アカメが斬る!〜雷を継ぐ者〜 (Key9029☆)
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1話

 

 僕には、姉がいた。

 

 

 

 

 

 とても優しくて面倒見が良く、人一倍正義感が強かった。

 

 僕にはそんな姉さんが眩しかったけど、同時に大好きでもあった。

 

 そんな僕を姉さんもいっぱい愛してくれていた。

 

 

 家は代々帝国の将軍を輩出する名家であり、父さんもその例に漏れず若いうちから将軍となって今では僕と数歳しか歳が変わらない新しい将軍と共に現帝国最強と言われるほどだった。

 

 

 とても厳格で厳しい人だったけど、それほどまでに強い父さんも姉同様僕の尊敬の対象だった。

 

 母さんは僕が産まれて直ぐに死んでしまったけれど、それでもいっぱいの愛情を注いでくれたらしい。

 

 

 姉さんと父さんと3人暮らしだったけど、父さんは将軍ということでほとんど家に帰ってこず、ほとんど姉さんと2人で生活していたと言ってもよかっただろう。

 

 でも、姉さんはよく笑う人だったから何も寂しくはなかった。

 

 

 名家の息子ということで特に不自由もなく、たまにパーティーに出席するだけで、あとは専属の家庭教師に勉強を教えてもらうのと、将来将軍になるために剣の稽古に励む変わり映えのない毎日だった。

 

 でも、姉さんとたまに帰ってくる父さんとの変わらない日常が、僕は他の何よりも大好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、全てが変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね……リン。私……失敗しちゃった………」

 

 

 姉さんが、目の前で殺された。

 

 

 僕がまだ12歳の時だった。

 

 

 なんでも、陛下の今の政治体制を知った姉さんが持ち前の正義感を発揮して異を唱えたらしい。

 

 だから、殺された。

 

 

 

 

 

 それだけの理由で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それも、父さんの手で。

 

 

「ヌフフ、さすがでこざいますねぇ、ブドー将軍。実の娘を殺すのにも躊躇いがないとは」

 

 

 どうして……?

 

 どうしてなの父さん!あの日々は……、楽しかった日々の父さんの笑顔は、全部偽物だったの!?

 

 

 言葉にしようにも、うまく声がでない。

 

 

 それほどまでに、僕にとってこの事態は受け入れがたいものだった。

 

 

「いやぁーしかし、この私も貴方の実の娘を、それも貴方の手で殺めさせるのはさすがに気が引けましたよ?」

 

 

「黙れ大臣。確かに娘は愛していたが、裏で革命軍と繋がっていたとなれば話は別。私の守護する宮殿に仇をなそうとするならば実の娘だろうと容赦はせん。だがな、この私に娘を手にかけさせた貴様は反乱軍を殲滅した後、しかるべき裁きを受けると思え」

 

 

「おっとそれは怖い。私も用心せねばなりませんねぇ。ヌフフフフフ……」

 

 

 僕は、動けないでいた。

 

 

 目の前にある姉さんの死体は、まるで雷でも直撃したかのように黒く焦げており、血の一滴すらも蒸発していた。

 

 ッ!?

 突然胸のうちからせりあがってくる吐瀉物をそのまま我慢することもできずに床に吐き出す。

 

「あぁー、さすがに12歳の少年にはまだ刺激が強すぎましたかねぇ?」

 

 どこから取り出したのか、特大の肉にかぶりつきながら大臣が悲しそうな面持ちで僕を見る。

 

 でも、僕にはもうその顔が全くの嘘であることが分かっていた。

 

 なぜなら、顔では悲しそうな表情をしていても、その口の端はつり上がっているのが見えたからだ。

 

「リン、お前はもう部屋に戻れ。私はまだやる事がある」

 

 僕は父さんの言葉に力なくコクッと頷くと、そのままフラフラと自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉さん……。

 

 

 部屋に戻っても、考えるのは姉さんとの思い出ばかりだった。

 

 勉強に飽きた姉さんが僕をこっそりと連れ出し、宮殿内を一緒に探検したこと。

 

 剣の稽古が終わり、疲れ果てて立てなくなった僕の体力が回復するまで、ずっと横で見守ってくれていたこと。

 

 僕のために料理を作ると言って、指を傷だらけにして使用人さんに怒られたこと。

 

 …………ずっと、眩しいくらいの笑顔で、今日まで僕の隣にいてくれたこと。

 

 さっきは事態が飲み込めずにずっと放心状態だったため、やっと涙がでてきた。

 

 今まで溜め込んできた感情の高ぶりがこうして涙となってでてきたことで、それはとどまることを知らないほどにこぼれ落ちた。

 

 姉さんが殺されたのは昼だったというのに、僕は夜になってもまだ泣き続けていた。

 

 

 

 姉さん………

 

 少し、風にあたって気分を落ち着けようと、部屋の窓に顔を向ける。

 

 そこでふと、姉さんと一緒に使っていた小さな丸テーブルの上に普段はない、紙切れが2枚ほど置かれているのに気づいた。

 

 それがなんなのかという疑問に幾つかの選択肢を当てはめると、僕は弾かれるようにその紙切れを手に取り、一気に目を通す。

 

 

 

 

 

 内容はこうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンへ

 

 リンがこの置き手紙を読んでるということは、もう私はこの世界からいなくなってしまったのだと思います。

 

 まだ12歳の貴方に、こんな途方もない苦労をかけさせてごめんなさい。

 

 私は姉失格です。

 

 

 それでも私は、今日まで調べてきた帝国の現状を此処に記します。

 

 かつて、千年栄えたこの帝国も今やその華やかさは失われ、権力・財力を持つものの犯罪が横行しています。

 

 中には己の快楽のために地方出身者に狙いを定め、密かに拷問や殺人を行う極悪人まで存在し、その事実は賄賂などにより闇に葬られ、白日の下にさらされることはありません。

 

 その影響からか、街の治安は悪化し、さらに不況も相まって今や街の民の心はすでに折れかけています。

 

 お父さんがなかなか私達を宮殿の外に連れ出してくれなかったのも、それが関係しているのでしょう。

 

 だから私は、そんなことがまかり通るこの帝国が許せなかった。

 

 そこで私は革命軍という半帝国組織と連絡を取り、諸悪の根源とも言える人物の特定に成功しました。

 

 それこそが、まだ幼い皇帝陛下を世継ぎ争いに勝たせたキレ者、オネスト大臣です。

 

 しかし、元凶が分かったからといってすぐにそれをどうにかできるというわけではありません。

 

 宮殿の守りはそれこそ鉄壁の城塞と言い換えても不思議ではないくらいに堅く、それに、お父さんだっています。

 

 そこで、私達革命軍は来たるべき決起に備え、今は仲間を集め、力を蓄えている最中です。

 

 今はまだ数こそ少ないですが、近いうちに帝都の悪人を闇に紛れて葬る暗殺組織ができるとの噂もあります。

 

 そんな仲間たちと共に帝都を復興し、新しい時代を築き上げるのが私の夢でしたが、今はそれももう叶わぬ夢です。

 

 

 そこでリン、私……いや、お姉ちゃんから1つお願いがあるの。

 

 正直、貴方だけはこちら側の世界に引き込みたくなかった……。

 

 貴方には、それこそ帝都の闇を知らないまま、幸せに暮らして欲しかった。

 

 

 でも、リンももう知っているはず。

 

 この帝都は既に腐敗しているって。

 

 

 だから、リン……お願い。

 

 この帝国を、街を、民を救って。

 

 将軍の血が流れてるリンにだったら、きっとこの腐敗した帝国を壊せる。

 

 

 ほんとに……最後までワガママなお姉ちゃんでごめんね。

 

 

 愛してる……リン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで手紙は終わっていた。

 

 

 

 

 

 手紙にはところどころ涙でできたかと思われるシミがあり、それには姉さんの……深い決意を感じさせた。

 

 

 そうか……姉さんはここまで………

 

 

 腕で乱雑に顔をこすり、涙をとめる。

 

 

 姉さんの気持ち……全部伝わったよ。

 だったら僕のだす答えはもう決まっている。

 

 

「……もちろんだよ、姉さん。この腐敗した帝都は、僕が必ず正しい方向に導く。」

 

 

 姉さんの笑顔を思い浮かべながら、そう呟く。

 

 

「そのために、大臣は必ず殺す。どんな手を使ってでも……」

 

 

 昼に見た、人を欺きながらも、悪魔のような嘲笑をその口の端からのぞかせていたオネスト大臣を思い浮かべながら、そう呟く。

 

 

「そして………」

 

 

 もう1つの光景を思い出す。

 

 

 姉さんを殺すことに躊躇うどころか当然だと返した人物。

 

 

 今まで、僕と姉さんをずっと嘘の笑顔で欺き続けていた憎き相手。

 

 

「そして………貴方は、姉さんを殺した貴方だけは……!必ず僕の手で殺してやる!」

 

 

 思い浮かべるのは、厳格で厳しいながらも僕と姉さんを育ててくれた尊敬の対象……

 

 

 ………ではなく、嘘の笑顔で僕と姉さんを欺き続け、姉さんを殺した憎悪の対象。

 

 

 父さんこと、ブドー将軍だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、同じ日の夜。

 

 

 宮殿の宝物庫から1つの帝具を持ち出した少年が、帝都から姿を消した。

 

 

 

 



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2話

 

 

 

帝都を去って早7年。

 

その期間を遠い極東の地で過ごしたリンは、元帝国軍の将軍で帝具使いでもあった師匠に1から剣を教わり、帝具の使い方を指南された。

 

 

それこそ、血の滲むような過酷な修行の日々であり、時には血を吐き、時には気絶したりと、逃げ出したくなるような毎日だったが、その瞬間には必ず姉さんの笑顔が脳裏をよぎり、最後には師匠を超えるだけの剣術を習得し、師匠の使う型にアレンジを加えた全12からなる剣技を手に入れることができた。

 

 

 

 

 

そして現在、帝歴1024年

 

 

 

物語は始まる-------

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ……アンタ、リンって言ったか?本当に帝都でいいのか?」

 

馬車を引く馬の手綱を操りながら、男が今日何度目か数えるのも馬鹿らしくなってきたほど、同じ質問を繰り返す。

 

 

「はい、そこで間違いありませんよ。しかし、本当にすみません…無理を言って馬車に乗せてもらって」

 

男の質問に人の良い笑顔を浮かべながら冷静に返すと、次は自分から男に対して素直に感謝を向けた。

 

 

「馬車を護衛する、なんて不確かな条件をのんでもらって……、それにお金も払わなくていい、なんて言ってくれましたし」

 

 

「あぁ、それに関しては感謝はいらねぇよ。最近ここら辺は物騒だって聞くからな。それに荷物運びが生業の俺にとっちゃむしろ、金も払わないで馬車を護ってくれるなんてのは美味い話さ」

 

男はニヒヒ、と聞こえてきそうなほど悪い笑みでそう返すと、「それに……」と付け加える。

 

 

「それに……お前さん極東の方からここまで来たんだろ?だったら持ち合わせの金ももう底をついてる頃なんじゃねーか?」

 

 

男の意地の悪い発言にリンはギクッと肩を震わせると、懐から皮袋を取り出す。

 

中を覗いてみると、その中にはもう金貨と銀貨合わせて数枚程度のお金しか入っていなかった。

 

 

「……痛いところを突かれましたね。正直お金を払えって言われてたらどうしようかと思ってましたよ……」

 

 

改めて自分の財力の無さを確認したリンは、大きく肩を落とす。

 

 

「ハハハッ!俺も商人の端くれだが、流石に今のお前さんから金を取んのは気がひけるからな。そんなことをすんのはそれこそたちの悪い商人か余程の悪党くらいのもんだ。だからどんなに良い条件を出されてもそいつらの前では絶対に金を出すなよ?」

 

 

「あはは……善処します」

 

 

そんな他愛もない話を馬車に揺られながらすること約1時間。

 

ようやく帝都の外壁が見えてきた。

 

「こっから後数十分もすれば帝都だ。ありがとよ、話し相手になってくれて」

 

「いえ、こちらこそ。なにより馬車を護衛するような危険がなくてよかったです」

 

「ハハッ!違いねぇ!何事も平穏が1番だもんな!」

 

互いに笑い合っていると、ふと、馬車の揺れとは違う何か別の揺れをリンは感じ取った。

 

それが何なのかという疑問に思考を巡らし、最も来てほしくない1つの結論に辿り着くと、リンは瞬時に思考のスイッチを切り替えて乗せてもらっている荷台から立ち上がる。

 

「……おじさん、馬車をとめてください。やはり何事も平穏に、というようにはいかないようです」

 

先ほど談笑をしていた相手とは思えないほど冷たい声色で男に告げると、まだ動いている馬車から何も気にすることなく飛び降り、自身の武器である刀を鞘から引き抜く。

 

 

「おい?いきなりどうしたってんだ……って、おわぁ!?」

 

 

途端、前の地面が盛り上がり、男は必死の形相で馬車を止める。興奮する馬をなだめながら前を見ると、その光景に絶句した。

 

 

「おいおいこいつは……一級危険種の土竜じゃねえか!なんでこんな街道に!?」

 

其処には、体長が20mを超えようかというほどの体躯を持つ巨大な土竜が、威嚇するかのように両腕を開き佇んでいた。

 

土竜はまだ状況の整理が追いついていない男の方を見やると、その口から鋭い牙を覗かせる。

 

どうやら、狙いを男に定めたようだ。

 

 

「ヴォォォォォォォォォッ!!」

 

鋭い咆哮と共に土竜はその鋭い牙を以って男に襲い掛かる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

恐怖から体がいうことを聞かず、近づいてくる牙をただ見ていることしか出来ない男は目を瞑り、数秒後に襲い来る鋭い痛みを覚悟した。

 

「ッ〜!………あれ?」

 

しかし、いつまで経っても来ることのない痛みに訝しみ、恐る恐る目を開けると其処には、先ほどの自分と同じ、何が起こっているのか分かっていないかのような表情で固まっている土竜がいた。

 

 

「グッ!?……オォォォッ」

 

苦しそうな咆哮をあげる土竜に対し疑問を抱くと、土竜の後ろに1つの人影があるのが目に入った。

 

「ふぅ……、危ないところだった」

 

小さく息をつくと、リンは土竜の背中に突き立てていた刀を引き抜く。

 

 

男は間一髪リンが自身を助けてくれたことに安堵すると、何かが土竜とリンの周囲から弾けていることに気がついた。

 

 

「これは……、電気?なんでこんなところに……」

 

 

周囲にイオンの異臭を放ちながら、土竜とリンの周りをパチパチと雷光が弾ける。

 

そして、土竜も自身の体が痺れさせられているということに気づいたのか、その巨体を大きく震わせ、痺れを解こうともがいているが、その体は一向に動く気配がなかった。

 

 

「無駄だよ……その程度じゃ、僕の雷は払えない」

 

リンは静かに刀を鞘に収めると体勢を低くし、柄に手を添える。

 

所詮抜刀術の要領であり、その目にはもはや感情の一切が感じられなかった。

 

 

「フッ!」

 

 

瞬間、放たれたのは容赦のない縦方向への一閃。

 

それだけで土竜の体は自身の重みで左右へ崩れ落ち、絶命した。

 

 

「ふぅ……終わりましたよ、おじさん」

 

 

短い一息をつきながら血を払い、刀を鞘に収めると、男の方へ行って手を伸ばす。

 

「立てますか?」

 

 

「あぁ……ありがとう」

 

 

男がその手を握るのを確認すると、リンは一気に男の体を引き上げる。

 

 

「お前さん……とんでもなく強いんだな。思わず保けちまったよ」

 

 

「いえいえ、まだ修行中の身ですので。それより、怪我はありませんか?」

 

 

リンの問いに男は「大丈夫だ」と返すと、自分の馬車の方に目を向ける。

 

 

「あちゃー……、馬が怯えちまってる。今日はもうこれ以上の走行は無理だな」

 

 

「そうですか……すみません、危険な目に合わせてしまって」

 

 

「なに、謝るこたあねぇさ。むしろお前さんがいなかったら間違いなく俺ぁ死んでたよ」

 

 

男はそう言ってリンに対し頭を下げると、自分達が向かっていたであろう道を指差した。

 

 

「馬車はもう動かせねえが、こっから15分くらい歩けばもう帝都だ。俺はもう少し馬をなだめてるから、先に行ってな」

 

 

「すみません……今までお世話になりました。あっ、えっと……」

 

 

そういえばまだ名前を聞いてなかったと戸惑うリンを見て男は察すると、リンに近づき、荷物運びで鍛えられたのであろうゴツゴツした右手を差し出した。

 

 

「ルヴィスだ。今日はありがとな、リン。俺はまだ暫く帝都と近くの村々を行ったり来たりしてるから、また用があったら声かけてくれ。なに、お前さんは命の恩人だ。無償で手伝ってやるさ」

 

 

「はい……ルヴィスさん。今日は本当にありがとうございました。こちらこそ、また何か手伝えることがことがあれば遠慮なく言ってください。それでは」

 

 

リンは差し出された右手を強く握り返すと、互いに笑いあう。

 

 

時間にするととても短い間だったが、互いの間に生まれた絆を確認し合い、どちらからということもなく手を離すと、リンは帝都への道を歩き始める。

 

 

「お〜い、リン!これも何かの縁だ、また今度会ったら一杯やろうぜ!」

 

 

振り向くと、大声を張りながら酒を煽るジェスチャーをしているルヴィスに対して小さく笑みを零すと、自分はまだ未成年だということは告げずに手を振り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな不思議な成り行きで縁を結んでから歩くこと15分。

 

 

ついに、運命の地へ辿り着く。

 

 

其処から足を一歩踏み出し、空を見上げて小さく呟いた。

 

「見ててね、姉さん。僕がこの帝都を……壊してみせるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと出来ました、次話投稿。

一ヶ月以上間が空いちゃって……うわぁぁぁぁぁぁぁ


それに……あれ?話が全然進んでないぞ☆?(すっとぼけ)


というわけで、皆さんお久しぶりです。

まずは全然更新できなくてすみません……
それに加えて物語も全然進んでないっていう……

個人的にはこういう日常パートも大事にしたいと思っているので、今後も今回のように全然物語が進まないことがあると思います。
それでもいいよ!という方で、この作品を読み続けてくれる方は是非、感想等を書いていただけると嬉しいです。

最後に、この作品を読んでくださる読者の皆さまに、最大限の感謝を。




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3話

 

 

 

帝都

 

千年前に始皇帝により統一、建国された国の首都。

国中の富が集まるこの街は繁栄の象徴であり、宮殿近くのメインストリートには煌びやかな街並みが存在している 反面、賄賂をはじめとした腐敗政治の横行で多くの市民は貧しい生活を強いられていた--------

 

 

 

 

「ふむ……なるほど」

 

7年ぶりの帝都の街並みを見て、ただ一言。小さく頷きながら、リンは頭の中で冷静に情報を整理していた。

 

 

この7年で帝都の市街はさらなる繁盛を見せており、物流はリンがまだ帝都にいた頃よりも遥かに良い。

 

メインストリートの賑わいも中々のものであり、辺りには行き交う人々の笑い声や元気に走り回る子供の姿が目に映る。

腹の立つ話だが、今の大臣が政治を行うようになってから金流も格段に良くなっている。もっとも、政治の方は腐敗しきっているが。

 

 

「まぁ……でも」

 

確かに、リンがいた頃よりも経済面はかなり良くなっている。

 

だが、改めてもう一度辺りを見渡してみると、笑いあう人々の片隅で暗い表情や苦しい顔をしている人々の方が多いことが見て取れた。

 

 

それもそのはず、いかに金流や物流が良くなっているといってもその恩恵を手にするのは上位社会に位置する者達だけであり、下層の人々は日々の暮らしを落ち着けるのもままならないのだろう。

 

 

そう、だからこそ……

 

 

「(そんな理不尽を壊すために…僕は戻ってきた)」

 

 

そっと、腰から下げられている刀の柄に手を添える。

 

他でもない、姉さんがそう言った。

この腐敗した帝都を壊してほしいと。

 

 

だから、僕はそうするだけだ。

 

 

そこに自分の感情はいらない

 

あるのは1つの願いだけ

 

 

 

「まぁ、なんにせよ今は……」

 

苦い顔で自分のお腹を見る。

すると、タイミングを見計らっていたかのようにぴったりのタイミングでグゥゥゥゥゥッと、お腹から食べ物を求める悲痛な声が聞こえた。

 

「お腹空いたなぁ……」

 

思えば、自分で節約だなんだと言ってしばらく何も口にしていなかったことを思いだす。

 

ルヴィスといた頃は楽しく談笑していたのでそこまで気にもならなかったが、今思うと最後に何か食べたのがいつかさえあまり覚えていない。

 

「ちょうどいい、情報収集がてら酒場にでも行ってみるか」

 

なけなしのお金を携えながら、先ずは酒場にでも行ってみようと思うリンであった。

 

 

 

****************

 

 

「おかしい……」

 

いつまで経っても、目的の酒場が見つからない。

 

それもそのはず、リンはこれまでの道のりを7年前の記憶だけで歩いており、その道が7年前と変わっていなかったことで失念していた。

 

街というものは7年もすれば大きく変わるものであり、酒場を目指すはずがいつの間にか見知らぬスラム街まで来てしまっていた。

 

つまり端的に言うと、絶賛迷子中である。

 

 

「まいった……本当に何処だろう、ここ……」

 

考えても答えがでるわけではないので、取り敢えず歩きだす。

 

 

これはスラムに入ってから気づいたことだが、ここで見る人々は先ほどメインストリートで見た人々のようなどこか暗い表情はしておらず、生き生きとしている印象だ。

 

生まれた時から貧乏であれば、少しはたくましくもなるのだろうか。

 

 

「雑草魂ってやつなのかな」

 

 

ここで暮らしている人達からしてみれば少し失礼なことを考えながらしばらく歩いていると、ふと、何か視界の端で動く物があった。

 

「なんだろう?」

 

そちらの方に目を向け、少し目を凝らして見てみる。

 

瞬間、弾かれるようにして駆け出したリンは、その正体のもとへ辿り着くと同時に激しく肩を揺すった。

 

「君!!大丈夫かい!?」

 

案の定、視界の端で動いた物の正体は、道の上に倒れ伏していた小さな少女のものだった。

 

息があることを確認し、死んではいないことに安堵するが、それでも倒れていたという事実は変わらない。

 

「んっ………ぅぅ」

 

 

リンが肩を揺すり続けていると少女も意識がはっきりとしてきたのか、小さなうめき声を漏らした後にポツリと一言。

 

 

「……お腹…空い……た」

 

 

「おぅ……」

 

 

そこでリンが出会ったのは、今の自分と境遇を同じくした、1人の小さな少女だった。

 

 

 

 

 

 

日が僅かに落ち始めてきた頃、変わった二人組が酒場に入ってきた。

 

 

「んぐんぐ………美味しい……」

 

 

片や、テーブルに乗せられた料理の数々を豪快に咀嚼し、ボロボロの衣服を纏う幼くも可愛らしい少女。

 

 

「あはは、食べ物は逃げないからもっと落ち着いて…ね……うん……食べようね…」

 

 

片や、笑顔ながらも皮袋の中身を確認し、小さく肩を落とす銀髪の青年。

 

 

今日の夜は野宿に決まった瞬間だった。

 

 

 

「んっんっんっ……ぷはっ、おにーさん……いい人……」

 

あれだけあった料理を全て平らげ水を飲み終わった後、少女は素直に感謝を述べた。

 

 

「うん、満足してもらえて良かったよ。それより……なぜあんなところで倒れていたんだい?」

 

 

リンが何気なく少女に問いかけると、少女は体を僅かに強張らせる。

 

 

「(やはり……)」

 

 

内心で自分の予想が正しかったことを確認し、初めて会った時から少女から感じる、ある匂いについて考えを巡らせる。

 

それは、濃密な血の匂い。

 

それも人のものだ。

 

もちろんまだこんなに幼い少女に人殺しなど出来るはずがないので何か他の理由があるはずだと思い、今までの経験上から1つの結論に行き着いた。

 

 

「(そうか…この子は沢山の死を目の当たりにしてきたんだ。目の前で、しかも相当な数の……死を)」

 

少女の表情から感じる、ある違和感。先ほどからあまり感情の起伏がなく、元からそういう子なのかと思っていたが、そうではない。

 

この少女は、感情を殺されたのだ。

 

自分の体にこんなに血の臭気が染み付いてしまうほどの死を幼いうちから目の当たりにしてきたのだから、無理もない。

 

 

「私は……捨てられた」

 

 

「それは……両親にかい?」

 

少女は首を小さく横に振り、僅かに躊躇うような素振りを見せると、意を決したようにリンに告げる。

 

「怖い……オジサン。その人に…おとーさんも、おかーさんも、友達も、私ともう1人を残してみんな殺されちゃった…

 

 

 

瞬間、リンの表情が一気に険しいものになる。

 

自然と右拳に力が入り、肩が震える。

 

 

「(これが、今の帝都かっ……!)」

 

 

人の命をなんとも思わない、人の形をした魑魅魍魎たちが我が物顔で跋扈している。

 

 

それが許される国。

 

そんな理不尽がまかり通る国。

 

ふざけるな…そんなもの、許していいわけがない。

 

 

「おにーさん…?」

 

少女が心配そうにリンの顔下から覗き込んでくる。

 

 

その一言にハッとし、我に帰ったリンは先ほどまでの怒りを払うかのように頭を振る。

 

 

「……ごめん、少し取り乱しちゃったみたいだ」

 

 

そう言い、少し頭を冷やすために落ち着こうとすると、少女が自分の手をまだ小さな手のひらで包み込んでくる。

 

「おにーさんは……優しい人だね。まだ知り合って間もない人のことでそこまで怒れるなんて……」

 

 

少女が、今出来る最高の微笑みでリンを見つめる。

 

やはりというべきか表情に大きな変化は見られないが、それでも確かな感謝をリンは感じ取ることが出来た。

 

 

やがて、少女は何かを覚悟したかのように改めてリンに向き直ると、静かに、けれども力強い口調でリンに問う。

 

. . .

「ねぇ……おにーさんは…出来る人?」

 

その質問の意図を瞬時に察したリンは、静かにその首を縦に振る。

 

「うん……少なくとも今君がお願いしようとしていることに関しては問題無くこなせると思うよ。

でも……本当にそれでいいんだね?人を…殺してほしいなんて」

 

おそらく先ほどの彼女の質問は、『人を殺すことが出来る人』という意味合いだったのだろう。

 

僅かに語気を強め、彼女の目を見つめながら若干脅しを孕ませ問い返すも、覚悟を決した少女は決してその視線を逸らそうとせず、大きく頷く。

 

「確かに……この願いは普通じゃないと思う。……人として間違ってるってことも分かってる…。でも…私は絶対あの人を許せない……許せるわけがない……!」

 

 

僅かに声を荒げながらも、少女はそう言い切った。

 

 

本来、『人を殺してほしい』などという願いなどあってはならないものだ。

 

だからこそ、リンは試した。

 

そんな願いは普通じゃない、人ととして間違ってるということを改めて少女に考えさせる為に。

 

 

それでも、少女は頷いた。

 

自分が間違っていることも、こんな願いは異常だということも全て承知した上で、その首を縦に振った。

 

 

「君の願い……確かに聞き届けたよ。彼等のような人の命をなんとも思わない下衆は……僕が必ず斬ってみせる」

 

ならば、あとはもう何も言うことはない。

 

 

少女の願いを…覚悟を聞き届けた。

それ以上の理由など不要。

 

 

あるのは、今の帝都を…この少女を間違った方向に進ませてしまった元凶を斬ることのみ。

 

「ありがとう………っ!優しいおにーさん。出会えたのが……貴方でよかった…」

 

 

少女の表情が今までの無表情から、確かな笑顔へと変わる。

 

 

「(そうか……この子は、笑ったらこんなにも…)」

 

少女が見せた笑顔は、それこそ子供が見せるような眩しい笑顔であり、実に可愛らしいものだった。

 

だからこそ、この子から笑顔を…全てを奪った相手は生かしておけない。

 

 

「どうか……この晴らせぬ恨みを……っ!」

 

 

リンは静かに頷くと、酒場を出る。

 

空を見上げると、夕日が傾き始めている頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッハッハ!!やっぱ殺しは最高だなぁおい!これだけはやめらんねぇぜ」

 

 

そう言いながら今も1人の命を奪い、満足気に高笑いする男が1人。

 

 

「おい、この前使えなくなったゴミ共を2匹捨てたからよ。新しいの補充しとけ」

 

 

「承知いたしました、ズック様。して、前にお捨てなされた2匹の処遇はいかが致しましょう?

我々としてはナイトレイドの耳に入る前に見つけ出し、早急に始末するのが得策かと」

 

 

「あぁ?あんなゴミ共ほっといても何も出来やしねーよ。あんだけ目の前で人の死を見せてやったんだ、下手したらもう感情なんてぶっ飛んでんじゃねーかぁ?ガッハッハッハ!!」

 

 

また1人、女の首を刎ねながらズックは笑い続ける。

 

そこには、人の皮を被った魑魅魍魎のけたたましい高笑いが辺りに木霊していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこか……」

 

 

家の屋根の上に立ち、ターゲットがいるであろう屋敷を目視にて確認する。

 

 

あの少女と別れてから夕日が落ち、辺り一面が薄暗い闇に包まれ始めた頃。

 

ついに標的の居場所を突き止めたリンは、どうやって屋敷内に潜入するかを考える。

 

 

「(あの子から屋敷の内部については少し教えてもらったけど、いざ入ってみると内部はもっと複雑だろう……

囲まれても抜け出せる自信はあるけど、退路はやっぱり確保しておきたい。そうなれば……)」

 

 

数々の可能性を考慮した上で、やがて最後は最もシンプルな方法に帰結した。

 

 

「やっぱり…窓を壊して正面から。これしかないか」

 

 

小さくため息をつきながら少し息を整えると、思考のスイッチを切り替える。

 

それだけで一気に頭は冴えわたり、目も今までの人の良さげな優しい瞳から氷を思わせるような冷たいものに変貌していた。

 

 

「さて…行くか。………久しぶりに少し、"アレ"を使ってみようかな」

 

そう言うとリンは、刀を鞘から引き抜く。

 

その刀身の周りには土竜戦で見せたようなパチパチと弾ける小さな雷光ではなく、はっきりと視認出来るような雷が刀身を纏うようにしてバチバチと音を立てていた。

 

 

ここからの距離は約500m弱。

 

 

もう一度目的地までの距離を目算すると、リンはおもむろに屋根の縁まで歩を進める。

 

 

もう一歩踏み出したら確実に落下し、死ぬとはいかなくとも無傷では済まない高さから下を見下ろす。

 

 

ここから地面まで約30m弱といったところか。

 

 

だが、リンは躊躇うことなく、その一歩を踏み出した。

 

 

当然、リンの体は重力に従って垂直に落下する。

 

 

ぐんぐんと迫ってくる地面を尻目にリンは静かに目を閉じ、そっと……その"名"を紡ぐ。

 

「頼んだよ、"鳴神"」

 

そして、地面があと数mというところまで迫ってきた時----

 

. .

その場から、リンの姿が消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

後に、町人の間でこのような噂が流れる。

 

その日の夜、夜空を横切る一筋の稲妻が目にも止まらぬ速さで迸っていくのを見た……と。

 

 




……1つだけ言わせてもらってもよろしいですか?

話全然進まねぇっ……!!!


というわけで……はい、皆さんお久しぶりですKey9029☆です。

いやぁ〜全然進みませんね☆(ガチでごめんなさい)

プロットは一応作ってあるのでこの先の展開は決めてあるのですが、会話等が思いつきません!

プロって凄いなぁ……(遠い目)

そして、物語についてですがついにリンの帝具の名前が!?

楽しみにしていただけているならば幸いです


あと、ズックの名前についてですが
ズック→クッズ→クズ
などという超安直な命名です笑

次話はせめてナイトレイド加入のところまで書けたらいいなぁ……と思ってます笑


それでは、この拙い作品を読んでくれている読者の皆様に最大限の感謝を。

次話で会いましょう!





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4話

 

 

同時刻 ズック邸

 

 

「おらぁ、もっと飯持ってこい!」

 

本日も計3人の尊い命を奪い満足気なズックは、部下達を広間に集めて宴会を開いていた。

 

「よーし全員に飲み物は行き渡ったな。じゃあ、この帝国という最高の国に……乾杯っ!」

 

ズックにとって、この帝国は最高の国だ。

 

人を幾ら殺しても何も罪に問われない。

 

確かに、ナイトレイドとかいう自分達のような者を対象にした殺し屋がいることはよく耳にするが、部下に隠蔽工作をきっちり敷かせているズックにとってそれはどうでもよいことだった。

 

「それに……」

 

ズックの口の端が邪悪に歪む。

 

「ナイトレイドなんざ、あいつがいれば……逆に血祭りにあげてやるぜ」

 

ズックの頭にある人物が浮かぶ。

 

残虐性で言えば、今まで自分が見てきた中では飛び抜けている。

 

加えて、()()()()を所持しているというのだから尚更だ。

 

「俺様が死ぬことなんざ、万に1つもありえねぇなぁ…ガッハッハッハ!!」

 

ズックの悪に染まった笑い声は、周りの部下達の笑い声で、誰の耳にも入ることはなかった。

 

 

 

 

 

「はぁ〜、やっぱりズック様は最高だなぁ。私のような下っ端ですら宴会に呼んで下さるとは」

 

ズックの部下である男が1人、酒が入って体が熱くなったのか襖を開け、縁側へと足を運び、夜の風にあたっていた。

 

 

「私のようなスラム出身の身でさえ拾って下さるとは……」

 

ズックの部下は大半がスラム出身者である。

今まで1日の生活さえ苦痛であった彼らからは食べ物、着る物、寝床などを与えてくれたズックはまさに恩人と呼べる存在だろう。

 

しかし、それこそがズックの思惑通りであり、貧民をどん底の生活から救うことで恩を与えて懐かせる。

 

あとはこうして今までのままでは到底ありえなかった生活を与えてやれば自身に従順な駒の完成、とういうわけだ。

 

そんなことを知るわけもない下っ端の男は、心地よい夜風に吹かれながらもう一杯酒をあおる。

 

そこでふと、視界の端に何か光るものを捉えた。

 

 

流れ星か何かと思い、光った方を向こうとすると、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ?」

 

何が起こったのか理解出来ていないかのような表情の男の首が宙を舞い、宴会の行われている部屋の中央へと転がり落ちる。

 

すると、先ほどまでワイワイと騒いでいた部下達の表情が一変、ズックも険しい表情を浮かべる。

 

「敵襲だ!ズック様をお護りしろ!!」

 

部下の中の1人が声を上げ、それに呼応して何人かの男達がズックを護るように取り囲み、他の数十名は敵の位置を探る。

 

宴会の席にいた部下の総数は約50名。

 

この数を相手に仕掛けてきたとすると、襲撃者は相当な手練れと見て間違いない。

 

「ナイトレイドか……?」

 

ズックが思い当たる襲撃者を思い浮かべるも束の間、部下の怒号が鳴り響く。

 

「貴様っ!何者だ!?」

 

部下の声のする方に目を向けると、迸る雷を身に纏い、冷徹な瞳でこちらを見つめる銀髪の襲撃者の姿が其処に在った。

 

 

 

******************

 

 

 

「1人目……」

 

刀に着いた血を振り払いながら、リンは周囲を見渡す。

 

数はおよそ50人といったところか。

 

冷静に状況を把握し、刀を構え直すと、1人の男が数名の部下に取り囲まれながら前に出てきた。

 

「おぅ、折角の宴を邪魔したのはてめぇか?」

 

男が野太い声で、若干の怒気を孕ませながらも冷静な口調でリンに問いかける。

 

 

身長は2mにも届こうかというほどの巨漢であり、筋骨隆々。

 

普通、このような男に凄まれたら誰でも怖気づいてしまうだろう。

 

しかし、リンはそんなことなど気にもとめず、身に纏った雷を解くと、目の前の男を見つめたまま返答する。

 

「はい、その通りです。では、こちらからも質問を。……貴方がズックですか?」

 

リンは少女と別れる前に聞いた、1人の男の名を発する。

 

リンの質問に男は邪悪な笑みを浮かべると、どこか嬉しそうな表情で答える。

 

 

「ほぅ、俺の名前を知っているか。何処のどいつに依頼されたか知らねぇが、此処から生きて帰れるとは思ってねぇよなあ?ナイトレイド」

 

男の口から聞きなれない単語が出てきたためか、一瞬リンの表情が曖昧になる。

 

その一瞬を見逃さなかったズックは、その表情から導き出される結論に多少の驚きを感じた。

 

「ん?まさかてめぇ、ナイトレイドじゃねぇのか?」

 

「その単語に聞き覚えはありませんが……少なくとも、僕はそのナイトレイド、というものではありませんね」

 

その返答にズックは多少面食らったような顔をしたが、一転、今度は豪快に笑いだした。

 

 

「ガッハッハッハ!じゃあてめぇ、此処に1人で乗り込んできたのか!?この数を相手に?だとしたら傑作だな!」

 

ズックの豪笑に続き、周りからもクスクスと笑い声が上がる。

 

それに対してリンはつまらなそうな表情を浮かべ、改めてズックに向き直ると、鋭角的な殺気を抑えることなく発する。

 

「最後に……もう1つだけ。貴方は何故、人を殺すのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

リンから放たれた相当の殺気が、ズックとその部下達に1つの幻覚を見せる。

 

「(ッ!?)」

 

まるで、自分の腹を冷たい刃物が突き抜けているかのような感覚。

 

一瞬、本当に自分は殺されたのだと錯覚するような、幻覚と呼ぶには余りにもリアル過ぎる幻覚が、ズックの頬から一筋の汗を流させる。

 

「(なるほど…相当な手練れだということは最初から見て取れたが、まさかここまでとはな……。)」

 

周りの部下を一瞥すると、今の殺気に当てられた者も少なくなく、最近入った新入りの奴らにいたっては戦意喪失一歩手前まできている様子だった。

完全に目の前の襲撃者が普通ではないことに気がついたようだ。

 

「(流石にこいつらじゃあ荷が重いか…)」

 

だとしたら自分がやることはただ1つ。

 

それを実行に移す為にも、先ほどまでの内心を切り離し、見事平静を装った顔でリンの質問に答えるべく彼の正面に歩み立つ。

 

「何故人を殺すのか?と言ったな。んなもん--------楽しいからに決まってんだろぅがぁっ!!」

 

言い放つと同時にズックの袖から現れるのは、1つの隠し拳銃。

 

それを相対する目の前の青年の眉間目掛け躊躇無く引き金を引く。

 

見事としか言いようのない完璧な不意打ち。

 

貧弱者と嘲る者もいるだろう。

卑怯者と罵る者もいるだろう。

 

だが、これは言わば互いの存在を賭けた戦争。

 

兵数で圧倒的に勝る自軍と、個の強さで圧倒的に勝る敵軍。

 

しかし、如何に千の兵を持ったとしても、10で1を殺す自軍に対し、1で10を殺す相手に勝てないのは道理というもの。

 

ならばこそ、不意を突くのは戦の常であり、それに文句を言われるのはお門違いというものだろう。

 

更にもう1つ。

 

敵が持つ刀は間違いなく世界に名高い帝具という武器だろう。

でなければ人が雷を纏い、誰にも気づかれぬまま縁側から侵入し、その過程で人を殺すことなど不可能だ。

 

しかし今、()()()()()()()使()()()()()()

 

先ほど、此方から近づいた時に彼の身に纏う雷が消えたのをズックは見逃さなかった。

 

これこそ敵の総大将を前にして、いつでも殺せると緩み切った証拠。

 

敵との距離はほんの数m。

弾が眉間を貫くのに1秒もかからない。

 

普通の人間の反応速度は約0.3秒、速い人でも0.2秒程だろう。

 

だが、この青年は普通ではない。

もしかすると0.1秒すら上回るかもしれない。

 

だが、頭で反応したとしても、それを動作へと伝えるには余りにも短過ぎる時間。

 

なればこそ、完全に虚を突いたこの不意打ちは必中不可避。

 

弾がリンの眉間まで数cmと迫り、勝利を確信したズックが次にくるであろう目の前の青年が崩れ落ちる音を待っていると--------------

 

-----------聞こえたのは、青年の崩れ落ちる音ではなく、甲高い金属音だった。

 

*****************

 

キィンッ!!

 

甲高い金属と金属がぶつかり合う音を鳴らしながら、自分の振るう刀が飛来する弾を完全に一刀両断する。

 

弐ノ型 空断(からたち)

 

これこそ、宮殿を抜け極東の師匠のもとで培った12の剣技の御技が1つ。

 

弐の型は、人の身でありながら物理限界を超えた速度で刀を振るう神速の太刀。

 

「てめぇ……その武器無しでも人間やめてやがったか」

 

ズックはその溢れ出る怒気を隠すことなく、リンにぶつける。

 

必中不可避、必殺の一撃。

 

それが防がれたということは即ち、自分の攻撃が何も通用しないことを意味する。

 

冷静であることをやめたズックの姿は、その巨躯も相まってまるで鬼のようだった。

 

「……確かに、僕は人として在るには行き過ぎた力を持っているのかもしれません。弱い人からみれば僕も、貴方と同じように……鬼のように見えるのでしょうね」

 

人は、行き過ぎた力を嫌う。

 

側から見れば、人を平気で殺す狂者と行き過ぎた強さを持つ強者は同じ類であって、そのどちらもが恐怖の対象なのかもしれない。

 

「でも…」とリンは言葉を続ける。

 

「それでも僕は…在り方だけは損なわないようにしたい。貴方が弱きを挫く鬼なら僕は、弱きを救う鬼で在りたい…っ!」

 

瞬間、リンの瞳から光が消える。

 

「だからこそ、貴方は…貴方達は、これからの帝都に必要ない。此処で……死んでもらいます」

 

言い終わると同時に、その場から雷光が弾け、リンの姿が消失する。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁあっ!?」

「てっ!?てめ……ぁぁぁぁぁぁあっ!?」

「腕が…っ、腕があぁぁぁぁっ!?」

「おいっ!?しっかりし……うがあぁぁぁぁぁぁあっ!?」

 

始まったのは互いの存在を賭けた戦争。

などではなく、一方的な蹂躙。

 

紫電の速さで駆けるリンを捕らえられる者などいるはずもなし、50はあった命を数秒で摘み取る。

 

その姿を鬼と呼ぶにはあまりにも生温い。

 

ほんの一息で命の炎を吹き消す死神が如く。

 

「さて……貴方が最後ですね。ズックさん」

 

「くっ……テメェッ」

 

なす術なく崩れ落ちるズックの首筋に刀を添える。

 

刀身の冷たさが肌に伝わり、自分もここまでかとズックが諦める刹那------------

 

----------おいおい、まだその人は殺らせないぜ?

 

「っ!?」

 

得体の知れない殺気を背後から感じ取り、リンは咄嗟に着地を無視した強引なサイドステップでその場から飛び退く。

 

その刹那、リンは見た。

 

()()()()()()はずの空間が揺らぎ、其処から鈍く光る大型ナイフの刀身と、ケラケラと笑う、青年の顔を。

 

 

 

 

 

 

 

何も無かったはずの空間から、1人の青年が姿を現わす。

 

見たところ、自分と同年代か、それ以上。

 

先ほど見えた大型ナイフをくるくると器用に回し、ズックの元へ歩み寄る。

 

「何やってんですかー、ズックさ〜ん。こんな面白そうなことやってたのに直ぐ呼ばないなんて……」

 

先ほどまでケラケラと笑っていた青年の顔が、一気に冷める。

 

「いくらアンタでも……殺しちゃいますよ?」

 

先ほどまでのケラケラとした表情は何処へいったのか。

先ほどリンが放った殺気以上の殺気を青年は放つ。

 

ズックはその殺気に一瞬体をビクつかせるも、「ふん、悪かったな 」とだけ返すと青年の手を借り立ち上がる。

 

その一連の動きを油断無く見ていたリンは、自分の左肩に手を当てる。

 

そこには先ほど完全には避けきれなかったのか、服の肩口がスッパリと裂け、僅かに血が流れていた。

 

「(おかしい……さっきの攻撃、殺気どころか気配すら全く感じなかった)」

 

それに、こうして姿を見せている今でさえ、あの青年の気配は曖昧だ。

 

「(まるで、靄でもかかっているかのような……)」

 

頭の中で状況を分析していると、青年が此方の方に振り向く。

 

「いやぁ〜、さっきはいきなり斬りつけてごめんねぇ、リンくん。あっ俺アレクっていうんだ。まっ!仲良くやろーよ」

 

アレクと名乗る青年がノリの軽い挨拶を済ませると、再びケラケラと笑いだし、ナイフをくるくると回して遊びだす。

 

「(あのナイフ……まさか)」

 

リンの視線が自分のナイフに向いていることに気がついたのか、アレクは面白そうに口角を吊り上げ、自分の武器について語りだす。

 

「あっ、気になっちゃう?やっぱリンくん気になっちゃう!?

だよねー、だってこうして姿が見えてんのにも関わらず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

嬉しそうに笑っているアレクを見据え、リンは頭の中で結論づけた1つの確信に近い可能性を言葉にする。

 

「やはり…そのナイフは()()ですか。それも、性能に至っては全ての帝具の中でも相当なクラスのものですね」

 

「やっぱさすがだね〜リンくんは。

幻影暗器 ミストエッジっていうんだ。僕にとって気配なんてものは有って無いようなものさ」

 

 

完全に気配を消せる。

 

シンプルが故にその能力は至って強力だ。

 

どんな暗殺の達人でも攻撃する瞬間には必ず髪の毛一本程の殺気が出てしまう。

 

対象が相当な達人ならばその殺気を感じ取り、暗殺は極めて難しいものになるだろう。

 

だが、刃が皮膚を切り裂くその瞬間まで、その殺気、気配を完全に消し去れるのだとしたら……

 

 

「でも…僕の攻撃を避けてみせたのはリンくん、君が初めてだよ……ねぇ、ズックさん、リンくんは僕が貰っちゃうけど…構わないよね?」

 

後ろに控えているズックに向かって、アレクは笑ってはいるが不気味な表情で確認を取る。

 

「あぁ、構わんさ。むしろ、お前じゃねぇとそこの小僧は倒せねぇだろうしな」

 

その応えにアレクは心底嬉しそうに「よぅし!」と笑うと、くるくると回していたナイフを手中に収め、リンを見据える。

 

「あぁ…久しぶりの強者だよ…。さて、どう殺してみようかなぁ。

顔の皮を剥ぐ、眼をくり抜く、腸を抉り出す……あ、磔にして急所を外しながらじわじわ殺していくのもいいなぁ…♡」

 

物騒な言葉を吐きながら恍惚とした表情でリンに近づくアレク。

 

「あぁ、でもやっぱり……何もわからないまま殺された顔を首から斬って、ずっと眺めるのが1番興奮する!」

 

それに対し、リンは静かに刀を構え直す。

 

そのリンの反応にアレクは小さく笑うと、自分も得物を構える。

 

「さぁ〜てリンくん!!楽しい楽しい殺し合いだ!いっぱいいっぱい愛し合おう(殺し合おう)か!」

 

言い終わると同時にアレクの姿を隠すように、周囲から濃い霧が立ち込める。

 

その霧が徐々に晴れていくと、アレクの姿はおろか、気配すら完全に消え去っていた。

 

--------さぁ!リンくん、僕を楽しませてよ!

 

どこからともなく声が響く。

 

「(さて…)」

 

姿の見えない敵など、それこそリンはこれまで幾らでも斬り捨ててきた。

 

だが、気配のない敵となれば話は違う。

 

姿の見えない敵はまだ、其処に在ると感じとるができる。

 

だが、気配のない敵から感じることができるのは、完全なる無。

 

殺気すら感じることができないので、攻撃のタイミングも読めず、気づいた時には自分の首は地を転がっていることだろう。

 

 

だがそれは、自分とこの帝具が相手でなかったらの話だ。

 

 

「いくよ……鳴神」

 

リンはそっと眼を閉じ、刀をそっと鞘に納める。

 

それが4分の3ほど納まりきったところで、リンは一気に刀を鞘にぶつけるように納刀。

 

当然、鍔と鯉口が勢いよく衝突し、キィィンッ!!という耳をつんざくかのような金属音がズック邸に鳴り響く。

 

ここまでは普通の刀となんら変わりはない。

 

だが、リンの刀もまた帝具の一種であり、普通ではないことは自明の理である。

 

金属音と共に、鍔と鯉口の衝突箇所を中心に小さな雷が同心円上に一瞬だけ弾けた。

 

 

「(なんだ…?何をした?)」

 

攻撃か何かかと感じ、防御姿勢をとったアレクだったが、それと感じられるものはいくら待ってもくることはない。

 

--------見えないからといって、ただの脅しかい?リンくん!だとしたら相当見下げ果てたよ!

 

またしても何処からともなく声が響く。

 

 

しかし、リンはその声などまるで聞こえていないかのように眼を閉じ、刀の柄に右手をそっと添えているだけだ。

 

その態度が気に入らなかったのか、アレクは先ほどの笑顔とは打って変わり、絶対零度の眼光でリンを睨む。

 

--------がっかりだよ、リンくん。僕の初撃を避けてみせた君ならもしかすると、って思ったんだけどなぁ。もう諦めて何もする気がないんじゃ……もういらないや。はやく死ねよ。

 

言い終わると同時にアレクはその首を掻き切ろうと駆け出す。

 

もちろん、リンにその姿など見えるはずもなく、先ほどの体制から固まったままだ。

 

--------「(()った!)」

 

アレクのミストエッジがリンの首目掛けて振り抜かれる。

 

 

呼吸、位置、タイミング、全てが完璧であり、加えて気配すら感じさせない必殺の一撃。

 

これこそアレクの十八番であり、今まで誰にも破られることのなかった必殺必中の絶技。

 

故に、その切っ先は狙いを違うことなくリンの首筋にぐんぐんと迫り--------

 

-------「(ッ!?)」

 

その時、アレクの動きが一瞬止まった。

 

「(ッなぜ!?なんで!?なんで()()()()()()!?)」

 

いつの間にか眼を開いていたリンが、真っ直ぐ自分を見据えているのだ。

 

あり得ない、あり得ない、あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!!

 

帝具の能力はどんな力であれ絶対だ。

 

自分のミストエッジが気配をなくす能力ならば、その力は絶対のはず。

 

誰かに見られることなどあり得ない、あるはずがない。

 

なのに、目の前の青年は真っ直ぐに自分を見据えている。

 

--------「(だとしても…っ!ここまで迫った刃を躱せるはずがない!)」

 

動揺はしたが、結果が変わるわけではない。

 

もう自分の刃は避けられないところまできているのだ。

 

--------「(死ねぇぇぇぇっ!!)」

 

残り数cmまで迫った必殺必中の一撃。

 

今までこの絶技で殺せなかった人はいないという自信と、残り数cmまで迫った刃を躱せる人はいないという常識が、アレクに勝利を確信させた。

 

 

 

だが皮肉にも、その場に居合わせなかったアレクは知らない。

 

リンがどのようにこの屋敷に進入したのかを。

 

どのようにズックの不意打ちを防ぎ、部下達を屠ったのかを。

 

 

彼の--------

 

 

 

 

 

人知を超えた速度を。

 

 

 

瞬間、弾ける雷光と共にリンの姿が消失する。

 

 

次にアレクが見た光景は、薄れゆく意識と共に、自分を見下ろす白銀の死神の姿だった--------

 

 

*****************

 

 

 

 

「何もわからず死んだのは……貴方の方でしたね」

 

小さく息をつきながら、リンは横に振りぬいた刀を下げる。

 

その下には首と胴体が綺麗に両断された、アレクの死体が沈んでいた。

 

何が起こったかわからない、とでも言いたげな表情を張り付けながら。

 

「さて…後はズックさん、貴方だけですね」

 

冷たい声音と共に、リンは帝具の切っ先をズックに向ける。

 

対するズックは、まるで状況が理解できないでいた。

 

「(アレクが殺られた…だと!?ありえねぇ、どうやって!?それよりも、なんで体が動かねぇんだ……っ!!)」

 

アレクが目の前の青年と戦っている間に逃げるという選択肢もあった。

 

だが、彼が刀の鍔と鞘を打ち付け、小さな電気が見えた途端、体が痺れたように全く動かなくなったのだ。

 

 

これは恐怖ではない。

目の前の青年があの一瞬で自分の体に何かしらの攻撃を仕掛けたのだ……!!

 

目の前の青年は刀を振り、刀身に着いた血を払い落とすと、彼の帝具である刀の刀身でバチバチと弾けていた雷が消えていった。

 

すると、帝具による攻撃の効果が消えたのか、スッキリとした感覚がズックの体を駆け巡り、目の前の青年に対して隠しきれない動揺を含んだ声で話しかける。

 

「おい、テメェ……俺の体に何をした…っ!体が全く動かなかった…それに、あのアレクをどうやって!?」

 

怒りと動揺を隠すことなくリンにぶつける。

 

それほどまでにズックに対して先ほどまでの状況は理解の範疇を超えていたのだ。

 

ズックはアレクの殺り口を知っている。

 

だからこそ彼の腕に絶対の信頼を置いていたし、負けるなんて露ほどにも思わなかった。

 

しかし、目の前の青年は1度完璧に消えたはずのアレクの姿をどうやって見つけることができたのか。

 

 

ズックはリンに聞かずにはいられなかった。

 

「テメェの帝具はおそらく電気、雷を操るだけの能力のはずだ……そんな単純な能力でどうやってアレクを倒すことができる!?」

 

最早ズックの脳内に平静の二文字はない。

 

それをリンも感じ取ったのか、僅かなため息と共にズックに歩み寄る。

 

「そうですね…確かに僕の帝具であるこの刀、疾風迅雷 鳴神は雷を操る至極単純なものです。でも……()()だからこそ応用の仕方は無限大なんですよ。」

 

フーフーと荒い息を漏らしながらこちらを睨むズックを尻目に、リンは帝具である自身の刀を眺める。

 

「まず、どうやってアレクさんの姿を捉えたのかということですが、簡単なことです。この鳴神の鍔と鞘を打ち付けた際、周囲に微弱な電磁波を放ちました。その電磁波に触れた存在を、僕は感じ取ることが出来る。」

 

ズックの眼が見開かれる。

 

そんな方法で、彼はアレクの絶技を破ったというのか。

 

「姿や気配を無くすことが出来ても、この世界から存在まで消し去れるわけじゃない。その点に関しては、今まで戦ってきた姿の見えない敵達と同じです。」

 

ズックは自身の血の気が引いていくのを感じた。

 

元来、帝具使い同士が戦う場合には1つの"鉄則"があると聞く。

 

その性能故に殺意をもってぶつかれば例外なくいずれかに犠牲者が出てきた。

 

つまり--------

 

帝具使い同士が戦えば、必ず()()()()()()()

 

相討ちはあっても、両者生存はない。

 

 

だが…これはあまりにも--------

 

 

あまりにも--------一方的過ぎる。

 

初めからこの青年は自分たちを殺しに来たのではない。

 

()()しに来たのだ。

 

それくらいの気軽さでこの場にいた部下50名の命を一瞬で摘み取り、あまつさえ帝具使いであるアレクすらも簡単に屠った。

 

そんな常識外の襲撃者に目をつけられた時点で、自分たちは終わっていたのだ。

 

「ん、あぁそれと、僕がアレクさんと戦ってる最中に逃げられても困るので、少しの間体の自由を奪わせてもらいました。いかに人の形をしたゴミといえども、さすがに人の体をどうこうしようっていうのは気が引けるのでそこは謝らせてもらいますね。」

 

そう言うと青年は、人当たりのよい笑顔を浮かべながら素直に頭を下げてきた。

 

青年の顔立ちはそれこそ美術品か何かと見紛うほど整っている。

 

故に、その笑顔は、まるで、朝の日差しみたいに柔らかく煌めいて、見るもの全てを魅了するかのよう--------

 

 

--------否。

 

だが、ズックには判る。

 

 

あれのどこが、()()だというのか。

 

 

あの精巧に作られた仮面の下には、直ぐにでもこちらの命を吹き消そうとする死神が嘲笑しているのが垣間見える。

 

それに、あの青年が今更人の体に干渉するのを躊躇うはずがない。

 

帝都に蔓延る悪を根絶やしにするためならば、あの青年は嬉々として自分を動けなくしたように対象の体の自由を奪い、部下達を殺したように惨殺するに違いない。

 

非人道的な行為を行ってきた自分がいうことではないのかもしれない。

 

だが、何が原因かは知らないが、それほどまでに目の前の青年は()()()()()()()()()

 

「さて、長話が過ぎましたね。では…そろそろ死んでください。」

 

言い終わると同時に、青年から夥しいほどの殺気が放出される。

 

その凄まじさたるや、先ほどアレクから向けられた殺気が優しく思えるほどだった。

 

心臓が限界まで鼓動し、体中に不必要なまでの血液が行き交う。

 

先ほど血の気が引き、冷たく感じられたはずの体の芯が、今は溶けてしまうのではないかと錯覚するほどの灼熱と化している。

 

--------カツン、--------カツンと、青年の近づいてくる足音が異常なまでに響いて聞こえる。

 

乱れる息を整えようと大きく伸縮する肺が苦しい。

 

乱れる思考を落ち着かせようと回転する脳が苦しい。

 

乱れる焦点を合わせようとする目が苦しい。

 

苦しい、苦しい、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい!!

 

狂いそうなほどの苦しさに吐き気を感じ、塞きとめることもままならぬままにぶちまける。

 

そこで--------カツン、と今まで響いていた靴音が止まる。

 

「ぅ--------はっ……ぁぁ…」

 

苦しさに顔を歪ませた自分を、青年が見下ろし、刀を振りかぶる。

 

それが最後に見るこの世の光景だと理解した時、あぁ…そうか……と、1つ、目の前の青年に納得するところがあった。

 

目の前の青年は、それこそ鬼でもなければ、死神でもなかったのだ。

 

--------そう。

 

--------鬼でも持っているような()が無く、死神にすらあるような、人を弄ぶ感情()すら無かった。

 

この青年はただ、義務的に、作業的にに、機械的に、当然のことであるかのように、悪を殺す。

 

息をすることと同じであるかのように、悪を殺す。

 

その姿に、鬼も死神もなかった。

 

そう、彼は--------

 

 

 

「肆の型……彼岸花」

 

振るう刀が、肉を切り裂く。

 

噴き出す鮮血は、それこそ野に咲く一輪の彼岸花の如く、赤赫と咲き誇った。

 

 

 

 

 

 

--------そう、彼は……

 

 

化け物の類いであったのだ。

 

 

 

*****************

 

 

リンがズック邸で猛威を振るっている頃、暗い路地裏からズック邸を見上げる、ボロボロの衣服を纏った1人の少女の姿があった。

 

「おにーさん……」

 

あの優しい笑顔を浮かべる銀髪の彼を信じて依頼したのは自分だ。

 

だが同時に、ズックという男の恐ろしさも知っている。

 

あの残虐な男は侵入者を捕らえた瞬間、なんの躊躇いもなく惨殺するだろう。

 

自分を助けてくれた優しいおにーさんが、あの男に殺される。

 

そんな最悪な想像が膨らむに連れて、いてもたってもいられなくなり、ズック邸が見えるこの位置まで来たのだが--------

 

 

「--------きれい……」

 

先の心配など何処へいったのか。

 

少女は只、時折ズック邸の縁側から光って見える綺麗な雷光に心を奪われていた。

 

激しく明滅しつつもどこか優しく、見ていると心が安らぐような柔和な光。

 

そんな光は、あの優しいおにーさんとそっくりで--------

 

 

「……っ!ごほっ!…げほ!」

 

瞬間、胸の内から迫り上がる猛烈な不快感と共に、まるで体中の臓器を全て吐き出してしまいそうなほどの咳が立て続けに少女を襲った。

 

「ごほっ!……あぁ、そっか。私もうダメなんだ……」

 

一際大きな咳を手でおさえる。

 

その時、ボロボロに擦れた衣服の裾が捲れ、およそ人体にあってはならない黒い斑点模様が垣間見え、その指の間からは黒く濁った血が滴っていた。

 

少女の身体が力尽きたように前へ倒れる。

 

朦朧とする意識の中で思い出すのは、意外にもズックに惨殺された両親や友人たちではなく、今日初めて会ったあの銀髪の青年の姿だった。

 

「……ふふ…、どうし…ておにーさんの…こ…とを…思い出すん…だろ……」

 

絶え絶えの息で、自嘲混じりにあの優しい笑顔を思い出す。

 

--------いや、理由なんてほんとはわかっていた。

 

自分みたいな子供は相手にされないってことぐらいわかってる。

 

でも、子供心ながらも感じていたんだ。

 

彼に出会って、そして。

 

そっか…私は、おにーさんのことが--------

 

「……っ、げほっ!ごほっ!」

 

今度は手でおさえることもできないままに大きく咳き込む。

 

吐き出した血の量は先ほどとは比べ物にならないくらいに多く、そして黒かった。

 

--------でも、だからこそ気づいてしまった。

 

彼の優しい笑顔の奥には、精巧に隠された想像もつかないほどの深い悲しみが宿っている。

 

その深さは、一生埋まるものではないのかもしれない。

 

でも……それでも、せめて私の分まで、彼が救われてほしいと信じて。

 

 

少女の小さな願いは、その小さな息遣いと共に、冷たい夜風へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮮血に濡れた刀を一閃した後鞘に納め、縁側から見えるもう完全に夜闇に呑まれた帝都を尻目に、リンは1人の少女の姿を思い出す。

 

名前すら聞きそびれてしまった幼い少女。

 

彼女に残された時間がもう、あまりにも少ないことには気づいていた。

 

悔しさによって胸の内からとめどなく溢れ出てくるなにかを、ズック邸の壁を思い切り殴りつけることによって紛らわす。

 

それこそ、何度も、何度も。

 

皮膚が裂けたその拳から、血が出てきても、何度でも。

 

ルボラ病。

 

帝都に蔓延する難病の1つであり、発症者には体中に黒い斑点模様が現れるのが特徴だ。

 

末期ともなると、救う手立てはまずない、恐るべき病。

 

その感染経路は、血液感染。

 

目の前で多くの死を見せられた少女は、感情と共にその体まで徐々に蝕まれていたのだ。

 

だが、そんなことは本人である少女が1番よく理解していた。

 

それでもなお、自分はもう助からないと理解したうえで、自分に仇討ちを求めたのだ。

 

そんな小さな少女の大きな覚悟に、誰が口を挟めるというのか。

 

「……っよし、僕がくよくよしていても始まらないな。」

 

心を切り替え、リンはそっと刀の柄に手を添える。

 

「それに……」と付け足すと、リンは瞬時に抜刀し、縁側にある襖戸の裏に向けて殺気を放つ。

 

「さて、随分と前から見られていましたが、そろそろ出てきてはいかがですか?」

 

待つこと数瞬、襖戸の後ろから1人の人間が現れる。

 

否、あれを人間と言ってもいいのだろうか。

 

偽物とは到底思えない獣の耳に鋭い爪。

そして、まるで獅子のようにギラついた眼光。

 

「アチャー、やっぱ見つかってたか。できればこのままトンズラしたかったんだけどなー。」

 

そしてなんとも軽い口調の、綺麗な女性だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襖戸の裏から現れた1人の女性。

 

その姿を、リンは油断なく見据える。

 

「(この人……強いな。恐らく相当手慣れている)」

 

それが、自分のような経緯で慣れたのか、それともズックのように一般人を惨殺することで慣れたのかはわからない。

 

だが、後者だとするならば、此処で斬り捨てるだけだ。

 

「(人とは思えない姿形、あれは恐らく帝具による能力だろう…。帝具使いとの連戦はさすがに堪えるけど、やるしかないか)」

 

相手の外見からわかる情報を分析し、狙いを首に定め、一歩目を踏み出そうとした瞬間。

 

「あーちょっと待った青年!何も私はここで争う気はないし、てゆうかお姉さんはむしろ君の味方だよ!」

 

女性は待ったポーズをかけるように両手を振ったかと思えば、思い切り良い笑顔で親指を立ててきた。

 

「えーっと…、味方ってどういうことですか?」

 

女性の行動はさすがに予想外ではあったが、向こうに戦う気はないということは感じ取れたので、とりあえずリンは構えを解く。

 

「あぁ。私も此処のクズ野郎を始末するように依頼を受けてな。でもまぁ来てみたらこんな状況だったわけだけどねー。」

 

快活な笑顔でそう言う女性には、悪い気は感じられない。

 

「それにアンタ、相当強いな。相手に1人帝具使いがいたのに瞬殺だったじゃないか。」

 

「あぁ、それに関しては只、相性が良かっただけですよ。」

 

落ち着いた口調で返すリンに対し、女性は「ふぅーん…」と口元に手を当て数秒考えた後に、改めてこちらに向き直る。

 

「よし、決めた!なぁ青年、お前ウチの組織に来る気はないか?」

 

「……はい?」

 

余りにいきなり過ぎるその言葉に一瞬呆然としてしまった。

 

「えーっと、まず先ほど、貴女は此処の主を始末するよう依頼を受けた…と言いましたよね?ということは、その組織は殺し屋の類いですか?」

 

呆然としたのも一瞬。

 

瞬時に落ち着きを取り戻したリンは、女性の言葉に対して問いを返す。

 

「あぁ。ナイトレイドって言えば判るかな?」

 

「ナイトレイド……」

 

ズックが同じ単語を言っていたことを思い出す。

 

あの口ぶりからして、恐らくこの帝都に蔓延る悪人を殺害対象にした組織…というところだろうか。

 

「アジトはいつでも人手不足だからなー。それに、お前の強さなら即戦力だ。」

 

そう言う女性はもう一度「それに…」と付け加え、僅かに眼光を鋭くする。

 

「お前が此処の奴らを斬っている時の目、あれは明らかに()()()()()()()だという目だった。そんな奴にはウチはぴったりの職場だと思うんだけど。」

 

僅かに口角を吊り上げながら女性は話す。

 

確かに、ナイトレイドという職場は自分の目的に合っている。

 

斬った数だけ悪が減り、それが今の帝都を壊す糸口になる。

 

それに、帝都の悪を葬っていくならば、いづれ()()にも行き着くだろう。

 

だが、まだこの組織は得体が知れない。

 

それに、姉さんを殺した()()との殺し合いにだけは、誰も関わらせたくはない。

 

だからここは----------

 

「今はまだ、とだけ伝えておきます。すみません。」

 

その言葉に女性は若干意外そうな表情を浮かべたのも束の間、今度は僅かに微笑を浮かべ、静かに応える。

 

「今はまだ、か。ってことは脈ありってことでいいのかな?」

 

「はい。貴女方がこの帝都の悪を殺して回っているならば、また会うこともあるでしょう。正式な返事はその際に。」

 

リンの言葉に女性は「そっか」とだけ返すと、縁側の方へ歩いていく。

 

「それじゃ、私はこの辺で帰るなー。あんまり帰るのが遅くなるとまたボスに作戦時間が過ぎたことチクられる…。あ!そう言えば青年、名前は?」

 

「リンといいます。貴女は?」

 

「私はレオーネだ。んじゃ、リン、次会った時はいい返事を期待してるからなー!」

 

そう言い残し、レオーネと名乗った女性は縁側から飛び降り、夜の闇へ消えていく。

 

最初から最後までノリの軽い女性ではあったが、不思議と悪い気はせず、むしろ好感を持てた。

 

「さて、それじゃあ僕も後片付けして早く此処から出るか。」

 

血液感染によるルボラ病の蔓延を防ぐ為に、帝具による雷で1つ1つ死体を焼いていく。

 

せめてあの少女が、ルボラ病で命を落とす最後の患者であることを願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それらの後片付けを全て終えた後、ついに地獄の時間がやってきた。

 

「はぁー……っ。さて、何処で寝ようかな……」

 

別に、野宿が嫌なわけではない。

 

ただ、完全な無一文となったことで、これから毎夜野宿になるのが憂鬱なだけである。

 

「とりあえず……何か食べたいなぁ…」

 

今思えば、酒場で少女に食べ物をご馳走したことに満足して、自分は何も食べていなかった。

 

最後に食料を口にしたのがいつかもわからないほどの空腹。

 

今ならこの空腹で野宿でも朝までぐっすり睡眠(気絶)することが出来そうだ。

 

その影響で少しふらついてきた足取りで寝床を探していると、ふと、道の端で人がゴソゴソと動いているのが目に入った。

 

年は恐らく10代後半、いかにも地方から帝都に出稼ぎにきたのはいいものの、門前払いを受け、挙句の果てに悪い人に有り金を全て騙し盗られたと言わんばかりの少年が野宿の準備をしているところだった。

 

「やぁ、準備してるところごめんね。君も野宿かい?」

 

「ん?あぁ、そうだけど。アンタもなのか?」

 

 

 

 

この日、この夜、この場所で。

 

 

何の変哲もないこの出会いこそが、後の帝都を大きく変える重大な会合となったことは、誰も知らない-----------

 

 

 

- [ ]

 




さて…皆さん、とてもお久しぶりですkey9029☆です…

先ずは一言

ほんっとうにすみませんでした!!

ここまで長く間を空けてしまって本当に申し訳ありません。

こんな亀すら超越した更新速度の作者の作品でも読んでくださる読者の皆さん……あなたが神か


さて、本編ですが……毎回言ってる気がする マジでススマネェ

やっぱりオリジナル展開にするとほんとに会話が思いつきません。

みんなすごいなぁ……(死んだ魚のような遠い目)

次回には必ずナイトレイドとの会合を入れたいと思いますので、皆さん気長に待ってくれるととても嬉しいです。

というかこれほど間を空ける時は活動報告の方で事前に申し上げておきたいと思いますので、そうならないように頑張ります!

さて、長くなってしまいましたが最後に、この作品を読んでくださる読者の皆様に最大の感謝を。


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5話

5話

 

「………。」

 

「…………っ。」

 

長い沈黙、静寂。

 

蒼き月光が照らす満月の下、銀髪の青年と茶髪の少年は静かに見つめ合う。

 

ただ境遇を同じくしただけの関係。

 

しかし、2人は意識的か無意識なのか、互いの存在の大きさを確かに感じ取っていた。

 

その視線の交わりが果たしてどれだけの時間続いたのかは本人同士しか知ることはない。

 

だが、始まりも突然であれば、終わりも突然だ。

永遠に続くかと思われた視線の交錯は、銀髪の青年によって終焉を迎えることとなる。

 

「あ…やばっ……」

 

「……?」

 

突如、銀髪の青年の足取りがおぼつかなくなる。

 

その姿はまるで、昼に自分のお金で好き放題飲み食いした挙句、見事に騙してくれた憎っくきおっぱi…レオーネとか言う女性が酒場を出て行った時とそっくりだ。

 

そんなことを考えているのも束の間、

 

ゴンッッ!!

 

目の前の青年が、耳を疑うような重く鈍い音と共に、モロに頭から地面へとまるでスイッチが切れたかのように崩れ落ちる。

 

いや、疑うべきは目の方だったか。

 

「っ!?おっ!おい!大丈夫かよ!?」

 

茶髪の少年は慌てて銀髪の青年に駆け寄ると、青年が今にも消え入りそうな掠れた声で何かを言っているのが耳にはいった。

 

「……お………ぃた…」

 

今にも途切れそうなか細い声音。

 

だが、弱々しく響く声のその奥には、まるで何かを強く欲しているような必死さが垣間見える。

 

「お……か…すぃ……た…」

 

向こうも必死に伝えようとしているのか、だんだんと聞き取れる箇所が多くなってくる。

 

「もう少し大きい声で言ってくれ!俺に出来ることならするから!」

 

茶髪の少年の善意に嬉しさを感じたのか、銀髪の青年は弱々しい笑顔を浮かべると覚悟を決めたように頷き、自分の総てを引き絞るかのように今、その言葉をハッキリと紡ぐ!

 

「お…なか、すい…た…っ!」

 

自分の総てを賭けて紡いだその言葉が茶髪の少年に届いてくれたかどうかはわからない。

 

だが、人は自分の言いたいことが言えた時、少なからずスッキリとした快感を覚えるものだ。

 

自分の言葉の真意が目の前の、心優しい少年の心に届いてくれていることを信じて。

 

青年は静かに、その顔には全てをやりきったかのような、満足気な微笑みを残しながら--------

 

 

そっと、その瞼を落としていった。

 

 

 

「----------------」

 

その場に残された少年は微動だにしない。

 

青年の幸せそうな顔に、初対面だったとはいえど何か特別なものを感じたその青年の最後に、どこか思うところがあったのだろう。

 

 

ヒュゥゥっと。

 

冷たい夜風が少年の頬を撫でる。

 

そんな些末事などどうでもいいかのように少年は青年を見つめ、その視線を夜空へと移した。

 

夜空には満天の星。

 

その輝きの1つ1つが、青年の最後を悼み、祝福しているかのようで--------

 

そっと、一言。

 

 

「なんだこれ」

 

 

真顔で呟いた。

 

 

 

***

 

 

「もぐもぐっ、ゴク。ゴキュゴキュ。」

 

豪快な咀嚼音が、深夜の帝都に響き渡る。

 

その姿はまるで、食べている本人である銀髪の青年、リンからは酒場で料理の数々を頬張っていたあの少女のように。

茶髪の少年、タツミからは自分の金で遠慮なく料理と酒を暴飲暴食していたレオーネの姿を彷彿とさせた。

 

「いや〜っ、生き返った!ありがとう。非常食だった干し肉を全部貰っちゃって。」

 

「いや、いいですって。目の前で空腹で倒れられたらさすがに放っておけませんし…」

 

あの後。

 

リンの最後(気絶)に若干処理落ちしかけたタツミだったが、直ぐに覚醒。

 

蘇生を試み、リンの最後の言葉をヒントに、鼻先に干し肉を近づけた。

 

瞬間、自分の腕ごともっていかれるのではないかというほどの鬼気迫る速度でリンがそれに齧りつき、もう何個か与えたところでリンの意識が覚醒、今に至るというところだ。

「うーん、やっぱり敬語はなしにしてくれないかな…?どうもむず痒くって」

 

リンの意識が覚醒した後、干し肉を食べながら世間話と共に互いに自己紹介を交わした。

 

そこでタツミはリンが自分より年上だと知り、ぎこちないながらも敬語を使い始めたのだ。

 

リンも幼年期に父であるブドーに連れられ社交会やダンスパーティーに付いていったことで、大の大人から社交辞令として敬語を使われることが多かった故、それに対する多少の慣れはある。

 

だがやはり、それでもむず痒いものはむず痒い。

 

「うーん…じゃあ、せめてリンさんでどうかな?」

 

やはり年上にタメ口というのは少し抵抗があるのか、せめて敬称だけでも、とタツミはリンに苦笑いを返す。

 

「うん!やっぱりそっちのほうが気が楽だ!ここであったのも何かの縁、同じ野宿仲間同士、よろしくね、タツミ君。」

 

満面の笑顔をタツミに向け、右手を差し出す。

 

それにタツミも僅かな緊張が解けたのか、笑顔でリンの右手を握り返す。

 

「あぁ、よろしく!リンさん」

 

そこから2人は月明かりの下、お互いの話に華を咲かせる。

 

「へぇ、それじゃあタツミ君は故郷の村を救うためにこの帝都に?」

 

「あぁ、そのために帝都に出稼ぎに来たんだ。俺、剣には自信があるからさ。軍に士官して、そこで稼いだお金を村に送るつもりだったんだけど……」

 

まぁ、門前払いされちまったけどな、と、どんどんタツミの肩が下がっていく。

 

そういえば、酒場で今の軍は入隊希望者が殺到してるって会話を聞いたな。なら、今直ぐにでも村を救いたいタツミ君には一兵卒からやっている暇はないんだろう。

 

今の帝国軍を率いる、二大将軍。

 

その2人の圧倒的カリスマと、下層社会に位置する人たちの仕事不足による不況により、入隊希望者は例年うなぎのぼりだという。

 

でも、タツミ君が帝国兵にならなくて、本当に良かった。そうしたら、僕は……

 

もしかしたら、彼と剣を交えることになっていたかもしれない…と、内心で安堵の表情を浮かべる。

 

彼が帝国兵になり今の帝都を守ろうと戦うのなら、それを壊そうとする自分は間違いなく害敵だ。当然死合うことになる。

 

戦場に事の善悪や私情は一切挟まないとしても、1度知り合った仲を斬るのはやはり辛い。

 

そういった意味でも、不謹慎だがタツミの境遇に少なからず安心した。

 

「そうそう!それで、途中の酒場で軍の知り合いに掛け合ってくれるって言って、有り金全部はたいてご飯奢ってやったのに食い逃げされたんだ!酷いと思うだろ!?」

 

何かを思い出したように、タツミはいきなり早口に喋りだすと、記憶の中にいるその憎っくき人物にグルルル……と敵意を向けていた。

 

「うわぁ……それはさすがに…」

 

ごめんタツミ君。

 

何となくだけど、君を初めて見た時にそんな気がしていたんだ…

 

自分の直感の精度に舌を巻きながら、目の前で唸っているタツミに苦笑いを返すことしかできないリン。

 

「名前何て言ったかなあのおっぱい…じゃなかった。そうだ!レオーネだ!くそっ、今度会ったらぜってぇ許さねぇ…」

 

「え」

 

ついさっき聞いたような名前が目の前のタツミの口からでる。

確かその名前は、ズック邸で出会った快活な女性のものではなかったか。

 

何やってるんだあの人……と。

リンは記憶の中のレオーネに溜息をつくと--------

 

 

「リンさんは?」

 

「え?」

 

一瞬、何を訊かれたのか判らなかった。

 

「リンさんは帝都に何をしに来たんだ?」

 

しまった…と。

リンは自分の短慮さを責める。

 

こちらが何故帝都に来たのか、という問いをかければそれが自分にも返ってくるのは道理。

 

さすがに、まだ人同士の殺し殺されの世界を何も知らない目の前の純粋な少年に、素直に今の帝都を壊しに来たと言う訳にもいかない。

 

どう答えたものか…とリンがそれらしい理由を考えていると--------

 

「ん?なんだあれ?」

 

タツミが何か見慣れないものを見たかのように、向こうを指差す。

 

その指の先に視線を移す。

するとそこには、街灯に照らされた石造りの道路にパカッパカッと馬の蹄の音を響かせながら近づいてくる、豪奢な馬車の姿が在った。

 

 

 

 

 

 

 

 

馬車が自分達の前に止まる。

扉が開き、そこから姿を覗かせたのは、馬車と同じ煌びやかなドレスに身を包んだ可憐な少女と、屈強なボディガードと思しき男達だった。

 

「泊まるアテないのかな、あの人たち。気の毒に……」

 

「またですかお嬢様…」

 

自分たちの方を見て何か話し込んでいるようだ。

 

隣に座っているタツミと顔を見合わせる。

 

「仕方ないでしょ、性分なんだから」

 

どうやら話は纏まったのか、少女の方が自分たちに近づいてきた。

 

その足取り1つとっても優雅さと気品が漂っており、この少女が富裕層に位置するお嬢様だということが理解できる。

 

「地方から来たんですか?」

 

「あ……?あぁ」

 

突然お嬢様が話しかけてきたことに驚いているのか、若干戸惑いながらもタツミが答える。

 

「ねぇ、もし泊まるアテがないんだったら、私の家へ来ない?」

 

とんでもない提案が飛んできた。

 

それは今から野宿する自分たちにとって、正に神の救いに等しき提案ではないのか。

 

「俺、金持ってないぞ」

 

だが、隣にいるタツミは実に疑わしげだ。

 

「(まぁ、有り金全部食い逃げされたら疑心暗鬼になるのも無理はないか……)」

 

純粋であるが故に、タツミはこの少女にまで騙されたら今度こそ人間不信になってしまうかもしれない。

 

「ふふっ、持ってたらこんな所で寝ないわね」

 

少女はそんな気はないと、タツミに日向を思わせる柔和な笑顔を向ける。

 

そも、お金にだけは困らないといった風貌のこの少女が、野宿をしている少年をカツアゲするというのも変な話だが。

 

そこへ、ボディガードの近づいてきた。

 

「アリアお嬢様はお前たちのような奴らを放っておけないんだ」

 

「お言葉に甘えておけよ」

 

屈強な男たちにも促され、タツミの心が揺れる。

 

「どうする?」

 

ニコッと、アリアという少女がタツミの返事を笑顔のまま待っている。

 

ゔ〜んっと、唸るタツミ。

 

今、タツミの脳内では天使と悪魔が激しい激闘を繰り広げているのだろう。

 

この少女は危険だ、今度は有り金どころか身ぐるみ全部剥がされるぞと、タツミを説得する天使。

 

良かったじゃねぇか…こんな可愛らしい女の子の家に泊めて貰えるなんて話滅多にねぇぞと、タツミを誘惑する悪魔。

 

互いの主張は互角であり、このまま平行線にもつれ込むかと思われた脳内会議。

だがその均衡は、悪魔の囁きによって簡単に壊されることとなる。

 

 

それに、少し考えてみろ。

誰も彼もを家に泊める善人なんているわけねぇ。こいつ、もしかしたらお前に気があるのかもしれねぇぞ?

 

「………まぁ、野宿するよりゃいいけどよ…」

 

タツミ、陥落。

 

 

先ほどボディガードの男がまたですか……と言っていたのはどうやら聞こえていなかったようだ。

 

 

そんなタツミの静かな激闘など露知らず、タツミの素直ではない返事に少女は嬉しそうに頷き、

 

「じゃあ決まりね♡」

 

と、タツミに満面の笑顔を向けた。

 

「それで、横にいる銀髪のお兄さんはどうするの?」

 

その笑顔が、今度は自分の方に向けられる。

 

「そう……だね。それじゃあ、僕もお邪魔させてもらってもいいかな?」

 

僅かに思案した後、リンはその首を縦に振った。

 

「よかった♡それじゃあ、2人とも馬車に乗って。私の家まで案内するわ。」

 

善は急げと、少女は嬉しそうに馬車に乗るように促してくる。

 

スキップのような軽やかな足取りで馬車に向かうタツミ。

だが、それとは対照的にリンの足取りは僅かに重い。

 

うん…行かせてもらうよ。君の腕から漂ってくる()()()()()()()の正体を確かめにね…

 

最初は何かの間違いだと思いたかった。こんな可愛らしい少女から漂ってくるのが香水の香りなんかより、血臭、濃密な死の臭いほうが優っているなんて。

 

その臭気はズックを殺して欲しいと懇願してきた少女のものよりも数倍きつく、それだけ、たくさんの人をその手にかけてきたということだ。

 

そして、問題なのはその臭いが体からではなく腕から漂ってきたということ。

 

体からであれば、まだ先の少女のように全身に第三者の血飛沫を浴びてきたという推測も出来たが、今回はそうではない。

腕から漂ってきたということは、それだけ自身の腕で、人の死に関与してきたということだ。

 

こんな少女でさえ、躊躇いもなく簡単に人の命を奪うのか…….今の帝都は。

 

 

その真意を探るべく、リンはアリアと呼ばれる少女の屋敷へとその身を運んだ。

 

 

***

 

 

「おぉっ!?」

 

アリアの屋敷に着き、玄関に案内されるや否や、タツミが大声を上げる。

 

それもそのはず、地方の村の出身であるタツミには、鹿の剥製や華美な装飾が施された大きな壺などは、想像の中でのお金持ちが持っているような備品だろう。

だが、ここにはその全てが完備されている。

 

「リンさん……マジですっげぇよな此処。俺、来てよかったかも。」

 

タツミが喜びを噛み締めて震え、リンを見やる。

だが、リンにあまり驚いた様子はなく、至って 平然だ。

 

「あれ?リンさんはあんまり驚かないのか?」

 

「え?あぁ、うん。見慣れているからね。」

 

だが、リンは違う。

そもそも、リンも7年前までは帝都の宮殿にいたのだ。

今更この程度、驚くどころか何も感じない。

 

「??」

 

自分の答えにいまいち得心がいかないのか、タツミはさらに混乱してしまったようだ。

 

「おおっ、アリアがまた誰か連れてきたぞ。」

 

「クセよねぇ。これで何人目かしら。」

 

 

屋敷に入るなり、団欒の場にいた仲睦まじい夫婦が出迎えてくれる。

 

その夫婦に対しリンはほんの一瞬、僅かに殺気の籠もった視線を向けた。

 

薬品の臭い……なるほど、裏があるのはこのアリアという少女とあの夫婦か。

 

チラッと、横目で隣にいるタツミを流し見る。

 

彼は彼で、アリアの護衛である男たちの練度に警戒したり、野宿から一転、豪邸に泊めてもらえるという幸運に喜んだりと忙しそうだ。

 

だが…それでいい。

 

タツミ君は日の当たる場所で生きるべきだ。

 

ここに来る前、彼と話した僅かな時間でも、タツミ君の人格は純粋に過ぎるとリンは理解できた。

 

彼は他人の嬉しいことで一緒に笑うことができるし、悲しいことに共に涙することができる人間だ。

 

だからこそ、この純粋な少年に、善人の顔を被った(クズ)たちの本性を見せるのは残酷過ぎる。

 

たとえタツミ君に嫌われることになったとしても…僕が彼を守らないと。

 

拳を固く握り締め、覚悟を決める。

 

そう……たとえ彼の目の前で人を斬ることになったとしても--------

 

「……ンさん?おーい!リンさんってば!」

 

ハッと、タツミ君の声で意識が現実に引き戻される。

 

「っ!タツミ君…ごめん、少し考え事に夢中になっちゃってたみたいだ」

 

「おいおい、しっかりしてくれよリンさん。それで、話の続きなんだけどさ」

 

タツミはアリアに向き直る。

 

どうやら明日、買い物に行くアリアの護衛として僕もどうかという話のようだ。

 

「リンさんも剣を持ってるし、あのオッサン達に加えて俺達が護衛をすれば百人力だぜ!?」

 

所謂マッスルポーズで、タツミはリンにどうだ!?と問いかける。

 

しかし、目の前ではりきっているタツミ君には悪いが、自分はこの屋敷の何処で凄惨な惨劇が行われているのか確かめなくてはならない。

そのため、明日1日この屋敷から離れるのは都合が悪い。

 

「えーとっ、ごめんね、タツミ君。僕はまだ君ほど自分の腕に自信があるわけじゃないんだ…だから、僕に護衛は務まらないかな」

 

苦笑を交えつつ、タツミに謝る。

 

無論、真っ赤な嘘だ。

タツミを騙してしまった事に多少罪悪感は感じるが、今は優先度が違う。

 

「そうなの?貴方、見た目ならタツミよりも強そうよ?」

 

不思議そうな顔のアリアの横で、そんな…と落ち込んでいるタツミ。

 

「でも、泊めて貰っている身で何もしないわけにはいかないからね。もし良かったらなんだけど、屋敷の掃除とか雑用を手伝わせてもらえないかな?」

 

リンの提案にアリアは頷き、

 

「そうね、それじゃあお願いしようかしら。あ、でも入っちゃいけないお部屋もあるから、詳しくは後で話すわ」

 

「うん、わかった。()()は得意なんだ。明日の夜には屋敷にクズ1つ残らないように綺麗にするよ」

 

そう。

掃除は自分の最も得意とするところだ。

 

どんなに多くとも、それがクズ()であるならば塵1つ残さない。

 

そういう意味で捉えれば、僕は案外綺麗好きなのかもしれないな。

 

1人、内心苦笑していると、

 

「ふふっ。期待してるわ、リン。それじゃあ、今日はもう遅いから客間に案内するわね。あ、それとリン、これが家の見取り図よ。✖︎印がついてるところには入らないでね?」

 

アリアから家の見取り図を手渡される。

 

あれ?普通家に見取り図なんてあったっけ?と、混乱しているタツミを横目に映しながら、リンも思わず目を丸くする。

 

✖︎印は計3ヶ所。屋敷内に2つ、庭に1つか……

 

驚いたものだ。

 

本来なら、明日は1日かけて屋敷内をしらみつぶしに調査し、怪しい場所の目星を何ヶ所かつけておくつもりだった。

 

それがどうだ。

 

ヒントどころか、向こうからいかにもな場所を教えてくるとは些か間抜けすぎる。

それとも、何が起きても隠し通せるという自信の表れなのだろうか。

 

「うん、ありがとうアリアさん。それじゃあ悪いけれど、僕はこれで失礼するよ。正直、旅の疲れで立っているのもやっとなんだ」

 

 

「そうね…ほんとはディナーをご馳走してあげたかったのだけど、今日はもう遅いし。2人も疲れているみたいだから、それはまた明日ね。それじゃあ、お休みなさい。タツミ、リン。」

 

「おぅ、お休み。」

 

「お休み、アリアさん。」

 

笑顔で手を振るアリアに背を向け、タツミと共に割り当てられた客間へ移動する。

 

部屋はタツミとリンに1つずつ用意されており、赤い絨毯に天蓋付きのベッド、机、さらには個室シャワーまで付いた豪華っぷりだ。

 

「なぁ……リンさん。俺、ほんとにここで寝ていいのかなぁ……?この部屋、村にある俺の家の4分の3くらいある気がするんだけど」

 

ハイライトの消えた目で、自分に割り当てられた部屋を眺めるタツミ。

 

俺…まだ馬小屋で寝る方が落ち着けるかも……とは本人の弁だ。

 

「まぁまぁ。今くらい贅沢してもバチは当たらないよ。どうせ泊まると言っても明日までだしね。」

 

「そうかなぁ…?あの様子じゃアリアさん、いつまでも家にいなさい!なんて言い出してきそうなんだけど…」

 

「はははっ。確かにそれに関しては同感かな。」

 

笑顔で返すリンに、だよなぁ〜っと肩を落とすタツミ。

 

だが、その表情はニヤついており、寧ろこの家にもっと居たい気持ちがバレバレだ。

 

「……でも、ここの家族のお世話になるのは明日までだ。それだけは変わらないよ。」

 

そう。

 

タツミ君には悪いが、この家に滞在するのは長くて明日の夜まで。決して明後日が来ることはない。

 

ここの家族(悪たち)に、明後日の空を見させることはしない。

 

「お……おう?そ、そうだよな!あんまり迷惑かけちゃいけないもんな!」

 

タツミのぎこちない応答に笑みを溢しながら、自分に割り当てられた客間のドアノブに手をかける。

 

「それじゃあタツミ君、また明日。護衛頑張ってね。」

 

「あぁ、リンさんも。一緒に護衛出来ないのは残念だけど、掃除頑張ってくれ。」

 

「うん。お休み。」

 

笑顔で返すタツミにひらひらと手を振りながら、どちらからということもなく、互いに部屋に入る。

 

「ふぅ……っ」

 

ベッドに腰掛け、小さく一息。

それがスイッチ。

 

頭の中が一気に冴え渡り、リンの瞳から先ほどまでタツミに向けていた優しさの色一切が塗り潰される。

 

 

今頭の中にあるのは、ここの悪3人をどう殺すかというそれだけだ。

 

1人1人を殺すのは大して苦じゃない。けど、ここの兵士は一家が持つにしてはそれなりに数が多い。殺している最中に騒がれて(クズ)に逃げられるのだけは避けなくちゃ。それに……

 

それに、今この場にいるのは自分だけじゃない。

もし、開き直った(クズ)たちがタツミ君を人質にとりでもしたら事態は最悪だ。

それだけは絶対に阻止しなくてはならない。

 

そうなると、やっぱり動くのは深夜か。全員が寝静まった後ならタツミ君を巻き込む心配もないし、警備兵に見つかるリスクも減る。

 

なら、明日は夜になるまで掃除ついでに屋敷をまわって構造を頭にいれておこう。

それだけで、暗殺の成功率は飛躍的に上がる筈だ。

 

「よしっ、こんなところかな」

 

ふぅ……っと、もう一息。

だが、今度のそれは脱力によるものだ。

 

そのまま後ろに倒れていく体の重力に身を任せ、ベッドに軽く横になる。

ベッドに沈む体と、それを押し返す反発力の具合が実に心地良い。

帝都に来るまでの道すがら、寝床といったら馬車の荷台だったり安宿のオンボロベッド、果てには硬い地べたにそのまま寝転がるということもあった。

だからこそ、この心地良さは疲れからくるリンの睡眠欲を優しく包み込む様に刺激してくる。

 

思い返せば、今日1日の内容はあまりに濃密だった。

出会いと別れの連続。

 

帝都に着くまでにルヴィスさんと知り合い、次に土竜一頭。それから帝都の街を歩き回り、1人の少女との出会い。そして今生の別れ。

ズック邸でのゴミ掃除(蹂躙)と帝具使いとの戦闘。

ナイトレイドを名乗るレオーネさんとの出会い。

タツミ君と、ここの(クズ)3人。

 

これだけの邂逅の数々。それならこの体を渦巻く倦怠感も納得だ。

 

右腕を額に当て、肺に溜まった空気を一気に吐き出す。

それだけで幾らか体の倦怠感は和らぐが、吐き出した空気が重くのしかかるかように自分の体はまだ重いままだ。

 

「さすがに少し疲れたな……少し休まなきゃ……」

 

小さく呟き、額に当てていた右腕を下ろそうとした刹那。

ふと、自分の右手首に結び付けられた、淡い水色が目に入る。

 

それは、1つのリボン。

どこにでも売っているような、なんの変哲もないただの布。

 

「……姉さん」

 

だが、リンにとっては違う。

これは宮殿を去る時に持ち出した、自分の手元に残った、たった1つの、唯一の姉さんの形見だ。

 

 

いつの頃だったか。

 

姉さんの誕生日に、1つの淡い水色のリボンをプレゼントしたことがあった。

そのために父や使用人の目を盗んで宮殿を抜け出し、下町で買った、決して高価ではない安物。

 

でも、姉さんはとても嬉しそうにつけてくれていたっけ…

 

そんな僕の精一杯のプレゼントを、姉さんは毎日つけてくれていた。

プレゼントした自分が言うのもなんだが、姉さんのきらきら輝く綺麗な金髪にとてもよく似合っていたと思う。

「リンも()()()()()()()()()なんだから、絶対似合う筈よ」と、リボンをつけられ、危うく女装させられそうになったこともあった。

 

1回、パーティーに姉さんと出席した時に、そのリボンを安物だ、僕がもっと良い物をプレゼントするよと揶揄してきた同年代の男の子がいた。

実際本当に安物だったから僕は何も言い返せなかったけど、姉さんは違った。

姉さんのあんなに怒った顔を見たのはそれが初めてだ。

その男の子が号泣するまで散々怒号を飛ばし、パーティーは中止。

帰ってから父さんにこっぴどく叱られたけど、姉さんはずっとムスッとしてたっけ。

 

「リン、私たち…『永遠』にずっと一緒だよ!」

 

姉さんが太陽のような眩しいくらいの笑顔で、そう言ってくれたことを今でも覚えている。

 

その時はその言葉を信じて疑わなかったけど、それから直ぐのことだ。

 

--------あの日が起きたのは

 

「--------っ」

 

リボンから目を背ける。

 

だめだ…このリボンを見てしまったら、思い出が溢れて止まらない。

 

「『永遠』に私たち一緒だね!」と言ってたのに。

 

『永遠』がこんなにすぐ終わるなんて。

 

 

右手首に結び付けられたリボンを、左手で痣が出来るほど強く握りしめる。

 

もう2度と訪れることはない、遠く揺らぐ日々を追いかけながら。

 

熱くなる目頭を押さえ、頰を一筋の涙がつたうのも気がつかないまま。

 

リンはそっと、瞼を閉じた。

 

 

***

 

 

夢を見る。

 

 

遠い彼方の、色とりどりで穏やかな風景。

 

姉さんが笑っている。

 

父さんが笑っている。

 

3人で過ごした日常。

 

繰り返す、あの頃の日常。

 

そこには黄色があって、緑があって。

青があって、水色、桃色、黄緑、藍色、空色、オレンジ、白、虹色。

 

1つ1つあげていけばキリがないほど、それは彩られていた。

 

 

だが、終わりは違う。

 

その日々()が終わりに近づくに連れて華々しい色の数々は、ある1つの色へと変わっていく。

 

それは、赤。

 

真っ赤。真紅。緋。朱。紅蓮。

 

目眩がするほどの夥しい『赤』が、視界を一色に染め上げていく。

 

それは、血の赤。

 

怒りの赤。

 

憎悪の赤。

 

様々な要素が赤一色へと変換され、自分の体に纏わりつく。

 

下から足、膝、腿、腹、肩、首、口。

 

口が呑まれた時点で、もう叫ぶ事すら出来ない。

 

次第に『赤』は鼻すら呑み込み、次は目を覆い尽くそうと迫ってきた時--------

 

 

「--------っ!あっ、はぁっはぁっ…」

 

勢いよく身を起こし、掛けてあった布団をはね飛ばす。

全身は嫌な汗に濡れ、前髪は額に張り付いている。

 

どうやら寝てる間に、相当魘されていたようだ。

 

「あぁ……またやっちゃったか」

 

小さく溜息をつき、部屋に備えつけられていた時計を流し見る。

 

その短針と長針は、無慈悲にも同じ12の数字を指し示していた。

 

「最近は見ないと思ってたのに。帝都に戻って来たからなのかな……」

 

自分はこの夢を見ると、決まって寝過ごす悪癖がある。

 

今日はまだいつもより気を張っていたからかマシな方で、普段なら起こしてくれる人がいないと昼を過ぎることもあったりするほどだ。

 

「シャワー浴びたいな……」

 

寝汗でぐっしょりの服を脱ぎ捨て、個室シャワーの中へ。

そこで冷水を浴びさっぱりした後、この屋敷を調査しに、客間を後にした。

 

 

 

 

結論から言うと、この家族は間違いなく黒だ。

 

見取り図にある✖︎印のついた3つの部屋のうち、屋敷内にあった2つの部屋は所謂薬品庫だった。

 

凡そ人間に投与すべきではない数々。

その全てが所狭しと並べられ、ご丁寧にラベル分けまでされていた。

 

一刻でも早くここのクズたちを始末したいと邪念が頭をよぎるが、それはそれ。

最後の一部屋を見てからだ。

 

屋敷の構造を頭に入れるため、少し寄り道をしながら最後の1つがある庭の離れへ向かう。

 

「ここか…」

 

足を止めた目の前にあるのは、重々しい雰囲気の扉。

 

重厚感のある鉄と幾重にも重ねられた南京錠は中の臭気を僅かでも漏らさないように設計されており、まるで侵入者を拒んでいるかのようだ。

 

「鳴神」

 

だが、今そんなことはなんの関係もない。

 

能力を解放されたリンの帝具 『疾風迅雷 鳴神』が迸る雷鳴と共に瞬き、まるで豆腐に包丁を入れるかのように幾重にも重ねられた南京錠を音も無く両断。

 

断ち切られた南京錠は重力に従って地に落ち、重厚感溢れる鉄の扉が軋みをあげながら一人でに開かれる。

 

その瞬間--------

 

「……っ!」

 

開け放たれた扉から外の空気を求めるかのように溢れだしてきたのは、尋常ではないほどの死臭。

 

まるで、人間の血と臓物を一緒くたに煮詰めた後に数日間放置したかのような悪臭がリンに襲いかかる。

 

だが、今はこんな臭い程度で足を止められているほど暇じゃない。

 

軋みをあげた扉をさらに開け放ち、中へと入る一歩を踏み出す。

 

そして、リンの双眸に映った光景は--------

 

「これは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草木も眠る丑三つ時。

 

町、草花すらも眠りにつき、辺りが静寂に包まれた深夜。

 

「そろそろかな……」

 

その夜の闇に溶け込むかのように、客間で刀を携える銀髪の青年が1人。

 

時間帯的にも全員が寝静まった後だろうし、暗殺にはおあつらえむきの時間だ。

 

時刻は午前2時。

時間だ。

 

腰を下ろしていたベッドから立ち上がり、歩いてドアノブに手をかけようとするその瞬間。

 

「っ!?」

 

突如背筋に奔る、鋭い悪寒。

 

「今のは……」

 

感じたのはほんの一瞬だけだったが、これだけは、この感覚だけは何があっても間違えるはずがない。

 

殺気……それも相当の。

 

間違いない。今、屋敷内で誰かが殺された!!

全身を嫌な予感が駆け巡る。今の殺気は間違いなくこの屋敷にはいなかった第三者のものだ。つまり、自分とは違う人間がこの屋敷の家族を襲いに来たということになる。

 

いや、別にそれはどうでもいい。

 

悪を自分の手で根絶やしにしないと気がすまないわけではないし、むしろ、それが何者であろうと悪を殺してくれるのなら大歓迎だ。

 

「けど……今ここにはタツミ君がいる…っ!」

 

だがそれは普段は、の話だ。

もし、第三者が盗賊や何かだった場合、屋敷内にいる人間を全員殺すなんてこともあり得ない話ではない。

警備兵やタツミ君の練度もそれなりに高いほうではある。だが、先ほど感じた殺気から推察するに、彼らでは襲撃者の相手にもならない!

 

「っ!!」

 

冷や汗がどっと噴き出す。

不安と焦りで、正常に脳が働かない。

 

彼だけは巻き込んではいけない。

もう2度と、姉さんや少女のような犠牲者を出しちゃいけない!

 

弾かれるようにして、リンは自分の客間を飛び出すと、隣にあるタツミの客室のドアを殴るように叩きつける。

 

「タツミ君、タツミ君!!いるかい!?」

 

大声で呼ぶが、返事はない。

やむなく客間の扉を鳴神で斬り刻み、無理やり中へ押し入る。

 

「タツミ君!!」

 

だが、リンの悲痛な叫びも虚しく、彼は其処にはいなかった。

 

悪い想像ばかりが膨らんでいく。

もし、さっき殺されたのがタツミ君なのだとしたら……

 

「いや、落ち着け……まだタツミ君が殺されたなんて証拠は何1つないじゃないか……」

 

そうだ、まだタツミ君が殺されたわけじゃない。彼の姿が見当たらないのは不安だが、血の跡が1つも見当たらないじゃないか。

 

部屋を見渡す限りでは、血痕や器具の破損などが物語る戦闘の痕跡は1つもない。

 

「ん……?」

 

そういえば、タツミ君の姿の他に、彼が持っていた剣もない。

 

なるほど。大方タツミ君も殺気に気づいて、アリアさんを護りにいった、というところか。そういうことなら--------

 

「鳴神っ!!」

 

帝具が起動。

 

パチィッと、索敵用の微弱な電磁波が同心円上に広大なアリア邸の隅々まで行き渡る。

 

どこだっ、どこだっ、どこだ!

 

「っ!見つけた!」

 

ようやくタツミ君の姿を発見する。いや、実際には数秒の時間すらもかかってはいないが、まだ抑えきれない不安と焦りがリンから正常な時間感覚を奪っていた。

 

「場所は……離れの倉庫の前か。ん?」

 

倒れているタツミ君の側に、もう2つの反応があることに気づく。恐らく1つはアリアさんのものだろう。だとしたらもう1つは……

 

……ん?倒れている?

倒れているタツミ君に向かい合う1つの反応。そしてそのまま、手に持った刀を振り抜こうとして--------

 

「まずい……鳴神!」

 

窓を叩き斬り、空へ。

通常ならば、空へ身を投げ出した瞬間に重力によって体は真下へ垂直に落下するのが道理だ。

だが、今のリンに『通常』などという道理は存在しない。

もう2度と、大切な人を失わないために、圧政に苦しむ人々のために、今も殺されゆく人々のために…!『通常』などといったくだらない括りなど、地獄への前切符としてとうの昔に置いてきた!

 

紫電が夜空を駆け抜ける。

 

もう2度と……姉の嫌った結末へと至らないために。

 

 

 

 

***

 

「では葬る」

 

目前に、刀の切っ先をこちらの喉笛に向け、感情のない冷たい声で言い放つ少女。

その小さな体躯からは考えられないほどの鋭い殺気が、タツミの背筋を凍らせる。

 

----少なくとも……今の俺に勝てる相手じゃない……

 

巨大極まる殺意の視線に晒され、脳が必死に絞り出した答えがこの1つ。

 

逃げろ、と全身を生命危機のサイレンが鳴り響いている中、フゥーッと1つ、肺に溜まった空気を小さな息と共に長く吐き出す。

 

----けど……そんなこと気にしてられない!!

 

少女の冷たい双眸を、静かに睨み返す。

 

----そもそも女の子1人救えない奴が……村を救えるはずがない!!

 

それに、あんな殺気、冷たい双眸、自分が殺されるかもしれない恐怖なんかより、後ろにいる女の子や、村のみんなを救えないことの方が何倍も怖い!

 

気合い一閃。

 

踏み込みと同時に下方向からの薙ぎ払い。

だが、全力を籠めて放った一撃に少女は真上に身を翻らせることで軽々と避けてみせる。

 

「ヤベッ……!」

 

瞬時に体勢を立て直そうとするが、未だ地に足をつけていないというのにも関わらず回避と同時に放たれた鋭く重い蹴りに体の重心が容易く崩される。

 

「グッ!」

 

そのまま体勢を立て直せず、地面に背を強く打ち付ける。

 

圧倒的な力量差。格の違い。

 

ったく……斬り合いにすらなんねぇなんてな。かっこ悪りぃ……

 

相変わらずの無表情。赤い目をした少女は、ゆっくりとその手に握った刀を振りかぶる。

 

ちっ、ほんとになさけねぇ……

守れなくてごめん、アリアさん。村のみんな…救ってあげられなくて…ごめん。

イエヤス、サヨ……ごめん。死ぬ前に、もう一度会いてぇなぁ……

 

「葬る」

 

言葉と共に、少女が刀を振り下ろす。

それがまるで、スローモーションのように、ゆっくりと迫ってきて------

 

--------()()()()()()

 

少女の背後に、その命を刈り取ろうと激しく明滅する眩いほどの雷光と、()()()()()()姿()()

 

「ッ!?」

 

今まで一度も表情を崩さなかった赤目の少女が初めて、その顔を驚愕に染めあげる。

 

それもそうだ。

 

突如、背後から現れた青年は、先ほど自分に向けて放たれた少女の殺気など比べ物にならないほど、肌を刺す鋭さと冷たさ、そして、濃密な『死』を纏っていたのだから。

 

「フッ!」

 

小さい息吹と共に、頸動脈を寸分の狂いなく断ち切ろうと放たれた容赦のない横一閃。

 

「くっ!?」

 

だが、そこは少女も只者ではない。

ありえない速度で頸動脈に迫る雷光の刃を、なんとか自身の刀を間に滑り込ませることで防御する。

 

「無事だね?タツミ君。よかった……間に合って」

 

少女の刀と鍔迫り合いながらも、余裕のある声音で自分の安否を確認し、ホッと胸を撫で下ろすリンさん。

 

否。

あれは本当に、自分の知ってるリンさんなのだろうか。

今までの人生で1番だと断言できる殺気を放った少女のソレを、容易く超える殺意の奔流。自分に向けられているわけではないにも関わらず、足の震えが止まらなくなるほどの絶対零度の視線。

 

それは間違っても、自分の隣でいつも柔和な笑みを浮かべていた銀髪の青年のものとは思えない。

 

喩えるなら、それはどこまでも澄み切った氷晶の瞳。

だが、そこに氷晶の美麗さは欠片もない。

澄み切った透明さは感情という色の一切が淘汰され、氷の瞳は見る者全てを震え上がらせる。

 

朝の陽光を思わせる柔らかな笑みを浮かべていた青年とは別人としか考えられないほどに、今の彼の視線は氷造の剣で全身を隙間無く、絶え間無く突き刺す様で。

 

冷たい、寒い。

 

鮮血に濡れた、絶対零度の氷柱が如く。

 

感情のない冷たい瞳が、やはり冷たく刀を鍔迫り合わせるその向こうから少女の赤い双眸を見下ろしていた。

 

「---------っ!」

 

堪らず、少女の方から刀を離し距離を取る。

だが、その双眸はまだリンの姿を油断なく捉えたままだ。

 

「………お前も標的ではない。だから、斬る必要はない」

 

僅かに緊張を含む少女の言葉に、リンは口元を緩め、小さく笑みを零す。

 

「うん、そうだね。確かに、君の狙いはここの貴族とそこいらに転がってる警備兵たちみたいだ。正直に言うとね、僕の狙いもそうだった。だから、本当は君()と争う必要はないんだよ」

 

「ッ!!なら-----------」

 

「けどね、君達は()()()()()()()()()()()()。まぁ、僕個人の信条みたいなものだけど、どのような理由、どのような大義があったとしても、無関係な人間を巻き込むのは、許せないなぁ…….」

 

言い終わると同時に、今まで薄く零していた笑みが急速に冷め、冷酷な眼光が少女を射貫く。

 

少女の頬に僅かに光る冷や汗が1つ。

 

……アイツでも戦うのを避けたい相手なのか、リンさんは-------

 

それを見ながら、未だに驚愕が止まらないタツミ。

ほんの少し前まで汗ひとつ、息ひとつ乱さず自分を圧倒していた赤目の少女。それだけでも人外認定したというのに、その少女から躊躇いを感じさせるほどのリンさんとは、一体何者なのか。

 

加えて、リンさんのあの刀。

 

細部は所々違っているが、まるで同じ人物が、寸分違わぬ技術で同じくらいの時間をかけ、同じくらいの情熱の注いで造られたとしか思えないほど少女の持つ刀と瓜二つ。

二振りの刀はどちらも尋常ならざる気を帯びており、それ故にひと目で解る。理解できてしまう。

 

どちらも剣というカテゴリーでの最高峰。

あの二振りは、まさしく『最強』と形容するに相応しい代物だ。

 

その『最強』を手にした担い手同士が今、静かに睨み合う。互いに隙など一切無い。そんなものを見せれば一瞬で自分の首が飛ぶ。

息遣い。視線。気迫。重心。思考。

その一切合切が、敵を殺すためだけのものへと切り替わる。

 

1人は、遠い過去との決別を。

 

1人は、未だ見ぬ未来の幸福を。

 

闇夜に白銀の閃きが2つ。

それぞれ譲れぬもののために、刃を振るう。

 

 

 

 

 

-------全ては、この夜から

 

 




皆さん、とんでもなくお久しぶりです。key9029☆です。

実に半年以上ぶり……嗚呼、自分の無能っぷりが嘆かわしい。タグを亀更新から不定期更新に変えておこうかな…

そしてこんなにも時間を空けたので文章も少し雑になってます…
そして前回の後書きに次回はナイトレイドとの会合を入れます!と書きましたが、
「いったいいつから、ナイトレイド全員との掛け合いだと錯覚していた?」
はい。ちょーしのりましたマジすいません

こんなどうしようもない作者ですが、それでも後書きまで読んで下さる読者の皆様。本当にありがとうございます。
作者の動力源は感想をいただくことなので、どんな短文でも送っていただければ泣いて喜びます。(誹謗中傷は泣いて狂乱します)

さて、それでは最後になりますが、この作品を読んで下さる読者の皆様に最大の感謝を。




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