。残念ながら不確定事項が乱入してきたことで破綻してしまったわけだけど・・・・・・それだけの価値ある犠牲だったようだ!

 そう! 君を手に入れることが出来る機会を得られるのなら安い犠牲だった!

 僕の部下から聞いた君の力と仲間たち、その全てを僕の物にできるのならばブランシュなんて惜しくはない! いくらでも再建できるし、新しい組織を立ち上げるのだって悪くはないだろう!!

 ――だから司波達也君と、その友達諸君! 君たちは今日から我が同士に・・・いや!

 “僕の物”になるがいい!!!!!」

 

 

 

 

「私はあなたの物にはなりません!

 私は私の物じゃなくて「彼」の物なんですからーーーーっ!!!

 あなたなんか、こうです! えーーーーーーーっい!!!」

 

 

 

 

 ピカァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!

 

 

「え。これ、ちょっ、ウソ? 本物? 本物のイビル・アイじゃないのコレ!?

 意識に外部から干渉する洗脳魔法は、違法で卑怯だと思いまーーーーっす!?」

 

 

 

 

 ・・・・・・ぱたり。

 

 

 

 

「・・・愚かだな。お前の犯した過ちは三つある。

 一つは、光井ほのかの前で『物にする』などと口走ってしまったこと。

 二つは、魔法発動までにメガネを外して上へ向かって投げるのに利き手である右手を使い、CADの操作には騙しやすくて便利だからと左手を使ってしまったこと。

 そして一番致命的だった三つ目は、光波振動系魔法の使い手でありながら鍛錬を積むことなく、ほのかを敵に回してしまったことだ・・・・・・。

 才能もなく、努力もしてこなかったお前に、ほのかの相手は十万年ほど早すぎたんだよ・・・。顔を洗って努力し直して出直してこい、大物ぶった三流の似非魔法師モドキ」

 

「・・・・・・ポリポリ(頬をかきながらお株を奪われて出るに出れない桐原先輩。今出るのは流石に格好悪すぎた)」

 

 

 

 

 ・・・こうして俺にとっての魔法科高校入学に始まる珍事の数々は、一先ず決着が付いた。

 

 ーー疲れた! おまけに空しい! 徒労感だけが膨大で、達成感が少しもない仕事というのは初めての経験だ! トーラス・シルバーとしても四葉のガーディアンとしても経験したことのない空しさと疲労感に苛まれつつ、俺は敵の拠点である廃工場を跡にして学校へと来た道を戻る。

 

 あまりにも早く片が付きすぎてしまったため、警察は到着しておらず、ほのかの件もあるので十文字会頭に説明責任を押しつけて逃げ帰ってくることにした訳なのだが・・・

(こういう時に事情を深く知ってる者は言ってはならない言葉で迷うから適切ではない。何も知らなければ何も説明できない)

 

 

「お兄様」

「うん?」

「深雪は、いつまでもお兄様について行きますから。

 仮にお兄様が、音の速さで駆け抜けて行かれても。空を突き抜け、星々の高みへ翔け昇られても」

「深雪・・・気持ちは嬉しいんだが・・・・・・この体勢でその台詞を言われると凄みしか感じられないぞ?」

 

 

 疲れ切って寝てしまった(図書館まで走ったからなぁ・・・)雫を抱き抱えて運んでやりながら俺は、三歩下がって等距離を保ちながら1ミリもつかず離れずついてくる(最近構ってやれなかったからなぁ・・・)キラキラ輝く瞳のほのかと、その更に後ろから不機嫌顔でついて行かざるを得ない(手柄がないからなぁ・・・)深雪という、巻き込まれるのを恐れたレオたちから置いて行かれるほど厳しい状態で帰路を急がされていた。

 

 雫の涎で汚れる制服が、今日に限って妙に重たく感じてしまう・・・・・・。

 

「はい。当然のことかと思われます。牽制ですから」

「・・・・・・・・・」

 

 深雪からの刺々しい視線の針に刺され続けて針のムシロ状態になりながら、俺は今しか経験できない普通の学生として過ごす『日常』へと戻る道のかたすがら、心の中で決意していた。

 

 

 ・・・・・・今度の日曜日は・・・・・・休むぞ! ーーと。

 

 

「むにゃ、むにゃ・・・カレーライスが食べた、い・・・・・・ハヤシライス、も・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

そして日曜日。

石川県金沢市 国立魔法大学付属第三高校

 

 

「お疲れさま、将輝。ねぇ、このニュースは見た?」

「ジョージ。第一高校にテロリストが進入か・・・。負傷者もいるようだが?」

「ん? ライバルの心配?」

「いや、負傷したのはむしろテロリストの方だろう。やりすぎて過剰防衛になっているのではと思ってな」

「ハハハ! 将輝らしいね。でも、どんなに一校の連中が強かろうと将輝に・・・クリムゾン・プリンスに敵なんていないさ」

「ーーーああ」

 

 

 

 

 

東京都。司波邸。

 

「あら、お兄様。どうされたのです? こんなに早起きされるなんて・・・たしか昨日の晩に『明日はゆっくりするするつもりだから起こさなくていい』とおっしゃられていましたのに・・・」

「・・・気にしないでくれ深雪。悪夢で目が覚めただけだから・・・犯罪が露見し、騒ぎを収めさるため奔走しなければならなくなると言う最低最悪の悪夢にね・・・・・・」

 

*この直後、肉体維持に問題あるレベルに達したため達也さんの肉体はフラッシュ・キャストによる自己修復で回復させられ、休む必要がなくなってしまいましたとさ。

 

 

次回から「九校戦編」が始まる予定です。




なんとなく思ったこと:
『達也さん苦労編』の方が適切な気がしてきました。(笑)


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九校戦編・前哨回「北山雫の九校戦開幕?」「司波達也の九校戦開幕?」

『講堂事件』が終わってから達也と雫と深雪の三人でデートする話を考案中なのですが、せっかくなので場繋ぎとして少し前に書きあがってたメイン二人の『九交戦編・前哨回』を投稿しておきたいと思います。

――最近、夜寝ないで書いてるせいでストックが多くなってまして、消化しときませんとね?


『今年も定期試験の時期が終わり、九校戦の季節がやってきた!』

 

 最近、マホーカ高校の校舎、に、こんなポスターをよく見かけ、る。

 

「達也さ、ん、達也さ、ん(クイ、クイ)」

「なんだ雫。深雪が直したそうな目で見つめてくるから袖を引っ張る癖はやめろ。・・・で? 何か分からないことでもあったのか?」

「う、ん・・・」

 

 テーキ試験の時にも分からないことだらけだったけ、ど、今度のは多分べつも、の。

 

「ふぅ。まぁ、いいだろう。どうせ定期試験の前にはさんざん受け答えしてやったんだ。いまさら一問や二問、質問される回数が増えたぐらいなら端数として切り捨てられる。ーーで?」

「う、ん。前からずっと気になってたんだけ、ど・・・この『キュウコン戦』って、なんのこ、と?」

 

 ごちん。

 

「・・・痛、い・・・。達也さ、んさっき端数として切り捨てられる、って言ったの、に・・・(サスサス、ぐすん)」

「切り捨てられるとは言ったが、怒らないとも殴らないとも言った覚えはない」

「うう、ぅ・・・達也さんはウソツキ、でイジワ、ル・・・(シクシク、ずずーっ!)」

 

 達也さんは、いつも一回ブってからじゃないと説明をはじめてくれな、い。ブつのは痛く、てイケないことだと思いま、す。

 

 

「て言うか、この子。これでも一応、国立魔法科第一高校の定期試験を通れてはいるのよね。不思議だわ・・・人のこと言う資格は微塵もないんだけど」

「むしろ、国立校で定期試験だから通れたんじゃねぇか? 常識知ってりゃ分かる問題だす教師なんざ魔法科高校にいないだろうし、テスト合格に特化した勉強法なら存在するんだし。って言うか俺たちもやらせてもらったばかりだし。だから俺も言う資格ないんだけどさ・・・」

 

 ・・・なんだか周りから見てくる目、が、いつもよりちょっとだけ・・・白いか、も?

 

 

 

 

 

 

 

九校戦編・前哨回「司波達也の九校戦開幕?」

『全国魔法科高校親善魔法競技大会』

 

 それは政府が、全国に九校しか存在しない魔法科高校の人員で如何に効率よく人材を育成するかを突き詰めた結果の一つとして企画、実行されたイベントのひとつだ。

 国内に点在し各々の特色を活かして成果を上げている魔法科高校ではあるが、実際には人手がまったく足りていない。

 教員を雇う金はあっても雇える人材に心当たりはないと言うのが、全国すべての魔法科高校運営者にとって常態化している悩みでもあった。

 その問題を解消しつつ、エリート思考故に秘匿しがちな技術の開陳場所として一石何鳥ものリターンを狙って実施されるようになったのが九校戦だ。

 

 全国から魔法科高校の精鋭生徒たちを一カ所に集めて競争させ、交流と競い合いにより生徒たちの向上心を煽ろうという一挙両得を目論んだ都合のいいイベントではあったが、政府の都合が国民にとって必ず害になるわけでもないのは言うまでもない。

 九校戦は、珍しく政府が大成功を納めさせた国策だったと言えるだろう。

 

 ーー俺が定期試験の結果に絡んで教師から呼び出しを受けたのは、丁度その一大イベントが差し迫ってきていた七月中旬におきた出来事だった。

 

 

 

「達也」

「レオ・・・どうしたんだ、皆揃って」

 

 生徒指導室で簡単な事情説明を答えさせられてから短時間で解放されて外に出た俺を待っていたのは、クラスメイトではないが友人の西城レオンハルトと千葉エリカ、柴田美月などいつもの面々から心配顔で見つめられると言う、よく分からない現状だった。

 ・・・本気でこれはいったい、どういうことなんだ・・・? わからん・・・。

 

「どうした、ってのはこっちのセリフだぜ。指導室に呼ばれるなんて、いったいどうしたんだよ」

 

 レオの答えに俺は、ああなるほどな、と納得させられた。どうやらこの友人たちは俺の身を案じて集まってきてくれたようだな。

 その点には感謝するし、多少面倒であっても説明の手間を惜しむ気はないのだが・・・さすがにこの人数でくるのは多すぎないだろうか? 国立校とは言え、日本の学校の廊下は横幅も縦幅も法律で決められた明確な基準のもとで作られているから、この人数で横に並んでしまうと子共一人通り抜ける隙間さえなくなってしまうのだが・・・まぁ、いいか。何かあったら一緒に怒られて連帯責任を取れば済むことだ。

 

「実技試験のことで尋問を受けていた」

「・・・尋問とは穏やかじゃねえな」

「要約すると、手を抜いてるんじゃないか、と疑われていたようだな」

「何それ? そんなことしたって達也くんには何のメリットも無いじゃない。バッカみたい」

 

 友情からくるエリカの憤慨には感謝しかないが・・・それでも俺は、肩をすくめて返すしかない。裏事情に詳しいというのはこう言うときに厄介なものだ。

 

「実際、呼び出した張本人である先生自身もそう思っていたらしい。かなり気まずそうな顔をしっぱなしで呼び出された俺の方が居たたまれなくなるほどだったよ」

「「「はぁ?」」」

 

 その場にいる全員が(゜д゜)ポカーンとした顔で唖然としたまま硬直して、俺の言葉の続きの答えを欲している。出し惜しみする趣味もメリットもない俺としては即答することに異存はない。

 

「ふつうに考えるなら実技ができなければ理論も十分理解することはできない。感覚的に分からなければ理論的にも理解が難しい概念が魔法には多数存在しているからだが・・・」

「だが?」

「・・・そもそも俺は新設されたばかりの魔法工学科主席入学者だからな。実績という名の証拠を既に提示してしまってあるから、今さら学校側に出さなければならない証拠も証言も必要とされていないんだよ。今さら呼び出すまでもなく、自分たちでデータから成績表をプリントアウトして手渡せば済んでしまう問題だからな」

「あ、ああぁー・・・・・・なるほど。そういうことねぇ・・・」

 

 何となく白けた雰囲気が場を満たし、俺は再び居心地の悪いいたたまれなさに悩まされる羽目になる。

 

 実際のところ、今回のコレは本当の意味で『形式的な呼び出し儀式』でしかなかった。工学科は新しい学科であるため敵も多く、新設に反対した教師というのも少ない数ではない。

 とは言え、魔法科高校は国立であり、国が運営する機関だ。教師陣がいくら不満を持とうともお上が下した決定にNoと言える権利も地位も彼らにはない以上、後は感情の問題となる。

 そして上から押しつけられた命令を実行すればいいだけの現場にとっては、感情の問題こそが一番の難題だ。なるべくなら穏便に済ませたいし、後顧の憂いは残したくない。

 感情的対立が元で滅びた軍や国家はいくらでもあることだし、形式を守りさえすれば一先ずは矛を収めてくれる相手ならそれをやる。

 

 どうせ相手が守ろうとしているのは面子やプライドだからと甘く見た対処療法ではあっても、人同士の感情的対立が短期間で解決できた例は古今存在していないのだと、北山会長からキツく教え込まれている俺としては、合わせるべき時は大人しく腹話術用の木偶人形を演じているより他にない。

 言えと言われた実技の成績が悪い理由と、答えろと言われた質問に短く簡潔に当たり前の内容を返すだけ。

 サラリーマンのような作業だったが、ふつうの学生生活というのも実際にはこんなものなのかもしれないと割り切って切り抜けた。以上である。これ以外に今回の件で話すことはない。

 ・・・ん? あ、いやあったな。忘れていた。大事なことがもう一つだけ存在していた。

 

「それに問題視するにしても時期が悪い。もうすぐ九校戦がはじまるという時期に、本気で自分の学校の生徒の処分を検討し出す無能教師だったら、学校側もそれなりの対処をしていたと思うよ? どう考えても学校にとって不利益しかもたらさないのは明白なのだから」

「「ああー、そういえばあったなー(あったわねー)そんなイベントが」」

 

 ・・・おい? エリカとレオには後でもう一回試験用とは別の家庭教師教育が必要かもしれないな。

 そんなことを考えていながらため息をついたときに、ふと気づく。・・・一人、足りないことに。

 

「深雪。雫は来てないのか? アイツのことだから意味も理由も分からなくても、身内が動けば本能的に後ろついてくるものだとばかり思っていたんだが・・・」

「・・・達也君? 雫はあれでも一応、アヒルの赤ん坊ではないんだけど?」

「ーー似たようなモンに見えることは多々あるけどな・・・」

 

 レオとエリカがなにやら言っているのを聞き流しつつ、俺は自分が質問した相手である深雪の顔をジッと見つめて答えを待っていると、彼女は頬を赤らめながらも(なぜだ?)困ったような苦笑を浮かべながらこう答えを返してきてくれた。

 

「わたしも不思議に思いましたのでエリカたちに詳しい事情を聞いてみたところ・・・」

「見たところ?」

「『五月病がヒドいので病欠します』という連絡が朝のうちに職員室へ届けられていたとの事でしたので・・・・・・」

 

 

 俺が今さっき出てきたばかりの生徒指導室へと逆戻りして、先生方からあのバカを迎えにいく許可を取り付ける事にしたのは言うまでもない。

 

 

つづく



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「北山雫のゴールデンウィーク+1編」

前回お伝えした「講堂事件直後の雫×達也×深雪のデート回」が出来ましたので投稿いたします。
ストーリー全体としては何の影響も与えない内容ですので、今回も番外編扱いにさせていただいてます。ご承知おきください。

サブタイトルからわかる通り、今話の内容は5巻『夏休み編プラス』より『メモリーズ・オブ・ザ・サマー』を元ネタに使ってます。


 この前起きた『“行動”事件』で学校の一部が壊れたか、ら直すため、に今日はおやす、み。日曜日とおんな、じ。お昼まで寝てても怒られな、い。

 

 ・・・そのはずだったの、に・・・・・・

 

 

「あ、ふ・・・眠、い・・・・・・なんで朝早くか、ら町をお散歩しようなんて誘った、の・・・?」

「雫、あそこに見える柱時計の針を見なさい。もう11時半よ? 朝はもうすぐ終わって昼になろうとしている時間だわ」

「加えて言うなら、お前を起こす手間暇時間を考えて35分ほど早めにスケジュールを立てていたはずが、現時点で50分以上遅れが出ている。この原因が誰のせいによるものなのか、分かるか雫?」

「あ・・・ふ・・・ねむね、む・・・・・・ぐ、ぅー・・・・・・」

「ーー許してくれ深雪・・・っ! 俺はまたしてもお前の前で言っても無駄だと分かり切っている愚問を発してしまうという愚かな行為をしてしまったぁ・・・っ!!」

「お兄様! 落ち着いてくださいませ! いつものこととは言え雫に関してお兄様は真面目に考えすぎるのです! この子に関してのみ気楽に適当に考えることを覚えましょう! ね!? そうするべきですわお兄様!

 でないと深雪は、そろそろ本気でお体が心配になってきそうですから!」

 

 なんだ、か隣が騒がし、い・・・。

 今日の町も平和だ、なー・・・・・・ぐ、ぅ。

 

 

 

 

 

 ーー西暦二〇九五年五月七日。全国の魔法科高校の生徒にとってはゴールデンウィークの長期休暇が終わって登校が再開される当日になるが、我らが第一高校だけは休みが始まる前に『臨時休校』が言い渡されている。「先日の一件で受けた傷の修復作業が完了していないため危険である」とするのが表向きの理由だ。

 

 無論、一つの事実には複数の真実を内包しているのが常であるので今回もそのセオリーは遵守されている。

 学校運営側の真なる目的は『完全な偽装工作のために修復箇所を総取っ換えすること』だ。

 

 あの事件の渦中で俺たちは色々と司直の目に触れるのは好ましくない行為を連発しており(ほのかの《イビル・アイ》とかな)それらは監視カメラなどの物理監視手段を潰してしまえば法的には責任回避が可能にできるものの、魔法がかつて超能力と呼ばれていた過去を鑑みると油断はできない。

 マインドリーディング等の証拠能力を持たないものでもイチャモンを付ける口実ぐらいには使えるのだから、警戒レベルは高く見積もるに越したことはないのだ。

 

 幸いなことに今回の一件で執行部は、現在の学園防衛マニュアルが平和な日本の学校を基準とした「平時向け」のものであることを自覚してくれたらしく、段階的にではあるが今までより数段階高い自衛能力を学校施設にも付与していく方向へ方針を固めたのだそうだ。

 

 まぁ、公立の学校施設と違って魔法科高校は国立だからな。しかも俺たちが通っている第一高校の所在地は東京。国会もあれば永田町もあり・・・早い話が、退職後の豊かな老後を送るためにも節約できるところはしておきたいと言う話だ。・・・俺が言うのもなんなのだが、本当に俗っぽい・・・。

 

 そのような事情により、現在魔法科第一高校は教職員を含むすべての関係者を立ち入り禁止にして大規模な修復工事という名の証拠隠滅作業中だ。

 証拠があろうと無かろうと現場が消滅させられた後では、何ほどのこともないので徹底的におこなっている。そのため生徒一同は休日を一日増やしてもらい、想定外の休みで俺は暇を持て余すことになったというわけだった。

 

 仕事のスケジュールは一週間前から確認できるが、新たな社内スケジュールを休み前にいきなり言い渡されても予定に組み込めることは多くない。それほど安い立場でないことぐらいは、さすがの俺でも自覚している。

 

 そうなると、何をして休日を過ごすかが問題になっていた。

 読書もライブラリの閲覧も、高校生が休日の自宅で一日中やるのはどうかと思うし、かといって代わりになりそうな趣味があるかと言えば特にはない。・・・今更ながら自分がワーカーホリック気味になっていた事実を自覚させられた俺は気分転換の必要性を覚え、深雪を誘って街へ出ることにした。

 

 どこかのバカの受験勉強につきあっていたせいで、深雪が誕生日プレゼントとしてお願いしてくれた休日のお出かけを中途で切り上げなくてはならなくなった近い過去の失態を思い出したのだ。

 

 良くできた妹の深雪は当時のことなど「気にしていない」と言ってくれたが、それでは俺の気が収まらないと強く勧めた結果、今に結びついている。

 

 

「あふ・・・わかったけ、ど、二人の兄弟デート、になんで私が付き合わされてるのか、が分からない、よ・・・?」

「おまえを目の届かないところで放し飼いにしたまま、安心して買い物を楽しめる人間などいると思うのか?」

「・・・・・・(こくこくこく!)」

 

 隣を歩いている深雪が、お淑やかに静かに激しく首を振って同意するという意外なまでの器用さを発揮しながら俺たちは、昼の都心でショッピングを楽しんでいた。

 

 女性が買い物好きというのは今も昔も変わらない常識といえる傾向で、特に若い女の子は二十一世紀最後の十年を迎えてもショッピングが大好きだ。

 最初に俺から誘ったときには遠慮していた深雪も、街中に着く頃にはすっかり乗り気になっており、引っ張られるように連れて行かれたファッションビルのブティック内で生き生きと品定めに勤しんでくれている。

 

 連れてきた側の男にとって、これほど報われた気持ちになる光景も珍しいだろうな・・・そう思いながら俺は、今一人の今時女子へと視線を落としてジト目になる。

 

「・・・雫。おまえも行っていいんだぞ・・・?」

「え? ・・・ん。わかっ、た・・・」

 

 声をかけてやるまでボーッと店内を眺めているだけだった雫はようやく起動し、店内をチョコチョコ動き回りながら見て回ってくる。

 

 ウロウロ。きょろきょろ。ジーっ・・・。

 スタスタスターーー。

 

 

「行ってき、た」

「・・・早すぎるだろう・・・・・・見終わるまでの時間が・・・」

 

 思わず頭を抱えたくなるほど早すぎる、雫の「見るだけウィンドウショッピング」ぶりだった。本当に「見るだけ」で「見ている」事すらしてこない・・・。

 

 一般に女の子のショッピング時における行動パターンは三種類に分けられると聞かされている。

 

 一つ目は、本命の買い物を真っ先に済ませるパターン。

 二つ目は、本命の買い物を最後に取っておくパターン。

 三つ目は、多分これが一番多いと俺も思っているが、本命がありながらあちこちに目移りして行きつ戻りつするパターン。

 

 この三つが女子の買い物行動のスタンダートだと聞かされていたし、現に深雪は普段であるなら一つ目のパターンで合致している。

 今日は不意打ちに俺から誘って「遊ぶこと自体」を目的とした外出だったから、店内を物色して回ることが今日の彼女の主目的を満たすことにつながっている。

 

 問題はこのアホは恐らく、三種類の行動パターンのどれにも当てはまっていないのだろうなぁと、感情が失われた俺でさえハッキリと分かってしまうほど読みやすい部分があるということだけだろう。

 

「・・・?? ちゃん、と言われたとおり見てきた、よ・・・?」

「・・・一瞥しては次にいく流し見をされた店の人たちも、泣きそうにしてきているがな・・・」

 

 値札も見るし品物も見るが、全て一瞥。歩きながら「ジーッ・・・」と見つめるぐらいが関の山で、じっくり吟味しているという言葉は雫の辞書にあるのかと疑問に思えるほどの完全スルー・・・。

 はたして、これ程までに連れてきた苦労が報われない瞬間が他にあるだろうか・・・。感情がない俺でさえ、泣きたくなる気持ちが理解できそうな心地にさせられる。

 

「念のために聞いておくが雫。お前は普段、欲しい物ができたときにドコでどうやって買っている? 後学のため是非とも確認しておきたい」

「え・・・? えっ、と・・・お父さんに言、う・・・?」

 

 会長・・・娘がかわいいのは一万歩譲って絶対に認めないわけでもありませんが、せめて『はじめてのお使い』ぐらいはさせておいて頂きたかったです・・・。

 

「普段、着ている服はどこで買っているんだ・・・?」

「・・・?? えっ、と・・・・・・元スタイリストのメイドさ、ん・・・?」

「・・・・・・もういい」

 

 コイツに期待してしまった俺がバカすぎたんだと自戒しつつ、自罰しつつ。

 深雪が目を留めて気にしている商品を目測だけで値段を予測し、ついでとばかりに隣のマネキンが着せられているのも含めて二着分のサマードレスの代金を支払うことを決意した俺は、深雪にも値段は気にしなくていい旨を伝えて喜ばせるとバカの方にも声をかけておいてやる。

 

「お前もこれを期に深雪からファッションについて学ぶようになって置いた方がいい。今後、立場的に必要になってくる事態も多くなってくるだろうからな」

「・・・??? う、ん。わかっ、た・・・」

 

 いつも通り雫は『訳が分からないけど、達也さんが言うなら従う』といった風情で、あっさりと了承する。

 ――ほのかと雫が対極なようでいて似ていると感じさせられるのは、こう言うときだ。二人とも、俺の言葉を理解していないのが一目瞭然な反応を見せるにも関わらず、疑問を抱くことは素振りすら見せたことがない。依存されているとハッキリと自覚させられる状況に、俺は中学生の頃から晒されてきたのだ。

 

 それは重荷と呼べるほど大した重量のある年頃ではない二人だったが(親がいる健全な家庭の子供に俺ごときが与える影響など微々たるものでしかない)それでも二人の将来を考えるなら、早い内に切れてしまった方がいい関係なのは間違いない。

 何しろ当時の俺は四葉のガーディアン。

 何時どこで何が起きるか予想できなければ、家の都合でいつどこに飛ばされたとしても然程おかしくはない微妙な立ち位置。(後半については深雪のおかげで俺の杞憂だったのだが・・・)そんな男にふつうの家庭で育つべき子供が依存し続けて良い道理がない。

 

 俺は遠回しな表現と直接的表現とを織り交ぜながら、二人に何度も『俺から離れていった方がいい』事を伝えた。伝え続けた。

 それでも二人は俺から離れていくことはなく側に居続けた。共に過ごし続けてきた。

 そして今もこうして、一緒に居続けている。

 

(・・・結局のところ、それが一番の理由なんだろうな・・・)

 

 自覚したくなくとも自覚せざるを得ない事実。

 当時から感情を失っていたはずの俺が、深雪以外のことで感情がもてなくなっていたはずの俺が、理性と計算だけで考えるなら無理矢理にでも離れさせるべきだった二人を離れさせることなく一緒に居続けた。

 

 ・・・それが嘘偽り虚構無き、俺の歩んできた現実なのだから・・・・・・。

 

 

「このワンピースと、二番目と十七番目のドレスを。・・・それから、そこのクラシックなドレスも一着包んでいただけますか?」

「畏まりました。・・・ところでお客様にチョッとご相談が・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、まさか三着も買っていただけるとは思っておりませんでした。雫の分もありましたし、結構なお値段だったのでは?」

「言ったろう、深雪? 遠慮はいらないと。それに、男の方から女性に誘いをかけてたのだから俺にもそれなりに見栄を張ってみたくなる時ぐらいあるさ」

「まぁ! お兄様ったら。うふふふ♪」

 

 となり、でラブコメラノベみたいなやり取りが交わされて、る。達也さんと深雪、はとっても仲良、し。

 ・・・でも。これ、は・・・・・・

 

「さぶ、い・・・・・・(ガタガタ、ぶるぶる)」

「・・・まさか女の子にドレスをプレゼントして、そういう反応を返される日がくるとは想像していなかったな・・・」

「・・・本当ですわよね・・・。店の方が仰っていたとおり、見た目は真珠のようで、とても似合っていますのに・・・」

 

 私はい、ま達也さんがプレゼントしてくれ、たドレスを着て歩いて、る。

 ユーエスエヌエーで流行ってるドレスを参考にし、て作ったらしいんだけ、ど。肩とか背中、が寒い・・・。ガタガタぶるぶる・・・。

 

「達也さ、ん・・・どこかのお店、に暖かいもの食べに入ろ、う・・・(ガタガタガタ)」

「お前の辞書に情緒という文字はないのか?」

 

 常しょ、う? 私、はラインハルト様じゃないから必ず勝てない、よ・・・?

 悟空みたい、に強敵ばっかりと戦いたがるの、は達也さんの悪い癖だと思いま、す・・・(ガタぶるガタぶる)

 

 

 

 

「邪魔をして申し訳ない。ボクはこういうものですがーー」

「・・・?」

 

 カレーをはふはふしながら食べ、て体を暖めてた、ら声をかけられ、た。

 

「とある芸能プロダクションで社長を務めさせてもらっている者なのですが、そこにおられる大粒のダイヤモンドが如きお嬢さんの美しさを前に、一目で心奪われてしまいまして・・・単刀直入に聞くけどキミ、映画に興味はない? キミにピッタリの役があるんだけど・・・」

 

 ・・・ああ、深雪のスカウト、か。昔からよくあったことだか、ら別にいい、や。

 

「ねっ、名前を教えてもらえないかな」

 

 はふはふ、パクパク。

 

「キミだったら今直ぐにでもトップアイドルに・・・いや、世界的大スターになるのだって夢じゃない! 大丈夫! ボクが保証してあげる! ボクの手を取ってくれたら、どんな女の子だってデビューは確実!

 なんたって、アイドルは芸能事務所が作る時代だからね!」

 

 パクパク、はふはふ、アチチ・・・舌、を火傷しちゃ、った・・・。

 

「なんなら証拠をお見せしようか!? たとえばキミの隣でカレーを食べてる、そこそこ可愛い女の子だってボクの手でデビューさせてあげれば一瞬にして―――――」

 

 

「――失礼、店員さん。一つ伝言を頼まれていただけませんでしょうか?」

「・・・はい、畏まりました。

 ――お客様。これは伝言でございます」

 

「は? なんだよ、お前なんかにボクは用無い―――ぶべぇっ!?」

 

「お客様は神様です。ですので、他の神様方にご迷惑しかお掛けしないあなた様は只の人です。

 人と神様とを同格に接客してしまうのは店舗経営者として許されざる背信ですので、相応の対応をさせて頂きましたことをご了承いただけたら幸いに存じます」

 

 はふはふはふ。

 

 

「この度は店員の対応が遅れた為、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。お詫びの印といたしまして、当店の料理を無料でお楽しみいただきたいと思っているのですが如何でしょう? お客様方」

「いえ、お詫びなどととんでもない。こちらこそ騒ぎをお任せしてしまってご迷惑をお掛けしました。お代はきちんと払って食べていきますからお気になさらずに」

「そう仰らないでくださいませ、お客様。・・・正直、雫様の周りにあんなの近づけたこと知られたら俺たちのクビが飛ばされかねんのです。

 ここは俺と妻と生まれたばかりの子供の将来を助けると思って何卒・・・」

「・・・・・・わかりました。じゃあ遠慮なく・・・」

「感謝いたします、未来の御当主様――いえ、達也様。

 ギャルソン! この店で出せる最高級パフェをご用意しろ! 今すぐにだ! もしあるなら『お似合いの彼氏彼女の未来を祝福する甘い一時パフェ』とかをな!

 お代は気にするな。言い値を即金現ナマだ! ・・・よもや異論はあるまいな?」

 

「ははぁっ! 早速に!! より多くの利益をもたらしてくれるお客様は大神様でございます!!」

 

「・・・・・・(こうなるから受け取りたくなかったんだがな・・・・・・)」

 

「・・・・・・(嫉妬の炎、ゴゴゴゴゴゴ・・・)」

 

 

 はふはふ、パクパク・・・ごっくん。うん、美味しか、った。

 ごちそうさ、までした♪(*⌒▽⌒*)

 

 

 

 ――こうして“雫の”平和な日常は守られています・・・・・・

 

つづく




注:
雫が今回買ってもらったドレスは原作10巻『来訪者編《中》に出てくるものと微妙に異なり、あちらだと当たり前でも日本だとクラシックすぎるデザインのため日本風に合わせて調整してあります。

ただし元は同じで、メーカーも同じ。
平和になって経済開発に方針転換したUSNAは以前よりも開放的にはなってきてますので『提携を組んだばかり』みたいな感じをイメージしていただけたら助かります。


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第14話「遊びで書いたら長くなってしまった、選手選考前の達也さん」

原作で気に入っていたから書きたかっただけなのに、どう言う訳だか長くなりすぎてしまった『達也さんと摩利さんの風紀委員ダベリ回』です。
予定してなかったのですが、1話分できちゃったので投稿しておきますね。

次回は選手選考回です。
本当はこちらが今回の本命だったはずなのに、どうしてこうなったん?(・ω・)?


 一学期の定期試験が終了してから、俺はほぼ毎日の放課後を風紀委員会本部で過ごしていた。夏休みが終わったすぐ後に訪れる生徒会長選挙に備えるためである。

 前世紀ではお飾りでしかなかったと聞いている生徒会長職であるが、未来の国防を担う新人育成を目的に設立された魔法科高校においてまで適用されていいルールではない。権限も影響力も被害が出たときの規模までもが段違いなのだから、当然のことだった。

 

 しかしーーー

 

「ーーまさか、後任の次期風紀委員長への引き継ぎに必要な資料作成を、一年で新人の俺に一任されるとは予想もしておりませんでした。

 何だか自分が飛んだお人好しに思えてきましたよ・・・」

「極悪人でお人好しか。中々に興味深い二面性だ」

 

 してやったり、と言い足そうな意地の悪い表情を浮かべながら現委員長の渡辺先輩が、悪癖である部下イビりをしてくるが、甘い。

 あいにくと俺には、どこかのバカが言い逃れをして逃げだそうとするのを一年三百六十五日捕まえ続けてきた実績がある。この程度のミステイクを見逃していては身と心が持たん。

 

「そうでしょうか? 自分は、風紀委員入りしたこともない新人がいきなり組織の長に任命されて、アドルフ・ヒットラーの再来とならぬよう努力するのは日本人として、魔法師として、神聖な義務であり善意であると解釈しておりますが?」

「・・・・・・・・・」

 

 義務と善意を投げ出してデスクから俺を眺めやるだけだった渡辺先輩が、沈黙したまま目を逸らす。

 順当通りに勝ちを得ただけの勝利に抱ける感慨などあるはずもない俺は、黙々と作業に戻ることにする。

 

 しばらくの間は室内にキーを打つアナログ音だけが響いているという状況が続き、居心地が悪くなったらしい渡辺先輩の方から別の話題をふってきた。

 目前に迫った一大イベント、『九校戦』にである。

 

「きゅ、九校戦の準備が本格化すれば忙しくなるぞ! 出場メンバーが固まったら競技ごとの練習が始まるし、道具の手配や情報の収集と分析、作戦立案、やることは山積みしているのだからな!」

「はぁ、なるほど。であれば尚の事、委員長であらせられる渡辺先輩が準備作業の陣頭に立ち、現場を士気高揚させられるような活躍を示された方がよろしいのでは?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 再び沈黙。そして窓の外へ視線を逃避。

 往々にして後ろめたさを持つ人間は、自らの後ろめたさを隠すため多弁を用い、自らが埋まる墓穴を増やしたがる傾向にある。ーー誰の言葉だったかな? ・・・雫の読んでいたマンガの主人公だった記憶があるのを口に出して表現するのは止めておこう。

 

「・・・・・・九校戦は何時から開催されるんでしたっけ?」

 

 今度は俺の方から話題を振って話に乗り、渡辺先輩に救いの手を伸ばして差し上げる。

 小悪魔的なところのある生徒会長、風紀委員長両名と違って、俺は罪悪感を感じる心を持っていた記憶がある。敗残兵に追い打ちをかけるようなヒトデナシではない。

 なによりも、敗者には慈悲を以て接するのが社会的地位の高い人間の正しい在り方だった。

 足元を見るときには容赦しない分、そうでないときは可能な限り寛容さを旨とするよう北山会長から口を酸っぱくして言われ続けた俺としては当然の優しさだった。

 

「・・・!! 八月三日から十二日までの十日間だな! それなりに長いぞ!」

 

 差し伸べられた施しへと、食い気味に飛びついてきた渡辺先輩に内心苦笑しながらも、俺が尋ねたのは別のことだった。意外と開催期間が長かったことに驚かされたのだ。

 

「結構、長丁場なんですね」

「ん? 観戦に行ったことはないのか?」

「はぁ、なにぶんにも俺は魔法の才能が中途半端ですので、家でも疎んじられていましたから中々ね・・・」

「うっ!?」

「それに、末端ながらも関係者になった魔法科高校入学後は風紀委員として行動的な活動だけでなく、事務作業のほぼ全てを一任されていましたから、他のことに割いている時間的余裕はあまりに少なくて・・・。

 他の人から見てどうかは存じませんが、俺も一応は人間のつもりですし学校以外で過ごす時間と場所も必要でしたからね・・・・・・」

「すまない! 本当にすまなかった達也君! 私が悪かった! 私が悪かったから!謝るから! もうこれ以上はイビらないでくれないか!?

 こんな姿を次期委員長にするため目をつけていた二年生に目撃されるのは君だって望むところではないだろう!? だから頼む! この通りだから! どうか後生をーっ!」

 

 渡辺先輩で遊ぶことで気を紛らわせつつ、機械作業にありがちな凡ミスの数を減らし、効率よく作業を進めながら九校戦に関する情報もついでとして教えてもらっていく。

 

 

 作戦チームに作戦スタッフ、「最強世代」と呼ばれている第一高校の現三年生たち三人、今まで二回しか負けたことのない当校のライバル校である三校の存在など、興味を引かれなくもないワードはいくつも見受けられたのだが。

 俺が最も気になったのは「エンジニア不足」についてだった。

 

 

 九校戦で使用するCADには共通規格が定められており、これに適合する機種でなければ使えなくしてある一方で、ハードが規格の範囲内でありさえすればソフト面は事実上カスタム制限が課されていない。無制限なのだ。

 これは、いかに規格の範囲内で選手に適したCADを用意して選手の力を引き出すチューニングを施せるかどうかを勝敗に組み込むことにより、出場選手だけでなく技術スタッフたちサポートメンバーの能力向上まで狙っていたのではないかと俺は予測する。

 

 今までは現場にでる魔法師ばかりが評価されていた世の中だったので気付きづらかったが、注意して見渡してみるとこの手の工夫は魔法社会各所に見受けられる。悪いことではないし、良いことだとも思うのだが、この際に問題となるのは九校戦が発足した当時にはまだ魔法技師は復権を果たしておらず、技術関連に関する世間の認識がきわめて半端だった時代の基準で大会の公式ルールは定めてあるだろうと言うこと。

 

 つまりは、魔法技師に社会進出を促したアホの発明品『超簡易魔法式』に関して取り扱いを規制したルールなど現時点では存在できないことを意味していた。

 

 

(これは・・・些か以上に不味いかもしれんな・・・)

 

 内心で冷や汗を流しながらも俺は、思考は九校戦に向けたまま作業を続けることで外側を取り繕いごまかす。心は変わらず九校戦のルールについて考えているままでだ。

 

 

 渡辺先輩から聞かされた話によると九校戦の歴史は意外と浅く、まだ九回しか行われていないらしい。

 今年で十回目の開催となるわけだが、伝統が形成されるのに実数は重要事ではないので意味はない。其れに関わる人々が「伝統と格式に満ちた歴史ある大会だ」と認識すれば出来てしまうのが「伝統と格式のある歴史」と言うものなのだから。

 今更その是非について言及する気はないし、一民間人が考えなければいけない問題でもないので流すが、流すわけには行かない関係者として問題視すべき部分もある。

 

 それは、「伝統は変更を容易には受け入れられない性質を持っている」という事実。

 

 ・・・おそらく今年の九校戦で、どんな超簡易魔法式をインストールしたCADを使おうとも競技を中断して審議に入るなどの強硬措置は取られないだろう。最初の一、二度はあるかも知れない。だが、それ以降は全て流されるようになる。「大会が終わった後、来年の大会での使用有無について精査します」とだけ言って、今年に生じた問題を来年の運営委員会に押しつける方針を取るに違いないのだから。

 

 

「やれやれ・・・こういう時には『立つ鳥跡を濁さず』という諺を上に立つ人間には弁えて欲しいものだと思わされるな・・・(ぼそり)」

「なにが!? 私か!? 私の無責任な風紀委員運営方針に対する批判なのかそれは達也君!?」

 

 

 なにやら耳元が騒がしい気がするが、まぁいいだろう。それより今は、九校戦と超簡易魔法式についての方が大事だからな。

 

 

 ーーおそらくと言うか、ほぼ間違いなく今年の九校戦には俺も参加させられるだろう。無論、選手としてではなく技術スタッフでとしてだがな。

 なにしろ試験的に導入されたばかりの魔法工学科主席入学者だ。成績云々は置いておくとしても、『技術』と名の付くイベント事では花を持たせる意味も込めて出さざるを得ない立場にある。

 競技に出場する選手たちからは反発もあるかも知れないが、それでも学校運営側が望んでいる出場を生徒の側から感情だけを理由に拒否するわけにはいかない以上、経過はどうあれ結果は見えている。

 

 問題は『アイツ』だ。

 あのバカが技術スタッフに選ばれるなどということは有り得ない可能性上の話でしかないのだが、どうにもアイツには昔から『トラブルを呼び込む奴の周囲にいたがる』悪癖があるから心配でならない。

 

 アイツには昔からそういうところがあった。

 いつも事件や騒ぎが起きたときなどに、外野でありながら事態の中心近くに居続けて、終わったときには必ず最後まで立ち続けている。しかも無傷で。

 並外れた強運の持ち主なのか、あるいは悪運の神様に愛されてでもいるのか、アイツはいつも『大きな事件の中心近くにいて』『遠くとも確かな影響を与えている奴』だった。

 そんな奴が超簡易魔法式にとっては事実上『やりたい放題』の場に引きずり出されてきた場合、俺一人で押さえつけておくことは可能だろうか? ・・・できれば異常事態など起きることなく、恙なく大会が終了してくれることを切に願う。

 

 無いとは思うが、もし選手としてまで出場するよう求められた場合、俺はスタッフと選手とバカの世話との三足の草鞋を兼任しなければならなくなり『フラッシュ・キャスト』の強制使用待った無しな窮状にまで追い込まれかねなくなるのだが・・・・・・。

 

 

「・・・いや、些か先走りすぎがすぎるか。さすがに一年生の新人相手にそこまで押しつけたがる先輩がいるはずもない。思い上がりが傲慢に直結して綻びを招かないよう自戒することが必要だな」

「それは皮肉か達也君!? 真由美や十文字を除いて今の三年は、選手に比べて縁の下を支えるエンジニアの数が少ないことに対しての皮肉だったのか!?」

 

 

 ーーこの後、思考の海から現実世界に帰還を果たした俺は、目の前に渡辺先輩がドアップで泣きそうな顔をしていたことに慌てつつもフォローだけはして、帰り支度を手早く終えて委員会室を出る。

 平たく言えば逃げ出したわけだが、それを恥と呼ぶ気は俺にない。・・・向き合い続けても、誰もが満足する結果が出せるとは思えない問題だったからな・・・。

 

 

「あ。達也さ、ん。やっとき、た」

「ん? 雫か。こんな所でお前と会うのは珍しいな」

 

 

 言ってから、俺は周囲を見渡してみる。ーーごく普通の魔法科第一高校校舎前にある校門だった。

 放課後の遅い時間帯とはいえ、同じ学校に通う女生徒と出くわして「こんな所で会うのは珍しい」と話しかけるような場所ではない。断じてない。絶対に認識が間違っている。

 ・・・知らず知らずのところでバカに順応するため洗脳されかかっていた自分に気づき、額に浮かぶ脂汗を自覚しながら俺は、校門に背を向けて空をボンヤリ見上げている雫からの返答を待つ。

 コイツのことだから詩的な返しなど期待できんことは分かっているが、それ故に何を言ってくるのか予測できない特殊な思考法の持ち主が俺の幼馴染み、北山雫という少女の特性なのだから。

 

 

「う、ん・・・。え、っと・・・空、見てた。あと、雲、も」

「ほう。それで?」

「お腹減ったな、て・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・文脈がないにも程がある・・・。しかも校門前で一人いたことの説明には全然なっていない。

 

「ーーなるほどな、よくわかった良かったな。ところで俺は今から帰ろうと思っているのだが、お前はどうする気だ? なんなら途中までなら送っていってやるぞ?」

 

 俺は深く追求せずに流す道を選んだ。以前にも似たような状況で長時間問いつめ続けたあげくに「なんとな、く・・・?」と疑問形で返された過去を思い出した故である。

 実際、雫には自分でも理由が分からないまま行動していることが希にあり、そう言う際には原因究明よりも事態解決を優先した方が効率的だという事実を俺は思い知っていた。

 

「ん、と・・・それより、も買い食いして帰りたいか、も。お腹減ったか、ら」

「わかったわかった。で? 何が食べたいんだ? ファーストフード店の最安値ポテトフライか? それとも買い食いには少しく量が多すぎるジャンボチョコパフェか?」

「トン、カツ。お腹減ったか、らお腹いっぱい食べた、い」

「お前は買い食いの概念すら理解していないのか・・・・・・」

 

 

 本気で学校帰りの買い食いで夕食分まで食べてしまおうと意気込んでいるバカな幼馴染みの小さな体を見下ろしながら、俺は考えていた。

 

 夕食に響かない手頃なサイズのミニトンカツがメニューにあるトンカツ専門店は、商店街のどこにあっただろうかと言う位置情報を。

 

つづく



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第15話「雫の一人称視点に戻る前日の談」

雫視点に戻る前、最後の回です。
本当は今話から雫の一人称視点に戻したかったのですが、生徒会に居ない上にモノホンの劣等生である彼女を九校戦の技術スタッフに選抜させれるこじつけ理由が思いつかなくて・・・どうせやるなら思いきりハッチャケてしまった方が誤魔化せるかなーと小ズルい思考に至った次第です。
雫との再会を楽しみにしていてくれた方、もしいらした場合はごめんなさい。


「全国に九つある魔法科高校にとって、九校戦は一大イベントなの」

 

 昼休みの生徒会室に響く、鈴を転がすような七草真由美生徒会長の美声。

 

「秋の論文コンペテションは学術研究で、夏の九校戦はスポーツタイプの魔法競技で学校毎に競い合う。当然、学校のメンツがかかっているから選手は能力優先で選ばれるわ」

 

 内容そのものは先日に渡辺先輩からいただいたパンフレットにも書いてあったものと酷似しており、生徒会長から直々に拝聴しないと知ることが出来ない機密などでは全くないのだが。

 まぁ、そういうツッコミで野暮な真似をしないのも部下が上司に示すべき礼儀であり、義務であるだろう。学校内限定とは言え社会的地位役職に伴う義務と責任として粛々と果たすのみだ。

 

 ・・・それに、上司から“お願い事”がある際に『前振り』がなされるのは様式美と言えないこともない。日本古来の伝統を尊重することもまた、伝説の彼方から蘇った現代魔法の使い手たる魔法師としての義務だろうと自分を納得させながら、俺は会長の話を聞き流しつつ弁当を食べる。

 納税義務を負う社会人たる者、限りある昼休み時間を無駄遣いしてはいけない。

 

「選手の方は十文字くんが協力してくれたから何とか決まったんだけど・・・問題なのはエンジニア。技術スタッフよ」

「・・・まだ数が揃わないのか? 日本初の魔法工学科新設校のはずなのに?」

「ええ。特に三年生は実技方面に人材が偏っちゃってて・・・どうしても昔のやり方にこだわりたい、我が強い人に優秀な生徒が多いのよねぇ・・・。

 工学科のコの字もない時代に入学してきたエリート魔法師一族出身者が多いから仕方ないと言えなくもないのだけど・・・」

 

 渡辺先輩が会長のグチに参入して会話を広げ、否応なしに工学科代表の俺も巻き込まれていく展開にされてしまったが、これは仕方のないことだ。甘んじて受け入れよう。

 どのみち事実上工学科のトップを務めている俺が技術スタッフに選出されること自体は確定なのだから今更あがいたところで意味はないことだしな。

 

「確かに、実績のある熟練者ほど新しい技術にはめっぽう弱い傾向が魔法師にはあるからな・・・」

「二年生はまだ、あーちゃんとか五十里くんとか工学科新設にいい影響を受けて実力を伸ばした子もいるから安心なんだけど」

「五十里啓か・・・しかしアイツは元々、純理論畑で調整はあまり得意じゃなかったはずだ。簡易魔法式に興味を持って学んだとは言っても専門畑ほどの活躍を期待するのは無理がある」

「現状は、そんなこと言ってられない感じなのよねぇ・・・はぁー・・・。

 ――せめて摩利が自分のCAD調整ぐらい出来るようになってくれれば楽なんだけど」

「・・・おい、真由美。今その話題を私に振るとどうなってしまうか本気で予測が付かんからな? 最悪、私抜きでの九校戦参加を検討してから言ってもらおう。でなければ私が死ぬ。主な死因は自殺で」

「え? え? な、なに? なにがあったの? この数日であなたに一体なにが起きてたの摩利!?」

 

 大いに慌てふためかれている七草会長を眺めながら、俺と深雪は静かに席を立とうと試みる。

 まことに遺憾ながら、深雪は俺が技術スタッフとは言え九校戦出場確実と聞いてよりこの方、九校戦出場メンバーにまつわる話すべてに関わる気力を損失してしまっていた。

 聞けば適切な答えが返ってくるし、相槌も打てば感心もする。だが、自分から積極的に参加メンバーについての話題に加わろうという気は微塵も残っていないらしい。俺の参加が“ほぼ”確定だった頃はもう少し積極性を見せていたのだが・・・。

 

 今更ながら俺の参加・不参加でここまで本気度が上下動する妹の将来に不安を感じ始めていた俺の耳に、七草会長からの問いかけが遅ればせながら届けられる。

 

「そう言うわけだから達也くん。工学科の生徒から即戦力に期待できそうな子の心当たりとかって、あったりしない?」

「無理ですね。日本初の魔法工学科新設校と言えば聞こえはいいですが、実態は始動したばかりで何もかもが手探りの状態にある、ごった煮科みたいなものです。成績は良くても、いざ実践でどうなるかを考えると不安要素しかない者が大半と思っておいた方がよろしいでしょう。

 むしろ、理論と技術のバランスが取れているという点では五十里先輩の方が信用できますし、信頼度も高いのではと思います。あまり面識はありませんが結果と成績表を見る限りでは、安定した人柄と能力を有する信頼して良い方だと感じましたが?」

「いや、だからね達也くん? そんなこと言ってる余裕がないからこそ今こうして困ってるわけであってーーー」

「無論、今年の大会の勝敗よりも来年以降の一高連覇のため多少の失敗は覚悟の上で未熟な新人を起用し、経験を積ませていただけるのは俺にとっても有り難いお話なのですが?」

「ぐ。ぐぬぬぬぅぅ・・・・・・」

 

 生徒会室の長に睨まれてしまった者が居座り続けているのも良くはなかろうと思い、今度こそ本当に席を立つ。扉に向かって歩きだした俺の視界に七草会長が会計の市原先輩にまで縋りつくことで足掻こうとする姿が映り込んでいる。

 

「リンちゃん! やっぱりエンジニアやってみないかしら? 今こそあなたの力が必要なのよ! 第一高校三年の人間秘密兵器として今こそ戦え市原リンちゃん! 世界はあなたを待ち望んでるわきっと!」

「無理です。私の技能では中条さんや五十里くん、司波くんの足を引っ張るだけでしょうから。ーーあと、そんな枕詞がつく名前の方は知りません」

「あう~・・・(ToT)」

 

 信頼する片腕にも棒にされ、涙の海に沈みゆく七草会長。・・・半分ぐらいは自業自得な言い回しであったが・・・まぁこれも生徒会長に立候補して当選した者の務めというものだ。頑張っていただくとしよう。

 

 そう思い、そのまま生徒会室を出ようとした俺が思わぬ人物から予想外の一撃を食らわされ精神的に大きく仰け反らされてしまったことを責められる者は、この地球上に存在しないと俺は確信している。

 確かに不意討ちとは予想外の位置から放たれるものであり、思わぬところを強襲されるからこそ奇襲と称する。それは軍事上の常識と言うより、知っていて当然の基本にすぎない。

 基本を怠ったことが敗因だとするならば、間違いなく俺のミスだと断言できるが、人はすべての自体を予測できるようには出来ていない。俺とても人によっては侮ってしまっていたことを認めざるを得ない相手というのはいるものなのだ。

 

 だが、しかし。なぜ彼女がアイツの名前を今このとき口にする・・・・・・っ!?

 

 

 

「あの、だったら北山さんがいいんじゃないでしょうか」

「ほえ?」

「はあ?」

 

 テーブルに突っ伏していた七草会長と、窓の外を遠い瞳で見つめていた渡辺先輩が顔の位置を戻して、どこぞのバカな幼馴染みが普段使っている奇妙な言語で応答を返していた。

 そして、いぶかしげな目つきで発言者である中条先輩を黙って見つめる。ーー雫の客観的評価がどういうものなのかよく分かる構図なのが、幼馴染みとして地味に痛い。

 

「北山さんって・・・雫ちゃんのことよね? あの子って確か機関工学系の成績はあんまり良くなかった気がするんだけど・・・」

「真由美。変に気を使って取り繕おうとするのはやめろ。人には時として・・・気づかないでおいてやる気遣いが棘にしかならない奴らも存在しているのだから・・・」

「う。ま、まぁ、でもいい子よね雫ちゃんは。性格的には、スッゴくよい子。いい子なのは良い事よ?」

「いい子ですね、確かに。それは私も認めています。もっとも、いい子以外に成りようもない能力の持ち主だとも思っていますが」

「そもそもアイツには、いい子以外に何か出来ることがあったのか?」

 

 ・・・雫。これがお前に対する赤の他人からの客観的評価だ。目を逸らさずに粛々と受け入れて自習自得するように。

 

「と言うよりも、アイツに機械を触らせること事態マズいのではないか? 正直なところ、私は自分以上に機械に触らせてはいけない人物だと思っていたのだが?」

「・・・私も最初は同じようなことを考えなくもなかったりした事もあるにはあったんですけどもぉ・・・」

 

 中条先輩が先の渡辺先輩の主張が正しかったことを証明する表現を使い、話し始めた内容は俺をして驚愕なさしめるに十分すぎるものだった。

 

 

「少しだけ話してみて分かったことなんですけど北山さん、超簡易魔法式について物凄く深いところまで考察して理解できてて再現まで出来るみたいなんですよ! 本人は何造ってるかよく分かってないみたいでしたけども!」

「自分がなにを造っているか分からないけど詳しく理解できてて再現可能って・・・ダメなんじゃないかしら・・・?」

「そ、それだけじゃないんです! CADについて学ぶために自主制作する初歩的なCADもどきを作る授業で出されてた提出物の内、一つだけ何だかよく分からない物があったから調べてみたんですけど、驚いたことに北山さんが自作した未発表未登録商品の超簡易魔法式グッズだったんです!

 なにを造ったのか本人自身が覚えてなかったので先生たちからの情報提供によるものですけど!」

「自分が造ってしまった最新科学の結晶を覚えてないって・・・ダメなんじゃないのか? それも凄まじいレベルで・・・」

「う、ぐ・・・で、でもぉぉぉ~・・・・・・」

 

 涙目になって必死に雫をフォローしてくれている中条先輩。後でアイツに菓子折りを持って行かせよう。それぐらいさせんと中条先輩が哀れすぎて不憫でならん。

 

「はぁ」

 

 俺の隣で深雪が浅く深い、矛盾を秘めた吐息をつくのが聞こえた。・・・何かあったのだろうか?

 

「七草会長。僭越ながら雫が持つCAD技術者としての腕前は、私が保証させていただきます」

「??? 深雪さんが? どうして・・・・・・」

「まことに心底遺憾ながら・・・・・・私の使っているCADにインストールされている超簡易魔法式の調整だけは、お兄様ではなく雫にやってもらっている身ですので」

「!? 深雪さんのCADを!?」

「あの北山がか!?」

 

 二人が驚くのを通り越して驚愕させられている姿を横目に見ながら俺は妹の真意を探ろうと、さっきから深雪の顔ばかりを伺い続けていた。

 

 ・・・なぜだ深雪!? わざわざあのバカに九校戦で大暴れさせてやる権利や資格を与えてやる必要はなかろうに・・・っ!

 

 内心では叫び声をあげている俺の本心など気づいた様子もないままに、深雪は真っ直ぐに会長たちと顔を合わせてにっこりと微笑み返してやっていた。

 

「はい。あの子には少々ツテがありまして、マウンテンのルイからCAD技術の手解きを受けていた時期が、ほんの一時だけとは言え一応は存在しているのです」

「「そうなの!?(か!?)」」

「はい。尤も本人は当時の時点であのような性格と頭脳の持ち主でしたから、細かい理由や理屈を教え込むより『やり方を教えて結果だけ正しく辿り付けさえすればいい』という方針で教授されてきた技術と知識です。魔法科高校の加点減点システムでは計れないのも道理ではないかと」

「「なるほど・・・・・・」」

 

 納得される(してしまう?)お二人。ーー深雪・・・気づかない内に交渉上手になっていたんだな・・・。これで多少は、あのバカのバカ行動に理由をこじつけることが出来そうだ。

 

 ーーと、思っていた俺がこの時だけは確かにいた。

 

 

 

 ガタタッ!!

 

 

「北山さんが“あの”ルイと!?」

 

 

 

 ・・・中条先輩。今日はどういうわけだか嫌なタイミングでばかり食いついてこられますね・・・。

 

「じゃあ、もしかしなくても北山さんはルイがどんな人か知ってるって事ですよね司波さん!?」

「え、ええ・・・・・・お、おそらくは?」

 

 深雪が「しまった」という表情で俺の方を見つめながら中条先輩からの質問に答えている。

 おそらくと言うか間違いなく助けを求められてるのだろうが・・・正直言ってどうすることも出来ない。想定外すぎる事態の連発で頭を付いていかせるだけでも精一杯なのだという俺の事情を理解してくれ深雪。

 

「いくら正体を隠してるって言っても、直々に指導を受けさせてもらえたなら知ってて当然ですもんね!? どんな人だったんですか!? 教えてください!」

「・・・申し訳ありません、中条先輩。雫から伝え聞かされただけで私は詳しく存じ上げないのです。すみません、お役に立てなくて・・・」

 

 丁寧に頭を下げながら、説明責任を雫に丸投げしてしまった深雪。・・・後でアイツの携帯にてきとうな言い訳台本をカンニング出来るよう送付しておいた方が良さそうである。

 

 

「・・・それにしても何故、中条先輩はルイの正体がそんなに気になるんですか?」

 

 こほん、と一つ咳払いをして注意を逸らして間を作り、その間隙を縫うように俺の言葉を深雪の答えにかぶせて滑り込む。よし、妹の救出は成功。後は、可能であるなら雫の今後も救うため努力だけはしてみるつもりでいるのだが・・・

 

「えっ? 気になりますよ当然。むしろ司波くん、気にならないんですか? ルイですよ? “あの”ルイなんですよ?

 長い間、実現不可能とされてきた魔法式の保存機能。もし仮に実現できて複製も可能だった場合には魔法兵器の大量配備が実現できてしまうと言う事情から不可能を承知で各国の軍や政府が毎年多額の国家予算を投じて技術確立を目指してきた魔法師にとって最大の憧れであり禁忌でもあった“それ”を限定的に使用可能にすることで兵器への流用をほぼ不可能にした民需用として世に出したマウンテンのルイ! 

 “あの”トーラス・シルバーが先に実現したループ・キャストと併用することで使い方はまさに無限大! 魔法だけでなく魔法技術の開発者たちにまで無限の可能性があることを業績という名の事実によって世に知らしめた偉大なる彼と並び称された大天才!

 しかもそのノウハウを惜しげもなく公開して民需にしか貢献しないことを明言してまでいる“あの”ルイと、トーラス・シルバーとどちらの方が上なのか?

 魔工技師を目指す者が二人以上集まると必ず論争になるとまで言われている天才技術者二人がどんな人たちなのか、興味が沸かないはずないと思いますけど?」

 

 何やら責められている様にも感じるひしひしとした迫力に、不覚にも俺はたじろかされてしまっていた。・・・いや、韜晦するのはよそう。意味がない。この瞳と視線は完全無欠に他のどんな言い回しようもなく責められているのだろうな、今の俺は・・・。

 

 

「・・・そうか。別に組み立てる順番がマニュアル通りでなくても、最終的に組み上がった完成品が見本通りに出来るのなら、それは工学科優等生を技術スタッフに推薦するのと結果だけ見れば変わらない・・・盲点だったわ!」

「うむ。前例は覆される為にあると言うのは、歴史が証明する事実でもあることだしな。固定概念に捕らわれすぎて思考が硬直していたから負けましたなどと、言い訳にもならん。ここは老いた患者に抜本的外科手術をおこなうことで回復をうながす荒療治に出てみるのも悪くはあるまい。

 最悪、患者が死んだとしても私たちが優勝して巣立った後なら次の世代が解決すべき問題になるのだし」

「問題を全部私たちの代で解決しちゃうと、跡継ぐ人たちがやることなくなって可哀想だしね~♪ 払い切らないで負債と借金を遺してあげるのも先代責任者の務めとも言うことだし☆」

 

 

 ・・・すこし離れた席では会長と風紀委員長が思いもよらない解決策を投じられたことで意気上がり、早速有効活用するために悪巧みの算段をはじめていた。その為、目の前で暴走し始めている中条先輩の件は見て見ぬ振り状態だ。日本の政治と特権階級が重なって見えてしまって少しだけ黄昏た心地を味あわされる。

 

 

「・・・認識不足でした。トーラス・シルバーのユーザーとしては全く不満が無いわけではないのと同じように、“あの”ルイがそれほど高い評価を得ているとは予想の範囲外でしたので・・・」

「はあ・・・なるほど。司波くんにとってはモニターを務めるほどトーラス・シルバーが身近な物であるように、お母さんみたいに世話してあげてる北山さんの先生だったルイに対してもわたしとは違う感じ方をされてるのかもしれませんね」

「すいません、中条先輩。今、断じて聞き逃すわけにはいかない名誉毀損に該当しそうな言が混じっていた気がしますので、その件について少しだけ深い説明と訂正をさせていただきたいのですが宜しいでしょうか?」

 

 ーーこうして、九校戦に出場する技術スタッフメンバーの候補に雫が挙がることが内定された。

 俺がこの件で冷静さを取り戻してから優先順位を間違えてしまったことと、休み時間の時間配分を取り違えてしまったことの二つについて激しく後悔したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の午後、二科生のクラスで行われていた体育の授業で。

 

「え、エリカ! テメェなんて格好をしてきてやがる!?」

「何って、伝統的な女子用体操服だけど? ブルマーって言うのよ、知らないの?」

「いや、俺が言ったのはそこじゃねぇって! お前の隣で同じの穿いてるアホっぽいのにまで何て格好させてんだって言ってるんだよ!」

「あ、あー・・・この子の事ね。うん、それはまぁ言われる前には気づいてたんだけど、着せちゃった後だったし、ちょうど二着でてきてたから・・・それにスコート穿かずにアンダースコートだけ着ける変態趣味よりよっぽどマシだと思わない?」

「無理だよ!? せめて、お前ぐらいには発育してからでなきゃネタに見えねぇんだよ! 犯罪臭しか感じられねぇんだよ!って、ぶべはぁっ!?」

「ふん!!」

 

 バギィッ!!!

 

「・・・エリカ!? 二科の知人から聞かされてまさかとは思いながらも飛んできたけど、本当に君はなんて破廉恥な服装で校内を闊歩してたんだ! 千葉の家の家名に傷を付ける気なのかい!? 早急に着替えてまともな服装になるべ・・・き・・・」

「あら、ミキじゃない。どうしたの? そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔しちゃって」

「――ぱ」

「ぱ?」

 

 

「パンツじゃないか! 昔のモラル崩壊時代に女子たちの間で流行してたっていう『パンツじゃないから恥ずかしくない』を大義名分としたパンツファッション姿じゃないか!

 エリカ! 君はクラスメイトの女子生徒に、なんて変態ファッションをさせてるんだばはぁっ!?」

「ふぅんっ!!」

 

 ババギィィィッッ!!!!

 

「死ね!変態男ども‼ 死んで永遠に口を閉じて黙り込めぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

 

 

「・・・?? えっと・・・人間シュート、で仲良くゴールイ、ン?」

 

 

つづく

 

注:幹比彦の生家である吉田家は歴史と伝統ある古式魔法を受け継いできた家です。そのため古い資料が結構ある設定に変えてあります。

 ただし、古式故に時代に乗り遅れがちで誤った解釈や間違った伝え方がされてる部分も多々あるというオリ設定が付与されてることをお伝えしておきますね。




補足説明:
深雪も一応、雫と一緒に九校戦に出られることを楽しみにしてはいます。
ただ、一緒に来られると兄と過ごす時間が半分になってしまうので微妙な気持ちだったというのが今話の彼女の行動理由になってた妹乙女心です♪


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第16話「北山雫は魔法科高校の劣等生?」

しばらく間が空いた更新となります。雫が九校戦に技術スタッフとして選ばれる回です。
原作の展開上、どうしても主人公スゲーな展開にせざるを得ず今作の作風には合わせられなかったため文章が雑になってしまってることについて先に謝罪させていただきます。ごめんなさい。
本音を言うともう1話くらい達也さん視点で書こうかとも思ったのですが、同じ状態がいつまで続くか予測しづらいため割り切らせてもらった次第です。
なにしろ原作でも屈指の『俺TUEEE!』展開ですからね、九校戦編って・・・。


「雫。聞いて欲しい話があるから部活連本部まで、俺と一緒に来てくれないか?」

「?? ・・・わかっ、た・・・」

 

 学校が終わって帰ると、き。達也さんからそう言われてついてきた、ら。

 

 

「生徒会は技術スタッフとして、1年E組の北山雫さんを推薦します」

 

『二科生が!?』

『CADの調整なんかできるのか?』

 

「・・・あうあうあう(オロオロオロ・・・)」

 

 

 なにかの会議をしてい、てなにかのお仕事を頼まれ、て恐い顔した人たちに睨まれ、た・・・。

 ううう、こわ・・・くなくもなくもな、い・・・(ビクビク、ブルブル)

 

「だが、彼女はあの司波達也も連名で推薦してきている。新設された工学科初の主席入学者で風紀委員も兼任している彼は別格の存在だ。いくら何でもその彼が無責任な人選をするはずもない。

 北山君個人への評価だけではなく、推薦者両名の立場から来る推薦であることも考慮した意見を言うべきではないだろうか?」

『!! そ、それは確かに一理あると思われますが、しかし・・・』

『そうです、先輩。我々大会に選手として参加する者たちの心理も慮って頂かねば結果に差し障りが生じかねません。スポーツはメンタルの部分も重要なのですから、私たちが信頼できるエンジニアでないと本来の実力が・・・』

「むぅ・・・。それもまた一理ある、か・・・。難題だな」

 

 ・・・??? な、なに言ってるのか難しくてよく分からな、い・・・。今って英語の授業じゃなかったよ、ね・・・?

 

 恐い顔した男の人の先輩たちもこわ・・・くなくもないんだけ、ど、もっと恐いのが部屋の真ん中辺りに座ってるリーナ、で。

 

 

「・・・・・・(イライライライラ、ムカムカムカムカ、とんとんとんとんとん・・・・・・)」

 

 

「ひぅっ!?」

 

 な、なんでか分からないけ、ど会議が始まってからずっと物凄く不機嫌そ、う・・・。

 つ、机を叩く指の音がこわ、こわ、こわ・・・・・・っ

 

『なによりも九校戦は日本の魔法師にとって非常に重要な、由緒と伝統あるスポーツ大会です。

 如何に実績と信頼のある人物から推薦されたと言えども、本人自身に実績がないのは如何ともしがたく、他の候補の実力と声望が横並びにある現状にあるなら成績と知名度で選ばれた方が結果的に良いのではないかと――――』

「―――ウザい」

『思いま・・・す。―――え?』

 

 先輩の人がなにか言ってる途中、でリーナがボソリと恐い声で言ってきて・・・こわ、こわ、こわ・・・っ!!

 

『失礼。君、今なんて言っ―――』

「ウザいって言ったのよ、まったく・・・正論言うフリして本音も出せないチキン野郎の無駄話に付き合わされる身にもなってちょうだい。

 要するにウィードのシズクが、ブルームの自分たちと一緒の大会に出場するのが気に食わないってだけでしょ?

 それならそうと最初から言えば良いのに、グダグダグダグダ愚痴ばっかり聞かされて退屈すぎるから早く会議を進めさせてくださらないかしら? ハッキリ言ってアンタの話は聞いてるだけ時間の無駄よ」

『な!?』

『き、君! 上級生に対して失礼じゃないか! 外国人だからと言って日本に来たからには母国流を貫いて文化の違いを尊重しないのは感心しないな!』

「あら、ワタシはちゃんと尊重しておりますわよ? 『九校戦は学校の面子が掛かっているから選手は能力優先で選ばれる』。だからこそ、二年生のくせして明確な反対も批判もできない先輩方より強いワタシが本心を代弁して差し上げたんです。

 ――なにかワタクシ間違っていましたかしら? 一科で二年で公の場で感情論を口にする勇気もない先輩方?」

『ぐ。そ、それは・・・』

「魔法師が優遇されるのは国にとっての戦力だから。学校の成績で優秀だろうと、学校のルールに会わせてくれる敵なんている訳がない。

 なら魔法師の優秀、非優秀なんて結果論でいいじゃないですか。

 やらせてみて結果的に勝てたら優秀、負けたら推薦した人ごと連帯責任で罰を与える。未だに最も多い魔法師の就職先である軍では当たり前・・・だそうですし、今のうちから慣れておかれるのも悪くないのでは?」

『う、ぐ。むむぅぅぅ・・・・・・』

 

 ・・・なんだろ、う・・・。

 リーナまで難しくてわかんないこと言い出しちゃっ、た・・・。

 

「とゆーか、二科生にCADの面倒見てもらいたくないなら、自分でやれるようになっときなさいよ同級生。ちなみにワタシは出来る自信がないけどね?」

『出来ないのかよ! 出来ないのに偉そうな顔して講釈たれていたのかよ!!』

「ええ、もちろん。ワタシは自分が出来ないしやりたくないからこそ、シズクにやってもらうと決めてる身ですので。

 どうせ任せるなら、負けたときに怒って八つ当たりしても逆恨みだけはしないと信じられるエンジニアに任せたい。それが今のワタシが貫きたい信頼の在り方ですから」

『!!!!』

 

 ・・・・・・??? えっ、と・・・つま、り・・・。

 ――私、リーナが負けたらブたれる、って言われた、の!?

 

 

 パチパチパチ。

 

「見事だ、クドウ。言い方には多分に問題があったが、俺もお前の考えに賛同しよう」

『十文字会頭!?』

 

 おっきな人が拍手しながら言ってき、た。

 

 ・・・・・・えっと・・・ここって、高校なんだよ、ね・・・? 校長先生さ、ん・・・?

 

『会頭! 十文字会頭まで北山を推薦されると仰られるのですか!?』

「それとこれとは話が別だ。俺が信じたのはクドウであって北山ではない。

 だが、だからこそクドウが北山を信じて委ねるとするなら、俺も北山を信じて任せて責任を負う。それが信頼に対して負うべき義務と責任というものだ」

『し、しかし・・・』

「何より、差し迫った課題としてエンジニアの数が足りていない。仮に能力が同じであるなら、結果に悔いを残さないで済む人選が尤も望ましいのは当然の差配だ」

『・・・・・・』

「無論、北山の腕が使えるかどうかを試す作業はやらせる。だが、先にお前たちが言っていたとおり、感情が絡んでいる問題である以上は結果さえ出せばと言うものではないことも理解できている。

 故にこそ、やらせる。やらせてみて北山に任せても良いと納得できた者だけサポートを受けてくれればそれで良い。

 受けられない者は、彼女を推薦した俺か七草に申し出てくると良いだろう。可能な範囲で期待に添える人材を用意できるよう最大限努力してやる」

『う・・・・・・』

 

 ・・・・・・。???

 オジサン顔の人ま、で難しい言葉を使い出しちゃった・・・。やっぱり見た目が時代劇っぽいせいなのか、な?

 

 

「僭越だが、私もクドウの意見に賛同した十文字会頭の言葉を支持したい」

『渡辺風紀委員長!? あなたもですか!?』

「九校戦には一選手として参加させてもらう身ではあるが、故にこそクドウの意見と十文字会頭の考えには納得せざるを得ない部分が含まれていたからな。

 誰が選ばれるにせよ、我が校は前回、前々回の優勝校である以上は追い越し狙いの対象であり、無難な選択肢が最善の結果をもたらすことを保障してもらえない立場にある。

 なにしろ常に進取の気概を持てなくなった王者は転落するものと相場が決まっているものだからな。出来るなら、リスクを恐れず前へ前へと進むモチベーションの方を優先すべきだと私は思う。

 こう言ってはなんだが、他の候補がいないからと安全策でお茶を濁すのは気持ちの面で守りに傾いてしまっている。剣術家としては余り褒められた精神状態ではなかったぞ?」

『う・・・ぐ・・・』

「・・・・・・言い出しっぺの私が言うのは説得力がないと思われますが、私も摩――いえ、渡辺風紀委員長と同じ見解を有しています」

『生徒会長!?』

「気持ちの面でリスクを恐れて、挑戦することが出来なくなったスポーツ選手は負けます。これは生徒会長としてではなく、スピード・シューティング優勝者としての意見です。

 もちろん会議である以上は強権を発動する類いの言ではありませんが、九校戦三年連続参加者からのアドバイスとして皆さんの心に止めておいて欲しいと思った言葉ではあります。出来れば忘れず覚えておいて役立てて欲しいと願うばかりです」

『・・・・・・』

 

 今日はなんだ、か、みんな古代スワヒリ語でおしゃべりする、日だと思いま、す・・・。

 

「要するに、俺たち責任者三人は北山の九校戦技術スタッフ参加については納得済みであると言うことだ。なら、後は共に選手として競技に臨むお前たちの気持ち次第と言うことになる。

 が、それが一番重要であり他の何より優先すべき事柄であると言うことも理解している。北山の技能がどの程度のものか分かっただけでは、その不安は解消に至らないであろう事も含めてな。

 だが、だからと言って実際に確かめさせることなく我々三人の決定を押し付けられたのでは不満解消どころか悪化する一方なのも事実であろうと、俺は思う」

『・・・・・・』

「司波、CAD調整設備の使用許可は取れたか?」

「はい。先ほど会頭から命じられて問い合わせました。今降りたところです。いつでも使用可能です。ですが―――」

「実験台を誰がやるかが問題、か?」

「はい・・・本来であるなら共同推薦者のなかで最も地位の低い自分がやるべき役目なのですが・・・。

 何分にも技術スタッフとしての参加が決定されている側の人間であり、北山の知己でもある関係性から身内贔屓の可能性が強すぎる立場にあることから、選手一同を納得させうる感想を言える自信がありません。

 と言って、他のお二方の生徒会長と部活連会頭にその任を押し付ける自分を許せる者など、同じ大会に出場する『仲間』のなかには存在しているはずがないと信じてもいます。

 ――出来ますなら、一高三連覇を志す同士として選手のなかから「我こそは」と名乗りを上げてくれる方の登場をと願うばかりです」

『・・・う・・・ぐ、むぅ・・・・・・』

 

 ・・・あ、れ?

 なんだか達也さん、いつもと同じ営業スマイルなの、に、悪いえが、お?

 

「司波。CAD調整を実力が定かでない魔工師に任せるのは大会が迫っているこの時期には選手にとって厳しすぎる。ここはやはり俺がやろう。多少の機能障害程度が起きたとしても俺は大会三連覇を逃すほど弱くはない自信がある。それを証明するに足る実績もあるつもりでいる」

「いえ、彼女を最初に推薦したのは私なのですから、その役目は私がやるべきです」

「ふっ・・・。『最強世代』の内二人が立候補して私が名乗り出ない訳にはいかんだろうからな。私も参加希望だ。今日だけは北山にもてあそばれる玩具になってやるとしよう」

『そんな!? 十文字会頭! 七草生徒会長! 渡辺風紀委員長がそんな危険な役目を押し付けられる必要はありません! ここは我々一年一科生の内の誰かが―――っ』

「いえ、その役目、俺にやらせて下さい」

『桐原剣術部部長!? どうしてあなたが!?』

「どうしても何も、一年坊から最初に啖呵切られたのは俺たち二年なんだぜ? しかもあんな格好良いこと言われて言われっぱなしのまま黙り込んでたら男が廃るってもんじゃないか。 せめて勇気あるところだけでも見せとかねぇと、最近できた彼女の尻に敷かれちまいかねねぇんだよ。小っ恥ずかしいから敢えて聞くなよ、こういう女の前で見栄張りたい男の問題をな」

『う。す、すいませんでした・・・』

 

 ・・・・・・。?????。

 なんだか今日、はみんな悪い顔してるように見えるけ、ど・・・ハロウィーン?

 

 

 

「さて、場所を実験棟に移した上で北山の技能テストを行いたいと思いますが・・・何分にも時間が時間です。あまり難しい行程が必要な作業は皆様方のご家族に余計な心配をかけかねません。簡易的であり、即興でおこなえる安全第一仕様ができるかどうかで試させたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「問題ない。どのみち俺を含めて選手のほとんどはCAD調整については門外漢だ。知ったかぶって決定にイチャモンを付けるような人間を俺たちも、学校側も選抜しているはずがない」

『う・・・(一部選手)』

「・・・では、北山さん。こちらへ」

「??? う、うん。わかっ、た・・・」

 

 てててててて。

 

「(ボソリ)・・・今までの話は忘れろ。動き易くさえしてくれたらそれでいい」

「え? あ、う、うん。わかっ、た・・・?」

 

 なんだか今日、は不思議なことばっかり聞かされ、る。

 

「じゃ、頼んだぜ北山。・・・壊すなよ?」

「う、ん。――じゃなく、て。は、い・・・。壊さない作業、を頑張りま、す」

「いや、壊さない作業じゃなくて調整作業を頑張ってくれよな?」

 

 あ、れ? なんだか一瞬だ、けみんなからの恐い視線、が別のものになってたよう、な?

 

 

 かちゃ、かた、ぽち、ぽち。

 

 

「ね、ねえ中条さん。あの子・・・なにやってるの? 私にはさっきから――人差し指だけでタイピングしているようにしか見えないんだけど・・・?」

「しかも、スッゴくタイピング速度が遅いし・・・本当に大丈夫なの? あの子って・・・」

「・・・あ。でも見て画面のデータ。全然無駄がない。

 むしろ、要らないところはバッサリ切っちゃったり、使ってない部分は勝手に外しちゃったりしてるし・・・どう見ても簡易的で安全第一仕様には見えないんだけど・・・?」

「司波君・・・あなたという人は、どこまで笑顔で腹黒いことを・・・っ!!」

 

 

 ・・・・・・??? なんだ、か後ろが騒がし、い?

 達也さんがいいって言ってた、し、別に良いのか、な?

 

「はい、これで出来たと思いま、す?」

「おう。・・・つか、作業完了時の語尾が疑問形ってどうなんだよ・・・」

 

 

「どうだ、桐原。感触について率直な感想は」

「・・・驚きましたね。軽いです。今までのが嘘だと思えるくらいに」

「それは調整前より性能が上がっていると解釈して良いのだな?」

「いえ、多分違いますね。これは気持ち的な問題だと思います。性能そのものは大して変わってないか、全く変わってないんだろうと身体が体感として理解できるんですが、気持ちの方がやたらと軽くなったように感じさせてくれる。

 理屈じゃ上手く説明できませんが、とにかく前の時より心が軽い。余計な飾りを取っ払った後みたいに」

 

 

『・・・一応の技術があるのは分かりましたが、桐原個人の主観的感想に過ぎませんし、当校の代表とするレベルには見えません』

『仕上がり時間も、平凡なタイムです。あまり良い手際とは思えない。そもそも今時、指一本でタイピングする魔工師など聞いたこともありませんし・・・』

『やり方が変則的過ぎましたね。それなりに意味があるのかも知れませんが・・・・・・』

 

 

「・・・いや、あのやり方で平凡な仕上がりに平凡タイムで出来る時点でスゴすぎるでしょ、普通に考えて。なんならアンタ達やってみなさいよ自分でも。

 少なくともワタシだったら、三十秒で調整マシーンごと投げ捨てたくなる自信があるわよ? 全然思うように進められないストレスが原因で・・・」

 

「・・・まことに遺憾ながら、私も同感だ。これは入学直後の北山と司波から模擬戦を挑まれ受けてしまい敗北を喫した経験者から同級生諸君に対して、同じ轍を踏まないで欲しいと願ったアドバイスだと思っておいて頂きたい」

 

 

『・・・・・・・・・』

 

 

「????」

 

 

 なんだ、かよく分からないけ、ど九校戦ホソクシキって言うのに出るよう言われまし、た。

 

 

つづく

 

 

 

おまけ「会議の後の、リーナちゃんと達也さん」

 

「なによ、タツヤ。会議の後ワタシにだけ残れだなんて。ひょっとしてデートのお誘い?」

 

「茶化すな。礼を言いたかっただけだということぐらい、分かっているのだろう? 過去に何があったか詳しくは知らんし聞く気もないが、些か以上にひねくれすぎた性根は改善するか元に寄せるかした方がお前自身のためにもなると俺は思うが?」

 

「ふん! 大きなお世話よ。本音と建前を使い分けるフリして保身図ってるだけの連中は見ているだけで頭に来るの。だから正直さの美徳で言ってやった、それだけよ。

 無闇に言葉を飾り付けてて腹立つのよねぇ。・・・せっかく綺麗な言語なのに・・・。

 どうせ敵を責める道具として使うなら武器にしろって感じよ、ドン臭い。あー、面倒くさい奴らだった。

 ワタシがワタシのやりたいようにやってることで他人がゴチャゴチャ横から口出ししないでよね、バーカ」

 

「やれやれ・・・。だが、しかし今日は助かった。改めて礼を言う。あの時のお前の言葉があってくれたおかげで会長たちとの無言の連携が成立させられた。感謝している。

 ――正直、どのような経過を辿ろうとも雫が技術スタッフに選ばれるのは確定せざるを得ない窮状にあったのは事実だが、逆に君の挑発が無かった場合には今少し揉めてから蟠りを抱いたまま大会参加が決まっていただろうからな」

 

「・・・前から気になってたんだけど・・・ここってそんなに悪い状況なの?」

 

「悪い」

 

「・・・それぐらいに厄介なんだ。気持ちの問題という奴はな。俺にとっては特に解決しづらい難題であり、多くの場合は悪化させやすい性質を持っているらしいと最近になって気づき始めてもいる。

 だからこそ今日はお前に助けられた礼を言いたくなったのだが・・・・・・」

 

「???」

 

「要件はそれだけだ。引き留めて悪かったな。遅くなりすぎる前に帰れよ。それじゃあな」

 

「あ、ちょ、ちょっと待ちなさいタツヤ! 女の子を放課後の学校に一人置き去りにして帰るなんてステイツでは有り得ない非礼なのよ!

 気持ちの問題を解決しづらい性悪な性格もってるって言うならワタシがレクチャーして上げるから家まで送りなさい! そしてタクシー代も払いなさい! あと、お礼のお菓子代も!

 ワタシ、G3のクワトロッソって言うケーキが食べてみたーい♡ なぜだか分からないのだけど名前にものすごーくシンパシーを感じて仕方がないのー♪」

 

「意外と厚かましいな! ひねくれた後のお前の性格って!!」




小ネタ説明:
サブタイトルの『?』は原作に対するちょっとした皮肉です♪
「これのどこが劣等生なんだよ!? 超優等生じゃねぇか!」的な奴です。読んだ人誰もが一度は思ったりしますよね? それを戯画化した内容の回に使ってみました(^^♪


書き忘れていた雫のCAD調整技術についての説明:
細かい指定は出来ない代わりに大雑把な表現で注文すると『なんかよく分かんない』ながらも出来てしまっている、天才では無く天然タイプの能力。
達也のように牛山さんと二人で一人になれるタイプのものでは無くて、あくまで個人としてのみ発揮できる力。他人にはなにやってるのか、分かるようで分からない。本人も感覚でやってて考えてないから分かっていない。

自分で把握できないせいで、誰かのサポート無しでは役に立たないオリジナル技術と言う設定です。


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第17話「雫の熱闘九校戦は始まらなかった」

更新です。今回は「魔法科高校の優等生」6巻の番外編『雫の熱闘九校戦』を下敷きにして書いたお話です。
本当だったらバスでの移動を書く予定だったのですが、参考までに優等生読んだら愛梨とかの第三校少女たちが可愛かったものですからつい・・・(赤面)
次話は普通に九校戦編描かせてもらいます。


お詫び:
最近、主人公がチート化してきてしまってて誠に申し訳ございません。
原作の展開上、完全な劣等生のままではオリジナルストーリーに移行する以外の策が思い浮かばず、『頭の良さとは別の才能』を付与せざるを得なくなった作者の未熟さゆえの欠陥です。タイトル詐欺を連発しまって本当にすみません。


 2094年、夏。

 今年もついにこの時が来た。

 

「お嬢様、お車の用意ができております」

「ありがとう。じゃあ、行ってくるわね」

 

 

 家の屋敷から自家用車に乗り込み、専属運転手も兼ねた執事の安全運転で目的地へと向かう私。

 高速道路でリムジンを走らせながら窓外に映る光景を眺めつつ、私『一色愛梨』は魔法師としての在り方に深い悩みを抱えていた。

 

 

 ・・・後に『魔法師にとって自己対面の時代』と評されることになる時代が始まったばかりの頃、多くの魔法師にとって未来は不透明で不安定なものにしか写らなくなっていた。

 

 一昨年に発表された『超簡易魔法式』によって「魔法が使えるだけでは特別待遇が得られない」事実を、魔法グッズ販売で高所得者になった多数の一般人という目に見える形で証明されたことにより世間一般から魔法師に対する偏見と盲信が同時に揺らぎ始め、根拠としていた拠り所を給金という身近で具体的な数字によって否定されてしまったことから自分たち魔法師の存在意義は失われたのだと誤解する者が増えていたからだ。

 

 

 今さら確認するまでもないけれど、超簡易魔法式の登場で私たち魔法師の存在価値が下がることは“有り得ない”。

 超簡易魔法式が世に出た後も、私たち魔法師の需要は些かも目減りしていないのは当たり前の事実なのだ。

 

 もともと魔法師が優遇されていたのは、社会に必要とされる希少スキルを有していた一部の者たちだけであって、一部の高所得者が全体の総収入を底上げしていただけに過ぎない。

 平均すれば確かに魔法師の収入は一般人より高くなるけど、絶対数で圧倒的に劣る相手と同じ分野で比べ合っても意味がない。比率と絶対数は=ではないのだから。

 

 社会維持に求められる魔法師の技能は極めて高水準なもので、これは簡単な魔法であれば機械で複写できるけど、複雑な魔法になると複数の機械をつなぎ合わせないと再現できない簡易魔法式では真似することが決して出来ない。

 

 あるいは、“コストに見合わない再現に意味は無い”と言うべきかも知れない。

 優秀な魔法師一人いれば済む作業を、複数の高級簡易魔法式製品を繋げ合わせて再現したのでは本末転倒になってしまう。

 

 今も昔も魔法師に求められるのは弛まぬ修練と、奢らずに上を目指し続ける向上心だけなのだ。

 そのことを承知していた私にとって超簡易魔法式の登場は、驚きでこそあれ自分が寄って立つ地面を揺るがすほどには全く至らず、今までもこれからも私は私で在り続けることに何らの不審も抱いてはいない。

 

 

 ・・・ただ、皆が皆私のようになれないのだという事実を再確認させられる日々を送っているのも事実ではあった。

 

 

 

「・・・『魔法師による犯罪相次ぐ。今度はナンバーズに連なる末席の犯行?』・・・か」

 

 外の景色を眺めるだけに飽きた私は端末を起動し、今朝のトップニュースに視線を落として溜息と共につぶやいた。

 最近、溜息の回数が増えていることを自分でも自覚させられている。

 

 

 簡易魔法式の登場によって一般人と魔法との距離は縮まり、より身近になった魔法に興味を持った人たちが増えてきたことで魔法師への偏見や差別は減少する傾向にある。

 

 その一方で、魔法師にとっての魔法から“特別”であることを奪われたと感じて、凡俗に落とされたと解釈した末に自分勝手で虫の良い動機による魔法師の犯罪が増加傾向にあるのもまた事実だった。

 

 どんなに強力な力を持とうと、社会に必要とされない魔法は富も名誉も、もたらしてはくれない。当たり前のことではあったけど、その当たり前を実感する必要性が今までの魔法師社会には存在していなくて、今の社会には至る所で触れさせられてしまう。

 

 事実を事実として認識させられた途端に、“知っていること”と“実感”との間に広がる狭間に飲み込まれてしまう人が後を絶たないのが、今の魔法師たちが置かれている現状だった。

 

 

(私にとっての超簡易魔法式は、一色という家を背負う立場から“降りられない理由を奪う”ものだった。

 魔法師に生まれた者が魔法師として生きることを“義務ではなくした”。ただそれだけの物。・・・そう思えたこと自体、特殊なのだと言われてしまえばその通りなのかも知れないけれど・・・)

 

 幸いなことに、私は新しい時代に無理なく適合することが出来たし、栞や沓子たち周りにいる主立ったメンバーの多くが大なり小なり課題を抱えながらでも乗り越えられた。

 

 でも―――“一人残らず乗り越えられた訳じゃない”。乗り越えられずに過去へ獅噛み付く道を選んだ知り合いや知人、遠戚も大勢いた。

 “生まれた家が優れていても、子供たち全員が成功する訳がない”。子供でもわかる当たり前のことだけど、その当たり前が『当たり前のこととして起きるようになった』今の時代に、私は具体性のない不安に襲われることが多くなっていた。

 

 

「――着きました、お嬢様。会場前でございます」

「・・・ええ、ありがとう。行ってくるわね?」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 声をかけてねぎらい、外に出る。

 伝統的な魔法師社会が揺らいでいる今の時代になったからこそ、必ず来たいと思えるようになった場所。私も来年は同じ舞台に立つことを目指して日々修練に励んでいる憧れの会場。

 

「全国魔法科高校親善魔法競技大会の会場・・・・・・九校戦の開幕!!」

 

 

 移り変わる世の中にあって、今までと変わらぬ在り方のまま立ち続ける、日本の魔法科高校すべてにとって最重要イベントの一つ、『九校戦』が開催される場所!

 

 今と昔が混在している時代の中で、昔の在り方をそのまま残して今に受け入れられているこの場所こそが、双方をつなぐ橋としての意味を持つのだと今の私は強く確信している一大イベントだった!

 

 

「さて、それじゃあ急いで座席を確保しなければね。去年のこともあるし、今年はきっと座席争奪戦でも熱くなるだろうから・・・っ!!」

 

 毎年優勝候補として挙げられる伝統と格式ある強豪校、第一高校。その一年生たちが一昨年に見せた圧倒的活躍を目当てに例年以上の観客動員数が予想される現状、のんびりしている暇はない。早く会場内に入って座席を確保しないと、良い観戦場所を確保できるわけがないのだから!

 

 その為には多少の誘惑になど惑わされてはいけない。全国から魔法科の学生たちが集う大会の性質上、様々な地方の新商品が並んでいたり、美味しそうなご当地グルメを販売する屋台が軒を連ねていたりもするけれど、魔法師社会の今と昔を繋げる大会を観るという使命を帯びて訪れた私を止めるほどの力を有しているはずがない!!

 

 ・・・・・・あ、クルーザポップコーンの九校戦限定味だわ。ちょっとだけ試食してみたいかも―――って、あら?

 

 

「え。あれってもしかして・・・・・・子供?」

 

 

 小学生くらいの背丈をした女の子と、高校生ぐらいの身長を持つ少年の二人連れが屋台の前で、何を注文するかで揉めている姿を見つけた私は少しだけ意外そうな声を上げてしまっていた。

 

 

「・・・どうだ、雫。どちらにするか決まったか? そろそろ悩み始めてから二十分近く経つのだが・・・」

「う、ん・・・。後ちょっとだけ待っ、て。今どっちかに絞ったと、こ・・・」

「――いや、絞るもなにも食わず嫌いのお前には最初から、選択肢は二つしか存在しないだろう?」

「あ、うぅぅ~・・・」

 

 

 場には似つかわしくない、と言うほどではないのだけれど、高校生のスポーツ大会ではなかなか見かけ難い取り合わせに意外さを感じて黙ってみていたところ、悩んでいる料理の名前二つが聞こえてきた。

 

 

「うぅー・・・でもやっぱ、り決められな、い・・・。

 『モノリス・コード大木剣』と、『アイス・ピラージ・ブレイク羽織』。どっちをお父さんのお土産に買っていけば喜ぶの、か分からなく、て選べな、い・・・」

 

「あれ!? 選んでるの料理じゃなくてお土産なの!? だって、あれ? 今って開催日当日で最終日なんかじゃ・・・あれぇーーーっ!?」

 

 背が小さい子の方が言った言葉に、私は大いに慌てふためき狼狽え騒ぐ!

 だって日程おかしいし! 今時旅行先でお土産屋に行くときでも帰る当日か前日が基本だし! どんなに早くても、十二日から十日と長丁場になりやすい九校戦の開催当日に買おうとするのはおかしすぎるし!

 

 

 あまりにも非合理的で計算の合わない行動と思考に、軽いパニックを誘発されていた私は、二人が自分の声に気づいて振り返っていた事に気づくのがおくれて、顔を上げたときには目が合ってしまった。

 

 

「う・・・」

「「・・・??」」

 

 

 二人が黙って見てきたのに対して、私はあからさまに声を上げてしまって不思議そうな顔して見られてしまった。

 別に特別何かがあったという訳ではなくて、こういう場で相手の素性が分からない状態での対応方法がすぐさま頭に浮かんでこなくて困っただけ。

 

 ・・・簡易魔法式登場前から、ずっと家柄と能力と容姿で見るのが基本だったものねぇ。

 いきなりの不意打ちで目が合った一般人なのか、九校戦に参加する選手の一人が応援にきた実家の妹を案内してあげてるだけなのかさえ判然としない相手と軽妙な会話が繰り広げられるほど私の普通の対人経験は豊富ではなくてよ?

 

「え、えーと、その、えーっと・・・・・・」

 

 適切な言葉が思い浮かばずに意味の無い単語をつぶやいてしまっていた私の内心を察してくれたのか、男の子の方が声をかけてきてくれた。

 

「??? ・・・ああ、これは失礼を。連れがあなたの注文を遮ってしまっていたようですね」

「え」

「ほら、雫。早く選んで退いて上げろ。他のお客さんに迷惑になってるぞ?」

「わ。ほ、本当、に? じゃ、じゃあ早く退、く。選ぶのは後回、し」

「そうした方が良い。もともと俺たちの来た目的は別にあるのだし、急ぐ理由はまったくないのだからな」

「え。いや、あの、えっと・・・」

 

 なんだか誤解に基づく気遣いをされてしまっているらしい。

 相手の間違いをときたいと思いこそすれ、相応しい言葉が出てきてくれない。コミュニケーション不足は魔法の修行だけでは補えないのだという事実を私は今知ることができた。・・・今知っても今役に立たないのなら何の役にも立たない気がするのだけどね!

 

「お嬢様ーっ! 達也様ーっ! どちらに御座すのですか!? 返事をして下さいませーっ!!」

 

 どこか近くからお爺さんの声で、誰かと誰かを探している叫びのようなものが聞こえてきたのは丁度その時だった。

 

「ほら、雫。お迎えだぞ。早く戻って勉強の続きをするよう叱ってもらうといい、黒沢さんをこれ以上怒らせないうちにな」

「うぅぅ・・・サボってた訳じゃないも、ん・・・。ちょっとだ、け息抜きに逃げ出して、ただけだも、ん・・・」

「同じだ馬鹿者。だいたい同じ部屋でばかり勉強していると捗らなくなる等と不用意な発言をしてしまったから、会長が気を利かせてお前が受験勉強に集中し易いようにと九校戦の特別観戦チケットを購入してくるなんてバカな展開を招いてしまっているのだぞ? 少しは反省して真面目に勉学にも打ち込むように」

「うう、ぅ・・・達也さん、のアルキメデ、ス・・・」

 

 うん、なんだかよく分からない会話内容だったけど、一つだけ分かったことがあるわね。

 それは、私の家も結構な資産家で、だからこそ簡易魔法式の登場後も性質と得手不得手が読み取れるようになったんだと理解していた昨日までの自分自身が恐ろしく小さい中堅企業の社長令嬢に思えてくるぐらいに、この子のお父さん物スッゴいお金持ちだわ確実に。

 

 九校戦の特別観戦チケットなんて、大枚はたいただけじゃ手に入らないのよ絶対に!? コネとか縁故とか色々な物をつなぎ合わせて併用することでやっと一枚だけ手に入れられるかもしれないと言われている伝説のチケットなんだから!

 

「お嬢様ーっ! 達也様ーっ!?」

「ふむ、タイムリミットのようだな・・・。では、行くぞ雫。これ以上は時間の無駄だ。中学生にとって受験勉強の時間は一秒たりとも無駄にする訳にはいかんのだ」

「あー、う~・・・・・・(木刀に伸ばすけど、届かないで空を切る手)」

 

 訳の分からない二人組は、最初から最後まで訳が分からない会話をしたまま去って行こうとし、男の子の方が横を通り過ぎるときに「・・・ああ、そうだ」と、渋い声音で言うのが側で聞こえてドキリとさせられてしまう。

 

 なんと言えば良いのかしら・・・。全ての感情を削り取られて空虚になってしまった心の中に、誰か特定の個人に対する熱い感情だけが満たされ尽くしていて、若い男性の体に成熟して渋みと冷静さを兼ね備えた大人の精神を複雑に溶け合わせてブレンドしたような、飲めば飲むほど苦み走って旨味を増していく一種独特の色を持つ男声。

 

「よろしければ、こちらをどうぞ。急いでいるところを自分たちに付き合って頂くために遅れさせてしまったお詫びの品です」

「は、はぁ・・・。ってぇ、九校戦の特別観戦チケットじゃないの!」

 

 持ってるだけで事実上の顔パスなんていう無双チケットを軽い仕草で手渡され、私は何が何だか分からなくなってる精神のまま。

 

「構いません。もともと俺もコイツも、九校戦には碌な知識を持ってはいませんからね。

 知りもしないで見ていて楽しいと言う人よりも、好きなスポーツを楽しむために使ってもらった方がチケットも喜ぶのではないかと、そう思っただけだけですので。他意はありません」

「で、でも・・・」

 

 正直、今から走ったところで席取りには絶対間に合わないと断言できる状況の私にとっては、願ったり叶ったりな好待遇ではある。

 とは言え、物の受け渡しはwin₋winであるのが理想だし、最低限相手の欲しがっている物のどれかを返礼として返しておくのが負い目を感じないで済むから都合がいいし、気持ち的にもいい!

 

「なら、せめてものお詫びとして『コレ』をどうぞ。先ほど横に立つカワイイ妹さんが欲しがっていた物だから、きっと喜んでもらえると思います」

 

 

つづく

 

 

おまけ「大木剣と達也さん」

 

「ほう。コレは以外と使えそうだな・・・あとで牛山さんに渡して、後で何かしらの際に役立てられるかどうか検討だけでもしておいてもらうとしようか」

 

 *後にレオが使うぶっとい木刀に、達也さんが着想を得た瞬間でした。

 

 

おまけ2「愛梨は熱闘九校戦に立ちたいと願った」

 

「この鳥肌の立つ感じ・・・たまらない・・・っ!

 私は今抱えている苦悩を乗り越えて、必ず立ちたい・・・・・・あの場所に!!」

 

*こうして愛梨は心の問題を乗り越えて強敵となった。




注:現時点において愛梨他の第三校美少女三人が大活躍する展開は考えておりません。あくまでギャグとして今話は出演していただきました。

世界観が原作と違う中で愛梨たちにも色々あった末に九校戦までやってきている・・・そういうテーマも一応ながら込められている今話でした。


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第18話「北山雫は久しぶりに劣等生化する」

最近チート化してきている雫に抵抗を感じていましたので、今話は久々にダメな子として雫を描きました。でも、そのぶん活躍させられずに出番が少ないです・・・。
全部原作主人公任せになっちゃうとやることなくなる話ですからね、九校戦編って。本当の劣等生主人公には難しい展開です。


「二年・・・組、上崎先輩。到着を確認。三年・・・組、篠原先輩。到着を確認」

 

 私の隣、で達也さんが数を数えて、る。

 今日はキューコーセンに出発する、日。大会の会場に向かうバス、に乗り込む人の数を数えるの、も技術スタッフに選ばれた人のおしご、と。

 

「一年A組、森崎俊。到着を確認。二年・・・組、千代田先輩。到着を確認」

 

 達也さん、は朝からずっと数を数えて、る。

 お日様がピカピカで暑いの、にいつもと同じポーカーフェイスで数だけ数え、て1・・・2・・・3・・・変態・・・さん。

 

「一年B組、明智英美。到着を確認。一年D組、里見スバル。到着を確認」

 

 私も一緒、に数を数え、て1・・・2・・・3・・・。エイミィが一匹、到着をかくに、ん。エイミィが二匹、柵を越えて到着、をかくに、ん。

 エイミィが・・・三匹、エイミィが四ひ、き・・・・・・・・・

 

 

 ―――ZZZZ・・・・・・・・・

 

 

 

 パンッ!!!

 

 

「は、うっ!?」

「気がついたか?」

 

 大っきな音がし、て目を覚ました、ら目の前に達也さん、がドアップでい、た。

 キョロキョロ周りを見回した、ら居眠りするまえと変わってなく、て安心し、た。

 

「良かっ、た・・・寝る前と同じ、で何も変なこと起きてな、い」

「・・・いや、隣に立って点呼を行っていた少女が立ったまま眠れる希少スキル保持者だったことに気づかされた俺にとって変なことは起きているし、常日頃からあまり良いことでは無いと感じているのだが・・・」

 

 なんだ、か朝から呆れたみたいにな顔して、る達也さん。

 

「えっ、と・・・何かあった、の?」

「なんでも無い。とにかく眠いのなら、お前は先に作業車の中に入って仮眠でも取っておけ。後は俺一人でやっておく」

「で、も・・・二人一緒に、って先輩、が・・・」

「要らん。本来なら俺もお前も絶対にこなさなければならない職務ではないのだから、俺一人で十分だろう。

 こんなものは自己満足を得るためだけの個人的理由によるものだ。お前まで巻き込まれてやる義務はないのだから、先に入って寝ておけ。向こうに到着したら忙しくなるのだからな」

「う、ん・・・。わかっ、た・・・」

 

 ボードを持ってない手、で「しっ、しっ」と追い払われ、た私は作業車の中、へ。

 ・・・・・・ネムネ、ム・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさ~い!」

 

 ――雫を車内に押し込んで眠るための口実を与えてからしばらくして、待ち人最後の一人である七草真由美生徒会長が到着する。

 俺はボードをタッチして最後の欠を採り、自分なりに与えられた役割を果たせたことに僅かながらの満足感を覚えている自分に気がつく。

 

 ・・・最近思ったことだが、どうやら俺は自分から率先して何かをするよりかは、誰かを支えている方が性に合っているらしい。

 それが、バカな幼馴染みの面倒を見させられ続けたことに起因する影響なのか否かは判然としないが・・・まぁ、誰の気分を害するものでもないから悪いことではないのだろう。たぶん。

 

「ゴメンね、達也くん。私一人の所為で、ずいぶん待たせちゃって」

「いえ、事情はお聞きしていますので」

 

 俺は答える。リップサービス目的の嘘ではない。本当に彼女の遅刻には相応の理由があったことは承知していた。

 これが「寝坊した」とか「時間を間違えた」だのと言った、どこぞのアホを彷彿させる無責任な理由であったなら俺もそれなりには不快さを感じたかも知れないが、『家の事情』であれば致し方がない。

 何しろ彼女の家は『七草家』・・・十師族の内一家なのだ。普通の家庭で用いられる『家の事情』とでは掛かる責任の負担が違いすぎている。

 

 それに元々から経済分野に長けた家であったことから、十師族の中でも特に簡易魔法式による時代の変化に合わせやすかったという事情も重なって、名実ともに現在の十師族の長として君臨することになった七草家は近年多忙さを増してきているとの情報を師匠から得ている。

 

 ――ここまで『家の事情を把握している』俺が遅刻を咎めてしまったのでは、俺自身の叱責に説得力が無くなってしまうかもしれない。

 少なくとも今の俺は「口先だけの男にはなりたくない」という無意味なプライドが生まれてしまっていることを自覚する程度には自分の内面と向き合えているつもりでいる。

 

「でも、暑かったでしょう?」

「大丈夫です。まだ朝の内ですし、この程度の暑さは、何ともありません」

「でもそんなに汗を・・・・・・って、あら? ホントに、あまり汗をかいてないのね」

「いえ、まあ、さすがに汗を乾かす程度の魔法なら使えますし・・・・・・。

 それに今時は、簡単な魔法であれば安値でどうとでもなる時代ですので」

 

 俺は自分の着ている制服を僅かにめくって、肌着がどこのメーカーの物か見えるようにして差し上げる。

 『マウンテン』関連企業であることを示すロゴを目にした彼女は「なるほどね」と、あっさり納得して引き下がってくれた。

 

「汗の水分と成分を、皮膚と衣服から空中へ発散させる『例のアレ』か・・・先週出したばかりなのにもう手に入れてるなんて目敏いわね達也くん」

「九校戦のメンバーが発表された時点で発表だけはされておりましたから」

 

 俺は肩をすくめながら、自分の固有魔法とも言える『分解』の理論を応用して基礎理論を造った簡易魔法式グッズの効能に説明責任を押し付ける。

 

「ご贔屓にどーも。以後もよろしくね?」

「いえ、こちらこそ今後ともよしなに」

 

 半端にビジネスライクなやり取りを交わす、提携して販売した新商品第一号の販売元最大手スポンサー家庭のご令嬢と、覆面開発者の片割れ。・・・事情を知るものが一人でもいたら奇異に映るであろう妙な構図となってしまった。

 事情を知るものが二人程存在している、今この時の狭い範囲内なのだが、片方は知っている知識を生かす知能が無いし、もう一人の方はおそらくたぶん・・・バスの中で荒れているだろう。恩を感じた七草会長が何とかしてくれることを期待したい。

 

「でも、ちょっとだけ安心したわ。達也くんが真夏に汗をかかない程の変態さんじゃないって事が分かって」

「変態・・・・・・」

 

 確かに言われたとおり、俺は自分のことを『真夏に汗をかかない程の変態ではない』つもりでいるが、だからと言って「それなのではないか?」と心配されていた事を知らされて僅かでも衝撃を受けない程、人間を辞めてもいないつもりだったから正直に白状して傷つけられる言い草だった。

 

 会長は、そんな俺の顔がチョッとしたツボにはまったらしく「だぁって」と、向日葵のような笑顔を浮かべてクスッと笑い、

 

「達也くんって特別すぎるところがあるから、偶に心配になるのよ」

「・・・・・・」

「誰だって得意不得意があるし、自分の方が全部上なんてことは有り得ない。そんなの一般レベルで常識ではあるんだけど、当たり前の常識を当たり前のように実行できてるってだけで結構スゴいことなんだからね?

 それを自覚もせずに自然とやってる人を見せつけられると、『この人もしかしなくても未来からきたターミネーターじゃないかしら?』とか不安に駆られちゃったりもするのよ、普通の女の子的思考で・は☆」

「・・・話の概要はわかりましたが・・・・・・」

 

 俺は敢えて“理解できた”等の表現は使わずに逸らしながら、話題をシフトするための布石として一番どうでも良い点について指摘する。

 

「・・・なぜ“ターミネーター”が出てくるのでしょう・・?」

「あら、とても大切なことじゃない? サイボークと生身の女の子の間には子供ができないって言う概念は、旧世紀から続く人類の伝統なんだもの」

 

 なるほど、と分かったフリして曖昧な答えだけ返した俺は、さっさと今の状況から脱出するため先程からバス入り口でイライラした表情をしていらっしゃる渡辺先輩の方を見ながらさり気なさを装って七草会長に注意を促す。

 

「ところで、会長。僭越とは思われますが・・・・・・大丈夫なのですか? その、渡辺会長の一件とかが・・・」

「え? 摩利がどうし・・・・・・きゃーっ!? お願い許して摩利! わざとじゃないの!

 別に遅れてきたから達也くんをからかって遊ぶ時間的余裕がなかった鬱憤を晴らしていたとかじゃなくてそのあのえっと―――そう! これは達也くんの腹黒い陰謀なのよ!!」

「い・い・か・ら・は・や・く・来・い!! この遅刻総責任者!!」

「きゃーーーーーーっ!?」

 

 

 ボカリ。

 

 

 ・・・・・・何やら重い物が落とされる音が背後から響いてくるのを聞きながら、俺は自分たち技術スタッフに割り当てられた作業車へと急ぐ。

 

 家の事情でお疲れらしい七草会長には、バスの中でグッスリとお休み頂きながら出発である。

 目指すは国防軍富士演習場の南東エリア――全国魔法科高校親善魔法競技大会の開催地。

 

 『九校戦』がおこなわれる舞台の上へと。

 

 

 

 

 

 

 ――それは、達也と雫が九校戦の会場へと向かう数日前。

 時間軸にして、達也が司波家のリビングで風間少佐から忠告を受けていた頃のこと。

 

 横浜中華街にある、某ホテルの最上階。赤と金を基調とした派手な内装の大部屋で、茶器の並べられた円卓に座して五人の男たちが悪巧みに耽っていた。

 

「首尾はどうだ?」

「予定どおりだ。第一高校には会場へ向かう途上で、最初の一撃を放たれるよう手筈を整えた。布石としては派手だが、陽動目的としてはむしろ理に適っているだろう?」

「確かに。我々にとっては理だけでなく、“利”にも叶う訳だしな・・・」

 

 ククク・・・。悪意ある含み笑いを交わし合いながら、男たちは供されている高級茶へと各々に手を伸ばす。

 

「最近では『ジェネレーター』も客薄になってきて、在庫が有り余っているからな。ましてや使い捨て用に確保しておいただけの元失敗した工作員魔法師など飼い続けておく価値はない。

 買った物は値段と価値に応じて、使うべき所で使ってしまうのが正しい商品の扱い方という物だろうよ」

「『兵器は持ってりゃ嬉しいコレクションじゃあない』か? この国に適用した相応しいやり方だな」

 

 

 ははははと、楽しそうに笑い声を上げながら香港の犯罪シンジケート『九頭龍』が動き出す。

 超簡易魔法式の登場でそれまでとは別の儲け方を確立させつつある彼らにとって、一部を除きお荷物と化しつつある大量の売れ残り品を『在庫処分』して、その犠牲の上に自らの一人勝ちという結果が先に確立してある大博打を開くため―――『イカサマ博打で大勝ちする』。

 只その為だけに彼らは九校戦への介入を開始する指示を出すため、電話機を取る。

 

 

 ――それが自分たち自身を破滅させる『死刑執行書かもしれない』などとは微塵も考えることなく、勝つことを前提としたギャンブルに彼らは大金を投じてしまった。

 

 

 時代は変わり、時は移り、世の中の有り様が如何に変わろうとも、変えることのできない真理が人間社会には存在している。

 

 

 それは―――『ギャンブルにはまると身を滅ぼす』・・・という絶対普遍の根源真理。

 

 

 

「私だ、ダグラス=黄だ。命令を伝える。―――作戦を開始せよ」

 

 

つづく・・・



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第19話「北山雫以外の魔法師たちは優等生?」

更新です。バスでの移動回。サブキャラたちがメインとなるお話になっております。
車の特攻シーンは次回です。雰囲気違いすぎますのでね。
…そして今回もまた出番がほぼない主人公…早く戻ってこーい。


 今更言うまでも無いことだが、魔法師社会は差別社会であり階級社会である。

 この場合「筆記ではともかく実戦では」と言った理屈は意味を持たない。

 なぜなら彼ら魔法師を取り巻き養う為に形成された社会が、努力量や結果以上に生まれ持った才能と家柄を評価する方向に向かってしまっているからだ。

 

 社会的動物である人間は、社会の中でしか生きることができない。普通の人には使えない魔法を行使する魔法師でさえ例外には成り得ない。

 彼らの使う魔法は形ある物を別の物へと在り方を変質させる錬金術に近い技術であって、無から有を生み出す神の奇跡の担い手と言うわけではない以上、魔法師以外の魔法が使えない圧倒的多数派の一般人たちが魔法師を「このような存在だ」と定義付けしてしまっている社会で生きていく為には彼らの造った幻影に依存するより他道はない。それが魔法師社会の現実である。

 

 そういう意味において九校戦は、尤も色濃く魔法師社会の在り方を映した『平等のないスポーツマン精神』を体現したものと言えなくもなかった。

 少なくとも九校戦以上に順位と実力と評価のすべてが直結されてしまう魔法関連イベントは、日本国内で探そうと思っても見つけ難いことだけは確かだろう。

 

 

 だからなのか、九校戦にはいささか過剰なまでに格差が設けられていて、仮に空きスペースがあったとしても選手と技術スタッフが同じバスに相席しながら会場を目指すという行為は禁止事項にはなくとも暗黙の了解で今までにおこなわれたことは一度もない。

 

 が、しかし。しかしである。

 人という生き物は、一部の例外を除いて、見たいものしか見ないようにできている。

 都合の悪い事実からは目を逸らし、自分にとって都合がいい理屈を求めて真実とやらに縋りたがる。

 

 それは人間である以上、魔法師とて例外ではない。

 何があろうと冷静であるべきと説いたところで、正論を理屈通りに実行できる者などそうはいないのが魔法師に限らず全ての人類に共通する悪癖というものだから。

 そうでもなければブランシュや人間主義に傾倒する魔法師が現れるはずがない。

 

 前振りが長くなったが、それらの意見を要約するとこうなるだろう。

 

 

「理屈は分かりますけど、納得できません! せっかく私の隣の席でゆっくりしてもらいながら一緒にバス旅行できると思ってたんですから、少しくらいグチに付き合ってくれてもいいじゃないですか!」

 

 

 ――と。

 聞かされる方としては溜まったものではなかったでしょうな。合唱。

 

 

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・ええと、深雪? お茶でもどう?」

「ありがとう、ほのか。でも、ごめんなさい。まだそんなに喉は渇いてないの。わたしはお兄様のように、この炎天下に、わざわざ、外に立たされていたわけじゃないから」

 

 ・・・静かで、柔らかな口調でした。

 それが却って深雪の怒り具合と不機嫌さを如実に現していて、見ている側の私としては顔を青ざめながら引き攣らせながら必死に笑顔を保つのが精一杯になってきてました・・・。

 

「あ、うん、そうだね」

 

 慌てて相づちを打った私は、せめて援軍を頼もうと後ろを振り返ってみたんだけど、そこにはいつもいてくれてる幼なじみの姿はなくて、同じ一科生だけどあんまり親しくない女子生徒が深雪目当てで近くの席に座っちゃったことを後悔しながら青ざめてうつむいてる姿しか見つけることができませんでした・・・。

 

(雫―っ!? 何で今だけここにいないのーっ!? あなたは二科生で技術スタッフだから同じバスに乗れないのは理屈として分かるけど、なんだかわたし今ものすっごく納得いかないんですけどーっ!?)

 

 一瞬だけだけど、別のパラレルワールドにいる私が雫によって窮地から助け出されてる所を幻視しちゃったせいで余計に理不尽さが身に染みてしまってます! 光井ほのかです! 

 毎日学校来てるはずなのに、お久しぶりな気がしますよね! なんででしょう!?

 きっとそれはすべて今このときの夏に吹き荒ぶブリザードが原因だと私は思います!

 

「・・・まったく、誰が遅れて来るのか分かっているんだから、わざわざ外で待つ必要なんて無いはずなのに・・・。何故お兄様がそんなお辛い思いを・・・。

 しかも機材で狭くなった作業車で移動だなんて・・・せめて移動の時間くらい、ゆっくりとお休みになっていただきたかったのに・・・」

 

 深雪の独り言は明らかに主語が欠けていて、原文のままだと「私の隣で」が抜けてるよ? とか思いはしたけど言えるはずがない。

 なぜなら私は年頃乙女。命が惜しい年頃ですから、火を消そうとして水をかけたつもりが油でしたなんて致命的すぎるポカは絶対にしたくありません。達也さんに思いを伝えることなく深雪に殺されるのだけは、神様本当にごかんべんを。

 

「で、でも達也さんのスゴいところはそういう所だよねきっと! ほら、あの状況で達也さんにバスの中で待ってることを怒る人なんて、この中にはいないはずだし、それでも自分が任された仕事を誠実に果たしてたんだから、やっぱりさすがだよ達也さんは!

 略して『さす達也さん』だと私は思うよ深雪!」

「ぷっ・・・。ほのか、なにその変な造語? あなたオリジナルの言語なの? ああ、おかしい・・・ふふふ」

 

 せ、セーフ・・・。ギリギリのところでセーフ・・・。幻で見た頭良さそうな雫の幻影が言ってた言葉を全部じゃないけど覚えておけたから助かった~・・・。

 実在してるはずのない頭の良さそうな雫、グッジョブ!

 

「そ、そうだよねー。私ったらなに言い出してるんだろうね-! アハハハハ-」

「そうよ、今のはおかしかったわよほのか。うふふふ・・・」

 

 バスが出発してから三十分近く経過して、ようやく訪れた朗らかムードに私と近くに座った女子二人は心の底から安堵のため息をついてしまう。

 到着まで残り時間は1時間半・・・地獄から天国までの道のりはまだまだ遠そうでした・・・・・・。

 

 

 

「何をしているんだ? あいつらは・・・」

 

 思わず呆れを込めたため息と共に、あたし渡辺摩利は小声でつぶやかざるを得ない状況に、今のバス車内はなっていた。

 

 疲れて休んでいたはずの真由美の横では真っ赤な顔して石像と化している服部が棒立ちしているし、その横では市原が見慣れていないと判別できない楽しそうな笑顔で服部を相手に嗜虐心を満たしている。見た目と違って相変わらず、Sっ気のある奴だなアイツらは。

 

「服部と真由美はいつも通りだからともかくとして、まさか司波妹と光井までとはな。

 今年の一年は、いくら何でも剛毅すぎるじゃないだろうか・・・」

 

 そして、もう一方の当事者たる司波妹と光井の二人。

 ――こちらは何やってるのか、見ているだけだとサッパリ分からんな・・・。とりあえず司波妹の周囲にサイオンが凄いことになってることと、それを押さえる為に光井が何かしらしているだろうなと言うぐらいしか知覚できない・・・。

 

 ・・・これから向かう場所は曲がりなりにも日本魔法師社会においては不動の地位と権威を持つ魔法競技大会の会場であり、結果次第では魔法師としての将来に大きく影響を及ぼす学生達にとっては無視できない一大イベント――のはずなのだが。

 

 どうにも今年の新入生達は、競技に挑む前の緊張で胃を痛めるような可愛げは期待できそうにないらしかった。

 体育会系の運動部的なノリを愛好しているあたしとしては、頼もしいには頼もしいのだが、やや物足りなさも感じてしまう光景ではある。

 

 で、それはそれとして閑話休題。

 あたしもまた自分の隣に座っている後輩に向けて視線を移すと、ここにもまた一人面倒そうな状態になってる生徒が存在していた。

 風紀委員の後を託そうとして可愛がっている二年生の、千代田花音だ。

 

「・・・・・・何でしょうか、摩利さん?」

「んっ? いや、あたしは外を見ていただけだよ、花音」

 

 不本意ではあるが、悪い気はしない下級生に人気のある(彼女ら曰く)クールな笑みとやらを浮かべながら言ってやると、相手の方はなぜだか不機嫌さを増した顔でこう答えてきた。

 

「そうですか。でも、今さっき高速道路に入りましたから、窓の外に写ってる景色の半分ぐらいはガードレールだけですけど、そんなのが見たかったんですか? 摩利さんは」

「・・・・・・・・・」

 

 技術の進歩により交通機関の様相が大きく様変わりしている現在。国内での移動手段は電車がメインであり、大型車両を用いるのは大人数を運ぶときだけ。

 高速道路を走る車も、ほとんどが趣味人という時代に今ではなっている。

 そうなると自然、限られた狭い土地に移動手段を敷設しなければならない日本だと、使っていない道路などは邪魔なだけである。

 維持費の問題もあるので取り壊しが進められている現在、あたしたちが乗っているバスは第一高校から九校戦の会場に向かう為の最も安全で最短のルートを通っているのだから、この道路を保全してある理由は九校戦がメインであって、そのために不要なものはなるべく排除しておくべき厄介者である。

 

 当然ながら外の景色を見る為にガードレールを低くして、事故を起こす可能性を上げてしまうよりかは安心安全を第一に考えた高い壁で囲んでしまった方が対テロ対策にもなって安全性は飛躍的に高まる。

 

 

 要するに・・・・・・またしてもあたしは自分の発言で墓穴を掘ってしまったという訳か・・・・・・。

 

「認めたくないものだな・・・自分自身の未熟さから来る失言というものを・・・」

「なに格好つけて変なこと言い出してるんですか、摩利さん。しっかりしてください。

 私だって啓と離ればなれなこの状況を必死になって我慢しているんですからね!」

 

 いかん、注意を促そうとしていた話題を先に出されてしまった上に、あたしの方が悪い流れになってしまっている。注意したくても、する事ができない資格がない・・・。

 

「せっかく今日はバスの中でもずっと一緒にいられると思ってたのに! 穢れのない乙女の純粋な信頼を裏切られたばかりなのに頑張って我慢している私なんですから、上級生の摩利さんはもっとしっかりしてもらわないと困ります!

 今時滅多にできない許嫁以上、夫婦未満でのバス旅行だったんですよ!? そんな美しい青写真を穢れきった俗世間に踏みにじられて破り捨てられた今の私ほど不幸な人間が他にいるでしょうか!? いや、ない!」

「・・・断言して決めつけるなよ、しかも自分で。

 あと、見た限りだが我慢しているのは司波妹も同じみたいだぞ?」

「兄妹と許嫁同士なんですよ!? 本来なら、許嫁の方が妹より相手の男性と一緒にいる時間が長くあるのが当然であるべきなんです! それが人間として正しい在り方なんですよ! 本来は!!」

「・・・・・・そうなのか?」

「もちろんです! 本当だったら啓と私は同じバスに乗るべきであり、別々のバスに乗せられるに至ったのは何者かの陰謀・・・これは罠です。

 つまり私たちは・・・狙われています!!! 絶対にです!! 間違いありません!」

「すさまじい論理の飛躍による陰謀論だな、オイ」

 

 無い胸を堂々と張って断言されたが、内容的には張るべきポイントを勘違いしまくっているとしか思えないトンデモ陰謀論でしかなかった。

 このまま進んでいけば、その内「学生が18歳まで結婚するのを待たなくちゃいけないのはフリーメーソンが世界征服しようとしているからだ」とか言い出しかねない。

 

 この後輩、普段は果断即決・有言実行、タフでポジティブなあたし好みの凜々しい少女なのだが、毎度のように五十里が絡むと別人になってしまう奴でもあるのだ。

 

 今日のは普段の特徴を変な部分だけ継承しているから、余計に性質が悪い。

 思わず「一発殴れば故障が直るかもしれないな」と考えさせられ、実行してしまいそうになるのを我慢していたほどに。

 

 いい不満のはけ口を見つけたとばかりに、キャンキャンと喚き続ける花音から目を逸らし、意識も別のことに向かわせて相手の罵詈雑言をシャットアウトしながら、またしても小声で相手には聞こえないようにあたしはつぶやく。

 

「・・・やれやれ。いくらバス旅行とはいえ九校戦に向かう車内で恋人同士イチャつける訳がなかろうに・・・」

 

 そして、思うのだ。

 

 “現実に実現できないからこそ人は可能だと信じたがる癖があると聞くが、どうやらそれは本当らしいな”・・・と。

 

 今このときのあたしはそう思ったし、信じてもいた。何故ならそれが常識と言うものだからだ。

 

 ――ただ、もしこの時あたしがバスの後方を付いてきている作業車の中を透視できる魔法が使えていたら、出てきた答えと考えは全くの真逆になっていた可能性は否定できない。

 

 つくづく世界は可能性に満ちあふれている、とんでもない代物だと思ったかもしれない。

 あるいは、この世界こそが人類の生み出した究極にして最高の魔法そのものなのかもしれいないな・・・・・・と。

 

 

 

 

――そして、件の作業車内。

 

 人という生き物は、一部を除いて見たいものしか見ないようにできている。

 見たくないものを見なかったことにするようになってしまった、と言う方が正確かもしれない。

 五感から得られる情報は、快適なものよりも不快なものの方が、生物にとっては重要であることの方が多いのは、不快なものとは自分を脅かす存在であり、脅威をいち早く見つけることが生存の鍵となるからだ。

 だからこそ人は、見たくないものから目を逸らして、自分たちの心の平穏を保とうとする。

 ・・・とは言え、それが必ずしも悪いというわけでもあるまいと、今の俺は考えるようになってきている。

 

 確かに不快な現実とも向き合わなければ改善はなく、黙ったまま見ているだけで状況が良くなった事例は歴史上一度たりとも存在しない以上、誰かが間違いを指摘すべきであり、沈黙はいつどんな状況下でも金と同等の価値を保証されているものでは決してない。

 

 では、だからと言って、どうすることもできない状況を「どうにかしよう!」と叫ぶだけの行為に意味はあるだろうか?

 これはハッキリ『有る』と断言できるだろう。今より悪い方向に事態を動かせるのだから、意味自体は間違いなく存在している。善悪と可能性に因果関係など存在できないのは当たり前のことなのだから。

 

 

 例えば、生存競争から縁遠くなった平和な先進国の隣国において、自分たちを皆殺しにできる大量破壊兵器が開発されていて、間違いなく自分たちへ向けられていると知っていたとき、戦争を知らない世代の民衆が何ができると言うのだろう?

 

 ストライキもデモ行進も国内世論を沸騰させるだけでしかなく、味方同士で相争うのを加速させるだけで、混乱に乗じたがっている隣国の領土的野心を刺激する呼び水としての効果しか期待できまい。

 つまりは、出来もしないのに可能性を訴えかけるだけの行為は、敵を利するだけでしかなく、結果として守りたいと願っていたものまで敵の手に渡してしまう破滅しかもたらしてくれない可能性が高いのだ。

 

 古来より、『君子危うきに近寄らず』という格言は至言として伝えられてきた。

 不快さから目を逸らすのは危険から目を逸らすことと同義ではあるが、それ以前に大前提として危険を避けようと努力することこそが何より以て大事なことであり、やるべき事である。

 

 危機感を持つことは重要なことだ。いざというときに対応できる力があっても、それらを動かす意思がなければ無用の長物と化してしまう。

 そして意思というものは多くの場合、普段から備えておこうと意識しておかなければ急には生まれない。三流ドラマのように、土壇場で急激に呼び覚まされる選ばれた才能持つ者ばかりが世の中にあふれているわけではない。

 

 故に、だからこそ俺は声を大にして言いたいと願う。

 何もない平穏無事な日常を守り抜くことこそ最も重要で、最も難しく、不断の努力と覚悟を必要とする困難と苦難に満ちあふれた試練の道なのだと言うことを・・・っ。

  

 

 

「えーと・・・司波君? ちょっといいかな?」

「はい、なんでしょうか? 五十里先輩」

「え、えーと、だね・・・。なんて言うか、その、えーと・・・・・・」

「なんでしょう? 五十里先輩」

「うん、そのだからえーと・・・」

「なんでしょう? 五十里先輩」

「えーと、つまりそのあのえーと・・・・・・」

「なんでしょう? 五十里先輩」

「・・・・・・えーと・・・・・・」

「なんでしょう? 五十里先輩」

「・・・・・・なんでもない、です・・・・・・」

「そうですか」

 

 それだけ答えて俺は視線を逸らし、近くに座る五十里先輩は俺から目を逸らそうとしはしなかった。

 

 力押しで黙らせてしまったような後味の悪さを多少感じなくも無かったが、これは不可抗力でありやむを得ない事情が『乗っかってきている』せいなので先輩にはご理解いただけることを期待したい。

 

 なにしろ心が無いはずの俺が全力で精神集中をおこない、視界に入れてしまわないよう苦心している『お荷物』が膝上にあるような現状においては他にやりようなど存在していなかったのだから―――。

 

 

 

「ん・・・はぁ、ん・・・ハンバー、グが食べた、い・・・。

 ハヤシライ、スでもい、い・・・・・・あむあむ・・・・・・」

 

 

 

 ・・・下方から聞こえてくる幻聴と幻覚から目と意識を逸らす為、俺はバスが出発してよりこの方、全力で窓の外に広がる景色を眺め続けていた。

 

 

(――まだか!? まだ着かないのか!? 九校戦の会場には!?)

 

 

 切実に真摯に一刻でも早くバスの到着が、標準を上回ってくれることを願ってやまない俺もまた、都合の悪い事実からは目を逸らし、都合のいい真実だけを追い求める愚民の一人。

 

 ・・・・・・先に乗って寝ていたはずの雫が、隣に俺が座った途端に倒れ込んできて膝の上に乗り、結果論として膝枕をさせられる羽目になってしまった俺にはこうする以外に選択肢が存在しないのだからやむを得ない事情なのだ。

 五十里先輩も気を遣って黙り込んでくれたわけだし、俺は必ずしも間違ったことはしていない・・・はずだ。おそらくは・・・・・・

 

 

「むっ? あの近づいてきている車は・・・・・・まさか!?」

 

 

つづく




補足説明:
本文だと書けなかった部分について説明させてもらいます。

今現在、高速道路にいるだけでしばらくしたら別の道に合流します。
これは、九校戦の会場まで直通している高速道路と言うのも変でしたし、原作にも風景を眺めていた描写があるからです。

あと、ついでとして『別の道と交わりあう地点で奇襲を受けた』と言う流れにしたかったからという個人的な願望もありました。


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第20話「原作との相性からシリアスになってしまいました・・・」

更新ですが、困りました。想定してたよりはるかにシリアスになてしまって・・・どうすればいいのやらな状態。
取りあえず出して反応見てから対応を決めさせてくださいませ。
前回でギャグやったから続きはギャグ薄めでいいだろう的思考が裏目に出過ぎたみたいですので・・・


「はぁ、まったく男子という奴らは全く・・・少しはシュウの落ち着きを見習えばいいものを・・・(ボソッと)」

 

 あたしは司波妹を自分のすぐ近くの席まで移動させて、背後には十文字が座して睨みを利かせてもらってから席へと戻り座り込んでため息を吐く。吐かざるを得ない。

 

 兄のことが原因で不機嫌さを露わにしているうちは怖くて近寄ることさえ出来なかった男子生徒たちが、光井の活躍により吹雪を押さえて普段のお嬢様然とした楚々とした挙動に戻った途端に灯の光に釣られる誘蛾灯の蛾のごとき勢いで彼女にたかってきたので、手の届かない高見へと移動させてやったところなのだ。

 

 「自分たちとは住む世界が違うから」等とほざいておきながら、実際に高見の一員に列せられてしまうと怖くて手が出せなくなる臆病者の癖して、なにが「自分たちは司波さんと仲良くなりたいだけ」だ。

 リスクを恐れて手に入れられるリターンなど、その程度の物だと思い知れ。

 

 

『ふぅ・・・・・・』

 

 

 折しも真由美含めた女子勢だけのトークで盛り上がり、男女混合バスの一角を簡易的な女子会会場に仕上げたわけなのだが。

 

 ・・・考えてみると、この場にいる年頃女子たちのうち恋人も思い人さえいないのは真由美だけであり、女子だけで話し合っても微妙な物足りなさを感じさせられる程度には相手の男に惚れ込んでいる事実に変わりはなかったから何となく途中で冷めてきてしまった。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 司波妹と花音は窓の外に映し出される景色が変化しはじめたのを契機に風景へと視線を移し、あたしもまた手持ち無沙汰になって意味もなく男共への睨みを利かせる役に加勢していた。

 (真由美は退屈になってきたら早々に寝てしまっていた。こいつはこいつで意外とマイペースなところが昔からある)

 

 

 丁度そんな時だ。

 花音が大声で「危ない!」と、警告の悲鳴と怒号のどちらか判別しづらい叫び声を上げたのは。

 

 見ると、あたしたちが乗ってるバスの対抗車線を走っていたオフロードカーが、車体を傾けた状態で路面に火花を散らしていた。交通事故・・・なのだろう。おそらくはだが。

 

 パンクだ、と誰かが叫んだ。

 脱輪じゃないのか、と誰かが興奮した声で語っているのが聞こえてくる。

 

 その声に危機感はなく、人様の事故死を対岸の火事として見世物のように面白がって見ている彼らの心理が手に取るようにわかってしまったあたしは条件反射で不快感を露わにした。

 

(魔法師が優遇され、時代が変わり始めた今なお不動の就職先で在り続けている軍隊が防衛力として魔法師を求めていることに変わりないとは言え、人が死んでいくシーンを見て面白がれるような人間に国防を担わせる訳がなかろうに・・・・・・)

 

 そう思い、注意した方が良いかと、一瞬だけ意識が車から逸れたその刹那。

 誰かが悲鳴を漏らすのが聞こえ、小さな悲鳴が車内各所から連鎖的に引き起こされる。

 

 

 見ると、対向車線で事故っていた大型車両がいきなりスピンし始めてガード壁に激突し、どんな天文学的な偶然か、宙返りしをしながらあたしたちが乗ってるバスへと飛んで来たではないか!

 

 慌てて運転手によるブレーキがかかり、全員が一斉につんのめった。

 シートベルトを締めていなかった一部の者から悲鳴が上がったが、構うものか。自業自得だ。注意事項以前にバスを使っての長距離移動でシートベルトを締めるのは一般常識だ!バカめらが!

 

 

 ――が、バカだろうと何だろう徹底している奴らと半端に利口さを残した奴らを比べた場合、時として何も出来ないバカの方が『無害』であり、普段の半分までしか実行できなくなった状態の優秀なヒヨコの方が『有害』になってしまうのだという事実をこれからあたしは思い知ることになる。

 

 

「吹っ飛べ!」

「消えろ!」

「止まって!

 

 

 大半の者が、自分は何をすべきかも分からぬまま呆然とする中で、何名かの将来有望で優秀な生徒たちが反射的に魔法を発動させて対処しようとしてしまっていた。

 

 同一の対象物への無秩序な魔法の行使は、相克を起こして事象改変を妨げ合うだけで、却って邪魔になる。

 魔法師として初歩中の初歩でしかない常識レベルの一般認識であろうとも、覚えていて実行できる部分が半分までしかなかったとしたら意味がない。まだしも何もしてくれない方が邪魔にならない分だけマシだったと言えるほどに。

 

「バカ、止めろ!」

 

 そう叫ぼうとして立ち上がりながら、背後に振り返ろうとしたまさにその時!

 

 

「shut up!!」

 

 

 綺麗な発音のネイティブアメリカンで放たれた叱責に、魔法を使おうとしていた者達は一人残らず射竦められ、半端に発動しかけていた魔法は更に半端な半分以下の状態で術者とのつながりを完全に断ち切らせてしまった。

 

「クドウ・・・っ!!」

 

 彼女の名はアンジェリーナ・クドウ・シールズ。日本に渡ってきてから其れなりの時間が過ぎたアメリカ出身者の少女だ。

 司波妹と並んで一年の学年主席を争い合う破格の存在の一人だが、今の声に秘められていた迫力は尋常ではなく、明らかに場慣れしたプロの貫禄に満ち溢れたものだった。

 花音たちには悪いと思うが、優秀であっても半人前でしかない彼女たちとクドウとではハッキリ言って桁と格が違いすぎている。

 

 ・・・だが、いくら優秀で場慣れしていようとこの状況で出来ることは限られるはず・・・。一体どうするつもり―――って、え? 

 

 

「特化型CAD・・・?」

 

 あたしは彼女が取り出した拳銃タイプのCADに驚き唖然とさせられてしまう。

 確かに展開速度という点において汎用型より遙かに優秀なそれは、現在のような緊急事態に対処するには有効かもしれない。

 だが、格納できる魔法の数自体が少ない特化型は、予め想定した状況に合わせて事前に入力しておく必要性があり、対応可能な自体が少ないという欠点も併せ持つ。

 

 予想外の緊急事態に対処できるスピードと引き換えにして、対処できる数自体を減らしてしまったのでは『いざという時の対処方』としては本末転倒ではなかったのか? 彼女を見るまでその思っていたあたしは次の瞬間、思わず唖然呆然とさせられる。

 

 

「flameッ!!!」

 

 

 引き金型の起動装置を引き、車内に爆音を轟かせる。

 本当に発砲したわけではない。車を砲撃したわけでもない。

 ただ、デタラメな威力で撃ち放たれた対抗魔法が車に投射されていたサイオンの全てをミクロンサイズにまでズタボロに吹き飛ばし、衝撃が物理的なショックウェーブまでもを引き起こしたことで我々の鼓膜に直撃した。

 ・・・おそらくはそういう理屈だったのだろう。おそらくはだが。

 

 正直、レベルに差がありすぎて正しく認識できていたと言う自信は無くなっていたけれど・・・。

 

 

「ミユキ! 手伝ってちょうだい! 空気の扱いは貴女の方が上手だわ!」

「――っ、了解!」

 

 

 即座に反応して対応する司波妹といい、本当に今年の一年は可愛げがなさ過ぎると最上級生のあたしは思って止まない。

 

 

 

 

 

 

 

「ほう・・・先を起こされてしまったか。

 尤も、奥の手を晒さずに済んだ俺としては願ったり叶ったりの結果ではあるが・・・」

 

 作業車から降りた俺は、事の一部始終を『眼で視て観察』しながら感嘆の溜息を吐いていた。

 事故を見た瞬間、飛び方に違和感を感じた俺は即座に解析を試みたのだが、その作業に集中する暇も与えられない反応速度でバス車内から膨大な量のサイオンを感じて意識の分割を余儀なくされ、反応がやや遅れてしまった。

 

 最初は深雪が何かしようとしているのかと思ったのだが、それにしてはコントロールがなさ過ぎて秀才タイプの妹らしくない。

 野蛮とまでは言わないが、壊すことに特化した魔法の使い方は現代日本の魔法とは大きく性質を異としており外国育ちの魔法師であることは間違いない。

 

 そうなると候補として残れるのは只一人。

 噂に名高い十三使徒の一人にして、『元』USNA軍所属のアンジー・シリウスこと、リーナ以外にはあり得まい。

 

 ・・・そうなると先ほどの馬鹿げた威力とサイオン量は、例のブリューナクを模倣した物になる訳か。興味深いな。

 ただでさえ仮説の段階だったはずのFAE理論が実用化されていて、現物を使っていたらしき人物が目と鼻の先にいるのだから技術者として興味がわかない訳がない。

 

 風間少佐からブリューナクが破壊された可能性が高いという未確認情報だけは聞き出せていたものの、それ以外はサッパリだったので尚更である。

 

 そう言えば雫から「リーナ、はもともと魔工科に入りたがってい、た」と大分前に聞かされていた気がする。簡易魔法式に敗れたことで今までの自分とは決別してきたのがどうとか。

 受験勉強の中で学び取った技術を元に、最低限使えるレベルで再現したのが今視たアレという訳か。なかなかどうして恐れ入る努力量と熱意だな。どこかのバカにも見習って欲しいことこの上ない。

 

 なにしろ―――

 

「過去を捨て、て自分だけの道を探すの、は格好い、い」

 

 ・・・と、何かのアニメを見終えた直後にそう言ってから思い出したように付け足していたせいで、俺は完全に与太話の類いだと思い込まされていたのだからな・・・。

 

 

「しかし、無茶な使い方をする。どれほど威力を抑え、既存のCADでも撃てるよう低スペック化を計ろうとも、オリジナル以外であれを使えるのは一発が限界のはず。

 現在市販されている中では最高性能を誇る最高級品を、一回限りの使い捨て魔法の為だけに購入するとは剛毅なことだ」

 

 あるいは、九島閣下辺りに技術情報を売ることで今の地位を得たのかもしれない。

 どちらにしろ、今俺がやるべき異には関係ないので無視してしまって構わないだろう。少なくとも今はまだ・・・な。

 

「あのー、司波君? 浸っているところ悪いんだけどさ・・・」

「何でしょうか? 五十里先輩」

「えーと、うん。さっきのと似たような状況で似たようなこと聞くのは無粋なんだろうなーと分かってはいるんだけど、今度のはちょっとまぁその、うん。

 ――見過ごすのは倫理的にどうかと思っちゃったわけでさ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「五十里先輩・・・・・・」

「な、何かな? 司波君・・・」

「・・・・・・・口止め料は幾らぐらい積めば満足していただけますでしょうか・・・?」

「いや、僕そこまで外道じゃないからね!? 普通に『黙っておいてください』だけで誰にも他言する気なんてなかったよ僕!? て言うかこんなの、他言する方が恥ずかしいし!!」

「・・・・・・」

 

 ・・・五十里先輩の優しさが心なしか痛く感じてしまうのは何故だろうか・・・? 心を奪われた俺には分からない。

 ただ一つだけ、俺に分かるのは・・・・・・

 

 

「う、きゅ~・・・・・・(; ̄O ̄)」

 

 

 作業車を急停止させたとき、シートベルトも締めずに俺の膝上で寝ていたバカが現在は移動していて、俺が身動きしたら少年犯罪になりかねない姿勢で停止してしまっていて動けないという事実だけだった。

 

 ・・・頼む、雫。早く起きてくれないか・・・?

 ・・・・・・・・・・・・動けない・・・・・・。

 

 

 

 

 

「みんな、大丈夫?」

 

 急ブレーキで飛び起きた私は慌てて周囲を見渡しながら問いかけて、弱々しい声でだけど返事が返ってきたことに心の底から安堵する。

 

 ・・・学園最強の生徒会長が眠りこけちゃってたせいで助けられた命を助けられずに無駄死にさせちゃったなんてイヤすぎるし、仮に私だけ助かっちゃったとしても死にたくなっちゃうのは間違いないからね。

 どこの誰がどんな手段で助けてくれたかはこの際置くとして、みんなが無事に済んだことには素直に喜びたいと願う私です。

 

「危なかったけど、もう心配いらないわ。クドウさんと深雪さんの活躍で大惨事は免れたみたいだし、怪我した人がいたらシートベルトの大切さを噛み締めて、次の機会に役立ててね? もちろん、次の機会なんてないのが一番なんだけど♪」

 

 ウィンクしておどけて見せて笑いを誘い、みんなの心から恐怖と緊張を緩ませることに成功して内心ホッと一息。

 みんなを笑顔にするためには自分の不安も緊張も心の中へ押し込めて、代わりに笑顔を浮かべて見せるのが生徒会長のお仕事です。

 

「十文字くんも、ありがとう。いつもながら見事な手際ね」

「・・・いつもであれば謙遜して見せるところだが、今日ばかりは嫌味にしか聞こえんぞ七草。俺は何もしていない。するより先に一年の二人が解決してしまったからな。俺がやったのはせいぜい火の後始末ぐらいだぞ?」

「そうかしら? 仮にそうだとしても、十分立派な活躍だと私は思うけど? 会長職やってると毎度のように後始末押しつけられたりするから、縁の下の力持ちのスゴさはよーく分かっているつもりよ?」

「・・・・・・・・・」

 

 仏頂面で黙り込む十文字くん。まあ、正直言って顔はいつもこんななんだけど、今日のは少し表情選択の理由が違うかな?

 見た感じじゃ分かりづらいけど十文字くん・・・ものスゴーく反応に困ってるわね間違いなく。普段フェミニストだから、こう言うのには慣れてないのかな? ちょっとだけだけどカワイイかも。

 

「それに深雪さんとクドウさんも。素晴らしい魔法だったわ。あの短時間に絶妙な魔法を構築してみせた深雪さんの制御能力と、圧倒的パワーで車ごと火を押し返してしまったクドウさんの時と場所を選んだ力業も、私たち三年生も難しいわね」

「光栄です、会長。ですが、魔法式を選ぶ時間が出来たのは市原先輩がバスを止めてくださったからです。そうでなければ咄嗟にどんな無茶をしていたか自分でも怖いぐらいです。市原先輩、ありがとうございました」

 

 深雪さんはリンちゃんに向かって頭を下げながら、生徒として模範的な応対をしてみせてくれる。・・・流石に優等生だわ。

 

 そして、もう一人の問題児の方はと言うと。

 

「ワタシは車を見た瞬間に分かってましたから。準備する時間が十分にあった身ですので、それを勘案した場合、大したことは出来ていないと自己評価してますけど?」

 

 このように可愛くない生意気下級生の模範的な態度で応対してきます。流石は問題児。

 

「またそんな言い方をして・・・」

「事実です。これから攻撃されると分かってさえいれば、対応する為の準備はできているのが当たり前ですから」

「え・・・? こう、げき・・・?」

 

 私はと言うか、十文字くんも摩利も似たような表情でポカーンとしながら目の前にたつ、普段よりもずっと凜々しい表情を浮かべたクドウさんの顔を凝視してしまっていた。

 

 そんな私たちに彼女は静かな声で、それでいて断定口調で断言してみせる。

 

 

「先ほどのアレは事故ではなく、どこからか放たれた魔法師による特攻攻撃です。

 狙いが一高なのかまでは判然としませんが、少なくとも悪意在る第三者が攻撃の意思を持って我々を害しようと目論んで一撃を放ってきたのだけは間違いありません。警戒された方がいいと進言させていただきます」

「ちょっ・・・そんないきなり言われても・・・・・・っ」

「待て、真由美。・・・クドウ、どういう事なんだ? 詳しく説明しろ。お前はどうしてアレを事故ではなく攻撃だと判断したのかを」

「事故?」

 

 彼女は、元々の美貌に擦れた結果として後天的に付与されたものらしいシニカルで皮肉気な笑みを浮かべると躊躇うことなくこう答えを返してきた。

 

 

「タイヤがパンクして、車体がガード壁にぶつかってスピンしてジャンプして、対向車線を走っていたワタシたちが乗るバスだけにぶつかる方向へ突っ込んできた・・・こんな偶然が現実に起こりえると本気で思ってますか?」

「・・・・・・」

「偶然も、三度続けば必然です。必然を偶然のように見せかける世界を騙す技術の最たる物が魔法である以上、第三勢力からの介入とみるのは至極妥当で当然のことだとワタシは思ってます。

 会長が、生徒たちの精神的安定を優先するお気持ちはよく分かりますが――明確な敵意を以てこちらを害する目的で動き出した外部勢力があると分かった以上、情報と意識を共有しておかない限り再発を防ぐことは出来ません。

 どんなに強くなっても、魔法的セキュリティを徹底したとしても、敵からの攻撃を防ぐ手段は究極的にはただ一つだけ・・・・・・一人一人が危機感を持ち、互いを信頼し合うこと。敵に付け入る隙を与えないこと。ただ、その一つのみです。

 ・・・なにしろ最強の一人がどんなに頑張ったって、自分一人しか守れないことも世の中には往々にしてあるみたいですからね・・・・・・」



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第21話「北山雫はシリアスが多いと出番が少ない」

更新です。どうにも事件にかかわる回と雫との相性が悪いのもあって今回も出番が少なめになっちゃいました。ごめんなさい。もっと活躍させたいのですけど頭使う理屈との相性が極端に悪い主人公なものですから・・・。

つか、これで一応は魔法科二次創作の主人公なんだなーと、今さらながらに思った次第。

*話数を間違えてたので修正しました。ファイルの数字だけは変えてたので気づかなかったみたいです(;^ω^)


 突然ではあるのだけれど。

 ワタシ、USNAからの帰化日本人(と言うことに今ではなっている)アンジェリーナ・クドウ・シールズは焦っていた。

 

 その理由は以下の発言をした直後にされた反応が予想外すぎてたからだ。

 

 

「偶然も、三度続けば必然です。必然を偶然のように見せかける世界を騙す技術の最たる物が魔法である以上、第三勢力からの介入とみるのは至極妥当で当然のことだとワタシは思ってます。

 会長が、生徒たちの精神的安定を優先するお気持ちはよく分かりますが――明確な敵意を以てこちらを害する目的で動き出した外部勢力があると分かった以上、情報と意識を共有しておかない限り再発を防ぐことは出来ません。

 どんなに強くなっても、魔法的セキュリティを徹底したとしても、敵からの攻撃を防ぐ手段は究極的にはただ一つだけ・・・・・・一人一人が危機感を持ち、互いを信頼し合うこと。敵に付け入る隙を与えないこと。ただ、その一つのみです。

 ・・・なにしろ最強の一人がどんなに頑張ったって、自分一人しか守れないことも世の中には往々にしてあるみたいですからね・・・・・・」

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 

 シ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ン。

 

 

 

 

 ・・・・・・あ、あれ? なんで皆さん黙りこくってらっしゃいますかしら? もしかしなくてもワタシ、何かマズいこと言っちゃってたぁ!?

 

 表面上は取り繕いつつも、内面では大いにあたふたしまくってるワタシ。

 

 え、だって、な、なんで? どうしてよ!? 普通に奇襲受けて迎撃に成功して犠牲者が一人も出なかったんだから二撃目を警戒するのは基本中の基本なんじゃないの!?

 

 二回、三回と奇襲が続くなかで犯人が「謎の襲撃者」のままだと味方同士が疑心暗鬼に陥るから危険だよって、世界の共通概念よね! ねぇ!?

 

 

 それとも何!? 将来的にはニホンの軍事力になることを期待されてる『士官候補生育成学校』だと思っていた魔法科第一高校はワタシが思ってたのと違ってたりしましたかしら!? 今まで一度も普通の学校に来たことないから分からない!!

 

 

(注:USNAでは近年まで軍事利用以外での魔法研究は、基礎研究ばかりだったため、軍の命令で日本に留学してきた原作と違って自主的な亡命設定の今作リーナは日本に対して任務の遂行に必要な範囲さえ知識供与がされておりません。

 なので日本の魔法師観がちょっと変だったりしております)

 

 

「・・・失礼。突然のことで頭に血が上ってたみたいで、言い過ぎてしまいました。本当だったら『一度あったことが二度あっても不思議ではない』的なことを言いたかったんですけど、ワタシ欧米人ですから日本語まだまだワカラナーイかったのです」

 

 ごまかしの笑顔でおどけてみせると、今度はみんな普通に笑ってくれた。・・・日本人の精神構造ワカラナーイ・・・。

 

「そうね。まさしく、クドウさんの言うとおりだわ。今事故に遭って助かったばかりなのに、今度は自分たちもミスで事故起こして怪我でもしちゃったらつまらないものね。『無事に済んだら、兜の緒を締め直しましょう』♪

 シートベルトを忘れていた子たちはと・く・に・ね♡」

 

 会長が言って、皆笑い、ワタシは安堵の余り胸中で盛大に溜息を履く。

 

(た、助かった~・・・・・・。今ので閣下のお怒り買ったらなにされるか分からないからメチャクチャ怖かったよー(; ;)ホロホロ

 本気で、財産没収の上永久追放処分とかされたらどうしようかと心配で心配で気が気じゃなかったんだからね! もう貧乏暮らしだけはイヤ! イヤなのよーっ!!!)

 

 ワタシ、心の中で絶叫ならぬ大絶叫!! ・・・本当にひもじさと惨めな生活だけは本気で勘弁デス・・・。トラウマに響くから・・・。

 

 

(・・・くっ! これもそれも全部が全部、シズクが悪いのよ! いつも一緒にいてくれて暇する必要なかったのに今日に限ってタツヤと一緒でワタシのとなりにいないとかどういう了見なのかしら!? 後でまたお尻ペンペンの罰を与える必要があるわね確実に! ペンペーン!!)

 

 八つ当たりだと承知の上で、今は側にいない友人に当たり散らすワタシ。(ただし声には出さない。だってクラスの子たちに、レズ関係だと思われたら恥ずかしいですし)

 

 

 

(・・・しっかし、さっきの車は何だったのかしらね? 明らかに殺意を隠す『偽装の意図』が動きに出てたけど、その割には特攻なんて魔法師の無駄遣いじみた手法をとってきたりもした。使い捨てるには惜しい腕前のように見えたんだけど・・・)

 

 ニホンの剣術には『刃の動きは、使い手の心を映し出す』とか言うトーヨーの神秘的な概念があるらしいけど、あながちこれは間違いじゃない。心というか、その人の目的は必ず動きに現れるし、それを隠そうとすれば『目的を隠そう』とする偽装の意思が動きに現れて僅かばかりの違和感を感じさせてしまうことが軍事面では往々にして存在する。

 

 これは『なんとなく勘で』としか説明しようのない感じ方で、ワタシ自身理論的な根拠を出しながら説明できる自信は皆無だ。絶対に無理。

 感性の問題でもあることだし、理論派になればなるほど分かりづらくなってくる非合理的な直感などの問題。

 でも、こう言う理屈のない直感こそが戦場で我が身を助けることがあることをワタシは知っている。実体験で把握している。国外脱出の時に何度か訪れた絶体絶命の危機も、これのお陰で回避できたことだしね。

 

 だから、その勘がワタシにささやく警戒を促す声をワタシは無視することが絶対に出来ない。

 

 

(・・・後でタツヤたちにも知らせておいた方が良いかもしれないわね・・・・・・)

 

 頭の中にいつもシズクと一緒にいる、周囲に埋没しそうに見えて実は一番目立っている(時に悪目立ちしまくってる)日本人にしては背が高い少年の姿を思い出しながらワタシは九校戦会場全体の見取り図も同時に思い浮かべて考えはじめる。

 

 おそらくはワタシと同等かそれ以上の使い手、司波タツヤとの連携で警備の補助をおこなう計画スケジュール表を。

 鷹が隠している爪を多少なりとも引き出すために必要となる餌の少女たち二人のどちらをどのようにして使ってみるかを。

 

 考える。考える。考える。考え・・・る・・・・・・。

 

 

 

 

「あら? クドウさん眠っちゃったのかしら?」

「そうみたいだな。コイツもなんだかんだ言いながら一番最初にバスに乗り込んできて、北山が一緒でないことを知ってから酷く落ち込んでたし・・・もしかして昨日の晩に楽しみで寝付けなかった類いじゃないのか?」

「ちょっと待ってください渡辺風紀委員長!? 高校生ですよね彼女って!? だとすると、小学生レベルで思考する後輩魔法師に助けられた我々は一体・・・っ!?

 あ、あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」

「どうしたー? 服部―。今更そんなこと気にしてたのかー? もうウィードだのブルームだのとか気にする時代じゃないんだから気にするなって言っといてやっただろ-? 忘れたのかぁ? なぁ? 服部刑部丞相半蔵、時代錯誤で長ったらしいフルネームの副会長」

「き・り・は・ら・き・さ・まぁぁぁぁぁっ!!!!」

『wwwwwww(*^▽^*)』

「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!

 もう許さん! 思い知らせてやる! 俺は必ず九校戦で結果出して身の程知らずの司波たちやクドウよりも上だと言うことを思い知らせてみせるぞ―――っ!!!」

「・・・(ハンゾーくんを手玉にとって九校戦の勝率アップさせるだなんて・・・桐原くん。恐ろしい子!)」

 

 

 

 混沌としたままバスは、交通整理を終えて目的地へと再度出発する。

 到着まで、後1時間半。

 

 

 

 ――そして到着する。描写することないと時間なんて一瞬で過ごさせられる物だよね。

 

 

 

「ではやはり、先ほどのあれは、事故ではなかったと・・・?」

 

 隣を歩きながら眉を顰めて問い返してくる妹に、俺は大会参加者たちが宿泊するホテルのロビーにカートを押して入ろうとしながら不思議に思って聞き返していた。

 

「『やはり』・・・? バスの中にも俺と同じ眼の持ち主が混ざってでもいたのか?」

 

 だとしたら厄介なことになるかもしれないと警戒感を強めた上での言葉だったが、幸いなことに杞憂だったようで深雪は小さく頭を振って否定してくれた。

 

「いいえ、おそらくですが違うかと思われます。そこまで明確な意図がある発言とは思えませんでしたし、多分彼女なりの勘か何かによる物だと思われますが、それ以上詳しく分析するにはお兄様のお力が必要です。今のわたしには些か・・・」

「・・・ああ、そう言えば彼女も元はアレだったからな。俺とは違う視点で気づいたとしても不思議じゃないのか。・・・だったら情報も共有しておいた方がいい場面も出てくる可能性が否定できなくなってしまったな」

「情報?」

 

 深雪が不思議そうな表情で首をかしげながら、上目遣いに問いかけてくる。

 並の男ならこの仕草だけで落とせてしまいそうな美貌というのは兄として自慢である一方、将来的な不安としては困ったところでもありなかなかに厄介な問題だとつくづく思う。

 

 

 それはともかく、普段から俺を過大評価しがちな妹だが、それは逆に俺にも出来ないことがあると承知の上で言ってきている言葉でもあり、俺の能力を正確に分析できているからこその『十師族が一家、四葉の次期後継者』としての見解で、俺の力があの時あの場所でどのようにして役立てられるか役立てられないかを正当に評価できていると言うことでもある。

 

 平たく言ってしまえば、俺が本来持つ能力だけだと、あの事故現場から引き出せる情報の限界を把握していると言うことだ。

 

「あの自動車の飛び方は不自然だったからね。調べてみたら案の定だった。魔法の痕跡があったよ」

「私には何も見えませんでしたが・・・・・・」

 

 深雪の言葉にさもありなんと頷き返しつつ、俺はイタズラ心から妹に対してからかうような口調の言葉と共に『ある物』を取り出して彼女の前に掲げてみせる。

 

「だろうな。・・・だが、こうすれば分かる様になるんじゃないかな?」

「それは・・・リトマス試験紙、でしょうか?」

「正解」

 

 俺は自分の掲げ持った、薄っぺらい紙切れをヒラヒラさせながら笑いかける。

 

「小学校時代に歴史の授業で見たことがある気がしますけど・・・ですが、それは一体何がお分かりになる物なのでしょうか? 意地悪しないで早く深雪にも教えてください」

「もちろんそのつもりだよ。――尤も、この紙の形状自体には意味は無いんだけどね。単に韻を踏んだだけというのと、持ってるのを見つかったときに言い訳しやすいように敢えて子供っぽい玩具の形にしてみただけで」

 

 そう、あくまで性能重視の採用基準で俺が決めた形なのだ。

 断じて、何処かのバカに影響されたからではないと断言しておきたい。

 

「これにはね、その場にとどまっているサイオンを、毎秒同じ量ずつ吸引して色が変わっていくようインプットされた簡易魔法式が組み込まれた紙なんだよ。

 交通規制している間、これを現場に落としておいて片付け際に拾ってきたら案の定だったというわけだ」

 

 妹の驚く顔が見れたことに軽い満足感を味わいながら、俺は改めて紙の色を見て確かめる。

 その色は真っ赤を超えて、血のように黒が混じった紅になりかけている。これは車の運転手である魔法師の放つサイオン量が、レッドゾーンに達する寸前まで押し上げられていたことを意味している。間違いようもなく、薬物か魔法的ドーピングが施された状態だった事を示す雄弁な証だ。

 

 

 ・・・・・・フォア・リーブス・テクノロジー本社にある技術開発部門まで、完成した『例の物』を届けに行った数日前のことだが、俺は生徒会室で中条先輩に飛行魔法式が実用化できない理由について説明する一環として魔法式のプロセスを語っていたことを思い出す。

 

 

 終了条件が充足されていない魔法式は、時間経過による自然消滅まで対象エイドスに止まり続ける性質を持っていて、新たな魔法で先行魔法の効力を打ち消したとしても、それは二度が消したと言うだけで前に掛けた魔法式が消滅するわけではない。効力が失わせられるだけなのである。

 

 これは、その応用だ。

 一度使った魔法は二度がけしても消すことはできず、ただ対象に止まるサイオン量が増えるだけ。あの場合に限って言えば上手く偽装するために弱い魔法を連続使用しているから、結果として生じる被害と効果の大きさに反して場に止まるサイオン量は極めて少なく、直ぐにも消滅してしまう。

 証拠隠滅の手法としては花丸をくれてやりたいレベルだが・・・・・・まだ甘いな。時代の変化に乗り切れていない。

 超簡易魔法式の効能を十分に理解しないまま旧来のやり方をとってしまったのが『敵』の意図を悟らせた最大の失敗要因だ。

 

 

「どんなに弱い魔法であっても、一度世界を改変した魔法は使い終わっただけで直ぐにも消滅するなんてことはありえない。火を消しても煙は残るように、しばらくの間は現実世界に消えた魔法の残滓が漂い続ける。

 ならば、超簡易魔法式を可能にした『魔法式を保存する機能』によって、消え去るまでの間ずっと同じ量しか吸引できない紙を作り、術者が居た場所に置いておけばどうなるか?

 考えるまでもない、与えた影響は紙に付いた色という名の正確無比な判別装置で正当に評価させることが可能になる。一つ一つは弱い魔法でも、すべての場所に一定距離をとって置いておいたこの紙をすべて合わせるととんでもない高レベルの技術で魔法が行使されていたことが分かってくるし、これだけの魔法が使える技量の持ち主がなぜこんな特攻まがいの正気を失ったような手法でその身を犠牲に捧げてきたのかなども含めて多角的に分析する材料になるんだよ」

「・・・・・・・・・」

 

 深雪は可愛らしく口と目で三つの丸を形作ってポカンとしている。無理もない、正直自分もこのやり方は詐欺のようだと感じはしたのだし、魔法は所詮『世界を騙す詐欺の技術でしかない』と主張したところで今はまだ受け入れられる魔法師がそれ程多くなっているとも思えん時代だからな。

 

 尤も、百年二百年後にはそれも変わっているだろうなとも今では思っているのだが。

 

 超簡易魔法式は世の有り様を変えた。良い方にも悪い方にも大きな変革をもたらしてしまった。進み始めた世界を止めることは誰にもできない。魔法による奇跡の騙しは期間限定で、制限時間が過ぎれば世界は元の姿を取り戻してしまう一時の甘い夢でしかない。

 世の中すべてを変えられるのは、いつの時代もすべての人間が共有できる一般化の技術だけだ。現代魔法の登場により魔法師社会が構築される時でさえ機械による補助と魔法師の量産化が必要不可欠だったのと同じように。

 

 あのときは魔法の才能を先天的に持っていなければ参加できない新たな世界の構築だったが、今の時代にもたらされた変化はすべての人に恩恵を受けられる機会と資格が与えられてしまっている。もう特権階級の時代に逆行することは誰もできない。させてもらえない。

 たった一人で激流の前に立ちはだかり、流れに逆らい続けたところで自分以外の周囲すべてが流れてゆけば、取り残されるか追いかけるかのどちらかしか選べる道がなくなるだけなのだから。

 

 

 

 

「あー、うー・・・・・・重、いよぉ~・・・。眠、いよぉ~・・・・・・(ふらふらふら~)」

 

 

 ――そうこう話している内に、世の中を変えた変革者の片割れが眼を眠そうに細めてフラフラしながらホテルから出てきて、また別の荷物を持ってホテルの中へと運び入れていた。

 

 ふむ。

 

「・・・普段から眠そうな目をしている奴だと思っていたのだが・・・実際にはアレでも一応起きているときの目の開き方だったんだな。今のアレだと見えているのかいないのか皆目識別方法がわからない」

「あの、お兄様? 冷静に分析してらっしゃるところ無粋なのは承知しておりますが・・・お手伝いしてあげられた方が宜しいのではないかと深雪は愚考致します。雫の身はともかくとしても、持ち運んでいる機材は大会勝利に欠かせない貴重品ばかりですし、その、お値段の方も些か値が張る物ばかりではないかと・・・・・・」

 

 もっともな心配をしてくれる妹の聡明さに俺は頬を緩ませながら、優しく頭に片手を置いて答えてあげる。

 

「大丈夫だよ、深雪。雫は絶対に落としたりしないから」

「何故でしょう? あんなにフラフラして、前も碌に見ていないようにしか思えませんのに・・・」

「怒られるのが怖いからだそうだ。よくは分からないが、いつ頃からか眠かろうとフラフラしていようと関係なく貴重品を持ち運んでいるときに持ち物を落とさない習性が身についたらしいのでな。こういう時には重宝している。

 非力だが、落とさないためには半ば以上眠りながらでも正確無比なリスクコントロールで落とさずに運べる物だけ選別して手伝ってくれる。

 あれでも雫は、お前が思っているよりずっと成長しているんだ。友達として偶には信じて任せてやりなさい」

「・・・・・・・・・」

 

 たとえ年頃の妹に鬱陶しがられようとも、兄としての責任感から兄らしい説教をしてみたつもりだったのだが。

 

 

 どういう訳か今日は妹からの見上げる視線が妙に寒々しい気がしたのだった。

 

 

つづく

 

おまけ

 

エリカ「お、来た来た。やっほー、司波くん。深雪ー」

美月「こんにちは、深雪さん」

深雪「エリカ!? ・・・それに、美月まで・・・貴女たち何故ここに・・・」

エリカ「来ちゃった♪」

深雪「そういうボケはいいですから。それより早く事情を説明しなさい」

エリカ「は~い。ちぇっ、深雪ってばつれないなーもう」

 

 説明中。

 

深雪「なるほど。事情は理解したのだけれど・・・・・・派手ね。悪いことは言わないから早めに着替えてTPOに合わせた方がいいと思うわよ?」

エリカ「えーっ、そーかなー?」

 

雫「あー、うー・・・眠、い・・・(半ば以上寝落ちしている)」

 

エリカ「あ、雫も来たわ。やっほーっ。しーずくー♪」

雫「あー・・・、うー・・・?」

エリカ「ねぇねぇ、雫。アンタ今回の大会中はどんな服着て過ごすつもりなのよ? 達也くんを誘惑しちゃえるようなエッチィ寝間着とか持ってきてたりするんじゃないの?」

美月「ちょ、ちょっとエリカちゃん! こんな時間にこんな場所でなんてこと言っちゃってるの!? もう少し恥じらいを持とうよー!(>_<)」

 

雫「あー・・・、うー・・・?(寝ぼけながら)

  えっ、と・・・ピンク、のネグリ、ジェ・・・?」

 

三人の年頃少女たち『女の子としての恥じらいは!?』

 

*父から女の子のパジャマはこれと教わって疑いもなく信じてしまったアホの子主人公

 

 

 

達也「・・・・・・(で、出られん・・・)」

 

*空気読んで席外したら戻れなくなってしまった薄幸の原作主人公。

 

 

???「・・・・・・(キラリーン☆)」

 

*暗闇から達也を見つめる青い瞳をした星の人。



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第22話「北山雫が参加する九校戦開始前のパーティーは無礼講?」

明けましておめでとうございます。新年初の雫を読んでくれた皆様方、今年もよろしくお願いいたします。
新年一発目の更新ですが、残念なことに雫があまり活躍させられませんでした。久島老人の演説シーンとか、お風呂での話とか色々妄想しながら書いてたら尺を使いすぎました。申し訳ありませんが次回に回させて頂きますね。今回のメインは・・・千葉家かなぁ?


 来る途中で事故に見せかけた魔法師によるカミカゼ特攻アタックなんていう、映画でしか見たことないショッキングな光景を見せられはしたものの。

 ワタクシ、アンジェリーナ・クドウ・シールズ含む魔法科第一高校の面々は九校戦の会場に到着した訳なのだけれども。

 

 

「慣れないわ、この空気・・・・・・そりゃもう、ものスッゴく・・・」

 

 目の前で繰り広げられてる、各校の選手たちが入り乱れての立食パーティー。参加者は当然のごとく高校生メインだからドレスコードは礼服じゃなくて、各学校の制服。

 着るものに悩まなくていいのは助かるんだけど、この互いが互いを伺い合って社交辞令を言い合ってる雰囲気はどうしても慣れないわぁ・・・。

 

 軍にいた頃も、同盟国や仮想敵国なんかを相手に中級士官同士が歓談し合う会談パーティーは何度か出たことあるんだけど、お互いに命令さえあればいつでも相手を撃ち殺せる覚悟と度胸と、そして素人さん方にはおかしく見えるかもしれない『命を掛け合う者に対する敬意』が有ったおかげで意外と気軽に楽しめていた。

 

 なのにこのパーティー会場はなんて言うか・・・・・・お偉方と相席しての儀礼式典じみた空気が漂っていて妙に息苦しい。制服がいつもよりずっと窮屈に感じられるほど息が詰まって仕方がない。

 

 何というかこう・・・戦いを前にして緊張感はあるのに、死ぬ危険性がないからと一部だけ弛緩しているような『所詮はスポーツ大会』と楽観視している空気が混在となって生じるカオス感が、一手読み間違えただけで死が訪れるかもしれない戦場暮らしが長いワタシには合わない。ものスッゴい違和感を感じさせられて仕方がない。

 

 戦争するかもしれない相手国と仲良く肩を組み合えてた現役時代よりも、平和な日本で学生として参加させられてるスポーツ大会開催前日のパーティーの方が気が重くなる不思議とは、これ如何に?

 

 

「・・・トーヨーは、やっぱり恐ろしい国なのね・・・・・・」

 

 改めて実感しながらワタシは、それとなく周囲を見て回る。

 敵が紛れ込んでないか、念のために見て回っているのだ。

 

 あの後、会場に着いてからタツヤとコンタクトを取って、やや脅迫紛いになっちゃったけど一定の情報共有は約束させることが出来た。今はタツヤが掴んでいた情報を基に(どうやって掴んだかは企業秘密なんだってさ。ケチ!)日本人以外のアジア系人種を探し回っているんだけど・・・ダメだわやっぱり。東洋人、見た目の違いワカラナ~イ・・・・・・。

 

「・・・本気でどうしようかしら、この状況・・・・・・」

 

 ワタシは出来ることを見失い、ただ呆然と立ちすくんで周囲を見渡す変な外国人になってしまってた自分を自覚しないまま、しばらくはジーッとし続けていた。

 

 そして気付いた。

 背後から近づいてくる複数の邪なプレッシャーに!!

 

「ふぅんッ!!」

 

 気配に向かってワタシは回し蹴りを放って奇襲する。

 騙し討ちしようと近づいてくる敵には、ギリギリまで引き寄せてから奇襲する! 戦場での常識を思い知りなさい! 中国系マフィア!!

 

 

 

 

 

 

「・・・?? 何の騒ぎじゃ? 何やら会場の一部が騒がしいことになっておるのう」

「さぁ・・・、よくは聞こえなかったけど近くを通りかかったときに『四校の男子生徒が金髪で外国人の子に声かけようとして急所蹴られた』って、騒いでいた様な気がするわね・・・」

「・・・戦いを前だというのにお気楽なものね。懇親会を何か別のものと勘違いしてるんじゃないかしら。まったく軽薄で嫌になってくるわ」

「それだけ気を抜いている者が多いということじゃな。わしらも見に行ってみるか?」

「沓子はそうやってすぐ楽観視するの良くないわ」

 

 

 ・・・親の心子知らず。子の心、子供たち同士でも伝わらず。

 魔法師で有ろうと無かろうと、人は人。

 人間の脳みそは自分一人分が感知している以上の情報を収集して分析することなど出来はしないものである。

 

「あっ、あれ三校の一色愛梨さんだ。エクレール・アイリだ!! 声かけてみようぜ!」

「おうよ! さっき一高の子に声かけようとして玉砕した仲間たちの無念を今こそ晴らす時は今だ! すいませーん!」

「あの・・・三高の一色さんですよね? 良かったらお話でも・・・」

「あなた十氏族? 百家? 何かの優勝経験は?」

「へ? えーと・・・特にそういったものは・・・」

「話すだけ無駄ね。行きましょ」

「やれやれ、愛梨はあいかわらずあしらいが厳しいのぅ。一条とはえらい違いじゃ」

「あれ、その一条くんの様子が変ね・・・珍しく他校の生徒に夢中になってるみたいだけど・・・」

「なんじゃとっ!? それでは親衛隊が荒れておるのではないか!?」

「・・・ううん、アレはたぶん荒れるの無理だと思うわよ・・・?」

「??? なんかよく判らんが面白そうじゃし、わしらも行ってみるか」

 

 

 

 

「はぁ・・・明日からともに競い合う相手との懇親会だって言うのに、和やかさよりも緊張感の方が強いこの雰囲気・・・。だから本当は出たくなかったのよね、これ・・・」

 

 パーティー会場の隅で一人、壁際の花ならぬ食みだし者の悲哀を囲っていた俺の近くから七草会長がつぶやいているのが聞こえたので、礼儀正しく聞かなかったことにしたものの。

 内心で俺は彼女の意見には全面的に賛同していた。

 表の顔以外でも裏方に徹している俺は、パーティーだのレセプションだのの類いを正直苦手としていた。無理に笑顔を作るのが面倒くさいと言うのもあるが、そもそもにおいて俺は決して人との会話が上手い方ではないし、好きなわけでもない。特別嫌いなわけでもないが、苦手にはしている。

 

 そう言う人間にとって、九校戦開会式前日におこなわれる、技術スタッフ含めた各学校からの選手たち全員が強制参加させられるパーティーは苦痛でしかなかったが、俺たちを乗せたバスが大会が始まる前々日の午前中などという早すぎる時間帯に到着を予定していたかと言えばパーティーに出席するためだったのだから、これで体調不良を口実にして参加を拒否するのは本末転倒も甚だしくなってしまう。一時のことだと耐える以外に他なかろうよ。

 

「あーあー、私もクドウさんみたいにはっちゃけてストレス発散したいなー」

 

 前言撤回。会長の発言を無視するのはやめだ。礼儀だのどうだのといった形式はすべて無視してでも彼女の一挙手一投足に目を配っておかなければ大惨事になりかねない。

 信頼していないわけではないのだが、彼女は時折一瞬だけとはいえ気まぐれからトンデモない事をしでかしてくれる傾向がある。用心するにしくはなかった。

 

 

「お客様、お飲み物は如何ですか?」

 

 しばらくして、監視対象だった会長が何事もなく他校の代表グループに混ざるため歓談しに赴くのを確認してホッと息をついていた俺に声がかかり、そちらを見るとエリカが立っていた。

 だが、普段のエリカではない。なんと言えばいいのか、言ってしまっていいものなのか判然としない服装を纏い、俺の目の前まで立ちにきている。

 

「関係者とはこういうことか・・・・・・」

 

 俺は渡されたドリンクを受け取り、ウェイトレス姿をしたエリカを呆れも交えた苦笑を浮かべながら当たり障りのない言葉で評することにする。

 

「あっ、深雪に聞いたんだ? ビックリした?」

「驚いた。よく潜り込めたものだと感心していたが・・・まぁ、よく考えてみればこれくらいは当然か」

 

 俺は近年の魔法関連市場における勢力図と経済事情を思い出しながら、前言を撤回して言い直す。

 

 もともとエリカの実家である千葉家は『剣の魔法師』と渾名される、刀剣と魔法技術の併用をいち早く確立したことで勇名を成した一門として知られている。

 が、経済基盤そのものは、むしろ警備保障や防犯グッズなどのセキュリティ関連こそが主力であり、門下生たちに剣術を技術として教え広めるのは副収入となっているのが、営利企業としての千葉家の事情であったりする。

 

 彼らが教え伝える剣術は確かに素晴らしいものではあったが、技術普及の基本は一般化であり、学べば誰にでも使えるようになる体系化こそが真に社会にとって益をもたらす技術たり得ることが出来るのだ。

 

 極めなければ使いこなせない技術というのは所詮、個人の才能に依存するものだ。大量生産は限りなく不可能に近く、一般化にも技術普及にも貢献し得ない。むしろ足かせとなるしかない、選ばれた者のみが使うことを許された奇跡。それ以外の何物でもない。

 

 当然、それらを資格無き者が使おうと思えば相応の代価が必要となり、俺のような子供が生み出される結果を招いてしまう恐れがあるのは自明の理であるだろう。

 

 だからなのか、千葉家が振るう伝統ある正統派剣術の教えは意外なほど超簡易魔法式との相性が良く、彼らも旧家故の非合理的なプライドなどには目もくれずに新しい技術を学び研究し、新たな使い方を考案することに余念がない。

 

 その結果、近年では『防犯と言うより奇襲に近い』まったく新しいセキュリティ概念を確立するまでに至ってしまったのは俺から見ても驚愕に値する大偉業だったと絶賛してやまない。

 

 こと奇襲性において簡易魔法式に比肩できる魔法というのは存在していない。『そういう風に創り出された魔法』なのだから当然のことだ。

 鍛えれば向上の余地がある魔法師の使う魔法と違って、決められたことをするしかない機械で使うが故に限界がはじめから設定されている簡易魔法式は威力でも規模でも他の魔法には決して敵うことはなく、一方で発動までの速度と連射性能で他に引けを取ることは決してあり得ない部分でもある。

 

 その結果、強い相手と正面からやり合うことなく、必殺必中の間合いにまで引きずり込んでからトドメの一撃を放つ様な陰湿極まりない奇襲の手法が毎日のように考案されては千葉家の売れ筋防犯グッズの歴史に新たな名を刻み続けている今がある。

 

 

 ・・・長くなってしまったが、要するに『金とコネで大抵の軍施設に入ることが出来るのが千葉家』という状況に今ではなってしまっていると言うことである。

 無論、今身につけているコンパニオンの格好をさせるような辻褄合わせの工夫は必要だろうが、実際の接客を任せるというのは依頼された方ではなく、むしろ依頼してきた本人の趣味趣向によるところの方が大きいのではないかと俺は見ている。

 

 何故なら、怪我でもされて困るのは日常的に刀傷を負う剣の一族の娘ではなく、この会場および大会運営側の現場責任者であるだろうから。

 千葉が笑って許してくれたとしても、軍と国が責任者を許しておかない。必ずや首を差し出してご機嫌伺いをしにくると見て間違いない。余計な借りを作らずに済むためなら、現場責任者と現場監督の首を二つ並べて差し出すくらいのことが出来なければ組織の長など務まるはずもないことだし。

 

 いつの時代、あらゆるゴタゴタにおいて責任を取るべき総責任者は責任を回避して現場責任者こそが全ての咎を背負わされて腹を切らされる。世界中あらゆる場所で行われてきて、今も行われ続けている平凡な政治だ。古くさい日本の時代劇を持ち出すまでもないだろうさ。

 

「ハイ、エリカ。可愛い格好をしているじゃない。関係者って、こういうことだったのね」

「そういうこと。ねっ、可愛いでしょ? 達也くんは何も言ってくれなかったけど」

「お兄様にそんなことを求めても無理よ、エリカ」

 

 俺が黙り込んで思考に耽っていた空白の間を補ってくれるように、深雪が会話に入ってきてくれた。

 

「お兄様は女の子の服装なんて表面的なことに囚われたりはしないもの。きちんと、わたしたち自身を見てくださっているから、その場限りのお仕着せの制服などに興味を持たれないのよ」

「ああ、なるほどね。達也くんはコスプレなんかに興味はないか」

「それってコスプレなの?」

「あたしは違うと思うんだけど、男の子からしたらそう見えるみたいよ。実際、ミキがコスプレって口走ってるのが聞こえて、お仕置きしてやったばかりだし」

「僕の名前は幹比古だ!」

「うわっ、なんか呼ぶ前から本人が来たわ!? なんで!?」

「バカバカしい。同じ一高生で、しかも今はチームメイトなんだから不思議なことでもないでしょ?」

「今度は千代田先輩!? しかも、五十里先輩まできちゃってるし!」

「ふっ。なにを今更・・・私と啓はすでにして一蓮托生。離れ離れなんて、仏様が許しても私が許さないからに決まっているじゃない!」

「いや、その言い様だと誤解されちゃいそうだから、もう少し言い回しを一般水準に落とした方がいいと思うよ、花音・・・」

「それが許されるのは私の好感度が『愛してる』以下の場合に限ってまでよ、啓」

「それ以上の上があるの!?」

 

「花音、五十里の言うとおりだよ。世の中には拙速を尊ばないこともあるんだ。その言い様は、せめて結婚可能年齢に達するまではタンスの奥にでも仕舞っておけ」

「摩利さん」

「あれ? 達也さん、皆さんとご一緒だったんですね。何のお話をされてたんですか?」

 

 

 

 ・・・・・・なぜか理由は不明だが、思考を終えたら一瞬にして増殖してしまった俺の知人、友人たち一同。俺は問題児ホイホイか何かなのか・・・?

 

 ――しかし、一番注視しておくべき問題児の黒い頭髪が見当たらないのは気になるな・・・ほのかにでも聞いてみるか。

 

「ほのか、雫と一緒じゃなかったのか? アイツのことだから会場に漂う緊張感に当てられてビクビクしながら部屋の隅に避難してくると踏んで待っていてやったのだが・・・」

「雫ですか? 途中で料理の取り分けるため別れてきちゃいましたけど、でもすぐにこちらへ来ると思います・・・あ! やっぱり来ました! おーい、雫―。こっちこっち」

 

 とてとてとて。

 

「ほの、か。お待た、せ」

「おかえりなさーい。それにしても随分といっぱい取ってきたわねぇ。・・・念のために聞くけど、ちゃんと全部食べれるの?

 さすがに九校戦でだけは、いつもみたいに取ってきた半分も食べれなくて達也さんに残りを食べてもらうのはなしだからね・・・?」

「だいじょう、ぶ。ちゃんと全部責任もって食べ、るから(キラキラお目々)」

「それ絶対食べ残して親に食べてもらうことになる子供の台詞だよね雫―っ!?」

「・・・・・・・・・」

 

 

 会場内に満ちる和やかさよりも緊張感の方が目につく空気。

 それを少しだけでいい。・・・今俺の目の前で繰り広げられてる馬鹿騒ぎにも別けてくれないだろうか!? 頼む・・・っ!!

 

 

つづく

 

 

次回予告

 

「それでは来賓からの挨拶に移りたいと思います。まずは九島烈さまからです、どうぞ」

 

 コツコツコツ・・・。

 

 ・・・コソコソコソ。

 

「?? どうした、の? リーナ、おなかでも痛い、の?」

「しっ! 黙って! 今見つけられると物スッゴくヤバいことになるご老人が出てきちゃったから隠れたいのよ! 大会が終わった後のワタシを守る盾になりなさいシズク!!」

「???」

 

(↑今さっき問題起こしたばかりの、問題を起こしちゃいけないことになってる亡命者なスターズ元総隊長なアメリカ娘)

 

「・・・・・・(にっこり)」

(↑孫娘のやんちゃを見守りながら微笑んでいる好々爺。――のように見せかけている、元世界最強と目されてた魔法師)

 

 

たった一人にとって、危機的状況が訪れる(かもしれない)九島烈老人の挨拶へと続く!



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幕間「一条将輝の恋愛事情」

お待たせしました、更新です。今朝方まで書いてたのを今出させてもらいます。
元から烈老人のスピーチ前に将輝のシーンを射れる予定はあったのですが、どうせなら幕間会と言うことにして一話丸々彼の恋愛話と言う形に改編しちゃっております! なんか吹っ切れましたのでね!\(^o^)/


「失礼、少しだけよろしいでしょうか?」

 

 ――わたくしが幾人かの殿方からの誘いを礼儀正しくお断りしている最中に、話しかけてくる男性がおりました。

 他の方と同じくあしらうとしても、礼儀は大事です。同じようにお断りさせていただくからには、皆平等にお相手するのが淑女の勤め。

 それがお兄様によって守られている『四葉家の令嬢・司波深雪』としての立場を守るために必要とあらば遵守するのがわたくしの義務であり、使命であり、生き甲斐であり、慶びでもあるのですから当然のことです。

 

 ・・・本音を言えば今すぐにでもお兄様の元へと駆け寄っていきたいのですが、それはお兄様自身のしてくださった配慮を無にしてしまう行為。許されざる暴挙である以上は慎まなくてはなりません。

 それが、少しでもお兄様にとって良い妹たらんと願うわたくしなりの通すべき筋だからです。

 

「はい、もちろんです」

 

 わたくしは笑顔で相手を迎え入れながら、実際には少しだけ視界に写った光景に意識を集中しておりました。

 わたくしにとってもお兄様にとっても大切な友人にして幼馴染み。その片割れ――北山雫。

 彼女が料理の満載したお皿を持ってお兄様のいる方へと小走りに駆けていくのをザワつく気持ちと共に見送る私の内心は複雑な状態にありました。

 

 お兄様が雫をそう言う対象として見ているわけではないのは承知しています。そして私はお兄様が誰を選ぼうとも妹としてお兄様に尽くし続けると己に誓った身。それ故にこの感情は女としての嫉妬ではない。それもまた判っていることでした。

 

 ただ・・・雫は『妹の地位を競い合う』ライバルです。決して先を越されていい相手ではありません。油断したり侮ったりしたら取られます。妹としての地位を。

 

 お兄様が雫を見る目が『手間の掛かる妹』を見る目と同じであると理解した日から、私の中で雫は『お兄様の妹』の地位を競って争い合うライバルであり強敵として認識されてきました。

 ライバルの動向が気になるのは当然のことでしょう? だからわたくしは今も目の前の男性より後ろに見えた雫のことが気になって仕方がない心理状態に陥っているのです。

 

 

「私は三校の一条将輝と申します。過分にも十師族が一つ、一条の名を継がせて頂いている者です」

「・・・あなたが・・・」

 

 相手の名乗りを聞いて私は軽く目を細め、僅かな間だけとは言え雫よりも目の前の男性――『クリムゾン・プリンス』一条将輝へと意識を固定させられました。

 

 若くして実戦経験のある十師族の勇にして、時期後継者候補筆頭。その名は同じ十師族の一員として当然ながらわたくしも存じております。

 また、口上の最初に家柄を口にするのは一般社会ではいざ知らず、上流階級だけが集まっておこなわれるパーティーなどの場では当たり前のことであり、それをしない方が謙虚なのではなくて礼儀を心得ぬ慮外者との誹りを受けるもの。

 

 彼はそれを知っているからこそ、私に対して『一般人用“ではない”』礼儀を用いて挨拶してきたと言うこと。つまりは私の素性について察せられた可能性があることを示唆するものだったのです。

 

 ――危険だ! この人を放置すればお兄様に危害が及ぶ危険性がある・・・っ。

 

 その事実を認識したわたくしは断腸の思いで雫の存在を意識から追放して、目の前の殿方との応対に全神経を集中することを決意しました。

 それに衝撃が大きすぎて忘れていましたが、彼は今お兄様の敵。魔法科第三高校の選手としてこの場に来ているのですから純粋になれ合う必要性などどこにもないのです。

 

 ここは上流階級の一員らしく、礼儀正しく応対しながら相手の真意を探り出し、お兄様のお役に立ち、以て『優秀な妹・司波深雪』としての地位を『出来が悪いからこそカワイイ妹分・北山雫』より優先順位として上位に立つのです!

 

 お兄様、見ていて下さいませ! 深雪はこの戦い、絶対に負けません!

 

 

 

 

「丁寧な挨拶、いたみいります。私は第一高校、司波深雪と申します。以後よしなに」

 

 ・・・礼儀正しく上品な仕草で挨拶を返してくれた美しすぎる女性、司波深雪さん。

 彼女の美しさに目も心も奪われていた俺は、少しでも自分をよく見せようとそればかりしか考えてなくて、自分でも何を言っていたのか全く覚えていないのだが、途中で師捕十八家のひとつ一色家の令嬢、一色愛梨が司波深雪さんに話しかけてきていたのだけは朧気ながらも覚えている。

 

 正直助かったと、あの時のことを振り返る度、俺の心は一色への感謝でいっぱいになる。

 一目惚れした勢いで話しかけてはみたものの、何を言えばいいのか全くわからない初心な十代中盤の童貞少年でしかなかった俺には難易度が高すぎる挑戦だった。反省している。

 

 やはり魔法も恋愛も男女関係も段階を踏みながら少しずつ着実にが基本だな、うん。焦りは禁物。慌てない慌てない・・・・・・。

 

 

「・・・・・・そうですか。では九島烈さまのスピーチが始まるようですし、残念ながら話は次の機会ということで。

 ――遅ればせながら一条さん、明日から始まる大会での試合、頑張ってくださいね」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・慌てない。慌てたら、負けなんだ・・・・・・(やる気の闘志メラメラメラ)

 

つづく

 

オマケ『現在、それぞれがそれぞれに向けている感情』

 

将輝「深雪さんの期待に応えるためにも俺は勝つ! 見ているがいい、第一高校!!」

 

深雪「雫! あなたに妹の座を譲りはしないわ!」

 

リーナ「なんかオジイサン、めっちゃこっち見てる!? ワタシのこと見て笑ってるわよ!? ヤバいわ! 九校戦で結果出してイメージ改善しないとマジでヤバいわ! チョベリバよ!」

 

雫「・・・ごは、ん・・・(しゅん)」*スピーチで暗くなったから食べれなくなって俯いている。

 

九島烈(ほう・・・っ! 今年は私の悪ふざけにカワイイ孫娘も含めて“七人”も気づいたか。予想以上に面白そうな若者が多く見つかったようで結構結構)

 

 

九頭竜「明日からの仕込みは万全だ。もはや・・・勝ったも同然!」

 

 

 

 

 

達也「・・・・・・またしても面倒くさい事態に巻き込まれてしまった気がするのだが、気のせいだよな・・・?」




*指摘を受けてから修正するのが遅れてしまい申し訳ございません。
今話でリーナを九島烈が『孫娘』と表現したのは『偶然にも血の繋がりがあったから身元引受人になっただけ』の親子関係であり、互いの間に利害関係しか存在しないため家系図とかどうでもよかったから呼び方にも興味なかったと言うオリ設定が採用されてます。

要するに今作版『四葉家』を想定してたんです。次の回で呼び方が変わっているのはそのせいですが、四葉と違って敵意とかはないのであしからず。
あくまで『利害に基づく親愛の情』と言うだけですのでね。


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23話「北山雫は久々に北山雫っぽくなる」

ようやく大分前から予定していたスピーチ回が終わりました! 長かった! 次回からやっと競技開始です!(その前にミキの話があるかもしれませんが)

あと、今話は久々に雫がメインがお話ですよ~♪


「あー・・・ヒドい目にあったわぁ・・・」

 

 散々説教されてパーティー会場に帰ってきたワタシ、アンジェリーナ・クドウ・シールズはゲンナリしながら慨嘆していた。

 あの後、別途に用意された仮設治療室に運ばれていったニッコーだかロッコーだか言う名前の学校の生徒たちを今後は不用意に蹴り飛ばしたりしないことをキツく言明されてしまい初っ端からダウナーな気持ちになってる九校戦だけど大丈夫。

 

 この程度のローテンション、超簡易魔法式奪取に失敗したときにかけられた査問会の未公開リンチと比べたら比較になりませんものねー・・・。ウフフフ・・・・・・・・・。

 

『それでは来賓からの挨拶として、この方に登場してもらおうと思います』

 

 ・・・ん? 会場内に戻ってきたら、なにかのセレモニーが始まってたっぽい。そう言えばクドウのお爺さまがなんかソレっぽいこと言ってたなぁーとか思いながら、ワタシは正直どうでも良かった。

 

 だって、ここまで大きな騒ぎを起こしちゃった身ですもの。一度は公務員だった者として、この大会が終わるまではお茶を濁して適当にが基本―――――――

 

「・・・って、ふおわぁっ!?」

 

 その台座上に上ってきた人物を目にした瞬間。適当にやろうと思っていたワタシの甘えは消し飛んだ。

 

 何故ならば―――ワタシは必ず金を取ると! このとき心に誓ったのだから!

 

 

 

 

 

「ロース、トビーフ・・・♪ ロースト、ビーフ・・・♪」

 

 私、は目の前にあるお肉の山、に感動しながらフォークを突き刺、す♪

 あーんって口を開け、てお肉をお腹いっぱいハグハグできると思っ、てアーンってす、る♪

 

「いただ、きまー・・・・・・♪」

 

 

 

 

『えー、本日の懇親会にあたり多数のご来賓の方々にお越し頂いております。ここで魔法協会理事、九島烈様より激励のお言葉を賜りたいと存じます』

 

 

 

 ガコン。

 

 

 ・・・・・・真っく、ら。何も見えな、い・・・・・・。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロースト、ビー、フ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・・・・ごは、ん・・・って、あ、れ?

 

「リーナ? どうした、の?」

「シッ! 黙って! シャラップよシズク! シャラップ!

 ワタシは陰からあなたを守る者。いわゆる一つのガーディアン。ワタシはこれからも貴女を護り続けるし、その為に戦って無傷で帰ってくる者」

「・・・??」

「だからお願い! 今は護って! ワタシの隠れる盾になって頂戴! こういうのは持ちつ持たれつ! WINーWINが基本よ! 日本人特有の一方的な自己犠牲礼賛を欧米人は好まない!」

「?????」

 

 なんだかよく分からないけ、ど・・・隠れんぼ、で気づいてないフリをすればいいのか、な?

 

「雫!雫! 十師族の長老が来てるんだって! 私、直接お顔を見るのは初めてかも!」

「そうな、の?」

「うん!」

 

 とりあえ、ず、ほのかがヒソヒソ声で話しかけてくれたか、ら、リーナのことに気づかなかったことにすればいいか、な?

 

 ・・・・・・で、も、お尻の後ろに隠れられてるか、らちょっとだけ気にな、る・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・モゾモゾモ、ゾ・・・・・・。

 

 

 ピカンッ!

 おおっ!?

 

 

「・・・??」

 

 なにか音し、た?

 

『まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。今のはチョットした余興だ。魔法というより手品の類いだ。だが、手品の種に気づいた者は、私の見たところ5人だけだった』

 

 あ。お尻が気になってる間、に誰か出てきて、た。

 ・・・目の周りにスゴい隈が出来てるお爺ちゃ、ん・・・? 鉄ゲーのやり過、ぎ・・・?

 

 睡眠時間はちゃんと取っ、て、ゲームは一日25時間までにした方がいいと思いま、す。

 

『つまり、もし私がテロリストで毒ガスなり爆弾なりを仕掛けたとしても、それを阻むべく行動を起こすことが出来たのは7人だけだった、ということだ』

 

 ザワッ!?

 

『魔法を学ぶ若人諸君。魔法とは手段であって、それ自体が目的ではない。私が今用いた魔法は、規模こそ大きいものの、強度は極めて低い。魔法のランク的には極めて低い、低レベルなものに過ぎない。

 だが君たちはその弱い魔法に惑わされ、私を認識できなかった。――諸君ら全国から優良が集められたはずの九校戦出場選手が、弱い魔法に負かされたのだ。この事実から目を逸らしてはならない。

 魔法力を向上させるための努力は決して怠ってはいけない。しかし、それだけでは不十分だということは肝に銘じて欲しい。

 使い方を誤った大魔法は、使い方を工夫した小魔法に劣り、負けるのだ。

 魔法を学ぶ若人諸君。私は諸君の工夫を楽しみにしている』

 

 

『・・・ちなみに、これは余談なのだが――。

 今の魔法は私のカワイイ姪っ子の魔法学生が『自分は優秀だ負けるはずがない』と思い上がって突撃していった結果敗れ去った、超簡易魔法式によるセキュリティトラップを応用したものでね。

 魔法を悪用するコソ泥から大切にしている思い出の品などを盗まれないために購入をお勧めさせてもらう。定価は800円だそうだから、お買い得だよ?』

 

 ――ぷっ。

 わははははははははははははっ♪(^O^)

 

 

 

「ごっはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ちょっ!? リーナ!? いつの間にいたの!? そして、なんで盛大に吐血しながら倒れているの!?」

「・・・???」

 

 今日のリーナは、なんかへ、ん。

 

 とりあえずみんなパチパチ拍手してるか、ら私も拍手。周りと同じことして見せ、て、心の中で舌を出すの、は、ひねくれ者のきほ、ん。

 

「・・・あれだけのことを言った後に、最後には和ませる。

 ふっ――これが老師か・・・」

「あ、達也さ、ん」

 

 そう言えばいたんだよ、ね。

 

 ・・・そう、だ。せっかくいるんだし聞いておかなく、ちゃ。分からないこと、は「分からなかったときに聞きなさい」って、達也さんに言われてたか、ら。

 

「ねえね、え達也さ、ん」

「なんだ雫? 今の老師のおっしゃってた内容を説明して欲しいのか? それぐらいだったら構わんぞ。ちゃんと準備は出来ている」

「うぅん。そうじゃなく、て・・・」

「?? じゃあ一体何を聞きたかったんだ?」

「うん、あの、ね・・・・・・」

 

 

 

「ロウシってな、に? 亀仙人さまのこ、と――――って、痛、い!? なんで叩く、の!? ちゃんと分からないことは聞いたの、に・・・!?」

「・・・テレビと子供の頭は壊れたとき、殴って直すのが一番いいという伝統が日本にはある・・・」

「昭、和・・・!?」

 

 今って、この世界っ、て、近未来が舞台じゃなかった、の!?

 

 

つづく

 

おまけ『温泉でのアレやコレ』

 

エミリィ「わーっ! ほのかってスタイルい~♪ ちょっと揉んでいーい?」

 

ほのか「えーっ!? ちょっと助けて雫!! ・・・って、ぎゃーっ!? 雫! なんて格好してきてるの貴女!?」

 

雫「・・・え? だってエミリィ、が一緒にお風呂入ろうって言ってたか、ら・・・」

 

ほのか「お風呂でもみんなで入るときは今は脱がないの! ちゃんと着て入るのが普通なの! スッポンポンで入ってくるのは貴女だけなの! お願い分かって!この常識!」

 

雫「でも、お父さん、と一緒に入るとき、はいつも何も着ない、よ・・・?」

 

その場のみんな(一色愛梨含む)『お父さん!? 一緒!? あなた高校生にもなってお父さんと一緒に入浴してるの!?』

 

雫「?? ・・・う、ん・・・。だってお父さんが『娘は高校生になっても大人になってもお嫁に行っても、お父さんと一緒にお風呂入るのが当たり前なんだよ』って言ってたか、ら・・・」

 

みんな『(雫の)お父さ――――――っん!?』

 

 

 

北山邸

 

雫ママ「・・・あなた。どういうことなのか説明してもらいましょうか、ええ? このスケベ中年オヤジぃぃぃぃ・・・・・・っ(バキゴキボキ)」

 

北山会長「後生だ朱音! 許して欲しい! 父親という存在はいくつになっても娘と一緒のお風呂に憧れて工夫を凝らす生き物なのだよ!」

 

北山朱音「それを世間では性犯罪って言うのよバカ親父―――――っ!!!(ドゴォン!)」

 

北山バカ親父「ぐはぁぁぁぁっ!? ――だが! 我が父としての生き様に悔いはなし!」



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24話「司波達也は成長(?)してる?」

更新です。競技開始まで書いても良かったのですが(話自体は思いついてましたので)
折角なので今話は恋愛パートにしてみた次第です。
今の達也さんにとって雫がどんな立場にいるのかと、周りから見た達也さんの変化について書かれております。


「司波君もそろそろ切り上げた方がいいよ」

 

 声をかけられ周りを見れば、作業車の車内は既に俺と五十里先輩の二人を残すのみとなっていた。

 明日からの試合に備え、念入りに機器類の整備をやり込みすぎていたらしい。

 

「こんな時間でしたか」

「司波君たちの担当する選手の出番は四日目以降なんだから、あんまり根を詰めすぎない方がいいと思うよ」

 

 彼の言葉に俺はうなずく。

 俺が担当するのは一年女子のピラージ・ブレイク、ミラージ・バットの二種目だけで、雫には同じく一年女子のスピード・シューティングと、余裕があるならミラージ・バットを手伝うよう言い含めてある。

 会場の広さを考慮して、二人の作業時間が重なりづらいように計算された結果である。確かにこのスケジュールなら、今の時点で焦らなければならない理由は何もない。

 

 それに、ついでと言っては何だが先輩からの好意を素直に受け止めるのも新人の義務だ。学生と二足の草鞋であろうとも、社会人として納税義務を果たしている以上は破る必要のないときに守っておくのがルールというものだろう。

 

「そうですね。では、お先に失礼します」

 

 あえて一緒に引き上げようとは言わずに、俺は作業車を後にした。

 真夏の夜の風は、今のTシャツ一枚で散歩して帰る俺にちょうどいい涼風を吹いてくれていた―――。

 

 

 

 ガサッ―――。

 

 

 ・・・その風が運んできた結果なのかもしれない。俺は周囲に漂う妙に緊張した気配に感づいた身体を前傾姿勢で前倒しにしながら静かに駆けだし、イデアにアクセスすることで敵の位置と数を割りだたせる。

 

(数は三人。場所は・・・ホテルを囲む、生け垣に偽装したフェンスの間際か)

 

 さらには、拳銃と小型爆弾で武装していることが分かり、俺の中の危険度は一気に高まっていく。

 走る速度を上げて足音を完全に消し、賊の背後から忍び寄る。

 

 

 ――と、その時だ。俺の知覚は不審者共の向かう先に見知った知人の存在を捉えて、わずかながら動揺する。

 

(・・・・・・幹比古?)

 

 俺に劣らぬ隠密技術を行使して不審者たちに走り寄っていく影。魔法科高校における数少ない俺の男友達。

 

 ――エリカの幼馴染みでもある吉田幹比古が、確かに今ここで俺より先に賊へと向けて攻勢魔法を放つ準備を終えつつあったのだ・・・・・・・。

 

 

 

「・・・驚いたな・・・。まさか“君たち”までこんな場所に来てただなんて・・・」

「お互い様だ」

 

 彼はそう言って、いつも通り肩をすくめてみせてくる。

 司波達也。僕が魔法科高校にブルームとして入学することができた、工学科の主席入学者にして最優等生。工学科ができたこと自体が僕に運を回してくれた訳だから、別に彼だけが恩人って訳じゃないけど、それでも僕はなんとなく彼と一緒にいる時間を心地よいものに感じて入学以来友人づきあいを続けている少年だ。

 

「・・・筆記だけが得意な、ただのガリ勉でないことぐらい解ってはいたけど、まさかこれほどとはね・・・」

 

 下を見下ろし、伸びている正体不明の賊共の姿を視界に捉えながら僕は自嘲する。

 

「・・・結局僕は一人で賊を捉えることさえできなかったわけだ・・・」

 

 あらためて父から言われた言葉を思い出しながら、血を吐くような思いでつぶやき捨てる。

 

 僕、吉田幹比古が会場内に侵入した賊の存在に気づいたのは偶然だ。

 たまたまホテル庭にある奥まった場所で魔法の訓練をしていたら「悪意」を感じて不審に思い、駆けだしていったら侵入直後とおぼしき賊がいた。

 本当ならすぐにでも報告して、他の警備員に任せるべきところを僕は自分の才能を確信するために単独での制圧を試みて―――結果的には成功する。・・・させてもらえたから。

 

「本来なら僕の魔法は間に合っていなかった。達也の援護がなかったら、僕は撃たれていた。僕は死んでたところだったんだ・・・」

 

 僕のつぶやきに、倒れた賊の状態を確認していた達也が顔を上げてジッと見つめてきて何か言おうとしたところ。

 “助けに来てくれたもう一人”が彼に先んじて僕を罵倒する。

 

「ひょっとしなくても、バカなのアンタって? そんなの結果論でしょ。拳銃持って侵入してきた奴らを相手にタラレバ話なんかしたって意味ないし。時間の無駄だとか思わないの?」

「・・・・・・」

 

 僕は唖然として彼女を見つめ、美しすぎる見た目からは想像もできないほど“はすっぱな口調”で痛罵してきた彼女は金砂の髪をかき上げながら煩わしそうに吐き捨てる。

 

「どんな形であっても勝利は勝利、勝者は勝者よ。私たちの手助けがあったとか、敵より自分が弱かったからとか、そんなのは結果の前では何の意味も持たない。どんなにスゴい才能を持ってる最強兵士だろうと、負けた奴はただの敗者でしかない事実に変わりはない」

 

 何か嫌な記憶でも思い出したのか、苦み走った口調で話す今一人の助っ人、アンジェリーナ・クドウ・シールズさん。

 そんな彼女の言葉を補足するように、達也の方も口を開く。

 

「・・・淑女としてどうかと思う表現ではあったが、幹比古。彼女の言ったことは間違っていない。

 結果こそ全てで、強さも弱さも、早い遅いさえ関係ない。それが戦場というものなんだ。お前が何を求め、何を目指しているのかまでは解らんが・・・そう言う感情を大事にしたいなら別のやり方を模索した方が早いかもしれないぞ?」

「別の方法・・・? 達也、君は何を言って――」

「お前の抱える悩みをどうにかする手段が、俺には用意できるかもしれない。そう言ったんだ、幹比古」

「!!!」

 

 僕は驚きのあまり、声が出なかった。

 なぜ彼がそんなことを知っているのか? それを聞くべきところだったのに、僕にそれを聞いてる時間をこのときの達也は与えてくれようとはしなかった。

 

「今日のところは、話はここまでにしよう。それよりコイツらの処置だ。俺が見張っているからお前ら二人の内どちらかだけでも警備員を呼んできてもらえないか? それとも二人が残って俺が呼びに行こうか?」

「え」

 

 クドウさんと・・・二人っき、り・・・・・・だって?

 こんな学園を代表する二大美少女の片割れと深夜の森の中で二人っきり・・・っ!?

 

「だ、ダメだよ達也! 『男子十六にして女子と布団を同じくせず』! 日本の伝統的文化は大事なんだ!!」

「アー、ワタシ日本語ワカラナーイ。ダカラ無理デース」

「・・・お前ら・・・・・・」

 

 なぜだか達也に白い目で見られてしまった。僕は健全な思春期男子として当然の反応をしただけなのに・・・。

 とは言え、居心地が悪くなったのは事実だったから報告役は僕が引き受けることにして、その場を駆け足で走り去る。

 

 ・・・・・・ああっ! しかしどうしよう!? 一度してしまった妄想はなかなか消え去ってくれない! 未熟者の僕には彼女の身体は魅力的の度が過ぎている!!

 父さん! どうやら僕はまだまだ修行が足りない未熟者だったようです! 明日からも諦めずにもっと修行をがんばります!

 

 

 

 

 

「・・・で? お前は何をするためこんな時間に、こんな場所をウロチョロしてたんだ? 警備の手伝いは明日からと聞かされていたはずなんだがな・・・」

「―――こっちにも色々と事情があるのよ。動きたくても、動きたくなくても、動かざるを得なくなるような切羽詰まった事情がね・・・」

「・・・???」

 

 何やら意味深なつぶやきを漏らす、元USNAスターズの総隊長アンジー・シリウスことアンジェリーナ・クドウ・シールズだったが・・・なぜだろうか?

 肩書きから見て、相当に重い意味が込められていてもおかしくない言葉の内容が、今は妙に軽いものとしか聞くことができない。

 なんとなくだが彼女の声からは「お金が、お金が、お金が・・・」と、魔法師とは縁遠い拝金主義者めいた感情が渦巻いてるように感じられて仕方がないのだが・・・。

 

「ま、まぁ、いいじゃないの別に。さっきの襲撃で達也が何かミスするようならワタシがフォローしていたし、その準備は既に完了した後だった。あの場での勝利は二百パーセント確実で戦いに望むことができていた。

 準備の勝利よ。同盟を組んだ意味が証明されたんだから素直に喜んでおきなさい。明日からもこの調子で頑張らなくちゃいけないんだから、ファイトよファイト! えいえい、ON!」

「・・・・・・」

 

 まぁ確かに、いいと言えばいい程度の問題なのだが。

 この元世界最強の一角を本当に信じても大丈夫なのか?と、疑問を持つには十分すぎるような気がした真夏の夜の一日だった。

 

「さて、と。じゃあワタシは行くわ。後よろしくね」

「ああ、任された」

「オトモダチによろしく~♪」

 

 そう言って軽やかな足取りで背を向けて遠ざかっていくリーナ。

 しばらくして、少し離れた場所から国防軍に士官服を纏った壮年の人物が姿を現し、軽く頭をなでながら俺に歩み寄ってきた。

 

「・・・参ったな。盗み聞いていた我々の存在に気づかれていたとは・・・」

「そう言う存在ですからね、彼女は」

 

 俺はその人物、日本国防軍一○一旅団独立魔導大隊の隊長を務める風間少佐を振り仰ぎ、“部下の義務”として敬礼をしながら、ついでのように皮肉な作り笑いを浮かべて忠告して差し上げる。

 

「次から俺たちの盗み聞きする際には対俺用だけでなく、彼女用の隠蔽措置を考案しておくべきでしょうな。

 今の時代、年頃の少女の会話を盗み聞きしていた公務員というのは立場を悪くしますから」

「重々に配慮と警戒をしてことに当たらせてもらおう。忠告に感謝するよ、大黒竜也特尉」

 

 軽い皮肉を言い合って、儀礼的な笑いを浮かべ合ってから俺は本題に入ろうとしたのだが、少佐の方は今少し雑談をお望みらしかった。

 

「それにしても、随分と容赦のないアドバイスだったな。先ほどの彼女の“アレ”は」

「彼女は彼女でいろいろと苦労してきたようですからね」

「あの少年もだが、貴官も身につまされたのではないかな特尉? 彼も貴官と似たような悩みを抱えているようだからな」

「あのレベルの悩みなら、自分は卒業済みです」

「つまり、身に覚えがあると言うことだろう?」

 

 その時、俺はてっきり自分が反論できない程度には衝撃を受けると考えていた。

 だが現実は異なり、俺はよどみない口調で平然と少佐の言葉に適切だと思える答えを返してしまえたのだった。

 

「所詮、過去の失敗談です。人間誰しもが経験する若さ故の過ちを過剰に意識する必要はありません。失敗しない者には壁を乗り越えた経験すらもまたない。トライ&エラーは開発研究における基本中の基本だと心得ますが、如何に?」

「・・・・・・・・・」

 

 俺の返しに驚いたのか、それとも切り返してきたこと自体が予想外のことだったのか。風間少佐は黙り込み、言うべき言葉を探すように沈思黙考し始めたので俺は先手をとらせてもらうことにする。

 

「この者たちをお願いしてもよろしいでしょうか? あまり長時間ホテルに戻らないと心配してくる知り合いが増えたものでしてね」

「あ、ああ構わない。後のことは我々がやっておくから貴官は明日に備えて静養してくれ。実務的なことは明日の昼にでも、ゆっくり話すことにしよう」

「では、これにて失礼いたします」

 

 少佐に背を向けて去って行く俺。

 そこに少佐から躊躇いがちな声で呼び止められたのは、今度は俺にとって予想外の出来事だった。

 

「まだ、なにか?」

「いや、大したことではない。極めて個人的な疑問を抱いてしまったものでね。

 特尉。――貴官、しばらく見ぬ間にまた少し変わったか?」

 

 どこかしら不審気な――だが悪く捉えている印象のない口調で問われ、俺は少しだけ過去を振り返ってから答えを返す。

 

「自分では意識していませんでしたが・・・そんなに変わったように見えますか? 今の俺は・・・」

「ああ、いや、悪い意味で言ったのではない。むしろ良い変化があったことを友人として喜んでいるだけなんだ。

 ――ただ、もし貴官にその変化を与えてくれたものがいたら、上司としても一人の友人として礼の一つぐらいは言っておきたい。そう思ったに過ぎんことさ」

 

 言われて俺は、自分が即座に思いつくのは深雪のことだと思っていた。なぜなら俺は、“そのために造られた人間なのだから”と、固く信じていたのだが。

 

 

 

 ―――実際に浮かんできたのは、『無表情な顔の左右でピースサインをしている、どっかのバカ』だったことから少しだけ不機嫌にされてしまったのだった。

 

 

「と、特尉? どうかしたのかね? 何やら先ほどまでと浮かべている笑いの種類が別物に見えるのだが・・・・・・」

「――気のせいでしょう。俺は今も昔も変わらず司波達也のままです。バカに汚染されたりなどしておりません」

「そ、そうか。ならばいい――――ん? え、バカって一体なん――――」

「申し訳ありません、少佐殿。急用を思い出しましたので失礼させていただいてよろしいでしょうか? 急がないと少々厄介なことになるかもしれませんので」

「う、うむ。それなら良かろ、う? 行ってくるといい」

「は。では征って参ります」

 

 そう答えて敬礼し、俺は早足でその場を走り去り、一定の距離が開いた辺りから全速力で走り出す!

 

 なにか! なにか嫌な予感がする! あのバカが何かやらかしてしまって、後始末が大変なことになる前兆と同じものを今の俺は全神経で感じ取っている!

 

 待っていろよ雫! 俺が行くまで―――――余計なことはするんじゃないぞーっ!?

 

 

つづく




*説明し忘れてましたが、最後のフリはただのネタです。次話から普通に競技開始されます。

また、当日の担当が雫と言うだけでCAD制作には達也も大きく関わっています。


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25話「北山雫は、九校戦の優等生?」

久しぶりの更新。ブランクもあって短めです。
前半は達也さん視点で真面目なノリ。後半はポヤポヤ雫ちゃん視点での構成です♪


 賊が夜襲をかけてきた翌日から始まった九校戦は、順調に推移していた。

 襲撃が失敗した直後でもあったし、風間少佐等一〇一が影から警備していたことも大きかったのだろう。

 一日目の『スピード・シューティング』本戦は七草会長が優勝。渡辺先輩の出場した『バトル・ボード』予選も問題なく突破した。二日目の女子『ピラーズ・ブレイク』も圧勝である。

 俺の担当した、二日目の女子『クラウド・ボール』では会長が出た訳だが、高校生の大会に十師族の直系を出すならハンデぐらい付けるべきではないかと思えるほどの快勝。ハッキリ言って俺がいてもいなくても大差なく勝っただろうなと言い切れるほどには勝負にならない実力差だった。苦言を呈する点などどこにもない。

 

 二日目の男子クラウド・ボールでこそ振るわなかったが、これは桐原先輩のクジ運が悪かったことが最大の要因であり、運を計算に入れて予測した作戦などあり得ない以上、致し方なかったと割り切るべき事柄だ。

 『勝負は時の運』。人事を尽くさず最初から運任せにしたのならいざしらず、出来ることを全てやった後の運に見放された結果まで実力のせいにしていたのではスポーツ選手などやっていられまい。翌日以降に他の者が挽回して、先輩には来年度優勝のため悔しさをバネに更なる努力を積んでもらう。これがベストと言うより、一番マシな対処法と呼べるだろう。

 

 

 ――ここまでは良かった。

 男子の不調も“運”のせいにしてよい程度の些事で済む自体でしかなかった。

 だが、三日目。計算違いの番狂わせはいきなり齎されることになる。

 

 朝一番目におこなわれた渡辺先輩による『バトル・ボード』準決勝。そのレース中、事故が起きて渡辺先輩が大怪我。選手続行は不可能となる。

 

 これだけならまだ、お悔やみ申し上げるだけで済んだかもしれない。事故ならば、これ以降おなじような自体が起きる可能性は天文学的数値になるからだ。

 

 だが、違う。俺の目と頭脳と経験則が『そうではない』と言っている。

 調査してみる必要を感じて調べてみたら案の定、異常な点がいくつも散見された。どれも一つ一つは小さな異変だが、つなげて使えば恐ろしい脅威となりかねない魔法の使い方。・・・発想だけ見た場合、敵の戦術は超簡易魔法式に近いと言える。

 明らかに魔法の専門家ではない、工作のプロが施した細工が大会実行委員にまで及んでいる可能性が見つかったと言うことである。自分たち以外は皆、信用できるかどうか分からなくなってしまったのだった。

 

 

 ――油断していた訳ではないが、結果的に俺は守ることに失敗させられた訳だ。二度同じヘマをするようなら、俺は自分を無能と決めつけざるをえなくなるだろう。

 二度はしない。次は負けない。

 その覚悟を持って、俺は九校戦四日目の朝を迎えていた・・・・・・。

 

 

 

 

「・・・え、と・・・どうした、の? 達也さ、ん・・・。なんだか疲れてるけ、ど大丈、夫・・・?」

「大丈夫だ。問題ない」

「え、と・・・あの、ね? 達也さ、ん・・・それ大丈夫じゃないときのセリ、フ・・・」

「大丈夫だ。問題ない」

「・・・・・・あう・・・(ビクビク)」

 

 控え室、の中でしーえーでぃーの整備してた、ら達也さんが駆け込んでき、て、「ゼー、ゼー・・・」言いながら息切らしてるように見えたけ、ど、今日もすぐ治っちゃった。

 達也さん、は、細マッチョなブロリーさんだと私は思いま、す。

 

「雫、分かっていると思うが、お前が今チェックをしているCADは俺のハンドメイド品であって、必ずしも正規品ほど安全性は考慮されてない。予選で使わせるよう指示した機種とは全くの別物だ。少しでも違和感を見つけたらすぐに言え。俺の方で時間が許す限り調整し直してやるからな」

「う、うん・・・ありが、とう・・・?」

 

 嬉しいけど達也さ、ん? それだと私が今日の整備をやる必要ないんじゃないか、なぁ・・・。変わってくれるのが一番嬉しく、てありがとうだ、よ?

 

 

「・・・なに、この意味不明な夫婦漫才・・・新手のジャパニーズコメディアンなのかしら・・・正直言って、今すぐトイレ行って砂糖吐きたい心地なんですけども・・・」

 

 あ、リーナのこと忘れて、た。

 

「んと、ごめん、ねリーナ。今、最終チェック終わった、よ?」

「ありがと、雫。――う~ん・・・なんでなのかしらねぇ、この絶妙のフィット感。

 違和感あるはずなのに、全然違和感と思えないまま使えまくっちゃう理屈不明なこの使い心地の良さは何なのかしらね? 癖になるわ~」

 

 白ーい目で私たちを見て、たリーナだけ、ど、しーえーでぃーを渡してあげたら元気になった。リーナにはケーキよりも、しーえーでぃーを上げたらいいみたいで、す。

 

「感覚で合わせているらしいからな。正直、俺も同じ事をやれと言われて出来る気がしたことは一度もない。感覚的なものが原因だからなのか、理屈や理論では全く解析することができなかった。

 ある種の魔法と言っていいぐらいに、コイツの専用CAD調整は不可思議な現象が続発し続けるんだよ」

「・・・・・・その説明聞いて不安にならない自分が逆に不安なほど馴染んでるのよね、コレが・・・。てゆーか、魔法師が『魔法と言っていいぐらい』にって表現使うレベルの現象って一体・・・・・・」

「だから、『ある種の魔法』と表現したのだ。科学では理解不能な出来事が、まだまだ世の中には沢山あるという生きた実例だろう。俺もまだまだ学ばなければならない事柄が多いと言うことだ」

「・・・科学で魔法を再現して生まれた、魔法師社会って一体・・・・・・」

 

 ・・・・・・??? なんだ、か今日はリーナ、も哲学屋さんみたいだ、ね?

 

「まぁ、いいわ。何はなくとも、私以外の二人は勝ったのよね?」

「ああ、完勝だった」

「オーライ。それだけ教えてもらえれば十分すぎるわ。私のプライドに賭けても勝つ以外に選択肢なくなっちゃったから」

 

 り、リーナ・・・・・・。

 

「かっこい、い・・・・・・(ぽわぽわ)」

「ありがと、雫。じゃ、ちょっと行って優勝してくるわ。タツヤがお膳立てして、雫が私専用に整えてくれたこのCADを使ってね。楽勝よ。

 正直コレがなくても勝てると思うけど、でもコレがあるなら勝ち以外の結末はあり得ないと確信できるから」

 

 ザッ! って、漫画とかなら音が書かれてそう、な歩き方、でリーナは控え室の出入り口を出て行って、出たところで一度止まって、私たちの方を振り向い、て。

 

「征ってくるわね。――勝利の栄光を、君たちに!」

 

 敬礼してか、ら行っちゃった・・・。

 

「・・・おい、そう言えば雫。アイツに大会の待ち時間用にといくつか本を貸していたな。後でタイトルをすべて明記して俺の所に持ってきてくれないか? 数と内容を考慮して、大会終了後の説教時間を試算しておきたくなったものでな」

「(ビクビクゥッ!)・・・ひゃ、百から先、は、覚えておりませ、ん・・・・・・(びくんびくん)」

「そうか。百冊ぐらい忘れてしまえる程度の数と言うことか。そうかそうか(バキボギ)」

「あう、あう、あううぅぅ、ぅ・・・・・・(えぐ、えぐ、ぐじぐじ・・・)」

 

 

 

 ――こうして、後に『九校戦を変えた最初の日』と呼ばれる事になる、大会四日目の『スピード・シューティング』新人戦準々決勝最後の試合が始まるブザーの音が鳴り響くのだった。

 

つづく



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26話「北山雫は初陣を飾る(エンジニアとしてだけども)」

少しぶりの更新です。今回の話は少しだけ時間軸が前に戻ります。
リーナが決勝トーナメントに行く前にこなした予選リーグでの話を深雪たち観客席視点で語られた内容となっております。要するにアクティブエアーマイン登場回ですね。
良ければお楽しみください。ただしセコイ内容ですので原作ファンの方はお気を付けくださいませ。


「あら、摩利。寝てなくていいの?」

 

 一高に割り当てられてるテントの中で、私たち生徒会コンビが試合会場を映し出すディスプレイを見ていると松葉杖をついた風紀委員長の三年生さんがひょっこり顔を出してきた。

 これで生徒会プラス風紀委員の三年生トリオ復活ね。一日ぶりだけどホッとするわ~。

 

「病気じゃないんだ。暴れなければ問題ない。それより真由美の方こそテントに詰めてなくていいのか? ・・・あるいは精神病棟に隔離されてなくていいのか・・・?」

「どういう意味じゃ!?」

 

 おどけたやり取りを(私の方は最後だけ若干本気)交わして一日ぶりの友誼を確かめ合い、相手が健在であることも判ると私はニコリと笑って、リンちゃんはニコリともせず事務的な説明をして、摩利はリンちゃんの説明に仏頂面でお返事。

 うん、いつもの生徒会プラス風紀委員メンバーだわ。これぞ我が魔法科第一高校よ。

 

「と言うより、寝ているだけだと不安が募って寝ていられん。動いていた方が結果的には安静にできる。

 こんな状況下でアイツのエンジニアとしての腕前を実戦で見せられるとは思っても見なかったのだからな・・・正直、不安で仕方がない・・・」

「・・・まぁ、うん。それはちょっと分かるかもしれないわ・・・ね」

 

 好奇心はなく、不安と不信と疑惑で満ち満ちている内心を剥き出しにした摩利の言葉に、私は役職上、問題あるなと思いつつも首肯せざるをえないものを感じてしまった。

 なんたって次の試合のエンジニアは、あの雫ちゃんなのだから不安にならない人の方が極小数例だと私でさえ確信できてしまう。

 

「私の時はお手伝い程度とはいえ達也くんだったし、ある程度は腕前の一端を披露してくれたから、彼が担当する試合の方は信じて観戦するぐらいの余裕は持てると思うんだけど・・・雫ちゃんじゃちょっとねぇ・・・」

「不安だ・・・・・・」

「クドウさんを始め、選手からはとても好評のようですが」

 

 生徒会長プラス風紀委員長コンビが、いまいち自分たちが任じたエンジニアを信じ切れずにいる中で、リンちゃんが常と変わらない平素な口調で安心できる要素を報告してくれる。

 

「え、そうなのリンちゃん?」

「はい。彼女たち曰く『なんだか理屈はわからないんだけど前のより使いやすい』『なんとなくだけど手に馴染む気がする』『これなら勝てると根拠もなくそう思えてくる摩訶不思議なCAD調整技術』と、不思議そうにしながらも出来自体は絶賛してましたから」

「不安だ・・・不安しかない変なハイスペック説明だ・・・・・・」

 

 摩利がさっきより一層、表情を暗くして私もちょっとだけゲンナリする。

 雫ちゃん・・・あなた、科学の塊CADに何しちゃってるのよ本当に・・・・・・。

 

 

 

「エリカ。隣、いい?」

「アラ、深雪。空いてるわよ。どーぞドーゾ」

 

 わたしは深雪が来たとき用に確保しておいた席を、座るべき主に譲り渡し、番犬代わりに席順いじって配置させといたレオとミキをお役御免してやりながら(あんま役に立たなかったけどね~)試合開始寸前の会場へと視線を戻した。

 

 元から深雪が遅れてきても大丈夫なように打ち合わせしといた結果だったから、別に問題ないでしょコレぐらいなら。レオたちには何も話してないけど、お姫様の席を守り抜くナイトの役を任せられてたんだからありがたく思っとけーって感じでひとまずはおK。

 

 こうして深雪がそろったことで面子が集まり、全員が落ち着いて試合を見れるようになった次の瞬間。ランプが全て点って試合開始。クレーが空中に射出され始める。

 

 そしてリーナがCADの引き金を引くと、クレーは出てきた途端に砕け散って相手選手は呆然自失。出てきたと思った瞬間にはエリアの両端から射出されたクレーが二つ同時に砕け散ったわけだから当然っちゃ当然の反応なんだけど・・・どうやったのかしらアレって?

 有効エリア全域に作用する魔法で、出てくるクレー全部を片っ端から落としているとかなら判らなくもないけど、相手選手の分まで落としてしまうから割は良くないし・・・。

 

 あ、今度のは普通に片側から出てきた自分の落とす色だけ砕いたわね。――本気でどうやってんのよコレ!?

 

「さすがは、リーナ。豪快な魔法の使い方ね」

「豪快とかそう言う問題じゃないでしょ!? いったいどうやってんのよアレ!? さっきから試合が成り立ってないんですけどぉ!?」

 

 素直に賞賛する深雪と違って、わたしはひねくれてる自覚があるから噛みつくわ。それこそ納得いくまで全力でね。

 

「・・・もしかして有効エリア全域を作用領域に設定した魔法の効果対象を自動で選別できるようにしてあるんでしょうか?」

「そうですよ」

 

 深雪がいともアッサリ、スピードシューティングと言う競技を根底から台無しにするかのような秘密を暴露してくれた。

 いや、もう其れ、スポーツでも何でもないと思うんだけども・・・・・・。

 

「得点有効エリア内にいくつか震源となるポイントを設定して、そこから固形物に振動波を与える仮想的な波動を発生させる。震源から球形に広がった波動に標的が触れると仮想的な振動波が標的内部で現実の振動波となり標的を破壊させる・・・これがお兄様のオリジナル魔法アクティブ・エアー・マインの原理よ。

 今リーナが使っているのは、これに雫が調整した超簡易魔法式による照準補助をさせたものね」

「補助て。明らかにルール規定以上の性能を発揮しちゃってるんだけども・・・?」

 

 あたしは、コレが正式採用された日にはスピードシューティング終わるなーってレベルで問答無用に射撃無双しまくってる射撃姿勢のリーナを指さしながら白い目で深雪に質問すると、彼女は笑顔でこう答えてくれる。

 

「ええ、そうかもしれないわね。でも、大会規定に則ったCADを使って、規定違反に指定されていない性能しか発揮できないはずの調整までしかしてない器具で大会運営委員会が想定した以上の成果を出すことは、はたしてルール違反に該当するのかしら? どう思う? エリカ」

「・・・ハッキリ言って詐欺だと思うわ、絶対に・・・」

「そもそもどうやってんだよ、その訳分からん理屈不明の詐欺は・・・」

 

 うめくように私が言って、横合いから同じような声でレオが聞く。

 深雪は変わらぬ笑顔で穏やかに優しく種明かしをしてくれた。

 

「今までのCADは機械によって魔法を使いやすくし、個人差が大きかった魔法師の実力の単一化と量産化を最重要視したものだったの。魔法師を兵器として捉えていたが故の発想と、お兄様は呼んでいたわ。

 これは機械による魔法師の補助ではあるけど、機械自体が魔法を使えるようにしたわけではなかったから、当然CADで使える魔法は機械と直接リンクしていたわけではない。あくまでCADを通すことにより効率を上げていた。ただそれだけ。

 魔法師にとって有用ではあったけれども、魔法師以外にとっては然したる意味のない道具・・・それが今までCADの市場が限定的で在り続けざるをえなかった最大の理由。

 でも、超簡易魔法式は其れとは根本的にコンセプトが異なっているのよ」

 

「超簡易魔法式は『簡単な魔法だけを使用可能にした機械』のこと。その性質上、魔法を使用する本体である機械と魔法との間には従来のCADとは桁が異なる親和性を発揮していて、超簡易魔法式は『機械本体の機能も使わせようと思えば出来てしまう』。

 色の識別だけなら人の目や魔法で判断するより、機械にやらせてしまった方が早いのは自明の理でしょう? だから今リーナの使っているCADにはその機能が簡易的に組み込まれているの。

 超簡易魔法式で機械の色識別機能を作動させて得た情報を、エリア内のポイントめがけてCADで魔法とともに撃ち出す。

 色を識別する魔法なんて難しいわけがないし、機械の電源を入れてデータを元のCAD本体に送り返すだけの魔法が高難度のはずもない。

 簡単な魔法の組み合わせだけで可能になってしまう、最高に最低なスポーツへの冒涜魔法・・・私はそこまで卑下することはないと思うのだけど、お兄様はそう仰られていたわね」

 

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 ――正直、白い目になって唖然。今回ばかりは達也くんの言うことが正しいと思ってしまうあたしだわ・・・。まぁ犯人自身が言ってりゃ世話ないんだけれども。

 

「てゆーかソレ、間違いなく最初に使った試合以降は使用禁止されるよな? 厳密なルール規定で禁止されてなくても、使わせ続けちまったら試合にならねぇんだし・・・」

「ええ、その通りになるだろうとお兄様も仰っていました。そして、その時には大人しくCADを大会委員に渡して謝罪するとも言っておられましたよ?」

「だったら―――」

「そして、次の試合からはソレよりかは性能を落とした類似品で試合に挑ませるとも。

 最初に大きく振って衝撃を与え、その後は退いてみせることにより実際以上に相手が譲歩したように錯覚させる。

 想定されていなかった魔法の使用を禁止するのですから、当然ソレを決めるのは大会委員たち個人個人の主観に頼ることとなり、客観的事実よりも情動などの感情に左右されやすい判断基準とならざるをえません。

 最初に自分で決めたことを覆すのは人にとって至難であり、自分の決めたルールに従い妥協してくれたものには好意を抱きやすいもの・・・」

「・・・・・・」

「お兄様曰く、この手法を商売の世界では『ローボールテクニック』と呼ぶのだそうです」

「詐欺じゃねぇか。普通に」

 

 レオが白い目をしたまま真顔でツッコんで、あたしも隣でうなずき賛成であることを表すと、深雪も首肯して納得する。

 

 

「ですが―――」

 

「別に九校戦はCADの新機種をPRするために開催された即販イベントではないのだから問題はない。魔法競技という名のスポーツ大会である。

 接客業ではないのだから、スポーツに経済界のルールを持ち込むのはスポーツマンシップに泥を塗る行為なのでしたくはない、とも仰られていましたのでそのあのえーと・・・・・・」

 

 

「「詐欺だよ! 詭弁だよ! 完っ全に詐欺師の言い分だよソレはぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

 

 あたしとレオの雄叫びが九校戦の会場内に響き渡って、唖然呆然として沈黙している観客席中に空しく轟く。

 夏の空に、男と女が勢いだけで空っぽの叫び声を轟かす日本の夏。九校戦の夏。

 経済大国にして技術大国目指して躍進している日本の夏は、スポーツでかいた汗まで金臭くなりそうな状況にあった。

 

 

 

 

「・・・・・・という仕組みだそうです。如何思われますか?」

「「普通に詐欺だと思う」」

 

 私と摩利が異口同音にリンちゃんの解説を切って捨てる。

 リンちゃんも特に異論はないようで、反論してくることも達也くんを弁護しようとする気配もなく、解説の続きを淡々とした声と口調で語ってくれた。

 

「・・・もっとも、それほど便利な魔法という訳でもないようですね。

 本来は別々の物をつなぎ合わせて、瞬時に誤作動なく発射され、なおかつ狙いが誤差の範囲で収まるズレしか生じさせないとなると、均一化を前提とした従来のCAD調整技術だと何らかの形で何処かに欠陥を生み出すか、試合途中で自壊する危険性を背負い込むか、最低でも大幅な性能ダウンとサイオン消費量の増大、この内どれか一つをデメリットとして享受せざるをえないのが普通なのだそうです。

 これは司波くんの技術を持ってしても完全解決には至りません。どうしても北山さんによる、選手個人の感覚に特化して依存させた調整が必要不可欠なのだとのことでした。

 ・・・まぁ、尤もそのお陰で一般の評価基準で見た場合にはバランス最悪な欠陥品CADにしか見えようがないから審判を騙しやすいとも言ってましたけれども・・・」

「・・・やっぱり詐欺なんじゃないの・・・・・・」

 

 私が白~い目でリンちゃんを睨み付けると、彼女はほんの少しだけ誤魔化すように咳をすると、私たち二人に向かって達也くんの口調を真似しながら最後にこう付け加えるのだった。

 

 

「司波くんはこうも言ってましたよ。『世界を上手く騙すのが魔法の技術なんです』・・・と」

 

「まぁ、そうかも知れんが・・・・・・」

 

 ポリポリと後頭部をかきながら摩利が呟き、私も概ね同意する。

 確かにその意見は正しい。正しいのだけれど・・・でもね? 達也くん?

 

 

「今現在進行形で騙されて利用されてるのは、世界なんてスケールの大きい代物じゃなくて、大会運営委員たちと大会規定なんだけども?」

「・・・・・・・・・私に言わないでください。司波くんに言ってくださいよ司波くんに・・・・・・」

 

つづく



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27話「準決勝は原作通りのCADで勝負で、す・・・(ふんす)」

更新です。本当は別の作品を優先するつもりでいたんですけど、どうしても気分的にのらずにこちらを優先した次第です。バカっぽい話の方が今は書きたい気分みたいですな。

*今作は雫主人公のため『劣等生』と『優等生』の話が混じりあってるせいで時おり時間軸が矛盾することがあるのはお許しください。自分でも頭がこんがらがる時がありますので徹しきれなくて…。


 九校戦四日目におこなわれている新人戦スピード・シューティングの予選会場は今、歓声と驚愕の声に包まれていた。

 

『何だアレは!? 次々にクレーが粉砕されていくぞ!?』

『空中に機雷でも仕掛けてるのか!?』

 

 最強世代を有して常勝を謳われた第一高校、その一年生までもがいきなり見せてくれた派手な魔法に会場中の人々は驚き慌てて響めいているのだ。

 

 ――でも、それは無理もないことだと思う。理屈がわからなければ摩訶不思議な超常現象としか思えない広範囲に展開された未知の魔法。

 もしかしたらインデックスに登録されることさえあり得る新種の魔法を前に、私たち第三校の選手達でさえ驚きを露わにしているのだから、魔法について予備知識すら持たされてない一般人が混じっている観客達が驚き慌てて狼狽えざまをさらすのは仕方のないことなのだから、それを笑うのは正しい魔法師の在り方とは言えない。

 

 だけど、それでも私は『自分は彼らとは違う』と言い切れる。

 

「栞、今の一高選手が使った戦法がどういうものかわかる?」

「ええ」

 

 私は恩人であり友人でもあり、掛け替えのない人でもある愛梨からの予期していた質問に対して、スラスラと正答を並べ立てていく。

 

「おそらくクドウ選手はフィールドをいくつかに区分して、クレーが飛来したエリアに対して振動魔法を発動させているわね。

 そしてクレーの色を超簡易魔法式による識別魔法を併走して使うことにより、区分するエリアを細分化する必要性さえなくしてしまっている。

 機雷のように見えるのは、そのプロセスの速さ故。それを可能ならしめた超簡易魔法式の計算力の速さ故によるものね」

「さすが栞、いい目をしているわ」

 

 驚くでもなく、愛梨は私の分析結果を賞賛してくれた。

 その様子から彼女も私と同じ結論に達しており、私を試す意味も込めて今の質問を発していたことが確認することが出来、彼女からの試練に自分が合格したことを素直に喜べる自分が嬉しい。

 

「でも、あなたと対戦したらどうなるかしら? 彼女は先ほどと同じくらい容易に勝つことが出来るかしらね?」

 

 挑発するように言ってくる、愛梨からの発破掛け。

 私はそんな彼女からの期待に全力で応えてみせるだけ。

 

「そうね。おそらくこの戦法の便利すぎる性能からいって、使えるのは一度きり・・・。

 クドウ選手は次の試合から、ややグレードを落としたCADで今の戦法を下位互換したものを用いてくるはず。

 スピードシューティングは予選と決勝トーナメントで試合形式が変わるわ。二種のクレーが飛び交う対戦形式の決勝トーナメントでは、より高い命中精度が要求される。

 知っての通り、そこは私のテリトリーよ。

 機械にも勝る私の演算能力を駆使すれば彼女の魔法は無力化できる。たとえ超簡易魔法式を使ってきたとしても・・・ね」

 

 

 

 

「う~ん・・・いくら考えても、この戦法がどういうものなのかわからないわ・・・」

 

 リーナ、が、キューコーセンの試合映像を映し出してるモニター見なが、ら何か言ってるのが見え、た。

 

「《ツイン・ラブ・ハリケーン》・・・男の子兄弟なのにLOVE? しかもハリケーン? 《二つの愛の竜巻》って、どういう状況のことを表現しているのかしらね・・・なぜだかスゴく乙女心の好奇心が刺激されて止まない戦法だわ・・・」

 

 あ。私が貸し、た『キャプテン翼』読んでくれてるみた、い。友達と同じ漫画、を楽しいと思えるの、はひねくれ者で、もちょっとだけ嬉しくなくは・・・ない(ぽわぽわ)

 

「・・・お前たちは自分の出場する試合の合間に、何をやっているんだ・・・」

「あ・・・達也さ、ん(トテテ)」

「ハイ、タツヤ。さっきぶり、元気してた? 相変わらず『人生楽しい事なんて何もありません』みたいな顔してるわね。いつも通りで何よりだわ」

「・・・・・・お前ら・・・」

 

 ・・・え。お前“ら”って・・・私なにも言ってない、よ・・・?(うるうる)

 

「まぁ、それはいい。いや、良くはないが一先ずはいい。とりあえず伝えておきたいことがあるから改めて顔を出したんだ。

 リーナがさっき使っていた魔法『アクティブ・エアー・マイン』が、国立魔法大学からインデックスに正式採用するかもしれないとの打診が会長の方に来ているらしい。

 俺は、自分の名前が開発者として登録された魔法を自分では使えないなどという恥を晒したくないから、最初の使用者であるお前の名前を回答しておいてもらうつもりでいるから、了承してもらえるかどうか確認しに来たんだが・・・」

「ふ~ん? ・・・魔法大学のインデックスねぇ・・・」

 

 リーナが達也さんの言葉、に興味なさそうな態度、で答えてるけ、ど・・・インデックス? 禁書目録?

 魔法が実在してる世界なの、に魔術まであるなんてスゴい、ねー。

 

「ま、いいんじゃないの別に? 使いたいならご自由にどーぞ」

「・・・俺が言うのも何だが、ずいぶん適当な反応をする奴だな・・・」

「いや、だって。ワタシの名前も本名じゃないんだし、似ているだけの赤の他人の名前が載るだけならどうでもよくない?」

「・・・まぁ、そうかもしれんがな・・・」

 

 なんだ、か複雑そうにしてる達也さ、ん。いつもこめかみの辺り、にシワが寄っていて固そうだか、らたまにマッサージしてあげたくなるんだけど怒られないか、な・・・?(ドキドキ、ハラハラ)

 

「まぁ、なんでもいいわ。とりあえず、そろそろ行きましょうか雫? 次の試合準備を始めなきゃいけない頃合いだし」

「う、ん・・・。わかっ、た・・・」

「そうだな。次の準々決勝では最初に使った物より性能を落としたCADを使うから、俺がいなくても雫一人でなんとかなるだろう。俺は深雪たちの待つ観客席へ移動させてもらう。健闘をな」

「オーライ。勝って帰ってくるから、シャンパンでも冷やしておいてちょうだいな」

「学生相手に用意してやっても無駄に終わるだけだろう? せめて水を冷やして待っていてやるよ」

「・・・小粋なアメリカンジョークが通じない日本人ねぇ、相変わらず・・・」

 

 肩をすくめるカッコいいポーズ、で達也さんを見送っ、たリーナが会場に向かうのを私は後ろからついて行、く。

 

 そした、ら廊下を歩いている途中、で。

 

 

「第一高校のクドウさん?」

 

 って、声をかけられ、た。リーナ、が。

 

「・・・誰?」

「――っ。失礼、自己紹介を先にすべきでしたね。第三高校の十七夜です」

 

 リーナが聞い、て相手の綺麗な女の人が答え、た。

 後ろに付いてきて、る綺麗な人、がちょっとだけ怖い顔になったけ、ど・・・なん、で?

 

(でも、無表情な人だ、なぁ・・・お友達とか少なそ、う)

 

 私、はリーナに話しかけてき、たボブカットの人が隣の綺麗な人と違って無表情だったか、らちょっとだけ優越感に浸り、ます。

 前世で、は色々誤解されてたけ、ど今の私は女の子だから表情豊、か。友達も、いっぱい。

 ひねくれ者、は友達百人もいらない生きも、の。百人も友達いそうにない人、を心の中で見下すの、がひねくれ者、です。・・・えっへん。

 

「予選を拝見しました。大変良い腕をされていますね。

 あなたと準決勝で対戦するのが楽しみです」

「ふーん。次の試合は当然勝つって自信あるって宣言ね。

 まぁ、ワタシとの戦いを望むならそれくらい出来なきゃお話にならないから、当然のことだけど」

「・・・・・・っ。貴女こそ大した自信をお持ちのようですね。

 ですが、偉大なスポーツ選手は皆、謙虚さを美徳とするものですよ?」

「出来るために努力して、出来たことを誇りに思って自慢する。それのどこかに問題がありまして? 日本人の謙虚さは美徳だとワタシも思ってはいるけれど、謙虚じゃない人間にまで押しつけるのは傲慢と呼ばれるものではなかったかしらね? カノウさん」

「・・・・・・」

 

 ・・・一触即発の雰囲、き? 相手の人が無表情だか、らよく判らな、い・・・。

 

「でも、そうね。正々堂々試合前に名乗りを上げてきた相手に対して礼を失するのは、スポーツ選手のやることでは絶対にないのは確かだわ。だから貴女には特別に教えておいてあげる。

 ワタシが準決勝で使う予定のCADは特化型じゃなくて、照準付きの汎用型CADよ」

「なっ!? う、嘘よそんなの! だって、あり得ないじゃないの!? 小銃携帯の汎用型ホウキなんて聞いたことないわよ!?」

「お生憎様。うちの学校のエンジニアはちょっと反則級なものですからハンドメイドで自作したそうですの。

 もちろん証拠として現物を見せるぐらいなら今でも構いませんわよ? シズク、さっきタツヤから渡された奴を彼女に見せてあげなさい」

「さっき、の・・・? セントールって書いてあるって言われたしーえーでぃーのこ、と?」

「そう、その『セントール』シリーズのことよ。見せるだけで構わないわ。さぁ、早く」

「う、うん・・・わかっ、た・・・」

 

 えっ、と・・・セントール、セントー、ル・・・。

 

「そんなのあり得ないわ! 照準補助装置は特化型に合わせて作られたサブシステムで、汎用型CADと特化型CADとではハードもOSもアーキテクスチャからして別のものなのに!」

「その情報、古いわね。もう既にドイツで一年も前に汎用型CADに照準補助をつなげるシステムは実験されて、不可能でないことが発表されてるわ」

 

 セントー、ル。セントール・・・。銭湯る?

 

「そんな・・・一年前なんて、ほとんど最新技術じゃないの!」

「技術進歩が急激に加速する時代には、よくある事よ。あなたも魔法師として魔法技術の第一線に携わりたいならリアルタイムで情報更新するよう心得ておきなさい。おほほほ♪」

「く、くぅ~~~~・・・・・・っ」

 

 せんとーる。セントール。せんとー・・・る・・・・・・ぐすん。

 

「リー、ナぁ・・・・・・(えぐえぐ)」

「ど、どうしたのよシズク? なんかさっきから持ってきたバッグ漁って何やってるのかなと思ってはいたけれど・・・何かあったの?」

「う、ん・・・。達也さんから渡され、たしーえーでぃー・・・間違えちゃったみた、いな、の・・・(ぐしぐし・・・)」

「ええっ!? ちょっ、それ、大変じゃないの!? どこで!? なにがどうなって間違えてたのがわかったの!?」

「あの、ね・・・あの・・・ね・・・セントールって書いてあるって言われてたしーえーでぃーが、ね・・・どこにも見つからなく、て・・・。

 『せ』から始まるカタカナなのに、最初の英語がCのしか持ってきてなかった、の・・・Sのがどこにも見つからない、の・・・(えぐえぐ、しくしく、オロオロ・・・)」

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 

「・・・シズク、ワタシ日本人じゃないから日本製の商品名だと確実な自信はないのだけれど、セントールの綴りは多分Centaurだと思うから、頭文字はSじゃなくてCで合ってると思うわよ?」

「・・・??? そうな、の?」

「ええ、たぶん絶対に。ほぼ百二十パーセントぐらいの確率で」

「そうなん、だ・・・リーナがそう言うんだったら大丈夫だ、ね(ほにゃり)

 じゃあ、コレ。最初に書かれてる英語がCのしーえーでぃーだ、よ」

「・・・・・・ありがと、シズク。貴女のおかげで無駄に疲れたわ。後でお尻ペンペンのお仕置きよ」

「なん、で・・・!?」

 

 私、何も悪いことしてないよ、ね・・・!? 今回、は・・・!?

 

「えーと・・・、なんかこっちの不手際で色々あったけど、コレが証拠よ。どう? 間違いなく照準補助が付いた汎用型でしょ? なんなら触ってみる?」

「・・・いいえ、私も色々な分野の技術をかじっていた時期があるから見ればわかるわ・・・。それは間違いなく汎用型CAD・・・でも、どうして・・・」

「さぁね。答えを知りたければワタシと戦うために準決勝の舞台まで来てみなさい。ワタシはただ、自分だけが貴女の手の内を知って試合に臨むのはフェアじゃないと思っただけなのだから。それじゃ失礼」

「あ、待ってリー、ナ・・・(トテトテトテ)」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・どう思う? 栞。彼女の今の発言は信じるに値するかしら?」

「・・・・・・わからないわ。どんなに考えてみても先ほどの会話で彼女が得をする合理的理由が説明できそうにない・・・一体何がしたかったの彼女は? ――いいえ、一体なにを狙って今のような会話と、私たち敵に対して情報を流すような真似を・・・」

 

 

「話は聞かせてもらったよ十七夜さん、一色さん」

『吉祥寺君!』

「すまないが、廊下の隅で通りかかってそのまま盗み聞きさせてもらった。だから、一高のクドウさんが使ってきた手も僕には読めている」

「・・・本当ですの? それはどういう手で・・・?」

「簡単だよ一色さん。彼女は十七夜さんの手の内を知っていると言っていた。

 つまり、アリスマティック・チェインの仕組みを向こうでも解析し終えていて、その対抗策に必要となる布石を打ってきたということだよ」

「アリスマティック・チェインの対抗策ですって!? そんなものが存在しましたの!?」

「可能だよ、一色さん。確かにアリスマティック・チェインは十七夜さんだけが使える固有能力をとことんまで突き詰めることで可能となる、謂わば異能と呼ぶべき魔法だ。普通の魔法で対処できるはずがない。

 ――でも、それは同時に使用者である十七夜さん自身に揺さぶりをかけて集中を乱せば、彼女の能力に依存しているアリスマティック・チェインの効果も無力化できてしまう・・・そういうことにならないかな?」

「!!! な、なるほど。そういう考え方もありでしたのね・・・。

 でもその場合、どのように対処すればいいのかしら・・・・・・」

 

 

「・・・なるほどね。そこまで解れば簡単だよ愛梨」

「栞?」

「彼女が仕掛けてきた心理戦は、自分が試合のときに特化型と汎用型のどちらを使ってくるのか判断に迷わせることで私の演算能力に狂いを生じさせると言うもの。

 相手が特化型を使ってくることを想定した今の作戦だと完全なオーバーワークになって、スタミナ切れで自滅するしかない。

 けれども、汎用型を想定した作戦だと特化型を用いてきた場合には逆に数が足りなくなる。どちらに専念すれば良いのか判断を付きづらくさせて、結局はどっちつかずの心理状態のまま試合に臨ませてしまいさえすればアリスマティック・チェインは無効化できてしまう。

 ――フッ。でもそれは私を甘く見すぎた作戦だわ。想定が甘すぎたのよ。私なら事前にその状況を想定さえ出来ていたら完全な計算式を構築しておいて、相手がどちらを選んできても完全に自分のペースを維持して試合に挑むことが出来るわ。

 私はただ、いつも通り戦えばいい・・・それだけのことよ」

 

「さすがだね、十七夜さん。正解だ。彼女の策は、彼女自身が仕掛けてきた時点で破綻している。策士、策に溺れるだよ。

 彼女の汎用型CADが持つ性能とペースは、君との試合までに僕が完全な形で数値化して渡す。それを見た上で君自身が考えてくれ。

 美しい数式の旋律を奏でる君だけの楽譜・・・アリスマティック・チェインの新作をね」

 

 

 

 

 

 ――こうして、準決勝まで勝ち上がった二人の試合が開始され・・・・・・

 

 

「・・・どうしてだ!? なんで十七夜さんのペースがここまで乱されているんだ!? 彼女が演算を間違えるはずないから僕の計算が間違っていたのか!?」

「いや、違う! まずいぞジョージ! 俺たちは敵の策に嵌められた!!」

「将輝!? どういうことだい!?」

「考えてもみろ! 今まで計算だけでなく練習も積んできた対特化型用の作戦と、即席で作り上げたばかりで、ぶっつけ本番の作戦とでは精度に違いが出すぎるのは当然のことでしかない! 相手選手が十七夜と同格の実力を持っているなら尚のことだ!」

「あ!」

「迂闊だった・・・まさかここまで読んでくるとはな・・・。ただ単にスポーツ選手として礼儀を守っただけで俺たちに選択と決断を強要してきてただなんて軍隊みたいなやり方を・・・!

 今年の一高の作戦参謀には悪魔が付いてでもいるというのか!」

「くそ・・・っ。僕としたことが完全に乗せられてしまっていた・・・!

 あんなアホそうな子が最新技術をものに出来るはずないから、ダミーであることは最初からわかっていたのに、まさか背後に控える本命が手段を選ばない悪魔であることを隠す意味も込められていただなんて!」

「・・・どうやらこの戦い・・・俺たち三高にとっても厳しい大会になりそうじゃないか! ジョージ・・・っ!!」

 

 

 

 

 

 そして、試合に勝って優勝した後のリーナさんは。

 

 

「うーん、しっかし本当に使いやすいわよねシズクの調整したCADって。全然ストレス感じないまま使えるから、練習の時と全く同じ感覚で緊張とも気負いとも無縁でいられるから楽すぎるわ。

 相手が試合のために必死になってくれるだけで気持ち的には余裕が生まれて、相手の調子に関係なくペースを保てるぶん優位に立てる。――これって正々堂々なの? 卑怯なの? どっちなの?」

 

 

「ま、何はともあれ。――運が悪かったわね、シオリ。

 貴女はいいスポーツ選手だったけど、ワタシが元軍人だったのがいけなかったのよ・・・。スポーツは正々堂々とやるものだけど、戦争は勝って終わらなくちゃ意味がない。

 悲しいことだけど、ワタシの仕事ってもともとスポーツじゃなくて戦争だったのよね・・・」

 

 

「??? リーナ、なに格好つけてる、の?(きょとん?)」

 

つづく




謝罪:
あらためて読み返すと今回の話はイロイロな部分が駄目でしたね。ごめんなさい。
頭がふやけた状態の時間に書いたからでしょうか? 次からは執筆時間にも気を付けたいです。


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28話「魔法『技術者』の神?」

少しぶりの更新です。今回は時間が出来ましたのでアニメ版をシッカリ見た上で書かせていただきました!
ただ、長くなり過ぎるため次回に回した分とかも多いです。

*一部分かり辛い表現になってたため一部だけを書き直しました。


 第一高校スピード・シューティング一年生女子による1、2、3位独占という快挙は当然の如く大会に参加した各校に波紋を呼んでいた。

 特に「今年こそは覇権奪取」の意気込みで望み、『クリムゾン・プリンス』『エクレール・アイリ』『カーディナル・ジョージ』と人材面でも当時の一高最強世代に比肩しうる人材を揃えられたと自負する第三高校が受けた衝撃は他校の非ではなかったのである。

 

 

「じゃあ将輝、一高のアレは彼女たちの個人技能によるものではないということか?」

 

 与えられた会議室に集まってもらった俺たち三校新人新人選手“ほぼ”全員のうち男子の一人から質問を受けた俺、一条将輝は自信を持って頷き返しながら質問にも答えを返した。

 

「確かに、優勝したクドウって子の魔法力は卓越していた。それこそ今すぐにでも第一線級のプロで通じるレベルだと言っていいほどに。あれなら優勝するのも納得せざるを得ないだろう」

 

 俺の言葉に全員が頷く。悔しいが、これは事実だ。そして事実は事実として認めた上で受け入れられる度量のある奴らがここには揃っていると俺は確信している。

 

「だが、他の二人はそれほど飛び抜けて優れている感じは受けなかった。魔法力だけなら2位、3位まで独占されるという結果にはならなかったはずだ。

 それに、バトル・ボードは今のところウチが優位なんだし、一高のレベルが今年の一年だけ特別高いとも思えない。総合的な選手のレベルでは負けていないと見ていいだろう。

 ――とすれば、選手のレベル以外の要因がある」

「・・・一条君、吉祥寺君、それって・・・・・・なんだと思う?」

 

 スピード・シューティングの準々決勝で一高の選手に負けた女子選手が問いかけてくる。

 ・・・準決勝と三位決定戦で一高に連敗した十七夜は試合が終わった直後から自室に引きこもって会議にも出てこれていない。後で愛梨に様子を見に行ってもらおうと思ってはいるが・・・復帰できたとしても即戦力としての活躍は期待してはいけないのだろうな・・・。

 

「エンジニアだと思う。多分、女子のスピードシューティングについたエンジニアが、相当な凄腕だったんじゃないかな」

 

 黙ったままの俺に代わってジョージが質問に答えてくれた。

 

「その通りだ。・・・ジョージ、あの優勝選手のデバイス、調べはついたか?」

「うん。あの汎用型に照準補助がついた小銃形態のCADのことでしょ? 間違いなく実在していたよ。念のための調べ直したけど、去年の夏にドイツのデュッセンドルフで確かに発表されていた」

 

 ジョージの言葉に会議室中がざわめく。無理もない、小銃形態の汎用型デバイスなんて既存メーカーのカタログには載っていない代物だからな。

 優秀な魔法師は得てして技術面に弱く、CAD関連の情報はメーカーから送られてくる広告以外には目を通そうとしない者たちが遺憾ながら大多数を占めているのが現状だ。

 ならば、せめて技術者たちを見る目を養ってくれればとも思わなくはないのだが・・・俺のように幼いことからジョージのような異才が側にいてくれた奴と違って、魔法師にとっての魔工技術者に対する評価はまだまだ低い。

 超簡易魔法式が世を席巻したからといって簡単に今まで信じていたこだわりを捨てられないのは人の業だ。今はまだ割り切るしかないのだろうがな・・・。

 

「去年の夏!? そんな最新技術が、もう実用ベースに!?」

「ああ、俺たちも今回のことで調べ直してみるまで知らなかった」

「・・・でもデュッセンドルフで公表された試作品は実用に耐えるレベルじゃなかったはずなんだ。動作は鈍いし、精度は低い。本当にただ繋げただけの技術的な意味しかない実験品だったんだ」

 

 ジョージの解説に、俺が結論を出す。

 

「しかし今回、一高のクドウ選手が使ったデバイスは、特化型にも劣らぬ速度と精度で、系統の異なる魔法の起動式を処理するという汎用型の長所を兼ね備えたものだった。

 ・・・それが全て、エンジニアの腕で実現しているのだとしたら・・・到底高校生のレベルじゃない。一種のバケモノだ」

 

 断言すると会議室中に言い様のない重い沈黙に包まれるのを俺は感じ取っていた。

 ・・・言わないまま次に挑む訳にはいかなかったとはいえ、やはりこの結果を見ると言わなかった方が良かったかもしれないと思ってしまうな・・・。あまりにも絶望的なデバイス面での性能差は相手と自分を互角だと考えていた選手にとっては殊更衝撃が大きいだろうから・・・。

 

「・・・いや、将輝。それだけじゃない。敵がバケモノな理由は、もう一つある」

「ジョージ・・・?」

 

 俺と同じ葛藤を抱いていたらしいジョージが言いづらそうな表情で口を開き、あくまでも選手である俺には気づかなかった魔工技師ならではの視点から見た相手のバケモノぶりを解析してくれた。

 

「僕たち魔工技師はCADを使っている魔法師たちの顔を見る癖がついてるんだ。汗の量とか強張り具合から、使用している人の精神状態とか心理状態なんかを把握して調整してあげられるようにね。

 その魔工技師として断言させてもらうんだけど・・・決勝戦でクドウ選手は、あれだけ大きな魔法式を連続して使用しながら少しもストレスを感じていなかった。まるで普段通りに自分の手足を動かすのと同じ感覚で魔法を連続使用し続けてたんだよ」

「ちょっ!? マジでかそれ!? ありえねぇだろ絶対に!?」

 

 先ほどの男子生徒が驚きの声を上げるが、これには俺も反論できない。その術がない。それほどまでにそれは異常な出来事だったからだ。

 

 今更言うまでもないことだが、魔法とは世界を構成する情報の書き換えであり、魔法式とは膨大なデータの塊である。それらを瞬時に組み合わせて世界を改変するのが魔法であり、その過程を補助する演算用機械がCADである。

 

 要するに、全てを機械任せでやってもらっているわけではないのだ。自分でも担わなければならない部分が魔法には多く存在している。だからこそ魔法を連続使用する際には、ペース配分を重視するのだ。

 ペース配分の計算を間違えてしまえば、途中で息切れしてしまう。戦うどころの話じゃない。スポーツの大会ならいざ知らず、実戦に参加すること前提で訓練されている魔法科高校の魔法師たちが、その怖さを知らないはずがない。

 

 その恐怖心を一切気にしなくていい調整が、敵のCADには成されていると聞かされたのだから驚くなという方が無理がある。

 

「・・・もし、そいつがそんなことまで可能なんだとしたら、バケモノなんてレベルじゃない。完全に神にも届くレベルのゲテモノだ。到底人間とは思えないな・・・」

「一人のエンジニアが全ての競技を担当することは物理的に不可能だけど・・・もし、そんなレベルのバケモノ技術者が担当する競技に当たったりした場合には・・・」

「ああ・・・苦戦どころじゃ済まなくなるだろうな。

 少なくとも、デバイスの性能面では二、三世代分の性能差。性能以外では選手個人個人に合わせた調整技術。

 この二つのハンデを背負っていると考えて臨むしかないだろう・・・」

 

 重苦しい沈黙に包まれる会議室内。

 その沈黙を打破することができない己の無力さを悔やんでなのか、ジョージが悔しげに呟く声が、遠く俺の鼓膜に響いてきていた。

 

 

 

「くそっ・・・いったい誰なんだ?

 あのバカっぽい子に身代わりを命じた、バケモノみたいな技術を二つも持つ一高の天才エンジニアは・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・へぷ、ちっ!」

「? どうした、雫。風邪でも引いたのか?」

「達也さ、ん・・・。ううん、何でもな、い。なんだ、か鼻の辺りがムズムズしただ、け・・・」

「そうか。まぁ、そうだろうな。馬鹿は風邪を引かんらしいからな」

「うう、ぅ・・・ヒド、いよぉ・・・(うるうる)」

 

 午前中、のすぴーど・しゅーてぃんぐで優勝できたか、らお祝いしようって言うことになって集まってきて、たダイイチコウコウの天幕、の中で私がくしゃみした、ら達也さんにからかわれ、た。・・・ひねくれ者とし、てちょっと、じゃなくて大分くつじょ、く・・・。

 

「すごいじゃない、達也くん! これは快挙よ!」

 

 会長さんが達也さんの肩、をバシバシ叩きに来てくれ、た。

 嫌そうにしてる達也さ、ん。

 ふふ、ふ♪ ちょっとだけザマーミ――なんでもありませ、ん・・・(ガタガタブルブル)

 

「・・・・・・会長、落ち着いてください」

「あっ、ごめんごめんリンちゃん。

 ――でも、本当にすごい! 1、2、3位を独占するなんて!」

「・・・優勝したのも準優勝したのも三位に入ったのも全部選手で、おまけにエンジニアは雫であって俺は手伝いぐらいしかしていないのですが・・・」

「もちろん、クドウさんも明智さんも滝川さんも、そして雫さんもすごいわ! みんな、よくやってくれました」

「「「ありがとうございます(あ、りがとうございまし、た)」」」

「No Problem! 当然の結果ですよ。気にすることありませんわ。オホホホォォ!!」

 

 あ、今のリーナが使ってた英語カッコよかった、な・・・ひねくれ者としてマネしてみたいか、も・・・(どきどきワクワク)

 

「しかし同時に、君の功績も確かなものだ。間違いなく快挙だよ」

「はぁ・・・ありがとうございます・・・」

「なんだ、張り合いのない。今回の出場全選手上位独占という快挙に、北山を影ながらサポートしてくれた君が大きく貢献しているという点は我々みんなも、そして北山本人も認識を共有しているところだぞ。もっと素直に喜んでくれてもいいんじゃないのか?」

 

 風紀委員長さんの言葉、に私はコクコク頷いて答え、る。

 じっさ、い私なにやらされたの、かあんまりよく分からないまま終わっちゃってた、し、それで多分いいんだ、と思いま、す。

 

 ――それ、に。

 達也さん、はエラクテスゴ、イ・・・。コレ絶対デス・・・私ハソウ信ジテマ、ス・・・。

 

「特にクドウさんの魔法については、大学の方から『インデックス』に採用するかもしれないとの打診が先ほど正式に届きました」

「それって、達也くんが作った『アクティブ・エアー・マイン』が新種の魔法に登録されるってこと?」

「はい。・・・言いにくいことですが北山さんの調整の方は、そもそも原理自体が不明なので定義しようもありませんからね・・・」

「・・・まぁ、そうなんでしょうけども・・・」

 

 ・・・??? 私のこと、呼ん、だ?

 

「そうですか。開発者名の問い合わせにはクドウさんか、北山さんの名前を回答しておいてください」

「あら、本当に辞退するのねタツヤ。ワタシは別にかまわないけど、アナタは本当にそれでいいの? あれってタツヤのオリジナル魔法なんでしょ?」

「先ほどの焼き回しになるが、新種魔法の開発者名に最初の使用者が登録されるのはよくあることだし、スピード・シューティングを担当したエンジニアは公式記録として雫の名が記されている。俺が出しゃばるわけにはいかないだろう?」

「フム・・・謙遜も行き過ぎると嫌味なだけだぞ?」

「謙遜ではありません。俺は自分の名前が開発者として登録された魔法を、実際には自分で使えないという恥を晒したくないだけです。

 全く使えないというわけではありませんが、発動までに時間がかかり過ぎて『使える』というレベルではありませんので、実演を求められた際に他人が開発した魔法を横取りしたと疑いをかけられかねない程度のレベルなのです。

 不名誉すぎる汚名を被される恐怖心は、選手でもある委員長ならご理解していただけると信じていたのですが?」

「フム・・・・・・一理ある。しかしな、達也くん」

「なんでしょう?」

 

 

 

「クドウはともかく、北山は実演の時にこの魔法が使えるのかと疑われる前に、現時点で私たちが疑っているレベルしか持っていないのだがね・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「……???」

 

 

 よく分からなかったけ、ど、お祝いのジューは美味しかったで、す。

 

 

 

*後日、インデックスには開発者名として正式に『アンジェリーナ・クドウ・シールズ』の名前を回答しておいたそうです。

 

 

つづく

 

 

おまけ『バトルボード予選・ほのか勝利直後』

 

ほのか「勝ちました! 勝ちましたよ達也さん!」

達也「あ、ああ、見てたよ。おめでとう、ほのか・・・」

ほのか「ありがとうございます! ――私、いつも本番に弱くて・・・運動会とか対抗戦とか、こういう競技大会で勝てたことってほとんどなくて・・・」

達也「そ、そうなのか・・・(チラ)」

雫「・・・フルフル(小学校の頃の話だ、よ?)」

達也「・・・ああ、なるほど・・・(ぼそり)」

ほのか「予選を突破できたのは達也さんのおかげです! うわぁ~ん・・・っ」

 

 

 

達也「・・・しかし驚いたな。まさか、ほのかがあそこまで感情の揺れ動きやすい少女だったとは・・・。たかが小学校時代の失敗ぐらい誰にでもあるのだし、気にするほどのことはないと俺なら思うところだがな・・・」

 

 クイ、クイ。

 

雫「達也さ、ん・・・。私も小学校のと、き運動会とか対抗戦、で万年ビリッケツだった、よ・・・?」

 

達也「おまえの場合は練習をサボって遊んでばかりいたのが原因だろう。子供の時の苦労ぐらい買ってでもすべきだったんだ。自業自得だ。諦めて今から勉強しろ。それがお前のためになる」

 

雫「待遇の格、差がヒドすぎ、る・・・!?」



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29話「北山雫は魔法科高校、最悪の新世代?」

続きが遅れてすみません、更新です。他の既存作品も土日の間に更新できるよう頑張ります。


 九校戦三日目、今日も達也はそこそこ忙しく会場内を駆け回っていた。

 もともと彼が担当する予定だった競技種目は、女子スピード・シューティング、女子ピラーズ・ブレイク、ミラージ・バットの三種目。

 この内、スピード・シューティングだけは雫に任せたため、当初の予定よりは楽な時間配分が出来ていたのだが、そこはやはり広大な富士演習場を会場として使った九校戦。1エリアだけとはいえ会場から会場に移動するだけでも結構な時間がかかってしまうのである。

 

 これは雫の能力が通常の整備手順と異なり「なんとなく」でやっていることが結果的に100パーセント上手くいくだけという、結果論の力でしかないことを他の誰より熟知していた彼がそうさせたが故の措置に起因していた。

 

 魔法師たちは自分の使う魔法に関しては論理的厳密性を追求してくるのが常であったが、一方で自分たちが魔法を使うときに使用するCADには「自分にとって使いやすい物」を求めて、細かい理屈を介しようとする者は少ない。それどころか「権威あるプロの魔工技師を雇って任せることが優れた魔法師の資質だ」と勘違いする風潮まで存在している程だった。

 

 発想が真逆なのである。

 

『魔法師は魔法を使うプロであって魔工技術のプロではないのだから、CADのことはプロの魔工技士に任せて余計な口は出さない方がいい』とする理屈の途中までは正しい。

 だが、『自分にCADを調整する技術がない以上、CADを任せる技術者を見定める目を養うことは必須条件となる』その事実を正しく認識する魔法師はほとんどいない。

 技術の進歩に、人の精神が追いついていないのである。

 

 その為に雫の能力も『理屈はよくわからないけど結果的には達也と同じ事が出来てるからそれでいいじゃん』という様な解釈が大多数派を占めてしまって、「リスクと不確実性は根本的に違う」といくら警告しても笑って聞き流されるだけでまともに取り合ってもらえた例しがない。

 二十世紀末期から二十一世紀初頭に蔓延していたケインズ主義の曲解が100年以上の時を経て妙なところで、妙な形で再現する事になってしまったのは歴史の皮肉というか何というべきなのか。

 

 とにかく達也としては、皆が正しく雫の能力が持つ未知の危険性を理解していない現状にあっては、多くの場所で腕を振るわせる訳にもいかず、少しだけ自分の負担を軽減させるのに役立ってくれたらそれでよしという程度に割り切っていたのだが。

 

 

「あれ? 雫、どうしたの。今日のバトル・ボードは雫の担当でも達也さんの担当でもないはずだよね?」

「・・・んと、ね・・・? やることなく、てヒマな、の・・・。だから何、かやることちょーだ、い・・・?」

 

 

 ・・・いつの時代も親の配慮する気持ちが子に届く事はない・・・。

 このとき達也はすでに先ほど、ほのかの元に来たばかりであって、あずさとほのかの二人に請われたため策を一つ授けてから立ち去ったばかりであり、流石の彼もエレメンタル・サイトを常時使用しながら移動する変態ではなかったため、暇を持て余した雫が禁止事項にはない「暇つぶしに友達のところへ遊びに行く事」まで気づくことは出来なかったのである。

 

 

「わぁ、本当!? 雫がやる気を出して自分から誰かを手伝おうなんて言い出すのは珍しいね! 達也さんも推奨してたことだし良かった♪

 私の分はさっき達也さんにやってもらっちゃった後だから、他の皆に声かけてきてあげるよ。大丈夫まかせて! 頼れる幼なじみの力を見せてあげるからね!」

 

 

 ・・・こうして、普段からやる気を見せない幼なじみの珍しいやる気に使命感を刺激された思い込みの激しいほのかの友情と好意によって事態は急激に悪化していくことになる。

 後にこの事を知った達也が天を仰いで何を思ったのか? ――真の凡人である我々に知る術はない・・・・・・

 

 

 

 

「うーん・・・これは、ほのかに悪いことをしたかな」

 

 俺はバトル・ボードの試合会場である人工水路サーキットコースを見下ろしながら、腕を組んでそう呟いていた。

 最初に使った目眩ましの奇策により稼いだリードを守り切ってゴールしたほのかを見ながらの呟きだったためか、隣に座る中条先輩から「どうしたんですか?」と不思議そうに問われてしまう。

 「勝った」というレース結果に不安を抱いている勘違いさせてしまったのだろう。

 

 慌てるほどの事ではなかったが、俺としては珍しく素直に『悪い事をしてしまった』と罪悪感らしき感情を抱いてしまっていたためか反応が鈍くなり「あ、いえ・・・」などという余計に不審を買うぐらいしか効果のない言い訳のための枕詞を先に返してしまい、多少気恥ずかしさい気持ちにならなくもなかった。

 

「このレースは単純なスピードだけで勝てたようですから・・・目眩ましなんて必要なかったな、と」

「はあ・・・でも最初の幻惑魔法でリードを奪えたのですから、作戦として成功しているのでは?」

「ああいう目立ち方をすると、他の選手からマークされるんですよね・・・」

「準決勝は三人一組のレースですから・・・次の試合で、一対二の戦いになってしまうおそれがありますね」

 

 深雪が俺に同調して、補足説明をしてくれる。

 それに対して、だが中条先輩は「何だ、そんなことですか」とあっけらかんと朗らかに頭を振るだけだ。俺たちとしては逆に不安を感じざるを得ない。

 

「そんなことって・・・かなり不利だと思いますけど?」

「そんなこと無くたって、ウチは最初っからマークされてますよ」

「はぁ・・・・・・」

 

 あまりにも朗らかに言い切られてしまい、俺は一瞬だけ彼女が自慢しているのかと勘違いしかけたが、すぐに気づく。

 ・・・彼女は今、俺に気をつかって慰めてくれたのである・・・。

 何というべきなのか、こういうことは慣れてないので控えてほしいと思わなくもないのだが、感謝の思い自体は伝えておくに超したことはないであろうと思わない訳では決してない。

 

「・・・・・・」

 

 ただ、妹の深雪からブリザードの視線が吹き寄せてくることだけが問題であり、不審点ではあるのだが・・・・・・まぁ、世の兄姉なんて多かれ少なかれこういう問題を抱えているものなのだろう、きっと。

 

「次のレースまであと三十分以上か~。長いですねー」

 

 様々な事情によりバトル・ボードの競技スケジュールは一時間に1レースで組まれており、俺と違って中条先輩はバトル・ボードを担当する技術スタッフであるため、担当選手の試合が終わったからと会場を出て行く訳にもいかない。次のレース開始までひたすら座って待つだけである。

 

「・・・・・・」

 

 気をつかってもらった相手を、「はい、それではさようなら」と見捨てられるほど人でなしの社会不適合者になった覚えのないトーラス・シルバーの片割れである俺は、せめてもの例としてブリザードの視線に晒されながら彼女たちと共に次のバトル・ボードの視界開始時間までを共にすることにした。

 

 この事を後に後悔することになるとは知るよしもなく、俺は善意でその場に居続ける道を選んでしまっていたのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 そして、あらためて始まった女子一年バトル・ボード予選第2試合目。

 その出場選手は、俺の担当する選手ではなく、それどころか話したことさえあまりない文字通り「同じ一高に所属している学生同士」・・・ただそれだけな赤の他人という方が近い関係性にある女子生徒で、確か名前は『菜々美』と言ったかな?

 名前だけしか覚えておらず、名字まで思い出せなかった事実こそが俺と彼女の距離を物語っていた。物理的にも精神的な距離においてもだ。

 

 ――だが、そんな俺でも彼女について断言できることが一つだけある。

 

 

「・・・・・・妙だな・・・」

 

 いぶかしげに呟いた俺の声を聞きとがめたのか、深雪と中条先輩の二人同時にサーキットから目を離して俺の顔を見つめてくる。

 

「妙・・・、とおっしゃいますと?」

 

 深雪が聞いてきて、俺が答える。

 

「彼女の能力とスタートダッシュに落差がありすぎていた。たしかに、ほのかと比べれば見劣りするかもしれないが、それでもあそこまで遅くスタートするような選手じゃない。

 体調不良かとも考えたのだが、動きを見る限りそういうわけでもなさそうだし・・・一体彼女に何があったんだ? それが分からないんだよ」

 

 俺は目を細めながら対象を見つめ、わずかながら“眼”をつかって覗いてみたが特に異常は見つけることが出来なかった。

 

 自分でも言ったとおり、確かにあの選手『菜々美』は特別優れた選手という訳ではない。ほのかだけでなく、それ以外の九校戦に参加した選手の中には彼女より優れた選手は大勢いるだろう。

 

 だがそれはあくまで各校から選りすぐられた精鋭が競い合う場所、九校戦全体を通してみた場合はの評価であって、七草先輩方などの一部例外までもを加えた全体の評価基準で計るのでなければ、彼女の能力は九校戦参加者の中ではまずまず平均値と言ったところ。高くもないが、低くもない。安定した数値と成績とを保持してきている。伊達に三年連続優勝校の第一高校から代表として選ばれて来ている訳ではない。

 にも関わらず、先ほどのスタートダッシュ時に見せた彼女の凡庸さはいささか説明を要すると言わざるを得ない。

 

 彼女本来の力さえ出せたら最低限コンマ3秒は早くスタートできていたはず・・・なのになぜ、こうもゆっくりと安定した滑り出しとレース運びを維持し続けるのか? まるで理解できないし、理屈にもなっていない。

 

「安定していることはいいことなのではないですか? ハイリスクハイリターンな賭けに出ないのは素直に良いことだと思いますけど・・・」

「相手次第ではそうですね。ですが、今回の場合は最悪の愚策です。

 なぜなら今彼女が相手にしている二組の一人は、一年生とはいえ『海の七校』・・・順当にいけば確実に敗れる相手ですからね。賭に出ない限り勝ちの眼はありません」

「・・・・・・今更ですけど、ハッキリ言いますよね、司波君って・・・・・・」

「事実ですからね」

 

 中条先輩から微妙な目つきで見つめられながら、それでも俺は他に言い様もないので公然と相手の心情に気づかないフリをして普通に返事を返す。

 

「『賭けに出ず安定した走りをする』とは要するに自分の実力だけで勝負すると言うこと。実力差のある相手にこの戦い方で挑むのは、戦う前から自分で負けを確定させてしまうようなもの。勝てる場合があるとするなら、それは相手自ら致命的なミスを犯してくれたときだけ。

 運任せで勝てる可能性に賭けて、運がなければ予定調和で敗北を受け入れるというやり方はスポーツマンとして正しい挑み方だと、俺は思いません」

「まぁ、そうかもしれませんけども・・・・・・」

「そんな方法で挑んでおきながら、彼女は先ほどから安定した走りのみに集中して相手の隙を見つけ出そうとはしていないように見えます。

 何か策でもあるのか注視していたのですが、その様子もないまま既に二週目の中盤。もはや勝負あったと言えるでしょう。一体何があったのかと疑問を覚える方が、むしろ自然なのではありませんか?」

「まぁ、そうかもしれませんけどもぉぉ・・・・・・」

 

 未だ納得がいっていないらしい中条先輩が、リスのように頬を膨らませる姿から目を逸らし、あらためてサーキットへ視線を戻してみたが・・・・・・やはり状況は変わっておらず、実力差から来る距離の差が徐々に徐々に開き始めていく光景を目にするだけで終わってしまった。

 

 ・・・全く何がやりたかったのやら・・・。

 強いて言えば一週目の丁度中間で魔法を使用して、機器の誤作動によるものなのかサイオンを拡散させて終わってしまっただけの1シーンが、何かの策を弄そうとして未発に終わってしまったモノではないかと推測できるが、あくまで仮説の域を出るものではない。未発に終わった策略は、いくらでもIFが付け加えられるものなのだから。

 

 ――そう思ったときのことだ。

 俺の視界が・・・・・・大きく揺れ動き出したのは・・・・・・。

 

 

「・・・・・・?」

 

 目をこすって、椅子に座り直す。

 ・・・間違いない。やはり揺れている。そして、“揺れていない”・・・。

 

 視界に写る光景は激しく揺れ動いているのに、俺自身は不動のまま揺れ一つ感じられずに座り続けているのである。

 目に映る光景と、身体で感じる体感の違いが脳を誤認させて、俺の鍛えられた認識さえ影響を受け始めていることを自覚した瞬間、『自動修復』が発動するかとも思ったのだが、それもない。

 まったく未知の魔法攻撃によるものかと周囲を警戒してみたのだが、何人かの観客が俺と同じで違和感を覚えたのか狼狽えている姿を見いだしただけで敵意はまるで感じられない。

 

 まったく何が何だか『よく分からない現象』が続く中で、俺は状況を分析して解析しようと情報収集を続けていき、やがてすぐにも答えに辿り着く。

 

 

「水が・・・・・・地震を起こしているだと・・・っ!?」

 

 

 思わず唖然として、その現象を見つめることしか出来なくなる俺。

 深雪と中条先輩も同様だ。口をポカンと開けて、ただ目の前で繰り広げられる異常現象を見続けることしか出来なくなっている。

 

 それは正しく異常現象と呼ぶべきものだった。他に呼びようが無い物だったからである。

 

 まず、プールの水が揺れているが、波ではない。波は方向性を持っており、通常は水面を横向きに移動していく代物だ。

 だが、この揺れは上下がメインで、横への揺れは追加で付属してきている。この揺れ方は正しく『地震』であり、本来なら地面のない水中でも水面でも起きるはずのない現象である。

 言うなれば『地震』ではなく、『水震』。

 

 人類の足場である不動の大地が揺れ動くのではなく、あらゆる生命の生まれ故郷である水面だけが揺れて、水以外には一切の影響を及ぼさずに上下左右に揺れまくり続けているのである。

 

 水は地面の揺れに振り回されることはあっても、水そのものが物質化したかのごとく地に足を生やして揺れ動くことなど有り得ない・・・・・・はずだった。

 だが現実に今、サーキットの水面は揺れている。揺れまくっている。立っているままでは危ないぐらいの揺れ振りで、マグニチュードに換算すれば震度5弱ぐらいは余裕で記録できそうなほどの揺れ具合。

 

 当たり前の話だが、レースどころではない。大地震が起きてる最中に、波乗りなどやってるバカは命知らずのギャンブラーであって、体調管理こそが最重要事項のスポーツマンでは断じてない。

 

 が、その一方で揺れは揺れでしかなく、選手たちに危害を与えるモノではないため、立って移動しようとせずに座り込んでボードにしがみついていれば、ひとまず危険は無いようでもあった。

 安全地帯から一歩でも出れば、自主責任で大地震が続く超危険地帯入り・・・・・・なんという性質の悪い魔法なのだろうか。作った奴の顔が見てみたい。

 

 この状況の中で、唯一『菜々美』選手だけはスイスイと今まで通り安定した走りでゴールを目指して移動しているところから見ても彼女の仕業であるのは明白だったが、これが反則か否かを決めるべき運営委員からは未だ何のジャッジも出されていない。

 

 然もあろう、バトル・ボードのルールだと『他の選手に魔法で干渉すること』は禁じられていても、『水面に干渉した結果、他の選手の妨害になること』は禁止されていないのだ。

 『水面がOKだが、水中はNG』という理屈は適用する方が難しかろうからな・・・コレは本当に・・・どういう位置づけでルール規定すればいい代物なんだ一体・・・?

 

 まぁ、とりあえず。

 

 

(――この試合が終わって移動自由な時間になったら、あのバカを探し出そう。殴るために)

 

 

 暗い決意の炎を胸に宿し、無表情にピースサインをしている馬鹿を頭の中に思い浮かべながら、試合が終わるのはまだまだかと貧乏揺すりを続ける俺を気遣って無視してくれてる左右の二人のためにも・・・・・・。

 

 俺は絶対に・・・・・・北山雫のバカを一発殴る。

 

 

 

 

 

「・・・よ、し・・・っ。上手くでき、た・・・っ」

 

 私、は胸の前で「グッ!」って拳を握っ、て不敵な笑いを浮かべ、る。

 プールでは水が揺れまくってい、て私のケーサンにもとづいて作ったマホーが『こうなってくれたらいいな』って思ってたとおりの結果を出してくれ、て私は大満ぞ、く♪

 

「・・・私は、やっぱりやれば出来る、子・・・! 達也さんの言ってたこと、ちゃんと理解できて、る・・・。ひねくれ者はやらないだけ、でやれば出来るの集ま、りだから当然・・・♪」

 

 嬉しくなっ、て思わず「ピョン♪」・・・飛んでみてから気づい、た。子供っぽくて恥ずかし、い・・・。二度と、やらない・・・。

 

 達也さんは言ってい、た。『チョーカンイマホーシキは、魔法を使えない人でも簡単な魔法を使えるようにしたケーサンシキだ』って。

 だから私は考えまし、た。いっぱいいっぱい考えました。夜遅くまで起き、てお昼寝し、ていっぱいいっぱい考えたのです。

 

 『チョーカンイマホーシキが、魔法が使えない人にも簡単な魔法だったら使えるようにしたケーサンシキ』だとした、ら『魔法が使える人に難しい魔法を使えるようになるチョーカンイマホーシキ』も作れるはずだっ、て・・・。

 

 だから私、は頑張りました。頑張って作りまし、た。

 それがコレで、す。『グラグラの魔法』

 

「やっぱ、りひねくれ者でも王道は大、事・・・♪ 『ワンピース』♪ 『頂上決戦』♪

 白髭『エドワード・ニューゲード』はカッコい、い・・・♪」

 

 あの、『ぐぐっ・・・』ってやって、『ドォン!!』って殴って、『ミシミシバキバキ』鳴り出して、『ズズズズ・・・っ!!』て揺れ出した後に『ゴゴゴゴゴ・・・っ!!!』ってくる大津波はカッコよかった、の・・・♪

 

「・・・あ、そーだ・・・。できた魔法を達也さん、に見せに行かなくちゃダメなんだっ、た・・・」

 

 達也さん、が毎年出してく、る夏休みの宿題。今年は休みが始まる前に終わらせ、ていっぱいいっぱい遊びたかったか、ら頑張りまし、た。

 とりあえ、ず『自由研究』と『自由工作』、はこれでいいよ、ね? うん、大丈、夫♪

 

「早く達也さん、に見てもら、う・・・♪ たまには私、も褒めてもらいた、い・・・♪」

 

 ちょっとだけスキップしながら移動し、て子供っぽいって気づいてから、は普通に歩く。

 ひねくれ者は子供っぽいのは嫌、い。

 でも、たまには人に褒めてもらいたいときもあるんだ、よ・・・? 達也さん♪

 

 

「・・・・・・ルン♪」

 

 キューコーセンの会場を、達也さんを探すため、にウロチョロする私。

 その結果。・・・・・・頭にゲンコツをプレゼントされちゃいまし、た・・・・・・。

 なんで~~~・・・・・・・・・グスン(T_T)

 

 

 

「・・・で? お前これ以外になにを作った・・・?」

「・・・自分の乗ってるボートの下だけ凍らせ、てスケボーみたいに走、る『カチカチの魔法』・・・って、痛い!?

 ・・・なんでブツ、の? 達也さんぅぅ・・・・・・(うるうる)」

 

つづく

 

注:雫にとっての作成計画とは『こういう風なのを作りたいと思うこと』です。設計とか計画とか難しい単語は分かっていませんので使えません。



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30話「魔法科第一高校の優等生たちの話し合い」

けっこう久しぶりになってしまいましたね。「雫」更新です。
久しぶりに更新なのに主人公の出番は少ないです。最後ら辺に少しだけ。
今回は作者お気に入りの七草会長をはじめとする一校三年生メンバーによる悲喜こもごもな会話をお楽しみいただけたら光栄です。

*今気付いたのですけど、タグに「女オリ主」って付けちゃってましたけど全然オリジナルじゃなかったですね。ごめんなさい、先ほど消しておきました。


 運動競技のスポーツでも盤面遊戯のチェスでも、ヤル気がない人は勝利しづらい。それは魔法競技の九校戦でも同じことが言える。

 チームメイトの活躍を見て「今度は自分がやぁってやるぜー!」と意気込むことができた人はヤル気が出て実力以上の結果が出せるのは旧世紀から続くスポーツ競技共通のシステムであり、だからこそ味方の勝利は士気を高める特効薬と昔から言われているのは誰もが知る一般的なこと。

 

 ――なんだけれども・・・・・・

 

 

「森崎君が準優勝して、後の二人は予選落ち、か・・・・・・」

 

 私、七草真由美は一高の幹部三年生たちの見ている前で溜息をつく。

 新人戦一日目が終了して順位表が発表され、男子スピード・シューティングの結果が思っていた以上に芳しくないことに一高の将来が不安になってきてしまったから・・・。

 

「男子と女子で逆の成績になっちゃったわね・・・・・・」

 

 ため息を誤魔化すための苦笑いを浮かべながら、私はそう言って今日の総評を口にする。

 

 キツいことを言うようだけど、十師族の本家に生まれて一応は生徒会長をやってきた私の経験則から言わせてもらうなら、「ヤル気」はともかく「気負い」ではじめた事業というのはたいていの場合は失敗して終わってる。

 もちろん、気負いにもいろいろあって成功する新規プロジェクトのほとんどが一部の担当部署の熱意から始まっているという事実も知ってはいるんだけど・・・。

 

 でも、「気負う」理由には「見栄」が混じりやすい。見栄は「気負い」を「プライド」に直結させて視野を狭くして「空回り」という結果を容易に導き出させてしまう様になる。

 勝ち負けがある勝負である以上、どんなに頑張っても負けるときは必ず負けるのは仕方のないことで、負けが確定した勝負は損切りして、次のための糧にするか余力を残しておいた方が賢明なのに「今この勝負に勝てなければ全て終わりだ!」みたいな思考に人を錯覚させてしまいやすい。

 

「まぁ、こんなご時世だからな。九校戦初参加の一年一科生に、力を抜いて競技に挑めというのも考えてみれば無理があったか」

 

 風紀委員長として後輩たちに感じた失望を隠すためか、摩利がそんなセリフを私と同じような口調で続けてくる。

 

 超簡易魔法式の急速な普及によって、優秀な魔法師というだけでは特別な地位と特権を維持できなくなってしまった現代魔法師社会の中で九校戦は、純粋な魔法力を競い合う伝統的で権威ある魔法競技大会として残された数少ない一大イベント。

 地位の復権と、二科生たちへ実力差を結果によって知らしめたいと願っている人たちが多い一科生の中には、どうしても“そういう気分”は醸成されやすい時代背景が心理面に影響しちゃう。

 

 ・・・しかも、技術スタッフとはいえ初っ端から“あんなモノ”を見せられちゃった側としてはねぇ~・・・。まぁ、気持ち的にはわからなくもないからキツいこといいたくても正直言えないわ私としては。

 本当にもう、“あの二人”は本当にまったく、本当に・・・・・・ああもう!!

 

 

「そうとまでは言えません。三校は一位と四位ですから、女子の上位独占で稼いだ貯金がまだまだ有効です。

 男子の方も今日の結果を事実として受け止め、明日の競技へ活かすことさえできればよい結果を導き出すことも可能でしょうし、これについて当人たちの自助努力だけに掛かっている問題でもあります。

 所詮、個人的な気持ちの問題は自分自身でどうにかするしかない以上、終わってしまったことを今更言ったところでどうにもなりませんし、損切りして考える方が賢い選択なのではないでしょうか?」

「うん、リンちゃん。それは正しいものの見方だけど、それ言っちゃうと終わっちゃうから。今日の競技に参加した一科生みんなが終わっちゃうから。

 精神的に終わりを迎えさせられて死んじゃうから、本気でやめてあげて言わないであげてマジメにお願い。

 貴女の十師族直系で生徒会長相手にも率直すぎる意見を言ってくれるところは大好きで高評価してるんだけど、こういう時にはオブラートに包んだ言葉を言ってあげてください。お願いします」

 

 私、みんなの見ている前で生徒たちを(精神的に)守るために部下に対して土下座を(気持ち的に)敢行。

 まったくリンちゃんは! 本当にまったくもう・・・ッ! 正直なのはいいけど、少しは社交辞令という言葉を覚えてほしいわね!

 その人にとって言われたくない事実を突いた言葉は、ときに人を自殺させて殺せるんだってことを知りなさい!

 

「ま、まぁ、市原の言うことにも前半と終わりの部分には一理ある。悲観的に考えすぎるのはよくないし、こぼしたミルクを今更嘆いても意味はない。元々、女子の成績ができ過ぎだったんだ。今日のところはリードを奪ったことで良しとしておかないのは、考えてみると欲が深かったからな、うむ」

「そ、そうね! 摩利の言うとおりだわ! 大事なのは今日の日記帳よりも明日の予定表だものね! さすがは摩利! 最強の剣術バカップルと三流ゴシップ誌にパパラッチされたことがある女! 言うことが違うわね!!」

「はっはっは――後で屋上にくるんだ真由美。お前となら久しぶりに本気が出せそうなくらい切れてしまってもよさそうだからな・・・・・・」

「しかし、男子の不振は『早撃ち』だけではない。『波乗り』でも同様だ。何かしらの対応策を話し合っておくのが一高首脳陣としての義務というものだろう」

 

 私と摩利が言い訳しない性格のリンちゃんのために、問題発言になりそうな事実への指摘をごまかすため意味のないと分かりきってる会話をしている横から、険しい表情で正論とともに異を唱えてきたのは十文字克人くん。

 マジメすぎるほどマジメすぎて責任感のありすぎる性格が裏目に出る結果になっちゃったわね・・・ええい! この高校生にはとても見えない体育会系のスポーツマンめ! 雫ちゃんが貸してくれたスポ根漫画の世界に帰っちゃいなさいよ!まったくもう!

 

「・・・今、なにか失礼なことを思っていなかったか? 七草・・・」

「いいえ、そんなことはないわ。気のせいよ克人君」

「・・・・・・そうか。まあいい・・・。それよりも男子の不振についての問題だ。

 予選上位独占の女子に対して男子一名。このままズルズルと不振が続くことはないと思いたいが、最悪の場合も想定して備えておく義務と責任が俺たちにはあると考える。

 今年は良くても来年以降に差し障りがあるようでは、一高生徒数百人の中から選ばれた九校戦選手団の代表として義務を果たしたとは到底言えまい」

「それは負け癖が付く、ということか?」

「その恐れがあるということだ。たとえ現実にはまだ起きていなくとも、未来の危険性について考えて対応策を準備だけでも済ませておくのは責任者の義務というものだろう。

 最悪、多少強引な梃子入れをする必要があることは承知しておいてもらいたい」

「しかし、十文字。梃子入れと言っても今更何ができるというのだ?」

 

 十文字君の責任者として尤もな意見に対して、摩利もまた現場責任者として尤もな反論を口にする。

 実際、どっちもどっちで双方共に正しい意見なのは間違いない。

 十文字君の意見は責任者として事前準備をおろそかにしない義務感と責任感に満ちあふれたものだし、摩利の意見は動き出した事態の中である物をやり繰りするしかないという臨機応変の柔軟性に富んだ彼女らしい意見だと言えるから。

 

 それにまぁ、大会が始まってる以上は男子がどれだけ不調になろうと責任者がしてあげられることなんて限られてるのが現実だしねぇ~。

 ルール上、今からでは私たちに選手やスタッフを入れ替えることは認められてないし、せいぜいが「気にするなよ」的な内容の説教とか、偉人たちの名言とか格言とか、成功者の成功例を引き合いに出して語ってあげるとかの学園ドラマ的な詭弁で論理をすり替えて、根本的問題は放置したまま別の目標を与えてそっちに気分を持って行かせてあげて一時的に悩みから解放してあげるぐらいが関の山。

 

 その程度のことで満足して、生き生きと前に進んでいける人も多いのだけど、その逆に対処療法にもならない人だって結構いるし、放っておくことだけが立ち直れる手段になってる人もいたりして、やっぱり本人次第の自己責任になっちゃうしかないのが現実における気持ちの問題。

 

 と言うかまぁ、ぶっちゃけちゃうと九校戦って『モノリス・コード』以外は個人競技だけの魔法競技大会だから、『本人の気持ち次第』になっちゃうのはどうしようもないのよね・・・。

 コートの上にいるのは、自分と相手だけ。自分を支えてくれるのは、自分の心の中にいる誰かと自分を信じる心だけ。一対一の実力勝負で順位を競い合うっていうのは、そういうこと。勝っても負けても自分の問題は自分の問題。誰もとるべき責任を代わってくれることなんてできはしない。

 

 それを承知で参加するのがスポーツ大会ってものなんだから仕方ないんだけど・・・・・・やっぱり厳しいものよね、勝ち負けがすべての世界っていうものは・・・・・・。

 

「・・・・・・フッ」

 

 ――それにも関わらず、なぜだか克人くんは摩利からの疑問に対して自信満々なふてぶてしい笑顔を浮かべるだけで、視線による再度の回答要求にも再反論なし。

 

 まったく・・・この人はこの人で何を考えているのか分からないときがあ―――はっ!? 

 

「ま、まさか克人君・・・っ、あなた、あの手を使うつもりじゃ・・・・・・っ!?」

「ほう・・・。さすがだな、七草。お前もどうやら俺と同じ腹案を考えついていたようだな」

「な、なんて九校戦の伝統を無視するような方法を・・・・・・っ」

 

 私はあまりの衝撃に立ちくらみを覚えて、逞しくて野太い笑みを浮かべている目の前の男の子の決断力と行動力と柔軟すぎる発想に驚きを通り越して恐怖心さえ抱いてしまいそうになってしまっていた・・・・・・。

 

 

「普段から使っている魔法力とは別に、もう一つの魔法力として存在している潜在能力を引き出して使えるようにする十文字家秘伝の魔法を使うつもりなのね十文字君・・・ッ。

 でも、あの魔法は潜在能力を引き出せるようになるため一晩中激痛にもだえ苦しみ抜かなければ使えるようにはならないものなのに・・・・・・ッ、それを限られた時間内で勝てるようになるため生徒たち相手に使用するなんて・・・・・・!!

 克人くん、あなた・・・・・・なんて恐ろしい人ッ!?」

「・・・・・・・・・・・・七草。お前はいったい、何の話について語っているのだ・・・・・・?」

「え? 違うの? 雫ちゃんから借りた漫画に出てきた魔法スポーツ大会には、そういう風な魔法でパワーアップしてたわよ? 残された少ない時間だけで」

「・・・・・・・・・・・・」

「ちなみにだがな、十文字。私が北山に借りた剣術マンガによると『自分もまた所詮は一人の人間に過ぎないという事実』を認めさせることで一晩だけでも劇的なパワーアップが可能だと書かれていたのだが・・・・・・」

「・・・・・・・・・おい、市原。北山を呼んできてくれないか。一年男子をてこ入れするより先にコイツらには説教が必要だ・・・」

「はい、かしこまりました十文字会頭。―――四十秒で行って参ります(ボソッと)」

「頼む。―――って、え? 今お前なにか余計な一言を言ってなか――――」

 

 

 バタン。

 

 

 

 

 

 そんな会話があったのと同じ日の夜。

 達也に与えられていた客室前の入り口にて。

 

「こら、深雪。何時だと思っているんだ?」

「・・・・・・っ(ビクッ!)」

「睡眠不足は集中力を低下させる。いくらお前でも、思わぬミスが敗北につながらないとも限らないんだぞ」

「申し訳ございません!」

「・・・・・・いや、分かってくれれば良いんだ。さあ、もう部屋へお帰り。送っていくから――」

「・・・・・・お兄様、少しだけ、本当に少しだけ、お時間をいただけませんか? 少しだけで構いませんから・・・」

「え。・・・い、いや、今はその、あれでな・・・・・・先ほどまでCADの最終調整をしていたせいで部屋が散らかっていて、とてもお前を入れてあげられるような状態ではなく、それでだな・・・」

「・・・・・・??? あの、お兄様。どうなされたのですか? なにやらお加減の調子がよろしくないようにお見受けしますが―――はっ!? 室内に不審な侵入者の気配が! おのれ曲者め! お兄様の部屋に忍び込むとはよい度胸です! 思い知らせてあげましょ・・・・・・ッ」

 

 

「・・・・・・オシッ、コぉ・・・・・・ZZZZ(ふらふら、ボ~~ンヤリ・・・・・・)」

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・お兄様」

「・・・なんだい、深雪・・・」

「今夜は寝かせて差し上げません! 説教のお時間です!!」

「くっ・・・・・・(正論でごまかしきれなかったか!!)」

 

 

「・・・オシッ、コ~~~・・・・・・ZZZZ(-.-)」

 

 

 

 寝ぼけて押しかけてきただけの幼馴染みを叩き起こす決意がつかずに悩んでいたところを妹に見つかってしまった優しすぎる達也さんの疲労と寝不足を引き継ぎながら九校戦は、新人戦二日目を後数時間で迎えようとしている・・・・・・。

 

つづく



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31話「北山雫は『九校戦』の劣等生?それとも優等生?」

久しぶりの更新となってしまいました…。最近、歳のせいなのか季節柄のせいなのか、書くときに体力消耗し過ぎるため書きたい内容を書けるコンディションの時が異様に少なくなってて困り気味な作者であります。
他の作品もできるだけ早く続き書きたいのに困ったものです…(-_-;)


 全国魔法科高校親善魔法競技大会・・・・・・それは全国から選りすぐりの魔法科高校生たちが集い、若きプライドを賭けて栄光と挫折の物語を繰り広げる純粋な魔法競技大会。

 その為、この大会に選手として参加を許された時点で、魔法という希少な才能を認められたエリートの中から選抜されたエリート中のエリートであることを証明してくれている。

 

 しかし、この大会は参加選手に選ばれた時点から劣等選手と優良選手が存在している。

 

 たとえば、参加選手用にと割り当てられた普段は自衛隊関係者用のホテルの一室である自分用の部屋で、夜遅い時間に妹に訪問され説教している最中に、妹より先に来ていて寝ぼけたバカな幼馴染みのせいで迷惑被らされていた現代基準では劣等生とされている最強魔法師の少年が怒られている近くのベッドで、騒動の原因となってるバカが安らかな寝息を立てながら満漢全席の夢を見て涎を垂らしていることが許されてしまう程に。

 

 九校戦は同じ劣等生でありながら、それでも格差が存在してしまっている魔法競技大会の場であったのだ。

 

 

 ・・・・・・そして奇しくも同時刻。九校戦の会場である富士演習場から大分離れた距離にある横浜中華街、その香港資本が経営している高級ホテルの一室において、今の司波達也と同じぐらい理不尽な目に遭わされて嘆いている男たちの一団が至急の呼び出しを受けて集められていた。

 

 

「――今日の新人戦、『スピード・シューティング』だけでなく、『バトル・ボード』でも一高の女子選手たちが上位独占したそうだ・・・」

 

 テーブルを囲むように座って席に着いていた五人ほどの男たちは、最初に口火を切った男の報告を聞かされて思わず不愉快そうに唇を歪ませずにはいられなかった。

 

「・・・・・・新人戦は第三校が有利ではなかったのか?」

「その通りだ。少なくとも下馬評ではそうだった。だが蓋を開けてみればこの様だ・・・客たちは賭け甲斐があると喜んでいたがな・・・」

「クソがッ! これだからギャンブルって奴はこれだから!!」

 

 ダンッ!と大きな音を立てて一人の男が拳をテーブルへと叩き落とし、並んでいた満漢全席とはいかないながらも高級中華フルコースではある料理の一部を衝撃で床に落としてしまうが、それに目を向ける者など一人もおらず、誰もが焦りと苛立ちとを血色の悪くなった顔に浮かべながら腕を組んだり閉じたり開いたりしていた。

 

 男たちの顔には例外なく我慢しがたい怒りと憎しみが渦巻いており、本来なら万が一を考慮して英語で話し合うべき場所柄だというのに母国語で罵声を叫んでいる同士を咎めもしない。

 

「せっかく渡辺選手を棄権へと追い込んだというのに、これでは意味がないではないか! 本戦での優勝者一人で得られる点数より、新人戦で上位独占をして得られるポイント数の方が高いんだぞ!? このままでは第一高校が優勝してしまったらどうする気なのだ!?」

「第一高校は、女子選手たちとは真逆に男子選手たちの成績が悪い・・・。

 《スピード・シューティング》では一人が準優勝で、残り二人は予選落ち。《バトル・ボード》の方でも予選通過が一名だけだ。

 男女ともに《波乗り》の決勝は六日目でもあることだし、まだ第一高校が優勝するとは限るまい・・・」

「男子選手たちとは真逆に、女子は選手全員が首位を独占しての予選通過という結果を見ても第一高校が《波乗り》で負けてくれる可能性があると本気で思っているのかジェームス!?」

「それは・・・・・・」

 

 そう言われてしまうと返す言葉もなく黙り込むしかない。

 だいたい今言った発言とて、別に本心から信じて言ったものではなく、過ぎた事を恨むよりかは何かしら明るい希望を見つけ出そうと無理矢理こじつけただけの代物であり、ジェームスと呼ばれた彼自身も怒鳴ってきた相手と同じように怒りと憤懣やるかたない想いで胸がいっぱいなのである。

 

 

 ――彼らは香港系の犯罪シンジケート『ノー・ヘッド・ドラゴン』の日本支部を担当している上級幹部たちであり、最近までは『ソーサリー・ブースター』と名付けられた商品で相当に荒稼ぎしていた者たちの一部でもあった。

 

 『ソーサリー・ブースター』、俗称『ブースター』は魔法師の大脳を使用した魔法増幅装置であり、使用する魔法を限定する事によって素材となった大脳の持ち主だった魔法師が本来もっていたキャパシティを超えた性能を発揮してくれる高値で売れて原価が安い、供給元にとってはこれ以上なく美味しい品物であるはずだった物でもあり、近年まで『ブースター』の製造に関わる者たちの組織内における待遇は破格とも呼ぶべき特権的地位を有してきていた。

 

 だが、最近ではその栄光は陰りを見せ始めて久しい。

 戦争が起きる回数が減った事により、ブースターを求める顧客が激減してしまったことが、その要因である。

 そうなった原因は言うまでもない。あの忌々しい超簡易魔法式が登場したことが全ての災いの元凶になっていた・・・!!

 

 あれが登場したせいで国家間戦争のあり方が、武力衝突よりも経済戦争にシフトするようになってから数年。

 国同士の諍いを武力によって解決しようとする動きが0になることなど人類の歴史が続く限り絶対にあり得ないことではあっても、やはり往事ほどの回数には遠く及ばない頻度でしか紛争や騒乱が勃発しなくなったことにより、ごく自然に『ブースター』の消費量と補充のために再購入してくれる回数は大幅に減ってきてしまっている。

 今ではメインの客層が国軍からの非公式な大量受注ではなく、自分たちと同じ犯罪組織やテロリストなどの方が購入回数としては多くなってきているほどだが、領土という固有の経済基盤を持たない私設武装組織が一国家の正規軍以上に金を持っていて、多国間戦争に勝つため高額兵器を大量購入し続けてくれるはずもない。

 本部に献上している上納金も最盛期の半額近くにまで落ち込んできているのが昨今の彼らであり、当時の栄光を知る者たちとしては素直に受け入れられる心境には中々なれない。

 

「本命の第一高校が勝利したのでは、我々胴元の一人負けだぞ? 大損だ!! そうなっては今期のビジネスところではない!」

「今回のカジノでは特に大口の客を集めたからな・・・負けた時の支払い配当は、我々全員が持つ全財産に相当する。我々全員が本部に粛正されるか首をくくるかの、どちらかしか選ぶ道はなくなってしまうしかないだろうな・・・」

 

 男たちが深刻さを増した表情で顔を見合わせながら話し合いを続けていく。

 顔は深刻そのものではあったが、実のところ彼らがやっている事自体はシンプル極まりない、『今年の九校戦で優勝する学校はどこか? どの学校がどの順位に付くだろうか?』を予測して選んでもらい、正解者には豪華賞品がプレゼントされる・・・・・・まぁ要するに「トトカルチョ」である。

 体育祭とかの時に学生たちが昔からよくやっていた例のイベントを、超高額の賭け金募って、参加者たちはVIPレベルに限って開催してきたのがノー・ヘッド・ドラゴン主催の毎年恒例『九校戦トトカルチョ大会』であり、今年は予想が大きく外れて胴元が大損しかけて焦っている。・・・ただそれだけでしかない本当にシンプル極まりない話の内容だったのだが、シンプルだから問題の結果まで軽いという訳でもない。

 

「・・・もし、我々が再起を賭けて全財産を投じた今回のカジノで敗れた場合、我々全員が本部から無能者の烙印を押されて用済みとなり、粛正対象に指定されてしまうだろう。最悪の場合にはボスが直々に手を下しにくることさえあり得る状況なのだぞ・・・そうなってしまったら我々は・・・」

『・・・・・・・・・』

 

 ゴクリ、とリーダー格の男の言葉に全員が唾を飲み込んで喉を鳴らす。

 誰かが掠れた声で呟く声が、ポツリと聞こえた。

 

「死ぬだけならまだいいのだがな・・・・・・」

 

 その声は恐怖に震え、顔色は蒼白を通り越して真っ白になりかけていた・・・。

 超簡易魔法式の登場によって大幅に売り上げを減らした彼らは追い詰められた挙げ句、毎年恒例となっていた九校戦トトカルチョで再起を賭けた大勝負に出て、残る全財産をベットしてきていたのである。

 後がなくなり、逃げ場所も自分たちで閉じた後ともなれば怖くて震えてしまうと言うのも頷ける心理ではあっただろう。

 

 ・・・だが、彼らが再起のために選んだ手段そのものは単純明快で判りやすい限りであり。

 自分たちが胴元として主催する今回のトトカルチョ大会で、本命に指定した第一高校のオッズを倍率が高くなっても勝ちさえすれば損をしない額にまでバカ高く設定して票を第一高校に集中させた後、自らの手で第一高校の優勝を妨害して賭け金を独り占めするという、今どき中学生でもやりそうにない子供じみた出来レース賭博計画だったが、彼らがこんな杜撰すぎる計画で復権を狙いだしたのにはワケがある。

 

 

 ・・・・・・そもそも、いくら往事ほどの力はなくなったと言っても、彼らが組織内では有数の戦力を保持し続けている事実に変わりはなく、昔と比べて没落したと言うほど低い評価を受けるようになったと言う訳でもない。

 にもかかわらず、彼らがこうまで焦っているのは端的に言って、新勢力の台頭と成り上がりが下克上を招き始めていることが原因によるものだった。

 

 超簡易魔法式は魔法の使えない一般人であろうとも簡単な魔法は擬似的にマネ事ができるようにした機械、と極論する事が出来なくもない装置であり、ある意味では『ソーサリー・ブースター』を下位互換しまくった劣化量産型であると言えない事もない存在である。

 それは発揮できる出力と性能こそ桁違いに低くなってしまうことを意味する物であったが、逆に言えば大した効果を発揮できるものではないためリスクが少なく、コストパフォーマンスも良く、大量生産されて安価で手に入れられるから様々な用途での実験をしやすかったという安物特有の長所をもっているということでもあった。

 

 彼らノー・ヘッド・ドラゴン内で台頭してきた新勢力たちは、この特性を利用して様々な分野での成功と失敗を繰り返しながら、徐々に徐々にジェームスたち既存の幹部勢力の持つ力を着実に削ぎ落としにかかってきていた。

 特に違法賭博と、知能犯罪の面において超簡易魔法式の性能は絶大であり、使用するものの工夫次第で如何様にも使う事ができる利便性の高さは頭の柔らかい若手幹部たちに好まれて、武断的なやり方を好むジェームスたち年寄り世代に分類されるようになってしまった守旧派勢力にとっては卑怯卑劣で忌々しいだけのガラクタでしかなかったのだ。

 

 彼らとしては、今まで誘拐してきた魔法師たちを能力に関係なく大脳だけのブースターに改造して他国に高値で売り飛ばしているだけで儲かりまくってきた特権階級的な立場を奪われ、今まで見下してきていた若造共に頭を下げさせられる屈辱に耐え続けなければならない日々は苦痛でしかなく、仮に今のままの状態が続いても食うに困らず影響力と地位も一定より下に下がることは無いとわかっていても、やはり一発逆転可能かもしれないギャンブルを前にすると追い詰められた人間というものは飛びついてしまいたい衝動に駆られやすい動物だと言うことなのだろう。おそらくはの話だが。

 

 

「大亜連合が日本への奇襲をかけるという話さえ、真実になってくれていたなら『ブースター』も売れて、在庫も完売し、我々が今日の大博打に手を出す必要もなかったのだがな・・・」

 

 しばらく沈黙が続いた後、男たちの一人が愚痴るように呟いた言葉に、他の数名が賛同し、別の一人が唇を歪ませながら嘲るように悪意と罵声を味方になるかもしれなかった国家に向けて口にする。

 

「残念ながらあの大国は、勝てば確実に利益が得られると保証されている奇襲でなければ、リスクが高すぎるから控えたいのだそうだ。切っ掛けさえあれば話は別だそうだが、準備不足の段階では如何ともしがたいとさ」

「フンッ、相変わらず安全に確実に利益だけを手に入られる戦いしかしたがらない軍事国家殿は気楽でいい。魔法の軍事偏重が祟って、あの国も今や自分の都合だけで戦うことは不可能な情勢下になっているというのに現実を見ることなく、過去の栄光ばかりを懐かしみおって・・・・・・ロマンチスト共が」

「夢よもう一度というワケか・・・変わらんな、あの国も。遙か昔の歴史ばかりを誇りとして掲げて昔ばかりを懐かしみ、現在の自分たちが置かれた窮状を認めようとしないのでは先が思いやられる」

「今少し状況の変化に対応できる組織作りと精神を育むべきだったな、あの国も・・・。だからこそ今になって、これまで大量に作ってきた兵器を無駄にすまいと奇襲と侵攻による略奪戦争を仕掛けようなどという気になったのだろうが・・・・・・」

 

 

 止まる事なき悪意と罵倒の羅列羅列。

 その全てが自分たち自身の現状にそのまま当てはまることに露ほども気づかぬまま、ノー・ヘッド・ドラゴン日本支部の幹部たちは無意味な愚痴と悪口の言い合いとで鬱憤を晴らし、明日からの九校戦対策を話し合う会合の時間を無駄に浪費し続ける。

 

 他人の欠点はよく見えるのに、自分が今している非難と罵声こそが同じ欠点を有している証だとは思いもよらない自己客観視能力の欠如こそが彼ら自身に今日の没落をもたらしたのだということを理解するには、一度は位人臣を極めた彼らのプライドは高くなりすぎており、凡俗に過ぎぬ者たちと肩を並べて同じ仕事をしているなどとは死んでも思いたくない無意味な矜持こそが結果的に彼らに破滅をもたらすことになるのだが・・・・・・それはまだ今少しだけ先の話で待っているべき未来の出来事。

 

 

 差し当たっては九校戦五日目にして、新人戦二日目が始まる朝を迎えた今日。

 大事な妹が選手として出場する種目『アイス・ピラーズ・ブレイク』を万全の状態で支えてやるため準備を整えておこうと決意しながら司波達也が目を覚ました九校戦会場に隣接しているホテル。その一室において―――

 

 

「ん、う・・・もっと寝、る・・・あと五、分・・・・・・じゃなく、て・・・十五分でい、い・・・・・・ZZZ(ギュッ)」

「・・・・・・(^_^)(ピキピキ・・・)」

「・・・・・・・・・・・・・・・(;゚Д゚)」

 

 

 明け方頃まで妹に説教され続け、ようやく解放されて妹のために仮眠だけでも取ろうとした直後に寝ぼけたバカから寝ぼけたまま抱きつかれてしまった姿を、感情的になってしまった非礼を詫びに来た妹に再発見されてしまい再びの窮地に立たされている現状をどうにかする必要性に迫られていた・・・・・・。

 

 全国魔法科高校親善魔法競技大会、通称『九校戦』。

 そこは選手に選ばれた直後から、生まれ持った才能と運の善し悪しによって優等生と劣等生が存在し、悲喜こもごもが繰り広げられている場所でもあった・・・・・・。

 

 

つづく




そして久しぶりなのに主人公の出番が少ないというね…(苦笑い)

実は森崎君が飛び出してった夜の祝勝会の話とどっち書こうか迷ったんですけど、アレは間にアイス・ピラージ・ブレイク入れた後の方が良さそうでしたので次話以降に回しました。
九校戦はイメージしてたよりも長いですね(;^ω^)


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32話「北山雫の友人は元軍人で、いま何人?」

来訪者編アニメ版を見て思いついたネタも付け足しながら久しぶりに書いてみました♪
ただし相変わらず色々とパロッたネタのテンコ盛り作品となっていますので、原作ファンの方々には大変申し訳ございません。先に謝らせていただきますね。


 魔法――それは二十一世紀初頭に現実の技術として体系化された新たなる新技術だ。

 優れた魔法の才能を有する者は【魔法技能師】通称【魔法師】として各国の管理下に置かれる様になっていく。

 その中でも一撃で大都市を滅ぼし、一軍を退ける力を持った魔法師は【戦略級魔法師】と呼ばれ、世界情勢を左右する軍事力の象徴として今もなお在り続けている。

 そして2095年、8月7日。世界情勢の変化によって既存の戦略級魔法を失う代償として野に下り、日本の魔法科高校の学生となっていた元戦略級魔法師の少女が『九校戦』と呼ばれている全国魔法科高校親善魔法競技大会新人戦に参加してしまっていたことから、このような事態が起こりえてしまうようになっていたのであった―――。

 

 

「ミユキ、今日こそワタシが貴女に勝つわ! いつもの試験では負けてるけど、実戦に近いケンカ試合でならワタシが勝つ! 決着をつけるわよ!」

「いつでもどうぞ、リーナ。カウントは審判が数えるから任せられないけど、私はいつも通り貴女との戦いに全力を尽くすだけ・・・っ」

 

 

 ――元スターズの総隊長にして『十三使徒』の一人でもあった過去を持つ少女と、恐るべき才能を持った日本の魔法科高校女子生徒とが、九校戦五日目であり新人戦二日目に当たる競技のアイス・ピラーズ・ブレイクで同じ学校の代表選手として参加して優勝を競い合うという事態が現実化してしまっていたのである。

 

 元戦略級魔法師の少女と、戦略級魔法師とも条件次第では互角に戦える未確認の魔法師少女との戦いを目撃することになった学生同士が行いあう魔法スポーツ大会を見に来たつもりの観客たちは、さぞ驚愕させられることだろう・・・。

 

「・・・あわわ、わ・・・、あわあわ、わわ、わ・・・・・・(ビクッ、ビクッ、あせ、あせ・・・、)」

「・・・・・・」

 

 そして俺の背中には、現在進行形で目の前で起きている最強少女同士の威嚇し合いの時点から驚愕させられているというか、怯えきってしまっている劣等生の魔法師少女が先程からへばりつき続けており。

 

 敢えて例えてしまうとするなら、目の前で威嚇し合っている二人の少女のうち静かに闘志を滾らせている方は雪豹のような優美さと鋭い爪を併せ持った強者であり、向かい合い闘志をむき出しにしている血気盛んな側は雌ライオンといったところか。夫よりも実質的に強い分、彼女のあり方には相応しかろう。

 

 そして、俺の後ろにへばりついて離れようとしない臆病すぎる幼馴染みは完全にウサギである・・・・・・。

 どちらの肉食動物の前でも食われるしかない弱者であるため、どっちも怖いと言って先程から離れようとしてくれない・・・。

 

「リーナ、貴女には悪いけれど私は負けない。お兄様が見ていてくださる勝負であるなら、私は負けられないのだから! ・・・安心なさい。殺しはしないから」

「フーン、貴女、ワタシに勝てると思ってるのね? 元シリウスの名を与えられていた、このワタシに!!」

「あわ、あわ、わ・・・わ・・・・・・(ガクガク・・・、ビクビク・・・、ぶくぶくぶく・・・・・・)」

「・・・・・・・・・」

 

 ・・・なんなのだろうか? この混沌としすぎた状況は・・・。

 一体なぜ、こんな事態になってしまったのだろうか? 今朝から今に至るまでの流れを思い出す作業に集中することで、俺は一時的にとはいえ現実逃避したくなる自分を抑えきれなくなってしまった末、やがてそれを実行してしまう。

 

 

 事の起こりは、今日の俺と雫の二人で担当することになっていた一年女子の『アイス・ピラーズ・ブレイク』の試合会場にまで到着した頃にまで遡られる。

 もともとリーナも深雪も一年生女子の中ではダントツの成績を誇っている者同士として花形競技であるミラージ・パットへの参加が予定されていたのだが、一方で本人の適性と相性的にもピラーズ・ブレイクへの参加が最も勝率が高いと予測されていた。

 

 このため本来ならば、女子ミラージ・パット、女子ピラーズ・ブレイク共に深雪とリーナを出場させてワンツーフィニッシュを二つ共に勝ち取りたいというのが生徒会側としても学校側としても素直な本音ではあったのだろうが。・・・・・・ここで待ったが入ることになる。

 

 

「いや、待て。それだと最悪、死人がでかねん」

 

 

 ・・・という一部教員たちからの意見に心からの確信を持って反対意見を唱えられる者は、当人たち自身しかおらず、残念ながら本人からの自主申告には証拠能力が認められることはないため、仕方なく試験の成績では深雪に劣るリーナが参加する競技の片方をスピード・シューティングに回すことで破滅をもたらしかねないリスク分散を計ったという次第だった。

 

 だが、予定通りに事が運ぶという幸運な状況は、多くの場合ほとんどなく。

 深雪を刺激してしまう可能性があるため、リーナと戦い合う可能性が極めて高いピラーズ・ブレイクのエンジニア担当を俺が拒否したのに対して深雪からの涙ながらの懇願が入り。

 さらには、何らかのライバル心でも刺激されたのかリーナまでもが『だったらワタシはシズクをエンジニアに指名するわ!』などと主張しだし、個人的感情を優先してはならないし尊重されるはずもないはずのメンバー配置を話し合う場において彼女たちの試合に限り特例事項のような不文律が認められてしまった末に、今に至っている。

 

 ・・・・・・明らかに誰も、この件に関して関わり合いを持ちたくないからと俺たち二人を生け贄として押しつけられた感が強すぎる人事だったのだが、選手ではない上に新参者の魔法工学科の初代代表として波風立てるわけにもいかず、何より言ったところで聞き入れられるとも思えなかったため仕方無しの今の状況に至るであろう確定された未来の不幸を甘んじて受け入れた当時の俺であったのだが・・・・・・今になってから後の祭りの後悔をしていないかと聞かれたら少々返答までに時間を空けさせてほしい心境になってしまっていたのだった・・・。

 

 こうなってしまうと、一時間ほど前に寝不足を指摘して少しでも睡眠を取らせるために無理やりにでも『カプセル』へと向かわせたエイミィこと明智栄美への処置さえ恨めしく感じてしまうようになるのだから、人間というのはつくづく勝手な生き物だと我が事ながら思わずにはいられない。

 

「エイミィ・・・実は昨日あまり眠れてないんだろう?」

「・・・・・・分かります?」

「計測した数値を見れば一目瞭然な程度にはね・・・もしかしてエイミィも、サウンドスリーパーを使わない人かい?」

「もっ、て、司波君も? ワァオ、お仲間。あれって何か妙なウェーブが出てて、気持ち悪いじゃないですか」

 

 イングランド系のクォーターであり、髪色と同じで明るいながらも大雑把で感覚派じみた気性を持つ彼女は当初、そんなことを言ってカプセルに入るのにも多少はごねるかと思われていたのだが、自分が出場した一試合目が終わって戻ってきた途端、目の前の二人が向かい合って威嚇している場を目撃してしまい、即座に脱兎のごとく逃げ出してカプセルの中へと緊急避難してしまった。

 今では完全防音、防振、遮光の閉鎖型ベッドに包まれた安全な密閉空間の中で安息の眠りについており、予定通り次の試合が始まるまで出てくる気配は一切ない。

 存外、出てきたときにはスッカリお気に入りになって、逃げ込み寺として常用するようになっているかもしれないが、それでも友人未満の健康改善を素直に喜ぶことができない俺は捻くれているのか、それともこの感情が普通のものなのか。・・・魔法で人の心を奪われた俺には判別する術はない・・・。

 

 ――まぁ、それはそれとしてだ。

 

「リーナ・・・どうでもいい話かもしれないが、自分がシリウスだったことは言ってしまっても構わないのかい? 今更かもしれないが一応、USNAの軍事機密に属する情報だったと記憶しているのだが・・・」

 

 いい加減、目の前の現実にも対処して事を収めなければ試合の時にどうなってしまうのか本気で予測がつかなくなってしまいそうだったため、やむを得ず雌虎の尾を踏みにいくためできる限り当たり障りのない話題を口にしてジャブを入れに行ってやることにする。

 

 ・・・ついでに言えば、幼馴染みの状態もこれ以上は保ちそうにないほど青ざめて泡を吹きかけているというのも理由の内と言えば内に入るのだろう。

 整備スタッフが一人減ることはそれなりに大きいわけでもあることだし、一応は幼馴染みとしての義理もあれば義務もある。二次的効果として状態改善できるのなら超したことはない。

 

「え? ああ、これね。いいんじゃないの? 別にどうだって。だってワタシもう、USNA軍人じゃないんだし。USNA軍が守らせてる軍事機密を守ってやらなきゃいけない義務も義理もないでしょ? 普通に考えて」

「・・・・・・まぁ、そうかもしれないが・・・・・・気持ち的な意味での蟠りなどといったような抵抗感はないのかい?」

「ないわね」

 

 ハッキリと断言して腕を組み、何かを思い出すかのように天井を見上げて考え出すリーナ。

 ・・・とりあえずコレで衝突の危機回避だけは達成できたので由とするとして、背後からも「・・・ふ、えぇぇ~・・・」と脱力しまくってへたり込んでいる声も聞こえてくるようになったことだし、このまま普通に会話を続けた方が問題おきなくていいだろう。

 

「それに軍に追われて逃げ出す身になってから、改めて考えてみたら、あんまし良い思い出ないのよね-、あの国の軍人時代って。

 味方殺しばっかりやらされてたし、何かあったら現場責任だなんで裁判ゴッコに呼び出されて精神的リンチにかけられてたし、勲章つけて偉そうな軍服着たスケベジジイ共にセクハラ軍事法廷にかけられかけたこともあるし。

 ・・・・・・今思い出してみたら、なんだってあんな事されてた国家と軍隊相手に奉仕だの義務だの言ってたのかしらね、過去のワタシって・・・? 率直に言ってバカじゃないの?」

「そうかもしれんが、俺に言われてもな・・・・・・」

 

 正直言って、知らん。その結論が正しいか否かについてではなく、その頃のリーナと俺は出会っていないので何を言われたところで何の評価もしてやれん・・・。

 

「まっ、軍やめた後も愛国心押しつけたいなら、退役後も生活に困らないだけの給料を払っておくべきだったって事でしょうね。

 それまでの貯め続けていた給料を口座ごと凍結された脱走兵が送らされてきた、亡命極貧生活の辛さを思えば軍事機密を売って生活の糧を得るぐらい大したことじゃないわ」

「USNA軍高官が聞いたら、裏切り者抹殺のための刺客をチーム単位で送り込みそうなセリフだな・・・」

 

 もう既に送り出されてきている後なのだろうし、今まで何度も返り討ちにしてきた負の実績がありすぎるが故の達観なのだろうとも予測できる上に、字面的ではなく本当の意味で『討った後に返してやったのか?』という疑問も深く突っ込むべき問題ではないと思われるので言及はしたいとも思わない俺なのだが。

 

 つくづく人間というものは、割り切れるようになると変わるもので、怖いものでもあると思い知らされる気持ちに嘘偽りはない・・・・・・。

 おそらくUSNA軍にいた頃の彼女であれば、まず口にすることはあり得なかったであろうセリフの数々は、俺に『人は変わるものだ』という警句について強く思わされる理由にもなっており、引いてはそれが『俺もまた変われる日が来るのではないか?』という疑問とも、細やかな期待とも着かない思いへと結びついていきそうになってしまい、俺は改めて首を振って雑念を追い出すと目の前の事態に意識を傾けさせることにした。

 

 深雪とリーナの感情的な対立が片付いた以上、問題視すべき事態は一つだけしか残っていない。

 それは彼女たちが実際に参加して競い合う『アイス・ピラーズ・ブレイク』の試合内容そのもの――――に着ていく衣装についての問題だけである。

 

「それはまぁ、いいのだが・・・・・・リーナ。本当にその格好で試合に出るつもりなのか?」

「え? 当然でしょ? せっかくルールで認められてるからって持って来ちゃった服なんだから、着ないで持って帰ったら勿体ないだけじゃないの」

「意見そのものには、俺も同感なのだがな・・・・・・」

 

 激しく頭痛を感じさせられながら、俺は相手が―――元USNA軍の精鋭魔法師部隊『スターズ』の総隊長にして十三使徒の一人でもあった少女が着ている服装を見直しながら、改めて人という生き物は変わる物だという事実を認識し直さざるを得なくなってしまうしかない・・・。

 

「一応クドウ閣下・・・おっと、お爺様の立場に配慮して不必要に目立たないよう、日本の魔法師見習いの少年少女たちがスポーツ魔法競技大会やる場に相応しいファッションを調べてみたんだけど・・・けっこう苦労したのよ? この服装って。似合ってない?」

 

 そう言って、俺の目の前で軽く“振り袖”を振って見せて邪気もなく笑いかけてくる姿に頭痛を悪化させられながら、改めて相手の姿を見直し―――そして目を背けざるをえなくさせれてしまう・・・。

 

 今更あらためて説明するまでもないことではあるが、ピラーズ・ブレイクは高さ四メートルの櫓の上にから十二メートル四方の自陣に配置された氷柱十二本を守りながら、自陣と同じ条件をもつ敵陣の氷柱十二本を倒すか破壊した側が勝ちとなる競技であり、選手たちは純粋に遠隔魔法のみで競い合うため肉体を使う必要は全くない。

 

 これは他の競技と異なり、この競技に限って選手の服装が試合結果に与える影響は一切ないと言うことをも意味しており、選手自身が最も気合いが入れられる衣装を着て出場すると考えるなら正装という見方もできるため、試合に直接関係しない服装に関するルール規制が九校戦中もっとも甘く見積もられている競技と言えるだろう。

 

 一応ながら『公序良俗に反しないこと』というルール上での規制が一つだけ存在してはいるものの、これとて日本人らしい個人の趣味趣向や倫理観・ジェンターの問題が関わってくれば有耶無耶のうちに終わらせられてしまうだろうことは明らかだ。

 何も決めずに好きにやらせてしまうのは問題視されるからと、形ばかり「作って見せただけ」の代物だろう。

 

 その結果、必然的にこうなったとは思いたくはないが、現実問題として女子ピラージ・ブレイクは何時の頃からかファッション・ショーの様相を呈してきてしまっており、本戦二日目と三日目に参加した千代田先輩やエイミィ等もかなり派手な格好で出場して勝利を手中にしている。

 去年までは競技ごとの自然な棲み分け現象が起き、正式なルールとして男女別に選手たちが別たれたのは今年からのため正確な数字まではわからないが、おそらくは観客の男女比率も女子競技の中ではミラージ・バッドに次いで男性客の方が多い競技だったのではないかと邪推したくなるほどに。

 

 ・・・・・・だが、いくら何でもコレは酷い。

 今回のリーナが着て出場することを決めた衣装はヒドすぎる・・・・・・。

 

 

「似合っているかいないかという基準での判断なら問題なく似合っていると思うが・・・・・・リーナ。

 ハッキリ言って、その衣装は非常識だぞ? 悪目立ちしかしていない」

 

 俺は敢えて、直接的な表現を使ってハッキリと相手の間違った認識についてを指摘し、相手に現代日本で生きていくために必須となるであろう服装についての認識改善の必要性について自覚するよう促す。

 

 今リーナが着ている服装は、明るいベージュのハーフコートに裾がフリルになったスカート。柄物タイツとロングブーツ。

 それだけ聞けば何もおかしな所などない服装なのだが、問題なのは服装のカテゴリー分けではなく、それぞれの長さと配色など細かい違いに関しての部分である。

 

 まず丈が股下十センチ程度しかないハーフコート。

 スカートの長さも同程度の短さしかない上に、裾を飾るカラフルなフリルだけが見えているコーディネート。

 靴底がやたらと分厚い膝上までのストレットブーツと、レース模様で素肌が透けて見えるタイツを組み合わせ、フェイク・ファーの縁取りをついた手袋を腕にはめている。

 とどめとして、アニマル柄のソフト帽。

 

 彼女の服装は今の流行からすると随分とちぐはぐな印象を受けさせられるものばかりで、戦前のギャル系ファッションを適当に混ぜ合わせたような姿をして出場するつもりだと言うのである。

 もはやファッション・ショーどころか、単なるコスチューム・プレイ大会かなにかと勘違いする者が現れたとしても不思議ではないレベルの異質さであり、好きな服で出場して良いとされているピラーズ・ブレイク以外の場で同じ服装をしていたとしたら単なる不審者にしか見えようがない。

 

 ・・・こんな格好をした選手が第一高校の代表選手として試合に参加するというのだから、支援スタッフと言えども一高メンバーとして細やかながら抗議する権利ぐらい俺にもあって然るべきはずだ。

 というか、この格好での参加は『公序良俗的に見て』有りなのか? 無しなのか? どっちなのだ? 明確な基準を作らずに曖昧な概念だけを念頭に置いたルール作りなどするから、こういう奴が出てきてしまうのだと何故気づかなかったのだ運営委員会・・・!?

 

「そもそも場に相応しい格好と言っていたが、魔法競技大会の会場で今のお前と同じようなファッションをしている同世代の女子生徒など一人も見かけなかっただろうに・・・・・・」

「え~? そんな事ないわよ。結構いたもの、ワタシと同じファッショナブルな服装をしている日本の魔法師の女の子たちが魔法競技大会の場には大勢ね」

「・・・・・・それは一体どこで行われていた、何という大会の光景を参考にした基準に基づく断言なんだ・・・」

 

 あまりにも頭痛が酷くなってくるやり取り。俺は一体なぜ、九校戦の会場内でこんな会話をしなければいけなくなっているのだろうか・・・?

 明らかに、極めてマニアックな趣味趣向を持つ特殊な性癖の者達が集まって行っているであろう、ミラージ・バットやピラージ・ブレイクだけを基準にして魔法師を猿真似している一般人たちのイベントか何かを勘違いしただけだろうと思われるが・・・。それにしても、こいつは時々本当にどうしようもないほどに・・・・・・

 

 

「『聖剣使いのナンタラ』とか『現代魔法のナンチャラ』とか『禁呪使いのナンタラカンタラ』とか、そんなタイトルの現代日本の高校を舞台にした魔法師アニメの中で。

 なんか魔法スポーツ競技やってる時に、生徒たち全員こんな感じの格好で跳んだり跳ねたりしまくってたわよ、今の日本の若い魔法師の卵たちが」

 

 

「おい、起きろ雫。試合開始まで十五分残っているから説教の時間だ」

「ふ、ふぇ・・・っ!? なに、が・・・!? なにが起きた、の・・・っ!? 私今さっきまで寝ちゃってたか、らワケガワカラナイんだけ、ど・・・ッ!?」

「分からなくていい。お前はただ、説教をされて怒られていれば、それでいいんだ・・・」

「理不じ、ん・・・っ!?」

 

 

 こうして俺は、今日もまた無駄になると分かりきっていたとしても、バカすぎる幼馴染みを説教しなければいられない心へと変わっていってしまっている自分を自覚させられる。

 果たして人の心が変わっていくという状況は、本当に良い事なのか? 喜ばしい事なのか? ・・・今となっては本当にもう・・・俺には判別する事ができそうにない・・・・・・。

 

 

つづく

 

 

オマケ

 

深雪「ところでお兄様? 先程リーナの服装を見ておられたとき、どの辺りをご覧になっておられたのですか?」

 

達也「深雪・・・俺は、そういうつもりで彼女を見ていた訳ではないよ」

 

深雪「本当ですか・・・? たとえば私の選んだ衣装の紺袴では見る事のできない露出している部位とか、そういう所には着目してなどおられませんよね? ・・・いえ、お兄様を信じていないわけではないのですが、雫から魔法競技大会に女子選手衣装を見たときに殿方が視線を向けている部位はそういう所なのだと教えて貰ったものですからつい気になってしまいまして・・・(ポッ)」

 

達也「深雪・・・・・・お前までもか・・・・・・」



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33話「北山雫の友人は歴史に名を残して神話になった」

なんか途中から悪乗りしすぎた内容になってしまいました。
読んだ人が嫌がるモノ残しておいても意味はないですので、ダメだった場合は元の予定通りに書き直すつもりで取りあえずは投稿させて頂いた次第です。

*:最後だけ書き忘れてた部分を付け足しました。(12月21日現在)


「深雪・・・・・・達也さんの所に行かなくていいの?」

 

 ピラーズ・ブレイク新人戦女子一回戦が始まるまで後少しになった頃。

 私、光井ほのかは思うところがあったため、一般観客席じゃなく選手・スタッフ用の観覧席に座って試合開始を待っている隣の席の深雪に対して勇気を出して聞いてみることにした。

 一回戦で英美が出場した試合の時にも、達也さんがモニター室に上がる直前に深雪は彼と別れている。同じ学校の選手ならモニター室から応援しててもおかしくなかったから、そうした理由が少しだけ気になっていたからだった。

 

「ピラーズ・ブレイクは個人戦ですもの。私とリーナはいずれ対戦することになるのだから、手の内を盗み見るのはアンフェアでしょう?」

「なるほど」

 

 と、普通に納得した返事をして前を見たものの。

 ・・・自分が深雪の答えに納得してないことを隠すために無難なことを言ってみただけだったの、バレてないよね・・・? なんか横顔を逆に見つめ返されているような気がして怖いんだけど・・・ほ、ほっぺたに何だか視線が注がれているような、いないような・・・?

 

 もともと個人戦種目とは言え、ピラーズ・ブレイクは必要機材が大きすぎるせいで大抵の多人数でやるスポーツよりも練習場所は限られてしまっている競技で、同じ学校の選手相手に手の内を一切知られることなく練習するなんて不可能に等しい。

 それに何よりピラーズ・ブレイクは純粋に遠隔魔法のみで競い合う力比べの競技だ。相手の陣地に立つ氷柱を先に全部壊した方が勝つ、シンプル極まりないルールが用いられてる競技だから手の内を知られていることで被るデメリットは他の種目と比べるとあまり多くない。

 

 極端な話、相手の手の内を知っていて裏をかく作戦を考案できたとしても、実行者の魔法力が相手を大きく下回っていれば力押しで打ち負かせるし、逆に自分の作戦に対抗策を弄してくる敵が相手だったとしても力尽くでの突破と作戦破綻が可能になってしまう。そういう競技。

 だから深雪が自分との試合前にクドウさんの手の内を知っていたとしても、それほどの意味はないだろう。

 

 ・・・まぁ、これは私が中学校の頃に出会って憧れた達也さんの気を引きたさに必死で猛勉強しちゃった結果としての分析だから、あまり大きな声では人に語る訳にはいかないんだけども・・・。

 

 とは言え、そういう分析によって深雪が達也さんの元へ行かない理由は『クドウさんへの配慮ではない』と私は考えた訳で、さっき質問した意図はそれとは別にあって――

 

「・・・・・・(チラッ)」

 

 私は試しに、なんとなーくを装って深雪の横顔へと視線を向ける。普段通りの冷静で綺麗な横顔を向けながら試合会場に視線を注いでいる達也さんの完璧すぎる妹。

 そんな彼女に私は・・・・・・やっぱり聞くのをやめる。聞きたいけど聞けないし、聞くのが怖い。彼女が静かに怒り出すのも恐ろしいんだけど、同じぐらい答えを聞いた後の自分の変化だって恐ろしい。

 

 だからこそ、私は言えない。

 

(・・・深雪は達也さんと雫を二人きりにしても、大丈夫なの・・・?)

 

 ――なんて質問は、恥ずかしくて言える訳がない。絶対に無理。私の方が先に死ぬ、恥ずかしすぎて自殺してしまうだろうから・・・。

 

 

 私と雫は小学校からの親友同士で、子供の時から少し思い込みが激しかった私は、ボンヤリしすぎて危なっかしい雫を「守ってあげなくちゃ!」って気持ちが強くて何かと世話を焼いてあげてきてた。

 別の中学校に転校するって雫から聞かされたときも、迷うことなく私もついて行くことを決めたし、お父さん達を説得するのも苦には感じていなかった。

 雫一人でやっていけるとは思えなかったし、付いていってあげたいという気持ちは私の中にも強くあったからだけど・・・・・・それが魔法の才能に恵まれていた子供だったからという事情も関係してたモノなんだろうなって、今の私なら理解できる・・・。

 

 正直、天狗になってたんだと思う。小学校に入って以来、私たちのコミュニティで私以上の魔法の才能を持つ子には出会ったことがなかったし、雫には才能を感じるときはあっても・・・ちょっとその、「頑張ろうとしない子」だから私のライバルにはなってくれそうになかったし・・・。

 切磋琢磨できる好敵手を求めながらも、雫を相手に正義の最強ヒロインである自分を心の片隅に住み着かせて居続けたかったという想いがあったことは今の私には否定できない。

 

 なぜなら、そんな私の「思い上がり」を粉々に打ち砕いてくれた二人に、転校先の中学校で出会ったからだ。

 

 司波深雪、あまりにも綺麗すぎて冗談としか思えない美貌と、嫉妬することすらバカバカしくなるほどの圧倒的な才能と実力を持った、中学生とは到底思えない魔法師の女の子。

 

 そして、司波達也さん。一切の無駄がない、計算され尽くされて光波ノイズを全く感じさせない美しい魔法を使える人。

 たまたま彼の魔法を見る機会に恵まれた私は、その美しさに心を奪われて彼のことを知りたいと思い、親しくなっていく内にもっと知りたくなってしまって、気がついたら今に至っている。

 

 小学校から親友だった私と雫の付き合いの長さは、達也さんと深雪が一緒に過ごしてきた長さと同じくらいにあって、私たちと彼らとの付き合いの長さは互いに同じくらいに存在している。

 

 ――だから解る。だからこそ解ってしまう心の部分がある。

 

 それは、『達也さんと雫が一緒に過ごしているのを見てきた時間』は私と深雪でほぼ同じ、と言うところ。

 

「・・・・・・ほのか、どうしたの?」

「ハッ!?」

 

 考え事に耽っている途中で横から声をかけられて、慌ててそちらを見ると深雪が不思議そうな顔で私のことを見てきている! さっきチラ見したときは前に向き直ってたのに、いつの間に!?

 私が考え事をしていた時間が思っていたより長すぎただけだと冷静に考えれるようになった後なら解るんだけど、今は無理! だって私、思い込み激しいんだもの! テンパりやすいんだもの! そのせいで運動会とか対抗戦とかの競技会で勝てたことなかったし! 小学校の時の話だけど、小学校の頃からのこと思い出してる途中だったからフラッシュバック!

 

「ご、ごごごゴメン! 何でもないの深雪! だ、大丈夫だから! 私は何も見てないし、達也さんたちには絶対言わないから! 私と深雪は自殺したくなる恥ずかしい過去なんてなにも見たことないからぁッ!?」

「何が!? ほのか、貴女いったい何の話をして何をお兄様に話そうと考えてたの!? そして何を見たの!? 私と貴女が見た恥ずかしく過ぎる過去ってなに!? 答えなさい! そして教えなさい! わたくしのお兄様に知られてしまったら自殺したくなるほど恥ずかしいものを見た過去って一体何のことを言っているのーッ!?」

 

 

 ピラーズ・ブレイク新人戦一回戦開始の少し前、またしても試合会場の外で始まる全く別の競い合いというか争い合い。

 そんな一般客のいない選手・スタッフ用の観覧席で勃発したキャットファイトであったが、生憎と大会本部にあるモニターの前で試合を観戦していた第一高校の女子幹部二人の視界には写りようもなかったことから、制止されるまでに今少しの時間を要することとなる。

 

 

 

 

「・・・ん? 今なにか画面外の向こう側で人が騒がしく動いてなかったか? 観覧席の方へと走っていく人影が見受けられた気がしたが・・・」

「本当に? まぁでも一般観客席で起きた問題じゃなくて観覧席で起きたことなら問題ないでしょ。だって達也君も雫ちゃんも今は試合中なんだもの。あの二人以外でうちの学校に九校戦で騒ぎを起こす生徒なんていないから大丈夫よきっとね」

「それもそうだな。・・・・・・お、いよいよクドウの出番が来たようだな」

 

 私は摩利と並んで、九校戦の本部にあるモニター前で今から映し出される試合内容を見上げながら、彼女の何気ないつぶやきに返事を返していた。

 

 確かに画面の外側に人が走って行く姿がチラホラと散見できるけど・・・まぁでも九校戦は全国の魔法科高校が一堂に会して行う全国大会で、選手・スタッフが使う観覧席はごった煮だし、第一高校の生徒会だけが強権発動しちゃうのはアンフェアだものね。

 生徒同士の問題は生徒同士で解決するのが一番! 放っておいてもダイジョブダイジョブ♪ 今はそれより試合が優先~と。

 

 ・・・ピラーズ・ブレイクが個人戦であるが故に、選手以外を撮る必要性があまりなくて、試合中継用のカメラを選手・スタッフたちが使う用の観覧席を写すモノまで用意できるほどの物質的・資金的余裕は大会運営側には存在しなかったこと。

 さらにはピラーズ・ブレイクの会場が広すぎてしまって人力でカバーし切るのには限界があったという側面もあったことで起きた悲劇を、私は後になってから知らされて後悔することになるんだけど、今の私はその事実をまだ知らない・・・。

 知らない限りはどうでも良いのが他人事というものであって、自分も関係してたことを巻き込まれてから知って慌てふためくのが他人事ってものでもあるから、仕方がないんだけど・・・・・・ああ、可能性上の未来ってやっぱり罪・・・。

 

 

「今度はどんな奇策を見せてくれるのかしら?」

「いや、分からんぞ? そう思ってるあたしたちの裏をかいて、正攻法で来るかも知れん」

 

 ハッチのような開閉式の台座が開いて、フィールド上の両サイドから二人の選手がせり上がってきている姿がモニターに映し出されている。

 九校戦の中でもファッションショー呼ばわりする人もいるほど奇抜なコスチュームで出場する人が多いことで知られているピラーズ・ブレイクとは言え、三回目の出場になる私たちにしてみたら大抵のコスチュームは奇抜って程の驚きはなく、振袖ぐらいだったら「あら、今年は少ないのね?」程度のモノだ。驚くほどのモノじゃ全くない。

 

 だからこそ他の人たちにとってはともかく、私たちにとっては参加選手たちの着てくる衣装よりも、選手自身が使う魔法と戦い方こそが重要になり、今年は技術スタッフまで興味が湧くという常識無視の展開に身も心も躍らせている状態にあるんだから、少しぐらい試合結果の纏め上げを押しつけちゃってても許してねリンちゃん♪

 これも生徒会長職だけじゃなくて選手もやってる優秀な魔法師故の癖みたいなもんなんだから、溜息なんか吐いちゃイヤ~ん! 聞こえないフリして無視しちゃえ♡

 

「お、始まるみたいだ・・・な・・・・・・」

 

 そして出場してくる両校選手が姿を現し、摩利が先にそれに気づいて声を上げ、

 

「今度は普通のCADみたい・・・・・・ね・・・・・・」

 

 私も続いて彼女たちの姿を見上げて、最初に達也君が細工を施しているであろうCADを見てから選手を見て。

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 ・・・そして二人同時に絶句する。言葉を失って唖然呆然としながら、他の選手一堂と一般観客たちのほぼ全てと同じように完全なる沈黙に包まれる。

 

 やがて、誰からともなく、誰が音頭を取った訳でもなく。彼女を見ていた全ての場所にいる全ての人々が異口同音にほぼ緒同じ言葉を発して・・・・・・驚愕の声を上げる。

 

 

『――なんなのよ(だ!?)!? あの格好は一体なんだぁぁッ!?(なのぉぉッ!?)』

 

 

 ・・・こうして、九校戦の歴史に長く名を残し、後世の歴史家から「日本の魔法スポーツ業界の転換点」とも見なす者さえ現れることになる、選手の服装が競技に一切影響しないとされてきたアイス・ピラーズ・ブレイクの常識を塗り替えた事件が勃発する。

 

 将来の国防をになうエリートであった魔法師たちが純粋な力比べとして魔法の腕を競い合う九校戦と、それを客寄せの見世物として行われる興行としてのスポーツ競技とが矛盾なく完全な一致を見た老若男女問わず一般人でも楽しめるお祭りイベントとして確立された真の始まり。

 

 

【始まりのハロウィン・パレード】

 

 

 後生の歴史家たちは、この日のことを、そう呼ぶ。

 ・・・・・・初めての実行者の得意とした魔法の名前が【パレード(仮装行列)】だったから、と言うのがその命名理由であることも含めて、今を生きる者たちは誰も知らないまま今目の前の九校戦を続行していくことになる―――

 

つづく

 

 

オマケ【楽屋裏と、いつか使うかも知れないネタ集】

 

 

リ『なんでよ!? どうして正規のルールを守って服装選んだだけのワタシが面白ネームの語源扱いされちゃってて、ルール違反スレスレの行為を連発している整備スタッフの達也が何の悪名も被らなくて良くなってるのよ未来の歴史ィッ!?』

達『そう言われてもな・・・整備スタッフは本来、九校戦では裏方で、リーナは日本国籍を得たばかりとであろうと選手だからじゃないのか? 多分だが』

リ『だったら裏方のルールを守りなさいよ!? って言うか、よく考えてみたら風紀委員でしょうが貴方! 風紀委員が堂々とルール違反スレスレの行為を連発してんじゃないわよ! 風紀が乱れるでしょうが!!』

達『ぐ・・・そ、それはだな・・・・・・(-_-;)』

 

深『ちょっとリーナ・・・お兄様に失礼なこと言わないで。お兄様は流石だから許されてもいいことは、この宇宙が誕生したときから決まっていた運命なのよ?』

リ『堂々と身内贔屓された!? しかもなんか物凄い超表現を使われたような気が!?』

深『それに、今の貴女の服装では何を言われたところで説得力なんてまるでないわ』

 

リ『く・・・ッ!! 納得できないわ! シズク!シズク! お尻を突き出しなさい! 久しぶりにお仕置きお尻ペンペンよ! ワタシの振り下ろし所を失った感情を、貴女のお尻に振り下ろさせなさい! コレも久しぶりに上官命令よ!!』

雫『・・・!?!? 堂々と理不じ、ん・・・ッ!? なん、で・・・!? 私こんか、い何も悪いことしてない、し、余計なこと何も言ってな、いし、そもそも一言もしゃべってなかったよ、ね・・・!?』

リ『いいのよ! ワタシが感情爆発させたいだけだから理屈なんかいらないの! 感情論に正当議論なんか必要あるかーッ!!』

雫『物凄、いカミングアウ、ト・・・ッ!?』

 

リ『元アンジー・シリウスが命じる! お尻を叩かせなさい!! 返事はイエス・ユア・ハイネス以外をワタシは拒絶する!!』

雫『うう・・・・・・理不尽、で、お尻痛、い・・・・・・グスン・・・(T-T)』

 




書き忘れていた追記:

今作でのリーナ担当は雫ですので、本来は深雪担当スタッフの達也さんは来る必要がないのに来ている立場でした。
このため深雪も一緒に来てても問題はなく、原作における『達也さんが担当だから』的な描写をはじくことで一応の表現をしてみた次第です。

解りにくかった人がいた場合のため、念のため追加で記載させていただきました。


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34話「北山雫の来訪者な友人も、ある意味では劣等生」

暑さで頭がゆだっているのと、他の作品の更新も急がねばとか複数のこと考えながらのせいで理屈っぽい思考が上手くできず、とりあえずアイデアだけ形にして理屈面がおざなりになってしまった状態ですけど一応は更新となります。

もし理屈が必要になった場合には、後ほど付け足して書きますね。


 いささかドーピング気味ではあったが何とか勝ち抜いた、九校戦ピラーズ・ブレイク新人戦第一試合が終わり、一高女子にとっての二試合目が始まる前の控え室。

 ・・・そこで俺は同じようなことを、つい先ほど思って口にしたばかりだと記憶してはいたものの、やはり同じ言葉を言いたくなる欲求をやめる気にはなれなかった・・・。

 

 

「リーナは、本当にあの格好で出ることにしたんだな・・・・・・」

「・・・? そうみたいだけ、ど、それだと何かおかしい、の? 達也さ、ん?」

 

 それでも、事の大本原因が隣に立っている俺としては頭を抱えずにはいられない・・・。

 試合会場が映し出されている小型モニターの中では、舞台の下からせり上がってきたUSNAからの帰国子女ということになっている元世界最強の魔法師の一人で十三使徒でもあった金髪碧眼美少女の姿を前に観客たちが、画面の外側でざわめく光景が雰囲気だけで伝わってきてウンザリさせられずにはいられなかったのだ・・・・・・。

 

 選手を中心に映される九校戦のテレビ映像に、観客たちの姿は当然のように映されないが、エレメンタル・サイトを使うまでもなく見える範囲と聞こえてくる雑音だけで周囲の反応の変化していく流れがハッキリと読み取れてしまって脱力せざるを得ない・・・。

 当初は今までの定石を無視した、型破りな衣装に大きなどよめきの声が聞こえてきていた会場内からの雑音が、徐々に妙な感じの歓声へと変わっていくのを見れば誰でも理解せずにはいられないだろう・・・。

 

 まるで、お気に入りの子供向けアニメを録画されたビデオプログラムに群がる子供のような勢いで、席替えをし始める観客たちの姿まで映されているレベルである。

 もはやこの時点で、来年以降の九校戦ピラーズ・ブレイクの服飾関係が別物になることは避けられまい・・・。

 

「わ、あぁ・・・♪ リーナ格好い、い・・・♪♪」

 

 そう、たとえば俺の横に立ってモニターを見上げているプレイヤー本人のCADを調整したサポートスタッフ本人が今しているのと全く同じような反応をである。

 世間はコイツほど子供でもなくバカでもなく、同じことをする理由はコイツと違って幼稚極まりないものにはならないとは思うが、やってることが同じであるなら気持ちの違いにはあまり意味はない。

 何かをやる気持ちというのは、言い換えれば『動機』である。動機が幼稚な精神年齢によるものか流行や周囲に合わせたものかで行動への評価が変わるわけがないし、変えていいものでもない。

 

「・・・まぁ、俺はあくまで整備スタッフで、リーナの担当は雫だからな。俺は自分の担当するプレイヤーにとって最適な道具と、それを活かす作戦を提供するだけでいい。

 ・・・そういう立場だと受け入れるしかないんだ・・・」

 

 心の中で折り合いをつけるため、敢えて声に出さざるを得なくなるほど世界に向けて俺の幼馴染みが与える影響がバカすぎる・・・。

 大は小を兼ねるとは言うが、世界規模の大きな変化をもたらしてしまったコイツの発明品は、小さなところにまで巡り巡って悪影響を与えてしまうバタフライ効果まであるらしい。

 

 今までファッション・ショー会場でもあったピラーズ・ブレイクは、来年からコスチューム・プレイ会場を兼ねるものへと変わっていくことになる訳である・・・・・・これも時代の変化と言ってしまえば、それまでなのかもしれないが・・・・・・正直うれしくない変化だったのが俺の正直な本心だ。つくづく変われることが良いことなのかどうなのか・・・疑問を深めずにはいられない。

 

「あ。試合、が始まるみた、い。あい“ぬ”・ぶれいくって、楽しいか、ら好き・・・♪」

「・・・・・・」

 

 なんの自覚もなく、なに一つ意図して行っておらず、大半の変化は俺がコイツの思いつきを実用化した結果でしかないとはいえ、コイツなしでは不可能だった変化の大本が、悪気がない故に自覚もなく反省もしない気楽そうな声で言うのを聞かされながら。

 

 俺は理不尽と知りつつ殴りたくなってきた気持ちを頭の隅に懐きながら、無言のままモニター機器のピントを合わせてバカのやるべき作業を補填してやる。

 

 ・・・こうなっては日本人が持つと言われる、熱しやすく冷めやすい民族性に未来を委ね、一過性のブームで終わってくれることを期待するしかない。

 ディスト・ディパージョンを使っても日本中に生放送されてしまった映像と、それを見てしまった者たちが受けた心理的影響までは『無かったこと』には出来ないのだから、受け入れるしかないのだ・・・。

 

 

 モニターに映された映像の中では、フィールドの両サイドに立つポールに赤い光が灯っていた。

 光の色が黄色に変わり、更に青へと変わった瞬間。

 リーナの腕が、特化型CADを持ったままゆっくりと持ち上がっていき、そして。

 

 

 

 ビシュゥゥゥゥゥゥゥッン!!!!!!!

 

 

 

 拳銃のような形をしたCADの先端に光条が煌めいた。

 

 

 

 ・・・・・・そして、煌めいたと思った時には、相手選手側の陣内に立つ十二本の氷の柱が、一瞬にして蒸発されて消滅してしまっていたのだった・・・・・・。

 

 

 

『――――――――――――――――――はぁっ!?』

 

 

 思わず、と言った感じで観客たちの誰もが唖然とした驚愕の念が伝わってくる。

 あるいは、全く訳が分からない、というような感情だろうか・・・?

 俺自身は魔法で感情を消されていることと、理屈の上でだけでも今の現象を知ってはいたため、彼らと同じ驚愕の念までは共有できなかったが・・・・・・思いは同じである。

 

 今のは・・・まさか・・・まさかとは思うが、まさかとは思いたいのだが・・・・・・それでも。

 魔法師は事象をあるがままに冷静に、論理的に認識できなければならず、身内に対する贔屓目で目を曇らせることがないよう心掛けねばならず・・・・・・チィッ!!

 かつて副会長相手に使った毒が、巡り巡って自分に戻ってきたか! つくづく魔法師とは因果な商売だな! 兵器として発展してしまった魔法文化の弊害はこれだから・・・!

 

 

「さて、そういうことだ雫。・・・・・・弁明を聞こう。

 どうしてお前が、FAE理論を応用できるレベルまで知っている・・・・・・?(ゴゴゴ・・・)」

 

「・・・あ、あう、あうあうあ、う・・・・・・(ガクガクぶるぶるメソメソびくんびくん・・・)」

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、所変わってバカが自業自得の屍晒してた頃。

 アイス・ピラーズ・ブレイクの会場内は重苦しい沈黙に包まれていた。

 

『『『・・・・・・・・・・・・・・・』』』

 

 相手選手は、ブレスレット型のCADに指をかけたばかりの姿勢で止まったまま再起動できておらず、実行委員会は目の前で今起きたばかりの現実が受け入れられず、魔法ド素人の一般人観客たちには何が起きたのかそもそも分からない。

 

 無理もない・・・・・・ピラーズ・ブレイクは本来、高さ12メートル四方の敵陣に立つ十二本の氷柱を遠隔魔法だけで影響を与え合い、先に全ての柱を倒し尽くした方が勝ちとなる魔法競技だ。

 このため、攻めだけでなく情報強化により氷柱の硬度を上げ、防御にも魔法力を割かねばならず、それによる攻防こそが最大の見せ場となっているスポーツ競技だったのだから。

 

 それが最初の一撃で、一瞬にして氷柱だけを防御する暇も与えられずに全て蒸発され尽くして消滅させれる魔法なんて使われてしまったら勝負にならん以前に試合が成立できなくなってしまう。

 

 ルール無視と言うより、【前提破壊】とでも言う方が正しいレベルの超絶レベル魔法で敵選手を倒した一高女子、アンジェリーナ・クドウ・シールズの勝利が確定するのは、敵陣の氷柱が全て消滅させられてから一瞬以上経ってからようやく勝利者を告げるブザーが鳴った後の事である。

 

 ジャッジ用の機械ですら、一瞬の出来事すぎて誤審の可能性を精査するまでに僅かながら時間を必要としてしまうほど、圧倒的すぎて次の試合からは絶対に使えないし、使うこと許したら大会委員会が全員辞職を免れないトンデモ魔法を使った勝利者だけが、想定内の光景を前にして驚く理由もなく「フッ・・・」と笑うだけで選手用の台を降り。

 

 選手控え室へと戻る途中・・・・・・不意に上方を見上げて一人の少女の姿を探し出し。

 一般観客用ではなく、選手・スタッフ用の席にいた美しすぎる彼女の姿を見つけると「ニコリ」と満面の笑顔を浮かべて相手を見つめ。

 

 

「バキューンッ☆」

 

 

 と、右手で指鉄砲を作り、相手に向かって撃ってみせる仕草をして見せてから右目をつむる。

 まるで、拳銃タイプの特化型CADを敵に向けて撃ち放ち、全ての不可能を可能にする最強の魔法科高校生は自分よ、と宣言するかのように・・・・・・。

 

 

 

 

 

 そして、それを見せつけられた瞬間。

 相手の方はといえば。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 ゴォォォォォッ!!!!

 

 

「熱っ!? ちょ、ちょっと深雪! どうしたの!? なんで静かに燃えだしてるの!? 熱い!熱い!熱いわよ深雪!温度上げて!? 超低温で温度下がり過ぎても火はつくからね!? 低すぎる温度は熱いんだからね!?」

 

 

 明らかすぎる挑発を前に、戦意が上がりまくって静かなる態度に超高温の闘気を宿した一人の美少女戦士を爆誕させてしまい、その隣に座っていた恋には燃えるけど戦いにはそれほどでもない友人の少女を、炎に当てられた一般人よろしく涙目で暑がらせまくる結果を招いてしまっていた。

 

 

「・・・そう、リーナ。この試合は貴女からわたしへの宣戦布告だったという訳ね・・・。いいでしょう。

 わたしは貴女のことをライバルで友人だとも思っているけれど、貴女がお兄様より自分が上だと示してきた挑戦を、たとえそれが仕草だけのものだったとしても断じて許せることではないわ!

 貴女には私の手で、その罪を思い知らせてあげる・・・・・・安心しなさい、殺しはしないから・・・(ズモモモォォ・・・・・・)」

 

 

「熱ッ! 熱ッ!? 死ぬ! 死ぬから!? このままだと焼け死ぬから!? 焼死じゃなくて暑さで死ぬからぁ!? 温度上げるか押さえて深雪!! クドウさんより先に私が死ぬ! 死んじゃう!? 熱いィィィィッ!!!」

 

 

 

 

 混沌が混沌を呼び、変なところまで文字通り飛び火する。

 リーナが天才バカの友人を上手くだまして、『理屈は訳分からなくても、結果的に同じ現象起こさせることだけは可能にできてしまうトンデモ能力』を利用して、自分が過去に使っていて、過去に壊してから逃げてきた戦略級魔法の超簡易劣化版型を使ってライバル少女を挑発してしまったことから余計に状況を悪化させ続けながら。

 

 九校戦は、彼女にとって唯一のライバルと対決できる可能性を持った決勝戦へと突き進んでいくことになる。なってしまっていく・・・・・・。

 

 

 

「来なさい、ミユキ。あなたと敵として戦うのじゃなく、本気で競い合うことのできる機会なんて、この先何回あるか分からない・・・・・・。

 ならワタシは、この機会を貴女が全力で挑んで来たくなるよう仕向けるのに利用するだけよ・・・っ!!」

 

 

 決意を新たに、選手用の控え室へと進んでいくUSNA軍からの脱走兵にして、元汚れ仕事担当だった統合作戦本部直属魔法師部隊スターズ総隊長だったアンジー・シリウスの二つ名を持っていた少女は、諜報向きではない実戦向きの能力を全力でぶつけれる相手との戦いに今の時点から心躍らせずにはいられなくなる・・・・・・!

 

 

 ――とは言え。

 

 

「まぁでも、このCADは二度と使えそうにないから破棄するしかないか~。

 修理も無理そうだし、やっぱり大会規定内に収まるスペックで《ブリオネイク》再現させちゃったら一発でオジャンは避けられないのよねぇー。

 あ~あ、元から射程距離短めだったのを、距離12メートルまでに限定して機能特化させる超簡易魔法式の理屈でだったら、相手選手には絶対届かないから威力押さえる必要なくて遠慮なくぶっ放せて楽だと思ったんだけど読みが甘かったかチェ~。・・・・・・って、あら?

 どうしたのシズク? そんな泣きそうな顔して控え室の扉の前で立ったままワタシを待っていて、ひょっとして忠犬ハチコウごっことか?

 ・・・・・・でも、それなら両手にバケツ持ってる理由が分からないし一体何があって・・・・・・ヒッ!? ちょ、ちょっと待ってタツヤ落ち着いて! 話し合いましょう!

 話せば分かる! 話せば分かるわ!! アメリカ人は世界平和のために戦うラブ&ピースの世界警さ、ってギャァァァァァァァァァァッ!!!???」

 

 

 

 

 ・・・・・・世界規模の大きな変化でなくても、小さな変化だろうと変えてしまった代償は大きくて痛いのが、超簡易魔法式によって変わってしまった世界の法則である事実に変わりはない・・・・・・。

 

 

つづく



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番外話「北山雫は魔法科高校の劣等生 優等生編」

気が付いたら最後に更新した日から大分過ぎてたことに驚き、慌てて完成させたので投稿しました。
ただ、プロローグだけに使う予定だったネタが予想外に長くなり過ぎてしまったため、先に番外編として投稿する形と相成りました。

本編じゃない上に、予想外にできてしまった話のため、御不快に思う方もおられるかもしれません。その点は申し訳なく思っております…。
次は当初の予定通りの内容で次話を書くつもりですので、どうかお許しくださいませ。

アニメ版やマンガ版に影響されて途中からネタに組み込もうとすれば失敗する…教訓として活かすつもりです…。


 九校戦の食事は参加者総数の関係から、朝食はバイキング形式、昼食は仕出し弁当か各校事に用意した場所で食べ、夕食だけがホテルの食堂に自校のメンバー全員が集まって利用できるという決まりになっていた。

 その日の試合が全て終わった後、その日の戦績に喜びと悔しさを分かち合えるようにと配慮されたシステムになっている。

 

 

 その夕食が始まるには大分早い、まだ空が青い色を残している時間帯ではあるけれど、その日の最終ゲームを見終わった私たちは会場を後にして宿泊用の施設へと続いている道を歩んでいる最中だった。

 

 ・・・・・・激しい敗北感と畏怖、そして次の試合での必勝の確信を保つことが出来なくなった傷だらけの心を抱えながら・・・・・・。

 

「いやー、ええもん見たのう!」

 

 大切な友人の一人である四十九院沓子が大きく伸びをしながら、私たち『一色愛梨』と復活したばかりの十四夜栞に向けて朗らかに笑って見せて、「お茶でも行くか?」とスポーツ観戦で好ゲームを見終えた直後のファンのような誘いをかけてくる。

 

 思わず沓子自身は『彼女』と対決することになる競技には参加していないからこそ、気楽に言えているだけではないのかと、邪推してしまいそうになる自分を抑えられなくなっていたのは・・・・・・きっと私の弱さ故のもの。

 彼女の圧倒的な魔法力を見せつけられて、やはり強い魔法師には勝てないのだという固定概念に囚われかけることで自己を守ろうとした私自身の弱気が招いた過ちの想い。

 

 そういう思いを抱いてしまうほど、先ほど見たばかりの試合は圧巻だったから―――

 

 

(・・・司波深雪・・・・・・彼女はいったい、何者なの・・・?)

 

 

 大会が始まる前の懇親会で初めて会って挨拶を交わした相手が見せた、あの恐るべき魔法《インフェルノ》・・・。

 A級魔法師ライセンスの受験者用課題として時折出題されることがあると言われ、多くの受講者たちに涙を流させていると、師補十八家のツテで聞いたことがある国家資格取得レベルの大魔法を彼女は学生の身で完璧に使いこなして見せたのだから・・・っ!

 これで何の萎縮もせずにいられるほどには、私は決して自分の実力を過大評価できていない!

 

 まるで“見ている者たち全てを恫喝せん”とばかりの想いと覚悟が込められていた、格の差を示すような大魔法を、他の二人よりも一層強く肌で感じさせられてしまった私には、そう思うことしか出来なかったから!

 

 ――そう思っていた。思ってしまってたのだ。けれど――

 

「はぁ・・・沓子はマイペースね」

「ん? そういや栞も愛梨も、あの選手と当たるかもしれんのじゃったのう。

 二人はええのぅ。アヤツと対戦できるかもしれんのじゃから」

 

 栞と彼女が交わしたその会話内容が耳に入った瞬間、私はハッとさせられて顔を上げ、彼女たち二人の言葉を聞いて間違いかけていた自分の思いをハッキリと理解させられる。

 

「対戦・・・したいの?」

「そりゃそうじゃろう! あれくらい高位の魔法師と思いっきりぶっ放せる環境で相対することなど、多分もう二度とないぞ!」 

「・・・・・・そうね」

 

 彼女の言葉で、「ああ・・・」とようやく間違いを理解させられながら、私もまた自分自身に自嘲の思いを禁じ得なかった。

 何のことはなかった。私は司波深雪と自分との間に広がる魔法力の差を見せつけられて、こう思ってしまっていただけだったのだと気づかされたのだ。

 

 ―――彼女と戦場で殺し合ったら、絶対に自分は彼女に勝てない・・・・・・という、暗い暗いスポーツとは無縁の世界の思惑に囚われて初心を見失ってしまっていた・・・只それだけ。

 

 今までの魔法師社会で、強い魔法が使える魔法師が弱い魔法しか使えない魔法師たちより優先的に魔法教育を受けさせてもらえて、『ウィード』と『ブルーム』などというスラングまで生まれてしまった原因は、魔法師が【国防の戦力として優遇されてきたから】その一事に尽きるもの。

 それ故に他者より優れた魔法師には、いざというとき他者より先に、他者より前へ出て敵と戦い普通の人たちを守らなければならない義務がある。その義務を果たせないのでは他の人たちより日頃から優遇される資格なんてあるわけがない。・・・・・・そういう義務感という思いが今の私を間違えさせてしまっていたらしい。

 

「確かに司波深雪は、とても高い魔法力を持った選手。

 だからこそ彼女に勝利することには大きな意味があるわ」

 

 そう、これは戦争ではない。九校戦よ。

 全国各地から魔法科高校の生徒たちが集まって腕を競い合うための場所。決して、強いものだけが生き残り、生き残ったものが正しくなってしまう、一度の敗北で全てを失う戦争なんかでは絶対にない。

 

「単なる魔法の力比べではなく、ルールに則った競技である限り、どんな強い魔法師にも勝つことは可能よ。

 そのための訓練を積んできた。だから私たちは絶対に勝てる!」

 

 ここまで整った施設を建設し、もし何か起こっても国の魔法師が全力でサポートしてくれる。

 こんな特殊すぎる環境下でもなければ、司波深雪と私たちのような魔法科高校の生徒が全力でぶつかり合える機会なんて絶対にあり得ないのだから!!

 ここまで多額の資金を費やして用意してくれた環境下に、戦争の理論を持ち込んで萎縮してしまい、折角の機会を棒に振るなんてこと・・・それこそ国に優遇してもらっている十師族に次ぐ師補十八家の一員としてあり得ない考え方じゃないの!

 

 ・・・正直に言えば、怯える心はまだ消えていない。恐れる気持ちもまだ心にしっかりと焼き付けられたまま燻り続けている。

 

 それでも私は師補十八家のひとつ、一色愛理。自分だけのことを考えて物を言っていい立場ではない!

 私だけでなく、沓子にとっても栞にとっても、この九校戦は同じ条件と環境を与えられた特別な機会なのだから、最大限活かせなければ勿体ないのだから!

 

 私たち魔法師は、兵器として用いられるため生み出された者たちだけど、兵器そのものではない。人間よ。・・・そして今の時代に、兵器として生まれた運命から解放されつつある・・・。

 その幸福な環境を自ら放棄してしまったのでは、この環境を【魔法師でもないのに生み出すことができた魔法使い】あの『ルイ』に対して申し訳が立たないわ!

 

 それに何より魔法師に生まれた者として、なんだか負けたみたいでイヤじゃない!

 だったら実際の戦争だったらどうかなんて考えることなく、スポーツの試合をスポーツの試合として勝つことだけ考えて勝利を掴み取ってみせる! それだけよ!!

 

「・・・その通りね」

「そうじゃぞー!」

 

 二人も賛同してくれて笑い合い、綺麗に締まったところで甘い物でも食べに行き、気分を一時だけでもスッキリさせようかと―――そう思っていたところ。

 

 

 ふと、自分たちが向かう先に人の気配を感じて立ち止まり、敵意とか悪意とかは感じさせない自然な足取りで廊下の曲り角から、背中で手を合わせた姿勢で足取り軽く出てきた相手の姿を見つけたとき、私は思わず息を飲んで立ち止まらされ、栞はたまらず声を上げてしまっていた。

 

「――! クドウっ・・・・・・さん」

「ハ~イ、シオリ。一日ぶり」

 

 廊下の角から姿を現したのは、蒼穹の空を思わせるスカイブルーの瞳と、頭の両脇にリボンで纏めた波打つ黄金の髪を持つ、司波深雪とは違うタイプの、けれど決して見劣りしない美しさと魔法力を感じさせる、もう一人の要注意人物!

 

 第一高校一年女子最強の一角、アンジェリーナ・クドウ・シールズ!

 栞の《アリスマティック・チェイン》を破って見せたばかりの相手と、こんなところで再会するなんて・・・!!

 

「・・・どうして貴女が、こんなところに・・・?」

「ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったのだけれど、面白い話がきこえたものだからつい。

 ――ワタシも深雪に勝ちたいと思っている一人だったから気になっちゃって」

『・・・・・・っ!?』

 

 その言葉に私たち三人はそろって息を飲む。

 同じ第一高校の選手で、同じチームに属して優勝を目指すチームメンバーに対しての言葉とは思えないほど挑戦的で戦意に満ちあふれた、だけど彼女が口にすれば決して傲慢に聞けないだけの自負と実績を感じさせる強い言葉。

 

 それを聞かされた私たちは、思わず一瞬黙り込み、彼女の話を聞く姿勢を取ってしまっていた。

 

「ミユキは実力を隠してる。理由は知らないし分からないけど、普段は使う力を制御して暴走させないことに意識を集中させている・・・そう見えるわ。

 そんなあの子と本気で競い合える場所なんて、この九校戦以外だと誰も見てない場所で秘密裏に行うリング外戦闘ぐらいしかない。

 だからこそワタシも勝ちを目指し、求めるのよ。たとえ戦えば十中八九負けると分かっていても、彼女との勝負だけはワタシは・・・退くわけにはいかない! そんな気がするの」

「・・・クドウさん」

 

 相手の話を聞いて、不覚にも私は彼女に少しだけ共感を抱いてしまったらしかった。

 何かを耐えるように堅く握りしめた両手を震わせ、感情を抑えようと努力している姿を見ていて分かったからだ。――彼女もまた我慢しているのだと。

 

 司波深雪と互角に近い実力を感じさせられながら、クドウ選手はミラージ・バットの参加選手としてエントリーされていない。

 最初それを映像で見たときには、ただ彼女の実力が司波深雪に及んでいないからだと納得してしまっていたけれど・・・今となっては過小評価していたと考える方が正しいと思える。

 

 選ばれなかった理由は分からないけれど、おそらくは第一高校首脳陣による戦略の一環によるもの。それによって彼女は司波深雪とミラージ・バット本戦で戦える機会を奪われてしまっている。

 このアイス・ピラーズ・ブレイクだけが、クドウ選手にとっても同じチームメイトの司波深雪と全力で戦い合って勝敗を競うことが許された一度だけの機会・・・・・・そういうことなんだと理解したとき。

 

 私は彼女を嫌うことが出来ない自分を自覚させられずにはいられなくなっていた・・・。

 栞には悪いけれど、自分個人の感情を抑えつけ、チーム全体のための戦略を受け入れて、それでもなおチームメイト同士のライバルと競い合える機会で全力を尽くしたいと欲する彼女の姿勢は、とても美しいと思わずにはいられなかったから・・・・・・。

 

「・・・・・・強いのね、あなたって」

 

 不意に栞が声を出すのが聞こえて、そちらを見た。

 彼女は先ほどまでとは違って、まだ引きずってはいるけれど相手に対して率直な敬意を感じている。そういう風にも見える複雑さを持った、いい表情でクドウ選手の顔をまっすぐに見つめながら声を出している。

 

「は? なに突然いきなり」

「たとえ同じチームメイトであっても、仲間であっても、全力を出して競い合うことが出来る。

 相手に敬意を抱きながらも、超えたい勝ちたいと本心から願い求めて、自分こそが一番になりたいと望んでいるのをハッキリ口にすることが出来る。・・・私には出来そうもないことだから、スゴイと思った。それだけよ」

 

 複雑な事情を持つ家に生まれて、家族からの圧力に晒され続けた栞にとって、たしかにクドウ選手のような生き方は出来そうにない。

 だけど、それを理由に逃げようとせず、素直に自分を倒した選手を褒めることが出来るようになれた・・・それが彼女自身の完全復活を意味しているものだと理解して、私は別の意味で嬉しく思い、クドウ選手への感謝の思いを寄り強くしていた。

 

 ・・・・・・・・・そのはずだったのだけれども―――。

 

 

「フッ・・・馬鹿ねシオリ。アイス・ピラーズ・ブレイクもスピード・シューティングも、一対一の試合に勝ち続けて優勝を目指す、トーナメント形式の個人種目よ。つまり――」

「つまり・・・・・・?」

 

 

「つまりトーナメント形式の個人種目っていう競技は要するに―――バトルロイヤルよ!

 味方なんて最初からどこにもいないわ!

 同じチームだろうと敵になったら倒して自分一人で勝利の栄光手にすること目指す情け容赦無用の友情ぶっ壊しスポーツ! それこそがトーナメンツ!!」

 

 

『何言い出してんの貴女!?』

 

 

 ――とんでもない主張を言い出した瞬間に、今まで感じた想いの全てをなかったことにしたくなってしまったわ!

 この人全然スポーツと戦争の区別なんてできてないじゃないの! 完全に戦争の理屈をスポーツの世界に持ち込んできてる人の典型じゃない! むしろ極地と言っていいほどに!?

 

「なんでよ!? ワタシの言ったことの何処が間違ってたっていうのよ! ものすっごく上品に取り繕った日本人らしい建前と方便を上手く使い分けれた言い方だったでしょう!?」

『その言い方が、建前も方便もぜんぜん使い分けれていないんだけど!?

 スポーツって言うのはフェアプレー精神に則って、正々堂々と挑むものでしょう!?』

「フェアプレー精神? ハッ! 正々堂々って言葉は自分が有利な立場にあるときに、有利な条件を維持するために使われる建前でしかない日本語よ。

 卑怯って言葉は自分が不利な状況にあるとき、相手から譲歩を引き出すための方便でしかないのと同じようなものよ。

 純粋な魔法力による力比べで勝てそうにないから、直接ぶつからずに強い魔法師を無力化するのだって戦術としては間違ってないものね!

 ワタシは超簡易魔法式の登場によって、それを学んだわ! 狂気の天才ルイ、ファ―――ック!!」

『だから本気でさっきから何言ってるの貴女って人は!?』

 

 

 流石の沓子までもが加わって、三人がかりで司波深雪と同等の強さを持ち、司波深雪よりもずっと性質の悪い思想まで持ち合わせていた最悪最強の魔法師の暴論を止めようと全力を尽くしているけど、通じない!

 この人、強い! 主に心が! 悪い意味でだけれども!!

 

 栞には今度こそ自由に自分のために力を尽くせるようになって欲しいと願っている私だけど、ここまでフリーダムに自分のことだけ優先できる人間にはなって欲しくないわ! 本当に! 心の底から絶対に!!

 

「だいたい、貴女たち日本人は本音と建て前を使い分けることに恥じなさすぎるのよ! だからあんな卑怯で卑劣で姑息な手法を思いつくことが出来るんだわ! あーもう! 純粋な力比べだったらワタシが勝っていたはずなのにィィィィィッ!!! って、あべひッ!?」

 

 

 と、急に目の前でいきり立って頭をかきむしりながら叫びだしていたクドウ選手の動きが停止し、体から力が抜けていくと思ったときには誰かによって支えられていたのが分かり。

 

「・・・まったく。騒いでいる声が聞こえたから当たりをつけてきてみたら、案の定だったな。雫一人に押しつけて誤魔化して逃げ出した先で、お前はいったい何をやっているんだ・・・」

 

 彼女の後ろから現れた長身の男子生徒によって、冷たい瞳で見下ろされながら、ゆっくりと前のめりに倒れていくところを途中で受け止められて、まるで荷物を運ぶような仕草で持ち上げられ、ちょっと恥ずかしい体勢で担ぎ上げられる最強の一角に見えたクドウ選手・・・。

 

「第三高校一年の一色愛梨さんたちですね? この度は当校の事情で失礼致しました」

「――あ、いえ・・・こちらこそお気遣いなく・・・?」

 

 あまりにもあまりな展開に、エクレール・アイリと言われる私も思うように思考が働かずに、適切なのか不適切なのかよく分からないまま返事だけを答えとして返してしまう・・・。

 

 知覚した情報を脳や神経を介さず、直接精神で認識して肉体に命じる唯一無二の私だけの魔法《稲妻》も、頭が働いてないときにはいまいち役立たないんだなぁー・・・と、なんとなく脳の片隅でボンヤリ思ってしまいながら・・・。

 

「俺は第一高校の技術スタッフの一人で司波達也と言います。一応、魔法工学科の代表という過分な役職にも就いていますが・・・」

「魔法工学科って・・・・・・あの日本初の!? 凄いではないですか!! それに司波って――」

 

 一見すると身長以外は凡庸に見えた相手の予想外すぎる凄まじい肩書きに私は驚愕を隠すことが出来ずに声を上げてしまったけれど、相手の方は如才なく微笑むだけで傲慢さも過剰な謙虚さも一切見せることなく、礼儀正しく正しい対応をしてくるのみ。

 

「はい、司波深雪は俺の妹です。出来のいい妹と違い、不出来な兄で恥ずかしい限りですよ」

「そ、そんなことはありません。凄いことだと思いますよ? 少なくとも、私には真似できそうにありませんから・・・」

「それは買いかぶりですよ。実技試験で評価されるのは速度、規模、強度の三つ。それらで

俺が劣等生なのは事実ですから。

 評価基準というものは用途に適したものを選び出す為のもので、軍に適した魔法師を選び出すならともかく魔法科高校の生徒としては必ずしも間違った評価と、俺自身は思っていません」

 

 慣れた態度で、私たちに向けて丁寧に語ってくれる男子生徒に私は深い敬意と、そして同じくらい激しい罪悪感を覚えさせられてしまう・・・。

 彼を見た瞬間に、家柄や魔法力の上下で判断しようとしてしまった自分が恥ずかしくなってしまったから・・・・・・。

 

 あれほど魔法師として優秀で、見た目まで良すぎる妹を持つ兄として生まれてしまったら、周囲から妹と比較されずにはいられなかったろうに・・・それを乗り越えて全国魔法科高校の中でも他に先んじて新設されたばかりの魔法工学科に代表として入学できた誇るべき業績。

 それを偉ぶりもせず、謙虚に己の出来ること出来ないことを正しく理解した上で適切な対応が出来てしまう学生離れした大人びた対応の仕方。

 

 まるで名門魔法師の家系に次期当主となるため育てられたような、立派すぎる態度に深い感銘を抱かずにはいられなかったから・・・・・・。

 

「この度は他校選手の皆様方に、当校生徒の個人的事情によって不本意ながらご迷惑をおかけしてしまい、当方の遺憾とするところです。

 俺個人としても可能な限り皆さんの不快を解消できるよう努力していく所存ですので、どうかご容赦をお願いします。

 何より選手ではなくとも、九校戦に参加しているスタッフの一人として大会を楽しんでくれている観戦者たちのため、大会運営が阻害されないことが最優先ですから」

 

 その言葉で、私は彼のことを全面的に信頼し、全てを委ねようという気になっていた。

 個人的な感情や、身内の不祥事、ライバル校の選手に頭を下げて非礼を詫び、大会全体の運営をこそ優先して考えられる魔法師として理想的な在り方に、一色家の名を背負う者として深い敬意を抱かずにはいられなかった・・・・・・。

 

「では、失礼いたします。

 これからコイツに説教しなければいけない職務がありますので・・・」

 

 そう言って、頭を下げて去って行く背中を見送った後。

 彼の姿が見えなくなって、しばらく経った頃。私は未だ茫然自失している沓子と栞に向かって、つい。

 

 ・・・・・・私の立場で聞いてはいけない質問を聞いてしまう愚行を犯してしまうのだった・・・・・・。

 

 

「な、なんだったの? さっきの人たちって・・・」

「今年の一高メンバーは本当に凄いのばっかりじゃのぅ。いろいろな意味でじゃが・・・」

「―――ねぇ、栞。沓子。仮にも魔法師として、こういう単語を使った質問はするべきではないと自覚してはいるのだけれど・・・・・・」

 

 

 

「一目惚れや運命って・・・この世に実在してると思う?」

 

『・・・・・・はい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まったく。余計な喧噪を起こしてくれるものだ。

 ライバル校に借りを作らないため、一言の謝罪もせず、責任を取ることも明言しないまま、観客と選手に全ての責任を押しつけて場を凌ぐため、必要最低限の気遣い以上の詭弁を弄する羽目になってしまうとは・・・・・・ハァ。

 これで北方会長への借りがまた増えてしまった事になる訳か・・・・・・どうにかならないのか? この《グラム・ディスパージョン》でも分解できそうもない柵という名の束縛という奴は・・・」

 

「ミ・・・認めたくないもの・・・ネ・・・。若さ故の過ちというもの、は・・・・・・ガクリ」

 

 

 

 

 

「・・・グスッ、グ、ス・・・、達也さんとリー、ナ・・・いつ帰ってくる、の・・・・・・? 寂、しい・・・・・・(エグッ、エグッ、)」

 

 

優等生編番・完



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35話「北山雫は夕食会だと優等生でも劣等生」

超久しぶりの更新となってしまいました……すいません。
しかも久しぶりの話なのに、内容は原作における夕食の1シーンのみ。
原作だと一瞬で終わるシーンが、今作だと1話分使われてるのは作者が好きなシーンだからだけが理由という体たらく……ホント申し訳ございません…。

挙句、時間置き過ぎたせいで終わり方だけ思い出せず、中途半端に終わってしまった……今回ばかりは猛省しなかったら許されないだろうなと自分でも自己嫌悪の最中な次第です……


 俺こと、司波達也が技術スタッフとして参加している九校戦の会場では、朝食がバイキング形式の早い者勝ちで、昼食が仕出し弁当を各学校が用意して作り、夕食だけがホテルが有する食堂を一時間ずつ各校が使用できるという決まりになっている。

 これは学校ごとの作戦漏洩を防止するためでもあり、部外者のいない空間で仲間同士が気兼ねなく今日一日の勝利と敗北を分かち合おうという時間でもあったのだ。

 

 そういう意味では、今晩の俺が所属している魔法科第一高校の食卓風景は、見事なまでに明暗が分かれていたと言えるのではないだろうか?

 

 

「すごかったわねぇ、深雪のアレ」

「《インフェルノ》って言うんでしょ?」

「先輩たちもビックリしてた。A級魔法師でも中々成功しないのにって」

 

 新人戦女子クラウド・ボールは準優勝と入賞一人で「まぁまぁ」という程度の成績だったのに対して、新人戦女子ピラーズ・ブレイクで出場全選手三回戦進出という好成績に女子選手たちはお祭り騒ぎに気分になっていた。

 

 無理もない。ピラーズ・ブレイクは他の競技と違って、同一校の選手のみで決勝リーグを独占することも可能にはなっているルールなのだ。その快挙の可能性が見えてきた初参加の新人たちとしては、浮かれるなと言う方が難しいというのも理解できない事情ではない。

 

「やっぱり起動式は、司波君がアレンジしたの?」

「《インフェルノ》をプログラムできたのも、司波君だからですよね!」

「ほのかの幻惑作戦も、司波君が考えたって聞いてるよ?」

 

 そういう事情から、幸せのお裾分けと言うべきなのか、彼女たち女子選手のみの技術スタッフを男子たちが嫌がったため押しつけられてしまった俺もまた、はしゃぐ彼女たちの中で逆紅一点、もしくは白一点とでも言うべき立場に立たされ賞賛と質問の嵐を先ほどから浴びせられ続けていた。

 

 正直、内心で辟易しなくもなかったが、彼女たちが一種の躁状態にあり、初めての競技会参加の緊張が続く中では、この手のお祭り騒ぎが大きな気分転換にもストレス発散にもなるという心理は、軍内部でもレクリエーションが行われる場合があることなどから理解できる。

 大げさな賛辞も裏を返せば、「自分たちがそれを成したのだ」という自画自賛でもあり、自信を高めて不安を払拭して次の試合に臨めるようになるのなら、心理面でのメンテナンスという解釈も一応は可能だろう。

 

 無論、同じ一年生とはいえ工学科のトップという地位にある以上は、相手の自信が過信にまでなるようなら注意する必要が出てこざるを得ないのだが・・・・・・その域に至っていない程度なら水を差すような真似をわざわざする必要もあるまい。

 

 更に言えば、一日目のスピード・シューティングに続いて女子バトル・ボードでも参加全選手が予選突破。

 大会初参加でありながらクラウド・ボールの一つだけしか負け越してないという状況下では、「浮かれるな」どころか「調子に乗るな」さえ聞き入れてもらえない可能性が高いほどに出来過ぎな状況ができてしまっているのだ。

 

 そのような事を考えながら俺は、いつもに比べれば柔らかい声音を意識しながら素っ気なく聞こえないよう注意した短い返事を返しつつ、チラリと別の『同類たち』がいる方へと視線を投げかける――。

 

 

「リーナさんのアレ、凄かったですよね! あの格好は九校戦の歴史を確実に変えたわ!」

「エイミィも結構、決まってたよぉ? 一回戦はハラハラしたけどねぇ~」

「乗馬服にガンアクションが格好良かったよね!」

「いやいや、リーナさんの前では全てが霞むでしょう。あの服装こそ古き良き日本のファッショナブル!!」

 

「オホホホ~♪ まぁ、あの程度の服装も試合の成績も、ワタシ本来の力と比べれば大したことじゃありませんけどね、オーッホホホ☆」

 

 

「雫ちゃん、リーナさんが使ってた魔法って、あなたがプログラムしたんでしょ?」

「どうやっての!? 教えて! お願いします雫様!!」

「リーナさんがスピードシューティングで使ってたCAD調整は、司波君だけじゃなく雫ちゃんも担当してたんだよね!?」

「ほのか以外の女子選手たちが使ってた魔法も、ぜんぶ雫ちゃんがオリジナルで考えて作ったって聞いたんだけど本当なの!?」

 

「あ、あう、あ、う・・・あ・・・・・・うぅ・・・・・・(びくん、びくん、エグッ、エグッ・・・)」

 

 

 ・・・・・・俺が女子に囲まれている場所から、少し離れた食堂の一角において見事すぎるほど明暗が分かたれている女子たち二人が、同じく女子選手たちに囲まれて賛辞を送られ、一人は怯えきって泣きかけていた。

 

 言うまでもなく、USNAから非公式に亡命してきた十三使徒の一人にして、今なお世界最強魔法師の一人でもある元スターズ総隊長のアンジーことアンジェリーナ・クドウ・シールズと、遺憾ながら俺の幼馴染みであり超簡易魔法式の開発者でもある北山雫の二人である。

 

 リーナの方は、おそらく軍人時代にこういう場に出席した経験が多数あるのだろう。

 むしろ昔の輝かしい時代に戻ったような気分に浸ってなのか、普段よりも輝きを増しているような錯覚すら覚えるほど生き生きしている。

 

 ・・・・・・それでいて、謙遜を装った自慢を続けながらでも、手と口は休む事なくテーブルに並んだ豪勢な料理を減らし続けている姿は、見ている方が気まずくなって目を逸らしたい気分に襲われもするのだが・・・・・・。

 

 

 対して雫の方はといえば、完全に怯えきっていた。

 群がっている女子選手たちからすれば、見た事も聞いた事もない魔法を見せつけられ、勝てぬだろうと思われていた選手たちの試合をも勝利に導かせた雫が持つ、俺でさえ理解不可能で解析もできなかったトンデモ魔法に興奮して、少しでも話を聞かせて欲しいと願っているだけではあるのだろうが・・・・・・

 

「いいなぁ・・・・・・あたしも菜々美みたいに雫ちゃんから担当してもらえた最初の一人目だったら、もっと上の順位だったのに・・・・・・」

「ふふぅ~ん♪ まぁね~♪

 やっぱり自分の未熟さを自覚して、CAD調整のできないところは専門家を信じて委ねるって大事なんだなって、あたしは雫ちゃんに出会って間違いに気づけた一人目だったからねぇ~」

『い~い~な~~~・・・・・・雫さま! やっぱり今度は私の担当を最初に!!』

『いいえ! 私と!!!』

 

「あ、う・・・・・・あう、あう・・・・・・あう、うぅぅ・・・・・・(びくびく、ブルブル、びくんびくん・・・)」

 

 

 ・・・・・・駄目だろうな、アレは。

 好意であろうと悪意であろうと、多数の人間たちから勢いよく迫ってこられると怯えきって、俺の後ろという殻の中に逃げ込む対応しかしてこなかったカタツムリかヤドカリのような臆病すぎる少女に対して――言葉を選ばず言ってしまうなら、虫ケラのような存在にとって大きな身体を持つ存在が勢いよく突進してくるのを見ただけで動揺してしまい、とても会話など不可能だろう。あの状態ではさすがに・・・・・・。

 

 ふと、雫に涙目が俺に向けられ『助け、て・・・』と無言で懇願されているように俺には感じられ、

 

「・・・・・・ふむ」

 

 と一つ唸った後、しばしの間考えてみた上で。

 

「司波君、リーナさんが使ってたアレって《共振破壊》のバリエーションだよね?」

「正解」

 

 と、周囲に群がってきて答える間もなく話かけ続けていた女子選手たちの一人の話だけを拾い上げ、短く問題ない範囲の答えだけを返してやり、彼女たちの緊張を解いてやるためのお祭り会話の渦中へと自主的に戻っていく道を選択することにしておいた。

 

 当初は穿った見方で彼女たちの話を評してしまったが、選手が自分の使った道具の制作者を褒めるのは試合に勝つため貢献した時だけであるのは極真っ当な正しい対応であり、正当な評価といえるだろう。

 

 もともと選手が使う専用の機材を調整する技術スタッフとは裏方であり、表側に立つ選手が脚光を浴び、こうして成功のお裾分けとして賛辞を送ってくれるのは、自分の力だけで勝てたと思い上がる者たちより遙かに賞賛されて然るべき、正しく正当な行動であったと評価できる。

 

 よってこの場合、俺も雫も選手の勝利のために貢献した裏方の技術スタッフとして、正当に仕事を評価され褒められるということへの正常な喜びを知れるようになる事もまた、健全な社会人として卒業後は歩み出す高校生らしい学びの一環と言えるだろう。

 

 まして今の俺は、望んで就いた地位でないとは言え魔法科高校初の魔法工学科主席入学者で、代表でもあるという過分な地位役職を与えられている身でもある。地位に伴い果たすべき責任と義務というものがあるのだ。

 

 悪いが雫、俺は工学科の代表として、一生徒であるお前を今日ばかりは千尋の谷に突き落とそうと思う。見事這い上がってこいとまで無茶ぶりする気はないが・・・少しぐらいは人から賞賛されるという状況も体験してみるといいだろう。

 

 なにしろお前は、それだけの事をしたのだから・・・・・・偉業をなした本人として名乗れる日は来なくとも、今日のように褒め称えられることぐらい許されていい・・・そのはずだ・・・。

 

 

 

「・・・うわ。摩利、見た? 司波君のあの笑顔・・・・・・」

「うむ。『仕方ないな』と言いたげな表情で笑って見せながらも、その裏では黒々とした本心を隠して取り繕っている時の笑顔だ。長い間、真由美とコンビを組んでいた私には分かる。間違いない」

「・・・・・・ねぇ、摩利。今の発言はどういう本心を隠してのものだったのかしら? 詳しく説明して欲しいんだけどちょっと!?」

 

 

 ――なにやら遠くから会長たちが、他の上級生たちと共に俺たち一年生組が騒いでいる方を見ながら何事かを語り合っていたようだったが・・・・・・おそらく大会初参加の新人たちの心情に配慮して『仕方ないな』と苦笑だけで済ませてやろうと示し合わせていただけだろう。

 

 良識ある上級生の対応とは、そういうものだ。

 『最強世代』とも称されていた先輩たちが一挙に抜け落ちる、来年以降からの九校戦を踏まえて「てこ入れ」を考えてくれているであろう会長たちには頭が下がる思いしかない。

 

 ・・・・・・だから、もう少し頑張ってこい雫。骨ぐらいは拾ってやる。

 

 

 とは言え、だ。

 物事には裏と表があり、誰かにとっての幸福が別の誰かにとっての不幸になりかねないのと同じ論理によって、自分たちにとっても不幸には作用しておらず損もしていないにも関わらず、損害を被ったかのように感じられてしまう厄介な側面が人の心とやらには存在しているのも確かな事実ではあるようだった。

 

 

 

「でも司波君と雫ちゃんのおかげで、いつも以上の力が出せたのは間違いないし!!

 司波君と雫ちゃんが担当してくれて本当ラッキーでした♪

 二人を譲ってくれた男子には感謝ですね」

 

 女子の一人が無邪気な笑みを浮かべながら言った、多大な勘違いと―――無邪気な残酷さが込められた発言を口にしてしまった瞬間。

 俺の立場では、苦笑する意外に反応の仕方を選びようもなかったが・・・・・・苦笑で済ませることのできない立場にいる人間の事も、今の俺には理解できるようになってもいた。それが理由である。

 

 ガタンッ!!!

 

「あ! おい、森崎ッ!」

 

 荒々しい音を立て、席から立ち上がると同時に制止の声も聞かず、早足でお祭り気分に満たされた食堂の外へと歩み出していき、数人の仲間たちが後を追っていった男子生徒の後ろ姿。

 

 ・・・・・・女子選手たちにとっては、まさしく快挙というしかないスピード・シューティングに続く三つの競技の全選手予選通過という好成績。

 だが、それは同時に不振の続く男子選手たちにとって自分たちの戦績を相対的評価で、実際より更に低く感じさせるに十分すぎるほどの威力があったはずのものだった。

 

 一日目のスピード・シューティングでは一人が準優勝して、残りは予選落ち。優勝した三校が一位と四位で、この時点では『女子の成績が出来過ぎだった』で済ませられる範囲だったのだが、続くバトル・ボードでも女子は全員が予選を通過して男子は一人だけ。

 せめて女子が不振と言うほどではなくとも、他と比べれば「まぁまぁ」の結果にとどまっていたクラウド・ボールで遅れを取り戻せれば彼らのプライド的に救いもあったのだろうが・・・・・・残念な事実として、熱意が結果に結びつくことは人の社会では最高の幸福の一つなのが現実というものだった。

 

 そこに来て、俺だけでなく雫の見た目が派手な魔法を見せつけられた後では、事情を知らぬものから見れば余計に彼らが見窄らしく見られてしまっている事は容易に想像がつきやすく、そうなれば彼らのプライドや克己心がプラスの方向に作用してくれる可能性はほとんど期待できなくなって行かざるを得ないほどに落ち込んでいくしかない。

 

 それらの気持ちは、分からなくもない。

 昔の俺なら、非合理的で無駄の多い思考だと切り捨てる事できただろうが・・・・・・『自分より劣っていると感じているバカ』に幾度も後塵を拝し続けた経験をもつ今の俺にとっては、彼らの気持ちは理屈の上で分からなくもない程度にまで身近なものに感じられて仕方がない・・・。

 

 

「――ちょっと皆さん、ごめんなさい。ワタシ、お花摘みに行きたくなっちゃって。

 シズク、あとの事よろしく。任せたからね? 失敗したらグランマより怖いお仕置きよ」

「ふ、え? なに、が? 何を頼まれた、の私・・・・・・って、ふえええ、えぇぇ・・・ッ!?」

 

 

 そう言い残して、ガタンと音を立てて席を立ち、部屋を飛び出していった金色の輝きを視界の端にとめながら、俺は女子たちとの話し合いというか一方的な話しかけられ続ける儀式へと帰還していく道を選びながら―――心の中で思ってもいた。

 

 

 ――――他者と協力し合って戦う、というのも決して悪いものではないのだという事を、最近になって良く理解できるようになった分だけは、雫を早めに助けに行ってやるべきかもしれないな――――と。

 

 気の迷いかも知れないが、今夜はそういう気分だった。そういう事にしておこう。

 

 

 

つづく




注:リーナの発破掛け内容を思い出して書けた場合でも、森崎くんの未来は変わりません。
流石に、気持ちの変化で爆弾は、どーにも出来るようになれない。


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36話「北山雫はクリムゾン・プリンスに宣戦布告・・・・・・する?」

超久しぶりの更新となります。遅れて申し訳ない…。
しかも久々なのに主人公の出番が超少ない
原作だと丁度、雫の回の辺りなんですけど今作の雫は選手じゃないため…出番が作りづらい次第。ご容赦頂ければ幸いです。


 魔法競技は一応、非魔法スポーツほど性差の影響は大きくないと言われている。

 とは言え、バトル・ボードやクラウド・ボールのように身体能力が勝敗に影響する競技も存在しているため、今年から新人戦も男女別におこなわれるよう九校戦にルール改正が行われていた。

 

 裏を返せば、本戦では今まで男女別にやっていた競技を新人戦でも同じにしたのは今年になって、ようやくという事になる。

 

 そうなると自然に一部の例外を除いて、男子選手は身体能力が影響しやすい競技に、女子選手たちは影響が小さい競技に偏りやすくなる傾向が生まれる。

 そして本戦では例年、一般客は女子の競技に、男子の競技には軍・警察・消防・大学などの関係者たちが集まりやすくなっていた。

 

 ・・・・・・魔法師にとって卒業後の就職先関係者が、意図的に棲み分けられちゃう男女分けは本当に男女平等の現れなのかしらね・・・?

 表面的には平等を謳いながら、こういった国家規模のスポーツ競技大会運営委員会が、男尊女卑的な方針でやり続けたがる人を重鎮として迎え入れてしまう日本の伝統はホントどうなんだろう・・・。

 

「――まるで人がゴミのようだわ」

「真由美・・・・・・お前、また北山から古いマンガか何かを借りて読みふけってないか・・・?」

「なんのことかしら、麻利。試合開始前におかしな話はやめてちょうだい、不謹慎だわ」

 

 キリッとした態度で、キッと強めの眼差しで見つめ返しながら言い返して、相方でもある風紀委員長の渡辺麻利を不満そうに黙らせながら私は再び真面目な態度で前を向く。

 

 まぁ、相手の指摘は当たってたんだけれども。間違ってたのはマンガじゃなくて映画って部分だけなんだけれども。

 当たってたからこそ、間違ってると断言しなきゃいけないことが組織の長ってあるものなのよ。組織の理屈って割とそんなもの、権威は大事(キリッ!)

 

 ま、まぁそれはそれとして置いておくとして。今大事なのは、眼下の光景なのよ光景。

 

「すごい人ねぇ・・・・・・随分と、大学や軍の関係者まで多い気がするし」

「仕方があるまい? 昨日のアレを見せられて記録映像だけで満足できる者が、大学や軍の魔法関係部署にいるとも思えんし。

 ・・・その分、男子の方は悲惨な状況を呈しているようなのは問題だがな・・・」

「そうなのよね・・・改めて見に来ちゃってる私たちが言える事じゃないんだけど、本当にどうなのかしらね。来年からの第一高校の九校戦って・・・」

 

 一般客席にぎっしり詰まった満員御礼状態の女子ピラーズ・ブレイク新人戦三回戦の観客席を見下ろしながら、私たちとしては揃って溜息を吐かざるを得ない。

 急激に増えた観客たちの目当ては、言うまでもなく予選で超絶魔法を披露した“2人の美少女たち”

 

 司波深雪さんと、アンジェリーナ・クドウ・シールズさんの一年生最強美少女コンビ。

 彼女たちが衆目の前で見せつけたA級魔法が耳目を集めすぎてしまって、新たにやってきた観客たちもプラスされて大変な混雑になってしまった結果が私の目の前には広がってるわけで・・・。

 

 去年までは男女混合だったから、男子選手向けのクラウド・ボールや女子向きのスピード・ブレイクみたいな感じで競技ごとの観客棲み分け現象が起きこそすれ、男女の選手ごとに成績差が開きすぎても同時開催される試合会場に距離があるのも手伝って、それなりの集客数は維持できてたかもしれなかったんだけど・・・・・・今年からは、そうじゃなくなってるのよね・・・。

 

 今年から始まった新人戦の男女別開催で、いきなりの格差はさすがにキツい。

 実際の実力的には、深雪さんやクドウさんみたいな例外を除いて女子選手たちに見劣りしない成績を収められる生徒を男子メンバーにも選んでいるのだけれど、見ている側のイメージというものがある。

 

 人体は、眼球から得られる情報を重視する要素は多くないって学者もいるけれど、人が意識して行ってる認識だと、やっぱり自分が見たものを基準に考えちゃう人の方が多いのが現実だろうと私は思う。

 

 昨晩の森崎君みたいな人もいるしね・・・・・・。

 悪い子では決してないし、クドウさんがフォローしに後を追ってくれたみたいだったけど・・・・・・今日の状況で台無しになっちゃったら流石に可哀想なのよねぇ・・・。

 

「まぁ、特にクドウが使っていた魔法は明らかに軍事利用に向いているように私にも見えた。

 噂でだけは聞いた事のある、十三使徒の戦略魔法《ヘビィ・メタル・バースト》も斯くやといった程だ。軍や魔法大学の関係者としては大会中の使用は二度ないと分かってはいても、期待したくなるのは当然だろう」

「USNAのアンジー・シリウスが使うっていうアレのこと?

 たしかに噂だけで判断するなら似ていなくもないけど、戦略級と呼ぶには効果範囲が狭すぎたし、そこまでのモノではないとは思うけど・・・・・・まぁでも似てるってだけでも無視できなくなるのは分かるしね。仕方ないか・・・」

 

 もう一度だけ溜息を吐いて、私は今回の件を全面的に諦めて受け入れることを覚悟した。

 どーせ私に今更できることなんて何もないし、深雪さんやクドウさんだけじゃなく明智さんだってプレッシャーの中で頑張ってくれている。男子だけがキツいという訳じゃない。

 生徒会長としては彼女たちの努力と成果をこそ喜んで、賞賛してあげるべき業績を立てているんだと自分自身を納得くさせ、私は改めて前を向く。

 

 ・・・・・・ただまぁ、とりあえずは細やかな願いとして。

 

「深雪さんとクドウさんの二人共、あまり派手にやり過ぎないでくれると生徒会長的に助かるんだけど・・・・・・」

「気持ちは分かるが、無理じゃないのか? あの二人が戦える九校戦唯一の競技でぶつかり合って、やり過ぎないで済ませられる姿など想像できんな」

 

 無情にも、負傷して参加選手からリタイアしている麻利からの他人事だからこそな正確すぎる指摘に、私は午後の決勝戦後を思い煩わずにはいられない立場に追い込まれて頭を抱えさせられる。

 

 まだ午前中の部が始まってもいないのに、もう午後の部で勝って優勝した後のことを気にして悩むだなんて、選手としては先走りすぎた懸念を叱責すべきなのが正しいはずなのに、あの二人の場合は悩んでおくのが正しい行動になっちゃうからイヤなのよー、もう!

 

 

 

 こうして、私が麻利と二人で『現時点では取らぬ狸の皮算用』な、的中確率99パーセントの未来予測に対処する方法で頭を悩ませ議論していた中。

 私たちは知らない間に、私たちとは違う場所で、九校戦にまつわる別の話し合いが行われていたことを、私たちは気づいていなかった。

 

 それは試合開始よりも、更に少し時間を遡り、試合会場へと続く廊下を司波君と深雪さんが並んで歩いていた時のこと、二人の人物が眼前に立ち塞がって宣戦布告をしにきていたイベントがあったそうなのよ―――。

 

 

 

 

 

 

 ――九校戦六日目にして新人戦としては三日目にあたる、ピラーズ・ブレイク三回戦第一試合が行われる会場に続く通路を、俺と深雪は並んで歩きながら最後の精神的コンディション調整を行っていた。

 

 もともと俺の担当はミラージ・バットとピラーズ・ブレイクの二種目であり、仮に今日は一日中こちら側に専念したとしても問題はないのだ。

 まぁ、第一高校女子選手のピラーズ・ブレイク担当とは文字通り、ピラーズ・ブレイクの選手たち全体の担当ということでもある以上は、妹の深雪一人だけを贔屓することは立場的にも不適切な行動ではあるのだが・・・・・・。

 少なくとも今日の時点では、ピラーズ・ブレイク参加の第一高校女子選手は一人ずつが他校の選手と対戦して、3人の内2人が勝利して準決勝に駒を進めない限りは参加選手の試合に寄り添っても職務の範疇なので問題はなかろう。

 

 やや言い訳がましいと自分でも自覚しないでもない思いではあったが、事実でもある認識と共に試合会場へと続く通路を歩いていた俺たちだったが、その途上で今は足を止めていた。

 いや、止めさせられていたと、言うべきなのだろう。

 通路の先から歩いてきた2人の第三校生徒たちを前にして、向かい合っていたからである。

 その目は真っ直ぐに俺の方を見ており、第一高校の出場選手である深雪の方には向けられていない。

 

「第三高校一年、一条将輝だ」

 

 俺とよく似た体格を持ち、肩幅もほとんど変わらない様に見える大柄な男子生徒の方が口火を切る。

 初対面の相手に対するものとしては横柄な口調と言うべきだったが、不思議と不快感を覚えさせない相手だった。

 同じ一年生でありながら、リーダーとして振る舞うことが自然だと周囲に思わせる風格が、その二つの両立を可能にしていたのだろう。

 

 あるいは、俺よりだいぶ甘いマスクを持つルックスが、居丈高な印象を緩和しているのかも知れない。

 それはそれで人の上に立つ者として生まれ持った美徳であろうし、彼の綽名に似合ってもいた。

 

「同じく、第三高校一年の吉祥寺真紅朗です」

 

 一条の隣に立つ、やや小柄な方からも丁重な物腰で、だが挑発的な眼差しを向けられながら古風な名前を名乗られる。

 小柄な体格ながら、ひ弱な印象は受けない姿も、その名を聞けば納得するしかない。

 

「第一高校一年、司波達也だ。

 それで、《クリムゾン・プリンス》と《カーディナル・ジョージ》が試合前になんの用だ?」

 

 害意は感じない。敵意とも、少し違う。

 だが、友好的という訳では無論ない。

 しいて言えば、剥き出しの闘志。

 

 そこから察せられる相手の目的に対応するため、俺は敢えて上辺だけ取り繕った礼儀で返さず、少々乱暴にも聞こえる普段通りの言葉遣いで応えを返し、

 

「ほう・・・俺のことだけでなく、ジョージのことまで知っているとは話が早いな」

 

 案の定と言うべきか、俺の対応に逆上している気配を見せることなく、一方で歯に衣着せるつもりを感じさせない答えを大柄な男の方が返してくる。

 

 一条将輝。3年前の大亜連合による沖縄侵攻に同調して行われた新ソ連の佐渡侵攻作戦に対して若干13歳で義勇兵として防衛戦に加わり、一条家の現当主と共に《爆裂》の魔法を以て数々の敵兵を葬った実戦経験済みの魔法師。

 戦闘そのものは小規模だったが、彼はこの戦いでの実績によって《一条のクリムゾン・プリンス》と称されることになる。

 

 そして吉祥寺真紅朗もまた、仮説上の存在だった基本コードの一つを13歳で発見した英才だ。

 彼が発見したコードの名である《カーディナル・コード》からつけられた『カーディナル・ジョージ』の異称は、魔法式の原理論方面の研究者なら知らぬ者はいないと言われているほど注目されている。

 

 どちらも共に俺たちと同じ年齢でありながらも、魔法師の社会において既に確固たる名声を確立している二人の天才少年たち。

 彼らならば、俺如き劣等生相手に横柄な態度を取ってきたとしても、それを非礼と称するのは適切ではなくなるだろう。

 

 なにしろ、この二人が同じ学校の同じ学年に在籍しているというのは、もはや反則級の偶然なのだから。

 七草会長たち最強世代を要する一高の生徒が言うことではないかも知れないが、逆に会長たちという前例がいるからこそ、次代の後継者とも称すべき彼ら二人にはハンデぐらい付けてやらねば一般生徒が哀れだろうとさえ思えるほどの若き天才たち二人組・・・・・・。

 

 

 ――が、しかし。

 その天才の片割れは、俺の名を聞くと一つ頷き姿勢を正すと、挑戦的な眼差しは変えないままではあったが、俺に対して一礼し、

 

「司波・達也・・・やはり日本初の魔法工学科の代表に選ばれた天才魔工技師とは、あなたの事だったのですね。

 そしておそらくは、この九校戦始まって以来の天才技術者としても名を残されることでしょう。

 互いに競い合う敵同士とは言え、同じ魔工技術の分野に携わる者として、あなたの業績に敬意を表します。

 日本魔工技士界の若き偉人に対して、試合前に失礼とは存じましたが、僕たちはあなたの顔を見に来たのです。非礼はご容赦いただきたい」

「・・・・・・若干十三歳にして基本コードの一つを発見した天才少年に『天才』と評価されるだけでも恐縮だが・・・流石にそこまで持ち上げられると、むず痒さを感じてくるな。

 お互い同い年の同学年でしかない身だ、もう少し砕けた態度で話してくれると有り難い」

「分かりました、ではそのように」

 

 直立不動の姿勢を保ったまま今一度頭を下げた後、一歩下がって席を一条将輝へ譲ってみせた吉祥寺真紅朗の節度を守った対応によって、今少し挑発的な返しをする予定だった俺の方でも挑発の言葉は飲み込んで、多少の妥協を余儀なくされた返答へと変更せざるを得なくさせられてしまったていた・・・・・・。

 

 おそらく生来のものなのだろう、敵であっても技術者の先達に対しては敬意を払う節度は、人としても技術者としても賞賛に値するものだと理解してはいるのだが・・・・・・正直この場においては、やりづらい相手だったというのが素直な俺の心情ではあった。

 

 それは相方であるクリムゾン・プリンスにとっても同様であったらしく、見間違えようのない動揺を視線をさまよわせる仕草から見て取れて、俺の方でも一気にやる気を削がれてしまい、先ほどまでする予定でいた挑発合戦は中途半端な心地のままお流れになる・・・。

 

 

 ――自分でも違和感があるため忘れがちではあるのだが・・・・・・俺が公的に与えられている『日本で初めて新設された魔法工学科初の主席入学者兼代表』という地位身分は社会的に決して低いものではないのが、今の俺の公的な立場だった。

 

 極論してしまえば、『カーディナル・ジョージ』というのは魔法式の原理理論研究者たちから将来を期待されている彼に与えられた『名声』だ。

 未来はともかく現時点で、彼の公的身分や社会的に保証されている権限や後ろ盾はない。

 

 対して俺の方は、『“国立”魔法科第一高校』に『政府方針を変換した結果として新設が決定された』魔工科の初代代表という公的な地位身分を、既に与えられてしまった後の状態にある。

 

 超簡易魔法式の世界的普及によって、武力衝突より経済戦争へとリソースを多く割くようになった現在の世界情勢下で、今の地位を与えられている俺は少なくとも、魔法技術分野で成功を目指している学生にとって、プライベートな場だからと無礼講で接するには敷居が高過ぎる立場になっている事実は認めざるを得ない・・・。

 

 

 

 ―――尚、今この場には全く関係のない細やかな余談でしかないことではあるが。

 原理論に限らず魔法式の研究者たちにとって、《カーディナル・ジョージ》以上に注目され、世紀の天才ともてはやされている存在の名は、『超簡易魔法式を造り出して魔法式の歴史を変えた天才』と称されてまでいる魔法技術者『ルイ』なのだが・・・・・・。

 

 その事実と、俺が目の前に立つ二人の天才たちと、現在の自分の立場との違いを失念していたことは全く関係はない。ただ一時的に失念していただけだということを確信している。

 

 

「・・・・・・深雪、もう少し時間がかかりそうだ。先に準備しておいで」

「分かりました、お兄様。――フフッ♪」

 

 カーディナル・ジョージの思わぬ対応によって、完全に予定と想定を狂わされたらしい一条将輝と俺自身とは、互いに言葉を探し合った末に適当なものが見つからず、とりあえず当たり障りのないところで常識的な対応として深雪を先に控え室へ行くよう促したのだったが――当の深雪自身は俺からの言葉に返事をした後、心から嬉しそうな笑顔を浮かべて足取り軽く控え室の中へと入っていった。

 

 ・・・・・・おそらく俺が、名高きカーディナル・ジョージから魔法工学科初の代表として、偉人扱いされたのが嬉しかったんだろう・・・・・・。

 

「――ドキッ☆」

 

 そして、花の妖精のように可憐な笑みを咲き誇らせながら、春の野を駆けるような足取りで控え室へと入っていった深雪の笑顔を、クリムゾン・プリンスこと一条将輝は間近で目撃してしまい、擬音のような言葉を声に出して発して深雪の背中を目で追おうとしてしまった自分自身の未練を振り切り、動揺を隠しきれないまでも視線だけでも戻そうとして。

 

 ・・・・・・完全に失敗してしまっていた。

 その姿は既に挙動不審としか言えない域に達してしまっており、仮にも十氏族の御曹司が人前で見せた仕草としては具体的に描写したくないと俺にさえ思わせられてしまうほど・・・・・・これは少し以上に酷すぎる・・・。

 

「・・・・・・『プリンス』、そっちもそろそろ試合じゃないのか?」

 

 もはやここまで来ると、やる気を削がれるとか呆れるどころの話ではなく、馬鹿馬鹿しさが湧き上がってくる程になってしまっていたため、この場はとっとと終わらせたくなってしまった俺は、敢えてぶっきらぼうな口調で事実だけを指摘してやった。

 

「僕たちは明日のモノリス・コードに出場する予定でいます。

 司波達也さん、あなたが担当する選手の中に参加予定の方はおられるのでしょうか?

 差し支えなければ、お教えいただきたい」

 

 そして一条将輝とは逆に、吉祥寺真紅朗の方はブレることなく、礼儀正しく挑戦的に俺に向かって最後の問いを投げかけてきていた。

 あの深雪の笑顔を直視させられながら、一切揺らぐことなく節度と礼節を保ったまま技術者らしい対応を維持できるあたり、もしかしたら一条将輝を超えるレベルで凄まじい精神力の持ち主なのかも知れないな・・・・・・。

 

 まぁ、そもそも場の雰囲気を激変させてしまった原因となったのも、彼のこの態度から始まってはいるのだが。

 学校から与えられている役職的には一般生徒が、他校の代表の一人に対して礼儀を守って質問してきているのを、目上の地位に立ってしまっている俺の方だけがおざなりに返すわけにもいかない。

 面倒ではあったし、必要以上に過剰な形式的儀礼にもなりすぎているとも思うのだが・・・・・・社会的立場を悪用した特権乱用と受け取られるのも面倒ではある。

 

 仕方ないかと思い、教えてしまって差し障りがない範囲で伝える情報を予定より多めにしてやるか。そう考えた俺は口を開くと、

 

「そっちは担当しない」

 

 と返答し。

 続けて、「俺が担当する残る競技はミラージパッドだけだ」と補足して付け足そうとしていた。その時だった。

 

 ここまで混沌とした状況を、更に悪化しかしそうにない奴の声が聞こえてしまったのは・・・!!

 

 

 

「・・・・・・あ、達也さんい、た。リーナが“しーえーでぃー”を好きに改造させちゃ、っていいのか聞いてくるよう言われ、たから探してた、の。

 しーえーでぃーに何かするときに、は達也さんに確認するよう言われてたか――」

 

 

 

 突然、俺の背後の廊下の奥からトテトテと、独特の走り方で近づいてきながら声をかけてきた俺の、もう一人の妹分のような幼馴染みから、なにかまたリーナが無茶しようとしている事はわかり、振り返ろうとしたその直後のことだった。

 

 

「あっ!? あの時のバカな女の子ッ!?」

 

 

「ふっ、ふぇッ!?」

 

 

 今し方まで、沈着冷静に敵対する者同士でも表面的儀礼を守り合っていた吉祥寺真紅朗が突然に大声を上げ、雫の顔を指さしながら驚愕の表情に顔を歪めさせたのは。

 カーディナル・ジョージに指を突きつけられながら、驚愕の表情を浮かべられつつ、大声を出して自分のことを罵倒してきた相手の顔を見返しながら―――涙目になって救いを求めるようにキョロキョロ辺りを見渡すだけだった・・・。

 

 そして恐る恐ると言った体で、カーディナル・ジョージに涙の堪った相貌を向けさせる。

 ・・・・・・おそらくは、大声を出されたから怖かったから泣いているだけなんだろう・・・。

 

 コイツの心臓は生命力こそ強くて頑健だが、防御力や吸収性・柔軟性といった分野ではノミよりも尚弱すぎる奴だからな。

 なぜ大声を出されたのか分からなくとも、とりあえず近くで大声を出されたら泣き出すだろう。遺憾ながら雫との付き合いがそれなりには長い俺には、よく分かる。

 だが、それは無論のこと誰にでも分かるというものでもない。

 

 

「わ、私、はバカじゃない、よ・・・・・・? バカじゃない、もん・・・・・・。

 バカじゃな、い・・・バカじゃないはずだ、もん・・・・・・(グスッ、えぐ・・・っ)」

「あ、いや、えっとその・・・・・・すまない。別に君のことを罵倒したわけではなかったんだ。

 ただ似ている子に見覚えがあったから驚いてしまって。別人だったと今話して気づいてるんだ、許してくれると有り難い」

 

 そして、取り繕った感はあったものの前言を撤回して、印象緩和の理由説明を始める彼。

 ・・・・・・おそらく、自分の罵倒で泣かせてしまったと解釈したのだろう。

 

 女の子を泣かせる言葉を言ってしまったと思ったのか、見間違えようのない動揺を瞳にも視線にも宿していた彼は、

 

「ああ、その・・・えっとぉ・・・・・・そ、そうです! 司波達也さん、いずれあなたの選手と戦ってみたいものですね。

 無論、勝つのは僕たちですけど、あなたが試合を担当しない以上は絵に描いた餅にしかなれませんし、僕たちはここらで試合に向かおうと思います。時間を取らせて済みませんでした、次を楽しみにしています。では」

 

 そう早口で言って、一条将輝を引っ張るようにしながら足早に場を去って行くカーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅朗。

 

 

 

「?? 達也さ、ん。あの人たちと何のお話してるところだった、の・・・?」

「・・・・・・分からん」

 

 頭上に疑問符を浮かべている幻覚がハッキリと見える雫からの疑問に対して俺は、一応は説明のために頭をひねって考えて、始まりから今に至るまでの流れを総括しつつ。出した答えがそれだった。

 

 最初は偵察かと思っていたのだが、途中から意味のない話題の方が数の上で多数派を占めるようになり、最後の辺りは意味不明になりかけていたからな・・・。

 一条将輝に至っては、ただ深雪に自己紹介と笑顔を見に来ただけだったと言われても納得してしまいそうなレベルで、何をしに来た訳でもなかったし・・・・・・本当にサッパリ目的が分からん連中だった。

 

「・・・・・・まぁいい。大した話をした訳でもない以上は、そう大した目的で会いに来た訳ではなかったと言うことなのだろう。

 ところで雫、なにか俺に用があるようだったがリーナのCADがどうかしたのか?」

「あ、うん。なんだか、ね。リーナがこの前使ったの、をスペック下げていいから同じの使えるようにしてって言われたか、らしてあげたんだけど良かったかな、って達也さんに確認しに来―――な、なに? なん、で怒ってる、の・・・?

 私ちゃんと聞きに来た、よ? “変えるときは確認しに来い”って言われたの覚えてた、から確認しに来たのに、なん・・・・・・っ!?(ガクガク、ブルブル、びくんびくん・・・)」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・結局、彼女は何をしに来ていたのだと思う? ジョージ」

 

 俺は深雪さんが入っていった更衣室から遠ざかり、未練を感じなくもなかったものの今重要視すべきは別にあるのだと自分自身へと言い聞かせ、先程の一幕について信頼する相方の親友へと尋ねていた。

 

「――策略、だと思うよ。そうじゃなければ意味がない」

 

 そして、首をかしげて悩むような素振りすら見せることなく簡明に、意味ありげな笑顔の中に挑戦的な気配を宿しながら親友は即答し、その応えに俺もまた納得する。

 

 やはりか、と。

 

「彼女は、クドウ選手が十七夜と戦ったときに、固定概念を植え付けるための役割を与えられていた子と同じ生徒だった。

 そして彼女がクドウ選手を担当していたのはスピード・シューティングであって、モノリス・コードの試合前にこんな場所へ来る理由はなにもない。

 何かの策を弄するためのエキストラとして司波達也自身が呼んでおいて、偶然を装って出てこさせたと考える方が自然というもの・・・・・・待てよ」

 

 相手の仕掛けてきた策を見破ろうと、いつもの冴え渡る頭脳をフル回転させ始めた親友の横顔を頼もしく感じながら眺めていた俺の前で、だがジョージは急に表情を強張らせ、何かを畏怖するように恐れおののき

 

「今回のコレが司波達也の策略で、あの子が彼が情報戦を仕掛けるための役割を幾度も任せている人物なのだとしたら・・・・・・十七夜さんの試合でクドウ選手が仕掛けてきた戦法も、彼が考案して授けていた可能性が高いということにもなる・・・!!」

「!! あの軍人じみた策略の黒幕は、あの司波達也だったのか!? やはり・・・仮にも深雪さ――コホン。司波さんの兄である以上は凡人であるはずもないと思っていたが・・・それにしても悪辣な!」

「それだけじゃないよ、将輝。本来なら、こんな役割を彼女みたいな―――言っては悪いけれど機転の利くタイプとは思えない人材に任せようとは思わないし、なにより意味が薄くなる。

 それが分かり切っている子を、わざわざ使ってきたと言うことは・・・・・・」

 

 その言葉で俺は、ジョージが戦慄させられた顔を浮かべたわけを知る。

 なんと言うことだ・・・・・・策略だなどと思っていたが、とんだ誤りだった。これはそんなレベルのものじゃない。

 奴は・・・司波達也は、そんな小狡い手段で俺たちを倒そうと考えるほど甘い男では全くなかったと言うことか!!

 

「宣戦布告、だったと言うことなのか・・・・・・」

「・・・・・・信じられないほど、念入りに前振りを仕込んできている。

 わざとヒントを随所随所に散らばらせて、止めとして僕たち二人の前に場違いな少女を晒して見せて、気づけるか否かを試してきたんだ。

 “この程度も看破できなければ、自分の相手には役不足だ”と」

「くっ! なんて横柄な挑戦の仕方を・・・! やはり日本初の魔法工学科代表の名は、伊達ではなかったと言うことか!

 ・・・・・・しかし、ここまで挑戦的なことを仕掛けてきたなら、ただ自分が担当する選手をぶつけてくるだけとは思えないが・・・・・・まさかっ。まさか奴は!?」

 

 その結論に至った俺は相方を見下ろして、相手もまた俺を見上げていた瞳と視線が交わり合い、同じ答えを相手も共有していることを俺たちは互いに正しく理解した。

 

 

「あのとき彼は僕たちに向かって、こう言っていた。

 そっちは“担当しない”――と。

 あの言葉が文字通り、システムエンジニアとして選手たちの“担当はしない”という意味だったとしたら・・・・・・全ての辻褄は合うことになる・・・!」

 

 

 司波達也・・・・・・なんと恐ろしい男。

 奴は初出場の新人でしかない身でありながら、九校戦始まって以来の天才技術者として名を残すだけでなく・・・・・・俺とジョージを相手に魔法師として直接戦って、モノリス・コードでも初出場初優勝の栄光を勝ち取ろうとしている!!

 

 なんという・・・・・・壮大な野心!! その野望は俺が必ず打ち砕いてみせる! 

 

 ――そして出来れば、天才の兄と互角に戦って勝った男として深雪さんにも覚えてもらいた・・・・・・いや、あくまで出来たらの話でいいんだけどな!!

 

 

 

 

 

 

 そして、それら悲喜こもごもの色々あった末の結果として。

 

 

 

「も、森崎・・・無理だ。不可能だよ・・・・・・。

 クドウさんと司波さんが、あんな大魔法をぶつけ合う女子ピラーズ・ブレイク見せられた後で俺たちの試合も見にきた観客たちから、比較された目で見下されながら全力で試合できるほど、俺たちの心は強くないんだよ!? 分かってくれよ!!」

 

 

「諦めるな! まだ勝負は決まってない!  明日のモノリス・コードでは絶対に俺たちが優勝するんだ!!

 女子ブルームだけじゃなく俺たち男子ブルームも、ウィードより上だってことを証明してやるためにぃぃぃぃッッ!!!」

 

 

 

つづく



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37話「北山雫は乙女たちの戦いを、見学したかった」

久々の更新。久々故のハッチャケ過ぎたと反省しております…。
最初は冷静だったけど、途中から感情が抑えられなくて勢いのままに……次話までには冷静さを取り戻しておきます。


 九校戦六日目にして新人戦の三日目、午前の競技が終わった俺たち第一高校の天幕では、深雪、リーナ、エイミィたち女子ピラーズ・ブレイクの三選手と、その担当エンジニアである俺――そして雫の五人がホテルのミーティングルームに呼ばれていなくなり、七草真由美生徒会長の前に整列させられていた。

 

 俺たちがいなくなった本部天幕では、今ごろ完全なお祭り騒ぎ状態になっていることだろう。

 別に俺たちが嫌われているから、という意味ではなく、単に午前の試合結果が良すぎたというのが、その理由だ。

 

 新人戦女子ピラーズ・ブレイク三回戦三試合、全勝。午後の決勝リーグを前にして第一高校の選手だけで出場選手枠すべてを独占するという快挙が、今の時点ですでに確定したわけである。

 しかもバトル・ボードの方でも、ほのかを始めとして選手全員が決勝に進んでいるらしく、大会初参加の新人たちの成果としては快進撃という言葉すら生温いのではないかと、俺でさえ思わざるをえない出来過ぎの状況なのである。

 これでお祭り騒ぎくらいのテンションになれないのは、逆方向の問題が人格面にある可能性を疑うべきレベルかもしれない。

 ・・・・・・たとえば俺自身が実母にかけられた魔法のように。

 

 

「時間的に余裕があるわけじゃありませんから、手短に言いますね。

 皆さんの活躍のおかげで、新人戦女子ピラーズ・ブレイクの決勝リーグを、我が第一高校の出場選手が独占することになりました。これは九校戦はじまってより初の快挙です。

 司波さん、クドウさん、明智さん。本当によくやってくれました」

 

 室内で俺たちを一人だけで待っていた七草会長から賞賛され、賛辞を送られた三人は礼儀作法として三者三様にお辞儀を返す。

 丁寧に、慌てながら、そして――

 

「まっ、ワタシが参加した以上は、これぐらい当然の結果ですけど~。そんな改まってお礼を言われるほど大したことはしていませんわ、オホホホ~~♪♪」

『『『・・・・・・』』』

 

 ・・・・・・一人だけ偉そうな態度で踏ん反り返って、自尊心を大いに満たして満悦といった表情を浮かべながら、謙虚さが必ずしも美徳でない国出身者が高笑いで返礼していた。

 それが誰のことかは、今さら名をあげるまでもないので、本人の名誉と旧母国との外交関係も加味して、心の中だけでも敢えて伏せさせていただく事にしておこう。

 

 もっとも、良すぎる女子選手陣の結果に反比例して、男子選手陣は惨憺たる状態を呈しており、結果的にそれが他校にも勝てる可能性を残して気合いを出させる要因にも繋がっていたのだが・・・・・・それで男子選手たちの意欲とテンションが上がる理由になるというものでもない。

 

 

 ――尚、補足にもなり得ない余談程度の些事でしかない情報ではあったものの、この場に呼ばれている最後の一人が先の会長の言葉を聞かされたときの反応はと言うと。

 

 

「・・・・・・・・・ぼ、~~・・・・・・(´д`)」

 

 

 ・・・・・・完全に他人事という体で、どこか遠くを見つめたまま一切耳に入っている様には思えなかった・・・。

 まぁ確かに他人事ではあり、リーナに指名されたから特別に彼女専用のエンジニアを許可されていたというだけで今この場に呼ばれている。

 それだけに過ぎない存在ではあるのだが・・・・・・この結果に貢献した内訳と経緯を思い出せば、どうにも納得し切れないものを感じてしまう気がするのは、俺も調整要員とはいえ一応は男子選手の一人だからと言うことなのかもしれん・・・。

 

「え~と・・・・・・コホン。この初の快挙に対して、大会委員から提案がありました。

 決勝リーグの順位にかかわらず、学校に与えられるポイントの合計は同じになりますから、決勝リーグを行わず、三人を同列優勝としてはどうか、という提案です」

 

 会長から伝聞形式で大会委員からの提案を告げられた三人が顔を見合わせるのを見て、俺はつい唇が皮肉な形に歪んでしまうのを自覚させられた。

 会長から伝えられた理由も嘘ではないだろうが、建前という部分が強すぎる提案なのは明白な内容だったからだ。

 

 ・・・なにしろ、スピード・シューティングでもバトル・ボードでも女子選手陣は同じ結果を出している状況なのだからな・・・。

 初の快挙が一度の大会で三度も続いた後に、可能性だけなら明日のミラージ・バットでも同じことが無いとは言い切れなくなってから、女子競技の中では二番目に目立つ種目のみに言い出された提案として聞かされれば、俺でなくとも大会委員会の本音と建前が違っていることに気づかざるを得ないだろうな・・・。

 

「もちろん大会委員会からの提案を受けるかどうかは、皆さんの意思に任せるとのことですが、あまり考える時間はあげられないとの事です。今この場で決めてくれるように、と」

 

 会長からの言葉が、微妙に後ろめたさが混じっているのも、おそらく大会委員会の思惑が分かった上で、チームリーダーとしての立場から便乗せざるを得ない自分自身に多少の狡さを感じているからなのだろう。

 

 まぁ、大会委員会の気持ちも分からんではない。

 ただでさえ深雪とリーナの魔法によって、入場者数は大幅に増加していることだろうし、開催前に立案していた会場管理計画と人員配備はものの役に立たなくなっていることだろう。

 両方ともに抜本的な見直しと、規模を拡大させての再計算が必要だ。増えた客入りを捌くため人手が足りなくなっているだろう状況下で、これ以上の面倒ごとは起こして欲しくないと、美談で取り繕って厄介払いしてしまおう。・・・・・・というのが大会運営委員会の思惑だと推測される。

 楽をしたがっていると言えば、その通りだろうが――彼らの負担を増大させる一翼を担った者たちの縁者としては多少の罪悪感も禁じ得ないものもなくはない。

 

 第三者視点として会長から意見を求められた際、俺がこう答えたのも、そういう事情が関係したものではあった。

 

「達也くん、貴方の意見はどうかしら? 三人が戦うとなれば、貴方もやりにくいと思うのだけど」

「正直に言いますと、明智さんはこれ以上の試合を避けた方が良いコンディションでしょうね。三回戦は激闘でしたし、あと1時間や2時間程度で回復できるとは思えません」

 

 三人全員が決勝リーグへの参加は不可能だと暗に告げることで、彼女に花を持たせてやろうという意識が芽生えるよう促させるのに都合がいい正しい情報だけを取捨選択して回答に用いての答礼。

 それを聞いて、僅かながら安堵した表情を浮かべ直して、期待を視線に宿し始める会長のわかりやすい表情変化を見物しながら、俺は内心で肩を竦めておく。

 

 チームリーダーとしては全員が同率優勝というのは、最も無難で角が立ちづらい落とし所だと思える結末なのだろう、確かに。

 順位をつけず、参加した意思を評価して選手全員を賞賛するというのは、旧世紀の21世紀初め頃から続く日本の学校の伝統的風習らしいが、俺には合理性に欠けているように思えてならず、心からの賛同はしかねてもいる。

 

 順位をつけられることは、競争から脱落した者にとっては意欲を削がれる行為だとする理屈は分かる話ではあるが、競争に勝ち残れた者たちが敗れた者たちと同列に扱うというのも勝者側から意欲を奪うことに繋がる行為でもある。

 一長一短があることは認めるが、成功しようと努力して報われなかった者たちの不満を和らげるため、成功するために努力して報われた者たちにも小さな不満を抱かせるというのでは、誰の得にもならず全員が損をするだけでしかない。

 

 それに、公式な順位は同列であろうとも、実力差は厳然として存在している関係性では結局、不満の先送りにしかなれない可能性は高い。

 俺個人としては、あまり慮る必要性を感じさせられない方法論であり方針ではあったのだが・・・・・・とは言え。

 

「――ですが、それは明智さんの対戦した相手選手が恐るべき強敵だったからこそのものです。

 三回戦の相手だった三校の十七夜選手は、深雪とクドウを除けばピラーズ・ブレイクに参加した全選手の中でも、間違いなく最強だった人物でしょう。

 実力で明智さんが他の二人に及ばないのは、失礼ながら事実と思われますが、試合内容は決して劣るものではなかったと断言できます。

 若輩ながら魔法工学科の代表という地位に就いた者としては、明智さんの健闘が決勝リーグ唯一の棄権として、二人に劣っているように思われてしまうが如き誤解は避けるべきかと愚考します」

 

 ――会長や大会委員会の思惑に慮る必要は感じないとしても、俺個人に思惑がないということを意味する訳ではなく、目的が同じでなくとも求める結果が相手の思惑に含まれている場合には、利害が一致する限りにおいて真相の一部を語ることなく便乗するというのも、社会で生きていくための処世術の一つであるのも、また事実。

 

 だから俺は会長からの問いかけに答えた直後に、そう付け足しておくことにした。

 別に嘘を吐いたという訳でもなし、問われた質問に対する回答を“一言一句すべて正確に答えなかったこと”は地位立場に基づく社交術であって、嘘を吐いたという事には当たらない。

 詭弁じみていることは重々自覚しているが・・・・・・そうでも言って制止しなければならん事情が、今の俺にはあるのだから・・・・・・。

 

「達也くん・・・! 言わなくても私の想いを分かってくれて・・・!」

「し、司波くん・・・・・・私のことコンディション以外も、色々分かってくれてるんだ・・・(モジモジ・・・)」

「――む」

「・・・・・・お兄様・・・」

「・・・・・・ぼ~~、~・・・(ポ~~~)」

 

 ・・・・・・もっとも、その対応をどう解釈されたものか周囲から妙な視線が集中されて、不思議と居心地が悪いことは悪くなっていたのだがな。

 特に妹からのものと、そのライバルからのものが最も痛いことに関しては、問いかけてきた訳でもない立場として思うところがないわけではなかったが・・・・・・余談である。余談でしかない。そう在るべきのはずだ・・・!

 

「あ、あの~、実は私さっきから体調悪くなってまして。

 今のお話を伺う前から、棄権でも構わないと思ってたんですけど、司波くんに相談してから決めようってしてたんですが・・・・・・。

 私よりも私自身のコンディションを分かってくれてる司波くんが、そう考えてくれていたなら、私はもういいかなって・・・・・・(もじもじ・・・ポッ♡)」

「・・・・・・む~~」

「・・・・・・・・・お兄様・・・」

「・・・・・・・・・・・・ぼ~~、~・・・あ、チョウチョの、絵・・・・・・(ポ~~~)」

 

 エイミィが、目をそわそわと泳がせ始めながら俺の提案に乗って棄権を受け入れ、残る票と参戦可能選手は二人だけ。

 さっきまでは少し後ろめたい口調で会長からの提案に口ごもりながら返事をしようとしていたのだが、どうやら実力的に自分の力では深雪にもリーナにも勝ち目がないことを弁えていながら提案に乗ることで同列一位になることに狡さを感じていたことが、落ち着きのない態度の主な理由だったらしい。

 

 無論、彼女も人間である以上は、3位で十分と思っていたところに同率であっても優勝扱いになれると聞かされて欲が出たという部分も0ではなかったとは思われるが・・・・・・彼女の試合練習につき合い続け、先ほどの三回戦の試合内容を見た限りにおいて、エイミィは『無意識に力を押さえてしまっている自分』に狡さと『罪悪感』を感じている部分を強く持っている女の子だ。

 

 そんな彼女にとって、今回の提案に乗ることは『安全な勝ち方』を選んでるようで後ろめたさを覚えてしまい、といって戦える状態ではない自分のコンディションも流石に理解しているため、結果は最初から決まっているせいで余計に罪悪感を強めてしまっていた。・・・そんなところか。

 

「・・・・・・もじもじ(ポッ///)」

「・・・・・・むぅ~~~・・・」

「・・・・・・お兄さ、ま・・・」

「・・・・・・ぼ~~~~~~、~~~~・・・・・・、・・・」

 

 ――そんなところだと、俺はエイミィを信じている。

 だから二人とも、いい加減に俺を見ることはやめて七草会長を見るんだ。

 思考時間は長くとも実時間は余り経過してないとは言え、余裕があるわけではないと言われている事だし、なにか会長から追加で言うことがあるようだからっ。

 

「そうですか♪ そうですよね~☆ そんなにフラフラなんですから当然ですよね分かります! だから受理します♡

 と言うわけで、明智さんと達也くんはこう言っていますが、もう一人のエンジニアの北山さんは――」

「イヤです」

「ぴ、い・・・っ!?」

 

 労りの他に別の感情も込められた微笑みでエイミィの言葉に頷いて、次の賛成票を確保しようと雫の方へと向けて声をかけた直後。

 

 ・・・・・・割って入ってきたリーナの冷たい拒絶の一言に両断され、その拒絶に恐怖して部屋の隅まで逃げ出していく。

 

「・・・あ、あう、あう・・・・・・り、リーナ怖、こ、わ・・・っ・・・(ガクガクブルブル、えっぐえっぐ・・・)」

 

 ――声をかけられて遮られて最後まで聞けなかった雫が。

 雫だけが、部屋の隅まで逃げていって何かに祈りを捧げるようなポーズで、命乞いのような言葉を発する醜態を晒してしまっていた・・・・・・。

 

 俺が呼んだわけではなく、本来は呼ぶ必要のない、選手個人の意思がゴリ押しされた結果でしかない存在なのだから、呼び出した会長のせいですらないと分かり切ってはいるのだが・・・・・・それでも思わずにはいられない。

 

 ・・・・・・何故コイツを、この場に参加するよう呼び出してしまったのだろうか・・・・・・と。

 

「生徒会長。ミユキとの決勝リーグは、ワタシ一人だけでもお任せいただけませんかしら?」

「クドウさん? あなた突然、何を・・・」

「ミユキ、フェアに勝負と行きましょう。この先、貴女ほどの魔法師がワタシと本気で競うことのできる機会なんて、この先何回あるか分からないわよ?

 貴女も、このチャンスを逃したくはないはず・・・・・・違うかしら?」

 

 ぴくっ、と深雪の美麗な表情と眉が僅かに上下動する動きを、俺はつい何時もの癖で見ていてしまい、内心で激しく後悔させられることになる。

 

 これだ・・・・・・こうなるのは避けられなくなると分かり切っていたからこそ、俺は会長を介して伝えられた大会委員会からの提案に便乗せざるを得なかったんだ・・・。

 理想的な深窓の令嬢に見えて、実は極めて気が強く、俺を含めた特定の相手以外に対しては負けず嫌いなのが、深雪が持つ性格の知られにくい側面だった。

 

 もしコレで対戦相手が、エイミィやほのか――もしくは有り得ないことながらも、雫と優勝を競い合うというのであるなら、深雪はまだしも精神的に余裕を保ち、『相手の意気に応える』という形で勝負に応じることが可能だったろう。

 

 だが元USNAのスターズ総隊長にして、十三使徒の一人でもあるリーナは、実力的に深雪に近すぎてしまい、互角のライバルたり得る存在となってしまっている少女だった。

 

 対等なのである。自分の方が手加減する必要はなく、相手もまた深雪に「勝てる」という前提で上から目線で接してきても不遜とは感じさせない、最強に近い少女同士の競い合い。

 

 その関係を要約するなら、雫の母親であり振動系魔法で名を馳せていたAランク魔法師でもある、そして結構な毒舌家でもあった北山紅音夫人から教えられた言葉を使って、おそらくこう表現するのが適切なのだろう。

 

 

『意地の張り合い』

 

 

 ―――と。

 

 

「・・・会長。私は、“リーナが”私との試合を望むのであれば、私の方にそれをお断りする理由はありません」

「そんなに気を張る必要はないわよ、ミユキ。ちゃんとルールは守ってあげるから。

 もっとも、“貴女が”アケチさんとも勝利の栄光を分かち合うため、棄権したいって言うんだったら、ワタシの方は応じてあげてもいいんだけど~?」

「(ピクッ)・・・今の私の立場では、その言葉を信じろというのは無理ねリーナ。

 だって、“貴女が”私と戦いたがっているのだもの。このまま議論し続けたところで、リーナは意固地になって口で認めようとはしないだろうと思うけれど」

「(ぴくぴくっ)――そこはせめて『意地』と言うべきねミユキ。“貴女が”ワタシに挑戦したがって挑発しているのがバレバレになるだけだから」

 

「・・・・・・(にっこり♪)」

「・・・・・・(ニコ~リ♪)」

 

 

 

 ――――ゴォォォォォォォッ!!!!

 

 

「あ、つッ!? 熱い、よ深雪!? あとリーナ、も・・・! 熱っ!? 冷た、い・・・!? 熱冷た、いぃ~~~ッ!?」

 

 

 ・・・・・・そして、ぶつかり合うことを互いが互いに対して確定させ合っていく流れしか造ることができなくなる、二人の美しすぎる最強少女たち・・・。

 なんと言うべきなのか・・・・・・リーナのせいにすべきではないのかもしれなかったが・・・・・・深雪も変わったものである。

 

 それにしても全く・・・・・・どうしてリーナも、こんな無意味な勝負にこだわりたがるのか・・・・・・。

 深雪と戦ったところで勝敗など、考えるまでもなく明らかなのは分かり切っているだろうに・・・・・・俺としては疑問に思えて仕方がない、女心とやらが持つ非合理的な思考の一端だ。

 

 リーナが公式の試合で深雪と戦っ場合、決して彼女は勝つことができないからだ。

 たとえそれが、互いを傷つけ合わないだけで実践形式に近い魔法が放たれ合うピラーズ・ブレイクであっても結果は戦う前から確定している。

 他の者なら別として、深雪にだけは敗北は揺るがしようがない。負けると決まっている理由をリーナは持っているのだから。

 

 何故なら彼女は、元スターズの総隊長だからである。

 USNAの切り札とも呼ぶべき存在だった少女なのだ。そんな人物が今、日本の魔法科高校生として過ごすことが許されている。

 

 そんな超簡易魔法式が席巻する前の世界では、有り得なかったほどの現象を可能にしているのは、彼女が日本に亡命した際に遠縁として頼った『九島烈』の、二十年前まで世界最強の魔法師の一人と目されていた「老師」とも称されている日本政界・陰の大物の養子となったからこそのもの。

 

 即ち、九島閣下の私兵として、個人的な戦力になるという契約の元、自由と権利を保障してもらった存在が、今のリーナが置かれた立場なのである。

 

 閣下の私兵としての立場がある以上、切り札となりえる魔法が使用可能であることを衆目の前で晒せるわけがあるまい。閣下もまた、手札を軽々しく晒すことを許可するはずもない。

 対して深雪の方はと言えば、高校卒業と同時におそらく十師族の一家である《四葉》の次期当主の後継者として世間的にもお披露目されるだろうことが、ほぼ確定している現状にある。

 全力を出すにはセーフティーが掛かっているものの、今までよりは魔法の使用を制限される縛りは撤廃に近いレベルまで緩和されたと言っていい。

 

 

 必然的にリーナは、通常レベルの魔法と、通常基準のCADのみを使って深雪の相手をせねばならなくなり、全力で戦い合えれるなら勝敗は分からなくなる二人の対決も、制限の多さでリーナが敗れ、深雪に軍配が上がることは、ほぼ確実なのだ。

 

 ・・・・・・だと言うのに、何故ここまで拘る気になるのか・・・・・・。

 精神の一部を消されてしまっている俺には、永遠に分かりそうもない感情の問題であり、仮に分かることができたとしても余り分かりたいと思うことが出来そうにもない。そんな特殊すぎる感情の一つがコレか。《意地の張り合い》という奴なのか・・・。

 

 

 

 

「リーナ・・・! 覚えておきなさい、わたしはお兄様の名誉を傷つけようとする者を決して許さない!

 例えそれが口先だけのものだったとしても、貴女には私の手で、その罪を思い知らせてあげるから・・・!!」

 

「上等よミユキッ!! このHENTAI超絶ブラザーコンプレックス娘!!

 貴女が普段から犯してる、性倫理的に許されないものばっかりなブラコン性癖の罪の重さを、ワタシがGuiltyしてあげるわッ!!」

 

 

 

 ・・・・・・そういうやり取りを経て行われた新人戦・女子ピラーズ・ブレイク決勝戦を見物に来ていた観客の一人は、こう呟いたという――。

 

 

「・・・・・・おい。どこの魔界なんだ、ここは・・・・・・。

 九校戦の会場ってのは、ハルマゲドンの戦場の別名だったのか・・・・・・?」

 

 

 

 ―――と。

 そして、九校戦の歴史に名を残す一戦でありながら、誰もが試合内容について頑なに口を閉ざすようになる伝説の試合が終わった後。

 その結果として。

 

 

 

「あー、もー! 悔しい! 悔しい悔しい超悔しいわ! 負けると自分でも分かってる勝負だったけど、やっぱりミユキに負けると悔しいのよ!! 超悔しいのよ!んもー!もー!

 こうなったら、シズクー! シズクこっち来なさい! ワタシの前で、お尻出しなさい! そしてワタシにお尻叩かれなさい!! 上官が負けたからお仕置き罪でお尻ペンペンの刑よッ!!」

 

「なん、で・・・!? それにそんな罪、知らな・・・・・・ひ、ぎぃぃッ!?」

 

「いいのよ! シズクのお尻を叩かないと落ち着かないから、お尻ペンペンするだけなんだからッ!! シズクはワタシ専用のストレス発散お仕置きされる係なの!! それでいーの!!」

「理不尽過ぎ、るよ・・・・・・っ!? ちょ、ま、流石に恥ずかし、い・・・・・・ひぎ、いィィィッ!?」

 

 

 ペチーン! ペチーン!! ぺんぺんバチ――ッン!!!

 

 

 

 ・・・・・・試合後のティーラウンジで繰り広げられていた、準優勝選手と幼馴染みの少女の恥態を前にして、私は室内に足を踏み入れてすぐに回れ右して、元来た道を引き返すことしかできませんでした・・・・・・ごめん、雫。私には、この状況での救出は無理・・・。

 

                  別の見物客・少女Hちゃんによる証言

 

 

 

 

つづく



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38話「北山雫は魔法科高校の事故でも劣等生」(正規バージョン)

昨日の夜に出してた分に、続きを付け足して1話として完成させた正規版です。
既に出してた分はそのままに、続きの話を繋げただけですので、読み終えてしまってた方には二度手間になってしまうかもしれず申し訳ありません。

例によって例の如く、飛ばしても内容自体に問題はありません。
ただ、雫の出番は増やしておきました。主人公です故に(重要事項)


 大会7日目であり、新人戦としては4日目。

 今日は、九校戦のメイン競技である《モノリス・コード》と、九校戦随一の華やかさを誇る《ミラージ・バット》という二大魔法競技がおこなわれる日である。

 

 ミラージ・バットの方は、カラフルなユニタードに、ひらひらのミニスカートを取り付けて、袖なしジャケットかベストをまとって行われる女子のみを対象とする魔法競技で、コスプレ大会ともファッションショーとも呼べなくもない女子ピラーズ・ブレイクとは一味違った華やかさを持っている。

 

 ・・・・・・もっとも、リーナの活躍によってと言っていいのか、せいでと言うべきなのか、来年以降はどうなるかまでは微妙な気もするが・・・・・・今はとりあえず置いておく。

 

 一方のモノリス・コードは、一つのチームが四試合を行って、勝利数が多い4チームが決勝トーナメントに進出できるという変則リーグ戦を採用している。

 また、直接戦闘が想定される唯一の種目でもあることから、ミラージ・バットとは逆に男子選手のみが参加できる競技と定められている。

 

 要するに、女子選手陣だけを担当する俺や雫にとっては、最も関係のない競技なのがモノリス・コードという訳だ。

 折しも第二試合まで終わった段階で、ほのかと里美スバルという少年めいた容姿をもった二人の女子選手たちが揃って予選を勝ち抜いて勝利を収め。

 本来は参加予定だった深雪も、バトル・ボードの事故で負傷した(公式見解でそういうことになった)渡辺先輩に代わって新人戦から急きょコンバートされた本戦は明後日におこなわれる。

 

 その結果、大会の順位そのものは総合計ポイント数で決められるため完全に無関係ではないものの、少なくとも俺が男子のみ参加のモノリス・コードを見学して明日以降の競技に活かせる当てはなく、それぐらいなら午後7時から行われる決勝戦に備えて神経を休めておいた方がマシだろう。

 

 そう考えた俺はホテルの自室に戻り、ベッドに横たわって目を瞑ると、意馬心猿に意識を委ねる。

 

(・・・・・・三年前に勃発した新ソ連の佐渡侵攻に対して、若干13歳で義勇として防衛戦に参加して、数多くの敵兵を葬った実戦経験済みの魔法師。一条将輝。

 魔法式の原理論方面の研究者なら、知らぬ者はいないと言われるほど注目されている英才。吉祥寺真紅朗・・・・・・か)

 

 肉体的に疲れていたわけではないため、無理に眠ろうとせず適当な思考でリラックスしていたところ、そのテーマとして“彼ら”について考えてしまったのは特に理由はない。

 単に時計を見たら、もうすぐ一高男子にとってモノリス・コードの2試合目が始まるだけが理由だったが・・・・・・印象深い奴らだったからな・・・。

 良くも悪くも、先頃の出会い方が影響していなかった人選とは自分でも言い切れん・・・。

 

(人格面は置いておくとしても、あの二人が魔法科高校の一生徒として同じ学校の同じ学年に在籍しているというのは、相手チームの者からすれば反則級の偶然だろう。

 森崎たちも気の毒なことだが、桐原先輩よりはクジ運的にはマシとも言える。頑張ってもらいたいものだな)

 

 完全に他人事でしかない立場故に、俺はクラブ勧誘での一件から比較的親しくなっていた先輩の男子生徒のことを思い出しつつ、気楽に割り切る。

 

 先に本戦で敗北している桐原先輩は、優勝候補の三校エースと当たって惜敗しており、その際には二回戦目の出来事だったため決勝戦に駒を進めることは、その時点で不可能となっていた。

 彼と比べれば、森崎たちが《クリムゾン・プリンス》たちと当たるのは三試合目。

 またモノリス・コードは変則リーグ戦を採用しているため、敗北=決勝戦進出不可能につながると決まっているわけでもない。そう考えれば大分マシな条件下で戦うことが可能になった恵まれたポジションに彼らはあると言えないこともない。

 

 ――もっとも、だからと言って個人戦闘能力で《一条のプリンス》と力の差が縮まるというものでないのも事実だったが。

 

(救いがあるとすれば、一条家の切り札である『爆裂』は殺傷性Aランクの魔法で、完全にレギュレーションに引っかかるということと、ここまでで最下位の四校が二試合目の相手で取りこぼす恐れはほとんどない・・・・・・この二点ぐらいか)

 

 戦力分析と言うほどの精度はないが、俺は眠気を感じ始めてきた頭の中で相手校と自陣営の戦力とを大まかに見比べて、そういう結論を出すことになる。

 四校は、九校戦がはじまる少し前に俺が指導室へと呼び出されて形式的ながらも転校を勧められた学校だ。

 戦闘向きの魔法より技術的に意義の高い魔法を重視する教育方針を採用している場所なのだと、あの後になってから説明を聞かされている。

 

 無論、技術系重視の学校に通っているからと言って戦闘系の魔法競技に弱いと決まっているわけではないが、現実に最下位という順位になっている現在があるのだから普通に弱いのだろう。

 仮にも三連覇がかかっている第一高校から選手に選ばれて出場している者たちなら、余程のヘマを犯さない限りは消耗することはあっても勝利が揺らぐ可能性はほぼあるまい。

 

「・・・そう言えば、あの件で航くんには手間をかけさせてしまっていたな。わざわざ従兄が通っている四校の情報まで聞いてきてくれたそうだし・・・・・・大会の帰りに、なにか土産物でも買っていってやるとするか――」

 

 雫の弟で、姉に似ず聡明で頭脳面で将来が期待できる、よく出来た賢弟を思い出しつつ、なぜ彼が姉のことを慕っているのか理由が理解できなかった出会いの日のことまで記憶が戻り。

 

 完全に思考が横へとズレてきてしまったことを自覚した俺は、無駄で無意味な抵抗などすることなく、素直に眠気へ体と意識を委ねて眠りに落ち、一時の平穏に心を委ねる。

 

 寝覚めた後、あの恐るべき事件の渦中に巻き込まれる未来を、この時はまだ知るよしもないままに――――

 

 

 

 

 

 

「・・・深雪。いったい何があったんだ・・・?」

「いえあの、その・・・・・・お兄様、えっとぉ・・・・・・」

 

 昼寝を終えて競技エリア内にある第一高校の天幕に入ってきた俺は、明らかに何かが起きたとおぼしき動揺に包まれている皆を見やりながら、駆け寄ってきてくれた深雪に質問してみたが、いまいち分かりにくい反応しか返ってくることはなかった。

 

 各校の天幕が置かれた一帯が動揺に包まれており、パニック一歩手前の空気がエリア全体を覆っている。

 その動揺とパニックの元を生み出しているのは第一高校の天幕であり、当の天幕内に集まっているスタッフたちでさえ、「状況はどうだ・・・!?」「分からん、先ほどから問い合わせているのだが・・・っ」といった声が幾つかの場所から漏れ聞こえてくるほど混乱状態に陥っていた。

 

 

 ――だが、それは別にいい。

 

 いや、良くはなかろうが今すぐ実害があるという類いの問題でもなさそうなので、とりあえずは良いとしておける。直近に差し迫った問題がない限りは、些事と割り切ることすら可能だろう。

 

 何かが確実に起き、それは思った以上に深刻な事態かもしれないと感じさせてくる雰囲気に包まれている第一高校の天幕の中。

 今、俺が最も気にしなければならない問題であり、解決せざるをえない課題があるとするなら、それは――

 

 

 

「・・・・・・・・・ッ!!!(イライライラ、とんとんとん、ファックファックファックッ!!)」

 

「ひぅッ!? こ、怖、こ、わ・・・っ! あう、あ、うぅ、ぅ・・・(ガクガクぶるぶる、ビク、ンビクン)」

 

 

 

 ・・・・・・天幕の中央の席に座って、不機嫌さを隠そうともせず怒りと負のオーラを発散しまくって人差し指で机を高速で叩き続けているリーナと。

 そんなリーナに怯え切って怒気だけで腰を抜かし、彼女の近くで動けなくなっているらしき小動物のような幼馴染みの醜態をどう処理するかという難題から片付けるより他なかったのだから・・・・・・。

 

 明らかに周囲の先輩や同級生らのスタッフたちも、彼女の気配に恐れおののいてしまって、声を上げることすら躊躇っているようにしか見えることが出来ず。

 

「お、おい。状況はどうなっているんだ? 早く運営委員会に問い合わせろよ・・・」

「い、いや、先ほどから問い合わせているのだが、未だ反応がないから仕方なくだな・・・」

 

 と、先ほどから同じような内容のやり取りを延々と繰り返し続けて、「緊急事態に対処中だから自分たちには話しかけずに巻き込むな」と遠回しにアピールしたがっているらしき先輩方の姿には、憤りを通り越して諦観めいたものさえ感じさせられつつある程である。

 

 その先輩方が、俺の方へと何度も振り返るたびに「チラッ、チラッ」と視線を向けてくるのが視界に移るたびに吐息したい心地に誘われてしまう。

 

 その態度は抑制を保とうとはしていたものの、彼らの目は見間違えようもなく「お前いけ」という後輩に押しつける意思にあふれており、もはや怒りすら燃えてくる要素が見つけられん・・・。

 

 天幕の外では、第一高校を中心とする混乱でパニック寸前に陥っている中、第一高校の天幕の中では不機嫌の極にある少女の怒りに巻き込まれるのを恐れて、帯電したかのように静まりかえっているとは・・・・・・本当にいったい何があったんだ? この状況が発生した理由は本当に・・・・・・。

 

「・・・事故かなにかでもあったのか? たとえばリーナがなにかでミスをしたとか」

「はい、あの・・・事故と言いますか・・・・・・いえリーナは関係ない、と先程から言っているのですけど、本人がそのえっと・・・・・・」

「そうですよ、クジョウさん」

 

 そして、戸惑う深雪を背後において二人の間に割り込んでいったのは七草真由美会長だった。

 

「単なる事故とは考えにくい、それは確かですけど、決めつけてはダメ。

 疑心暗鬼は口にする程ますます膨れ上がって、それがいつの間にか一人歩きしてしまうようになるものです。

 また、過剰に自分の責任を感じすぎるのもいけません。“自分がナニカ言ったせいで”といった言葉を口にしていると、本当にそうなれたような気がしてしまって、不安感を膨れ上がらせ、結局は同じになってしまうのですから」

 

 そして上級生らしい正論で優しくたしなめ始める会長。

 こういうことを考えては失礼に当たると分かってはいるのだが、随分と上級生らしく正しい正論を口にするのを聞かされて、「生徒会長は伊達ではなかったのか・・・」と考えさせられてしまう。

 

 そんな俺の内心まで洞察したわけではないのだろうが、会長は「ジロリ」と俺の方に睨むような視線を向けてきて、そして

 

「この件については、達也くんに少し相談したいことがあるのです。

 チョッとだけ一緒に来てほし――」

 

 

「・・・・・・アアアもう! やっぱダメだわ! なんかムカつく!

 別にアタシのせいじゃないって分かってるけど! 別にアタシが焚き付けたからモリモトたちがあーなったなんて事ありえないぐらい承知の上だけど!!

 それでも、こーゆー結果見せられると、なんかムカつくのよ!なんか!!

 あーもう、シズク! ちょっとアタシの膝に乗ってお尻出しなさい!

 悪いことあったから罰としてシズクのお尻をペンペンよッ!!」

 

「だからなん、で・・・!? 私なにも関係な、い・・・! リーナが勝手、に怒ってるだけだ、し、だいた、いモリモトってだ、れ・・・・・・っ!?」

 

「うるさい! いいからシズクは私の上に寝る! お尻を出す! そして叩かれる!!

 とりあえず、そうしていればいいのよ!! なんかそーいうことにしとけばいいの!!

 アタシがイライラで暴走したりとかしないで済むために必要だからペンペ~ン!!」

 

「だか、ら理不、尽・・・・・・ひピィっ!?」

 

 

 ペチーン! ペチーン! ペチーン!!・・・・・・と。

 今日も今日とて第一高校の天幕内で発生してしまった、二人の見た目はいい少女たちによる公開恥態・・・・・・。

 

 もともと心を消されて、流石に慣れてもきていた俺と違い、周囲の男子選手陣たち数名が赤い顔をしてソワソワし始め、女子選手たちも何割かが妙な目つきで二人の姿を盗み見るようになってしまってきたため・・・・・・いい加減、止めに入った方がいい頃合いかと俺も腹をくくらざるを得なくなるしかない。

 

 

「えっと・・・・・・ちょっと達也くんに相談したいことがあったんだけど・・・。

 とりあえずアレ、止めてきてもらえる?」

 

「・・・・・・分かりました、会長。義務として果たしに行くことにします」

 

 

 

 そして結局、何かあったことだけは明らかな状況の中、何があったかの具体的な説明を受けるためにも、まず二人の問題児生徒たちを大人しくさせてからでなければ満足に話も進められない自分の日常に激しい頭痛を感じさせられつつ。

 

 俺はゆっくりと二人に向かって歩を進めていく・・・・・・。

 

 ただ一人を除いて誰からも期待されていなかった時分ならいざ知らず、今の俺には「分解」で解体できない人間関係が多くなりすぎていることを感じさせられながら。

 

 得られたものも膨大だが、その代償として多大な精神的負担を背負わなければならなくなったことは、果たしてプラスであったかマイナスだったのか今となっては分かりようもないままに。

 

 とりあえず、この手の作業は義務と思って機械的に了承し、機械的に処理してしまわなければやってられない事実のみを胸に秘め―――ひとまず俺は今日も、拳を振りかぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――それで、森崎たちモノリス・コード参加選手たちの怪我は、どの程度のものなのですか?」

「・・・・・・今のを流しちゃうんだ・・・私から言えたことじゃないとは思うけど、流石は達也くんよね。そういうところは本当に・・・」

 

 鉄面皮で可愛げのない優秀すぎる後輩から改めて質問されてしまった私、七草真由美は思わず溜息を吐いてしまいそうになる本心を押さえつけて、全力で苦笑するぐらいに留めるよう努力してみる。

 

 私たちの元へ戻ってきた達也くんの背後には、二人の女の子たちが文字通り静かになっちゃっていて。

 

 

「・・・シ、・・・シバ・・・・・・タツ・・・ヤ・・・・・・がくり・・・(ぴく、ぴく・・・)」

「あわ、あわわ、わ、わ・・・・・・(ガクガク、びくびく、ビクンビクン・・・)」

 

 

 その内の一人である雫ちゃんの方は、完全に怯え切っちゃって何も言えない状態になっちゃってるし・・・。

 もう一人のリーナさんは床の上に倒れ伏しながら、ダイイングメッセージっぽいことを口で言っちゃってるし・・・・・・なんでこう、今年の新入生の子たちは「やりにくい」と言うか、癖の強すぎる子たちばかりが集まってるのかしらね・・・? 分からないわ。

 

 自分が頼んだ仕事をやってくれただけなんだし、こういうことを考えちゃうのは多分っていうか確実に失礼になっちゃうんだろうけど・・・・・・。

 “達也くんらしい言い分だなぁ”って思っちゃうのよね、こういう時って何となく。

 なにがどう「達也くん“らしい”」のかは、自分でもよく分かんないんだけれども。

 

「・・・・・・何でしょうか?」

「いえ、先程の会話だけで森崎くんたちが怪我をしたのは分かっちゃうのね、と思っていただけよ?」

「・・・・・・・・・そうですか」

 

 あまり変わらない表情の中で、目だけが少しだけ伺うような色を表した――ようにも見えなくはない達也くんからの再質問に、私は素顔に疲れたような表情の仮面をかぶって、今度は嘘偽りなく溜息を吐いてみせることで演技に信憑性を付与しちゃう。

 

 達也くんって、的確すぎる洞察を示すこと多いから、ときどき油断できないときあるのよね・・・。

 まぁ、私も年齢通りの人生経験送ってきた普通の女の子じゃないから合わせることは出来ないことはないんだけど、正直やりづらいとは思うわ本当に。

 

 まっ、それはそれとして。

 気を落ち着かせて、状況を過不足なく説明するための準備時間も終えたところで。

 

「重傷よ。市街地フィールドの試合だったんだけど、廃ビルの中で『破城槌』を受けて瓦礫の下敷きになっちゃったのよ。

 いくら軍用の防護服を着けていたといっても、分厚いコンクリートの塊が落ちてきたんじゃ気休めにしかならないわ。

 それでもヘルメットと、立会人が咄嗟に加重軽減の魔法を発動してくれたおかげで大事には至らなかったのは不幸中の幸いではあったんでしょうけど・・・・・・三人とも魔法治療を施してさえ全治二週間の大怪我を負わされて、三日間はベッドの上で絶対安静の重傷ね」

「・・・・・・想像していた以上に酷い被害だったようですね」

「ええ。私なんか不謹慎だけど、治療を見てて気持ち悪くなっちゃったぐらい」

 

 茶目っ気を交えた言い方で言ってはみたけれど、やっぱり生徒会長として生徒の中に生じた怪我人に対して、これは問題発言と受け取られちゃってもおかしくない言葉だったらしい。

 達也くんの顔には、明らかに「そう感じさせられた」という感情が浮かんでいて、それを言わないで流してくれるのは彼なりに私の気持ちを慮ってくれてるのか、私から信頼されてることを理解してくれてるのか・・・・・・どちらにしても、ありがたい話なのは間違いない。

 

 他の選手やスタッフたちまで動揺している状況下だと、皆のトップである会長の私まで動揺を示せば誰もストッパーがいなくなってしまってパニックが伝染してしまうのは避けようがない。

 

 だから生徒会長たる者、こういう時には教条的なぐらいに規則遵守で、形式論とかのルール尊重という態度を示さざるを得ない。

 ・・・・・・ただ、逆に言っちゃうと私自身は内心で動揺しても、なかなか表に出し辛くなっちゃってて、今回の場合みたいに第一報から皆が先に混乱し始めちゃうと不安そうにしている余裕すら与えてもらえない。

 

 だから、こういう「弱さ」を見せちゃっても、立場に配慮した言動として考えて対応してくれる達也くんみたいな人は率直に言ってありがたいのよね。

 私の立場的には、今の段階で「事件」と判断しているとは言いたくない。

 たぶん十中八九「事故じゃない」とは思っているんだけど、事故調査を担当してる運営委員より先に言えるわけもない。

 

 それに多分、「事故じゃなかった」としても犯人は他校の生徒たちじゃない・・・・・・だけど、そう思える「根拠となる情報」を人前で言える相手は限られてもいる。

 

 それを言える数少ない一人である達也くんは、私の説明を聞いて一度は顔をしかめた後、不思議そうに首をかしげながら尤もな確認のつぶやきを漏らしてくれる。

 

「しかし、状況がよく分かりませんね。三人が同じビルの中に固まっていたんですか?」

「試合開始直後に奇襲を受けたのよ! 開始の合図前に索敵を始めてなきゃ無理なタイミングでね!

 『破城槌』まで使ったのが同じ魔法師かは分からないけど、四校がフライングしてたことは間違いないわ!!」

 

 達也くんの疑問に答えようとした私を遮るようにして、横から割って入って真っ赤な顔をしながら『四校の不正行為』を強く訴えてくる女子生徒がいた。

 急なことで驚かされたけど、相手の顔―――『滝川和美』さんを認識したことで逆に納得して落ち着きを取り戻す。

 

 彼女は1年C組所属の女子生徒で、森崎くんと同じ一科生でもある女の子だ(もっとも九校戦メンバーに達也くんと雫ちゃん以外は一科生しかいないけど)

 普段はあまり森崎くんと仲良くはない――と言うより、親しくないって言った方が正しい関係に見えてた女の子なんだけど・・・・・・『目の前で知り合いが倒れる光景』を目にしたときに黙って見過ごせるタイプじゃないことは、九校戦の選手に選ばれてから過ごす時間の中で理解できていた。

 

 そんな彼女にとって、今回のことで同じ学校の生徒たちが大怪我を負わされたことは感情的になるのに十分すぎる事案だったんでしょうね・・・完全に冷静さを失ってるわ・・・。

 止めた方が良いのは分かっているのだけれど、こういう場合にどう言えば相手を落ち着かせられるか・・・・・・難しい問題よね。

 

 ―――そう私が思っていたところで。

 

「なるほど。それなら今回の件は、四校の仕業“ではない”事だけは可能性が高いと言うことか」

「な、なんでそうなるのよ司波君!? だってアイツらと試合中に『破城槌』が・・・っ! 森崎たちが・・・・・・ッ!?」

「屋内に人がいる状態で使用した場合、『破城槌』は殺傷姓Aランクに格上げされる。バトル・ボードの危険走行どころじゃない、明確なレギュレーション違反に当たる行為だ。

 そんな魔法を四校が使ってくるとは思えない」

「そんな形式論や綺麗事が通用する状況とでも思ってるの!? アイツらは怪我人だって出してるのよ!!」

 

 達也くんから落ち着いた口調で語られた内容に、滝川さんは激高する度を増すけれど・・・・・・なるほど、と私は彼の説明に納得していた。

 横で聞いてた立ち位置に代わってたおかげで感情に流されることなく、達也くんが言いたがってることに気づけたからだ。

 

「そういうことではないよ、滝川。

 これが事故であれ故意の奇襲だろうとも、四校との試合中に一高だけが『破城槌』で負傷させられリタイアせざるを得なくなった以上、対戦相手の四校だけを不戦勝ということにする訳にはいかないだろう?」

「あ・・・・・・」

「まず間違いなく、自分たちに容疑がかかる立場なのは分かり切っているのだから、自分たちも棄権は確実だ。

 被害の規模で考えれば、今回の大会に限り退場ということさえ無いとは言い切れない。それでは『格上に勝つための手段』としての反則行為という目的とは相反してしまう。

 試合開始直後というタイミングに仕掛けるのも、フライングしていたことを自分から自白しているようなものでもある。

 仮に四校が、勝つために反則行為で一高選手の森崎たちを害するとしても、もう少しはバレないように工夫するぐらいはするさ。

 むしろ一高と四校“以外の魔法科高校すべて”の方が、犯人としてはメリットがある程に」

 

 相手を落ち着かせるためか、達也くんに優しくたしなめられて赤面させられ、反省を口にする滝川さん。

 そうなのよね・・・・・・犯罪行為が行われたときっていうのは、必ず犯人側にメリットがなくちゃおかしいし、その点で今回のが仮に事件で、四校が犯人だったと仮定すると完全に利害損得が破綻しちゃって本末転倒になってしまう。

 それすら分からなくなる程、慌てまくっちゃって冷静な計算さえ出来なくなってたとか理由付けしようにも――『九校戦の順位を上げたくて』だと動機がなぁー・・・。

 

 と言って、魔法の効果範囲とか、発動可能な射程距離とかの条件による縛りもたしかにあるのも事実だし・・・・・・う~ん、やっぱり分からないわ今回の一件・・・・・・これだけ学生離れした出来事が多発してるってことは犯人たちは学生じゃなくて、本物の犯罪組織の“彼ら”しか・・・・・・

 

「ふあ、ぁ~~・・・♪ 達也さん、名探偵コ、ナンみた、い・・・。

 真実はいつ、もお爺ちゃんが一、人・・・・・・☆」

 

 そして、いつの間にか寄ってきてたらしい雫ちゃんが、達也くんの名推理みたいな語りを聞かされて目を輝かせてたけど・・・・・・雫ちゃん。

 普通は、お爺ちゃんって呼ばれる人は二人か一人しかいないものだと思うんだけど・・・・・・この子の家は複雑な家庭だったりするのかしらね・・・・・・何となく本当にありそうな子で、ちょっと怖いなぁー。

 

「ご、ごめん司波君・・・・・・私、ちょっと動転しちゃってたみたいで・・・八つ当たりしたみたいになっちゃって・・・・・・」

「いや、気にしなくていい。それに滝川だけじゃなく、慌てているのは大会委員も同じようでもあるしな。事故か否かの判断がまだ発表されない理由もその辺りか」

「・・・え?」

 

 私が今回の件で懸念しなくちゃいけなくなった“組織”について思い出していると、達也くんが不意に人の悪い笑顔を浮かべて言っている言葉が聞こえてきて、次いで深雪さんからの質問も。

 

「それは、フライングを防げなかったからでしょうか? お兄様」

「それは大した問題じゃないよ、深雪。

 結果的に惨事へと繋がってしまったとはいえ、本来フライングを防げなかっただけなら再度のやり直しを命じれば済む程度の問題だからね。責任問題を気にするなら運営委員より審判たちの方だろう。

 それよりも、崩れやすい廃ビルにスタート地点を設定したことが今回の事故――と一応言っておくけど、事故の間接的な原因だと言えるからね。

 大会委員としては、このまま新人戦モノリス・コード事態を中止にしたいんじゃないかな。

 渡辺先輩に続いて今回の事故。これほどの被害を三度も出してしまったら、運営委員たちの首が何人飛ばされることやら」

「なるほど・・・・・・どこにでも、“あの人たち”のように考えたがる人はいるものなのですね。よく分かります。

 ――本当にあの人たちは、いい歳をして子供にたかって何をやっているのか・・・っ」

 

 そして今度は、達也くんの悪そうな顔して行われた解説を聞かされた深雪さんが、暗い顔になって苦々しく誰かの家族批判を開始。

 

 え~とぉ・・・・・・もしかして今年の新入生たちって、問題児ばかりなだけじゃなくて、家庭に問題のあるお子さんたちばっかりしないかしら・・・? この状況見てるとスゴク不安になってきた私がいるんだけども・・・。

 

「こ、コホンコホン。――確かに中止の声もあったんだけど、結局うちと四校を除く形で予選は続行という決定が運営委員会からは通達があったわ。最悪の場合、当校は予選第二試合で棄権でしょうね」

「最悪の場合も何も、選手が試合をできる状態ではないのですから棄権するしかないのではと考えますが・・・・・・精鋭揃いのモノリス・コード選手に予備は用意できておりませんし・・・」

「それについては私たちを代表して、十文字くんが大会委員会本部で折衝中よ」

「はぁ・・・・・・」

 

 要領を得ないといった風の達也くんからの返答。

 基本的に九校戦では、予選開始後に選手の入れ替えは認められていないけど、相手の不正行為などが理由で負傷したり退場させられたりした場合には特例として認められることが可能にはなっている。

 特に直接戦闘が想定されるモノリス・コードでは、想定外の事故や事態は発生する危険性は最も高い競技でもあるので、こういった事態に対応できる許容範囲はけっこう広いのよね。

 

 ・・・ただ逆に言えば、それだけ持ちうる戦力の中で最大のものを投入するのが定石になっているのがモノリス・コードでもあるわけで、得られるポイントでも全競技中最大と言うこともあって一年男子たちの中でも選りすぐりの子たちのみを集めていた。

 

 また、仮になんらかの理由で選手交代が認められても、負傷者や退場者が何人も出るなんて事態はめったに起きるものじゃないから、一人ぐらいが入れ替わるだけなのがせいぜいでしょう。

 チーム戦であるモノリス・コードで、三人のうち誰か一人だけが入れ替わっただけでは、作戦にしろチームワークにしろ前提から崩れちゃって弱体化するだけ。

 有事の際に備えて交代したとき用の練習をしてたら練習量が増え過ぎてしまって正規メンバーでの訓練に支障が出ちゃうだろうし、意味ないって考えるのが普通の思考法というもの。

 

 だから達也くんの反応は決して間違ったものじゃないし、むしろ通常の基準で考えた場合は正しくて正常でもあるんだけど・・・・・・ただ大前提として達也くんって普通の基準を当てはめて考えるには、特殊――コホン。

 特別なところが多い子だから、普通とか常識とか一般論で考えても仕方ないと思うのよね。そのことに本人が自覚薄そうなのはホントどうかと思わなくもないんだけれども。

 

「その件については、交渉結果次第ですが、魔法工学科の代表として達也くんにも意見を聞くことになると思われますが・・・・・・とりあえず今は先ほど話した相談に乗ってもらいたいので、そろそろチョッとだけいいかしらね? 大丈夫! 本当にチョッとだけ! チョッとだけだから大丈夫!!」

「何を狼狽えたような言い方を敢えてしてらっしゃるかは分かりかねますが・・・・・・承知しました。

 雫、ちょっといいか?」

「え・・・? あ、うん達也さ、ん。な、に・・・?」

 

 そして突然、なぜだか雫ちゃんを呼び寄せるとトテトテ近づいてきた彼女の頭に「ポン」と片手を乗っけてから、

 

「ほのかやレオたちにも、問題ない範囲で状況を説明してやってくれないか?

 エリカたちも今回の事態には動揺しているだろうし、一般客に属する彼女たちには大会委員から詳しい事情が説明されるはずもないからな。安心させてってほしいんだ」

「う、ん・・・分かっ、た。今さっき聞いたお話、をしっかり説明してき、ます」

「ああ、頼んだ。お前に任せたぞ」

「ん・・・♪」

 

 心なしか誇らしげに、もしくは試合の選手に選ばれた草野球少年みたいな嬉しそうな笑顔を、ほんの少しだけ無表情気味な顔に浮かべて観客席を目指して走り去っていく雫ちゃんの小さな背中。

 

 たしかに、この会場に来ている一高生徒たちの中で、達也くんの友達グループは普通の一般客よりかは私たちや大会の内情に詳しい反面、こういう場面では後回しでしか情報が聞かされることができずに、半端な立ち位置で不安になりやすい特殊な立場の一年生たち。

 教えていい範囲で情報を伝えて安心させてあげるっていう判断そのものは、別に悪いものじゃないんだけど・・・・・・ただ・・・

 

 

「・・・・・・いいの? 達也くん。雫ちゃんに任せちゃって・・・・・・。

 あの子は悪い子じゃないし、良い子だと思ってもいるんだけど・・・・・・説明役っていうのはミスキャストっていうか、ちょっと不安というべきなのか、え~~とぉ・・・・・・」

「気を遣って言葉を選んでいただかなくて結構ですよ会長。アイツに説明役などやらせたところで、却って混乱させるぐらいしか役立たないことぐらい理解しておりますから」

「??? それじゃあ何で彼女に・・・?」

 

 不思議そうに彼の顔を見上げると、達也くんは事故現場を写しているモニター画面の一つで、床の上に伸される前のリーナさんが不機嫌になる切っ掛けになる映像が映し出されていたものへと視線を向けて――ほんの僅かにだけ表情が変わったように見えなくもない顔になると。

 

 

「・・・・・・リーナに怯えて意識が集中していたせいなのか、アイツは何の映像も見ていないようでしたので、なら何も見えない場所に行かせてしまった方が余計な騒ぎを起こされなくて済む。そう考えた故での判断ですよ、大した意味はありません」

「あ~、なるほどねぇー♪」

 

 

 達也くんの返事を聞いて、私は思わずニヤニヤ笑って、愉快な気持ちになっちゃう自分を抑えられなくなってしまうものだった。

 そんな状況じゃないことは分かってるけど♪ 不謹慎だっていうのも理解してるんだけれども~☆

 

 う~ん、青春してるわね達也くん♡

 らしくもない癖して、可愛いわよ後輩くん♪

 

「・・・・・・会長。今なにか、失礼なことを考えられている気がするのですが・・・」

「ん~ん~♪ そんな事はないわよ~? さすがは魔法工学科初の代表だな、って考えてるだけだから気にしないでちょーだい♡」

「・・・・・・そうなのでしょうか? 到底そう思ってるようには見えないのですが・・・」

 

 

 疑わしそうな目付きで見られちゃうけど、私は気を使って何も言わないわ♪

 達也くんの背後から、キツくて怖~い視線で見つめてきちゃってる深雪さんの反応も指摘しないであげるわね♡

 

 私は生徒会長として、生徒たち皆の幸せを祈ってるんだから~♪ ウフフフ~♡♡♡

 

 

 

「わ、ワタシ・・・・・・は・・・・・・フミダイ、か・・・・・・がくり」

 

 

 

つづく




*今話で登場してる【滝川和美】は、『夏休み編+1』からの友情出演ですけど、九校戦に選手として参加してたかは思い出せなかったため、違ってた場合はオリ設定って事にしといて下さいませ。


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39話「魔法科高校の犯罪シンジケートも劣等生?」

久しぶりなのかどうか自分でも分からなくなってましたが更新です。
最近いろいろな面で時間感覚が少しおかしいみたいで……。とりあえず今の自分でも書けそうな話を書いてみた次第です。


 時刻は、九校戦七日目にして新人戦四日目の昼過ぎ頃。

 事故による森崎たちの負傷を知らされたことで、九校戦の会場内にある各校の天幕が置かれたエリアではパニック一歩手前に覆われてしまっていた。

 

 その中で、森崎たちの負傷に責任を感じて元世界最強の一角だった少女がイラ立ち。

 元最強少女のイラ立ちに、劣等生の転生者少女が怯え。

 少女たちの醜態に、事実上世界最強の一角になりつつある史上最高の天才の片割れ少年は溜息を吐きながら拳骨を振り下ろす対処を押しつけられてしまう不幸に見舞われていたからである。

 

 

 ――だが、誰かが損をする時には異なる誰かが得をするのが、資本主義経済というものであり、誰も損をしない状況では誰一人として大成功できる者も誕生できない。

 森崎たちの負傷は不幸であり、第一高校にとっても対戦相手である四校にとってもメリットのないデメリットだけしかない損以外の何物でもない悲劇ではあったものの、悲劇なればこそ得になる者たちが必ず誰かは存在するのが世の摂理というものでもあった。

 「風が吹けば、桶屋が儲かる」そういう風に世の中というものは出来ている。

 

 そんな被害者たちにとっては不条理極まる世の摂理によって、森崎たちの不幸が伝わったことで、久々に安息の眠りを満喫できる心地になった男たちが、ここにいた。

 

 

 

「――首尾はどうだ?」

 

 空中でうねり渦を巻く竜の胴体を金糸で刺繍させた掛け軸を、背後の壁において円卓の席に座す一人の男が、他の同士に向かって確認の言葉を投げかける。

 

「予定通りだ。先ほど協力者から連絡が届いた。

 森崎選手たちは重傷は負っただけで命に別状はなく、大会委員は一高と四校を棄権とするだけで九校戦そのものは続行する方針に決したそうだ」

「やれやれ、一安心だな。これで気持ちよく美酒に酔えるようになったというものだ」

 

 派手な内装の大部屋の中央で、円卓に着いていた他の男たちも『森崎たち負傷』という『吉報』を聞かされて一様に笑顔を浮かべると、悪かった顔色にようやく血色が戻ってくる。

 

「こうなってしまっては、一高もモノリス・コードを棄権するしかない。これで勝負はまだ分からなくすることが出来る」

「モノリス・コードは最もポイントが高い競技だからな。新人戦のポイントは本戦の半分とはいえ、競技そのものから棄権してポイント加算0となれば、流石に影響は小さくなれまいよ」

 

 ハッハッハと、三日ほど前から喉を通らなくなりつつあった美酒美食がようやく満喫できるようになった血色の良い顔色で愉快そうに笑い合い初老から中年にかけての男たちが5人ほど座しているだけの広々とした豪華な内装の部屋。

 

 ・・・・・・そこは今世紀前半に香港資本によって建てられた、横浜・中華街にある横浜グランドホテルの最上階から更に上の階に作られている、一般客には知られていない秘密の最上階だった。

 香港系の犯罪シンジケート『無頭竜』の東日本支部としても機能している場所であり、この場に集まっているのは無頭竜の幹部たちで、九校戦に介入してきた者たちの正体でもある。

 

 彼らは同時に、『今年の九校戦で優勝する魔法科高校はどれか?』というクイズ大会を開催して、正解者には豪華賞品が進呈される今は懐かしトトカルチョの運営まで担っている男たちという側面も持っており、一番人気の第一高校を負けさせてイカサマ賭けクジでの賭け金一人占めを目論んでいる者達でもあったりしていた。

 

 賭け金の金額が法外だからこそ大層な事案になっているが、やってること自体は妙にセコく、森崎たちを負傷させてモノリスコード棄権を促したのもコイツらの差し金による結果だった。

 そんな連中が、自分たちの指示で傷つけさせた森崎たちが無事だった報告を受けて安堵の息を漏らした理由は言うまでもなく、僅かに残った良心の呵責に痛みを感じたから―――ではなく。

 

 単に、参加選手から死者が出てしまって、九校戦が中止されるのを恐れていたから。というだけが理由の全てだったりする。

 

「しかし、大胆な手を使ったものだ。モノリス・コードの一高選手全員を試合開始直前に事故に見せかけて負傷させ、競技そのものから省かせてしまおうというのだからな。協力者を納得させるのも大変だったろうに」

「仕方があるまい? 試合中にCADの誤作動を起こして負傷させたのでは、想定外の事態が生じて被害が大きくなる危険があった。

 それに四校から一高に対する攻撃に偽装すれば、四校に不正行為があったことが既成事実として明白になってしまう。そうなれば大会委員も、被害者である一高からの要望には配慮せざるを得なくなる」

「・・・・・・確かにな。一高から四校の不正行為による負傷を理由として“モノリス・コードのポイントを全体のポイント集計から外せ”などと要求されて採用されてしまえば目も当てられん。

 それらの危険を避けるため、誰の目にも分かりやすく事故に偽装することは必要か」

 

 九校戦にちょっかいを出してきている彼らの目的は、あくまで『一番人気の一高に優勝させずに他校を優勝させて賭け金を独り占めすること』であり、一高への妨害工作として犠牲者を生じさせるほどの犯罪行為をやってしまったせいで九校戦そのものが中止されてしまったのでは元も子もない。

 

 非合法賭博のため賭け金の払い戻しに際して迷惑料の支払いなどは発生しないものの、胴元として賭けを企画したのが彼ら自身であるため必要経費がかかっており損失ゼロにはなりようがない。

 また来年度の参加も期待するとなれば、客に対する言い訳と一緒に見舞金ぐらいは払ってやる必要も出てくるだろう。

 そうなっては自分たちが一方的に損しただけで一銭の儲けも得られず、今回の件を始めたことそのものに意味がなくなってしまう。

 

 そのような滑稽すぎる悲喜劇の主人公になるのを避けるため、彼ら犯罪シンジケート無頭竜の幹部たちは、モノリス・コードの一高参加選手を負傷させる裏工作を仕掛けながらも、一方で自分たちの仕掛けで森崎たちが万が一にも死んでしまわぬよう細心の注意を払って彼らの無事な生還を守らなければならないという、皮肉と言うより些か以上にアホウらしい配慮が必須な面倒くさい立場に立たざるを得なくなってしまっていた。

 

 それが彼らが、自分たちが負傷させた森崎たちの生存を祝福した理由だったのである。

 幸いと言うべきなのかモノリス・コードは、九校戦で最もポイントが多い競技である反面、変則ルール戦を採用していることから、同じ一つの高校だけで上位が占められることが制度上不可能になっている競技でもある。

 最優秀選手が棄権して優勝を逃したが、次点の選手が入賞できた分のポイントだけは得られる――という結果をもたらされないで済む唯一の競技なのだ。

 彼らさえモノリス・コードの競技そのものから排除してしまえれば、一高を完全優勝から大きく遠ざけることが可能になる・・・・・・。

 

 予想を大きく上回る一高の快進撃に焦った彼らが、優勝を阻止するため妨害工作を行う対象にモノリス・コードを選んだのには、そういう事情が関係していた。

 あまりにも事故が多ければ流石の大会委員も不審に思う者が出てくるだろうし、それでなくても安全面を考慮して点検のため今年分は中断の決定が下されてしまう危険性が増すばかり。

 

 少ない回数で、最大の利益を。分捕れている間に分捕れるぶんだけ分捕っておく。

 悪徳商法の原則に則った手法で、彼らは今年の九校戦で“自分たちが儲かれるまでは”大会が中断されぬよう配慮した攻撃だけを実行してやるつもりでいた。そのための手間暇なら惜しむ気はない。

 

 かな~り手前勝手な理屈によるものではあったものの、一応は彼らなりに森崎たちのことを気にかけてやってはいたのだった。

 怪我させたのも自分たちではあるんだけれども、そこは気にしないで自分の利害が関わる部分だけ空涙を流して見せるのがイカサマ賭博で儲けたがる悪徳商人の思考というものでもあるので、どーしようもなし。

 

「まっ、想定外の出費が高くついたのは認めざるをえん所だがな。だが、賭けに勝って得られる利潤から見れば全体の一部に過ぎん額でもある。必要経費として受け入れてやるさ」

「あれだけ配慮してやっても、死ぬ危険があったのも事実ではあったしな。その点では森崎選手たちの頑丈さとしぶとさに助けられた面もある。ゴキブリ並の生命力と賞してやって良いほどだなハッハッハ」

「まさしく、キャリア候補の日本人という生き物は氷河期でも生きていけると評判だからな。今回はその図太さに助けられたというわけだ。素直に感謝してやるとしよう。

 森崎選手たちの生存確定を祝して―――乾杯」

 

『『『『乾杯』』』』

 

 そう言って、カチン♪と近くの席に座っていた同僚同士でグラスをぶつけ合い、笑顔で乾し合う犯罪シンジケートの幹部共。

 言われてる本人が聞いたらブチキレること確実なレベルの会話内容だったのだが―――彼らとしては、それなりに切実な理由があった上での身勝手すぎる計画だったので、本気で生還できるよう配慮したのは事実ではあったのだ。一応はだが。

 

 なにしろ、四校が一高にフライングをして『破城槌』を使って相手選手チーム全員に入院するほどの怪我を負わせて、死者まで出すほどの事態になってしまったら、それは完全に事件であって警察が出張ってくる羽目になるだろう。

 いくら九校戦と言えども、刑事事件ともなれば犯罪捜査は魔法競技よりも優先されざるを得ない。そうなれば大会委員が何を言っても大会続行は難しいだろうし、客たちも手を引く恐れがある。

 

 客たちにバレず、大会委員にもバレず、選手たちにも観客にもバレないよう、事故の範疇に被害をとどめて警察が出てくる危険性からも守り抜く。

 

 意外に手間暇かけて、色々なことに配慮しながら慎重に進められていたのが彼ら無頭竜による九校戦への介入計画ではあったのである。

 もっとも、自分たちが出来レースな違法スポーツクジみたいなイベントで儲けようなどと考えなければ済んでいた話でもあったので、一人音頭で勝手に踊り狂って勝手に自分たちが配慮しまくってるだけと言えばだけなのだけれども。

 

「・・・・・・だが、新人戦モノリス・コードからは完全に一高を排除できたとはいえ、それで本当に補填できる程度の点数になりえるのか? 既に他校との点数差は絶望的に近い数字だというのに・・・」

 

 しかし全員が全員、気持ちよく不安から解放されて酔えると言うほど、彼らを取り巻く現実は甘い状況ではなくなってきていたらしい。

 一人がポツリと呟いた途端、他のメンバーが浮かべていた笑みが一斉に強ばり、弱気を振り払うための強気な演技も混じっていた彼らの本心を露骨に顔を出させてしまい、場は一致に消沈して暗い空気に包まれる。

 

「今年の一高の戦績は異常だ・・・。現段階の得点一位は第一高校で、二位は第三高校。これだけなら例年通りだが、新人戦だけで見た点数差は既に50ポイント以上の差が出ている。

 それにまだ結果は出ていないがミラージ・バットの点数次第では、今更モノリス・コードで棄権扱いになり0ポイントだったところで、このまま逃げ切られて優勝してしまう危険性が高すぎるのではないか・・・?」

「・・・そうだな。しかも明後日からの本戦で残っている競技には、モノリス・コードとミラージバットだけしかない。

 しかも一高のモノリス・コードには十文字選手が出ることになっている。彼がいるチームである以上は、誰と組んでもトーナメントを取りこぼす可能性は極めて低い。

 だからと言って、氏族会議代表一族である十文字家の次期後継者に何かあったとなれば、十氏族が出てくるのは避けられまい。

 渡辺選手を先に負傷で棄権に追いやっているミラージ・バットばかりに、そう何度も怪我人や事故を生じさせたのでは不自然すぎる。怪しむ者も出てくる恐れが・・・」

 

 一時の成功による興奮が冷め、過酷な現実を思い出してきたことによって空元気さえ湧き出す気力すら根こそぎ奪われてしまっていく犯罪シンジケート幹部の面々たち。

 

 口に出して並べ始めてみれば、八方塞がりとしか言いようのない状況だった。

 序盤から快進撃を続けまくってきた一高の異常な戦績が、ここに来て彼らに重くのしかかり過ぎる結果を招いてしまっていたのである。

 

 なにしろスピード・シューティングに始まって、アイス・ピラーズ・ブレイクでもバトル・ボードでも一高の女子選手たちが上位独占という快挙を連発しまくっているのである。

 その結果が、男子選手陣に与えるプレッシャーまでもを増大させて、失敗による被害を膨大なものにしていたが、それでも女子選手だけで得られた成果は失態を補って余りあるほどのものがある。

 

 現在の時刻は午後7時前、ミラージ・バット新人戦決勝が始まるまで少しだけ間がある時間帯だが、もしミラージ・バットの女子陣までもが上位独占などという惨状をもたらされたら、モノリス・コードだけ完全棄権に追い込んで0ポイントになるよう徹底しても焼け石に水にしかなりようがないのではないか・・・・・・?

 

 

 ――バカがもたらす変化に対処できるよう、一般基準では劣等生の天才技術者少年が苦心した人事配置が、巡り巡って九校戦を出来レース賭博で儲けるのに利用しようとした犯罪組織幹部たちを追い詰めまくる事態を招く結果になってしまっていたのは、一体どんな皮肉な運命か、あるいは本当に彼らが悲喜劇の主役を演じるため生まれてきてしまってた宿命にあった故なのか。

 それらは分からないし、分かったところで特に誰からも同情してもらえそうな真相ではなかったけれども、とにかく彼らは追い詰められていた。それは事実。

 

 自分たちの努力だけでは覆しようのない『九校戦で一高以外の敗北』という避けられぬ結果を目前にして、心理的な余裕が完全に失われつつあった彼らが『最終的な問題“解消”の手段』として、今の状況を取り巻く全てをぶち壊しにする選択肢を今の時点で選びそうになってしまっていた――――まさに、その時。

 

「心配ない」

 

 強がりの仮面が剥がれて、押さえ込んでいた不安が止めどなく溢れ出てきて抑えが効かなくなってきたと当人たちでさえ思っていたところに、落ち着き払った声がかかった。

 円卓の中で議長格の位置に座している、丸っこい顔立ちと小太りの体型をした、目だけが鋭く酷薄そうな光を放っている音が断定口調で短く宣言する。

 

 ダグラス=黄、というのが彼の姓名だった。

 

 黄は不敵な笑みを浮かべると、不安そうにしている同士たちを安心させるため、“協力者に追加指令を出したときに聞かされた吉報”を皆の前で披露する。

 

「私とて無論、現在の点数差は把握している。今のまま進めば、確かにモノリス・コードを棄権させただけでは一高以外が優勝できる可能性はないと、今の時点で判断していただろう。

 正直、こうなっては最早手段を選んでいる場合ではないと判断して、大会自体を中止させるため『ジェネレーター』の起動を提案するつもりでいた程だったが・・・・・・状況が変わった。

 我々が諦めるにはまだ早い。先程の連絡をもらった際、協力者から思わぬ吉報を得られたのでな。

 そのまま彼に明後日からの本戦ミラージ・バットの途中で、一高選手二人に棄権してもらえるよう細工する依頼を、実は既におこなっていた後だったのだ。先に語ったのは、その費用も混みでの話だ」

 

 その発言に他の幹部たちは驚きを露わにした。

 たしかに本戦のポイントは新人戦の倍であり、それを妨害して選手を棄権に追い込めるなら、その成果が新人戦モノリス・コードの『一高棄権0ポイント』という結果と合わされば自分たちが勝利者に賭けたギャンブル勝者になれる可能性は現実味を帯びたものへと一変する。

 

 ・・・・・・だが、果たしてそんなことが可能なのか?

 

 ミラージ・バットは九校戦中、華やかさにおいて最も人気のある競技であると言うだけでなく、試合時間中はずっと空中を飛行する魔法を発動し続けなければならず、選手にかかる負担はスタミナ面だけで比べるなら男子競技のモノリス・コードにすら匹敵する過酷な競技という側面がある。

 

 また魔法師にとって、自らの魔法の失敗による『魔法への不信』は二度と魔法が使えなくなる恐れすらある最も危険で最も身近な脅威の一つだ。

 それが、『空中を移動している最中に落下する』という状況に直結してしまうミラージ・バットでは、最も警戒せざるを得ない条件でもある。

 

 当然ながら各校共に、出場選手たちには術式の制御に失敗して貴重な人材を失うリスクをことのほか懸念するし、そんなミスを犯す初心者を大量に起用するなどあり得ない。

 

 良くて一人。二人も魔法失敗による事故が出てしまえば疑われることは確実だ。

 最悪の場合その手もありえると考えてはいるものの、それで勝利者になれるか?と聞かれれば絶対の確信を持って保証するのは無理だと思ってもいる。

 あくまで、『最終手段としてならあり得る』という手段であって、その方法そのものが一か八かの賭けなのである。

 

 技術的には可能な手でも、現実的に実現できないのでは不可能なのと同じことだ。

 その手を使うことを既に指示してしまったと宣いながら、にも関わらず勝利を確信できるとは・・・・・・一体どんな情報を得た故での決断だったのか?

 

 黄以外の幹部たちの顔に、驚愕と不審と――縋るような『欲望』が露骨に浮かび上がる。

 誰だって勝ちたいのだ。儲けたいのだ。負けたくないのである。

 リスク少なく、その願いが叶う道があると言われたら、それを選びたくなるのが人の飽くなき欲望というものでもあるだろう。

 

 ・・・・・・まぁ、その思考の結果としてギャンブルで持ち崩す人が多いのも人間の欲望なんだけれども。

 賭け事で負けが込みはじめてる時に、上手い話を持ちかけられて拒絶できる人って、あんまいないから仕方のないことなのかもしれなかったが・・・・・・。

 

「先程の連絡の中で協力者から面白い話が大会委員に届いていると聞かされてな。

 一高の本戦ミラージバットで負傷した渡辺選手の代理として、誰が出場するかは聞いているか?」

「渡辺選手の代理出場? ・・・いや、彼女以外の誰かから選ばれるのだろうとしか考えていなかったからな」

「だいいち誰が選ばれようと、渡辺選手より格下のミラージ・バットの出場選手にすら選ばれなかった一科生なら大差あるまい?」

「それが・・・・・・なんと一年生をコンバートして本戦に出場するよう調整していたらしいのだ」

『なんだと!? 本当かそれは!?』

 

 話を聞いて慌てて端末を操作して情報を調べに行く黄以外の幹部たち。

 やがて事実であったことが分かった後、先程までの不安が嘘のように満面の笑みを浮かべ治しながら席へと戻ってきた男たちは、黄の余裕と確信の理由とを理解して心から賛同する側に回る。

 

 “あの一高”が、そんな愚かな選択などするはずがないと決め付けによって確認作業を怠っていたが、それが裏目に出たようだった。

 まさか一年生をミラージ・バットに渡辺選手の代理として出場させるなどという愚劣な判断を一高が犯してくれるとは願ってもない行幸だった。

 更には調べて分かった代理選手の個人データが、彼らの機嫌をより良いものへと上昇させる。

 

「・・・調べさせてもらった。確かに一高から本戦ミラージ・バットの出場選手として渡辺選手の代わりに『司波深雪』という一年生が参加する配置に代わっていたようだな。

 それにしても―――クックック。一高も上級生女子の方は、人材不足と見えるな。

 まさか一年を本戦にコンバートさせるとは、正気の沙汰とは思えん愚行だ」

「全くだ。しかも、この司波という選手。アイス・ピラーズ・ブレイクの戦績を見る限りでは、サイオン保有量はズバ抜けているが、感情的になりすぎるきらいがあるようだな。全く冷静な試合運びができていない」

「相手選手の安っぽい挑発に乗って、同じ一高の選手同士で、ここまでの試合をただの競技大会で見せてしまう程なのだからな。所詮、才能はあっても子供は子供」

 

 本人を見てないし会ったこともないからこその悪口を口々に言い合い続ける無頭竜メンバーの面々。

 本人がこの場に居合わせたら地獄絵図間違いなしな状況だったが、いないのであれば好きに言いまくれるのが陰口というものなので、男たちの悪口には際限というものがない。

 

 なまじ不安だったところで一気に飛躍できる吉報を得られたと思い込んでいるから余計に口の悪さが加速してしまう心理になってたからこその部分もある行為だったけれども・・・・・・本人がなにかの拍子で耳にしてしまった場合に、配慮してくれるかどうかは本人次第に委ねる他なし。

 

「しかも運の良いことに、彼女の参加する試合順は1試合目と3試合目だ。

 一年生が本戦に出場できる栄誉を授かった喜びと意気込みで勝ったとしても、2試合目で自分より年齢でも経験でも実績まで上回っている上級生が魔法制御に失敗して落下し、魔法の失敗による恐怖というものを初めて目の当たりにした直後に、自分の出番が回ってくることになるのだ。

 この状況では、才能は溢れんばかりでも、精神や技術は未熟極まりない一年からコンバートされた新人選手が魔法制御を誤って先達の後を追ったとしても、誰も不思議には思わんだろう?」

「まさしく、だな。天の差配と呼ぶしかあるまい。

 おそらく、三校の《エクレール・アイリ》を意識しての起用だったのだろうが・・・・・・一色選手は天才だ。彼女のような天才が、そう何人も同じ年の一年から出るなら日本政府も魔法師育成で苦労してはおるまいよ」

「夢よもう一度という訳か。愚かなことだ。現実はそう上手くはいかないのだということを、痛みを伴う教訓として子供に教えてやるのは、われわれ大人の義務でもある。遠慮はいらんだろう」

 

『『『はっはっはっは♪』』』

 

 

 自分たち以外には誰もいない、知る者すら少ない秘密の密室に、犯罪シンジケート幹部の男たちが上げる笑い声が木霊する。

 

 話し合いが始まった時には芳しくない顔色で、森崎たちの生還を聞かされ顔色を回復し、強がりの笑みを浮かべた後に空元気を出す意欲もなくなり、今新たに最新版として『勝利の笑み』へと変わった表情を浮かべる彼らの指示によって、既に新人戦4日目の現時点から明後日の本戦4日目で九校戦全体では9日目の予定スケジュールまで決めてしまって、変更できなくなってしまう危険性は考慮しないで安心しきっている彼らの笑顔には、もはや強がっている虚仮威しの要素はどこにもなく。

 

 他校の勝利と一高の敗北による、自分たちの成功と真の勝利を確信する自信で溢れていた。

 ・・・・・・もっとも、『自分たちは必ず勝てる』と『自分たち自身が信じるだけ』なら何の意味も客観的根拠にもなりえるものではなかったのだけれども。

 こういう時の人間に、その手の話をしたところで以下同文。・・・・・・と言うしかないのが古代より繰り返されてきた人の歴史というものなのかもしれない。

 

 

 

 そう。

 たとえば、そんな過ちを犯していた人物が、ここにも一人いたのと同じように――

 

 

 

「・・・・・・それで? 雫。エリカたちに今回の一件について、どのような説明をしたのか一元一句過たずに詳しく説明してもらおう」

「あ、あう、あ、う・・・え、えと、そのえー、と・・・・・・私はた、だ達也さんに言われたとおり、に・・・・・・(えぐっ、えぐっ・・・)

「そうか。それは済まなかったな。俺の早とちりだったようだ。

 たしかに幾らお前でも、説明しに行く途中で屋台を見つけて寄り道している間に迷子になり、心配したエリカたちに探しに来てもらった理由説明を、“バレないと思ったから”黙っていた。・・・・・・などという愚かな選択をすることはありえないことだものな。

 ―――で? そうでなかったなら、説明は?」

「ひぅッ!? あああ、ああう・・・あう、あ、う・・・あうぅ、ぅぅ・・・・・・(びくびく、オドオド土下座のポーズ)」

 

 

 

 ・・・・・・規模は桁違いだが、やっていることの内容的には同じようなレベルで、九校戦の外と中とで陰謀は進められていた――らしい。

 

 

 

つづく



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