Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 (放仮ごdz)
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プロローグ#Zero:憤怒の兆し、炎の記憶

そこは、地獄だった

 

 

 

 

歩く。歩く。ただひたすらに、歩く。そこは見慣れているはずの道だった。建物が多く広がっているはずだった。

 

決して道なき道が、赤い空が、崩れた建物が、熔けているナニカが、そして何より、全てを飲み込んだ忌々しい炎が。広がっているはずがない、場所だった。かつては日常の象徴だった光景は、既に失われた。

 

 

あの、黒い孔(・・・)から落ちて来た泥によって、私の住み慣れた街は劫火に飲み込まれ地獄になった。

 

 

無感情に歩く。かつて人だった黒焦げの物体を踏み付け、瓦礫の山の上を行き、例えそれが赤ん坊の様な形をした何かだとしても何も感じず無情に潰して焼けつく風の中、歩みを進める。ただ、生き残るためだけに感情を捨て、無心に歩く。忘れるな、私は死ぬ訳には行かない。なめるな、この程度の炎で私の怒りが燃え尽きて堪るか。

 

 

目の前でゴロリと、黒焦げの死体から頭部が取れて目の前に転がり、心拍数が上がり動揺するが、今の自分の姿を見下ろして冷静になる。

光を失った淀んだ瞳、煤で汚れた白い肌、お気に入りだったリボンは燃えてしまい前髪を垂らして貞子の様になっている、ウェーブのかかっていたはずなのに微塵も感じさせないボロボロの長い黒髪、かつて白かったが今や汚れて灰色になってしまったワンピースは、私の様な八歳の少女が身に付けているべき物じゃない。

 

そうだ、この程度で動揺するな。こんなもの、この数時間でもう見慣れてしまっただろうに。…いや、数日前から私はこういう物を見ているんだ。いい加減慣れろ、一々動揺していたら助かる物も助からない。今はただ、ここから逃れることだけを考えろ。

諦めるな、死んでも歩け。何が在ろうと生き抜け。復讐しろ、この事態を引き起こした奴等を滅ぼせ。

 

 

 

・・・復讐? 何故? 誰に?

 

・・・まあいい。目的は何でもいい、決まっていればそれを糧に生き残れる。

 

 

――――お前の所為で滅んだ

 

 

私には関係ない。

 

 

――――お前の所為で死んだ

 

 

ああそうだ、私が何もしなかったから弟は無残に死んだ。

 

 

――――お前の所為で失った

 

 

・・・違う。勝手に死んだんだ、私と違って生きようとしなかったから両親は死んだんだ。

 

 

――――お前の所為で生きられなかった

 

 

知るか、生きようとしないのが悪い。

 

 

――――お前の所為で折れた

 

 

私の所為じゃない。

 

 

――――お前の所為で殺された

 

 

ああそうだ、私が助けようともしなかったから弟は殺された。

 

 

――――お前の所為で奪われた

 

 

私も全てを奪われた。奪ったのは私じゃない。

 

 

――――お前の所為で壊れた、壊された

 

 

壊れたのは自分のせいだろう。「平和」を壊されたのは、私も同じだ。

 

 

――――お前の所為で憎んだ

 

 

憎むべきはこの惨状を生み出した要因だ。私じゃない。

 

 

――――お前の所為で欲した

 

 

欲するのはいいことだ。恨んでどうする?

 

 

――――――――お前の所為で怒った

 

 

いいじゃないか、怒らないとやってられない。

 

 

――――――――お前の所為で諦めた

 

 

諦めるな。それだけは断言できる、諦めたらそこで全てが終わる。逆に言えば、諦めなければ絶対に終わらない。

 

 

 

――――全てお前の所為だ。全罪だ。

憎い、お前が憎い。死ね、死ね、死ね!お前の所為だ。罪状を言おうか――――復讐せよ――――

 

 

・・・もういいよ。全部私のせいでいいから、もう私の頭の中でほざくな。鬱陶しい、目の前に集中できない。

 

 

――――お前、なんなんだ?

 

 

お前がなんなんだ。

 

 

――――俺か?俺はこの惨状を生み出したお前の言う「要因」、この世全ての悪(アンリマユ)

 

 

お前の所為か。死ね、お前が死ね。いや、この惨状を元に戻してから死ね。

 

 

――――無理だな。俺は願いを叶えただけだ。つまりただの道具だ、この惨状を願った奴は別にいる

 

 

でも、あの孔から泥を落としたのはお前なんだろ?じゃあ関係ない、死ね。

 

 

――――お前、そればっかりだな

 

 

怒るのは当たり前だろう。この怒りは当然の物だ。全てを奪われて、怒らない奴がどこにいる?

 

 

――――そこまで露骨なのはお前しかいねーよ

 

 

で、なんなんだ。さっきのは。目障りだ、もう喋るな。

 

 

――――この世全ての悪意、呪いだ。お前はそれに耐え切っちまったんだ。大したもんだ、何で死なない?

 

 

むしろこっちが聞きたい。あの程度で何で死ぬんだ。

 

 

――――お前以外はあらかた死んだぜ?あの泥はそういう代物だ

 

 

ああ、なるほど。悪意に蝕まれて心が死んでしまうと、お前はそう言いたい訳だ。

 

 

――――ああ。お前には一ミリも効いちゃいないがな。俺はそれが不思議な訳だ

 

 

答えは簡単。この程度に屈する訳にはいかない。私は生き残らないと行けない、復讐しないと行けない。貴方が言う、「願った奴」じゃない、この一連の災厄の「元凶」にだ。そのために心は捨てたんだ、心が在ったら、私は壊れてしまうから。

 

 

――――なるほど、お前は既に心が死んでいた訳だ。それを強力な意思を持って自我を保ってるんだな。今の時代にはそう言う奴もいるのか、英雄気質だなアンタ

 

 

英雄なんてなりたくもない。世界なんて救う価値なんてない。一瞬で壊れてしまう物なんて、何度救っても限が無いからね。

 

 

――――ほう、お前はこの世全ての悪(オレ)があってもいいと言うのか

 

 

あっても無くても変わらないってだけ。死んでしまえば全部一緒。どこかの藪医者が「人に忘れられた時、本当に死ぬ」と言っていたが私はそうは思わない。人は、死んだらそこで終わりだ。生き返る事も、死に方を変える事も出来ない。

 

 

――――言うじゃねーか。ああそうだ、死んでしまえばもう既にそこには正義も悪も無い

 

 

そう、だから貴方がこの世全ての悪だろうと関係ない。だけど、それでも。

 

 

――――ん?

 

 

殺されたと言う「理不尽」だけは、死んでも尚、必ずそこに存在する。私はこの理不尽に怒るんだ。理不尽を与えた誰かに怒るんだ。

 

 

――――それが、神様・・・いや、世界が与えた運命だとしてもか?

 

 

そう。世界が与えた理不尽なら、私はそんな世界を否定する。神様が与えた理不尽なら、私は神様だって殺してみせる。理不尽だけはこの世に在ってはならない。貴方がこの災厄を起こしたのだって、誰かの「理不尽」な願いの所為だ。

 

 

――――ああ、そうだな。俺がこの世全ての悪にされたのだって、そんな理不尽の所為だ

 

 

悪とかは関係ない。ただ、理不尽がそこにあるだけ。だから人は苦しむし、私だってこんな災厄の真っ只中に居る。だけど。

 

人の願いで生まれた理不尽な災厄?

 

多数の人間に理不尽な死を与える大火災?

 

だとしたなら、私は絶対に死なない。意地でも死なない、死んでも死なない。死んだ部位を斬り捨ててでも、何としても生きてやる。そしてこの理不尽を与えた「誰か」に復讐するんだ。同じ理不尽を与えて。

 

 

――――お前、矛盾している事を言ってるぜ?

 

 

ああそう、私は理不尽を許さない。だけど、理不尽を与えた奴が理不尽で死ぬのならそれはただの自業自得だ。

 

 

――――本当に8つの餓鬼なのか末恐ろしく思うね、俺は

 

 

・・・もうね、数日前から子供らしい思考なんて捨てたんだ。私は弟の死を受け入れないと行けなかったから。あのギョロリとした目、忘れはしない。あの整った顔のオレンジ髪も、弟の変わり果てた姿も。忘れもしない、私の目に焼き付いている。

 

 

――――納得したぜ。お前、キャスターの犠牲者の親族か。そりゃ子供じゃ居られないわな

 

 

今はこの景色も、両親の変わり果てた姿も、泥が落ちて来た孔だって全部私の目に焼き付いている。でも、例え私が生き延びて全部喋ったとしても頭のいい大人は、認めようとしないだろうね。私が狂ったとでも言うんだろう。だから誰にも言わない、私がやらないと行けない。

 

 

――――やり方はどうする?ただの餓鬼が、怒りだけで理不尽に挑めるのか?

 

 

まずは理不尽に対抗できる()を手に入れる。そして、貴方を使う。

 

 

――――お?

 

 

願いを叶えるんでしょ。だったら貴方を使って、復讐を成し遂げてやる。

 

 

――――そいつはいい。何の因果か俺も復讐者(アヴェンジャー)でな?同じ理不尽で全てを壊された者同士だ、喜んでその復讐に力を貸してやるよ

 

 

ありがとう、アンリマユ。

 

 

――――だが生憎俺は最弱でな?願いを叶える程度しか力を貸してやれない

 

 

大丈夫、私はどんな手を使ってでも強くなる。怒りが在る限り、私は復讐を諦めない。

 

 

――――そうか。だったらまずは生き残れ、君ならできるだろ?

 

 

言われなくても生き残る。もう、希望は見えた。

 

 

 

風が吹き荒れる。一瞬、炎が膨れ上がりこちらを飲み込もうと迫る。だがそれがどうした。

 

 

「死んで、たまるか…!」

 

 

理不尽にだけは、屈しない。身を丸め、突進して炎の壁を突き破る。その先には、炎が届いていない無事な道路が広がっていて・・・・・・・・・やっと、地獄を抜けられた。同時に、倦怠感が私を襲う。そして瓦礫に足を取られて転倒し、意識が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから十年、私は目が覚めた病室に訪れた神父に引き取られ、まあそれなりの平穏を過ごしてきた。…うん、それなり。もう一人の父親のせいでちょっと平和とは呼べない平穏だけども、あの地獄よりは平穏だ。

精神統一できるからという理由で入部した弓道部では部長も務めた。後輩にも慕われている、だがそれでも、忘れる事なんてできやしない。

 

あの大火災は日本どころか世界に震撼させる大災害として報道されたが、その直前にあった「いざこざ」は無かった事にされていた。正確には、大火災の印象が強過ぎると言うのもあるのだろう。それでも、私は忘れない。育ての親に教えられた・・・「魔術師」がもたらした理不尽を。

 

 

力を得たんだ。

 

理不尽の正体を知ったんだ。

 

願いを叶える訳には行かなくなったけど。

 

 

それでも、私は貴方を求める。理不尽と戦う。怒りを糧に、理不尽をねじ伏せて見せる。

 

 

そう誓い、橋の上からすっかり復興された新都を見下ろしながら立ち上がった私は、視界の端で主張する右手の甲に刻まれた赤い蜘蛛の様な刺繍を見て微笑んだ。

 

 



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プロローグ#1:悪鬼羅刹

はいどうも放仮ごです。前々から考えていた、色んな作品のキャラクターをサーヴァントにしてFate小説に手を出します。最初はGrandOrderにしようと思ったんですが、何かこのサーヴァント達が居たらパワーバランスが成り立たないので、はくのんもどきなオリ主持参で書いてみました。

オリ鯖を出す過程で兄貴以外のサーヴァントは変更して居る他、主人公がバーサーカーなので士郎たちのサーヴァントが変更しています。

Fateは書いた事無いので拙い文章ですが、どうぞ。


冬木市:新都の冬木中央公園

かつての第四次聖杯戦争で起こった大火事の跡地である人気のない寂しい広めの公園にて、一人の少女が自らの血で描かれ、赤く輝く魔法陣の前で手をかざして立っていた。

 

その少女は、齢18歳の卒業間近の高校生にして聖杯に選ばれたマスターだった。第五次聖杯戦争…魔術師達が己が剣である英霊で殺し合う儀式に選ばれてしまった、大火事に巻き込まれて孤児になっただけで魔術師ではないはずの少女だった。

 

この新都にある教会でとある二人の男…の片方のキンピカの男に何故か気に入られて世話になっているのだが、ある日右手に痛みを感じてそれをもう片方の男…神父であり父親代わりでもあるその人物に相談してみた所、それは令呪と言う聖杯戦争の参加資格だったのだ。

 

そしてその聖杯戦争の監督役であり第四次聖杯戦争の実質的な勝者でもあるその男に話を聞き、ついでにキンピカの男がそのサーヴァントであると知った。

 

それでキンピカから「自分達が守るから参加しろ」と言われ、そのままこの地が大火事の被害者たちの無念が詰まっている場所だから、火事に巻き込まれたお前の血と合わせていい触媒になると言われ、遠見からキンピカが見守っている中で詠唱を行なっていた。

もう何だか分からない上に文句も言わせてくれなかったから、今度キンピカに泰山の麻婆を喰わせようとか考えてはいるが今はその雑念を絶たねばならない。

 

少女は息を吸い、神父から教えられ何とか記憶した呪文を詠唱して行く。

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する―――――Anfang(セット)!――――――告げる」

 

 

確かな手応えを感じて笑う少女。よく分からないがドクンッと心臓が跳ねた。直感的に感じたのだ。武者震いとでも呼ぼうか。

 

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

そこで彼女は、キンピカから「またあの狂犬の様な雑種と相対するのは(オレ)が許さん」とか言われて教えられたその一節を加える。

 

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者―」

 

 

溢れだす赤き闘気に、遠見で見ていたキンピカは身を震わせ笑う。かつての自分と同じ、神に仇なった男。数多の泣き声が響き渡るあの場所なら来るだろうと直感していた。生憎、その性質上から狂戦士か復讐者のどちらかでしか呼べないが問題ない。あの、別の(オレ)が我が雑種と認めたあの者と同じ魂の質を持っているあ奴が使役するのなら、いずれ自分にも匹敵する強者となろう。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天」

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――」

 

 

これは大魔術の下準備。己が武器となる英霊(サーヴァント)を呼び出す儀式である。輝きが増す魔法陣。そして現れたのは、疲弊を表す様にくたびれた白髪、優しげな光を放つ目に、上半身は半裸で裸足、炎の様な絵柄の付いている青い道着の様なズボンのみ身に纏った、岩の様な肌で二メートル近い大男だった。

 

 

「…サーヴァント・バーサーカー…でいいのか?一応問うぞ、お前が俺のマスターか?」

 

「…ば、バーサーカー…?」

 

 

理性を保っている狂戦士はそうぶっきらぼうに口を開き、少女はその事実に驚きを隠せない。キンピカ曰くバーサーカーは真面に意思疎通は不可能と知らされていただけに驚きと、その事から会話は期待できないと思っていたのが大きい。

 

 

「…もう一度聞く。お前が俺のマスターか?」

 

「…え、うん。私は、黒名。…言峰黒名(ことみね クロナ)

 

 

少女、クロナは右手に刻まれた、蜘蛛の様な形状の令呪を見せる。それを見たバーサーカーは満足気に唸ると視線をずらした。その方向は…キンピカが遠見している方向だった。

 

 

「ならマスター、さっそく始めるぞ」

 

「…え?」

 

 

そう叫んだバーサーカーは地面を蹴って一瞬で姿を消した。否、キンピカの元へ跳んでいた。そこでクロナは見た、彼の瞳が白目になり怒りに満ちた表情になっている事を。

 

 

「ほう、来るか。雑種め」

 

 

キンピカ…否、最強の英霊であるギルガメッシュは自身の宝具【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】を発動、背後の空間を歪めてそこに出現した数多の宝具と呼ばれる武具の数々を射出する。しかし次の瞬間、彼は驚く事になる。

 

 

「ウオォオオラァアアアアッ!」

 

「なにっ!?」

 

 

バーサーカーはそれを見ると空中で肘から魔力の炎を噴出し加速した左腕でまず最初に飛んで来た大剣を掴むとその場で何回か回転して宝具の束を避けると、遠心力を伴った大剣を投擲。

ギルガメッシュは最初、あの雑種と似た様な事をすると別の武具でそれを撃墜するも、次の瞬間には眼前にバーサーカーが迫っており、拳を振り上げていた。

殺す気で放っていたアレが囮…改めてこの英霊の技量を見直し、苦肉の策と「我が友」を宝物庫から出そうとすると…クロナの声が英霊としての聴覚に聞こえた。

 

 

「待ってバーサーカー。その人は味方、攻撃しないで」

 

「ッ!」

 

マスターの命令に、ギルガメッシュの顔面に直撃する直前に静止する拳。ギルガメッシュは今にも宝物庫から「我が友」を出そうとしていた矢先だったが、その前に殴り倒されていたのは容易に想像できる。簡単に言えば、切札を出す前に当たり所が悪かったらやられていた。自分に匹敵するその存在にワクワクする自分もいるせいか、不思議と怒りは湧いてこなかった。

クロナの元へ戻るバーサーカーを見ながら余裕の表情を形作り、ギルガメッシュはバーサーカーをぼそぼそと叱っているクロナの元へ降り立った。

 

 

「雑種よ。存分によい英霊を引いた様だな。これならば勝利も不可能では無かろう」

 

「…うん。それはいいんだけど…バーサーカー、何故いきなり王様に襲い掛かったの…?」

 

 

問いかけてくるマスターに、バーサーカーはムスッとした顔で不機嫌そうに唸るが、ジロッとクロナが睨むと溜め息を吐き口を開く。

 

 

「この場で聞こえる泣き声が、全ての元凶がそこのキンピカだと喚いている。俺は貴様が気にくわん」

 

「雑種共の怨念を聞くか。それはさぞ、頭の中が五月蠅いのだろうな?」

 

「・・・?」

 

 

無言で訪ねてくる緘黙なマスターに、その眼から心配の意を汲み取ったバーサーカーは口元を吊り上げて笑った。

 

 

「止まない泣き声には慣れている。むしろこの泣き声は俺の怒りを増長する物でしかない」

 

「…それはそれで問題。バーサーカー、私はこの聖杯戦争で何としても勝って生きたい。聖杯による悲劇を失くしたい。聖杯を壊すために貴方を呼んだ、だから力を貸して」

 

「…マスターは怒っているのか?聖杯なんて物のせいで何かが失われる事に」

 

 

マスターである少女の瞳に、生前の自分が世界そのものに感じていた怒りに震える光を感じ取ったバーサーカーは問う。己の原動力足りえるそれが少女に在るのか否か。

 

 

「…うん。大火事で家族を失った、全てを失った。

 

王様達から歪んだ聖杯が起こした災厄だと聞いた。

 

元凶がアインツベルンって言う魔術師の家系が第三次聖杯戦争で呼びだした復讐者のサーヴァントだと知った。

 

魔術師なんかの都合でまた悲劇が起こるのだけは許さない。

 

私から全てを奪った聖杯とアインツベルンも許さない。

 

…貴方が聖杯を望むのならそうする。だけど、貴方はちゃんと怒りを覚える者の味方だと知っている。

 

卑怯かもしれないけどお願い、力を貸して。バーサーカー」

 

 

頭を下げるクロナ。それを腕組みし笑みを浮かべながら見下ろすギルガメッシュ。無言でマスターを見詰めるバーサーカー。どれぐらい経ったか…バーサーカーは、満足気な笑みを浮かべて手を差し出した。

 

「お前がこの世界に怒ると言うのなら、力を貸そう。怒るだけじゃ何も守れない。だがお前には戦う覚悟がある、それなら戦う手段が無いとな」

 

「バーサーカー…」

 

 

頭を上げるクロナ。目の前に差し出された手を握ると、バーサーカーは懐かしげに目を細めると真剣な表情で告げた。

 

 

「サーヴァント、バーサーカー。真名【アスラ】。幼子一人守れぬ力だが…言峰クロナ、テメェに力を貸してやる」

 

 

遥か太古の時代。ギルガメッシュが生前生きていた古代メソポタミアよりも古い、されど今よりも遥かに進んだ科学技術で神民と呼ばれる人間達から選ばれサイボーグ化した七人の将「七星天」が、何の力も無い人間達に神と崇められている時代で、その神に全てを奪われその怒りで地獄から甦り、悪鬼羅刹と呼ばれた神々の裏切り者とされた男…アスラ。

 

それがバーサーカーの真名。娘のために、消滅すると分かっていながら父親として創造神までもを殴り倒し、文明と共に消え去り次代に繋げた…神。その生き様は娘の口から語り継がれ、阿修羅神の原点としても知られている「怒り」の権化。そんな彼の優しさに、クロナは控えめに笑った。

 

 

 

 

 

彼女は知らない、自分の育ての親である二人がその火事を引き起こした要因だと。

 

彼女は知らない、同じ火事を生き抜いた姉弟とも言える少年と殺し合うことになるのを。

 

彼女は知らない、愉悦の肴にされている事を。

 

これは、この世の全てに怒る主従の物語。




主人公:バーサーカー
衛宮:アーチャー
遠坂:ランサー
アインツベルン:セイバー
間桐桜:ライダー
???:キャスター
???:アサシン


セイバーはアルトリアじゃありません、一応念のため。しかし流れはセイバールートが主体。次回は取り敢えず主人公とバーサーカーのプロフィールのつもりです。感想などをいただけたら嬉しいです。


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主人公設定&サーヴァントステータス(常時更新)

一応ネタバレ注意。最初はクロナとバーサーカー、ギルの設定です。
本編で増えるたびに追記して行く予定です。

※8月17日、セイバー・ランサー・アサシン追加。
※8月19日、ライダー追加。
※8月20日、アーチャー追加。アサシンの切り替わった姿追加。
※8月26日、バーサーカーの宝具追加。
※8月28日、セイバーの宝具詳細を一つ開帳。
※8月30日、バーサーカーの宝具詳細を一つ開帳。
※9月7日、アーチャーとライダーの真名他ステータス解放。
※9月8日、ランサー真名解放と宝具詳細を一つ開帳。キャスター追加。
※9月21日、イフ=リード=ヴァルテルのステータス追加、アサシンのマスター解放。
※10月3日、キャスターの真名解放と宝具詳細を一つ開帳。
※11月15日、アーチャーの宝具詳細を全て開帳、スキル二個開帳。サモエド仮面追加。
※12月19日、キャスターのスキル追加、バーサーカーの宝具詳細を一つ開帳。
※2月6日、セイバーの宝具詳細を一つ開帳。ランサーの宝具詳細全て開帳。
※2月23日、アサシンの切り替わった姿にクラスとステータス追加。
※2月26日、アサシンの切り替わった姿追加。アサシンの宝具詳細追記。
※2月27日、アサシンの切り替わった姿追加。
※3月31日、アサシンの切り替わった姿追加、アーチャーのスキル開帳。

本当にネタバレ注意です!


言峰黒名

年齢:18歳

性別:女性

誕生日:8月30日

星座:乙女座

血液型:A型

身長:159㎝

体重:46kg

スリーサイズ:B81/W55/H82

イメージカラー:灰色

特技:家事、無言の威圧、諦めの悪さ

好きなもの:コーヒー飴、泰山の麻婆など辛い物全般、マフラー編み

苦手なもの:炎、愉悦、凛、タイガー

天敵:イリヤ、間桐臓硯、アサシン

 

概要

言峰綺礼の義理の娘でありバーサーカーのマスター。緘黙、無表情が似合うクールビューティーな女子高生。弓道部に所属していた元部長。趣味は料理と教会の掃除、日向ぼっこ。風を受け止めるのが好み。

普段は冷めており滅多な事には動じず淡々と物事を進める合理主義だが、大火事や魔術師関係となると溜めていた鬱憤が爆発し一転して攻撃的になる。バーサーカーの影響で怒りを覚えやすくなっている傾向がある。しかし分かり切っている挑発には乗らない。ただしノリにはちゃんと悪乗りする。

愛情を拒絶している節があり、父親としてそぐわない綺礼との関係は良好。冷めてるぐらいがちょうどいい。ギル曰く「子供としては枯れている」。もちろん愉悦には興味なし、むしろ好ましくないが否定はしない。よくも悪くもどちらにも転がらない「灰色」の少女である。

バーサーカーについては、本当の父親の様に頼もしく感じており実力についてもギルのお墨付きなので多大な信用を向けている。利用している事からの罪悪感を感じていはいるが、それを承知で付き合ってくれるバーサーカーには感謝しても足らない。ただギルとは仲良くして欲しいと思っている。

 

・能力

魔術回路は綺礼曰く破格の量で、イリヤには及ばない物のバーサーカーの尋常では無い魔力消費にも軽く耐えれる程。起源は不明だが「改造」に適している。魔術に対して「嫌悪感」と言う形で察知する能力がある。

魔術師を毛嫌いしている事もあり、極力魔術は使わないが「魔術使い」として「強化」の魔術のみ習得している他、代行者として綺礼に鍛えられており黒鍵を用いる中距離戦が得意。

また八極拳も使えるが、さすがに現役時代の綺礼には遠く及ばない。代わりにギルガメッシュの戯れを受けた結果として無駄に回避力が高かったり、弓道部で身に着けた達悦した狙撃能力を持つ。強化したマフラーを弓に黒鍵を矢とする芸当も可能。生きる為なら捨て身行為も厭わない度胸を持つ。

 

・人間関係

親代わりの二人を除いて非常に複雑。綺礼は「父さん」と呼んではいるが冷めた親子関係で、好きでもないが嫌いでもない。ギルに対しても似た様な物で「王様」と呼んで敬ってはいるが過剰なまでのちょっかいにうんざりしている。それでもこの二人との関係は気に入っており感謝もしている。

同じく大火事を生き抜いた衛宮士郎とは姉弟の様な絆を持つが、義理の父親が共に敵同士だと言う事を知っている為に家族ぐるみでは親しくせず、先輩後輩の関係で務めている。切嗣が亡くなった後は料理を教えてもらいに通っているため、桜やタイガーとも顔見知り。士郎と桜は特に見捨てられない、と感じている。

遠坂凛とは綺礼が兄弟子なために顔見知りではあるが、魔術を知らない養子として紹介されている為こちらも学校での先輩後輩か八極拳を共に習った姉妹弟子である程度の関係。現弓道部部長の美綴綾子とは仲がいい普通の友人だが、副部長の間桐慎二の方は極力関わろうとはしない。弓道部の元部長でありながら桜の兄だとも気付いていなかった。

 

・容姿

見た目は黒髪と白銀色の瞳を持つ岸波白野(女)。髪はポニーテールに纏めている事が多い。服装は制服に黒いマフラーを巻いているか、綺礼が選んだ(アルトリアの普段着の色違い)白のシャツと黒のスカートの服と白いマフラーを巻いている。常に黒ニーソ着用。マフラーは夏でも着けている(夏用だが)。色が付いている服は好まない。特に赤系統が嫌いでそのことから凛に苦手意識を持っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

バーサーカー

クラス:狂戦士(バーサーカー)

真名:八神将アスラ

マスター:言峰黒名

性別:男性

身長:189㎝

体重:91㎏

出典:アスラズラース

地域:地球上の何処か

属性:混沌・中庸・星

イメージカラー:赤

特技: 殴り込み、逆境に対する強さ

好きなもの:ミスラ(娘)、ドゥルガ(妻)、バイクの手入れ

苦手なもの:人の泣き声、赤ん坊の扱い、自分自身、理不尽な世界その物

天敵:ギルガメッシュ、大義のために家族を斬り捨てる奴、世界を支配した気になってる奴

CV:安元洋貴

 

ステータス:筋力A++ 耐久C++ 敏捷C++ 魔力E 幸運E 宝具A++

 

スキル

・狂化C-:狂う代わりにステータスを上昇させる。ただし、後述の憤怒EXの恩恵でいくらでもステータスを上げられるために必要が無く、任意で、または泣いている人間がいると狂化がEまで下がって意思疎通が可能となる。任意で再度狂化することも可。

 

・神性D:一応神そのものだが悪鬼羅刹と一度堕ちた為にランクは低い。

 

・怪力A:人ならざる者の剛力。頑丈な脱出ポットに引き籠もった神でも簡単に圧殺する程の力。

 

・騎乗D:乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。本来はセイバー及びライダーのクラススキルだが、彼は生前バイクに精通していたためある程度操れる。

 

・戦闘続行A+:所謂「往生際の悪さ」。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、腕がもげる、胸が穿たれるなどの瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。その往生際の悪さが生前の彼の生き様を支えていたと言える。

 

・神殺しA:詳細不明。戦いの果てに創造神も屠り去る実績を得ており、その力の証左と思われる。

 

・憤怒EX:固有スキル。怒れば怒るほど魔力と幸運以外のランクが無制限に上昇するスキル。しかし一定値を超えると「否天」と化し、令呪以外の命令を一切受け付けなくなる暴走の危険性も。

 

・怒のマントラA:固有スキル。魔力とは別の物。怒れば怒る程に溜まり、マスターの魔力供給とは別に放出できる。マスターの魔力と併用することで腕がもげても再生することが可能。魔力放出スキルと単独行動スキルの派生型。

 

・八極炉EX:固有スキル。七兆人分の(マントラ)が凝縮された、彼の胸元に埋め込まれた回路。現在は用途不明。

 

・悪鬼羅刹C:固有スキル。畏怖として信仰を集めていた総称。当時の神々である七聖天と敵対したためにこう呼ばれていたが本人は気にしていない。「阿修羅」としての知名度に+補正がかかる。

 

 

宝具

無明鬼哭刀(むみょうきこくとう)

ランク:B+

種別:対人宝具

今は亡き師匠・オーガスを打ち倒しさらなる戦いに挑む際に借りたままの折れた刀身の長刀。両腕がもがれた際のみ使用可能になる。真名解放することで自由に伸縮させたり、怒のマントラを刀身に宿らせて炎を纏わせ斬る事が出来る。

11.5話の大暴れがそのまま宝具として昇華した、何と伸縮の度合いは約12,730km以上で地球を貫通できる。そのため対軍でも行けるっちゃいけるのだが本来の使い手ではない上に両腕を失った状態で使うので、一対一に適している。彼が通常形態で唯一使える宝具。

 

その怒りで世界をねじ伏せろ(アスラズラース)

ランク:A+

種別:対界宝具

怒りが極限に達し「否天」に変貌する事で使用可能となる、ゴーマ・ヴリトラと同等の力を秘めた四つの巨腕。掌にマントラを集束し、殲滅砲撃として撃ち出す。抑えきれない怒りを吐き出すかのような、世界を焦がす慟哭の叫び。

世界に対する、己に対する、アスラの怒りが具現化した宝具。その威力は、固有結界を跡形も無く破壊する程。アスラが怒る「世界」に対して効力を発揮し、特に神性が高い者は怒りの矛先として焼き払う。

 

・???

対惑星宝具。

 

 

概要

修羅の如き顔、逆立った白髪、狂化している際の瞳が無く輝く両眼、岩の様な筋肉に六本腕と見た目から「阿修羅」だとすぐバレてしまうが、基本的に聖杯戦争では神の類いは召喚されないため、逆に正体が分からないサーヴァント。

通常時は二本腕だが、怒りが一定値に達すると六本腕の【六天金剛アスラ】になる。ただし腕がもげやすい。

 

神国トラストリムに住まう神に近い人間「神民」の中でもサイボーグ化して神の域に達した者達「八神将」の一人なため、厳密には神ではないが形はどうあれ「神性」も持つ。しかし本人曰く「神になるつもりは無い」。

 

泣き声が大嫌いで、常に頭の中に響いている泣き声に怒り、泣き止ませる為だけの理由で怒りのままに暴れる真性の狂戦士。その暴れぶりは邪神と称され、彼を神にしようと気に入っていた創造神から悪鬼と前言撤回される程。

普通のバーサーカーは唸るだけだが、狂化した際の彼は「ミスラァァァッ」「ドゥルガァァァッ」と娘妻の名を叫んでいる、が基本的に会話は出来ない。狂化を解くと不器用な父親としての側面を見せ、両親を失った黒名をもう一人の娘として守る意を抱く。

 

怒りだけで何度死んでも突き進み神をも倒した彼の聖杯に望む願いは「妻と娘が笑っていたあの日々をまた」。しかし本人的には割り切っている為、黒名の考えには賛同している。本人曰く「ミスラがちゃんと生きて死んだならそれでいい」と言う親馬鹿。

何より、世界の在り方と魔術師達の身勝手に怒りを覚え戦う事を決意した彼女の心情に、生前に出会った、七聖天の大虐殺を前に怒ろうともしなかった村民達の中で唯一怒りを見せて立ち上がり、そして死なせてしまった少女を思い出し共感している。

 

 

 

 

 

 

 

 

金のアーチャー

クラス:弓使い(アーチャー)

真名:ギルガメッシュ

マスター:言峰綺礼

性別:男性

身長:182㎝

体重:68㎏

出典:メソポタミア神話(ギルガメッシュ領事詩)

地域:バビロニア、ウルク

属性:混沌・善・天

イメージカラー:金

特技:お金持ち

好きなもの:自分、権力

苦手なもの:自分、蛇

天敵:英霊エミヤ、アーチャー、バーサーカー

CV:関智一

 

ステータス:筋力B 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運A 宝具EX

 

スキル

・対魔力E:魔術への耐性。無効化はできず、ダメージを軽減するのみ。ただし対魔術用の防具が充実しているためほとんど問題にはならない。

 

・単独行動A+:マスター不在でも行動でき、聖杯の泥を被った影響で多大な魔力を消費する時すらマスターのバックアップを必要としない。

 

・黄金律A:人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命。一生金に困ることはなく、大富豪として生活していける。装備品の充実という形で役立っている。

 

・カリスマA+:軍を率いる才能。最も優れた王と称えられただけありランクが桁外れで、ここまで来ると既に魔力・呪いの類である。

 

・神性B:3分の2が神という出自のため本来はA+相当だが、ギルガメッシュ自身が神を嫌っているためランクダウンしている。

 

 

宝具

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

ランク:E~A++

種別:対人宝具

レンジ:-

最大補足:1000人

ありとあらゆる財を収める宝物庫とそこへ繋がる鍵。空間を繋げ、自らの宝物庫の中にあるものを自由に取り出せるようになる。彼の代名詞とも言える宝具で、無数の宝具を雨あられと撃ち込む。また、普通の物を出したり入れたりも可。

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

ランク:EX

種別:対界宝具

レンジ:1~999

最大捕捉:1000人

かつて混沌とした世界から天地を分けた究極の一撃。「乖離剣エア」から放たれる究極の空間切断であり、風の断層は擬似的な時空断層までも生み出す。ギルガメッシュ本人が認めた敵にしか出さない奥の手。慢心を捨てた王の切札。

 

概要

黄金の甲冑を纏い、全てを見下した態度の男性。一人称は「(オレ)」第四次聖杯戦争に参加したアーチャーのサーヴァント。第五次に置いては存在しないはずの第八のサーヴァント。聖杯自身には興味が無く、真の英雄と対峙するために参戦していた。傲岸不遜で唯我独尊、おまけに傍若無人と悪い性格の塊。自らを「唯一無二の王」と称してはばからない、極めて好戦的かつ残忍な人物。人類最古のジャイアニストである。

今回、クロナを言い含めてバーサーカーを召喚させた。クロナからの評価は「好感を持てる王様だけど、愉悦が趣味という何とも傍迷惑で私服のセンスが残念な成金野郎」。それを聞いた綺礼は笑みを堪えきれなかったとか。

 

とある月の聖杯戦争に参加した自分の記憶として存在するとある少女の面影をクロナに見出して気に入り、最高の愉悦を得るべく臣下として迎えた。何だかんだで彼女を育てる事に妙なツボに当たったらしく、綺礼が呆れる程の過保護。クロナからお返しとして泰山麻婆が仕込まれた飯を食べさせられ報復を受ける事も少なくないが「(オレ)を相手によくやるものよ」と高評価。自分に対して包み隠さず(色んな意味で)明かすなど、存分に受け入れている。

今作の彼はカーニバル・ファンタズムよりであり綺礼含めて妙にいい人である。ただし主人公に対してのみであり、自分の宝具に対抗できるアーチャーや人を惹きつける何かを持つセイバーとライダー、そして何より自分に匹敵しうる力を秘めたバーサーカーに対しては好戦的。しかしクロナに釘を刺されている為、よほどの事が無い限り介入するつもりはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバー

クラス:剣使い(セイバー)

真名:時の勇者リンク

マスター:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

性別:男性

身長:176㎝

体重:78㎏(装備込み)

出典:ゼルダの伝説 時のオカリナ

地域:太平洋、ハイラル王国

属性:中立・善・星

イメージカラー:緑

特技:オカリナの演奏、魚釣り、謎解き、適応力

好きなもの:ルピー(金)稼ぎ、昼寝

苦手なもの:ニワトリ、アンデッド

天敵:アーチャー、バーサーカー

CV:檜山修之

 

ステータス:筋力A 耐久B+ 敏捷B+ 魔力B 幸運C 宝具A+

 

スキル

・対魔力C:魔術への耐性。魔術詠唱が二節以下の魔術を無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

 

・騎乗B:乗り物を乗りこなせる能力。暴れ馬だった愛馬エポナを冒険の中で使役しているのでランクは高く、大抵の乗り物は見ただけで乗りこなせる。ライダークラスへの適性あり。

 

・魅了D:何らかの形で関わった少女達とフラグを無意識に建築する能力。

 

・黄金律D:人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命。草を刈ればルピー(金)が出て、その他消費した矢等を補給したりできる。ギルガメッシュとは雲泥の差。

 

・隠密行動C:敵地に潜入する能力。ハイラル城、ゲルド族の砦などに潜入した経歴から。

 

・直感A:戦闘中に「自分にとっての最適の行動」を瞬時に悟る能力。ランクAにもなると、ほぼ未来予知の領域に達する。視覚・聴覚への妨害もある程度無視できる。

 

・千里眼C+:鷹の目とも呼ばれる視覚能力。例え高速で移動する相手でも正確に狙撃できる。弓矢を使えば精度が上昇する。

 

・魔術D:三種類のみだがマジックアイテムを用いる事で魔術を使用できる。また炎・氷・光の三属性矢に付与可能。しかし彼本来の力ではない。

 

・星の開拓者C:人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。あらゆる難航、難行でも解決策を見出し乗り越える。彼の場合、以前の勇者から成る天性の物。

 

・勇者の心得A:固有スキル。アンデルセンの「人間観察」と同義の物。勇者としての生業から得たスキル。人々を観察し、理解する技術。ただ観察するだけでなく、名前も知らない人々の生活や好み、人生までを想定し、これを忘れない記憶力が重要とされる。

 

・勇気の聖三角A:固有スキル。どんな願いでも叶える神々の作りし人にしか使えない奇跡の遺物、トライフォースの欠片。EXだと「勇気」「知恵」「力」の三つを全て一人で手に入れた証だが、彼は一人でトライフォースを全て手にした歴史上唯一の人物である女神の勇者と異なり「勇気」だけなためAランク。それでもどんな状況となっても臆さない「勇気」に加え、どんな困難も解決策を見出す「知恵」、自身より強い相手にも打ち勝つ「力」を持つ。

 

 

宝具

時をも超え輝く退魔の剣(マスターソード)

ランク:A+

種別:対魔宝具

最大補足:10人

リンクと言う存在を知らしめる、出しただけで正体がばれる程の代物。魔王の支配した世の闇を切り払う退魔の光を宿した聖剣。

女神が授けた無銘の剣を初代勇者がハイラル各地を巡り三つの炎を使って自身で鍛え、巫女の助力で完成した。真名解放して【魔】【悪】に対してその効力を発揮する聖三角の斬撃(トライフォースラッシュ)を放つ。

 

気高く荒き疾風の脚(エポナ・オブ・アラウンド)

ランク:C

種別:対人宝具

愛馬エポナを召喚。二つの時代、異世界にも置ける冒険の脚として活躍したロンロン牧場の名馬。真名解放して高速で突撃、健脚で敵を踏み潰す他、セイバーとのコンビネーションで敵を圧倒する。また、エポナに搭乗している際は無敵とも称され、それを象徴するかのように下手な攻撃ではビクともしない。

本来はライダークラスで召喚された際の宝具だが、イリヤスフィールの魔力量に準じて使用可能。

 

・???

対人宝具。異世界を救った彼への報酬。使用する事で狂戦士へと変貌する切札。

 

神々の遺産たる聖三角(トライフォース)

ランク:A

種別:対界宝具

神々から人間に与えられし奇跡。持ち主の願いで世界を変革させる。しかし願い主が善なら平和を齎し、悪なら混沌を齎すなど融通が利かず大雑把に願いを叶えるため、聖杯より万能ではない。本来のランクはEXだがそれでも一度しか使えず、また彼は「勇気」しか保有していないため使用不可能。そのためスキル扱い。

 

 

概要

「アーサー王伝説」以上の知名度で彼等「リンク」の冒険譚が「ゼルダの伝説」として知られている、ハイラル王国が太平洋に沈んで滅んだ世界(風のタクトの世界)での召喚な為、最優のサーヴァントとして申し分のない存在。

元はコキリ族として生きていたが、魔からハイラルを救う運命に従い齢11歳で勇者となった。姫から預かった時のオカリナを使って時間や色んな事象を操り故郷であるハイラル王国と異世界タルミナを救った。

 

宝具である聖剣を使わなくても弓矢、フックショット、ハンマー、ブーメラン、ミラーシールド、空き瓶、三種のマジックアイテムなどを別の空間に収納できるポーチに入れており駆使出来る為、クラス秘匿も可能で臨機応変に戦える。特に弓矢の扱いが上手い。彼の代名詞ともいえる時のオカリナはハイラル王家に返却したため所持していない。また、タルミナで手に入れそれから愛用し続けた金剛の剣は此度の召喚では所有しておらず、アインツベルンの倉庫に眠っていた聖遺物の剣を用いて戦う。

 

時のオカリナ、ムジュラの仮面から旅を続けて成長した勇者。かつて「大人の姿をした子供」であったため、「子供の姿をした大人」であるイリヤに対して共感しており、もう一人の「姫」として守り抜く事を誓う。普段は冷静沈着で物事を客観的に見る事が出来る好青年だが、本来やんちゃな性格なため無謀な事にも平気で挑む冒険好きの節がある。

戦闘に関してのスキルは非常に高く、服などを変える事によりどんな状況下でも問題なく戦える。勝つためなら手段は選ばず、弱点を執拗に狙う、老人相手でも敵なら容赦しないなどは普通。特に対モンスター戦に置いて本領を発揮できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ランサー

クラス:槍使い(ランサー)

真名:クー・フーリン

マスター:遠坂凛

性別:男性

身長:185㎝

体重:70㎏

出典:ケルト神話、アルスター神話

地域:アイルランド

属性:秩序・中庸・天

イメージカラー:青

特技:魚釣り、素潜り、山登り

好きなもの:気の強い女、無茶な約束

苦手なもの:回りくどい方針、裏切り

天敵:ギルガメッシュ、バーサーカー

CV:神奈延年

 

ステータス:筋力B 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B

 

スキル

・対魔力C:魔術への耐性。二節以下の詠唱による魔術は無効化できるが、大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

 

・戦闘続行A:所謂「往生際の悪さ」。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

 

・仕切り直しC:戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。

 

・ルーンB:北欧の魔術刻印・ルーンを所持し、キャスターのクラスにも適合できるほどの知識と腕前を持つ。

 

・矢避けの加護B:飛び道具に対する対応力。使い手を視界に捉えた状態であればいかなる遠距離攻撃も避ける事ができる。ただし超遠距離からの直接攻撃、および広範囲の全体攻撃は該当しない。

 

・神性B:神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされ、ランサーは半神半人であるためランクが高い。

 

 

宝具

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)

ランク:B

種別:対人宝具

ランサーが編み出した対人用の刺突技。真名解放すると槍の持つ因果逆転の呪いにより「心臓に槍が命中した」という結果を作ってから「槍を放つ」という原因を作り、必殺必中の一撃で対象の心臓を穿ち治癒不可能な傷を与えて破壊する。魔力消費が少なく、連戦向け。防ぐには槍の魔力を上回る防壁を用意するしかなく、回避に必要なのは敏捷性ではなく幸運の高さ。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)

ランク:B+

種別:対軍宝具

レンジ:40~50

最大捕捉:50人

彼の槍の本来の使い方。魔槍の呪いを最大限開放して渾身の力で投擲する。心臓に命中させるのではなく一撃の破壊力を重視しており、生前より更にその威力は増していて、一発で一部隊を吹き飛ばすほどの威力を有している。飛行速度はマッハ2で、飛距離は40km。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

ランク:B++

種別:対軍宝具

自らの肉体の崩壊も辞さないほどの全力投擲して放つホーミング魔槍ミサイル。幸運が高ければ心臓への回避は可能だが、心臓破壊は免れるも心臓以外の臓器を丸々抉り砕くと言う深手を負わせる。

奥の手であり、使用すればランサー自身の肉体は崩壊し消滅してしまう諸刃の一撃。

 

 

概要

第五次聖杯戦争に置いて遠坂凛に召喚された槍兵のサーヴァント。凛の事を気に入っており、中々のいい関係。日本ではマイナーな英雄だが、もし知名度が高い欧州、それもアイルランドが舞台だったのならアーサー王やヘラクレス、リンクをも超える強さとなる大英雄。

奔放で口は悪いものの愛嬌があり面倒見も良い、さっぱりとした性格。信念と義を重んじ、死力を尽くした戦いを望むなど、武人としての魅力も高い。兄貴。普段は気さくなだが、こと戦闘に関してはどこまでもシビアで冷徹。家族であろうと親友であろうと敵ならば躊躇なく殺す。

 

真名はアイルランドの光の御子、「クランの猛犬」と謳われた赤枝の騎士クー・フーリン。聖杯にかける願いは無く、望むのは「死力を尽くし、強者と戦う」こと。

どんな死地からでも生還する「生き残る」事に特化しており、英霊二人掛かりが相手だろうと守りに徹すれば充分に持ちこたえる事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

アサシン

クラス:暗殺者(アサシン)

真名:不明

マスター:イフ=リード=ヴァルテル

性別:不明

身長:150㎝

体重:38㎏

出典:???

地域:ヨーロッパ

属性:混沌・悪・地

イメージカラー:黄色

特技:演技

好きなもの:不明

苦手なもの:不明

天敵:言峰黒名、セイバー、ライダー

CV:藤田咲

 

ステータス:筋力C 耐久E 敏捷B+ 魔力C 幸運B 宝具C++

 

スキル

・気配遮断B:自身の気配、または殺気を消す能力。攻撃態勢に移るとランクが下がる。

 

・隠密行動A:敵地に潜入する能力。誰からも疑われず一番偉い人間から多大な信頼を得る程に溶け込める。

 

・魔術D:生前、優秀な魔術師に教育された経緯から。魂食いするための魔法陣を構築したりなどの簡単な魔術を使用できる。

 

・情報収集EX:度を過ぎた情報収集能力を用いて他人に完全に成り済ます事が出来る能力。生前調べ尽くした人間達の容姿、能力、性格、癖、弱点、さらには該当するクラスにステータスまでを再現して別人に切り替わらる。真名解放していない宝具をスイッチにいくらでも切り替えられる。生前、親しい人間を装って暗殺を行なった経緯がスキルとなり昇華された物。

 

 

宝具

・???

対軍宝具。生前所有していた魔を宿す遺物。一見何の変哲もないワイングラス。真名解放しなくても赤い液体を注ぎ地面にこぼす事で、事前に仕込んだ死体が変質した「屍兵」を召喚し使役可能。

 

 

概要

生前、暗殺者だった反英雄。その暗殺によって、多くの人間の運命を破滅へと導いた。狂人であり、全てを尽くしていた人物までも殺してしまい完全に狂い果てた挙句、何者かに暗殺され非業の死を遂げた。バーサーカーとして召喚されても十分に力を発揮できる。狂化EX。

学校に「下拵え」に来たところランサーと戦闘になり、目撃した衛宮士郎を執拗に追い掛け左胸を刺し貫いた。好戦的な性格。生前はよく食べていなかったのか異常に軽い。

 

切り替わった姿

・黄色いフード付きコートで顔を隠した姿:初めて姿を見せた姿。この姿も切り替わりの一つ。単純な変装であり口調は素に近い。クラスはアサシン。ステータスは通常通り。

・赤髪の少女:大剣を操る怪力が武器。「ッス」が口癖。生前、最も仲が良かった人物。クラスはセイバー。ステータス:筋力A+ 耐久B 敏捷D 魔力E 幸運A

・赤い鎧の大男:両手剣を使った「牡牛の構え」による接近戦が得意。生前の上司であり、三英雄の一人と呼ばれ多くの人に慕われていた人物。クラスはセイバー。ステータス:筋力B 耐久B 敏捷C 魔力E 幸運E

・銀髪の女性:情報収集と暗殺を得意とする。生前、特別な関係で信頼を寄せていたアサシンによって暗殺され志半ばに倒れた。こちらも三英雄の一人。クラスはアサシン。ステータス:筋力D 耐久D 敏捷A+ 魔力D 幸運C

・赤き鎧の女剣士:レイピアによる剣術を得意とする。革命を起こした人物。クラスはセイバー。ステータス:筋力C 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運A

・槍の男:ランサー。槍は再現できなかったらしいがリーチが長い。クラスはランサー、ステータスも同等。

・ドレスを纏った金髪碧眼少女:口癖は「さあ、跪きなさい」生前、自分に信頼を寄せていた権力者で拷問マニア。14歳に起きた革命時に死亡したとされる。クラスはライダー。ステータス:筋力D 耐久E 敏捷E 魔力B 幸運A

・緑色の髪をツインテールに纏めた美少女:革命を起こす際に暗殺した歌姫。ネギを使う事で簡易的な魔術を使用できる。クラスはキャスター。ステータス:筋力E 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運A

・長い桃髪のローブを着た美女:魔女狩り令の際に追跡した、悠久の時を生き続ける魔道士。魔術に関しては最強とも言える三英雄の一人。クラスはキャスター。ステータス:筋力E 耐久C 敏捷C 魔力A+ 幸運A+

・黄色い衣の金髪碧眼の少年:片手剣を使った「一角獣の構え」を得意とする。生前の友人にして上記の権力者の召使い。クラスはアサシン。ステータス:筋力C 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運B

・金の長髪を持つ女傑:馬上槍が武器。生前、アサシンが就任した司令官の前任者。カリスマが高く多くの兵に慕われていた。クラスはランサー。ステータス:筋力B 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運A

・紫の長髪を結えた青年:日本刀が武器。生前縁の無かった人物ではあるが、悪魔と呼ばれる程の凄腕の傭兵。クラスはセイバー。ステータス:筋力A 耐久B 敏捷B 魔力D 幸運E

・フードの男:間桐雁夜。十年前の写真が元。蟲を操れるが弱い。またその状態で、間桐臓硯、間桐鶴野、間桐慎二の顔にも変われる。

・赤銅の髪の少年:衛宮士郎。投影魔術を使える。

・緑髪の幼い少女:森の賢者サリア。戦闘力皆無。

・黒髪で丸顔の少年:桜井智樹。とんでも身体能力を持つが、モデルがカオスの化けた偽物であるためまるで別人。

 

 

 

 

 

 

 

 

ライダー

クラス:騎乗兵(ライダー)

真名:木乃&エルメス

マスター:間桐桜

性別:女性

身長:156㎝

体重:47㎏

出典:学園キノ

属性:中立・善・人

イメージカラー:緑

特技:大食い

好きな物:カレーうどん、静先輩

苦手な物:早起き、サモエド仮面

天敵:ギルガメッシュ、アーチャー、バーサーカー

CV:久川綾

 

ステータス:筋力E(C) 耐久E(B) 敏捷D(A+) 魔力D 幸運E 宝具C+

 

スキル

・対魔力E:魔術への耐性。神秘の薄れた未来の時代出身なのでランクが低い。

 

・騎乗C:乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。しかし彼女は生前バイクぐらいしか乗らなかったためライダークラスであるにも関わらずランクは低い。

 

・謎の美少女ガンファイターA:固有スキル。変身能力(と言っても容姿はちょっとしか変わらない)。彼女の実力を発揮するには必須のスキル。一々任意で変身しないと戦う事すら難しい。

 

・食い意地EX:固有スキル。不屈の食欲。満足に食べているだけで単独行動できる魔力を有する。

 

・銃器コレクターA:固有スキル。現代銃器のほとんどをポーチの中に保有し、例外なくランクDの宝具として使いこなす。

 

・正体不明D:固有スキル。変身中は自分が誰かマスター以外から正体を認識できなくなるスキル。ただし、よーく見れば知っている人にはあっさりバレる。

 

・カリスマ/魅了E:その裏表のない性格から何故かは分からないがモテる。人を引き付ける才能。好かれやすい。

 

 

宝具

魔射滅鉄(ビッグカノン)

ランク:C+

種別:必殺宝具

最大捕捉:1人

変身が一発で解ける程の多大な魔力消費と引き換えに起源弾的な弾丸を放って【魔】の特性を持つ相手を必ず殺す。ただしリボルバーなため射程が短い上に至近距離からじゃないとあんまり当たらないため、ポーチの中の銃器で相手を弱らせ動けなくした後じゃないと基本的に決まらない。装甲などは意味を成さず、当たれば必ず殺せる。正確に狙えば寄生している蟲だけを撃ちぬく芸当も可能。カウンター的な事も出来る。

 

純白の正義の騎士(ジ・オンリーワン・サモエド・ナイト)

ランク:C

種別:対窮地宝具

変身してさえいれば何度でも使えるのだが、ライダー自身は好ましく思っていない。窮地に陥った際、「ピンチだな!」「正義の少女がピンチの時…今、一人の騎士が天空の彼方より舞い降りる!私の名は、純白の正義の騎士・サモエド仮面!またの名をジ・オーリーワン・サモエドナイト!わははははははっ!今参る、とうっ!」という長ったらしい前口上と共にライダーと顔見知りの変態剣士・サモエド仮面が召喚され周りの被害を考えずに暴れ回る。彼はセイバーのクラスで召喚され、宝具は使えないが「ギャグ補正(トマト)」などのスキルでしぶとく生き残れる。基本的にライダーの言う事はよく聞く。

 

 

概要

知名度が低い最弱のサーヴァント。錬鉄の英雄と同じくこの時代に生前の自分が生きる未来の英霊。ただの銃器マニアで食いしん坊な女子高生と喋るストラップの一組で一つのサーヴァント。

 

召喚した人間は例外なく絶望するが、彼女の真価は簡易的に宝具を使う「変身」にある一種の魔法少女。変身しても見た目はあまり変わらないが魔力と幸運以外のステータスが上昇、固有スキルの大盤振る舞いによる強サーヴァントとなる。しかも魔力は自分で補給できるため燃費もよく、さらには優秀なナビゲーターであるエルメスの指示もあるため、敵は一度に二体のサーヴァントを同時に相手している錯覚に陥る。

 

ちなみに「ライダー」として現界したのは任意でバイクになるエルメスの存在があったからだが、彼は一応サーヴァントなので宝具ではない。好物はカレーうどん。

桜に対しては「美味しいご飯を提供してくれるマスター」として守り抜く意を持つ。また同年代の友人として接しており、サーヴァントとマスターの関係とは思えない。生前は正義の味方だったが何よりも飯が大事なのでそこまで固執してなかった。

 

真名は木乃という少女とエルメスというストラップであり、「謎の美少女ガンファイターライダー・キノ」という名の正義の味方。ただしちゃんと見返りを求める女子高生思考。サモエド仮面も彼女という正義の味方を形成する要因であるため宝具として呼び出す事が出来る。

日本政府や彼女の母校では知名度は高く、ほとんど苦戦しない実力を見せる事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

サモエド仮面

クラス:剣使い(セイバー)

真名:静/サモエド仮面

マスター:(便宜上)間桐桜

性別:男性

身長:176㎝

体重:67㎏

出典:学園キノ

属性:混沌・善・人

イメージカラー:汚れ一つない純白

特技:銃弾を剣で弾くこと、銃弾をトマトで受け止めること、シルク製マントで銃弾を防ぐこと、変態、真っ二つ、暴言、歌唱

好きな物:正義、栄養素

苦手な物:自重、空気を読む

天敵:ティー、バーサーカー

CV:入江崇史

 

ステータス:筋力A 耐久EX(E) 敏捷EX 魔力E 幸運EX(E) 宝具EX

 

スキル

・対魔力E:魔術への耐性。神秘の薄れた未来の時代出身なのでランクが低い。

 

・騎乗C:乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。

 

・ギャグ補正(トマト)A:弾丸に対してのみトマトで防御できる。手持ちのトマトが切れると無力と化す。

 

・心眼B:攻撃を見切り、ある程度剣を用いて防御する事が可能。

 

・直感E:彼の発する直感は必ずと言っていいほど外れる。

 

・魅了C:洗練された肉体美を晒して場を魅了する。ただし公然猥褻罪(本人曰く凶器準備集合罪)に当たる。

 

・自己暗示A:変身すると最早別人なレベルで変態と化す。意味の無いリンゴと犬耳がそれを増長している。

 

 

概要

アホみたいに強い自称正義の騎士。ちなみにサモエドとはロシアの犬の名前。生前はピンチでもないのにライダーの前に現れ、被害を増大させるばかりか場をしっちゃかめっちゃかにするトラブルメーカーだったが、今回はちゃんと変身しているライダーがピンチの際のみ召喚可能となる頼れる味方。でもライダーは出来れば呼びたくない。

 

ライダーの宝具として召喚される存在であるため宝具は持たないがそれでもその性能はマスターの魔力に準じないため規格外の一言であり、ボディーガードとしてはやり過ぎとも言える実力を持つ。万能なセイバークラスが悪い意味で暴走した結果と言える。ダメージを受け過ぎると消滅するが、ライダーが変身していてピンチになれば一時間とちょっとで回復してまた出て来るため、注意が必要。

 

耐久が異様に高いのはあくまで剣とトマト、マントがあるからであり、それが無くなるとかなりの紙耐久と化す。また、天敵がいる場合にのみ幸運もEまで下がり、雑魚になってしまうピーキー過ぎる何か。

それでもライダーの宝具による召喚なため制限が無く、全盛期以上の実力を発揮できるため最強格と言えよう。

ちなみに宝具まで伴って現れた際はヘラクレスまでも度肝を抜かれるバグチートになる。

 

 

 

 

 

 

 

アーチャー

クラス:弓使い(アーチャー)

真名:イカロス

マスター:衛宮士郎

性別:女性

身長:162㎝

体重:48㎏

スリーサイズ:88-57-85

出典:そらのおとしもの

属性:中立・中庸・地(真名の名前での知名度)

イメージカラー:白

特技:料理、歌唱

好きな物:スイカ、ひよこ、こけし、マスター

苦手な物:水泳、楽器の扱い、一般常識、笑う事

天敵:バーサーカー、ランサー、アサシン

CV:早見沙織

 

ステータス:筋力A+ 耐久B 敏捷A+++ 魔力E 幸運D 宝具A++

 

スキル

・対魔力E:魔術への耐性。神秘の時代出身ではないため最弱。

 

・単独行動A:マスターの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ただし下記のスキルによって繋がりは残る。

 

・千里眼B:鷹の目とも呼ばれる視覚能力。例え高速で移動する相手でも正確にロックオンし狙撃できる。

 

・怪力B:人ならざる者の剛力。拳一つで家屋を引き上げたりが可能。

 

・鳥籠の契約A:固有スキル。令呪の縛りとは関係なく別に繋がれる契約の鎖。常時鳥籠(マスター)と繋がっており(普段は透明になる)、繋がっている限り命令に絶対服従、しかも魔力が共有されるため常時現界可能という代物。マスターの任意で外すことはできるが、そうなると今度は拗ねて言う事を聞かなくなる。

 

永久追尾空対空弾(Artemis)A:宝具「空の女王」を真名解放することで使用できるようになる固有スキル。翼から相手をどこまでも追尾する魔力光弾を放つ。竜種を撃墜する程度の威力はあるが、そこまでの貫通力は無い為防御されたら通用しない。

 

絶対防御圏(aegis)A:宝具「空の女王」を真名解放することで使用できるようになる固有スキル。どんな攻撃でも完全に遮断する防御壁。しかしあくまで魔力を用いるため、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)などの宝具は防げない他、維持にもかなりの魔力を消費するため長時間使用できないと言った弱点がある。

 

超々高熱体圧縮対艦砲(Hephaistos)A:宝具「空の女王」を真名解放することで使用できるようになる固有スキル。もう一つの宝具を使わなくとも十分決め手になる代物。射線上にある物体を蒸発させる熱線を放つ。

 

 

宝具

空の女王(ウラヌス・クイーン)

ランク:A+

種別: 対人宝具

常時魔力が消費される代わりに戦闘モードに切り替わり、自己修復能力、圧壊深度3000、無酸素活動時間連続720時間、マッハ24の飛行が可能となる他、「永久追尾空対空弾(Artemis)」「絶対防御圏(aegis)」「???」と言った全てランクAの固有スキルが使用可になる他、下記の宝具も使用可となる。

彼女本人が宝具であるため、これは単純なリミッター解除とも言える。いわば意思を持つ宝具。

 

最終兵器・空ノ落し物(APOLLON)

ランク:A+++

種別:対国宝具

弓矢型の武装にして彼女がアーチャークラスで召喚された決め手ともなる宝具。膨大な魔力を消費して国を一つ壊滅させる程の高熱の炎を纏った矢を放つ。その真名は太陽神に由来する。普通に弓矢として扱うことも可能。

 

 

概要

ライダーと同じくこの時代に生前の自分が生きる未来の英霊。正確には人間ではないが神霊の類でもない。マスターの事を「私の鳥籠(マイマスター)」と称す様に人形の如く感情が希薄で一見戦いとは無縁の少女だが、その力は絶大。どれだけ傷付いても命令を執行する、自害しろと命じられれば戸惑いなく自害する程にその忠誠心は高く、生粋の従者(サーヴァント)と言える。

弓は基本的に使わず、怪力による拳を主体とした接近戦で戦う。宝具を使用してからが本領発揮であり、バーサーカーやギルガメッシュにも匹敵する力を持つ。

感情を表現できず真面に笑う事も出来ないが、誰よりも人間味溢れる普通の少女であり、士郎は彼女が戦う事を望んでいない。聖杯に望む願いは「普通の人間としてマスターと共に」。このマスターとは士郎とは別の人物を指す。

 

天空にあるシナプスと呼ばれる新大陸の科学者に作られた、インプリンティングした相手をマスターとして命令に従うエンジェロイド。その中でも最高峰の性能と実力を見せる第一世代の一人。感情制御が低い代わりに戦闘能力と電算能力に特化されている。

英雄としての真名は「イカロス」であるため、ギリシャ神話のイカロスの知名度を重複して得られる。彼女としての真名は「戦略エンジェロイド タイプα【ikaros】」。生前、「空美町」と言う町で一人の男をマスターとして活動していた。そのため空美町限定で圧倒的知名度を持ち通常時でも鬼神の如き実力を垣間見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

キャスター

クラス:魔法使い(キャスター)

真名:アー・シン・ハン

マスター:不明

性別:男性

身長:189㎝

体重:72㎏

出典:ハムナプトラ3

地域:中国、アジア

属性:秩序・悪・人

イメージカラー:黒

特技:馬術、返り討ち

好きなもの:忠実な部下、蹂躙、女

苦手なもの:裏切り、自分の思い通りにならない事

天敵:ギルガメッシュ、アーチャー

CV:池田秀一

 

ステータス:筋力C+ 耐久D 敏捷C+ 魔力A 幸運B 宝具A

 

スキル

・陣地作成D:魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。生粋の魔術師ではないためランクは低い。性格的に向いていないため、工房を作る事さえ難しい。

 

・道具作成D:魔力を帯びた器具を作成できる。生粋の魔術師ではないためランクは低い。

 

・五行魔術A:五行の魔力を有し、ほとんど詠唱無しで操る事が可能。

 

・騎乗A:騎乗の才能。獣ならば竜以外の幻獣・神獣まで乗りこなせる。

 

・カリスマC:大軍団を率いる才能。自分の軍に対して強力な効果を発揮する。

 

・軍略B:多人数を動員した戦場における戦術的直感力。自らの対軍宝具行使時、相手の対軍宝具対処時に有利な補正がかかる。

 

・変化B:文字通り「変身」する。ここでは生前、シャングリラの泉を浴びた際に得た三つ首竜と熊の様な獣への変身能力を差す。

 

・皇帝特権A:本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。ランクがA以上の場合、肉体面での負荷(神性など)すら獲得する。しかし殆んど必要ない。

 

 

宝具

青銅の馬引く大陸制覇(チントン・マーイン・ダールーヂーバー)

ランク:A

種別:対軍宝具

レンジ:2~50

最大捕捉:100人

復活と同時に上海を混乱に陥れた蹂躙走法。青銅の馬は首を切られても生きていられる、ほとんど不死身の宝具。土くれで形成するため破壊不可能。

 

皇帝率いる(フゥァンディ・リュ・)兵馬俑の軍勢(ビンマーヨン・ジュンシー)

ランク:A

種別:対軍宝具

彼が大国を制圧できた由縁たる宝具にして大魔術「固有結界」。発動には多大な魔力を消費する上、維持にも常時魔力を消費するハイリスクな代物だが、その力は絶大。

五行の魔力をフルに使用する事で自身の決戦の地である日中の砂漠を万里の長城ごと顕現し、地下に封印されている陶器人形にされた己の軍隊を復活させ、万里の長城と挟み撃ちにして相手を蹂躙する。

彼等は皇帝に忠実であり、手足が砕けようが敵を殲滅するべく進軍するため頭部を破壊しない限り止まらない。さらにその欠片から無尽蔵に地下で再生するため、文字通り限が無い大軍勢と化す。

イスカンダルの「王の軍勢」にも劣らぬ強力な宝具ではあるが、全く別種のものであり上記のハイリスクも含めて弱点も多い。

 

 

概要

この第五次聖杯戦争に置いて最強の位置に居るサーヴァント。紀元前と近代に伝説を残した最強最悪の英霊。五行の魔力を持ち、永遠の命を求めて呪われた皇帝。マスターと言えど主人と認めようとしない、生粋の「上に立つ者」。現在のマスターは仮初のマスターであり、本当のマスターは別にいる。

武術の達人であり、生前三人の暗殺者を一人で返り討ちにしてしまう程。特に剣術に優れ、一対一ならば負けた事が無い。肉体派キャスター。

生粋の悪であり、自分の思い通りにならない事を嫌う。親友であろうが裏切ったと判断すれば容赦なく八つ裂きの刑にしてしまう残酷な性格。

聖杯にかける願いは「永遠の命」自身の軍隊を持って今度こそ世界を征服する事を野望とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

イフ=リード=ヴァルテル

年齢:35歳

性別:男性

誕生日:1月3日

星座:山羊座

血液型:B型

身長:185㎝

体重:80kg

イメージカラー:紅蓮

特技:火を操る事

好きなもの:ケルト神話の英雄、煙草、ギャンブル

苦手なもの:近代の英雄、氷雪、電子機器

天敵:セイバー、キャスター、ケイネス=エルメロイ=アーチボルト(故人)

イメージCV:藤原啓治

 

概要

アサシンのマスター。黒づくめの格好で素顔をフードで隠した男。フードに隠れた獰猛な金色の目が特徴。「アンサズ」のルーン魔術を用いて高火力の炎を操り戦う。戦いになると熱くなる性格だが、本来は冷静沈着で目的のためなら手段を択ばない策略家。邪魔者は早めに消して置く主義。寒いのは苦手。

彼の家系であるヴァルテル家は、魔術の深淵に辿り着く事を目指さず、先祖代々アンサズのルーン魔術を護り研究し続けてきた本来ならば封印指定されても可笑しくない一族であり、その神秘はキャスタークラスで現界したクー・フーリン以上。そのため現代魔術はほとんど使えず、傍から見れば落ちぶれた一族ではあるが火力だけなら現代魔術のそれを上回る。それに加え、イフ自身の才能も合わさり炎を操る事にかけては最強であり、それに限ればロードクラスに匹敵する実力者。

アサシンにはまず、相手の実力を見極める事を命じており、情報収集と魔力収集に徹して好機を待っている模様。

 

・能力

魔術回路は平凡そのものだが、上記の通り「アンサズ」のルーンを用いた炎の魔術が得意。煙草、煙管、それに伴う灰など火に関係する物を利用して変幻自在に戦えるため死角が無く、さらに棒術を用いる接近戦もできるオールラウンダー。アンサズの魔力源は外からの供給であり、自身の魔力は滅多に使わない。

原初のルーン「アンサズ」のみに特化した時計塔の魔術師。時計塔で「治癒」「転移」などの基本的な補助魔術を習得したはいいが、他の魔術はからっきし駄目で「強化」も真面に使えない。

しかし、外からの魔力を用いる儀式系統の魔術に置いては天才格であり、英霊が持つ儀式系統の宝具のほとんどを再現可能。メデューサの『他者封印・鮮血神殿』を用いて大量の魔力を集めようと画策する。

また、吸血種に強く死徒にとっては天敵に当たる。

 

・人間関係

わざわざ用意した触媒を用いて召喚したアサシンとの関係は良好。むしろ逆にちょっとした魔術を教えられる関係であり、主従と言うよりは相棒同然の仲。特に連携すると手に負えなくなる。

クロナに対しては魔術の痕跡が分かって変な魔術を用いる面倒くさい相手と言う認識。別に強敵だとかは思っていない。

10年前の第四次聖杯戦争に参加したランサーのマスター、ケイネス=エルメロイ=アーチボルトとはライバルの様な関係であり、一度も勝つことができなかった。そのためケイネスを葬った聖杯戦争に興味を持ち、参加するに至る。同時にライダーのマスターだったウェイバー・ベルベット、現ロード・エルメロイ二世とは顔見知り程度の関係で根掘り葉掘り第四次聖杯戦争の情報を問い質した。

ケイネス以外のロードからは煙たがれており、異端として扱われるためこっちは気にしていない。ただし価値観は魔術師と相違なく、目的のためならどんな犠牲も厭わない。

また、クー・フーリン他ケルト神話の英雄が大好きで尊敬しており、此度のランサーであるクー・フーリンとは手を合わせる気が無い。頼まれれば普通に見返りなく手伝おうとする程の信者である。

名前の由来は「炎を支配する」と言う意味合いで炎の精霊「イフリート」と「支配する」のドイツ語、ヴァルテー。

 

 

 

 

 

 




…アスラは多分、雁夜おじさんと組めば相性はいいと思う。桜を守るためなら臓硯だって滅せると確信している。多分屋敷ごと。

クロナはもろ某ザビ子を強化した感じです。シンプルながらに癖のあるキャラとなります。イメージは士郎と綺礼と切嗣とザビ子をミックスした感じ。自分の作品を読んでくださっている読者なら彼女の特性に心当たりがあるかと。

次回は他の陣営のプロローグ。ただし遠坂以外。あんまり原作と変わらないから仕方ない、うん。


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プロローグ#2:姫君と勇者、真夜中の死闘

※今回新規されたサーヴァントのプロフィールは後日追記します。※追記しました。

まず最初に…プロローグと設定だけだと言うのにお気に入り登録して下さった数名の皆さま、そして高評価してくださったコレクトマンさん、まことにありがとうございます!頑張らせていただきます!


今回は主人公side出番なしで凛さんのターン。しかし相手は得体の知れないサーヴァント…正直自分で思いついてこいつほど反則は居ないんじゃないかと思いました。
楽しんでいただけると幸いです。


半年前…ドイツの郊外にある、聖杯戦争を始めた御三家の一つ…アインツベルンの領土であるアインツベルン城。その、10年前彼女の両親が召喚を行なった礼拝堂で、年端もいかない10歳前後に見える、雪の様な銀髪と紅玉の様な瞳を持つ少女が一人で召喚を行なっていた。

 

魔法陣の真ん中には、失われたとされる「時の神殿」内部に在った聖剣の台座の欠片。海に沈んだハイラルから流れた、唯一とも言える「あの勇者」の聖遺物。それを見て、少女はよく準備した物だと思った。

 

前回、第四次聖杯戦争の失敗から学んだアインツベルンは、アーサー王よりも知名度を持つ英雄を、命令に逆らわない狂戦士(バーサーカー)で呼ぼうとしたのだ。最初は彼のギリシャ神話の大英雄…ヘラクレスを呼ぼうとしたのだが、そこで当のマスターである少女…イリヤスフィール・フォン・アインツベルン…通称イリヤが提案したのだ。

 

舞台は日本なのだから、ヘラクレスだと知名度に一歩心許無い。代わりに日本でその数々の冒険譚がゲームになる程知られている勇者を召喚すればいいのではないか。また、裏切らないにしてもバーサーカーでは実力を発揮できない可能性があるので再び最優のクラスで呼べばいいのではないか、と。そもそも令呪があるのでそう簡単に裏切りなどはできないのだ。前回のアレは、マスターの方に問題があった。

 

子供の頃、今は憎みながらも大好きだった父親の持ってきて共に遊んだ日本のゲーム…それを思い出して彼女は進言した。そしてその願いは叶えられることになった、元より、前回の聖杯戦争で失ったアーサー王の鞘を始めとした世界中の聖遺物を保有する一族だ。ただ、あまりにも貴重な物件だとの事で、無駄にするのは許さないとの事らしい。少女は思った、上等だと。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

響き渡る最後の呪文。そして魔法陣が輝き、姿を現したのは…

 

 

召喚時に発せられた風に吹かれ靡く金麦畑の様な金髪。子供の様な優しげに光る輝きを持つ蒼い瞳。尖った耳。

 

一見センスを疑ってしまうも不思議と似合っている緑の帽子と、緑の衣。両手に付けられた金色の装甲が付いた茶色のグローブ。

 

腰に付けたいくつもの茶色いポーチ。背中に背負っている青い盾と鞘。両手で持ち床に突き刺している、蒼い翼を模した鍔と白銀に輝き三つの聖三角が刻まれた剣身は、紛れもなく伝説の聖剣。

 

 

穏やかな笑みを浮かべていたその青年は深く息を吐き、イリヤの存在を見付けると聖剣を床から引き抜き、背中の鞘に納めてきりっと真面目な顔を作り、問いかけた。

 

 

「サーヴァント・セイバー。真名、時の勇者リンク。…問おう。君が俺のマスターかい?」

 

「…ええ!私の名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。貴方のマスターよ。これからよろしくね、セイバー!」

 

 

ここに、時を超え二つの時代で戦った緑の衣の勇者と、雪の姫君は邂逅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木市、穂群原学園:クロナがバーサーカーを呼び出したのと同じ時間。

クロナの友人であり、この冬木の地を管理するセカンドオーナーでもある名家、遠坂家の当主である黒髪と翡翠の目を持つ少女…遠坂凛は赤いコートを羽織り、先日召喚したサーヴァント…ランサーと共に屋上に佇んでいた。ランサーは逆立てた青髪赤眼で整った顔を持つ気さくな青年なのだが、一見青タイツにしか見えない群青色の戦闘服を身に纏っている為変人にも見える。しかし、醸し出す英雄としての闘気は誇り高き獣の様で、聖杯戦争に挑む意気込みは本物だった。

 

 

「…ざっとこんなところよ、川の向こうが市街地の並ぶ新都。そしてこっち側の住宅街が私たちのいる深山町よ」

 

「おうよ。戦略上有利な地形は把握したぜ。特にあの橋だな」

 

「橋って二つの街を繋ぐあの冬木大橋?」

 

「ああ。あそこは直線で攻撃できるから有利でもあるが、アーチャー辺りに狙われたら遮蔽物の少ないあの場所じゃ勝ち目は薄いな。ま、そう簡単に当たる気もねーけどよ!」

 

「…あのめちゃくちゃ遠い新都のビル屋上から放たれた矢でも避けられるって言うの?」

 

「当たり前だろ、嬢ちゃん。俺達英霊を嘗めてんのか?」

 

 

興味深そうに問いかけくるマスターに面白くなさそうに答えるランサー。凛は英霊の凄さを改めて実感し、一息吐いた。

 

 

「ふぅ。やっぱりサーヴァントってのは凄いわね。貴方でさえそうなんだもの、これが最優のクラスであるセイバーだったらどんなに凄い能力があったのかしら?」

 

「おいおい。ランサーじゃ不服だと言うのか?」

 

「いいえ、そんな訳ないじゃない。最速のクラス、ランサー。前衛としては申し分ないし、何より私は魔術師だから前に出て戦うタイプじゃないし、貴方と言う存在が頼もしい。それに、触媒も無しに召喚した私に応えてくれたんだもの。それを不服と思うなんて心の贅肉よ」

 

 

当初は最優のクラスであるセイバーを狙っていた凛だが、今はランサーが召喚されて満足している。全ての準備は整った、いよいよ私の聖杯戦争が始まるんだ…と。そんな、戦士の風格を見せている己がマスターを見て、ランサーは満足気に満面の笑みを浮かべる。

 

 

「中々いいことを言うじゃねーか。俺は嫌いじゃないぜ、そう言うの」

 

「貴方も言うわね。…さあ、戦場の視察は終わったし今日は帰るわよ。まだサーヴァントが出揃ってないとはいえ、ルールを破って襲い掛かる様な奴が居ないとも限らないしね」

 

「そいつもそうだな、無駄に戦わないってのも戦略の一つだ。まあ俺個人としては、今日からでも強い英霊と戦いたいんだがよ」

 

 

そう言い、凛を先頭に二人が屋上を出払おうとした、その時だった。

 

 

「そんなに戦いたいと言うのなら、相手になってやろうか?槍の英霊」

 

「ッ、嬢ちゃん!」

 

「!?」

 

屋上の出入り口の上、そこにそのサーヴァントは居た。まず、フード付きの黄色いコートで素顔を隠し、その下に着られているのは全体的に黒く動きやすそうな軽装の衣装。腰には黒い鞘に入れられた短刀が下がった革ベルトが巻かれ、柔らかい革製に見える茶色いブーツは足音を立てにくくするための物だろう。体型から見て少女だろうか?いや、声は中世的で少女にも少年にも大人の男性にも女性にも老人にも聞こえる。

以上の特徴から、サーヴァントの正体が暗殺者…聖杯戦争に置いてその特性から外れと称される事も多いアサシンだとは概ね予想できる。

しかし、姿を現したのは本来ありえない事だ。アサシンの本領発揮は情報収集と潜入、マスターの暗殺だ。姿を現すメリットが無い。しかし、口角を吊り上げ笑みを浮かべている事から好戦的にも見える。そもそもアサシンは余程の事が無い限り「ハサン・サーバッハ」のいずれかが喚ばれるはず。ではこの相手は何だ?

 

 

(敵!?しまった、油断した…)

 

 

凛は思考する、言ってる先からこれである。しかし後悔している暇はない。ランサーは問題ないのだろうが、この狭い空間だと自分が邪魔だ。どこか、自分が邪魔にならない広い場所に…そう思考しながら後ずさった凛は自殺防止用のフェンスにぶつかり、視界の端に遥か下に広がる校庭を入れる。

 

 

「アハハッ…下拵えに来てここらで妖しい気配がするから来てみたらとんだ拾い物だな。遊び相手にちょうどいいか」

 

「あ?俺を相手に遊びと来たか。嬢ちゃん、どうする?やっこさんはやる気満々だぜ?」

 

Es ist gros(軽量), Es ist klein.(重圧)…! ランサー、着地任せた!」

 

 

アサシンが後手に何かを構えたのを見て好戦的に応えるランサーの問いに答える前に、凛は魔術で己の身体を軽くしてフェンスを軽々と飛び越え地上に落下。

それを、命令の意図を感じとっていち早く校庭に降り立ったランサーが受け止め、同時に凛を抱えたまま、跳ねた。巨大な剣を構えた何かが着地した場所目掛けて降下して来たからだ。轟音と共に校庭の一角はクレーターを作ってめちゃくちゃになり…姿を現したのは、アサシン(?)では無かった。

 

 

「上手くいかないものッスね…やっぱり大剣は慣れないッス」

 

「なに…?」

 

「…セイバーのサーヴァント?」

 

 

出て来たのは、赤い軽装の鎧を身に包んだ赤髪をツインテールにして縦ロール状に纏めた変な髪型の少女。しかしその手には身の丈に合わない身長よりも大きい大剣を握っており、異常だと言う事は分かる。剣に鎧、ここから導き出される答えはセイバーのサーヴァントだった。だがしかし、では先程のアサシンは?初戦からして訳が分からないサーヴァントを相手に、凛は少し不安になった。

 

 

「…嬢ちゃん、いや。マスター」

 

「ランサー、何かしら?」

 

「せっかくやっこさんがやる気なんだ、少しでも情報を探るために戦った方が得策だと俺は思うぜ?」

 

「…そうね、私もそう思う。ランサー!私が呼びだしたんだから貴方は最強よ!その武勲、私に見せなさい!」

 

 

凛の叫びに、満足気に頷いたランサーはその手に朱い長槍を出現させ構えた。

 

 

「おうとも、そうこなくちゃな。見せてやるぜマスター…俺の槍捌きをな!さて大剣のサーヴァント…そんなら一つ手合せ願おうか!」

 

 

そして喜びに満ちた笑みと共に、最速のサーヴァントとしての俊足で正体不明のサーヴァントとの距離を一気に詰める。

 

 

「ッス!」

 

 

放たれた突きを、大剣を盾代わりに防ぐセイバー(?)はそのまま大剣を軽々と振り上げランサーに攻撃するも、その時には既に数メートル後方に下がっており、再度踏み込み突きを繰り出すランサー。セイバーは大剣をまるで自身の一部の様に振り回し、懐に踏み込まれた際には蹴られただけで一般人は重傷となるであろう重量のブーツによる蹴りを入れてそれを妨害しようとするが、ランサーの速さに着いて来れず防戦一方となる。それでも、突きが当たる範囲は鎧だけで致命傷には至らない。

対してランサーも大剣の破壊力を直感で感じ取り、攻撃範囲の広い大剣の一撃だけは浴びない様にと細心の注意を払いヒット&アウェイを心掛けている。何せ自身は最速のサーヴァント、大してあちらは怪力のサーヴァント。一撃の威力の差が開きすぎている。攻めきれない。

 

そんな数秒間の激突。それだけで、凛はサーヴァントがどれだけ規格外なのかを思い知る。

 

 

「これが英霊同士の対決…やっぱり、凄い。それにしてもあのサーヴァント…一体何者なの…?」

 

 

そう凛が思考した時だった。セイバー(?)の強烈な薙ぎ払いで強制的に距離を離され、その瞬間彼女の手甲が火を吹いたのは。

 

 

「宴会用必殺兵器、ロケット手甲ッス!」

 

「あぶねぇ!?」

 

 

飛んで来た手甲はランサーの腹部を捉える…が、ランサーの槍がそれを弾き飛ばす。弾き飛ばされた手甲は勢いを殺さず校舎の壁にぶち当たり、大きく抉った。

 

 

「おおう、やっぱり効かないッスかー…しかし最速の英霊に大剣(コレ)じゃ分が悪いっすね…なら…これでどうだ!」

 

「「なっ!?」」

 

 

セイバー(?)が後手に何かを構えた途端、その姿が全く違う男の姿に移り変わった。文字通りだ、スイッチを切り替える様に、一瞬のうちに姿を変えた。今度の姿はランサーより背が高く、縁が黄色い赤いマントを付けたがっちりとした重装備の赤い鎧を身に着けた茶髪の騎士。セイバー(?)は腰に携えた両手剣を握り、「牡牛の構え」を取ると笑みを浮かべた。

 

「三英雄の一人の力、思い知れ。ガキんちょども」

 

「なんだと…っ!」

 

「ランサー!」

 

 

今度は、ランサーが防戦一方。セイバー(?)の突進に虚を突かれ、至近距離で強烈な斬撃が次々と叩き込まれる。距離を取らせないつもりだ。先程の少女と違い、こちらは完全な技量のみで脅威となりえる。力強いその一撃は、人々を導く英雄の物だった。

 

 

「何だコイツ…さっきまでの動きと全然違いやがる!嬢ちゃん、相手の情報見れんだろ?どうなっている!」

 

「それが分からない…ステータス自体は何も変わってない、ただ、単純に、まるで人格そのものを切り替えたみたいな…」

 

 

マスターはある程度ではあるが敵サーヴァントのステータスを視る事が出来る。しかし、相手のサーヴァントは依然として、アサシンと思われたあのサーヴァントとまるで同じ。同じサーヴァントではあるのだが、何かが決定的に違うのだ。

 

 

「へっ、なんだそりゃ。得体の知れない野郎だぜ、とりあえずは…押し通るとするか!」

 

「ぬっ!?」

 

 

しかしランサーとて負けてはいない。剣の一撃を受け止めた所で槍の穂先ではない方の柄でセイバー(?)の脛に打撃、隙が無かった騎士が見せた一瞬の隙を突いて怒涛の突きの嵐を叩き込む。しかしセイバー(?)も剣を振るってそれを弾き返して行く。

 

技量としてはほぼ互角。しかしランサーの方がリーチと言う差で押している。勢いのままに押し切れば、或いは勝てていただろう。…その決闘に、邪魔者が乱入しなければ。

 

 

パキッ

 

 

僅かに聞こえた、枝を誰かが踏み締める音。その音に、戦闘中であった二騎のサーヴァントと、凛は気をとられそちらに振り向く。そこには、戸惑いの表情を浮かべている赤銅色の髪と琥珀色の瞳が印象的な学生服の少年が立っていた。

 

 

それは、魔術師でなくとも誰もが目を奪われるであろう、かつての英雄達による人智を超えた死闘であり、凛も目の前で繰り広げられる戦いに、自分のサーヴァントの雄姿に見惚れていた。そう例えば、誰かがそこに居合わせる可能性すら忘れてしまう程に。

 

魔術師同士の戦いを第三者に見られた場合、口封じのために抹殺するのが魔術師の鉄則。…その事がとある少女の怒りの要因の一つでもあるのだが一先ずそれは置いといて。即座に、二騎の英霊は動いた。

 

 

再び後手に何かを構えて姿を切り替えるセイバー(?)。今度は美しい銀髪と白い肌で侍女の様な衣装を着た長身の女性の姿で、両手にナイフを構え、危険を感じ取ったのか逃げ出す少年を圧倒的な素早さで地を駆け追い掛けた。

 

 

「ランサー、逃げた奴を追って彼奴から守って!」

 

「ちっ…マスターの命とあればしかたねぇか!」

 

 

凛の命令を受け、それを同等の速度で追跡するランサー。最速の英霊だ、自分の不注意で巻き込んでしまった彼を…顔見知りである少年、衛宮士郎をあの得体の知れない英霊から守れる筈。凛はそう思いながら彼らの後を追い掛けたが、現実は非情であった。

 

 

追い付いた先で彼女が見たのは、心臓部を刺し貫かれて倒れた同級生と、その前で悔しげに佇む己がサーヴァントの姿だった。




…ランサーの口調が微妙に間違っている気がしてならない…サーヴァント二体の強者感が伝わったのか否かも心許無いですね、はい。


さて、まず前提の話ですが…この世界では、「ゼルダの伝説」がアーサー王伝説以上の冒険譚として知られ、日本でその冒険譚を元にゲーム化された設定となっています。時系列上は風タクの世界に当たり、ハイラル王国は太平洋に沈んだ設定です。…地球であの伝説を再現するならあの海しかなかった。世界的な知名度ならヘラクレスに並びます。

あと個人的に三次~五次のアインツベルンは馬鹿じゃなかろうかと思ってしまったので(主にルール違反したとかマスターとの相性を考えないで最良のクラスで召喚したりとかアーチャーなら確実に勝てるヘラクレスを裏切らせないためとはいえわざわざバーサーカーとして呼び出すとか)、イリヤとは相性ピッタリであろうセイバーで時の勇者リンクを召喚しました。アサシンと違ってすぐ正体割れるから気が楽ですねー。ただしこの勇者、色々チートだからなぁ…(汗)

多くの姿に切り替えられる得体の知れないサーヴァント、アサシン。その正体は…?分かる人には分かると思います。ただ自己解釈もあるので…これは正直ぶっ壊れ性能だと思う。ちなみに多重人格とかじゃありません。

そんな訳で原作と同じく刺されてもらいました士郎さん。こうしなくても始まる気はしたけど士郎を聖杯戦争に巻き込むためにはこうするしかないからしょうがない事。次回は同じ時間帯を士郎sideでお送りします。+間桐も入れる予定ですが長くなったら分けるかも…

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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プロローグ#3:謎の美少女ガンファイターライダー

※今回新規されたサーヴァントのプロフィールは後日追記します。※追記しました。
シリアスが続くと思いましたか?…いえ、作風自体はシリアスにするつもりなんですけどね?アーチャーとライダーがギャグ世界出身な物で…そんな訳で間桐sideです。衛宮は次回に持ち越しです。

プロローグが長いと思うけどクロナとバーサーカーが主人公として動くためには必要な訳で。次回まで我慢していただけると幸いです。プロローグが終わったらシリアス全開に行きます故。

最弱のライダー降臨。間桐家での一悶着です、楽しんでいただけると幸いです。


数日前、深山町:間桐邸

その不気味さから誰も近付こうともしない、聖杯戦争を立ち上げた御三家の一つ、間桐家の屋敷。

その地下に在る、不気味な蟲が蠢く蟲蔵と呼ばれる魔術工房の床に描かれた魔法陣が輝き、間桐家の現当主である老獪、間桐臓硯とその孫にして間桐家長男であるワカメの様な青い髪を持つイケメン、間桐慎二の前で一人の少女が英霊召喚を行なっていた。

 

少女の名は間桐桜。彼女もまた、魔術師と言う存在により当り前の幸せを奪われ絶望の底に堕ちた人間だった。

元々黒かった髪は青みがかかり紫色に変色し、瞳の色彩まで変わっている。これは、魔術師の血が途絶える寸前だった間桐を存続させるために優秀な母体を求めた間桐臓硯がとある魔術師の家系から養子にもらい、使い魔である蟲達に10年という歳月を凌辱という形で調整し続けたのである。

それを救おうとした馬鹿な男が第四次聖杯戦争に参加していたが…結末は酷い物だった。それも桜を絶望に叩き込む要因となっている。もう怒る事も忘れてしまった彼女に希望は一つしか残されていない。

 

 

大好きな先輩との平和な日常。本当の家族も奪われ、かつて姉だった人物からも他人として接され、義理の兄からは奴隷の様に扱われ、自身を引き取った老獪からは最早人間扱いされていない、最低最悪の毎日の中で唯一人間として生きられる、優しい二人の先輩やトラブルメイカーなタイガーと食卓を囲める衛宮家での日常こそが最後の希望。

 

そんな彼女が聖杯戦争に挑む理由は一つ、勝ち残り平和な日常を再び送る。全ての元凶たる臓硯は、聖杯さえ持ち帰れば解放すると約束してくれた。相手にはかつて姉だったあの人も確実にいるだろうが、関係ない。日常を掴みとるためならば手にかける覚悟だ。

 

 

「――――天秤の守り手よ…!」

 

 

詠唱が終わると同時に魔法陣の輝きが増し、臓硯と慎二が見物する中、桜の前にエーテルが集束し、一人のサーヴァントが現れた。…しかしそれは、英霊と呼んでいいか分からない人物だった。

 

 

「サーヴァント・ライダー…でいいのよね、エルメス?」

 

『まったく、キnじゃないや、ライダー。ちゃんと説明したよね?僕達はただでさえ貧弱なんだからマスターからの信頼を得てご飯を食べたいのなら威厳を保てって。ほら、もう一度』

 

「はいはい、分かりましたよーだ。…えっと、サーヴァント・ライダー。召喚に応じ参上しました。まずはご飯を所望する!」

 

『…駄目だこりゃ』

 

「「「………」」」

 

 

どうすればいいか分からない、カオスな空気が辺りを支配し…現れたのは、一人の女子高生だった。というかただの女子高生にしか見えない。

いや確かに腰にガンベルトを巻いていて、ホルスターを下げてはいるが納まれているのはモデルガンだ。普通はつけないのだろうが、それでもただの女子高生。

 

着ているのは緑色のセーラー服。これもごく普通の代物で神秘の欠片も無い。

 

跳ねている前髪が目立つ濃い緑色の髪に天真爛漫な輝きを宿す緑色の瞳。…いやまあ、桜の母親も緑髪だったしそう珍しい物じゃない。

 

しかし、ベルトに付けられている、時代を感じさせる二輪車がうっすら描かれたごく普通のストラップが喋っており、ライダー本人もそれに驚かずむしろ好意的に接している。表面上は冷静に見えるが内心、狼狽えながらも桜はライダーのステータスを確認する。

筋力E。耐久E。敏捷D。魔力D。幸運E。あとは宝具だけがC+。桜はがっくりと膝を付き、項垂れる。それを見てポケーッと首をかしげるライダー。…誰がどう見ても、最弱の英霊だった。

 

 

「…これが、私のサーヴァント…」

 

「えっと、マスター?」

 

 

…桜はこれでも間桐に扱かれてそれなりの魔術師だった実感は持ち合わせている為、あまりにもショックがデカすぎた。何より、こんな英霊でどう勝ち残れと言うのか。まだアサシンならマスター殺しに特化しているため勝ち目はあっただろう。しかしライダーではどうしようもない。これではもう生き残る希望さえ見出せなくなった。絶望に打ちひしがれる桜に、さすがに気付いたのか心配の声をかけるライダー。

 

 

「どうしてこんなことに…」

 

 

そもそもこの召喚はちゃんと老獪に触媒を用意してもらっての召喚だったはずだ。それはちゃんと兄に預けられ………………………………預けられ、その後にちゃんと受け取り魔法陣に置きましたっけ?

 

桜がギロリと義理の兄を睨みつけると、ワカメは苦笑いしながらもやはり非はあるのかおずおずと後退していた。臓硯もそれに気付いて睨み、この場に味方が居なくなった慎二は苦し紛れに逆ギレした。

 

 

「な、なんだよ!確かに触媒なんて完全に忘れていたけどさぁ…それでも、触媒無しなら呼び出されるのはマスターに相性ぴったりな奴なんだろ!?だとしたらそれは桜が凡人以下って事じゃないか!魔術が使えるのにそんなの呼びだすなんて、恥ずかしくないのかよ!」

 

「…っ!」

 

 

魔術師の家系でありながら魔術回路を持たない義兄の言葉に、複雑な表情を見せる桜。身勝手な話ではあるが、彼はこれでも最初は自分を気にかけてくれていたのだ。それが。自分が間桐を継ぐために来たのだと知った途端に辛く当たる様になった。その気持ちは分かるのだ、自分も姉の方が優秀であるがために捨てられた様な物だから。

言い返そうともしない桜に、気分を良くしたのかそのまま悪口を捲し立てる慎二。臓硯も此度は諦めた方がよいか…と溜め息を吐いて蟲蔵を後にしようとし、それを見たワカメはさらに水を得て好き勝手喚き散らす。

 

 

「複雑な家庭って奴なのかね、エルメス?」

 

『さあ?呼び出されただけじゃマスターの事まで分からないから何とも…でもキnライダー、曲がりなりにも正義の味方だよね君は?』

 

「無理矢理アンタに仕立てられたんだけどね。…まあしゃーない、やったるわよ。私としてもマスターが暗い顔になるのは見てらんないし」

 

 

静観していたライダーはそう言うとポーチを開き、そこからぬこっと何かを取り出した。それは、拳銃だった。それも現代では映画やゲームでも露出が多く有名なM92Fだ。絶対にポーチには納まらないだろうサイズの拳銃の登場に我に返る桜と慎二。臓硯も呼び出されたサーヴァントがどんな能力持ちなのか気になるのか脚を止めた。

 

 

「やい、そこのうどんに入れたら美味そうなワカメ頭」

 

「だ、誰がワカメだサーヴァントの癖に!」

 

「うっせーどう見てもワカメでしょその頭。そんなことよりねぇ、アンタ私達のマスターの何なのさ。好き勝手言ってくれちゃって…もし懲りずに悪口言おうものなら私のM92Fが火を噴くよ」

 

『いつもなら止めるけど同感だからやっちゃえキnライダー!』

 

「ぼ、僕はそいつの兄だ!文句あるか!」

 

「んな訳あるかー!」

 

 

火を噴くM92F。ビビる慎二。いきなりの発砲に目を丸くする桜。ただの銃か否かを判断するために睨む臓硯。三者三様の視線で見詰められたライダーは心底不服そうに頬を膨らませて吠えた。

 

 

「騙されないわよ、こちとら話を聞かないマイペースなイケメンは懲り懲りなんです!てかどう見てもうちのマスターと共通点が髪の色ぐらいしかないんですが何か弁明ある?」

 

「義理の兄妹だ!」

 

「だったら猶更よ!義理でも兄貴だったら私みたいなハズレを引いちゃった妹を慰めるぐらいしなさい!なに、それとも妹を虐めて優越感を感じるサディストなのこの変態ワカメ!うちのマスターに手を出したら絶許!何故ならこのマスターめっちゃ料理得意そうだから!」

 

『その台詞と涎で色々台無しって事に気付いてる?』

 

「エルメスは黙ってろ捨てるぞ」

 

『ゴメンナサイ』

 

「あとそこのクソジジイ!」

 

「む?我が孫を虐めていたかと思えば今度はこの老輩か?」

 

 

いきなり標的にされ若干狼狽える臓硯。しかしライダーは間髪入れずに銃口を向けたM92Fの引き金を引き連射。寸分たがわず頭部を撃ち抜かれた臓硯は悲鳴も上げずに崩れ落ちた。…文字通り。

 

 

『やっぱり化け物の様な嫌な気配がするかと思ったらビンゴみたいだよ、ライダー』

 

「やっと言い間違えずに済んできたわねエルメス」

 

「爺さん!?」

 

「カッカッカ。どこを見ておる慎二。儂はここじゃ」

 

 

たった今マスターの一応の祖父を撃ち殺したと言うのに平然としているサーヴァントに顔を引きつらせる慎二。だがその背後から死んだはずの老獪の声が聞こえ、振り向くとそこには間桐臓硯その人がいた。幽霊だと思ったのか気を失うワカメ。海草の癖にチキンである。

 

 

「何のつもりじゃ?ライダーのサーヴァント」

 

「やっぱりね。化け物の嫌な感覚がした訳だ。アンタ、ヒトの形をしているけど中身は蟲の化け物ね?」

 

『しかも一番気味が悪い奴だ。蟲の集合体で肉体を作っている』

 

「如何にも。だがどうする?儂を殺すのか、どうやって?」

 

 

間桐臓硯…否、間桐家初代当主『マキリ・ゾォルケン』としてライダーを敵と見定めた500年を生き続けた老獪は使い魔である蟲を大量に呼び出し、ライダーと呆けながらもライダーに守られている桜を囲む。ライダーはそれらをじろじろ睨んで何かを探すも、やっぱりかとでも言いたげに息を吐いて右腰のホルスターに下げられたプラスチック製のリヴォルバーを構えた。

 

 

「やるわよエルメス。マスターの害にしかならない化け物はここで倒して置こう!」

 

『それはいいけどその心は?どうせロクな物じゃないんでしょ?』

 

「マスターの害になる物は排除しないとご飯が美味しくないわ!」

 

『だろうね。マスター、こんなお馬鹿だけど守られてくれない?大丈夫、こう見えてライダーは守る戦いなら本当に得意だから』

 

 

エルメスは「イーニッドの時の奴ね!」とか勝手に納得しているライダーを無視して放心している桜に問いかけた。桜は我を取り戻し、慌てる様にライダーに駆け寄り問いかけた。

 

 

「あ、はいエルメス…さん?ライダー、お爺様を…殺すの?」

 

「え、駄目だった?もしかしてあんな蟲でも家族としての情はあった?」

 

「…いえ、むしろ敵意しか感じてません」

 

「じゃあ任せんしゃい。サーヴァントとして、ちゃんと守ってあげるよマスター。一応私は正義の味方だしね」

 

『ご飯を美味しく食べるために戦うヒーローだけどね』

 

「うっさいエルメス。っと、そう言えば名前は?」

 

 

ライダーはモデルガンのハンマーを親指で上げて右手を頭上に高々に上げながら桜に問いかける。桜はまるでアニメの変身ヒーローの様なポーズを取るライダーに少々見惚れ、すぐに我に返り笑顔で答えた。

 

 

「…桜、間桐桜です」

 

「了解、桜。さあエルメス、行くよ!”フローム・マーイ・コールド!―――デッド・ハーンズ”!」

 

 

その言葉と共に引き金を引いてハンマーが落ち、キャップ火薬が叩かれぽぽんっ、と情けない音と共にライダーは光に包まれ、一瞬後再び姿を現した。もう何かクルクル回ったりノリのいいBGMが聞こえたり光のシルエットが裸ギリギリだったり光の帯が衣装になったりしたかもしれないがそれは置いといて。

 

 

『変身完了だ!人呼んで、"謎の美少女ガンファイターライダー”略して謎のライダーだよ!』

 

「"謎の”って言うな」

 

「え、あの…変わっていませんが!?」

 

 

エルメスの言葉に耳を疑う桜。それもそうだ、セーラー服、ポーチがいくつかとホルスターが付けられた茶色い革のガンベルトを腰に巻き、前髪が跳ねている。髪の色も目の色も変わったりはしていない。どこが変わったと言うのか。

 

 

『いや、変わっているよ!まずモデルガンが宝具【魔射滅鉄(ビッグカノン)】になっているし、セーラー服の袖が1ミリ厚くなったしサービスでスカートは3ミリ短くなってるしポーチの止め金具のマークが熊から猫になったし…なによりステータスも上昇しているはず!』

 

「宝具バレすんなし。まあ私の正体なんか誰にも分からないんだろうけどさ」

 

「あ、確かに…」

 

 

そう言われて桜がステータスを再度確認すると、確かに筋力C 耐久B 敏捷A 魔力D 幸運Eと、魔力と幸運以外のステータスが上昇していた。何かのスキルを使った様だ。明らかに上がった魔力に、身体を震わす臓硯。身の危険を感じ取るが、もはやそれは遅い。

 

 

「てー!」

 

 

ポーチの蓋を開け、宙を舞うだけでばら撒かれる銃、銃、銃、銃、銃。火縄銃からスナイパーライフルまで、過去から現代までの世界中の銃がより取り見取りである。今ここに、宝具に詳しい錬鉄の英雄でもいたなら驚いただろう。何せ、現代の兵器である銃全てが、ランクD相当の宝具なのだから。

桜とライダーを守る様に宙を舞い外側に銃口を向ける銃達は、ライダーの叫びと共に一斉掃射。群がる蟲共を一匹残らず駆逐、ついでに臓硯も撃ち抜く。しかしどこから湧いてくるのか新しい蟲で肉体を形成し、さらに蟲を呼び出す臓硯。

 

 

「カッカッカ!如何に英霊と言えども儂に勝つのは不可能じゃ。特にライダー、桜のサーヴァントである貴様には絶対になぁ!」

 

 

愉快痛快とばかりに嗤う臓硯の言葉を合図に、風切り音と共に高速で襲い来る蟲軍。ライダーは「うへー」と気持ち悪そうに唸りながらも手にしたウージー二丁で「銃七乗の拳法」と呼ばれる、知り合いの戦士が得意とした「敵の攻撃位置を過去の戦闘統計から予測、それを回避しつつ最も効果的な攻撃位置に立ち両手に持つ銃で一方的に攻撃する、閉鎖された空間における近接戦闘に置いて世界最強を誇る究極の拳法」で桜を守りながら蟲の大群を迎え撃った。

 

 

「カッカッカ。さすがの英霊とて、数には勝てぬじゃろうて。無限に湧く儂の可愛い蟲達にどこまで足掻けるかの?」

 

「生憎ね、こっちは人じゃなければいくらでも倒せるんだっての!…それに、どうすればいいかも分かったし。ね?エルメス!」

 

 

数分後、嗤う臓硯に笑みを返すライダーの姿がそこにあり、その手には通常の銃器ではなくリヴォルバー…彼女の宝具【魔射滅鉄(ビッグカノン)】が握られていた。

 

 

『もちろん。あのお爺さんの本体はマスターの心臓部にあるみたいだ。行ける?ライダー』

 

「初めてだけど何とかなるなる。じゃあマスター、ちょっと痛いよ。いやちょっとじゃないかも。とりあえず痛いから覚悟して」

 

「えっ…?」

 

「何を…させるかァ!」

 

 

桜に銃口を向けようとするライダーに、何をしようとしたのか悟ったのか鬼の形相で蟲の大群を一斉に襲い掛からせる臓硯。その時、ライダーの瞳はキランと光り、しかし溜め息を吐いた。…彼女の切札の一つであり、そして一番使いたくなかった物だからだ。いや確かに強いのだが。

 

 

「――――ピンチだな!」

 

 

どこからともなく響く男の声。ライダーは恨めしいと言った顔で臓硯を睨んだ。「余計なことしてくれたな」と目が語っていた。

 

 

「――――正義の少女がピンチの時…!」

 

「ら、ライダー。この声は?」

 

「…何と言えばいいんだろ、エルメス?」

 

「――――今、一人の騎士が天空の彼方より舞い降りる!」

 

『変態でよくね?』

 

 

その口上と共に、エーテルの光を纏い空から優雅に舞い降りたのは純白の学生服とシルクのマントを身に纏った男だった。

懐から一つの懐中時計がぶら下がり、腰には黒い鞘の日本刀が一本差し、きりりとしまった顔つきは鼻から額にかけての純白のマスクで隠され、少し長い黒髪の頭には何故か白くふさふさした犬の耳がちょこんと着いて、その頭頂部には赤いリンゴが。あと室内なのに何故か純白のハトがスローで横切って消えた。

いきなり現れた変態に、心底嫌そうに溜め息を吐くライダー。ライダーが召喚された時よりも唖然とする桜と臓硯。ワカメの頭を踏んで着地した変態は日本刀を抜き名乗りを上げる。

 

 

「私の名は、純白の正義の騎士・サモエド仮面!またの名をジ・オーリーワン・サモエドナイト!わははははははっ!今参る、とうっ!」

 

 

そして次の瞬間、襲い来る蟲の群れは一瞬で斬り伏せられ灰塵と化す。臓硯は呼び出されたサモエド仮面を見て、長年の経験からセイバークラスのサーヴァントだと直感する。…同時に、ライダーの「対窮地宝具」だと言う事も気付いた。

当のライダーはどこかうんざりした様子で再び桜に銃口を向けており、臓硯は焦りこの屋敷に巣食う全蟲を導入。しかしサモエド仮面はものともせず、むしろ陽気に歌いながら斬る、斬る、斬る。ライダーが銃の達人ならこちらは剣の達人である。

 

 

「おおー!君は見たかー♪あの爽やかな笑みー♪風にたなびくマントはー、正義のしーるーしー♪」

 

 

蟲の壁なんて物ともせず、無駄に上手い歌をこの閉鎖空間に似合わない陽気な声で歌い上げ爽やかな笑みと共に神技とも言える斬撃で散らしていくサモエド仮面。

 

 

「とりゃー!うりゃー!成敗!逃げるなー!」

 

 

無茶苦茶すぎるその光景に桜は考える事を止めた。臓硯は泣いた。サーヴァントでも勝てる自信はあったがこれは勝てない。馬鹿には勝てぬ、という奴だ。

 

 

「化け物なんて殺してもオーケー!正義のためにはなんでもあーりー!たのしーなっ!」

 

『何かマスターが死んだ目になってるけど大丈夫かなー?』

 

「気持ちは分かるけどね。じゃあ桜、気を引き締めて。魔を撃ち払え!必殺!【魔射滅鉄(ビッグカノン)】!」

 

「や、やめろォオオオオオオオオッ!」

 

 

ライダーが引き金を引くと同時にたーんっと音が突き抜け、老獪の断末魔と変態の笑い声だけが地下室に響き渡った。

 

その数刻後、セーラー服の女子高生が後部座席に少女を乗せてバイクで立ち去ると同時に、間桐の屋敷は完膚なきまでに切り刻まれて倒壊したと言う。




マキリ絶許、慈悲は無い。ワカメは知らん。大真面目にふざけた結果がこれだよ!

ステータス最弱だけど変身スキルで強化+二人で一人のサーヴァント+宝具で生前知り合いだった人間を宝具無しのサーヴァントとして召喚。…はい、つまりは色んなライダーを合わせた特殊系サーヴァントになりました。アン&メアリー、イスカンダルと言った感じで。まだ真名出してないけどもう正体は分かる人には分かったかと思います。

ビッグカノン→破壊力抜群の魔物封印弾頭→「魔」のみに対して当たれば一撃必殺→桜の心臓というか肉体を透過してマキリ本体のみを撃ち抜く起源弾。こうなった結果がマキリの破滅。この方程式を思いついた時は痺れました。桜のサーヴァントが決定した瞬間です。

次回こそ衛宮side。原作とは大いに変わっていますので次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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プロローグ#4:空の落し物と正義の味方

※今回新規されたサーヴァントのプロフィールは後日追記します。※追記しました。

今回は原作主人公である衛宮士郎sideでお送りいたします。前回と違い大半がシリアスです。原作とはかなり違う状況での衛宮家での戦闘ですが、楽しんでいただけると幸いです。


衛宮士郎の始まりは、あの10年前の大火災。だけど、正義の味方としての俺の始まりは…忘れもしない、あの日だ。

 

 

「……爺さん、こんなところにいたのかよ。ちゃんと布団で寝ないと風邪を引いても知らないぞ」

 

「あぁ、士郎か。済まない。少し月を見ていたんだ」

 

「月か……」

 

 

姉貴分であるクロ姉との遊びから帰宅し、縁側に爺さん(キリツグ)を見付けて一緒に月を見上げていると、俺の憧れた親父は穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「僕はね、子供の頃、正義の味方になるのが夢だったんだ」

 

「だった…ってなんだよそれ。諦めたのかよ?」

 

「うん、残念ながらヒーローってのは期間限定なんだよ。大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんな事、もっと早くに気が付けばよかった」

 

 

当時から正義の味方に憧れていた俺にとって爺さんの言葉は、何とも言えない儚さがあった。自力で大火事を生き延びたクロ姉と違って、俺はこの人に救われた。切嗣は俺のヒーローだった。だからそう言って欲しくないと、そう思った。だから、そう約束したんだ。

 

 

「うん。しょうがないから俺が代わりになってやるよ」

 

「え…?」

 

「爺さんはオトナだからもう無理だけど、子供の俺なら大丈夫だろ。任せろって、爺さんの夢は俺が継いでやるよ」

 

 

子供なら誰でも思い浮かぶだろう、正義の味方になりたいって夢は、俺にとっては誓いの言葉で。

 

 

「そっか…安心した」

 

 

そう安心したように安らかな笑みを浮かべて息を引き取った切嗣との約束は、今でも俺の中に残り続けている。今度は俺が人々を救う正義の味方になる、それが10年前に切嗣に救われて決定した「正義の味方」衛宮士郎の在り方だ。

だが、現実は厳しい。あれから数年経っても一介の学生でしかない俺に出来る事と言えば、今せめて出来る事をやるだけだ。未来への布石であり、俺にとっては当たり前の毎日。ブラウニーとか言われているらしいが気にしないで俺は今日も人助けを続ける。

 

 

「士郎、お代わり!」

 

「こらライダー!先輩にあまり負担をかけないで!」

 

「別に俺はいいよ桜。ほら、よそってやるよ」

 

 

数日前からは、後輩の家がガス爆発かなんかで無くなったらしく、その兄である親友はホテル暮らししているらしいが、後輩…間桐桜は親戚を預かっていてそれが出来ず、やむを得ずうちに来たらしく居候している。

 

 

「ひゃっほうこのまったりとしたもったりとした何とも言えぬ味がおばあちゃんの料理を思い出すなー!」

 

 

その親戚だって言う高校生…桜があだ名で言うところの”ライダー”は大食漢で、それはもうよく食べる。今まで一番食べていた藤ねえ…藤村大河、穂群原学園の教師をしている俺の姉的存在であるあの人もドン引きして「ちょっと申し訳ないからこれからは一週間に一度にしておくわね」などと言わしめる程だ。あのタイガーが、である。

特にカレーうどんを作った際には軽く10人前を食べられ、それでもお替りを要求して来るので何時も大人しい桜が本気で殴って黙らせた程だった。おかげで食費がかなりピンチである。クロ姉が持ってくる食材が無いと完全に尽きていた。

 

 

そんな、平和な毎日を続けていた高校二年の冬のある日。

 

 

「―――体は剣で出来ている」

 

 

誰かが夢の中でそう言った気がして目覚めたその日、俺は運命(Fate)に邂逅した。

 

 

 

 

 

 

 

何時もの様に頼まれた、弓道場の掃除を終え、夜が更けた頃に帰宅しようと校門に向かっていた際に、聞こえた異質な音。金属同士がぶつかる様な不協和音に、何かが振るわれた様な風切り音。学校、それもこんな時間に聞こえるはずの無い音に、弓道場から見て校舎の裏側に広がる校庭を覗きこむ。

 

 

「なんだ、あいつら…一体…?」

 

 

そこでは、赤い鎧を纏い両手剣を握った大男と、朱い槍を握った蒼い装束の獣の様な男がそれぞれの得物を振るってぶつかり合い、この世の物とも思えない激闘が行われていた。その技量は、人間に出せるとは思えず。その力は、間違いなく「あちら」の物だと分かる。

 

非常識にも程がある、嘘みたいな光景に立ち去ろうとしたその時、焦ってしまったからか足元の枝を踏んでしまい男二人が反応する。その殺気に、思わず校舎に向けて逃げ出すと再び理解できない光景が目に入って来た。

 

赤い鎧の大男が、一瞬の後には銀髪の女性になってナイフを両手に構え追いかけて来たのだ。訳が分からなかったが、これだけは分かる。アレは見てはいけない物だ逃げなくては殺される。俺は全速力で廊下を疾走した。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、逃げ切れたの…か…?」

 

 

ここがどこだか分からない、夢中で走り続けて数十分…とりあえず、一度もあの謎の女性に出くわさずに逃げれたと思う。そう思っていたのだが、甘かった。非常識はやはり非常識なのだ。

 

 

「アハハッ、割と遠くまで逃げたじゃない。おかげでゆっくりと甚振れるようで何よりだわ、今回の現界じゃ特殊部隊の連中呼べないから追い詰めるの面倒なのよね~」

 

「クッ、アッ…!?」

 

 

その声に反応するも時既に遅く、俺の両足を投げられた二本のナイフが斬り裂いていた。腱を切られ、崩れ落ちる俺の身体。何とか這って逃げようとするも、駄目だ。このままじゃ、殺られる。

目の前に居たのは、赤い鎧の大男でも無く、銀髪の女性でも無かった。たった今、銀髪の女性から姿が変わった、レイピアを握った赤い鎧の女剣士だった。…先程の大男と鎧が似ているので関係者なのだろうか?そんなどうでもいい事を考えるぐらい、絶望的な状況だった。

 

 

「うん、貴方を最初の屍兵にしてあげる。光栄に思いなさい、アンタは私の手駒になるの。この姿風に言えば…私と一緒に革命を起こしましょう?革命なんてして変わる様な時代でもないだろうけどね!アハハハハハッ!」

 

「ふざ…けんな…!」

 

 

狂っている女剣士の言動に、思わず否定の言葉が口から出る。手駒になるってのは恐らく魔術の一種だ。つまりこいつは…魔術師。爺さんが言っていた、魔術を使う人間達の一人。だけどこいつは爺さんとは違う、人が苦しむさまを見て嗤うのは悪だ。俺は正義の味方になるんだ、悪にだけは屈しない。

 

 

「お前の様な奴の手駒になんかされてたまるか…!」

 

「えー、拒むのー?まあいいや、どうせ死体はいくらでもあるし。でもね、アンタを見逃すってのは出来ない相談なのよ。…貴方、自分でも分かってたんじゃない?どうしても逃げられないって事を」

 

「…!」

 

 

図星だった。あの時、理解してしまった。とてもこの世の人間とは思えない、見た事も無い素材で出来た服、そして武器…何より、気配。こんなのに目を付けられたら終わりだと直感させる濃厚な殺気を一瞬で出してきた、この女剣士の姿をしているナニカ。逃げたのは、衝動的な事に過ぎない。頭では助からないと分かっていたのだ。

 

 

「私には分からないけどやられる側ってのはそういうものなんでしょ?こっちは貴方に恨みなんて何一つないんだけどさー、私が殺して来たのは大体そんな奴等だし、貴方が見てしまったんだからしょうがないわよね。大人しく死んでくれないかしら。でも安心して?貴方だけは屍兵にしないであげるわ」

 

 

彼女の言う「しへい」が何の事なのかは分からない。だけど、確実な死が迫り来るのは何となく察せた。ああ、明日は一週間ぶりに藤ねえが来て皆で、桜やライダーやクロ姉も交えてご飯を食べるはずだったのに。守れなくてごめんな、藤ねえ。ライダー、今日の飯は桜ので勘弁してくれ。俺には無理そうだ。そしてクロ姉……アンタからまた、弟を奪う事になって…悪いな…

 

 

「せいっ」

 

 

そんな軽い掛け声と共にレイピアが振るわれて俺の左胸を突き刺し、鮮血が噴出して女剣士をさらに赤く染め上げ、その光景を最期に目蓋が閉じられ俺の意識は闇に堕ちて行った…こんな様で正義の味方なんて、笑えるな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。切嗣と出会った、いや爺さんが俺に養子になってくれないかと言ってきて了承し、病院からの帰り道に「実を言うとね。僕は魔法使いなんだ」と告白して来たあの日。

 

数日後訪ねてきた、同じ火事を生き抜いたと言う少女は藤ねえを見て、「…タイガーさん頼りないから私が士郎の姉になる。…シロとクロでぴったりでしょ?」と笑って姉代わりになるのを進み出て、藤ねえと喧嘩になったっけ。

 

彼女経由で知り合ったクロ姉の養父、冬木教会の神父には麻婆豆腐をご馳走になったけどあまりに辛くて、それで険悪な雰囲気になったのを静観するクロ姉が可笑しくて、思わず神父と一緒に笑ったな。

 

そして切嗣の夢を継ぐと約束したあの日。…そうだ、俺は誓ったんだ。切嗣みたいな誰かの危機を救う正義の味方になるって!こんなところで死んで…たまるか!

 

 

 

意識が覚醒する、と同時に激痛が全身に走り、俺は左胸を押さえる。見てみると、血が流れた跡と刃物が刺さった穴が制服にあるのに傷が塞がっていた。確か胸を刺されたよな…俺、生きているのか…?

 

「…帰ろう、桜たちが心配しているだろうし…」

 

傍に居ないと言う事は、あの女剣士も、槍の男ももう立ち去ったのだろう。何で生きているのか分からないが、拾った命は大事にしないと。

 

 

 

 

 

血が流れたからか気怠い気分でよろよろと歩き、深山町の武家屋敷…衛宮家に辿り着くと鍵が開いている玄関を潜り、そのまま玄関先で倒れた。帰って来たことに気付いたのか駆け寄ってくる桜と、何故か拳銃を構えたライダー。…ああ、お前もあいつ等と同じなのか…何か納得した。

 

 

「先輩!そんな、何で…ライダー、何で先輩が…」

 

『落ち着いてマスター。彼の傷は何故だか知らないけど既に塞がってる。多分、さっきまでサーヴァント同士の戦闘が行われていた場所にいたんだよ。見つかって殺されそうになったけど、生き延びた』

 

「悪運が強くてよかったわ、またご飯を食べられるって事よね!」

 

「ライダー?」

 

「ごめんなさい。…っ!桜、下がって!」

 

 

桜とライダー、謎の少年の声が話し合っているとライダーがいきなり何かに気付き、ポーチの中に拳銃を入れると代わりに戦争とかで見る銃剣を取り出し構えた。そうだ…こうしている場合じゃない、失念していた。俺がこうして生きている以上、ヤツはまたきっと口止めに…来る…!

 

 

「ちんけな結界ね。侵入するのも簡単だなんて」

 

「サーヴァント…!」

 

「ライダー、お願い!」

 

「分かった!桜は士郎を!」

 

 

瞬間、玄関を蹴破り入ってくる黄色いフードの人物。直感する、こいつはあの女剣士と同一人物だ。ナイフを構え、俺に振り降ろして来たのをライダーの銃剣が防ぎ、桜が俺をリビングに連れていく。投げ飛ばされる音が聞こえたから、多分戦闘は玄関から庭に移ったんだろう。…こうしちゃいられない、俺の家族のピンチなんだ。

 

 

「さ、桜…」

 

「何ですか、先輩!今は説明は後で。ここはライダーに任せてどこか安全な所に…」

 

「アイツの狙いは俺だ…!その次は多分、ライダーだ。俺は見た、あいつと似た様な存在が殺し合っていたのを。だから逃げろ、俺なら一人で何とかするから…!」

 

「そんなの…逃げれる訳ないじゃないですか!大丈夫です、ライダーなら勝ってくれます!先輩は…」

 

 

桜がそう言った瞬間、リビングの窓を突き破ってライダーが目の前の机の上に叩き付けられる。それに俺達が驚愕する中、間髪入れずにチョコネロネの様な髪型をした赤い髪と鎧の少女が飛び込んできて強烈な腹パンをライダーに叩き込み、ライダーは呻いてそのままぐったりと動かなくなってしまった。

 

 

「マスターからサーヴァントとマスターは極力殺すなって言われているからこれでいいッスね。さあ次はアンタ達ッスよ?まったく、一日に同じ奴を二度も殺す事になるなんて興醒めッス。避けない方が痛くないッスよ?」

 

 

そう言って手の中に身の丈以上の大剣を顕現して構えるチョコネロネ。…こいつもさっきのフードと同一人物か。一体何なんだ?とか思っていてもしょうがないので、俺は桜を庇う様に前に立ち、咄嗟に足下に置かれていた新聞紙を丸めて棒の様にして構える。と同時に、大剣が横薙ぎに迫る。間に合え…!

 

 

「桜、下がっていろ!同調、開始(トレース・オン)!」

 

「むっ?」

 

 

ガキィンと響く金属音。それは、丸めた新聞紙が大剣を弾いた音だった。…俺は魔術師だ。未熟な身でできる唯一の魔術、強化。上手く行った…けど、これからどうする?チョコネロネは俺を刺したあの女剣士の姿に変わり、レイピアを構えながら獰猛そうに笑った。

 

 

「へぇ…変わった芸風ね?紙筒に魔力を通して強度を高めた『強化』…アンタ、魔術師だった訳ね」

 

「先輩…やっぱり、先輩も魔術師だったんですね」

 

「桜、話は後d…グッ!?」

 

「面白いわね!」

 

 

凄まじい速さで振るわれるレイピアを、何とか弾き返す。続けて突き出される突きは桜を庇うために横に弾き、効くとは思えないがライダーの手元に転がっていた銃剣を拾って牽制に投げ付ける。

 

 

「小癪な…じゃあこれで…どうだ!」

 

「がっ!?」

 

「先輩!」

 

 

やはりと言うか、簡単にレイピアで弾かれ、奴が後手に何かを持ったかと思うとその姿があの槍使いと戦っていた大男の姿に変わり、両手剣による重みのある斬撃が叩き込まれ、俺の手に持つ紙筒が大きく弾かれると同時に蹴り一閃。俺はライダーが突き破った窓から庭に蹴り飛ばされ、何とか受け身を取って体勢を直すと大男はジャンプ斬りを仕掛けて来て、俺は何とか前転でそれを逃れ立ち上がる。

 

 

「終わりだ…!」

 

「この…!」

 

 

両手剣の切っ先を突き出し突進を仕掛けてくる大男相手に、俺はフルスイングで対抗。先程よりも凄まじい金属音が響き渡り、大男の手から両手剣が弾かれ、離れた地面に突き刺さった。よし、これで相手に武器は…!?

 

 

「甘い!」

 

「が…はっ…!?」

 

 

甘かった。今度はあの、校庭で戦っていた槍使いの男の姿になり、その長い脚で強烈な蹴りが叩き込まれ咄嗟の防御も意味を成さず、数メートルも蹴り飛ばされて土蔵の扉に背中から叩き付けられた。崩れ落ちる俺を尻目にフードの人物に変わり、両手剣からナイフになっていた武器を回収して歩み寄って来る。万事休す、か。

 

 

「驚いたかしら?あの姿はリーチがいいからね。武器までは情報が無かったから再現できなかったけど、接近戦なら十分だったでしょ?アハハハッ、魔術師にしてはよく持った方よ自分を褒めなさい?でもこれで本当に最後。もしかすると貴方が七人目だったのかもね」

 

 

そう言ってナイフを構え妖しく嗤う少女。…俺は見た、フードを外し、にやにやと殺しを愉しむ様に嗤うその姿を。綺麗な金髪と黄色の目で、サイドテールに纏めた髪束をフードに納めていた様だ。そんな格好でなければどこかの王女にも見える美貌が月光の下で、何とか土蔵の中に逃れた俺を冷たく見下ろしていた。

 

 

「じゃあちゃんと死になさいよ?今度は迷い出るな、何度も同じ奴を殺すのは気分が悪いのよ」

 

 

迫り来る凶刃。視界の端で桜とライダーがこちらに駆け寄って来るのが見えるが、とても間に合わない。全てがスローに見える。死ぬ?俺はここで本当に死ぬのか?…冗談じゃない!

 

 

 

―――俺はまだ、誰一人救えていない。

 

 

 

このまま死んだら桜もライダーも殺される。

 

 

 

―――俺はまだ、正義の味方になれてない。

 

 

 

 

 

 

―――――――衛宮士郎(おれ)はまだ、死ぬ訳にはいかない…………!!

 

 

「な…に…!?」

 

 

その瞬間、俺と彼女の前で旋風の渦が発生し、ナイフを、さらにはフードの少女を弾き飛ばす。弾いた?あの人ならざる力の 凶刃を?

視界の端で、桜とライダーも驚いていた。信じられない者を見たかの様に。フードの少女もまた、目の前で起こったことが信じられない様な顔でジリジリと後退していた。

 

なんだ?一体何が……?そして、旋風の中から一人の少女が現れた。よく見ると、それは土蔵の中にあった何かの魔法陣の上に立っていた。

 

 

 

風に揺れる、緋色の髪。優しく穏やかな輝きを放つ翡翠の瞳。

 

月光の下で神秘的な輝きを放つ、露出の激しい近未来な感じのする白い衣装、背中から生える淡い桃色の巨大な翼。

 

耳に当たる部分には白い機械があり、巨大な翼も含めて人じゃないと誇示している様だ。

 

 

 

「馬鹿な…七人目の…サーヴァント…!?」

 

 

まるで天使の様な美少女が俺とフードの少女の前に現れ、そして一瞬でフードの少女に肉薄すると表情も変えずに拳を一閃。反応できず姿も変えられなかったフードの少女はもろにもらい、大きく殴り飛ばされた。華奢な身体に見合わない怪力。彼女も、人ならざる者なのだろう。

 

振り返る彼女。その顔は、どこかこの出会いを喜んでいるように見え…土蔵の中で、外で桜とライダーが呆然と立ち尽くす中、俺と彼女は邂逅した。

 

 

「―――インプリンティング開始」

 

 

その言葉と共に、彼女の首に付けられた首輪から伸びた鎖が俺の左手に巻き付き、そして姿を消すと代わりに俺の左手の甲に赤い紋様の様な物が現れる。それが何なのかは分からない。だが、次の言葉だけは印象に残った。

 

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上しました。初めまして、私の鳥籠(マイマスター)

 

「マスター…サーヴァント、だって…?」

 

「はい。その令呪が貴方がマスターである何よりの証。これより我が身はマスターと共にあり…貴方の運命は私と共にあります。…契約完了、これより戦闘に移行します」

 

 

キュイッと音を立てて目が紅く染まり、少女…アーチャーは外を睨む。そこには、殴られた胸部を抑えて立ち上がり、大剣を構えて突進してくるチョコネロネ…フードの少女の姿が。

 

 

「マスター、この聖杯戦争…必ず私が勝利に導きます」

 

 

その言葉と共に、アーチャーは拳を構えて翼を広げて突進し…チョコネロネの持つ大剣と激突した。

 

 

 

…それが俺と彼女との出会いであり、聖杯により人生を狂わされた俺達が挑む聖杯戦争の始まりだった。

 

 

 




アサシン/キーワード追加【屍兵】【特殊部隊】
アーチャー/キーワード追加【インプリンティング】【私の鳥籠】

EXTRA風にするとこんな感じ。まあアーチャーの正体は簡単に分かると思いますが。時系列だとバーサーカーが召喚された直後になります。

衛宮家に居候するライダー陣営。ホテル暮らしのワカメ。士郎を追い詰めるアサシン。腹パンされてダウンするライダー。ヒロインしている桜。召喚と同時にアサシンを殴り飛ばしてしまうアーチャー。…シリアスの落差よ。


次回、ついに主人公が動く第一話「怒れる拳に火を点けろ」アサシンオワタの巻。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#1:開幕、怒れる拳に火を点けろ

遅くなってしまいました申し訳ございません。言い訳させてもらうと、この後の展開ならいくらでも思いついているんですが序戦である衛宮邸での対決は全く考えてなかったんです。なので難航しました、はい。

アーチャー、ライダー、アサシン、そしてバーサーカーの四つ巴の対決。主人公の魔術も発動です。
ちょっとぐだぐだですが、楽しんでいただけると幸いです。


私が佇むのは、召喚してからの一悶着の後バーサーカーに送ってもらった新都のそれなりに高いビルの屋上。ここからなら、狙える。

 

 

Awaken Ready.(魔術回路・起動)―――――Standingby.(調整開始)

 

 

この10年間、繰り返し続けてきた工程。魔術回路を起動し、必要な回路に繋げる。私の全身に赤いラインの様な光が走り、私の手に握られた白いマフラーの形状を変質させ、さらに硬化。今回は身の丈はある巨大な純白の弓を形作り、同時に強化の魔術で視覚をサーヴァントの「鷹の目」と同等とも言える域まで底上げし、深山町のある方面を見詰めた。そこは、大事な弟分にして後輩の住む武家屋敷。

 

自身の起源とやらは知らないが、この身は「改造」に適している。私が唯一使える「強化」系統の一段階上に位置する魔術「変化」のさらに何段階も上を行った魔術。ただ、物体を構成面から改造し根本から変質させる。それが私だけが使える特殊な魔術、魔術師を討つべく編み出した「改造魔術」だ。

 

 

「―――――Complete.(全工程完了)

 

 

弓を構える。引き絞るのは、袖口に入れて置いた柄のみの刺突剣「黒鍵」三本。刀身を出し、着弾と同時に爆発する様に改造。その時を待つ。

 

 

「…こっちの準備は出来た。何時でもいいよ、バーサーカー。…士郎と桜以外、サーヴァント三騎を潰せ」

 

 

念話で指示を送る。…士郎と桜が聖杯戦争に巻き込まれたのならここで脱落させて我が冬木教会で早々に保護しよう。これは、私の戦いだ。あの二人を巻き込む訳には、行かない。…ライダーとはこの数日、同じ釜の飯を食べた仲だから躊躇もあるけど情はかけるな。聖杯を破壊するために、この身を道具としろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

激突。アーチャーの拳と、アサシンの大剣がぶつかり、互いの怪力により弾かれ、再度対峙。アーチャーは翼を広げて空中に飛翔して滑空と同時に拳を叩き込んで避けられると再び飛翔。さらに滑空攻撃を仕掛けてアサシンを翻弄する。

アサシンは三度目の滑空攻撃を回避すると同時に後手に何かを構えるとその姿を、金と黒を基調とした豪勢なドレスを身に纏った、とても戦闘できそうには見えない金髪碧眼の14歳ぐらいの少女の姿に変えると、その手に拷問道具である鎖分銅を構えて振り回し遠心力を掛けると投射。アーチャーの脚に見事巻き付かせるとにんまりと笑う。

 

 

「捕まえたのじゃ…ふんっ!」

 

「っ!?」

 

 

アーチャーは翼を羽ばたかせ逃れようともがくが、アサシンは全力を持って引き摺り下ろし、勢いのままに土蔵の扉に叩き付けた。

 

 

「さあ、跪きなさい!」

 

「・・・」

 

 

今度はメイスを手に襲い掛かるアサシンを、アーチャーは無言でメイスを掴んで受け止め、翼を羽ばたかせて衝撃波を起こして吹き飛ばした。軽い少女の身はポーンと跳ね上げられ衛宮邸の屋根に激突。転がり落ちたアサシンはボロボロのドレスを翻し、悔しげに唇を震わせた。

 

 

「魔力を使わずにこの力じゃと…!?なめるな!」

 

 

そう叫ぶと同時にアサシンはその姿をフードの少女に戻し、懐から取り出した爆弾を投射。部屋一つなら簡単に黒焦げに出来る火力のそれであわよくばアーチャーごとマスターを爆殺しようと試みるが、無表情のアーチャーの平手打ちで弾かれてしまい明後日の方向の夜空で爆発。思わず悔しさから顔を歪ませた。

 

 

「…何その堅さ、ふざけてるわね。どこの英雄なのよアンタ」

 

「回答するのは不必要だと判断します」

 

「あ、そう。ならこの勝負、次に預けるわ。そこにいるアンタのマスターは未だに訳分からないって顔をしてるし、そこに邪魔者(ライダー)が控えてるし」

 

「ちょっ、誰が邪魔者よ!」

 

『実際かなり邪魔者だよ僕ら』

 

 

一応襲ってきた時に返り討ちできる様に構えていたのに邪魔者扱いされたライダーは憤慨しエルメスが補足するがアサシンは素知らぬ顔。アーチャーに至っては無表情を崩さない。

 

 

「それにアンタも三騎士の端くれなら万全の準備を整えてから戦う方が好ましいじゃない?この場合、私の方が好ましいんだけどねキャハハハッ」

 

「…断ります。お見受けするところ貴女のクラスはアサシン、放置しているとマスターの身に危険が及ぶことは確実。…今、ここで仕留めます」

 

「ちっ!少しは話に乗ってくれてもいいじゃない、生粋のサーヴァントね。つまらないわ」

 

「どうとでも。逃がしません。マスター、宝具の使用許可を。仕留めます」

 

「ちょっと待て!」

 

 

無表情のままアサシンを警戒し士郎に指示を仰いだアーチャーだったが、当の士郎が自分の前に出た事で無表情の顔を小さく驚きに歪めた。

 

 

「マスター、危険なので下がってください」

 

「自分から前に出るとか殺されたいの?お望み通りアンタを人質にしてこの人形殺した後に殺してあげるわよ?」

 

「ふざけんな、殺される気はないぞ俺は。それよりもだ。サーヴァントって何だ、聖杯戦争って何だ。何でアーチャー達の様な女の子が戦っているんだ」

 

「あ、もしかしてサーヴァント女子だけだと思ってる?安心しなさい、私が戦っていた槍男は正真正銘男だから。はい質問には答えたわ、聖杯戦争も知らない素人はそのまま永遠にお寝んねしてなさい」

 

「させるとでも…?」

 

「…ちっ」

 

「…先輩、下がってください。詳しい説明は後でしますので」

 

 

士郎の前にアーチャーが、桜の前にライダーが立ちはだかり、アサシンはナイフを二本手に獰猛に笑う。ライダーからしたらアーチャーと共闘すればいい話なのだが、アーチャーがライダー相手も警戒している為それができない。アーチャーはこの場にいる二人のサーヴァントどちらも敵だと判断し少しでも動けばそちらから排除する気満々だ。アサシンは片方を相手にするともう片方に攻撃される可能性があるため攻撃に移ろうとしない。

三竦みとなり下手に動けない状況となった、その時。

 

 

 

「ウオォオオオオオオオオオオオォォォォオオオオオオオォォォラァアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアッ!」

 

「「「!?」」」

 

「何だ!?」

 

『桜、上だ!』

 

「!? 先輩!」

 

 

突如響き渡り近付いて行く雄叫びに、警戒し構えるサーヴァント三人に対し、狼狽える士郎をエルメスの言葉で異変の元に気付き押し倒す形で守る桜。サーヴァント三人の中央に降り立ったのは、修羅の如き顔、逆立った白髪、狂気を感じさせる瞳が無く輝く両眼、岩の様な筋肉を持つサーヴァント。三人は直感した、バーサーカーだと。

 

 

「…ミスラァアアアアアアアッ!」

 

 

両手に赤い光・・・怒のマントラを集束させ、それを地面に叩き付ける事で炎の衝撃波を放つバーサーカー。アーチャーは迷うことなく桜ごと士郎を翼で覆って背中で受け止め、ライダーとアサシンは一跳躍で範囲から退避。そのままあまりに分が悪いと判断したのか離脱を始めようとするアサシン。しかし、バーサーカーはそれを見逃さず、一跳躍でアサシンの頭部を掴むとグルグル回し、天に投げ付けると自身も跳躍、落下して来たアサシンを掴み急降下して地面に叩き込んだ。

 

 

「あ…が…っ!?」

 

「ウオォオオアァアアアッ!」

 

 

骨が折れた音と共に、クレーターの中で倒れたアサシンはあまりのダメージに動けなくなり、咆哮を上げたバーサーカーは次の標的をアーチャーに向け、襲いかかった。

 

 

「ドゥルガァアアアアッ!」

 

「マスター、下がって!」

 

 

拳がぶつかり、アーチャーは弾かれるも何とか堪え、翼を開くと音速で突進。バーサーカーの腹部に体当たりを繰り出すとそのまま天高く飛翔し急ブレーキ。空に跳び出したバーサーカーにさらに高速の体当たりを叩き込むも、バーサーカーは空中で体勢を整えると、怒のマントラを大量に放出し、それはエーテルとなってバーサーカーの背中に集束。四つの腕を新たに顕現させる。

 

六天金剛(りくてんこんごう)アスラ”の名を持つ、バーサーカーの強化形態だ。それにアーチャーは寸前で気付くも遅かった。

 

 

「ウオォオオオオオオッ!」

 

「…!?」

 

「ミスラァアアアアッ!」

 

 

アーチャーの体当たりを通常の二腕で受け止め、羽ばたかそうとした翼をさらに二椀が押さえ込み、アーチャーは零距離で両手を突き出すもそれも残りの二腕で簡単に受け止められ、捻じられる。アーチャーが最も得意な空中で完全に押さえ込まれ、そして落ちた。

 

 

「がはっ!?」

 

 

バーサーカーは落下途中でアーチャーを叩き落とし、高速で叩き落とされたため体勢を整える事が出来ず無残に地面に叩き付るとその傍に着地。右側の三本腕を振り翳し、一度に三発アーチャーの顔面に叩きつけようとした瞬間、バーサーカーの顔が爆発を起こす。

 

 

「…?」

 

 

無傷だったバーサーカーが顔を向けると、そこにはRPG…ロケットランチャーを構えたライダーがいた。よく見るとポーチの止め金具が猫になってるので変身したらしい。バーサーカーから逃れたアーチャーが士郎の傍に駆け寄るのを確認すると直ぐにロケットランチャーをポーチに戻したライダーは、今度はM134ミニガン・・・6本の銃身を持つ電動式ガトリングガンを構えて掃射する。

 

 

「うっわー・・・あの爆発諸に喰らって無傷とか…バーサーカーって何時もこんなんなのかな?」

 

『サモエド仮面とは雲泥の差だけどね。来るよ!』

 

「ドゥルガァアアアアアアッ!」

 

 

弾丸の嵐を諸に受けながらも微動だにせず、バーサーカーは軽く跳躍し、急降下して拳を叩き込むもライダーは掃射を止めて熱された砲身をバットの如く用いて殴りつけた。しかし常人では触れられない程熱された砲身を受け止めて押し返すバーサーカーに体勢を崩し、そこに強烈な蹴りを浴びて「ぐえっ」と生々しい短い悲鳴を上げて蹴り飛ばされ、桜の元に転がる。

 

 

「ライダー!」

 

「さ、桜・・・ごめん、アレはガチで強い。とりあえず…正義の少女がピンチよ、来るなら来なさい変態侍!」

 

「ピンチだな!正義の少女がピンチの時!今、一人の騎士がm以下略!」

 

 

と同時に、天高くからサモエド仮面がエーテルの光と共に現れてバーサーカーの脳天に日本刀を振り降ろすも、それを真剣白刃取りされてしまいその能天気な表情を歪めた。

 

 

「お、おお・・・やるね、狂戦士く・・・ん・・・!?」

 

「モウッ!クタバレェエエエッ!」

 

 

邪魔だと言わんばかりに連続で六つの拳が叩き込まれ、ボコボコに顔と胴体のみ集中して殴られ最後に投げ飛ばされたサモエド仮面は涙をマスクの下から流してライダーの元に駆け寄り、傍に居た桜に抱き着いてぐずり出す。

 

 

「もうやだー!おうちかえるー!」

 

「きゃっ!?ら、ライダー!?」

 

「桜に何してんのこの役立たず!アンタの言う少女のピンチなんだからもう少し根性見せなさい!」

 

『言っても無駄だよライダー。何かティーの時と同じぐらい恐がってるし、バーサーカー相手には役に立たないねこりゃ』

 

「ああもう、いいから行きなさい!こんの変態侍!」

 

「この人でなし!悪魔!」

 

「何とでも言いなさい」

 

「ぺちゃんこライダー!」

 

「おk、死ね」

 

 

失言に気付いたサモエド仮面は慌てて口を押さえるも冷めた笑顔のライダーに思いっきり蹴り飛ばされ、バーサーカーに激突。アーチャーに向かっていた所を不意打ちされたのでよろめくバーサーカーに、サモエド仮面ごとライダーはM134ミニガンで弾丸の嵐を容赦なく浴びせる。

さらに噴煙で何も見えなくなったところにデグチャレフPTRD1941・・・俗に言う対戦車ライフルを取り出して連射。寸分たがわず直撃した様で、鈍い音が聞こえたと共にサモエド仮面だったエーテルが夜空に消えた。

 

 

「ら、ライダー…あの人、消えたみたいだけど…」

 

「別にいいでしょあんな奴。それより、士郎とアーチャーは?」

 

「…無事みたい。でもあのフードのサーヴァントは…」

 

「逃げたか。やっぱアサシンなのかな?…っと、それよりも今はバーサーカーか」

 

 

至近距離で爆音が響いて方向感覚が覚束なくなっているのかよろめく士郎と、傷だらけで尚、守ろうと静かに佇んでいるアーチャーを確認するとライダーはデグチャレフを構えてバーサーカーに向き直る。噴煙が晴れたそこでは少々弾の痕があるバーサーカーが立っていたが…それはすぐに再生された。

 

 

「…こりゃ宝具使わんと勝てないわね。エルメス、どうしよう」

 

『アーチャーが手伝ってくれるならともかく彼女、僕らを敵と認識しているからね。あのフードのサーヴァントは逃げたし、せめて他にサーヴァントが乱入してバーサーカーがそちらに気を取られれば・・・って来たよライダー!』

 

「分かってるっつーの!桜!士郎に言ってアーチャーを説得して!その間は私達が!エルメス!」

 

「分かった!ライダーも気を付けて、エルメスさんも!」

 

『了解!でもライダー、倒さないでよね!痛いんだから!』

 

「分かってるわよ!」

 

 

桜が士郎の元に駆け寄り、ライダーはエルメス・・・何の変哲も無いキーホルダーを取るとポイッと目の前に投げる。すると緑色の革と黄色い金属でできた小さなストラップはどういう原理か、サスペンションが長く赤いボディに鮮やかな紫の燃料タンクが特徴の大型二輪車…オフロードバイクに変身。ライダーはそれに乗りこんでアクセルを握り、バーサーカーに突進を仕掛ける。

 

 

「ドゥルガァアアアアアッ!」

 

「なめんじゃ…ないわよ!」

 

 

バーサーカーは接触する寸前に右の三本腕を振り抜くも、ライダーはそれを察知したかのように後輪を浮かせて前輪駆動。そのままクルリと回ってバーサーカーの攻撃を受け流し、回るついでに車体で背中に体当たりをかましてポーチから62式機関銃を取り出し、バイクに跨ったまま近距離から振り返ったバーサーカーの顔面に掃射。効きはしないが目を狙ったため怯んだところに

 

 

「迎撃します」

 

「ガアッ・・・!?」

 

 

超音速の鋼の如き堅さの拳がバーサーカーの横っ腹に炸裂。不意打ちな上に、並大抵のサーヴァントなら一撃で倒されていただろう強力な一撃が直撃し、バーサーカーはゴムボールの様に吹っ飛んだ。そして、バーサーカーが居た場所に拳を振り抜いた体勢で立っていたのは、アーチャーだった。

 

 

「…私達は味方、でいいのよね?」

 

『桜の説得が間に合ったみたいだね』

 

「…はい。マスターの指示ですので。早急に同盟を結びました。もし、マスターを攻撃しようものなら・・・分かっていますね?」

 

「大丈夫だってば…」

 

 

キュイッと言う音と共に目を紅く光らせるアーチャーに、エルメスに跨ったままライダーは苦笑する。

 

 

「あとマスターの家なので出来るだけ壊さない様にお願いします」

 

「今更感しか残んないわねそれ。まあいいわ、援護するから前衛任せた。彼奴・・・まだ、やれてない」

 

「ミスラァアアアアッ!」

 

『お願いだから僕を壊さないでね、ライダー!』

 

 

ライダーの声に応える様に咆哮を上げ、姿を現すバーサーカー。しかしライダーは気付いていた、腕力ではアーチャーとバーサーカーはほぼ同等。しかし同等なだけに、殴り合いになればガタイのいいあちらが有利。そして何より、援護と言っても効くのが今のところ対戦車ライフルのみだ。これではジリ貧、宝具を使おうにも当たらないだろうし撃ったら変身が解けるしで勝てる気がしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言峰黒名は気付いていた、初戦にバーサーカーを打ち込んだのは間違いだったと。意外と士郎と桜のサーヴァント…アーチャーとライダーが強敵だった。超音速で空を飛び鉄拳を叩き込んでくるアーチャー。次から次へとDランク相当の宝具と化した現代銃器を取り出し止まない弾幕を繰り出してくるライダー。この二人が手を組めば大抵のサーヴァントには勝てるだろう、現にフードのサーヴァントも押されていた。

 

さっきまでならアーチャーがライダーを敵認定していたので、もし桜を攻撃しようものならこちらで狙撃して守ろうと思ったが、今現在明確に手を組んだ事でついにバーサーカーが辛い一撃を浴びた。このままだと、少々不味い。まだアインツベルンにも遠坂にも時計塔から派遣された魔術師にも当たってないのにここで消費する訳にはいかない。

 

 

「…作戦変更するか」

 

 

あの二人を守るだけなら手段はいくらでもある。そう考え、そして衛宮邸に見覚えのある赤い悪魔が急いでいるのを確認し、クロナは黒鍵を引き絞り狙いをバーサーカーに向ける。

 

 

「…バーサーカー。狂化を解いて、でもそのまま暴れて。凛とそのサーヴァントが来訪するからそのタイミングに私の矢を受けて私の所まで撤退して。バーサーカーのマスターだってことを隠してあの二人に近付く」

 

『…いいのか?』

 

 

届く念話。バーサーカーの言葉にぶっきらぼうな優しさを感じながら、クロナは告げる。

 

 

「大丈夫。…結果的に裏切る事にはなるけど、・・・それでも私はあの二人は守るって決めてるから。もちろん、私自身もちゃんと守る。…凛が来る、行くよバーサーカー」

 

『本気でやれ、俺はどうなっても構わん』

 

「…分かった、じゃあ遠慮なく」

 

 

引き絞る三本の黒鍵。剣身に赤い光が灯り、視界の中でバーサーカーが唸りを上げて突進しようとした同時に突入して来たランサーの槍をバーサーカーが受け止めて投げ飛ばし、追撃で跳躍からの拳を叩きつけようとしたその瞬間。

 

 

「…爆ぜろ」

 

 

音速を突き破って黒鍵三本が射出され、それは寸分違わずバーサーカーの左側三本腕に一本ずつ突き刺さり、爆発と共にバーサーカーの左腕は全て捥げた。これでどう見ても痛手だ、本当はそんな事無いのだが、士郎達を助けた何者か、という印象は刻みつけられた。あとどうでもいいが、遠坂凛からも誰かが助太刀してくれたと言う事実を与えたから騙しやすくなっただろう。

 

 

「ここから始まる、私の聖杯戦争が」

 

 

何時の間にか戻ってきたバーサーカーを背後に控え、クロナは視界に何やら会話している士郎・桜・凛を見据えながら弓から戻したマフラーを首に巻き直し、微笑んだ。それは自虐か、魔術師に仇なす事が出来ると言う高揚感からか…少なくとも、少女の笑みでは無かった。




悲報:バーサーカー(アスラ)の腕、やっぱり捥げる。

主人公の「改造魔術」いかがだったでしょうか。魔術が嫌い過ぎて強化だけを鍛えまくった結果の産物。ライダーのDランク宝具の爆発も効かなかったバーサーカーの腕を三本ももげさせるぐらいには強力です。ちなみに魔術発動の際のルビは仮面ライダー555だったりします。

どうでもいいですがアーチャーの口調が難しい。何か違う感が凄い。でも宝具使えば強い子なんです、本当に。
ライダーにぺちゃんこは禁句です。本当に禁句です。サモエド仮面は苦手な者相手だとへたれます。
アサシンさんは士郎だけは必ず殺すと決めた迷惑な子。マスターの命令さえなければ本気で戦えてた。
バーサーカーは正直大人気なかったかなーと。六天金剛は本気ですからね、六連真剣白刃取りとかできるしアーチャーを完全に押さえ込むし怖いわこの人。多分やろうと思えば弾丸を歯で受け止めたりとかできそう。どこのエネイブルだろうか。


次回は主人公、士郎陣営に合流。説明回になるかと思います。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#2:必要なのは二割の嘘と八割の真実

今回は戦闘無しです。士郎への聖杯戦争の説明となります。
ちょっと前回よりもぐだってますが、楽しんでいただけると幸いです。


数刻後、衛宮邸

普通にバイクに乗ってここまで来た。来たのはいいのだが…私には理解が追い付かないね、うん。

 

「で、衛宮君に聖杯戦争のシステムを詳しく教える事になったのはいいけど…何で、桜・・・じゃなくて間桐さんまでここにいるのよ!」

 

「それはこちらの台詞です、遠坂先輩!」

 

「落ち着いてくれって桜・・・それに遠坂も」

 

「「衛宮君(先輩)は黙ってなさい(いてください)!」」

 

「…なんでさ」

 

「ドンマイ、士郎」

 

「マスター、人数分のお茶を淹れてきました」

 

「おう、礼を言うぜ姉ちゃん。すまねぇな、俺のマスターが」

 

『それはこっちの台詞でもあるよ、ランサー』

 

 

「…何だこのカオス」

 

 

いや、不法侵入したのも悪いけどさ…凛と桜が睨み合って、士郎が理由も分からず怒られて困った顔で、無表情のアーチャーが持ってきたお茶をライダーとランサーが受け取ってマイペースに飲んでいて…何だろ、これ。

 

 

「おーい・・・士郎?」

 

「ん?あ、クロ姉!どうしたんだ?皆で食べるの明日だったよな?」

 

「…マスター、こちらは?」

 

「初めまして、アーチャー。それにランサー…でいい?私は言峰黒名、この聖杯戦争に参加しているマスターです」

 

「「「「「『なにぃ!?』」」」」」

 

 

私が令呪を見せながらそう言うと面白いぐらいに驚いてくれるアーチャー以外の面々。あのストラップまでって、そんなに驚く事?…あ、敵の本拠地に敵マスターが乗り込んできたんだから驚く事か。

 

 

「…敵、ですか?」

 

「そう構えないでアーチャー、むしろ味方。さっき、バーサーカーから貴方達を助けたのは私」

 

「「「「「『!?』」」」」」

 

 

どうでもいいけど仲いいね。一応敵同士じゃね?てかアーチャー怖いよ、睨まんといて。…バレテナイヨネ?

 

 

「えっと…クロ?」

 

「はい、なにかな凛?」

 

「さっきバーサーカーから助けたのは貴方だって言ったわね。証拠は?」

 

「これ」

 

 

そう言って取り出したのは黒鍵。凛なら分かるはずだ、この冬木で黒鍵を所有しているのは、今外から来ている魔術師は除外して我が養父、言峰綺礼だけだ。…まあ、魔術を使えるってのは隠していた訳だが。

 

 

「なるほど…貴方、魔術師だったのね。あの綺礼が何もしてないはず無い物ね」

 

「「えっ。クロ姉(クロナさん)、魔術師だったの(んです)か!?」」

 

「魔術師じゃない、魔術使い。冗談でも魔術師て呼ぶな」

 

 

絶対言うな。殴るぞ、強化したグーで。何か凛に怪訝な目で見られてるんだが何なんだろうね。魔術師じゃなくて魔術使いってのが気に入らんのかそうなのか。知るか、魔術師なんて死ね。

 

 

「…それで、どこまで士郎に説明したの?」

 

「アンタこそ、何処まで知ってるのよ」

 

「…士郎と桜と凛がマスターで、士郎が偶然サーヴァントを召喚してフードのサーヴァントを退けてバーサーカーに襲われたって事ぐらい?」

 

「何だ、じゃあクロナにはバレてたんだ。私がサーヴァントだって」

 

「…最初は驚いたけど。ライダーって名前でばれない方が可笑しい」

 

「「「『確かに』」」」

 

 

ほら、ランサー陣営だけじゃなくて桜と・・・えっと、ストラップ君も頷いてるじゃない。ライダーも何故ばれないと思ったのか。

 

 

「それで、士郎?」

 

「え、ああ。聖杯戦争が、聖杯を求める七人の魔術師がサーヴァントを召喚して殺し合う儀式だって事と、聖杯が何でも願いを叶える代物だって事と、あとサーヴァントがマスターの手足となり戦う下僕ってのはアーチャーと遠坂に聞かされたぞ。あと遠坂が、サーヴァントの対決を目撃した俺をわざわざ守りにここに来てくれたって事も」

 

「それで、正式なマスターじゃない衛宮君にさらに詳しく聖杯戦争のシステムを説明しようって所で、桜に事情を聞こうとしていたのよ。後で貴方にも聞くけど、異論はないわね?」

 

「あるわ。私は生粋の魔術師に協力だけは絶対にしない。それが例え凛、貴方でも」

 

 

私がそう言うと凛はハッと何かに気付いたように目を見開かせた。ランサーもこちらを睨んでる、警戒されてるって事か。

 

 

「・・・あらそう。なら私は一先ず帰らせてもらうわ。…桜・・・間桐さんもいるし、綺礼の娘の貴方なら教会の者として教える義務があるでしょう?」

 

「…元よりそのつもりだけど、私がこの二人を殺す可能性は考えないの?」

 

「貴方が生粋の魔術師に協力はしないって言った時点でシロよ。衛宮君と間桐さんに手を出す気はないんでしょ?長い付き合いなんだからそれぐらい分かるわ。…じゃあね衛宮君、間桐さん。また今度客としてお邪魔させてもらうわ」

 

「お、おう?遠坂もありがとな、気を付けて帰れよ」

 

「敵に対して言う台詞じゃないわよ、衛宮君。…じゃあねクロ、バーサーカーからうちのランサーを守ってくれてありがとう」

 

「礼を言われる筋合いはないよ」

 

 

ランサーを連れて玄関から出て行く凛。もう少し残るかと思ったけど稀有だったかな。・・・とりあえずこれで私がバーサーカーのマスターだってことは凛には隠せたと考えていいか。さて、と。

 

 

「…士郎、桜」

 

 

私は二人の座っている向かい側に座る。結果的にアーチャーとライダーに挟まれる場所だけど…問題ない、むしろこの二人から警戒心を失くすにはこれぐらいしないと行けない。

 

 

「まずは士郎から、聖杯戦争のシステムについて教える。それを聞いた上で、二人共一緒に教会に来てくれないかな?」

 

「…ああ、でもクロ姉についても教えてくれ。ずっと、魔術師だったのか?」

 

「だから魔術使いだって。…そうだね、切嗣さんが亡くなるずっと前から魔術を習ってた。桜、間桐の事情については知ってるから貴方は後で。…桜も、いい?」

 

「はい。クロナさんが悪い人じゃないのは知ってますから」

 

「ありがと。それじゃ本題から。桜は復習のつもりで聞いてね」

 

 

さて、何から話すか。…とりあえずは一番大事なアレかな。士郎だったら何も知らないでアーチャーを止める事に使いそうだし。

 

 

「まずは士郎、その左手の痣からね。それは令呪、マスターの証にしてサーヴァント…貴方にとってのアーチャーに対する3度限りの絶対命令権でマスターにとっての切札。そうだよね、アーチャー?」

 

「…はい。それを使う事でマスターは私を、例え不本意な命令にも従わせることが可能です。その強制力は無限とも言える力を有する聖杯に起因するものであるため、奇跡に近い命令ですら可能となります。例えばマスターの身に危機が迫った際、瞬時に空間を移転させ私を呼び出すなども可能です」

 

「それで切札って訳か。これが…」

 

 

令呪を感慨深げに見つめる士郎。ちょっと可愛いね。まあ、私のバーサーカーは令呪無しで普通に跳んで来れるのだけど。令呪を使うのは…バーサーカーの言う暴走が起こった時だけかな?すると桜がおずおずと手を上げる。

 

 

「付け加えて言うならば…いいですか、クロナさん?」

 

「ん。いいよ、桜」

 

「はい。付け加えて言えば、令呪無しでサーヴァントを従える事は出来ません。何故ならライダー達は、物凄く強大で人の手に余る存在だからです」

 

「どういう事だ?」

 

「サーヴァントって言うのは実在した英雄達の魂の事だからだよ」

 

「え…?」

 

 

分かりやすい様に驚く士郎。アーチャーやライダーを見て首を捻っているが、私のバーサーカーを見せれば一発で納得するかも。

 

 

「英雄ってアレか?昔話とかに出て来る・・・ヘラクレスとか、桃太郎とか…?」

 

「…そう、神話や伝説、お伽噺に童話etc.数え上げれば限がないそれ。生前の偉業で英雄と認められた人物は死後「英霊の座」に迎え入れられ、聖杯は彼等に7つの(クラス)に当てはめる事でこの世に召喚する事を可能とした。その7つが」

 

弓使い(アーチャー)騎乗兵(ライダー)槍使い(ランサー)狂戦士(バーサーカー)。それに剣使い(セイバー)暗殺者(アサシン)魔法使い(キャスター)です、マスター」

 

 

台詞が盗られた。やるなこのサーヴァント。しかし負けない、説明役は私だ。何かバーサーカーに呆れられた気がするけど気にしない。

 

 

「…で、聖杯は召喚された英霊達にふさわしいクラスを割り当ててマスターに与える。そしてマスター同士を戦わせ最後に生き残った者を自らの主と認め、その望みを万能の願望器として叶える。これがこの聖杯戦争のあらまし」

 

「そんな…人の命をまるで、ゲームみたいにやり取りするなんて可笑しいだろ!クロ姉も桜も、遠坂もそんな物に参加しているのか!?」

 

「先輩・・・私は」

 

「桜、言わなくていい。…士郎、その表現は正しいよ。さらに言えば、200年前に第三魔法とか言う戯言を再現しようとした遠坂・間桐・アインツベルンの「始まりの御三家」によって開始されたクソッたれな最悪の儀式。それが聖杯戦争。士郎はそのクソッたれなゲームに巻き込まれたの。

私だって参加するのは嫌だけど貴方と同じ、巻き込まれた。本気で聖杯を取ろうと考えているのは遠坂、アインツベルン、間桐の爺、あとは外からの魔術師ぐらい。…あと桜も、かな?」

 

「…今はいりません。先輩やクロナさんと殺し合うのは、嫌ですから…」

 

「…だよね、安心した」

 

 

桜は多分、間桐から解放されるために聖杯を獲ろうとしていた。バーサーカーを召喚したらあのジジイぶっ殺しに行こうと思ったけど…ライダーがやったのかな、じゃないとここに居候するなんてできないだろうし。

 

 

「あ、訂正いい?クロナの言う間桐の爺・・・間桐臓硯は死んだわよ」

 

『桜を守るために僕とライダーでやったよ』

 

「…やっぱり。ありがとうライダー、えっと…ストラップ君?桜を助けてくれて」

 

「私のマスターだから当り前よ。おかげでここで美味しいご飯をもらえてるしね」

 

『申し遅れたのは悪いけど僕はエルメスだからね!ストラップ君とか呼ばないでね!』

 

 

ストラップ・・・エルメスの言葉は取り敢えず無視する。士郎は桜を助けたとか言う会話がよく分からない様で疑問しかないと言った顔だ。アーチャーは…無表情だ。これがデフォなのかそれとも私を警戒しているのか…後者じゃない事を祈ろう。

 

 

「…それじゃあ話すべきことは話したし教会に行くよ、二人共」

 

「待ってくれ!一つ聞かせてくれ…クロ姉もマスターなんだよな?…サーヴァントはどうしたんだ?」

 

「…………バーサーカーにちょっと、ね」

 

 

嘘は吐いてないぞ。バーサーカーにちょっと問題があって今ここに居れないんだから。一応バーサーカー、ボロマントを出して顔を隠す事は出来るけどあの特徴的な白髪と肉体だけは隠せないからね。アレは初見相手にしか意味が無い。もし連れて来てたらアーチャーかライダーにバーサーカーのマスターだってばれてしまう。士郎には悪いけど嘘を吐かせてもらおう。

 

 

「じゃ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木市の象徴ともいえる未遠川にかけられた冬木大橋を抜け、新都の街並みを歩く私達。何時もは賑やかしい場所だが夜も遅い為人通りは少なく、セーラー服のライダーと制服姿の士郎が歩いていても補導される心配は無い。すぐ傍の道路を走る救急車に、士郎は反応した。

 

 

「クロ姉、今の・・・」

 

「またガス漏れ事件みたいね」

 

「物騒ですね…今度は何人病院送りにされたんでしょうか…」

 

 

士郎は気付いてないけど桜は感づいてる、か。これはやっぱり独自で魔術を鍛えていたのと一応優秀な魔術師に教えられていたのとの差かな。それよりも…

 

 

「…それより士郎、・・・アレはどうにかならなかったの?」

 

「え、だってしょうがないじゃないか。あの格好じゃ目立ちすぎるしちょうど桜の着替えも洗濯していたし…」

 

「…マスター。ですから私は霊体化しますので」

 

 

そう言うアーチャーの格好は…士郎の普段着。胸が大きいので逆に目立っているんですがこれは。私よりちょっと大きいし…桜と同じくらいじゃないかな?

 

 

「…霊体化って何だ?」

 

「…さっき出る時、士郎が服を探している時に説明した。霊体化はそのままの意味で、姿を消して緊急避難できる事。霊体になれば現界時に魔力を消費しないし、自己回復もできる。ただしマスターにしか感知できないし、攻撃もできない。でも気配を悟られにくいって利点はある。ちなみに私のサーヴァントは本拠地で療養中」

 

 

これは嘘じゃない。うちの教会は冬木でも有数の龍脈で大地から魔力を吸収できるから私も魔力を使わなくていいし、バーサーカーにはスキル「怒のマントラ」がある。早い内に、上手く行けば一時間以内に左腕を回復できるだろう。…そういやライダーは何で霊体化しないんだろうか?

 

 

「あ、ライダーは「食い意地」って言うスキルのおかげで満足に食べているだけで単独行動が可能な程の魔力を溜めれるのでいくらでも現界できるんです」

 

「…マスター。最初に言っておきますが私も「鳥籠の契約」というスキルで常時現界可能です。マスターに問題が無ければこのまま現界しますがどうしますか?」

 

「あ、うん…とりあえずアーチャーのしたい様にでいいや」

 

「分かりました」

 

 

そのまま霊体化しないで着いて来るアーチャー。士郎はちょっと困った顔だ。…なるほど、色んなスキルがあるのか。しかもどちらとも常時現界可能か、敵にしたらちょっと怖いな。

 

 

「…ところでクロ姉、桜。何で教会に行くんだ?」

 

「うちの父親がこの戦いの「監督役」だから。聖杯戦争を取り仕切るのが役目で、士郎が何を思ってこれからどうするにせよ会いに行って損は無い。…士郎がマスターになったって報告もしないと行けないし」

 

 

・・・絶対父さんは衛宮切嗣の後継者である士郎がマスターになったって聞いたら悪い興味を持ちそうなんだけどね。でも、聖杯戦争をリタイアさせるには教会に行かせるしかないからしょうがない。

 

 

「…一応言っておくけど、もしかしたら遠坂凛も貴方がマスターとして立ち塞がったら迷わず殺すかもしれない。だから、本当なら私や桜も味方だって思わない方がいい。これは紛れもない殺し合い、この不条理な戦いに納得できないとしても戦うと言うのなら今のうちに甘い考えを捨てた方がいい」

 

「…」

 

 

私と桜も敵だって事に気付いたのか思いつめた顔をする士郎。…私としては、リタイアしてくれたら嬉しいんだけど…この正義の味方は逃げないんだろうな、きっと。

 

 

「…着いた。ここが冬木の教会、通称言峰教会。士郎が来るのは中学以来だっけ?」

 

「…ああ。桜は?」

 

「私は来た事さえもありませんでした…」

 

「マスター」

 

 

教会の前で話していると、アーチャー・・・そしてライダーが教会の敷地前に佇んで話しかけてきた。

 

 

「私達はここで共に外敵に備えます」

 

「士郎、桜は頼んだわ。ここ、良くない空気だから士郎も油断しないでね」

 

「ああ、分かった」

 

「お願いね、ライダー。エルメスさん」

 

『そちらこそね』

 

 

この二組はいいな、いい信頼関係だ。私とバーサーカーも負けない様にしないと。…バーサーカーはぶっきらぼうだから無理かな?アーチャーとライダーと別れ、教会の中に入る私達。扉を開けて私は口を開く。…バーサーカーを召喚してから初めての邂逅だからちょっと緊張するかな。

件の人物はいつも通り、死んだ目と端正な顔をこちらに向け神父服を着こなしその手に聖書を持って中央に立っていた。

 

 

「…父さん。ライダーのマスターと七人目のマスターを連れて来たわ、間桐桜と・・・衛宮士郎よ」

 

「おお、そうか。…ようこそ少年、久しくだな。初めましての少女もいるようだから改めて自己紹介しよう。――――私は言峰綺礼と言う」

 

 




凛が士郎と行動を共にしないけど是非もナイヨネ!いやだって主人公魔術師許さん思考ですからね…

価値観の違い、それだけで戦争は起こる物。それがないと人間ではないのでしょうが。

次回は言峰神父との会話と、VSセイバー戦です。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#3:愉悦なりし10年前の追憶

長くなったので分割、戦闘は次回に持ち越しになり今回は短く物足りないかと思います。さらに言えば原作と展開はあまり変わってません。
それでも、楽しんでいただけたら幸いです。


「…ようこそ少年、久しくだな。初めましての少女もいるようだから改めて自己紹介しよう。――――私は言峰綺礼と言う」

 

 

神父としての態度で士郎に接する我が父親。相変わらず、愉悦を感じている目と笑みは薄気味悪い。が、これでも私の恩人で義理の父親なのだから割り切るしかない。

 

 

「それでは衛宮士郎、君が最後のマスターと言う訳だな?」

 

「待てよ。言っとくけど俺はマスターになるつもりなんかないからな!」

 

「ほう?…我が娘よ。そう言う事か?」

 

「…ええ。私からの説明じゃ不十分だから連れて来たの。桜にも話を聞いてもらうつもりで。できればリタイアしてもらいたいのだけど」

 

「…そうか。ならば聞こう、衛宮士郎。どんな手違いがあったにせよ、君は聖杯が選んだマスターだ。聖杯を手に入れればどんな望みも思いのままだと言うのに…それを知りつつ何故戦いを拒む?」

 

 

この義父は・・・私が聖杯を壊そうと思っているのを知っている上でこの台詞を吐くとはホント悪趣味だ。そこまでして士郎を引き留めたいのか、さすが愉悦部だ。

 

 

「だって可笑しいだろ!聖杯がどんなものだったとしても、そのために殺し合いをさせるなんて」

 

「殺し合いを恐れる、か。魔術師の言葉とも思えんな。うちのクロナも覚悟の上で参加する事を決めたぞ。魔術師たるもの何時でも命を懸けて戦う覚悟をしておかねばならない。だが君はただの腰抜けだったようだ。…もう既に四回も聖杯戦争は起こり、そしてどれもが終決していると言うのに、な」

 

「違う!別に俺は逃げ出したい訳じゃ無い。ただ、俺は聖杯なんて欲しくないし得ようとも思えない。戦う理由が無いんだ。ただ、桜とクロ姉が戦うって言うなら手伝うつもりだ。放って置けないからな」

 

「それはどうかな?」

 

 

我が弟らしい言葉を述べる士郎に、父さんは腰の後ろで腕を組み歩み寄って来る。それは何所か愉しんでいるような笑みだった。…この男は何処まで愚かなのか、と。

 

 

「…どういう事だ?」

 

「考えてもみろ。聖杯はどんな願いも叶えるのだぞ?マスターの中には私利私欲に目がくらむ者もいるだろう。名声を得ようとする者もいるが、大半はそんな連中だよ。この聖杯戦争に参加する輩はな。そうだろう、間桐桜」

 

「そんな…私は…」

 

「君はあのご老体のために聖杯を得ようとしていたんだろうが、彼は不老不死を成就するためならばどんな手段でも使っていただろう。それこそ、この冬木市を犠牲にする事ぐらいはな。…さて衛宮士郎、問題だ。そんな連中が好き勝手に聖杯を使ったらどうなると思う?」

 

「え……それ、は…」

 

 

気付いたのか、ハッと顔を呆けさせる士郎。…そう、そんな魔術師たちが聖杯を手にしたならば…

 

 

「答えは簡単だよ。今も言った間桐のご老獪の様に、魔術師と言うのは目的のためなら手段を択ばない連中だ。まあそれがうちのクロナが魔術師を嫌悪する原因でもあるのだが…話を戻そう。君は知っているかな?ここ最近、この新都でガス漏れ事故が多発しているだろう。事故と報じられてはいるが、真実は違う」

 

「…まさか」

 

「そう。アレはマスターの仕業と見て間違いないだろう。恐らくはアサシンかキャスターか…人の魂を喰らわせれば霊体であるサーヴァントをより強くすることができる。人の命を何とも思わない、そうした輩が実際に聖杯を狙っていると言う事だ」

 

「俺の知らないところで、既に無関係の人達が巻き添えに・・・?」

 

 

長椅子にドカッと倒れ込む士郎。興奮が解けた、かな。私と桜もその後ろに座ると、父さんは言葉を続けた。

 

 

「もう一つ教えて置こうか、少年。先程も言ったように聖杯戦争は今回で五度目となる。本来の聖杯戦争は60年経つたびに行われるのだが、前回の聖杯戦争はちょうど10年前に行われた。今回の聖杯戦争はイレギュラーの様な物だ」

 

「10年前…だって…?」

 

「ッ…!」

 

 

反応する士郎。嫌な思い出からか身を震わせる桜。…抑えろ。怒りを抑えろ、ここで怒りを覚えても何にもならない。父さんは士郎にわざわざ教えてくれているんだから、止めるな。

 

 

「あの時、愚かなマスターの手によって・・・無関係の市民に大量の被害を出す大惨事が引き起こされたのだ」

 

「え…ま、待て」

 

「まだ人々の記憶にも、君達の記憶にも新しいだろう」

 

「待てよ…」

 

「そう、あの死者数百人を数えた未曾有の大火災。衛宮士郎、君とクロナが巻き込まれ全てを失ったあの火事だ。覚えてないかね…?」

 

「…父さん!」

 

 

我慢ならなかった。士郎の静止の声を聴き入らず焦らす様に、士郎と私にわざわざあの記憶を呼び覚ます様に言葉を唱えた義父に私は黒鍵を向ける。これ以上、聞けるか。言わせるか。いくら恩人でもそれ以上は許さない。

 

 

「ふむ…クロナ、落ち着きたまえ、彼にも真実を話さねばならない、そうだろう?」

 

「確かに士郎にも知る権利はあった。でも、知るのは私だけでよかった。あの地獄を、思い出さなくてもいいように。父さん、いくら貴方でもこれ以上私達の記憶を悪戯に開こうとするなら許さない」

 

「やれやれ、実に恐ろしく強く育ったものだ我が娘は。落ち着け、今私にそれを向けたところでどうにもならんだろう。君が剣を向けるべきは魔術師だろう?」

 

「…」

 

 

その通りだ。言い返せなくなった私が黒鍵をしまい椅子に座りなおしたのを見て満足したのか、さっきから顔を俯かせている士郎に問いかける父さん。

 

 

「…さあどうする?衛宮士郎。もちろん、これだけ知ってもまだ戦いを拒むと言うのならばそれもよかろう。誰だって我が身は可愛い物だからな。…ちなみにだが、クロナが言っていた通り君と間桐桜にはここでリタイアする権限がある。その後は我が教会で保護し聖杯戦争が終わるまでの間その身の安全を約束しよう。無理にこの戦いに参加する必要はない。どうかね?」

 

「ふ・・・ふざけるな!俺は切嗣(オヤジ)の跡を継いで正義の味方になるって決めたんだ。こんな訳の分からない戦いのせいで…平和に暮らしている人達が犠牲になるなんて許せない…!」

 

 

士郎の言葉に、私と桜の身が震える。ああ、やっぱり士郎は衛宮士郎だと。桜はおずおずと挙げようとしていた手を下ろし、憧れの先輩の決意に震えた。斯く言う私もだ、・・・私は全てを奪った魔術師への復讐を選んだのに、士郎は他人を守るために立ち上がった。ここが私と士郎の一番の違いだろう。私としては、他人がどうなっても構わない。だから士郎の言葉が眩しかった。

 

 

「10年前の悲劇をまた繰り返させる訳にはいかない!そのためならマスターにだってなんだってなってやる!」

 

「…私もです。逃げるつもりはありません、ライダーのマスターとして戦います」

 

「…だってさ、父さん?」

 

 

士郎に続く桜。ああもう、この二人は…眩しすぎる。自分が惨めになる、私とは違うこの後輩達は凄い。

 

 

「それでは、衛宮士郎を最後のマスターと認めよう。今ここに、聖杯戦争の開幕を宣言する。各自が己の信念に従い、思う存分競い合え。…喜べ少年、君の願いはようやく叶う…!」

 

「…どういう意味だよ?」

 

「そのままの意味だ。君の望む正義の味方と言うのはだな、明確な悪の存在なくしては成立しえない。だからこそ君は望んでいたはずだ、人々の生活を脅かす悪の登場を!」

 

 

その言葉に、ショックを受けたかのようにふら付く士郎を桜が受け止める。…この父親は、衛宮切嗣への鬱憤を息子の士郎で…でも止めれない、言っている事は多分正しいから。

 

 

「皮肉なものだな。誰かを救いたいと言う思いは同時に・・・その誰かの危機を望む事でもあるのだから。正義の味方になりたいと言うのは、そう言う物だよ。少年、よく考えその願いを存分に叶えるといい…!」

 

 

愉悦。この神父は、聖職者らしからぬそんな感情を乗せた笑みを士郎に送った。私と桜は士郎を庇う様に一緒に教会から出て行く。

 

 

「…父さん、また後で話がある」

 

「何時でもよいとも。頑張れクロナ、応援しているぞ」

 

「…どの口が」

 

 

最後の笑みは愉悦も何も感じない、清らかな笑みだったがそんなはずがない。あの義父が、言峰綺礼があんな笑みを浮かべるはずがない…これまでも、そしてこれからもきっと。

 

 

「マスター?どうしましたか、顔色が…」

 

「大丈夫だ、アーチャー。ちょっと気分が悪くなっただけだよ」

 

 

私達の姿を見るなり、駆け寄ってくるアーチャーに士郎は任せ、私と桜はライダーの元に向かう。

 

 

「ライダー、大丈夫だった?」

 

「問題ないわ、やっぱり非戦地帯である教会にまで乗り込んで来ようって馬鹿は居ないみたい。それよりもクロナのサーヴァントの気配を感じないのが気になるかな」

 

「霊体化して回復しているから当り前」

 

『…士郎も参加する事にしたんだね』

 

 

エルメスの言葉に全員で振り向くと、其処にはアーチャーに手を差し出す士郎の姿が。アーチャーはきょとんと首をかしげている。

 

 

「アーチャー。俺はこの戦いを見過ごせない、だからマスターになることを受け入れた」

 

「戦うと、決めたんですね…」

 

「ああ。ちょっと頼りないマスターかも知れないけど、これからよろしく頼む」

 

「…はい、私の鳥籠(マイマスター)。よろしくお願いします」

 

 

握られる手。…正義の味方として、何と言われようとも人を助ける事を選んだか。茨の道だと思うが、私の歩む道も人の事言えないからしょうがない。

 

 

 

 

 

 

「そっか。お兄ちゃん、戦う事に決めたんだ。じゃあ行こうセイバー、私待ちくたびれちゃったわ!」

 

「ああ。イリヤ、君が望むままに」

 

 




戦って欲しくないクロナを余所に、戦う事を選んだ士郎と桜。一応これはセイバールート主体です、決して桜ルートでは(言い訳)

しかしこの神父、実に愉しそうである。クロナからしたらムカつく養父です。

次回こそセイバー戦です!因縁のアインツベルンを前にクロナはその怒りを解放する…!主人公TUEEEEE回になります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#4:アインツベルン絶許慈悲は無い

もうすぐ誕生日なのにそんなネタが思いつかない…とりあえずVSセイバーです。主人公とセイバーTUEEEEEE回となります。楽しんでいただけたら幸いです。


冬木大橋を抜け、既にここは深山町だ。洋風と和風の住宅が道を挟んで並ぶ姿はちょっと面白くて圧巻である。確かここに間桐邸と遠坂邸があったはずだ。衛宮邸もその一つで、元は隣の藤村家・・・つまりはあのタイガーの家が管理していたのを切嗣さんが手に入れたらしい。…第四次聖杯戦争の仮の本拠地だったらしいが。

後ろを歩く士郎は今日の事を振り返っているのか仏頂面だ。もう何日も経った錯覚があるんだろう。気持ちは分かるが。

 

「士郎、考え事はいいけど自陣に戻るまでは気を抜かない方がいいよ。今こうしている時もどこからか敵が狙っているかもしれない」

 

「その通りです。これからは僅かな油断が命取りになります、油断しないでください」

 

「ああ、俺は魔術師としては半人前だ。アーチャーがしっかりしていてくれると助かる。クロ姉もありがとな。…やっぱり、クロ姉も聖杯戦争に挑むのか?」

 

「…うん。聖杯を誰にも渡す気が無いからね。…だから士郎は戦わなくてもいいんだけど」

 

「水臭いじゃないかクロ姉。俺だって大火災に巻き込まれたんだ。知った以上、放って置けない」

 

「先輩達がそうするなら私達も手伝います」

 

「…ああもう」

 

 

・・・被害者なんだから、もう巻き込まれる必要はないのに。…私が勝つために襲い掛かると考えないのだろうか?…それぐらい信用しているって事なら嬉しいが。アーチャーがさっきからこっちを睨んで来て怖いのだが。ライダーもライダーでバイクにしているエルメスを引きながら周囲を警戒しているし。…マスター二人は暢気すぎると思うな。聖杯戦争が始まったと言うのに後輩を送っている私も私だが。

 

 

「あら、もう帰っちゃうの?」

 

「え…?」

 

 

その声に、私とアーチャー、ライダーは目の前の坂道の上を睨みつけた。さっきまで気配すら無かったそこにいたのは、紫紺の外套とロシア帽、白いスカーフで身を包んだ雪の様なシルバーブロンドとルビーの様な赤眼の10歳にも満たない容姿の少女。…銀髪、赤眼。この特徴はまさか…

 

 

「こんな時間にどうしたんだ、キミ?」

 

 

普通の子供だと思ったのかそう問いかける士郎だったが、私と桜、アーチャーとライダーが警戒し始めたのを見てまさかと表情を歪ませる。そうだ、これが聖杯戦争の嫌な所。…聖杯が選ぶのは大人だけとは限らないと言う事だ。

 

少女は私・・・の隣の士郎に視線をやるとくすっと笑みを浮かべ、コートの裾をつまんでそっと持ち上げ口を開いた。

 

 

「初めまして。私はイリヤ・・・じゃ分からないわよね。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと言えば分かるかしら?」

 

「アインツベルン・・・だって!?」

 

「あんな小さい子が…!?」

 

「そうだよ、お兄ちゃん。だけど私ね、聖杯より楽しみにしていた事があるの・・・それはね?」

 

 

その名に驚く士郎と桜に、笑顔で応えるイリヤスフィール。…しかし私はそれどころではなかった。今、この少女は何と自己紹介した?…アインツベルン、そうアインツベルン。第三魔法を再現するために聖杯の入手を宿願とし毎回この戦いにマスターを送り込んできている魔術師の家系・・・第三次聖杯戦争で勝利するためにルール違反して復讐者のサーヴァントを呼び出し、そして聖杯を汚染した諸悪の根源・・・!

 

何かイリヤスフィールが言っているけど関係ない、子供だろうが知った事か。殺す、アインツベルンだけは絶対許さない。

 

 

「お兄ちゃんを殺すこt…!?」

 

Awaken Ready.(魔術回路・起動)―――――Standingby.(調整開始)

 

「「クロ姉(クロナさん)!?」」

 

 

奴が言い終わる前に、私は黒鍵を投擲していた。咄嗟に自分の髪の毛を編んだ使い魔を剣の形にして弾き飛ばすイリヤスフィールは台詞を中断されたからか明確な敵意をこちらに向けて来るが、上等だ。もう詠唱は済んだ、ぶち殺す。

 

 

「―――――Complete.(全工程完了)…爆ぜろ」

 

 

マフラーを弓にし、瞬時に改造した黒鍵五本を同時に放ち、それはイリヤスフィールの鳥型になって周囲を舞う使い魔に防がれるが爆発は彼女に直撃し、ポーンとその身は放られる。逃がさない、妥協はしない。無防備になった彼女に向けて黒鍵を番えた弓を私は向けるが、それは士郎と桜、ライダーの三人がかりで止められてしまった。

 

 

「待てクロ姉!相手は子供だ、落ち着けって!」

 

「クロナさん!先輩の言う通りです、サーヴァントを倒すだけでいいんですから…!」

 

「さすがに小っちゃい子供が目の前で殺されるのは見てられないっての!例え敵マスターでもね!」

 

「五月蠅い放せ、アインツベルンは絶対に許さない…」

 

 

暴れて逃れようとするも、三人がかりな上に一人は男、一人はサーヴァントなのだからビクともしない。無防備な今が絶好のチャンスなのに…!

 

 

「…この日をずっと待ち焦がれていたのに酷いじゃない。お兄ちゃんより先に貴女だけは念入りに殺してあげる!来なさいセイバー!」

 

 

そう叫んだイリヤスフィールを、回収し着地する人影。十中八九、サーヴァント。未知のサーヴァントの登場に私を放し、身構える士郎達。アーチャーも拳を構えあのSFチックな格好に戻って戦闘態勢だ。ライダーもリボルバーを構えている。…ほら、早く殺さないからサーヴァントが来た。しかも剣使い(セイバー)・・・最優のクラスなんて、最悪だ。

 

 

「俺のマスターによくもやってくれたな。無事に帰れると思わない方がいい」

 

 

そう言ってその男が構えたのは、フランスの騎士が持っている様なブロードソード。アレは真名を隠すためのフェイク、あのサーヴァントの本来の武器ではない。それにしても緑の服、金髪、蒼い瞳にあの盾・・・もしかしたら一番厄介なサーヴァントを呼び出したのか?その特徴は十中八九・・・あの勇者だろう。

 

 

「マスター下がって!」

 

「援護は任せなさいアーチャー!”フローム・マーイ・コールド!―――デッド・ハーンズ”!」

 

 

私から離れて翼を広げて音速で飛び出し拳を繰り出すアーチャーと、変身(だっけ?)して両手にAUG…アサルトライフルを構えて援護射撃を行うライダー。しかしアーチャーの拳はセイバーの盾に受け止められた上に突き飛ばされ、弾丸は全てその手に握られたブロードソードで斬り飛ばされてしまい、突進してきたセイバーの蹴りをもろに喰らいライダーは蹴り飛ばされ、そこを突いて体当たりを繰り出したアーチャーをセイバーは盾で顔面を殴りつけて吹き飛ばした。

強化した目で見てみると、斬られた弾丸は全て見事に真っ二つに切れていた。…とんでもない技量と力だ、セイバーの名に恥じない最優の力。遠距離に特化しているアーチャーとライダーじゃ分が悪すぎる。

 

とりあえずまた弓を構えてみるけどどうしたものか…マスターを狙った方がいいんだけど、今はアーチャーとライダーのピンチだから仕方ない。黒鍵を三本番え、弓を構えて引き絞る。

 

 

「―――――Tell my anger in an irrational world.(理不尽な世界に我が怒りを伝えよ)

 

 

改造。生まれるのは歪な螺旋を描いたコルクスクリューの様な剣身の黒鍵。溜め込んだ膨大な魔力を炸裂する事で先端から無理矢理抉り込ませ構成面を粉々に粉砕し破壊する代物で私の切札の一つだ。当たればサーヴァントでも、例え戦車であっても一溜りもあるまい。…試したことは無いが。名称は適当だ、魔術使いに技など要らぬ。

 

 

抉り破る螺旋の刺突剣(イリマージュ・カラドボルグ)!」

 

 

彼のケルト神話の勇士フェルグス・マック・ロイが有したと言われる虹霓剣。放たれたそれはそれぞれ異なる軌道の弧を描いて三つ同時にセイバーに迫り・・・セイバーはその危険性を察知したのかイリヤスフィールを背に担ぎ大きく跳躍して回避。黒鍵が突き刺さったアスファルトは大きく膨れ上がり、爆発。木端微塵に吹き飛ぶ。…ありゃー当たれば勝てるな、多分。

 

 

「く、クロ姉・・・すげぇ」

 

「…稀有な魔術属性の虚数なんて意味ないんですね…(遠い目)」

 

「…」

 

「うわぁ…」

 

『ちょっと引くね、これは酷い』

 

「セ、セイバー・・・今のなんなの!?」

 

「分からない…だけどただの魔術師じゃない事は確かだ、用心してくれマスター」

 

 

おいこらそこの後輩お二人さんとそのサーヴァント共とセイバー陣営。私を化物みたいに見るな、というか桜、虚数属性なのか。よく知らんけど確か影みたいな「其処に存在する物」を操れるんだっけ。何それ恐い。

 

それよりもセイバーに警戒されてしまった。外すべきじゃなかったか、こうなったらバーサーカーを呼ぶしか…とりあえず黒鍵を構えて威圧する。あちらも警戒して動くに動けない様だ。

 

 

「…士郎、桜。アーチャーとライダーと一緒にここから急いで離れて衛宮邸に急いで」

 

「クロ姉はどうするんだよ!サーヴァントと、えっと…」

 

「アインツベルン、御三家の魔術師とそのサーヴァントを一人で抑えようなんて自殺行為です!]

 

「…あまりに無謀です、私達に任せた方が」

 

「さすがに魔術師「魔術使いだ何度も言わせるな」・・・魔術使いを一人残して逃げれる訳ないじゃない」

 

『僕としては桜を連れて速く離脱したいところだけどね。ライダー、桜。それに士郎、アーチャー。多分クロナは気付いたんだ、セイバーの正体に。多分、僕達じゃ敵わない奴だって事に』

 

 

エルメスが述べてくれた言葉の通りだ。私の予想が正しければ、その知名度は私のバーサーカーをも上回る。下手すればあのエクスカリバーと言う有名すぎる聖剣で世界に知れ渡るアーサー王よりも知名度があるかもしれないサーヴァントだ。…言っちゃあ悪いが多分、知名度が低いライダーとアーチャーじゃ勝ち目がない。その点、私なら火力だけなら対抗できる。あと逃がす理由はもう一つ、バーサーカーを呼ぶのに邪魔だからだ。

 

 

「エルメスの言う通り。正直言って士郎達は邪魔、巻き込んでしまう。それに、私が連れて来た教会への道の帰りで襲われて脱落何て夢見が悪い。守らせて、大丈夫。…聖杯を得るまで、死ぬ気はないから。もしもの時は私のサーヴァントも呼ぶし」

 

「だ、だけど…クロ姉…」

 

「…マスター、撤退しましょう。我々ではクロナさんの足手まといです」

 

「悔しいけどアーチャーの言う通りね。…いいわね、桜?」

 

「…ええ。先輩、行きましょう。クロナさん一人なら隙を見て逃げる事も出来ますし、一旦退いてセイバーの対策を考えるべきです。そうでもしないと私達に勝ち目はありません」

 

『桜に賛成。あの火力だったら隙を作るのも簡単だろうし』

 

「…くっ。無茶はしないでくれよ、クロ姉!死んだりしたら絶対に許さないからな!」

 

「冗談。死ぬつもりなんて毛頭ない」

 

 

アーチャー達の説得を受け、立ち去る士郎。それを追い掛けようとする、イリヤスフィールを背に乗せたセイバーの足元に向けて黒鍵を投擲。同時に爆発させる。行かせない、その意を込めて。ついでに言えば…アインツベルンへの溢れる怒りを乗せて。

 

 

「逃がさない、アインツベルンだけは絶対に。今ここでぶち殺す」

 

「…いいわ。士郎から姉なんて呼ばれているのも気に入らないし。セイバー、やっちゃって。私は士郎達を追うわ、その身の程知らずの女は惨めに殺してあげなさい!」

 

「了解だ、マスター」

 

 

セイバーの背から飛び降りて士郎達を追おうとするイリヤスフィールに向けて黒鍵を投擲するもそれはセイバーの剣に斬り飛ばされてしまう。…そう簡単に殺させてはくれないか。

 

 

「何度も俺のマスターの命を狙うなんて、覚悟はできているんだよな?」

 

「もちろん。…アインツベルンに対してだけは、私は負けられないから」

 

「いい度胸だ…!」

 

 

地を蹴り、こちらに肉薄するセイバーの剣を、私は強化したマフラーをピンと伸ばして剣身を受け止め、そのまま巻き付けて己が両腕を強化。そのまま引っ張り背後の地面に叩き付けるも、セイバーは剣を放して後退。その手にスリングショット…俗に言うパチンコと何かの種を取り出しそれを発射。

 

 

「飛び道具…甘い!」

 

 

私はマフラーを巻いたまま奪ったブロードソードでそれを防ぐが、次の瞬間セイバーは紅い宝石が付けられた黄色のブーメランの様な物を取り出して投擲。ブーメランは私の手からマフラーを手放させ、そのままブロードソードを回収してセイバーの手に渡らせる。

 

 

小細工か…セイバーにしては手段を択ばない姑息な戦法。やっぱり、このサーヴァントは…

 

 

「さすが勇者。油断ならない」

 

「…気付いたのか」

 

「むしろ正体を隠す気が無いだけでしょ?」

 

 

緑の服。私の知る限り、こんな恰好をしている英雄は限られている。その中でも有名なのが、「ゼルダの伝説」の何世代にも渡る伝説譚の中心に必ずいる勇者たちの総称…「リンク」だ。ただ、どのリンクなのかは生憎見当もつかないが。

 

 

「ただ、正体を知っても私は負ける訳に行かないのは変わらない。

 

This anger has.(この怒りを持って)

 

 

今、マフラーを変えた弓に番えて放ったのは、幾重の菱形の楔を繋げたような形状に剣身を改造した黒鍵。今度のは魔力をあまり込めてないからか、ブロードソードを持って斬り飛ばそうとするセイバー。…だが、それが私の狙いだ。

 

 

promoted through.(推し通る)!」

 

「!?」

 

剣身が黒鍵を受けた瞬間、ドドドドッと自ら一ヵ所に集中して剣身に殺到する幾重の楔。それにより剣身は粉々に砕けてしまい、砕けた剣身を諸に浴びて怯んだ瞬間、私は念話で叫ぶ。

 

 

『来て、バーサーカー!』

 

『…こっちは完全とは言えないが戦える程度には癒えた。出番か』

 

「…思う存分、怒れる拳に火を点けろ!」

 

『上等!』

 

 

次の瞬間。空から降って来た、ボロマントを身に着け顔を隠したバーサーカーの拳と、それに気付いてセイバーがついにその背中の鞘から抜いた聖剣…マスターソードがぶつかった。

 

 

「サーヴァント…!?」

 

「ウオラァアアアアアッ!」

 

 

マスターソードを押し退け、拳をセイバーに叩き付けるバーサーカー。セイバーは喰らう直前に飛び退いて直撃を避けるが、衝撃波でグルグル転がり電柱に叩き付けられる。そこにすかさず私は道路に手を付け、イメージする。非力な私でも、捉えることぐらいは…!

 

 

Case bound asphalt.(アスファルトよ、拘束せよ)!」

 

 

道路のアスファルトの構成面を固体化する以前に戻し形状変化。私の意のままに蠢くドロドロのアスファルトの触手群へと改造し、バーサーカーを私の傍まで後退させセイバーに殺到させる。

 

 

「ッ…デヤァーッ!」

 

 

しかしセイバーは立ち上がりながら回転斬りでそれを退け、回転の勢いのままに跳躍。空中のセイバー目掛けて触手群を行かせるが全て斬り伏せられ、セイバーはそのまま急降下斬りを私目掛けて仕掛けて来た。不味い…!?

 

 

「させる物かあッ!」

 

「があっ!?」

 

 

しかしそれを横からバーサーカーが拳を叩き込む事で守ってもらい、一息吐こうとするもそんな暇は無かった。…バーサーカーの胸に、鎖に繋がったフックが突き刺さっており、それは勢いを殺していたセイバーの手に握られた武具だった。確か、フックショットだったか。そのままフックショットの鎖を戻し、引き寄せられるセイバー。

 

 

「まどろっこしい!」

 

「宝具開帳…!」

 

 

バーサーカーは六天金剛アスラに姿を変え右拳三つを振り被る。しかし、セイバーの手には剣身を眩く光り輝かせたマスターソードが。アレは、まさか…

 

 

「待って、バーサーカー!」

 

 

静止の声も虚しく、バーサーカーの拳より先に光り輝く蒼い魔力を剣身に宿した聖剣の一閃…否、三閃の斬光が煌めき、それは黄金の輝きとなって莫大な魔力の奔流が巻き起こる。それは、まさしくサーヴァントの切札、宝具…!

 

 

 

時をも超え輝く退魔の剣(マスターソード)ォオオオオオオオオッ!」

 

「ガッ、アアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

 

 

深き夜を聖なる光が照らすその光景は、まさしく幻想で。…その中心に立つ、緑の衣を纏いし勇者と、両腕を失いなお立ち続ける(おとこ)の姿は、まるで神話の再現の様だった。




対魔宝具・マスターソードが炸裂!イメージはアルトリアVSギルガメッシュの、最後に見せた星光を剣身に溜めて斬り裂いたあのエクスカリバー。
設定のセイバーの宝具を追記して置きます。次回はバーサーカーの対人宝具お披露目!

主人公も改造魔術の規格外さを発揮しました。投影に特化された士郎と違い、クロナは「其処に在る物体を改造」する事に特化した魔術使い。イメージで何所までも広がり、疑似的ながら錬鉄の英雄の偽・螺旋剣まで再現したまさしく規格外な魔術です。弱点は近くに物体が無いと何もできない事。それでも瞬間火力なら相乗を使った凛にも匹敵します。

…ところでキャスターの設定を考えていて思った、アイオニオン・ヘタイロイって何語なのだろうか(英語とか超苦手)。エクスカリバーとかは納得できるけど単純に意味が分からない宝具名はたびたび混乱します。

と、とりあえず次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#5:「貴公は貴公の道をゆけ」「…借りて行く」

バーサーカーVSセイバー後半戦。深山町がヤバいこの対決、楽しんでいただけたら幸いです。


時をも超え輝く退魔の剣(マスターソード)

 

魔王の支配した世の闇を切り払う聖剣に宿った退魔の光を、聖三角(トライフォース)状に斬り裂いて一瞬のみ光の斬撃を溜め込み、聖三角を完成させると同時に一気に解き放って文字通り魔を退ける、彼の【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】に匹敵する対魔宝具。

 

 

その一撃はバーサーカーが交差して防御しようとした鋼の如く堅き両腕を六本全て消し飛ばし、そして満身創痍の身にした。バーサーカーの傷口からはエーテルが大気に漏れ出し、腕の付け根からは内部の機械部が見え火花が散っている。

 

 

「バーサーカー、大丈夫!?」

 

「何時もの事だ、問題ない」

 

 

アスファルトの触手をセイバーに襲い掛からせながら駆け寄るクロナに、バーサーカーはぶっきらぼうに応えるがどう見ても問題だらけだ。ふら付いてこそいないが、このままでは明らかに不味い。これでは攻撃も、防御すらできない。いやバーサーカーは元より防御なんてそんなにしないのだが。

 

 

「アレを凌ぎ切るなんて…正直、驚いたよ」

 

「私としてはアスファルトを全部粉々にしてしまったのが驚くべきことなんだけども」

 

 

何時の間にか、アスファルトの触手は全て凍り付き、砕け散っていた。これでは改造したアスファルトも意味が無い。クロナは少しでもセイバーの動きを止めようと黒鍵を構え改造をしようとしたその時、信じられない事が起きた。

 

 

「オラァアアアッ!」

 

「なっ!?」

 

 

両腕を失ってなお、飛び出し踵落しを叩き込むバーサーカーの一撃をマスターソードの腹で受け止めながらも驚きに表情を染めるセイバー。

当り前だ、普通ならば腕が無くなった時点で激痛から動けなくなるはずで、とても戦える状態ではない。しかしバーサーカーは歯を食い縛り、一度後退してから突撃、強烈な膝蹴りを叩き込んだかと思えば回し蹴り、そのまま踵落しと、己を防戦一方にまで叩き込んできたのだ。驚かないはずがない、むしろ何で自分が押されているのかセイバーの豊富な経験でも理解が追い付かない。

 

 

「くたばれェエエエエエッ!」

 

「ぐっ、あっ…!?」

 

 

ヤクザキックで盾を押し退けてから至近距離で叩き込まれた頭突きに、セイバーの視界は歪む。咄嗟にマスターソードを振り上げるも避けられ、再び連続攻撃の嵐。一撃一撃が重く、対処しきれなくなってくる。明らかに、先程よりも力が上がっていた。

 

 

「何でだ、何でそこまで傷を負って戦える…?!」

 

「気に入らないだけだ!一人で背負いこもうとするマスターもッ!平気で人を殺すと言いやがるあの子供もッ!人の痛みを煽り苦しめようとするあの男もッ!――――女子供を情け容赦なく殺そうとする貴様もッ!」

 

 

それは、怒りだけで突き進んできた男の、この現界で得た全ての怒り。

 

 

「変わったようで大事な所だけ何一つ変わっちゃいないこの世界もッ!そして、守るべき女に心配させてしまっている様な俺自身もッ!全てが全て、気に喰わぬッ!」

 

 

怒髪天。バーサーカーは赤いオーラの様な怒のマントラを纏い、全身のラインを光らせて叫び、渾身の踵落しを叩き込んだ。

 

 

「大!回転斬りッ!」

 

 

それを受け止める、回転で遠心力を加えて赤い円の軌跡を描いて振るわれたセイバーの斬撃。両者の攻撃は拮抗し、その衝撃波から周囲が砕け散って行く。イリヤが人避けの結界を張っていないと住民が出てきて騒ぎになっただろう。だからこそ、この神々の対決とも言える攻防を見ていたのはクロナと、そしてそれを見物していた二人組だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりあの緘黙な嬢ちゃんがバーサーカーのマスターだったな、嬢ちゃん?」

 

「ええ。あの口ぶりから予想はしていたけど……まさか自分のサーヴァントに痛手を負わせてまでする事かと思っていたからね。あの尋常じゃない再生の速さなら納得だわ。アレは多分、魔力以外のエネルギーも消費している。そうでもないとクロ自身の火力の説明がつかない」

 

「だな、その通りだと思うぜ。彼奴は多分、俺よりも古い時代の英霊だ。油断しちゃならねぇ相手だな、あのマスター共々」

 

「元より油断する気はないわ、何せあの綺礼の娘だもの。それにしてもまさかアインツベルンが出て来るなんて…あのままだったら衛宮君と桜が死んでいたかもしれないし、其処はクロに感謝ね」

 

 

そう会話をするのは、離れた場所から戦況を窺っていたランサー陣営。綺礼に事情を聞こうと教会に向かった所、ちょうどクロナ達が来たので綺礼に会わずに様子を窺う事にしたら案の定ビンゴだ。一番警戒しないと行けない相手はアインツベルンでも外からの魔術師でも無い、よく知っているあの少女である。

 

 

「まあセイバーの真名が少しでも分かったのは収穫ね。リンク、海に沈んだと言われる大陸ハイラルに伝わる何人もの勇者の総称。その中の一人なんだろうけど…判別は難しいわ。もう一つ気になるのは…あれって、どう見ても阿修羅なのよね」

 

「だな。だが嬢ちゃん、聖杯戦争ってのは基本的に神霊の類は召喚されねぇんだ。俺みたいな半神はともかく、阿修羅ってのは正真正銘の神様だ。呼び出せるはずがねぇ存在だぞ」

 

「…つまり、阿修羅もしくはそれに準ずる英霊と言う事ね。やっぱり得体が知れないわ…」

 

「ところであの嬢ちゃん、ピンチだぜマスター。助けてやらねえのか?」

 

 

セイバー、そしてバーサーカーと戦いたそうにうずうずしているランサーに凛は溜め息を吐き、呆れたように言葉を述べる。

 

 

「まったく…アンタねぇ、これは戦争なの。仲良しごっこじゃないのよ、巻き込んでしまった衛宮君はともかく…桜やクロを守る義理は私には無いわ。ここで潰れてくれた方が勝利に近付くって物よ」

 

「やれやれ。魔術師ってのは面倒な生き物だな。合理的に考えやがる、だがな。まだ一日しか付き合いの無い俺だが…これだけは分かる、アンタはお人好しだ。これを放って置けるほど嬢ちゃんは冷血じゃない。なのに何で、黙って見ていやがるんだ?言ってくれれば直ぐ行ってサーヴァントだけを倒してくるぜ俺は?」

 

 

そう笑ってくるランサーに、凛は諦めたかの様にフッと笑い口を開く。それは、何時もの事だと慣れている雰囲気だった。

 

 

「…必要ないからよ。付き合いが長いから知ってるの。あの子はね、決して諦めようとしない。折れないで諦めないで、そして打開策を見出してしまう奇才なのよ。諦めの悪さ。それがクロの特技よ。そしてサーヴァントはマスターに似るって言うし…あのバーサーカー、瀕死にした程度じゃ多分、止まらない」

 

 

 

 

 

 

 

凛の言う通りだった。腕を失おうとも闘争心を失わないバーサーカーは、そのままセイバーのマスターソードを押し退け、サマーソルトキックを放って空中に蹴り飛ばす。

 

 

「ぶちのめす!」

 

「なにっ…!?」

 

 

そして渾身の頭突きが腹部に炸裂、突風が巻き起こりセイバーは吹き飛ばされ…そして背中から叩き付けられながらも受け身を取り立ち上がり、何を思ったのかマスターソードをしまい、その手にポーチから取り出したのは…何と、彼の身の丈はある巨大な剣身の両手剣。その名も「ダイゴロン刀」だ。

 

 

「…お前にはこれがいいみたいだ。行くぞ!」

 

 

振るわれるそれの、さっきまでとの一番の違いはリーチ。そして一撃の威力。踏み込んでは行けない、一撃の威力が桁違い。バーサーカーは受け止める事が出来ず、避けて避けて隙を探す。しかし、隙が見当たらない。

 

 

「デヤーッ!」

 

「グゥッ…!?」

 

「バーサーカー!」

 

 

強烈な斬り上げ攻撃を受け、背中から倒れ込むバーサーカーに思わず駆け寄るクロナ。そして彼に触れた時…謎のビジョンが流れて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それは、月面での闘い。バーサーカーの、かつての師との対決の記憶。

 

 

「さあ、猛り狂おうぞ!」

 

「天上の美姫を抱くとも―――――天下の銘酒を干そうとも―――――慰められぬ無聊を託っておったが…この一撃、一撃が…我の血を沸かす!喰らうに値する(オトコ)と認めようぞ、アスラ!」

 

「行くぞ、行くぞ、行くぞ!アスラアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「なんと愉しきことか!この世界は、まさに我らのためのもの!これが最後の一太刀となろう、見事受けてみせい!」

 

 

…何とも武人なお師匠である。「欲」のマントラに適合した八神将にして七星天の一人、オーガス。それが彼の名。地球をも貫く程に伸縮する、物干し竿にも見える一本の刀を手に、バーサーカーを追い詰めるその力は圧巻の一言。本来ならば彼は勝てなかっただろう。しかし、決定的な違いがバーサーカーに勝利をもたらした。

 

 

 

「悪に会わば悪を砕き、善に会わば善を砕く!今一度言おう、我は貴公であり、貴公は我だ!」

 

「同じであってたまるか…!」

 

「ではどこが違う、何が異なる!?」

 

「…貴様には、死んでも解らん!」

 

「ハッハッハ!…ならば、拳をもって示せ、アスラ!」

 

 

それは意地、苦しむ娘の存在からなる底知れぬ怒り。たったそれだけが、腕をもがれ腹を地球ごと貫通され、満身創痍のバーサーカーの拳がその刀身を叩き折り、残ったそれを奪い取り渾身の一撃を決めた要因だった。

 

 

「戦いきった。愉快、この上なし!…………………最後に立ちし者が絶対に正しい。ならば、アスラ。貴公は、貴公の道をゆけ」

 

 

その言葉と共に、満足気な笑みを浮かべて消滅するオーガス。バーサーカーは新たな敵の襲来を察知し、その刀を蹴り付け口で持ち、迫り来る星の災厄の大群に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

そこで視界は目の前の現実に戻る。そこには立ち上がり、そして足下に出現した、折れた日本刀を蹴り付け眼前に浮かばせるバーサーカーの姿が。

 

 

「…借りて行く。宝具開帳、無明鬼哭刀(むみょうきこくとう)

 

 

瞬間、バーサーカーは刀の刀身に噛み付いて口で構え、刀身が怒のマントラで染まり長く伸びると驚異的な速さで突進した。

 

 

「デヤッ!」

 

「フンッ…!」

 

 

ダイゴロン刀の一撃を、口に構えた刀で受け止め、それを軸に跳躍するバーサーカー。そして首を動かして身体ごと振り降ろすと、刀身は巨大な炎の刃と化し横に避けたセイバーのいた場所を融解させ切断。そのまま着地して横に一薙ぎ、セイバーはダイゴロン刀で受け止めるも力が足りず押し返される。

 

 

「ウラァアアッ!」

 

 

そのまま一回転、二回転、三回転。回りながら何度も何度も刀身を叩き付け、剣術なんて技能でもないのに最優たるはずのセイバーは押されて行く。

 

 

「堕ちろォオオオオッ!」

 

「なんて…重い…!?」

 

 

バーサーカーは再び跳躍するとペッと刀を吐き捨て、今度は両足で握るとそのまま急降下斬り。刀身に右手を添えたダイゴロン刀で受け止めようと試みるセイバーだが予想以上の重さに、片膝を付く。それを見るとバーサーカーは頭突きを叩き込んで体勢を崩させ、刀を宙に投げ捨てると再び口で刀身を噛んで構え、踵落しを叩き込んだ。

 

 

「ッ…フロルの風!」

 

すると緑の閃光が眩き、セイバーは何時の間にかバーサーカーから十数メートル離れた所に立っていた。クロナはそれを見て訝しむが、バーサーカーは関係ないとばかりに再度突進。セイバーはダイゴロン刀では敵わないと見たのかポーチに戻し、代わりにマスターソードを抜いて盾と共に構え、こちらも突進する。

 

 

「時の女神に七人の賢者達よ…我が聖剣に彼の者を打ち倒す退魔の光を宿したまえ!」

 

「……来いッ!」

 

時をも越え輝く退魔の剣(マスターソード)!」

 

 

そして、炎を宿らせた刀身と退魔の光を宿らせた剣身が激突。クロナは咄嗟にアスファルトの剥がれた地面に手を付け分厚い壁を形成、さらに強化をかける。同時に魔力と怒のマントラの奔流による衝撃波が辺り一帯に広がった。




と言う訳で発動、バーサーカーの対人宝具『無明鬼哭刀』
11.5話の大暴れがそのまま宝具として昇華した、今は亡き師匠・オーガスから借りたままの名刀。大軍でもいけますが結局もみくちゃにされてたので対人が妥当かと。

ストーカーしていた凛にバーサーカーのマスターだとばれたクロナの今後は一体どうなるのか。一番警戒するべきマスターとか言われてますがそれはどうでしょうねぇ…(意味深)

次回はちょうどその頃の士郎達VSイリヤ。サーヴァント二体相手にイリヤはどう戦うのか、こうご期待。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#6:魔術師殺しの後継者

…サーヴァントが変わったとは言ったがイリヤもそのままとは誰も言ってない。本気で勝つためなら手段を択ぶ必要は無い、だって彼女はあの男の娘なのだから。


そんな訳で魔改造イリヤさんVSアーチャー・ライダーです。正直強化し過ぎたと思ってる。リンクがいないと使えませんし。楽しんでいただけたら幸いです。


「僕はね、魔法使いなんだ」

 

 

その子供を引き取る際にそう言ってしまった彼は、目を輝かせるその子に本当の事は言えなかった。魔法…否、魔術がどんなに汚れた代物なのか。…自分がその魔術を使って、今まで何をしてきたのか。彼は僕を正義の味方だと呼んでいるが、そんな綺麗な物じゃないと言う事も。

 

彼は、正義の味方であるために多数を救う為に少数を切り捨てることを絶対の信条・手段として徹し続けた人殺し、魔術師殺し(メイガスマーダー)だったと言う事を義理の息子に教えないまま、最期に聞いた息子の言葉に安心し呪いに蝕まれたその命を散らした。

 

 

まさか、そんな自分の在り方を知り受け継いでしまった少女が居るなんて露にも思わずに。

 

 

「セイバー。さっそくだけど力を貸して欲しい事があるの。…聖杯戦争に勝ち残る絶対の手段、キリツグの戦い方を使うためには貴方の協力は不可欠だわ」

 

「…一体何をする気なんだい?」

 

「…簡単よ。…私自身が英霊とも渡り合えるようにする。キリツグの魔術ならそれが可能よ。アイツにもできたんだもの、私に出来ないはずがないわ」

 

 

そんな会話があった半年前…雪の姫君は、10年前からの怒りを糧に命を削る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバーとバーサーカーがぶつかる一方、少し時間は戻って士郎達は何時の間にか先回りしていたイリヤと対峙していた。

 

 

「こっそりどこに行くの、お兄ちゃん?サーヴァントを連れているのに逃げるんだ、置いてけぼり何て酷いじゃない」

 

「イリヤスフィール…どうやって先回りを…?」

 

「桜、士郎、下がって!」

 

「待て、ライダー!」

 

 

率先して二丁のライフルを構えてイリヤを狙うライダーを士郎は止める。しかし、イリヤは自分を心配してくれたことに気をよくしたのか、儚げな笑みを浮かべる。

 

 

「心配はいらないよ、お兄ちゃん。例えサーヴァントでも…私に着いて来れないから」

 

「何を言って…!?」

 

Time alter―double accel(固有時制御・二倍速)!」

 

 

その瞬間、イリヤはライダーの背後に現れる。そしてその手に何時の間にか握られていたトンプソン・コンテンダーから銀のフルメタルジャケットの弾丸が放たれ、胸部を背中から撃ち抜かれたライダーは崩れ落ちる。

間髪入れず、アーチャーが音速で肉薄するが、それよりも速くコンテンダーを投げ捨てイリヤは移動。次々とアーチャーの繰り出す拳を高速で動いて回避、その手に持った「強化」されたサバイバルナイフを叩き込み、アーチャーは左腕を犠牲にそれを受け止める。

 

 

「アーチャー!」

 

「…問題ありません」

 

 

士郎が叫んで駆け寄ろうとするも平然としているアーチャーはそのまま翼による打撃を繰り出すもイリヤは士郎達とアーチャーの真ん中まで移動してそれを回避、さらに大きめの種の様な物…セイバーから預かったデクの種を取り出すと地面に投擲。

 

 

「っ!?」

 

 

それは眩い閃光を放ってアーチャー、士郎、桜の視界を奪い、その隙にイリヤは使い魔でアーチャーをきつく拘束。さらに彼女の父親が愛用していたキャリコM950を、視界を取り戻し始めた士郎に向けて構えた。

 

 

「マスター!…この…!」

 

「残念、それはサーヴァントでもそう簡単に解けないわ。その形状で固定しているからね。マスターでも、やり方を考えればサーヴァントにも匹敵するのよ。セイバーがいないからって嘗めないでもらえる?……あのキリツグの息子がいるっていうからわざわざ習得して来たんだから」

 

「っ切嗣(じいさん)を知っているのか!?」

 

「ええ。よーく知っているわ、10年前の事しか知らないけどね。じゃあさっき邪魔されたから改めて言うけどお兄ちゃん、私はアインツベルンの悲願である聖杯よりも楽しみにしていた事があるの。それはね?お兄ちゃんを、殺す事。貴方の事を知ってから、ずっとこの日を待ちわびていたのよ」

 

「っ…先輩!」

 

 

引き金に指をかけるイリヤ。その表情は無感情で、魔術師殺し(メイガスマーダー)の顔だった。それを見て思わず、視界が完全に戻らないまま駆け寄り士郎を庇う様に立つ桜。それでも構わず、イリヤは引き金を引いた。

 

 

「出来損ないの聖杯は黙ってなさい」

 

「くそっ…桜!本当にピンチなんだから来なさい変態侍!」

 

「正義の少女がピンチのとkマジでピンチみたいだから以下略!」

 

 

桜のピンチに反応したのは、心臓近くを撃ち抜かれて倒れていたライダー。力を振り絞って叫び、残りの魔力を総動員して本日二度目のエーテルの輝きと共にサモエド仮面が士郎と桜の前に出現、その刀で弾丸を切り払う。

 

 

「美少女の危機に駆けつけてこそ真の騎士!決してあの恐い狂戦士が居ないからでは…待たせてすまない!謎の美少女ガンファイターライダー・k」

 

「セイバーのサーヴァント!?貴方、一体なんなの!?」

 

「…っと、いい質問だ!そう私の名は!もちろん本名は言えないけど!変身した後の名は!」

 

「いいから早く答えなさい!」

 

 

再装填したトンプソン・コンテンダーをサモエド仮面の眉間に撃ち込むイリヤ。しかし一発だからかカキンと刀で弾かれ、今度はキャリコでずだだだだだだだっと弾丸の嵐を叩き込む。サーヴァントだからまた避けれるだろうと考えていたのだが、サモエド仮面はそれはまああっさり、赤い液体を散らしながら仰向けに倒れ込んだ。

 

 

「…え?」

 

「…は?」

 

「…ライダー!?」

 

「大丈夫大丈夫、ふざけてるからソイツ」

 

「生体反応残っています」

 

「私の名は!純白と正義の騎士たるセイバー!サモエド仮面!」

 

 

しかし直ぐに立ち上がり、マスター三人はポカーンと何を考えていいのかよく分からない表情で変態を見詰めた。ダラダラ赤い液体を額からマスク越しに流れているサモエド仮面に代表して士郎が戸惑いがちに問いかける。

 

 

「な、何で生きてるんだ…?」

 

「む、少年何のことかね?…ああこれか。少年よ、美少女達よ。トマトと言う野菜を知っているな。中には果物だと言う者もいる。ちなみに英語だと発音は「トメィトー」アクセントはメィにある。”トマトが赤くなると医者が青くなる”と言う諺がある程ナイスに栄養素を含み、特に…」

 

「ちょっと待て!まさか…その赤いのがそれだと言うのか…?」

 

「イザクトリー!そのとおりだ。私は撃たれた瞬間に体をトマトにしたのだ」

 

「嘘吐きなさい。いくらサーヴァントだろうと変態だろうとそんなことできるはずないでしょ」

 

 

そう言ってコンテンダーの銃口を向けてくるイリヤに平謝りするサモエド仮面はポケットから粒揃いのトマトを取り出して説明する。

 

 

「ごめんなさい。実際は飛んで来た弾の一つ一つを音速で取り出したこれらで受け止めただけなんだ。タネを明かすと大したことないね、てへっ」

 

「「「…」」」

 

 

いやそんなことねーよ、と心の中でツッコむマスター三人。

 

 

「その名も奴のスキル、ギャグ補正(トマト)よ」

 

『聞いた時は耳を疑ったね』

 

 

そのライダーの言葉に、改めてサーヴァントがとんでもない連中だと納得する。彼の騎士王が聞いたら激怒しそうな話だが。士郎はこのシリアルムードに耐え切れなくなったのか、年相応に呆けていたイリヤに問いかけた。

 

 

「…それでイリヤ、お前は爺さんの事を知っているんだな?」

 

「…そうよ。アイツの息子である貴方を私は絶対に許さない。死んでもらうわ」

 

「させるとお思いですか?」

 

「っ…Time alter―double accel(固有時制御・二倍速)!」

 

 

改めて士郎にコンテンダーを向けた瞬間、何時の間にか拘束を解いていたアーチャーの音速の拳がイリヤの居た場所の背後の壁を打ち貫き、イリヤは数メートル離れた場所に移動。アーチャーは桜の前に陣取っているサモエド仮面に礼を述べる。

 

 

「そこの御仁、時間稼ぎナイスです。助かりました」

 

「礼はいらないさ、エンジェルガール。当然の事だからね!」

 

「あ、危なかった…アーチャー、酷いじゃない」

 

 

そうぼやいてキャリコを構え、剣型の使い魔を出すイリヤ。しかしぜぇぜぇと息を吐き、負担が大きいのは誰の目にも明らかだ。我慢が出来なくなった士郎は叫ぶ。

 

 

「もう止めろイリヤ!それ以上は命に関わるぞ!」

 

「キリツグに耐えれたんだからこれぐらい……やっぱり、子供の身体じゃ無理だって言うの…?」

 

「…やめないんなら、やめさせてやるわ」

 

 

膝をついてなお、銃を離さないイリヤに、警察官が使っているニューナンブ三八口径リヴォルバーを取り出して銃口を向けるライダー。士郎が止める間もなく、引き金が引かれて銃弾が放たれ…ボロボロのセイバーが緑の風と共に現れ、マスターソードで切り払った。

 

 

「フロルの風!デヤーッ!」

 

「セイバー!?」

 

『戦闘は間違いなくつい今まで行われていた。アレだけの距離を一瞬で…?』

 

 

緑の衣はボロボロで帽子はほとんど原型を留めておらず、マスターソードを持った左腕は焼け爛れておりどう見ても満身創痍だ。そんな姿の自らのサーヴァントを見て、イリヤは自分たちの敗北を悟った。

 

 

「せ、セイバー…?何でここに…」

 

「イリヤの危機に気付かない俺じゃないよ。それにしても、何でその魔術を使ったんだ。習得したばかりでまだ慣れても居ないのに、二連続で…ほら、赤いクスリ」

 

「ありがとうセイバー…サーヴァント二体も相手にするんだからこれぐらいしないと行けなかったのよ。そっちは?」

 

 

手渡された赤い液体の詰まった瓶の中身を飲むと、どういう原理か全快したのか辛そうな表情は消え、代わりに心配げな顔で見つめて来るイリヤにセイバーは困り顔で頭を掻いた。

 

 

「…あのマスター、俺よりも格上のサーヴァントを使役していたよ。恐らく今の俺じゃ勝てない。恥ずかしながら、宝具まで開帳したって言うのに…情けないサーヴァントでごめん、マスター」

 

「ううん。ちゃんと助けに来てくれたじゃない。撤退するわよ、セイバー。フロルの風は後何回使える?」

 

「…さっきも使ったから今の魔力じゃあと一度が限界だ。だが逃がしてくれるか?」

 

「それは大丈夫よ。…ねえ、お兄ちゃん?」

 

「…っ、なんだ?」

 

 

最優のサーヴァントの登場に身構えていた士郎はイリヤの笑顔に戸惑う。それは敵に向けられる物じゃない、家族に見せる様な笑みだったからだ。

 

 

「うちのセイバーも満身創痍だし、そっちも残してきたあの女が心配でしょ?だから今回は見逃してあげるわ。行こう、セイバー。…次会った時は覚悟しておいてね。魔術師殺し(メイガスマーダー)の力、存分に見せてあげるんだから…!」

 

「逃がしませn…「待て!」っマスター!?」

 

 

イリヤの言葉に、緑色の光が内包された菱形の透明な結晶を取り出したセイバーに向かって跳び出そうとするアーチャーを士郎の声が止める。

 

 

「イリヤの言う通り、今はクロ姉の安否だ。それにお前の傷も治さないと、そうだろアーチャー?」

 

「…分かりました」

 

「…やっぱり、お兄ちゃんは優しいね。行こう、セイバー」

 

「ああ。フロルの風!」

 

 

結晶が輝き、翠の風が吹き荒れてそれに包まれ、姿を消してこの場から立ち去るイリヤとセイバーを見届け、サモエド仮面も加えた士郎達は引き返してクロナの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、疲れ果てたクロナは、結果的にセイバーに勝ち逃げされ地面に仰向けで倒れているバーサーカーの傍に倒れ込み、少しの間夜の風を感じていたが意を決し口を開く。

 

「…負けたね」

 

「…ああ」

 

「…やっぱり、私に怒ってる?」

 

「当り前だ。サーヴァントと一人で相手するなんて何を考えている。…テメェは少しは自分の身を考えろ」

 

「…ごめん」

 

「ああ、腹が立つッ!…だがお前のために戦うのも悪くねえ。次は勝つぞ、マスター」

 

「…うん。傷、大丈夫?」

 

「言っただろう、何時もの事だと。治るのには少なくとも半日はかかる。その間、無茶はするな。死なれたら困る」

 

「…分かった。多分そろそろ士郎達が来ると思うから、霊体化して教会に戻って。…送れなくてごめん」

 

「気にするな、腹が立つ。俺の好きでやった事だ」

 

 

そう言って姿を消すバーサーカーに、クロナは寝転がりながら感謝の意を心の中で伝えた。

 

 

「…それにしてもどうしよう。父さんに怒られるな、これは…」

 

 

立ち上がり、周囲を見渡すクロナ。アスファルトは剥がれでドロドロになり、クレーターはでき、さらには地面が未だに焼けている。深山町の住人に見つかれば大変だ。後処理係の義父にクロナは無言で合掌した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな事態、どうやっても誤魔化し切れない……ガフッ」

 

「言峰ェエエエエエエエッ!?」

 

「正直事後処理がめんどくさい。ガクッ」

 

「く、く、クロナァアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

その帰宅後、保護者二人からガチで説教されたのは御愛嬌である。いや本気で怒られた。バーサーカーまで正座させられて怒られた。クロナは泣いた、街中で極力宝具は使わないと誓った。特に深山町ではもう二度と。衛宮邸やら柳洞寺があるから無理な気がするが…

 

 

「…父さん、王様。許してヒヤシンス」

 

「ヒヤシンスっ!?そこに直れ雑種ゥウウウウウッ!」

 

 

 

まだまだ明けない、運命の夜は深かった。




最後までシリアスな訳がない(教訓)サモエド仮面とギルさんはギャグ要員。


そんな訳で魔術師殺し(メイガスマーダー)イリヤさんです。銃火器扱う時は強化してます。常に魔術総動員なのでリスクが高い代物です。ちなみにトリプル使ったらさすがに体が耐えれなくて死にます。この時点でライダーを倒すぐらいは出来るので十分だと思いますが、相手が相手だしなぁ…

け、決してイリヤの使い魔じゃ戦い方をそこまで思いつかなかった訳じゃ無いんです!正直弱いとか全然考えてませんし!ただ、サモエド仮面のトマトネタを書きたかっただけなのに何時の間にかイリヤが魔改造されてたんです…決して原作イリヤじゃ瞬殺されるとか考えていた訳じゃ。ガチで瞬殺可能なアーチャーがいるのですけども。

…ところで桜って黒くない時はどんな魔術使えるんだろうか…治癒辺りと強化はさすがに使えると思うけども…おかげで一人だけ非戦闘員です。しょうがないね、うん。


次回はキャスターを出せればなぁと思います。原作みたいに士郎が瀕死になってない訳ですし。多分主人公の出番は少ないと思いますが、次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#7:遠坂凛の憂鬱

本日、九月一日は自分、放仮ごの誕生日。だから特別な回(カーニバルファンタズム的なノリ)を書きたかったんですが時間が無かった。


そんな訳でちょっと特別回で、振り返り的な話になります。凛と黒名視点です。楽しんでいただけたら幸いです。


常に優雅たれ

 

それが我が家の家訓だ。しかし私は今、遠坂邸から軽く離れた空き地で横にランサーを置き、憤慨していた。

 

 

「…何なのよアレ。魔術師を嘗めてんの?」

 

「怒るのは分かるが落ち着け嬢ちゃん。コイツが戦争って奴だろ?」

 

「…それは分かっているけど」

 

 

ランサーに窘められるが、今ここにはこいつ以外に誰もいないのだからこれぐらいはいいだろう。私が憤慨している理由は主に二人だ。

 

一人はあの私の兄弟子、綺礼から魔術を習った癖して魔術師を毛嫌いし魔術使いを名乗るクロナ。実際、彼女の戦い方は魔術師のそれではない。誇りなんて何一つ感じさせない、「生き残る」事に特化した魔術の使い方だ。

あの子は10年前の第四次聖杯戦争の顛末、大火災を唯一誰の助けも借りずに生還した凄い奴だ。その在り方が理由なのだろうが、それでも納得いかない。仮にも私の父から教えを受けた綺礼から習った癖して、優雅の欠片も無いとはどういう事だ。サーヴァント相手に時間稼ぎできるぐらいのあのでたらめさがあると言うのに。

 

もう一人は、遠坂と同じ始まりの御三家の一つ、アインツベルンの魔術師イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。今回は前回と同じくセイバーを召喚して参戦した…そこまではいい。最優のクラスを狙うのは当たり前だ。しかし、確か前回の戦争に参加したアインツベルンのマスターが「魔術師殺し(メイガスマーダー)」の名を持つ魔術使いだと言うのは知っている、綺礼から教えられた。だからって、錬金術に特化した生粋の魔術師が同じ真似をするなんて誰が想像できるだろうか。何だあの魔術を補助係としか見ていない戦い方は。文句の一つぐらい言いたかった。しかしそれでサーヴァントに対抗しているのだから文句が言えない。

 

間桐が期待できない以上、アインツベルンか外からの魔術師相手、もしくはキャスターのサーヴァント相手なら思う存分に戦えると思っていたのだが…話が違うとはこの事。何でマスターがサーヴァント、しかも三騎士と張り合えて、それが二人も居るとか冗談じゃない。

しかもマスターの一人は聖杯戦争のせの字も知らない見習い魔術師だし、クロはクロで付き合い長い癖して得体が知れないし、桜…ライダーのサーヴァントだって訳が分からない。エルメスなら探せば見つかるだろうけどサモエド仮面って何だサモエドって。ロシアの犬の名前じゃなかったか。何で頭にリンゴを乗せているのか、あのでたらめな剣術は何なのか、そもそも何で本体のライダーが女子高生なのか。もう正直、考えるのをやめたい。

 

 

「・・・・・・よし、文句はここまで。さてどうしましょうか」

 

 

考える事は考えた、もううじうじ憂鬱になるのはやめよう。問題はこれからの事だ。…まずはここで纏めて置こう。

 

まずは三騎士の一角にして最優のクラス、セイバー陣営のアインツベルン。セイバーの正体は宝具が「時をも越え輝く退魔の剣(マスターソード)」と言う事とあの容姿から考えて間違いなく、ハイラルの勇者「リンク」だ。

だがどの時代の勇者か分からないので弱点を突くのは難しい。白兵戦に置いてはあのバーサーカーと全くの互角だった、ランサーでも敵うかどうか微妙なラインだ。でも恐らくは、宝具の打ち合いではこちらが有利だ。…まあ瞬間移動みたいな事が出来るみたいなので当たればの話なのだが。

 

 

「おい、嬢ちゃん。今何か不愉快なこと考えなかったか?」

 

 

マスターの特徴は、・・・「魔術師殺し(メイガスマーダー)」恐らく本来の戦い方はあの使い魔・・・恐らくは「シュトルヒリッター」で間違いない。アレは聞こえてきた台詞から見て、「衛宮切嗣」の息子がいると聞いて用意した急増の物だ。事実、あの高速移動を二回発動した後、彼女のダメージは深刻に見えた。…それを全快させてしまったセイバーのクスリが厄介ね。恐らくは時間を操る系の魔術、「衛宮家」については冬木のセカンドオーナーとしても今度詳しく調べる必要がありそうね。とにかく、油断したら負ける相手なのは確かだ。

 

 

 

 

次に、アーチャー陣営。衛宮士郎。ここはセイバー陣営と違い情報が少ない。ただ、見た所マスター自身が使える魔術は「強化」「解析」・・・あと恐らくは「投影」のみだ、恐るるに足らない。同じ火事を生き抜いたクロとは大違いだ。

ただ問題なのはアーチャーの素性。天使の様な翼から見て天使関係の英霊だろうが、耳に何か変なの付けていた。何なのだろうかアレ。そして何より、アーチャーの癖して戦い方が超物理戦だと言う事。あの翼の機動力は注意した方がいい、音速を超えていた。しかし直線的であったため対応は容易に可能だと思う。

…とにかく、正体が分からない以上できるだけ味方でありたい。衛宮君の性格を利用すれば何とかなるだろうか。…クロがいるうちは多分無理だろう、それに桜もいるし…衛宮陣営は不安定な陣営だ、早く何とかしないと。

 

 

 

 

ランサーは私達だから、次にライダー陣営。桜の口から聞いた所アーチャー陣営と同盟を組んでいるらしいが、アーチャーとライダーの遠距離コンビじゃ同盟組んでいても底が知れているので安心だ。

マスターの桜は…強化と治癒は恐らく使用可能で、何より間桐の「水」の魔術も扱えている可能性が高い。数年離れていて手の内が分からないだけに警戒しないと行けない相手だ。弱点は恐らく衛宮君、彼を狙えば桜はまず倒せる。

ライダーの一番の特徴は、手数の多さ。詳しくないが現代銃器をランサー曰く一本一本Dランクの宝具として扱い、遠距離から近距離まで対応可能。そして正体不明の喋るストラップは何故か大型二輪車に変身でき、ライダーの名の通りそれを乗りこなすが、ランサー曰くそのバイクも英霊らしい。訳が分からない。そして何より、「ピンチ」の際現れる反則の様なセイバーのサーヴァント。サモエド仮面。彼が一番得体が知れない。アレにだけは勝てる気がしない。ランサーの宝具で早々に仕留めたいところだ。ただ、真名や宝具が分からなかったのは痛い。謎だらけのサーヴァントだ。

弱点はVSイリヤスフィール戦を見た所、英霊の癖して戦闘経験が少ないのか隙が大きい面。呑気だからかエルメスの方がそれを補っているのか…隙を突けば、勝てない相手ではない。

 

一つ懸念事項があるとすれば、数日前のいきなりの間桐邸崩壊+桜の衛宮邸に居候+ワカメのホテル暮らし+間桐家当主・間桐臓硯の失踪だ。間桐邸が一夜のうちに忽然と崩れたと聞いたので驚き、心配で見に行ったのに桜はピンピンしていて拍子抜けしそこまで気にしてなかったが、明らかに可笑しい。調べてみた所全部細切れにされていて何も分からなかったが…少なくとも血は無かった。

慎二に問いただしてみたが無駄だった、恐怖か何かで記憶が混乱していた。桜、もしくはライダーが何かしたのかと考えるのが妥当だが…あの老獪は何処に行ったのだろうか。死体すら無かったが。

 

 

 

 

次にアサシン陣営。これもまたよく分からない。得体の知れない、複数の姿と人格に一瞬で「切り替わる」能力を持った正体不明の敵にして、私達が初めて戦った相手。衛宮君からしたら明確な「悪」だろうか。

あの切り替わる能力は何かをキーにしているらしく、後手に構えた「何か」が間違いなくそれだ。注意すべきは戦略の幅広さ。大剣、怪力、牡牛の様な構えからの接近戦。あのランサーとほぼ互角だった。厄介なのは、衛宮君曰くアサシンがランサーの姿にまでなったと言う事。騙し討ちもできると言う事だが…もう一つ、槍までは情報が足りなくて再現できなかったとも言っていたらしい。ここから相手の手段が大体分かる。

もう一つ問題なのはマスターの正体が分からないという点。衛宮君たち曰く「サーヴァントとマスターは極力殺すなって言われている」とぼやいたらしく、まだ情報収集に徹している様だ。目的が分からない。

そう言えば学校に「下拵え」に来たとか言っていたわね。明日にでもすぐに確かめよう。

 

 

 

 

で、問題のバーサーカー陣営。これはもうほぼ完全に分かっている、クロ…言峰黒名の陣営だ。綺礼の性格からして他マスターの情報は持っていないだろうけど、「強化」系統の魔術のみしか使えないみたいなのにその実力は恐らくこの聖杯戦争でもトップクラスだろう。あの戦い方、ちょっと対策を考えないと私でも歯が立たないかもしれない。

不確定要素なのはアイツがどうも「大火事」「魔術師」「アインツベルン」に執着していて、それが関係すると攻撃的になる事と、何故か「衛宮君と桜」に対してだけ好意的だと言う事。私なんてほぼ無視している癖に。衛宮君の方は同じ境遇だからと言うのは分かるけど…桜は何故なのか見当もつかない。

アイツのサーヴァント、バーサーカー。アレは多分、「阿修羅」系統の神性持ちだ。通常は二本腕の様だが、何かをきっかけに六本腕に変化したりするが、戦い方は一転して接近戦だ。恐らく遠距離系の攻撃をあまり持っていないんだと思う。サーヴァント三人がかりでも物ともせず、腕が全てもがれようと臆さず最優のクラスを渡り合える規格外のサーヴァントだろう。

 

宝具は「むみょうきこくとう」と言うらしいから多分日本に近い国・・・アジア圏の英霊だろうか。気になるのは開帳時の「借りて行く」って言う言葉だが…文献を漁れば見つかるだろうか?

私にとっては今回の聖杯戦争で一番注意すべき陣営だ。学校で襲いかかっては来ないだろうが…アイツの正体を隠して衛宮君たちと「バーサーカーを倒すまで」と同盟を組んだ方がいいかもしれない。バーサーカーのマスターがアイツだって知られなければ強力な援護が期待できるし。マスターがクロだって分かったら衛宮君たちは味方してくれるだろうか?そこは神のみぞ知ると言うところね…

 

 

 

 

 

そして最後に、未だに姿を見せないキャスター陣営。…まだ初日なのだから当り前なのだろうが、それにしても何か引っかかる。…こればっかりは様子見しないと駄目か…

 

 

 

 

「どうだマスター?考えは纏まったか?」

 

「…ええ。とりあえずはアーチャーとライダー陣営の同盟と組みたいところね。でも、衛宮君は甘すぎる。…もし学校で私に警戒なく近付いて来た時は…利用価値が無いと見て脱落してもらうわ」

 

「おおー恐いねえ。でも嬢ちゃんがそれでいいなら俺は従うまでだ。この退屈じゃない聖杯戦争、勝ち抜いてやろうぜ、マスター」

 

「当り前よ」

 

 

聖杯の探求。それはこの遠坂家において魔術師の血と共に代々受け継がれてきた宿願。私の父は第四次聖杯戦争で帰らぬ人となった。卑劣な騙し討ちに敗れたんだと言う。それ以来、私も聖杯戦争へ参加するため準備を重ねて来たのだ。

 

――――凛、聖杯はいずれ現れる。アレを手に入れるのは遠坂の義務であり、魔術師であるならば避けては通れない道だ。

 

それが父の最期の言葉。最後の最期であの人は父親ではなく魔術の師として言葉を残した。不満な訳じゃ無い。確かに常人からしたらばかげている話だろうが、私は魔術師だ。だから私はその言葉に従い、魔術師として生きよう。そして見事、ランサーと共に聖杯をこの手にして見せる。

 

 

「さて、衛宮くんちの窓やら直して疲れたし…帰るわよ、ランサー。見張りは任せた」

 

「おうよ」

 

 

帰還する、我が家へ。…だけど何故か、何時も通りな居間の天井がちょっと寂しく感じた。・・・クロ、貴方は何を思ってこの戦いに参加したの?…衛宮君と違って貴方は、正義感何て絶対に持たないそんな奴でしょ…?

 

まさか、「怒り」だけじゃないでしょうね…?だとしたら、私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮邸から戻り、私は伸びをして軽く食事した後に教会の庭で座禅を組み、集中。魔術回路を開く。…やっぱりあの程度じゃサーヴァント相手には足止め出来る程度だった。少なくとも、君主(ロード)クラスの魔術師を一人で相手する事になるかもしれないんだからもっと強い使い方を考えなくては。

それにしてもあー疲れた。不可抗力なんだから父さんも王様もあんなに怒らなくてもいいのに。それに、自分は真面に戦えないくせにいっちょ前に心配している桜も桜だが、士郎も士郎だ。少しはお姉ちゃんを信じないのか。

 

 

「マスター、何しているんだ?」

 

「あ、バーサーカー。何か簡単に士郎達を誤魔化せてすぐに帰ってこれたから改造魔術の鍛錬をね」

 

「…あんなのでいいのか?」

 

「大丈夫だ問題ない」

 

 

何か、「うちのサーヴァント強いからちょいちょい嫌がらせして逃げ回ってたら何とかなったよ」とか言ったら簡単に誤魔化せた。傷だらけになったのはさすがに怒られたが深い傷は無いんだから許して欲しい。でも良く考えたらセイバー相手にしたのによく持ったな私。思った以上に実力を身に着けているのかもしれない、王様の戯れで回避力が上がっているのも無駄ではないだろう。ちょっと自信が付いた。

 

 

「…そうだ。バーサーカー、腕の具合はどう?」

 

「見ての通りだ。再生には時間がかかる、戦闘には丸一日出れないぞ」

 

「それでも王様を軽く相手できるって凄いね」

 

「………神皇を殺した濡れ衣を着せられた時に針鼠にされてな…」

 

「あ…ごめんなさい」

 

「気にするな。悪いのはデウスの野郎だ」

 

 

そう言って腕が捥げたままの姿で、庭の端に置いてあるベンチに腰掛け空を見上げるバーサーカー。…そうだ、彼は「大義」のために濡れ衣を着せられ裏切り者に貶められた上で娘を奪われ、妻を殺されたんだった。できるだけそれに繋がらない話題を心掛けないと駄目か…?いや、自分のサーヴァントに何気を遣っているんだ、利用していると言ってもサーヴァントなんだ、気にする事は無い。

 

 

「…で?どうするんだ?」

 

「…?…………何が?」

 

「魔術の鍛錬って奴だ。何か策はあるのか?」

 

「…ぶっちゃけ、ない」

 

 

そうなのだ。私は努力と言う者が苦手で、大体テストとかも直前で色々見れば大概高得点を採れる。士郎が悔しがってた、勉強あまりしてないのに何であんなにいい点数なんだ?と。知らん、一瞬だけ覚えて置けば問題あるまい。

 

 

「…魔術は知らんが、お前が何のために戦っているのかを考えればいいんじゃないか?信念は力に繋がる、俺にとっての(ミスラ)の様な奴、とまでは言わねーが…俺を呼び出したお前なら、持ち合わせているだろうが」

 

「…ああ、そうか」

 

 

怒り。それが私を形作る全て。たったら呪文も、それを体現する物ならば強力な物になる筈…あの時思った、物を改造しても神秘そのものであるサーヴァントには敵わない。だから…

 

私の肉体を、サーヴァントに張り合えるぐらいに強化…は無理だとして改造が出来ないものかと。それを体現する事が出来れば…魔導の名門、アニムスフィア家の研究だとか書庫にあった本に書いてあった…デミ・サーヴァントに近い事が出来れば、私の怒りは誰にも止められない。…そうだな、ちょっと詩みたいにしてみよう。

 

 

 

 

 

 

――― この身は憤怒で出来ている

 

血潮はマグマで、心は鋼鉄(ハガネ)

 

幾たびの理不尽に対して憤る

 

ただの一度も安らぎはなく

 

ただの一度も泣きはしない

 

彼の者は常に怒り

 

燃える孤独の街で嘆き怒る

 

故に、その生涯に意味はなく

 

その体は、きっと怒りで満ちていた

 

 

 

 

そう唱えた瞬間、一瞬だけ世界が書き換わった。燃える街で、一人佇む私。周りには燃える人達。私はそれを無視して、ただ自分が生きる為だけの全神経を使って…そこで我に返る。…今のは、何だ?

 

 

「世界が書き換わる…否、世界を書き換える…固有、結界…?」

 

 

…いやまさかね。こんな強化しかできない未熟な魔術使いが使えていい物じゃない。…でも、これが本当にそれで使いこなす事が出来れば…

 

 

「…使える?」

 

 

…とりあえず今は今できる事を素早く、的確にできる様にしよう。一瞬でイメージ出来なければ改造魔術は使いこなせない。バーサーカーがいるんだ、焦るな。まだ時間はある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの思惑を胸に、夜が明ける。

 

例を上げるなら、怒り。正義感。誇り。

常人から見たらどうでもいいだろうものに命を懸けて、彼等は挑む。その先にあるのは、悲劇か。それとも喜劇か。少なくとも、そう簡単には終わらない。




UBW的な呪文。これは何を意味するのか……とりあえずクロナは規格外。凛さんは分析上手。

ただ…問題発生です。キャスターが決まらぬぇ…いや、ゼル伝出身の奴か洋画出身かに迷っているんですが…どっちも普通に想像できて困ってます…
ゼル伝出身は何か受けが悪そうだし…洋画出身は英霊にいそうだから問題なく出せるんですが性格に難あり…絶対ギルと喧嘩するんですよ、イスカンダルと似た様な宝具あるし。何か意見がありましたらぜひともくださいませ。てかゼル伝の方に反対意見が無ければこっちにしたいですキャラ把握してるし。

次回も楽しみにしていただけたら嬉しいです。


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#8:真名ってそう簡単に言っていい物か?

前回の更新より一週間…ここまで遅れた理由は、漫画の方を主体にしているので時系列が分からなくなったせいです。二巻の日時が変わったことに気付かなくて焦った。

今回は多分序盤最後になる日常回です。日常回の癖して少しシリアスなのは勘弁してください。では、楽しんでいただけたら幸いです。


王様のお小言の後、父さんと色々話して眠る事にしたその翌日。

 

休みであることをいい事に私は昼過ぎまで熟睡していた。ねえバーサーカー?王様のバイクを手入れするのが気に入ったのはいいけど起こしてくれてもいいじゃない?夜まで暇なので衛宮邸に行くことにする。ここでじっとしていても王様の戯れの相手にされそうだし。

そんな訳で休日ではあるが桜が部活が在るのを考慮して夕方、私はタイガーが来るよりも早く衛宮邸を訪れた。既に桜は帰って来ていて士郎と共に料理をしていた。

 

 

「しかしすまないな桜、部活帰りで疲れてるってのに」

 

「いいえ平気です。ライダー共々居候させてもらっているんだからこれぐらいさせてください。・・・ライダーは働きませんし」

 

「何言ってるんだ。桜はもううちの家族みたいなものだろ?今更遠慮は無しだ、無し」

 

「遠慮なんかしていません。だって私、先輩のお手伝いするのが好きなんです。だから先輩の方こそ遠慮しないでくださいね」

 

「桜も言う様になったね、士郎?」

 

「ハハッ、そうだなクロ姉。クロ姉の減らず口が移ったみたいだ」

 

 

余計なお世話である。私はお茶を淹れて私とライダーの元に持ってくるアーチャーと、夕食(桜が買ってきたカサゴの煮つけらしい)を作る士郎と桜を客として居間から見ながら気になっていた事を問いかけた。

 

 

「で?士郎が使える魔術は「強化」だけとは本当なの?」

 

「ああ。一応解析と投影は使えるが…と言っても滅多に成功しないんだよな」

 

「使えない。投影が特に」

 

「ぐぅ」

 

 

正面でおやつを頬張るライダーを見ながら私の告げた容赦ない言葉に若干落ち込む士郎。実際、投影なんて実戦では使い物にならない。そもそも一回限りの儀式礼装を代用するとかに使う魔術だ。見た目だけで中身がすかっすかで戦闘に使う物なら簡単に壊れてしまうだろう。…私が改造すればそれなりに持つだろうがそれでも壊れやすい。…つまり実質役に立つのは「強化」だけか。

 

 

「…でも、私も使える魔術も「強化」だけだからそこは問題ない」

 

「え!?でも、弓矢とかは…」

 

「あれも「強化」正確には改造魔術だけど。桜はどう?」

 

「あ、はい私は魔術回路に問題があって本来出せる出力が出せず…強化と治癒が使えていい方です。サポートに徹しないといけませんね」

 

「実質戦えるのは私だけか」

 

「お、俺だって戦えるぞクロ姉!」

 

「五月蠅いフードのサーヴァントに一回殺されかけた奴は黙ってなさい」

 

「…はい」

 

 

…ふむ。この二人を勝ち残らせるのは骨だな。教会で保護した方がいいんだけどな…まあこの衛宮邸にかかっている結界の警報は私にも通じる様にしているし問題は無いか。

 

 

「ところでマスター、一つ聞きたいことが」

 

「何だ、アーチャー。飯を作るってのなら聞かないぞ、今日は俺の当番なんだ」

 

「いえそれはマスターに並みならぬこだわりがあると確認しているので断念します。マスターの魔術についてです」

 

「ああ、俺の魔術の事か。さっきも言った通り俺は「強化」しかできない半人前の魔術師だ。魔術の鍛錬はいつもあの土蔵でやっているんだ。アーチャーと最初に会ったところだし覚えているだろ?」

 

「土蔵…ですか?ではマスターを起こしに行った部屋はマスターの工房ではないのですか?」

 

「工房って魔術師の研究部屋だろ?俺の部屋はそんな大それたところじゃないな、あそこにはただ寝に帰るだけだ。工房って言うならむしろ土蔵が近いかな、ほら魔法陣もあったし。爺さんが研究してたんだろ、多分」

 

「そうですか…」

 

 

士郎達は士郎達でちゃんと教えているみたいだな。…工房、ね。確か凛や間桐は地下室が工房だったっけ。私は魔術師じゃないからそんな物持つ気も使う気もないけど…鍛錬する場所は考えないと行けないかもな。

 

 

「士郎ー、ごはんまだー?」

 

「待ってろライダー、今日は藤ねえも合わせて六人前だからな。時間がかかるんだよ」

 

「マスター。ライダーは一応敵陣営、甘やかしては駄目です」

 

「むっ、こらアーチャー私の飯が減ったらどうしてくれんの!」

 

『そこは敵扱いされたことに怒ろうよ…』

 

「いやアーチャーも士郎に何もしないなら喜んで歓迎するって言ってるし?」

 

「手を出したら抹殺します」

 

「おー恐っ。大丈夫、私の興味は男よりも戦いよりもごはん優先だから!」

 

 

…頭が痛い。信じられないくらい平和だなライダー陣営は。というかこの衛宮家自体が、空気をのほほんとしてくれる。…大体いつもいるタイガーが原因なのだろうか。

 

 

「…あのさアーチャー。何時までもマスターだと堅苦しくないか?俺には衛宮士郎と言う名前がある、そっちで呼んでくれればいいよ」

 

「いいえ、マスター。私は以前の主人に対してもこう呼んでましたので問題ありません。貴方は私の鳥籠です、マスターと呼ばせてくれませんか?」

 

「あ、ああ。アーチャーがいいならそれでいいよ」

 

「…どうかしましたか?」

 

「い、いや何でも無い」

 

 

…アーチャーの見せた真剣でどこか縋る様な表情に、顔を赤らめた士郎は顔を背けてしまう。青春なのかね?そういやうちのバーサーカーも「マスター」と呼んでくれたのは最初だけで最近は「お前」とか二人称しか使われなくなったな。寂しい。

 

 

「…悪いな」

 

「?…何がですか?」

 

「クロ姉と違って俺が役立たずって事だよ。アーチャーはこんなのがマスターでよかったのか?」

 

「マスター。私は不満は抱いていません。それに、貴方は戦えなくても問題ありません。私は貴方を守り、命令に従い勝利させるのみですから。宝具さえ使えればほとんどのサーヴァントに勝利可能だと思います」

 

「…ところで、アーチャーの真名って何?」

 

「敵マスターに教えるとお思いですか?」

 

「…忘れて」

 

 

どさくさ紛れに情報をもらおうと思ったけど無理だったか。でも士郎が教えられてないってのも問題なんだが。サーヴァントってのは、マスターに真名を明かしてようやく契約が成立する。まあアーチャーの場合、召喚直後がアサシンがいたり、その後もずっとライダーと一緒だから言うに言えなかったんだろうが。

 

 

「クロ姉、真名ってサーヴァントが英雄だった頃の名前の事か?」

 

「正確には「生前」の本名。それを知る事でそのサーヴァントがどんな能力を持つのが分かる。でも同時に弱点も知られる事になるから普段はクラス名で呼ぶことになる」

 

「なるほど。アーチャーから真名を教えてもらってないのは俺が魔術に対する精神防御ができないからか。あっさり引っ掛かって秘密を喋ってしまうかもしれないから、俺が真名を知らなければ喋ってしまう事も無くなるって事か。そう言う事なんだな、アーチャー」

 

「いえ、ただ言うのを忘れていただけですので…別に真名を知られても問題は特にないと思います」

 

「「「「え?」」」」

 

 

思わず私と士郎、桜とライダーの声が重なった。いやあの、知られても問題ないってそんな英雄がいるはずが…あ。

 

 

「…もしかして、未来の英霊?」

 

「はい。なので別段問題はありません」

 

「じゃあアーチャーの真名は何なんだ?」

 

「イカロスです」

 

「「「「!?」」」」

 

 

また重なった。いやイカロスってあれ?ギリシャ神話に出て来る何か蝋の翼で太陽に挑んで落下して死亡した哀れな男?…いや未来の英霊って言っているしそれは違うか。…考えられるのは同じ名前を与えられた、この時代より先の英雄って事だけども…ややこしくないか色々と。

 

 

「正確にはその名を持っているだけでギリシャ神話のとは別人です。エンジェロイドと言う名称で識別された、いわゆるアンドロイドですね」

 

「ろ、ロボットなのか!?」

 

「殆んど人です。人間に限りなく近い人造人間…英霊で言うならばフランケンシュタイン辺りと同じ部類になります。ちゃんと血も出ますので魔術用語で言えばホムンクルスが近いでしょうか?ただ、私の場合は遥か過去…バベルの塔建築時から活動していたので単純な未来の英霊とも言えません」

 

 

士郎の問いに淡々と答えるアーチャー。フランケンシュタインって英霊なのか。それは知らなかった、「フランケンシュタイン博士」か「フランケンシュタインの怪物」のどちらかなのか地味に気になる。…しかしバベルの塔って…かなり昔だ、バーサーカーには及ばないけど。…もしかしたら王様とも面識があるのかもしれない。帰ったら聞いてみよう。

 

 

「…とりあえず凄いんですね、アーチャーさん」

 

「…じゃあ私の真名も言っとこうかな、アーチャーにだけ言わせるのもずるいし。私も未来の英霊、というか生前の自分がこの時代で生きている特殊な事例。私の真名は木乃。正確に言うならば「謎の美少女ガンファイターライダー・キノ」って言う名前の正義の味方、それが私の真名。ちなみにエルメスのせいで正義の味方をやらされることになったただの女子高生ね」

 

「「!?」」

 

 

今度は私と士郎だけ驚いた。士郎は多分、「正義の味方」ってところだけど私は違う。いや確かに「過去・現代・未来」から英霊を呼び出すのがサーヴァントシステムだけど…父さん、これは聞いてないぞ。何で二人も未来の英霊が喚ばれてるのか。というか謎の美少女って部分も含めて真名なのか、悲しいなそれ。

 

 

「ライダー、銃マニアはただの女子高生と言わないと思う…」

 

『まったくマスターの言う通り』

 

「エルメス後で覚えてなさいよ」

 

 

…これは不味いことになった。ここに来た目的は士郎と桜の状況把握と、できたらサーヴァントの情報貰えないかと思ってたんだけど…予想外過ぎるわ。どちらとも未来の英霊、それも片方はよりにもよって「イカロス」名前の知名度だけなら無駄に高い。弱点も探れないし…しかもアーチャーめ宝具さえ使えば大体勝てると言ったんだけどもしそれが本当なら一番の強敵はアーチャーだと言うことになる。まだ一騎判明していないのに厄介な…

 

ズーンとちょっと沈む私を無視して会話は進む。

 

 

「…ライダーは、正義の味方…だったのか?」

 

『ご飯を美味しく食べる為に戦うしょうもないヒーローだったけどね』

 

「うっさいエルメス、本当にポイ捨てするぞサーヴァントになって無駄に上がったパワーで全力投球しちゃうわよ」

 

『やめてください洒落にならない』

 

「・・・で、なんだっけ?ああ、私は確かに正義の味方。一応あのサモエド仮面も、だけど……あと二人ぐらい仲間が居て、学園の平和を守ってたけど士郎の思う様な正義の味方とはかけ離れてるかも」

 

「…正義の味方って見返りを求めるものなのか?」

 

「さあ?むしろ何で見返りを求めないのか。それじゃただのブラウニーだよ」

 

「お前も言うか!」

 

 

…士郎、微妙に壊れてるね。見返りを求めないなんて人間ってかロボットだ。…言っても分からないだろうし言わないでおこう。自分で気付かないと意味は無い。

で、その後アーチャーとライダーは魔力温存のために休むことになったが、アーチャーは眠る必要が無いとの事。スキルで常に士郎と魔力が常に「共有」されている為、常時魔力を使えるんだとか。何それずるい。うちのバーサーカーだってマントラで補助しているだけで休む時はちゃんと休まないといけないのに。ライダーもご飯さえあれば休む必要はないとか。寝たい時は寝るらしいが。何なんだろう、ここの英霊は二人共卑怯すぎませんかね。未来って便利なのかそうなんだろうか。

 

 

「…そう言えばクロ姉のサーヴァントのクラスと真名は?」

 

「ぎくっ」

 

「私達が名乗ったのに言わないなんて選択肢は無いわよね?」

 

『せめてクラスだけでも、ね?じゃないと共闘できないじゃん?』

 

「何も言わずに逃げようものならマスターの意見関係なく即刻制圧します」

 

「クロナさん、大人しく吐いてください」

 

「…味方はいないの?」

 

 

こくりと同時に頷く士郎達。図られた…だと…?どうしよう、キャスターだって苦しまぐれに言うことは可能だが多分私の勘が正しければ近い内にキャスターは顔を出すから不信感を募らせるだけでNGだ。

 

『ハハハハハハッ!雑種よ、そんな話題で大丈夫か?』

 

大丈夫じゃない、大問題だ!って不味い、王様の幻聴を聞いてしまった。でも本当にどうしよう、正直に言ったところで何でバーサーカーがここを襲ったかって話になる。いやバーサーカーだから暴走したと言えば問題ない気もするが…ん?お、ナイスタイミング。

 

 

「…その話はここまで。アーチャーは霊体化して」

 

「なんでさ?…あ」

 

「先生ですか。そろそろ来てもいい頃ですが…?」

 

「縁側」

 

「!」

 

 

ちょうどひょこひょこと縁側の扉をそーっと開き入って来た虎に、士郎はお玉を手に一閃。ぽかっといい音が響き、この場で唯一の大人は「ふぎゃっ」と悲鳴を上げて俯せに倒れた。

 

 

「コラ藤ねえ、ちゃんと玄関から入ってくれよ」

 

「なによぅ士郎~これぐらい大目に見なさいよ~」

 

「子供がちゃんとしているんだから少しは大人らしく振舞ってくださいタイガー先生」

 

「タイガー言うなー! あふん!?」

 

 

うがーっと虎の様に吠えて飛び掛かって来たので近くにあった孫の手のボールの方でぽかっと殴りつけてやると痛かったのかそのまま倒れた。しかし懲りずにライダーの前に置かれてあるお菓子を手に取ろうとする。このタイガーは全く…

 

 

「ねえ桜ちゃん。これ食べてもいいよね?」

 

「それはライダーのです。もうすぐご飯だから我慢してください藤村先生」

 

「えー?なによー、ライダーちゃんは食べてるじゃない~!」

 

「私のお腹は何時でも腹ペコなんですー」

 

「ずるいわよ~!」

 

「「「子供(です)か!」」」

 

 

士郎と桜と私のツッコミが重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で、タイガーも居た為ご飯だけ頂いて私は教会に帰宅した。よかった、バーサーカーの事を言わないですんだ。こればっかりは何時も犬猿の仲のタイガーに感謝だ。

 

 

「おいクロナよ」

 

「何?王様」

 

 

自室に戻りベッドに寝転がり仮眠をとろうとすると聞き覚えのある声が聞こえ、顔を上げると髪を下ろし趣味の悪い私服を着て腕組みしている王様が扉の前にいた。またか。王様は暇さえあればよく私の部屋に侵入してきてはちょっかいしてくる。最近、父さんと一緒にいるのは厭きて来たらしい。今回も存分に愉しんでらっしゃる顔だ。

 

 

「調子はどうだ?此度の聖杯戦争は面白い英霊ばかり揃っている様だが」

 

「王様、気付いていたんだ」

 

「天上天下全ての財は我の物。つまりは奴等の事もお見通しよ」

 

「ハイラルに伝わる勇者・リンク、天使の様なアンドロイド・イカロス、自称謎の美少女ガンファイターライダー・キノ。私のバーサーカー、八神将アスラ。…判明している四名だけでかなりの面子。この調子だと残るランサーとアサシンのみならずキャスターも大物の可能性が高い」

 

「そいつはどうであろうな?暗殺者の奴は歴史に名を遺した類の者ではないと思うぞ?」

 

「…アサシン…恐らくは士郎を襲ったフードのサーヴァントのこと?」

 

 

あのサーヴァント、逃がしてしまったけど絶対に許さない。アインツベルンより一つ下のレベルで許す気はない。士郎を殺そうとした罪、私の怒りを持って叩き潰してやる。…アサシンなら私も気を付けないと行けないが。何せマスター暗殺に特化したサーヴァントだ。それが他のサーヴァント、それも三騎士クラスと張り合えているのだから油断ならない。

王様は私の怒りを見据えたのか、口元に笑みを作ると満足気に頷いた。

 

 

「ああ、そうであろうな。まだ姿を見せていない者がキャスターで間違いあるまい。ほれ、テレビでちょうどやっているぞ」

 

「テレビ?」

 

 

言われてテレビを付けてみると、どこかの一家が全員殺害されたんだとか言うニュースが流れた。場所は衛宮邸の近く、深山町の様だ。犯行に用いられたのは巨大な刃物…の様な物。様な物ってのは、まるで巨大な爪痕の様な傷が残っていたんだとか。

…これ、間違いなく聖杯戦争に関係があるな。今頃士郎もこれを見て危機感を抱いているかもしれない。…恐らくはタイガーや桜、ライダーと夕飯の片付けを終えた頃だろう。アーチャーは隠れているのかそれとも何とか誤魔化せたか…まあどうでもいいことだ。

 

 

「これがキャスターの仕業?」

 

「ああ。気を付けろよ、クロナ。前回のキャスターはただの外道であったが…此度のキャスターめは(オレ)と似た気質を持つ者の様だ。全てを欲し、永遠の命にまで手をだした欲深い英霊だ。キャスターのサーヴァントとしてはコルキスの王女とは別ベクトルで最高位に属するだろうな」

 

「…見て来たの?」

 

「ああ。奴だけは我が手で粛清せんと思ったが、貴様に釘を刺されていたのを思い出してな。見物だけにしてやった。そして確信したぞ、バーサーカーでもそう簡単にはあの男には勝てん」

 

 

そう言われてショックを受けた。バーサーカーはあの英雄王とまで言われた王様が認める程の英霊だ。それが、そう簡単に勝てないなんて…勇者リンクやアーサー王、ヘラクレスにも匹敵する英雄って事か…?

 

 

「バーサーカーが勝てないって、もしかして知名度が高い英霊…?」

 

「いやなに、知名度ならば奴は(オレ)よりも低いだろう。しかし、奴の能力と…あの宝具は、並のサーヴァントでは袋叩きに遭うであろうな。狂戦士でも蹴散らせるぐらいか」

 

 

バーサーカーなら蹴散らせる?…軍隊を呼び出す宝具って事か?でもその程度だったらバーサーカーは慣れっこだ。だとしたら…無尽蔵に軍隊を呼び出す?そんなこと、できる宝具があるのか…?王様の王の財宝は例外だろうし…

 

 

(オレ)が前回の聖杯戦争で認めたあの男ならば拮抗できるだろうな。(オレ)が動けば蹂躙してやるが…本当にいいのか?」

 

「…うん。王様の力は借りない、そう決めた。私とバーサーカーだけでこの聖杯戦争を勝ち残らないと意味が無い」

 

 

私の決意をそう述べると、王様は心底嬉しそうな笑顔を浮かべ高笑いする。

 

 

「クハハハハハッ!いいぞ、それでこそ(オレ)と綺礼が育てた娘だ。並の人間ならば恥を忍んで(オレ)に救いを求めるであろうに、貴様はそれを求めず己の力で理不尽をねじ伏せようとする。そんな思考、雑種には到底できんものよ!やはりクロナ、お前を拾った(オレ)の判断は正しかったようだ。存分に(オレ)を愉しませよ!」

 

「勝手に愉しめばいい。でも王様、私達は王様の予想さえも超えて見せる。人類最古の英雄程度に見透かされる運命であっていいはずがない。私の怒りは、世界さえも陵駕する」

 

「いいぞ、見せてみよ!(オレ)の予想を超える怒りと言う奴を!ただし死ぬなよ?それでは興醒めだ」

 

「当り前。怒りが尽きるまで、私は死んでも死にきれない」

 

 

この王様は父さんよりも過保護な私のもう一人の父親だ。この人は何時だって私を守り、諭し、叱ってくれた。多分私の人間性が士郎みたいに失われないで済んでいるのはこの王様のおかげだと思う。

だから改めて誓おう。この人は多分、この愉悦のために私を育てて来てくれたのだから。…親より先に死ぬのは親不孝でしょ?

 

私は、この怒りが尽きるまで、絶対に死なない。死んだりなんか、するものか。…父を、母を、弟を、友人を、恩人を。…全てを無情に殺した聖杯と魔術師を、私は絶対に許さない。

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。バーサーカーが王様のギルギルマシーンを弄ってたよ」

 

「なにぃ!?王の財に手を出すとは許さん!」

 

「…程々にしてね」

 

 

この後庭でめちゃくちゃ暴れて王様とバーサーカーは父さんに怒られた。なんだろこの感情、愉悦?…つまらん。




AUOの口調があっているのか微妙に分からん。何か違う感が凄い。キャスターを見物しに行っている王様マジ黒幕。活動報告でアンケートしてまで難航した最後のサーヴァントは行動派系キャスターに決まりました。次回出ます。

そんな訳でアーチャーとライダーの真名判明。だって隠す必要が無いんだものこの二人。ばれた所で弱点ばれないし便利な未来のサーヴァントである。ただし知名度が無いのが痛い。後で設定に追記して置きます。


次回、深夜のクロナVSキャスター。未知の強敵相手にクロナとバーサーカーはどう挑む?次回も楽しみにしていただけたら嬉しいです。


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#9:お前の様なキャスターがいるか!

※今回新規されたサーヴァントのプロフィールは後日追記します。※追記しました。
恐らくはこの聖杯戦争で一番の強キャラになるサーヴァント、キャスター登場。正直、強くし過ぎました。

バーサーカーVSキャスター。戦況が変わるこの対決、楽しんでいただけると幸いです。


―――――とある男の話をしよう。

 

彼は2000年以上前、紀元前にて中国全土を手に入れ、大陸を制覇目前としていた皇帝だった。五行を操る魔力と、暗殺者をあっさり退けてしまう強大な武力を有していたが、全土制圧を成し遂げるために必要な永遠の命を得ようと探し出した妖術師の女に自身の親友でもある部下の将軍を伴わせてシルクロードに派遣する。

不死の魔術を発見し無事帰還した妖術師に前から目を付けていた彼は、彼女が将軍と恋に堕ちていた事を知ると激怒し卑劣な罠を仕掛けて妖術師の前で将軍を八つ裂きの刑に処すが、妖術師はその悲しみと怒りから皇帝とその部下全員に呪いをかけ逃亡。皇帝とその部下たちは呪いの泥に包まれ、燃え盛る火矢を受けて苦しみながら陶器に姿を変え、広大な土地に消えた。

 

しかし、1946年。中国人民解放軍の将軍がとある冒険家親子を利用して皇帝は陶器の姿のまま復活。上海で暴れ回り、不死の泉の水を手に入れて完全復活を果たした彼は魔獣に変身する能力を習得、己の軍隊も復活させ再度大陸のみならず世界を支配しようと目論んだが、冒険家親子との死闘の末、敗北。今度こそ完全に滅びた。

 

即ち彼は、紀元前と近代。二つの時代に君臨した反英雄である。この意味が分かるだろうか?

エヴリン・オコーネルにより書籍として出された彼の悪行は、悪い意味で世界中に伝わっている……それこそ、最強最悪の皇帝として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に仇なす者達を轢き潰せ我が戦車!───青銅の馬引く大陸制覇(チントン・マーイン・ダールーヂーバー)!」

 

「ウオラァアアアッ!」

 

「駄目、バーサーカー!逃げて!」

 

 

私を背に乗せたバーサーカーが迎え撃つのは、目をオレンジ色に輝かせた青銅の馬が引く戦車。それを操るのは、顔に陶器の面を付けた黒い鎧を身に纏ったアジア系の男。そう、七人目のサーヴァント…キャスターだ。こうなったのは、今から数刻前。キャスターの情報を少しでも集めようと新都に駆り出したからだった。

 

 

 

 

 

現代風の衣装を身に着けてもらいマフラーで顔を隠したバーサーカーの運転で、王様から借りた金色に塗られたホンダ ワルキューレのカスタムバイク…通称ギルギルマシーンの後部座席に乗って私は新都を訪れていた。

 

ニュースでやっていた深山町の事件も気になるが、それよりも数日前から新都で続くガス漏れ事故の方が調べる価値がある。でも多分、こっちはアサシンの仕業だろう。キャスターではないがそれでも放って置けないし、何より気になる事がある。…集団ガス事故と言う事はつまり、何かしらの方法で魂喰いを行なっていると言う事だろう。そんなことが出来る手段は限られてくる。…龍脈を用いて魂を集めてとある場所に移送するとか。それは正解だったようだ。

 

 

「…バーサーカー、どう思う?」

 

「気に入らねえな。七星天と同じだ。罪もない人間から魂を集めて自分たちの力にしようとしてやがる」

 

「だよね。…手口からしてキャスターだけど…私は違うと思う」

 

「だったら誰だ?」

 

「私が思うにアサシン。士郎が聞いた「しへい」って言葉…童話で見たことあるの。それが本当だったら…アサシンは宝具を使うために今は魔力を溜めているんだと思う。やっぱり最優先に潰すべきはアサシンだ。アインツベルンより先に潰さないと…大火事より酷いことになる。急いで拠点を見付けないと…」

 

「なるほどな、そう言う事だったか」

 

「「!?」」

 

 

突如聞こえる、聞き覚えの無い男の声。聞こえてきた方向…ビルの屋上を見ると、そこには黒い鎧と陶器の様な面を身に着けた男が腕組みして立っていた。新手のサーヴァント!?…と言う事は王様が言っていた…

 

 

「キャスター…?」

 

「私の事を知っているか。では聞くぞ、お前等は私に仇なす者か?」

 

「! バーサーカー!」

 

「ウオラァアアッ!」

 

 

私の声に応え、バイクから跳んでビルの屋上へ壁面を走って向かうバーサーカー。するとキャスターは躊躇いも無く屋上から飛び降り、その右手を発熱させバーサーカーの顔面に押し付けるとそのまま降下。バーサーカーは苦しみながらもがくが解放されず、キャスターはバーサーカーをクッション代わりに着地。亀裂が入ってキャスターはバック転して体勢を整えると同時にバーサーカーの頭突きが炸裂。キャスターは防御の構えを取り吹き飛ばされるも耐え凌ぐ。…武人タイプか。厄介な。

 

 

「そうか、それが答えか。いいだろう、焼き殺してくれる!」

 

Should protect asphalt.(防御せよアスファルト)!」

 

 

胸元を朱色に発光させ、口を開いて炎を吐き出してくるキャスターの攻撃を、私は咄嗟に道路に手を付けて改造。バーサーカーの前に壁を形成して防御するも、アスファルトは瞬く間に融解。間髪入れずバーサーカーは大きく吹き飛ばされてしまう。つ、強い…勇者リンクでさえ手古摺った改造したアスファルトを一瞬で破壊するなんて…不味い、今ここで戦っちゃいけない強敵だ。

 

 

「バーサーカー、逃げるよ。爆ぜろ!」

 

「無駄だ!…む?」

 

 

改造した黒鍵を10本投げ付けて爆発でキャスターを覆い尽くすが、爆炎は瞬く間に吸収されてしまい一瞬時間を稼いだだけだった。その間にバーサーカーにギルギルマシーンを駆ってもらい、私は後部座席に立ち乗りして弓にしたマフラーを構えて後方を見やる。

 

 

「逃がさん…!」

 

「!?…バーサーカー!」

 

 

その瞬間、口から出した炎を丸めて巨大な火球を形成して投げ付けて来るキャスター。それはアスファルトを次々と融解させて迫り、私は咄嗟にバーサーカーの背に掴まりバーサーカーは跳躍して退避。大爆発を起こしてギルギルマシーンは木端微塵に吹き飛んだ。…ヤバい、王様に怒られる。ってそれどころじゃない!

 

 

「クロナ、どうする?!」

 

「どうしようもない。逃げる事だけ考えて…!?」

 

「覚悟しろ、反逆者共。…出でよ、暴れろ、蹂躙せよ。我が呪いと共に眠りし騎馬よ」

 

 

あの詠唱は…不味い。彼から溢れて来る土と炎が混ぜ合い、それはキャスターを乗せた巨大な戦車へと姿を変えていく。…五行の火と土、それに金を合わせた魔術か。現れたのは、青銅の馬四匹に引かれた戦車だった。

 

 

「私に仇なす者達を轢き潰せ我が戦車!───青銅の馬引く大陸制覇(チントン・マーイン・ダールーヂーバー)!」

 

 

そんな経緯を経て、今に至る。

 

 

 

 

 

「ハイヤーッ!」

 

 

アスファルトを粉々に破壊し、停車している自動車や街灯、ビルの壁やらを真っ二つに引き裂き、キャスターの操る戦車は縦横無尽に新都を駆ける私達に迫る。あー、不味い。また父さんの負担が…私は知らん、やったのはキャスターだ。

 

 

「バーサーカー、逃げられる!?」

 

「奴の方がスピードは上だ。迎え撃つしかない!」

 

「だよね。でも弓はこの体勢じゃ使えないし…」

 

「だったら投げるぞ、後は何とかしろ」

 

「へ…?むきゃあああああああああああああっ!?」

 

 

次の瞬間、バーサーカーに思いっきり空に向けて投げられた。自分より巨大な怪物を天高く投げ飛ばす怪力を持つバーサーカーの投擲だ。ビルの真上まで投げ飛ばされ、私はマフラーをパラグライダー風に改造して滑空。何とか屋上に着地するとそのままマフラーを弓に改造、黒鍵を改造してキャスターに狙いを引き絞る。その前方には六天金剛に姿を変えて迎え撃とうとするバーサーカーが。

…アレは宝具だけど、車輪を狙えば行けるか?いやいっそのこと大技で本体を狙うか…?

 

 

「―――――Complete.(全工程完了)。―――――Tell my anger in an irrational world.(理不尽な世界に我が怒りを伝えよ)

 

 

受け止めようとするも轢き飛ばされたバーサーカーは宙を舞い、空から拳を振り降ろすもキャスターは口に手を添えて超音波を放射。嫌そうに顔をしかめたバーサーカーのスピードが落ち、そこにキャスターの飛び回し蹴りが炸裂。バーサーカーは遥か前方の道路に叩き付けられ、戦車はそれを轢き潰そうと迫り来る。させない…!

 

 

抉り破る螺旋の刺突剣(イリマージュ・カラドボルグ)!」

 

 

当たればサーヴァントでも一溜りも無い大技が、奴の後頭部目掛けて迫る。しかし。

 

 

「それが現代の魔術か。温いな」

 

「なっ…!?」

 

 

それはいとも簡単に、空間に縫い付けられたかの様に振り向いた彼の手の前で静止した。…ンな阿呆な。神代の魔術に近い魔力だ。ヤバい、今ので分かった。私じゃアレには絶対に勝てない。

 

 

「返すぞ」

 

「しまっ…!?」

 

 

向きを変え、文字通り跳ね返してくるキャスター。私は咄嗟の事で防御もできず、爆発をもろに受けて屋上の端まで吹き飛ばされた。…令呪を使うか?いや、バーサーカーなら…

 

 

 

 

 

 

 

「おい、今何をした?」

 

「お前のマスターであろう魔術師の魔術を返してやっただけだが?」

 

「…てめえは許さん!」

 

 

一跳躍でキャスターの眼前まで跳び、拳を振り被るバーサーカー。キャスターは驚きもせず、剣を抜き裏拳の要領でバーサーカーの鳩尾を攻撃、それに怯んだところに次々と斬撃を叩き込み、とどめばかりにバーサーカーを斬り飛ばすと剣を空中に投げ付け、それは意思を持つかのように高速で急降下。強烈な振り降ろし斬撃をバーサーカーに叩き込んで道路を叩き割った。そのまま剣はキャスターの手に戻り、青銅の馬が倒れたバーサーカーを轢き潰し、キャスターは手綱を振るって方向転換。再度突進を仕掛ける。

 

 

「これは、この世に秩序を齎す第一歩だ!死ぬがいい、狂戦士!」

 

「バーサーカー!」

 

 

不味い、これ以上は…!その時、私の背後から声が聞こえ、蒼い影が空へと飛び上がった。

 

 

「はあ、まったく何してんのよ。ランサー、宝具開帳」

 

「おう!」

 

 

私の背後から現れたのは、赤い服とツインテールの少女。飛び上がり、朱槍を構えているのは、猛獣のような蒼い男のサーヴァント。

 

 

「行くぞ。この一撃、手向けとして受け取るがいい───突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

「ッ!バーサーカー!」

 

 

私の声に、それに気付いたバーサーカーは全速力でその場から疾走して退避。空を見上げたキャスターに、朱い死の雨が襲い来る。

 

 

「なに!?ぬあぁああああああっ!?」

 

 

キャスターは咄嗟に火・水・木・土・金の五つの障壁を形成して防ごうとするも魔槍はあっさりとそれを全て貫き、キャスターは戦車と共に粉々に砕け散り、その場には土くれだけが残った。

 

 

「…凛。何しに来たの?」

 

「何しに来たのとはご挨拶ね、助けてあげたのに?」

 

 

私は赤い服の少女…凛に尋ねる。凛は不満そうに「呆れた」と溜め息を吐く。確かにバーサーカーは助かったけど、今のは駄目だ。

 

 

「…助けになってない。アレは多分キャスター本体じゃない、砕いたアレは、土の魔術で精巧に作り上げられた偽物の泥人形」

 

「何ですって!?…いや、気配はちゃんと近くにある筈よ。私は二騎のサーヴァントの気配を感じてここに来たんだから。じゃあ本体は?」

 

「さっきのどさくさに紛れて逃げたんだと思う。水の魔術を使えるんだから幻影を見せられても可笑しくない。…貴女は必要ない場面で宝具を晒してしまっただけ。それにあわよくば私のバーサーカーまで倒そうとしていたでしょ?」

 

 

アレ、対軍宝具だった。うちのバーサーカーが死ぬところだった。アレは不味い、射程に入れば必ず心臓を貫き死を確定させる魔槍。あんなの喰らったらただじゃすまない。凛はバレてないと思ったのか痛いところを突かれたというような顔になってる。その背後に立っているランサーも呆れ顔だ。

 

 

「くっ…さすがにばれるか。まさかバーサーカーがあんなに速いなんてね、結果オーライになればよかったんだけど…さすがキャスター。一筋縄じゃ行かないか」

 

「…潰すべきはアサシンとキャスター。それは確か」

 

「確かに。バーサーカーのマスターだって隠していたアンタも油断ならないけど厄介なアサシンとキャスターを先に潰すってのは賛成よ。とりあえずはキャスターを倒すまで、その間だけ休戦協定を結ぶのはどう?」

 

「…乗った。今、貴方のランサーを敵に回すのは不味い。まさかクー・フーリンだなんて思わなかった」

 

 

差し出された手を、取り敢えずは握る。魔術師と手を組むのは嫌だが…やむを得ない。それほどまでにあのキャスターは厄介だ。王様が言うだけはある、アレは早めに倒さないと不味い。

 

 

 

 

その後、バーサーカーと合流した私は歩いて帰路についた。帰ったら王様からの説教が待っているだろうか。でも、これでサーヴァントは総て出揃った。もう士郎と桜にバーサーカーの事を隠しとくのはやめよう。バーサーカー、アーチャー、ライダー、そしてランサー。この四騎が揃えば勝てる。そのはずだから。

 

とりあえず明日は学校だ。ちゃんと行こう。アサシンが何か仕掛けたのか確かめなければいけないし。…バーサーカーも休めないと。

 

 

「…バーサーカー、傷は大丈夫?」

 

「…まだ戦えるが、弱体化は免れん。セイバーの時よりもダメージは深刻だ。丸一日休む必要がある」

 

「…ごめんね、私の采配が悪かった」

 

「気にする暇があるなら対策を考えろ。俺には無理だ」

 

「うん…」

 

 

負けた。それはもう、分かりやすく。やっぱり強化の魔術だけじゃ太刀打ちできない。でも、魔術はあまり使いたくない。………こんな様で、勝てるのか?この聖杯戦争に……いや、無理だ。父さんと王様に本気で鍛えてもらう必要がある。このままじゃ聖杯を破壊するなんて、出来るはずがない。

バーサーカーが傷付いて行くだけなのは嫌だ。それに見合う成果が欲しい。そのためには私自身が、強くならないと行けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、仮初のマスターよ。次はどうする?」

 

「決まっているだろ、キャスター。あの生意気な元部長にお灸を据えてやるんだよ。僕を無視し続けた事、後悔させてやる」

 

「ならば大事に持っているのだな。その書物が無ければ私がお前に従う理由は無いのだから。せいぜい知将として役に立つがいい」

 

「ああ。存分に戦わせてやるよ、皇帝サマ」

 

 

再び夜は明ける。新たな脅威と共に。




アサシンの目論見判明。ギルギルマシーン大破。バーサーカー重傷。ランサーの真名判明。キャスターの存在を前にクロナと凛が手を組む、と戦況が大きく変わった今回。もう一度言おう、お前の様なキャスターがいるか!

…あ、宝具は普通に中国語読みです。イスカンダルの「遥かなる蹂躙制覇」と属性が違えど似た様な宝具です。というかこの英霊自体がイスカンダルをモチーフにしています。

如何に戦えても実力者相手には全くの無力。それを思い知ったクロナはあんなに嫌悪していた魔術師と手を組む程に追い詰められてます。バーサーカーも丸一日戦闘不能です。

次回は士郎VS凛、クロナVSアサシンのマスターが放課後の学校を舞台に激突。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#10:放課後の対決、現代のドルイド

オリキャラの敵マスター登場。単騎でクロナが挑みます。

ところで今更プリズマイリヤのクロと被ってしまう事に気付きました。呼びやすいからしょうがない、うん。楽しんでいただけると幸いです。


士郎side

「先輩。起きてください、先輩」

 

 

その声で、俺は目が覚める。最近はよくある光景だ。桜が居候してから朝は大体こんな感じだ。…ただ、何時もと違うのは。

 

 

「あ、ああ。おはよう桜」

 

「マスター。おはようございます」

 

「ああ。アーチャーもおはよう」

 

 

眠らないと言う、アーチャーが枕元にずっと座っていた事だろうか。しかし寝坊した。これなら起こしてもらってもいいんじゃないか?と聞いてみるとアーチャーは「言われませんでしたので」だとの事。はいはい、俺が悪うござんした。

 

 

「桜は朝練だろ?飯はどうする?」

 

「ライダーが五月蠅かったので私が作りました、マスター」

 

「起きたらアーチャーさんとライダーだけで食事をしていたので、藤村先生と一緒に私も先にいただきました先輩」

 

「そうか。…悪いな、起こしてもらって」

 

 

寝坊した、な。でもよかった、アーチャーもずっとここにいた訳じゃ無いんだな。もしいられたら申し訳が立たない。

 

 

「士郎ー?起きたのー?早くしないとライダーちゃんが全部食べちゃうわよー!」

 

「ああ、今行くよ藤ねえ!」

 

 

聞こえてきた騒がしい声に、ここに来られたら困るので大声で返して置く。…あれ?そういえば…

 

 

「クロ姉は?」

 

「…先程、電話で夜にサーヴァントと接触して戦闘になり、疲れたから今朝は来ないと言ってました」

 

「なんだって!?クロ姉は無事なのか?」

 

「はい。ちょっと元気の無い声でしたが遠坂先輩に助けられたので怪我はないそうです」

 

「そうか、よかった…」

 

 

遠坂が助けてくれたのか。ありがたい。学校で会ったら礼を言わなきゃな。

 

 

「では先輩。私と先生は先に行かせてもらいますね」

 

「おう。俺も飯食って着替えて準備したらすぐ行くよ」

 

「じゃあね士郎ー、遅刻なんかしたら許さないからね!」

 

「はいはい。藤ねえこそ急いで転ぶなよ」

 

 

玄関で二人(と、霊体化したらしいライダー)を見送り、俺は飯を温めているアーチャーの元に向かう。聞きたいことがあったからだ。

 

 

「アーチャー。やっぱり、学校に着いて来るのか?」

 

「イエス。あ、生前はマスターの学校に乱入したりしましたがご安心を。もう満足してますのでその気はありません。霊体化して付き添わせてもらいます」

 

「でもなアーチャー。魔術師ってのは人前じゃ目立ったことができないんだぞ。なんせ魔術協会がそれを禁じているからな。曰く「魔術は秘匿されるもの」この禁を破った魔術師は粛清されちまうって話だ。…聖杯戦争のマスターは皆魔術師なんだろ?なら日中、特に人目の多い学校で襲って来るなんてありえないさ。ライダーは送り迎えのために桜に着いて行ったみたいだけどな」

 

 

桜曰く、ライダーは学生でありながら学校はただご飯を美味しくいただくための場所って認識らしい。授業中もあまり勉強してなかったんだとか。本当に英雄なのか疑いたくなるなアレは。とにかく、学校ではアーチャーは着いて来なくても大丈夫だと思うんだが…

 

 

「それでもです。以前の私ならば命令通り自宅で待機していたのでしょうが今は違います。もう何を言われても着いて行きます」

 

「お前…俺の命令には従うんじゃなかったのか?」

 

「マスターに危険がある場合は別です」

 

「さいですか」

 

 

しょうがないので諦める。このアーチャーは口数が少ないのに中々に頑固者だ。……とりあえず急ぐか、時間がもうない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロナside

ヤバい。眠い、疲れた、気怠いの三拍子だ。学校行きたくねぇけど情報収集のためにはしょうがない。でもバーサーカーは動けないし気を付けないといけないな。とりあえずは凛と一度会わんと。昼に屋上って紙に書いて渡して置くか。廊下で会えるかな?

 

 

「おーい、遠坂!昨夜はクロ姉がお世話になった、礼を言って置おくよ」

 

「…士郎?」

 

 

二年の廊下に差し掛かると、士郎が凛に話しかけている光景が見えた。しかし凛は何も言わずにキッと士郎を睨み付け、こちらに歩いてくる。…今の反応は、まさかね。

 

 

「凛」

 

「…あら、クロ。貴方も衛宮君や間桐さんみたいに何も考えずに来た訳じゃ無いわよね?」

 

「…言って置くけど、士郎に手を出したら協定は無しだから。はいこれ」

 

「…分かった。昼に屋上でね」

 

 

…手を出したらどうしてくれようか。黒鍵四肢に突き刺してじわじわ甚振ってやろうか。ま、もし襲われたとしても当の士郎が許したら許すけども。ま、ちょっとだけだけどね。そんな意を込めて睨んでやったら凛がびくっと震えて辺りを見渡す。そして何故か士郎を睨んだ後自分の教室に引っ込んだ。…さてと。

 

 

「単位は足りてるし、サボるか」

 

 

いや、ただサボるんじゃないよ?アサシンが何をしたのか調べるためにだし。だから…

 

 

「そう、睨まないでランサー。何も悪い事は考えてないから」

 

「…ちっ。勘のいい嬢ちゃんだ」

 

 

階段の踊り場で私の背後に現れる青タイツの男、ランサー。うん、何か私魔術を嫌悪感で察知できるから霊体化しても簡単に分かる。これを使えば、アサシンが何をしたのかを探す事も楽だろう。

 

 

「見張りを命じられたんだろうけど手伝ってくれる?魔術的な痕跡を見付ける事は出来ても、今私サーヴァントいないから」

 

「仮にも敵である俺にそれ言っちゃうかねえ。…よし、マスターからお許しが出たぜ。手伝ってやるよ」

 

「じゃあ行くよ、ランサー。時間が欲しい、多分大量に仕掛けられてる」

 

「そいつぁ面倒だな」

 

 

確かクー・フーリンはキャスター適正もあるんだったか。こういうのも分かるのかな。敵にすれば厄介だけど味方にすれば頼りがいのあるのがこのランサーのサーヴァントだ。兄貴みたいなと言えばいいのか、とりあえず頼りたくなる雰囲気がある。

 

再度霊体化したランサーを引き連れ、先生方の目を潜り抜けて学校中を練り歩く私。その時、何故気付かなかったのだろうか、白昼堂々正門の前に陣取り、煙草を咥えてこちらを睨んでくる黒づくめのフードの男が居た事に。

 

 

「魔術の痕跡が分かるのか?厄介だな、あの女マスター。ランサーと言う事は遠坂か。早めに潰して置くに限るな。ククッ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼。父さんから渡された麻婆豆腐弁当を手に、私はランサーを連れて屋上に向かう。そこには既に、冬場だと言うことを考慮してくれたのか缶コーヒーを傍らに置き、既にサンドイッチを食していた凛がいた。

 

 

「待った?」

 

「待ったわよ。ランサーまで持ってって…成果はあったの?」

 

「あったよ。何個か潰せた」

 

 

私が言うのは、校舎の裏とか林の中の木とかにナイフで刻まれ隠されていた、魔法陣の仕掛け。ナイフって事はアサシンで間違いないだろう、今回の英霊でナイフを使うのはあの英霊だけだ。

 

 

「でもちょっと可笑しい。ギリシャ系統の魔法陣…多分、他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)の呪刻だと思う」

 

「なんですって!?」

 

 

いやそう驚かされましても。王様が見せてくれた、メデューサって反英雄の宝具の原初にそっくりだったから間違いないと思う。アレは厄介だ。下手すれば七日足らずで発動して、学校中の人間を溶かして魔力に還元してしまう恐ろしい代物だ。まあ、呪刻を破壊して魔力を集めさせなければ問題ないのだが。ランサーが封呪のルーンを使えなければ積んでた。多分凛なら破壊できると思うけど、私はそんなことできないから。

 

 

「サーヴァントの宝具級の結界を仕掛けようとしていたんだと思う。でも…あのアサシンがメデューサだとは思えない。しかもちょっと雑だったから多分、アサシンのマスターの命令で仕掛けたんだと思う」

 

「俺もそう思うぜ、マスター。わざわざ刃物で刻んでいるんだ、宝具を疑似的に再現しようとしてんだろ」

 

「ランサーまでそう言うなら間違いなさそうね。でも、その英霊でもないのに使える物なの?」

 

「魔術協会の執行者で現在も宝具を所有している一族がいるって父さんに聞いたからありえない事じゃないと思う。けど、疑似的に再現しようとしているんだから魔術師としての実力は相当高い。キャスターだけでも厄介なのに、アサシンのマスターまで危険人物に入る」

 

「もう、本当にイレギュラーな聖杯戦争ね。で、どうするのクロ。何か案は?」

 

 

あるにはあるが、それは全ての呪刻を私が見つけてランサー陣営で破壊するって言う地味な物だ。これならまだアサシンを見付けてボコボコにするのが一番だろう。

 

 

「妥当だけど、時間がかかるわね」

 

「うん。だけど、そこまでして魔力を集めているって事はアサシンが強力な宝具を使うために準備しているんだと思う。止めないと一般人の被害がさらに広がる」

 

「そうね。じゃあ、放課後から動く?」

 

「うん。二階と三階の踊り場で合流しよう」

 

「オーケー。とりあえず食事よ。クロはなに持ってきたの?」

 

「泰山っぽい麻婆豆腐弁当」

 

「ゲッ…本当に好きね、アンタたち親子は…」

 

 

そんな苦虫噛み潰したような顔しないでくれます?見た目はアレだけど美味いんだよ?王様も苦手みたいだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、ちゃんと授業に出る事無く夕焼けで朱色に染まった屋上の手摺にもたれかかり私は放課後を迎えた。いい風だ。私は風を受けるのが好きだ、何故なら大火事の焼けつくような空気と違い癒してくれる。永遠に浴びていたい。そうすれば、もしかしたら忘れることができるかもしれないから。目に焼き付けた、あの地獄を。

 

…無理だな。バーサーカーを喚んだ時点で、私は怒りに人生を捧げると決めている。あの光景は私の心に刻まれた。だから、絶対に忘れる事は無い。記憶が無くなろうとも、心が覚えているだろう。だから。私から怒りが消える事は無い。ただ、癒すだけだこの風は。

 

 

「なに見てんだ?」

 

「夕焼け。あの赤は好き。…?」

 

 

何気なしに答えたが、今のは誰だ?背後から聞こえてきたこの声は…

 

 

「他にも見えるんじゃないか?例えば…俺達の仕掛けた呪刻とか?」

 

「っ…!」

 

 

振り向き、それを確認すると同時に、私は飛んで来た火球を避けて一跳躍で屋上の真ん中に逃れる。屋上の出入り口に陣取っていたのは、黒づくめの男。しかし普通の人間ではない事は確かだ。こんな不審者と言わんばかりの格好の奴が学校に入って来るなんて魔術が無いと無理だ。

魔術師らしくフードを深く被った黒のローブの下は黒いオフショルダーとレザーパンツ、右手だけ黒の手袋にブーツを身に着け、ローブの上から右肩から左腰まで黒い革ベルトが付けられていて、それは背中に備えた古めかしい杖を装備するための物の様だ。

どう見てもヤバい奴であり、多分アサシンかキャスターのマスターだろう。男は吸っていた煙草を捨てると靴で踏み潰し、杖を構えて来た。私も黒鍵を六本取り出して身構える。

 

 

「何だ、黒鍵てことは代行者か?まあいい…俺はイフ。イフ=リード=ヴァルテル。時計塔の魔術師でドルイドだ」

 

「やっぱり魔術s…ドルイド?」

 

 

ドルイドってケルトの時代の魔術師だよね?現代でドルイドって事は…軽く見積もってもロードクラスか。

 

 

「アンタ、ランサーのマスターだな?遠坂か」

 

「え?」

 

 

あれ、何か勘違いしてる?まあいい、否定しないでおこう。

 

 

「魔術を見破れるその力、他のマスターと組まれたら厄介なんでな。ここで潰させてもらうぜ…まあドルイドと言っても俺はこれ特化なんだがな。Ansuz(アンサズ)!」

 

「っ…防げ!」

 

 

再び放たれた火球を、私は屋上の床に手を付けて改造して壁を作り防御。さらに柵を触手の様に改造して槍として突き出し攻撃。しかしイフは周囲にアンサズのルーン文字を空中に浮かせた煙草の灰で描き円陣にするとそれは炎の環となって柵の槍を防御。ドロドロに熔かせてしまった。何て火力…時計塔の魔術師ってのは嘘じゃなさそうだ。

 

 

「?妙な魔術使うな…お前、本当に遠坂の魔術師か?宝石魔術の使い手だって聞いたぞ」

 

「私は魔術使い。魔術師じゃない!」

 

「無駄だ」

 

 

改造し大気中の水を刀身に集束させた黒鍵を連続で投擲するも、イフは杖を棍棒の様に扱い弾き飛ばしてしまう。…魔術師の癖に肉弾戦だと?

 

 

「隙有り、だ」

 

「っ!?」

 

 

放られる、瞬時に火を点けられた煙草数本。言い様の無い嫌な予感を感じた私は真下の床を改造してトランポリンの様にすると大跳躍。さっきまで私がいた場所は、爆発した煙草による爆炎に包まれる。あんなの喰らえばただじゃすまない。本当に火力特化の魔術師か…

 

 

「おいおい、逃げんなよ」

 

「っ!?」

 

 

背後から聞こえてきた声に、私は黒鍵の刀身を瞬時に硬化して防御。炎を纏った杖による打撃を何とか防ぎ、屋上上空から校庭上空まで吹き飛ばされ落下。見てみると、イフは私の居た空中で炎を足裏から出して飛んでおり、それは魔術の一つ「転移」の物だと分かる。厄介すぎる!

 

 

This anger is like a prison.(この怒りは監獄の如く)―――閉じ込めなさい!」

 

 

落ちる前に、私は改造した黒鍵六本をまるで彼を囲む様に投擲。閉じ込める様に動きを止めた後、同時に刀身が射出され六方向から刃が襲い掛かる。しかし彼は「Ansuz(アンサズ)」で全身に炎を纏い刀身は融解。マフラーをパラグライダーにして何とか人気のない校庭のど真ん中に着地した私はマフラーを黒い槍の様に改造して構えた。黒鍵は消費武器だ、これ以上無駄に使うのは不味い。

 

 

「さあ、どうするランサーのマスターさん?そろそろ名前を教えてくれないかな、呼びづらい」

 

「…クロ。魔術師に本名を名乗る訳がない」

 

「ま、そうだわな。じゃあ続けようぜ!」

 

「上等…!」

 

 

コイツの好みが棒術による接近戦だと言うのなら…同じ土俵で戦うのみ!行くぞオラァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、士郎side

『マスター、カバンをお忘れです』

 

「おっ。危ない危ない、サンキューアーチャー」

 

 

昨日テレビでやってた殺人事件の影響で放課後の部活時間短縮だって言ってたから、ライダーの事も考えて桜は先に帰っただろう。今日で終わりとはいえ、一成に頼まれた修理に時間がかかったのは痛いな。もうクロ姉は帰ったのだろうか?昼、三年の教室に様子を見に行ったら居なかったが…何かあったのか?

 

 

「アーチャー、念のため校内の見回りをしよう。誰か残ってて俺みたいにサーヴァントと遭遇したら気の毒だから…どうした?」

 

「…すみませんマスター。校内にサーヴァントの気配を察知しました。様子を見て来ますので、ここで待っていてくださいませんか」

 

「お、おう。俺が居たら足手まといだからな、いいぞアーチャー。行って来い」

 

「イエス、マイマスター」

 

 

そう言うと窓を開け、飛び立つアーチャー。…誰か残っていたらどうする気なんだろうかアレ。

 

 

「さて、どうするかな……ん?」

 

「アイツ……約束すっぽかす気なのかしら……いい度胸してるわねクロの奴」

 

「なんだ。まだ残ってたのか、遠坂」

 

 

俺を見下ろす形で、階段の踊り場で遠坂が何故か憤慨していた。クロ姉と待ち合わせしていたのか?ならちょうどいいな。

 

 

「ちょうどよかった。クロ姉知らないか?桜と一緒に帰ってるならいいんだけどさ。昨日の夜、何かあったんだろ?」

 

「…呆れた。朝はサーヴァント連れて来てるから少しは偉いと思ったのに」

 

 

おかしい、話がかみ合ってない。

 

 

「アーチャーが校内にサーヴァントの反応を見付けたって言うからな。俺じゃ足手まといだから一人で行ってもらったんだよ」

 

「なるほど。でもね、今の貴方は敵に襲ってくれと言っている様な物よ」

 

「そうは言うけどさ、魔術師は人目のあるところで騒ぎを起こす事は出来ないんだろ?だったらこんなところで仕掛けてくる訳がないさ」

 

「…本当に甘いわね。じゃあ聞くけど、今ここにその人目はあるのかしら?」

 

 

その言葉を聞き、寒気を感じると共に思い至る。そうだ、今日から部活も短くなってもうほとんど人が…

 

 

「衛宮君。私としては、クロに貴方達に手を出さないって言ったからこんなことはしたくなかったんだけど…自分の置かれた立場が分かってない無謀な行動は目に余る。言ったはずよね?今度会ったら敵だって」

 

「ま、まさか…遠坂…?」

 

「…クロみたいな実力が伴っている奴はいい。アイツは聖杯戦争に向いている性格だしね。でも、あれだけ忠告したのに全く効いてないなんて…衛宮君。クロには悪いけど、貴方はここで消えなさい」

 

 

そう言って左袖をまくり、魔術刻印を浮かばせた左腕をこちらに突きつける遠坂の雰囲気は、冷酷非情な魔術師のそれだ。不味い…遠坂は本気だ。

 

 

「ま、待てよ遠坂!お前正気か!?いくら人気が無いからって絶対に誰も居ないとは限らないだろ!万が一誰かに見られたら…それに俺はお前と戦う気なんか、」

 

「甘いのよ」

 

 

その言葉と共に、放たれる魔力の塊二つが俺の傍に放たれる。…マジだな。

 

 

 

「呆れるわね。この後に及んでまだそんな事言うなんて。貴方、本当にクロの弟分?苦しませはしないから安心なさい。相手が私だったことに感謝なさい!」

 

「っ…!」

 

 

溜まらず走って逃走を試みる。遠坂は本気だ。いきなりアイツと戦う羽目になるなんて最悪だ!確かにクロ姉たちは七人の魔術師による殺し合いだって言ってたけど…!遠坂は学園のアイドルで、俺だってアイツの事は憧れで…!

 

 

「くそっ!同調開始(トレース・オン)!」

 

「抵抗しても無駄よ!アンタみたいな半人前、私に敵う訳がない!」

 

 

追い掛けて来る遠坂の放った光弾を、強化した鞄で受け止める。このまま跳ね返そうと思ったが、遠坂に当たったら不味い。何とか窓に弾き飛ばして粉塵が起こり、俺はそれを利用して逃れる。

…遠坂はクロ姉を探していた。と言う事は学園の何処かに居るはずだ。合流すれば、遠坂を説得してくれるかもしれない…その前に、遠坂を撒かなければ。

 

 

 

 

 

 

 

「イフ=リード=ヴァルテル!魔力の貯蔵は十分か!」

 

「心配してくれなくても結構だ!来いよ魔術使い!」

 

 

校舎内で、校庭で。それぞれの戦いが始まる。しかし、近付く脅威を彼らはまだ知らない。




新キャラ、イフ=リード=ヴァルテル登場。後でイフのステータスも設定欄に追加して置きます。

彼はずばり「通常魔術も使える現代のドルイド」キャスニキモチーフで杖もアレです。ケイネス先生の事も知っている為、聖杯戦争をなめてかかったりは絶対にしません。現実主義者で魔術師って言うより魔術使いに思考が近く、策士でもあります。ただしちょっと猪突猛進の馬鹿。クロナのライバルキャラ的なイメージで作りました。

並行して行われる、原作通りの士郎VS凛。うちの士郎はクロナの影響で思考が無駄に速いので、少しは抵抗可能。どこまで持つかな?

次回はクロナVSイフの対決に乱入者が。全てのマスターとサーヴァントが集いし時、何かが起こる…?次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#11:皇帝率いる兵馬俑の軍勢

お久しぶりです!原作が無いオリジナル展開なのでかなり時間がかかりました。主にアニメケロロ見てケロロ小隊+モアがサーヴァントだったら面白そうだなーとか妄想してましたがそんな無駄話は置いといて。

今回はクロナ対イフ、全員集合、そしてキャスターのとんでも宝具が発動します。楽しんでいただけると幸いです。


私にとって初めてのマスター戦となる、ドルイドを名乗る時計塔の魔術師、イフ=リード=ヴァルテルとの対決は苦戦に強いられていた。

 

 

「はあっ!」

 

「ふんっ!」

 

 

ぶつかる、黒い槍と木製の杖。槍は金属製に改造しているので強度はこちらが上の筈だが、あちらは杖の先端から火を噴いてジェット機の如く加速し、振り回され気味に放たれる重い一撃に私は押されて行く。試しに槍にしているマフラーを一度鞭にして相手の杖を奪おうとしたが逆に振り回されてしまい、溜まらずバックステップで逃れ再び槍にしたマフラーを構える。

 

 

「どうした?マジックはもう終わりか?」

 

「好きに言え!」

 

 

戦い始めてから一分…駄目だ、分が悪い。何もない、校庭のど真ん中じゃ何も小細工できない。真っ向勝負では、杖の先端から炎を出して加速させて来る彼の棒術に対抗できない。飛ばしてくる炎は土壁で防げるけど、接近戦はそうはいかない。どうしろと言うんだ!

 

 

「そろそろ終わりにしようか!」

 

「! Become a shield sword of fury.(怒りよ、剣の盾となれ)!」

 

 

今度は杖の先端に炎を溜め、杖をバットの様に扱い巨大な火球を打ち込んできたので、私は六本の黒鍵を瞬時に取り出して改造し、目の前の地面に突き刺し巨大化させて剣の壁を作り防御。熱風が私を襲うも炎の直撃は避けた。剣身も熔けて無い様だしこのまま・・・と思っていた時期が私にもありました。

 

 

Asche zu Asche(灰は灰に)

 

 

ドイツ語?を唱えながら杖を背中に戻したイフは、煙管を取り出して軽く振るい、ポッと自動的に点いた火を自身の両手に燃え移らせる。なんだ?

 

 

Staub zu Staub(塵は塵に)!」

 

 

そして炎の剣を両手に召喚したイフは大きく振り被り、私は嫌な予感がして地面に手を付ける。

 

 

Rotes Kreuz blutsaugenden killer(吸血殺しの紅十字)!」

 

「!?」

 

 

イフが放ったのは、黒鍵の壁を突き破り襲い来る十字の炎の斬撃。咄嗟に土壁を作るがそれも突き破り、その威力に冷や汗をダラダラ流した私はマフラーを伸ばしてちょっと遠くの木に巻き付け、某蜘蛛男の如く飛び出して横に逃れる。

 

 

「おっ、今のを避けるか。今まで何人もの死徒を殺してきた大技なんだが」

 

「サーヴァントの攻撃に比べれば大したことない」

 

「はんっ、そりゃそうか」

 

 

とは言ってみるも…や、ヤバい、死ぬかと思った。確かに王様やセイバーに比べればマシだけど、それでも今のはサーヴァントでも大ダメージを与えるぐらいの威力があった。あんなの瞬時に出してくるなんて冗談じゃない。あの煙管は多分、魔力のストックだ。アイツ、馬鹿な癖して無駄に策士だ。油断ならん。

 

 

「で、遠坂の魔術師よ。何時本領発揮の宝石魔術を使うんだ?」

 

「ご生憎様。今宝石が無くてね」

 

「そいつは残念だ。Ansuz(アンサズ)!」

 

 

さらに煙管を振るい、散った灰に引火させ炎の波がこちらに襲い来る。私はマフラーを弓にし、再度地面をトランポリンに改造して大跳躍、黒鍵を取り出し六本全ての柄を握り改造して番え空中で構える。

 

 

「―――――Tell my anger in an irrational world(理不尽な世界に我が怒りを伝えよ)

 

 

詠唱するは奴の炎剣と同じくサーヴァントにも通じる私の得意技。コイツは必ずこの聖杯戦争での脅威となる。生かして置く理由が無い。ここで確実に仕留める!

 

 

抉り破る螺旋の刺突剣(イリマージュ・カラドボルグ)・六連!」

 

「無駄だ!Ansuz(アンサズ)!」

 

 

しかし渾身の一撃は放たれた小さな火炎弾により空中で誘爆、大爆発を起こすもイフには当たらなかった。今度は小規模な火の魔術で私の爆弾矢を破壊するとは…戦い方の割に無駄に細かい性格の様だ、魔力の無駄遣いは嫌らしい。ならば、無理矢理にでも使わせる!

 

 

「―――――Altars to blow my anger, the receive.(我が怒りの一撃、その身に受けよ)

 

 

ぶっつけ本番だけど、王様の宝具を見てきた中で色々考えた…このとっておきで勝負だ。

 

 

喰らえ、黄金の斧(イリマージュ・ゴールデンイーター)!」

 

 

マフラーと15本の黒鍵を組み合わせて改造し、私の手に握られたのは黄金の刃を持つ巨大な鉞。本物と同じ重さと、雷神の力を宿してはいないがそれでもかなりの重量を誇るこれは、日本の大英雄の宝具を模した物。もちろん元が元なので宝具の神秘には遠く及ばないが、それでも威力だけなら随一のはずだ。

私はそれを両手を持って操り、放たれた火炎弾を消し飛ばし、続けて炎で加速した杖を受け止め、弾き返す。

 

 

「・・・宝具か?」

 

「そんな大層な物じゃない。これで決める・・・!」

 

 

何とか上空に鉞を投げ付け、私はクルクル回るそれに向かって跳躍、掴むと落下の勢いを合わせ、さらに内蔵されている15本のカートリッジの三本を消費して雷撃を纏い、イフに向けて渾身の力を持って振り下ろした。

 

 

「お願いだから吹き飛んで・・・・・・・・・必殺ッ!」

 

「そう来るか…!Asche zu Asche(灰は灰に) Staub zu Staub(塵は塵に)!」

 

 

ほぼ同時にイフも動き、煙管を構え先程の炎剣を生み出してこちらに向けて振り被る。真面に浴びたら負ける…だからこのまま、押し潰す!

 

 

偽・黄金衝撃(イリマージュ・ゴールデンスパーク)!」

 

Rotes Kreuz blutsaugenden killer(吸血殺しの紅十字)!」

 

 

瞬間、炎と雷がぶつかり、大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数刻前、士郎side

よし、何とか手傷を負うことなくここまで逃げれたぞ…鞄にかけた強化が思いの外、上手く行ったおかげだ。これで遠坂を撒く事ができたはずだ、早くクロ姉を探して説得してもらわないと。

 

しかし鍛錬の時は失敗ばかりなのにこんな時だけ上手く行くとかどんな主人公補正だ。念のため教室の出入口の鍵にも強化を掛けて入れない様にして置く。…籠城したところでここから逃げないと意味が無い。だがしかし、肝心のクロ姉の居場所が分からない。これならアーチャーが異変に気付いて戻って来るのを待つか…?

 

いや、駄目だ。サーヴァントの気配がしたから彼奴は行ったんだ、今頃戦いになっていても可笑しくない。だったら俺一人でこの状況を切り抜けるしかない。せめてクロ姉の場所が分かれば…

 

 

「・・・・・・!?」

 

 

そこでふと、窓を見て思わず吹き出してしまう。…クロ姉が何かパラグライダーを広げて飛んでいた。思わず窓際まで詰め寄ると、校庭に着地したクロ姉目掛けて、俺の頭上・・・つまり屋上から黒づくめの男が飛び出してきて杖片手にクロ姉に追撃していた。

 

 

「…なんでさ?」

 

 

クロ姉も戦っていたのか?ヤバい、どうする、クロ姉の助けに行かなきゃだけど・・・その前に、遠坂を説得する手段を失ってしまった。いや、クロ姉がピンチだから助けに行こうと言えばいいかもしれないが、「だったら早く貴方を倒す」とか言われたらそれで終わりだ。本格的に不味いぞこれ。

 

 

ゴォン!

 

「!」

 

 

とそこで、閉めてある出入り口である扉から轟音が轟き、穴が拉げた。さらに続けて轟音が轟き、どんどん拉げて行く。遠坂が来たみたいだ、あの魔術で壊そうとしているらしい。…遠坂の魔術は強力だ、持ってあと数秒か。…だけど、それだけあれば・・・!

 

 

「ウオォオオオオッ!」

 

 

俺は鞄を持って廊下側の窓に向けて突進、強化した鞄を盾にして頭を守って突き破り、すぐ左側で扉に向けて左腕を構えていた遠坂の意表を突く事に成功する。

 

遠坂の左腕、そこに浮かんでいるアレが魔術師の家に伝わると言う「魔術刻印」に違いない。何でも切嗣(オヤジ)も持っていたらしいが血縁にしか移植できないらしく、俺には受け継がれなかった。それは今はいい。問題は、刻印を持つ者はそこに魔力を通すだけで彼らが代々修めて来た魔術を使うことができる、という点だ。遠坂が呪文の詠唱もせずに魔術を連発できるのもそのおかげだろう。ならば!

 

 

「このっ・・・!?」

 

「遠坂ァアアッ!」

 

 

その腕を封じてしまえばいい!俺は鞄を振るって光弾を防ぎながら突進、鞄を投げ飛ばして遠坂の視界を奪い、そこに詰め寄り遠坂の両手首を握って壁に押し付けることに成功する。何か犯罪染みてる気がするが命に係わるんだから勘弁してもらいたい。

 

 

「・・・さすがね。強化なんてマイナーな魔術でよくここまでできるもんだわ、クロの弟分ってのは本当みたいね」

 

「・・・ああ。クロ姉のおかげだ」

 

 

主に思考の速さだが。

 

 

「聞いてくれ遠坂!俺は聖杯が欲しいから戦う訳じゃ無い、無関係の人達を護れればそれでいいんだ!新都でも深山町でマスターが犯人らしい事件が起こっている。俺が戦うのは聖杯戦争と関係ない人達に危害を加えるマスターを倒すためだ!

それに俺達がここで戦う理由は無いはずだろ、俺はお前やクロ姉たちの邪魔をするつもりなんてこれっぽっちもない。だからここは退いてくれ、クロ姉が危ないんだ!」

 

「・・・なんですって?」

 

 

やっぱりだ、反応した。先日のクロ姉の言い分から魔術師と組む訳がないクロ姉が助けられたと聞いて、昨夜クロ姉と何か取引でもしたんだと思ったんだがビンゴらしい。共通の目的なら、一緒に動いてくれるはずだ。

 

 

「クロ姉は今、校庭で正体の分からない魔術師と戦ってる!俺達がこんなことしている場合じゃないだろ!」

 

「・・・アイツ、確かサーヴァントが動けないとか言っていた癖に何戦ってるのよ・・・」

 

「なんだって!?」

 

 

・・・昨夜の戦闘でクロ姉のサーヴァントが深手を負ったって事なのか?なのにクロ姉の奴、俺や桜に何も言わないなんて・・・

 

 

「なら猶更だ遠坂!力を貸してくれ!」

 

「・・・衛宮君、ちょっとでも疑ってみた事は無いの?私がその事件の犯人かも知れないって」

 

「えっ・・・?」

 

 

そう言って遠坂は俺の腹部を蹴り付け、俺の拘束が緩むとそのままドロップキックで蹴り飛ばされてしまった。振り返ると、そこには左腕をこちらに向け怖い顔をした遠坂が。どういうことだ?まさか遠坂が・・・?いや、そんなはずはない。

 

 

「せっかくだから教えてあげるわ。サーヴァントはね、霊体だから人の霊魂を喰らう事で強くなるのよ」

 

「そんなことが・・・?……でも、やっぱり遠坂は犯人じゃない」

 

「・・・なんでそう言いきれるの?」

 

「俺を助けてくれたのは、遠坂なんだろ?」

 

 

そう言い切った俺に、遠坂は怯む。あの夜、アサシンと思われるサーヴァントに殺された俺を助けて蘇生したのは遠坂だ。俺には確信があった。

 

 

「あの夜、俺が見たのはアサシン・・・とランサーだ。ランサーのマスターは遠坂なんだろ?俺の知る限り、あの夜校舎に居たのはあのサーヴァント二人とそのマスターだけだ。アサシンの方は俺を刺して来たから違うとして、後はランサーのマスターしか居ないんだ。遠坂だけだ、俺を蘇生できたのは」

 

「・・・だったら何?私がいい奴だから無関係の人を巻き込むはずがないって?」

 

「ああ。遠坂はいい奴だって俺は知っている。むしろそんな魔術師達を嫌う人間だろ、アンタは」

 

「・・・負けたわ」

 

 

考え込んだ様に見えた遠坂はそう言って左腕を下ろしてくれた。助かった・・・と考えてよさそうだな。

 

 

「その通り。私は犯人じゃないわ。クロとは犯人を倒すまでって条件で手を組んだ。甘い奴だと思ったけど見直したわ、今回は勘弁してあげる」

 

「できればこれからも勘弁してくれ」

 

 

とその時、爆発音と共に振動で校舎が揺れ、もう夜が近付いていると言うのに昼の様に眩い光が窓から注がれる。今のは・・・クロ姉か?

 

 

「…ってそうだ、クロ姉が!」

 

「ええ。急ぐわよ衛宮君!」

 

 

遠坂を先導に、校庭に向かう俺達。そこで待ち受けていたのは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらにその数刻前:弓道部近くの木々の中

木々の間を駆け抜けながら、ぶつかる拳と剣と大剣。今ここは乱戦と化していた。

 

赤髪の女騎士の姿でアーチャーを相手するアサシンは同時にセイバーのマスターソードも大剣で防ぎ、蹴りで応戦。さらに傍の木を砕いてその破片を飛ばす攻撃からイリヤを庇って盾で防ぎ、ブーメランを投げてアーチャーとアサシンの気を引き、そこに斬り込むセイバー。

 

少し前、アサシンがここに呪刻を刻んでいたところにアーチャーが来襲。戦闘になったのがだが、そこに下校時の士郎を狙いにイリヤ達セイバー陣営も乱入。こんな乱戦になってしまったのだ。

 

 

「ああもうこの人形に緑男・・・いい加減にしろッス!」

 

「アサシンこそ・・・観念しなさい」

 

「アーチャー、アンタもだ!」

 

「・・・私は引っ込んどこう」

 

 

英霊同士の対決に自身の存在が重しになると思ったのかそそくさと退避するイリヤを見届け、セイバーはマスターソードをしまいダイゴロン刀を取り出してアサシンの大剣とぶつけ合う。するとアーチャーが近くの木を引っこ抜いて大きく飛翔、二人の頭上数十メートルまで浮かぶとそれを振り被った。

 

 

「覚悟してください」

 

「「!?」」

 

 

凄い速さで落ちてくる大木に、二体のサーヴァントが思わず叩っ斬ろうと各々の得物を構え・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、士郎の帰りが遅い事に危機感を覚えた桜はライダーの駆るエルメスの後部座席に乗り込み、風を受けながら見慣れた校舎に急いでいた。

 

 

「・・・ライダー、聞こえた?」

 

「うん、桜。爆発音に剣戟の音、そしておまけに学校全体に人除けの結界!間違いなく、戦闘が行われてる!」

 

「急いでライダー、エルメスさん!」

 

「合点承知の助!」

 

『もう、走るのは僕なんだからね!』

 

 

ちょうどその時、人気が少ない事をいい事にギャーギャー騒ぐ彼女達は気付かなかったが、傍の住宅の屋根の上を駆ける大柄な人影があった。

 

 

「なんだ、この嫌な気は・・・!」

 

 

教会で待機しているはずのクロナのサーヴァント、バーサーカーだ。彼は持ち前の第六感とも言うべき危機察知能力から嫌な予感を覚え、自身のマスターの元に急いでいた。念話だとギャーギャー「来るな」と反論して来るので無視しており、場所だけ聞いてとにかく急ぐ。しかしそのためなのか気付かなかった・・・

 

 

ライダー、桜、バーサーカーが学校の敷地に入った瞬間・・・ちょうど、他の場所でも場面が動こうとしていたその瞬間、六のサーヴァントとマスターが出揃い、

 

 

「今だ、キャスター。やれ」

 

「ふん、やっとか。…目覚めよ!」

 

 

手頃な空き教室のロッカーで魔術で気配を消し身を隠していたその人物の傍で、霊体化して待機していたキャスターが姿を現し五行・・・木・火・土・金・水の球体を浮かばせ、それを高速回転させて大魔術「固有結界」を発動し世界を書き換えて行ったことに。

 

 

「出でよ、我が軍勢!万里の長城を迎えて無敵と化せ!」

 

 

広がるは、広大な砂漠。強制的に集められた六騎のサーヴァントと六人のマスターの背後には延々と続く壁・・・万里の長城が存在し、ちょうど広大な砂漠の真ん中にある巨大な石像の上に立っているキャスターに挟まれる形となる。それぞれ・・・特に大技がぶつかり、その余波で吹き飛んで半ば意識が飛んでいたクロナとイフは、大いに混乱し、キャスターは高らかにその名を告げる。…彼が最強最悪の皇帝たる所以の代物を。

 

 

 

「――――――皇帝率いる(フゥァンディ・リュ・)兵馬俑の軍勢(ビンマーヨン・ジュンシー)!」

 

 

 

そして、砂漠のあちこちがゴゴゴゴゴゴッと言う擬音と共に開き、そこから兵馬俑と呼ばれる、数えるのも馬鹿らしくなるほどの数の完全武装された土製の陶器人形の軍勢が規則正しく編成して行進、六組のサーヴァントとマスターの前で止まった。

 

 

「ここで決めるぞ、キャスター。手加減無しだ、全員潰す気でやれよ」

 

「誰に命令している。命令するのは私だ、仮初のマスターよ」

 

「ああもう!勝手にしろ、僕のサーヴァントは最強なんだ!そうだろ、皇帝サマ?」

 

「くどいぞ」

 

 

これぞ、彼の前に立ちはだかった冒険者たちと決着をつけた際の彼の目に焼き付けられた光景。皇帝が誇る、最強の大軍勢であった。

 

 

今、規格外のサーヴァント達と世界最大最強の軍勢がぶつかる…!




キャスターの対軍宝具にして大魔術「固有結界」、皇帝率いる(フゥァンディ・リュ・)兵馬俑の軍勢(ビンマーヨン・ジュンシー)、発動。他の陣営全てと激突です。キャスターのマスターは何時姿を現すのやら。


※一応念のため。クロナが使った技はFate/GrandOrderのバーサーカー、坂田金時の宝具っぽいもので、イフが使った技はとある魔術の禁書目録のステイル=マグヌスの技です。相性良かった。ちなみにクロナが使った剣の壁はプリズマイリヤツヴァイのクロエが使った奴です。


クロナの方は引き分け、士郎の方は何とか勝利。しかし全員集まったところを狙われました。固有結界で確かこういう使い方された事無かったはず!

次回は決戦。まさかの六陣営全ての共同戦線です。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#11.5:結成、英霊エクスペンダブルズ

今回は前回と次回の繋ぎの話です。あんまり展開が進まないので.5としてます。

キャスターの軍隊に、クロナは一体どうするのか。キャスターの真名も判明です。楽しんでいただけると幸いです。

※9月5日、題名を変更しました。はい、ふざけました。


少々砂埃が目立つがカラッとした青空が、所々大小様々な丘が目立つが万里の長城と巨像の間は平地となっている砂漠が、それぞれ延々と広がる光景。

それこそが、キャスターの象徴たる宝具「皇帝率いる(フゥァンディ・リュ・)兵馬俑の軍勢(ビンマーヨン・ジュンシー)」である。

 

 

「問題なく目覚めたようだな、安心しろ仮初のマスター。我等の勝利は絶対の物となったぞ」

 

「そいつはいいな。任せたぜ、キャスター」

 

 

万里の長城の遥か前方に聳え立つは、ちょうど上半身が砂から出ている、三つ首の竜が右肩に乗っていて剣を胸の前にかかげ地面に刺している皇帝の巨像。

その剣の柄の上に佇む、陶器の仮面を外し自身の周りに五行の球体を浮かばせたキャスターは巨像の下の方から聞こえてきた声に当り前だと言わんばかりに頷き、砂漠に突如開いた穴から次々に現れた己の軍隊が集まった事を確認すると、振り向いた彼らに向けて大きく声を張り上げた。

 

 

「よくぞ来たな我が最強の軍隊よ、心して聞け!再び我々が目覚めたこの時代は何も変わらない、混乱と腐敗に満ちている!我々はこの時代に秩序を齎し、此度こそ我が支配下に置く!」

 

 

聞き様によっては真面目な演説に聞こえるが、それでも彼が言っているのは単に「誰も私に逆らわない様に侵略するぞ」と言う事である。それを知ってか知らずか、陶器の軍隊たる大軍勢は全員彼に視線を向け、何も言わずにその言葉を聞いていた。

 

 

「この時代には全てを牛耳る支配者が居ないと言う、それは由々しき事態だ。自由は秩序の敵だ!我が道に立ちはだかる敵には容赦などいらん、皆殺しだ!」

 

 

その演説は固有結界に飲み込まれた敵陣営にもしっかり聞こえており、その言葉で全員が内心で共闘を決意した事を知ってか知らずか、かのローマに名を轟かせた暴君でさえも恐れるに足らない最強最悪の皇帝は高らかに声を張り上げ、言葉を続ける。

 

 

「今ここに宣言しよう、この時代、この砂漠の外の世界を全て!全て、我が物とする!・・・これからお前たちを、万里の長城の先、外の世界へと導く。万里の長城さえ超えれば、お前たちは無敵となり外の世界を蹂躙できる!お前たちの役目は!大陸なぞよりも遥かに広大な世界を蹂躙し、決して滅びない私の帝国を、築くことだ!」

 

「「「「「「「「皇帝陛下!永遠に栄えたまえ!」」」」」」」」

 

 

主君たる皇帝の宣言に賛同するかのように全く同時に響き渡る、忠誠の声。そして彼らは各々が武器を手に振り返り、主君の敵へと刃を向けた。

 

 

「さあ!どこまで抗えるか見せてみろ、愚かな反逆者共よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だ、これは?

 

校舎から外に出て俺がまず思い浮かべたのは、ただその感想だけだった。さっきまでここは人気のない夜の校庭だったはずだ。なのに今や青空が澄み渡り、広大な砂漠が目の前に広がっている。振り返ってみると、そこには校舎は無く代わりに巨大な延々と広がる壁があった。…確か、万里の長城だったか。何らかの魔術で移動したって事なのか?

 

 

「固有・・・結界?そうか、キャスターのサーヴァントだったら使えて当然か」

 

「遠坂?これが何なのか分かったのか?」

 

「固有結界よ、お兄ちゃん」

 

「なっ、イリヤ!?」

 

 

聞き覚えのある声に振り向くと、そこには砂漠に似つかぬ厚着をした雪の妖精が。…暑そうだな。あ、脱いで女物のスーツ姿になった。あんな小さいサイズあるのか。って、そうじゃなくて!

よく見てみると周りにはさっきまで居なかったはずのイリヤだけでなく戸惑うアーチャー、ライダー、セイバー、アサシン、バーサーカー、さっきクロ姉と戦っていた黒づくめの男、桜、クロ姉が・・・って、クロ姉!?

 

 

「クロ姉!無事だったのか!」

 

「お、おう士郎。ここどこ?あの黒いのと戦ってたはずなのに・・・ってバーサーカー!?なんでここにいるの!?」

 

「クロナさん!?危ないですよ!」

 

 

バーサーカーの存在を確認すると慌てて駆け寄るクロ姉の姿に、俺と桜は驚愕する・・・が、何故かアーチャーとライダー、凛と、今ちょうど霊体化を解いたのか姿を見せたランサーは素知らぬ顔だ。…まさか?

 

 

「・・・クロ姉のサーヴァントって、バーサーカーだったのか?」

 

「そうなんですか、クロナさん?」

 

「・・・」

 

 

俺達の問いに「あ、やっべーバレた」とでも思考しているだろう真顔で黙るクロ姉。しばらくの沈黙の後、イリヤに「いい加減白状しなさい、士郎の姉だってんなら正直であるべきよ」と言われて溜め息を吐き、クロ姉は口を開いた。

 

 

「うん、私はバーサーカーのマスター。あの時士郎達を襲わせたのは早く脱落させたかったから。でも、士郎と桜は戦う覚悟を見せたからやめる。私の自分勝手な願いのために士郎達に強制するのは間違ってるから。…で、バーサーカーは何でここに?待機してって言ったよね?」

 

「嫌な気だ・・・気を抜くな、死ぬぞマスター」

 

「「「「喋った!?」」」」

 

 

俺、桜、イリヤ、ライダーの驚きの声が響く。黒づくめの男も驚いていたようだが何故か納得しクククッと笑っていた。遠坂も「そっか、バーサーカーが喋るのって可笑しいのか。クロが異常だからそんなに驚かなかったけど」とかぼやいていたが、確かにクロ姉なら納得できる。…もう聞かないで置こう、今はそれよりも、だ。

 

 

「遠坂、イリヤ。固有結界って何なんだ?」

 

「普通は使えもしない大魔術。世界を一時的に書き換え自分の心象世界に対象を引き摺りこむ、現代魔術師でも使える者はそういないわ」

 

「小規模な物なら自身の内部に発動できるけど、ここまでの規模となると相当な魔力とそれなりの知識が必要ね。となると・・・」

 

「・・・キャスターの宝具に間違いない。宝具を二個も持ってるなんて想定外だった」

 

「キャスターって、クロ姉が昨夜戦ったっていうサーヴァントか?」

 

「うん、それがアイツ」

 

 

この状況をよく分かっているのだろう、遠坂とイリヤに聞くとクロ姉がその言葉に続け、指を遥か彼方の先にある巨像に向けた。よく見ると黒い鎧を着た男がいた。アイツがキャスターか……それにしてもクロ姉、一つ目の宝具を受けたのに無事だったのか。運がいいな、よかった。

 

 

そんな事を話しているうちに、砂漠のあちこちから穴が開き、そこからぞろぞろと不気味な陶器人形の兵士が軍隊の様に隊列を組んで行進して出てきた。その異様な光景に、絶句しながらも構える俺達。アレが、キャスターの宝具・・・軍隊を呼び出すなんて、ありかよ・・・

 

 

「・・・凛、アインツベルン。あの陶器人形の軍隊、中国系の男、そしてあの巨像に万里の長城。これって、あのキャスターの正体が分かる・・・よね?」

 

 

演説を始めるキャスターを睨みながら、静かに問うクロ姉。…俺と桜にはさっぱり分からんが、黒づくめは感づいたらしい。何か仲間外れにされた気分だ。

 

 

「ええ、私オコーネル夫人の書籍は全て愛読してるもの。中々に厄介な奴が喚ばれたみたいね。凛も、分かったでしょ?」

 

「・・・恐らくは紀元前に中国を制覇し、呪われて封印されるも近代に復活し暴れ回ったと言う最恐最悪の皇帝、アー・シン・ハンね。あの書籍通りの歴史を持つ男だとしたら・・・二つの時代に君臨した反英雄、確かに厄介だわ」

 

「アー・シン・ハン?」

 

「安心飯?天津飯の仲間?」

 

『ライダー・・・たまには書籍も読もうよ・・・書籍でも史実でも、知名度が高い英雄だよ』

 

 

ライダーの食い意地張った発言に呆れるエルメス。いや、俺もよく知らないんだが・・・とにかく、厄介な奴だと言う事だな。

 

 

「・・・そう言う事だけどどうする、イフ=リード=ヴァルテルさん?まだ勝負、続ける?」

 

 

すると黒づくめの男・・・ヴァルテルにそう尋ねるクロ姉。さっきまで戦っていたはずなのに、どこか親しげだ。

 

 

「なるほどな。とりあえずは遠坂の魔術師、アンタとは休戦だ」

 

「は?私が遠坂だけど、そこのはただの魔術使いよ」

 

「・・・あ?ランサーのマスターが遠坂だろ?」

 

「いや、だから私がランサーのマスターだって」

 

「私は言峰黒名。バーサーカーのマスター。ランサーは手伝ってくれただけ」

 

「・・・なんだ、勘違いか。早く言ってくれるとよかったんだがな」

 

 

どうやらヴァルテルはランサーと一緒にいたクロ姉を見て遠坂と勘違いしてたらしい。首を竦め、やれやれと言わんばかりに背中に装備していた杖を構えた。

 

 

「まあいい、じゃあクロさんよ。この場は一時休戦協定と行こうや」

 

「・・・昨日からそればかりだね。いいよ。アインツベルンも、それでいい?」

 

「・・・お兄ちゃんが私以外に殺されるのは嫌だもの。いいわ、手を組んであげる」

 

 

クロ姉が視線を向けるとイリヤも了承してくれた。これでこの場にいるマスターが全員、クロ姉と手を組んだ事になる。やっぱり、クロ姉は凄い。なんというか、カリスマ性がある。この人になら、力を貸してもいいと思わせる「何か」があるんだな。

 

 

「しかしやっこさん、俺とアサシンが集めた魔力まで利用しやがったか。キャスターのマスターはそれなりの策士だな。一杯喰わされた訳だな、アサシン?」

 

「なに呑気に言ってるんですかマスター?せっかく集めた魔力を思いっきり使われたんですよ、ムカつかないの?」

 

「ああ、もうめっさムカついてるさ。やるぞアサシン」

 

「はいはい。衛宮士郎も殺せないみたいだし、その鬱憤を晴らしますよ!」

 

 

そう言って杖を右肩に置き、煙草に火を点けるヴァルテルと、ナイフを構え舌で刀身をぺろりと舐めるアサシン。…どうしたものか、アサシンの奴まだ俺を殺す気でいるらしい。しかもこのアサシン陣営、よりにもよって集団ガス事故の犯人っぽいぞ・・・いや、我慢しろ。今はここを生き残る方が先決だ。クロ姉や桜、アーチャーとライダーを何とか生還させないと。

 

 

「ところで聞くけどアインツベルン。貴方、スナイパーライフルを使える?」

 

「使えるけど今は持ち合わせてないわ。それが何?」

 

「・・・ライダー、確か銃を人に貸せたよね?士郎と桜、あとイリヤに渡して。イリヤにはライフル、士郎達は取り敢えず使いやすい奴ね」

 

「いやまあいくらでもあるからいいけど・・・士郎と桜、使えるの?」

 

「とりあえず護身用。無いよりはマシでしょ。イリヤはライダーと一緒に援護をお願い」

 

「・・・適材適所って奴ね。分かった、セイバー。前衛は任せたわよ」

 

「ああ。…ライダー、イリヤに手を出したら何が在ろうと君を斬る」

 

「分かってるわよ。…まったくもう、何ですんなり共闘しようって気にならないの英霊って奴は・・・」

 

『ライダーだってサモエド仮面と共闘するのは嫌でしょ?一緒だよ』

 

「違うと思う。…士郎、桜は任せたよ」

 

 

とかなんとかぼやきながら、俺と桜にそれぞれM92F(映画でよく見るから名前は知ってる)とバトルライフル(威力は低いが反動が小さいライフル銃・・・だったはず)をそれぞれ弾倉(マガジン)と一緒に渡すとイリヤを担ぎ一跳躍で万里の頂上の上の方に跳ぶライダー。

桜はもう既にライダーから手ほどきを受けているのかあっさりと構えたが…俺だけ普通の拳銃なんだが強化して何とかしろって事か?そんな意を込めてライダーを見上げてみると、ちょうど確かシモノフとか言ったはずのスナイパーライフルを渡したイリヤに「大丈夫?」と聞きながらこちらの視線に気づき、一瞬考え込むと溜め息を吐きポイッとこちらに何かを投げてよこしてきた。ただ、それはちょっと大きくて受け止め切れず、アーチャーが手伝ってくれないと潰されていた。

 

 

「それはRPKって言う機関銃。日本人なら筋肉モリモリマッチョマンのメインウェポンだと言えば大体分かるでしょ?」

 

「コマンドーだろ?確かに大体分かるけど・・・使えんのかこれ!?」

 

「強化で何とかしろ、魔術師でしょ」

 

「・・・あー、うん」

 

 

・・・そう言えばイリヤも銃使ってたっけ。考えるのはやめよう、うん。

 

 

「ライダー、アーチャーにもM134ミニガンを。空から絨毯爆撃でかなり減らせると思う」

 

「了解。アーチャー、受け取って」

 

「了承しました。マスター、どうかご無事で」

 

 

そう言って投げられたガトリングガンを受け止め、翼を広げて空へ舞い上がるアーチャー。…相手にちょっと同情するな。俺はアイツのでたらめさを知っている。

 

 

「ライダーとイリヤは高台から、奥から士郎と桜が銃で援護、そこにアーチャーが空から絨毯爆撃で敵を減らした所にバーサーカーとセイバー、ランサーとアサシンが前衛、私と凛とイフが魔術で後衛をすれば勝てるはず。何か異論は?」

 

「立ち位置にあっていていいんじゃない?」

 

『彼女は多数のサーヴァントを従える事に長けているね。指揮官の才でもあるのかな?』

 

「あの女の指示に従うのは癪だけど・・・私とセイバーだけじゃ勝てないのは事実だしね」

 

「・・・銃使うのは初めてなんだがな・・・」

 

「ライダー曰く狙い方は弓と同じらしいので先輩でも大丈夫ですよ!」

 

「敵が動きます。始めましょう」

 

「叩き潰すッ!」

 

「今だけはアンタに背中を預けるよ、バーサーカー」

 

「さーて、やりますかねぇ。なあ、アサシンの姉ちゃん?」

 

「・・・ちっ。性別がばれたのはちょっと痛いか。まあいいや、鬱憤をあいつ等で晴らすもんね!」

 

「クロの案に乗るわ。さっさと切り抜けないとね!」

 

「よしっ、魔術師の頂点の一人に挑むとするか!」

 

「・・・頼もしい言葉、ありがと。行くよ!」

 

「「「「「「「「「「「応ッ!」」」」」」」」」」」

 

 

俺達の言葉に苦笑したクロ姉はきっと目を見開き、弓を構えて不敵な笑みを浮かべた。…せいぜい足を引っ張らない様に、一番信頼できる人の言葉を信じて挑むとしよう。相手は魔術師の頂点の一つの形、キャスターの率いる大軍隊。恐らくあの男は「悪」だ。ここで逃がしてはならない。相手にとって、不足無しだ。

 

俺にとっての、正義の味方に至るための戦いを、始めよう。




皇帝陛下!永遠に栄えたまえ!ただし赤王様な!

という訳で判明、キャスターの真名。アー・シン・ハン皇帝。って言っても有名ではなさそうなのでピンと来ないでしょうが、映画「ハムナプトラ3」にて最強のミイラとして登場した紀元前の皇帝です。この世界だとオコーネル夫妻、イムホテップなども実在しています。こんな風に復活するタイプの反英雄って二つの時代に君臨する訳だから強力だろうと安易な考えで参戦させました。

クロナが多数に対する判断力と指揮力を持っていると言う事も判明。時代が時代なら優秀な軍師か将軍にでもなれます。…もちろん、人理継続保障機関でも多大な才を発揮するでしょう(フラグ)。

実はサーヴァント出揃ってないんですが総力戦となります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#12:英霊無双、多分史上最大の決戦

およそ一ヶ月ぶりの更新、遅れて申し訳ございませんでした。
今回はもう大乱戦。題名は色々混ぜてます。


「ふむ・・・クロナの奴め、まさかあんな手腕を隠していたとは・・・さすが(オレ)の見込んだ娘よ」

 

 

バーサーカーを先陣に、兵馬俑の軍隊とぶつかるクロナの指揮に従ったサーヴァント数名を、太陽の光で隠れた空に浮かぶ黄金の船から見下ろす男がいた。戦闘機にも匹敵する機動性と王の財宝により高火力を併せ持つ、インドに伝わる宝具「天翔る王の御座(ヴィマーナ)」の玉座に座ったギルガメッシュである。ジャージに似た私服を身に纏っている為、戦闘に関わる気は皆無である。

 

 

「ふん、バーサーカーの力量を図る機会と見ればよいが・・・結果は目に見えているな」

 

 

―――――この勝負、宝具を使わぬ限りクロナ達に勝利は無い。それが、人類最古の英雄王の観た結論だった。時間切れ(・・・・)を待つよりも早く、全滅する。

 

 

「・・・持って10分だな。クロナよ、このヘラクレスの十二試練にも並ぶ難業、見事成し遂げて見せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の左右で銃撃音と呪文の声が響き渡り、視界の陶器兵が次々と砕け散って行く中、私は静かに弓を引く。

 

 

「爆ぜろ」

 

「ウオラァアアアアアッ!」

 

 

殴り付けながら突進するバーサーカーが槍を突き出し突進してきた陶器兵に接触する寸前で、私は矢を放ってその胸を射抜き、爆散して破片で周りの陶器兵を巻き込んで倒れて残った陶器兵の頭部を踏み潰しながらバーサーカーは跳躍、両腕に怒のマントラを溜めこみ、それを着地と同時に陶器兵ごと地面に叩き付け炎の衝撃波を放って周りの陶器兵の足場を取る。

上手い、やはり「八神将」として戦ったことが、義兄にして好敵手と何度も力を合わせて死線を潜り抜けて来たからか、連携の基本は分かっているらしい。

 

 

「デヤァアアアッ!」

 

「よっ!」

 

 

そこにセイバーとアサシンが突入すると同時に一閃、頭部を破壊し、六天金剛となって腕を振るい砕いて走り抜けていくバーサーカーの後を駆け抜ける。

 

 

「オラッ!フンッ!そらよっ!」

 

 

さらにその間を、サーヴァントの中でも断トツのスピードで駆け抜けて行ったランサーの飛び蹴りで、刀を手に突進の勢いでバーサーカーを斬ろうとしていた陶器兵は蹴り飛ばされてその奥の弓部隊に激突。体勢が崩れた所に槍の乱舞が叩き込まれ、土屑と化す。

 

 

「くたばれェエエエエッ!」

 

 

飛び上がり、空中でグッと力を溜めこみ、六本腕から怒のマントラを掌に集束し拳に乗せていくつもの光弾を放ち殲滅するバーサーカー。その着地した瞬間を狙って手にしたボウガンの矢を放とうとしていた陶器兵の頭部を、私の上から放たれた弾丸が撃ち抜き、崩れ落ちさせた。見てみるとアインツベルンだった。ライダーがこちら・・・後衛の援護を、アインツベルンが前線の援護をする事にしたらしい。…まあ確かに、それが一番かな。

 

 

「第一射撃隊、構え!」

 

 

突如、そんな声が響き渡り見てみると、キャスターが剣をこちらに掲げていた。その下では、弓矢とボウガンを構えた陶器兵、総勢100数体が・・・って不味い!

 

 

「・・・てぇえええッ!」

 

 

そして、バーサーカー達の居る前衛から、私達のいる後衛まで、降り注ぐ矢の雨。サーヴァント達でも不味いが、人間のこちらがまずヤバい。

 

 

Shield protect us desert(砂漠よ、我等を守る壁となれ)!」

 

 

咄嗟に近くの岩に手を付け、後衛の人達だけを守る巨大な城壁を形作ってそれを防御。途轍もない魔力が消費されたが、歯を食い縛ってそれに耐え切り、壁を砂漠に戻して弓を番える。しかし、見越していたのか私だけに向かって放たれる矢が三つあった。

 

 

「!?」

 

 

咄嗟に再び地面に手を付けようとするが、間に合わない。弓を剣に改造しても私程度の腕じゃ防ぐなんて不可能。どうする・・・!?

 

 

「ウラァアアッ!」

 

「クロナ!」

 

 

その瞬間、跳んで来たバーサーカーが二本を掴んで捻り折り、ライダーの放った弾丸がもう一本を弾いていた。…今の一瞬でここまでできたのは、サーヴァントだからだ。本当にヤバかった。

 

 

「気を付けろ、マスターだろうが」

 

「今のは誰でも油断する。ありがとうバーサーカー、ライダー」

 

「礼は別にいいわ。それより、今のどうする?多分後何回か来るわよ」

 

「全部私に受け止めろと無茶を申すのか」

 

「・・・頑張れ、クロ姉」

 

「士郎!?」

 

 

士郎に頑張れと真顔で言われた。結構ショック。しかし守りに入れと。確かに全員守れそうなの私しかいないけど…私の魔力、持つかな。…あ、魔力と言えば。

 

 

「イフ=リード=ヴァルテル!確か魔力のストックを使って大規模な炎を操ってたよね!?」

 

「他のマスターがいる中で手札を明かすとはやってくれるな。まあ問題は無いが、それがどうした?」

 

「貴方の炎、どうせあの兵隊に効かないんだから防御に集中して、お願い」

 

「…それが最善なんだな?じゃあ任せろ。Ansuz(アンサズ)!」

 

 

そう言って懐から出した煙草の箱から一本抜いて一服したイフは、その火の粉をばら撒いて杖を振るい、火の粉は炎の壁となり放たれた第二陣の矢の雨を全部溶解させて防御。そのでたらめさに唖然とする凛と桜、そしてイリヤ。士郎はいまいちこれがどれだけ凄い事か分かっていないのかちょっと驚いているだけだが…ヤバい、コイツ本気でとんでもないぞ…

 

 

「今手持ちは全部で10本だ。今のは残り九回までだから、それが切れるまでに決めろ!」

 

「頼もしいね。バーサーカー!」

 

「おうっ!」

 

 

私の掛け声に、私達の前で構えるバーサーカー。そして次の瞬間、ドゴンッ!という、地面を蹴っただけでは絶対に起きない轟音と共にバーサーカーは超高速で突進。六本腕を駆使して通り過ぎた兵隊たちを全部残らず頭部を破壊し、アーチャーが上空から放つミニガンの雨も物ともせず、キャスターまで全速力で突っ走った。

 

 

「クロ姉・・・あれが、英雄の力なのか…?」

 

「うん、とんでもないね」

 

「確かにとんでもないけど…うちのセイバーも負けてないわよ」

 

 

そう言うアインツベルンに、セイバーの方を向いてみる。近付く者はバッタバッタと斬り倒し、時に弓矢を放って数体を纏めて貫通して炎上させたり氷漬けにしたり、時にハンマーで叩き飛ばした陶器兵の破片で波状攻撃を仕掛け、緑の風を纏って空中に姿を現し何処からともなく取り出したバクダンをポイポイ降下。

大爆発を起こしてまとめて散らしたり、下半身が砕けても近付いてきた陶器兵をマスターソードで頭部を斬り飛ばし、そこを突いて突進してきた大柄な陶器兵を盾で殴り飛ばしたりで全く敵を寄せ付けていない。

 

 

「…さすが勇者。有象無象の雑魚なんて楽勝か。まあうちのランサー程じゃないけどね」

 

 

そう言いながらガンドを飛ばして近付いて来ていた陶器兵の顔を吹き飛ばす凛。…よく見ればセイバーの遥か隣にいるランサーも突いて斬って薙ぎ払ってと、未だに傷を負っていない。アサシンは…あのチョコネロネみたいな頭をした怪力娘に姿を変えて大剣を手に大暴れしていた。

 

 

「うわぁ…やっぱり、本物の英雄は一味違うねエルメス…」

 

『君だってあんな無双、いくらでもして来ただろう?しかし、アーチャーもそろそろ弾が尽きるけど大丈夫かな…』

 

「心配はいらないみたいよ。やっぱりあの子も私と違って英雄だわ」

 

 

上からそんな会話が聞こえて来て、英霊達の無双を掻い潜り近付いてきた陶器兵に士郎や桜、凛と一緒に応戦しながら空に居るはずのアーチャーを見てみる。

ミニガンをぶん投げて遠方の陶器兵を三体纏めて潰したかと思えば、何か急降下して着地の衝撃波で周りの陶器兵を散らし、散乱した槍やら剣やらを手に取り集めると再び上昇、同時にその衝撃波で接近していた陶器兵を一掃、空中から音速で剣やら槍やらを投擲して再び蹂躙を始めていた。

溜まらず私達と一緒に攻撃しようとしたのか矢の雨がアーチャーに向けて放たれるが、翼で自身をくるんで高速回転し全部弾き飛ばすアーチャーには通じず、イフの放った二回目の炎の壁でこちらにも届かなかった。

 

うわぁ…何だアレ。多対一に強い英霊多すぎじゃない?え、なんなの?英雄って多数に一人で挑んでも大丈夫じゃないとなれんのかね。ライダーもエルメスの言い分だとなれてるっぽいし・・・そう言えば王様もあのアーチャーみたいな戦い方だったっけ。本当、怖いわ英霊。

 

 

ドゴンッ!

 

「ぐぅ・・・っ!?」

 

 

いきなり爆音と共に何かがこちらに向かって飛んで来て何体かの陶器兵を一掃した。何事かと思ってみてみれば、それはキャスターに向かって突進していたはずのバーサーカーだった。何で…!?慌ててキャスターの居た場所を見て、そして私は驚愕する。

 

 

「まさか…あの記述まで本当だって言うの・・・!?」

 

「どうしたんだクロ姉・・・ッ!?」

 

「あ、あんなことが…」

 

「本当に、厄介な英霊ね」

 

「魔術や兵隊たちだけでも面倒だってのに・・・あのバーサーカーが一撃って…」

 

 

私に続く士郎、桜、アインツベルン、凛の言葉。そこにいたのは、鬼だった。いや、冗談ではない。山羊の様な角に野獣の牙が生え、筋骨粒々な熊を超える毛むくじゃらの巨体に、悪魔の如き形相でこちらを睨む土色の怪物。アレがキャスターだってのか…

確かに、エヴリン・オコーネルの書籍ではアー・シン・ハンはシャングリラの泉を浴びて完全復活して不死身の肉体を得た際に三つ首竜や熊の様な獣に変身できる力を手に入れたとあったが…まさかあんな化物とは思わなかった。あのバーサーカーを吹き飛ばすってどんな怪力だ。

 

 

「大丈夫、バーサーカー!?魔力、回した方がいい?」

 

「いらん。マスターはマスターらしく、そこでふんぞり返っていろ!」

 

 

心配して聞いてみたが、そう言ってバーサーカーは再び突進。今度はキャスターと組み合った。…心配したのに嫌な態度だ。何か怒らせたっけ?

 

 

「クロ姉、それより、ヤバいぞ」

 

「え?何が…!?」

 

 

士郎の声に戦況を見直し、そして驚く。可笑しい。あんなにサーヴァント達が暴れて、私達も一体一体確実に倒して行っているはずだ。でも一向に減っていない。今でもキャスターとバーサーカーの殴り合いで周りの陶器兵が吹き飛んでいるのに…何で…?

 

 

「・・・原因はアレみたいね」

 

「アレ?…なるほど。桜、クロナ、士郎。そこの黒いのと赤いのは下に置いといて上がって来て。ちょっと不味いことになってる」

 

 

イリヤとライダーの言葉に、凛とイフをその場に残して上がる私達。そして、その正体に気付いた。…倒す度にその数だけ、あの地下に繋がっている穴からどんどん出てきている。これはもしや…

 

 

「魔術王ソロモンの72柱の魔神と一緒ね。いくら倒しても、数が固定されているからその分補充される」

 

「という事は…」

 

「うん、桜。この勝負、大将を倒す事でしか決して私達に勝利は無いって事。やれやれ、減らない雑魚とかもうそれ雑魚じゃないよね、エルメス」

 

『サモエド仮面呼んでも多勢に無勢だね』

 

「ど、どうするんだクロ姉・・・このままじゃ、いくらアーチャー達が強くても…」

 

「…いずれ、こっちが負ける」

 

 

アインツベルンが名を出した魔術王ソロモン。まさしくそれだ。アイツらは陶器人形だ、アイツは五行魔術を用いて火と水を操れるし、材料ならこの固有結界にはいくらでもある。閉鎖空間に閉じ込め、無限に湧き出る大軍勢で敵をその物量で押し潰す。それがこの宝具の正体。しかも本体も「神」を吹き飛ばす化け物と来た。勝てる訳がない。例え物量を攻める王様でも、切札を使わない限り勝てないだろう。

 

 

「でも手はある。サーヴァント全員をキャスターに送り込んで、あの軍勢を私達だけで相手して時間を稼ぐ。それが最善」

 

「俺達、マスターだけであれを食い止めるってのか?」

 

「無茶です!今でさえギリギリなのに、ライダー達まで抜けたら…」

 

「でも、そうしないとジリ貧だよ。今のところキャスターを倒さない限り、ここからは出られないんだから」

 

 

今も迫り来る軍勢を、イリヤとライダー、そして下の凛とイフが推し止めてくれている。奥の方ではセイバー、アーチャー、ランサー、アサシンが殲滅し、最奥の巨像の前ではバーサーカーが獣の姿のキャスターに投げ飛ばされ、起き上がったところに顎を蹴り飛ばされ、仰向けに倒れている。…急がないと、バーサーカーが危ない。

 

 

「…ライダー、今直ぐキャスターの元に急行して。最悪、私が全魔力を導入してでも桜を守るから」

 

「…分かったわ、桜は任せた。これ使って。行くわよエルメス!」

 

 

私の言葉にポーチを開いてどさっと銃器を大量に置くと、放り投げてバイクになったエルメスに飛び乗って陶器兵を蹴散らしながら突進するライダー。さすがに速いな。

 

 

「士郎、凛、アインツベルン、イフも!自分のサーヴァントに伝えて。キャスターを倒す事に集中しろって」

 

「…話は聞いていたわ。確かに、それが最善ね。ランサー!」

 

「アーチャーも、頼む!」

 

「セイバー、やりなさい!」

 

「相手は皇帝だ、暗殺してやれアサシン!」

 

 

凛を皮切りに、それぞれのサーヴァントに指示するマスターたち。それを聞いたサーヴァントは全員、キャスターの元に向かう…さあ、ここからは私達マスターの正念場だ。腹をくくるか。

 

 

「―――――Tell my anger in an irrational world.(理不尽な世界に我が怒りを伝えよ)

 

 

唱えるは疑似宝具を使う為の呪文。王様の財を模倣するのは怒られるかもしれないけど、今更こんなことを気にしている場合じゃない。手榴弾をありったけ掴み、長く改造して伸ばしたマフラーにくるんで魔力を流し込む。悪魔でもなんでもいい、力を貸せ。

 

 

「両目、脇腹、膝、脊髄。設置完了!」

 

 

マフラーに包まれた大量の手榴弾は一個ずつ、懐中時計型のチェーンマインに変形、私はそれらを軍勢にばら撒き、ある程度が上手いぐあいに設置されたことを確認。黒鍵を改造した不気味な鋏をカチンと鳴らす。

 

 

偽・微睡む爆弾(イリマージュ・チクタクボム)!」

 

 

そして、私達に迫ろうとしていた大軍勢を大爆発が飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称side

殴る、殴る。いくら投げ飛ばされ、吹き飛ばされ、叩き落とされ、殴り飛ばされ様と、バーサーカーは一心不乱に殴りかかる。

昨夜、キャスターと戦った際にマスターを危険な目に遭わせてしまった。同時に思い出したのだ、生前、巻き込んでしまってみすみす死なせてしまった少女の事を。

 

 

「ウアァアアアアッ!」

 

「無駄だと言っている!」

 

 

また守れなかったと、自分自身に怒りを抱き、それをマントラへと変質させ傷を治しながら殴りかかる。しかし、昨夜の戦闘で宝具を相手に負ったダメージは尋常ではなく、それも伴って動きが疎かになったところを的確に鋭い爪による斬撃を受け、蹴り飛ばされて砂漠に叩き付けられた。

 

 

「いい加減、楽になれ!」

 

「グッ、アァアアアアアアッ!」

 

 

腕を二本、力任せにもぎとられ、激痛に唸りながらも顎を殴りつける。しかしキャスターはその直前で三つ首竜に変身、首を伸ばしてそれを回避し飛翔。

 

 

「無駄な足掻きだ!」

 

 

そのままキャスターは三つの口から炎を吐いてバーサーカーは四本腕で顔を隠しそれに耐えるも腕二本がダメージに耐え切れず吹き飛び、二本腕に戻ったところで歯を食い縛り、バーサーカーは空中に跳び出し拳を繰り出す。

 

 

「当たらなければどうという事は無い!」

 

「があっ!?」

 

 

しかしその直前でキャスターは獣の姿に変わり、急降下と共に組んだ拳をハンマーの様に叩き付け、バーサーカーの拳は届かずに叩き落とされる。着地し、人型に戻るキャスターは満足気に肩を鳴らした。

 

 

「怒りにかられた拳ほど御しやすい物は無いな」

 

「この・・・クソ野郎が…ッ!」

 

「今度こそ死ぬがいい、狂戦士」

 

 

剣を抜き、振り上げるキャスター。力を振り絞り立ち上がろうとするバーサーカーの首に向けて振り下ろす…が。

 

 

「残念だが、彼とはまだ決着を付けていないんでね」

 

「むっ!?」

 

 

剣は弾き飛ばされ、キャスターはバックステップで後退。そこには、マスターソードを構えたセイバーがバーサーカーを守る様に立っていた。

 

 

「オラァ!」

 

「ふんっ!」

 

「ロックンロール!」

 

「ぬうっ!?」

 

 

そこに、背後から突き出された朱槍の穂先をキャスターは剣で上方に弾き返すも、そこに弾丸の雨が襲い、咄嗟にキャスターは三つ首竜に変身し鱗で防ぐ。背後にはランサーが、バーサーカーの背後からはエルメスに搭乗し機関銃を構えたライダーがいた。

 

 

「喰らえッス!」

 

「はあっ!」

 

 

さらに上空から襲い掛かった大剣を、ハイキックで叩き割るキャスター。刃を失った大剣を構えたチョコネロネは着地と同時にフードの少女に戻り、ナイフを片手に突進。キャスターはそれを懐に潜り肩で押し上げて後方に突き飛ばす。

 

 

「不意打ちも効かない、か。正面からの戦いは苦手なんだけど?」

 

 

ナイフを口に咥えて受け身を取り、睨みつけながら徒手格闘の構えを取るアサシン。

 

 

「獣殺しか、腕がなるねえ」

 

 

槍を手に、油断せず構えるランサー。

 

 

「ここで会ったが百年目よ!覚悟しなさい!」

 

『夕べの時代劇?』

 

 

機関銃をポーチに戻して対戦車ライフルを取り出し、エルメスをストラップに戻して構えるライダー。

 

 

「魔物退治は久し振りだ。ガノンを思い出すよ」

 

 

マスターソードと盾を構え、キャスターの出方を窺うセイバー。

 

 

「ドゥルガァアアアアアッ!」

 

 

自分で狂化し、咆哮を上げて今にも飛び掛かる構えを取るバーサーカー。

 

 

「遅れました。マスターの命令を、遂行します…!」

 

 

バーサーカーとセイバーの前に降り立ち、拳を構えるアーチャー。

 

 

「…ふん、この程度で私を倒せると?愚かな」

 

 

獣の姿となり、鼻息荒く挑発するキャスター。

 

 

 

 

六対一と言う、聖杯戦争に置いて前代未聞の決戦が始まる。

 

 

「あと一分。耐えれるか見物だな。愉しませてもらうぞ、クロナよ」

 

 

黄金の王は空で頬杖をつき、笑みを浮かべる。その視線は、自身と同じ弓使い(アーチャー)に注がれていた。




史上まれにみる大ピンチ。もう何でもアリです。こんな序盤でここまでの決戦になったFate二次創作はこれだけだと思う。

※一応念のため。クロナが使った技はFate/GrandOrderのキャスター、メフィストフェレスの宝具っぽいものです。

キャスターの宝具は最強ですが、最強な分弱点も多いです。今回のでいくつかが描写されてますが気付いた人は少ないと思います。しかし物量戦多い英霊ばかりだな…

次回、英霊六騎はキャスターに勝利できるのか、マスターたちは耐えることができるのか。ギルガメッシュ曰くあと一分で勝負は決まる、勝利の鍵はアーチャー?
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#13:空の女王の最終兵器

お待たせしました。VSキャスター編、終決です。

今回はアーチャーの見せ場回。キャスターのマスターも判明。そして相変わらずキャスター強いです。楽しんでいただけると幸いです。


延々と広がる砂漠の固有結界。その主を囲むは六騎のサーヴァント。バーサーカー、セイバー、アーチャー、ライダー、ランサー、アサシン。対するは二つの時代の君臨した皇帝、キャスター。

 

 

「ミスラァアアアアアアアッ!」

 

 

最初に跳び出したのは、バーサーカー。同時に放たれる、矢の雨。否、確実に殺すために放たれた矢の流星群。残りの軍勢もサーヴァントを無視して全員突撃、決着を付けようと波となってマスターたちに襲い掛かる。応戦するマスターたち。武器やら破片やらが吹き飛んでくる中、バーサーカーは拳を叩き付けた。

 

 

「単調な動きだ」

 

 

バーサーカーの拳を受け流し、同時に裏拳で吹き飛ばしてダウンさせるキャスター。

 

 

「「はあっ!」」

 

「速いが、それだけだ」

 

 

その隙を突いて同時に跳び出したアーチャーとアサシンを、先程サーヴァント達の猛攻で吹き飛んで傍に突き刺さっていた陶器兵の槍を引き抜くと薙刀の様に振るって二体を薙ぎ払い、自身の槍を突き出して突進を繰り出したランサーの槍の穂先を上に打ち上げ、槍の柄を頭部に折れる勢いで叩きつけて撃沈。

 

 

「隙有り!」

 

「隙はあえて見せる事も必要だ」

 

 

ランサーが撃沈する一瞬、自身がキャスターの視界から隠れていた事に気付いたライダーが対戦車ライフルを撃ち込むも、キャスターはそれを槍を手放し、腰から抜いた剣で一刀両断。まさか弾丸が斬られるとは思わなかったのか固まるライダーに向け、ちょうど飛んで来た陶器兵の頭部を蹴り飛ばして顔面に強打させて転倒させると、背後から飛び掛かって来たセイバーのマスターソードを振り返り様に剣で受け止め、不敵に笑う。

 

 

「どうした?それでは私を倒した冒険者にも劣るぞ」

 

 

そう呆れたように笑うとキャスターは見る見るうちに獣の姿に変身、剛腕でセイバーを殴り飛ばし、四肢を駆使して突進してランサー、アーチャー、セイバーを纏めて吹き飛ばした。

 

 

「フックショット!」

 

「はあっ!」

 

「師匠直伝、蹴りボルグ!」

 

 

空中に吹き飛ばされた三人はそれぞれ、セイバーがフックショットを背中に打ち込んで鎖を巻き取り高速移動、アーチャーは空中で静止して音速の拳を繰り出し、ランサーは吹き飛ばされた勢いはそのままオーバーヘッドキックで己の槍・・・ゲイボルクを蹴り飛ばし、剣と拳と槍の攻撃が獣の姿をしたキャスターに迫る。

 

 

「無駄だ!」

 

 

しかしキャスターは三つ首竜の姿に変身してそれらを防ぐとセイバーとアーチャーを翼で吹き飛ばし飛翔、着地したランサーと、こちらに向けて攻撃しようとしていたライダーとアサシン、バーサーカーを纏めて体当たりで突き飛ばした。

 

 

「・・・ミスラァアアアアッ!」

 

「ナニッ!?」

 

 

すると、生前から吹き飛ばされるのに慣れていたバーサーカーはすぐさま受け身を取ると大跳躍、キャスターの背に飛び乗ると首を掴んで締め上げ、暴れるキャスターの頭部に目掛けて頭突きを繰り出して叩き落とした。

 

 

「グアッ!?おのれ!」

 

「行くぞォ!」

 

 

叩き落とされたキャスターは獣の姿になりバーサーカーを掴んで投げ飛ばそうとするも、バーサーカーはバックステップでそれを回避。同時に、地を蹴り一瞬で肉薄すると強烈な拳をキャスターの頬に叩き込んで殴り飛ばす。巨体が宙を舞い、砂漠の岩に頭から激突して人間の姿に戻るキャスター。そんな隙を見逃す英雄達ではなかった。

 

 

「「「「決める・・・!」」」」

 

 

バーサーカーは両拳に怒のマントラを溜めて空中でグッと両腕を後方に向け、セイバーはマスターソードに聖なる光を溜めて【時をも超え輝く退魔の剣(マスターソード)】を、ランサーは回収した槍を手に跳躍して空中で投げ槍の体勢となり【突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)】を、ライダーは【魔射滅鉄(ビッグカノン)】を、それぞれ放とうとする。

 

 

「・・・決める、か。愚かな。そして残念だったな、貴様たちの負けだ」

 

 

しかし、キャスターは意味深な笑みを浮かべ、現時点で明確な決め手を持たないためただ警戒していたアーチャーとアサシンはその笑みの意味を察すると背後・・・マスター達の居る場所に振り向いた。

そこには、炎を突き破ったのか陶器兵の剣で胸元を斬られて倒れているイフと、その横で陶器兵の顔を殴り飛ばすも背後から襲ってきた陶器兵の槍で抑えられる凛、そして万里の長城の上から銃で何とか応戦しているも時間の問題なイリヤと桜、その真下で黒鍵が尽きたのか拳銃とマフラーを改造した槍を手に応戦するクロナと、それを援護しに降りたのか弾が尽きたライフルを「強化」して殴打し応戦しつつも押されている士郎、傷付いたマスター達の姿があった。

 

 

「マスター!」

 

「イフ、クソッ・・・!」

 

「逃がさん」

 

 

慌てて向かおうとするアーチャーとアサシン。しかし目にも止まらぬ速さで剣を投擲しアサシンの背中を斬り裂いたキャスターの言葉でアーチャーも静止し、アサシンは倒れ伏す。そしてそれに気付いた他のサーヴァント達の動きも止まり、バーサーカーとランサーは何も放たぬまま悔しげに着地。その様子に満足したのか立ち上がるキャスター。

 

 

「炎の壁で止まるのは生憎と矢だけでな。我が軍団には一切効かん。貴様らの将は、そこを間違えた」

 

「っ・・・動くな!」

 

『駄目だ、ライダー!』

 

 

桜の様子を見やり、一撃で仕留めようと【魔射滅鉄(ビッグカノン)】の引き金を引くライダーと、それを止めるエルメス。必殺の弾丸が放たれ、ライダーは勝利を確信する。…しかしだ。

 

 

「魔弾か。しかし、当たらなければどうということはない!」

 

「がっ!?」

 

 

キャスターは獣の姿になると紙一重でそれを回避、距離を詰め、変身が解けて最弱に戻ったライダーの首根っこを掴むと地面に叩き付ける。耐久がEまで下がったライダーは成す術もなく撃沈した。

 

 

『ライダー!ライダー!・・・キノ!』

 

「ふん。…む?」

 

 

思わず真名を叫んでまで無事を確認しようとするエルメスだがライダーは意識を失っており返事は無く、キャスターは興味が失せたのかそれを捨て置くと、今度はその隙を突いてマスターの元に向かおうとしていたバーサーカーとランサー、アーチャーに視線を向けると猛速で突進してバーサーカーとランサーの頭部を掴んで背後に投げつけ巨像に激突、二人の意識を飛ばす。

 

 

「逃がさんと言ったはずだ!」

 

「っ!?」

 

 

さらに三つ首竜の姿になると飛翔して追い付くとアーチャーの翼に噛み付き、地面に叩き付け、空中で人型になると剣を手に急降下、乗っかると同時に翼に剣身を突き刺しアーチャーを地面に縫い付けた。

 

 

「くっ・・・」

 

「ふっ、見た目はいい女だな。サーヴァントでなければ側室にしてやった物を・・・惜しい事だ」

 

「私はマスターの物です・・・貴方の物ではありません!」

 

「甘い」

 

 

零距離で繰り出される拳。しかし変身した三つ首竜の鱗には通じず、その口から放たれた炎を零距離で浴びてボロボロになっていくアーチャーはどうするか迷った。…宝具を使うか?しかし無断で使う訳には・・・その時だった。

 

 

「フロルの風!」

 

「なに!?」

 

 

ただじっと佇んで好機を窺い倒れている振りをしていたセイバーが緑の風に包まれて姿を消し、見るとイリヤの傍にまで瞬間移動しマスターソードで陶器兵を斬り伏せていた。思わずそちらに視線を移す移すキャスター。同時に、アーチャーはその隙を突いて拳を繰り出してキャスターを殴り飛ばし、翼から剣を引き抜き血を流しながら立ち上がる。そして、声が聞こえた。

 

 

「アーチャー!」

 

「!」

 

 

その声の主は、聞き間違えるはずもない、自分の主。衛宮士郎の物だった。見てみると、クロナと背中合わせに戦っている士郎がこちらをしっかりと見据え、信頼の籠っている視線をアーチャーに向けていた。その姿に、かつての主を重ねるアーチャー。その胸が、トクンと弾んだ。

 

 

「宝具を使え!無茶な事だと分かってる…だが、俺達を守ってくれ!頼むぞ、アーチャー!」

 

 

その言葉で、意を決した。魔力の波動が風となって砂漠に広がり、それだけで全ての陶器兵が砕け散る。その光景に唖然となるサーヴァントとマスター達。…何よりも驚いていたのは、キャスターだった。

 

 

「ちょうど一分。賭けに勝った様だな、クロナよ。さあアーチャーよ、(オレ)に見せるがよい。貴様の王としての形を!」

 

 

空で黄金の王が笑みを浮かべる。その全てを見透かす瞳には、大逆転への指示を送り力を使い果たしたのかへたり込むクロナを慌てて受け止める士郎と、機械的に呟きながら目を瞑り佇むアーチャーが映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「《思考制御(エモーショナル)プロテクト100%解除》《可変ウィングプロテクト解除進行中・・・100%》《自己修復プログラム開始》」

 

「な、何を言っている・・・?」

 

 

見る見るうちに傷を修復して行くアーチャー。紀元前を生きた皇帝は、未来を生きた未知の圧力に気圧されていた。自分など地を這う蟻の一匹でしかない・・・そう思わせる圧が、目の前の少女から放たれていたのだ。未知の物に対し、生物はどうしても臆してしまう物だ。

 

 

「《機能プロテクト解除進行中・・・70・・・80・・・90・・・100・・・!》」

 

 

そして開いたその瞳は、紅く染まっており、標的(キャスター)のみがただ映っていた。これがアーチャーの宝具。リミッターを外し、真の力を解放した姿。地上を蹂躙するべくして生まれた、空の兵器。

 

 

「《―――自己修復完了》…宝具(モード)空の女王(ウラヌス・クイーン)発動(オン)。出撃します!」

 

 

巨大化した翼を広げ、頭の上に天使の輪っかの様な光輪を浮かべ、天高く飛翔するアーチャー。キャスターも三つ首竜の姿となり応戦しようと翼を羽ばたかせるが、如何に幻想種の頂点である竜と言えど、・・・王には勝てない。それが道理だ。

 

 

「《目標補足(ターゲット・ロックオン)》【永久追尾空対空弾(Artemis)】発射!」

 

「なにっ!?」

 

 

翼を広げ、放たれるは複雑な軌道を描きキャスターに迫る光弾。キャスターは旋回しそれから逃れようと高速で飛翔し、砂漠の空をとにかく羽ばたく。しかし、光弾はキャスターを追尾し、例え巨像を盾にしようと誘導するも直角で曲がりそれを回避。逃げ切れず、一発一発がいっぱしの爆弾以上の威力を持つそれを浴びてキャスターは撃墜。

 

 

「おのれ・・・!燃えろ!」

 

 

何とか耐え切り、翼を羽ばたかせて遥か上空のアーチャーに迫りながら火炎弾を連射するキャスター。

 

 

「…【絶対防衛圏(aegis)】」

 

「…馬鹿な」

 

 

しかしそれも、アーチャーを覆う様に球状に展開された、エネルギーで形成された光の障壁により打ち消されてしまい、再びArtemisが放たれ今度こそキャスターは撃墜。人の姿に戻り、息絶え絶えに何とか立ち上がった。

 

 

「ここまでとは…しかし、これで終わりだ!」

 

 

吠えるキャスター。同時に、地下で生み出されマスターたちに向けて攻め込む陶器兵の大軍。守れるサーヴァントはセイバーのみ。一見、積んでいた。

 

 

「させると思いますか?」

 

 

しかし、それもArtemisが空から蹂躙。陶器兵を全滅させるとその手に漆黒の弓と、槍の様な形状の矢を取り出し番えて黒紫の炎を燃やして空に向けるアーチャー。

 

 

「マスター、魔力をお借りします」

 

「なにっ!?」

 

 

それを見て驚くキャスター。他のサーヴァント達も空を見上げ、絶句する。宝具には基本的に対人、対軍、対城と言った具合に規模と威力が変わってくる。

例えばライダーの【魔射滅鉄(ビッグカノン)】は対人、キャスターの【青銅の馬引く大陸制覇(チントン・マーイン・ダールーヂーバー)】は対軍である。かの有名なアーサー王の【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】は対城だ。しかし、今アーチャーが展開したそれは違った。その威力、規模は・・・対城より上の、対国宝具。国をも滅ぼす威力と規模である。慌てて残る力を振り絞り、自身のマスターの元に駆けつけるサーヴァント達。

 

 

「おい、仮初のマスター!」

 

「な、なんだよキャスター?アレがどうかしたのか?」

 

 

キャスターも巨像の下にまで来るとそこに隠れていたワカメ髪の男を引っ張ると地下に続く入口まで走る。

 

 

「見て分からないのか?アレは対国クラスだ、真面に受ければ死ぬではすまんぞ!」

 

「な、なにぃ!?どうするんだ、僕はまだ死にたくないぞ!」

 

 

そんな会話を繰り広げながら逃げるキャスターたちを眼下に見据え、アーチャーは力の限り弦を引き絞り、そして放った。

 

 

「【最終兵器・空ノ落し物(APOLLON)】」

 

 

上空に向けて放たれる、黒き炎を纏った超高熱の矢。放ったと同時にアーチャーは翼を羽ばたかせ、音速で士郎達の元まで飛翔。着地と同時に、自身に展開できる限界の大きさでaegisを展開。

 

 

 

そして、大爆発が固有結界の全てを覆い尽くし・・・ガラスが砕け散る様な音と共に、固有結界【皇帝率いる(フゥァンディ・リュ・)兵馬俑の軍勢(ビンマーヨン・ジュンシー)】は瓦解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

クロナside

強烈な光源に視界を奪われ、目を開けるとそこは夜の校庭。後ろを見ると、バーサーカー、桜とライダー、凛とランサー、アインツベルンとセイバー、イフとアサシン、そして士郎・・・と今回の功労者、アーチャーが立っていた。しかし全員満身創痍で、特に士郎は魔力切れなのか肩で息をし、アーチャーは霊体化一歩手前で少し薄れている。

 

本当に、ヤバかった。無事と言えるのはずっと援護射撃に回っていたアインツベルンと、私と士郎が庇って無傷の桜くらいだ。その他のマスターは全員魔力切れもしくは重傷、サーヴァント達もボロボロで戦えそうにない。でもこれでやっと、キャスターを倒せたはずだ。固有結界を破壊するつもりで放ったアレは、王様の切札には匹敵しないけどそれでも十分すぎる威力だった。あのキャスターはアーチャーの・・・えっと、バリア的なのに守られてなかったはずだからただじゃ済むまい。

 

 

「マスター・・・負担ををかけない様に自分の魔力だけでと思ったのですが、奥の手を使うためにお借りしました・・・申し訳ございません」

 

「いや、いいよ。俺が宝具を使えって言ったんだしな。それに、アーチャーがアレを使ってないと全員死んでいた。なにより、お前のおかげでクロ姉を、桜を、遠坂を・・・俺が守りたい人達を守る事ができた。ありがとう、アーチャー」

 

「マスター・・・申し訳ありませんが、もう戦えそうにありません。しばらく、休ませてもらいます・・・」

 

「ああ。お疲れ、ゆっくり休んでくれアーチャー」

 

 

そんな会話の後に、霊体化し姿を消すアーチャー。…本当、お疲れ様。しかしアーチャー凄いな。あの弓矢もヤバいけど、何より・・・あのキャスターを圧倒した姿。アレはヤバい、下手したら私のバーサーカーも勝てないんじゃないかな。でも魔力をあんなに消費するとはかなり燃費が悪いのか?とりあえず、労いかな。

 

 

「バーサーカーもありがとう。大丈夫?」

 

「腕が二本残っているだけで十分だ。大事ない」

 

「ならいいけど」

 

 

かなりキャスターに甚振られていたからな・・・本当に大丈夫かな?

 

 

「ごめん、桜!私がちゃんと考えていれば、あの変態を呼び出して桜を守れていたのに・・・」

 

『ライダーは宝具のデメリットをちゃんと理解しないと。ただでさえ当たらないのにさ』

 

「気にしないで、ライダー。ちゃんと戦えない私も悪いから・・・無事でよかった」

 

 

「イフ。しっかりしなさい、その程度で死ぬようなタマじゃないでしょアンタは」

 

「・・・アサシン。お前こそ、俺を心配する暇が在ったらその背中の傷どうにかしろ。痛々しい」

 

「サーヴァントなめるな、この程度で死ぬ訳ないじゃない。…マスターに死なれたら私が困るんだっての」

 

 

「ランサー。よく頑張ったわ、でももう少し早く決めて欲しかったかも」

 

「無茶言うじゃねーか、マスター。そんな冗談が言えるならアンタも大丈夫の様だな」

 

「ちょっとヤバかったけどね。衛宮君とアーチャーには感謝しないと」

 

 

「ねえセイバー、聖杯戦争って何だっけ?」

 

「少なくとも今回のはバトルロイヤルじゃないね、イリヤ」

 

「・・・とりあえず、私のピンチによく来て守ってくれたわ。さすがねセイバー」

 

 

・・・うん、他のところも問題ないらしい。いや、下の三名は問題ないのは私にとって問題だけど。…アインツベルン、まさか私が戦えないからって襲って来ないよね?

 

 

「それはお前だ、クロナ」

 

「だよね」

 

 

この場にいるマスターが卑怯じゃない事を祈ろう。…そう言えばキャスターのマスター、誰だったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称side

クロナの提案で今回限りの同盟が解散となった頃。学校の林の中で、その影は動いた。片方はボロボロのキャスター。もう一人は砂埃塗れだが無傷の男だった。息絶え絶えのキャスターを睨み付け、ワカメ髪を振り乱し激昂する、仮初のマスター。

 

 

「はあ。死ぬかと思った。もっとしっかりしろよ、キャスター!」

 

「何もしていないお前がよく文句を言えるな、仮初のマスター?・・・いや、間桐慎二よ」

 

 

月光であらわになったその姿は、まさしく間桐臓硯がライダーに倒され間桐邸が瓦解と化したあの晩、気絶していた間桐慎二その人であった。その手には魔導書らしきものが握られており、睨み返してきたキャスターに怯む。

 

 

「どうした不満か?ならばその一回限りの令呪を使い私を従わせるといい。その瞬間、貴様のマスター権は剥奪されるがな」

 

「ま、待て!悪かった、僕が悪かったから落ち着いてくれ!」

 

 

怖じ気付く己の、仮初のマスターにふんっと鼻を鳴らしたキャスターは空を仰ぐ。あの時、完全に崩壊する直前で瓦解して行く固有結界の外に出ていなければこの男もろとも焼滅していた。あの弓兵、次会った時には必ず・・・!

 

 

「貴様より、あの男の方が私を導く軍師(マスター)としては優秀だったな。まったく、何を考えて貴重な令呪を使ってまで貴様なんぞにその偽臣の書とやらを与えたのか、理解ができぬ」

 

「そりゃ僕が天才だったからだろう!凡人の自分より、僕の方が優秀だと気付いたからさ!あの髭も、いい事をしてくれたよ!アハハハハハハハハッ!・・・次はしくじるなよ、今度は確実に仕留めるんだ。あの恩知らずな駄妹も、正義の味方気取りの馬鹿も・・・僕を見もしなかったあの女も、遠坂だって・・・僕の足元にも及ばないって事を証明するんだ、キャスター!」

 

 

不気味に笑う仮初のマスターに、やれやれと言わんばかりに溜め息を吐くキャスター。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、不可視の宝具を身に着け上空から見下ろしていた男がいた。ギルガメッシュである。

 

 

「【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】だったか・・・これが無ければ(オレ)も危うかったかもしれぬ。アーチャーめ、あれ程の物を有すか。恐ろしき物よな、雑種風情にしては。…しかしキャスターのマスターめ。この(オレ)でもその存在を知ることができぬとは・・・一体何者だ?」

 

 

険しい表情を浮かべそう呟くギルガメッシュ。その視線は遠坂凛と別れ士郎と桜、バーサーカーとライダーと共に帰路に着くクロナへと動き、その表情は見守る物となった。

 

 

「クロナよ、よくぞ耐えた。アーチャーのマスターに指示を送り、その宝具を引き摺り出して窮地を脱するとは中々の策だったぞ。帰ったら褒めてやらねばな」

 

 

そう笑うとヴィマーナを旋回させ、黄金の王もまた帰路に着くのだった。




まさかの主人公、見せ場なし。魔力切れと黒鍵切れなんだからしょうがない。
アーチャーのトンデモ宝具「空の女王」と「最終兵器・空ノ落し物」のおかげで、とりあえずはキャスターを退けました。そしてキャスターの(仮初の)マスターが間桐慎二だと判明。真のマスターはギルガメッシュでも知りえない存在との事ですが・・・?

キャスターの宝具の弱点ですが、気付いた人いるかな・・・?ヒントは、固有結界の中でのキャスターの戦闘方法です。これでだいぶ分かると思う。詳細は、キャスターとの決着編で。

次回は噂のキャスターの真のマスター登場。と言っても型月のキャラじゃないです、はい。神父も動きます。
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#14:「M」との邂逅、知るべき顛末

今回は休日編です。あの喫茶店が登場、そして謎の男との邂逅。一万字越えと無駄に長い癖して戦闘は全くありません。しかしクロナのターニングポイントとも言える話で、いくつか謎が判明します。

楽しんでいただけると幸いです。


その日、六つのマスターとサーヴァントが力を合わせキャスターの固有結界を打ち破ったその翌日。

 

マスター達の間では、言葉を介さなくても休戦条約がなされていた。全員、それぞれ深手を負っているからである。アインツベルンは怪我こそないが、セイバーは消耗しているためここで馬鹿な真似は起こさないだろう。

つまり、今日は気兼ねなく外を出歩ける訳だ。学校が終わり、私と士郎は帰路に着いていた。しかしその足は新都の方に向いている。アサシンの手掛かりを少しでも得る為だ。桜は部活があるため、まだ学校だ。飯食ってもう既に回復したライダーが付いているから問題ないだろう。あのスキル羨ましい。

 

問題なのは、未だにアーチャーが回復していない士郎と、六天金剛にもなれない程弱体化しているバーサーカーを霊体化して連れている私の二人だ。黒鍵は補充して置いたし、マフラーも洗濯ついでに換えて来たので不測の事態でも何とかなるはずだ。

 

 

「なあクロ姉、アサシンの本拠地を探しているんだよな?こんな人の多い場所にあるのか?」

 

「・・・さあ?でも、前回の聖杯戦争だと馬鹿なのか高級ホテルの最上階を買い占めて工房にして迎え撃とうとしていたマスターもいるみたいだし。念のためだよ、念のため。…凛やアインツベルン、キャスターはともかく、本拠地が分かってないのはあのアサシン陣営に関しては何も分かってないからね」

 

「なるほど・・・実質休戦条約がなされている今がチャンスって事か」

 

「うん。凛もあっちはあっちで深山町の方を調べてもらっているから、私達はこっちね」

 

 

まあ今のところ、見つかる気なんて全くしないのだが。そこは黙って置こう。でも私の魔術に対する嫌悪感と、何故か士郎が持っている世界の異常に敏感な五感があるから、アサシン達の仕込んだ呪刻・・・いわゆる結界の基点なら見付ける事ができるだろうし、そこまで勝算は薄くない。

 

 

「そういえばクロ姉、少し聞きたいんだけどさ。宝具がゲームで言う超必殺技なのは分かったけどさ、一体どういう物なんだ?」

 

「そう言えばまだ説明してなかったね。簡単に言えば、英雄のシンボルたる武器でサーヴァントの奥の手の事だよ」

 

「英雄のシンボル?」

 

「うん。まあ武器だけじゃないけどね。技とか、在り方とか、後は……伝説その物とか。いくら英雄でも自分の力だけで偉業を成し遂げた訳じゃない。英雄達の武勇伝には必ず切札となったアイテムが登場するでしょ?」

 

「例えばジークフリートがドラゴンを倒す時に使ったバルムンクとかか?つまり宝具は英雄を英雄たらしめる神秘の込められたアイテムって訳か」

 

「そう言うこと。理解が早くて助かるよ」

 

 

アーチャーのアレはアイテムじゃなくて、彼女自身が宝具だったけどね。

 

 

「英霊はサーヴァントとして召喚された今でも宝具を所有している、場合によっては失われた宝具でもね。セイバー・・・勇者リンクのマスターソードがそれだよ。そしてその強さはサーヴァント自身の強さとは全く関係が無い。サーヴァント全員を圧倒できるキャスターを退けられたのは、宝具のぶつけ合いになれば純粋にその力が強い方が勝つから。あの場合は、相性もあったんだろうけどね」

 

「でもさクロ姉。そんなに宝具ってのが強力なら、何で最初から使わなかったんだ?」

 

「士郎は馬鹿なの?宝具を使用した後に魔力、枯渇したでしょ。魔力消費が少ない宝具もあるけど、基本的には魔力を大量に消費して発動する。もしくは条件を整えないと使えない宝具もある。そこまでして発動したのに相手の宝具の方が強かったらそれで一巻の終わりだし」

 

「・・・あーなるほど、あんなの使って魔力切れしたところを狙われたら確かに負けてしまうな」

 

 

魔力切れして倒れた自分と、今も消えているアーチャーを思い出したのか苦い顔をする士郎。こんな序盤に宝具を使って幸運だったのかもね。

 

 

「うん。でもアーチャーの宝具なら魔力切れしか心配しなくていいだろうけどね。それに、宝具は英雄と対になる物。宝具を使うのは、サーヴァントの正体を自ら明かす様な物。正体がばれたら有名な伝説であるほど弱点もばれると言う事。例えば凛のランサーだと宝具の名前は「ゲイボルク」この名前に聞き覚えは?」

 

「ああ、ある。魔槍ゲイボルク。ひとたび放てば必ず敵の心臓を貫く呪いの槍の事だよな?確かケルトの英雄、光の御子クーフーリンが・・・あっ」

 

「そう。それがランサーの真名。…ちなみにセイバーが私のバーサーカーに対して戦闘序盤で宝具を使って来たのは、私が彼の事を「勇者リンク」だと見破ったからだと思う」

 

「勇者リンク?「ゼルダの伝説」のリンクか?」

 

「どのリンクかは分からないけどね」

 

 

あの伝説は、シリーズもののゲームになるぐらい勇者が多すぎる。ある意味正体バレしても一番問題ない英霊かもしれない。未来の英霊と違ってちゃんと知名度補正も付くし。

 

 

「・・・そうか、アーチャーとライダーはそもそも真名バレする心配が無いんだな」

 

「その代わり知名度補正が無いから殆んど本来の力で挑まないと行けないけどね。…アーチャーはイカロスだから、その知名度補正もいくらか得ているみたいだけど」

 

 

そうでもないと三流マスターの士郎が喚んだサーヴァントがあそこまでステータスが高い訳がない。敏捷とか可笑しいからねアレ。最速のランサーすら軽く超えてたからね。

 

 

「クロ姉のバーサーカーは一体どんな英雄なんだ?」

 

「・・・たった一人の娘のためだけに、神様だって殴り倒してしまうような「悪」だよ」

 

「・・・悪、なのか?」

 

「悪にもいろんな形があるって事」

 

 

正義の味方の士郎からしたら、受け入れがたいかもしれないけどね。…世界を救う大義を成すために必要悪で在ろうとした七聖天筆頭デウスと、そのやり方が気に喰わなくて娘の為だけに神をも殴り倒してしまったバーサーカー・・・アスラ。さあ、どっちが正義で悪でしょう?・・・士郎がなろうとしている正義の味方は前者の方。でも、後者だって単純な悪とは言い切れない。正義の味方って、多分そう言う事なんだと思う。

 

と、そんな事を話しながらとある喫茶店の前を通り過ぎようとした時だった、言い様の無い嫌悪感を感じたのは。この感じは・・・

 

 

「・・・魔術?」

 

「本当か、クロ姉?」

 

「・・・うん。ここから・・・」

 

 

間違いなく、この喫茶店からだ。名前は・・・喫茶アーネンエルベ?ドイツ語で確か「遺産」だっけ。中を覗いてみると、何かナマモノがせわしなく接客していた。…どう見ても魔術的何かだね。てかよく見たらライダーがいるんですが。あ、士郎も気付いた。

 

 

「ライダー!こんなところで何しているんだお前!?」

 

「げっ、士郎!?それにクロナまで・・・!?」

 

「・・・桜は?」

 

 

乗り込んで詰め寄る士郎に続き、入店しながらそう問いかける。…ライダーが護衛しているから安心して来たんだけどどうしてくれるんだコラッ。

 

 

「あ、それなら大丈夫。サモエド仮面に護衛任せたから。この間ここを見付けて気に入ったからまた来ただけよ、うん」

 

『ライダー・・・そりゃ怒られるよ』

 

「だったらエルメスが止めればよかったのに」

 

『ぐう』

 

 

ぐうの音しか出せないとは、この相棒駄目である。しかしあの変態に任せたのか、アレ警察に捕まりそうなんだけど大丈夫か?

 

 

「大丈夫だ、問題ない。変質者だけど変質者過ぎて捕まえられないから」

 

「よくそんなのに自分のマスターを任せられたね・・・」

 

 

 

 

 

ちょうどその頃。

 

 

「し、静さん?大丈夫ですか、重くないですか?」

 

「気にしなくていい。君や木乃さんより力持ちだからね」

 

 

何か白い学生服を身に纏った長身爽やかイケメンに荷物持ちしてもらいながら、商店街で買い物をしている桜の姿があったらしい。誰だお前。

 

 

 

 

 

 

「・・・で、ここは何なの?」

 

「さあ?ただ居心地がいいんだよね、ここ。ランサーもいるよ」

 

「んなっ!?」

 

 

驚く士郎に釣られて奥の方を見てみると、何か働いている青髪サーヴァントの姿が。さっき見たナマモノも、何か黒いのとか色々バリエーションがある。…よく見たらセイバーとアインツベルンもいるや。何だここ。

 

 

「ここはアーネンエルベ。万華鏡が建造に関わった、世界の特異点が終結した場所だ」

 

「?」

 

 

聞き覚えの無い声に説明され、振り向く。その声の主は入り口近くの席に一人で座っていた、白衣を身に着けた茶髪と立派な髭が特徴の男だった。…本当に誰だ?男は口に付けていたコーヒーを机に置くと楽しげに笑みを浮かべる。今この時を、待ち望んでいたかのように。ライダーは興味無さそうにもぐもぐ、カレーうどんを食べているので私と士郎はライダーから彼へと視線を動かすと男は満足気に控えめに拍手した。

 

 

「よう、バーサーカーのマスター、衛宮・・・いや、言峰黒名。この世界では初めましてだな、俺はDr.『M』。訳あって本名は名乗れない。で、お前等が昨夜退けたキャスターのマスターだ」

 

「「なっ!?」」

 

 

いきなり自分がマスターだと名乗って来たこの男・・・『M』の言葉に、私は思わず剣身を出す前の黒鍵を取り出し、士郎も構えた。…何で空手の構えなのかは聞かないで置こう。なんのつもりだコイツ。今ここで殺されるとは思わないのか。その割に何も構えていないのが気になる。

 

 

「そう構えるな。俺は戦うつもりなんてこれっぽっちも無い。特に言峰黒名、お前の魔術は俺の天敵だからな。それに、今はキャスターを所持していねーよ。アレは人にやった」

 

「は?」

 

 

思わず呆ける。いや、聖杯を狙う魔術師だったら必要不可欠な己のサーヴァントを人にやった?馬鹿なの?

 

 

「言って置くが、俺はお前等の数十倍は賢いぞ。馬鹿だと思われるのは心外だ」

 

 

コイツ・・・私の心の中を・・・!?

 

 

「・・・クロ姉、完全に見下した目をしていたぞ」

 

 

あ、なるほど。私、基本的に魔術師は愚かとか思ってるからね、そんな思いが表情に出ても仕方ないね。で、この魔術師様は何でキャスターを人にやったんだ?

 

 

「そりゃ、俺は聖杯戦争を勝ち残る気なんて全然無いからだ。そもそも聖杯に選ばれても居ないし、普通に部外者だからな」

 

「選ばれてない?じゃあ、士郎みたく偶然召喚して巻き込まれたの?」

 

「それも違う。自分から巻き込まれてやった。観察したい事があったからな。なに、簡単だ。まずはまだサーヴァントも召喚していない隙だらけのマスターを一人見定める。後は不意打ちで腕を奪って令呪を俺に移植し持参した触媒を使って召喚。アー・シン・ハンと言う稀代の悪を前にしたら正義の味方様はどう動くか、ってな」

 

 

そしたらまさか力づくで固有結界を破壊するんだ、久々にゾクゾクしたぜ。などと笑うこの男。それで確信する、コイツも他の魔術師と変わらない、とんでもない外道だ。その犠牲になったマスターは魔術師だから別に興味もないけど、それでもキャスターのせいで何人か魂食いの被害に遭った一般人がいると私は知っている。だから許せなかった。でも、ここで感情的になってもしょうがない。この男の目的が分からないからだ。

 

 

「・・・観察したい事ってなに?」

 

「【この世全ての悪(アンリマユ)】」

 

「は?」

 

「言峰黒名、お前はこの名前に聞き覚えがある、そうだな?」

 

 

呆ける士郎、狼狽える私。そんな様子に満足気な『M』。な、何で・・・その事を、私が知っていると・・・?私があの大火事の際に「彼」と接触したことを知っているのは、私自身と「彼」を除いて王様と父さんだけだ。それ以外に知りえるはずがない、はずなのだ。それなのにこの男はさも当然とばかりにその事を・・・

 

 

「・・・士郎。ライダーと一緒にそこで待ってて。私は彼と外で話がある」

 

「あ、ああ・・・気を付けろよ、クロ姉」

 

 

そう言ってライダーの元に向かう士郎。私は黒鍵の刃を出し、『M』の首元に突きつけて無表情で睨みつける。

 

 

「・・・外で話をしよう」

 

「いい反応だ。いいぜ、乗ってやる」

 

 

今にも殺されそうだと言うのに、男は満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの喫茶店・・・アーネンエルベから離れ、私と『M』が訪れたのは私がバーサーカーを召喚したあの公園。…いや、正確には10年前、あの孔から泥が落ちて発生した火事の大元である場所だ。

 

 

「で、何でその事を知っている?」

 

「俺の知っているお前もそうだからだ。しっかしまあ・・・衛宮切嗣ではなく言峰綺礼に育てられた方がまだ真面ってどういう皮肉だ。英雄王の影響は計り知れないと言う事か」

 

「王様の事まで・・・」

 

 

・・・コイツの言っている事はさっぱり分からない。私は切嗣さんに育てられた事は一度もないし、今の自分が真面とも思えない。それに、彼の知っている「私」の意味も分からない。そんな意を込めて睨みつけているとそれに気付いたのか、『M』はいい質問だと言わんばかりににやりと笑う。

 

 

「まず大前提として言って置く。俺は魔術師じゃない。その正反対に位置する者、まあ科学者だな。むしろ俺は魔術を嫌っている。根源何て科学でどうにかなるぞ、地球の記憶に接続する事だってできるんだからな。…と言っても俺の本業は医者なんだが・・・科学者は趣味の様な物だ」

 

 

はい?いや、科学者が聖杯戦争どころか魔術師を知る事も無いはず。でも魔術を嫌っているのか・・・あれ、何か仲良くなれそう。

 

 

「で、だ。俺は面白い物が好きだ。その中でも「平行世界」って言うのは愉しい物でな?俺の趣味は世界間を行き来し、接触することなんだ」

 

 

・・・いきなり話が飛躍したぞオイ。つまりなんですか、目の前の男は平行世界から来たと?ふざけんない。

 

 

「別にふざけてない。万華鏡の爺がいるだろう。それにサーヴァントと言う存在がそれを証明している。アーサー王がいい例だ。アレはいくつものバリエーションがあるからな」

 

「なんのこと?」

 

「こっちの話だ。お前だって関わるかもしれない聖杯探索の、な」

 

 

・・・聖杯探索って円卓の騎士ガラハッドの事かね?まあとりあえず置いておこう。

 

 

「・・・その平行世界があるとして、その世界の私はどんなだったの?」

 

「ほう、聞きたいか。だったら聞いて絶望するがいいぜ。その世界のお前の名は、衛宮黒名。…大火災を一人で生き残り、言峰綺礼より先に衛宮切嗣が引き取った場合のお前だ」

 

 

・・・つまり、本当に士郎の姉な私と言う事か。なるほど、確かに「ありえたかもしれない」私だ。何それ羨ましい。

 

 

「・・・なんか勘違いしている様だがな、はっきり言って最悪の人生を送ったお前だぞ」

 

「・・・どういう事?」

 

 

そう言えばさっきも言峰綺礼の方がマシだって言ってたっけ。

 

 

「親が代わったってお前だ。独自に調べ、第四次聖杯戦争の事を知り得て衛宮切嗣に師事したのさ。…魔術師殺しとして、な。あの正義の味方はお前の確固過ぎる意志に折れて弟子としたんだが・・・それが不味かった」

 

「何で?」

 

「考えてみろ。無理矢理な方法で固有時制御の魔術刻印を受け継ぎ、奴の持っていた銃器類も受け継ぎ、魔術師殺しとしての技術も受け継ぎ、「起源弾」まで譲り受けたお前だぞ?それに加えてお前も持つ改造魔術だ、・・・史上最凶の魔術使いが誕生するに決まっているだろ」

 

 

・・・うわぁ。自分の事なんだろうけど、これは酷い。てかエグイ。私にとっての、王様が見せた宝具知識みたいなものか。私は疑似宝具を使えるけど、その私は完全に「魔術師殺し」として機能している。魔術師に対する怒りも助長しているからなるほど、それは最凶だ。

私は対サーヴァント戦に特化しているけど、その私は大本命の魔術師相手に真価を発揮する訳だ。士郎の姉として名乗れるだけでなく、ホント羨ましいね。

 

 

「・・・問題はここからだ。第五次聖杯戦争が起こった。面白い事にこの世界のとは全く違う。衛宮士郎はアーサー王のセイバーを、遠坂凛は無銘のアーチャーを、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはヘラクレスのバーサーカーを、間桐桜が召喚したゴルゴンのライダーを間桐慎二が、その他にもマスターを裏切ったコルキスの王女のキャスターが佐々木小次郎のアサシンを召喚したり、今回の俺みたいにとあるマスターを騙し討ちした言峰綺礼がクーフーリンのランサーを使役し裏から聖杯戦争を引っ掻き回した」

 

「うん。父さんならやりかねないね」

 

 

というか色々規格外な聖杯戦争だね。アサシンが佐々木小次郎みたいな実在したかどうかも分からない英霊って。…そう言えばあのアサシンもハサン・サーバッハじゃないだろうけど誰なんだろう?・・・というかランサー、父さんと王様に従わされたかもしれないのか・・・何それ哀れ。

 

 

「うん?・・・待って、私は?」

 

「そう、お前だ。衛宮黒名はな、衛宮士郎を巻き込むことなく聖杯戦争を終わらせようとして、自分の「怒り」に賛同してくれる英霊を自分で捜し上げ召喚した。それが本来ありえない8番目のサーヴァント。復讐者(アヴェンジャー)、お前がバーサーカーとして呼び出したアスラだ」

 

 

・・・やっぱり、その世界でも私はアスラを呼び出したんだ。そりゃそうだ、「怒り」だけで神様を殴り飛ばしたのだ、魔術師に対する怒りで戦う私にぴったりなのは彼しかいない。最初はジャンヌダルクでもいいかと思ったけど王様曰くアレは「裁定者(ルーラー)」だから怒りの力は見込めないらしい。あんな末路なんだから激怒していても可笑しくないと思うんだけどなぁ。

 

 

「そりゃお前達は鬼神の如きでな。アーサー王を退けるばかりかヘラクレスとまで互角に渡り合い、聖杯を奪おうと乱入して来た英雄王でさえも、お前一人で倒してしまった」

 

「は?私が?王様を一人で?何の冗談?」

 

 

いやいや、いくらパワーアップしていてもあの王様に勝つなんて無理無理・・・てか王様が殺す気だったら私何回死んでいた事か。バーサーカーだったら拮抗するだろうけど、私程度じゃ・・・

 

 

「俺はつまらん冗談は言わない主義だ。元々お前の魔術はな、英雄王にとってはアンチでしかない。確かに一度は負けたがな、お前は英雄王に対する執念からとある英霊と融合してまで、倒してしまった。しかも完封だ、感服するしか無かったさ」

 

「・・・英霊と融合?それってまさか・・・」

 

 

魔導の名門、アニムスフィア家で研究されているデミ・サーヴァントの事・・・?いや、まさかね・・・

 

 

「多分それだな。それにだ、お前の宝具と言えるか分からんアレは・・・鬼畜過ぎて、アレは多分ヘラクレスか佐々木小次郎でもないと打破できないぞ」

 

 

溜め息を吐く『M』。失礼な、アーサー王や英雄王に勝てるなんてそんなに強いとかうぬぼれてないぞ私は。てか宝具持てるの私、何それ楽しみ。

 

 

「で、だ。言峰綺礼も殺し、間桐臓硯も殺し、アインツベルンを殺し・・・最後に立ち塞がった衛宮士郎を、打ち倒してまで手に入れた聖杯で衛宮黒名は何を願ったと思う?」

 

 

・・・ちょっと待て。私が衛宮士郎を倒す?・・・殺すじゃないからいいけど、いやそうじゃない。そんな未来があってたまるか。

 

 

「お?不服の様だな?残念ながらお前の本質は元来、衛宮士郎の天敵なんだよ。つまり「悪」だ。だが衛宮士郎は、あくまで「家族」として止める事を選んだようだが・・・甘い男だ、だから執念を持った相手に敗れる。元々相性も最悪だったが…っと話が逸れたな。

聖杯を得た衛宮黒名が願ったのはな、「自分の事しか考えていない魔術師を全員この世から消してくれ」って言う聖杯自身の存在意義も失わせかねない物だ」

 

 

なるほど、聖杯の起こす悲劇を失くすために破壊するのではなく、恨む対象を消してしまえばいいのか。そうすればすっきりするね。それに「自分の事しか考えていない」って部分で士郎とかと分け隔てている。なにそれその世界の私すげー。

 

 

「だが、どうなったと思う?」

 

「何が?」

 

「【この世全ての悪(アンリマユ)】に汚染されている聖杯だぞ、真面に機能する訳がないだろう」

 

「うん、そうだね」

 

 

その事は父さんから聞いている。とあるマスターが「戦いの邪魔となる住民が消えればいい」と願ったせいで、住民の命を奪ったあの冬木大火災が起きた。つまり、【この世全ての悪(アンリマユ)】に汚染された聖杯は「殺す」事でしか願いを叶えられない訳だ。私はそれを知って、二度と悲劇を起こさないために聖杯を破壊しようと・・・あれ?

 

 

「・・・私は父さんから聖杯が汚染されているって知っていたけど、その事を知らなかった衛宮黒名は・・・?」

 

「ああ残念、ソイツは違う。衛宮黒名はな、衛宮切嗣から第四次聖杯戦争の顛末を聞いて「殺す」事でしか願いを叶えられないと言う事をちゃんと理解した上で願ったんだ。そりゃそうだろう、魔術師を「殺せば」叶う願いだ。だがな?それでも汚染された聖杯は歪んだ形でしか叶えられない。文字通り魔術師共を殺しちまったよ、周りの人間ごと(・・・・・・・)な」

 

「なっ・・・!?」

 

 

つまり、魔術師だけを殺すはずが、関係ない一般人までもを殺戮してしまったと言う事・・・!?そんな馬鹿な事が・・・

 

 

「ありえるんだな、これが。おかげで人類は三分の一まで減ってしまった。その事に衛宮黒名は絶望し、世界中の人間から「この世全ての悪(アンリマユ)」の役割を押し付けられ、とある正義の味方の手で断罪された。それが、俺の知るお前の顛末だ」

 

「そんな・・・」

 

 

私の願い・・・いや復讐心は、世界を滅ぼすのか。そして私自身が【この世全ての悪(アンリマユ)】に・・・いや、別にそれは問題ではない。私は自分のこの怒りが、正義なんて物じゃないのは分かってる。むしろ私こそが士郎が嫌う「悪」だって事も、ちゃんと理解している。

だって魔術師を殺すのは当然の行いだ、何て馬鹿な認識をしているのだ。人を殺して当然だなんてそんなの、紛う事無き「悪」ではないか。…話は分かった。それでこの男は、何がしたいんだ?

 

 

「俺がわざわざこの事を話したのはだ、お前が別の面白い道を辿ると確信しているからだ。何せアスラとクーフーリン以外、見事に役者(サーヴァント)が違うからな。しかも全員、俺が知る限りヤバい奴ばかりだ。さらに言えばお前が言峰綺礼に引き取られ、英雄王の教育も受けている。クーフーリンが遠坂凛の元にいるってのもいいな、月の聖杯戦争を思い出す」

 

「・・・私がその面白い道を辿るとして、何が目的なの?」

 

「何も?」

 

 

は?ふざけるな、ここまで話して置いて「面白い物が見れそうだから」で済ませる気か。

 

 

「俺はただ、面白い物が見れればそれでいい。衛宮黒名と同じように全ての魔術師を殺したければそうしろ、それもまた面白い道だ。何なら当初の目的通り聖杯を壊したっていい、どうなるのか見物だ。…まあ俺も少しは暗躍させてもらうがね、見物だけはつまらんからな」

 

「・・・じゃあ今ここで貴方を殺しても?」

 

「殺せるとは思えないから別にいいが、俺は魔術師じゃないぞ?クククッ・・・」

 

「・・・最後に聞かせて。何で、その世界で士郎はアーサー王を召喚できたの?私の知る限り、第四次聖杯戦争にも参加したサーヴァントが、続けて召喚されるなんてそう有り得ないはず。王様みたいに【この世全ての悪(アンリマユ)】の泥を取り込んで受肉した訳じゃあるまいし」

 

 

その質問に、『M』は一瞬呆けたかと思うと何が可笑しいのかクククッと声を抑えて笑い出した。な、なに?私、何か変な事でも言った?

 

 

「クックック・・・ああそうか、知らないのか。いいぜ、教えてやる。円卓、知ってるな?」

 

「・・・その欠片さえあれば、必ず円卓の騎士の誰かを召喚できるって言う聖遺物?」

 

「ああそうだ。それと同じくな、アーサー王を必ず召喚できる聖遺物が存在するんだ」

 

「・・・アーサー王を必ず召喚できる?」

 

 

何それ、でも士郎はそんなもの持っていないはずだけど・・・

 

 

「衛宮切嗣はな、大火災の際に見付けた衛宮士郎を延命させるべくその聖遺物・・・いや、アインツベルンが発掘した現存する宝具【全て遠き理想郷(アヴァロン)】を埋め込んだんだ。そう、アーサー王の鞘だ」

 

「!?」

 

 

・・・なるほど、私は「彼」の呼びかけを受け入れたから生き残れたけど、士郎はそう言う経緯があったのか。…あれ?だけど、今回士郎が召喚したのは・・・

 

 

「それが何をトチ狂ったのか、召喚されたのはシナプスのエンジェロイド、イカロスだ。俺にもさっぱり分からん、俺の知る第五次聖杯戦争とは違い過ぎるからな」

 

「さいですか・・・」

 

 

まあ私としましては、騎士道精神バリバリの騎士王よりマスターに従順な彼女の方が助かるんだけどね。そんな事を思いながら、私はふと士郎が見えるアーネンエルベの窓に、「強化」した視線をやった。…うん、ライダーは食べ過ぎだと思うな。

 

 

「・・・もしかしたら召喚したのは奴じゃないのかもな」

 

「え?」

 

 

振り向くと、既に『M』と名乗った白衣の男は消えていた。…何だったのだろうか。でも、一つだけは分かる。…私は、一般人の犠牲だけは出したくない。その為に聖杯を破壊するって決めたんだ。…「衛宮黒名」とは同じ顛末を辿らない、そう決意した。

…あ、そう言えばアサシン陣営の本拠地探しの途中だった。士郎とついでにライダーも回収して早く終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこれは私が知らない場所での話。

 

 

「で、神父様は何の様かな?」

 

「聖杯戦争の監督役としてキャスターのマスター、Dr.『M』に聞きたいことがある。行方不明の私の友人、バゼット・フラガ・マクレミッツの事について知っている事を白状してもらおう」

 

 

珍しく、黒鍵を装備して問いかける父さんに向けて、白衣の男は待ってましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。




と言う訳で謎の人物にしてキャスターの真のマスター、Dr.『M』登場。その正体は放仮ごワールドではお馴染みのあの男。平行世界からやって来たと自称する彼が語ったのは、平行世界のクロナ「衛宮黒名」の顛末。
そして浮上する士郎に埋め込まれたアヴァロンの謎とアーチャーの謎、最後の綺礼との会話と、謎ばかり残して去って行きました。

そして初登場、型月界を繋ぐ喫茶店「アーネンエルベ」。ナマモノとランサーが働いてます。ライダーは聖杯戦争が始まる直前、ここを見付けて気に入りました。イリヤとセイバーは何故いたのかは謎。永遠に謎。

「言峰」クロナの顛末はどうなるのでしょうか、育てた父親二名がアレだもんなぁ・・・次回は『M』VS綺礼、そしてアサシンの本拠地が明らかに・・・?
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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#15:記憶よ、輝ける銀腕となれ

お待たせしました。今回は言峰VS『M』、さらにギルガメッシュがついに動きます。そろそろアスラを暴れさせたいなぁ…

あ、イシュタ凛さんGETしました。ジャンヌ、沖田さん、ナイチンゲール、オリオンに次ぐ☆5なので歓喜したのは言うまでもない。七章が楽しみですね。


※一応注意。今回の話はFate/GrandOrder第六章のネタバレが在ります。それでもよろしければご覧ください。
楽しんでいただけると幸いです。


路地裏で睨む合うのは、黒と白。片やカソックを身に纏い黒鍵を手にし八極拳の構えを取る死んだ目が特徴の男、言峰綺礼。相対するのは白衣と黒い手袋を身に纏い自然体で佇む好奇心しか感じ取れない目と髭が特徴の男、Dr.『M』。聖杯戦争の監督役と、キャスターのマスター。本来ならば戦うはずもない立場の者達だ。

 

 

「来いよ。知りたいなら、吐かせてみろ」

 

「・・・いいだろう」

 

 

瞬間、黒鍵を投擲し突進する綺礼。『M』は黒鍵を右腕で上方に弾くと、懐に飛び込んできた綺礼に左腕でボディブローを叩き込み、逆に殴り飛ばしてしまう。「強化」した上に元々魔術防御がなされているカソックでダメージを最小限に受けた綺礼は壁を蹴り上空に上がるとさらに取り出した黒鍵六本を雨の様に投下。右腕と左腕で防御する『M』の真正面に着地すると、ガラ空きの腹部に向けて拳を叩き込んだ。

 

 

「がっ!?」

 

「・・・その程度か」

 

 

さらに足に蹴りを叩き込んで体勢を崩し、続けざまにアッパー。吹き飛び、仰向けに倒れ込むも血を少量吐きながら、それでも立ち上がり不敵に笑む『M』。その様子に狂気を感じた綺礼は後ずさる。

 

 

「・・・お前は一体何なのだ?」

 

「なぁに・・・お前と同じ、ただの狂人だよ!」

 

「っ・・・!?」

 

 

魔術を使ったのか人間とは思えない、もはやロケットとも言うべき高速で突進してきた『M』の拳を、辛うじて右腕で受け止める綺礼。しかしいとも簡単にカソックの防御を貫いて叩き折り、折られた右腕に顔をしかめた神父はバックステップで後退。

 

 

「おっ、いい物があるじゃねーか。ここからは俺の独壇場だァ!」

 

「なに・・・?」

 

 

するとその様子に満足したのかコキコキと首を鳴らした『M』は、その辺に転がっていた鉄パイプを手に取るとにやりと笑い、カラカラと先端をアスファルトに引き摺って音を立てながら綺礼に迫った。

 

 

「どうしたァ!やっぱり全盛期より弱体化している様だなァ!」

 

「グゥ・・・ッ!」

 

 

連撃。何の変哲もない、綺礼の目をもってしても魔術を掛けたとは到底思えない鉄パイプの打撃が、カソックの防御を貫いて防御の構えを取る綺礼にダメージを与えて行く。有り得ないその状態に疑問が浮かび上がり、何もできず押されて行く綺礼。肉弾戦で押される事など、10年前の衛宮切嗣との決戦以来。

 

 

「・・・そうか、私も老いたな」

 

 

その記憶を引き出した綺礼はフッと笑みを浮かべると折れた右腕を思いっきりスイングして鉄パイプを弾き飛ばしたばかりかそのまま『M』の顔面に遠心力を増した拳を打ち込み、その一瞬の隙を突いて肉薄。左拳を突き出し、彼独自の人体破壊術である、渾身の八極拳を叩き込んだ。

 

 

「・・・全盛期の拳に比べたら全然だな、ククッ」

 

「治癒魔術・・・?!」

 

 

しかし内蔵が破壊されたはずの『M』はビクともせず、笑みを浮かべると共に頭突きで距離を放すと鉄パイプをフルスイング。自身が得意とする治癒魔術で回復されたと考えた綺礼は、それを折れた右腕で防御するもミシミシと嫌な音が鳴り、次の瞬間大きく吹き飛ばされていた。刃が無い状態の黒鍵をばら撒き、崩れ落ちる綺礼。もう右腕は完全に使い物にならず、頭からも血を流している。

 

 

「残念ながら俺は特別頑丈なんだ、魔術なんか使ってもいねーよ」

 

「馬鹿な・・・魔術も使わずに、どうして耐えれる・・・?」

 

「生憎と、俺は全盛期のアンタの拳を受けた事があってな。あの時は死ぬかと思った、だから自分の肉体を改造したんだ。俺は魔術師じゃない、科学者だからな」

 

「科学者・・・だと・・・?」

 

 

ある意味最も未知の敵。綺礼は立つこともできず蹲り、『M』はそれを見下ろしていると左手を突っ込んだ懐から何やら剣の様にXが描かれた大きめのUSBメモリらしき物体を取り出すとボタンを押し、右掌に出現した穴にメモリを挿入。

 

 

『Excalibur!』

 

「せっかくだ、アンタに見せてやるよ」

 

 

するとその右手に魔術回路が浮かび、その手に青と金で彩られた幻想的な美しさを持つ剣が具現化した。それを見て目を見開く綺礼。その剣には、黄金に輝く剣身には、見覚えがあった。忘れるはずもない、仇敵のサーヴァントが所有していた聖剣・・・その名も。

 

 

「【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】・・・いい出来だろ?」

 

「ば、馬鹿な・・・アーサー王以外が、その聖剣を有するなど・・・」

 

「本当の綴りだと【E】で【X】じゃないんだがな、気にするな。しかもこれはな、ただの【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】じゃない。ありとあらゆる可能性を凝縮した、オリジナルの聖剣以上の代物だ。豪華に死ねるんだ、ありがたく思え」

 

 

万事休す。鉄パイプだったらまだ何とか反撃を行なえたかもしれないが、目の前の男が持つのは間違いなく宝具、それも最も有名な聖剣だ。自分が成す術もなく真っ二つにされる未来を幻視してしまう綺礼。振り上げられる聖剣を前に、一矢報いようと『M』に見せないように無事な左手で黒鍵を構え、振り下ろされようとしたその瞬間・・・!

 

 

「我が庭で随分と好き勝手しているな、(オレ)の元マスターに手を出すとはどうやら死にたい様だ。それに、雑種如きが持ってよい剣ではないわ!」

 

「おでまし、だな!」

 

 

真上から襲う黄金の剣を、エクスカリバーを振り上げ斬り飛ばす『M』。弾き飛ばされた剣は綺礼の目の前にコンクリートを破壊しながら突き刺さり、『M』は上空を見上げる。そこにはヴィマーナに搭乗し頬杖をついている、黄金の甲冑を身に着けた人類最古の英雄王が冷たい視線で見下ろしていた。

 

 

「よう、英雄王様。この世界では初めましてだな」

 

「・・・雑種よ、一つ聞かねばならぬことがある。一体何をした?我が慧眼を持ってしても、つい今し方、その剣を手にするまで貴様の存在すら認知できなかった」

 

「そりゃ俺がアンタを拒絶していたからだろ?生憎、俺は誰かの下にいるのが大嫌いでね。アンタに見つからないように言峰黒名に接触するのは骨だったぞ」

 

「・・・よりにもよってクロナにまで手を出すとは・・・そんなに死にたいなら王の手ずから冥土に送ってやろう!」

 

「いいぜ、相手してやるよ。風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 

そう叫ぶと風の鞘を纏い一瞬だけ不可視の剣となった聖剣を両手で振り被り、地面に叩き付ける『M』。

 

 

「なにぃ!?」

 

「ギルガメッシュ!?」

 

 

すると聖剣から解放された風の鞘が渦を巻いて竜巻が発生し、ギルガメッシュをヴィマーナごと巻き込み、自身もそれに乗って、綺礼を残して共に吹き飛ばされて行った。

 

 

 

 

 

 

ギルガメッシュと共に落ちたのは、冬木大橋だった。ギルガメッシュにとっては、10年前とある決着をつけた場所であるそこで、彼は目の前に立つ白衣の男に憤慨していた。

 

 

「ここなら被害を考えずにやれるからな。相手してもらうぜ、英雄王様」

 

「天を仰いで見やるべき(オレ)を地に立たせ、さらには剣を向けるか・・・もはや肉片すら残さぬぞ!」

 

 

ギルガメッシュの背後に展開する、いくつもの黄金の波紋。しかし白衣の男は動じず、聖剣を手に踏み込み跳躍、一気に英雄王との差を詰める。そして放たれる宝具の嵐。道路を削り、柱を抉り、空気の壁まで裂いて襲い来る暴力の渦に、『M』は真っ向から衝突。次々と聖剣で斬り払い、致命傷になる物だけを捌き、傷を受け衝突の勢いに押されながらも徐々に距離を縮めて行く。

剣一本で、人類最古の英雄王の猛攻を防ぐその姿は圧巻の一言。埒が明かないと思ったのか、ギルガメッシュは波紋を『M』をドーム状に囲む様に展開、地面以外の全方向から同時に射出した。

 

 

「いい加減、(オレ)の前から失せろ!雑種ゥ!」

 

「さっきみたいに風王鉄槌(ストライク・エア)じゃ防げないか…ならばっ!」

 

『Bly!』

 

 

エクスカリバーを光の塵にして消し去り、その手にXと書かれたメモリを出すと懐に仕舞い、代わりに取り出したBと書かれた黒紫色のメモリのボタンを押し、掌に突き刺した『M』はぼそっと呟く。

 

 

「―――I am the bone of my Demento.(この身は狂気で出来ている)

Poison is my body,and fire is my blood.(血潮は毒で、心は硝子)

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

Unaware of Satisfaction.(ただの一度も満足はなく)

Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)

He's always alone.(彼の者は常に独り)

There's nothing hollow Hill.(何もない虚ろな丘で)

Have withstood Demento.(狂喜に酔う)

Yet, those hands will never hold anything.(故に、その生涯に意味はなく)

My whole life was.(この体は、)

―――――"BLY・MaximumDrive" (きっと狂気で出来ていた)

 

 

瞬間、『M』の体から妙な圧が発生し、風となって宝具の雨を弾き飛ばした。辺りを破壊しながら散らばる自身の宝具群を見やり、波紋を出現させて回収しながらそれに気付いたのか不服そうに唸る英雄王に、『M』は「してやったり」とでも言いたげな笑みを浮かべた。

 

 

「…なるほどな。俺の眼を逃れた理由はそれか」

 

「ああ。俺の作った宝具の様な物だ。『拒絶』の記憶だ、ありとあらゆるものを拒絶する。今のは俺の魔術回路を起動してそれを媒体に魔術として使用しただけだ。英雄王、アンタに一矢報えて嬉しいよ。前のアンタにはボッコボコにされたからなぁ…良く生きてたな、俺」

 

 

愉しいのか「ククククッ」と不気味に笑う『M』。ギルガメッシュは腕組みしながら眉を吊り上げ、手の傍に出現した波紋から絶対に折れないと言われる名剣「デュランダル」を取り出し、刃を撫でながら睨みつける。

 

 

「合点が行ったぞ。貴様、世界の外から来た異物か。目的はなんだ?(オレ)の所有物たるこの世界に害を成そうと言うのなら、見逃すわけにはいかぬ」

 

「はっ!やれるのか?お前が一瞬見せた本気も、俺の小手先には通じないんだぜ?」

 

「…調子に乗ってくれるなよ?(オレ)宝物(ほうもつ)に手を出した罪は重いぞ!」

 

「っ!」

 

『Excalibur!』

 

 

デュランダルを手に珍しく自分から突進してくる英雄王に、咄嗟に右掌からBのメモリを射出して代わりにXのメモリを挿入した『M』はエクスカリバーを顕現して受け止め、弾き飛ばすがしかし、その重さに手が痺れたのか初めて余裕の笑みが消えた。

 

 

「どうやら剣の扱いならば(オレ)の方に分があるようだな!『拒絶』できるものならするがよい、雑種!」

 

「ちっ!俺は剣士じゃなくて医者なんだよ!拳で魔獣と殴り合える英雄様と一緒にするな!てか馬鹿正直に王の財宝使えよこの阿呆!」

 

(オレ)自ら剣を握ってやってるのだ!ありがたく受けよ!」

 

「ざけんな!」

 

 

エクスカリバーを片手持ちから両手持ちに切り替え、的確にギルガメッシュの剣戟を受け止めて行く『M』は吠えるが、ギルガメッシュの方はまるで玩具を見付けた子供の様に笑いながら攻撃の手を止めず最早災害と言ってもいい剣戟が橋の上で轟音を轟かす。

これが本物の英雄と、自称医者の圧倒的な差。技量も、力も、速度も、魂の質も、例えサーヴァント(分体)の身であってもその差は縮まらない。しかしこの『M』と名乗る医者、そう簡単には沈む男ではない。

 

 

「なら…【無銘勝利剣(ひみつかりばー)】。これで行こうか!」

 

「…む?」

 

 

ギルガメッシュの振り上げ斬撃を受け止めて大きく弾き飛ばされた『M』はエクスカリバーを右手に逆手持ちし、左手を突き出した。すると赤黒い光と共に、左手に顕現したのは赤と黒に彩られているがエクスカリバーと瓜二つの聖剣。眩く金とどす黒い赤。二色の星光を剣身に溜めて逆手持ちし、それを魔力放出の応用で加速。一気にギルガメッシュの懐に潜り込むと自ら加速した二剣を次々に高速で叩き込んでいく。

 

 

「皆には内緒だ!エックスカリバー!」

 

「小賢しい!」

 

 

ギルガメッシュも新たに取り出した、エクスカリバーと対を成す竜殺しの魔剣、グラムとデュランダルで対抗し受け止めて行く。神速と神業。ドドドドドドドドドドドドドッ!と剣がぶつかっただけでは響かないだろう轟音が轟き、彼等を中心にアスファルトが砕け散って行く。そして、

 

 

ガキィン!

 

「なにぃ!?」

 

 

鈍い音と共に、『M』の手に握られた二剣のエクスカリバーが粉々に砕け散った。ありえないことなのか、驚愕する『M』に、好機と見たギルガメッシュは一歩引き、波紋を一つ出現させて槍を一本音速で射出した。

 

 

「糞がっ!」

 

 

それを紙一重で体を捩り避ける『M』。しかしギルガメッシュは二剣をしまい、腕組みして【王の財宝】を複数展開。次々に宝具が放たれ、先程弾いた魔術が使用できないのか逃げに徹する『M』は一直線に顔に向けて飛んで来た黄金の砲弾を右手の裏拳で弾き飛ばした。その様子を見て確信したのか嘲笑するギルガメッシュ。

 

 

「なるほどな。貴様、本質は贋作者(フェイカー)だな?あの聖剣も、地球(ほし)の記憶とやらを使い再現しただけにすぎぬ。先の「拒絶」とやらも常時使用できるものではない。大方、手順があるのだろう?さらに言えば、貴様の体。半分以上は生身ではないな?義手、義足、いやそれ以上か。あの綺礼の拳を受けて立っていられたのも、サーヴァントと真っ向から張り合えたのも、それあっての物。貴様は魔術師ではない、小細工が得意な手品師だな。

しかし、人類最古の英雄王たる(オレ)に数秒でも張り合えるだけ上出来だがな、タネが分かれば手品もつまらぬ物よ」

 

「…初見でそこまで見抜いたのはアンタが初めてだ。ああ、その通りだ。俺の手品は道具を使うからな。どうしても一工程で相手に一歩劣る。ちなみに肉体は知り合いのマッドサイエンティストに製造してもらい俺が改造を加えた代物だ。さすがに筋力Aには勝てないがな、アンタ程度の筋力になら対抗できる。まさか接近戦を仕掛けて来るとは思わなかったが」

 

「誇れ、貴様を強者と認めての事だ。慢心せず(オレ)自ら相手してやる。だが(オレ)の宝物たるクロナに手を出した罪は赦せぬ、五体満足で帰れると思ってはおるまいな?」

 

 

再び全方向に波紋を設置し、虫けらを見るような目でそう問いかける英雄王に、白衣の男は自嘲気味に笑った。

 

 

「おう、あの女がアンタのお気に入りって気付いた時点からな。覚悟はできてる。さあ、決着を付けようぜ英雄王。…【記憶よ、輝ける銀腕となれ(スイッチオン・アガートラム)】」

 

 

瞬間、文字通り銀色に染まった右腕を構える『M』。ギルガメッシュは取るに足らないと思ったのか、そのまま全方位から【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】を射出。そして。

 

 

「なにぃ!?」

 

「覚えて置けよ英雄王。討っていいのは、討たれる覚悟のある奴だけだ」

 

 

一瞬で、前方の宝具のみを蹴散らして『M』はギルガメッシュの懐に飛び込み、放たれた宝具群が先程まで自分がいた場所に着弾する前に、黄金に輝く魔力で光剣を形成した銀腕の手刀を振り上げた。

 

 

「【一閃せよ、銀の腕(デッドエンド・アガートラム)】!」

 

 

そして鎧を裂き、肉体を大きく斬り裂いた斬撃はそのまま剣圧となって黄金の王を吹き飛ばす。吹き飛ばされた英雄王はすぐに持ちこたえたのか受け身を取り、『M』から20メートル程離れた所で着地。しかしダメージは深刻なのか苦しげに呻いた。

 

 

「どうだ?こいつはエクスカリバーの形の一つだ。この出力に耐えれる様に右腕を改造するのは骨が折れた」

 

「…どうやら(オレ)は貴様を見くびっていた様だ。まさか王の身に傷を付けるとはな。このままでは(オレ)も危うい、ここは潔く退いてやろう。だが分かっておろうな?次遭った時はその命、無い物と思え」

 

「俺だってアンタとは二度と戦いたくねーよ。もちろん、言峰綺礼や言峰黒名・・・アンタのお気に入りにも手は出さねえ。だからって神父の捜しているバゼット・フラガ・マクレミッツの情報を教えるつもりもないからあっちから襲ってきたら返り討ちにするがな」

 

 

なにが可笑しいのか「クククッ」と笑う白衣の男に分かりやすく嫌悪感を顔に出すギルガメッシュ。正直今不意打ちで宝具を撃ち込んだら勝てる気がするが、それはプライドが許さない。この男は真っ向から挑んで勝利せねば気が済まない。

 

 

「綺礼は別にいいが、クロナには二度と手を出すな。あ奴は純粋すぎる節がある、もしアレ以上誑かそう物なら…分かっておろうな?」

 

「はいはい。あっちから接触してこない限りは何もしねーよ。英雄王様の逆鱗には触れないようにするさ」

 

「それなら安心しろ。しっかり(オレ)の逆鱗には触れている」

 

「…そりゃ失敬。じゃあな」

 

 

そう言って橋の縁まで走り、「よっ」と短い掛け声と共に川に飛び降りる『M』。ドボンと水音が聞こえたところから、監視を逃れるために水中に逃げた様だ。

 

 

「…ふん。また(オレ)の目を拒絶したか。あの頭脳、この世界の物でないのが残念でならぬな。…しかしヌァザの神造兵装、アガートラムと来たか。偽物でなければ(オレ)も乖離剣を抜かねばならなかったかもしれぬ。警戒して置いて損は無い、か」

 

 

そう呟くと霊体化し、その場から去るギルガメッシュ。

 

 

 

 

 

数十秒経った頃。男は、白衣を翻して橋の下に捕まっていた手の力のみで跳躍、着地すると一息吐いた。

 

 

「…エクスカリバーを出して川に沈めただけなんだが騙される物だな。さてと、これからどうするか。メディア辺りでもいれば取り入って何時も通り暗躍するんだが…あの皇帝様は下手すりゃ殺されるからなぁ。大人しく帰るとするか。ちっ、つまらん。英雄王と接触したせいで公に動けないのは痛いなこれは」

 

 

 

掌からXのメモリを排出し、それを懐に仕舞って男は帰路に着く。監視の目は多々あるのだが、そのどれも彼を捉えられなかったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、冬木最高の霊地と呼ばれる円蔵山。その中腹に立つ寺院、柳洞寺に続く階段の踊り場に白いマフラーを身に着けた制服姿の少女と、冬だと言うのに薄着を身に着けた巨漢の男が佇んで見上げていた。クロナとバーサーカーである。

 

 

「…まさかと思ったけど、やっぱりここか。集めた魔力を回収するなら龍脈を使うのが都合がいいもんね。どうやって侵入して本拠地にしたのは謎だけど」

 

「…この階段には何もないが、そこら中の木々に奴の仕掛けの跡がある。結界も張ってあるから力ずくで壊してもいいが、こちらもタダじゃ済まないぞ」

 

「まあ真正面から攻め込んでもいいんだけど…確か無関係の一般修行僧が50人ぐらいいるって聞いてるし、生徒会長の実家でもあるから暴れる訳にも行かない。面倒な所に本拠地を建ててくれたよ、アサシン陣営」

 

 

凛の情報からここだと突き止めたはいいが、何もできない。そんな状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「問おう、君が私のマスターか」

 

 

そして、有り得ない第八のサーヴァントが現れた。




今回一番苦労したのはFate特有のなんちゃって英語。クロナの詠唱は基本そのままなので、本気で苦労しました。DEMENTOって名作ゲームを見付けられたのはいい収穫。

しかし鉄パイプで言峰を圧倒して、その拳を受けたのに立っていて、聖剣を使いこなし、英雄王の慧眼さえも拒絶し、王の財宝を真面に受けず、さらには英雄王と互角の勝負を繰り広げたばかりか重傷を負わせるこの男、『M』一体何なんだ。いや真面目に。
ギルガメッシュはしばし退場です。何故って次回からの話は絶対介入して来るから無理やりにでも行動不能にしないと行けなかったんです。

ちなみに【無銘勝利剣】はFGOのアサシン、謎のヒロインXの宝具で、【一閃せよ、銀の腕(デッドエンド・アガートラム)】はFGOのセイバー、ベディヴィエールの宝具です。前者はともかく何故後者が使えたのか?…はいすみません、まだ未プレイの方は本当にすみません。

アサシン陣営の本拠地は原作キャスター陣営の本拠地、柳洞寺。分かっていた方もいるんじゃないでしょうか。では最後に登場したサーヴァントとは?やっと次回からアスラを本領発揮させるための布石です。理由付けが一番大変ですね、はい。

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#16:脱落、―――三人目の弓兵

レポート地獄を潜り抜け、ついでに七章もプレイしてクリアしてからやっと投稿。お待たせしました。
ガチャ?イシュタ凛さんに運を根こそぎ持って行かれたのか三十連して新規鯖零だよ!…五章の時はナイチンゲールとラーマが同時に来たんですけどね。円卓勢からも嫌われてる模様。例外はサモさんぐらい。
六章→敵サーヴァントが鬼畜。七章→雑魚の方が強い。こんな感じでしたね。

前回の最後に召喚された謎のサーヴァントの参戦で急展開。楽しんでいただけると幸いです。


――――今にして思えば、この夢はこれから起こる事を比喩していたのだろうか。

 

 

バーサーカーの背に、仮眠と言う形でおんぶしてもらい教会まで運ばれていた私は、刹那の時の中で夢を見た。

 

 

「グゥ…、無事だったか…」

 

 

相変わらずの両腕を失った姿で何とか立ち上がり、そんな自分に駆け寄ってくる、たった一人の娘によく似た少女に安堵の声を上げるバーサーカー。爆撃でもあったのか、周囲の建物は完全に崩壊していた。そして、高慢そうな女性の声が響いた。見上げると、そこにはバーサーカーを倒すためだけに集結した飛行戦艦の大軍勢。

 

 

「アッハッハッハッハ!デウス様に仇なす者は、全て滅ぼしてくれる!」

 

 

その女の声と共に、飛行戦艦群から降り注ぐ爆弾の雨。誰がどう見ても、助かる筈もない。そんな絶望的な光景だった。

 

 

「この世から滅せよ! アスラ!」

 

 

唖然と空を見上げ、そしてハッとそれに気付き、必死の形相で振り向き叫ぶ。

 

 

「来るなァアアア――――――――――――ッ!」

 

 

そこには、爆撃に気付かず、恩人である自分に向けて走って来る少女がいた。…バーサーカーたち神民と、この時代の人間達は言葉の疎通ができない。しかし、バーサーカーの必死の叫びが届いたのか、爆弾の雨に気付く少女だったが、時既に遅し。バーサーカーは駆けだしていたが、間に合わない。声にならない声で、最愛の娘の名を叫んだ彼の目の前で、視界が光に埋め尽くされる。

 

 

 

目を覚ましたバーサーカーが瓦礫の中から這い出し、目にしたのは。

 

 

爆撃で散々破壊され火の海となった跡地と、瓦礫に潰されている、自分よりも圧倒的にか弱いながらも、神々に怒りを抱き自分の生き様を見届けようとしていた少女の亡骸だった。

 

 

 

 

声にならない怒りの声を上げ、慟哭するバーサーカー。それは怒りではなく、悲痛の叫び。

 

怒のマントラが溢れだし、雷と炎の光柱が立ち上り、その余波だけで戦艦群のほとんどを跡形も無く、破壊して行く。

 

 

そして、姿を現したバーサーカーは腕を取り戻しながらも漆黒に染まった肉体を炎で照らし、悪鬼の如き面で戦艦群を睨みつける・・・異形の姿「否天」へと変貌していた。

 

六天金剛とは違う、怒のマントラで形成された巨大な四つの剛腕を顕現し、慟哭の絶叫を上げながら圧倒的な怒りの弾幕の嵐を持って、戦艦群を殲滅して行くバーサーカー。

 

その姿はまさしく、狂戦士。だけど私には。怒りに燃えているようにしか見えない悪鬼の面なれど、涙を流しているように見えた。

 

 

『世界を焦がす優しさ』

 

それこそ彼にぴったりの言葉。バーサーカーは誰よりも、優しい男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ。起きろ、マスター」

 

「ん…おはよう、バーサーカー」

 

 

そこで目が覚める。最近の夢は、バーサーカーの「物語」を彼視点で見て来たが…今のが一番きつい。私と同じで、手も足も出ず守れなかった命。マスターにサーヴァントは似るって言うけど、あながち間違いでもないらしい。でも一つ確信できる。バーサーカーを、「否天」にする様な事態には絶対にしてはいけない。

 

結局、私とバーサーカーは柳洞寺に手出しができず、その足で教会に戻った。衛宮邸に行ってもよかったのだが、昼間出会ったあの『M』と名乗った男について父さんと王様に相談しようと思ったからだ。

 

 

「ただいま、王様。父さん。…?」

 

 

…それになにより、嫌な予感があった。そしてその予感は、的中していた。

 

 

「父さん!?王様まで!」

 

 

父さんが、右腕が潰され頭から血を流した姿で気を失い長椅子に倒れていたのだ。その前の席には恐らく父さんを運んで来たのだろう、私服姿の王様が珍しく肩を上下させながら背もたれに圧し掛かっていた。私とその側に立つバーサーカーに気付き、あくまで余裕を保った笑みを浮かべてこちらを向く王様。

 

 

「ああ…クロナ、帰ったか。安心しろ、(オレ)も綺礼も、命に支障はない」

 

「でも…」

 

 

慌てて奥の部屋に行き、タオル、洗面器、包帯他手当のための道具をかき集め、バーサーカーに父さんを自室のベッドまで運んでもらい、応急手当てをしてから私は王様の元まで戻り、問答無用でその上着を引っぺがす。

外面からは分からないが、私には分かった。案の定、王様の胸部には深い切り傷があった。

 

 

「王様…これ、どうしたの?」

 

「なに。慢心が過ぎて油断してしまっただけだ。この程度、腹の中が焼け付く様な不快感があるだけだ」

 

「それ駄目な奴。大人しく手当されて、王様」

 

「…分かった。そこまで言うなら仕方があるまい、(オレ)を治療する事をお前に命ずる」

 

「はいはい。バーサーカー。王様の部屋までお願い」

 

「応ッ」

 

 

戯言を抜かす余裕がある王様を私は問答無用で突き倒し、バーサーカーに言って運ばせる。王様は珍しく、黙って運ばれて行った。…父さんも一緒の部屋に置いて治療した方がいいかな。それと一応凛にも伝えとこう。私は一応聖杯戦争の監督役の娘なのだから、冬木のセカンドオーナーである彼女には知らせる義務がある。

 

 

「あ、凛?ちゃんと電話に出れた?」

 

『う、うっさいわね!ランサーなんかの力を借りなくても普通に使えるわよ!』

 

「あっ…(察し)。とりあえず報告、アサシンの本拠地はやっぱり凛の言う通り柳洞寺だった。対策を考えなくちゃ。それと・・・父さんが何者かに襲われて重傷を負った」

 

『え、あの綺礼が!?…生きてるの?』

 

「命に支障はないから大丈夫のはず。とりあえず気を付けて、一応貴方とは共闘戦線にあるんだから」

 

『分かったわ。そっちも気を付けなさい』

 

 

・・・でも、王様があんな深い傷を受けるなんて尋常ではない。あの服を見るに、多分戦闘は鎧姿で行われたのだろう。でもあの鎧を貫く刀剣とその使い手など、私の知る限りは少ない。その代表たるマスターソードを有するセイバーか。それとも色んな姿を持つアサシンか…もしかしたら生きている可能性があるキャスターかもしれない。あの男の出鱈目さならありうる。

それでも、王様がやられたと言う事実ははっきり言って、有り得ない事なのだ。そもそもこの聖杯戦争に参加しているマスターと英霊は私とバーサーカーを除いて王様の存在を知る事も無いはずだ。最初から知っているとしたらそれは……………

 

 

一人、いる。Dr.『M』と名乗ったあの男だ。平行世界から来たと語ったあの男なら、王様の存在を知っていたあの男なら、何かしら対策を手に王様と父さんにここまでの傷を与える事も難しくないはずだ。

でも、何で二人を・・・監督役と、八人目のサーヴァントに何か不都合でもあるのか?

 

暗躍するとか言っていたのはこういう事か。よりにもよってうちの父親二人に手を出すとは。片方は意識さえ回復すれば無駄に得意な治癒魔術で何とかなるし、もう片方は魔力さえあれば何とか回復するだろう。それでも王様の方は時間がかかるだろうが。

 

 

「…全快するまでよくて三日、か」

 

 

…三日も王様が動けない。その間に、あの得体の知れない白衣の男が何かしたら・・・どうすればいい?王様にまで重傷を負わせるあの男に対し、私が何かできるとは思えない。…バーサーカーでもやられる可能性があるのだ。できれば関わりたくない。

どうしたものか…そう考えながらバーサーカーに包帯を持たせて王様を頼み、父さんの部屋に入ると、父さんは上半身を起こしてこちらを相変わらずの死んだ目で見つめていた。

 

 

「…クロナ。少しいいか」

 

「父さん。大丈夫?」

 

「これが大丈夫に見えるのか、お前は?」

 

「…父さんなら治癒できるでしょ」

 

「その通りではあるがな」

 

 

何が可笑しいのかクククッと笑う養父。怪我してなければ殴っているところだ。王様だったら問答無用で麻婆を流し込んでたかな。

 

 

「…さすが我が娘だ。我々が動けないと言うのにまだ余裕があるらしい。それで、一つ聞きたいのだが…」

 

 

正直言ってかなりびっくりして余裕はまるで無いんだけども。バーサーカーがいなかったらベッドにまで持って行くこともできなかったよ。…愛情は求めてないけど育ててくれた恩は感じてるから、あの医者絶対潰す。

 

 

「バゼット・フラガ・マクレミッツについて何か覚えはあるか?」

 

「バゼットさん?…知らないけど」

 

 

バゼットさんってアレだ。以前訪ねてきた、父さんの元同僚(?)で…父さんが既婚者だと知った上で好意を持っているように見えた人だっけ。それで、執行者で魔術師でもあって、現存している宝具を所有している珍しい一族だっけか。それがどうしたんだ?

 

 

「…お前には教会の者として言って置くが、彼女は本来この第五次聖杯戦争に選ばれた七人目のマスターだった。それが、聖杯戦争が始まる一週間前に私のところに連絡をよこした後、この冬木で消息を経ったのだ」

 

「バゼットさんが行方不明?」

 

 

・・・あの人がそんな簡単にやられるタマかね?多分物理戦だったら父さんに圧勝できると思うんですがそれは。それにあの宝具、後で王様に見せてもらったけど正直言って初見殺しにも程があるから心配はいらないと思うんだけど。…もう聖杯戦争が始まって四日ぐらい、つまり合わせて11日も行方不明って事か。なるほど、一応友人だし父さんでも心配するのが良く分かる。…あれ、何か引っ掛かるな。

 

 

「…もしかして、それがその怪我の原因?」

 

「…その通りだ。行方を知っていそうな輩がいたのでな、監督役として力づくで聞き出そうとしたらこの様だ。どうやら私も老いたらしい」

 

「そりゃ現役時代と比べれば…」

 

 

第四次聖杯戦争の父さんは何かすごかったらしいと王様から聞いている。令呪のストックを手に入れた最終決戦だと、もう何か人間超越していたんだとか。いくら老いたと言っても、父さんに勝てる人なんて早々いない。多分、あのイフが相手でも真っ向勝負なら父さんが勝つだろう。だとしたら、そんなことができるのは…

マスターだったはずの魔術師が行方不明になった。そんな話をつい最近聞いた気がする…それは。

 

 

「…もしかして、白衣の男…キャスターのマスター?」

 

「! 知っているのか?」

 

「街中で出会って話した。その時、まだサーヴァントを召喚していないマスターの一人から令呪を奪い取ってキャスターを召喚したとか言っていた」

 

「なるほど。話せない理由はそれか。監督役として、見過ごす訳には行かないな。ここは第四次と同じく、キャスター討伐と言う名目でマスターたちに潰してもらいたいところだが…」

 

「…その正当な理由がない以上、監督役は手出しできない。そうでしょ?」

 

「ああ。キャスターは倒されていないとはいえ、状況証拠のみだからな。一般人に手出ししたのも、証拠が無い以上は…」

 

 

今のところ、キャスターの仕業だって分かるのはあのテレビで放送していた一家惨殺事件ぐらい。後はアサシン陣営の集めた魔力を横取りしていたらしいし…ちょっと待った!

 

 

「え?…キャスターは、倒されていない?」

 

「ん?ギルガメッシュからそう聞いているが?」

 

 

マジか。あの対国宝具を生き延びたと言うのか。てか王様見てるなら手助けしても…私が拒んだんでしたね、分かります。

 

 

「…そう言えば倒されたとか『M』は一言も言ってなかった…」

 

「先入観に乱されたか。若いな、ごふばっ!?」

 

 

思いっきりハイキックを叩き込んでやる。いつもなら効かないが今なら効果抜群だろう。老いて油断してやられた人に言われたくないんですがそれは。

 

 

「…父さんは休んでいて。父さんの友人だし、私が聖杯戦争のついでにバゼットさんを見付ける」

 

「いや、休むどころか今死にそうなんだが…」

 

「父さんの日頃の行いが悪い」

 

「クロナが悪いと思うのだが?」

 

 

・・・・・・・・・いや、やっぱりいつも私をイライラさせる父さんが悪い。八つ当たりしてもいいじゃないか。

 

 

「…気を付けるのだぞ?最悪、バゼットは生きていない可能性もある。あの男を侮るな、奴は…」

 

「魔術師じゃ無くて科学者、でしょ。知ってるよ。…でも、私には勝機がある」

 

「いや、それもだが奴はエクスカリバーを使う、と言いたかったのだが」

 

「…はい?」

 

 

いや待って。それは待って。それって、あの憎き第四次キャスター、ジル・ド・レェの召喚した巨大怪獣的な何かを跡形も無く消し飛ばした世界で一番有名な宝具?確か以前聞いた話だと、あの未遠川を蒸発させたんじゃなかったっけ?そして何より、衛宮切嗣の命で顕現した聖杯を破壊した対城宝具・・・それを持ってるのあのヒゲ?…いや、さすがにそんなの喰らったら私の即席壁じゃ通用しないんですが。普通に死んじゃう。

 

バーサーカーでも原型を留められるかどうか。…いや、確か伝承だとあのヴリトラの砲撃に耐えれたんだから行けるか。宝具使えば。…宝具使えば。大事な事なので二回言いました。バーサーカーの宝具は正直言って使いにくい。

通常形態で使えるのは両腕失った状態じゃないと使えないし。後は強化形態か暴走形態だ。酷いのなら地球より大きくなれるのがうちのバーサーカーなのだ。いや、今のバーサーカーは使えないけど。そんなことしたらさすがに私が魔力切れで死ぬ。いくら【怒のマントラ】や【憤怒】があっても死ぬ。地球級は無理。魔力回路が私以上に膨大なアインツベルンでも無理だろう。

結局、私はエクスカリバーなんて使われたらどうしようもない。

 

 

「何の冗談?魔術師じゃ無くて科学者だったはずだけど?」

 

「冗談ではなくな。ギルガメッシュが「雑種程度が握っていい剣ではないわ」と言うぐらいだ、本物と同等の物なんだろうな。道具を使った魔術に見えたが」

 

「…それは気になる話」

 

 

つまり、あの男は下手すれば王様みたいに複数の宝具を持っている事になる。そうなると、はっきり言って勝ち目はない。王様の疲労度から多分、王様と剣で渡り合ったのだろう。切り傷だったし間違いない。

でもそれはそれだ。要は、奪い取ってしまえばいい。英霊の持つ宝具を奪うのはさすがに無理だけど、魔術師から宝具・・・というか魔術道具を無理矢理改造して奪うのは可能だ。凛の宝石魔術や第四次聖杯戦争に参加した時計塔の魔術師は水銀を使っていたらしいので天敵と言える。やろうと思えばアインツベルンのホムンクルスや、間桐の蟲だって奪い取る事が可能だ・・・と以前、父さんが説明していた。

 

私の改造魔術は、そう言う魔術に対して最強のアンチだ。ただし単純に物理が強い奴(父さんとかバゼットさんとか)や炎や水みたいな触れられない物体に対しては滅法弱いし、対象に意思がしっかりあると改造できない。アインツベルンのホムンクルスはほとんどが意識が軽薄で命令に忠実な人形だし、蟲は本能と直結しているから簡単に奪えるがしかし、人間や動物、さらに言えば我が確立している英霊に対しては何もできないのだ。

 

 

「とりあえず父さんは休んでいて。どうせキャスターやアサシンみたいな危険分子はすぐには動かないだろうし、私は一応アーチャー、ライダー、ランサーの陣営と協力関係にあるから警戒すべきはアインツベルンと『M』のみ。バゼットさんを捜せると思うから」

 

「くれぐれも怪我をしない事だ。ギルガメッシュが五月蠅いからな」

 

「分かってる」

 

 

あの人は父さんに比例してかなり過保護だ。私が王様に今回、「第五次聖杯戦争は私とバーサーカーだけで勝つから手出し無用」だとか言ったのは、かなり確信して王様が私のためにやり過ぎてしまうと思ったからだ。助言だけで済ましてくれている今はちょっと安心していたりする。

 

幼少期、トラックに轢かれそうになってそれを王様が【天の鎖】で助けてくれた事があった。あの時はトラックが拉げて、その鎖が王様にとって思い入れ深い物だと知っていた私は謝ったが、王様は安心させるように私の頭を撫でながら「貴様が死ぬぐらいなら我が友を使うべきであろう。クロナが嫌う殺人を避けてお前を救うにはこれしか無くてな?なに、気にするな。王の気紛れよ」と言って微笑んでいた。

…あの時は素直に「王様かっこいい!」とか思っていたが、大きくなって王様の伝承を知ったら【天の鎖(エルキドゥ)】を使わせてしまったと気が引けたものだ。私程度のために使うのはやめてほしい。愛がちょっと重いです王様。少し理知的になってください。独断行動ができるアーチャーじゃ無くてキャスターとかで。

 

 

 

 

 

 

 教会の外に出て、一息吐く。…今日だけで『M』との邂逅、彼から明かされた士郎とアーチャーの謎、アサシンの本拠地発見、王様と父さんの負傷、バゼットさん行方不明…色々ありすぎじゃね?まあアサシンの本拠地には手出しできないし、最優先はバゼットさんの捜索だ。恐らくキャスターに関しての情報を握っているはずだ。できれば、キャスターを倒した唯一の武器と呼ばれる「龍剣」を所持していて欲しい、楽に勝てる。

 

…いやまあ、生粋のクーフーリン好きの彼女がそれ以外の聖遺物持っているとは思えないが。もし凛がランサーをクーフーリン以外で召喚したらキャスターのクーフーリンが見れたのかね。そしたら楽だったのになぁ…ゲイボルクを持っていないならバーサーカーで勝てる目処があるし、何より一番の強敵であるキャスター・・・アー・シン・ハン皇帝がいなかったはずなのでかなり楽になったはずだ。……いや、バゼットさんが敵に回らなくてよかったと、そう思う事にしよう。

 

 

「おい、マスター」

 

「バーサーカー、どうしたの?」

 

 

扉を開け、出てきたバーサーカーは警戒している様子で、私は襲撃だと察して黒鍵を構え身構えると、バーサーカーは続けて信じられない事を言い出した。

 

 

「気配を感じた。会った事もないサーヴァントだ」

 

「え?…サーヴァント一人だけ?」

 

「ああ。構えろ、来るぞ…!」

 

 

いや待て。…バーサーカーが会った事も無い(・・・・・・・)サーヴァント?それはありえないだろう。バーサーカーは、王様も含めた己以外のサーヴァント、七騎全員と対決している。それなのに、会ったこともない?…アサシンか?いや、アサシンが単独で来るはずがない。キャスター戦でイフが負傷した上に、彼女自身も傷を負っていた。いくら集めた魔力で回復したからと言って、彼女にとって一番戦いたくないはずのバーサーカーに馬鹿正直に突っ込んでくるか?答えはNOだ。それにここに向かっていると言う事は交戦する気なのだろう。

 

・・・しかしだ、ライダーみたいな例外を除外して、マスターから離れて単独戦闘できるサーヴァント何て、限られている。そう、「単独行動」スキルをクラス別スキルとして持つアーチャーだ。そして現在、現界しているサーヴァントでアーチャーは二騎・・・王様と、士郎のアーチャー。しかし王様は負傷し、士郎のアーチャーは未だに魔力切れで姿を見せる事も出来ない。つまり。

 

 

「三人目の、アーチャー・・・?」

 

 

それを認識した瞬間、「強化」した視界に赤い外套を捉え、教会の正面に立っていた私ができた事なんて、決まっていた。黒鍵を複数取り出して改造したそれを目の前の地面に向けて投擲。

 

 

Become a shield sword of fury.(怒りよ、剣の盾となれ)!」

 

 

巨大化させて剣の壁を作った瞬間、私に向けて放たれた捻じれ狂った剣(・・・・・・・)が衝突。大爆発を起こして即席の防御壁を破壊し、吹き飛んだ私を受け止めたバーサーカーごと教会の扉に叩き付け、私達は扉を破壊して礼拝堂に転がる。バーサーカーのおかげで軽傷で済んだ。…狙撃。しかも今の爆発は宝具を意図的に破壊してその神秘を解放する壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)だ。

 

 

「やらせるか!」

 

 

続けて放たれた第二射を、掴んで受け止め外に投げ飛ばして爆発させるバーサーカー。サーヴァントが戦っちゃいけないルールな非戦地帯である教会で暴れるなんて、何のつもりだ。

 

 

「バーサーカー、そのまま防いで!私が仕留める」

 

「おうっ!」

 

 

私はマフラーを改造して純白の弓を作り、黒鍵矢を番えて引き絞り、今も尚第三射、第四射とバーサーカーに防がれている剣の宝具と思われる矢を放ち続ける敵を見据える。

それは、黒い弓を装備した、紅い外套と黒いボディーアーマー、白いマフラーを着込んだ、白髪をオールバックにしている浅黒い肌の男だった。

まさか、本当に私達の知らないサーヴァント…!?なんで、聖杯は確か、七騎までしか召喚できないはずだし、第四次聖杯戦争の生き残りでも、アーチャーは王様だ。正体不明の敵、なんだけど…彼を見て、親しみを持ってしまったのは、理由の分からない怒りを抱いてしまったのは何故なんだろう?

 

 

「―――Tell my anger in an irrational world.(理不尽な世界に我が怒りを伝えよ)

 

「―――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う。)

 

 

私の改造黒鍵矢と、似た様な形状の剣の矢を番え、同じように詠唱しながら引き絞る赤いアーチャー。その姿は、数か月前まで私が弓道部部長だった頃、あまりにも綺麗で弓道部の誰よりも上手かったある少年の構えを彷彿とさせて。

 

 

「―――抉り破る螺旋の刺突剣(イリマージュ・カラドボルグ)!」

 

「―――“偽・螺旋剣”(カラドボルグⅡ)!」

 

 

螺旋を模った剣が同時に放たれ、衝突して大爆発を起こす。怯む私とバーサーカー。それは分かりやすいまでの大きな隙であり、しかしそれは間違いなく、相手の技量による結果で。

 

 

 

「…悪いな、クロ姉」

 

「ッ、クロナ!」

 

 

爆発に紛れてバーサーカーの横を潜り抜けた赤いアーチャーは、その手にデフォルメした雷の様な歪な刃の短剣を投影(・・)して私の前に立っていて。バーサーカーがこちらに向けて走り手を伸ばそうと試みるもそれは、あの夢に出てきた少女の様に私には届かず。

 

 

「―――投影、開始(トレース・オン)。【破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)】!」

 

 

私の胸に、「あらゆる魔術を初期化する」宝具の贋作が突き立てられ、鮮血が舞うと同時に彼の、私を安心させるような寂しい笑顔と、私の右手から彼の左手に移植されていく蜘蛛の様な形状の令呪が見えて。

 

 

聖杯戦争に敗北したと悟った私は、そのまま意識を失い、力無く崩れ落ちた。




説明多すぎてちょっと長くなりました。バーサーカーにおんぶされるクロナ、どう見ても親子。

紅いアーチャー「ルールブレイカー!」
メディアさん「それは私の台詞です!」

そんな感じでクロナ脱落、三人目のアーチャー登場。どうして召喚されたのか、マスターは誰なのか…そして彼の正体は!…白いマフラー付けてる時点でお察しの方もいるんじゃないかと。

バーサーカーにとってのトラウマ、目の前で救えなかった少女。…仮面ライダーにもそんなのいたなとかプレイしながら思った。オルガだけは絶対に許せねえ。オルガマリー所長は助けたい。アスラズラースの主題歌の歌詞の一部なんですが、「世界を焦がす優しさ」ほどアスラに似合う言葉はないかと。

王様と父親がやられて『M』をボコる事を決めたクロナさん。しかしエクスカリバーは怖い模様。怨敵を倒した宝具とはいえ、アレを敵に回すとか普通したくないです。


次回。傷付くクロナ、怒るバーサーカー。その結果とは、紅いアーチャーの目的は。


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設定&サーヴァントステータス♯2(常時更新)

前回の三人目のアーチャー参戦で、この物語も中盤に入りました。はよキャスター倒さなくては(使命感)。
『M』や三人目のアーチャーなどの設定の他、原作キャラの相違点、クロナの魔術詠唱他、没設定まで載せてます。

ネタバレ多いので前の設定とは分けてます。後これからの展開のネタバレ注意!

※12月18日、赤いアーチャーの真名と宝具、概要追加。
※12月19日、否天追加。
※3月17日、アーチャーのマスター追加。


Dr.『M』

年齢:29歳(一応)

性別:男性

血液型:B型

身長:160㎝

体重:54kg

イメージカラー:穢れた白

特技:発明、鉄パイプを武器にする

好きなもの:面白い物、改造

苦手なもの:つまらない物、正義の味方

天敵:言峰黒名

イメージCV:子安武人

 

概要

バゼット・フラガ・マクレミッツから令呪を奪い召喚したキャスターのマスター。名前の通り白衣と、立派なヒゲが特徴。魔術師ではなく医者、科学者であり科学を蔑にする魔術師を嫌っている。

平行世界の冬木に訪れた事が在り、そこで「衛宮黒名」に出会ったことでこの世界のクロナに興味を持った。第四次聖杯戦争及び衛宮黒名の第五次聖杯戦争について熟知しているが、第四次の際には綺礼に、第五次の際にはギルガメッシュと衛宮黒名にボコられた経験があるため自分から参加する気は最初無かったが、いいカモであるバゼットと間桐が崩壊して失意に堕ちていた慎二を見付け、暗躍するに至る。

目的は聖杯ではなく、衛宮ではない言峰黒名が見せる結末を見届ける事。思考は魔術師寄りに偏っており、その過程で一般人が死んでも気にも止めない。最優先は自分の命よりも「面白い事」でありその為なら命でも投げ出す。自分の実験のためなら文字通りなんでもする破綻者。狂気の体現者。

 

・能力

天才。否、天災。発想がおかしい。医者ではあるが圧倒的なまでの実力を持つ。対綺礼の拳用に改造した肉体と、何の変哲もない鉄パイプを宝具とでもぶつけられる武器にしたり、剣一本で王の財宝と渡り合える技量を持つ他、白衣の中にメスなど医療器具も常備しておりこれを投擲武器として使う事も。

何よりも地球の記憶を引き出した「メモリ」を所持しており、今回は「B」と「X」しか使わないがそれでもギルガメッシュの慧眼すら拒絶する「孤高の記憶」と、ありとあらゆる可能性の凝縮された「約束された勝利の剣の記憶」を有する。

 

・人間関係

はっきり言って、悪い。一応協力者である慎二からも下にしか見られておらず、本人もあまり関心は無い。クロナとは敵であり味方と言う訳の分からない関係。キャスターからは「慎二より有能な軍師」として頼りにはされているが本人は殺されるかもしれないので必要最低限しか会話しない。

 

・正体

拙作「東方ウィザード」シリーズに登場する【狂気の医者】Dr.マリオ。この世界では伝承が元になったセイバーと似てゲームの中の人物であり、本人もそれを理解しているため迂闊に名乗ることができない。

 

 

 

 

 

 

 

 

赤いアーチャー

クラス:弓使い(アーチャー)

真名:エミヤシロウ

マスター:バゼット・フラガ・マクレミッツ

性別:男性

身長:187cm

体重:78㎏

出典:不明

地域:日本

属性:中立・中庸・人

イメージカラー:赤

特技:ガラクタいじり、家事全般

好きなもの:家事全般(本人は否定)、クロナ

苦手なもの:正義の味方、クロナ

天敵:言峰黒名、バーサーカー、ライダー

CV:諏訪部順一

 

ステータス:筋力C 耐久C+ 敏捷B 魔力B 幸運E 宝具???

 

スキル

・対魔力D:魔術への耐性。一工程の魔術なら無効化できる、魔力避けのアミュレット程度のもの。

 

・単独行動B:マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターを失っても2日は現界可能。

 

・心眼(真)B:修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す。

 

・鷹の目B+:例え高速で移動する相手でも4km以内の距離なら正確に狙撃できる視覚能力。

 

・投影魔術A:イミテーション・エア。道具をイメージで数分だけ複製する魔術。ただし、彼が使っているのは、一般的なそれとは性質が異なる。彼が愛用する『干将・莫耶』も投影魔術によってつくられたもの。投影する対象が『剣』カテゴリの時のみ、ランクは飛躍的に跳ね上がる。この、「何度も贋作を用意できる」特性から、彼は投影した宝具を破壊・爆発させる事で瞬発的な威力向上を行う。

 

・正義の味方A:この世全ての悪(アンリマユ)にとどめを刺したことから。悪属性に対して特攻効果を持つ。

 

 

宝具

無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)

宝具を持たない彼を英霊たらしめている能力にして固有結界と呼ばれる特殊魔術。彼らに唯一許された錬鉄の魔術。剣の丘。空はともかく、その光景は彼が最期に目に焼き付けたその物。彼の後悔と生涯の顕現、最愛の姉に捧げる弔いの墓標。

一定時間、現実を心象世界に書き換え、今まで術者が視認した武器、その場で使われた武器を瞬時に複製し、ストックする。ただし、複製した武器はランクが一つ下がる。

 

 

概要

ギルガメッシュと異なり、絶対に存在しないはずの三人目のアーチャー。赤い外套と白いマフラー、白髪と浅黒い肌が特徴。白いマフラーは端が血に濡れている。『M』がギルガメッシュを撃退した直後、冬木のどこかで召喚された。真っ先にクロナを狙って来たことから関係のあるサーヴァントと思われる。

 

相手の放った矢に己の矢を相殺させる技量に、他の英霊の宝具を投影して使う事でクロナから令呪を奪い取り脱落させた。アーチャーと言うよりはアサシンが近い。「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」を扱う事で瞬間火力は他のサーヴァントのそれを飛びぬけている。クロナに限りなく近いサーヴァントと言える。

 

令呪を奪い取った事でバーサーカーのマスターになったその目的は、言峰黒名の救済。真名は「衛宮黒名」の世界線の衛宮士郎その人であり、引導を渡した張本人。「この世全ての悪(アンリマユ)を討った正義の味方」として英霊になった存在。ちなみに他の世界線の自分も守護者としてほぼ同じ容姿、同名の英霊でいるとか。

 

最愛の人を殺した罪悪感に縛られ、その後悔から言峰黒名だけでも救おうと企む。クロナのためなら世界も滅ぼしかねない、狂ってしまった運命を嘆く正義の味方。

 

 

・備考

一応、本来の第五次聖杯戦争や月の聖杯戦争にも参戦した無銘とも紅茶とも呼ばれるあの英霊とは別人であり英霊になった経緯が違い、目的でさえも違う。士郎にもあまり関心は無く、クロナに執着している。スペックが高いのは生前の行いと、マスターによる物。特に筋力。

 

 

 

 

 

 

 

 

否天

クラス:狂戦士(バーサーカー)

真名:八神将アスラ

マスター:赤いアーチャー

性別:男性

身長:200㎝

体重:95㎏

出典:アスラズラース

地域:地球上の何処か

属性:混沌・中庸・星

イメージカラー:焼け跡の様な黒

特技: 殲滅、大暴れ

天敵:大義のために家族を斬り捨てる奴、世界を支配した気になっている奴

CV:安元洋貴

 

ステータス:筋力EX+ 耐久EX+ 敏捷EX+ 魔力EX+ 幸運E- 宝具A++

 

スキル

・狂化A:完全なる狂化。自我を取り戻す事が無くなる。

 

・神性D:一応神そのものだが悪鬼羅刹に堕ちた為にランクは低い。

 

・戦闘続行A-:所謂「往生際の悪さ」。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、腕がもげる、胸が穿たれるなどの瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。ただし自我が欠落しているため、どんどん精度が悪くなっていく。

 

・憤怒EX:固有スキル。一定値を超え、令呪以外の命令を一切受け付けなくなった。怒れば怒るほど魔力と幸運以外のランクが無制限に上昇するスキルだったが、否天と化した事で魔力を砲撃に使用できる様に。

 

・怒のマントラEX:固有スキル。魔力とは別の物。怒れば怒る程に溜まり、マスターの魔力供給とは別に放出できる。魔力放出スキルと単独行動スキルの派生型。

マスターの魔力と併用することで腕がもげても再生することが可能ではあるが、火力に回しているため再生が遅くなっている。

 

・悪鬼羅刹A:固有スキル。畏怖として信仰を集めていた総称。「阿修羅」としての知名度に+補正がかかる他、姿形も悪鬼羅刹その物となったためさらに目撃した人間分+補正がかかる。

 

 

宝具

その怒りで世界をねじ伏せろ(アスラズラース)

ランク:A+

種別:対界宝具

怒りが極限に達し「否天」に変貌する事で使用可能となる、ゴーマ・ヴリトラと同等の力を秘めた四つの巨腕。掌にマントラを集束し、殲滅砲撃として撃ち出す。

抑えきれない怒りを吐き出すかのような、世界を焦がす慟哭の叫び。

世界に対する、己に対する、アスラの怒りが具現化した宝具。その威力は、固有結界を跡形も無く破壊する程。アスラが怒る「世界」に対して効力を発揮し、特に神性が高い者は怒りの矛先として焼き払う。

 

 

概要

赤いアーチャーにクロナを目の前で傷つけられ、怒りが極限まで達して制御不能の獣に変貌してしまったアスラ。悪鬼羅刹。

生前変貌した際は大艦隊を殲滅し、妻の仇である七聖天の一人を惨殺し、怒りのままに暴れ回ったが、戦友(トモ)の拳を受け正気に戻った。その後、全ての黒幕に奪われた娘を取り返す際にこの姿になり襲い掛かるも手も足も出ず敗北した。

この星の中心で彼と対峙した、星の怒りその物である噴帝が否天の姿を模していた事から、まさしく怒りの化身と言えよう。

 

冷静な判断力を失い、正気と理性を失った本能のままに暴走する真性の狂戦士(バーサーカー)。そのため弱体化している様にも見えるがしかし、その怒りがスキルに影響してステータスがとんでもないことになっており、Bランクの宝具はまるで通じず、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から放たれる宝具でさえ全て弾き飛ばす耐久性を持つ他、例えバーサーカーのヘラクレスが相手だとしても殴り飛ばしてしまえる筋力と敏捷性も併せ持ち、さらには殲滅砲撃まで放ってしまうバケモノ。

神でもないと勝つのは難しく、神性持ちの天敵でありながら必然的に神性持ちでないと勝ち目は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

・クロナの魔術

基本的に英語。自身の本音をそのまま出して感情を乗せて使用する。

 

 

Awaken Ready.(魔術回路・起動)―――――Standingby.(調整開始)」「Complete.(全工程完了)

魔術回路起動、じっくり細かく改造する際の詠唱。「Complete.(全工程完了)」だけでもOKだが精度が下がる。

 

 

「―――――Tell my anger in an irrational world.(理不尽な世界に我が怒りを伝えよ)

爆発系疑似宝具を使う際の詠唱。主に抉り破る螺旋の刺突剣(イリマージュ・カラドボルグ)偽・微睡む爆弾(イリマージュ・チクタクボム)などの発動詠唱。恐らく一番使用している詠唱。

 

 

This anger has.(この怒りを持って)promoted through.(推し通る)!」

突貫系に改造する際の詠唱。作中ではセイバーの持っていた聖遺物にも数えられるブロンドソードの剣身を破壊した。ちなみにゲイボルクを疑似宝具にする場合の詠唱もこれ。

 

 

Case bound asphalt.(アスファルトよ、拘束せよ)!」

文字通り、アスファルトに触れて相手を拘束する触手に改造する際の詠唱。セイバーの動きを一瞬止める程度だが、時間稼ぎの足止めにぴったり。

 

 

Should protect asphalt.(防御せよアスファルト)!」

こちらも文字通り、アスファルトに触れて防御壁に改造する際の詠唱。キャスターの火炎放射は相手が悪かった。

 

 

This anger is like a prison.(この怒りは監獄の如く)―――閉じ込めなさい!」

相手を囲む様に誘導する様に改造する際の詠唱。ギルガメッシュの全方位王の財宝から編み出した魔術だが、全方位防御ができるイフには通用しなかった。

 

 

Become a shield sword of fury.(怒りよ、剣の盾となれ)!」

黒鍵六本を改造し、突き刺して即席の防御壁にする際の詠唱。炎や爆発でも辛うじて防げるが、耐久性はそこまでない。使い勝手がいい。

 

 

「―――――Altars to blow my anger, the receive.(我が怒りの一撃、その身に受けよ)

打撃系疑似宝具を使う際の詠唱。主に「喰らえ、黄金の斧(イリマージュ・ゴールデンイーター)」からの「偽・黄金衝撃(イリマージュ・ゴールデンスパーク)」で使用。

 

 

Shield protect us desert.(砂漠よ、我等を守る壁となれ)!」

文字通り砂漠を巨大な城壁に改造する際の詠唱。魔力消費が尋常ではないため続けて二度は使えない。対軍宝具までなら防げるが、対城は防げない。

 

 

 

 

 

 

 

 

・原作キャラの相違点

 

衛宮士郎

クロナを姉として慕っていて、その影響か思考速度が速い。聖杯戦争開始以前から言峰と面識があった。ライダーに懐かれ、食費に泣いている他、アグレッシブな桜にビビったりもする完全にラブコメの主人公。聖剣の鞘が埋め込まれているにも関わらず、アーチャー・イカロスを召喚。イリヤを本気で殺そうとするクロナに不安感を覚えている。

 

 

遠坂凛

クロナと知り合いだが邪険にされているのであまり親交は無いが、その危険性は熟知している。時間を間違えなかったことにより最高のコンディションでランサー・クーフーリンを召喚。穴が開いてない屋根に寂しさを感じる模様。

 

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

士郎に姉と慕われるクロナに対し敵愾心を見せる他、魔術師殺し(メイガスマーダー)の技術と魔術、銃火器の扱いを身に着け、戦闘力に置いても最強のマスターに。コートの下は女物のスーツを着用。セイバー・リンクを召喚。単騎でサーヴァント二体に対抗するなどぶっ壊れ性能だが、負担も大きくスタミナに難ありだがセイバーのクスリと合わせる事でその弱点を克服している。ワルサーWA2000とキャリコM950、トンプソン・コンテンダーを主武装として持つ。誰に似たのか死んだ目。サモエド仮面は苦手。

 

 

間桐桜

クロナの影響で性格が明るい(ノリがよい)方向に。細工されてこそいるが、心臓に寄生していた本体を殺した事で間桐から解放され、衛宮邸の居候に。ライダー・謎の美少女ガンファイターライダーキノを召喚。慎二に対しては苦手意識を持っているが嫌いではない。ライダーとは同年代と言う事もあり仲良しで、同陣営であるエルメスとサモエド仮面とも仲は良好。ライダーの手ほどきで銃をある程度扱えるようになったが、魔術的には士郎よりも弱い。多分、一番変わった人。

 

 

間桐慎二

魔術知識はクロナよりも上のワカメ。自分を無視するクロナや自分を振った凛、間桐と自分を裏切った桜に対して異常なまでの確執を見せるが、士郎に関してはあまり興味が無い。現在は間桐邸をサモエド仮面が倒壊させたためホテル暮らし。『M』から偽臣の書を与えられキャスターを使役するが上下関係はまるで逆な事に不満しかないが、サーヴァントとマスター全員を自陣の固有結界に入れて有利に事を運ぶなど天才的な策を見せる。『M』の事を凡人と呼べるのはこの男だけ。

 

 

バゼット・フラガ・マクレミッツ

本来七人目のマスターになる筈だった、クーフーリンが大好きな封印指定の執行者。好意を寄せている綺礼の娘であるクロナを可愛がるが、魔術師と自分への愛が嫌いなクロナからは避けられているが印象はよかったらしい。♯16現在、未だに登場していない癖して『M』に綺礼が挑み敗北するきっかけを与えた第五次聖杯戦争中盤のキーパーソン。『M』に令呪を奪われ、一週間以上前から行方不明であり生死も不明。

 

 

言峰綺礼

大火災を生き延びた物の、居場所を失っていたクロナをギルガメッシュの指示で引き取った養父。ギルガメッシュも含めて三人で十年間を過ごしてきた。父親としては最悪であり、愛を受け入れられないクロナからは好印象。ただし本人的にはちゃんと愛しているらしい。ギルガメッシュ曰く「ええい面倒だな貴様は!」。代行者の技術、八極拳、「強化」の魔術等をクロナに教えた。ただし被害も考えずにバーサーカー他サーヴァントやクロナ自身が暴れる為、心労が絶えない。バーサーカーとセイバーの決戦を知った時には倒れた。

既婚者であり娘もいるが、事情が事情で未だにクロナにも会わせてない。衛宮切嗣に対する確執は残っているが、士郎に対しては中学生の頃からクロナの友人として接しており「衛宮切嗣」とはあまり重ねていない。現在行方不明のバゼットさんに対してはただの友人。裏切る気はあったとか。

 

 

衛宮切嗣

第四次聖杯戦争のセイバーのマスターで魔術師殺し(メイガスマーダー)だった故人。桜が間桐の手の者だとは見抜いていたが最初から最後までクロナが宿敵の娘だとは気付かなかった節穴の目の持ち主。しかしそれはクロナを自分の手で助けられなかったと言う後悔から名字と引き取った相手を聞けなかったためでもあり、挙句の果てにはイリヤにまで悪影響を与えてしまった。この世全ての悪の呪いに蝕まれて士郎に「正義の味方」になりたかった夢を託した後、柳洞寺の霊園に亡骸が埋葬されているが…

「衛宮黒名」の世界線ではしでかしてくれた人。コイツのせいで最凶最悪の魔術師殺し(メイガスマーダー)が誕生して人類が三分の一にまで減ると言う皮肉な結果に。

 

 

藤村大河

衛宮邸の隣に家がある教師なタイガー。クロナの天敵で士郎の姉(自称)。クロナとは絶対相容れず士郎の姉の座を巡っていがみ合ってるが、士郎と桜にはめっぽう弱い。ライダーが来たことでご飯に対する図々しさが減ったとか。衛宮邸がほのぼのしている原因。メディアがいないため聖杯戦争に関わる事は無いはずな一般人。

 

 

葛木宗一郎

未だに名前も出てない教師。「衛宮黒名」の世界線だとアーサー王と張り合える色々可笑しい人。柳洞寺に居候しているらしいが…?

 

 

リーゼリット&セラ

こちらも名前が出てないイリヤの従者。ホムンクルスではあるがクロナが改造できない「意思」の持ち主。リーゼはイリヤに頼まれて暇な時はボコっており、それを毎回セラが止めている。イリヤが異様に体術が強いのはそのせい。双方セイバーにフラグを建てられた。

 

 

柳洞一成

名前だけ出た生徒会長。士郎の親友であり、凛の本性を見抜いて仲が悪かったりするが、クロナに対しては苦手意識を持っている。現在アサシン陣営の本拠地となっている柳洞寺に住んでいるが…

 

 

美綴綾子

名前だけ出た弓道部部長。元部長であるクロナを尊敬している後輩。凛と士郎の友人であり、桜の面倒を見ている。武の達人であり、弓道部に入ったのはまだ弓を習っていなかったため。そのため自分じゃ太刀打ちできないクロナと士郎に感服している。クロナが唯一普通に接することができる貴重な友人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※最後に、本当はバゼットをマスターにしてクーフーリンをキャスターにした聖杯戦争でしたがワカメの出番を作るべく急遽アー・シン・ハンを加えてしまい、設定ごと没するしかなかった凛のランサーを紹介します↓。

 

クラス:ランサー

真名:レジーナ/■■■(アン王女)

マスター:遠坂凛

性別:女性

身長:155㎝

体重:46㎏

出典:ドキドキ!プリキュア

属性:中立・悪・人

イメージカラー:金色

特技:我儘

好きな物:相田マナ、面白いこと、友達作り

苦手な物:薔薇の花

天敵:円亜久里、バーサーカー

CV:渡辺久美子

 

ステータス:筋力B 耐久D 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具B+

 

スキル

・対魔力B:魔術への耐性。

 

・自己中A-:相手の宝具やスキルの干渉を受けない。例え女性特攻だろうが幻術だろうが硫酸の霧だろうが意味を成さない。ただしマスターの命令も基本聞かない。また、常識にも囚われないため空も飛べる。

 

・カリスマC:天性の統率力。王の娘であるが故に持つスキル。

 

・仕切り直しB:戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。

 

・奇跡(魔術)C:指を鳴らすだけで好きな事象を起こせる。物体を自由に操る、何かを取り寄せる、植物を腐らせるなどなんでもあり。光弾撃つ程度なら魔術も使える。

 

 

 

宝具

万物貫く光の槍(ミラクルドラゴングレイブ)

対軍宝具。槍の切っ先から光線を放って薙ぎ払う。イメージはカルナさんのアレ。ローアイアス、アヴァロン他盾などの障害物を例外なく貫いて大ダメージを与える(防御無視)。

 

自己中王・降臨(キングジコチュー、私のパパ)

対界宝具。世界の壁を叩き割って異世界から自身の父親である巨人を呼び出し暴れさせる。親馬鹿なのでレジーナは簡単に制御可能。

 

 

概要

未来の英霊。伝説の戦士の敵として立ちはだかった少女。見た目はどう見ても戦士ではなくただの少女。しかしかつて自身が引き抜いた伝説の槍を虚空から召喚し、天性のセンスで使いこなすため油断はできない。

実力も高く申し分ないのだが、最大の欠点として上記のスキルから分かる通りマスターの命令を気が向かないと聞かないと言うサーヴァントとしては問題しかない欠点を持つ。つまりマスターはわざわざお願いしたり機嫌を取ったりしないと行けないが、彼女は我儘な上に自由奔放なため言う事を聞かせるのはかなり難しい。

 

 

強いけどギルと同じで使いにくいにも程がある鯖ですね。本当なら彼女こそ最強の鯖になっていたはず。

 




クロナさん万能すぎぃ・・・!しかしイリヤとか魔改造し過ぎた・・・どうしよう。

防御無視、スキル無視と言うチートにも程があるレジーナをボツにした理由はさすがにプリキュアのキャラはFateの世界観に合わないだろうと思ったため。…いやまあ彼女の設定はかなり鬱ですけど。万物貫く光の槍とかどう見ても宝具だと思うんです。

本当はギラヒムとかも出してビーストの封印されし者を召喚するつもりでもありました。…リンクしか勝てないからやめましたけどね。聖杯与えたら終焉の者になりそうで怖い。

本音を言えば、未だに登場していないキャラをどうにかこうにか早く出したいです。一般人組以外は確実に出番があるんですけどね。


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#16.5:憂うセイギノミカタ

クロナの意識がシャットアウトされていて、ほとんど赤いアーチャーの独白なので.5になります。

楽しんでいただけると幸いです。


冷たい夜の礼拝堂。

その入り口に立つ赤い外套のサーヴァントは、端が血に塗れた純白のマフラーを開け放たれた扉から流れる風に揺らしながら、胸元から血を流して気を失い足元に倒れている黒髪の少女をそっと優しく抱え上げた。

 

狂戦士は己が主人(マスター)を取り返そうとするも、瞬時に投影された黒鍵が投擲され両足を貫かれ、さらに倒れた所を両手の甲も貫かれて地面に縫い止められた。

 

それを確認し、自身の胸に抱かれた少女に微笑むと、有り得ざる三人目の弓兵は静かに、しかし周囲に響く様に詠唱して行く。

 

 

 

―――ここに我が生涯を語ろう(Ruins trace on.)

 

この体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

我が血潮は鉄で心は硝子(Steel is my body,and fire is my blood.)

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)

 

ただ一度の敗走もなく、(Unaware of loss.)

 

ただ一度の勝利もなし(Nor aware of gain.)

 

その担い手はここに独り(Withstood pain to create weapons,)

 

あの剣の丘で鉄を鍛つ(waiting for one's arrival.)

 

ならば我が生涯に意味は不要ず(I have no regrets.This is the only path.)

 

この体はそう、(My whole life was.)

 

―――無限の剣で出来ていた("unlimited blade works" )

 

 

 

そして生じたそれは、紛れもなくクロナ達が昨夜体験した大魔術。固有結界(リアリティマーブル)だった。

 

 

 

 

 

 

 俺は、切嗣(オヤジ)から引き継いだ夢だった正義の味方になれた。だけどその犠牲として、かけがえのない相棒や憧れの同級生、俺を兄と呼ぶ妹を装っていた義理の姉を失い。

 

そして親父(キリツグ)から託され、誰よりも大好きで、一番大事で。その怒りを知って救わなきゃいけなかった姉と呼べる人物・・・衛宮黒名を殺し、俺は英雄になった。…こんな形で正義の味方になりたかった訳じゃない。俺の生涯は、後悔しかなかった。

 

 

 

なあ、クロ姉。俺はアンタを殺す事でしか救えなかった。止めることができなかった。その怒りをもっと早くから知っていれば、止めれたかもしれない。

 

だけど俺は、知ろうとしなかったんだ。…アンタが「悪」だって、認めたくなかったから。

 

その結果、アンタは望まぬまま人類を殺戮して。

 

それを信じたくなくて、誰かを頼る事も出来なくて、罪に押し潰されて狂乱して。俺を俺とも最期まで認識してなかった。

 

人類全員から「この世全ての悪(アンリマユ)」にされて、そして俺に殺された。他の誰かに殺されてしまうくらいなら、俺の手で引導を渡そうと思ったんだ。せめてもの償いとして。

 

 

 

 

 

でも、それだけじゃ足りなかった。「この世全ての悪(アンリマユ)」を討った正義の味方として英霊になった俺は、それこそ色んな聖杯戦争に参加した。そして、何の因果か必ず彼女と戦うことになった。

 

 

同じ冬木の、俺から見て過去。第四次聖杯戦争では切嗣(オヤジ)のサーヴァントとして、甲冑を着込んだ狂戦士(バーサーカー)と化して召喚されたクロ姉と戦い、共にセイバークラスで召喚された英雄王に屠られた。狂乱していた彼女を見て己を悔いていたとはいえ、切嗣に申し訳ない結末だった。

 

 

今回のとは大前提が違う第五次聖杯戦争では憧れの人(遠坂凛)のサーヴァントとして、よりにもよって過去の俺がマスターの剣使い(セイバー)として召喚されたクロ姉と戦い、同士討ちとなり倒れた。…サーヴァントとして、あるまじき結末だった。

 

 

月の聖杯戦争では、彼女とよく似た雰囲気と容姿を持つマスターに召喚された俺と同じ弓使い(アーチャー)として召喚されたクロ姉とぶつかった。接近戦はともかく狙撃対決では完敗で、一時はマスターを危険に晒してしまったが、結局はそのマスターの持つ「諦めない強さ」の差で勝てた。

 

…そこもクロ姉に似ていて、でも違う強さがあって、彼女のために戦えてよかったと思えたマスターだった。しかし、初めてサーヴァントとして勝利を得た際の感覚は、嫌な物だったと記憶している。

終始冷静だったその顔を怒りに歪ませ、呪詛を吐きながらも一緒に消えゆく彼女のマスターに窘められ、悔しげに黙って消滅して行くクロ姉を見たかった訳じゃ無かった。マスターに慰められて、思わず涙を流してしまった。そのおかげで絆は深められたけども、そんな形でだと言う事が後ろめたかった。

 

 

また、もう一度参加した月の聖杯戦争では、クロ姉と前のマスターとよく似た雰囲気の少年をマスターとして、暗殺者(アサシン)で召喚された彼女とも戦った。その場にある物全てを改造して武器にしマスターを執拗に襲ってくる彼女相手に防御する事が精一杯で、恐らくその聖杯戦争で一番苦戦したと思う。

 

マスターを囮にして宝具を零距離から放つと言う荒業で、何とか勝利に持ち込めたが…その後、狂戦士(バーサーカー)として甦った彼女と再び戦い、こちらも辛く勝利できた。最期に正気に戻り、「やっぱり世界を滅ぼした私は正義の味方の貴方には勝てないね」と自嘲気味に微笑んで消滅を受け入れていたのが、辛かった。

 

 

 

 

 

 

何度も戦い、そのたびに何もできなかったと、救われて欲しいと、いつも彼女は苦痛と共に消えていくのかと、絶望した。俺は償い続けるしかないのかと、それでも戦うしかなかった。もう、俺の参加する聖杯戦争全てにクロ姉が召喚されたのは、彼女を救えなかった俺に対する呪いなのだと受け入れるしかなかった。

 

 

だが、今回の聖杯戦争で彼女の呼びかけに応えて召喚され契約した際、俺の天敵である言峰綺礼に引き取られたクロ姉がいると言う話をマスターから聞いて、思ったんだ。

言峰といつも一緒にいる英雄王なら、あの男の在り方ならばクロ姉を正しく、少なくとも悪くは無い方向に導けるはずだ。でも言峰から悪い影響を受けてるかもしれない、そう思いマスターに許可をもらって偵察に来て、やはりクロ姉はクロ姉だったと思うしかなくなった。

 

 

彼女は戦っていた。俺の知っているかつてのクロ姉(衛宮黒名)と同じく、悪鬼羅刹を召喚して規格外の英霊が集う聖杯戦争を勝ち抜く事を決めていた。…でもそれは、彼女の生き方は、俺が言うのも何だが歪んでいる。

怒りを抱いて戦う事が「悪」であることを受け入れ、傲慢にも自分の命のみを対価に魔術師を撲滅しようとし、そのために怒りを燃やし続け煉獄への道を歩いて行く。

 

「理不尽」にだけは屈しない。一言で言えばそれが彼女の在り方だ。だが、破滅の道だと知って進んで行くのは間違っている。彼女は弟に対する罪悪感から自分を救おうとしていない。

 

 

あのクロ姉もまた、怒りから解放され自分を救おうとは絶対にしないだろう。だとしたら、どうすればいいか。もう答えは決まっている。

 

無理矢理にでも彼女を救う。例え傷つけてでも、その命だけは救って見せる。その在り方を踏み躙ってでも、その怒りを助長させても、嫌われて否定されようとも、そう決めた。

 

 

 

 

手段ならば、分かっている。簡単だ。

 

 

クロナと言う少女が世界中の人間から【この世全ての悪(アンリマユ)】にされるのなら。

 

 

その代わりに、【この世全ての悪(アンリマユ)】にされる替え玉を用意すればいい。

 

 

その人物ならば、今目の前に居る。条件を満たしていて、手段として利用できて、その怒りは誰よりも純粋で、そして現在自分に従う立場のサーヴァント。マスターとしてでなく、クロナと言う少女のために嘆き怒ってくれるであろう、その男。今まで彼女を守って来たこの男を使うのは申し訳ないが、それでも手段を選んでいられない。

 

 

何より「悪鬼羅刹」の語源となった「悪」だ。遠慮なく、利用させてもらおう。これで、ようやく救える。

 

 

俺の救いたかった「衛宮黒名」ではないが、それでも「言峰黒名」と言う少女は救うことができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

顕現するは、炎に包まれ焼けた大地。果てなき荒野に無数の剣が突き刺さっている心象風景。赤茶けた空にはギシギシ軋む巨大な歯車がひしめいている。その丘に、赤いアーチャー・・・真名、エミヤシロウは言峰黒名を抱えて佇み、バーサーカーはそれを地面に縫い付けられる形で見上げていた。

 

 

「ッ…!オォオオオオオオッ!」

 

 

手と足の甲に穴が開き、それでも構わず立ち上がるバーサーカー。そのサーヴァントの声は、自分が最も嫌い、競い合った親友であり義理の兄である男と似ていた。そして直感した、その在り方は…この赤い外套の男と同じだと。大義のために、家族を斬り捨てる。そんな男だと、気に入らないと、彼の怒りが言っていた。

 

 

「くたばれェエエエエッ!」

 

「…さすがはクロ姉のサーヴァント」

 

 

例え今のマスターだろうが構わず、守るべき女に手を出したこのサーヴァントを殴ろうと、走り出すが、それを許すエミヤではなかった。

 

 

「受け止めてみせろよ?狂戦士(バーサーカー)!」

 

「ッ…!?」

 

 

一見乱暴に、しかしちゃんと受け止められるように抱えていた少女を投げ付けるエミヤ。バーサーカーは狼狽えながらも受け止め、クロナをゆっくりと下ろす。しかしその瞬間。

 

 

「どのバーサーカーも、総じてマスターが弱点の様だな」

 

「なに…ッ!?」

 

 

空に巨大な太刀が二本、投影されて放たれ、バーサーカーの両腕が斬り飛ばされた。火花が飛び散り、ゴロンと転がる己が武器。それはいつもの事だ。しかし、それだけでは済まなかった。

 

 

「それで守り切れるか?悪鬼羅刹!」

 

 

次々と空に投影され、設置されて行く数多の剣。そのほとんどが、宝具に該当される物で。無銘の剣もあるが、それらが全て、バーサーカーではなく、その真下に下ろされた少女に向けられていた。

 

 

「ちっ…このッ!」

 

 

放たれて行く聖剣魔剣妖刀の類を、唯一残った脚で蹴り飛ばして行くバーサーカー。何とか蹴り飛ばせてはいるものの、相手の弾幕は厚い上に着弾速度も速い。このままでは、危ない。

 

 

「テメエは、気に入らん!」

 

「そうか?私は貴様に感謝しているのだがな」

 

「ほざけ・・・ッ!?」

 

 

吠えては見るが何も変わらず。放たれた偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)が己の腹を抉り消し、大きくその身が吹き飛ばされた。残されたのは、未だに気を失って倒れている無防備な少女のみ。

 

 

「ッ…やめろォオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

「それは聞けない相談だ」

 

 

突き刺さる魔剣。吹き飛ばされる少女の肢体。次々と放たれる剣、直撃はしない物の余波だけで傷付いて行くか弱い少女の身体、力無く倒れ立ち上がる事も出来ず叫ぶことしかできない己が身。

 

 

なぶり殺し。すぐには殺さず、苦しめていくそのやり方。

 

 

気に喰わない。

 

 

今まで、あっけなく殺されて行く人達を見て来た。

 

 

気に喰わぬ。

 

 

理不尽に命を奪って行く輩を見て来た。

 

 

・・・気に喰わぬっ。

 

 

当然だとばかりに、その命を貪り浪費して行く外道を見て来た。

 

 

・・・気に喰わぬっ!

 

 

大義のためにと、不浄の輩に穢される前にと、そんな名目で簡単に命を奪い、妹を斬り捨て、自分の娘を酷使する輩もいた。

 

 

・・・気に喰わん!

 

 

それら総てに、怒る、怒る。あの時とは真逆だ。救えなかった哀しみで憤怒が燃え上がった時とは違う。

 

 

溢れる怒のマントラが、空に浮かんでいた歯車の一つを消し飛ばし、自身を包むのを感じる。

 

 

この衝動に身を任せろ。救えないのが嫌なら、アレを繰り返したくなければ、総てに対する怒りのままに全てを叩き潰せ。

 

 

 

 

「っ…バーサーカー……」

 

 

 

無意識に助けを求めたであろう、漏れたその呼びかけに。憤怒が爆発した。

 

 

 

 

「ウアァアアア・・・」

 

 

 

バーサーカーを中心に立ち上った炎と雷の光柱から飛び出したのは、黒い両腕。炎を突き破り、全身の姿を現した。

 

それはまさしく悪鬼羅刹。怒りが極限に達する事で変貌する、自我を失った暴走形態。

 

 

エミヤシロウが求めた、【この世全ての悪(アンリマユ)】にされうる者。

 

 

その者の名はアスラ。その姿、制御不能の獣の名は「否天」。

 

 

 

 

もはや語るまい。

 

宝具【その怒りで世界をねじ伏せろ(アスラズラース)

 

 

 

「ウゥゥゥ…ァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

 

咆哮を上げた否天はエミヤを睨み付け、一跳躍で彼の背後を取ったかと思うと鋭く尖った右手を振り下ろした。




「否天」覚醒。バーサーカー第二の宝具【その怒りで世界をねじ伏せろ(アスラズラース)】発動です。エヌマエリシュみたいに物語の名を入れる宝具ってかっこいいと思う。…否天の呻り声がかなり難しいけど頑張るしかない。

思いっきり声優ネタです、すみませんでした。でもアスラとFateをコラボするならこの組み合わせは書くしかない…!ヤシャもエミヤも大好きです、はい。どっちも声だけでなく在り方も似ているんですよね。…どっちもアスラには気に喰わないのだけども。

今回で分かったと思いますが、赤いアーチャーの正体はそう、「衛宮黒名」の世界線の衛宮士郎です。『M』が「とある正義の味方の手で断罪された」と語っていたその人物。様々な聖杯戦争に参加している他、UBWの詠唱も微妙に違います。そして彼の持つマフラーは…あ、多分赤いアーチャーのマスターも誰か分かったと思います。

何が恐ろしいかってエミヤをここまで追い詰めてしまう衛宮黒名の異常性。狂っている万能って性質が悪い。これも全部衛宮切嗣って奴の仕業なんだ。

次回は冬木がマジでヤバい回。ランサー・ライダー・アーチャー・セイバーVS否天。第四次で言う大海魔回になるかと思います。

感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯17:燃える冬木、否天VS乖離剣

すみません、長くなったので分割します。

今回は否天VSギルガメッシュ。本当、この作品だと王の財宝の弱体化激しくて王様に申し訳ない…なので乖離剣登場です。


とある世界、とある時代。そこは、一つの終焉の形だった。

 

 

「永い眠りから目覚めよ!全て焼き尽くせ、【惑星憤怒(ゴーマ・ヴリトラ)】!」

 

 

突如出現した、巨山の如き巨躯を駆る蜘蛛の脚の如き八つの巨蛇。それは、たった一人の「悪」が魔術の概念を全て破壊するべく地球その物を改造した事で復活した【星の怒り】。

 

それが齎すのは即ち、地球の終わり。この世全ての悪(アンリマユ)になった少女によって、滅ぼされる運命へと引きずり込まれた星の危機に、「世界」により守護者が二人も召喚され、正義の味方と共に少女を討伐すべく戦っていた。

 

しかし人類最後の兵器として放たれた核ミサイルでさえ受け止め、逆に宝具に改造して返してしまう少女には圧倒的なまでに力不足であり、二人分の固有結界【無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)】は彼女の魔術で全て奪い取られてしまい、もう一人の自身の時間流を操作する能力や起源弾と呼ばれる必殺の弾丸でさえも、同じ力を有している彼女に及ぶどころか倍返しにされてしまう始末。

 

はっきり言って、相性最悪の少女に対し、三人の正義の味方は成す術もなかった。しかし、それではあと数時間もしない内に文字通り世界が終わる。それだけは、どうしても食い止めねばならない。

 

 

そう思い、挑んだのが惑星級の巨躯を持つ怪物。最悪、少女を倒さなくてもあの怪物さえ何とか倒してしまえば世界の滅亡は止めれる。しかし、それは浅はかだった。

 

結論からして、あの怪物は神々が本気を出してやっと倒せるようなバケモノだった。約束された勝利の剣(エクスカリバー)さえまるで通じない外装。騎士王に返しそびれた全て遠き理想郷(アヴァロン)でさえ防ぐのがやっとの通常攻撃。恐らく人類最高峰の英雄(ヘラクレス)でさえ勝つのは不可能だろう、そんな怪物。

 

 

結局、自爆覚悟の特攻でクロ姉を殺す事でそいつは消滅したが、アレはまさしく英雄王の生きた時代よりも古い世界の怪物だった。…それに勝利したアスラと言う、クロ姉の召喚した英雄(サーヴァント)は…どれ程の怪物(エイユウ)だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正義の味方を襲う悪鬼の魔手に対し、顕現するは突き刺さり壁となった剣の束。

 

ガシャン!

 

そんな無機質な金属同士がかち合り砕け散った様な音と共に、否天と化したバーサーカーは目の前の外道を斬り裂くはずだった右腕を引っ込め、一跳躍で後退。落ちて来た剣の滝を回避し再び突っ込む。

 

 

「ちっ!」

 

「ウゥゥアァアアッ!」

 

 

ぶつかる拳と、瞬時に投影された白黒の夫婦剣「干将・莫邪」。使い慣れたその剣はランクEXに至るバーサーカーの拳にも動じず、しかし押し返す事は出来ず逸らすだけに専念する赤いアーチャー・・・エミヤ。まともにぶつかれば、一撃でやられると分かっているからこその戦い方だった。

 

 

「なかなかどうして!」

 

「ウゥォアァアッ!」

 

「上手く誘導されてくれないものだな!」

 

 

突進してきた否天の背中に夫婦剣を叩き付け、相撲の要領で地面に転倒させるエミヤ。しかし否天は転倒すると同時に頭突きで地面にクレーターを刻んで赤いアーチャーを道連れ、先に底に着地し落ちて来たエミヤに向けて渾身のアッパーカットを叩き込んだ。

 

 

「グゥ…!?」

 

 

交差した夫婦剣を犠牲に防ぎ、大きく空に飛ばされたエミヤは新たな剣を投影して弓に番え、発射。否天は大跳躍してクレーターから抜け出したかと思えばエミヤの背後に移動しており右腕に溜めたマントラを砲撃として撃ち出した。

 

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

咄嗟に投影した剣を足場にして逃れ、丘に着地するエミヤ。しかし、今の砲撃で空に穴が開いていた。

 

 

「…一撃でこれか。赤原猟犬(フルンディング)!」

 

 

投影したのはバーサーカーの語源とされる英雄、ベオウルフの魔剣。一度放たれたが最後、標的を射抜くまで追い続けるそれを弓に番えて放つエミヤ。さらに続けて五連続、投影された魔剣が着地した否天に襲い掛かる。

 

 

「アァアアアアアアアアアアッ!」

 

「何だと…!?」

 

 

しかし、一瞬だけ顕現した四つの巨腕から放たれた光線の束が迎撃して全て炭にしてしまい、今までにない迎撃をされたエミヤは一瞬硬直。その隙を逃さない否天ではなく、巨腕を消すと突進。強烈な右ストレートが頬に突き刺さりエミヤはグルグル回って、クロナが転がっている傍に叩き付けられ、力尽きる。

 

 

「がはっ・・・」

 

 

軽く血反吐を吐きだし、体勢を直し息を整えるがしかし、圧倒的。生前、聖杯をフルに効かせ世界に喧嘩を売った衛宮黒名の放った「星の怒り」と対決した事があるが、この否天は天変地異より上であるそれを人型に圧縮した様な怪物。殴られて原型を保っていられる方が奇跡である。

 

 

「ここまでか…神をも屠った英雄の力は…!」

 

 

別に否天になるまでもなく、サーヴァントと言う枠に縛られていないアスラならこれ以上の力を発揮できただろう。しかし、サーヴァントの身で聖杯を使う事無く生前とほぼ同じ力を引き出すとしたらこの方法しかなかったとはいえ、末恐ろしい物だと、自分に扱えるような(おとこ)ではないとエミヤは再確認し、そして決意を持って令呪の宿った左手を掲げた。

 

 

「令呪を以て命ずる・・・!」

 

「ゥウウウァアアアッ!」

 

「その怒りで世界を壊せ、バーサーカー」

 

 

令呪。それはサーヴァントに対する絶対命令。しかし、世界に抗う否天は止まらず、首をかしげると幽鬼の如き動きで再度突進してきた。だがそれは想定内。エミヤは焦らず、一画減った令呪をかざして口を開く。

 

 

「重ねて命ずる・・・バーサーカー!」

 

「ウゥゥアァアアッ!」

 

 

剣の丘にクレーターを刻んだ拳を避け、転がっていたそれを抱いて後退する。これでも足りないと、理解しているが故に。そして、二画の令呪が刻まれた左手と、右手にぶら下げた少女を掲げて否天の光の無い真っ白な目を睨みつけた。

 

 

「この女の怒りに応え、全てを壊せ」

 

 

止まる。その一言で、令呪が否天を縛り上げた。マスターが変われど、守るべき対象は変わらない。生前怒りに我を忘れても、決して娘を忘れなかったように。

 

 

―――その怒りの根源こそ、娘を泣かせる世界に対する怒りであるがために。

 

 

そして、振り返った否天は何かを見詰める様に無言で佇むと、四つの巨腕を顕現。その中央にマントラを凝縮すると、それを一筋の光として撃ち出した。

 

 

 

貫く、空を。撃ち抜く、風景を。潰す、空間を。破壊する、世界を。

 

ある世界の、自分が守るべき少女と同一の存在を弔う墓標を。

 

それを救おうとした男の、遅すぎた後悔と哀れな生涯を映した心象風景を。

 

この先にあるクソッたれな世界を破壊する、そのために。

 

 

固有結界にのみ特化した三流魔術師の大魔術は、悪鬼羅刹の一撃であっけなく砕け、そして場は、騒ぎを聞き駆け付けた、愉悦神父と冬木のセカンドオーナー、歪んだ正義の味方とその後輩、各々のサーヴァント達と黄金の甲冑を着込んだ英雄王のいる礼拝堂の中へと、移り変わった。

 

 

中心に立つ、満身創痍の赤い弓兵とその腕に抱えられた灰色の少女、そしてサーヴァント達、特に英雄王を睨みつける悪鬼羅刹。

 

舞台は整った。役者は揃った。それでは幕を上げようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

綺礼side

それは、私とクロナの会話からそれほど立っていない、数分後に起こった。腕の怪我を癒していた所、慌てた様子のギルガメッシュが「黒名の気配が消えた!」と叫びながら現れた。固有結界だとほざくので、慌てて礼拝堂に向かった所、そこにはまだギルガメッシュを見せるべきではない凛、衛宮士郎、間桐桜が各々のサーヴァントを引き連れて訪れていた。

失策だった、とどう言い繕うか考えようとしたその時、空間が揺らいでそれが現れた。

 

 

(オレ)宝物(ほうもつ)に手を出すとは、よほど死にたいらしいな…贋作者(フェイカー)!」

 

 

その中心に立つのは、赤い外套とクロナの物によく似ているも血に濡れた白いマフラーを着込んだ白髪褐色肌の男。その手に抱えられているのは、先程まで元気に私と話していた我が愛娘の血に濡れ気を失った姿だった。…と言う事は、あの男の前に立つあの人型はバーサーカーか…?いや、雰囲気が妙だ。

男はギルガメッシュの激昂に平然とすまし顔を浮かべ、クロナを大事そうに抱えると不敵に笑みを作った。

 

 

「ああ、英雄王。確かに私はたいそれた事をしたな。やはり彼女は貴様の宝物に数えられるのか。だがな、この女は渡さん。例え貴様でもそれは譲らんぞ」

 

「ほう…俺の宝物に手を出したばかりか正々堂々盗むとほざくか…今宵の(オレ)は機嫌が悪くてな、手加減は出来ぬと思え!雑種ゥ!」

 

 

展開する王の財宝の波紋群から出現した宝具の数々に目を見開く凛達。いや、私はそれどころじゃない。これ以上破壊されたら本気で困る。

 

 

「落ち着けギルガメッシュ!今奴を狙えばクロナにも危害が及ぶぞ!」

 

「むっ。おの、れ・・・!?」

 

「ウゥァアアッ!」

 

 

ギルガメッシュが波紋群を消したその瞬間。唸るだけで微動だにしていなかったバーサーカーと思われる人型が動き、ギルガメッシュの腹部を殴り付け吹き飛ばしていた。何だ、今の速さは…第四次のアサシンやランサー、今回のランサーやアーチャーも目ではない敏捷だ。

 

 

「おのれ!クロナに手を出した奴ではなく、(オレ)に殴りかかるとは血迷うたか悪鬼羅刹(バーサーカー)!」

 

「ウゥォァアアアアッ!」

 

 

ギルガメッシュの言葉を意に介さず飛び掛かり、咄嗟にギルガメッシュの取り出した槍と鍔迫り合いをして窓を突き破り、外に出るバーサーカー。奴め、正気を失っている…と言うよりは、見てみるとクロナの右手に刻まれていた令呪が消えている。…あの男に令呪が渡ったと見るが自然か。

 

 

「・・・ねえ綺礼。さっきのキンピカは何?」

 

「…第四次聖杯戦争の生き残りのサーヴァントだ。訳あって私が保護している」

 

「そう・・・なら、クロナを抱えているアイツは?それにバーサーカーに何があったの?」

 

「残念ながら私は何も知らん。奴に聞くべきだろうな。だが、あのバーサーカーは明らかに異常だ。令呪が使われた可能性もある。助力を願えるか?」

 

 

こちらにランサーと共に近寄って来た凛と手短に会話を終える。ギルガメッシュの存在が知られたのは痛いが、今はクロナを取り返す方が先決だろう。少なくとも、あの英雄王ならそうしている。

 

 

「ええ、分かったわ。ランサーとアーチャーは外に出てあのキンピカのサーヴァントを援護!ライダーは私達と一緒にこの赤いのからクロナを取り返すわよ!」

 

「おうっ!」

 

「マスターを頼みます、ライダー」

 

 

凛の言葉を受け、外に出て行くランサーとアーチャー。衛宮士郎と間桐桜はライダーから銃を受け取り、凛はトパーズを取り出し構えた。私も治りたての右手で黒鍵を構える。それに対し、赤い外套の男は…満身創痍の身でありながら、余裕だった。

 

 

「どうした?バーサーカーの相手をしなくていいのか?…控えめに言っても、あの三騎では到底かなわぬ男だぞ」

 

「誰だか知らないけどうちのランサーと衛宮君のアーチャーを嘗め過ぎね。さっさとクロを返してもらうわ!」

 

「私だって彼等を侮っている訳じゃないさ。だが、何事にも例外はある」

 

 

そう言ってクロナを私目掛けて投げ付けて来る赤い男。この力・・・馬鹿な、サーヴァント…!?

 

 

Ein KÖrper(灰は灰に) ist ein KÖrper(塵は塵に)―――!」

 

「桜、下がって!士郎!」

 

「ああ!クロ姉を返せ!」

 

 

私がクロナを受け止めると同時に、その手に白と黒の双剣を出現させて構える赤いサーヴァントに対し凛はトパーズを投擲、間桐桜を下げたライダーも衛宮士郎と共に銃撃を叩き込む。ああ、教会がどんどん壊れて行く・・・いや、それどころではないか。一つ分かった、奴は私にクロナを渡す事で、私の動きを封じた。と言う事は、少なくとも接近戦が苦手でこちらの戦力を把握しているという事だろうか。

 

 

「どうした?温いぞ」

 

「そんな…」

 

「剣で、全部防いだ・・・?」

 

 

あれ程の攻撃を受けたにも関わらず、無傷。対魔力に心眼のスキルを併せ持つ・・・弓兵(アーチャー)か?

 

 

「士郎、凛!コイツ何か知らないけどサーヴァントだ、私がやる!」

 

 

サブマシンガンを二丁取り出し突進するライダーに黒の剣を投擲する赤い弓兵。ライダーはそれを一発の弾丸で弾き飛ばし、肉薄。遠距離からの銃撃は分が悪いと言う判断だろう、近距離からの銃は打撃武器だ。再び黒の剣を取り出した弓兵の剣と騎兵の銃が次々とぶつかり火花を散らした。

 

 

「てー!」

 

「っ…!?」

 

 

赤い弓兵を扉を蹴破る勢いで吹き飛ばし、それに追撃するべくポーチを開き複数の火縄銃を出して乱射するライダー。その弾丸は全て寸分たがわず赤い弓兵のボディアーマーに炸裂し、その身体はグルグル回り石畳に叩き付けられた。追う様に銃剣を取り出して飛び出すライダーに続き、私達も外に出る。

そして見たのは、街が燃え、その中で繰り広げられる神話の光景。…ああ、こんな事態、簡単に隠せるようなことではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称side

四つの巨腕を顕現し、次々と光の束を放ちヴィマーナを駆る英雄王と、滑空し突進しようとしていた天使を撃墜する否天。そのうち回避された光の束は次々と新都の街並みに炸裂し、火の手が上がるが、当の本人達はそちらに気を回す余裕など微塵も無かった。

 

撃墜した二人のアーチャーに追撃しようと突進する否天の隙を突いて距離を詰め、朱槍を突き出すランサーだったが、それはいとも簡単に石突きを握られて受け止められ、背後に投げ飛ばされ強烈なアッパーブロウを受けて空に殴り飛ばされてしまう。

 

 

「ちっ…スカサハの師匠には及ばねえが、やるじゃねえか…!」

 

「おのれおのれおのれ!守るべき女を守らず、さらには天を仰いで見やるべき(オレ)を地に立たせるか…クロナには悪いがその命、無い物と知れ!」

 

 

背後には生き残る事に特化した槍兵。前には怒りを見せる英雄王。二大英雄に挟まれた悪鬼羅刹はそれでも、止まる事を知らない。

 

 

「ウゥゥゥアァアアアッ!」

 

「「っ!」」

 

 

薙ぎ払う。巨腕を振るい、それを地面に叩き付け、吹き飛ばす否天。ギルガメッシュは大きく後退して王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開し、ランサーが射線上に居るにも関わらず雨あられの如く放射した。

 

 

「ウアァアアアアッ!」

 

 

四つの巨腕を盾に耐え凌ぐ否天。手加減無しの放射は、次々とマントラの腕を貫き抉って行き、とどめとばかりに四方向に現れた波紋から太刀を一つずつ放ち、背中から巨腕を四つ全て斬り落とした。…しかし、それは悪手だ。

 

 

「ウァアッ!」

 

「速い…!?」

 

 

アーチャーの敏捷よりも速い突進が英雄王の胸部を殴り砕いた。その正体は、斬り落とされた痕から放出した多量のマントラ。言うなれば魔力放出に近い物だ。即座に取り出した魔剣で斬りかかるも、既に否天は次の獲物であるランサーの腹部を槍ごと蹴り抜いており、それを踏み台に滞空していたアーチャーに拳を叩き込んでいた。

 

 

「…王を無視するとはいい度胸だ…さすがの(オレ)も我慢の限界よ…!」

 

 

アーチャーを叩き落とすとそのまま急降下してランサーに一撃与えて着地と共に後退、再び突っ込んで拳と石突きをぶつけ合うバーサーカーを視界に見やり、わなわなと全身を震えるギルガメッシュ。今夜、何度虚仮にされればよい。もうそんな怒りが彼を満ちていた。

 

 

「いいだろう、宝物庫の鍵を開けてやろう・・・起きよ、乖離剣(エア)!」

 

「「!?」」

 

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から取り出したるは、、赤い光を放つ文様を備えた三つの円筒が連なるランスのような形状の、文字通り異様な剣。その名も、知恵の神に冠したギルガメッシュのみ有する神造兵装【乖離剣エア】。

その、あまりに逸脱した宝具の登場に、最初から第八のサーヴァントと言うイレギュラーに混乱していた二騎はさらに混乱。しかし、否天は何かを思い出したのかジーッと睨みつけると四つの巨腕を再び顕現し、構えていた。

 

 

「ほう、抗う気か。さすがは不屈の英雄よ。ならば我が乖離剣、受けるがよい!」

 

「ウゥァアアアアアアッ!」

 

 

それぞれ【天・地・冥界】を表す三つの円筒を回転させ、大きく振り被るギルガメッシュ。

四つの巨腕の中心にマントラを収縮し光弾を形成してそれを膨張させていく否天。

 

神造兵装と神をも焦がす怒り、それぞれの対界宝具が激突する。

 

 

「世界を割くは我が乖離剣・・・受けよ!【天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)】!」

 

「ウォオゥァアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

圧縮され鬩ぎ合う暴風の断層が擬似的な時空断層となり、放たれた劫火の砲撃とぶつかりせめぎ合った。

 




綺礼の胃と冬木が割と真面目にヤバい件について。序盤は平行世界ですが地球もヤバい。

対界宝具VS対界宝具(どちらも一応手加減)、勝つのはどっちだ。…エヌマエリシュってどんどん威力が規格外になって行ったんですよね…最初はエクスカリバーとほぼ互角だったのに今は見る影もない。

アスラズラース本編だとヤシャと言うスピードが売りの諏訪部ボイスキャラで対戦するんですが、否天はかなり強敵でした。腕の跡からスラスターみたいに炎吹いて加速して来た時はビクった。初見だと仮面ライダーファンは多分プトティラコンボを思い出す機動力と暴れっぷりです。

エミヤが二画まで使ってやっと従えられる否天、本質はギルガメッシュに近いです。というか従ったのも、「クロナのために」ってのが大きい訳で。本当なら怒りのままにエミヤをボコりたいのが心境だったり。イメージは原作イリヤの「狂いなさいバーサーカー」な令呪とZero切嗣さんの最終回のあのシーン。どっちもいいよね。

次回、「ランサーが死んだ!」な話をお送りします。…真面目な話です、はい。


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♯GO:聖杯探索に魔術師絶許な弓兵が喚ばれたら

2016年、今年最後の投稿。前回が決戦過ぎてアレなのでギャグを入れられないなと思い特別編として、FGO編になります。ちょっとだけネタバレ注意。皆さん最終特異点は無事クリアできましたか?

FGOは本編でもイベントでもイケメンなぐだ子が主役でいいと思います。七章は最初から最後までぐだ子でプレイしました。女主金っていいよね!

そんな訳でちょっと脳筋女子高生なぐだ子が出ます。楽しんでいただけると幸いです。


私はぐだ子。つい先日まで女子高生をやっていたごく普通の日本人だ。…卒業もしてないのだが、女子高生をやっていた、だ。

 

始まりは2015年の夏休み。急増のマスター候補としてアルバイトみたいな扱いで呼ばれた、雪山の天文台「人理継続保障機関フィニス・カルデア」に赴いて、夏を涼しい雪山で過ごせるぞーと楽観視していたら何か気絶して入っていた元一般人の私の現在はと言うと。

 

 

カルデアが爆発して後輩を自称するマシュと言う名の少女を助けに行ったら、急増の間に合わせの筈が爆発から生き残った唯一のマスターとして、焦土と化した都市で後輩と青い人に指揮して女性の形をした黒い影と戦ってます。…うん、訳が分からないよ。

 

あの後なんか立体映像で現れた上司(?)のDr.ロマンからは一通り説明されたけどレイシフトとか言われてもよく分からないし、前線で盾を用いて殴り付けている後輩はデミ・サーヴァントとか言うのになっていて、私の後ろでカリスマガードしてブルブル震えているのはカルデア所長、オルガマリー・アニムスフィアと言う本来指揮しないと行けない人で、一緒に戦ってくれている青いお兄さんはキャスターのサーヴァント(?)のクーフーリンだと言うらしいのだが…何度でも言う、訳が分からないよ!

 

 

戦闘終了。戦っていたのはシャドウ・サーヴァント・ライダーと言うらしい。正直言って、何度も何度も私と所長を狙ってきてマシュが守りに戻って来るので時間がかかり、ほとんどキャスターのおかげで何とか勝てた。しかしキャスターと所長曰く、戦力増強が必要だとの事。

 

それで、倒壊している日本家屋の土蔵を仮の陣地とし、シャドウサーヴァントを倒した後に落ちていた聖晶石とか言う魔術媒体を用いて、マシュの(ラウンドシールド)を置いて英霊召喚なる物を試みる事になった。

 

 

現れる、三つの光輪が集束して光の柱となり、私の手にセイントグラフと呼ばれるカードが現れる。それに描かれているのは、金色の弓兵の絵柄。そして光の柱が消え、盾の前に立っていたのは、黒衣の少女だった。

 

 

英霊と言うのは英雄の幽霊みたいな物らしく、それらはほとんどが人類史に名を刻んだ英雄や反英雄らしい。キャスターは英雄で、さっきのライダーは反英雄だとの事。つまり私が召喚したのもそんな英雄の一人の筈だが…妙だった。

 

学生服の上から黒よりのグレーのロングコートを羽織り、白いマフラーを巻いて口元を隠している黒髪の少女。しかし弓兵(アーチャー)であるはずなのに弓どころか武装一つも持たず、どう見ても普通の女子高生だった。

 

彼女は周りを見渡し、視線を険しくするとまずキャスター、マシュ、所長の後に私を見て、私の右手に刻まれた令呪が見えてマスターと察したのか軽く会釈して来た。

 

 

「サーヴァント、アーチャー。真名…クロナ。召喚に応じました。英雄様じゃない反英雄で新しい方の英霊だから強さはあんまり気にしないで。ところでここ、冬木?何でまた火事なってんのかなー…今何年?」

 

 

忌々しそうに情景を見渡し、歯を噛み締める彼女の姿に言い様も無い不安感を覚えた。すると所長がおずおずと前に出て説明する。敵じゃないなら怖くもないらしい。何と言うか、残念な人だ。優秀な魔術師だって聞いたけど。

 

 

「えっと…2004年の冬木市よ。聖杯戦争の真っ只中で、何らかの異変が起きて特異点が発生したの。ところで貴方、アーチャー・・・でいいかしら?クロナって英雄は知らないけど、日本の英霊?」

 

「一応。簡単に言えば、聖杯戦争に参加したマスターの一人。…なんだけど、多分別の世界軸かな」

 

「聖杯戦争のマスター!?何でそれが英霊に・・・というかそれじゃ最弱じゃない…どうするのよこれ・・・」

 

「それはそっちの自己責任。あと英霊になった理由は聞かない方がいい。ところでマスター、私のステータスどうなってる?」

 

「えっと…」

 

 

セイントグラフを確認する。筋力D、敏捷C、耐久E、魔力EX、幸運B……うん、マシュに比べても弱く感じる。…………EX(評価規格外)!?

 

 

「ああやっぱり・・・なんでこのステータスでキャスターじゃないんだろうね。やっぱり弓の方が使いやすいからか…で、何でそっちのケルトの英雄さんはキャスター?ランサーじゃないの?」

 

「こっちが聞きたいぜそんなのはよ」

 

「そんな事より評価規格外ですって!?本当なのぐだ子!」

 

「は、はい。やっぱり凄い事ですよね?」

 

「凄いと言うかそれはもう魔術王と謳われたあのソロモン王以上・・・有り得ない物よ!何なの貴方!?」

 

「ああ、私の場合魔術とスキルが異常だから…?」

 

 

そう言われ、スキルの欄を見てみた。

 

 

対魔力Aー:自分に触れた魔術を瞬間的に己の物とし逆に防ぐことが可能。しかし瞬間的な物であるため、連撃に対し弱体化する。

 

単独行動A-:後述の「魔力変換(憤怒)」により魔力を半永久的に得られるためマスターから一ヶ月程度離れてもなお、宝具を一回使用できる程度に現界可能。ただし怒りが消えると一気にEまで下がる。

 

軍略C:多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。生前に勝率の低い戦いを敵のサーヴァントまで利用して勝利に導いた実績から。

 

改造魔術EX:彼女のみが習得した唯一の魔術。物質であるのならば、分子レベルから惑星級まで根本から侵食し、別物に変質させる。質量があるのならば自分自身の肉体から他人の宝具まで侵食可能。実体が無い魔術や事象に対しては無力だが、支配系の魔術に対しては絶対的な支配権を得る。

 

魔力変換(憤怒)A-:怒れば怒る程、魔力に変換して使用できる。生前の縁から得たとある英雄のスキルが変質した物。しかし冷めやすい性格であるため、切れる時はあっさり切れる。

 

破壊工作B:戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。正面からの対決よりもトラップによる搦め手を得意とする。ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。

 

 

 

・・・なぁにこれぇ(白目)。素人の私から見てもなんというか反則級だと分かる。後ろから見た所長とキャスター、通信に出たDr.ロマンも白目だ。

 

なるほど、評価規格外なのも納得だ。魔術に関して絶対的な力を持つ改造魔術を唯一会得した鬼才と言う事なのだろう。魔術に干渉できるとか何それ考えるだけで怖い。というかアーチャーなのに軍略得意なのか。多数のサーヴァントに指示するとかできそう。なのに破壊工作まで得意って…奇策士かなにか?

 

 

「魔力が評価規格外?…ああ、まあそうなるよね…私の喚んだバーサーカーも反則だったけど、私の場合生前より強化されているからなぁ…あれかね、平行世界の私の影響かな」

 

「と、とにかく強力な味方を得れましたね、先輩!」

 

 

変な空気を払拭するべくそう笑いかけてくるマシュ。いい後輩だ。

 

 

「あ、でも私はまだ貴方をマスターとは認めて無いよ。魔術師大嫌いだからね。…そこの銀髪は今直ぐ殺したいぐらい」

 

「ひっ!?」

 

「私が認めるのは、魔術師以外のマスター。魔術師だったら私はマスターでも殺すよ」

 

 

そう言って何処からともなく取り出した妙に刃が長い短剣(?)を向けるアーチャーに怯える所長。それを見て構えるマシュとキャスター。でも私は、その様子が何処か・・・苦しんでいるように見えた。

 

 

「ぐ、ぐだ子!こんな危険なサーヴァント、早く令呪で自害させなさい!命令よ!」

 

「…できません、所長。私の召喚に応じてくれた人だから。…アーチャー、どうすれば私を認めてくれる?」

 

「魔術師だったらアウト。後、私は何か個人的な願いのためには戦いたくない。そう言うのは英雄の仕事、私はただ・・・力を貸すだけ。目的は何?聖杯戦争で勝ち抜いて根源目指すとかほざいたら殺すよ」

 

「じゃあ大丈夫、私はつい先日まで一般人だったんだ。それでこんな理不尽にあって…ちょっと元凶を一発殴りたいかな?」

 

「先輩!?」

 

 

笑顔でそう本心を述べると、マシュが驚いて「無謀です!」とか何とか所長と一緒に止めて来た。それに対し一瞬だけポカンとしていたキャスターは「気に入ったぜ、嬢ちゃん!」と上機嫌で背中を叩いて来てちょっと痛い。どうやら英雄受けする答えだったらしい。

 

一方、アーチャーもいい笑顔を浮かべていて短剣の刃を引っ込めると柄の部分だけになったそれを懐にしまい、手を差し出してきた。これは…?

 

 

「うん、いい答え。ちゃんとこの状況に怒ってる。理不尽に屈しない。一般人でありながらこんな異常事態を引き起こした犯人をぶん殴りたいとか何それ私の好みストレートだよ。ああ、士郎もこれぐらい普通の感傷があればなぁ…」

 

「普通じゃないですよ!?」

 

「乗った。貴方をマスターと認める。まあわたくしアーチャーなもんで?接近戦には期待しないでね」

 

「うん、ありがとうアーチャー!よろしく!」

 

 

感極まり握手するとしっかりとアーチャーは握り返してくれて感極まる。最初からいてくれたマシュと、現地のサーヴァントであるキャスターを除くと私の初めてのサーヴァント。私なんかよりずっと偉大な人物に認められたのだ、嬉しくないはずがない。

 

 

 

「…あ、なるほど。私が可笑しいんじゃなくてこの二人が可笑しいのか。そうよ、そうよね。私は何も悪くない。レフ早く助けに来なさいよぉ…」

 

 

 

そうぼやく所長に私とマシュ、キャスターが呆れアーチャーが殺気を放ったその時。私の視界で、閃光が瞬いた。

 

 

瞬間、アーチャーとキャスターが同時に動き、それに気付いたマシュが私と所長を庇うように盾を構え、飛んで来た歪な形状の矢を防ぐ。

 

同時に、キャスターはルーンを展開して何時の間にか接近していた竜牙兵を応戦し、アーチャーは何故かマフラーを外して構えるとそれは変形して弓に変わり、その手に取りだした短剣(?)を矢の形状にして番えると笑った。

 

 

「…相手も弓兵みたいね。どうするマスター、お望みとあらば、どうやら知人の様だしあの赤いの一人で相手して来るけど?」

 

 

そう言って、飛んで来た矢を、己の放った矢で相殺させるアーチャー。とんでもない技量だ。…ここにいるのは竜牙兵だけみたいだし、多分マシュとキャスターだけで私と所長を守り切れる筈。

 

 

「任せられる?」

 

「うん。あ、相手するのはいいけどさ…マスター?」

 

 

そう言って背後を向き、こちらに笑いかけたその背中を、きっと生涯私は忘れない。

 

 

「別に倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 

そう言って地面を撫でつけ、それはまるで蛇の様にのたうってアーチャーを乗せ、敵弓兵の元まで怒涛の勢いで猛進して行った。返事はどうやら、いらないらしい。

 

 

「マシュ、緊急回避!背中からやって!」

 

「はい、先輩!これで…沈んで!」

 

「キャスター!瞬間強化、とどめをお願い!」

 

「おう!任せなァ!」

 

 

とりあえず思い付いた限りだが、今私の着ている礼装で使える魔術を用いて二人を援護、何とか竜牙兵を退ける事に成功する。所長も落ち着き、こちらに矢が飛んでこない事からあちらも戦闘を始めたと分かる。あとは、アーチャーが帰って来るのを待つだけだ。…その後はキャスターに「絶対勝てない」と言わしめた騎士王との対決が待っている訳だが…すると、キャスターが提案して来た。

 

 

「嬢ちゃん。提案なんだがアーチャーを待つ間よ、俺達もできる事をしておこうぜ」

 

「できること?…応急処置?」

 

「それはマシュにでもしてやんな。そうじゃねえよ。俺や、アーチャーの宝具じゃ騎士王の持つ聖剣の火力には敵わねえ」

 

「え!?でも、あのアーチャーならあの異常な対魔力で…」

 

「所長さんよ。気持ちは分かるが、奴のステータスをよく見て見な?」

 

 

そう言ってキャスターが私の持つセイントグラフに指差したのは、耐久Eと書かれている部分と、対魔力A-と書かれているスキルの欄。…だよね。私にも分かった、せっかく召喚したあのアーチャーだけど、多分・・・

 

 

「持久戦に弱い…いえ、もしかして聖剣を一瞬だけ防ぐことは出来ても耐える事ができない、そう言う事ですか?」

 

「おうマシュ、その通りだ。あの嬢ちゃん、多分俺に殴られただけでも沈むと思うぜ?」

 

「つまり聖剣を撃たれたらこちらに防ぐ手段が無いって事じゃない!やっぱり役立たずねあのサーヴァント!」

 

「所長、アーチャーを悪く言わないで。今私達が敵の狙撃を受けていないのは彼女のおかげなんですから。…それでキャスター、できる事って?」

 

「要は既に強力な矛があるんだから後は盾が必要だって事だろ?だったらうってつけのサーヴァントがここにいるじゃねえか」

 

 

そう言ってマシュに視線を向けるキャスター。…そうか、シールダーのマシュなら…

 

 

「確か宝具が使えないんだったよな?だったら修行あるのみだぜ。俺の本気の一撃、マスターから守って見せろよ!」

 

「「「ええ!?」」」

 

 

・・・アーチャーが帰って来るまで生きていられるのだろうか…後輩を信じよう。とりあえず所長、泣きそうになって私の後ろに隠れてないで少しは貴方の部下を信じてやってください。Dr.ロマンとか優秀すぎると思います。凡人の私から見てですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振り、士郎。…ああ、私の事は知らないのか。聖杯の泥を被った気分はどう?」

 

 

盗る。投げる。捨てる。弾く。斬る。敵、黒い靄に包まれたアーチャーのサーヴァント…私の知る少年の成れの果てである彼にそう問いかけながら近付いて行く。

 

彼の放った剣を盗り投げ付ける。

 

彼の放った壊れた幻想を放り捨てる。

 

彼の放った剣を盗って追撃の剣を上方に弾き飛ばす。

 

彼の放った矢を真っ二つに斬り裂く。

 

 

…ああ、一度融合したあの英霊の影響か似た様な事が出来る様になったな。王様に嫌われそうだ。でも私の霊基は完全に彼から分離しているし、単体で英霊にまでなったのに聖杯の影響か、私の中の泥の影響か、十分に対抗できている。・・・それと多分、彼にとって私は天敵だからだろう。彼の魔術と、私の魔術じゃ相性が悪すぎる。

 

マフラーを弓にし、矢を放つ。矢は途中で複数に増殖して彼を蹂躙し、血肉が舞ってその肉体はボロボロになって行く。ああ、私とは話す気にもなれないと。多分「私」を知らないエミヤシロウなんだろうけど、それでも私とは相いれないのだろうな。お姉ちゃん寂しい。

 

でも、理不尽の手先になるなら容赦はしない。正義の味方が悪の手先になったのなら、今日だけ私が貴方だけの正義の味方になってあげよう。

 

 

そして、弓兵が最期の手段として構えたのは、あの日見た世界有数の聖剣・・・の贋作。なるほど、本気で私を潰そうってか。ならば私も応えよう。…魔力使っても大丈夫だろう、私の怒りは、この状況を作り出した何者かに既に向いている。…ついでに、自分の力を信じず立ち上がろうともしないあの魔術師に対しての怒りも。

 

 

 

「怒・憂・我・暴・怠・欲・虚・色・・・人間の業を司る八極にして究極の一、私を構成するその憤怒を持って貴様等薄汚れた魔術師達、理不尽を今宵蹂躙しよう。…絶対に赦さない」

 

 

 

 

込み上げてくる怒りを、そのまま魔力に変換して。彼が、聖剣の贋作を振るうと同時に私も発動する。

 

 

 

万物を侵せ、(アンリミテッド・)無限の憤怒(レイジング・インベイジョン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後。どこかで…正確には、私と融合したあの英霊の記憶で見たことある気がする仮の宝具を得たマシュとキャスターの連携で黒き騎士王をマスターと共に打倒し。

 

キャスターが座に戻り何か出てきた黒幕の尖兵を名乗る胡散臭い紳士をマスターが私のマフラーを巻いた拳でぶん殴ってカルデアスとか言う炉に打ち込んだ後、実は死んでいた所長さんを令呪のブーストを受けて私が霊基を改造して「実体のある幽霊」にして共にあの焼けた冬木の地からレイシフト(?)して無事帰還。

 

拠点となるカルデアとか言う施設に訪れたその翌日。どうやら私と弓兵の勝負を見ていたらしい人類史上の最大の天才たる変態英霊に「バグチート英霊」なる不名誉な称号を与えられた。マスター、マシュ、所長、あと何か気に入らないアーキマンとか言うドクターからも文句無しと太鼓判を押された。解せぬ。

 

王様とかに比べた私超絶弱い雑魚なんですけどね?え、英霊は他に呼んでないから知らない?あ、はいそうですか。

 

で、次は何所?…フランスで百年戦争の直後の時代・・・ジャンヌ・ダルクが関係しているだと?ならば行くしかあるまい。そして理不尽に対する怒りを思う存分愚痴ろう。多分分かってくれる。王様からはあの聖女はお前には合わんとか言っていたけど、あんな文句の一つでも言うべき死に方したんだからそんなはずない。

 

 

・・・ないよね?

 

 

 

「ねえクロナさん!何かござるござるとか言うアサシンと小っちゃい渋声のキャスターを引きました!クーフーリンのキャスターも一緒だよ!」

 

「何でそんな弱小ばっかり引くの!?クーフーリンをランサーで呼ばないとか馬鹿なの!?」

 

「弱いはずないです!クロナさんと同じで尊敬すべき凄い人達ですから!」

 

 

いや、さすがに実在せずよく似ている農民な奴と絵本作家じゃ底が知れると思う。あと、何で私みたいな奴を尊敬しているんですかね?普通はあの所長見たく落胆すべきだよ?

 

 

「いやはや、そこまで言われると照れるでござるな。燕を切るしか能が無いと言うのに」

 

「TUBAMEの間違いだろうがNOUMINめ。せいぜい馬車馬の様に働いて俺を休ませろ」

 

「王様みたいな奴だな…」

 

 

最初のパーティが佐々木小次郎とハンス・クリスチャン・アンデルセンとか…私がメインするしかないじゃないかふざけんな。接近戦は佐々木小次郎に丸投げするぞこの野郎。…このアンデルセン、役に立つんだろうか。

 

 

「退屈しないどころか、これじゃ」

 

 

このマスターと一緒なら何時か、この怒りも忘れられそうだな。じゃあサーヴァントとして働きましょうか。…バーサーカーも一緒なら心強い事この上ないんだけど。あと王様。いや、王様は何か説教されそうだからいいか。




その後、第一特異点で白ジャンヌと出会い絶望したあと黒ジャンヌに出会いストーカーの如く追いかけ回す女子高生サーヴァントの姿があったとか。

何で小次郎とアンデルセンが最初なのかは、僕が最初に引いた鯖でセイバージル、アタランテ、プロトランサーに続いて出て来たのが彼等だからです。まさか小次郎がドラゴンキラーとは知らずにセイバージルと一緒にマシュにくべた思い出・・・アンデルセンはクロナと仲が悪そうでよさそう。

ぐだ子は無条件でサーヴァントの事を信頼して居そうで、いいマスターだと思います。クロナ的には好ポイント。でも本当は士郎と第一印象が被っていたのも影響していたり…サーヴァントになった「言峰クロナ」はこんな感じ。幸運以外の他のステータスが低い代わりに改造魔術の恩恵で魔力EXと言う規格外に…魔術師絶対殺すウーマンな「衛宮黒名」だったらどうなるんでしょうね(白目)

黒エミヤとの対決で見せた宝具の詳細はまた何れ。ダ・ヴィンチちゃんをしてチートと言わしめる物とだけ。

さて今回は序章ですが、また暇があればFGO編を更新していくつもりです(多分特異点ごとに)。序章と言えば年末FGOアニメ楽しみです。…見れるかな…。
では皆さん、よいお年を。


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♯18:全力全霊、抉り穿つ鏖殺の槍

お待たせしました、否天VSギルガメッシュ・ランサー・アーチャー・セイバー回となります。セイバーの宝具が登場したりランサーの見せ場回だったり。王様も頑張ります。

楽しんでいただけると幸いです。


天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)】と【その怒りで世界をねじ伏せろ(アスラズラース)

 

それぞれの物語に関した名の宝具が真正面からぶつかった。

 

ギルガメッシュ・・・人類最古の英雄王と、アスラ・・・悪鬼羅刹の権化たる怒りの化身の激突。全盛期・・・生前の頃の二人ならば、この地球は終わっていただろう。

何せアスラは、平行世界とはいえ狂オシキ鬼との対決で月を破壊してしまった実績があるのだから。ましてや対界宝具である、いくら手加減されたと言っても、並大抵の威力ではない。

 

 

ぶつかり合う災害に等しい対界宝具の奔流で疑似的な竜巻、嵐が発生する中、それぞれのサーヴァントの助けで…綺礼は抱えたクロナと共に士郎とついでにアーチャーに守られ…何とか留まるマスター達が見たのは、壮絶なる決着。

 

 

「…なにっ!?」

 

「ウゥアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

そして、教会が半壊すると同時に否天の劫火が暴風を突き破り、咄嗟に【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】を展開した英雄王を吹き飛ばしてしまった光景だった。

 

 

 

 

 

まさか、とギルガメッシュの実力を知る綺礼は驚愕し震えた。冬木を壊さないように加減した「余波」ではあったものの、その威力は対城宝具「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」をも上回る。それを突き破って見せた否天の一撃。

さらにそれは、かつてトロイア戦争で英雄ヘクトールの放った世界のあらゆる物を貫くと讃えられた【不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)】唯一防いだという逸話から投擲に対しては無敵の防御力を持つ結界宝具【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】を壊すには至らなかったものの、吹き飛ばす程の火力。

 

それらは全て、怒りから生じた火事場の馬鹿力だと言う事が末恐ろしく感じた。堪らず不可視の宝具を取り出してこの場から逃れたギルガメッシュから標的を変える否天。その先にいたのは、ランサーだった。

 

 

「ちっ…いいぜ、上等じゃねえか!」

 

 

突進してくる否天の拳を石突きで跳ね上げ、柄を腹部に叩き付けるもそれでも止まらず、左手を振り下ろす否天。ランサーは槍を手放して転がり回避。槍を手にしながら離れると立ち上がり、そして独特の構えで間合いを測る。

 

 

「嬢ちゃん!」

 

「ええ、ランサー!宝具を使ってそいつを止めなさい!」

 

「おうよ!その心臓、貰い受ける…!」

 

 

赤い弓兵に秘蔵の宝石を総動員しながら発したマスターの命令を受け、赤い魔力を放出するランサー目掛けて両掌からマントラ弾を連射しながら突進する否天。しかし、それはランサーのスキル「矢避けの加護」により全て外れ、そして真正面に差し掛かった時。緋色の閃光が瞬いた。

 

 

「【刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)】!」

 

 

以前、キャスターに放った通称「投げボルク」とは別の使い方。クーフーリンが編み出した、対人用の刺突技。因果逆転の呪いにより「心臓に槍が命中した」という結果を作ってから「槍を放つ」という原因を作る、必殺必中の魔槍だ。幸運か直感が高くなければ間違いなく殺せる必殺の一撃。それは当然、否天の心臓を見事に貫いていた。

 

 

「…なに!?」

 

 

しかし、この男。例え心臓を穿たれようが止まらない。ガシッ!と柄を掴まれた事で慌てて愛用の槍を手放して蹴り付け、距離を取るランサー。見てみると、やはり見事に貫通して胸部から柄が、背中から石突きが突き出ている状態だ。動けるはずがない。なのに動いていると言う矛盾。

当り前だ。この男、通常状態でさえ体を真っ二つにでもしなければ止まらない、要は頭さえ無事ならいくらでも暴れられるのである。因果逆転をもってしても、通じない怪物。どうしたものかと間合いを計っていると、空から襲い掛かるソニックブーム。アーチャーだ。

 

 

「はあっ!」

 

「ウォゥア・・・?」

 

「ランサー!」

 

「おう、助かったぜ嬢ちゃん!」

 

 

予期せぬ音速の拳を真上から受け、クレーターとなった地面に頭から引っ繰り返った否天の胸から槍を引き抜き、背後に着地したアーチャーの傍まで後退するランサー。すると否天は四つん這いになり、跳躍。

半壊した教会の壁に足を付け、崩壊するぐらいに踏み締めランクEXの速度でアーチャーとランサーに襲い来るも、アーチャーが拳で迎え撃ち、スピードに乗った否天の頬に一撃叩き込んで吹き飛ばすと、ランサーと共に突進。

 

 

「せいっ!」

 

「はあっ!」

 

「ウォアァアアアッ!」

 

 

何度も何度も距離を取り、攻撃を叩き込んではマントラのスラスターで翻弄、光弾やら拳やらストンプやら頭突きやらを叩き込んでいく否天の攻撃を、背中合わせになり何とか応戦するアーチャーとランサー。アーチャーは【最終兵器・空ノ落し物(APOLLON)】まで持ち出し、真名解放することなく火の矢として放って光弾を迎撃するが、否天に対しては全く効いていなかった。

 

 

「・・・ここじゃマスター達もすぐ傍にいる事だし分が悪い。どこか広い所に移動するぞ、アーチャー!」

 

「異論ありません・・・!」

 

 

そのうち、四方八方に壁があり、立体的な軌道を描く否天に有利なこの場だと不利だと悟った二人は徐々に、徐々に移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に目標と定めたのか、走るランサーと飛翔するアーチャーを否天は突進で追い掛け、街並みを破壊しながら突き進む三人。否天の拳でビルが崩落し、アーチャーはその瓦礫を殴りつけ散弾にして攻撃。しかしそんな攻撃など物ともせず、アーチャー目掛けて突進する否天の背後から槍を突き刺すランサーだったが、やはり効果は無く振り飛ばされてしまい、ビルの壁に着地。

 

 

「オラオラ、こっちだあ!」

 

「ヴゥォアアアアッ!」

 

 

そのまま走り、追撃と放たれた光弾を全て壁面を走る事で回避、宙に散らばる瓦礫を足場に上まで昇り、そこからゲイボルクを投擲。さらにそれに合わせるように頭上からアーチャーが急降下、その頭頂部に渾身の拳を叩き込み、投擲と拳、二つの必殺とも言える一撃が同時に叩き込まれた。

 

 

「ヴァッ!」

 

「なにっ!?」

 

 

すると、何と否天は炸裂する直前、スラスターを急噴射して前方のビル壁に突撃する事でその二つを回避してしまった。唐突な回避行動に、アスファルトに突き刺さったゲイボルクを引き抜きながら思考するランサーは.その側に舞い降りたアーチャーに自分の推察を述べた。

 

 

「アイツの弱点はどうやら頭部みたいだな。体の傷なら何とかなるが、頭部に致命傷を与えられたらどうしようもないんだろう。そんな逸話を残している英雄かもな。まあここまでとんでもないのはヘラクレスぐらいしか聞いたことねえがよ」

 

「貴方の逸話も凡骨の英雄に比べたらとんでもないと思いますが…それで、どうしますか?貴方の宝具は心臓部への回避不能の一撃。私の宝具は魔力が足りないので空の女王(ウラヌス・クイーン)を数分維持できていい方です。…弱点が分かっても、決め手がありません」

 

「…嬢ちゃんは一つ隠し玉があるんだろ?そいつはどうだ?」

 

「宝具ではないですが魔力が足りません。せめてライダーがいれば…」

 

 

アーチャーが思い出すのは、最弱に戻る代わりに当てれば確実に仕留める事が出来る宝具を有する同じ釜の飯を食べた仲のサーヴァント。しかし、彼女は自分のマスターを任せた為ここにはいない。あの変態剣士を警護に残せばいいだろうが、相手していた赤装束の男はありえない事だが英霊だとアーチャーの目が告げていた。それを察したのかランサーは小さく舌打ちする。

 

 

「あの嬢ちゃんにはマスター達の警護を頼んでるからな、力を貸してもらう訳には行かねえ。…一つ、手はあるっちゃある。如何に奴と言えど、確実に仕留められる手がな」

 

「ではそれを・・・」

 

「…だが、自爆宝具だ。嬢ちゃんの指示があれば使うが、勝手に使う訳には行かねえよ」

 

「そうですか。では、別の手段を考えましょう」

 

 

共に裏切りを嫌う英霊同士。ランサーの意を汲み取ったアーチャーは姿を現し突進してきた否天目掛けて翼を大きく振るい、撃墜。否天は巨腕を顕現してアーチャーを握り投げ飛ばすも、その瞬間をランサーが真横から蹴り付け、槍の柄を首に叩き込んで地面に埋めると、投げ飛ばされた先で翼を広げエアブレーキして着地していたアーチャーと合流。そのまま共に、目的の地へ走り出した。

 

 

「だったら目的地は決まりだな」

 

「はい。被害が少なく、また人目につかない場所・・・」

 

「港の倉庫街だな」

 

「ウオゥォアアアアアアアッ!」

 

 

スラスターを噴き、追い掛けて来る否天に瓦礫を蹴り飛ばし、投擲しながらランサーとアーチャーは共に最速のサーヴァントとしてのスピードで新都の街並みを駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港の倉庫街

深夜であるため人気のまるでないそこ、第四次聖杯戦争では初戦の舞台になったそこで再び激闘の幕が上がる。木端微塵に吹き飛ぶ倉庫にコンテナが多数散らばる中を飛び出し、着地したランサーとアーチャーが迎え撃つは、修羅と化した狂戦士。

 

 

「オラアッ!」

 

「はあっ!」

 

「ヴォアァアアッ!?」

 

 

突っ込んできた否天に対し、共に脚と拳を突き出してその勢いを利用し撃墜。散乱したコンテナに頭から突っ込み一瞬静止する否天だったが、四つの巨腕を顕現してコンテナを引き裂いてその断片四つを投擲。飛んで来たコンテナの断片を飛翔して回避するアーチャーと、いわゆるマトリクス避けで回避するランサーだったが、それぞれ二つ目が続けて投擲され真正面から受けてしまい、ランサーはアスファルトの地面に、アーチャーは倉庫の屋根に転がる。

 

 

「ウゥォアアアアアッ!」

 

 

再度巨腕を引っ込めてスラスター噴射、否天はアーチャーが屋根にいる倉庫に両腕を振り翳して突撃すると破壊。落ち来た柱を槍の様に構えて投擲し、ランサーがゲイボルクでそれを弾くと狙ったように突進し、その顔を掴んでアスファルトに引き摺るとボウリングの様に投げ飛ばしてコンテナの山に激突させダウンさせた。

 

 

「ランサー!…ッ!?」

 

「ウォゥアアアアッ!」

 

 

それを助けようと飛翔するアーチャーに向けて跳躍、巨腕を出現させて二本でアーチャーを翼ごと鷲掴みにして拘束すると残り二本で真下のコンテナを掴みそれをアーチャーに叩き付けて撃墜した否天は、その勢いで着地しクレーターを作り上げると、慟哭の咆哮を上げた。

二人は被害を抑える事に固執し、選択を誤った。元々無手で戦い、自分より大きな敵を掴んで投げ飛ばす事を得意としていたアスラと言う怪物(エイユウ)にとって、付近の障害物を投げ飛ばし放題なここは最も力を発揮できる場所であるのだ。

 

 

「ウゥアアアアアアッ!」

 

 

終わりだと言わんばかりに再び巨腕を顕現し、ギルガメッシュを打ち倒した劫火の砲撃を放つべく四つの巨腕の中心にマントラを収縮し光弾を形成してそれを膨張させていく否天。それに対し、コンテナに押し潰されて動けないアーチャーとランサー。積み。チェックメイト。王手。絶体絶命かと思われたその時・・・!

 

 

気高く荒き疾風の脚(エポナ・オブ・アラウンド)!」

 

「ヒヒーン!」

 

「ウゥア!?」

 

 

真横から突進してきた、栗毛の馬が否天に体当たり。光弾を霧散させて二人の窮地を救った。現代に似つかわしくないその馬。ましてやライダーがバイク乗りであるこの聖杯戦争ではありえないその存在に搭乗していたのは。

 

 

「死んでないよな?ランサー、アーチャー」

 

「「セイバー!?」」

 

 

三騎士クラス最後の一人にして、最優のサーヴァント・セイバーだった。彼の真名は時の勇者リンク。その二つの時代、異世界にも置ける冒険の脚として活躍したのがこの名馬、エポナである。エポナに搭乗した彼は無敵とも称され、それを象徴するかのようにこのエポナ、下手な攻撃ではビクともしない。

しかし彼は剣士(セイバー)である、何故マスターソード以外の宝具が使えるのかと言うと、マスターの特性から。イリヤの持つ類稀なる魔力量から、本来ライダークラスで使用できるはずの宝具まで使用可能となっているのだ。ちなみに彼はさらにもう一つ宝具を今回の現界で所有しており、やはりアキレウス等と並ぶ一級の英霊と言えるだろう。

 

 

「マスターに命令されてね。アーチャーを脱落させたらつまらないから手助けして来いってさ。援軍、いるかい?」

 

「ああ。正直助かったぜ。俺達の宝具だと奴に対して有効打にならなくてよ。ほぼ積んでたんだ」

 

「セイバー、助力を願います」

 

「了解。行くぞエポナ。奴に追い付かれるな!」

 

「ヒヒーン!」

 

 

任せろと言わんばかりに嘶きを上げ、再度突進するエポナ。体勢を立て直した否天の投げ付けて来たコンテナはエポナに乗ったまま構えた弓に番えた氷の魔力を宿した矢をセイバーが放ち、氷漬けにして体当たりで破壊してそのまま直進。直前で振り返り、後ろ足による強烈な蹴り上げで否天を蹴り飛ばし、そこに矢を数本番えた弓を構えたセイバーが次々と射って攻撃。

 

いくら再生すると言っても急所に当てられた矢は明確なダメージになり得るため、徐々に押されて行く否天に驚くアーチャーとランサーだったが、同時に納得もする。今まであちらの一撃の威力が高い為、こちらも一撃で沈めようとばかりに気を取られていたが、確かにこの戦法の方が効果的だ。

 

 

 

「動きを制限させるぞ!」

 

「はあっ!」

 

 

ランサーは否天の背後に移動して槍による連続突きを。アーチャーは翼を羽ばたかせて舞い上がり【空の女王(ウラヌス・クイーン)】を発動して永久追尾空対空弾(Artemis)を放射。顕現する巨腕を次々と撃ち抜き、消耗させて行く。

 

 

「ウゥォァアアアアッ!」

 

 

前方にはセイバー、後方にはランサー。上空にはアーチャー。三騎士に囲まれた否天はダメージを受けながら何やら思考すると、矢と穂先、光弾を浴びながらも両腕を振り上げ、怒のマントラを溜めると地面に叩き付け、爆発。

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

エポナに乗ったままセイバーは吹き飛ばされ、何とか飛び退いたランサーと上空にいたアーチャーは難を逃れるも、その隙に顕現した巨腕から放たれた幾重もの光線が二人を貫き、鮮血が舞った。

 

 

「やはり、強いなアンタは!【時をも超え輝く退魔の剣(マスターソード)】!」

 

 

エポナも共に光線に撃ち抜かれた為エーテルに戻し、盾と聖剣を構えた勇者は悪鬼に飛び掛かる。拳を盾で押し退け、振り下ろされる巨腕を真名解放した聖剣で斬り捨て、まるで相撲の様に押し合い、押され合い拮抗する両者。しかしスペックの差か、それとも文字通りの手数の差か、徐々にセイバーが押され始めた。

 

 

「ヴゥォァアアアアッ!」

 

「クッ…!」

 

 

巨腕に聖剣を抑えられ、盾も取り上げられ、セイバーはポーチからメガトンハンマーを取り出して盾の代わりに振るうも、それすらも抑えられ何とか押し止まってはいるが、これ以上は限界である。

すると、否天の背後から四つの鎖が放たれ、巨腕に巻き付きグイッと引っ張り拘束した。その拍子に解放され、アスファルトを転がるセイバー。

 

 

「あ、貴方は…!」

 

「人の世に害を為さんとする悪鬼だ。(オレ)が見逃す訳が無かろう!」

 

 

四肢だけでなく翼も撃ち抜かれたアーチャーが声を上げる。彼女と共に体中から血を流したランサー、頭から血を流したセイバーが見てみると、そこにあったのは姿を消して逃れていたはずの英雄王の姿だった。しかし何時もは立てられている髪は降ろされ、右手をかざしてはいるものの左手で胸元を抑えており、その表情には珍しく余裕はなかった。

 

 

「アレで逃げる(オレ)だと思うたか雑種共よ!…しかし王と言えど今宵は傷を受け過ぎたのでな、口惜しいが討伐の栄誉は貴様等にくれてやろう。足止めは(オレ)と我が友に任せよ!」

 

「ウゥォアァアアアアッ!」

 

「むっ、“神を律する”ものであるこの鎖を持ってしても抗うか。いや、貴様は元より神性は低かったな…ならばクロナのためだ、ありったけくれてやろう!()け、天の鎖(エルキドゥ)!」

 

 

その言葉と共に波紋が四つ現れ、そこからさらに四本の鎖が放たれて否天の四肢も拘束。背後に向けて引っ張り、拘束を壊そうとしていた否天の動きを完全に封じる。どうやら巨腕を消す事も叶わないらしく、暴れる否天。その絶好のチャンスに対し、動かない英霊達ではない。

 

 

「セイバー!」

 

「頭を狙え!」

 

「ああ!時の女神に七人の賢者達よ…我が聖剣に彼の者を打ち倒す退魔の光を宿したまえ!」

 

 

アーチャーとランサーの声を受け、盾を捨てて立ち上がったセイバーはマスターソードを両手で構え、詠唱と共に突進。それは、あの夜と同じ。バーサーカーと引き分けで終わったあの対決の続き。願わくば、あの時と同じく信念のぶつかり合いを望みたがったが是非も無し。勇者とは、魔を打ち倒す者の事を言う。

 

 

「【時をも越え輝く退魔の剣(マスターソード)】ォオオオオオッ!」

 

 

一閃、二閃、三閃。次々と叩き込まれていく聖なる光を纏った退魔の斬撃。それは聖三角(トライフォース)を描き、それはさらに重なって斬撃が叩き込まれて行く。

 

 

「デヤァアアアアアアッ!」

 

 

そして最後の一閃が打ち込まれ、描かれた聖三角(トライフォース)が眩き黄金の光を解き放ち、天の鎖(エルキドゥ)から解放された否天の体は大きく吹き飛び、その姿は大きな水飛沫を上げて未遠川の中腹辺りに沈んで行った。

 

 

「やりました…か…?」

 

「やった、だろうぜ…あんなの喰らえばヘラクレスでも一溜りもねえ。ったく、さすがは勇者様だよ」

 

「…何とか、やった・・・かな、英雄王?」

 

「遠見の魔術で観ていたか。王の雄姿を覗き見するとはよい度胸だ、後で迷惑料を要求してやろう」

 

「それは困るな。アンタの財には遠く及ばないからな、うちの姫様も」

 

 

疲れ果てた顔でギルガメッシュ以外どっと倒れる英雄達。唯一立っているとはいえギルガメッシュもかなり疲弊している様だ。

クランの猛犬クーフーリン、時の勇者リンク、英雄王ギルガメッシュに加え、空の女王と呼ばれる程の力を有するイカロス・・・これ程の英雄達が死力を尽くして奮闘した悪鬼討伐、これにて完了かと思われた・・・しかし、人類史以前の英雄は、文字通りの怪物(エイユウ)だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ウゥゥゥ…ァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

慧眼を持つギルガメッシュと言えど、予想もしなかった事態。巨大な川である未遠川が完全に干上がり、その中心に立つのは四つの巨腕を顕現し、その内二本で大地を踏み締め、残り二本をこちらに向けて翳しその両掌に光球を形成し今にも放とうとしている、否天の姿。

 

 

「ヴゥォアアアアアアアアッ!」

 

「っ…絶叫する魔盾(オハン)!」

 

絶対防御圏(aegis)!」

 

 

咄嗟にギルガメッシュが全員を守る様に絶叫する顔が掘られた黄金の盾を展開、それに重ねる様に残り数分が限度である空の女王(ウラヌス・クイーン)の有するスキルの一つ、aegisを展開するアーチャー。同時に、強烈な閃光と共に二筋の熱線が放たれ、aegisをいとも簡単に破壊、オハンに直撃して拡散する。

拡散された熱線は倉庫街を焼き払い、火の海となる。猛烈な怒りが生み出したその攻撃によって通常状態に戻り、倒れ伏すアーチャー。ランサーとセイバーは己の得物を構え、ギルガメッシュもオハンを仕舞い代わりに王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開し構えた。

 

 

「アレでも死に切らないってのか…!」

 

「おい金ぴか!さっきのアレはまた撃てねえのか!?」

 

「無理をほざくな雑種めが!さっきのせめぎ合いでオーバーヒートを起こしている乖離剣で奴を仕留めるのは不可能だ!」

 

 

ランサーの言葉にそう吠えるギルガメッシュ。すると。

 

 

「アーチャー、無事か!」

 

「ランサー!」

 

「セイバー、魔力一気に喰われたけど大丈夫!?」

 

「ギルガメッシュ!大事ないか!」

 

 

教会から走って駆け付けたのか士郎と綺礼、凛と桜、ライダーとイリヤ、そして綺礼に抱えられた気絶したままのクロナがやって来てギルガメッシュ達と合流。士郎は力尽きたアーチャーに駆け寄った。

 

 

「アーチャー!おい、アーチャー!」

 

「安心しな。その嬢ちゃんは力尽きているだけだ、致命傷は負っていない。ところでそっちはどうした、あの赤いのは」

 

「マスターに呼ばれたみたいで逃げたわ。あともう少しで勝っていたって言うのにね。それより状況は?……何か私が管理している街が燃え盛っているんだけど」

 

「…凛、さすがの聖堂教会もここまでの被害だと隠し通すのも「同時多発テロ」とかしか無くなるぞ。…ギルガメッシュ、エアが敗れた様だが大丈夫か?」

 

「愚問だな綺礼。奴は痛い目に遭わさんと気が済まん。…クロナはどうだ?」

 

「先程一度だけ目を覚ましたがそれっきりだ。バーサーカーを頼むと言われた」

 

「それよりどうすんの!あれ、こっちに来てるみたいなんだけど!?」

 

「…マスター達だけでも逃げろ、アイツには俺の宝具も通用しなかった。いよいよ後が無い」

 

 

状況確認をするそれぞれだったが、そうしている間にも巨腕を動かし歩み寄って来る否天を視界に捉えたセイバーとライダーが各々の武器を構えて叫んだ。すると、ランサーが槍を肩に置き、笑顔で凛に提案する。

 

 

「なあ嬢ちゃん。聖杯戦争に勝ち残ろうとしているアンタには悪いが…アレ、使ってもいいか?」

 

「…アレって…まさか、あの宝具!?駄目よ、確かにアレなら止めれるかもしれないけどランサーが…」

 

「俺はこの現界で強い奴と嫌って程戦って来たからな。満足してる。…いや、最後にセイバーとは一度手合せしてみたかったがな。アンタの承諾さえもらえれば、この命に代えて奴を殺す事を誓う。ゲッシュとは言えないが…約束するぜ」

 

 

そう真剣な顔で述べるランサーに、凛は暫し思考し否天が未遠川の中腹を抜けた頃、覚悟を決めたのか不敵な笑みを浮かべて令呪を掲げた。

 

 

「そうね。聖杯戦争のマスターとしてではなく、冬木のセカンドオーナーとして奴を止めなければいけない。…ランサー、令呪三画を持って命じる。宝具を全力全霊でぶちかまして、奴を必ず倒しなさい!」

 

「おうよ!承ったぜ、マスター! よし!テメェら、どいてな!」

 

 

そう叫び、全員己から10メートル離れた事を確認したランサーはまた独特な構えを取り、右手で魔槍を構える。

 

 

「行くぞ。この我が最大の一撃、狂いに狂ったアンタへの手向けとして受け取るがいい───!!」

 

 

地面を踏み締め、全身をバネにして全ての力を右腕に集中、自らの肉体の崩壊も辞さないほどの全力投擲を放った。

 

 

「穿て、抉れ、ブチ抜け!―――【抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)】!」

 

 

全力スイングで放たれたホーミング魔槍ミサイルは背後のアスファルトに亀裂を生み出し、さらには大地を裂きながら否天に一直線。否天が反応する事も出来ず、その胸から下をぶち抜き、消し飛ばした(・・・・・・)

 

 

「―――ヴゥ…ァア…」

 

 

何も理解できず、干上がった未遠川にできた巨大なクレーターの真ん中に落ちて行く、胸から上だけとなった否天の肉体。しかし、その代償として。

 

 

「―――どうだマスター、アンタのサーヴァントは…」

 

「…ええ、一流の私の召喚に応じたサーヴァントだもの。超、一流の働きだったわ。ありがとう、ランサー」

 

「おうよ…また、機会が在ったら喚んでくれや……」

 

 

その言葉を最期に、ランサーは、クランの猛犬と謳われたアルスターの光の御子はエーテルへと還って行った。

 

 

「…雑種にしてはよい全力全壊の一撃であった。賛美をくれてやろう…クー・フーリンよ」

 

 

ギルガメッシュの言葉に、最期に残った顔でしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべ、槍の英霊はここに脱落した。




ランサーが死んだ!この人でなし!をただひたすらかっこよく書きたかったがための話でした。…まあ否天は神様もどきだから人じゃないし。

ランサー脱落。この聖杯戦争で最初の脱落者ですね。だって皆しぶといんだもの…何気に、ギルガメッシュとエミヤと言う番外サーヴァントを抜くと原作鯖で唯一の脱落者となります。これはしょうがない。

セイバーの第二宝具、気高く荒き疾風の脚(エポナ・オブ・アラウンド)。生半可な攻撃ではビクともしないと言うのはゲーム的なメタ能力です。乗っているだけでコッコだろうがノーダメージなエポナさんマジ無敵。攻撃の方法はゼルダ無双がちょっと入ってます。いつぞやの爆弾ポイポイ無双もゼルダ無双が元です。

序盤に吹っ飛ばされたけど助太刀に復活。やられてもただでは起きないのがうちの王様です。「M」にやられた傷が残っているのにこの奮闘、よほどクロナが大事なのか。ただ英霊達と共闘するギルが書きたかっただけとかそんな訳じゃないです、はい。

抉り穿つ鏖殺の槍。…クー・フーリン・オルタの宝具ですね。再生できるから使える様なのを使うから…どれぐらいの威力かと言うと、幸運Aで心臓破壊を回避した嫁王様が心臓以外の臓器を丸々抉り砕くと言う重傷を負うぐらいの威力です。それが心臓に当たったんだから胸から下消滅も納得いくはず。

さて、何とか否天を止める事は出来ましたが次回はエミヤside。主人公そろそろ起きろ。エミヤのマスターも判明したりします。もう誰か分かっている人多いと思いますが。
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯19:お前にだけは、負けられない

前回と並行して進行する、いつもよりちょっと長い今回。珍しく士郎主役回となります。アルトリア出番なしとタグで言ったな?アレは嘘だ(でも現実には出ない)。

やっと主人公起きたり、士郎と桜が何時の間にか強くなってたり、エミヤのマスターが分かったりする回です。楽しんでいただけると幸いです。


 

 

「…士郎。起きてください、士郎」

 

 

俺に呼びかける声が聞こえる。聞いた事もないのに、何故か知っている声が聞こえる。

 

 

「…ここは…?アンタ、誰だ…?」

 

 

目を覚ますと、広がるのはこの世の物とは思えない幻想的な花畑の光景。その中心に立っていたのは、青いドレスと鎧を身に着けた金髪の少女。

 

 

「初めまして、と言って置きましょう。私の名はアルトリア・ペンドラゴン。…貴方の剣となるはずだった英霊です。…アーサー・ペンドラゴンと言った方が貴方には分かるでしょうか?」

 

「アーサー王だって!?」

 

 

その名なら知っている。世界で最も有名な聖剣、エクスカリバーの使い手として知られたブリテンの王、英国史上屈指の大英雄。最期は実の息子、モードレッドの起こした反乱の末、カムランの丘に倒れた。そんな英雄が、目の前の彼女…?

 

 

「元より、私はそんな煌びやかな伝説に謳い上げられる程の人物ではないのですが…私は性別を偽って王位を務めたのです」

 

「…それで、そのアーサー王が俺に何の用だ?ここは…」

 

「ここは士郎の深層心理の世界…に私が介入した物です。私は貴方に召喚された。ですが、現界できずにここに召喚されました。…本来ならば私は、貴方と共に戦地に赴き、剣を教えるはずでした。ですが、貴方が現実世界で召喚したのは空の王、イカロス。…恐らくは、貴方がアサシンから致命傷を受けた際に何かしら呪いか何かを植え付けられたのかもしれません。そのため貴方に埋め込まれている私の鞘が正常に機能しなかった可能性があります」

 

「ちょっと待て。俺に埋め込まれた鞘って何だ?」

 

「…文字通り、私が生前所有していた現存する宝具【全て遠き理想郷(アヴァロン)】。貴方の養父、衛宮切嗣が貴方を救うために埋め込んだ物です」

 

「…切嗣の事を知っているのか?」

 

「私のマスターでしたからね。…あのクロナも、知っていると思いますよ?」

 

「クロ姉も…?」

 

 

そう言えば説明する前から爺さんの名前を知っていたな…それにクロ姉の父親は聖杯戦争の監督役だから…爺さんが以前の聖杯戦争に参加しているなら、知っているのも当然…なのか…?

 

 

「士郎。彼女は貴方のためなら命だって捨てる様な人です。そこだけは信頼できると断言します。…魔術師に関しては本当に容赦ないですけどね。私には、以前の聖杯戦争で貴方を守れず散ってしまい、貴方があそこまで追い込まれてしまった責任がある。なので、ここだけですが助力させてください」

 

「…その俺の事は知らないが、そこまで気に病まなくていいと思うぞ。そんなに追い込まれてしまったなら、それはアンタのせいじゃなくて俺の自業自得のはずだからな」

 

「自己犠牲は犬も食わないんですよ、士郎?」

 

 

そう言いながらも笑うアルトリア。その笑顔は輝いていて…やっぱり、こんな女の子がアーサー王だと言うのは少し、許せない気がした。

 

 

「…私がアーサー王なのが不服の様ですね。いいでしょう、証拠を見せます」

 

 

そう言って何か、透明の物を構えるアルトリア。すると激しい風が弾け、その内部に隠されていた黄金の聖剣…エクスカリバーが姿を現した。…確かに、何よりの証拠だな。

 

 

「…それを見せられなくても、俺はアルトリアの事を信じるよ。俺のために力を貸そうとしている女の子を疑うなんてできない」

 

「それでこそ士郎です。…それでは本題です。貴方には、ここで私と戦ってもらいます。正直に言って、貴方は弱い。私が召喚されれば、無謀にも私を守ろうと鍛錬を望んできたでしょうが、あのアーチャーはそれを許しませんからね。…前のマスターがどうも、本当の意味で強かったようです。よくは知りませんが」

 

 

ビシッと言われて何も言い返せなかった。…ああ、そうだ。俺は誰よりも、弱い。キャスターの固有結界の一件でそれは明確になった。あの時、俺はアーチャーに指示を出す他、何もできていなかった。せいぜい桜を庇うことぐらいだ。使える魔術も強化だけ…今の俺じゃ、正義どころか何も守れない。

 

 

「弓術が貴方よりも優れ、士郎の陣営のマスターで一番強いと思われるクロナ。未熟ながらもライダーの手解きによる銃の扱いは貴方よりも優れているサクラ。魔術的な意味では一番優秀なリン。しかし貴方は、現時点では強化しかできない未熟者。それは貴方も自覚しているでしょう。ですが、貴方には剣の才覚がある」

 

「俺が…剣?」

 

「アサシンに対し、即席とはいえ紙の剣で立ち向かったのが何よりの証拠。生憎と、私の使う剣術は貴方には向いていませんが…戦い方を、教える事は出来ます。そして、貴方は投影を本当の意味で会得する必要がある。時間はいくらでもあります、貴方が満足できる強さになるまで…士郎の剣たるこのアルトリア・ペンドラゴンがお相手しましょう!」

 

 

そう言い、聖剣を構えるアルトリア。それに対し、俺の手には何時の間にか木刀が握られた。…やるしかない。俺は強くなって、クロ姉たちを守れる正義の味方になるんだ。

 

 

「ああ。頼む、アルトリア!」

 

 

そんな夢を見たのは、何時からだったか。少なくとも俺は、強くなれていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否天とサーヴァント達が交戦する一方、教会跡地で赤いアーチャー・・・エミヤと戦う士郎達。士郎がライダーから借りた銃はあっけなく破壊され、持ってきた木刀に持ち替えており、宝石を構えた凛とライフルを構えた桜と共に、ライダーを援護していた。サーヴァントと思われるエミヤに対し、対抗できるのがライダーのみだからである。

 

 

「サモエド仮面ほどめちゃくちゃじゃないけど強いわね、アンタ!」

 

『間違いなくサーヴァントだ、でもセイバーにしては筋力もライダーが張り合えるぐらいだ・・・一体何のクラスだ?・・・右だ、ライダー!』

 

「二人で一人のサーヴァントか、中々に厄介だな・・・だが!」

 

 

本来遠距離型のライダーが、ベレッタM92とM9バヨネットを装備してエミヤの剣戟と張り合えているのは、ひとえに指示してくれるエルメスがいるからだろう。これこそ「謎の美少女ガンファイターライダー・キノ」と言う真名を持つライダーの本領発揮。実質二対一に持ち込める。しかし、エミヤの技量はその上を行っていた。

 

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

ライダーの突き出したベレッタの銃口に掌を押し付け、そう唱えると干将が投影されると同時に銃身を貫き、突如出現した剣の存在と引き金を引いたベレッタが壊された事に気を取られたところに、振り下ろし斬撃を受け吹き飛ばされるライダー。エルメスもその衝撃でライダーから離れてしまい、桜の傍に転がる。

 

 

「貴様自身の経験が足りない。終わりだ」

 

 

倒れ伏したライダーに向け、干将を投げ捨て代わりに投影した赤原猟犬(フルンディング)を逆手持ちで構え、振り下ろすエミヤ。

 

 

「うおおおおっ!ライダーから離れろォ!」

 

「むっ!」

 

 

しかしそれは背後から強化した木刀を構えた士郎の突進によって阻止され、エミヤは振り返り様に木刀を真ん中から斬り飛ばすと、士郎はそれを地面に落ちる前に受け止め、小太刀の二刀流の様にして強化、構えた。それを見て関心を持ったのか赤原猟犬(フルンディング)を投げ捨てて破棄し、干将・莫邪を投影しこちらも二刀流で構えるエミヤ。

 

 

「・・・ほう。まだ出会ったばかりの私からその構えを見出したか。だが、彼女の手解きを受けていない貴様では・・・!」

 

 

ぶつかる。同一人物と言えど、技量も歴史も違い過ぎる二人。特に士郎の方は、騎士王を召喚していないためエミヤからすればあまりにも無謀。しかし、拮抗した。

 

 

「なにっ・・・!?」

 

「俺だって・・・クロ姉に何時も守られてばかりじゃねえ!」

 

 

次々と打ち合い、火花となって剣戟が幾度も交わっている事を意味していた。あり合えないその光景。エミヤからすれば理解できない、目の前の己の強さ。完全に、こちらの動きを見て対応して来ていた。

 

追い付けている理由は簡単である。士郎の、クロナにより培われた思考能力の速さだ。強化した目で見た光景をすぐさま分析、どう来るかを、今までのエミヤの動きから判断しているのだ。しかしそれでも、英霊であるエミヤと互角に張り合えている理由も、何時ここまでの剣術を身に着けたのかも説明できない。

ただ、衛宮士郎はエミヤシロウよりも速く、成長していたのは確かだ。

 

 

「・・・っ!嘗めるな、小僧!」

 

「っ!」

 

 

エミヤの激昂と共に音速で放たれた剣戟によって、木刀が双方共に砕け散る。すかさず後退する士郎。追撃するべく、干将・莫邪を投擲するエミヤ。しかしそれは、

 

 

「先輩!」

 

 

ずっと後ろで見守っていた桜の放った銃弾が、弾き飛ばして士郎から守った。今度はエミヤだけでなく凛も驚愕する。ろくな魔術も使えず、習いたての銃で何とか援護射撃しかできなかった桜が、いきなりプロ顔負けの腕前を見せたのである。投擲物を撃ち落とすその技量は、まるでライダーだった。

 

 

「桜・・・、今のは?」

 

「英雄目線の夢と言うのは、どうやら経験も得られるみたいです。ライダーの生涯は、私に技量を与えてくれました」

 

『撃ち方?って物をライダー目線を得て学べたのかな?これはいい誤算だよ、ライダー』

 

「そうね、エルメス。マスターが頑張った事だし、負けてられないわ・・・!」

 

「なんだと・・・っ」

 

 

予想もしていなかった援護射撃に硬直していたエミヤはその言葉を受け我に返り、背後からAR15カスタム拳銃・・・通称パトリオットを取り出してその重量を利用し殴打して来たライダーの攻撃を辛うじて回避。そのまま干将・莫邪を投影して士郎に斬りかかった。体勢が崩れていたライダーにも、動きに反応できなかった桜と凛、クロナを抱えている綺礼に邪魔立てされない完璧な奇襲だった。

 

 

「ピンチだな!」

 

 

しかしそれを、白刃で受け止める一人の変態がいた。

 

 

「正義の少女がピンチの時…今、一人の騎士が天空の彼方より舞い降りる!」

 

「今度は何だ・・・!?」

 

 

受け止められたばかりか、一太刀で干将・莫邪を破壊されたエミヤはすかさず新たな干将・莫邪を投影。構えるも、次から次へとそれを破壊して行く白き騎士。否、変態。

 

 

「私の名は、純白の正義の騎士・サモエド仮面!いざ、尋常に参る!」

 

 

夜だと言うのに純白のハトがスローで横切り、その真っ白な歯は煌めき、きりりと引き締まった口元は笑みを絶やさない。頭に乗っけた犬耳とリンゴ、怪しいマスクとシルクのマントを身に纏った男など、一人しかいなかった。

 

 

「貴様が正義だと?ふざけるな!」

 

 

しかしそれを全く知らない正義の味方(エミヤ)はふざけまくっている男の言動にキレた。注意がそちらに向き、もう何回その神速の斬撃で破壊されたのか分からない干将・莫邪を破棄し、代わりにかのネロ皇帝の愛用した原初の火(アエストゥス・エストゥス)を投影。炎を纏い、サモエド仮面の剣戟を弾き返していく。

 

 

「貴様が正義だとは、死んでも認めん!」

 

「正義とは複数の形がある物。例えば謎のライダーは自分が美味しくご飯を食べる為に正義を為す!どこかのムッツリスケベの黒装束の場合、何故か私を殺すついでに正義を為す!他人からそれは正義じゃないと否定されるだろう。だがそれは、彼女彼等の持つ確かな正義であり!それは誰にも否定されるべきものではない!」

 

「サモエド仮面が真面な事を言っている・・・!?」

 

「ちなみに私は私こそが正義!と言う正義の下、戦っているがね!」

 

「やっぱりサモエド仮面だった」

 

 

怒りの形相で剣を振るうエミヤにそう笑いながら語るサモエド仮面。ライダーがぼやくがまあ何時もの事なので誰も気にしない。しかし、さすがに普通の日本刀でローマ皇帝の剣に打ち勝てるはずもなく、エミヤの振り上げにより刀身が見事に根元から折れ、それに一瞬気をとられたところに横蹴りを浴び、サモエド仮面はポーンと蹴り飛ばされ顔からべしゃっとライダーの傍に叩き付けられダウン。

 

 

「ごふぅ・・・」

 

「・・・あんな格好いいこと言うならそのまま勝って欲しかったわ」

 

「あっはっは!得物の差が致命的だ!」

 

「貴様たちにはここで退場してもらおう・・・!」

 

 

二人纏めてとどめを刺すつもりなのか干将・莫邪を投影して振り上げるエミヤ。二人を助けようと、エルメスを拾った桜は銃を構えるが、カチンと虚しく弾切れの音が響くだけ。慌てて士郎が突進して組みつこうとするが、それよりも前に動く赤い影がいた。

 

 

「させるか!」

 

「!?」

 

 

サーヴァント二体にとどめを刺す、その際に生まれる僅かな隙。そこを目掛けて凛が投擲した宝石が炸裂して爆発、両腕で顔を防ぐために体勢が崩れたエミヤに向けてさらに黒い影が飛び出し、強烈な拳をその腹部に叩き込んで吹き飛ばした。

 

 

「不躾で悪いがアレは私の娘なのでな。お返しはさせてもらおう!」

 

「言峰、綺礼・・・!」

 

 

手ぶらの士郎にクロナを投げ渡し、距離を詰めて得意の人体破壊術である拳を手加減なく叩き込んだ綺礼である。ギルガメッシュが敗れ、本腰を上げた元代行者の一撃は英霊と言えど強力であり、エミヤは叩き付けられた教会跡の壁から何とか立ち上がろうとするも、そこに続けて綺礼が背中からの体当たりである鉄山靠を炸裂。エミヤは壁を突き破って吹き飛び、干将・莫邪を手放し礼拝堂跡を無様に転がる。

 

 

「どうやって現界したのかは知らんが、私はサーヴァント相手に油断する気は無くてな。非戦地帯である教会で暴れたのだ、それ相応の罰は受けてもらおう」

 

「…生憎だがな。私もここで終わるつもりは毛頭ない。まだ、マスターと彼女を残して消える訳にはいかないからな…!投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

そう言って投影したのはまるで十字架の様な、黄昏の剣。竜殺しの英雄が有した、約束された勝利の剣(エクスカリバー)には及ばないものの、かなりの知名度を誇る魔剣。

 

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今、落陽に至る。撃ち落とす!」

 

「っ、桜!」

 

 

尋常ではない魔力を放出し始めた魔剣を構え詠唱するエミヤに、士郎が後輩の前に立ちはだかり、抱えたクロナと共に庇うように背中を向けたその時、視界に雪の様に真っ白な髪とルビーの瞳を捉え驚愕に染まった。

 

 

「―――【幻想大剣・天魔失墜(バルムンk)】・・・!?」

 

 

今まさに魔剣を振り下ろし、斬撃を飛ばそうとしていたその瞬間。投擲された種の様な物がエミヤの前で破裂。強力な光源が視界を塞ぎ、それを見た事があるため咄嗟に目を瞑った綺礼達に対し知り得もしなかったエミヤは視界を奪われて左手で目を押さえ、そこに飛んで来た銃弾に右手のバルムンクを弾かれ、地面に落ちて魔力に還元された。

 

 

「お兄ちゃんはやらせないわよ。私以外にはね」

 

 

そこにやって来たのは、デクの種を投擲しコンテンダーの引き金を引いた張本人であるイリヤスフィールその人であった。予期せぬ訪問者に、驚愕する面々の中で、こちらを呆然と見つめる士郎に笑みを浮かべるイリヤ。

 

 

「安心しなさい。今頃、私のセイバーがバーサーカーの方に行っているわ。それで…何なの、アイツ。8人目・・・いや、あの金ぴかも合わせて9人目のサーヴァント何てありえない。私の知らないサーヴァント何て、存在していいはずがない」

 

「…その声、雪の姫君か。バーサーカーに手を出すのはやめておけ、如何に最優のクラスと言えど奴には勝てんぞ」

 

「私のセイバーは最強なの。そんな心配いらないわ」

 

「そう……か!」

 

 

視界が失われている為にその声目掛けて、投影した短剣を投擲するエミヤ。牽制代わりだったのだろうそれはイリヤの撃ったコンテンダーの弾丸により弾かれ、しかし続けて放たれた短剣に、一発しか撃てないトンプソン・コンテンダーに再装填していたイリヤは対処が遅れ、覚悟したその時。

 

 

「させるか!」

 

 

その前に立ち塞がった、衛宮士郎が無手で構える。その際、普通より高速の思考で行われたのはただ一つ。

 

 

(奴に、勝つための武器がいる…!)

 

 

咄嗟に思い浮かぶは、夢で見た彼女の持つ聖剣。

 

 

(敵はサーヴァントだ。英雄、反英雄。そのどちらかは分からないが、今ここでイリヤを守るためには、どんな武器が必要か)

 

 

己に埋め込まれた、鞘と対になる騎士王の武器。

 

 

(それには剣だ。やはり剣がいい。数多の伝説、物語を彩って来た勇者たちの剣。正義を、クロ姉たちを守るために必要な物)

 

 

それは、目の前に迫り来る凡骨の短剣の様な物では駄目だ。

 

 

(鋭利、絢爛。刃こぼれなどしない、ただの一撃で敵を断つ。それができる王者の剣を、俺は知っている)

 

 

別の己に仕えた、彼女が持つ黄金の剣…!

 

 

(奴は俺だ。間違いなく、俺だ。何がどうなってああなったのかは、クロ姉を傷つける様になったのかは知らないが、アイツは彼女が仕えた俺だ。だからアルトリアは俺に協力してくれた。

現実世界で俺が英雄に勝つ事なんて不可能。だがアイツは俺自身だ。ならば、己に勝つ自分を想像しろ…!)

 

 

――――士郎は、黄金の王に贋作者(フェイカー)と称された男です。貴方の真髄は、貴方が使えないと決めつけている投影にあります。

 

 

そんな言葉を胸に、衛宮士郎は右手を大きく振るう。そして、投影され短剣を弾くばかりか粉々に破壊したのは、約束された勝利の剣。

 

 

「…何故だ、彼女に会っていない貴様が何故それを投影できる…衛宮士郎!」

 

「…イリヤ、下がっていてくれ。桜、遠坂、ライダー、言峰。手を出さないでくれ」

 

 

目の前のサーヴァントと同じように、宝具をその手に取りだした少年の言葉に押され、頷く面々。それに対し、黄金の輝きに視界を取り戻したエミヤは激昂し、干将・莫邪を投影して斬りかかる。

 

 

「お前にだけは、負けられない!」

 

「…ッ!?」

 

 

一閃。擦れ違い様に放たれたそれは、干将・莫邪と共にエミヤの胸にも大きな切り傷を作り上げた。

 

 

「貴様、は…」

 

「お前には負けない。誰かに負けるのはいい。けど、俺の大事な人を傷つける自分にだけは負けられない!」

 

「…その大事な人を傷つけるのが己自身だとしてでもか?」

 

「俺はお前の様にはならない。クロ姉が今まで俺を守ってくれたんだ、だから今度は俺が守ってみせる」

 

 

砕けない黄金の剣を、眩しそうに見つめて。エミヤは再び剣を握る。

 

 

「貴様は、俺は、衛宮士郎は彼女を守る事も、救う事もできん!貴様は分かっていない!彼女が、何を抱いているのか!彼女が戦う理由も、貴様を守る理由も、知りもしないだろう!」

 

 

エミヤが叫んだその言葉で、クロナの事を知る綺礼と凛は少しだけ目の前の男が何を言っているのか分かった気がした。睨み合うエミヤと士郎に、全員動く事も喋る事も出来ないまま、沈黙が支配していたそんな時。

 

 

「…随分と知った風な口を聞くんだね」

 

「クロ姉!?」

 

 

怒りの声と共に、目を覚ますクロナに視線がずれる士郎。それに対し、呆然とするエミヤを睨みつけながらクロナは綺礼に手を借りながら立ち上がった。

 

 

「貴方、士郎だよね?…それも多分、衛宮黒名の世界の方の士郎。『M』の話を聞いてないと混乱して誰か分からなかった。それで、私からバーサーカーを奪って何をするつもり?脱落させるんならもう目的は遂げているよね?それでも何かしようって事は…冬木を、壊すつもりなの?」

 

「…アンタにはもう少し寝ていて欲しかった」

 

「まず王様が赦さないだろうけど、私も赦さないよ。バーサーカーに令呪で止まる様に命じて。さもないと…」

 

「さもないと、どうすると言うのかね?」

 

「貴方を倒す」

 

 

そう言って、エクスカリバーを構える士郎の隣に並び立ち、ボロボロのマフラーで弓を形作り黒鍵矢を番えるクロナ。綺礼により止血はされたが、フラフラで今にも倒れそうでありながらちゃんと立っていた。

 

 

「…変わらないな、クロ姉。アンタは赦せない物に対しては絶対に折れない人だ。五体満足で黙っていてもらおうと言うのは甘かったらしい!」

 

「よく分かっている事で。…言って置くけど私、怒ってるよ?」

 

 

瞬時に右手に投影した莫邪を投擲しようと構えた瞬間、その言葉と共に放たれた矢が莫邪ごと右掌を貫き、強制的に止められる。

 

 

「士郎!」

 

「おう!」

 

 

黒鍵矢を抜こうとして動きが止まったところに、クロナの指示で突進してきた士郎の振り下ろしたエクスカリバーを避け、しかしそこに再び矢が放たれ、右肩に受けて後ずさるエミヤ。宝具を使い、否天と戦い、サモエド仮面と戦い、さらにはこの場にいる全員と連戦。さすがの彼も、これ以上は不味い。

 

 

「こうなれば…―――ここに我が生涯を語ろう(Ruins trace on.)

 

 

宝具…固有結界を使い、形勢逆転しようと試みるエミヤ。しかしそれは、目の前のクロナや士郎ではなく、第三者によって止められた。

 

 

《それ以上は無謀です、アーチャー。帰って来て下さい》

 

「邪魔をするなバゼット!如何に君と言えど、口出しは…」

 

《私は貴方のマスターです。貴方を尊重し好き勝手やらせましたが、一晩で宝具を二回も使うなんて私の事を考えているんですか?》

 

「…すまなかった。速やかに撤退する」

 

「逃がすと思ってるの?」

 

 

マスターから指示を受けたのか足から霊体化して行くエミヤに、黒鍵三本を投擲しながら突進するクロナ。エミヤはそれを投影した干将を左手だけで振るって弾き飛ばし、そのまま干将を投擲してクロナの動きを無理矢理止める。

 

 

「生憎だがな、クロ姉。私はアンタがどれだけ傷付こうと、いくら怒ろうとも成し遂げると誓っている。邪魔しようが無駄だ」

 

「…私は衛宮黒名じゃない、言峰黒名だ。衛宮黒名と違って、私はしぶといよ?それに、どうしようもないぐらいに怒ってる。よくもバーサーカーを…私から奪ったな」

 

「…その方がやりやすいと言う物だ!」

 

 

間髪入れず、続けざまに投擲される魔剣類。しかしそれはクロナに届く事無く、飛んで来た弾と振るわれた剣戟で弾き飛ばされる。士郎、桜、イリヤ、ライダー、サモエド仮面である。

 

 

「…どうやら親が変わると頼もしい仲間も得られる様だ。潔く退く事をお勧めするよ、クロ姉」

 

 

それを見届け、エミヤは完全に姿を消してこの場を去って行った。

 

 

 

「…生憎だけど、止まれないんだよ、シロウ」

 

「クロ姉!」

 

 

限界が訪れ、倒れ行く体を受け止める士郎に、クロナは枯れていた涙を流して、

 

 

「士郎、…父さん、皆、アインツベルンも。お願い、バーサーカーを止めて。私が喚んだサーヴァントで…冬木の街が燃えるのは、見たくないから」

 

「…ああ、任せろ。クロ姉は休んでいてくれ」

 

 

そのまま泣き崩れる様に、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

激動の夜が明ける。

 

たった一晩で、相棒を奪われ、聖杯への道を閉ざされ、家族に傷つけられ、自分の召喚したサーヴァントの手で街が燃やされ、ただ自分を守るためにと10年前の地獄がまた冬木を襲い、怒りが湧き上がる。

 

しかしその怒りをぶつける事さえできず、ただただ弟分に守られた事に安心して、怒りに人生を捧げた少女は10年前に枯れたはずの涙を見せた。

 

 

そして言峰黒名は、新たな怒りを胸に目を覚ます。

 

 

あそこまでエミヤシロウを追い詰めた、その自分が赦せない、と。

 




そんな訳でアルトリア登場+投影魔術覚醒。夢の中で士郎を鍛えてました。本人は自身が召喚されなかったことをアサシンのせいだと言ってますが そ れ は ど う か な ?

エミヤのマスターも行方不明のバゼットだと判明。筋力がフラグだった。アルトリアを出すのも含めて今までフラグをあまり建てなかったから難航しました。…『M』初登場の回にあれだけ入れたのにまだ足りなかかったとは思わなかった。まだ中盤なのになぁ…

キノとサモエド仮面を参戦させたのはぶっちゃけ、キノとエミヤを戦わせたかったのとサモエド仮面の台詞をエミヤに言わせたかったからです。桜が見た夢もまた特殊だったり。

士郎とクロナにエミヤの正体がばれました。他の人は訳が分からない感じですが。まず異世界とか認めないと行けないからなぁ…士郎はアルトリアってイレギュラーがいたから気付いた様な物だし…そもそもエミヤがイレギュラーなんですが。

次回はVSエミヤ編最終決戦に入ります。その後はキャスターとかアサシンとかセイバーとか色々。
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯20:衛宮家で作戦会議!

ちょうど「憤怒」の聖女と再戦した巌窟王イベントがあったこの日に投稿。やっぱりクロナはルーラーコンビや巌窟王と相性最悪だと再認識しました。

ちなみに昨夜、いざ寝ようとしている時に「暴食」を倒した時に手に入れた呼符でガチャしたら何故か知りませんけどヴラド三世(ランサー)を引きました。…貴方の元マスター、大食いだったものね…でもランサーは前回のアナさんで間に合っているから、アサシンかキャスターください。

今回はバゼットさんsideの始まりと、ランサー消滅後の翌日を描きます。そして『M』も再登場。楽しんでいただけると幸いです。


月光が映える夜。その時、私の命は既に灯火状態だった。憧れであるあの英霊を召喚しようとしていた矢先、謎の男から不意打ちを受け、咄嗟に応戦するも私の打撃は一切通じず、切札である斬り抉る戦神の剣(フラガラック)さえも文字通り何処か彼方に弾き飛ばされて失い、力尽きた所に容赦なく、令呪を宿していた左腕をもぎ取られ放置された。

 

それから一週間。元々人の訪れない上にあの男がさらに何かしたのか、完全に人が拒絶されたかの様に近付きもしなかった双子館に放置された私は、一週間近く気を失っていてやっと目覚めた時、本当に命が尽き果てる所だった。その時、独りで誰にも知られずに死にたくなかった私が願ったのは、ただ一つ。

 

 

 

―――――誰か、助けて

 

 

 

その願いを聞き届けたかのように、彼は、正義の味方は私の元に来てくれた。

 

 

「問おう、君が私のマスターか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…問うより前に、まずは君の命を救わねばならんな」

 

 

手慣れた様子で私の左腕以外の傷口を何処からともなく取り出した包帯を巻き付けて手当てする赤い外套の男。何も返事を返せなかったが、彼はその手に稲妻を模った剣身の短剣を取り出すと、私の左腕に突き刺した。

 

 

「―――投影、開始(トレース・オン)。【破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)】」

 

 

すると光源が視界を塞ぎ、一瞬の後に私はいつもの感覚を取り戻した左手を開いたり閉じたりする。…腕が、戻った…?いや、令呪は消えているか…

 

 

「回復を拒絶する…とでも言うべきな悪質な魔術を掛けられていた様なので、コルキスの王女の宝具で初期化した。後は栄養を取り元気になって、治癒魔術でも使えば大丈夫だろう。なに、私も簡単な魔術の心得ぐらいはあるのでね。任せたまえ、恐らく一晩もかからない。一時間か二時間と言った所だろう。ところで買い物をしたいのだが、金はあるかね?」

 

「え、ええ多分…」

 

 

力無い手で懐を探り、確認すると財布と中身はちゃんと残っていた。…賊は本当に、令呪が宿った私の左腕だけが目的だったらしい。それを受け取り、金額を確認して「ふむ、二千円しかないのか。やりくりは得意だがどう栄養のある料理を作るべきか…」とか悩み始めた彼に、私は問いかけた。

 

 

「恐らくですが、私が貴方のマスターです…貴方は一体…サーヴァント、なんですか…?」

 

「ん?ああ、紹介が遅れた。サーヴァント失格だな。私は弓兵(アーチャー)のサーヴァント、真名は…【正義の味方】かな」

 

「正義の…味方…?」

 

「忌々しくもだがね」

 

 

苦笑するアーチャー。その姿はまさしく英雄のそれだった。

 

 

「…私はバゼット・フラガ・マクレミッツ。よろしくお願いします、アーチャー」

 

「ああ、よろしく頼む。バゼット」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーサーカーを戦闘不能にし、ランサーが消滅した翌朝。衛宮邸で不思議な集会が行われていた。

 

 

「さて、状況を纏めようか」

 

「待て、何で俺の家でやる必要がある」

 

 

腕を組んでどこぞの総司令見たく言った父さんの言葉に、アーチャーと一緒にお茶を用意しながら突っ込む士郎。ごもっとも、でもしょうがない。

 

 

「冬木教会は全壊な上に、凛の家も近くにバゼットさん達が潜んでいる可能性があるからここしかなかった。それとも駄目だった、士郎?」

 

「いや、いいけどさ…。でもこの人数は…藤ねえが来たらどう説明するんだコレ」

 

 

今ここには、元々住んでいた士郎、アーチャー、桜、ライダー、そして私に加え凛に父さん、そして何と王様まで居る。さらに付け加えるとランサーを失った凛と、私と父さんと王様もここに居候する事になった。凛は家に帰れや。

 

 

「あら、悪い?貴方のバーサーカーを止める為にうちのランサーは犠牲になったのよ。少しは見返りを欲しいわ」

 

「…でも、ランサーの命懸けの宝具でも結局バーサーカーを倒し切れなかった。このまま何もできなかったら、無駄死にって分かってる?」

 

「なんですって!私のランサーの捨て身があったから今ここに全員いるんじゃない!」

 

「落ち着け、凛。君の決断には皆が感謝している。あのままだったら冬木は全壊ではすまなかっただろう。最悪、更地にされていただろうな」

 

 

そうなのだ。私が気絶している間にランサーが自爆宝具でバーサーカーの体を吹き飛ばしたのはいいけど、殺し切れてはいなかった。行動不能になり、今は未遠川に沈んでいるが、同じく再生能力を持つアーチャーの見立て曰く、次の夜…つまり今夜には復活して来るそうだ。うん、バーサーカーならありえる。殺しても死なない上に、何億年経っても地獄から生き返って来た執念を持ってるからね。だから、やる事は一つ。倒し切れないなら、もう一度…

 

 

「まずはあの赤いアーチャーを倒す。その後、再契約すれば行けると思う。令呪が補充されるかは賭けだけど…それで一画使って、止まる様に命じる」

 

「それが妥当ね。あの状態だとどうやっても殺せないなら、戻すのが一番。問題はその赤いアーチャーとそのマスターだけど…」

 

「その赤いアーチャーだが、私と凛の使い魔による探索によると遠坂邸のすぐ近く、双子館に行方不明だったバゼット含めて滞在している様だ。しかし、私が行こうともしなかった事から見ると、どうやらまたあの『M』と名乗った男が何か仕掛けているようで、こちらからは攻め込めない。どうしても、見えない圧力に押し返され拒絶されてしまう」

 

 

私と凛の言葉に続けて、敵の本拠地についてそう述べる父さん。…拒絶、ね。王様も思うところがあったのか珍しく口を開いた。

 

 

「恐らくは奴が使っていたブライとやらだろうな。アレはこの英雄王の慧眼でさえも欺ける代物。魔術を応用し、陣地として仕掛けたのだろう。だが奴の性格だ、間違いなく贋作者(フェイカー)の陣営とは協力関係ではないだろうな。勝手に仕掛けられていた物を利用しているのだろう」

 

「多分、元々は『M』が、誰にもバゼットさんを見付けられないようにするために仕掛けたんだと思う。あの男にとっても今回の、三人目のアーチャーの召喚は想定外だったんだ。前回の聖杯戦争を生き残った例外である王様を抜いた八人目が召喚された事について、父さん。何か心当たりでもある?」

 

「無いな。ギルガメッシュは第四次の生き残りだが、今回英霊はちゃんと七騎召喚されている。裁定者(ルーラー)復讐者(アヴェンジャー)みたいなエクストラクラスでも無いサーヴァントが召喚されるはずがない。まさか聖杯は二個ある訳でもあるまい?」

 

 

そう言って愉しげに桜を見やる父さん。桜は心当たりがあったのか少し表情が陰ってしまった。それを見て何を思ったのか、凛が仕切る様に立ち上がってわざとらしく咳払いして注目を集めた。

 

 

「出所が分からないにしても、出て来たもんはしょうがないわ。まずはあの赤いアーチャーの戦力を確認しましょう。まず、クラスは弓兵。そこのアーチャーとは別の意味で、正統派とは言い難い、剣も使うオールラウンダーに見えたわね。だけど、あの時見せたアレは間違いなく、竜殺しの英雄ジークフリートの有する魔剣バルムンクだった…だけどアレがジークフリートな訳がない。そう言えば真名に心当たりがあるみたいだったわね。クロ、衛宮君?」

 

 

竜殺しって確か「リンク」もそうだったなとか思い出している私と士郎に悪い顔で問いかける凛。…いや、まあ、ねえ?士郎もどうしてか知らんけど知ってたみたいだし…どう説明した物か。というか私が説明するしかないのか。ううむ…

 

 

「…えっと、まず大前提として…平行世界って信じる?」

 

「「「「「「?」」」」」」

 

 

元々平行世界について知っているのか、王様以外の疑問の声がその場に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりだ。あの赤いアーチャーはその平行世界の第五次聖杯戦争でクロナを殺したエミヤシロウ…と言う事か?」

 

「『M』の言葉を信じるならね」

 

 

とりあえず、平行世界の私が切嗣さんに育てられた事と、その私が聖杯を手に入れて世界を滅ぼしかけた事とか知られて不味い事以外はかいつまんで話した。やっぱりと言うか、王様の疑惑の目が向けられた訳だが。だってしょうがないじゃない王様、不要な情報は余計な混乱を生むだけだし。

 

 

「士郎があのアーチャーと似たような芸当でエクスカリバーと思しき剣を投影したのも、それがきっかけ…なの、士郎?」

 

「ああ。現実で成功したのは初めてだった。イリヤを守ろうって必至で…」

 

「そのアインツベルンは本家に聞いてみるって言って帰ったけどどうだろうね。また、第三次みたいにアインツベルンがルール違反したのかもしれないし」

 

 

…てかアインツベルンなら見殺しにしてても…でも、今はセイバーはまだ必要だ。私が、気絶している中少しだけ目覚めて目に焼き付けた光景は、固有結界だった。アレは不味い、王様でもヤバいかもしれないぐらい不味い。もしもの時はセイバーに任せるとして、よし我慢しよう。

 

 

「アイツが衛宮君だとして…弱点は?」

 

「…やっぱり、クロナさんですよね?あそこまで執着してましたし…」

 

「うん、桜の言う通り。自分から投げて置いて、クロナを取り返そうと必死だったね。目覚めてからは四肢を斬ってでも大人しくさせる!的な物騒な事言ってたけど」

 

「アイツの狙いはバーサーカーなのだろう?バーサーカー復活を邪魔する私達を排除しようとしているのは明確だ。この規格外な英霊達なら戦闘不能には出来ると昨夜の戦闘で証明されたからな」

 

「一人で駄目だったから、今度はマスターの力を借りて来るかもしれないな。…俺的に、魔術師ならそこまで無謀な人間がいるとも思えないが言峰綺礼。アンタはそのバゼットとか言う人物を知っているんだろう?どうなんだ」

 

 

そう尋ねる士郎。そうだね、普通の魔術師だったら利益か名誉がメインだから逃げる事もあるだろう。でも、あのバゼットさんは普通の魔術師じゃないんだよなぁ…世間知らずって言うか。家が家だからなのもあるだろうけど。

 

 

「…『M』に襲われ、弱っていた所に奴が召喚されたとしたら…バゼットは義理堅い。恐らくは自分の命を懸けてでも、奴の手助けをしようとするだろうな。だとしたら不味いな、私でも彼女と正面からぶつかればただじゃ済まないだろう。彼女は接近戦に置いては最強と言える。凛、クロナ。私がお前達に教えた八極拳程度じゃ手も足も出ない相手だ」

 

「なら、父さんを私達が援護してバゼットさんを相手してもらって、サーヴァント全員で赤いアーチャーを仕留めるって作戦はどう?」

 

 

私はそう立案するも、すぐに気付いた。父さん動けないんじゃね?

 

 

「そうしたいのは山々ではあるがな。私は一応聖杯戦争の監督をしている。今回の大騒動について、誤魔化すべく動かねばならん。情報は渡した、後は頼んだぞクロナ」

 

「だよね。…どう誤魔化すの?テロ、じゃ教会破壊されたの言い逃れも無い気がするけど」

 

「…ガス爆発、とか?」

 

「…が、頑張れ」

 

「胃が痛い…ギルガメッシュはどうする?クロナに力を貸すのか?」

 

 

出て行こうとする父さんだったが、私の後ろで仁王立ちして腕組みしていた王様を見てそう問いかける。…個人的には力を貸してもらった方がいいんだけど…

 

 

「ふん。今回ばかりはクロナ、貴様の不注意が招いた結果だ。(オレ)が手を貸す道理はない」

 

「…ごめん、王様」

 

「…しかし何だ。クロナに死なれても困る。バーサーカーめは(オレ)が見て置いてやろう。貴様が自棄になって一人で奴に挑むとも限らんしな」

 

「…」

 

 

さすが王様、見抜かれてたか。私なら攻撃を躊躇してくれるかなとかバーサーカーに甘い考えを抱いてたんだけど。

…とりあえず、父さんは出て行き王様は霊体化して去ったけど方針は決まった。

 

 

「バーサーカーの方は王様に任せて問題ないとして、双子館をどう攻略するかだけど…私の、弓を扱う人間としての意見を言わせてもらえれば、多分赤いアーチャーは狙撃でこちらの邪魔をしてくると思う。高所からバーサーカーを見張っている可能性が高い。だとしたら、こちらから狙撃しにくい場所は限られている。赤いアーチャーはそこを急襲すれば問題ないと思う」

 

「じゃあその急襲は私に任せて」

 

「ライダー、任せた。それでバゼットさんだけど……赤いアーチャーに異変を感じ取れば、助けようと出て来ると思う。そこを突けば…」

 

「…つまり、アーチャーへの急襲とバゼットへの急襲。組み分けが必要ね」

 

 

その凛の言葉をきっかけに話し合い…赤いアーチャーへの急襲をライダーに加えて空から奇襲できるアーチャー、あの投影魔術に対抗できるであろう私が。

バゼットさんへの急襲を接近戦でも何とか応戦できるであろう凛に加え、士郎と援護として桜、そしてそのピンチに来ると言うサモエド仮面も入った。正直士郎と桜が心配だけど、私は赤いアーチャーに完敗しているからサーヴァントの協力がいる。

バゼットさんなら、マスターと変態だけでも頑張れば行けるはずだ。士郎がピンチになったら何故かアインツベルンも助けに来るだろうしそう言う意味でも安心だろう。

 

赤いアーチャーは、私が決着を付けねばならない。本当にそう思う。

 

 

「時間は今夜、バーサーカーが復活しそうな間際の時間帯。赤いアーチャー撃破後に急いでバーサーカーの元に行って、再契約する。それが最終目標。それでいい、皆?」

 

「異論はないわ。ランサーの頑張りを無駄にはさせないし、これ以上冬木に被害は出させない」

 

「はい、力不足でしょうが頑張ります…!」

 

「桜、貴方がピンチの時はサモエド仮面が呼び出される様にしておくから盾にしてでも逃げてよね!」

 

『うわ、辛辣。でもサモエド仮面が魔術師相手に不覚は取らないと思うけど』

 

「マスター、もしもの時は令呪で私をお呼びください」

 

「ああ。アーチャー、クロ姉を頼んだぞ」

 

 

…さて、上手く行くかね。…『M』が関わってるなら、一筋縄じゃ行かない気がするんだよなぁ…それでも、やるしかないんだけども。

 

 

バーサーカー、マスターが私でいいなら待っていて。必ず、取り返すから。だから…

 

 

気絶していた時にうっすら見えた、バーサーカーが私のせいで傷付き、否天に変貌して行く姿を思い出す。貴方の怒りは、私に対しての物だ。あの夢を見たとき、貴方を否天にさせちゃいけないと誓ったのに…マスターなのに、何もできなかった。

 

 

 

もし私がこの戦いで負けて、マスターに戻れなくて聖杯戦争に本当に脱落したとしても。

 

 

傷付く事を必要な犠牲として是としていた私のために、怒らないで。

 

 

(シロウ)は、(クロナ)のためにああなったのだから。バーサーカー(アスラ)は怒らなくていい、私が貴方の怒りの分まで怒るから。烏滸がましいとは思うが、そこは許して欲しい。私には貴方が怒る理由になる程の価値なんてないんだから。

 

 

赤いアーチャー(エミヤシロウ)、貴方は必ず私が倒す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦実行の夜。クロナ達の知らないところで、

 

 

「おいおい。まさか、衛宮士郎に手を貸すのか?そりゃ、バゼットにとっては過剰戦力ってもんだろ。アイツ一応人間だぞ?俺にあっさり負けるぐらいには」

 

 

住民が避難し、誰もいない事をいいことにセイバーの愛馬に乗って街中を駆けていたイリヤの前に現れたのは、白衣の男。セイバーがエポナを止め、イリヤは男を睨みつける。

 

 

「あら、悪い?前回の生き残りならまだしも、今回の聖杯戦争で私の知らないサーヴァントが召喚されたら行けないのよ。それに、士郎には助けてもらった恩がある。殺す前に、それぐらいは返してあげないと行けないじゃない?」

 

「衛宮士郎への怒りは残っていたか…安心したぜ。お前が奴に与したら面白くねえ。俺は天の杯(ヘブンズフィール)だけは認める気はないんでね」

 

「…貴方、第三魔法を知っているの?」

 

「ああ、知っているぜ。それが科学で到達できる道であるのも、よーく知っている。てか作った。凡人共に渡す気は殊更無いし、使いたくもないが」

 

 

そう言って白衣の男、『M』はセイバーを見上げ、懐かしそうに笑った。

 

 

「よう、リンク。久し振りだな…俺を覚えているか?」

 

「…ああ、ドクター。何でアンタがここに存在しているかは知らないが…俺とイリヤに何の用だ」

 

「なに、新しい実験を始めたんでな。それをお前達に邪魔されたくないからお願いしに来たんだ。…城に引き籠っているつもりはねーか?」

 

「無いわ。それにその言い種、あのアーチャーについて何か知っている様ね。白状してもらうわ、セイバー!」

 

「了解した、イリヤ」

 

 

エポナを消してイリヤが着地すると同時に跳躍、剣を振り下ろすセイバー。『M』はそれに対し、ポケットに手を突っ込んで余裕の動きでバック転、易々と回避して愉しげに笑う。

 

 

「どうした、二人がかりでもいいぞ?かかって来い」

 

「「…!」」

 

 

ここでまた、新たな戦いが始まった。




アーチャーの戦い方を研究するべく時間とお金が無かったのでUBW劇場版を借りて見ましたが、予想以上にハートキャッチ(物理)がえぐかった。あと王様の慢心ヤバかった。

またフラグを建てまくる回になりました。次回から決戦です。

『M』による妨害で誰にも見つからず死のうとしていたバゼットからしたらエミヤは自分を救ってくれた正義の味方。エミヤの暴走をある程度許していたのはそう言う事情だったりします。

一方、王様、言峰、イリヤと「真相」を知っているであろう輩に執拗に接触する『M』の新たに始めた実験とは…?エミヤ召喚に関連ある様で全然想定外じゃなかったと思ったらバゼットさんが召喚したのは地味に予想外で焦ったりしてます。もう死んでいると思っていたバゼットなんかが召喚しやがったせいでせっかくのアーチャーが消える的な。

次回、バゼット&赤いアーチャーとクロナ達が激突。エミヤの暴走の果てにある物とは…?一話二話じゃ終わらないと思いますがよろしくお願いします。
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯GO:監獄塔にマスターと一緒に彼女が囚われたら

巌窟王イベント最後の連戦で石二個と令呪三画全部失ったのでむしゃくしゃして書きました。クロナを入れただけでがらりと変わる「監獄塔に復讐鬼は哭く」、FGO編二回目です。やっぱりちょっとだけネタバレ注意。

ちなみにメルセデスは出ません。ぐだ子とクロナが巌窟王を伴って行くシャトーディフ、楽しんでいただけると幸いです。


そこは、シャトー・ディフ。たった一人しか脱出した事が無いとされる難航不落の監獄塔。七つの大罪を司る番人達を打倒しなければ脱出も叶わない。

 

魔術王との邂逅(ついでに魔神柱を少し改造すると言う嫌がらせもした)、オガワハイムでの珍道中(ちょっと迷惑かけました、はい)のその後、此処に魂が囚われてしまった私とマスターは案内人である復讐者(アヴェンジャー)と共に、サーヴァントの皮を被った妄念の集合体の待つ裁きの間で、毎晩激闘を繰り広げた。

 

 

 

 

「奴は嫉妬の具現、名はファントム・ジ・オペラ」

 

 

彼は醜かった。陽の光を浴びれる人々を妬んだ。そして歌姫に恋して狂気の殺人劇の果てに死した殺人鬼。

故に「嫉妬」の罪を背負う者。

 

 

「奴は色欲の具現、名はフェルグス・マック・ロイ」

 

 

彼はケルト神話の大英雄だった。森の女神でなければ耐えられないほど旺盛な獣欲を秘めた豪傑。

故に「色欲」の罪を背負う者。

 

 

「奴は怠惰の具現、名はジル・ド・レェ」

 

 

ああぶち殺したい磨り潰したい殺したいこの手でこの手であの心臓を抉り取りたいてか死ね、死ね、死ね。怠惰?ふざけんなやる気満々だろうが子供の死体でオブジェを作るぐらいにはやる気出し過ぎだろうがよし殺す。え、ちゃんと説明しろ?…ちっ。

彼は聖女を失い乱心して猟奇殺人を繰り返した末に青髭と恐れられた、かつて聖女と共にフランスを救った元帥。アヴェンジャー曰くその本質は「人生の苦境に立ち向かうことを諦めて堕落した存在」つまり快楽に沈溺して現実と戦わず、妄執に埋没する人間の弱さそのものなんだと。知るか、迷惑かけるぐらいならとっとと自害しろ。

故に「怠惰」の罪を背負う者。

 

 

「奴は強欲の具現、名はアー・シン・ハン」

 

 

彼はミイラになってなお欲深くも大陸、世界を侵略するために永遠の命を欲した。王様とは正反対の意味で、私の知る中で最も欲深い英雄、王様と異なり実際に永遠の命を得てしまいながらも欲望に身を滅ぼされた最強最悪の皇帝。

故に「強欲」の罪を背負う者。

 

 

 

 

 

 

 

次に相対したのは、憤怒の罪。…いや、「怒り」自体を背負う者と言った方が正しいか。

 

 

「奴は憤怒の具現、名は…貴様には語るまでもあるまい?」

 

「…八神将、アスラ。あれ、どうしたマスター?もしかして憤怒の具現が私だと思ってた?…私の怒り程度じゃ、彼には遠く及ばないから当然の結果だよ」

 

「…クロナさんの召喚した、サーヴァント…だよね?」

 

「まあそうだけど…気にする事無いよ。私の知るバーサーカーじゃないのは確かだ、あそこまで…周りが見えない程に、怒る事なんてありえないんだから」

 

「その通りだ、出来損ないの復讐鬼よ!奴は本体の「怒り」の一片が顕現した存在に過ぎん。今までと同じだ、潰せ!そのちっぽけな怒りがために情け容赦ない貴様の力でな!」

 

「ヤシャアァアアアアアアアアアアッ!」

 

 

その怒りは、誰に向けた物だったのか。もしかしたら、不甲斐無くも英霊にまで成り果てた私にも怒っているのかもしれない。誰よりも優しい英雄なのだから。

故に「憤怒」の罪を背負う者。

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴は暴食の具現。否、「悪食」の具現。名はネ」

 

「シャア!」

 

 

名前を言う事無く、邂逅一番蹴り飛ばされてしまうアヴェンジャー。…本当にこいつは、不意打ちが好きだな。今度の姿は…アヴェンジャーに化けている…だと…?

 

 

「我が行くは恩讐の彼方…!」

 

「っ…アヴェンジャー、宝具!クロナさんは援護!」

 

「慈悲などいらぬ!」

 

「了解!」

 

 

彼女と以前出会い、そのスキルの危険性を知っているためかマスターは令呪を切り宝具を発動させ、二人のアヴェンジャーが高速でぶつかり合う。…どっちがどっちか分からん。

 

本来ならば「彼女」は悪食の具現なんかじゃない。どちらかと言うと、彼女の有している宝具がそれだ。だがしかし、彼女は生まれ持っての「サーヴァント」でありその生涯は「悪食」だけでなく「色欲」「傲慢」と複数の罪にも関連している、ある意味一番ここに合っている英霊だ。魔術師によって人生を狂わされた…と言うのは共感できるのだが、マスター共々私たちは許す気はない。

 

 

偽・赤原猟犬(フルンディングⅡ)!」

 

 

なので、遠慮なく討たせてもらおう。アレの宝具は悪食だ、マスターを喰われちゃたまらない。

故に「暴食」の罪を背負う者。どっちかと言うと謎の美少女ガンファイターライダーの方が暴食だと思うけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして最後に相対したのは、私が向き合わないと行けない傲慢の体現者。…一度会ったことがある、戦った事もある、この聖杯探索の旅でもオルレアンで相対した事がある。でも、私は彼女には勝てなかった。勝てるはずもなかった。

 

 

「奴は傲慢の具現、名は…言わなくてもよかろう」

 

「そんな…だって、アレは…」

 

「衛宮、黒名」

 

 

純白の騎士甲冑を纏った、一見大の男にも見えるシルエットが黒い靄の中から見える。しかしその実態はマフラーを改造した騎士甲冑にシークレットブーツやら仕込んで背丈を誤魔化しているだけであり、中身は私とほぼ同じ姿の少女だ。

しかしクラスは狂戦士(バーサーカー)。よりにもよって、(クロナ)のいる時だけ狂い方が豹変する。

 

 

「…私は魔術師でも無い一般人を大勢殺した。つまりワタシがいなかったらそもそも皆死なない!最初から私が存在しなけりゃよかったんだ!アハハハハハッ!」

 

「ぐだ子!」

 

 

何処からともなく取り出した機関銃二丁を構えて引き金を引いたワタシ(衛宮黒名)に、私は床に手を付けて改造し防御壁を形成。何とか防ぎ切る事に成功するがしかし、ワタシ(衛宮黒名)は突進して来て拳を防御壁に叩き付け、改造したのか大爆発を起こし、私はぐだ子を抱え、アヴェンジャーと共に飛び退いて退避。

 

 

「死ねェエエエエッ!」

 

 

さらに瓦礫を手に取り棍棒に改造して殴りかかって来たところを、アヴェンジャーが炎を纏った腕を振るって弾き飛ばした。

 

 

「傲慢で強欲だな、憤怒の娘よ!どうだ、アーチャー!たかがお前一人の命で魔術師全てを道連れにしようとした末路がアレだ。そこの女にも隠していた様だが、それを見せつけられた気分はどうだ?!」

 

「…うん、ワタシの言う通り。私自身は滅んでもいいんだ。その結果として魔術師を道連れにできてるなら。長生きしたいとは思ってない、私が弟を見殺しにした事実は変わらないし。大火災の時死にたくなかったのは、何も分からないまま理不尽に押し潰されて死ぬのはごめんだったから。できれば魔術師だけじゃなくて、修正力とかそんなのも壊せるものなら壊したかった。この世の理不尽は全部滅びちゃえってね。

アヴェンジャー…巌窟王。私はやっぱり、傲慢かな?」

 

「はっ、傲るのもほどほどにしておけ。お前一人の価値などそれこそ路端の石より少し上程度だ。貴様一人の価値と限界を知れ。貴様の野望は一人でやるには大きすぎることをせいぜい学ぶんだな。そんな悪でしかない野望に手を貸す物好きがどれだけいるかなど知らんが、これだけは言えよう」

 

 

私と、ラインが繋がっているからかぐだ子も狙って放たれる弾丸の嵐を次々と炎を纏った手で弾いて行くアヴェンジャー。負けじと私も弓を構えて応戦するも、矢を掴まれて魔剣に改造され投擲で返されるので迂闊に狙えない。自分とも相性が悪いとは、我の事ながらピーキーなサーヴァントだな私。

 

 

「奴は「クロナ」と言う人間がいなくなることで己の犯した悲劇は起こらないと信じきっている。逆に言えば、自分はそれだけの事をしたんだと、過去の反英雄共にも勝る大悪党なんだと思い込んでいる。傲慢にも程があるな!…否?奴自身は贖罪しようとでもしているのだろう。しかしだ、どう足掻いたところで罪は消えぬ、その事に気付いてすらいない!狂いに狂い果て、その在り方は壊れた!…恐らくは、貴様以外など認知すらしていないのだろう。酷く哀れで滑稽な魂ではあるが、貴様は違う。そうだろう?」

 

 

ああ、気に入らない。ワタシもそうだが、このニヤニヤと嗤っているアヴェンジャーは気に入らない。私は、復讐鬼なんぞに心を見透かされる程分かりやすい生涯を生き抜いたつもりは無い。そう反論しようとしたら、その間にぐだ子が割り込んできた。

 

 

「アヴェンジャーの言う通り、クロナさんはあの英霊とは違う。あんなに狂ってないし、銃じゃなくて弓を使ってるし、ロクな武装もしていない。所長やドクターには辛辣だけど、私やマシュには甘くて、ジャンヌが苦手で、魔術師関係だとちょっと暴走するけど、似た様な境遇の人間相手だと優しさを見せる、マシュと同じぐらい頼りになる私のサーヴァント!…だから」

 

 

そうだ。(言峰黒名)ワタシ(衛宮黒名)は違う、生前は追い込まれたけど今は、私を支えてくれるマスター(ぐだ子)がいる。

 

 

「自分が滅んでもいいなんて、言わないでください。私が絶対に許しませんから!」

 

「…そっか。じゃあ、私に死ねってほざいているワタシを黙らせるのに、力を貸してくれない、マスター?」

 

「はい、もちろん!」

 

 

私の問いかけに、嬉しそうに笑って応えるぐだ子。…ああ、この子だけは守らないと行けない。そのためにも…こんなところで自分なんかに負けていられるか。誰かに負けるのはまあ私は貧弱だししょうがない。だけど、自分にだけは負けられない。…士郎もそう言ってたっけ。

 

 

「アヴェンジャー、力を貸して!あのバーサーカーを攪乱して!」

 

「了解だ、仮初のマスターよ!我が行くは恩讐の彼方…!」

 

 

再び高速軌道を描き、宝具【虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)】で連続攻撃を叩き込んでいくアヴェンジャーを余所に、私は動けなくなっているワタシを警戒しながらぐだ子の指示を待つ。

 

 

「ぐだ子、あれじゃあまり効いてない!あの甲冑は元はマフラーだけど大英雄の武装を模した物、しかも触れた魔力攻撃を改造して無力化できるから…」

 

「あくまでアヴェンジャーは攪乱、そしてとどめ要員です。クロナさん、私を信じて突っ込んであの鎧を改造した後、すかさず宝具を使ってバーサーカーを無力化してください。そこをアヴェンジャーが決めます」

 

「…でも、私の技量じゃあの弾幕は避けきれない…」

 

「私を、信じて」

 

「…分かった」

 

 

ああ、この目だ。勝利を確信している強い意思を感じる瞳。恐らく数多の英霊達が彼女に着いて行く理由の一端にもなっているだろう、「彼女のためなら頑張れる」そう思わせてくれる、信頼の籠った瞳。…やるしかないじゃないか。

 

 

「はああっ!」

 

 

マフラーを使いやすいロングソードに改造し、できるだけ弾丸を切り払いながら突進する。アヴェンジャーの宝具を喰らいながらもこちらの接近に気付いて攻撃する余裕があるとは。…私じゃ無理だな、どれだけ、戦って来たんだろうか。

 

 

「ああもう、邪魔だお前!星の怒りよ鳴動せよ!全て焼き尽くせ、【惑星憤怒(ゴーマ・ヴリトラ)】!」

 

 

ワタシが機関銃を手放し床に手を付けると共に大きな魔力の奔流が発生する。そして四方八方、否監獄塔の外から一斉に放たれた熱線がワタシを囲う様に放たれ、高速起動しているアヴェンジャーと共に、私に襲い来る。…マスターには、行ってない。なら問題ない…!

 

 

「クロナさん!【緊急回避】!アヴェンジャー、【応急手当】!…頑張って、お願い!」

 

「「ウオォオオオオオッ!」」

 

 

ぐだ子の使った魔術によって、私は紙一重で熱線を回避して止まらずに突進。直撃を受けながらもアヴェンジャーも再び舞い上がり、再び翻弄を始める。…復讐鬼も根性凄まじいな。私も、負けてられない…!

 

 

改造、装填(カスタム・オフ)。―――Disable(無効化)…!」

 

「ッ…アァアアアアアアッ!?」

 

 

掌を押し付ける。純白の騎士甲冑が(ほど)け、その中からワタシが現れる。見れば見る程瓜二つ。しかし髪は腰まで伸びて白く染まり、士郎と同じように肌も浅黒くなっているが傷だらけだ。その目は赤く狂気に染まっていて光なんて感じず、アスラの様な怒りに満ちた形相をしている。ああ、こうなりたくはないな。

 

 

「お前が、私が、いなければァアアアアアアッ!」

 

 

己の両腕をマグマの如く改造し、赤く焼けた拳で殴りかかってくるワタシ。咄嗟にマフラーで覆って部分的な甲冑に改造した右腕で受け止めるが、筋力が私以上なのか一気に吹き飛ばされる。…でも、私の役目はこれだけじゃない!

 

 

「怒・憂・我・暴・怠・欲・虚・色・・・人間の業を司る八極にして究極の一、私を構成するその憤怒を持って理不尽を今宵蹂躙しよう」

 

 

今までジルドレェやらアスラやらアサシンやら、目の前のワタシやらで溜めて来た込み上げてくる怒りを、そのまま魔力に変換して。ワタシがその手にコンテンダーを構え、私も漆黒の炎を溢れさせて発動した。

 

 

「起源弾作成・・・改造、装填(カスタム・オフ)。【騎士でなくても徒手にて死せず(ノンナイト・オブ・オーナー)】!」

 

「絶対に赦さない。【万物を侵せ、(アンリミテッド・)無限の憤怒(レイジング・インベイジョン)】!」

 

 

コンテンダーをマシンガンの様に連射できる様に改造したワタシの、無限とも言える起源弾の嵐が放たれ、私も右手を突き出し漆黒の炎で弾丸を飲み込みながら放出。

 

 

「ッ…!?」

 

 

炎に宿った私の魔力が侵食し、その動きを完全停止させる。使い方は違うけど、誰よりも知っている私の霊基ならこれぐらいできる…とどめは、任せたアヴェンジャー。

 

 

「よくやったぞ、憤怒の娘よ!」

 

「アヴェンジャー!【瞬間強化】!」

 

「【虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)】!」

 

 

次々と、数え切れない程の数に分身、ワタシを取り囲み、光線を放射するアヴェンジャー。この七日間、何度も見て来た光景。…やっぱり、あの復讐鬼…私なんかよりも憤怒を抱えてるなぁ…

 

 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!…士郎、ゴメンナサイ…」

 

 

その言葉を最期に朽ち果て、跡形もなく消滅するワタシ。…あんなに士郎に謝りたいと思っているのに、生前は狂ってから最期まで士郎の存在を認知できなくて、死後もバーサーカーで現界して消滅する最期じゃないと狂化が解かれないから士郎と戦っていても気付かないって…哀れ過ぎるなぁ。同一人物だとはいえ、同情はできないが。エミヤシロウをあそこまで追い詰めたんだから、むしろもっと苦しめ。

 

 

「…クロナさん」

 

「あ、なにマスター。そう言えばここから何時になったら出られるのかな?」

 

「…泣きそうなのに悪い顔にしようとして歪んでいる表情をしてる」

 

「……マスター。うちのカルデアはもう既にエミヤを召喚しているからさ。あのワタシだけは召喚しない様にお願いね」

 

 

ぐだ子にそんな悲しそうな顔はして欲しくないな。マシュに怒られる。私個人としても笑っていて欲しい。…さて、さっさとここを出ようか。ねえ、巌窟王。




二人のクロナのステータス、解放します↓


言峰クロナ
クラス:弓兵(アーチャー)
マスター:ぐだ子
性別:女性
身長:159㎝
体重:46kg
スリーサイズ:B81/W55/H82
出典:不明
地域:日本
属性:混沌・悪・人
イメージカラー:灰色
特技:家事、無言の威圧、諦めの悪さ
好きなもの:コーヒー飴、泰山の麻婆など辛い物全般、マフラー編み
苦手なもの:炎、愉悦、凛、タイガー
天敵:衛宮黒名、アスラ、ジル・ド・レェ、ジャンヌ(白)

ステータス:筋力D 敏捷C 耐久E 魔力EX 幸運B 宝具EX

スキル
・対魔力Aー:自分に触れた魔術を瞬間的に己の物とし逆に防ぐことが可能。しかし瞬間的な物であるため、連撃に対し弱体化する。

・単独行動A-:後述の「魔力変換(憤怒)」により魔力を半永久的に得られるためマスターから一ヶ月程度離れてもなお、宝具を一回使用できる程度に現界可能。ただし怒りが消えると一気にEまで下がる。

・軍略C:多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。生前に勝率の低い戦いを敵のサーヴァントまで利用して勝利に導いた実績から。

・改造魔術EX:彼女のみが習得した唯一の魔術。物質であるのならば、分子レベルから惑星級まで根本から侵食し、別物に変質させる。質量があるのならば自分自身の肉体から他人の宝具まで侵食可能。実体が無い魔術や事象に対しては無力だが、支配系の魔術に対しては絶対的な支配権を得る。

・魔力変換(憤怒)A-:怒れば怒る程、魔力に変換して使用できる。生前の縁から得たとある英雄のスキルが変質した物。しかし冷めやすい性格であるため、切れる時はあっさり切れる。

・破壊工作B:戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。正面からの対決よりもトラップによる搦め手を得意とする。ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。

宝具
万物を侵せ、(アンリミテッド・)無限の憤怒(レイジング・インベイジョン)
使い方が二種類あるランクEXの対人宝具。




衛宮黒名
クラス:狂戦士(バーサーカー)
真名:???
性別:女性
身長:163㎝
体重:48kg
スリーサイズ:B83/W54/H83
出典:???
地域:イギリス、全世界
属性:混沌・狂・人
イメージカラー:血塗れの白
天敵:言峰クロナ、イスカンダル

ステータス:筋力A 敏捷A 耐久B 魔力EX 幸運D 宝具A+

スキル
・狂化EX:バーサーカーのクラススキル。ランクが高いほど、バーサーカーとして理性は失われる分、肉体面が強化されていく。EXランクともなれば、まともな思考や意志疎通など到底は不可能。

・対魔力Aー:自分に触れた魔術を瞬間的に己の物とし逆に防ぐことが可能。しかし瞬間的な物であるため、連撃に対し弱体化する。

・単独行動A-:後述の「魔力変換(憤怒)」により魔力を半永久的に得られるためマスターから一ヶ月程度離れてもなお、宝具を一回使用できる程度に現界可能。ただし怒りが消えると一気にEまで下がる。

・改造魔術EX:彼女のみが習得した唯一の魔術。物質であるのならば、分子レベルから惑星級まで根本から侵食し、別物に変質させる。質量があるのならば自分自身の肉体から他人の宝具まで侵食可能。実体が無い魔術や事象に対しては無力だが、支配系の魔術に対しては絶対的な支配権を得る。

・魔力変換(憤怒)A+:怒れば怒る程、魔力に変換して使用できる。生前の縁から得たとある英雄のスキルが変質した物。

・憑依継承:「サクスィード・ファンタズム」。デミ・サーヴァントが持つ特殊スキルで、憑依した英霊が持つスキルを一つだけ継承し、それを自己流に昇華することができる。

・無窮の武練A-:ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下でも十全の戦闘力を発揮できるが特定の相手の前だけ愚直になる。

宝具
惑星憤怒(ゴーマ・ヴリトラ)
地球を改造して一時的に復活させた太古の星の意思。大英雄でも勝利不可能とまで言われる、神々が本気を出してようやく打破できる怪物。

騎士でなくても徒手にて死せず(ノンナイト・オブ・オーナー)
手にした武器を支配し、自らの宝具としての属性を与えて自在に駆使する。 どんな武器・兵器であろうとも彼が手にした時点でDランク相当の宝具となり、元からそれ以上のランクを備える宝具であれば、往来のランクのままバーサーカーの支配下に置かれる。



バーサーカーの方だけ明らかにやばい件について。ちなみにうちのぐだ子、あだ名ですけど本名は藤丸立香じゃありません。それこそがクロナを召喚した理由にもなってたり。

嫉妬、色欲、怠惰→あまり変わらないけど約一名がクロナの怒りに触れて残虐バトルに
強欲→変わってるんだけど普通に戦った。本編で強すぎるからしょうがないね。
憤怒→やっぱりこの人。クロナは憤怒の器じゃありません。
暴食(悪食)→アサシン。真名は言わせないけど一番シャトーディフにあっている鯖だと個人的に思う。
傲慢→衛宮黒名。魔術師絶対殺すウーマンからクロナ絶対殺すウーマンにジョブチェンジ。デミサーヴァント。
アヴェンジャー→本編と同じ道先案内人。結末も一緒。うちのカルデアには来てくれなかったよ!


次回こそアーチャーVSアーチャーの超遠距離バトルから始まるVSエミヤ編前編です。
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯21:超遠距離弓兵頂上決戦

エミヤ編最終対決、開始です。

今回は題名通り、エミヤ、アーチャー、ライダー、クロナと言った遠距離戦エキスパート()の揃った頂上対決。ちょっとDMC要素がありますがご了承ください。楽しんでいただけると幸いです。


それは、夜までの準備の中で士郎の様子を見かねた凛の言葉がきっかけだった。

 

 

「衛宮君。この間アーチャーが宝具を使ったばかりだけど、投影までして魔力が足りてるの?」

 

「いや、それは…」

 

 

私と桜は武装の確認をしていたが、確かに士郎は魔力が圧倒的に足りない。しかもアーチャーが本領発揮するためには宝具が必須だ。

 

 

「だったらアサシンやキャスターみたいに魔力を外部から補えばいいんじゃないかしら」

 

「でもそんな魔力、何処から…?」

 

「そこで提案なんだけど…私の魔術刻印、移植してみない?」

 

「「!?」」

 

 

…思わず桜と一緒に反応してしまった。…うん、えっと…確かに魔力は必要だし…お、お姉ちゃんは許しませんよ!

 

 

「うら若きは恋せよ乙女!だな!」

 

「クロナさんのは恋じゃないと思います。…でも姉さんはどうだか…」

 

「どうでもいいけどサモエド仮面、出て来たならちょっと士郎の相手してやって。剣術はまだまだみたいだし、私よりアンタの方がいいでしょ」

 

『キノがサモエド仮面に真面な事を頼んでいる…だと…!?』

 

 

今日も変わらずライダー陣営はにぎやかだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その深夜

「…まさかあの悪鬼羅刹が戦闘不能に追い込まれるとは予定外だったが…クロ姉たちの事だ。どうせバーサーカーの復活時間を考慮して何かしてくると思うが…」

 

 

昨夜、中腹が否天の光線によって破壊され人が誰も居なくなった高層ビルの屋上で洋弓を構えたエミヤは鷹の目を駆使して未遠川を見張っていた。今のところ、敵影は見えない。代わりにボゴボゴと川の水面が波立っているので、復活が近い事が分かる。今度こそ、冬木を、さらには世界まで。否天で破壊尽くして、【この世全ての悪】になってもらわねば。

 

 

「私では、どう足掻いても【正義の味方】だからな。英霊の在り方とは難儀な物だ」

 

 

苦笑するエミヤ。その時だった。

 

 

「ッ――――I am the bone of my sword.」

 

 

咄嗟に右に向けて【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】を展開。飛来した光弾を全て受け止める。間違いなく、自分とは異なるもう一人のアーチャーの攻撃。しかし妙な事に…

 

 

「…敵は、どこだ?…ッ!」

 

 

続けて左側から光弾が飛来、右側に展開した盾を消して左に展開する事で防御する。しかし続けて、前、後ろ、右斜め前、左斜め後ろ、と。断続的にだが全方向から光弾が飛来してくる。これが齎す答えは、つまり。

 

 

「…まさか、冬木の反対側にいるとでも言うのか…!」

 

 

正解である。現在、アーチャーは【空の女王(ウラヌス・クイーン)】を発動し、ブラジルの辺境の空で浮いていた。時間が来た瞬間には作戦通り永久追尾空対空弾(Artemis)を連続して発射して行く。一度エミヤに出会っていたことで霊基は登録しロックオンできる。そこに向けて放つだけの簡単なお仕事である。

これは生前、妹との喧嘩(?)の際に大人気なく本気を出した際に見せた酷過ぎる戦法なのだが、マスターのためならこのサーヴァント、何でもするのだ。

 

 

「…目標補足、手応え無し。では、これで…!」

 

 

自分を囲む様に光球を輪の形で複数出現させ、巨大な翼を羽ばたかせる事でそれを一気に解き放つ。全方位からの同時攻撃。【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】は一方向に対して遠距離攻撃を完全に防ぐ宝具である。全方面はカバーできない。…はずだった。

 

 

「なるほど。確かに私がこれの本来の担い手では積んでいただろう…だがしかし、私は贋作者(フェイカー)なのでな。――――I am the bone of my sword.」

 

 

視界の全てから迫り来る、一発でも喰らえば致命傷となるそれに対し、正義の味方は不敵に笑むと開いた右手を頭上にかざして拳を握ると共に詠唱する。

 

 

「【咲き誇れ、(サンクチュアリ・)熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】!」

 

 

瞬間、【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】がまるでエミヤを包み込む蕾の様に展開。全ての光弾を受け止め完全に防ぎ切り、花弁はまるで蕾が開く様に展開、エーテルに還元される。

生前の衛宮黒名との決戦で、全方位攻撃など普通にしてきたため会得した投影方法である。

 

 

「…プランB、行きます…!」

 

 

それを確認したアーチャーはマッハ24でブラジルの空から飛び立ち、時間をそうかける事無くエミヤの目前まで急接近。エミヤは身構えるも、そのまま直角に曲がって上昇してエミヤの直上、成層圏で急停止して取り出したそれ…凛から受け取った小粒のルビー三つを構え、ピッチャーの様に振り被る。

 

 

「…マスター(智樹)なら、効かない。でもマスター(智樹)じゃないなら…届けて見せる…!」

 

「――――投影、開始(トレース、オン)

 

 

そして投擲されたのは三筋の音速の流星。アーチャー(イカロス)からしたら生前、近付くなと言われた己のマスターに風邪薬を届ける為だけに出来る限り離れ、投擲した方法とほぼ同じ。街一つが壊滅するかもしれなかったこれを、普通のバットで打ち返したマスター(桜井智樹)は人間じゃない。

強化がなされたそれらは燃え尽きる事無くエミヤ目掛けて飛来し、それを見上げた正義の味方はその手にかつて見た大英雄の斧剣を投影。

 

 

「――――投影、装填(トリガー、オフ)。道具も使わぬただの投石で隕石級とは…かのダビデ王が知ったら泣くだろうな!」

 

 

そして振り上げ、斧剣の自壊を持って三筋の赤い流星を相殺した。

 

 

射殺す百頭(ナインライブズ)とまでは行かないがね。この程度の脅威など、今更だ。…平気な顔で核兵器な槍をぶん投げて来るクロ姉に比べたら…」

 

 

圧倒的な姉との実力差。それがエミヤの実力をさらに底上げしていた。これでも一人では勝てない衛宮黒名って何なんだろうとそれを遠目から強化した目で見ていたクロナは戦慄する。…まあそれも、ほとんど予想通りだったのではあるが。

 

 

「ならば…!」

 

 

永久追尾空対空弾(Artemis)も通じない。渾身の投石も相殺され、手持ちも無い。最後の手段なのか翼を羽ばたかせて加速、急降下し拳を構えるアーチャー。

 

 

投影、開始(トレース・オン)

 

 

それを視界に捉えたエミヤは慌てず、弓を投影しさらに赤い長槍と黄色い短槍を投影。まず赤い長槍を番えて引き絞った。

 

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!」

 

 

放たれるは、第四次聖杯戦争に参加した際、セイバーと偽って戦ったフィオナ騎士団一番槍ディルムッド・オディナが有した魔槍の一本。

自分に迫り来るそれが宝具だと認識したアーチャーは急ブレーキ、絶対防御圏(aegis)を展開して耐え凌ごうとするが…相手が悪かった。

 

 

「なっ…!?」

 

 

魔力の防御壁など無かったかのようにすり抜け、咄嗟に横に何とか避けるアーチャー。放たれたそれは刃が触れた対象の魔力的効果を打ち消す能力を持ち、クロナの改造魔術とも相性は最悪とも言える宝具である。さらに言えば、もう一本の魔槍と合わせる事でその効果は最大限に発揮される物だ。

 

 

必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)!」

 

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)に連なる様に放たれたのは黄色の短槍。それは体勢を崩し絶対防御圏(aegis)を解除してしまったアーチャーの右翼を貫き、決して癒えぬ傷を与えた。墜落するアーチャーは自己再生を行なうも、その傷だけ再生されない。それもそうだ、この槍で受けた傷は槍を破壊するか使い手が死なない限り癒えることがないのだから。

 

 

「私も数多の聖杯戦争を生き抜いてきたものでね。宝具の見極めと選出ならば自信があるつもりだ」

 

 

市街地に墜ちて行くアーチャーを見据え、そうニヒルに笑うエミヤ。彼はアーチャーの有する宝具が、規格外のスペックと自己再生能力を有している物だと共有したバーサーカーの記憶から見破り、それに最も効果的であろう宝具を選んだのである。

手数の多さは覆らない。…ならば、それに匹敵しなくても同じ手数の多さが売りの英霊ならばどうか。

 

 

 

「…作戦通り(?)、クロナの言っていた宝具らしき物を受けてアーチャーが墜落したわね」

 

『英雄王ギルガメッシュから学んだ彼女の宝具知識は凄まじいね。アーチャーもアレならまあ大丈夫だろう。…でも、本当にやるの?ライダー』

 

 

エミヤのいるビルの正面で、その様子を見ていたセーラー服の少女はまるでボールを扱う様にポンポンとごく普通のストラップを放り、にやりと笑い振り被る。

 

 

「もちろん。行くわよエルメス、おりゃー!」

 

『せめて心の準備をー!?』

 

 

相棒の声など無視してサーヴァントになった事で得た人外の怪力でブンッとエルメスを放り投げるライダー。生前から五月蠅いからとよく投げていた事もあり、綺麗な放物線を描いてビルの壁に飛んで行くストラップを追う様に走り、ライダーは跳躍し一回転。

 

 

Time to rock(派手に行くぜ)!!」

 

 

バイクに変身したエルメスに飛び乗り、ビルの壁面を猛スピードで駆け昇るライダー。重力何て知らんと言わんばかりに爆走する。

 

 

「…む?――――I am the bone of my sword.」

 

 

下から轟く爆音に気付いたエミヤは剣を複数空中に投影、それを下目掛けて射出する。

 

 

「そう簡単には行かないわよね!」

 

『僕には当たらない様に気を付けてよね!』

 

 

左手でハンドルを握ったままポーチから45口径コルト・ガバメントを取り出し乱射。全ての剣を弾き飛ばし、そのまま直進するライダー。

 

 

赤原猟犬(フルンディング)!」

 

 

ならばと必中の魔剣を番えて射出するエミヤ。それに対し、コルト・ガバメントをポーチに戻したライダーはMinimiと呼ばれる軽機関銃を取り出して飛んでくる魔剣ではなく、少し上の壁面に向けて乱射乱射。罅を入れるとMinimiを投げ捨て、代わりに取り出したダネルMGLと呼ばれるグレネードランチャーを取り出して三連射。

 

 

「なんだと…!?」

 

 

ビルが揺れ、壊れた壁面が平たい瓦礫となってライダーに向かって落ちてくる。そして赤原猟犬(フルンディング)は瓦礫が盾になり炸裂。しかし貫く事は叶わず、ライダーはちょうど今走っている壁面と接する瞬間を狙って瓦礫に乗って駆け上り、それをジャンプ台に一気に屋上の上空へ飛び上がった。

 

 

「――――投影、開始(トレース・オン)

「――――憑依経験、共感終了」

「――――工程完了(ロールアウト)全投影、待機(バレット・クリア)

「っ―――停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレル・フルオープン)………!!!」

 

 

エミヤは瞬時にギルガメッシュと対峙した際の記憶を呼び起こし、自分の背後にまるで王の財宝の様に数多の武具を展開。それを連続で射出してライダーを狙う。すると、ライダーはとんでもないことをし始めた。

 

 

「ぶっ飛びなさい、エルメス!」

 

『僕、ぴーんち!』

 

 

空中で座席から飛び出すと、エルメスのハンドルを握ってエンジンを吹かし加速させて振り回し、武具を全て弾き飛ばし、さらにエンジンを吹かしてエルメスをミサイルの様に投擲。ぶっ飛んで来た大型二輪車に慌てて飛び退くエミヤ。

 

 

『ギャー!?』

 

「よっと!」

 

 

ガシャンっとエルメスは床に激突して火花を散らして横になり、ライダーはワイヤーフックを取り出して投げ付けて屋上の縁に引っ掛けることで駆け上り、エミヤの目の前に着地してコルト・ガバメントとM29と呼ばれる44マグナム弾を使用する大口径リボルバーを取り出して構えた。

 

 

「It's best!楽しすぎて狂っちまいそうだわ!」

 

「…狂うのはバーサーカーの時だけにしておきたまえ!」

 

 

干将・莫邪を投影して構えたエミヤとの、連射と連撃がぶつかる。火花が散り、弾が散らばり、エーテルが大気に還元され、破壊されたコルト・ガバメントの破片が散乱する。

 

 

「オラァ!」

 

「がはっ!?」

 

 

ライダーは弾が切れたM29を投げ捨てて蹴り飛ばしてエミヤの腹部に炸裂、改造ショットガンを取り出して接近し、エミヤの振るった干将・莫邪に対してヌンチャクの様に振り回して対抗。

 

 

「ウラララララララーッ!」

 

「ハアァアアアアアーッ!」

 

 

近距離で放たれる散弾と干将・莫邪がぶつかり合って火花を散らし、徐々に、徐々にライダーに押されて行くエミヤ。そして、

 

 

「そこぉ!」

 

「ッ…!?」

 

 

ライダーはショットガンを突き出し連射しながら突進。それによりついにフェンスにまで追いやられてしまい、エミヤは起死回生と言わんばかりに固有結界を発動しようとする。しかし、その時見えた。そして敵の思惑通りに動かされていた事に気付いた。

 

 

「クロ姉…!?」

 

 

目の前でライダーがショットガンを仕舞うと同時に拾い上げたマグナムに弾を込めながら突きつけるのと同時に、視界の端…ビル屋上の遥か真下、とある建物の屋上からこちらを見上げ、デグチャレフPTRD1941と言う名の全長2mオーバーの対戦車ライフルを構えた、背中にゴルフバッグを担いでいる言峰黒名の姿が、見えてしまった。

 

 

「まさか、今までの攻撃が全てブラフ…、サーヴァント二体が囮でクロ姉が本命だと…!?」

 

「そゆこと。もう気付いても遅いわ、全部作戦通り。合言葉は決まってんのよ」

 

 

そして、ランクDの宝具となったM29が突きつけられた額と、ライダーから受け取った弾丸を改造した対霊体専用弾が装填されたデグチャレフPTRD1941が狙う後頭部に狙いを定め、少女達の合言葉と共に引き金が引かれた。

 

 

「『JACKPOT(大当たり)!』」

 




エルメス『この間僕はずっと横に倒れていると言うね』

絶体絶命エミヤさん。サーヴァント二体を囮にするって、ねえ?

そらのおとしものギャグ回のネタ、学園キノの「ぴーんち!」ネタ、DMC3のバイクヌンチャクやらショットガンヌンチャクやら書けて今回は楽しかったです。

そして発動、クロナにいじめられた(?)ことで得たエミヤの宝具【咲き誇れ、(サンクチュアリ・)熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】。全方位ローアイアスですが全方位と言いながら上は穴が開いているので弱いです。衛宮黒名にもそこを攻められて攻略されてます。

何気にアーチャーの宝具を使うために士郎と凛がUBWルートで行った魔術刻印の移植も冒頭でしています。簡単に言えば凛との魔力の共有(?)ですね。クロナと桜が反応したのは…ゲフンゲフン。これで何時でもアレが使える!

最後にクロナが使ったデグチャレフPTRD1941はクロナの魔改造による高速連射が可能で、霊体(サーヴァント)への攻撃も可能と言うケリィが聞いたら欲しがりそうな代物。重量は本来15.75kgですけどこれも魔改造で軽くしてます。
結論、クロナ「私の改造魔術は最強なんだ!(おじさん的なフラグ)」

次回、士郎&凛&桜&サモエド仮面VSバゼットさんと余裕があればセイバー陣営VS『M』戦。正直サモエド仮面がいる時点で積んでるけどあの人人間バーサーカーだから大丈夫だ問題ない。
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯22:動く戦局、ありえない物

今回は前回の直後の時系列。アーチャーの異変に気付き双子館から出たバゼットさんへの襲撃から始まります。

次回にクロナVSアーチャーを集中させたいがために今回はVSバゼットとセイバー陣営の動向を一気に描いているため今作では珍しいバゼット、桜、イリヤ視点でお送りします。
楽しんでいただけると幸いです。


弾く、弾く、弾く。宝石を、弾丸を、そして投擲された剣を。

 

アーチャーの危機。それを察知していても経っても居られず双子館を跳び出した矢先、襲撃を受けた。遠坂凛、間桐桜、衛宮士郎。咄嗟に硬化のルーンを刻んだ手袋を付けた拳で弾き飛ばすと、信じられないような物を見た様な表情で固まった。

 

 

「…アンタ、本当に人間?サーヴァントじゃなくて?」

 

 

失礼な、私は人間ですよ。斬り抉る戦神の剣(フラガラック)が無いのでサーヴァントには対抗できませんが。

 

 

「でも、負けられるか!」

 

「覚悟しなさい!」

 

 

突進する衛宮士郎と遠坂凛を、援護する形で間桐桜が手に持った確かM16と言う名のアサルトライフルを構えて的確に私の足を狙ってくる。…なるほど、弾薬を選んだりメンテナンスの手間があるけど命中精度が高く軽量で全体的に扱いやすい構造で反動も極めて小さい銃を選んでいるところから、彼女は完全に援護射撃係ですか。いえ、護身用なのかグロック17も携帯していますか。ですが、間違いなく戦闘経験が少ない。そこを突くのが最適でしょうか。

 

 

「手加減はしませんよ!」

 

 

衛宮士郎の振るった、アーチャーも使う干将・莫邪をそれぞれ一撃で粉々に破壊。そのまま足払いで宝石を握った拳を繰り出そうとしていた遠坂凛を転倒させ、瞬時に新たな干将・莫邪を投影して突進してきた衛宮士郎の胸部に掌底を浴びせ、塀に叩き付ける。

 

 

「いいのが入りましたね。さて、次は貴方です、間桐桜!」

 

「くっ…負けません!」

 

 

連続して放たれる弾丸。それら全てを見切り、紙一重で避けたり、避けきれないのは弾いて、接近して行く。走ったら駄目だ、あの手のタイプは油断し突っ込んだところにドデカい一撃を叩き込んでくる物。大した魔術が使えないにしても、油断したところで勝負は決する。…私が一週間前まで有していた斬り抉る戦神の剣(フラガラック)の様に。

 

 

「このっ…!」

 

「っ、シッ、ハァッ!!」

 

 

追い詰められM16を鈍器として殴りかかってくる間桐桜の一撃を、一歩下がる事で回避。M16を投げ捨て、グロック17を取り出してこちらに向ける彼女に対し、拳を一閃してグロック17を破壊。そのまま拳を胸に打ち付け、吹き飛んだ間桐桜は電柱に叩き付けられて崩れ落ちた。あ、やりすぎた。

 

 

「あ、すみません。強すぎましたか……?……悪いクセだ……夢中になってくるとどうしても手加減ができなくなる……ですが、私も病み上がりな物でして。これぐらいは勘弁してもらいt…!?」

 

「ピンチだな!」

 

 

瞬間、間桐桜の傍らに出現した白装束の男が振るった日本刀を、バックステップで回避。その際何故か白いハトがスローで視界の端を横切り、白いマントが踊り、にこっと笑んだ口元で白い歯がきらりと光った。新手、サーヴァントか…!?

 

そう思い、確認するとそこにいたのは見るからに変な格好で日本刀を握っているマスクの男。…サーヴァントかと思いましたがただの変態ですね。振るってきた日本刀を手甲で逸らし、蹴りを入れて吹き飛ばすと変態はクルリと一回転し、間桐桜の傍の電柱の天辺に着地。バサッとマントを翻し、高らかに叫んだ。

 

 

「正義の少女がピンチの時…今、一人の騎士が天空の彼方より舞い降りる!」

 

「貴方の様な変態が騎士なはずないでしょうに!」

 

「私の名は、純白の正義の騎士・サモエド仮面!」

 

 

その言葉にキレて、拳で電柱の根元を叩き折ると、サモエド仮面と名乗った変態はすぐさま華麗に着地。間桐桜をお姫様抱っこしてダッシュで衛宮士郎と遠坂凛の元に駆け寄った。

 

 

「無事か、少年少女よ!」

 

「桜を助けてくれてありがとうな、サモエド仮面」

 

「悔しいけど、礼を言うわ。…しっかし何度も聞く様で悪いけどバゼット・フラガ・マクレミッツ。貴方、本当に人間?サーヴァントじゃなくて?」

 

「失敬な。私だって宝具使わないとサーヴァントとは到底戦えません」

 

 

見れば見る程騎士と名乗ったこの変態に怒りを覚える。騎士とはケルトの勇士達の様な者達の事!こんな変態が騎士など、ましてやサーヴァントに選ばれる英雄などとは…

 

 

「いや、この変態一応サーヴァントなんだけど」

 

「あと、正義の味方…だよな?」

 

「如何にも!」

 

「…か、刀なら楽勝ですし?」

 

 

…まさかサーヴァントの剣戟を逸らしてしまうとは。私、自分でも本当に人間なのか疑ってしまいますよ。

 

 

「美人の君には悪いが謎のライダーから頼まれたのでね。この彼女、間桐桜に手を出そうと言うのなら…いざ尋常に、参る!」

 

 

…これが私を救ってくれたアーチャーを助けるための試練だと言うのなら…望むところだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、そこでは神話と見紛う光景があった。ぶつかる刀と拳、火花と粉塵が舞う戦場に成り果てた住宅街であった場所。恐らく、私が気絶した事でサモエド仮面が現れた為だろう。

 

バゼットさんがサモエド仮面の刀と拳をぶつけ合っている中、姉さんが手持ちの宝石を投擲するが、視線をサモエド仮面に合わせたまま空いている左手で目にも止まらぬ拳の連撃を放ち弾き飛ばすバゼットさん。

 

…うん、可笑しい。不意打ちも全て打ち落とされましたし、試しにM16を撃ってみるも強化の魔術でも使っているのか全部掌で受け止められ地面にカランカランと弾丸が転がる。先輩の投擲した剣も砕かれてしまいましたし、何より、あのサモエド仮面の神速の剣戟を全て右拳だけで弾き返している。…まるで、左腕を失いたくないかの様に。

しかし、サモエド仮面も負けていない。家屋やら塀やら電柱やらは真っ二つにしているくせに、バゼットさんに向ける刃は何時だって峰打ちだ。技量の差が見て取れる。私的には、強化した目で追うのがやっとだが。

 

 

「あーもう、何なのよこの人間バーサーカー!クロのバーサーカーとやっていること殆んど同じじゃない!綺礼の知り合いって言う時点で嫌な予感はしていたけど!」

 

 

そう叫びながら隙を窺う姉さん。踏み込もうとしながらも動けない先輩。…二人共凄いなぁ、私は…もう、あまり関わりたくないとすら思えてくる。現実逃避したい。割と切実に。私も色々されて人間やめてるんだろうなあって自覚はあるけどアレは絶対可笑しい。

 

 

「ふっ!はっ!少年少女よ!君達は私の可憐な剣さばきに見とれていてくれたまえ。ケーキとお茶を用意しながらな!」

 

「余裕たっぷりですね!」

 

「彼女を怪我させてしまうと謎のライダーに怒られるので…ね!」

 

 

ちゃんと当てる時は峰で攻撃しているサモエド仮面は紳士なんだとは思う。でも周囲の塀やら建物やらは一切合財真っ二つにしているので、姉さんと先輩共々私もちょっとお冠だ。…言峰さん、これが終わったらもう過労死してるんじゃないでしょうか…

 

 

「しかし君もなんだ、しぶといな!こっちだって斬らない様にしているけど本気で倒そうとしているんだけどなあ!」

 

「だったら本気で斬りに来た方がいいですよ…その程度のナマクラに斬られる程軟いつもりはありませんから!」

 

「…ほう?ならば、リクエストにお応えしよう!」

 

「!」

 

 

スパンッと、それはもう軽快な音と共に、咄嗟に屈んだバゼットさんの背後にあった電柱が一瞬で三分割にされ、倒れて来る。前転してそれを避けるバゼットさんは再び突進し拳を突き出すも、それを優雅に空中を舞って回避したサモエド仮面がその背後でにっこりと笑い、「ひゃっははははっ!」と声を上げながら再び神速の斬撃がバゼットさんを襲う。

 

これだ、サモエド仮面の怖い所は。文字通り、斬れない物は何もない。一瞬で、ほぼ同時と言ってもいいぐらいの速度で幾度も斬撃を繰り出し何でもかんでも真っ二つにしてしまう。魔術的要因が無い物はほぼアウトだ。

 

 

「…しかし、いいんですか?私を倒すのはいいですが、貴方方の目的はこの街を守る事なのでは?ガンガン斬っちゃってますが」

 

「それはしょうがないな!私は争いは好まない、しかし時に必要な時がある。その時たまに建物が壊れちゃうのはご愛敬だ!」

 

「なるほど…狂人だと言うのはよく分かりました!」

 

 

全面的に同意したい。…クロナさんにあの台詞言ったら激怒するんだろうなぁ…あ、ライダーもキレそうだ。

 

そこから先は、もはや打ち合い。先輩どころか私と姉さんでも援護すらできない、サモエド仮面とバゼットさんのみの戦い。もはや速過ぎて何が何だかだ。その内、カキンカキンと金属がぶつかる音が聞こえてきた。何と、拳でサモエド仮面の剣戟にぶつけているらしい。本当に人間なのか本気で問いたい。

 

 

「ちぇすとー!」

 

「そこぉ!」

 

 

瞬間、信じられない事が起こった。間違いなく決まっていただろうサモエド仮面の一閃が、次の瞬間には刀身を叩き折った拳によるボディブローに変わっていたのである。…か、カウンター…!?

 

 

「がはあっ!?」

 

「侮りましたね。ルーンを刻んだこの拳……宝具とまではいきませんが、銃器ほどの威力はあったでしょう?」

 

「み、見事なり…これは効いたぁ…!」

 

 

転倒するサモエド仮面に、私達の驚愕の視線が向かう。当り前だ、バーサーカー以外で最強とも言える規格外サーヴァントなのだ。殺さない様に手加減をしているとはいえ、それに効いたと言わしめさせるあの拳…喰らったらただじゃすまない。姉さんは妙に頑丈だからいいけど、先輩にそんなの当たらせたら行けない…!

 

 

「ねえ桜、後で校舎裏ね」

 

「もし生きて帰れたらいいですよ、遠坂先輩?」

 

「…ふざけている暇があるのならそちらから攻めてみたらどうです?」

 

「言われなくても…!」

 

 

余裕の構えで挑発するバゼットさんに、投影した干将・莫邪を投擲する先輩。やはりそれはあっさりと弾かれてしまうも、そこを突いて姉さんが懐目掛けて突進。その意に気付いた私はバゼットさんの振り被ろうとしている拳に対し、念のため所持して置いたデリンジャーを懐から取り出して狙い、発射。

 

 

「くっ!?…しまっ、」

 

「ナイスよ桜!ハアァアアアアッ!」

 

 

一発の弾丸は右手首を撃ち抜いて明確な隙を作り出し、姉さんの放った渾身の拳がバゼットさんの腹部を捉え、殴り飛ばした。吹き飛び、塀に叩き付けられたバゼットさんは沈黙し、サモエド仮面の呻く声だけがその場に響く。…これで駄目ならそこで悶えているサモエド仮面を何とか再起させないと行けませんが…

 

 

「…まさかデリンジャーまで所持しているとは、私も甘いですね…硬化のルーンがなされている手袋を狙わず手首を狙ったその判断、見事です。しかし魔術師の癖して肉弾戦とは、言峰綺礼に習ったのですか?」

 

 

蹲ったままでそう声を投げるバゼットさんに身構える私達。一番近い場所にいた姉さんは警戒しながら応える。

 

 

「ええ。クロと一緒にあのエセ神父から学んだ八極拳よ。今時の魔術師は肉弾戦もできないとね」

 

「構えから見て早急に見抜くべきでした。病み上がりとはいえ油断が私の敗因でしょうか。ああ、少し前ならばこの程度、直ぐに起き上がれたものの…これではアーチャーに顔向けできませんね…」

 

 

そう言って、令呪の宿った右手を掲げるバゼットさん。それを見て何をしようとしたのか察した私たちは止めようと飛び掛かるが、一歩遅かった。

 

 

「令呪を以て命じます。来てください、アーチャー」

 

 

時計を見ると、作戦開始から二十数分…私達のミスで、戦局は動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありえない、ありえない、ありえない。(聖杯)が知らないサーヴァント何てありえない。私の最強のサーヴァントと互角の勝負を見せているこの男もありえない。全部、全部有り得ない。だから、私が納得できる答えを知っているこの白衣の男を逃がす訳にはいかない。

 

 

「貴方、あのアーチャーがどうやって召喚されたか知っているのなら吐きなさい!」

 

「生憎俺は人形なんぞの戯言を聞く耳は無くてな!」

 

「イリヤへの侮辱は許さないぞ…!」

 

「俺を打ち負かせてからほざけ!」

 

 

聖剣を手にしてセイバーのマスターソードと張り合う白衣の男に対し、私はキャリコで援護射撃するも、当たらない。確実に直撃するコースを狙っているのに、当てる事すら叶わない。もうセイバーに任せるしかなかった。

 

 

「デヤーッ!」

 

「回転斬りは攻撃範囲は広いが、上が疎かになるところは変わらないな!」

 

 

接近してきた白衣の男に対し、セイバーの放った回転斬りは、エクスカリバーを頭上に放り投げて自身は跳躍して回避。エクスカリバーを手に取り、繰り出してきた急降下斬撃にマスターソードを振り上げて弾き飛ばすセイバー。やはり駄目だ。あの男、何故か知らないけどセイバーの戦術を熟知している。アレでは不意を突いた一撃であっても届かない。

 

 

「なら、こいつはどうだ!」

 

「っ!?」

 

 

取り出したフックショットを、白衣の男の背後にある自動車に突き刺して引き寄せられる勢いで吹っ飛んだセイバーの盾アタックを、驚いた顔で横に飛び退き回避する白衣の男。セイバーは間髪入れずその手にブーメランを取り出して投擲、白衣の男の目前に飛ばしてその体勢を崩すと、ハンマーを取り出して自動車の前に停めてあったバイクを殴り飛ばし、体勢を立て直していた白衣の男はバイクが直撃して「ぐえっ」と悲鳴を上げて押し潰された。

取り出した弓に矢を番えて自身を狙うセイバーに、白衣の男は悔し気にバイクの下で呻いた。

 

 

「…くそっ、さすがは勇者か。あの英雄王なんかよりも強敵だ。何でもかんでも使いやがって、餓鬼の喧嘩かよ」

 

「元より勝つためには手段は択ばない性分だからな。それにマスターのオーダーだ、負ける訳にはいかない。それで打ち負かした訳だが、話してもらえるな?」

 

「…ちっ。負けは負けだ、教えてやる」

 

「よくやったわ、セイバー!」

 

 

セイバーの勝利に喜ぶ私だったがその時、妙な違和感を覚えた。白衣の男の浮かべた微笑に、まるで負ける事が想定内だと言わんばかりの満足感を感じたのだ。…ああ、理解した。この男の掌の上からは抜け出せない。

 

 

「アイツはな、8番目のサーヴァントなんかじゃない。だからって第四次聖杯戦争の生き残りって訳でもない」

 

「何を訳分からない事を…分かりやすく簡潔に述べなさい!」

 

 

取り出したコンテンダーを突きつけながら私がそう叫ぶと、白衣の男は仕方ないと言わんばかりに溜め息を吐くと、にやにやと笑いながら口を開いた。

 

 

「これだから凡人は…―――I am the bone of my Demento.(この身は狂気で出来ている)

 

 

瞬間、バイクが吹き飛んで来てセイバーが真っ二つにし爆発、視界を塞ぐ爆炎が晴れると、既に男は白衣を翻して立っていて。

 

 

「奴は一騎目のサーヴァントにして、二人目のアーチャーだ。後は自分で考えな、お人形さんよ」

 

「待て、ドクター!アンタは…」

 

「誰が待つかよ、時間稼ぎは十分出来た。…おいアインツベルン、死にたくなきゃ聖杯戦争から降りろ。さもないと奴の怒りに巻き込まれるぞ。お前はまだ、間に合うかもしれないからな。俺に可能性を見せてくれ」

 

 

セイバーの放った矢の三連撃をエクスカリバーで斬り飛ばしながら白衣の男は私にそう述べ、不可視になったエクスカリバーを地面に振り降し発生した風を目暗ましに去って行った。

 

…この私に、キリツグみたいにアインツベルンを裏切れって?

 

 

「冗談じゃないわ。…行くわよ、セイバー。士郎に借りを返さないと」

 

「…イリヤがそれでいいなら俺は従うよ」

 

 

少し不満げなセイバーはマスターソードと盾を背中に戻すとエポナを呼び出し、先に搭乗して私に手を差し伸べて来た。それを掴んでセイバーの前に座るとエポナが走り出す中、私は思考する。

 

 

…せめて、キリツグに文句を言いたかった。まさか死んでるなんて、思わないじゃない。だから私は、士郎を殺す。私とお母様を裏切ったアイツへの怒りを向ける先が士郎しかいないから。

…十年間、私が一人ぼっちだった時にキリツグの愛情を受けていた士郎への嫉妬かもしれないけど。…ああ、やっぱり一度ちゃんと話すべきかな。

 

 

その時だった。エポナの走る先の視界に、くたびれたコートを着込んだ死んだ目の男を捉えたのは。

 

 

「っ、止まって!」

 

「…イリヤ?」

 

 

私の指示に、手綱を引いてエポナを止めるセイバー。私は、言葉が出て来なかった。男は変わらずこちらを死んだ目で見据えて佇んでいた。街中を走っていた馬なんて気にも留めていない。その目は、確かに私を捉えていた。

 

 

 

死んだはずじゃなかったの?

 

冬木に来た翌日に墓地に赴いて文句を喚き散らかしたから?

 

それとも士郎を殺そうとしたから?

 

だから今になって、私の前に現れたの?

 

私に怒っているから何も言わないの?

 

何で、アインツベルンを裏切ったの?

 

何で、私を迎えに来てくれなかったの?

 

ねえ、何か言ってよ。

 

また、私を抱き締めてよ。

 

 

 

言いたいことは山ほどあるのに、あまりの衝撃に何も出て来ない。男は私をジーッと見つめ続けると満足したのか、振り返ると夜の闇に消えて行った。私は動けなかった。エポナから降りる事すらも、私の名前を呼んでいるセイバーに応える事もできなかった。

 

でも、間違いない。私がアイツを…10年間待ち続けた人物を、実の父親を、見間違えるはずがない。

 

 

 

 

 

「なんで、キリツグが……」




バゼットの敗北、セイバーに敗北した『M』の残したアーチャーの謎、イリヤの前に現れ去っていたくたびれたコートの男の謎と色々浮上してきた今回。特に最後のはかなり重要。

斬り抉る戦神の剣(フラガラック)を失っている他、病み上がりなためかなり弱体化しているバゼットさん。しかしサモエド仮面を退けるなど圧倒的な戦闘力は健在。こういうのに勝つにはやっぱり不意打ちが一番です。最後は令呪を行使した様ですが…?

ギルガメッシュには勝利してセイバーには負けた『M』、単純に節操の無さの差ですね。セイバーは過去の経験上、何でもかんでも使うので『M』も予想ができない、なので対策も不可能。しかしその予想の付かない負け方さえも計算してイリヤに伝えたい事を伝えた『M』マジ策士。

そしてイリヤの心情も明かされました。その直後現れたくたびれたコートの男は何者なのか!…ぶっちゃけ、あるサーヴァントを選んだ時点で考えていた展開への布石です。参戦させた理由だと言ってもいい。イメージは「仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010」のW編が近い。

次回、今回の同時刻でクロナVSアーチャーの直接対決を描きます。感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯23:約束した突き穿つ勝利の剣

今回はエミヤVSクロナ、決着戦…!割と自分でも納得の行く出来に仕上がった、まるで二人の親を思い浮かべる全力の死闘。楽しんでいただけると幸いです。


「『JACKPOT(大当たり!)』」

 

 

“合言葉”と共に引き金が引かれ、目の前の少女が掲げたマグナムから放たれる弾丸と遥か下、自分が守るべき少女の構えた対戦車ライフルから放たれた弾丸。まずは近距離である目の前の脅威から捌かなければならない。

 

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

「っ!?」

 

 

ライダーの頭上に剣を数本展開し、それを落下させて飛び退かせ壁を形成する事で足止め。すぐさま手に取った干将を振り返って投擲し、飛んで来た砲弾に炸裂させて相殺する。そしてクロ姉と向き合えば、そこには既に二撃目、三撃目を撃ち放ち反動でふら付いている彼女の姿が。

 

 

「連射はできない銃の筈だがな!」

 

 

干将・莫邪を投影し投擲して再び相殺。すると頭上に影が差す。見れば、私が砲弾を相殺している間に背後で剣身を蹴破り、ウージー二丁を手に舞い上がってこちらに降りてくるライダーの姿が。…その程度では動きを封じる事もできないか。ならば!

 

 

「ロックンロール!」

 

「無駄だ!」

 

 

降り注ぐ弾丸の嵐を、私は柵の外に翻り落下する事で回避、新たに投影した日本刀をビルの壁に突き刺す事で止まり、ライダーが屋上に着地しこちらを見下ろしてきたのを確認すると起爆した。

 

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 

「なっ…!?」

 

 

瞬間、突き刺して壁にしていた剣が全て爆発。内包した神秘が暴力となってライダーを屋上から吹き飛ばし、ライダーは何かを大事そうに抱えてそのまま落ちて行った。

 

 

『ちょっとライダー!爆発の直前で僕を回収しに来てくれた時は嬉しかったけどさ!今の僕、壊れてたよね!?』

 

「あーもう、助かったからいいでしょエルメス!こっちはアンタと違って爆発諸に受けたんだからね!」

 

 

…着地の寸前でバイクを召喚して衝撃を殺したか。やはりあの程度では駄目らしい。が、アーチャーと同じくライダーも戦闘不能に追いこめた。後は…

 

カキン!

 

肩目掛けて放たれてきた弾丸を投影した剣で斬り弾く。…未だにこちらを狙ってくるクロ姉を再起不能にしなくては、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

クロナside

ビルの壁に剣を突き刺してそれに乗っている赤いアーチャー…英霊エミヤに向けて放った連射は全て斬り弾かれ、追撃で放った黒鍵矢を避ける様にして飛び降り、爆破と共に巨大な剣を投影して落下させ、その柄に乗る事で無事着地するエミヤ。そして間髪入れず走り出した先にあるのは、私のいる建物だ。

 

作戦は完璧だった。アーチャーの過剰すぎる火力で搖動、ライダーが急襲してこちらの勢いに乗せて逃げ場のない場所に追い込み、近距離からのマグナムと私の対戦車ライフルで挟み撃ちにして仕留める。

ライダーの宝具を使わなかったのは、使用すれば変身が解け著しく弱体化すると言うデメリットが大きすぎたためだ。だから念に入れて連射できるように改造したのだが、あちらの投影魔術を甘く見ていた。

 

まさかあの近距離からライダーを妨害しこちらの弾丸を迎撃、さらには逃げ場のない屋上から自ら飛び降りて剣を足場にして逃れるなんて誰が想像できるか。…さて、ここからが問題だ。

 

もしもの場合に備えて士郎に投影してもらったあれらをゴルフバッグに入れて来たが、私は正直言って雑魚い。接近戦だと士郎にだって負けるぐらいに雑魚い。父さんから学んだ八極拳も付け焼刃もいいところだ。

懐に入られたら、避け続けるか咄嗟に受けるぐらいしかできない。イフ戦の時に調子に乗って接近戦に挑んだが終始負けていたから私は本当に接近戦の才能は無いのだろう。

 

 

あの、元が士郎だと言う事から見ても遠距離戦より接近戦の方が強いと思われる英霊エミヤに対して何かできるとは思えない。だから…ちゃんと作戦は考えている。プランDだ。

 

失敗したのは第一案のプランABCだ。アーチャーとライダーはもう使えない。それは私からバーサーカーを奪った事から見て数多の宝具を有していると言う結論から想定されていた事だ。王様から得ていた宝具知識が役に立った。アーチャーの防御を貫通する魔槍と再生能力を封じる魔槍。さらに使い捨ての贋作だからこそ使える壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。それらを使えば二人を完封するなんて簡単だろうとは予測していた。

 

だからこそ、私一人で英霊エミヤを足止めする方法も考えているのは必然だ。彼の目的はどういう訳か私に何もできなくさせた上でバーサーカーに街を破壊させること…まあ大体は『M』の話から、私を衛宮黒名の様に【この世全ての悪(アンリマユ)】にさせないように代わりにバーサーカーにその役目を負ってもらうことだと察しが付く。なら、未だに諦めず邪魔しようとする私を無力化、もしくは何もできない様に痛めつけるぐらいはしてくるだろう。つまり、アーチャーとライダーを撃破したところで私を狙って来るのは分かり切っているのだ。

 

 

「入ったな」

 

 

四階建ての、いくつかの事務所と書物店を兼ねているこの建物に赤い外套が入ったのを確認し、私はあらかじめ手摺に巻き付けて置いて見えない様に隠して置いたロープを降し、まず無駄に重いデグチャレフPTRD1941を落としてからロープを握って一気に飛び降りた。

 

中身が中身であるゴルフバッグの重量も手伝ってスムーズに降り立った私は停めて置いたバイクに飛び乗りすぐさま全速力でその場から離脱。ある程度離れた所で、にやりと笑って右手を建物に向け、指を鳴らした。

 

カッ!

 

瞬間、閃光が窓ガラスを照らし、仕掛けて置いた無数の空き缶が爆発して大爆発を引き起こし、夜空を明るく照らすと続ける様に凄い音を立てて倒壊して行く建物。瓦礫の山となったそこで、動く影は無い。…倒した、もしくは生き埋めに出来たらしい。

 

空き缶は合図と共に爆発を起こす様に改造して置いた物だ。ちなみにこれは以前、聖杯戦争が始まる前に用意した物であり、材料はゴミ捨て場から拝借して来た。父さんから切嗣さんがランサーのマスターの拠点である冬木ハイアットホテルに爆弾を仕掛け倒壊させたと言う話を聞いて思い付いた物だ。

本当はアサシンを召喚した際の手段で、魔術師の拠点に侵入させて設置し爆殺するために用意した物だったがバーサーカーの召喚でお蔵入りし、念のために袋に入れて王様の王の財宝に入れさせてもらった物なのだが役に立った。

 

 

「作戦、大成功かな?」

 

 

私を追い詰めようとわざわざ下から突入した事が仇になったね、エミヤシロウ。でも私のバーサーカーを返してもらうためだ、いくら平行世界の士郎と言えど容赦はしない。

…しかし、プランDで済んでよかった。直接対決するプランE…サーヴァントで言う五段階表記における最低のランクであるその作戦は、正直言って私も無事で済むか分からない。

 

 

「とりあえず、まだ消滅はしてないみたいだし意識があるかを確認しないと…」

 

 

少々不気味だった蜘蛛の様な令呪が戻ってない右手を見ながらも心底安心し、瓦礫の山に歩み寄ろうとする。その瞬間、赤い外套が夜空に舞い上がった。…その手に、鳥の羽の様な白と黒の巨大な剣を構えて何かかっこいいポーズを決めていた。

 

 

「干将・莫邪、オーバーエッジ…!」

 

「そんな…!」

 

 

干将・莫邪らしい大剣を構えて急降下してくるエミヤに、私は慌ててゴルフバッグのチャックを開けて手を突っ込み、中からそれを引っ張り出す。

 

 

「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎむけつにしてばんじゃく)

 

―――心技、泰山ニ至リ(ちからやまをぬき)

 

―――心技黄河ヲ渡ル(つるぎみずをわかつ)

 

―――唯名別天ニ納メ(せいめいりきゅうにとどき)

 

―――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われらともにてんをいだかず)……!」

 

 

何時の間に放ったのか飛んでくる二対の干将・莫邪を手に取ったそれで斬り飛ばしていく。あの詠唱は不味い。よく分からないけど不味い。確実に、防がなければ行けない。

 

 

「鶴翼三連、叩き込む…!」

 

偽・約束された勝利の剣(エクスカリバーⅡ)!」

 

 

振り上げるは、士郎が投影し私が改造を施した星の聖剣。大剣と聖剣がぶつかり、せめぎ合う。…私の筋力では勝てない。だから風王結界(インビジブル・エア)の解放と魔力放出で一気に押し上げる。魔力放出だって私は出来ない。だからエクスカリバーを介して、私の膨大な魔術回路から魔力を絞り出す…!光線ぶっぱはできないが、それでも纏うぐらいなら…!

 

 

「ァアアアアアアッ!」

 

「くっ…!?」

 

 

力の限り、振り上げる。すると解放された風王結界が暴風となって吹き荒れ、竜巻となって大剣ごとエミヤを打ち上げる。この隙、逃す訳にはいかない。

私はゴルフバッグを背中から下ろすと左手を真下のアスファルトに触れ、右手にエクスカリバーを握って両足に強化の魔術をかける。

 

 

Put hit the asphalt.(アスファルトよ、跳ね上げろ)!」

 

 

そして大跳躍。打ち上げられたエミヤを追い、夜空に舞い上がった私は魔力放出(偽)で加速し両手で握った聖剣をエミヤの頭上から振り下ろした。

 

 

「ハアァアアッ!」

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

しかしエミヤはその手に投影した通常サイズの干将・莫邪を交差させてエクスカリバーを受け止め、そのまま着地。私を押し上げてゴルフバッグの元まで吹き飛ばし、その拍子にエクスカリバーは私の手から離れて近くの建物の外壁に突き刺さった。…回収は、させてはくれないか。

 

 

「…衛宮士郎の投影品か。俺でも達しきれない凄まじい完成度だ、どういうカラクリだ?」

 

「…さあね。本人と話す機会があって見続けていたらできる様になったってさ」

 

 

今私が所持している得物はマフラーと黒鍵数本のみ。後は全部ゴルフバッグの中だ。どうにか隙を見て次のを取り出さないと。

 

 

「クロ姉の事だ。あの罠で倒し切れないと踏んで俺と戦う事も想定し、衛宮士郎にあらかじめ投影してもらった物をそう簡単に壊れないように改造したってところか?」

 

「後、魔力を通せるように改造をね。私が使うのは疑似宝具だから。…でもね」

 

「っ!?」

 

 

取り出した黒鍵を投擲する。エミヤはそれを斬り弾こうとするが、その瞬間に爆発させる事で視界を塞ぐ。今のうちに…!

 

 

「士郎が投影したのは、エクスカリバー一本だけじゃない…!」

 

 

そう言って私がゴルフバッグの中から取り出したのは白と黒の夫婦剣。干将・莫邪。…ただし、これも魔改造品だ。正々堂々、不意討たせてもらうぞ!

 

 

「小癪な真似を…!」

 

 

爆発から飛び出し、接近して斬り込んできたエミヤの斬撃を受け流す。魔力放出で無理矢理軌道変更、さらに筋力を補う…!振り回されるな、エミヤの隙を突くぐらいに、私でも想像できない軌道を描け…!

 

 

「ハアアッ!」

 

「くっ!」

 

 

乱舞の様に魔力放出に引っ張られ、宙を舞って16連撃をエミヤに叩き込む。体勢を崩させたところで着地し、力任せに振り上げる事でエミヤの干将・莫邪を破壊。そのままとどめとばかりに振り下ろすも、瞬時に投影された新たな干将・莫邪とかち合い、限界が来たのか私のもろとも双方の干将・莫邪が砕け散る。ならば次だ!

 

 

偽・幻想大剣天魔失墜(バルムンクⅡ)!」

 

 

すぐさま後退して拾い上げたゴルフバッグを思いっきり投げ付けてエミヤを牽制、その瞬間にチャックの中に手を突っ込み引っ張り出したのは黄昏の剣バルムンク。英雄ジークフリートが有した竜殺しの魔剣の贋作を構え、突きの形で攻撃。しかし簡単にゴルフバッグを吹き飛ばしたエミヤの莫邪で太刀筋を逸らされ、魔力放出で無理矢理軌道修正して脇腹のボディアーマーに叩き込む。

これも竜殺しの特性を外し、切れ味も無くして打撃武器として改造しさらに魔力放出も付け加えてある。これで鎧や鎖帷子を着込んだ相手でもダメージを与えられる。問題は真名解放による半円状に拡散する黄昏の波を放つことができない点と、切れ味を失くしたため剣としては扱えない点だが切り結ばなければ問題は無い。魔力の無駄遣いな気もするけど、英霊でも無い私がサーヴァントに張り合うにはこの手しかないんだ…!

 

 

「次から次へと…!」

 

「それはお互い様だ!」

 

 

振り回し、アスファルトの破片も利用して攻撃。エミヤは飛び退いて弓を構え、フルンディングを投影するがそう簡単にはさせるか!

 

 

「こっちの方が速い!」

 

「むっ…!」

 

 

バルムンクをアスファルトに突き刺し、黒鍵を投擲。当たる瞬間に爆発させ妨害する。その間に転がっているゴルフバッグに近寄り、中から赤い大剣の様な何かを取り出す。剣verの、竜殺しの英雄ベオウルフが有したと言われるフルンディングの贋作だ。

士郎には、昨晩見た剣を全部投影してもらってゴルフバッグに入れて来た。凛の魔力が枯渇しかかっていたけど気にしない。あっちは宝石に魔力を溜めこんで使用できるんだから問題ないはずだ。

 

 

「――――I am the bone of my sword.

赤原猟犬(フルンディング)!」

 

偽・赤原猟犬(フルンディングⅡ)!」

 

 

爆発から逃れ、放たれた赤い流星。それに向けて、必中と名高い上に改造して硬度も高めて魔力放出でミサイルの様に飛ぶ魔改造フルンディングを渾身の力で投擲。エミヤの放った矢のフルンディングと真正面からぶつかって破壊し、さらに加速。

 

 

「なんだと…!?」

 

「改造魔術を侮ったな!」

 

「ッ、【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】!」

 

 

今度こそ勝利を確信した瞬間、投擲物に対して無敵な七弁の盾が展開して防御。フルンディングⅡは粉々に砕け散った。…王様も使うけど、あの盾が厄介すぎる。やっぱり接近戦で勝つしかないか。貫通とかできればいいんだけどな。

 

 

「小細工を労しても、本物を凌駕せしめた贋作には勝てん!」

 

「それはどうかな?王様も認めていたけど、この世全ての物はオリジナルを改造してできている。なら、改造でその上を行けば勝てる。一点特化させれば同じものでもこちらが凌駕するんだ」

 

「馬鹿な、一点に特化させたと言ってもその犠牲にした要素が弱点となる。それすら分からんのか?」

 

 

その物言いにカチンときた私はバルムンクを引き抜き、構える。それぐらい分かっているわ。コイツ、私が衛宮黒名より劣っているとでも思っているのか?…ああ、頭に来た。王様に鍛えられてるんだ、その程度な訳があるかっての。

 

 

「もちろん理解している、そこを突かれれば負けるってね。だから、私が使いこなす!どんな物だって悪い物だって使うのは人間だ。そして、作り手こそがその物を一番理解している!」

 

「ならば見せろ!英霊でも無い貴様が、私に勝てる物か!」

 

 

頭に血が上ったのか、攻撃的な口調になったエミヤがその手に両刃剣を二本投影して跳躍、私の頭上から同時に振り下ろしてくる。ヤバい、この魔改造バルムンクじゃ受け止められない事が既にばれている!?…そりゃそうか、直接受けてるものね。でも、こっちだって何も考えてないわけじゃない。

 

 

「そこ、よく跳ねるよ」

 

「なに!?」

 

 

跳躍でその場から逃れ、追ってきたエミヤは私が先程改造したままのアスファルトに踏み込んでバランスを崩して倒れ込み、そこに顔面目掛けてバルムンクⅡを叩き込んだ。ドゴンッ!と人を殴った音じゃない轟音を鳴らしてエミヤは頭から吹っ飛び、限界を迎えたバルムンクⅡが砕け散るのと同時に血が私の服に飛び散る。鼻血らしい。…何はともあれ、傷を与えた訳だ。どやっ。

 

 

「…私としたことが、クロ姉の得意とするちまちました小細工に気付かないとは…」

 

「さっきからなに?私が無能だと言いたいのか生意気な。こんな馬鹿な真似しているシロウよりは利口よ」

 

「…いや、アンタは狂っている。それに気付いているのに自ら止まろうとしないぐらいには、な。俺が止めねばならない。絶対にだ…!」

 

「だから、そんなの私の勝手だっての!」

 

「もはや手段は選ばん、手加減しては勝てぬからな。出し惜しみはせん、俺の全力で挑ませてもらおう。

―――――ここに我が生涯を語ろう(Ruins trace on.)

 

 

剣を杖代わりに立ち上がり、破棄するエミヤ。そして真っ直ぐその場に立ち目を瞑って詠唱を始める光景に既視感を感じ、私はそれを発動させないように思考する。

 

今ゴルフバッグの中に残ってるのはかつてローマの暴君と呼ばれたネロ皇帝の愛用した、特徴的な形状をしていて扱いにくい原初の火(アエストゥス・エストゥス)のみ。そんなもの使えば勝ち目は無い。ならばと、ビルの壁に突き刺さったままのエクスカリバーに向けて走り、手を伸ばした、

 

 

「―――この体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

我が血潮は鉄で心は硝子(Steel is my body,and fire is my blood.)

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)

 

ただ一度の敗走もなく、(Unaware of loss.)

 

ただ一度の勝利もなし(Nor aware of gain.)

 

その担い手はここに独り(Withstood pain to create weapons,)

 

あの剣の丘で鉄を鍛つ(waiting for one's arrival.)

 

ならば我が生涯に意味は不要ず(I have no regrets.This is the only path.)

 

この体はそう、(My whole life was.)

 

―――――――無限の剣で出来ていた("unlimited blade works" )

 

 

 

星の聖剣を手にし、構えたその瞬間。世界が塗り替えられた。夢の中で…いや、おぼろげだった現実でバーサーカーが私を守るために一方的に圧倒された、あの剣の丘。

世界の終末の様な黄昏の空。錆びた歯車がいくつも浮かぶ暗雲立ち込める空には、うっすらと巨大な影が動いて見えた。そして墓標の様な無数の剣。

 

 

「俺が作るのは、無限に剣を内包した世界。その名は―――【無限の剣製(UNLIMITED BRADE WORKS)】」

 

 

その丘の頂上に、エミヤは佇んでこちらを見下ろしていた。その後悔と絶望が浮かぶ目を見て理解する、これは彼が最期に見て焼き付けた光景だ。キャスターがあの夜見せた、心象世界で現実を侵食する大魔術…固有結界。なるほど、確かに本気だ。これなら王様にだって対抗できるかもしれない。

 

 

「ご覧の通り、クロ姉が挑むのはいくら奪われようと尽きる事のない無限の剣。剣戟の極地!俺を止めるつもりならば、恐れずしてかかってこい!!」

 

「いいよ、私だって本気だ。シロウを倒してバーサーカーを取り戻す、そして今度こそ聖杯を得てやる。衛宮黒名と同じ道だけは、辿らない!」

 

 

周りに武器はいくらでもある。しかし、私は私の知るただ一人の衛宮士郎が作ってくれた、この聖剣を信じて使う。魔力はまだ問題ない、枯渇するぐらいの勢いで突き進む!

 

 

「行くよ錬鉄の英雄、私の進む道を邪魔するなら叩っ斬る!」

 

「ならば私はこう答えよう…行くぞ言峰黒名、魔力の貯蔵は十分か!」

 

 

無限に飛んでくる剣の雨を魔力放出を利用し高速で斬り弾いて行く。強度を高めろ、出力を上げろ、まだ足りない。絞り出せ、いや吸い尽くせ、魔改造エクスカリバー。

 

 

Awaken Ready.(魔術回路・起動)!…改造、装填(カスタム・オフ)

 

 

魔力をありったけ回し、黄金の聖剣を黒く染め上げ、赤いラインを走らせる。もはや邪剣だが、この一瞬だけだ。耐えて…!そして、敗北の闇を照らし勝利の夜明けへ導け!

 

 

暁に約束された勝利の剣(ドーン・エクスカリバー)!」

 

「むっ…!?」

 

 

銀の星光を刀身に溜め大きく魔改造エクスカリバー(黒)を振り上げる。瞬間、扇状に光線が放たれ飛んで来た剣類を全て迎撃。間髪入れず元の色に戻ったエクスカリバーの魔力放出で加速し、エミヤに向かって宙を駆ける。しかし、そうは問屋が卸さないらしい。

 

 

「くっ…この!」

 

「宙に浮くとは、格好の獲物だ!」

 

「なめん、なーっ!」

 

 

尽きる事無く私に向かって放たれ続ける剣群を空中で斬り弾きながら突き進む。しかし続けて飛んで来た巨大な剣によって大きく吹き飛ばされてしまい、エクスカリバーは私の手から離れ、私が叩き付けられた地べたのすぐ傍に突き刺さった。…クソがっ。もう何でもありか。この空間全てがエミヤの支配下だから可笑しくは無いんだけど。剣は射出する物とは誰が決めたのか。…王様かな。

 

 

「何か、手は…!」

 

 

辺りを見渡す。突き刺さっているのはゲイ・ボルク、ゲイ・ジャルグ、カラド・ボルグ、ゲイ・ボウ、マク・ア・ルインと言ったケルト神話の宝具達だ。…他の聖杯戦争で戦ったのか?いや、それよりも…私の魔改造エクスカリバーじゃ弾幕を突破できない。ならば、届く術を探さなくては……

 

 

「ハァアアア…ッ!」

 

 

飛んでくる剣の雨を近くに突き刺さっていたフィン・マックールの有した槍であるマク・ア・ルインを咄嗟に掴んで改造して主導権を私に移行させて振るい、弾き飛ばしながら考える。

 

弓を使うか?…いや、エクスカリバーを矢にしたところでそんなに効果は薄いだろう。もし使えたとしてもあちらの超絶技能で撃ち落とされるのがオチだ。

ならば近くにある槍をひたすら投擲?…論外だ。私自身、強化した程度の筋力じゃ届く前に撃墜される。

だったら再び突貫?…また同じ様に迎撃されて今度こそ四肢を撃ち抜かれて動けなくなるだろう。

ひたすらこの剣類を改造するってのはどうだ?…いや、駄目だ。魔力が足りなさすぎる。それにあっちはいくらでも投影できるのだ。イタチゴッコの後にこちらが負けるのは目に見えてる。

ならば…ふと、私に凛と同盟を組む理由ともなった今亡きランサー、クーフーリンの有したゲイボルクに視線が行く。…心臓にホーミングするアレを投擲したところで防がれるのがオチ何だろうな…いや、待てよ?

 

 

 

 

 

…よし。弾き飛ばしながらだから雑だけど思いついた、起死回生の一手。これならば…行ける!

 

 

「…このままじゃ私が力尽きて終わるね」

 

「そうだな。私にとっては願ったり叶ったりだ」

 

 

だろうな。私が完全に動けなくなればあっちはそれでいいだろう。だからこそ…その勝利を確信している慢心を利用させてもらおう。

 

 

「だったら提案だ。次の一撃で決着を付けようよ」

 

「ほう…?」

 

 

私の言葉で剣の雨が止まったところに、エクスカリバーを引き抜いてそのまま歩き、ゲイボルクも瞬時に改造して主導権を私に移行し引き抜く。それを勝利を確信した笑みを浮かべて見つめるエミヤ。

 

 

「これから私は全力全壊の一撃を叩き込む。シロウはそれを防ぎ切れば勝利。私の負けを認めるよ」

 

「…いいだろう。何を考えているかは知らんが俺の剣製とクロ姉の改造、どちらが上かを見せてやる」

 

「…ふん、後悔しないでよ?」

 

 

…エミヤはこれが本気だと言った。でも衛宮黒名に挑み、恐らく負けたんだろう。…あっちは魔術師絶対殺すウーマンだったらしいからしょうがないとは思うけど。だからこそ、自分の剣製で私に勝つことにこだわっているんだと思う。…まだ、子供なんだ。今の俺なら、貴方を止めることができる…そう示すための、ちょうどいい機会。それを活かさない訳がない。

 

 

「―――改造、開始(カスタム・オン)

 

 

エクスカリバーとゲイボルク…イギリスとアイルランドが誇る二大英雄の宝具を、重ね合わせる。エクスカリバーをゲイボルクの穂先に、ゲイボルクをエクスカリバーの柄に。重ね合わせ、改造。一体化と同時に効果の相乗を試みる。

―――成功。出来上がったのは、英雄ヘクトールの有したドゥリンダナによく似た聖槍。ロンゴミニアドには及ばないが、これで十分だ。赤い柄と黄金の刃にミスマッチを感じる。

 

 

「約束する、我が槍は貴方を守りもろとも穿ち勝利に導くと」

 

「いくら聖剣と魔槍と言えど所詮は贋作、我が【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】を貫く事は敵わん…!」

 

 

だろうね、例え本人のクーフーリンが放ったゲイボルクでもアレをやっと貫く事が出来ていい方だろう。贋作でそれができるとは思えない。…だけどね、私の改造は贋作でも本物以上にする…それだけは、王様にも保障されているんだ。

 

 

「――――約束した(ゲイ・)

 

「――――熾天覆う(ロー・)

 

 

槍を投擲の構えを取り、柄の先端から魔力放出しブーストをかける。同時に展開される、七弁の盾。さあ勝負だ。魔力をありったけ、この宝具に打ち込め…放つ!

 

 

突き穿つ(ボルク)…!」

 

七つの円環(アイアス)…!」

 

 

投げた瞬間音速に到達し、一瞬で突き進み激突する聖槍と最強の光の盾。魔力放出で聖槍は突き進むが、それ以上は進まない。それを見てエミヤは勝利を確信したかの様に不敵な笑みを浮かべた。…だけどね、私が聖剣を合体させたのは…魔力放出と切れ味を上げる為だけじゃない…!

 

 

勝利の剣(ァリバー)ァアアアアアアッ!」

 

「なに…ッ!?」

 

 

瞬間、黄金の星光が剣身から零距離で放たれ、七弁の盾を一瞬にして飲み込む光の断層による“究極の斬撃”。心臓を穿つ、そこまではゲイボルク。そしてその直後、零距離で星光をぶっ放す、絶対逃がさない一撃必殺宝具。

さらに言えばあの放たれた星光はロー・アイアスが無敵と称される投擲による攻撃ではない。つまり、防ごうが大ダメージ必至。しかも内包された膨大な魔力は魔力放出のためだと思わせた上での不意打ちだ。間違いない、勝利を確信する。

 

 

 

そして、聖槍とは名ばかりの魔改造贋作は形状を保てずエーテルへと還り、そして舞台は深夜の新都の道路に戻る。その場には、消し飛んではいない物の左半身を吹き飛ばされ、満身創痍の身となった英霊エミヤが、立っていた。

 

 

「…私の勝ちだ、エミヤシロウ」

 

「ああ、そして俺の敗北だ…」

 




衛宮切嗣っぽいゲリラ戦方→言峰黒名。言峰綺礼っぽいスペックで押し込む力押し戦法→エミヤと見事にそれぞれの親と正反対になった二人。相容れない二人だからこその死闘でした。

建物ごと爆発、地形改造、士郎に投影してもらった魔改造剣類をゴルフバッグに入れ次から次へと出して応戦と正々堂々なぞ糞喰らえとも言うべきクロナの対サーヴァント用戦法。どうだったでしょうか。真正面で戦ったら負けるなら仕込めばいいじゃないと。英霊クロナの持つスキル破壊工作Bの片鱗です。勝つためなら手段は選ばん。やっぱりどこか切嗣に似ている。

対して鶴翼三連、無限の剣製と手札を出し切り、油断した事で敗北を得たエミヤ。…セイバールートの綺礼を思わせる油断からの一撃でした。慢心持ったら駄目、絶対。

最後に登場し決着をつけた魔改造宝具【約束した突き穿つ勝利の剣(ゲイ・ボルクァリバー)】簡単に説明すればドゥリンダナ+デッドエンド・アガートラムみたいな宝具です。絶対殺す、一撃必殺の聖槍。一点特化って最強だと思う。ただしこれも壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)です。シロウが作った完璧贋作エクスカリバーの自壊を持って成立する現時点でのクロナの切札。今後も使うかどうかは不明。士郎がゲイボルクを投影しない限り不可能ですし。

次回はエミヤを令呪で呼びだしたバゼットさんに場面は移り、VS否天にもついに終着が…!感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯24:せめて私の拳の声を聞け

1.5部始まりましたね、やっぱりサーヴァントのクラス呼びはしっくり来る。
今回は思う様に上手く書けなかったVS否天の終演。もっとアスラズラースの様な熱い展開にするつもりだったのになぁ…
長くなったので「クロナ視点」と「士郎視点」に分けましたので何時もより短いです。

個人的にすっきりしないできですが、楽しんでいただけると幸いです。


「…私の勝ちだ、エミヤシロウ」

 

「ああ、そして俺の敗北だ…」

 

 

心から、敬服する。半身を消し飛ばされ尚、佇むその姿は英雄のそれだ。…私の知る士郎には、こうなって欲しくないな。やっぱり、止めなくちゃいけない。私が言うな、って言われそうだけど。

 

 

「…あーその、なんだっけ。あの方法じゃないと勝てなかった、騙してごめん。そっちは大真面目にやってくれたのにね」

 

「なに。私もまさか英霊でも無い君が、衛宮黒名にも匹敵する火力を有していないと侮っていた。非礼を詫びよう。しかし、どうやって宝具の合体を?改造ならば私もするが、エクスカリバー程にもなると自壊待ったなしだぞ?」

 

「…私の魔術は「基本骨子は残しながら根本から書き換えて異なる物質にする」物だから、アレはもう贋作とはいえ宝具じゃない。ただ効果を付与させただけだから、既に完成されている宝具を改造しても大丈夫って訳。そっちこそ、士郎は剣以外を投影しようとしたら魔力消費が激しいって言ってたのによくあんなにローアイアスを乱用できたね?」

 

「元よりやりくりは得意でね?衛宮黒名相手には、乱用するしかなかったのもある。経験が物を言う、あんな若造には出来んさ」

 

「それは…なんか、ごめん」

 

 

私が謝ると、不敵に笑むエミヤ。何か憑き物が落ちた笑みだった。私に負けた事で何か認識が変わったのかな。

 

 

「気にするな。クロ姉の言う通り、アンタの事じゃない。ただ、俺の知るクロ姉じゃないアンタでも…やっぱり、この世全ての悪(アンリマユ)にはなって欲しくないな」

 

「なる気は無いよ。『M』から聞いてるからね、同じ事にはならない様にする」

 

「…それでも、最期は死ぬ気なんだろう?」

 

「私に生きている価値なんてないからね。魔術師に復讐すれば、そうするつもり」

 

「そうなったらきっと、衛宮士郎は私と同じ道を辿る事になるぞ」

 

 

そう言われて口を噤んでしまう。…薄々そんな気はしていたよ。でも、私は止まる訳にはいかないんだし。

 

 

「…人知れず消えれば、そうはならないんじゃない?」

 

「…だといいがな」

 

 

すると次の瞬間、エミヤの姿が令呪による光に包まれる。…バゼットさんに呼ばれたらしい。多分あっちでも士郎達が勝利したんだろう。後一分遅れていたら危なかった。ギリギリ、間に合った様だ。

 

 

「…ああバゼット、君は何時も間に悪いらしい。消える前にそこだけは直さなくてはな」

 

「…シロウ、バーサーカーは」

 

「安心しろ、令呪の宿った左腕を消し飛ばされた時点で契約は切れた。再契約すれば令呪は戻る。…が、抑制が切れた狂戦士をどうやって止める?今の奴は、クロ姉だって殺しかねんぞ?」

 

「私の油断が招いた結果だもの。私はバーサーカーの所に向かうよ。…シロウも、心配していないけど…まだ何かしないよね?」

 

「ふっ、それはどうかな。バーサーカーの令呪は失ったが、私にはまだマスターがいるのでね」

 

「…っ!」

 

 

しまった、失念していた!令呪を使われても戦闘不能に出来ていたらいいと思っていたけど、まだ令呪を一画も使ってないならもう一画余分がある!あっちに召喚されて全快されでもしたらヤバい…!

 

 

「待って・・・!」

 

「すまんな、どうにもならん」

 

 

飛び掛かるが、その瞬間に完全に姿を消して私は地面に転がった。……どうする?士郎の元に向かいたいが、今はバーサーカーを任せている王様の方が心配だ。元々魔力切れ寸前なんだ、誰かが魔力供給しないと本当に消えかねない。でも、今はサモエド仮面しかサーヴァントが居ない士郎達を放っとく訳にも・・・

 

 

「クロナ!」

 

「っ、ライダー?それにアーチャーも…」

 

 

そこにやって来たのは、バイクモードのエルメスに跨り後部座席にアーチャーを乗せたライダー。焦っている私の様子に何があったのか察したのか、ライダーはそのままアクセルをフルスロットルで回した。

 

 

「士郎達は私達に任せて、クロナはさっさとバーサーカーの所に行きなさい!」

 

「…でも、手負いな上にあの距離じゃ・・・」

 

「桜なら何かあれば令呪で私を呼び出すし、エルメスもオンボロだけど大丈夫。何のためにここまでボロボロになりながら手伝ったと思ってんのよ」

 

「…クロナさん、グッドラックです」

 

「…分かった、そっちは任せた!」

 

 

放置していたゴルフバッグを担ぎ、近くに投げ出して置いたバイクに搭乗し、反対方向に走り出したライダーと同時に全速力で倉庫街に向かう。…王様、無事でいて…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中、流れ弾かと思われる光線やら金色の武具やらを避けてやっとの事で辿り着いた倉庫街。そこでは天翔る王の御座(ヴィマーナ)に乗り込んだ王様とバーサーカーが壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

 

「どうした、悪鬼羅刹よ!手も足も出ぬではないか!」

 

「ウゥォアァアッ!」

 

 

四方八方。いや、全方位に展開された王の財宝から次々と射出される宝物(ほうもつ)を、干上がった川の中で殴り飛ばして防いでいるバーサーカー。昨夜沈んだと思われる付近から一歩も動けてないのは明白だ。…王様、確実に倒せる手段ではなく、ちゃんと生かす様に戦っている…ヴィマーナを駆っているのもあの砲撃を直ぐに避けれる様に、か。…やっぱり、英雄王なんだな。

 

 

「…王様、凄い」

 

「む?ようやく来たか、クロナよ。その様子からして、贋作者には勝てたようだな」

 

「う、うん…王様、傷は大丈夫なの?」

 

「誰の心配をしている?(オレ)は天上天下唯我独尊、英雄王ギルガメッシュであるぞ?この程度の傷、あってないような物だ」

 

「さすが。…っ、王様!」

 

「むっ!?」

 

 

話をしていて気が緩んでいたその時に飛んで来たのは、バーサーカーの二倍はあるだろう巨岩。見れば、足元の地面が大きく刳り抜かれている。何でもありか…!?

 

 

「そんな足掻きが…!」

 

「違う、避けて!」

 

 

ひらりとヴィマーナが旋回して避けた所に、挟み込むかのように伸びる四つの巨腕。完全におびき寄せられた、逃げられない…!

 

 

「そうくるであろうな。痛哭の幻奏(フェイルノート)よ!」

 

「…!?」

 

 

咄嗟にゴルフバッグに手を突っ込んだ瞬間、ポロロン♪と音が鳴ったかと思えばバーサーカーの巨腕すべてが細切れとなって消滅した。何事かと見てみれば、王様の手に握られていたのは、円卓の騎士トリスタン卿が有したと言われるまるで琴の様な弓だった。…さすが、あえて隙を見せることで最大の武器を無力化した。

 

 

「援護は任せよ。さっさと取り返してくるがいい、クロナ」

 

「…ありがとう、王様」

 

 

その手に改造して軽くしてある原初の火(アエストゥス・エストゥス)を握り、私は干上がった川に飛び込み、相棒に向けて全速力で駆ける。

 

 

「ウゥァアアアアッ!」

 

「いい加減、正気に戻れ!」

 

 

契約が切れて尚、サーヴァントであるエミヤが彼と契約できた由縁でもあるスキル、「憤怒EX」の恩恵でいくらでも湧き上がる魔力で再生した巨腕を揺るがし、無数のレーザーを放つバーサーカーの攻撃を、王様が次々と展開する王の財宝から射出された剣類が盾の役割を為し、一瞬だけの隙を縫って走る。

 

今、彼の眼は私に向いている。つまり、関心が私に向いているのだ。私はただ彼に近付き、そして一撃叩き込めばいい。それだけで条件は完成する。安心しろ、私には誰よりも頼れる王様が付いている。…失敗したらどやされるんだ、なら精一杯やってやる!

 

 

「ウルァアアアアッ!」

 

 

突如バーサーカーが巨腕を消したかと思うと今度は私に向け、一直線に突進してきた。それに一瞬反応が遅れた王様の宝具類が次々と通り過ぎた地面に突き刺さって粉塵を巻き上げる。…粉塵?そうだ、ならば…!

 

 

「王様!私とバーサーカーのど真ん中に一発でかいの打ち込んで!」

 

「なに!?…よかろう、だがしくじるのは赦さんぞ!」

 

 

短い問答の後、音速で射出される名前も知らない黄金の槍。それは見事、私とバーサーカーのど真ん前に打ち込まれ、粉塵が巻き上がりバーサーカーはその中に突っ込んだ。今しかない、力を貸せローマの暴君!

 

 

「夜を彩れ、原初の火(アエストゥス・エストゥス)!」

 

 

間髪入れず、渾身の力で両手で構えた奇妙なれど美しい形状の大剣を振り上げる。瞬間、着火。炎を纏った大剣を手放し、私は両足に強化をかけて全力で背後に飛び退いた。

 

 

「ヴァァ…!?」

 

 

瞬間、大爆発が起きてバーサーカーの両腕をもぎ、さらにはその巨体を大きく空に吹き飛ばした。粉塵爆発だ、真面に受けたらサーヴァントと言えどただじゃすまない。

…元々王様との戦闘でダメージは蓄積していた、私はそれに衝撃を与えてやっただけに過ぎない。…恐らくはバーサーカーの怒りが沈静化しかかっているのだろう。そりゃ回復も遅れる。

 

 

「…でも、バーサーカーの怒りが収まっても意味が無い」

 

 

私は知っている。否天がどうやって、目を覚ましたのかを。まだ、パスが繋がっていたあの一瞬の気絶の中で知り得た。

 

大きく地面に叩き付けられ、それでも回復し立ち上がろうとしているバーサーカーに私は歩み寄る。王様は止めようともしない。…非力な私をなめんなよ?

 

 

Awaken Ready.(魔術回路・起動)―――――Standingby.(調整開始)

 

 

改造するのは、何時だって私と共に戦ってくれた愛用のマフラー。教会が吹っ飛んだから、多分無事なのはこれだけだ。また編まないとな。残った魔力を絞りだし、形状(イメージ)武器(マフラー)に装填する。

イメージしたのは、バーサーカーの機械的な右腕。マフラーを鎧の様に纏い、改造を終える。

 

 

改造、装填(カスタム・オフ)

 

「ウゥゥアァアアッ!」

 

「・・・いい加減、自分で目覚めようとしない馬鹿に頭に来た。私のために怒ってくれたのはいいけど、だったらちゃんと顔を上げて目の前を見ろ!目先の事だけに囚われるな!貴方はただ、私を守れなかった怒りを理由に鬱憤を晴らしているだけだ!それで私の守りたい街を壊すな馬鹿ァ!」

 

「ウゥォアァアアアアアッ!」

 

 

・・・声は届かない、か。なら荒療治だ。かつて、アスラを否天から解放した宿敵(ヤシャ)の様に、殴る。何か知らないけど、バーサーカーの生きた時代はそれが主流だったらしいしね!

 

 

「ああそうか、私を知覚しているのに止まろうとしないんだ。だったら…前が見えないのなら、せめて私の拳の声を聞け…!」

 

 

強化した脚で地面を蹴り、飛び出す。同時にバーサーカーも怒りが再燃し瞬く間に再生した拳を振り上げる。防御手段はもうない。だけど、私を一撃で消し飛ばせるその拳は王様の射出した剣が的確に射抜き、弾き飛ばした。感謝してもし足りないな王様は!

 

 

「アスラァアアアアアアアッ!」

 

 

そして、一閃。なんてことない、ただ改造したマフラーを武装しただけと言う何ともお粗末な私の拳が、バーサーカーの胸に炸裂、私の何倍はあろうかと言う重さの巨体を殴り飛ばした。転倒するバーサーカー、マフラーが元に戻り、息絶え絶えな私。魔力切れだ、これ以上は…後は、伝えたいことを伝えるのみ。

 

 

「――――何時まで寝ている。「お前がこの世界に怒ると言うのなら、力を貸そう」そう言ったよね?だったら起きろ、バーサーカー。そしてまた、私に従え」

 

「…ァ」

 

 

私の言葉に、小さく声を上げるバーサーカー。止まった・・・王様を見る、満足気に頷いていた。よし・・・凛に教えられた詠唱を・・・!

 

 

「“―――告げる!汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に!聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら我に従え!ならばこの命運、汝が剣に預けよう”……!」

 

 

唱えるは、再契約の文呪。さっきまでは応えなかっただろうけど、今なら!

 

 

「…お前を主として認める、クロナ―――!」

 

「よし来た!令呪を以て命じる…!」

 

 

声を上げたバーサーカーと共に魔法陣が私達の下に浮かび、私の右手に復活し、赤く光り輝いて存在を主張したのは蜘蛛の様な三画の令呪。その一画を消費し、私は唱え上げる。

 

 

「“否天の怒りから解放されよ”、バーサーカー!」

 

 

瞬間、絶対命令が発動され、バーサーカーを覆っていた黒い表皮が吹き飛んだ。中から現れたのは、久しぶりに見たあの日の姿のバーサーカー。腕も戻っていた。その顔には、申し訳なさそうなシュンとした顔。ああ、その顔は…初めて見たな。

 

 

「…すまん、クロナ。俺は…」

 

「いいよ。また、私に従ってくれるんでしょ?」

 

「ああ。今度こそ、最後までお前に従おう」

 

 

帰って来た相棒に抱かれ、私は眠りについた。…まさか、士郎達の所で最悪の事態が起きているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

「や。二日ぶりね、衛宮士郎。そして皆々様」

 

 

最狂の暗殺者が、私にとって倒さないと行けない最悪の英霊が今夜、動き出したのだ。




ヤシャの時は燃えたのに、クロナにするとしょぼくなる。何でだ…そんな訳でバーサーカーとクロナのコンビ、復活です。クロナは魔力切れで、ギルガメッシュは同じく疲労で今夜は動けません。

否天の戻り方については原作のヤシャが行なったのと同じです。マフラー武装については、FGO編を読んでくれている方々は察したとは思いますが、監獄塔で英霊クロナが使っていたのはこれが始まり。これからマフラー弓と同じくらい主力武器になります。

王様も否天にクロナを近付かせるためにファインプレー。うちの王様は賢王じゃないかと感想だかで言われてましたが違います。士郎と同じでクロナの影響で「思考が速くなっている」だけです。元々頭はいいからね王様。

次回、最狂の英霊アサシン始動。バゼットが可哀相すぎる回になるかと思います。エミヤも多分最後の登場かな…感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯25:それじゃあ、カ・ン・パ・イ♪

士郎視点も長くなったのでさらに分割。…ここまで長くするつもりは無かったのに、アサシン入れたら一気に長くなりました(汗)
アスラズラースな前回と異なり、今回はアサシンの原作な今回。型月界では珍しくないですが、Fateだと多分珍しい部類の事態に。

ついにアサシンと本格対決。主人公が否天と殴り合いしている中、士郎達は一体どうなったのか。楽しんでいただけると幸いです。


・・・私は、悪だ。そう断言できる。

 

 私には、複数の記憶がある。記憶の中の私は全て同一人物だが、しかし全てが別人の様に生きていた。

 

 私は不義の子だ。敵国の女王に嫉妬し、その伴侶に手を出して生み落してしまった、生まれながらの悪。私が生まれたのは、母親の自己満足のためだった。…彼女は最初から最期まで、愛してはくれなかった。

 

 幼少期、赤猫の縫いぐるみを連れた老婆の魔術師に実験材料として母親に提供された。多分、その時から私は正常ではない。

 

 また違う幼少期、髪の色が違う馬鹿兄貴の描いていた絵のモデルになった。仕事以外で兄に会ったのは、兄妹の様に仲睦まじく過ごしたのは多分それが最初で最後だ。

 

 魔術師に命じられて孤児の振りをし、スパイとして敵国の三英雄の一人の養子に納まった。愛を与えられた。彼女は母親として私を愛してくれた。多分、人生で初めて与えられた愛だった。

 

 敵国の王城で、私を養子にした三英雄の一人がメイド長を務めていた事もあり、私は一介のメイドとして異母姉妹に当たる王女の下で働いた。噂好きのメイドとして王女に気に入られた。それを利用して混乱を引き起こしたこともある。

 

 数年しか居なかったが、同年代の友人ができた。怪力と優しさしか取り柄の無い馬鹿メイドと、王女のために必死に働いていた私の異母姉弟でもある召使の少年だ。王女の機嫌が悪い時は三人一緒に逃げて隠れて、笑った記憶があるぐらい、仲がよかったのだろう。

 

 片方は革命で死に、片方は道を違え敵対した。結局、私の最期の時には友人は一人もいなかった。寂しいとは思わない、私は最初から裏切っていたのだから。

 

 たった一人を、馬鹿兄貴を始めとした数多の男を恋に落した歌姫の少女を殺す事で革命を起こした。たった一人の少女の死がきっかけで、大国は滅びた。友人の姿を借りて暗殺したあの時、彼女は何を言っていたのか思い出せない。でも、誰かの名前を呼んでいた気がする。…愛を感じる言葉を最期に言えるなんて羨ましい。

 

 本当の母親からもらえなかった愛をたくさん三英雄の一人にもらった。でも、私は本当の母親に命じられて暗躍し引き起こした革命の矢先、一緒に逃げようとしていたその人を背後から刺し殺した。

 

 演技の仮面をかなぐり捨てて刺した際の、あの信じられないと言ってるような絶望の表情は、目蓋の裏に焼き付いている。…本当の母親を裏切り、彼女と一緒に逃げれていたらどうなっていただろう。狂う事無く普通に生きられたのだろうか。

 

 帰国した私は母親から褒められ、特務工作部隊の隊長として母親のために働いた。再会した友人にも手をかけたし、異父兄妹であり正規の子供で祖国の王でもある馬鹿兄貴には部下として仕えたり、敵対したりもした。

 

 その末に、私は私を無視し続けた母親を殺害し、傍にいた兄にその罪をなすりつけた。狂乱していた、何時からだったかは分からない、だが私はもう正気ではなくなっていた事だけは確かだ。

 

 それが多分、私の死因だった。死んだ際、私は兄の反撃を受けて昏睡していた。殺害したのは恐らく私を利用し尽くした、あの赤い猫の縫いぐるみを連れた魔術師だったと思う。

 

 詳しい事は覚えていない、おぼろげだ。確かに狂っていた記憶もあるし、兄に仕えていた記憶も兄に襲い掛かった記憶も、二人の母親を殺害した際の感覚も覚えている。どちらも共に、刺し殺した。だがしかし「私」からしたら全てが全て、別々のモニターで見ていたような物なのだ。

 

 

 私は誰だ。何のために生まれた。何のために生きた。何のために母親に尽くした。生きる意味があったのか。一体何者だった―――?

 

 愛して欲しい、愛してみたい。いや、私から愛なんて与える物か。ただただ欲しい、欲しい、欲しい、愛が欲しい―――!

 

 私を無視しないで。話を聞いて。私が生まれた最悪な話を続けないで。あ、死んだ。お前が母を殺したんだお前がお前がお前がお前がお前が―――!

 

 

 例を上げたら限が無い、そんなバラバラな思いが一つになって生まれたのが私だ。最低最悪な生涯を生きた、独りの少女の記憶を有する歪な英霊。…本当の私は、誰だったかな。もういいや、考えるのはやめよう。

 

―――この身に宿る狂気に任せればいいのだから…

 

 

そう思って召喚された魔術師の下で、アサシンとして喚ばれた事に驚いたのは当たり前だろう。「私」は、誰がどう見ても狂気に支配されたバーサーカーなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サモエド仮面が敗れながらも桜の援護射撃と、決死の遠坂が放った渾身の拳により辛くも勝利した俺達。しかし、油断によって事態は動いた。

 

 

「令呪を以て命じます。来てください、アーチャー」

 

 

バゼットの言葉と共に空間が歪み、現れる赤い外套。しかしそれは、俺達の予想だにしないものだった。

 

 

「アーチャー・・・!?」

 

 

現れたのは、左半身が失われ顔半分が炭になりかけながらも、立っている赤いアーチャー。…失敗したかと思ったが、クロ姉の方はきっちりと仕事したらしい。

 

 

「…すまん、バゼット。不覚を取ってな。これ以上戦えそうにない」

 

「くっ…令呪を持って命じます、全快せよアーt!?」

 

 

再び令呪を発動しようとするバゼットを止めるべく俺達は駆けだそうとする。しかし、その必要は無かった。バゼットの左手首が突如飛んで来た矢によって切り飛ばされ、令呪を失ったから。

 

 

「バゼット・・・っ!」

 

「そんな、アーチャー・・・!」

 

 

倒れ伏すバゼットに反応したアーチャーに追い打ちと言わんばかりに襲い来る矢の雨。ただでさえ半身を失っていた体を次々と射抜かれ、バゼットの悲痛の叫びと共に吐血して倒れる英霊エミヤ。

魔力供給減を失い、単独行動できる程の魔力も残していなかったのか消え始める赤い弓兵。その一瞬の出来事に、俺と遠坂と桜は反応できず、ただ聞こえてきた蹄の音に振り向いた。

 

 

「…さすがは勇者、セイバーにしておくのは勿体ない見事な腕だ」

 

「それはどうも」

 

 

蹄の音と共に現れて赤いアーチャーの言葉に応えたのは、前にイリヤを乗せている栗毛の馬に搭乗した緑衣の剣士、セイバー。その手には弓が握られている。

 

 

「間に合った様だね、イリヤ」

 

「ええ。…令呪で呼ばれるとは分かってこっちに来たけど、まさかここまでやられているとは思わなかったわ。もし五体満足だったら今の不意打ちだって効かなかった」

 

「存分にしぶとい魔術使いにしてやられたのさ。…バゼットを、左手だけで済ませてくれて礼を言うぞ」

 

 

泣き崩れ、気を失ったバゼットを見ながらエミヤはそう述べ、セイバーとイリヤは無言でエポナから降りてそれぞれの得物を目の前のマスターとサーヴァントに向けた。

 

 

「この女マスターを殺しはしないわ。聞きたい事もあるしね」

 

「何もするなよ?その時は容赦なく叩っ斬る」

 

「お手柔らかに頼むよ。それより、私に聞きたい事があるなら早くした方がいい。長く持たないからな」

 

 

既に下半身は消滅し、もうすぐ上半身も消えようとしているエミヤに、イリヤは銃口をバゼットに向けながら口を開く。

 

 

「聞きたいことは一つだけよ。貴方はどうして召喚されたの?」

 

「…愚問だな。私は聖杯に召喚された、列記とした聖杯戦争のサーヴァントだ。アインツベルンの聖杯とは、限らないがね」

 

 

そう言ってエミヤが視線をやったのは、サモエド仮面を介抱して居る桜。なんだ…?言峰綺礼といい、桜に何があるって言うんだ…?

 

 

「…セイバー、緑のクスリを彼にやって。まだ聞きたいことがある」

 

「分かった、イリヤ」

 

 

イリヤの指示に、セイバーがポーチから緑色の液体が入った瓶を取り出してエミヤに飲ませようとした、その時だった。

 

 

「それ以上は、やめてもらえないかな?」

 

 

バサッと緑色のドレスを翻し、俺達とイリヤとセイバー、エミヤの間で気を失っているバゼットの側に降り立ったのは、宝石の様な緑色の髪をツインテールに纏めた美少女。

降り立つと同時に「ラララ~♪」と唄い、その手に取りだしたネギを突き刺すとアスファルト突き破って出現した巨大な根っこが俺と遠坂、イリヤとセイバーを薙ぎ飛ばし、それに満足気に満面の笑みを浮かべた美少女が姿を変えたのは見覚えのあるフードの人物。

俺はそいつを知っている、俺を一度殺し損ねた、アーチャーに助けられたあの夜に、今もあの時もフードを脱いで狂喜の笑みを浮かべているソイツの名は…!

 

 

「アサシン…!」

 

「や。二日ぶりね、衛宮士郎。そして皆々様」

 

 

そう言って「よっ」とバゼットの首根っこを掴み、左肩に抱え上げたアサシンに、ギリギリ残っていた右手に干将を投影して斬りかかるエミヤ。

 

 

「待て・・・!」

 

「ナニナニ?死に掛けでどうする気なのかしら!」

 

「ぐあっ!?」

 

 

それをあっさりと跳躍して避け、空中で桃色の長髪をフードの付いた上着で隠しローブに身を包んだ美女に姿を変えたアサシンの放った光弾がエミヤの右胸を撃ち抜き、ドッと倒れる。もうその姿は、辛うじて胸の上と右腕しか残っていない。

 

 

「バゼットを・・・どうするつもりだ…!」

 

「屍兵の材料にするのよ。あの変態侍を殴り飛ばしてしまう女よ、最適じゃない?キャハハハハッ!」

 

 

着地してそう嗤いながら元の姿に戻り、斬り飛ばされたバゼットの手首を拾い上げて平然とポケットに入れるその姿からは狂気しか感じられない。それを見て、右手に握った干将を渾身の力で投擲するエミヤ。

 

 

「その女は…渡さん!」

 

「案外しぶといわね。さっさとご退場願おうか!」

 

 

その姿を赤い鎧の女剣士に変えて手にしたレイピアで干将を弾き飛ばし、そのままアサシンはエミヤの首をレイピアで貫いた。

鮮血が舞い、レイピアが引き抜かれてゴボッとその口から血を溢れさせたエミヤは小さく「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」と唱えて干将を爆発させ、アサシンはバゼットを手放し吹き飛ばされる。

 

 

「なっ!?」

 

「…すまない、バゼット」

 

 

そして赤い弓兵は悔し気に呻いたのを最期、消滅した。それを合図に、あまりの出来事にフリーズしていた俺達は動き出す。

 

 

「デヤァ!」

 

「がっ」

 

 

ふら付くアサシンにセイバーが蹴りをお見舞いし、俺と遠坂がバゼットに駆け寄って安否を確かめる。まだ息はある、だけど抱えられた時に何かされたのか眠っている。…とりあえず、遠坂が止血したから大丈夫のはずだ。後はアサシンを・・・!?

 

 

「ちっ!最後の最期に余計な邪魔を・・・面倒な事になった、これは使わざるを得ない。いや逃げれなかったら使う気だったんだけど」

 

「デヤーッ!」

 

「よっと。ああ、無駄な魔力を使うなーってイフに怒られますね~コレ」

 

 

起き上がり様に放り投げた爆弾でセイバー吹き飛ばした暗殺者の後手に握られ、取り出されたのは何の変哲もないワイングラス。凝った装飾がある訳でもない、落とせば本当にあっけなく割れてしまいそうな一見普通の代物だ。

 

 

「ねえ衛宮士郎ー?ちょうど、貴方の天敵とも言える弓兵が死んだんだしさー。うちのマスターがいいワインを買ったんだ。乾杯しない?あ、未成年だっけ?」

 

「な、なにを・・・!」

 

「アア、いっけなーい。グラス、私の分しか用意してなかった」

 

 

しかし不気味な輝きを放つそれを頭上に掲げたアサシンは、その迫力に押されていた俺達を一瞥、いきなり自分の左手首を噛み千切った。溢れる鮮血を、空のワイングラスに注ぐ。まさかアレがワインとでも言うつもりか?

 

 

「それじゃあ悪いけど一人で飲ませてもらうわ」

 

 

赤い、紅い、生命の象徴とも言える液体が満ちたのを確認するとアサシンは満足気に頷き、魔術でも使ったのか傷が塞がった左手で頭上に掲げて満面の笑みを作って天を仰ぐ。

 

 

「ソイツ、是が非でも欲しいのよねー。だから…全力で()らせてもらうわ」

 

「なにを・・・!」

 

「それじゃあ、カ・ン・パ・イ♪」

 

 

そしてなみなみと注がれたワイングラスを傾け、アスファルトに零れてアサシンの足元に巨大な水溜りを広げていく赤い液体。それは俺達の足元にまで広がり、セイバーの馬が嫌がる様に嘶き俺達は構えるも、濡れた様な感触はしない。彼女の行動が理解できなかった。しかし、答えを示す様に突如その声は響いた。

 

 

UUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!

 

 

鳴り響く、呻き声の様な地響きの様な低い音。呼応するかのように紅い水たまりが波打ち、それは現れた。

 

 

「ウゥゥ…」

 

「ウゥゥ…」

 

「ウゥゥ…」

 

 

まるで水中から出て来たかのように、顔を見せたのは漂白されたかの様な全身と虚ろな眼窩が特徴的な異形の者達。まるで屍の様な、いや本当に屍か。見れば骨に少しだけ肉を付けた様な奴や、一見全身に肉を付けているがあばらの肉がごっそり無くなっているような奴もいる。髪がうっすら残っている奴もいれば、完全に剥げて骨が見えてる奴までいた。しかし例外なく総じてタンクトップなどの薄着だった。生ける屍の軍勢、なのか…?

 

 

「本当は全裸なんだけどマスターの意向で服を着せてやったわ。死体でお人形ごっことかさすが魔術師よねぇ」

 

「死体、だって…?これは全部、元々生きていた人間だって言うのか…!」

 

「そりゃそうよ。死体ってそう言う物でしょ?ちなみに動物もありだけど趣味じゃないから作ってありませんよ?」

 

「人間の、尊厳は…!」

 

「そんなもの、死んでしまえば皆意思なき物、材料じゃない。有効活用して何が悪いの?…ああ、状態が悪いまま出した事にキレてる?さすがに死んで時間がたった物は肉をちょっと再生させるだけで限界でね。原型が完璧に残っていたのは魔術刻印を持っていた奴と、つい最近死んだ奴ぐらい?」

 

 

その言葉で、俺は聖杯戦争初日のアサシンに殺されかけた時の事を思い出す。アレは、そう言う意味だったのか。

 

 

「……これが、アンタが俺を刺す時に言っていた「屍兵」って奴か」

 

「そうよ?本当は貴方もこの一員、というか一人目にしてあげるつもりだったんだけどなぁ。これが嫌なら、殺されなくてよかったわねー」

 

 

するとそこまで黙って警戒していた遠坂が反応、嫌悪感をにじませながら口を開いた。

 

 

「…まさかアンタ、柳洞寺の裏の霊園から・・・!」

 

「そうだけど?いい素材がいっぱいあって、仕上げるのに一週間もかかりましたわ。つい昨日、必要な魔力が集まって起動したって訳。それが何か?」

 

 

続々と血だまりから出て来る生ける屍・・・奴の言うところの「屍兵」に、イリヤとセイバー、桜とサモエド仮面がそれぞれ構える中、俺と遠坂は怒りに震えていた。…俺は今、赤いアーチャーにクロ姉がやられた時以上の怒りでどうにかなりそうだった。…アサシン(コイツ)だけは、絶対に赦せない。

 

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

Ein KOrper ist ein KOrper(灰は灰に 塵は塵に)―――!」

 

「よっと。おいたは嫌いよ?」

 

 

俺が投影し、投擲した干将・莫邪と遠坂の握ったトパーズから放たれた火炎弾をアサシンが宙返りで避けるのを合図に、戦いが始まった。




信じられます?これでまだ、宝具の真名解放してないんですぜ…?

ランサー脱落に続き、エミヤ脱落。
セイバー陣営到着でバゼットの左手が斬り飛ばされ、クロナとの戦いで満身創痍だったところにセイバーの矢の雨を受けて尚、立ってバゼットを守るために奮闘し消えて行ったエミヤ。弁慶かな?妙に打たれ強いのは、このエミヤがアヴァロンをアーサー王に返しそびれているからです。ちまちま回復してたから即死級でも直ぐに死ななかった訳ですね。

まだ詳細不明ですが、今回登場したのはアサシンの宝具・・・の力の一端。死体に「仕込み」をし、打たれ強く怪力を持つ屍兵にして操る。生前である原作と違い、直接墓場から呼び起こすのではなく召喚する事が可能になってます。
死体を道具として扱う外道な行いに士郎は激怒、激突必至です。しかし「死体」を生き返らせるこの宝具、士郎、凛、イリヤにとっては最低最悪の宝具です。どうなることやら。

冒頭の独白はアサシンですが、一体誰でしょう?と彼女の真名を比喩する謎かけでもあります。生まれながらの悪。生まれちゃいけない悪。魔術師に狂わされたのはクロナとの共通点とも言えますが…?

次回、アサシン&屍兵VS士郎達。外道全快なアサシンに士郎はどう挑むのか。感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯26:最低最悪アサシンハザード

まさかまさかの三日連続投稿です。すまない、プロットなんかを作るのは苦手なんだ。書いたらすぐ投稿する主義ですまない。

今回はアサシンsideの話。そして外道英霊アサシンVS衛宮士郎。プロローグ♯4から続く因縁の対決です。楽しんでいただけると幸いです。


聖杯戦争の始まる二ヶ月前のとある深夜・・・冬木市、柳洞寺の裏手にある霊園の墓場にて、墓石に座り一人の男が一服していた。

 

フード付きの黒いローブの上に右肩から左腰まで黒い革ベルトが付けられていて、古めかしい杖を背中に装備している。その下は黒いオフショルダーとレザーパンツ、右手だけ黒の手袋にブーツを身に着けている如何にも怪しい黒ずくめの格好をした、されど獰猛な金色の目と群青色の髪が月光に映える。

 

名はイフ=リード=ヴァルテル。アンサズのルーンを受け継いできた現代のドルイドにして、儀式系統の魔術を得意とする時計塔の魔術師。そんな彼が何故こんな時間こんなところにいるかと言うと、聖杯戦争に参加するためなのと、人目を避けて儀式を行うためであった。

 

 

「…もうすぐ午前零時。始めるか」

 

 

よっと立ち上がり、手袋を外した彼の右手の甲に刻まれているのは、アンサズのルーン文字に似た三画の赤い刺繍。それは冬木の聖杯戦争に選ばれた証、令呪。10年間渇望していたそれに聊か興奮しながら、懐から今回の召喚のために古今東西の英雄を調べ、厳選した英霊を召喚するための触媒を取り出し眺めるイフ。

しかしそれは、簡単に手に入る物。ただでさえ封印指定されても可笑しくない家系でありさらには時計塔の魔術師にも一部を除いて嫌われている彼では資金調達も難しく、この触媒が最適だったのだ。

 

それは偶然見つけた、古本屋にて売られていたとある「絵本」の原本。正確にはとある童話シリーズの一作目。ヨーロッパでは古くから子供に愛される物語。正義が勝ち、悪が滅する。そんな王道を行く「フランス革命」を模したフィクションの革命を描いたお話。

 

それで召喚可能なのは架空の英霊。彼はそれに賭けた、戦友の様に下手を踏まないために。下手したら召喚直後に殺される可能性があるがこちらには令呪がある、どうにかなるはずだ。

 

 

「えーと確か、実在しない架空の英霊は確かな信仰さえあればサーヴァントとして召喚可能だが、その場合は架空の英霊そのものではなくそのモデルになった人物、もしくはその架空の英霊と類似点のある人物が召喚される・・・だったか?ケイネスの野郎が調べていたのをエルメロイ二世が纏めていてくれて助かったな。英霊召喚なぞさっぱり分からん」

 

 

ブツブツと片手に取り出した手帳にメモした表記を見詰め、奥に在る広場に魔力を込めた石炭に自身の血を混ぜて描いた魔法陣の元まで歩くイフ。儀式系統の魔術に置いては英霊の宝具まで「再現」できるぐらいに最高峰とも言える彼だが、生憎とそれ以外の魔術に関しては初心者レベルもいいところだ。知り合いに10年前の聖杯戦争の参加した人間が居なかったら何もできなかっただろう。

 

 

「始めるか。Ansuz」

 

 

イフは魔法陣の前に立ちポイッと放り投げた絵本を魔法陣の真ん中に置くと、得意のルーン魔術で石炭の魔法陣に火を灯す。そして腕時計を見てちょうど0時を指したことを確認すると、イフは召喚時の文呪を写した手帳を片手に詠唱を始めた。

 

 

「――――――告げる、告げる

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に

我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

そこで、狂戦士のクラスを召喚しようとしていた彼は致命的なミスを犯す。バーサーカーを喚ぶために必要な詠唱を入れ忘れたのである。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――! 」

 

 

確かな手応えを感じ、輝きが増す魔法陣。そしてエーテルが集束し、炎を吹き飛ばして彼女は現れた。

 

 

 

まず目に入ったのは、少女の可憐な容姿とは似つかない軍服の様な青のロングコートに闇夜に紛れる紺色のマント。

 

腰には黒い鞘に入れられた短刀が下がった革ベルトが巻かれ、足音を立てにくくするための物なのか柔らかい革製に見える黒のブーツ。

 

黄色の長髪をサイドテールに纏めたその美少女とも言っていい顔は曇っており、金色の目には静かな狂気の炎がゆらゆらと垣間見える。

 

ジト目でイフを確認した少女は、何か不都合でもあったのか不機嫌に溜め息を吐いた後、しょうがないと言わんばかりに名乗りを上げた。

 

 

「サーヴァント・アサシン、ネ■=■■■■。召喚に応じ参上しました。…一つ聞くけど、何で私をバーサーカーで呼ばなかったんですかね、マスター?」

 

「お前、アサシンなのか。バーサーカーの召喚に何か手順はあるのか?」

 

 

目論んでいたクラスでない事に驚きつつ訪ねてくる己のマスターに、アサシンは分かりやすい悪態を吐いた。しかしイフは気にしない。自分が無知であることは理解している、と言うより悪態を吐かれるのに慣れていた。

 

 

「…はあ、何でこんな魔術の素人に呼ばれたのか。汝、狂乱の檻に囚われし者~っていうフレーズがあるんですよ。まったく、バーサーカーじゃないと私のステータスは頼りないと言うのに。よりにもよって最初の召喚がこれとは。何度神様に嘆けばいいんですかね?」

 

「俺が知るか。少なくとも俺は、一度しか嘆いてないな」

 

「そうですか。さて、墓場で召喚したと言う事はして(・・)いいと考えていいんですかね?」

 

 

唐突に狂った雰囲気になって獰猛な満面の笑みを浮かべたアサシンの言葉に、イフは満面の笑みでOKサインを出す。

 

 

「条件が何なのか分からなかったからな。大掛かりな転移魔術儀式を使って近くの林の中にロンドンの墓地からかっぱらってきた死体の山も持って来た。あんたが召喚されなかったら儀式の材料に使ってたんだけどな?」

 

「狙って私なんかを召喚したのは間違いじゃ無かったようですね。問題ないです。ちゃんと死体が残っているなら私の宝具は機能するんで?」

 

 

そう言いながらアサシンが取り出したのは、魔力なんか感じない普通のワイングラス。しかしイフはまるで芸術品を見る様な視線でじっくりと観賞しながら、気になっていた事について口を開いた。

 

 

「あー、アサシンの好きにしていいんだけどよ?敬語にしなくていいぞ、俺達はパートナーなんだからな」

 

「あ、そう?なら遠慮なく」

 

 

楽しそうに笑い応えるアサシンに、イフは内心複雑な思いでソレの工程を見つめていた。…一体どこの誰がこの哀れな少女の英霊として召喚されたのだろう、と。アサシンで召喚されたと言う事はハサンの一人か?それとも、名もなき暗殺者?…考えても分からない、本人も自分がその英霊だと認識しているのだから。

 

煙草に火を点け、一服する。…10年前に敗北し、己との再戦を約束しながら戦争を知らなかったがために死んでいった一人の天才魔術師を思い出す。己が渇望するのは、あの男の復活。そして再戦。戦争を知り、外道な手段で婚約者を殺され己も死んで行ったあの男なら、間違いなく強くなっている。ただ、それが死んでいるままでは惜しいのだ。死者蘇生などできる魔術は限られている。その一つが、聖杯だった。

 

そこで思い付いたのだ。10年前敗北したままに潰えた戦い。己に勝ったあの男が聖杯戦争に敗北したと言うのなら、俺は聖杯戦争の勝者として奴と再戦しよう。互いに勝者として戦うのだ、実に充実した戦いになるではないか。

 

と、視界に入ったさも当り前の様に姿を大男に変えてせっせと死体を運ぶアサシンを見て、イフはその思考を打ち消し歩み寄った。

 

 

「アサシン、手伝うぞ。それで、どうするんだ?」

 

「いい心がけね、マスター。やる事は簡単よ。グーラ病にかかって死んだ亡骸が屍兵になるのだから、順序を逆にしてしまえばいい」

 

「…なるほどな。クーフーリンの持つ槍の因果逆転の呪いと一緒か」

 

「まあそれに近いけど、なに?クーフーリン好きなの?」

 

「ああ、アルスターというかケルトの英雄は大好きだぞ?」

 

「…あ、そう。興味ないわ」

 

 

こうして、最狂最悪のアサシン陣営は設立された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中に翻り、ナイフを手に俺に襲い掛かってくるアサシンに俺は投影した干将・莫邪で迎え撃つ。その隣では遠坂と桜、イリヤがそれぞれの武器で屍兵達を撃ち抜き、セイバーと復活したサモエド仮面と共にバゼットを守る様に応戦している。今は人道がどうのと言っている場合じゃないとはいえ、複雑だな…

 

 

「へえ、少し見ない内に真面に戦えるようになったのね!以前のへっぴり銃なんかより魅力的じゃない?」

 

「そりゃどうも!」

 

 

押し返す。体重が軽い為あっさり飛ばされたアサシンはその姿をあの時、俺を追って来た時と同じ銀髪の女性に変え一瞬で懐に潜り込んできた。そして掌底打、俺は応戦する間も無く吹き飛ばされ、飛び出して来たセイバーとスイッチ。緑衣の勇者は赤い鎧の大男に姿を変えたアサシンの両手剣と刃を交える。

 

 

「…お前、一体何なんだ?」

 

「答える義理は無い…ですね!」

 

「速い…!?」

 

 

今度は黄色い衣の金髪碧眼の少年に姿を変えたアサシンの手に握られた片手剣による一角獣を彷彿とさせる構えから放たれた音速の突きが盾とマスターソードを潜り抜け胸部の鎖帷子に炸裂、火花を散らして押し退ける。

やっぱりこのサーヴァント、強い。あのランサーと互角だったのだ。戦うのは初日以来だが、それ以外の六騎やギルガメッシュ、英霊エミヤを含めた連中を見て来た今、よく分かる。この英霊は異常だ。

 

 

何かが可笑しい。根本的に、可笑しい。

 

本当に、一人の英霊なのかも怪しい。

 

かといって、ライダーみたいに「複数人で一人」の英霊って訳でもない。アレは全部同一人物、どうしてだか分からないがそれは確信できる。

 

セイバーの様な英雄にも、キャスターの様な反英雄にも見えない。

 

どちらでもない、と言う訳ではない。どっちかと言うと反英雄よりだ。でも、あの赤い騎士やらの姿と戦い方はどう見ても英雄のそれだ。

 

だが、この死体を道具として扱う外道な行い、それを「手段」として当り前だと言ってのける。明確な「悪」だ、そのはずだ。

 

先日、アサシン陣営の本拠地を捜している際にクロ姉からも違和感を伝えられた。

 

アサシンと言うクラス、それも冬木の聖杯戦争では例外なく「ハサン・サーバッハ」・・・山の翁と呼ばれる暗殺教団の19人存在した教主の一人が召喚されるのだと言う。その特徴は基本的に黒ずくめ、そして例外なく髑髏の仮面を付けているらしい。

 

しかし目の前のアサシンはどうだ?消去法から、そしてマスターからもアサシンと呼ばれていたとはいえ、どこからどう見てもハサン・サーバッハの一人には見えない。例外として髑髏の仮面を付けていないハサンだっているのだろうが、それでも暗殺教団はイスラム教関係のはず、この目の前の人物が切り替わる姿は総じて西洋の人間に見える。間違いなく、違う。では、どういう事なのか。

 

・・・駄目だ、答えは出ない。俺はクロ姉じゃないから考察は出来ない。だけど、今分かっている事は…目の前の「悪」を倒さなければいけないと言う事だけだ。

 

 

 

「ハアアアアッ!」

 

「無駄ですよ」

 

 

隙を突いて斬りかかる。しかしそれはあっさりと逸らされ、背中に斬撃を受けて倒れる。まだだ、今のは浅い。まだ行ける…!

 

 

投影(トレース)、」

 

「そう何度もさせないよ!」

 

「っ!?」

 

 

新たに別の剣を投影しようと構えると姿を変えて来たのは、馬上槍を構えた金の長髪をなびかせた黄色を基調とした軽装の鎧を身に着けた女傑。その槍による突きを咄嗟に干将・莫邪を交差して受けるがあっさり砕け散り、俺は手放して後退。今度こそ新たな剣、今の俺にとっては一番使い慣れているエクスカリバーを投影して跳躍、頭上から襲う。

 

 

「それ、アーサー王の聖剣?だったらこっちは…魔剣だ」

 

「っがあ!?」

 

 

今度姿を変えたのは、日本刀を構えた紫の長髪を結えた青年。今までとは技量が違う、恐らくは赤い重装甲の大男よりも洗練された一撃がエクスカリバーを破壊し、俺は地面に投げ出される。圧倒的過ぎて、笑いすら出て来る。エミヤには張り合えた。だけどそれは、自分自身だったから。…やっぱり駄目だ、俺じゃクロ姉みたいに戦えない、コイツには…サーヴァントには、勝てない。

 

 

「と言っても、あんなもの再現できる訳がないんだけどね。技量だけなら私の知る限り最強の男の剣技、いかがな物?」

 

「…お前、なんなんだ?」

 

 

元の姿に戻り、這いつくばる俺を見て嗤うアサシンにそう問いかける。すると返って来たのは、意外な反応。

 

 

「なんなんだって…どこにでもいる噂好きのメイド。三英雄の一人の養女。しがない暗殺者。とある王国の特務工作部隊隊長。前線の司令官をしたこともあった?あれ、どうだっけ。墓場の主の従者(サーヴァンツ)だったこともあったかしら。そこら辺はあやふやなのよねぇ…ねえ、私って何なのかしら?」

 

 

とぼけた訳でもなく本当に分からないと言った表情で訪ねてくるアサシンに呆然とする俺。やっぱり、この違和感だ。真名を知らない?記憶喪失?そんな訳がない、ちゃんとあの宝具だと思われるグラスだって使いこなしていた。だとしたら、このメインとなる人格は…情緒不安定?なのか?

 

 

「…お前は、俺が倒すべき悪だ」

 

「そう。じゃあ正義の味方、それはどうする?」

 

「っ…!?」

 

 

ガシッと足を何かに掴まれ、見下ろす。そこには8歳ぐらいの少女(・・・・・・・・)が虚ろな目で俺を見上げていた。ガシッ、ガシッとどんどん血溜まりから現れる子供の屍兵が俺の足を掴み、拘束を強めていく。コイツ・・・

 

 

「正義の味方が、そんなか弱い子たちを蹴散らしちゃっていい訳?」

 

「くっ…!」

 

 

暴れる、しかし子供とは思えない程の力で離れない。屍兵は怪力も持つのか…クソッ!

 

 

「ちなみに、その子たちは私が衛宮士郎用に仕上げたプレゼントです。何でしょう~?わたくし、爆弾も嗜んでおります♪」

 

「まさか…!」

 

 

愉しくてしょうがないとでも言いたげに嗤い、声を上げるのを堪えるアサシンの言葉に慌てて見下ろす。

 

・・・少年少女のだぼだぼの服から見える胸元には、例外なくアサシンが使っている爆弾が二つずつ、付けられてあった。

 

 

「ああ、安心して?あそこで貴方の仲間たちが戦っている屍兵には仕掛けてないわ、本当に貴重な戦力だし。でもその子供達はこれ以上利用価値が無いからそうしている訳。気に入ってもらえた?」

 

「くそ、離せ・・・!」

 

「アハハハハハ!斬ればいいじゃない、そうすれば助かるわよ?死んでも離さないけどね!」

 

「そんなこと、できるか…!」

 

 

高笑いを上げるアサシンに返しながら振りほどこうと暴れる。駄目だ、どうしようもない。暴れる、暴れる、暴れる。その時、右手に冷たい物を感じた。…これは、鎖・・・?

 

 

「それでは、ごきげんよう~死ね、正義の味方」

 

「くっ…」

 

 

そうだ、思い出せ。俺には、彼女がいる。令呪の宿った右手を掲げる、不可視の鎖で繋がれた相棒を呼ぶために。アサシンの声に反応してか子供の屍兵達に付けられた爆弾がカッ!と輝いた瞬間、俺は叫んだ。

 

 

「来い、アーチャー!」

 

 

間髪入れずに爆発、強烈な衝撃波が俺を襲う。しかし、それだけ。俺は、浮いていた。見下ろせば、爆発し四散した白い肉片と焦げ跡、そしてこちらをつまらなそうに見つめるアサシン。見上げれば、俺を持ち上げている天使の様な少女。

 

 

「…あー、そういや赤いアーチャーが脱落したけど白い方は残っていたんだっけ・・・面倒ね」

 

「お待たせしました、私の鳥籠(マイマスター)。命令を」

 

 

上空から見下ろせば、遠坂と桜は背中合わせに、それを守る様にサモエド仮面が地を駆け、イリヤとセイバーもそれぞれの隙を補う形で屍兵を殲滅していた。…見れば、遠くにはバイクモードのエルメスに跨ったライダーがこちらに急いでいた。

…血溜まりが消え、増え続けたのが止まった屍兵。その数、100は超えていた。…柳洞寺裏の、切嗣の眠っている霊園の他からも死体をかき集めたらしい。外国人の屍兵もいるので、恐らくは冬木に来る前から集めていたんだと分かる。ああ、クソッ。人間を、何だと思ってるんだ・・・!

 

 

「ああ、行くぞアーチャー。アイツだけは絶対に逃がすな…!」

 

「はいマスター、サーヴァント・アーチャー、出撃します!」

 

 

俺から魔力を回し、「空の女王(ウラヌス・クイーン)」を展開したアーチャーが俺を降ろして再び飛翔、空から殲滅しようと翼を広げ、そして。

 

 

 

轟いたのは、一発の銃声。

 

 

 

次の瞬間、アーチャーの右胸を一発の凶弾が撃ち抜き、鮮血が舞う。何が起こったのか分からなかった。ただ、堕ちるアーチャーの血飛沫を受けて力を失くした顔と、アサシンの狂った笑みを浮かべた貌が同時に見えた。

 

 

「屍兵が出揃ったなんて誰も言ってないわ。アンタ達の作戦は私達にも突き抜けだったの、いきなり全部導入する訳が無いじゃない。いい具合に引っ掛かってくれたわね。アハ、ハハ、アハハハハハハハハハハ!」

 

 

崩れ落ちるアーチャーを慌てて受け止め、高笑いを上げるアサシンを睨みつけるや否や、俺は衝撃を受ける。…何で、アンタがそこにいる?

 

 

「アハハ、ご苦労だったわね。アインツベルンを少しでも足止めするために送り込んでいたのにちょうど来てくれて助かったわ。アレはバーサーカーと同じで早々戦いたくはなかったし。

目の前の敵に集中している時に狙うとはさすが、私と同じで「殺し」に長けている人物ですこと。あーそうだ、紹介するのを忘れていたわ」

 

 

そう嗤うアサシンの隣に、無言で佇むその男。その手に握られた拳銃は硝煙を噴いていて、それがアーチャーを撃ち抜いたのは明白で。そしてその顔は、俺の憧れその物、俺にとっての『正義の味方』。

 

 

「コイツ、私の右腕。魔術刻印が残ったままだったせいなのか生前に近い能力を持った屍兵なんだけどね。英霊って凄いわー、宝具ってだけで生前できなかった事ができるようになるんだもの。召喚能力もそうだけど、便利過ぎて恐ろしく感じますわ」

 

「…なんでだ」

 

「ん?」

 

「なんで、よりにもよってアンタが、アサシンなんかと一緒にいるんだ…切嗣(オヤジ)!」

 

 

衛宮切嗣。俺をあの大火災から救い、養子にした男。そして、五年前に亡くなったはずの人物だった。




令呪で呼ばれてすぐ銃撃を受けてしまったアーチャー、すまない出すタイミングがそこしかなかった。最後に現れたのは、本編でも説明がある通り以前イリヤの前に現れたくたびれたコートの男と同一人物です。

自分でも自分の事を理解できず士郎に尋ねてしまうアサシン。存在的には佐々木小次郎に本当に近いですが、根本的に違います。既にFGO編で最初のネだけは判明している為残りは■で真名書きました。字数はどちらでも同じなんですよね…でもその真名も実は違うと言うね。色んな姿になれるのはそのせい。

アサシン陣営のコンセプトは一般的な魔術師と魔術使いに加えて切嗣とジルドレェと綺礼と悪ギルガメッシュとメディアをミックスしたような超絶外道です。特に今回の所業は切嗣+ジルドレェなのでかなりヤバい。イフの名前はイフリートだけでなく「畏怖」からもとってます。つまり龍ちゃんみたいなヘイト役。

今回のはまだまだ序の口。ハイ、容赦しません、使える手は全部使います。あの先生もあの優雅な人も連続殺人鬼も全部使います。おじさんだけは死体が無かったからアウトだったよ…(泣)いや、必要ないんですけどね(黒笑)これも全部主人公陣営に怒りを溜めてもらうため。

次回、更なる外道が正義の味方とその仲間を襲う…!最後まで正気でいられるのか!地味に守られているバゼットさんの末路は!感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯GO:私の召喚した鯖がまた規格外な件について

意外性で勝負するFGO編三回目です。フランスに突入する直前の時系列になります。つまり「執ゾン」とのコラボ回や監獄塔回よりは前の時系列ですね。第五次聖杯戦争以外にも規格外サーヴァントが降臨?

ぐだ子が召喚したサーヴァントがまた規格外だった。それだけのお話。楽しんでいただけると幸いです。


 私の職場であり人類最後の砦、人理継続保証機関フィニス・カルデア。

最初に召喚したクロナさんから煙たがれているここはまさしく魔術と科学の合わさった叡智の場所であり、私がここで聖召石を用いた召喚に成功し契約を結んだサーヴァント達は、カルデアからの魔力提供を受けて受肉している。

 

そのため、私がちゃんと本契約しているサーヴァントは二名。

 

頼れる後輩にしてエクストラクラスであるシールダー、マシュ・キリエライト。

 

そして、私が初めて召喚したサーヴァントであり何時だって護衛として傍にいてくれるアーチャー、『クロナ』。

 

 

この二人、特にクロナさんに限っては宝具使用時の魔力が直接私から消費される(ただし、彼女のスキル上「起動スイッチ」として極少量だが)。それ以外はカルデアが供給してくれるらしい。

 

その他キャスターのクー・フーリン、ハンス・クリスチャン・アンデルセン、アサシンの佐々木小次郎、そして、特異点Fで私達を襲いクロナさんに倒されたアーチャー、英霊エミヤなどはカルデアからの魔力供給で賄っており、実質「私の相棒」とは呼べないサーヴァント達だ。

 

 

さて、何でこんな話をするのかと言うと、クロナさんから試しに自分で英霊召喚をしてみろと言われ、今現在マシュの盾が置かれている召喚部屋の中にいた。しかしクロナさんの宝具で私と盾の周りは火の海だ。唯一の出口も、クロナさんに塞がれている。逃げ場がないこの状況。これは全て、所長だけでなくドクターやマシュに断りも無くクロナさんの独断で始まった事だ。

 

ぶっちゃけ、クロナさんを呼んだ際みたいに「何かにすがる思い」で召喚したらどうなるのか、と言う実験らしい。確かにカルデアは安全であるため、あの時ほど切羽詰まった感じで喚んでは居なかったと思う。来てくれたらいいな、とかそんなのほほんな感じだ。「お願いだ」と言う程ではない。そんな命がけで召喚された英霊なら、私みたいになにか「規格外」なサーヴァントが呼べるんじゃね?とかそんな考えでマスターの命を脅かすクロナさんに恐怖を覚える。

 

この人は手段を択ばない現実主義者で極度の魔術師嫌いだ。マスター()の意見は尊重するし、気を遣って単独行動で敵を倒しに行くし、マシュをまるで娘の様に愛でたり、所長とドクターに殺意を送って怯えさせたり、自己改造で女性の姿になった元男性のダ・ヴィンチちゃんを同類と見做したのか会う度に悪態を吐いたり、クロナさんが苦手らしいエミヤに対してやたらフレンドリーに姉ぶったり、もし私以外の魔術師が挨拶でもしよう物なら黒鍵で二度と喋るなと脅す、カルデアと召喚されたサーヴァント全員から総じて自他共に認める問題児と称されている有様だ。

 

それでも、私にとってはマシュに次ぐ相棒だ。本来守らなきゃいけない後輩と違って、本当の意味で頼れるマスターの先輩。令呪の使い方もマスターとしてどう振舞うべきかも過去の聖杯戦争についても教えられた。だから今回も大丈夫、冬木でのキャスターのクーフーリンみたいに何か本気で殺しにかかっているけど、ちゃんと勝算あってのはずだ。…はずだよね?

 

 

「…頑張れ、もし駄目だったら私も心中するから…」

 

「何でクロナさんはバーサーカーじゃないんですかね!?」

 

 

駄目だ、目がマジだ。何かが狂ってる、というかマイルームで話した時も「魔術師もろとも焼却した人理なんてどうでもいい」とか言っていた人だ。死にたくない!こうなったら意地でも凄いサーヴァントを呼ぶしかない…!

 

 

ポイポイポイッと30個の聖晶石を盾の中心に放り投げる。それを媒介に行われるのは、10回連続召喚。…ただし、この方法だとサーヴァントが一人は確実に来てくれるのだが問題が一つ。通常の英霊召喚ではないためか召喚されるのがサーヴァントだけではないと言う事だ。

 

六回連続で円環の中から飛び出て、目の前に突き刺さるのは赤・赤・緑・緑・青・青の黒鍵。…クロナさんのメイン武器である黒鍵と同じ概念礼装だ。うん、知ってた。

さらに円環が輝き、続けて飛び出て来たのは一枚のカード。「月の勝利者」と書かれた文字と、何処となくクロナさんに似た雰囲気の茶髪の少年、その手に浮かんだ焼きそばパンが描かれている。これも概念礼装、ただし過去の聖杯戦争に関連する人物の力を持つ礼装で、物ではなく特異点に置いて英霊召喚に用いるセイントグラフに酷似したカードが出て来るのだ。確かこれはゲーム風に言えば強攻撃が強くなり急所に当たりやすくする効果だったはずだ。二枚目だから知ってる。

続けてガシャンと魔改造されたバイクが無造作に放られる。これも概念礼装、モータード・キュイラッシェだ。…できればその持ち主の騎士王に来て欲しいなぁ。

 

そして残り二つとなった時、三つの光輪が集束して光の柱となり、私の手にセイントグラフが二枚現れる、サーヴァントだ。共に金色のそれぞれに描かれているのは、剣士と魔術師の絵柄。そして光の柱が消え、盾の前に立っていたのは、二つの影。それを見て、クロナさんがほうっと感心した。感心するのはいいから火を消してください、召喚できました。

 

 

まず一人目は、「こんにちゲフゥ!?」と挨拶しようとして吐血し倒れた、桜色の袴とブーツを身に着けた色素の薄い髪を黒いリボンで纏めた少女。日本刀を手にしているところから見て日本の英霊だろうか?…しかし顔が冬木で戦ったあの黒いアーサー王とよく似ている。アーサー王が女性なのだ、有名な武将が女でも私は驚かない。

 

そして二人目はかなりちんまりした丸眼鏡の少女。小豆色のジャージに体操服、ツインテールに纏めた藤色の髪とどう見ても戦えそうに見えないが、その手に持っている円型の石には何かの紋様が彫られていて特別な物だと分かる。多分宝具だろうか?

 

 

・・・えっと、何とも微妙な結果だった。というか眼鏡の方は英雄には見えない。またマスターだろうか?今度こそちゃんとした魔術師でキャスターかな?…現在ぴくぴく痙攣しているもう一人も含めて戦力になるのだろうか?

 

 

「さすが、また私みたいな一癖も二癖もありそうな英霊を呼んだね。さすがマスター」

 

「それって褒めてます?…で、貴方達は?」

 

 

火を消して近付いてきたクロナさんにツッコミながら、私は召喚された二人を見やる。すると桜色の方はごふごふぅ!とせき込みながら立ち上がろうとし、もう一人はキランと眼鏡を輝かせニヤリと笑んだ。…何か嫌な予感がする。

 

 

「ふははははは!私を呼んだな!多分呼んでないんだろうけど呼んだな!ならば応えてあげねばなるまい!」

 

「…私はおきtごふっ」

 

「天が呼ぶ!地が呼ぶ!マスターが呼ぶ!誰が呼んだかサーヴァント・キャスター!…え、別に私みたいな貧弱英霊なんてやっぱり呼んでない?まあそうよね私正規の英霊じゃないしねえ。というか英雄と呼べることをした覚えもないのであって何で呼ばれたかと言うと心当たりもあっt」

 

「はよ名乗れ。殺すぞ」

 

「うわっ、辛辣ぅ。そんな訳で頼れるけど基本他力本願な自他共に認める妖怪博士、経島御崎。18歳です!」

 

「「18歳・・・!?」」

 

 

このちびっ子が!?…え?本当に?アンデルセンみたいな詐欺だよこれ!思わずクロナさんと一緒に驚いてしまった。…とりあえずもう一人が今にも座に帰りそうなので応急手当てをかけてあげよう。

 

 

「助かりましたマスター・・・新撰組一番隊隊長沖田総司、クラス・セイバーとして推参しました」

 

「へ?沖田総司?」

 

「ほあー、女だったとはさすがに驚き」

 

「…羽織は?」

 

「え?それが、どこかに失くしてしまいまして…」

 

「「「…」」」

 

 

クロナさんの質問に答えた沖田さんに私達三人の視線が集まる。沖田さんは涙目だ。…えっと、うん。やっぱり男として伝えられている人だったかー…そう言えば病弱で有名だったなー。

 

 

「こ、これからよろしくね経島さん、沖田さん!」

 

「ちょいまち。そこはさんじゃなくて先輩って呼んでくんない?キャスターって呼ばれるよりはましだけど慣れないわー」

 

「あ、はい経島先輩」

 

 

・・・また先輩が増えたな。クロナさんに経島先輩。…マシュは後輩だけど、何か違う気がする…

 

 

「…それでジャージのキャスター」

 

「中々に酷い呼び方ね?遠慮なく経島先輩って…」

 

「同い年なのに誰が呼ぶか。…貴方、見た所英雄でも反英雄でも、魔術師ですらない。かといって人間を依代にしたデミサーヴァントでも神霊系サーヴァントでも無い。何で英霊として霊基に登録されてるの?…実は悪党だとか?」

 

 

言われてみれば確かにおかしい。そう言えばさっき「英雄でもないのに呼ばれた理由なら心当たりがある」って言っていたような・・・

 

 

「まず最初に。これは英霊になって知ったんだけど多分、私達の活躍は魔術師どころか一般人には認知もされてません。マジで人に知られないまま色々やって来たって事ね」

 

「はあ」

 

 

殆んどの事件などは魔術師が認知しているらしいが、経島先輩のそれはそうではなかったらしい。どういう事だ?

 

 

「それで、私達美術部が戦った中に神様名乗った奴がいたのね。まあ名乗っていただけで本当に神がいるかは半信半疑だった訳ですが…九尾の狐の知り合いが居たから今更なんだけど…とにかく、私達は妖怪と言う概念を「消そう」とした自称神が率いる連中を退けた訳よ。ここまでは分かる?」

 

「色々突っ込みたいところがあるけど続けて」

 

 

クロナさんクロナさん、私の意見は無視ですか?美術部が何で九尾の狐と知り合いで神様を退けられるのかガチで聞きたいんですが。…絆を深めればセイントグラフにその情報が載るのかな…

 

 

「で、その功績から「今回だけ」って事で英霊に昇華された訳よ私達美術部は」

 

「つまり、人理焼却を脱する手助けをさせるためにサーヴァントと言う形でここに呼ばれた?」

 

「疑似サーヴァントって奴ね。そんな訳で一般人なのに英霊と言う矛盾が出来上がった訳。あ、戦力なら安心して。これでも凄いのいっぱい持ってんのよ~もう失ったというか私がちょっとしか触ったことが無い物もあるけど、そこはそれ。私、口八丁手八丁で時間稼ぎしながら相手を分析するしかできない貧弱だし?」

 

「その様ですね」

 

 

セイントグラフを見てみれば、筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運A 宝具EXとあった。クロナさん以上のピーキーサーヴァントだ。ちなみに沖田さんはセイバーなのに筋力C 耐久E 敏捷A+ 魔力E 幸運D 宝具Cと何とも微妙だ。これはまた問題児が増えた予感。

 

 

「…とりあえず、ちょっと冬木に用があるので二人共来てくれます?」

 

「いいわよー。倉庫に打ち込まれないように頑張りますかねー」

 

「マスター、お任せを!」

 

「ああ、アレね。マシュとエミヤ呼んでくるわ」

 

 

そう言って黒鍵を抱えモータード・キュイラッシェを引き摺りながら召喚部屋を出て行くクロナさん。同時に、マシュと所長とドクターの怒号が轟いた。…怒られたな。今回は私も止める気はないです、少しは考えてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳でやってきました特異点Fこと冬木市跡地。…その、焼き払われた城だったと思われる地点に、ドクターが観測した「それ」はいた。

 

 

「■■■■■■■!!」

 

 

咆哮を上げ、訪問者を迎え入れる様に巨大な斧剣を振るう神話の大英雄。黒い靄に覆われているが、エミヤの心当たりによるとバーサーカーで召喚されたヘラクレスらしい。彼を倒した騎士王にも捨て置かれ、他のシャドウサーヴァントもわざわざ刺激する事もないと放置されていたらしい。

私達も、何か聖遺物は無いかと探していたドクターが見つけるまで存在すら知らなかった。それで、なんでわざわざここに来たかと言うと。

 

 

「マスターも不運だね。私を召喚した場所が衛宮邸の土蔵の魔法陣、つまり「正規の聖杯戦争の召喚場所」で、召喚してしまった私がこの冬木の聖杯戦争のサーヴァントとして認識されているなんてさ」

 

「…それに加え、レフ教授が言っていた主犯の物ではない聖杯が手に入るチャンスですからね。これからのためにも、手に入れ解析したいと言うのが所長とドクターの意見です」

 

『だから申し訳ないけど、頑張ってそいつを倒してくれ!それでも大英雄のシャドウ・サーヴァントだ、油断しないように!』

 

 

誰のせいでこれを前にしていると思っているんですかねドクター。経島先輩何てマシュの盾に隠れている私の後ろに隠れているんですが。前に出てくれているクロナさん、エミヤ、沖田さんには感謝しても足りないな。

 

 

『無茶する事は無いわ。もし戦況が悪かったら遠慮なく撤退しなさい!』

 

「分かりました、所長」

 

 

所長、まだ体が幽霊だけど貴方の優しさは私の光です。よし、頑張ろう!こんなところで負けちゃ、世界なんて救えない!

 

 

「マシュは私と経島先輩を守って!クロナさんは援護射撃!沖田さんとエミヤが前衛で、行くよ!」

 

 

私の掛け声で、それぞれ動き出す私のサーヴァント達。…経島先輩は何してくれるんですかね?とジト目で睨んでみる。

 

 

「えっと、そう援護ね!任せなさい、【白澤図】!」

 

 

そう言って取り出したのは彼女の宝具だと言う古ぼけた書物。そして墨絵で文章と何やら変な人型が描かれた頁を開き、彼女は吠えた。

 

 

「出でよ私達の始まりの怪異、『のびあがり』!みんな、こっちは見んな!絶対だぞ!」

 

 

すると白澤図から這い出る様に顕現したのは、巨大な人型の影。それにヘラクレスが視線を寄せると、まるで視線が餌だとでも言う様にぐんぐん大きく成長し、それに伴いヘラクレスも視線が・・・って私も視線が固定されて・・・う、動けない・・・

 

 

「ああ、コイツ標的は自分を見てる奴だけだからなぁ・・・いやぁ失敬失敬。見越したあっ!」

 

「あのヘラクレスの動きを止めるのは凄いけどさ、マスターを殺す気?」

 

「全力でごめんなさい。じゃあ次は・・・!」

 

 

クロナさんに黒鍵片手に脅されてのびあがりを消し、経島先輩が続けて開いたのは蟹の絵柄。

 

 

「出でよプールの怪異『蟹坊主』!」

 

「「「!?」」」

 

 

すると顕現されたのは、ヘラクレス以上の巨体を誇る巨大な蟹。ご丁寧な事に黒っぽい緑だ。正直言ってキモい。蟹坊主は全速力で前にダッシュし(横に走らないのか)、クロナさん達が慌てて飛び退いたところにヘラクレスとがっしりと組み合い、何と拮抗する。斧剣の攻撃を甲羅で弾き、少し押され気味だがその動きを完全に止めた。…凄い。

 

 

「アレで駄目なら牛鬼と塵塚怪王のどちらか呼んでいた所だったけど正直言って助かった!どうやら召喚には私の魔力を消費するみたいだし・・・あとは私、もう一つの宝具を使うぐらいしかできないから後は任せた!」

 

「エミヤ、宝具を!」

 

「了解した。魔力を回せ、決めに行くぞマスター」

 

 

私の命令でエミヤは宝具発動を準備する。しかしその間にも蟹坊主はその姿を崩れて行き、それを背後に瞬間移動した沖田さんの背中への斬り付けと、クロナさんが顔面に放った爆発矢が妨害。時間を稼ぐ。

 

 

「I am the bone of my sword.──So as I pray,」

 

 

そして、固有結界が世界を侵食し、無数の剣が空に浮かびその矛先が全てヘラクレスと蟹坊主に向いた。

 

 

「【無限の剣製(Unlimited Blade Works.)】!」

 

 

降り注ぎ、一直線に蟹坊主ごとヘラクレスを貫こうと迫る剣群。それはヘラクレスを剣山にしようと殺到する。勝ったと、誰もが思った。…だけど、例え狂化されようが、シャドウサーヴァントになろうが・・・ギリシャ神話が誇る人類最高峰の大英雄は、化物だった。

 

 

「■■■■■■ー!」

 

 

自身に迫る数多の剣を認識した彼は何と蟹坊主と組み合ったままその頭上に跳躍、斧剣を持って蟹坊主を叩き割り黄金の粒子に変えると着地すると同時に今度は斧剣を振り上げ、その剣圧を持って全てを薙ぎ払ってしまう。

そして、一つたりとも彼を掠めることができぬまま、無限の剣は地に落ちて消滅。無限の剣が突き刺さった丘を、大英雄は爆走する。その標的は、その目に映っているのは、私一人だ。

 

 

「させるかっての!」

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!」

 

 

それを阻むはエミヤとクロナさんの放った、爆発の嵐。近くの贋作剣を手に取り手当たり次第に矢にして乱射、突き刺さるや否や爆発させていくクロナさんと、ヘラクレスの足元に突き刺さっている剣を爆発させ、その間を縫って干将・莫邪を投擲、その絶技を持って屠ろうとするエミヤ。

 

 

「■■■■■■■■!!」

 

 

しかしヘラクレスは知った事かと言わんばかりに猛進、何をされ様が止まらず、エミヤに至っては一撃で叩き斬られ、消滅してカルデアへと戻ってしまう。同時に周りの風景も焼き払われた城跡地に戻る。

 

 

「マスター!」

 

「先輩、下がってください!」

 

 

沖田さんが私の前まで戻ってきて刀を構え、マシュも盾を構えるもそれで止まるとは到底思えない。積んだ、ヤバい、私死んだと色んな考えが頭をよぎる。…諦めて堪るか、まだ私は何もしていない!

 

 

「ちょいとマスター、頭の上を失礼させてもらうわよ。封じろ、『老鼠(ひねつこ)』!」

 

 

その時、経島先輩が何かを言って私の頭に何かを乗せた時だった。それに反応し、こちらを向いたマシュと沖田さんの顔が引き攣る。え、なに?そう思って恐る恐る頭の上を見る。そこには、黒い、とにかく黒い鼠がいた。

 

 

「なんでさ!?」

 

「足下から這い上がって金縛りをかける鼠のバリエーションよ。本当は対象の胸元から睨まないと行けないんだけど・・・マスターの頭はちょうどヘラクレスの胸元に当たるからOKよね?!」

 

「私がOKじゃないんですけど!?」

 

 

それに、こんなもので止まる訳が・・・見てみる。そこには、見事に私に斧剣を振り上げる形で止まった巨体があった。…あと一瞬でも遅かったら私真っ二つだったな。はは、あはは・・・

 

 

「これでも、拘束力だけなら英雄王とやらの神を戒める鎖とどっこいどっこいだと自負しているわ。あとはちょちょいと私の宝具をお披露目して片付けたいところだけど・・・とどめを刺したいってうずうずしている子がいるわね」

 

「え、いいんですか?!では新撰組一番隊隊長沖田総司、参ります!・・・マスター!」

 

「あ、はい!【瞬間強化】!」

 

 

言われるままにカルデア礼装の魔術を沖田さんに付与する。瞬間、沖田さんはトンットンッと跳んだかと思えば刀を構え一瞬でヘラクレスの懐にワープしていた。

【縮地】。多くの武術と武道が追い求める歩法の極み、瞬時に相手との間合いを詰める技術・・・彼女のスキルだ。そしてこれが幕末の天才武士、沖田総司が誇る絶技・・・!

 

 

「一歩音超え、二歩無間、三歩絶刀……!」

 

 

全く同時に三発叩き込まれた点の突き。超絶的な技巧と速さから生まれる必殺の魔剣。

 

 

「無明、三段突き!」

 

 

瞬間、沖田さんはヘラクレスの背後に立っており、全く同時に大英雄の胸に巨大な穴が穿たれた。崩れ落ちる巨体に、やっと私は理解する。史上不屈の大英雄に、例え弱体化した状態だとはいえ、私のサーヴァント達で勝ったのだと。

 

 

「片付きましたね。お怪我はありませんか、マスター?」

 

 

何より消えゆく大英雄の向こう側に佇むその少女剣士の姿は、冬木で見た騎士王と同じく綺麗で、華麗で、見惚れてしまった。

 

 

「う、うん・・・そっちこそ大丈夫?沖田さん」

 

「えぇ、体は大丈夫です。まだまだいけますよ!…コフッ!?」

 

 

・・・ええと、うん。知ってた。確かに桜の様に綺麗だったけど紅い桜の花を散らさなくても。とりあえず【応急手当て】を・・・

 

 

「お、沖田さん大勝利~」

 

「うむ。赤い弓の人は尊い犠牲だった!終わりよければすべて良しよね!」

 

「マスターとしては、今度は死なせないように頑張ってよね。緊急回避とかできるんだから」

 

「先輩、これから頑張って行きましょう!」

 

「うん。沖田さん、経島先輩、クロナさん、マシュ。そしてここにはいないけどエミヤ、ありがとう」

 

 

ヘラクレスを倒した直後、クロナさんが最後のサーヴァントになった事から柳洞寺跡に顕現したらしい正規の「冬木の聖杯」を手に、私達はカルデアへと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結論から言って、2009年のとある県立高校の美術部の名簿に彼女の名はあったよ。全校公認の彼氏は生徒会長だった、ぐらいしか学生としての情報は少ない。魔術的には本当に何も関係ないみたいだけど、知り合いに有名な画家のニコ・メリュジーヌがいた。あと、妖怪知識は本当に天才的みたいで論文が発表される程だったらしい。あと、彼女の周りには変人が多くいた様だ」

 

「何を隠そう私もその変人の一人なのだがね!」

 

「知ってた」

 

 

ドクターから知らされた経島先輩の情報は、それだけだった。そっかー、魔術も妖怪に関してはお手上げなのか。それでも学生の頃から論文を出していたなんて、本当に天才だったんだな。

 

 

「そんな訳で、変な疑いも晴れた事なので自己紹介をば。経島さんちの御崎ちゃんでえす。よく童顔だって言われまあす。好きな言葉は魑魅魍魎。魔術の類何て使えないけどキャスターでえす、よろしくね皆の衆!」

 

「・・・筆舌に尽くし難いな。ここは何故こうも変人ばかりが集まるのだ?」

 

「私が聞きたいですそれ・・・」

 

 

唯一コメントしたアンデルセンにそう答えた。・・・とりあえずもう一つ分かった事がある。このカルデアに居るサーヴァント達では現状、彼女と仲良くなれるか微妙と言う事だ。

 

・・・次はフランス、オルレアンだ。気を引き締めて行こう。…あとクロナさん、そんなにそわそわしないでください。予想的に絶対絶望して暴れるんで過度な期待は止めてください私が死にます。




経島先輩が何のキャラか分からない方。「ほうかご百物語」という完結済みの電撃文庫様のライトノベルです。個人的に名作なので見付けたらぜひ読んでみてください。

FGOの闇、それはやっぱりガチャ。現実にしたらこんな感じだと思う。…何気に星5礼装、星4鯖(経島先輩)、星5鯖の沖田さんと大勝利なぐだ子さん。主人公はやっぱり違う。あ、登場サーヴァントは既存の者はいずれもうちのカルデアにいる方々です。え、ノッブ?・・・ぐだぐだ本能寺を書く時があったらその時に。クロナが危険な英霊だとも明かされました。今更ですね。
とりあえず新規鯖のステータスです↓



経島先輩
クラス:魔法使い(キャスター)
真名:経島御崎
マスター:ぐだ子
性別:女性
身長:140㎝
体重:37㎏
出典:ほうかご百物語
地域:日本
属性:中立・善・人
イメージカラー:小豆色
特技:マシンガントーク、妖怪知識

ステータス:筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運A 宝具EX

スキル
・陣地作成(塩)E:何の変哲もない塩を振りまく事で「魔性」を祓う陣地を作り上げる。ただの塩で天狗を追っ払ったエピソードから。生粋の魔術師ではないためランクは低い。そもそも魔術師ですら無い為に工房を作る事さえ難しい。道具作成スキルは持ってさえいない。

・妖怪知識EX:怪異の情報を多く有しているが故に、怪異に対して優位に立てる。具体的には京都の鬼とか。

・軍略D:天性の悪知恵。多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。味方の性質を理解し、相手の性質を分析し、的確な指示を送る事ができる。

・王手の接吻B:口づけを交わす事により、相手に憑いた物を追い出すことができる。恋人に憑いた妖怪の苦手とする物を分析し口づけで相手に注ぎ込んだエピソードが英霊化したことにより強化された物。ただし小さい為、効果は強い反面あまり使えない。

化皮衣(ばけのかわのころも)E:身に着けて想像するだけで誰にでも変身できる化け狸の衣が変化したジャージ。ただし変身後の姿を一部の隙もなく完璧にイメージしないと使用できず、本能的に出来る化け狸でないと真面に使えない。ただし、彼女が使用する場合、常に研究していた「封印石」にのみ変身可能。また他人に譲渡する事もできる。

・太歳と宝下駄の恩恵A:一口食せば剛力無双、虚弱な人間も物理的にほぼ無敵になる体質改善効果を持つ妖怪の肉と、転倒する事で身長を小判にして引き換えに願いを叶える宝の下駄の恩恵。小さくなる事で剛力無双となり怪力を発揮できる。唯一自分の手で妖怪を倒したエピソードから。小判を破壊すれば元に戻る。


宝具
白澤図(はくたくず)
ランク:A
種別:対怪宝具
『白澤は妖怪についての完全な知識を持たねばならない』と言う原則に縛られた霊獣【白澤】が憑りついた相手に授けた、怪異を取り込んでその状態を凍結させ同時に完全な客観的な解析と記録を行い、解析し終えた怪異を呼び出し使役できる、墨で絵と文が記されたツール。文字通りの妖怪図鑑。「怪異」限定で触手を放ち取り込むことができるが、その間は召喚できないと言うデメリットがある。
正確には彼女の所有していた物ではないが、彼女の多大なる妖怪知識を形にした宝具。明確な自我、膨大な情報量を持つ妖怪は使役できない他、維持にも魔力を消費するため一度に一体しか召喚できない。しかしその力は絶大であり、その時に応じた妖怪を選出し的確に操れるため強力に作用する。

恨み辛みと怨念吠えよ、真・八面王(カオスファンタズム・ヤマタノオロチ)
ランク:EX
種別:対神宝具
廃校で見付けた複雑な紋章が刻まれた石輪。封印石であるそれに封じられた巨大な体に八本の尻尾と蛇の首を持つ、神の名を元に滅ぼされた神代の昔の大妖怪『八面王』こと『八岐大蛇』を召喚する。「大祓」の際、「神の体」に対抗するために用意した切札。
太古の昔に肉体を失ってはいるが、知り合いの画家にあらかじめ容姿を決めさせて描いたことにより形を固定させて解放した瞬間に実体を持たせた。さらに容姿をデザインする際に彼女の意見を多く取り入れた為「経島御崎」と言う少女のイメージで補強されているため意のままに使役できる。
八面王の伝承が足りないがために同様に神の名の下に滅ぼされた妖怪を関連要素として使ったため『夜刀神』『土蜘蛛』『ミジャクジ神』『悪路王』『両面宿儺』などの能力も使用できる、まさに神々に対する最終兵器。神性持ちに対して有利な補正が入る。


酷 い ス テ ー タ ス 詐 欺 を見た。スキルというか、所持アイテムチート型サーヴァントです。ジルドレェの超超超強化版です。はい、七章の女神対策です。これぐらいないとあれには勝てない。もしヘラクレスがアレで死んでなかったら八面王出張ってました。冬木ごとぐだ子たち滅んでました。フランス編で出します(黒笑)
知名度が圧倒的に足りず、英霊になった理由が理由なのでFGOに参戦になりました。通常の聖杯戦争でこんなん呼んだら冬木が終わります。これでオリジナル英霊はアーチャーとキャスターが揃いました。あと五騎、オリジナル英霊をそれぞれ特異点前にどんどん召喚して行くつもりです。

次のFGO編はフランス突入。その前に激動のアサシン編を進めます。最近Fate/Zero漫画版三巻と四巻を買ったせいで外道が足りなかったと思い知りました。虚淵には勝てない。なので外道追加する所存です(愉悦)
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯27:屍の再会、父との再会、ありえない再会

アサシン外道回PART3。ちょっとした準備回ですが、展開が動いているので.5話じゃありません。
突如現れた衛宮切嗣の姿をした屍兵に士郎はどう挑むのか。クロナ的にも見逃せないあの方たちが変わり果てた姿で登場。楽しんでいただけると幸いです。


恒久的平和を目指した正義の味方がいた。

 

たった一人の少女を殺せなかったがために島を全滅させ、多を救うために少を斬り捨てる事を信条とした男がいた。そのためならば実の親だって殺した。母親とも言える恩人だって殺した。願望器である妻の命を使って願いを叶えようとした。その結果は、恒久的平和など有り得ないと言う結果だった。

 

その男は、機械の振りをした人間だった。故に、折れてしまった。大人になったからと、正義の味方になる事を諦めた。その夢は呪いとなって受け継がれた。空っぽだった少年、人間の振りをした機械へと。

 

そして、正義の味方の遺骸は悪の手先となって、最愛の娘と息子の前に立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリツグ・・・?」

 

 

アサシンの傍でコンテンダーを構える切嗣を見て、反応する人物が一人。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。何故か俺を兄と呼び、目の敵にして殺そうとしている少女。それが、俺の養父である切嗣に反応した。

 

 

「イリヤ・・・!?」

 

 

チャカッと、音が鳴る。見れば、切嗣の手に握られたイリヤも使うキャリコがこちらに向いており、その銃口は俺の背後で呆然としているイリヤに向けられていた。

 

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

連射で放たれた弾丸を、咄嗟に抱えていたアーチャーをその場に寝かせてイリヤの前に飛び出し、投影した干将・莫邪を振るって防ぎ切る。すると切嗣はキャリコを仕舞うとコンテンダーを取り出してこちらに向け、俺は同じように防ごうとするも。

 

 

「士郎、駄目!」

 

「うわっ!?」

 

 

放たれた一発の弾丸と莫邪が接触しようかと言う瞬間に背後からイリヤに押し倒され、俺は頭から地面に叩き付けられ弾丸は俺達の上を通過して行き、

 

 

「なにをするんだイリヤ!」

 

「お兄ちゃんこそ!アレがどういう物か知らないなんて、本当にキリツグの息子なの?」

 

「何のことだ…!?」

 

 

ちょうど後ろにいた屍兵の一体に炸裂すると、異常なほどに苦しみだし血を吐いて悶え、そのまま倒れ伏して二度と動かなくなってしまった。これは…?

 

 

「アレは起源弾。私もアインツベルンの過去の資料を読んで知ったんだけど、「切断」と「結合」…つまり「切って(つな)ぐ」という起源を持つキリツグの磨り潰した肋骨が込められていて、魔術を撃ち抜くとその魔術を行使した術者の魔術回路を全て切断してから滅茶苦茶に繋げて、同時に発動中の魔術の強さに比例して魔術回路に破壊のフィードバックが起こす代物なの。アレを投影品で受けていたら、お兄ちゃん死んでいたわよ」

 

「…つまり、あの屍兵は魔術回路…というかアサシンの操っている魔術のラインを滅茶苦茶にされたって事か。助かったよ、イリヤ」

 

「礼はいいわ。それにしても起源弾をどうやって…」

 

「あ、気になります?気になるわよね!」

 

 

イリヤのぼやいた疑問に答える様に「はいはいはーい!」と子供っぽく手を上げて自己主張するアサシン。癪ではあるが答えを知るのは奴だけだ。大人しく聞き役に徹する…その間にも目の前の切嗣の屍兵に対する警戒は怠らない。

 

 

「私のマスターはね、第四次聖杯戦争を生き残った元マスターから情報を聞き出せるだけ引き出し、さらに独自で調査して(アサシン)びっくりの情報を集めていた訳ね。まあ今回の聖杯戦争に至っては全く情報を得ていなかった訳ですが。だってランサーのマスターを勘違いするバカだしねえ?

そこで、この衛宮切嗣の遺骸を手に入れてまず思い付いたのが、イフのライバルだったマスターを魔術師として再起不能にした実績がある、魔術師に対する切札になりうる起源弾を作る事だった。生前の衛宮切嗣は必要最低限の部位である肋骨を犠牲にしていたけど…ここまで言えば分かる?」

 

「…まさか、キリツグが動ける最低限の骨以外全てを使って起源弾を…!?」

 

「はい、よくできました。その通り、今やこの屍兵は私達の奥の手。最強の魔術師殺しとして機能してもらっている訳ですよ。まあ使ったのは今回が初めてなんだけど!アハハハハハハハッ!」

 

「アサシン、お前!切嗣の亡骸まで使うなんて絶対許さないからな!」

 

「へえ。養子である衛宮士郎がそこまで怒るんだもの。…実子のイリヤスフィールさんからしたらどう?このサプライズ」

 

「え…?」

 

 

…今あいつ、何て言った?イリヤが、切嗣の実子…だって…?お兄ちゃんってそう言う意味だったのか…?呆けて見つめる俺に、イリヤは溜め息を吐いて自分のキャリコを構えながら笑った。

 

 

「…先に言われたけど、確かに私は衛宮切嗣の娘。私が貴方の命を狙うのは、私を捨てたキリツグへの怒りだったと思っていたんだけど…多分、お兄ちゃんに嫉妬していたから」

 

「イリヤ…」

 

「話は後よ。早く、キリツグを解放してあげなくちゃ…!」

 

「ああ、そうだな…!」

 

 

干将・莫邪を構え、剣状のシュトルヒリッターを展開しキャリコを構えるイリヤと共に並び立つ。アーチャーは重傷で喋る事もままならず、現在宝具を最小限の魔力で展開し回復していた。背後の屍兵はセイバーが奮闘しているから安心できる。今は、この切嗣の姿をした屍兵とアサシンを…あれ?

 

 

「アサシンの奴、何処に行ったんだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」

 

 

ガンドで次々と撃ち抜き、八極拳も織り交ぜ、屍兵を無力化して行く。しかし頭部を吹き飛ばさないとすぐさま回復して来るので限が無い。ただでさえ衛宮君と共有しているから魔力が枯渇しているのに、これではどうしようもない。私の背後でM16とか言う銃を乱射している桜もほとんど余裕が無かった。すると視界の端で私の放ったガンドを受けながらも接近する、耐久力のある大型の屍兵がこちらに拳を振り被っていた。

 

 

「ウゥウウウッ!」

 

「しまっt」

 

「正義の少女がピンチの時!」

 

 

瞬間、細切れにされる屍兵。視界を覆うは白いマント。サモエド仮面だった。しかしすぐさま敵陣のど真ん中に突っ込み、電柱を斬り倒して押し潰す問題児。…強いのに協調性が無いってのは本当にもう…!

 

 

「正義の騎士が舞い降りる!」

 

「その口上、何度目なんでしょうかね…!」

 

「知らないわよ!」

 

 

桜のぼやきに応えながら思考する。衛宮君とイリヤをちらっと見てみたが、黒装束の屍兵を相手に手間取っていた。傍で倒れているアーチャーは胸を撃ち抜かれていて重傷で、二人の背後でセイバーが守る様に剣を振るっていた。…ランサーがいればこんなピンチ乗り切れたのに…

 

 

「居ない物を嘆いてもしょうがないか。桜、ライダーは後どれくらいで来れるって?」

 

「あと数分もかからないそうです!」

 

「じゃあそれまで、耐えるわよ!」

 

 

取り敢えず今はこちらに向かっていると言うライダー頼みだ。彼女の制圧力ならこの数程度、何とかなる筈だ。問題はそれまで耐え切れるかって事だけど…え?

 

 

「どうしましたか、姉さん…って、嘘っ…」

 

 

私が視界にその姿を捉えると共に、桜も何かを見たのか動きが止まった。しかし何故か屍兵は襲って来ない。ただ、目の前に佇む、大粒のルビーを先端にはめ込んだ杖を持ってこちらを冷めた目で見つめている深紅のスーツを身に纏った屍兵は、間違いなく。

 

 

「お父様…!?」

 

 

第四次聖杯戦争で戦死した魔術の師にして実の父、遠坂時臣だった。

 

 

「雁夜、おじさん…!?」

 

 

その声に振り向くと、10年前に姿を消したフードの男が変わり果てた姿で歪な蟲を操っていて。詠唱が聞こえて目の前を見ると、ルビーを媒介にしたと思われるゴーレムが複数出現していた。…まさか、教会近くの霊園に埋葬されたお父様の亡骸と、雁夜おじさんの亡骸を使って屍兵を…!?アサシンの奴、許せない…!

 

 

「ぐはあ!?二人がかりとは卑怯なり!」

 

 

突如、吹き飛んでくる白マント。見れば、サモエド仮面が何者かに殴り飛ばされていた。見れば、そこには二人の人物。一人は、どこか見覚えのあるオレンジ髪の優男。もう一人は、見覚えのあり過ぎる、と言うよりこの前の学校でも挨拶を交わした人物。…柳洞寺に居候していると聞いて嫌な予感がしたけど…

 

 

「…まさか、既に殺されていたなんて思わなかったわ。葛木先生」

 

 

常に付けていた眼鏡を外し、180㎝はある高身長に緑のスーツを身に纏った黒髪の男性…私のクラスの担任、葛木宗一郎が拳を振り抜いた姿で立っていた。…あの二人、サモエド仮面を殴り飛ばせるって事は少なくともバゼットと同等クラスの身体能力…?一体どうなってるのよ、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りだね、桜ちゃん」

 

「何で、そんな、あえりない…」

 

 

目の前で微笑んでくる、屍兵を背後に待機させ蟲を傍に舞わせている白髪と半分が壊死した顔をフードで隠した男を見て、私はありえないと首を振る。

 

だって、この、私を間桐から救い出すために無理をして第四次聖杯戦争に参加し儚い希望を見せてくれた優しいおじさんは。

 

私の目の前で、蟲に貪り喰われて肉片も残らずにその生涯を終え、私を決定的に絶望に落した人物にしか見えない。ありえない。ありえない。さっきのアサシンの言葉なら、屍兵を作るには「死体が残っている」事が最低条件。おじさんの亡骸は、残っていない。だから、此処にいる事はありえない。

 

 

「…貴方、誰ですか?」

 

「…ちっ。勘づいたか、さすがは桜ちゃんだ。頭がいいね」

 

 

そう嗤い、掌で隠してもう一度見せたそのフードの中身のその顔は。

 

 

「儂じゃったかの?」

 

「おじいさま…」

 

 

身体は雁夜おじさん、顔は間桐臓硯と言う吐き気を催す様な姿になったかと思えば顔を俯き、今度は鶴野おじさん…兄さんの父親に当たる飲んだくれで隻腕の男に姿を変え、今度は顔を隠し高笑いするワカメ髪の兄さんに。

 

 

「アハハハハハハハッ!桜!お前は本当にめんどくさい奴だよ!何せトラウマ多すぎてどれを選んでも反応が悪い!せっかく調べたのに骨折り損のくたびれもうけだ!でも、」

 

 

そう顔をつるんと取るかのように手を下げ、姿を変えたのは制服姿の、すぐそこにも居る赤銅色の髪の少年。大好きな先輩。

 

 

「桜には明確な弱点がある。そうだよな?」

 

「…アサシン、卑怯な…!」

 

「桜の大好きなこの姿で、殺してやるよ!」

 

 

両手に干将・莫邪を投影し、斬りかかってくる先輩に私は銃口を向ける事も出来ない。駄目だ、この手で、先輩だけは危害を加える事が、できない…!

 

 

「エルメスアターック!」

 

『またーっ!?』

 

「なにっ、ぐはあっ!?」

 

 

しかしその瞬間、私の真横からバイクが吹っ飛んで来て先輩に真横から炸裂、大きく吹き飛ばすとそこに走って来たのは、誰よりも頼れる私のサーヴァント。

 

 

「桜!無事!?」

 

「え、ええ。ありがとうライダー。間一髪だった」

 

『今夜だけで投げ飛ばされたの三回目なんですけど!いくら何でも酷くないライダー!』

 

「桜がピンチだったからしょうがないでしょ!操られている士郎だったら撃つ訳にもいかないし。アーチャーとクロナが怖い」

 

『それは分かるけど…どう見ても、士郎じゃないよ』

 

「ん、だよねえ」

 

 

見てみると、先輩の姿は崩れてフード姿のアサシンに戻っていた。…雁夜おじさんの亡骸だけ用意できず私に対して有効な屍兵が居なかったから、自分で化けて私を精神的に追い詰めようとしていたのかな。…正直、今も膝がガクガクと震えている。どうやら未だに、私は間桐に囚われているらしい。

 

 

「ちっ…ライダーまで来て、せっかくバゼットを回収できたのにめんどくさい。雨生龍之介!お前はこっちの相手しなさい!剣士相手だったら先生で十分よ!」

 

 

そう言って私の傍に倒れていたバゼットさんを担ぎ、呼び寄せたのはオレンジ髪の優男。…その名前には、聞き覚えがある。10年前、冬木市を騒がせていた連続殺人鬼だ。

 

 

「特別に教えてあげるわ。この屍兵も特別でね。警察の死体安置所からわざわざうちのマスターが魔術使ってかっぱらってきた死体を、魔術回路があったからそれを媒体にここまで再生させたのよ。魔術師としてはからっきしだけど、肉体ならバゼットには及ばないだろうけど強い。じゃあ私はおさらばさせてもらうわ」

 

 

そう言ってバゼットさんを担ぎ、跳躍するアサシン。私はそれを狙ってM16を構えるが駄目だ、バゼットさんに当たってしまう。しかも、追わせないと言わんばかりに他の屍兵も寄ってきている。…悔しい。私には、何もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイバー!そっちは任せたわ!」

 

「了解した、マスター!」

 

 

その声が響くと共に、アサシンは狙撃を受けて撃墜される。その視線の先に居るのは、弓矢を構えたセイバー。

 

 

「…貴方のマスターには相応の数の屍兵を向かわせてるんだけどいいの?」

 

「その前にアンタを倒せば、問題無しだ。そうだろう?」

 

 

不敵に笑う緑衣の勇者に、アサシンは観念したように己が宝具であるワイングラスを構えた。

 

 

「貴方は今の所、私でも情報無しよ。知名度なら抜群なのにね」

 

「それは俺も助かっている。弱点がばれずに済んでいるからな」

 

「こちらとしては早く準備を進めてキャスターを倒したいんですよ。だから…推し通る」

 

 

バゼットを地面に下ろし、その姿を紫髪の傭兵に変えて刀を構えるアサシン。瞬間、月下で剣がぶつかり火花が散った。

 




この小説だと珍しい幕引きの仕方ですが、正直どう幕を下ろそうか迷っただけですすみません。
さてさて、イリヤの事情が士郎にばれた現在の状況はと言うと。

士郎&イリヤ(+回復中のアーチャー)VS骨がほとんど削られた衛宮切嗣+屍兵軍団
凛VS何か首に切れた跡がある遠坂時臣+ルビーゴーレム軍団(FGO/AZOの奴)
桜&ライダーVS歓喜の笑みを浮かべたまま硬直している雨柳龍之介+屍兵軍団
サモエド仮面VS実は既に殺されていた葛木宗一郎先生
セイバーVSバゼットを早く持って行きたいアサシン

となっています。ちなみに服とか銃とかルビーとかはイフが調達したものです。
桜のトラウマはそう簡単には無くならない様で…雁夜おじさんを出そうとして、死体が無いって思い出した時は焦りました。アサシンが居たのですぐ解決しましたが。ちなみに、凛が会っていた葛木先生はアサシンが化けていた偽物です。これがキャスター騒動の際にいきなりアサシンがいた理由になります。ランサーでさえ騙せてたのにアーチャーには感づかれてました。

次回、VSアサシン&屍兵軍団に一応の決着が。そしてクロナのターン。感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯28:これが今の俺/私だと言う事を、

毎度のことながらすみません、分割しました。しかし今回は長くなったからだけでなく、前半と後半のシリアス度に差が激し過ぎる為がための配慮です。

そのため今回は士郎達、特別性屍兵と戦っていた面子の話。短いです。屍兵として甦った過去の亡霊にどう挑む。楽しんでいただけると幸いです。


彼等を囲むのは、無数に群れる屍の兵達。

 

放たれるは、一撃でも魔術で受けたら再起不能となる魔弾「起源弾」

 

迫り来るは、ルビーを媒介にした深紅のゴーレム達。

 

立ちはだかるは、無手の暗殺者と人の死を追い求めた殺人鬼。

 

それらを率いるは、最低最悪の外道たるサーヴァント。

 

 

 

マスター達が挑むには、戦力差は明らかだった。絶望、恐慌、不安、焦燥感。勝てない、敗北する、殺される。敵マスターなど放っておいて逃げるべきだ。立ちはだかるのが赦せない人物だからって逃走するべきだ。死んでは何もできない、マスターはここで死んだら行けない。

 

しかし、感情の無い人形とも言われた私は理解した。彼女を許す事は、絶対に出来ない。

 

アサシンを見るたびに思い出すあの子(カオス)と同じ、マスター(桜井智樹)の貌でこちらを嗤うその姿に、私の中で前のマスターによる抑制(ナニカ)が壊れた。

 

 

「《―――自己修復完了》…宝具(モード)空の女王(ウラヌス・クイーン)発動(オン)

 

 

私の大事な人の顔を穢すのは、赦さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリツグの起源弾はサイズの問題でコンテンダーでしか使えない。再装填をさせないで!」

 

「分かった、行くぞイリヤ!」

 

 

先制攻撃としてイリヤが放つコンテンダーの弾丸を、横に避けた切嗣がキャリコからばら撒いた弾丸を俺は干将・莫邪で斬り飛ばしながら突進する。

組み合い、死んだ目の恩人を押し倒してその頭めがけて干将を振るう。が、一瞬躊躇したところに背中に蹴りを入れられてふら付き、立ち上がった切嗣の蹴りを胸に浴びて塀に叩き付けられ肺から空気が強制的に抜かれた。

 

 

「させない!」

 

 

俺に向けて起源弾を装填したコンテンダーを向ける切嗣だったが、イリヤの放ったシュトルヒリッターが強襲。首目掛けて剣状のそれは宙を舞う。

しかし、切嗣は小さく短く「Time alter―double accel(固有時制御・二倍速)」と詠唱し加速。サバイバルナイフを構え、イリヤに突進する。

 

 

「イリヤ!」

 

「嘗めないで!Time alter―double accel(固有時制御・二倍速)!」

 

 

するとイリヤも同じように加速、振るわれたサバイバルナイフを低身長を利用して潜り抜け、懐から掌底打。ふら付く切嗣の背後に回り込み、後頭部に向けてイリヤはその手に持ったコンテンダーの引き金を引こうと…

 

 

「きゃっ!?」

 

 

したが、それはその場で腰を下ろして脚を伸ばし、ザンッと回った切嗣の足払いにより妨げられ、宙を舞ったイリヤは容赦なく振るわれたサバイバルナイフを咄嗟にシュトルヒリッターを潜り込ませて防御。傷が受けなかったが大きく吹き飛ばされ、俺はそれを何とか受け止めた。

 

 

「…ううっ、やっぱり子供の体じゃキリツグには勝てない…魔術と技術だけじゃ、キリツグみたいに魔術師殺しにはなれない…」

 

「…ならなくていいんじゃないか?」

 

「え?」

 

 

敵わなかった事に、いや父親に追い付けない事に涙するイリヤにかけた俺の言葉に、呆けてこちらを見上げるイリヤ。…10年前に切嗣に捨てられたと言っていた。憎悪し、困惑し、そして何より…少しでも切嗣に近付こうとしたのだろう。俺は切嗣が魔術師殺しだったなんて知らなかったが、これだけは言える。

 

 

「イリヤはイリヤだろ?切嗣じゃないんだ、魔術師殺しになる必要はない。それに切嗣は絶対、イリヤに魔術師殺しを受け継いでほしいとか思ってないぞ。爺さんは馬鹿だ、優しすぎて苦しむタイプの馬鹿だ、でも正義の味方だ。自分の子供に苦しんでほしいなんて絶対思わない奴だ。…それに、さ」

 

 

イリヤを降し、俺は干将・莫邪を構え直して、放たれていた起源弾を投げ付けた干将で相殺させた。…やっぱり、俺からパスが切れた投影品ならぶつけても問題ないみたいだな。それなら起源弾がいくらあろうが何とかなる。

 

 

「同じ切嗣の子の、俺がいる。兄妹で一緒に親父を打倒しよう、イリヤ」

 

「…うん、お兄ちゃん。切嗣に、私達を置いて死んじゃったことを後悔させてやるんだから!」

 

Time alter―double accel(固有時制御・二倍速)

 

 

立ち上がり、シュトルヒリッターを傍に浮かばせキャリコとコンテンダーを構えるイリヤと並び、俺は投影し直した干将と共に莫邪を構え、加速し突進してきた切嗣と、今の今まで動かず静観していたのに連なって突進してきた屍兵達に身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ein KÖrper(灰は灰に) ist ein KÖrper(塵は塵に)―――!」

 

 

先制攻撃とばかりにありったけの火力を叩き込むが、ルビーゴーレムの軍勢はビクともせずこちらに歩み寄って来る。さすがはお父様のゴーレム、一筋縄ではいかないわね。

 

しかも、それに加えてゴーレム達を縫うように放たれる紅蓮の炎。お父様自慢の魔術礼装だ。本体を潰そうにも、迂闊に近づけない。避けるだけで精いっぱい。せめて相乗を行なえるだけの隙さえあれば一体は仕留められそうだが…

 

 

「切る!斬る!KILL!」

 

 

すると、剣閃の煌めきと共に目の前のルビーゴーレムが一体バラバラにされ転がった。見ると、ゆっくり追い詰める様に歩く葛木から逃げる様にこちらに後ずさっていたサモエド仮面が。

 

 

「やあマスターの姉君。一つ提案があるのだが、どうかね?」

 

「…交代だって言うんならそれは嬉しいけど、残念ながら護身程度にしか八極拳を習っていない私じゃ葛木の相手は無理だと思うわ」

 

「ふむ、それは残念。では真っ向からぶつかってみるとしよう!強化でもされているのか知らないが、正直かなり厄介だがね!」

 

 

そう笑うと突貫、高速の剣戟を、恐らく強化と硬化がかけられている拳で弾き返していく葛木。…やっぱりバゼットと同類か。しかし、こっちの方が問題だ。手持ちの宝石もあとわずか…相乗を用いても一体倒すのが必至。これがサーヴァントと魔術師の明確な差か…やはり、冬木を守るためとはいえランサーを切るのは早かったか。

 

 

「…遠坂は常に優雅たれ、ね」

 

 

ルビーゴーレムを向かわせながらも私に業火を放ってくるその姿はまさしくその言葉の体現者。私の目指していた姿だ。だがしかし、「魔術は秘匿するべき物」その矜持を守らないのはやはり、お父様ではない。ならば遠慮は無用。

 

 

「やっぱりお父様は凄いわ、ゴーレムなんて私じゃまだ作れない。でも…火力なら、私の方に分がある!」

 

 

最大の一撃でこのゴーレム共を駆逐し、お父様に一撃を浴びせる。純粋に推し通る、それしかない。手持ちの宝石を全部取り出す。遠坂の誇りを、取り戻す!

 

 

Fnf,Drei,Vier(五番、三番、四番)……!」

 

 

迫り来るルビーゴーレムに叩き付け、解放した宝石は三つ。加えて虎の子の四番を用いて禁呪である相乗を重ねる。

 

 

Der Rieseund brennt dasein Ende(終局、 炎の剣、 相乗)――――!」

 

 

私の、限界を超えた魔術。…昨晩、魔術刻印移植の際に私は衛宮君にこう言った。

 

 

―――術者の許容量を上回る魔術は、決して使ってはならない

 

 

まあ、許容量とかそんなの関係ない馬鹿(クロナ)が彼の傍にいるから説得力は無かったけど。そう彼に告げた私自身がその禁を侵してまで放った一撃は、周囲の家屋ごと巻き込む強大な爆発を引き起こしルビーゴーレムを飲み込んだ。

 

 

「…!?」

 

「取った!」

 

 

爆散したルビーゴーレムの居た場所は火の海となり、粉々に砕け散った赤い宝石の中に私は突進する。その先には、魔術師だと言うのに突っ込んできた私の姿に面食らうお父様の姿をした屍兵がいた。…今時の魔術師は、肉弾戦もできないと生きていけないのよ!…なんて叫べたら、どれだけいいか。まさか私が兄弟子に八極拳を習った事なんてお父様は考えもしなかっただろう。

 

ぶっちゃけ、年上で、学園のアイドルである私と同じく八方美人の癖して仲のいい人間にだけ怒りしかない本性を見せる姿が私とそっくりなアイツに。

 

10年前、同じく家族を失ってそれでも一人で未来へと歩いていた私と同じアイツに。

 

兄弟子の娘と言う一番近しい存在で、時には同じ釜の飯を食べ、何か嫌っているのに(理由は私が魔術師だったからだが)私が泣きそうになると慌ててあやし、何だかんだで面倒を見てくれる、かつて姉だった私が欲しかった姉的存在だと一方的に思っているアイツに。

 

どこまでも私と似ている癖に、他人になった妹()とも普通に話し、死んだ両親に対しても「生きようとしなかったから死んだんだ」とドライに言いのけ私を激怒させ、親と同じで嫌味たっぷりで、同族嫌悪なのかどこか気に入らないのに、何でも私以上に平然とこなすアイツに。

 

 

同じ魔術師で、しかも私より容量も高く実力サーヴァント共に遥かに強くて悔しかったアイツ…クロに、幼い頃からただ勝つためだけに習得した八極拳だ。お父様には申し訳ないが、これが今の私だと言う事を見せつけたい。

 

 

stark(二番)―――Gros zwei(強化)

 

 

放つは、寸勁。肘を諸に受け、杖を叩き折られたお父様の顔が苦悶に歪む、体が揺れる。そこへ、すかさず足払い。体ごと回した旋脚は、お父様の両足を断たんとばかりに炸裂。

 

 

「―――」

 

 

足を払われ、声帯が魔術詠唱しか発せないのか声にならない声を上げて背中から地面に倒れゆくお父様。足払いの後、お父様に背中を向けたまま立ち上がりかけ、反撃を許さずに回転する勢いのまま私は肘をさらにその顔面に叩き込む。もはや倒れるまで秒読みだがそれでも、この屍兵達がとんでもなくしぶといと知っている私は。

 

 

「これで…決める!」

 

 

体の回転を止め、腰の入った渾身の正拳をそのどてっぱらに叩き込んだ。正拳突き。基本にして、最速で打ち込まれる剛の突き。くの字に曲がって吹き飛び、無様に地面に転がるお父様。全身骨折間違いなし、魔術による回復がなければこれで動けないはずだ。

 

しかし私もルビーゴーレムの攻撃が少なからずも掠り、全身から浅いが血が流れている。瞬時の肉体強化も負担が大きいし、何より私も爆発をもろに受けた。許容量を上回る魔術の代償だ。さらに言えば今現在も衛宮君に魔力を吸われていてもう魔力タンクにしかなっていない。これではもう、戦力になるかどうかも怪しい。

 

 

「…もらえるものは、もらっておかなきゃね」

 

 

怪我を負った体で何とかお父様の傍まで歩き、叩き折った杖…アサシンに盗まれたのか家の地下室に保管しているはずのお父様の魔術礼装を回収し、私は残った塀に背を預けてその場に蹲る。

爆発の影響でまだ炎と瓦礫が残っている事もあり、私の今蹲っている場は一種の(サークル)を構築していて屍兵もこの中には入って来ない。ゆっくり休んでも、いいわよね?

 

 

 

見れば、サモエド仮面は何やら黒ずくめの服にサングラスをかけて白髪の少年の援護射撃を受けて葛木を圧倒しており、もうすぐ決着がつきそうだ。

桜とライダーの方は桜が右手に大きな切傷を受けていて、代わりにオレンジ髪の男の腹部が大きく吹き飛んで崩れ落ちていた。ライダーの手に名前はよく知らないけどデカい銃が握られているため、それを受けたのだと分かる。…そう言えば、桜にはまだ事情を聞いていなかったっけ…クロの乱入ではぐらかされたけど、後でちゃんと聞かないと…

 

そして衛宮君達は。昨夜までの殺し殺される関係が大きく改善されたのか見事な連携で黒服の男を圧倒していた。…本当、本来は使い物にならない投影魔術でよくあそこまでできるものね。私、「五大元素使い(アベレージ・ワン)」って呼ばれる超一級の魔術師の筈なんだけど、やっぱり姉弟揃って化物かって思うわ。

 

そう言えば、英霊エミヤが半身を失った姿で来たと言う事は、クロがやったのかしら。ライダーでもアーチャーでもあんな事は出来ないだろうし。人の魔力使って衛宮君に作らせていた贋作宝具の山も持って行ったしありえないことでもないか?だとしたら、ついに英霊に勝っちゃったか…本当、追い付かせてくれないものね。…あれ、忘れていたけどアーチャーとセイバーはどこに……!?

 

 

それを見たのと、私が気を失ったのは同時の事だった。しかし、それだけは認識した。

 

 

…アレは、アーチャーなの…?

 




そんな訳で、打倒親回でした。子が親を超えるっていいよね。

最初の独白はもちろん彼女・・・次回の混乱の要ですね。
見事な連携で切嗣に対抗する士郎とイリヤ。士郎のイリヤへの言葉は、未来の自分にも聞かせて欲しい言葉。しかし、決着は…?

そして今回のメイン。凛VS時臣。メディアと同じく根っからの魔術師である時臣に対しての鬼札である八極拳を切った凛。今作ではその理由にクロナが入っています。あちらがどう思っていたかは知らないが、それでも凛からしたら超えたい存在。そんな思いの籠った八極拳炸裂です。メディアだから効かないだけであってあの魔術は最強だと思うんだ。

何気に参戦してサモエド仮面を援護している黒ずくめサングラス白髪の少年・・・一体誰なのか。それは次々回にて。地味に桜VS龍ちゃんは抜きました。銃VS肉体はバゼット戦で十分です。

そして次回。アーチャーとセイバー、そして外道を窮めてしまったアサシンside。外道の先に一体何が起こるのか。そらのおとしものを知っている人はアサシンを許せないかもしれません。感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯29:お前、そんなんじゃないだろ!

お待たせしました。VSアサシン第一戦、一先ずの終着です。題名を見ればそらおと読者ならどんな回なのか分かるのではないだろうか。

あ、今回は三人称sideです。楽しんでいただけると幸いです。


クロナがバーサーカーの元に向かっている頃・・・衛宮邸。その玄関前に、二つの影が立っていた。キャスターと慎二である。

 

 

「全員、留守の様だな」

 

「そうみたいだな。糞っ、チャンスだと思ったのに!」

 

「浅はかな策だ。情報もまるでないであろうが」

 

 

ちょうど昨夜、全回復したキャスター。しかし直後に否天による砲撃を泊まっていたホテルに受け、慎二が気絶。その間に偵察に出ていたキャスターの情報でクロナと凛がサーヴァントを失ったと知った慎二は今までのお返しができると画策、サーヴァントがいないため動けないであろうクロナから襲撃しようと衛宮邸に押し入ったのだ。

しかし、クロナに無視され続けその性格をよく知らない慎二は見誤っていた。サーヴァントを失おうが止まらない事を。キャスターは薄々感づいていたため気は乗らず、取り敢えずと着いて来たがこの結果。目の前で悔しがることしかせず打開策を練ろうとしない仮のマスターを、見限ろうかとキャスターが思い始めたその時、

 

 

「どこにいるかと捜してみれば、こんなところでどうしたんだ?間桐慎二」

 

 

イリヤに伝えたいことを伝えて離脱した『M』がその場に現れた。新都からこの距離を短時間でどうやって移動して来たかは企業秘密である。

『M』の声に顔を向けた慎二はその人物が己に偽臣の書を与えた張本人だと気付くと一転、偉そうな態度を取って近付く。

 

 

「よう、『M』。こっちこそ捜したんだぜ?このキャスターをくれたお礼にその残ったもう一画の令呪もいただこうってな!」

 

「いきなりご挨拶だな?まあいい、考えて置いてやるよ。もうキャスターは保険でしかない」

 

「お前が我が魔力供給減でなければここで叩っ斬っているところだ。命拾いしたな?」

 

「それはありがとうございますよ、皇帝サマ」

 

 

睨み合う『M』とキャスター。一触即発の空気も読まない命知らずは不機嫌そうな声を『M』に投げかけた。

 

 

「それで?どうしたんだよ。僕はこれから言峰黒名をやる気なんだけど?」

 

「あー…それもいいが、消して欲しいサーヴァントが居てな?」

 

「なに?」

 

「まあ見れば分かる。魔術師であろうとしたお前なら、あの危険性は分かるはずだ。あんなもの、あの素人に手綱を持たせる訳にはいかないからな」

 

 

あ、今言峰黒名に手を出さない方がいいぞと付け加える『M』の笑みにますます不機嫌になる慎二。彼は、他人より下に見られることが嫌いなプライドの塊だ。このプライドの欠片も無くただただ利用し利用されるだけの『M』と名乗る男とは、根本的に相容れない。それでも会話しているのは、彼が自分にサーヴァントを与えてくれた故だ。

 

 

「つまり何か?お前じゃ手の打ちようがないから、強力なサーヴァントを持つ僕に始末して欲しいと?」

 

「ああそうだ、そろそろ回復しているだろうと思ってな。・・・衛宮士郎のサーヴァントだ、お前もあんな男が魔術回路を持っているのは許せないだろうし、この間のリベンジもしたいだろ?」

 

「・・・僕の目的は遠坂と言峰黒名、桜だけだったんだけどそれは確かにな。いいぜ、乗ってやるよ。じゃあ早速行くぞ、キャスター」

 

「待て。ったく、感情に任せて考えなしに突っ込むのは叔父にそっくりだなお前」

 

 

早速キャスターの戦車に乗って立ち去ろうとする慎二に呆れて溜め息を吐く『M』。慎二は彼が第四次聖杯戦争を知っていることや、それに参加した「桜のために無駄に命を散らした哀れな叔父」の話を聞いているので立ち止まり、振り返って怒りを顔に表して睨みつけた。哀れな叔父と一緒にされるのは嫌なのだ。

 

 

「なんだよ、やれと言ったのはお前じゃないか」

 

「気が逸るのは分かるが、まずは様子見が鉄則だ。お前の叔父はただ突っ走って聖杯戦争に敗れたのは知っているだろう。俺の言う座標に行け、もちろん姿は隠せよ?見られたら下手したら即死するぞ」

 

「・・・ちっ、分かったよ。・・・お前はどうするんだよ?」

 

「ちょっと、会わなきゃいけない協力者がいるんでな。後は任せるぜ、優秀なマスターさんよ」

 

 

そう言い、気配を完全に遮断して去って行く『M』を見送り、慎二は自身のサーヴァントに向き直る。

 

 

「・・・一応聞くけど、お前はどう思う?」

 

「相手は私の固有結界を打ち破ったあのアーチャーだ。油断してまたやられでもしたら、今度はお前を守る余裕はないだろうな」

 

「・・・しょうがない。あんな冴えないヒゲ親父の言う事を聞くのは癪だけど、まずは様子を見るか」

 

「ふん、無難な策だ。行くぞ」

 

 

そう言い、偽臣の書を手にキャスターにしがみつく慎二。キャスターはそれを確認すると跳躍、夜の深山町の空に躍り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、凛による爆発が起きるより数分前。気絶したバゼットを連れて行こうとするアサシンを阻んだセイバーが、元の姿に戻り高笑いを上げるアサシンの前に倒れ伏していた。

 

 

「アハハハハハハハッ!貴方の情報がないってのは大きな嘘!やっぱりだ!「エポナ」だもんね!アインツベルン城に潜り込んだ際にオカリナを吹いていたもんね!…知ってるわよ、私。聖杯戦争初日の夜に貴方がバーサーカーと戦ったあの夜に、聖剣を見たあの時から調べていた!

そして昨夜、あの馬を駆る姿を見て確信した!馬を駆るリンクは他に「光の勇者」がいるけど彼はオカリナを吹かない、なら「時の勇者」しかいない!」

 

「なんで、オカリナの事まで…」

 

「別に?簡単に入れたアインツベルン城で、この間貴方が初戦で傷付いたイリヤスフィールを落ち着かせるために吹いていたのを見ただけよ?貴方もメイド達も気付いていなかったけど」

 

「なんだと…くそっ」

 

 

自分の様な小娘が勇者を追い詰めていると言う事実が愉しいのか高らかに嗤うアサシン。アサシンと言う存在に対する失態に、悔し気に唸るセイバー。

 

アサシンの撤退を阻んだセイバーの戦いは、一つの要因によりあっさりと決着した。

 

ちょくちょく紫髪の傭兵と切り替えていたアサシンの姿は、緑髪を短く切り揃え、緑色の服と靴を纏ったややジト目な青い瞳が特徴の女の子。それは、セイバー…時の勇者リンクの幼馴染にして、森の賢者となったコキリ族の少女『サリア』…もう二度と失いたくない、少女の物だ。

 

 

「だったらちょうどいい姿は、絵本にもゲームにも伝記にも乗る程の、貴方にとっての始まりの少女!ステンドグラスにまでなった七賢者の一人に決まっていますよね!

アハハハハハッ、どうよイフ、賭けは私が勝ったわよ。オカリナの件は伝えてないから貴方が光の勇者だって思うのはしょうがないけど!アハ、アハッ、アハハハハハハハッ!」

 

「この…アサシン、お前だけは許さないからな…!」

 

「ナに?ナニ?このバゼットのサーヴァントの赤い人もそうだけど、アンタ達英雄様は負けていたら言い返すしかできないの?…傑作過ぎない?アハハハ…!」

 

 

狂った様に嗤い続けるアサシンに、今度こそ力尽きるセイバー。それほどまでに、サリアと言う少女は彼の冒険として知られる「ゼルダの伝説」の名に関したゼルダと言う姫よりも特別な存在だった。

 

彼が「七賢者」から力を借りて魔王を倒し救った未来の世界では、コキリの森に帰っても二度と会えない。寂しげに自分の事を兄貴だと慕う友人の姿だけ。過去の世界では森の賢者にならず失われなく済んだ。それだけが、どれほど嬉しかったか。

…無理だ、彼女の姿を使う限り、俺は奴には勝てない。イリヤに任せろとか言っていた数分前の自分を殴りたい。セイバーの中にそんな思いが木霊する。…子供の姿では勝てなかった骸骨剣士。大人になって簡単に勝利できた程度の難関と異なり、明確な壁を阻む術を彼は知らない。英霊は霊体だ。死んだその時から成長する事は、例外を除いてありえない。

 

 

「ハハハ…ッ、と。さて、衛宮士郎に言われて訳も分からないくらいに煮えたぎった頭も笑って解消された事だし、搖動のために出したせいでもあるけど屍兵も何か負け始めているし、回収する意も込めてさっさと帰りますかね…っと!?」

 

 

と、バゼットを抱えたアサシンが帰るために跳躍しようとした、その瞬間。バゼットごと狙う様に、放たれた鉄拳があった。

 

 

「がはっ!?」

 

 

咄嗟にバゼットをこれ以上壊させないために空に放り投げ、その拳を真面に受けたアサシンは吐血。耐久Eの彼女に耐え切れる筈もないその一撃を受け、大きく血の放物線を描きながら宙を舞い、サモエド仮面のせいで生じた瓦礫の山に、咄嗟に赤い鎧の大男の姿になって背中から叩き付けられなおその衝撃に苦悶し、元の姿に戻って相手を見やる。そこには、傷を癒したアーチャーの姿がいた。

 

 

「うわっ…魔術を使っていないとはいえ起源弾の狙撃にも耐えるとか…どうやったらくたばるの貴方?」

 

「マスターの命令…貴方を、倒す」

 

「それでマスターを放っておいて追って来たのか。あの二人のサーヴァントは揃って面倒ね。衛宮切嗣を用意してやったのに無様に倒れてくれないし」

 

 

拳を構えて悠然と歩いて迫る天使に、アサシンは後手にワイングラスを構え笑みを作りながら後ずさる。

 

 

「…やっぱり喋れないのは問題かー。でも声帯は魔術詠唱にしか使えないし…これは対策が必要ね。イフと話し合わなくちゃ。ということで逃がしてくれない?」

 

「逃がす、とでも?」

 

「思わないわ。来なさい!」

 

 

瞬間、士郎達や桜達と相対していた屍兵が全員、アサシンの背後から津波の様に押し寄せアーチャーに迫る。アーチャーは咄嗟の事に振るえなかった拳を抑えられ、さらに全身を羽交い絞めにされ身動きが取れず、四方八方から拳、瓦礫の破片、標識等で一方的に殴られて行く。それでも耐え、自身を睨みつけるアーチャーにアサシンは嗤った。

 

 

「さすがに堅いわね、エンジェロイドさん」

 

「…!?」

 

「もちろん、衛宮邸にも忍び込んでいたのよ?普通に忍び込んだり、葛木に化けた私にホイホイついて来て魔術で記憶を改竄したタイガー・・・だっけ?の姿に化けたりね」

 

 

既に死んでいた葛木が、今日まで凛たちに気付かれずにいた理由がこれだ。冬木に召喚されて一週間で、柳洞寺に居候していた葛木を調べ上げて殺害後にアサシン自らが化ける事により疑わせず、魔術でイフを葛木と誤認させて住まわせて拠点にしたり、学園に教師として通う事でマスターだと思われる遠坂凛や間桐慎二・桜両名を監視して来た。

殺さなかった理由はイフの指示だが…それでも、彼女の情報収集力は規格外の一言にある。成り済ますのではく、同一人物になる。おかげで、藤村大河と言う士郎達と近しい存在に化ける事で、直前まで気配遮断して会話を盗み聞いてアーチャーとライダーの真名を知った。

 

 

「周りを信用しない方がいいわよ?私のマスターでさえ気づくことができない程なんだから。…それで、もちろん調べたわよ。まだライダーの方は確信が行ってないけど、生前の貴方を見付ける事はできた。桜井智樹・・・この顔がお前にとって何よりも大事な顔だろ?」

 

 

そう言ってアサシンが変わったのは、ネクタイ型の学生服を着たごく平凡な黒髪で丸顔の少年。アーチャーの以前の鳥籠(マスター)。聖杯にかける願いにするぐらいに慕い続けた、「普通」とエロとパンツをこよなく愛するクズ、桜井智樹。空美町と言う町では知らない人間はいない程の馬鹿(ブァカ)である。

 

 

「お前達、どけ。…なあイカロス、命令だ」

 

 

屍兵達を退かせたアサシンは、桜井智樹は震えて全く動けないアーチャーに命令を述べる。そう、知っているから。アサシンは見てしまった。混沌の名を与えられた幼きエンジェロイドが、今の自分と同じように姿を変えてこのアーチャーを追い詰めていた場面を。ならば、それを使わない手はない。

 

 

「衛宮士郎とその仲間を殺せ」

 

「なっ…」

 

「いや、それは面白くないな。だったら自分を壊せ、まずは右腕からだ」

 

「…はい、マスター・・・」

 

 

セイバーは薄れゆく意識の中で見せつけられる。何の力も持って無さそうな少年の言葉で、アーチャーが自身を傷つけ、破壊してボロボロになって行く様を。それを眺めて邪悪な笑みを浮かべるアサシンの姿を。そして、無表情の中で確かに「怒り」を発現させたアーチャーの顔が、見えた。瞬間、凛の起こした爆発により正気に戻るアーチャー。

 

 

「……トモキはそんなことを言わない」

 

「なに?」

 

 

右腕を叩き折り、翼は折れ曲がり、両足共に踝が粉砕されて真面に立てず息も絶え絶えなアーチャーは、突如動きを止めてギロリと無表情の中で唯一怒りに燃える瞳でアサシンを睨みつける。それに、笑みを歪め首をかしげるアサシン。

 

 

「トモキは、そんな事は絶対に言わない」

 

「だろうな。アレは俺でも理解不能の狂人だ。エロなんて物に命を懸ける馬鹿によく従っていられたな、お前」

 

「トモキは狂人じゃない、普通の人間。…私とは違う、普通の人間。トモキは、そんな風には嗤わない。それに・・・」

 

 

歩けないはずの足でアスファルトを踏み締め、歩み寄るアーチャーに恐怖を感じて一歩下がり思わず元の姿に戻ってしまうアサシン。その時、彼女の本能が告げていた。アーチャーだけは敵に回してはいけないと。もはや遅いが。

 

 

「今のマスターは、トモキじゃない」

 

「…もしかしてエンジェロイドって、もうマスターじゃない人間には容赦しないタイプ・・・?今のは、思い出してただけ?」

 

「《―――自己修復完了》…宝具(モード)空の女王(ウラヌス・クイーン)発動(オン)

 

 

瞬く間に傷を治し、翼を広げるアーチャー・・・イカロスの弱点を調べるがあまり、エンジェロイドと言う存在については調べもしなかったアサシン。というより、地上では絶対に知り得ることができないだけであるのだが。…アーチャー、イカロスは。以前にも、桜井智樹にマスター権を切られ、新たなマスター(仮)の命令に従い深海に沈めようとした事がある。ましてや英霊になった際に繋がりは切られ、現在のマスターは衛宮士郎だ。完全に悪手であった。

 

 

「マスター・・・衛宮士郎の命令を、実行します…!」

 

「ちっ!やれ、お前等!」

 

 

悔し紛れに今度は士郎の姿になり、桜の時の様に自分では挑まず待機させていた屍兵を向かわせるアサシン。しかし、アーチャーはそれを圧倒。

千切っては投げ、誰もいない家屋を持ち上げて叩き潰し、翼を羽ばたかせて小規模の竜巻を作り上げて打ち上げてからアスファルトに叩き付け、胸ぐらを掴んで頭からコンクリート塀に叩き込み、拳で頭部を粉砕する。

 

 

「これほどなんて…!?」

 

 

キャスターと陶器兵を圧倒したArtemisも使っていないと言うのに行われる惨劇と共にバラバラ、グチャグチャになった屍兵により血みどろの地獄を作り上げていく光景に、戦慄するアサシン。

そして、血塗れでこちらを紅い眼光で睨みつけてその手に巨大な機械仕掛けの大砲を顕現したアーチャーに、士郎の姿だと言うのに震え上がり、アサシンは干将・莫邪を投影し、バゼットを抱えて逃げると言う事すら思いつかず、無様に吠えた。

 

 

超々高熱体圧縮対艦砲(Hephaistos)・・・」

 

「で、できるのか!?お、お前に!マスターの俺にそれを撃つことが…!」

 

「貴方の変身は令呪までは使えない。それにマスターなら令呪を使う事無く英霊エミヤの使っていた盾で防げるはず」

 

「アレは投擲物に対する防御だから意味が無いだろ!?」

 

「それなら令呪を使えばいいでしょ?」

 

 

無表情でそう言いのけるアーチャーに、アサシンは元の姿に戻り目を瞑る。もう逃げる事さえ考えることができない圧倒的なプレッシャー。もう彼女に出来る事は、マスターの令呪による強制退去が来ることを望むのみ・・・その時だった。

 

 

「やめろ!アーチャー!」

 

 

その声に振り向けば、シュトルヒリッターで電柱に切嗣を縛り上げたイリヤと共にこちらに走って来る士郎の姿が。その声を受けても返事もせず止まらないアーチャー。しかし、

 

 

「お前、そんなんじゃないだろ!」

 

 

―――・・・・・・お前、そんなんじゃねぇだろ・・・っ!

 

 

 

その言葉が、アーチャーを止めた。占めたとばかりに正気に戻ったアサシンはバゼットを担ぎ、気配遮断Bを申し分なく発動し、姿を消して離脱する。同時に、それぞれ動けなくなっていた特別性屍兵だけを・・・切嗣のみはシュトルヒリッターを切ってから・・・その足元に赤い液体を出現させて回収し撤退した。

 

 

 

残されたのは、ルビーゴーレムの破片。瓦礫の山。血みどろの空間。

 

力尽きている桜を気にしながらアーチャーに銃を向けているライダー、気絶した凛を抱えさせた黒ずくめの少年を傍に控え刀の切っ先を向けているサモエド仮面、共に険しい顔の二名。

 

セイバーのポーチから赤いクスリの入った瓶を取り出して己のサーヴァントを回復させようと動きながら心配げに視線をやるイリヤ。

 

呆然と立ち尽くしHephaistosを顕現させたままである血塗れのアーチャーと、その側で息を荒らげる士郎。そして。

 

 

「…何があったの?」

 

「…雑種如きが従えるような兵器(モノ)では無かったと言うだけであろう」

 

 

バーサーカーに抱えられた姿で今になってやって来て、状況が掴めていないクロナ、その側で面白い物でも見るかのようにアーチャーと士郎を眺めるギルガメッシュのみだった。

 




今回はそらおと最初のシリアス回とも言える、五月田根家来訪回を元にしました。あのシーンだと誰も殺してはいないんですが、今作だととある要因で・・・

セイバー・・・時オカリンクの弱点は個人的にサリアだと思ってます。エンディングのミドはかなり応えた記憶がある。姫川漫画版もちょっぴり入ってます。

そして判明。アサシンがアインツベルン城や衛宮邸に、タイガーなどに化けて潜入していました。簡単な魔術が使えるって便利。あの、アーチャーとライダーの真名判明回のタイガーはアサシンです。そもそもサーヴァントに気付かれず縁側に居た時点で、ねえ。
それに伴いセイバーの正体や、アーチャーの弱点まで看破して攻略にかかったアサシン。しかし情報不足によりアーチャーの逆鱗に触れる事に。ちなみにアーチャーの生前でもあるこの時代ですが、ぶっちゃけ原作で言えばカオス初登場回に当たります。カオスみたいなアサシンはアーチャーには天敵ですね。
何気に空の女王最後の武装、ヘパイストスも登場。アニメは見てないのであのトンデモロボはさすがに出せません。

次回、クロナ&アスラコンビ再始動。イリヤ編に入るかと思います。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯30:敵か味方か、姉二人の共闘宣戦

UA20.000突破。ありがとうございます!
今回からイリヤ編。シリアスな前回と打って変わり、真面目な考察といがみ合いしている天敵たちのお話。バトルは無い小休止です。前回と前々回にちょろっと登場した黒ずくめの少年の正体と、アサシンの宝具の正体に迫ります。

クロナのギャグ的な天敵はタイガーだけじゃない。楽しんでいただけると幸いです。


――――英霊にはその数だけの道がある。

 

 

燃え滾る怒りだけで駆け上った道があった。

 

 

最愛の主を信じて、空を駆けた道があった。

 

 

勇気を抱き、時空も超え旅した道があった。

 

 

ゲッシュに従い、戦いに殉じた道があった。

 

 

導かれるまま戦い、撃ち続けた道があった。

 

 

欲望のまま覇道を行き、滅んだ道があった。

 

 

姉を止めることができず後悔した道があった。

 

 

人と星の未来を守護し、見定める道があった。

 

 

 

――――狂いに狂い果て、生涯を終えた道があった。

 

 

 

私の知るサーヴァント達の生涯。英雄達の生きた道のり。真似できないのもあるし、近いと感じている道もある。だけど、絶対に相容れない道がある。狂いに狂い果て、終わるのだけは絶対に断る。

 

私は狂っている。ああそうだ、狂っている。私の思考は常人とは全く違う、それはこの10年で嫌と言う程学んだ。

 

騎士道どころか人道も感謝もへったくれもない。ただ単に狂った歩き方をする道。でも、狂い果てるつもりはない。その線を超える事だけはしない。それが、私にとっては一般人を巻き込む事だ。その一線を超えたら私は、きっと衛宮黒名と同じになってしまうから。士郎を、桜を、私と同じ魔術師による理不尽を受けて人生を狂わされた人達を不幸にしてしまうから。

 

バーサーカーを奪われた事による大参事で、私は嫌と言う程思い知った。聖杯は存在したら行けない。こんなものがあったら、何度大惨事が起きるか・・・何時あの大火災と同じ多くの悲劇を生むか分からない。

 

アサシンの外道なる所業もその一つだ。変わり果てた家族と再会させるどころか、襲わせる?勝つためだけに、苦しみを再発させる?あの英霊が士郎と桜に対して行ったことを、私は赦さない。エミヤの時の様な責任感とは違う。今抱いているのはアインツベルンに対する怒りよりもさらに大きな怒り。

 

アサシン、そしてそのマスター・・・イフ=リード=ヴァルテル。お前達は私の敵だ。優先的に殺さないと行けない「天敵」だ。バーサーカーと一緒に、殺し尽くしてやる。

 

 

 

 

そう、帰りの道を歩きながら聞いた顛末に、一人怒りを燃やす私。・・・ああ、まず最初に浮かぶのが心身ともに傷付いた士郎達の心配より自身の怒りとは・・・やっぱり、狂ってるんだな私は。これも全部魔術師の所為だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではまず、僕から説明をさせてもらいましょうか」

 

 

とりあえずと、前回の会議から父さんが抜け、サモエド仮面にくっ付いて来た黒服サングラスの少年とセイバー陣営を加えた面子で衛宮邸の居間に私達は集まっていた。・・・まだ状況は掴めないが、皆アーチャーを警戒しているらしい。せっかく赤いアーチャーを撃破し、バーサーカーを取り戻したって言うのに・・・父さんが情報操作で居ない中でこんなに問題が増えるとは。

 

アサシンの外道たる所業。甦った第四次聖杯戦争のマスター達。連れ去られたバゼットさん。そして、アーチャーの異変。さらに言えばアサシン陣営攻略と、姿は見せなかったがバーサーカーが気配を感じたと言うキャスターの動向、そして何故赤いアーチャーが召喚されたのかの謎。ついでに言えばアインツベルンと衛宮切嗣のあらましがアサシンによって士郎にばれた事とあと、王様の魔力供給。

 

・・・最後のは私がその、なんだ。接吻を交わした事で王様に魔力を提供できた。お願いだから気にしないでください、子供の頃から慣れているとはいえ士郎達の前でされたら小恥ずかしい。

今は、目の前の黒ずくめの少年だ。見た所サーヴァントでも魔術師でも無いみたいだが・・・ライダーとサモエド仮面の知り合いみたいだ。

 

 

「僕の名前はワンワン刑事(でか)。訳あって素性は明かせませんが、謎の美少女ガンファイターライダー・キノ・・・貴方方の言うライダーと、そこのしz・・・サモエド仮面と共に正義の味方をしている者です。最も、僕の知る彼らは生きていますがね」

 

「はあ・・・」

 

 

ライダーとアーチャー、サモエド仮面は未来の英霊だ。つまり、エミヤとはちょっと違うが過去の自分がこの時代に生きている。その関係者が目の前に居るのはありえない事じゃない。・・・ないのだが。ところでワンワン刑事って真面目にですかね?

 

 

「言いたいことは分かるけど、ワンワン刑事さんはマジでその名前よ。そこのサモエド仮面よりよっぽど頼りになるわよ」

 

「ムッツリスケベの変態犬だがね!」

 

「よし分かった、サモエド仮面殺す」

 

「いいだろう。英霊となった私を殺せると言うのならば、少しは楽しませてくれるよな?」

 

「くたばれ!ヘタレ侍!」

 

「後でやれー!」

 

 

ゴワン!と音が鳴ったかと思えば、ライダーが拳骨を振るっており、二人はたんこぶを作って机に俯せに倒れ込んでいた。・・・一回しか音が鳴らなかったと言う事は一瞬で二撃も叩き込んだのか。なんという英霊の力の無駄遣い。苦笑していた士郎がそれではいけないとばかりに首を振り、尋ねる。

 

 

「・・・それで?ワンワン刑事さんとやら、何でこの冬木に来たんだ?」

 

「はい、それはですね。僕達の学園に、彼女がやって来たのです。・・・サモエド仮面の姿でね」

 

 

・・・・・・ああ、なるほど。大体分かった。真名から、どこで活動したかは突き止めたけどまるで分らず、謎の美少女ガンファイターライダーの姿だと一般人は彼女を「木乃」とは認識できないからろくに調査も出来ず、苦肉の手段として「姿」だけサモエド仮面に化けてやろうとしたけど、違和感バリバリでこのサモエド仮面のストーカーに思える少年に感づかれてしまったと。

 

 

「最近のネットは便利ですね。白い学生服に日本刀っと銘打てば割とすぐに引っ掛かりました。それでその町が大惨事になっていたら嫌でも気付きますよ」

 

「あ、それサモエド仮面さんに買い物を手伝ってもらった時の写真です」

 

 

ワンワン刑事さんが差し出したスマホに映るのは、後姿の桜とサモエド仮面から犬耳とリンゴとマントを外したような白い学生服と日本刀の男。顔は見えないけどなるほど、これは特定される訳だ。

 

 

「僕としてはキノさんとサモエド仮面が同時に二人も存在するのは謎だったんですが、ちょうど途中で『M』を名乗る白衣の男に出会いまして。魔術師が英霊を喚んで戦争をやっているんだと聞いて全ての謎が解けました」

 

「それで?君はまだ私を殺したいのかね?」

 

「いや、お前では意味が無い。すぐにでも戻って本物を・・・と思ったんですがね。知ってしまったからには正義の味方の一人として放って置けない。微力ですが手伝わせてください。あの屍兵ならば何とか僕でも倒せますので」

 

「でも・・・、」

 

『それは助かる。ライダー、僕達英霊はマスターをやられるとどうしようもない。あの乱戦なら守りながら戦うのは無理だ。ここは彼の助力を仰いだ方が・・・』

 

「それは駄目だよ」

 

 

言いよどむライダーにエルメスが助言していた時、私はすかさず口出しした。確かにありがたい。アサシンにキャスター。どちらも共に軍勢を使う英霊だ。彼がいれば戦略の幅も広がる…だけど。

 

 

「英霊のサモエド仮面たちに付き合う義理は何もないでしょ?関係者じゃないなら引っ込んだ方がいい。抜け出せなくなる」

 

「中途半端な怒りを抱いている奴が挑むんじゃねえ。あの女に利用されるだけだ」

 

 

私の言葉にバーサーカーも続いた。・・・うん、その通り。このワンワン刑事は、人間・・・じゃないかもしれないけど、魔術師でも英霊でも無い一般人、英霊からしたらこの時代に生きる英雄の一人だ。巻き込めるはずがない。私は、自分の都合で相手の事を考えずに巻き込む魔術師の在り方が大嫌いだ。それだけは譲るつもりは無い。

 

 

「でも、そちらにアサシンが来た場合は追い払うのをお願いできる?少しでも情報が流れるのは避けたい」

 

「勝手ですね。だが事情を抱えているなら仕方ない。承知しました。・・・キノさんを見殺しにでもしたら許さないぞ、サモエド仮面」

 

「誰に言っている?私はサモエド仮面だぞ?」

 

「・・・だから心配なんだ」

 

 

そう言って縁側から出て、一跳躍で去って行くワンワン刑事。何と言うか、ライダーやサモエド仮面と違って素直でいい子な気がする。サモエド仮面だけに好戦的なのは何か親近感を覚えるけど。

・・・うん、最後の言葉は私も同感だけどボディーガードとしては優秀のはず。一応、士郎も怪我らしい怪我はなかったし。桜は傷付いてたけど・・・アレは不可抗力だからしょうがない。

 

 

「アサシンの情報網が割と半端ないのは分かった。でも数日で調べて来たのは理由がある筈。何か心当たりある?」

 

「学校で葛木に化けていたみたいだから、休み時間とかにネットでも使ったんじゃないかしら?目立つ人ほど探しやすいと言うし」

 

「・・・そうみたいだぞ、クロ姉」

 

「なに?」

 

 

携帯を弄っていた士郎の見せた画面には、「謎の美少女ガンファイターライダー・キノ」と「天使 少女 目撃情報」と入れた欄。かなりの数ヒットしていた。良くも悪くも目立つ存在らしい。・・・しかしネットか。盲点だった。図書館とかは使うんだけどな。

 

 

「・・・それで、その件のアーチャーだけど・・・今は問題ないの?」

 

「はい。正常に思考できています。ですが・・・あの時、私が怒りに支配されていたのは間違いありません・・・。マスターの令呪で戒めるべきだと思います・・・」

 

「待てよ。アーチャーが怒りを覚えたのはアサシンが・・・前のマスター?の顔を使ったからだ。今は大丈夫だ、そうだよな?」

 

「・・・はい、今は異常ありません。ですがマスター。もし今度暴走した時は私を令呪で自害させてください」

 

 

その言葉に目を見開く士郎。・・・私は同感だ。だけど、そのマスターが優しいからな・・・

 

 

「馬鹿を言うなアーチャー。俺の声を聞いて止まれたんだ、きっと大丈夫だ」

 

「・・・はい」

 

 

一先ず納得した様だし、まだアーチャーについては謎も残っているけど先に進まないとね。

 

 

「・・・とりあえず、情報を纏めるよ。士郎のサーヴァント、アーチャーの真名は“エンジェロイド”のイカロス。ライダーの真名は謎の美少女ガンファイターライダー・キノ。共に未来の英霊。セイバーは時の勇者リンクだとアサシンから明かされた。・・・アインツベルン、合ってる?」

 

「ええ。アサシンにばれたのは私の落ち度でもあるわ。それにばれた所で問題は無いでしょ?」

 

 

何やら以前より大人な雰囲気のアインツベルンの言葉に私はちょっと疑問を抱く。・・・時の勇者って、ニワトリとアンデッド系のモンスターが大の苦手とか言う情報は割と世間でも共通の認識だと思うんだけど。自分のサーヴァントの力に過信するのは止めた方がいいけど、アインツベルンだから別にいいか。

 

 

「そして、アインツベルンを除いて残る敵。キャスターの真名はアー・シン・ハン。そしてアサシンの真名だけど・・・士郎達が手当てしている間にそれっぽいのは見付けたよ」

 

 

私が差し出したのは、図書館から借りて来た「吸血娘ヴァニカ」と言う題名の絵本だ。・・・まあ吸血娘と言うより悪食娘なんだけど。ヨーロッパでは割と普及しているシリーズの一冊だ。

 

 

「絵本?・・・外国のか?」

 

「そうだよ士郎、これはヨーロッパで普及されている「エヴィリオス地方物語」シリーズの一冊。・・・アインツベルン辺りは読んだ事あるんじゃない?」

 

「あるにはあるけど、10年前の事だし・・・って、ちょっと待って。私、屍兵を知っている・・・?」

 

 

思い出せる限り士郎達に説明するアインツベルン。そう。屍兵と言うのはこの絵本に登場する、悪魔を宿した豚「バエム」の血肉を身体に取り込むことで発病する「グーラ病」にかかり、絶え間無い食欲に襲われ手近に食物が存在しない場合に草や鉄などの異物を胃袋に詰め込み、その結果命を落とした発症者の死体を吸血娘ヴァニカが「グラス・オブ・コンチータ」と呼ばれる悪魔の宿ったワイングラスを用いて甦らせた兵隊の事だ。

また、他の作品の前日譚でもこの「グーラ病」は風土病として登場し、遠征していた敵国の王を中心に発症して多くの人間が命を落とし、そして屍兵は軍隊となって攻め込んだ事もあった。

 

問題は「白骨であっても」ある程度肉付けして甦らせることができると言う点。・・・そう、火葬にされた衛宮切嗣の死体でさえ甦らせることができるのだ。ほぼ間違いなく、アサシンの宝具の正体は「グラス・オブ・コンチータ」だろう。ただ、逸話より変質している様で魔術的要素は強くなっている。

 

 

「待てよ、クロ姉。・・・それって架空の話だろ?仮にアサシンの正体がその吸血娘ヴァニカだとはいえ、英霊として召喚することができるのか?」

 

「可能だよ。『M』の話だとエミヤの世界ではアサシンとして佐々木小次郎が召喚されたらしいし、実在しない架空の英霊は確かな信仰さえあればサーヴァントとして召喚可能だけど、架空の英霊そのものではなくそのモデルになった人物、もしくはその架空の英霊と類似点のある人物が召喚されるらしいから、召喚されても可笑しくない」

 

「ハサン・サーバッハに決まっているアサシンともなれば相当の裏技でも使ったんでしょうね。時計塔には第四次聖杯戦争を生き抜いた男もいると言うし、あのイフとか言う男が知っていても可笑しくないわ」

 

「・・・でも、私にはあのアサシンが吸血娘とは思えないんだけど?」

 

「うん、そこだね」

 

 

アインツベルンの言う通りだ。私が見付けたのはあくまで宝具の候補、私もアサシンが吸血娘ヴァニカとは思えない。吸血鬼には変幻自在に姿を変える力があると言うが、できるのはドラキュラの元になったヴラド三世ぐらいの物だろう。吸血娘は名だけだ、変身能力を持つとは思えない。

 

 

「恐らくは、他の話に登場したグラス・オブ・コンチータに関わる人物・・・かな。特徴ははっきりしてるし、捜せば見つかると思うけど・・・今、図書館開いてないんだよね」

 

「言っとくけど侵入するのは無しだぞクロ姉」

 

「士郎がそう言うと思ってやめてます。というか、宝具を使ったアサシンがそう易々と情報を仕入れさせるとは思えないよ」

 

 

下手したら何人かの屍兵を集めていても可笑しくない。それを突破するのは少々骨が折れるし、何より気付かれる。

 

 

「だから、まずは対策を。・・・タイガーに化けてアーチャーとライダーの真名を聞いたと言っていたんだよね?だとすると、私の魔術に対する嫌悪感も、士郎の世界の異常を感じる感覚も通用しないことになる。ここにいるメンバーはあれからずっと一緒にいるからアサシンじゃないとは分かるけど。他に関係者は?」

 

「避難しているかどうか分からないけど藤ねえだな。あと、桜は慎二か?」

 

「アイツは無視していいでしょ。どこにいるかも分からないし」

 

「言峰の奴は冬木の外にいるだろうから放っといてもよかろう」

 

「そうだね、王様。それに父さんなら内面まで調べる事はほぼ不可能だし」

 

「・・・私は城に居るメイド二人。森には結界が張ってあるから大丈夫だと思いたいんだけど、それをアサシンが突破しているなら・・・」

 

「その二人が問題か」

 

 

・・・アインツベルンのメイド、つまりはホムンクルスか。放っといても支障はないと思うけど、士郎だったら・・・

 

 

「その二人をここに連れてくることはできないか、クロ姉?」

 

「言うと思った。一応聞くけど、理由は?」

 

「イリヤは俺の家族だ。だから助ける」

 

「・・・じゃあ最後にアインツベルンに質問。・・・貴方は敵?味方?」

 

 

士郎とイリヤは義理の兄妹(士郎は勘違いしているけど多分本当は姉弟)なのだと言う。でも、イリヤは士郎に悪意を向けていた。正直言って、背中を任せられる程信用もできないし、戦力が足りて無ければさっさと斬り捨てたいところだ。アインツベルン絶許、慈悲は無い。

 

 

「士郎の味方だけど、貴方の敵。それで満足かしら?」

 

「・・・問題ない。逆に味方だと言われたら後から殺しにくくなる」

 

「魔術使いである貴方が魔術師殺しに勝てるとは思えないけど?」

 

「よし言ったな。爆殺してやる」

 

「クロ姉!イリヤ!」

 

「「きゃっ!?」」

 

 

共に机に乗り出して睨み付けいがみ合っているとバコッ、と二人揃って新聞紙を丸めた棒で後頭部を(はた)かれ、同時に机に突っ伏す。・・・ゆ、油断した。敵意の無い攻撃はどうも反応できない。と言うよりちょっと紙で叩かれたとは思えない程痛い。疲れてるのかな・・・

 

 

「ううっ、分かっているわよ・・・今は殺し合わないわよ・・・」

 

「今は戦力が足りないからアインツベルンを殺す気は無いよ・・・」

 

「後からでもやめてくれ、二人共。どっちも俺にとっては家族なんだから」

 

「「・・・ふんっ」」

 

 

一瞬揃って睨み合うも、ほぼ同時にそっぽを向く。こうも気に喰わないのは、アインツベルンが士郎の姉だからだろう。タイガーに対して仲良くなれないのと同じだ。その思いだけは、アインツベルンに対する怒りを上回っていると思う。

 

 

「・・・イリヤって呼びなさい。何時までアインツベルンって呼んでるのよ」

 

「・・・そっちだけ呼び捨てなのも気に喰わないしね。いいよ、イリヤ」

 

 

とりあえず、握手をする。どちらも共に必要以上の力で相手の手を握り潰そうとするも、ほぼ同時に痛がって放した。やっぱり殺したいんですが駄目?

 

 

『勝手にしろ』

 

 

うわっ、バーサーカーに呆れられた。師とも親友とも仲良くできなかった人には言われたくないんですけど!赤ん坊の扱いも苦手な癖に!

 

 

『寝惚けてるなら一発殴って目を覚まさせてやろうか?』

 

『遠慮します』

 

 

何かバーサーカーの態度がフレンドリーになった気がする。気のせいかな?すると、私達のやり取りを呆れ顔で傍観していた王様が口を開いた。

 

 

「それでどうするのだ、クロナ。ここにいる皆は全員、貴様の手腕を信頼している。我は『M』を捜しに暫し離れるが、お前達はこれからどうする?」

 

「まずは、そうだね・・・アインツベルン城から二人のメイドを連れ出す。死体の山と葛木、そしてバゼットを手に入れたアサシンが狙うのは、間違いなくその二人だ。結界があるだろうけど、急がないと」

 

「っ、リズ!セラ!・・・セイバー、行くわよ!」

 

 

・・・私の台詞がフラグだったか。結界が破られた事にでも気付いたのか、セイバーを連れて縁側から出て行きエポナを召喚して駆けて行くイリヤ。・・・アサシンかキャスターか、まだ分からないけど・・・

 

 

「俺達も行くぞ、アーチャー。・・・クロ姉」

 

「うん。私と士郎が行くから、ライダーとサモエド仮面は桜と凛とこの屋敷をお願い。行こう、バーサーカー」

 

 

怪我をしている桜と凛は戦力外。ならば護衛としてライダーに残ってもらう。これで多分大丈夫のはずだ。こっちにはセイバー、アーチャー、バーサーカーがいる。何が来ようと問題ない・・・そう思った。

 

 

 

 

 

「出でよ、【其は灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)】!」

 

 

 

まさかあんな巨人を持ち出してくるとか誰が想像できる?・・・ドルイドって言った時点で考えとくべきだったね。




ワンワン刑事「静殺す」
クロナ「魔術師絶許」

黒ずくめで思考も似ている二人。一言で言えばサモエド仮面殺したくてしょうがない人であるワンワン刑事は今後もちょっと登場します。アサシンについて貴重な情報を残して去って行きました。

やっと和解(?)したクロナとイリヤ。クロナとアサシンとは別の意味で天敵な二人ですが、クロナは魔術師的な意味で、イリヤは士郎の姉的な意味で双方相容れることができません。これはもう少し経ってからですね。

アサシンの宝具の手掛かりと思われる絵本が登場。でも残念、正体を探るにはちょっと惜しい。宝具で身バレしてしまう英霊なのに宝具名がバレテも正体が露見しない。通常の英霊でも有り得る話だろうなぁとは思います。同じ武器でも二人の使い手がいるとか。

拳で語り合った結果か、ちょっとフレンドリーになったアスラ。家族に対する態度と近い物になっています。クロナからしたらちょっと気持ち悪い。

そして次回。ドルイドが本気出す。バーサーカーも本気出す。セイバーも本気出す。アサシンも本気出す、アインツベルンの森オワタな激突です。
感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯ha:さあ、聖杯戦争(ふくしゅうげき)を続けよう

4月1日なので番外編、特別回。オールスター回です。ちょっと今後のネタバレもありますがスルーしてくださると嬉しいです。

何一つ変わらない日常を過ごすクロナ達の中に潜む違和感の正体とは。楽しんでいただけると幸いです。


聖杯戦争が始まって半年後・・・衛宮邸はやっぱり賑やかだった。

 

 

「私が士郎の姉だ!」

 

「戸籍上は私が姉よ!」

 

「はん、殺そうとしていた人形が何言ってんだか。妹でしょ、可愛がってあげるよ?」

 

「そっちこそ、強化系統しか使えないなんて士郎も真面に魔術を使えないはずだわ。放任主義なのかしら?」

 

「うるせえチビ、燃やすぞ」

 

「黙りなさい脳筋、風穴開けられたい?」

 

「「・・・よし、殺す」」

 

「ちょっと待ってください!?」

 

 

慌てて論争を止める桜。その横ではライダーが美味しそうにカレーうどんをすすり、その向かいではアーチャーがすっかり季節になったスイカを愛でていて、その横に座っている士郎は机の両端で論争していたクロナとイリヤの間で急須で人数分のお茶を淹れていて、一言。

 

 

「あー、平和だなー」

 

「その通りだな、少年」

 

「先輩!?気持ちは分かりますが現実逃避しないでください!そして言峰神父!貴方はなに、厨房でさも当然の様に麻婆豆腐を作っているのですか!?」

 

 

続けて台所から如何にも危険な香りを漂わせる元凶である神父に糾弾する桜。しかし、できる後輩の受難は止まらない。

 

 

「オラ動けよ、刺すぞ?」

 

「そっちこそ、撃つわよ?」

 

「「・・・!」」

 

「あーもう!お二人共、黒鍵と拳銃を納めてください!?」

 

「帰ったよイリヤ。・・・って、またやっているのか」

 

「今日の夕飯はなんだクロナよ?・・・ってなにっ、綺礼貴様何をしている!?」

 

「はいお帰りなさいセイバーさんにギルガメッシュさん!」

 

 

もうやけくそと言わんばかりに、ミルク瓶とワイン樽、つまみの入ったレジ袋を手に帰宅した私服姿の英霊二人に叫ぶ桜。剣片手に台所に飛び込んで行く英雄王を横目に、胃に穴が開きそうな毎日である。

 

 

聖杯戦争で教会を失い、そのままなし崩し的に衛宮邸に居候している言峰一家。居候を続ける桜とライダー。するとそこに、縁側から大勢引き連れたタイガーが現れる。

 

 

「こんばんわ~!商店街でハンさんとランサーさんを捕まえて来たから一緒に飲みましょうギルさん、セイバーさん!」

 

「ふん、酒はあるんだろうな?」

 

「よう、何時も楽しそうだなアンタ等」

 

「あ、お邪魔しまーす。うちのランサーが行くって言うから、ねえ?」

 

「邪魔するぞ、衛宮。桜」

 

「あ、いらっしゃい遠坂、慎二。クロ姉が五月蠅いだろうけどゆっくりして行ってくれ」

 

 

タイガーが連れて入って来たのはキャスター、ランサー、凛、慎二と言った顔ぶれ。桜が露骨に顔をしかめたが気にせず、ずかずか入ってくる優等生二人。すると、ランサーに机を運ばせていたタイガーが何かに気付き、得物をしまって取っ組み合いしている士郎の姉二人のうち、黒い方を捕まえて問いかけた。

 

 

「ねえ、クロナ」

 

「ん、なにタイガー」

 

「タイガー言うな!・・・それであの人は?いないの?」

 

「・・・そういや居ないね。ちょっと捜してくるから士郎達は先に宴会でもなんでもやっといて」

 

「おう、気を付けろよクロ姉」

 

 

身支度を整え、衛宮邸を後にするクロナ。心当たりである新都の喫茶店に向かいながら、ふと思考する。何かがおかしい、と。

 

 

「・・・みんな幸せそうだし、別にいっか」

 

 

まるで夢みたいだな、とか何故か思う。・・・何かに途轍もない怒りを覚えていた気がする、泣きながら誰かに謝った気がする、怒号を浴びせて誰かを殴り続けた気がする、こんなところで油売っている暇はない気もする。

でも心地いいのだから、気にするだけ無駄だ。

 

 

「ん?」

 

 

冬木大橋に差し掛かると視界に、今時珍しい焼き鳥屋台を見かけた。覗いてみると、そこにいたのは緑のスーツを着た眼鏡の男と金髪をサイドテールに纏めた「BASTAR」と書かれた赤いTシャツを着た少女、そして黒い私服を身に着けた白髪褐色肌の男とラフな服を着た赤髪の女性だ。屋台の店主はフードで顔を隠した黒服の男だった。

 

 

「お替りはいいか、大将」

 

「おうよ。アサシンはどうする?」

 

「とりあえず豚バラちょうだい豚バラ。あとビール」

 

「君の体は一応未成年だろう?酒は控えたまえ」

 

「えー、じゃあこれでいいでしょ。ほらイフ、早く寄越しなさい」

 

 

注意されるや否や腰にレイピアを携え赤い服を着た茶髪の女性になるアサシンに、一瞬驚き溜め息を吐くエミヤ。それに絡む様に酔っぱらったバゼットがビールの入ったグラスを突き出した。

 

 

「えへへー、あーちゃー、もういっぱーい!さけでものまないとやってらんねーですよー!」

 

「正気に戻れバゼット。ああもう立ち上がるな、はしたない。だから外食は止そうと言ったんだ」

 

「屋台は外食って言うのか?日本語は分からねーなあ」

 

「なにしてるの、シロウ?」

 

「うわっ、クロ姉!?」

 

 

思わず気になったので聞いてしまった。本当に何してるんだろこの正義の味方。

 

 

「・・・いやなに。バゼットが財布を無くしてしまってね、探しても見つからず途方に暮れていたところ葛木教師に誘われたまでだ。いや、冷蔵庫に残っている品で簡単な物は作れたんだが」

 

「あーちゃー、おしゃけー!」

 

「言峰が見たら愉悦で嗤うぞ、まったく…」

 

「うん?言峰黒名、こんな時間に何をしている?」

 

「まだ夕方ですけど葛木先生」

 

 

思わず、学校モードの丁寧語で応えてしまう。・・・まあもう既に私は卒業しているのだが。先生は先生だ。

 

 

「ちょっとバーサーカーを捜しに新都まで」

 

「・・・お互い大変だな、クロ姉」

 

「少なくともうちの相棒は飲んだくれじゃないから。じゃあね」

 

 

そのまま再び歩くのを再開する。歩いて新都まではさすがに遠いか。まあしょうがない。そう考えながら歩き続け、教会跡地の前を横切る。・・・うーん、新しい教会建てるんだろうけどどうするのかな。

 

 

「そりゃここはまあまあの霊地だからな。放っとく訳にはいかんだろ」

 

「うわっ、びっくりした」

 

 

声が聞こえ振り向いた先にいるのは、何か「EXTRA」って書かれた白のTシャツ姿なのに頭に黒い兜を付けた見るからに変人な長身の男と、何故かぼたん肉が入った紙袋を泣きながら持っている「Quick」と書かれた緑のTシャツ姿の泣き黒子が何かムカつくイケメン、「大戦略」とかかれたピッチピチのシャツを着た酒樽を担いだ赤髪の偉丈夫に、両手に食材の入ったレジ袋を抱えた「ARTS」と書かれた青いTシャツを着た青髪と黒い肌の女性に、ハンバーガーが沢山入った紙袋片手にチーズバーガーを食べている黒い私服姿の金髪美少女を引き連れた白衣姿の髭の男がいた。

・・・死んだ魚みたいなギョロ目の男が居たらガチで私、殺人鬼になっていた所だ。・・・もう一人のところで留守番でもしてそうだな。

 

 

「こんなところで何してるんだ?忘れ物でも取りに来たか?」

 

「半年前に取りに来てるわ。そっちこそなに、宴会でもするの?」

 

「いや、普通に買い出しだ。こいつら一人一人が求めるのが違っててよ、面白いんだわこれがw」

 

「楽しそうでなによりです。こっちは相棒捜し。見なかった?」

 

「Arrrthurrrrrr!!」

 

「ん?・・・こいつがアーネンエルベで見たってよ」

 

「そう。ありがとう、穀潰し」

 

「!?」

 

 

何か抗議していたけど気にせず前に進む。・・・うーん、またなんか違和感があったけど気にしない気にしない。考えるだけ無駄無駄、あのギョロ目を殺さずにいられてラッキーじゃん♪

 

 

「やっぱりここか」

 

 

辿り着いたのは喫茶店アーネンエルベ。そのカウンター席に、私の相棒()は居た。何かトランプで遊んでいた。

 

 

「・・・なんでトランプ?夕飯だから帰るよ、バーサーカー。アヴェンジャー」

 

「・・・おう、今行く」

 

「お、逃げるのかバーサーカー。それよりマスター。アンタもどうだ、ババ抜き。このバーサーカー、異常に弱いからな。楽しいぜ?」

 

「店員と共謀してうちの相棒いじめるのやめてくれる?隠し事できないんだから」

 

「俺もアンタのサーヴァントだ、別にいいじゃん?」

 

「よくない。ほら、帰るよ」

 

 

バーサーカーが怒って暴れ出したらしたらどうするの。責任取るの私なんだよ?こんなナマモノばかりの場所でアルバイトとかしたくないわ。

 

 

「へいへい。今片付けますよ」

 

「・・・助かった、クロナ。これ以上は我慢できん」

 

「よく我慢した、偉い」

 

 

むしろ、人を煽るのが得意なアヴェンジャー相手によく耐えた。だからそんな悲しそうな顔をしないでください。私の事を考えての事だろうから嬉しいけど。

 

 

「それで、今夜はどうするんだマスター?」

 

「・・・うん。士郎達が寝たら行くよ、狙いはアフリカで先住民を死徒にして何か実験を企んでいる魔術師だ。協会に追われているみたいだけど、私達でやる。やらないと」

 

「ああ、復讐は終わらない、だ」

 

 

今は夢の様に幸福なんだ。だから、それを壊さないように私は魔術師を殺す。この平穏を壊すであろう魔術師を殺し尽くす。

もう戦う必要はないんだから・・・半年も続いている戦いの末に残った「皆」の居る毎日を守るためだ、これぐらい赦してくれ。・・・誰に赦されたいかは分からないけど。

何故か発散できないこの怒りを、10年前から"何故か”赦せない魔術師にぶつけて晴らすんだ。これからも続くこの至福の日々を守るために。

 

 

「―――聖杯戦争を続けよう」

 

「了解だ、(マスター)

 

「それが俺達のやることだ」

 

 

狂った歯車が軋むのを感じる。矛盾を感じる。・・・それでも、虚ろな楽園は回り続ける。

 




これは可能性の物語。怒りの理由を失えばクロナはこうなる。・・・はい、hollow ataraxiaです。バゼットさんを出してるくせに実はちゃんと知らないネタですが、ちょうどよかったので。カレンはいるのかいないのか、それは謎にしておきます。

タイガーに懐柔されているキャスターとランサー、普通にやって来た慎二。何か屋台をやっているイフにその客のアサシン、他の客は生きている葛木とエミヤ、現在アサシンに連れ去られているバゼット。そして何か大勢引き連れた『M』さん。極めつけは何故かバーサーカーと共にクロナの相棒している「アヴェンジャー」。この意味は終盤になれば分かります。

カニファンのネタから書きたかったんですが、こっちの方がしっかり頭に浮かんだんですごめんなさい。次の番外編は多分レース回。もしくはFGO編。

それと、今回と違ってシリアス風味な現在執筆中の次回ですが、多分また「クロナside」と「士郎side」に分けて投稿すると思いますがご了承ください。
感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯31:其は万物灼き尽くす炎の檻

アインツベルンの森の死闘その一。まずは本気を出したバーサーカーVS本気を出したイフが激突。アサシンとセイバーは次回ですのでご了承ください。

今回はバーサーカーの本領発揮回にしてクロナのトラウマ回。プロローグ♯Zeroにて地獄を生き延びたクロナ。しかしそれで、アヴァロンを埋め込まれても居ないのに後遺症が無いはずもなく・・・楽しんでいただけると幸いです。


それを見て、思い出すのは、始まりの赤。赤く黒い焼けた地面を踏み締めて歩いた、災厄の日。全てを奪われ、一人だけ生き延び、生き方を改めたあの日。

 

 

私にとって、燃え盛る炎と言うのは苦手な物に入る。キッチンコンロとかの小さな火ならまだいい。でも、間近で見る焚火程度の物でもどうしても、発作が起こる。

 

手が震える。足は力を失い千鳥足だ。脂汗が噴き出してくる。喉が渇く。ガンガンと頭痛が響く。体がまるで屍の様に重くなる。四肢の感覚が無くなる。心臓の鼓動も早くなる。脳裏に浮かぶ燃える人肉の音と臭い。喉は枝でも貫いたかのように声ではなく掠れた息が漏れる・・・駄目だ、どうも私は腑抜けたらしい。

10年間、一度も感じた事が無かったその熱気と恐怖。動揺して落ち着かないから魔術回路を開く事も叶わない。

 

 

私は確かにあの日、生き延びた。でも同時に、死に掛けていたのは間違いない。

 

 

父さんの治癒魔術と王様の秘薬やらで完治はしたがうっすら痕が残るくらいに全身大火傷を負っていたし、一酸化炭素中毒で一時期呼吸もままならず、直ぐに喉が渇いて一日に数え切れないぐらい水を欲していた。発見された際の衣服はほとんど炭だったらしいし、顔にも大なり小なり火傷を負っていた。本当に王様と父さん様様だろう。

 

 

つまりだ。視界を塞ぐ程の大きな炎と言うのは、私にとってトラウマになっていたんだ。

 

 

イフとの戦いの際は、夢中でなおかつ冷静に対処できたからそこまででは無かった。そもそも火事ってレベルの物でも無かったし、奴の出した炎もすぐに消えていたし、何より私には防ぐ手段があった。・・・でも、これは訳が違う。

 

 

無意識に、バーサーカーの腰布の端を握る。同時に深呼吸、頭の中を怒りで満たす。・・・よし、落ち着いた。

 

 

「大丈夫か、クロ姉?」

 

「・・・大丈夫だよ士郎。行くよ、バーサーカー」

 

「ああ。敵は目の前だ」

 

 

バーサーカーの腰布から手を放し、マフラーで口元を無意識に隠した私は前を歩いていた士郎と合流、目の前の惨状に目を向けた。

 

 

 

 

 

アインツベルンの森に辿り着き、セイバーとイリヤに追いついた私達が見たのは、森が炎に包まれ全焼する光景。そして。

 

 

「おおっ、来たか。アサシンが遊んでいる間に俺も切札を用意しておいたぜ、言峰クロナ」

 

 

森の入り口で杖を突き、立ちはだかる黒ずくめのドルイドの姿。

 

 

Meine Magie wie Flammen Käfig, Briar Green Giant(我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人).」

 

 

ドイツ語で詠唱されるのは、ドルイドの魔術儀式。その横をすり抜ける様にイリヤとセイバーが燃える森の中に入って行く。

 

 

Vergeltung,(因果応報、)An Human resources(人事の厄を)Reinigen,(清める社)───」

 

 

組み立てられていく燃えた無数の細木の枝が巨躯を作り上げ、二本の足で燃える木々の中に立ち上がる。・・・どれだけの魔術を使えばこんな芸当が・・・!?

 

 

Zurück auf der Erde, gut und Böse(善悪問わず土に還れ)───!」

 

 

顕現するは、胴体が檻になっている、全長40mはあろう巨体に炎を纏った巨人。以前、映画で見たそれとはまるで大きさの違う、規格外の魔術儀式。

 

 

「お前を強敵と認め、とっておきをくれてやる。この森を素体にした我がドルイドの秘術、受け取れ!

其は灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)】!」

 

 

その肩に乗った現代のドルイドの宣言と共に、巨人は空気を震わせ轟音とも言うべき咆哮を上げた。・・・あのさあ、魔術秘匿する気ある?いや、純粋な魔術師じゃないのは知っているけどそこだけは見習って欲しかったわ。

 

 

「く、クロ姉・・・どうするんだ?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「それ大丈夫じゃない奴だぞ!?」

 

 

しょうがないじゃない士郎。今この場にいるのは、メイド二人の元に駆けて行ったセイバーとイリヤを除いた、私と士郎、そのサーヴァント二名だ。相手は某光の巨人の如き巨体を揺るがす見紛うなき巨人。そして、森を包む炎の中から燃えた体で現れた屍兵達。見た所、衛宮切嗣達は居ないがそれでもかなりの数だ。勝てる気がまるでしない。・・・だけど、私のサーヴァントなら。

 

 

「・・・バーサーカー。行ける?」

 

「アレより巨大な奴と戦って勝った。リクモドキより小さいなら大丈夫だ」

 

「・・・さすが王様より以前の英霊。頼もしいね。じゃあ、頼んだ」

 

 

帰って来た私のバーサーカーなら大丈夫だ、行ける。・・・そして、巨人が動いた。

 

 

「・・・応ッ!」

 

 

瞬間、巨人の振るった拳と跳躍したバーサーカーの拳がぶつかる。その衝撃で吹き飛ぶ屍兵達、アーチャーに掴まって飛ばされずに済んだ私達。ウィッカーマンの肩の上で体勢を立て直すイフ。そしてバーサーカーとウィッカーマン、双方共に大きく弾き飛ばされ、燃える森で新たな戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

「負けるなウィッカーマン!」

 

「ウオラァアアッ!」

 

 

ウィッカーマンが動き、その足を持ち上げバーサーカーを踏み潰そうとするもバーサーカーは転がって回避、掌からマントラ弾を形成して連続で発射し、足を崩していく。さすが、巨大戦に慣れている。

 

 

「バーサーカー、援護は任せて!・・・士郎はどうする?」

 

投影、開始(トレース・オン)!ここはクロ姉とバーサーカーに任せて、俺達は突破してイリヤ達の元に向かうぞ、アーチャー!」

 

「承知しました・・・!」

 

 

投影したエクスカリバーを一閃、穴を開けると羽ばたいたアーチャーの手に掴まった士郎はそのまま飛び去って行った。・・・残るは私とバーサーカーのみ。まあこれでいい、絶対アサシンの奴何か仕掛けているし、屍兵程度なら私でも対処できる。問題はあの巨人だけど・・・

 

 

「くたばれえっ!」

 

 

跳び上がったバーサーカーの耐空ラッシュで腕が吹き飛んだ。木製とはいえ脆いな。と思ったら、周りの燃えた枝が集まって再生した。・・・なるほど、これは面倒だ。

 

 

「バーサーカー!」

 

「細かい事は分からん。殴るだけだ!」

 

 

そう言って再び飛び上がって拳を叩き込もうとするバーサーカー。しかし、させないとばかりに凄い勢いで振るわれた拳がまるで10tトラックの様な勢いで激突。

 

 

「ッッッ!?」

 

 

横から殴り飛ばされたバーサーカーは吹き飛ばされ、まだ残っている長い木に叩き付けられたと思ったらむんずと巨大な手で掴まれ、締め上げられる。

 

 

「Ansuz!燃え尽きな!」

 

「グウッ・・・!?」

 

「・・・炎を操っているのはイフか。そりゃそうか、アレは宝具並だけど宝具じゃないしね。だったら・・・!」

 

 

両手にありったけ黒鍵を握る。念のために衛宮邸に隠して置いた私の装備一式から補充した物だ。ただ、今回はこれを改造して使わない。バーサーカーなら勝てるんだから、私がやるべき事はイフの相手だ。格闘戦は相変わらず苦手だけど、否天との戦いで編み出したアレがある・・・!

そのまま回転し、近くに来ていた屍兵を惨殺した私はその勢いのまま回転を乗せ、投擲した。

 

 

「行、けーっ!」

 

 

投擲した黒鍵は階段の様にウィッカーマンの足から胴体に掛けて突き刺さり、私は燃えるそれを足場に肩まで駆け上がる。バーサーカーを締め上げてるからろくに動かない巨人なぞ、ただのオブジェクトや!何か目の前で燃え盛っているけど気にするな!

 

 

改造、装填(カスタム・オフ)。ハアァアアッ!」

 

 

マフラーを右腕に巻いてバーサーカーの腕に改造、強化した脚で熔けかかっていた最後の黒鍵を蹴って跳躍。

 

 

「なんだと・・・!?」

 

「邪魔だ、吹っ飛べ!」

 

 

バーサーカーを燃やす事に集中していて、上空から襲い掛かった私に反応できなかったイフの腹部に右の鉄拳を叩き込む。肘からの魔力放出で加速した強力な一撃はイフをウィッカーマンの肩から大きく殴り飛ばし、共に燃える森の中に落ちた。

 

 

「がはっ!?」

 

「・・・ひっ」

 

 

・・・ああ、もう、考えるな!火とか見えない!何か目の前で轟々と燃え盛って存在をアピールしているけど私は認識しないぞ!赤い背景だ、黒と赤のコントラストだ、熱気は私の記憶が呼び覚ましているだけでただの映像だ、そう思え!トラウマなんかじゃない、むしろこの光景を作り出すあの黒ずくめの魔術師を・・・あれ?

 

 

「・・・ランサー?」

 

「は?俺がクー・フーリンな訳ないだろ、燃やすぞ」

 

 

獰猛な獣みたいな輝きを放つ満月の様な金色の目は違うけど、その群青色の髪と顔はランサー・・・クー・フーリンにそっくりだった。・・・・・・ドルイド、ねえ。まさか血縁な訳無いし・・・・・・他人の空似?

 

 

「何はともかく、これでウィッカーマンは操作できないはず!」

 

「残念、ありゃ俺の命令を聞いて暴れるだけの人形だ。バーサーカーを倒せって命令しているからそのまま叩き潰すぞ」

 

「・・・それは便利。だけど、細かい命令は出来なくなった。それならバーサーカーの敵じゃない」

 

「炎の勢いは収まったが巨躯と再生能力を持つ俺の最高傑作だぞ?そう簡単に勝てないとは思うが・・・な!」

 

「っ!」

 

 

ローブをベルトごと外し、こちらに投げ付けて来るイフ。飛んで来たローブは視界を隠し、私がそれを押し退けると、その隙を突いて突進してきたランサー似の男は杖の先端を突き出してきて、私はそれをバーサーカーの剛腕にしている右腕で防御して左手に持った黒鍵を投擲するも、それはすかさず離れたイフの杖で弾き飛ばされてしまった。

 

・・・しかし、これで何時もローブで隠していたイフの全身が明らかになった。令呪を隠すためか右手にのみ付けられた黒い手袋、黒いオフショルダーとレザーパンツを身に着け、両手にルーン文字の刻まれたシルバーリングをはめていた。・・・ルーン文字と言うのは分かるけど、どういう意味なのか分からないから何か仕掛けてそうで油断できない。しかし、杖を構えるその姿は・・・やっぱりランサーを思わせた。道理で杖が強いはず。

 

 

「俺のサーヴァントは生憎お人形ごっこで忙しくてな。遊び相手のアインツベルンと衛宮はともかく、テメエだけは行かせる訳にはいかないんだよクロさんよ」

 

「へえ、それはなおさら・・・貴方をブッ飛ばして士郎の元に急がないとね」

 

「それでだ。・・・キャスターの乱入でお開きになっちまった先日の決着・・・着けないか?」

 

「前から思っていたけど戦闘狂?生憎、私は正々堂々戦うのは嫌いでね」

 

 

そう言いながら、後ろ手に黒鍵を構える。・・・ああそうさ、私は正々堂々戦うのは大嫌いだ。だから使える手は何でも使う。例えば、周りにあるトラウマだって。

 

 

「そう言わずに……戦おうぜ言峰黒名!Ansuz!」

 

「ッ、Escort the flame(炎を導け)!」

 

 

放ってきた炎に合わせる様に改造した黒鍵を三メートルぐらい離れた横のちょっと盛り上がっている地面に投擲する私。すると、私に向けて放たれた炎は「炎を引き寄せる」様に改造された黒鍵に集束。ついでに近くの炎も引き寄せ、炎が燃えていないステージを作り上げる。

 

 

「オラアッ!」

 

「くっ…!?」

 

 

アンサズが放たれていたと同時に飛び出していた私は、杖を突き出していた体勢のイフに急接近。炎が誘導された事に驚いているその顔に、アサシンへの鬱憤と言う名の怒りを込めた拳を叩き込む。

しかしそれは杖で防がれ、さらに炎を纏った杖による打撃が叩き込まれて私は後退。・・・なるほど、飛ばした炎が誘導されるなら纏う事で戦闘に用いて来たか。

 

 

「…お前の様な気持ち悪い戦い方の魔術師は初めてだ。ケイネスみたく普通に斬撃放ってくる方が分かりやすいんだがな?」

 

「魔術使い、だ。私は弱いからね、策を使うのは当然。魔術師みたく誇りを重要視するのは馬鹿のする事だ」

 

「それは俺も同感だ!」

 

 

するとイフは何を考えたのか、傍にある燃えて黒焦げになっている木に杖をかざす。

 

 

Baumriesen Asche(焼き尽くせ木々の巨人). 其は灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

 

 

すると炎が木を細かく丁寧に切断、複数の小枝となった木を炎が広がり、それは巨大なウィッカーマンの腕を作り上げる・・・ってなにぃ!?

 

 

「使える物は何だって使うぜ、俺の相手は格上ばっかりだからな?」

 

「・・・なるほど、認めたくないけど似た者同士な訳だ。私は「強化」、貴方は「アンサズ」にだけ長けているからかな?」

 

「残念ながら儀式魔術も得意なんだな、これが。準備をするのは大好きでよ?まあ降霊とかは苦手なんだが」

 

「頭いいのか悪いのかはっきりして欲しいね」

 

 

言いながら、蛇の様に動きながらこちらを叩き潰してくる巨腕を避け、右拳を叩き込む。しかし魔力放出で加速した拳でもビクともせず、そのまま薙ぎ払われてしまった。

・・・つえー。上着を脱いだのは周りが燃えて熱くなってきたからかと思ったけど、直ぐ近くに燃やした物を操るためだったか。あのローブ暑そうだったし。・・・炎に当たっても燃えないとか特別性?

 

 

「バーサーカーが倒れるか、お前が倒れるか。どっちが先に折れるか見物だな?」

 

「・・・そっちこそ、どこまでほざけるかな?」

 

 

そう悪態を吐いてみるも・・・私が先に折れそうだ。てか今ので多分肋骨折れた。死ぬ、いや死なない。何故なら・・・正直、頼もしすぎてちょっと引いちゃう相棒がいるから。

 

 

「・・・先に謝っとく、ごめん」

 

「な・・・に・・・!?」

 

「ウオォオオオオオラァアアアアアッ!」

 

 

そんな雄叫びと共に、六天金剛となったバーサーカーに拳をむんずと掴まれ振り回された巨体が宙を舞い、イフの真後ろに落ちた。その胴体に飛び乗り、再生していくその胴体にラッシュを叩き込んでいくバーサーカー。

 

 

「なあ・・・っ!?」

 

 

それに驚愕し、思わず顕現していた巨腕を戻してしまい呆然とするイフ。隙だらけだったので、こちらも渾身の一撃を放つことにした。いや、エミヤに向けて放った程じゃないけど。喰らいやがれ!

 

 

「すっぽ抜けろ!」

 

「今度はなnグハッ!?」

 

 

肘から魔力放出をしたまま、左手でマフラーを外してすっぽ抜けたバーサーカーの腕を模したそれが振り向いたイフの顔に直撃。

 

 

「魔術何て糞喰らえ、“即席ロケットパンチ”だ!」

 

「・・・それは、ない・・・だろ・・・?」

 

 

顔面パンチをめり込ませ、その反動で引っ繰り返されたイフはグルンッと一回転してウィッカーマンの顔にベチャッと叩き付けられた。それを無言で見つめるバーサーカーと、元に戻ったマフラーを回収して首に巻き直した私。さあ、どう出る?

 

 

「クソがっ、ありったけの魔力をくれてやる・・・バーサーカーをそのマスター共々、灰塵も残さず灼き殺せ!

其は万物灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)】!」

 

 

すると、胴体の檻になっている部分に潜り込んだイフが何やら杖を手に魔力を叩き込み、今まで以上の炎を纏い熱気のみで周りの木々を焼きながら立ち上がるウィッカーマン。しかし私は、それを見てもバーサーカーが勝利すると信じて疑わない。

 

 

「・・・バーサーカー、一つ聞くけど」

 

「・・・なんだ?」

 

「最初に戦ったって言う八神将、何かアレぐらい大きくなったあとに地球レベルで大きくなって叩き潰そうとして突き指で死んだって本当?」

 

「ワイゼンの事か?死因は知らんが、アレぐらいの大きさだったら・・・俺の方が強い」

 

 

不敵に笑むバーサーカー。・・・なんか、本当に感じが変わったな。まあいいことだ。元より私は信じるだけだ。

 

 

「頼もしいお言葉。じゃあ任せた、私は士郎の元に急ぐわ」

 

「応ッ!」

 

 

ハイタッチ。どっしり構えたバーサーカーを背に、私は走り出す。逃がさんとばかりに火球弾がウィッカーマンの胸・・・イフの杖から放たれるも、それは全て走り出したバーサーカーが六腕で圧し潰し、その勢いのままウィッカーマンに向けて駆け抜けた。

 

 

「サーヴァントと言えど、俺の切札に勝てるものか・・・!」

 

「・・・デカいだけのデクノボーだ。俺の戦った奴の方がまだ強い」

 

 

振るわれるとんでもない質量の拳を、三連ワンパンチで弾き飛ばす。バーサーカーは一切動じてない、しかしその目は、しっかりと目の前の巨人を捉えていた。

 

 

「奴の方が速かった」

 

 

瞬間、目にも止まらぬ一跳躍でウィッカーマンの眼前に浮かび上がり、拳を振り下ろすバーサーカー。巨体が揺れ、ウィッカーマンは後退するも体勢を立て直して拳を振り上げる。しかし、

 

 

「奴の拳の方が重かった」

 

 

バーサーカーはガシリと右腕を掴んだかと思えば捻じり、もぎ取ってしまう。すかさず踵落しで左腕も破壊、イフが声に鳴らない悲鳴を上げる。・・・もう余裕は無いんだろうな。バーサーカーは、策士であればある程・・・それを崩して絶望させるのが得意らしいし。相性最悪ではなかろうか。

 

 

「奴の方がしぶとかった。・・・お前は、俺の眼中にさえなかった奴の足元にも及ばん!」

 

 

思い浮かぶは、地獄から這い上がって目覚めてすぐ、記憶が曖昧な彼の前で人を襲いミスラの名前を出して記憶を呼び覚ました張本人であるデブの顔。生憎、名前は覚えていなかったのだが英霊になった事でようやく思い出した。

その名はワイゼン、【暴】のマントラの適合者で、無垢なる民から搾り取ったマントラに頼り切り、延々と巨大化する巨躯を持ってアスラを叩き潰そうとするも、決死の猛反撃により倒された八神将にして七星天の中でも最弱と言える者である。

 

 

「それは聞き捨てなるものか!」

 

 

瞬間、周りの木々を組み入れて巨大化し、重量も増したその巨躯でバーサーカーを踏み潰すウィッカーマン。イフは勝利を確信した様だが、それは違う。・・・と言うか、バーサーカーに対して「潰す」は圧倒的に勝ちフラグでしかないと思う。

 

 

「ウオォォォォオオオオオオオオオオオオッ!」

 

「なっ、馬鹿な・・・!?」

 

 

持ち上げ、立ち上がって姿を見せたバーサーカーは歯を食い縛り、上空に向けてウィッカーマンを投擲して己も跳躍。しかしイフも空中で体勢を立て直して巨大な拳を構えて急降下。

 

 

「こんなところで負けるか、とっておきのとっておきだ!Asche zu Asche(灰は灰に) Staub zu Staub(塵は塵に)!」

 

「ウオォオオオオオオッ!」

 

Rotes Kreuz blutsaugenden killer(吸血殺しの紅十字)!」

 

 

バーサーカーの拳とウィッカーマンの拳がぶつかる瞬間、ウィッカーマンの手に炎の十字架が出現して加速。バーサーカーが完全に振り切る前に、空中でぶつかった。

質量+加速+急降下+上からの攻撃。その威力はバーサーカーの拳の有に倍を行っていて、そのまま地面に叩き付けられた。クレーターができ、粉塵でその姿は見えない。・・・が、バーサーカーが折れる事はありえない。

 

 

「・・・行くぞッ!」

 

 

瞬間、拳の下で放たれたバーサーカーのラッシュが炸裂。徐々に、徐々にその巨体を押し上げて行く。

 

 

「・・・ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

砕けて行く、バーサーカーの拳。如何に木製でも魔術で補強されている魔術儀式の産物だ、堅さはウィッカーマンの方が上。それでも、バーサーカーは殴り続ける。それしかできないのはいつもの事だから。

 

 

一つ目、砕ける。

 

 

「ッ!」

 

 

二つ目、折れる。

 

 

「ッ!」

 

 

三つ目、燃え落ちる。

 

 

「ッ!」

 

 

四つ目、拉げる。

 

 

「ッ!」

 

 

五つ目、最後の左腕が潰れた。同時に、ウィッカーマンの押しつける力が緩んだ。理由は分からないが、急激な魔力消費でイフの意識が一瞬途絶えたのだ。・・・恐らく、アサシンの宝具か。

 

 

「ッ、ウオラアッ!」

 

 

その隙を逃すバーサーカーではない。グググググッ、と時間をかけてマントラを込めて握りしめた最後の右拳が叩き込まれ、ついに、罅が入る。その罅は徐々に広がり、ウィッカーマンの全身を覆い尽くした。

 

 

「!? しまっ・・・」

 

「押し通る!」

 

 

その言葉と共に、六つ目、右腕が吹き飛んだ。そして同時に、このアインツベルンの森の燃えている木をあらかた集めて組み立てた巨体のウィッカーマンもまた、粉々に粉砕された。・・・私のトラウマである燃え盛る大きな炎を、バーサーカーが文字通り打ち破ったのだ。

 

 

「調子に・・・乗りすぎたか・・・」

 

「・・・見たくない面だ」

 

 

投げ出され、地面に叩き付けられ白目を剥くイフを確認し、何を思ったのかそう呟いて力尽き、背中から倒れるバーサーカー。

 

残されたのは、バーサーカーの一撃で生じた衝撃波で火が吹き飛び焼け野原となったアインツベルンの森。城方面はまだ無事な木々は残っているが、もう森とは呼べないだろう。

 

 

 

そして、残されたアインツベルンの城の屋根で赤いドレスの少女と緑衣の勇者がぶつかっていた。・・・アサシンって、なんだっけ。もう少し隠れて活動すべきじゃなかろうか。




※イフは生きています。念のため。

今回のバトルの元はアスラズラースの第五話「哀れな男だ」。僕がアスラズラースを知るきっかけにもなったMMD作品の元ネタです。地球レベルの巨大な奴と戦うと言う、アスラズラースの壮大さの決定打とも言えるバトルですね。「A!」やら「B!」やら殴るシーンで思い浮かべた人はきっと仲良くできる。
ワイゼンは通常の大きさでの戦い方が好みなのもあって地味に好き。少なくとも苦手なオルガよりは好印象。

クロナの意外なトラウマ、それは燃え盛る火。焚火でも近付いたらアウトと言うちょっとヤバい奴です。ちなみに設定にも載せてます。イフは本能的な天敵だった訳です。苦しむクロナの顔を見て意地を見せたバーサーカーでした。

そして登場、クーフーリン[キャスター]の宝具としてFGOに登場するウィッカーマン。更なる巨大化、周りに燃える木があれば再生できる、檻の中に入って直接操縦などオリジナル設定多いです。腕だけウィッカーマンもできます。バーサーカーを倒す直前まで追い詰めるなど、普通に強いイフの切札。でも怒りには勝てなかった。


次回、ついにアサシンが宝具真名解放。セイバーと互角の戦いを・・・?感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯32:悪魔が宿りし悪食の器

アインツベルンの森の死闘その二。アサシン回。ついにその宝具と真名が判明します。

今回はアサシンの外道が極まる回。イリヤが泣き、セイバーが怒り、アサシンが嗤う。楽しんでいただけると幸いです。


今でも、覚えている。いや、正確には今も感じている。あの時、狂い果てた私が何をしたのか。

 

 

「お母様~、終わったよ~」

 

「―――。―――――時のみ、その真の力を発揮できる―――!」

 

 

王である馬鹿兄貴の部下の精鋭とか言う奴等を殺害し、お母様の元に戻る私。しかし、お母様は私が帰って来ても意に介さず、兄に向けて自慢げに掲げている人形の話をするだけだ。

 

 

「この子がいれば、私でも―――」

 

「ねえお母様。お母様ったら!」

 

 

前に立ち、顔を覗き込む。意に介さない、ただ頭上に掲げた人形の話をするだけ。私には、その言葉の半数が耳に入らない。聞きたいのは、何時もの言葉。

 

 

――――「■■の暗殺任務も達成…予想外よ、あれだけの戦力でも任務を全うするなんて。  、お前は本当に使い勝手のいい駒だわ」

 

 

任務を終え、お母様の満足する成果を出せば撫でてもらえる。子供の様に、撫でてもらえる。貴方に褒めてもらえるなら、それだけで十分だった。他の物なんていらなかった。

 

 

――――「  、お前は娘だが存在を知られてはいけない不義の子供なの。でも役立つ駒になるなら飼ってあげてもいいわよ」

 

 

母親の言葉とは思えないけど、私は要らない子供だったから、当たり前なのだろう。だけど、それでも。

 

 

―――「そう。■■を殺せたのね、よくやったわ」

 

 

生まれて初めて撫でて貰えたその感覚は冷たくて(優しくて)、もっと欲しくて、嬉しくて。それだけで生きていけると思った。

 

 

「お母様。聞いてよ、お母様、お母様お母様~!」

 

 

お母様だけが私の全てだった。言われるままにたくさんの人間を騙して、裏切って殺した。「よくやったわ」と、撫でられ、抱き締められる。それだけで幸せだったんだ。なのに・・・偽物の娘なのに、演技の娘なのに、私の義理の母親になったあの人といると・・・お母様といるより、心地いい。

 

駄目だと思った。私のいるところはお母様のところだけなんだと、そう思った。全部打ち明ければ、演技のない私でも受け入れてくれるかもしれない・・・そんな淡い思いを抱いたから。

 

 

――――「  ・・・?」

 

 

お母様じゃない母親を、私は背中から刺したんだ。命令もあった。でも、それ以上に・・・このままじゃ何かが崩れると、そう思ったんだ。そうまでして、お母様のために尽くしたのに・・・貴方のために私は悪ノ道を行くのに・・・

 

 

「聞けっつってんだろこのクソアマァァ!!」

 

 

溢れる鮮血。胸元をナイフで一突き、お母様じゃない母親とは真逆。お母様の顔は醜く歪み、若づくりだった顔はいくつもの皺が戻っていた。力なく倒れるお母様の体に、ただ笑みを浮かべ高笑いを上げる私。

 

 

「お母様!?ああ!お母様!酷いわ!なんでこんなことに!?誰が、誰がこんなことを・・・」

 

 

唐突に高笑いを止めたかと思えば心の底から驚く、母親の遺骸に。そして視界には呆然と混乱している様子の馬鹿兄貴。その時私は、本気で目の前の男が母親を殺したと思い込んでいた。

 

 

「・・・お前か!お前がお母様を!ゆゆゆ!許せない、絶対に許せない!殺してやる!殺して殺し殺し殺し―――!」

 

 

表情と共に頭が憎悪が満ちる。いや、頭の中に満ちていたのは今まで殺し続けてきた私の姿。私は、何のために殺し続けたのか、ただその自分への憎悪も目の前の男に重ねていたんだと思う。

・・・お母様は狂っていたから気付けなかったんだ。手駒としか見ていないだろう私が、実の娘が、自分以上に狂ってしまっていた事を。いや気付けよクソアマ、と私の中の誰かが言う。本当にそうだと思う。狂わせた張本人が気付かないなんてお笑い草だ。

 

だから死んだのよ。私の母親面していた奴等は、共に私が狂っている事に気付かなかったから死んだんだ。そうだ、そうだろう。だから私は悪くない。いや、邪悪だ。私程の「悪」は居ない。

 

ああ、私は誰だ。本名か、偽名か。前世の名か。いや、ぴったりの真名があるだろう――――ああ、私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロ姉に後は任せて、アーチャーに掴まって空を飛んでイリヤ達を追い掛け、俺が辿り着いた先。

 

 

「そんな・・・なんでよ・・・セラ!リズ!・・・貴方達まで、私を置いて行くの・・・」

 

 

そこに広がっていたのは、斜めに真っ二つにされ転がっているメイドと、ハルバードを傍らに置いて倒れている頭部の無いメイドの前で崩れ落ち、泣きじゃくるイリヤと、聖剣と双剣をぶつけている緑衣の勇者と赤い外套の男の人智を超えた戦いの光景だった。・・・間に合わなかったのか。無力感が俺を包み込む。

 

 

「なんでだ、何でセラとリズを殺した!アサシン!」

 

「そんなもの、決まっているだろう?」

 

 

そう言って干将・莫邪を叩き付けて爆発させたエミヤシロウに姿を変えていたアサシンは元の姿に戻ってセイバーから距離を取り、ナイフを舌なめずりしながら愉しげに嗤う。

 

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。小聖杯たる彼女の心を完膚無きに壊して私達が手に入れるためよ。そのために、セイバー。貴方と衛宮士郎を彼女の前で殺してあげる。・・・しっかし、抵抗しなければ無傷で屍兵にしてあげたのに。私を傷つけた上に五月蠅かったからキレて殺してしまったじゃない。死体を一から屍兵にするのは時間がかかるのよ?」

 

「・・・もういい、お前は俺が倒す!」

 

「できるものならどうぞ~?」

 

 

瞬間、セイバーの姿が消える。いや、床を踏み砕いて一瞬でアサシンの眼前に迫り、マスターソードを振るう。しかしアサシンはそれを受け流し、高速回転してローリングソバットを叩き込んでセイバーを蹴り飛ばした。

 

 

「なっ・・・!?」

 

「誰かの姿を借りないと弱いなんて、誰が言った?」

 

「なら・・・!」

 

 

するとセイバーが取り出したのは、二つのフックショット。恐らくもう片方はロングショットだろうそれを二刀流で構えたセイバーはフックをあらぬ方向に射出。シャンデリアと、メイドの一人の傍に置かれていたハルバードに突き刺すと引き寄せ、遠心力も伴ってアサシンに叩き込む。

 

 

「さっすが~!でも、隙が大きすぎない?」

 

「じゃあ、こうだ!」

 

 

しかし、真正面から突進したアサシンには当たらず、フックを戻したロングショットを今度はアサシンの胸元に向けて発射するセイバー。それは「は?」と呆けながらも咄嗟に避けたアサシンの肩に突き刺さり、セイバーは間近に迫っていたアサシンを盾で殴り飛ばす。

吹き飛ばされるアサシンにはロングショットが繋がっていて、セイバーはそれを引き寄せると再び盾で殴り飛ばし、吹き飛ばされたアサシンをすかさず引き戻して打撃を繰り返す。殺意の伴ったラッシュに、手も足も出ない・・・かに思えたアサシン。しかし、何度目か分からない打撃により吹き飛ばされる中、にやりと笑った彼女を見て、俺は慌ててセイバーを見やる。盾に、爆弾が取り付けられていた。

 

 

「BOM!」

 

「があっ!?」

 

「ご存知かは知らないけどわたくし、爆弾使いな物ですから。お返しだ死ねえ!死に腐れ!死になさい!」

 

 

盾が爆発により吹き飛び、それによりフックから解放されたアサシンは肩口を押さえて指に付いた自分の血を舐めとると、いきなり狂乱して突進。ポーチから取り出した両手剣を構え直したセイバーに怒涛のナイフによる連撃を叩き込んでいく。

 

 

「ふっ!」

 

「当たるか!」

 

 

それに対し、セイバーが取り出したのはブーメラン。投擲され、その間に取り出したハンマーで応戦しながら返って来たそれで奇襲する戦法らしいが、あっさりと見切られ、アサシンは首を傾げて回避。

 

 

「だろうな・・・!」

 

「がはっ!?」

 

 

しかし、セイバーはそのブーメランをハンマーで殴り飛ばしてアサシンの腹部に叩きつけ、呻いたところにハンマーをしまってブーメランを手に取り高速で何度も振るい、ビシバシ叩かれたアサシンは押されて行く。

とどめと言わんばかりにセイバーは跳躍してブーメランを投げ付け、アサシンがそれを避けて壁に追い詰められた所に背中の鞘から引き抜いたマスターソードを叩き込む。いわゆるジャンプ斬り。

 

 

「デリャァアアアアアアッ!」

 

「ッ!」

 

 

宝具も使わないセイバー最大の一撃は城の壁を両断、その衝撃波で瓦礫が吹き飛んで来て、俺は咄嗟にイリヤの前に飛び込んで投影したエクスカリバーで瓦礫を斬り飛ばした。振り返る、未だにイリヤは泣きじゃくり今どうなっているのか分かっていない様子だった。・・・俺が守らなければ。ただ、そう思い、そして見る。

 

 

「・・・今のは危なかったわ」

 

「なっ・・・!?」

 

 

そこには、服が赤く染まって行って血の様に赤い鉱石らしき物体がドレスの様な形状で服を覆い尽くし、腕ごと赤い鉱石で覆われたナイフで受け止めているアサシンの姿があった。あの、左手に握られているのは・・・グラス?宝具の真名解放か・・・!?

 

 

「見せてあげるわ、このグラスの真の力を。『悪食』の悪魔よ、我が身に宿りなさい!」

 

 

ゴポゴポと赤い液体が空のグラスから溢れ、それは緋色の結晶となってアサシンの頭部以外を完全に覆い尽くし、一気に砕け散る。現れたのは、燃える様な紅を基調としたドレス。ただ、それだけの変化。しかし、それは外見だけであり、その変化は歴然だった。

 

 

「【悪魔が宿りし悪食の器(グラス・オブ・コンチータ)】。・・・真名解放しないと使えないなんて、英霊って不便な生き物ね」

 

「ぐっ、あっ・・・!?」

 

 

マスターソードを構え直したセイバーが、肩口を斬り裂かれて倒れ、鮮血が舞う。マスターソードを杖代わりに倒れずに済んだセイバー。その後ろには、何時の間にかアサシンが移動していた。・・・速過ぎる、ここまでじゃなかったはずだ。

 

 

「簡単に言えばステータスの上昇・・・それに加えて屍兵召喚に使役、こんなものかしら」

 

「ッ、アーチャー!」

 

「!」

 

 

俺は咄嗟に傍で佇んでいた相棒に叫んだ。瞬間、返事する間も無く飛び出し、拳を叩き込むアーチャー。それを、アサシンは簡単に受け止めた。

 

 

「変身は使えなくなったけど・・・十分よね?」

 

「ぐっ!?」

 

 

蹴り飛ばされ、倒れる前にそれに追い付いたアサシンの追撃がその腹部に叩き込まれ、アーチャーはクレーターを作って床に叩き付けられた。

 

 

「アーチャー!この・・・っ!」

 

「前の私じゃアーチャーにも勝てない、なら答えはシンプルよ。変わればいい」

 

 

加勢しようとエクスカリバーを構えて突進した俺の一撃も、軽くあしらわれエクスカリバーを奪われてしまった。軽くそれを振るい、こちらを見やるアサシン。その視線は、まるで虫でも見る様な無感情の物で・・・人を傷つける事に、愉悦を感じていた今までのアサシンとは同一人物とは思えなかった。

 

 

「ブーメランみたいなおもちゃなんかにやられるとか、あー、自分の事ながら恥ずかしい。死ね、死ね、死ねよ、愛を求めるウザい私。感情を持たなければこんなに苦戦する事も無かったのよ」

 

「くそっ!」

 

 

新たにエクスカリバーを投影して、斬りかかる。アサシンの持つ聖剣はあっさり砕けるも、アサシンは焦らずにそこら辺に転がっていたイリヤのメイドのハルバードを手に取り、柄で俺の腹部を殴り付けて吹き飛ばす。戦い方が違い過ぎる、まるで機械だ。

 

 

「感情を持つなんて無駄よ、私はお母様の駒で、サーヴァントは魔術師の道具なんだから。道具に感情なんていらない、だからセイバー。アーチャー。貴方達はそこで無様に転がっている」

 

 

その言葉に思うところがあるのか、セイバーもアーチャーも意識はある筈なのに黙ったままだ。・・・俺は、アーチャーの事をまだ何も知らない。夢を見ても出るのはアルトリアだけだ。クロ姉も桜もイリヤも、自分のサーヴァントの事を分かっていると言うのに・・・ただ、泣きそうな顔で黙っているアーチャーに何もできない自分が、悔しい。

 

 

「そこで死んでるホムンクルスのメイド達もそうよ、そこの餓鬼を守りたいから、裏切りたくないからここに残る?馬鹿じゃないの、たかが道具が弁えなさいよ」

 

「・・・それは違う。セラもリズも、道具・・・人形なんかじゃない。イリヤもだ」

 

「あ?」

 

 

そう言って、立ち上がるセイバーを据えた目で睨みつけるアサシン。マスターソードを構える勇者に対しふんぞり返るその姿は、まさに「悪」だった。

 

 

「皆、この広い世界で生きているんだ。聖杯として死ぬのを妥協しているのは許せないが、イリヤ達は生きている。それを他人が否定するのは許さない」

 

「道具なんかを庇うの?・・・ああ、世界を救うためだけにこの世から居なくなった知人が五人もいるんだっけ?守れないのは、嫌なんだ。それ私も分かるわ、だって守らないと行けない母様を二人共自分で殺したんだもの」

 

「・・・俺は親を知らないからそれがどういう気持ちなのか分からないな」

 

「へえ、そう?」

 

 

心底馬鹿にした様な嘲笑を浮かべ、飛び出したアサシンの一撃がセイバーの首に迫る。が、それは青く光る障壁に弾かれた。結界だ。

 

 

「ネールの愛。確かに俺は知らないがな、それは違うぞ、アサシン」

 

「・・・何が違うのかしら?」

 

「守りたいって思いと、実際に殺して抱いた思いは違うって事だ!」

 

 

ぶつかる。結界を消したセイバーの構えたマスターソードの突きをナイフで逸らしたアサシンの新たに取り出されたナイフを、右手に取り出したフックショットで受け止め、押されながらもマスターソードを振り上げるセイバー。

 

そのまま、人外じみた二刀流の斬撃が交わって衝撃波で窓ガラスを散らし、双方の蹴りもぶつかって大きく弾き飛ばされる。するとセイバーはマスターソードをしまった左手にロングショットを取り出して射出。

奥へと続く廊下の壁にかかった絵にフックを突き刺して跳んで離れると弓矢を構えて炎を纏った矢を放ち、アサシンはそれをナイフで斬り飛ばしながら追いかけて行った。

 

 

「アーチャー、大丈夫か?」

 

 

セイバーとアサシンがこの場から去り、泣きじゃくるイリヤを見ていられなくなった俺はクレーターの中で黙って倒れていたアーチャーの傍に駆け寄っで無事を確かめる。

 

 

「・・・破壊された内蔵の再生は終わりました。問題ありません、追い掛けますか?」

 

「ああ、頼む。俺はイリヤを・・・!?」

 

 

そう言って廊下の方へ振り返り、思わずぎょっと目を見開いた。廊下から衛宮切嗣が率いた屍兵の群れが現れたからだ。

 

 

「・・・邪魔はさせないつもりか。いや、セイバーがイリヤを守るために離れたのに気付いてイリヤを捕えるのが狙いか。アーチャー、悪いけどイリヤを守ってこの場から離れてくれ。こいつ等の相手は俺がする。・・・切嗣だけは、俺が終わらせないと行けないからな」

 

「分かりました、ご武運を・・・と言いたいのですが、無理そうです」

 

「なに?」

 

 

振り向く。泣きじゃくるイリヤを中心に、俺達は囲まれていた。その数、この大広間の過半数を占める程で数え切れない。何時の間に・・・と思ったが、アサシンは屍兵を召喚できるんだ。これぐらい当り前だろう。

 

 

「・・・アーチャーはイリヤだけを守ってくれ。俺の事は気にするな」

 

「ですが・・・」

 

「お願いだ。聞かないなら令呪を使うぞ。・・・俺の家族なんだ、守ってくれ」

 

「・・・了解しました、マスター」

 

 

翼を広げるアーチャー。投影した干将・莫邪を構える俺。行くぞアサシン。魔力の貯蔵は十分か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イフがやられた事に気付いた。気にしない、死んでないなら魔力をそのまま絞り上げろ。

 

 

―――私が何も考えず宝具を使用したせいでやられた?

 

 

人形二人が壊れた事に対し嘆く人形のために奮闘するセイバーを追い掛ける。小聖杯の元には屍兵をありったけ送った、衛宮士郎達が妨害して来てもあの数だ、確保できるだろう。

 

 

―――私が壊し(殺し)たからあの人形(少女)()いている?

 

 

あとはセイバーを戦闘不能にし、小聖杯の前に連れて行って目の前で殺せば、完全に墜ちるだろう。

 

 

―――そのせいで生前の幼き私みたいに心が壊れる?

 

 

様々な考えが過る。あるはずの無い善なる思いが揺れ動く。アハハ、そんなの気にしなくていいじゃないか。何故なら私は――――

 

 

「お前、誰だ?」

 

 

そう問うてくる緑衣の勇者。本来なら隠すべきだろうが、今は気分が高揚している。宝具を使ったおかげで妙に頭がすっきりしている。今の私なら、目の前の英霊を打倒する事など簡単にできるだろう。なら、隠す必要はない。元より、狂い果てた私に弱点など存在しないのだから。隠す方がどうかしてた。

 

 

「私はネイ。ネイ=フタピエと呼ばれた事もあったし、ネイ=マーロンでもあった。でも、私を表す名前なんて一つしかないわ。そう、私の真名は

 

 

 

 

――――――――― 悪 ノ 娘 。

 

 

 

 

 さあ、跪きなさい!!」




アサシンの真名は「ネイ=フタピエ」もとい「悪ノ娘」それこそが彼女の真名となります。言うなればナーサリーライムと佐々木小次郎を合わせたそんな存在。原作小説「悪ノ娘」と漫画版を足したつぎはぎの存在です。詳しくは次回以降。

その宝具、【悪魔が宿りし悪食の器(グラス・オブ・コンチータ)】。ステータス上昇と常時屍兵の召喚及び使役が可能、そして彼女の思考を冷静にする効果。いわゆる強化系宝具ですが、もちろんそれだけのはずがありません。デメリットはこの状態だと常に「ネイ」であるため他者変身ができないこと。その為実力だけで戦うしかなくなります。

そしてセラとリズが殺され、戦意喪失のイリヤ。その前では、士郎と切嗣が戦っていて・・・これが今回の要になるイベントです。クロナが乱入すれば完璧。

次回は、真名を明かした本気モードのアサシンVSセイバー・・・の前に、士郎sideから。クロナがついにイリヤに矛先を・・・?感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯33:衝撃!アインツベルン最後の日

アインツベルンの森の死闘その三。題名で分かるかと思いますが、シリアス半分ギャグ半分です。クロナさんが吹っ切れた。

つめこみ過ぎてVSエミヤ回並に長いです。楽しんでいただけると幸いです。


今よりちょっと過去、切嗣さんが亡くなって数日たったある日。遺品を士郎と共に整理していた時、彼の寝室の隠し戸棚からそれを見付けた。

 

士郎を拾ってからの数年を綴った手記。魔術師関係の事柄について書かれていたそれを、士郎に知られたくないがためにこっそり持ち帰って読んでみた。

 

第四次聖杯戦争の後の顛末について、事細かに書かれていた。アインツベルンの情報収集にちょうどいいと思って読みふけったそれには、こうあった。

 

 

 

旅行と称して日本から何度も離れたのは、娘をアインツベルンから取り戻し救い出すためだと。

 

でも、ドイツ郊外にあるアインツベルン本拠地に何度も攻め込んだが、聖杯を破壊した裏切り者とされ、弱体化した己では力及ばず、ついには諦めたと。

 

でも、聖杯である娘を救うための手段ならば既に考え、準備してあると。その連絡先も記されていた。恐らく、士郎との日常の中でそれだけは忘れないで置きたかったんだと思う。娘が自分を恨んでアインツベルンから離れて日本にやってくる可能性に賭けたんだ。その結果、衰弱死。真面にあの泥を浴びたらそうなるに決まっている。

 

私はそれを、無駄な事をと思いながら眺めてた。どうせ、その「娘」も魔術師としてこの冬木にやってくる。魔術師として立ちはだかるなら、破滅するに違いないから。取り戻せず救えなかった時点でアウトなんだと。

 

 

―――士郎達の元に駆け付けた際に、目の前で泣きじゃくる少女に銃を構える男を見るまで、そう思っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

両腕を掴まれる。何とか振りほどこうとするも、そこに突撃した巨漢のタックルを受け、俺は意識が途絶えかけるのを何とかこらえた。

目の前の屍兵を蹴り飛ばし、逆手持ちで干将・莫邪を投影して屍兵に突き刺し、解放されると共に飛び出して干将・莫邪を一閃して吹き飛ばす、が限が無い。

 

蹴り飛ばす、殴り飛ばす、たまに斬り、突き、薙ぎ払う。アーチャーもイリヤを守るべく落ちていたハルバードを振り回して薙ぎ倒しているが、数が一向に減らない。

 

そうこうしているうちにアーチャーに多数の屍兵が圧し掛かり、身動きが取れなくなってしまう。その隙を突いてイリヤに近付く屍兵達に向け、俺はポケットから拳銃を取り出してイリヤに近付いていた奴等の内、一番大きな奴の足を撃ち抜いて転倒、潰させてその間にイリヤに駆け寄り、エクスカリバーで纏めて斬り飛ばす。

 

ライダーから護身用にと持たされた拳銃・・・確かに剣で斬っても再生する屍兵には有効だ。でも、扱いなれていない俺じゃ限度がある。この状態で切嗣(オヤジ)を倒すのは、はっきり言って難しいだろう。

 

 

「・・・解析開始(トレース・オン)

 

 

ならばと、拳銃の構造を解析する。俺の思考速度なら、構造を理解してそれを元に少々の改造を加えて投影する事も可能・・・よし、イメージできた。

 

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

干将・莫邪を消して、代わりに投影して握ったのは干将・莫邪に酷似した二丁の大型拳銃。銃身に刃が付いていて、撃ちながら斬る事が出来るようにしたものだ。

 

弾をばら撒きながら近くにいた屍兵を斬り飛ばす。弾は常時投影、切嗣のキャリコからばら撒かれる弾を見て次々と撃ち、切り払う。行ける・・・!

 

 

「ハアァアアアアッ!」

 

 

一閃、イリヤとアーチャーに当たらない様に注意しながら振り回し、周りの屍兵を一掃。改めて切嗣に向き直る。数は半分ぐらいに減った。今ならアーチャーを逃がす事も・・・!?

 

 

「がっ!?」

 

「マスター!」

 

 

横から殴り飛ばされた。何事かと見てみれば、そこにいるのは藤ねえの同僚である葛木宗一郎の姿。・・・そう言えば遠坂が言っていたな、バゼットと同じぐらい強かったって。奴の振るう拳を、剣銃を盾に受け止める。しかし双方粉々に破壊され、後退した俺は通常の干将・莫邪を投影して葛木の拳とぶつけ合う、が受け止めるので精一杯だ。

 

 

「ウオォオオオッ!」

 

「ッ!」

 

 

見てみれば、俺の分まで屍兵を担当しているせいかアーチャーがイリヤの守りも覚束なくなっていた。不味い、俺もアーチャーもイリヤを守る余裕が無い。その間にも、切嗣がイリヤの傍まで歩き、銃口をその足に向けていた。身動きが取れなくした後で連れていくつもりか・・・!

 

 

「キリ、ツグ・・・?」

 

 

泣いていたイリヤもそれに気付き、表情が絶望に染まる。駆け寄ろうとするも、葛木が邪魔してくる。

 

 

「やめろォオオオオオオッ!」

 

 

今の精神状態で切嗣に撃たれでもしたら、イリヤの心がどうなるか分からない。しかし叫んでみてもどうしようもない。諦めかけた、その時。

 

 

 

 

「オラアッ!」

 

「ッ!?」

 

 

入り口の方から吹っ飛んで来た丸太が切嗣に横から激突し、吹き飛ばした。屍兵達まで呆然とする中で、俺とアーチャー、そして目尻に涙を浮かべていたイリヤが入口の方を向く。そこには・・・

 

 

「やっと追いついたけど・・・間に合った?」

 

 

バーサーカーと同じ右腕を振り抜いた形で過呼吸で息を整えている、クロ姉の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前、私はバーサーカーとウィッカーマンがぶつかる音を聞きながら焼け野原を駆けていた。瓦礫やら大木の欠片やらが飛んでくるが、基本無視して突き進む。

 

そして見えて来たのは、屋根の上に飛び出してマスターソードとナイフをぶつけ合うセイバーとアサシンの姿。思いっきり城を破壊しながら戦う姿は、暗殺者には見えない。よく見ればなんか服が変わってるし宝具でも使ったのだろうか。だとしたら面倒だ、ただでさえ少ない勝算がさらに下がる。ここはセイバーに任せるが吉だろう。・・・時の勇者ならば、とっておきがあるはずだし。

 

 

そう思い、アサシンの視界に入らない様に城の入り口を目指す。しかし焦ってしまい、枝を踏んでパキッと音を立ててしまった。ピクッと片眉を上げて反応したアサシンは右手を前方にかざし、セイバーの背後に紅い水たまりを出現させてそこから二体の屍兵を召喚してセイバーを羽交い絞めにすると、その間にこちらに振り向き同じように手をかざしてきた。

 

 

「あら、貴方が来たって事はイフはやられた訳?・・・その割にはパスはまだ繋がってるけど」

 

「バーサーカーに任せて来たから大方気絶してるんだろうね。・・・自分のマスターを足止めにするとかバーサーカーより狂ってるね」

 

「マスターをサーヴァントに任せて自身がサーヴァントに立ち向かう方がよっぽど狂ってると思うけど?」

 

「・・・それは俺もそう思う」

 

 

セイバーまで同意して来た。失敬な、これが最善だと思ってるだけです。セイバー戦だと時間稼ぎが狙いだし、私だってマスター相手の方がいいわ。・・・でもさ。

 

 

「赦せない奴の方が、絶対に負けられないんだよね・・・!」

 

「へえ?・・・だったら、貴方が赦せない奴を出してあげるわ!」

 

 

そう言って突き出した手でグッと握り拳を作るアサシン。すると、私の足元からジワリと紅い水たまりが広がり、次々と屍兵が現れ始める。

中でも目立つのは、肉体まで完全に再生している者・・・赤いスーツの男と、オレンジ髪の優男。・・・待て、赤いスーツの男は間違いなく遠坂時臣・・・写真とか記録とかで見た凛の父親だろう。

でも、もう一人は・・・写真とかで見たかもしれないけど、それ以上に鮮明に思い出されるのは、10年前の記憶。

 

無残な姿に変えられた弟の傍で「COOL!」とかほざきながら邪気の無い笑みを浮かべている光景。その側には、ギョロ目の変な格好の男も一緒に嗤っていて・・・ああ、ああ、ああ。

 

 

「アア゛アア゛アア゛アア゛アア゛アア゛アア゛アア゛ッ!」

 

 

脳が燃える様に疼く。動悸が激しくなる、がこれは炎のそれではない。歓喜、狂喜、安堵。感謝さえアサシンに感じるそれは、私の怒りの根源。

10年前の冬木を震撼させた連続殺人鬼、雨生龍之介。聖杯戦争の大海魔騒動の際に何者か・・・後から知ったが切嗣さん・・・の狙撃を受けて死亡し、その死体は警察に回収されたと聞いていた。

第四次キャスター共々、復讐するのは半ば諦めていたのだが・・・やっと、この手で復讐できる。

 

 

「いい感じに苦しんでくれて結構・・・あれ?」

 

 

瞬間、私は雨生龍之介の顔面にバーサーカーの拳を叩き込んでいた。

 

 

「吹っ飛べ!」

 

「ッッッッッ!?」

 

 

ドゴバキャッ!

 

 

人間じゃ絶対にしない音が響き、雨生龍之介は城壁に叩き付けられてダウン。赤いスーツの屍兵の放った炎をイフ戦と同じ炎を誘導する黒鍵を遠坂時臣に突き刺し、自らの炎を持って燃やす。さすがに燃えれば肉は残るまい。そんな事より今は、

 

 

「復讐だァアアアアアアッ!」

 

 

雨生龍之介の首根っこを左手で引っ掴み、右拳を構える。まずは腹パン。続けてフック。アッパーで顎を打ち、そのままタコ殴り。

最後に左手を放し、右手で頭部を鷲掴みして城壁に叩き付ける。潰れた頭を無視して空中に放り投げ、落ちてくる間に拳をググググッと構える。何か屍兵が群がって来ているけど気にするか。噛まれても引っかかれても髪を引っ張られても無視を決め込み、仇敵にとどめを刺さんと振り被る。

 

 

「お前が笑顔で死んだのだけは、絶対に赦さない!」

 

 

お前のせいで、お前のせいで。弟は、人としてあるべき死に方さえできなかった。尊厳を踏みにじられ、道具にされて生かされながらも殺された。例え、待っていたのは劫火に焼かれる最期だとしてもだ、そんな死に方であっていいはずがない。

許すまじ、許すまじ。弟の助けを求める目を見ても、変わり果てた姿に嫌悪し恐怖し目を逸らし、何もできなかった自分も。いや、何もできずあの人に助けられるしかできなかった自分こそ、許すまじ。これは、私のケジメだ。

 

 

「―――――Altars to blow my anger, the receive.(我が怒りの一撃、その身に受けよ)

 

 

バーサーカーの腕にしている右手が炎に包まれる。肘から炎を噴いて周りの屍兵を蹴散らしながら莫大な推進力を生み出し、燃え上がった拳を高速で落ちてきた胴体に叩き込む!

 

 

My anger is should be clear here.(我が怒りこそ此処に晴らすべし)!」

 

 

胴体をぶち抜き、そのままぐるりと回って周りの屍兵を一掃。吹き飛んだ雨生龍之介の屍兵は、骨まで燃え尽きて灰となって空に舞った。・・・ギロリとアサシンを睨みつける。セイバー共々呆気にとられてこちらを見ていた。

 

 

「・・・礼を言うよ、きちんと復讐させてくれて」

 

「そ、そう。気が済んだならいいけど」

 

「お礼に今からアンタをぶちのめす」

 

「丁寧に断るわ。今はこの勇者様の相手で忙しいし、ね!」

 

「ッ!」

 

 

未だに屍兵に拘束されているセイバーに、ナイフを突きつけるアサシン。させるかと言わんばかりに黒鍵を投擲するも、簡単に弾き飛ばされてしまうがその間にセイバーは拘束から脱出、イリヤも使っていたデクの実を叩き付けてアサシンを目暗ましする。さすがだ。

 

 

「言峰クロナ!すまないが、イリヤを頼めるか!衛宮士郎も居る!」

 

「何か問題が?」

 

「メイド二人が殺されてイリヤの精神が参っているんだ。それを守ろうと衛宮士郎とアーチャーが奮闘している、がこのアサシンの宝具は「どこにでも」屍兵を召喚できるらしい。でもアンタなら、何とか出来るだろ?」

 

「・・・・・・アサシンは任せた」

 

 

そう叫び、近くに倒れて落ちていたちょっと大きめの丸太を手に取り、先を急ぐ。・・・いい情報をもらえた。士郎には悪いけど、戦えなくなったイリヤに用はない。アサシンの狙いは間違いなく小聖杯だろうから、私が先に頂けばいい。セイバーを失うことになるだろうけど、アサシンだけならバーサーカーがいるから大丈夫だ。・・・キャスターは、まだライダーとアーチャーもいるしどうにかしよう。これはチャンスなんだ、雨生龍之介に続いてアインツベルンにも復讐できるチャンスだ。

最悪、士郎と敵対関係になるかもだけど・・・どさくさ紛れに撃てばいいかな?

 

 

そんな事を思っていた私の考えは、すぐに改められることになる。・・・そもそも、既にそれは選択肢に上がっていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丸太をぶん投げて切嗣さんを奇襲した私は、辺りの様子を見て状況を把握する。戦えないイリヤを守るために士郎とアーチャーが奮闘している。・・・ああ、もうこれは使えない、な。

 

 

「クロ姉!助かったよ」

 

「士郎、イリヤを守るのは私に任せて士郎とアーチャーで屍兵を一掃して。私じゃ爆発で巻き込むかもしれないから」

 

 

右腕で屍兵を殴り飛ばしながら、それしかできない事をアピール。実際、私の攻撃方法って基本的に足りない攻撃力を爆発で補っているから乱戦だと使えないんだよね。一対多ならともかく。

 

 

「分かった、イリヤは任せたぞクロ姉!アーチャー、頼む!」

 

「はい、マスター。殲滅します」

 

 

イリヤを守っていた時とは段違いの速度で次々と屍兵の胴体を殴り飛ばしていくアーチャー。王様やエミヤシロウの時も思ったけど、アーチャーの定義可笑しくね?まあいいや。

 

士郎とアーチャーが、イリヤを巻き込まないために離れるのを待つ。雑魚はアーチャーが相手して、士郎はこの場で一番強いと思われる葛木宗一郎先生の相手か。・・・話に聞いたところサモエド仮面とも打ち合えてたんだっけ。何それ怖い。まあいい、切嗣さんの屍兵は丸太に潰されているし、士郎とアーチャーの視線もこちらから離れた。邪魔する奴は、誰もいない。

 

 

「イリヤ。聞こえてるか知らないけど、もう戦えないみたいだね。これじゃあセイバーと士郎の足手纏いだ」

 

 

そう言って、外装をマフラーに戻して首に巻き直し、右手に黒鍵を構える私。士郎に嫌われたっていい、此処で殺す。むしろ、何で私は今の今まで我慢して来た?10年待ち望んだ復讐対象がすぐ傍に居たんだぞ。士郎と敵対する事になるから?聖杯戦争で不利になるから?

 

・・・いいや、違う。単に迷っていたんだ、イリヤが魔術師なのかそうでないのかを。今でも迷ってる、ホムンクルスのメイド達の亡骸に泣きじゃくるその姿は、魔術師のそれじゃないのは分かっている。ただの寂しがり屋なんだろうとも。

 

だがそれがどうした?イリヤはアインツベルンの魔術師だ、理由はどうあれ自分で冬木に赴き、士郎を殺そうとしていた事実は変わらない。なら、迷うな。踏ん切りがつかなくなる前に殺せ。今ならチャンスだ、「足手まといだから」と言う大名義分で殺せる。自分を正当化する気はないが、もしかしたら士郎達にも嫌われないかもしれないじゃないか。

・・・いや待て、私は何を考えている?別に嫌われたっていいだろう、私は独りだ。独りで地獄への片道を歩いている復讐者だ。だったら士郎達に嫌われたって問題ないだろう。・・・そもそも何で、私は士郎達に必要以上に接している?

 

ああ駄目だ。雨生龍之介と遭遇してからの熱が、変な風に考えさせてくる。イリヤを、アインツベルンを生かそうと思い始めている。私と同じだから、救えと誰かがほざく。

 

 

「・・・だから、死ね」

 

 

私はそれを振り払うように黒鍵を投擲した。全然力が入らずに投擲された黒鍵はいつも程じゃないにしても、それなりの速度で少女の額に迫る。私は突き刺さる瞬間、爆発するべく構えた。でも、それは。

 

 

Time alter―square accel(固有時制御・四倍速)

 

 

そう唱えてすぐに凄まじい速度で丸太を押し上げ、イリヤを守る様に立ちはだかった切嗣さんの胸に突き刺さり、そのまま私に突進してきた。

 

 

「グッ!?」

 

 

突き飛ばされ転がった私は起爆。切嗣さんの屍兵は胸から上が吹き飛び、崩れ落ちた。・・・反応できなかった。でも、今この屍兵は・・・

 

 

「キリ、ツグ・・・?」

 

「・・・丸太で潰した時にアサシンの繋がりが切れたのか?」

 

 

倒れた切嗣さんに、我に返るイリヤ。思考する私。・・・いや、その考えが正しいにしても、死体に意識が戻る?そんなことがありえるか?・・・それほどまでにイリヤを守ろうとしていた、と考えれば納得は行くけど・・・

 

 

「ハァアアアッ!」

 

 

見れば、葛木に殴り飛ばされながら無手の拳を突き出し、その瞬間にエクスカリバーを投影して葛木を貫いて勝利した士郎の姿が。既にアーチャーも殲滅を終えていた。・・・イリヤを殺す事は出来なかった、か。・・・これを機に諦めるかな。

 

人間とホムンクルスの混血児、それが私の知るイリヤの出生だ。その時点でアインツベルンの悪趣味さがよく分かる。

 

10年前の聖杯戦争で母親を失い、それを「聖杯だから」と考えているからその死を悲しんでさえいない。

 

しかし、唯一残った父親は10年間帰らず、恨み続けて。彼女は知らないけど、その理由は彼女が尽くそうとしているアインツベルンそのものであって。

 

その怒りの矛先として、士郎を狙って。

 

何だ、よく考えてみればイリヤに悪い所は何もないじゃないか。私達と同じ、被害者だ。駄目だ。やっぱり、見捨てられない。・・・説明はすべきだな。

 

 

「ごめん、イリヤ」

 

「・・・今さら何よ。私を殺そうとしていた癖に。・・・恨んでいた切嗣に守られて助かるなんてお笑い草だけどね」

 

「私は笑わない。切嗣さんの思いが届いて、よかった」

 

「どういうこと・・・?」

 

 

呆けてこちらを見上げるイリヤに、私は懐から一冊の古ぼけた手帳を取り出した。手入れしてないから染みだらけだ。私は士郎に向き直り、無言で手を動かして呼んだ。

 

 

「どうしたんだ、クロ姉?」

 

「まず、ごめん。私は今、イリヤを殺そうとしていた。でも、無理だ。だからイリヤの答えで決めようと思う。・・・これは切嗣さんの手記。士郎に魔術に関わって欲しくなかったから黙って持ち出した物。読んで、そして決めて。イリヤはどうしたいのか」

 

「う、うん・・・」

 

 

何時もの私とは違う真剣な態度にたじろぎながら頷き、私は士郎を連れてちょっと離れた窓の下に向かい、そして手記の内容をあらかた伝えた。さすがに手記の方も「泥」の部分は消して置いたが。アレを知られたら不味い。

 

切嗣さんは「戦いの根絶」「恒久的な平和の実現」を叶えるべくアインツベルンのマスターとして聖杯戦争に参加した事。

 

イリヤはその際8歳で、母親であるアイリスフィールの後継機「最強のマスター」として調整された存在であること。ついでにイリヤの方が年上だとも説明した、士郎は驚いたが同時に納得したらしい。

 

切嗣さんは聖杯戦争に勝利するも、聖杯の真実を知って拒み、サーヴァントであるセイバーに令呪の重ね掛けをして宝具で聖杯を破壊した事。その時士郎が「アルトリアのことか」と納得していた。

 

しかし、拒んだことにより聖杯が別の人物の願いを叶えた事であの大火災が起きた事。自分のせいで起きた様な物である火災の中必死に生存者を捜し続けて士郎を見付け、本当に安心した事。

 

士郎を引き取って落ち着いた後、旅行と称してアインツベルンにイリヤを迎えに行ったが、裏切り者とされて拒み続けられ、それを何度も繰り返したが弱った自分ではイリヤを助け出す事は敵わなかった事。それを、イリヤは恐らく知らないだろうとも書かれていた。本当にそうだったらしく、見ればイリヤが再び泣き出していた。

・・・ちなみに、やっぱり私の保護者は知らない様だ。知ったら多分どんな手を使ってでも私を引き取りに来ただろうけど、その場合は王様が殺していたかな。

 

 

とまあ、全部話した。士郎は黙って怒りに震え、アーチャーは無言でその側に控える中、私はイリヤに歩み寄った。

 

 

「それで、どうする?まだ、アインツベルンのために聖杯として終わる気?」

 

「・・・既にランサーが脱落して、私の聖杯としての機能は働き始めてるわ。もう遅い」

 

「そうじゃないんだなこれが。切嗣さんは貴方が聖杯として調整されている事も見越して、「人形師」って封印指定の魔術師を探し出して話を付けたらしい。手配すれば直ぐにでも本物同然の肉体を用意してくれるらしいから、貴女が救われたいなら私が手配する。・・・私としても、貴女は被害者だからアインツベルンから離反すると言うなら止めはしないし、もう殺そうとは思わない。むしろ守る、だからイリヤがどうしたいか教えて」

 

 

もう、イリヤは殺さない。そう決めたけど、これでもまだアインツベルンの悲願のために戦おうとするなら彼女はアインツベルンだと割り切って殺そう。・・・なんだろ、甘くなったな私。

 

 

「・・・もう、アインツベルンには帰らないわ。キリツグに会わせてくれなかったなんて、知らなかった」

 

「そう、よかった。士郎、提案なんだけどさ」

 

「何だクロ姉。俺は今、手が届かないところにいる巨悪に何もできなくて悔しいんだが」

 

「手が届くよ、士郎なら」

 

 

そう笑い、私は士郎にその提案を話す。魔術の秘匿?正義の味方としての意義?そんなの知らん。許せないから殴って何が悪い。私達には、それをする権利がある。

 

 

「・・・『M』から手を退けとか言われていたけど、今やっと理解したわ。私がアインツベルンに残ったままだったら酷い死に方だったんでしょうね」

 

「切嗣さんが守ってくれてよかったね」

 

 

イリヤさん、据わった目をしてるけどそれは私に対して?それともアインツベルンに対して?まあどっちでもいいや。少し考え、頷いた士郎は右手を掲げる。光るのは翼を広げた天使の様な形状の令呪だ。

 

 

「アーチャー、令呪を以て頼む」

 

「命じる、でよいのでは?」

 

「いいや、俺はお前に命じるなんてしないさ。だから頼む、アインツベルンの本拠地に宝具を撃ち込んでくれ」

 

「承知しました、マスター」

 

 

何やら「人じゃない」やら「人形」だとか聞いてから目が沈んでいたアーチャーは何所かやる気を増して頷き、天井をぶち破って飛び上がった。

・・・うん、今日は本当にいい日だ。10年もかかった復讐が一気に二つも片付くなんて。士郎が頷いてくれてよかった、自分の恩人の身内であるイリヤを思う怒りが正義感より上回ったらしい。そうだ、アインツベルン滅すべし。

 

 

 

 

 

令呪のブーストを受けた超音速で飛翔し、ドイツの空に浮かんで黒い弓と矢を構え、引き絞るアーチャー。その眼下では城の中であたふたする白髪のホムンクルスやら翁の姿が見える、がアーチャーはマスターからの令呪以前に、許せなかった。死ぬことが前提で作られた人形を作りだした存在を。

 

冷酷な目で標的を捉え、弦を放すアーチャー。

 

 

 

「【最終兵器・空ノ落し物(APOLLON)】」

 

 

 

その日、ドイツの郊外に存在する巨城がその周りに広がる広大な森ごと焼滅した。

 

 

 

 

 

 

それを確認した『M』が「そう来たか」と爆笑し、クロナもまた笑みを隠しきれず「アハハハハハハハッ」と不気味な笑い声を上げて士郎とイリヤに引かれたのは別の話。




ツッコミ不在の恐怖。おい誰か止めろ。ついに士郎とイリヤがクロナの考え方に共感してしまったの巻。桜も似た様な物だし、凛が最後の希望か。

何気に士郎がオルタな戦い方を編み出したり、クロナが謎の炎を出し始めたり、色々魔術的にも動きがあったり。地味に士郎の令呪が残り一画になりました。二画ともドブに捨ててると言うね。

龍之介をフルボッコ、時臣氏を焼き殺し、切嗣の頭を爆散させ、アインツベルン消滅。ついでに士郎が葛木を串刺し。容赦ないオーバーキルでした。これでもまだクロナの怒りは消えないんだからヤバい。その代わり生き残り、クロナに赦してもらったイリヤさん。切嗣の動向を知って、アインツベルン裏切る事に決めました。正直知っていたらヘラクレスを大暴れさせてアインツベルン壊滅させてても可笑しくないと思うんだ。

ちなみに分かるかと思いますが、クロナの思考は割と極端です。聖杯戦争開始直後とは思考がかなり変化してます。後先細かく考えていたのから、後先考えなくなった感じ。直情的なのはちょっとアスラに似て来た。

アサシンの宝具効果、屍兵召喚はニトクリスのミイラ召喚と似た様な物です。どこからでも召喚して羽交い絞めにもできる。しかも制限なし。これを上手く使えば・・・

さて、次回。ついに勃発アサシンVSクロナ。クロナの「起源」が判明、そして―――・・・?
感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。



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♯CP:第五次聖杯争奪レース

唐突ですが今回は息抜きと言う事で、本編とは何も関係ない番外編。カニファン編です。クロナ達の第五次聖杯戦争メンバーでレースをしたらとんでもないことになったの巻。

皆で仲良く(?)ワイワイやっている聖杯戦争。楽しんでいただけると幸いです。


聖杯戦争が中止になった。もう何か色々あって魔術の秘匿とか難しすぎてやってらんないな事態になったらしく、こうなったら街ぐるみで勝者を決めちゃおうと言う事になったのだ。もちろん、私は反対だ。関係ない一般人を巻き込む訳には行かない、そう思っていたのだが・・・

 

歓声が響くサーキット。殺伐としていないマスターとサーヴァント達を見て、気が削がれた。ま、いいか。聖杯とって例の手段で正常に戻して魔術師消えろとか言えばそれで全部終わるんだし。

 

 

「さあやってまいりました!お日柄もよく青空が広がる爆発日和!只今より、第五次聖杯戦争の変更による聖杯争奪チャンピオンシップを開催いたします!」

 

 

何かえげつない事言っているあの実況は間違いなくタイガーだな。

 

 

「実況はわたくし!冬木の虎こと藤村大河がお送りします!」

 

「解説は聖杯戦争監督役でもある私、言峰綺礼が担当する。では聖杯戦争のマスター達、全9人よ。それぞれの命運を分けるマシンをくじで選びたまえ」

 

「マシーンは厳正なくじ引きによって決定しまーす!」

 

 

父さんは何やってるんですかね。集まったのは私とバーサーカー、士郎とアーチャー、凛とランサー、イリヤとセイバー、桜とライダー、イフとアサシン、間桐慎二とキャスター、バゼットさんとエミヤシロウ、『M』と通りすがりのサーヴァントだと言う黒い靄に覆われた騎士甲冑のバーサーカーの全18人の9チーム。

父さん曰く王様が乱入するかもしれないがそれはスルーしてくれとの事らしい。さすが王様、フリーダムだ。

 

籤を引くのはそれぞれのサーヴァントだ。最後に『M』のバーサーカーが箱ごと机を叩き割ると言う事態が起きたが今は無視する。さて・・・

 

 

『選手紹介!まずは魔術による魔改造が期待される優勝候補、クロナ&バーサーカー組!マシーンは・・・おおっと、これはハズレの「名も無き三輪車」だ!』

 

「かっこよく言ってるけど三輪車!?」

 

「・・・漕げばいいのか?」

 

「うん、ちょっと待って何とかする」

 

 

平凡な三輪車。三輪自動車じゃない三輪車だ。ふざけんな。おい運営のタイガー!貴様だな顔が笑ってるぞ!

 

 

『お次はただ成り行きで参加している士郎&アーチャー組!引いたのは・・・おおっと、これは当たりかハズレか分からない「自前」カードだあ!」

 

「自前って言われても自転車しかないんだが・・・アーチャー、行けるか?」

 

「全力を尽くします」

 

 

持って来たのはママチャリだった。・・・アーチャーって騎乗スキル無かったはずだけど大丈夫かな?しかしいいな、私達よりマシだ。

 

 

『こちらはハイスペックによる優勝候補、イリヤ&セイバー組!引いたのは今大会で最もレースに適した「マ●オでエ●トなカート」だあ!』

 

「・・・カート?」

 

「キリツグと遊んだことがあるから任せて!」

 

「いや、10年前のじゃ当てにならないぞイリヤ・・・」

 

 

イリヤ達は色々アウトだけど今大会で一番真面だろう緑色の小型レーシングカーだった。そう言えばゲスト参戦してたね。

 

 

『お次はこちらも優勝候補、凛&ランサー組!マシーンは「ゲイボルカー」だ!』

 

「いいマシーンだぜ。優勝はいただきだな!」

 

「いや、あのね、ランサー、聞いて?」

 

「行くぜ俺のゲイボルカー!」

 

「聞きなさいよ!・・・あ。うふふふ、正々堂々頑張りますので応援してくださいね。・・・どんな汚い手を使ってでも勝つわよ!」

 

「俺は正々堂々スピードで勝つぜ!」

 

 

真っ赤なドラッグマシーンだった。ランサーの幸運はE・・・あっ(察し) 逝くぜの間違いじゃないかな?しかし凛さん、カメラ気にするよりまずは自分の安否を気にしようよ。

 

 

『続けて、騎乗兵としての意地を見せてやると言わんばかりに何時にも増してやる気マシマシの桜&ライダー組!引いたのは「サイドバッシャー」!ダントツの優勝候補だあ!』

 

『・・・誰でも彼でも優勝候補と言っていないかね?』

 

『ツッコミは受け付けませんの事よ!』

 

「桜、行くわよー!聖杯掴んでこの世全ての飯食ったるわ!」

 

『キノがやる気を出すと大体上手くいかないんだけど・・・』

 

「・・・事故はしない様にお願いね、ライダー」

 

 

サイドカーか・・・いいなあ・・・私なんか後輪の上に乗るしかないんだけど・・・てかアレ、特撮の奴に似てるんだけど本物?

 

 

『続いて!「ゴールデンベアー号」と言う今大会きっての大当たりの引き抜いたイフ&アサシン組!』

 

「もし負けそうなら他のマシン焼いてやろうかと思ったけどこれなら楽勝だな!何せ宝具だ、信じられないが!」

 

「・・・ねえイフ?」

 

「何だアサシン?怖気付いたのか?」

 

「・・・・・・・・・これ、どうやって動かすのかしら?」

 

「は?」

 

 

勝ったな(確信)。騎乗スキルが無い奴はこれだから・・・まあバイク何て知らんわな。しかしあんな子供みたいに興味津々なアサシンはそう見れないね。

 

 

『次は自称優勝候補、慎二&キャスター組!引いたのは~・・・ブフッ!ぷ、プクク・・・』

 

 

うん?どうしたんだタイガー?

 

 

『クククッ・・・失礼、実況が笑い転げてそれどころじゃなくなったので私から説明しよう。彼らが引いたのは「リヤカー」だ』

 

「は?」

 

 

見てみる。そこには、普通に二輪の荷車の上にバランスを取って乗ってる中国系の男と怒りに顔を歪ませたワカメがいた。・・・三輪車はまだマシだったか、哀れだ。キャスターの方は陶器の面を付けているからよく分からないけど、二人共怒りに震えているのかコメントはない様だ。

 

 

『藤村大河ふっかーつ!は、お次は・・・飛び入り参加!バゼット&赤いアーチャー組!赤い方!引いたのは~・・・ゲットマネー号ゥ!』

 

「・・・何故か、あかいあくまと一緒に乗らなければいけない気がするぞ・・・」

 

「私も赤いですよ、アーチャー」

 

「いやそう言う意味ではなくてだな・・・善処しよう」

 

 

飛び入りの癖してオープンカー。羨ましい、パルパルパルパルパルパルパル・・・

 

 

『そして最後の飛び入り参加!Dr.『M』と謎のバーサーカー!叩き割った籤の中から選んだのは~!』

 

「え、ずるくない?」

 

『バーサーcarことタンクローリーDA!』

 

「・・・オリジナル設定の声優ネタか、つまらん」

 

「Arrrthurrrrrr!!」

 

 

タンクローリーが何か黒くなって宝具になった。卑怯、さすが『M』卑怯。

 

 

『さあ、各車グリットに出揃いました。言峰さん、何時も以上にカオスで大混戦が予想されますがいかがでしょう?』

 

『いい加減魔術協会も聖堂教会も財政難ですので出来る限り被害を最小限にしてほしいですね。我が娘からして無理でしょうが』

 

『さあ、いよいよです!チェッカーを受けるサーヴァントとマスターは誰なのか!今シグナルが赤から・・・青に変わった!各車一斉にスタートしました!おおっと?ものすごいスピードで前に踊り出たのは・・・ランサーのゲイボルカーだ!』

 

 

突っ走る赤い閃光。それに続く私達。しかしさすがはドラッグマシーン。ゲイボルク並みに速いね。でもその先にはカーブだ。

 

 

「最高だぜ、俺のゲイボルカー。このスピードたまらねえ!」

 

「・・・ねえランサー、知ってる?」

 

「あ?何をだ嬢ちゃん」

 

「ドラッグマシーンはね・・・曲がれないのよ」

 

「え」

 

 

瞬間、呆けて慌ててハンドルを切るランサー。しかし意味が無い、するとヘルメットを被った凛がランサーの肩を掴んで立ち上がり、その手に握った宝石をカーブに向けてぶん投げた。

 

 

「でも関係ないわ!」

 

「おう!そうだなマスター!突っ走るぜ!」

 

『おおっと!ランサーが死んだ!この人でなし!かと思いきや、何と凛選手、宝石魔術の爆発を利用して無理矢理曲がった~!』

 

『凛はアレで案外ガサツなところがあるからな。しかし愉悦できなくてつまらん』

 

『そうですか。おおっと、次に躍り出たのは・・・ライダーとセイバー組だあ!続いて赤いアーチャー組と・・・なんと、三輪車と思わしき乗り物を全力で漕いでいるバーサーカー組がランサー組の前に踊り出たぁ!何と言うスピード!アレ三輪車じゃねえ!』

 

『クロナの改造魔術だな。容積を大きくできないはずだが、ゴミ置き場から漁った物で補ったらしい。以前、拾った空き缶で爆弾を作っているからありえない話ではない』

 

 

フッフッフ。魔改造を甘く見たらいけない。周りのスクラップを使って三輪車を自転車並みに大きくして、あとは強度を高めただけだがそれでもバーサーカーにはちょうどいい乗り物になる!フハハハハッ、どうだ凛、イリヤ。私達の勝利だ!・・・ん?

 

 

「どいてどいてどいて~!?」

 

「だから言った通りに動かせアサシン~!?」

 

 

何か目の前に猛スピードで飛び出したバイクがガードレール突き破って思いっきり落ちて行った。そう言えば馬ぐらいしか乗り物が無い時代の英霊だったっけ…バイクとか知らないわな。気にしないでおこう。それより気になるのは見えない士郎と『M』、そして何よりレースになるとは思えないキャスター組だが・・・んん!?

 

 

「騎乗Aを嘗めるな!」

 

「ハハハハハッ!僕のキャスターは最強なんだ!」

 

『おおっと!レース初心者アサシンが勝手に脱落したかと思えば躍り出たのは何とキャスター組!絶妙なバランスでスピードを取っているぞ!』

 

『なぜ彼がライダーで召喚されなかったのかぜひともツッコみたいな』

 

「はあ!?」

 

 

何か、リヤカーを、スケボーかソリ見たく操って追い上げて来ているキャスターとワカメがいた。・・・サーヴァントすげえ。

 

 

「キャスター如きがライダーの私にレースで勝とうなどと片腹痛い・・・わぐっ!?」

 

 

サイドカーを運転しながら背後に向けて挑発していたライダーが、突如空から降って来た車輪に踏まれてダウンし、そのままリヤカーに跳ね飛ばされて桜共々道から外れた。見れば、それは・・・

 

 

『っと!ライダー選手の頭を踏み付け、空から降り立ったのは何とスタート時からママチャリを持ち上げて飛翔していたアーチャー選手だあ!いいのかアレは!』

 

『乗ってるからセーフじゃないか?』

 

 

翼を羽ばたかせて、走っているよりは飛んでいると表現した方が正しい速度で突っ込んでくるアーチャーだった。士郎はアーチャーの腰に手を巻いて掴まってはいるが泡吹いてる。どんな速度で飛んだんだ。

 

 

「・・・アーチャー、私達は棄権しませんか?」

 

「そうだな、そうしよう」

 

 

あ、呆れたバゼットとエミヤが道から外れてどっかに帰って行く。いや、呆れるのは分かるけど一応これ聖杯戦争だよ?とか思ってたら、全力でペダルを漕ぐバーサーカーの横をかっ飛ぶ赤い影。ランサーのゲイボルカーだ。

 

 

「三輪車なんかに勝ちは譲らないわよ、クロ!」

 

「マスターを優勝させます・・・!」

 

「ウオラァアアアアアッ!」

 

「僕を馬鹿にするのも大概にしろ!」

 

 

バーサーカー、ランサー、アーチャー、キャスターが拮抗する。くそっ、このままじゃ負ける・・・!さすがに三輪車じゃ疲労がヤバい!

 

 

「アイテム、ボム兵!」

 

「え?」

 

 

ポーン、と何かが目の前に投げられ、爆発が起きてリヤカーが吹っ飛ぶ、私達もスピードを落とした。そこに躍り出たのは、緑の車体。

 

 

「マ●オカートならキリツグに何度でも勝利してるんだからー!」

 

「アイテムが爆弾ぐらいしかないけどな」

 

 

セイバーと、イリヤだった。そんなのありか。

 

 

『レース序盤から大波乱になって来た聖杯グランプリ!ここでトップに躍り出たのはセイバー組!このまま勝利は決まってしまうのか!』

 

「それはどうかな?」

 

「Arrrthurrrrrr!!」

 

 

今度は何だ?ってこの声はもしかしなくても・・・

 

 

「タンクローリーDA!」

 

「ええっ!?きゃあああああっ!?」

 

「うわぁああああっ!?」

 

 

何か、イリヤ達の頭上からタンクローリーが降って来て二人を吹き飛ばしてしまった。先頭に躍り出たのは、『M』と謎のバーサーカーだ。

 

 

「レースなんてまどろっこしいからな!ショートカットさせてもらったぞ!」

 

「Arrrthurrrrrr!!」

 

 

アスファルトを削り、爆走するタンクローリーを必死に追いかけるバーサーカー、ランサー、アーチャー。・・・9組いたのにもう四組しか居ないってどういう事なの・・・?

 

 

「俺の勝ちだ!聖杯は爆弾にしてぐだぐだ領域を作ってやる!」

 

「それはヤメロ!」

 

 

そんなことされたらシリアス保てないじゃないか!とか思っていたら、高笑いが聞こえた。

 

 

「フハハハハハハハッ!誰の勝ちだと?雑種!(オレ)の独壇場に決まっておろう!」

 

「ここで王様!?」

 

 

タンクローリーのさらに上から飛び出して来たのは、ギルギルマシーンに乗ったライダースーツ姿の王様。一気に一位に躍り出た。

 

 

「つまんねえ飛び入り如きに負けるなバーサーカー!」

 

「Arrrthurrrrrr!!」

 

「無駄だ!天の鎖(エルキドゥ)ォ!」

 

「なあっ!?」

 

 

うわぁ・・・鎖に縛られ、動けなくなったタンクローリーの真横を通る私達。・・・うん、『M』。貴方の敗因はただ一つ、お前は王様を怒らせた。

 

 

「ふざけんな面白くねえぞ!」

 

「愉悦だ、雑種よ。・・・クロナ、やるがいい」

 

「あ、ほいっと」

 

 

王様に言われて、気付いた私はすれ違う瞬間、タンクローリーに黒鍵を突き刺してそのまま走る。それに続くランサー、アーチャー。次の瞬間、大爆発を起こして『M』と謎のバーサーカーはどっかに飛んで行った。邪魔者は消えた!次は・・・!

 

 

「バーサーカー、私をガードレールの近くに!」

 

「任せろォ!」

 

 

ギャリギャリと絶妙なコーナリングでガードレールに近付くバーサーカー。私はその肩を右手で掴みながら左手でガードレールに触れ、視界にゲイボルカーを見定める。

 

 

Case of denial(妨害せよ)!」

 

「なにぃ!?」

 

「ちょ、まっ・・・クロォオオオオオオッ!?」

 

 

瞬間、ゲイボルカーの前にガードレールがにゅっと動いて行き止まりを作り、さすがに爆発で急に曲がる事は出来ないため激突。ランサーと凛は爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。衝撃で目を覚ます士郎が叫ぶ。

 

 

「ランサー(と遠坂)が死んだ!?」

 

『この人でなし!』

 

『魔術を使うのは何も問題ないですね』

 

 

さすが父さん、話が分かる。人でなしと言われようが優勝は私だ!と言う訳で恩人と守るべき人間だけど王様と士郎!覚悟しろ・・・!?

 

 

『おおっと、ここでどこからか爆撃が!一体何でしょう?』

 

『これはライダー選手のマシン、サイドバッシャーですね。本物同然の代物なのでロボモードに変形してミサイルを撃ったようです。くれぐれも市街には被害を出さないでください』

 

 

空から降って来たミサイルが私と士郎、王様の真ん中で爆発し、宙を舞う私達。見れば、こちらに向かって再び撃とうとしているライダーとその背中に担がれ気絶している桜を見付け、私は三輪車を蹴って空中に飛び出し、マフラーを弓にして黒鍵矢を番え、放った。

 

 

「一度落ちた奴が邪魔するな!」

 

「ギャー!?」

 

 

それはサイドバッシャーに突き刺さり、爆発。ライダーが悲鳴を上げて転倒するのが見え、私はマフラーをパラグライダーに改造して滑空、先に着地していたバーサーカーの背後に飛び乗って王様と士郎を追いかける。

 

 

「後はもう直線しかない、勝負だバーサーカー!全力で走れぇえええええっ!」

 

「ウオラァアアアアッ!」

 

「邪魔者を退けるとはやるなクロナ!だが、そう簡単に勝利は譲らん!」

 

「マスターを絶対に勝たせます・・・!」

 

「飛ぶのはいいけど、俺を落とさないでくれよアーチャー!?」

 

 

ラストスパート、三者並ぶ。マシンの性能は随一であろう王様、怒れば怒る程速度が増すバーサーカー、飛んで補っているアーチャー。誰が勝つか分からない。

すると何か士郎がエクスカリバーを投影する準備をしていて、王様も側に浮かばせた波紋から天の鎖(エルキドゥ)を射出する気満々だ。うわっ、先っちょ出して一位になる気か。なら私もマフラーを伸ばして・・・

 

 

『おおっと!?三者のラストスパートで終わると思いきや、最下位から追い上げている選手がいるぞ!?』

 

『アレは・・・アサシンか?』

 

『ゴールデンだあ!』

 

 

振り向く、そこには黄金の光を纏ってゴールデンベアー号を爆走させる、赤いドレス姿のアサシン・・・何で宝具使用してるの!?

 

 

「使い方が分からないからとりあえずスペックで乗りこなす!・・・ベアハウリング!!ゴールデンドラァアイブ!!」

 

 

何時もは出さない勇ましい声を出して、気絶したイフを担いだアサシンがこちらに一直線に迫ってくる。もう目と鼻の先、いや一メートルも無い。速過ぎる・・・!

 

 

「勝利は(オレ)の物だ!」

 

「いえ、マスターに捧げます・・・!」

 

「ミスラァアアアアッ!」

 

 

ああ、もうバーサーカー狂化してまで勝つ気だ!でも、背後にはアサシンが迫っている訳で。

 

 

「かっ飛ばすわよ・・・グッナイ!!」

 

「よもやそこま・・・ガアァアアアアッ!?」

 

「なんでさー!?」

 

「マス・・・ター・・・」

 

「ドゥル・・・ガァ・・・」

 

「ゴールデン・・・!?」

 

 

坂田金時の対軍宝具「夜狼死九・黄金疾走(ゴールデンドライブ・グッドナイト)」が炸裂し、私達三人は為す術もなく吹き飛ばされ、

 

 

『これは飛んだ番狂わせ!見事な轢き逃げで勝利を掴んだのは、アサシン選手!凄まじいゴールデンだァ!』

 

『最初の脱落したかに思えたアサシンの追い上げ、見事だった。だが、公共物に被害を与えないでもらいたいものだな』

 

 

勝利したアサシンがそのまま壁に激突して大爆発を起こしたのは、言うまでもない結果だった。

 

 

「爆発オチなんてサイテー!」

 

 

何かイリヤの叫びが聞こえた気がする。・・・遠坂時臣の有名な敗北フラグを言ったのが敗因か、おのれうっかりの呪いめ・・・がふっ、轢かれるって火事よりヤバいのね・・・

 

 

あ、ちなみに優勝のアサシンが吹っ飛んだので、願いは「普通の聖杯戦争にしてくれ」って事になりましたとさ。聖杯で聖杯戦争を願うとか何この矛盾。




クロナ:三輪車(魔改造)
士郎:自前(空飛ぶママチャリ)
イリヤ:普通にマ●オなカート
凛:ゲイボルカー(爆発で曲げる)
桜:サイドカー(ライダーだから最強!→落とされたから逆ギレ)
イフ:ゴールデンベアー号(使いこなせない大当たり)
慎二:リヤカー(騎乗Aの本気)
バゼット:オープンカー(平和・・・?)
『M』:タンクローリーDA!

ちなみに、サイドカーとゴールデンベアー号は王様の宝物庫から出した物です。アサシンに優勝させたのは・・・・・・・・・・・・まあ、置いといて。実は割と伏線をたくさん入れてます。やっぱりランサーは死ぬ。今度は黒ひげ危機一髪的なチキチキ聖杯戦争を書きたい。
次回は本編です。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯34:万物を侵せ、無限の憤怒

クロナの覚醒と、アサシンTUEEEE回です。楽しんでいただけると幸いです。


―――――― この身は憤怒で出来ている

 

 

――― 血潮は溶岩(マグマ)で、心は鋼鉄(ハガネ)

 

 

――― 幾たびの理不尽に対して憤る

 

 

――― ただの一度も安らぎはなく

 

 

――― ただの一度も泣きはしない

 

 

――― 彼の者は常に怒り

 

 

――― 燃える孤独の街で嘆き怒る

 

 

――― 故に、その生涯に意味はなく

 

 

――――――――― その体は、きっと怒りで満ちていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・うわぁ。引くわ、衛宮士郎。いや焚き付けたのは言峰黒名だろうけど」

 

「アーチャーが飛んで行ったかと思えば・・・イリヤは無事みたいだな、よかった」

 

 

思わず戦いを止め、遥か西の彼方から感じる強大な膨大な魔力に既視感(デジャブ)を覚えたアサシンとセイバーは呆れた。アサシン・・・倒すべき敵が目の前にいると言うのに、外野は何をやっているのかと。そんなこと後からでもいいじゃないかと。

 

 

「・・・てかアーチャーが離れられるぐらい余裕があるって事は増援までやられた?・・・衛宮切嗣と葛木宗一郎、それに遠坂時臣と雨生龍之介の屍兵を失ったのは痛いわ・・・とりあえず増援送っとこうかしら」

 

「隙有り!」

 

 

気だるげにワイングラスを振りながら奇襲して来たセイバーの一撃をもう片方の手に握られたナイフで弾き返し、アサシンは考える。マスターがやられ、優秀な手駒はやられ、それに加えて自身の変身は使えない。万策尽きた、後は単純な力押しのみ。

 

 

「もうこうなったら残るマスターの死体を集めてキャスターに挑もうかしら、ね!」

 

「っ!」

 

 

ローリングソバットを受け、後退するセイバーはアーチャーの飛び出してきた穴の下に広がる、湧き出してきた屍兵に応戦するイリヤの吹っ切れた様な表情を見てふっと笑みを浮かべた。

 

 

「何が可笑しいのかしら?」

 

「いいや、マスターにいい友人ができたなと、思っただけだ」

 

「余裕ね、気に入らないわ」

 

 

足裏のヒールに緋色の結晶を集め鋭く尖らせ、音速で放たれるアサシンのハイキック。ドレスを翻し、目暗ましから放たれたそれはセイバーの頬を掠め、アサシンはそのままナイフと右脚でセイバーのマスターソードとせめぎ合い、空中に翻って放った渾身の踵落しでついにマスターソードを空彼方へ弾き飛ばした。

 

 

「っ・・・ダイゴロン刀!」

 

「使わせないわよ」

 

 

ポーチから大剣を取り出し、大きく横薙ぎに振るうセイバー。しかしアサシンは宙返りでそれを回避、着地と同時に左手で強烈な掌底打を繰り出し、セイバーの手元からダイゴロン刀を手放させると右手に握ったナイフを一閃。咄嗟に取り出していた、刀身の折れた「巨人のナイフ」と呼ばれるダイゴロン刀にそっくりな剣を粉々に破壊し、貫く様に鋭い蹴りを放ってセイバーを蹴り飛ばした。

 

 

「がはっ・・・!?」

 

 

腹部から鮮血を溢れさせ、屋根を転がり落ちるセイバー。何とか縁に止まるも、ナイフの刀身を舐めながら歩み寄るアサシンに、懐から取り出したフックショットを構えて何とか立ち上がった。

 

 

「はあ、はあ・・・」

 

「・・・大妖精の剣とか言う剣は持ってないの?」

 

「俺の持っている剣はお前に飛ばされた三つで全部だ。俺は「時の勇者」であって、タルミナを旅した俺じゃないからな。・・・報酬はともかく」

 

「同一人物でいくつもの冒険譚を持っているとそうなるんだ。まあいいわ、そんなので戦えるとは思えないけど・・・まだ抗う気かしら」

 

「当り前・・・だ!」

 

「無駄よ!」

 

 

フックを発射するセイバーだったが、アサシンの一閃で弾かれ鎖に繋がれたフックはあらぬ方向へ飛んで行く。そのままもう片方の手で構えたロングショットを構えたセイバーは、アサシンの飛び蹴りを受けて屋根から突き落とされた。

 

 

「確か女神の勇者リンクの戦った相手の技に「無限奈落」とか言うのがあったわね・・・それでとどめ刺してやろうかしら?」

 

 

そう嗤いながらセイバーの落ちた屋根の縁まで歩み寄り、覗き込むアサシン。その瞬間、信じられない物が思わず引いた彼女のおでこを掠り、血を流した。それは、鎖に繋がれた丸太だった。

 

 

「・・・フックショットにはこういう使い方もある!」

 

「・・・やってくれたわね」

 

 

見れば、屋根の下側にフックショットを突き刺して地面から数メートル離れたそこらで止まり、ロングショットで丸太を引き寄せもう一度遠心力を伴って頭上に放っているセイバーがいた。続けて放たれた音速の鈍器をバック転で避け、屋根に叩き込まれた丸太の上に吸い込まれる様に着地するアサシン。

 

 

「こんなもので勝てるとでも・・・!?」

 

「思わないさ!」

 

 

しかし、そのロングショットに引っ張られて宙に躍り出たセイバーの振り下ろしたメガトンハンマーによる一撃を回避しそこね、思いっきり屋根の上から二階の壁に叩き付けられて呻く。切り傷に耐性があっても、生前の兄との対決の決定打でもある打撃には弱いアサシンには効力があるらしい。

 

 

「・・・あークソッ、何であの時の私はクソ兄貴のアレを防げなかったのかしら・・・!」

 

「行くぞ!」

 

 

剣の代わりにハンマーを叩き付けるセイバーに、アサシンは足下に赤い水たまりを出現させて屍兵を召喚、手を組ませて踏み台にして跳躍し、屍兵がハンマーで叩き潰されるのを尻目にグラスオブコンチータを真下に向け、赤い液体を放射。

それは結晶の刃となって降り注ぎ、セイバーは緑色の光が内包されたクリスタル・・・フロルの風の魔術媒体を取り出して発動、バルコニーまで転移して難を逃れるも、空中からふわりと降りていたアサシンはそれを目ざとく見つけると再びグラスオブコンチータから赤い液体を放射。

セイバーは溜まらずバルコニーから森へ目掛けて飛び降り、着地したアサシンもそれに続いて飛び降りる。と、その瞬間。

 

 

「ウオラァアアアッ!」

 

「ッ!?」

 

 

ウィッカーマンとの戦いに勝利し、力尽きていたはずのバーサーカーが高速で駆けて来て、強烈な頭突きをアサシンの無防備な腹部に打ち込み、城壁に叩き付けた。真下のセイバーしか視界に入っていなかったがための奇襲。予想外な一撃に宝具を使用してから初めて苦悶の声を上げ、地面に崩れ落ちるアサシン。視線を横に向ければ、そこには。

 

 

「ナイス、バーサーカー。・・・五分もあれば回復も十分だよね?」

 

「言峰クロナ・・・なんで、あの数の屍兵だけでなくついさっき送った増援も倒し尽くしたと言うの・・・?」

 

 

アーチャーが飛び立ったのを見届け、こちらへ戻ってきたクロナはたははーと困った笑みを浮かべた。

 

 

「いや、私が行く前に士郎とアーチャーが蹴散らしてたよ。私がしたのは切嗣さんへのとどめだけ。で、いきなりの増援はやっぱりアサシンか。全員爆発させて来たわ、「生物」じゃない物体ならば私は何でも改造できる」

 

「・・・クソがっ」

 

 

舌打ちしながらゆらりと立ち上がるアサシンを尻目に、セイバーがこちらに訝しげな視線を向けているのに気付いたクロナは真面目な顔で口を開く。

 

 

「・・・安心して、セイバー。イリヤは無事だ、それにアインツベルンの(しがらみ)からも解放された。もう私がイリヤを殺す理由は無い」

 

「・・・そうか、よかった。イリヤは今どうしてる?」

 

「士郎に任せて衛宮邸まで送らせてるわ。でも、今はアーチャーが離れているから少し心配。セイバー、ここは私とバーサーカーに任せてそっちをよろしく。・・・今のイリヤには、士郎だけじゃなくて貴方も必要だろうから。こんな外道の相手より、イリヤの傍にいる方が大事でしょ?」

 

「・・・アンタ、変わったな」

 

「私は何も変わってないつもりだけど」

 

 

クロナとバーサーカーがアサシンに向けて構えているのを見ながら、側に落ちていたダイゴロン刀をポーチに戻し、焼け野原に突き刺さっているマスターソードを確認してそちらに走りながらセイバーはクロナに向けて笑った。

 

 

「いいや、変わったよ。イリヤの事を考えてくれて、ありがとう。ここは任せた」

 

「任された」

 

 

そしてマスターソードを掴み、フロルの風でセイバーが転移したのを見届けたクロナは「さてと」と呟きながら傍に落ちていた少し長い木の枝を掴み、それを直刀に改造して構えた。

 

 

「バーサーカー、両腕再生してないけど大丈夫?」

 

「ほざけ。――――行くぞッ!」

 

 

一声唸り、駆け出すバーサーカーに続く様にアサシンに向けて跳躍するクロナ。空中から急降下して放たれた一撃をアサシンは強烈なハイキックで破壊するも、体勢が崩れた所にバーサーカーのローリングソバットが炸裂。そのまま怒涛の連続蹴りが放たれ、アサシンはそれら全てを二本のナイフを握った両手で弾き返していく。

 

 

「ウオォオオオオッ!」

 

「ッ、何で、前にも思ったけど、両腕失ってるのに、こんな、動ける・・・!?」

 

「知るかァアアアアアアッ!」

 

 

蹴り飛ばして壁まで追い詰めたかと思えば、グルングルン空中で回って踵落し。追い詰められていたアサシンは右横に飛び退いて回避するも、城を叩き割ったバーサーカーの一撃の余波で吹き飛ばされゴロゴロと転がり呻く。

 

そこ目掛けてクロナが黒鍵を投擲、爆発させると中からアサシンが空に飛び出してグラスオブコンチータに赤い液体を満ちさせて横の壁目掛けて放射。壁に引っ付いた赤い水溜りから屍兵の群れが出現し、ドサドサとバーサーカーとクロナに降り注いだ。

 

 

「マスターさえやれば・・・!」

 

「だから、無駄だって!」

 

 

しかし瞬間、屍兵の山が爆発し、中から無傷のクロナとバーサーカーが姿を現す。右手で爆発させると同時に左手で地面に触れて簡易的な防空壕を作り耐え凌いだのだ。

 

 

「・・・でたらめね。本当にマスター?」

 

「いや、呪文も無しで屍兵を転移するとかそっちが凄いと思うけど。士郎の宝具投影並に魔法の域だよねそれ?」

 

「私の師はアビスI.R.・・・って言っても分からないか、私の時代でたった一人を除いて最強の魔道師。だから魔術については心得てるけど、この時代ってそんなにレベルが低い訳?」

 

「魔道師?魔術師じゃなくて?・・・なるほど、そう言う事か」

 

「そっちが変な魔術使うなら、こっちはレベルの高い魔術で相手するわ!」

 

 

瞬間、グラスオブコンチータをしまった手をクロナに向けるアサシン。それに嫌な予感を感じたバーサーカーは、瞬時に足下に折れた刀・・・無明鬼哭刀を召喚し、蹴り上げて口で構えた。

 

 

「借りて行く・・・」

 

「アハハハハハハハッ!」

 

「無明鬼哭刀!」

 

 

アサシンの笑い声と共に、何処からともなく無数の矢が降り注ぐ。バーサーカーは自分に突き刺さる矢は無視してクロナに降りかかる矢のみを振り払い、その出所・・・未だに緑が生い茂る木々に向けて一閃。転倒させた。矢の正体は、先端が鋭利に尖った枝だった。

 

 

「ちっ・・・私は魔術でその女を黙らせたいのよ。邪魔よ狂戦士」

 

「フンッ!」

 

 

紡がれる高速の呪文。すると今度は無数の蔦が伸びて来てバーサーカーを拘束しようとうねり、まるで生き物の様にバーサーカーの攻撃を避けて巻き付いていく。それを除去するべく手で触れようとするクロナ。

しかし、クロナの魔術の条件が「手で触れる」事だと調査で気付いていたアサシンは次なる呪文を紡ぎ、刃となった花弁がクロナに向けて放たれ、さすがに高速の刃に触れる事は出来ないクロナは飛び退いた。

 

 

「・・・自然を味方に付けている?」

 

「私はアサシン。潜入はお手の物。この冬木の地は、既に私達が細工した場所ばかり。魔力集めのために他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)とか言うのを仕掛けたのに先日の騒ぎで無駄に終わった学校に、新都から龍脈を伝って回収する魂喰い。セイバーの真名を調べるついでに細工したこのアインツベルンの森にアインツベルン城、さらに衛宮邸にも遠坂邸にも間桐邸跡地にも。そして我らが拠点、柳洞寺。三ヶ月も期間があったのに、まさか屍兵の準備だけな訳がないでしょ?」

 

「つまり、この冬木で戦う限り・・・」

 

「マスターが私達に勝てる道理はない訳。まあさすがにサーヴァントは弱点突くしかないけど・・・今の私には、それすら関係なくごり押しできるわ。現に、最初は敵わなかったバーサーカーにもこうして一歩踏み込めば殺せる所まで来た。さあ、攻略できるものならしてみなさいよ!アハハハハハハッ!」

 

「くっ・・・!?」

 

 

次々とクロナに襲い来る枝の矢、蔦の鞭、花の刃、根っこの槍。クロナは服を防刃に改造して防ぎ、マフラーを改造した刀で斬り、弾き、裂いて行く。その間にもバーサーカーは雁字搦めにされ、両腕が無いため解放される事も出来ない。ジリ貧だ。マフラーを元に戻し黒鍵を両手に構えて振り回して迎撃しながら此方を窺うクロナに気分をよくしたのか、グラスオブコンチータを掲げ天を仰いで狂喜の笑みを浮かべて叫ぶアサシン。

 

 

「さあ跪きなさい、屈しなさい、嘆きなさい、折れなさい、諦めなさい。万が一にも貴女に勝機は無いわ!」

 

「諦める?」

 

 

その言葉は、言峰黒名と言う少女にとっては最も禁忌たる言葉。その言葉を聞いた瞬間、その口元は笑みに歪んでいた。

 

 

「私の特技は諦めの悪さ。生きている限り、私は絶対に諦めない。打開策を見出してやるよ」

 

「へえ?・・・やっぱりアンタ、嫌いだわ。諦めなさいよ、これは絶対に覆らないから」

 

 

笑顔が消えたアサシンの、容赦ない攻撃がクロナを襲う。さらに鋭く尖った枝の矢、花の刃、根っこの槍がまるで王の財宝の如く一斉に射出される。それに対し、バーサーカーを見やって黒鍵を構えてクロナは笑った。

 

 

「・・・触れられなければ・・・」

 

「ほらほら、どうしたあ!」

 

「触れなければいい!」

 

「なっ!?」

 

 

刀身を巨大化させて一回転、第一波を弾き飛ばして攻撃の手が止んだその一瞬の隙を突き、元の形状に戻した黒鍵を投擲。バーサーカーを縛っていた蔦を斬り裂いて解放させた。

 

 

「バーサーカー!」

 

「貴様は気に入らん!」

 

「があっ!?」

 

 

瞬間、解放されると共に跳躍したバーサーカーの一閃がアサシンの胸元に炸裂。大きく斜めに斬り裂いて吹き飛ばす。傷を受けたアサシンはにやっと笑みを作ると目を閉じ、祈るような体制を取った。

 

 

「なに?今更神頼み?」

 

「まさか。・・・この私が、神を信じるとでも?」

 

 

追撃せんと迫るバーサーカーに怖気付かず、祈る体制を止めないアサシン。すると、無明鬼哭刀が触れるか否かの瞬間、アサシンの頭上、何もない空間に大輪の白い花が咲き、その中央から熱を帯びた光線が放たれた。

 

 

「レオルフ・レサル!」

 

「ッッ!」

 

 

攻撃態勢の際に放たれたそれに回避も出来ず、真面に浴びて吹き飛ぶバーサーカー。それと入れ替わる様に飛び出したクロナがバーサーカーの腕にした右拳を振るい、アサシンは祈りの体勢を止めて同時に空中の花も消え、それを軽くいなした。

 

 

「ハアッ!」

 

「見た目だけね。バーサーカーのは全体を使ってこその一撃だってのに台無しよ」

 

「ッ!」

 

 

そう言いながら右ストレートを避けて回し蹴りでクロナを蹴り飛ばして、それと同時に取り出したナイフの柄にもう片方のナイフでガリガリと何やら刻印らしき物を刻み込むアサシン。体勢を立て直した二人が同時に飛び出し、クロナは右拳を、バーサーカーは振り下ろし斬撃を叩き込まんと迫る。瞬間、

 

 

「レクレス・レブ!」

 

「ガアアアアアアアッ!?」

 

 

呪文と共に、音速を突き抜けて放たれたナイフの一撃がバーサーカーの咄嗟に体勢を変えて振り抜いた蹴りを避けてからその背中に一閃。巨大な切り傷を倒れたバーサーカーに地面ごと大きく刻んだ。

 

 

「さっきのは森を味方にする魔術、今のは対象の時間の流れを早める加速の刻字印・・・貴方達で言う固有時制御かしら?対象の寿命も早めるからすぐ壊れるって言う生き物にはお勧めできない反動が大きい代物だけど・・・サーヴァントには関係ない。ただの剣士で巨熊を瞬殺できるのよ?

サーヴァントで、しかもグラスオブコンチータでステータスが上がった私が使ったら・・・まあこうなるわよね。早く使えばよかったかも?」

 

「バーサーカー!」

 

 

白目を向き、倒れ伏すバーサーカーにクロナは慌てて駆け寄る。八神将アスラではありえない、気絶と言う状態。消えてないだけマシだが、ありえない事態にクロナは混乱した。

 

 

「さすがにランクA相当の不意打ちには耐えれないみたいね。逆に言えばこれぐらいしないと倒せないって事だけども。さて、今度こそ諦めてくれるわよね?」

 

「・・・私は諦めない。エミヤシロウに勝てたんだ、貴女に勝てない道理はない」

 

「ただの人間の魔術師が悪魔の力を持つ私に勝つ?・・・・・・・・・不可能よ!」

 

 

再びグラスオブコンチータから零れた液体が足下に水溜りを形成し、そこからぞろぞろと湧き出てくる屍兵達、およそ20体がいっせいにクロナに群がる。再び爆発させようと両手を構えるクロナだったが・・・一瞬、アサシンの姿がぶれたかと思えばスピードの増した屍兵達の一撃が次々とクロナに叩き込まれ、その華奢な身体を吹き飛ばした。

 

 

「速い・・・っ、そうか!」

 

 

何が起きたかとまた混乱するクロナだが、すぐに気付いた。屍兵達の背中に、加速の刻字印が彫られていた。にやにやとアサシンは切り傷のある胸元を撫でながら笑う。

 

 

「アハハハハハハッ!さっき貴方が自分で言った事よ?触れられなければ、触れなければいい。その手に触れなければうちの屍兵でも十分に対抗できるでしょ?」

 

「・・・うん、切嗣さん×20とか何それ無理ゲー。父さんじゃないだけマシだけど。確かに、諦めざるを得ない戦力差だ。バーサーカーもいつ起きるか分からないし」

 

 

そう言ってお手上げと言わんばかりに左手を上げ、右手は懐に突っ込むクロナ。アサシンは勝ち誇った顔で刻字印が刻まれたナイフを構える。自分でとどめを刺すつもりらしい。

 

 

「悔いる事は無いわ。むしろ、よくここまで健闘した。正直セイバーより手古摺ってるし・・・諦めたら後悔して、死になさい!」

 

「・・・うん、諦めざるを得ない。でもね」

 

 

ナイフを構え、突進するアサシンに対してクロナは何も握られていない右腕を振り抜く。瞬間、アサシンの視界が赤に染まった。

 

 

「諦めざるを得ないだけで、諦めるとは一言も言ってない!」

 

「なあっ!?」

 

 

放たれたのは、炎。クロナの右手から放たれた紅蓮の炎はアサシンを避けてその手に握られたナイフ二本と、背後に控えた屍兵20体全てを飲み込み、集束するかのように包み込む。瞬間、その全てが爆発。アサシンは溜まらず大きく後退する。

 

 

「私の改造魔術は手で触れない限り作用しない。でもこれは、ライターの様な物。じっくりと焼いて、焦がしていく。それが私の魔術の正体」

 

 

クロナが初めて魔術を使ったその日、燃える様に体が熱くて、そのまま気を失った。父親二人は「失敗しただけだ」と言っていたが、治療していたのは明白だった。それ以降、彼女はさらに魔術を嫌悪して「強化」だけを練習してきた。その結果が「改造魔術」だが・・・その理由を考えると、納得できてきた。

 

何故炎のトラウマがあるのか。それは、常に傍に在ったから。そう、あの火事の時、恐らくは「彼」から与えられた彼女の起源は・・・全てを飲み込み変質させる「炎」だ。焼き尽くし、全く別の物に変える。それこそが言峰黒名の魔術。溢れる炎は、抑えきれなくなった怒りの顕現。

 

 

「何度も言ったね、諦めろって。サーヴァントに小手先じゃ通用しないのは私も分かっている。だからさ、分かり切っている事を何度も言われるのって凄いムカつくんだわ。

私が不甲斐無いせいでバーサーカーが倒れたし、魔術もろくに使えない私じゃ貴方には勝てない、私にできるのは怒る事だけだ。それは、昔も今も変わらない。きっと未来も、私は生涯をこの怒りに捧げる」

 

「だったら怒り狂ったまま死になさい!」

 

 

ただの道具ではあの炎に飲み込まれてしまうため、手刀でその心の臓を貫こうと跳躍。それに対し、右手からの炎で目暗まししたかと思えば大きく後退し、スッと右手をかざすクロナ。

 

 

「アサシン、私は貴方が気に入らない。でもそれ以上に、不甲斐無い私が一番気に入らない。この怒り、ぶつけていいかな?」

 

「レクレス・レブ!」

 

 

自身の手の甲に加速の刻字印を刻み、瞬間的にランクEXとなった速度でクロナに肉薄し、拳を振り上げるアサシン。その瞬間、アサシンは突如溢れだした炎の波を押されて宙を舞い、そして広がる炎に飲み込まれ目を疑った。

 

 

 

 

「シロウの真似だけど―――I am the bone of my Anger.(この身は憤怒で出来ている)

 

Lava is my body,and fire is my Steel.(血潮は溶岩で、心は鋼鉄)

 

I have Erosion over a Irate wanton.(幾たびの理不尽に対して憤る)

 

Once peace there is no.(ただの一度も安らぎはなく)

 

Don't cry even once.(ただの一度も泣きはしない)

 

He's always angry.(彼の者は常に怒り)

 

Angry lament in a lonely city Burns(燃える孤独の街で嘆き怒る)

 

Yet, those hands will never hold anything.(故に、その生涯に意味はなく)

 

My whole life was.(この体は、)

 

―――――"Unlimited raising invasion" (きっと怒りで満ちていた)

 

 

「・・・キャスターやエミヤシロウだけでも十分だってのに、これは・・・固有結界・・・!?」

 

 

視界に収めたのは巨城と焼けた森ではなく、かつてこの地を襲った地獄。冬木市、と呼ばれた場所ではあるが赤い空、道なき道、崩れた建物、熔けているナニカがそこらに転がる業火に飲み込まれた街並が広がるそれは、クロナと言う少女とは切っても切れない忌まわしき記憶だ。

 

焼け付く風が喉から水分を奪う感覚に、懐かしさを感じたクロナは淀んだ目で周囲を見やる。10年前の地獄が己の心象風景。自虐気味に笑うしかなかった。こんなのが心に広がっているんじゃ、そりゃあんなトラウマも残るだろうし、魔術師への怒りが収まる筈もない。よくイリヤを赦せたもんだ、と自分に呆れる。

 

魔力がよく足りたものだとか疑問に思いながらも、そんな事よりも目の前で混乱する天敵を速く仕留めるとしよう。ここなら、やれる。そんな確信があった。

 

 

 

「これで貴方が有利に戦えるテリトリーは無くなった。さて、名付けるとしたら、そう。

 

―――――万物を侵せ、(アンリミテッド・)無限の憤怒(レイジング・インベイジョン)

 

かな?」

 

 

 

溢れる怒りはクロナの背後で巨大な炎となって燃え上がり、クロナが手をかざすと炎が一直線にアサシンを飲み込まんと燃え広がった。




ついに発動、英霊クロナの宝具でもある固有結界「万物を侵せ、(アンリミテッド・)無限の憤怒(レイジング・インベイジョン)」その能力は次回にて。

士郎とイリヤ、アーチャーとセイバーが戦線を離脱。代わりに両腕を失い無明鬼哭刀を振るうバーサーカーと、屍兵を爆発させる様に改造できることに気付いたクロナがアサシンと対決。フックショットってあんな使い方できれば強いと思います。フックよりクローの方がよさそうですが。

今回アサシンが使った「自然を味方に付ける術」と「加速の刻字印」これは「悪ノ娘 青のプレファッチオ」にてアサシンの師であるアビスI.R.と対決したグーミリアと言う魔道師(魔術師とはちょっと違う)が使った戦法です。文字通り自然を味方につける為、アインツベルンの森(半分以上焼けている)は文字通りアサシンにとって最強の武器となりえます。
加速の刻字印は固有時制御と似てますがより危険な代物。物体自体の時間を早める為、人間に使えば寿命も早まりますし、大砲などに使えば一発使えばすぐ壊れてしまう様な物です。サーヴァントと屍兵の再生力の前では意味がありませんが。
ステータスも上昇し、原作にはないグラスオブコンチータの使い方で液体を結晶の刃にして放つと言う攻撃も可能で、準備は要りますがセイバーとバーサーカーと言う強者にも真っ向から戦えるアサシン。キャスターより強敵かも知れない。

そして判明、クロナの起源。それは「火」です。正確には「炎」。凛の五属性や桜の虚数属性、士郎の「剣」に比べると割と平凡な部類ですがとんでもない、真骨頂は炎は全てを飲み込むと言う点。それを魔術として使える、それがクロナの改造魔術の正体です。生物に使えないのは文字通り焼いてしまうため。
最初に魔術を使った際は全身発火と言うとんでもない事態でした。だから綺礼は知っていてもわざと黙っていた感じです。
それが今回、度を超えた怒りのために漏れ出して中距離でも改造ができるようになりました。固有結界に至っては・・・?

次回はクロナとアサシンのタイマン対決。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯35:悪ノ娘VS憤怒ノ娘

今回はクロナVSアサシンの決着戦。クロナの固有結界、万物を侵せ、(アンリミテッド・)無限の憤怒(レイジング・インベイジョン)が文字通り火を噴く。
楽しんでいただけると幸いです。


「じゃあね、バイバイ」

 

 

私は悪魔の手を取って海の中に入って行く。振り返って笑顔で手を振れば、そこにいるのはいっぱい迷惑をかけてしまったお義兄(にい)ちゃんの悲しげな顔。

 

 

―――――私を一人にしないでくれ

 

 

そんな言葉を聞いた気がした。悪魔と共に海の中に沈んで行く。・・・それが、「私」の最期の記憶だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、私の怒りはアサシンに向いているはずだ。でも、この固有結界がそうじゃないと告げている様だった。

 

聖杯戦争初日、士郎はアサシンに一度殺された。凛が居なかったら、生きてはいなかった。それに、私は気付いてすらいなかった。ただ、士郎と桜を巻き込まないために策を考えていただけだ。

 

イリヤとの初戦、私は「アインツベルン」と言う理由だけで初対面の彼女をいきなり殺そうとした。止めようとする士郎達を押し退けてまで、やっと復讐の対象を見付けたと興奮して。少しは考えられなかったのか、私は切嗣さんの手記を読んでいたじゃないか。少しでも、説得しようと思えばできたはずだ。

 

キャスターとの初対峙、私は何もできずにバーサーカーを敗北させてしまった。それも、大嫌いな魔術師の手で助けられたんだ。不甲斐無い、冷静になって戦況を見極めれば勝機はあったはずだ。さらにはその敗北でバーサーカーが抱いた想いに気付かずに、固有結界の決戦で彼が苦戦するきっかけを作ってしまった。後から気付いて、でもその時にはバーサーカーを奪われていた。

 

エミヤシロウの急襲。私はあの時、烏滸がましくもバーサーカーを防御に専念させ自ら迎撃しようとした。その結果が令呪剥奪による聖杯戦争脱落だ。あの時、私は防御に専念してバーサーカーを迎撃に向かわせれば勝っていたはずだ。怒りや焦燥感が邪魔して、私はいつも過ちばかり犯して周りを危険に巻き込んでいく。

 

私が自分の作戦を優先させたことで、自らのサーヴァントがいない士郎と桜をアサシンに傷つけさせてしまった。アサシンやキャスターが奇襲して来るかもと言う可能性を何故考えなかった?相手がマスターだけだと多寡を括っていたからではないか。自分の方はサーヴァントなんだから無傷で生還するために、と言う言い訳で士郎達を窮地に陥らせてしまったんだ。

 

ついさっきになってようやく気付いた、イリヤを赦せる可能性。でもあまりにも遅くて。イリヤの家族を、殺させてしまった。私がちゃんとイリヤと共闘しようと考えていたら間に合っていたんじゃないか。イリヤもそのまま脱落してくれればいい、なんてイリヤの心情も省みずに馬鹿な考えをしていた。

 

そして何より、一番赦せない事は。変わり果てた姿で助けを求める弟に恐怖を抱き、一人で逃げ出してあっさり捕まって、あの人の手でみすみす救われてしまった事だ。

 

 

私が赦せないのは魔術師じゃない、私だ。愚かにも怒りに我を忘れて選択肢を間違え続けて来た私自身だ。だから、このトラウマそのものとも言える地獄の心象風景はきっと私への罰なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処からともなく溢れて来た魔力を用いて顕現し、世界を侵食したのは、私の原初。今の私を構成する理不尽に踏み躙られたこの世の地獄の光景。これが、私の心象世界だ。

 

キャスターとエミヤは己の最後の戦いを心に焼き付けていた。それに対して私は、終わりの始まりだ。覚えている、全てを全て覚えている。それこそ、躓いた小石やナニカの胴体だって私の心には焼き付いている。その結果がこれか。

・・・まあいい、使える物は何だって使ってやろう。そうじゃないと、目の前のサーヴァントに勝つなんて夢のまた夢だ。バーサーカーが居ないんだ、やるしかない。

 

 

「いくら舞台を変えようと・・・数の差まではどうしようもないでしょう?」

 

 

襲い掛かる炎から飛び出して来るのと同時に液体を放ち、そこから屍兵を召喚して向かわせるアサシン。すぐさま刻字印を刻み込み、加速させて来るが問題ない。ここで、生物じゃない道具を使うのは悪手だ。

 

 

「もう、効かない」

 

 

手をかざせば、四方から炎が屍兵に襲い掛かり、焼き尽くす。そしてその主導権を、握る。・・・襲え。

 

 

「爆弾にするだけじゃないってか!」

 

 

反旗を翻した屍兵を、難なく蹴り飛ばし斬り伏せるアサシンに、私はすぐ傍の標識を掴むと炎を纏わせ、"フランケンシュタインの怪物”の宝具・・・『乙女の貞節(ブライダルチェスト)』にして振り下ろす。すると電撃が地面を走ってアサシンに炸裂、痺れさせたところに跳躍し、すかさず改造。一瞬で燃やし尽くす・・・!

 

 

偽・磔刑の雷樹(イリマージュ・ブラステッド・ツリー)!」

 

「無駄!」

 

 

叩き付けた、ところに放射した雷電と共に爆発した一撃は、召喚された数体の屍兵が壁となって防いでしまった。私はすかさずブライダルチェストを投げ捨て、破壊して残った屍兵にもダメージを与えて着地。傍に落ちていた石五つを二掴み手に取り、それを布で覆って糸で繋がった投石するフォルムに改造、両手で糸を振り回し、同時に投擲する。

 

 

「アンタには改心する権利がある・・・でも、私が赦さん」

 

「理不尽ね!?」

 

「理不尽は私が与える!偽・五つの石(イリマージュ・ハメシュ・アヴァニム)・・・二重(デュアル)!」

 

 

放ったのは、合計10つの流星群。八発は当たる事無く地に落ちるが、最後の二発がレーザーの様に加速し一直線に突撃。ダビデ王の宝具にして、元々ただ巨人を倒しただけの投石だから普通に再現が可能な代物を固有結界を用いる事で二発同時に放ったものだ。これなら・・・と思っていた時期が私にもありました。なので冷静に次の手も考える。

 

 

「ハアッ!」

 

 

手に取った二本のナイフで真っ二つにする事で防ぎ駆けてくるアサシンに、私は第二撃として構えた街灯を改造した槍を大きく振り回し、突進を迎撃。そのまま街灯槍を鎌の様な形状・・・不死殺しのハルペーもどきに改造、クルリと手元で回して突き出してきたその腕を両断しようと試みるが、それはフェイントで空振り、体勢が崩れた所に強烈な蹴りを右肩に受けて吹き飛ばされる。

 

 

「がはっ!?」

 

「ただの小娘と暗殺者として幼少期から鍛えられた私じゃ経験が物を言う。例え屍兵を封じられたとしても、十分すぎるぐらいにね」

 

 

・・・ああ、もう。まだこの固有結界の力をちゃんと分かってないのに・・・というか、今ので右肩が外れるところだった。接近戦に持ち込んだら駄目だ、ならば・・・!

 

 

「王様、とっておき借りるよ!簡易再現(イリマージュ)・・・」

 

 

アサシンのナイフを足で地面を叩いて出現させた壁で防ぎながら集中。周囲の建物をさらに大きな炎で纏い、その形状を改造、一気に変化させる。・・・神性に対して効果が増すとかそんなの付いてないけど・・・充分だろう?

 

 

天の鎖(エルキドゥ)!」

 

「なっ!?」

 

 

四方八方の建物、全てが変化した鎖の山が、まるで生きているように、彼のヤマタノオロチの様にアサシンに襲い掛かる。逃げ場など存在しない。王様のは縛り上げるだけだが・・・生憎と、私のこれは出来の悪い模造品だ。だから縛って潰す。物理的要因が全く意味を成さない英霊でも、魔術的な圧殺ならば効果はある。

 

 

「・・・レクレス・レブ!」

 

「そう簡単には行かないか・・・ならば!」

 

 

さすがのアサシンも焦り、高速移動で退避。上手くは行かなかったが、切嗣さんの魔術と似ていると気付いた時点で把握していた事だ。でも、今の攻撃が少なからず通用すると言うのは分かった。十分すぎる、あとは追い込むだけ。だったらまあ、うってつけのがある!

 

 

偽・灼き尽くす炎の檻(イリマージュ・ウィッカーマン)!」

 

 

記憶から引き出したのは、王様の宝物庫からではなく、ついさっき戦ったアサシンのマスターの切札。瓦礫と鉄骨で形成された炎に包まれた巨人が立ち上がり、アサシンはそれを見上げて顔を引き攣らせる。

 

 

「・・・やってくれるわ」

 

 

舌打ちしたアサシンは振り下ろされた拳を舞う様に飛び避け、瞬間的に爆弾を取り付けて爆破。腕を失って後退するウィッカーマンを追撃とばかりにナイフで一刀両断したアサシンは、その間に私が改造し、矢として放ったそれを見るや否や目の前に屍兵を召喚して防ぐ。

 

 

「汝は竜!罪ありき・・・って奴なんだけども?」

 

「私は悪ノ娘だけど竜にされるのはごめんだわ。それが力屠る祝福の剣(アスカロン)の真実か。ゲオルギウスとか言う聖人もまああくどい事を」

 

「王様曰く、本当は竜殺し(インテルフェクトゥム・ドラーコーネース)って言うらしいね。まあそんなこと関係なく、上手く引っ掛かったね」

 

「は?・・・っ!?」

 

 

にやりと笑う私にアサシンが訝しんだ瞬間、パンッと軽い音を立てて、足元に転がったウィッカーマンの瓦礫が破裂。爆発ではなく、破裂。これが目処だ。その瞬間に私はすぐ近くのビルに飛び込み、楔と化した破片はアサシンの全身を貫き、プシャッと血飛沫を上げる。

 

 

「姑息な手を・・・面倒なだけ、すぐ回復する」

 

「それでも、痛い物は痛い。そして・・・それはただの楔じゃない」

 

「ッア!?」

 

 

私が魔力を送ると肥大化し、アサシンの肉を抉って行く破片。本当なら爆発でもよかったのだが、それでは時間稼ぎにはならない。今はとにかく、この固有結界の特性を把握しなければ。アサシンがナイフで破片を全部抉り出す前に。

 

 

(・・・考えろ、今の私は何ができる?)

 

 

・・・とりあえず、この世界の物は別に触れなくてもすぐに改造、操る事が出来ると言うのは分かった。建物を鎖の山にするのだって、骨組みをそのままウィッカーマンに活用したり、その破片をトラップにするのだって数秒あればできた。でもそれでは何も変わらない。確かに物量で攻める事は出来るが、それだけだ。英霊に勝つことはできない。

 

では逆に考えろ。今まで見て来た固有結界の使い手・・・キャスターとエミヤシロウが何をしていたか、思い出せ。

キャスターの宝具は、恐らく生前最後の戦いの記憶を再現したもの。しかし砂漠の砂を利用して兵隊を再生できるようになっていた。最大の物量で押し潰す最強の軍隊。アーチャーみたいに纏めて吹き飛ばす様な宝具がないと太刀打ちできない。

シロウの固有結界、無限の剣製は今まで投影して来た剣類を貯蔵し、それを自在に操れる。・・・だと思う。あんな剣の雨降らせるぐらいだし、王様みたいに射出していた。

 

つまり、固有結界は使用者の思い通りに操る事が出来る、と言う事だ。文字通りの「私の世界」・・・なんだ、簡単な事じゃないか。

 

この世界全てが、私の炎が届く領域(テリトリー)、そう言うことだ。

 

 

「・・・やっと取れた」

 

 

全部ナイフで抉り取る事は出来なかったのか、口から血と共に楔の山を吐き出し終えたアサシンは恨みを込めた視線をこちらに向け、加速の刻印が刻まれたナイフを構えた。

 

 

「今のうちに隠れていればよかったものを・・・!」

 

「アサシン相手に逃げ切れるはずがない。それに、十分過ぎる時間だ!」

 

 

足裏の下に意識を集中、骨組みを組み立てる。イメージするは最強の一撃。否、鉄槌。

 

 

「唸れ、Fist of fury(怒りの鉄拳)!」

 

「はあ!?」

 

 

右側の地面が隆起して巨大な右腕の形を取り、それが私の動きに合わせて振り被るとアサシンは絶句。慌てて防御の体勢を取るも、振り抜いた一撃が真正面から炸裂。燃えたアスファルトが下の大地ごと変形した物だ。威力は、絶大。

 

 

「ぐうっ!?・・・負けるか!」

 

 

するとアサシンは殴り飛ばされながらも手に持ったワイングラスから赤い液体を流して巨腕に塗り付け、そこから大量の子供の屍兵が現れてその拳の連撃を持って巨腕を破壊。したかと思えばそのままこちらに突撃して来て、炎を向かわせようと手をかざしたらそのまま子供の屍兵全てが大爆発を起こして私は吹き飛ばされ、咄嗟に背後に迫る電話ボックスの成れの果てに炎を纏わせてクッションみたいな柔軟性に改造、何とか無事に着地する。・・・今のは、士郎の話に聞いた奴か。

 

 

「今のが噂の対正義の味方爆弾?」

 

「一応念のために補充して置いたのよ。普通の屍兵じゃ改造されてアンタの物にされてしまうから、使い捨てがあって助かったわ」

 

「・・・分かっていれば爆弾を無効化できた。だから無駄に子供の死体を壊すのは止めろ」

 

「ん?もしかして頭に来た?案外、優しいの・・・ね!」

 

「っ!」

 

 

速い・・・!一瞬、姿を消したかと思えば背後からの奇襲。首を掻っ切る勢いで放たれた不意打ちを、私は気付いた瞬間に地面を文字通り動かしてはるか前方に高速で平行移動。難を逃れる。今のはアレだ、移動歩道的な奴だ。咄嗟にだったがこれはいいな。しかし今のは・・・イフも使った「転移」と言うよりも・・・、

 

 

「・・・気配、遮断?」

 

「ご明察。私の気配遮断はランクB、攻撃さえしなければ貴女が私を察知する事は不可能。生前は養母を殺すために用いた技術だけど・・・私に対する情があったとはいえ、最高峰の暗殺者でさえ刺されるまで気付かなかった一撃。何時まで避けれるかしら・・・!」

 

「っ、また・・・!」

 

 

再び姿を消すアサシン。どうする?周囲を守りで固めるか?いや、完全に防御壁で私の周りを囲んだとしても、その中に入りこまれていたらアウトだ。逃げ場が無くなる。じゃあこの場一帯を薙ぎ払う?いや、アサシンの事だ。私の背後にぴったりくっついて攻撃が終わった瞬間グサリとか平然としそう。

 

考えろ、考えろ。今の私に何ができる?どうすればアサシンに・・・人間を超越するサーヴァントに勝てる?

まずは攻撃を防ぐ、ないしは避ける事から。これはさっきの移動歩道でいいだろう。アサシンの殺気は濃厚すぎるから気付きさえすれば避けられる。でも、それもジリ貧だ。

 

いや、その前にだ。奴の居場所を把握できればいいんじゃないか?気配遮断と言っても、実体はあるはずだし。でも、私は父さん並の達人じゃないから空気の流れとかで居場所を把握するとか不可能・・・足場をぬかるみにして足跡を取る?馬鹿か、そんなの気付かれて逆に利用されかねない。

 

でも、場所さえ分かればさっきの鉄槌を足元から出現させて空中に打ち上げて決める事が出来るはずだ。今の私には、それほどの物量がある。・・・・・・・・・・・・アサシンに気付かれず、こちらのみ相手の居場所を把握できる方法か・・・タイガー並の直感EXがあれば楽なんだろうけどな。よし、決めた。

 

 

「・・・サーヴァント相手に無傷で戦おうって言うのが無理な話か」

 

『そうよねえ!むしろ、セイバー相手に無傷で済んだ貴方が異常よ。私を倒したいなら、それこそ捨て身じゃないとね!私を倒した馬鹿兄貴みたいに!』

 

 

何処からともなく響くアサシンの声。なるほど、声で居場所を悟らせる気は無いらしい。まあその気はないんだが。

 

 

「じゃあ、腹を括るよ」

 

『はい?』

 

「この辺一帯を私ごと爆発させる。それで運がよければ私の勝ち、運が悪ければ負けだ。シンプルでしょ?」

 

『・・・焦らせて私に攻撃させようとしても無駄よ、今の貴方には隙がまるで無い』

 

「だからそんな気はないってば」

 

 

言いながら、背後にそそり立つ今にも崩壊寸前のビルへとじりじりと後退、できるだけ自然に背後を盗られないポジションへ立ち、手をかざす。さあ、我慢比べをしようか。

 

 

「・・・準備完了。私が合図を送ればこの辺一帯は木端微塵に吹き飛ぶ。いわば冬木市全土が爆弾だ。貴方が攻撃しなければ私は起爆する。ムカつくアンタと心中するなら本望だよ」

 

『嘘を言え、嘘を。キャスターが残っているのに衛宮士郎達を置いて貴方が死のうとする訳がない。それぐらい分かってるわ、脅しても無駄よ』

 

「もう気付いていると思うけど私はこの固有結界全てを改造する事が出来る。後ね、私はこの火事を、この世の地獄を生き抜いたんだ。爆発程度で死ぬ気はない。さあ、地獄への片道切符を受け取れ!」

 

『させるか!」

 

 

読み通り、アサシンは私の頭上から襲い掛かって来た。その手に握られたグラスから赤い結晶の雨を降らし、さらに自身もナイフを手に加速。一秒もかからずに私に凶刃が迫り来る。だけど、

 

 

「ごめん、やっぱ嘘だわ。JACKPOT(大当たり)!」

 

「しまっ・・・がああっ!?」

 

 

私が後ろに倒れ込むと、ビルの外壁に穴が開いて私はそのまま受け身を取って立ち上がり、そして起動(・・)。私が今の今までいた場所の地面が隆起し、一気に盛り上がって強烈な巨拳をアサシンに叩き込み、そのまま掴んで今私が下にいるビルの外壁に叩き付けた。そのまま巨腕ごと大爆発。ビルまで巻き込み、その瓦礫も連鎖爆発させる。

 

 

「ぐぅ・・・」

 

Die(死ね)!」

 

 

さらに、崩れたビルの瓦礫の山から出てきて呻くアサシンに向け、集中砲火。集中する様に周囲の建物を引き寄せて倒壊させ、それを爆発させていく。逃げ場なんてない、対魔力の無いサーヴァントは魔力の圧倒的火力で押し切るのが一番だ!

 

 

「集束、放射!燃え滾れ、私の憤怒!」

 

 

召喚した屍兵をドームの様にして爆発を凌いだのか、片膝をついているアサシンが見えた瞬間に、私は右手をかざして拳を握り込む。それに合わさる様に周囲の炎が津波となってアサシンを飲み込み、燃やしていく。

 

 

「・・・ッ、こんなもの、すぐにでも突っ切って・・・」

 

「そう簡単に逃がすか。士郎を、イリヤを、桜を。私の大事な人達を心身ともに傷つけた貴女は絶対に赦さない。簡易再現、(イリマージュ・)天の鎖(エルキドゥ)!」

 

「があっ!?」

 

 

加速して脱出しようと試みるアサシンに、私はさらに周囲の物体に炎を回して改造し形成した鎖の群れでアサシンの四肢を拘束、さらにその上から球体上に鎖を伸ばして閉じ込める。熱された鎖の球体、その中に閉じ込められたアサシンの体力を炎と熱で根こそぎ奪って行く。私の怒りに呼応して、炎の色が赤から青に変わる。高温になった証だ。

 

 

「逃げ場はない、このまま燃え尽きろ!」

 

「クソッ、クソッ、クソッ!・・・・・・・・・嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!また、また、また!青い炎で私を殺すか!ふざけるなふざけるなふざけるな・・・!」

 

「なっ・・・!?」

 

 

鎖が軋む。それは、アサシンが尋常では無い力で鎖を破壊しようとしている事と同義で。私の簡易再現した天の鎖は、王様の持つ本物程強度は高くない。このままだと、壊される。だったら、どうすべきか。・・・さらに縛るだけだ。

 

 

「ゆゆゆ許せない!絶対に許せない!殺してやる!ここから抜け出したら、すぐにでも貴女を殺して殺し殺し殺し・・・ああ、魔力が・・・」

 

 

宝具発動に用いる魔力がついに切れたのか、アサシンが元の姿に戻り力なく雁字搦めにされるのを感じる。このまま、焼き殺す。慈悲は無い、アサシンに対する慈悲なんて存在するはずがない。

 

 

「何で、魔力のストックがまだあったはず・・・そうだ、私が宝具を使ったせいでイフの意識が・・・体力回復に魔力を回していたからこんなにも早く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあいいわ。悪魔の力がなくたって、私は悪い奴なんかには負けない!」

 

 

・・・ああ、もう完全に錯乱して来たらしい。悪い奴とは、私の事か?まあ完全に今は私が悪役だろうな。士郎が観たら絶対非難されるであろう戦い方だもの。でも、悪いのはアンタだ。だから、このまま死んでくれ。お願いだから、私に罪悪感を抱かせないでくれ。

 

 

 

ガキン!っと、音が響いた。アサシンがナイフで鎖を叩いたらしい。ビクともしていないが。そのまま闇雲にナイフが振るわれているのか、連続して金属音が響く。拘束されてなお、そんな事が出来るとはさすがサーヴァント。でも、無駄だ。セイバーだったら何とかなっただろうけど、宝具も使えない上に、憶測だが体力が無くて変身も出来ないアサシンじゃどうしようもないだろう。

 

 

「衛宮士郎達を傷つけた事に対する仕返しって訳?・・・ああそうだ、私はあの正義の味方気取りの偽善者を殺さないと行けないんだった。邪魔をするな言峰黒名!死ね!死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」

 

 

ガツンガツンと響き渡っていた金属音が、だんだんと小さくなってきた。もう、何もできない。最後の悪足掻きだ。

 

 

「聖杯で叶えるんだ・・・!私は、皆と一緒に仲良く遊びたいの!悪食の悪魔に邪魔された願いを、叶えるんだから!」

 

「そのためならどんなことだってする、か。聖杯を壊そうなんて思わなければ私もそうなっていたかも。私が貴方を赦せない理由が分かった、同族嫌悪って奴だったんだ。・・・・・・そんなに出したいなら、出してあげるよ」

 

 

まるで一人の少女の様な、純粋な願いに。憐れみを感じてしまった。だから、終わらせる。起爆させる、アサシンを拘束している鎖とその周りを囲んでいる鎖の球体を、爆弾に改造する。

 

 

「私の勝ちだ、アサシン」

 

 

踵を返し、拳を握るとそれを合図に大爆発。同時に、固有結界が解けて元のアインツベルンの森に戻ってきた。そして振り返ると、そこにアサシンのクラスで召喚された少女の姿は無かった。

 

 

 

 

 




アサシン、完全敗北。かなりえげつない方法でクロナは勝利を収めました。

クロナの固有結界は、一言で言えば全てクロナの思い通りになる世界。ただし、炎を回さないと改造は出来ません。逆に言えば炎が回っている場所全てがクロナの領域であり、圧倒的物量で敵を攻める事ができます。宝具でなければ相手の武器を奪う事も可能。
ただしデメリットとして、常に炎に当てられているので体力の消費が尋常ではなく、また炎は全てクロナの魔力であるため魔力もすぐなくなります。今回魔力が持ったのはとある要因のせいなので、同士討ちもありえました。さらに言えば視界に入った「手」が起動キーになっているので、手を自分の視界に入れる事が出来なければ何もできません、手を封じられたらただの燃える街です。

考えなしに突っ走ったせいで魔力が無くなり、敗北に帰すことになったアサシン。もう最後は完全に錯乱状態でした。でもその願いはこの聖杯戦争に置いて最も純粋な物。悪逆非道の限りを尽くしても、そんな願いを抱いてもいいじゃないかと。

次回は衛宮邸へ帰還、そして・・・?感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯35.5:勃発!第二次第四次聖杯戦争

前回、衛宮邸帰還と言ってましたがその前に書かないと行けない描写があったので書いたけど、かなりの問題回になってしまったため久々の.5話です。時系列的に前回と同じ。

クロナ達が戦っている間の王様sideのストーリー。エミヤの召喚された理由が分かる割と重要な回ですが.5話です。ついに『M』がやらかします。楽しんでいただけると幸いです。


今宵、祭が始まる。狂宴の時が。

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

crazynight・・・狂った闇夜のお祭り騒ぎが、クロナとアサシンの激突を余所にひっそり始まる。

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する―――――Anfang(セット)―――――告げる」

 

 

大聖杯と呼ばれる巨大な魔法陣の傍で、遠坂家から持ち出した宝石を溶かした物で六つの召喚陣を描いた白衣の男は詠唱する。

 

 

「――――告げる。汝等の身は我が下に、我が命運は汝等の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

背後に転がるは、いくつもの煙草の吸殻や砕けた宝石類の山。これらは全て、凛やイフの保存していた物を留守中を狙って盗んできたものである。

 

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

常人のそれどころかイリヤのさえ上回る膨大な魔力を用いて、狂気の医者の異名で知られる聖杯戦争きっての部外者(イレギュラー)は、裁定者が描かれた金色のカードを手に不気味に笑んだ。

 

 

「汝等三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手達よ―――」

 

 

最初に出現した黒き鎧を身に纏った少女に連なる様に次々と姿を現していく六騎の英霊達。不服の奴もいるようではあるが、ちゃんと聖杯(取引)を持ちかければ問題ない。何せ、この男は聖杯を必要としないのだから。世界征服するために受肉する?いいだろう、むしろぜひともしてくれ。

 

 

「例え異世界がどんなに存在してもこのクラスカードを持っている奴なんて俺ぐらいだろうな。

 夢幻召喚(インストール)『ルーラー』」

 

 

白衣の上から聖骸布と呼ばれる十字があしらわれた白のマントを羽織った『M』は一見槍にも見える旗を肩にかけ、こちらに向かってくる黄金の王を見据えて心底楽しそうに、闇の中でぼんやりと魔力光に照らされながら口端を三日月の様に歪めて笑った。

 

 

「さあ、実験開始だ。この俺を愉しませてくれよ英雄王?言峰黒名や八神将アスラに負けないぐらいにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数刻前

「クロナの奴め、存分に暴れているようだな。さすが我の見込んだ娘よ」

 

 

燃える赤い夜空を見上げながら、ギルギルマシーン二号を駆り無人の冬木大橋を渡る私服姿のギルガメッシュは心底楽しそうに笑う。予想外も予想外、彼女は王である自分の予想を脱し、アサシンと真っ向から対決している。自らの予想では、あのアサシンとはバーサーカーと二人で挑んでようやく互角に渡り合えると言う所だった。実際にバーサーカーが一撃で気絶させられているのだ、相性が悪い。それを打破して見せたクロナは、好い成長をしてくれた。

 

ならばこそ、それを邪魔しようとする不躾な白衣の男を早く見つけなければならない。そのためにギルガメッシュは日夜、冬木市を探索していた。しかし、一日かけても見つからないのはどういう事だ。

 

 

否、答えなど分かっている。「拒絶」している奴を見付けるなど、不可能に等しい。一瞬だけ見せる気配を辿るしか、見付ける事は出来ないのである。だからこそ、全てを見渡す英雄王であるギルガメッシュであっても探索は難航していた。

 

 

「・・・白野の奴ならば(オレ)にはない視点で奴を見付ける事はできたのであろうな」

 

 

ボソッと泣き言を言ってみる。最も、マスターの力を借りようにも言峰は冬木を留守にしているのでどうしようもないが。何か変わる筈もなく。途方に暮れていた時だった。

 

 

「・・・うん?」

 

 

ギルギルマシーン二号を止め、それに気付いたギルガメッシュは顔を上げる。見やるは深山町側、現在火事で赤く焼けている郊外に広がるアインツベルンの森、から穂群原学園を挟んだ円蔵山の柳洞寺。と、そこで気付いた。何故自分は、あの場所を候補から外していた?・・・答えなど簡単だ、認識する事を拒絶させられていたから。

 

 

「雑種が・・・やるではないか」

 

 

憤怒の表情を向け、アクセルを全開にして突き進むギルガメッシュ。今現在、アサシン陣営が留守にしている柳洞寺・・・否、そのさらに奥の大空洞【龍洞】にて、何かが起こっている、と。その答えは、赤いアーチャー(エミヤシロウ)から得ていた。

イリヤが聞いた『M』曰く、「奴は一騎目のサーヴァントにして、二人目のアーチャーだ」。・・・そこから得られるのはまだ一騎目だと言う事。そして二人目とは、この聖杯戦争で同クラスが二人存在する事になる。つまりは、残り六騎ものサーヴァントが控えている事に他ならないのだ。

 

 

 

「ええい、遅いわ!」

 

 

入り組んだ街並みを走るためにどうしても減速してしまうギルギルマシーン二号から跳び、取り出したヴィマーナに乗り込むと共にギルギルマシーン二号を宝物庫に収納。空を飛び立ち、音速で結界が張られた柳洞寺の空まで飛翔すると王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から結界破りの剣を射出して破壊と同時に突入し、大空洞へと繋がる洞窟へ直行するギルガメッシュ。

 

この奥に存在するのは、聖杯戦争の要とも言える聖杯の本体。大聖杯と呼ばれる巨大な魔法陣、超抜級の魔術炉心だ。

そして特筆すべきは、大聖杯にはもしも七騎のサーヴァントが一勢力に統一されてしまった場合に限り、七騎に対抗するために追加で七騎のサーヴァントを召喚する予備システムが組み込まれている事だ。あの男は、それを使うつもりなのだ。即ちそれは、聖杯大戦に他ならない。そして先程感じた魔力の奔流からして、手遅れなのは明らかであった。ならば、尋常に六騎を蹴散らすまで。

 

 

「―――あまりにも愚かではあるがよい開幕だ。死に物狂いで謳え雑念―――!第二次第四次聖杯戦争なぞクロナの手を煩わせることなく、この王ずからの手で一夜にて閉幕にしてくれる!」

 

 

ヴィマーナから飛び降り、着地と同時に王の財宝を展開する黄金の王の前には、召喚されたばかりと思われる六騎のサーヴァントと、その中央で不敵に佇む白衣の男。

 

 

「よう、遅かったな英雄王。まだ発動中の拒絶(ブライ)の違和感を看破しここに来るとは本当に恐れ入った。未だに他の連中は気付いてさえいないと言うのにな?一瞬の魔力漏洩を見破るとは完敗だ。

 だがな?本当に遅かったぞ、既に準備は万端だ。アンタの対策も完璧だ」

 

 

並び立つは六騎。冷徹な雰囲気を宿した黒き騎士王。赤と黄の槍を下げた輝く貌。大柄で筋骨隆々の征服王。漆黒の鎧に身を包んだ湖の騎士。カエル顔の元帥。百の貌持つ山の翁。即ち、ギルガメッシュと共に10年前この地に召喚された英霊達である。

 

 

「アサシン、お前は他のマスターの監視に行け。ランサーは言峰黒名を見張れ、殺させるな。キャスターは工房をここに作れ、材料は用意してやる。ライダーは手筈通り小聖杯を回収して来い。セイバーとバーサーカーは、俺と一緒に英雄王の始末だ」

 

 

言われるなり霊体化して姿を消すランサー、ライダー、アサシン。「最高のCOOLをお見せしましょう!」などとほざきながら奥に歩いて行くキャスター。ギルガメッシュは、『M』の両腕に赤い刺繍の様な物が見えた事で、察する。この男、どうやったかは知らないが裁定者(ルーラー)の力で全てのサーヴァントに対し二画ずつ、計12画もの令呪を得ていると。

 

 

 

「ふん、ヒトの領分を超えた悲願に手を伸ばす愚か者と狂犬風情で(オレ)の相手になるとでも?」

 

「黙れ。慢心は身を滅ぼすぞ、笑わせるな金色」

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」

 

 

『M』の両側に控える黒き騎士王・・・セイバーオルタとバーサーカーが黒き聖剣と『M』が渡したと思われる宝具と化した鉄パイプを構えるのを見て、ギルガメッシュは『原罪(メロダック)』と『絶世の名剣(デュランダル)』を取り出し、黄金の鎧を着込んで二刀流で構え、『M』に負けないくらい不敵に笑んだ。

 

 

「慢心せずして何が王か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『M』side

完璧だった。言峰黒名が予想以上に面白くしてくれたこの聖杯戦争。だが物足りない、と考え言峰黒名が固有結界に目覚める時を計算して、次の手を打った。協力者と共謀し、聖杯戦争をクライマックスへと激化させるのだ。

 

用意したのは自分で用意し世界を超えてトランクに入れて持ってきた魔力タンクであるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの亡骸と、この世界で調達した魔力のストック他、無人と化した冬木の数々の霊地に繋げた龍脈から魔力を引き出すためのライン。

 

まず英霊を召喚するために聖杯が溜めた物を使う訳には行かない魔力・・・大聖杯が60年かけて龍脈から引き出したマナの量と同等の量と、協力者から得た前回の第四次聖杯戦争の聖杯の欠片と接続し、保存された霊基から脱落した英霊達を召喚する。問題は令呪が一画しか残ってない俺でどうやって我の強い連中を指示するかだったが、前の世界で手に入れたルーラーのクラスカードが役に立った。これなら令呪が二画ずつ手に入るからな。

 

ただしアーチャーの霊基だけギルガメッシュが脱落して無いため存在しなかったからか、代わりに言峰黒名と縁深いエミヤシロウがアーチャー枠としてバゼット・フラガ・マクレミッツの願いに呼応してフライングで召喚されると言うアクシデントがあったが、それがデコイとなってこちらで残りの英霊を召喚する準備が整えた。アサシンの本拠地からストックを持ち出せなかったら六騎全員は召喚できなかっただろう。

 

留守中にストックを盗み出すついでに礼とばかりに、柳洞寺の奥でグーラ病にされて死に掛けていたバゼットを回収して胃を洗浄し、グーラ病の完治と腕や傷口の治療を施してやったんだから感謝の一つでも欲しい所だ。

邪魔になるからと衛宮邸の庭に放りこんで置いたから相手の戦力になる可能性はあるが、フラガラックは俺が所持しているから問題は無いだろう。まあ、ぶっちゃけこの女が屍兵にされたら勝てる気がしなかったためでもあるが。あのアサシンに言峰黒名が勝てると言う確信が無いからな。ランサーが間に合ってくれるといいが・・・

 

そして現在、キャスターは協力者の元で工房を作らせて置き、アサシン・ランサー・ライダーがここから離れ、セイバーとバーサーカーと共にルーラーのクラスカードを夢幻召喚(インストール)して、最強のEXランクの結界宝具たる旗を手に英雄王ギルガメッシュと再度戦っている訳だが、おかしい。

 

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!」

 

「ENEMYYYYYYYYYYYY!!」

 

「その程度か、雑種共!」

 

 

もう何度目か分からない黒い星光が暗闇を引き裂き、そして霧散する。赤い眼光が暗闇の中で何度も飛び掛かっているが、いなされる。馬鹿な、何故勝てない。俺の計算上では既にギルガメッシュを排除できているはずだ。

アーサー王・・・セイバーオルタの聖剣と、俺の鉄パイプを使った湖の騎士ランスロットの薙ぎ払い。それら全てが、防がれるか相殺される。あの英雄王が、無限に等しい宝物庫に納められた宝具の数で蹂躙するのではなく、必要最低限の宝具のみを使って戦闘していた。しかも、こちらにとっては格好の獲物でもあると分かっているのか宝具を射出してすら来ない。

どういう事だ?この布陣は、セイバーオルタが接近戦でギルガメッシュを圧倒しつつ、ランスロットで相手の宝具を奪い取りこちらの戦力を潤沢にしていく上でその援護、相手の放つエヌマエリシュやらは今の俺が使える結界宝具で防ぐ、と言う完璧なアンチAUOだったはずだ。むしろ、俺は参加したところで足手まといにしかならないことは明白なのでわざわざ後ろに陣取って唯一の弱点たる俺自身は後方で指示を出しているだけだと言うのにだ。

 

 

「おい英雄王・・・何故、慢心していない?」

 

「慢心はあるぞ?だがな。先日、貴様に敗れた挙句クロナに無様な姿を見られてしまった。その動揺のためかは知らぬが、フェイカーにやられる始末だ。こちらも手負いで手加減していたとはいえ、あの悪鬼羅刹にも敗北した。・・・もう二度と愚行は犯さん。クロナが勝手に敗れるのはその程度だったと諦めるが、(オレ)のせいで奴が負けるのだけは許さぬ。そのためならば、慢心も鳴りを潜めようぞ。今の(オレ)に貴様がどうこうできるとは思わんがな!これは(オレ)の為、極上の愉悦を得る為の戦いだ」

 

 

極上の愉悦、ね。娘に無様な姿を見られたくない、がメインに聞こえるがな。本人がそう言う事にしたいなら指摘はしないさ。そっちの方が面白い。こんな英雄王、俺は初めて見たからな。

 

 

「・・・ちっ。親で子が変われば子で親も変わるか。畜生め、英雄王様が変わるなんて想定外だ。あの女、思った以上に面白いな。この聖杯戦争をもっと面白くしてやるって言ってんだ、大人しく退きやがれ英雄王!」

 

「戯言を抜かすな雑種め。先日は油断から敗れはしたが、今の(オレ)に慢心はあまりない」

 

 

そう言い、セイバーオルタのエクスカリバー・モルガンを、原罪(メロダック)をしまって代わりに手に取ったエアで裂きながら(・・・・・)こちらに突進してくる英雄王。「あるんじゃねえか」とはツッコまない。ツッコんだ瞬間に殺されるビジョンが見えた。コイツ、今の台詞が地味に後から恥ずかしくなったらしい。

・・・・・・できればそのエアを今ここで使って欲しいんだがな。いや、切札使わなくても慢心しているこいつならセイバーオルタとランスロットで勝てるだろうとか思っていたけど無理そうだから切札使いたいんだが。何でそんな時に限って、必殺(・・)の武器を使わない?しょうがない、作戦変更だ。接近戦だと言うのならばこちらが連携しやすい場所の方がいい。というか流れ弾がキャスターにでも当たったら洒落にならない。

 

 

「・・・セイバー、バーサーカー。場所を変えるぞ、柳洞寺だ」

 

「黙れ」

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」

 

 

・・・・・・・・・・・・今更だが何故セイバー黒化してるし。ランスロットは再び王と一緒に戦えて興奮してるし。せめて俺の言うこと素直に聞いてくれるディルムッド残しとけばよかったなぁ(遠い目)

 

 

 

 

この時、俺が準備で引き籠っている間に言峰黒名が覚醒してランサーは別に助太刀には必要なく、さらにその覚醒で英雄王が無駄に機嫌がいい事を俺はまだ知らない。




そんな訳で召喚、第四次サーヴァント。絵面的には第四次サーヴァント六体VS第四次アーチャーなので第二次第四次聖杯戦争。もう訳が分からない。
エミヤシロウは、準備していた最中にバゼットがフライング召喚してしまったと言うのが理由。アーチャー枠のギルガメッシュが居なかったので、自動的に「クロナ」と因縁深いエミヤが選ばれ、バゼットが救いを求めた結果、正義の味方が来てしまった感じです。「一騎目のサーヴァントにして、二人目のアーチャー」と言うのはこういう理由。『M』も本当に想定外だったし、アサシンに敗れるのも計算外だった。本当なら嬉々とクロナにぶつけていました。

とにかく王様をかっこよく書こうとしたら何か色んな王様が混ざってしまった。慢心を捨てた王様もいいけど慢心をあまりしていない王様もいいと思うんだ。

本気で介入するために何処から調達したのかルーラー「ジャンヌ・ダルク」のクラスカード、イリヤの亡骸、パクッて来た魔力ストックと色々用意した『M』。夢幻召喚したりやりたい放題ですが何気にアサシンの魔の手からバゼットを助けてます。六騎の英霊を従えますが問題児ばかりで胃がヤバい。癒しはディルムッドだけ。

今回登場したセイバーオルタは以前登場したアルトリアとは別人です。というか別の世界線を記憶している同一人物です。セイバーオルタはこちらの第四次聖杯戦争で絶望に染まって士郎に出会わなかったルート(黒化しているのは別の理由)。士郎の中に召喚されたアルトリアは「衛宮黒名」の世界線で一応士郎に出会ってそのまま脱落したアルトリア。彼女らが出会う事は普通できませんが・・・?

次回こそクロナside。アスラの提案と、第四次サーヴァント参戦で急展開です。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯36:怒りに捧げる覚悟はあるか

衛宮邸帰還はちょっと先送り。今回はFateシリーズ恒例の主人公の自問みたいな回になります。でもFateではなくアスラズラースがメイン。アサシンを倒したクロナの苦悩、それは傍にアスラが居るからこその物で・・・そして、新たな脅威がクロナに迫る。

拙い描写かもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。


最初に感じたのは、寒い。次に感じたのは、痛い。どうやら、俺は全身大火傷を負った上で大雨に打たれているらしい。ああ、全身に染み渡るな。・・・これは、涙か?

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

 

 

懺悔の声が聞こえる。・・・そんなに泣くな。俺が勝つためにやっただけの事だ。そう言ってその頭を撫でたいのに、口も腕も動かない。・・・人間の身でサーヴァントに挑んだ代償か。雨に打たれながら笑う事しかできない。道化か、俺は。

 

 

「ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・」

 

 

今度は壊れたように礼を言ってきやがる。本当に恐かったんだな。気を失っていた時に見た夢で、コイツの悲痛な顔を見て鞭打ち、無理にでも起きてよかった。今まで見て来た夢でもコイツは一切泣かなかった。サーヴァントになってやっと初めて泣いているのか。

 

・・・コイツには、嬉し涙を流して欲しかったんだがな。ビジネスライクと言う関係と言っても、俺達がそれぞれ抱いている願いは違う。それでも、共通する願いがあった。ありえたかもしれない可能性を渇望している事だ。だから俺達は一緒に戦えた。一方的だったかもしれないが、俺はコイツの「夢」を応援していた。

その結果は焦った挙句にこの様だ。・・・コイツが負けそうになったのも、俺の所為だ。…なにしているんだ、俺は。マスターはマスターらしく、サーヴァントを信じて任せればよかったんだ。あの女みたいに前線に立つからこうなる。謝る事は無い、礼を言う事は無い。これは全部当然の事だ。

 

 

「・・・だから、泣くな」

 

「・・・・・・・・・生きてる?」

 

「・・・この程度で死ぬかよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ね!」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天敵、アサシンとの戦いが終わった。

 

火事の所為か、雨が降り出す。アインツベルンの森を覆っていた炎が、黒煙となって沈火して行く。私はただそれを、呆然と見上げていた。虚しかった。ただ無性に、心に穴が空いた感じだ。

 

・・・ああ、ついに殺した。殺してしまった。今まで、重傷を負わせる事はあっても私は一度もその命を奪う事は無かった。屍兵は既に死体、人形で殺しではない。壊した、だ。先刻のアインツベルン消滅だって、手を出したのはアーチャーだ。私は提案しただけに過ぎない。

 

 

怒りのままに復讐を遂げる覚悟はあった。あった、はずだ。でも私は、このまま続けていいものかと迷ってしまっている。結果、私は何を残せた?

 

士郎の命をむざむざ奪わせてしまった。サーヴァントを得たらすぐにでも救うと思っていた桜はライダーに救われた。イリヤの家族を守る事が出来なかった。バーサーカーの暴走を止めて冬木を守ったのは凛とランサーだ。エミヤシロウは、私を守るためだからと冬木を犠牲にしようとしていた。

王様も、私のために珍しく本気を出して死に体で戦ってくれた。あの外道の極みとも言える父さんだって、私を奪い返すためにあのエミヤシロウに拳を向けたと言うではないか。そしてバーサーカーは、何時も私を守ってくれた。否天の暴走だって元を辿れば私の所為だ。

 

何もできていない。そればかりか私はバーサーカーや王様に守られてばかりだ。守る必要はないと言わんばかりに一人で戦い、そして勝った。・・・シロウの時と違うのは、私の手で引導を渡したと言う事だ。

 

 

 

 

なんだろう。雨生龍之介を文字通り灰塵にした時はただ狂喜に満ち溢れていたのに。アインツベルンの本拠地を消滅させたときはただ笑いが込み上げて来たのに。

 

なんで、アサシンを殺した今の私は、雨に紛れて泣いているんだろう。泣かないって、決めたのに。あの日、シロウにバーサーカーを奪われて冬木市を破壊されて、士郎の前で悔しさのあまり泣いたあの時みたいだ。・・・いや、あの時とは心境は真逆だ。悲しくない、悔しくも無い。嬉しいはずなのに。

 

 

「なんで・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アサシンをやったのか?」

 

「・・・バーサーカー・・・・・・」

 

 

持ち直したのか、背中に大きな傷を残し両腕を失った姿でこちらに歩み寄って来るバーサーカーに、私は涙を拭いて振り向く。するとバーサーカーは、怒っていた。

 

 

「・・・うん、やったよ。この手で、やった。殺したよ」

 

「そうか。・・・・・・・・・だったら何故泣いている?」

 

「泣いて、ない・・・!」

 

「・・・そうか」

 

 

ただのしのしと、歩み寄って来るバーサーカー。顔を向ける事ができずに俯く私。ばれているだろうな、とは思う。誰よりも涙に、誰かが泣く事に敏感なこの人に隠す事なんてできない。それでも言って来ないのは、彼なりの不器用な優しさなのだろう。

 

 

「・・・魔術師達に復讐しようと思っていた」

 

「・・・」

 

「アインツベルンも、間桐も、時計塔も、一般の魔術師だって魔術使いだって・・・根源やら私欲やらを優先して理不尽に人の命を簡単に奪って行く奴等を、赦せないと思ったから、私は聖杯戦争に参加したんだ」

 

 

私の原初である雨生龍之介を葬ったせいで怒りが消えてしまったのか。それとも、単純に私は何かを殺す事が出来ない性分なのか。いや、もしかしたら・・・エミヤシロウに言われた言葉に、納得してしまったのかもしれない。まだ間に合う、だから諦めて大人しくしろと。

 

 

「でも、なんでだろ。アサシンを殺して、彼女の純粋な願いを復讐のためにと踏みにじって・・・震えが、止まらないんだ」

 

「・・・」

 

「確かにやっていた事は人道なんてへったくれもいい所の外道な所業で許される物じゃないけど、でもそれは私も同じなんだ。

 

魔術師達と同じだから、一般人を巻き込むのは嫌だ。ただ、それだけの違い。・・・だから、アサシンは私と同じなんだ。そんな、どんな手を使ってでも平穏を得ようとしていた純粋な願いを・・・理不尽に潰してしまった」

 

 

他人の純粋な願い。それを潰してまで、私は何を得ようと言うのか。・・・何もないんだ。私は、ただ赦せないから戦って、それを今後悔している。このまま進んで・・・いいのか?このままだと、守ろうって決めた人達まで殺しかねない。赦せないから殺す、なんていうのは間違いだ。でも分かっていても止められない。私にとっては息する事と同義だからだ。だから、魔術師以外をうっかり殺してしまうかもしれないんだ。私自身が理不尽の体現だ。それは、嫌だな。

 

 

「私は、復讐を続けていいのかな・・・」

 

「・・・復讐するは我にあり」

 

「え?」

 

「俺の誓いだ。今は英霊の身に成り果てたが、それは変わらん」

 

 

バーサーカーの怒りは、私の偽善的な物とは違う壮絶な物だ。ゴーマ・ヴリトラとの血戦の翌日に同胞達の企みで神皇暗殺の犯人として反逆者の汚名を着せられ、妻は殺害され娘は誘拐された。そして、「世界を救うための犠牲となれ」と命を奪われて地獄に叩き落とされ、バーサーカーは最期に自分を裏切った同胞達へ復讐して娘を取り返す事を誓い、一万二千年の時を超えて甦った。怒りを魂代わりにすると言う荒業で。まさに怒りの具現そのものだ。

 

 

「ミスラが生きる世界を見届け、俺は安らぎを得た。だが、俺の怒りは、今もなおこの世界に対して燻っている」

 

「・・・分かっていたけど強いね、バーサーカーは」

 

 

違い過ぎる…怒りを復讐に捧げたバーサーカーと、怒りのまま復讐を為そうとしているだけの私。境遇の差か、それとも覚悟の差か。・・・どう考えても後者だな。私の覚悟なんてそんなものだ。勢い任せの怒りにかられた衝動だ。

 

 

「・・・お前はこの戦いから降りろ」

 

「・・・嫌だ」

 

「だったら聞くぞ。キャスターを倒した後、お前は残る三騎のマスターと戦えるのか?」

 

「それは・・・」

 

 

残る三騎、と言えばセイバー・アーチャー・ライダー・・・守ると決めた三人のサーヴァント。・・・確かに、考えて無かったと言うのは嘘になる。サーヴァントだけなんてそんな甘い考えが通じるはずもない。もし士郎やイリヤ、桜と対面した時・・・私はちゃんと戦えるのか、今も分からない。でも、私は聖杯を得ないといけない。そのためならば・・・

 

 

「泣きそうで泣けない顔だ」

 

「ッ・・・大丈夫、私は聖杯を得るんだ。キャスターを倒したら、あの三騎もちゃんと倒す。それで聖杯への道が開けるんだから・・・」

 

 

正直、凛のランサーが最後に生き残ると思っていた。あの英霊ならばどんなことがあっても生き残り、セイバーをあの槍で穿ち、ライダーやアーチャーをも仕留めて、最後の敵になるんだと思っていた。でも、他ならぬ私がシロウにやられたせいでランサーは最初の脱落者となった。誤算にも程があると言うか、獲らぬ狸の皮算用というか。私は、甘い考えだったんだ。士郎と桜だけ守ればいい、遠坂凛なら実力もあるし最後まで生き残ったところを殺せばいい。士郎と桜が参戦すると聞いて、そう考えていた。

 

だからこそランサー陣営とキャスターを倒すまでと言う名目で同盟を結んだし、私があそこで倒れなければ確実にそうなっていたはずなんだ。・・・完璧だった計画を壊したのは、そんな私の驕り。一瞬の油断。何より、私と言う存在が招いたイレギュラーのせいだ。

 

 

平行世界からわざわざやって来た『M』のせいで父さんと王様が傷付いた。私の中で「最強」に確立されていた二人がやられた事で、私は間違いなく動揺していた。だから、バーサーカーには防御だけ任せて自分で迎え撃つなんて馬鹿をやったんだ。私が放った矢を相殺された事により生じた隙を突かれ、敗北した。セイバーやキャスター相手に生き残った自分なら大丈夫、勝てると驕っていた。

 

 

 

 

ああ、嫌だ。

 

 

 

エミヤシロウがどうして召喚されたのかは知らないが、バゼットのサーヴァントだったはずなのにまず私を狙ったのは、平行世界とはいえ私の所為だ。『M』の話を聞いていたはずなのに、士郎の面影を持つ彼に気付かず、警戒を怠ってしまった。さらには私が不甲斐無くあの短剣を受けて気を失ったせいで、バーサーカーはシロウに負けた。一瞬の油断が招いた最悪の事態。

 

 

 

 

考えも無しに突っ走って周りに迷惑をかける自分が嫌だ。

 

 

 

 

私の怒りのために冬木は破壊され、それを止めるためにランサーは捨て身の一撃でバーサーカーを止めた。私が怒りを抱いてなければ、責任なんて考えてもいなかった怒りと憤りをどこかにぶつけたい、と思っていなければシロウの令呪に乗せられて冬木が破壊される事もなかったはずだ。だって、バーサーカーには命令を強制する令呪なんて本来、効かないはずなんだから。

 

 

 

 

抱いた怒りで周りに理不尽な被害を与えている自分が嫌だ。

 

 

 

 

挙句の果てには死体に庇われたからってイリヤを許した癖して、それで晴らせなくなった怒りも上乗せして外道じみたやり過ぎ(オーバーキル)な方法で、イリヤみたいにささやかな願いを抱いて泣き喚いたアサシンを容赦なく倒した?あまりにも自分勝手すぎやしないか。そんなの、くだらない目的のために平気で他人を犠牲にする魔術師と大差ないじゃないか。

 

 

 

 

何時の間にか自分を見失っていた自分が嫌だ。聖杯を得る為なら何だってすると息巻いていた癖して、一人自分で殺して置いて今更止まろうとしている自分が嫌だ。呆れた、虚しい、どうしようもない自分に対する怒りが沸々と心で燃え上がり、それは魔力の炎となって掌から溢れ、雨が当たって水蒸気を上げる。それを雨か涙か分からない物で濡れた視界でぼんやりと見つめた。・・・ああ、私がこの炎を、固有結界を使えたのはどうしてだったか。

 

 

・・・・・不甲斐無い自分への怒りの矛先をアサシンへ向けた、ただの八つ当たり。アサシンに対しても怒りを抱いていたとはいえ、八つ当たりで純粋な願いを踏みにじったのか、魔術師以上に最低じゃないか。

 

 

 

「・・・バーサーカーは、何で私と一緒に戦ってくれるの?」

 

 

たまらず、聞いて見た。正当性が欲しい。私が怒りを抱いている正当な理由が。私がアサシンを倒さなきゃいけなかった理由が、たまらなく欲しい。

 

 

「テメエがこの世界に怒りを抱いているからだ。それ以上もそれ以下もない」

 

「じゃあ、私じゃ駄目だね」

 

「・・・どういう意味だ?」

 

 

不機嫌な顔から怪訝な表情を向けて来るバーサーカーに、私は申し訳なく感じた。この戦いを降りろなんて言われてもしょうがない。私に、聖杯を手に入れるばかりか、それを破壊する権利なんてないんだから。

 

 

「・・・私の怒りは、バーサーカーみたいに世界に向けていい物じゃない。独りよがりだ。自分勝手で、最低だ。抱いていい物でも、正当な物でもない。ただ、弟を見捨てた自分が赦せなかっただけなんだ。この怒りは、世界へ向けた八つ当たりだ。・・・純粋な怒りで突き進んだ貴方に見捨てられてもしょうがないかもしれない。私はこの戦いを降りるべきだ」

 

「・・・」

 

 

溢れる思いをそのままに懺悔する。今の私は、全てを投げ出した廃人の様になっているだろう。バーサーカーは憤怒の表情を浮かべ黙っている。マントラが両腕の付け根から漏れているのは怒りで再生が速まっているのか。・・・だろうな。こんな私の戯言に乗せられたんだ、怒って当然だ。

・・・ああ、もういっそキャスターを殺してから私も死んでしまうかな。そうすれば、士郎達はサーヴァントを残したまま、聖杯を手に入れる事無く平和な日常を送れるかもしれない。キャスターさえ倒せば、聖杯を狙うのは私だけなんだから。うん、それがいい。

 

私の怒りを捌け口である聖杯戦争を始めた御三家。アインツベルン、間桐は滅び、遠坂は聖杯を得ることすらできなくなった。怒りの根源である雨生龍之介はこの手で灰塵と化した。この聖杯戦争で一番赦せなかったアサシンも倒した。・・・魔術師全員への怒り、復讐なんて傲慢にも程がある。確かに根源を目指すためなら外道も侵す連中だが、自分への怒りを晴らすために八つ当たりで赤の他人(アサシン)を殺す私よりはマシじゃないか。じゃあ赦して楽になってしまえ、イリヤの事も赦しただろ。

・・・もう私に戦う理由なんて、存在価値なんてキャスターと戦って死ぬぐらいしかない。王様は勝手に死なせるかとか言うかもしれないけど、怒りを見失った私なんて価値は無いだろう。何で気に入られているかも知らないが見捨てるさ。こんな人間を好む奴なんてどこにいる。

 

士郎がエミヤシロウみたいに後悔しない程度に、潔く死んでやろうじゃないか。

 

 

「この戦いから降りる。・・・でも、その前にキャスターを倒す。バーサーカーには悪いから、一人でやるよ。『M』から令呪を譲渡されたマスターを殺せば問題ない」

 

 

そう言って、踵を返したその時だった。

 

 

 

「テメエは何を言ってやがる」

 

「・・・え?いや、だから一人でもキャスターは倒せる・・・」

 

「そうではない。怒りに正当も糞もあるか。俺はミスラを泣かせるクソッたれがいたから神も世界もぶっ壊しただけだ。このどこに正当性がある?正当性があるのは世界から見れば俺ではなくデウスの野郎共だ」

 

 

・・・ああ、そうだった。

 

 

「・・・でも、バーサーカー・・・アスラの怒りは優しさ故だ!人の泣き声が大嫌いで、人を苦しめ泣かせるものがこの世で一番許せない・・・熱い優しさの裏返しである怒りだ!」

 

「俺はただ、気に入らないだけだ」

 

「でも、アスラは不器用故に、人に手を差し伸べて救う事ができない不甲斐無い自分自身にも、理不尽な苦しみが繰り返される世界そのものにも怒っている!・・・あまりにも優しい怒りと、私の自分勝手な物とは全然違う。・・・正当性とかそんなものじゃない、アスラの怒りは・・・・・・・・・正しいんだ。私の怒りは、根本から間違っている」

 

「正しいか間違っているかも関係ねえ。それでも、怒るのは自由だ。それで身を滅ぼすかどうかなんて知らん。テメエのしたいようにすればいい。怒りを見失っているんなら、怒りを思い出すまでこの戦いから降りろ。・・・それまでぐらいなら、俺は死なん」

 

 

そう言って雨の中立ち尽くす私を置いて踵を返すバーサーカー。・・・本当に不器用だ。言葉が足りないよ、バーサーカー。いや、一度怒りを納めたからこそ少しは分かりやすくなっているのか。生前だったら「知るか!」「好きなだけ悩んでいろ!俺は知らん!」とか言いかねない。

 

 

「・・・ありがとう、バーサーカー」

 

「礼などいらぬ。俺は最後までテメエに付き合ってやるだけだ」

 

「・・・それでも、ありがとう」

 

 

・・・ああ、自棄になっていた。頭を冷やそう。その為の時間なら、バーサーカーが作ってくれる。

 

 

「・・・俺が言うのも癪だが、一つ言って置いてやる」

 

「なに?」

 

「言峰黒名。テメエに、怒りに捧げる覚悟はあるか?」

 

 

・・・ただ怒るだけじゃない。怒りに捧げる・・・つまり、殉じる覚悟、か。・・・あるのかな、私に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ムッ」

 

「・・・今のは?」

 

 

今にもバーサーカーがここから立ち去ろうとしていた時、女の悲鳴が聞こえた。聞き覚えの無い声だ。明らかに、悲鳴だ。

 

 

「バーサーカー!」

 

「行くぞッ!」

 

 

思わず今の状況を忘れて何時もの様にバーサーカーの背に飛び乗り、バーサーカーは一跳躍でその現場に着地した。そこで見たのは、黒く焦げた焼け野原となったアインツベルンの森で、この場に似つかわしくない上品な旅行服を纏った14歳ぐらいの茶髪の少女が、全身に大火傷を負って気絶したイフ=リード=ヴァルテルをその小さな背で担いで、赤と黄の二槍を振るう緑の戦闘衣を身に纏った泣き黒子が目立つ美男子から逃げている姿があった。

 

・・・あの無駄にイケメンな奴はまさか、シロウみたいな番外のサーヴァント・・・?どういう訳だか知らないが、この場からイフを連れ出そうとしていた迷い込んだ一般人であろう少女を見付け、イフを始末しようと追いかけていると言った所か・・・?でも、この冬木市にまだ非難していない人間がいるなんて・・・いや、逸れた子供とかじゃなかろうか。

 

 

何にしても、イフなんかを背負ったせいで理不尽(・・・)に追われる少女。そんなの見たら、やる事は一つ。

 

 

「―――――Altars to blow my anger, the receive.(我が怒りの一撃、その身に受けよ)

 

「なっ!?」

 

 

転んでイフの長身に潰された少女に向けて赤の槍を振り上げる槍兵に、私は右腕にマフラーを巻いて改造してアスラの背から飛び出し、肘から魔力の炎を噴き出したその推進力で人間には出せないスピードを乗せた一撃をその、こちらに気付いて驚いているムカつくイケメンの顔に叩き込む・・・!

何か一瞬ムラッとしたけど怒りがそれを塗り潰す。死ねェエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!英霊(多分)の癖して幼気な少女を狙うとは!ロリコン死すべし!慈悲は無い!

 

 

My anger is should be clear here.(我が怒りこそ此処に晴らすべし)!」

 

「――――破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!」

 

「・・・えっ!?」

 

 

するとどうした事か、右拳に咄嗟に振るわれた槍の切っ先が受けた瞬間、解けてマフラーに戻ってしまった。・・・ゲイ・ジャルグだって・・・?王様が、第四次聖杯戦争を説明するとき見せて来て、先日アーチャーがシロウから受けた宝具・・・その使い手で、泣き黒子ってまさか・・・!

 

 

「フィオナ騎士団・・・ディルムッド・オディナ・・・!?」

 

「ほう。俺を知っているとはな。女のマスター、もしや言峰黒名か?」

 

「・・・だったらどうする?」

 

 

コイツの話は王様から聞いている。私が大嫌いな、騎士道精神溢れる騎士の中の騎士。何でいるかは知らないが、とにかくこいつは倒さなければいけない。・・・バーサーカー、合図でお願い。

 

 

「マスターから貴君の助太刀を命令されていたのだがな?その本人が邪魔立てすると言うのなら仕方ない、足の一本は覚悟してもらうぞ?」

 

「っ、バーサーカー!」

 

「オラァアアアアッ!」

 

 

ディルムッドが嘲笑を浮かべて構えたと同時、私の合図と共に無明鬼哭刀を召喚して蹴り上げ、歯で噛み締めたバーサーカーが私の背後から跳躍、斬撃を叩き込む・・・が、ディルムッドは完全に見切って華麗な身のこなしで回避、そのまま無明鬼哭刀を絡みとったかと思えば上空に放り投げてしまった。

 

 

「我が主の命により、少し大人しくしていただこう!」

 

「・・・またか。どいつもこいつも、・・・そんなに私を止めたいか」

 

 

沸々と湧き上がる。これはどうしようもない私自身への怒りじゃない。ただ、私を否定しようとしている周り、世界への怒り。次から次へと、そんなに私が邪魔か。ふざけるな。私は私だ、理不尽な戯言に屈して堪るか。

 

 

「ねえ。名前は?」

 

「・・・ユキナ、です」

 

「そう。じゃあユキナ・・・下がってて。危ないから」

 

 

ディルムッドの背後でこちらを窺っていた少女、ユキナにそう告げて。私は炎を手から溢れ出させる。魔術の秘匿?知った事か。

 

 

「・・・バーサーカー。まだ、捧げる程の覚悟ができた訳じゃない。でも私はやっぱり、この怒りに従うよ。だからこそ、私はアイツをぶちのめしたい」

 

「・・・そうか」

 

 

ニッと笑みを浮かべ、その言葉と共に両腕が再生したバーサーカーが六天金剛になって跳躍すると同時、私は炎でディルムッドとユキナの間を割き、飛び出したバーサーカーを援護する様に炎を放つ。うん、ここはバーサーカーに任せた。信じろ、私と違って純粋な怒りのままに駆け抜けた男を。

 

 

「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ。推して参る!」

 

「押し通る!」

 

 

そして、木々を吹き飛ばして、二槍と六拳がぶつかった。

 




アスラズラースは名言ばかりなのにそれを上手く使えない自分がもどかしい。

正直、こういう主人公の心理描写は苦手です。苦悩とか特に。今まで表面楽観的なキャラばかり書いて来た報いですね。

颯爽登場、ディルムッド・オディナ。加勢しに来たはずが、何故か少女を襲って、クロナに攻撃すると言う何ともなアレ。若干オルタ化してます。主の命令こそ絶対。

独りよがりな怒りを抱くクロナと、クロナ曰く「純粋な怒り」を抱くアスラの違い。ずっとそばにアスラが居たから、逆に自分の怒りは抱いていい物なのかと苦悩してたんです。それがアサシンを倒したのを拍子に爆発したのが今回。根本的な部分で某復讐者みたいな破滅願望を抱いてるので、怒りの理由が無くなれば自棄になって死にに行きます。FGO編でも「心中する」と普通に言ってのけたクロナの本性はこれです。王様は気付いているのかいないのか。

そして地味に初登場、ユキナと名乗る謎の少女。通りかかったところでイフを助けた模様。でも何でこんな所にいるのか。バレバレですね、はい。


次回はバーサーカーVSディルムッドの手数対決。洗練された槍兵と力が売りの狂戦士、勝敗や如何に。今度こそ衛宮邸へ帰還したいです。
感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯37:他に恥じる事は無いのか

ついに衛宮邸へ帰還・・・!バーサーカーVSディルムッド、拳と槍のどつき合いです。

楽しんでいただけると幸いです。


それは、久しくぶりの人智を超えた戦い。いや、私が慣れていただけなんだろうけどね?何の魔力の強化も無く、純粋に私の瞳で見る戦いは、やはり付け入る隙が無い、

 

赤と黄の閃光が瞬き、暴力の嵐で押し返される。六つの拳が縦横無尽に駆け巡り、絶技を以って払われる。

 

 

敏捷と技が売りの槍兵と、筋力と逆境の強さが売りの狂戦士の対決は、それの繰り返しだった。それはまるで、夢で見たバーサーカー(アスラ)その好敵手(ヤシャ)の戦いの再現だ。いや、あちらは速いと言ってもヒット&アウェイだったか。二槍で受け流すその技術は、さすがはフィオナ騎士団最強と謳われた騎士と言える。いくら回復できると言っても魔力が枯渇しているバーサーカーじゃ分が悪いか?

 

 

必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)!」

 

「ッ・・・!」

 

 

もう一つ注意すべきは、あの二槍だ。片や魔力を打ち消す、私の改造魔術の天敵とも言える破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)。片や失われない限り決して癒えない傷を与える必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)。どちらも共に、バーサーカーにとっては痛手だ。

 

バーサーカーはいわゆるノーガード戦法だ。怒れば怒る程傷が癒えて行くから当り前である。しかし相手の黄槍は当たる訳には行かないから、フェイントも織り交ぜた一撃を常に警戒しないと行けない。

さらに言えば、バーサーカーの六天金剛の四腕はマントラで形成している物だ。足りない時は私の魔力も使っている為、刃に触れれば簡単に捥がれてしまう。つまりこちらも迂闊に当てられない上に受けれない。

 

さらに、バーサーカーの天敵(ヤシャとかデウスとか)とも言えるスピードタイプな上に技術も持ち合わせている相手。それが魔力も十分に扱え宝具を連発して来るから天敵と言っても差し支えないだろう。何でこう、第四次ランサーはバーサーカーに強いのか。不幸中の幸いはマスターがこの場にいないためあちらも回復やらの補助は受けないこと。かといって、今の私にバーサーカーを援護できる程の余力はない。

 

だから、信じるだけだ。どんな苦境であっても打破して来た男を。私のサーヴァントを。

 

 

「ウオォラアアアッ!」

 

「甘いぞ狂戦士!」

 

 

腕一本ずつで槍の柄を掴み、そこに残り四つの拳が殺到。しかしディルムッドは曲芸の様に槍をクルリと回してバーサーカーの腕を弾き飛ばし、そのまま二槍でバーサーカーの二腕を切断。あっ、という暇もなく流れる様に黄槍の突きがバーサーカーの胸を穿ち、突き飛ばした。鮮血、ではなく火花が散る。内部の機械が露出して黒く焦げている。アレは不味い、重傷だ。

 

 

「バーサーカー!」

 

「どうした、女マスターよ。治癒魔術はかけないのか?」

 

「・・・ッ」

 

 

まただ。また、この自分への憤りだ。ちょっとでも治癒魔術を使えれば、バーサーカーを少しは楽に出来たかもしれない。意固地になって「強化」しか覚えなかったツケだ。いや、どちらにしても使えなかったかもしれないけど。

 

 

「そいつは関係ねえ。俺はまだ戦えるぞ糞野郎・・・!」

 

「ほう。致命傷であろうにまだ立てるのか。気に入ったぞ、バーサーカー」

 

「俺はテメエが気に入らん!」

 

 

傷口を押さえて立ち上がり、睨みつけるバーサーカーに好敵手を得たとばかりに笑うディルムッド。残った四椀を振るうバーサーカー。しかしキレがなく、あっさり避けられたところに斬撃。二腕がもがれ元の一対に戻ったバーサーカーは、跳躍して光弾を掌から放射するがディルムッドはバックステップで後退して冷静に回避、降りてきたところを迎撃し、バーサーカーは槍の柄で殴り飛ばされてしまう。

 

駄目だ、圧倒的に魔力が足りない。このままじゃやられる。任せるとは言ったけど、私も援護した方が・・・いや、何ができる私に。下手すれば決して癒えない傷を両足に受けるかもしれないんだぞ?もう、不相応な事は止めろ。バーサーカーを、・・・信じろ。

 

 

「オラアッ!」

 

「なんの!・・・むっ?」

 

 

すると、バーサーカーの拳を回避したディルムッドのカウンターが、初めて外れた。いや、バーサーカーが頭をずらした事により頬に掠っただけで済んだのだ。そこから、流れが変わる。

 

 

「な、なんだ?」

 

「オラ、オラ、オラアッ!」

 

 

ディルムッドの突きを避け、カウンターの拳が顔面、胸部、腹部に叩き込まれて行く。大振りなのは変わらない。だがしかし、逆転した。バーサーカーの動きを見ていて、私はそれに気付いた。

 

 

「・・・そうか、得物のリーチで翻弄されていたのか」

 

 

バーサーカーは、雑魚以外だと武器を持った強敵と戦ったのは二度しかない。彼の師にして無明鬼哭刀の使い手、オーガス。そしてバーサーカーを一度殺した仇敵にして七星天の筆頭、デウス。この二人の共通点は、どちらも共に伸縮自在の武器を使っていたと言う事だ。

 

まず無明鬼哭刀。これはかなり離れた所から突きの形で成層圏までバーサーカーを突き飛ばしてしまう程の勢いで、地球を貫通する程に伸縮する。イメージとしては如意棒だ。実際、バーサーカーは地球と一緒に団子みたいな状態にされてしまったが、地球に貫通している事で生まれた隙を突いて刀身を叩き折り、奪い取って勝利した。

 

そして問題はもう一人。デウスの武器は鎖の部分が雷になっているヌンチャク型法具「ヴァジュラ」を使う。雷の束を周囲に放って寄せ付けず、近付けたところで雷速の一閃が敵を沈める。実際、アスラとヤシャ二人がかりでもかなり苦戦し、夢で見た私からしても「よく勝てたな」と言えるほどの圧倒的な実力だった。例えるなら、王様とキャスターを合わせた感じと言った所だろう。勝てる気がしない。

 

なにが言いたいかと言うと、バーサーカーは得物を手にする敵の場合、必ずと言っていいほど伸縮自在のリーチに苦戦していた。だからこそ、ディルムッドの槍も伸びる類の物ではないかと警戒していた様だ。実際は「触れれば脅威」だったが。伸びないと分かれば、得意の接近戦だ。しかも両腕が残っているのだ、負けるはずがない。

 

 

「ウオラァアアアッ!」

 

「ぐはああ!?」

 

 

槍の連撃を掻い潜って繰り出された裏拳がディルムッドの頬を捉え、殴り飛ばす。しかしカウンターでゲイ・ボウがバーサーカーの脇腹を穿っていた。・・・クロスカウンター、と言えるのだろうか?傷は、バーサーカーの方が大きい。さらに一閃、二閃。赤と黄の閃光が瞬き、バーサーカーは吹き飛ばされる。

 

 

「貴様は強い。だが主の命を遂行するべく、我が絶技を持って屠らせてもらう・・・!」

 

「・・・来い!」

 

 

全身から赤と黄の魔力を放出し、二槍を構えるディルムッド。まさか、あの二槍を同時に・・・!?構えるバーサーカーだけど、傷が深いのは目に見えている。不味い、もうここは援護するしか・・・!でも、どうする?

 

 

「穿て! 破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)! 終わりだ!必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)!」

 

 

考えている間にも、ゲイ・ジャルグがバーサーカーの防御を切り払い、必殺のゲイ・ボウがバーサーカーの胸元・・・恐らくディルムッドは知らないが、バーサーカー達「神人類」の心臓部を成す「炉心」を穿とうと迫る。左側にある心臓と違って分かりやすく胸部の中央に配置されている上に、アレを破壊されたら動けなくなるどころか、消滅しかねない。と、その時だ。

 

 

「勝手に決めるな!終わりを決めるのは俺だ!」

 

(「右に避けなさい」)

 

 

何かに気付いたようにハッとした顔になったバーサーカーが首を右にずらした瞬間、ディルムッドの槍が何かに弾かれた。その隙を逃さないバーサーカーではなく、アッパーを腹部に叩き込んでディルムッドは胃液混じりの吐血をしながら宙を舞い、拳にマントラを込め、肘から噴出して打ち出すバーサーカー。

 

 

「ぐっ、あっ・・・!?」

 

「俺が、決める!」

 

 

落ちて来た整った貌に顔面ストレートが炸裂。アインツベルンの城壁まで吹き飛ばし、城壁を粉砕して倒壊させディルムッドは胸から上のみ瓦礫から出ている状態で動かなくなった。消え始めているところから、勝利したのだろう。でも今のは・・・?

 

 

「不覚・・・伏兵の少女の存在を忘れるとは、主の期待に応えられなかった俺自身の未熟さに恥を覚えるな。見事だ、狂戦士。ぜひ名を聞かs」

 

「ふざけるな!他に恥じる事は無いのか!」

 

「・・・なんだと・・・?」

 

 

自重の笑みを浮かべ賞賛を送ったと言うのに何故か怒り狂っているバーサーカーに怪訝な表情を浮かべるディルムッド。そう言えばと思い、ユキナの居た方を見ている。いつの間にか、イフと共に消えていた。あんな戦いの中逃げるなんて凄い度胸だ。

 

 

「貴様は、主の命だからとあんな女子供を付け狙ったのか?!貴様が恥じるべきは、くだらない物のために無力な奴等を襲っていた自分自身だクソッたれが!」

 

 

ディルムッドの憂いを帯びた目に、誰かを思い出したのか珍しくブチ切れているバーサーカー。まあ確かに、少しどうかしてるよこの騎士。私には理解できないね。

 

 

「・・・そうか、そうだったな。騎士の誇りとはなんだったのか。狂戦士の言葉で思い出されようとは・・・ふっ、これでは主にも前の主にも、誉れ高き騎士王にも顔向けできん。・・・すまなかったな、言峰黒名。俺はどうかしていたのだ」

 

 

・・・でも、それでも。ディルムッドが抱いていた激情は、恨み辛みの怨念が籠った怒りは、そこから来る八つ当たりは、ついさっきの私と一緒だ。それでも八つ当たりで女子供に手を出すのは如何なものかと。・・・はい、私ですごめんなさい。

 

 

「いいよ、分かるから。それに、前襲ってきたサーヴァントみたいに何か奪われた訳じゃないし。でも、私を邪魔者扱いする貴方のマスターって何者?」

 

「すまない。白衣を着ている事しか知らんのだ。名前は聞かなかった、また主の機嫌を損ねる訳には行かなかったからな。ただ命令を与えられただけで、コミュニケーションすらとっていない」

 

「・・・よくそれで言う事聞いたね?」

 

「ああ。何せ、私に任せると言う事は即ち、信じている事に他ならないからな!全力で戦い、果てた。悔いはない。ああ主よ、貴方を置いて逝くことをどうかお許し願いたい・・・」

 

 

そう言って完全に消滅するディルムッド。安らかな笑みだったからまあ、本人的には満足なんだろう。ちょいと哀れに見えたけど。本人がいいならそれでいいのだ。それより・・・

 

 

「バーサーカー、さっきのはなに?」

 

「・・・ただの気まぐれなそよ風だろう。俺は知らん」

 

「そっか。運がよかったね」

 

 

・・・絶対違う。バーサーカーは嘘を吐くのが下手過ぎる。でも、まさかね。アレは、矢の様に尖った枝だった。あんなことができるのは、私は一人しか知らない。でも、この手で殺したはずだ。だから、気にするのは止めよう。アレは運がよかった、そう考えよう。またグルグル同じ事を迷い続けるのは駄目だ。

 

 

「・・・じゃあ、帰ろうかバーサーカー。士郎と桜、イリヤが待っているはずだ」

 

「・・・・・・トオサカはいいのか?」

 

「知らんよあんな魔術師。士郎の魔力タンクでしょ?」

 

「お、おう」

 

 

おいなんだその呆れ顔は。これでもかなり妥協した方だぞ?居ない物として考えてもいいんだからね。・・・なんか私を姉の様に見ていたから何か、放っておけないだけだから。でも、立ちはだかったら・・・私は、凛でも殺せるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰路につく私達を、倒壊したアインツベルン城の窓の中から見ていた少女が居た。ユキナ・・・ユキナ=フリージスと言う名のご令嬢は、私達が去った事を確認すると腰から崩れ落ち、傍らの廊下で呑気に寝ている相棒を見下ろし微笑んだ。

 

 

「・・・気絶させたのは私ですけど、令呪で助けてくれたお礼ぐらい言わせてくださいませ。サーヴァントと戦って生きているなんて本当に頑丈ですことマスター。でも、おかげで助かりました。ありがとうございます。なんて、聞こえていませんよね?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、前から思っていたけどフリージス家のお嬢様は何か合わないわね。せいぜい観察眼ぐらいしか持ってないから魔力消費が少ないメリットが無いとなりたくもない・・・ですわ」

 

 

そんな事を呟いたユキナは、恥ずかしくなったのか顔を赤らめ、その姿を一瞬黄色いサイドテールの少女の姿にぶれさせると、壁にもたれかかって辛いのかそのまま目を瞑り、体力の回復を図った。

 

 

「・・・魔力が枯渇寸前だってのに何で私は助けたんだか。あのバーサーカー、私の正体に気付いていたのに言及しなかったのはもう害はないとでも思ったのかしら?

 勘違いしないで欲しいけど、助太刀したのは助けてもらった礼とイフの為よ。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトのサーヴァントなんて見付けたら、何するか分かった物じゃないから。いや、ケルトマニアだからそっちの方向でも暴走するかもしれないか。全く、馬鹿なマスターを持つのも困った物よ」

 

 

ふぅ、と一息吐く。とりあえず安定したらしい。これで消える事はまずないだろう。マスターが起きるまでこのアインツベルン城に潜伏する事を決めたのか、再びイフを担いでほとんど半壊している廊下を歩きだす。

 

 

「とりあえず、ベッドがある場所・・・それと、魔力のストックになるホムンクルスとかないかしら・・・って私が壊しちゃったのか。やってしまった・・・飯でも食べれば少しは回復するかしら」

 

 

そんな事言いながら見付けたイリヤの物と思われるベッドにイフを放り投げ、ユキナは一人廊下を歩く。吹き込んでくる隙間風に体が震えた。

 

 

「でも私、イフみたいに料理作れないし・・・・・・・・・・・・・・・アレンかクラリスなら作れるかしら?とにかく、少しでも魔力を回復しないと・・・」

 

 

ぼやきながら、生きている事を実感してユキナは笑う。まだ、チャンスはある。生きているなら何だってできる。だって、今の私は独りじゃないから。そんな希望に満ちた笑みを浮かべるユキナを余所に、雨が降り終え、深々と雪が降り始めた夜は明けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで辿り着いた衛宮邸。バーサーカーを回復させるために霊体化させ、魔力もほとんど尽きていたため鍵がかかっているバイクを拝借できずにまさかの徒歩である。もうすっかり朝だ。これが朝帰りか。いや、違うか。

 

 

「・・・何事?」

 

 

帰るや否や、違和感に気付いて悪寒が走る。・・・なんで、衛宮邸の塀にあんな巨大な穴が開いている?嫌な予感がして、私は慌てて玄関に飛び込み、居間に走る。そこにいたのは・・・

 

 

「士郎!イリヤ!桜・・・・・・?」

 

 

まるでお通夜の様な暗い空気の中で机を囲んで座る士郎、アーチャー、イリヤ、セイバー、凛、何故かここにいる五体満足のバゼットさん。・・・そして、傷だらけで布団に入れられたライダーの姿だった。・・・待て、待て、待て。なんで、なんで、なんで。

 

 

「士郎、桜は・・・?」

 

「・・・ああ、おかえり。クロ姉」

 

「クロナ・・・私達が着いた時には、もう遅かったの」

 

 

沈んだ顔でこちらを見上げる士郎とイリヤ。その顔は罪悪感がいっぱいで、私は事情を知っていると思われる凛に歩み寄る。

 

 

「・・・凛。何があったの?」

 

「・・・クロ、帰ったのね。私が不甲斐無いばかりに桜が・・・・・・ライダーに、連れ去られてしまったのよ」

 

「・・・ん?」

 

 

その言葉に言い様も無い違和感を覚える私。・・・エミヤシロウも、ディルムッド・オディナも始まりに過ぎなかった。私達は既に、イレギュラーな聖杯大戦へと巻き込まれていたらしい。




アスラっぽい台詞をいっぱい書けて満足。相変わらずギリギリの勝利でした。

アスラを一度は圧倒して見せたディルムッド。アスラ、どうも武器持ちの相手が苦手の様なんですよね。というかリーチ自在の武器。だから警戒して攻撃を受けていたけどそんな事は無かった。→圧倒。ノーガード戦法のアスラにとって回避は基本です。具体的に言えば格ゲーなのに防御が無い感じ。

ユキナの正体はやっぱり彼女。今際の際にイフが意識を取り戻して令呪で助けていました。ユキナの口調は気持ち悪い様子。でも魔力消費しない姿がそれしかないからしょうがない。身長や能力が小さい程使う魔力も減るんです。

生きていた彼女の助太刀も合って辛くも勝利したクロナを待っていたのは、守らないと行けないはずの少女の誘拐。次回はクロナ達が死闘を繰り広げていた時系列に戻ります。

次回、ライダーVSライダー!固有結界VS固有結界!の二本立てでお送りします。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯GO:人理修復後のカルデアに賢王様が来ました

今回は番外編です。次はフランス編とか言ってましたが、諸事情で人理修復後の時系列です。その辺のネタバレがありますのでご注意ください。FGO編はこれまでぐだ子視点でしたが、今回はクロナ視点になります。

この小説のカルデアに出てくる鯖はオリ鯖以外は全部うちのカルデアにいる鯖。題名から何があったかは分かると思います。ついにうちのカルデアに王様が来た・・・!そんな内容の今回。楽しんでいただけると幸いです。


七つの特異点を超え、魔術王ソロモンが潜む終局特異点にて魔術王を語った者をマスターが物理で殴り飛ばしたり、"彼”の犠牲もあって人理修復を成し遂げた私達。とりあえずマスターとマシュを泣かせやがったあのヘタレは次、会ったら問答無用で殴る。てか殴らせろ。

 

人理修復を成し遂げた後でも、ほぼ全てのサーヴァントが残ったカルデアで、亜種特異点『悪性隔絶魔境新宿』や『深海電脳楽土_SE.RA.PH』と言った騒動も、マシュは居ないのにやっぱり私も巻き込まれながら何とか解決。"教授”やビーストⅢ/Rの絶望感がヤバかった。特異点では例外(ヘラクレスとかインド英雄とか)を除いて割と勝ててたのに、初めてマスターを守れないと思ってしまった。何故か騒動の時に何時も巻き込まれるのはマシュとかじゃなくて私なんだし、頑張らないと。

 

そんな中、エミヤ・オルタ(どこかで見たことある"悪の敵”)イシュタルやジャガーマン(どこかで見たことある天敵達)パッションリップにBB(どこかで見たことある"後輩”達)と言った新たな仲間を迎えてちょっと居心地悪くなって、癒しであるギル君を捜していた私の元に、嫌に上機嫌なマスターがやって来た。

 

 

「ク~ロ~ナ~さん!」

 

「何?マスター、キモいんだけど」

 

「酷い!?」

 

 

いや、ニコニコニコニコと笑っていたらそう思うよ。私の嫌いな殺人鬼と青髭の笑みに似てる。自分の楽しみが待ちきれない、そんな笑みだ。二回目のクリスマスでもそんな笑みしてたね。もし男だったら殴ってるよ。

 

 

「そんなことより、お待たせしましたクロナさん!」

 

「何も待ってないけど。それよりギル君知らない?」

 

「多分撫でられたくないから何処かに隠れているんじゃ?」

 

「抱っこしてなでなでするだけなのに何を嫌がる事があるのか」

 

 

ギル君も大人の時に子供の頃の私で無駄にしていたじゃないか、お相子だろう。しかし本当に何処にいるんだろう・・・知り合いらしいクロエの所にでもいるのかな?じゃあエミヤかアイリさんのところか。

 

 

「それが嫌なんだと思います。ね、王様?」

 

(オレ)が撫でるのはよいが撫でられるのは不服であろうな」

 

「さすが王様、唯我独尊。・・・ってえ!?」

 

 

私の背後に向けて同意を求めて来るマスターに応える、聞き覚えしかない声に振り向く。そこには、満面の笑みを浮かべた半裸の金髪赤眼の美男子がいた。その手には黄金の斧と魔導書が握られ、弓兵ではなく私がかつて妄想した魔術師のクラスで呼ばれた事が分かる。

いや、待て。このカルデアでこの声は何故か酷似しているモーツァルトでしか聞けないんじゃなかったか?何で、第七特異点のウルクに居るはずのこの人がいる?

 

 

「何を呆けているクロナよ。天上天下唯我独尊、人類最古の英雄王たる(オレ)が目の前にいるのだぞ?喝采の一つでもしたらどうだ?」

 

「・・・」

 

「どうした、よもや照れているのか?照れるのも無理はない。我が裸身はこの世で最高水準のダイヤに勝る。それが生娘なら尚の事だろうよ」

 

「・・・いや、私王様の全裸見たことあるし今更だから。バーサーカー・・・アスラを模したのか知らないけど半裸なら問題ないし、AUOキャストオフはもう勘弁」

 

「フハハハ!そうか、そうであったな!」

 

 

愉しげににやにやと笑いながら問いかけてくる王様の姿に、やっと思考が動き出した。うん、可笑しい。こんなノリは私を知らない賢王ではありえない。つまり、私を知っている王様が賢王として召喚されたと言う事。どういうことなの・・・?と言った目をマスターに向けると、笑顔で応えて来た。

 

 

「この間のバレンタインでギル君の財宝を見せてもらっていたんだけど、変な物見付けてね。何でもクロナさんから預かっていた物って聞いたから触媒にしてみたんだ。そしたら王様が来ました!クロナさんが何時来てくれるのかとギル君を撫でながらぼやいて待ち望んでいた王様です!お待たせしましたクロナさん!」

 

「確かに王様来ないなとか思っていたけどそこまで待ち望んでない!」

 

 

マフラーを改造したハリセンでしばかれ痛がるマスターの手から零れ落ちたのは、何時か聖杯戦争の準備をしている中でゴミ捨て場から拝借して来た物を改造して作った空き缶爆弾。そんな危ない物まだあったのか。いや、預けたの私だけど。てかこれを触媒に召喚される王様っていったい・・・

 

 

「よいよい。照れ隠しだと言う事は分かっているぞクロナよ」

 

「むっ・・・」

 

 

そんな笑顔で撫でられたら文句を言えない。気持ちいい。確かに七つもあった特異点の最後でようやく会えたウルクで私を覚えていなかった(生前だったからでもあるだろうけど)王様にちょっと寂しく思ったし、あのティアマト戦で見た本気の王様には惚れ直してしまった。

私にとっての英雄とは、アスラと王様だけだ。無理だ、表情が蕩ける。見れば、優しく笑む王様と、ニヤニヤ笑って見物しているぐだ子。・・・って!

 

 

「こんな優しいのは王様じゃない!」

 

「ぬお!?」

 

「ぐえ!?」

 

 

頭突きでドンッと王様をぐだ子に押し返す。王様と壁の間に潰されたぐだ子が悲鳴を上げるが気にしない。てかちょうどいい。こんな痴態、これ以上後輩に見せられるか!特にエミヤオルタやBBとかには絶対に見せられない。パッションリップは微笑ましげに見て来るに違いない。後輩増えすぎなんじゃないかなと本当に思うぞこのカルデア。クロエとか、見た目はイリヤなのに名前の所為かは知らないけど何か他人とは思えないし。

 

 

「ふむ、知人がいる場では恥ずかしいか」

 

「・・・認めたくないけど、そうです」

 

「見れば前より数が増えていると見える。既に人理は修復されている様だが、実に飽きないなここは。・・・どうだ?弟の代わりにはなっているか?」

 

「それはもう。・・・気を遣わなくてもいいよ王様」

 

「誰が気を遣うか。お前は性格に難ありで敵ばかり作るからな。上手く馴染めているか確かめたまでだ。なに、親心と言う奴よ。安心したぞクロナ」

 

「・・・王様、愛が重いです」

 

 

何で王様みたいな凄い人にこんなに気に入られたのか未だに納得できないです。しかしキャスターだからかアーチャーの王様より思慮深く見える。気のせいかな。

 

 

「・・・王様、重いです」

 

「おお、忘れていたぞ雑種」

 

 

あ、マスター忘れてた。そう言えばウルクでマスターも気に入られてたっけ。私は無駄に緊張していたせいで失せろと言われる始末だったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロナさん、余計なお世話でしたか?」

 

 

王様が去り、未だに放心中で残った私に心配げに問いかけてくるぐだ子。迷惑だと怒られると思っているのかね?そんなに信用ないか私。絆も数値にすると8はあると思うんだけど。

 

 

「・・・ううん。王様まで呼べるなんて凄いマスターになったね、ぐだ子。でも王様を扱うならスパルタクスとかランサー・・・クー・フーリンとかに気を付けないと」

 

「ああ、圧政者・・・でも何でクー・フーリン?」

 

「黒髭とか?」

 

「は?」

 

 

呆けるぐだ子に私はどう説明した物か思案する。私の世界では違ったけど(むしろ否天を止めた事で認めていた)、衛宮黒名の世界だと絶対犬猿の仲だったと思う。

 

 

「・・・今日はギル君の頭を撫でるのは止めようかな」

 

「ついでに、ジャンヌを見付けても悪態を吐かないでくれると嬉しいんだけど」

 

「だが断る!」

 

「あ、はい」

 

 

生前はネイが一番の天敵だと思っていたけどね。このカルデアで、今の私の天敵は絶対にあの聖女だ。ジャンヌオルタ早く来て。ジャルタリリィと一緒に撫でて可愛がるから。

 

 

「あ、そう言えば一緒にアンリマユも来たよ。クロナさんの事を知っているみたいです」

 

「・・・・・・・・・なんですと?」

 

 

・・・なんでこう、最近知り合いばかり来るかねこのカルデア。え、私のせい?だったらアスラも来てよ、さすがに無理か。

 

 

「あ、石余ってますしクロナさん引いてみます?」

 

「・・・黒鍵足りないから引く」

 

「最初からハズレ引こうとしないでください・・・」

 

「どれ。(オレ)も見物に付き合おう。マスターよ、暇だ」

 

「うわっ、びっくりした。すみません王様」

 

 

マスターの提案に、何故か着いて来た王様も一緒に召喚部屋に赴く。一年ぐらい前はここを火事にしてアーキマンと所長とマシュの三人に凄く怒られたっけ。でもそれでこのカルデアで一番の戦績を上げている経島を呼べたんだから勘弁して欲しい。

 

 

 

 

 

ポイポイポイッとマスターの傍で聖晶石を三個放り投げるとそれが魔力に還元され、三つの光環となって高速で回転する。・・・ちっ、サーヴァントか。邪ンヌ来ないかなーとか叶わない願いを抱き、サーヴァントが顕現されるのを待つ。マスターの手元に現れたのは、暗殺者のセイントグラフ。・・・・・・・・・・・・爺ちゃんじゃないよね?まさか・・・

 

 

「やほはろー♪」

 

「」

 

「クロナさん?」

 

「ほう。まさかこの女が召喚されるとはな」

 

 

絶句。ただただ、絶句。現れたのは、軍服の様な青のロングコートと紺色のマントを着込んだ黄色の長髪をサイドテールに纏めた少女。金色の目は、まるでバーサーカーと言わんばかりに狂気で満ちているが、この女は紛れもなくアサシンだ。あと私のトラウマだ。

 

 

「アサシン、悪ノ娘ネイ=フタピエ。召喚に応じ参上しました。今回のお母様(マスター)は貴方かしら?無視したら殺してしまうから、私の話はちゃんと聞くか令呪で自分を殺すなって命令しといた方がいいわよ?」

 

 

そう言った彼女は紛れもなく、生前の私と激戦を繰り広げた最強の暗殺者(アサシン)。・・・いや、エルサレムで出会いウルクで助太刀に来てくれた山の翁の方が最強だけど、それ以外なら間違いなく私の知る限り最強のアサシンだ。

 

 

「・・・新手のジャックちゃん?」

 

「マスター、悪い事は言わない。今直ぐ令呪で自害させるか契約を破棄して。もしくは私を令呪で縛って。暴走しかねないから。いや本当に」

 

 

おいこら王様。爆笑するな、こっちは泣きたいんだ。それにマスター、ジャックちゃんの方がマシだから。何でこいつが来たし。アサシンなら母親の胎内に戻ろうとするジャックちゃんの方が100倍マシだ。コイツは真性の悪だ。生まれついての悪だ。無意識に悪どい事をやって周りの被害を省みない「無意識確信犯BB」と言える存在だ。私がここまで嫌うサーヴァントなんてこいつぐらいだろう。

 

 

「釣れないわね。さすがにここでバイオハザードはしないわよ。現地で死体調達するから安心しなさい」

 

「マスターやマシュのSAN値的な意味で安心できない!王様も何か言って!」

 

「雑種よ。貴様、どうしてクロナの召喚に応えたのだ?」

 

「え?贋作英霊を願う声が聞こえたからですけど?」

 

「私が来て欲しいのは邪ンヌだ!」

 

 

確かに贋作英霊である邪ンヌを願いましたよ。いつの間にかカルデアに居て、ギル君の罠に引っ掛かってジャルタリリィちゃんになっちゃった邪ンヌちゃんを望みましたよ。贋作は贋作でも貴女じゃない!そしてひょっこり顔を出す白ジャンヌ。私に名前を呼ばれて嬉しいのか顔を綻ばせている

 

 

「クロナさん、呼びました?」

 

「キャラ性で薄くなっている白いのは引っ込んどけ!」

 

「酷い!これでも無限に旗を振れるようになったのに!」

 

「応援団でもしてろ!」

 

「同じカルデアの古参メンバーなのに何でこんなに仲が悪いかな・・・あ、これからよろしくお願いしますネイさん。よければ生前のクロナさんについて話してください」

 

「こんな私でいいならよろしく。にしてもここまでイラついている言峰黒名、初めて見たわーw」

 

「ハハハハハハッ!本当に退屈しないなここは!いいぞもっとやれ!(オレ)を愉しませよ!」

 

 

その後、ジャンヌやネイと口論を繰り広げたが、所長の「五月蠅い!」と言う怒声と共に止められ三人纏めて説教された。さらにその後、ネイから私が容赦なく彼女を殺そうとしていたのを聞いたのか少しの間ぐだ子との会話がぎくしゃくした。解せぬ。

 

今なら、義理の母親っぽい人や義理の姉っぽい上に自分に似ている少女、恩人に隣人に後輩まで来て「職場に知人が来て気恥ずかしい」とか言っていたエミヤの気持ちが分かる気がする。私の場合、それ以上にカオスだが。

 

 

とりあえず、王様は何時か敵で出て来たら殴る。それだけは心に決めた。




先日アンリマユが来たばかりと言うのに、今日酒呑目的で引いたら賢王様まで来た。クロナの影響かな?・・・直前に茨木童子の幕間やっていたから先に運命を感じたのはそっちですが。宝物庫やべえ。

何気にうちのカルデアがクロナの知人ばかりになってきたので書いた今回。職場に知人がいるって居心地悪いよね!

ライダーVSライダーは現在誠意執筆中。戦闘まで行くのが難しい。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯38:真夜中のチェイス、ライダーVSライダー

今回はクロナVSアサシンの時に起こった出来事。今までサモエド仮面のせいであまり目立っていなかったライダー回です。第五次ライダーVSイスカンダル、その戦いで何があったのか。固有結界VS固有結界は次回に持ち越しです。

学園キノとキノの旅要素が多いですが、楽しんでいただけると幸いです。


「うん分かった。――――で、こっちは?」

 

「うひゃあ!?な、なんでです?確かに時間を止めたはずなのに!」

 

「モトラドには効かなかったみたいだね」

 

 

必死に頼みこんでいる自分を無視した報いとして完全に動きを止め固まっている"旅人キノ”と"シズ”の脇で一見よく分からないが固まっていないモトラド・・・大型二輪車を指差し、特別何でもない事の様に返されプライドを傷つけられたのかキッと睨みつける自称惑星の女神。

 

 

「では!あなたは全然いらないので、今ここでスクラップにでもなってもらいます!」

 

「それは困るな!できればストラップがいい」

 

「はあ?」

 

 

しかし全く困っていない口振りで言うモトラド、エルメスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロナ、士郎、イリヤがそれぞれのサーヴァントを伴って飛び出して一時間経った頃。どさっと衛宮邸の庭に何かが落とされて、桜とライダーが見に行くとそこには五体満足で気絶しているバゼットの姿が。桜が油断することなく観察していると、そこに凛がやってきて溜め息を吐いた。

 

 

「何で左手首切られてアサシンに攫われたはずのコイツがここに?」

 

「私が聞きたいですよ。姉さん。これ・・・どうします?」

 

「まあ、エミヤはもう居ないんだし、衛宮君だったら入れるんじゃない?」

 

「ですよね?」

 

 

クロナなら容赦なく切り捨てるだろうけどここの主は違う。そしてここに住むほとんどの人が賛同すると判断した二人にライダーも手伝って客室に運び込む。衛宮士郎なら、そうするだろうと確信して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。正義の味方が悪に屈する、そんな最低最悪の夢を。

 

 

圧倒的絶望だった。その顔は私のよく知る知人の養子とそっくりなのに、彼と同じように肌と髪が変色し、鬼気迫る形相でこちらに向かって何やら吠えている。

 

私は既に超えてはならない一線を超えた。もう止まれない、手段を選んでいる暇も余裕もない。全てを壊す、全てを滅ぼす、この世全ての魔術師に復讐を。邪魔をするなら  と言えど排除する。止めて見せろ、正義の味方。

 

要点を纏めればそんな内容だが、実際にはただ狂乱して叫んでいるだけ。それに対し、自分と瓜二つの姿をした抑止力の守護者と、義理の父親とそっくりなもう一人の守護者と共に、正義の味方(エミヤシロウ)は悲痛の面持ちで挑んだ。

 

 

何度、勝利が約束された聖剣は折られたのか。何度、無限の剣を内包した世界は瞬く間に炎に侵食されたのか。何度、時間を操り起源弾を繰り出しても返り討ちにされたのか。投影された剣が、一瞬で支配され大地に突き刺さって行く。

 

駄目だ、勝てない。例え数多の英霊を呼ぼうともこの世全ての悪の手先(ゴーマ・ヴリトラ)が全てを焼き払う。それを三人だけで挑もうと言うのだ。自殺行為にも程がある。それでも、彼は正義の味方だから、彼女の家族だから、止まらない。

 

もう戦わなくていい。全てを投げ出してしまえばいい。貴方は何も悪くない。そう言おうと、血塗れで全身大火傷になっても彼女を睨みつけ悲痛の声で説得しようとする彼に手を伸ばそうとする。

 

 

その瞬間、飛んで来た剣で私の左手が斬り飛ばされた。え、と声が漏れる前にさらに襲い来る剣・・・いや、黒鍵の矢の束。それらは、私を突き飛ばした彼に突き刺さって行き、最後の一刺し。彼女の持ったレイピアで胸を貫かれた正義の味方は鮮血を溢れさせ、ついに地に伏した。

 

 

嘘ですよね、アーチャー?私のせいで?そうだ、私の所為だ。私が令呪で呼び出したりしなければ、私が隙を作らなければ、貴方が倒れる事なんてなかった。

 

 

飛んで来た隕石の余波を受けて吹き飛ばされる、彼と瓜二つの弓兵。攻撃を掻い潜るも大爆発を受けて地面に叩き付けられる暗殺者。たった一人が抜けた事で、状況は一変した。否、勝ち目が無くなった。唯一彼女を殺せる存在が死に、勝負は決したのだ。

 

 

 

 

 

飛び起きる。最低最悪の悪夢から抜け出した私がまず見たのは、切られたはずの左手。令呪は浮かんでないが、何故か治っている。痺れは残っているが、それでも二度失われたはずの手が存在している。

 

次に見たのは、古めかしい日本邸であることを表す畳と障子。どうやら寝かされていたらしい。最後の記憶では、拘束された上であの卑劣な暗殺者の手に握られたグラスに満ちた赤い液体を飲まされ、強烈な空腹感と食欲に襲われ拘束されていた部屋の畳の草やらを口に詰め込み、息ができなくなって気を失ったはずだ。

しかし、ここの畳は毟られた跡は無く、私が拘束されていた柳洞寺ではない様だ。さらに空腹なのは変わらないが、さすがに畳を食そうとは思わないためどうやら思考も正常に戻っているらしい。あの屈辱は忘れない、アーチャーを殺された分まであの暗殺者は一発は殴らないと気が済まない。

 

 

「あ、起きましたか」

 

 

そう決意を固めていると、障子が開き一人の少女が現れた。思わず布団から飛び出して構える。お盆を手にしたその少女は、私と戦いを繰り広げたマスター達の一人、間桐桜だった。

 

 

「貴女は・・・!」

 

「待って下さい。私達に敵意はありません。ここは衛宮先輩の屋敷です。貴女はここの庭に投げ出された状態で見つかり、やむを得ずここで寝かせていました」

 

「・・・つまり敵地だと?」

 

「魔術師らしい仕掛けは結界しかないのでそう身構えなくても大丈夫ですよ。それよりお腹が減っていませんか?簡単な物を作ってきました。どうぞ召し上がってください」

 

 

そう言って彼女が差し出したお盆に乗っていたのは、ラップに包まれたおにぎり三つと、鳥の笹身と思われる天麩羅が数個とほうれん草のお浸しが盛られた皿と箸、緑茶のペットボトル。どうやら本当に食事らしい。空腹に耐えきれず、私はそれを受けとり試しにおにぎりをラップから取り出し頬張る。中身は鮭だ。・・・ああ、アーチャーの作ってくれたご飯と似ている。どこか、安心した。

 

 

「やはり胃袋を掴めばどんな女性もイチコロですね!ライダーみたいに!」

 

 

はい、その一言が無ければコロッと心が傾いてましたね、ええ。天然と思われる彼女の言動に呆れながら、それでも警戒心を失くしていたその時だった。

 

 

開いた障子の向こうに見えた庭の塀が唐突に吹き飛び、結界の物なのか劈く警戒音と共に、彼は現れた。まず見えたのは、巨大な神牛。その次は、赤。赤いマントをなびかせた赤髪と髭を生やした大男は、鋭い眼光で戦車の上から私と間桐桜を見下ろしていた、

 

 

 

バサッと外套を翻し、庭に着地して剣を抜き掲げる偉丈夫に、私と間桐桜は間髪入れず戦闘態勢を取る。名乗りを上げるつもりらしいが、隙は見当たらない。

 

 

「我が名は征服王イスカンダル!此度もまたライダーのクラスを得て現界したサーヴァントである!我が盟友たるマスターの(めい)を受け、小聖杯を頂きに推参した!覚悟してもらおう、間桐桜よ」

 

「ふざけるな!」

 

 

間桐桜を攫う宣言をした瞬間、一発の弾丸が迫るもそれを難なく切り払うイスカンダル。遠坂凛と共に駆け付けたライダーが間桐桜の前に立ちはだかり、UZI二丁を手に威嚇する。しかし、イスカンダルは臆せず豪快に笑った。・・・これぞ英雄、と思わせる人物だ。征服王と言うのも嘘ではないらしい。・・・実際にこの地球を一番征服したのはチンギス・ハンだろうが。

 

 

「ガハハハッ!貴様が此度のライダーか、小娘ではないか。しかしてこの覇気、気に入ったぞ!名を何と言う?」

 

『ライダー、気を付けるんだ!彼は僕達とは違う、列記とした大英雄だ!』

 

「桜は下がっていて!凛とそこのバゼット!桜を守って!」

 

「それはこっちの台詞よ!任せたわ、ライダー!」

 

「・・・止むを得ませんね」

 

 

間桐桜を庇う形で下がろうと試みる私達。しかし、英霊にはそんな小細工は通じない。

 

 

「むっ、釣れないではないか!」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 

瞬間、雷を纏った剣が振り下ろされ、放たれた雷撃が大地を裂いてライダーもろとも私達を吹き飛ばす。最後に見たのは、どこかに頭をぶつけたのか気を失う間桐桜と、それを回収し雷気を纏った二匹の神牛【飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)】に牽かれる戦車(チャリオット)神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)】に乗って去りゆくイスカンダルの姿、そして。

 

 

「くそっ・・・エルメス!」

 

『行くよキノ!』

 

 

己のマスターを取り返すべく、バイクに跨り飛び出して行ったライダーの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の街並みを走るは、この時代に似つかわしくない神牛に引かれた戦車と、それを追う一台の大型二輪車。片や神牛、片や英霊と言うトンデモ乗り物によるチェイスで、無人の街は瞬く間に破壊されて行く。

 

 

「桜を返しなさい!」

 

「それは無理な相談だな!さてライダーよ、鉄の馬で我が戦車に敵うか?」

 

「なめんな・・・!エルメス!」

 

『変形とかは出来ないけど了解!』

 

 

相棒のギアを上げ、イスカンダルに肉薄するライダー。その手に取りだしたUZIの引き金を引こうとするも、イスカンダルの傍らに気絶した桜が寝かされている事で躊躇してしまい、その一瞬の隙を突かれて再び離された。

 

 

「どうした?来ないのか?」

 

「くっ・・・」

 

 

雷と共に夜空に舞い上がった戦車を追い掛け、ライダーは一度エルメスをストラップに戻すと掴み、ビルの壁に向けて投擲すると同時に跳躍。一回転の後に再度搭乗し、全速力でビル壁を駆け上がって空に舞い上がり屋上に着地したライダーはそのままビル群の屋上を走り抜け、イスカンダルを追いかける。次のビルに移るたびに迫撃砲を仕掛け、空中にいるイスカンダルを狙うがそう簡単には当たらない。

 

 

「エルメス!無茶するわよ!」

 

『えっ、何をする気―――――!?』

 

 

取り出した糸でハンドルと自身の手首を繋ぎ、フルスロットルでイスカンダルに向けて真っ直ぐ屋上を走るライダー。そして、ポーチの中から取り出して屋上の縁に投げ付けた迫撃砲をジャンプ台替わりに走り抜け、イスカンダルのいる夜の大空へと飛び出した。

 

 

「おりゃあぁああああああっ!」

 

 

同時にエルメスをストラップに戻して糸を引っ張って手繰り寄せ、取り出したリボルバー・・・シングルアクションアーミーを手にして勢いのままにライダーは砲弾の如くイスカンダルへと突っ込むも、途中で勢いが衰えるのを見てイスカンダルは「惜しかったな」と苦笑する。しかし、ライダーも伊達に銃器の達人ではなかった。

 

 

「隙有り!」

 

「なんと!?」

 

 

一拍置いて迫撃砲から放たれた砲弾に向けてシングルアクションアーミーの引き金を引くと見事撃ち抜き、その爆発を利用して加速。イスカンダルに肉薄するともう片方の手に取りだした彼女の宝具・・・魔射滅鉄(ビッグカノン)を向けようとするも、イスカンダルが唐突に急降下を始めた事により中断。

 

 

「逃がさない・・・!」

 

『死ぬかと思ったよ!せめて一言言ってよね!?』

 

 

空中に投げ出されたライダーは峠の道路に激突する寸前でバイクモードになったエルメスに搭乗、何とか難を逃れるとそのままアクセルを捻って走りだし、同じ道路に着地して道路と岩壁を削りながら爆走するイスカンダルを追跡する。

 

 

「ガハハハッ!まさか再びこの道で鉄の馬と速さを競う事になろうとは!なんたる運命の悪戯だろうな、ライダーよ!ウェイバーの奴めがここに居ない事が口惜しいわい!」

 

「訳わかんない事を言ってないで、桜を返せ!」

 

「残念だがな、それはできん。これは我がマスターとの契約なのだ、無下には出来ぬ。ところでだライダーよ!……矛を交えるより先に、まずは問うておくことがある。貴様も聖杯を望んでおるのだろう?聖杯に何を期するのかは知らぬ。だが今一度考えてみよ。その願望、天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるのかどうか」

 

『どうやら僕らの願いと彼の願い、どちらを優先すべきか考えろーって事らしいよライダー?』

 

「私の願い何てそこらにあるくだらないものだっての!何が言いたいのか知らないけど桜を返せ!もしくはスピードを落とせ今畜生!」

 

「うむ、噛み砕いて言うとだな。ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余は貴様を朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる。そうすれば我らは戦わずに済むではないか!」

 

「ふざけんな!んなことより桜を返せ!」

 

 

頑として話を聞こうとしないライダーにイスカンダルは残念そうに笑う。それが逆撫でし、ブチ切れてさらにスピードを上げるライダー。しかし、差はそう簡単に縮まらない。スタート時の場所からしてかなり距離が開いていた様だ。

 

 

「こりゃー交渉決裂かぁ。勿体ないなぁ。残念だなぁ」

 

『そうは言うけどね征服王。この相棒はそもそも交渉とかには応じないよ。貴方がうちのマスターを連れている限りは特にね』

 

「いやなに、“ものは試し”と言うではないか。しかし言葉を介す乗り物とはまた面白いな。やはり惜しい・・・どうしても我が軍門に降らんか?」

 

「『くどい!』」

 

 

その返事に、本当に残念そうに溜め息を吐いたイスカンダルは、すぐさまニッ!と笑みを浮かべ手綱を握る手に力を込めた。

 

 

「ならば仕方あるまい、しかし面白いぞ。そういうことなら余も相応の趣向で望んでやらんとな。()くぞライダー、尋常に車輪で勝負を決めてやる。見事征服王イスカンダルたる余を倒して貴様のマスターを奪還するがよい!」

 

「言われなくてもそのつもりだっての・・・!」

 

『もしこんな小娘に負けたら征服王の面子が立たないけどいいのかな?』

 

「案ずるな!天にも地にも、我が疾走を阻むものなど無い!」

 

 

さらにスピードを上げ、近づける事無く差を広げられていくことに歯噛みするライダー。しかし当り前だ、彼女はバイクの操縦などろくにしない四年生・・・高校一年生なのだ。エルメス合ってこそのライダーであり、征服王との練度の差は歴然である。それでも、根性で喰らい付くライダー。技術云々ではない、食に対してのみ使われてきた常人離れした執念によって、ただのガンマニアの女子高生が征服王に徐々に、しかし確実に肉薄していた。

 

 

「ほう、我が走りに着いてくるか。しかし生憎とこちらは戦車でな?お行儀よく駆け比べとはいかんぞ!」

 

「なっ!?」

 

 

神牛の蹄から発生する雷撃と車輪の棘により破壊された瓦礫が飛来、ライダーは咄嗟に取り出したUZI二丁を手にバイク上で対抗するが、ハンドルを放したことによるスピードダウン。一気に差を離されてしまう。既にカーブのガードレールの向こう側に見える道路を独走するイスカンダルに、ライダーは無い頭を振り絞って思考する。こういうのはエルメスの役割だが、定石では無理だ。ならば・・・

 

 

「ほう!よくぞ耐えた!だが第四次のセイバーの妙技程にはいかぬな!余の後塵を拝するとはこういうことだライダー!」

 

「・・・いっつも瓦礫の山を作り上げるサモエド仮面に比べたらどうってことないわ!エルメス!歯を食い縛れ!」

 

『無茶を言うけど何をする気なの!?』

 

「無茶する!」

 

『だよねこのおバカ!?』

 

 

ポーチから取り出したRifle,Anti-tank,.55in,Boys・・・ボーイズ対戦車ライフルを二丁ぶん投げ、カーブのガードレールに斜めに立てかけ、銃身長910mmのそれに全速力で突進。ジャンプ台替わりに使い、空中へと飛び出しイスカンダルに向けて綺麗な放物線を描いて落ちて行く。

 

 

「桜を返せぇええええええっ!」

 

「なんと!?」

 

 

UZI二丁を再び手に取り、神牛に向けて乱射して足止めを行ない、戦車を停めたイスカンダルの真ん前に何とか着地。エルメスをストラップに戻してUZI二丁をポーチに戻し、代わりに取り出したのは自らの宝具・・・一撃必殺のリボルバー、魔射滅鉄(ビッグカノン)

 

 

「これで終わり・・・!」

 

「それがお前の宝具か!受けて立つ!彼方にこそ栄えあり(ト・フィロティモ)!」

 

 

御者台の上(・・・・・)で剣を抜いて高らかに宣言し、真名解放して完全解放形態からの雷撃を纏った突進を仕掛けるイスカンダル。対軍宝具と、必殺宝具の真っ向勝負。本来ならば当たれば勝てる必殺宝具の勝利である。

しかしだ、前提が覆ればがらりと変わる。例え必ず当たる距離、真っ直ぐ突っ込んでくると言う格好の標的であっても、前提が変わればそれも入れ替わる事になる。

 

 

「いざ征かん!遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)!!」

 

 

完全な静止状態から100mの距離を瞬時に詰める加速力を持つ神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)による蹂躙走法。雷気を迸らせる神牛の蹄と車輪による二重の攻撃が迫るも、ライダーは冷静に標的を見据え、今まで数多くの魔物をただの一発で仕留めて来た魔射滅鉄(ビッグカノン)の引き金を引いた。

 

 

「魔を撃ち払え!必殺!【魔射滅鉄(ビッグカノン)】!」

 

 

たーんと放たれるは、変身が一発で解ける程の多大な魔力消費と引き換えに起源弾的な弾丸を放って【魔】の特性を持つ相手を必ず殺す、必殺の魔弾。【魔】とはもちろん使い魔であるサーヴァントも含まれており、聖杯戦争に置いては圧倒的な切札(ジョーカー)となりえる宝具だ。

 

しかし、ここで前提が覆る。まず、ライダー・・・木乃本人は覚えていないがこの宝具は元々「自称惑星の女神的存在が四大魔王宇宙の手下とか言う奴等が唆した魔物を元の人間に戻すために、疑似人格を与えられた"旅人キノ”が元々所持していた銃が変質した物」と言う事。つまりはその力の持ち主とも言える女神・・・神性持ちに対しては効果が半減する。それを知り得るのは、木乃やサモエド仮面とは異なり本来の記憶を有しているエルメスのみ。

ギルガメッシュの持つ宝具、神性が高ければ高い程効果を増す天の鎖(エルキドゥ)とは正反対だと言う事だ。余談ではあるが多くの伝承によって最高神ゼウスの息子であると伝えられているイスカンダルは神性C持ちであり、第四次聖杯戦争ではギルガメッシュの天の鎖(エルキドゥ)によって敗北した。

 

そしてもう一つは、これはあくまで魔術的な物ではなくただの弾丸であること。そして神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)の御者台には防護力場が張られており、これにより衛宮切嗣は同乗していたイスカンダルのマスター、ウェイバー・ベルベットを狙撃する事が出来なかったと言う事だ。

 

 

即ちそれは、ライダーの宝具は御者台の上に立つイスカンダルに対して無効であることを意味する。

 

 

「なっ・・・!?」

 

『ライダ・・・キノ!避けろ!』

 

 

ライダーの放った魔弾がイスカンダルの脳天を撃ち抜く事は敵わず、無防備な状態で遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)と真正面から相対すると言う事だ。確定する敗北にマスターを救う事無く消滅する未来を幻視するライダー。

 

生前でも、勝てる訳がないと思い知らされた敗北が多々あった。しかしそれは、サモエド仮面やらの仲間の解説で「何故負けたのか」と考える事は無かった。しかし、何故負けたのかが分からない。それ故に、得体の知れない恐怖がライダー・・・木乃の動きを完全に静止させた。もはやエルメスの言葉は聞こえない。認識するのは、刹那の中で迫り来るイスカンダルに対しての恐怖のみ。

 

 

『キノ!』

 

「・・・え?」

 

 

ふと気付くと、ライダーはガードレールの外側に吹き飛ばされていた。眼下にあるのは切り立った崖。落ちて行くその瞬間、ガードレールの向こう側に見えたのは・・・

 

 

『後は任せたよ、キノ。君ならできる』

 

 

モトラド・・・大型二輪車の姿に戻ったエルメスが轢き飛ばされ、粉々に粉砕された光景だった。

 

 

「ッ・・・エルメス――――――――――――――――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲痛の叫びを残し、為す術もなく崖の下へと落ちて行く相棒に申し訳なく思いながら、そのしぶとさを知るエルメスは口も無いのにふと笑う。人格が変わった事でまるで別人ではあるが、やはり彼女は自分の相棒だ。

 

 

『・・・スクラップになるのを拒否してストラップになってまでキノと一緒に居れてよかったなぁ・・・』

 

 

最後の最期、勝手に彼女の腰からバイクに戻る事でライダーを突き飛ばし、身代わりとして受ける。それがエルメスのやった事だ。小柄なため案外上手く行った。ただのモトラドの身でかの征服王を出し抜いたのだ、してやったりである。

 

 

「敵ながら天晴れだ物を言う不思議な乗り物よ。時世の句があるなら申せ、次にライダーに会ったら言っといてやろう」

 

『はは・・・だったら、一人でも頑張るんだよと言って欲しい。僕らは二人でようやく一人前の英霊だ』

 

「よし。必ずや伝えよう」

 

 

そう言って満足そうにハンドルをバイクの残骸に置き、戦車に飛び乗った征服王が去って行くのを感じて。

 

 

『叶うのならば・・・またキノと旅を・・・』

 

 

その言葉を最後に、謎の美少女ガンファイターライダー・キノと言う名の英霊の片割れ"エルメス”は黄金の粒子となって消滅した。

 

 

― The world is not beautiful: therefore it is. ―




最後の言葉に深い意味は無いです、ただ書きたかっただけ。そんな訳でライダーの片割れ、エルメスが脱落。敗北の理由は圧倒的な相性の悪さ。第四次鯖を参戦させる過程でかなり考えてこの二人を戦わせるのは確定してました。

序盤ではバゼットが自身のミスを、セイバーとアサシン=クロナの夢として見たせいでクロナと自身への嫌悪がマシマシ。でもバゼットのせいで負けた以外は合っていると言う。是非も無いネ!

装甲やらを貫く当たれば勝てる魔弾。マキリの本体を撃ち抜いたこれ、一見負ける要素が無いですが割と穴だらけの宝具。セイバーや魔物に変身できるキャスター、神性が低いバーサーカーに対しては効果的。でもランサーやギルガメッシュには太刀打ちできない。これは理解していなかったライダーが悪い。でも神性持ちに対して使ったことが無い上に自称女神と出会った記憶がエルメスにしか残ってないからしょうがない。そもそもエクスカリバーでもないと、ランスロットでも撤退させるあの戦車に勝つのはなあ・・・

次回は落ちたライダーの元に・・・?バーサーカーとディルムッドが戦っている時系列の士郎達を描きます。今度こそ固有結界VS固有結界です。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯39:皇帝VS征服王の真・聖杯戦争

いい題名が思いつかなかった。今回は前回の続きにして久しぶりのキャスター回。そしてサモエド仮面の株が上がる回。

それはそうとFGOのアガルタの女、始まりましたね。二日にも及ぶ長い長いダウンロード時間のおかげか念願の金アサシン、不夜城のアサシンGETしました。いつかクロナと絡ませます。

異例中の異例とも言える固有結界VS固有結界。聖杯「戦争」なんだからこれぐらいしようぜと言う事で。ちょっといつもより長いですが楽しんでいただけると幸いです。


戦争。それは本来、聖杯戦争の様な少人数が殺し合う物ではなく、軍隊と軍隊がぶつかる数の戦い。数こそ命。数が無ければ抵抗すらできず蹂躙されるが定め。

 

ある征服王は、己に惹かれた軍隊で宿敵が率いる一万騎兵と戦った。

 

ある皇帝は、己が軍隊に対抗するべく亡者の群衆を召喚した冒険者と戦った。

 

 

戦争とは数だ。数を持つ英霊の聖杯戦争での強さは凄まじいの一言に尽きる。まあ、世界ごと軍隊を吹き飛ばす様な規格外がいるが・・・百には千で、千には万で。中には10万人を300の兵で食い止めたと言う例外もいるが、それでも数は強さなのだ。まあ何が言いたいかというとだ。

 

 

「いざ! 遥か万里の彼方まで!」

 

「出でよ、我が軍勢!」

 

 

全く同じ宝具。全く同じ固有結界。

 

 

「遠征は終わらぬ。我らが胸に彼方への野心ある限り。勝鬨を上げよ!」

 

「万里の長城を迎えて無敵と化せ!」

 

 

全く同じ数の軍隊。しかしてその性質は正反対と言ってもいい程異なる。

 

 

「――――――王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)!」

 

「――――――皇帝率いる(フゥァンディ・リュ・)兵馬俑の軍勢(ビンマーヨン・ジュンシー)!」

 

 

 

片や我らが一人の王に続く征服。片や恐怖で全てを支配する皇帝に続く蹂躙。酷似して異なる物、それらが邂逅した時・・・真の聖杯を巡る戦争が起こるのも、必然である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちて行く。視線の先にはこちらに向けて突き刺そうと伸びる木々。傷心気味のライダーはそれでも、相棒のためにもと奮起し構えたままだったリヴォルバーの引き金を引いた。

 

 

「くっ・・・エルメス・・・"フロム・マイ・コールド―――デッド・ハンズ”」

 

 

瞬間、一瞬光り輝いたかと思うと上空から純白のマントを纏った変態が舞い降りてライダーを抱き抱えるともう片方の手で刀を岩壁に突き刺してブレーキ。衰弱したライダーに向けて怒鳴った。

 

 

「正義の少女がピンチの時以下省略!私は君が謎のキノの時でないと召喚できないのだからあまり無茶しないでくれたまえ!」

 

「うるさい・・・凛とバゼットは無事なの?」

 

 

飛び出す中、律儀にサモエド仮面を衛宮邸に残して行ったライダーの言葉に、サモエド仮面は頷く。

 

 

「ああ、君が彼を追って行ってから追撃は無かった。どうやら彼単独の様だ。他にも知らないサーヴァントがいると言う君の考えは考え過ぎじゃないかね?」

 

「いいや、エルメスが言ってた。ライダーとして現界した、と言っていた事から他にもエミヤシロウの様なサーヴァントがいるかもしれないから警戒して損は無いって。・・・そのライダー一人にすらこの様だけどね。今ほどアンタの存在がありがたいと思った事は無い。早く桜を追い掛けないと!ほら、働け変態!」

 

「ああ、行くぞ謎のキノ・・・!?」

 

 

瞬間、襲い掛かってきた短剣(ダーク)から、岩壁に突き刺している刀の鞘の上に腕の力だけで跳躍して何とか避け再び鞘の上に着地するサモエド仮面。ライダーが何事かと辺りを見渡すと、木々の上に何かが複数立っているのを見付け、戦慄する。

 

 

「・・・どうやらそう簡単に行かせる気はないらしい」

 

「・・・クソッ、やっぱりエルメスの言う通り新手がいたか・・・」

 

 

それは、辛うじて人型に見えるが真っ黒で全体像が掴めない。はっきり見えるは、白い髑髏の仮面のみ。アサシンのサーヴァント、ハサン・サーバッハの誰かだとライダーは直感する。足りない頭でもそれぐらいは分かった。

事実、彼等は『M』から他のマスターの監視を命じられた第四次アサシンのサーヴァント、百貌のハサンである。念話で確実に桜を連れ去るべく『M』からライダーの援護を命じられ、存在する半数以上が参上した訳だ。そしてライダーとサモエド仮面は今無防備、ほぼチェックメイトの状態だ。

 

 

「サモエド仮面、攻撃は私が弾くからアンタは上に上がる事だけに集中しろ!・・・ああ、ワンワン刑事さんなら文句なしに信用できるんだけど今はアンタしかいない、信頼してるわよ!」

 

「おおっ、ついに謎のキノがデレた・・・ありがとう謎のアサシン達!」

 

「うっさい!はよやれ!来るわよ!」

 

「フハハハ!謎のキノに頼られる、それだけで元気百倍さ!胸が無いのは残念だがね!」

 

「悪かったわね!」

 

 

襲い掛かる暗器(ダーク)に、サモエド仮面の左腕に脇下を抱えられて後ろを向いた状態のライダーは持ち前の技量で確認するやすぐさま手にしたUZIで撃ち落としていく。

サモエド仮面は右手で柄を握ると引き抜くと同時に宙返り、岩壁を当り前の様に駆け上がり、その隙を縫う様に放たれるダークもライダーが撃ち落とす。

 

 

「・・・分かってはいたけど逃げた後か」

 

「代わりにちゃんと相手を用意してくれたらしいね。先程の襲撃者は御暇した様だ」

 

 

そして何とか道路に戻ることに成功するも、そこにはイスカンダルも、破壊されたエルメスの姿も無い。その代わりに、大柄な百貌のハサンの人格の一つ、怪腕のゴズールと小柄な人格の一つ、迅速のマクールが立っていた。

 

 

「イスカンダルの本拠地知らないし、こいつ等をボコって居場所を聞こうと思うんだけど?」

 

「それはいい。だが謎のキノは疲れただろう。ここは私に任せたまえ!支援射撃、頼んだぞ!」

 

「休みながら働けってか。ふざけんな」

 

 

言いながら、飛び出して怪腕とダガーの一撃を回避して一閃を繰り出すサモエド仮面を援護するべくUZIを乱射するライダー。

 

 

「っ、速い・・・!?」

 

 

しかし弾丸の嵐を掻い潜って突進してきたマクールの一撃を受けて咄嗟に飛び退くも胸元に一筋の傷を受けて片膝を着き、それに気付いたサモエド仮面が戻ろうとするも、サモエド仮面の一閃を耐え切ったゴズールの振り下ろした拳で道路が叩き割られた事で足場を取られ、そのまま二人は亀裂の中に落ちて行く。

二人は知らないが、百貌のハサンの宝具は「妄想幻像(ザバーニーヤ)」。人格の1つ1つを別個体として分離させることができ、本来ならば分離した数が増えるとその分一人当たりの能力は低下するのだが『M』がマスターとなる事により膨大な魔力が供給され実力が以前の物より底上げされている状態だ。元より数で攻める英霊、連携ならばこの二人に後れを取る事は無かった。

 

 

「謎のキノ!」

 

「っ・・・謎のって言うな・・・!」

 

 

仮面の上からでも分かる必死の形相のサモエド仮面に手を取られ、その頭上から追撃すべく襲い来るゴズールを見上げ、ああ、とライダーは悟った。ここで自分は終わるのだと。ああ、せめて桜を取り返してから・・・しかし、天は彼女を見放さなかった。

 

 

「セイバー、お願い!」

 

「掴まれ・・・!」

 

 

そんな聞き覚えのある声と共に。頭上に見えたゴズールが真っ二つにされて消滅すると同時に伸びて来たフック付きの鎖がサモエド仮面の手首に巻き付いて引き寄せ、その手に引かれたライダーが見たのは、亀裂の側で自分達を引き上げた剣士の傍に立つ雪を彷彿とさせる少女。その傍らには首が斬り飛ばされたマクールが倒れていて消滅して行き、不意打ちでやられたのだと分かる。

 

 

「イリヤ・・・なんで・・・」

 

「帰って来る途中で見かけたから助けに来たのよ。安心しなさい、桜なら士郎とアーチャーが追いかけてるわ」

 

「我らはやや危険な状況ではあったが、実際ソレくらいどうってことはなく助けなど必要ではなかったが、それでも助けてくれて心から感謝してやる!ダンケシェーン!」

 

「相変わらず元気だな。・・・それより、もう一人・・・エルメスはどうした?」

 

「ライダー……?」

 

「それは・・・」

 

 

自身の中(聖杯)にランサーの他に中途半端な魂が内包された事に気付いたイリヤの言葉に口をつぐむライダーに察したのか居た堪れない表情になるイリヤとセイバー。彼等も今日、家族とも言える二人を失った。だから気持ちは分かった。

 

 

「・・・とりあえず帰りましょう。貴方もこれ以上戦ったら消滅してしまうわ。士郎なら桜を助けてくれる」

 

「でも、私が・・・」

 

「謎のキノ。彼は最期に何と言った?」

 

 

イリヤに提案されても尚、追おうとするライダーに真剣な顔で述べるサモエド仮面。怪訝な表情をしながらもライダーはそれに応える。

 

 

「エルメスは・・・後は任せるって・・・・・・」

 

「そうだ。ならば、自棄になって挑むべきではないだろう。今は退くべきだ。それとも、君は衛宮士郎を信じられないのか?」

 

「そんなこと・・・っ」

 

「君なら大丈夫。大丈夫さ。それに夜更かしはお肌によくない。おやすみ謎のキノ!早寝早起きは三文の徳だぞ!」

 

「ちょっ、サモエド仮面、何を・・・!?」

 

「今日もお疲れ様。今日起こった良い事、悪い事は全て自分の糧にして明日を迎えよう」

 

 

トスっと、自分達の目にも止まらぬ速度でライダーの首に当身して気絶させ抱き上げるサモエド仮面に、呆れた様な表情を見せるイリヤ。

 

 

「・・・中々に紳士なのね、貴方。嫌いだけど」

 

「ふむ。解せぬな。私のどこに君に嫌われる要素があったかな?私は正義の清い心を持っているために、純粋である小さい女の子と結びつくものがあるんだ。だから決してロリコンというわけではない」

 

「・・・そう言う変態な所と、自分も怪我を負っているのに隠している事よ」

 

「勝手な価値観で物を決めるのは良くないけれど、それを口に出した時点で、知らないうちに自分でも勝手な価値観を決めてしまってるんだ。――だから君が私の事を変態って呼ぶのは勝手な価値観なのだよ」

 

「誤魔化さないで。何でそこまでするのよ。それが正義の味方な訳?」

 

「・・・ふっ。一つだけ言って置こう。正義に休む時間など無いのだよ。これくらい、正義の味方にはなんてことはないよ、心配ご無用」

 

「足がふらついているぞ、正義の味方」

 

「ハハハハ、何の事かな?」

 

「・・・切嗣が目指した「正義の味方」がまるで理解できないわ」

 

 

ふら付くサモエド仮面からライダーを受け取ったセイバーと共に帰路に着くイリヤは溜め息を吐く。今亡き父親と、義弟の目指していた夢の先に何があるのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎二が、キャスターのマスター・・・?」

 

「マスター、それも気になりますがここは隠れる事が得策かと」

 

 

イリヤとセイバーをライダーの元に置いて、そのままイスカンダルの放つ轟雷を目印に空から追いかけるアーチャーに抱かれ手ごろな木の影に隠れた士郎が見たのは、信じられない光景だった。それは、避難していたはずの悪友が、マスターの一人として妹を誘拐したサーヴァントの前に立つ姿だった。

 

 

「むぅ・・・何かと思えば我が盟友のサーヴァントとその仮初のマスターではないか。いきなり突進して来て何のつもりだ?」

 

「それはこっちの台詞だ。あの男は何を企んでいる?」

 

「桜は僕の獲物だ。勝手に持ち逃げするなってあのヒゲに言伝頼むよ。もちろん桜は置いてな」

 

 

同じく戦車に搭乗しているキャスターと慎二に、イスカンダルは「ふむ・・・」と考えるそぶりを見せるが、すぐさま剣を抜いて臨戦態勢を取った。

 

 

「生憎とだがな。この娘は我が野望に必要な存在だ、殺されては困る。それよりもどうだ、我が軍門に降る気はないか?余と共に征服する悦を味わおうぞ」

 

「戯言を。私が世界を征服するのだ。貴様なんぞにくれてやる土地はありはしない」

 

「なるほどなぁ。余と野望を同じくした者か。同じ男に召喚されたのもまた縁であるな」

 

 

ケタケタと笑い、しかし油断せず構えるイスカンダルに「気に喰わん男だ」とキャスターは内心舌打ちし、魔力を絞り上げる。何かに使われたのか横取りできる量は減ったが、それでも維持には十分足りる。

 

 

「キャスター。戯言は無しだ。全力で叩きのめすぞ、この間みたいな無様だけは見せるなよ」

 

「誰に言っている慎二?この男にだけは私は負けん。・・・私を殺したいならば龍剣でも持ってくることだ。目覚めよ!」

 

 

その言葉を合図に、イスカンダルもまた魔力をマスターから受け取り、全く同時に発動する。世界を塗り替えて顕現するは、共に砂漠。ありえない事ではあるが、同質と言ってもいい固有結界は融合し、それぞれの軍隊が相対する形で出現して行く。

 

 

「いざ! 遥か万里の彼方まで!」

 

「出でよ、我が軍勢!」

 

「遠征は終わらぬ。我らが胸に彼方への野心ある限り。勝鬨を上げよ!」

 

「万里の長城を迎えて無敵と化せ!」

 

 

そして、二人の征服者は全くの正反対と言える形で相対する事となる。魔法に限りなく近い現象であるそれは、片や圧倒的な五行の魔力をフルに活用して形成した物。全てを得ようとした男だからこそできる「力」の具現の大魔術。

片や召喚される臣下の英霊たち全員が心象風景を共有し、全員で術を維持するメカニズムであるがために魔術師でなくとも形成できる「絆」の具現の大魔術。

その証拠に、中国の皇帝は自らの軍隊の最奥の石像の上に位置し、桜を部下の一人に預けたマケドニアの征服王は愛馬(ブケファラス)に搭乗して自ら先陣に立つ。この二人、全く似ている宝具を有する癖して絶対に相容れない天敵であった。

 

 

「――――――王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)!」

 

「――――――皇帝率いる(フゥァンディ・リュ・)兵馬俑の軍勢(ビンマーヨン・ジュンシー)!」

 

 

イスカンダル側は、延々と広がる砂漠と自らが率いる「絆」で結ばれた、数多の英傑の集った大軍勢。キャスター側は、絆など存在しない「力」にただ従う土くれで形成された不死身の兵隊、兵馬俑の大軍勢。数は最強の軍隊と言わしめた兵馬俑が僅かに上。しかし質は一人一人英傑の軍勢が勝る。まさしく、互角。

 

 

「・・・猿真似王が、ここまで真似るか」

 

「それはこちらの台詞だなぁ、アジアの皇帝よ」

 

「ほざけ。支配する者が先頭に立つなど、頭の湧いた阿呆めが」

 

「王とは民を率いる者だ。お前さんこそ高みの見物か?」

 

「どうかな?」

 

 

バチバチと、火花が散るかのように睨み付け大声で会話する二人の征服者に慎二はキャスターの傍で頭を抱えた。

 

 

「・・・なあキャスター、勝てるんだよな?」

 

「私があの猿真似王に負けるとでも?」

 

「いや・・・ならいいんだよ。桜には傷つけるなよ。アイツは僕の獲物だからな」

 

「分かっている。貴様は見物して置け」

 

 

喧嘩は同レベルの間でしか起こらない、その事を言い掛けた慎二だったが・・・死亡フラグどころの話じゃないので即やめた。もはや自分はこの場の戦争に置いては部外者だ。戦争に部外者が乱入したらひどい目に遭うのは間違いないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・アーチャー、まだ飛べるか?」

 

「イエスマスター。空に待機します」

 

「頼んだ」

 

 

固有結界に巻き込まれた士郎とアーチャーが太陽に重なり一部始終を見守る中、イスカンダルを先頭に走り出した軍団と、規則正しく歩いて行進し槍を構えた軍団がぶつかった。斬って突いて薙いで穿って射る。それが戦場のあちこちで当り前に起きる乱戦だ。

 

 

「・・・この戦争、巻き込まれたら死ぬぞ。慎二の奴大丈夫か・・・?」

 

「纏めて、やりましょうか?」

 

「桜と慎二も巻き込むから駄目だ」

 

 

実力の差で蹂躙される土くれの兵隊。しかしすぐさま波となって押し寄せ、イスカンダルと英傑たちを押し戻す。その様はまるで土石流。並の力では瞬く間に飲み込まれてしまう。

 

 

「鶴翼の陣だ。簡単に蹂躙できると思うな?」

 

「ふむ。ならば正面突破あるのみだ!いざ行かん、共に彼方へ至ろうぞ!始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)!」

 

 

対してイスカンダルが行なったのは並の力以上の物、自らの騎馬である対軍宝具の真名解放。そのランクB+に匹敵する雷纏った蹄が兵馬俑を消し去り、空いた穴から一気に攻め込む英傑達。敵の策を自ら突破して突き進む姿は、まさしく覇王だった。

 

 

「・・・貴様、この中でも他の宝具が使えるのか・・・」

 

「ああ。他の者を巻き込むがために戦車は使わぬがな。逆に問うが貴様は使えんのか?」

 

「ッ・・・なめるな!」

 

 

瞬間、キャスターは獣に変化して飛び降り、着地して四つん這いで走り回り自身を狙っていた英傑達を吹き飛ばし消滅させて行く。それを見て士郎は違和感を感じた。

 

 

「・・・そう言えば、クロ姉が驚いていたって事はキャスター、あの戦いで初めて変化したって事だよな・・・俺は見てないが、クロ姉は炎やら使ってきてかなり苦戦したって言っていたし・・・」

 

「どうかしましたかマスター?」

 

「何で、サーヴァント五人と戦うのに魔術を使わなかったんだ?変化だけで十分だと感じた?いや、だったらアーチャーに押されてなおも魔術を使わなかった理由にはならない・・・」

 

「マスター?」

 

「今回の戦いだってそうだ、相手はライダーのサーヴァント、対魔力があってもキャスターは五行を操る稀代の魔術師だ。力押しだってできるはず・・・魔術を使わない・・・いや、使えない理由があった?」

 

 

そこで士郎は気付いた。違和感の正体に。

 

 

「そうか、キャスターは五行の魔力をフルに使う事でこの固有結界を顕現すると同時に、常に魔術を・・・それも大魔術である固有結界を維持し続けているんだ。だから、他の魔術に使う魔力が無いから格闘戦と変化のみで戦っていた・・・でもだとすると、遠坂は術者の許容量を上回る魔術は決して使ってはならないと言っていたから、つまりこの固有結界には限界がある・・・」

 

 

そして逆に、イスカンダルの方にはマスターの魔力にまだまだ余裕がある。この明確な差からか、キャスターは自ら戦いに参加する程に勝負を急いていた。それが、今まで「絶対強者」だったはずのキャスターに感じた違和感だった。

 

 

「もしかしたら、一定時間耐えるだけでこの固有結界を封じる事が出来るんじゃないか・・・?」

 

「・・・私の宝具は無駄だったのでしょうか?」

 

「いいやアーチャー。あれは間違いなく大打撃になったはずだ。魔力だって有限だ、もう固有結界を使えないぐらいに魔力を消費させれば五人がかりでも勝てなかったキャスターに勝てるかもしれない。・・・マスターの慎二を殺さずに、倒せるかもしれないんだ。それをクロ姉に伝えよう」

 

 

その目は、召喚した時と同じ崩れる事の無い鋼の信念に燃えていた。それを見たアーチャーは微笑み、かつてのマスターと重ねる。誰かが犠牲になる事を良しとしない心、それは間違いなくいい物だ。アインツベルンの一件でそれが消えたかと危惧していたが杞憂だった様だ。

 

 

「・・・はい、マスター。貴方は貴方のままでいてください。私はその為に共に在ります」

 

「ありがとうアーチャー。これからも頼む。・・・それより、どうにかして桜を奪還できないか?」

 

「・・・ニンフが居れば、透明になって行けるのですが私は戦闘用エンジェロイド・・・お役に立てません」

 

「いや、すまん。だけどチャンスは必ずあるはずだ、その時は頼んだぞアーチャー」

 

「イエス、私の鳥籠(マイマスター)

 

 

龍に変化して低空飛行し口からの炎で英傑達を焼き尽くしたキャスターがそのまま獣に変化して目の前にいた英傑の頭を引き裂いた光景を見やる。戦況は、キャスター側が押していた。

 

それは当り前の事だった。英傑よりも力が足りない、しかし無限に再生する軍勢。数と言うのはそれだけで利となり、力となる。それに対してイスカンダルの軍隊は一度死ねばそのままだ。再生はしない、彼等はただの宝具を持たない英霊だからだ、兵馬俑の様に道具ではない。ただそれだけの違いが、戦局を変えた。

イスカンダルはアーチャーの様に一度に全て一掃する術を持たない。そもそもそんな事が出来るのは彼の知る限り、聖剣を持つ騎士王と英雄王ぐらいだった。

 

 

「絆よりも力が勝つ。世の道理だ」

 

「・・・よもや我が軍勢が負けようとはな」

 

「ふん。・・・ミイラならばもう少しマシな戦いになったであろうな」

 

 

集った英傑達の過半数を倒され、維持できなくなったイスカンダルの固有結界が繋がっていたキャスターの固有結界もろとも解けて元の夜道に戻って行く。しかして、再び戦車に搭乗したイスカンダルの目に降参の文字は無かった。

 

 

「では、戦車ならばどうだ?」

 

「なに?」

 

 

そこでキャスターは気付く、自らに戦車を作り出す程の魔力が残ってない事に。完全に無防備な自分達に向けて突進してくるイスカンダルに対抗する術など当の昔に無くなっていた事に。

 

 

「兵を再編成するたび魔力を消費するのであろう?我が盟友・・・貴様の召喚者を侮ったな。誘拐するのはアサシンでもいいのに、お前達が介入すると見越してわざわざ余に頼んだのだ。アー・シン・ハンよ、不確定要素である主を脱落させる絶好のチャンスだと踏んでな!・・・だから余の軍門に下らんかと誘ったのだ。余とて結果が分かり切っている戦いなどしとうないからな」

 

「・・・あの男め、よもや私を騙すどころか切り捨てる腹心算であったか。生かしてはおけん、裏切りには必ず報復すると伝えてくれ、負け犬の征服王殿?」

 

 

剣をしまい、手持無沙汰となった手をだらりと下ろし、厭味ったらしくそう述べるキャスターに訝し気な表情を浮かべるイスカンダル。

 

 

「どこからそんな余裕が来るのだかな!」

 

「・・・残り少ない魔力でもできる芸当があると言う事だ。慎二よ、私に着いてくるつもりならば掴まれ!」

 

「お、おう!」

 

 

今にも目前に迫っている戦車に対して不敵に笑み、手を伸ばしてそれにビビりっぱなし慎二が掴まったのを確認すると、そのまま全力で後方に飛び退くキャスター。その瞬間、イスカンダルの戦車が横転した。

 

 

「・・・なにぃ!?」

 

「ふっ、仮初のマスターの妹などくれてやる!」

 

 

それは、峠上から押し寄せてきた土砂崩れ。ちょうどキャスターの手前まで押し寄せた大量の土石流はイスカンダルを戦車ごと飲み込んで崖下まで突き落とし、さらには桜を奪還しようとしていたアーチャーと士郎までもを吹き飛ばしてしまった。

イスカンダル、アーチャー。英霊である彼等でさえ直前まで気付かなかった土石流。それは、キャスターが無言で残った五行の魔力を振り絞り、うっすらと水の魔力で地盤を緩めてゆっくりと動かし、それをイスカンダルの戦車の響かせる轟音に隠れる様に一気にスピードを速めた物だった。さらに、水の魔力を薄く充満させた霧のスクリーンでカモフラージュしたため、空から見ていたアーチャーでさえ気づかなかった。直前で異変に士郎が気付いた物の、間に合わなかったのである。これは生前の雪山での雪崩の応用だが仮にもキャスターのサーヴァント、小細工は得意であった。

 

 

「・・・おい、桜は僕の獲物だって言っただろ?」

 

「諦めろ。資材(魔力)も無しに戦争を仕掛けるなど阿呆のする事だ。仕切り直しだ、あのサーヴァントが戻って来る前に引くぞ。どうしてもというなら一人でやるんだな、私は知らん」

 

「ちっ、分かったよ・・・どうせあの藪医者の所に桜は連れ去られたんだろうし、ついでにするさ。だからキャスター。・・・僕に付き合え。全力を持って策を考えてやるよ、だからあのヒゲをぶっ倒すぞ!」

 

 

その言葉に当り前だと言わんばかりに鼻を鳴らすキャスター。共通の目的が生まれたことで、初めて意見が一致した。

 

 

「異論無し。ただし裏切るな?私にとってそれは禁忌(タブー)と知れ」

 

「アー・シン・ハンを裏切るなんてそれこそ命知らずの馬鹿しかしないよ。そして僕は馬鹿じゃない」

 

「道理だな。・・・ところで帰り道はどうする?」

 

「・・・そりゃ、戦車も使えないし歩きだろ?」

 

「・・・致し方ない」

 

 

その後、徒歩で去った慎二たちの後に続き、土砂から飛び出して空を駆けて行くイスカンダル、木の天辺で目が覚め桜を見失った事に後悔する士郎とアーチャーも去ってゆく。こうして、クロナとアサシンの対決の余所で行われた戦いもまた終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現代に至り、クロナは憤慨していた。

 

 

「ライダーは単純に魔力切れと霊基を半分失われた事で戦えるかどうかも分からない、それに加えてサモエド仮面もライダーの傍から離れる気が無いと。一気に戦力が削がれたね、桜がいないだけでこうも傾くか」

 

「クロ姉、慎二はどうするんだ?」

 

「慎二・・・ああ、キャスターのマスターだっけ?『M』の話によれば譲渡したとか言っていたから間違いなく偽臣の書を持ってるからそれを燃やせばいいと思うよ。てかぶっちゃけ魔術師でも無い奴を気にする程余裕が無い」

 

「あ、ああ・・・ごめん・・・」

 

 

唸るクロナ。敵ははっきりした、『M』と正体不明のサーヴァント一派。エミヤシロウとディルムッド・オディナが倒された事で残り五体のサーヴァントを有する未知のマスター。桜を攫って何をするのか見当がつかない上に、事情を大体知っていると思われるギルガメッシュもまだ留守のまま。

桜が聖杯だとか意味が分からない、バゼットとイリヤが味方になってもこちらのサーヴァントは実質バーサーカー・アーチャー・セイバーのみ。最悪『M』のキャスターのサーヴァントをマスター達で挑み、相性がいい英霊が居た場合クロナが一人で戦うにしても、あの言峰綺礼とギルガメッシュを倒した得体の知れない『M』が控えている。あまりに分が悪すぎた。

しかもそのサーヴァントの一人は大英雄、イスカンダルだ。もう一人判明しているアサシンも分身する事から百貌のハサンだと分かったが、前者だけでも戦意が大きく削がれていた。

 

 

「本拠地はバゼットさんの情報で元アサシンの根城だったと思われる柳洞寺だって分かったのはいいけど凛の使い魔の偵察だとなんか正体のわからないサーヴァントが門番していて突入も難しいし・・・こっちにアサシンがいれば私達が搖動してその間に桜を救出してもらう手もあるけど・・・」

 

 

あのアサシンが協力してくれるはずがない、というか生きていたとしても協力したくないと言うのがクロナの本音であった。しかし現状使えるサーヴァントは隠れるとは無縁の狂戦士に悪目立ちする天使な弓兵と緑衣の剣士である。さすがのクロナもお手上げだったその時、光明が差した。

 

 

「・・・ねえ、クロナ・・・?」

 

「何よイリヤ、魔術師殺しの腕を使って自分が潜入するとか言ったら殴るよ?」

 

「違うわよ。・・・その陽動作戦、もしかしたら名案かも知れないわよ?」

 

「え・・・?」

 

 

クロナと和解したイリヤの言葉によって。・・・しかし、誰に似たのかイリヤは悪い顔であった。




セイバーに瞬殺されたゴズールとマクールには悪いと思っている。だが私は謝らない。サモエド仮面をサモエド仮面らしく書けたからそれだけで満足。・・・正直分けるべきだと思いましたが何処で切ればいいのか分からず断念。不甲斐無い。

サモエド仮面と言う身近な「正義の味方」の存在のおかげで士郎と切嗣の在り方に疑問を覚え始めたイリヤ嬢。これでクロナと条件は互角、士郎の姉の座は誰の手に・・・!

『M』と完全に敵対する事を決めたキャスター陣営、イスカンダルと対決。固有結界勝負に勝ち戦車に窮地に追い込まれるもキャスターらしい小細工で辛くも勝ち逃げ(?)。映画ハムナプトラ3の雪崩の絶望感はヤバい。
「力」に対し「絆」と言う似ている様で全然違う両者の固有結界。そしてキャスターの固有結界の弱点、それは圧倒的なまでの燃費の悪さ。固有結界発動中は他の魔術を使えない、ギルガメッシュが見抜いた通り時間制限付き。イスカンダルと違い三流マスターには優しくない代物です。まあだからこそ、前回は慎二の一計で一気に決着を付けようとした訳ですが。

そして地味に仲良くなった士郎とアーチャー。実は士郎とアーチャーはいちゃついてなければ桜を奪還できてました。慎二とキャスターは共通の敵がいないと・・・

第四次聖杯戦争の詳細を聞いているからこそ何時にも増して悩むクロナ。次回、イリヤの言葉の真意とは・・・?柳洞寺突入作戦実施、血戦開始です。
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♯40:岸波黒名と言う少女と正義の味方

突入作戦は次回に持ち越し。血戦前と言う事もあり、今回は幕間的な物となります。前回に引き続きサモエド仮面がいい役してます。

クロナの過去がついに明かされる。これは、Zeroから始まる物語・・・楽しんでいただけると幸いです。


柳洞寺

「・・・ランサーがやられただと?」

 

 

自らのアサシン、百貌のハサンの女性人格の報告に目を見開く『M』。彼の計算通りなら今頃、クロナの手助けと言う建前でアサシンを始末して帰還しているはずのランサー・・・ディルムッドが敗北したと言う言葉が信じられなかったのだ。

 

 

「はっ。瀕死のアサシンと思われる少女とそのマスターをを始末しようと追った末、立ちはだかったバーサーカーに敗北。消滅を確認しました」

 

「・・・バーサーカーとの相性は最高のはずだぞ?何故負ける?」

 

「別視点の同胞の発言から敵アサシンの援護射撃があったようで・・・」

 

「ちっ。あのアサシンがバーサーカーに手を貸すとは。計算が狂ったな、これだから英霊共の思考は面白い」

 

 

その言葉を聞いて思わず戦慄する百貌のハサン。あろうことか、この男は我等英霊を相手にしてなおも「面白い」とほざく。それは何も分かっていないからではなく、逆に理解した上でそう嗤うのだ。

底が知れない、自分以外の全てがただ自分の興味を埋めるための道具。それが当たり前だと考える男。あまりに異質。この者なら、もしや"初代様”に狙われたとしても対処できるのでは…と思えるほどの得体の知れなさだ。正直、マスターじゃなければお近づきになりたくないタイプである。

 

 

「よしアサシン。奴等に動きがあったら伝えろ。残りの連中は"奴”の指示に従って置け。それが奴との契約だからな。あ、ついでにキャスターも見張って置けよ?記憶を引き継いでいるだけあって、あの女の存在を知ったらどうなるか分からんからな」

 

「奴とは…マスターがキャスター…ジルドレェのマスター権を譲り渡したあの者ですか?」

 

「安心しろ。お前等は手放さねえよ、俺はお前みたいな優良英霊は人様にあげねえんだ。それに奴にマスター権を渡したのはキャスターだけだ、ライダーも気が変わったら渡すかもしれないがお前とバーサーカー、セイバーだけは手放す気にはなれん。英霊が傍にいるってだけで奴へのけん制にもなる。お前も油断するな、心臓を摂られるぞ?」

 

「…重々承知」

 

 

そう言って去って行く百貌のハサンを見送り、『M』は奥の壁に背もたれて控えていたセイバーに目をやった。

 

 

「セイバー、お前はどうする?」

 

「私としてはキリツグの息子と娘を殺させてくれるならそれでいい。聖杯に興味はない」

 

「そりゃ結構。じゃあバーサーカーと一緒に門番でもしてるか?」

 

「黙れ。奴を突破するのは恐らく衛宮士郎が筆頭だ。待ち構えるのが道理だ」

 

「だな。じゃあ自由にしろ、だが何かあったらすぐに呼び出すからな。勝手な行動はするな?」

 

「令呪を持つ貴様に逆らう気はない。話が分かるマスターは実にありがたいな」

 

 

そう言って霊体化せず歩いて外に向かうセイバー…アルトリアオルタを見送りニヤリと嗤う『M』。彼個人としては苦手な一方、とある理由から最も期待しているサーヴァントであった。

それは、衛宮切嗣に対する復讐心。切嗣の令呪により最後の最期で自らの希望であった聖杯を破壊してしまった怒りと悲しみからの復讐心は、イリヤスフィールの抱いていた物以上にどす黒く燃え上がり、自分以外の王を選定し直すと言う願いさえも見失っている。

 

つまりは「衛宮黒名」と根本的に違う要因…彼女を殺害した衛宮士郎と言う存在の排除、という実験に最も適しているのである。若干令呪がトラウマになっている様ではあるがそれはそれで御しやすい。ライダーとキャスターとバーサーカー以外の面子が自身のマスターに恨みを抱いてそのまま顕現したのは誤算だったが、セイバーに限ってはいい誤算だった。

衛宮士郎を失った言峰クロナ、それがどう反応するのか。『M』はただそれが見たかった。ついでに自分達を捨て駒にした言峰綺礼に怒りを抱いている百貌のハサン達がどうするのかも見たい。『M』は百貌のハサン程使い勝手のいいサーヴァントはいないので、捨て駒にする気は毛頭ないと言う事から忠誠心を抱いているのもいい誤算である。言峰綺礼が居なくなったら言峰黒名がどう思うのかは未知数なので凄い見たいが優先すべきは衛宮士郎だ。策を練らねばなるまい。

 

すると、座布団に腰かけて目の前に横たわった間桐桜をどうしたものかと眺めていた『M』の背後で掠れた呻き声が上がる。それに気付き、振り向いた白衣の男は満面の笑みを浮かべた。

 

 

「おっ、起きたか。しっかしまあ…朝まで持つとはさすがの俺も驚いた。自身の宝具で縛られる気分はどうだ、英雄王」

 

「…(オレ)を殺さなかった事を後悔するぞ雑種…」

 

「いや。アンタは利用価値がある。役に立ってもらうぜ?」

 

 

そこには、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から射出された天の鎖(エルキドゥ)によって縛られ、力なく俯いている英雄王・・・ギルガメッシュの姿があった。武装が解けて半裸の状態であり、ボロボロだった。

 

 

「アンタの変化にはさすがに焦ったがな?俺の拒絶(ブライ)を貫通するためとはいえ天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)・・・つまりは切札を使った瞬間に俺がバゼットから強奪した切札、斬り抉る戦神の剣(フラガラック)を起動。時を逆行して放たれる先制の一撃による「切札殺し」を、宝具を使うと見せかけて発動せずに拒絶を解除した瞬間に斬りかかってきたせいで隙ができた俺に一撃喰わらせたまではよかった」

 

「慢心せずして何が王か。貴様程度に乖離剣はもったいない」

 

 

つまりは、真名解放すると見せかけて、そのままエアを剣として扱い切札殺しを打ち破った。ゲイボルクでさえも相討ちになってしまうそれを返り討ちにしてしまったのはさすがだが、如何せん相手が悪かった。

 

 

「だが、乖離剣をただ剣として扱ったのは駄目だったな。こっちには考えなしに突っ走るバーサーカーがいるんだ、そんな分かりやすい隙を突かない訳がない。セイバーも俺も面喰ってはいたがな」

 

 

今は門番をしている黒騎士の予想外の活躍に笑う『M』。それは信頼、ではなくただ単に役に立った、と歓喜しているだけだ。サーヴァント達に対する感謝など持ち合わせてはいない。そもそも道具に感謝する人間などいないのである。

 

 

「あとはバーサーカー相手の接近戦に手古摺っていた所にエクスカリバーの直撃。まあそれは鎧を犠牲にしたみたいだが、そんなチャンスさえあれば俺のブライでお前の支配権を拒絶して王の財宝の中からこれを盗み出す事は容易かった」

 

 

その手に握られた一見黄金の鍵の様な剣の柄に見える宝具、王の財宝を制御する「王律鍵バヴ=イル」を見せびらかし、懐に仕舞うと悔しげな表情を見せる英雄王に『M』は愉悦の笑みを浮かべた。王の許可なく持ち出す事はありえないそれを握っている男に怒りを隠しきれない黄金の王。よりにもよって自身の友に縛られるとは無様であった。

 

 

「邪魔はするなよ、英雄王。そしてそこで見極めな、言峰黒名の本質を。灰色でしかなかった女が白に染まるか黒に穢れるか、俺の実験の結果を見届けてもらうぞ」

 

「…(オレ)の所有物で実験とほざくか、貴様本当に不敬な雑種よ。生憎だが貴様の役に立つ気など毛頭ないぞ」

 

「ああ、それでいい。俺が欲しいのは、この中の宝具群だからな」

 

「なに?…まさか、あの狂犬に使わせる気か・・・!」

 

「ご明察だ。アンタを殺してしまったら使えなくなってしまう。アンタの言う狂犬は言峰黒名にとっては絶対に乗り越えないと行けない敵だ。全力で挑ませてやらないと失礼だろう?」

 

「………雑種よ。貴様の目的は一体何だ?」

 

 

その言葉に、白衣と穢れた白の外套を翻して狂気の医者は三日月の様な笑みを浮かべ、拳を構えた。

 

 

「何って?ただの実験さ。じゃあな、言峰クロナが来るまで眠れ英雄王」

 

 

そして、強烈な衝撃が頭部を襲い、ギルガメッシュはその意識を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。確かに、そのスキルならアサシンの代わりになる。じゃあその黒騎士・・・恐らくは第四次のバーサーカー、ランスロットの搖動は私とバーサーカーでやるよ。その間に士郎達が突入、桜を取り返すって作戦で行こう」

 

 

イリヤから「作戦」を聞き終えた私は満足気に頷き、そう提案する。湖の騎士ランスロット。触れた物全てを宝具にする、王様の天敵とも言える狂戦士の相手はほぼ同質の魔術を有する私と無手で戦うバーサーカーにしか務まらないだろう。本来ならセイバーを選ぶべきだが、イリヤの作戦上それは無理だ。かといってバーサーカー一人を残して私が単騎で進んだら・・・間違いなく、私は『M』のキャスター相手で倒れる。その確信があった。

 

 

「ええ、それがベストね。でも、情報は確かなの?」

 

「王様から直接聞いたから間違いない。既にアーチャーとランサー・・・ディルムッド・オディナは倒しているから残りの戦力はバーサーカーのサー・ランスロット、ライダーのイスカンダル、アサシンの百の貌の翁、キャスターのジル・ド・レェ・・・!」

 

「そしてセイバーのアーサー・ペンドラゴンだろ、クロ姉」

 

 

ジル・ド・レェの名を怒りを抑えきれない様に叫んだ私を抑える様に付け加える士郎。それを聞いて一気に私の頭は冷えた。…やっぱり、どういう訳だが士郎は『M』の言っていた異世界の士郎が従えていたセイバーのサーヴァントである騎士王を知っているらしい。ここになって『M』の言っていた士郎の中にある鞘と、召喚されたアーチャーの謎を思い出す。…王様がどうせ知っているだろうし合流してから聞こう、そうしよう。

 

 

「士郎、知ってるの?」

 

「仮眠した時に会ったというかなんというか・・・?」

 

「は?貴方、アーサー王と会ったことあるの?」

 

「俺の中に鞘があるらしくて夢の中で…?」

 

「…はあ!?」

 

 

何か凛が驚愕して問い詰めているけど、私は別の事が気になった。…夢で、会ってる?それが士郎が一時的にでもエミヤや屍兵と張り合えた理由だとしても待て。私とて夢で見るのはバーサーカーの生涯だ。でも、何で士郎は鞘を持っているとはいえ召喚もしていない騎士王と夢で会えるんだ?…仮に敵に騎士王がいるとして、士郎の中の騎士王と同一人物なのか?

 

 

「なあクロ姉」

 

「え、あ、士郎?な、なに?」

 

「アーサー王・・・いや、アルトリア・ペンドラゴンの相手は俺とアーチャーにさせてくれ」

 

「…一応聞くけど何で?」

 

「仮にも俺の師匠だ。動きの癖は熟知している。…それに、俺が決着を付けなきゃいけない気がするんだ」

 

 

そう語る士郎の顏は真剣で。いつの間にか、大人になったんだなと、そう思った。

 

 

「分かった。恐らく相手の中で一番の強敵はセイバーの騎士王だ。気を付けて。…とりあえず、ランスロットは私が、騎士王は士郎がやるとして・・・残る強敵の征服王は・・・バーサーカー、任せてもいい?」

 

「おう。お前が怒りを抱く限り、俺は死なん」

 

「うん、信頼してるよ。…セイバーとイリヤは例の作戦を任せるとして、凛とバゼットさんにはコンビで戦ってもらうことになるけどいい?一応、征服王と出くわす途中まではバーサーカーと一緒に行ってもらうつもりだけど…」

 

「ええ。そうしてもらえると助かるわ。…まさか、貴女と共闘する事になるなんてね。一昨日は殺し合っていたと言うのに」

 

「はい。私も驚いています。ですが、あの男に借りを返さなくては消えて行ったアーチャー・・・エミヤに申し訳が立たない。よろしくお願いします、遠坂凛」

 

 

呆れながら隣に座る申し分のない前衛(バゼットさん)に苦笑する凛。対してバゼットさんは真面目に応えた。ううむ、あかいあくまとこの人は相性悪そうかもしれない。あまりものコンビだし。

 

 

「まだ私も傷が完全に癒えてないし肉弾戦は任せるわ。…てか何で貴方の傷の方が早く治ってる訳?」

 

「さあ…?」

 

 

恐らく、エミヤの中に残ったままと思われる鞘の影響がバゼットさんの中に少し残ってるんじゃないかと思います。重傷じゃなければちまちま回復してくれるみたいだし。

とりあえず、パーティは決まった訳だ。私は搖動、士郎と凛とバゼットさん、アーチャーとバーサーカーが突入部隊。そしてイリヤとセイバーが作戦実行部隊。…できればライダーとサモエド仮面に参戦して欲しい所だけど、

 

 

「桜の体力を省みて、作戦開始は今夜ね。じゃあ各自、それぞれの準備を整えよう」

 

 

そう締めくくると、全員肯定する。…ここに王様と父さんがいれば、と思うけどしょうがない。…父さんはともかく、王様はどうしたんだろうか。

 

 

「…それと士郎、またいくつか投影してもらえる?」

 

「俺はいいけど…遠坂、大丈夫か?」

 

「ええ。セイバーから緑のクスリ?を2瓶もらってるから大丈夫よ。…というかこれ、調合してるの?」

 

「ああ。アインツベルン城に保管されているアインツベルンの用意した素材でな」

 

 

このセイバー、万能である。赤いクスリは体力の回復、緑のクスリは魔力の回復、さすがに体力魔力をともに全回復させる高価な青いクスリと力尽きた時に全回復してくれる妖精はいないみたいだけど、それが入る空き瓶が四つあるんだ。士郎が投影している間にまた補充するみたいだし、正直敵に回さなくてよかったと思う。アインツベルンめ、とんでもないズル英霊を呼び出したもんだ。

 

 

「ちなみにセイバーだけど、時の勇者を提案したのは私よ」

 

「え、イリヤが?なんで?」

 

「本気で勝つためよ。最初はバーサーカーのヘラクレスを呼ぼうとしていたんだけど、さすがに馬鹿じゃないかと思ったから進言したわ。アーチャーなら最強のヘラクレスをわざわざバーサーカーで呼ぶメリットが思いつかないわよ」

 

「…もしそれが呼ばれてたらこうならずに一日で終わってたかもね」

 

「そうね。でも、セイバーを召喚してよかったと思ってる」

 

 

そう言って、イリヤはヒョイッと庭に出てくるりと廻り、こちらに笑顔を向けて来た。

 

 

「アインツベルンから解放されて、士郎達と一緒にいれるんだから。バーサーカーを呼んでいたらこうはいかなかったと思うわ」

 

「そうだね。私も、全力でマスター狙いで殺しに行ってた自信があるよ」

 

「あら、最初からそうじゃない」

 

「アインツベルン・・・というか御三家を中心にした魔術師が大嫌いだからね」

 

 

そう吐き捨てながら、替えのマフラーを編む私。今度の敵はこちらの武器を奪い取れる上に宝具にしてくる相手だ。万全の態勢で挑まなければならない。

 

 

「…ねえ、思ったんだけど…なんでそんなに魔術師を嫌悪しているの?」

 

「理不尽に、私から全てを奪ったから。それが赦せないだけ。でも、根っからの魔術師でなければ赦そうかなとも思い始めてる。全ての魔術師を滅ぼそうなんて傲慢が過ぎるからね」

 

 

嘘だ、本当はそう思ってない。ただ、士郎やイリヤを見逃す理由を作りたいだけなんだ。家族だからって、贔屓するのはそれこそ理不尽だろうから。私はやっぱり、大事な人以外の魔術師は滅ぼしたいんだ。…そう、今は味方の凛もだ。妹みたいなものだけど魔術師で在ろうとするなら仕方がない。

 

 

「へえ、そう・・・貴方、あの神父に引き取られる前は何て名前だったの?」

 

「……岸波。岸波黒名、それが私の元の名前。魔術師でもない、本当に普通の一般家庭だった」

 

「岸波・・・岸波、ね」

 

 

なにやら記憶から絞り出すように呟くイリヤに首を傾げながら話を続ける。…まあ不本意とはいえイリヤの生涯(?)を知ったんだし、教えないとフェアじゃないだろう。マフラー編む間の暇を潰せるし。

 

 

「父と母、それと一つ下の弟がいた。生きてたら、士郎達と同じ年だね」

 

「…やっぱり、第四次聖杯戦争の大火災で亡くなったの?」

 

「両親はね」

 

「両親はって…弟さんは?」

 

 

うん、まずそれを語らないと行けないか。今、エクスカリバーを投影しながら聞き耳を立てている士郎は元より、王様や父さんでさえも知らない私の弟の話。士郎は魔術師関係に巻き込みたくなかったからだけど、王様と父さんに話さなかったのは簡単だ。間違いなく愉悦案件だからだ。

 

 

「第四次キャスターと、そのマスターに殺された。…いや、生きながら殺された。私はそれを、見せつけられた」

 

「え…?」

 

「第四次キャスターのマスターは雨生龍之介。当時、冬木を震撼させた殺人鬼だった。…そんな男がキャスターを召喚して、まずやったのが…人体を使った作品作りだ」

 

 

魔術を使って生かし続け、内蔵やら骨やらを引き摺り出してそれを元に彼ら曰く芸術作品を作る快楽殺人鬼。私が涙ながらに聞いた時、何でもなさそうに答えたその理由は「普通の殺しに飽きたからモチベーションの低下を何とかするため」。そんな理由で、語るも悍ましい所業を笑顔でやってのけた外道。それが始まりだ。

 

 

「その標的に、私達姉弟が選ばれ攫われたんだ。まず、目の前で他の子供が解体される様を見せつけられた。そして半ば狂乱していた弟の番になった。変わり果てた姿になった弟を見て、次は自分だと思った私は弟を見捨てて、逃げ出した」

 

「それで?」

 

「工作に夢中だったアイツにはばれなかったけど、直ぐに私が逃げ出したことに気付いたカエル男…その時は知らなかったけど、第四次キャスターのジル・ド・レェに追いかけられたよ。笑顔でね」

 

 

何で魔術が解けたのかと訝しんでいたっけ。あまりにもショックだからだったからだと思うけど。

 

 

「泣き喚きながら逃げる事しかできなかった。そこで出会って、途中で諦めたジル・ド・レェの召喚したヒトデから助けてくれたのは・・・蟲だった」

 

「は?」

 

「正確には、蟲の大群を連れた白髪の男。多分、第四次バーサーカーのマスターだったと、思う」

 

「…間桐の魔術師か」

 

 

その人は、「爺に言われて見に来たけど」とか何とか言っていたけど、泣き喚く私を泣き止ませようと優しく撫でてくれた。あの間桐の魔術師とは思えない人だったけど、父さんから聞いた話によると一般人になろうとしていたけど桜のために魔術師になった人だったらしい。とにかく、何故だか私は父親の傍にいるかのように安心したんだ。

 

 

「そのまま、交番に連れられてその人は去り、私だけは両親の元に帰れた。でも、血塗れの私が殺人鬼やらヒトデやら言っても信じてもらえず、囚われていた場所も覚えていなかったから弟を助けに戻る事も出来なかった。…いや、あの時弟は生きていたけど、もう死んでいたと思う」

 

「…」

 

「その時の、逃げ出した私を見る弟の絶望した目が忘れられない。その時から、私は弟を見捨てて自分だけ助かった私を赦せない。理不尽を弟に与えた存在を・・・魔術師を、赦さない」

 

 

そして、私を救ってくれたあの人を殺した魔術師も…赦さない。何であんないい人が死なないと行けないんだ。魔術師何てものが存在するせいだろう。ならば、魔術師を滅ぼすしかない。

 

 

「その後、大火災に巻き込まれた私は、行方不明になった弟と狂乱した・・・と思われる私のせいで半ば廃人と化していた両親を見捨てて、自分だけ逃げた。そして生き延びたんだ。また、一人だけ」

 

 

士郎がいたけど、切嗣さんに救われたから違う。私とは、違う。それでも、同じ火災を生き延びた士郎を、弟と重ねる様になってしまった。だから、今度こそ私は見捨てない。

 

 

「…魔術師を恨む気持ちは分かったわ。御三家を憎悪するのは、理不尽の元になった聖杯戦争を生み出したから?」

 

「そう。だからイリヤも凛も、当初は桜も赦すつもりはなかったんだけど…正直、分からなくなった」

 

 

凛は魔術師だとは思えないし、イリヤは寂しがり屋だ。桜は父さんから事情を聞いて、魔術師の理不尽から救わなきゃと思ったんだ。恨む対象が消えて行っている事に、私は恐怖してるかもしれない。

 

 

「…今からでも、私を殺す?」

 

「それは嫌。大事な人は見捨てないって決めてるの」

 

 

そう言い終えた時、二つ目のマフラーが完成した。…うん、ちょうどいいし私は仮眠する事にしよう。少しでも温存しないと。

 

 

「じゃあ私、少し寝るから」

 

「うん。私は士郎を見ているわ」

 

 

イリヤから離れ、元々切嗣さんの物だった部屋に入り、適当に畳の真ん中に寝転ぶ私。…そう言えばここでイリヤを赦すきっかけになった手記を見付けたんだっけ。…そうだ、忘れてた。

 

 

「…起源弾、どうしようかな」

 

 

あの時、衛宮切嗣の屍兵にとどめを刺した時にとりあえず回収していた物だ。本当はキャスターのマスターにでも当てる気だったんだけど魔術回路が無いって凛は言うしなぁ…どうしようか本当にこれ。

 

 

「寝れないのか?悩みがあるなら話してごらん」

 

「…戦力外が何の用?」

 

 

するとそこにひょこっと頭だけ障子から出して現れたのは、未だに寝ているライダーの傍にいるはずの変態。私は真面に取り合わず、文句を吐き捨てるとサモエド仮面は朗らかに笑いながら部屋の中に入って来た。

 

 

「なに。乙女の会話を聞いてしまってね。ライダーの傍にいるのも暇になったんで」

 

「…言い訳いらずの変態ね」

 

「話は聞いた。本来なら君のサーヴァントが相談相手になるべきなんだろうが…まあ言わせてほしい。悩みを多く抱えていた人ほど、笑顔が絶えない」

 

「なに?私がへらへら笑っているのがそんなに辛く見える?」

 

 

これでも、心の底から笑っているつもりだ。私はどうやら自分の感情に正直らしいから。

 

 

「人は悩みを克服し、人に笑顔を向け、優しくなれる。君は自分が変わった事を嘆いていた。でもそれでいい、人は成長し続ける物だから。我々サーヴァントと違ってね」

 

「…私が悩みを克服したから、イリヤ達を赦す事ができたって?」

 

「そうとも。しかし、それでも怒りを収まらない…だから君は苦しんでいる。どうしようもなく辛いなら、投げ出してしまえばいい。持っているから、辛いんだ」

 

「簡単に言う…私には、それができないの。弟を見捨てたこの重責を捨てるなんてできない」

 

 

そうだ、背負うしかない。これは私に科せられた罰なんだ。そう思い直し、サモエド仮面を睨みつける。その顔は、へらへらとした笑顔だった。…こいつこそ、何か悩みを克服したからこんなに笑っていられるんじゃないだろうか。

 

 

「なるほど…どうやら私程度の言葉では君をその悩みから解放する事は出来ないらしい。やはりここは専門家に任せるべきだね。まあそれはそれとして、持っているから辛いのは本当だ。せめて、少し荷を軽くしたらどうかな?君には、私なんかよりも頼れる相棒がいるだろう?」

 

「…なんで、そこまで」

 

「いやなに。昔、怒れる少女に気付かず手痛い一撃を受けてね。…ま、トラウマ克服と言う奴さ。君は関係ないから安心したまえ。これで少しはぐっすり眠れるかな?だといいな♪」

 

 

そう言い残して去って行くサモエド仮面に、私は考える。…正義の味方なりに私を助けてくれようとしたのだろうか。とんでもないお人好しだ、ちょっと自己中なのがタマに傷だけど。…あれはきっと、泣いている人に迷うことなく手を差し伸べられる人種だ。士郎が見習うべき英雄だ。…変態な所は見習わないで欲しいけど。

 

 

ああ、少し疲れた。あんな戦闘の後に夜通し朝まで歩いたんだ、さすがに眠らないと・・・きつい・・・

 

 

 

 

そして、私はまた夢を見る。それは、自分達を滅ぼそうとする母なる星に挑む二人の英雄の物語。私が見習うべき、一人の(オトコ)怒羅漫(ドラマ)だ。

 




サモエド仮面かっこいいよサモエド仮面。サモエド仮面主役回は本当に好きです。そんな訳でクロナの背負う物が明かされました。つまりは士郎と似た動機。見捨てた自分だけ生き残ったからの重責がクロナの怒りの根源です。元より、魔術師に怒りを抱く士郎のような存在をイメージして作ったキャラです。

上手くフラガラックを攻略して見せたのに敗北し、よりにもよって自身の友に囚われてしまった英雄王。桜と一緒にヒロイン枠です。アルトリアオルタが『M』に従う理由も判明。その目的は士郎とイリヤの殺害による切嗣への復讐。クラスがアヴェンジャーでも可笑しくないけど一応セイバー。士郎が勝つ鍵は、もう一人のアルトリア・・・胸熱展開を上手く書いて行きたいです。

凛とバゼットのコンビってあまり見かけないですけど普通に相性いいと思います。エミヤと関係ある二人は絡ませるしかあるまい。

イリヤに自身の身の上を明かすクロナ。本名は岸波黒名、モデルはザビ子、つまり弟は・・・。さらに雁夜おじさんとの意外な関係。そしてイリヤの抱く懸念とは・・・?


次回、『♯41:騎士でなくても徒手にて死せず』柳洞寺に突入、今度こそ血戦開始です。感想や評価をいただけると励みになります。その前に特別回を入れるかもしれませんが、次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯IF:魔術師絶許の少女がカルデアに着任したら

本日7月23日は私こと放仮ごのハーメルン4周年となるので特別回です。サーヴァントではなく、マスターとしてクロナがカルデアに参戦します。

第四次聖杯戦争の災厄が起こらず、しかし家族を失い結局魔術師を嫌悪し、王様もいない綺礼に引き取られ、アスラを召喚せずFGO世界の第五次聖杯戦争を生き残り10年後にカルデアにやってきたクロナの話。

サーヴァントの方はゲームでしたが今回の原作はアニメの方です。ちょっとネタバレがあります。楽しんでいただけると幸いです。


「マスター不足とやらで本日ここ、人理継続保証機関フィニス・カルデアに着任しました、言峰黒名です。とりあえず一言言って置くけど、ここの所長以外の魔術師が話しかけたら殺すから」

 

 

着任してそうそう、カルデア礼装の上から黒よりの灰色のコートを羽織り血に塗れた白のマフラーを巻いた出で立ちでふんぞり返り、此処まで登山して来た際に付けた怪我を治そうと歩み寄った医療部門のトップを務めるドクター、ロマニ・アーキマンでさえも威嚇して遠ざけた少女に、この施設の最高責任者であるオルガマリー・アニムスフィアは傍に控える顧問魔術師、レフ・ライノールに怒鳴り散らした。

 

 

「レフ!何でこんな危険人物を49人目に呼んだのよ!48人目なんてただのマスター適正持っただけの一般人だし!」

 

「しょうがないだろうオルガ。彼女は時計塔に名を馳せる遠坂凛と同じく第五次聖杯戦争を経験した貴重な唯一のマスターなのだから。・・・むしろ、交渉できただけ係の者は偉いと思うがね」

 

 

端末に映し出された彼女の情報を見て溜め息を吐くレフ。10年ほど前に冬木市で起きた聖杯戦争の生き残りにして、アインツベルンのマスターと最強のサーヴァントを打ち破った"最強のマスター”。聖杯こそキャスター陣営に奪われた物の、自身の知人である遠坂凛含めた三人のマスターと共に生き残った魔術使い。

10数年前の聖杯戦争で死亡した冬木市で神父を務めていた元代行者である言峰綺礼の娘ではあるが、魔術使いを名乗る程に魔術師を憎悪し実際に何人も殺害した実績を持ち、根っからの魔術師から疎まれながらもその実力と封印指定されても可笑しくない魔術は評価されている問題児。正直、オルガマリーが最も毛嫌いする人物だろう。

 

しかし49人のマスターの中で唯一マスター経験を持ち、さらには問題児の英霊を難なく従えたと言う、カルデアとしてはどうしても欲しい人材だったのだ。交渉役の魔術師が一人死んだが、それだけの犠牲でここまで連れて来れたのはとんでもない功績である。

 

 

「・・・はあ、取り敢えず分かったわ。ところで、そんな魔術師嫌いの貴方が何でここに来てくれたの?」

 

「魔術だけなら絶対来なかったけど科学も融合しているって聞いたのと、48人目のマスターとやらがただの一般人だと聞いて。・・・ただの一般人を魔術の世界に引き込むなんて、放っておける訳がない。あ、あと。もし魔術師が繁栄する未来とかあったらそれをぶっ壊そうと思って」

 

「正直なのはいい事ね!」

 

 

半ギレ気味にそう叫ぶオルガマリーに思わず苦笑するレフ。しかし理由はどうあれ貴重な真面な戦力だ。彼の思考は、彼女をどうやって排除するか。ただそれだけに絞られていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、人為的な事故による爆発を受け地獄と化した管制室で、一人の少年と少女が手を繋いでいた。少女は死に掛けで、少年は安心できるようにその手を握っている。そこに、瓦礫を押し退けながら頭から血を流したマフラーの少女・・・クロナがズルズルとボロボロで気絶したオルガマリーを引き摺りながら現れ、二人の意識はそちらに移った。クロナはそれを見て、10年程前と変わらぬ容姿で溜め息を吐く。

 

 

「はあ。・・・なんでこう、地獄ってのは唐突に現れるかね。それで死ぬの、少女?生きるのを、諦めちゃうんだ」

 

「・・・貴方は・・・確か、クロナ・・・先輩・・・?」

 

「おう、先輩だとも。そっちの少年が一般人の子か。まあ、巻き込まれちゃうよね。私と違って英雄になりうる人間ってのはそう言う物だ。君は凄い奴だね。怪我が無い所から見ると外にいたんでしょ?少女のために来たなんて。普通、逃げるよ?」

 

「は、はあ・・・どうも・・・?」

 

「それで少女。生きるのを諦めるのか、理不尽に屈してそのまま死を待つのか。貴女のせいで大事な先輩は死んじゃうよ?」

 

「そ、それは・・・」

 

「私なら救える。そう言ったら、どうする?」

 

 

まるで試す様にそう嗤うクロナに、はっと顔を上げる48人目のマスター、藤丸立香。しかしてクロナは呆れたように溜め息を吐いた。

 

 

「はい、駄目。現実を直視しなさい。奇跡でも起きない限りその子は助からない」

 

「で、でも・・・俺と違って魔術師の貴方なら・・・!」

 

「残念。私、魔術師じゃ無くて魔術使いなの。サーヴァントや無機物なら好きに出来るんだけどね、生物まではお手上げ。死んでからそれを人形にするぐらいはできるけど、それじゃ嫌でしょ?」

 

「・・・」

 

「で、女の子のためにここまで来れる君と少女に、矛盾しているけど言わせてもらうね。・・・諦めるな。それだけは断言できる、諦めたらそこで全てが終わる。逆に言えば、諦めなければ絶対に終わらない」

 

 

そう言って少女・・・マシュ・キリエライトを潰している瓦礫に手を付け、軽くしてポイッと背後に投げ捨てるクロナ。そして泣きそうな顔でこちらを見上げて来る両者を安心させるように、パッパッと手を払い頭から流れる血を拭い取ったクロナは満面の笑みを浮かべる。

 

 

「さ、此処から出ようか。理不尽を前にしても諦めない若人たちに祝福を。まあ、これしか方法は無さそうだ。奇跡に頼ろうか。――――強制起動。特異点に私達を飛ばせ、カルデアス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロナの魔術によって主導権を握れるように改造されたカルデアスにより、特異点F・・・2004年の冬木に転移(レイシフト)してやってきたクロナと、その側で気絶しているオルガマリー。どうやら立香とマシュは別のところに転移したらしい。

 

クロナが見覚えがあるありえない光景に目を細めていると、オルガマリーが目を覚まして辺りの光景に驚愕した。

 

 

「ここは・・・まさか、特異点F!?・・・それに、レイシフト適正の無い私が何でレイシフトして・・・」

 

「ああごめん。咄嗟に守る事が出来たけど所長の足下で爆発して、出血多量で死にそうだったから私の血を輸血するついでに軽く改造を加えたから適正(?)を手に入れたんだと思うよ」

 

「改造!?」

 

「うん。私、無機物と自分の体を自由に改造できるんだ。英霊化したら自己改造のスキル持てると思う」

 

 

ビクッと体を庇うように抱えるオルガマリーに含み笑いを浮かべるクロナ。改造と言っても、単純に自分と同じにしただけなのだが、やはり他人に魔術で体を弄繰り回せるのは嫌だと思えるこの所長は、気に入った。

 

 

「そんな事よりどうする?カルデアからの通信を待つか、それとも生存者を捜すか。異変の原因を探るのもありだね。僭越ながら、ボディーガードはさせてもらうよ」

 

「・・・ええ。じゃあよろしくお願いね、言峰さん」

 

「クロナって呼び捨てでいいよ。その名は嫌だ」

 

「分かったわクロナ。・・・では早速だけど生存者を捜しましょう。できる?」

 

「ん。耳を改造して強化すれば・・・この声は、48人目のマスターとあの眼鏡の後輩かな。戦闘音と一緒に聞こえる」

 

「藤丸とマシュですって!?急ぐわよ、クロナ!」

 

「りょーかい」

 

 

一回り年下から命令されるのも新鮮だなーと思いながら、かつて令呪の宿っていた右手を見てからオルガマリーを抱き抱えて焼けたアスファルトを駆けるクロナ。オルガマリーは暫し文句を言っていたが無視して先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

クロナside

そんなこんなで立香とデミ・サーヴァントになっていたマシュと合流、そこに襲撃して来た女性のランサーのサーヴァントを、かつてライダーのサーヴァントとして戦った英霊メデューサだと看破した私が地盤ごと大爆発を起こして撃破、したところで出くわしたキャスターのサーヴァントを名乗るクー・フーリンと共闘する事になった後。

キャスターから聞いた異変の原因である柳洞寺に向かっている道中、キャスターから色々聞いて確信を持って頷き、私の傍を歩く所長に口を開く。

 

 

「所長。悪いお知らせ、この聖杯戦争は私の知る聖杯戦争じゃない」

 

「え?どうして?」

 

「ほとんどはあっているんだけど、キャスターはランサーだったしランサーはライダーだった」

 

「?」

 

「つまり、サーヴァントがまるまる違うって事。話に聞くところ、無銘のアーチャーと大英雄のバーサーカー、あと騎士王は変わってないみたいだけど」

 

「ならそれだけでいいから情報を教えなさい。貴方はその為にカルデアに呼んだんだから」

 

「アサシン・・・つまり騎士王のセイバーは飯さえ出しとけば懐柔可能。アーチャーはセイバーに頭が上がらない、バーサーカーは12回殺さないと倒せない。おk?」

 

「「「最後だけおかしい・・・!」」」

 

 

気にするな。そのバーサーカーもキャスターには手も足も出なかったから。

 

 

「いやまあ、大体合っているのがこえーよ」

 

「ちなみにランサー・・・ここではキャスターだけどクー・フーリンは何とか騙してホットドッグ喰わせれば後は楽勝」

 

「てめっ、外道か!」

 

「魔術師程じゃないけど外道だよ」

 

「貴女が魔術師をどう思っているのかよーく分かったわ」

 

 

何か冷めた目で見られてるけどしょうがないよね。私、セイバーのマスターだったし。え、騎士王のマスターかって?まさか。あんな使い勝手悪い英霊召喚しても使えない。私が呼んだのはセイバークラスの反逆者だとも。ちなみに騎士王はアサシンだった。何故かアサシン要素無いのにアサシンだった。アサシンしか枠が空いてないのに士郎の中の鞘と反応して呼ばれちゃったんだと。グェンとか言う不可視の衣持ってたから面倒だった。

何故か謎のヒロインXと言う名の自称セイバーを名乗っていて真名看破が大変だったけど宝具見せた瞬間王だってバレてうちのサーヴァントが反逆して士郎に迷惑かけたなぁ(遠い目)

 

 

「それで。アーサー王はどうやって攻略すればいいの?」

 

「だから飯で釣れば・・・」

 

「問答無用で攻撃して来た時、どうすればいいの?」

 

「魔力放出によるパワーと直感による回避、あと宝具さえどうにかすれば何とか勝てると思う。・・・まあ、まずは戦力を確保しよう。ここにカルデアの倉庫からパクッて来た聖晶石が六つある」

 

「よく所長の私の前で正々堂々言えるわね・・・」

 

「ま、まあまあ所長!戦力を得られるのはいい事です。先輩とクロナさんに召喚してもらいましょう!」

 

 

そんな訳でマシュの説得もあり、見覚えのある屋敷跡で英霊召喚。呪文を知っている私の詠唱に続けて立香も詠唱し、連なる様にして二体のサーヴァントが降臨する。さて、かつての相棒の様な使い勝手の悪い問題児じゃないといいけど・・・

 

 

「サーヴァント、アーチャー。アルジュナと申します。マスター、私を存分にお使い下さい」

 

「セイバー、スパルタクス。さっそくで悪いが、君は圧制者かな?・・・おお、我が同士!また共に戦おうぞ、理不尽に対する叛逆者よ!」

 

 

現れたのは、純白の衣を纏った黒人と、兜と鎧で覆われた全身に数え切れないほどの傷跡を持つ筋骨稜々とした青白い肌の筋肉(マッスル)が懐かしい、輝く微笑み(スマイル)を浮かべた大男。ああ、来たか。そして立香め、幸運Aじゃなかろうか。

 

 

「・・・まあ、来るわな。またセイバーだったことを喜ぶべきか否か。うん、また共に圧政者に挑もうスパルタクス」

 

「インドの大英雄アルジュナに、ローマの剣闘士スパルタクスですって!?大金星じゃない、よくやったわ!」

 

「こいつぁ頼もしいな。よろしく頼むぜ」

 

「先輩、凄いです!」

 

 

やんややんやと喜ぶ所長とマシュ(+キャスター)だが、私達マスター二人はちょっと居心地が悪い。いや、私は顔見知りだからいいのだけど、アルジュナは完全に沈黙しているし、スパルタクスはアルジュナから圧政者の血を感じ取ったのかジロジロ見てるし、そして立香はアルジュナの眼光に完全に心が押し潰されている。・・・はあ、前途多難だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、道中現れるエネミーをアルジュナとスパルタクス、+私とマシュで蹴散らし、道中出くわしてしまったバーサーカーのヘラクレスも、かつての戦いと同じようにスパルタクスの宝具で圧倒し、アルジュナの宝具で止めを刺す事で撃破。いやまあ、どっちも爆発だったけど。

無銘のアーチャーをアルジュナに任せ、私達は柳洞寺の奥から円蔵山の地下空洞へと降りて行き、かつてのアサシンとは比べ物にならない殺気と覇気を放つ、漆黒の騎士王と対峙した私達。マシュが宝具を防ぎ、キャスターとスパルタクスが果敢に攻める。

 

キャスターの魔術は対魔力で通用しないし、スパルタクスをまたセイバーで呼べたのは僥倖だった。技術は無いけれど、圧倒的パワーと理性も伴う洗練された一撃が確実にアーサー王の鎧を砕いて行く。

 

 

「極光は反転する。光を呑め!・・・約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァアアアアアアアアアアアアアンッ!」

 

「マシュ、宝具を・・・!」

 

「スパルタクスはいい、私達だけを!」

 

「え!?は、はい!疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

 

立香の指示でスパルタクスの前に行こうとするマシュを止め、スパルタクス以外の私達を聖剣の極光から防ぎ切るマシュ。そして、残ったスパルタクスは消滅はしていなかったけど、満身創痍だった。戦闘続行のスキルだ。これで決める。

 

 

「ははははは。これはいい、これは素晴らしい。強大な力を持つ圧政者、そして我が身は満身創痍。ああ、これでこそ勝利するときの凱歌はさぞや叫び甲斐があるだろう!」

 

「スパルタクス、宝具!」

 

「いざ!我が愛は爆発するッ!」

 

「もう一発・・・!」

 

 

宝具により傷を癒し、突進してくるスパルタクスに向けまた聖剣を構えるアーサー王だったが、スパルタクスは止まらない。否、圧政者がそこに居る限り、叛逆者が止まる事はありえない。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァアアアアアアアアアアアアアンッ!」

 

疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)!」

 

「なっ・・・!?」

 

 

瞬間、極光がスパルタクスに差し掛かった瞬間反射(・・)され、今まで常に勝利を与え続けてきた騎士王に直撃。咄嗟に魔力放出で防いで消滅を免れたアーサー王を、スパルタクスのグラディウスが胸元を大きく斬り裂いた。しかし、倒れない。スパルタクスを魔力放出で吹き飛ばし、執念を持ってこちらを睨みつける騎士王。

 

 

「まだだ・・・!」

 

「マスター、遅れました・・・!」

 

「さあ、愛を受け取り給え!」

 

 

瞬間、背後から飛んで来た光の矢の束がアーサー王の全身をスパルタクスごと貫き、そのまま突進したスパルタクスが拳で殴り飛ばす。壁に叩き付けられ、落ちてきたところに、背後から駆けて来て立香の傍に立ち止ったアルジュナの引き絞った光の矢がアーサー王の腹部を貫き、スパルタクスが一閃。

 

 

「やあぁあああっ!」

 

「ッ!?」

 

 

最後に飛び込んだマシュのシールドバッシュを受けて今度こそ、常勝の王は膝をついた。何とか、勝てたらしい、

 

 

「見事だ・・・聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に傾いたあげく敗北してしまった」

 

 

本当にね。まさか本当にドライフルーツ(香ばしい)で釣られるとは思わなかった。反転してたし。・・・しかしアルジュナの援護が無かったら、ちょっと不味かったかもしれない。例えスパルタクスの宝具で一度耐え切った攻撃を無効化して反射する事が出来ても、零距離エクスカリバーとか受けていたら今度こそ消滅していた。・・・スパルタクスの特性を理解して、念話でアルジュナに伝えていたのかな。だとしたら、マスターとしての腕は私より上かも知れない。いや、私の場合念話だろうが言う事をあんまり聞いてくれないんだけども。

 

 

「結局、どう運命が変わろうと、私ひとりでは同じ末路を迎えるということか」

 

 

・・・士郎の事を言っているのか、それとも外で守っていたアーチャーのことか。この聖杯戦争で士郎はどうなったんだろう。考えたくもないな。

 

 

「あ?どう言う意味だそりゃぁ。テメェ、なにを知ってやがる?」

 

「いずれ貴様も知ることになる、アイルランドの光の御子よ。―――グランドオーダー。聖杯をめぐる戦いは、まだ始まったばかりだと言うことをな」

 

 

訝しげに問うキャスターと私達にそう返し、消滅するアーサー王。・・・まだ、終わりじゃないらしい。カルデア的に私が役立てそうなのは冬木市の事のみだが。・・・まあいいや、理不尽は慣れっこだ。

 

 

「おい待てって、ここで強制送還かよ………おい坊主、あとの話は任せた!次があるなら、ランサーで呼んでくれよな!」

 

 

そんな言葉と共に、キャスターも座に送還されて行き、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達はカルデアに帰還した。レフに殺されかけたと知って狂乱した所長も気絶させて連れて来た。ちなみに今回の首謀者であり、カルデア以外の人理を焼き尽くしたと言いのけたレフ・ライノールは、士郎達まで焼き尽くされたと知ってキレた私が、丁重に令呪三画使って瞬間移動させたスパルタクスの全力の一撃でミンチと化した勢いのままカルデアスに吹き飛ばしておいた。スパルタクスは「圧政者よ!汝を抱擁せん!」とノリノリだった。アレは圧政者とは違う気がする。

 

 

何で気付いたのかとどこかで見た事があるような気がしないでもないドクターが聞いて来たけど、不本意ながらクソ魔術師に何度も何度も出くわしてきた私から言わせてみれば、あそこまで違和感だらけなのも可笑しい。まず、一般人(立香)に対して普通は嫌な顔の一つでも浮かべるはずだ。でもそれがなかった。それは、今からどうせ死ぬからだと考えていたからだろう。

あと、魔術と科学が合わさるここだからこそ、普通の魔術師ならば自身の魔術の秘匿を強化するなど、ある程度秘密を抱えた目や気配をする物だ。だが、レフにはそれが無かった。

所長も言っていたが、普通は秘密を抱えていないから信用できる。・・・いや、そうだろうか?むしろ秘密を抱えていない奴の方が信用ならない。打算があってこその魔術師だ。実績こそが信頼だ。

 

違和感だらけのアイツを警戒しないはずもない。私には決して近づけず、その行動も目を光らせて置いた。そしたら所長の足元で爆発だ。それに気を取られていたらいつの間にか姿を消していた上に、爆発から離れた所に居た為犯人だと確信した。・・・まあ、目的も分からなかったし奴の背後に居る「王」とやらの存在も検討は付いたが腑に落ちないところもある。

 

一つ確定したのは、士郎達と、桜とまた会うために「王」とやらにまた叛逆しないと行けないと言う事だ。

 

 

「クロナ殿、スパルタクス殿。マスターとドクターが呼んでおられます」

 

「ん。わざわざありがとうアルジュナ。・・・どうしたわざわざ?」

 

「いえ。・・・貴方は自身の「黒」が恐ろしくは無いのですか?」

 

 

なんのこっちゃ。・・・ああ、魔術師を駆逐したいと言う衝動の事か。この男は私と同じで黒い物を抱えている、でもそれは英雄らしくない、と嫌悪または恐怖しているのかな。・・・高潔な英雄様の考えは分からないな。やっぱり私はスパルタクスの方が性に合っている。妥協しない考え方は大好きだ。

 

 

 

「怖くないよ。人間だったらあって当然。例え英雄様だって、黒い物はいくらでもある。・・・アーサー王だって、ヘラクレスだって。・・・認めたくないなら、私じゃ無くてマスターに相談すれば?」

 

「いえ・・・ありがとうございました。では参りましょう」

 

「いざ、叛逆の時だ!」

 

 

スパルタクスの言う通り。私の考えが正しければ・・・魔術王よ、私から聖杯をかっさらって行ったキャスターよ。何の目的があって理不尽に人理を焼却したのかは知らない。だけど、理不尽を与えて来るならば叛逆あるのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はお前達などどうでもいい。ここで殺すか生かすもどうでもいい。わかるか? 私はおまえたちを見逃すのではない。おまえたちなど、始めから見るに値しないのだ」

 

「・・・!」

 

 

霧の都で、ついに相対した魔術王から圧倒的な敗北を受けた立香が歯噛みする。叛逆の騎士が怒りに震え剣を持つ手に力がこもる。余波で全身を打ちのめされた私は、何とか立ち上がる。ああこれだ、絶対的な理不尽だ。圧倒的な絶望だ。

 

 

「だが―――ふむ。だが、もしも七つの特異点を全て消去したのなら。その時こそ、おまえたちを、“私が解決すべき案件”として考えてやろう」

 

「見るに値しないだ?スパルタクスたちを倒したぐらいで勝ち誇ってるんじゃない。解決するべき案件、じゃない。"絶対に解決しなければいけない”案件として見させてやる」

 

「ほう。女の魔術使い、碌な魔術も使えない、英雄ですらない貴様が何ができると?」

 

 

此方を見下し、嗤う魔術王。その顔、絶対に歪ませてやる。何ができるかって?英雄でもない私ができる事なんでたかが知れている。お前の思い通りにはさせない。

 

 

「叛逆する。それだけだ」

 

 

魔術師全員を殺す事が出来ないならせめて、魔術王を名乗ったこいつを殺し尽くしてやる。




魔術王に喧嘩売る魔術師嫌いな49人目のマスター、妥協しまくりクロナさん(31歳)。
2004年の第五次聖杯戦争に参加した言峰の方で、第五次聖杯戦争の生き残り。「とある理由」で慎二から桜を引き取り、桜や自分を付け狙う魔術師や、一般人を巻き込もうとする魔術師やらを殺しながら10数年間世界中を巡り、魔術界のお尋ね者になっていたところを交渉によりカルデアにやって来た問題児。そして自己改造により見た目は高校生のまま。
生きるのを諦めた奴には凄く厳しい、答えを得る事が出来なかったクロナ。それでも在り方は変わらない。暴走とかはしなくなって大人びているので英霊のクロナより大人しいかもしれない。

「彼」が第五次で聖杯を獲得していたのを知っている生き証人ですが、まるで別人なので何かイラつく程度。レフは犠牲になったのだ・・・所長は、父親的な理由で助けました。決して善意ではありません。輸血したところでマスター適正が出かは分からないので一応改造しました。


スパルタクス(セイバー)
バーサーカーとして先にヘラクレスが召喚されていたためダブルクラスとして召喚された叛逆者。魔術師に叛逆(?)するクロナと相性がいい。宝具は割とチート。マスタークロナの持つ「霊基改造」と合わせればほぼ無敵。彼が召喚された事で、士郎はよりにもよって暗殺者な騎士王を喚ぶ事に。そしてクロナは立派な叛逆者に。

アルジュナ
藤丸立香のサーヴァント。クロナとは胸の内に「黒」がある者同士。エミヤを単騎で撃破した。

藤丸立香
アニメ時空の彼。クロナとの色んな差に絶望しているけど元気に生きている主人公君。マシュと共にクロナの言動に若干引き気味。ぐだ子みたいにクロナの力を借りた肉体言語はしない。

ドクターロマン
オルガマリーが生き残っている為サブリーダーポジ。色んな意味でビクビクしている。クロナに嫌われているが、それは彼しか理由を知らない。

オルガマリー
レフの代わりにクロナを頼るチキン。クロナの血が混ざっている為改造魔術を使おうと思えば使える。


マスターかサーヴァントかってだけでこうも変わります。クロナのサーヴァントはやっぱりバーサーカー組と気が合う。その中でも相性良かったのがスパさんでした。セイバー時の宝具、強過ぎない?
次回、クロナVSランスロットの似た者対決。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯41:騎士でなくても徒手にて死せず

どうも、水着イベント前だと言うのに台風の恐怖と名探偵の魅力に乗せられて20連してしまい三人目のマリーしか来なかった阿呆マスターの放仮ごです。・・・うん。馬鹿だった。まさかもうCMが来てるとは思わなかったんや・・・

『M』陣営との血戦開始。今回は似たような戦い方のランスロットVSクロナ。英雄に挑む一般人の話。シリアスに突入します。楽しんでいただければ幸いです。


 大事な人を連れ去り、自分の望む事を強要してくる黒幕のねぐらへの殴り込み。

奇しくもそれは、アスラが娘を取り戻すために最後の敵に挑んだ時と全く同じ状況で。だから、私はどうすればいいか知っている。怒りのままに、ただ殴る。

 

ゴルフバッグを担ぎ直す。大丈夫だ、重量も軽くしてるから素早く動くには問題ない。マフラーも、首に巻いているのとは別に二本替えを持ってきた。コートもちゃんと着て来た。・・・準備完了。

 

 

「・・・行ってくる!」

 

 

柳洞寺の辺りからちょうど見えない路地裏に待機している士郎達にそう告げ、私は階段下ど真ん中に飛び出した。・・・以前ここに来た時は、アサシンの本拠地だと知って帰るしかできなかった。でも今回は前回とは違う。

山門の前には、漆黒・・・いや、濃紺の甲冑を着込んだ黒い靄に包まれた騎士が紅い眼光を光らせて突っ立っており、私を視界に入れた瞬間、ガシャガシャと音を鳴らしながら両手で天を仰ぎ、咆哮を上げる。

 

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」

 

 

・・・間違いない。アレは円卓最強の騎士、狂戦士と化した湖の騎士ランスロットだ。・・・ああ、不味い。アサシンとは比べ物にならない程の威圧感、殺意や憎悪が私を襲う。・・・ああ、殺気はアサシンほどではない。だがしかし、その威圧感に私の体が竦み上がってしまう。

これが、暗殺者と騎士の差。鋭く研ぎ澄まされた剣の様な闘争心が私に突き刺さる。・・・覚悟は決めた。今、ランスロットの興味は私に向いている。勝たなくてもいい、士郎達をただ先に進ませるためだけに・・・私だけに集中させろ。

 

 

「!?」

 

「……Arrrrrrrrrrrrrrr!!!」

 

 

私に向けて咆哮したランスロットがその手に持ったのは、JM61A1・・・M61 20mmガトリング砲。本来F-15Jに搭載されているそれをどうやって持ち出したかはしらないが、弾倉ごと持っているそれの銃口はこちらに向けられていて。私は咄嗟に、直ぐ近くの電柱の陰に隠れ改造して強度を高めた、瞬間。

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!と、絶え間ない銃撃が衝撃と共に私の隠れた電柱を襲う。どういう訳か弾切れを起こす気配が無い。これは本格的に不味い。搖動するどころか、これじゃ士郎達が近づけない・・・!

 

 

「これなら・・・どう!」

 

「Ah?」

 

 

仕方がないので、砕けた電柱の破片を拾い、それを掌から溢れた炎で一瞬焼いて改造。渾身の力で放り投げてまた私は電柱の陰に退避。それは閃光弾の役割を果たして夜の暗闇を瞬く間に光で照らし、たまらずランスロットの銃撃が止んだ。

その隙を突かない訳がなく、私はマフラーを改造してアスラの剛腕を右腕に装備、もうボロボロで今にも朽ち果てる寸前だった電柱の陰から飛び出し、強化した脚で地を蹴り全速力で階段を駆け登る。

 

 

「ENEMYYYYYYYYYYYY!!」

 

 

距離からしてガトリング砲は隙を生むだけと判断したのか、今度は二挺の短機関銃・・・バレットM82A1とH&K MP5を持ち出して乱射してくるランスロット。さっきのガトリングもそうだけどアレも『M』が用意したのだろうか。何か、準備万端過ぎる気がする。

私は左掌から炎を噴き出して壁の様にし、弾丸を熔解させて防御。そのまま左手に握った黒鍵二本を炎と共に投擲して短機関銃を無力化。そのまま殴りかかると、ランスロットはその手に傍の木を引っこ抜いた丸太で応戦して来た。

 

ゴワン!と言う音と共に弾かれる。堅い、機動隊のライオットシールドみたいな物だ。真面に殴り合ったらこちらの腕が折れて潰される。

 

 

「Arrrrrrrrrr!!」

 

「ッ!」

 

 

強烈な振り下ろしを、階段を転がり落ちて避ける。しかし余波で階段傍の木まで吹き飛ばされ、私は右腕の剛腕をマフラーに戻して木に引っ掛け、遠心力を使って両脚で飛び蹴りを叩き込む。しかし、顔面に直撃したランスロットは倒れない。むしろ、丸太を掴んでない方の手で私の足を掴んで階段に叩き付けて来た。

 

 

「があっ・・・!?」

 

 

咄嗟に服の外側を硬いゴムの様に改造して階段の凹凸は防いだが、それでも衝撃が私の中を突き抜ける。何とか立ち上がるも、ゴボッと口から赤い液体が溢れて来た。内蔵がやられたか・・・?

 

 

『・・・クロナ』

 

「・・・なに、バーサーカー?」

 

「Ar?」

 

 

念話で語りかけて来たバーサーカーにそう応えると、目の前の狂戦士は自分が問いかけたか?とでも言う様に首をかしげる。なんだ、可愛げがあるじゃないか。女子供に容赦ないのは評価できないが。

 

 

『やれるな?』

 

「・・・うん、やれる!」

 

 

私はさっき、士郎達に「行ってくる」と、そう宣言した。それは、生前のバーサーカーと同じ無事に帰って来れるか分からない単騎での戦いであるがために、家族や仲間に誓うかのような不器用な言葉。それを言ったからには、弱音なんか吐けない。死に掛けたからなんだ。

 

 

「・・・決めたからには、やり遂げる。それが怒りに捧げるって事だ!」

 

「Arrrr!」

 

 

振り下ろされた丸太をひらりと避け、触れて炎を溢れさせ一瞬で燃やし尽くす。それに堪らずランスロットが後退したところに、黒鍵を投擲。やはり、掴んできたところで侵食が終わる寸前に爆発させる。もう自分の物と思っていた武器が爆発したんだ、意表は付けたはず。

 

 

「デヤァアアアアアアッ!」

 

 

士郎に投影してもらったマスターソード(出来が悪くて聖光を纏ってない)を改造して剣身に炎を宿し、突撃して斬撃を繰り出す。しかし、それはランスロットに手に取った見覚えのある形状をした黒い宝剣で受け止められた。

 

 

「それ、王様の・・・!?」

 

「ENEMYYYYYYYYYYYY!!」

 

「ッ!」

 

 

剣を振るうと共に放たれる鉄砲水を、炎の壁で蒸発して防ぐ。正直、王様の宝具なんて全部を知ってる訳じゃないから一瞬で対策を建てるしかない。というか何で王様、あんなのに宝具盗られてるんだ。

そう思っていると、ランスロットの背後に黄金の波紋が現れ、そこからどさっと宝具の山が落とされた。・・・・・・・・・・・・まさか、あっちに味方しているとかないよね?愉悦のためなら何でもする様な人だとは思うけど、信じてるよ王様!

 

 

「Aaaaaaaa~!!」

 

 

掴んでは投げ、掴んでは投げ。世にも恐ろしい、円卓最強の騎士の技量によりとんでもない精密さと正確さで投擲される爆撃を、何とか石段を上り下りして避けて行く。エミヤの方がまだマシだ!とか嘆いて居たら、紅い閃光がこちらに一直線に迫ってくる。アレは見覚えがあるぞ、というか今私も持ってる。

 

 

「フルンディング・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロ姉・・・!」

 

「待ちやがれ」

 

 

思わず出て行こうとして、バーサーカーに止められる。視界の先では、空中で曲がって何度も襲い来る紅い閃光を避けながら炎で追撃を防ぐクロ姉の姿。その口からは血が溢れ、防御しきれなかった切り傷が全身至る所に見える。あまりにもジリ貧。ゴルフバッグを担いでいて動きが何時も以上に悪いクロ姉では、このままじゃ負ける。

 

 

「士郎。気持ちは分かるけど落ち着きなさい」

 

「でも、このままじゃクロ姉が・・・!」

 

「はい。ですが、我々が出て行ったところであのサーヴァントには何もできないことは事実。さらにこちらの存在を悟られれば、それではクロナさんの努力が無駄になってしまいます」

 

「今は好機を待つのよ」

 

 

凛とバゼットの言葉に思いとどまっていると、視界の先でクロ姉がゴルフバッグを林の方に投げ捨て、マフラーを鞭の様に伸ばしてセイバーのフックショットの様な動きでフルンディングから高速で避け始めた。さすがに持ち歩くのは危険と判断したんだろう。そもそも掴まれたらアウトだ、敵に塩を送る真似何てクロ姉は絶対にしない。それでも持っていたのは、対抗手段が本当に少ないからか・・・!

 

 

「ってそうか、エミヤじゃないから・・・いい加減にしろ!」

 

「!」

 

 

するとクロ姉は何かに思い至ったのか、マフラーを右腕に巻いて剛腕にするとフルンディングを殴って迎撃。そのまま黒騎士に突貫する。ああ、そう言えばエミヤシロウは投影したものを爆発できるんだったな・・・それを無意識に考えて奥手になってただけか。だがしかし、それでも技量の差があり過ぎる。

 

 

「っ!?」

 

 

取り出した大剣をグルンと一回転させたかと思えば、そのままありえない体勢で突撃して来るランスロットを、クロ姉は咄嗟にマフラーで木の上に巻き付けて引っ張られ回避する。

アレは昔クロ姉とやった某スタイリッシュゲームで見た事がある、スティンガーとか言う技だ。魔力を使って推進力を突きに与えて高速で突進する技・・・だったか。それを、あの英霊は瞬時に出来てしまう。明らかな技量の差がそこに在った。

 

 

「・・・・・・勝負にならない、か」

 

 

そう言って上着のコートを脱ぎ、何故か左袖だけ通した形で翻してマフラーを改造した槍を手に降下し、ランスロットを飛び退かせるクロ姉。そして、上着を炎が包み込んだ。

 

 

「形状変化・・・改造、装填(カスタム・オン)三手阿修羅(サンジュアスラ)

 

「!」

 

「ぶっ飛べ!」

 

 

瞬間、上着が二本の腕を形作り袖を含めて左腕だけ三本腕の、半分だけの阿修羅の様な姿になったクロ姉の強烈な一撃・・・否、三撃がランスロットの咄嗟に剣を横に構えた防御を崩して吹き飛ばす。単純な力任せ。でも俺は、俺達は、この戦い方を知っている。

 

 

「使い手が違えば、同じ武器でも使い方も変わる・・・!」

 

 

そう言ったクロ姉は、本来ただ殴るだけに使われる三腕を揃えて盾の様にし、山門前まで飛び退いたランスロットの銃撃を防ぎながら突進、右腕に装備した剛腕を振り被った。

しかしそれはフェイント、本命らしい左の三腕から溢れた炎がランスロットを焼き尽くす。恐らくは対魔力持ちではあるだろうが、クロ姉のアレは高密度の魔力だ。防げても限度はある筈。耐え切れず、ランスロットは退避。したところで、クロ姉は防御の構えを取ったまま何やら呟きだす。

 

 

「―――I am the bone of my Anger.(この身は憤怒で出来ている)

 

 

瞬間、クロ姉から赤い炎が溢れだしてランスロットもろとも包み込んで行く。その炎は、何故か見覚えがあった。寒気と共に、思い出す。この世の地獄の光景を。

 

 

Lava is my body,and fire is my Steel.(血潮は溶岩で、心は鋼鉄)

 

I have Erosion over a Irate wanton.(幾たびの理不尽に対して憤る)

 

Once peace there is no.(ただの一度も安らぎはなく)

 

Don't cry even once.(ただの一度も泣きはしない)

 

He's always angry.(彼の者は常に怒り)

 

Angry lament in a lonely city Burns(燃える孤独の街で嘆き怒る)

 

Yet, those hands will never hold anything.(故に、その生涯に意味はなく)

 

My whole life was.(この体は、)

 

「Arrrrrrrrrrrrrrr!!!」

 

 

それに危険性を感じたのか、燃えるのも構わず炎の中から飛び出し、再びガトリング砲を手に取るランスロット。しかし、炎は放たれた弾丸すら焼き尽くして円卓最強の騎士を飲み込んで行き、

 

 

「―――――"Unlimited raising invasion" (きっと怒りで満ちていた)

 

 

その言葉と共に、炎は消失。クロ姉とランスロットの姿は、消えていた。呆然とする俺に、バゼットと遠坂の驚いた声が聞こえてくる。

 

 

「・・・固有、結界・・・?」

 

「とんでもないとは思っていたけど、あんな奥の手があったなんて・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

黙って立ち尽くすバーサーカー。何故か、無力に震える昔の俺と重なった。

 

 

「行きましょう、マスター」

 

「あ、ああ・・・」

 

 

アーチャーの言葉に頷き、階段を上って行く。そして上り終えると、そこには黒い聖剣を石畳に突き刺した黒い鎧の少女が立っていた。心なしか髪も俺の知っている姿より少し白く、瞳の色は金色だ。明らかに異常だと分かる。

 

 

「来たか。待っていたぞ、衛宮士郎」

 

「・・・アルトリア・・・、アーサー王か!」

 

「ほう?私の真名を知っているか。やはり、衛宮切嗣から教えられたのか?」

 

「なんで爺さんの話が・・・!?」

 

「マスター!」

 

 

瞬間、黒いアルトリア・・・アルトリア・オルタが魔力放出で吹っ飛んで来て、それを前に飛び出したアーチャーが両腕をクロスして受け止める。それを見て、奥に向けて走り出すバーサーカー、遠坂、バゼットの三人を見送りながら、俺は戦うべくエクスカリバーを投影して構える。

 

 

「・・・貴様が、衛宮の名を持つ貴様がそれを持つか・・・!」

 

「爺さんと何があったか知らないが、アンタは俺が倒す!」

 

「黙れ。その減らず口、切り捨ててやろう・・・!」

 

 

そして、アーチャーと共にアルトリア・オルタとの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自らの固有結界にランスロットを引き入れ、挨拶とばかりに彼の武装を炎で飲み込み無効化した私は、バーサーカーの念話で無事士郎達が突入できたことを知り安堵していた。

 

あのままではジリ貧だった。何故かは知らないけど王様の財宝を使ってくる相手に、正面戦闘など無理だった。魔力と体力を消費するが、これしかなかった。

 

さすがに触れれない炎を改造できない上に、魔力である私の炎に包まれている物を侵食する事が出来ないらしく、普通に落ちていた鉄パイプで私の放つ簡易再現・天の鎖を弾き飛ばしていくランスロット。しかし炎に焼ける事を厭わず突進してくる姿はどこか痛々しい。

 

私には分かる。コイツは、私と同じ合理的主義者で自己嫌悪の塊だ。恐らく狂化している理由だってそれだろう。でもそれなら、私みたいに追い込まれたら使うのは、切札なのは間違いない。それも、捨て身の物だ。その考えは正しかったらしく、鉄パイプを取り上げ、ランスロットに鎖の束が殺到した瞬間、それらは粉々に砕け散ってしまった。・・・もしかしたら失策だったかもしれない。

 

 

「Arrrr・・・」

 

 

包んでいた靄が消え、その手に黒き剣が握られている。それは、有する二つの宝具「騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)」と「己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)」を封印する事で顕現する、円卓最強の騎士が持つ絶対に刃が毀れることのない名剣。エクスカリバーと同じ神造兵装にして、全てのパラメータを一ランク上昇させる、聖剣にして魔剣。

 

 

無毀なる湖光(アロンダイト)・・・!」

 

 

私は左腕の三腕と、右腕の剛腕を構え直す。背後にはゴルフバッグ。すぐさま出せる様に左腕を盾の様に構え、右手を後手に構える。この世界の物質を改造した、前回の様な質量攻撃だけでは恐らくアレに勝つのは不可能だ。全部使って、勝利を得て見せる・・・!

 

 

「・・・騎士でなくても徒手にて死せず(ノンナイト・オブ・オーナー)って所かな。勝てる気はしないけど、負ける気も無い・・・!」

 

「・・・Ar・・・!」

 

『令呪を持って命ずる』

 

 

私に向かってランスロットが今までとは段違いのスピードで突進を繰り出した瞬間、そんな声が聞こえ。

 

 

『狂化を弱め、全力の(つるぎ)で目の前の女を排除しろ』

 

「ッ・・・縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)ッッッ!!!」

 

 

蒼い光を纏った剣身が、守りを固めていたはずの私の三腕ごと左腕の肘から先を、あっけなく斬り飛ばしていて、

 

 

「ッ、あ゛―――!?」

 

 

私は、今まで感じた事の無い激痛と共に、焼けた地面に倒れ伏すしか、無かった。

 

 

 

―――彼の腕をいくら再現できたとしても、私は彼ではない。私の拳は、真の英雄には、届かない。




アスラの六天金剛の肩腕を使える様になったクロナ、慢心の元に惨敗。魔力が有り余っているランスロットは本当に強過ぎると思います。雁夜おじさんでもアレだし・・・

『M』の全力支援によって最強に仕上がっているランスロットさん。狂化も弱められてアロンダイトの本領発揮。そりゃ英霊でもないのに太刀打ちできるはずもない。一応、クロナの固有結界はランスロットに対するアンチなのでアロンダイトしか対抗策が無かったりします。
実は「避ける」事に特化するために、過去からずっと痛みから逃げまくっていたクロナ。想像は出来ても実際の痛みは違う訳で。窮地を脱する事は出来るのか。

次回は今回の続きか、士郎&アーチャーVSアルトリア・オルタになるかと思います。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯42:貪り喰らえ、憤怒の鎖

どうも、機種変でFGOリスタートして以来の更新となります、放仮ごです。もう沖田さんとか居ないから、以前書いたFGO編は書き直した方がいいのだろうか・・・執ゾンとのコラボ回まで書き直す事になりますけど。

今回は前回深手を負ったクロナVSランスロットの決着戦。一般人が英雄に勝つにはどうすればいいか。英雄に挑む一般人の話その二。真面目にシリアスですが、楽しんでいただければ幸いです。


「ッ・・・縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)ッッッ!!!」

 

 

一瞬の油断。バーサーカーの腕を盾として身に着けていたからこその油断から、非情の一撃が私の左腕を切断した。

 

 

「ああ、うああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛‼︎」

 

 

初めての体験だった。四肢の欠損。バーサーカー・・・アスラが何度も何度も、夢の中(過去)で様式美の如く繰り返していた事象。苦痛に喘ぎ、怒りでそれを消して殴りかかる彼の姿を客観視して、痛そうだと思うだけだった。炎の苦痛に比べたら、どうってことないと思ったから。

 

しかし、一瞬意識が飛んだ。痛い、痛い、痛い、イタイ、イタイ!意識が戻ってすぐ、喪失感と激痛が津波の様に襲いかかってくる。ああ、またこれだ。人間が抱く当り前にして原初の欲望。怒りに我を忘れて尚、完全に怒りに捧げていないからこそ抱く、情けない想い。

 

 

 

――――嫌だ。死にたくない。私はまだ、死にたくない。

 

 

――――いや、私は、こんなところで死んだら行けない。

 

 

――――見捨ててしまった弟の為にも、生きなければいけない。

 

 

――――私は、二度と負ける訳には行かない。

 

 

 

死にたくないなら、全てを燃やせ。怒りを滾らせ、魔力を溢れさせ、この世界全てを焼き尽くせ。目の前に落ちている『私』を、命を燃やせ!

 

 

Connection(回路接続)!――――Reform, strengthen(改造、強化)!」

 

「まだ、立つか」

 

 

右手で目の前に落ちている自分の左手を掴み、瞬く間に燃やしてそのまま自身の左腕にくっつける。ジュゥと肉の焼ける音と激痛が襲いかかって来るが、まだ切り離されて数秒だ。間に合って然るべき。

 

 

My left and wrath incarnation(我が左手は怒りの化身なり).」

 

 

何とか、繋がった。神経、魔術回路、血管も全て接続している。骨は微妙なラインでずれているかもしれないけど、それでも一応指も動く。痺れというか火傷で痛いけどそれはしょうがない。付け根の部分から炎が漏れている上に切断された部分が黒ずんでいるけど、大丈夫のはずだ。

 

今、この左腕は「私の体」ではなく、常に触れている「物体」になった。怪我の功名、私は転んでもタダじゃ起きないんだ。

 

 

改造、開始(カスタム・オン)!」

 

無毀なる湖光(アロンダイト)!」

 

 

放たれる光の斬撃を、小指から肘までかけて刃に改造した左腕で防ぎながら突き進む。さっきの、私のアスラの腕を切断した一撃は恐らく、アロンダイトに過負荷を与えて籠められた魔力を漏出させ攻撃に転用したモノ。いくら魔力があろうとそう何度も放てる物じゃない。エクスカリバー程じゃない光の斬撃ならば、防げる。

 

 

「何と言う無理を・・・Arrrrrr!」

 

「正気なのか狂気なのか。いや、私と同じで半狂乱状態か。行くぞ・・・ッ!」

 

 

左腕を背後に向けてググッと勢いよく伸ばす。すると瞬く間に炎に包まれ、手から異形の姿、五本の鉤爪と化した手から肘前まで繋がり赤く焼けた鎖に変わったそれは、遠心力を伴って勢いよくランスロットに向かって突き進む。イリマージュ・エルキドゥで捉えられないのなら、直接あの剣に斬られない様に捉えるしかあるまい!

 

 

貪り食らえ、憤怒の鎖(グレイプニル)!」

 

「Arrr・・・!?」

 

 

放たれたそれは、ランスロットの振るったアロンダイトを迂回して避け、その手首を掴んだ。これで自由にアロンダイトは振り回せないだろう。鉤爪が食い込んでいるからそう簡単に離す事も出来ないはずだ。

私の改造魔術は、元々の質量に想像力(イメージ)を重ねる事で成り立つ。だから肉、骨、血管。ありとあらゆる部位を繋いで伸ばし、鎖としてイメージ。傷口から炎を溢れさせてコーティングしたこれは、私の思い浮かべるグレイプニル・・・北欧神話に登場する魔法の紐だ。

 

グレイプニルとはフェンリルを捕縛し繋いだ足枷であり、ドワーフ達の手で猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液と言ったグレイプニルに使ったためにこの世に存在しなくなった物から作られてる。だから私の左手の部位でイメージするのは割と簡単だった。実物は王様に見せてもらったことが無いから知らないが、私の改造魔術は士郎の投影と違い、隅々までイメージする必要はない。私だからこそできる、最大の一手だ。

 

・・・凄まじく痛いけども!痛覚まで元に戻さない方がよかった!骨とか血とか肉とかを常時磨り潰して伸ばしている状態なのだ、痛くないはずがない。それでも耐えるしかない。捕えろ・・・!

 

 

「Arrrr!」

 

「はっ・・・!?」

 

 

ぐん、と引っ張られ、私はすぐ傍の建物の外壁に頭から叩き付けられた。失念していた。例え今の私の左腕が絶対逃さない魔法の紐でも、それを支える私の肉体は何の強化もされてないし重くも無い。筋力Aだ、こうなる事は分かっていたはずなのに。

 

 

「ぐぅぅ・・・離すものか・・・」

 

 

離したら終わりだ。またアレが振られたら今度こそ真っ二つだ。この固有結界内で、さらに腕だけだから何とかなったけどさすがにそれは不味い。とにかく地面を改造した鎖で脚を縛って縫い付けて、引っ張られるのを防ぐ。

何か、突破口は・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう言えば、何でランスロットは振りほどこうとするだけで直接殴って来ない?いくら剣士とはいえ狂戦士だ、拳で来てもいいだろう。・・・そうか、もしかしてさっきの令呪は・・・ならば、勝機はある!

 

 

「・・・剣、振れないでしょ?」

 

「Ar!?」

 

「さっきの令呪。全力の剣で私を倒せとかそんなところだっけ?剣以外で戦う事ができないんじゃない?」

 

「・・・よく分かりましたね。私の受けた令呪は聞いただろう・・・あの外道(マスター)は何よりも自分が愉しめること、面白い物を見る事を重要視している。・・・だからこそ、Arrr・・・君の出方を窺っている。すまない・・・私を、倒してくれ・・・Arrrrrrthurrrrrrrrr!」

 

「・・・英雄なら、それぐらい抗えってのも無理な話か。バーサーカーだもんね」

 

 

・・・でもおかげで、突破口は見えた。意地でも剣を使わせなければ、相手はろくに攻撃も出来ない!・・・・・・いや、私もメインウェポンは弓だからあまり攻撃できないんだけど。バーサーカーの腕で殴るぐらいだろうか。効きそうにない・・・何か、何か使える物は・・・!

 

 

「・・・標識?」

 

 

視界に入ったのは、よく見る「止まれ」の標識。私が引き摺られている道路のすぐ脇に立っている。私にとっては、かつて日常の象徴だった光景の一つだ。焼けてちょっと焦げているけど・・・これは、使えるか・・・?

 

 

改造(カスタム・オン)!」

 

 

右手をかざし、炎で包み込んで地面に突き刺さった大弓に改造。何とか弦を片手で引っ張り、袖から五本の黒鍵を取り出して一纏めに改造、以前エミヤが見せたカラドボルグⅡにして引き絞る。・・・私の左手に当てない様に狙い、放つ!

 

 

抉り破る偽・螺旋剣(イリマージュ・カラドボルグⅡ)ッ!」

 

「Ar!?」

 

 

あの鎧を貫いて、内側から爆散させる!それなら確実に勝てるはず・・・しかし私は失念していた。彼も、片手が空いていた事に。

 

 

「Arrrrrr!」

 

「は!?」

 

 

ランスロットはすかさず左手で落ちていた石を手に取り、投石。何と、宝具でもないそれでこちらの矢を弾いて爆発、撃ち落としてしまった。・・・宝具って逸話の具現だから別に使わなくてもできるんだよなぁ・・・これだから英雄様は・・・勝てる気がしない。というか近くに枝とか武器になりそうなものがあったらこんな鎖すぐ外れそうだ。

 

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」

 

「引いて駄目なら押してみろ・・・ッ!?」

 

 

引っ張っていたら埒が明かないと見たのか突進してくるランスロットに、私は飛び退くが引っ張られて足が地面から抜け、まるでチェーンハンマーの如く宙を舞い、再びビルに叩き付けられて意識が遠のく。駄目だ、放したら駄目だ。そしたら、今度こそ真っ二つにされて終わる。

 

 

――――死んでも放すな、死なないために・・・!

 

 

「あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛‼︎」

 

 

思いっきり叫んで気を取り直し、倒れ様に右手で地面を撫でつけ、それは焼け付く大地の蛇となってランスロットに襲い掛かる。しかしランスロットは、私以外は剣を使わなくても倒していいとばかりに拳で粉砕。

なおも私から解放されるために右手を振り回し、私はそのたびに叩き付けられて骨が折れ、肉が潰れ、血管が千切れ、意識がどんどん保てなくなっていく。まさに狂戦士、まだ私が生きているのが奇跡と言っていい。

 

・・・いや、何でサーヴァントの筋力Aで振り回されて私はまだ原型を保っているんだ。・・・それは、まだ彼が私に対して手加減していると言う事じゃないのか。自分から狂化を受け入れているからかある程度足掻けるのか。というか、間違いなく令呪も働いてるな。誰だか知らないけどランスロットのマスターめ、しくじったな。その隙を突けば勝機はある・・・!

 

 

「があ!?」

 

 

再度叩き付けられ、意識が混濁したところに今度はハンマー投げの様に振り回され、私はビルに頭から叩き込まれて頭が埋まり、そのままビルが倒壊して行き、私はその瓦礫の中にドシャッと崩れ落ちる。咄嗟に右腕で頭を庇い、意識を失うのを阻止した私は、ランスロットが私の意識が消えて解放されるのを待っているのか止まったのを確認。何とか這い出し、ランスロットの視界の端に落ちていたゴルフバッグに近付いて、中からそれを引っ張り出す。

 

・・・セイバーのフックショットを見て思いついた戦法だけど、やるしかない。とにかく、生き残る。それが先決だから・・・!

 

 

「縮め・・・貪り喰らえ、憤怒の鎖(グレイプニル)!」

 

 

ジャラララー!と凄まじい勢いでグレイプニルは私の左腕に螺旋になって戻って行き、私はその勢いのまま右手に握った赤い大剣に火を灯して突きの形で構える。行くぞ!

 

 

「夜を彩れ、原初の火(アエストゥス・エストゥス)!」

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」

 

「アーサーアーサー五月蠅い!吹き飛べ!」

 

「Ar!?」

 

 

勢いのままにランスロットの腹部に突き刺し、私は殴り飛ばされるがその瞬間に起爆。炎で迂闊に触れる事が出来なかったそれが大爆発を起こしたことでランスロットは私が再び伸ばしたグレイプニルに繋がれたまま宙高く舞い上がる。そうだ、体格、体重、怪力に影響されないこの状態を待っていた!

 

 

「空中じゃ身動き取れないでしょ?これでッ!終わりだァアアアアアアアアアッ!」

 

「Arrr・・・!?」

 

 

燃えているのも構わずグレイプニルをマフラーを巻いて剛腕に改造した右手で握り、渾身の力を持って振り下ろす。自身の体重も合わさり何もできずに急降下したランスロットは、そのまま頭から地面に叩き付ける・・・!それだけじゃ、勝てない。だから…

 

 

「唸れ、Fist of fury(怒りの鉄拳)!」

 

 

足裏の下に意識を集中、以前の記憶を思いだし一瞬で骨組みを組み立てる。イメージするはアサシンに与えた最強の一撃。ランスロットが叩き付けられる瞬間、地面が隆起して巨大な拳の形を取り、それが私の動きに合わせて振り抜いた一撃が真正面から炸裂。以前と同じく燃えたアスファルトが下の大地ごと変形した物だ。フルアーマーの鎧も来ている分、アサシンの時よりも威力は絶大だろう。

 

 

「Arrrrrr・・・!」

 

「なっ!?まだ・・・なの・・・?」

 

 

しかし大きく吹き飛ばされたランスロットは、それでも立ち上がり宝剣を構える。そして私がグレイプニルを慌てて引っ張る一瞬の隙を突き、一閃。光の斬撃を飛ばして私の横のビルをいくつもの瓦解に変えた。不味い・・・!?

 

 

「ッ!?」

 

 

地面に落ち、バウンドして来た小さい瓦礫が、グレイプニルに逆に引っ張られて動けなかった私の右腕に運悪くぶつかり、嫌な音が響く。骨が、ついに折れたらしい。苦痛に呻いたところをランスロットに綱引きの様にグレイプニルを引っ張られて引き摺られ、体勢が整わない私を引き寄せるや否や宝剣の腹で後頭部を殴られ、暗転。

 

 

 

 

意識を取り戻した時には、ランスロットの手からグレイプニルが解放され、アロンダイトが振り上げられていた。・・・とどめの瞬間か。感じる時間がゆっくりになる。走馬灯の様に、これまでの記憶が浮かんで行く。そして思い出すのは、この死地に飛び込む瞬間の事。

 

 

 

―――――「・・・行ってくる!」

 

 

 

ああ、そう言った。死んでも勝つって、そうバーサーカー(アスラ)の言葉で誓った。・・・ああ、私はエミヤの願いを否定した。アサシンの願いを踏みにじった。ディルムッドの忠義を嘲笑った。・・・アスラの願いを考えずに、聖杯を壊すからそのために協力しろと申し出た。そうまでしてここに居るのに、こんなところで終わるのか。

 

 

―――――死んだら行けない理由が、また一つ増えたな。

 

 

 

 

 

考えろ、この一瞬に。長い長い一瞬に、生死の境で生をもぎ取るための手段を考えろ。

 

 

「・・・縛鎖全断(アロンダイト)

 

 

右腕の感覚は無い。マフラーを巻いたところであの一撃は防げない。左腕はまだ、グレイプニルのまま。懐の黒鍵は持てない。それ以外の武器が入っているゴルフバッグは遥か彼方。コートはもはや原型を保っていない。・・・この条件で、この円卓最強の騎士に勝てる方法、それは・・・

 

 

「・・・過重湖光(オーバーロード)・・・!」

 

 

振り下ろされる、断頭台の刃。訪れる死の瞬間、私は死力を振り絞る。

 

 

「・・・・・・正々堂々、」

 

 

英雄(アスラ)の力を、戦い方を借りるんじゃない。改造したところで「本物」じゃないから負けるに決まっている。ならば今まで通り、私の戦い方で。私オリジナルの力で。

 

 

「不意討たせてもらう!」

 

「Ar・・・!?」

 

 

瞬間、ランスロットの動きが止まる。そして、その手からアロンダイトが零れ落ちると共に血飛沫がその背中からブシュッと噴出、溢れだす。そして、その左胸から鉤爪の付いた私の左手が飛び出した。

 

 

「ッ!?・・・JACKPOT(大当たり)だ、貪り喰らえ、憤怒の鎖(グレイプニル)

 

「……Ar……thur……」

 

 

力なく倒れ行く円卓最強。私がしたのは、簡単な事。たまたま遠くまで伸びていたグレイプニルを、全速力で回転も加えて突撃させ、彼の霊核を突き破ったのだ。例え鋼の鎧とて、どんな物質でも「捻じる」力には弱い。ドリルの様に回し、鎧に穴をこじ開けた。とどめの一撃という、完全な隙を突いた一撃は、大英雄を屠る事に成功した。

 

 

「・・・・・・私ももう、動けない、かな・・・」

 

 

今ので完全に体力を使い果たした。固有結界が解けて行く。この左腕は現実世界でも自由に動くか、それは分からないけど。少なくとも、もう私は士郎達の力になる事は出来ないだろう。

 

 

「幸運のランク、高いのか・・・まさか、最後の最期まで令呪の命令を完遂するなんて・・・不忠の騎士、なのにね・・・」

 

 

あまりにも、目を覚ました時点で手遅れだったのか。力尽きた彼の落とした宝剣は、そのまま私の腹部を貫いていた。これは、無理だ。実感する、私はもうすぐ死ぬのだと。

 

 

ああ、バーサーカー・・・もう私は駄目だけど、貴方なら多少持ちこたえるだろうからバゼットさん辺りとでも再契約してくれたらいいなぁ・・・

 

 

ふざけるなと、怒りの声が聞こえた気がした。それに応える元気は、もう無い。長い時間炎の中に居たのもあるだろう。激痛に耐えながら己の体を改造した反動もあるのだろう。

 

この戦いに置いて、私が生き残る可能性はどう考えても、アロンダイトで左腕を両断された時点で(Zero)だった。私の油断が、サーヴァントにだって勝てると言う驕りが招いた結果だ。抗う事などできない。

 

 

 

そして。

 

 

黄金の星光が視界を塞ぎ、妙な安心感と共に目は閉ざされ、今度は走馬灯などを見る事も無く、私の意識はスッと、途絶えて行った。

 




クロナ渾身の一撃、完全オリジナル改造宝具貪り喰らえ、憤怒の鎖(グレイプニル)にて何とか勝利。捻じる関係はそらおとのニンフ回が元です。

グレイプニルの見た目はフックの部分が鉤爪付いてる左手になったフックショットです。イメージ元はジャスティスハサン先生のザバーニーヤですが肘から鎖が伸びて付いているので絵面が酷いです。

途中のランスロットのキャラがブレブレで一部すまないさんになっていたけどアレでよかったのか。何気に幸運Bなのでこうした結果になりましたが、彼本人としては女を手にかけた訳だから不幸なんじゃないかな。

次回からクロナは暫し休み、士郎&アーチャーVSアルトリア・オルタとなる「♯43:遥か遠き勝利の剣製」をお送りします。クロナの影響を受けた士郎は、衛宮を恨む騎士王にどう挑むのか。
感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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♯43:遥か遠き勝利の剣製

……|д゚)チラッ


誰か待っていた人はいたのか。こっそり投稿。2017/09/05以来となります。およそ三年ぶり。FGOの前のアカウントが消えて別のFate書き始めて完全に凍結してました。申し訳ない。


今回は士郎&アーチャーVSアルトリア・オルタ。久々に書き上げたせいか若干無理矢理な展開で拙いですが、愉しんでいただけたら幸いです。


それは、戦いと呼べる代物じゃ無かった。言うなれば蹂躙だ。

 

吹き飛ばされ、弾き飛ばされ、斬り飛ばされ、殴り飛ばされ、蹴り飛ばされ、そして俺達の攻撃は全ていなされる。

 

もう何度も、魔力が抜けて行く感覚と共に宝具を小刻みに連続発動しているアーチャーのArtemisが放たれているが、それら全てがただの直感によって撃墜される。俺の突進は、切り結ぶことなく魔力放出で指一本触れられないまま地べたに転がる事になる。

 

あちらの魔力はおよそ無限に近く、こちらの魔力は俺の分と遠坂の分だけ。あまりにもジリ貧。

 

 

「卑王鉄槌」

 

「ッ、アーチャー!」

 

aegis(イージス)!」

 

 

掲げられた左手から放たれた赤黒い光線を、咄嗟に前に出たアーチャーが腕を交差して防ぐ。その隙にアーチャーの横を駆け抜け、跳躍と共に振り降し一閃。しかしそれは読まれていたかのように少し動くだけで躱され、再び黒き聖剣が振るわれ何とか防ぐもエクスカリバーを破壊され吹き飛ばされた。駄目だ、意味が無い。

 

筋力。直感。経験。魔力。宝具。

 

全てが全て、彼女の方が上を行く。いや、耐久と敏捷だけはアーチャーが上だ。だが、俺と言う足枷がそれをマイナスにしている。ならどうすればいい。・・・・・・・・・・・・答えなんて決まっている。

 

 

「アーチャー。俺を気にせず戦ってくれ」

 

「・・・イエス、私の鳥籠(マイマスター)

 

 

飛び立ち滑空したアーチャーの拳がアルトリア・オルタのバイザーを掠めて破壊した。空中戦になればトップクラスのスピードは、さしもの直感を持つアルトリア・オルタでも捉えられなかったらしく、驚愕の表情を浮かべていたが何が癪に障ったのか、何度も何度も滑空して拳を叩き込むアーチャーを迎撃しながら怒りの表情をこちらに向けてきた。

 

 

「そうか、やはり貴様は衛宮だ。衛宮切嗣と同じだ!」

 

「何が言いたい?!」

 

「サーヴァントとはマスターを守る者!だというのに貴様たち衛宮は、そんな我々サーヴァントの思いを無視し、踏みにじる!お前たちにとってサーヴァントは道具でしかないのだろう!ランスロットの言葉を受けて限界だったこの私に、最後の希望だった聖杯を破壊させたようにな!」

 

 

怒りのままに黒い魔力弾がアーチャーを迎撃しながらも俺に向けて連続で放たれ、咄嗟に投影した干将・莫邪で斬り弾いていく。俺はただ耐え続ければいい。アルトリア・オルタの注意を俺に惹きつけるんだ。アーチャーが、アルトリア・オルタの隙を突けるまで耐えるんだ…!

 

 

「ああ、そうだ。サーヴァントにだって意思はある。強制することは、命令することは間違っている。それは理解してるさ。爺さんがどうだったか、俺は知らない。でも俺は、アーチャーを道具だなんて思ったことは一度もない!」

 

「ほざくな、衛宮!!」

 

「くっ!?」

 

 

アーチャーの拳を無理やり押しのけたアルトリア・オルタが魔力放出を使い突進。その勢いのまま黒いエクスカリバーを振り下ろしてきて、俺は咄嗟に飛び退くも地面を大きく斬り裂いた余波で吹き飛ばされ、砕け散ってショットガンの様に飛び散った石畳の欠片に全身を刻まれ、無様に地面に転がった。

 

 

「マスター!」

 

「それが貴様ら、マスターを持つサーヴァントの弱点だ!」

 

 

俺に駆け寄ろうと急降下したアーチャーが、その背後に跳躍したアルトリア・オルタに斬りつけられて地に堕ちる。右翼が大きく裂かれて痛々しいことになっており、アルトリア・オルタは左翼にをエクスカリバーで貫いてアーチャーを地面に縫い付け、悦の入った笑みを浮かべる。

 

 

「くっ、あっ…」

 

「これでもう自由には飛べまい?さあどうする衛宮士郎。お前が衛宮切嗣と自分は同じだと認め、アーチャーを捨てて逃げ出すというのなら逃がしてやろう。アーチャーを嬲り殺しにしている間に少しでも生き永らえたいならそうしろ、もしかしたら逃げ延びられるかもしれないぞ?…それとも、アーチャーを救いたいというのなら無謀と知りながらも挑むがいい。騎士として、正々堂々戦ってやろう」

 

「駄目、マスター…逃げて…!」

 

 

苦しげに呻きながら俺に向けて叫ぶアーチャー。ニヤニヤと、高ぶった感情を表す様にアーチャーの翼を抉りながら嘲笑うアルトリア・オルタ。その言葉に、立ち向かおうとして、踏みとどまる。俺がここに来たのは何のためだ。桜を救うためだ、この聖杯戦争を終わらせるためだ。戦うのはなんのためだ。――――正義の味方になりたいからだ。戦えば俺は死ぬ。生きないと何もできない。でも、見捨てるなんてできるはずがない。

 

 

「悩むか?まあそれもいい、そのまま迷え。アーチャーが生きている間は手を出さないでやろう。誰だって自分の命が大事だ。自分が生きていなければ、誰も救えない。なあそうだろう?正義の味方(衛宮切嗣)

 

 

迷う俺の様子がお気に召したのか、煽る様に俺の顔を見下すアルトリア・オルタ。爺さんと俺を重ねているのか、その口の端は笑っていた。

 

 

「迷うことはない。お前にとって…魔術師にとってサーヴァントは聖杯のシステムの一部の機能、ただの使い魔みたいなものだろう。迷うことはない、見捨てろ。逃げ出せ。一を切り捨てれば他を救える、それがお前の目指す正義の味方とやらだろう?私から希望を摘み取ったようにな!!」

 

「…取り消せ」

 

「なに?」

 

 

調子に乗って合理的であろう真実を伝えてくるアルトリア・オルタだったが、それには口を挟めずにはいられなかった。怪訝な顔のアルトリア・オルタを睨みつける。干将・莫邪を持つ手に力が宿る。爺さんとの間に何があったのかは知らない。だけど、それは、違うだろ。

 

 

「取り消せよ。アーチャーは、ライダーたちは…そんなんじゃあない!!アーチャー達には想いが在る()意思が在る()誇りが在る()勇気が在る()願いが在る()我が在る()怒りが在る()

 許せない奴もいるけれど…瞬間瞬間を必死に生き抜いた、人として尊敬すべき人達だ!俺達の道を尊重し、共に戦ってくれる…アーチャーは大事な仲間だ、かけがえのない相棒だ!俺は、絶対に見捨てない!たとえ無謀だろうと、やるしかないなら俺はお前に勝つ!勝って見せる!!」

 

「そうか、私と戦う道を選ぶか。ならば見せろ衛宮士郎!あの、自分のサーヴァントも妻も娘も部下も切り捨てた衛宮切嗣と違うと言うのなら、証明して見せろ!!

―――約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガ)ァアアアアアアンッ!」

 

「マスター!」

 

 

激昂したアルトリア・オルタが魔力放出で一気に距離を詰め、エクスカリバーを振り上げたその刹那。俺は、手を伸ばす。やるしか、ない!投影するは己が内に眠る鞘。俺と彼女を結びつける、切嗣(じいさん)の忘れ形見―――!

 

 

投影、開始(トレース・オン)!――――――全て遠き理想郷(アヴァロン)!!」

 

「なんだと!?」

 

 

顕現された青と金に彩られた鞘が、結界を発生させて聖剣を受け止める。だが、これでも足りない。完全じゃない、ただの贋作。でも、それでも―――!俺は、本物を、知っている。

 

 

「貴様が…衛宮があ、剣までのみならずその鞘までもを使うか…!どこまで私を愚弄すれば気が済む?!」

 

「ッ…――――投影、開始(トレース・オン)…!」

 

 

咄嗟に口に出していた詠唱。クロ姉が言うには、もう一人の俺…英霊エミヤもまた、固有結界を有していたのだという。俺はついぞ見ることはなかったが、それでも俺だ。奴に使えて、俺に使えない道理はない。それに要は、心象風景の具現化なのだろう?思い描くは、この世の物とは思えない幻想的な花畑の光景。その中心に立つ、青いドレスと鎧を身に着けた金髪の少女。力を貸してくれ、アルトリア…!

 

 

 

 

 

「――――――――遥か遠き勝利の剣製(アヴァロン・ブレイド・ワークス)!!」

 

 

 

「なに?があっ!?」

 

 

 

世界が塗り替えられる。俺を中心に、咲き乱れる幻想的な花畑。その天辺に黄金の剣が突き刺さった小高い丘に、俺は立っていた。傍らに立つは、不可視の得物を手にしてたった今、アルトリア・オルタを斬り払った少女。花畑に埋もれたアーチャーの傷が癒されていき、安心する。何とか成功した。遠坂の、魔力のおかげか。

 

 

「馬鹿な…ここは、妖精郷(アヴァロン)!?それに、貴様は…!」

 

「士郎。私は、貴方の剣です。共に戦いましょう」

 

 

アルトリア・オルタが驚愕の表情を向けるのは、現実には決して召喚されない、騎士王のサーヴァント。俺の心象世界に召喚されていた彼女だからこそ、固有結界の中でなら共に戦える。俺じゃ勝てない、なら勝てるようにするしかない。丘にただ一本突き刺さる聖剣を握って抜き放ち、少女の傍らにて構える。

 

 

「アーチャーは休んでいてくれ!行くぞ、アルトリア!」

 

「ええ、マスター!」

 

 

アルトリアと共にエクスカリバーを手に突撃する。アルトリア・オルタは咄嗟にエクスカリバーを振り上げるも、明らかに狼狽していて対処が遅れていた。

 

 

「遅い!風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

「うおおおおおおっ!」

 

「馬鹿、な…!?」

 

 

突風の刺突がアルトリア・オルタのエクスカリバーを持つ手を跳ね上げ、がら空きの胴体に俺が渾身の力を持ってエクスカリバーを叩きつける。咄嗟に振り下ろされた剣身はアルトリアの斬り上げにより弾かれ、さらに袈裟斬り。ここで、アルトリア直々に習った剣技を連続攻撃で叩き続けていく。

 

 

「馬鹿な、何故だ。何故私が、衛宮に味方する!」

 

「私も切嗣の事は許せません。ですが、シロウと出会ったことで…私は、答えを得た。貴方は答えを得なかった私だ。士郎は殺させない!」

 

「黙れ、目障りだ!味方をするなら共に死ね!卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!」

 

「させない!」

 

 

魔力放出で俺とアルトリアを吹き飛ばしたアルトリア・オルタが再び聖剣を掲げるも、それは背後から飛翔し突進してきたアーチャーにより、阻まれる。さらに羽交い絞めにされ暴れるアルトリア・オルタ。

 

 

「放せ、邪魔だ!人形風情が!!」

 

「そう、私はエンジェロイド。でも、こんな私でも人として扱ってくれる。優しいマスターには、手を出させない…!」

 

「があっ!?」

 

 

再び放たれた魔力放出でアーチャーも吹き飛ばされるも、アルトリア・オルタは首が絞められたかのように膝をつき悶え苦しむ。するとアーチャーと、俺の手に繋がれた鎖が実体化。アーチャーが上手く回して巻き付けたのか、アルトリア・オルタの首を鎖で締め付けていた。

 

 

「マスター、今です!」

 

「ありがとう、アーチャー。アルトリア!」

 

「ええ、決着を付けましょう」

 

 

アルトリアは両手で黄金の剣を顔の前に掲げ、俺はアルトリア・オルタの様に下段でエクスカリバーを構え、この心象風景を実体化させている魔力を吸収していく。固有結界が瓦解していく、その刹那に。

 

 

 

 

 

「「――――――――約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァアアアアアアアッ!!」」

 

 

 

 

 

二振りの星の聖剣は、その眩き極光を解き放った。




この作品の衛宮士郎は、どのルートの士郎とも異なり英霊エミヤの固有結界を目撃していません。そのため、「無限の剣が墓標の様に突き刺さる赤い空の荒野の丘」の無限の剣製とは究極の対比とも言える「たった一本の聖剣が立つ青空の下の花畑の丘」を心象風景として具現化しました。呪文は思いつかなかったので完全に省略。

効果は「アルトリアと共に戦える」ただそれだけ。アーチャーの回復は士郎の中の鞘と本人の再生能力のものです。まさに「遥か遠き勝利」をたった一本の剣製で目指す、理想の様に潔白な正義の味方のような固有結界です。つまり言っちゃあなんだけど綺麗な士郎。

アルトリア・オルタの敗因は自分たちがただの道具であると認識して諦めてしまっていたこと。衛宮切嗣に執心していて、士郎とアーチャーの関係を勝手に曲解して士郎の地雷を踏んでしまったこと。そしてなにより、輝いている自分とマスターが共に戦う姿を目にしてしまったから。ほぼ魔力無限だから火力ではほとんどの英霊は勝てない強敵でしたが、精神的に脆かった。何せZero終了直後から荒み続けたアルトリアですから。

次回はクロナのその後とイリヤ達side。あ、ちなみに拙作「東方ウィザード」最新話にて今作からクロナがゲスト出演しているコラボ回をお送りしているのでよければそちらもぜひ。そもそもこっちのクロナは生きているのか否や。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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