風速5センチメートル (三浦)
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良守

マンガワン、読んでますか?ちなみにタイトルに意味は無いです。


001

 

 

 

俺、墨村良守。14歳。

結界師とかいう胡散臭い家業の胡散臭い正統継承者に選ばれてしまい、胡散臭さを煮詰めたような存在になってしまった哀れな男だ。

 

そんな俺には、誰にも言ってない秘密がある。

昔、結界師の仕事中に俺のせいで幼馴染みの時音が怪我をした経験があり、そのショックによってかは分からないが翌日目を覚ました時俺の中には一つの記憶が生まれていたのだ。

 

つまり、俺には前世の記憶があるのだ。まあ、とは言ってもその記憶からは自分や他人の名前なんかは失われていたし、なにより現在に至ってはその記憶自体風化しつつあるんだが。

 

この二度目の人生と俺の奇怪な生まれ、どうにもたまたまとは思えないがしかし、それを考えても現時点では答えなど出せないし気にせず生きることにしている。

 

だから今日も今日とて朝飯を食らい、支度をすませ、ワックスで爆発したがりな髪の毛たちを落ち着かせて学校に行くのだ。普通の生活、万歳である。

 

 

 

002

 

 

 

放課後になった。数行前まで朝だったとか展開早すぎとか知らないし、誰に説明してるのかも分からないがとにかく放課後になった。

 

「ね、墨村くん」

 

キャッキャと姦しい女子グループの一人が話しかけてきたのは、まさに俺が掃除を終えて帰宅しようという時だった。

 

「今、時間ある?」

 

「あるけど...もしかしてそのために待ってたのか?」

 

「あー......うん、まね」

 

「そういうことなら遅くなって悪い、後ろの人達も」

 

「や!それは全然!」

 

用事もあるし俺は悪くない。それでもこういう態度でいるのが前世で培った嫌われないための処世術である。

 

気を使った甲斐があったのか、彼女の後ろにいた女子たちもいいよー、墨村くんいい人〜などと笑いあっている。

 

何がそんなに面白いのか理解不能だが、俺は大蛇の潜む藪をつつく趣味はないので彼女に要件を促した。

 

「えっと......ちょっと、場所変えない?」

 

その言葉と後ろの女子の盛り上がりで、流石にピンとくる。

 

「わかった、屋上でいい?」

 

こういう時に察しの悪い男は嫌われるらしい。昔妻が、いいけど......ここじゃできない話?なんて言ってきた阿呆に心底ムカついた、というのを蛇のように睨みながら教えてくれた。

一体どこの誰なんだろうな、その阿呆。

 

とまあくだらない回想をしてる間に俺の言葉に首肯いた女子がついてくる。

お互い言葉もなく、後ろを盗み見れば人型のりんごが手のひらを握りしめている。

 

あまり考えたくはないが、そのさらに後ろからはあの友達がついてくるのだろう。嫌という訳ではないけれど、自分が告白する立場ならそんな出歯亀趣味とは友達になりたいとは思わない。

まこと女子とは不思議な生き物である。

 

話さなくてもいい雰囲気ならまあいいかと携帯を出しlineをいくつか返す。

 

どうでもいいがこのスマートフォン、持つにあたって爺さんとかなりもめたのだが、珍しく父さんが爺さんを叱って俺の携帯所持を認めてくれたという逸話つきのものだ。ちなみに中等部限定とはいえ普通に校則違反である。先生ごめん。

 

「あっ...」

 

屋上の扉を開けたことによって吹き込んだ風で女子がよろめいた。咄嗟に掴んだ手は、緊張からか少ししめっている。

 

「あ、ありがと」

 

「どういたしまして」

 

屋上の扉を閉めると、彼女は早速喋りだした。

 

「あ、あのさ!」

 

「うん」

 

「あたし、あの......」

 

「うん」

 

その時の.一瞬の沈黙は、ひどく長いように思えた。

 

「......ふぅ、墨村くん!」

 

「なに?」

 

「あたし!墨村くんのことが──────」

 

 

 

003

 

 

 

「ごめん、待った?」

 

「すっごい待った。なんてね、行こっか」

 

「おう」

 

俺の隣を歩くのは雪村時音、お隣さんの幼馴染みだ。言うまでもなくこれはただの下校で、昔からの習慣のようなものである。

 

「用事ってなんだったの?」

 

「先生に呼ばれただけ」

 

「嘘、私その先生にあんたのこと聞きに行ったんだもん」

 

「そっちじゃなくて家庭科の飯田先生な。俺よくお菓子のこと聞くから話すんだよ」

 

「あー、今日のも?」

 

「そ、クーベルチュールにツテがあるからよければそこの人と会ってみないかって」

 

これはホント。家からも近いし、本気でパティシエを目指してるならきっと得るモノがあると力説してくれた飯田先生は本当にいい人だし、説明と違うのは昼休みってとこだけだ。

 

「へー!すごいじゃん!イケメンで有名だよね、あそこ」

 

「そっちで霞みがちだけど、本当にすごいのはあのチョコだよ、俺みたいななんちゃってでも一口で分かった。きっと俺が知らない技術の宝庫なんだと思う」

 

「ふーん、そんなにすごいとこなんだ」

 

「安定した結界で学校囲めるくらいすごい」

 

「それ正守さんでも無理でしょ....」

 

「そんくらいってこと」

 

楽しいかどうかはさておき、話しながらの下校なんてものはすぐ終わる。

気を使う必要のない相手だと尚更そうらしい。

 

「じゃ、またね」

 

「ん、じゃあな」

 

そうして門を通り、斑尾の石を一撫でしてから玄関をくぐる。

 

「ただいまー」

 

これが俺の日常。恋に恋する同級生と同じく青春を駆け抜ける14歳の世界は、結界師なんて仕事よりもずっと陳腐でへなちょこなもので、

 

「時音、めっちゃかわいかったなぁ......」

 

男ってのはいつだって単純なのである。

 

 

 

 

 

 




う、うわあ〜、この人のやつ続かなそ〜。
サクサクを目指して文字数減らしてるけどもう少し増やした方がいいのかな....


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時音

ぼくのかんがえたよしもりはつよくてモテモテでかっこいいんだ!


001

 

 

 

私の幼馴染みは、謎だ。

昔はやんちゃで泣き虫なまっすぐバカだったのに、いつの間にやら妙に達観したクール系になっていた。

 

前におばあちゃんとその話をしたら「ふん、墨村は気に入らないけど、バカなだけじゃ守れない人もいるって気付いたんでしょうよ、墨村は本当に気に入らないですけど」と散々悪態を吐いていた。吐いてはいたのだが、その頃ぐらいから良守にだけは若干優しくなった気がする。

 

「おー、時音」

 

「うわ、相変わらず気だるそうな声」

 

「悪かったな低血圧で」

 

「別に責めてるワケじゃ......ていうかあたしと同じ時間に登校?珍しいじゃん」

 

「あ?あー、たまには早めに出ようかなって。したら前に時音いたからさ」

 

この全身からアンニュイな雰囲気を出しているのが良守だ。ワックスで髪を整え、耳にはピアス穴が開いている姿は生意気だが、中学生にしてはお洒落なのだろう。中等部がピアスってたぶん校則違反だけど。

 

ともかく、ウチの男子の中じゃまあまあ上の方にランキングしているらしい良守だが、みんなが言うような大人なだけの男じゃないのを私は知っている。

 

 

「あれ?あんたちょっと伸びた?」

 

「おう、そのうちゼッタイ時音も超すから」

 

たとえば背に敏感なとことか、

 

「そういや昨日のチョコケーキどうだった?」

 

「ああ、美味しかったわよ。お母さんも喜んでた」

 

たとえばお菓子への情熱のすごさとか、

 

「あっ猫」

 

「ほんとだ、飼いたいな...無理かなあ....爺さんがなあ......」

 

たとえば猫が大好きだとか、とにかく色々だ。

 

「じゃ、また後でね」

 

「ほいよ」

 

といった感じで良守とはなにかと一緒にいるので、あいつのことも少しずつわかってきた。

 

「おっはよー時音!」

 

「あ、おはようまどか」

 

このまどかにしたって良守のことを大人ぽくて色気があるなんて言っているのだ。分かるけど、そうじゃない部分も知ってると思うとなんだか悪くない気分だ。

 

「はー、いいご身分ねぇ時音」

 

「またそれ?だから良守とはそんなんじゃないって」

 

「そんなんじゃなくてもいいの!それでも私だってあんな幼馴染みほしかったよ〜、アホな兄貴なんかよりそっちがよかったよ〜」

 

毎度思うけどお兄さんが聞いたら泣いちゃうんじゃないだろうか。

 

「私はキョーダイ、ちょっと羨ましいけどね」

 

「うーん、ま、お互いないものねだりかぁ」

 

どっちかって言われたら、私は良守を選ぶけども。

 

 

 

002

 

 

 

「それで、よかったら放課後英語科の職員室に来なよ」

 

昼ごはん前の現在、私は三能先生と共に廊下を歩いている。

 

「お気持ちは嬉しいんですけど、放課後は用事があるので......もっと自分のを読み込んでから借りに行こうと思います」

 

「真摯だね、君は。ではその日を心待ちにしているよ」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

笑顔を向けて職員室に入っていく三能先生。あの人はあまり好きじゃないし、なにより怪しい。

 

今はまだ確証がないので様子見しかできないが、このところ頻発している集団失神事件の犯人が彼ではないかと私は推察している。

 

一人で後を追うのも不自然なので以前良守に高等部に来てもらって(私たちが幼馴染みなのは友人には割と知られている)尾行したが、良守曰く「たまに別人みたいに無機質な顔になるのが気になる」らしい。

その意見には私も賛成だ。

 

「時音ー、ご飯食べないの?」

 

っと、ちょっと遅くなりすぎたかな。まどかに呼ばれちゃった。

 

「ごめんごめん!今行く!」

 

ふぅ、やっぱり頭使うと良守のお菓子が恋しくなるなぁ。

 

 

 

003

 

 

 

結果から言って、三能先生は異能者だったが悪い人ではなく、集団失神事件の元凶は三能先生(正確には彼の能力である蛇)に取り憑いた傀儡蟲という妖だったのだ。

 

先生自体はちょっと変だけどいい人(良守は彼のことをやけに遠ざけようとしていた)だったので、もう心配はないだろう。

 

それよりも心配なのは良守の将来だ。

なんでもなにわ屋という店の裏メニューで、滅多に食べられないハズの幻のチョコレートケーキというものを私に一つくれたのだが、その時の会話を聞いてほしい。

 

「美味しそうだけど......いいの?すごいレアなんでしょ?」

 

「俺の分もあるからいいんだよ、日頃の感謝ってことで」

 

「でもそこそこしそうだし......」

 

「それでもいいんだよ。お前のお菓子食ってるときの幸せそうな顔、好きだしな。俺も嬉しくなる」

 

である。どこで覚えたのそんな技!と小一時間問い詰めたい気分になったが、その時は精神的余裕が無かったため「ふ、ふーん......」としか言えなかった。ちなみに味は7層構造による複雑で奥行きのある味わい、その全てをもってチョコレートの味と香りが生かされていて、要約するとめちゃうまなケーキだった。

 

「なぁ」

 

「ん、なに?」

 

言い忘れてたけど今は放課後で下校中だ。って言う相手なんていないけど。

 

「お前今食べ物のこと考えてただろ」

 

......バレてるし。

 

「別に......でもなんで?」

 

「そういう顔してた」

 

「そういう顔ってどういう顔よ」

 

「そういう顔はそういう顔」

 

「......あたしのこと見すぎ、変態」

 

「何年幼馴染みやってると思ってんだよ、変態じゃなくても分かるようになるって。みんなが知らないお前のこととかな」

 

「それって良守が人一倍身長のこと気にしてるみたいな?」

 

「そうだよ、時音が朝ごはん食べれてない時頭ん中で“思い出し食べ”してるみたいな」

 

「なん......!てかそんなのしてないし!もう家着いたし、じゃあね!」

 

「フッ、はいはいまた明日」

 

「フン!」

 

足早に門を通る。ちゃんと怒ってるように見えたかな。

白尾に「ただいま」と声をかけ通り抜け、戸を開ける。

 

「ただいま」

 

これが私の日常。高校生なんて大人っぽく振舞ってもボロが出ちゃう16歳の私は、結界師なんて使命よりもずっとちっぽけで平凡なもので、

 

「良守の笑った顔、かっこよかったなあ......」

 

女というのはいつだって俗なものである。

 

 

 

 

 




うそ、私の文字数、少なすぎ....?
ていうかケーキの品評ネタ、わかってくれる人いるかなあ。


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罪の記憶

てかこいつ、ヘタクソじゃね?(笑)


 

 

001

 

 

 

新しく烏森に派遣された春日 夜未とかいう裏会の人と仲良くなったのだが、爆速で茶に薬を盛られた。なんなんだよあの女、なんなんだよ俺も。

「あいつの前で父さんの話しないでやってください(キリッ)」じゃねえよアホ。絶対心の中で笑われてたじゃん。なんかもう、死ねよ世界。

 

やっぱり俺裏会嫌いだわ、名前からして裏切りフェチか陰湿忍者しかいなそうだし。忍者汚い。

 

「......てかここ、鬼の中だよな」

 

手中が一番安心なのはまあ分かるけど、こんなロープで縛るだけなんてあの女、完全にバカだろ。

 

おまけに揺れや音で近くに時音がいることもわかる。苦戦するだろうな、相性あんま良くないし。

ていうかなにより、こんな女に騙されて好きな人の窮地を黙って見てるなんて、それこそ本物の大バカ野郎に他ならない。

 

「殺すか、結」

 

話は変わるが、結界というのは小さければ小さい程安定して力を込めやすく、強度を高めるのもやりやすい。

つまり、極限まで小さく作った結界を多重に固めて、それを思いっきり上下に伸ばすと、

 

「グガッ!イダイ!」

 

「ッ!ヨキッ!!」

 

まるで焼き鳥のように串刺しにすることができる。

鳥っていうか鬼だけど。

後は小さな結界でロープを破壊し、鬼の背中をぶち抜けば脱出完了である。

 

「ヨ゛ミ゛ッ、イ゛タ゛イ゛!!」

 

「ヨキッ!ヨキィ!ああっ......」

 

「いきなり出てきて容赦なく結界生やしてくヨッシー、バイオレンスだぜぇ......」

 

「無駄だよ。足まで宙に浮かしたそいつじゃ踏ん張りもきかないし、一発目の時にすぐ壊すように命令しなかった時点であんたの負けだ。結界で関節を固定した。もうそいつはまともに動けない」

 

逆に5本も体の要所をぶっ刺されてピンピンしてたら、それはもう俺ではどうしようもない。

 

「ていうか良守、鬼......」

 

「?鬼はあいつだ。夜未さん、悪いが時音を殺そうとした以上そこの鬼は絶対に殺す。これは確定事項だから、恨みたきゃ好きなだけ俺を恨め」

 

「ゴ、オァア、ヨ......ミ......」

 

「いや、いやっ!ヨキ!死んじゃダメッ!私の命令が聞けないのっ!?ねぇ!ヨ」

 

「滅」

 

「グガァァァアアアアアアアア!!!!!」

 

「鬼だ......」

 

「いやあああああああああああああッ!!!!!」

 

「よし」

 

「クール&バイオレンスだぜ、ヨッシー......」

 

 

 

002

 

 

 

その後精神崩壊したヨミさんは「貴方にはもう、逆らいません......」としか言わなくなったのだが、ちょっと頑張って亡骸から小さなヨキを転生させたら、泣いて喜ばれた上に「良守様は神です....ッ」と小ヨキを慈しみながら感謝されてしまった。なんだか大きくマッチポンプと書かれたドリルを、尻にぶち込まれたような気分になってしまった。

 

昨日は結局裏会のハゲ1とハゲ2に引き取られたが、あの穏やかそうな顔を見る限り彼女はもう平気だろう。

だが色々な聴取によって睡眠時間を削られた俺は、とうとう最後の授業で少し寝てしまった、無念だ。

 

ついでに放課後まで寝ていたのでlineに反応できず、とうとう時音の説教電話に起こされてしまった。ちょっと嬉しい。

 

「ねえ、良守」

 

「なに」

 

「あたし、知らなかった」

 

「......なにがさ」

 

「多重結界も、引き伸ばして刺すのも、昨日のあんたの全部、なんにも知らなかった」

 

「......」

 

「あんたが強いのは知ってる。言うなって言われてるけど、良守の実力とか才能はおばあちゃんも認めてるくらいだから」

 

「お、おう」

 

「でもあたし、嫌なの。あんたに守られるだけの女に、なりたくない!だから、えと、その、あたし....」

 

顔が赤いな......まさかっ!!告白か!?二人で支え合って生きていこうってことなのか!?そうなのか!!?おい!どうなんだ解読班!!(錯乱)

 

「だから......」

 

いいよ、時音いつでも来い。俺だってお前が大好きなんだからな......。

 

「だから!あたしの修行に付き合って!」

 

「ああ、俺もお前と......え?」

 

「いや、だから......修行に付き合ってって言ってるの!何度も言わせないでよもう!」

 

............修行?修行ってなんだっけ?.....シュギョウ。しゅぎょう。SYUGYOU。...................ああ....なるほどね.......修行ね.........だよね..............なにがいつでも来いだよ................俺さむ..................百回死んで栗に生まれ変わりたい.......................。

 

「あ、ああ。よろこんで.........」

 

「ほんと!?よかった〜。ありがと良守!」

 

「おお......」

 

今頃ロマンチックなキスしてるはずじゃなかったのかよ......。嫌じゃないけど、いやむしろ嬉しいけど、現実は左手を両手で握りこまれただけだ。

 

「じゃ、じゃあまた明日!」

 

「あ、うん、じゃあな」

 

......はー、なんか、疲れたな。

 

「ただいま」

 

「おかえりーってどしたの良兄ぃ、好きな人からの告白だと思ったら全くかすってもいない用事でガッカリしたけど、これはこれでまあいいかって思った男子中学生みたいな顔になってるよ?」

 

「エスパーかお前は。いやまあ全然違うけど。全然違うけどちょっと寝るから、しばらく誰も俺の部屋いれんなよ」

 

「?わかったー」

 

利守の驚異的洞察をくぐり抜けた俺は歩調を早めた。

部屋に戻った俺は即刻左手で2回シコって寝た。夢に時音が出てきたと思ったら夜未さんに変化して襲われて起きた。

なんだか胸が苦しい。

 

「これが、罪の記憶ってやつか......」

 

なんか違うような気もするけど、まあいいや。もっかいシコって寝......!?

 

「誰かいる?」

 

「......あ、よ、良守?」

 

「なんだ父さんか、どうした?」

 

「あ、いや、もうちょっとしたらご飯できるからねって言おうと思って」

 

っぶねーーー!シコる前に気付いて本当によかった...。

 

「ん、そっかありがと」

 

「う、うん......じゃ、後でね!」

 

?父さん急いでる?って夕飯前だしそりゃそっか。

 

「良守......母さんみたいになんでも一人で溜め込まないでくれ......」

 

結局、オナネタに思いを馳せていた俺には父さんの呟きは届かなかった。

 

 

 




結界は小さければ小さい程云々は独自設定かもしれません。読みこみが足りず曖昧で申し訳ないです。ぼくのかんがえたよしもりの成長の犠牲にしてごめん、ヨキ.....。


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神田 百合奈

良守の見た目が時音の好みじゃないのは知ってるけど、好きになる人と見た目の好みってイコールじゃなかったりするじゃん(中二感)


001

 

 

 

うちの学校は変だ。

今咲いてるこの桜だって、みんな恒例みたいに騒いでるけど、おかしいに決まってる。

 

烏森七不思議の一つ、『狂い桜』。冬も近くなってきたこの時期に、満開の桜が咲くのだ。冷静に考えたらおかしすぎる。

 

......そうだ、おかしいことといえばもう一つある。クラスメイトの一人、墨村くんだ。もっとも、これを言うとアヤノもキョーコちゃんも笑うから誰にも言わないけど。

 

墨村 良守くん。同じクラスで、顔がすごいかっこいいわけじゃないけどオシャレさんで、クールで、でも話しやすく、分け隔てなく接してくれるというすごくいい人だ。

 

私みたいな地味な子にも優しいし、中等部でも割と人気だというのはまあ頷ける。でも、何かおかしいのだ。

 

幽霊っぽい人はやけに彼の周りに集まるし、明らかに意思疎通が取れてる気がする(勿論、誰かいる前で喋り出したりなんてことはしないけど)。

 

「墨村、墨村」

 

「なんだよ」

 

「神田さん、お前のことスゲー見てるぞ」

 

「あー....最近ちょくちょくあるんだよ。用あんなら言ってくれりゃいんだけどな」

 

「シンプルにウザ。鈍感かよお前」

 

「いや、そういうモテ系ではないだろ。たぶん」

 

!!目、合っちゃった....。

慌ててそらしたけど、見てたのばれちゃったかなぁ...。

 

「......フーン、不思議ちゃんだと思ってたけど、アンタも普通にかっこいい人に興味持つんだ?」

 

「へ?きょ、キョーコちゃん?なにが?」

 

「とぼけなさんな!墨村くんの方、すっごい見てたじゃん!」

 

「わ!い、痛いよアヤノ〜。そんなんじゃなくて、墨村くんはなんか気になるな〜ってだけ!」

 

「「そんなんじゃん」」

 

「違うの〜!」

 

二人ともひどい......ってあれ?なんの話だったっけ?

 

「ま、いっか」

 

「よくない!教えなさいよ〜、好きなんでしょ〜?ほれほれ!」

 

「うひゃあ!ごめんなさい〜」

 

(結局なんで俺の方見てたんだ......?)

 

 

 

002

 

 

 

結局墨村くんのことを思い出した時には既に昼休みで、しかもその本人から夜桜を見ようなんてするなと怒られてしまった。

 

「墨村、やんわりだったけど結構真剣っぽかったね」

 

「うん......夜の学校になんかあるのかな?」

 

「夜の学校ねぇ...はっ!」

 

「どしたのアヤノ」

 

「もしかしてさ、あの高等部の綺麗な幼馴染みさんとこっそり......」

 

「なっ!」

 

「なるほど」

 

「いやいや二人とも!墨村くんに限ってそんなことしないよ!」

 

「ユリはあいつに幻想持ちすぎだよ。あいつだって中学生男子なんだから、そういう欲求があっても変じゃないでしょ」

 

そういう欲求!キョーコちゃんストレートすぎだよ......。しかも後ろに墨村くんいるし!

 

「......なあキョーコ、別にいいけど、そういう話は本人がいないとこでするもんじゃないの?」

 

「アンタ、いてもいなくても変わんないじゃん」

 

「うわひっで」

 

「だって、アンタも私がいる前で私に蹴られた話してた」

 

「......確かに。でもそれでまた蹴られたんだし、それはもうノーカンじゃないの?」

 

「「.......」」

 

「逆にアタシが泣いたらこんなんじゃ済まないってことに気付いた方がいいよ」

 

「出たよ、とか言ってホントに泣いたら隠すじゃん。前行ったお化け屋敷だって......おい蹴るなよ」

 

「うるさいアンタが悪い」

 

「「.......」」

 

「あー......すまん。っと俺帰るわ。何故かいつの間に放課後だし、アヤノちゃんと神田さんもじゃ」

 

「?はいよ、また明日ね」

 

「......ねえキョーコ」

 

「......良守くんと、仲いいんだね」

 

「え?あー、えーっと......あはは」

 

そのあと小一時間くらい、アヤノと一緒に根掘り葉掘り聞き出していたがキョーコちゃん曰く、血に飢えた獣2匹と下校するのは命の危険を感じたらしい。

その時もキョーコちゃんがむっつりさんなのが悪いという話になったが、一つ言えるのは、既に全員夜桜なんて欠片も頭になかったということだ。

 

 

 

003

 

 

 

「分かってると思うけど、時音はテクニックタイプだ。そんでもって標的となる妖たちは俺らが結界師ってことをちゃんとわかってる」

 

「うん」

 

「でもそれは逆に、“結界師は結界で囲んでくる”って前提でやつらは仕掛けてくるってことだ」

 

「うん」

 

「 だからこそ時音、お前は敵を“結界で囲おうとするな”」

 

「う、ん?......あ、こないだの?」

 

「そ、俺がヨキを倒した時みたく薄く引き伸ばすんだ。まあ相手に破られないようにする工夫も必要だけど、とにかく普通の結界を作るとしても、確実に仕留められる時以外は相手を囲む気でやるな。そういうのは力の総量的に俺の方が向いてる」

 

「じゃあ、私は攪乱中心?」

 

「それもしてほしいけど、こないだヨキにやったようなぶち抜くのを時音がやってくれればその間に俺は別のことができる。あの時で言ったら念糸で夜未さんを拘束とかな。一人でいっぺんにってのは正直まだキツイ」

 

「そしたら、多重と伸縮を練習した方がいい?」

 

「いや、多重だと速攻で使えるけど燃費が悪い。余裕があるなら狙うぐらいにして、時音はまず、結界を出してから伸ばすまでの反応速度、それと伸ばす時の初速を徹底的に練習するのがいいと思う。それがいい感じになってきたら同時に出す結界の数を増やすとかな」

 

「反応速度と、初速と、数....と」

 

時音は真面目だ。自分のためになると思ったら俺みたいな年下にも喜んで教えを請うし、こうやって要点をメモしたりもするし、頭も柔らかい。

 

「それに、念糸を使った戦闘と式の使い方も並行してやっていきたい」

 

「念糸は分かるけど....式はなんで?」

 

「あー、式ってさ、応用が利きやすいんだよ」

 

「?」

 

ただ努力の人だから、教えたことも俺が見てないところで練習しまくってすぐに習得してしまうんだろう。

 

「兄さんって俺より力の総量は少ないけど、一度に出せる式の数は俺より多いんだ。それ初めて見た時にゴネて配分のコツとか式増やすやり方とか教えてもらってさ」

 

「うん」

 

別にそれ自体は俺も助かるしどんどん覚えてくれて構わない。ただ.....

 

「で、一通り教えてもらってから他の修行してて気付いたんだけど、前より力の注ぎがスムーズになってたんだよ。たぶん、少しの調整で容姿が変わる式を相手にしてると、力の流し込み方について理解が深まるんだと思う」

 

「はー、なるほどね」

 

「元々繊細な技は時音の得意分野だし、このへんは覚えるのも難しくないと思う」

 

「わかった。じゃあまず式からやりたい」

 

「よし、一回家に荷物置くからちょっと待ってろ」

 

「はいはい、じゃ、後でね」

 

俺に教えられることがなくなった時が2人での修行の終わりだと思うと、憂鬱な気分にならずにはいられない。

 

「もっと強くなりたいなぁ....」

 

14歳、秋。前世所帯持ちだった俺でもこれなんだから、男というのは一生女の尻を追いかける生き物なのかもしれない。

 

 




ほんとは中学生と高校生でこんな下校時間かぶったりしませんよ、たぶん。
しかも題名に反して後半は結局良守時音という。


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鋼夜

主人公たちには基本的に下校してもらいます。あと、今回の話で良守もまだまだ子供だってことを表現できたらなあと思います。


001

 

 

 

いつものように妖退治に繰り出したのだが、かなり困ったことになった。反応にあったと思われる妖を見つけたはいいのだが、寝ながら滅せそうなくらい弱いのだ。もう、なんかもう、かわいそうになるくらい。

 

「だからよ、お前もう帰ってくんない?俺弱い者いじめとか好きじゃないし、もうすぐ俺の相棒が来るけどそいつ命乞いとか絶対聞かないタイプだから」

 

「な、何を!この骨太郎、魔界のプリンスとして結界師なんかに屈するワケ「結」ああっ!ウホ助!長尾!」

 

「ウホ......」

 

「アホンダラーッ!アホンダラーッ!!」

 

「ほらもう、お前ら弱いし。10秒で全員捕まるって俺もびっくりしてんだからさ」

 

「うう......」

 

「でも、いいのかいアンタ?妖逃がしたなんてバレたらジジイがうるさいよ」

 

「事後ならどうしようもないでしょ。てかそれでまた来たら滅するだけだしな」

 

「な、ななな!大体俺たちを消したらボスが黙ってないぞっ!ぷげっ!!」

 

「ウホッ!?」

 

「アホンダラッ!」

 

イラッときて思わず気絶させてしまったが、ボス?......!!

 

「斑尾ッ!」

 

「わかってる!こんだけ強烈な匂い出してくるなんて...こりゃ鋼夜かねぇ」

 

「それってお前の元相棒だよな。500年ものとかどう考えても俺じゃ倒せんけど......お、時音」

 

「良守!こいつ......」

 

「おう、まともにやったら死ぬな。てわけでジジイたちも呼んどいた。厳しいかもしれないけど、式が頑張ってくれれば俺らも生き残れるかもしれん」

 

「ていうか、時間稼ぎにしてもどうする気だよヨッシー?」

 

「初撃見て考えるしかないだろ、タイプによるしな」

 

初撃がかわせればだけど。

 

「だから、時音は影で狙ってくれ」

 

「..............わかったわ。私じゃ、アレはまだ無理」

 

「嫌かよ」

 

「嫌よ」

 

素直か。

 

「良守」

 

「どした斑尾、あんな化け物相手に殺すなとかは無しだぞ。ていうか無理」

 

「そんなんじゃないよ、ただ、アイツの相手はアタシにやらせておくれって話」

 

マジかこいつ。あんなヤバイやつとやる気かよ。

 

「いけんの?」

 

「誰に言ってんだい、アイツのケリはアタシがつけるのが筋ってもんさ」

 

「開祖に見逃すよう頼んだの、お前だしな」

 

「かわいくないガキだねえ」

 

「そりゃどうも」

 

こういう時自分の弱さが嫌になる。爺さんに守られて、兄さんに守られて、コイツに守られて、それで、時音にまで守られて。

 

「死ぬなよ」

 

「言われなくても」

 

「頼んだ、相棒」

 

「......はいよ」

 

強くなりたいな、もっと。

 

 

 

 

「......おォ、やっぱりお前か、銀露」

 

「久しぶりだねぇ......鋼夜」

 

あっ、やばいこいつ無理だ。なまじ実力が測れる分間近にくると邪気がキツい。

 

「ソイツが今の主か?」

 

「そうさ、荒削りだけど悪くないだろう?」

 

「フン、......似てるな、忌々しい」

 

でたよ超常存在あるある、急にワケわからんこと話し出す。

 

「アンタもわかるかい?この子は伸びるよ」

 

「強ぇ奴は嫌いじゃねえ、それが人間じゃなきゃな。どけ銀露」

 

「どいたら殺すじゃないか、そりゃ困るからね。良守、封印解いておくれ」

 

「了解、後始末は俺に任せて思いっきりやれ」

 

「......本気か?銀露」

 

うおっ、ムクムクでかくなってくな.....なんかキモい。

 

「本気も何も、アンタが殺してアタシが守る。それだけさ」

 

「バカ野郎が......そういうのはよ、俺に一度でも勝ってからほざきやがれェ!!」

 

「だから今勝ってやるってんだよ......鋼夜ァ!!!」

 

軋むような緊張にまばたきをした瞬間、二匹は激突していた。

 

 

 

002

 

 

 

俺はこいつを、500年の妄執を甘く見ていた。妖力の密度、二匹の戦闘速度、その両面において全く手が出せないことにショックを受ける程度には。

 

「オオオ!!」

 

「銀露ォ!!」

 

テクニックも何もあったもんじゃない殴り合いだが、今この瞬間、この二匹は俺の手の届かないところで対等に渡り合っている。

 

「甘いんだよッ!」

 

「グォアッ!」

 

斑尾の前脚が捉えたのは鋼夜の顎、動きが止まった一瞬で連撃をもらい吹き飛んだ姿に、決まったと、そう感じた。

だから、気付けなかった。

 

「良守ッ!」

 

俺の胸に向かって真っ直ぐ伸びてくる、漆黒の影に。

 

ズシュッ、という生々しい音と、滴る血。むせ返るようなソレが誰のものか、理解できなかった。

 

「な、んで、」

 

煙が晴れた向こうでは鋼夜が舌打ちをして何か喚いているが、聞こえない。

世界から音がなくなったような錯覚の中、たった一つだけ聞こえる声があった。

 

「良守ィ....無事かい?」

 

「なに、やってんだよ......斑尾ォォ!!」

 

弱々しく笑う斑尾の白い躯、その横っ腹からは黒くおぞましい鋼夜の尾が生えていた。

 

「かっは、ぐ、効くねぇ......ったく。ほら、良守、泣かないでおくれよ」

 

「泣いてないし黙ってろ!今治してやるから、死ぬなよ斑尾!」

 

「おい人間、そんな隙を俺がくれてやるわ、け、!?」

 

尻尾を引き抜いた鋼夜の方も、支えを無くしたかのように倒れたが、今の俺はあまり気にする余裕がない、波打つ感情を、制御できない。

 

「銀露よぉ......何をしたッ!!」

 

鋼夜の耳障りな声がイラつく。やけに優しい斑尾がイラつく。纏わりついた膨大な妖力が邪魔して、治療が上手くいかないのがイラつく。なによりッ、

 

「へへ......アタシの毒を流し込んだのさ......アンタ強いから、やっと効いてきたみたいだねぇ」

 

力が足りない俺自身に、イラつく.......ッ!!

 

「ぐ、おぉお、ぬううう」

 

「鋼夜、いくら頑丈なアンタでも、もう動けやしないよ......どいておくれ、良守」

 

「でもまだ怪我が!」

 

「こんくらい屁でもないさ」

 

嘘だ、反対まで貫通してるのに、立ってるのがやっとなのに!

 

「それよりあいつにトドメ、さしてやんなきゃ。こればっかりは良守でも譲れないよ」

 

理屈は分かる、それが大事なことだってのも。でも、ボロボロで今にも死んでしまいそうな斑尾を見ているのは、つらい。

 

「頼むよ良守。こんなんでお預けされちゃ、死んでも死にきれないんだよ。アイツも、アタシも」

 

なんで、そんな顔するんだよ、クソ。

 

「......................お前は、俺が死なせない」

 

「!へえ、言うじゃないか?......ほんと、そういう顔はあの人に似てるよ」

 

自分が今どんな顔をしてるのか、それは全く分からないけど、

 

「知るか。友達なんだろうが早く行ってこい。傷は絶対俺が治す」

 

「......友達、ね。そうだねぇ、そんじゃ行ってくるよ」

 

斑尾の反応からして、悪くない顔なんだろう。

 

 

 

003

 

 

 

その後駆けつけた爺さんには封印を解いたことをしこたま怒られ、遅くなってすまなかったと抱きしめられた。

時音と時子さんも見てる前なので恥ずかしかったが、なんとなく悪くないと思って受け入れてしまった(今思えば自殺もの)。

 

ともかく最低限の治療をして封印すれば勝手に治っていくそうで、治療には時音と時子さんと爺さんが付き合ってくれたし封印も弱りきっているので比較的楽に済み、これでもう斑尾は平気らしい。

 

それと、あの雑魚桃太郎一味はどうにかじいさんたちにバレないよう逃がしてやることができた。気絶してたので直接見てないとはいえ、ボスの死に思うところがあったのかあっさりと烏森を去ってくれたのでよかった。

 

......結局最期の時に斑尾と鋼夜が何を話していたのか、俺は知らない。

それでも、鋼夜の穏やかな死に顔を見るかぎりきっと......。

まあせめて供養だけでもという思いで体の一部を持って行ったが、兄さんはいつ帰ってくるんだろうか。

 

「よーしもり」

 

「なんだよ」

 

いつもの帰り道、授業は耳に入らなかったのに、時音の声は不思議と聞いていたい。

 

「あんたもまだ、泣いたりするんだね」

 

前言撤回、こいつは嫌な女だ。声も聞きたくないくらい。

 

「それわざわざ言うか」

 

「だってあんたが泣いたの、何年ぶりかなってくらいだし」

 

「はいはい、満足でちゅか?」

 

「うわウザッ!でもまあ、ちょっと安心した」

 

「......なにが?」

 

「あんた、どんどん私の知らない顔になってくからさ、なんか遠くなった気がして」

 

は?かわいいなこいつ。

 

「なにそれ、俺お前から遠ざかったりしてないよ」

 

「あたしはそう見えたの。でも、そうだね、うん。そんなことなかった」

 

「そうかい」

 

「そうよ」

 

ゆらゆらと夕日に照らされた影が二つ、歩いている。

 

「ねえ」

 

「なにさ」

 

「強く、なりたいね」

 

「......そうだな」

 

その距離は、いつもよりほんの少しだけ近くなっていたかもしれない。

 

 

 

 




この良守と斑尾は原作より仲良しです。昔話をする程度には。
とりあえず戦闘描写はウケちゃうくらいできないってことがわかったし、次はどれどけ三人称視点ができないか試してウケたいと思います。
......俺が治すとか俺に任せろとか言うくせに結局他人の手を借りる主人公ってどうなんでしょうね。


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ブラザーコンプレックス

いきなり三人称なのでハチャメチャに批判してやってください。ついでに普段とどっちがいいか教えてもらえたりすると嬉しいです。
......というかそんなものランキングに残しておいていいのか?


001

 

 

 

良守にとって家族とは、ひとくくりで語れるものではない。というのも二つの生という本来有り得ることのない記憶を宿した彼の倫理観には、“自分以外の人間は結局他人”というある種冷酷で、しかしよく考えれば当たり前のものが強く根付いている。

 

例えば繁守は超えるべき壁であり、例えば修史は日常の象徴であり、例えば利守は理知的な弟子であり、そして守美子は、暴君にして放浪の師である。

全員方向性は違えど、良守という存在を形作るのには必要不可欠なファクターと言っていいだろう。

 

「よっ、ただいま」

 

では、目の前のこの男は一体なんだろうか。良守にとって男、墨村正守は、家族の中でも一番密接に関わってきた存在である。

 

「ん、久しぶり」

 

複雑に絡み合ったその関係は最早一言では言い表せず、かといって冗長に語るのも気にくわないというか、気恥ずかしさがある。

 

良守自身、時折感じる正守からの嫉妬の視線をなんとも言えない心境で気付かぬふりをしているが、だからといってこの特異な家庭でなお不仲に過ごすほどに煩わしく思っているわけではない。むしろこんな家だからこそ仲良くしたいとすら思っている。

 

「お前、相変わらずドライだよなぁ......」

 

「むしろ五月蝿い俺とか想像できないでしょ」

 

「言えてる、んでみんなは?」

 

「父さんは買い物行ってるし、利守は遊びに行ったよ」

 

「......お爺さんは?」

 

正守の問いに答える前に、庭の方から死にさらせーーッ!という怒号と、オーッホッホッホという高笑いが響く。

 

「って感じ」

 

「そっか」

 

なるほどね、と苦笑いする正守を見て、その身体から出る“ひりついた空気”を見て良守は思う。

 

(兄さん、また強くなったな......)

 

やはり、自分は正統継承者として不適格なのではないだろうか、そんな負の感情が心の奥底に沈殿し始める。

もっとも、分別がつく良守が、よりにもよって彼自身がそれを口に出すことなどはしないが。

 

「あのさ、疲れてる?」

 

「んー?いや別にだけど......なんで?」

 

「また修行見て欲しいなって」

 

「ああ、いいけどお爺さんに挨拶したらな」

 

「わかった、それまで部屋にいるから」

 

りょーかい、そう言ってカラカラと笑う男の足元の影が、少しだけ揺らめいたように見えた。

 

 

 

002

 

 

 

「まずは久しぶりじゃな、正守」

 

「はい、お爺さんもお元気なようで」

 

「当たり前じゃ!お主が止めんかったら今頃ばばあの血祭りを完成させておったのに!」

 

「お爺さん、それ捕まりますよ」

 

「フン!ばばあめ......それで、夜行はどうじゃ」

 

「俺も含めてまだまだ未熟ですけど、上手くやってますよ」

 

「良いことじゃな。だが、裏会はあまり深く関わりすぎるものではない。アレは“よくないもの”が集まりすぎておる」

 

「......分かっています、距離の取り方は心得ているので」

 

「それならよいが、ふむ......正守」

 

「はい?」

 

「お主、家に戻ってこんか?儂から見てもお主は多才じゃ。わざわざあのような組織に関わらずとも「お爺さん」」

 

「俺は、この家を良守に任せたんです。本当は分かってるんでしょう?あいつの強さ」

 

「......」

 

「昔、探査用結界を教えたんです、俺。結局良守は半日で覚えたんですけど、その時点であいつの囲える範囲は黒姫つきの俺に匹敵するものでしたよ」

 

「じゃが、力の総量だけが術の全てではないじゃろう」

 

「しかし同時に大事な要素でもある。お爺さん、あいつは天才だ。頭の回転も、術に対する理解も、柔軟さも、俺が勝っているのなんて時間と小細工の差ですよ。さて、それじゃあ失礼します。良守が待っているんで」

 

一拍おいて静寂が部屋を占める。既に正守は出ていったが、繁守はしばらく正守が座っていた座布団を見つめ続けていた。

 

「......正守」

 

机の上にある茶は全く減っておらず、既に冷め始めていた。

 

 

 

003

 

 

 

「はー、きっついな......」

 

「風邪引くぞー」

 

上半身裸で倒れ込む男と縁側に腰掛けて笑う男、良守と正守である。

 

「良守」

 

「ハァ、ハァ、ハァ......なにさ」

 

「確かに一見して危険性が無いような奴らに甘いところもあるが、お前は強いよ。だからあまり、」

 

“生き急ぐな”。そう言われた理由が、そうと悟られた理由が、良守には解らなかった。解らなかったから咄嗟に口を開くも、意味のある言葉の羅列を発することができない。

 

「なんでわかった?って顔だな。......んー、まあ理由は色々あるんだけど、一番は俺が......何?」

 

あと少し、一番は俺が......なんなのか。本当にあと少しというところで電話である。良守は思わず、電話をかけた誰かを恨みたくなった。

 

「うん、うん、あー......それはお前達に任せるよ。うん、刃鳥が?......いやまあ、その件は戻ったら詳しく聞くよ。いや逃げたとかじゃなく、うん、じゃあね」

 

電話の向こうから切羽詰った声がここまで聞こえたし明らかに話してる最中だったのによかったのだろうか、良守のそんな視線を受け、正守は居心地悪そうに坊主頭を掻いた。

 

「そういうこと」

 

「なにが?全然わからないけど、とりあえずその鳴りっぱのケータイでたら?」

 

「ああ(ピッ)......いやこれアラームだから」

 

「言いながら電源を切るな」

 

息をするように嘘をつく、こういうところが斑尾たちにも好かれないのではないだろうか。人並みにデリカシーのある良守は、微妙な顔でその言葉を飲み込んだ。

 

「おーい、二人ともご飯だよー」

 

力の抜けるような修史の声が聞こえる。

その言葉を聞いた途端空腹を感じる正直な体に苦笑しながらも良守は立ち上がった。

 

「だってよ、着替えたら?」

 

「俺は着替えるけど、兄さんこそそのカッコで飯食うの?」

 

「うん、俺私服もこういうのしかないし」

 

「......」

 

「あっ、今のはボケじゃないよ」

 

うるせぇよ、良守がそう吐き捨てなかったのは流石にデリカシーなどではなく、ただ単に疲労のせいであった。

 

 

 

 

 




正守と繁守の話みたいに時系列が前後したりとか、普通にします。なぜなら私は大バカなので(気になる人は本当にごめんなさい)(関西人勝手に成仏させてごめんなさい)


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闇はなんでも知っている

烏森封印、時音にも言ってません。
ちなみに走る森(そして正守に烏森封印の決意を伝える良すぎ場面も)はマジで本当にボキャ貧すぎてバックドラフト以外の攻略法が思い浮かばずカットしました。作者が頭悪いと良守くんも頭悪くなってしまうので本当に申し訳ないです。


001

 

 

 

正守出立の朝、墨村家の玄関前はいつになく賑やになっていた。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

元の荷物に加え、弁当やら何やらと重装備になった巨躯の坊主である。キャラ濃すぎである。

そんな面白坊主を前に、良守は一つ溜息を吐いた。

 

(結局、俺が強くなりたがってるのなんでバレたんだろうな)

 

解けなかった問題の答えを知らずに過ごさねばならないというのは些か不快だが、今この場で聞くのはなんとなくがっついているようで嫌だった。

墨村良守14歳、前世など関係無しに思春期真っ只中である。

「良守」

 

そう呼ばれたのは、そわそわもじもじ、大の男が(利守は小学生だが)3人も正守に話しかけたそうにしてるのは見てて少し気持ち悪いなと冷ややかな評価を下している時だった。

 

「ん?なに、別れの挨拶?」

 

「の前に言ってないことがあったなって」

 

「なに?」

 

「昨日の、なんで生き急ぐなって言ったか」

 

「!」

 

最後の最後でチャンスが回ってきた、その思いに内心ガッツポーズをせずにはいられなかった。

 

「まあ、あれだよ。当然というかいたって簡単というかさ、」

 

時間にして一秒程しかない溜めだったが、良守にはそれがなんらかの“迷い”だと、不思議と理解できた。

 

「俺が、兄貴だからだよ。兄貴だから分かるし、お前の夢も、笑わない。じゃ、みんなまた」

 

「ッ!!」

 

「たまには連絡を寄越すんじゃぞ!」

 

「あんまり怪我しないでね!」

 

「また帰ってくるの、待ってるよー」

 

みんながみんな別れを惜しみ最後の言葉を投げかけている中、良守は一人、ショックを受けていた。

夢とは、多分昨夜言った烏森を永遠に封印するってことだと思う。

振り返らずに手だけを振る後ろ姿を見て、何かとても大事なことを言おうとして、でもそれがなんなのか分からずに自室へ逃げ込むことしかできなかった。

 

「......なんだよ」

 

なんだろう、なんでだろう。なんで、

 

「......ッ!!」

 

なんで自分は、泣いているんだろう。

 

 

 

 

 

 

「頭領」

 

「ん?」

 

「此度の帰還、羽休めになられたでしょうか」

 

「あー、うん。良かったよ」

 

あいつ、いい顔になってきたしね。そう笑う正守の手には、真っ黒な妖の毛がふわりと収まっていた。

 

 

 

002

 

 

 

「あの」

 

「......」

 

「妖、じゃないよな?」

 

「......」

 

「あの......?」

 

良守は困っていた。というのも不思議な気配を感じたので授業を式に任せ、その気配の後を追っていたのだが......

 

「......」

 

ぬぼーんとした無口な何かが、デパートの試食売り場よろしく生徒や教員の食べ物を食い漁っていたのだ。

言葉が分からないのだろうか、それとも本当に妖?なんというか、この害意の無い感じが結界で囲むのを躊躇わせる、不思議な存在だった。

さっき探してたし時音も呼ぼうか、下から声が聞こえたのは、そう考えた時であった。

 

「おい、小童!」

 

いかな身のこなしか、良守に気付かれずにぬぼーん(仮称)と良守の間に現れた手のひらサイズのナニカは、確かにそう言った。

 

「ウロ様は結界師をお探しだ!異能の道を知る者ならばわかるだろう、案内せよ!」

 

「ウロ様......?取り敢えず結界師は俺だが......」

 

「それは好都合である!ささ、ウロ様行きましょう!」

 

その言葉に、ズズとぬぼーんが立ち上がる。

 

『おお、結界師......』

 

喋れるんかい!話をこじれさせたくないとはいえ、良守は心の中でそう突っ込まずにはいられなかった。

 

「ていうか、行くってどこへ?」

 

「知るか!まずはウロ様をもてなすのが礼儀であろうが!」

 

「ええ......」

 

その日、良守が教室に戻ることはなかった。

 

 

 

003

 

 

 

『そのウロ様っていうのが今日いた気配なんだ』

「ああ、なんか土地神の一種で、偉い方らしい」

 

『ふーん、それで?今そのウロ様はどうしてるの?』

 

「なんかめちゃくちゃ飯食ってボーッとしてる」

 

『あ、そう......』

 

「何も言うなよ」

 

『わかってるわよ......とりあえず、詳しいことは私もお婆ちゃんに聞くから、時間とってごめん』

 

「いや全然、今日一緒に帰れなかったし俺の方こそって感じ」

 

『しょうがないじゃん。そんなことで怒らないよ私』

 

「そう?まあとにかくウロ様はこっちでなんとかするよ」

 

『わかった、じゃあまたね』

 

「ん、またな」

 

ピッと、無機質な音が響く部屋、荘厳な顔つきの良守は、しきりに首肯きながら思考に耽っている。

 

「夜電話ってのも、結構いいな......うっ」

 

その日土地神がいる家で自慰行為をする罰当たりがいたとかいないとか、真相は闇の中である。

 

 

 

 

 

 

「良守」

 

「ん、なんだ爺さん」

 

「ウロ様の寝床修理はお主がやれ」

 

布団の下で下半身裸の正統継承者が目の前にいるなど露ほども考えていない繁守は、厳かな顔でそう言った。

 

「俺が?別にいいけど、俺なんかにできるようなもんなのか?」

 

「戯け、正統継承者が弱気になるでない。できるのかではなく“やる”んじゃ」

 

「...ふうん」

 

「とはいえ今日はもう遅い、無色沼には明日行くぞ」

 

「わかったよ、明日な」

 

「うむ、今日も雪村なんぞには負けるでないぞ」

 

ピシャリと戸を閉めて出て行く繁守、それを見送って安堵の息を吐いた。

 

「っぶねえ、ちゃんとノックしろよな......」

 

下半身を整えとぼとぼと部屋を出る。賢者タイムになると、無性にお菓子を作りたくなるのだ。

もう評価してくれる、情熱を分け合える“彼”はいないけれど自己を高める行為に終わりというものはない。

故に良守は今日もお菓子を作るし、力を求めるのだ。

 

「......」

 

「......」

 

そんな風に極めて哲学的な思考に耽る良守をして、無視できない先客がキッチンにはいた。

 

「ウロ様?なにしてるんですか」

 

「......」

 

わかってはいたが返答はない。首をかしげつつも諸々の準備をしていくが、その間も明らかにウロ様の視線は此方に向いているのである。

 

(気になる......)

 

「ウロ様、もしかしてお菓子食べたい?」

 

『!うむ...』

 

(食べたかったのか...)

 

「じゃあ、この本から選んでください」

 

無言でパラパラとめくられたうちの1ページ、そこでウロ様の手が止まった。

無言で指さす先、すなわち

 

「ドーナツ、でいいんですか?」

 

『うむ』

 

「よし、沢山作りますよ」

 

心なしか、ウロ様の目が輝いた気がした。

 

 

 

 

 

 

「できましたよウロ様」

 

『む』

 

積み重なるようにバスケットに載せられた色とりどりのドーナツ、それを見たウロ様は何を考えたのか、ぶるりと体を震わせ、猛烈なスピードで食しはじめた。

 

(はっや...ていうかすごい喜んでるな...)

 

「小童、何を笑っておる」

 

怪しいものを見るような顔の豆蔵が現れる、出てきて早々失礼な奴である。

 

「いや嬉しいなって、爺さんもお菓子作りは認めてないし食ってくれる人って限られてくるからさ、こうやって俺のお菓子で喜んでくれる人がいるの見てたらつい。まあ人じゃないけど」

 

「ふむ...よくわからんがこんなものを作って喜ぶとは奇特な人間だな」

 

「アンタらは無色沼に篭ってるから知らないかもだけど、最近はそうでもないよ。ていうかウロ様が嬉しそうに食ってるもんこんなのって言うなよ」

 

『...人間、同じ匂いがする。あの時の、ここにあった、静かな森に訪れた者、我が新たな寝床を与えし者』

 

それは突然だった。なんの脈絡もなく、というより喋り出す予兆すらない急な情報。

一瞬呆気にとられる良守だったが、今ウロ様が語っているのは、自分にとってとても大事な話なのだということは理解できる。

 

「......新たな寝床って、無色沼のことですか?」

 

『うむ...』

 

「じゃあ森って...ん?それ、烏森のことですか!?」

 

『ぐむうぅ......』

 

「小童、そこまでにしろ。ウロ様は御疲れだ」

 

「だが「くどい!!」」

 

ビクリ、と。気圧された。良守よりも遥かに小さい豆蔵に殺されると、明確な己の死を幻視した。

 

「......こうなってはお前の声など届かん、諦めろ小童」

 

「ッ!!く......わかり、ました」

 

“上”だと、ハッキリ思い知らされた。全然、対等に話していい相手などではなかった。......怖かった。

 

「おや、ウロ様これはどうも。...何をしておる良守、妖じゃぞ急がんか!」

 

良守は、そこまで言われて漸く気付いた。確かに妖だ、いつ現れたのか全くわからなかった。時音はもう向かったのか。

 

(何やってんだよ、俺)

 

烏森を封印するとか言っておいて目先の妖にも気付けない自分の愚鈍さが嫌になる。

 

「今向かうよ」

 

その言葉は、己の口から出たと信じられないほど低いものだった。

 

 

 

004

 

 

 

「結、結、結」

 

やはりというか、良守が来た時には既に時音が幾体かの妖を滅した後だった。

 

「滅」

 

怪我こそないものの、それは己が一番守りたかったものを、この手から取りこぼしかけたということに他ならない。

 

「良守、なんか怒ってる?」

 

「いや、でも最近色々あったから...無意識にイラついてたかも、すまん」

 

「まあいいんだけど...それってウロ様?」

 

とは言えこれで時音に怒りをぶつけるのはあまりにも本末転倒すぎる。どんな些細なことでも悲しませたくないのだ、好きな人というものは。

 

「それもあるし、色々」

 

「......そっか」

 

しかし、自らの醜さを隠したいという思いで語られない“色々”が、時音の無力感を大きくしていることを良守は知らない。

 

(私、やっぱり頼りないのかな。やっぱり、“守られるだけの存在”なのかな)

 

「「はぁ......」」

 

((もっと、強くなりたい))

 

時音(良守)を悲しませないくらいに、奇しくも二人が考える結論はまったく同じものだった。

 

「ね」

 

「なに」

 

「明日って言ってたよね、ウロ様の寝床直しに行くの」

 

「そだけど、どうかした?」

 

「これ、まどかにもらったミサンガなんだけどあげる」

 

「え、嬉しいけど......でもいいのか?」

 

「いいの。元々良守の分もってくれたから、ほら」

 

そう言って腕を見せる時音。なるほど確かに、その手首には白と紺のミサンガが巻いてある。

 

「そうなんだ...」

 

心なし嬉しそうに受け取る良守を見て微笑む時音。

 

「お揃いってやつか」

 

「あ...そうだね」

 

「ありがとってその人に言っといてよ」

 

「うん、言っとく。ふふ」

「なにさ」

 

「なんでもないけど、じゃあまたね」

 

「?おう...ってこれ」

 

走り去る時音を見、ミサンガを手首に巻こうとして気付く。

 

「どんだけ持ってたんだよ...」

 

まんま時音んちの匂いになっちゃってんじゃん...。結局、ニヤニヤとそう呟く良守が、“本当にまどかという女子が話したこともない自分の分もミサンガを編んでくれるものだろうか”という疑問を持つことは一度として無かった。

 

「喜んでたなぁ、良守。ふふ」

 

本当の製作者は誰なのか。敢えて語る者がいない本件の真相は、闇の中とさせていただきたい。

 

 

 

 

 

 




少し文字数増やしてみました。地味に伸ばしてく感じで探り探り。
ていうかランキング入ったの予想外すぎるし嬉しすぎるし皆様ありがとうすぎるんですけど、こうなると視点が安定してない本作は本格的にランキングから除外するべきなのかもしれないですね。それかキチンと作り直すか。


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知らない?ソクラテス(キメ顔)

キャメロットムズすぎィ!


 

 

001

 

 

 

「出発の準備はできたか、良守」

 

「いつでも」

 

肌寒さを感じる空の下、組み合わせとしては異質気味な二人は互いを睨み合っていた。

 

「それならよいが、ところでそのちゃらけた格好はなんじゃ!」

 

そう怒鳴る男、繁守の服装は結界師としての格好そのままであり、妖の『あ』の字も知らない一般人が見れば、控えめに言ってもジジイのコスプレである。

かたや良守は白の長いカットソーに灰色のシャツを羽織り、黒のスキニーパンツにキャンバスシューズといった、街中にいるならば自然なものだが、繁守の言うとおり結界師としての礼儀とは外れたものであった。

 

「じいさんこそ真っ昼間からフル装備すんなよ、ご近所さん的にもイタいぞ」

 

「バカタレ!ウロ様に対する最低限の礼儀じゃろうが!むしろそのような格好で行くなど無礼にも程があろう!大体......」

 

(こやつら五月蝿いな...)

 

豆蔵の溜息にも気付かず、二人と一神は歩を進める。

 

 

 

『無色沼』

 

 

 

現存する“神領”の一つであり、烏森という地球規模で見ても最大級の霊地に極めて近い場所である。

 

元々烏森という地はその危険性を鑑みていち早く動いた者たちによって半ば不可侵のような状況が成り立っており、その周辺地域である無色沼にしても、立場が保証されていない異能者の出入りには厳しいものがある。

 

「へえ、ここって裏から来るとこんな感じなんだ」

 

「うむ。また違った趣があってよいものだが、今はそれに浸る時ではないぞ」

 

「分かってる。というかウロ様の寝床は沼の底って言ってたけど、そこまで行く方法は?」

 

「まあそう慌てるでない、見ておれ」

 

言うが早いか、ウロ様が口を開く。その口の数センチ先には良守に理解不能な『なんらかの力の奔流』が形どっていた。

『奔流』が沼に入っていくと同時、それを避けるように沼の中心に穴が開いていく。なるほど、道は作ってくれるというワケか。

 

穴が開いた瞬間に飛び込んで行くウロ様、慣れ親しんでいるとはいえブラックホールの如き空間に躊躇無く入っていく姿は、良守にとって幾分か気味が悪いものに映った。

 

「じゃ、行ってくるわ」

 

「お主本当に躊躇とかせんな...」

 

鈍感な爺さんである。しかし同時に気付く。なるほど、数瞬前の自分はこんな顔でウロ様を見てたんだな、と。

 

 

 

 

 

 

(ああなるほど。爺さんが出発前に言ってたのは『これ』か)

 

甦るは今朝、朝食時の記憶。その時から繁守はしきりに、神の領域では気を強く持て。でなければ持っていかれるぞ、と語っていた。

その時はイマイチ分かっていなかったが、『持っていかれる』という感覚を今漸く良守は理解した。

 

自分がこぼれ落ちていく恐怖、自分という存在への理解度が薄まっていき、最終的に自我そのものが消えてしまうような不安感、その全てを、“明確に感じ取った上で”良守は笑う。

 

(よかった、本当に)

 

数多くの並行世界において最も多数存在する型の“墨村良守”、それと異なる部分で彼の特筆すべき点の一つに、自分へのダメージに対する異常なまでの耐性というモノがある。

 

(ここに来たのが、こんな思いをしたのが時音じゃなくて、本当によかった)

 

元来彼の精神は鬱屈し捻じ曲がったものであり、その卑屈さは社会生活において異常をきたすレベルだったのだ。

妻という自己を肯定してくれる存在によって、また、その後の十数年という穏やかな生活によって矯正されたとはいえ、根底にこびりついたものはそう拭いきれはしない。

 

痛いものは痛いし、陰口には傷付く。しかし矯正以前の名残によって他者が想像し得ないほどに自己価値が低い彼は諦めがつく。ついてしまう。自分という存在に対して一度たりとも期待したことのない彼にとって、自己というのは一番いらない玩具なのだ。

壊れちゃったけど、でもまあこれならいいか。そう安心してしまうのがこの世界における墨村 良守という男なのである。

 

つまるところ、彼にとってあらゆる危機は“自分単体に向いた時点で危機ではない”という安心を覚えるだけのものとなっているのだ。

 

「着いた、のか?」

 

「うむ、では早速励んでもらうぞ。ついてこい小童」

 

「はい」

 

『...懐かしいのう』

 

「なにか言いましたか、ウロ様」

 

『......』

 

無視かい...ブツブツと呟く良守の視線は珍しい場所だからかあちらこちらに向いており、彼が豆蔵の険しい視線に気付くことはなかった。

 

(はて、神の住まう地で意識を保ち、かつ二足で降り立った者は幾人いたか。それもまるでこたえてないような顔つきで......。人間にしては凄まじい胆力、やはりウロ様の言うように感じさせるな、あの男を...)

 

なんと言ったか、というより名前など名乗っていなかったか?

基本的に興味を持つなどということがない豆蔵がその男に割いたリソースは極めて少なく、結局彼の名が頭に浮かぶことはなかった。

 

 

 

 

 

 

『間 時守』という、男の名前は。

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ、あそこだ」

 

豆蔵が指す先には、木の枝がいくつも重なった枝製のまりも的居住物体がその存在を主張していた。

 

「なるほど、じゃあ行ってきます」

 

「うむ、大事な任だ、しっかりやるがいい」

 

そんな微妙に嬉しくない激励を受け取りつつまりもへ近付いて行く良守。

 

(ふうん、どんなもんかと思ってたけど、兄さんのみたいな“害を与えることが前提”って感じの雰囲気がしないな。むしろ安らぐというか......む、なんか宇宙空間みたいで面白いかも)

 

少し遊び気分になったところで本題を思い出し結界の中核である呪具を探すと、ソレは分かりやすく結界の上部でふわふわと良守を誘っていた。

 

(箱か。見たところ中身もないし、そのものを修復するタイプだな)

 

修復術は...問題ない。この分ならばもう幾ばくもかからないだろう。

 

(......ん?この感じ、多少形が変化するかもしれないけど力の注ぎ具合によっては一発で終わらせられるんじゃ......いや後が怖いか)

 

どうせ大した時間の差でもないしな、と頷く良守。その考えの通り、そこから数分程度で修復は完了した。

 

「終わりましたよ、ウロ様」

 

その言葉に反応したウロ様が嬉しそうに寝床に近寄ってくる。ゆるキャラを見てるような緩い雰囲気に思わず笑いを零した良守は、完全に失念していた。“ここがどこで、目の前の存在がなんなのか”。

 

「─────ぐっ!?」

 

瞬間、不可視の剛腕が心臓を、心核を握る。一拍おいて、それが結界内の異物である自分にのみ感じられるものだと悟る。

 

「ふ、う、おお、なるほど...この結界、ウロ様が入って来て初めて“完成”するんだな...くっ...」

 

「ん?今更か小童、というか早う出て行け。ウロ様も早く入口を閉じて眠りにつきたがっておるし、第一長居すればかき消えるぞ、貴様」(乱れこそあるものの『神域の基準点』にも耐えうる人間、か...)

 

「そうさせていただきます......やはりというか、俺には不相応な地だったようで」

 

『むぅ......結界師、感謝するぞ』

 

「いえ、当然の責務ですので。では」

 

一礼をして歩き出す良守を眺めるウロ様、その細められた眼は、いったい如何な理由か。知るのは本“神”のみである。

 

 

 

002

 

 

 

「む、無事なようじゃの」

 

「当たり前だろ、こんなので躓いていられるか」

 

まあ、疲れはしたけど。そう語り沼から出た後の言葉を、良守は心の内だけで続けていた。

 

だって俺は、正統継承者なのだから。いろんな人の思いを踏みつぶして、ここまできたのだから。兄さんなら難無くこなした筈、なのだから。

 

「良守......」

 

「ん、なに?」

 

繁守は、見てしまった。重圧、憧憬、自己否定、それらが綯交ぜになった己が孫の眼を。

気圧されて本来言いたかったナニカを消失した彼は、意識を逸らすかのように前を向く。

 

「...いや、ウロ様の寝床など本来100年は壊れないハズだのに、今回のこの異様な短さが気になってな」

 

「ふぅん...ま、俺はウロ様についてろくに知らないからなんとも言えないけど、妖も最近活発になってきてる。力を求めて集まってるっていうより、烏森に吸い寄せられてるみたいな感じだしな」

 

「ふうむ、一度儂も出向こうかの」

 

「それは構わないけど、とりあえず結界のこともっと教えてくれ」

 

「む?今だって修行を見てやっておろう」

 

「いや、今日ウロ様の結界を見て、触れて思ったんだ。俺の知らない結界がまだ沢山あるって。まあ、無知の知みたいなもんだ」

 

「なんじゃそれは?」

 

「知らない?ソクラテス。割と有名だと思うけど」

 

「よくわからんが外国は知らん!」

 

「あそ。まあ爺さんの好悪に対してとやかく言う気は無いけど、大した経験も無しにそこまで嫌いになれるってすごいな」

 

「...お主妙な外国の本を読み出したり菓子作りに没頭したり、年々墨村とは思えんほどイヤミで捻くれた奴になってきたのう...」

 

「ほっとけ。てか、教えてくれるんだよな?もっと『深い』結界のこと」

 

「......ふむ、お主ももう中学生だしのう...うむ!良守!帰るぞ!そして修行じゃ!」

 

「急だな。ま、いいけど」

 

(爺さん、考え事してるな。...兄さんだったら頼ってもらえたのか?)

 

「む、何か言ったか?」

 

「いやなにも」

 

化け狸め、そう口に出そうとした彼だったが、今度こそ気付かれるかもという予感に従いその一言が放たれることはなかった。

 

「ああそうじゃ」

 

ふいに、少し先を歩く繁守が振り返る。その視線の先、特に何を言うわけでもなく怪訝な顔をした良守に向かって、

 

「ようやったな、良守」

 

「......ああ」

 

当たり前だろ、そう小さく呟かれる言葉に乗った感情は如何なものだったのか。いつの間にか二人は並んで歩いていた。

 

見た目も、性格も、環境だって変わっていくこの世界で、いつの間にか自分の横に立つ孫を見やる繁守の心は柄にも無くセンチになっていたが、いつか自分の前を往くであろう良守の後ろ姿を幻視するに、

 

『じいさん、置いてくぞ』

 

それも悪くないものであると、思ってしまっていた。

 

「おいじいさん、マジで置いてくぞ」

 

「待ていこの祖父不孝者め!」

 

いつかとは、案外近いものらしいが。

 

 

 

 

 

 




6章、完全にガウェインはレオに呼ばれたからこそあんな綺麗な形になれたという関係の尊さ、巡り合わせの奇跡を再確認させてくれてやっぱり泣けてくる。
そしてまだ絆上げてないから分からないけど、頼むから静謐ちゃんはマスターにデレないでくれ。蒼銀の彼や彼女とのことを考えると静謐ちゃんがただの尻軽触ってガールになってたら暴れだしそうです。
(前書きも後書きも結界師とは本当に全く1ミリも関係ないというお茶目なボケ)


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