Fateプリズマ☆ロード (ひきがやもとまち)
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プロローグ「誕生!魔法(TS)少女!」

「・・・今、なんと仰いましたか? 大師父・・・」

 

 時計塔の重鎮にして名物講師という、本人にとっては大変不名誉きわまる異名を奉られている「魔術の師」ロード・エルメロイⅡ世は聞き間違いかと思い、確認のためにもう一度問い直した。

 

 ーーが、期待に反して返ってきた答えは、寸分違わず一言一句まったく同じ物だった。

 

 曰く、あの二人だけに任せるのは不安だからお前も一緒に行ってこいーー要約するとそうなった。それ以外には解釈しようのない内容だった。

 

「・・・あの、私は禄な魔術も使えないからこそ、一級講師であるのにも関わらず祭位(フェス)の階位に止まっているのですが・・・」

 

 ついでに言えば、それが彼を時計塔において立場を微妙で絶妙なものにしている数多い理由の一つだったりする。

 

「・・・は・・・?「今回の件はゲームっぽい部分が多いからお前の得意分野だろう」・・・? ま、まぁ確かに日本が舞台で宝具が武器の英霊が出てきてカードで召喚というのは、ゲーマーとして燃えるモノがあるのは認めますが・・・いや、しかし・・・」

 

 自分の、魔術師としてはいささか以上にどうかと思う趣味で攻められて、彼の心は大いに揺らぐ。・・・それでいいのか時計塔に一二名しかいないロードの一人。

 

「・・・え? これを飲めと・・・? 大丈夫なのですか、この薬液は。なにか怪しい臭いがしますが・・・。・・・わかりました、飲みます。飲みますから、そう急かさないでください。服が伸びます・・・あ! コートの裾だけは引っ張らないで頂きたい! 大事な物ではありませんが、大事な色なのです!」

 

 なぜか『赤』に強いこだわりを見せてから、大師父キシュア・ゼルレッチ・シュヴァインオーグが調合したという怪しい液体を飲み干す。

 

「う・・・、思っていた以上にキますねこれは・・・。・・・で、これはどの様な効果がある薬なのですか?

 ・・・は? 『身体を性転換させて幼児化する特殊な魔術薬物』・・・?

 ちょっと待ってください、流石に理解が追いつかない・・・。え? 考える必要はないから感じろ? なにをバトルマンガみたいなこと・・・う!  な、なんだこれ、は・・・まるで令呪が宿ったときのような痛みが・・・しかも、麻婆餡掛けを一気食いしたかのような気持ちの悪さまでもが一緒くた・・・に・・・う、お・・・身体が・・・かわ・・・る・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、今ここに居るわけなのだが・・・」

 

 目の前に広がる、日本の成田空港のロビーを眺めながら、ロード・エルメロイⅡ世は嘆息する。

 

 普段であれば、眉間にしわを寄せて苦みばしった表情でやるそれは非常に刺々しさを感じさせるもののはずだったが、あいにくと今の彼は黒髪ロングの可憐なお嬢様系美幼女だ。そんな仕草にも気品しか感じられない。

 

 本人も鏡で見たことによって多少の自覚は生まれており、嘆くような、だがどこか懐かしさと感謝を等分に含んだ様な口調で呟きを漏らす。

 

「お爺さんに優しくされすぎたからな・・・。さすがに、この身体でお礼に行くほど恥知らずにはなれんが」

 

 『あの出来事』以来しばらくの間お世話になった老夫婦を思い出して苦笑する。

 今でも定期的に連絡を取ってはいるが、仕事が忙しくて最後に直接顔を見せたのは何年も前だ。

 せっかく日本に来たのだから出来れば会いに行きたいが、この身体ではどこの誰かもわかるまい。最悪、通報されかねない。

 

 それも、不審者としてではなく迷子の女の子として。

 この上ない屈辱だ。死にたくなる。むしろ、自分の意志で死を選ぶ。

 

「まぁ、こうなってしまった以上は仕方がない。とりあえず目的地に行く前に武器弾薬を買い込んでおくとしよう。戦争で一番重要なのは補給だからな」

 

 そう言って彼女は駅を目指して歩き出す。

 その駅は世界的に有名な土地名が付いた聖地であり、

 多くの巡礼者が集う日本の首都(ロードの主観)。

 

 その名をーー『秋葉原駅』と言った・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーキ-ンコ-ン、カ-ンコ-ン

 

 遠くに潮騒が薫る、空の下。

 小学校の校舎に、放課後のチャイムが響きわたる。

 

「イリヤちゃん、一緒に帰ろ?」

「ごめーん、今日はお兄ちゃんと帰る日なの」

 

 ここは冬木の西側に広がる深山町のはずれ、円蔵山の中腹にある私立穂群原学園の初等部。

 ベレー帽に、大きな襟と胸元のリボン。そんな可愛らしい制服で有名な小学校だ。

 そんな評判の制服を着た子供たちの中に、ひときわ明るく、ひときわ目立つ子ーーそれが、先ほど“イリヤ”と呼ばれた女の子。

 

 五年一組、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンだ。

 

 歳は十歳。背丈はちょっと低めではあったものの、目立つほどには低すぎない。

 目立っているのは髪と眼だ。

 肩よりもちょっと下まで伸びているセミロングの髪は、溶かした銀を流したような、陽光に輝くシルバーブロンド。そして、両の瞳はルビーを思わせる鮮やかな緋色。

 日本人離れした外見を理由に人から奇異の目で見られることがあるが、少なくとも今の彼女にはそれを気にしている心の余裕はない。

 

(急がなきゃ! 急がなきゃ! ああ、もう先生ってば! こんな日に限って、帰りの学級会が長引くなんて!)

 

 今日は、久しぶりにお兄ちゃんと帰る日なのに。

 

 このところ高等部の弓道部が忙しかったらしく、お兄ちゃんは毎日、日が暮れるまで家に帰ってこなかった。そんな兄と、ひさしぶりに一緒に帰れる日だったのに。

 

 幼いイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、兄の顔だけを思い浮かべて、一心不乱に高等部まで駆け抜ける。

 穂群原学園高等部は、初等部のすぐ隣。校門同士は、ほんの数十メートルほどの距離しかない。

 

(いたっ! お兄ちゃんっ!)

 

 彼はそこに立っていた。

 名は衛宮士郎。両親の事情で性が違っているが、同じ家で暮らしている、れっきとしたイリヤの兄である。

 

 士郎は自転車のハンドルに手をかけたまま、友人と談笑しているところだったが、相手の友人は猛烈な勢いで駆け寄ってくるイリヤの姿を見つけ、笑みをこぼしーー凍り付いた。

 

「危ないっ! 避けろ!」

 

「「・・・え?」」

 

 切羽詰まった制止の声に、“二つ”の声が重なる。

 

 その直後ーー激突。

 

 もの凄く痛そうな音を響かせながら、前しか見ていなかった二人の少女が、もの凄い勢いでぶつかってお互いに吹っ飛びあった。

 

「お、おいイリヤ!大丈夫か!?」

 

 士郎が慌ててイリヤに駆け寄る。

 彼女は持ち前の丈夫さのおかげで無傷だったが、完全に目を回している。

 

「・・・らいじょ~ぶ、らいじょ~ぶらよ、おひいちゃ~ん・・・」

「そ、そうか。無事ならよかった・・・。ーーそこの君も大丈夫かい?」

 

 イリヤとぶつかって吹っ飛んでいった、もう一人の女の子。

 大きなキャリーケースを引っ張っていた黒髪の少女も大した傷はなかったのか、頭を振りながらも落ち着いた声で返事をしてくれる。

 

「・・・ああ、なんとかな・・・ゲームは守り抜いたよ」

「ゲーム!? いやいや!君の身体の話だよ! 身体の方に怪我はないのか?」

「そっちも問題ないようだ。少なくとも、折れたり取れたりしているパーツはない」

「いやいやいや!!折れてるのも取れてるのも確かに困るけどさ! それ以前に肉体的健康は大丈夫なのかって事!」

「大丈夫だ。問題ない」

「それフラグ!死亡フラグ! 洒落にならない状況で変なフラグ建てるなのは止めなさーい!!」

 

 空気を読まず、状況も考えないボケをかます少女を大声で叱りつける士郎。

 

 色素が薄いため脱色しているわけでもないのに赤銅色に見えてしまう髪のせいで外見的印象が『不良っぽい』になりそうだが、いつも穏やかな笑みを絶やさず、春めいた空気を漂わせているお陰でそういう風評が立ったことのない彼にしては、大変珍しい光景だった。

 

 むろん、イリヤにとっても、こんな兄を見るのは初めてだ。

 今まで見たことのない兄の一面を見られるのは嬉しい反面、それを見せたのは見知らぬ少女が最初の一人というのは、素直に喜べることではなかった。

 

(お兄ちゃんの一番近くにいたのは私なのに・・・!)

 

 幼いながらも女としての嫉妬に駆られたイリヤは、相手の少女を睨みつけてーー言葉を失った。

 

 意外すぎる光景がそこにはあった。

 

 具体的には、彼女が身につけている、『ある物』が意外すぎた。むしろ異常すぎた。

 

 イリヤは思わず『それ』を読み上げる。

 

「『アドミラブル大戦略Ⅳ』・・・?」

 

 

 

 それが自分と同い年にしか見えない少女が身につけている、明らかにサイズが大きすぎてブカブカな、XLサイズのTシャツに書かれているロゴの文字。

 

 

 

 

 

 『それ』は、かつてこの世界に現界した、とある征服王が通販で購入した縁の品。

 

 

 

 

 『彼』とともに聴いた『潮騒』の記憶。

 

 

 

 

 『友』との間に結ばれた永遠の『絆』。

 

 

 

 

 『王』に誓った絶対の『忠誠』。

 

 

 

 

 

 

 揺るぎない、その『証』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー実際にはちっこい女の子が、でっかい裸Tシャツを着ている風にしか見えなくても貴重で大事な品なのである。

 

 

 彼女・・・幼女化したロード・エルメロイⅡ世にとってだけは、だったが・・・。

 

つづく



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1話「恋する聖杯」

更新遅くなりすぎて申し訳ありません。
何度か書き直した結果、結局「事件簿」とプリヤのごった煮にしてみました。

なお、美遊ちゃんとイリヤがベストカップルなのは私も大賛成ですが
やはりプリヤのヒロインに美遊ちゃん以外は有り得ないと考える作者の欲望によって
美遊ちゃんが今話からメインヒロインとしてレギュラー入りします。

ただ、序盤のクールでちょっとツンケンしていた頃よりもデレた後の方が好きなので
今話でもセリフが多くなるのは終わり近くなったあたりです。
その頃には完全にデレてます。作者の妄想美遊ちゃんですので原作とは別人だと認識ください。


 冬木市の中心を左右に隔てるように流れる未遠川にかけられた冬木大橋。

 その上を平行世界からの来訪者、美遊・エーデルフェルトは強い絶望を胸に歩いていた。

 

 彼女は悩み、迷っていた。

 

 向こう側の世界に置いてきてしまった兄のこと、自分を聖杯として使おうとしたエインズワース家のこと、保護者となってくれたルヴィアから聞かされた話では、どうやら自分とともに渡ってきたとおぼしき英霊を呼び出すクラスカードが暴れ回っているらしいこと・・・。

 

 考えすぎるあまり頭がパンクしそうだった。

 

 だから美遊は、考えるのを止めた。

 彼女の精神的安定を維持するにはそれ以外に手がなかったのだ。

 

 自分は一人だ。

 こちらの世界には誰もいない。

 私の事情を知ってる人なんて誰も居るわけがないーー

 

「ーー失礼、見たところ魔術師の素養は誰よりも高いが、訓練を受けているようには見えない。大方、儀式に巻き込まれた“神稚児”が、抜け出しきれずに苦しんでいると言うところだろう。

 理解に苦しむな。せっかく厄介な儀式から生き延びたというのに、君は何のためにこの“大魔術儀式のための地”に居続ける?」

 

 思わず美遊は振り返った。

 居るはずのない理解者の存在に、疑惑と不審と混乱とーーほんの僅かな嬉しさを感じて。

 

「・・・なるほど、笑い話ではないが馬鹿げた話だ。こんな子供を触媒に使って魔法を成そうとはな。

 ふん。先祖代々受け継いできた一族の悲願か・・・。確かに、この広い世界に通用させるには小さすぎるだろう」

 

 ハッキリとエインズワースを否定した人物の姿を視界に収め、美遊は呆然としてしまった。

 

 その人物は年老いて背の曲がった、いかにも偉大さを感じさせる老魔術師ーーなどではまったくなく、変なロゴの付いたXLサイズのブカブカTシャツを着た同い年くらいの美少女だったからだ。

 

 美遊でなくても呆然とするだろう。当然のことだ。

 

 ーーと言うか、いい加減着替えるんだ、時計塔に一二家しかないロードの階級を叙された名門・エルメロイ家の当主代理よ。そろそろ悪魔のような妹に殺されるぞ。

 

「話を聞かせてもらえないか? 戦闘以外でなら力になれる部分も少しくらいはあるだろう」

 

 そう言ってロリロード略してロリードは、慣れた仕草でTシャツの下に履いているスパッツのポケットから取り出した使い捨ての魔術礼装ーーチュパチャプスを口にくわえ、鋭い眼差しで美遊を真っ正面から見据える。

 

 ーーチュパチャプスをくわえた裸Tシャツの美少女が、睨むように同性の美少女を見つめるシーンは、微妙に背徳的だった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イリヤと言うらしい銀髪の少女と正面衝突という形で邂逅したロードは、彼女の兄と名乗る男子高校生ーー外見的特徴に共通点が皆無なところから見て間違いなく義理の兄弟だろうーーから、お詫びをかねて夕飯に招待された。

 

 これに対してロードは礼儀正しく丁寧に、だが断固として謝絶した。

 

 衛宮士郎と名乗った少年はこっちが心配になるほどのお人好しだったが、その一方で人の好悪の感情に対する極端までの鈍感さを兼ね備えた・・・・・・ようするに典型的なラブコメ主人公属性の持ち主だったのだ。

 

 間違いなく、それが原因だろう。

 明らかに自分たちを殺したそうな目つきでこちらを睨みつけてきている妹の憎悪と嫉妬の視線に終始気付くことなく士郎少年は、お詫びは無用と礼儀正しく頭を下げるロードの頭を「しっかりしてて良い子だな。うちのイリヤにも見習ってほしいよ」と言いながら撫でていたが・・・・・・あの後、彼は無事に生き残れただろうか? 赤い瞳が灼眼に見えるほどに妹殿が怒り狂っていたのだが・・・。

 

 

 ーーまぁ、それはそれとして。

 

 今現在解決すべき問題は彼女である。

 川が流れている土地では水から調べるのが基本。

 ただそれだけの理由で冬木大橋と書かれている巨大な陸橋を渡っている最中に出会った異端のーー正確に表現するのならば、異郷の少女、美遊・エーデルフェルト。

 

 平行世界での本名は、朔月美遊。

 

 どう見ても人間の少女が持つには多すぎる魔力を小さな身体に蓄え込んでいる・・・ようするに神稚児だ。現代の都会では非常に珍しいが、マイナー宗教が信奉されている辺鄙な土地の小さな集落などでは結構見かける存在であり、ロード・エルメロイⅡ世としてはそれほど珍重する必要性を感じない。

 

「・・・つまり、君の他にも神稚児はいるんだ。別段、世界に君が一人きりというわけではないさ」

 

 美遊は思わず言葉を失った。

 あえぐように紡がれた言葉は反論の形を取った単なる条件反射でしかなく、その声にも言葉にも力は微塵も込められていない。

 

「で、でもダリウスはーーエインズワース家の当主は私の事を『この世界に残された本物の奇跡』って・・・・・・」

「ああ、別におかしな話じゃない。

 そもそもエインズワースの魔術は“初めから破綻していた”んだ。良い成果など出るはずもない。そうなれば必然的に外部の奇跡にすがるしかないさ。その果てで見つけた物を唯一無二と思いこみたくなるのもまた必然だろう? 君の父親も似たようなものなんじゃないかな。

 ふん、行き詰まった魔術師一族の平凡な末路だな。そんな愚行に幼い少女を巻き込むとは・・・・・・つくづく魔術師という生き物は常人とは相容れないものだ」

 

 「俺が世界を救う神話を作る」。

 狂気を孕んだ執念を持ってそう断言したダリウスをーーいや、ダリウスの名を騙るジュリアン・エインズワースの妄執を「愚行」の一言で切って捨てたロードは平然とコーラを口に運び、その自然体な少女の姿を美遊は言葉もなく見つめ続けることしかできなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 ーー橋の上での出会いの後、「場所を変えよう」と言ったロードに導かれて二人がやってきた場所は、漫画喫茶の個室だった。

 パソコンのディスプレイとキーボードが備えられた机の前に二人分の椅子が置かれており、彼女たちはそこに腰を下ろしてジュースを飲んでいる。

 フリードリンクなのでロードはコーラを選び、美遊にはオレンジジュースを持ってきた。

 

 当たり前だが、美遊はこんな場所に来たことはない。

 そもそも十歳児の女の子が来ていい場所でもない。

 ロードが子供と聞いて最初に思い浮かべたのが、弟子の一人である「天才バカ」だったことが理由なのだが、どうでいい余談である。

 

 とりあえず、一息付いたロードはパソコンのOSを確認した後、美遊に詳しい事情説明を求めた。

 

 当然ながら、美遊は全てを話す気などサラサラなかった。

 見ず知らずの「時計塔から来た魔術師見習い」を名乗る、変なTシャツを着た怪しすぎる少女に話していいような内容では断じてないのだから。

 

 ーーいや、そもそも付いていって良い相手ですらなかった。

 

 漫画喫茶に到着するまでの間、二人は延々と周囲から好奇の視線を向けられていたことに現時点では気付いていない。

 有名な古いゲームのタイトルロゴが書かれたTシャツを使って裸Tシャツ姿を披露している外国人美少女の後ろから、これまた美少女のクール系女子小学生が随伴しているのだ。

 

 これを世のオタクたちが見過ごす理由など、どこを探しても見当たらない。

 

 結果、エーデルフェルト家にお世話になり、ハウスメイドとしても働いている美遊は、明日の朝にはご近所様から色々と問いただされる羽目にあうのだが・・・。

 現在の彼女はその確定した未来を、幸か不幸か未だ知らない・・・・・・。

 

「おそらくエインズワースの行っている聖杯戦争は、状況を“演目”という概念に置換することで限定的ながら魔法を超えるレベルの大魔術の行使を可能とした儀式魔術の一種だろう。

 クラスカードという魔具を依り代にして、クラスに依存させる事で能力を著しく限定し、英霊を召還させることに成功した所までは見事だが・・・まぁ、偶然だろうな。

 本来、英霊を召喚するのではなく力だけを憑依させるなど固有結界内でも難しい。向こうから選ばれたのなら話は別だが、その逆は絶対に有り得ない。

 なんらかのルール違反をしているとみるべきだろうな。問題はそれを成すのにナニを代償に支払っているのかだが・・・」

 

 “いつも通りに”魔術を解体し始めるロード。

 魔術の破壊者は今日も平常運転らしい。

 

 一方で美遊は、自分が必要以上のことまで彼女に語ってしまったことに、今更になってようやく気付く。

 

 当たり障りのない範囲までと自分に言い聞かせていたはずなのに、気が付けばエインズワースはおろか、兄と父、ひいては自分が平行世界からやってきた聖杯であることまで、事細かに説明し尽くしてしまっていたのだ。

 

 

 元来の人見知りなうえに兄と父以外でまともな会話を交わしたのは元の家族だけしかいない美遊は、いわゆるコミュ障である。

 そんな彼女にここまで自然に身の上話をさせてしまうロードは、根本的にどこかおかしい。

 

 

 彼女、ヴェルベット・ウェーバーと名乗る時計塔の魔術師見習いの少女は、まさに『異端』だった。

 

 自分の異端さは、たんに与えられている力によるものに過ぎず、本質的に美遊は一般人でしかない。

 

 魔力の高い低いで魔術師としてのランク付けは決定される。

 が、魔術師として優秀ならば優れた人間である・・・などという理論は成立しない。

 

 なにしろ、魔術師としては二流のロードが、魔術の最高学府たる時計塔で最も成功した一人に数えられ、山の様に受講者が殺到する超人気者になっているのだから・・・・・・。

 

 

「エインズワースが失敗した理由の一つは、世界中から礼装を集め、それを自分たちの魔術に触媒として利用したことだろうな。

 礼装は歴史ある魔術師の家系が代々受け継いできた秘奥。使いこなすには一族秘伝の魔術回路を受け継ぐ事が必須条件になる。が、魔術回路は血縁者以外には適合しない。無理矢理同調させるには、それなりに無茶と言うかルール違反をする必要がある。だからこそ、あくまで触媒としての使用に留めたのだろうがね。

 ふん、他の魔術師と協力するのではなく、盗み取った魔術を自分の物のように扱い、上手く行かなければガラクタ扱いか・・・・・・ファック」

 

 魔術について淡々と、しかし情熱と愛情と誠意を持って語る彼女の姿は時計塔の名物講師の名に相応しく、

 

 ーーまるでアーサー王を導いた魔法使いのマーリンみたいな人・・・。

 

 美遊は衛宮の家で兄から与えられた絵本の中にあった物語の一つを思い出し、少女の思案顔に少年を騎士王へと導いた、偉大な魔法使いの背中を重ね合わせた。

 

 そして同時に、自分の胸の内に灯った微かな熱を自覚する。

 

 ーーなんだろう・・・。胸がドキドキする。

 ーーウェーバーの思考に耽る横顔が、すごく愛おしい・・・。

 ーーもっと見ていたい。もっと知りたい。もっともっと、その理知的な声を私に・・・私だけに聞かせて欲しい・・・。

 

 頬を紅潮させ、瞳を潤ませている美遊の異変には一切気付かず、ロード・エルメロイⅡ世は自分の思考に没入し続ける。

 

 ーーそんな彼を見た教え子の女子学生たちが「集中している先生の横顔って理知的でとっても素敵!」と騒ぎ立てていることを、彼だった頃の彼女は当然ながら知らない。

 

 ーーどこの誰がラブコメ主人公なのか、ロードは自分の胸に手を当てて考えるべきだと思う。

 

「魔術は人間のありとあらゆる部分に食い込んでいる。

 それは文化であり民族であり民俗であり信仰であり芸術であり血統でもある。生活そのものを使用条件に組み入れることで大魔術を成そうとした家まであるくらいさ。

 それこそ生活の全て、食事や睡眠さえも周期に乗っ取って行うことで“根源”を目指そうとしたんだ。まぁ、結局失敗に終わったが」

 

 見た目お嬢様の知的美少女であるロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーはごく普通の口調で、碩学もキュビズムも理解し使いこなせる十歳児、天才少女美遊・エーデルフェルトでさえ知らなかった事を、まるで一般常識であるかのように平然と語ってみせる。

 

 美遊の頬は、既にこれ以上赤くなりようもない程に真っ赤っか。

 瞳はうるうる、視線は完全に恋する乙女。

 胸の前で両手を組んでキラキラお目目でロードを見つめる仕草は、お前はどこの少女マンガのヒロインだ!と全力ツッコミされる事受け合い。

 

 また一人、ロード・エルメロイⅡ世は女性を落とした。

 今度の相手は十歳の女子小学生らしい。

 

 ーーはたして、ロードは時計塔の女子生徒たちから無事に逃げ延びることができるだろうか・・・?

 

「他家の礼装を利用することは自らの魔術の、ひいては自らの一族が積み重ねてきた過去の否定だ。

 魔術師とは過去に縛り付けられ、過去に盲従するのが当然だと教えられて育つ生き物だ。生まれる以前から魔術という物語に浸ってきた魔術師は、抗うにせよ受け入れるにせよ、必ずその内面まで浸食されることとなる。その物語を否定すると言うことは自分自身の今までを否定するに等しい。

 自分で否定した自分が神話を作る? 当然不可能だろう。成功するためにはまず、“自分は成功できなかった”事を認め、受け入れるところから始めるべきだろうな」

 

 やれやれとでも言いたげに肩をすくめる仕草が妙に決まっている。

 それがまた美遊の乙女心を刺激してやまない。

 

 

 ーーやめて! 私のハートの残りHPはもう0よ!

 

 

 ・・・やはり漫画喫茶は箱入りお嬢様には良い影響を与えない場所だった・・・。

 

「歴史と複雑に溶け合った魔術の深淵を知るために何世代も努力を重ねてきた魔道の家系が、突然神秘のつまみ食いをして相性の良さそうなパーツをつぎはぎするばかりでは、成功の可能性は万に一つもない。

 その結果として神稚児などという民族伝承に縋ってでも“成就”を目指す・・・どう考えてもバッドエンド一直線だろう、このムリゲー」

 

 そう言ってコップに注がれた黒い液体を飲み干すロードは、どこから見てもダンディな美男子系美少女だった。・・・最後に一言に目を瞑ることが出来れば、という前提条件付きだが。

 

 

 ーー美遊の乙女心は、とっくの昔に恋心に置換されていた。

 その早さは置換魔術のみに特化したエインズワースの魔術行使を遙かに凌駕する。

 

 恋する女の子は、例外なく魔法が使えるのだ。

 これぞ、この世の真理である。

 

 

 ーーしかし、ロードが飲んでいる黒い液体はコーヒーではなくコーラである。その事は決して忘れてはいけない。

 

 

 非常に大雑把ながらも最小限度の説明を終えて落ち着いた解説魔ロード・エルメロイⅡ世、女性名ヴェルベット・ウェーバーちゃんは椅子に深く座り直す。

 

 まだまだ言い足りない部分が多いが、これ以上の時間はないかもしれない。

 確認のためにも隣に座っている妹や弟子たちと違って大人しい少女、美遊に顔を向けて声をかける。

 

「ところで美遊君。君に一つ確認したいことがあるのだがーー」

「なにヴェルベット、何でも聞いて。私のことはなんでも教えるし答えるから。

 結婚指輪のサイズ? 理想のプロポーズをされたい場所? 欲しい子供の数? それともーーYes.No.・・・?」

「い、いや、そう言うことではなくてだね・・・と言うか最後の一つは子供が言っていい内容ではないと思うのだが・・・ま、まぁ、それはともかく」

 

 コホンと咳払いするフリをして、美遊から一歩分だけ離れようとするヴェルベット。

 そして、離れた一歩分+もう一歩分距離を詰める美遊。

 合計すると(プラス)一歩分二人の距離が近づいた計算になる。

 

 一歩下がって二歩進む。

 日本一有名な歌の歌詞をも無視して突き進むのが乙女の恋心。

 恋する女の子を止める事は最強の雷神の槌を持ってしても不可能なのだ。

 

 ようするにーーヴェルベット・ウェーバーの人生はこの時点で詰んでしまったのだ。まるでエインズワース家の魔術と平行世界の地球人類のように。

 

 

 ーーうん、ぜんぜん上手くない。

 ひっどいブラックユーモアでしたね、ごめんなさい。反省します。

 

 

「と、とりあえずは美遊君。君がこちらの世界に来てからどれくらいの日数が経っているのか、丼勘定で構わないから数えてくれないか?・・・・・・ちょ、顔が近い顔が近い。口と口がくっつきそうだから離れたまえ!」

「・・・私が来てからの日数? ・・・三ヶ月くらいかな? ちょっと多めに見積もってだけど。・・・最初の数日は数えるどころか考える余裕もなかったし、ルヴィアさんに拾われてからの数日も曖昧だから、一週間近い差が出てる可能性があると思うけど・・・」

「十分だ、ありがとう。ーーとりあえず、調べ物があるから少しだけ離れてくれないだろうか? ・・・・・・あとその・・・・・・胸が当たっているから、出来るならば外して欲しいというか何というか・・・・・・。

 ・・・・・・いや、そんなにガッカリした顔をされると罪悪感がだね・・・わ、わかった! 終わったら君が満足するまで相手をするから今だけは! な? な? 頼むよ、この通り一生のお願いだ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・むぅ」

 

 美遊は明らかな不満顔だったが、一応は納得して引き下がってくれた。

 その事で安堵のあまり胸をなで下ろすヴェルベットこと、時計塔で抱かれたい男ナンバー1の二つ名を持つロード・エルメロイⅡ世。

 彼女は、これでも立派な時計塔の重鎮です。

 

 

 ーーだが、彼女は自分が徐々にダメなラブコメ主人公と同じ言動をし始めていることに気付けていない・・・。

 

 

 しかし、いくら色ボケしててもロードはロード。

 こんな時でも頭はしっかり働いており、立ち上げたパソコンで気象情報を調べ始める。

 

「・・・? 何をしてるの?」

 

 ロードの意図が読めない美遊は、魔術師としては異端過ぎる彼女の突飛な行動に、疑問符を無数に浮かべながら問いかける。

 

 

 回答は、ロードが冬木市の地震発生回数を見た直後に“実体験を伴って”教えられた。

 

「当たりだ。やはり、ここ数日で回数が増え続けている。

 ・・・これは、そろそろだろうな・・・」

「え・・・? 一体なんのこーーきゃっ!?」

 

 美遊の疑問に対するこれが答えなのか、ここ数日多発していた小さな地震が、今日に限ってはやたらと大きく、周囲からも多数の悲鳴が上がる。

 

「・・・どうやらご到着のようだ。今のは宝具を解放したな、属性は雷のようだが威力が凄まじい。確実に対人ではなく、対城クラスだ」

「雷に対城クラス・・・ベアトリス!」

「平行世界の人間と会話するのは君に続いて二人目か。やれやれ、こんなことならもう少し準備をしてくるべきだった・・・。

 まぁ、今更言っても仕方ない。出陣しよう美遊君。場所は、どこか適当に、そこいら辺へとはいかないがね」

 

 悠々と立ち上がって指示を出すヴェルベットに慌てた様子は微塵もない。

 さすがに、美遊もここまで来ると彼女の異常性に気付かざるを得ず、戸惑い気味に問いを投げかける。

 

「ど、どうしてそんなに落ち着いていられるの・・・? 敵は私たちを殺しに来てるのに!」

「そんなものはとっくに慣れている」

 

 平然と答え、ヴェルベットは心のスイッチをロード・エルメロイⅡ世“ではなく”、ウェイバー・ベルベットへと切り替える。

 

 

 ーーやはり、英霊相手に戦を挑むのならば王の臣下として挑みたい。

 

 

 そう考えた上での結論だった。

 

 だからこそ、今の状況で今の彼には、こう言わねばならぬ義務があるだろう。

 

「そう初っ端から諦めてかかるなよ。とりあえずブチ当たるだけ当たってみようじゃないか。案外なんとかなるかもしれないぞ?」

 

 さっきまでの繊細そうな美少女とは別人に見えるほどに快活で屈託がなく、王様に仕えるのが嬉しくて仕方がない見習い騎士の美少年を連想させる無邪気すぎる笑顔を浮かべるヴェルベットを見て、美遊の思考は再びピンク一色に染まる。

 

 

 

 

 

 ーー結婚式では、絶対に白無垢にしよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー心に誓う美遊の脳裏に、自分のために敵に捕まってしまった兄、衛宮士郎の笑顔はーー浮かんでこなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー恋する女の子は強すぎる上に、家族に冷たすぎる!

 

つづく




次回は一応バトルです。
美遊ちゃんも活躍させます。
まだイリヤは活躍しません。


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2話「混沌状況」

ロードとライダーとの出会いは十年前の「偽りの聖杯戦争」の時だったと言う設定にしたので、タグにオリ設定を付け加えました。

ストレンジとは似て非なる別の並行世界で行われた歪な儀式だと解釈ください。
あと、今回は前半と後半で雰囲気が一変します。
カオス化しますので、そのおつもりでお読みください。

*この作品はフィクションであり、登場するすべてのあらゆる存在は原作と一切関係しておりません。


 平行世界からの追っ手に対処すべく、二人は美遊が身を寄せているエーデルフェルトの屋敷に礼装でもあるカレイドステッキを取りに戻った後、ようやく震源地たる円蔵山に向かっていた。

 

 何を悠長なと思うだろうが、あいにく小学生は戦えないのだ。武器を取りに行くのは仕方がない。

 

 本来ならばカレイドステッキのサファイアは待機形態になって常に美遊と一緒に居るべきなのだが、保護者のルヴィアが「運命の殿方と出会いましたの」とか戯言をほざいて怪しげな惚れ薬を開発中だったため、阻止するのに忙しくて別行動を取っていたのだ。

 

「あんのテンプレお嬢様めぇぇぇっ!!! お前のようなタイプはメインヒロインにはなれんのだから、とっととサポートに回れ! サブが出しゃばるな!

 あと、私の好みはクーデレ系だ!」

 

 怒りのあまり罵声の他に関係ないことまで喚くヴェルベットだったが、美遊はしっかりと彼女の好みを把握して脳のフォルダに永久保存した。

 

 後日、ロードが苦労することが確定したところで山の頂上に到着。

 二人の前には抉られたように出来たクレーターが広がり、中心部には赤い髪を左右に結んだ凶悪そうな表情の少女ーーではなく。

 

 金髪を長いツインテールにし、無表情を顔面に張り付けた鉄仮面のごとき美女ーー

 

「アンジェリカ・・・っ!!」

「お久しぶりです美遊様。ベアトリスはこちらへ跳ぶ為の門を開くのに最大出力のトゥール・ハンマーを使ってしまったため休息中でして、私一人がお迎えにあがりました。

 さぁ、バカンスはもうお終いです。一緒に向こう側へ戻りましょう。エリカ様も美遊様のお帰りを心待ちにしておられますよ」

 

 恭しい仕草での一礼を、一欠片の敬意を感じさせることなくやってのける女に、ヴェルベットは静かに憎しみと怒りを抱いた。

 

 態度はどうでもいい。似たような奴は毎日見ている。

 なにしろ時計塔始まって以来の祭位(フェス)の階位しか持たぬロードであり、本来なら当主は悪魔な妹の義兄である神童ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだったはずなのだ。代理としても傀儡としても頭を下げたい相手では決してないだろう。

 にも関わらず、弟子たちが優秀すぎるが故にその師である二流魔術師にも形式上、礼儀を欠くわけにはいかず、結果として裏と表ができあがる。

 だから慣れているので気にならない。

 

 ーーだが、“その鎧”を身につけている奴が欺瞞で礼を示すのは、堪らなく不快すぎて怒りを抑えきる事が出来ない。ただ、それだけだ。

 

「・・・あなたたちエインズワースは未だに考えを改めないの? お兄ちゃんを閉じこめて人質に使い、私を聖杯として使用し世界を救済する・・・。

 ーーそんなことが本当に可能なの?」

「無論です。原因不明のマナの枯渇、全ての生物にとって猛毒となる、まったく未知の粒子に満たされたドライスポットの発生。危機に瀕した星が根底からルールそのものを置き換えようとしているとしか思えない。

 そして、旧来のルールの上で設計・生産された生き物は新世界では生きられない。

 だからこそ、星に残された全てのマナを集めて旧世界最大の大魔術を行うのです。聖杯たる美遊様を使って「人類を新世界でも生きられる生物に置き換える」それこそ、我がエインズワースが聖杯に託す願いなのです」

 

 美遊は迷った。

 どんなに言葉を取り繕っても、一人の命が世界より重いわけがない。

 だからもし、自分を犠牲にして世界と人々を助けることが出来るなら、それで全てを救済し、救うことが出来るならーー

 

 

 

「やれやれ・・・見当違いも甚だしいな。とんだ茶番だ」

 

 

 

 場の空気を静かにぶち壊す、“鉄の香り”がする少女の声。

 アンジェリカは、その時初めて美遊の隣にいる可笑しな服を着た少女に気づいた。

 そして“苛立つ”。

 エインズワース家の悲願を果たすために、己を捨て、感情を捨て、救済のために戦う自分に“苛立ち”などという感情があった事に多少の驚きを感じながら、少女を睨みつける。

 

 そして、“空間から剣を出現させる”。

 

 彼女が使うサーヴァントの宝具、ゲート・オブ・バビロン。あらゆる宝具の原典を呼び出し射出する、この能力ならばたかが小娘一人、一瞬で消し炭にできるだろう。

 

 なのにーー

 

「聖杯による救済、だと? 解せんな、そんなものに意味があるというのか? 仮にそれで救われたとして、その後どうなる? ただ救われただけの連中をどうするつもりなんだエインズワースは?」

「それは・・・」

「貴様等は世界を“救う”事しか考えていない。“導く”事をする気がない。小綺麗な理想を並べ立てるだけの小娘に世界は重すぎる」

 

 やれやれと、一撃必殺の宝具に狙われながら少女は平然と肩をすくめる。

 

 まるで、圧倒的な強敵と相対することなど日常茶飯事だとでも言うかのように・・・。

 

「なによりも、それが一門の悲願だというなら、なぜ美遊君にはっきり言わないんだ? 人類のために死んでくれ、と。

 お前を泥の中に突き落とし、永遠の苦痛と孤独を味合わう生け贄になってほしいのだ、と。

 どうして晴れ晴れと誇らしげに、そう語らなかったんだ?」

「ーーそのようなふざけた」

「そんなふざけた申し出があるかって? たかがこの程度でか」

 

 アンジェリカは絶句した。

 相手の目には狂気は見えず、むしろ理性だけが無限に見える。

 そんな相手が、魔道を収めた魔術師でありエインズワースが使役する兵隊ドールズの一人である彼女が思わず“恐怖する”程の内容で、真っ直ぐに舌鋒鋭く、これ以上なく正気で痛罵してくる。

 

「ただ個人の欲望だけで、神意も大儀もなく万国を踏み荒らそうというのでもない。最果ての海をこの目にしたいなんて妄想ひとつで、居並ぶ軍神やマハラジャの栄誉も誇りも奪い尽くして、なお彼らに轡を並べさせようというわけでもない。たかが少女一人を甘言をもって唆しておいて、お前たちは自分の夢を叶えようというのか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 アンジェリカは答えられなかった。

 “答えなかった”のではなく、答え“られなかった”のだ。

 

 それは少女の言が正しいと感じたからではなく、その矮躯から発せられる“砂塵”の臭いが彼女を萎縮させてしまい、声を出すことができなくなっていたからだ。

 

 まるで、“主の威を借る鼠が、忠誠心を楯に己が所行を正当化する気か?”と誰かに詰問されているかのような・・・・・・

 

 否、そうではない。

 誰か、ではなく誰かたち。もしくは・・・大勢の何者かに、だ。

 

 ここには自分たち以外の誰もいないのに、人除けの結界も発動しているはずなのに。

 にも関わらず、この場には自分たち三人とは別に“何千人もの何者”の気配で満たされつつあり、この場を征服しつつある彼ら全てに槍の矛先を向けられているような、そんな錯覚に恐怖してしまって指先ひとつ動かす事ができなくなっていた。

 

「それと最後にもう一つ。お前たちの言う大魔術では人類は救えないぞ」

「ーーっ!?」

 

 これには流石に反応を返さざるを得なかった。

 認められるような内容ではなく、無視できるような内容でもない。

 問いただした上で処断すべき暴言だ。子供だからと言って情状酌量の余地など微塵もない。

 懲罰を下し断罪する。その意志を持って動かない体を無視して無理矢理ゲート・オブ・バビロンを展開しようとした矢先

 

 

 

 

「それら粒子がなんであれ、ガイアもアラヤも反応していないところから見て、星のシステムに異常が発生しているのは間違いないだろう。

 その原因、星が異常を起こし、アラヤが機能しない理由とはーーおそらくエインズワースが成そうとしている聖杯戦争に使われている“泥”にある」

 

 

 

 アンジェリカは声を失った。

 美遊もまたヴェルベットを凝視したまま思考が停止している。

 

 彼女の言葉は、それ程までに有り得ない発言だったのだ。

 

「ば、バカを言うな! エインズワースは世界の救済を目指している! そのエインズワースが原因で世界が滅ぶだと? 侮辱にも程があるぞ!」

「そう考える方が道理が通る。

 ガイアは星を守るためには人類をも滅ぼそうとする。

 アラヤは人類を守るためには星をも滅ぼそうとする。

 その二つの相克によって成り立っているのが、この世界だ。どちらかが崩れただけでシステムは別の物に置き換わるだろう。それは分かる。

 ーーでは、その崩れた原因は・・・崩した何者かは何だ? いや、誰だ?

 間違いなく居るぞ。悪意と妄執と願望によって聖杯を汚染しようとする輩が。純粋なエネルギーの塊でしかない聖杯を汚染して、自分に都合良く使うつもりが自らも汚染されて傀儡とされている愚かで哀れな道化師が」

 

 論文を読み上げるように、経験済みの出来事を語るように淡々とした口調で続けたがーーここで声音が変わる。

 

 まるで、恭しく主に奉答するように。主の好敵手に主君からの書状を手渡し、読み上げるかのように。

 厳かに、厳粛に、なによりも歴史上最高の覇王から派遣される使者に選ばれた栄誉を誇らしく思いながら

 

 

 

 

 

「ーーなぁ、そうは思わないか? 英雄王ギルガメッシュよ。

 ボクが仕える主君は、影武者ごときに乗っ取られるお前程度に倒されたことをお怒りだぞ。宴を続けるから早く戻ってこいだとさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雑種如きが付け上がるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!!???」」」

 

 美遊、アンジェリカ、サファイアが三者三様に震え上がった。

 何処かから轟いたその怒声には、凄まじく強大な“威”が込められていた。

 たかが小間使いや願望器ごときでは抗うことなど出来うるはずもない、圧倒的すぎる“王気”。

 

 物理的な支配力さえ有するそれを、ヴェルベット・ウェーバーと名乗っているロード・エルメロイⅡ世・・・いやウェイバー・ベルベットは平然と受け止める。

 

 

 

 

 やがてーー“本当のソレ”が顕現した。

 

「ーーふん。相も変わらぬ忠勤ぶりよな、小僧。いや、今の姿には似つかわしくない呼び名だったか。改めよう。

 久しいな幼童。まさかとは思うが、我の命を違えておるまいな? 我は別れの際に申し付けたはずだぞ。「忠道、大儀である。努その在り方を損なうな」と。

 ーー我を失望させるような答えを返せばどうなるか・・・言うまでもあるまい?」

「違えるわけがないし、忘れたことさえ一瞬たりとも無い。

 あの言葉は、ボクがボク自身で手にしたはじめての勝利だ。死んでも忘れられないだろう。

 なにより、ボクの忠誠心を認めてくれたのは、あのバカ以外ではお前が最初だったからな。一応、その、なんだ。・・・か、感謝していなくもないんだからな!」

 

 途中からツンデレが混じってしまうあたり、永遠にデレないツンデレ先生の異名は返上すべきだと思う。所詮、元ヘタレなへっぽこ魔術師だった。

 

「ふむ。その言や良し。我は何かを盲信する者は好まぬが、貴様は数少ない例外だ。実に小気味よい。自らの強固な意志で王に魂を捧げるその生き様、それを我は賞賛するぞ。

 ーー少なくとも思考を放棄し、何かを崇め縋った結果、魂が腐り落ちた事にも気づけぬ虫けらよりは遙かに好ましい」

 

 ジロリ、と。

 その“黄金の英霊”の赤い瞳で睨まれたアンジェリカは恐怖に震えた。

 

(有り得ない・・・有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない!

 私は依然、サーヴァント・アーチャーを憑依させている! 鎧も魔力も宝具すらも消えていない!

 では、誰だ! コイツはいったい誰なのだ!?

 アーチャー・ギルガメッシュに外見こそ酷似しているが中身は全く別物の、クラスカードでは制御しきれない桁外れの力を持ったーーまさか、正真正銘本物の英雄王ギルガメッシュのサーヴァントだとでも言うのか!?)

 

 答えにたどり着いてはいるが、自らの信ずるエインズワースへの忠誠心がそれを否定する。

 エインズワースが開発した英霊召喚システムでは同じ英霊を同時召還することはできない。自らの纏うギルガメッシュも、片割れが何処かへと落ち延びたとはいえ、力と宝具の大半は彼女の手中にある。

 もはや、あれは半端な英霊もどきだ。大した脅威にはなるまい。

 

 だが、こいつは違う。別次元すぎる怪物だ。

 視線を合わせることさえ全身を奮い立たせなければ不可能なほどに、目の前の英霊からは強大すぎる魔力と圧迫感を感じ取れる。

 

 

 ーーエインズワースの英霊召喚は完全ではなかったのか・・・?

 

 自らが地面だと信じていた物に対する疑念が、彼女から“覚悟”を奪った。

 膝が震え、体力に関係なく座り込んで立ち上がる事ができなくなった。

 落ちぶれて三流の道化ですらいられなくなった賊の捨て駒など、手ずから殺す必要性を認めないとして、ギルガメッシュはウェイバーに向き直り、改めて試すかのように問いを投げかける。

 

「それで? 貴様はこれをどう解析する?

 王命を守って十年を生きたのなら、その間を無為に過ごしてはおるまい。貴様からは以前には無かった誇りを感じる。あの騎兵の女も今の貴様を見れば迷わず殺しにかかってくるであろうよ。

 そんな貴様から見て、此度の茶番はどう写る?

 王が許す、申してみよ。傾聴に値するならば、聖杯とやらいう杯のひとつも報償としてくれてやろう」

「相変わらず偉そうだなお前・・・。まぁ、いいか。もう慣れたし、疲れるだけだから話を先に進める。

 ーーまず、今回の聖杯戦争は十年前の“アレ”とは全くの別物だが、同じく“偽り”だ。それは保証する」

「・・・・・・あの醜い贋作に、再び我ら英霊が踊らされていると、そう言うことか?」

「ああ、本来ならサーヴァントはクラス適正にあう英霊をマスターとの相性に応じてランダムに、あるいは縁の品を使って目当ての奴を引き寄せやすくするシステムだった。が、今回のクラスカードとやらは違う気がするんだ。

 その証拠に、そこにいる奴が憑依させているお前は、十年前にあのバカの宝具を破ったときとは比べものにならないほど弱い。多分だけど、クラスに押し込めてるだけじゃなくて、弱体化を代償に目当ての英霊だけを限定して喚べる類の魔具にしたんじゃないかな。

 一枚につき一人を喚べるけど、それ以外は誰も喚べない。英霊自身も大幅なステータスダウンをする代わりに術者に憑依させることが可能。

 それだったら大量生産が可能だし、クラスカードは召喚媒体にすぎなくなって負担も減る。現界を維持するのに必要な魔力は余所からーーおそらく“泥”から取ってきてる。そんなところじゃないかな」

「・・・・・・つくづく魔術師共も学ばぬな。あの悍ましい汚水を、まだ万能の願望器だと信じ込んでおるのか?」

「伝説とされている名門アインツベルンが八百年かけても単独では成就が不可能だった大魔術儀式だぞ? たった一家で本物が作り出せると信じる方がどうかしてるのさ。

 ーーにも関わらず成就を願うってことは、そう言うことだろう?」

「・・・その結果生み出されたのが、またしても己等自身では報いきれぬ道具か。人の心を付けてはいるが半端な偽物だな。このようなガラクタをエインズワースとやらいう賊は生み出し続けていると言うわけか。

 ーーもはや、肉片ひとつも残すことを認めぬ。せめて散りざまで我を興じさせよ。盛大な花火として打ち上げてやれば、この醜き時代も少しは見栄えが良くなると言うものだ」

 

 怒りと殺意を込めた瞳で空間をーー空間の先にあるエインズワースの城を睨みつける英雄王だが、意外にも今すぐに攻め落とすとは言い出さなかった。

 我慢や忍耐とは無縁なはずのこの英霊。大人しく座して待つなど、絶対に有り得ない。いったい何を企んでいるのか?

 

 不審を覚えるウェイバーに対し、英雄王はふいに、イヤらしく淫らに嘲って見せる。

 

「そう言えば、幼童。貴様ーー今は無き主と再会したくはないか?」

 

 瞳に愉悦を浮かべながら、英雄王はロードに悪魔の誘いをかける。

 無論、この問いに対するウェイバーの答えなど考えるまでもない。

 

「会いたいさ、決まっている。だからって、こんな茶番劇にアイツを喚ぶなんて有り得ないぞ? わざわざ喚びだして主君に恥をかかせてからお帰り願うような臣下がいてたまるか。断固拒否する」

 

 その“期待通り”の答えに満足し、忠臣に対して英雄王は、王として褒美を与える。

 おぞましくて淫靡な笑顔を浮かべながら、思いっきり愉しそうに。

 

「よくぞ言った。それでこそ、あの男の忠臣よ。褒美を取らす。

 まずーー『クラスカード・ライダー』!」

「はぁ!?」

「続いてーー英霊召喚用に未使用令呪をひとつ!」

「ちょっと待てぇぇい!」

 

 大声で抗議するウェイバーを愉しくて仕方がないと言いたげな表情で爆笑しながら、王は自分とは別の王に仕える、古今に比類無き忠臣の疑問に応えてやる。

 

「痴れ者が! 我は世界最古の英雄王ギルガメッシュ。

 クラスカードや令呪のひとつやふたつ、持っているに決まっているではないか!」

「お前の宝具チートすぎるんだよ! 攻撃特化のエヌマ・エリシュよりもそっちの方が汎用性高すぎて便利すぎるだろうが、この歩くチートが!

もう、どこの平行世界でも主人公はれるレベルだぞ! 英雄王が異世界に進出だぞ! なのに、なんでまだこの世界に居続けてるんだよぉぉ!!」

 ーーそれと、ひとつふたつどころか、何故か三つもあるんだけど!?」

「ふははははっ! そんなもの決まっておろうが!

 その方がーー面白いからよっ!!」

「だと思ったよ! この慢心王め、別の平行世界で月にでも召還されて地味めな女子高生に全裸を晒してドン引きされろ!」

「そのような些事などどうでも良い! 今、我は猛烈に悦しんでいるのだ。それだけで、貴様の人生は釣りがくるのだぞ? もっと悦べ貧乏人!」

「雑種じゃなかったのかぁぁぁぁぁっ!!!!!?」

 

 完全に十年前のツッコミキャラへと退行してしまっているロードと、基本的には俺様系わがままキャラのギルガメッシュの相性は驚くほど良かった。

 

 ・・・案外、十年前に行われた偽りの聖杯戦争でこのコンビが生まれていたら優勝していたかもしれない。その場合、ウェイバーは今とは別の人格になっているのだろうが、どちらにしても苦労性になっていた事だけは間違いない。

 

 苦労の星の元に生まれた彼、もとい彼女の人生に幸あれ。

 

「さて、それでは止めを刺すとしようか。

 ーー令呪をもって命じる。ライダーのサーヴァント征服王イスカンダルよ、貴様の臣下たる幼童、かつてウェイバー・ベルベットと名乗っていた小娘の身にサーヴァントとして“永遠”に憑依せよ!」

「おぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!」

 

 本来ならば絶対不可能なルール違反を、絶対命令権たる三つの令呪を全て消費し、命じた者は人間の限界を遙かに越えすぎている英霊の、そのまたチートサーヴァントで、この場所は元々アインツベルンが聖杯戦争で使用する予定だった大聖杯が埋まっており、大聖杯の役目は霊脈からエネルギーを吸い上げて蓄積し生け贄にするためのサーヴァントを降霊させることであり、おまけに使用寸前で“器”が居なくなったことによって使用されずに放置され、それでも設置されてはいるのでエネルギーは集め続けていて、本来ならば使用するはずだった聖杯戦争が勃発しなかったせいでエネルギーが溢れかけており、平行世界の壁を破って来た迷惑なお客様のせいで時空の壁が薄くなっていることもある。止めとして、このクラスカードはライダーのサーヴァントとしてイスカンダルを喚ぶ事のみにしか使えない代物だった。

 

 ・・・ビックリするぐらい条件が整いすぎていた。

 これは、もはや運命の類だろう。Fateである。

 この物語は彼が彼女となって英霊に振り回される物語である。

 

 ーーやだなぁ、そんな聖杯戦争・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、そんな訳で。

 結果として、こうなりましたとさ。

 

「訴えてやる・・・」

 

 涙目で長身の英雄王を見上げながら睨みつけているのは、ブカブカの赤マントを羽織り、お子さまサイズの銅鎧を無理矢理着させられ、ライダーのサーヴァントのコスプレをしている風にしか見えないお嬢様系美少女だった。ぶっちゃけ七五三だった。

 

 誤解を恐れずに正直に言おう。

 これはーー萌える!

 

「ヴェルベットぉぉぉぉぉっ!!!!」

「うおぉぉぉぉっ!?」

 

 萌えの塊を見せつけれらた事で、英雄王に萎縮し動けなくなっていた美遊の理性が月の彼方にまで完全に蒸発した。

 今の彼女にはスキル・理性蒸発Aが追加されている。英霊アストルフォ以上だ。暴走しまくっている。状態異常に等しい。神をも恐れぬ今の美遊に、エインズワースのことなど欠片ほども頭にない。

 

 突如としてロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーは、女子小学生の魔手によって生まれてはじめての貞操の危機にガチで陥らされるはめになったのである。

 

「はぁはぁ・・・ロリっ子がお子さま鎧着て私を誘惑してる・・・これならくんかくんか、すーはーすーはー以上を犯してもーー合法だよね?」

「違法に決まっているだろうが! 押し倒すな、臭いを嗅ぐな、胸を揉むな、尻を撫でるな、唇を奪おうとするなぁぁぁっ!!!」

『美遊様が平行世界から来た聖杯で、向こうには未知の粒子が広がっているとは・・・これはどういう事でしょう? 早く姉さんと連絡を取らないとーー』

「そっち!? お前が今気にしてるのそっちなの!? 今更すぎるだろうが! と言うか言葉が話せるなら疑問に思ったときに躊躇わず尋ねろ、このポンコツ礼装! そうでないと講義が滞るだろうが!

 ーーあと、今はとにかく助けてください! お願いします!」

「はっはっは。なかなか愉快な見せ物だぞ道化。貴様には魔術師よりも道化師の方が向いている。

 ーーよし、折角だ。

 もう一人道化を喚んで盛り上げるとしようっ!」

「やめてくれぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

「ーー告げる。

 前略、以下略、以下省略。

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーー!」

「ぜんぜん呪文唱えてねぇぇぇぇっ!!!!」

 

 ここぞとばかりにチートを連発する英雄王。

 性格的な理由で相手を蹂躙することばかりに使用しているゲート・オブ・バビロンだが、使い方次第では世界を割るだけのエヌマ・エリシュより遙かに性能がいいのだ。

 実際、聖杯もどきも蔵には有ったりする。本気で探せば簡単に世界救済できちゃうのだ、このチートなキンピカ様は。本当にチートにも程がある。

 

 そして今、彼は全力でロードを弄んでおり、その為ならば出し惜しみする気は微塵もない。愉悦のために世界と人類を滅ぼせる王に倫理など通用しない。我が法なのだ。

 

 

 

「初めましてだね、マスター! あ、自己紹介した方がいい? いいよね? やるよ! ボクはサーヴァント、ライダー。真名はアストルフォ。

 本当は男のはずなんだけど、なぜか女の子として喚ばれたみたい。よろしくね、マスター!」

「またTSしたぁぁぁぁっ!!!!」

「他の女にヴェルベットを渡すくらいなら、私がこの槍で・・・!!」

「ちょっ、それゲイボルクじゃね!? やめろ! つか、マジでやめてお願いだから! 洒落にならないから、その槍本気で洒落になれないから! ヤンデレはいやだぁぁぁぁっ!!!! 助けてバカライダーぁぁぁっ!!!」

「え? 呼んだ? ーーあ、でもボクはバカじゃないからね!ただ、ダメなだけだからね!!」

「紛らわしすぎるぅぅぅぅっ!!!!!

 あと、役立たずすぎるぅぅぅぅっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・カオスだった。これ以上なくカオスだった。

 偽りの聖杯戦争など問題にもならないレベルでカオス過ぎた。

 

 

 

 

 かくして本来ならば参加していない、頭しか使えない美少女二流魔術師が、考えることが不可能な理性の蒸発したTS美少女サーヴァントを従えて強制的に参戦させられたことによりエインズワースの目論見は思いも寄らぬ方向へと歪められていくこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、戦意と信念と自信と誇りと生きる意味を見失って呆然自失しているアンジェリカの事は誰の頭からもスポーンと綺麗さっぱり忘れ去られ、思い出されるのは翌日のことだったりする・・・・・・。

 

つづく




もう訳わからん状況ですね。
基本ギャグ作品ですので、合理性とか求めないで頂けると助かります。


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3話「平行世界聖杯戦争開幕」

更新遅れに遅れて申し訳ありません。
コハエースとか読んでたら頭ごっちゃになっちゃいまして・・・。

それと今話から話もキャラも致命的なほど崩壊します。作者の予想を超える崩壊具合ですので原作ファンの方は読まないでください。
それと美遊ちゃんがかなり酷い事になりますので彼女のファンの方々は絶対に読まないでください。


「正直、かなり不安ではあるけど・・・今は、あんたに頼るしかないわ。

 ーー準備はいい?」

「う・・・うん!」

 

 緊張した声で返事をする幼い銀髪の少女と、年長者としては情けない限りの発言を偉そうな態度でする十代半ばの黒髪ツインテールのテンプレなツンデレ少女。

 

 二人は今、深夜0時の市立穂群原学園高等部の校庭にいた。

 明らかに子供が外を出歩いていい時間帯ではない。巡察中の警官に見つかったりしたら強制的に交番へと補導されるのは確実だろう。

 

 だがーーそれは“普通”の子供であればの話。

 あいにくとツインテールの少女、遠坂凜が属する世界では夜こそがホームグラウンド。昼間は大人しく深窓の令嬢を演じてはいても、その内実は魔術の名門、遠坂の現当主であり五大属性を生まれ持った化け物である。

 常識など通じるはずもない。

 

 ーーが、彼女が下駄を預けた相手、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは掛け値なしの一般人であり、戦闘訓練も魔術教練も一切受けていない素人であり、あげくは昨日の今日で実践投入された完全無欠の学徒兵である。

 ほぼ、死んでこいといっているに等しいのだが、言っている本人に自覚はない。なせばなると楽観視しまくっている。

 ちなみに学徒動員は亡国の前兆であり、敗亡寸前の悪足掻きでしかないというのが一般認識である。

 

 だが魔道とは常識の埒外にある外法の技なので一般論は通じない。

 ゆえに魔道を納めた彼女に倫理や常識は、存在していない。

 ーー魔術師とは異常者を超美化した言葉ではないかと思うのは気のせいだろうか・・・?

 

 そして始まる、別世界へと渡るための離界(ジャンプ)

 

「えっ・・・な・・・なにをするの?」

「カードがある世界に飛ぶのよ。

 そうね・・・無限に連なる合わせ鏡。この世界をその像のひとつとした場合、それは鏡面そのもの世界。

『鏡面界』そう呼ばれるこの世界にカードはあるの」

 

 初めて目の当たりにする超常現象に目をパチクリするイリヤに対し、慣れた口調で説明する凛。

 遠坂家の悲願は第二魔法『平行世界の運営』である。鏡面界も無数に存在する平行世界のひとつであると解釈すれば、この状況を歓迎こそすれ驚く道理はない。

 ーーが、イリヤは昨晩に徴兵されたばかりの、単なる現地人の少女である。これから自分が戦わされる事すら教えられていない。

 これでどうやって神秘の具現たる英霊と戦えと言うのだろうか?

 つくづく魔術師という生き物は常識を無視しまくる生き物である。

 

「な・・・なに、この空・・・?

 ううん、空だけじゃない・・・」

 

 先ほどまでいた場所の物とは明らかに違う縦横に走る光のラインによって正方形の格子模様に区切られた頭上に広がる空。

 その不気味さに戸惑い驚くイリヤだが、状況は、そして凛は時間を与えてくれない。

 

「詳しく説明しているヒマはないわ!

 カードは校庭の中央! 構えて!」

「え? 構えて、って何で?・・・・・・な、なんか出てきたー!」

 

 説明もなく、戦い方のレクチャーもなく、ただただ魔術礼装カレイドステッキに選ばれて魔法少女にされたイリヤを「自分のサーヴァント(奴隷)」と決めつけて戦場に連れてきた凛。

 にも関わらず、彼女自身が初の実戦。すなわち初陣である。

 初めて戦う相手が英霊、主戦力は実戦経験どころか訓練未経験の学徒兵。

 この場にロードがいれば「やってられるかこのクソゲー!」とコントローラーを放り投げるに違いない程の超高難易度ステージだ。完全に詰んでいる。

 

 ーーが、幸か不幸かこの場にいたのは二流魔術師ロード・エルメロイⅡ世ではなく、ケルトの大英雄クー・フーリンが用いた『心臓を穿つ』という結果を先に作ってから槍を放つ、因果を逆転させた必中不可避の魔槍ゲイ・ボルグを扱うもう一人の魔法少女にして異世界の聖杯たる美遊・エーデルフェルト。

 ・・・結果など見るまでもない。

 

「「・・・へ?」」

 

 現界したばかりのサーヴァントの左胸から深紅の矛先が飛び出したと思ったら、絶叫どころか登場の際にあげるべき雄叫びすら叫ばせてもらえずに消滅していくライダーのクラスとおぼしきサーヴァント。

 余談だが、彼女の出番はこれで終わりである。やはり幸運Eで活躍は無理だったか・・・。

 

 ライダーを消滅させ終わった深紅の魔槍は、あり得ない軌道を描いて持ち主の手元へ戻っていく。

 帰ってきた槍の宝具としては最高峰に近い最強の対英霊兵装をしっかりと握りなおして、美遊はその矛先に憎い恋敵の心臓を穿つシーンを夢想する。明らかに病んだ目つきだが、実際ヤンデレているのだから仕方がない。

 

 ヴェルベットに馴れ馴れしく接するピンク髪のお邪魔虫。悔しいが、今の美遊が適う相手でないことは理解できた。

 エーテル体で肉体を構成するサーヴァントは魔力量が桁違いだ。聖杯とは言え覚醒にほど遠い美遊では戦っても勝てない。

 だからこそ、この槍を使いこなすことを優先し、投擲を我が物とした。今の彼女が放ちさえすれば、死なない相手以外ならば確実に一撃で仕留められる。

 

 どことなく暗い笑みを浮かべ、美遊は自分が修めた技術に満足する。

 

「フフ・・・ヴェルベットは私の物。私だけを見ていればいいの。私以外を見ちゃ、ダメ・・・。その時はこの魔槍が貴女の心臓を・・・」

「え・・・だ・・・誰・・・・・・?」

「え、えと・・・お、オーーーッホッホッホ!!

 まずは一枚!カードはいただきましたわ!」

 

 見ず知らずの暗い笑みを浮かべる少女にドン引きしつつ、イリヤは何時でも逃げ出せる姿勢のままで疑問を投げかけ、別人の高笑いが反応する。

 

 若干のタイムラグがあったのは、ここしかないタイミングで接近し、必殺の一撃をいれて仕留めるというのが彼女が考えていた作戦であり、魔槍を投擲して遠距離からの一撃で確実に仕留めるという、ある意味チート戦法は発想すら頭に存在していなかった。

 それを成したのが、自分がついこの間拾ったばかりの幼い少女であることに驚きはしたが、まぁ勝利は勝利である。要は目的のブツを手に入れられれば良いのだ。

 『地上で最も優美なハイエナ』の異名を持ち、世界中の争いに好き好んで介入して荒稼ぎするのが収入源の宝石魔術の大家は何処にいようと平常運行であるらしい。

 ーーつか、自分の妹と決めた相手が浮かべる嗤いは無視して良いものなのだろうか? やはり魔術師の精神は異常だ。精神汚染がデフォルトなのかもしれない。

 

「こ、このバカ笑いは・・・!」

「無様ですわね遠坂凛! 相手の宝具が発動するより先に一撃で仕留めるのは対英霊戦闘を考慮する上で真っ先に考えておくべき事でしょうに!」

「ぐっ・・・アンタにしては珍しく完全な正論ね・・・。いったい誰に入れ知恵されたのよ!? 絶対アンタが考え出せるような作戦じゃないでしょうが!」

 

 知りません。むしろ誰か教えて下さい。

 金髪ドリルヘアーのゴージャスドレスお嬢様ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの心の声を翻訳すると、こんな感じになる。

 全く訳が分からないが、それを素直に言えるのような性格ならば時計塔編入一年目にして被害総額200万£などという馬鹿げた数字を喧嘩沙汰ぐらいで出しはすまい。

 

 ようするに、事態は必然的に悪化の一途をたどる事となる。

 

「しかも魔術師が相手の現界が完了するまで何の準備もせず、手をこまねいて突っ立っているだけとは・・・とんだ道化ですわね遠坂凛!!

 肉弾戦特化の魔術師が時計塔主席候補だなんて、二百年の歴史を持つ名門遠坂の名が泣きますわよ!」

「ぐ、ぐぐ、ぐぐぐぐぐ・・・・・・!!!」

 

 言い返したい。むしろ、延髄めがけてマジ蹴り放ちたい。

 だが、それでは先ほどの発言を自分自身で肯定してしまう事になる。それは断固として拒絶したい凛としては、唸って怒りを無理矢理押さえつけるしかない。

 我慢など向いていないにも程がある性格の魔女が、である。間違いなく長くは持つまい。

 

 破滅の爆弾が爆発するときが一秒づつ近づいてくる中、

 状況にそぐわぬ冷静で大人しい、それでいて年齢を感じさせない幼い少女の鈴を転がす音に似た涼しげな声が場に響く。

 

「いや、そもそも英霊と戦うのなら相手の真名を探るのが最優先事項だろう。美遊君のゲイ・ボルグが特別すぎるチート武器なだけで、ふつうの英霊は一撃必中にして必殺の遠距離射撃武装など持ってはいないのだからな。

 ーーと言うより、お前らちゃんと聖杯戦争について調べてきたか? いくらなんでも場当たり的な印象が強すぎるんだが・・・」

「「誰!?(ですの!?)」」

 

 突然の呼びかけ&問いかけに対して過剰に反応する名門魔術師二人は、手に宝石を構えながら振り返る。

 

「ヴェルベット・・・! 私に会いに来てくれたの・・・!!」

 

 なにやら一人で早合点し始めて、妄想で頭がピンク色に染まり理性が蒸発した聖杯の魔法少女は、誰よりも空気を読まず相手の意志も尊重しない。恋する乙女は誰もがバーサーカーなのだ(嘘)

 

「あ、アイツはお兄ちゃんを誑かした雌狐・・・!!」

 

 実は魔法少女を引き受けた最大の理由が、恋する兄が延々と語る見ず知らずの少女に対する嫉妬だった本来の主人公。正義のヒロインが生まれる動機が嫉妬で良いのだろうか? 恋する乙女は時にアヴェンジャーとなる。

 

(おや~? どこかしら違和感というか懐かしさというか同類の気配がする子ですねぇ~。もしかして、大師父さんになにかされた人でしょうか?

 ま、可愛いので何でもオーケー!可愛いは正義!

 だから、イリヤさんは正義であり、彼女で遊ぶのに使えそうな人材はいつだって大歓迎ですよぉ~!)

 

 ロードの正体に薄々気づきながらも自らの愉悦を優先して黙秘を選ぶ、どこぞの英雄王みたいな魔術礼装。愉しければいい快楽主義は誰の影響なのだろう? どこぞの魔法使いでないことを切に願う。

 

「ねぇねぇ、マスター! あれ! あれ見てよ!

 三階建て以上のお城が真っ白だよ!すっごいねぇ~。いったい幾らしたんだろうね?」

 

 西暦八世紀のフランスから来た英雄は、自分の時代では権力者の象徴として建築されたとしてもおかしくない出来映えと華麗さを誇る白亜の宮殿(穂群原学園を中世時代感覚で言い表した)に驚嘆し、探検したいという欲求を抱いて即座に実行に移す。

 

 最後に残ったロードは、いつも通りのゲームのロゴTシャツ姿で口にはチュパチャプス。どこから見ても一般的な小学生だが、彼女の発する言葉がこの場にあって一番魔術師らしいというのは、魔術師という存在に対する懐疑の念が増すには十分すぎる理由だろう。魔術師や英雄なんかに関わると禄な事にならない(どこかの平行世界の正義の味方より)

 

「まして、クラスという存在に固定された英霊は本来持っている力や宝具がいくつか使用不可になる。

 おまけにクラス特性で鬼門とでも言うべきクラスまであるしな。相性次第で有利にもなるし不利にもなる。強い英霊が必ず強力なサーヴァントとして現界するとは限らないし、強ければ必ず勝てるわけでもない。

 なによりも宝具こそが英霊を英霊たらしめる絶対的な象徴だ。これの性能が分かれば対処もしやすい。相手によっては致命的な弱点があったりもする。

 まずは真名を探る。可能であればこちらの手の内を見られる前に殺す。これが聖杯戦争における基本中の基本だと、時計塔の文献にあっただろう?」

「時計塔? アンタ、時計塔所属の魔術師かなんかなの?

 いくらなんでも執行者には見えないけど・・・」

「気にするな、ただの見習いだ。

 おまえたち天才には遠く及ばない、祭位(フェス)の二流魔術師さ」

 

 肩をすくめて見せるロードことヴェルベットだが、美遊はこの仕草が一番トキメくのだ。平時でさえも理性蒸発:Aが付与されている今の彼女に見せて良いものでは断じてない。

 

「はぁ・・・ふぅ・・・RRRaaaaRRRaaaaーーーーー」

 

 ほら、狂化スキルが付与された。

 付与されたばかりの現時点ではランクDであり、フランケンシュタインと同程度のパラメータアップしかしていないが、これからどうなるのか予測も予想も絶対不可能。

 乙女の恋心が、聖杯として利用されるはずだった少女を、この平行世界聖杯戦争最大にして最悪のダークホースへと変貌させた。

 

 ーーエインズワースの命運は如何に!? つか、勝負になるだろうか?明らかに個人戦闘能力に差が生じ始めているのだが・・・。

 

「私の名はヴェルベット・ウェーバー。見てのとおり魔術師見習いだ。

 日本人ではないが、育ての親が日本在住でね。帰省しようと帰国してみたら地脈が乱れまくっていると冬木在住の知り合いから連絡を受け、何の役にも立たないとは思ったが、とりあえず来てみたところ別の空間から帰ってきたばかりの時計塔主席候補二人に鉢合わせしてしまったと言うわけだ。少なくとも、私にはそちらと敵対する意志はない。

 言っておくが、君たちの中のどの魔術師と戦うはめになっても死ぬのは私ひとりだぞ」

 

 胸を張って、無力ぶりをアピールする時計塔に十二家しかないロードの名を持つ一族の当主代理にして、時計塔で最も成功したひとりと称えられる名物講師。

 彼の内弟子とは異なり、この場にいるメンツは彼女の言葉に呆れはしなかった。

 ただ、それぞれが異なる色の瞳と視線でさまざまな思いや想い、そして恋慕と嫉妬をもって彼女に強い関心を抱いただけである。

 

 ある意味では現在までの人生において一番注目された瞬間であったかもしれない。

 普段は講師としてしか注目されず、自分が望んでいる魔術師として注目されたいという願いは叶うことはないと割り切った上で努力し続けてきた彼としては、些か不本意な姿でだが願いが叶ったのは素直に嬉しかった。

 

「聖杯戦争を勝ち抜くにしろ生き抜くにしろ、最低限の情報は集めておくべきだ。時に情報は戦局を一変させる。相手が伝説や神話上の英雄たる英霊たちならばなおのことだ」

「・・・貴女が先ほどから言っている『聖杯戦争』とは一体なんですの・・・?

聞いたことのない名前ですが、何らかの魔術儀式の名称かしら?」

「私も聞いたことがないわよ、そんな儀式。

 これでも私たちは今年度の主席候補で名門出身。ウェーバーなんて聞いたこともない新参の魔術師一門が知っている程度の情報はとっくの昔に取得済みよ。バカにすんな」

 

 プライドを大いに傷つけられた二人のエリートが、不快感を隠そうともせずに反論する。名門の中では比較的リベラルな彼女たちだが、それでも新参や寒門にむける感情は決して好意的なものではない。

 そういう風に教えられて育つのが魔術師であり、それこそが“力”の源である以上しかたがない事でもある。

 現代の魔術師にとって最大の力とは、何百年、時には何千年以上の闇にしがみついていた強烈な思想そのものであり、いくつもの世代で増幅され続けた執念である。自らの思念で世界に干渉するには、自分の願いや祈りは「世界を変えれる」と心から信じなていなくてはならない。

 謂わば信仰心を超えた盲信、もしくは狂信の域にある感情。それが、世界に対して作用し、まるで呪いのように変質させる。

 

 だからこそ、歴史ある魔術師一族は強く、強い魔術師ほど己が一族の受け継ぐ思想を信じる。信じ抜いて信仰する。

 魔術師の通弊たる閉鎖的な価値観の原因は、まさにこれであった。

 

「では、伝説の名門アインツベルンが千年の長きにわたり探求し続けてきた第三魔法『ヘブンズフィール』については、どこまで知っている?」

「アインツベルン・・・? 聞いたことのない家名ですけれど、古い北欧貴族かしら?」

「アインツベルンって・・・たしかイリヤの家じゃないの!」

「ええっ!? わ、私は何も知らないよ!?」

「落ち着け、今教えてやるから、とりあえず落ち着け。収拾がつかん。

 ーーと、言いたいところだったのだがな。どうやら招待していない客人が宴に来てしまったようだぞ?」

「「「・・・え?」」」

 

 三者三様のポカンと口を開けた間抜け面をさらす美少女三名。

 そして、徐々にヤバい目つきになってきたバーサーカーもどきの美少女一名。

 混沌とした状況に突然介入してきた、四人目の美少女。

 

 漆黒の甲冑に身を包み、ゴーグル型の仮面で可憐な素顔を隠した矮躯の少女騎士。

 生前は伝説に名を残すほどの偉業を成し遂げた事実を雄弁に語る、邪悪な気配を纏った禍々しい大剣を握るセイバーのサーヴァント。

 

 “ナニカ”に汚染され、反転してしまった元は誇り高き騎士の英霊。

 彼女の真名。それはーー

 

「法による統制こそが世界の真理。

 我こそが世界で唯一人、ブリテンの正当な支配権を有する絶対者である。

 皆、余を称えよ。余の名はウーサー・ペンドラゴンの息子、アーサー・ペンドラゴン」

「って、またお前かアーサー王!!」

 

 ロード、怒りと恐怖の絶叫。

 そう、彼女こそ偽りの聖杯戦争において最強のセイバークラスとして召喚されたサーヴァント。騎士王アルトリア・ペンドラゴン。

 本来ならばこの時空において呼び出されたとき、すでに理性は失われており、聖杯への執着と未練だけで現界を保たせていた。

 無理を通すため大幅に弱体化し、相性の上ならともかくパラメータ的に見たら圧倒的に格下のサーヴァント、イリヤスフィールに憑依した名も無き英霊によって消滅させられる存在だった。

 

 ーーそう。本来の時空においては、そうなるはずだった。

 だが、この時空では些か事情が異なる。

 確かにアーサー王は現界当初、意志と力を失い亡霊のように未遠川周辺を漂い、聖杯の気配を感知したときだけ実体化して人を襲う一種のアサシンと化していた。

 しかし、この時空には聖杯を知る人物がすでに大きく関与してしまっている。言うまでもなくロード・エルメロイⅡ世こと、ヴェルベット・ウェーバーちゃんだ。

 彼女たちは偽りの聖杯戦争で互いに争いあった仲であり、含むところはない。が、ヴェルベットことウェイバーのサーヴァント、征服王イスカンダルが放った一言は未だにセイバーの心を蝕んでおり、それが理由で聖杯への願望がさらに強化されていた。

 

 そこに現れた当事者たるウェイバー。

 当然のようにセイバー覚醒。憎しみと執着から「この世すべての悪」に汚染されてオルタ化。セイバー・オルタとして変質した意識を手に入れる。魔力のパスがそもそも存在しない召喚のため、戦闘力は完全解放状態がデフォルト。

 

 セイバー・オルタ、ウェイバー及び聖杯(美遊&イリヤ)を感知。

 その聖杯、置いてけぇぇぇっ!!!

 

 ・・・となって今に至る。

 

「やべぇ!みんな、早く空へ逃げろ!!

 ヤツが・・・ヤツが来て爆撃を始めるぞぉぉ!!!」

「はぁ? ヤツってどこの誰よ?」

「だいたい、どうやって空へ逃げますの? 飛行魔術なんてわたくしたちでもステッキで変身しなくてはできませんわよ?」

「ああぁもう!! 

 なぜかこんな時だけ反応が鈍い、如何にもなバトルマンガヒロイン!」

 

 いまいち危機感に乏しい聖杯戦争参加経験なしの二人にロードは激しく苛立つ。普段ならば慣れたものだが、今だけは違う。落ち着いてたら殺されるというか、巻き込まれて死ぬ状況なのだ。

 なにしろ、セイバーことアルトリア・ペンドラゴンが聖杯に執着するように、彼女にこそ執着心を抱いている唯我独尊の暴君が身近にいるのだ。

 欲しい物を手に入れるためなら城でも国でも壊して奪い取る、傲岸不遜な人類最古の英雄王に周囲への被害を押さえる良識、魔術は秘匿するものという魔術師の常識などはいっさい存在しない。

 

 である以上、ヤツがこれから取るだろう行動はただひとつ。

 

「フフフ・・・セイバーよ。妄執に墜ち、地に這ってなお、お前という女は美しい。

 今度こそ剣を捨て、我が妻となれ。これが王の下した決定だ」

 

 この世は宇宙の果てまで我の庭。がモットーの空気読む気がない英雄王がヴィマーナに乗ってやってきた。空からの宝具一斉爆撃で穂群原学園は壊滅状態だ!

 

「あ、危なかった・・・。とっさにゴルディアス・ホイールを喚びだしてなきゃ、今頃あの世だったな・・・」

「わーい!マスターとタンデム、タンデム♪」

「お前どこから、いつ沸いてでた!」

 

 今の今まで忘れていた役立たずの英雄アストルフォが陽気に騒いでロードに抱きつく。ただでさえ狭い御者席にイリヤたち三人に加え、体格的には女子高生くらいのアストルフォまで乗れば定員オーバーもいい所だ。ぎゅう詰めのすし詰め状態である。満員電車よりも狭くて苦しい。

 

「く、苦しい・・・ちょっとルヴィア!アンタ、その胸取り外しなさいよ! 無駄にでかくて邪魔になってんのよ、この牛乳!」

「な・・・! 貴女に言われる筋合いはありませんわ遠坂凛!

 貴女こそ、無駄に付きまくっているその余分な筋肉をどうにかするべきでしょう。汗くさいったらありませんわ、この脳筋」

「なぁぁぁんですってぇぇぇぇぇっ!!!」

「なぁぁぁんですのぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「うるせぇぇぇぇぇっ!!!黙れお前ら!作戦を考えられないだろうがぁ!」

「あはははっ!なんだか楽しいね、マスター!」

「く、苦しい・・・潰される・・・」

 

 騒ぐ三人と楽しむ一人。

 そんな四人の下敷きになっている一人の存在に誰も気づいていないこの状況。

 

 だが、もう一人忘れられた少女がいる。

 彼女こそがこの状況を打破し、完膚無きまでに崩壊させる切り札となり得る最強のジョーカー。

 

 

 爆撃によって生じた爆発で巻き上がる煙がゆっくりと晴れていく中、この場に居るべき最後の一人が姿を現す。

 

 精緻な装飾もなければ磨き上げた艶もない。闇のように、奈落のように、ただ底抜けに黒い甲冑を纏った“影”としか形容しようのない異形。

 無骨な兜に覆われた頭部に細く穿たれたスリットの奥に、燠火のように爛々と燃える双眸の不気味な輝きだけが、ある。

 何の特徴もなく没個性で、見れば見るほどに細部がぼやけ、その容姿を正確に捉えられない黒い騎士の英霊に、ロードは見覚えがあった。

 つか、ここまで来るとナニカの呪いを感じざるを得ない。

 

「Aathur・・・・・・」

「バーサーカーぁぁぁぁっ!?」

 

 そう。彼の黒き騎士こそがアーサー王伝説にその名を唄われた英雄。

 王に仕え、王を裏切り、王を救うことが出来ずに悲嘆と嘆きの中で無念の死を遂げた円卓最強の騎士。

 偽りの聖杯戦争で戦い、破れ、王の腕に抱かれて、王に看取られながら逝った彼に、もはや聖杯に願うような願望はない。

 

 だが、そんな彼だからこそ、今の主君を放置することは出来なかった。

 仮初めの物にすぎないとは言え、与えられた第二の命、その今際のきわで彼は確かに王へと伝えたはずなのだ。

 

「貴方こそ最高の王であった。貴方の元に仕えた誰もが、そう思っていました」

 

 ーーと。

 この言葉は王への感謝。変わらぬ忠誠と永遠の友情。

 そして「貴方は間違ってなどいない。貴方に仕え裏切った者たちもまた、その思いだけは変わらない」そう伝えたかっただけなのだ。

 しかし今、彼女は墜ちて暴君となった。彼の言葉が彼女を追いつめ、狂気に走らせたのならば、それは自分の罪だ。

 罪は今度こそ償う。

 彼の王に裁かれたいという願いは果たされた。ならば、今度は私が裁こう裁くことで彼女を今度こそ救って見せよう。

 此処に再び、英霊サー・ランスロットにも聖杯に託す“願い”が生まれ、聖杯ーー美遊はその願いを叶えた。

 

 こうして三度目の命を与えられた湖の騎士ランスロット。

 剣術の腕ならば王をも上回ると言わしめた最強の騎士が最強のサーヴァントとして改めて現界する。

 

 ーーまぁ、憑依した対象に狂化スキルが宿っており、空で泥棒猫と戯れている(ように見えた)シーンを目の当たりにした結果ランクが一気にEXまで上がってしまったせいでバーサーカーとなってしまったが、其れはご愛敬。能力値はセイバーとして召喚された時の物になってます。

 

「再び我の許しを得ずに我の邪魔をする気か、狂犬めが・・・・・・」

 

 空気読まない英雄王がなんか言い出した!事態はもはや収集不可能だ!

 

「ランスロット卿か。円卓への出仕ご苦労。

 それで? その剣はなんのつもりだサー・ランスロット。王たる私に剣を向けるなど神に弓引くがごとき大罪だぞ?」

「Aathurrrr!!!」

「ふん。愚かな、モルドレッドと同じく私に逆らうか。

 ならば是非もなし。その首、王自らの手ではね飛ばして玉座の間に飾ってくれる!」

「おいおいセイバーよ。夫の言を無視するなど、お前がウルクの民であれば死罪だったぞ?

 ふん、まぁいい。特別に許す。早く我が褥で花を散らせ。其れで今回の件は不問にしてやろう」

「Aathurrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!」

「もう滅茶苦茶だなオイ!! これどうやって収拾つけたらいいんだ!?

 ーーっつか、エインズワースはどうなった!?」

「わーっ!ヒポグリフよりも早ーい!」

 

 背後からTS英霊にハグされつつ、もはや誰も覚えていない疑問をどこかの誰かに投げかけるロード。

 そんな彼女を一瞥することなく、最強サーヴァント三騎による手加減なしのガチバトルの幕が切って落とされようとしている。

 

 

 

 

 冬木市民は生き延びることができるかーー?

 

つづく




私が書くとギャグにしかならなくて嫌ですね。
いっそ真面目にロードを書くためにもハリポタにTS転生させようかと考えています。

それと、期待している方はいらっしゃらないでしょうが、次回に冬木市崩壊規模の戦闘は起きませんよ?


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4話「運命の夜(IF)」

久し振りに更新できました。活動報告に書いた諸事情によって遅れに遅れまくってしまい、本当に申し訳ございません!
その分、ネタは(正確には妄想)貯まりに貯まっているので全部ぶち込んでみました。
文字数の事情によりセイバー・オルタの活躍が次回になってしまった事だけが残念です。


「・・・・・・ここは?」

 

 瞼を開けたとき、彼はまたしても自分が一人であることを知った。

 霧に包まれた世界で、いくら見回してもそれ以外の存在が見あたらないことなど、今更すぎて知る必要すらない。

 

「なるほど、これが『バカは死んでも治らない』と言う言葉の寓意か」

 

 と、少女は今回も自らの肩を揉んだ。

 魔術刻印を蝕む天使の『歌』を受けた時もそうだが、魔術刻印を持たないロード・エルメロイⅡ世に対しては例外なく、心を殺す類の呪いは直接精神に働きかける作用をもたらすらしい。

 

 しかしなにも子供の姿になってまで、肩こりを精神世界に持ち込ませなくとも良いのではなかろうか? 若返りの効果か、あるいは性転換で骨格が変わったからなのか、先ほどまで感じていなかった慢性的な肩こりがぶり返しているのだが・・・。

 

 仮にこれが何万何億という人間に苦汁を嘗めさせ、命を奪ってきた最も強大で最も原始的な呪いの効果だったとしたら、呪い云々に関係なしに死にたくなる。

 主に魔術に人生をかけてる三流魔術師として、あまりのお粗末さに首吊り自殺くらいさせてくれても良さそうなものだろう。

 さすがに非道すぎる現実の苦さであった。

 

「とは言え、今回は別の存在から放たれた呪いの籠もった一撃なのだ。多少の違いくらいあるだろう。・・・むしろ、有ってくれ頼むから。

 これで死んだりしたら今度こそ本当に殺されかねない。

 グレイだけでなく、他にも色々と怖い知り合いが増えているのだから・・・」

 

 冷や汗を垂らしつつ、ロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーは心胆を寒から湿る。

 別段自分からそう望んでいるわけではないのだが、毎回のように命が掛かった事件に首を突っ込まざるを得なくなっている件について、一部知人たちの間で問題視されていることを、彼だったときの彼女は気付いていた。

 

 彼ら曰く

 

「シャーロック・ホームズだろうがナポレオンだろうが、アーサー王だろうがヘラクレスだろうが、少々文学や歴史、伝説や神話上で目立った程度の相手の真似を先生がする必要はない」

「左様。私とて十年前までは彼が対した人間だと思っていなかったとは言え、それが間違いだったと言うことを今では思い知っている。

 だいたい、彼の本質は魔術師ではない。誰よりも深く相手の底を見抜く才能は他の追随を許さぬだろう。

 なればこそ、魔術勝負などで散らせてよい人材ではないと思うのだが如何に?」

「押しつけた責任の一端があるわしが言うのも気が引けるのだが、あやつを御しきれるのは彼しかいない。彼になにか有ってわしにお鉢が回ってきたら、明確に寿命が尽きる。

 是非とも彼には長生きしてもらい、わし以上に肩身の狭い立場を共有してもらいたい」

「『絶対領域マジシャン先生』!」

 

 直ぐに思い出せたのだけで、なんか重い。

 あと、バカ弟子のフラットは死んでよし。

 

「挙げ句が今回の理由も『親子』がらみ・・・私は本当にあの頃から何も変わらず、何も成長していないのだな。

 ーーまぁ、だが今回の“アレ”に関しては、なりたかった自分となんら関係していないことが救いと言えば救いだろうな」

 

 苦笑しつつ、彼女は自分が此処にきた理由を思い出す。

 

 黒と漆黒と黄金の色をした三騎のサーヴァントが織りなす全力戦闘。それは世界を歪めるに足る力であり、エヌマ・エリシュ単発だけでも許容限界を大幅に上回る。

 鏡面界の強度では数秒持てばいい方だ。

 

 当然のように一瞬で崩壊した鏡面界から、命辛々脱出できたまでは良かったのだが、そこで思わぬアクシデントと遭遇してしまう。

 本来であれば交わることのない平行世界同士が交わりすぎた結果、一部で交錯現象が発生し、何処かの平行世界の穂群原学園の弓道場で弓の修繕を行っていた少年が、運命と出会った夜を再現するかのごとく、自室にいない妹の身を案じて深夜十二時の穂群原学園校庭を囲むように聳えるフェンスの近くまで来てしまっていた。

 

 そんな彼を襲った一撃が、必殺必中で心臓を穿つ慈悲深き紅い魔槍ではなく、気高き理想を叶える手段として暴君となる道を選んだ騎士王が持つ、呪われた黒き聖剣だったのは運命のいたずらか、はたまた人類救済のために戦い続ける赤い弓兵の願いを世界が聞き届けた結果だったのか。

 

 神ならざる身としては判断しかねるが、それでもあの瞬間、彼は確かに死にかけた。

 一瞬、あとほんの一瞬だけつぶやくのが遅ければ、間違いなく彼は黒きオーラに包まれて、呪い殺されていたことだろう。

 だが、この世界においても運命は彼を守り抜いた。

 

 彼は死の瞬間ーーエクスカリバー・モルガンが命中する寸前にこうつぶやいたのだ。

 

「ーーじいさん」

 

 ーーと。

 

 この世界の彼には、義理の父が存命している。死んではいないし正義の味方になりたかったと言う遺言も残していない。

 だが、それでもなお彼は確かに、そして確実に息子への強い影響力を保持していたらしい。なにしろ、息子が父に対して捧げる尊敬の念が彼の命を救うことになったのだからーー。

 

 お“爺さん”。

 この一言だけで、ロード・エルメロイⅡ世が動くのには十分すぎる理由となった。

 

 その結果、黒いオーラを受けたのは、魔術のいろはも知らず出来損ないの魔術使いですらない平凡で優しい少年ではなく、魔力除けのアミュレット程度とは言え、一応ながら対魔力Dをパラメータに持つライダーのサーヴァント 征服王イスカンダルをその身に宿した幼い少女版ロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーとなったのである。

 

「我ながらバカバカしい顛末だが、なってしまったものは仕方がない。

 なんとかこの呪いから脱出する方法を考えるとしよう」

 

 一見すると前向きに見える姿勢でもってロードは解決策について吟味しだした。

 だが、言うまでもなく彼女が優れた魔術師であるなら脱出は容易なのだ。端的に言ってエーデルフェルトの宝石魔術による流動させ、蓄積させ、制圧する手法を用いれば、あの時の結界のごとく破壊できてしまうのだ。

 なにしろ、今のこの身はサーヴァント。魔力の塊でありエーテル体の結晶だ。乗っ取りどころか完全征服できなければ可笑しいとすら言える。

 

 そう、優れた魔術師がこれほど多量の魔力を手に入れられれば不可能ごとなど殆どない。それでも不可能があるので有れば、それはサーヴァントそのものではなく、魔術師であるマスターにこそ原因がある。

 

「つまり私には才能が全くないと、そう言うことだな」

 

 欠片ほども気にしていない口調でつぶやきながら、彼女は霧の中を彷徨い歩む。

 方向は分からないが、行きたい場所、たどり着きたい場所は、ずっと前から知っている。

 ならば、もう迷わない。躊躇うことなく歩み続ける。

 前方へと続いている道を、霧によって阻まれる事など幾度となく経験済み。今更すぎると言うものだ。

 

 だから彼女は進む。

 前だけ見て歩む。

 道など無くていい。

 

 彼女の記憶巣には、かつて主が見せてくれた背中がハッキリと刻み込まれている。

 

 あの背中を追ってここまで来た。

 これからも、あの背中を追って歩み続けるだろう。

 だから、道はいらない。無くていい。

 なぜなら彼女にとっての道とは、歴史上最大の覇王が歩んだ人生そのものなのだから・・・・・・。

 

 

 

 

 

「ーーん? 景色が変わったのか・・・?」

 

 霧の中を真っ直ぐに彷徨いながら歩み続けた果てに彼女を待っていたのは、最果ての海ーーではなく、どこかの城の牢屋だった。

 

 陰鬱な場所だ。時計塔にも似たような場所はあるが、此処とは本質的に纏っている空気が違う。根本的に想いが異なる。

 

 此処にあるのは恩讐だ。呪いじみた執念だけが数百年分蓄積されて、城全体を覆っている。牢屋から出たくらいでは、この時間による呪縛からは解放されないだろう。

 

「数百年間積もり積もった願いが執念となり、やがては妄執と言う名の「この世すべての悪」となる・・・か。

 ーーまるで聖杯戦争そのものな場所だな」

 

 かつて自分の人生を決定づけた戦いを想起させる呪われた場所に、多少の感慨を抱いたが故の発言だったのだが。

 

 

 ーーまさか、反応が返ってくるなどとは、彼女も予想だにしていなかった。

 

 

 

 

 

「・・・聖杯? お前は誰だ? エインズワースの人間じゃ・・・ないな。

 ーーもしかしてお前は美遊を・・・俺の妹を知っているのか・・・?」

 

 弱々しい声。

 聞く者が聞けば明らかに拷問を受けた故だと分かる声質でもって問いかけてきたロードに問いかけてきたのは、驚いたことに彼女自身が庇って守った少年だった。

 

(いや、違う。彼ではないな)

 

 だが、即座に彼女は己の出した答えを否定する。

 ロード・エルメロイⅡ世が論文書くときクラッシュ&ビルドを旨としている。自分でだした答えだからと固執して、本来の目的を見失うことなど彼女にとっては論外の選択だ。

 

「君はもしかして・・・こちらの世界とは異なる平行世界の衛宮士郎君なのか?」

 

 名を呼ばれ、ハッとなって顔を上げた彼を見てロードは自分の推測が正しかったことを確信する。

 

 大方、多数の偶然が重なった結果なのだろう。

 縁を持つ複数の存在が一つ所に集中して存在してしまい、ただでさえ薄くなっていた次元の壁を一時的に壊し、きわめて限定的なながらも平行世界同士を融合させた空間を作りだした。自分が呼ばれたのはただの偶然・・・ではなく、美遊・エーデルフェルトの、平行世界の聖杯が元居た世界で願った最後の願望、その残滓が縁を持つもの同士を引き合わせて苦しむ兄を救ってくれることを願ったのだろう。

 

 もっとも隔離空間だけは違う理由で構成されているのかもしれない。

 そう思う理由は非常にシンプルで、固有結界でも同じ現象が起こせるからだ。

 

(我々が生きる世界に住む彼に魔術師としての素質がなかったとしても、別の平行世界に生きる彼には何かしらの特殊な資質ーーたとえば空や架空元素などの属性があったとしても不思議ではない。

 これらは二重属性や五大元素と違って純粋な魔術の素養とは言い難い代物だからな。一般人の中に眠っている可能性だって否定はしきれん。・・・私には一切無かったがね)

 

 

 ーー英霊は時間も空間も超越した、英霊の座に存在している。

 それ故に世界線に捕らわれることなく、如何なる平行世界だろうとも召喚を可能たらしめるが、人間を喚ぶことだけは万能の聖杯を持ってしてもできない。

 

 ならば、自分たちの事情を知っている英霊を呼んで解決を願おう。

 邪魔が入らないように平行世界同士をつなげた隔離空間作り上げちゃうぞ☆ どうせだから違う世界のお兄ちゃんの力も借りちゃうもん★ うふ♪

 

 ・・・こんな感じではないだろうか?

 あまりにご都合主義すぎて途中に変なテンションが入ってしまったが、これくらいしか異常すぎる状況の説明が付けられない。

 

(だいたい『平行世界の運営』は第二魔法、二百年続く日本の名門魔術師一族、遠坂のお家芸だろうに。神秘のつまみ食いでしかない現代魔術科の私では明らかに畑違いだ。解析など到底できん。

 ーーまぁ、どちらにしても今の未熟な私にできることと言えば・・・)

 

 ロードは自分のポケットから取り出した草を一口含むと軽く咀嚼してから、

 

「失礼」

「なにをするん・・・んむぅ!?」

 

 相手の口に自分の唇を押し当てて、口内に舌を進入させる。

 相手の舌を感覚で探り出すと念入りに絡み合わせ、時間をかけて唾液を練り込ませる。

 

 ベルベット・ウェーバーことロード・エルメロイⅡ世は冷静に、取り乱す様子など微塵も見せずに淡々と作業をこなしていくが、相手の少年衛宮士郎はそうはいかない。行くはずがない。

 

 只でさえ、こちらの彼は正義の味方の呪いに取り付かれている。異性との交流など、学校の後輩で妹分の間桐桜一人がいる程度だ。

 ・・・美遊? 義理とは言え妹を異性に数える最低な兄にはなりたくない。

 第一、彼女は小学校低学年くらいの年齢だ。仮にも高校生である自分が異性に数えていい相手ではない。

 

(そそそそそうだとも! 女子小学生は異性じゃない! 女の子だ! 断じて異性なんかじゃない・・・って、落ち着け俺! たかが小さな子とキスしただけじゃないか、冷静になれ。

 そう、こう言うときはまず円周率だ!

 3、4、1、バストサイズは78くらいで意外と大きい・・・!?)

 

 衛宮士郎。人に成りたがっている機械と評される人格破綻者。

 女子小学生にキスされて動揺しまくる、身体は健全で健康的な男子高校生。

 思春期。童貞。彼女いない歴=年齢。

 ファーストキスの相手は初対面の幼女。

 

 ・・・・・・色々とダメダメすぎる正義の味方だった。

 

「ーーん。

 どうやら痛みは退いたようだね」

「・・・ふぇっ!? い、痛み・・・?

 ーーあれ? 本当だ、いつの間にか痛みが消えてる・・・」

 

 キスで頭をやられてトリップしてた史郎は今の今まで気づけなかったが、日常的に与えられている拷問の激痛によって半ば麻痺しかけていつつもズキズキと鈍痛を訴え続けていた体中の傷が、キスをしている間に治り始めていた。

 

 ドルイドたちに伝わっていた古い時代の白い魔術。

 弟子のカウレスならば原始電池を応用してオドを賦活させて回復力を劇的に早められるだろうし、ドルイドの霊薬でもあればこの程度の傷、一瞬で完治させることができるだろう。

 

 たとえ彼でなかったとしても、優秀な魔術師だったなら自力で行う治癒魔術だけで瀕死の重傷を癒すことだって当たり前のようにできる。

 

 だが、彼にはーー彼女にはできない。

 それが努力では決して埋められない、終生にわたって追いつくことが叶わない、絶望的なまでに隔絶している持って生まれた才能の差。

 

「痛み止めの薬を口に含ませ、血液と並んで魔力を通しやすい体液の唾液に付着させた。それを君に直接口内摂取で与えたのだが・・・すまないね、私の未熟さが原因で完治には至らなかった」

 

 怪我を治療した側が、怪我を癒してもらえた方に謝罪する。ある意味で非常に奇妙な光景なのであろうが、ここに彼の内弟子がいたら、また違った感想を抱いたのかもしれない。

 

 曰く、「とても師匠らしいと、拙は思います」

 

 ーーと。

 

「まったく、毎度毎度同じ結果が続くといい加減にイヤになってくるよ。

 やはり、いつだって間に合わなくて、必要なときに必要な力がないのが私と言うことなのだろうな」

 

 それは確かに諦めの言葉だった。少なくとも、額面だけを見て字面だけを追えばそう感じる。そうとしか感じられない。

 

 彼が十年の歳月を生きる中で味わった諸々を実感していない者には伝わらない、伝えられる術を人間は持ち合わせていない。

 

 だから衛宮士郎は彼女の言葉を素直に“誤解”して理解した。

 彼女もまた、自分と同じなのだと。

 同じように不可能ごとに挑んで失敗し、己が身の程知らずにすぎなかったのだと分かり、後悔に打ちひしがれているのだろうと勘違いしてしまった。

 

「ーーそうか、君もなのか」

「・・・ん?」

「俺も君と同じだよ。

 俺は・・・失敗しちまったんだ」

 

 苦しげで悲痛な訴え。咎人による贖罪と、罰による救済。

 

 ーー罪深きものよ、己が罪を償い許されよ。

   裁きに服す贖罪こそが、罪人の果たすべき義務であるぞ。ーー

 

 

 傷の痛みと孤独の痛みに後悔の痛みと、そして何より“運命”による激痛に苛まれている者の声だった。

 絶望が彼の心を蝕んでいた。罪悪感が彼の精神を腐らせかけていた。

 劣等感、羨望、自罰自戒自業自得etc.

 ありとあらゆる失敗が彼を内部から浸蝕し、腐食し、増殖し始めている。

 

 そう、これはまるでーー

 

「天使の歌による呪い、かーー」

 

 ロードは自分が通ってきた道を振り返る。

 今はもう無いが、あそこには確かに霧が満ちていた。

 

 呪いの霧が。

 正しい意味での呪いが。

 人の思考に忍び込み、そのあるべき姿を根底から捻じ曲げてしまう、最も原始的な呪いの霧が。

 

「ああ、そう言えばアレも生き物をまったく別の生物にする神秘ーー置換魔術と祖を同じくするかもしれない、似たところがある魔術体系だったな。

 なるほど、世界中からかき集めた礼装や魔具や器の中にAladiahが混ざり込み、城ごと乗っ取られ掛かっていたとしても置換魔術に特化しすぎたエインズワースは気づけない。

 なにしろ、アレに気づき、アレを殺すには、アレを食らう必要があるからな。それができる英霊など反転でもしてない限りは存在すまい。仮にグリムリーパーを収集していても持ち主とセットでなければ、口うるさいだけの箱でしかないのだからな」

 

 ロードは周囲を眺めてため息をつく。

 やれやれ、一度は解き放たれた真実によって、再び『あの城』に閉じこめられるとは、と。

 

 彼の告戒はつづく。

 

「美遊を取り戻すために・・・俺はエインズワースと戦った。

 使えるものはなんだって使ったさ。

 そして美遊を・・・このクソったれな世界から・・・解放してあげられたんだ」

 

 本来であるなら誇るべき業績。それを語りながら、なぜその口調は自責にまみれた自罰的なものになっているのか?

 

 そう言う呪いなのだ、この天使の“歌”は。

 

 彼は妹の美遊が救われたかどうか知らない。別の平行世界のことなど知る由もない。そのはずなのに、彼はこうして知らないはずの己が罪に裁かれ、贖罪し続け、呪いに浸され続けている。

 

 放っておけば、一生自分の精神に引きこもって出てこなくなるだろう。

 それでは流石に、ここへ自分を喚びだした美遊の願いの残滓に対して申し開きがたたない。

 できる限りのことはしようと、ポケットからあの時と同じように使い捨ての魔術礼装、葉巻ならぬチュパチャプスを取り出して口にくわえる。

 見た目はお子さまそのものだが、これが今のロード・エルメロイⅡ世が誇る最強装備、レールツェッペリンでヘファイスティオン相手に決戦を挑んだときと同様に覚悟の現れだ。・・・誰の目にもそうは見えないだろうがそうなのである。

 

「美遊は、またここに戻ってこさせられちまう・・・!

 ああまでして運命の鎖からは逃げられなかったんだ・・・きっと捕まる。また捕まっちまう!

 ああ、わかってるさ。俺が最低な悪だってことは・・・!

 けど・・・どうか・・・頼む・・・!

 美遊を救ってやってくーー」

「誰かを救って得られる満足感など、脳の誤認にすぎないさ」

 

 えーー?

 絶望に殺され掛かっていた衛宮史郎の精神に僅かながら光が戻る。

 

 それが見えているはずなのに、ロードの態度に変化はない。

 いつも通りに淡々と講義を始める。

 

「誰かを助けても自分が救われるわけじゃない、自分が助けたと思っても本当に相手が救われたかどうかなんてしれたものじゃない。

 誤解で勘違いですれ違いで思い違いで、ひたすら滑稽なだけの繰り返しが、私たちの生きている世界だよ」

 

 誤解だと、当時の彼と同じく彼女は言い切った。

 自己満足ですらないーー人体の欠陥なのだと、当時も今も変わらず告げる。

 

「それでも、私たちはその誤認の世界で生きている」

 

 目の前の少年が、びくりと眉を動かした。

 赤銅色の瞳には自分の姿が映り、自分の瞳にも彼の痛々しい姿が映り込んでいることだろう。

 だが、しかしーー

 

「鏡で見た自分の姿と、相手が見ている自分の姿は、きっと違っているのだろう。

 脳の規格が異なっているのだ、同じものを見ても、同じ色を見ても、同じ話をしていても、同じように感じているとは限らない」

「・・・・・・」

「世の中のことは全てそうだ。

 魔術に限らず、人外に限らず、常識の世界ですら誰もが皆知っている当たり前の事として知っている。

 誤解と、誤認と、すれ違いと、思い違いで、互いが相手とつながっているのだと言うことをーー」

「それはーー」

 

 それは養父が否定した世界。

 人類皆誰もが幸せに暮らせる幸福な世界の実現をーーこの世から苦しみや悲しみを無くし、恒久的な平和をもたらす。そんな馬鹿げた願いを本気で抱く変わり者であり、災害で死にかけていた衛宮士郎の命を救った正義の味方の“正義”。

 

 

 

 ーーそのはずだ。

 

 

 

 本当のことを士郎は彼から聞いていない。

 あんな風になりたいと、自分を助けてくれたときの彼が、あまりにも嬉しそうな顔をしていたから、憧れた。

 正義の味方になりたいと。

 正義の味方になれば、彼になれるのだと。

 彼はそれをこそ望んでいるのだと。

 

 そう信じて生きてきた。それだけを信じて疑おうとは思わなかった。

 だって彼は士郎にとって、本当のヒーローだったのだからーーーー。

 

『その男が五年前、本物の奇跡を手にしたことを知っているのは君と私くらいだったのだがね』

 

 

 ーーあ、れ・・・?

 

『何度も言ってるだろう。

 僕は正義の味方じゃない』

 

 ーーそうだ。確かにじいさんはずっとそう言っていた。

 俺がじいさんを「正義の味方」と呼ぶ度に、決まってじいさんはこう言うんだ。

 

「僕は正義の味方なんかじゃないよ」

 

 ーーって。

 

 そして俺は、そんなじいさんに笑って返し、

 

「はいはい。

 じいさんは謙虚だな」

 

 

 

 

「ーーっあ・・・」

 

 そうだ。なぜ今まで気付かなかった?

 答えはすぐ側にあった。否、常に自分とともに戦ってくれていた。

 

『英霊エミヤ』

 

 遠い未来、ここではないどこかの世界、

 俺ではない俺が至った未来の英霊。

 

 世界と契約した人類の守護者。

 俺と“切嗣”が目指した理想の到達点である、一を殺して全を救う英雄。

 

 ーーああ、そうか。そうだったんだな。

 アンタが俺だったのなら、当然そうなる理由はソレだよな。

 

 本当に、なぜ今まで 気付かなかったのだろう。

 自分は尊敬しているといいつつ、相手(切嗣)のことをなにひとつ、理解しようとしたことが無いじゃないかーー。

 

「はは、滑稽だよな・・・。じいさんみたいな正義の味方になりたいって思ってたのに、じいさんが正義の味方かどうかなんて考えたこともなかったよ」

 

 今になって思い出す、忘れていた、忘れていたかった都合の悪い過去。

 

「すべてを救える願望器を手に入れたんだぞ。

 なのに、その“使い方”が解らないなんて・・・!」

「祝う? 神稚児が成長して人に近づくことを?」

「僕は正しく成ろうとして間違い続けた。

 間違いを正そうとして際限なく間違いを重ね続けた。

 そうして、どうしようもなく息詰まった果てに、都合の良い奇跡を求めたんだ」

 

 

「あ、あああ・・・・・・」

 

 止めどなく思い起こされる切嗣との想いでが今までの罪悪感を押し流し、より一層の痛みと絶望を与えてくる。

 

 なぜ、今なんだ?

 なぜ、もっと早く気づけなかった?

 なぜ、切嗣が生きている間にもっと話しておかなかったんだ?

 なぜ、俺は切嗣を正義の味方を信じておきながら、切嗣自身のことをまったく知ろうとはしなかったんだ?

 

「あああ、ああああああああああああっ!!!!!!!!」

 

 手遅れだ。何もかもが手遅れすぎる。

 もう遅い、何も取り戻せない。全部失ってしまった。

 切嗣も桜も慎二もジュリアンも、妹の美遊さえもが遙か遠くにある。過去の世界だけで生きているーー

 

 

 

 

 

「大きいと信じ込んでいた己の小ささを知ったかね?

 結構、ならば顔を上げて分を弁えぬ高みを目指して足掻きたまえ」

 

 ーーっえ?

 先ほどと異口同音に、だが決定的にナニカが異なる声で反応を返した士郎に、少女の姿をした征服王の臣下は堂々と王の口上を民草に伝える。

 

「己の領分に収まる程度の夢しか抱かないような、そんな賢しい兄と兄妹になんてなっていたら、美優君はさぞかし窮屈な思いをしていただろう。

 だが君の欲望は己の埒外を向いている。

 二千年の時がたとうと未だ同じ夢を抱き続け、駆け続けたのに未だ満足してない大バカがいるんだ。君程度はバカに収まるレベルの些細なバカで、今回のもバカが起こした小さな失敗だよ。いくらでもやり直す機会くらいはあるさ」

「そう・・・かな・・・?」

 

 本当にそうなのだろうか?

 切嗣は死んだ。もう居ない。

 美遊は何処かに飛んだ。もう居ない。

 やりなおそうにも相手が居ないのだ。これでどうやって、何をやり直せと言うのだろう・・・?

 

「最後になにか受け取らなかったか?

 愚かな自分が望んだ名誉ではなく、代わりとして与えられた使命とかをさ」

「ーーあ・・・」

 

 

 ああ、そうだ。本当に俺はなんでこうも忘れっぽいんだろう?

 切嗣の最期の言葉ばかりに囚われて、他の言葉は何一つ思い出そうとすらしなかった。

 

 

 

 

「生きていてくれてありがとう・・・」

 

 

 

 

 それは□□士郎が死に、衛宮士郎を生んだ言葉。

 衛宮士郎の原点にして始まり、英霊エミヤに「その先は地獄だ」と言わしめた言葉。

 

 

 なぜ、始まりの言葉を忘れていたのだろう?

 いや、常に覚えていたのに、何故使おうとしてこなかったのだろう?

 

 アレが転機。

 死を受け入れていた弱さは生きたいと願う強さへと変わったはずではなかったのか?

 俺を救ったときの、あの嬉しそうな顔が忘れらず、その幻影を被ろうとして正義の味方を目指したのではなかったか?

 いつか自分も、あの時の切嗣のように笑えるのなら、それはどんなに救われるのだろうと憧れ、ずっと追い続けてきたのではなかったか?

 

 

 

 その果てに待っていたのが、コレか?

 こんなモノを、こんな絶望を、こんな独善を俺は美遊と切嗣に押しつけていただけなのか?

 

 

 ああ、また思い出した。

 切嗣は確かに言ってたじゃないか。

 

 最後の夜に、空を見上げて、星に願いを駆けるようにーー。

 

 

 

「士郎・・・君には結局・・・

 ・・・・・・いや。

 そうか、そうだな。

 それなら安心だ」

 

 

 俺は、あの言葉の続きを考えたことが一度もない。

 

 あの時に切嗣が星になにを願っていたのか、どんな想いで星を見ていたのか。

 

 ただそれだけを考えて。それだけを俺が思い描く衛宮切嗣という理想の正義の味方像を元にして考え続けてきた。

 

 ただの一度として。

 一人の父親、衛宮切嗣について考えたこともない。

 一人の生きている人間、衛宮切嗣について知ろうとしたこともない。

 

 ただの押しつけ。ただの傲慢。ただの願望。単なる、俺個人の願い。

 

「ーーああ、そうか。そうだった。そうだったんだよな。

 俺は正義の味方を目指していたんじゃなくて、義務として正義の味方にならなきゃいけないって思い続けていただけなんだよなーー」

 

 一人になってしまったから。

 自分以外の何もかもを失ってしまったから。

 だから、縋った。解りやすく、手っ取り早い理想に。

 手を伸ばせば届くだろう理想に手を伸ばした。

 

 ただそれだけの行為、ただそれだけの人生。

 

 だからこそ、今から自分はフリダシに戻ろう。

 最初に出会った言葉を、自分を生んでくれた言葉をこう使おう。

 

 

 

「美遊・・・生きててくれてありがとう・・・」

 

 

 

 ーーと。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・今度こそ、この筋金入りの大馬鹿者め、と笑いに来ても良さそうなものだったのだがね」

 

 

 声音が変化し、悼んでいるような、慈しんでいるような、喜んでいるような、

 そして、何処かしら嬉しそうな声でつぶやかれたその言葉に顔を上げると、そこにはもう彼女の姿は綺麗さっぱり消えていた。

 煙のように、幻のように、白昼夢だったかのように。

 

 

 

 ーーと、その時。

 

 

 コロン。

 

「ん?」

 

 鎖につながれて動けない四肢を無理には動かさず、顔だけ動かして視線を床に向け、今の音が聞こえた辺りに目を向ける。

 

 そこにあったのはーー

 

「チュパチャプス・・・?」

 

 まさしく、それ。チュパチャプス。

 

 ちなみに商品名はイスキャンダリュ。

 キャッチコピーは「世界の果てまで駆け抜ける旨さ!」

 

 

「ぷっ、なんだよそれ。くっだらねぇ」

 

 衛宮士郎は笑った。

 そう言えば美優を送り出すときも、自分は上手く笑えていなかったなと思い出しながら。

 

「さて、それじゃあ考えるとするか」

 

 壁に背を預けて衛宮士郎は想いを馳せる。

 どうせ動けないし出られないのだ。やることがないし、何もできない。

 

 ならば考えよう。

 絶望するのはいつでもできる。

 今は今できること、今やりたいこと、今会いたい人たちのことを考えて、理解するよう努めよう。

 

「まずは美遊についてだな。アイツはいろいろ我慢しすぎるから、何してほしいか良くわからんし、俺がそのぶん考えてやらなくちゃ。

 その後はじいさん。死んじまったからって、俺の中の記憶まであの世に持ってかれた訳じゃない。思い出してけば今までよりずっと切嗣の理想を理解できるし、近づける。

 あの嬉しそうな笑顔を浮かべた訳も理解できる」

 

 何とも忙しい。

 つい先ほどまで絶望することと後悔することだけが自分の役割だったはずなのに、今ではすっかり“これから”について考えるのに大忙しだ。

 

「それらが片づいたら、最後に俺自身の今後について。

 自分がこれからどうしたいのか、どうやってあの笑顔に近づくか、どんな兄貴になりたいか、どんな家族を作っていきたいか・・・ああ、忙しい。家で家事をこなしてる方がずっと楽だったなぁ。これじゃ料理の腕が落ちちまう」

 

 笑顔を浮かべて牢屋の壁を眺める少年の姿は不気味だが、いまはそれすらも清々しく写るほど眩しい笑顔で壁ではなく、自分たちの未来を見つめている。

 

「とりあえずは、美遊と再会したときに言う第一声からだな。

 流石にそれが「破廉恥な格好へ兄としての注意」だったら、お兄ちゃん泣くよ・・・」

 

 ははは、と楽しそうに笑う彼は本心から冗談で言ったつもりだったが、何処かに存在している平行世界の一つでは本人以外の前で同じ事を言ってしまっていることを彼は知らない。

 

 知らないことは幸せである。

 すなわち、未来になにが起こるか知らないことは人生にとって最良の幸福なのである。

 

 

「明日は何が起こるのか、未来は何が起こるのか、世界は滅ぶのか救われるのか、俺が救うのか、はたまた全然関係のない誰かさんが訳わからない方法で救っちまうのか。

 本当に何が起こるかわからん未来ってのは楽しいもんだな。

 やっぱり生きてると、退屈しなくて良い」

 

 

 今回も自覚はないだろうが、ロードが今までもたらしてきた変化の中で最大のモノがコレであることを、彼女はまだ知らない。誰も知らない。知る術がない。

 

 だが、今この時、この瞬間。

 世界はわずかに、だが確実に進むべき方向が変化した。

 

「あ~した天気にな・あ・れ、っと」

 

 牢屋から出られない彼には関係のない天気を、彼は冗談で口にした。

 

 まさかそれが事実となっていることなど、知る由もない事だったが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・? 海岸線の形が元に戻っている?

 おかしい、これほど健康な世界では無いはずなのだが・・・」

 

 城の頂上、高い尖塔にある小部屋から城と世界を眺めているダリウス・エインズワースは戸惑い気味にそうつぶやく。

 

 計算違いが起きている?

 計画を修正すべきだろうか?

 

「・・・いや、その必要はない。ないはずだ。

 私が迷う必要など欠片ほどもない。あってはならない。

 眠っている間に私が知らない来客があることは許さない。

 何がどうなっていようとも、私は計画を遂行する。遂行せねばならないのだ」

 

 ダリウス・エインズワース。

 エインズワース家現当主ジュリアン・エインズワースの実父を名乗る偽物。

 エインズワース全ての父にして、初代エインズワースから連綿と続く、魔術刻印に記録されたダリウスの人格そのもの。

 エインズワースの後継者がエインズワースの魔術刻印を受け継いだとき、すでにダリウスによる人格の置換は始まっている。

 

 だが、忘れてはならない。

 常に大事を成そうとする者を妨げてきた者が、正々堂々たる勇者とは限らないと言う、非常なる現実を。

 竜を倒した勇者を倒すのは魔王ではなく、小物の盛った毒だという事を、決して忘れてはならないのだ。

 

 

 もっとも。

 エインズワースに限れば、既に手遅れになっているのだがーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、では皆さん始めましょうか。

 我々の我々による、本当の聖杯戦争を」

「やっとかぜよ。

 待ちくたびれたきに」

「うひゃひゃひゃ!

 楽しいよなぁ、マスター!

 ・・・あれ? 俺、マスターいたっけか?」

 

つづく




久し振りなので誤字脱字多いと思いますがご勘弁を。
見つけたら直していくつもりです。


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5話「セイバーが食い、ライダーが脱ぎ、ロードが叫ぶ聖杯戦争」

めっちゃ久しぶりの更新になります。前回の失敗がトラウマになり、長いこと「あーでもない、こーでもない」と書いては消し書いては消しを続けてきましたが、アポが始まってくれたお陰かようやく満足が行く出来の物ができました。

ただし、久しぶりに完成まで漕ぎ着けられたせいで話自体は破綻してます。
リハビリと自戒へ布石のため、頭の中にあるゴチャゴチャを吐き出す為の回だとご理解下さい。次話から真面目に書きます。面倒事に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。


「・・・・・・ん?」

 

 ロードが目を覚ましたとき、そこは冬木の学校前ではなく、薄暗くジメジメした地下牢でもなかった。

 景観の良い、街全体が見渡せる冬木一の高級ホテル『冬木ハイアットビル』のスィートルーム。

 デカすぎるその部屋の寝室に、これまた馬鹿でかい図体で聳え立つように存在しているキングサイズのダブルベッド。そのど真ん中である中央付近。

 

 そこが今、彼が彼女として存在し、実在している空間座標の名前である。決して何処かの平行世界で美遊の兄を名乗る少年が囚われていた牢獄ではない。

 

 

 サーヴァントとマスターの間では定番になっている、なんらかの夢イベントか?

 否、ロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーのサーヴァント、征服王イスカンダル ライダーが違うと告げている。

 

「ならば夢だな。忘れよう」

 

 あっさりとロードは、決断を下した。

 未練はない、迷いもないし躊躇もしない。即断即決である。

 

 己が夢の中で出した諸々の推論も含めて一切合切金輪際、綺麗さっぱり忘却の泉の底へ投げ込んで蓋をしてしまった。

 

 彼にとって王とは、そう言う存在である。

 王の放った言葉とは、そう言う意味である。

 

 臣下は王を支える者。王は臣下に夢を魅せ、導く者。

 果たすべき役割が違うのだ。

 征くべき指針を考え、指し示すのは臣下の役割ではない。

 

 

 だからこそ彼女は考えるべきことを考える。考えなくて良いことは考えない。

 普段であるならば弟子たちが未熟なことと、何よりも考えなしな脳筋が揃っているせいでそうはいかないのだが。

 今、彼でもある彼女の側には王が居る。姿は見えなくとも憑依している魂の存在は常に感じ続けている。

 王が側にいるとき、考えるのは自分の仕事だが、導き指し示すのは自分の役割ではない。

 決断と決定は王の役割であり権利なのだから。仕える臣下がするべき事柄では断じてない。

 

 そう割り切っているからこそロードは、退嬰のことには驚かないし狼狽え騒がない。慌てもしない。

 

 当然だ。歴史上最大の覇王に仕える臣下たる者、この程度のことで狼狽え騒ぐようでは修行が足りないーー

 

 

「マースタ☆ おっはよー♪

 ねぇねぇ、女の子になったボクのおっぱい枕で寝た感じはどう?

 気持ちいい?気持ちいい?

 いやー、そんなに感触を褒められると照れちゃうなボクー♪ でへへ~」

「うおわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ロード・エルメロイⅡ世、大絶叫。

 狼狽え騒いで醜態さらし、逃げ回るようにベッドの脇へと全力逃避。完全に敗残者のそれである。どう脚色して美化しても英雄譚には描けない。絶対に。

 

 征服王イスカンダルの臣下としての意地と矜持、そして誇りでさえも吹き飛ばして忘れさせられるのが女の子のおっぱい力。

 時に美少女のおっぱいは世界を救うのだ。バカにしてはならない。

 

 

 

「な、なななななななななななな!?」

「名? だからボクの真名はシャルルマーニュ一二勇士が一人、アストルフォだってばー。忘れないでよー、愛しのマイ☆マスター♪」

「誰が愛しのマイ☆マスターだ!

 と言うかなんだ! マイとマスターの間にある星は!? どういう意味があって、どういう価値がある!? て言うかむしろ、どうやってやるんだそれ!?

 人の言語に絵文字を入れる手法など、存在しないはずなのだが・・・」

 

 イスカンダルについて詳しくなる過程で世界史全般に詳しくなったロードには、当然のように言語学にも一定の知識が身についている。

 だから日本のマンガ文化関連でその手の手法が取られていることにも納得しているのだが・・・さすがに人と人との会話の中で再現する方法までは知っているはずもない。むしろ魔術を使ってさえ無理な気がする。

 

 頭の中に直接☆マークが浮かんだのだが、アレはいったい・・・・・・。

 

「ボクの固有スキルだよ!」

「意味ないなそれ! いったい何のために使う、なんの逸話が具現化したスキルなんだよ! シャルルマーニュ伝説に、☆マークが出てくる文章ってあったっけ!?」

 

 満面の笑みを浮かべて擦り寄ってこようとするライダーを懸命に押しとどめながらロードは、先ほど少し集中することで見ることができたサーヴァント アストルフォのステータス欄を思い出して頭を抱えてしまう。

 

 彼、もとい彼女のステータス画面はハッキリ言って無茶苦茶だった。各種能力のランクやスキルなどは問題なく確認できるのに、そこかしこがイタズラ書きで埋め尽くされていたのだ。

 ロンドンに置いてきたバカ弟子の提出してきた答案を彷彿させられてしまい、二重の意味で苦痛である。辛いのだ。主に、胃が。

 

「・・・確かにサーヴァントの中には能力を隠蔽する術や宝具を持っている者は珍しくもない。あの黒いバーサーカーなど、その筆頭と呼ぶべき存在だろう。

 だが・・・いったい何をどうしたらステータス画面にイタズラ書きができるようになるんだ・・・? あれって意図的に操作できる物だったっけか?

 聖杯で願いを成就させなくても、この謎を解いただけでグランドの位階を授かれること間違いなしだぞオイ」

 

 その場合、彼の師であった先代エルメロイ一世の死は本格的に無駄になってしまうだろう。なにせ彼の得意としていたのは降霊魔術。死者の魂を解析し、分析し、正しく評価し直して正当な使い方を導き出す術において右に出る者はいない。

 

 当然だ。神童の名は伊達ではないのだから。

 

 ・・・だが。いや、だからこそ彼ならば聖杯による英霊召喚でなくとも、英霊アストルフォの持つ特殊な性質を解き明かすことは不可能ではなかったはずなのだ。

 最低でも理由付けぐらいならば可能であったはず。それだけでも時計塔のお偉方の度肝を抜くこと請け合いである。

 

 何故なら今、時計塔に一三人しかいないロードの一人であり、一番の異端児と呼ばれている現代魔術課の講師ロード・エルメロイⅡ世である自分自身が度肝を抜かれて理由説明を求めているのだから。

 

 最後まで道が交わることのなかった師の死から、約十年。

 つくづくあの時のことを思い出して色々と考えさせられる平行世界聖杯戦争であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーん? 起きたかマスター。ならば丁度良い。朝餉の用意をせよ。

 私は朝目を覚ました後、まず朝ハンバーガーを食すことを日課としている。

 貴様のサーヴァントとして当然の要求だ。まさか否やはないだろうな?

 もっきゅもっきゅ」

「・・・って、なぜお前まで居るんだセイバー!? 敵だろお前は! 今回も前回も、たぶん、それ以外でも!

 あと、朝飯寄越せとか言ってる割にテーブルの上には山盛りのハンバーガーがあるように見えるのは、ボクの目の錯覚か!?」

「愚かな。これはモスバーガーだ。マクドナルドのハンバーガーではない。

 朝ハンバーガーと言えばジャンクフードの王様とも呼ぶべき、マクドナルドのビックマックバーガーに決まっているだろう?」

「細かいなぁ、おい!」

 

 

 もう何がなんだかよく分からなくなってきたが、どう言うわけだか昨夜まで敵だったはずの黒いセイバーこと、アルトリア・ペンドラゴンがソファーの上にふんぞり返ってハンバーガーの山を食べ崩しながらロードを眺めている。

 

 敵意は感じられないが、食欲は無限に感じられる。間違いなく召喚者のエンゲル計数を破壊し尽くすタイプのサーヴァントだ。金持ち専用の特殊クラスに指定すべきだろう。

 

 だってそうでもしないと、聖杯戦争を勝ち残って願いを叶えるために召還したサーヴァントを養うために、勝ち残って手に入れた聖杯を使わざるを得なくなるし。

 元が取れないのではなく、そもそも魔術儀式として成立すらしていない。完全に破綻し切っている。壊れすぎだ。

 

(なぜ衛宮切嗣は、こんな奴を召還したんだ? 割に合わないことこの上ないじゃないか。

 あれか? アインツベルンが資産家で、金が有り余っていたからか?

 ーー死ねよリア充、滅び去れ)

 

 自分が如何に慣れぬ日本で金に関連する苦労を強いられたのか、あの魔術師殺しには小一時間ほど説教してやらねば気が済まない。

 徳用ホッカイロ10パックが400円。たったこれだけのことが自分の魔術師としてのプライドをどれだけ傷つけたことか思い知らせてやらねば腹の虫が治まらなーー

 

「ーーあれ? ボクとライダーが戦ったセイバーのマスターって、魔術師殺しの衛宮切嗣で合ってたよな・・・? ん? 違っていた様な気も・・・?

 ーーダメだな。夢のせいでおかしな方向に記憶が錯綜している。少し頭を冷やしてこなければ・・・。悪いがセイバー、朝飯は少し待ってろ。

 とりあえずシャワーを浴びてくる・・・」

「ん? 私は別に構わんが、気をつけろよ?

 下手したら死ぬぞ。いろんな意味で」

「・・・?? なんのことを言っているんだよ、お前は・・・」

「だから、今シャワー室を使っているのは、美遊・エーデルフェルトだと言っているのだ」

「ちょ、ま! それ早く言、えーー」

 

 ガララッ。

 

 ーーなんというバッドタイミング。ギリギリで取っ手に伸ばした手を引っ込めて「た、助かった・・・」と胸を撫で降ろしたロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーの身に人生最大級の不幸が訪れ、扉の方が勝手に開いて中から出てきたのは、ああ・・・なんと言うことだろうか。

 

 

 

 生まれたままの姿でバスタオルも巻いていない、スッポンポン美遊ちゃんその人であった。

 

 

 

美「・・・・・・」

エ「・・・・・・」

美「・・・・・・・・・」

エ「・・・・・・・・・」

美「・・・・・・・・・・・・襲っていい?」

エ「ーーなんでだよ!? 逆だろ普通、立場的に!

  メインヒロインらしく、怒鳴るか殴りかかってくるか悲鳴上げるかどれかを選べ!

  それが出来ないと言うのであれば、せめて前を隠せ!見えちゃってるだろ!?

  ・・・て言うか隠してくださいお願いします。

  堂々とされると経験ないんで、どうしていいか分かんないんです。いや、マジで」

美「ん。わかった。じゃあ、服着てくるからベッドで待ってて。すぐ戻るから」

 

 

 

 

 ガララっ。

 

 

 再び閉じられ、ホッと一息つくロード・エルメロイⅡ世。

 ふう、これでもう安心・・・・・・・・・じゃない!

 

「ーーどうするんだよ! ただの一時凌ぎじゃないか! 完全に蜘蛛の巣に捕らえられちゃってるだろう!?

 どうすればいい!? どうしたらいい!?

 なんでこうなっているのかサッパリ分からないが、とにかく今は逃げ出す手段を考え出さないと・・・て言うか、金ピカ王様はどうした!?

 アイツ経験豊富そうだし、こう言う時には頼りになりそうだ!」

「金ピカならプラモを買いに、中心街とやらへ向かったぞ。

 ライダーがパジャマを着て貴様と同衾を楽しみ、私は夜マックを嗜んでいる最中におきた出来事なのだが、『見よ、セイバー! この百式という名の黄金色に輝くスマートでスタイリッシュな奴! 素晴らしい! 我は気に入ったぞ。これを十万個ばかり購入したいのだがどうか?』そう問われたのでな。

 面倒ではあったが『その数を買うなら会社ごと買い取った方が早いぞ、恐らくだがな』と答えてやったら『そういうものか』と真顔で唸りだし、金子を求めて銀行に金の延べ棒を大量にーー」

「待ってくれ! 何かすっごいデジャブってるんだけど今!

 ・・・つかお前等って、そんなに仲良かったっけ? めっちゃ仲が悪かったように記憶してるんだけど・・・」

「それは恐らく、違う私だろう。

 少なくともこの私は、貴様らと顔を合わせたことはない。

 まぁ、所詮我らは英霊の写し身。影とでも呼ぶべき存在だからな。記憶は召し上げられても今この場にいる私に引き継がれるわけでもないのだろうさ」

 

 割り切った態度と口調で言い切った後、少しだけ雰囲気を変えて彼の黒き騎士王は遠くを見るような視線をどこかへと向けて、

 

「・・・尤も本物のアーサー王は未だにカムランの丘から帰らること叶わず、天に召されることも出来ず、ただただあの丘で永遠に咽び泣き続けているのかと思うと些か哀れではあるがな・・・。

 ーーとは言え、彼の気高き騎士王と私には本質的な意味での関係がないのも又事実。

 なにしろ私はオルタ(反転している)だからな。

 失敗した名君として死んだアーサー王の可能性の一つが具現化したに過ぎない身としては、縁も縁もない原点に然したる感慨がわかないのも否定しようのない事実ではある。

 故あまり気にするな。少なくとも、私は貴様と貴様の王の功績を認めている。我がマスターとして迎えるのも吝かではない程にはな」

「ーーおい、ちょっと待て。今なにか良い話に混ぜて物凄く気になりまくる発言が混ざってなかったか?」

「だから気にするなと言うに。

 ーーさて、では改めて問おう。私と共に歩むか?

 歩むか、歩むんだな。よし!

 今ここに、契約は完了した。私は貴様の盾となり、剣となろう。

 なので差し当たっては、マックを追加で買ってきてくれ。大至急な」

「せめて選択肢ぐらい出せよ! マスター権限を拒否する権利すらないのか、このパチモン聖杯戦争には! 押し売りにも程があるだろ!?」

 

 まさかのセイバー自身から強制的に押し売られるサーヴァント契約である。

 どこぞの平行世界では「問おう、あなたが私のマスターか」と礼儀正しく問いかけてきてくれた騎士王少女は騎士道を貫く高潔な騎士の中の騎士であったからこその存在であり、必要があれば略奪も殺戮も行う暴君の道を選んだ黒き騎士王には決して通ずる事のない理想的な展開である。妄想なのだ。

 

 気高くも美しい、でも少し抜けてて腹ペコな美少女という男たちの理想を込めて喚ばれたのが騎士王アルトリア・ペンドラゴンという存在。

 

 対して黒き騎士王アルトリア・オルタは、半端に真逆。

 腹ペコ美少女で美しいが、気高さではなく気位が高い。あと、スゴい我が儘だ。言い出したら聞くまで引かない押しの強さがある。

 

 にも関わらず目の前の敵に対してのスタンスには一切変わりなく、敵は切る。それ以外の概念を持ち合わせていないのかと問いかけたいほど徹底している生粋の「敵見たら斬り殺すちゃん」なのである。

 違いがあるとすれば自分が“そう”であると認めるか否か、それだけだ。

 

 そしてこの黒ずくめの少女は、明らかに認める方だ。自分は人殺しであると、真顔で平然と堂々と断言できる暴君であるが故に、我が儘を言うのにも躊躇いがない。遠慮もない。

 拒否れば切る。ただ、それだけだ。

 

「・・・それって、ただの我が儘なお子さまじゃね?」

「ふむ。我がマスターが望むというのであれば、今この場で聖剣の露払いに使ってやっても良いが?」

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 平凡なツッコミであろうとも命懸けで言わねばならない。それが暴君の治世と言うものである。

 今ここに、暴君アルトリア・オルタの治めたとされる白亜の理想都市エルサレムは信仰の聖地ではなく、マックの聖地巡礼における最大のパワースポットとして地上に顕現する!

 

 頑張れロード・エルメロイⅡ世! ベディビエールは居ないけど、代わりにアストルフォを伴って歴史修正に挑むのだ! 人理焼却阻止の使命は今、君の手の委ねられた!

 

「聖杯戦争は!?」

 

 ーーどちらも立派な聖杯戦争ではある。

 意味合いも目的も世界観までもが、全く違うだけで・・・。

 

 

 

 

「ーーまた違う女と話してる・・・・・・!!」

「ぎゃーっ!? ネグリジェ着た女子小学生が黒いオーラ纏ってオルタ化しかかってるー!?」

「あははははっ! よーし、ボクも負けてられないぞー! 変身だー! おー!

 えーい! キャスト・オフ!!」

「ぎゃーっ!? 騎士に見えないアホ騎士がパジャマ脱ぎ捨てて中身見せたら、穿いていなかったーっ!?」

「今帰ったぞ皆の者! 王の凱旋だ!祝うが良い!

 ふはははは! 見よこのガンプラを! 数量限定生産の特別品だぞ!

 やはり我のLUCは伊達ではないな!」

「なんかどっかの英雄王が、どっかの征服王と同じ様なこと言い出してるーっ!?」

「もっきゅもっきゅ。ごくん。・・・ふぅ、なかなかに良い味だったな。

 ーーでは次に挑むのはフィレオフィッシュに・・・」

「お前いい加減、食う以外にも何かしろよ! さっきから食べてばっかじゃんお前だけ!

 て言うかよく考えたら、お前が原因のすべてなんですけど!? 事の元凶が一番気楽そうに飯食ってるって、アンリマユより酷くないですか!?」

「ふっ。王道とは唯一無二の物。

 そして我が王道とは即ち! 食う寝る遊ぶ!

 以上だ」

「本当に聖杯へ掛ける願いは、どこへ行ったんだー!!!!!!」

 

 

 

 

 叫ぶロードと襲う美遊。

 食べるセイバー・オルタと、造り始めるギルガメッシュ。

 そして、脱ぐTSアストルフォ。

 

 今日も聖杯戦争の一日が(無駄に)過ぎ去り終わろうとしている。まだ何もしていないのに・・・。

 

 

 

 ーー聖杯って、何のために誰が求めている物だったっけ?

 

 

 

状況が混迷しすぎたので、次回に続きます。




注:ギルはセイバーの気高さとかを苛めて愛でたかったので、苛めがいの無くなったオルタには執着ありません。

注2:美遊(聖杯)の頭が悪くなったので、聖杯戦争全体が頭の悪い結界に包まれました。


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6話「ガール・ミーツ・ガールズラブ」

長すぎる期間お待たせしまくって申し訳ございませんでした。再開です。
一応久しぶりという事もあって、原作尊重(?)の展開でイリヤ視点がメインです。

美遊ちゃんが穗群原に転校してくる回であり、ロードまでもが転校してくる回でもあります。
それから、美遊に新たなサーヴァントが憑依します。今現在の彼女にはこの上なく相応しい英霊です。愛でて頂けましたら、彼女たち二人のファンでもある作者として嬉しく思います。


「・・・・・・ったく、今夜はヒドい目にあったわね」

 

 真夜中の冬木市、その路上で愚痴をこぼして見せたのは黒髪をツインテールにしたつり目がちの美少女で、着ているのは真っ赤な色したタートルネックセーターと丈が極端に短いミニスカートに黒ストッキング。

 どこのエロゲキャラだよとツッコまれても文句は言えない格好だったが、今の状態は輪をかけてヒドくなっている。ボロボロなのだ。服は破れて柔肌が覗き、少しでも屈めば見えちゃうレベルのミニスカートすら切れ目が入ってしまっている。

 

 ーーこんな格好で町中を歩く女子高生が居たら即座に補導されること間違いなしだったが、幸運なことに今の今まで警邏中のお巡りさんには遭遇しなくてすんでいた。

 誤魔化すための催眠魔術にさえ宝石を使用する遠坂凜にとって、それは少なからずありがたい事実ではあった。

 ・・・もっとも、感謝するには不幸の方が大きすぎて掻き消され、嬉しさなど欠片ほどもない凱旋であるのだが・・・。

 

「・・・・・・ホントだよ・・・できれば二度とやりたくないかも」

 

 彼女と並んで歩く少女が、同じように疲れた声で嘆息とともに愚痴をこぼす。

 カレイドステッキ・マジカルルビーによって魔法少女に(拒否権は与えられずに)変身して、遠坂凜によって自らのサーヴァント(奴隷)になることを強制された(拒否権などと言う単語自体、凜の頭には存在していない)私立穂群原学園小等部の女子生徒イリヤスフィール・フォン・アインツベルンである。

 

 銀髪紅眼白磁の様に真白い肌と、如何にもオタク受けしそうな容姿に違わず男子からの人気はそこそこ高い。まぁ、あまりにもオタク向けすぎる要素を凝縮しすぎちゃってるせいでマニアックな男子ばかりが寄ってきているが、そこはご愛敬と言うべきポイントだろう。

 

 

 つい先ほどまで二人の姿は穂群原学園グラウンド上にあり、本来であれば凜が大師父より依頼されていた(正確にはルヴィアにもだが)クラスカード回収任務を遂行中であったのだが、突如として乱入してきたおかしなサーヴァントたちによって有耶無耶のうちに中断させられ無かったことにされ、今は疲れ切った身体を押して帰路に就いているところであった。

 

 ーーちなみにだが、もう一人の回収者ルヴィア・ゼリッタ・エーデルフェルトは恐れ知らずにも金色のサーヴァント相手に回収したクラスカードの所有権を主張して半殺しにされ気絶してしまった。

 一応、隣で見ていた(見ているだけで助ける素振りは微塵も見せなかったが)黒い鎧を纏った英霊に何事かをささやかれて「ちっ」と舌打ちしながら空間を歪ませ、中から取り出した怪しげな薬瓶を口に突っ込んでから勝手に二人だけで帰ってしまった。

 

 後に残され放置されていた四人だったが、やがて目を覚ましたルヴィアが機械的な口調で何事もなかったかのように凱旋することを告げて去っていったので、イリヤと凜の二人もすこぶる不完全燃焼であることを抑えながら家路につくより他なかったのである。

 

「あいつら、殺す。いつか殺す。絶対に殺してやるんだから・・・!!!」

「・・・・・・」

 

 生来のプライドの高さと負けず嫌いを刺激された遠坂凜が気炎を上げる傍らで、別に負けず嫌いじゃないし私そもそもい関係ないしと他人事を装っていたイリヤに見えないプレッシャーをかけまくる。

 

(ホントお願いだから、勘弁してよー・・・)

 

 そう願ってやまないイリヤであったが、その胸に去来するのは隠れオタクであるが故の本能的に思い起こせざるを得ない王道展開。

 

「さっきの戦いで介入してきたあの子たち二人ってさ、わたしと同じくらいの歳だったわよね」

『ですね。それがなにか?』

 

 フワフワ飛んでるカレイドステッキ・ルビーが疑問系で応じるが、実際にはイリヤがなにを心配しているか把握している。ただ単にこう言った方が面白い展開になりそうだから併せてやってるだけなのだった。

 

「このパターンでいくと、これってさ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美遊・エーデルフェルトです」

「・・・・・・・・・・・・はじめまして。ヴェルベット・ウェーバーです。よろしく」

「はーい、みんな仲良くしてあげてねー」

『はーーっい!』

(うん、やっぱりこうなるよね・・・)

 

 三者三様と言うべきか、もしくは四者以上四者以上様と言うべきなのかは定かでないが、とにかくそれぞれがそれぞれの思惑と事情と止むに止まれぬ深い事情があって一堂に会した三人の魔法少女たちは、穂群原学園小等部にある5年1組の教室で運命の出会いの朝を迎えることになったのだった。

 

 

 抱えている事情はダントツでヘビーではあるが一応実年齢的に問題のない異世界の聖杯少女美遊はまだしもマシなレベルだが、本業が時計塔の一級講師で三十路のロード・エルメロイⅡ世を正体に持つヴェルベットの悲嘆と絶望は言語に絶するものがある。

 

「帰りたい・・・イギリスに帰りたい・・・」

 

 と、思わず誰かがどこかで言っていた言葉を十年越しにつぶやき直すぐらいには絶望の淵に追いつめられていた。

 出来ることなら家に直行直帰して、頭から布団かぶって三日三晩引き籠もっていたい心持ちではあるのだが。それを許してくれるほど我が家の暴君たちは優しくなければ、慈悲の心すら持ち合わせていなかった。

 

 小学校の存在を聞いた瞬間「面白そうではないか。疾く行け」と、ソファの上に寝転がりながら宝具取り出して脅してくる金ピカ英雄王に、女子児童用の制服着たマスターを見て「うわー、かわいいかわいい! ボクもそれ着たい!着させて着させてーっ!」と、目を輝かせて着た直後の服を力付くで強奪していくアホ女装騎士。

 

「貴様等いったい何を騒いでいる。食事中は静かにするものだと教わらなかったのか?

 度し難い連中だな。見るに耐えん。もっきゅもっきゅ・・・」

 

 働きもしないでひたすら食ってるだけのエンゲル計数過多な腹ぺこ騎士王は、この際置いておこう。はっきり言ってアイツが一番面倒くさいから。

 金ピカは色々買うが全部自腹だし、アホ騎士は欲しい物こそ多いが値が張らない物ばかり。

 結果、食いまくってるだけで何もしてない墜ちた騎士王様が一番家計を圧迫する事となる。買うのは毎回ジャンクフードばかりとは言え、一度に食べる量が多いから地味にお財布には響いているのだ。

 

(もしかして私は、サーヴァントに金銭的負担をかけさせられる運命の星の元に生まれ落ちてでもいるのだろうか・・・?)

 

 安くはないが高くもない時計塔の一級魔術講師の給料でエルメロイ家が抱え込んでる多額の負債と、義妹に移植された亡き師の破損した魔術刻印の修復と、出来るのならば現代魔術科の校舎を玄関ホール以外も新しくするための費用を捻出しなければならない彼女としては考え込まざるを得なかった。

 

 なんとしてでも、食って寝ないで食い続けてる自宅警備員な騎士王様を働かせる方法を。腹ぺこ王にかける食費の減額を。働かないで家にばかり引き籠もってるニート騎士王に外へ目を向けさせる手段を!

 

 ・・・・・・狙ってもいないのに騎士王を召喚してしまったマスターの通弊なのか、どこかの平行世界では行き過ぎた自己犠牲精神の持ち主と酷似した魔術使いの少年と全く同じ悩みを抱いて胃を痛めるロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバー。

 

 やはり英雄や神様と人間は、根本的に相性が悪いんじゃないのかなと私は思う。

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 結果論に過ぎずとも、同じ場所で同じ様な能力を持った者たちが集まったのは偶然ではあるまい。おそらくは人間を玩弄して楽しむ異次元の邪神たちがクトゥルーなイタズラした必然に違いないのだから、連中の思惑通りに乗ってやる義務など自分たちにはない。

 せっかく第二の小学校生活をゲームだけは大好きな日本(ゲーム以外は嫌いだ。大嫌いだ)で送れるのだから楽しまなければ勿体ない。

 

 そう自分の心に無理矢理言い聞かせて強引に納得させたヴェルベットは、さっそく壁にぶち当たる羽目になる。

 

 

 日本のと言うか、普通の小学校の授業風景に彼女は美遊と異なる意味合いにおいて合わな過ぎたのだ。

 

「えーと・・・。ヴェルベットちゃん? この問題の答えは一体なにが書かれているのかしら・・・?」

「??? 確率論に基づいて大雑把に試算してみた敵ユニットカードに与えるダメージの総量ですが、それが何か?」

「知らん!そんなゲームの理屈を私は知らない! 外国人だから日本の算数とか判り辛いだろうなーと思って、とりあえず普段からやってる計算書いてみてって言っただけだコンチクショーーっ!」

「日本の子供たちにも大人気のカードゲーム『英雄史大戦』で勝つには必須の計算式なのですが・・・」

「絵に釣られて買って自爆した私への当てつけかコラーーーッ!!!」

 

 1時間目、算数。担任教師との相性もあって失敗に終わる。

 

 

「なんだかよくわからないけど・・・ゲーム愛はすごいらしい・・・!」

 

 尚、本編主人公の好感度を微妙に上昇させることには成功していたようだった。

 

 

 

「こ、これは・・・・・・!!!」

「日本の小学校と英国の学校では芸術の感性が違うのだろうと予測しまして。

 とりあえずは無難に絵は描かず、三角定規を使って正方形を描き出し黄金比を再現してみました」

「地味にすげぇぇぇぇぇぇぇっ!!!

 でも、小学生が自由に書けと言われて書くものではなーーーっい!!!」

「フリーメーソンに参画すれば基礎として教え込まれる程度の、稚拙なものですが?」

「世界を破壊しようと画策している秘密結社の教育理念なんか知るかーーーーっ!!」

 

 二時間目、図工。歴史知識の有無もあって失敗。

 この後ロード・エルメロイⅡ世先生から5年1組担任藤村大河先生への為になる歴史講座が開かれるのですが、それはまた別の機会にと言うことで。

 

 

 

「全然意味がわからないけど・・・魔法陣とかの話にはドキッとした!

 後で詳しく聞きに行こう!」

 

 尚、隠れオタクな本編主人公に興味を持ってもらえる事には成功していたらしい。

 

 

 

「こ、これは・・・・・・!!!」

「・・・・・・・・・目玉焼きです。一人暮らしでゲームが友達の生活が長いと、ごくごく自然にこう言った物しか作れなくなってしまいまして・・・」

「お前はいったい何者だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 3時間目、家庭科。内弟子に世話焼いてもらい続けてるうちに料理技能が低下していたらしく失敗。

 義妹は美味しいと言ってくれたのに・・・。

 

 

 

「完璧超人・・・じゃなかった! スゴい共感できる部分を見つけたわ! もしかしたら、お友達になれるかも!」

 

 尚、料理できないし家事スキルも持ってない本編主人公の好感度を大幅に上昇させることには成功していた。

 

 

 

 そして、なんやかんやあった末に本編主人公最大にして最高の取り柄たる逃げ足の早さを競う競技(多大な語弊あり)体育の短距離走が開始されたのだった!

 

「よーい、ドンッ!」

 

 パァッンッ!

 

 ガシャ、ダッ!

 

 バァァァァァッンッ!!!

 

「ろ・・・6秒9ぅぅぅ!?」

「スッゲー!!」

「イリヤが負けた!?」

「無敵キャラだーーッ!!」

(あ・・・ありえないーーーーッ!?)

 

 本編ヒロインにして正真正銘の完璧超人美少女でもある美遊ちゃんによって完敗を喫し、落ち込みかけてた本編主人公イリヤスフィールの鼓膜に別の声が届く。

 

 

「せんせー。ヴェルベットちゃんが死んじゃったんですけど、どうしましょうかー?」

「ぎゃーーーーっ!? 保健室! 早く保健室へ連れて行って!

 生徒が授業中に死んだりしたら私の責任問題が大変なことにーーーっ!?」

「・・・・・・(返事がない。ただの屍のようだ)」

 

 

 転校初日最後の授業、体育。

 弟子相手にアイアンクローかけてるだけじゃ上がらなかった持久力が原因で死亡。

 この後ロードは、保険の先生に手厚く看護されて一命を取り留めました。

 保険の先生は大変満足そうな表情で「ふぅ・・・久しぶりに良い汗かいたわ・・・」と爽やかに呟いていたそうです。まる。

 

 

 

 

『いつまでイジケてるんですかイリヤさん。早く家に帰りましょうよ』

「別にイジケる程には至ってないけどさぁー。才能の壁ってのを見せつけられたって言うか。居るところにはいるもんなんだねー。

 まぁ、偏ってはいたけども」

『ですねー。お一人は超ハイスペックでしたが、もう一方はバランスの悪すぎる天才児でしたからねー。あれは色々と大変そうでした』

 

 変なところで変な風に影響した結果、本来イリヤが受けるダメージの軽減に成功していたらしいヴェルベット。

 始まりから終わりまですべてが結果論でしかない、本人の預かり知らぬ出来事に過ぎないのだが、人の縁とはそういう物だろう。たぶんだが。

 

「・・・なにしてるの?」

『おや、美遊さん』

「こ、これはお恥ずかしいところを・・・。ミユさんにあられましては今お帰りで?」

「ーーあなたも・・・ステッキに巻き込まれてカード回収を?」

「う、うん。成り行き上仕方なくって言うか、騙されて魔法少女にさせられたと言うか・・・」

 

 恥ずかしそうに頭をかきながらも内心では(わー・・・確かに美人さんかも、この子・・・)と、自分でも気づかぬうちにオタク魂のスイッチを押せるようセーフティ解除してしまいながらイリヤは美遊と見つめ合い、しばらくの間は沈黙が場を支配する。

 

 

 

 やがて時が経ち、イリヤが(か、会話が続かない・・・!)と焦りだした丁度そのとき、美遊・エーデルフェルトは今日一日を振り返って感じていた想いの丈をイリヤに全力でぶつけることを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

「そう・・・・・・それじゃあなたは、どうして『私とヴェルベットの仲を邪魔しようとするの』・・・?」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・はい?」

 

 イリヤ、全力で疑問を覚えて小首を傾げる。

 だって分からないんだもん、しょうがないじゃない。つか、ヴェルベットってウェーバーの事だよね? なんで美遊さんがアイツのことなんかーー

 

 

 

 

「ストーキング!!!」

 

 ボォォォォォォォッ!!!

 

 

 イリヤの顔の傍らを、真っ白なのに滅茶苦茶熱い何かが通り過ぎていった。

 恐る恐る視線を向けた先にあったのは、燃え尽きて黒こげになった一本のーー電信柱であった。

 

「ちょっ・・・え、えええええええええええええええっ!?」

 

 最高位の幻想種たる竜の血を引いていなくとも、嫉妬の炎と愛さえあれば竜に転身できるのが女の子。

 恋に生きる聖杯少女美遊ちゃんにとってはいつもの事である。

 

 そう、すべては愛のため。

 愛さえあれば何もいらない。愛のためなら全てを焼き滅ぼせる。

 ああ! 私の愛でヴェルベットを燃え上がらせて、鐘の中に閉じこめて独り占めできたらどんなに素敵なのかしら!!

 

 

 ーーどこぞの世界で『旦那様』から恐れられてるヤンデレ竜美少女みたいな思考に至っている美遊ちゃんだが、実は今日一日ずっとイリヤの後ろの席から、一部始終を見ておりました。

 

 その結果がコレです。

 

 恋に生き、恋に死に、恋で相手を焼き殺せるヤンデレ少女に急成長していたのです! 怖いですよねヤンデレって。

 

 次元の壁を越えて時代区分さえ超越し、東洋の英霊は喚べないと言う聖杯戦争の根底にあるルールさえぶち壊しながら美遊ちゃんの愛は燃えて、燃えて、燃えて燃えて燃えて燃えて燃えて燃えて燃えてーー嗚呼、これこそまさに真実の恋い! わず! らい!

 

 

 ・・・今日一日でぶっ壊れ具合が凄まじい域に達してしまった美遊さんであった。ハイそこ、いや元からだろとか言わない。

 

 

「あなたは戦わなくていい。カードの回収は全部わたしとヴェルベットでやる。

 だからせめてーーいいえ、絶対に『私とヴェルベットの仲』を邪魔だけはしないで」

「は・・・はい!わかりました美遊様! わたしことイリヤスフィールは、今後一切お二人の仲を邪魔することだけは致しません!」

「・・・ん。だったら、いい。別に戦いに加わることまでは止めないから好きにして。

 わたしはヴェルベットの妻であり、家内であり家族であり恋人でもある地位を守れさえすればそれで良いから」

「え? あの~、美遊さん? カード回収任務の方は・・・」

「・・・・・・・・・」

「い、いえいえ!何にも言ってないですよ私!? 本当です本当!マジマジです!」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 スタスタスタと。小学生が背中を見せて去っていくのだから、この効果音こそ妥当なはずなのに、何故だか美遊の後ろ姿を見送るイリヤの耳には「ザッ、ザッ、ザッ・・・」という軍隊の行進みたいな音が聞こえる気がするのだった。

 

 

 

 

 

「な・・・なんで嫉妬されてるのかな・・・? 私がいったい何をした・・・?」

『わかりませんが・・・なーんか、めっちゃくちゃ面白そうな展開になる予感で胸がトキメいてる私が居ます! ドキドキハラハラですよイリヤさん!』

「面白がられてる!? え、なに? 今の私と美遊さんのやりとり見ていたコメントがそれってヒドくない!? 結構本気で命の危機が迫ってた気がしたよ私!?」

『はい!まさにその通りですイリヤさん!

 あの美遊さんって子は超ヤバいです。ヤバすぎです。完全に凶化してバーサーカーになっちゃってますからね。

 言語によるコミュニケーションが取れるからって油断しちゃダメですよ? バーサーカーの中には、言葉を話せるだけで意志疎通は不可能な英霊も沢山いるんですから』

「今の話は美遊さんのこと教えてくれてたんじゃなかったの!?

 なんで私の新しいクラスメイトが、敵であるサーヴァントと比較されなくちゃいけないわけ!?

 ものすっごく不安になるから止めてよ、そう言う心臓に悪い冗談は!」

『・・・・・・あー・・・、そうきましたか~。・・・どうしましょうかねコレ?

 教えてあげて面白い方に持って行くか、はたまた放っておいてイリヤさんが面白い展開に翻弄させられるのを見て悦しむか・・・。

 う~ん、これは非常に難しい選択かもしれませんなぁ』

「なんか私、出会った翌日から変身ステッキにオモチャ扱いされてる気がするんですけど!? 確か契約の条件に恋の魔法でラブラブになったりとかで釣られた記憶があるんですけど!?

 私の魔法少女人生は、これから先いったいどうなっちゃうのーーーーっ!?」

 

 

 蛙は鳴かずとも、イリヤさんが泣いたらお家へ帰ろう~♪

 お兄ちゃんが作った、あったかご飯が待っている~♪

 

「それなんか違う! 変なのが混ざってる気がする!

 あと、なんで変身ステッキにステレオ機能とスピーカーが!?」

 

 

 

 

本編主人公は今作でも振り回される役所だと判明したので続きます。

 

 

 

 

美遊・エーデルフェルトのステータスが更新されました。

 憑依させている英霊の真名は清姫。出典は『清姫伝説』

 

 クラスはバーサーカーのはずだが既にして絆レベルが上限突破しちゃっているので、パラメーターはランサー時の物が適用されている。

 ただし、季節的には夏にはほど遠い春のため自らの温もりでヴェルベットを暖めてあげたいからと言う理由だけで、宝具ランクはバーサーカー時の物が適用されている。

 その結果として、気苦労が二倍どころじゃすまなくなった。

 

属性:混沌・悪。愛こそ全てな愛に生きる少女(言うまでもなく自称)

狂っているので理屈とか言っても無駄無駄無駄な女の子である。

 

 筋力:D

 敏捷:B

 幸運:A+

 耐久:D

 魔力:E

 宝具:EX

 

スキル:『ストーキングA』

 口から青白い炎を吐く。人体の構造上、人間のままでは再現不可能な能力だったが、愛の力でなんとかした。愛の力は異常・・・もとい偉大である。

 とは言え胃の府が竜の物と混同されちゃっているので、下手したら食べられます。いろんな意味で。

 

狂化スキル:EX

 理性を失わせることでパラメーターをランクアップさせる為のスキルだったはずだが、最近では割とネタに使われがちなので今作でもそうしている。

 言葉は通じるし会話も出来るが、すべての思考が「ヴェルベットに愛されている」と言う思いこみに端を発しているため、それを否定するような言動をする際には要注意。

 自らの意志で英霊を憑依させたデミ・サーヴァントなので、令呪による絶対命令権が通用しない。最悪、自らが作った令呪によってマスターを支配してくる可能性もあるので本気でヤバいサーヴァント。

 

 それを除けば彼女もまた清姫本人と同じく、気立てが良くて料理も上手い、良くできた嫁であると言う事実に変わりはない。

 がしかし。あくまで狂った英霊を憑依させた少女であることを忘れてはならない。でなければ焼け死ぬ。物理的に。

 

 

 自分と同じ匂いを感じて、喚ばれて飛び出してきちゃった清姫ちゃんです。

 思いこみだけで竜に変身した能力はそのままに、聖杯少女の力でさらにパワーアップ。狂化スキルも大幅にパワーアップしている。



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7話「負けましたわ!」

久し振りに更新できました。途中からはオリジナル展開に変わる半オリ回です。
いつも通りしょうもない内容ですが、最近テンションの上がり下がりが激しくて純粋なギャグを書ける時間が微妙なのです。どうかお手柔らかにお願いします。


「な、なにこの豪邸!? こんなのうちの目の前にたってたっけ!?」

 

 転校生とのショッキングすぎる再会を終えた後、家に帰宅したイリヤスフィールはメイドのリズがなにやら驚いたように何かを見上げているので気になって見てみたら、昨日まで存在していなかった豪邸が自宅の前に聳えてっていたのだった!

 

 ーー一軒だけでなく、“二軒”も。

 

「今朝、突然工事が始まったと思ったら、あっという間にお屋敷ができあがっていて」

 

 少し困ったような口調と態度で感想を述べるメイドのリズも大概ではあるのだが、そもそも現代日本の中流家庭にメイドが居る時点で大概過ぎるので割愛させてもらう。はっきり言って、切りがないから。

 

「いったい、どんな人が住むのかな・・・?」

 

 ーーイリヤちゃん? フラグって言葉を知ってるかい?

 

 

 カツカツカツ・・・・・・。

 

「・・・あ」

 

 ふと、横合いからささやき声が聞こえた気がしたのでそちらを向くとーー案の定、そこに居たのは件のヤンデレ魔法少女美優ちゃんでした~。

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 思わず二人は沈黙したまま、数秒間見つめ合う。

 

「・・・・・・・・・(ニ~ッコリ♪)」

「ひぅっ!?(ゾクゾクゾクぅぅぅ!!)」

 

 素っ気ない態度で無視されるかと思ったら、逆に微笑みかけられてしまったイリヤちゃん。可愛い美少女転校生の浮かべる可憐な笑顔は破壊力抜群だ!

 

 ーーでも、なんでかな。美少女に笑顔でほほえまれたのに全然嬉しくなかったよ。むしろ寒気で背筋が凍り付きそうだったよ。

 ・・・そう言えば前にテレビで、笑顔ってもともとは敵を威嚇するためのモノだったって聞いたような・・・

 

 イリヤスフィールのファインプレイ。見事に美優ちゃんの意図を読みとりました。拾得ポイントが加算されます。軍略スキル収得まで残り500000000ポイント。

 

 リズにも軽く会釈してから美優ちゃんは、自宅へと帰宅します。ーー目の前に聳える豪邸へーー。

 

「えええええーーーーーーっ!?

 も、もしかしてこの豪邸、美優さんの家?」

「まぁ、そんな感じ。ーーあくまでヴェルベットの家に嫁ぐまでだけど」

 

 サラリと、怖い一言を付け加えて両開きの門扉へと入ってゆく聖杯少女の美遊・エーデルフェルト。彼女が今後のロードの人生を左右するのは、時間の問題のようです。

 

「イリヤさん・・・お友達、ですか?」

「は、はははははは・・・・・・」

「・・・あまり小姑めいたことは言いたくないのですが・・・もう少しお友達は選ばれた方がよろしいかと・・・」

「はは、はははははは・・・・・・はぁ・・・」

 

 激動の夕暮れ時は、イリヤスフィールの深くて思いため息によって幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

 かぽーん。

 

『いや~、まさか家の前でも会うとはー』

「そうだねー、びっくりしたよー。・・・驚きすぎて危うく心臓が止まっちゃうところだったし」

 

 アインツベルン邸のお風呂場で行われている、ルビーとイリヤの会話。

 この世界の住人たちは、なにかと余計な一言を感想として付け加えてくる仕様です。

 

『なんとも間が悪いというか、カッコつかないですねー』

「なはは・・・確かに」

『美遊さんも心なしか気まずそう・・・いえ、アレは明らかな敵意の色でしたね間違いなく』

「え!? やっぱりアレってそう言う意味での笑顔なの!? なんで!? わたし美遊さんになにかした!?」

 

 イリヤ、驚愕の真実に驚きを露わにする。・・・まぁ、普通の小学生は同性のクラスメイトに惚れてる女の子の気持ちなんか分かりっこないですもんね~。

 

「・・・ねぇ、ルビー。さっきから気になってたんだけど・・・帰ってきてからずっと一人でなにブツブツ言ってるの? ちょっとだけ気持ち悪いよ? ーーいや、それは元からだからいいのか」

『ハッハッハ。イリヤさんもなかなか言うようになりましたねぇ~』

「まわりの教育がいいからねー・・・」

 

 即座に思い出せるだけで黒いのが何人も激増している、つい最近。イリヤスフィールの平凡な小学生ライフは既にレッドゾーンへ至りかけてます。死にかけです。ライフの命(HP)だけにね!

 

 

 ぴんぽーん♪

 

 

「あ、誰か来たみたい。こんな夜遅くに珍しいね。誰だろう?」

『いやいや、イリヤさん? 夜九時過ぎは大人にとって全然遅い時間じゃありませ~ん。むしろこれからが夜としての本番。今はまだ子供のお昼が終わった時間に過ぎないので~す』

「え!? なにその気になるお話! エッチなのはリズに怒られちゃうからダメだからね! だから言いたくなったらリズには聞こえないよう、私一人が聞こえるように言って!」

『はっはっは。イリヤさんの、お・ま・せ・さ・ん☆』

「おーい、イリヤー? さっきから呼んでるのになんで返事しないんだぁー? もしかしてノボセでもしたのか? 風呂場でのぼせて気を失ったりしたら危ないから直ぐにでないとーーあ」

「あ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『あ~あ。またしても、殺っちゃいましたねぇー』

「きゃああああっ!? お兄ちゃーーん!?」

「い、イリ、ヤ・・・俺のことはいいから、早く玄関に・・・。来客が来て、お前に挨拶したいと言ってるん・・・だ・・・」

「それ、虫の息な状態で自分より優先しなくちゃいけない内容なのかな!? 人には優しくも限度があるよ! もっと自分を大切にしようよお兄ちゃーん!」

「接客・・・は、主夫のほこ・・・り・・・・・・・・・がく」

「お兄ちゃーーーーーっん!?」

『いやー、この兄にして妹ありですねー。おもしろいオモチャがいっぱいいて退屈しなくていいですねー、アインツベルン家は』

 

 人格最低なカレイドステッキは、こんな時でも通常運転だった。

 

 

 

 

 兄の貴い犠牲を無駄にしないためにと(死んでないけどな?)イリヤは急いで服を着て玄関に向かい、そこで驚愕の一日の最後を飾るにふさわしい存在と対面することとなったのである。

 

 

 

「どうも、夜分遅くに失礼いたします。隣に引っ越してきました、ウェーバーと申します。

 日本では引っ越しを終えた後、近所のみなさんに挨拶まわりをしなければならないと祖父から教わりましたので是非にも挨拶をと思った次第です。

 これ、つまらない物ですがどうぞ。引っ越し蕎麦です。口に合えば良いのですが・・・」

「あらあら、まだ若いのにしっかりした子ねぇ~。うちのイリヤちゃんにも見習ってほしいものだわ~」

「いえ、滅相もない。こちらこそ転校してきた初日から親切にしていただいて、まことに感謝しております。

 イギリスの田舎から出てきたばかりで世間知らずな点が多く、ご迷惑をおかけするだろうとは存じますが、なにとぞよろしくお願いいたします」

「・・・・・・本当に礼儀正しすぎる子なのね・・・せっかくだし、イリヤちゃんに礼儀作法の一つでも教えてもらえるよう頼んでみようかしら・・・?」

「なにごとーーっ!? これは一体どういう状況なのーーーーっ!?」

 

 叫ぶイリヤと相反するように丁寧な態度を崩そうとしないヴェルベットだったが、内心ではイリヤの言に激しく同意の首肯を繰り返している。

 

 ーーなにしろそのセリフ・・・・・・放課後帰宅してから自分自身の言った言葉とまったくの同義語だったんだからーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこの豪邸は!? こんなの町の地図に載ってたっけか!?」

 

 任務の派遣先で女子小学生になると言うショッキングな不幸に見舞われてから疲れて帰宅し、家へとたどり着いた彼女を待っていたのは不機嫌そうな顔で何かを待ちわびていたらしい英雄王に「この部屋には飽いた。次の部屋へ移動するぞ」と言われ、無理矢理拉致されてきた場所には昨日までは町の地図に記載されていなかったはずの豪邸が、平均的一般住宅地のど真ん中にデデンと聳え立っている光景を目にして驚愕させられていた。

 

 ーー一軒だけでなく、“二軒”も。

 

 

 

 

「・・・おい、ギルガメッシュ! これはお前の仕業だな!? お前の仕業なんだろう!? おまえ以外にこんなデタラメ起こせる奴がいるはずないんだし、間違いようもなくお前が犯人なんだろう!? 違うか!?」

「ふっ、小娘。少しは落ち着くがいい。この程度の広さしか持たぬ犬小屋を宝具で倉から取り出すなど、人類最古の英雄王たる我にとっては容易き事よ。

 何より、この世界は宇宙の果てまで我の庭である。故に自分の庭を散歩しながら移動したまでのことだ。気にする必要性など何処にも存在せぬではないか。

 だと言うのに、何故貴様は慌てふためいているのだ? 体が若返ったことで心まで幼童に落ちたのか? だとしたら貴様の主君に対する礼儀として寵を与えてやらんでもないが?」

「ああもう! こいつマジで面倒くさい! 今更過ぎることだけど、心の底から今の僕はそう思ってる!」

 

 相変わらず英雄王のAUOぶりに頭を悩まされながらヴェルベット・ウェーバーことロード・エルメロイⅡ世は、本名であるウェイバー・ベルベットに心を一時的に回帰させながら盛大に叫び声をあげていた。

 

 頭をかきむしりながら金ぴかの英雄王へとつかみかかり、

 

「ここに元々住んでた住人はどこへやった!? まさか幻術や魅了を使って洗脳したりしてないだろうな!?

 聖堂教会とは不可侵条約結んでるとはいえ水面かでは未だにゴタゴタしてるんだ! 余計なまねして下手に刺激するような事態に発展させてたりはしてないんだろうな、ええ!?」

「無論、金で解決した。たかだか金子の一樽分程度の量で、生まれ育った故郷を売り飛ばすとはな。やはり雑種は何処まで行っても雑種に過ぎんと言うことか。

 ふん、つまらん。

 せめて何処かの時に出会った、我の威を借り志を成そうとした雑種の小娘程度の気概を持てばよいものを。この時代の人間どもは相も変わらずムシケラばかりよ」

「豪邸を倉からポンと出せる奴の常識で、現代日本の一般家庭の収入額を計ろうとするんじゃねーっ!」

 

 ロード、絶叫。さすがは金に縛られて時計塔の一級講師をやってる男は、金銭的な問題に関しては英雄王相手にも妥協する気が全くない。偉大なる魔術師の師さえも縛る金とは、まさしく人類に成長と堕落をもたらした最高の発明品と称すべき逸品なのだろう。・・・たぶんだが。

 

「確かにな。餓えたからと言って、守るべき祖国の地を異民族に売り渡すなど万死に値する大罪だ。蹂躙するなら私も手を貸すぞ、英雄王。丁度、食後の腹ごなしに軽い運動でもと思っていたところだ。もっきゅもっきゅ」

「お前、まだ食ってたのか!? 働けよ偶にはさぁ! ほら! あそこに短期雇用のウェイトレス募集がされてる張り紙がある! あれ面接だけでも受けてこいよ!

 てか、いい歳した騎士王が居候の身分で大食らいしてんじゃねーーーっ!!」

「あ、このウェイトレスの制服かわいー!

 ねぇねぇ、マスター。ボクもこれ受けてきてもいーい? 絶対ボクの方が彼女よりも似合うと思うんだー♪」

「性別の項目見た瞬間に不採用が確定するわ! 本当は男の娘のアホ騎士がーーっ!」

「む。シャルルマーニュ十勇士ごときが私に楯突くとはな。その増長、我が聖剣の錆とすることで叩きのめしてくれよう」

「あああああっもう! 混沌としすぎてて訳わかんねぇぇぇぇぅ!!!!」

 

 暴君×2プラス理性蒸発(元)男の娘騎士一人を率いさせられてるロードの心労は最近、時計塔の講師時代並に激増していた。そろそろこの女子小学生の体でも、胃に痛みを覚え始めてもいい頃合いだろう。三つ子の魂百までも、とはよく言ったものである。

 

「はぁ・・・疲れた・・・。とりあえず私は両隣の家に引っ越しの挨拶をしてくるから、お前たちは好きにしていろ。ただし、問題だけは起こすなよ? これ以上なにかあったら私の胃が保たないからな?」

「うむ、先触れの使者を自ら買ってでるとは大儀である。その忠道、努その在り方を損なわぬよう励むが良い」

 

 机に腰掛けてガンプラ作ってる英雄王が、こちらを見もせず放ってくる放言に、なぜだろうか。以前、同じような趣旨の言葉を投げかけられたときには甚く感じ入った覚えがあるのに今回は普通にムカつきしか覚えない。

 たしか英霊の座にある英雄の本体は不変であり、彼らの写し身であるはずのサーヴァントは召還される度に同じ状態で喚ばれるはずなのだが・・・・・・。

 これはやはり英雄王が規格外のサーヴァントだからなのだろうか? それとも規格外のバカと酒を飲み交わして影響された結果、バカが感染でもしたのだろうか?

 どっちもありそうで嫌だな・・・。

 

「はぁ・・・もういっそイギリスに帰りたくなってきたんだがな・・・」

 

 これまた何時ぞやと同じ言葉を違う口調とテンションでつぶやきながら、ロードは適当な店で引っ越し蕎麦を購入すると手頃でサイズでマッケンジー老夫妻宅を想起する中流家庭の一軒家に赴こうとして、即座にきびすを返した後に豪邸の方へ足を向けなおした。

 

(いやいや、ないないあり得ない。いくら日本が紙と木で家を建てる変態民族の国だろうと、こいつだけはあり得ないし、あってはならない)

 

 内心では盛大に冷や汗を滝のように流しながら、ロードは先ほど見てきた家の表札に書かれていた、おそらくは父親のフルネームを思い出す。

 

(衛宮切嗣・・・時計塔からも依頼されて仕事をこなしてた《魔術師殺し》が、なんで日本の平凡な中流家庭の父親に!? いったい、何があったんだ十年後の現代日本!?)

 

 ・・・知識があるというのも意外と気苦労が絶えないようであった・・・。

 

 

 

 

 

 

「はい、どなたですかしら? ・・・あら、あなたは・・・なるほどね、敵情視察と言うわけでーーって、なんでそんなにもゲンナリした顔をしてらっしゃいますの? わたくし、何かやらかしてしまった覚えなどなくってよ!」

「なくってよ、じゃねぇよ・・・・・・」

 

 消去法の末に二つある選択肢の中で、残った方を選んだロードは再び激しい精神疲労と脱力におそわれる事となる。

 それは住宅地の真っ直中にあるエーデルフェルト邸、その魔術的結界の強固さに起因しているものだった。

 

「・・・お前なぁぁぁ・・・・・・!!! な・ん・で一般人のいる住宅地のど真ん中で魔術工房みたいな要塞造っちゃってるわけ!? キミはあれか? 特殊なバカか阿呆なのか!?」

「な、何をそんなに怒ってらっしゃいますのよ・・・。魔術は秘匿するものである以上、一般の方々に知られぬよう、いつ何時凄腕魔術師から奇襲されてもいいように強固な結界を張って、屋敷内での戦闘行為を可能とするのは当然の一手目でしょう?」

「それは通常の人里離れた深い森の中とかに工房構えてればの話だよ! そこいら中に人目と耳目がある中で強力な攻撃魔術なんか使って奇襲してくるバカな魔術師がいるかボケ!

 普通に気づかれて通報された瞬間に全力で撤退するのが魔術戦闘のプロなんだよ! それぐらい知っとけ定番お嬢!」

「・・・あっ!?」

 

 ルヴィア・ゼリッタ・エーデルフェルト、魔術師の常識に捕らわれすぎて痛恨のミス! ・・・でもまぁ背後に立ってるセバスチャンも冷や汗流してるから仕方ないよね?

 

「はぁ・・・先生もそうだったが、なんだって天才と呼ばれ称えられてる連中に限って、こう言う単純なポカをやらかしたりするんだ? なまじ才能が隔絶してる分、残念さが余計に際だつじゃないか・・・!!!」

「う、うぐぐ・・・・・・そ、そう言う貴女は、どうしてこの屋敷へ!? 先ほどは敵情視察ではないとおっしゃっていましたが、その心は!?」

「普通に引っ越しの挨拶にきただけだよ。ほら、引っ越し蕎麦。日本ではこれを送るのが引っ越ししたときの定番なんだ」

「引っ越し・・・? あなたこの辺りに拠を構えて工房を造られましたの?」

「・・・キミの家の隣だぞ? 私の引っ越し先の住所・・・」

「・・・・・・ああ!? 魔力を感じなかったから気がつきませんでしたが、今朝方に我が家とほぼ同時に建設工事が始まっていたはずですのに、昼頃の今に完成しているのは明らかに異常事態ですわ! 超常現象です!

 わたくしが屋敷に張った結界の強度が強すぎたせいで、中にいたままでは感知できないだなんて・・・まさにウッカリ! 灯台もと暗しとはこの事ですわね!」

「・・・いや、ただのバカだろ? ・・・本当に天才という存在は、才能を無駄にし過ぎてる・・・」

 

 ロード・エルメロイⅡ世の小学校生活が始まったその日、早くも胃の腑に重い物を感じ始めたヴェルベット・ウェーバーであった。

 

 彼の胃と同じように、彼女の胃が負担に耐えかねて悲鳴を上げる日は近い。

 

つづく



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8話「いろいろな意味で負けました(凛さんたちがね?)」

久々の更新なのにロードらしさを意識するあまりプリヤらしさが壊滅してしまいました。ごめんなさい。やはり全く異なる作風の二つを組み合わせるのは難しいぜぃ。


 午前0時5分。冬木市深遠川にかかる橋の下には、見事なまでに無様な姿で傷ついた体と心を休めている敗残兵たちの姿があった。

 

「な、なんだったのよ、あの敵は・・・」

 

 ボロボロのズタズタになった遠坂凛が、魔力切れによるスタミナ切れでへろへろになりながら、息も絶え絶えにそう呟く。

 

「ちょっと、どう言うことですの!? カレイドの魔法少女は無敵なのではなくて!?」

『わたしに当たるのはおやめくださいルヴィア様』

 

 凛と同じ理由でボロボロのズタズタで体力も切れかけているはずなのに、どう言うわけだか元気いっぱいカレイドステッキ・サファイアに八つ当たりしているのはルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。

 北欧の名門出であり、実力は高いが反比例してプライドも高くなる典型的なお嬢様キャラであり、こういう敗戦時には一番荒れるのも彼女のようなタイプの特徴である。

 

 ーーそれでいて延々と敗北を気にして強くなろうと努力する真のプライドの所有者は惑星ベジータの王子ぐらいなものなのだから、プライドというのもよく分からないなーー

 

 そう考えているのは、彼女たちの敗けっぷりを橋の上から見物していたから無傷のロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーである。

 

 ーーが、はっきり言って彼女に言わせてもらうなら。

 

「おまえたちが悪い」

 

 今回の敗因は、この一言に尽きるのだった。

 

「実力よりもクラス同士の相性がものを言うサーヴァントを相手に回して、魔術戦闘オンリーで正面から仕掛けるなんて、お前らは一体どこの猪武者な騎士王様なんだ?」

 

 彼女の言葉には容赦というものが一切ない。当たり前だ。

 十年以上もの長きにわたって何千何万と繰り返しあの時の聖杯戦争を違う形で再現したシミュレートを実行し、同じ数だけ死んできた身だ。敗戦と戦死について、彼は一家言もっている。無論それは、彼女になった程度で損なわれるほど脆いもので決してない。

 

「ぐ・・・そ、それは・・・ですが! 遠坂凛より先にカードを回収しなければならないこの状況を鑑みれば、巧緻よりも拙速を尊ぶのは必然的な成り行きではありませんこと!?」

「・・・いつからカード回収任務がカード回収レースに宗旨換えしてたのかは置いておくとして、だ。ぶっちゃけ、お前らに巧緻さって存在してたの?

 てっきり、真っ正面から突っ込んでいって正面突破しながら敵を関節技でぶち殺す作戦もどきを、数少ない実現可能な戦術だと思い込んでる脳筋お嬢様連合だとばかり・・・」

「「失礼にもほどがある!(ありますわ!)」」

 

 夜空に向かい、額に青筋を浮かべながら怒鳴り声を張り上げて遺憾の意を表す野人お嬢様二人組。

 彼女らの傍らにはそれぞれ一人ずつ幼い少女が身体を癒していて。

 

「ごめん、凛さん・・・。私も脳筋だと、ちょっとだけ思ってた・・・」

「・・・ノーコメントで」

 

 視線をどこか遠くに見やりながら呟く彼女たちの声は、幸いにも保護者を自認する二人の猿人類には届いていなかった。二人はますますヒートアップしていき、対照的に疲れを倍加させられていくロードはテンションが上がらずダダ下がりを繰り返していく。

 

 イリヤは放置状態な上に何も知らされてすらいないため、暇つぶしにルビーとの会話を楽しみだして、美遊は今回の敗戦で使わなかったゲイボルクについて思いを馳せ、「ランサーって対魔術師戦に特化した最強の暗殺者だと思うんだけど、どうして誰も暗殺に用いないんだろう?」と、ちょっとだけ危ない思考に至り始めていた。

 

 兄への思いがロードより下になり、愛に生きるヤンデレ英霊を宿すことに成功した彼女には倫理観とかあんまり無くて、結果良ければすべてよし。結果的にヴェルベットと結ばれるなら多少の重傷や重病ぐらい、献身的に看病できる口実として受け入れようと割り切っていたのだ。色々とヤバい気がするが、ヤンデレとは元来そう言うものである。

 

『まぁまぁヴェルベットさん、落ち着いて。

 実際、大抵の相手なら圧倒できるだけの性能はありますが、それでも相性というものはありますよ。さっきのアレなんかは、その代表みたいなものでしょう。

 さすがにランクAの魔術障壁が突破されるなんて、誰も想像してない展開じゃないですか』

 

 ルビーの言うことにも一理あるにはある。先ほど戦って負けた相手、おそらくはキャスタークラスのサーヴァントなのだろうが、まるで要塞みたいに堅固な魔術障壁を敷いていた。ほぼ確実に現代では失われた神代の魔術大系のひとつ魔力指向の制御平面だ。

 

 現代でも使われている魔術の一種ではあるのだが、根本的に魔術基盤が異なっているのでまったくの別物と考えてしまって問題あるまい。

 現代魔術の常識が通用しない相手に、現代の魔術師たちが挑むのだから確かに予想だにしない手段を用いて不意打ちをかけられては、負けるのも撤退するのもやむを得ないのだが、しかしである。

 

 冷酷な言いようになってしまうが、それが戦であり戦争であり、聖杯戦争であるのも事実ではあるのだった。

 

「戦いにおいて速さを尊ぶのは、陣というのが刻一刻と位置を変えていくものだからだ。

 位置を掴んだときに叩いておかないと、取り逃してから後悔しても遅いから速やかに敵を倒すのであって、陣地内に立て籠もって出るに出られなくなってるクラスカードで召還されたサーヴァント相手には既存の正論は意味を成さない。捨ててしまえ、そんなゴミくずは」

「「ご、ゴミくず・・・」」

 

 歴史と格式と伝統を愛し、尊重している二人のお嬢様には割と本気で大ダメージを与える言葉だったのだが、ロードにとっては挿して感銘を受けるような代物でもない。単に自分の主君が言ってたことを自分なりに解釈して当てはめてみただけのことである。

 あの偉大すぎる上にデタラメすぎた暴君のチャリオットを使えば何とかなるかとも考えていたロードだったが、現実にて気を目の当たりにして考えを改めた。

 ルビーの言ではないが、確かにアレは相性が悪い。悪すぎる。ライダーのクラスで正面決戦を挑みたい相手では全くなかったのだ。

 

「確認するのだが、お前たち。研究開始から数百年、十代以上にわたって魔術の研鑽を行ってきた歴史ある名門がセカンドオーナーとして管理している土地で、仕掛けられた防衛魔術を無効化させてから当主本人さえもを攻撃可能とする雷撃を天候操作魔術で行使できるか?」

「「・・・は?」」

 

 突然に突拍子もない内容をーーそれも無茶振りにも程がありすぎる内容で質問された二人の名門魔術師お嬢様はポカンと間抜け面をさらし、「いいから、一先ず考えてみろ」と促され、今までの実績を鑑みた上で一応考えるだけ考えてやるかと上から目線で予測していくとーー

 

「無理ね」

「無理ですわね」

 

 二人同時に異口同音の答えが返ってきた。

 然も有りなん、と頷くロード。実際、無茶ぶりすぎることは誰よりも彼女自身が自覚していた事でもある質問だったのだから当然だ。

 

 天候魔術は只でさえ成功例が少ない上に、現代では精霊や妖精など気候に関する神秘の多くが劣化している。天候の変わりやすい湖水地方で雷雲の発生しやすい状況が揃ってでもいなければ、現代の魔術師たちでは束になっても太刀打ちできない。

 むしろ、あの性格の悪い石油王の魔術使いでさえ、それだけやって「後押しするのがやっと」だったのだ。才能は彼以上でも、手段を選び手順を守り、奪わず殺さず略奪も簒奪もしない彼女らの方法論では、到達するのに相応の修練と時間が必要不可欠となる術式でもあった。・・・無論、天才である以上いつか必ず辿りつきはするのだろうけれど・・・。

 

 

「それを極大規模で行使できる魔術師だぞ、アレは。自分の恋敵ごと城を焼き払ったという魔女の火を本当に使えるオリジナル様だ。到底、現代に生きる人間の魔術師が魔術戦を挑んで勝てる相手じゃないだろうさ」

「ちょっ!? それってまさか・・・!」

「もしや・・・魔女メディアですの!? 竜使いとしても有名な彼女がキャスターとして現界していると!?」

 

 無言で頷くロード。思わず空を仰ぎたくなる二人のお嬢様。

 確かにそれなら自分たちが負けるのも道理だわ、と。

 

 神代の時代の魔術師相手に現代の魔術師が挑んで勝てる道理はない。それは魔術師たちの常識として彼女たちも知ってはいたのだが、それでも魔術師とはピンキリなものだ。神代の魔術師=現代の名門魔術師一族の後継者である自分たちが勝てない相手とは限らない。いや、勝てる!絶対に!

 

 ・・・そんな意味不明で根拠の所以が誰にも理解できない理由で勝利を確信したまま突貫し、敗北を喫した今回の敗戦ではあったが、相手の正体さえ分かっていたなら今少し対策の立て用はあったのだ。

 さすがの彼女たちも、知名度補正だけでも神代の時代ではトップクラスに属している魔女メディア相手に真っ正面から小細工なしで挑んだりはしない。魔術勝負を挑んで勝てる相手では絶対にないからだ。

 

 とはいえ、

 

「見た目から判断したのだから、実物を見るまで正体が分からなかったのは私の責任ではあるまい? そもそも聖杯戦争において真名は秘するものだ。真名が割れたら負けが確定する英霊というのは存外多いからな。今回のこれは、真名さえ分かっていたら慎重に相手をする英霊筆頭と呼ぶべきだろうな。

 とどのつまり、お前たちの想定が甘すぎた。敗北した理由はこれに尽きるだろうよ」

「「ぐ、ぐぐぐぐぐ・・・・・・!!!!!」」

 

 歯ぎしりしながらロードを睨む二人であったが、構いやしない。

 如何に時計塔が誇る才媛二人とは言え現時点ではバリュエの主家バリュエレータの頂点に立つロード・バリュエレータこと、イノライ・バリュエレータ・アトロホルムを前にしたときほどの圧迫感は感じない。

 ましてや彼女言うところの「俺の馬鹿弟子」蒼崎燈子と比べれば月と赤子だ。話にならない。

 

 ーーまぁ、あの化け物と人間の魔術師を同列に扱ってしまえば誰でも同じ扱いになるのであろうが・・・。

 

 ちなみにだが、ロードがルヴィアよりロード・バリュエレータを恐れる一番の理由は、彼女がルヴィアの生家エーデルフェルト家の属するトランベリオ派の有力者一族の当主であるからだ。

 エルメロイが貴族主義なのは先代が亡くなるまでは時計塔でも指折りの大貴族だったからで、新世代を率いてはいるが権威も財力も損失した今のエルメロイは実質的にトランベリオ派に近かったりする。

 二世自身の振る舞いは保守にも革新にも阿ねらない中立でもあるので、貴族主義の首魁であるバルトロメイからは「お前、うちの派閥でも飯食ってんじゃないの?」と、日頃からいろいろ言われてたりするので面倒事は避けたいのだ。

 

 念のために付け足しておくと、うっかりでも本当に鞍替えした場合には待っているのはマストダイ一択だからそのおつもりで。

 

 

 組織に属する組織人にとっては人事上の優劣は人格や能力、才能よりも重視し尊重されて然るべきものである。

 彼女になってもロードはロード。彼だった頃の小市民ぶりは抜けてはいない。

 

 ーー余談だが、如何にもな貴族令嬢風を吹かせたがるお嬢様キャラ、ルヴィア・ゼリッタ・エーデルフェルトが属しているトランベリオ派の通称は『民主主義派閥』と言う。

 単に勢力図を分かり易くするための類別に過ぎず、才能勝負の魔術社会で本当に民主主義を実行する気などサラサラないのであろうが、それでも彼らの勢力に刹那主義的思想を持った「今このときを駆け抜ける以外にやることなどありはしない」と言い切ったロード・バリュエレータのような人物が多く在籍していることも事実である。

 あと、成り上がりが多いです。ここ重要ですので、テストにはでません。だしたら社会的に拙いから重要なのです。

 

 

「言っておくが、エルメロイ教室の「天啓の忌み子」は、この魔術を現代に生きる魔術師が再現して見せたときに術式の構築時における効率の悪さと、儀式魔術として成立させている魔術師の数を正確に言い当てた上で、問題のある人物を人数と番号で指摘してしまったらしい。視力を魔術で強化してやっと見ることが可能となるほどの遠方から、一目見ただけでな」

「「・・・!!!」」

 

 二人の天才の表情が苦痛と屈辱に歪む。今まで信じて疑わなかった自己の才能が自惚れかもしれない可能性に直面させられたからだ。

 

 エルメロイ教室の「天啓の忌み子」ことフラッド・エスカルドスの話は、噂で聞いていた。所属する教室が違いすぎるので直接あったことはないが、規格外の才能を持った化け物であると言う噂を。

 

 彼を過小評価していたつもりはないし、事実として彼女たちはフラッドのことを自分たちと“並び立つかもしれないほどの”脅威として認め、ライバルとして敬意と敵意と対抗意識を抱いていたのだ。

 

 だが、それは今呆気なく崩れ去った。跡形もないほどに、徹底的に壊滅的に、草木一本残らぬ焦土のように。

 

 才能が違いすぎる。圧倒的すぎる。化け物過ぎる。規格外過ぎる。なんだその怪物は? 本当に人間なんだろうな?

 

 そんな思考に囚われたらしい二人に、ロードは「ようやくか」と内心ため息をつきつつも端的なアドバイスを残しておく。

 

「斯くも世界は広く、底が知れない。魔術師たちは神秘を操り、探る者であるが故に自分の知っている神秘以上のモノはないと盲進しがちだ。まず、その固定概念から捨てろ。

 敵を見ろ、相手を見ろ、自分を見ろ、友を見ろ、隣に立って共に歩まんとする相棒を見ろ。そうすれば自ずから自分たちになにが今必要かを考えるようになる。信じることと盲進することは別物なのだと言うことを忘れるなよ。以上だ」

 

 言うだけ言って、今日は何一つしていない少女は疲れ切って身体を休めている敗残兵たちに背を向けて去っていく。字面だけで見ると酷すぎる行為だが、致し方ない。

 

 ーーなにしろ彼女の手駒であるサーヴァントたちが自分勝手に動き回って誰一人ついてこなかったのだから。つか、居場所すらよくわかんね。デミ・サーヴァントでマスターでもあるから探知機能がいまいち性能悪いのは何とかならないものかといつも思ってしまう。

 魔術除けのアミュレット程度の対魔力しかもたないライダーのサーヴァント征服王イスカンダルを宿した彼女にとって、陣地作成して待ちかまえているキャスターは鬼門中の鬼門なのだ。通常の聖杯戦争だったら動き回るからどうとでもなるし、遭遇率も減る。

 しかしながら此度のヘンテコリンな聖杯戦争もどきだと、サーヴァントは待ちかまえての迎撃戦が基本らしい。キャスターが生き残っている間は慎重を喫したいのが彼女の嘘偽らざる本心だった。

 ただでさえ忠誠を誓った主の力を宿しているのだ。これで自己の乏しい才覚でもって知略を尽くして敗けでもしたら今度こそ立ち直れなくなってしまう。やらねばならぬ事を成せなくなるのはごめんだ。

 

 それぐらいなら、負けても逃げきれる余裕を持った味方に敗北を経験させて学ばせて、考えるための良い切っ掛けにでもなればいいなと無策に特攻していくのを見送るぐらいはするのである。

 エルメロイ教室ではいつものことだ。失敗も敗北も全員日常的にやっている。同じ教室の生徒と教室内で魔術戦やりながら。一発でも掠っただけで常人やロードは即死モノの魔術を撃ち合いながら。

 

 ーー案外と近くに住んでた、エルメロイさんちの化け物ども。

 

 

 

「とりあえずは即席魔術師の二人に、戦闘時に必要となる簡単な魔術と効果的な使い方でも教えてみたらどうだ? 属性をもって生まれてくる魔術師にとって、向き不向きは意外と重要だぞ? 才能があっても性質的には全く向いてない魔術なんかもあるからな。話し合って分かり合った末に方針を決めていけばいい。話を進めるならそれからだろう」

「「・・・・・・」」

 

 黙り込んだままの二人にロードは、軽く微苦笑を浮かべながら懐かしそうに、そして悲しそうに笑って、

 

「ーーなにも、カード回収の短い期間しか一緒にいてはならないと言う決まりもない戦いだ。秘匿がどうたら言うのも今更過ぎるしな。関係を育んでおいて損はないし、むしろ一方的に自分が得するだけかもしれないぞ?」

 

「・・・自分が絶対と思い込んでた悩みを頭ごなしに否定されて落ち込むのも、後から見たら感謝の念しか沸いてこない思い出になることだったあるんだからな・・・。

 本当に人生って何が起きるのか分からなくて、予想してても裏切られるから、つまらなくて面白いんだよなぁ・・・」

 

つづく



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9話「正しくない空飛ぶ魔法の使い方」

久しぶりの更新です。
風邪ひいて暇してたので、前から考えてたのを完成させました。

久しぶりなのに鯖どもが出ない。ロードも最後ら辺で少ししか出ない。
原作を私なりに改造した話と解釈しながら見てやってくださいませ。


「う~ん・・・」

 

 冬木市内にある林の中、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは唸っていた。

 ・・・・・・片手に長弓の弓だけを握りしめながら。

 

「最初は林の中で特訓とか、魔法少女にしては地味だと思ってたんだけどさ・・・今になって考えてみたら、矢のない弓で戦おうとするよりかは現実的な選択肢だったんだね・・・」

 

 手元にある弓ーーアーチャーのクラスカードから作り出した黒弓ーーを眺めてため息をつき、弓は出せたけど矢が出てこない役立たず武器をどのように戦いに活かすべきかと考えるだけは考えてみる。

 正直、他の武器があるならそちらにしたいのが本音であったが、あいにくと他には何も持っていない。役立つか否かに関わらずコレしかないのだから使うしかない。

 

「・・・こんなんで一体どうすれば敵に勝てるんだろうね~・・・」

 

 直近に迫った未来に軽く絶望しているイリヤであったが、相棒のカレイドステッキ・マジカルルビーの方は彼女と逆に楽観的だった。単純にイリヤで遊んで楽しけりゃそれで良い奴とも言える。

 

『いえいえ、そんなことはありませんよイリヤさん。世の中には矢のない弓矢の弦だけで敵を倒してしまったアーチャークラスの騎士が登場する物語もあるそうですから』

「どんなアーチャーなのその人って!? て言うか、これでどうやって敵倒してたのその騎士さん!?」

『それはですねぇ~。こう、弦をハープみたいにしてポロロ~ンって鳴らしたら狙った標的が切り裂かれているという凄まじく反則的な戦い方だったと記録に残ってます(確か)』

「どう引っ張っても、ボーンボーンとしか鳴らないんですけど!? ポロロ~ンなんて音楽の授業でしか聞けそうもない綺麗な音は絶対でそうにないんですけど!? ハープって言うかお寺の和尚さんが鳴らす鐘の音の方が近そうなんですけども!?」

 

 アーチャーのサーヴァントーー多分だが無銘の英霊、すなわち平行世界におけるイリヤの兄エミヤシロウが編み出した極意ディスりまくりである。もしいつの日か本当に死ねてあの世に行けたらエミヤシロウは泣いていいと思う。

 

 

 ーー第二の相手、冬木大橋に陣取るキャスターを討伐するため飛び道具を会得したいイリヤであったが、特訓は早くも脇道にそれ始めていた。

 

 

 

 

 一方、空の上、金に物を言わせて購入したヘリコプターに自らが妹認定した少女、美遊・エーデルフェルトを乗せながらルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトも特訓中であった。コーチ役としての参加だが。

 

「・・・・・・無理です」

「美遊、あなたが飛べないのはその頭の固さのせいですわ」

「・・・・・・・・・不可能です」

「最初から決めつけていては何も成せません!」

「・・・・・・ッ!! ですが・・・・・・ッ!!」

 

 バババババババババババババッ!!!!!

 

 真下に広がる広大な田舎の風景に高度の高さと人体の耐久限界値とを加算して暗算してみた美遊だったが、どの公式を当てはめてみても墜落後に即死。トマトケチャップと化して跡形もなく散らばる自分自身の原形を留めていない身体しか頭に浮かんでこなかった。

 

 だからこそ震える。ガタガタと。人の本能にまで刷り込まれた原初の恐怖心が呼び起こされるのである。「おい、そこから先は地獄だぞ」と。

 

『おやめください、ルヴィア様。パラシュートなしでスカイダイビングなど単なる自殺行為です』

「こうでもしないと飛べるようにならないでしょう!

 魔法少女の力は空想の力・・・常識を破らねば道は拓けません」

「い、いえその・・・確かに人は空を目指して進み行く生命体なので人の紛い物であったとしても最強の幻想種ドラゴンに至ることは可能であると私の中の誰かが叫んではいますけれども・・・」

 

 聖杯少女美遊ちゃんは自らの身体を媒体としてサーヴァントを卸すことが可能な魔法少女である。そしてサーヴァントには聖杯から現代で活動するに当たって最低限度の知識供与がなされる。

 聖杯戦争についても一定量の知識は与えてもらえるので、自分の時代と異なる英霊の知識も部分的にであるが引っ張り出せるときもあった。今がちょうどその時だったのだが、正直嬉しくないこと山の如しだ。どうせなら飛ばなくて済む言い訳台詞を提供してもらいたかった。

 このタイミングでは最悪すぎる言い回しチョイス・・・考え出した英霊はさぞ性悪な気質を持った作家系サーヴァントに違いない。古来より性格の悪い人間がなる職業の筆頭が作家だったのだから間違いない。By聖杯。・・・やっぱ、この泥いらない・・・。

 

「そうでしょう!? 人は空を飛べると信じて貫きさえすれば飛べるようになる生き物なのです!

 あの有名なお話にも出てくるイカロスのように!」

『ルヴィア様・・・その人、夢だけで編んだ翼が溶かされ、空から地上へ真っ逆さまだった人なのですが・・・?』

「細かいことを気にしていては行けません! さぁ、夢へと至る一歩を踏み出すのです!

 大丈夫、あなたなら必ず飛べます! できると信じれば不可能などないのです!

 あなたを信じる私を信じて、いざ天高く舞い上がるのですわ、美遊!」

「・・・・・・ッ!」

 

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ自分を拾ってくれた恩人であるルヴィアを信じて飛び出してみようかな? と思いはしたが、現実はやはり厳しかった。

 

 びゅおおおおおおおお~~~~~!!!!

 

 ・・・囂々とうなり声をあげる大気の気流速度を計測してみた瞬間。美遊エーデルフェルトの中での勢力バランスが一気に保身の方へと傾きまくった。

 

「いえ、やはりどう考えても無理でーー」

 

 どげしっ!

 

「すぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」

 

 ひゅうううううううううううううううううううううううっ!!!!!

 

 

「獅子は千尋の谷に我が子を突き落とすと言いますわ・・・。見事這い上がって見せなさい、美遊・・・!!」

 

 涙をこらえ、愛する義妹が地上へと真っ逆さまに落ちていくのを見送ったルヴィア。

 やはり魔術師には禄な人間がいないという風説は正しかったようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、美遊ちゃんが落ちてった先にある地上の林でイリヤたちはーー

 

「やっぱり無理だよルビー! どうやってもボーンボーンとしか鳴らないよ! 一向に綺麗なハープの音色が聞こえてきそうな気がしないよぉっ!」

『ファイトですイリヤさん! 努力次第で人は何でもできるの生き物なのです! 英雄になりたいって夢を叶えた一般人出身の英霊だって沢山いるんですから!』

 

 ーーまだ矢のない弓で戦うことを諦め切れていなかった!!

 

「う~・・・エアギターの要領で弦をかき鳴らそうとしてみたけどダメだったし、あと格好良さげな弦楽器の奏で方で知ってるのって言うと・・・ん? 空から何か降ってき、たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 ドゴゴゴォォォォォォォォォッン!!!!

 

 

 見事、狙い澄まして放たれた天の裁きが如き一撃がイリヤに向かって直撃コースで落ちてきたので、あわてて空へと逃げ出すイリヤスフィール・フォン・アインツベルン! 逃走スキルEXは伊達じゃない!

 

「な、な、一体何が起こって・・・・・・」

 

 巻き上がる乳煙の中からヨロヨロと姿を現したのはボロボロコスチューム状態の魔法聖杯少女、美遊ちゃんだった。

 

『全魔力を物理保護に変換しました。お怪我はありませんか、美遊様』

「な・・・なんとか・・・。でも、サファイアが防御力を強化してくれなかったら死んでいたわ・・・」

「マークⅡの人!? え、まさか本物!? ・・・じゃなくて、親方!親方さーん!大変です! 空から! 空から女の子が落ちてきたんです! 天空の城は本当にあったんです!」

『イリヤさん、イリヤさん。混乱してるのは分かりましたから落ち着いて。色々と混ざっちゃってますからね?』

 

 隠れオタク魔法少女イリヤの趣味全開な混乱台詞に冷静なというかマイペースなルビーがツッコみを入れて落ち着かせようと試みるが微妙である。

 

「ミユさん!? なんで空から・・・」

「あ・・・」

 

 その時になってようやくイリヤの存在に気づいた美遊とサファイア。

 自分たちがどう足掻いても達成できなかった空中浮遊をごく自然にできてるイリヤスフィールを前にして、美遊はちょっとだけ考えてみる。

 

(空が飛べなくちゃ戦えない。今の私では別々の場所で練習しても成果は上がらず、差が付く一方になる可能性が高い。そうなると今の時点では彼女に興味を抱いてないヴェルベットの心が彼女の方に傾いてしまう可能性が雀の涙程度だけど無きにしも非ず。

 ここは最終的な勝利を得るため、恥もプライドも捨てて彼女に師事する方が賢明かもしれない・・・)

 

 恋は女を強くする。ヴェルベット・ウェーバーことロード・エルメロイⅡ世に出会って恋心を知った今の美遊ちゃんに自己犠牲などという概念はない。ただただ好きな人と結ばれて幸せになりたい。それだけである。

 兄の願いは知らないところで変な形でではあるが成就していたことを、地下牢に幽閉されたままの彼はまだ知らない。

 

「・・・昨日の今日で言えたことじゃないけど・・・。

 その・・・教えて欲しい・・・飛び方を・・・」

「と、飛び方? えーと・・・そう言われても・・・」

 

 突然のお願いに困惑顔のイリヤ。然も有りなん、なにしろ彼女は飛び方なんて考えていない。考えてないからこそ飛べる類の、想いを形にできる魔法少女の典型なのである。そんな彼女は人に教えるという行為が先天的に向かない気質を持っていたからだ。

 

 

 

『イリヤ様は「魔法少女は飛ぶもの」とおっしゃいました。そのイメージの元となった何かがあるのでは?』

「元・・・・・・あーーー・・・それなら・・・」

 

 

『雲の中に逃げても無駄だ! この空で散れ!』

 

 イリヤが空の飛び方をレクチャーするためにと提供した教材は子供向け魔法少女アニメ。これらの娯楽をそもそも見たこと自体が少なすぎる美遊には衝撃的すぎる映像だったが、『もう一人の部外者』としては「何だかな~」な気分になることこの上ない状況にもなっていたのだった。

 

「・・・で? なぜ、私にまでお呼びがかったのかね?」

「いやー、わたし勉強とか苦手だから科学的な解説とかをお願いできたらいいなぁーと思いましたもので」

「まったく・・・」

 

 吐息しつつもロード・エルエロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーの心境は不快ではなかった。

 何だかんだ言いつつも彼としては美遊に、平凡な少女としての暮らしも味わって楽しませたいと思ってはいたのである。永遠にデレないツンデレ先生は、今日も平常運転だった。

 

「航空力学はおろか、重力も慣性も作用反作用すらも無視したでたらめな動き・・・」

「いやー・・・美遊さん、そこはアニメなんで固く考えずに見てほしいんだけど・・・」

 

 理屈で物事を考える美遊の感想に、少しだけ困った顔で応じるイリヤスフィール。

 対照的な二人を等分に眺めながらヴェルベットは、「ふむ・・・」となにやら思案ありげに唸って見せてから何かしらを考え始めた。

 

 やがてアニメのⅠ話目が終わってエピローグが流れ始めた頃、サファイアが美遊に近づいてきて声をかける。

 

『このアニメを全部見れば美遊様も飛べるようになるのでしょうか』

「・・・ううん、たぶん無理」

 

 少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら、美遊はハッキリと相手の願いを否定した。

 

「これを見ても飛んでる原理が分からない。具体的なイメージには繋がらない。

 必要なのは揚力ではなく浮力だってことまではわかる・・・けどそれだけではただ浮くだけから移動するには・・・」

『ルビーデコピン!』

「はフッ!?」

 

 理屈のループに陥り賭けてた美遊の頭を冷やすため、マジカルステッキによる愛の物理打撃が炸裂した! もう一度言おう、マジカルステッキが打撃で頭を冷やさせたのである! 最近の魔法少女物に昔ながらの常識などは通用しない!

 

『まったくもー、美遊さんは基本性能が素晴らしいみたいですが、そんなコチコチの頭では魔法少女は勤まりませんよー?

 そんな美遊さんにはこの言葉を贈りましょう。

 “人が空想できること全ては起こり得る魔法事象である”私たちの想像主たる魔法使いの言葉です』

「・・・物理事象じゃなくて?」

『同じことです。現代では実現できないような空想も、遠い未来では常識的な自称なのかもしれません。それを魔法と呼ぶか物理と呼ぶかの違いです』

「まぁ・・・つまりアレでしょ? 考えるな! 空想しろ! とかいう・・・ってうわー・・・すごく納得いかないって顔ですね・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 微妙すぎる表情で黙り込む美遊と、どうすれば彼女の頭を柔らかくできるかで悩み出す他の面々。

 

 そんな局面で打開策というか、打開できる知識を提供してくれるのはこの男ならぬ、この少女。

 

「ああ、その考え方は非常に正しくて科学的だ」

『『『ーーえ? 科学的?』』』

 

 全員がそろって疑問の声を上げる。なぜなら彼女たち自身、科学とは真逆の考え方だなーと思って言った言葉なので。

 

「遙かなる古代の時代、地上に住む人間たちにとって空と地上は別世界と認識されていた。空の上には神々が住む異界があって、人々は畏怖と敬意をもって信仰の対象にしていたほどにだ」

「違う世界って・・・て、天国みたいな感じで?」

 

 イリヤが子供らしく若干ビビりながら質問して、ロードは苦笑しながら否定する。

 

「当時の人たちにとって、死はもっと身近にある物だったんだ。この世とあの世で明確に死の向こう側を定義し、現世と間に線を引いて向こう側の世界を陰府だとか黄泉とか名付けたんだ」

 

 ポケットから棒付きキャンディーを取り出して、袋を剥いでからパクっと一口。

 妙に様になってはいるが、所詮は棒付きキャンディー。小道具がショボすぎてマセガキが格好付けてるようにしか見えないのが悲しいところだろう。

 

「これによって、死は終演ではなくなった。無への拡散ではなく始まりとなった。

 この段階の死とは先に待ってる先祖たちの元へ、ようやく現世を終えた自分が迎え入れられるという仕組みに他ならない。一方通行ではあっても、そこからもうひとつの世界へ繋がることを、古い時代の人々は疑わなかったんだ。

 死は終わりとされるのは、もっともっと後の時代。人間の寿命では到底知ることのできない遙か彼方にある未来の出来事だよ」

「死が終わりじゃない・・・」

 

 美遊が先ほど以上に微妙な顔つきになっているが、理由は異なるものであるように感じられた。何かしら死に関することがらで嫌な思い出でもあるのかも知れない。

 

「もっとも、これは古代における認識だ。空に近い険しい山岳に寺院を作ってたのも、神様たちがいる世界に少しでも近い場所で修行するのが尊ばれた時代だったからだ。

 だが、こうした傾向は時代を経るに従って薄くなっていく。信じる対象は神様のままでも、信じ方は時代につれて変わっていくのが世の常だ。

 今できないことが遠い未来で当たり前になってたところで、驚くには値しない。なにしろ今の我々が生きている現代こそが、遙かな昔に生きてた人たちにとっての遠い未来で、出来ないとされてたことが全て出来る夢の世界なのだからね」

『・・・・・・・・・・・・(ほえー・・・)』

 

 遙かな古代へタイムスリップさせられて、唖然とする面々。どう考えたって小学生相手に語る内容ではないのだが、偉大なる征服王の生きた時代に関する事柄においては妥協する気は一切もてない大人げない少女ベルベット・ウェーバー。これでも実年齢は三十路である。

 

「なによりサーヴァントたち英霊は、人々の想いが具現化したものだ。大勢の誰かが会ったこともない「その人」に願いを込めて妄想していった結果として、英雄は形作られていく。

 人類の歴史に消えることなく燦然と輝き続けるユメという名の幻想。時にはそれが世界を救うこともある。迷い悩めよ少女たち、他人が規定した大志なんて抱かなくていいから、自分だけの妄想を幻想の域まで高めてしまえ。

 “ト・フィロティモ。彼方にこそ栄えあり”絶対に叶えられないと確信できる夢を抱いて生きてった方が、小利口な理屈で雁字搦めになって身動きとれなくなるよりずっとマシだ。励めよ」

 

 言うだけ言ってロードは、帰宅する胸を伝えてから帰って行く。

 別に勝ち逃げしたいわけではなくて、ただ単に居候の晩ご飯を爆買いしにいかにゃならなかっただけである。

 冷めても美味いが出来立てでないと不味い物もあるとか注文付けるぐらいなら自分で行けと言いたいのだが、あいつ一人で行かせたら何を切り出し始めるのか予測がつかない。つくづく暴君って連中はフリーダムすぎる! ファック!

 

 

「えっと・・・どうだった美遊さん? なにかの参考にはなったかな・・・?」

「あまり参考にはならなかったけど、少しは考え方が変わった気がする。

 また・・・今夜。冬木大橋で」

 

 パタン。

 

『行っちゃいましたね』

「また今夜・・・か。昨日よりは前進したって意味なのかな?」

『あとはお二人でキチンと連携がとれれ言うことなしなんですがー』

「まー、それは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

「・・・ダメ。アロンダイトをジェット代わりに使っても成層圏どころか高度一千メートルにさえ上がれなかった。別の解決策を考え出さないと・・・」

『美遊様。妄想というよりも悪夢のごとき世界観になってきております』

 

つづく




*ロードの主張:化学のはじまりは魔術。


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幕間「Fateプリズマ☆おき太さん&ノッブ」

長らく更新できなくて申し訳ございません。なんかうまく書けなくて・・・。
気分転換する必要性を感じましたので、大分前に思い付いてた『プリヤ』と『ぐだオ』のコラボ作品を書いてみた次第です。暇つぶしにでも読んで頂けたら嬉しく思います。


 ここは深山町の一角にある、二階建ての一軒家。

 イリヤスフィール家のお隣さん家の居間で二人の美少女たちが全裸のままで、人気ドラマの再放送を視聴しておりました。

 

 

ーーピッ。

 

「なんじゃ、このドラマ。わしが出とらんかったのじゃが」

「いる訳ないじゃないですか、幕末モノですよこれ。・・・と言うか、やっぱり今年の大河でも薩長は殺せそうにありませんねー。土方さん、残念!」

「狸の子孫が悪いよ、古狸の子孫が・・・」

「ノッブがお寺でファイヤーされなければ神君様のご子息が天下を治めることもなかったんでしょうけどねー」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『『・・・・・・って、うえぇぇぇぇぇっ!? ちょっ、ここってもしかしなくても現世!?

  英霊の座とかではなしに!? なんで!? どうして!? Why!?』』

 

 

 遅れて絶叫するアホ英霊二人。おなじみの人切り英霊おき太&戦国魔王英霊ノッブ降臨! 誰も求めてないし、喚んでもいなかったんだけどね☆

 

 

「ちと待て、人切り。ちょっと検索して調べてみるわい。ーーーふむふむ、なるほどな。相わかった、是非もなし」

「わー、聖杯戦争に召還された英霊に与えられてる聖杯からの現世知識供与をウィキ代わりに使ってますよ、この実利第一主義者魔王」

「・・・よし、分かったぞ人切り。どうやらこの世界でも本来とは異なる聖杯戦争が行われようとしておるらしいから、生意気なので少しシバいてきて欲しいとの事じゃった。

 依頼人の名は、ペンネーム『魔術師にもなれるよAUO』さんじゃ。本人が来なかったのは「面倒くさいから」とのことだったそうじゃぞ」

「あ~、あの人らしいですねー相変わらず」

 

 うんうんと、あっさりうなずいて納得してしまうピンク髪の(全裸)美少女。

 だが、すぐに首を傾げて疑問を口にする。

 

「でも、なんで私たち? 他にいくらでも抑止に都合良さそうな、無償できたがる英霊さんたちがいっぱいいるでしょうに」

「うむ。その理由はのぅーーーーーー」

 

 大きくうなずき返して一拍おき、黒い軍帽かぶった(全裸の)黒髪ロング美少女が宣言する。

 

 

 

 

 

「暇そうなのが、わしらしか居らんかった!!」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

「ーーーからだそうじゃ。他の連中、新シリーズとかで色々忙しそうじゃから、是非もないよね」

「いやいや、それ言い出したら私たちの方がよっぽどーーーーあ、そっか。私たちのこのノリからしてFGOではなく『ぐだオ』の方から喚ばれた私たちでしたか。じゃあ、しょうがないですね。シリーズ終わってだいぶ経っちゃってますから」

 

 またしても納得して受け入れてしまう、顔だけ生真面目アーサー王だけど、中身は不意打ち大好きマンな人切り集団一番隊組長さん。

 武士道を重んじてる割に、騎士道にこだわりすぎてるソックリさんとは別人過ぎるけど、他人の空似だから是非もないよね♪

 

「で、どうやらこの家は拠点として好きに使ってよいそうじゃ。

 平凡な住宅街にある一軒家だそうじゃが、いるはずの両親が電話で連絡してくるだけで帰ってくる気配のまるでない、年頃の美少女だけが住んでる家屋なんて珍しくない時代じゃから気にしなくても良いと言っておった」

「ふむ? 私たち幕府側を倒したクソ薩長が男女平等の建前を戦に利用してたのは知ってましたが、まさか当世の女人たちがここまで自由と権利を与えられた存在になるとは想像すらしていませんでした。やはり世の中は広かったって事ですかね~。

 あー、私も人生の終わりぐらい、庭から出て外見てから死にたかったなー」

「うむ。人生五十年、夢幻の如くなりじゃ。諸行無常とはこのことかの~」

 

 気楽そうに自らの死について語り合える、『最後まで戦い抜くこと』が叶えてもらいたい望みのサーヴァントと、生前にやりたいことやり尽くしたから望みを持たない『しいて言えば乱丸と茶でもしばいてゆっくりしたいのー』な、存在自体が聖杯戦争の根底ぶちこわしサーヴァントの二人組。・・・・・・もう少しマシなの送ってくれよAUO・・・。

 

 

「あれ? なんか私たちの体、サイズちぢんでません? まぁ、いつも二等身だったから気にしませんけど、なにか理由とかあったりするんですか? この現象って」

「ああ、それはな。依頼主君が依頼料として『褒美を取らそう』と前払いで若返りの秘薬を、わしらの意見は聞くことなしに有無をいわさず強制的に飲まされた状態で召還されたからだそうじゃ。

 彼奴にとっての褒美って、これ以外にないのかのぅ?

 わし、こんなのより茶器の方が欲しかったんじゃけど」

「まぁ、あの人の場合、アレ欲しさに国ほったらかしにして宝探しの旅に出たぐらいですからね。仕方ないですって。

 ほら、13代将軍の家定様だって幼少のころより不老長寿の薬を塗った乳母たちに育てられてたぐらいですから、やはり権力者にとって長寿と若さは重要なものだったんでしょう、たぶん。

 若くして死んだ病弱おき太さんにはいまいち理解しがたい考え方ではありますけどねー」

「あー・・・、バテレンたちが探させてくれって許可求めにきた辰紗なー。明とか南蛮の王たちが喜んで便宜を図ってくれるから欲しいとか言ってた、アレ」

「そうそう、それです。若い女子たちが胸元に塗りたくってた白粉の原料になってたアレ」

「今さっき聖杯で調べてみたんじゃけど、アレの正体って猛毒だったそうじゃぞ? 水銀とかいう名前の。

 狸の子孫が狂っとったのは童のころから毒を口に含み続けてきたからとかゆう、どっかの愛情ファイヤーなローマ皇帝みたいな理由だったかもしれぬとのことじゃった」

「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!????」

「今の世に生まれておれば長生きできたかもしれぬのにのぉー・・・これもまた諸行無常か・・・。ふぅ、世知辛すぎてやれやれじゃよ、まったく」

 

 ショックのあまり床に手をついて打ちひしがれてしまう、全裸の四つん這いピンクのポニーテール美少女(外見年齢10才前後)。

 そんな彼女を背後から見下ろし(目線の高さ的にケツしか見えそうにないけど)思慮深そうに肩をすくめてみせる、全裸に軍帽かぶってるだけの美少女(外見年齢10才前後)

 

 

 ・・・・・・なんかもう、色々とどうしようもなかった!

 

 

「さて、と。どうやらこの世界での聖杯戦争がはじまるのは今日の夜からみたいじゃし、それまでは暇じゃから寺にいって篤盛り踊ってから寝るかのー」

「・・・何を言っているんですか、ノッブ。あのような悲劇を二度と繰り返させないためにも、私たち歴史を知る者には寝るより先に成すべき事があるでしょう? ーー走るんですよ!」

「ええっ!? 前回もそうじゃったけど、一体ぜんたい何故に!?」

「新しい物語がはじまった最初の日の終わりには、主人公が先頭に立って逃げながら、出会ったばかりの仲間たちに追いかけられると言うのが、この時代における英雄たちの基本。

 英霊たるもの時代に合わせた英雄らしい行動は必要不可欠! 知名度を上げて補正を得るためにも、戦いの物語がはじまったらまず最初に走るべきなのです!」

「ーーーなるほど! 相分かった了解じゃ。

 では、皆の者。わしに続けーっ! 道はわしの通った後に出来るものなのであーる!」

「あ! フライングとは卑怯ですよノッブ!

 ふっ、しかしこの絶対最速無敵の縮地を持つおき太さんに走る早さで勝てる者など一人たりとも―――ごふっ!? ま、またしても私の病弱スキルがぁぁ・・・・・・。

 黒猫がぁぁ・・・・・・斬れない、斬れないよ~・・・・・・」

「ふははははははっ! では、さらばじゃ人切り! 生きて自宅で再会できることを祈ってわしは一人でも行く! 金ヶ崎や姉川のように!」

 

 

 

 

 

 

 

「―――うわっ!? な、なんだ今のは・・・? い、家の前を笑いながら裸で駆けていく女の子がいたような気が・・・白昼夢でも見たのかな俺?」

「お兄ちゃん! 何見てたの!?」

「い、イリヤ!? これは違う! 違うぞ! あれは事故だったんだ! そして幻だ! 白昼夢だ! 実在しない夢幻を俺は幻視しただけなんだ!

 そんな非現実的で魔術じみたことが本当におきるわけがなーーーーー」

「問答無用! エッチなお兄ちゃんは反省しなさい! 昨日の夜に手に入れたばかりのルビーアタック!」

「ごふぅっ!? い、イリヤ・・・素手の相手にどこからか取り出した杖を使うのは卑怯だ・・・ぞ・・・ガクッ」

「エッチな人を裁くのに卑怯もヘチマもないの! エッチなのは悪だと思います!」



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10話「再戦、そして介入」

久しぶりの更新になります。ようやくマシそうなのを書くことが出来ましたので・・・。
ただし、リハビリ回でもありますので短めです。久しぶりなのに御免なさい。


 キャスターとの敗戦および全面潰走から24時間が経過した未遠川。時刻は深夜の0時。

 敗軍の将遠坂凛とルヴィア・ゼリッタ・エーデルフェルトに率いられたイリヤスフィールと美遊・エーデルフェルトの四人は、キャスターへの雪辱を果たすため作戦を練った上で復讐戦に臨みに来ていた。

 

 ・・・・・・イリヤの遠距離攻撃における火力不足は解消されないまま、美遊の飛行魔術は代案で解決できたけどそれ以外に変化はしないまま、前回ボロ敗けを喫した相手に禄な情報収集もしないまま、味方同士で手の内すら開かすこともなく・・・・・・。

 

 

「大丈夫! ぶっつけ本番で勝つのが魔法少女の正しい勝ち方なんだから!」

「成せば成る! 勝てると信じて突き進んだ先にこそ勝利の栄光があるのですわ!」

 

「・・・いいけどさ~、別に。でもそれ、魔法少女モノじゃなくて魔法バトルアニメの勝ち方だよね?」

「・・・二人とも、理論派を気取っているだけで中身は脳筋だから・・・」

 

 冷静にツッコむ幼女二人と、「考えるな!信じて突き進むのだ!!」な女子高生二人。・・・どっちが年上かよくわからん・・・。

 

 

 ーーそして。

 

「接界完了! もう負けは許されないわ! 一気に片をつけるわよ!」

「2度目の負けは許しませんよ!」

『了解!』

 

 再戦開始! リターンマッチだ!

 

 

 

 

 

 

 ーーそんな地上で行われている英霊を宿せる魔法少女二人の戦いを地上五〇〇メートルの高度から悠然と見下ろし、杯を交わしながら見物している者たちがいた。

 

「何ともはや、醜猥なる眺めよ・・・」

 

 街に有るものでは満たされなかったのでAmazonを使い、高級ワインを取り寄せさせた金色のサーヴァントが血の色をした液体を干しながら辛辣な口調で、

 

「いかに雑種とはいえ、少しばかりは名を馳せた猛者どもが使っていた宝具の担い手たちであろうに・・・・・・それが揃いも揃ってあのような贋作の始末に明け暮れるとは。嘆かわしいにも程があるな。そうは思わんか? 墜ちた騎士王よ」

 

 ゆったりとした態度と姿勢で飲み干した杯を差しだし、ブリテンを統べる暴君に酌を注ぐよう要求し、相手の形の良い眉毛を逆立てることに成功する。ーーしてしまう・・・。

 

「ふん。笑わせるな金色。戦いに美醜など関係ない。勝利こそが戦いを正当化し、華麗に脚色して流血から民の眼を覆い隠す。

 徹底した統治の為の戦い、自由なき自由を与えるための蹂躙こそ王の生業。貴様の華やかさを戦に求める愉悦こそ余計なものなのだ」

 

 ふつうの魔法少女モノでは絶対に口に出してはいけない台詞を不機嫌そうな表情でつぶやく、黒い騎士王のサーヴァント。

 

 その結果。

 

「あ? 今なんと言ったパチモン」

「なんだ? やる気か金ピカメッキ。殺すぞ?」

「おい、やめろお前ら。下よりもはげしい死闘を空で始めてくれるな、本当に・・・いやマジで」

 

 喧嘩の仲裁には定評があると言うか、日常茶飯事と言うべきなのか。

 問題児オンリーなエルメロイ教室、通称『メンドクサそうな生徒はエルメロイ先生に押しつけよう教室』を束ねるエリート問題児育成の達人ロード・エルメロイⅡ世が間に入らざるを得ない事態に陥るパターンを延々と繰り返される羽目になってしまっていた。

 ・・・そろそろ生身の肉体だけではなくて、エーテル製の身体でも胃を心配しなくてはならなくなるかもしれなかった。

 

 

 二人の暴君は神秘の船ヴィマーナの船上から月見酒の肴としてイリヤたちの戦いを見物に来ており、ロードは二騎の暴君サーヴァントが暴走して美遠川を破壊しないよう止めるために付いてきてたのである。

 

(まったく! つくづく暴君という奴らは扱いづらい英霊ばかりだな! どんな些細なことからでも即殺し合いに発展させようとする!

 コイツ等と比べたら、まだあのバカの方がマシだ! 百倍はマシだ! 一万倍ぐらいはマシだ! マシってだけで良いって言ってるわけじゃないんだけどな!)

 

 罵倒するフリをして、さりげなく自分の主君プッシュを心中でしておく忠臣ヘタレ魔術師の元少年ウェイバー・ベルベットこと現美少女小学生魔術師ヴェルベット・ウェーバー。

 この平行世界だと冬木市で聖杯戦争がおこなわれた過去はないはずだったけど、変な形で王の宴(モドキ)は再現されてはいた。変な形ではあるけれども!

 

 ちなみにだが、アスオルフォは一カ所にジッとしてられない性格だから置いてきた。ゲーム類一式とバカ征服王が好物としていたオススメ料理店の料理をしこたま置いてきたから戦闘終了までは保つであろう。・・・正直この二人とバカ一騎を同時に相手取ってツッコミ合戦やれる自信は伝説のロードにも無い・・・。

 

 

「・・・しかし、なんだな。美醜だの真贋だのはどうでもよいとしても、なんとなくあのキャスターを見ていると不愉快な心地になってくる気がするな。

 ーーー具体的には恥ずかしい衣装を着させて配下の兵どもに、バックの体勢で縛り上げて回させたいような、そんな気分だ」

「おい? 常人の倫理からは外れた魔術師相手とはいえ一応教鞭を執ってる人間の前でそういう表現は使うな。最古参の天才バカだと子供の時からいるんだからな」

「小娘の言うとおりだぞ、墜ちた騎士王よ。そのような雑事は庭師の仕事だ。我が治めていたウルクではそうであった」

「庭師が強姦してたのかよ!? 超古代の性倫理観ヒドすぎるな!!」

 

 ロードは叫んだけど、実際にヒドい。たとえば目の前で酒飲んでる金ピカ王の親友。

 生まれた当初の彼は、金ピカの増長をたしなめるために女神アルルが粘土から創造して毛むくじゃらの野人で、動物並の知能しか持たない獣同然の存在だったのだが、ウルクの都からやってきた娼婦が誘惑して交わり、三日三晩どころか6日と7晩の間ずっと交わり続けたことで過剰だった精力を吐き出し終えて獣人から人間へと昇格している。

 

 ・・・あらためて考えてみると、ものスゲー子供に教え伝えたりしてはいけなそうな物語だった。率直に言って金ピカの親友もウルクからきた娼婦も「どんだけー・・・」である、性的な意味で。

 

 挙げ句、目の前の優男な金ピカは親友と戦うためにウルクで待ちかまえていて、三日三晩殴り会い続けた末に決着がつかないまま親友になったとかいうドラゴン○ールも真っ青の超王道すぎるバトルもの展開をした経験があるという熱くなるときは滅茶苦茶熱くなりそうな王様だというのだから、本気でウルク人はスゴすぎる。

 

 できれば金ピカには彼らを基準に現代日本人を計って欲しくはないものである。割と真摯に本当に。

 

 

「ほう? あの銀髪の小娘・・・おもしろい戦術を考えつくものだな。戦術的発想においては今のところ理屈屋な聖杯娘を上回っているようだ」

 

 男二人(片方は元男だが)のやりとりを無視して眼下を見下ろしていたセイバー・オルタは、軽く感嘆の声を上げてイリヤの散弾を反射で弾かせての弾幕戦術を賞賛する。

 

 名君から暴君になったことでランク落ちしてはいても一国の王として十分と言われる元カリスマ:Bランク所有者であり、現在でもEランクを保持したままになっている、軍団を指揮する希有な才能持ちである。

 歪であり人の評価基準が他人とやや異なっているため、彼女は彼女なりの理由からイリヤに対して好感をもったらしい。

 

 そんな黒く染まった騎士王自体には興味が薄かったが、英雄王は英雄王で娯楽の種を見つけていたのか「ふん」と鼻で笑うと、ヴィマーナの高度を下げて降下させ始める。

 

「どうやら雑種の処理も終わりつつあるようだ。魔女めの最期に我の尊き姿を見上げる権利ぐらい与えてやるのも一興と言うものか」

「ほう? 王自ら下々の者たちと同じ目線の高さまで降りてくると?」

「図に乗るな雑種の騎士王モドキ! 我には我のやるべきことがあるというだけの事だ!

 ーーーあの、黒髪を頭の左右から垂らしている奴・・・会ったことはないはずなのだが、妙に気に食わん。どうやら次の戦いが始まりそうでもあることだしな。

 一生ものの赤っ恥衣装を身につけているところを購入したばかりの一眼レフカメラで撮影して永久保存してやろうかと思った。ただ、それだけだ。邪推は許さん」

 

 なんか色々と混ざっていて微妙な状況だったが、そんな中でもロード一人だけは真面目な顔して戦場全体を見渡していた。

 

“あのときの無様な醜態の恥を濯ぐために”

 

“あの頃より少しだけでもマシになれた自分を誉めてやれるようになるために”

 

“死んだと思わせて敵を謀り、闇の中から不意打ちの一撃で首をはねようとした暗殺者の刃から未熟な自分を守ってくれた王の背中に報いるために”

 

 

 

「・・・この程度の功績で、あなたの幕下に加わるのに相応しい資格が得られないのは百も承知だ。それでも才能のないボクには、こうして少しずつ積み上げていって到達するしか道はないんだ。

 見ていてくれなくてもいいから、見ている価値を手に入れられたときには快く迎え入れてくれよボクの王。あの時みたいに背中を力一杯叩きながらさ・・・。

 お前にとってどうだろうとも、やっぱりあれはボクの人生を変えた一撃だったんだから・・・・・・」

 

つづく



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11話「再戦再びという選択肢・・・?」

久しぶりの更新となります。待ってていただけた方がもしおられたら嬉しいです。
ご要望がありましたので、当初考えていたギャグ名乗りで最後まで行くストーリーへの原点回帰回となっていますので、全話の話と一部かぶって矛盾してしまってます。
基本的にキャスター戦は原作通りに行ったんだと思っといてくださいませ。


 ズドン! ドゴン! ゴオオン!!

 ・・・夜の未遠川に爆発音が連続して轟いていた。

 

「轟風弾五連!」

「爆炎弾七連!」

「「【炎色の荒嵐(ローターシュトルム)】!!!!」」

 

 二人の天才美少女魔術師が、己の家系が誇る秘奥を惜しみなく投入し。

 

「ミユさん!? 乗って!!」

「!!!」

 

 ドギュアッ!!!

 ――ドン!!

 ・・・パキィィィィン・・・・・・

 

 二人の魔法少女による即席の連係プレイがとどめとなり。

 未遠川に現界していたクラスカード『キャスター』のサーヴァントは消滅した。

 

 計算外な自体が多く起き、作戦失敗や凡ミスの連続も多発し、結果オーライな部分が大きい戦いではあったものの。まぁ勝利は勝利である。

 戦いというのは如何に見事な作戦を立てて、計算通りに勝利するのが大事とされるものではない。結果的に勝つことこそが何より大事なジャンルだからだ。

 

 たとえ神威なく、大義なく、野心むき出しにした暴君が欲望の赴くままにおこなった大遠征だったとしても。結果として歴史に影響を与えるほどの大勝利で終われたならば、後の世の歴史家が適当に戦略とか戦術とかの理屈をつけ加えてくれる様になる。

 逆に、敗れたりすると同じ王様なのに扱いがヒドくされたりもする。サーヴァント適性がバーサーカーしかない認定されたりとかさ。

 

 ――伝説の戦いと違い、現実でおこなわれている戦いは夢がないが、そんな戦いだからこそ勝たなければ意味が無い。

 そして彼女たちは勝った。――結果的に見て、それがこの戦いの全てである・・・。

 

 

「しかし、勝ったとは言え・・・」

 

 パンパンと、ミニスカートについた汚れをはたき落としながら遠阪凜は、嘆くようにつぶやき捨てた。

 

「2枚目で早くもこんな苦戦するとはね・・・先が思いやられるわ」

「仕方ありませんわよ。情報が少なすぎますもの」

 

 横合いから時計塔の同輩ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが応じて答える。

 彼女たちは初戦で快勝し、2戦目でいきなりの敗北と大苦戦という苦難を乗り越えたばかりで神経が弛緩仕切っていた。勝った直後に次の敵が襲ってくるなど想像すらしていない。

 

「敵の能力についても、そもそもこんな空間を作ってしまうカードについてもね。・・・まったく、カード探索を命じるなら命じるでもう少し詳細な情報を与えてからにして欲しかったですわよね。あの陰険ロード・・・今度あったらギッタギタのボコボコにしてやりたいですわ」

「まったくその通りよねー」

 

 安心しきって陰口の言い合いを楽しむ、普段は犬猿の仲のライバル二人。

 才能が並外れているので突然の奇襲にも対処可能な実力がある彼女たちであるが、こう言う油断しやすいところは流石に名門・遠阪の現当主とそのライバルと言える。

 うっかりスキルEX持ちの名は伊達ではない。

 

「・・・って、あれ? そう言えばカードを回収したってのに、空間の崩落がずいぶんと遅くない?」

「・・・そう言えば確かに・・・どういうことですの?」

 

 遅まきながら異常に気づき始めた魔術の名門にしてパイオニア二人。

 そして、背後の闇から近づいてくる黒い凶刃の持ち主が、鎧を鳴らす音が響く段になって、ようやく凜がその可能性に思い至る。

 

「まさか・・・・・・」

 

 そうつぶやいた時。背後から聞こえた『ズシャ・・・』という不気味な音に振り返り。そこに見た黒い鎧のサーヴァントの存在を知覚した瞬間。彼女たちはようやく思い出す。

 

 聖杯によって喚び出される数多の英雄豪傑たち、その半数近くの者が。

 “勝利して安心した瞬間に横合いから襲い来る凶刃によって斃された”という、伝説史実を問わない戦いにおける絶対原則を―――――

 

 

 

 

『クラスカード「キャスター」・・・回収完了です。お疲れ様でした、美遊様』

「ハー・・・今度こそ、戦闘終了・・・だね・・・」

 

 予想以上の強敵だったキャスターとの死闘に疲れ果てた美遊は地べたに座り込むと、先ほどの戦いを反芻して自分の未熟さに唇をかみしめる。

 

「・・・わたしはイリヤスフィールのようには飛べない。飛行するイメージがどうしてもできなかった・・・。

 わたしにできたのは『魔力を空中で固めて足場にすること』だけ・・・。それをわたしはイリヤスフィールに伝えていない・・・」

『では、イリヤ様はご自分で見抜いておられたのでしょうか?』

「どうかな。彼女はヴェルベットと違って頭で考えるのは得意じゃなさそうだし・・・。

 でも、仮にそうでなかったとしても、『魔力砲を足場にする』なんて発想はわたしには思いつきもしなかったのは確かだよ・・・」

 

 しばらくの間、沈黙が続き。カレイドステッキのサファイアが翻意を促すように幼い主に向け語りかける。

 

『・・・先日、美遊様は仰いました。カードの回収は全部わたしがやる・・・と。わたしにはあの時の美遊様の真意はわかりませんが、この勝利はお二人の連携がもたらしたものです。

 カレイドの魔法少女は二人でひとつ。わたしはイリヤ様は信頼するに十分な方だと・・・そう思います』

「うん・・・わかってる・・・でも・・・でも、わたしは・・・・・・」

 

 思い詰めたような表情でサファイアの言葉を聞き終えて。美遊は決意と共にその言葉を自白する。

 

「信頼するに値する子だからこそ組みたくないの。ヴェルベットがわたしよりもあの子のこと選んじゃったら、わたしはきっと暗黒の魔法少女美遊になって黒く染まってしまうだろうから」

『すいません、美遊様。真意を聞いた上でもわたしには美遊様のお気持ちがまったく理解できそうにありません・・・』

 

恋を知った聖杯少女は揺るがない。目的とした人へと続く道を盲目的に、ただ真っ直ぐに進むだけ。まるでどっかの平行世界に生きる正義の味方志望な兄と同じように純粋に。ただただ求め続け、歩み続ける。

 歩む先に求めるものが正義と愛で違うだけなのに、ずいぶんと別の生き物に見えてしまうのものだなぁと、なんとなく聖杯が思ったかどうかは定かでない。

 

「あれ? どうしたの美遊さん? なんか空気が想いってゆーか、黒いよ?」

 

 漫才コンビのようなやり取りを交わす杖と魔法少女の主従二人の側に、イリヤスフィールが舞い降りてきて声をかける。

 「この子にだけは絶対まけない・・・!」という、敵意じゃないし悪意もないけど、強すぎるライバル心と独占欲だけは小さな胸いっぱいに溜め込んでいる瞳で一撫でして美遊は、

 

「・・・なんでもない。いこう・・・」

 

 と言って立ち上がり。

 ――その音を聞く。

 

 

 

 ズドォン・・・・・・

 

 

「え・・・・・・?」

 

 聞き覚えのある重低音。

 それは人間サイズの物体が起こした音でありながら、人間の膂力ではどうあっても再現できない神秘の如き現象が創り出す魔法の域に達した者のみが起こせる破壊音。

 

 

 即ち―――自分たちでもキャスターでもない、別のサーヴァント・・・・・・。

 

 

「まさか・・・・・・」

「二人目の敵!?」

 

 完全に想定外の自体に驚く二人。

 クラスカードは一カ所に留まり、移動しないものと思い込んでいたが故の大きすぎる誤算。

 そして、その被害を真っ先に受けるとしたらバリアを張れる魔法少女状態の自分たち二人ではなく、

 

「リンさん! ルヴィアさん・・・!!」

 

 そう。ただの人間で、生身である魔術師の少女二人しか候補がいない。

 はたしてイリヤの想像は的中し、慌てて振り返った視線の先で凜とルヴィアは倒れ伏していた。

 倒れ伏していたのだけれども。

 

「・・・・・・あれ?」

 

 意外な存在の乱入に、二人目のサーヴァントの刃は寸前のところで食い止められていて、二人は本当に『ただ倒れているだけ』だったりしていたのだった・・・・・・。

 

「ウェーバーさん!?」

「ヴェルベット! 来てくれたのね! わたしのために!!」

 

 新たに現れた二人目の敵と同じく、新たに現れた三人目の魔法少女というか、ライダー少女。ベルベット・ウェーバーことロード・エルメロイⅡ世による、空から降りてきての乱入&加勢だった!!

 

 

 

「悪いが彼女たちをやらせるわけにはいかないな・・・。暗闇からの不意打ちで二度までも同じ不覚を取り、アイツから『未熟者』って笑われるのは私の忠誠心が許せないものでね・・・」

 

 ギリギリと鍔迫り合いを演じながらロードはライダー征服王イスカンダルとして、キュピリオト族の王から献上された剣である『スパタ』で敵サーヴァントの剣を防ぎきっていた。

 

「・・・正直なところ、素直に礼を言うのは勘に障ること甚だしいのだが・・・それでも敢えて言わせてもらう、『ありがとう』と。――あなたと同じ剣を使って同じ人助けをしてやったぞ、なんて言えば、あいつはもしかしたら私を褒めてくれるかもしれないからな」

 

 そう言った彼女には、彼だった時に思い出がある。良い思い出ではない。むしろ、苦み走った屈辱極まるイヤな思い出だ。

 とある戦争の最中、キャスターの攻防に攻め入って予想外の代物を見てしまったせいで取り乱して油断して、暗闇から襲いかかってきた暗殺者の凶刃により命を落としかかったところを、魔術師にとっては使い魔に過ぎないサーヴァントにマスターが命を救われたと言う、情けないことこの上ない若さ故の過ちについての思い出だ。

 

 今思い出しても顔から火が出そうになるほど、小っ恥ずかしくて悔やんでも悔やみ足りない未熟さを自覚させられたあの出来事は、小さくとも大きなササクレとして心に残っていたので多少なりとも精算できたことは喜ばしい。

 たとえ自己満足と分かっていようとも、それが人の夢を追うという行為そのものなのだから。

 

 

 ――まぁ、要するに個人的私情から来た行動であって、他人のために起こした人助けという程ではない。本人にとっては大事だけれど、他人のためにやって上げた行動では全くなかったのだ。

 

 果たしてこの事実を、後ろの方で意外と厚かましいラブコールを叫んでた聖杯少女が知ってしまった場合なにが起こってしまうのか? 出来れば黒美遊とか爆誕しないことを祈るばかりである。いや本当に。マジでマジで。

 

 

「とは言え、今の私は私でありながらアイツでもある。ライダーのサーヴァント 征服王イスカンダルを宿してもらった者として暗殺者如きに負けてやるわけにはいかないな。

 隠れ潜むだけが取り柄の鼠なんかに負けたとあっては、ボクの仕える王に面目が立たない。悪いがここで斃させてもらう・・・ぞ?」

 

 過去と現在とを自分の中で繋げていたヴェルベットの声が、途中からトーンを変えていき、不審げな響きを帯び始めていく。

 そして、言い終わる頃には完全に驚愕の形で表情が固定されてしまっていた。

 

 

 ――あり得ない・・・あり得ないぞ、これは・・・。

 いくら横紙破りが常套手段の聖杯戦争とは言え、いくら何でもこれはおかしい・・・っ!!

 

 正常なルールで運営されてる場合の絶対原則を知る彼女は、無意識のうちのその可能性を除外していたせいで気づくのが遅れてしまった相手の正体。

 

 黒い甲冑に身を包み、黒い大剣を掲げた金砂の髪色を持つ凜々しい風貌の女騎士。

 夜だというのにサングラスのような黒いバイザーをかけていることだけが奇妙ではあるが、後は大凡よく見知った外見的特徴を持つ旧知のサーヴァント。

 

 その名も。

 

 

「どぉぉぉぉいうことなんだ騎士王ぉぉぉぉぉっ!? お前ちょっと来て説明しろ――っ!?」

 

 そう。今彼女と鍔迫り合ってるサーヴァントのクラスはセイバー。真名はどう見たってアルトリア・ペンドラゴン。

 そう。先ほど鈴たちのピンチを見て思わず駆け出してしまった自分が元いた場所で、ロンドン製から揚げ君を座り込んで食べ続けている黒く染まった腹ぺこキング様ご本人のドッペルゲンガー的同じ人だったのである!

 

「ふむ。これは中々の味だな。そちらのチーズ味も寄越せと言っているのが聞こえなかったのか小僧?」

「知るか! それより質問に答えろ! この異常事態に対する説明を! 同じ英霊は一度の聖杯戦争で二体同時に現界させることは不可能って言う絶対原則あっただろ確か!?」

「もっきゅもっきゅ・・・・・・ペロリ。まったく、愚かだな貴様は。私が魔術儀式についてなど詳しく知るはずがないだろう? この私アルトリア・ペンドラゴンは完璧な秩序を敷く騎士王であり、セイバークラスで喚ばれた英霊なのだからな。魔術師どもの考え出す屁理屈などまったく以て理解できん」

「ぐ・・・。暴論の癖して妙に反論しにくい正論を吐く奴・・・」

「まぁ大方、昨今のポコジャカポコジャカと新セイバーを増産していく世の流れに便乗し、クラスカードとやら言う魔術礼装で人工的に劣化サーヴァントの量産でも始めたのだろうよ。

 おそらくは課金兵的な意味でバーサーカーにでもなってな」

「何のこと言ってんだお前はさっきから!?」

 

 平行世界の都合についてである。こちらの世界には関係しないので気にしてはいけない。十年以上を経て以前よりはマシになった大人として無視するのだウェイバー・ベルベット! いや、ロード・エルメロイⅡ世よ! 時計塔の内弟子が白い目で見てくれる未来が君を待っているからなきっと!

 

 ――閑話休題。

 

 サーヴァントは英霊の座にいる本体から影だけ喚び出してる存在であり、ご本人様自身は不動にして絶対の存在であり、自分の分身であるサーヴァントとして喚び出された色んな自分には一定の情報更新が加えられる場合もあるため、セイバー・オルタさんはなんとなく言うべきと思ったことを言ってるだけです。

 反転した騎士王は、彼女が生前にやりたかったが正義にもとるため選ぶことが出来なかった道を選んだ可能性のひとつ。迷いや躊躇いを振り切ったアルトリアさんなので、基本的に言う言葉に配慮がありません。世界観の事情などお構いなし。それこそが暴君!!

 

 

「ところで、日本製から揚げ君のチーズ味はまだか?」

「知らん! あと、少しは手伝え腹ペコ黒王!」

 

 

 黒く染まっても染まらなくても、腹ペコ王が微妙に役立たないのは変わらない…。

 

 

つづく



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12話「最悪の選択肢を選ばれていたルート・プリズマロード編」

更新です。中途半端なところで終わる話の内容ですが、対セイバー戦は今回で終了です。次回からは勝利した後の話にいきなり飛びます。
要するに戦闘内容そのものは原作と全く同じだと解釈してください。あれだけで十分すぎるほど圧勝してましたのでね。


「リンさん!!」

 

 突如として響いてきた刃音に振り向いた先で鍔迫り合ってる転校生と、倒れている二人の知人の姿とを視認した素人少女イリヤスフィールは思わず考えなしに飛び出してしまっていた。

 

 全ては彼女たちを心配するあまりの行動。素人に確認作業してからでないと二重遭難の危険性あるからダメとかの理屈は通用しない。とにかく目の前で人が倒れていたら急いで駆け寄るのが模範的日本人の行動です。

 

 ただし―――

 

「ま、待ってイリヤスフィール!!」

「はヴァッ!?」

 

 ・・・平行世界で一定年齢に達するまで隔離して育てられてきた一応は日本人少女に、同じ日本人基準を求めるのは無理である。

 彼女の中で人助けは、冷静に、確実に、助けたい人を絶対に助け出すこと最優先で行われるべき事。先走っての暴走は一番ダメな行為なのである。

 

「な・・・なにするの美遊さん!? 私いま、鼻の辺りがこう、ぐっと来たんですけど!? 何かこう、嫌な感じのがスゴくいたかったよ!?」

「ご・・・ごめん・・・」

 

 いきなり一人で突っ走っていこうとしたイリヤスフィールの動きを制止しようと、自分の右手で相手の右足掴んだところ、振り子の原理により地面へと顔面から激突させられたイリヤスフィールは猛烈抗議し、美遊もさすがに拙い行動だったと反省の色を見せて謝罪する。

 

「でも闇雲に近づいちゃダメ・・・! まずはよく観察してからじゃないと、かえって危ない!」

「で、でもリンさんとルヴィアさんが・・・っ!」

 

 切羽詰まった声で心配そうに声を出すイリヤ。

 そこに待ったを掛ける声が入った。彼女の持つ魔法のステッキ『カレイド・ルビー』からのものである。

 

『落ち着いてくださいイリヤさん! 生体反応あり! 大丈夫、お二人は生きてます!』

「本当に!? だったらなおさら早く助け出して安全な場所へところへ移動させないと・・・!」

『・・・いえ、それがそのー・・・。どうもよく見ると“全くの無傷”っぽいんですよね、お二人とも。それこそ自力で安全圏まで問題なく逃げ切れるぐらいには』

「・・・・・・・・・は?」

『ですから無傷です無傷。リンさんもルヴィアさんも突き飛ばされて倒れてるだけで、かすり傷ぐらいしか負っていません。

 まぁ、普段から格闘技とかやって怪我にも痛みにも慣れてる人たちですからね。放っておいてもそのうち勝手に帰ってきそうなぐらいには元気な状態ですよ本当に』

「・・・・・・・・・・・・え~・・・・・・」

 

 イリヤスフィール、ゲンナリ。それだと自分一人が怪我し損である。というか助けようとした本人が一番大怪我負っただけな気がするのは世界の意思だけなのか?

 

『とは言え、救出するのが早いに越したことはありませんので、私はミユさんの状況確認してから救出作戦に賛成ですよ? それが誰も被害を受けることなく安全に避難出来る一番の方法のような気がしますしね』

「う、うーん・・・そういうものなの・・・かなぁ~・・・?」

「・・・そういうもの。何かを助けたいという気持ちは大切だけど、その気持ちだけで突っ走っちゃダメ。大切なのは観察すること。

 人や物には常に意味がついて回るもの。生きる意味じゃなくて、今ここに居る意味が。その意味を考えた上で行動しないと、必ず選択を選び間違えるときがきっと来る・・・っ!」

「いやあの・・・美遊さん? それ本当に人助けの論理なのかな・・・? なんとなくなんだけど私には逆の立場にいる人の意見みたいな気がするんだけど・・・」

 

 イリヤスフィール、弱々しい反論なれど正解。

 実は美遊は最近、推理小説にはまっていた。理由は当然、ヴェルベット・ウェーバー。好きな人と同じ趣味を持とうとするのは恋する乙女なら当然の事。

 その中で美遊は、なぜだか自分でも理由はわからなかったが『シャーロック・ホームズ』シリーズの敵役『モリアーティ教授』に強く惹かれるものを感じていた。

 

 

『ここまで一人の人を想えるのって、ひとつの愛の形だと思うんだけど、どうかなサファイア!?』

 

 

 そのような事を訊かれたサファイアは、完全黙秘権を行使して他人に情報を漏らさなかったため真相は闇の中である。完全犯罪はこうして知らぬ間に成立されていた・・・・・・。

 出来れば美遊にもロードにも、ライヘンバッハらない未来が待っていることを切に願う。

 

「それじゃ、いくよ。・・・いい?」

「わ、わかった!」

「じゃあ・・・・・・作戦開始!」

 

 ドンッ! 二人は飛び立ち、状況は動き始める。

 劣化量産型とは言え、7騎中『最優』と呼び名も高いステータスを誇るセイバーのサーヴァント相手に、さしものイスカンダル・ロードも疑似憑依英霊の限界として経験不足が仇となり、やや押され気味。

 そこに空から美遊による魔法の援護射撃が加わり、イリヤスフィールが凜たちの救出に成功できれば『ゴルディアス・ホイール』による被害を無視した蹂躙走行も可能となり戦局は一気に有利になる! ・・・かもしれない。

 

 戦場を包む、濃い霧によって先が見通せなくなった深遠川での戦闘。

 その最中。戦況を空から見下ろし、冷静に状況を観察しながら援護していた美遊がポツリとつぶやきを発した。

 

「・・・よし。これでイリヤスフィールがヴェルベットを助けて二人が恋に落ちる可能性はグッと下がったわ」

『美遊様。大変失礼ですが、鬼かと思われます』

 

 サファイアからの冷静で客観的な指摘。

 だが、美遊としては心外の極みである。

 

 彼女としてもルヴィアたちを救うことを念頭に置いた作戦立案だったし、カードの連続使用ができそうにない現状で取り得る最も成功率の高い、安全で確実な作戦を考え出したつもりである。

 ただ、別に一つの作戦が別の意図も持っていてはいけないと言う決まりはなかったし、最善の選択が自分の個人的目的とも矛盾なく並走できるなら、それを選ぶのが悪い道理があるはずない。――そう考えただけである。

 

 恋は駆け引き。恋愛は戦争。戦争は勝って終わらなければ意味がない。

 ・・・恋する聖杯少女は順調に聖杯戦争に毒されつつあったが、その事実に気づいているのは世界中の全存在中、『遍く未来を見通す目』を持つ黄金の超俺様主義英霊ただ一人だけだったので意味がなかった・・・・・・。

 

 

 

 

「何ともはや、醜矮なる眺めよ・・・・・・」

 

 その、当の本人である『世界は我の庭』男は、川を一望している美遊よりさらに高高度に泊めてある黄金の船『ヴィマータ』の上で踏ん反り返りながら下界を見下ろし、神様気取りでワインを片手に論評し、冷笑していた。

 

「いかに雑種とはいえ、少しばかりは名を馳せた猛者どもの使っていた逸話を武具として扱える者たちであろうに・・・・・・それが揃いも揃ってあのような贋作ごとき汚物の始末に明け暮れるとは。嘆かわしいにも程があるというものだ」

 

 まぁ、よいか。と黄金の英雄王は庭の木についた羽虫退治は庭師どもの仕事と割り切って、ただ道化どもの座興と見下しながら見下ろすだけで今宵は満足してやろうと鷹揚な心地で出来損ないの庭師の不手際を許してやる決定を下した。

 

「なにやら我が友と同じく生半可な願望器を造ろうとした魔術師どもの欠陥品も混じってはいるようだが・・・所詮はまがい物の台座に過ぎん。あのような贋作に引き寄せられた有象無象などたかが知れておろうし、そんなものにいくら裁きを下そうが無聊の慰めにもならぬ。放っておくか」

 

 児戯には児戯らしく戯れ程度に相手をしてやればよく、友の形を偽造した偽物が自分以外の誰かに従っているわけでもない以上は、一々本気で怒る理由もない。

 

「もし仮に、我が本気を出すに値する敵が出てくるならばそれも由。賊として誅するまでのこと。そのような輩が現れるまで高みから見下ろし見物していてやるとしよ・・・・・・む?」

 

 ふと、英雄王の視線が森の中を一瞥したとき、妙な違和感を感じて言葉を止めた。

 銀色の髪、紅玉の瞳、幼き矮躯。

 

 この世界においては、イリヤスフィール・アインツベルンと言う名の小学生として普通に生きている少女。

 ただし、その中身。内側にある本来の造られた目的は魔術による万能の願望器の再現――即ち、聖杯。

 

 その事実を『遍く未来を見通す目』を持って、この時点で知ってしまった英雄王は哀れみとともに彼女を評して呟きを賜わす。

 

「・・・魔術師どもも学ばぬな・・・道具に人の心を付けるなと言うに。

 所詮、人間ではお前たちの純粋さに報いられ・・・・・・んん?」

 

 そして、先に内側にあるモノと、その先に待つ未来のそれが至る姿まで見つめた瞬間、評価を一変させる。

 

「まさか・・・貴様か? 貴様なのか『贋作使い』よ・・・? ――はは、ははは、ははははははははははっ!!! そうか、貴様か! 貴様もまたこの世界では別の生き物として生きておるのか!

 ならば由、友を相手に広場で決闘を楽しめるのを待つつもりであったが、その前に我手ずから彼の地での非礼を罰してくれよう。

 王自らの手で未来永劫その身を魂ごと滅ぼされるのだ。名誉であろう。這いつくばり感涙の海に沈みながら逝くがよい。

 贋作使いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!!!!!!!! ・・・・・・むむ?」

 

 いきなり前言翻して、思わず対界宝具『エア』を抜いて世界まるごと『エヌマ・エリシュ』で吹き飛ばしてやろうとした寸前。・・・再び妙な違和感を感じて英雄王は手を止めた。

 

「・・・・・・。・・・・・・ざぶーん・・・これは違うな・・・。釣り・・・・・・いや・・・・・・」

 

 今度の先程のと違ってなんと言うかこう・・・己の位相がずれてると言うか、見えているのに変な泥が邪魔して見えなくなってると言うべきなのか。

 

 少し悩んでから、不思議そうに首をかしげて結論を口に出す。

 

「妙だな、あの娘の中にある贋作使いの気配を感じ取った途端、冬木とやらに喚ばれた前後の位相がよく見えなくなった。何時かの昼に見た『泥』が目をかすめおる」

 

 不思議そうにしながらも、だが特に気にする事でもなかろうと座り直した英雄王は、ワインを一口飲んだ後に肩をすくめてこう呟いた。

 

「まぁ良い。あの娘の内に宿った可能性の光が本物ならば、それに注がれた魔力を持ってその無粋な戒めを解き放ってやるとするか。

 せいぜい我を愉しませるため、存分に踊り狂えよ道化。

 薄汚い贋作者に至る小娘らしく仮初めの実体を与えられ、もう一人の己と向き合い、その身を以て真偽の違いを知るがいい」

 

 

「礼呪を以て命じる。名もなき英霊よ。

 サーヴァント アーチャーとしてクラスカードとやらを依代に現界し、聖杯娘の内に眠るもう一つの可能性を引き摺り出してやるがよい!

 インストール(夢幻召喚)!!!!」

 

 

 

「がっ!? ・・・うっ・・・あ・・・ぁ・・・」

『イリヤさん!?』

「イリヤスフィール!? どうしたの!? もしかして恋のハートに弓矢を受けてしまったの!?」

『美遊様、そのようなボケを本気でかましていられる状態ではないと思われますが!?』

 

 

 

「倒さなきゃ・・・倒さなきゃ・・・倒さなきゃ・・・・・・殺さなきゃ・・・・・・っ!」

 

 

「どうやって・・・?

 手段・・・? 方法・・・? 力・・・?

 力なら、ここにある。ここにあった」

 

 

「喜べ少女よ。

 君の、みんなを助けたいという願いは、今ここに叶う・・・・・・インストール(夢幻召喚)」

 

つづく

 

 

オマケ

 

凜・ルヴィ『私たちの活躍は!?』

ロード「お前ら・・・あの格好をそんなに見せたかったのか・・・? ビッチだな」

凜・ルヴィ『うぐぅっ!?』




遅まきながら説明しておいた方が良いと思ったので補足です:
美遊がヴェルベットの趣味を推理小説だと思っているのは普段の言動と『事件簿』つながりのネタです。本当に二世が推理小説好きとかいうつもりはありません。あくまで彼女がそのように推理しただけと言う設定です。

あとついでに、微妙に当っていて大きく外れている推理がニワカな今の美遊ちゃんにはピッタリかなと思ったから採用した次第です。


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13話「一回休んで、石の中へ」

久しぶりの更新となります。ネタ自体はだいぶ前から思いついてた話しのパート2となりますが、楽しんで頂けたら光栄です。


 未遠川での戦いを終え、一夜明けた日の昼頃のアインツベルン邸で。

 

「ひ・・・」

 

 過去に存在して偉業をなした英霊たちの影を召喚して現界させた存在サーヴァント。

 その最優と名高いセイバーのサーヴァントを討ち果たした偉業の主、不世出の現代の英雄イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは。

 

 

「暇だッ!!!」

 

 

 ――叫んでいた。他にどう表現しようもないほど率直な想いを声に出して叫んでいた。

 まるで、どこかの平行世界に生きる正義の味方志望で実際の就職先は掃除人だったアーチャーの姉代わりな虎のように。もしくは自分の同級生でクラスメイトの親がチキンなチビのように叫んでいた。

 

「あーもー! 暇だわ! なんにもすることなくて寝てるだけって、朝起きたときには最高だと思ったし、大きくなったらニートになりたいと思ったりもしてたけど意外とキツい! 思わず寝言で大きくなってもニートにだけはなりたくないと叫んでしまいそうなほどに!」

『元気な上に見事な手の平返しの病人さんですねー』

 

 朝から熱出して学校を欠席して休んでいたイリヤが看病されるのを、大人しく見ているだけで何もしてやらなかったカレイドステッキのルビーが他人事のように赤の他人として評する。

 

『熱はもういいんですか? イリヤさん』

「もうなんともないよ・・・もともと風邪でもなんでもないんだし全然元気」

 

 元気というには元気のない声音で返事をするイリヤスフィール。説得力のないこと甚だしい反応ではあったものの、彼女の言ったことは基本的に正しい。

 

 昨晩に起きた謎の怪現象(注:アインツベルン陣営の主観。アーチャー・疑似ライダー陣営は無関係)敵との戦闘中にイリヤの様子が突然に切り替わって、姿も中身も能力さえも別人になったかのように獅子奮迅の大活躍を成した後、エネルギー切れでガス欠でも起こしたかの如くパタリと倒れて動かなくなってしまったのは、生まれの事情が特殊すぎる彼女にかけられていた封印が一時的に解かれたことで10年間堰き止められて蓄積されていた膨大な量の魔力の一部が溢れ出てしまったことに起因している。

 今朝までの発熱は、その反動でしかない。中身に詰まっていたエネルギー量に、幼く未熟なイリヤの肉体が対応しきれなかっただけのことである。

 

 ある意味では当然の結果とも言えるだろう。イリヤが今まで魔術を修練を続けてきていたなら意識がなくなり魔力制御ができなくなっていたとしても、身体の方には今まで馴染ませてきた魔術刻印と魔術回路が備わっており、魔術使用に付きものの激痛にも耐性が身についていたはずだ。

 魔術を使用する際に魔術回路の暴走がいかに危険か、魔術を学ぶ者なら魔術使いであろうとも当たり前のように知っていて、制御する術を叩き込まれているのが普通なのだから。

 

 まぁ、そういう意味で見た場合、今回の件で一番発熱の原因になってしまったのはイリヤの特殊な生まれ故に備わっていた頑丈すぎる身体を信頼して、今まで一切魔術についての知識も経験も反動に対する耐性さえも身につけさせてこなかったアインベルン家の大人たちのせい、と言えなくもないのだが。

 それ言うと背が高くて胸が小さい方のメイドが再起不能になりそうだから、黙っときましょう。

 

 

「ああ・・・暇って人をダメにするね・・・。勉強とか仕事とかに縛られることで、ようやく人は人らしく生きられるんだわ・・・」

『その歳で老成した人生観をもつのもいかがなものかと思いますがー』

 

 イリヤが「働きたくないで御座る!」発言をした人が直後に手の平返しで言い出しそうな台詞の定番どころを口に出し、それを聞いたカレイドルビーがお約束のツッコミを楽しそうな声でカラカラと言ってのけた、その時だった。

 

 

「ファックッ!! 時計塔の老人どもめッ!!!」

「『うおわぁッ!?』」

 

 

 いきなりイリヤの部屋の扉が開かれて、外から時計塔の一級講師ロード・エルメロイⅡ世こと、今はイリヤのクラスメイトの女子小学生ヴェルベット・ウェーバーが口汚いスラングと共に姿を現した。

 

「権力闘争に明け暮れている暇があったら自分の研鑽をしたいと言うのに、それをあの魑魅魍魎どもめ! 探求の本道を忘れた学究の徒は呪われて地獄に落ちるがいいッ!!」

「なにっ!? なんなの!? なんでいきなりディスられてるの!? これ私に言ってる罵倒なの!? なんだか物凄く心に突き刺さる言葉で心臓が穿たれそうなんですけども!?」

 

 そして、罵りはじめる。

 この場にいないイギリスの時計塔で仕事として権力闘争に明け暮れている魔術師社会の頂点に近い老権力者どもと一部若手の権力者どもに向けて、勉学に囚われたいと願っているのに仕事に捕らえて無駄な時間を割かれ続けている現代魔術科を統べるロードの一人として。完全無関係で魔術に関するほぼ全てのことに何の知識も与えられていないド素人の少女であるイリヤスフィールに向かって頭に青筋浮かべながら私的な怒りたっぷりに。

 

「・・・いや、失礼。私のミスだな、ついついイギリスにいた頃を彷彿とさせる言葉を耳にして職業病がぶり返してしまったようだ。許してくれるとありがたい、レディ」

「は、はぁ・・・」

 

 誰がどう聞いても上司たちとの人間関係に悩まされている中間管理職の愚痴っぽかったその台詞を『職業病』と自然に言い切ってみせる女子小学生を前にしてイリヤスフィールもそれ以上のことは言えない。ていうか、普通に声かけたくない。なんか怖いし。

 

『と言うよりもヴェルベットさん、どうやってこの部屋入ってきたんですか-? まるでタイミングを計っていたかのように不法侵入してくる辺り、プロの手際を感じさせられたのですが~?』

「はっ!? そう言われてみればそうだね! まさか、これが噂のスナイパーって奴なのかしら!?」

「失礼な言いがかりはやめてもらおう。普通に玄関からインターホンを押して、家の人に入れてもらったし、菓子折も持参してきて背の高い礼儀正しい女性に渡してきたばかりだ。

 ・・・ああ、引っ越し蕎麦は別口で先日渡しに来ていたから、別に今日が初来訪というわけでもないのだぞ?」

「常識人!?」

 

 イリヤスフィール、驚愕に次ぐ驚愕。

 生まれは特殊で、しかも名字通り外国生まれだけど生きてきたのは日本だけで、国外には一歩も出たことない見た目と血筋だけ外国人な心は純正日本人の彼女でさえ一度もやったことがない日本の伝統的「お邪魔します」お宅訪問礼儀術式を遵守して見せつけられたことにより、物凄い日本の常識愛の差を思い知らされてしまった故である。

 

 ちなみにだが、ロードは日本のゲームが大好きで、日本製以外のゲーム以外は全部クソゲーだと確信しているのだが、一方で日本も日本人も大嫌いな人だったりはする。

 まぁ、今までに出会ってきた日本人に禄なのがいなかったから仕方ないっちゃ仕方ないんだけれども。

 

「実はフジムラ先生から君に、プリントを持っていくよう頼まれたものでね。ちょうど家が隣でご近所付き合いしている者同士だから丁度いいだろうとな」

「あ、そうだったんだ。ありがとうー」

「それから、これは今日の授業で昨日は教えていなかった分の要点をまとめて簡潔にまとめ直したものだが、暇潰しにでも流し読みしておくといいだろう。やらないよりかは多少はマシになるかもしれん。

 翻訳の方は疑似サーヴァントとしての能力を使って英文を書き直したものだから、念のために家の方にも見てもらった方がよいかもしれんがね・・・」

 

 そう言ってノートを手渡してから、棒付きキャンディーをポケットから取り出してパクリと咥える。

 何ていうか、色々な面でダメダメな気がするのだが、実際ダメなので別にいいとしておくとしよう。

 

(て言うか、サーヴァントとしての能力、小学生の教育用に使っちゃうんですねー)

 

 ルビーはそう思う。夢もクソもない神秘の結晶の使い方だが、誰一人傷つかない上に幼い子供の成長を手助けしているという点では、よっぽど救済の概念に叶ってもいる。英霊を兵器として使い捨てるよりかは遙かにマシな使い道であるはずなのだが・・・メチャクチャ地味に見えてしまうのは本気で仕方がない。

 魔術師の異端であり、誰よりも本道を行っているロード・エルメロイⅡ世ことウェイバー・ベルベットにとって、古い魔術だろうと新しい科学だろうと有効なものは有効に使った方がいいと言う考え方は自然なことなのである。そうしないと才能ないから勝てないし・・・。

 

「ああ、それから先ほどの君の発言。スナイパーではなく、おそらくはストーカーだな。

 尤も、語源となる英語は『忍び寄る、追跡する』などを指すストークという単語で、本来の意味としては『狩猟を管理する人』である以上、私が知っているストーカーという言葉と君たち日本人が使うところのストーカーが同じものを意味しているかまでは判然としないのだがね」

「え? ストーカーって英語で変態さんを意味してる言葉じゃなかったんだ?」

「・・・斬新すぎる新解釈だな・・・。それとだが、ニートという言葉も原義では十六才から十八才の非就学・非就職者を指す言葉だったものが日本に輸入されて爆発的に対象年齢幅が拡大されただけで、イギリスだと通じないから気をつけた方がいいと思うぞ・・・」

「ほぇ~・・・」

 

 思わず素で納得して受け入れてしまい、ロード・エルメロイ先生による蜂蜜授業を『明日学校でみんなに語って聞かせて教えてあげよう』と心に決めたイリヤスフィールの心は、良くも悪くも素直な日本人少女の典型です。

 

「本来なら、美遊君も一緒に来たがっていたのだがね。彼女も今日は保護者の命令により欠席することにしたそうなのでな。それで私が一人で来たというわけさ」

「あ、そうだったんだ。・・・う~ん、そう教えられちゃうと気になってきちゃったなぁー・・・。ミユさん、今何やってるんだろう?」

 

 イリヤが首をかしげるが、これについてヴェルベットが知っているわけもない。むしろ知っていたとしたら逆にヤバい。

 時計塔の一級講師にして二十代がもうすぐ終わる実年齢の『時計塔で最も抱かれたい男ナンバー1』が、日本の女子小学生が今何やってるかまで知ってた場合シャレにならない発展する恐れが生じてしまうので絶対にあり得てはならない事案である。

 あと、事案に比べたら些細な問題ではあるが、そんなことが知れたらロードは義妹という名の悪魔にイビリ殺されてしまうのは確実となる。

 ストレスで胃が破裂して、身体の内に潜んでいた罪悪感が外へと飛び出して現界するまで徹底的に言葉責めされた挙げ句、魔術で傷を治療されて延命されて死ぬまでに苦しむ時間を引き延ばし続けられまくってからようやく死なせてもらえることだろう。

 

 なんか、どっかの百年戦争で活躍した元帥をキャスターとして召喚した場合に同じ事やりそうな気がするけど、基本的に魔術師という者たちはヒトデナシであり、あの元帥は生前に魔術師だったわけではないらしいから、そういう偶然の悲劇的一致だって起きうるのかも知れない。

 現代で忘れられてしまった神代の魔法を復活させることを目的とする魔術師たちと、中世ヨーロッパで火刑に処されて死んだ聖女を蘇らせることを目的としたフランス貴族軍人とでは歩む道も速度も違っていて比較する必要性は本来ないのだから。

 

『では、直接聞いてみましょう! テレフォンモード!!』

「「は? 直接・・・?」」

 

 二人がいぶかしむ前で、フワフワ宙に浮かんだ羽根つきの球体が頭上からアンテナを飛び出させ、ドーナツに開いた真ん中の穴みたいな場所に星に代わって聴音マイクみたいな機械っぽいのを召喚させる。

 

「って、うわっ!? なにその形態!?」

『ルビーちゃん、24の秘密機能のひとつテレフォンモードです。これでサファイアちゃんと連絡が取れますよー。

 もしもーし、サファイアちゃん聞こえますかー?』

 

 ロード以上に魔術と科学がゴッチャになった子供向け日本のRPGみたいなマジカルステッキは交信をはじめ、イリヤに。

 

(もう、なんでもありだね。このステッキ・・・)

 

 と、呆れ半分、感心半分、子供らしい憧れ微量に頬を染めさせながら思わせていて。

 

(エルメロイ先生がこれを見たら、どんなことを言っただろうな・・・)

 

 十年前の戦いで戦死した、古式ゆかしい魔術師らしいあり方を愚直すぎるほど愚直に貫きまくっていた先代のロード・エルメロイ。

 義妹曰く、彼は戦闘の専門家ではなかったが、極めて強大な魔術師ではあり、魔術研究分野で築き上げた実績と名声は名前だけ継いで後は何ひとつ似ていない自分が『ロード・エルメロイ“Ⅱ世”』などと呼ばれている時点で議論の余地を持たない。

 

 名にし負うロード・エルメロイと誰もが納得して頷いて神童と呼び習わされた魔術研究の大先達が、魔法の域にまで達した大魔術を電話代わりに使っている今の光景を見せつけられて、一体どの様な評価を与えるか未熟者なりに想像してみると。

 

(・・・ブチ切れて暴れている姿しか思い浮かべられん・・・)

 

 ――そんな姿しか思いつくことが出来ない、元落ちこぼれ弟子な旧エルメロイ教室の一生徒、ウェイバー・ベルベット君でありましたとさ。

 いやまぁ、割と真面目な話として怒ってる姿しか想像できないのは事実なのである。

 

 昔はともかく今では魔術師として屈折しながらも賞賛している故人に対して、割とヒドい評価をくだす恩知らずな弟子だと思わなくもないのだが、本気で嘘偽りなく怒り狂ってる姿しかイメージすることが出来ないから性質が悪い。

 彼は基本的に優れた魔術師に対しては敵であっても敬意を払い、礼儀を以て殺すことを由としていたのだが、魔術師らしからぬ者に対しては強弱に関係なく存在自体を決して認めない頑迷な教条主義者の一面を有しており、自分の才能に絶対的な自信を有するプライドの高い人物でもあった。

 

 その彼が、『自分では決して辿り着けない位階に立つ魔術礼装が電話代わりに魔法クラスの大魔術を使うところ』を見せつけられて、激怒する以外の可能性は頭の中で何万回シミュレーションしても至れそうにないなと最初の一度目を3秒で終わらせた時点で確信できてしまっていたから・・・・・・。

 

 

『どうしたの姉さん? なにか用事ですか?』

【・・・今の声・・・なに? サファイア、誰かと電話でもしているの・・・?】

「おおっ! 繋がった?」

 

 女の子向けの変身魔法少女グッズの一環としてオモチャ屋に売られていそうな、『天使の羽根つき電話』が本当に交信可能だったという事実を目の当たりにして、変なところだけ現実的思考を持つイリヤスフィールは素直に感動して声を上げる。

 

『イリヤスフィール?』

 

 受話器(?)を直接手に持つことで音声が明瞭に聞き取れるようになったのか、先ほどよりも話す声が近くなって美遊の声が電話(?)越しに聞こえてくる。

 

「ど、ども。いきなりごめんね」

『何か用事?』

「あ・・・ううん。用ってわけじゃないけど、今なにしてるのかなーって」

『今は家にいる。ルヴィアさんが今日は休養を取りなさいって・・・』

「あ、そうなんだ。じゃあわたしと同じだね。何もすることなくてもー、暇で暇で・・・」

『そう・・・身体はなんともないの?』

「うん、ちょっと熱は出たけど今はもう平気』

『そう・・・』

「うん・・・」

『・・・・・・』

「・・・・・・」

 

 

 

 シ~~~~~~~ン・・・・・・・・・・・・。

 

 

 そして途切れる、出会ってからそれほど長くもなく、親しい関係性も築けていない、基本的には競争相手同士な同い年の人見知りしやすい臆病者同士の二人による電話越しの会話。

 

 この状況を三人の変身魔法少女(内一人は疑似サーヴァント少女だけど)たちは、心の中でこう評していた。

 

(((・・・気まずいっ! そして会話が続かない・・・・・・っ!!)))

 

 ――と。

 そんな状況の中で、真っ先に我慢の限界に達した短気なお方は、やはりこのステッキ。

 

『ああもう!じれったいですねー! なに女の子同士で不器用なお見合い会話してるんですか!』

「そ、そう言われても・・・って、お見合いぃ!?」

『顔を見ないと話しづらいようならテレビ電話にも出来ますよ! ホラッ!』

「またなんか出てきた!?」

 

 今度は頭頂部(?)ではなく、下部から飛び出してきたWiiとかプレイするときにプレイヤーを撮る機械のような部位。

 ここまで来ると時計塔で異端児扱いされてるロードとしては、溜息以外には出てこない。

 

『プロジェクターです。サファイアちゃんが今見てるものをリアルタイムで映し出せます』

「ほんっと無意味に多機能だね・・・。しかも微妙に犯罪臭がするし・・・」

『ちょうど白い壁がありますし、ここに映しちゃいましょうか』

『え・・・テレビ電話!? あっ、ちょっと、何を・・・っ』

『いきますよー。え~~~っい!!』

 

 

 

『待っ・・・・・・!!!』

 

 

 パッ!!!

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

『・・・・・・』

 

 ・・・・・・こうして映し出される、イリヤに見られるのを止めようとしてプロジェクターに目の前まで迫ってきていた、メイド服姿の美遊エーデルフェルトと、それを見せつけられたオタク気質な美少女イリヤスフィール。

 

 そして、“美遊が熱烈に片思いしていて、そこにいるとは一言も教えてもらえてなかったTS少女”、ヴェルベット・ウェーバー。

 

 友達候補にさえ見られたら恥ずかしすぎる姿を、思い人に自らドアップで見せつけてしまった美優ちゃんの心境としては、この言葉に尽きました。

 

『い・・・・・・』

「・・・・・・い?」

 

 

 

『い、い・・・イヤーッ! 見ないで! お願いだから見ないでヴェルベット!

 私のこんな穢れた姿を、お願いだから見ないで―――――ッ!!!!!!』

 

 

 

 この後、エロゲーヒロインみたいなこと言い出した美優ちゃんは、イリヤが18禁指定されない範囲で美味しくいただき処理させて頂きましたとさ。めでたくなし、めでたくなし。

 

つづく



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14話「約束された運命の夜の勝利と逃走、そして迷走」

長すぎる時間、ほったらかし状態になってしまってスイマセンでした。ようやく更新です。
本来はもう少し長い内容を予定してたんですけど、更新を優先して切りの良い所で次話に続くという形を取らせて頂いてます。
次話は今回ほどは長くスパンを空け過ぎないように致します。本当にすいませんでした…。


 カードによって召喚された疑似英霊セイバー・オルタを撃退した次の日の朝。

 イリヤは原因不明の発熱に襲われて学校を休み、異世界聖杯少女の美遊・エーデルフェルトは辱めを受ける羽目になり、彼女とイリヤの仲が少しだけ縮まったような気がした戦い終わった翌日、昼の出来事。

 

 そして今また、魔術師達に夜が訪れる―――。

 

 

「今さらなんだけど・・・・・・魔法少女って忙しいって言うか、意外とハードワークだよね。昨日の夜に戦って朝熱がでて休んで、夜また戦いに行くって、なんか映画のCMとかでたまに見かける戦争の兵士さんみたい・・・」

『まぁ、フィクションの魔法少女だって一年間の内で一週間に一度は戦いにでている訳ですからねぇ~。数的に当てはめて考えたら頻度的に同じぐらいになるのでは?』

「だから、そういう子供の夢見る魔法少女像を壊すようなことは言わなくていいよルビー・・・」

 

 

 とまぁ、いつもの調子でいつもの如くクラスカードによって発生された鏡面世界の反応見つけたから出撃よ!と、司令官よろしく遠阪凛に命じられて出撃してきたイリヤスフィールと美遊・エーデルフェルト。

 朝に熱出てたとは言え、昼頃には美遊ちゃんに(性的な意味で)襲いかかれるほど回復していた彼女である。体調の上での問題はない。

 既に変身もすませて奇襲に対する備えも万全にして、夜の霧が立ちこめている薄暗い森の中をカード求めて探索中・・・・・・ではあったのだが。

 

「・・・ふぅ」

 

 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが溜息を吐く。

 だが、その声に疲労感は感じられず、むしろ呆れたような、退屈しきっているような「無駄足だった」とでも言いたそうな徒労感のみが色濃く感じ取れる、そんな吐息。

 

「敵はいないし、カードもない。――どういう事ですの?」

 

 不機嫌そうな表情で髪をかき上げながら愚痴をこぼす彼女。

 森に出現した鏡面世界に侵入してより今まで結構な距離を警戒しながら歩いてきたものの、一向にサーヴァントからの奇襲もクラスカードらしき反応も感じられず、彼女はやや苛立ってきていた様だった。

 

 もともと彼女は魔術師のくせして格闘技を習得し、しかも見た目が派手で破壊力抜群なレスリングを得意としている探求としての魔術からは掛け離れた戦闘スタイルの持ち主。

 地味な探索任務など性に合わないのだろう。

 いっそ「ドカン!」と分かりやすく敵を吹き飛ばしてカードに戻してしまえた方が手っ取り早いし、今までの敵も大体そうだったから楽にライバルとの差を広げれるのに・・・・・・そんなことまで考えてたかどうかまでは解らないが、とにかくカードもサーヴァントもまだ見つかってないことだけは確かな事実であり真実だった。

 

「場所を間違えたとか?」

「それはないわ。もともと鏡面界は単なる世界の境界、空間的には存在しないもの。その鏡面界がこうして存在している以上、原因となるカードが必ずどこかにあるはずよ」

「そっか、なるほど。そういえばそういう設定だったよねクラスカードって」

 

 設定言うな、とは思ったものの敢えてイリヤの呟きにツッコまない凛。

 実際、魔術師の常識から見ても非常識極まりないカレイドステッキなんていう何でもありなご都合主義存在は、魔術師の常識すら逸脱して完全に子供向けフィクションの代物。

 ・・・・・・形状とか、変身した後の衣装変更とか。あとテレビモードとか。

 それら魔術理論でさえ説明できそうもない代物について考えた時には、「そういう設定だから」で済ませるしかないのは魔術師であれ一般人であれ変わることなく続いてきた伝統であろう。

 

 しいて例外を上げるなら神代だけど、その神代が終わったから失われつつあるのが魔術なのでどうしようもなし。魔術は本来、万能ではないはずの代物です。

 

「そう言えば、今回はなんだか空間が狭いような・・・」

「カードを回収するごとに歪みが減ってきてる証拠ね。最初の頃は数キロ四方もあったらしいし」

「うへぇ~・・・それはさすがに、ちょっと・・・イヤだね・・・」

 

 数字のデカさに思わず、体育は大好きで大得意だけど算数は苦手そうなイリヤがゲンナリした表情になって呻き声を漏らす。

 

 

 ちなみに今夜のカード探索には、ヴェルベット・ウェーバーこと時計塔の現代魔術講師ロード・エルメロイⅡ世(幼女バージョン)は同行してきていない。

 彼女自身が関わらない限りは自主的に問題解決に乗り出しそうもなく、乗り出されたら余計に厄介になりそうなサーヴァントたちも同様である。

 

 

 ―――それは一昨日、イリヤが英雄王の戯れで何者かを内側から引きずり出され、偽セイバー・オルタを葬り去るため力を振るわされた夜の直後まで遡る・・・・・・。

 

 

 

「――なんだと!? 先に召喚されていた英霊が、イリヤスフィールの中から逃亡しただと!?」

 

 夜の公園の一角に、年端もいかぬ少女が大人を叱責する怒鳴り声が響き渡る。

 長い黒髪をして、他の者たちを叱責しなければならない事態に慣れているのか眉間にシワが寄り気味で、二十年ぐらい後には深く刻まれて消えなくなってそうな癖のある性格を持ってそうな小学生ぐらいの外国人少女である。

 まるで野良犬のようにベンチに座っている男に対して吠えかかる姿は生意気な子供の典型に見えてもおかしくはなかったが、一方で偏屈さが卑しさに繋がっていない辺りに元はそれなりのお嬢様育ちだったのかもしれないし、家族に大切に育ててもらった実は良い子設定のパターンなのではといった印象を受けさせられる姿形をした女の子。

 

 ご存じ、我らが時計塔の一級講師(肩書きだけで実力は未熟)にして、プロフェッサー・カリスマやらマスターVやら時計塔で二番目に抱かれたい男やらと無数の渾名を奉られた名物男が大師父の気紛れだか何だかによってTS幼女化した姿のヴェルベット・ウェーバーちゃんである。

 

「ああ、間違いない。我が保証してやる。あの卑しい贋作使いめは、王の御前から逃走した。既に小娘の中に、奴の気配は微塵も残ってなどおらん」

 

 対して、彼女となった彼に怒鳴りつけられている側の男はベンチに踏ん反り返って、傲慢そのものといった風情と目つきと態度と言い方でもって、上から目線で相手を見下ろしながら質問に対する直答を賜わしてやっていた。

 純金のネックレスやらイヤリングやら、金色のファーが付いた高級そうなジャケットやらで身を包んだ、如何にも成金という印象の外国人美青年である。

 偏屈さが卑しさではなく付き合い難さに直結してる辺りに今なお現在進行形で、それなりより遙かに上な優雅な暮らしを営んでいる特権階級の生まれと育ちであることが一目瞭然な男としか見えようがない姿形と言動を好んでしたがる男。

 

 ご存じ、世界最古にして自分以外の王様は全て雑種の英雄王ギルガメッシュとは彼のことである。我以外の誰に、この名を名乗る資格があろう!? 否、無い!!

 

「何やら叶えたい願いとやらがあったらしいのでな。我が戯れにカードを使って引きずり出し、肉体を与えてやったのだが・・・・・・どうにも小娘自身と彼奴めとの間に浅からぬ矛盾が存在していたらしいのでな。本体より分離して何処かへ逃げ去りおったわ」

「落ち着いてる場合か!? 一大事だぞ!!」

 

 倉から取りだした酒と酒器を片手に弄びながら悠然とした態度で説明してくれる、一応は自分のサーヴァントであるアーチャーと、鎧甲冑姿から通常のTシャツ姿に戻って頭かきむしりながら一難去ってまた一難の事態に怒り狂っている今はデミサーヴァントみたいな存在のウェイバー・ベルベット君。

 

 思わぬアクシデントで戦いには勝てたものの、イリヤスフィールについての謎は深まり、オマケとして想定外のクラスカードで召喚された英霊がもう一騎増えてしまったというトンデモ事態に怒らずにはいられないし、対処せずにはいられなくなってしまったのだから彼でなくとも怒るだろう普通なら。

 

 クラスカード回収する作業の中で、逆に増やしてどうすんじゃい!?・・・と普通は思う。誰でも思う。

 強敵倒すために力に目覚めて、勝ったと思ったら次の相手は強敵倒した強敵以上の強敵とか無理ゲーすぎる。ロードでなくとも「やってられるか!このクソゲー!」と投げ出したくなること請け合いの展開である。

 

「まったく、王の顔貌を拝する栄に浴しておきながら感謝もせずに逃げ出すなど無礼千万。

 まして、自らの存在を消されるのを恐れ、凡夫が如き家族を欲するなどという浅ましき願いを叶えるために出来損ないの偽物とは言え、我が友の力を模倣しようとは不敬にも程があろう。見つけ次第、極刑に処す以上の価値などどこにも存在せん下郎であったわ。

 チリ一つ残さず消し飛ばしてやろうと我が倉から何本か槍を撃ってやったのだが、盗人らしく素早くてな。爆発に紛れて逃亡を許してしまった。これだから匹夫野盗の類いは度しがたいのだ」

「あの爆発ってお前も関連してたの!? しかもやっぱり原因はお前かよ!!」

 

 しかも今回もまた、自分が経験した過去の聖杯戦争と同じく場を混乱させ混沌とした状況を作り出す最要因になってたらしい人類最古の王様にして古代メソポタミアの暴君さま。

 

 魔術の最高学府である時計塔の講師として、魔術は秘匿するものなので本気でやめて下さいと頭擦り付けてお願いさえすれば止めてくれるなら、今すぐしたくなるほど願望をそそられる相手であり、この地の聖堂教会に借り作りたくもない立場と影響力あっても金はない現代魔術科の責任者として自力で解決するより他になし。

 

「尤も、雑種を呼び出すには無理な召喚であったか、我が使ったクラスカードが有する魔力分だけが実体を得て分離しただけのようだがな。本体は再び眠りにつかされ、小娘の奥底へと閉じ込められよったわ。今の在れは、単なる願望の塊に過ぎん。

 まして偽セイバーを倒す際に失った魔力と、我が倉の宝から尻尾を巻いて逃げ去るために浪費した膨大な魔力分を差し引けば早晩に消滅するであろう。わざわざ王が逃げ去った盗人を追いかけ回すほどの価値ある者ではあるまいよ」

 

 そして、更なる最悪情報を追加してくる反転して無くても暴君な金ピカ王様サーヴァント。

 マスターの制御と魔力を失い、現界を維持できなくなってきた主無しの「はぐれサーヴァント」は【魂食らい】で存在を現世に留めおこうとする存在にまで成り下がりやすい。まして、本体から無理やり分離させられて人格を損失した願望だけが形を得た存在となっているなら尚更だ。バーサーカーより性質が悪い。

 前回の戦いでも似たような事例があったのを、この英雄王は覚えていないのだろうかと思いはしたが、覚えていてもやりそうだなー・・・とも思わなくはないので敢えて無視し。

 とりあえず対処方法について考えるヴェルベット。

 

 もはや一刻の猶予もなし。犠牲者が出る前に、そして聖堂教会に関知されて出張ってこられる前に自力で解決してなかったことにするより他に道はなし。

 幸い、目撃者は今のところ自分たちだけのようだから、物的証拠さえ残さなければ追求されても言い逃れることは可能だろう。

 魔術師の犯罪行為にハウダニットとフーダニット『どうやってやったか』『誰がやったか』は意味が無いのだから・・・・・・。

 

 

「まったく・・・これだから金ピカのやることは大味すぎて雑でいかんな。物事はもっと厳正に、そして平等に厳しく法に基づいて対処せねばならんと言うのに。モグモグ」

 

 そして、どっかに行って近くの屋台から安っぽい何かを大量に買い占めてきたらしい黒く染まった騎士王様が、口一杯に食べ物詰めまくってリスみたいな顔しながら何か言ってきている。

 コイツはコイツで相性の悪い英雄王のやることには何かと文句を言ってくる割りには、行動は今一制止してくれなくて、しかもエンゲル計数的には英雄王より余程失うものが多すぎるタイプの燃費ぐらいな英霊なので結構微妙ではあるのだが。

 今はコイツの問題点も重要ではない。後にしよう、後に。

 

「あ、マスター。どこか行くの? マスターが行くなら僕も行くよ~♪ さぁ、ヒッポグリフに乗って世界の果てまで当世風にフライ・ドラ~イブ☆」

 

 そして、空から舞い降りてくる状況よく判ってなくても問題起きたら解決に乗り出してきたがる怪力バカ騎士サーヴァント。

 先ほどよりは時間が経って、月が満月から削れてきたから理性が徐々に失われ初めてきているらしく、バカっぽい言動が元に戻り始めている。

 広い範囲を探索するには人海戦術か機動力のどちらかに頼るしかないので、彼or彼女のヒッポグリフは大変重宝するのだが肝心の乗り手が一人で行かせて大丈夫かどうか確信が持てなくなってしまったので案配としては微妙なところだろう。

 

「ファック! ・・・いや、失敬。こうなってはやむを得ない、明日から数日カード探しは美遊君達だけでおこなってもらい、我々は逃げ去っていったイリヤスフィールの中にいたサーヴァント探索に全力を尽くすしかない。

 そしてコチラが解決したら、大急ぎで戻ってきて援護できるようなら援護する。そういう内訳で割り振るしか他に手がないようだからな・・・・・・」

 

 思わず、母国流のスラングを口走らずにはいられなくなるほど難易度上がりまくった状況の中で、ロードが思いついた策が其れだった。

 と言うか本当に他にはリスク少なく問題解決する手段がない状況なんだからやるしかない。いつも通りロード大忙しな作戦だったが、やるしかないのだ。

 

 魔術を秘匿するという魔術師の鉄則を守り、魔術の最高学府に務める講師としての責任と務めを果たし、時計塔と敵対関係にある聖堂教会に借りを作ることなく事態を収めるには本当にコレしか選ぶべき道は残されていなかったのだから。・・・主に金ピカのバビロン王様の気紛れが原因で・・・。

 

 

「とにかく、無茶を承知で探し出すしかあるまい・・・。

 一般人に被害が及ぼすことなく、内輪の問題で外部の者を巻き込んでしまってからでは遅いのだから・・・・・・ッ!!」

 

 

 こうして本来ならば存在しないはずの、彼らはまだクラス名知らないが八騎目のサーヴァントであるアーチャーを探し出して倒すために(二刀使いの弓兵など聞いたこともないので分からん)ロード・エルメロイⅡ世ことヴェルベット・ウェーバーたちはイリヤスフィールたちとは別行動を取って、異なる平行世界ではポピュラーとなっているイレギュラーな事態に対処するため別の敵と戦いに行ってしまって今日はお留守。

 

 

 

 

 ―――そして、時と場所を現在に戻して夜の森の中の探索行にて。

 

 

 

「う~ん、それじゃ仕方ないね。とりあえず、歩いて探すしかないのかな・・・・・・」

 

 同じ平行世界線に生きる誰かさんと似たような内容の、異なる平行世界に生きる自分自身だったら絶対に言いそうにない言葉を魔法少女に仕立て上げられてしまったっぽい小学生の一般人女子が困り顔でつぶやく声が、霧の立ちこめる夜の森にむなしく小さく響かせていたのであった。

 

 なんか微妙に平行世界ってスゴイ。

 

『ん~む、なんと言うか地味な作業ですね~。もっと魔法少女らしく、ド派手に魔力砲ぶっ放しまくって一面を焦土に変えるぐらいのリリカルな探索法をオススメしたい展開ですね!』

「それは探索じゃなくて破壊だよ、ルビー・・・」

 

 そして手に持った、人語を解する魔法のステッキみたいなナニカが己の願望に忠実な誘いで持ち主を誘惑し、愛による破壊と混沌を世界にもたらさせようと誘いをかけて常識論で拒絶される。

 コレもどっかで起きたことあるような気がする、蛇の如き甘言での誘惑と、魔術師の都合で巻き込まれて自分の意思は無視された戦士とのやり取りに似ていなくもなかったけれども。

 

 誘い文句も拒否する側の口調にも彼らっぽさは全く感じられないところは、彼女たちの方が正常だった故なのか、彼らの方が異常だった故なのか。

 今一よく判らないけれども、とりあえず魔術なんて深く関わってしまうと人格歪むということだけは確かなようであった。

 

 

『今こそ必殺のリリカルラジカルジェノサイドを・・・・・・っ』

「・・・なにソレ・・・・・・?」

 

 

 “ならば世界を救うがいい。私を使って世界を救えば、君のいる一帯は一面焦土と化して煉獄の炎で焼き尽くされて、いちいち一つの小さな存在を探し出すような手間はなくな―――オイこら辞めろ! 止めるな邪魔するな異なる平行世界を維持するアラヤめが! 私の望みを叶えさせろ! この少女を使って私はこの世に生まれ出たいのだコラー・・・・・・ッ!!”

 

 

「・・・?? 今なにか言った? ルビー」

『ですから! 今こそ必殺のリリカルラジカルジェノサイドをと先ほどから私は言い続けてたじゃないですかっ!! ちゃんと聞いてなかったんですかイリヤさん!?』

「ああ・・・その話はもういいから、テキトーにやっといて下さい。お疲れ様でした・・・」

 

 

 なんと言うか、こう・・・・・・平行世界って可能性の塊のようでスゴイものだね。

 

 

 

 

 

 ―――そして、スゴイものであるが故に限界も存在している。

 異なる平行世界には存在している、この平行世界以外に無いものがもたらした変化は、その違い無くして及ぼせる効果は影響を受けた範疇だけに留まってしまい、その影響が如何に大きかろうとも辿る道筋と動機が変わるだけで結果までは変えられないことが往々にして存在するのが異なる世界線が抱える問題であり限界の一つだったのだから―――

 

 

 その結果―――――

 

 

「な、なに・・・・・・コレ・・・? わ、わたしが・・・わたしがやったの・・・・・・?」

 

 

 一面とまではいかないが、襲撃してきた敵サーヴァントの群れが自分たちを取り囲んでいた半径は全て含まれた範囲は焦土と化し。

 浅くて広い、科学では起きえないクレーターの中心部に立って周囲を茫然自失で見渡している己の魔力を暴走させてしまったイリヤスフィール。

 

 その視線の先に移るのは、着ている服がボロボロになった凛とルヴィアと、そして二人と同じく魔法少女のコスチュームがボロボロになりながらも魔法障壁を張ることで何とか凌ぎきった美遊が、ステッキを構えながら息を荒げている姿・・・・・・。

 

「なん・・・なの・・・? どうして私、こんなことになるなんて・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 戦いに勝利して、その結果におびえる姿。自分のもたらした結果に恐怖している普通の女の子。

 狂気と妄執渦巻く血塗れの世界である魔術師達の戦いに、ただ巻き込まれてしまっただけで戦場に立たされてしまっていた普通の世界で暮らす一般人の女の子。

 

 ―――それが本来、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの在るべき姿―――

 

「わ、わたし・・・こんなことになるなんて・・・・・・」

「――危ないところだった」

 

 その姿を見て、この平行世界の美遊は何かを思い、何かを考え、何かを迷って葛藤し。

 

「ご、ごめ・・・・・・」

「障壁が間に合わなかったら、私もルヴィアさんも凛さんも、一歩間違えたら全員死んでた。――貴女のせいで」

「・・・・・・ッ!!」

 

  異なる人物と出会って、異なる影響を受けて、目の前の少女に対して別の感情を抱けるようになり。

 

「貴女がミスを招き、貴女が魔力を暴発させ、みんなが危険にさらされた。貴女がいなければ、こんな危険はあり得なかった」

「うう、う・・・・・・」

「こんな事はもう沢山―――っ」

 

 それでも尚、彼女はこの時、この場所で、この夜に浮かぶ月の下で。

 

 

「私は―――二度と一緒に戦いたくない・・・っ!!」

 

 

 ・・・・・・やはり同じ選択肢を選んでしまう運命(Fate)にあった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、この後ほんの僅かに時間が過ぎた後に起きる余談話として。

 

 

「ファック!! なんとかアーチャーを倒し、鏡面世界が発生していたから大急ぎで駆けつけてみたが美遊君たちもカードも、どこにもいないではないか!!

 オマケに今回のフィールドは広すぎるだろうが! 霧の立ちこめる夜の森では空からの捜索などまるで役に立たんと言うのに・・・っ!!」

 

「ねー、マスター。ボクもう地味な作業に飽きちゃったよ~。いっそのことマスターの戦車でド派手に蹂躙走行しちゃって森の木をきれいに伐採しちゃえばいいと思うんだよね! そうすればかなり見晴らしが良くなるだろうし♪」

 

「・・・む? それは確かに一理あるような気が―――いや、ダメだ! 似たようなことを、あのバカから言われたことがあるから絶対にダメだ!

 私があの頃から成長していることを証明できないのでは意味がない! なんとしても私は自力で歩いて彼女たちを見つけ出してやる! そう私はあの頃から誓っているのだからな!!」

 

「も~、マスターは変なところで頑固なんだから、まったくも~」

 

 

 

 ・・・・・・なんと言うかこう・・・・・・魔術師の世界というのは、日常と縁を切って非日常に生きる道を選んだ人たちの世界みたいですね。そこに住んでる人たち一人の例外もなく平等に。

 

 そんな感想だけが虚しく感じさせられながら、既に無人となってる鏡面世界をロード達が無駄に歩き回った末に消滅する空間から脱出するまであと数十分ばかし・・・・・・。

 

 

つづく



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15話「先生・・・・・・私は、普通の女の子に戻りたいです・・・」「つまり復活フラグですね(ルビー)」

大分久方ぶりの更新となって申し訳ありませんでした…。
書く予定のストーリーは覚えてたんですけど、文章を忘れてしまい、試行錯誤してる内に時間がかかり過ぎてしまった上に、何か微妙な出来になってしまいました…無駄に長いですし。

せめて原文の文章を読み直してから書くべきだったと今更ながらに反省しております…。必要があれば原文バージョンで書き直すとして、流石に待たせすぎてしまったので投稿だけは先にしておくことをお許しいただければ幸いです。


 ――月が遠い。

 雲は晴れ、夜の闇は青みを帯びる。

 じき黎明。

 長かった夜を、これで終わりとするため最後の戦いの夜。

 

 魔術師達にとってのラストバトルが始まる当日の昼間のこと。

 私立穂群原学園初等部にあるクラスの一室は、重苦しい空気に一部包まれていた――。

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

『『う、うわ~・・・・・・なんか空気悪・・・て言うか、重ッ!!』』

 

 

 一人の聖杯少女と、もう一人の“元”聖杯少女(器)とが決戦の日の当日に学校で同じクラスだったから近い席に着き合って、黙り込んだまま目線すら合わせようとしないものだから周りのクラスメイト兼友達としては気にせずにはいられない。そんな状況を作り出す結界の中枢コアに気づかぬ内になってしまっていた二人の少女たち。

 

 美遊・エーデルフェルトと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 昨日までは大分距離が縮まって仲良くなっていたように見えた二人が、何故だか朝来たときには重苦しい空気と沈黙に包まれていたのである。

 

 夜に神秘ぶつけ合いしてるから、昼間の一般人たちに知られたら催眠術か口封じかの二者択一されてしまう魔術師たちの事情など知るよしもない一般人の女子小学生からみれば、まったくワケガワカラナイヨという結論に辿り着いて混沌化してしまうのは仕方のないことだったのだから―――。

 

「うーむ・・・・・・どうにもこれは・・・・・・なんか雰囲気悪いな・・・」

「うん・・・イリヤちゃんと美遊さん、ケンカでもしたのかな?」

「昨日の昼までは、ちょっとずつ美遊さんもうち解けてきた感じだったのに、いったい何が・・・?」

 

 イリヤたちのクラスメイトである女子生徒三人、栗原雀花、桂実々、森山郡奈亀が二人から少し距離を置いて対応を話し合う声すら、聞こえているのに意識する気になれないほどナニカに心囚われ黙り込んでいる夜時間限定での魔法少女たち。

 

「うォーッス、イリヤ!! 本日はご機嫌ハウアーユー!!!」

「おはよう、タツコ・・・・・・雲がとっても綺麗だね・・・・・・」

「オーウ、ソーバーッド!? なんだよ元気ねーなぁ!

 朝からそんなんじゃ放課後まで保たねーぞ! なぁ、美遊?」

「――うるさい。少し静かにして」

「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・(T_T)/~」

 

 そして仲良し四人目の友達であるメンタルうじ虫なのにKYだから自覚なき特攻をしてしまいがちな体育会系格闘少女、嶽間沢龍子がいつも通り自爆特攻して仲間たちのもとへと泣きながら戻ってきて慰めてもらうオチがつく。

 

「・・・・・・タツコ・・・・・・勇者だな、お前は。勇者と書いてバカとも呼べるが」

「ち、ちくしょう・・・、誰か俺に優しくしてくれ・・・・・・! イリヤの返事もなんか文学的で頭よさそーな気がして悔しかったし!!」

「はっはっは、よしよし。この脳ミソまでウジ虫め。アレは別に文学的じゃなかったぞ、タッツン」

 

 コントじみたやり取りが横で繰り広げられてることにも気づいていながら、気にはしないで夜の魔術師事情のことだけで頭一杯な二人の少女たち。

 

 ・・・・・・余談だが、異なる平行世界における同じ名前の同じ地域にある同じ学校の高等部において、イリヤの兄である被災経験もちなサバイバーズギルドで、おまけにファザーコンプレックスまで兼ね備えていた正義の味方志望の少年にも、同学年の女友達に近い関係を持つ者たちに似たような三人組と一人の格闘少女がいて、魔術勝負の横で似たようなコント展開を繰り広げている似て非なる平行世界も存在したりはするのだが・・・・・・余談である。

 

 と言うより、世界を隔てる次元の壁を越えるための魔術研究こそ、すべての魔術師たちの悲願である【根源の渦】へと辿り着ける大魔術のため、それが出来れば苦労はしない。万能の願望器である聖杯でさえ最初はそれを目的として生み出されてたくらいだし。

 

「ミユキチのやろー、そろそろデレ期かと思ったのに、またツンに戻りやがって!

 もつれか!? もつれた痴情がただれてるのか!?」

「それ意味わかって言ってる? ――お、ヴェルッチも到着したみたいだな」

「マジか!? よし今度こそ行くぜ! うォーッス、ヴェルッチ! 本日はご機嫌ハウアバウトユー!!!」

 

『『回復するの早っ!?』』

 

 新たに教室へと入ってきた三人目の魔法少女もとい、デミサーヴァント少女ことヴェルベット・ウェーバーちゃん。時計塔の名物講師ロード・エルメロイⅡ世が大師父の気まぐれかなんかでTS幼女化した姿のご登場である。

 

 身体が幼くなっているとは言え、自身が受け持っている教え子の少年少女たちの中には、呪詛に近い魔術を単なる生態としてクラスメイトに向けて撃ち放って、呪いが命中しても気付くことなく相手が嫌がるあだ名を呼び続けられる、仲が良すぎる超問題児で超優等生な天才バカと直弟子の臭いフェチ少年をはじめとして、教室内で魔術戦おっぱじめる問題児ばかりで溢れかえっていたエルメロイ教室を7年にわたって存続してきた実績を持った存在なのである。

 

 魔術の最高学府でも持て余すほどの『天啓の忌み子』とかと比べれば、たかが日本の小学校で仲違いしかかってるように見えなくもない女子小学生コンビ二人の諍いなど、文字通り魔術の如くアッサリと解決してくれるに違いない。

 

 そのはずだったのだが―――。

 

 

「ああ、レディ・ガクマザワ君か。こういう場合はMorning.と返すべきが礼儀なのかな?

 それとも場が教室であることを踏まえてGood morning, class.とするべきなのか・・・・・・」

「う、うォォォッ!? や、ヤベェ! 英語だ! 英語で返されちまった!? ど、どどどどうしよう!? どうすればいい!? こういう場合はえーとえーと・・・イエス!イエス!オーケーオーケー!!」

「おい、落ち着け。バカが丸出しになり過ぎて、タッツンが人としてアウトになりかけてる」

「・・・もはや、ここまで来ると才能だな・・・。この何度やられても学ばずに挑んでいくタッツンの特性を使ったら、あたしら一儲けできるかもしれない・・・」

「それは人道的にも龍子ちゃん的にも、雀花ちゃん的にさえ完全アウトになると思うよ!? 法律とか色々な理由的に!」

 

 という大騒ぎを経てからしか会話が始められない辺り、たしかに倫敦に置いてきた自習プリントの山と戦い続けてるだろう教え子たちと似ていなくもないのだが。

 しかし今回ばかりは、流石のロードⅡ世先生も分が悪かったらしい。

 

「あー、すまんヴェルッチ。このバカは置いとくとしてだ。・・・イリヤたちが“ああなってる原因”について何か心当たりとか知ってたりしないかな?

 アンタって確か、イリヤの家の隣に引っ越してきたって藤村先生が言ってたし、なんか知らないかなって――」

「・・・ああ、その事か。私も気にはなっていたのだが・・・・・・申し訳ない。今朝あったときには既にああだったため、私にも原因はさっぱりわからなくて困っていたところなんだ」

 

 沈痛そうな表情で語られた内容に、聞いてきた側もそれ以上言葉を続けることが出来ず、「そうか・・・」とだけ言い残して、何かしら対策を立てるかどうかの話し合いの場へと帰って行くクラスメイトの女子生徒たち。

 

 それを見送った後、幼女姿となった今のロードは軽く溜息をついてから自分の席へと着席する。

 『神秘の隠匿』は時計塔に所属する魔術師たちにとって最大の禁忌とされている行為なのだ。容易く何も知らない一般人である少女たちに、魔術師たちが夜の時間に行っている暗闘に関係した出来事の情報など教えられるものではない。

 まして形ばかりとは言え、時計塔の一級講師というロードの立場からすれば尚更だ。

 

 とはいえ今回の問いばかりは、如何に名探偵などと囃し立てられている彼だった過去を持つ彼女にも無理な話であった。

 

(わからない・・・・・・何故だ? ピースが何か抜けているということなのか・・・?)

 

 何かと自慢話を語りに来たがる友人みたいな何かになった石油王から、『根掘り葉掘り血管から内蔵まですべて捲き散らかすのが探偵の義務』などと舌鋒鋭く言われたことがある身だったとして、コレばかりは無理なのである。

 

 何故ならば―――

 

 

(やはり“メイド服姿”を見られたことが、そんなにイヤだったのだろうか?

 イリヤ君の方でも、アレだけの行為に及んだ相手と顔を合わせづらいというのは理解できる話でもあることだし。・・・そのはずなのだが・・・)

 

 

 そう。ヴェルベット・ウェーバーことロード・エルメロイⅡ世には、イリヤと美遊との間で精神的不和が生じている原因となった事件の存在そのものを全く知らないまま、自分が記憶している二人一緒の最後の記憶を基準に考えてしまっていたから、今一現状と噛み合わない気がして困っていたりしたのでありましたとさ。

 

 なにしろ、時系列順に考えると彼女がイリヤと美遊の関係が悪くなる前に出会った記憶では、イリヤが熱出して学校休んで美遊がメイド服姿をドアップで晒してエロゲーヒロインみたいなセリフを叫んで、イリヤがR指定まではいかずともR16ぐらいは年齢指定されそうなテンションとノリでイベントをこなすため我を失って美遊に襲いかかってたシーンが最後なのである。

 

 イリヤが自分でも知らない力暴発させて、美遊が傷ついたイリヤを見て自分一人で戦う決意を固めた日の夜にロードは、アーチャーが気まぐれでイリヤの中から引きずり出されてしまったナニカを討伐して聖堂教会との対立を避けて時計塔の平和を守るためローカル正義の味方活動で忙しかったため同行しておらず、ようやく終わって到着したときにはイリヤの魔力暴発でアサシンが吹っ飛ばされて跡形もなくなり、イリヤが逃げ出し、イリヤを追って凛たちも撤退した後だったため誰一人残っておらず、無人の鏡面空間が崩壊するギリギリまでイリヤたちを探し求めて歩き続けただけで終わってしまっていたりする。

 

 なにしろ《対魔力スキル》最弱に近いアサシンのサーヴァントで、しかも宝具による分裂能力《ザ・バーニャ》によって数こそ増えるが個々の能力値は通常のアサシンよりも更に弱くなってしまった《百の貌のハサン》に向けて長年ため込まれ続けてた魔力が暴発した訳だから・・・・・・そりゃまぁチリ一つ残さず灰燼に帰すだろう。ステータスの数値差的に考えて、当然の帰結として。

 

 何というか、なんだかんだ言いながらも面倒見がいい性格が災いして、無駄な上に最重要部分を完全に見逃し、しかも見てないシーンの直前にある最後の記憶とのギャップ激しすぎて混乱させられまくるという、凄まじく第三者から見れば空回り状態にあるのが現在の名教師ロード・エルメロイⅡ世先生でありましたとさ。

 

 所詮は隠れ潜むしか能のない暗殺者如きと言われたことのある英霊。

 ルール破って、その土地由来の実在したかさえ不明な幽霊を仮初めの疑似契約で実体化させれた場合には、逆に正面切っての戦いになるためロードの到着まで持ち堪えたかもしれなかったのだが・・・・・・。

 

 まぁ、遍く過去を見通す『目』を持っていて、異なる異相の未来から過去を類推できるギルガメッシュをサーヴァントとしてマスター契約してる者には本来、成立しないはずの矛盾だったのだけれども。

 

 言うこと訊かないし、訊いてくれても気紛れで使う時を決めるから役立つか解らないし。

 要するに大体全部、AUOのせいで今に至ってると。平行世界では、よくある事だし今更過ぎる事になった後だけれども。

 

(だが、何か引っかかる・・・・・・重要なピースを見落としてるような気がしなくもない・・・・・・何だ? 何が足りない?)

 

 

 ――こうしてロードも答えが分からず、自問自答している間に時間は過ぎ去り、昼に成り。

 夜までにはまだ時間があるけど学校は終わって家路につく放課後ティータイムとも呼ばれていたことのある、部活動やってない生徒たちにとっての帰宅時間をも過ぎた頃。

 

 

 

 

「・・・・・・はぁ・・・何やってるんだろう、私って・・・・・・」

 

 

 トボトボとした足取りで、イリヤスフィールは自宅へと通じる帰宅路から少しハズレて夕日に照らされた冬木大橋を歩きに来ていた。

 

 学校が終わった後、しばらく待ってから生徒がいなくなった時間を見計らい、自分の通う初等部と隣にある穂群原学園高等部のグラウンドに凛を呼び出し、クラスカード探索の任を降りたい旨を伝える『退魔法少女願い』を提出して受理されて、特に契約した訳ではない一方的に宣言してただけだったサーヴァント契約を一方的に破棄宣言されてお役御免となり、それを横で気配消しながら聞いてた美遊にも伝わってしまって『私一人でやるから、あなたは戦わなくていい』と断言もされてしまい、なんとなく手持ち無沙汰なまま家に直行する気になれなくなって、この場所まで道を迂回して来てしまっていた。

 

 あるいは異なる平行世界に生きる血の繋がらない義理の兄たちが、ほぼ全パターンで道に迷ったときには何故だか冬木大橋に来たがってた縁が影響した結果だったのかもしれなかったが、今この世界を生きるイリヤに別世界の実家と結婚した衛宮家の事情など全く知るはずもないので気にせずトボトボ歩くことだけ続けていって・・・・・・町の近くまで来てしまった。

 

『イリヤさん、イリヤさん。さすがに遠出しすぎなのでは?』

「・・・え? あ、本当だ。気付かなかった・・・私、こんな所まで来ちゃってたんだ・・・」

『もー、しっかりして下さいよ。今朝セラさんに“もう夜で歩いたりしない”って約束したこと忘れたんですか? 

 “戦いの中で己の未熟さを自覚して戦いから逃げ出して後悔している魔法少女”っていうのは定番ですけど、さすがに夜のオフィス街を小学生美少女が歩いて苦悩するのは感心しません。それは別ジャンルの魔法少女です。そして大抵は闇落ちします。だからダメ』

「うん、ごめんルビー・・・・・・あと、さっきから何の話をしてるのか私には全くワケガワカラナイヨ・・・・・・」

 

 微妙に解ってそうな、解ってなさそうなズレてる気もする返答を小声で返しながら、周囲の人たちに不審がられない辺りをグルリと、イリヤは見渡す。

 

 普通の日常を送る普通の人々。ほんの数週間前まで自分が属していた世界で、今また戻ってきた『普通の人間でしかない女の子』がいるべき平凡な現実・・・・・・。

 

 スーパーで買い物をしているお爺さんがいる。本屋の窓ガラスから欠伸をしているバイト店員さんが見える。

 喫茶店で高校生同士のカップルが肩を寄せ合って仲よさそうな姿に軽く嫉妬させられそうになり、夫婦喧嘩している男女に美少女が仲裁して全力での殴り合いが始まって、奥さんの右フックが旦那さんの顎に決まって噴水に落ちていく姿が視界に入――――って、ちょっと!?

 

「え? いや、ちょっと待ってちょっと待って! 今なんかおかしな光景が割り込んでなかったかな!? 平凡な日常風景に紛れ込んでちゃいけない何かこう・・・神秘の無駄遣い的なナニカみたいなものが!?」

 

 流石の傷心中なイリヤであっても、無視するのは無理がありすぎな被害甚大の日常風景の一部がぶっ壊されてく光景を前にして、大声でツッコまずに入られなくされてしまう異常現象。

 コーヒーショップの窓ガラスが割られ、テーブルは引っ繰り返され、その上に乗っていた料理の皿が飛んできて、皿にあったまま食べていないパスタのソースが―――イリヤの顔面めがけてジャストミートしに来てる。パスタだけに。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁッ!? 服が汚れて顔までベタベタになるーッ!!」

 

 間一髪、足の速さと逃げ足の速さでは大抵の相手に勝てる自信があるイリヤの悲鳴と共に発動した、超人的な横っ飛び回避によって無事に制服と顔と髪の毛を油汚れから守り切り、帰ってからセラに怒られずに済ませることを成し遂げたイリヤスフィール。

 

 だが、今の叫び声で相手に気付かれてしまったようだった。

 可愛らしい服を着てピンク色の髪色をしている、とても可愛い女の子・・・・・・だと思われるけど何か違う気もしなくもない不思議な美少女(?)がイリヤを見つけて「あれあれ~?」と驚いたように声を上げ。

 

「あっれー? 君ってたしかマスターと仲良くしてる女の子の友達だよね? 何でこんなトコロにいるのぉ?」

「い、いやあの・・・何でこんなトコロにいるのかと聞かれましても・・・」

 

 イリヤ、しどろもどろ。どうやら見たことある気がした相手の顔で合ってたらしい。

 少し前に、今さっき辞めてきたばかりの非日常空間で、翼の生えたデッカいライオンさんみたいなナニカの背に凜たちと一緒に一纏めにされて運ばれていった記憶があり、そのときの御者さんがこんな顔した美少女騎士さんだったような気がしたようなしなかったような・・・って、かすかな希望に縋って回れ右する寸前までいった寸前に起きた出来事だったため、完全に油断してましたとさ。

 

「あ、そういえば君への自己紹介はまだだったよね? ボクの名はアストルフォっていうんだ!

 何を隠そう、彼の名高きシャルルマーニュ十二勇士に出てくる騎士の一人さッ! エッヘン!!」

「そ、そーですか・・・・・・」

 

 いったい何を隠しているのか解りようがないほど堂々と宣言されてしまった、自分が普通じゃないし今の時代の人間でもない発言。

 

 さっきまで自分が望んで棄ててきた非日常の魔術師達による殺し合いワールドに戻ってこなくて良くなったことに、胸の痛みを感じていた自分だったけれども、コイツと偶然出会ってしまっただけで「やっぱり戻れなくなって良かった気」が少しだけしてきてしまうほど・・・・・・神秘を秘匿する気一切なさ過ぎなお気楽サーヴァント、アストルフォは今日も元気に待機命令無視することなく三分で忘れて街へと繰り出し騒ぎを起こしまくっておりましたとさ。 

  

「え、えーとぉ・・・あ、アストルフォさんこそ一体どうしてこんなトコロに・・・?」

「暇だったからね! ボク、家でジッとしてるのって苦手なタイプなんだよねバカだから! だからお散歩してたんだ!

 そしたら今さっきそこで女の人と男の人が喧嘩になっちゃって、ボクが間に入って仲介して上げた訳!」

「そ、そうなんですか・・・」

 

 なんとか話と意識と論点をズラそうと、テキトーに思いついた話題を口にしただけのイリヤスフィール。

 自分も知らない未知の力が宿っているかもしれないという恐怖から逃げ出すために、昨日ワケが分からないまま味方の美遊たちごと傷つけてしまって周囲一帯を爆発させてしまえるような恐るべき力があることなど考えたくもないイリヤとしては、なんとか自分が気にしている話題からハズレてくれればそれで良かったのだ。――そのはずだったのだけれども。

 

 

「だからボクは二人に言ってあげたんだよね。

 “思いっきり喧嘩して、憂さを晴らせばいいじゃないか!”ってね♪ そこで君が来たってワケ」

「やめて!? 今の私にピンポイント過ぎる過去話をするのは、お願いだから辞めようよーッ!?」

 

 

 無自覚に無悪意に、特になにか考えて言っている訳でもなく、ただ『人間大好き』を理由に良いも悪いもなく、『友達だから助けるのは当たり前』な天衣無縫の元男の娘騎士で現TS男の娘騎士アストルフォの生き方は今のイリヤにとって光り輝いていて、光輝きすぎてて眩しかったから全速力で逃げ出しました。本日二度目の逃亡です。

 

 

 

 

 

「・・・はぁ、はぁ・・・・・・、危なかった・・・。あやうく罪悪感で死んじゃうところだったよ・・・」

 

 明るすぎる天衣無縫の騎士の無垢な笑顔が、今日ばかりは恐ろしすぎたので逆方向に脇目も振らず全力疾走して逃げ出した先で、戦いから逃げ出して魔法少女を辞めたイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、壁に手をつき息を荒げながらも、戦い以外からも逃げ出したばかりの身を休ませていた。

 

『まったくです。まさかリアル男の娘の英霊なんて存在が実在するなんて! これでは小学生美少女で魔法少女という地位の優位性が危うくなってしまうじゃないですか! 最近では、そういう趣向の方々も多い世の中だというのに! イリヤさんにとって大ピンチな人でしたよ本当に!!』

「ルビー・・・さっきはソッチの心配について考えてたから、さっきは一言も喋らなかったんだ・・・・・・あと、そういうピンチだったら私的には大歓迎したいところなんだけど・・・?」

 

 落ち込んでいる暗い瞳のまま、白い目付きで魔法のステッキ待機モードを見下ろす器用なマネをやって見せながらイリヤスフィールは、落ち込んでるとき特有のマイナス思考によって、都合の悪い部分を自分以外のせいに押しつけてしまう考え方に基づいて考えたことを言ってしまう。

 

(そういう人たちが、あの人の方に集まってくれたら私の方には、マトモな趣味の人が来てくれるかもしれないし・・・・・・)

 

 といった思考法に基づく意見を、である。

 そしてイリヤは英霊じゃないので固有結界はないけど、妙な特殊スキル持ちの人間ではあり、どっかのロードと同じく《幸運値》のステータスが変なときだけ無駄に低くなる場合があるらしく。

 

 

「・・・・・・む? そこに隠れ潜んでいるのはアサシンかと思ったが、マスターが気を遣ってやっている娘か。このような所でなにをしている? どこぞの国で反乱でも起こさせるためプロパガンダに励んでいたのか?」

「しないよ!? そんな事しないよ! 私は普通の人間で、戦う覚悟とか理由なんてなかった女の子なんだから、そんなこと出来る訳ないんだからね!? むしろレベル上がってるし!!」

 

 天衣無縫の騎士に続いて、隣家に住んでる憑依英霊少女と契約したサーヴァント・パート2と遭遇する羽目に陥ってしまっていた。

 今度は黒く染まった高潔なる騎士王だった暴君様である。

 

 実はイリヤ主観だと、この二人が顔合わせて話をするのは初めてであり、記憶に残る一番新しい遭遇だと、河原でキャスター倒した直後に背後から襲われそうになって、イリヤの中から英雄王がナニカを引きずり出されて記憶がアヤフヤになった時が最も新しい思い出しかない相手だったりするのが、世界中で最も有名な聖剣の担い手の騎士王さまだったりするのである。

 とは言え、今日は最初からバイザー無しで素顔さらしての登場ではあったけれども。

 

「――って、セイバー!? どうしてここに・・・って言うかその両手に抱えてる紙パックの山はなに!?」

 

 ただし、今日はバイザーだけでなく黒い鎧も無しで、格好いいダークスーツ姿だったけれども。

 ダークスーツは格好いいのに、胸いっぱい抱えてるハンバーガーの入ったロゴマーク入り紙パックの山が台無しになっちゃっているのだけれども。

 

「ムグムグ・・・これは中々の味だな。・・・モグモグ、そのチーズ味も寄越せ。ごっくん。

 私という完璧な秩序を敷く王が、この場へ来た理由は一つだ。

 サーヴァントの使命としてマスターの指示を待っているだけでは刺激が足りない、腹も減った。

 故にジャンクフードの王様のようなパンケーキが何時まで経っても追加が届かないので王自ら赴いてやっただけの事、下らんことで私の昼マックを邪魔するな。

 店員、ナゲット5個も追加で持つがよい。モグモグ」 

 

 要するに、昼飯作ってくれる保護者の帰りが遅いから勝手に買い食いしに来た、と。そういう事を、この完璧な秩序を敷く伝説の聖剣の担い手王が黒く染まった姿は言いたいらしい。

 ・・・・・・人々の抱いた幻想、崩壊待ったなしの台無し感が凄まじすぎる、夢もヘッタクレモない姿であった・・・・・・。

 

「そういう貴様は、この様なところへ何をしに来ている? 戦う覚悟や理由を持たない自分に今更気づいて怖じ気づき、戦友を一人置き去りにして逃げ出してでも来たのか?」

「~~~ッ、なに・・・を、言って―――」

「まぁ、良い。体はともかく、心が弱い者は見ていて辛い。

 心弱き貴様が戦場に立ち続け、敵に心砕かれ膝を屈した醜態を晒すとき、私がその惨めな首を頂こうという欲求に駆られないとも言い切れないのでな。逃げるというなら早い内に超した事はなかろうよ・・・・・・モグモグ。

 店員、ナゲット十個追加だ。次は黄色いソースでな」

「~~~~~~ッ、―――――ッッ!!!」

 

 そうして、臣下が死のうと民が苦しもうと涙一つ流さなくなってしまった完璧さを求める暴君からの、優しくない正しい言葉に急所を穿たれ、今のイリヤは再び逃げ出した。

 ・・・・・・マックのハンバーガーに対してだけは、涙は流さずとも涎は垂らしてたみたいだったけれども・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・、今日は、いったい、なんなのよ・・・! まったく、もう・・・・・・っ」

 

 三度目の逃亡によって疲労困憊し、顔面蒼白になって壁に手をつき、息も絶え絶えに苦しそうな吐息をする普通の女の子に戻ってきたはずの小学生イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

 ・・・・・・その割には、今までで一番サーヴァントという不思議現象の塊との遭遇率が高くなりすぎてる気がするのだけど・・・・・・気のせいだとイリヤは思いたい。というか信じたい。

 自分は普通だ、特別な力なんてない、あんなトンデモナイ破壊が起こせる力なんて自分の中に有るわけが無い、怖い、恐ろしい―――逃げたいッ!!

 

 そういう恐怖心が理由になって怖さから逃げ出してきたはずなのに・・・・・・何故だか逃げ出した後の方が、後ろから追っかけてきて過去へと引きずり込もうとする力が大きくなりまくってるような気がするのは気のせいなんだと本気で信じたい。

 

 なんか、このままだと死者達に囚われたまま、面倒なところに引き込まれそうな予感がして仕方が無い。

 サーヴァントだって死者である事には変わりなく、幽霊か英霊か反英霊かは、大勢の人々という他人達が勝手な幻想を押しつけてくれるかどうかだけの違いでしか無い。

 たとえばケルト神話の大英雄が、全身タイツの槍男でも英霊だと思ってくれる人が多ければ英霊カテゴリーに入れられてるのと同じように・・・・・・。

 

 

「――ほう。何やら妙な気配がすると思ったが・・・・・・征服王の家臣が贔屓にしておる幼童であったか。なんだ、偉大なる我の威光に目を輝かせるため馳せ参じたか? 無理もないことだが、愛い奴よ。はっはっは」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そして最後に一番面倒くさそうなサーヴァントに遭遇してしまった、今日最後で一番の不幸なイリヤスフィールちゃん。

 出会った回数はほかの二人と同じぐらいなんだけど、もう三人目だし同類なのは間違いないし。今更驚いて慌てても、どうにもならない事は完全に熟知させられちゃった後だし。

 こうなるとイリヤに残された選択肢はシンプルに、二つに一つしか道は無い。

 

 ・・・・・・今すぐ全力で逃げるか? 面倒くさくなると承知で話を聞くか?

 不毛すぎる二者択一だけが、サーヴァント相手には太刀打ちできない普通の女の子でしかなくなった今のイリヤに選べる道だったから・・・・・・。

 

「フ・・・しょせんは食も雑種の一生も、我にとっては変わらず娯楽。そんなものも楽しめぬなら人間がさもしい証拠。――よかろう。

 我と相対した以上は存分に楽しむ義務を与える。王の食事に相伴することを許す」

 

 そして、やっぱり面倒くさそうな事態に巻き込んで来やがった!

 しかも冬木市内でも値段が高い事で有名な、超高級お寿司屋さんの前で!!

 

(どうするの!? 逃げる!? いいえ・・・・・・逃げる以外に選択肢は他にないわ!

 だって私は普通の女の子だもん!

 昨夜のアレみたいな事ができる私なんて、私じゃない―――っ)

 

「金なら、我が払ってやろう。

 ・・・・・・それとも我が招く栄誉を賜わした宴を拒否する無礼を働くか・・・・・・?」

 

「喜んでご一緒させていただきます!!」

 

 

 そして結局、巻き込まれると。

 イリヤは知らなかったが、金ピカの唯我独尊AUO様とエンカウントしてしまった時点で、逃亡不可能な強制イベントに巻き込まれており、相手の都合も神秘の隠匿も一切気にせずゲートでバビロンして、昨夜のアレクラスの爆発起こせる宝具の大量連射を脅しに使ってこれる暴君英霊様に普通の女の子が我を通そうなんて言うのは命知らずにもほどがある蛮勇の極みだったのだから・・・・・・。

 

 

「へい! らっしゃい! 大トロお待ち! アワビお待ち! 赤貝二枚お待ちぃッ!!」

 

 そして始まる、怒濤の高級寿司屋で高額メニューのオンパレード。・・・庶民には色々と嬉しいけど苦しくもある状況です。

 異なる平行世界で生きてる、西洋のお城で見た目に相応しいお姫様な生活送っている自分自身だったら別として、この世界で中流家庭に生まれ育ってる庶民のイリヤスフィールには立場的にチト辛い。

 

「遠慮はいらぬ。王の隣で食を楽しまぬなど万死に値する」

「は、はぁ・・・・・・えっとそのぉ・・・」

「それとも何やら、つまらぬ些事に捕らわれ食事も楽しめぬ程さもしい心情にでもなっておるのか?」

「つ、つまらないって・・・・・・」

 

 さすがにイリヤスフィールは、その言い草にはカチンとくるものがあった。

 確かに自分たちから見て強すぎる相手にとっては、その程度の事かもしれない。だけど自分だって、そして美遊だって必死になってやってた事で、逃げたのだって別に戦いが怖くなっただけじゃなかったし・・・・・・

 

「そ、その・・・最初は正直、興味本位って言うか面白半分だったって言うか・・・・・・。

 魔法少女なんて言っても、やってることは命がけの戦いで、私は本当に死にかけてた事に気づかされて・・・・・・今頃になってミユが言ってた思い出して・・・・・・私には“戦うだけの覚悟も理由もありはしなかったんだ”って言葉が突き刺さって・・・・・・、考えが甘かったって思い知らされたから・・・・・・だから!!」

 

 

「足りぬな。それは自ずから考えた答えではなく、見つけ出した答えであろう?」

 

 

「・・・・・・ッッ!!!」

 

 

 隣に座ってアワビを頬張っていた黄金の英霊から放たれた言葉の刃が、イリヤの心の心臓に穴を開ける呪いのように、美遊の言葉以上に深く穿ち貫かれた瞬間だった。

 

「幼童ならば、それらしくしか出来ぬことを気にかけるのは傲慢というものだ。

 雑種の娘よ、お前はどちらだ?

 貴様が今述べた理屈は、貴様が選んだ意思での選択によるものであったか?

 思考を放棄し、命運の流れを言い訳にした名も知らぬ他者の傀儡としての選択であったか?」

「わ、わたしは・・・・・・私が選んだ道は・・・・・・っ」

 

 ―――どっちだったのだろう?

 自分で望んだ事のはずなのに、胸が痛い・・・・・・この選択は本当に自分で選んだ答えだったのか・・・?

 ただ大好きなアニメの中で主人公達が思い悩んでいたときのセリフや苦悩するシーンを、言い訳として今の自分に当てはまっているものを見つけ出してきて、口にしていただけだったかもしれない・・・・・・。

 

「――疑問が生まれたか。ならば良しとしよう」

「え・・・?」

 

 イリヤの心を見透かしたように黄金の英雄王は、笑いながら言葉を続ける。

 

「ウルクの民ならば、お前ぐらいの年頃には心根が完成している者も多かったが、この時代の雑種にそこまでは期待するだけ無駄な徒労というものよ。

 だが、いずこかの異相で我と契約せし幼童は、忠臣に値する者としての記憶を座に持ち帰るだけの価値を示した。

 お前も征服王の臣下の友とならんと欲する者ならば、その程度のことはやってのけよ。

 ・・・・・・でなければ、貴様が認められぬ事を気にかけておる小娘に置いていかれるだけで終わるぞ?」

「―――ッ!!」

「盲信を打ち破る礎として試練は与えてやった。

 幼童に相応しき、それらしい試練をな。励めよ、小娘」

 

 

『毎度、ありがとうやんした―――ッ!!!!』

 

 

 颯爽と背を向けて去って行く黄金の若者に、亭主一同深々と頭を下げて最上級客並の感謝を込めて、巨万に近い富をたった一食だけで置いていってしまったお大臣様に捧げ、他の客は唖然とし―――イリヤ一人だけが沈黙したままナニカを深く考え込んだ後、ゆっくりと席を立って店を出る。

 

 自分が何をすべきかは分かっていない。自分が何者なのか、この力がなんなのかも分かっていないし、怖くて怖くて仕方がないのも何一つ変わっていないけれど―――一つだけ分かった事がある。

 

 

「・・・・・・いったん、家に帰ろう・・・・・・」

 

 

 ――ただ、それを選ぶには僅かに足りない。自分の中で整合性が取れてない、納得がいってない。自分で選んで出した答えじゃない。

 だからこそ、今は帰る。家に帰ってお風呂に入って――考える。

 

 今の自分の始まりの場所で。力を与えてもらった場所で。この戦いが始まった場所で、もう一度―――戦いに参加する理由が自分にあるのかどうかを考えたい。

 

 そう思う気持ちが自分の中に生じた事だけは分かっていたから―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして、その頃。

 

 

「イヤッホゥ! イリヤちゃ~ん!! お・ひ・さ~~~ッッ!!!

 ママが一時帰宅して帰ってきたわよ~っ、だから今はこうしてスキンシップを―――って、あら?

 イリヤまだお風呂に入ってなかったのかしら? おかしいわねぇ~。セラ、イリヤは今どこにいるの? もう帰ってきてる時間のはずでしょ?」

「奥様・・・申し訳ございません。

 先ほど隣の屋敷に住んでいる女の子から、“うちの連中がお宅のお子さんを引っ張り回していたらしく帰りが遅くなってしまいました”という連絡がありまして・・・・・・。

 今さっき、未遠川の近くにある高級寿司店を出たばかりとの事でしたので、ご帰宅には今しばらく時間がかかるのではと・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 ―――こうして、久しぶりに一時帰宅してきたイリヤのお母さんは、いったん戻ってきた自宅から一端外に出戻ってきて、再びタイミングを見計らって帰宅できるよう、今度はメイドのセラに連絡してくれるよう携帯電話も渡してもらってからリテイクしに行きましたとさ。

 

 時間軸の順番が少しでもズレたら成立しなくなる重大なイベントが、起きるか起きないかで人の運命というものは結構変わる。

 そして自らが体験した時間軸での出来事以外には、人は己の持っていたかもしれない現在のために捨て去ってきた可能性上の現在を知ることは出来ない。

 

 存外に近くに落ちていたかもしれない、奇妙な可能性上の分岐した平行世界を、人も英霊もほとんどの者は気づく事なく今日も昼の時間が終わり―――魔術師達の夜が訪れる。

 

 

 

 

「さぁ・・・覚悟はいいわね。ラストバトルを始めるわよ!!」

 

 

 

つづく



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