問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? (ほにゃー)
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YES!ウサギが呼びました!
プロローグ


雪が降り、冷たさが身に染みる中、

 

俺はスーパーの袋を持ち歩いている。

 

「あ~、さみぃ~。地球温暖化ってのは嘘だな」

 

俺の名は、月三波・クルーエ・修也。

 

名前の通りハーフだ。

 

髪と瞳の色が銀髪で少し変わっている。

 

それも、その筈、俺は普通の人間と少し、いや、大分違う。

 

なぜなら……

 

「おい!月三波!今日こそ、借りを返させてもらうぞ!」

 

見るからに、俺、不良といったような奴が俺に声を掛ける。

 

確か、こいつは半年ぐらい前から俺に因縁吹っかけてきた不良じゃねーか。

 

「はぁ~~~~~~」

 

盛大に溜息を吐く。

 

「す……すみませんでした。…もう…このようなこと…二度と……しません」

 

全身をフルボッコにされ不良は謝罪の言葉を吐く。

 

「どうせ、また、喧嘩吹っかけて来るんだからそんなこと言うな」

 

取りあえず満身創痍の不良の脇腹に蹴りを入れ気絶させる。

 

「………つまんねぇーな」

 

お気に入りの黒いコートを整え、袋を拾い帰路に着く。

 

「あ………卵、割れてる」

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

返事が返ってこない部屋、買い物袋をテーブルに置こうとすると

 

あるものが目に入った。

 

袋を置き、ソレを取る。

 

『月三波・クルーエ・修也殿へ』

 

俺宛の手紙だ、だが、誰だ?

 

この部屋には鍵が掛かってるし、窓にもしっかりと鍵が掛かっている。

 

それなのに、俺宛の手紙が部屋の中にある。

 

怪盗気取りの泥棒が入ったのかと思い部屋を調べるが盗られた物は無い。

 

ちょっとしたミステリーだ。

 

人の家に侵入し、物を取らずに手紙を置く。

 

更には、侵入に気付かせない手口。

 

そこに1つの幸福感を感じた。

 

思わず笑みがこぼれる。

 

何処の誰か知らないが、感謝するぜ。

 

胸を躍らせるような思いは久々だ。

 

高鳴る鼓動を押さえながら封を解き、手紙を読む。

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 

その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

 

己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、

 

我らの“箱庭”に来られたし』

 

 

 

読み終えた瞬間、妙な浮遊感を感じた。

 

思わず下を見ると、巨大な天幕に覆われた都市が見えた。

 

そして、下に落ちてる感覚がきた瞬間、

 

全てを悟った、これは、怪盗気取りの泥棒からの置き手紙なんかじゃねー。

 

未知の存在からの、未知の世界への招待状だ。

 

「こりゃ、楽しめそうだな」

 

そう思い、上空4000mから、落下し、緩衝材のような幕を幾つか通り、

 

そして、湖が見えた。

 

「ちょっ、それは、マズッ」

 

「きゃ!」

 

「わっ!」

 

ばしゃん、と4つの音を立て俺は水の中に落ちる。



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第1話 異世界で問題児たちと知り合うそうですよ?

俺と2人の少女、1人の少年が同時に湖の中に落ち、全員が濡れる。

 

「信じられないわ!まさか、問答無用で呼ばれて、水の中に落とされるなんて!」

 

「右に同じだ。クソッタレ。これなら石の中に呼び出される方がよっぽとマシだ」

 

「石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

「三毛猫……大丈夫?」

 

『二、ニャ~、(じぬかとおぼった……)』

 

3人は湖から上がり、服を絞る。

 

俺はというと、

 

「ガホッ、ゴホッ、ちょっ、誰か……た、助け…」

 

溺れていた。

 

「……あれ、どうする?」

 

「ほっとけばいいんじゃね?」

 

「流石にそれはまずいわよ」

 

「しゃーねーな。助けてやるよ」

 

ヘッドホンを付けた少年が足元の小石を拾いソレを

 

「ぶっ飛べや――――!」

 

湖に投げた。

 

小石が湖に投げ込まれると巨大な水柱が上がり、それに巻き込まれる形で湖から脱出。

 

「助け方を考えろよ!」

 

空中で身を捻り器用に両足から地面に降り立つ。

 

「なんだよ。運動神経は良さそうじゃねーか」

 

「お前さ~、俺だからよかったものの死んだりしたらどうするんだよ」

 

「まぁ、いいじゃねーか。結果的に助かったんだし」

 

「さっき、ぶっ飛べや――――って言ってなかったか?」

 

気にすんなっといってヘッドホン少年はヤハハと笑う。

 

「此処……何処だろう?」

 

三毛猫を抱えた少女が言う。

 

「さあな、世界の果てっぽいものが見えたし大亀の背中じゃあねーか」

 

此処が俺たちにとって知らない場所でまた、未知の世界であるのは確かだ。

 

服を絞りおえヘッドホン少年が顔を向ける。

 

「一応確認しとくが、お前たちも変な手紙が来たのか?」

 

ヘッドホン少年は、髪をかき上げながら聞く。

 

「そうだけど、まず“お前”って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。

 

以後気を付けて。それで、そこで猫を抱えている貴女は?」

 

飛鳥は猫を抱えた少女に質問をする。

 

「………春日部耀。以下同文」

 

「そう。よろしく、春日部さん。それで、さっき溺れていながら凄い身体能力を持った銀髪の貴方は?」

 

耀の自己紹介が済み、今度は俺に矛先が向いた。

 

「月三波・クルーエ・修也だ。間違ってもクルーエとは呼ばないでくれ。呼ぶなら、月三波か修也で頼む。取りあえずよろしく」

 

無難に自己紹介をしとく。

 

こういう時はシンプルに。

 

「分かった」

 

「分かったわ。よろしくね、修也君。最後に野蛮で狂暴そうなそこの貴方は?」

 

「見たまんま野蛮で狂暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれ」

 

中々、面白い自己紹介をする奴だ。

 

「取扱説明書をくれたら考えてあげるは十六夜君」

 

「ハハハ、面白いな。修也だ。よろしくな、十六夜」

 

「おう、よろしくな、修也。後、今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

心からケラケラ笑う十六夜

 

傲慢そうに顔を背ける飛鳥

 

我間せず無関心を装う耀

 

なんか、すごい個性的なメンバーだな。

 

ついでにいえば、あそこの茂みで隠れている奴も気になる。

 

「てか、召喚されたのに誰もいないってのはどういうことだ?

こういう場合この“箱庭”ってのを説明する奴が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。説明のないままでは動きようがないわね」

 

「・・・・この状況に対して落ち着き過ぎてるのもどうかと思うけど」

 

「まったく同感だが、耀も落ち着き過ぎだよ」

 

「えっ?」

 

耀が俺を見て疑問の言葉を発した。

 

「ん?何?」

 

「名前。どうして名前で呼ぶの?」

 

あれ?もしかして男に名前で呼ばれるの嫌いな人?

 

「あ~悪い。もしかして嫌だったか?なら、やめるけど……」

 

「ううん。嫌じゃない。ただ、気になっただけ」

 

あぁ~そういうこと。

 

よかった、一瞬嫌われたかと思ったぜ。

 

てか、初対面で嫌われるってどんだけだよって話だな。

 

「いや、だって友達って普通は名前で呼ぶもんだろ」

 

「えっ、友達?」

 

あれ、もしかして俺とは友達になりたくないってオチ?

 

何それ。

 

俺、すげぇー、恥ずかしい奴じゃねーか。

 

「もしかして、俺と友達は嫌?」

 

「ううん。むしろ、嬉しい。ありがとう、修也」

 

耀がほんの少しだけ笑った。

 

なんというか、可愛かった。

 

「取りあえず、そこに隠れている奴に話を聞くか?」

 

十六夜の言葉に反応して振り返る。

 

へぇー、十六夜も気づいてたのか。

 

「あら、気づいてたの?」

 

どうやら飛鳥も気づいてたみたいだ。

 

「当然。かくれんぼじゃ、負けなしだぜ。修也と春日部も気づいてんだろ」

 

このパターンってもしかして……

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる。」

 

やっぱりか。

 

「まぁな、あんな獲物を狙うような視線送られちゃーな」

 

俺達の言葉に反応したのか、隠れていた人物が現れた。

 

「や、やだな~、御四人様、そんな怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?」

 

現れたのは、ミニスカートにガーダーソックスを履き、

 

頭にウサ耳を生やした少女だった。

 

「なんだ?バニーガールか?」

 

「ウサギ人間かしら?」

 

「……コスプレ?」

 

「痴女じゃね?」

 

上から順に十六夜、飛鳥、耀、俺の順番だ。

 

「ちょっと待って下さい!御四人様方、好き放題にいい好きです!というより、最後の方は失礼にも程があります!」

 

ウサ耳少女が怒りを露わにして切れる。

 

「俺達は前振りなしに呼ばれた揚句、湖に叩き落され全身ずぶ濡れにさせられたんだが………どう思うよ、十六夜君?」

 

「全くだぜ。これじゃ~怒りが収まらないなぁ~」

 

「同感ね。ちゃんと説明はしてもらうわよ」

 

「同じく」

 

悪そうなことを企む俺たちの思惑に感づいたのか、

 

ウサ耳少女がたじろぐ。

 

「そ、それに関しては黒ウサギのミスです。申し訳ありません。」

 

ウサ耳少女がウサ耳をへにょらせて謝るが………

 

「それで許すと思うか?」

 

十六夜が許しませんでした。

 

「ま、待ってください!ここは一つ穏便に黒ウサギの御話をどうか聞いていただけませんか?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「聞く気が無い」

 

「あっは、取り付くシマもないですね」

 

ウサ耳少女もとい黒ウサギはバンザーイ、と降参のボーズをする。

 

その時、隣にいた耀が消えていることに気付く。

 

どこ、行ったんだ?

 

っと、よく見たらいるじゃねーか。

 

黒ウサギの背後に。

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

力ない声で黒ウサギの耳を強く引っ張る。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

耀を怒るのに夢中で背後から来る十六夜に気付いていない。

 

「へえ? このウサ耳って本物なのか?」

 

十六夜は黒ウサギの右耳を掴み

 

「なら、私も」

 

飛鳥が左から左耳を掴み、引っ張る。

 

「ちょ、ちょっと待――――――」

 

黒ウサギの言葉にならない悲鳴が森中に響き渡った。

 

十六夜然り、飛鳥然り、黒ウサギ然り、耀然り

 

何やら楽しくなってきたな。



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第2話 黒ウサギの説明タイムだそうですよ?

「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

黒ウサギは涙目になりながらorzの形になって落ち込んでいる。

 

「いいから、さっさと説明しろ。」

 

取りあえず、話だけ聞くことになり全員で黒ウサギの前の岸辺に座る。

 

黒ウサギは気を取り直したのか咳払いをし、両手を広げた。

 

「それではいいですか、皆様。定例文で言いますよ? 言いますよ?さあ、言います!ようこそ“箱庭の世界”へ!我々は皆様にギフトを与えられたものたちだが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召還いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様は、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

黒ウサギの説明に飛鳥が手を上げて質問する。

 

「まず初歩的な質問からしていい? 貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

十六夜が無情にも断る。

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者(ホスト)”が提示した商品をゲットできると言うとってもシンプルな構造となっております」

 

また、十六夜に切れて説明を始める黒ウサギ。

 

「主催者って誰?」

 

耀が控えめに手を上げ聞く。

 

「様々ですね。修羅神仏が人を試すための試練と称して行われたり、コミュニティの力を誇示するために独自に開催するグループもあります。前者は自由参加ですが、“主催者”が修羅神仏のため、凶悪かつ難解で中には命を落とす物もありますが、その分見返りは大きいです。場合によっては新しい“恩恵(ギフト)”を手に入れることもできます。後者は、参加にチップが必要です。参加者が敗退すれば“主催者”のコミュニティに寄贈されます。」

 

「後者は俗物ね。チップには何を?」

 

「様々です。金品・土地・利権・名誉・人間……そして、ギフトも賭けることができます。新たな才能を他人から奪えればより高度なギフトゲームを挑む事も可能です。ただし、ギフトを賭けた場合、負ければご自身の才能も失われるのであしからず。」

 

そういう黒ウサギの顔には黒い影があった。

 

「そう。なら最後にもう一つ。ゲームそのものはどうやって始めるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、期日内に登録すればOK!商店街でも商店が小規模のゲームを行っているのでよかったら参加してください。」

 

「……つまりギフトゲームとはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

お? と驚く黒ウサギ。

 

「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞の輩は悉く処罰します。しかし!先ほどそちらの方がおっしゃった様に、ギフトゲームの本質は勝者が得をするもの!例えば店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればただで入手することも可能だと言うことですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし“主催者”全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

黒ウサギは一通りの説明を終えたと思ったのか、一枚の封書を取り出した。

 

「さて皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……よろしいですか?」

 

黒ウサギが俺達に確認を取るように聞いて来る。

 

その中、十六夜が手を上げた。

 

「待てよ。まだ俺が質問してないぜ?」

 

その声は威圧的でいつもの軽薄な笑顔が無かった。

 

「……どういった質問でしょう?ルールですか?それともゲームそのものですか?」

 

黒ウサギも十六夜の雰囲気を感じ取りやんわりと聞く。

 

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギここでお前に向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃない。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃない。俺が聞きたいのは……たった一つ。」

 

十六夜が目を細めて、俺達三人を見まわし、天幕に覆われた都市を見上げる。

 

そして、何もかも見下すような視線で一言

 

「この世界は・・・・面白いか?」

 

十六夜の目は至極真面目だった。

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』

 

手紙にはそう書いてあった。

 

俺達は全てを捨てて箱庭に来た。

 

それに見合うだけの催し物はあるのか?

 

それは、ここにいる俺達四人には重要なことだ。

 

十六夜の質問に黒ウサギはニッコリ笑いながら宣言する。

 

「YES。『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 



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第3話 コミュニティのリーダーとあのお方に出会うそうですよ?

「ジン坊ちゃ―ン!新しい方を連れてきましたよ―!」

 

黒ウサギが元気一杯に手を振りながら一人の少年に近づく。

 

見た感じまだ子供。

 

ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴的だ。

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの3人が?」

 

「はい、こちらの御四人様が――」

 

ジンの言葉に固まる黒ウサギ。

 

そして、ゆっくりと俺たちの方を振り返る。

 

「……え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」

 

「ああ、十六夜君のこと?彼なら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』と言って駆け出して行ったわ」

 

飛鳥の言葉に黒ウサギがウサ耳を逆立てる。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「『止めてくれるなよ』と言われたからだ」

 

「なら、どうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「『黒ウサギには言うなよ』と言われたから」

 

「嘘です!絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御三人さん!」

 

「「「うん」」」

 

打ち合わせをしたかのような息の合い具合がいい。

 

黒ウサギは前のめりに倒れる。

 

ジンはというと顔面蒼白になって叫ぶ。

 

「大変です!世界の果てにはギフトゲームのために野放しになっている幻獣が!」

 

「幻獣?」

 

「なんだ?ペガサスとかユニコーンとかバジリスクでもいるのか?」

 

「は、はい。世界の果てには強力なギフトを持った幻獣がいます。出くわしたら最後、人間じゃ太刀打ちできません!てか、バジリスクなんてそこまでの幻獣はいませんよ!」

 

なんだ、バジリスクはいないんだ。

 

「あら、なら彼はもうゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」

 

「さらばだ、十六夜。お前のことは忘れない」

 

「さらっと不吉なこと言わないでください!」

 

ジンに怒られるが、どうしようもないしな~。

 

「…ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

ゆらりと立ち上がる黒ウサギ。

 

心なしか怒ってる感じだ。

 

「わかった。黒ウサギはどうする?」

 

「問題児様を捕まえに参ります。ついでに――――“箱庭の貴族”と謳われるこの黒ウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」

 

その瞬間、黒ウサギの青い髪が桜色に変わった。

 

感情が高ぶると髪の色変わるんだな。

 

やっぱり、面白い。

 

髪を緋色に染めた黒ウサギは空中高く飛び上がった。

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくり箱庭ライフを御堪能ございませ」

 

門柱に飛び乗り、そこから全力の跳躍で俺たちの視界から消えた。

 

「箱庭のウサギは随分速く飛べるのね」

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですから、力もありますし、様々なギフトに特殊な特権も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣に出くわさないかぎり大丈夫なはずです」

 

へぇ~、黒ウサギって意外と凄い奴なんだな。

 

ちょっと興味が出てきたわ。

 

「取りあえず、十六夜君のことは彼女に任せて、箱庭に入りましょう。貴方がエスコートしてくださるの?」

 

「は、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ものですがよろしくお願いします。御三人のお名前は?」

 

「久遠飛鳥よ」

 

「…春日部耀」

 

「月三波・クルーエ・修也だ。よろしくな、ジン」

 

飛鳥と耀はジンに一礼し、俺はジンに握手を求めた。

 

「それじゃあ、箱庭に入りましょう。まずは、軽い食事でもしながら話聞かせくれると嬉しいわ」

 

飛鳥はジンの手を取り笑顔で箱庭の外門をくぐった。

 

「ほぉ~、これが箱庭か」

 

箱庭の中に入りまずは驚いた。

 

天幕で覆われていたのに中は太陽の光が指している。

 

『ニャ、ニャー!ニャーニャニャニャーニニャー!(お、お嬢!外から天幕の中に入ったはずなのに、お天道様が見えとるで!)』

 

「……本当だ。外から見たときは箱庭の内側は見えなかったのに」

 

確かに、外からは天幕で中は見えなかったのに

 

箱庭からは天幕が見えなく代わりに太陽は見えてる。

 

マジックミラー見たいな感じか?

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんです。この箱庭には太陽の光が受けられない種族もいますし」

 

「あら、それは気になる話ね。この都市には吸血鬼でもいるのかしら?」

 

「はい、いますよ」

 

「……そう」

 

少しおどけただけのつもりが、本当に吸血鬼がいて驚いてやがる。

 

吸血鬼か……いるんだ。

 

“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに入り、そこで軽食を取ることになった。

 

「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりでしょうか?」

 

店の奥から猫耳を生やした少女が注文を取りに来た。

 

猫耳……獣人っていうのか?

 

「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ、コーヒーを一つ。あと軽食にコレとコレと『ニャー!(ネコマンマを!)』」

 

「飛鳥、後、ネコマンマな」

 

「え?修也君食べるの?」

 

「俺じゃなくて三毛猫だよ」

 

耀の猫を指さして言う。

 

「ちょ、修也君!貴方猫の言葉が分かるの?」

 

「修也、三毛猫の言葉、分かるの?」

 

飛鳥と耀が驚く。

 

てか、耀、目を輝かせ過ぎた。

 

そんなに嬉しいのか?

 

「まぁ、大抵の動物と会話はできるぞ。アンタも分かるんだろ?」

 

猫耳店員に聞くと

 

「そりゃ、猫族ですからね。分かりますよ。それにしても、お歳の割に綺麗な毛並みの旦那さんですね。ここは、少しサービスさせてもらいますよ。」

 

『ニャー、ニャニャニャニャー、ニャニャ、ニャー(ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。

今度機会あったら甘噛みしにいくわ)』

 

「やだもー、お客さんったらお上手なんだから♪」

 

猫耳店員は鉤尻尾を揺らしながら店内に戻る。

 

耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。

 

「箱庭ってすごい。私以外に三毛猫の言葉が分かる人いたよ」

 

『ニャー二ニャー(よかったなお嬢)』

 

「ちょっと待って、春日部さんも猫と会話できるの?」

 

動揺した飛鳥に耀は頷く。

 

「もしかして、修也君は春日部さんが猫と話せることに気づいてたの?」

 

「あぁ、さっきから三毛猫と話してるみたいだし、会話も成立してたからもしかしたらって思ってた」

 

「なら、言ってくれればいいのに……」

 

「も、もしかして、お二人は猫以外にも意思疎通は可能なんですか?」

 

ジンが興味深く質問してくる。

 

「うん。生きているなら誰とでも話はできる」

 

「流石に幻獣は分からないがな」

 

「そう、素敵ね。なら、あそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

 

「うん、出来……る?ええと、鳥で会話したことがあるのは雀や鷺、不如帰ぐらいだけど

ペンギンがいけたからきっとだいじょ「ペンギン!?」…う、うん、水族館で知り合った。他にもイルカとも友達」

 

ペンギンとも会話できるのか。

 

ペンギンか。

 

試したこと無いな。

 

いつか試してみたいものだな。

 

「全ての種と会話可能なら心強いギフトです。箱庭において幻獣との会話は大きな壁ですし」

 

「そうなんだ」

 

「一部の猫族や黒ウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」

 

へぇ~、意外だな。

 

箱庭なんだから色んな種族と会話できる奴はいると思ったんだが

 

「そう・・・春日部さんと修也君は素敵なギフトを持ってるのね。羨ましいわ」

 

飛鳥に笑いかけられ、困ったように頭を掻く耀。

 

対照的に、憂鬱そうな声と表情で飛鳥は呟く。

 

会って数時間だが、飛鳥の表情は飛鳥らしくな。

 

どこかそう思えた。

 

「久遠さんは…」

 

「飛鳥でいいわ」

 

「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」

 

耀の質問に更に顔を曇らせる。

 

自分の力が嫌いなのか?

 

「私の力は酷いものよ。だって」

 

飛鳥が自分の力の話をしようとすると、余計な奴が会話に入ってきた。

 

「おやぁ? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュニティ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃ

ないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

ジンを呼ぶ声。

 

見ると、二メートルは超える巨体にピチピチのタキシードを着た変な男がいた。



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第4話 問題児が喧嘩を売るそうですよ?

かなり長くなりました。


ピチピチのタキシードを着た男は

俺たちの座っているテーブルの空いてる席に腰を下ろした。

「貴方の同席を許可してはいません。それと僕らのコミュニティは“ノーネームです”。

 “フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー。」

「黙れ、名無しが。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいな。

 コミュニティの誇りである名も旗印も無いのに未練がましくコミュニティを

 存続させるなどできたものだな――――そう思わないかい、御三人。」

俺達に愛想笑いを浮かべるガルド。

対して冷ややかな目を向ける俺達。

「席に座るなら、名前ぐらい名乗ったらどうだ?」

「そうね。それと、一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

「おっと、これは失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ

“六百六十六の獣”の傘下の「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、

 ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧!!」

ジンが横槍をいれ、ガルドの話を面白くしてくれた。

今のは、面白かった。

「口を慎めや・・・紳士で通ってる俺にも聞き逃せない言葉もあるんだぜぇ。」

「森の守護者だったころの貴方なら少しは相応の礼儀で返していたでしょうが、

 今の貴方はこの二一○五三八○外門付近を荒らす獣です。」

ガルドの脅しに怯まずに真っ向から勝負するジン。

意外にも度胸はあるみたいだな。

「そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらん。

 自分のコミュニティがどういう状況か理解できてるのか?」

「そこまでだ。」

険悪ムードの二人に割って入り喧嘩を止める。

それに、気になることを聞きたいしな。

「取り敢えず、お前たちが仲が悪いのは分かった。

 それを踏まえたうえで聞く。・・・・

ジン、お前たちのコミュニティの現状を教えてくれ。」

「そ、それは・・・・」

ジンの顔に明らかに動揺の色が見える。

やはり、何か隠しているな。

「ジン、お前は、コミュニティのリーダーなんだろ。

 なら、同士として呼んだ俺達にコミュニティがなんなのか説明する義務がある。

 違うか?」

ジンは黙ったまんまだ。

拳を握り、震えている。

「これは、あくまで予想だが、ジンがコミュニティの現状を言わないのは

 何か言えない事情があるんだろ?

 それは、ジンのコミュニティは衰弱したコミュニティなんじゃないか。」

その言葉にジンの肩がビクッとなった。

「理由はさっきガルドが言った過去の栄華に縋るって部分だ。

 察するにジンのコミュニティは元々、名が知られたコミュニティだった。

 それがなんらかの理由で衰弱した。

 そのため、異世界の俺達を呼び出しコミュニティの再建をしようとしている。

 そのことを言わないのは、

 言ったら俺たちがコミュニティに入らないかもしれないから。

 更に、黒ウサギもグルだな。

 十六夜がコミュニティに入るのを断った時、怒ってたしな。

 それと、俺達にはまだ、他のコミュニティを選ぶことができる。

 どうだ?違うところはあるか?」

「いやはや、頭が良い方だ。

 その通り、貴方の推理通りですよ。

 ジン君のコミュニティは数年前までこの東区最大手のコミュニティでした。

 最もリーダーは違います。

 ジン君とは比べようもないぐらい優秀な男だったそうですよ。

 ギフトゲームの戦績も人類最高の記録を持っており、

 南北の主軸コミュニティとも親交が深かった。

 南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、

 箱庭の上層に食い込むコミュニティは嫉妬を通り越して尊敬する程に凄いのです。

 まあ、先代は、ですが」

ガルドはジンを見ながらそう言う。

店員が持ってきたコーヒーを啜り、質問をする。

「名と旗印ってのは?」

「コミュニティは箱庭で活動する際に、

“名”と“旗印”を申請しなくてはいけません。

 特に旗印は、コミュニティの縄張りを示す重要なものです。

 この店にもあるでしょう。」

ガルドが示す先には六本の傷が描かれた旗が飾られていた。

「話は変わりますが、もし、ここを自分のコミュニティ下に置きたければ

 あの旗印のコミュニティに両者合意でギフトゲームをすればいいのです。

 実際に私のコミュニティはそうやって大きくしました。」

「つまり、さっきからあんたの胸元にあるマークと同じ旗が掛かってる店は

 あんたのコミュニティの支配下ってわけか。」

この店を除く、あちらこちらにガルドの胸元にある虎の紋様をあしらったマークが

あるのはそういう訳か。

「はい、残ってるのはここの店みたいに本拠が他区にあるコミュニティや

 奪うに値しない名もなきコミュニティぐらいですよ。」

嫌味を浮かべた笑顔でガルドはジンを見る。

ジンは、悔しさに唇を噛みしめている。

「話を戻そう。

 つまり、ジンのコミュニティには旗印と名が無い。

 故に“ノーネーム”ってわけか。

 なら、どうして、名と旗印がないんだ。」

「奪われたのですよ。この箱庭の天災“魔王”にね。

 名も旗印も主力も奪われ今や、

 失墜した名もなきコミュニティでしかありません。

 名乗ることの出来ないコミュニティに何ができると思います?

 商売?主催者?名もない組織など相手にされません。

 ギフトゲームに参加しようにも優秀な人材が

 失墜したコミュニティに加入すると思いますか?」

「誰も加入したいと思わないだろうな。」

「そうでしょう。それに、彼はコミュニティの再建を掲げていますが、

 実際のところ黒ウサギにコミュニティを支えてもらっています。

 ウサギはコミュニティにとって所持してるだけで大きな“泊”が付きます。

 どこのコミュニティでも破格の待遇で愛でられます。

 なのに彼女は毎日毎日糞ガキどもの為に身を粉にして走り回り、

 僅かな路銀でやりくりしている。

 本当に不憫ですよ。」

ワザとらしく額に手を当てヤレヤレといった感じに首を振る。

「なるほど。あんたのおかけで色々分かった。

 ところで、あんたは何しにここへ来た?

 世間話をしにきたわけじゃないだろ?」

その質問にガルドはニヤリと笑う。

「単刀直入に言います。

 黒ウサギ共々私のコミュニティに来ませんか?」

「な、何を言い出すんですか!?」

ガルドの提案に驚きジンが声を荒げる。

「黙れ。そもそも、お前が名と旗印を改めていれば

 最低限の人材は残っていたはずだろが。

 それを、お前の我儘でコミュニティを追い込んでおきながら、

 異世界から人材を呼び寄せた。

 何も知らない相手なら騙せれると思ったのか?

 その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら

 こっちも箱庭の住人として通さなきゃならん仁義があるぜ。」

ガルドの獣のような鋭利な輝きを持った目にジンが僅かに怯む。

だが、何も言い返さない。

おそらく、俺達への後ろめたさがあるんだろう。

「どうですか?返事は直ぐにとは言いません。

 あなた達は箱庭で三十日間の自由が約束されます。

 彼のコミュニティと私のコミュニティを視察して検討してからでも―――」

「その必要は無い。

 俺はジンのコミュニティに入るからな。」

「「はっ?」」

ジンとガルドの声が重なる。

「耀と飛鳥はどうだ?」

紅茶を飲んでいる耀と飛鳥に聞く。

「私もジン君のコミュニティで間に合ってるわ。春日部さんは?」

「私はどっちでもいい。私は友達を作るためにここに来たから。

 でも、修也がジン君の所に行くなら私もそっちにしようかな。」

「あら、随分、修也君と仲が良いのね。

 なら、私とも仲良くしてもらえるかしら?

 もちろん、友達としてね。」

恥ずかしかったのか髪を触りながら言う。

耀は少し考えた後、小さく笑った。

「・・・うん。飛鳥は私の知る女の子と少し違うから大丈夫かも」

『ニャニャー・・・・ニャニャニャニャニャ―、ニャニャ

(よかったなお嬢に友達できてワシも涙が出るぐらい嬉しいわ)』

耀と飛鳥が友達になり、三毛猫が泣きながら喜んでいる。

うん、良きかな、良きかな。

「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」

ガルドが額に怒りマークを浮かばせながら聞いて来る。

顔が引きつっているため動揺がまる分かりだ。

「私、久遠飛鳥は、裕福だった家庭も、約束された将来も

おおよそ人が望みうる全てを支払って箱庭に来たのよ。

『小さな一区画を支配してる組織の末端に迎え入れてやる』

と言われても魅力を感じないわ。」

「お、お言葉ですが『黙りなさい。』

急にガルドが口を閉じ喋れなくなる。

「貴方にはいくつか聞きたいことがあるわ。『大人しくそこに座ってなさい。』」

ガルドは椅子にひびが入るぐらいの勢いで座る。

店の奥から猫耳店員が慌ててやってくる。

「お客さん!当店での揉め事は控えてくださ―――」

「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも一緒に聞いて。多分面白いことが聞けるわ。」

飛鳥は悪そうな顔をして言う。

十六夜といい、飛鳥といい、耀といい、黒ウサギといい

面白い奴が多いねぇ~。

「さっきこの地域のコミュニティに両者合意で勝負をしたと言ってたけど

 コミュニティそのものを賭けるゲームはそうそうあるのかしら?

 そのへんはどう、ジン君。」

「は、はい。やむを得ない状況なら稀に。

 ですが、コミュニティの存続をかけたゲームですからそうそうありません。」

「でしょうね。なら、どうして貴方はコミュニティを賭ける大勝負ができたのかしら。

『教えて下さる』」

飛鳥の命令に歯向かうように抵抗するが徐々に口が開く。

「相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫し、

ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった。」

「小物らしい手ね。

でも、そんな方法で吸収したコミュニティが貴方に従ってくれるのかしら?」

「各コミュニティから子供を人質にとってある。」

こうもベラベラ喋るとはな。

飛鳥のギフトは相手を支配するギフトなのか。

「そう。それで、子供たちは今どこに幽閉されてるの?」

「もう殺した。」

空気が凍り付く。

俺も、耀も、ジンも、店員も、そして、飛鳥も一瞬耳を疑った。

「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。

それ以降は自重しようと思っていたが、

父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。

それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。

けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。

始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食『黙れ!!』

飛鳥の言葉でガルドが黙る。

さっきよりも力を強めたためか、勢いよく閉じた。

「素晴らしいわ。まさしく絵に描いたような外道ね。

 さすがは人外魔境の箱庭ね。」

「か、彼のような悪党は箱庭でもそうそういません。」

飛鳥の言葉を慌ててジンが否定する。

「なあ、ジン。今の証言でコイツは箱庭の法で裁けるか?」

「可能です。ですか、裁かれるまでに箱庭の外に出られたらそれまでです。」

「そう、なら仕方がないわね。」

飛鳥が指を鳴らすとソレを合図にガルドの体を縛り付けていた力が解かれた。

「こ・・・小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ガルドの体が激変し、タキシードは弾け、体毛が黄色と黒の縞模様になった。

ワータイガーって奴か。

「テメェ、どういうつもりか知らねえが・・・・

俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?

箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!

俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!

その意味が「『黙りなさい。』私の話はまだ終わってないわ。」

先ほどと同様にガルドの口が閉じられる。

だが、ガルドの腕が飛鳥を襲う。

耀と共に飛鳥とガルドの間に割って入った。

「喧嘩はダメ。」

「女に手を上げるのは紳士失格だな。」

ガルドの手を捻り回転させ、そのまま地面に押し倒す。

「ガルドさん。私は貴方の上に誰が居ようと気にしません。

きっとジン君も同じでしょう。

だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」

飛鳥の言葉に驚きつつも、しっかりと決意をした目でジンは答える。

「・・・・・・はい。

僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。

 いまさらそんな脅しには屈しません」

「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」

「く・・・・・・くそ・・・・・・!」

俺と耀のせいで身動きが取れないガルド。

コイツは、もうこうして悪態をつくぐらいしかできない。

「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できないの。

 貴方のような外道はずたぼろになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ」

飛鳥の言葉にジンと猫耳店員が首をかしげる。

「そこで皆に提案なのだけれど」

飛鳥は悪戯を思いつた少女のような笑みを浮かべている。

「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。

 貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇り と魂を賭けて、ね」

 



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第5話 和装ロリと知り合うそうですよ?

「な、なんであの短時間で“フォレス・ガロのリーダーに接触してしかも

喧嘩を売る状況になったんですか!?”」「しかもゲームの日取りが明日!?」

「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!「準備する時間もお金もありません!」

「一体どういう心算でがあってのことです!」「聞いているんですか四人とも!!」

ガルドとギフトゲームをすることを黒ウサギに言うとウサ耳を逆経てて切れた。

「「「「ムシャクシャしてやった。反省しています。」」」」

「黙らっしゃい!!」

口裏を合わせていたような言い訳に黒ウサギは激怒。

十六夜はニヤニヤ笑っている。

「別にいいだろ。見境なしに喧嘩を売ったわけじゃないんだしよ。」

「十六夜さんは、面白ければいいと思いますが、この“契約書類”を見てください。」

“契約書類”とは“主催者権限”を持っていない者たちがギフトゲームをする時に

必要なもので、そこにゲーム内容、チップ、賞品が書かれていて

最後に“主催者”が署名をして成立する。

ちなみに、内容は俺たちが勝てばガルドは全ての罪を認め

箱庭の法の下に正しく裁きを受け、その後、コミュニティを解散する。

もし、負けたら、ガルドの罪を黙認すること。

自己満足もいいところだな。

「はぁ、仕方がありませんね。まぁ、いいです。

 “フォレス・ガロ”相手なら十六夜さん一人いれば楽勝でしょう。」

「何言ってんだ。俺は参加しねえよ。」

「あら、分かってるじゃない。」

「頼まれても参加させないから安心しろ。」

十六夜と飛鳥、俺の発言に黒ウサギが慌てる。

「ダメですよ!コミュニティの仲間なんですからちゃんと協力を」

「そういうことじゃねえよ。

 この喧嘩はコイツらが売って、ヤツらが買った。

 それに俺が手を出すのは無粋だってことだよ。」

「・・・・・もう、好きにしてください」

肩を落とし困り果てる黒ウサギだあった。

「あはは・・・それじゃあ、今日はコミュニティに帰る?」

ジンが苦笑しながら黒ウサギに聞く。

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。

 ギフトゲームが明日なら

“サウザンドアイズ”にギフト鑑定をお願いしないと。」

「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」

「YES。サウザンドアイズは特殊"瞳のギフトを持つ者達の群体コミュニティで、

箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。

幸いこの近くに支店がありますし」

「ギフト鑑定ってのは?」

「ギフトの秘めた力や起源などを鑑定することです。

自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。

皆さんも自分の力の出所は気になるでしょう?」

まぁ、大体出所は見当がついているんだが、

力については分からない所もあるし、ちょうどいいか。

 

“サウザンドアイズ”の向かいながら町の様子を眺める。

途中、桜の木のようなものがあり、飛鳥が不思議そうに呟く。

「桜の木・・・ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても

咲き続けるはずがないもの。」

「いや、まだ、夏になったばかりだぞ。

 気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ。」

「・・・・・?今は秋だったと思うけど。」

「何言ってるんだ?今は真冬の季節だろ。」

何やら会話がかみ合って無い。

「皆さんは「もしかしたら、別の時間軸から呼ばれたのかもしれないな。」

「なるほど、だから季節がちがうのか。」

「もしかしたら、時代も違うかもな、その辺はどうなんだ、黒ウサギ?」

うぅ~、セリフを取られました。

はい、その通りです。修也さんが言う通り皆さんは、別の時間軸から呼ばれました。

元いた時間軸で歴史や文化、生態系など所々、違いがあるはずです。」

黒ウサギが落ち込みながらも説明する。

「パラレルワールドってやつか?」

「正しくは立体交差並行世界論というものですけど、

説明はまたの機会に。」

黒ウサギの説明が終わると“サウザンドアイズ”の支店に着き、

ちょうど店の店員が暖簾を下げるところだった。

「まっ、」

「待った無しですお客様。うちは時間外営業はやっていません。」

「なんて、商売っ気のない店なのかしら」

「全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

「文句があるなら他所の店へどうぞ。あなた方は今後一切出入りを禁じます。」

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ。」

文句を言う黒ウサギに対し、冷めたような目をする店員。

黒ウサギを押しのけ前に出る。

「唯の店員のあんたにそんな権限あるのかよ。

 店長を出せ。」

「一応私が店長です。」

「よし、なら、オーナーを出せ。」

「なら、コミュニティの名前をどうぞ。」

「俺達は“ノーネーム”ってコミュニティなんだが。」

十六夜が躊躇いもなく名を名乗る。

「どちらの“ノーネーム”様でしょう。

旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか。」

旗印が無いと知っていながら聞くか。

コイツ、少し脅してやろうか。

そう思った時、店の奥から何かが出てきた。

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

久しぶりだ黒ウサギイィィィィィ!」

飛び出てきたのは着物風の服を着た少女、いや、幼女だ。

そのまま、黒ウサギにフライングボディーアタックをした。

黒ウサギは幼女と一緒に空中四回転半ひねりをして街道の向うにある水路に落ちた。

「おい、店長。この店にはドッキリサービスがあるのか?

俺も別バージョンで是非」

「ありません。」

「なら、有料でも」

「やりません。」

十六夜の目は真剣。

対して店長は冷静。

てか、十六夜、何を言い出すんだ。

黒ウサギに飛びついた幼女は黒ウサギの胸に顔を埋めてなすり付けてる。

あの子は黒ウサギの妹的な何かなのか?

「し、白夜叉様!?どうしてこんな下層に!?」

「黒ウサギが来る予感がしたからに決まっとるだろうに!

 フフ、フホホフホホ!

やっぱり黒ウサギは触り心地が違うの!

ほれ、ここが良いかここが良いか!」

訂正、見た目は幼女、中身は変態おやじの少女だわ。

「ち、ちょっと、離れてください!」

白夜叉を無理やり引きはがし、頭を掴み投げ飛ばす。

投げ飛ばした先に十六夜がおり、白夜叉を足で受け止めた。

「おんし!飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

「十六夜様だぜ。以後よろしくな和装ロリ。」

ヤハハと笑い自己紹介をする十六夜であった。

一連の出来ことに呆気にとられていると飛鳥が白夜叉に声を掛けた。

「貴女はこの店の人?」

「おお、そうだとも。

 この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。

 仕事の依頼ならおんしの年齢の割に発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが起こります。」

コイツ、本当に変態だな。

それはそうと、耀はなんか落ち込んでるぞ。

どうしたんだ?

「耀、どうした?なんか落ち込んでるみたいだが」

「・・・・まだ成長途中なだけ・・・・」

「?」

耀の言っている意味が分からないが、そんなことをしているうちに、

白夜叉の計らいで店の中に入ることができた。

「改めて、私は、四桁の門、三三四五外門に本拠を構える“サウザンドアイズ”の幹部

 白夜叉だ。黒ウサギとは少々縁があってな。

 コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている

器の大きな美少女と認識しておいてくれ。」

「はいはい、お世話になっております本当に。」

投げやりに受け流す黒ウサギ。

その隣で耀が小首を傾げながら白夜叉に質問をした。

「外門って何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。

数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。」

黒ウサギが描いた図をみて、それが、あるものに似ていることに気付いた。

「・・・・超巨大玉ねぎ?」

「超巨大バームクーヘンではないかしら?」

「どちらかと言えばバームクーヘンだ。」

「俺もバームクーヘンに一票。」

結果、黒ウサギの描いた箱庭の図はバームクーヘンに似ていることになった。

「ふふ、うまいこと例える。

その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。

更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は

“世界の果て”と向かい合う場所になる。

あそこはコミュニティに属してはいないものの、

強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」

そう言って黒ウサギの持っている水樹の苗に視線を向ける。

話を聞いたところアレは十六夜が世界の果てで蛇神を倒しゲットしたものだそうだ。

十六夜ってかなり凄い奴なんじゃね?

「ところで、白夜叉。あんたの口振りからして

その蛇と知り合いみたいだが、どうなんだ?」

「知ってるもなにも、あれに神格を与えたのは私だぞ。

 もう何百年にもなる話だが。」

「へぇ~、じゃあお前はあの蛇より強いわけだな。」

十六夜の目が獲物を見つけた狩人の目になっていやがる。

「当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。

 この東側の四桁以下では並ぶものはいない、最強の主催者だ。」

最強の主催者か。

これは楽しめそうだ。

「つまり、貴女のゲームをクリアすれば私たちが東側最強ってことになるのかしら?」

「無論、そうなるのう。」

「そりゃ、景気のいい話だ。

 探す手間が省けた。」

俺達は立ち上がり闘争心を剥き出しにして白夜叉を見る。

「抜け目が無い童たちだ。依頼しておきながら私にギフトゲームを挑むと?」

「え?ちょ、ちょっと御四人様!?」

慌てて俺達を止めようとする黒ウサギを片手で白夜叉は精する。

「よいよ。私も遊び相手には常に飢えとる。

 

 しかし、ゲームの前に確認することがある。」

白夜叉は懐から“サウザンドアイズ”の旗印の紋が入ったカードを取り出す。

そして、不敵な笑みを浮かべた。

「おんしらが、望むのは“挑戦”か?もしくは

 

 “決闘”か?」

その瞬間、白夜叉の部屋が崩壊したかと思うと、別の場所に立っていた。

白い雪原と凍る湖畔そして、

 

水平に太陽が廻る世界。

「今一度名乗り直し問う。

 私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の精霊白夜叉。

 おんしらが望むのは試練への“挑戦”か?

 それとも対等な“決闘”か?」

そこには、先ほどまでの変態幼女の姿はなかった。

そこに居るのは、太陽と白夜の精霊として存在する白夜叉がいた。

 



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第6話 ギフトネームが分かるそうですよ?

「水平に廻る太陽……そうか、白夜と夜叉。あの水平廻る太陽やこの土地は、お前を表現しているってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と永遠に沈まぬ太陽。これこそ私がもつゲーム盤の一つだ」

 

こともなげにこたえる白夜叉。

 

この広大な土地がゲーム盤かよ。

 

笑えないぜ。

 

「こ、これが唯のゲーム盤!?そんなデタラメな…」

 

飛鳥も驚く。

 

「……して、おんしらの返答は?挑戦なら手慰み程度に遊んでやろう。しかし、“決闘”を望むなら……魔王として命と誇りの限り戦おうではないか」

 

白夜叉の目は怪しく輝いており、そして、言葉は威圧的だ。

 

どう見ても白夜叉との“決闘”の勝敗は一目瞭然だ。

 

俺も、耀も、飛鳥も、そして、十六夜までもが黙り込む。

 

しばらく沈黙が続き、十六夜が手を上げた。

 

「まいった。やられたよ、降参だ」

 

「ふむ?それは決闘ではなく試練を受けるということかの?」

 

「ああ、アンタの力はよくわかった。今回は試されてやるよ。魔王様」

 

プライドが高い十六夜にとって一度言った言葉を撤回するのは悔しいのだろう。

 

『試されてやる』ってのは最大限の譲歩ってところか。

 

そんな十六夜をかわいい意地の張り方だといって白夜叉は笑う。

 

「他の童たちも同じか?」

 

「……ええ、私も試されてあげてもいいわ」

 

「同じく」

 

苦虫を噛み潰したような顔で返事をする.

 

「……そこの、黒いコートを着とるおんしはどうする?」

 

その時、一瞬白夜叉の目が面白いものを見つけた子供のような目をした気がした。

 

「ああ、試されるよ。でもいつか、決闘を望むぜ」

 

「そうか」

 

白夜叉との会話を終えると黒ウサギがまた文句を言い始めた。

 

「お互い相手を選んで下さい!!それに白夜叉様が魔王だったのはもう何千年も前のことじゃないですか!!」

 

「なに?じゃあ元魔王様ってことか?」

 

「はてさてどうだったかな?」

 

元魔王か。

 

ということは今の姿は仮の姿ってことか。

 

ケラケラと白夜叉が笑っていると遠くから甲高い声が聞こえた。

 

その声に耀はいち早く反応した。

 

「なに、今の鳴き声、初めて聞いた」

 

「ふむ、あやつか。おんしら三人にはうってつけかもしれんの」

 

三人?

 

一人足りないぞ。

 

「嘘っ・・・本物!?」

 

耀が歓喜と驚愕に溢れた声を上げたので何事かと思い顔を上げると

 

「こりゃ、すげぇー」

 

そこには、鷲の翼と獅子の下半身を持った幻獣。

 

グリフォンがいた。

 

「如何にも。こやつこそ鳥の王にして獣の王――――グリフォンだ」

 

白夜叉がグリフォンを手招きするとグリフォンは白夜叉に近づき深く頭を下げた。

 

「さて、肝心のギフトゲームだがの、こんなゲームはどうじゃ?」

 

白夜叉が考えたギフトゲームはこれだった。

 

『ギフトゲーム名:“鷲獅子の手綱”

 プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、

ギフトゲームを開催します。

                            “サウザンドアイズ”印』

 

ちょっと待て。

 

「おい、白夜叉。俺の名前が無いぞ」

 

「おんしには別のギフトゲームを用意する。そこでゆっくりと見学でもしとれ」

 

白夜叉の言葉に従い見学に徹する。

 

てか、あの時一人足りなかったのはこういうことか。

 

「それで、誰がこの試練に挑戦をする?」

 

「私がやる」

 

『お、お嬢・・・・大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

 

「自信があるようだがこれは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我ではすまんが」

 

「大丈夫、問題無い」

 

耀の目にはグリフォンへの恐れもないし、ましてや勝利を確信している目でもない。

 

まるで、長年探していた宝物を見つけた子供のようにキラキラと輝いている。

 

「OK。先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「うん、頑張る」

 

呆れたような笑みを浮かべ十六夜と飛鳥は耀を応援する。

 

「耀」

 

「うん?」

 

「このコート貸すぜ。流石にその恰好で山頂付近は寒すぎる」

 

「ありがとう」

 

耀にお気に入りのコートを渡し離れる。

 

耀は俺のコートを羽織、グリフォンに近づく。

 

「えっと初めまして、春日部耀です」

 

『!?………我らの言葉を解するか、娘よ』

 

グリフォンの声が聞こえた。

 

どうやら幻獣の声も聞こえるらしい。

 

「私と誇りを賭けて勝負しませんか?」

 

『何?』

 

「この地平を大きく一周する間に背に乗った私を振るい落せば貴方の勝ち、落とせなければ私の勝ち……どうかな?」

 

『確かに娘一人振るい落せないならば私の名誉は失墜するだろう。では娘よ誇りの対価としてお前は何を賭す?』

 

グリフォンは如何わしげに大きく鼻を鳴らして尊大に問い返す。

 

「命を賭けます」

 

即答だった。

 

耀の突拍子もない返答に黒ウサギと飛鳥から驚きの声が上がる。

 

「か、春日部さん、本気なの!?」

 

「だ、駄目です!!」

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし、転落して生きていても私は貴方の晩御飯になります。それじゃ駄目かな?」

 

『………ふむ』

 

グリフォンは少し考える。

 

耀の提案に黒ウサギと飛鳥はますます驚く。

 

「双方、下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

 

「ああ。無粋なことはやめとけ」

 

白夜叉と十六夜が二人を制する。

 

「そういう問題ではありません!同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには」

 

「おい、黒ウサギ。少し黙ってろ」

 

「しゅ、修也さん!このゲームは一歩間違えれば耀さんが死んでしまうんですよ!そうなってはからでは遅いんですよ!」

 

「同士だってんなら耀を信じてやれ。信じてやることが同士への態度だ。それ以外の態度は相手を信頼してないってことだ。同士だと思ってんなら信じてやれ」

 

俺の言葉に黒ウサギは、渋々と納得して下がる。

 

 

耀は、グリフォンに跨り手綱を握っていた。

 

「始める前に一言だげ………私、貴方の背中に跨るのが夢の一つだったんだ」

 

『――――――そうか』

 

そして、ゲームが始まった。

 

なるほど。

 

一瞬見えたが、グリフォンは翼で飛ぶんじゃないんだな。

 

脚で空を踏みしめるように飛んでいる。

 

旋風を操るギフトか。

 

グリフォンが山を迂回し、戻ってきた。

 

「戻ってきました!」

 

「後、もう少し……」

 

そいて、グリフォンはゴールをした。

 

耀を乗せて。

 

「ゴールです!」

 

「春日部さんの勝ちだわ!」

 

だが、ゴールした瞬間、手綱を離してしまい、耀は慣性にのまま落ちていく。

 

『何!?』

 

「春日部さん!?」

 

助けに行こうとした黒ウサギを十六夜が掴む。

 

「は、離し――」

 

「待て!まだ終わってない!」

 

十六夜の言う通りまだ終わっていなかった。

 

耀の体は次第にゆっくりと落ち始め、

 

最後は空から見えない階段を使って降りて来る感じだった。

 

耀のギフトは動物との対話意外にその動物の特性を貰うことができるのか。

 

だが、疲労していたのか、まだ、慣れていないのかバランスを崩し、

 

また落ち始めた。

 

地上まで高さは約10m。

 

間に合う。

 

黒ウサギや飛鳥が慌てる中俺は冷静に駆け出し、背中から黒い翼を出し飛んだ。

 

「へ~」

 

「なんと!?」

 

「「はっ?」」

 

上から十六夜、白夜叉、黒ウサギと飛鳥だ。

 

落ちる耀に向かいお姫様抱っこで受け止める。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん……ありがとう」

 

地面に降り立つと三毛猫が駆け出して飛びついてきた。

 

『お嬢!怪我はないか!?』

 

「大丈夫。修也のコートのお陰で平気だよ」

 

『小僧!恩にきるで!』

 

「気にすんなよ」

 

耀からコートを返してもらうと十六夜が近づいてきた。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

十六夜が笑みを浮かべながら耀に言う。

 

軽薄な笑みに、むっとしたような声音で耀が返す。

 

「……違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

 

「ただの推測。お前、黒ウサギと出会った時に“風上に立たれたら分かる”とか言ってたろ。そんな芸当は人間にはできない。だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか……と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 

『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証として使って欲しい』

 

「うん。大事にする」

 

「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。……ところで、おんしの持つギ

フトだが。それは先天性か?」

 

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

 

「木彫り?」

 

首を傾げる白夜叉に三毛猫が説明する。

 

『お嬢の親父さんは彫刻家やっとります。親父さんの作品でワシらとお嬢は話せるんや』

 

「ほほう………彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 

頷いた耀は、ペンダントにしていた丸い木彫り細工を取り出し、白夜叉に差し出す。

 

白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つめて、急に顔を顰めた。

 

十六夜、飛鳥もその隣から木彫りを覗き込む。

 

「複雑な模様ね。何か意味があるの?」

 

「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」

 

「………これは」

 

木彫りは中心の空白を目指して幾何学線が延びるというもの。

 

白夜叉だけでなく、十六夜、黒ウサギも鑑定に参加する。

 

正直俺にはさっぱりだ.

 

表と裏を何度も見直し、表面にある幾何学線を指でなぞる。

 

黒ウサギは首を傾げて耀に問う。

 

「材質は楠の神木……? 神格は残っていないようですが……この中心を目指す幾

何学線……そして中心に円状の空白……もしかしてお父様の知り合いには生物学者

がおられるのでは?」

 

「うん。私の母さんがそうだった」

 

「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表しているのか白夜叉?」

 

「おそらくの……ならこの図形はこうで……この円形が収束するのは……いや、これは……これは、凄い! 本当に凄いぞ娘!! 本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ! まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは! これは正真正銘“生命の目録”と称して過言ない名品だ!」

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ?でも母さんが作った系統樹の図は、もっと樹の形をしていたと思うけど」

 

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、すなわち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、世界の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか」

 

白夜叉の興奮具合が半端ないな。

 

そんなに凄いんだな。

 

「うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ! 実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

 

「それはダメだろ」

 

白夜叉の手から耀のペンダントを奪い取り耀に渡す。

 

「それじゃあ、次は俺だな」

 

「ああ、その通りだ。内容はコレだ」

 

 

 

『ギフトゲーム名:必勝の一撃

プレイヤー一覧:月三波・クルーエ・修也

・クリア条件 白夜叉に一撃を与える

・クリア方法 ギフトを使用し、ホストに一撃与える。

・敗北条件  降参かプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、

ギフトゲームを開催します。

                            “サウザンドアイズ”印』』

 

そう来るか。

 

正直面倒だな。

 

「さぁ、おんしの力見せて貰おうかの」

 

白夜叉は不敵に笑う。

 

仕方がない。

 

やるか。

 

「誰か少し手伝ってくれないか?」

 

十六夜たちに顔を向け聞く。

 

「私が手伝う」

 

耀が手を上げてくれた。

 

「ありがとな」

 

「コートと助けてくれたお礼」

 

そう言って耀は近づいてくる。

 

「耀………ゴメン」

 

「え?」

 

耀に謝り、そして、耀の首筋に牙を立てる。

 

「「「は!?」」」

 

これには十六夜も驚き目を見開いている。

 

だが、そんなことどうでもいい。

 

そのまま、牙であけた傷口から血を吸う。

 

「あ………っん!」

 

耀は頬を真っ赤にし、羞恥と変な感覚を堪えている。

 

そろそろか。

 

傷口から口を離し、最後に傷を一舐めする。

 

「あひゃ!?」

 

首筋を舐められ耀が変な声をだす。

 

舐められた傷口は見る見ると塞がった。

 

「言っただろ。ゴメンって」

 

「!?…………ふっ!!」

 

耀が拳を握り俺の頬を殴る。

 

かなり痛いな。

 

「……ごめんなさい」

 

「今度、埋め合わせしてもらうから」

 

そう言って耀は飛鳥の隣に戻る。

 

「さてと、準備はいいぜ。白夜叉」

 

「やはり、おんし………よかろう。ではギフトゲーム、スタートだ」

 

その瞬間、俺は白夜叉の目の前に立ち、拳を前に突き出した。

 

だが、拳は空を切った。

 

「中々のスピードと威力のある拳じゃの」

 

「あんたこそ、早すぎるぜ」

 

後ろに立っている白夜叉に今度は後ろを見ずに蹴る。

 

だが、それも交わされる。

 

「フッフッフッ、ハッハッハ、アーハッハッハ素晴らしいぞ、小僧、いや、修也!誇れ、私をここまで楽しませてくれたのはおんしが久々じゃ。それに敬意を称し、少しばかし本気でいこう」

 

そう言うと、白夜叉はどこからとなく白い槍を出した。

 

「来い!!修也!!元魔王、白夜叉が相手を致す!」

 

槍を片手に白夜叉が構える」。

 

俺も足を折り、そしてばねのように走り出す。

 

「いくぞ!白夜叉!」

 

 

 

もはや、挑戦ではなく決闘並だった。

 

あれから30分程経ち、白夜叉に隙を見つけ、

 

そこを狙い勝利した。

 

今、思うとあの隙はわざとにも思える。

 

「よくやった。褒めてやろう」

 

「とにかく俺もクリアだな」

 

「そうじゃ、勝利の褒美にこの槍をやろう。名は『白牙槍』材質は“金剛鉄”。昔、ある鍛冶職人が友情の証として作ったものだが、おんしが、持つ方がよかろう」

 

「いいのか?大事なものなんだろ?」

 

「良き武具は良き使用者が使ってこそ価値がある。その槍はおんしにこそ相応しかろう」

 

「そうか。なら、遠慮なく頂こう」

 

白夜叉から槍を受け取ると黒ウサギが驚きだした。

 

「どういうことですか!?先ほどのギフトはまるで吸血鬼のようですし、修也さんは吸血鬼なのですか!?それと、白夜叉様、金剛鉄の槍をそんな簡単にあげるとは何をお考えですか!?金剛鉄の価値は知ってますよね!?」

 

「少し静かにしろ。その槍は私のだ。どうするかは、私の自由だ。修也の力は、修也がおしえるだろう。それより、グリフォンの試練と私の試練を受けて見事クリアしたおんし達に“恩恵”を与える。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度好かろう。」

 

そう言って手をたたくと俺たちの前に四枚のカードが現れた。

 

十六夜はコバルトブルーで飛鳥はワインレッド、耀はパールエメラルド、俺はミッドナイトブルーのカードだ。

 

それぞれのカードに

 

逆廻十六夜・ギフトネーム“正体不明(コード・アンノウン)

 

久遠飛鳥・ギフトネーム“威光”

 

春日部耀・ギフトネーム“生命の樹(ゲノム・ツリー)”“ノーフォーマー”

 

月三波・クルーエ・修也

 

ギフトネーム“忠義の吸血騎士(ロード・オブ・ヴァンパイアナイト)

 

と書かれている。

 

てか、このカードはなんだ?

 

気になっていると黒ウサギがまた声を上げて驚く。

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「商品券?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が会っているのです!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの“生命の目録”や修也さんの“白牙槍”だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

もう投げやり気味に文句を言う黒ウサギだった。

 

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは”ノー

ネーム”だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

「ふぅん………もしかして水樹って奴も収納できるのか?」

 

十六夜は黒ウサギの持つ水樹にカードを向ける。

 

すると水樹は光の粒子となってカードの中に呑み込まれた。

 

見ると十六夜のカードは溢れるほどの水を生み出す樹の絵が差し込まれ、

 

ギフト欄の“正体不明”の下に“水樹”の名前が並んでいる。

 

俺も試しに白牙槍にカードを向けると槍が粒子になり

 

忠義の吸血騎士(ロード・オブ・ヴァンパイアナイト)”の下に“白牙槍”と書かれた。

 

へぇ~、面白いな。

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

「出せるとも。試すか?」

 

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティのために使ってください!」

 

 

チッ、とつまらなそうに舌打ちする十六夜。

 

黒ウサギはまだ安心できないような顔でハラハラと十六夜を監視している。

 

「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった”恩恵”の名称。鑑定はできずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

なるほど。

 

これは、便利だな。

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

 

十六夜のカードには“正体不明”の文字。

 

何これ?

 

白夜叉は驚き十六夜のギフトカードを取り上げる。

 

「もしかしてバグか?」

 

「いいやありえん、全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 

十六夜がカードを取り上げる。

 

だが、白夜叉は納得できないように怪訝な瞳で十六夜を睨む。

 

それほどギフトネームがありえないことなのか。

 

十六夜の能力はギフトの無効か?

 

いや、最初に小石を投げたときの威力を考えると普通の人間が出せる威力を超えてる。

 

あれもギフトだとすると矛盾が起きる。

 

まさしく、正体不明だな。

 

 

 

 

 

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

 

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むものだもの」

 

「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

 

「いつか、本気のアンタと戦って正々堂々と俺たちが東側最強を証明してやるよ」

 

「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。………ところで」

 

白夜叉は微笑を浮かべるがスっと真剣な表情で俺達を見てくる。

 

「今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、

よく理解しているか?」

 

「ああ、名前と旗の話か?それなら聞いたぜ」

 

「なら、“魔王”と戦わねばならんことも?」

 

「聞いてるわよ」

 

「………では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

横目で黒ウサギがを見てみると黒ウサギの目は俺達から視線をそらしていた。

 

「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」

 

「“カッコいい”で済む話ではないのだがの………全く、若さゆえなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ。」

 

予言をするかのように言う。

 

サウザンドアイズは特殊な瞳のギフトを所有する奴がいるコミュニティらしいからな

 

信憑性抜群だな。

 

「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小僧と修也はともかく、おんしら二人の力で魔王のゲームは生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ。」

 

「……ご忠告ありがとう。肝に銘じておくわ。次は貴女の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

 

「ふふ、望むところだ私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。………ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」

 

「嫌です!」

 

黒ウサギが即答する。

 

………黒ウサギをチップに白夜叉に挑めば凄いものが手に入りそうだな。

 

「つれない事を言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ?三

食首輪付きの個室も用意するし」

 

それ………ペット扱いだな。

 

「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!」



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第7話 驚きの新事実が分かるそうですよ?

「そうじゃ、修也よ。おんしは少し残れ。」

「?わかった。」

白夜叉が帰り際に俺を呼び止めたので

十六夜たちには先にコミュニティのの本拠に向かってもらった。

「で?話はなんだ?」

「そう畏まるな。

二、三聞きたいことがあるだけだ。」

そう言って白夜叉は目を細める。

「おんし・・・・吸血鬼なのか?」

「・・・・・そうだ。厳密には半吸血鬼といったところだ。」

隠しても仕方がないので本当のことをいう。

「やはりな。して、両親のどちらが吸血鬼じゃ?」

「父親だ。」

「・・・もしかして、父の名はクルーエ=ドラクレアか?」

白夜叉の言葉に驚いた。

確かに俺の親父はドラクレアという苗字だ。

だが、なぜそれを?

「クルーエとは旧知の仲での、おんしを見てアヤツの息子だと一目でわかった。

本当にアヤツにそっくりじゃ。」

白夜叉は懐かしむように言う。

「して、クルーエは今どうしとる?」

「・・・・死んだ。4年前にな。」

「・・・・そうか。惜しい人物を亡くしたな。」

「白夜叉。親父のことについて教えてくれ。

知っていることを全部。」

「分かった。教えてやろう。

おんしの父、クルーエ=ドラクレアは“箱庭の騎士”にして元“龍の騎士”だった。

もっとも大昔に罪を犯し、箱庭を追放された。

箱庭広しと言えども追放されたのはクルーエが初じゃがの。

その後、アヤツは独自に箱庭と異世界を行き来する方法を編み出し、ちょくちょく

顔を出しに来とった。

その時に、お前さんのことも少々聞いとった。

いやはや、それにしても懐かしいの。

おんしと話しとるとクルーエと話してるように思えて来るわ。」

白夜叉はケラケラと笑い親父のことを語ってくれる。

親父も箱庭に居たんだな。

少し、驚いた。

その後も、白夜叉から親父の武勇伝やおもしろエピソードを聞かせてもらった。

「さてと、そろそろ本題に入るとするかの。」

話を一転させ白夜叉は真面目な顔になる。

「今度“サウザンドアイズ”の傘下であるペルセウスがギフトゲームを行う。

それに、“ノーネーム”に参加してほしい。」

「なんでだ?」

「そのギフトゲームの賞品・・・っというのは少しおかしいが

それが、元“ノーネーム”のメンバーで元魔王だ。

アヤツが戻れば“ノーネーム”の戦力は大幅に増加できる。

どうじゃ?」

元魔王か。

元々は東区最大手のコミュニティとは聞いていたが予想以上だ。

「ちなみに、その元魔王ってのはどういうやつだ?」

「そう。それだ。その質問を待っていた。」

白夜叉はニヤリと笑い言う。

「ソヤツの名はレティシア。レティシア=ドラクレア。」

その名に驚いた。

ドラクレア、親父と同じ苗字。

もしかして、

「クルーエの姪にして、おんしの従姉だ。」

い、従姉。

そういえば、親父と母さんはあまり親戚の話とかしなかったから

従兄弟とかの話は聞いたことが無い。

そうなると、そのレティシアとやらは俺の親戚にあたるのか。

「分かった。

多分ジンも知っているだろうし、

どのみち参加させられてるだろう。」

「そうか。なら、よろしく頼む。

おんしを含め“ノーネーム”の者たちは下層で燻るにはおしい人物だからの。

さて、もう夜じゃ。

今夜はここに泊まってゆけ。

クルーエが異世界でどのように過ごしておったのか気になるしの。

黒ウサギたちにはわしから連絡しとく。」

「悪いな。

まぁ、親父から他人の好意を無駄にするなって言われてるしな。

お言葉に甘えさして頂くな。」

「うむ。よい心掛けじゃ。

ところで、修也よ。

おんし・・・・・いける口か?」

白夜叉がそう言って少しにやける。

 

ノーネーム本拠地

『黒ウサギよ。

もう遅いし今日は修也をこちらに泊める。

事情はきいとる。

明日のギフトゲームまでには返す。

それでは、これから修也と一杯やるからさらばだ。

カッカッカ               白夜叉』

 

「・・・・なるほどね。

なんか楽しそうじゃねーか。」

大広間で寛いでいるといきなり手紙が入ってきた。

双女神の紋で封蝋された手紙で中には白夜叉からの手紙だった。

てか、修也の奴、俺が頑張って御チビを担ぎあげて

“ノーネーム”の名を上げる作戦を考えているのに一人だけ楽しそうだな。

今度なんか奢らせよう。

「・・・十六夜?」

名前を呼ばれたからソファーに座りながら首だけ動かすと春日部がいた。

「よう。どうした?

突っ立てないで座ったらどうだ?」

「うん。そうする。」

そう言って春日部は前のソファーに座る。

「さっきジン君の声が聞こえてたけどどうしたの?」

「いや、別に大したこじゃない。

今後の進路について話してただけだ。」

「・・・・そう。・・・そういえば修也は?」

「アイツならこれだ。」

春日部に白夜叉からの手紙を投げて渡す。

受け取った手紙を読み春日部は少し残念そうな顔をした。

「修也、帰って来ないんだ。」

「そうみたいだな。

なんだ帰ってこないから寂しいのか?」

茶化したように言うと春日部は顔を真っ赤にした。

「な!?なななななななな何を!?」

動揺してる。動揺してる。

中々、面白い反応するな。

少し楽しめそうだ。

「いや~、そうか、春日部は修也に惚れてたのか~

いや~、気づかなかったぜ。」

「~~~~~//わ、私、もう寝る//」

そう言って春日部は慌てて部屋を出る。

コイツは

「図星か。」

そう思い、俺も割り振られた部屋に向かい寝ることにした。

 




十六夜じゃない気がする。
どうしましょう。


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第8話 ギフトゲームが始まるそうですよ?

「あら?そういえば修也君は?」

 

「あぁ、そういえば言い忘れたがアイツは昨日サウザンドアイズに泊まったぜ」

 

「ど、どうしてそれを言わなかったんですか!?」

 

「言ったろ。言い忘れたって」

 

“フォレス・ガロ”の居住区画に向かおうとした時お嬢様が修也がいないことに気付いた。

 

そういえば黒ウサギにも言ってなかったな。

 

「大丈夫だろ。白夜叉もゲームに間に合うように帰すって言ってんだしよ」

 

「なら、いいですが・・・・あっ、見えました。あれが居住区画です・・・」

 

黒ウサギが絶句した。

 

ガルドとか言うやつは所有してる舞台区画ではなく居住区画をゲーム盤に使うらしいがその居住区画はジャングルに覆われていた。

 

「ジャングル?」

 

「虎の住むコミュニティだ。おかしくないだろ?」

 

「いや、おかしいです。フォレス・ガロ”の本拠は普通の居住区でだったはずです。それに…この木……」

 

「鬼化…だろ」

 

「って修也さん!?」

 

「よっ」

 

いつのまにか御チビの後ろに修也が立っていた。

 

なんか御チビに耳打ちをしてたか何の話だ?

 

「よぉ、間に合わないかと思ったぜ」

 

「これでも、時間厳守主義なんだよ」

 

そんな会話をしてると春日部が修也に近づきいきなり頬を引っ張り出した。

 

「…耀、何か?」

 

「…別に」

 

拗ねたようにいう春日部。

 

コイツはおもしろい。

 

「それより、ジン君。これを見て」

 

お嬢様の声に振り返ると門柱に“契約書類”が貼ってあった。

 

『ギフトゲーム名:“ハンティング”

プレイヤー一覧:久遠 飛鳥

        春日部 耀

        月三波・クルーエ・修也

        ジン=ラッセル

・クリア条件 ホストの本拠地に潜むガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法 ホスト側が用意した特定の武具でのみ討伐可能。

       指定武具以外は“契約”によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

・指定武具 ゲームデリトリーにて配置。

 

先生 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                            “フォレス・ガロ”印』

 

「ガルドの身をクリア条件に・・・・指定武具で打倒!?」

 

「こ、これはまずいです!」

 

御チビと黒ウサギが悲鳴のような声を上げる。

 

確かにこりゃ、厄介だな。

 

「ゲームはそんなに危険なの?」

 

「ゲーム自体は単純です。ですか、このルールに問題があります。これでは、飛鳥さんのギフトで操ることも耀さんと修也さんのギフトで傷つけることもできません!」

 

「どういうこと?」

 

いまいち理解が出来てないお嬢様に修也が説明をする。

 

「“恩恵”じゃなくて“契約”でガルドは身を守ったんだ。“契約書類”のルールは絶対だ。早い話、神格クラスの“恩恵”でもガルドを倒すのは不可能なんだよ」

 

「すいません、“契約書類”を作った時にルールも決めるべきでした。僕の落ち度です。すみません……」

 

自分の不手際に落ち込み謝罪する御チビに修也は御チビの頭に手を置く。

 

「気にすんなよ。誰にでも失敗はする。それより……こっちの方が面白い」

 

修也の言葉に春日部、お嬢様が頷く。

 

「それじゃあ、行くか」

 

そう言って修也たちは門をくぐった。

 

十六夜SIDE END

 

 

 

修也SIDE

 

「かなり生い茂っていますね。これでは、隠れていても分かりません」

 

「大丈夫。近くから何の匂いもしない」

 

「俺の耳にも特に怪しい音も聞こえないし、見た限り直径1㎞圏内に異常はない」

 

門をくぐると目の前は木や草で覆われており道も分からない状況だった。

 

だが、耀の犬の嗅覚と俺の並外れた五感のお陰で問題ないのがわかる。

 

「風上にいるのに匂いがしないから建物の中に潜んでいる可能性が高いと思う」

 

「なら、まず外で指定武具とやらを探そう」

 

飛鳥とジンに指定武具を探してもらい俺と耀は周りの警戒に当たった。

 

耀は樹の上に立ち、俺は黒い羽根を出し空中に立っている。

 

「駄目ねそれらしい武具やヒントも見つからないわ」

 

「もしかするとガルド自身がその役目を担っているかもしれません」

 

「なら方針を変えましょう。春日部さんのギフトと修也君の五感でガルドを探して」

 

「もう見つけた」

 

「この森を抜けた先の屋敷にガルドらしい影が見えた」

 

俺の目には森を抜けた先のツタが絡みつき廃墟みたいになった屋敷の中に

 

ガルドと思しき人物を見つけた。

 

耀を見ると目が金色になっていた。

 

おそらく鷹の力の影響だろう。

 

なんかとても綺麗だな。

 

そんなことを思いながら地面に降り4人で屋敷を目指す。

 

遠くから見たのと同じで屋敷全体をツタで覆われている。

 

「すんなりと入れたわね」

 

「奇襲どころか罠の一つもないなんて」

 

ジンの言う通りあれだけ草や木に覆われているなら奇襲や罠が仕掛けられていても

 

おかしくはないのにそれが一つもないのはおかしい。

 

なんか策でもあるのか?

 

「2階にガルドはいた」

 

「よし、戦力を分けよう。飛鳥とジンは1階で待機。俺と耀が2階に向かいガルドの様子と指定武具の情報を探る」

 

「ちょっとなんで私が待機なの!?」

 

「そうです!?僕だってギフトはあります!足手まといには」

 

「いいから話を聞け」

 

怒る飛鳥とジンを宥めて理由を説明する。

 

「まず、ジンと飛鳥には退路を守ってもらいたい。退路がないと撤退が出来ないからな。それと今回のギフトゲームは指定武具での討伐、これだと飛鳥のギフトは効かない。なら、ジンと一緒に退路を守るほうについてもらう方がいい。分かったか?」

 

俺の説明に飛鳥とジンは不満そうだったが結局は納得してもらった。

 

「よし、いくぞ」

 

「うん」

 

耀と一緒に階段を上り終えると目の前に大きな扉があった。

 

両脇に立ち扉を上げると

 

「GEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAaaaaaaa!」

 

虎の怪物が白銀の十字剣を背に守るように立ち塞がっていた。

 

「飛鳥!ジン!今すぐ逃げろ!」

 

階下にいる飛鳥たちに聞こえるように声を張り上げて叫ぶ。

 

ギフトカードから白牙槍を取り出し構える。

 

おそらくあの虎はガルドだ。

 

そして鬼化された植物、白銀の十字剣、これで全てわかった。

 

「耀!俺がガルドを引き付ける、その間にあの剣を回収してくれ!」

 

「わかった!」

 

耀も何かを察したらしくすぐさま剣に向かって走り出した。

 

ガルドが爪で耀を襲おうとしたが俺が間に入り槍で受け止める。

 

「お前の相手は俺だ!」

 

ガルドの爪を受け止めてる間に耀が十字剣を回収した。

 

そして、そのまま剣をガルドに突き刺そうとする。

 

しかし、耀が剣を回収した瞬間俺は気が緩みガルドが俺を突き飛ばした。

 

「ぐはっ」

 

半分吸血鬼といえども結構痛い。

 

俺を突き飛ばすとガルドはそのまま耀に襲いかかった。

 

耀が振り下ろした剣はガルドの爪に弾かれ勢いよく飛ぶ。

 

「あっ」

 

爪が耀を襲い右腕を切り裂く。

 

「耀!」

 

飛ばされ床に刺さった剣を抜きガルドの手を斬る。

 

それと同時に俺の脇腹を爪で切り裂かれる。

 

傷口が焼けるような痛みに襲われるがそのまま走りだす。。

 

十字剣はギフトカードに入れ耀を抱きかかえる。

 

「……すまない」

 

 

 

 

 

 

嗅覚と視覚、聴覚を使いジンと飛鳥の場所を探した。

 

「飛鳥、ジン!」

 

「修也君!」

 

「修也さん!」

 

血まみれの俺と耀を見て飛鳥とジンは驚く。

 

「耀を頼む」

 

耀をジンに渡し、脇腹を押さえながらガルドのとこへ向かおうとすると飛鳥に止められた。

 

「どこにいくつもり?」

 

 

「決まってる。ガルドの所だ」

 

「そんな怪我で行っても返り討ちにあうだけよ」

 

「だが、耀は俺のせいで傷ついた。俺がガルドを倒さないと」

 

「それで、あなたが死んだら春日部さんは自分の怪我であなたを死なせたと思うわよ」

 

飛鳥のその言葉に俺は何も言えなかった。

 

「私たちはコミュニティの仲間であると同時に友人よ。

 

少しは私たちを信じなさい」

 

「……わかった。なら、頼む」

 

ギフトカードから十字剣を取り出し飛鳥に渡す。

 

「そいつが指定武具だ。ガルドは今虎になってる。動きが素早い。倒すには動きを封じないといけない」

 

「まかせて、勝算はあるわ。ジン君、修也君と春日部さんをお願い」

 

「……はい、分かりました」

 

飛鳥の言うことに従いジンは耀と俺の応急手当を始めた。

 

「飛鳥、帰って来いよ」

 

「ええ、修也君も私が帰って来た時に出血多量でご臨終なんてやめてよね」

 

「ああ、わかった」

 

飛鳥が剣を片手に森の奥に進むのを見て俺は出血と痛みから眠気に襲われた。

 

取りあえず、後は飛鳥に任せよう。

 

それにしても、耀にはとんでもない怪我を負わせちゃったな。

 

後で、もう一度謝らないと……



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第9話 ペルセウスとのギフトゲームだそうですよ?

「う~ん、ここは?」

目が覚めると俺はベットの中にいた。

見たことが無い天井だな。

「気が付きました?」

寝たまま顔だけを横に向けるとジンがいた。

「ジン・・・ここは?」

「“ノーネーム”のコミュニティの本部です」

そうか、あの後、俺寝ちまったんだっけ。

「そういえば耀は?」

「はい、耀さんは回復しました。今は飛鳥さんと黒ウサギの部屋にいるはずです」

それが聞けて安心した。

「そういえばジン、白夜叉からお前たちの仲間が賞品になってるギフトゲームについて聞いたんだが、それはいつだ?」

「そ、それが・・・そのギフトゲームは中止になってしまったんです」

「どういうことだ?」

ジンから順を追って説明を聞かされた。

レティシアのことと現状のコミュニティの状態も含めて。

「なるほどな、レティシアと黒ウサギの交換か・・・“ペルセウス”ってのはギリシャ神話に出てくる英雄だろ?そんなに腐った連中なのか?」

「それは二代目のルイオスさんの方です。先代のペルセウスさんはとても立派なお方です」

なるほど親の七光りってわけか。

そんなことを考えてベットから這い上がる。

「だ、駄目ですよ!まだ、体調が良くないですよ!」

「これぐらい大丈夫だ」

取りあえずジンを連れて黒ウサギの部屋に行く。

ちょうどいいので俺のこととレティシアのことも話そうと思う。

黒ウサギの部屋に着くと何故か扉が壊れていた。

何があった。

部屋に入ると十六夜もいた。

「お前らは相変わらず元気だな」

「「「修也(さん)(君)!?」」」

「お、修也、目覚めたか」

「あぁ、問題無いぐらいにな。ところでこれ何?」

取りあえずテーブルの上にある奇妙なマークが描かれた丸い宝石みたいなのかあった。

「“ペルセウス”への挑戦権だ。こいつを使い奴らから旗印を奪い、レティシアの交渉条件に使う」

なるほどな。相変わらず考えることがぶっ飛んでやがるな。

「それと、修也。今回お前は留守番な」

「・・・どういうことだ?」

十六夜を睨むような形で理由を聞く。

「決まってんだろ。病み上がりを連れていくほど俺は外道じゃないぞ?」

「お前に心配されるほど軟じゃねーよ」

「心配じゃねーよ、足手まといを連れてっても意味が無いだけだ」

「なら・・・試すか?」

「おもしれぇ」

腕を鳴らしながら十六夜が構え、俺は腰を落とし構える。

そして、

「いい加減にしなさ!このお馬鹿様方!」

十六夜の頭に炸裂する黒ウサギハリセン(命名 俺)。

「喧嘩しちゃダメ」

そう言って耀が俺の頬を引っ張る。

「修也さんは病み上がりなんですから喧嘩して傷口が開いたらどうするんですか!

十六夜さんも乗らないでください!」

「分かったよ。でも、俺もギフトゲームに参加するぞ。」

「理由でもあんのかよ?」

「ある」

「なら、説明してもらおうか」

説明となると俺のギフトについても説明しないとな。

 

 

 

「そ、それは本当のことなの?」

「ビックリ」

「修也さんの御父上がクルーエ様ってのは本当でございますか!?」

「まさか、レティシアがお前の従姉とはな」

「やはり吸血鬼でしたか・・・」

上から飛鳥、耀、黒ウサギ、十六夜、ジンの順番でそれぞれ色んな驚き方をする

「あぁ、全てホントの話だ」

「まぁ、白夜叉の所のギフトゲームである程度予測はしてたがな」

まぁ、それは仕方がないだろ。

誰だって血を呑んで強くなったら吸血鬼だって思うだろう。

「以上で俺がどうしても今回のギフトゲームに参加したい理由だ。

なんか文句あるか?」

「・・・仕方がねえな。いいぜ、連れてってやる。

だが、一つ約束しろ。体に異変が出たらすぐにでも言う。

いいな?」

「わかった」

「よし、なら、早速行くか。“ペルセウス”のコミュニティに!」

 

 

 

 

「我々、“ノーネーム”は“ペルセウス”に決闘を申し込みます!」

「何?」

取りあえず“ペルセウス”のリーダーであるルイオスの第一印象は最悪だ。

黒ウサギを舐め回すかのように見ている。

特に足と太腿、胸など。

これじゃあ、天国のペルセウスさんもお嘆きだろう。

「何?そんなつまらないこと言いに来たの?決闘ならしないって言ったじゃん」

ルイオスはつまらなさそうに吐き捨てる。

「あーウザッ、さっさと帰ってくんね?てゆうか、マジウザ。趣味じゃねーけどあの吸血鬼で鬱憤でも―――――」

次の瞬間、俺はギフトカードから白牙槍を取り出し、ルイオスの喉元に突きつける。

ルイオスは言葉の続きを発する状態で固まっている。

「それ以上何かしゃべてみろ?ギフトゲームの前にお前を殺す」

今にもルイオスを殺してしまいそうだが、そんな俺を十六夜が制する。

「落ち着けよ、修也。こんな小物、殺す価値もねえよ。なんせ、“ノーネーム”如きにビビってギフトゲームすらできない連中だぜ?」

十六夜の言葉に“ペルセウス”の連中は明らかに敵意むき出しで睨んでくる。

「挑発のつもりか?悪いがそれに乗るほど短気じゃないんでね」

そう言うルイオスだが、額には怒りマークが出ている。

そんなルイオスに黒ウサギはあるものを見せる。

“ペルセウス”の旗印が描かれた宝石を。

「こ、これは、“ペルセウス”への挑戦権を示すギフト・・・・・!?まさか名無し風情が、海魔とグライアイを打倒したというのか!?」

ルイオスの側近の男が驚きの声を上げる。

「あぁ、あのババァと大タコか?確かに面白かったがあれなら蛇の方がマシだったぜ?」

十六夜はニヤニヤ笑いながらルイオスを見る。

「ハッ・・・・いいさ、相手してやるよ。元々このゲームは思い上がったコミュニティに身の程を知らせてやる為のもの。二度と逆らう気が無くなるぐらい徹底的に・・・・徹底的に潰してやる」

おぉ、器が小っちゃい野郎だな。

「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早言葉は不要でしょう。“ノーネーム”と“ペルセウス”。ギフトゲームによって決着をつけさせていただきます」

 

 

 

『ギフトゲーム名:“FAIRYTAIL in PERSEUS”

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          月三波・クルーエ・修也

 ・“ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル

 ・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

 ・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒

 ・敗北条件  プレイヤー側ゲームマスターの降伏・失格

        プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 ・舞台詳細 ルール

  *ホスト側ゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない

  *ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない

  *プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない

  *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行できる

  宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                               “ペルセウス”印』

現れた契約書類を読むと視界が代わり白亜の宮殿の門の前に居た。

これが、“ペルセウス”が所有するゲーム盤か。

「姿を見られたらルイオスに挑めない。

まさしくペルセウスの暗殺だな」

「話通りならルイオスは宮殿の最奥で昼寝中だな。最もそこまで甘くないだろうが」

取りあえず必要なことはジンを連中に見つけられないようにしないとな。

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはず。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません、不可視のギフトを持たない黒ウサギ達にはかなり綿密な作戦が必要でございます」

「となると必要な役割は3つだな」

「ジン君と一緒にルイオスを倒す役割、見えない敵を感知して倒す役割、そして、失格覚悟で囮と露払いをする役割だね」

「春日部は鼻が利く。耳も目もいい。修也も五感が優れているから不可視の敵は任せる」

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加する事が出来ません

ですから、ルイオスさんを倒す役割は十六夜さんにお願いします」

「なら、私は囮と露払いかしら?」

飛鳥が不満そうに文句を言う。

だが、十六夜から聞いた話によると飛鳥のギフトはルイオスにはあまり効果が無かったらしい。

なら、ルイオスと闘うより兵士相手に闘う方がいい。

「悪いな、お嬢様。譲ってやりたいが勝負は勝たなきゃ意味が無い。あの野郎を倒すのは俺が適任だ」

「ふん、いいわ。今回は譲ってあげる。ただし、負けたら承知しないわよ。」

飛鳥の言葉に十六夜は任せろと言う。

「皆様に一つご注意があります」

黒ウサギが神妙な面持ちで話しかけてくる。

「何?あの外道、結構強いの?」

「いえ、ルイオスさん自身そこまで強くありませんが、問題は彼が所持するギフトです。

黒ウサギの推測が正しければ彼のギフトは」

「「隷属させた元魔王」」

「そう、元魔王の・・・・え?」

俺と十六夜の補足に黒ウサギは目をパチクリさせながら見てくる。

「神話通りならゴーゴンの首は戦神アテネに献上されたはずだ。」

「でも、奴らは石化のギフトを使ってくる。」

「すなわち箱庭に招かれたのは星座としてのペルセウス。ならさしずめ奴のギフトは」

「「アルゴルの悪魔」」

俺達の話が分からなかったらしく耀と飛鳥は顔を見合わせている。

黒ウサギは驚愕して固まっている。

「・・・・・まさか、箱庭の星々の秘密に・・・・・?」

「まぁな、星を見上げっときに推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した」

「俺のは十六夜からルイオスの話を聞いて、推理したに過ぎない」

あっけらかんと答える俺と十六夜に黒ウサギは含み笑いで聞いてくる。

「もしかして、御ニ人は意外と知能派でございますか?」

「何を今さら、俺は根っからの知能派だぜ。黒ウサギの部屋もドアノブを回さずに扉を開けたしな。」

なるほど、だがら扉が壊れてたのか。

「いえ、そもそもドアノブは付いていませんでしたから。扉だけです」

冷静にツッコミを入れる黒ウサギ。

十六夜はそれに気づき補足する。

「そうか。でも、ドアノブが付いていても、ドアノブを回さないで開けれるぜ」

「ほう、ちなみにどうやって?」

なんとなく答えが分かるがここは一つ聞くのがお約束だな。

「決まってんだろ」

ヤハハと笑いなが十六夜は宮殿の門の前に立つ。

「そんなもん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうやって開けるにきまってんだろッ!」

十六夜の蹴りが門に当たり、そのまま破壊する。

そして、開戦の狼煙をあげた。

 



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第10話 ギフトゲームが終了するそうですよ?

遠くから水が流れる音と多くの男どもの悲鳴が聞こえる。

どうやら首尾よく囮はうまく行ってるようだ。

「修也、状況はどんなもんだ?」

「飛鳥が首尾よくやってくれてるぜ」

「流石だな」

今回、俺の役割は耀と共に不可視のギフトを持つ兵士を倒しハデスの兜(レプリカ)を奪う役割だが、それは嘘だ

本当の役割は十六夜の保険だ。

万が一、十六夜の姿が見られた時、俺が十六夜の代わりにルイオスを潰すことになってる。

今の所、十六夜以外でルイオスに勝てそうなのは俺ぐらい。

その為、十六夜が俺を保険という形で温存することになった。

だから、なるべく俺は敵に姿が見られないようにしてる。

このことは、俺と十六夜、ジン、耀の4人しか知らない。

ていうか、この場に俺らしかいないからってだけなんだが。

「ぐっ!」

ドサッと地面に何かが倒れ、急に男が現れる。

どうやら耀が不可視のギフトを持つ兵士を倒したらしい。

「不可視のギフト、ゲットだな」

「やっぱり匂いと音は消せないみたいだね」

ハデスの兜とは言え、所詮はレプリカ。

本物みたいに音や匂いまでは消せないみたいだ。

「このゲームはこのギフトが鍵になる。最奥に続く道に数人配置されてたら不可視にでもならないと攻略は無理だ。兜を使う手下を限定してるのも安易に奪われないため」

「だが、不可視の兵士をさがして動き回るのは自殺行為だ」

「この兜で御チビだけ守っても俺が見つかれば勝ち目はなくなる。

となると作戦変更だ。もう一つ兜を奪う。春日部には悪いが―――」

「気にしなくていい。私が敵を引き付けるから透明になったまま叩いて」

不可視のギフトは最低でも2つ必要。

欲を出せば俺と耀の分も欲しいが欲を出し過ぎて失格になるのはマズイ。

取りあえず十六夜とジンの分を確保できればいいか。

「良いとこ取りみたいで悪いな。これでもお嬢様や春日部、修也にはソレなりに感謝してるぞ。今回のゲームなんかは、ソロプレイで攻略出来そうに無いし」

「大丈夫、埋め合わせはしてもらうから」

「安心しな。埋め合わせはする。修也がな」

ちょっと待て、何故俺が十六夜の埋め合わせをしなきゃならん?

「期待してる」

こっちに親指を立てて耀が言ってくる。

明らかになんかおかしいよね?

「よし、御チビは隠れとけ。死んでも見つかるなよ」

兜を被り、十六夜の姿が消える。

物陰から飛び出して宮殿を駆け回る。

暫く廻ってると兵士どもと遭遇した。

「いたぞ!名無しの娘だ!」

「これで敵の残りは四人だ!」

兵士が一斉に襲い掛かってくる。

「邪魔だ!」

見えない十六夜の拳が炸裂し、兵士を一気に片づける。

「春日部、こいつら以外に敵は?」

「今の所何も聞こえない・・・わ!?」

いきなり耀が飛ばせれて驚く。

飛ばされたっていうより殴り飛ばされた感じだな。

「春日部!」

俺と耀が気づけないってことはオリジナルのハデスの兜か。

こいつは厄介だな。

「くそ、ここはひとまず撤退だ!」

十六夜が耀を抱きかかえて逃げようとすると十六夜も殴り飛ばされた。

いくら姿が透明になっていても姿が見える耀を抱えていたら位置がばれるにきまってるか。

殴られたときに十六夜の被ってる兜が壊れたらしく十六夜の姿が現れる。

「くそ!兜が壊れちまった!」

姿が見られたため十六夜は失格になってしまった。

俺はすぐさま動く。

そして、姿が見えない兵士の背後に立ち、首に噛みつく。

「なっ!・・・・がっ」

そのまま兵士は崩れ落ち兜を拾う。

「こいつが本物か」

「修也、どうして奴の居場所が分かった?本物のハデスの兜は匂いも音も気配も消す。

なんでだ?」

「確かに匂いも足音もしなかった。ひょっとして見えてる?」

十六夜と耀が不思議そうに聞いてくる。

「いや、見えてない。ただ何となく分かる」

「「は?」」

「俺、吸血鬼だからさ、何となく分かるんだよ。血が騒ぐってのかな?

とにかく血に飢えてるとほとんど感覚で分かるんだよ。

特に最近は飲んでないからな。余計に分かる」

そう言うと十六夜はヤハハと笑い、耀は少し何か考え始めた。

「取り敢えず、ハデスの兜のオリジナルが手に入った。後は最奥まで行くだけだ。

十六夜、護衛を頼めるか?」

「おう、まかしとけ。連中が修也を見る前に黙らしてやるよ」

「よし、なら行こう」

いつの間にか居たジンにハデスの兜を渡すと耀が話しかけてきた。

「修也、私の血、飲んでって」

「え?・・・・・・・いいのか?」

「うん。血に飢えてるなら飲んでいいよ。それに、飲めば強くなるでしょ?」

確かに飲んだ方が力が強くなるし色々メリットもある。

「分かった。ありがとな」

そして、再び耀の首に噛みつき血を吸う。

実を言うと吸血鬼は人間の血に味を感じる。

基本的にはトマトジュースに近い味がするが極稀に味のある血がある。

それが耀だ。

耀の血はなめらかな濃いバターの様に濃厚な味わいでとてもうまい。

そして飲みやすい。

首から口を離し、傷口を舐めて塞ぐ。

耀は終始顔を真っ赤にしていた。

「ふぅ、ごちそうさま」

口に着いた血を拭い拳を握る。

力が漲ってくる。

 

 

「おっす、黒ウサギ」

「修也さん、十六夜さんにジン坊ちゃん!」

宮殿の最奥に着くと黒ウサギがいた。

俺たちの姿を確認すると安堵したかのように息をもらす。

「ふん、使えない部下共だ。これが終わったらまとめて粛清しないとね

ともあれ

ようこそ白亜の宮殿・最上階へ、ゲームマスターとして相手しましょう

あれ?この台詞言うの初めてかも?」

ルイオスは翼の生えた靴で空に飛びあがる。

なるほど、ペルセウスがゴーゴン退治で神から授かった武具、ヘルメスの靴か。

となると、ハデスの兜を除けば神霊殺しの鎌“ハルパー”とアテナの盾か。

黒ウサギが言うにはアテナの盾は箱庭で失ったそうだが。

ルイオスはギフトカードから炎の弓をだして構える。

「炎の弓?神霊殺しの鎌ハルパー使うのだと」

「飛べるのにどうして同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ。

それにメインで戦うのは僕じゃない。コイツさ」

ルイオスは首のチョーカーについてる装飾を引き千切ると投げ捨てた。

「目覚めろ。アルゴールの魔王!」

装飾が光を放ち、その中から拘束具に縛られた女性と思しき者が現れた。

あれが精霊アルゴール。

「GYAAAAAAAAAAaaaaaaa!」

アルゴールの絶叫が響き渡る。

その直後、空から何かが落ちてきた。

「飛べない人間は不便だよね。落ちてくる雲も避けれないんだから」

アルゴールの持つ石化のギフトで雲を石化したのか。

雲まで石化するとは恐ろしい。

アルゴルとはペルセウス座のゴーゴンの首の位置にある恒星で“悪魔の頭”という意味がある。

ゴーゴンの首の位置にあるから石化のギフトを持っているというのが十六夜の推測らしい。

「今頃君たちの仲間と部下どもは石になってるだろうさ。ま、無能にはいい罰さ。

安心しなよ。君たちに石化のギフトは使わない。すぐに終わらせたら勿体ない」

「目論見は外れたな。レティシアが戻れば魔王に対抗できると思ったんだろうが、肝心のレティシアは使えない。どうする、例の作戦止めるか?」

「・・・・ですが、僕たちにはまだ貴方たちがいます。

この舞台でそれを証明してください」

「OK。見せてやるよ」

十六夜の言葉に黒ウサギは期待するような目で十六夜を見る。

「と言いたいが、残念なことに俺はあいつに挑む資格が無い」

「え・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

アルゴールの次は黒ウサギの絶叫が響く。

「なら、どう戦うんですか!?」

「落ち着けよ、黒ウサギ。後は、修也がやる」

「その通りだ」

ギフトカードから白牙槍を取り出し構える。

「見とけ、黒ウサギ。十六夜だけが魔王を倒せるってわけじゃないぜ。」

ルイオスを見ながら馬鹿にするように挑発をする。

「こいよ、名前負け。二度と逆らう気が無くなるぐらい徹底的に叩き潰してやる」

「この――――名無し風情がァ――――ッ!」

ルイオスが切れ炎の弓を放つ。

「はぁ、止まって見えるぞ!」

放たれた炎の矢を一つ残らず槍で払い落とす。

弓が無駄だと分かるとすぐさま仕舞い、今度はハルパーを取り出す。

「押さえつけろ!アルゴール!」

アルゴールと挟み込んで俺を討つつもりか。

アルゴールは俺に襲い掛かって来てねじ伏せようとする。

だが

俺は真正面からアルゴールを見据えて迎え撃つ。

「くたばれ!」

アルゴールの顔面をぶん殴り、ノックダウンさせる。

「くっ、調子に乗りやがって!」

「テメーもな!」

後ろからハルパーで斬りかかってくるルイオスの鎌を槍で弾き、腹に蹴りを入れる。

「どうした?随分調子が悪そうだが?」

「はッ、あれでアルゴールが終わったと思うなよ。

今だ!押しつぶせ!アルゴール!」

アルゴールはかなりタフらしくすぐさま意識を回復させ後ろから俺に殴りかかる。

「残念だったな!これで僕たち“ペルセウス”の勝利だ!」

「誰の勝ちだって?」

「な!?」

アルゴールの一撃は俺に当たらず地面を砕いただけだった。

俺は翼を出し、アルゴールの攻撃を躱しルイオスの背後に着いた。

「おらよ!」

「がは!」

下からルイオスを殴り上に飛ばす。

そして、すぐさま飛び上がり再度攻撃をする。

「覚えとけ。翼があるのはお前だけじゃないんだよ」

もう一度ルイオスの腹を蹴り飛ばし地面に叩き落す。

「ぐ・・・がは・・・・・・・なんだよ!?なんなんだ!?お前は!?

本当に人間か!?いったいどんなギフトを持っている!?」

「ギフトネーム“忠義の吸血騎士(ロード・オブ・ヴァンパイアナイト)”これでわかるだろ?」

「ヴァ、ヴァンパイア!?お前、吸血鬼なのか!?」

「ああ、ついでに言うとレティシアの従弟になる」

「・・・・・・もういい、アルゴール。どんな手を使っても構わない。

奴を――――――――殺せぇ!!」

ルイオスの命令に従うようにアルゴールは絶叫する。

すると黒いしみがアルゴールを中心に広がり、あたりからいろんな魔獣を生み出す。

「確かゴーゴンにはそんな力もあったけ」

「そうだ!これが数々の魔獣を生み出したゴーゴンの特性!お前の相手は魔王とこの宮殿そのものだ!逃げ場はないものと知れ!」

「へぇ~~~~、そいつは面白いな。だが、覚えとけ俺は吸血鬼。たかが魔獣如きに遅れは取らないぜ!」

言うや否や俺は自分の腕を斬り血を辺り一帯に撒く。

そして、槍を地面に突き刺す。

「我が血よ、我が名のもとに従え。ここ一帯を――――――破壊せよ!」

血は地面に吸い込まれる。

吸い込まれると闘技場が揺れ始める。

「な、一体何が!?」

「俺のギフトの力の一つ。俺の血は俺の体の一部。ありとあらゆる命令に従う。今みたいな無茶苦茶な命令でもな」

「だが、この宮殿には常時防御用の結界が貼られている!いくらなんでもそれを破るのは不可能だ!」

「そうかい。なら、俺も良いこと教えてやるよ。この白牙槍って結構いい武器でな。

ちょっとした恩恵があるんだよ」

ルイオスだけでなく黒ウサギ、ジン、十六夜までもが耳を傾ける。

「結界破壊効果だそうだ」

「な!?」

「さっきコイツを地面に突き刺した瞬間、お前の言う防御用結界はもう壊れた。すなわち」

急に地響きが起こり、闘技場全体が震えだす。

「ここは破壊できるんだよ」

そして、巨大な音と共に闘技場が破壊された。

「どうした?もうネタ切れか?」

ルイオスは悔しそうな顔を浮かべるがすぐに真顔に戻った。

「もういい、アルゴール。終わらせ―――」

「る、前に俺が終わらせるぜ」

ルイオスが何かを命じようとするがその前に俺はアルゴールの額に槍を突き刺す。

そして、そのまま、蹴り倒し、爪で引き裂き、腕をもぎ、踏み潰す。

そして、元魔王アルゴールは動かなくなった。

「まぁ、こんなもんか。さぁ、次はどんなものを見せてくれる?」

「・・・・・・もういい、やめだ。お前たちの勝ちでいい。もともと乗り気じゃなかったんだ。こんなことで生死を掛けたくない」

「修也さん、もうこれ以上のものは出ないと思います。アルゴールが拘束具で繋がれてる時点で察するべきでした。ルイオス様はアルゴールを支配するにはまだ未熟すぎるのです」

ルイオスは悔しそうにした俯く。

所詮は七光りか・・・・

「おい、このまま終わっていいのか?」

俺の言葉にルイオスは反応する。

「このゲームでお前たちの旗印を手に入れたら、今度は旗印を盾にもう一戦申し込む。

そして、次は名前を頂く。そうすればお前らも名無しだ」

ルイオスは恐怖に顔を歪め怯える。

大方、“ノーネーム”になった自分たちを想像したんだろう。

「そして、また名と旗印を掛けて勝負をする。お前たちから絞るだけ絞って、箱庭で活動できなくなるぐらいに徹底的に潰してやるよ」

「や、やめろ!僕のコミュニティが崩壊する!」

「なら、最後まで戦え。ゲームマスターとして、“ペルセウス”のリーダーとして立ち向かってこい。投げやりにゲームを終わらせるな。ゲームは・・・・・・まだ続いてる!」

ルイオスはゆっくりと立ち上がりギフトカードからハルパーを出す。

「いいだろ。やってやる。やってやるさ!アルゴールがいなくても、僕の力でやってる!」

ルイオスは鎌を構え突っ込んでくる。

俺も槍を構え相手になる。

「は、結構根性あるじゃねーか」

そして、俺の拳はルイオスの顔面を貫いた。

 



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第11話 メイドだそうですよ?

「「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」」

「「「え?」」」

“ペルセウス”とのギフトゲームが終わり、レティシアを助けて目を覚まして俺達の開口一番はこれだった。

「え?じゃないわよ今回のゲームで活躍したの私たちだけじゃない?あなた達はくっ付いてきただけだもの」

「うん、私なんて力一杯殴られたし、石になったし」

「あ、それ私も」

「つーか挑戦権持ってきたのおれだろ?」

「最後にアルゴールとルイオスを倒したのは俺だ」

「というわけで所有権は3:3:2:2で話は付いた」

ちなみに俺と十六夜が3、耀と飛鳥が2だ。

「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?」

黒ウサギとジンは混乱している。

そんな中、当事者であるレティシアは冷静だった

「んっ………ふ、む。そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰れたことに、この上なく感動している。だが、親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

「レ、レティシア様!?」

意外にもノリがいいな。

「私、ずっと金髪の使用人に憧れていたのよ。私の家の使用人ったらみんな華も無い可愛げの無い人達ばかりだったんだもの。これからよろしく、レティシア」

「よろしく・・・・・・いや、主従なのだから『よろしくお願いします』の方がいいかな?」

「使い勝手がいいのを使えばいいよ」

「そ、そうか。・・・・・・いや、そうですか? んん、そうでございますか?」

「黒ウサギの真似はやめとけ」

「ん?君は・・・・どこかであったかな?」

「ああ、月三波・クルーエ・修也だ。クルーエ=ドラクレアの息子だよ。レティシア姉さん」

「そうか。クルーエ叔父上の子だったか。どうりで似てるわけだ。だが、私はもうメイドだ。

姉さんは止してくれ」

「ああ、分かった」

そんな風に楽しそうに会話する俺達をみて黒ウサギは肩を落としていた。

 

 

それから三日後

俺達は黒ウサギ主催の歓迎会に参加させらた。

子供達を含めた“ノーネーム”総勢一二七人+一匹は水樹の貯水池付近に集まり、ささやかながら料理が並んだ長机を囲んでいた。

「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」

「うん。私も思った」

「黒ウサギなりに精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

「こりゃ、明日からのギフトゲーム頑張らないとな」

ジンに聞いた話によるとコミュニティの財政はかなりヤバイらしい。

後数日で底が付くとのことだ。

俺達4人でフル活動すれば何とかなるかもしれないが100人を超える子供たちを養うのはかなりきつい。

こんな風に飲み食いするのも贅沢になるだろう。

「無理しなくていいって言ったのに・・・・・・馬鹿な娘ね」

「そうだね」

飛鳥の苦笑に耀も苦笑で返す。

「それでは本日の大イベントが始まります!みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」

黒ウサギに言われて天幕を見ると大量の流れ星が流れていた。

「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群の切っ掛けを作ったのです」

「「「「え?」」」」

十六夜までもが驚く。

てか、どういう意味だ?

「箱庭の世界は天動説のように、全てのルールが此処、箱庭の都市を中心に回っております。先日、同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティは、敗北の為に“サウザンドアイズ”を追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」

そ、それって、まさか

「---・・・・・・なっ・・・・・・まさか、あの星空から星座を無くすというの!?」

「今夜の流星群は“サウザンドアイズ”から“ノーネーム”への、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いをかけるもよし、皆で鑑賞するもよし、今日は一杯騒ぎましょう♪」

飛鳥の驚きに黒ウサギは笑みを浮かべて返す。

はは、コイツはビックリだ。

箱庭に来てまだ、数日だが驚きの連続だな。

「こいつはいい目標ができたな」

「お、十六夜も思ったか」

「お?修也も思いついたか?」

「当たり前だぜ」

俺と十六夜は顔を合わせニヤリと笑う。

「目標?なんでございますか?」

俺と十六夜はペルセウス座があった場所を指さし言う。

「「あそこに俺達の旗を飾る」」

その言葉に黒ウサギは絶句するが、すぐに笑みを浮かべる。

「それは・・・とてもロマンが御座います」

「だろ?」

「はい!」

お、なにやらいい雰囲気。

お邪魔虫は退散しますか。

笑い合ってる十六夜と黒ウサギに背を向けて耀と飛鳥のとこに戻る。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし』

 

まさに捨てても来る価値があるな。

いや、それ以上か

 




原作1巻終了
次回から原作第2巻に入ります
ご期待下さい


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番外編 “魃”討伐だそうですよ?

時期的に原作二巻の前ぐらいだと思います。


“六本傷”カフェテラスに陣取っていた俺達は黒ウサギの言葉に耳を疑った。

 

「ギフトゲームが…………全面禁止?」

 

「YES!これはちょっとした緊急事態なのですよ!」

 

黒ウサギは耳をピンと撥ねさせて答える。

 

「ギフトゲームが行われないってことは流通が止まるのと変わらないだろ?金銭でのやり取りがあってもあくまでメインはギフトゲームのはずだ」

 

「もしかして………魔王が現れたの?」

 

飛鳥の質問に黒ウサギは首を振る。

 

「町はそんな剣呑な雰囲気じゃない。怖がってるっていうより困ってる感じ?」

 

「YES!魔王ほどの脅威ではありませんが、困った事態になっているのは間違いありません。実は箱庭の南側からこちらに向かって干ばつがやって来るそうなのですよ」

 

その言葉に俺達は一斉には?と声を上げた。

 

「どういうことなの?まさか干ばつに手足が生えてやってくるの?」

 

「YES!正確には腕一本に足一本です」

 

「なにそれ奇抜」

 

飛鳥と耀は更に眉を顰めた。

 

「腕一本に足一本の干ばつ………旱魃?まさか“魃”でも現れたのか?」

 

「“魃”?魃ってあれか?中国神話に出てくる干ばつを呼ぶ神獣」

 

「YES!流石は十六夜さんと修也さん。正確には黄帝の系譜の末に当たる怪鳥です」

 

魃は中国神話に現れる神獣。

 

黄帝の血筋である“魃”は生まれつき陽の光を呼び込み、雨風を消し去る力を持っていた。

 

魔王“蚩尤”との戦いでその力を行使した“魃”は穢れを浴び天に帰れなくなった。

 

しかし、ただ生きてるだけで干ばつを起こす“魃”を放置できず黄帝は“箱庭の世界”で保護することにした。

 

そして長い年月が経ち、世代を繰り返しても天に帰ることを望んだ“魃”は怪鳥へと姿を変えた。

 

「ギリシャ神話の“ペルセウス”、仏話の“月の兎”次は中国神話の“魃”ときたか。流石は神様の箱庭。もうなんでもありだね」

 

「それはNOですよ。“月の兎”も“ペルセウス”も外界でも功績が認めらたからこそ箱庭に招かれているのです。“恩恵”は読んで字の如く、神仏から与えられたもの!“伝承がある”とは“功績がある”と言うことです!」

 

そう言って両腕に力を込める黒ウサギ。

 

「まぁ、中には“魃”のような理由で箱庭に招かれた者もいます。アレは日照りを呼び込む力によって、コミュニティに属せない哀れな幻獣。神格を失い、神気も驚え、知性らしいものも残っておりません。あるのは何世代前から受け継ぐ故郷への想いだげでございます」

 

黒ウサギは遠い目をする。

 

「やや脱線してしまいましたが!つまり二一○五三八○外門に住むコミュニティは干ばつに備えて大忙し!これは我々“ノーネーム”の備蓄を増やすチャンスなのですよ!」

 

「なるほど。俺達には“水樹”がある。この様子を見る限り他のコミュニティには多くの水の蓄えがあるとは思えない」

 

「コレを機に他のコミュニティと契約をして定期収入を手に入れるのも悪くないわね」

 

「うん。あの立派な宝物庫も、いつまでもガラガラだと寂しいもんね」

 

「かなりイヤラシイ考えだが、まぁ、仕方がないか」

 

「黒ウサギもこんなイヤラシイ方法はしたくありませんが、我々“ノーネーム”は“名”も“旗印”もない身分。広報しようにもできない状態です。ですが、干ばつ期に水珠があることをアピールすれば、必ずや希望者が現れるはず!そこで皆さんには旱魃が現在どのような状況にあるか確認してきてほしいのです」

 

要するに情報集か。

 

「ま、暇つぶしには丁度いいか」

 

「偵察なら春日部さんと修也君の出番ね」

 

「うん。確認するけど腕一本に足一本なんだよね?」

 

「他に特徴は無いのか・」

 

「大きさには個体差がありますけど“左右の足の大きさが違う怪鳥”を探してください。あと、常に高温を発しているので不自然い陽炎が発生しているところを探してもいいですね。………でも、くれぐれも気を付けてください。危険を感じたら帰って来ても構いません」

 

心配そうにする黒ウサギに見送られ俺達は箱庭の外を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜、あの辺に陽炎が出てるぞ」

 

「それに左右の足の大きさが違う怪鳥の姿も見える。多分あれが“魃”」

 

「へ~、確かにありゃ、神獣と呼ぶには少しふさわしくねぇな」

 

俺も十六夜と同じ意見だ。

 

“魃”は常に干ばつを起こし、辺りを日照りでガンガンに照らしている。

 

神格も無く、知性もない。

 

あるのは故郷への想いのみ。

 

哀れな奴とは思うが、居られると困る奴だな。

 

「取り敢えず情報は得れたのだがら黒ウサギの所に戻りましょう」

 

「そうだな」

 

飛鳥の意見に同意し、帰ろうとすると耀が声を上げた。

 

「待って!ユニコーンが“魃”に襲われてる!」

 

「何!?」

 

そちらの方を見ると確かにユニコーンが“魃”に襲われていた。

 

考える前に体が動いていた。

 

俺はすぐさま翼を出し“魃”に向かって急接近した。

 

「…………まったくあいつは、お嬢様、春日部、俺らも行くぞ」

 

「はいはい、ここでも十分蒸し暑いのに……あの“魃”の周りはどれだけ蒸し暑いやら」

 

「大丈夫。帰ったらすぐにお風呂に入ればいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“魃”が巨大な鉤爪をユニコーンに振り下ろそうとした瞬間だった。

 

俺は空中で体を捻り、遠心力と落下のスピード、吸血鬼の持つ最高威力の回し蹴りを“魃”の頭に落とす。

 

“魃”はよろけて倒れるが再び起き上がり鉤爪を下ろそうとした。

 

迎え撃とうと構えるが後ろから飛鳥の声が聞こえた。

 

「『止まりなさい!』」

 

飛鳥のギフトにより“魃”は動きを止める。

 

そしてすかさず耀が十六夜を旋風を起こし上空へと運ぶ。

 

「十六夜、任せた」

 

「任された!!」

 

ヤハハハ!と笑いながら十六夜は胴回し回転蹴りを“魃”に叩き込み落とした。

 

「ったく、策も無しに突っ込んでんじゃねぇよ」

 

「お陰で“魃”を倒してしまったわ。これでコミュニティの備蓄の確保はお流れよ」

 

「……猪突猛進」

 

「あ~、すまん。気づいたら体が動いてた」

 

頭を掻きながら三人に謝る。

 

「ま、お前が動かなかったら俺が動いてたがな」

 

「私も」

 

「まぁ、私も動いてたでしょうね」

 

「結局、動いてたんじゃねぇかよ」

 

そうやって笑っていると助けたユニコーンが声を掛けてきた。

 

『助けてくれてありがとう。礼を言わせてほしい』

 

「いいよ。気にしなくて、俺たちが好きで助けただけだし」

 

「お礼を言われるほどでもないし」

 

『だが、君たちが“魃”を倒してくれなかったら私は死んでいた。だから何か礼をしたい』

 

ユニコーンは中々食い下がらずしつこく礼をしようとして来る。

 

「じゃあ、俺たちのコミュニティを広めてほしい」

 

『え?』

 

「俺達は今“打倒魔王”を目標に掲げてる。だが、俺たちのコミュニティは、“名”と“旗印”がない“ノーネーム”だ。名前が広まらなきゃその目標は達成できない。そこで、アンタ達に広めてほしいんだよ。“魔王関係でお困りごとがあればジン=ラッセルのノーネームまでどうぞ”ってな」

 

『それは構わないが………良いのですか?魔王を相手に戦いをするなど』

 

「構わないよ。“ノーネーム”の“名”と“旗印”を奪った魔王を見つけるにはこの方法が早いそれに」

 

耀がこっちを見てきた。

 

それに俺は笑って、同時に口を開いた。

 

「「俺達(私達)なら負ける気がしない」」

 

そう伝えるとユニコーンは一歩下がり頭を下げた。

 

『分かりました。“ジン=ラッセルのノーネーム”必ずや広めましょう』

 

そう言ってユニコーンは森の中へ帰って行った。

 

「何話してたか分かんねぇけど、取りあえず俺達に有益な取引が出来た。そう考えていいんだな?」

 

「ああ、問題無い」

 

「………ところで、この“魃”はどうするの?」

 

「取り敢えず持って行って換金でもしよう」

 

「“サウザンドアイズ”持っていけばそれなりの額で換金してくれるかな?」

 

そんな会話をして“魃”を縄で巻き、引きずりながら戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お馬鹿様!お馬鹿様この…………お馬鹿様!」

 

二一○五三八○外門の外壁外門前で俺達は黒ウサギに説教されてる。

 

「いいですか!?黒ウサギは干ばつに備えて“魃”の情報収集をお願いしたのですよ!?それなのに!なんで!どうして!………………誰が“魃”を倒してこいなんて言いました!?」

 

「「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」」

 

「黙らっしゃい!」

 

もはやお決まりの動作で黒ウサギはハリセンで俺達を叩く。

 

「ううう………憂鬱です。これでようやくコミュニティ再建の大きな足かがりが出来ると思いましたのに…………なんで倒してしまったのですか?」

 

「諸行無常」「弱肉強食」「世道人心」「傍若無人」

 

「言い訳するなら一つに絞ってください!」

 

ウサ耳を逆立てて怒るが、無視する。

 

ユニコーンのことは言わないでおこう。

 

だってなんか恥ずかしいし。

 

他の三人も何も言わないってことは同じなんだろう。

 

取りあえず捕まえた“魃”は“サウザンドアイズ”に持っていき換金することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ノーネーム”の本拠に戻るとリリが出迎えてくれた。

 

黒ウサギはジンに報告してくると言って出ていった。

 

「お帰りなさいませ。あれ、飛鳥様は?」

 

「風呂だとさ」

 

「汗流しに行った」

 

「“魃”が近くに居たせいで蒸し暑かったから。だけど、“サウザンドアイズ”で換金してもらってよかった」

 

「あ、そうでしたか!本当にご苦労様です」

 

狐耳をひょこんと元気に立つ。

 

恥ずかしかったのか、顔をまっかにして狐耳をすぐに伏せた。

 

その様子を見て俺達は苦笑した

 

「安心しろよ。ちょっと大物を狩ってきたからな。食いっぱぐれることは暫くねえさ」

 

「“サウザンドアイズ”に大量の食材を注文しといた。明日の朝には届くから受け取りと保存を頼む」

 

「はい!承りました!それで、御三人様はどうされますか?食事の準備でしたら今すぐにでもできますけど」

 

「お嬢様が風呂をあがったらでいいや。修也と春日部は?」

 

「俺も同じだ。食事は皆で食べるべきだ」

 

「私は……ん?」

 

耀が歯切れ悪く言葉を切る。

 

見つめるその先は厨房だった。

 

「懐かしい匂い。もしかして筍の灰汁抜きでもしてた?」

 

「は、はい。耀様が『和食が恋しい』とつぶやいていたので…………その、サプライズのつもりで色々と用意をしていました」

 

「え」

 

まずいな。

 

耀は五感が優れているせいで厨房で何を作っているのか分かってしまった。

 

リリも隠すことが出来ないので話してしまった。

 

気まずいな。

 

「で、肝心のラインナップは?」

 

十六夜が空気を読んでフォローしてくれた。

 

「は、はい。いい若鶏と筍、山野菜が手に入ったので合わせて天麩羅ににする予定です。筍は収穫仕立てなので灰汁抜きにも時間がかからずいい具合に筍の甘味がでてます。他にも裏手の小さな菜園で育てた菜の花をお吸い物にして―――」

 

「ごめん、十六夜。私先に食べる」

 

「悪い。俺も先に食う」

 

「安心しろ。俺も先に食う。……ところで、その筍余ってるか?余ってるなら筍飯もリクエストしたいところだが」

 

「それいい提案」

 

「お願いできるか?」

 

「は、はい!すぐに用意いたします!」

 

俺たちの分かりやすい反応にリリは頬を緩ませ喜んで厨房に向かった。

 

飯を食ってたら、風呂から上がった飛鳥が「私がお風呂がら上がるまで待ってなさいよ」っと怒っていたが飯を食べたらすぐに笑顔になった。

 

飛鳥も和食が恋しかったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、昨日とは打って変わり黒ウサギは笑顔だった。

 

てっきりまだ怒ってるか憂鬱そうな顔をしてると思ったんだがな。

 

「皆様!ギフトゲームも解禁されたことですし、今日も元気に参加いたしましょう!」

 

「それは別にいいが、面白いゲームなんだよな?」

 

「YES!行商に来て居りましたコミュニティ“八百万の大御神”の分隊が、行商を止めてゲームを開催するそうです!」

 

「仏話にギリシャ神話、中国神話、次は神道ときたか。てか、八百万の神なのに大御神ってどういいことだ?」

 

「それは後ほどお分かりいただけます!兎にも角にも“八百万の大御神”は“サウザンドアイズ”に匹敵する超巨大コミュニティ!期待度は当社比にして特大でございます!」

 

「当社比なのに特大なのね」

 

「何処と比べた当社比なのかよく分からないけど、何だが凄そう」

 

耀と飛鳥の容赦ない言葉に肩を落とすがすぐにウサ耳を伸ばす黒ウサギ。

 

「それでは参りましょう!ギフトゲームは神魔の遊戯!必ずや皆さんを満足できる恩恵と奇跡が用意されているはずでございます!」

 

そう言って明るく笑う黒ウサギの後を俺達は軽く微笑み合いながら後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにその後、助けたユニコーンがあの後本拠を訪れて全てを黒ウサギ達に話していたらしい。

 



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あら、魔王襲来のお知らせ?
第1話 問題児たちが脱退するかもだそうですよ?


「く~~~~~~~~~~」

「修也の寝顔・・・」

なんだろう?

修也の寝顔すごく可愛い。

今朝、飛鳥を起こしに行ってコミュニティにある農地について話していると“サウザンドアイズ”から手紙が来た。

内容に“火龍誕生祭”への招待状と書いてあり面白そうなのでみんなで行こうと話になった。

飛鳥は十六夜を探しに行き、私は修也を起こしに行った。

「修也、起きて」

「ん~~~~~~、後、半日」

「夜になる。早く起きて」

布団からゆっくりとした動作で修也が起きる。

頭に寝癖が付いてる。

その寝癖が少し猫耳の様に見えた。

「何の用だ?」

「白夜叉から手紙が来た」

「ん」

修也は寝ぼけながら立ち上がる。

「わ!」

急にふら付きこちらに倒れてくる。

「しゅ、修也?」

おそらく今の私は顔が真っ赤だろう。

「ZZZ」

寝てるし・・・・

取りあえず修也を担ぎ、飛鳥を探す。

飛鳥、どこだろう?

 

耀SIDE END

 

 

 

修也SIDE

目が冴えてきてまず最初に見たのは混沌だった。

「起きなさい!」

「させるか!」

「グボハァ!」

飛鳥が十六夜に飛び膝蹴り、別名・シャイニングウィザードを放ち、それを十六夜がジンを盾に防いでる光景だった。

「ジン君がぐるぐる回って吹っ飛びました!?大丈夫!?」

今叫んだのは“ノーネーム”の年長組の子「リリ」だ。

割烹着に狐耳が特徴の子だ。

「側頭部に飛び膝蹴りを食らって大丈夫な訳ないと思うな」

顔色一つ変えず合掌する耀。

てか、なんで耀は俺を担いでるんだ?

「耀。色々聞きたいがまずお願いがある。下ろしてくれ」

「うん」

耀の背中を降り、現状を確認する。

眠そうな十六夜。

興奮しきってる飛鳥。

相変わらず無表情の耀。

混乱してるリリ。

気絶してるジン。

・・・・ゴメン、さっぱり分からん。

「十六夜君、ジン君!緊急事態よ!二度寝してる場合じゃないわ!」

「そうかい。取りあえず、側頭部にシャイニングウィザードは止めとけ。

俺はともかく御チビの場合は命に関わ」

「って僕を盾に使ったのは十六夜さんでしょう!?」

復活したジンが十六夜にツッコミを入れる。

意外とタフだな。

「大丈夫よ。だってほら、生きてるじゃない」

「デッドオアライブ!?というか生きてても致命傷です!飛鳥さんはもう少しオブラードにと黒ウサギからも散々」

「御チビも五月蠅い」

十六夜が投げた本の角が的確にジンの頭に当たり、加えて先ほど以上の速度で後ろに飛ぶ。

あれ、死んだんじゃね?

リリは先ほど以上に混乱しジンを助けに行く。

「それで?人の快眠を邪魔したんだ。相応のプレゼントがあるんだろうな」

睡眠を邪魔されて不機嫌な十六夜。

対して飛鳥はそんな不機嫌な十六夜を無視して話を進める。

「いいからコレ読みなさい。絶対に喜ぶわよ」

不機嫌な表情のまま十六夜は手紙を読む。

俺も一緒になって読むことにした。

「何々?北と東の“階層支配者”による共同祭典“火龍誕生祭”の招待状?」

「そう!よくわからないけどきっと凄いお祭りだわ。十六夜君もわくわくするでしょ?」

なんで自慢げなんだよ?てかよく分からないのかよ。

「おい、ふざけんなよ。こんなことで人の快眠邪魔して側頭部にシャイニングウィザードを決めようとしたのかよ!?それに、なんだよこのラインナップ!?『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会および批評会に加え、様々な“主催者”がギフトゲームを開催。メインは“フロアマスター”が主催する大祭を予定しております』だと!?

クソが!少し面白そうじゃねえか、行ってみようかなオイ♪」

結構ノリノリじゃないか

まぁ、俺も結構興味があったりするんだがな。

「ま、待ってください!北側にいくにしてもせめて黒ウサギのお姉ちゃんに相談してから、

ジン君も起きて!皆さんが北側に行っちゃうよ!」

「・・・・北?・・・北側だって!?」

気絶していたジンが「北側に行く」の言葉で飛び起きる。

やっぱりタフだな。

「ちょ、ちょっと待って下さい!北側に行くって本当ですか!?」

「ああ。そうだが?」

「何処にそんな蓄えがあると思ってるんですか!?此処から教会壁までどれだけあると思っているんです!?リリも、大祭の事は皆さんには秘密にと――――」

「「「「秘密?」」」」

ジンはどうやら北側の大祭の事を知ってたらしい。

それを俺達に黙ってたってわけか。

「そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」

「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張ってるのに、とっても残念だわ。ぐすん」

「毎日ギフトゲームをしてコミュニティの為に頑張ってるてのにな。ぐすん」

「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないな。ぐすん」

泣きまねをしながらニヤリと笑う俺達。

ジンは汗をダラダラにながし青ざめている。

取りあえずお仕置きな♪

 

「黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁぁん!大変――――!」

「リリ!?どうしたのですか!?」

「飛鳥様が十六夜様と耀様と修也様を連れて・・・・・・・・あ、こ、これ、手紙!」

『黒ウサギへ。

北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。貴女も後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。

私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合”四人ともコミュニティを脱退します”。死ぬ気で探してね。応援しているわ。

P/S ジン君は案内役に連れて行きます』

「な、―――――何を言ちゃってんですかあの問題児様方あああああ――――――!!!」

 



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第2話 交渉にいくそうですよ?

現在、俺達5人は“六本傷”が経営するカフェの一角に陣取り今後のことを話し合っている。

「毎回思うのだけど、ニ一○五三八○外門のあの悪趣味なコーディネートは、一体誰がしているの?」

悪趣味なコーディネートとは外門と箱庭の内壁の繋ぎ目に彫られてる虎の彫像だ。

今はもう潰れて存在しないがあれは“フォレス・ガロ”の旗印だ。

「箱庭の外門は地域の権力者が“階層支配者”の提示するギフトゲームをクリアすることでコーディネートする権利を得ます。コミュニティの広告塔の役割もあるんです」

「そう・・・それであの外道の名残が残ってるのね」

ジンの溜息交じりの説明に飛鳥は不機嫌そうに髪を掻き上げる。

「それで、北側までどうやっていけばいいのかしら?」

そう言って飛鳥は足を組み直す。

今の飛鳥の恰好はガルドとのギフトゲームの時と、“ペルセウス”のギフトゲームの時に着ていた真紅のドレスだ。

普段着にドレスってどうよ?

本人は気にしてないようだが。

まぁ、箱庭ではもっと突拍子もない服装の人もいたが。

この前、耀への埋め合わせのために、全て俺の奢りってことで耀と箱庭で遊び回った時、露出が多すぎてもはや服で無くなってる服を着た女性がいてビックリした。

その女性を見た直後、耀におもいっきり殴られ、回転を掛けながら近くの露店に突っ込んだ。

あの後、3日程首が痛かったな~。

「北にあるんだから、とにかく北に歩けばいいんじゃないかな?」

耀の無計画にも程がある提案に思わず苦笑する。

耀の恰好は箱庭に着た時とさほど変わらない恰好をしてる。

シャツ・ジャケット・ショートパンツ・ニーハイソックス・ブーツと、全く色気のない恰好である。お洒落と言えば右手に付けてるブレスレットとブーツについてるアンクレットぐらいだ。

だがブーツに付けてるアンクレットは黒ウサギがくれたギフトだ。

なんでも、飛行を手助けしてくれるギフトらしい。

ブレスレットは耀への埋め合わせパート2での俺からのプレゼントだ。

特になんの力もないが結構気に入ってくれたみたいだ。

「で?我らのリーダーは何か素敵な案はないのか?」

ニヤニヤと見下ろす十六夜も着た時と変わらない紺の制服と壊れたヘッドホン首にかけた格好だ。かなり簡単だな。

ちなみにおれの服装は黒い長ズボンに黒いシャツ、黒いコート全身真っ黒黒助だ。

更に吸血鬼は暑さ、寒さに強く夏場でも平気でコートを着れる。

「もしかして、北側の境界線までの距離をしらないのですか?」

「知らねえよ。そんなに遠いのか?」

「なら、説明する前に言いますが、箱庭の表面積が恒星級だという話を知ってますか?」

「え?恒星?」

素っ頓狂な声を上げる飛鳥と表情を変えずに瞳を三度瞬きする耀。

十六夜は知ってたらしくあまり驚いてない。

「知ってるが、箱庭の世界は殆どが野ざらしにされてるって聞いたぜ。それに、大小は有っても町もあると」

「有りますよ。ですが、それを差し引いても箱庭は世界最大の都市。箱庭の世界の表面積を占める比率は他の都市と比べ物になりません」

都市の大きさを星の、しかも恒星級の星での比率で表す事ができるってどんだけでかいんだよ。

もし、箱庭の世界が太陽サイズならそのでかさは地球の13000倍。

馬鹿げてるな。

「まさか、恒星の1割ぐらい都市が占めてるとは言わないわよね?」

「そ、それは流石にありえませんよ。比率といってもその数字は極小数になります」

「そ、そうよねそれで、ここから北側の境界線までどのぐらいあるの?」

安堵した息を漏らし飛鳥はジンに聞く。

ジンは少し考えてから言葉を話す。

「ここは少し北寄りなので大雑把でいいのなら・・・・・980000㎞ぐらいかと」

「「「「うわお」」」」

俺達4人は様々な声音で呟く。

嬉々とした、唖然とした、平坦とした、絶句した声を上げた。

 

 

 

~その頃のコミュニティ~

「食堂にはいなかったよ!」

「大広間、個室、貴賓室、全部見てきた!」

「貯水池付近もいないっ!」

「お腹すいた!」

「それはまた後でな。・・・・・・金庫の方は?」

「コミュニティのお金に手を付けていません。皆さんの自腹では境界壁まで向かうことができませんから、外門付近で捕まえれることが可能です!」

「なら、黒ウサギは外門へ向かえ。

捕まえれなくとも“箱庭の貴族”のお前なら境界門の起動に金はかからない。私は“サウザンドアイズ”の支店に向かう。招待状の贈り主が白夜叉なら無償で北の境界壁まで送り届ける可能性もある」

「あの問題児様方・・・・・!今度という今度は絶対に!絶対に許さないのですよ!」

 

~終了~

 

「いくらなんでも遠すぎるでしょう!?」

「遠いですよ!箱庭の都市は中心を見上げた時の遠近感を狂わせるようにできているため、肉眼で見た縮尺との差異が非常に大きいんです!」

へぇ~、そんなトリックがあったのか。

「なら、“ペルセウス”のコミュニティに行った時みたいに外門と外門を繫げてもらいましょう」

「“境界門”のことですか?断固却下です!外門同士を繫ぐにはお金がかかるんです!

“サウザンドアイズ”発行の金貨で一人一枚!五人で五枚!コミュニティの全財産を上回ります!」

それは、かなりまずいな。

そんなことをしたらコミュニティの子供たちが飢え死にしちまう。

「なら、ルイオスに頼んで見るか?あれでも五桁のコミュニティで元“サウザンドアイズ”の傘下だ。“サウザンドアイズ”発行の金貨ぐらいあると思うが」

実はこの前のギフトゲーム以来ルイオスはどういう訳が俺の事を「兄貴」と言って慕ってくるようになった。

言うなればルイオスは俺の舎弟。

悪く言えばパシリだ。

「嫌よ!アイツに借りを作るなんでごめんだわ」

飛鳥の一言でそれも却下になった。

他に方法は・・・・・

「今なら笑い話ですみますから・・・もう戻りませんか?」

「断固拒否」

「右に同じ」

「以下同文」

「同感です」

俺達の言葉に肩を落とすジンだった。

ん?そうだ。

「白夜叉が招待状送って来たなら、白夜叉に頼んで見たらどうだ?」

俺の一言に周りが沈黙する。

「それよ!その方法があったわ!早速行くわよ!」

「おう!こうなったら駄目で元々!“サウザンドアイズ”へ交渉に行くぞゴラァ!」

「行くぞコラ」

ハイテンションな十六夜と飛鳥に続き、ノリで声を上げる耀だった。

なんか可愛いな。

そして俺達は魂がぬけたようなジンを引きずり“サウザンドアイズ”へ向かった。

 



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第3話 北側へ着いたそうですよ?

「お帰り下さい」

まだなにも言ってないのにこの扱い、酷くね?

「そこそこ常連客なんだし、もう少し愛想良くしてもいいと思うのだけれど?」

「常連客とは店にお金を落としていくお客様で、毎度、毎度、換金しかしない者は取引相手と言うのです」

確かに俺達は基本“サウザンドアイズ”の店で何も買わない。

全てがギフトゲームで得たものを換金している。

でも、それなりに良い物を換金してるんだがな。

飛鳥と店員(店長)が言い争っていると空から何かが降って来た。

「やっふぉおおおおおお!ようやく来おったか小僧どもおおおおおお!」

嬉しそうな声を上げ空中でスーパーアクセルを繰り出し荒々しく登場する。

誰かというと白夜叉だ。

というより白夜叉しかこんなことしない。

「よぉ、荒っぽいお出迎えだな」

「このぐらいインパクトがある方がよいと思ってな」

着物についた埃を払いながらケラケラ笑う白夜叉。

「まぁ、取りあえず、店の中へ入れ。そこで話をしよう」

俺達は白夜叉の案内で客室に招かれた。

「白夜叉、一つ聞きたいことがある」

「何じゃ?」

辺りが静かになる。

全員が息を呑み誰一人として喋ろうとはしない。

至極真面目な目をしている白夜叉に俺は言葉を掛ける。

「なんで俺の膝の上に座っている?」

そう、白夜叉は現在俺の胡座をかいた膝の上に座っている。

「おんしの膝の上は座り心地がよくての。暫くそのままでおってくれ」

「いつ調べたんだよ?」

「おんしがここに泊まった時に膝枕をさしてもらった」

どおりで朝起きたら膝が痛かったわけだ。

「よかったじゃねーかよ。この際たっぷり楽しめよ」

十六夜は新しいおもちゃを貰った子供の如く笑っていやがる。

どういう訳か耀からは何やらどす黒いオーラが出てる気がする。

「さて、本題に入る前にジンよ。おんしに聞きたいことがある。“フォレス・ガロ”とのギフトゲーム以降おんし達のコミュニティが魔王関連のトラブルを引き受けるとの噂を耳にしたのだが、真か?」

白夜叉の質問にジンは頷く。

「はい。名も旗印が無い僕たちにはこうしてコミュニティの存在を広めていくしかありませんから」

「リスクは承知の上なのだな?」

「覚悟の上です。今の僕たちでは箱庭の上層に行くことができません。ですから僕たちの名と旗印を奪った魔王に出向いてもらい迎え撃つつもりです」

「無関係な魔王もくるかもしれんぞ?」

ぐいぐいと詰め寄るように質問をする白夜叉。

俺はそんな白夜叉の頭に手を置き撫でる。

「それこそ望むどころだ。魔王を倒し、隷属して“ノーネーム”の戦力を上げ、そして、名を広める。“打倒魔王”を掲げたコミュニティとして」

「ふむ」

頭を撫でられながらしばし瞑想すると、呆れた笑みを浮かべる。

「そこまで考えとるなら良い。では、そのコミュニティに東のフロアマスターとして正式に依頼をしよう。よろしいかな、ジン殿?」

「は、はい!謹んで承ります!」

白夜叉がいつになく真面目な表情で言ってくる白夜叉に慌てながらもジンが引き受ける。

「まず、北のフロアマスターの一角が世代交代した。急病で引退とか。まぁ、亜龍にしては高齢だったからのう。寄る年波には勝てなかったってことだ。此度の大祭は新たなフロアマスターである、火龍の誕生祭での」

「「龍?」」

龍の部分に十六夜と耀が反応した。

十六夜のことだから火龍と戦いたいと思ってんだろうな。

耀は火龍と友達にでもなりたいのかな。

火龍の特性って何だろう?

口から炎?

耀が口から炎・・・・・・・・・想像したくねぇ~。

「ところでおんしら、フロアマスターについてどのぐらい知っておる?」

「私は全く知らないわ」

「私も」

「俺は少しだけなら」

「俺もちょっとは」

フロアマスターとは下層の秩序と成長を見守る連中で箱庭内の土地の分割や譲渡、コミュニティが上位に移転できるかを試すのにギフトゲームを行ったり魔王が現れたら率先して戦うといった義務がある。それと引き換えに“主催者権限(ホストマスター)”が与えられてるそうだ。

「北は鬼種や精霊、悪魔といった種が混在した土地なのでそれだけ、治安が良くないのです。そのため、マスターは複数存在します。」

ジンの補足説明により話が少しずつ進む。

「“サラマンドラ”とはかつては親交は有りましたが、頭首が替わっていたとは知りませんでした。今はどなたが頭首を?」

「末の娘のサンドラだ」

その名前にジンが身を乗り出して驚く。

「サンドラが!?そんな、彼女はまだ十一歳ですよ!?」

「ジン君だって十一歳で私たちのリーダーじゃない」

「それはそうですけど・・・・いえ、ですが」

「なんだ?御チビの恋人か?」

「ち、違います!」

十六夜がジンを弄って遊んでるうちに話を進めてもらう。

「それで?俺達に何をして欲しいんだ?」

「あぁ、今回の誕生祭は次代マスターのサンドラのお披露目も兼ねている。

じゃが、まだその幼さ故、東のフロアマスターの私に共同の主催者を依頼してきた」

「北には他のマスターもいるのでしょう?なら、そのコミュニティにお願いして共同主催すればいい話じゃない?」

「うむ。まぁ、そうなのじゃが」

白夜叉が歯切れ悪く話す。

「幼い権力者を良く思わない組織がある、とか在り来たりにそんなところだろ」

「まぁ、それもあるが色々事情があるのだ」

十六夜のセリフに肯定も否定もしない白夜叉。

何か隠してる、いや、言いにくいことなのか。

「ちょっと待って。その話長くなる?」

急に耀が何かに気付いたのかそんなことを聞いてくる。

「ん?そうだな、短くとも後1時間ぐらいかの」

なんだと!?それはマズイ。

十六夜と飛鳥も気づいたらしく少し慌てる。

ジンも気が付き立ち上がる。

「白夜叉様!どうかこのまま「ジン君『黙りなさい!』」

飛鳥のギフトで口が無理やり閉じられるジン。

「白夜叉!今すぐ北側へ向かってくれ!」

「構わんが内容を聞かずによいのか?」

「構わねぇ!事情は追々話すし、何よりそっちの方が面白い!保障する!」

十六夜のセリフに白夜叉はニヤリと笑う。

「よし、わかった。それでは、北側へと連れて行こう」

白夜叉が両手をパンパンと二回叩く。

「これでよし。北側へ着いたぞ」

「「「「・・・・・・・は?」」」」

9800000㎞の距離を今ので移動したのか?

ありえんだろ。

白夜叉を膝から降ろし、十六夜達と共に外に出る。

ちなみに外に出るまで耀に頬を引っ張られたがなんで?

 



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第4話 “創造主達の決闘”だそうですよ?

“サウザンドアイズ”の店を出ると熱い風が頬を撫でた。

店を出た先は北側一帯が見渡せるような高台だった。

赤壁の境界壁、鉱石で彫像されたモニュメント、ゴシック調の尖塔群のアーチ、巨大な凱旋門、色彩鮮やかなカットグラスで飾られた歩廊。

見れば見るほど東側とは造りも文化も違う街並みだ。

飛鳥は美しい街並みに瞳を輝かせている。

確か、飛鳥は戦後間もない時代から来たんだっけ。

なら、これから見るもの聞くものが新鮮だろうな。

「今すぐ降りましょう! あの歩廊に行ってみたいわ!」

「そうだの。まぁ、続きは夜に話そう。それまで、遊んでくるとよい。」

白夜叉からの許可がおり飛鳥は今にも飛び出しそうだった。

すると空からなにかが降って来た。

「見ィつけた―――――のですよおおおおおおおおおお!」

ドップラー効果の聞いた絶叫と爆撃のような着地で現れたのは俺達の仲間黒ウサ――――

「ふ、ふふ、フフフフ、ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方!」

ギ・・・・・だよな?

髪の色が桜色になり、怒りオーラ全開の黒ウサギだ。

あれが、帝釈天の眷属かよ?

どうみても閻魔か死神の遣いに見えるぜ。

「逃げるぞッ!」

「え、ちょっと、」

十六夜はすぐさま飛鳥を抱きかかえて高台から飛び降りる。

俺も翼を出し、それに飛び上がり、耀も旋風のギフトで空に逃げようとするが一足遅く、黒ウサギによりブーツを掴まれた。

「耀さん、捕まえたのですよ!後デタップリ御説教タイムナノデスヨ。御覚悟シテクダサイネ♪」

「りょ、了解」

黒ウサギのいつにない迫力に耀は怯えながら頷く。

「余所見とは余裕だな」

後ろから声が聞えたので振り向くとそこにはレティシアがいた。

「な、ど、どうして!?“境界門”を開くほどの蓄えは無いはず!?」

「私のポケットマネーから金貨を出して“境界門”を開いた。お陰で財布が空っぽだ。

さて、今はメイドとしてではなく、貴様の従姉としてお仕置きだ」

良く見るとレティシアの口元から血が出てる。

「もしかして、血、吸った?」

「あぁ、ジンからな」

「え?」

下を見るとジンが青ざめた顔をして仰向けに倒れていた。

「ジ――――――――ン!?」

「だから余所見をして大丈夫か?」

気が付くとレティシアはもう目の前にいた。

「はぁ!」

どこから出したのか、ハリセンを掴みそれで俺の頭を思いっきり叩く。

血を飲んで力が強くなった純血の吸血鬼がフルパワーで殴ったらどうなる?

当然、

「のはぁ!?」

めちゃくちゃ痛いです。

強烈な痛みを頭に抱えながら地面に落ちていく。

「あ、頭割れる・・・・」

俺が半吸血鬼だからいいものもし、耀や飛鳥なら全治五か月にはなるぞ。

十六夜は・・・・・・ケロッとしそうだな。

「さて、それっじゃ、私は黒ウサギと共に飛鳥と主殿を捕まえに行くとする。白夜叉、耀と出来の悪い従弟を頼む」

「うむ」

そう言ってレティシアは再び空に飛びあがり黒ウサギを探しに行った。

「まぁ、なんじゃ、大丈夫か?」

「大丈夫?」

「あまり大丈夫じゃない」

ゆっくりと立ち上がるがまた頭がくらくらする。

耀に手伝ってもらいながら“サウザンドアイズ”に戻った。

「さて、取りあえず何故、黒ウサギがあそこまで怒っているのか理由を聞かせて貰おうかの?」

「・・・・実は」

 

 

 

「なるほどのう。おんしららしいがコミュニティの脱退とは穏やかではないの。ちょいと悪質ではないかのう?」

「まぁ、今思えば冗談にしては笑えないな」

「私も少しそう思ったけど説明してくれれば私達だってこんな強硬手段に出たりしなかった」

「普段の行いが裏目に出たとは思わんのか?」

「それはそうだけど、それも含めて信頼の無い証拠。少し焦ればいい」

拗ねたように耀は言い、お茶と一緒に出された和菓子を食べる。

「そう言えば、大きなギフトゲームがあるらしいが本当か?」

「本当だとも。特に耀、おんしに出場して欲しいゲームがある」

着物の裾からチラシを取り出し耀に渡す。

『ギフトゲーム名:“創造主達の決闘”

・参加資格、及び概要

 ・参加者は創作系のギフトを所持

 ・サポートとして、1名までの同伴を許可

 ・決闘内容はその都度変化

 ・ギフト保持者は

創作系のギフト以外の使用を一部禁ずる

 

・授与される恩恵

 ・“階層支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

                            “サウザンドアイズ”印

“サラマンドラ”印』

創作系ギフトか。

耀の“生命の目録(ゲノムツリー)”は確か父親が創ったものだから創作系に分類されるのか。

確かにあのギフトならこの程度のゲームなら勝ち抜くことはできるだろう。

「ね、白夜叉」

「なにかな?」

「この恩恵で・・・・・・黒ウサギと仲直りできるかな?」

その言葉に白夜叉は驚いたような顔をした。

確かに俺達は問題児だ。

でも、“ノーネーム”が嫌いな訳じゃない。

むしろ、好きだ。

だからこそ、黒ウサギと仲直りがしたい。

基本的耀も、飛鳥も、十六夜も・・・・・・十六夜も・・・・・・根は良い奴だよな?

「出来るとも。おんしにそのつもりがあるのならの」

優しく温かい笑みで白夜叉は言う。

「そっか。それなら、出場してみる。」

耀は頷いて立ち上がる。

折角だし、見にいくか。

 



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第5話 飛鳥がネズミに襲われているそうですよ?

なんかタイトルが雑になってる気がする。
タイトルって考えるの難しい


現在俺は“創造主達の決闘”が行われている会場に来ている。

今行われているのは最後の決勝枠を巡る戦いだ。

耀が相手にしてるのは“ロックイーター”というコミュニティに属する自動人形、石垣の巨人だ。

勝負は耀が優勢になっている。

俺は、レティシアたちに付いてきた三毛猫と共に客席にいる。

白夜叉は今、宮殿にあるバルコニーから勝負を見ている。

「これで終わり」

旋風のギフトを操り巨人の背後に回り後頭部を蹴り倒す。

その時に、自分の体重を象に変化させて落下の力を加えて巨人を押しつぶす。

巨人が倒れると観客席から割れるような歓声が響いた。

『お嬢おおおおおお!うおおおおおおお!お嬢おおおおおおお!』

三毛猫は溢れんばかりに大声を上げる。

傍目にはニャーニャーとしか聞こえないが。

耀は三毛猫の声が聞こえたらしくこちらを向いて片手を上げて微笑を浮かべる。

その様子に俺は思わず笑ってしまった。

すると耀は慌てたようにそっぽを向く。

どうしたんだ?

「最後の勝者は“ノーネーム”の春日部耀に決まった。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。明日以降のゲームルールに関してはもう一人の“主催者”にして今回の祭典の主賓から説明願おう」

バルコニーにいた白夜叉がそう言って現れたのはジンとそんなに変わらない背の少女だった。

あれが“サラマンドラ”の新しい頭首サンドラか。

「ご紹介に与りました。北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎えることが出来ました。然したる事故もなく、進行に協力してくださった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を持って御礼の言葉を申し上げます。以降のゲームにつきましては御手持ちの招待状をご覧ください」

招待状を取り出し見ると書き記された文字が直線と曲線に分解され、別の文章になった。

『ギフトゲーム名:“創造主達の決闘”

・決勝参加コミュニティ

 ・ゲームマスター・“サラマンドラ”

 ・プレイヤー・“ウィル・オ・ウィスプ”

 ・プレイヤー・“ラッテンフェンガー”

 ・プレイヤー・“ノーネーム”

・決勝ルール

 ・お互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う

 ・ギフトを十全に扱うため、一人まで補佐が許される

 ・ゲームのクリアは登録されたギフト保持者の手で行う

 ・総当たり戦を行い勝ち星が多いコミュニティが優勝

 ・優勝者はゲームマスターと対峙

・授与される恩恵に関して

 ・“階層支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームに参加します

“サウザンドアイズ”印

“サラマンドラ”印』

ルールが書かれた紙をしまい俺は三毛猫と共に席を離れる。

そして、三毛猫と共に耀を迎えに行く。

「耀、お疲れ」

「し、修也」

『お嬢、決勝進出おめでとうや』

「うん、ありがと」

三毛猫を抱きかかえ耀は俺を見る。

「今日は疲れただろ。“サウザンドアイズ”に帰ろ」

「う、うん。白夜叉は?」

「あぁ、さっき、『小僧と黒ウサギが派手にやらかしてくれたらしくての、ちと、会ってくる』っていっていっちまった」

「そっか、じゃあ行こっか」

 

 

 

 

耀と歩きながら“サウザンドアイズ”の店に向かっているがさっきから会話一つしない。

なんか気まずい。

耀はというとこっちを横目で見てきたり、何かを言おうとしては躊躇ったりとしている。

本当になにか話をしないと。

すると

 

 

クゥ―――――――――――

 

 

まるで漫画のようなタイミングで誰かの腹がなった。

そっと隣の耀を見ると動きを止め、顔をこれでもかというぐらいに真っ赤にしてる。

「ハ・・・ハハハハハハ」

なんかおかしくなり思わず笑ってしまった。

笑うと耀は顔を真っ赤にしながら睨みつけてきた。

若干涙目だ。

「し、仕方がないじゃん。ゲームで動きすぎてお腹か・・・・・・」

「分かってるって。少し待ってろ」

耀を近くのベンチに座らせて少し来た道を戻った。

 

 

 

 

「ほらよ」

耀に透明なパックに入ったものを渡した。

「これ・・・・焼きそば?」

「ああ、祭りには焼きそばが定番だろ?」

ちなみに耀が満足できるように一番デカいサイズのパック(麺4玉ぐらい)にしてもらった。

「ありがとう」

「ああ」

お礼をいうと耀は焼きそばを食べ始めた。

急いで食べてるわけではないのだが、徐々に焼きそばは量を減らしていきそして、

僅か3分で山盛りにあった焼きそばは消滅していた。

「ごちそうさま」

手を合わしてごちそうさまを言う耀を見ると口元にソースがついていた。

「耀」

「ん?な・・・!?」

取り出したハンカチで耀の口元を拭うと耀は再度固まりだした。

「よし、綺麗になった。・・・・どうした?顔が真っ赤だが・・・」

「わ」

「わ?」

「私・・・先に・・・帰る」

顔を真っ赤にしながら耀はグリフォンのギフトで空に飛びあがりふらふらと危なげな様子で店に戻った。

「一体どうしたんだ?」

耀の行動に疑問を持ちながら店に戻ろうとすると空にレティシアがいた。

不思議に思い、翼をだして空に上がりレティシアと合流した。

「レティシア、どうした?こんなところで?」

「修也!ちょうどいい、実は飛鳥がどこかに行ってしまってな。探すのを手伝ってもらえないか?」

飛鳥の奴とはぐれたらしい。

あのお嬢様のことだ。

なにか面白そうな展示物がある会場に居そうだな。

「もしかしたら、どこかの展示会場に居るんじゃないか?

飛鳥のヤツ、そう言うの好きだし」

「そうか、となるとあそこが怪しいな」

レティシアの後を付いて行くと洞穴の展示会場についた。

「ここには“ウィル・オ・ウィプス”の展示物がある。飛鳥はあそこのコミュニティの歩くキャンドルに興味があったからな。いるとすればここの可能性が」

「ぎゃあああああああああああああああ」

急に洞窟の中から劈くような悲鳴が聞こえ大勢の参加者達が飛び出してきた。

「おい!中で何があった!」

レティシアが近くの男を捕まえ問い詰めた。

「か、影が・・・真っ黒い影と紅い光の群れが・・・」

「影?」

「そうだ。その影が長い髪の女の子と小さい精霊を追いかけて」

そこまで聞くと俺とレティシアは翼を広げて突き進む。

「・・・・・・・・・っていなさい。落ちてはだめよ!」

飛鳥の声が聞こえ、さらに進むと飛鳥の姿が見えた。

そこにいた飛鳥は帽子を被った小さな精霊を守りながら白銀の剣で何万といるネズミと闘っていた。

「ネズミ風情が、我が同胞に牙を突き立てるとは何事だ!?分際を痴れこの畜生共!!」

頭のリボンを取るとレティシアの姿は急激に変わった。

幼い容姿から急に大人の姿に変わり着ていたメイド服も真紅のレザージャケットに代わり拘束具のような奇形なスカートを履いていた。

レティシアは影を操り大量に居るネズミを切り殺した。

「人の仲間に手を出してんじゃねーよ!」

俺も自分の手を斬り裂き、あたり一帯に血を撒き散らす。

「我が血よ、我が名のもとに従え。ネズミ共を殲滅しろ!」

俺が命ずると撒き散らした血は次々と動き出しネズミを殺し始めた。

「術者は何処にいる!?姿を見せろ!往来の場で強襲した以上、相応の覚悟はできてるのだろう!ならば、我らの御旗の威光、私の牙と爪で刻んでやる!コミュニティの名を晒し、姿を見せて口上を述べよ!」

レティシアの一喝が洞窟に響くが誰一人として返事を返すものはいなかった。

どうやら、逃げたらしい。

「貴女、レティシアなの?」

「ああ」

飛鳥の質問にレティシアは普通の口調で答える。

「こんなに凄かったのね」

「あ、あのな主殿。褒められるのは嬉しいがその反応は流石に失礼だぞ。神格を失ったとはいえ、私は元魔王で純血の吸血鬼で誇り高き“箱庭の騎士”。ネズミごときに遅れをとるはずがない」

拗ねたように言うレティシアはまるで子供のようだ。

「それより、飛鳥、怪我は大丈夫か?」

「ええ、服についてる防御の加護のお陰で大きな怪我は無いわ。流石に服で覆われてない所は噛まれちゃったけど」

「あすか!」

急に飛鳥の胸から先ほどの小さい精霊が飛び出し、飛鳥に抱き付いた。

「あすか!あすかぁ!」

「ちょ、ちょっと」

精霊は今にも泣き出しそうな顔で飛鳥に抱き付いている。

よくわからんが懐かれているな。

「やれやれ。日も暮れて危ないし、今日の所はその精霊も連れて帰ろう」

「そ、そうね」

「異議なし」

レティシアの提案に反論もなく、そのまま、精霊を連れて店に戻ることにした。

それにしても、どうして飛鳥はあんなにも手こずってたんだ。

飛鳥のギフトなら楽にネズミを操れると思うんだが・・・・

 



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第6話 少女の恥じらいだそうですよ?

今回は短いです


「お風呂へ駆け足ッ!今すぐです!」

“サウザンドアイズ”の店に着くなり女性店員は飛鳥の姿を見るなりそう叫んだ。

半ば無理やりな形で飛鳥を風呂場まで連れに行った。

その後を黒ウサギ、白夜叉、レティシア、耀が風呂場に向かった。

俺は十六夜達の所に戻ろうと思い十六夜達がいる部屋に向かおうとするとスパァーンッ!というすさまじい音が聞こえた。

白夜叉が何かしでかし黒ウサギと飛鳥が何かを投げたな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に行くと十六夜とジンは風呂に入りに行くらしく俺も付いて行くことにし、今は風呂から上がり話をしている。

「そういや、この店までどうやって移動したんだ?」

「さっき聞いたが、どうやら移動したわけじゃねーらしいぞ」

「どういうことだ?」

「なんでも、数多の出口が一つの入口と繋がってるんだとよ。ハニカム型ってわかるか?」

確か蜂の巣みたいなやつだっけ?

「境界門と似ているが違うとこがあってだな。境界門は全ての外門と繋がってるが、“サウザンドアイズ”の出入り口は各階層に一つずつハニカム型の店舗が存在してるんだとさ」

「要するに“七桁のハニカム型支店”“六桁のハニカム型支店”って感じになってるってわけか」

「ああ、だが、本店の入口は一つしかないそうだ」

「ふ~ん」

十六夜の話に納得しながら持っていたコーヒー牛乳を飲む。

十六夜はフルーツ牛乳でジンは牛乳だ。

話が一段落すると耀たちが風呂場から出てきた。

「あら、そんなところで歓談中?」

「・・・おお?コレはなかなかいい眺めだ。そう思わないか、修也、御チビ様?」

「はい?」

「はっ?」

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部やレティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちるさまは自然に慎ましい誘導するのは確定的にあ

 

スパァーン!!

 

十六夜が最後の言葉を発する前に飛鳥と黒ウサギが風呂桶を十六夜の顔面にぶつけていた。

「変態しかいないのこのコミュニティは!?」

「白夜叉様も十六夜さんもみんなお馬鹿です!!」

「ま、まあ、二人とも落ち着いて」

飛鳥と黒ウサギは顔を真っ赤にして怒り、レティシアはソレを宥めている。

そんな光景を見ていると耀が近づいてきた。

「修也、私ってそんなに小さい?」

ここで、何が?って聞くほど俺もアホじゃない。

何が小さいってそれは………アレだよ、アレ…………大きければ男なら思わず見てしまうアレだよ。

ていうか、浴衣だがら僅かに隙間から耀の薄い胸板がちらちら見えるし、髪から滴る水が鎖骨のラインを流れる様がなんかエロい。

そういえば、浴衣って胸が小さい人に良く似合うっていうけど、その通りだな。

耀にとてもよく似合っている。でも、流石に、本人にそのことを言ったら絶対ぶっ飛ばされそうだから言うのはやめておこう。」

「言っとくが修也。お前、途中から喋ってるぞ」

「……………どこから」

「ていうか、浴衣だがらのあたりから」

十六夜の言葉に俺は青ざめ恐る恐る耀の方を見る。

耀は俯いているので顔の様子が分からない。

「よ、耀?」

「……の…か」

「………ん?」

「修也の―――――バカ!!」

 

ゴスンッ!!

 

そこで俺の意識はどっかに飛んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、起きたことをありのままに話すわ。

S君の失礼極まりない発言にKさんが怒ってS君の側頭部を殴ったわ。

それも、この世の物とは思えない音を出しながら。

確かにS君が言ったことは女として許せないけど、なんか可哀想ね………

それにしても、Kさんってあんなに声出るのね

 

証言者 “ノーネーム”A・Kさん

 



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第7話 魔王の登場だそうですよ?

『長らくお待たせいたしました!火龍誕生祭のメインギフトゲーム・“創造主の決闘”の決勝を始めたいと思います!進行及び審判は“サウザンドアイズ”の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお勤めさせていただきます♪』

「うおおおおおおおおおおお月の兎が本当にきたあああああああああああああ!!」

「黒ウサギいいいいいいいい!お前に会うために此処まで来たぞおおおおおお!!」

「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

うん、カオスだね。

なんかこんな光景を昔、テレビで見た気がする。

黒ウサギも笑顔でいるけど自慢のウサ耳はへにょらせてる。

「………………………………………随分と人気なのね」

飛鳥は生ごみを見るような目で観衆の男どもを見ている。

「ところで、十六夜。昨日の夜何があった?お前の顔面に風呂桶を当てられてからの記憶がすっぽりと抜けているんだ。おまけに耀には汚物を見るような目で見られるし、三毛猫からは「デリカシーが無いわ!」と怒られる始末だ。俺、耀に何かしたか?」

「ああ、一言で言いや、修也は女にとって触れてはいけないことに触れた。それだけだ」

……………後で謝っとこ。

「それよりも白夜叉、黒ウサギのミニスカートを見えそうで見えないスカートにしたのはどういう了見だ。チラリズムなんて古すぎるだろ。昨夜語り合ったお前の芸術に対する探究心はその程度のものなのか?」

お前ら、何語ってんだよ?

飛鳥も馬鹿じゃないの・といった感じで十六夜と白夜叉を見ている。

「フン。おんしも所詮その程度か。それではあそこの有象無象と変わらん。おんしは真意芸術を理解する漢だと思っていたのだがの」

「へぇ、言ってくれるじゃねえか。つまりお前には、スカートの中を見えなくすることに芸術的理由があるというのか?」

「考えてみよ。おんしら人類の最も大きな動力源はなんだ? エロか? なるほど、それもある。だがときにそれを上回るのが想像力! 未知への期待! 知らぬことから知る渇望!! 小僧よ、貴様ほどの漢ならばさぞかし数々の芸術品を見てきたことだろう! その中にも未知という名の神秘があったはず! 例えばそう! モナリザの美女の謎に宿る神秘性! ミロのヴィーナスに宿る神秘性! 星々の海の果てに垣間見えるその神秘性! そして乙女のスカートに宿る神秘性!! それらの神秘に宿る圧倒的な探究心は、同時に至ることの出来ない苦汁! その苦渋はやがて己の裡においてより昇華されるッ!! かつて、このことについて我が旧友・クルーエとも語り合った。熱くなり過ぎて三日三晩戦ったこともある。そして、私たちは気づいた!何者にも勝る芸術とは即ち――――己が宇宙の中にあるッ!!」

白夜叉…………何を大真面目に語ってやがる。

てか、親父何を語っているんだよ。

くだらないことで白夜叉と争うなよorz

「なッ……己が宇宙の中に、だと……!?」

十六夜もなに自分の知らない世界の真理を知ったような表情してんだよ。

「クルーエの押す旧スク水の水抜きの時に見えるへそでも無く、私が押すブルマから見える下着でも無い!真の芸術とは内的宇宙に存在する!乙女のスカートの中身も同じなのだ!見えてしまえば下品な下着も―――――――見えなければ芸術だ!」

もう……やめて……これ以上親父の恥ずかしい過去何て知りたくないorz

「この双眼鏡で、今こそ世界の真実を確かめるがいい。若き勇者よ。私はお前がロマンに到達できる者だと信じておる。そして、ともに信じよう。奇跡が起きる瞬間を」

「白夜叉…」

そして、十六夜と白夜叉の二人は双眼鏡で黒ウサギのスカート追い始めた。

「白夜叉様……?何か悪い物でも食べたのですか……?」

「見るな、サンドラ。馬鹿がうつる」

確か、マンドラさんだっけ?

あんたのその判断正しいよ。

 

 

 

 

 

 

とうとう、“創造主の決闘”の決勝が始まった。

ギフトゲームは“アンダーウッドの迷路”という奴で相手より先に迷路から抜け出せばクリアと単純なものだった。

最初の方は耀が風の流れを読み、出口まで進んでいたが“ウィル・オ・ウィスプ”所属のアーシャという娘の補佐についていたジャックが不死のギフトを持っており、そのジャックが耀の足止めとなった。

耀は勝てないと判断し、ゲームを降参した。

修也SIDE END

 

 

 

耀SIDE

 

『勝者、アーシャ=イグニファトゥス!』

負けちゃった。

ジンたちに大丈夫って言っておきながら負けちゃった。

情けないな。

「一つお聞きしても?」

先程戦っていたジャックがやって来て私に声を掛けてきた。

「………何?」

「今回のゲームは一人まで補佐が許されています。同士に手を借りようと思わなかったのですか?」

「……………………」

「余計な御節介かもしれませんが貴方の瞳は少々者寂しい。コミュニティで生活していくうえで誰かを頼るシチュエーションというものは多く発生するものです」

それはわかっている。

動物しか友達はいなかったけどそれでも集団で生活していくうえでそんなことがあるのは分かってはいる。

「でも、私にはどうやって頼っていいのか分からない。頼り方を知らないから………」

「簡単ですよ。貴方が信頼できる人の元に行き一言言うのです。『手伝ってください』と」

「信頼…できる人…」

飛鳥や十六夜、黒ウサギにレティシアとジン君私にとっては信頼できる人だ。

もちろん白夜叉もその一人だ。

でも、最初に思い浮べたのは修也だった。

気がつくと右手に着けてるブレスレットを撫でていた。

「おや?ちょっとそのブレスレット拝見してもよろしいですか?」

「?いいよ」

「では、失礼して」

ジャックはしげしげとブレスレットを眺め触りだす。

「これは、“ウィル・オ・ウィスプ”製のブレスレットですね。錆びないしちょっとやそっとの衝撃で壊れたり形を変えたりしない一級品。結構値が張るものですよ」

そうだったんだ。

修也がくれたものだけど値段を聞いてないから知らなかった。

今度、御礼言わないと。

「ここに刻まれたナンバーからすると買ったのはクルーエ・ドラクレア殿の御子息の修也殿ですね」

「!?どうしてそれを?」

「いえいえ、クルーエ殿とは少しばかし縁がありましてね。御子息のことも聞いているのですよ。そうですか、貴方の信頼できるお方は修也殿ですね」

「な!?ち、違う!」

「ヤホホホホ、顔を真っ赤にしていては説得力がありませんよ」

ジャックは軽快に笑いからかってくる。

う~、恥ずかしい。

「おい!オマエ!」

声に振り向くとさっき戦ったアーシャが話しかけてきた。

「名前はなんて言うの?出身外門は?」

「……最初の紹介にあった通りだけど」

「そうかい。なら、私の名前だけでも覚えとけ!六七八九〇〇外門出身アーシャ・イグニファトゥス!次はこそは私が勝つからな!」

そう言ってアーシャは去っていった。

あれ?負けたのは私なのに………

「あの子は同世代の子に負けたことが無い子でしたから。勝っても自分の力で勝ったとは思ってないのでしょう」

「そう……………覚えといて」

「はい?」

「もし、修也がいたら貴方たちが負けていたよ」

「ヤホホホホ!そうですか。肝に銘じましょう」

…………次からは頼ろう。

修也を。

 

耀SIDE END

 

 

 

修也SIDE

 

「負けてしまったわね、春日部さん」

「ま、そういうこともあるさ。気になるなら後で励ましてやれよ」

飛鳥は気落ちして、十六夜は軽快に笑っている。

「シンプルなゲーム盤なのにとても見応えのあるゲームでした。貴方達が恥じることは何も無い」

「うむ。シンプルなゲームはパワーゲームになりがちだが、中々堂に入ったゲームメイクだったぞ。あの娘は単独の戦いより、そちらの才能があるかもしれん」

サンドラと白夜叉は耀の戦い方を称賛している。

本当によくやったな。

後でご褒美になにか奢ってやるか。

そう思い空を仰ぐと何かが降って来た。

何だ?

不審に思い空へと飛びあがり一枚回収し、その場で読む。

 

『ギフトゲーム名:“The PIED PIPER of HAMELIN”

 

・プレイヤー一覧:現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台画

         区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター:太陽の運行者・星霊 白夜叉。

・ホストマスター側勝利条件:全プレイヤーの服従・及び殺害。

・プレイヤー側勝利条件:一、ゲームマスターを打倒。

            二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                       

                        《グリムグリモワール・ハーメルン》印』

これってまさか…………

その時観客席から叫び声が上がった。

「魔王が…………魔王が現れたぞオオオォォォォ―――――!」

魔王の登場かよ………

 




二巻が終わったら番外編として耀と修也のデートの話でも書こうと思います。


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第8話 修也と飛鳥が捕まるそうですよ?

「おい!魔王が現れたぞ!」

すぐに白夜叉たちのもとに戻ると十六夜は既にいなかった。

おそらそらく魔王に向かっていったのだろう。

居るのは耀とジンと飛鳥だった。

「おい?これは何だ?」

着いてみると白夜叉がいるところには黒い風のようなもので覆われていた。

「修也君!大変よ!どうやら白夜叉の参戦条件がクリアされてないらしいの!」

なんだと!?

もう一度黒い契約書類を見直すが参戦条件に関してはなにも記載されていない。

まさかわざと参戦条件を書かなかった?

いや、“箱庭の貴族”の黒ウサギがいるのにそんな真似はしないはず。

なら一体どうやって?

「よいかおんしら!今から言うことを黒ウサギへと伝えるのだ!間違えは許さん!おんしらの不手際は、そのまま参加者の死につながる!」

白夜叉の言葉に耀と飛鳥、ジンは息を呑む。

「第一にこのゲームはルール作成段階で故意に説明不備を行っている可能性がある!これは一部の魔王が使う一手だ!最悪の場合、このゲームにはクリア方法がない!

第二に、この魔王のコミュニティは新興のコミュニティの可能性が高いことを伝えるのだ!第三に、私を封印した方法は恐らく――――」

「はぁい、そこまでよ♪」

後ろを振り向くと露出度がやたらと高い白装束の服に“サラマンドラ”の火蜥蜴がいた。

「本当に封じられてるじゃない♪最強のフロアマスターもそうなっちゃ形無しね」

火蜥蜴たちの様子がおかしい。

まるで、操られてるかのように行動がおかしい。

「おのれ!“サラマンドラ”の連中に何をした!」

「そんなの秘密に決まってるじゃない。以下に封印が成功したとしても貴女に情報を与える程驕っちゃいないわ。それより、邪魔よ♪あなた達」

火蜥蜴たちが一斉に俺達に向かい剣を振り下ろしてくる。

耀がグリフォンのギフトで火蜥蜴を吹き飛ばす。

僅かに残った火蜥蜴を俺が全員の首に噛みつき血を吸い気絶させる。

ちなみに、爬虫類の血って結構まずいんだよな。

「あら、今のグリフォンの力かしら?それに、そちらの男の子は吸血鬼かしら?女の子の方は顔が端正で中々可愛いし、男の子の銀髪と銀の瞳もいいわね。よし、気に入った!貴方たちは私の駒にしましょう!」

「修也!ジン君をお願い!」

「分かった!」

耀が飛鳥を、俺がジンを連れて逃げようとする。

だが、その直後白装束が笛を吹く。

その瞬間俺はその場に崩れ落ちた。

なんだこれは!?

甘く誘うような音色なのに頭の中を掻き混ぜられてるようなこの感覚は!?

見ると、耀と飛鳥、ジンも同じらしいが飛鳥とジンは俺と耀ほどひどくなさそうだ。

五感が良すぎるのも考え物だな………

「アイツが来る……修也。飛鳥とジンを連れて逃げて……」

「悪い……俺の方も無理だ……飛鳥、ジンと一緒に逃げろ……」

「バカ言わないで!ジン君!」

「は、はい!」

「先に謝っておくわ。………ごめんなさいね」

一体何をするつもりだ?

「コミュニティのリーダーとして『春日部さんたちを連れて黒ウサギの元へ行きなさい』

「………分かりました」

ジンは耀を抱え俺を抱えようとする。

俺は自分の力を振り絞りその場から消える。

対象を見失ったのでジンはそのまま耀だけを連れて消えた。

ジンがいなくなったのを確認して再び飛鳥の下へ現れた。

「修也君、どうして……」

「飛鳥一人、おいて行けるかよ」

ふらつきながらもギフトカードから白牙槍を取り出し、構える。

「飛鳥、俺がアイツの隙を作る。その隙に逃げろ」

「何言ってるのよ!それこそできないわ!」

「あらあら、予想以上に根性があるわね。さっきの子もいいけど貴女もいいわね。よし、貴女も私の物にするわ」

白装束の潮路で火蜥蜴たちが動き出す。

「全員『そこを動くな!』」

飛鳥のギフトにより白装束と火蜥蜴たちは動きを止めた。

その隙を見逃さずに槍で白装束の心臓を貫こうとする。

「――――ッ!甘いわ小娘共!」

しかし、すぐに白装束は動き出しそのまま俺を殴りつける。

「がはっ!」

白牙槍が手から零れ落ちその場に倒れる。

「修也君!」

「余所見してていいのかしら?」

「!?」

白装束は笛を吹き飛鳥の動きを封じ、腹部に蹴りを入れる。

そして、飛鳥もその場に倒れる。

薄れゆく意識の中最後に聞いたのは雷鳴と黒ウサギの声だった。

「“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返します――――――」

どうやら、ジンは無事辿り着けたみたいだな。

よかっ…………た………

 




修也がラッテンに倒された理由は笛の音色で五感が狂い普段通りに動けなかったからです。

次回から暫く修也が出なくなるかもしれません。



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第9話 審議決議だそうですよ?

「ギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”の審議決議、及び交渉を始めます」

厳かな声で黒ウサギが伝える。

今この場に居るのはホスト側の斑ロリ、軍服男、露出女とプレイヤー側の俺と春日部、御チビにサンドラとマンドラそして黒ウサギ、以上の九人だ。

本当は春日部は来ないはずだったがどうしても来たいというから連れてきた。

修也とお嬢様のことが心配なんだろう。

それより、ホスト側の連中だが軍服男は“ヴェーザー河”で露出女が“ラッテン”、サンドラが倒した巨人は“嵐(シュトルム)”なら、最後の一人は恐らく…………

「まず“ホスト側”に問います此度のゲームですが」

「不備はないわ」

斑ロリは黒ウサギの声を遮り言う。

「今回のゲームに不備・不正は一切ないわ。白夜叉の封印もゲームクリア条件の全て調えた上でのゲーム。審議を問われる謂れはないわ」

「受理してもよろしいので?黒ウサギのウサ耳は箱庭の中枢と繋がっております。嘘をついてもすぐわかってしまいますよ?」

「ええ。そして、それを踏まえた上で言うけど私たちは今、無実の疑いでゲームを中断させられてるわ。貴女達は神聖なゲームに横槍を入れている。言ってることは分かるわよね?」

「不正が無かったら主催者側に有利な条件でゲームを再開しろと?」

「そうよ。新たにルールを加えるかどうかの交渉は後にしましょう」

「……わかりました。黒ウサギ」

「はい」

黒ウサギが耳を動かし暫く沈黙が続く。

そして、気まずそうに話す。

「箱庭からの回答が届きました。此度のゲームに不備・不正はありません。白夜叉様の封印も、正当な手段で造られたものです」

「当然ね。じゃ、ルールは現状維持。問題は再開の日取りよ」

「日取り?日を跨ぐ?」

サンドラが意外な声を上げる。

それもそのはずだ。

明らかに不利なプレイヤー側に時間を与えるんだからな。

「再開の日取りは最長で何時頃になるの?」

「さ、最長ですか?ええと、今回の場合ですと一か月ぐらいでしょうか」

「じゃ、それで手を」

「待ちな!」

「待ってください!」

「何、時間を与えてもらうのが不満?」

言葉を遮られ不満そうな斑ロリ。

だが、そんなことどうでもいい。

「いや、ありがたいぜ。だけど場合による。俺は後でいい。御チビ、先に言え」

「はい。主催者側に問います。貴女の両脇に居る男女は“ラッテン”と“ヴェーザー”だと聞きました。そして、もう一体が“嵐(シュトルム)”だと。なら貴女は“黒死病(ペスト)”ではないですか?」

流石は伊達に本を読み漁ってるだけじゃないな。

しっかりと内容の記憶までできていやがる。

「そうか、だがらギフトネームが“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”!」

「ああ、間違いない。そうだろ魔王様?」

「……ええ。そうよ。御見事、よろしければ貴方の名前とコミュニティの名前を聞いても?」

「“ノーネーム”のジン=ラッセルです」

斑ロリは俺達が“ノーネーム”だとは思わなかったらしく意外そうな顔をした。

「覚えとくわ。だけと確認が遅かったわね。私達はゲーム再開の日取りを左右できると言質を取ってるわ。勿論、参加者の一部に病原菌を潜伏させている。ロックイーターのような無機生物や悪魔でもない限り発症する、呪いそのものを」

相手が“黒死病”だと分かってからそのことは予測できていた。

だが、黒死病が発症してから一か月もあれば力のない奴は死滅する。

死ななくても病人の体じゃ戦うことすらもままならない。

やってくれるぜ。

「ジャ、ジャッジマスター!彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いがあります!もう一度審議を、」

「駄目ですサンドラ様!ゲーム中断時に病原菌を潜伏させていたとしても、その説明責任を主催者側が負うことはありません。また彼らに有利な条件を押しつけられるだけです!」

悔しそうにサンドラは黒ウサギの言葉を受け入れる。

「此処にいる人たちが参加者側の主戦力と考えていいのかしら?」

「ああ、正しいと思うぜ」

斑ロリもといペストの言葉にヴェーザーは答える。

「なら提案しやすいわ。皆さん、ここにいるメンバーと白夜叉。それらが“グリムグリモワール・ハーメルン”の傘下に降るなら、他のコミュニティは見逃してあげるわよ?」

「なっ、」

「私は貴方達のことが気に入ったわ。サンドラは可愛いし。ジンは頭良いし」

「私が捕まえた赤いドレスの子と銀髪の男の子も言い感じですよマスター♪」

「!?」

ラッテンの言葉に春日部が僅かに反応した。

僅かに黒い物を感じるが………

「なら、その子たちも加えてゲームは手打ち。参加者全員の命と引き換えなら安い物でしょ」

笑っちゃいるが従わなきゃ俺ら全員殺すつもりかよ。

はっ、ロリの分際でやってくれるじゃねーか

「ところで貴方達“グリムグリモワール・ハーメルン”は新興のコミュニティではないかと聞きましたが、どうなのですか?」

「答える義務はないわ」

御チビの質問に対しペストは答えない。

「新興のコミュニティだから優秀な人材が欲しい。どうだ?違うか?」

「…………」

「おいおい、このタイミングでの沈黙は是となるぜ?」

「だから何?私達が譲る理由は無いわ」

「いいえ、あります。何故なら貴女達は僕たちを無傷で手に入れたいはずですから。もしも、一か月も放置されたら、きっと僕たちは死んでしまいます。死んでしまえば手に入らない。だから、貴女はこのタイミングで交渉を持ち掛けた。実際に三十日が過ぎて優秀な人材を失うのを惜しんだんだ」

やっとリーダーらしくなってきやがったな。

だが、まだ俺にリーダーとして認させるのは先だがな。

「なら、二十日後にすればいいだけよ。それなら、病死前の人材を得ることはできるわ」

「なら、発症したものを殺す。例外は無い。サンドラだろうと“箱庭の貴族”であろうと私であろうと殺す。“サラマンドラ”の同士に、魔王へ投降する脆弱なものはおらん」

おいおい、随分過激なことを言うじゃねーかよ。

だが、ちょうどいい。

本気にしろ、ブラフにしろこれでこちらの交渉材料が増えた。

「黒ウサギ。ルールの改変はまだ可能か?」

「へ?………あ、YES!」

俺が何を考えているのか理解したらしく黒ウサ後はウサ耳を伸ばして答える。

「なら、こうしようぜ、魔王様。俺達はルールに“自決・同士討ちを禁ずる”を付け加える。だから、ゲーム再開は三日後にしろ」

「……二週間後よ」

二週間は長いな。

他に交渉材料は………あった!

「黒ウサギ。今の時点でお前の扱いはどうなってんだ?」

「黒ウサギは大祭の参加者でありましたが審判の最中だったので十五日間ゲームには参加できません。…………主催者側の許可があれば別ですが」

「よし。魔王様、黒ウサギは参加者じゃないからゲームで手に入れられないが、参加者にすれば手に入る。どうだ?」

新興のコミュニティなら“箱庭の貴族”という箔はかなり魅力的なはずだ。

どうだ?

「………十日。これ以上は無理」

「ちょ、ちょっとマスター!“箱庭の貴族”に参戦許可を与えては………!」

「だって欲しいもの。ウサギさん」

ラッテンの言葉にそっけなく返すペスト。

こちらの戦力は増えた。

だが、まだだ。

謎解きとこちらの戦力の状況から考えると期間は一週間以内がいい。

何とかして一週間以内にしないと。

だが、こちらには交渉材料がもうない。

どうすりゃ…………

「ゲームに期限を付けます!」

俺が悩んでいると御チビが急に声を上げる。

「期限?」

「はい!再開は一週間後。ゲーム終了はその二十四時間後。そして、ゲーム終了と共に主催者側の勝利とします!」

こいつはたまげたぜ。

俺ですら危なくて言い出せない考えをコイツは恐れも無く言いやがった。

「本気?主催者側の総取りを覚悟するというの?」

「はい。一週間は死者が出ないギリギリのライン。今後現れる症状、パニックを想定した場合、精神的にも肉体的にもギリギリ耐えられる瀬戸際。そして、それ以上は僕たちも耐えられない。だがら、全コミュニティは、無条件降伏を呑みます」

御チビの提案にペストは口に手を当てて考える。

ペストは不満そうに顔をしかめる。

自分の思い通りにいかずこちらに流れが傾いているのが気に食わないんだろう。

だが、こちらも最大限の譲歩している。

条件的には主催者側が有利。

どうだ?

「ねぇ、ジン。もしも一週間生き残れたら貴方は私に勝てるの?」

「勝てます」

ペストの質問に御チビは即座に答える。

「そう、よく分かったわ………宣言するわ。貴女は必ず―――――私の玩具にすると」

「ねぇ、マスター。コイツらに聞きたいことが一つあるんですけど」

「………何?早めに済ませなさい」

「ありがとうございます」

そう言って露出女もといラッテンがこちらを見る。

「私が捕まえた銀髪の男の子なんだけど…………彼、クルーエ=ドラクレアの息子?」

「…………そうだが」

「おい、ラッテン!それは本当か!?」

「ええ。本当よ」

「ラッテン?ヴェーザー?」

二人の様子にペストは訳が分からないといった顔をしている。

「まさか、こんなところで前マスターの仇の息子に会えるとはな」

おいおい、修也の親父はどこでも人気爆発じゃねーか。

「クルーエ本人が死んだから仇は討てないと諦めてたがコイツはいい。親の起こした罪は子に償ってもらうか」

「そうね。それが私たちにできる前のマスターへの手向けね」

ラッテンとヴェーザーは殺意むき出しにしてやがる。

修也を殺すつもりか?

は、やってみやがれ!

そん時は…………………俺がお前らを潰すぜ。

そう考えていると春日部が立ち上がりラッテンとヴェーザーを睨みつけていた。

「修也に何かあってみて。その時は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           私がお前たちを殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春日部は無表情でただそれだけを述べた。

余計なこと一つ考えずただそれだけ考えていた。

瞳からは輝きは失せ、声にいつも以上に抑揚が無くなっている。

「ハッ、どうせこっちが勝てばお前らの仲間なんて好きにできるんだよ。そん時までお楽しみは取っとく」

「もちろんよ。前のマスターが受けた苦しみを時間を掛けてゆっくりと味あわせてやるわ」

「それは無理。勝つのは私達」

なんというかアレだな。

普段怒らない奴が怒ると滅茶苦茶恐いんだな。

 

 




なんか少し無茶苦茶になった気がします。
自分でもわかってます。
設定的に修也のお父さんは箱庭においていい意味でも悪い意味でも有名なので味方も多いし敵も多いです。


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第9.5話 ちょっとした出来事だそうですよ?

「あすかっ!あすかっ……」

ん?

なんの声だ?

小さく幼い声が頭の中に響き、そして徐々にゆっくりと覚醒していく。

目を覚ますとそこは洞窟のような場所だった。

近くには飛鳥もいた。

「おい、飛鳥。しっかりしろ」

「う、う~ん…………ここは?」

「気がついたか」

「あすか!」

飛鳥が目を覚ますと精霊は飛鳥の顔にしがみついた。

「大丈夫よ。泣かないで………修也君、ここは?」

「どこかの洞窟みたいだがはっきりとは分からない。もしかしたら、アイツらのアジトの可能性もある」

「アイツら…………そうよ!私のあの女に蹴り飛ばされて!」

「落ち着け。精霊が驚いてるぞ」

「あすか、すごくげんきー?」

飛鳥は精霊を肩に乗せて立ち上がる。

見渡すと、自然に造られたような洞窟じゃない。

よく見ると人が手を加えた跡がある。

壁には松明が差し込まれている。

一つもらっとこう。

松明に明かりをともし、俺を先頭に飛鳥と共に進む。

暫く進むと天井高くまであるであろう門が現れた。

デケーな。

「この門にある紋章………どこかで見たような……」

「な!?ど、どこでだ!?」

「待って。今思い出してるの」

こめかみに指を当てて唸りながら考える。

「あ、ここ展示会場だわ!」

そうか、俺もどこかで見た覚えがあると思っていたが飛鳥が襲われたあの会場だ。

「あすか」

精霊が飛鳥を呼びそちらに顔を向けると一枚の契約書類があった。

『ギフトゲーム名:“奇跡の担い手”

・プレイヤー一覧:久遠飛鳥

・クリア条件:神珍鉄製 自動人形“ディーン”の服従

・敗北条件:プレイヤー側が上記のクリア条件を満たせなくなった場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下“     ”はギフトゲームに参加します。

“ラッテンフェンガー”印』

「これが契約書類?まさか」

するとその瞬間、声が聞こえた。

「私からあなたへのおくりものどうかうけとってほしい。そして、偽りの童話“ラッテンフェンガー”に終止符を」

虚空から、壁から、いたるところからその声が聞こえた。

「“群体精霊”あなた達は大地の精霊か何かなのかしら?」

「はい。私達はハーメルンで犠牲になった一三〇人の御霊。天災によって滅ぼされた者達」

人から精霊へ。

転生で新たな生を経て、霊格と功績を手にした精霊群。

それが“群体精霊”。

書庫で読んだ知識からだとこんなところか。

しかし、ハーメルンの犠牲者とはな。

「私を試したの?」

「いいえ。この子と貴女の出会いは偶然、私たちにとっての最後の奇跡。そこに群体としての意識的介入はありません」

「貴女には全てを語りましょう。一二八四年六月二十六日にあった真実を。そして、偽りのハーメルンの正体を」

「そして捧げましょう。我々が造り上げた最高傑作。星海龍王より授かりし鉱石で鍛え上げた最高の贈り物を」

「最早叶わぬ願いと思って居りました。しかし、一三一人目の同士が、貴女を連れてきた」

「決断は貴女に委ねましょう。我々のギフトゲーム………受けてくれますか?」

契約書類は宙を舞い、飛鳥の手元に落ちた。

飛鳥はその書類を確認すると顔を上げた。

「一つだけ教えて。貴方達が造ったギフトがあれば……奴らに勝てる?」

「貴女が使えば」

「貴女が従えれば」

「貴女が担うなら」

「「「貴女を、必ずや勝利させましょう」」」

その言葉を聞き飛鳥はふっと笑う。

「“ノーネーム”出身、久遠飛鳥。貴方たちの挑戦、心して受けましょう」

飛鳥は書類にサインすると書類は再び宙を舞い、飛んでいく。

飛鳥はその後を小走りで追いかける。

これは飛鳥のゲームだから俺が介入するべきではないか………

「おい、ちょっといいか?」

 



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第10話 謎が解けるそうですよ?

「駄目だ。全然わかんない」

私は今自分にあてられた部屋にいる。

黒ウサギにお願いしハーメルンに関する書物を持ってきて貰ったけどどれも十六夜に教えてもらったことと同じことしか書いてなくあまり意味が無かった。

もう明日の夕方にはゲームは再開される。

十六夜に聞いたところ十六夜の方は大まかには分かっているが核心にはいたってないと言っていた。

「此処までは分かっているのに…………」

一枚の紙を手に取り内容を見る。

 

ラッテン=ドイツ語でネズミの意。ネズミと人心を操る悪魔の具現。

ヴェーザー=地災や河の氾濫、地盤の陥没などから生まれた悪魔の具現。

シュトルム=ドイツ語で嵐の意。暴風雨などによる悪魔の具現。

ペスト=斑模様の道化が黒死病の伝染元であったネズミを操ったことから推測。黒死病による具現。

 

・偽りの伝承・真実の伝承が指す物とは、一二八四年六月二十六日のハーメルンで起きた事実を右記の悪魔から選択するものと考察される

 

 

本当に此処まで分かっていながら結局どうすればいいのか分からない。

「はぁ~、どうしたらいいんだろ……」

椅子にもたれかかり天井を見る。

黒死病を発症した人も次々と増え、士気も下がり気味。

これじゃあ、勝てない。

…………諦めたらだめだ。

もう一度見落としが無いか本を手に取る。

「あれ?」

その時ハーメルンに関する書物の中に一冊だけ別の本が混じっていた。

「『黒死病について』?」

黒ウサギが間違えて持ってきたのかな?

折角だし読んでみよう。

取りあえず黒死病の歴史の部分のページを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ~、黒死病の歴史ってこんなに長いんだ」

ペストって十四世紀の寒冷期にヨーロッパで大流行した人類史上最悪の疫病なんだ。

ペストが人類史上最悪の疫病だと言うことは知ってたけど十四世紀の寒冷期に大流行したのは知らなかったな。

………………ん?十四世紀?

確かハーメルンの碑文が一二八四年、黒死病の最盛期は十四世紀。

「時代が合わない………」

てことはペストは偽りの伝承……

あっ、黒死病が大流行した寒冷の原因は…………太陽が氷河期に入って世界そのものが寒冷に見舞われたと推測したら。

「もしかして、これが白夜叉を封印したルールの正体?」

太陽の氷河期―――――すなわち太陽の力が弱まっていたとされる年代記にそったルールだとしたら白夜叉の封印に納得がいく。

そのことに気付くと私は十六夜の部屋に向かった。

「十六夜!」

「おい、春日部。他人の部屋に入るときはノックしろ。後、声がでかい」

十六夜はハーメルンに関する本を椅子に座りながら読んでいた。

「十六夜。白夜叉の封印のルールの正体が分かったかもしれない」

「!?………それは本当か?」

「あくまで推測だけど可能性としては一番高い」

「聞かせろ」

私は十六夜に自分の推測を話した。

黒死病の流行の年とハーメルンの碑文に掛かれた年が合わないこと。

流行の原因が世界が寒冷期に入ったということ。

そして、その寒冷の原因が太陽が氷河期に入ったということ。

その話をすると十六夜は何かに気付いた顔をした。

「その推測が正しいとすると……………」

十六夜は私以上に高く積み上げた本の中から数冊本を抜き取り何かを調べた。

「そうか、そう言うことか!」

獰猛な笑みを浮かべて十六夜は叫ぶ。

「なら、連中は一二八四年のハーメルンじゃなく……ああクソッ!完全に騙されたぜ“黒死斑の魔王”!お前たちは童話上の“ハーメルンの笛吹き”ではあっても本物の“ハーメルンの笛吹き”じゃなかったってことか………!?」

勢いよく立ち上がり私の方に十六夜は顔を向く。

「ナイスだ春日部!お陰で謎が全て解けた!」

「本当!?」

「ああ、これならいけるぜ!」

そう言って十六夜は部屋を飛び出した。

恐らくジン君か黒ウサギの所だろう。

そう考えながら、行方が分からない二人のことを気にかけた。

飛鳥…………無事だといいんだけど

次に、右手のブレスレットを見つめる。

修也…………

父さんから貰ったペンダントを握りしめ部屋を出る。

この前は修也と飛鳥に守られた。

ガルドの時も私は二人に助けられた。

だがら、今度は私が二人を助けるんだ。

そう固く誓った。

 




耀は黒死病に感染していません。
理由もあります。
それは最後の方で明かそうかと考えています。
もしかしたら明かさないかもしれません。
耀が謎解きを普通にしました。
少しやりすぎましたかね?


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第11話 ゲーム再開だそうですよ?

今、私たちは宮殿の大広間に集まっている。

ペストが発症していない人をかき集めたがその人数は五〇〇人程だ。

「今回のゲームの行動方針が決まりました。動ける参加者はそれぞれ重要ま役割を果たして頂きます。ご清聴ください………マンドラ兄様。お願いします」

サンドラの傍にいたマンドラが前に出て書状を読み上げた。

「其の一。三体の悪魔は“サラマンドラ”とジン=ラッセル率いる“ノーネーム”が戦う。其の二。その他の者は、各所に配置された一三〇枚のステンドグラスの捜索。其の三。発見した者は指揮者に指示を仰ぎ、ルールに従って破壊、もしくは保護すること」

「ありがとうございます。以上が、参加者側の方針です。魔王とのラストゲーム、気を引き締めて戦いに臨んでください」

おおと雄叫びが上がる。

ゲームクリアに向けて方針が決まり士気はかなり上がった。

「耀。ちょっといいか?」

「何、レティシア?」

レティシアに呼ばれ振り向くとレティシアは何かを持っていた。

何だろう?

「コイツを持っておけ」

渡されたものは細長く布に包まれていた。

布を取るとそれは白い槍だった。

「これって修也の………」

「白夜叉が封印されているバルコニーに落ちていた。おそらく連れ去られるときに回収されなかったのだろう。お前のことだがら必要は無いかもしれんが一応持っておけ」

槍を握り締め見つめる。

修也………少し借りるね

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームが再開されると同時に激しい地鳴りが怒った。

すると宮殿は光に呑み込まれて気がつくと見たことも無い別の街並みが広がっていた。

「な……何処だ此処は!?」

参加者から声が上がる。

見渡してみると町は木造の街並みに姿を変え、パステルカラーの建築物に造り変わっている。

これって

「ハーメルンの魔道書の力………ならこの舞台はハーメルンの街!?」

「何!?」

ジン君の声にマンドラは振り返る。

周りの参加者はこの出来事に驚き動揺している。

「うろたえるな!各人、振り分けられたステンドグラスの確保に急げ!」

マンドラが声を上げ参加者たちに一喝する。

「しかし、マンドラ様。地の利も無く、ステンドグラスの配置もどうなっているのかも分からないままでは、」

「安心しろ!案内役ならば此処にいる!」

そう言ってマンドラはジン君の方を掴む。

「知りうる限りで構わん。参加者に状況を説明しろ」

「け、けど、僕もそんなに詳しいわけでは」

「知りうる限りで構わんと言っただろ。貴様が多少情報を持っていることは知りわたっている。貴様の言葉なら信用する者もいるだろう!とにかく働き出さねば二十四時間などすぐに過ぎ去るぞ」

マンドラの言葉にジン君は反論できずに誰かを探し出す。

多分、十六夜を探しているのだろう。

でも、十六夜はゲーム再開になるとすぐにどこかに飛んでいった。

「まずは教会を探してください!ハーメルンの街を舞台にしたゲームなら縁のある場所にステンドグラスが隠されているはずです!“偽りの伝承”か“真実の伝承”かは、発見した後に指示を仰いでください!」

ジン君の声に参加者は我を取り戻し、行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ!ネズミを操る道化が描かれたステンドグラスだ!」

「それは“偽りの伝承”です!砕いてください!」

ジン君の言葉でステンドグラスは破壊される。

「此処ってブンゲローゼン通りかな?」

「はい、耀さんの言う通りここは一三〇人の子供が攫われた街道。ブンゲローゼン通りです」

ジン君は地図を広げてステンドグラスが発見された場所と照らし合わせる。

「舞台区画とハーメルンの街の展示場所はそれほどずれていません。」

「どういうこと?」

「つまり、ハーメルンの街を召喚したという事です」

「はーい。其処までよ♪」

この声は聞き覚えがある。

上を見上げると建造物の上にラッテンが立っていた。

「ブンゲローゼン通りへようこそ皆様!神隠しの名所へ訪れた皆様には、素敵な同士討ちを御体験していただきます♪」

屋上から数十匹の火蜥蜴が現れた。

“サラマンドラ”の人たちだ。

戦って死なせたりすれば同士討ちになってしまう。

襲ってきた火蜥蜴たちに向けて旋風を起こして吹き飛ばす。

だが、今度は屋根から一斉に火を吐き出す。

風を起こせば火の勢いを強めるかもしれない………

旋風を起こさないで空を飛び火の玉を槍で打ち消す。

けど、それえ打ち消せる火の玉は僅かだった。

残りの火の玉がジン君たちに降りかかると思った。

だけど、その瞬間レティシアが現れ残りの火の玉を全て打ち砕いた。

「見つけたぞ。ネズミ使い」

「うわおお!本物の純血の吸血鬼!超美少女じゃない!」

なんか興奮しているラッテンを無視してレティシアはジン君の方を振り向く。

「怪我はないか?」

「はい。ありません」

「なら、すぐに捜索に急げ。ここは私一人で十分だ」

「はい」

ジン君と捜索隊の人達はこの場を後にして再びステンドグラスの捜索に向かった。

「耀、何故ここにいる?」

「一人で戦うのは危険。私も残る」

「ジン達の護衛はどうする?」

「大丈夫。ヴェーザーは十六夜が相手することになってる。ペストは黒ウサギとサンドラの二人と戦ってる。ラッテンも私達と闘うのに集中しないといけないから火蜥蜴を操ってジン君達を襲う心配はない。それに、ラッテンが私達二人に一人で戦うとは思えない。シュトルムを応援に呼ぶはず。だがら、大丈夫」

「あら?結構頭が回るのね。正解よ。ヴェーザーは今あの坊やと戦っているし、マスターは階層支配者と“箱庭の貴族”相手に闘ってる。そして、私も流石に貴方達を相手にしながら火蜥蜴共を操るのは無理。そして、一人で戦おうとも思ってないわ」

そう言うって笛を吹く。

すると彼方此方からシュトルムが現れた。

私とレティシアの所にも五体ほど現れた。

「あの巨兵、あんなに生み出すことができるのか!?」

「ええ。あの巨兵如きいくらでも生み出せるわ」

状況から考えるとラッテンの音色は私にとっては弱点でもある。

なら…………

「レティシア。私がシュトルム相手に戦うからラッテンと戦って」

「しかし、数が」

「相性的にも私とラッテンは悪すぎる。だから、お願い」

「…………わかった。」

納得したレティシアはギフトカードから槍を取り出しラッテンに向け投擲する。

私は槍に風を纏わせる。

「はぁぁぁぁぁ!」

地面を力強く踏み飛び上がる。

そして、一体のシュトルムの中央に槍を突き刺し、纏わせた風を一気に開放する。

すると、膨大な量の風がシュトルムを内側から破壊する。

後ろにいたシュトルムが殴りかかってくる。

すぐさまグリフォンのギフトで飛び上がり背後に回って体重を象に変幻させ押しつぶす。

流石に一撃で破壊はできなく、掌に集めて凝縮させた風を叩き付け破壊する。

残り三体。

しかし、残りの三体が乱気流を起こし、辺り一帯を吸収し始めた。

槍を地面に突き刺し、体重を象にしたまま耐える。

瓦礫を溜めこんた三体のシュトルムは私を目掛けて顔面の中央にあいた空洞を臼砲のようにして圧縮した瓦礫の山を三方向から打ち出した。

正面と背後の左右斜めから打ち出されたため逃げ場所が空しかない。

だけど、塊の大きさ、スピードから考えて逃げるのは不可能。

一つだけならグリフォンのギフトで破壊することもできると思うけど残りの二つにやられる。

ここまでか……………

私は死を覚悟して目をつむった。

できれば、苦しまずに死ねたらいいな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

痛みがこない?

目を開くと私は空にいた。

誰かに抱き抱えられ。

「大丈夫か、耀?」

黒いコートに銀髪と銀の瞳…………

「しゅう…や?」

「ああ、待たせたな」

 



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第12話 ゲームは終結に向かうそうですよ?

「修也、無事だったの?」

「ああ、どうやらかなり心配をかけたみたいだな。ごめんな」

もう一度謝ると耀は俺の胸に顔を埋めた。

「よ、耀!?」

「良かった……無事で……本当に良かった…………」

耀は少し涙声で言ってくる。

これが終わったら心配かけた分お詫びをしないとな。

「来たわね、クルーエの息子!ここで前マスターの仇を討つ!やりなさいシュトルム!」

「BRUUUUUUUUM!」

レティシアを相手していたラッテンは標的を俺に変えシュトルムに攻撃を命じた。

シュトルムが腕を振り上げ今まさに俺達に振り下ろそうとしていた。

「…………邪魔だ」

ギフトカードから一丁の銃を抜き、シュトルムに向け三発撃った。

銃身から三つの銛が飛び出しそれが当たると放物線を描きながら吹っ飛んだ。

そして、そのまま大破した。

「嘘………シュトルムが銃如きに破壊されるなんて………」

「どうした、ラッテン?終わりか?」

「まだよ!シュトルムはまだ二体い」

 

ドッバン!!

 

「どうした?」

耀から返してもらった白牙槍を肩に担ぎラッテンの背後から問う。

今の一瞬で、俺は残りの二体のシュトルムを破壊した。

「く!」

「今度はこっちから行くぞ!」

翼を出し、一気に距離を詰める。

「蜥蜴共、私を守りながら奴に飛びかかりなさい!」

すると背後に控えて知多火蜥蜴たちが火を噴きながら向かってくる。

「修也!同士討ちはルールで禁じられたから殺しちゃダメ!」

マジかよ。

殺すつもりはないが殺さないように戦うのは結構厳しいな。

蜥蜴を相手に戦い、戦い終わると既にラッテンはいなかった。

逃げたか……

「修也、さっきの銃は何?」

耀が近寄って来てそんなことを聞いてきた。

「ああ、それに関してはまた後日十六夜達も交えてゆっくりな。とにかく、今は早くラッテンを追うぞ」

「うん」

その時、耀とレティシアの二人が結構傷ついているのか分かった。

「耀、レティシアちょっと待て」

そう言ってギフトカードから一本の笛を取り出す。

そして、口を付け吹く。

軽快な音色があたりに響き渡る。

すると、耀とレティシアの体は淡く光輝く。

光が消えると二人の体は傷一つなかった。

「すごい」

「修也。これは一体……」

「それも含めて後で話す今は」

「見つけたぞ!ガギィィィィィィ!」

背後から飛んできた殺気を込めた声に俺は耀とレティシアの二人を抱えそのまま前に飛んだ。

そして、前に飛ぶと同時に俺達がいた場所に巨大なクレーターが出来上がった。

「激しい登場だな。ヴェーザー」

「テメーの為にわざわざ坊主との戦いをほっぽり出してまで来てやったんだ。感謝しろよ」

ヴェーザーは自分の背丈ほどありそうな笛を振り回しながら襲ってくる。

二人を抱えながら戦うのはきついな。

「耀、レティシア。あいつは俺が倒す。二人はラッテンを頼む」

「修也、私も一緒に」

「駄目だ」

俺の言葉に耀は驚きの表情をだした。

「でも、一人より二人の方が」

「悪い。正直、耀がいると戦いづらいんだ」

耀はショックを受け、酷く悲しそうな顔をしている。

だが、今のアイツからはとてつもなく大きな力を感じる。

耀の力では多分勝つことはおろか生き抜くことすら難しいだろう。

それに、連携をとるような戦いをしたことも無い。

少なくとも俺ならヴェーザーと戦って死ぬことは無いはずだ。

「……………わかった。修也、せめて血だけでも飲んでって」

「………ああ」

耀の首に歯を立て血を吸う。

吸い終わると俺は二人を近くの建物の屋根に下ろした。

「……修也、気を付けろ。アイツ、神格を得ている。おそらく魔王から授かったのだろう」

「わかった。行ってくる」

俺は翼を出し、ヴェーザーの下に向かった。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

レティシアSIDE

「耀」

修也が去った後耀はずっと黙っていた。

「レティシア………私、力が無くて悔しい」

……………

「敵を倒せるほどの力が無くて辛いし、初めてできた友達を守ることができなくて胸が苦しいし、それに」

振り向き私にそう言う耀の瞳には涙があった。

「修也に頼られなくて………悲しい」

拳を握り、悔しさ、辛さ、苦しみ、悲しみが顔に表れていた。

「力があれば悔しい思いもしないし、敵だって倒せるし、飛鳥だって守れたはず。それに、修也にだって頼られたてはずだよ」

「耀、誰しも一度はそう思う。私だって力を欲した。大切なものを守り通す力を………だが、耀、お前にはまだ力が眠ってる。お前は必ず強くなる。それこそ、私以上になるかもしれん」

「でも、私は、今すぐにでも、修也と一緒に戦いたい………戦いたいよ」

励ますつもりだったが余計に泣かしてしまったな。

「大丈夫だ、必ず強くなる。焦るな。焦りは余計に成長を遅らせる。焦らずにゆっくりと行け。人生は長いんだ。だがら……………今は泣け」

「う、うぅぅぅぅ………うぅぅぅぅ」

耀は声を押し殺しながら私に抱き付き泣いた。

好きな人に頼られないのは一番辛いことだよな…………

 

レティシアSIDE END

 

 

 

修也SIDE

 

「ここに居やがったが。さっさと肉塊に変えてやるよ!」

「やれるもんなら、やってみろよ」

「は、上等だ!」

ヴェーザーの巨大笛と白牙槍がぶつかり合う。

ぶつかり合うたびに空気は揺れ、建物は余波で崩れる。

笛の一撃を紙一重で躱し、俺は槍をヴェーザーの顔面に向けて放つ。だが、ヴェーザーもまた躱し一撃を当てようとする。

新たに手に入れたギフト“ハープーンガン-パイドパイパー-”を取り出し、撃つ。

打ち出された銛をヴェーザーは受け止めるのは危険と判断し、体を捻ることで回避した。

「なにも力だけじゃないいんだよ!」

ヴェーザーが笛を鳴らすと俺の足場は崩れ、それに打ち上げられた。

俺は翼を出し、落下するのを防ぐ。

そのまま、俺は急降下しながら下で待ち構えるヴェーザーに向け槍を放つ。

ヴェーザーも笛を叩き付けるように槍にぶつけてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるな、小僧」

「お前もな。神格ってのはすごいな」

「いや、吸血鬼の力も中々侮れないものだな。これじゃあ、神格の名が泣いちまう」

俺もヴェーザーも満身創痍もう立っているのですらやっとの状態だ。

「なぁ、最後の一騎打ちしないか?」

「……は?」

いきなり、ヴェーザーが変なことを言い出した。

「俺もお前もふらふらで立っているのがやっとの状態だ。なら、お互い今の自分が持ってる最高の一撃で終わらせようぜ」

「なんでそんなこと言う?」

「この一撃をお前に当てたら勝てる。だがらだよ」

コイツ…………おもしろいやつだな。

「わかった、いいだろ。その驕り砕いてやる!」

「できるならやってみろ!」

ヴェーザーは自分の霊格を解放し巨大笛を掲げ、頭上で円を描くように乱舞し始める。

俺は腕を斬り裂き、白牙槍を血で真っ赤に染める。

「我が血よ。我が名のもとに従え。その血に流れる力を槍に纏わせよ」

白牙槍に付いた血は槍にしみ込むように消え、槍に真っ赤なオーラが纏った。

「行くぞ、小僧!」

「こい、ヴェーザー!」

槍と笛はぶつかり合いそして、その余波は辺り一帯の地面を、建物を全て吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、中々やるじゃねーか」

「お前もな」

笛は砕け、ヴェーザーはその場に大の字になり、倒れながら砕けた笛の先端を見つめていた。

俺の方は白牙槍は砕けなかったが全身はボロボロで動くことすら無理に思える程だ。

それでも、俺は槍を杖代わりに立ち上がる。

「まだ決着がついてない。ほら、構えろよ。笛なくても戦えるだろ?」

「いや、決着ならついた」

ヴェーザーの体は崩れ始めていた。

「召喚の触媒が砕けりゃこうなるわな。くそ、結局仇どころがそんなにダメージも与えられなかった」

「そうでもねーよ。お前の最後の一撃。結構効いたぜ」

実際、体がもうもたない。

「でも、なんでだろうな。前マスターの仇の息子だってのになんだかすんげー清々しい」

「そうか、そいつはよかっ……た……ぜ」

そこで俺の意識は切れた。

 

修也SIDE END

 

 

耀SIDE

 

あの後、すぐにレティシアとラッテンの捜索を行ったがラッテンは既に飛鳥が倒していた。

飛鳥、すごいな。

そう思っていると遠くからもの凄い音が響き、見てみると街が一ヶ所抉れていた。

あの場所は修也が戦ってる場所だ!

私はすぐさま飛び上がり抉れた場所に向かった。

向かうと修也ができたクレーターの真ん中で倒れていた。

「修也!」

駆け寄ってみると息をしていた。

「安心しろ。疲れて眠ってるだけだ」

その声に振り向くとヴェーザーがいた。

警戒し、構えるがよく見るとヴェーザーの体は徐々に崩れていた。

「貴方、消えるの?」

「ああ」

消えるってのになんかあっさりしてる。

「おい、娘」

「何?」

「小僧に伝えといてくれ。『結構楽しめた』ってな」

「……わかった」

「……サンキューな」

そう言ってヴェーザーの体は消えてなくなった。

「修也が勝ったみたいだな」

「十六夜」

「よお」

後ろには十六夜がいた。

「二人の戦いをみてたが、ありゃ、凄まじかったぜ。ハーフと言えども流石は吸血鬼だぜ」

「見てたのに助けなかったの?」

「おいおい、そんな睨むなよ。俺は修也が勝つと信じて見てたんだ。信じてなけりゃ俺が真っ先に戦ってた。それに、これはアイツと修也が戦うべき戦いなんだよ」

十六夜の説明に私は納得した。

納得できたけど……………

「まぁ、俺は今からペストと戦ってる黒ウサギとサンドラのとこに行く。春日部は修也を連れてここから離れとけ、いいな」

「…………わかった」

「頼むぜ」

そう言って十六夜は黒ウサギたちのとこに飛んでいった。

「ん……あっつ」

「修也!大丈夫!?」

「あんまり、大丈夫じゃない」

「そう」

「あ、ヴェーザーは!?」

「消えたよ」

「そうか……」

「伝言があるよ。『結構楽しめた』って」

「そっか」

修也は槍を手に立ち上がろうとした。

「どこ行くの?」

「魔王の所だ。早くいかないと」

体中怪我してるのにまだ、戦おうとする修也に私はキレた。

「駄目!修也は怪我してるの!今は大人しくする!」

「でも」

「でもじゃない!」

修也の目を見ながら私は怒る。

すると修也は諦めたのか溜息ついた。

「わかった。この状態じゃどの道、足手まといになる。大人しく十六夜達に任せる」

「うん。じゃあ、今だけ眠っていて」

倒れてる修也の頭を私は膝の上に乗せた。

「よ、耀?」

「いいから目を閉じて」

「………ああ、ありがと」

目を閉じると修也は直ぐに眠りについた。

私はてを修也の目の上に置き少しだけ微笑む。

「おやすみ、修也」

 



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第12.5話 居なかった時こんなことがあったそうですよ?

第9.5話の続きみたいなものです。


「おい、ちょっといいか?」

急に男の声が聞こえ後ろを振り向きながら下がる。

「誰だ?」

「そう警戒するな。俺はお前の味方ってわけじゃないが敵でもない」

長身に黒いコートがやたらと似合う男がそこにいた。

子供のような屈託のない笑みを浮かべてそこにいた。

「俺になんのようだ?」

「お前に力をやる」

「は?」

「無論、無償でやるつもりはない。俺とのギフトゲームに勝利したらやる」

「………いいだろ」

「なら、早速ギフトゲームだ」

そう言って男は懐からランプブラックのギフトカードを取り出した。

その瞬間、俺は洞窟とは別の場所に居た。

そこは一つの巨大な街だった。

これはヴェーザー・ルネサンス建築の建物だな。

それに、人までいる。

ここで生活しているかのような感じだな。

だが、生きてる気配はない。

まるで作り物のようだ。

「契約書類だ」

男は契約書類意に何かを書きその紙を俺に渡してきた。

『ギフトゲーム名:ANOTHER HAMELIN

プレイヤー一覧:月三波・クルーエ・修也

クリア条件:真実を知り七日目でゴールを見つける

敗北条件:七日目でクリアできなかった場合

宣誓 上記を尊重し誇りと御旗の下“ノーネーム”月三波・クルーエ・修也はギフトゲームに参加します

 

                                     “■■■■■■”印』

 

なるほど、この街はハーメルンの街か。

なら真実ってのはギフトゲーム名から考えるにハーメルンの街から130人の子供が消えた真実のことか。

確か、いくつか伝承はあったよな。

それにしても、コミュニティの名前の所だけなんかこすれて見えない。

それにANOTHERってなんだよ?

もう一つのハーメルン?

「さぁ、早くしないと時間が無くなるぜ」

「………いいだろ。すぐにでもクリアしてやるぜ」

ひとまず疑問は放っておき俺はハーメルンの街を歩き進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ってもう六日経っちまったよ……………

情報集めしようにも街の人間は俺に反応しないから、情報が集まってこない。

どうすれば…………

契約書類を見てうなだれているとあることに気付いた。

「七日目にゴールを見つける?」

七日目までじゃなく七日目にゴールを見つける。

どういうことだ?

「明日はヨハネとパウロの日だな」

「そう言えばそうだな」

近くを通りかかった人がそんな話をした。

ヨハネとパウロの日?

あれ?そういえばハーメルンの碑文に

 

一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二十六日

あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され丘の近くの処刑場で姿を消した

 

そうか、今日はあのハーメルンの碑文に書かれた日の前日なんだ…………

もしかしたら……………

俺は一つの仮説を立てて明日を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、俺はヴェーザー川付近で待っていた。

俺の仮説が合っていればいいのだが。

暫く待つと色鮮やかな服を来た男が笛を吹きながらやって来た。

一三〇人の子供と共に。

子供たちは笛吹き男の笛に合わせながら歌い、そして、ヴェーザー河を下っていった。

「真実を知れたな」

「まぁ、殆ど賭けみたいだがな」

そう言って背後にいた男と話す。

「このゲームは七日目即ちヨハネとパウロの日、このヴェーザー河に居て笛吹き男と一三〇人の子供たちが去っていくのを見ることがゲームクリアへの道になる」

真実を知る。

ヴェーザー河で笛吹き男と子供たちが去るそれがハーメルンの真実なんだ。

「それじゃあ、今度はゴールを見つけろ」

「……………ハーメルンの笛吹きにはいくつか伝承がある。

ペスト、ラッテンフェンガー、シュトルム、ヴェーザー河だ。

だが、ハーメルンの碑文に書かれた年とペストは時代が合わない。

そして、グリム童話に書かれている伝承とは異なる童話の悪魔。

それがラッテンフェンガーと呼ばれる偽物のハーメルンの笛吹きだ。

シュトルムはフェイク。

碑文に書かれた丘ってのはヴェーザー河につながる丘を指し、天災で子供たちが亡くなった象徴とされる。

つまりシュトルムはヴェーザー河の存在を示している。

以上の事からヴェーザー河で子供たちが亡くなった、これが真実。

そして、今回見たのはもう一つのハーメルンの笛吹きの真実。

ここからは俺の仮説、と言うより碑文の解釈になる。

一三〇人の子供たちは新たな土地で自分たちの町を造ろうとした。

親元を離れ、ヴェーザー河を下り、人類未踏の新天地で街という名のコミュニティを造った。

笛吹き男は新たに造られた街のリーダー的存在。

俺が見た真実は言うなればパラレルワールドのハーメルンの笛吹きだと思う。

そして、ゴールとはヴェーザー河を下った先、即ち、新天地を指す。違うか?」

おれの推理に男はただただ黙っている。

そして、くすくすと笑うと今度は大声を上げて笑った。

「いや~、お前スゲーよ。うん。まさか、ここまで言い当てるとは大したもんだ。その通り、ゴールとは新天地の事。このままヴェーザー河に沿って行けばこの空間から出られる。ギフトゲームクリアおめでとう」

男は拍手をし称賛してくる。

「なぁ、教えてくれ。あんたは何者だ?」

その質問に男は柔和な笑みをけし、強者の笑みを浮かべた。

「俺の名はマグス。魔術師で一三〇人の子供たちと共に新天地で新たな街を造った者だ」

マジかよ………………

「おっと、お前には新たなギフトを与えないとな。受け取りな」

いつの間にか俺のギフトカードを盗っていたらしく俺のギフトカードに手を当てるとすぐさま返してくれた。

 

月三波・クルーエ・修也

ギフトネーム“忠義の吸血騎士(ロード・オブ・ヴァンパイアナイト)”“ヒューメルーン”“ハープーンガン-パイドパイパー-”

 

新たに二つ増えてやがる。

どちらも、創作系のギフトか……

「さぁ、行きな。仲間が待ってるぞ?」

「ありがとな。マグス」

「気にすんな」

俺はもう一度マグスにお礼を言い。ヴェーザー河を下って行った。

 




少し無理矢理すぎるクリア方法かもしれませんかどうか許してください。

次回はエピローグになりそして番外編をするつもりです。
その後は本編に入る前にアニメ未放送の話と問題児たちが異世界から来るそうですよ?乙の話をしようと思っています。
それでは、また次回


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エピローグ

ゲーム開始から十時間後、勝負は俺達の勝ちで終わった。

残念なことに“サラマンドラ”から五名の死亡者がでてしまった。

ラッテンとヴェーザーがやられたことによりペストが時間稼ぎを止め、触れだけで死ぬ死の風を撒き散らし、他の参加者を守るため命を落とした。

その後、十六夜、飛鳥、サンドラ、黒ウサギ、ペストは黒ウサギの持つ月神の神格を持つギフトを使い、月面の“月界神殿”に連れて行ったそうだ。

そこで、飛鳥が黒ウサギから渡された“叙事詩・マハーバーラタの紙片”というギフトでインドラの槍を出し、ペストを打ち抜き勝ったとのことだ。

ゲーム終了後、白夜叉も封印から解放され、祝勝会を兼ねた誕生祭の続きを行うと言ってた。

そして、現在はその祝勝会の真っ最中なのだが………………

「はい、あ~ん」

俺は耀により部屋で看病(監禁?)されていた。

「耀、飯ぐらい一人で食えるから」

「その手で食べれるの?」

「………………」

ヴェーザーが放った最後の一撃は予想以上に強く俺の右手の骨は折れ、左手はヴェーザーの膨大な熱量を含む一撃で大火傷。

「無理だがら私が食べさせる」

「せめて、他の奴にしてくれ」

「十六夜と私、どっちがいい?」

「………………耀で」

「よろしい」

ちなみに、新しいギフトに関してはもう十六夜達に話している。

話し終わると飛鳥はなんか嬉しそうにしていたが、どうしたんだ?

後、飛鳥に懐いていた精霊はメルンという名前が付けられ“ノーネーム”の一員になった。

「修也、次は体拭くから服を脱いで」

「それこそ、十六夜かジンに頼めよ!」

「修也の看病は私が全て引き受けることになってる。だがら、脱いで」

「やめてくれ!」

耀は俺の服に手を掛け脱がそうとして来る。

対する俺は脱がされてはたまらないので抵抗するが右手骨折、左手大火傷のため碌に抵抗できず、徐々に服をはぎ取られていく。

そして、残るは下だけになった。

「それじゃあ、下も」

「そこは本気でやめろ!」

「入るぜ」

「修也君、体はどう?」

「体調の方はどうですか?」

「怪我の具合はよろしいでしょうか?」

扉をノックされ入って来たのは“ノーネーム”のメンツだった。

上から、十六夜、飛鳥、ジン、黒ウサギの順番だ。

今の俺は上半身裸、耀は俺のズボンに手を掛けている。

あぁ、終わった。

「すすすすす、すみません!」

「そういう関係とは思って無くて、その、ごめんなさい!」

「黒ウサギは何も見ておりませんよ!」

ジン、飛鳥、黒ウサギは早急に部屋を出ていき十六夜はまだ残ってる。

「修也」

「………なんだ?」

「避妊はしろよ」

「お前絶対分かって言ってるよな!」

涙が出た。

割と本気で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上でこれが今回のゲームの真相だ」

あの後、耀には部屋を出てもらい十六夜と二人だけになった。

そして、今回の一件がサンドラを除く“サラマンドラ”全員によるやらせだったことを教えてくれた。

たしかに、“ノーネーム”名義でハーメルンの笛吹きにまつわるステンドグラスが一〇〇枚以上あったら不審に思う。

それなのにあったということは意図的に見落としたということだろう。

「それで、その話を聞いて十六夜はどう思うんだよ?」

「別にどうもしねーよ。死んだ連中が承諾済みだってんならとやかく言うつもりはねーし、結局損したのは“サラマンドラ”で俺達“ノーネーム”は得したんだ。わざわざ水を差す必要もない」

なんというか、十六夜らしいな。

「修也はどうなんだよ?」

「外は祝勝会でお祭り騒ぎだ。ここで空気を壊す必要はないだろ?」

「だな」

ヤハハと十六夜は笑い席を立つ。

「そんじゃ、俺はあいつらの所にでも戻って誤解を解いてきてやるよ」

「なんか、悪い」

「気にすんなよ」

手を軽く上げ十六夜は部屋を出ていこうとすると耀が入ってくる。

「話終わった?」

「おう、終わったぜ」

「そっか、それじゃあ……体拭き。始めよっか」

 

覚 え て や が っ た

 

忘れてくれることを願ってたのにきっちり覚えていやがった。

最悪だ。

「はい、修也。脱がすよ」

「十六夜―!助けてくれってもういねーし!」

「それじゃあ、始めるよ」

「いやあー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、一週間語。

俺達はコミュニティに帰ってくるなり早速農園跡地に向かった。

メルンの力で農園を元に戻せるかもしれないということで子供たちも期待している。

「むり!」

農園を見るなりメルンは首をブンブン振りながら言う。

「………無理?」

「むり!」

即答だ。

メルンは地精だがら、ここまではっきり言われると本当に回復の余地はないんだろうな。

「ごめんなさい。期待させるようなこと言って」

「き、気にしないでください。また機会がありますよ」

「そうだよ、飛鳥。また次のギフトゲームで勝てばいい」

しょんぼりと落ち込む飛鳥を、耀と黒ウサギが励ましている。

そんな中、十六夜は冷静に農園の土に触っていた。

「おい、極チビ」

「ごくちび?」

「そ。“極めて小さいメルン”略して極チビ。それより、もしも、土壌や肥しになるものがあったら、それを分解して土地を復活させることは出来るか?」

十六夜の意見にメルンは考えるような仕草をする。

そして

「できる!」

「ホント!?」

「かも!」

できるかもかよ!

まぁ、可能性があるだげマシか………

飛鳥は苦笑しながら、ディーン(手に入れることができたそうだ)を召喚する。

「ディーン!すぐに取り掛かるわよ!年長組も手伝いなさい!」

「「「「分かりました!」」」」

「DeN」

ディーンと年長組ははりきって農園復活の仕事を始めた。

俺も手伝うか。

ちなみに右手の骨はもうくっ付いた。

左手の火傷も完治した。

吸血鬼の回復力でやっぱすごいな。

「修也」

隣にいた耀が話しかけてきた。

「どうした?」

「あのね、私、強くなる」

「?そうか」

「だからね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は一緒に戦わせてね?」

 

決意のある瞳がそこにあった。

たくっ、女ってのは強く成長するもんだな…………

「ああ、分かった」

「うん。じゃ、行こ」

俺の手を掴み、年長組達が作業する農園に向かって走り出した。

子供みたいにはしゃぐその姿に俺は思わず笑みが出た

 



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番外編 修也と耀がデートするそうですよ?

時間的にペルセウス戦の後になります。


「じゃ、出かけてくる」

「行ってきます」

“ペルセウス”との戦いから数日後、俺は耀と共に出かけようとしている。

「はい、今日は休暇です。存分に箱庭を堪能してきてください」

見送りに来た黒ウサギがそう言う。

今日は耀への埋め合わせするべく二人で出かけることにした。

*『第6話ギフトネームが分かるそうですよ?』と『第10話ギフトゲームが終了するそうですよ?』参照

今回の埋め合わせはの費用は全て俺持ちで耀の言うことはなるべく従うようにする。

そう言う風になっている。

取りあえず、最初に“六本傷”のカフェにきた。

「さって、耀、今日はどうしたい?」

「全部、修也に任せる」

困ったな。

任せる、なんでもいい、こういうのが一番困る。

もし、本人の好みに合わなかったら文句を言われる。

「う~ん」

「あれ?どうかしましたか?お客さん」

いつもの猫耳店員さん。

本名はキャロロと言うそうだ。

「いや、今日一日の行動を決めるように言われてどうしようかと思ってたんだ」

「それでしたら、いいところがありますよ」

キャロロさんは店の奥に行き一枚のチラシを持ってきた。

「どうぞ」

「『“六本傷”主催 コミュニティ合同祭り』」

「はい、うちは商業コミュニティですから、定期的にこうやって複数の商業コミュニティと合同でイベントを行ってパイプを造ったりするんです。今回は祭りということでギフトゲーム以外にも出店などありますし、どうでしょう?」

祭りか、出店とかもあるなら耀も楽しめるだろうしいいか。

「ありがと。早速行ってみるわ」

「はい」

「耀、行こう」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ~、これはすごいな」

意外にも祭りの会場は規模がでかくとても楽しめそうなものが多かった。

「修也、早くいこ」

「わかったから引っ張るな」

最初に耀と訪れた出店は焼きそば屋台だ。

まぁ、なんとなく予想は出来てたけど。

「おい、兄ちゃん。俺とゲームをしようぜ」

「ゲーム?」

「ルールは簡単俺とじゃんけんをする。勝てば焼きそばは無料。負けたらもう一個買ってもらうぞ」

なんか、こういうの昔あったっけな。

「いいぜ。その勝負受けて立つ」

「ノリがいいな、兄ちゃん、そんじゃ、三回勝負な」

一回戦 俺 グー おっちゃん チョキ

二回戦 俺 パー おっちゃん チョキ

「いよいよ最後だぜ」

「これで終わりだ」

「「じゃんけん!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焼きそばおいしい」

「気に入ってくれてよかったよ」

結果 俺の負け

恥ずかしい。

大見えきっときながら負けるとかない。

お陰で焼きそばを三つも買う破目になった。

「じゃ、次行こう」

焼きそば二パックを五分で食べるとかないだろ。

その後、たこ焼き、イカ焼き、綿あめ、りんご飴など祭りの定番メニューを順に制覇していき気がつくとすべての店の食べ物を制覇していた。

途中で凄い服装な女を見つけて耀に思いっきしぶん殴られたが…………

「おいしかった」

「それはよかった」

そろそろ帰った方がいいかもしれんな。

「耀、そろそろ帰ろう」

「修也、覚えてる」

「…………何を?」

「私に二回分埋め合わせしないといけないこと」

あ~、そういや、そんな話になってたっけ。

ていうか、アレは十六夜が勝手にやったことで俺が耀に何かしたわけじゃないんだが……

「わかった。ちょっと待ってろ」

耀を近くのベンチに座らせ埋め合わせになりそうなものを探しに行く。

露天商が立ち並ぶエリアまで来たがなにがいいやら………

ん?“ウィル・オ・ウィスプ”金銀装飾品店。

ここで、探すか。

「ヤホホホホホ!いらっしゃいませ!」

陽気なカボチャが店番をしていた。

「あ~、女の子へのプレゼントを選びたいんだが何かいいものはないか?」

「おや?彼女さんへのプレゼントですか?」

「残念なことに違うんだな」

これは失礼と自分の頭を叩きヤホホホと笑うカボチャさんだった。

「そーですね。女性なら指輪やネックレスがよろしいかと?」

ネックレスか。

木彫りのペンダントがあるし、首に付けると邪魔になりそうだな。

指輪も戦うときに拳を使ったりするだろうから指輪も無いな。

お、これとかいいんじゃないか?

「おお!御目が高い!それは我がコミュニティでも一押しの賞品でして錆びないし、ちょっとやそっとの衝撃では壊れたり形を変えたりしないブレスレットなんですよ。ですが、特殊な金属で作ってあるのでお値段がお高いのですが…………」

「いや、これでいい。こいつをくれ。いくらだ?」

「金貨五枚です」

「五!?」

財布の中を見ると金貨四枚と銀貨七枚、銅貨二枚しかなかった。

「金貨四枚にまけてくれないか?」

「そう言われましても、っこれでも結構値段を落とした方なのですが………」

コートの内側とかを探してみたりするが、金貨は出てこない。

コートを探っているうちに内ポケットに入れといたギフトカードが落ちてしまった。

「おっと、ギフトカードが落ちましたよ」

「ああ、すまない」

カボチャが俺のギフトカードを拾い、俺のギフトネームを見るなり一瞬体がビクッとなっていた。

「ところで、貴方のお名前は?」

「月三波・クルーエ・修也だが?」

「そうですか……………わかりました。金貨四枚に値下げしましょう」

「え?いいのか?」

「はい」

「でも、なんで?」

「いえいえ、単なる気まぐれですよ。御節介カボチャのね♪」

「ありがとな。そうだ。アンタの名前は?」

「私はジャック・オー・ランタン。ジャックと呼んでください♪」

「ああ、じゃあな。ジャック」

ジャックに手を振り俺は耀の所に戻っていった。

「……………そっくりだと思ったら貴方様の御子息でしたか。本当によく似ておられる」

 

 

 

 

 

 

 

 

耀のところまで戻ると耀は眠っていた。

はしゃぎ過ぎて寝ちまったのか。

「仕方がないな」

そう呟き俺は耀をおんぶしてコミュニティまで戻った。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

耀SIDE

なんだろ?

とっても心地いい。

懐かしい感じがする。

これは、昔父さんにおんぶしてもらった時と同じ感じだ。

でも、父さんはいない。

一体誰が?

目をゆっくり開けると目の前が銀色で覆われていた。

何か分からなかったので噛みついてみた。

「耀、人の髪に噛みつくな」

「ふぇ?」

私が噛みついたものは髪で、その髪は修也のだった。

「ご、ごめん」

「いや、いいよ」

寝ぼけて何変なことしたんだろ…………

恥ずかしい………

あれ?よくよく考えたら私、今、修也におんぶされてる。

………………………!?

「耀どうした?」

「ベツニ、ナンデモナイヨ」

「思いっきし片言だぞ?」

しまった、あまりのことに頭がおかしくなってる。

「そうだ、耀。これ」

修也が紙袋に入った何かを渡してきた。

「これは?」

「開けてみな」

袋を開けてみると中身は銀色のブレスレットがあった。

「そんなものしか思いつかなくてな。…………気に入ったか?」

「うん。とても」

ブレスレットを右手に付け眺める。

うん、とてもいい。

「ありがと」

「いいよ、気にしなくて」

そう言って夕日の中私は修也におぶさりながらコミュニティに帰った。

その様子を十六夜と飛鳥に見られていたらしくしばらくの間ニヤニヤされたけど…………

 



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OVA ~温泉漫遊記~ 前編

申し遅れましたが、この話はアニメ未放送の話です。
ネタバレな部分があるのでそれでもよいという方はどうぞ。
そして、既に見てしまいこの話を見ていなかったという方、まことに申し訳ありません。
深くお詫び申し上げます。
2013 9/5 


「なぁ、十六夜。俺達がこれから向かうコミュニティってどんな名前だ?」

「そういや、その辺の事白夜叉から聞いてくるの忘れた」

いや、忘れるなよ。

現在、俺達は白夜叉の招待でとあるコミュニティの祭典に向かっている。

歩くのが正直だるい。

空飛んでいった方が早い気が……………

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

上から悲鳴が聞こえ、全員立ち止り空を見上げる。

すると、空から女の子が落ちてきた。

その女の子を十六夜が受け止める。

というより、偶然十六夜の真上に落ちてきてそれを偶然受け止めたって感じか。

「これはまた珍妙な場所で珍妙なものと遭遇したな」

十六夜はおもしろいものを見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

「えっと、こういう時はどういう顔をすればいいの?」

「昔読んだ古典では『親方!空から女の子が!』って返すそうだけど」

それラピ〇タだよ。

てか、耀の時代でジ〇リは古典なのかよ?

「それはきっと違うわ、春日部さん」

飛鳥もなんとなく違うと察したらしい。

「もしかして、この子が白夜叉の言ってたコミュニティの子?」

「白夜叉様のことをご存じなのですか?」

女の子はどうやら白夜叉と面識があるようだ。

てか、なんで上から落ちてきた?

その時背後から複数の足音が聞こえた。

「見つけたぞ!こっちだ!」

がらの悪そうな男十人が刀を手に現れた。

「なんだ?お前ら」

「ふん、名を聞くのであればまずは、己がなのるのが礼儀であろう?」

刀を抜きやらしそうな笑みを浮かべる。

まぁ、言ってることは正しいな。

「俺達は“ノーネーム”所属の者だ。で、お前たちは?」

「“ノーネーム”?」

俺達が“ノーネーム”だと分かると男だもは笑い出す。

名無しだがらって舐めやがって。

「名乗る名も無い身分だったか」

「にも関わらず、それを隠すこともしないとはな。誇りも恥もないらしい」

「アイツらに追われてるってことでいいのか?」

そんな男どもに目もくれず十六夜は女の子に事情を確認してる。

十六夜のセリフに女の子は首を振って答える。

「そう、なら大義名分はそろっているわね」

飛鳥が前に進み出て男どもを見据える。

「少女一人を大勢で追い回す者が恥を語るなど笑止千万。我々“ノーネーム”は義のために立ちます。行くわよ。ディーン!」

ギフトカードを取り出しディーンを召喚する。

「DEEEEeeeeEEEEN!」

「大型の自動人形だと!?」

「バカな!?名無し風情がどこでこんなギフトを!?」

「やりなさい!」

「DEEEEEEEEeeeeeeeeeeeeeEEEEEEEEN!!」

飛鳥の命令に従いディーンは拳を振り上げ男どもにぶつける。

「護衛を相手にするな!スクナビコナの眷属を奪って逃げるぞ!」

「スクナビコナだと?」

男どもは刀を振りかざし襲い掛かる。

しかし、間に耀が入りグリフォンのギフトで旋風をお越し吹き飛ばす。

吹き飛ばされた男どものリーダー格であろう男に耀と飛鳥はゆっくりと近づく。

男はさっきと変わり滅茶苦茶怯えまくってる。

「待てよ。春日部、お嬢様」

耀と飛鳥を制し、十六夜が近づく。

「悪かったな。名乗りを聞く前にうちのお嬢様が手を出しちまってな」

「え、あ、いや、その…………」

尻込みする男を余所に十六夜は地面から刀を抜き男の前に立つ。

「だが、お行儀よく名乗った俺達にあの態度はないだろ。危うく俺もあんた達をこうしちまうとこだったよ」

そう言って刀の柄を右手で持ち左手で刃の先を押さえそのまま押し込み刃をグニャグニャに押しつぶした。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

男は涙目で鼻水を垂らしながら悲鳴を上げる。

「なぁ、おっさん、大人しく捕まるか、こうなるかどっちがいい?」

十六夜は黒い笑みを浮かべながら男に聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けていただきありがとうございました。私は八百万の大神の分家筋あたるコミュニティ“スクナビコナ”の同士一二三と申します。白夜叉様の命により皆様をお迎えに参りました」

一二三を襲おうとしていた男どもを縄で繫ぎながらコミュニティまで一二三の案内で今は向かっている。

男どもは暴れたりしないように俺が死なないラインのギリギリまで血を吸っといた。

「スクナビコナねぇ。神道系の神様で海より来る皇国の神だな」

相変わらず豊富な知識だな。

「はい。他にも様々な加護を授かったお方で、私たちはその眷属として水源の開拓を主に活動しています」

「へぇ~、じゃあ今回も水源の開拓を?」

「はい。ですが、スクナビコナ様は悪童神としても有名なお方で水源を見つけるには定期的に奉納祭と称したゲームを開催する必要があるのです」

「なるほど、それで、奉納祭の盛り上げ役として私たちを呼んだのね」

一二三のセリフに飛鳥は納得したように言う。

「じゃあ、この人たちは?」

「おそらく」

「奴隷売買とかその辺のコミュニティだろう」

「は、はい。でもどうしてそれを?」

「水源の開拓ってことはそれ以外にも水源を見つける恩恵を持ってると推測できる。箱庭では水は貴重な資源だって聞いたしそうなれば水源を見つける恩恵ってのはどこでも欲しがるだろ。だがら、そうかなって思ったんだよ」

「す、すごいです。それだけの情報でこんなに分かるなんて」

一二三は俺を褒めながら見てくる。

そんなに大したことではないのだが…………

「あ、こちらです」

着いたいた場所は石で造られた道に昔の日本のような建物が並ぶ街だった。

一二三の案内で先に向かった黒ウサギとレティシア、リリと合流した。

「もう、皆さん!遅いのですよ!」

黒ウサギは既にお冠だった。

「悪い悪い。ちょっと寄り道をな」

「なんにせよ無事辿り着けてよかった」

今日のレティシアはメイド服ではなく私服だった。

今日はギフトゲームに参加するし流石にメイド服は動きづらいよな。

「一二三ちゃん!久しぶり!」

「リリ様!よくぞ来られました!」

リリは一二三に走りながら駆け寄り抱きしめた。

「二人は知り合いなの?」

「はい、お母様が神道系の神格者だったので奉納用に使うお水は神気を帯びていなければとこちらのコミュニティでお世話になっておりました」

へ~、リリの母親は神格を持っていたんだな。

それは、驚きだな。

元魔王に神格者、さらに倉庫の大量の武具に様々なギフト。

予想以上に“ノーネーム”は凄かったんだな。

「それでは、皆様。白夜叉様がお待ちです。ゲームの舞台に急ぐのですよ」

黒ウサギに言われゲームの舞台まで移動する。

街の中に入ると街の日とは浴衣で、逆さクラゲのマークがあっちこっちにある。

「もしかして、水源って温泉の事?」

「はい。もちろん生活用水としても可能ですしお神酒造りにも用いられております」

本当に凄いな。

生活用水にも使えるなんて。

「天然の温泉か~。もし、ゲームに勝ったら入らせてくれるかな?」

「もちろん。湯殿の用意はもちろんのことこちらの旅館で宴席を開く用意があります!」

「「わかった。ゲームをクリアする!」」

耀と飛鳥は高らかに答えた。

女は風呂が好きだよね。

「さぁ、皆さん。ゲーム会場はあちらです」

一二三に案内され着いた場所は中心にでっかい火柱と杭が大量に打ち込まれた広場だった。

近くには物見があり、その周りには他のコミュニティがいた。

「盛況だな」

「呼ばれたのは私達だけではなかったのね」

「うん」

「まぁ、なんとなくわかってたがな」

「お~い、お前」

急に声が聞こえ振り返ると、白い髪にツインテールでゴスロリをきた少女とカボチャがいた。

「ヤホホホホホ。お久しぶりです」

「ジャック、アーシャ」

確か、“アンダーウットの迷路”の時の耀の対戦相手だっけ?

てか、このカボチャ

「ジャックか?」

「はい。あの時のお祭り以来ですね」*番外編参照

「あんたのとこのブレスレット気にいってくれたぜ」

「それはよかったですね」

「十六夜君!あの時のジャック・オー・ランタンよ!ほらほら!」

「わかったわかった」

飛鳥はえらいはしゃぎようだな。

そんなにカボチャが好きか?

「皆、よく集まってくれた」

物見から白夜叉が集まったコミュニティに呼びかけた。

「それでは第二百二十三万四千四百六十四回ギフトゲーム“スクナビコナの渡し舟”の開催じゃ」

そう言って物見から契約書類をばらまいた。

「勝利条件 開封の杭を引き抜きスクナビコナの輝く運河の中心に炎を打ち付けよ」

「どういうこと?」

「つまり、水源を塞ぐ杭を抜けということではないでしょうか?」

「そんな簡単でいいの?」

確かに簡単すぎる。

しかし、このの輝く運河の中心に炎を打ち付けよってのはどういうことだ?

「謎解きもそうだが、もう一つ。杭を抜くにはある条件をクリアしてもらうことになっておる。これより、リトルゲーム温泉街の各地で開催する。一つクリアすることに一本杭を抜くことが許されるというわけじゃ」

「なるほど。つまり、それをクリアしなければ話にならないのですね」

「だったら、早い者勝ち!お先!」

アーシャはジャックに乗り温泉街を目指した。

他のコミュニティも我先にと温泉街を目指した。

「私達も」

「ええ」

「ああ」

俺達もすぐに温泉街を目指した。

「皆さん!頑張ってくださーい!」

「さて、誰が正解にたどり着くかの。スクナビコナよ」

 



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OVA ~温泉漫遊記~ 後編

「別れて片っ端から攻略して行こう。お嬢様とリリはあっち。春日部はレティシアと向うを頼む。黒ウサギは俺と向う。修也、お前は誰と行くか自分で決めろ」

「なんで?」

「いいから、決めろ」

(ここで俺を選んだらギャルゲーならバットエンドルートだな)

(修也君がいたら早くクリアできそうね)

(修也…………こっち来てくれるかな?)

「別れた方がいいんだろだったら俺は一人でもいい」

「分かったわ。行きましょうリリ」

「はい!」

「行こ。レティシア」

「あ、ああ(怒ってる……)」

「じゃ、俺も行くわ。また後でな」

十六夜にわかれを告げ俺もゲームクリアに向かう。

さて、どこに行くか。

取りあえず近場のとこにするか。

近くにあった館にはいるとそこには筋肉マッチョの男がいた。

「ふ、来たか。我こそは“スクナビコナ”の同士、弥七と言う」

「ゲームを受けに来た」

「ふ、よかろう。ゲーム内容はいたって簡単。このパンチングマシーンに拳をぶつけて現在の記録一位を更新する。無論、ギフトの使用もありだ」

要するにパンチ力比べか。

これなら、大丈夫だろ。

えっと、現在一位は……………

 

一位 クルーエ    4692Pt

二位 孝明      2519Pt

 

親父………

いや、まさかきっと他人だよ

「ははは、貴様は中々の使い手と見る。だが、クルーエ=ドラクレア殿の記録を更新する者などここ10年は現れとらん」

親父だったよ!

てか、二位との差でかいな!

「クルーエ殿は素晴らしいお方だ。親友の孝明殿と彼はよく女風呂を覗きに行きそして、見事にそれを成し遂げるお方だった」

あ・ん・の・ク・ソ・お・や・じ

「何、変なことしてんだよ!」

怒りに任せ渾身の一撃を出す。

 

ズドンッ!!

 

7839Pt

「お、おお!凄いぜ!アンタ、記録更新だよ!」

怒りのパワーって凄いな。

 

一位 修也   7839Pt

二位 クルーエ 4692Pt

三位 孝明   2519Pt

 

ゲームクリア

 

 

 

 

「さて、どの杭を抜くか………こいつでいいや」

近くの杭を抜く。

すると杭の先に手紙が付いていた。

手紙を取り中を見ると

 

『バカが見る~』

 

……………小学生か!

 

 

その後も様々なゲームをクリアするが全てが記録更新という奴でその一位と二位全てが親父と孝明さんだった。

てか孝明って誰だよ!

しかも、引く杭すべてに手紙があり、全て『アホが見る~』『お前の席ねぇから』とか人の神経を逆なでるようなことばっか書いてあった。

 

そして、とうとう最後の一本となった。

杭の周りには耀、飛鳥、黒ウサギ、リリ、レティシアの五人がいる。

俺はと言うと十六夜の近くにいる。

他のコミュニティは根を上げて帰ってしまった。

全員で杭を掴み、同時に引き抜く。

「「「「「「せーの」」」」」」

ポンッと軽快な音と共に杭が抜ける。

杭を抜いた瞬間、全員全力退避する。

すると穴から水が出てきた。

あれ、なんか皆の水着が…………溶けてる!?

どういう訳がみんなの水着が溶け出しお見せできない状態になっている。

俺の服は溶けていない。

水着だけを溶かすのか?

てか、お前はヘッドホン以外装着してないのによく仁王立ちできるな。

「これってもしかして」

「ああ、お前の考えてる通りだと思うぜ。このゲームのクリア方法は杭を抜くだけじゃない」

「そう言うってことはもう分かったんだな。クリア方法は」

「ああという訳だがら少し手伝ってもらうぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜に連れられ俺は今ゲームのクリアに向け行動してる。

その途中、耀たちが足湯に浸かりながらゲームについて話していた。

その推理を十六夜と聞き途中で姿を現す。

「正解だ」

「十六夜君、修也君」

「耀とリリの推理はほぼ正解だ」

「この杭は引き抜いてから打ち付けるまでが本来の用途なんだよ」

そう言って十六夜は杭を見せる。

「でも、打ち付けると言っても一体何処に?」

「スクナビコナの輝く運河の中心、この一文が杭を打ち付ける場所を示してる」

「なるほど。それで、主殿と修也はその場所が分かっているのか?」

レティシアがもっともなことを聞いてきた。

「スクナビコナってのは神道の神霊っていう意味以外にももう一つ意味があるんだよ」

「それはアステロイドベルトに位置する小惑星の名という意味もあるんだ」

「ということはスクナビコナの輝く運河とはアステロイドベルト、即ち小惑星のことを指すのですか?」

「そういうこと」

「ってそんな場所に打ち付けれるはずないじゃない」

そりゃ、そうだ。

「当たり前だろ。これは暗号だ」

「その小惑星帯があるのは火星と木星の間との木の中心」

「一二三、火柱から林道の中心には何がある?」

「えっと………!まさか!」

気付いたみたいだな。

「お前の主神はとんだ過保護だぜ。新しい水源を」

そう言って俺と十六夜は同時に飛びあがる。

「「貯水池の中心に造っていたなんてな!」」

十六夜が投げるその瞬間、俺は杭の後ろを殴り更にその勢いを加速させる。

そして、杭は貯水池の中心に突き刺さり、大量の水を吐き出した。

「ゲームクリア」

「早速、温泉に入ろう」

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、温泉っていいな」

「ええ、全くです」

………ジャック、そのカボチャ熱くないのか?

それとも本当に頭がカボチャなのか?

十六夜はと言うと一二三とレティシアに背中を洗わせてるし…………

「本当にありがとうございました。何から何まで助けていただきまして。こんなお礼ぐらいしかできませんか」

「気にすんなって」

「全く、我が主はどういう頭をしているんだ?」

確かに気になるな。

「ん?見たいか?」

「ぜひ見たい」

「私もです」

俺も見たい。

「見せねーよ」

そう言って十六夜はハハハと笑う。

「しかし、こんな穏やかな日があってもいいかもしれないな」

「ああ、神水の温泉で月明かりを眺めながら二人のロリに背中を流してもらう。中々できねー贅沢だ」

最後の一文が余計だぜ。

「そうだ、新しい水源を用意したら俺達の地元の支配力も上がるんじゃねーか?」

確かに、箱庭では水は重要な資源の一つ。

それを俺達“ノーネーム”が用意したとなればまた一歩打倒魔王の目標に近づくなぁ。

「それはそうだが」

「ええ、やはり水源はコミュニティの生命線でもありますし」

「……そうか、なら一度計画を立ててみるかな。修也も乗るだろ?」

「当たり前だろ」

「十六夜さん。もしかして、また何か悪戯を考えていません?」

お?黒ウサギが反応した。

もしかして感がいいいか?

「ああ、とびきりの悪戯をな。まぁ、楽しみにしておけよ」

「あら、そういうことなら私も参加するわよ」

「楽しい悪戯なら私も。主に黒ウサギを弄る役を」

「なら、俺は黒ウサギを虐める役がいいな」

「「よし、任せた!」」

どういうわけか十六夜と白夜叉がはもった。

「な、何をお考えでいらっしゃるのですか!?」

黒ウサギの声に十六夜は柵の上に手を出し親指を立てて答えた。

「この………問題児様方!!」

黒ウサギの悲痛の叫びが響いた。

「ヤホホホホホ。本当に楽しそうなコミュニティですね」

「だろ?」

本当に箱庭に来て良かった……

 




次回は問題児たちが異世界から来るそうですよ?乙をやります。
お楽しみに


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問題児たちが異世界から来るそうですよ?乙
第1話 やっぱり問題児だそうですよ?


~ある日の“ノーネーム”農園~

「黒ウサギのお姉ちゃーん!」

「はーい!何でございましょうかー?」

「そろそろお腹が空くころだと思っておにぎり持ってきたよ!疲れただろうしちょっと休憩したらどうかな」

「わぁ、ありがとうございますリリ!でも、心配には及びませんよ!コミュニティの皆さんに力を付けてもらう為ならこれしきの畑仕事など苦ではありませんから!それに今日はあの四人も手伝ってくれるとの約束ですしね!」

「えっそうなの!?」

「はい、指切りもしましたからもうそろそろ来るはずかと」

「大変でーす!!」

「ジン坊ちゃん!どうされたのですか!?」

「そ…それが…今朝からあの四人が見当たらないから探していたら広間にこんな書置きが」

「なになに?」

 

『そうだ、街行こう。 四人より』

 

「あ、あ、あの問題児たちはまったくもー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行けども行けども知らない街並み。相変わらず無駄に広いな」

「本当ね。私達が呼び出されてもう二、三ヶ月は経つのかしら?」

「うん…でも、まだ見たことのない物だらけでなかなか慣れないね」

「まぁ、すぐ慣れて飽きるような場所じゃない方がいいだろ」

「その通りだ。すぐに飽きちまう様な所じゃ来た意味がねぇ!」

現在、俺達四人は東側の街に遊びに来てる。

黒ウサギとの約束があったがボイコットした。

「なんだが、十六夜君は随分楽しんでるわね」

「さっき買ったこの食い物もわりと美味い。サーカスが来てるらしく屋台で賑わってたぞ」

「いつの間に買ったの?私も食べたかったなぁ」

いや、さっき俺に焼き鳥強請ったよな?

しかも、三十本。

全部食うのに二分って早すぎだろ。

買うのはいいがせめて味わって食ってほしい物だ。

そんなことを思っていると耀と飛鳥の背後から頭が悪そうな男が来た。

「ねーねーそこ行くかわいいお二人ィ!良ければウチのコミュニティに入らない?」

「え…あの…」

男のチャラい行動に耀はどうすればいいのか分からないようだ。

飛鳥はもの凄く不機嫌になってる。

「見た所旗印の刺繍がないよね。どうせ未所属かたいしたことないコミュニティに入ってるのどちらかでしょ?なら、うちのコミュニティに来なよ!君たちみたいな女の子なら大歓迎だからさ。損はさせないよ?ね?どう?」

「『黙り「はい、そこまでにしようぜ」

飛鳥がギフトを使おうとした瞬間、俺は二人と男の間に割って入った。

「なんだよ?テメー」

明らかに不機嫌そうにぽとこは顔をしかめる。

「この二人は既にうちのコミュニティの仲間なんだよ。悪いがナンパなら余所を当たれ」

「んだと!?テメーどこのコミュニティだ!?」

「二一〇五三八〇外門の“ノーネーム”だ」

「はっ!なんだよ、“ノーネーム”か!」

“ノーネーム”だと知り男は明らかに馬鹿にしたような顔をする。

「“ノーネーム”如きがうちのコミュニティの勧誘の邪魔すんなよ」

「だがら、この二人はうちのコミュニティの仲間だって言ってるだろ」

「名乗る名も旗もないくせに粋がるなよ。名も旗も無いコミュニティなんて存在しないのと同じだ。だからさ、うちのコミュニティにおいてよ!」

最後の所だけ耀と飛鳥のほうに顔を向けて言う。

「おい、あんまりうちのコミュニティを馬鹿にすんじゃねーよ。な?」

殺気を込めた視線と最後のっな、の所だけ低く言ったので相手は体を震わせてビビる。

「だ、黙りやがれ!」

キレて襲い掛かってくる男を見ながら俺は呟く。

「正当防衛だぞ」

男の拳が届く前に俺の拳を腹に叩き込む。

「あふ!?」

腹を押さえ蹲る男。

その男に近寄り俺は耳元で話す。

「“ノーネーム”馬鹿にすんなよ。次は血吸うぞ?」

「な……に?」

「おっと、自己紹介がまだだったな。月三波・クルーエ・修也だ。よろしく」

「く、クルーエってあの……」

「分かったら、すぐに失せろ」

「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

男は全速力で来た道を引き返した。

やっぱ親父の名前すごいな。

「ありがとう、修也君」

「ありがと」

「気にすんなよ」

揉め事も片付いたので先に進んだ十六夜の後を追う。

「それにしても、黒ウサギとの約束破っちゃって良かったのかな?」

「まぁ、カンカンでしょうね」

「ごめんね。十六夜と飛鳥まで付き合わせちゃって。街の方が騒がしくて気になったんだ」

「いいわよ。春日部さんと修也君の五感は並外れてるし、この街でなにかあったのは間違いないわ」

これだけ聞くと俺と耀の用事に十六夜と飛鳥が付いてきたみたいに聞こえるが実はそうじゃない。

始めに、耀が部屋に来て街が騒がしいから一緒に来てっと言ってきて、そのまま首根っこを掴れ引きずられた。

そこを飛鳥と十六夜に見つけられ今に至る。

なんでこうなった……………………

「それに、謝るのはこっちの方よ」

「え?」

「修也君と二人っきりが良かったでしょ?」

「な!?べ、別にそんなことは!?」

「フフフ、顔、真っ赤よ」

「う、う~~~」

(……………可愛い)

ん?耀と飛鳥は何話してるんだ?

気になり声を掛けようとしたらいきなり何かが俺の前を通った。

「どいてどいてー!」

十一、二歳ぐらいの女の子が耀と飛鳥の間をかき分けて行った。

「な、何なの!?」

「待てや!クソガキーッ!」

今度はエプロンを付けた男が走って来てその子を捕まえた。

「この俺様にギフトゲームをけしかけといて逃げるたぁいい度胸だなコラァ!」

「やめて放してよ!あんなルール絶対おかしいよ!どう見ても公平なゲームじゃなかったでしょ!?」

「何だ?言い掛かり付ける気かぁ!?こいつめ!」

おとこが肉叩きハンマーを振り下ろそうとした瞬間、男の腹に何かがぶつかった。

それも、凄く早いスピードと凄い威力のある力で。

男はそのまま意識を失い倒れる。

腹に当たったものは紙クズだった。

こんなことするのは一人しかいないな。

「ああ、すまん。ゴミ箱と間違えた」

「ちょっと十六夜君ゴミにゴミぶつけてどうするのよ。ちゃんとゴミはゴミ箱に入れなさい」

「そうだよ。マナーを守らなきゃゴミがかわいそう」

「いや、ゴミはゴミ同士仲良くやって行けるさ」

「いや、十六夜、紙クズは再利用可能だが、粗大ごみは再利用もできない邪魔な存在だ。仲良くやって行くのは無理だ」

「いやいや、紙クズも粗大ごみも根元はゴミだ。その辺の垣根も越えて仲良くできるはずさ」

さりげなく酷いこと言ってるが気にしない。

だって俺達だし。

「それに、早く逃げないと…………背後に何かいるんだよなあ」

「見ーつーけーまーしーたー」

あ、黒ウサギだ。

「まったくどうして皆様はじっとしていられないんですか!?毎度、肝を冷やす黒ウサギの身にもなってくださいよ!」

「実は俺『じっとしてると髪が逆立ってしまう病』なんだ」

「じゃあ、私は『じっとしてるとリボンが本体になってしまう病』」

「じゃあ、私は『じっとしてるとスライムになってしまう病』」

「じゃあ、俺は『じっとしてると体がゲル状になってしまう病』」

「反省の色無しと言うことは把握しました!」

そして、黒ウサギは俺達に説教をし始めるが十六夜と飛鳥は黒ウサギの言葉を右から左に受け流し、耀は近くを飛んでる蝶に目を向け、俺は空を見上げる。

「ですから、避けて通れるような揉め事はなるべく」

「あのさぁ、黒ウサギ、実はもう揉めちゃったりして」

御説教が終わったらしく見てみると先ほどの男が怒りMAXの表情を浮かべていた。

「さっきはよくもやってくれたな小僧…こりゃ仕返ししないと腹の虫が治まらねぇぜ…」

「十六夜さん!!誰ですか、この厳ついハンバーガー屋さんみたいな人は!?」

「先日リストラに逢ってムシャクシャしてる元ハンバーガー屋だ。後、ロリコン」

「勝手に設定を作るな!」

こんな時でも十六夜は平常運転だな。

「そいつは肉屋のカラッチ・トーロって言うの。最近この街で好き放題やってる悪党だよ!」

あれ?この子まだいたんだ。

「相手に不利なルールのギフトゲームを設定して力で脅して参加を強要させてくるんだ!」

「ゲームのルールは「主催者」が自由に決められるシステムだろ?嫌なら断ればいい。その後は知らねーけどな!」

なんというか矛盾しまくりだな。

断ればいいって脅して参加を強要するんだろ。

おそらく相手は女や子供、後、自分より弱い奴ばっかだろうな。

「聞き捨てなりません。ギフトゲームは両者の合意で成り立つ神聖なもの!貴方がやっていることはただの恐喝です!箱庭でも許されることではありません!」

「ああ、なんだ?随分うるさい奴だと思ったらお前は“箱庭の貴族”月の兎の末裔か!」

男は黒ウサギを見て驚く。

まぁ、月の兎なんて滅多に御目にかかれんだろうしな。

「はっ、これは面白ぇ。おい、そこの四人。俺とギフトゲームで勝負しろ!もちろん「主催者」は俺だ!ルールもこっちで決める!あとそこの月の兎にも審判についてもらうぞ!」

「な…突然何を言い出すかと思えば」

「そんなの駄目に決まってるよ!」

「そうですよ!さっきの話忘れてませんよ!こちら側に不利なルールを設定されるとわかっていて合意するワケがないでしょう!」

いや、別に大丈夫だと思うが…………

「いいじゃねーか。どうせ“ノーネーム”なんて他に相手してくれる奴なんていないんだろ?お前らみたいな弱小コミュニティなんて大概話にならねーからな」

弱小ねー。

少しイラッときたね。

どうやら他の三人も同じようだ。

「挑発に乗っちゃダメですよ!ここはグッと堪えてください!」

まったく、何を言ってるんだ黒ウサギわ。

そんなこと分かってるさ。

「もちろんだ!言われなくても分かってるぜ」

全員が頷く。

そして

「そのゲーム受けて立とうじゃねーか!!」

「………アレ!?」

頷いていた黒ウサギが気づいた。

「待ってください!今の流れおかしくないですか!?私の話聞いてました!?」

「「「「挑発に乗るなとは言われたがケンカを買うなとは言われてないので」」」」

「なんて強引な屁理屈!!」

口を揃えて一字一句同じのセリフに黒ウサギが泣く。

「ふん!やっぱりな!てめーらみてぇに群れてるガキ共が一番身の程って奴を知らねぇ!」

「うるせぇハンバーガー。さっさと、開始の合図を始めろ」

「まぁ、待て。ゲームステージの用意が先だ」

すると辺りが煙に覆われ煙が晴れるとそこは巨大な迷路だった。

 

『ギフトゲーム名:ラビュリントス

 プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

         久遠 飛鳥

         春日部 耀

         月三波・クルーエ・修也

クリア条件:ステージの謎を解き迷宮を突破又はステージ内に潜むホストを打倒

敗北条件:降参もしくはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下“ノーネーム”はギフトゲームに参加します

 

                          “カラッチ・トーロ”印』

「わぁ、凄い。巨大迷路だ」

「中々楽しそうなステージじゃない。これだけの異空間を作れるってことはあいつもそれなりのギフト保持者ってことかしら」

耀と飛鳥はそれなりに凄いと思ったらしい

「それで、このルールに何か問題はありそう?」

隣でポカーンとしている黒ウサギに飛鳥が聞く。

「あ、いえ、今の所思ったより公平です。しかし、この迷路と謎解きがどれ程の難易度なのか…とにかく進んで見ない事には判断できませんね。あと気になるのはチップです。コミュニティ同士のギフトゲームには必ず敗者が勝者に寄贈するチップが必要…向う側が何か莫大な金品を要求してくるかもしれません!」

なるほど。

そう言えばさっき十六夜が契約書類に何か書いてたな。

「それについて契約書類に記載があると思うのですが何とありますか十六夜さん?」

「あー、空欄だったから俺が書いといたぞ」

お、手が早い。

一体何を賭けるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                「『ウサギ肉贈与』って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒ウサギはえ?自分?といった感じで自分を指差す。

十六夜は頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼悪魔ド外道―ッ!!」

「きっと美味しいハンバーガーになるぜー」

泣いて叫ぶ黒ウサギを余所に十六夜はヤハハと笑う。

「大丈夫よ、黒ウサギ」

泣いてる黒ウサギに飛鳥は声を掛ける。

「勝てば問題無いのだがら。任せておきなさい」

とても頼もしく思える言葉だ。

「私、頑張るよ。黒ウサギがハンバーガーにされないためにも」

「俺も、同士がハンバーガーになって大勢に食われるとこなんざ見たくないからな。絶対に勝ってやるよ」

俺達の言葉に黒ウサギは目に涙を浮かべたまま固まってる。

「俺達は楽しむためにこの箱庭に来たんだ。簡単にクリアできるゲームじゃつまらねぇ!ほら、行くぜ黒ウサギ!」

「い…十六夜さん!」

黒ウサギは涙を零しながら指し伸ばされた十六夜の手を掴もうとする。

「なんと頼もしい…黒ウサギは貴方達四人が来てくれて本当に…本当に良かったです!」

そして、黒ウサギの手と十六夜の手は繋がった。

そして、そのまま十六夜は黒ウサギを引きずった。

「それで?啖呵切ったはいいけどこれからどうする作戦なんだ?」

「えっ別に作戦なんて考えてないけど」

「私も取りあえず便乗してみただし…」

「俺は何も考えずに行動しただけだぞ」

「なんだ勝算ゼロかよ!テキトーに行くかー」

取りあえず方針としてはテキトーに進むことになった。

「ぜ…前言撤回…やっぱりとんでもない問題児ですっ!!」

 



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第2話 バーベキューセットだそうですよ?

「作戦会議を行いましょう!闇雲に動いても無駄に体力を消耗するだけですから突破口となりうる案を出し合うべきです!」

黒ウサギは率先してゲームクリアのために行動する。

自分がウサギ肉にならないために必死だ。

そして、俺達はと言うと

「気を付けて進む」

と飛鳥。

「前向きに進む」

と耀。

「奇跡を信じてまっすぐ進む」

と俺。

「明日を見据えてまっすぐ進む」

と十六夜。

「「「「ガンガン進もうぜ!」」」」

ノープランでも構わなかった。

「作戦会議終わったー!!」

ものの数秒で作戦会議は終了した。

取りあえず適当に進んで行けば何とかなるんじゃね?

「もう、待ってくださいよー!」

「ったく、何やってんだよ。ちんたらしてっとおいてくぞ」

「み、皆さんは石橋をたたいて渡るということわざを御存じないのですか!?」

失礼だな。

いくらなんでも知ってるに決まってる。

罠があってもあえて不用心に進む。

その方がおもしろい。

「とにかく十分に注意して進むのですよ!」

そう言って黒ウサギが一歩踏み出した瞬間、黒ウサギの居た地面が消えて黒ウサギは落ちた。

「きゃああああああああああ」

「「「「………………………」」」」

一瞬の沈黙。

そして

「「「「ガンガン進もうぜ!」」」」

スルーする。

「助けてくださーい!!」

冗談はこの辺にして助けることにした。

助けた後黒ウサギはずっとむっすーとしていた。

「流石にへそ曲げちゃったみたいだね」

「少しやりすぎたか」

「まぁ、ほっときゃすぐに治るだろ。それより、春日部、お前グリフォンのギフトで空飛べたよな?修也も翼が出せる。ちょっと二人で上空から迷路の全景を見てきてくれ」

なるほど。

上から迷路を見下ろしゴールを見つける作戦か。

それなら、早く終わりそうだな。

「うん、わかった」

「了解」

翼を出し飛びあがり、少し遅れて耀も飛び上がって来た。

だが、飛びあがって俺と耀は気づいた。

霧がかかっており遠くまで見えない。

そのことを十六夜に伝えると十六夜は少し、不満そうに納得した。

そこで飛鳥が右手を壁について歩くという提案をした。

しかし、その方法が通用するのは平面的な迷路での話でここみたいな孤立した階段や建物がある立体迷路には応用できない。

十六夜も知っているらしく訂正すると飛鳥は少しむっとした。

「しかし、広さが分からないのはちと難儀だな」

確かに。

「私に任せて。要は脱出はできればいいのでしょ」

飛鳥の言葉に俺は飛鳥の方を見る。

飛鳥はギフトカードを構えていた。

「来なさい!ディーン!」

「DEEEEEeeeeeeeeeEEEEEN!」

ディーンを召喚した。

まさか………

「壁を薙ぎ倒して一直線に進むのよ!」

「豪快だな」

なるほど、考えたな。

それなら、迷宮の突破にもなる。

ディーンが拳を振り上げ振り下ろす。

まさに、振り下ろすその瞬間

「だ、ダメー!!」

黒ウサギが間に入った。

振り下ろされた拳は十六夜が間に入り受け止めた。

「何やってるんだ駄ウサギ!」

「あぶないでしょ!」

「す、すみません!反則だったもので!」

「反則?」

ん?どういうことだ?

「このゲームのクリア条件はステージの謎を解き迷宮の突破。つまり、壁を壊して迷宮としての形を崩してしまえばルール違反!黒ウサギがいる限り違反は見過ごせません!」

「黒ウサギを審判にしたのはそう言う意図があったからなのね」

でも、壁を破壊してはいけないなんて書いてない。

破壊してはいけないならそう書くはずだ。

もし、破壊して責められても向うの説明不備で話は通るはず。

でも、ペストの時みたいにルールの一文に隠されてるってこともあるか

「修也行くよ」

「ん?あ、ああ」

耀に呼ばれて気付いたが、どうやら十六夜達はさっきに行ってしまったらしい。

「結局、どうなった?」

「黒ウサギを先頭に地道に進むことになった」

取りあえず納得して十六夜達の後を追う。

それにしても、さっきから気になることがあるがそれが分からない。

何だろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒ウサギを先頭に進み数時間が経過した。

「あれ?この道さっきも通りました?」

「「「「ほら、迷った」」」」

迷ってしまった。

俺や十六夜はともかく耀と飛鳥の疲労が気になるな。

耀にいたってはお腹も空いたらしい。

「仕方がない。壊すか。速やかに」

「爆死しろと!?速やかに!?」

壁を壊した進もうとする十六夜に黒ウサギは涙ながらに止める。

ん?なんかおかしい。

でも、それがわからない。

「あ…大きな建物が見えます!あそこにはいってみませんか!?」

「ん?本当だ」

「待って、建物に入るならあっちへ行った方が近そうだけど」

「いえ!こっちの道が安全そうです!こっちから行きましょう!」

「張り切っちゃってるわね。とりあえず黒ウサギについて行きましょう」

建物に入ってみると広い部屋に着いた。

「すごい、壁画が沢山」

「見るからに怪しいわね」

「きっとここになんらかのヒントがあるはずです!」

「なるほどな。修也、コイツを見ろ」

「ん?」

十六夜に言われて見るとソレはミノタウロスの壁画だった。

「これってギリシャ神話のミノタウロス伝説か」

「ミノタウロス?」

飛鳥は知らないらしい。

「ミノタウロスってのは人間と牡牛の間にできた子供で、頭は牛、体は人間の怪物だ」

「成長するにつれてミノタウロスは狂暴になり手におえなくなった島の王ミーノース王はダイダロスに命じて入ったら二度と出られない迷宮ラビュリントスを作らせたんだ」

「相変わらずの博識と見事な連携説明ね。つまり、その伝説が関係してるってこと?」

「ああ、迷宮には毎年、七人の少年少女を生贄としてラビュリントスに入れられてた」

「だが、ミノタウロスを退治することを志したテセウスって言う王子がいたんだ」

「テセウスはある二つの道具を隠し持って迷宮に入った。一つは糸玉。糸を迷宮に引っ掛けて脱出の際の目印にした。そして、短剣。テセウスはコイツでミノタウロスを退治し見事生還を果たした」

そう言うと十六夜は瓦礫の中から短剣を拾った。

「流石です!十六夜さん、修也さん!これはきっと迷宮攻略につながる鍵!それを大事に持ち歩き他の建物もくまなく探っていけば迷宮の謎も解けるかも!」

「ああ、これは大事に持っておこう!」

十六夜は笑顔で言いながら、短剣をへし折った。

うん、清々しい笑顔だ。

「「「「「………………………」」」」」

また一瞬の静寂。

「「折った――――――!!!」」

飛鳥と黒ウサギが叫んだ。

耀はお腹が空き過ぎたらしくお腹を押さえてる。

しかも、お腹が鳴ってるし。

「何しでかしてくれてるんですか、十六夜さん!?」

「発言と行動が噛み合ってないわよ!?」

怒鳴る飛鳥と黒ウサギを余所に十六夜は大切だなぁとか言いながら折った短剣を投げ捨てた。

俺は十六夜の行動を信じるぜ。

ああしたってことはそこまで重要じゃないんだろう。

「なぁ、黒ウサギ。このゲームのクリア条件はなんだった?」

「え?ステージの謎を解き迷宮の突破、又はステージ内に潜むホストのを打倒ですが?」

「そうか。今ならもれなくその条件で二つ同時に満たせるぞ」

「え?」

その瞬間、十六夜は黒ウサギの腹を殴り飛ばした。

殴り飛ばされた黒ウサギは壁に激突し、気絶した。

「ど…どういうつもりなの十六夜君!?」

「どうして黒ウサギを…」

「落ち着け二人とも。十六夜が理由もなしに仲間を殴るわけが無い」

「その通りだ修也。よく見ろ。あれは黒ウサギじゃない。そして、この迷宮も実にチープだ」

するとガラスが割れるような音が聞こえ気がつくと最初の街に戻っていた。

「戻って…来た?」

「私たちの勝ちなのかしら?」

状況が掴めず耀と飛鳥は混乱してる。

「見ろ。さっき殴ったのはアレだ」

十六夜が指さす方向にはロリコンハンバーガー屋が倒れてた。

「ま…まさか、さっきまで一緒に居たのって…」

「おっさん(変態)」

飛鳥は青ざめながら十六夜に聞く。

そりゃ、自分の知らない所でおっさんと行動してたんだからな。

「おそらく姿を変えるギフトを持ってたんだろう」

「なるほど。黒ウサギが落とし穴に落ちた時に入れ替わったのか」

「ああ、そして、そこから黒ウサギになり替わり行動を共にしてた。奴が率先して動いてたのは迷宮に果てがあること…見た目より広さの無い張りぼての作りだと悟られないため。

そして、俺達の体力の消耗を待った」

「壁画の謎解きを意味があるように言ってたのも単なる時間稼ぎってわけね」

「だがら、ディーンで壁を破壊しようとした時慌てて止めたんだな。実際は違反で無く迷宮を破壊することが突破に繋がるから」

「ああ」

「でも、どうして黒ウサギが偽物ってわかったの?」

耀が疑問に思っていたことを聞いていた。

俺もなんか黒ウサギに違和感を感じてたがそれが分からなっかた

「髪だ、アイツは普段髪の色は青だが感情が高ぶった時は桜色になる。だが、落とし穴に落ちた後、見るからにテンションが低かったのにも関わらず髪の色は桜色のままだった」

あ、そう言えばそうだ。

でも、俺が違和感に感じてたことと違う。

一体何だろ?

「そして何より決定的だったのが……」

十六夜が真剣な顔でもう一つの理由を言う。

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            「あんまり、アホ面じゃなかったった事だ」

 

 

 

 

 

 

   

                 「「「ああ……」」」

 

 

 

 

 

 

             そうか…俺が気になってた違和感はそれか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取りあえず気絶してるロリコンハンバーガー屋を叩き起こし、優しく平和的に、チップをカツアゲした。

そして、黒ウサギを探し始める

「あ、いた」

「こんなところでのびてたのね」

「意外と早く見つかったな」

「黒ウサギ久しぶりだな」

「あっ皆さん!!見てください。こちらのご親切な方がこんな物を………あ……あれ?」

 

いない?と首を傾げる黒ウサギ。

何がいないんだ?

「どうした?落とし穴で頭にクリティカルヒットでも食らったか?」

「はっ!!そうだ。そんなことよりゲームはどうなったのですか!?勝負はついたのですか!?」

「ああ、見てのとおり俺達が勝ったぞ」

「と……言うことは黒ウサギは……黒ウサギはお肉にならずに済んだのですよね!?」

勝利報告に黒ウサギは涙を流す。

ウサギ肉にならなくてよかったな。

「あぁ!!しかもチップにスゲーものを貰ったぜ!」

「すごいもの!?それはもしや新たなギフトなどですか!?」

何を貰ったのか気になるようだ。

確かにアレは凄い物だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           「お手軽バーベキューセットだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の黒ウサギの表情はチーンと言う交換音が似合うぐらいピッタリだ。

「コミュニティの子供たちも大喜びね!」

「たまには肉っも食わねーとな――」

「おなかすいたー」

「野菜はコミュニティの畑にあるから……肉となんか買ってこうぜー」

「おっいいな!俺、イカがいいぜ!」

「私はカボチャがいいわ」

「私、全部」

バーベキューで何を食うか話し合いながら皆でわいわい言いながら帰る。

黒ウサギはと言うと

「黒ウサギの命運を賭けたゲームだったと言うのに………バーベキューセットって………」

なんか震えてる。

「もっと他になかったのですか!!このお馬鹿さんたちはー!!」

絶叫する黒ウサギの声を聞き、俺達は笑いながらコミュニティへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~おまけ~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ところでウサギ肉って美味しいのかしら?」

「鶏肉に似た味らしいぞ」

「俺、食ったことあるぞ。結構うまい」

「……………」

「!?」

 



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第3話 黒ウサギはどこへだそうですよ?

「お肉が焼けましたよー。順番に取りに来ましょうねー」

黒ウサギに号令で子供たちは集まりそれぞれ串を取に行く。

「なんだかんだで、結構役立ってんな」

十六夜はイカ焼きを頬張りながら言う。

「そうね、黒ウサギも笑ってるし万事OKね」

飛鳥はカボチャを食べながら言う。

「うん。くろうふぁひのふぃくをふぁふぇたふぁいふぁふぁっふぁね(黒ウサギの肉を賭けたかいがあったね)」

耀は口いっぱいに肉やら野菜やら魚介類やらを頬張りながら話す。

「物食べながら話すのは止めなさい」

取りあえず肉汁とソースで汚した耀の口をハンカチで拭く。

すると、どういう訳か急に動きを止めた。

「おい、耀、どうした?」

「ナンデモナイ」

「片言だぞ?」

「ねぇ、十六夜君。あれってわざと?」

「いや、ガチだぜ」

「たちが悪いわね」

十六夜と飛鳥が何かしゃべってるな。

なんの話だ?

「何者だ!」

急にレティシアが串を茂みに投げつける。

「え、あの…」

茂みには女の子が一人尻餅をついて倒れていた。

「本当に何者だ?」

いや、敵がどうかも分からんで投げたのかよ。

「あ、あなたは、もしかしてあの時の!」

ん?あ、この子ロリコンハンバーガー屋に襲われかけてた子じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「え!?サーカスのチケット!?」」

「うん今東の街に移動サーカスが来てるって知ってる?そのチケットを手に入れることができたからぜひ皆にと思って!」

女の子が言うには俺達にサーカスのチケットをくれるとのことだ。

でも、なんで?

「私はフェルナって言うの。あの街の小さなコミュニティに属してるわ。十日前に助けてくれたお礼をどうしてもしたくて、貴方達の事を聞いて回ったらここじゃないかって言われて……」

「それでわざわざお礼に出向いてくれたのですか!」

お礼ね~、ぶっちゃけ俺達が調子に乗ってゲームを受けただかだがら、お礼って言われると正直なんか悪い気がする。

「ねぇ、サーカスってなんなの?」

「そっか、飛鳥の時代はまだ、サーカスは知られてないんだね。サーカスはね、人や動物たちが火の輪をくぐったり、空を飛んだり、玉乗りしたり色んな芸をする見せ物なんだよ」

「へぇ…なんだが野蛮そうだけど気になる…かしら…」

滅茶苦茶面白そうといった顔だな。

「黒ウサギも大変興味があります」

「何だ、お前らサーカスも見たことが無いのかよ?」

「東側にはそういった娯楽が少ないから無理もない。お陰でその一座が来たときは周辺の住人は大混乱だったらしい」

へ~、そうだったんだ。

サーカスねぇ~。

話で聞いたことはあるが見たことはないな。

「行ったことが無いならなおさら良かった!絶対楽しめると思うよ!?」

「で…でも、私達色々忙しいし…」

「そ、そうなんです。お気持ちはとても嬉しいのですが今コミュニティをほうっておいて黒ウサギたちだけ遊びにかまけるわけには…」

そう言いながら二人共うずうず、そわそわしてるじゃねーか。

本当はとても行きたいんだろ。

「気にしなくていいよ」

ジンがそう言ってきた。

「黒ウサギにはこれまで苦労をかけっぱなしだがらね。羽を休めるいい機会じゃないか。行ってきなよ」

「ジン坊ちゃん」

相変わらずジンは優しいな。

「御チビもこう言ってることだし行こーぜ行こーぜ!」

「いたいっ!ちぢむっ!」

十六夜はジンの頭をばしばし叩きながら言う。

「外で遊びたくてたまらない小学生ですか!」

「それなら、飛鳥もそんな感じだぜ?」

飛鳥を指差すとなんか行く準備をしていた。

遠足前の小学生かよ。

「実は行きたくてたまらないんですね…」

「よし、じゃあ、決まりだな!」

「YES!本日はギフトゲームもお休みにして行楽日と洒落込みましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

「わあーっ!」

「大きなテントですね!」

飛鳥と黒ウサギは声に出して喜んでいる。

耀も声に出してはいないが口を開けて驚いてる。

「この辺りは商業施設もずいぶんと活気付いてるわね」

「あのテントが物珍しくてこの街に集まるから近頃自然と賑わってきたんだ。元々は廃れかけた寂しい街だったからここにサーカスが来てくれて良かったよ」

サーカスのお陰で街も救われたってことか。

いいことじゃないか。

「そういえば公演何時からなのでしょう?」

「お昼過ぎからだって。このサーカス一日一回しか公演してないの。でも、その割に観客があっちこっちから集まってくるから…」

「なるほど…つまりとても貴重なチケットなのですね!そんなチケット黒ウサギたちのためにわざわざかき集めてくださったなんて…フェルナさんはなんと良い子なのでしょう!それに比べてうちの問題児たちと来たらもう大変でしてね!いつも少し目を離した隙に………………………………やっぱり突然の自由行動してた!」

 

「黒ウサギ見て!露店のおじさまが「幸福になるツボ」を格安で売ってくれたわよ」

「詐欺られてるんで、すぐリリースして来てください!」

「ポップコーン、メガ盛りにしてもらった…」

「もはや屋台荒らしいじゃないですか!」

「そこの店でウサギ五十匹ゲットしたぞ。今晩はウサギ鍋にしよう」

「黒ウサギへの嫌がらせですか!」

「着ぐるみが喧嘩売ってきたからボコッといたぞ」

「謝って下さい!」

黒ウサギはさっきから怒ってばっかだな。

「「「「祭りの空気に浮かれてやった。今は反省している」」」」

取りあえず笑顔で謝っとこう。

「せっかくの休日なのに胃がねじ切れそうです…」

黒ウサギはお腹を押さえて倒れ込んでしまった。

「…大変なんだね…」

 

 

 

 

 

その後、サーカスの公演が始まりテントの中に座った。

サーカスの内容はとても凄くおもしろいものだった。

初めて見るサーカスとしては合格点だな。

「さぁ、ショーもクライマックス!ラストは大マジックで締め括りどすえ!ここからはそのマジックの主役をお客はんのなかから選ぶさかい!それは、この方!」

スポットライトが当たりその人物が主役になった。

「え…えっ!黒ウサギですか!?」

黒ウサギだった。

「おめでとうどす、ウサギはん。さあ、舞台の方へおいでやす」

団長に呼ばれ黒ウサギは舞台に向かう。

「いいなー黒ウサギ」

「たまには黒ウサギに花を持たせてあげましょう」

そして、団長の合図とともに黒ウサギはその姿をドラゴンに変えた。

「これにて、本日の公演は終了どす。皆様のまたのお越しを待っとります」

サーカスは終了した。

観客も徐々に帰って行く。

「すごい」

耀が呟く。

「すごい…けど…」

「ええ、黒ウサギは何処へ行ったの?」

そう、肝心の黒ウサギが何処かに行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ」

「どうだった、お嬢様?」

「スタッフが言うには黒ウサギは裏口から退場させたそうよ。だから今頃このあたりをうろついてるんじゃないかって」

「たっく面倒だな…先に帰るわけにも行かないし探すしかないか。修也と春日部の五感で居場所を把握できないのか?」

「それがこの街、雑然とし過ぎて匂いの判別がつかなかったの」

「視界も色んなものがあり過ぎてよく分からねーし。音もごちゃごちゃし過ぎてまったく意味が無い」

「ちっ、こりゃ予想以上にめんどくせぇ」

てか、黒ウサギが俺達を待たずにどっか行くってのは不自然すぎなんだが………

「みんなー!取りあえず無効に宿を取っておいたの。どっちにしろ今から帰ったら暗くなっちゃうし今夜はこの街に滞在したらどうかと思って」

「…それも、そうね」

「取り敢えず一休みしてすぐに探そう」

「うん」

「ええ」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

宿の部屋で俺は外を眺めていた。

一体黒ウサギは何処に行ったんだ?

あの黒ウサギが俺達を放っておくはずがない。

まさか、ストレスの溜め過ぎで急性胃腸炎に!

………………んな訳ないか…………

何アホなことをってあれ?

「なぁ、十六夜。サーカスの公演って一日一回だよな?」

「ん?そうだが?」

「今、サーカスに灯りがついてたような…………気のせいか………」

取りあえず窓を閉めた。

 



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第4話 情報は信頼第一だそうですよ?

翌朝、俺達はすぐに黒ウサギの捜索を開始した。

十六夜は一人で行動、耀と飛鳥は二人で捜索。

俺は空から黒ウサギを捜索した。

だが、一向に見つからない。

捜索を続けると耀と飛鳥を見つけたので様子を伺うことにした。

「二人とも、そっちはどうだった?」

「修也、ううん、全然見つからない」

「あーもうっ!本当に何処に行ったのよ黒ウサギは!」

飛鳥はとてつもなく怒っている。

「まーまー、落ち着いて飛鳥」

「昨日からこれだけ探しても見つからないなんて迷子にしてはおかしいんじゃなくて!?きっとどこかで道草を食ってるに違いないわ」

「それはないよ。道草は美味しくない」

「いえ、そういう意味じゃなくてって食べたの!?」

まさか、現実に道草食う人がいるなんてな。

驚きだぜ。

「あすか、あすかー」

遠くから幼い声が聞こえる。

声の正体はメルンだった。

「メルン!おかえりなさい。本拠の方はどうだった?」

「ダメー、いなかったー」

「そう…ありがと」

本拠に帰っていないとなるとアテがなくなってしまったな。

どうするか………

「もしかしたら御飯の匂いにつられて来るかも」

「それは耀だけだぞ」

なんで、コレいける!みたいな顔してるんだよ。

いくら黒ウサギでもそんなアホみたいな作戦に……………引っ掛かるか?

「おーい、黒ウサギは見つかったか?」

「十六夜、残念ながらダメだった。お前の方は?」

「ああ、こいつが話があるっつーから聞いてた。中々に面白い話が聞けたぜ」

十六夜は自分の後ろにいるフェルナを指差す。

「話?」

「実は「いいいいいやっほおおおおおおおお!!」

この叫び声は!

「会いたかったぞ黒ウサギィィィ!!正確には「揉みたかったぞ黒ウサギ」となるわけだがな!うーむ、やはり何度抱き付いてもこの感触はたまら…………ん?えらく、まな板だのう。黒ウサギよ…」

白夜叉だよ。

てか、それ黒ウサギの胸じゃなくて耀の胸だぞ。

その瞬間、白夜叉は地面にめり込んだ。

「いやはやこれはまったく失礼をした!てっきりおんしらの輪の中に黒ウサギがおるものだと確信し渾身の抱擁を繰り出してしもうたわ!しかしながら、無いと思えるようなぺったんこの胸でもしっかりとした柔らかさがあるのだのぉ。うむ、悪くない」

「白夜叉、次は記憶が無くなるまで殴るよ」

「お前らその辺にしとけ、修也がトラウマを引き起こして上空退避したぞ」

あれ?いつの間に俺、空に移動したんだ。

耀が白夜叉を殴った瞬間、いきなり体が震えたと思ったら空にいる。

とりあえず、地上に降りる。

「それで、東側最強であらせられる白夜叉様がどうしてこんなところまでセクハラをしに来たのかしら?」

「うむ、少々野暮用があっての!して、黒ウサギは何処におるのだ?」

「それはこっちが聞きたいところだわ。昨日からはぐれてしまって見つからないのよ」

「急性胃腸炎で逃げ出したか…だからストレスは溜めるなとあれほど…」

「違うわよ」

「まぁ、挨拶代りの冗談はそこそこにして、はぐれたとはどういう事だ?」

急に白夜叉が真面目になり聞いて来る。

相変わらずスイッチが入るのが唐突だな。

「私が今日ここに来たのは他でもない。近頃不穏な話を耳にしておるからなのだぞ」

「不穏な話?」

「うむ、サーカスを見に行った者達が帰って来ぬという話をな」

「それって黒ウサギと同じ…」

「やはりおんしらも見物に言っておったか。だとすれば、黒ウサギはそれに巻き込まれた可能性が高い」

「ちょっといいか?それに関してこいつからも話がある」

十六夜がそう言うとフェルナがその話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっ!?フェルナのコミュニティにも行方不明者がいる!?」

フェルナの話を聞くとフェルナのコミュニティは前に一度あのサーカスを見に行ったらしく、その時仲間の一人がショーに参加した。そして、そのまま帰って来なかったそうだ。

スタッフにきいても「裏口から退場させた」の一点張り。

「サーカスが怪しいとは思ったけど私達じゃもう打つ手がなくなっちゃって。そんな時、皆と出会ったの。それで思ったんだ…この人達なら何とかしてくれるんじゃないかって」

「それじゃあ、私たちをサーカスに誘ったのは初めからそのつもりで!?」

「ごめんなさい!危険だとはわかってたけどそうするしかなかったの!それに黒ウサギさんが巻き込まれる思って無くて」

フェルナの言葉に俺達は顔を見合わせる。

「貴女、なかなか見る目あるじゃない。私達に頼ったのは正解よ。黒ウサギも貴女のコミュニティの仲間も必ず取り戻して見せるから」

「お姉さん」

フェルナは目から涙を流しながら嬉しそうな顔をする。

「黒幕はやっぱりサーカス団か。そこに魔王がいる可能性はあるのか?」

「そういえばおんしらは打倒魔王が目標だったの」

十六夜の言葉に白夜叉は思い出したように言う。

「魔王とは“主催者権限”を悪用する者共のこと。あの天幕で何が起きてるかは分からんが行方不明者が続出している点から十中八九そうであろう。故に秩序の守護者“階層支配者”である私がここへ来ておるのだ。これ以上被害を出す訳にはいかぬ。ひとまず様子を探りにいくぞ」

「はいはい、もう夜だってのにまた歩くのね」

白夜叉のセリフに飛鳥はうんざりするように言う。

まぁ、この中じゃ一番体力なさそうだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テントに着くと灯りがついていた。

やっぱり昨日の灯りは気のせいじゃなかったんだな。

テントの周りを歩きながら様子を見る。

これといって変わったことは…………なんで誰も気づかないんだ?

一日一回しか公演しないサーカス団のテントに灯りがついてたら誰だって不自然に思うはずだ。

そういえば、周りは屋台や商店ばかりで民家は少ないから誰も気づかないのか。

それとも、気づいた人たちに何かあったのか……

そんなことを考えながら歩き、テントの入り口前に着く。

すると、手元に一枚の契約書類が現れた。

「皆!こっちに来てくれ!」

すぐさま、十六夜達を呼び契約書類を見せる。

「それは契約書類!?」

 

『ギフトゲーム名:Funny Circus Clowns

 プレイヤー一覧:現時刻テント前に現れた者

 クリア条件:円形闘技場にて五回試合での三勝以上。なお、プレイヤー達は招待状を見つけなけ              れば闘技場への入場を許可されない

 敗北条件:上記の条件を陽が昇る前に満たせなかった場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します

 

                                  “トリックスター”印』

 

「どうやら始まってしまったようだの。覚悟は良いなおんしら。これは“主催者権限”の掛かったギフトゲーム。リスクは高いが拒否は出来ぬ。契約書類によればまずはこの天幕に入るための招待状とやらが必要。大至急それを探すことから始めるのだ。奴らの根城に黒ウサギはおる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳でなんか情報はないか?」

俺は現在、情報を取り扱うコミュニティ“インフォーマント”に来ている。

フェルナを助けたあの日、耀と飛鳥をナンパしていた頭の悪そうな男が属してるコミュニティで俺の前に居るこの女性はコミュニティのリーダーのネズミさんだ。

本名ではないらしく通り名だそうだ。

この前のナンパの件の謝罪で“ノーネーム”を訪れてきた時に知り合った。

その時、親父に昔、命を救われたことがあり恩があるらしくその恩返しとナンパの件での謝罪の意味もあり、俺に無償で情報を提供してくれることになった。

ちなみに、ナンパ男はコミュニティのルールである御客や女性に手を出さないを守らなかったことからコミュニティを追放されたそうだ。

情報を扱うだげに信頼は絶対なもの。

コミュニティのルールを守れない者は即刻追放。

それもコミュニティのルールなのだと言っていた。

「そうだナ。招待状があるかは分からないが、一つサーカスに関係がありそうな情報ならあるゾ」

「どんなだ?」

「毎晩、その町はずれの小高い丘にピエロが現れるそうダ。サーカス関係なら当たってみるのはどうダ?」

ピエロか。

行ってみる価値はあるか。

「ありがとな、ネズミさん。これお代」

財布から銀貨二枚を取り出し机に置く。

「オイオイ、情報は無償で提供するって言ったロ?」

「いくら命の恩人の息子だからって無償は無いだろ?だから、払う」

「………………まったく。性格まで親父さん似だナ」

ネズミさんはそう言うと銀貨一枚を投げつけてきた。

それを右手で受け止めてネズミさんを見る。

「無償じゃなくて割引ダ。それなら文句はないだロ?」

フードで目は見えないが僅かに見える口元はニヤリとしていた。

「わかったよ。ありがたくそうさせてもらう」

「ああ、死なないように気を付けナ。シュウ坊」

「そのシュウ坊はやめてくれよ」

「悪いナ。気にいった奴は渾名を付けたくなるんだヨ」

ニシシと笑うネズミさんを呆れたように見ながら銀貨をしまいもう一度お礼を言ってから部屋を出る。

「……………ヤレヤレ、妥協の仕方も親父さん似カ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丘に向かう途中十六夜と白夜叉を見つけた。

「十六夜」

「修也か。そっちはどうだ?」

「可能性の高い情報は得た」

「奇遇だの。私らも情報を手に入れた」

「なら、答え合わせも兼ねてそこに行こう」

十六夜達と共に町はずれの丘に向かうと飛鳥も付いていた。

そして、そこには情報通りピエロがいた。

「アハハ、いらっしゃいマし、みなサマ」

笑ってるのかよくわからない顔をしているピエロの足元には倒れている耀がいた。

 



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第5話 火力が重要だそうですよ?

「アハハそれしても驚いタな。コンなに早く僕の居場所を突き止メテ来タノは君達がはじめてさ」

「御託は良い。招待状を探してる。何か知ってるな?」

「もちロンだとも!それナラ僕が持っテルからね」

そう言ってチケットのような紙をヒラヒラさせる。

「但しコレを渡すノは僕を倒セタらの話ダよ!」

「その前にお前、耀に何をした?」

「ん?アー、コの子かい?真っ先にココへ来タから少し驚かセテあげたダけだよ。だってホラ、お客様を退屈サセないのが道化師のお仕事だカラ」

 

ズドォンッ!

 

「それだけで十分だ。お前を潰す理由がな」

ギフトカードからハープーンガンを取り出しそのままピエロの顔面に向け撃つ。

打ち出された銛はそのままピエロの顔を半分拭き飛ばし、ピエロはその場に倒れる。

「喋ってる最中に撃ち抜くとは外道だな」

「うるさい。それより、飛鳥、耀の様子は?」

「大丈夫よ。外傷も少ないし気絶してるだけみたい」

「よし、じゃあ、離れた所にでも運んどいてくれ」

「どうして?もうアイツは倒したでしょ?」

「いや流石にそう簡単には行かないみたいだ、お嬢様。アレ見てみろよ」

十六夜が持っていた招待状と思われる髪はドロッという音をだして溶けた。

そして、顔面が半分吹っ飛ばされたピエロは平然と立ち上がっていた。

「なんてマナーの悪いお客サンだ。顔が半分スッ飛んでしまっタよ。アレ?でもこの方が笑いを取レて良いノカな?」

吹っ飛んだ顔の半分はドロドロとした液体のようなもので再生していった。

「い、いやああああ、何なのあれ!?気味が悪いわ!!」

「ふむ、何とも品の無い物体だの」

飛鳥は白夜叉の後ろに隠れ、白夜叉は気味の悪い物を見るかのように見てる。

「おそらく自らの体を違う原子に変質させる類のギフトであろう。液状である限り物理攻撃が効かぬのはやっかいであるが私の力を以てすればあの様な三下如何様にでもなる。

見るがいい、これが太陽と白夜の精霊の力「はいそこまで」

白夜叉が喋っている最中に十六夜が割り込み、拳を白夜叉の頭に叩き込む。

「ちょ、せっかくキメておったのに何をすんじゃあこの小童めがあああ!」

「お前みたいなチートが出たら一瞬で決着付いてつまんねえーだろうが!」

いや、お前も十分にチートだぞ。

「煎餅でもかじって大人しく見てろよ!」

「煎餅も良いが私は大福が好きだぞ!」

「こしあんか!?」

「つぶあんだ!!」

「「論点ズレてるズレてる」」

飛鳥とツッコミが被った。

「とにかくあんな面白生物ほっとけるかよ!ここは俺達に楽しませろ!つーわけでもっと面白い芸を期待するぜ、ピエロさんよ!」

「ウワー責任重大!ガンバッちゃウよー」

「ちなみにそのドロドロしたものは何?血だったりしたらスプラッタどころじゃないのだけれど……」

「やだなぁ、そんな汚イものじゃなヨ。こレは世界をバラ色に染めルモノ。真っ赤なバラ色にネ!」

ピエロは体を一気に液体にし襲い掛かってくる。

液体じゃハープーンガンの効果は薄いか。

ハープーンガンをギフトカードにしまい、対策を考える。

背後から先端をとがらせた液体が襲いかかてくる。

手を横に振り液体を払いのける。

「ちっ、どうする、このままじゃ埒があかない」

「おまけに広範囲に広がるから攻撃が四方八方から来る」

「やはり私の出番…か?」

こちらをちらっちらっと見てくる白夜叉。

「参加したくてたまらないのね…」

白夜叉はほっといてなにか解決策を考えないとな。

口に手を当て考える。

ん?なんだこの匂い?

それに手がべたべたする。

あれ、この匂いどっかで…………あ!

「十六夜!」

「ああ、分かってる!お前はアレを探してこい」

「任せろ!」

十六夜言われてあるモノを探し行く。

探し物はすぐに見つかり一本拝借する。

でも、これだけで足りるか?

「修也」

声に振り返るとそこには耀がいた。

「耀!無事だったのか!」

「うん。それより、それって」

「ああ、折角だ。もう一本頼む」

「うん」

耀と共に例のものを抱え十六夜の元に戻る。

戻るとちょうど十六夜が地面に大穴を開けて液体となったピエロを溜めたところだった。

液体だがらあれだけの深い穴は逃げにくいはずだ。

「やはりこの独特な匂い…お前の正体、絵具だろ。それも直射日光なんかの条件が揃えば自然発火する油絵具だ」

「そ…そレがわかっタカラってどうするっテんだ!?」

「燃やす」

「お前、火なんテ持ってナ」

「あるよ」

「ここにな」

俺と耀が持っているのはそこら辺の道にあった街頭ランプ。

そして、それを構えそのまま叩き付ける。

「さ…させルかぁああ!」

ピエロは力を振り絞り襲い掛かってくる。

『動くな!!』

しかし、飛鳥のギフトでその体は動かなくなりそのまま二本の街頭ランプはピエロ(液状)に突き刺さって燃える。

「ギャあああああああああっ!!」

一本でも十分な火力なのにそれが二本もあるお陰で盛大に燃える。

やっぱ火力は重要だよな。

「やっつけた?」

「てか、春日部さん!貴女気絶してたんじゃなかったの!?」

「ううん。死んだふりだよ。外敵から身を守る為にやる擬死ってやつ。二ホンアナグマさんに教わった」

「いろんなお友達がいるのね」

二ホンアナグマから擬死教わるって何を教えてもらってんだ。

「助かったぜ二人とも。春日部もアイツの正体に気付いてたんだな」

「うん、でも一人じゃどうしようもなかったからずっと機を待ってたの」

「まったく絵具でできた人間だなんて…箱庭はなんでもありね。もうあんなグロテスクなのごめんだわ」

「ホラー映画みたいだったねぇ」

耀と飛鳥が話してる中十六夜は何かを考えていた。

「十六夜、何を考えてる?」

「ん?ああ、絵具とサーカスで何が関係あるのかって思ってよ」

そんなの偶然あのピエロがそういうギフトを持ってたってだけじゃないのか?

「はっ、大変!」

「どうしたの!?」

急に耀が声を上げる。

「招待状まだ貰ってないのに道化師さん燃えちゃったよ」

あ、そう言えば。

もしかして、これまずい?

「その心配には及ばぬ。奴は絵具としての役割もきちんと果たしておる。おそらくこれこそが本物の招待状なのだろう」

地面には絵具で書かれた魔法陣があった。

これが招待状か。

「この魔法陣に乗れば奴等の本拠に飛ぶと見て良いだろうな」

「だったらモタついてねーでさっさと行こうぜ!」

「そうね…きっとこの先に黒ウサギがいる。早く行ってあげましょう!」

そして、全員で魔法陣の上に乗る。

すると光に包まれ目を開けるとそこはサーカスの天幕の中だった。

会場はもの凄い熱気に包まれていた。

「なんなのここ…本当にあの天幕の中!?」

「昼間と雰囲気が違うね」

「ええ…でも、契約書類には確か『闘技場』って」

疑問を感じていると後ろから声がした。

「おやおや皆さん。お揃いでどうされたのですか!?もしかして!黒ウサギの玉乗り芸を見に来てくださったのですね!」

そこには滅茶苦茶良い笑顔の黒ウサギがいた。

そんな黒ウサギを見て白夜叉はうーむといった顔で目を細めていた。

俺はと言うと頭の中で一つのことを浮かべていた。

多分、後の三人も同じだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ((((この笑顔…殴りたい))))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、取りあえずだ。………揉みたかったぞ!黒ウサギ!」

「ひゃあああああ!?」

「もう貴女は引っ込んでなさい!」

黒ウサギに突っ込み胸を堪能する白夜叉に飛鳥は怒鳴る。

「まったく、私達に心配掛けといて一体何をしていたのかしら!順を追って説明してくださる!?」

飛鳥はご立腹のようで腕を組みながら黒ウサギを睨む。

「す、すみません…アルバイトをしておりました」

「アルバイト?」

黒ウサギが言うにはあのサーカスの後、団長から玉乗りショーに出てみないかと言われたそうだ。

黒ウサギも興味がありどうしてもというから引き受けたとのことだ。

団員がそのことを俺達に伝えるとのことだったそうだが、何も聞いていない。

むしろ、シラを切られた。

「まぁ、無事だったんだしひとまず良しとするわ」

「早く帰ろ」

「何だかお騒がせして申し訳ありませんでした」

帰ろうとしたその時、

「おい!お前ら下がれ!」

十六夜が叫ぶので振り向くと黒ウサギ達を目掛け数本の剣が飛んできた。

「チッ!」

すぐさま間に入り、槍をカードから取り出して剣を弾き飛ばす。

「あきまへんなあ、お客様」

現れたのは団長だった。

「まだ、ギフトゲームは終わっとらんどす。このゲームは円形闘技場で五回試合での三勝以上…クリア条件にもそうあったはず」

「え!?いつの間にそんなことになってたのですか!?」

「みすみす返す訳にもいきまへんなあ。もう一遍サーカス仕込みの剣撃を食らいたいなら話は別ですけども…」

確かにそう書いてあったな。

てことは三回勝たないといけないのか。

面倒くさいな。

「他のお客様もそろそろ退屈してはるやろし、はよそちらのトップバッター決めてくれますか?ちなみにこっちのトップバッターは…」

少しの間をあけ団長は黒ウサギに手を向ける。

「この黒ウサギさんどす!」

「え?」

うん、これはおもしろい展開になったな。



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第6話 箱庭の貴族(笑)だそうですよ?

この話のおまけのところで黒ウサギが酷い目にあいます。
それでも、よろしければどうぞ。


「ちょ、ちょっと待ってください!黒ウサギはあちらの…“ノーネーム”の一員なのですよ!?」

目に涙を溜め黒ウサギが抗議する。

「そうは言うてもなぁ、今日に限りウチでバイトするてそう契約したはずどすえ?」

団長の言い分に黒ウサギは何も言えなくなる。

そして、俺達はと言うと

「うむ、良いのではないか?面白そうだし」

「面白そうだな」

「面白そうね」

「面白そう」

「面白そうだ」

ほのぼのとしてた。

「お気楽クインテットは黙っててください!!」

そんな俺達に切れる黒ウサギだった。

「安心せい。この私が一瞬でカタを付けてやろうて」

「はいはい、貴女は大人しく見てましょうね!」

「どうせセクハラしたいだけなんでしょ…」

「なんでじゃー!」

「元魔王の威厳はどこへやらです」

耀と飛鳥の二人により連行される白夜叉。

「十六夜、やってこい」

「なんだ?俺がやるのか?」

「待って下さい!黒ウサギは嫌です!十六夜さんなんかと戦ったらバターにされてしまいます!」

バター?

ああ、シェイクされるってことね。

「お前は俺を何だと思ってんだよ?」

最強人外問題児じゃね?

「あっ、でも黒ウサギがわざと負けちゃえばいいんですよね!?そうすれば誰も傷付かないし“ノーネーム”の一勝にもなって一石二ですね!」

そう言って黒ウサギは剣を手に持ち十六夜の首に当てる。

「……………へ?あ、あれれ?何で?どうして?体が勝手に!?」

慌てる黒ウサギ。

それに対して十六夜は

「まぁ、落ち着けよ。駄ウサギ…日頃の憂さ晴らしがしたいんだよな?」

いつになく爽やかな笑顔を浮かべ握り拳を作ってた。

「ち、違うんですーーーッ!」

泣き叫びながら十六夜に剣を振り下ろす黒ウサギだった。

「さぁ、一戦目は黒ウサギさんと“ノーネーム”の坊や!ルールは簡単、リングアウトもしくは戦闘不能にさせた側の勝利!その為ならどんな手を使ってもOKどす!」

 

「おい、お前らどっちに賭ける!?」

「そりゃもちろん“箱庭の貴族”だろ!」

「でも、あの小僧もなかなかできそうだぞ!」

 

客席は賭博をやっているらしく大盛り上がりだった。

なんというか、気分が悪い。

「おい、耀じゃねーか!何だってお前らがこんなところにいるんだよ!?」

「ヤホホ!皆様こんばんは!」

聞き覚えのある声だったので振り向くとジャックとアーシャがいた。

「そういうお前たちもどうしてここに?」

「商売の一環さ。得意先に誘われたから付き合いで来てみただけ」

「しかしながら我々は賭け事に興味が無いので早々に御暇しようと思ってたところでして」

「そしてら、お前らが出てくるもんだがら驚いだっつの」

まぁ、ジャックが賭け事をするとは思えないしな。

誰かの付き添いに来たってのは考えなくても分かるよな。

「ここにいるってことは夜のサーカスの事知ってるの?」

「ん?まぁ、少しなら…しっかしまぁ、見事にカモられたみてーだな。このギフトゲームに撒けたコミュニティはサーカスに吸収されちまうってのによ!」

その言葉に俺達は驚いた。

「まさかと思うが、昼の公演の団員は……」

「ええ、元は他のコミュニティの方々です」

「連中は昼に観客の中から気にいった奴を攫い、助けに来た仲間同士で殺し合わせる胸糞悪いシステムを作り上げてんだ。勿論、ゲームに勝てば解放されるが負ければ一生操り人形。未だゲームに勝てた奴はいないらしい」

なるほど、事が明るみに出ないのはそのためか。

「ありえないわ!いくら箱庭でもそんな非人道的な事許されるはずが!」

「いや、箱庭だがらこそ許されてるんだ」

飛鳥の訴えを止め言葉を放つ。

「例え、どれだけ非人道的な事でもそれがギフトゲームである以上正当な行為で正当なルールだ」

俺の言葉に飛鳥も耀も黙ることしかできなかった。

「ジャック、ここにいる観客はどうやって集まってるんだ?」

「場を盛り上げてくれそうな連中には向うから招待状が届くそうですヨ。紳士の風上にも置けない方達の吹き溜まりですね。ここは」

「まぁ、精々ヘマすんじゃねーぞ!」

「ヤホホホ!ご機嫌よう!」

「……行っちゃった」

「考えたくはないけど、今の話が本当ならフェルナのコミュニティの人達はもう…………」

「キャアアアアアアア!」

黒ウサギの悲鳴に振り向くそこには腕を切られ血を流す十六夜がいた。

「十六夜さん!何で避けてくれないんですか!?」

「あのなぁ、いくら俺でも“月の兎”の瞬発力をあいらい続けるのは至難なんだよ!」

あの十六夜が切られるなんてな。

“月の兎”って結構凄いんだな。

いつも、あんなアホ面してんのに………

「ごめんなさ!黒ウサギが有能なばっかりに、容姿端麗、鉄心石腸、完全無欠なばっかりにぃぃー」

「やっぱり憂さ晴らししたいだけだろお前」

いや、完全無欠はどうかと思うぞ?

てか、なんかぶん殴りたくなる言い方だな。

やっぱり、憂さ晴らししたいだけなんじゃ………

「違います!本当に体が勝手に動くのですよ!まるで糸で操られてるかの様に!」

「糸?…………まぁいい、黒ウサギ!多分殺されはしねぇから本気で来てみろよ!後で怒ったりもしない!」

そう言う十六夜の背後にバーベーキューされてる黒ウサギが見えるんだが気のせいか?

「怒る気満々じゃないですか!とにくそんなことできません!黒ウサギが本気を出したら十六夜さんなんか一溜りも」

 

ズッドォォォォォォォォン!!

 

「へ?」

十六夜は足元にあった石を拾いソレを黒ウサギの顔スレスレに投げつけた。

客席が吹っ飛ぶ威力で………

 

 

 

 

力比べなら負けん!!

 

 

 

本気で行かないと死ぬ!!

 

 

 

 

今の二人の表情から考え着く言葉はこんな所か………

「わかりました。では、どうなっても恨みっこ無しということで」

髪を桜色にした黒ウサギは一瞬で十六夜の背後に回り

「“月の兎”が持つ脚力の真骨頂見せて差し上げます!!!」

回し蹴りを十六夜に放った。

そして、黒ウサギの蹴りにより十六夜は吹っ飛んだ。

「十六夜君が吹っ飛んだ!?」

「黒ウサギってあんなに強かったの!?」

確かにあの蹴りの威力は凄いな。

「おい、白夜叉!どういうことだ!?直に蹴られてもスカートの中見えねーぞ!」

こんな時でも十六夜は変なことばっか考えるよな。

「それに関しては再三言うておろう。そういう風に作られた衣装なのだ。よいか…見えてしまえば下品な下着達も見えなければ芸術だ!!!!!!」

「もう黙っててください!この駄神様!」

なんか、白夜叉も何言ってんだか…………

「それより、今の一撃いかがでしたか十六夜さん」

「中々効いたぜ…良い眠気覚ましだ」

「YES!黒ウサギも久々に全力を出せて気分爽快です。でも、次の一撃でもう決めちゃいますけどね!」

あれ?アイツ、俺らが三勝しないといけないってこと忘れてんじゃね?

「望むところだ!」

十六夜の拳と黒ウサギの渾身の蹴りがぶつかり闘技場の中心では小規模の爆発が起きた。

「初っ端から凄過ぎるでしょう!」

「もはや、最終戦並の戦いだな」

「それより、どうなったの?」

煙が晴れて見てみると十六夜と黒ウサギの二人はリングアウトしていた。

「両者、リングアウト…この勝負引き分けどす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなざま本当に申し訳ありまぜんでじた」

黒ウサギは涙を流しながら謝って来た。

耀と飛鳥は気にしてないみたいだが十六夜と白夜叉は隅で何かを話している。

「やっぱりあのお二人は怒ってるんでしょうか?」

「何着せてやるか考えてるだけだと思うけど」

耀が何処か遠くを見るように言う。

「よう、黒ウサギ。たんと暴れてストレス発散は出来たか?」

「え?あっ………YES!本気を出してからなんだかとても楽しかったのですよ!………………あれ?もしかして黒ウサギは後半自分の意志で動いてました!?」

「今頃気付いたか」

十六夜がうわ!コイツマジ無いわーっと言った顔をする。

「でも、確かに最初は体の自由が効かなくなっていてですね!?」

「いや、黒ウサギよ。おそらくおんしは操られたりなどされてはおらんよ。あの団長とやら戦闘前、黒ウサギに『こちらのトップバッター』『戦ってもらう』『契約した』と言っておった。その三つの言葉を聞いたおんしは『もしかしたら操られてしまうのではないか』という不安を少なからず抱いたはずじゃ」

「確かに、可能性の一つとして予想はしてましたけど」

「その僅かな思考が『自分は敵に操られて戦わされてる』と言う自己暗示をかけてしもうたのだ」

「つまり、単なる黒ウサギの思い込みってことか?」

「あくまで仮説だ。だが、そんな馬鹿げた話を可能にさせる何らかのギフトが働いたとみて間違いない」

「深層心理をつくギフトか。少し厄介だな」

白夜叉の仮説に俺達は納得する。

「なるほど…じゃあ、十六夜さんは黒ウサギの思い込みを紛らわせる為にあんな危険な挑発をして」

「いや単に面白そうだったから…」

流石、十六夜。

黒ウサギの期待をいつも悪い意味で裏切る。

憧れるぜ………

「……………また、ストレス溜めさせないでください。このおバカ様ぁぁぁ!」

こんな感じで騒いでいると闘技場に一本の剣が突き刺さる。

「いつまで、話してる」

今度は猫耳少女が相手か………

「ふむ、早く次の相手を決めろと言いたいのか………よかろう。今度こそ私の出番だな!」

白夜叉は決め顔でそう言い張った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~おまけ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ところで黒ウサギあれって、お前の本気なんだよな?」

「はい!どうですか、修也さん!?黒ウサギは凄いでしょう!?」

黒ウサギはドヤっとした顔で言ってくる。

まじ、殴りたい。

「いや、この前十六夜と模擬戦したんだけどさ」

「え!?いつの間にそんな勝手を!?」

「結果は俺の勝ちだったんだけど、あの時の十六夜、全体の3割しか出してないんだとさ」

「そうなんですか」

「そして、今回の黒ウサギとの勝負。俺の時の半分の半分だってさ」

「へ!?」

黒ウサギは驚きの顔をする。

「それってどういうことかなぁ~?(ニヤニヤとした顔)」

「う、う……」

「黒ウサギが本気を出したら十六夜さんなんか一溜りも………で、その後は何なの?」

「う、ううう……」

「てか、お前が勝ってたら俺達が一敗になってたんだけど、そのこと忘れてたよな?」

「うわ~~~~ん!ごめんなさい!黒ウサギが悪かったですぅぅぅぅぅ!」

泣きながら土下座で謝りだした。

「お嬢様、春日部、今の黒ウサギの姿を一言で言えば何だ?」

「「“箱庭の貴族(笑)”」」

「じゃあ、修也は?」

「「外道」」

「だな」

 




この話のおまけ部分での文句は勘弁してください。
それ以外のこと主に誤字脱字などは感想に書いてくれても構いません。


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第7話 口汚く罵るそうですよ?

「…のう、黒ウサギよ。張り切ってキメ顔したのに舞台袖へ強制連行されるロリの気持って考えたことある?」

「YES!いじめられっ子の気持ちなら痛い程!」

「だったらあのまま私にやらせてくれた良かったであろぉぉぉ!」

素晴らしい笑顔を向ける黒ウサギに白夜叉は泣く。

「まぁ、今回の所は希望者にお任せいたしましょう。少し心配ではありますがルーキーに経験を積んで頂くのも大切でございます!というワケでファイトなのですよ!飛鳥さーん!」

「はいはい、まったく騒がしいわね」

猫耳少女との対決は飛鳥に決まった。

まぁ、本人の希望でもあるが。

確かあの少女昼の公演で剣術と軽業を使ってたな。

剣術と軽業、少し厄介かもな。

となると、ディーンを使っても小回りの利いた攻防をしてくる。

ならば、飛鳥のギフト『威光』を使って降参させるのがベストか。

飛鳥もそれを分かってるらしく降参させようと口を開く。

「今すぐ『降参し「降参します」

飛鳥が言い終える前に猫耳少女は剣を捨て降参を宣言した。

「やっぱり、あたしもう戦いたくないよ。家に帰りたいよ、もうこんなの嫌だよぉ!」

「な、何なの、急に?もしかして貴女もこのサーカスに取り込まれた被害者なのね!?」

飛鳥が猫耳少女に近づく。

「飛鳥!下がれ!」

「え?」

俺の言葉に飛鳥は驚く。

そして、右手を猫耳少女に切りつけられる。

「アタシ、こんな弱いのと戦うのもうやだ」

先程の涙が引っ込んで今は冷酷な顔をしている。

「あーあ、テンション下がるなー。せっかく思い切り体動かせると思ったのにさ、相手がただの人間なんてマジ最悪!せっかくのショーが台無しね。余興にもならねぇよ。この田舎女じゃ」

「なんですって?」

猫耳少女の発言に飛鳥は青筋を立てて声を震わせる。

「女って怖ぇな」

「特に若いのはな」

十六夜と白夜叉が呑気にそんなことを言う。

「何を呑気なことを言っているのですか!?なんなのですか、あのヤンキーさんは!?飛鳥さんと正反対のタイプで、すっかりあちらのペースです!黒ウサギならあの様な罵詈雑言、褒め言葉の内なのに!」

「つぐつぐ可愛そうな体質だなお前」

まぁ、黒ウサギのM発言はどうでもいいが、確かに向うのペースに乗せられてるな。

「まさか猫被ってたなんて…こんなにも癪に障る女性に出会ったのは久しぶりよ」

「そりゃネコ科なんだから猫も被るよ、なんてな!つーかこんなの箱庭じゃゴロゴロいるっての!なのにあんな三文芝居に騙されるなんて田舎女って言うより世間知らずのお嬢様かお前」

「『黙「させるかよ!」

飛鳥が再びギフトを発動させようとする前に猫耳少女はそれを妨害し、蹴りを放つ。

そして、ギフトを発動させる間もなく剣を投げつける。

「飛鳥さん!?」

「攻撃を畳みかけて『威光』を発動させないようにしてる」

「あの猫耳少女、飛鳥のギフトのこと知っていやがる」

でなきゃ、あんな対応できない。

「つまんないの。アタシ弱い者いじめって好きじゃないんだよね。だからさー、今から五秒間だげ動かないであげる………なんて、冗談だけどんね」

今度は火の輪を使い飛鳥に攻撃を仕掛ける。

「まずいです!降参を」

「ダメよ!一言言い返すまで退くものですか!」

「何言ってんの!?もう立てもしないくせに!」

猫耳少女はまた、剣を投げつけ飛鳥にダメージを与える。

「人間の女ってなんでこうも傲慢で身の程知らずなの?何でも思い通りになると思ってさ。流石に動けないでしょもうあたしの勝ちでいいよね?」

猫耳少女はそう言って帰ろうとする。

「待てよ。猫耳少女」

「何よ?」

不機嫌そうにこっちを見てくる。

「お前は一つ間違ってる。確かに飛鳥は世間知らずのお嬢様だ。だけどな……………飛鳥も十分な問題児なんだよ。それに、まだ試合は終わってない」

「はぁ?何それ?意味分からないんだけど。もう、あの女は立つこともできないんだよ?今更何ができるって」

「その通りよ。まだ、終わってないわ」

もうボロボロで怪我だらけの飛鳥だが、それでもまだ立ち上がり、猫耳少女を見据えていた。

「な、何なのあんた…どうしてただの人間がまだ立ってられるのよ!?」

予想外のことに猫耳少女は狼狽える。

「白夜叉様、あのドレスの身を守る加護はどれほどのものなのですか?」

「せいぜい少量のダメージを減少させる位のものだ。故にあれほどの攻撃を受けああも毅然としていられるはずもないのだが……まさかあやつ、自分自身にギフトを掛けておるのか!?」

『威光』生き物やギフトを支配することの出来るギフト。

飛鳥は自分自身にギフトを掛けて自己支配をしているんだ。

「一つ言っておくわ。確かに私は世間知らずの箱入り娘で物事を知らないかもしれない。でも、だからこそこの箱庭が楽しくて仕方がないの。何もかも思い通りにならないこの箱庭がね。もしも、まだあの世界に残ってたらと思うとゾッとするわ。だってここに来なければ仲間と出会うことも、サーカスを見ることも、夜更かしをすることも、本気で怒ることもなかったもの。それに…………こんな言葉を使ってみることもなかったでしょう」

そう言うと飛鳥はギフトカードを取り出し叫ぶ。

 

「ク ソ ッ タ レ が !」

 

そう叫ぶと同時にディーンを召喚する。

飛鳥はとても満足気な顔をしていた。

「よし、いいぞお嬢様!そこはもっとドスを利かせて言うんだぞ!」

「清楚な令嬢に口汚く罵られるのというのも中々に良い!」

絶対にこの二人の影響がでかいな。

「行くわよ、ディーン!『攻撃なさい!』」

ディーンの拳が振り下ろされる。

しかし、猫耳少女はそれを素早く躱す。

「ふん!なにそれ!ただ的がでかくなっただけじゃん!あたしのギフトはサーカス用具を無尽蔵に操ることができる。そっちが大きさで勝負なら、こっちは数!避けれるもんなら避けてみろよ!」

飛鳥を目掛けて一斉に色んな刃物が襲い掛かる。

しかし、飛鳥はただ微笑むだけだった。

「こんな無茶ができるのも箱庭ぐらいのものね。ディーン…………『ぶん投げろ!!!』」

「DEEEEeeeeeeN!!」

ディーンは客席を引っぺがしそのまま猫耳少女に向け投げ飛ばした。

「む、無茶苦茶よおおおおおぉ!!!」

そんな事を叫びながら猫耳少女は客席ごと吹っ飛んだ。

「お嬢様だからって優雅に戦うとは限らなくってよ」

うん、凄い勝ち方だな。

「でも、まぁ……」

「やりました飛鳥さん!“ノーネーム”一勝ですよ」

全員でハイタッチをし勝利を喜んだ。

 

 

 

   ~~~~~~~~~~~~~~~~おまけ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ほえづらかきやがれこの駄ウサギっ!」

「よし、いいぞ。その調子で次は」

「教え込まなくていいです!このおバカ様っ!」

飛鳥に汚い言葉を教えてる十六夜に黒ウサギはハリセンを叩き込んだ。

どこにしまってたんだ?

 



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第8話 友達が少ないわけじゃないそうですよ?

「いやはや、まだ二戦目が終わった所なのにこの会場の荒れようは凄まじいですね」

まぁ、どうみてみ二回戦終了の雰囲気じゃないな

そして、壊した張本人である二人はと言うと

[夜もすがら 壊してなんぼ 人の家 飛鳥・十六夜]

一句詠んでいる。

「お茶を濁したつもりですか当事者様!!」

そして、炸裂するハリセン。

「ここまでの戦況は一勝ゼロ敗一分けか。残り三試合で後二勝だから、負けていいのは一回までか」

「はい、ですが………次のプレイヤーの耀さんの様子がどうもおかしいですね」

そりゃ、おかしくもなるだろ。

だって相手が

「俺達の相手はお前だな小娘!」

「ヒョロヒョロだニャン負ける気がしないニャン」

「成敗いたす……」

「…」

犬と猫と鶏を可愛くアニメっぽくした動物とロバなんだもんな。

「やばい…超カワイイ…モフモフしてもいい?」

「なんだと!」

「小さいからってナメんじゃないニャ!」

「なんたる無礼!」

「俺達ブレーメン隊を甘く見てると痛い目みるぜ!ぶっ殺されたくなくば降参するがいい!」

犬が小さい体でありながらそう叫ぶ。

見た感じ、小さい子供が頑張って背伸びしてるそんな感じだ。

「うん、わかった」

「何言っちゃてるんですか!?耀さああ――――ん!戦ってくださいよ!ちょっとグーでぶつぐらいでいいですからぁ!」

「えー、皆カワイイんだもん。そんな事できない」

「一匹滅茶苦茶イカついの居ますけど!?」

そう言えばあのロバ滅茶苦茶イカつい顔してるな。あれもカワイイって思える耀の動物好きが凄いな。

「明らかに人選ミスじゃない?動物好きで動物の友達を沢山持つ春日部さんには相手が悪すぎるわよ」

「そう思いましたが耀さんが「モフりたい」と言って飛び出していかれたんですよ!」

あの時の耀、凄い輝いてたな。

そこまでモフりたかったんだな。

「連戦がダメとはルールにねえし、俺がもう一度出てもよかったのにな」

「俺でもよかったが」

「私も私も!」

「それもそうですが」

「私も私も!」

「白夜叉はそこでせんべいかじってろ」

取りあえず騒がしい白夜叉にせんべいを渡して二、三枚口に押し込む。

「まだ、団長や団員のギフトがはっきりしてない以上なるべく力を温存しておいた方がよい気がするのでです」

向うのギフトの正体が分からない以上こちらの手の内を明かす必要もないか。

「おい、あれ見ろよ!」

「うわぁー!」

観客が騒ぎだし一斉に闘技場を見ると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロバにお手をしようとして手を丸ごとかじられてる耀がいた。

 

 

「ホラ……怖くない」

ナウ〇カか?

「耀さん!見てるこっちは怖いですよ!?」

噛まれてるの笑顔でいられると確かに怖い。

「よし!これで動きは封じた!」

「今だ!かかれ!」

「突撃―!」

『お嬢!来るで!もう手っ取り早くカウンターでキメたれ!』

「う、うん」

三毛猫に言われ耀は反撃の構えを取る。

そして、そのまま顔に三匹が突撃する。

飛ばされる時、耀は無理っとこっちを見ながら呟き親指を立てて吹っ飛ばされた。

幸せそうな笑顔だな…………

「このままではやられてしまいます!」

「大丈夫。何度だって立ち上がるよ…奴らをモフるまで!!」

キメるとこじゃないな。

その熱意はすごいけど。

「フン、脆弱な人間め!」

「このまま一気に畳みかけるぞ!」

「俺達の固いきずなと友情を見せてやる!」

「人間の小娘には分かるまい!」

「合わせるのは楽器の音色にあらず!」

「グルルルル」

最後の一匹喋れてないぞ。

『いくぞ!』

そして、現れたのは

『スーパー♪合体!これぞ、ブレーメンの音楽隊の最強形態だ!』

なんか、合体した。

「合体って……君たちは!」

『ハハハ驚いたか!?俺達は北側の技術により創られた機械式動物!このような変形も合体もギフト装着も自由自在!この姿を前にして生きて帰れたものはいない!』

そして、ブレーメンの音楽隊の攻撃が耀に向けられる。

攻撃が当たる瞬間、耀の蹴りが炸裂した。

蹴りはそのまま攻撃してきた羽を破壊した。

『な…!?』

「なんだ機械か……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なら遠慮なく殴れるよ」

なんてこった。

「大体「小娘には分かるまい」って何?それって私が友達少なそうだとでも言いたいの?」

あれ?なんか黒いオーラみたいなのが見えるんだが……

「友情の絆なら私達だって負けてないし」

耀は飛び上がり背後に回る。

「これはチーターさんに貰った力。獲物を仕留める速さと脚力」

踵落としを背中に落とす。

『くっ………この……』

右前足を出し攻撃しようとするが耀はソレを放電して止める。

「これは電気ウナギさんが教えてくれた威嚇と自衛」

電気ウナギまで友達なんだな。

俺も動物と話せるけど友達はオオカミや犬ばっかだな。

吸血鬼とオオカミや犬は相性いいし。

「そして、これは修也を殴って覚えた、相手を的確に倒す拳」

それ関係なくねぇ!!

グリフォンの旋風と象の体重を乗せた拳がクリティカルヒットする。

やべ、なんか体の震えが…………

「確かに私は病弱で人間の友達はあまり作れなかったけど、父さんの木彫りのおかげで動物と話せるようになって沢山の仲間を得た。そんな皆の力が全部私の中にあるんだ」

あのロボットは耀の踏み込んじゃいけないところに踏み込んだらしい。

 

「だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決して友達が少ないわけじゃないし!」

もう一度放電をし、ロボットを倒す。

『な…なにもそこまで…言ってな…』

可哀想に…………

「あ、圧勝…」

「というか」

((怒ると怖――――!))

(やっぱ怒るとこえーな……)

耀はVサインをして満足気だった。

 



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第8,5話 テントの外での出来事だそうですよ?

既に日は落ちあたりに人はいなくなる。

それなのにも関わらずフェルナは一人サーカス団のテントの前に立っていた。

「ちょっとレティシアいつまでも担いでないで下ろしてくれないかな」

「おっとすまないな」

現れたのは大人バージョンのレティシアとジンだった。

「貴方達は“ノーネーム”の!どうしてここに?」

「おや、ちょうどいいところに見知った奴がいるじゃないか」

「こんばんはフェルナさん。僕たち黒ウサギを探しに来たんだ」

「メルンから行方不明と聞いてな。今、どういう状況か説明してくれないか?」

レティシアはフェルナに状況を聞こうとする。

「それが、サーカス団が魔王だったみたいで、黒ウサギさんも取り込まれてしまったとか」

「何?それで主殿…十六夜達は?」

「十六夜さん達なら今は町はずれの宿で休んでる。とりあえず明日対策を練ろうって」

「そうなんだ、少し来るタイミングが悪かったね。それなら、僕たちもその宿に行ってみようかな」

「うん!大きな看板のある宿だからすぐ分かると思うよ!行ってらっしゃ「ちょっと待て」

フェルナの言葉を遮りレティシアが口をはさむ。

「お前は一体ここで何をしてる?」

「え?」

「もう夜も遅いのにそんなにこのサーカステントが気になるか?」

「レティシア?」

「そいつの言うことは嘘だぞジン。あの問題児たちが非常事態を前に明日考えようなどと悠長な判断をするはずがない。ここから邪魔者を遠ざけたいだけ。おそらくこのテントの中で何かがおこっているからだろう」

レティシアはテントに手を当ててそのまま引き裂く。

すると天とは引き裂かれたところから徐々に塞がり始め、数秒後には跡形もなく直っていた。

「な…元に戻った!?」

異常事態にジンは驚く。

「当たり前でしょ。そう簡単に破れるわけわいじゃん…内からも外からも」

殺気とは違いフェルナは体から不愉快と分かるオーラを出していた。

「貴様…」

「“ペルセウス”や“グリムグリモワール・ハーメルン”に打ち勝った奴等…そいつらが仲間になれば楽しいだろうなぁと思ってたんだ。私達“トリックスター”の仲間にね………っそして…」

顔を上げたフェルナの顔には狂喜したかのような笑みが浮かび上がっていた。

「もっともっと…箱庭を盛り上げるのよ!!」

「サーカス団の仲間にって…どういう事!?フェルナさん、まさか君は最初から」

「待てジン様子がおかしい。こいつ、まさか………」

レティシアが何かに気付きジンを止めフェルナを見る。

「盛り上げる盛り上げるの…それが私たちの使命なんだ。たとえどんな手段を使ってでも!!」

フェルナにはもうレティシアとジンの姿は見えておらずただひたすらそう言い続けた。

 



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第9話 グロピエロ再びだそうですよ?

「さて残すところあと一勝!戦況は確実にこちらの有利でございます!見た所そちらのコミュニティでまともに戦えそうなのは団長さん一人のみ!対してこちらにはまだまだ余力があります!つまりどう転んでも圧勝必死!これも我が“新生ノーネーム”の圧倒的パワーと黒ウサギの優秀さを持ってすれば当然の結果なのですよ!」

やたらとドヤ顔で言う黒ウサギ。

てか、お前何かした?

調子に乗って勝ちに行こうとするわ、なんかこの結果を自分の手柄のように言うわ、敵に捕まるわ、どうみても優秀じゃないよな。

そんな黒ウサギに団長は

「………せやな」

ふっと笑い小馬鹿にする。

「すみません…今回対して活躍してないのに調子乗っちゃってすいません…」

結局返り討ちに遭い落ち込む黒ウサギだった。

「返り討ちに遭うなら最初から威張らないの!」

「仕方がないさ、なんてったって“箱庭の貴族(笑)”なんだから」

「そうそう、“箱庭の貴族(笑)”なんだから」

「そうだ、“箱庭の貴族(笑)”だがら仕方がねぇ」

「そうね“箱庭の貴族(笑)”だものね」

「皆さま、少しは慰めて下さいよ!」

そんな黒ウサギは放っておき妙だな。

戦況はこちらが有利だが、あちらは一向に態度を崩さない。

まるで、何か策略があるかのようだ。

「団長さんがどのようなギフトかは不明ですし、油断は禁物です。ですが…次に戦うこのお方!“ノーネーム”最強問題児の十六夜さんがひと度暴れすれば…」

十六夜は黒ウサギを担ぎ上げそのまま闘技場に落とす。

「次はお前だ黒ウサギ」

「アレ―――――――――!?」

黒ウサギの絶叫が響く。

「いや、あの、ここは十六夜さんが有終の美を飾ってめでたしめでたしな流れでは!?」

「悪い!実は俺『じっとしてないと食パンしか愛せなくなってしまう病』なんだ」

「『じっとしてると髪が逆立ってしまう病』はどこにいったのですか!」

*第1話 やっぱり問題児だそうですよ?参照

「はっ、だったら白夜叉様が…」

白夜叉は壁にせんべいだものと訳が分からない文字を書き蹲っていた。

「ついにスネた!」

「つべこべ言いなさんな。一度ステージに上がってしまえば危険は不可。じっくり調教してあげようやないの。ウサギさん♡」

団長は鞭を手に悪魔のような笑みを浮かべる。

あ、この人Sだな。

黒ウサギは鞭で叩かれそうになるを避け必死に逃げ回る。

「いやぁ、中々良いいじめられっぷりだ!」

十六夜って本当にいい性格してるよな。

「十六夜君…本当に黒ウサギで大丈夫なの?」

「少し考えがある。悪いが黒ウサギにはひと頑張りして貰うぞ」

やはり、何か考えがあったか。

「なんや、逃げてばっかで張り合いがありませんなぁ。月の兎もたいした事ないどすえ」

「すみません。心の準備も無しに放り込まれたものですから……」

「ふん、まぁ、何にしろ、ウサギさんは絶対私に勝てませんけどな。これは予言どす。こちらの攻撃を防ぐことはおろか、私にダメージを与えることもできずに負ける」

団長の言葉に黒ウサギは力無く笑う。

「あ、あはは…なんとも見事な予言ですが………随分とナメられたものですね!!」

髪の色を桜色に染め“叙事詩・マハーバーラタの紙片”からインドラの槍を召喚した。

そのまま一気に間合いを詰めそして団長の顎を槍で撃ち抜く。

「よしっ!手応えあり!」

黒ウサギの槍は見事に団長にあたりダメージを与えた。

与えたはずだった。

しかし、何故か団長は無傷で黒ウサギは全身を切り裂かれてた。

「へ…?」

「「黒ウサギ!?」」

「あ、あれ…なんで…いつの間に…?あ、ああああ……ああああああ!!」

「ほら、言った通りやろ?あんたは私に勝たれへんて」

予想外のことが起き黒ウサギはちょっとした切り傷でもその場に蹲まってしまった。

まずいな。

ダメージより精神的に耐えられなくなるかもしれん。

「ウソでしょ…団長は無傷だわ!あの黒ウサギにどうやって……」

俺たちが驚く中十六夜は一人冷静だった。

「大丈夫だ、黒ウサギ。お前にはまだ切り札があるだろう」

「え?切り…札?」

「ああ、そうだ。お前言ってただろ。月の兎だけが受け継ぐ最強の破壊技があるってな。それを今ここで使うんだ!もちろんその威力に観客席もろとも吹き飛ぶだろうが、ここに来てるのは所詮、ゴロツキ共だ。どうなったって構うかよ!」

十六夜は観客席に聞こえるように大声で叫ぶ。

「えっと、あの、一体何の話を……」

「ハッタリだ。いいから合わせろ」

今度は黒ウサギにしか聞こえない声量で言う。

黒ウサギは取りあえず十六夜の言葉に従い立ち上がる。

「わかりました。し…死にたくない方は今すぐここから離れてください!これよ黒ウサギは二百年封じられし真の力を解放します!そのいりょくたるやもうなんというか、こう…その…えっと…ものすごいそうですよー?」

「くだくだじゃねーか」

「大根役者が…」

「?」

「演技へたくそね」

上から順に俺、十六夜、耀、飛鳥の順番での感想だった。

「おい、なんかヤバそうだぞ!」

「月の兎が本気だすってよ!」

「冗談じゃねえ巻き込まれてたまるか!」

「早く逃げろ!」

へたくそな演技だったが月の兎と言う名前の威力は凄く観客たちは我先にと逃げて行く。

「皆待ちなはれ!最後までここで観てはるんや!そんなデタラメに騙されたらいかんどす!」

ここに来て団長が取り乱した。

そして、観客がいなくなると黒ウサギの怪我も嘘のように消えていた。

「もしかして…団長さん、貴女のギフトは…人が抱くイメージの具現化ですね!」

その言葉と共に黒ウサギの背後から巨大なウサギが現れた。

なんか、おーばーかーさーまーとか言ってるんだが………

「…何、アレ?」

「あぁ、なんつーか、俺達が今頭の中で思い描いてた物…?」

あまりの光景に飛鳥はえ?何コレ?っと言った感じだし。

耀なんか口を開けて固まってるぞ。

取りあえずこれで納得がいった。

「あの団長のギフトは他人の心象を読んで現実に表す事が出来るのか」

「ああ、さっきの様に黒ウサギが傷を負う想像を誰かがすればそれが現実となる。逆に治れと思えば傷は癒える」

「そんなの何でもありじゃ…」

「但し、多数派の人数が同じイメージを集中させた時に限るんだろう。ここに観客を募っていたのはその為でもあったんだ」

十六夜の推理に団長は溜息を吐く。

「やれやれ、こうもあっさり仕掛けを見破られるとはなぁ………参りました」

団長は鞭を捨て前かがみになる。

まるで、サーカスの幕引きをする様な格好だ。

「“空想劇(イマジネーションズ)”初戦でウサギさんが戦った時や昼の公演でドラゴンを出した時なんかもこのギフトを発動させとりました。それにしても、まさかそっちもあないな虚言で客を散らすとは……初めから“箱庭の貴族”というブランド力を生かすつもりやったんどすな?」

「ああ…“箱庭の貴族(肉)”のな」

「また、食肉扱いですか!それより、観客の皆様は…」

「客席の出口をくぐれば元来た魔法陣の場所へ出る様になっとります…“ノーネーム”か…」

団長がそう呟き黒ウサギに手を差し出す。

「名無しにしては骨のあるコミュニティやった……久々に楽しませて貰ったどす。アンタ達ならもしかしたらこのサーカスを…………」

クソウサギと握手をすると団長の姿は消えてなくなった。

「団長が…消えた…。私達が勝ったってこと?」

「わかんない……けど…行方不明の人達がまだ見当たらない」

その瞬間、テントが揺れ始め観客席は無くなり、さっきとは違う、ボロボロのテントが現れた。

「なにこの廃墟!私達まだ誰かのイメージを見てるの!?」

「違う…きっとこれが本当の姿なんだ」

テントも誰かのイメージで綺麗に見せていたのか。

「アハハハハ!まダ戦イは終わらせナイヨー♪」

「こ…この癇に障る声は…」

「まさか…」

「まさかの…」

「そのまさかだろうな」

俺達四人は一斉にグロピエロを思い出す。

「こコで選手交代っダンチョーに代わっテ、このボクがオ相手しヨウじゃないかー!!」

「「「…………………」」」

いきなり現れた爽やかイケメン青年(笑)に女性陣は固まる。

「あの風変わりな方はお知り合いですか?」

「知らないわ。あんなスルー対象…」

「関わらないでおきたい」

「アハハハ、女性支持狙って造形変エテみたノに大不評だー」

「一回鏡見てこい。グロピエロ」

「だレがグロピエロさ!ボクの名前ハ「やっぱりまだ生きてたのかねじ切れ太!」

「人の会話ヲ遮ラないでくレるかな!それと、どさくさ二紛れて変ナあだ名をツけるやメテくれナい?ピエールだよ!」

名前が在り来たりすぎて詰まらねぇ。

「てか、猫耳少女に飛鳥のギフトを教えたのはお前だったんだな」

「まあまあ、そう目くじら立テナいでよ。気二なってるンでしょ?行方不明者がドコにいルのか?ダカラ連れて来テあげタんだヨ!」

グロピエロの後ろから沢山の人が現れる。

「あの人達が!?」

「こんなに沢山ですか!?」

見た限り五、六十人程いるな。

「オイ、白夜叉」

「なんじゃいなんじゃい、私はここでおせんべい食べるのに忙しいんじゃい」

いつまで拗ねてるんだよ。

「そいつは後にしろ!どうやらこのショーも大詰めみたいだ」

「いいヨ、いイよ。全員まトめてかかってオいで。皆でワイワイ楽シんデ拍手喝采のフィナーレとイこうじゃなイか!!」

 

 



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第10話 目指すは最強コミュニティだそうですよ?

    ~~~~~~~~~~~~~~~~昔の話~~~~~~~~~~~~~~~

 

「どうした、修也つまらないか?」

「いや、別につまらなくねーよ。ただ、親父にこんな美術品の良さが分かるのかって思っていただけだ」

「おいおい、それはねーぞ。こう見えて俺には彫刻家の親友がいる。そいつに美術の感性を磨いてもらったからな」

「へ~、ならこの絵に含まれる意図とか分かるのかよ?」

「ああ、これか。こいつはな、ただの静物画じゃない。描かれているモチーフにそれぞれ比喩的な意味がある。ナイフは「武力」、宝石は「富」、楽器は「人生」。そして、手前の骸骨はそれらすべては死んでしまえば無価値で刹那的な虚しい物に過ぎないという事を示唆している。まるで、悪魔の肖像だな」

 

    ~~~~~~~~~~~~~~~~終了~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて皆さん!いよいよゲームも大詰めです!相手は取り込まれたコミュニティの方々!迂闊に手を出せない以上作戦会議を行うべきで…ってやっぱりガンガン行ってるー!!!」

「こんな大混戦じゃ策なんて通用しないわよ!」

「口より体を動かしたい!」

「俺だけ戦って無いから思いっきり暴れさせてくれ!」

「せっかく戦闘解禁されたのだ!暴れさせんかー!!」

誰も黒ウサギの言うことを聞こうとしない。

俺もだが。そんな俺達に黒ウサギは

「うう、そうして皆さんはそうやっていつも…黒ウサギの言うことを聞いてくれないのですかー!ええい、憂さ晴らしキック!ストレス発散パンチ!」

とうとう黒ウサギも実力行使に出る。

「おーおー、いい感じに盛り上がって来たじゃねぇーか!」

「君も余裕かましてる場合ジャ無いと思うよー?こっちは総動員なンだカラね!他のコミュニティの連中にケガをさせレば後が厄介!いくら破天荒ナ君デモ…こノ人数を上手くあしらい切レるかなァ!」

グロピエロの合図と共に行方不明者が一斉に襲い掛かってくる。

「やれやれ、やるか?十六夜」

「当たり前だろ!」

「だな!」

十六夜が拳を構え、俺も腰を落として構える。

 

 

 

 

 

   ~~~~~~~~~~~~~~~~その頃外では~~~~~~~~~~~~~~~

「一体どうしちゃったのかなフェルナさん。急に座り込んで動かなくなっちゃったよ」

「ほうっておけ。こいつはおそらく魔王の残党だ。“トリックスター”と聞いて思い出した。この広いコミュニティじゃ、一口に娯楽コミュニティと言っても千差万別だが、中でもおかしな連中ばかりが集まる魔王の一座があったと。そいつらは公演中に観客を巻き込み、あらゆるギフトゲームを強いたが団長のひょうきんな性格もあって訪れた町はそれなりに活気が付いたらしい。悪さはしてもユーモラスで明るいサーカスコミュニティ。魔王にしては異色だと話題になりもしたそうだが、それはもう昔の話。コミュニティ“トリックスター”はとうの昔に滅びたと聞いて」

 

ド ゴ ォ ォ

 

「テントが爆発した!?今度は何が起きて!?」

「おい、見ろ!あれは……」

 

   ~~~~~~~~~~~~~~~~終了~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「十六夜さん、修也さん!」

声がする方を向くとそこにはジンとレティシアがいた。

「あ?なんだ、御チビに吸血ロリじゃないか」

「一体また何を派手にやらかしてるんだ貴様らは!」

いや、俺に言われても………

「細かい話は後だ!お前らも祭りに参加してこいよ!」

「祭りって…………大乱闘じゃないですか!!」

ジンの叫びを無視して十六夜はグロピエロに体を向ける。

「雑魚共ついでに天幕吹き飛ばしせて爽快だったぜ。それと“強きを挫き弱気も挫く”が俺の座右の銘なんでな」

「ちなみに俺は“やられてもやられなくても三倍返し”がモットーだ」

「アハハハハ、驚いタな。年季は入ってもテモかナリ頑丈な天幕だったンだけどナァ

「ダメじゃないですか十六夜さん、修也さん!皆様をなるべく無傷で返してあげなければ黒ウサギたちの責任に………ってあれ!?ジン坊ちゃんにレティシア様ではないですか!」

「黒ウサギ!よかった無事だったみた…」

「みん な」

ん?あれはフェルナ?

「さーかす に いかない?」

「フェルナさん!?どうしたんですか!?」

「チケットを てにいれることが できたから ぜひ みんな にと おもって」

「フェルナさん…あ…貴女は…人…形…」

おい、マジかよ………

「危ない!黒ウサギ」

軽くショックを受けてると十六夜が急に黒ウサギのウサ耳を掴み投げ飛ばした。

「ふー間一髪だったぜ」

「ありがとうございます!でも、助け方が凄くぞんざいです!」

凄い助け方だな。

「ネーネー君達、ヨソ見してる場合カナァ。油断しテると潰シちゃうよ?」

「うわわわわ、もう何がなんだか、あの方は一体何なのですか!?」

「あれとなら黒ウサギが居ぬ間に一戦交えとる!正体が分かっているであろう。なぜさっさと倒さんのだ!」

「いや、あいつ事態を潰すのは簡単だが思ったより根が広く張られてるみたいでな、それを一気に片付けねえと。つーわけで手伝え白夜叉。この街ぶっ壊すぞ!」

なるほど、そう来るか………

「ほほーう!街をか。随分と大きく出たな!合点承知之助!」

「オイ、それ死語だぜロリババァ!」

「和気藹々と何をとんでもないことぬかしておりますか!レティシア様からも何か言ってやってください!あの人達無茶苦茶ですよ!?」

「良いのではないか?私はジンと避難しておく」

「こっちも大体片付いてきたしやってみたら?」

「一応何か考えがあるんでしょう」

「いいんじゃね?面白そうだし」

「お三人までー!?」

街を破壊することに賛成する俺達に黒ウサギが絶叫する。

「こらコラそんな事はさせナイよ。マナーの悪いお客サンは今すぐ退場だ!!」

「しつけぇんだよ!!」

黒ウサギを背後から襲おうとしていたグロピエロを十六夜が吹き飛ばす。

「白夜叉!また邪魔が入る前にやっちまうぞ!」

「もう仕方がない!皆さん最大限の防御を!デカイ衝撃が来ます!」

「行くぞ!」

その瞬間、紅い風が吹き荒れた。

「すごい熱風だわ!これが白夜叉の力なの!?」

「この紅い風…太陽のプロミネンス現象だってさっき言ってた」

「最高で七〇〇〇度まで操れるらしいからまだ本気じゃないぜ!それよりも見ろ」

俺が街を指差すと街の光景が熱風を浴びた所から変わっていった。

まるで絵具が剥がれ落ちていくかのように。

「元々はゴーストダウンだったこの区画を自身の力で塗装を施し生きた町に見せかけていたんだ。“虚栄(ヴァニタス)”おそらくそれが奴の正体だ」

「ヴァニタス?」

「旧約聖書「コへレットの書」の虚無を表す一説に由来した絵画様式のことだな」

「ああ、奴はその作品群から悪魔として箱庭に生まれこの滅びたコミュニティに居付き

あたかもまだ栄えてるように絵具で飾り立て仮初の繁栄で人々を町に誘い込んでいたんだ」

「よく気付いたわね」

「さっきあれだけ騒いでも人っ子一人現れないのを見れば定住している奴はいないと分かる」

「つまり黒ウサギ達が戦った団員も皆再現された物!?一体何のためにそんなことを…」

「それを頼んだ奴がいたんだろう。おそらく………」

俺はゆっくりと歩きもう動かなくなったフェルナの元に行く。

「とうに滅びてしまったコミュニティの役目を未だ果たそうと悪魔と手を組んでまで言葉巧みに人を誘い込み手段も選ばず、まだこの世界にあろとした」

動かなくなった人形を拾い俺はそっとギフトカードにしまった。

このままじゃ、可哀想だもんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かつて滅ぼされた魔王の遺留品…か。あの移動式テントもマリオネットもよくあれほど長く稼働できたものだな。限界が来ていたとはいえ大したものだ」

「なんだが切ない話よね。あの子もあちこちで今回と同じことを繰り返していたんですって?」

「そふみたひ。解放された人達は北や南のコミュニティばかりだったひね」

「サーカスの仲間がいなくなって自分一人が寂しかったんだろうな。後耀、食べながら話さない」

「全くとんでもねえ寂しがり屋がいたもんだぜ。なぁ、黒ウサギ」

「そうですね。………なんで黒ウサギだけはんぺんなのでしょうか?」

「「「「心配かけたペナルティ」」」」

口を揃えて黒ウサギに文句を言う。

「今回は私達が散々迷惑かけられたもの」

「揚句敵にも回りだすし」

「途中から本気で勝とうとするし」

「この“箱庭の貴族(迷)”」

「無駄に正論でつっ込み返せない!」

俺達からの罵詈雑言に黒ウサギは黙り込む。

「まあまあ、野菜串もあるから…ほら、畑で採れた人参だよ」

「ジン坊ちゃん、大丈夫ですよ。やはりここは皆様に力を付けて貰うことにします。今回の件で改めて実感したんですやはりコミュニティが廃れてしまうのは大変寂しい事だと……」

「そうだね…僕達もあのサーカスと同じ憂目にあってたかもしれないし……」

「まだ問題は多々ありますがやはり御四人様をお呼びして正解でした。この調子で皆様と共にどんどんコミュニティを大きくしてまいりましょう!」

はしゃぐ黒ウサギに十六夜は静かに告げる。

「何ぬかしてるんだ黒ウサギ。コミュニティを大きく?そんな事約束した覚えなんてねえぞ」

「え…?え…?でも十六夜さ…」

黒ウサギが焦っていると十六夜は食べ終えた串を地面に突き刺す。

「魔王を倒して目指すは最強コミュニティ!!俺達をよんだからにはこれくらい豪語してみせろよな!」

十六夜の言葉に俺達は無言で頷く。

黒ウサギは目に涙を浮かべ笑顔になる。

「皆さん…黒ウサギは…黒ウサギは…感激いたしましああぁぁぁぁ!?」

そして、黒ウサギは地面に掘った穴に落ちる。

「やったぜ!上げて落とす作戦大・成・功!」

「これで今回の件はチャラね」

「ラビュリントスの時から学習してないね」

「流石“箱庭の貴族(馬)”だな」

「「「違いない!」」」

黒ウサギをからかい四人で大爆笑。

「いい加減にしてください!この…問題児様方アアアッ!」

「待ってほんのジョークよジョーク!」

「お肉上げるから」

「ほらウサギ肉」

「落ちるときスカートがいい所までめくれ」

「やかましいのですよー!!」

黒ウサギの絶叫とハリセンで叩く音がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ~~~~~~~~~~~~~~~おまけ~~~~~~~~~~~~~~~

「というワケで新しい仲間だ!」

「フェルナ―ン」

「「「「「「どういうワケ?」」」」」」

簡潔に言うと俺は動かなくなったフェルナを回収し、それを“ペルセウス”に持って行った。

“ペルセウス”は“オリュンポス十二神”が一柱“鍛冶神・へパイストス”から神格を授かっているらしく恩恵付与や霊石類の錬成は得意らしい。

そこで、“ペルセウス”と力を合わせフェルナをもう一度動けるようにしたのだ。

「記憶は無いし、言葉も「フェルナ―ン」しか言えない。体も人形サイズだから戦闘能力もそこまで高いとは言えない」

「なら、どうしてもう一度動けるようにしたの?」

耀の質問に俺は頬を掻きながら答える。

「なんかさ、可哀想だったからさ、居場所を上げたいと思ったんだよ。それに、一人は寂しいからな」

「フェルナン?」

優しくフェルナの頭を撫でるとフェルナは不思議そうにこっちを見てくる。

「ジン、どうかフェルナをコミュニティに入れてやってくれないか?基本的には俺のギフトとなるから入れてくれってのもおかしいがフェルナをコミュニティの一員として認めてくれないか?いや、認めてくれ!頼む!」

頭を下げジンにお願いする。

「いいですよ。フェルナさんを“ノーネーム”の一員として迎え入れます。皆さんもそれでいいですか?」

「俺はいいぜ。動く人形なんておもしれぇしな」

「私もいいわよ」

「私も」

「YES!黒ウサギも大歓迎なのですよ!」

「皆………ありがとう」

こうして俺達のコミュニティに新たな仲間が加わった

 



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そう……巨龍召喚
第1話 収穫祭があるそうですよ?


ペストとの戦いから一ヵ月。

俺達は現在本拠の大広間に集まっている。

長机の上座からジン、俺、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、レティシア、リリの順番で座っている。

“ノーネーム”では会議の際、コミュニティの席次順なのが礼式らしく、俺が次席に座っているのは“ペルセウス”戦での活躍、ヴェーザーの撃破、新たな仲間(フェルナ)を捕まえたなどから次席が妥当だろうと満場一致で決まった。

「なぁ、十六夜変わってくれ。やっぱり俺がここにいるのはおかしい気がする」

「何言ってるんだよ。お前が座らなきゃ誰が座るんだよ?」

「お前」

「寝言は寝てから言え」

笑いながら十六夜は俺に指を指す。

「いいか?“ペルセウス”戦での活躍はそのままレティシア奪還に繋がる。お前が勝ったからレティシアを取り戻すことができた。神格を持ったヴェーザーを倒したことで俺達“ノーネーム”の知名度も上がった。フェルナは…………まぁ、コミュニティの人手が増えたってところだ。それ以外にもお前がコミュニティにしたことを数え上げればきりがないぜ。これでもまだ、次席がふさわしくないって言うのか?」

「十六夜君の言う通りよ。修也君はコミュニティの為によく働いてくれてるわ。それこそ、感謝してもしきれないぐらいにね」

「だから、修也には次席がふさわしい」

「YES!修也さんはもっと堂々と胸を張ってもよろしいのですよ!」

そこまで言うか。

まぁ、そこまで言うなら仕方がない。

次席に居てやるよ。

「それより、ジン。お前緊張し過ぎじゃない?」

「あ、当たり前ですよ。だってここは旗本の席なんですから」

コミュニティのリーダーであるジンが旗本の席に座るのは当たり前のことだ。

しかし、ジン本人は特に戦果を上げてないと思っており旗本の席に座ることに引け目を感じてるらしい。

「ジン、俺達“ノーネーム”はジンがあっての“ノーネーム”だ。俺達の戦果は全てジンの名前に集約され広まる。これはお前の戦果だ。それに、ペストとの交渉や、ステンドグラス捜索の時には随分活躍したんだろ。それこそ、俺達の戦果なんかよりも凄いじゃないか。これは過大評価じゃない。正当な評価だ。だから、お前はそこの席に座る資格はあるし、お前にしか座ることは許されない。いいな?」

「修也さん…………はい!分かりました!」

「よし、その意気だ!」

俺はジンの肩を叩き軽く元気付ける。

「それでは、今日皆さんに集まって貰ったのはほかでもありません。ここ一ヵ月でコミュニティに届いたギフトゲームの招待状は全て僕の名前宛となっています。これは皆さんのお陰です。まず、そのお礼を申し上げます」

ジンは頭を下げ礼を言う。

「そして、招待状三枚の内一枚は貴賓客としての招待状です。“ノーネーム”としては破格の待遇です」

そりゃ、凄い。

「それで?今日集まった理由はその招待状に付いての話かしら?」

「それもありますが、その前にコミュニティの現状をお伝えしたいと思っています。・・・黒ウサギ、リリ。報告をお願い」

「あ、はい」

そう言ってリリは割烹着の裾を整えて立ち上がる

「えっと、備蓄に関しては問題ありません。最低限の生活を営むだけなら二年は持ちます」

「へえー、なんで急に」

「黒死斑の魔王が推定五桁の魔王に認定されて規定報酬の桁が跳ね上がったと白夜叉様が言ってました。それと、修也様がこの前参加したコミュニティ“インフォーマント”で行ったギフトゲーム“開かずの金庫”をクリアした報酬が予想以上に多かったのもあります。これでしばらくみんなお腹一杯食べられます」

リリが嬉しそうに狐耳と尻尾を振りながら笑う

「こら、リリ。はしたないぞ」

「あう・・・」

レティシアに怒られ耳と尻尾をしゅんとさせる。

「まぁまぁ、いいじゃんかよ。そんなに喜んでくれればこっちとしても頑張ったかいがあったってもんだ。それで、報告は以上か?」

「あ、いえ。五桁の魔王を倒す為に依頼以上の成果を上げた十六夜様達には金銭とは別途にギフトを授かることになりました」

「あら、それは本当?」

「YES!それについては後から通達があるのでワクワクしながら待ちましょう」

どんなギフトかは分からないか魔王を倒した報酬なら結構面白いものだろう。

「それではリリ。農園の復興状態を」

ジンがリリに話を振ると、目を輝かせ話始めた。

「は、はい!農園の土壌はメルンとディーンの働きのおかげで全体の四分の一はすでに使える状態です。これでコミュニティ内のご飯を確保するのに十二分の土地が用意できました。田園に整備するにはもうちょっとかかりそうですけど、根菜類などを植えれば数か月後には期待が出来ると思います」

はしゃぐリリを見て、飛鳥が得意そうに言う

「メルンとディーンが休まず頑張ってくれたんだから当然よ」

ふふんと、笑う飛鳥

「特にディーンは働き者で飛鳥さんがゲームに出場しているとき以外はずっと土地の整備をしてくれて、メルンが分解した廃材や若木なんかも休まず混ぜてくれて本当に助かりました!」

「喜んでもらえたようで何よりよ」

「人使いが荒いともいうけどな」

なんで十六夜はここで空気を悪くするかな。

「そ、そこで今回の本題なんですが農園区に特殊栽培の特区を設けて、霊樹や霊草を栽培しようと思うんです。」

「マンドラゴラとか?」

「マンドレイクとか?」

「マンイーターとか?」

「アルウラネとか?」

何か知らんけどマンドレイクの亜種ってきいたな。

「YES!って最後の二つおかしいですよね!?マンイーターなんて子供たちには危険ですしアルウラネなんて教育上良くないですよ!それにマンドレイクやマンドラゴラみたいな超危険即死植物も黒ウサギ的にアウトです!」

「「「「じゃあ妥協してラビットイーターで」」」」

「何ですか!その黒ウサギを狙ったダイレクトな嫌がらせは!!」

黒ウサギはほっといて十六夜にアルウラネについて聞いてみると人を誘惑し、その精を(ウフフな事だったり、またはバリバリと)食らうことで生きるとされる植物らしい。

知らないのに言うんじゃなかった。

救いとしては耀と飛鳥がアルウラネについて知らなかったことだな。

「つまり主達には農園に相応しい牧畜や苗を手に入れてきて欲しいのだ」

レティシアの言葉に振り返る。

「でも、霊草や霊樹なんかどこで手に入るんだ?」

「実は南の“龍角を持つ鷲獅子”(ドラコ・グライフ)連盟から収穫祭の招待状が届いているのだ。連盟主催ということもあり、種牛や珍しい苗を賭けるものも出るはずだ」

なるほどね。

そのゲームに参加して苗やら種をゲットするってことか。

「しかも今回は前夜祭からの参加を求められ、旅費と宿泊費は主催者が全て請け負うというVIP待遇。場所も境界壁にも負けない美しい河川の舞台“アンダーウッドの大瀑布”。皆さんが喜ぶこと間違いなしです!」

黒ウサギが自信満々で答える

そこでジンがわざとらしく咳をする。

「この収穫祭は前夜祭を入れると二十五日間にもなります。最後まで参加したいのですが長期間主力が居なくなるのはよくありません。なのでレティシアさんと共に一人は残って・・・」

「「「嫌だ」」」

十六夜、飛鳥、耀の三人は即答だった。

まぁ、この三人ならそう言うだろ。

「ジン、俺が残ってもいいが……」

まぁ、ここは三人に譲るか。

俺はもう十分働いたし。

「いえ、修也さんには前夜祭を含めて最後まで参加してもらいます」

「は?」

なんで、俺だけ?

他の三人も何故?と言った顔になってる。

「実は“主催者”側からの要望でクルーエ=ドラクレア様の御子息である修也さんに是非来てほしいとのことだそうです。なんでも、“主催者”はかつてクルーエ様に命を救われたとのことで、そのお礼を申し上げたいとか。それと、ゲストとして参加もして欲しいとか」

本当に親父って凄いな。

向うじゃいつも工場で働いてた冴えない親父だったのに。

「じゃあ、修也は最後まで参加するんだ…」

「はい、で、残りの皆さん何ですが、日数を絞るというのはどうでしょう?」

「日数を絞る?」

「はい、前夜祭を二人、オープニングセレモニーから一週間を全員で、残りの日数を二人と。こんな感じです」

なるほど、確かにいいアイディアだが、

「それだと一人最後まで参加できることになるよね?それはどうするの?」

そう、それが問題だ。

本来なら席次順で十六夜になるはずだが、それじゃあ納得しないよな。

ジンも同じ考えらしく悩んでいる。

「そうだ。なら、ゲームで決めるってのはどうだ?」

「「「「ゲーム?」」」」

十六夜、飛鳥、耀、ジンの四人が俺の提案を聞き返す。

「今日から前夜祭までの期間で一番多くコミュニティに貢献できた奴が最後まで参加。後の二人はじゃんけんかなんかで前夜祭から参加かオープニングセレモニーからの参加かを決める。どうだ?」

「お、いいじぇねえか!面白そうだぜ!」

「いいわ。それで行きましょう!」

「うん。………絶対に負けない」

さて、誰か勝つか…………

まぁ、十六夜な気がするが………

 



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第2話 戦果発表だそうですよ?

その後、十六夜、飛鳥、耀の三人で収穫祭の参加権(最初から最後まで)を賭けてのゲームが始まった。

意外なことに十六夜の戦果は低迷していた。

蛇神を倒し、海魔とグライアイも倒し、神格保持者のヴェーザーと互角に渡り合う力、“ノーネーム”の名が広まることは十六夜の戦歴も広まるという事。

そのため、いろんなとこから十六夜のゲーム参加を拒否する言葉が上がってるそうだ。

今、十六夜は、白夜叉が用意してくれたギフトゲームを受けにトリトニスの滝近隣に行ってる。

俺はと言うと特にすることがなく“ペルセウス”の本拠に来ている。

「それで、“ハープーンガン”の改良は終わったのか?」

「それは勿論です。フォルムを変え、リボルバータイプにしたので連射速度は上がりました。それに、総弾数を四発から八発までにしました。威力はそのまま。更にリロード時間を短縮させる恩恵を付与させたので前よりは使いやすくなったはずです」

フェルナを直した時、ルイオスに“ハープーンガン”の改良を依頼して今日それを引き取りに来た。

前は水中銃のような形だったが、今はリボルバータイプになり総弾数も増えた。

リロード時間も三分から一分になり使い勝手もよくなったはずだ。

「流石だな。サンキュー、ルイオス」

「いえいえ、そんな褒められたことじゃないですよ、兄貴」

“ハープーンガン”をギフトカードに仕舞い、ルイオスに金を払って本拠に帰った。

ルイオスがしつこく金は要らないとか言ってきて金を渡すのに苦労したが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を食べ終え俺達は大広間に集まった。

三人の戦果を審査するためだ。

「まずは、飛鳥からだな。牧畜を飼育するための土地の整備と山羊十頭。派手じゃないが、コミュニティとしては大きな進展だな」

「ああ、子供たちも『山羊が来る』『乳がいっぱい来た』『チーズが造れる』と大はしゃぎだ」

「山羊は山羊小屋と土地の準備が整い次第連れてくる予定です」

飛鳥は後ろ髪を掻き上げてどんな物よ!っと言いたげな顔をしてる。

「次は耀。これはすごいな。“ウィル・オ・ウィスプ”から耀に再戦の為に招待状を送ったそうだ」

「“ウィル・オ・ウィスプ”主催のゲームに勝った耀さんは、ジャック・オー・ランタンが制作する炎を蓄積する巨大キャンドルホルダーを無償発注したそうです」

なんでもそのキャンドルを儀式場に設置すれば本館と別館にある“ウィル・オ・ウィスプ”製の備品に炎を同調させることができるそうだ。

これを機に竈や燭台、ランプといったものを全て“ウィル・オ・ウィスプ”に発注することにした。

少し値が張るが恒久的に炎と熱を使用できるからそれを考えると上々の結果だ。

「いや意外だったぜ。中々大きい戦果を挙げたみたいじゃねえか」

「上から目線ね・・………それで、十六夜君はどんな戦果を挙げたのかしら?」

飛鳥の言葉に十六夜はにやりと笑う。

なんか凄い予感がする。

「なら、今から受け取りに行くか」

「何処に?」

「“サウザンドアイズ”にだ。黒ウサギも向かってるらしいし、ちょうどいい。主要メンバーには聞いておいて欲しい話だからな」

含みのある言葉に俺以外首を傾げる。

大広間を出て、全員で“サウザンドアイズ”に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「黙れこの駄神ッ!」」

店に入り白夜叉の私室に向かう時、黒ウサギの声と聞き覚えのない声が聞こえ、水流と轟雷で吹っ飛ぶ白夜叉を見た。

何事かと思い全員で覗くとそこには着物とは言えない着物を着た黒ウサギと女性がいた。

「あんた、だ―――」

れっと言う前に俺は背後から何者かの奇襲をうけ気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくといつもの衣装に戻った黒ウサギとまともな着物に着替えた女性がいた。

話を聞くと女性は十六夜が随分前に倒した蛇神が人間に変幻したすがたとの事だ。

てか、十六夜は女性を蹴り飛ばしたってことになるよな。

ゲームに敗れた女性もとい白雪姫“ノーネーム”に隷属することになった。

ちなみに、誰が俺を襲ったのか?と聞いたところ誰一人答えなかった。

十六夜はヤハハと笑い、飛鳥は何故か目を逸らすし、耀はふんっと言った感じでそっぽ向く始末だ。

それはおいといて、十六夜が受け取りに行くと言ったものはゲームでの報酬でその報酬は二一〇五三八〇外門の権利書だった。

内容は二一〇五三八〇外門をコミュニティの広報に使用できる、“境界門”の使用料の八〇%を納められると、“境界門”を無償で使用できることだ。

更に俺達“ノーネーム”が地域支配者で在ることを認められた。

結果は一目瞭然、勝者は十六夜だ。

ジンは信じられないと言った顔で驚き、黒ウサギは大はしゃぎをしている。

その一方で負けてしまった耀と飛鳥は落胆していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耀SIDE

 

その日の夜、私は晩御飯が終わると自室に戻った。

晩御飯は小さな宴のような感じで普段は出ないような料理が出ていた。

黒ウサギの作った魚料理はとても美味しかった。

けれど、十六夜の『これは酢漬けにしたほうがうまい』と修也の『普通に焼いた方がいい』の発言で色々台無しだった。

そんなことを思い出しながら私は三毛猫と共に窓際に腰掛ける。

風が頬を撫でると同時に溜息が出た。

「私は収穫祭が始まってからの参加になったよ、三毛猫。残念だけど前夜祭はお預けだね」

『………残念やったなお嬢』

「仕方がないよ。十六夜は本当に凄い。水不足だった解決したし、レティシアの時だって、十六夜が挑戦権を持ってきたから助けれた。謎解きの時だって本当に凄いと思った。

でも、十六夜だけじゃない、飛鳥も凄い。たった一ヶ月であんなに酷かった土地の土壌を整えたんだ。本当に凄い」

修也に関しては何も言えない。

ルイオスと元魔王アルゴールを倒し、ヴェーザーさえも倒した。

コミュニティの財政も救った。

それに比べて私は…………

「何落ち込んでんだ?」

「うわっ!」

いきなり目の前に修也の顔が現れ私は驚いた。

驚くと同時に後ろに倒れた。

「悪い。よっと」

そのまま部屋に上がり込み、私を起こす。

「ありがと」

「気にすんなよ」

修也が窓際近くの壁にもたれるを見て、もう一度窓際に腰を掛ける。

「何があった?」

「え?」

「何もなけりゃそんな物寂しい笑顔してるワケないだろ?もしよかったらは話してくれるか?」

修也の顔を見て、次に窓から農園を見る。

「あの農園。十六夜が水を用意して、飛鳥が土地を育んだ。だから、私は苗を用意したかった。「私達で農園を造った」胸張ってそう言いたかった。だから、一日でも長く収穫祭に参加したかった。それに、南側には多くの幻獣がいるって聞いてたからそこで沢山の幻獣と友達になって力を付けたかった。……………本当はあの戦果だって一人で挙げたんじゃない。飛鳥に協力してもらって挙げた戦果。ズルしてまで挙げた戦果だった。でも、結局ダメだった」

「そうか………」

それだけ言うと修也は黙った。

何も言わない。

「十六夜も飛鳥も修也も凄い。でも、私は…………あんまり凄くない。やっぱり、投げやりな気持ちでコミュニティに所属したのが駄目だったんだ。偶然素敵な友達が出来ただけで…………私には関係を維持するだけの力がない」

「…………はぁ~~」

修也が溜息を吐く。

そして

「うりゃ!」

私の頬を左右に引っ張る。

痛く無い。

「何してるの?」

「馬鹿な耀にお仕置き」

「馬鹿じゃない」

「いや、馬鹿だ。そんな事気にしなくても俺達は耀から離れたりはしない。だって、友達だろう?それとも何か?俺達ってそんなに信用ない?」

「違う。信用してる」

「そっか」

そう言うと修也は笑って頬を離す。

つねられたところを手で触る。

痛くないけど、なんとなく触る。

「実を言うと、飛鳥から話は聞いてたんだ。今回の戦果のこと」

「そう………」

「飛鳥は自分から協力を持ち掛けたから春日部さんのことを責めないでくれって言ってたぞ。飛鳥は本気でお前を友達と思ってる。だったら、その友達のこと信じてやれ。な?」

そう言うと修也は立ち上がる。

窓の縁に足を掛ける。

帰るんだろう。

その瞬間、私は修也のコートの裾を引っ張った。

「修也、修也は私のこと友達だと思ってる?」

「…………当たり前だろ。でなきゃ、こうして励ましに来ないよ」

私の頭に手を置き、優しく撫でるとそのまま、後ろ向きに落ち、空を飛ぶ。

「おやすみな、耀」

「うん、おやすみ」

挨拶を交わし窓を閉める。

「友達……か」

友達、その一言がつらい。

友達でいればそのままの関係が続く。

それでもいい。

でも、やっぱり…………

さっきまで農園のことで悩んでたのに今は違うことで悩んでる。

「はぁ~、寝よ」

そう呟き私は布団の中に潜る。

 



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第3話 ヘッドホン紛失だそうですよ?

「おい、十六夜見つかったか?」

「いや、ねーよ」

今俺は十六夜のヘッドホンを探している。

なんでも昨日レティシアとリリの三人で風呂に入った後脱衣所から消えていたらしい。

てか、なにさりげなく女と入ってやがるんだよ。

まぁ、いいけど。

「まぁ、これだけ探してないんだ。隠した本人にしか分からない所にあるんだろ」

「…………なあ、十六夜は誰が隠したと思う?」

「状況的に考えたら春日部だな」

「本気でそう思ってるのか?」

「おいおい、そんなに殺気を出すなよ。ビビるぜ?」

そんなことを言う割にケロッとしてやがる。

「俺だって春日部がやったとは思えない。そういうことができる奴じゃないしな」

「……そうか」

「無いんじゃ仕方がねぇ。俺の順番を春日部に譲るか」

その言葉に俺は驚いた。

あの面白いことが大好きでその為ならなんでもする十六夜が簡単に譲るだって………

「おい、なんだよ、その意外そうな顔は?」

「いや、予想外な回答で少し驚いた」

「なんだよ、春日部に順番を譲るのが不服か?お前だってそのつもりで朝早くから俺の部屋にきたんだろ?」

そう、何を隠そう俺が十六夜のヘッドホンを探しているのは朝早く十六夜の部屋に向かったからだ。

理由は十六夜に耀との順番を変わって貰おうと思って話し合いに行った時一緒に探せと言われたからだ。

「気付いてたのかよ」

「当たり前だろ。なんせ俺だからな」

ヤハハと笑い歩き出す。

「どこ行くんだ?」

「春日部の部屋。俺と順番を変えることを言いにだよ。修也も来い」

さっさと歩く十六夜の後を追い耀の部屋に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんですか、それ?」

黒ウサギは目を丸くし、それを指差す。

十六夜の頭には現在ヘッドホン代わりのヘアバンドがある。

十六夜曰く、頭に何かないと落ち着かないし、髪の収まりが悪いらしい。

「………本当にいいの?」

「ああ、別にいいって。俺が挙げれたはずの戦果代わりに挙げてこい。ついでに、友達一〇〇匹作ってこいよ。南側は幻獣が多くいるみたいだしな」

「ふふ、分かった、ありがとう。十六夜の代わりに頑張ってくる」

十六夜を見上げ耀は小さな華が咲いたような柔らかい微笑みで十六夜に礼を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺達五人と一匹は“境界門”の前に着いた。

境界門の前には多くの行商目的のコミュニティもいた。

そんな中飛鳥境界門に刻まれた虎の彫像“フォレス・ガロ”の旗印を凝視している。

「帰ったら、いの一番にこの彫像を取り除かないと」

「ま、まぁ、それはコミュニティの備蓄が十分になってからでも」

「何を言ってるの。この門はこれから私達“ノーネーム”の広告塔になるのよ。先行投資の意味も込めてまず、ジン君の全身をモチーフにした彫像と肖像画を」

「お願いですからやめてください!」

ジンが叫ぶ。

どうやら、かなり恥ずかしいらしい。

「じゃあ……黒ウサギを売り出しましょう」

「なんで黒ウサギを売り出すんですかっ!」

どこから出したのかハリセンで飛鳥を叩き突っ込む黒ウサギ。

「じゃあ……黒ウサギを売りに出そう」

「なんで黒ウサギを売るんですかああああああ!!」

スパァーン!と良い音を出すハリセンだ。

そんなことをしていると“境界門”の起動が進み、青白い光が門い満ちていく。待機している利用者は列を作る。

俺達は“地域支配者”として列の脇から門が開くのを待つ。

「皆さん、外門のナンバープレートはちゃんと持ってますか?」

俺は手に持ってる鈍色のナンバープレートを見る。

ここに書かれた数字が“境界門”の出口となる外門に繋がってるそうだ。

横にいた耀はナンバープレートを見つめた後、本拠の方を見た。

「どうした?」

「うん、ちょっと………十六夜の事が気になって」

「そうね…まさか、十六夜君がヘッドホン一つで辞退するなんてね」

「YES。あれほど楽しみにしていましたのに」

「あの十六夜が目の前の楽しみを投げ出してまで探そうとしてるものだがらな。きっと思い出があるんだろ」

「………見つかるといいね」

耀のその言葉に同意して頷く。

そして、その直後“境界門”の準備が整った。

 



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第4話 アンダーウッド到着だそうですよ?

“境界門”をくぐると多分に水分を含んだ風が驚いた。

そして、目の前の巨躯の水樹を見て更に驚いた。

「…………す、凄い!なんて巨大な水樹…………!?」

飛鳥も巨躯な水樹を見て圧倒されてる。

「修也、下!水樹から流れた滝の先に、水晶の水路がある!」

耀が今までにないぐらいの歓声を上げ俺の袖を引く。

耀につられ、下を覗くと確かにそこには水晶の水路があった。

ん?あの水晶、確か北側で見た気が………

「修也、上!」

今度は何だ?

上を見上げると何十羽という数の角の生えた鳥が飛んでいた。

「角が生えた鳥………しかも、あれは鹿の角。聞いたことも見たこともない。黒ウサギは知ってる?」

「え、ええまぁ……」

「ちょっと、見てきていい?」

珍しく興奮しきってる耀。

そんな耀を俺は制する。

「耀、やめとけ。あれはペリュドンだ」

「ペリュドン?」

「ああ、アトランティス大陸に棲んでいたとされる怪鳥の一種で地中海でも目撃例がある。鳥の胴体と翼、牡鹿の頭と脚を持った姿をしていて、自身の影を持っていないが、光を浴びると人間の形の影ができる。

一説では故郷から離れた場所で息絶えた旅人の霊だと言われてる。

ペリュトンは、先天的に影に呪いを持っていて人間一人を殺すと、自身の本来の影を取り戻す事ができるために人間を狙っているという。影を得れば、また影が無くなるまで人は襲わない。だが、影が無くなれば何度でも人間を殺す。言うなれば殺人種だ」

俺の説明に耀は少し震える。

「もし、私がその幻獣からギフトを貰ったらどうなってた?」

「想像しない方がいい。それに、下手すれば呪いを受ける羽目になる。ペリュドンには関わらないことが一番だ」

「うん、気を付ける」

少し肩を落とし落胆する。

そんな耀の頭に手を置きゆっくり撫でる。

「そう気を落とすな。幻獣は他にも沢山いる。一緒に友達になれそうな幻獣を探そうぜ」

「…うん、ありがとう」

頬を少し赤く染め耀が頷く。

「いや~、暑いわね。黒ウサギ」

「YES。暑くて堪りません」

「あ、あははは……」

何やら後ろで三人が話してるが聞こえない。

『流石は我が好敵手《とも》!よくぞ、知っていたな』

俺を好敵手《とも》なんて呼ぶ奴一人しかいない。

「やっぱりお前か。グリー」

『久しいな、修也』

「もしかして、白夜叉の所にいたグリフォン?」

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

現れたのは“箱庭”に来て最初に出会った耀の友達グリフォンのグリーだ。

「ここか故郷だったのか」

『ああ、収穫祭で行われるバザーには“サウザンドアイズ”も参加する。そこで、私も戦車(チャリオット)を引いてきた』

グリーの背中には鋼の鞍と手綱が装備されている。

『“箱庭の貴族”と友の友よ。お前たちも久しいな』

「YES!お久しぶりなのです!」

「お、お久しぶり……でいいのかしら?」

「き、きっと合っていますよ」

言葉が分からない飛鳥とジンはその場の空気を読みお辞儀する。

『そう言えば、修也にはしたが、友には自己紹介をしていなかったな。改めて、私は“グリー”、騎手からそう呼ばれている。友もそう呼んでくれ』

「うん。私は耀でいいよ。こっちは飛鳥とジン」

『分かった、友の名は耀で、友の友は飛鳥とジンだな』

グリーは翼を羽ばたかせて名前を覚えたことをアピールする。

「ところで、修也はいつグリーと知り合ったの?」

「あ~、そ、それはな………」

『修也とは拳で語り合った仲だ。友ではなく好敵手《とも》だ』

いや~、あの時は大変だったな。

血がいっぱい出たし、一瞬走馬灯見たし、白夜叉と女性店員も大慌てだったな。

まぁ~、今となってはいい思い出だ。笑い話にもなるな」

『好敵手《とも》よ。途中から喋ってるぞ』

「…………どのへんから?」

『血がいっぱい出たしのあたりからだ』

あれ?デジャヴ?

…………………あれ?なんで、皆俺をそんな目で見るの?

まるで、何勝手に危ないことしてるんだよ!みたいな目は?

「修也」

いつになく抑揚のない耀の声に震える。

「な、何か?」

「何か?フフフ、何かじゃ………………ないよ!」

「ひっ!?」

「取り敢えず、正座」

「え?でも、ここ砂利があって痛いし」

「正座」

「太陽で熱された地面が熱いんだけど」

「三回目………言わせる気?」

「………はい」

俺は太陽に熱された地面に正座し、砂利の痛さを感じながら、耀の説教を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説教は三十分で済んだ。

でも、足に結構なダメージが残った。

「続きは夜」

なんか物騒な言葉が聞こえた気が…………

『それより、ここから町まではまだ距離がある。もしよければ私の背で送ってこう』

グリーの提案に皆が賛同した。

グリーの背に飛鳥、ジン、黒ウサギ、三毛猫が乗り、俺と耀は自らの力で飛べるからスリーと並んで飛ぶことなった。

『それにしてもペリュドンの奴らめ、収穫祭中は外門に近づくなと警告をしたというのに。よほど、人間を殺したいと見える。普段なら哀れな種と思い見逃すが、今は収穫祭がある。再三の警告に従わないなら…………皆には今晩、ペリュドンの串焼きを馳走することになるな』

ニヤリ、と大きな嘴でグリーが笑う。

そして、そのまま地面を蹴り空に飛ぶ。

グリーのスピードは生半可のものじゃなかったがそれに付いて行ける耀も凄い。

『やるな。全力の半分しか出してないが、二ヶ月足らずで私について来るとは』

「うん。黒ウサギが飛行を手助けするギフトをくれたから、後、修也とも特訓したし」

ちなみに、耀が持ってる飛行補助のギフトは風天のサンスクリットというギフトらしい。

「グリー、それよりスピード落とせ。後ろがやばいぞ」

グリーの背中に居る黒ウサギは余裕そうだが、ジンは既に放り投げだされ今は命綱によって宙吊りなっている。

飛鳥はジンの二の舞にならないように必死にしがみついてる。

三毛猫は割と本気で命がヤバそうだ。

『む?おお、すまなかった』

グリーはスピードを落とし、取りあえず少し余裕ができるぐらいにはなった。

「わあ・・・。掘られた崖を樹の根が包み込むように伸びているわ」

「アンダーウッドの大樹は樹齢八千年と聞きます。今は木霊が棲み木として有名です。今は二〇〇〇体の精霊が棲むとか」

『ああ、しかし十年前に魔王の襲撃を受けて大半の根がやられてしまった。多くのコミュニティの助けのおかげでようやく景観を取り戻したのだ。今回の収穫祭は復興記念も兼ねているから、絶対に失敗できない』

グリーの言葉から強い意志が分かる。

『そう言えば、魔王襲来の際それを救った者の一人はお前の父親だぞ。修也』

「……マジ?」

『ああ、アンダーウッドではクルーエ殿は英雄だ』

また、親父かよ。

あの親父は一体“箱庭”で何をしてたんだ?

網目模様の根っこをすり抜け地下の宿舎に着くとグリーは飛鳥達を下ろす。

『私は騎手と戦車(チャリオット)を引いてペリュドン共を追っ払ってくる。皆はアンダーウッドを楽しんでくれ』

「おう、気を付けろよ」

「気を付けてね」

言うや否やグリーは旋風を巻き上げ去って行った。

 



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第5話 “主催者”に会うそうですよ?

「あー!誰かと思ったら耀じゃん!何、お前たちも収穫祭に」

「アーシャ。そんな言葉遣い教えていませんよ」

賑やかな声に聞き覚えを感じ上を見る。

そこには、ジャックとアーシャが居た。

「おー、ジャック久しぶりだな」

「ええ、そうですね」

「アーシャも来てたんだ」

「まあねー。こっちも色々あって、サッと!」

アーシャは窓から飛びおりて目の前に降り立つ。

「ところで、耀はもう出場するギフトゲームは決まってるの?」

「ううん、今着いたところ」

「なら“ヒッポカンプの騎手”に必ず出場しろよ。私も出るしね」

「ひっぽ……何?」

耀がこっちを向き説明を求める。

口を開こうとしたが話すのを止め、ジンの背中を叩く。

勉強の成果見せてやれ。

「ヒッポカンプとは別名“海馬(シーホース)”と呼ばれる幻獣で、タテガミの代わりに背びれを持ち、蹄に水搔きを持つ馬です。半馬半漁と言っても間違いではありません。水上や水中を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが“ヒッポカンプの騎手”と言うゲームです」

日頃の勉強のお陰で問題無く説明ができた。

「水を駆ける馬までいるんだ」

耀は両手を胸の前で組み強く噛みしめる。

余程、嬉しいんだな。

その後、俺達は貴賓客が止まる宿舎に入った。

中は土壁と木造の宿舎だったが、造りがしっかりしている。

半分が土造りなのに空気も乾燥していない。

水樹の根が常に水気を放出しているせいだろう。

「凄いところだね」

「ええ、北側は建造物が多いのに対して、南側は環境に適して過ごしてるように思えるわ」

「YES!南側は箱庭の都市が建設された時、多くの豊穣神や地母神が訪れたと伝わっています。自然の力が強い地域は、生態系が大きく変化しますから」

「だが、水路の水晶は北側の技術だろ?似たようなものを誕生祭の時見かけたぞ」

俺の質問に黒ウサギはへ?と首とウサ耳を傾ける。

「良く分かりましたねえ。修也殿の言う通りあの水晶は北側の技術ですよ。十年前、魔王襲撃から此処まで復興できたのもその技術を持ち込んだ御方の功績だとか」

「それは初耳でございます。一体何処の御方が?」

黒ウサギの質問にジャックは顎(?)撫でながら答える。

「実は“アンダーウッド”に宿る大精霊ですが、十年前の魔王襲来のときの傷跡が原因でいまだに休眠状態にあるとか。そこで“龍角を持つ鷲獅子”のコミュニティ“アンダーウッド”との共存を条件に守護と復興を手助けしているのです」

「その、“龍角を持つ鷲獅子”で復興を主導しているのが元北側出身者ってことか」

「はい。おかげで十年と言う短い月日で再活動の目途が立てられたと聞き及んでおります」

「そうですか。凄い御仁でございます」

黒ウサギは胸に手を当てジャックの言葉を噛みしめる。

大方、自分たちとの境遇と似ているから思うところがあるのだろう。

「ヤホホホホ、我々はこれより“主催者”に挨拶に行きます。よろしければ、“ノーネーム”の皆さんもご一緒にどうです?」

「そうですね。荷物を置いてきますから少しだけ待っていてください」

承諾したジャックはアーシャと共に外に出て待っててくれるそうだ。

荷物を宿舎に置きジャックたちと合流して収穫祭本陣へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

螺旋状に掘り進められた都市をぐるぐると周りながら登る。

収穫祭と言うだけあって出店がでてる。

「黒ウサギ。あの出店の“白牛の焼きたてチーズ”って、」

「ダメですよ。食べ歩きは“主催者”への挨拶がすんでから、」

「おいしいね」

「いつの間に買ってきたんですか!?」

黒ウサギのツッコミをスルーし、耀は口の中にチーズを放り込み食べる。

うまそうだな…………

そんなことを考えてると耀が俺のコートの袖を引っ張る。

「食べる?」

差し出されたのは焼き立てのチーズだった。

「いいのか?」

「うん」

「じゃあ、もらう」

手を伸ばし取ろうとするとヒョイッとチーズの入った包み紙を遠ざけられる。

「耀?」

「はい、あ~ん」

ナニシテルンダ?

おっといきなりの出来事に言葉が片言になっちまった。

「耀、流石にこれは恥ずかしいのだが」

「いいから、口開けて」

ずいずいとチーズを持った指を近づけてくるので渋々口を開ける。

そこにチーズが転がり込み咀嚼する。

「どう?」

「あ、ああ、うまい」

「よかった」

耀はそう言って微笑み再びチーズを食べ始める。

正直言うとチーズの味なんて分からない。

あんなことされたら意識がそっちに行くし、分かるわけない。

だって……………耀って……………結構可愛いし…………

なんかスッゲー恥ずかしいこと言ってる気がする。

なんて俺が一人悩んでいる横で耀の食べてるチーズを飛鳥とアーシャは物欲しそうにしていた。

「……………匂う?」

「匂う!?」

「匂う!?今、匂うって言った!?普通そこは食べる?って聞くはずじゃない!?」

「だってもう食べちゃったし」

「しかも空っぽ!?」

「残り香かよ!?どんなシュールプレイ!?」

「……………そう、春日部さんは女同士の友情より自分の恋を選ぶのね」

「!…なるほど、耀はアイツに惚れてるのか」

「な!ち、違……わないけど、違う!」

「あら、何がどう違くて何が違わないのかしら?」

「教えてくんない?」

「二人とも、分かっててやってるよね?」

「「なんのこと~?」」

「う~~~~~~~」

何の話してたんだ?

「ヤホホホホホ!賑やかな同士をお持ちで羨ましい限りですよ、ジン=ラッセル殿」

「でも、賑やかさでは“ウィル・オ・ウィスプ”の方が上だと思います」

「ヤホホホホホホ!いや、まったく恐れ入ります!」

全員で賑やかに階段を上り地表に出ると目の前には巨大な水樹が現れる。

これ、上るんだよな…………

「ジャック、この樹って全長何ⅿ?」

「500ⅿと聞いてますよ。御神木の中では一番大きい部類に入るかと」

「ジン、俺達が向かう場所ってどのあたり?」

「えっと、中ほどの位置かと」

てことは、250ⅿか…………

「修也さん、そんなあからさまに嫌そうな顔しないで下さい」

「俺、飛んで行っていい?」

「私もいい?」

どうやら耀も面倒くさいらしい。

「二人ともいくらなんでも自由度が高すぎるわ」

「ヤホホ!ご心配なく。エレベーターがありますよ」

ジャックの案内で連れられて来られたのは幹の麓だ。

そこには木製のボックスがあった。

「全員乗ったら扉を閉めて傍にあるベルを二回ならして下さい」

「わかった」

全員乗り、縄を二回引っ張ると木製のエレベーターは上がり始めた。

「わっ!」

「上がり始めたわ!」

「反対の空箱に注水して引き上げてるのか」

「ヤホホ!原始的ですが、足で上るよりよほど速いですよ」

収穫祭本陣に付きエレベーターを降りる。

幹の通路を進むと、“龍角を持つ鷲獅子”の旗印が見えた。

「七枚の旗?七つのコミュニティが主催してるの?」

「残念ながらNOです。“龍角を持つ鷲獅子”は六つのコミュニティが一つの連盟を組んでると聞いています。中心の大きな旗は連盟旗です」

「連盟?何のために組むの?」

「用途は色々ありますが、一番は魔王への対抗するためですね」

「要するに連盟加入コミュニティが魔王に襲われたら助太刀しに行くそんなところか」

「YES!更に連盟加入コミュニティなら魔王のギフトゲームへ介入することも可能です」

“一本角”

“二翼”

“三本の尾”

“四本足”

“五爪”

“六本傷”

そして中心が連盟旗“龍角を持つ鷲獅子”か…………

一つあることを考えているとジンは本陣入口の受付で入場届を出していた。

「“ウィル・オ・ウィスプ”のジャックとアーシャです」

「“ノーネーム”のジン=ラッセルです」

「はい、“ウィル・オ・ウィスプ”と“ノーネーム”の…あ、もしかして、“ノーネーム”の久遠飛鳥様でしょうか?」

樹霊の少女が飛鳥を見て声を上げる。

飛鳥はその通りだと頷く。

「私、火龍誕生祭に参加していた“アンダーウッド”の樹霊の一人です。飛鳥様には弟を救っていただいたとお聞きしたのですか」

あおれを聞いて飛鳥はああ、と思い出したように声を上げる。

「やはりそうでしたか。その節は弟の命を救っていただきありがとうございました。おかげで、コミュニティ一同、一人も欠けることなく帰って来られました」

「そう、それは良かったわ。なら、招待状を送ってくれたのは貴女たちなのかしら?」

「はい。大精霊(かあさん)は今眠っていますので。他には“一本角”の新頭首にして“龍角を持つ鷲獅子”の議長でもあらせられる、サラ=ドルトレイクからの招待状と明記しております」

“龍角を持つ鷲獅子”の議長の名前に俺達は驚く。

「ジン、ドルトレイクって………」

「は、はい、サンドラの姉であるサラ様です。まさか南側に来ていたなんて………もしかしたら、北側の技術を流出させたのも」

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

聞き覚えのない言葉に驚き一斉に振り向く。

健康そうな褐色の肌、踊り子のような服装、サンドラと同じ赤髪で長髪、サンドラより長く立派に生えた龍角、そして、二枚の炎翼。

「久しいな、ジン。会える日を待っていた。後ろの“箱庭の貴族”殿とは、初対面かな?」

「サ、サラ様!」

サラ=ドルトレイクがそこにいた。

 

 



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第6話 歌姫だそうですよ?

サラは俺達の顔を一人一人確認し、最後に俺を見る。

その時、わずかに微笑んだ気がした。

「キリノ、受付ご苦労。中には私がいるからお前は遊んで来い」

「え?で、でも私が此処を離れたら挨拶に来られた参加者が」

「私が中に居ると言っただろう?それに、前夜祭から参加するコミュニティは大方揃った。お前も収穫祭を楽しんで来い」

「は、はい」

樹霊の少女もといキリノは嬉しそうな表情をし、俺達に一礼してから収穫祭に向かった。

「ようこそ、“ノーネーム”と“ウィル・オ・ウィスプ”、そしてクルーエ殿の御子息、修也殿。下層で噂になっているコミュニティを招くことが出来て私も鼻高々といったところだ」

「噂?」

「ああ、しかし立ち話も何だ。中に入れ。茶の一つでも淹れよう」

サラに招かれ俺達は貴賓室に招かれた。

「では改めて自己紹介させてもらおうか。私は“一本角”の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。聞いた通り元“サラマンドラ”の一員である」

「じゃあ、地下都市のあの水晶の水路は」

「もちろん私が造った。しかし、あの水晶や“アンダーウッド”に使われている技術は全て私が独自に生み出したものだ。流出させたわけではない」

それを聞くとジンはほっとした顔をする。

「それでは、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが……ジャック、彼女はやはり来ていないのか?」

「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので、今回は参謀の私が」

「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者を、是非とも招いてみたかったのだがな」

北側の下層で最強と言われる言葉に、俺は反応する。

「北側、最強?」

するとアーシャが自慢そうにツインテールを揺らした。

「当然、私たち“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーの事さ」

へ~、“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーって北側最強なんだ。

いつか、戦ったみたいな。

「それにしても、クルーエ殿の御子息の修也殿にこのような形で会えるとは思っていなかった」

「殿はよしてくれ。俺のことは修也でいい」

「そうか。では……………この度は収穫祭に特別ゲストとして参加して頂き誠にありがとうございます。“龍角を持つ鷲獅子”を代表してお礼を申し上げます」

サラは畏まったように頭を下げてくる。

「いや、そんな風に接せられるとこちらとしては結構やりづらいから、普通にしてくれるとありがたいんだが」

「分かっている。仰々しくするのはここまでだ。さすがに、私の勝手な願いで来て貰っておきながら礼の一つでも言わないのは私の義に反する。改めて、ようこそ、収穫祭へ」

そう言って手を指し伸ばしてきたので俺も招待状を送ってもらったことに礼を言い握手をする。

その時、耀は俺に対し黒いオーラを発しながら、サラの頭上にある龍角を見ていた.。

「どうした?私の角が気になるか?」

「うん。凄く立派。サンドラみたいに付け角じゃないんだね」

「ああ、コレは自前の角だ」

「でも、“一本角”のコミュニティだよね?二本あるのにいいの?」

「確かに“龍角を持つ鷲獅子”の一因は身体的特徴でコミュニティを作っている。しかし、頭に着く数字は無視しても構わない。そうでなければ四枚の翼がある種は何処も所属できないだろ?」

「あ、そっか」

「後は役割に応じて分けられるかな。“一本角”“五爪”は戦闘、“二翼”“四本足”“三本の尾”は運搬、“六本傷”は農業・商業全般。これらを総じて“龍角を持つ鷲獅子”連盟と呼ぶ」

なるほど。

何も全てのコミュニティが戦うわけじゃないのか。

「収穫祭では“六本傷”の旗を多く見かけることになるだろう。今回は南側特有の動植物をかなり仕入れたと聞いた。後ほど見に行くといい」

「特有の植物?ラビットイーターとかか?」

「まだその話を引っ張りますか!?そんな愉快に恐ろしい植物が存」

「在るぞ」

「在るんですか!?」

俺のボケにツッコミで対応する黒ウサギだったか予想外にラビットイーターは在った。

「じゃあ、ブラックラビットイーターは、」

「だからなんで黒ウサギをダイレクトに狙うのですか!?」

「在るぞ」

「在るんですか!?一体の何処のお馬鹿様がそんな対兎型最恐プラントを!?」

「発注書ならここにあるが」

サラの机の上に置いてあった発注書を黒ウサギは素早く取り内容に目を通す。

俺も横から発注書を読む

 

『対黒ウサギ型プラント:ブラック★ラビットイーター。八〇本の触手を淫靡に改造す

 

そこまで読むと黒ウサギが発注書を握り潰した。

「………フフ。名前を確かめずとも、こんなお馬鹿な犯人は世界で一人シカイナイノデスヨ」

ガクリと項垂れ、しくしくと哀しみの涙を流す黒ウサギ。

「サラ様、収穫祭にご招待いただき誠にありがとうございます。我々は今から行かねばならない場所ができたので、これにて失礼いたします」

「そ、そうか。ラビットイーターなら最下層の展示場にあるはずだ」

「ありがとうございます。それでは、また後日です!」

そう言うと黒ウサギは紙を桜色に変え、俺たち全員を掴み一目散に駆け出した。

行先は展示会場だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

展示場につくなり黒ウサギは金剛杵を取り出し稲妻をブラックラビットイーターに当て燃やした。

「なんか、勿体ないな」

「うん、勿体ない」

「勿体ないわね」

「お馬鹿言わないでください!こんな自然の摂理に反した植物は燃えて肥しになるのが一番なのでございます!」

そう言うと黒ウサギはフンッと顔を背けてしまった。

「あ、あははは、それでこれから皆さんはどうしますか?」

苦笑いをしながらジンが聞いて来る。

このまま、宿舎に戻っても暇だろうし

「折角だし日が暮れるまで収穫祭でも見ようぜ」

「賛成」

「ええ、私も賛成よ」

「なら決まりですね」

結局全員で収穫祭を見回ることになった。

しかし、急に飛鳥が

「あ、そうだわ。こんな大人数で回ったらきっと他の参加者に迷惑掛かると思うわ」

いや、大人数って五人だけなんだが。

「だから、二手に分かれましょう」

そう言うと飛鳥はジンと黒ウサギを捕まえる。

「私はジン君と黒ウサギの三人で見て回るわ。修也君は春日部さんと一緒に回りなさい」

いや、俺とジンが回った方がいいんじゃ

「それじゃあ、また後で会いましょ」

そう言うと飛鳥は普段では想像つかないスピードで走り出してしまった。

結局、俺と耀の二人が残った。

「…………行くか」

「う、うん(飛鳥………ありがとう)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺は耀と二人で出店を歩き回った。

しかも、全部俺の奢り。

食べ歩きをしながら、農園に使えそうな苗や種を探したり、店でアクセサリーや小物を見たり、なんか民族衣装っぽいものを耀が試着するなどをした。

民族衣装が結構、耀に似合っていて少し顔を背けてしまった。

そのことで耀に文句を言われ正直に言うと顔を真っ赤にして俯いてしまった。

正直、こっちも恥ずかしかったのだが………

「それにしても、ギフトゲームは少ないな」

「うん、殆どバザーや市場が主体だった」

「折角だし、なんかギフトゲームをしたいんだが」

辺りを見渡しギフトゲームが無いか見渡すと人だかりができてる場所を見つけた。

「あそこ、行ってみようぜ」

「うん」

人だかりに近づくと多くの人の中心に舞台があり、その中央で女性が歌を歌っていた。

 

『ギフトゲーム名:アンダーウッドの歌姫

 プレイヤー参加条件:女性のみ

 勝利条件:歌で高得点を出し上位入賞

 敗北条件:なし

 勝利報酬:上位入賞者に“六本傷”の商品券 優勝者には特別報酬有り 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、ギフトゲームを開催します。

 

                            “六本傷”印』

 

要するにカラオケ勝負か…………

でも、女性のみ。

俺は参加できないや。

「耀、やってみたら?」

「でも、私、歌ってそんなに知らない」

「まぁ、物は試しだ。やってみろよ」

「………うん、わかった」

そう言って耀は飛び入り参加受付に向かった。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耀SIDE

 

どうしよう………

歌なんて本当に知らないし、歌ったことすらない。

知ってる歌なんてドラ〇もんぐらいしかない…………

とりあえず、渡された歌一覧表で何かないか探す。

ページを次々と捲り、歌を探し出す。

そして、サ行のページで一曲ある歌が目に入る。

この歌………知ってる。

何で知ったか覚えてないけど歌詞は知ってる。

振り付けも覚えてる。

これで行こう。

その歌を選択し、自分の番が来るまで何度も頭の中でその歌を反復する。

 

耀SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

修也SIDE END

 

観客たちと混ざりながら次々と出てくる女性の歌を聞く。

耀の番はまだか?

『それでは、次はいよいよ最後の方です!“ノーネーム”所属、春日部耀さんです!』

司会の言葉に周りはつまらなさそうにする。

まぁ、最後が“ノーネーム”じゃ、嫌だよな。

舞台の端から耀が現れ、マイクを手に取る。

『なんでも、春日部さんは今から歌う曲を振り付けと一緒に披露してくれるそうです!これは期待できそうですね!』

司会の一言に観客も騒がなくなった。

いい仕事してるな。

『それでは、春日部耀さんで“星〇飛行”どうぞ!』

歌が流れ始めると耀は普段から想像できないぐらいの軽快に踊りだした。

歌唱力も十分にうまい。

結構うまいなぁ~。

感心しながら耀が歌うのを見続ける。

そして、サビに入る瞬間のポーズ(キラッ☆の所ですBy作者)の時何故か一瞬

ドキッとした。

それからと言うもの何故か耀の行動一つ一つに目が行ってしまい歌に全然集中できなかった。

そして、歌が終わる。

『いや~、凄かったですね!現在のトップは97、7385点。これを上回れば春日部さんの勝利です!さて、結果は』

そして、

後ろの採点掲示板が点滅し点数を出す。

『おぉ――――っと、これは!?100点!文句なし!優勝です!』

そして、耀の優勝が決まり歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修也、優勝した」

「あ、ああ、そうだな。おめでとう」

何故か目を逸らしてしまう。

「………どうしたの?」

「い、いや、なんでもない」

「………顔、赤いよ?」

「早く、ジン達と合流しようぜ!」

会話を無理やり遮り、耀の背中を押して移動する。

「う、うん、分かった」

はぁ~、どうしたんだ?

俺は…………

 




想像しよう。
星〇飛行を踊る春日部耀を


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第7話 巨人族の襲撃だそうですよ?

ジン達と合流し、“ヒッポカンプの騎手”を始め幾つかのギフトゲームへの参加登録をした後宿舎に戻り談話室に集まった。

「しかし、思ったよりギフトゲームの数が少なかったな」

「YES!本祭が始まるまではバザーや市場が主体となります。明日は民族舞踏を行うコミュニティも出てくるはずなのです」

黒ウサギは何時になくハイテンションでウサ耳を左右に揺らす。

そういえば、最初からここに来るのが楽しみだったようだな。

耀もそれに気づき黒ウサギに質問する。

「ねえ、黒ウサギ。もしかして前々からアンダーウッドに来たかったの?」

「ええと、昔お世話になった同志が、南側の生まれだったので少し・・・」

「同志ってことは・・・」

「はい。魔王に連れ去られた一人で、幼かった黒ウサギをコミュニティに招きいれてくれた方でした」

その言葉に俺達は驚愕し顔を見合わせる。

「黒ウサギはノーネームの生まれではないの?」

「はい。黒ウサギの故郷は東の上層の“月の兎”の国だったとか。しかし、絶大な力を持つ魔王に滅ぼされ、一族は散り散りになり、一人放浪としていたところを招き入れてくれたのが今の“ノーネーム”なのです」

それって二度も故郷を魔王に滅ぼされたってことだよな。

献身的な態度も“月の兎”である以上に、その体験からきてるんだろう。

「黒ウサギは受け入れてくれた恩を返すために、ノーネームの居場所を守るのです。そして、いつの日か皆様のようなな素敵な同志が出来たと紹介したいんです」

黒ウサギは気合を入れるように両腕に力を込める。

俺は耀と飛鳥に目を合わせ小さく微笑んだ。

二人も同じように微笑む。

「そう。ならその日、とても楽しみにしてる」

「俺もだ」

「私もよ。ところでその黒ウサギの恩人ってどんな人だったの?」

飛鳥の質問に黒ウサギは少し寂しそうに、そして嬉しそうに言う。

「彼女の名前は金糸雀様。我々のコミュニティの参謀を務めた方でした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

談話室を後にした後俺はベットに寝転がった。

寝ごろがると急に眠気が襲ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

『どうだ!これが俺の息子だ!』

 

『あら、よく似てるわね。……………可哀想に』

 

『どういう意味!?』

 

『そのまんまよ』

 

『――は、そう思わないよな!?』

 

『―――。母親の血も入ってるしそれで中和されてイケメンになるはずだ』

 

『――も酷い!』

 

『ちょっと、クルーエ。うるさいわよ。子供が起きるでしょ』

 

『俺のせい!?』

 

『クルーエ、将来俺の娘の婿にでも』

 

『誰がやるか!』

 

 

 

 

 

「何だ、今の夢?」

多分だが騒いでたのは親父だろ。

後、見事な体躯に整った顔、野暮ったいボロボロの服を着た男性と真っ白なロングコートに赤紫のキャミソール、耳に左右対称な貝殻を付けたイヤリングとヴェーブを引いたショートカットの金髪に整った小顔の女性。

あの二人は誰だ?

親父と仲が良さそうだった。

見た感じ俺の赤ん坊の時の記憶、となるとその二人は親父の友人か………

そんなことを思ってると急に部屋が揺れ始め驚く。

「な、何だ!?」

直ぐさま部屋を飛び出る、その直後俺が居た部屋が何者かによって破壊される。

後ろを向くとそこには巨大な腕があった。

「きょ、巨人……」

破壊された部屋の向うには片手に巨大な斧を持ち三〇尺はある身長の巨人が居た。

顔は仮面で隠されている。

俺はここで戦うのは不利と思い翼を出し地表に上がる。

地表ではすでに乱戦状態。

巨人の数は二〇〇ぐらいか。

巨人一人に味方が十人で防げると言ったところか。

数ならこっちが多いいが、いきなりの襲撃に全員混乱してる。

どうやら、サラは主力の巨人三体と戦って指揮がとれない。

少し離れた所でディーンが戦っている。

いくらサラでも主力三体相手にはきついはず。

スピードを上げサラが相手してる巨人の一人を蹴り飛ばす。

「しゅ、修也か!」

「サラ、こいつらは俺が相手する!お前は指揮を執れ!」

「だが、お前一人では」

「問題無い。だって……」

サラと話してる最中後ろから巨人が剣を振り下ろしてくる。

その一撃を俺は見ずにそのまま手で受け止める。

「半吸血鬼だがらな」

そのまま、片手で剣を押し返し、白牙槍を出し、一体をねじ伏せる。

「わかった!なら、ここは任せる!」

そう言うとサラは炎翼を出し、連盟の指揮を執り始める。

「来いよ。巨人共、力で勝てると思うなよ」

槍を構え迎え撃とうとすると急に何処からか琴線を弾く音が聞こえた。

すると急にあたりを濃霧が包んだ。

おまけに聴覚と嗅覚に異常を感じた。

俺は焦らずギフトカードから一本の小瓶を取り出し中の液体を飲む。

飲んでる最中、巨人の拳が飛んでくる。

ソレを躱し、そのまま飛び上がり顔を掴んで地面に叩き付ける。

その一撃で巨人は沈黙する。

そして

「お前らは吹っ飛びな」

白牙槍に風を纏わせそのまま横薙ぎに振り、吹き飛ばす。

吹き飛ばさせれた巨人は地面に倒れそこをハープーンガンで撃ち抜き倒す。

そして、今度は両手に旋風を溜めそのまま振り濃霧を吹き飛ばす。

流石に力が弱く全ての濃霧を吹き飛ばせなかった。

「それは鷲獅子のギフトですか?」

背後の声に驚き後ろを振り向く。

そこには白髪で白いスカートに白銀の鎧を身に纏い顔の上半分を白黒の舞踏家面で隠し、手に剣を携えた女性だった。

ついでにいえば髪以外は血まみれだった。

「あんたは?」

「これは申し遅れました。私はフェイス・レスと言います。以後お見知りおきを」

「俺は月三波・クルーエ・修也だ」

「クルーエ?もしや、クルーエ・ドラクレア殿の」

「息子だ」

「そうですか」

仮面の騎士もといフェイス・レスはなにか納得したように頷く。

「ところで、先程の力は鷲獅子のギフト。何故、それを?」

「さっき、鷲獅子の血を飲んだ。俺のギフトの力で幻獣の血を飲むとその幻獣の力を一時的に使用できるんだ。もっとも最近知ったことだが」

「なるほど」

それだけを言うとフェイス・レスは持っていた剣を鞘にしまう。

その直後安全を知らせる鐘が鳴った。

濃霧も他の幻獣の働きにより払われた。

「なぁ、フェイス」

「フェイス?」

「ああ、フェイス・レスって長いからな。そう呼ばせてもらうぜ。あんたと親父の関係を聞かせてほしいんだが、いいか?」

「………まぁ、いいでしょ」

取りあえずフェイスの隣に立ち、話を聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。結局あんたも親父に助けられたのか」

「はい、あの時クルーエ殿が助けてくれなかったら私は今こうして生きていることはなかったでしょう」

フェイスの話を聞くとやはり、親父に命を助けられたとの話だった。

この調子だと他にも命助けた奴がいそうだな。

「それと、クルーエ殿は私に剣の稽古をつけてくれました」

「へぇ~」

「言うなればクルーエ殿は私の剣の師でしょう」

そう言うフェイスの声に少しばかり嬉しさがでていた。

そう思い地平を見ると何かがこちらに近づいてきた。

よく見るとそれは

「まずいぞ。フェイス」

「え?」

「巨人族がまた攻めてきた!」

白牙槍とハープーンガンを取り出し、翼を出して構える。

フェイスも剣を抜き構える。

 



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第8話 元魔王再び降臨だそうですよ?

また巨人族が攻めてきた。

十六夜のヘッドホンが私のカバンの中にあってそれが三毛猫のやったことだった。

しかも、巨人の襲撃の時、ヘッドホンが壊れてしまってどうしようかと悩んでる時にまた攻めてきた。

すぐに皆と外に出てみるとすでに“一本角”と“五爪”の人たちは壊滅状態だった。

そのことに驚いてると空からグリーが落ちてきた。

翼は荒れてて、後ろ脚も怪我してる。

『耀!丁度いい、今すぐ仲間を連れて逃げろ!』

「え?」

『彼奴らの主力に化け物がいる!先日の奴らとは比べ物にならん!このままでは全滅だ!』

グリーがそう叫ぶ最中、また琴線を弾く音が聞こえた。

この音、濃霧の時と同じだ。

『奴だ!その音色で見張りの意識を奪われ二度も襲撃を許してしまった。今は仮面の騎士と修也が戦線を支えているが、それもいつまで持つか』

修也が戦っている。

その言葉に私は衝撃を受けた。

また、修也だけに戦わせてる。

そんな思いを隠しながらグリーの言葉を翻訳して皆に話す。

「仮面の騎士!?まさか、フェイス・レスが参戦してるのですか!?」

「まずいぜ、ジャックさん!もしアイツになにかあったら“クイーン・ハロウィン”が黙ってねえよ!すぐ助けに行こう!」

ジャックに飛び乗りアーシャたちは最前線を目指す。

私はグリーに再び状況を尋ねる。

「この竪琴を弾いてる巨人は修也や仮面の人でも倒せないの?」

『というより攻めあぐねている。あの音色は近くで聞くほど効力を発揮する。となれば神格級のギフトと見て間違いない』

「神格………それで修也と仮面の人と竪琴の巨人は?」

『先ほどまで共に戦っていたのだが竪琴の方は姿を消した。仮面の騎士と修也は音色に耐えながらも戦いに臨んでいる。………あと竪琴の主は、巨人族ではない』

「え?」

『お前たちと身長は変わらない。深めのローブを被った人間だ。巨人族が従っているところを見ると奴が指揮者かもしれない。それに奴だけではない。空から確認した所、巨人の数は五〇〇人超と言ったところだ戦闘を請け負う“一本角”と“五爪”は壊滅状態でもう………』

私は言葉を無くした。

どうすれば………………

対抗しようにも今の内容を説明できなかった。

代わりに黒ウサギが飛鳥とジン君に説明する。

するとジン君が一歩前に進み出て意外なことを言った。

「大丈夫。僕に考えがあります。先ほど“サウザンドアイズ”からギフトが届きました。もし敵の巨人族がケルトの末裔だというのなら、このギフトで敵の戦線を瞬間的に混乱させられるはず」

「ほ、ほんとに」

「はい。しかし、それだけでは足りません。竪琴の術者を破らねば同じことを繰り返すだけです。術者を逃がさないためにも………耀さん、貴女の力が必要です」

「………それは、見せ場を譲るということ?」

私は少し不機嫌そうに言う。

同情で言われてるなら嫌だ。

「違います。僕の予想が正しければ耀さんの力が必要な状況に陥るはず。貴女でなければできない事です」

ジン君に真っ直ぐ見つめられ、そう言われる。

同情とかそんな理由じゃなかった。

「わかった。作戦を教えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

ジン君飯言われた通りに私は上空でその混乱が起きるのをまった。

上空1000ⅿ。

“アンダーウッド”よりも高い位置に止まり、鷹の目で地上の様子を見る。

奇襲を仕掛けるにはこれ以上にない位置。

これでジン君の言う通りになれば…………

本当ならこんな大役、修也か十六夜に任せられてるはず。

あの二人なら奇襲じゃなくって混乱に乗じて真っ正面から突っ込むはず。

そして、誰にもまねできない劇的な勝利で、笑うはず。

私もこの作戦が成功したらあの二人みたいに笑えるかな………

腰に手を当てて二人がする様に笑ってみる。

「あはははははははははははははははははははははははははははははははうんこれはない」

予想以上に恥ずかしい。

いくらテンションが高くてもこれはない。

誰も見てなくて良かった。

暫くするとジン君がギフトを発動したらしく漆黒の風が起きる。

その風が圧縮され人の形になる。

そして、圧縮された空気は一気に放出し爆ぜた。

そして、そこから現れたのは

 

「 何 処 に 逃 げ た の 、 白 夜 叉 あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ッ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ! ! ! 」

 

その声に聞覚えがあった。

審議決議の時聞いたものだ。

え?

新しいギフトってペスト?

でもなんでメイド服?

後、何故白夜叉の名前を叫んでるの?

それより、一撃で一〇〇の巨人を薙ぎ払ったのは凄い。

あ、そう言えば、前読んだ『黒死病について』に巨人の話があったっけ。

確か、巨人族の闘争を記した話で巨人族が黒死病を操って他の巨人族を操ったとか。

ジン君が狙ってたのはこれだったんだ。

 

「 出 で 来 い 、 出 て こ い 、 出 て 来 な さ い 白 夜 叉 ッ ! よ く も 元 魔 王 の 私 に 、 あ ん な 下 劣 で イ ヤ ラ シ イ 服 装 の 数 々 を ! 」

 

「ウオオオオオオオオオオッォォォォォォ――――!」

 

「 五 月 蠅 い わ 、 こ の 木 偶 の 坊 ! 」

 

ペストが再び腕を一振りし巨人を軽々と薙ぎ倒す。

ペストが凄いと思うと同時にジン君のギフトも凄いと思った。

確か“精霊使役者”だったかな?

取りあえず今は、作戦に集中しよう。

ペストが巨人族を殲滅していくと、ジン君の予想通り濃霧が発生した。

耳を澄ませ、ソナーのように超音波を発生させて音源を探る。

視覚、聴覚、嗅覚を惑わせても元が音波ならこの方法で位置を探れるはず。

問題は上空から離れすぎてるから多少の位置修正が必要なぐらい。

……………見つけた!

力を解放し、一気に急降下する。

濃霧を突き破り、敵の手の中にある“黄金の竪琴”を素早く奪い取る。

そして、そのまま上空に逃げる。

「やった………できた」

作戦が無事に行ったことに安堵の息を吐く。

「……フフフフ」

修也や十六夜みたいではないけど、自然と笑いが込みあがって来た。

 



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第9話 巨竜現れるそうですよ?

次の日の朝、俺達は“アンダーウッドの地下都市”新宿舎でフェイス・レスとご対面した。

「彼女こそ“クイーン・ハロウィン”の寵愛を受けた騎士“顔亡き者(フェイス・レス)”!どうか親しみを込めてフェイスと呼んでやって下さい!」

「………そう。彼女が……」

妖気に彼女を紹介するジャックだが、飛鳥は複雑そうな顔をしている。

なんでも、昨日巨人族に囲まれているところを助けられたとか。

「なるほど。“クイーン・ハロウィン”の寵愛者。世界の境界を預かる精霊の力を借り、ヘッドホンを召喚することですね?」

「ヤホホ!彼女は今我々“ウィル・オ・ウィスプ”の客分でしてね。彼女なら、代わりの品を召喚できるはずですヨ!」

後で聞いた話だが十六夜のヘッドホンを盗ったのは三毛猫でそのヘッドホンを耀の鞄に隠していたらしい。

しかし、巨人族の襲撃で壊れてしまい、ジンの出した案でフェイスにヘッドホンの召喚を御願いすることになったらしい。

「だが、異世界からの召喚となるとかなり高額なんじゃないか?」

「高額どころか本来なら拒否しますヨ。しかし、“ノーネーム”とは長くお付き合いさせてもらう予定なのでまぁ、お友達料金ということで手を打たせてもらいました。それに、彼女自身召喚をすることに異論はないそうです」

「そうなのか。でも、どうしてだ?」

「本当であればお断りしたいぐらいですが、私は貴方の御父上、クルーエ殿に命を救っていただいた恩があります。その恩を返すと思えば安いと思っただけです」

「そうか、ありがとな」

フェイスにお礼を言うとフェイスは再び口を開く。

「ですが、一つ問題があります。厳密には“クイーン・ハロウィン”の力で召喚するのではなく、星の廻りを操って因果を変える、要するに彼女が初めからヘッドホンを持ち込んでいたという形での再召喚。なのんで彼女の家にヘッドホンがないと成立しません」

「それなら大丈夫。家に十六夜のと同じメーカーのヘッドホンがある。それに父さんはビンテージ物だって言ってたから、十六夜もあれならきっと喜んでくれる」

まぁ、十六夜ならビンテージ物とかに喜びそうだな。

「でも、いいのか?そのヘッドホン親父さんのだろ?」

「それは大丈夫父さんも母さんも行方不明のままだがら」

「す、すまない。そうとは知らずに」

「ううん。私も話してなかったし……それに私達四人とも自分の事話したがらなかったから。知らないのも当然だと思う」

確かに、箱庭に来て結構時間が経つのに俺達は自分のことを話していない。

別にそれが悪いとは思わない。

でも…………どうせならお互いの事知りたいよな。

「なら、ヘッドホン渡したら四人でお茶会でもするか。異邦人のお茶会なんてな」

「あら、いいわね」

「うん。賛成」

俺達は互いに笑い合う。

笑い合った後螺旋階段を上り、地表に出る。

フェイスは“黄道の十二宮”を描いた陣を用意した。

陣の中央に耀が座り、フェイスが“クイーン・ハロウィン”の旗印が刻まれた剣を取り出す。

すると太陽の光が地面に描かれている十二宮の紋章を輝かす。

「ねぇ、修也君、どうしてハロウィンと太陽と“黄道の十二宮”が関係あるの?」

「ああ、ハロウィンは元々一年間の太陽の周期を二分化して行われる祭事を指すんだよ。そして、周期が変わるその時に異世界の境界が崩れ去るそうだ。ついでに、ケルト民族は独自の太陰暦を持つ程高度な天文学を修めていたそうだ。ただそいつらがどんな宇宙観を持っていたか定かじゃないんだ。ハロウィンはその数少ない文化の名残を残す祭事なんだよ」

「なるほど。それで、“黄道の十二宮”は?」

そこまで来て俺はジンにパスする。

「黄道とは“太陽が通過する軌跡”を指します。十二宮とは太陽の軌道上に存在する星座。箱庭内では十二宮の星座を幾つ支配しているかで、太陽の主権を決める程重要なものです」

「おそらく、今フェイスが行っているのは“クイーン・ハロウィン”の力で世界の境界を崩して“黄道の十二宮”の力でそれを安定させてるんだろ。どうだ?」

「YES!修也さんの言う通りなのです。ですが、“クイーン・ハロウィン”の力を借りてるとはいえ、人間が召喚を可能にするとは………」

黒ウサギは感心してるみたいだが、飛鳥は息を呑んでる。

「あの人……人間なの?」

「YES!様々な武具で身を固めておりますが、人間で間違いはありません。それも、皆さんに匹敵するほど、強大な才能の持ち主でしょう。“ウィル・オ・ウィスプ”が北側の下層で最強のコミュニティというのは、あながち間違いでないでしょう」

「そう」

黒ウサギの言葉に飛鳥は相槌を打つ。

耀は瞳を閉じてヘッドホンへの想いを高めている。

あのまま半日もヘッドホンの事を考えてれば後はフェイスがどうにかしてくれるらしい。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

耀SIDE

 

秋霖が過ぎ去った季節。

偶然父さんのヘッドホンを持ち出し付けていた私は、部屋に飛び込んできた三毛猫の招待状を受け取り、その開封口へ手をかける。

私は少し興奮していた。空から私宛の手紙なんて、今の時代では考えられないほどファンタジーに溢れた発想だからだ。

しかし、開けようとした瞬間、ふっと疑問がわいた。

 

……ここで手紙を開けなかったら……?

 

このまま破り捨てたら、私は箱庭に行かなかったことになるのだろうか?

もしそうなら、私は幾つもの辛い思いを帳消しにできる。

ワータイガーの爪に裂かれることもない。

初めてできた友人関係で、胸が締め付けられるようなこともない。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きな人の隣に立てないことで苦しむこともなかった。

 

 

 

私の時代に居たらどれも経験できなかっただろうな。

そう思うと少し誇らしい。

箱庭ではたった二ヵ月間で何度も辛い目に会った。

そして楽しいこともあった。

箱庭に来た私の判断は正しかった。

そう胸を張って私は招待状を開いた。

 

耀SIDE END

 

 

 

 

 

 

修也SIDE

 

儀式は終わった。

問題無く終わった。

あれ?これ問題無い?

儀式が終わると耀の頭上にヘッドホンが出現していた。

なんで、ネコ耳ヘッドホン?

「可愛い!そのヘッドホンすごく可愛いわ、春日部さん!」

飛鳥は瞳を輝かせて耀に飛びついた。

「か、可愛い?」

飛鳥の言葉に意味が分からない耀はヘッドホンを頭から外し見る。

見た瞬間サッと顔を青ざめた。

「な、なんで!?ちゃんと炎のトレードマークも付いてるのに形が変わってる!?」

飛鳥にもみくちゃにされながら困惑する耀。

周りはなんとも微妙な表情でネコ耳ヘッドホンを見つめている。

「あのネコ耳を、十六夜さん飯送るんですか?」

「さ、さぁ?耀さんが判断するんじゃないかな?」

「ヤホホ………でも意外と喜ぶのではないでしょうか?」

ジャック、笑うに覇気がないぞ。

いや、流石に十六夜にネコ耳はないだろ。

その後、フェイスが耀のギフトを見たいとか言って耀がペンダントを渡す。

なんでも、フェイス曰く、耀のギフト“生命の目録”は“他種族のギフトを戴く”だけじゃないらしい。

なんでも、“目録”からのサンプリング、“進化”と“合成”をするのが本来の役割だそうだ。

「気を付けて。本来ならばそのギフトは人間の領域を大きく逸脱した代物ですから」

それだけ言うとフェイスは影を飛び降り地下都市に姿を消した。

てか、ヘッドホンの件、解決してないよな?

それから、十六夜が来るまで代わりになりそうな物を探すがどれもパッとせず結局ネコ耳ヘッドホンを送ることになった。

十六夜がネコ耳ヘッドホンを付けて戦う姿……………

シュールだな……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり俺は自室に戻り、ベットの上に横になった。

今日はずっと耀や飛鳥に連れ回され疲れた。

ベットに横になるとすぐにでも睡魔が襲ってきた。

「おっと、寝ちゃダメだ」

襲ってきた睡魔を振り払い、ギフトカードから血の小瓶を数本取りだす。

 

鷲獅子の血が三本

麒麟の血が二本

光翼馬の血が一本

 

ストックとしては十分だな。

できれば、収穫祭の間に俺も多くの幻獣と知り合って血を分けてもらいたい。

ちなみに、鷲獅子の血はグリーと戦って貰い、麒麟と光翼馬の血は白夜叉がくれた。

小瓶の蓋を外し、血の中に白い錠剤を入れる。

入れたものは血液が劣化するのを防ぐ薬だ。

幻獣の血は非常にデリケートもので少し空気に触れるだけですぐに鮮度が落ちる。

密閉した容器に入れても徐々に劣化していく。

その為にも定期的にこの薬を入れないといけない。

折角貰った血なんだ。

台無しにしたらまずい。

全ての血に薬を入れ終え布団に潜り込み目を閉じる。

すると、待っていたかのように睡魔が襲ってきた。

 

ポロン

 

ん?今なんか音が聞こえたか?

…………気のせいか。

そう思い再び寝ようとすると今度は稲妻が落ち宿舎が倒壊した。

爆風で外に放り出されるがすぐに翼を出して空中で体制を直す。

意識がはっきりとし始めさっきの音が“黄金の竪琴”だと気付いた。

地表に上がり外の様子を見ると巨人族も現れたようだ。

耀たちが心配だ。

ひとまず“ノーネーム”のメンバーと合流をしよう。

その時、空から黒い封書が落ちてきた。

まさか!?

封書を手に取りその内容を読む。

 

『ギフトゲーム名:“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”

 

・プレイヤー一覧

 ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

 ※但し獣の帯が消失した場合、無制限でゲームを一時中断とする。

 

・プレイヤー側敗北条件

 ・なし(死亡も敗北と認めず)

 

・プレイヤー側禁止事項

 ・なし

 

・プレイヤー側ペナルティ条項

 ・ゲームマスターと交戦した全プレイヤーは時間制限を設ける。

 ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

 ・ペナルティは“串刺し刑”“磔刑”“焚刑”からランダムに選出。

 ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

 ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課せられる。

 

・ホストマスター側 勝利条件

 ・なし

 

・プレイヤー側 勝利条件

 一、ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。

 二、ゲームマスター・“レティシア=ドラクレイア”の殺害。

 三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

 四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “        ”印』

 

やっぱり魔王の契約書類だ。

それより

「レティシアがゲームマスターだって!?」

どういうことだ?

それに、このゲームの内容…………

出鱈目すぎる。

ペストの時とは明らかに違うゲーム。

これが本当の魔王のゲームかよ………

契約書類を穴が開くほど睨みつけてると

「GYEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaa!」

巨大な咆哮が響き渡った。

咆哮が聞こえた方を向くとそこには

「おい………冗談だろ……」

巨竜がいた。

 



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十三番目の太陽を撃て
第1話 古城潜入だそうですよ?


久々の更新

腕が鈍ってないといいです……


最悪なギフトゲームがスタートし、時間が経つ。

 

俺は巨人族相手に槍を振るい銃を撃つ。

 

鷲獅子の血を呑み旋風を使って吹き飛ばす。

 

触手の生えた変な生き物や火蜥蜴、そして巨人。

 

倒しても倒してもきりがない。

 

「レティシアはどこだ!?」

 

敵を倒しながらレティシアを探す。

 

アンダーウッドがこのような状態になり十六夜とレティシアも急遽こちらに来ることにな

った。

 

時間的にもう着いてるはずだ。

 

とにかくレティシアを見つけ出して事情を聞かないと。

 

そう思ったとき雷が鳴る。

 

そして、聴き慣れた声が響いた。

 

「“審判権限”の発動が受理されました!」

 

黒ウサギだ。

 

これで、ギフトゲームは一時中断される。

 

「ただいまから“SUN SYNCHRONOUS in VAMPIRE KING”は一時休戦し、審議

決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブル

の準備に移行してください!繰り返し

 

「GYEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEE

EEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

審議決議の宣戦中に巨龍が急にアンダーウッドに急降下をし始めた。

 

巨龍はそのまま“アンダーウッド”の頭上100ⅿを通過した。

 

そして、たったそれだけで“アンダーウッド”で戦っていた者達が空中に飛ばされた。

 

「マジかよ!?」

 

槍を地面に突き刺し飛ばされないようにする。

 

まさかただ動いただけでこれだけの暴風を起こすとはな。

 

流石は最強種だな。

 

などと思っていると視界にある人物を捉えた。

 

「何してんだよ、あの人!?」

 

槍を地面から抜き、飛び上がり、俺はその人を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜SIDE

 

巨龍が消えた後俺はひとまず“ノーネーム”の仲間と合流するため救護所に足を運んだ。

 

一時間程で黒ウサギ、お嬢様たちとは合流できた。

 

だが、修也と春日部の姿は見当たらなかった。

 

「ダメだな。これだけ探して見当たらないとなると修也と春日部もレティシアと同じよう

に何かしらの異常があったと考えていい」

 

「で、でも春日部さんと修也君は空を飛べるのだがら無事だと思うのだけど……」

 

「逆だ。空を飛べて五感も鋭い二人が俺達と合流できない。なら何か重大な理由があるはず

だ」

 

俺の言葉にお嬢様は動揺する。

 

隠そうとしているがやはり隠しきれてない。

 

「そもそもレティシアが連れ去られたというのは本当なの?」

 

「ああ。そしてこのゲームがレティシア、“魔王ドラキュラ”の主催するギフトゲームでだ

ってこともな」

 

懐から苦労“契約書類”を取り出しお嬢様に渡す。

 

「………出鱈目な内容ね」

 

「そうでもない。少なくともゲームとしての整合性は取れてる。後は何点か黒ウサギに確認

すれば……」

 

「十六夜さん、飛鳥さん!耀さんと修也さんの行方が分かりました!」

 

「本当!?」

 

「YES!……ですが、かなりまずいことになっているようです」

 

黒ウサギは苦々しい表情を浮かべる。

 

そう言う黒ウサギの腕にはボロボロで気を失ってる三毛猫がいた。

 

「春日部になにがあった?」

 

「目撃者によると………耀さんは、魔獣に襲われた子供を助けようとして……」

 

「魔獣と共に空に上って行ったということです」

 

マジかよ………

 

「……で、修也は?」

 

「………これを」

 

御チビが布に包まれた何かをだした。

 

そこには

 

「おい………冗談だろ………」

 

ミッドナイトブルーのギフトカードがあった。

 

 

月三波・クルーエ・修也

ギフトネーム

“忠義の吸血騎士(ロード・オブ・ヴァンパイアナイト)”

“ヒューメルーン”

“ハープーンガン-パイドパイパー-”

 

修也のギフトカードだ。

 

「そして、修也さんもあの城に居ると情報が」

 

その言葉に俺達は一斉に空に浮かぶ古城を見る。

 

「あの城に春日部さんと修也君が乗り込んだって言うの!?」

 

「……はい」

 

お嬢様は顔面蒼白になる。

 

俺も思わず舌打ちをしちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、俺はおそらく敵の本拠地で在ろう古城にいる。

 

「フェルナ、この辺に敵は?」

 

「フェルナ―ン」

 

居ないようだな。

 

「それにしても、面白い人形ダナ」

 

俺の横で興味深そうにフェルナを見つめるのはネズミさんことネズさんだ。

 

「ネズさん、どうして“アンダーウッド”に?」

 

「ああ、オイラの所は情報コミュニティだからな。こういうイベントは情報交換や取引する

のにもってこいの場なんだヨ。一応招待客ってことになってるんダ」

 

てことは“龍角を持つ鷲獅子”に知り合いでもいるのか。

 

「!、ネズさん、隠れて」

 

「ほいほい」

 

近くの建物に入り隠れる。

 

すると建物の陰から血塊と苔の塊のような人型の生物が現れた。

 

数は十か。

 

槍を握り締め一気に飛び出す。

 

目の前の三体を一気に槍で切り裂き、一列に並んでる二体を貫く。

 

あらかじめ切り裂いておいた腕から血を巻き三体血を付着させる。

 

事前に血に俺が敵と認識した者に付着したら自動的に殺せと命じ解いた。

 

そのため血が付着した三体は瞬く間に血に切り殺され死んだ。

 

残り二体。

 

「うおおお!?」

 

ネズさんの声に振り向くとネズさんが残りの二体に襲われていた。

 

まずい、ネズさんは逃げ足と情報収集・処理は得意だが戦闘は無理なんだ。

 

助けに向かおうとすると

 

「YAッFUFUFUUUUUUUUU!!!」

 

軽快な笑い声と、紅蓮の熱風が吹き抜けた。

 

先程の二体は炭となりそして、叩き潰された。

 

「ジャック!」

 

「修也殿、ご無事で何よりです!」

 

ネズさんを助けてくれたのはジャックだった。

 




少し文の作りを変えます。

今までの分もこんな感じに修正します


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第2話 仲間と合流だそうですよ?

「それにしてもなんでここに?」

 

「多くの参加者がここに飛ばされるのを確認しまして、それで助けに来たというわけです」

 

なるほどな。

 

「こいつは驚いタ。北側の下層で最強と言われてるコミュニティ“ウィル・オ・ウィスプ”じゃないカ」

 

「初めまして、お嬢さん。“ウィル・オ・ウィスプ”のジャック・オー・ランタンといいます。以後お見知りおきを」

 

「“インフォーマント”リーダーのネズミダ。よろしくな、カボチャさん♪それと、もうお嬢さんって年でも無いサ。強いて言うならお姉さんだな♪」

 

ジャックとネズさんの挨拶が済むと何処からか女性の声が聞こえた。

 

「お、おい!?シュウ坊!?」

 

ネズさんの声が聞こえたが無視をして走る。

 

声が聞こえた場所に着くと苔生物が子供を襲っているところだった。

 

「伏せろ!」

 

声を上げ槍を投げ飛ばす。

 

槍はそのまま苔生物に突き刺さる。

 

そして、一気に加速し槍を引き抜き、突きのラッシュを繰り出し倒す。

 

「おい!大丈夫か?」

 

怯えてる子供に手を伸ばそうとした瞬間

 

「セイッ!」

 

「あぶっ!?」

 

誰かの蹴りが俺の首に当たり俺の意識を奪った。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

耀 SIDE

 

「あれ?修也?」

 

敵だと思っておもいっきし延髄蹴りをしたら、相手は修也だった。

 

もしかして、何か間違えたかな?

 

「おーい、シュウ坊!どこ行った………って、こりゃどういう状況ダイ?」

 

フードを深くかぶり目を隠した小柄な女性が現れた。

 

シュウ坊って修也の事かな?

 

ふ~ん……………修也ってこんな人と友達なんだ…………

 

後で問い詰めよう(黒笑)

 

「お嬢さん?なんか怖い笑みを浮かべてるゾ?」

 

「気にしないで。それより「キャアアアアアア!」ッ!?」

 

子供の悲鳴。

 

あっちにも冬獣夏草が現れた。

 

早く助けに行かないと。

 

すぐに旋風を起こし走り出そうとすると聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「YAッFUFUFUFUUUUUUUUUUuuuuuuu!」

 

この声は………

 

突如起きた紅蓮の旋風が冬獣夏草を炭にして、その旋風を起こした者が叩き潰した。

 

「ヤホホホホホ!呼ばれてないのにジャッジャジャーン!大丈夫ですか、お子様方?」

 

ジャックだ。

 

頭にはアーシャもいる。

 

「はい!」

 

ジャックの言葉に子供たちは大きな声で返事をする。

 

「それは重畳!こやつらは私が引き受けますから、其処の建物にお逃げなさい!」

 

ジャックの言葉に従い子供たちは建物に逃げる。

 

「全員隠れたよ、ジャックさん」

 

頭に乗ってたアーシャがそれを確認する。

 

「………解かりました」

 

あれ?急に声のトーンが変わった?

 

そして、ジャックの霊格が肥大した。

 

ど、どうしたの?

 

「“ウィル・オ・ウィスプ”の御旗を前にして、幼子を食い殺そうとするとは。何と無知。何という冒涜。我らの御旗の掲げる大義を知らぬというのか………!」

 

「ジャ、ジャック?」

 

ジャックに向かって彼の名前を呟くが聞こえてない。

 

「知らぬなら我が業火の中で知りなさい。後悔なさい。我らが蒼き炎の導を描きし旗印は―“ウィル・オ・ウィスプ”の御旗は、決して幼子を見捨てはしないのだとッ!!」

 

全身から陽炎を立ち昇らせて敵をジャックは睨みつけた。

 

「おうさ!やっちまおうぜジャックさん!」

 

アーシャが指を鳴らすとジャックの頭上に七つのランタンが現れる。

 

ランタンの蓋が開くと同時に荒ぶる業火が零れ落ちて膨れ上がる。

 

「お、おいおいマジかよ!地獄の炎をそのまま召喚するなんぞ、そんじょそこらの悪魔に出来る芸当じゃないぞ!城下街ごと消し飛ばすつもりか!?」

 

「………?此処、危険?」

 

「超危険!逃げろ、耀お嬢ちゃん!」

 

その瞬間、灼熱の嵐が吹いた。

 

その業火は大地を焦土し、大気を灼熱に変え、影も残さず敵を焼殺する。

 

そして業火は、そのまま城下街を飲み尽くす勢いで燃え広がり敵を焼失させる。

 

「わ、わわわわ!」

 

慌ててキリノとガロロさん、修也を抱えて飛ぶ。

 

殺気の女性も捕まえようとしたがいつの間にか居なかった。

 

「ヤホホホホホホホホホホホホホ!!!大・炎・上!!!」

 

陽気な声を上げ、業火の佇むジャックの姿を見て私は思った。

 

ジャックは本当に悪魔が生み出した眷属なんだ………

 

暫く上空に待機して、火が鎮火してから降りる。

 

「おや、彼女は……」

 

「あ、耀じゃん!アンタも子供たちみたいに捕まってたわけ?」

 

ジャックとアーシャが私に気付く。

 

「違う。捕まった人を助けに来ただけ」

 

アーシャの言い方に少しむっとなって言い返す。

 

「やれやれ、変わりませんねえ、貴女も」

 

「え?」

 

ジャックが少しがっかりしたように言ったので少し気になった。

 

「何はともあれ、ここは危険です。他の参加者とも合流しましょう」

 

「そうは言うがな。アンタの召喚した業火の中で無事な奴はいるのかね?」

 

確かに。

 

あんな業火の中じゃ、普通の人ならだだじゃすまない。

 

「ご安心をガロロ大老。我々の使い魔が安全な場所に案内をしています」

 

そう言ってジャックが指を鳴らすと二足歩行のキャンドルスタンドとランタンを持った小さな人形合わせて十五体現れた。

 

「ご苦労様。他の参加者は無事ですか?」

 

「らんたーん♪」

 

「よろしい。それでは保護した皆さんをここに集めてください。ガロロ大老が居ると言えば、素直に集合してくれるでしょう」

 

「らんたーん♪」

 

返事をしてキャンドルスタンドとランタン人形が走っていく。

 

あのランタン人形、フェルナに似てるかも…………

 

「フェルナ―ン………」

 

心配そうな声を上げ修也を揺するフェルナ。

 

……………早とちりって怖いなぁ…………

 

「今後の方針は貴方にお任せしますよ。ガロロ大老」

 

「方針?脱出するための?」

 

「脱出したところで一時しのぎにしかならないでしょう少なくともここに居るメンバーは全員、ペナルティ条件を満たしてしまっているのですから」

 

「え?」

 

「春日部嬢はギフトカードをお持ちですか?持っていたら出してみたください」

 

ジャックに謂れポッケに入れといたパールエメラルドのギフトカードを取り出す。

 

そこには見たことのない紋章が浮かんでいた。

 

「これは“ペナルティ宣告”です。主催者側から提示されたペナルティ条件を満たしてしまった対象者には、招待状とギフトカードに主催者の旗印が刻まれるのです」

 

ペナルティ条件を確認しようと“契約書類”を取り出す。

 

 

・プレイヤー側ペナルティ条項

 ・ゲームマスターと交戦した全プレイヤーは時間制限を設ける。

 ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

 ・ペナルティは“串刺し刑”“磔刑”“焚刑”からランダムに選出。

 ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

 ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課せられる。

 

 

 

「でも、私、ゲームマスターと………レティシアと戦ってない」

 

ここに書いてある通りならレティシアと戦わないといけないはずだ。

 

でも、私は戦ってない。

 

なのにどうして?

 

「おそらく、既に戦っちまったんだろう」

 

横を見ると修也が首をさすりながら起きていた。

 

「修也!」

 

「よぉ」

 

片手を上げ挨拶をしてくる。

 

それより

 

「修也、さっきも言ったけど私はレティシアと戦って」

 

「ああ、聞いてたから分かる。ところで耀、お前触手が生えた化け物やでっかい火蜥蜴と戦わなかったか?」

 

「う、うん。戦った」

 

「あれは巨龍から生み出された生物だ。もし、ゲームマスターがあの巨龍ならその分身と戦うことはゲームマスターと戦うことになるんじゃないのか?」

 

修也の言葉に私は驚いた。

 

「あの巨龍が、レティシアだって言うの?」

 

「分かりません。ですが、一つ確実なのは」

 

ジャックは頭を左右に振り、そして、炎の瞳を古城を囲う雷雲を見つめる。

 

「“魔王ドラキュラ”を倒さない限り…………十日後には、血の雨が降るでしょう。伝説の如く、串刺し刑に処されてね」

 

 



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第3話 “箱庭の騎士”の歴史だそうですよ?

現在俺達は夜風を凌ぐため城下街の廃屋にいる。

 

そこで、軽く食事を取っている。

 

ジャックとガロロさん(なんでも“六本傷”の頭首だそうだ)がギフトカードに水樹の幹と乾燥食材を常備しておりそれを有難く頂くことにした。

 

「いいか。対魔王を謳うなら、持久戦の備えを常備していないといけねえ。そうでなくてもこの箱庭じゃあ、何時どんなアクシデントで孤立するか分からねえから、水樹や水珠のような水を確保できるギフトは必須だ」

 

「それにギフトカードは己の領地で収穫した実りや、家畜の精肉などを保存することもできます。備えあればなんとやらって奴ですね」

 

「…………そんなに便利なギフトなんだ」

 

耀は感心しながらギフトカードを眺める。

 

「そりゃそうダ。なんせ“サウザンドアイズ”の大幹部“ラプラスの悪魔”が対魔王に造り上げた一品ダ。“ラプラスの紙片(ギフトカード)”を所持してるかしてないかでじゃ、生存率が大幅に変わる。重要なギフトさ」

 

ネズさんは羊の干し肉を頬張りながら説明をする。

 

ちなみにネズさんに招待状を送ったのはガロロさんらしい。

 

なんでも、ネズさんとガロロさんは古い付き合いで情報交換以外での交流があるそうだ。

 

もしかしたら白夜叉は俺達が魔王との戦いに備えるためにギフトカードを渡したのかもしれない。

 

それなのに、なんで俺はギフトカードを落とすかなぁ~。

 

耀たちに伝えたら『うわ……コイツ、マジ無いわぁ~』っと言った感じで見られた。

 

俺だって好きで落としたわけじゃない。

 

持っているものは白牙槍とフェルナ、後は幻獣の血か………

 

正直、ハープーンガンとヒューメルーンが無いのはきついな。

 

幻獣の血は限りがある。

 

フェルナの戦闘能力はそこらへんのチンピラ程度なら倒せるがあの生物相手にはきつい。

 

それに、白牙槍もさっきから調子がおかしい。

 

なんか、ガタがきてる。

 

やばい、かなり不安だ。

 

「さて、今後の活動だが………まず意見を募りたい。誰か案はあるか?」

 

「うん」

 

ガロロさんの言葉に耀は同時に即答した。

 

「私は、全員此処に残ってゲームの謎解きに挑むべきだと思う」

 

「……ほう?」

 

耀の提案にガロロさんは低く唸る。

 

「そりゃまた何でだ?」

 

「私達はペナルティを受けることが確定してる。このまま逃げても十日後にはペナルティで死ぬことになる。だけど、審議決議が行われている今なら子供たちでも安全に廃墟や城の中を探索できる」

 

耀の提案にガロロさんの顔が更に強張った。

 

「ちょっとまて!ガキ共も戦わせるつもりか!?」

 

俺は手を上げガロロさんを制する。

 

「落ち着いてくれ。審議決議が行われている今なら主催者と参加者の戦闘は禁止されてる。今だけが安全かつ自由に散策できる」

 

「確かに、今は子供でも必要ダ。それにシュウ坊とお嬢ちゃんの提案はいい。オイラは賛成ダ」

 

ネズさんからの同意は得た。

 

ジャックもカボチャ頭を撫でながら半ば同意してきた。

 

「確かに春日部嬢の提案はゲームクリアに大きく貢献できます。しかし、本人たちのいしはどうです?」

 

ジャックの言う通りこの作戦は子供たちの意志で決まる。

 

子供たちが嫌がるなら無理強いはできない。

 

俺達はキリノの方を向き、意志を尋ねる。

 

キリノは怯えるように身を縮めるがそれでもはっきりと言った。

 

「わ、我々も“アンダーウッド”に住む同士の一人!ましてや眠ってる大精霊(母さん)の窮地を放ってはおけません!」

 

気合を入れるキリノ。

 

その姿が“ノーネーム”の子供たちに似ていて少し微笑ましかった。

 

「分かった。若い連中がそこまで言うなら俺も腹を括ろう。だが、具体的にどうする?もし無策だってなら許可はだせないぜ」

 

「うん。それについては私から提案……というか、勝利条件について暫定的な回答があるというか………」

 

声のトーンを落として話す耀。

 

そして、辺りが静寂に包まれた。

 

その静寂を俺が破った。

 

「何だ?解けたのか?」

 

「えっと、解けたっていうほどじゃないけど……辻妻が合うかなって」

 

そして、再び静寂になる。

 

「マジかよスゲーじゃん!」

 

「ああ、大したもんだ!初日から謎が解けたってんなら、勝ち目も十分に見えてくる!」

 

「耀さん凄いです!」

 

周りからの賞賛に耀は少したじろぐ。

 

「説明する前に、私の用意した解答が正しいがどうか検証するためにも幾つか聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「いくらでも聞いてくれ!」

 

「協力は惜しみませんよ!」

 

「情報なら小さいことからヤバいことまでなんでもあるゾ!」

 

身を前にして乗り出す。

 

凄い迫力だな。

 

「前提として確認する。箱庭の吸血鬼は、外界から来た外来種なんだよね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「なら、この空飛ぶ城もその時のもの?」

 

「確証は無いが、文献ではそうなってるナ。なんでも故郷の世界にいられない理由が出来たとかで、一族ごと箱庭に逃げ延びたって話ダ」

 

「てことは、故郷の世界から吸血鬼は脱出してきたってことか?」

 

「そう珍しくはありませんよ何らかの事情で故郷を追われて、箱庭にやってくるのはよくあることです」

 

「以前南側を騒がした“魃”や故郷を追われ敗残した巨人族なんかもそうだ。吸血鬼の一族も同じように、故郷を追われる事件があったんじゃねぇか?」

 

ガロロさんはネズさんに目くばせをする。

 

「有名な話だと、吸血鬼は箱庭に来て太陽の光を初めて浴びて以来“箱庭の騎士”として秩序を守っていたってのがある。もしかしたらそれに関係した事件かもナ」

 

「ちょっと待て。箱庭を守るのは“階層支配者”だろ?なのに“箱庭の騎士”って言う二つ名があるんだ?」

 

「吸血鬼の一族が一時、“階層支配者”だったんじゃない?」

 

「いい着眼点だ、小僧。そんで、嬢ちゃんは察しがいい」

 

「三分の二程正解だナ」

 

微妙だな。

 

「正解は?」

 

「そもそも“階層支配者”ってのは箱庭開闢の時には存在していなかったらしい」

 

「当時は“外門の支配者(ゲート・ルーラー)”ってのが各外門に決められていて、そいつらが独自の裁量で地域を修めてたんダ」

 

「独自ってことは地域によって独裁とかもあったんじゃないか?」

 

「おおよ。特に箱庭の黎明期といえば、修羅神仏が入り乱れの大魔境!下層のコミュニティが魔王に外門権利書を奪われた日にゃ、悲惨なもんだったらしいぜ?」

 

「“境界門”の使用料一人につき金貨百枚とかにされたらたまったもんじゃないナ」

 

「え?“境界門”の権利があったら使用料決められるの?」

 

え?そこに食いつくの?

 

「ああ、“階層支配者”が定めた範囲なら自由に決められるゾ」

 

「ちなみに北から南に移動する場合、通常より五百パーセント増と言うぼったくり価格になっております」

 

それって一人につき金貨五枚だよな。

 

………………もし“ノーネーム”も同じようにしたらその八十パーセントがこちらに支払われるから………いや、邪な考えはよそう。

 

「え、えっと話を戻そう」

 

「あいよ」

 

どうやら耀も同じことを考えていたみたいだ。

 

「ま、そんな末世だった時価層に秩序を取り戻そうとしたのがクルーエ=ドラクレアを筆頭にした“箱庭の騎士”、つまり吸血鬼の一族だ」

 

また、親父だ…………

 

てか、親父って歳幾つなんだ?

 

見た目は四十代だが……………五百はいってるか?

 

「彼らはその持ち前の知恵と力、そして勇気を持って次々と凶悪な魔王を打ち破って行った。ちょうどその頃、中層と上層で行われていた星々の主導権争いにも一段落が付き、中下層の魔王が駆逐された。手に負えない魔王や外界に逃げた魔王もいたそうだが、何にせよ、箱庭は安定期を迎えることに成功した」

 

「その後、下層は“箱庭の騎士”を中心に全外門で共通の規定を取り決め、法整備をし、“階層支配者”と“地域支配者”制度を設け、東西南北の下層を見守る“全権階層支配者(アンダーエリアマスター)”として広く認められたって訳サ」

 

「それで、めでたしめでたし?」

 

「どころがどっこいっサ」

 

やっぱりこのまま終わらないか。

 

「こうして下層を守る“階層支配者”制度の導入に成功した吸血鬼の一族だったが………その後まもなく、吸血鬼たちは吸血鬼の王と神によって虐殺されたのサ」

 

「「え?」」

 

「それを行ったのが“串刺し王”、僅か十二歳で“竜の騎士”にまで上り詰めた最強の吸血姫、レティシア=ドラクレアと初代“龍の騎士”にして吸血神と呼ばれるクルーエ=ドラクレアさ」

 



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第4話 蛙の子は蛙だそうですよ?

あの親父が自分の一族の吸血鬼を皆殺しねぇ…………

 

どうも信じられねぇな。

 

親父はよく家族や親せきは大事にしろって言ってたし、何より血の繋がりを大切にしていた。

 

その親父が同族殺しをするとは思えない。

 

まぁ、それは置いといて、ガロロさんの話をまとめると、レティシアは 初代"全権階層支配者"となって、その権力と利権を手に、上層の修羅神仏に戦争をしかけ、それを阻止しようとして革命を起こした吸血鬼達と殺し合い――――その結果滅んだ。

 

その時に親父は多くの吸血鬼を殺したそうだ。

 

なんだかなぁ~、やっぱ信じられねぇよな。

 

そんなことを考え頭を掻きながら“契約書類”に目を落とす。

 

「ん?このゲームのタイトルって直訳すると太陽同期軌道だよな。要するに人工衛星のこと、いや、どちらかと言えば神造衛星か」

 

「うん。修也の言う通り、このゲームのタイトルが太陽同期軌道を意味するなら、このゲーム全体が“太陽”や“軌道”に関係することを示唆しているんだと思う」

 

なるほど。

 

そう言われると筋が通る。

 

となるとここにある“革命主導者”ってのは当時の参加者を騙すミスリードってことか。

 

「“太陽”と、その“軌道”に関するゲーム内容。とすれば耀お嬢ちゃんは“獣の帯”を“獣帯(ゾディアック)”として読み解いてるのかい?」

 

「ゾディアック?」

 

アーシャとキリノから疑問の声が上がる。

 

「“獣帯”ってのは“黄道帯”や“黄道の十二宮”の別称だ」

 

「“黄道の十二宮”って獅子座とか蟹座とかがある、十二の星座ですか?」

 

「正解ダ!そもそも十二の星座ってのは、太陽の軌道線上を三十度ずつずらし、星空の領域を分ける天球分割法で――――――天球の……分割?まさか!?」

 

ネズさんが何かに気付いたらしい。

 

俺もネズさんの言葉で気付いた。

 

「まさか、第三勝利条件の“砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ”って“獣帯によって分割された十二の星座を集め、玉座に捧げよ”ってことか?」

 

「うん、多分そうだと思う……かな?」

 

自信が無いのか最後はトーンを下げて言った。

 

「スゲーな、耀!今の推理だと多くのワードと符号する!“正座を集めろ”って意味は分からないが、今後の方針を得るには十分だ!早速、他の連中にも協力してもらおう!」

 

そのまま俺は立ち上がり他の人たちのところに向かった。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耀 SIDE

 

「シュウ坊は行動が早いナ」

 

ネズミごとネズさんが呆れ半分、感心半分と言った感じで修也を見つめる。

 

「あの行動力と性格、どっかで見たことあるな…………」

 

急にガロロさんがそんなことを言い出した。

 

「それもそうでしょう。なんせ彼はクルーエ=ドラクレア殿の御子息ですから」

 

「何!?あの小僧がクルーエのガキだってのか!?」

 

ジャックの言葉にガロロさんが驚く。

 

「ガロロさん、修也のお父さんと知り合いなの?」

 

「知り合いなんてもんじゃねぇ。俺とアイツは親友なんてもんじゃ量り切れないぐらいの仲だ。それに、命だって何度も救われた。………………確かにアイツそっくりだな」

 

どこか懐かしむかのようにガロロさんは修也を見る。

 

それにつられて私も修也を見る。

 

“契約書類”を片手に持ち、大人たちに説明している。

 

話が終わると、大人たちの代表格と思わしき人と拳をぶつけて笑い合っていた。

 

「どんな奴共、言葉を交わし、時には拳を交わして交渉する。そして、最後は笑い合う。まったく、どこまえも似てやがるな」

 

そう言って僅かに微笑むガロロさん。

 

「ええ、クルーエ殿が蘇ったかのように思えてきますよ」

 

カボチャ頭を軽く叩き陽気に笑うジャック。

 

「蛙の子は蛙だな」

 

口元をニヤつかせて笑うネズさん。

 

その三人を見て、修也のお父さんは凄く皆から好かれているんだと分かった。

 

そして、修也自身も皆に好かれてる。

 

十六夜も、飛鳥も、黒ウサギも、ジン君も、“ノーネーム”の皆も、白夜叉も、皆が修也を好きでいる。

 

そして、私自身も……………………私の場合は、少し違う好きだ…………

 

そう思うと顔が熱くなるのが分かった。

 

頭を振り、邪念を振り払う。

 

とにかく、今はゲームクリアに向けて前を進もう。

 



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第5話 “生命の目録”の真実だそうですよ?

方針が決まり、俺達は城の外郭を一周することを目的として、探索することになった。

 

その結果、城下街は城を中心に十二分割された区域で仕切られていることが分かった。

 

「十二分割された城下街に“獣帯”か……………ますます関係が深くなったな」

 

「うん。もしかしたら、各区域に何か秘密があるかも」

 

「では、私は上空から探してみます。お二人はアーシャと共にお子様たちと探索してください!」

 

カボチャ頭を揺らしながらジャックは空に向かって飛んで行く。

 

まぁ、ジャックの腕なら何があっても大丈夫だろう。

 

ちなみにネズさんは、大人たちと一緒に探索をしている。

 

取りあえず、俺達は子供の世話だな。

 

そう思いアーシャの方を見る。

 

「おいオマエラ、高いところには上るなよ!大きながれきは三人以上で退けるように!

あん?石をぶつけられた?おい、ぶつけた奴は今すぐ出て来て謝らないと、逆さづりの刑だぞ、コラ!!」

 

言葉はアレだが、見事に子供たちの相手に慣れている感じだった。

 

これって俺の出る幕ないな。

 

そう言えばさっきから、ガロロさんは静かだな。

 

対魔王戦の戦略を立てる為に耀の“生命の目録”を見せてくれって言ったきり古い館の門の下で、“生命の目録”を握り締めて、総身を戦慄かせている。

 

ペンダントを受け取った時、顔を真っ青にしてだが、大丈夫だろうか?

 

気になりガロロさんの元に移動する。

 

ガロロさんは俺が近づいてることに気付いておらず、独り言を言った。

 

「これを…………お嬢ちゃんの、親父さんが造っただと…………?

あらゆる生命体から情報を収集し、所持者を進化させる単一系統樹…………!」

 

ガロロさんの口振りはまるで“生命の目録”について知っているようだった。

 

俺が口を開こうとした瞬間俺はガロロさんの口から衝撃的なことを聞いた。

 

「春日部と聞いてまさかとは思ったが、あの大馬鹿野郎!これが本物なら………本当に、俺たちが想定した対魔王兵装になりえるかもしれない。…………だが、コウメイ、お前は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の娘まで、化け物にするつもりか……………!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

娘?

 

どういうことだ?

 

いや、それより、化け物ってなんだよ?

 

「ガロロさん、今のはどういう意味だ?」

 

「こ、小僧!?お、お前、どこから聞いてた?」

 

「そんなことはどうでもいい。答えてくれ。コウメイって誰だ?化け物ってなんだよ?

“生命の目録”って一体何なんだ?」

 

静かに、冷静にガロロさんに尋ねる。

 

ガロロさんは気まずそうに頭を掻きながら口を開く。

 

「コウメイ、春日部孝明は、十年前、アンダーウッドが魔王襲来に会った時、お前の親父、クルーエと共にアンダーウッドを救った男だ」

 

マジかよ……………

 

予想外過ぎる繋がりだ。

 

まさか、親父と耀の親父さんが繋がってただなんて…………

 

「アイツは野暮ったいボロボロの服を好む彫刻家で、言葉数が少なく、不器用で、都合が悪いことは小声で話して、羨ましいぐらいに見事な体躯と整った顔で、ムッツリの色男で…………………仲間の為に力を発揮できる、素晴らしい男だ」

 

そう言うガロロさんの口調は友人に対する万感の想いが込められていた。

 

「なのに……………あいつはなんで、アレを、嬢ちゃんに…………」

 

「そうだ。“生命の目録”、アレの正体は何なんだ?フェイス・レスが言うには、“目録”からのサンプリング、“進化”と“合成”をするのが本来の役割だって言ってたが………」

 

その言葉にガロロさんは苦虫を噛み潰したような顔をし、溜息を吐く。

 

「…………………“生命の目録”、アレは、生態兵器を製造するギフト。

使用者を例外なく合成獣にし、接触したあらゆる生命体の情報を取得、分析し、所持者を進化させ続ける単一系統樹。

俺とクルーエ、孝明の三人で語り合った夢物語を実現させたもの。

あらゆる異能と策略に対抗するために造られた対魔王・全局面的戦闘兵装だ」

 

俺は絶句した。

 

耀のギフトが、生態兵器を製造するギフトだって…………

 

信じられなかった。

 

「…………あのギフトは、“生命の目録”は、耀の親父さん、孝明さんが、不治の病で歩くことすらできなかった耀の為に、造ったギフトだ。絶対にそんな禍々しいものなんかじゃない……………」

 

「そうは言っても、“生命の目録”はそう言うギフトだ。…………おそらく、あのギフトの真実を嬢ちゃんは知らない。黙っててやってくれ。もし知ったら、ショックを受けるはずだ」

 

そう言ってガロロさんは“生命の目録”を俺に渡して探索を開始した。

 

俺は“生命の目録”を握ってない方の手を強く握りしめ、門を殴った。

 

殴ったせいで、門にひびが入ったが気にはならなかった。

 

「親父、アンタは、何を思ってそんな物を、孝明さんと語ったんだよ………………」

 

俺の呟きは虚しく、その場に響いた。

 




原作小説を読んで、なんか耀のヒロイン力が高くなってる気がするのは私の気のせいでしょうか?

それはさておき、十三番目の太陽を撃てが終わったら、箱庭のとある日常、黄金盤の謎を追え、異邦人の御茶会、リリの大冒険、蒼海の覇者、スティムパリデスの硬貨、異邦人と月ウサギの御茶会の順にやり、それが終えたら、オリジナルの話を書きます。

以上、今後の予定でした。

次回もお楽しみに


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第6話 ゲームクリア!?だそうですよ?

“生命の目録”

生態兵器を製造するギフト

 

所持者を進化させ続ける単一系統樹

 

対魔王・全局面的戦闘兵装

 

頭の中で同じことがぐるぐると回り続けた。

 

いつもと違う様子に耀に心配されてしまい、不安にさせてしまった。

 

一先ずこのことは忘れよう。

 

ゲームクリアに専念しないと。

 

俺達は今、古惚けて崩れた噴水の前に集まり、それぞれの成果の報告会をしている。

 

ジャックの方は残念ながらコレと言った成果はなく、各区域の壁に“黄道の十二宮”を示す記号があっただけ。

 

俺たちが最初に合流した場所には天秤宮が、其処から順に天蠍宮、人馬宮と、十二宮の順番通りになっていたそうだ。

 

そして、アーシャとキリノの方の成果を聞くと、二人はにんまりと笑って、大きな袋から何かを取り出した。

 

「私たちが見つけたのは、十二宮の星座が刻まれた何かの欠片と、その他の十四の星座の欠片です」

 

え?十二宮以外の星座?

 

「なんで十二宮以外の星座が?」

 

「どういうことダ?オイラたち、何かのミスリードに引っ掛かってたんじゃないのカ?」

 

ネズさんの言葉にアーシャとキリノは不安そうな顔になる。

 

「もしかして、私達、余計なことした?」

 

「そ、そんなことないサ!もしかしたら欠片そのものがミスリードの可能性も」

 

「私達、無駄足でしたか?」

 

「あ、いや、だから、違っ……」

 

しどろもどろになりながらアーシャとキリノをフォローしようとするネズさん。

 

それを横目に俺は欠片の一部を取って見てみる。

 

表面が球面になっている。

 

この欠片を全てくっ付けたら球体になるはずだ。

 

だが、それに意味があるのか?

 

ペナルティ発動までの時間稼ぎ?

 

そうだとしても、あまりにも解かりやす過ぎる時間稼ぎだ。

 

隣で同じように欠片を手に取ってた耀が顔を上げ、キリノを見る。

 

「キリノ。この欠片はどんな建物の下にあった?」

 

「えっと、十二宮は神殿のような大きな廃墟に。それ以外は瓦礫の下から見つけました」

 

十二宮だけ扱いが違うな。

 

やっぱり、この欠片は関係しているんだ。

 

 

 

 

 

 

“獣帯”

 

“行動の十二宮”

 

神像衛星

 

太陽同期軌道

 

天体分割法

 

“砕かれた星空”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………砕かれた星空?

 

まさか……………

 

俺は手の中にある天秤宮を見て、耀の手の中にある天蠍宮を見る。

 

耀も同じようにする。

 

そして、俺と耀は手に持ったそれぞれの欠片の割れ口を近づける。

 

すると、見事に噛みあった。

 

「「………あ、解けた」」

 

「「「「「は?」」」」」

 

「解けた…………と、解けた、解答が見えた!」

 

大声を上げて耀が立ち上がる。

 

「“砕かれた星空”に衛星!太陽の軌道!そして、もう一つの解釈、“砕き、掲げる物”!これで全て繋がった!この欠片が、玉座に掲げる最後の鍵だ!」

 

俺は拳を握り大声を上げる。

 

「アーシャ!キリノ!凄いお手柄だよ!これで、レティシアも助かる!“アンダーウッド”も救われる!」

 

「そ、それじゃあ、このゲームは!」

 

「ああ、後はこの欠片を玉座に掲げて…………ゲームクリアだ!」

 



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第7話 一昔前の出来事だそうですよ?

「殿下!レティ殿下!こんなところで寝ないでくださいまし!」

 

「ん?ああ、カール侍女頭か。何か用か?」

 

カール侍女頭が惰眠をむさぼろうとした私を叩き起こす。

 

「何か用かじゃありません!こんな所で寝てないで早く起きてください」

 

しかし、この暖かな日差し、気持ちいい風、こんな条件で眠れない者など居るだろうか?

 

居ないだろう。

 

だから、私は眠ってもいいはずだ。

 

というワケで、おやすみ。

 

カール侍女頭の言葉を無視し再び眠りに落ちる。

 

「二度寝禁止!」

 

埃落としで頭を殴られる。

 

その一撃で私の子供スイッチがONになる。

 

「やだ、寝る、絶対に起きない」

 

「やだ、寝る。ではありません!貴女は“箱庭の騎士”の象徴!“龍の騎士”と為ったものが兵舎で涎を垂らして寝ないでください!てか、まじ起きろゴラァ!」

 

カール侍女頭はとうとう切れて私の事を殴って起こす。

 

バフバフバフバフドスガスガスバキンゴキンガンガンゴンギングサッウィーンガッシャーン!

 

最後の音は何だ?

 

まぁ、それよりも眠い。

 

「おやすみ」

 

そう言って、本当に眠りだす。

 

「まったく、折角クルーエ様が来て居られるというのに」

 

「クルーエ叔父上だと!?何処だ!何処に居る!」

 

「応接室にで御寛ぎになっております」

 

「礼を言うぞ!カール侍女頭!」

 

そう言って私は走り出す。

 

そして、応接室に繋がる扉を勢いよく開ける。

 

其処には黒いコートを纏い、腰に剣を吊り、綺麗な銀髪に、口髭を生やした男性が居た。

 

間違いない。

 

クルーエ叔父上だ!

 

「叔父上!お久しぶりです!」

 

「おお、レティシアか。大きくなったな」

 

大きな武骨な手で私の頭を撫でてくる。

 

少し痛いが、とても心地いい。

 

「叔父上、今回は何時までのご滞在ですか?」

 

「ああ、今回は少し長いな。少なくとも一か月ぐらいはいる」

 

「そうですか」

 

叔父上はいつも城に来ても、最短で三日、最長でも一週間しか滞在しない。

 

だが、今回は一か月も滞在する。

 

とても嬉しい。

 

太陽の主権も贈られる。

 

“階層支配者”制度ももうすぐ確立される。

 

いい事尽くめだ。

 

私達、吸血鬼一族の未来は明るい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

落日の夕焼けは、血を焦がす灼熱の様だった。

 

ある魔王コミュニティの戦いで私達は見事勝利を収めた。

 

叔父上も参戦してくれたのもあり、早く決着が着いた。

 

だが、魔王を倒して帰還した私達を出迎えたのは民衆からの賛歌の声でもなければ、凱旋の音頭でもない。

 

同士たちの悲鳴と絶叫だった。

 

共に帰還した同士たちは既に息絶え、私も叔父上も満身創痍だ。

 

「なぜ………こんなことに………」

 

赤黒く焦げた左足を引きずり叔父上の肩を借りて走る。

 

昨日まで賑わっていた商業区も工業区も、悲鳴を上げてのた打ち回る同士で溢れかえっている。

 

「カーラは……騎士長は………父は、母は、妹は何処に………」

 

「ああ、そいつらならもう死んだんじゃね?」

 

背後を振り向くと見たことも無い男がいた。

 

「あ、誤解が無いように言っとくが、別に俺は主犯じゃないし、共犯でもないぜ」

 

飄々とそう告げる男。

 

見たことも無い服装だが、敵意は感じられないので話を聞こうと耳を傾ける。

 

隣では叔父上も剣を下ろし、冷静になっていた。

 

「流石は“龍の騎士”と最強の吸血鬼だ。怒りの中でも我を忘れないのはアンタらの美徳だ」

 

「御託は良い。要件を言え。そのために現れたんだろ?」

 

「もちろん。“遊興屋(ストーリーテラー)”はそれが仕事だからな。アンタたちの同士の死にざまを最初から最後まで綿密に語れるぜ?」

 

殺気を込めながら放たれた叔父上の言葉も男は軽く受け止めていた。

 

「先ほどの言葉は、真実か?」

 

私の質問に、男は笑みを消し、肩をすくめる。

 

「そもそも、何があったか理解してる?」

 

「聞くまでもない。俺達、吸血鬼を、一瞬で瀕死にまで追い込む方法なんて、一つしかない!」

 

そう言って叔父上は、沈む太陽を睨みつけた。

 

そう、私達吸血鬼を追い込むことが出来る方法。

 

それは、日光だ。

 

だが、箱庭では太陽の光を遮る大天幕があり、それのお陰で太陽の光を得られない種族は太陽の光を受けることが出来る。

 

「大天幕の解放には、“黄道の十二宮”か“赤道の十二辰”の主権が必要なはず!太陽の主権者たちは一体何を考えている!」

 

「やったのは、吸血鬼だぜ」

 

その言葉に私も叔父上も呆然とした。

 

「つまり、これは内乱。つーか聞いてないのか?お前たち、吸血鬼の為に十三番目の黄道宮を設けるって話」

 

私は頭を横に振って答えた。

 

「一部の吸血鬼にとっては悲願だったんだろうな。自分たちを苦しめる魔星の主権を得れる機会なんて、一生にあるかないかだしな。同族殺しに走ったのも頷ける」

 

言葉が出ない。

 

吸血鬼が、吸血鬼を殺すために、太陽の光を使うなんて…………そんなことをしたら、自分たちも危ない。

 

ましてや数分の開放で、王族や純血を根絶やしに出来るはずもないのに………

 

「あ、それと、アンタら順序間違えてるぜ」

 

「………?」

 

「あれ、なんだと思う?」

 

“遊興屋”が指さす方向を見る。

 

ソレは、城の城壁だった。

 

そして、城壁には、見慣れた服が貼り付けられていた。

 

そして、肉体があるはずの場所は黒く焦げたような痕跡があった。

 

まさか……………

 

「アレ、アンタらの家族だよ。純血の吸血鬼は簡単には死なないからな。磔刑の上、心臓串刺し、最後は太陽で火葬。念入りだよな城下街の連中はとばっちりだぜ。まさか、純血の、それも王族を殺すためだけに天幕を開放したんだからな」

 

その言葉を聞いて、私はその場に崩れ落ちた。

 

私達が魔王と死闘を繰り広げてる間に、もう、革命は済まされていたんだ。

 

「そういや、反逆者どもは、陽が沈んだらアンタら二人の取ってやるって息巻いてだぜ。アンタらの首を取らないと正式に十三番目の黄道宮が手に入らないらしい。夕暮れまで時間もないし、そろそろ身の振り方でも考えたらどうだ?」

 

ゆらりと立ち上がり、私は城に向かって歩きだす。

 

叔父上も私の後に続く。

 

「オイ、そんな体で何をする気だよ?」

 

「どうせ、この体はもう永くはない」

 

「そんなことはないぜ。適切な処置を受ければまだ助かる。だから、ここで一つ取引だ。アンタら二人が俺のコミュニティ、“グリムグリモワール”に」

 

「断る」

 

そう言った瞬間、私は持っていた槍を男の喉元に突きつけていた。

 

叔父上は男の背後に回り剣を首に当てていた。

 

「だが、その傷じゃ大した数は巻き込めないぜ。仲間も死んじまったんだろ?それとも無駄死にをよしとするのか?」

 

「………反逆者が何者かは知らん。だが、私はコミュニティの長として、あの旗の下で敵を迎え撃ち、残った者達を救う義務がある」

 

そう言って、また一歩、一歩、足を進める。

 

「はぁ、おい、反逆者を殺すだけの方法ならある」

 

足を止めて振り向く。

 

叔父上も驚きの表情をしていた。

 

「この“契約書類”に“主催者権限”を最大に利用したゲームを組んだ。これなら、余計なコミュニティを巻き込まずに…………アンタら、二人の内どちらかが魔王になれる」

 

「ふざけるな!俺達“箱庭の騎士”が魔王になるだと!?そんなもの、言語道断だ!魔王になるぐらいなら、この身が滅びても、最後まで一族の誇りを貫き通す!」

 

叔父上の言葉に私も同意するように首を縦に振る。

 

“遊興屋”は、はぁ~っと溜息を吐いた。

 

「ない物ねだりしてんじゃねぇよ!クルーエ=ドラクレア!守れないものを守ると叫んで、救えない者を救うと叫ぶ!大した道化だね!」

 

「何を………!?」

 

「一族の誇りを守るとか言ったな!なら、考えてみろ!お前らが、反逆者に負けたらどうなる!?反逆者どもの狙いは“太陽の主権”と“全権階層支配者”の地位だけだぜ!?

お前らが残したかった、秩序や泰平なんぞ、なんにも残らねぇ!

なのに、自己満足の復讐を果たす為に死ぬと来たもんだ!それも“誰かの為”と大嘘まで吐いてな!」

 

“遊興屋”の罵声に叔父上は反論できなかった。

 

私自身も反論が出来なかった。

 

「一族を立て直したいなら逃げろ。殺したいなら魔王になれ。死んで咲く華はあり得るが、敗北に咲く華があるなんて甘えるな。ここで殺されるってのはそういうことだ。だが、魔王になって反逆者を皆殺しにすれば、まだ打つ手はある。少なくとも“階層支配者”の制度を残すことは出来る。その代り。自分の名に泥をかぶってもらうがな」

 

渡された“契約書類”に目を通す。

 

その内容に私達は驚愕した。

 

「お前らの家族が受けた、全ての仕打ちを反逆者に。一度や二度で無く、半永久的に繰り返されるペナルティだ。これだけの内容なら鬱憤も晴れるだろう?

そして、鬱憤が晴れるか、ゲームを終わらせたくなったら、誰かにお願いしてクリアしてもらえばいい。もしクリアを任せられる奴を見付けたらこう言え“十三番目の太陽を撃て”ってな」

 

“遊興屋”の言葉をほとんど聞き流すかのように聞いていたが、頭の中にはしっかりと記憶されていた。

 

「魔王となったものはいつか必ず滅ぼされる。滅ぼす者が英雄か、神仏かは問わない。それが、魔王になったものの宿命だ。だがら、全てを捨てる覚悟があるなら………………同族殺しの魔王になれ」

 

そう言って男は消えた。

 

「……………レティシア、後は頼む」

 

「叔父上!?まさか、魔王になるおつもりですか!?」

 

「あの男の言う通りだ。今ここで死んでは俺達が目指したものは無くなってしまう。だから、俺は魔王になる。後は頼む」

 

そう言って叔父上は空白になっているゲームマスター名のところに自分の名を書こうとした。

 

その瞬間、私は持っていた槍で叔父上の腹部を突き刺した。

 

「ぐっ!………レティシア、何、を…………」

 

「叔父上、貴方の言う通り、私達の内どちらかが魔王にならなければなりません。…………初代“龍の騎士”にして最強の吸血鬼で在られる叔父上が…………魔王になるなど私には耐えられません。私が魔王になります」

 

「やめろ!」

 

「………………叔父上。貴方は、私にとって憧れであると同時に私にとってのもう一つの太陽です。私はその太陽を汚したくありません。………………ごめんなさい」

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は魔王になった。

 

レティシアSIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み、夜が訪れた。

 

城下街には火が放たれ喘ぎ苦しむ同士ごとを焼き払った。

 

レティシアの周りには剣を持った吸血鬼たちが集まり、その剣を向けていた。

 

少し前まで

 

レティシアは持っていた槍を手放し、そして、城壁に焦げ付いた退治な人たちの墓標を見つめた。

 

多くの同士、親しい人たち、愛しい家族、全員埋葬されること無く壁のシミにされてしまった。

 

滂沱のような血と涙を流し、レティシアは万斛の怨嗟を込めて叫ぶ。

 

 

 

 

 

「 貴 様 ら は ………… 荼 毘 に 付 す こ と も 許 さ な い!!」

 

 

 

一族郎党、その全てを魂魄の一欠けらまで滅すると、同士だった者達に叫んだ怨嗟。

 

必ず殺し尽すと誓いを立て…………レティシアは、魔王の烙印を受けた。

 

 

 

 

 

 

クルーエ=ドラクレアは少し離れた所からその様子を見ていた。

 

自分の姪が同士だった者達をギフトゲームで殺し尽すところを。

 

腹部の刺し傷は既に塞がっている。

 

だが、クルーエにはまだその痛みが響くような感覚に襲われていた。

 

「あの程度の一撃すら、察せれないとはな。俺も耄碌したか…………」

 

その時、背後から多数の足音が聞こえた。

 

四人、五人程度ではない。

 

百人は居ると思うような人数だった。

 

反逆者の一部だろう。

 

クルーエは反逆者たちを一瞥し、そして、告げた。

 

「お前ら、明日の朝日が拝めると思うなよ」

 

クルーエの持つ剣が、爪が、牙が、反逆者を襲う。

 

そして、後には、無惨に切り殺されたり、引き裂かれたりした吸血鬼の夥しい死体とその死体の血で己の銀髪を真っ赤に染めたクルーエ=ドラクレアがいた。

 

これがクルーエが犯した罪で在り、クルーエを吸血神と呼ばれる由縁であった。

 



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第8話 黒いグリフォンだそうですよ?

「ん、ああ、………!!はあ、はあ…………此処、は?」

 

灯りが無い薄暗い部屋、石造りの独特なにおい。

 

懐かしい感じがする。

 

あたりを見渡し、頭上に敷き詰められた煌びやかな水晶を見て悟った。

 

「此処は、黄道の玉座!?何で此処に」

 

「気がついたか?」

 

声に気がづき周囲を見渡すと、其処には修也に耀、ジャック、ガロロ、ネズがいた。

 

 

レティシアSIDE END

 

 

 

 

 

 

 

修也SIDE

 

「修也、耀、ジャック、それにガロロとネズまで」

 

「久しぶりだナ、レティちゃん」

 

「二十年ぶりぐらいか?」

 

ネズさんはニヤリと、ガロロさんは健康そうな歯並びを見せて笑う。

 

レティシアは自分が玉座に鎖で繋がれてるのに気付くとすべてを理解したような顔をした。

 

「そうか、私は再び、魔王になったのか…………」

 

「でも、驚いたぜ、金糸雀の姉御は『“魔王ドラキュラ”を倒してきたぜ!』とか言うから、てっきりアンタを隷属させたもんだと思ってたぜ」

 

「諸事情があってな。金糸雀はゲームクリアではなくゲームの無期限中断の条件をクリアして、私をゲームから切り離したんだ」

 

なるほど、その金糸雀さんにどんな事情があったかは知らんが、ゲーム自体はクリアしてないから、正式に隷属させられたわけじゃないんだな。

 

「そうだったのか…………それで、金糸雀の姉御は?やっぱり三年前から行方不明か?」

 

「あ、ああ、だがアイツの事だ。何処かでのらりくらりとしているに違いない」

 

今、一瞬だけレティシアの表情が曇った気がしたが、気のせいか…………

 

「それはそうと、お前たちはここで何を」

 

「決まってるダロ。ゲームをクリアしに来たのサ」

 

「うん。でも、解けたのは第三勝利条件だけだけど」

 

それだけ言うと、耀は玉座の周囲を探る。

 

俺も部屋の壁を手探りで調べる。

 

すると、何かの窪みを押すような音が聞こえた。

 

「耀、あったぞ!ここの方角は………処女宮か!」

 

「はい、修也!」

 

「よし、後はここから十二等分していけば」

 

正座が刻まれた欠片を填めていく。

 

 

「それは、私達の神殿に安置されていたものじゃないか。一体何を………」

 

「レティシアはゲーム内容を知ってるんじゃないの?」

 

「このゲームは他人に任せて作らせたものでな。本来の“主催者権限”とはかけ離れているんだ」

 

「となると、この部屋の仕掛けはゲームとは無関係なんだな」

 

そう言って欠片をまた填める。

 

「レティシア、このお城って世界の周りをぐるぐると回るお城だったんじゃないの?」

 

欠片を填めるのを一度手を止めて耀がレティシアに聞く。

 

「あ、ああ、吸血鬼は世界の系統樹が乱れぬように監視する種族だったからな。吸血行為による種族変化もその名残だ」

 

「監視衛星だったのか、それは分からなかったぜ」

 

そう言って欠片を填める作業を再び再開する。

 

「今填めこんでるのは吸血鬼の城が正しく飛ぶ為に使っていたと思われるもの」

 

「そして、“砕かれた星空”の二つ目の解答。それがこの“天球儀”の欠片だ」

 

SUN SYNCHRONOUS ORBITは太陽同期軌道と言う言葉に変換される。

 

この言葉から“獣の帯”は“獣帯”という解釈になる。

 

これらのことから連想されるのは“砕かれた星空”の第一解釈。

 

即ち“黄道の十二宮”と天体分割法だ。

 

すると“砕かれた星空を捧げる”は“黄道の十二宮を捧げる”になる。

 

しかし、これだと意味が分からない。

 

そこで、The PIED PIPER of HAMELINの応用だ。

 

The PIED PIPER of HAMELINでは“偽りの伝承”と“真実の伝承”が“砕き、掲げる”ことが出来る物だった。

 

“砕かれた星空”は“砕き、捧げる”ことが出来る星空が描かれたもの。

 

つまり、天球儀という解答になる。

 

「素晴らしい!素晴らしいぞ、二人とも!」

 

レティシアは声を上げて褒めてくる。

 

耀は恥ずかしそうに頭を掻き最後の一つを取り出した。

 

「これが、最後の欠片」

 

「これで、ゲームクリアだ」

 

最後の欠片を壁の仕掛けに填め込むとガコン!と何かが動く音がした。

 

そして

 

「………………………………………………………………………………………………あれ?」

 

何も起きなかった。

 

耀の顔から血の気が引いて行くのが分かった。

 

俺もかなり焦っている。

 

「………始まった」

 

レティシアがそう呟いた。

 

「ゲームが再開された!私が巨龍を押さえているうちに、勝利条件を完成させろ!!

でないと、私が………“アンダーウッド”を………」

 

『GYEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

巨龍の雄叫びと、稲光が差し込んだ。

 

「今の雄叫び、まさか!」

 

「本当にゲームが再開されたって言うのカ!?」

 

「でもどうして!?まだ休戦期間のはず!主催者は不可侵のはず―――」

 

その時、耀が言葉を切った。

 

「まさか……ゲームをクリアしようとして、休戦期間が強制終了させられた?私のせいで…………私が間違ったせいで、巨龍が……………」

 

「違う!お前たちの推論は正しい!だからこそ、ゲームが再開された!クリアに近づいたからこそ、ゲームが再開されたんだ!」

 

「それって、どういう」

 

「何かが足りないんだ!完成した解答に至る為のなにかが」

 

その言葉に耀は気合を入れるかのように頬を叩く。

 

ガロロさんから“契約書類”を受け取り、内容を読む。

 

「わかるか?」

 

「……………」

 

無言だった。

 

どうやら、分からないらしい。

 

「大丈夫だ。冷静になればきっと解ける。嬢ちゃんにはゲームを理解する才能がある。俺が保障する。だから諦めるな……」

 

ガロロさんは耀の肩を強く握りしめて激励した。

 

だが、それが逆に耀へのプレッシャーになってしまった。

 

俺もできる限り考える。

 

“獣の帯”、“砕かれた星空”、“捧げよ”の解釈。

 

ここまではあっている。

 

何かが足りない。

 

それが分からない。

 

「落ち着け、春日部耀!!!! それでもお前は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春日部孝明の娘かッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?………………ガロロさん?」

 

「お前の親父さんのことはよく知ってる!俺だけじゃねぇ!そうだろ、レティシア?」

 

「コウメイ………その春日部孝明とは・・・・・・あの、コウメイのことか?」

 

「そうか、アンタは彫刻家としての名前しか知らないんだったな。いいか、耀お嬢ちゃん。お前の親父さんは凄かったんだ。俺は何度もアイツとクルーエに命を助けられた。俺だけじゃない。十年前“アンダーウッド”をクルーエと共に魔王から救ったのもお前の親父さんだ!」

 

「………嘘」

 

「嘘じゃねぇ!なんなら、俺の家にある肖像画を穴が開くまで見ろ。

アイツは野暮ったいボロボロの服を好む彫刻家で、言葉数が少なく、不器用で、都合が悪いことは小声で話して、羨ましいぐらいに見事な体躯と整った顔で、ムッツリの色男で…………………仲間の為に力を発揮できる、素晴らしい男だ。

自信を持て、春日部耀!お前には、頼れる相棒がついてるだろ!」

 

え?相棒?

 

どういう事だ?

 

耀も訳が分からないと言った顔をしてる。

 

「相棒って………」

 

「小僧の事だ!」

 

え、俺!?

 

「昔、クルーエと孝明は最強のコンビだった。あの二人が一度組んで戦えばほとんどの魔王のギフトゲームにだって勝てると言われてたんだ。

そして、俺はここまでのお前たちの行動を見て確信した。

お前たち二人はクルーエと孝明のコンビに負けず劣らずの最強コンビだ」

 

ガロロさんは口調を強くして言う。

 

「クルーエの子と孝明の子がこんなチンケなゲームがクリアできないわけがねぇ!お前たちならきっと出来る!俺は、そう信じるぜ!」

 

………………ここまで言われて何もしない奴は酷い奴だよな。

 

「………耀。もう一度内容を読もう。何処かにヒントがあるかもしれない」

 

「修也……………うん!」

 

耀と一緒に“契約書類”を穴が開くほど読む。

 

一字一句、丁寧に何度も脳内で咀嚼する。

 

「「――――――――――――――――――――――正された、獣の帯?」」

 

耀と同時に気付く。

 

「そうか!正された獣の帯だ!正されたってことは誤りがあったってこと、これが第三勝利条件にかかる言葉なら“獣の帯”もしくは“黄道の十二宮”、ううん、もしかしたら、天体分割法そのものに誤りがあったんじゃ!」

 

「耀!予想通りだ!蠍座と射手座が繋がらない!太陽の軌道上にある正座は十二個じゃなくて十三個だ!」

 

すぐにキリノたちが持ってきた欠片の中から蠍座と射手座の間の星座を探す。

 

だが、見つからない。

 

「皆!蠍座と射手座の間にある正座を探して!」

 

「城下街は天球儀に沿って作ってあるとすれば蠍座と射手座があった神殿の中間地点に『其処までだ、小僧!』

 

玉座の窓を破り何かが乱入してきた。

 

その何かは俺に向かって突進してきて俺はすぐに白牙槍で受け止めた。

 

が、白牙槍が耐え切れず、真ん中から二つに折れてしまった。

 

そして、俺は勢いよく吹き飛ばされた。

 

壁に叩き付けられて意識が飛びそうになった瞬間、俺が見たのは黒いグリフォンと、その胸に刻まれた“生命の目録”だった



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第9話 父さんを信じるだそうですよ?

飛びそうになった意識を引き留めるために舌を噛む。

 

痛みで何とか意識は飛ばずに済んだ。

 

いきなり、現れ俺を突き飛ばした黒いグリフォンを見る。

 

見間違いなんかじゃない。

 

アレは“生命の目録”だ。

 

「グ、グライア!?お前、生きてたのか!?」

 

グライア、それがコイツの名前なのか…………

 

どうやらガロロさんは知っている奴らしい。

 

『久しいな、ガロロ殿、継承式の日以来か…………だが、今は貴様に構っている暇など無い!』

 

旋風を起こし、ガロロさんを吹き飛ばす。

 

翼を出し、壁にぶつかる前に助ける。

 

「す、すまねぇ」

 

「気にしないでくれ」

 

ガロロさんは申し訳なさそうに謝ってくるが、俺は気にせずグライアを睨みつける。

 

『フンッ!大人しくやられていれば楽に死ねたものを。まぁいい、今は主の命令を優先させてもらうぞ』

 

俺達を横目にグライアは耀の方を向く。

 

『嬉しいぞ、コウメイの娘。よもや解答に辿り着くのが本当に貴様であったとは……!この星の廻りに感謝せねばなるまい!』

 

「な、何を……」

 

『我が名はグライア=グライフ! 兄・ドラコ=グライフを打ち破った血筋よ! 今一度、血族の誇りに決着を着けようぞ――――!!!』

 

グライアは雄叫びを上げて耀に襲い掛かる。

 

それを辛うじて避けた耀は他のメンバーに言い放つ。

 

「この人の狙いは私だ! 皆は十三番目の星座を探して!」

 

「だが、耀お嬢ちゃん!」

 

「早く!」

 

そう叫ぶと耀は旋風を巻き上げて空に逃げた。

 

グライアも耀を追うようにして飛び上がる。

 

グライアは龍角に炎を纏わせ旋風を使い、炎の嵐を呼び、耀に突進した。

 

それにより、耀は上空高く吹きとばされた。

 

俺はすぐに翼を出し、耀を受け止めた。

 

「耀、無事か!?」

 

「う、うん。でも、アイツ………」

 

「ああ、桁違いに強い」

 

折れて短くなった白牙槍を構え、グライアを見る。

 

「耀、俺が率先してアイツと戦う。耀は、距離を保ちながら防御に徹しろ」

 

「……………わかった(また………また修也だけ戦わせる破目になった………)」

 

折れて短くなってしまった槍を構え、一気に急降下して攻撃を仕掛ける。

 

槍の先端とグライアの龍角がぶつかり合い大気を震わせる。

 

『ほほお、そこそこやるようだな。小僧、気にいった。名を名乗れ』

 

「名乗る理由が無い」

 

『墓石に刻む名が必要だろう』

 

グライアは口角を上げ笑う。

 

「……………月三波・クルーエ・修也。クルーエの名には聞覚えはあるだろ?」

 

俺の何グライアは驚愕の色を隠せないのかそれが顔に現れていた。

 

『コウメイの娘に加えてあの男の息子までもが………………まったく今日は何と良き日だ!』

 

グライアは高笑いをし、突っ込んでくる。

 

それも俺が反応できないスピードで。

 

何とか槍でいなしたが、尋常じゃない力に手が震えた。

 

これが、龍角を持ったグリフォンの力か……………

 

「修也!」

 

耀が近くに来て声を掛けてくる。

 

「このままじゃ、修也もやられる。向うは本物のグリフォンだし、龍角も持ってる。地上に降りた方がいい」

 

確かに空中戦では奴に分がある。

 

耀の言う通り、地上に降りて戦う方がいい。

 

城下街なら身を潜める場所もある。

 

ゲリラ戦になれば五感が鋭い俺と耀で、索敵能力の分だけ有利になる。

 

「よし、城下街に逃げるぞ」

 

急降下をして、近くの廃墟に身を潜める。

 

グライアもすぐさま急降下して城下街に降り立つ。

 

「これでよし。後は廃墟の中を隠れるように進んで、時間を稼ごう」

 

少なくともガロロさんたちが最後の欠片を見つけるまでは時間を稼がないと。

 

『時間稼ぎか。しかし、この程度の事で姿を隠しきれると思うのか!?』

 

高く吠えるグライア。

 

その瞬間、グライアの体に変化が現れた。

 

骨肉が捩れ軋み、その姿を変えていく。

 

翼と嘴が無くなり、首筋からは三つの頭と顎が生え、巨躯の猛犬へと変えた。

 

隣で耀は息を呑んで放心していた。

 

 

 

 

 

 

使用者を例外なく合成獣にし、接触したあらゆる生命体の情報を取得、分析し、所持者を進化させ続ける単一系統樹

 

対魔王・全局面的戦闘兵装

 

 

 

 

 

 

 

 

ガロロさんの言ってたことが頭に蘇って来た。

 

はは、確かにこれは対魔王・全局面戦闘兵器になるな。

 

これが、“生命の目録”の真の力……………

 

『そこか!』

 

グライアが俺達の居場所を見つけ龍角から焔の嵐を起こし襲ってくる。

 

廃墟から飛び出し、上空に逃げる。

 

『愚か者め!我ら鷲獅子の一族は翼が無くとも飛べることを忘れたか!』

 

強靭な四肢で大気を踏みしめ一瞬にして間を詰める。

 

耀を守ろうと耀を突き飛ばす。

 

そして、三つの獰猛な猛犬となったグライアの牙が俺の脇腹を貫いた。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

耀SIDE END

 

いきなり修也に突き飛ばされ叩き付けられるように地面に降りる。

 

「痛っ………!」

 

痛がってる場合じゃない。

 

すぐに立ち上がり上を見上げる。

 

そして、空から修也が落ちてきた。

 

脇腹に穴を開けて。

 

「修也!」

 

掛けよてみると修也は意識を失っていた。

 

怪我の方も出血は酷くないけど、放っておくと危険だ。

 

修也を抱えて逃げようとするが、目の前にグリフォンの姿に戻ったグライアが現れた。

 

すぐに臨戦態勢に入るが、グライアは訝しげな表情をする。

 

『解せんな。何故、“生命の目録”を使って変幻しない?そのギフトを使えば、勝てぬまでも防戦に徹する事は不可能ではないはず』

 

「変、幻………?」

 

『……よもや、そのギフトが何か知らぬわけではあるまいな』

 

このギフト………“生命の目録”は他の種族と会話が出来て、心を通わせて、友達になった証にギフトの力を貰う。

 

それがこのギフトの力のはず……………

 

『“生命の目録”は生態兵器を製造するギフト。使用者h例外なく合成獣となり、他種族との接触でサンプリングを開始する。………よもや知らぬままは使っていたのではあるまい』

 

「接触して……サンプリング………」

 

「そうだ。先ほどの強力も巨人族の物だ。数日前“アンダーウッド”て戦ったはずだ」

 

確かに巨人族とは戦った。

 

でも、接触したのは叩き落された時だ。

 

たったあれだけの接触で…………

 

でも、それじゃあ、今まで心を通わせて得てきたと思ってた力も、ただ触れたから手に入れれただけ……………

 

『哀れだな。よもや己の知らぬ間に父の手により怪物と化していたとは夢にも思うまい』

 

「黙れ!」

 

グライアの言葉で頭に血が上りグライアの下顎を蹴りあげる。

 

衝撃で街路は大きく窪み、めり込んだ。

 

グライアは蹴られた方向に飛びあがり見下してくる。

 

『このまま生きていても己が怪物性に目覚めて苦しむだけだろう。せめて最後は貴様の父が生み出した業の片鱗を垣間見て逝くがいい!』

 

グライアがそう叫ぶと再びその姿を変幻させた。

 

そして、現れたのは

 

「………鷲獅子が、龍に………!?」

 

現れたのは巨大な四肢と龍角を持った黒龍だった。

 

『これが、貴様の父が造り出した業の片鱗。そして、“生命の目録”が持つ、真の力だ!』

 

龍になったグライアは口内に炎を蓄積し、熱線として城下街を焼き払った。

 

着弾した場所から立巻くように炎の嵐が起こり、城下街を焦土と化す。

 

せめてもの抵抗で旋風を起こし、その旋風で身を守る。

 

だが、意味がなく炎の竜巻に飲み込まれ地面に叩き付けられる。

 

『抵抗しなければたやすく死ねたものを。下手な足掻きは己の格下げるぞ』

 

「そんな事言われても、困る」

 

もう、言葉に言葉で返す事しかできない。

 

『そのような口が叩けるのも、今だけだ!』

 

再び熱線が放たれる。

 

死を覚悟して目を固く瞑る。

 

熱線が放たれ、辺り一面を焼き払う。

 

だけど、不思議なことに私が居た周りだけは無事だった。

 

目を開き前を向くと、右手を前に突き出し立っている修也がいた。

 

「しゅう、や………?」

 

「は、はは、少し、無理し過ぎた」

 

そしてその場に倒れる。

 

「……しゅうや…」

 

火傷で動けない足を引きずり修也に近づく。

 

「耀、あいつの言葉に耳を貸すな」

 

「え?」

 

「お前の親父さん、孝明さんは、お前を怪物にしようとしたんじゃない。お前に、自分の足で立って歩き、そして今日までで出会って来た人や動物、幻獣たちとの出会いを大切にしてほしくてその恩恵を与えたんだ」

 

火傷を負ってない左手を私の頭に置く。

 

「孝明さんのこと信じてやれ。お前が信じなくて誰が信じるんだよ?」

 

誰が…………信じる…………

 

「お前の力は生態兵器を生み出すギフトなんかじゃない。俺はそう信じてる」

 

「修也………」

 

無意識に手がペンダントを握り締めた。

 

『フンッ!いくら喚こうと“生命の目録”が生態兵器を生み出すギフトであることは変わらん。先程の熱線より遥かに威力が高い物をくらわしてやろう。二度とそんな戯けたことが抜かせぬように!』

 

グライアは先程よりも強く、炎を口内に蓄積させ凝縮させる。

 

「耀、次の一撃が終わったら全力で逃げろ」

 

「で、でも、あの威力を防ぐことなんて」

 

「大丈夫だ。後一撃ぐらいなら体一つで防ぎきれる」

 

「…………え?」

 

「お前を守ることぐらいはできるさ」

 

「だめ…………だめだよ……」

 

『これで、終わりだ!』

 

「我が血よ!我が名のもとに従え!この身に流れる血、全てを持ってあの一撃を「駄目!」

 

最後の言葉を言い終わる前に大声を上げて修也の前に出る。

 

そして、グライアの口から先程よりも強力な熱線が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走馬灯が駆け巡った。

 

今日まで重ねてきた出会いの全てが思い返される。

 

山で、海で、川で、林で、森で、街で、湖で、大陸で、世界で、異世界で、箱庭で出会い、培ってきた全てを。

 

 

 

 

 

 

 

 

負けたくなかった。

 

可能性があるならまだ諦めたくない。

 

幻獣と呼ばれる種は、異種配合された姿で存在している。

 

本来の系統樹からは在りえない進化の系譜持つが故に幻の獣とされる。

 

そして、その系譜を操り、生命の基盤を変える者がいるのなら、それは合成獣という名の禍々しい怪物でしかない。

 

でも、父さんが私に渡してくれたのはそんなものじゃない。

 

私は、父さんを信じる。

 

私が歩けるように、歩いて多くの出会いと出会えるようにと渡してくれたものがそんな禍々しい物であるはずがない。

 

だから、信じる。

 

父さんとの日々を、その贈り物を、享受してきた数々の恩恵を。

 

黒ウサギが言ってた。

 

霊格とは、人生の功績だと。

 

ならこの足で歩んできた日々の奇跡こそ、出会いこそ、私の霊格(そんざい)を形成する財産だ。

 

ペンダントを強く握りしめる。

 

そして、ペンダントに出会いという恩恵を集結させる。

 

歩んで切り開いてきた世界の全てを、両の掌に収めた軌跡を、開闢から時の果て駆け巡る百万の生命の系譜を、その幾億の出会いから選び抜き進化する星の業を、一次生命を、高位生命を、第三幻想種を、その最先から最奥までも凌駕し尽した為に、三万二千七百六十八毎に刻まれる一秒の定義すら追い抜て加速して、私の集大成を――――――――!

 

『何!?』

 

グライアが放った熱線は私が握りしめたペンダントによって阻まれていた。

 

『違う!これは私の知っている“生命の目録”ではない!!!』

 

グライアが叫ぶ中、ペンダントは形を一本の杖へと変えた。

 

先端に大蛇が付いており、翠色の翼を装飾した杖。

 

杖の先端の大蛇で熱線を受け止め、その直後、先端から溢れ出した閃熱が大波の様にグライアの片翼をもぎ取った。

 

『オオオオオオオオオッォォォォォォォォ!』

 

片翼を失ったグライアはその勢いで飛ばされ、地上へと落下していく。

 

私は勝利を確認したその場に崩れ落ちた。




もうすぐ終わります。


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第10話 大勝利宣言だそうですよ?

グライアを倒した後、耀はいきなり倒れた。

 

慌てて火傷を負ってない左手で受け止める。

 

どうやら、気絶してるだけの様だ。

 

「おい、こりゃどうゆう状況だ?」

 

振り返るとそこには十六夜が居た。

 

どういうわけか、全身ボロボロで左肩は怪我をしている。

 

「当たりは黒焦げてるのにお前たちの所は焦げてない。どんなことしたらこうなるんだよ?」

 

「そう言うお前はボロボロだな。お前が怪我するなんてどんな奴にやられたんだよ?」

 

お互い軽く笑い、再開を喜ぶ。

 

「それより十六夜。お前に言うことが」

 

「ああ、ゲームクリアに必要な天球儀の欠片の事だろ」

 

「知ってたのか?」

 

「ここに来る前に捕まった奴等から話を聞いた。そんで、必要な欠片はこれだろ」

 

そう言って十六夜は俺に蛇使い座の欠片を見せた。

 

「やっぱりそれだったか」

 

「黄道上にありながら黄道十二星座に含まれない正座。お前も気づいてたんだな」

 

「ああ、だがうっかりそのことを忘れちまってな。お陰でゲームの休戦期間を強制終了さえちまった」

 

「ま、あんな状況じゃ焦っても仕方がねぇよ」

 

そう言って十六夜はレティシアがいる古城に向かう。

 

俺も耀を背中に抱え後を追う。

 

暫くすると耀が目を覚ました。

 

「………あれ?」

 

「目が覚めたか?」

 

「修也………私、一体何が………」

 

「お前、グライアを倒した後そのまま気を失ったんだよ」

 

「そっか………」

 

そう言うと後は何も言わずに黙る。

 

「あ!」

 

「どうした?」

 

耀がいきなり声を上げる。

 

「ヘッドホン………ない」

 

そう言えばなくなってるな。

 

もしかして戦闘してる時にどっか落としたか、最悪、戦闘で壊れたのどちらかだな。

 

「とにかく、ヘッドホンは後回しだ。レティシアの所に向かおう」

 

「………うん」

 

落ち込んでいる耀を気にしつつも玉座へと向かう。

 

「お、来たか」

 

玉座のある部屋には十六夜以外にガロロさんやジャック、ネズさんなどが居た。

 

「全員揃ったし、レティシア、一つ教えろ」

 

十六夜は玉座に居るレティシアに顔を向ける。

 

「外の巨龍はお前自身じゃないのか?」

 

十六夜の言葉に全員が沈黙する。

 

「……ああ、その通りだ。だが、安心しろ。勝利条件を満たせば巨龍は消え、私も無力化される。それで、ゲームセットだ」

 

「………信じていいんだな」

 

十六夜の言葉にレティシアは頷いて答える。

 

十六夜が最後の欠片を壁の窪みにはめると“契約書類”に勝利宣言がされた。

 

『ギフトゲーム名“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”

 

勝者 参加者側コミュニティ “ノーネーム”

敗者 主催者側コミュニティ “     ”

 

*上記の結果をもちまして、今ゲームは終了とします

尚、第三勝利条件達成に伴って十二分後、大天幕の開放を行います

 それまではロスタイムとさせていただきますので、何卒ご了承ください

 夜行種の死の恐れがありますので七七五九一七五外門より退避してください

 

                           参加者の皆様お疲れ様でした』

 

“契約書類”書かれた文を読んで俺はレティシアの方を向いた。

 

「レティシア、これはどういうことだ?」

 

「………そこに書いてある通りだ十二分後、大天幕は開放され太陽の光が降り注ぐ。

その光で巨龍は太陽の軌道へと姿を消すはずだ」

 

「レティシアはどうなるの?」

 

耀がそう聞くと、レティシアは苦い顔をする

 

そして懺悔するように呟いた

 

「……死ぬ、だろうな。龍の媒介は私だ。それにこの玉座の上にあるのは水晶体だから太陽が直射されることは間違いないだろう」

 

「だ、だって無力化されるだけだって……」

 

「あれは嘘だ」

 

耀がレティシアの胸ぐらを掴もうとしたがその手はレティシアの体をすり抜けた。

 

「ど、どうして………」

 

「言っただろ?龍の媒介は私だ。此処にいる私はいわば精神体のようなものだ。本来なら私に触れると影が襲ってくるのだが……やはり十六夜が倒したらしい」

 

レティシアは苦笑しながら十六夜を見るが、十六夜は目を細めてそっぽを向く

 

「三人とも、辛い役目を騙すように押し付けてしまってすまない。しかしわかってくれ。私はもう二度と同志を死なせたくないのだ」

 

懇願するように俺たちを見つめてくるレティシアを俺は一瞥する。

 

「レティシア、お前の気持ちは理解した」

 

俺の言葉にレティシアは安堵の表情をする。

 

「すまない、修也。“ノーネーム”を頼むぞ」

 

「は?何言ってるんだよ?」

 

「え?」

 

俺の言った言葉が予想外だったのかレティシアは目を見開いていた。

 

「理解はした。だが、納得はしていない」

 

「な!?」

 

「もう二度と同士を殺したくないレティシアの気持ちは理解できる。だがな、お前が死んだら残された連中はどうなるんだよ?」

 

レティシアが何か言いたそうだがそのまま話し続ける。

 

「皆が必死になってゲームをクリアしたのだってまた皆で一緒に笑い合うためだ。それなのに、お前は死ぬっていうのか?それで、お前はいいのか?もう、皆と会えなくなって、そして、皆に悲しみを与えて死んでもいいのか?」

 

「…………」

 

「なんとか言え!レティシア=ドラクレア!」

 

「私だって―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だってまだ生きたい!お前たちと笑い合いたい!あのコミュニティで、一緒に!だが、もう無理なんだ!もう…………無理なんだ…………」

 

泣きながらレティシアは叫んだ。

 

「なら、助けを求めろ!」

 

そんなレティシアに俺は怒鳴る。

 

「生きたいなら!一緒に笑い合いたいなら!助けを求めろ!お前が助けを、救いを求めるなら、俺たちが手を伸ばしてやる!だから、求めろ!」

 

そいて、レティシアは涙を流し、嗚咽をしながら叫ぶ。

 

「お願いだ……………私を…………私を…………助けてくれ!」

 

「よし!任せろ!」

 

振り返り、十六夜と耀を見る。

 

「十六夜、耀、お願いだ。一緒に来てくれ」

 

「それで、俺たちが断ったらどうするつもりだったんだよ?俺たちが手を伸ばしてやるってせめて俺たちの意思ぐらい聞いとけ」

 

そうは言うが十六夜は笑っていた。

 

「さっさと巨龍をぶっ倒そうぜ!」

 

「必ず倒して、皆で帰ろう」

 

二人の決意は固まっていた。

 

それでこそ、俺たち“ノーネーム”だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巨龍は十六夜に任せる。耀は十六夜を巨龍のところまで運んでもらう」

 

「修也はどうするの?」

 

「俺は巨龍を僅かの間だが、抑える」

 

「どうやってだ?」

 

「俺のギフトが血での攻防と幻獣の血で強化するだけじゃないんだよ。ちょっとした奥の手を使う」

 

俺は自信満々に答える。

 

「そうかい、なら俺もそれに見合うだけのことをしてやるよ」

 

「なら、私もいいもの見せる」

 

そう言って耀は“生命の目録”を変形させ、ブーツに銀の装甲を纏った。

 

「おぉ、滅茶苦茶かっこいいじゃないか!」

 

「へぇ~、こりゃ凄い。いかしてるな」

 

「ありがとう」

 

これで準備は整った。

 

「よし、行くぞ」

 

耀は十六夜を抱えて飛び上がった。

 

俺も翼をだし、巨龍に向かう。

 

巨龍は“アンダーウッド”に突進をしようとしていた。

 

そして、巨龍の前には巨大化したディーンがいた。

 

飛鳥か…………

 

なら手伝ってもらうか。

 

『飛鳥、聞こえるか!?』

 

『え!?この声、修也君!?』

 

『説明は後だ!今から俺が巨龍を一時的に抑える。抑えたら遠慮せずにディーンで殴りつけろ!』

 

『分かったわ!思いっきりやるわ!』

 

これで、よし。

 

それじゃあ、やるか。

 

「血の共鳴(ブラッティ・シンクロ)!」

 

その瞬間、俺の視界が変わった。

 

視界には目の前に迫る巨大なディーンだ。

 

そして、俺は頭の中で動きを止めるように指令を出す。

 

すると動きが鈍りだんだんと動かなくなった。

 

そこにディーンが拳を振り上げ、下すのが見えた。

 

血の共鳴(ブラッティ・シンクロ)

 

俺が対象とした生物の血と共鳴し、その生物の意識を乗っ取る技だ。

 

この技を使うと相手のありとあらゆる感覚を共有することができる。

 

この技を応用すればさっきみたいに相手との会話もできる。

 

ちなみに相手との感覚の共有ということは

 

「ぐはぁ!」

 

殴られた痛みも共有してしまう。

 

更に言えば、この技はどんな生物にでも聞くとは限らない。

 

相手が自分よりも霊格が上なら共鳴はできない。

 

仮に共鳴できても相手からの反発で精神にダメージが来る。

 

巨龍は俺よりも霊格は上。

 

そのため今俺は、精神的にかなりきつい。

 

だが、やることはやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 十 六 夜 ! や れ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 見 つ け た ぞ ! 十 三 番 目 の 太 陽 ! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜が放った光の柱は巨龍の心臓を打ち抜き、倒す。

 

心臓から零れ落ちたレティシアを耀が抱き留めてる。

 

太陽の光が当たらないようにレティシアにコートを被せる。

 

いつの間にか、“ノーネーム”の問題児たちが集結していた。

 

俺たちは互いに顔を見合わせそして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「 大 勝 利 ― ! ! 」」」」

 

 

 

 

高らかに大勝利を宣言し、ハイタッチをした。

 




次回はエピローグ

さて、修也と耀をくっつけるかくっつけないか悩むなぁ………


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第11話 告白だそうですよ?

「…………ここは?」

 

目を開けると知らない天井が目に入った。

 

私は一体………

 

「目が覚めたか?」

 

聞きなれた声が聞こえそっちの方顔を向ける。

 

そこには修也が居た。

 

「修也、ここは………」

 

「“アンダーウッド”の主賓室だ。お前、二、三日眠りっぱなしだったんだぞ」

 

そんなに寝ていたのか………

 

「もしかして、ずっとそばに居たのか?」

 

「いや、全員で交代しながら待ってたんだよ。目が覚めた時誰かいなかったら心細いだろ?」

 

そう言って修也は、にかっと笑う。

 

その時部屋の扉が騒がしい音を立てて開かれた。

 

「修也さん!交代にってレティシア様!御目覚めになられたのですね!」

 

「ああ、つい先ほどな」

 

「そうでしたか!あ、黒ウサギは皆さんを呼びに行ってまいります!」

 

歓喜の声を上げ黒ウサギは部屋を飛び出していく。

 

まったく、相変わらず騒がしいな。

 

でも、なんだが懐かしく感じる。

 

「俺、ちょっと耀に呼ばれてるから、一度席を外すぞ。また後で来る」

 

「ああ、わかった」

 

「それと、結構無理してたんだ。もう少し寝てろ」

 

そう言って修也は私の頭を軽く撫でて部屋を出て行った。

 

頭を撫でられた時、一瞬、修也の姿が叔父上と重なって見えた。

 

「ふっ、修也、お前は何処までも叔父上にそっくりだな。……………叔父上、貴方の意志はしっかりと引き継がれてます」

 

空を見上げ、そう語った。

 

さて、もう一眠りするか……………

 

レティシアSIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修也SIDE

 

耀に言われて俺は今“アンダーウッド”の比較的被害が少ない場所に来ている。

 

一体話って何だ?

 

「それにしても、人の気配が無いな」

 

そんなことを考えていると耀の姿が見えた。

 

なにやら、そわそわしている。

 

「耀」

 

「あひゃ!?」

 

あひゃってなんだよ。

 

「しゅ、修也。来たんだ………」

 

「話があるから来てくれって言ったのは耀だろ?」

 

「あ、う、うん。そうだね」

 

なんだ、様子が変だぞ。

 

それになんか顔も赤い。

 

「そうだ、レティシア目覚めたぞ。後で会いに行こうぜ」

 

「う、うん」

 

なんだか、耀の動きがきごちないな。

 

「………あのさ、私達って出会ったから随分時間が経つよね」

 

「そういえばそうだな」

 

「初めて会った時、修也の事、変わった人だと思った」

 

か、変わった人って…………

 

「でも、その後はとても仲間想いの優しい人だって思った」

 

変わった人から仲間想いの優しい人か………

 

中々のランクアップだな。

 

「北の誕生祭の時、修也が連れ去られた時、とっても心配した。だから、会えた時とっても嬉しかった。でも、その後、修也が一人で戦いに行って、辛かった。それに、頼られなくてとても悲しかった」

 

その言葉に俺は言葉を失った。

 

「大怪我して、倒れてる修也を見て泣きそうになった。今回でも修也一人に戦わせることが多かった。その度に何度も胸が押しつぶされそうな感覚になった。怪我をしてボロボロになる修也を見るたびに胸が苦しい」

 

…………………

 

「どうしてこう思うのか最初は分からなかった。ただの憧れとか尊敬とかそういう類のものだと思ってた。でも、修也が傷付くたびに、とても苦しかったし、悲しかった。それで、やっと気づいたの」

 

そう言って耀は俺を見上げる。

 

顔を真っ赤にしながら。

 

「私、春日部耀は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月三波・クルーエ・修也のことが好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に俺の思考は停止した。

 

今………好きって言ったか………?

 

「友達とか、仲間としての好きじゃない。異性としての好きだよ」

 

これって……………告白されてる?

 

「ねぇ、修也の返事を聞かせて」

 

耀は顔を真っ赤にして聞いて来る。

 

その表情はどんな答えでも受け入れるといった感じだ。

 

俺は……………耀をどう思ってるんだ?

 

最初は、不思議な子だと思った。

 

でも、その後結構ノリがよくて、そして、ちょっとしたことですぐ不機嫌になって、なんか子供っぽい所がある女の子だ。

 

それていて、こんな俺に対して好きだと言ってくれた。

 

……………俺は…………

 

「…………耀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間をくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………………………は?」

 

耀は真っ赤にしてた顔を瞬時に真顔に変え、一言そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、女の子に告白されるとか初めてだし、それに俺自身耀の事をどう思ってるのか分からない。

 

そりゃ、他の女の子と比べたらそれなりに好感度高いし、好きであるのは確かだ。

 

でも、それがlikeかloveなのかは分からない。

 

「時間をくれ。頼む」

 

「…………私がどんな気持ちで告白したと思う?」

 

「…………」

 

「一世一代の告白だったんだよ」

 

「……………」

 

「それなのに時間をくれって…………呆れるよ」

 

「…………すみません」

 

「ヘタレ」

 

「返す言葉もありません」

 

「…………………わかった。時間あげる」

 

「………すまない」

 

「だから、これだけ許して」

 

そう言いって耀は俺の両手で挟んできた。

 

これはアレか。

 

ドラマや映画的なパターンか。

 

おそらく頬にキスでもするんだろう。

 

まぁ、時間を貰うんだ。

 

それぐらい構わないか。

 

そう思い覚悟を決める。

 

そして、耀は俺の唇に自分の唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ!?なんかおかしくね!?

 

「よ、耀………」

 

「キスってする場所によって意味があるんだ。

手なら尊敬、額なら友情、頬なら満足感、唇なら愛情、閉じた目の上なら憧憬、掌なら懇願腕と首なら欲望。……………本気だから」

 

恥ずかしかったのか耀はそっぽを向きながらそう言う。

 

「……………いつまでも待ってるから、ゆっくり考えてね」

 

「あ、ああ」

 

「うん、レティシア、目覚めたんだよね。行こ」

 

そう言って耀は俺の手を取って走り出す。

 

耀の横顔を見ながら俺は一つ決意する。

 

耀の為にもちゃんと考えないとな……………

 




付き合うと思った方、挙手。

残念ながら付き合いませんでした。

修也君、ヘタレですねwwww

期待してた方々すみません。

でも、告白したことで耀の枷は外れました。

これからどんどん修也君に甘え捲るでしょう。

その辺に期待してください

では、また次回


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クリスマス特別編 酒に溺れるなってことだそうですよ?

メリークリスマス!

よいこの読者に素敵な話をプレゼント!

それではどうぞ!


今俺達“ノーネーム”は“サウザンドアイズ”に来ている。

 

何故か白夜叉に全員呼ばれたのだ。

 

メンバーは俺、十六夜、耀、飛鳥、ジン、黒ウサギ、レティシア、ペストだ。

 

「よく来てくれた。今日はおんしたちに一つ頼み事があっての」

 

「なんだよ?」

 

「うむ、それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレゼントを配るのを手伝ってくれ」

 

「「「「「「「「……………………………は?」」」」」」」」

 

取りあえず全員で聞き返した。

 

「聞こえんかったか?プレゼントを配るのを手伝ってほしいと言ったのじゃが」

 

「いや、それは聞こえた。たが、なんでプレゼント配りなんだ?」

 

「まぁ、これは“サウザンドアイズ”の慈善事業の一つじゃ。コミュニティと言えども数は多い。中には貧しいコミュニティもある。そのコミュニティの中には子供もいるところもある。そんな子供の為にプレゼントを運ぶのじゃ」

 

「………要するにサンタクロースになって子供たちにプレゼントを配り歩くってこと?」

 

「そうじゃ!」

 

なるほど、だから白夜叉の奴ミニスカサンタのコスプレなんてしてるのか。

 

「無論、報酬は出す。さらに仕事を終えた後、私の私室で細やかな宴会をするつもりじゃ。どうじゃ?」

 

「面白そうじゃねぇか!いいぜ、やってやる!」

 

「……面白そうだし、私もやる」

 

「そのさんたくろーすってのが何かは分からないけど子供にプレゼントを配るのは賛成よ」

 

「YES!黒ウサギもこういうことでしたら喜んで参加します!」

 

「どうせ、私には拒否権なんて無いのでしょ?いいわ、やるわよ」

 

「そう言う割には嬉しそうだな?」

 

「は、ハハハ、…………皆さんよろしいみたいなので、白夜叉様、その御依頼承ります」

 

「うむ、頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、なんて私達までこんなはしたない恰好をしないといけないの!」

 

「飛鳥さんの言う通りです!」

 

早速プレゼントを配りに行くとしたら白夜叉が、「折角のクリスマスなんじゃ!それ相応の恰好で行かんか!」っと言って女性陣にミニスカサンタのコスプレをさせた。

 

飛鳥と黒ウサギは猛反対。

 

耀は特に文句なく着用。

 

レティシアとペストは溜息を尽きながらも少し嬉しそうに来ていた。

 

黒ウサギは上半身と下半身が切り離されへそ出しのビキニのようなミニスカサンタコス、腕には赤い二の腕までの長さの手袋を付けてる。

 

飛鳥は肩を大きく露出させ、膝上十センチのミニスカサンタコス、赤い手袋。

 

耀は上はごく普通のサンタ服で少し袖が長く、スカートは膝上二十センチという驚きの短さだ。

 

レティシア、ペストはワンピースタイプのサンタコスでその容姿に良くあっている。

 

そして、全員のミニスカートには絶対に見えそうで見えない鉄壁ミニスカートなギフトが付与されている。

 

あと、全員頭にはサンタ帽子を着用。

 

黒ウサギは耳が出る様に穴が開いてある。

 

そして、俺達男性陣はと言うと…………

 

「………修也、結構似合ってんぞ」

 

「………十六夜も似合ってるじゃないか」

 

「ま、まぁ、お二人とも十分似合ってますよ」

 

俺と十六夜は何故か着ぐるみのようなトナカイ衣装だ。

 

流石の十六夜も顔を引き攣らせていた。

 

ジンはふつうのサンタ服。

 

解せん!

 

「うむ!あえて言おう、黒ウサギはエロい!」

 

「黙らっしゃい!この駄神様!」

 

景気よく黒ウサギのハリセンが炸裂。

 

「冗談はここまでじゃ。では、今からプレゼン度を配ろう。後、組み合わせはこれじゃ」

 

そう言って白夜叉は懐から紙一枚取り出した。

 

ちなみに白夜叉はレティシアたちと同じワンピースタイプだ。

 

 

 

 

 

 

組み合わせ表

 

十六夜&ジン

 

飛鳥&黒ウサギ

 

修也&耀

 

レティシア&ペスト

 

白夜叉&店員

 

 

 

 

 

 

 

「では、各々、健闘を祈る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜&ジンペア

 

「メリークリスマスだぜ!ガギ共!」

 

「メリークリスマスです!」

 

「サンタさんだ!」

 

「トナカイさんもいる!」

 

「おう、トナカイの十六夜さんだ!一夜限りよろしくな!」

 

「はい!プレゼントだよ」

 

「ありがとう!」

 

「ありがとね!小っちゃいサンタさん!」

 

「う…………小っちゃいサンタさん…………」

 

「ヤハハハハハ!」

 

 

 

飛鳥&黒ウサギ

 

「メリークリスマスですよ!よい子にプレゼントを持ってきました!」

 

「えっと、め、メリークリスマス…………これでいいのかしら?」

 

「ウサギの姉ちゃん、へそ出てるけど寒くねーの?」

 

「こっちの姉ちゃん肩出てる。寒くねーの?」

 

「きっと、そういう趣味なんだよ」

 

「「そーか!」」

 

「「…………………」」

 

 

 

 

 

 

レティシア&ペスト

 

「メリークリスマスだ」

 

「…………メリークリスマス」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ロリっ子、やっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

「「………………………………」」

 

 

 

 

 

 

 

白夜叉&店員

 

「メリークリスマスじゃ!小童どもプレゼントじゃ!」

 

「「「「「わ-い!!」」」」」

 

「これこれ、慌てるでない。全員分ある」

 

「…………………普段からこれならよいのですが……………」

 

 

 

 

 

 

 

修也&耀

 

「………メリークリスマス」

 

「め、メリー、クリスマス」

 

「サンタのお姉ちゃん。どうしてトナカイさんの背中に乗ってるの?」

 

「……サンタの乗り物はトナカイだから」

 

「そっか、じゃあ、このトナカイさん、サンタのお姉ちゃんのペットなんだ!」

 

「うん、そう」

 

「ちょっと待て!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆!ご苦労であった!」

 

「結構楽しめたぜ!」

 

「疲れましたね」

 

「もう、こんな恰好しない」

 

「もう、白夜叉様の事は信用しません」

 

「……………私達、頑張ったわよね?」

 

「……………ああ、頑張った」

 

「……楽しかった」

 

「……つ、疲れた………」

 

プレゼントを配り終え、全員が“サウザンドアイズ”に集合するころには十六夜と耀、白夜叉以外グロッキー状態だ。

 

「報酬は後で渡そう。まずは、宴会じゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後白夜叉の私室で俺達は二つの炬燵を使い、鍋パーティーを行った。

 

ちなみに女性店員は用事があるらしく帰った。

 

 

あと、炬燵の班分けはこんな感じだ。

 

第一炬燵

 

俺 十六夜 飛鳥 耀

 

第二炬燵

 

ジン レティシア ペスト 黒ウサギ 白夜叉 

 

 

 

 

 

「あれだな。寒い日に鍋はいい」

 

「まったくだ」

 

「……美味しい」

 

「体が温まるわ」

 

俺達は問題児四人でのほほんと鍋を突っついた。

 

そして、あちらはというと

 

「ちょっと!それは私が狙ってた鱈!」

 

「ふっ、鍋の世界は弱肉強食だぞ」

 

「白夜叉様!その鶏肉はまだ生煮えです!あと、さっきからお肉の食べ過ぎです!こちらをお食べ下さい!」

 

「白菜は嫌じゃ!肉を食わせろ!」

 

「………うどんがおいしいです」

 

周りが騒いでる中、ジンは一人うどんに手を付けていた。

 

「おい、白夜叉!これはなんだ?」

 

十六夜が何かに目を付けた。

 

「ん?おお!それは………ジュースじゃ」

 

「へぇ………ジュースねぇ」

 

ん?どうした?

 

「春日部、お嬢様。一杯どうだ?」

 

「………もらう」

 

「そうね、頂くわ」

 

「ほれ、黒ウサギとジン、レティシアにペストも飲め」

 

「あ、すみません」

 

「ありがとうございます。白夜叉様」

 

「………いただくわ」

 

「ああ、すまないな」

 

そうして、俺と十六夜、白夜叉以外のメンバーはそのジュースを飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははは!十六夜さんが三人いらっしゃいますぅ~」

 

「僕だって、僕だって、頑張ってるんですよ!」

 

「ラッテ~ン、ヴェ~ザ~、会いたいよ~、二人に会いたいよ~」

 

「うふぇふぇふぇふぇ、視界がくるくる回ってるよ~」

 

「…………おい、白夜叉」

 

「うむ、正直やり過ぎた」

 

「なんっつーか、カオスだな」

 

十六夜と白夜叉が飲ませたのはチューハイだった。

 

まぁ、ジュースみたいなものだから、全員が気づかなくてもおかしくないか………………

 

「まさか、黒ウサギが笑い上戸だったとはな」

 

「ジンは泣き上戸か………」

 

「レティシアとペストに至っては人格変わってるぞ」

 

これは放っておいた方がいいな。

 

そして、飛鳥と耀はというと

 

「こら~、十六夜く~ん!こっちに来てお酌しなさい!」

 

「……………」

 

飛鳥は顔を真っ赤にして、一升瓶を片手に酔っぱらっていた。

 

耀は黙々と飲んでいて普通に見えるが、顔がほんのりと赤い。

 

「はいよ。修也、俺はお嬢様の相手をしとくから、春日部を頼む」

 

「ああ」

 

飛鳥を十六夜に任して耀の床に向かう。

 

「耀、飲み過ぎだぞ」

 

「………………修也?」

 

ようが虚ろな目で見てくる。

 

「ああ」

 

「…………修也だ!」

 

「おわっ!」

 

いきなり飛びつかれた。

 

「えへへへ、しゅ~や~」

 

「ちょっ、よ、耀!?」

 

耀が満面の笑みで抱き付いて来る。

 

「すりすり」

 

頬ずりしてきた。

 

「ちょっ、やめ!」

 

「えへへ、ちゅ~」

 

「それはOUT!」

 

キスしようとして来る耀を止める。

 

「十六夜!助けてくれ!」

 

十六夜に助けを求めるが

 

「いい!分かってる!そもそも、男子たるもの――――――」

 

「あ、ああ、うん。分かったから少し落ち着こうぜ。な?」

 

飛鳥の目の前で正座をし何かについて熱く語られていた。

 

「黒ウサギ!少し落ち着かんか!」

 

「白夜叉様ぁ~、可愛らしいですよぉ~」

 

「聞いてますか!?僕だって!」

 

「ラッテ~ン、ヴェ~ザ~!」

 

「うふぇふぇふぇふぇふぇふぇ」

 

白夜叉は向うで大勢に絡まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、こんなクリスマス初めてだな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

「ふ~、また一日が始まりますね」

 

いつも通りの割烹着に着替え女性店員がやってくる。

 

そして白夜叉の私室に向かう。

 

「オーナー、今日の仕事をお持ちしました」

 

襖を開けるとそこには

 

黒ウサギに抱き付かれ苦しそうにしてる白夜叉と白夜叉を幸せそうに抱いてる黒ウサギ、大の字になり寝てるジンとジンの両腕に絡みついて涎を垂らすレティシアと涙の後があるペスト、死んだように眠る飛鳥に腕枕をしてる十六夜、耀に抱き付かれ目に隈を作った修也がいた。

 

「………………どういう状況ですか?」

 

女性店員は冷静にそう聞いた。

 

「………酒は飲んでも飲まれるなってことだ」

 

修也は苦しそうにそう呟き溜息を吐いた。

 




今年のクリスマスはどう過ごしましたか?

私は自分で予約したケーキを食べながら小説を書いています。

予定なんかない。

寂しいね………


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番外編 黄金盤の謎を追え 前編

「ふぁ~………眠」

 

今、俺はあくびをしながら“ノーネーム”の敷地内を歩いていた。

 

昨日は一晩中起きて本を読んでいたため、かなり眠い。

 

幸い今日は休み。

 

何処か誰も邪魔しない場所で惰眠をむさぼるか………

 

そこで目に入ったのは貯水池前の小屋だ。

 

ちょうどいい、あそこで寝よう。

 

小屋に向かうと飛鳥が気持ちよさそうに寝ていた。

 

「先客か………」

 

飛鳥が居るならやめとくか………

 

いや、もう眠気が限界に近い。

 

これはもう寝るしかない。

 

と、いうワケで

 

「おやすみ」

 

飛鳥の近くで横になり目を閉じた。

 

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

耀SIDE

 

 

私は今、両手に林檎を抱え貯水池の方角に進んでいた。

 

子供たちの話を聞くと修也は貯水池の近くの小屋に向かったらしい。

 

…………別に修也がそこにいるから向かってるわけじゃない。

 

ただ、そこの小屋で林檎を食べようと思ったら偶然、修也がそこに居るだけの話だ。

 

うん、偶然。

 

だがら、問題はない。

 

一緒におやつを食べようとか考えてない。

 

………………………………修也が欲しいって言ったら上げるかもだけど。

 

心臓がドキドキ言う音が聞こえる。

 

そして、緊張しながら小屋の縁側を覗くと

 

「うん?よぉ、春日部」

 

十六夜がいた。

 

「………なんだ、十六夜か」

 

「なんだってなんだ?」

 

「……別に」

 

だって、修也が居ると思って除いたら十六夜がいるんだもん。

 

例えるなら、鶏のから揚げだと思ってかじったら実は鶏の竜田揚げだったぐらいショックだよ。

 

私は鶏のから揚げが好き。

 

そう思ってると十六夜の膝の上で寝ている飛鳥に気がついた。

 

「………何してるの?」

 

「膝枕」

 

ドヤッ!とした顔で宣言する。

 

「飛鳥がお願いしたの?」

 

「いや、農園の様子を見に行こうとしたらお嬢様が隙だらけで寝ていたからちょっとからかいたくなった」

 

「からかう?」

 

「考えても見ろよ。こんな状況で目を覚ましたら、きっと頬を紅潮させてあたふたするに違いない。俺はソレを見てにやにやしたい」

 

なるほど、と納得する。

 

それと同時に、十六夜の隣で修也が寝ていることに気付く。

 

気付くと同時に胸がドキッとした。

 

「修也も寝てる」

 

「ああ、こいつは俺が来たときにはすでに寝てたぞ」

 

「…………それって、十六夜が来るまで飛鳥と二人で寝てたってこと?」

 

「え?あ、ああ、そうなるな」

 

「ふ~ん…………………………………………………………そっか」

 

(うお!?なんだ、この殺気!?春日部が発してるのか!?)

 

今、自分の中でも驚くぐらいドロドロしたものが込み上げてきた。

 

コレハ、チョット、オハナシスルヒツヨウガアルカナ。

 

「か、春日部。一ついい話がある」

 

「ン?ナニカナ?」

 

「ここでお嬢様だけでなく修也があたふたする顔も見たくないか?」

 

「え?」

 

「ここで、春日部が修也に膝枕、いや、修也を抱き枕にして寝てたら、修也の奴、起きた時顔を真っ赤にしてあたふたすると思うが、どうだ?」

 

…………………抱き枕

 

「そ、そうだね。しゅ、修也があたふたする姿見てみたい、かな」

 

(よし、取りあえず危機は去ったか)

 

そ、それじゃあ、失礼して……………

 

別に修也に抱き付きたいとか、一緒に寝たいとかそんな理由じゃない。

 

これは、修也をからかいたいからするだけで別にそんなやましい気持ちとか下心とか一切ない!

 

修也の隣に横になって抱き付く。

 

う、うわ~、しゅ、修也の匂いが!体温が!

 

あ、あ、あ、あ、ヤバイ!心臓が爆発しそう!

 

「う~~~ん」

 

修也がこっちに振り返った!?

 

現在の状況は私と修也が抱き合って寝てるような図だ!?

 

か、顔が、近い!?

 

だ、ダメ…………意識が……………

 

 

耀 (意識が)LOGOUT

 

 

 

 

 

 

 

十六夜SIDE

 

「春日部の奴、顔を真っ赤にして気絶しやがった」

 

だが、スンゲェー幸せそうな顔してやがる。

 

「恋は人を変えるとか言うが、これは変わり過ぎだろ」

 

軽く苦笑して再び本に目を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後

 

「三人とも、一向に起きねえな」

 

本も読み終えちまったし、暇だな。

 

それにしても、お嬢様と修也はよく寝るな。

 

春日部に至っては気絶が長い。

 

さっきから耳を立ててはいるが寝息が聞こえなかった。

 

「快晴、春風、水流の音。確かに昼寝日和にはもってこいだ」

 

俺も寝るか?

 

いや、それだと慌てふためくお嬢様が見れない。

 

それは悔しい。

 

いっそのこと叩き起こすか?

 

そう思った時、賑やかな声が聞こえた。

 

「大変なのです!大変なのですよー!」

 

ウサ耳を撥ねさせて本拠から黒ウサギが猛ダッシュでやって来た。

 

そして、俺たちの前で急停止をする。

 

「大変なのです!大変なのです!大変なので「五月蠅い」

 

あまりにも五月蠅いので林檎を投げつけた。

 

林檎は見事に黒ウサギの額に直撃。

 

黒ウサギは額を真っ赤にしながらもまくしたてる。

 

「と、とにかくこれを見てください!街中でこんなものが「五月蠅い」

 

もう一度林檎を投げつける。

 

二度目があるとは思ってなかったらしくまた直撃する。

 

黒ウサギは横転して空を仰ぐ。

 

その拍子に俺の手元に黄金の板が落ちてきた。

 

「なんだコレ」

 

持ってみると重さを感じる。

 

まさか、本物の金塊か?

 

「どうしたんだ、この金塊。本物みたいだが」

 

「ほ、本物なのですよ…………あと、額が痛いのですよ………」

 

黒ウサギが涙目で訴えてくる。

 

そこでようやくお嬢様と春日部、修也に気付く。

 

「こ、これは…………どういう展開でございますか?」

 

「ウサギが難しいことを考えるな。で、コレはなんだ?」

 

黄金盤を叩いて黒ウサギに問う。

 

「よくぞお聞きになりました。この黄金盤は、錬金術の秘奥を与える為に開催するギフトゲーム“Raimundus Lullus”の“契約書類”でございます!」

 

「“Raimundus Lullus”ってあれか?哲学者のライムンドゥス=ルルスのことか?」

 

「そうでございます!鉛を金に変える錬金術を使い、世界の理を解くと言うルルスの術―――――アルス=マグナを提唱した御仁でございます!その真理に辿り着くためのギフトゲームが開催されるとのことですよ!」

 

ウサ耳を左右に振りはしゃぐ黒ウサギを横目に考える。

 

金を作る恩恵。

 

そんなものを簡単にギフトゲームの賞品にするか?

 

そう考え“契約書類”に目を落とす。

 

『ギフトゲーム名:“Raimundus Lullus”

 

参加資格B:善なる者

 

敵対者: 偉大なる者

     継続する者

     力ある者

     知恵ある者

     意志ある者

     徳ある者

 

敗北条件:“契約書類”の紛失は資格の剥奪に相当

勝利条件:全ての“ルルスの円盤”を結合し、真理ならざる栄光を手にせよ

 

ゲーム補足:全ての参加者の準備が整い次第ゲーム開始

      ゲームの終了は全ての参加者の敗北した場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗と“サウザンドアイズ”の名の下、ギフトゲームを開催します。

                            

                                 “サウザンドアイズ”印』

 

 

「おい、黒ウサギ」

 

「はいはい、なんでしょう?」

 

「このゲームの主催者“サウザンドアイズ”だぞ。本当に大丈夫か?」

 

正直、あの白夜叉がやるゲームがまともとは思えんのだが。

 

「それはむしろ信憑性を高めるというもの!あの“サウザンドアイズ”が満を持して開催するゲームなのでございます。コレはきっと凄いゲームなの違いありません!………それに」

 

急に声のトーンを落として黒ウサギは廃墟街を見る。

 

「そろそろ………あの廃墟街も整理せねばなりません。その為にも纏まったお金が必要なのです」

 

「…………はぁ、仕方がねえなっと!」

 

乗り気しないが、仕方がねえな。

 

軽くため息を吐き立ち上がる。

 

その拍子にお嬢様が頭を地面にぶつける。

 

「痛ッ!」

 

「おら、お前らも起きろ!」

 

修也と春日部の頭を叩いて起こす。

 

「イッテェ~、何しやがるってなんで耀が俺にくっついてる?」

 

「こ、これは、その、あの!」

 

あたふたしてる春日部がおもしろいが今はそれどころじゃない。

 

「いつまで寝てる。休暇は返上だ。大型のギフトゲームが開催されたぞ」

 

「い、十六夜さん!まだゲーム会場も知らされていませんし、ゲーム開始のコールもまだでございます。そんなに慌てる程ではありませんよ?」

 

そう言う黒ウサギに溜息を吐き、黄金盤を投げる。

 

「来るぞ。右に避けろ!」

 

その瞬間、雑木林から大量の鏃が飛んできた。

 

いつの間にか槍を取り出した修也が全て叩き落とした。

 

「え?え!?」

 

「敵………!?」

 

寝起きで状況が把握し切れてないお嬢様は目を瞬かせる。

 

春日部はすぐに状況を理解して臨戦態勢に入る。

 

「ど、どういうことでございますか!?」

 

“擬似神格・金剛杵”を構えたまま黒ウサギは声を上げる。

 

「文面読んでねえのかこの駄ウサギ!このゲームは“契約書類”―――黄金盤の争奪戦だ!ゲームはとっくに始まってるんだよ!」

 

叫ぶや否や俺はすぐさま駆け出し、鏃の雨を交わして一人の獣人の手首を掴む。

 

「速い!?」

 

「お前が遅いんだよ!」

 

手首を捻って足を払う。

 

そして、獣人はその場で三回転しながら、頭から地面に落ちる。

 

「貴様!」

 

「よくも我らの同士を………!」

 

「囲め!囲んで一斉に撃て!」

 

獣人どもがあわただしく動く。

 

それ目掛けて拾った小石を

 

「休暇潰した挙げ句に人の縄張りに忍び込むとは恐れ入る。 ……………………………………………テ メ ェ ら 全 員 、其 処 に 直 れ ―――――――――――――! ! ! ! 」

 

大地に叩き付けた。

 

雑木林の木々と一緒に獣人共も吹き飛ばす。

 

お仕置きにはちょうどいいだろ。

 

吹き飛んだ獣人の手から黄金盤が滑り落ちる。

 

「まずは一枚。…………ったく、ぬるいゲームだぜ。これで本当にアルス・マグナが手に入るのかよ」

 

“アルス・マグナ”―――科学的観点からではなく神秘的観点から考察される錬金術。

 

“ルルスの秘術”“王者の秘跡”“最後の錬金術”などと色んな名称で求められている。

 

ま、最大級の恩恵の一つとも言えなくはないか。

 

とくにこのゲームのタイトルの“Raimundus Lullus”―――――日本名・ライムンドゥス・ルルスは、アルス・マグナにまつわる逸話を多く持つ哲学者の一人だ。

 

取り分け有名なのは、イギリス国王・エドワード三世に黄金を送ったとされる逸話。

 

数十トンの卑金属を黄金に変えたって話だが………

 

そこまで考えて黄金盤の文面に目を落とす。

 

 

『ギフトゲーム名:“Raimundus Lullus”

 

参加資格D:継続する者

 

敵対者: 善なる者

     偉大なる者

     力ある者

     知恵ある者

     意志ある者

     徳ある者

 

敗北条件:“契約書類”の紛失は資格の剥奪に相当

勝利条件:全ての“ルルスの円盤”を結合し、真理ならざる栄光を手にせよ

 

ゲーム補足:全ての参加者の準備が整い次第ゲーム開始

      ゲームの終了は全ての参加者の敗北した場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗と“サウザンドアイズ”の名の下、ギフトゲームを開催します。

                                

                                “サウザンドアイズ”印』

 

 

ん?この文面………

 

俺が文面を訝しんだ瞬間。

 

黄金盤は錆び崩れた鉄塊に姿を変え、その場で崩れ落ちた。

 

「な………?」

 

慌てて掴もうとするが、鉄粉にまで分解され黄金盤は俺の指をすり抜け、春風に乗ってそのまま消え去った。




次は後編。

次回もお楽しみに。


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番外編 黄金盤の謎を追え 後編

「黄金の“契約書類”………珍しい形式ね」

 

「うん。それに文面も少し特殊かも。修也と十六夜はもう分かってる?」

 

お茶うけに出された煎餅をかじりながら耀が聞いてくる。

 

「ああ、分からなくもない。というか文面に書かれていることはそんなに珍しい話じゃない」

 

「数は足りないが、これは“ルルスの術”に記された最小単位の述語のこと。宛がわれたアルファベットはその言葉を示す記号だ」

 

“ルルスの術”とは“ライムンドゥス=ルルス”と言う錬金術師が提唱した秘術の事。

 

その中にある最小単位の述語が九つある。

 

B:善

 

C:偉大

 

D:持続

 

E:力

 

F:知恵

 

G:意志

 

H:徳

 

I:真理

 

K:栄誉

 

これらの述語を接合することで生まれる言葉を記述したものが“ルルスの円盤”だ。

 

「冒頭の参加資格に“B”ってあるだろ?これは“善”という単語に当てられたアルファベットの事だ。俺達を襲ってきたやつの黄金盤にも似通った意味を持つアルファベットが刻まれていたから間違いない」

 

ちなみに俺達を襲ってきた連中は丁寧に縄で縛って隅に放置している。

 

ゲーム中とはいえ、俺たちの領地を侵して強襲までしたんだ。

 

明らかに不法だ。

 

取りあえず、“階層支配者”に差し出さない代わりに数日間の強制労働で手を打った。

 

その時十六夜がその男共に近づいて行った。

 

「お前たちの黄金盤の参加条件には“参加資格D:継続する者”と書かれていたんだな」

 

「は、はい」

 

「それじゃあ、その参加条件は黄金盤を受け取った時からそうだったのか?それとも、お前たちが何かしたのか?」

 

「い、いえ………あ、、でも、黄金盤の文面は各コミュニティごとに違うと説明にありました!」

 

「へ?」

 

男どもの言葉に黒ウサギが首を傾げる。

 

俺達は一斉に黒ウサギを見る。

 

「…………おい、黒ウサギ。そんな説明あったのか?」

 

「え?あ、いや1あったかもしれませんけども!」

 

「曖昧ね。主催者側のルールを聞き逃すなんて気が抜けてるのではなくて?」

 

「これでクリアできなかったら黒ウサギの責任」

 

「クリアできなけりゃ名前を黒ウサギから駄目ウサギにするからな」

 

俺たちの言葉に黒ウサギはウサ耳をへにょらせる。

 

十六夜は男共からゲームについて聞きだす。

 

「おい、他にはどんな説明がある?」

 

「こ、この黄金盤を七種類集めて持ってくることがクリアへの鍵だと聞きました。奪い合いは、参加資格に則ったリトルゲームで決めるようにと」

 

「へぇ~、じゃ、力ずくで奪いに来たお前たちはルール違反ってことだな」

 

男共は自らの首を絞めてしまい慌てる。

 

俺達はここぞとばかりに捲くしたてた。

 

「コイツは参ったな、お嬢様!領土侵犯なら俺達の裁量で裁いてもいいんだが、“サウザンドアイズ”主催のゲームでルール違反をしていたと思わなかった!」

 

「そうねえ。一瞬間ほどの強制労働で許してあげようと思ったけど………そういうことなら話は別よね、春日部さん」

 

「うん。農地開拓するために、一年は労働をしてもらわないと、ね、悠也」

 

「朝早くから夜遅くまでの一年強制労働に加え、毎日の食事はコッペパン一個、睡眠時間は一日四時間でもしてもらおうか」

 

ひいっと男たちが悲鳴を上げる。

 

言っとくけど本気だぜ?

 

「取り敢えずゲームの概要は分かった。黄金盤が散ったのはリトルゲームを通して黄金盤を手に入れてないことが理由。……………フン、やっぱり大したことの無いゲームなんじゃないか?」

 

十六夜の言う通り“ルルスの術”ではこのアルファベットと述語を使った円盤はさほど重要な位置に存在してない。

 

俺も十六夜と同じくこれが錬金術の秘奥であるアルス・マグナを手にするゲームには思えない。

 

そんなことを考えている俺達を余所に女性陣は盛り上がっていた。

 

「争奪戦と分かった今、善は急げなのです!」

 

「そうね……七種類も集めなければならないなら、早く動かないと」

 

「手分けして他のコミュニティにリトルゲームを挑む?」

 

「YES!“ノーネーム”には一騎当千の実力者が五人いらっしゃいます!レティシア様も呼んでまいります!」

 

言うや否や黒ウサギはすぐさま部屋を飛び出した。

 

「……どうするよ?俺的にはかなり眉唾もののゲームだぞ」

 

「白夜叉のゲームが胡散臭いのはいつものことだろ?」

 

「そうね。どんなに酷い真相が待っているにしても、参加してみないことには分からないわ」

 

「………オチがつくことは前提なんだ」

 

「そうか、つまらないゲームなら、付加価値を付ければいいのか」

 

十六夜がニヤリと笑う。

 

「どんなにくだらないオチでも白夜叉のゲーム。賞品もそれなりのもののはずだ。どうだ、七つの黄金盤を一番多く集めた奴が、賞品を独占するってのは?」

 

「あら、面白そうじゃない」

 

「ああ、中々にいい提案だ」

 

十六夜が挑発するかの如く笑う。

 

それに対して

 

俺達は笑って返す。

 

「でもそれだけじゃ、つまらないから…………負けた人は勝者に一日服従」

 

「それは、少し厳しいぞ。ここは勝者には…………黒ウサギが一日服従でどうだ?」

 

「「「それだっ!」」」

 

「それだっ!ではありませんこのお馬鹿様方ああああああ!」

 

いつの間にか帰って来てた黒ウサギのハリセンで叩かれた。

 

黒ウサギの後ろには掃除の途中だったのか雑巾を持ったレティシアがいた。

 

「ふむ、そのゲーム私も乗った」

 

「レティシア様!?」

 

「メイドが乗った!レティシアが勝ったら黒ウサギは一日メイド業だ!」

 

「“Raimundus Lullus”改め“黒ウサギ服従権争奪戦”ね」

 

「早く街に行こう!」

 

三人はさっさと自由区画に向け走り去る。

 

「あ、あの~、レティシア様。冗談で仰ったんですよね?」

 

「心配するな。ちゃんとみっちりメイド業を仕込んでやる」

 

「やる気満々じゃないですか!」

 

黒ウサギのハリセンが再び炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう………皆さん、どこに行ったのですかー!!」

 

「そう気張るな。もう少し楽しんだらどうだ?この規模のゲームは東側では珍しい。羽を伸ばすには丁度いいだろう?」

 

俺は今、黒ウサギとレティシアと行動している。

 

何故なら、ゲームへの参加資格でチップでもある黄金盤は十六夜が持っている。

 

これじゃあ、リトルゲームに参加すらできない。

 

「二人とも。あの男の胸元を見ろ」

 

レティシアに言われて男を見る。

 

「蛇と杖の旗印、“ケーリュケイオン”の旗印だ」

 

「ギリシャ神群の金庫番がどうして最下層に!?」

 

「もしかしたら、俺達への報復かもな。俺達は“ペルセウス”を倒し、星空から正座を下ろした。それはアイツらの信仰の一部を削ぎ落したってことだ。そうなりゃ、アイツらのトップも黙ってはいられない」

 

「“サウザンドアイズ”が関わってるから報復は無いと高を括ってたが………警戒をした方がよさそうだ。すぐに十六夜達を探そう」

 

取りあえず三手に分かれた探そうとした時、路地はずれの天幕から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「飛鳥、恥ずかしがってる場合じゃない。もっとまじめに客引きしないと勝てないよ」

 

「む、無理よ!こんな恥ずかしい恰好で人前に出られるはずがないでしょう!?」

 

「恥ずかしさなんて気にしちゃ駄目。それじゃあ、ゲームに勝てない」

 

「第一、私にこういう恰好は似合わないわよ!?」

 

「大丈夫。超似合ってる。超グッジョブ。超メイド」

 

「超メイド!?」

 

「超メイド!!?」

 

「ほう。超メイドか」

 

レティシアの瞳が光った。

 

そして、天幕に駆け寄り布を勢いよく剥がした。

 

「きゃ………!?」

 

「む?」

 

天幕の中には耀と飛鳥が居た。

 

「やっぱり、耀と飛鳥か」

 

天幕を覗き込み思わずため息が出た。

 

てか、なんでメイド服?

 

二人は白と黒のレースで飾られたミニスカートタイプのメイド服を着ていた。

 

「しゅ、修也………!?」

 

「ん?」

 

何か耀が顔を真っ赤にしてる。

 

あれ………?

 

嫌な予感が……………

 

「バ○ス!」

 

グサッ!

 

「目があぁぁぁぁぁ目があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

行き成り目潰しされた。

 

俺が何をしたって言うんだ!?

 

「春日部さん!?行き成り何を!?てか、何で目潰し!?」

 

「だって……だって……メイド服が……恥ずかしい………」

 

「私に恥ずかしいのを気にしちゃ駄目って言ったのは貴女でしょ!?」

 

そこの二人騒ぐのはいいが。俺の心配もしてくれ………

 

 

 

 

 

 

「それにしても、どうして二人はメイド服を着てるんだ?」

 

未だに痛む目を擦りながら問う。

 

「えっと実は…」

 

飛鳥は肌を隠しながら“契約書類”を渡してくる。

 

レティシアに渡し、文面を読んでもらう。

 

何故なら、まだ見ることが出来ない。

 

『ギフトゲーム名:“Raimundus Lullus”

 

リトルゲーム:“知恵”と“意志”と“徳”

 

*ルール概要

一時間以内に“ウィル・オ・ウィスプ”の売り物を多く売りさばいたものが勝者。

但し原則として、“ウィル・オ・ウィスプ”の旗印が入ったメイド服で売ること。

尚、男性参加者もメイド服着用必須。

敗者には一日メイド服で“ウィル・オ・ウィスプ”での無償の売り子を強要します』

 

「ちょっと待て。本当にそれがゲームの内容の全文か?」

 

聞いた内容に思わず眉を寄せる。

 

その内容だと、“ウィル・オ・ウィスプ”は黄金盤を失うだけの内容だ。

 

「その……ジャックたちは、“クイーン・ハロウィン”の付き添いで来ただけで………ゲームに勝ち残ることには興味が無いみたい…………だがら、ゲームの勝者に三つとも譲るって……………」

 

「なんでも優勝しても自分たちにはあまり意味が無いとか」

 

それにしても、耀がさっきから様子が変だな。

 

「“ケーリュケイオン”に“クイーン・ハロウィン”がこんな下層のゲームに参加するとは…………俄かには信じがたい状況だな」

 

「ですが、本当に錬金術の秘奥であるアルス・マグナなが手に入るなら、これらのコミュニティが参加しても不思議ではないと思いますよ?」

 

黒ウサギの言うことはもっともだ。

 

だが、“ウィル・オ・ウィスプ”は工芸品やガラス細工などを制作している。

 

それなのに黄金の錬成ができるアルス・マグナを欲しがらないのはおかしい。

 

それに、仮に賞品が本物だとして、どうして“サウザンドアイズ”がそんな貴重なものを下層のゲームの賞品にするんだ?

 

「もしかしたら、一般参加者には知らされてない裏の事情があるかも知れん」

 

「……そうだね。少し整理しよう」

 

調子が戻った耀が状況をまとめ始める。

 

① ギフトゲーム“Raimundus Lullus”は錬金術の“ルルスの術”の文面を使用

② 七つの黄金盤を集めることがゲームでの勝者

③ “ウィル・オ・ウィスプ”は賞品を知っているようだが、無用と判断

④ “ケーリュケイオン”“クイーン・ハロウィン”といった大型のコミュニティが参戦している

⑤ 上記の③④から大型のコミュニティでなければ勝利する意味が無い賞品である

 

以上の事を踏まえて全員で首を傾げながら“契約書類”の文面を反芻する。

 

すると、耀が気づいたのか顔を上げた。

 

「もしかしたら、このゲームそのものが“商業力”を競うものなんじゃないかな?」

 

「え?」

 

「というと?」

 

飛鳥とレティシア、黒ウサギが疑問の声を上げる。

 

耀は地面に“契約書類”の文面を書く。

 

『ギフトゲーム名:“Raimundus Lullus”

 

参加資格B:善なる者

 

敵対者: 偉大なる者

     継続する者

     力ある者

     知恵ある者

     意志ある者

     徳ある者

 

敗北条件:“契約書類”の紛失は資格の剥奪に相当

勝利条件:全ての“ルルスの円盤”を結合し、真理ならざる栄光を手にせよ

 

ゲーム補足:全ての参加者の準備が整い次第ゲーム開始

      ゲームの終了は全ての参加者の敗北した場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗と“サウザンドアイズ”の名の下、ギフトゲームを開催します。

 

                             “サウザンドアイズ”印』

 

「始めはリトルゲームを七回クリアしなきゃいけないと思ったけど、これはそれに限ったものじゃない。私達がジャックたちから受けたリトルゲームは一度に三つも“契約書類”を掛けの対象にすることが出来た。つまりこのゲームは、特定の共通項を持ったリトルゲームなら一度で七つの黄金盤を競い合うことが出来る」

 

「なるほど、それが“商業力”か。

善、知恵、意志、徳は商業の信用基盤で、偉大、継続、力はコミュニティの規模や経済力。

勝利条件の“ルルスの結合”は、リトルゲームを一度に済ませるっていう意味が込められてるんだな」

 

「それって………本当の参加者はこの露天商たちだと言うの!?」

 

飛鳥は驚愕して周囲を見渡し言う。

 

「そう。最終的なゲームの勝者はきっと、七つの黄金盤を集めて、売り上げをもっとも出したコミュニティが選ばれる」

 

「“ケーリュケイオン”みたいな大型商業コミュニティが参加してることを考えると賞品は道具や金品じゃなくて、商売の権益か」

 

耀の推論に一同は納得する。

 

それが本当なら“ノーネーム”には利益が無いな。

 

商売をしようにも俺達には商売をするだけの基盤が無い。

 

「それでは、廃墟の整備をするという目標も叶いそうにありませんね」

 

黒ウサギが落胆の表情をし、ウサ耳を萎れさせる。

 

「あ、でも、参加賞の黄金盤が貰えるわけですから、これはこれで良しとするのです!この黄金も金塊として七に出せば「待った。それどういう意味?」

 

耀が片手を上げて黒ウサギに問う。

 

声がいつも以上に真剣みを帯びてる。

 

「すみません。説明不足でしたね。この黄金盤は参加賞として参加者に配布された物でもあるのです。なのでゲームに勝てずとも負けなければ、この黄金盤は貰えるのですよ」

 

なるほど。

 

このゲーム舞台で参加者達に金を使わせることを目的だったと考えたらそれも全て辻褄が合う。

 

初めから参加者たちはゲームの舞台装置として呼ばれてたのだからな。

 

「なら、その黄金盤を全て頂こう」

 

「え?」

 

「売り上げで黄金盤を掛けてるなら、一番稼いだコミュニティに金塊が全て与えられてるはず。だから、私達も市場に参加して露天商たちの鼻を明かしてやろう」

 

「あら素敵。でも、勝算はあるの?」

 

耀は勢いよく立ち上がり、“ウィル・オ・ウィスプ”の賞品が乗った台車を叩いて悪戯っぽく笑う。

 

「やり方はジャックたちにが教えてくれた。きっとうまく行く。だがら」

 

そう言って台車から何かを引きずり出す。

 

「黒ウサギと修也にも超メイドになってもらう」

 

「「…………え?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いらっしゃいませー!出店代理店“ノーネーム”のウサギ小屋はこちらなのですよー!」

 

黒ウサギの声が響く。

 

噴水広場の前人は巨大な列が出来上がっており、まるで一つの生命体の様だ。

 

「か………買い物をしたい人は、静かに一列にならんでお待ちなさい!」

 

「「「「「「「「イエス、マム!」」」」」」」」

 

飛鳥もメガホン片手に叫ぶ。

 

耳まで真っ赤だ。

 

そして、俺はというと

 

「列の最後尾はこちらです!お早くお並び下さい!」

 

ロングスカートタイプのメイド服に銀髪のウィックを付け、メイドになっています。

 

「おい、見ろよ!あのメイド!」

 

「洗練された動き!煌めく銀髪!主人を邪魔せず立てそして、さり気なく自身の存在もアピールするオーラ!」

 

「まさに、メイドの中のメイド!」

 

「パーフェクトメイドだ!」

 

めっちゃ人気です。

 

…………………………もう嫌だ…………………

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レティシアSIDE

 

今の現状を見て私は純粋に驚いた。

 

「驚いたな。ここまでうまく行くとは思わなかった。我が主たちは商才もあったのだな」

 

「それもこれも、レティシアと黒ウサギと飛鳥の可愛さ、そして何より修也の美しさのおかげ。これなら他の出店から引き受けた品も全部捌けそう」

 

「そして、各コミュニティから預かった品の売り上げの二割を頂く。取引相手が一つ二つあんら優勝は難しいが………まさか、五十四ものコミュニティが委託を任せてくれるとはな」

 

“ノーネーム”でありながら、これだけのコミュニティが来るのも驚きだ。

 

「当然の結果。“箱庭の騎士”と“箱庭の貴族”がそろってるんだもの。信用度と期待度は当社比にして二十三倍です」

 

何処の当社比なんだっと思い、思わず苦笑する。

 

………………………そろそろ現実逃避を止めよう。

 

「耀、さっきから何をしている?」

 

今、耀はカメラを片手に写真を撮っていた。

 

「修也のメイド姿を写真に収めてる」

 

うん、わかった。

 

それは分かる。

 

「………何故そんなことを?」

 

「え?」

 

いや、そんな、当たり前の事聞くの?みたいな顔をされても………………

 

「だって、そこにメイド服を着て、完璧な立ち振る舞いをしている修也がいるんだよ?これを撮らずして何を撮るの?」

 

「ああ、うん、分かったから、その鼻から垂れてる赤い液体を拭こう」

 

耀にティッシュを渡しながら一つ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋は人を変えると言うが……………………これはヤバイだろ……………

 

 

レティシアSIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修也SIDE

 

一時間程度で委託された品、倉庫二つ分は売り捌かれた。

 

品物が無くなったのにもかかわらず、出店には山のような人だかりが出来てた。

 

軽く挨拶だけをして、サッサッと天幕を片づけ、路地裏に引っ込む。

 

「………最悪の日だわ」

 

「でも、飛鳥可愛かったよ。耳まで真っ赤にして恥ずかしがってるとことか」

 

「ごめんなさい、それ以上言わないで。思い出したくないから」

 

「………俺、もう一生表歩けない」

 

「大丈夫、すっごく良かった。皆満足。私も満足」

 

「……耀、そのカメラ何?」

 

「……………」

 

ちょっと、無言は止めて。

 

「それにしても凄いのです!これは、同じ方法でもう一稼ぎできるかも」

 

「やるわけないでしょ!この駄ウサギ!」

 

「やるなら一人でやれ!」

 

ああ、本当に今日は厄日だ。

 

そう思ってると、遠くで大きな爆発音が響いた。

 

思わずそちらの方に目を向ける。

 

誰かが闘ってるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭りが終わり、街が夕焼けに染まる頃

 

「十六夜!テメー、よくもやりやがったな!」

 

俺は十六夜にブチ切れていた。

 

「お前のせいで、俺達がメイドになってまで手に入れた利益が全部パァーだぞ!」

 

そう、あの大きな爆発音は十六夜のもので、なんでも参加者とバトルをしてやってしまったらしい。

 

その時に壊したモノの弁償代で、折角稼いだ金は無くなった。

 

「せっかく、皆さんで手に入れた復興資金が………弁償代だけで全部なくなってしまったのですぉ………!」

 

「利益を競うゲームでも大勝だったのに。弁償の為に、黄金盤の山も全て没収されてしまったわ」

 

「本当なら今頃、皆で美味しいものたくさん食べる予定だったのに。これは流石に許されない」

 

「………すまん。言葉もない」

 

流石に十六夜も悪いと思ってるらしく謝る。

 

「まぁ、所詮はあぶく銭か。たやすく得た利益はたやすく消える。そんなものか………」

 

「簡単に稼いだ資金で復興しても、ありがたみが無いだろう」

 

「それは………そうかもしれないけど」

 

俺とレティシアの言葉にスカは口を尖らせる。

 

まぁ、メイド服を復興資金を集めたなんて話が語り継がれるよりはマシだろう。

 

「とはいえ、これは一つ貸しよ。十六夜君から私達全員に、ね」

 

「ああ。いつか埋め合わせはする」

 

「でも、ゲームの優勝賞品って何だったんだろう?」

 

「優勝したのは“ケーリュケイオン”だったらしいな」

 

「なんだ?“商業力”を競うゲームってのまで分かったのにそっちは解けてないのか?」

 

十六夜が意外そうに聞いて来る。

 

「十六夜は分かったのか?」

 

まあな、と言って十六夜は俺達がまとめた考察容姿を広げる。

 

「この中でも大きなヒントになったのは“ケーリュケイオン”の参加。こいつは商業コミュニティとして世界の内外問わず有名な神群の一角だ。日本だと所業系の国立大学で校章に使われてる。此奴らが関わってる以上、それは並の権益じゃない」

 

「そうね。でも、これ以上は考察が難しいんじゃない?」

 

「まあな。だからこそ、ここからは推測………お嬢様、春日部、修也。この中で考察にまだ使われてない重要なワードがある。何か分かるか?」

 

「…………、」

 

「…………」

 

「…………あ、錬金術」

 

「錬金術………錬金………商売………金融?まさか、“サウザンドアイズ”の金融か投資の権利といこと!?」

 

「気付いたな、修也。そして、流石は財閥のお嬢様。察しがいいな」

 

ヤハハと笑い話を進める。

 

「その通り、“サウザンドアイズ”の金融か投資の権利、もしくは新しい貨幣の発行と配布かもな。“クイーン・ハロウィン”は白夜叉と戦う権利が欲しかったらしい。貨幣の浸透は信仰の浸透と同じ意味があると以前聞いた。だから、女王様も、市場での戦いに乗り出すつもりだったのかもしれない」

 

「ははぁ…………だから女王騎士団もこんな下層まで派遣されたわけか」

 

「じゃあ、ある意味、十六夜は魔王の市場浸食を防いだってことになるな」

 

「その通り!」

 

ヤハハと笑い十六夜はギフトカードから一枚の黄金盤を取り出す。

 

「でも、まぁ、………悪かった。これ一つしか残らなかった。じょおうきしから奪い取った黄金盤だ。何かの足しにしてくれ」

 

「………はい、今回の事は水に流しますのですよ」

 

「そうしてくれると助かる。でないと、コイツが無駄になっちまう」

 

そう言う十六夜の手には一枚の封筒があった。

 

「そ、それは、水と大樹の街!“アンダーウッドの大瀑布”からの招待状!?ど、どうしてこんな貴重なものを!?」

 

「白夜叉に渡された。なんでも“龍角を持つ鷲獅子”連盟ってところから、ゲストとして参加して欲しいってことらしい」

 

ゲスト参加って“ノーネーム”にとっては破格の待遇だろ!?

 

「主賓客としての招待状が届くなんて………きっと魔王を倒した皆さんの功績が、南側にまで届いたに違いありません!」

 

黒ウサギはウッキャー!と喜ぶ。

 

それにつられて俺達も笑う。

 

「そうね。今回の騒動も、名を上げるにはよかったかもしれないわ」

 

「女王騎士団とも渡り合える人材が“ジン=ラッセル率いるノーネーム”に居る。中々いい売り文句になりそうだな」

 

「ご馳走は食べれなかったけどね」

 

「何、南の収穫祭に出れば美味いものも食べ放題だ。それは些細なことだよ」

 

笑みを浮かべる俺達の前に、十六夜は招待状を掲げて宣言する。

 

「“ノーネーム”の次の舞台は―――南側、水と大樹の大瀑布だ。気合入れていくぞ!」

 

掲げた手をたたき合い、帰路に着く。

 

南側か、どんな出会いと障害があるか楽しみだな。

 



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番外編 異邦人のお茶会

巨龍を倒してから一週間が経った。

 

しかし、戦いの爪痕のせいで収穫祭はすぐに再開できる状態ではなく、現在は復興作業を行っている。

 

俺達“ノーネーム”も収穫祭が早く出来るように“アンダーウッド”に残って、復興作業を手伝っている。

 

「だ、大丈夫かな………」

 

「落ち着け、十六夜も鬼じゃないんだ。ちゃんと事情を説明すれば許してくれる」

 

今、俺は十六夜の部屋の前に耀といる。

 

耀がヘッドホンの件で十六夜にどうしても謝りたいと言ってたのだが、どうも一人で行くのに勇気が出ない為、俺が付き添うことになった。

 

「おい、十六夜、入っていいか?」

 

「修也か?いいぜ、鍵は開いてるぞ」

 

扉を開けて入ると十六夜はベットの上で胡坐を掻いてた。

 

「なんだ、春日部も一緒か?………で、要件は何だ?」

 

「お前なら、もう気づいてるだろ」

 

「さて、なんのことやら?」

 

白々しく分からないふりをする。

 

耀は床に正座をして座る。

 

「えっと、十六夜のヘッドホンのことなんだけど、巨人族の襲撃の時に壊れちゃった」

 

「待て、順序が違う。持ち出した経緯を話せ」

 

十六夜も別に怒ってるわけじゃない。

 

ただ、弁明するなら順序を立てて話して欲しいんだろう。

 

耀は、ヘッドホンを三毛猫が持ち出したこと、巨人族が収穫祭に襲撃に来たこと、その時にヘッドホンが宿舎の下敷きになったことを話した。

 

「話を聞く限り、春日部に落ち度はないと思うが」

 

確かに、これは三毛猫が勝手にやったことで、耀の責任ではない。

 

ヘッドホンが壊れたことも運が悪かっただけ。

 

俺も耀にそう言ったんだが

 

「違う。責任の所在は三毛猫の飼い主の私にある。このまま話を濁すのはお互いによくない。それに、あのヘッドホンは十六夜の知人が作ったものだって聞いた。なら、尚更筋を立てないといけない」

 

こう言ってきかないんだよな。

 

「そう言う割には謝りに来るのが遅かったな」

 

「うっ」

 

「まぁ、それは仕方がないだろ。耀にも心の準備とか用意があったんだ」

 

「用意?」

 

「うん。ヘッドホンの代わりを用意したんだけどそれを無くしちゃって、それを探してたらいつ間にか一週間が経ってた。それで、結局代わりの物が用意できなかったんだけどいつまでも問題を先延ばしにするのも失礼だから埋め合わせをこの収穫祭でやろうと思ったんだけど…………どうかな?」

 

小首を傾げて十六夜の反応を見る耀。

 

十六夜はというと呆れ半分、感心半分と言った表情をしてた。

 

「別に異論はねぇよ。だけど春日部がそこまで考えていたのは驚きだ。お前ってもう少し周りを顧みない印象だったんだが」

 

「今自己改革中。新しい私に乞う御期待」

 

親指を立てて胸を張る耀を見て俺は思わず笑みが出た。

 

十六夜も同じらしく、笑っていた。

 

「それと、十六夜。ここに来たのはもう一つ用事があるんだ」

 

「うん。飛鳥とも話したんだけど………私達ってお互いの事知らなさすぎる気がして。私達ってそう言うことって、あまり話さないでしょ?」

 

「そこで、今から皆で親睦会をしようと思う」

 

「そろそろ、飛鳥が紅茶を持ってくると思うんだけど」

 

耀が口にした瞬間、扉がノックされる。

 

「三人共、話は終わった?紅茶を入れてきたから、一息つかない?」

 

「飛鳥、ナイスタイミングだ」

 

「鍵なら開いてるぜ」

 

「そう。でも、お盆で両手が塞がってるから、開けてくれないかしら?」

 

「「「嫌だッ!!!」」」

 

「そう。ありがと」

 

……………………

…………………………

 

…………………………………

 

「三人共、話は終わった?紅茶を入れてきたから、一息つかない?」

 

「飛鳥、ナイスタイミングだ」

 

「鍵なら開いてるぜ」

 

「そう。でも、お盆で両手が塞がってるから、開けてくれないかしら?」

 

「了解」

 

耀が立ち上がり扉を開ける。

 

そこには青筋を浮かべた飛鳥が居た。

 

弄るタイミングを間違えたか…………

 

耀もやってしまったっと思ったらしく扉を開けたまま固まってしまった。

 

「どうしたの春日部さん。早く道を開けて下さらない?」

 

「りょ、了解」

 

大股で部屋に入り備え付けのテーブルにお盆を置き、椅子に腰を下ろす。

 

「飛鳥も来たことだし、第一回異邦人の親睦会を開催するか」

 

「「イエーイ」」

 

棒読みで喜ぶ女性陣に、呆れる十六夜。

 

「ま、人の部屋で開催するのはいいとして、主催はそっちなんだから進行はそっちで頼むぜ」

 

「勿論。お題も決めてきたわ」

 

「うん。親睦会の第一回目のお題は」

 

「“自分御時代の生活観”だ」

 

思っていたより、実のありそうなお題に十六夜の目に好奇心の火が灯った。

 

「それじゃあ、時代順に飛鳥からだ」

 

飛鳥の話としては飛鳥の家、久遠家は日本でも五本の指に入るぐらいの規模を持った財閥だそうだ。

 

そのことに十六夜が何か気になったらしいがそれ以上何も聞かなかった。

 

十六夜の話では“アンダーウッド”並の絶景を話した。

 

どちらも、中々に興味深かった。

 

「次は修也だな」

 

「どんな話が聞けるかしら」

 

「楽しみ」

 

期待しまくりだな。

 

「でも、時間軸的に俺は十六夜より未来、耀より過去の時代だから、十六夜とかなり被る所があるんだが…………」

 

どうするか……………

 

「じゃあ、修也の母親について話せよ」

 

母さんについて?

 

「確かに、修也君のお父さんの話はよく聞くけどお母さんの話は聞かないわね」

 

「聞かせて」

 

「母さんについてね~…………これは白夜叉に聞いた話なんだが、実は母さんも箱庭出身なんだ」

 

「へ~、そんで?どんな人なんだ?」

 

「ああ、元二桁の魔王コミュニティのリーダーだったらしい」

 

「「「……………は?」」」

 

まぁ、そう言う反応するよね。

 

俺も最初聞いたときはそんな反応だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白夜叉が言うには当時、親父の名前は箱庭の上層にまで響いてたそうだ。

 

それを聞いた母さんが、「生意気なやつね。少し殺ってくる」って感じに親父の寝首を掻きに行った。

 

そして、一目惚れしたらしい。

 

それで、親父に会った瞬間告白。

 

そしたら親父が「なら、全てを捨てる覚悟はあるか?」って聞いたら「もちろんです!」って言ったんだ。

 

すると母さんは自分のコミュニティに帰ってコミュニティ解散宣言したんだ。

 

勿論、コミュニティのメンバーは猛反対、揚句母さんを殺そうとしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、其処を修也の親父が助けたって訳か」

 

「中々のシチュエーションね」

 

「それで更に惚れるんだ」

 

「いや、逆に全員返り討ちにしたらしいぞ」

 

「「「はあああああ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

「私とクルーエ様の愛を邪魔する者は許さない!」とか言ってコミュニティのメンバーを全員倒して、コミュニティの旗と名を捨てて親父の下に来た。

 

更に自分の持ってるギフトを全て親父に渡すこともしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが俺の母さんの話だな」

 

「………スゲぇー母ちゃんだな」

 

「………修也君のお父さんも凄いけどお母さんも凄い人なのね」

 

「それで、修也のお母さんは今どうしてるの?」

 

「ああ、母さんは俺を産んで間もなく死んだよ。交通事故だったらしい」

 

「あ、ごめん……」

 

「いいよ、気にしなくて」

 

耀の頭を撫でて少し落ち込んでしまった耀を慰める。

 

「そんじゃあ、俺の話はここまで。最後は耀の話だ」

 

「ああ、だが、もう夜も遅い。明日も“アンダーウッド”の復興作業もあるし、今日はここまでだ」

 

「そうね、それじゃあ最後に“春日部さんの時代の流行”を一つ話してくれないかしら」

 

「流行?服とか、靴とか?」

 

「できれば、春日部が未来人だって分かる流行が嬉しいぜ」

 

腕を組み耀は暫し考える。

 

「分かった。それじゃあ、私の時代の流行のヘッドホンを紹介します」

 

はっ?と十六夜が声を上げる。

 

「私の時代には――――――ウサミミヘッドホンが、世界的に流行ります」

 

そう言って両手でウサ耳のモノマネをした。

 

それを見て俺達は爆笑をした。

 

あの献身的な黒ウサギのシルエットが世界中に流行ってるのを想像して、そして、ウサミミヘッドホンなんてものが流行るぐらい平和な世の中を想像して。

 

俺たちの爆笑が夜の大樹に響き渡り、大河の水面を揺らし続けた。

 




次回は少し予定を変更して、違う話をします。

お楽しみに


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コラボ 異能者たちと出会うそうですよ?

今回、初コラボすることになりました。

お相手は疾風の隼の『異能者たちが異世界から来るそうですよ?』になります。

うまくできてるといいです。

ではどうぞ。


ある日、俺は“アンダーウッドの大樹”の地下にある倉庫に来ている。

 

理由としては復興作業に必要なギフトを持ってきてほしいと頼まれたからだ。

 

「いろんなギフトがあるな」

 

そう言えばサラが危険なギフトもあるから探す時は気を付けるようにって言ってたな。

 

「だから、お前ら、余計なことするなよ」

 

「「「はーい(棒)」」」

 

こいつら………余計なことする気満々だな…………

 

何故か途中でくっ付いてきた十六夜達を見ながらそう思った。

 

「お、面白そうな物発見!」

 

「十六夜!お前、言った傍から余計なことをするな!」

 

十六夜が手にしたものは野球ボールサイズの何かだった。

 

「ちょうどいい、おい、春日部、お嬢様。こいつでキャッチボールだ」

 

「乗ったわ」

 

「やる」

 

「お前ら、危険なギフトがあるって言ったばっかだろ!?」

 

俺を余所に、野球ボール的な何かでキャッチボールを始める問題児共。

 

「うるせぇな。ほら、修也、パス」

 

「投げるなよ!」

 

慌てて飛んできたボールを右手でキャッチする。

 

カチッ

 

掴んだ瞬間嫌な音が聞こえた。

 

「修也さん、お手伝いに来ましたよ」

 

そして、黒ウサギが部屋に入って来た瞬間、俺達五人を巨大な魔法陣が包んだ。

 

「え?これは………転移用のギフトの魔法陣!?」

 

え?もしかして、ヤバイ?

 

そう思った瞬間、俺達は眩い閃光に目がくらんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、俺達は“ノーネーム”の農園にいた。

 

どうやら、結構遠くに転移したみたいだ。

 

「修也さん!何でこんな危険なものを起動させてるのですか!?」

 

「待て!起動したのは俺かもしれないが原因は十六夜だぞ!」

 

「おいおい、俺は何もしてないぜ?ただ、そのボールみたいなものでキャッチボールをしようとしただけだ」

 

「しないでください!このお馬鹿様!」

 

黒ウサギはハリセンを取り出し十六夜の頭を叩く。

 

「それにしても、本当に良かったです。転移先が“ノーネーム”の本拠地で」

 

「どういうこと?」

 

「このギフトは転移用のものですが、何処に転移するかはランダムなんです。転移場所から近かったり遠かったり、最悪、異世界に飛ばされることもあります。ですので、ある意味この場合は奇跡といってもいいです」

 

なるほどな。

 

“アンダーウッド”からここは遠いが“地域支配者”の俺達なら“境界門”も無料で通れる。

 

さっさと戻らないとな。

 

「ん?黒ウサギと十六夜と飛鳥に耀………それとお前誰だ?」

 

聞覚えの無い声が聞こえたのでそちらを向くと、銀色の髪に黄緑のスカーフ、和洋折衷服と言った感じの服を着た男がいた。

 

年齢は耀と同じぐらいか?

 

「あ?誰だ、お前?何で俺達の名前を知ってやがる?」

 

十六夜は攻撃する気満々なのか敵意をあらわにして構える。

 

「知らない男に名前を呼ばれる筋合いは無いのだけれど」

 

「取り敢えず、捕まえる」

 

飛鳥と耀も臨戦態勢に入る。

 

「ちょ、待てって!どうしたんだよ、お前ら!?少し落ち着け」

 

「落ち着くのは、テメーを捕まえてからだ!」

 

十六夜は手に持った石を男に向かって投擲する。

 

凄いスピードで投げられた石は男の足元を目掛けて飛ぶ。

 

そして、巨大な土煙を上げる。

 

「おい、十六夜。手加減ぐらいしろ」

 

「ヤハハ、悪い悪い」

 

男の安否を調べようと近づくと急に殺気を感じた。

 

白牙槍を取り出し、防御の構えを取る。

 

すると先程の男が無傷で銀色の剣を持って襲ってきた。

 

剣を槍で受け止める。

 

「十六夜に何しやがった?」

 

「何言ってやがる?」

 

コイツ………結構強い。

 

持っている剣自体も強いが、この男、かなり強いぞ。

 

下手すりゃ、押し切られる。

 

そう思ってると、耀が側面から光翼馬のブーツで男に向かって蹴りを放つ。

 

男は俺から離れ距離を置く。

 

「大丈夫、修也!」

 

「ああ、助かった」

 

耀に感謝すると、男は先程よりも一層怒りを顔に出した。

 

「お前、耀までも、絶対に許さない」

 

コイツ、さっきからの口振りからして十六夜達の事を知ってるようだ。

 

だが、十六夜達は知らないようだ。

 

「『そこを動くな!』」

 

飛鳥の“威光”が発動し、動きが止まる。

 

だが、それもほんの一瞬だった。

 

しかし、十六夜にはその一瞬で十分だった。

 

「終わりだ!」

 

十六夜が拳を握り締め、男の横腹を目掛けて殴りつける。

 

だが、その瞬間、頭上から何かの気配を感じ取った。

 

「十三の業 双国臨夜!!」

 

俺は咄嗟に翼を出し、フルスロットルで十六夜を抱えて逃げる。

 

すると、さっきまで十六夜がいた場所に巨大なクレーターが出来ていた。

 

「おい、五月雨!一体どうした!?」

 

「え、十六夜?お前、元に戻ったのか?」

 

「はぁ?何言ってやがる?」

 

先程の男に交じって別の男の声が聞こえた。

 

てか、聞き覚えがあるし、何やら聞いたことある名前が………

 

そして、土煙が晴れ、そこに居た男を見て俺達は驚愕した。

 

「い、十六夜?」

 

「う、嘘………どういうこと?」

 

「おいおい、なんだこりゃ?」

 

「……ドッペルゲンガー?」

 

「いえ、おそらく、これは………」

 

黒ウサギが何かに気付いたらしい、驚いたが俺もなんとなく気付いた。

 

「十六夜君!何があったの!」

 

「うわ、凄いクレーター」

 

「十六夜さん、いきなり走り出さないでください!」

 

「なになに?何か面白いことでも………うおっ!でっかいクレーター!」

 

「十六夜殿、戯れも程々にするべきだ」

 

「はぁ~、また修復作業ですね」

 

更に6人現れた。

 

しかもそのうち3人は飛鳥と耀、黒ウサギだ。

 

残りの三人は知らん。

 

「「「「「「あ、私がいる(います)」」」」」」

 

耀と飛鳥、黒ウサギは互いにハモった。

 

「「「え?同じ顔が8人?」」」

 

残りの三人も同じくハモった。

 

だが、これで確証が持てた。

 

「どうやら、俺達は異世界に来ちまったらしいな」

 



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コラボ2話 異世界の人との交流だそうですよ?

十六夜と飛鳥、耀、黒ウサギが二人ずつ居るので異世界の4人のセリフの頭には十六夜は十、
飛鳥は飛、耀は耀、黒ウサギは兎ってつけます。


「まずは自己紹介からだな。俺は月三波・クルーエ・修也だ。そして、知ってると思うが」

 

「逆廻十六夜だ」

 

「久遠飛鳥よ」

 

「……春日部耀」

 

「黒ウサギです」

 

あの後、“ノーネーム”本拠の大広間に通され、全員との顔合わせとなった。

 

「知ってるとは思いますが、コミュニティのリーダーのジン=ラッセルです」

 

兎「黒ウサギです」

 

十「逆廻十六夜だ」

 

飛「久遠飛鳥よ」

 

耀「春日部耀」

 

「五十嵐五月雨だ」

 

「霞刃だ」

 

「日比野花音だよ!よろしく!」

 

「五十嵐七夕です」

 

「八咫烏だよ。よろしく」

 

思うんだが、こっちの“ノーネーム”の方が人材豊富だな。

 

「それで、貴方たちは一体何があってここに来たんですか?」

 

「それはな」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~説明中~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「どいう訳だ」

 

十「おいおい、そっちの俺は何やってんだよ?」

 

「目の前に面白そうな物があるんだぜ?弄らずにはいられないだろ?」

 

十「確かに」

 

「いい加減にしなさい!このお馬鹿様」

 

黒ウサギがたまらず二人の十六夜にハリセン攻撃を与える。

 

飛「ちょっと!そっちの黒ウサギ!私の十六夜君に何するのよ!」

 

…………………空気が固まった。

 

「え?ちょ、ちょっと、そっちの私。今なんて言った?」

 

飛「私の十六夜君って言ったのよ」

 

え?こっちの飛鳥と十六夜はそういう関係なの?

 

「そっちの飛鳥と十六夜は付き合ってるの?」

 

耀「うん。ちなみに、私と五月雨も付き合ってる」

 

え?そうなの?

 

「ついでに、八咫烏と黒ウサギも付き合ってる」

 

五月雨が教えてくれた。

 

…………こっちの“ノーネーム”は凄いな。

 

後、聞いた話によると刃は白夜叉、レティシア、ペストに惚れられてるそうだ。

 

本当に凄いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は大変だった。

 

飛鳥は行き成りの展開に脳の処理が追いつかずショートしてぶっ倒れた。

 

耀はこっちの耀と仲良くなり、何やら色んな話をしていた。

 

会話の中で「ヘタレ」という単語が聞こえたが、気にしないでおくことにした。

 

黒ウサギはやたら興奮気味にこっちの黒ウサギに食いついていた。

 

そんなに異世界の自分の恋が気になるのか?

 

「十六夜。どうした?さっきから静かだな」

 

あの十六夜が静かすぎる。

 

これは一体?

 

「いや、異世界での自分の恋愛事情も気になるが、それ以上に気になることがある」

 

まさか………………

 

「お前ら、強いのか?」

 

やっぱりそう来たか………

 

十「ああ、強いぜ。少なくとも、お前らより遥かにな」

 

ブチッ!×4

 

今、こいつ、何て言った?

 

俺らより強い?

 

「あら、言ってくれるじゃない?」

 

飛鳥もショートから回復し、いつも通りの態度になった。

 

「流石にそれは聞き捨てならない」

 

「随分上から目線で素敵なこと言ってくれるな、俺」

 

飛「あれ、十六夜君は事実を言っただけよ。野蛮な十六夜君」

 

こっちの飛鳥も十六夜の事を抜けば同じ感じだな。

 

「み、皆さん!落ち着いてください!異世界と言えども、同じ“ノーネーム”の同志!そんな喧嘩腰にならないでください!」

 

兎「YES!こっちの黒ウサギの言う通りでございます!皆さん、仲良くしましょう!」

 

「………わかった」

 

「分かっていただけてよか」

 

「仲良く喧嘩しようぜ!」

 

十「その喧嘩乗った!」

 

「「ええ―――――!?」」

 

黒ウサギが同時にハモッた。

 

見ると他のメンバーもやる気満々だ。

 

「な。何でですか!?」

 

「「仲良くしろと言われたから仲良く喧嘩する」」

 

「「言葉遊びのつもりですか、このお馬鹿様!」」

 

十六夜が二人もいると黒ウサギの苦労も倍になるな。

 

これから苦労ウサギと呼んでやろう。

 

「ま、このままじゃ互いに引っ込みも付かないし、ここは一つギフトゲーム形式で勝負だ」

 

「なるほど。僕も賛成だ」

 

俺の提案に五月雨が賛同し、全員が賛成した。

 

黒ウサギ二人は最後まで反対していたが…………

 

こうして俺達は異世界の“ノーネーム”とバトルをすることになった。

 




七夕君を出したはいいけど、空気になってしまった。

疾風の隼さん、申し訳ありません


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コラボ3話 久遠飛鳥VS霞刃

『ギフトゲーム名:異世界の者たちとの決闘

 

“ノーネーム”側プレイヤー:月三波・クルーエ・修也

             逆廻 十六夜

             久遠 飛鳥

             春日部 耀

             黒ウサギ

 

“ノーネーム”側プレイヤー:五十嵐 五月雨

             逆廻 十六夜

             日比野 花音

             霞 刃

             八咫烏

 

ゲーム内容:一対一のバトル形式

      バトルごとに両陣営から一名選出

 

両プレイヤー勝利条件:先に三回勝利した方

両プレイヤー敗北条件:先に三回敗北した方

 

勝利条件:相手を倒すまたは降参させる

敗北条件:審判が試合続行不可能と判定または降参

 

失格条件:相手の殺害

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを行います。

 

                               “ノーネーム”印

                               “ノーネーム”印』

 

“契約書類”を作成し、互いに署名する。

 

向うの五人のメンバーはくじ引きで選出されたメンバーだ。

 

「さて、まずは誰が行く?」

 

「少なくとも十六夜は向うの十六夜とな」

 

「なんでだよ?」

 

「お前に対抗できる奴なんてお前しかいないだろ」

 

耀と飛鳥、黒ウサギは首を縦に振り同意してくる。

 

「分かったよ。俺の相手は俺だな、で、結局最初は誰が行く?」

 

「なら、私から行かせてもらうわ」

 

「よし、行って来い、飛鳥」

 

「ええ」

 

飛鳥は強く返事をしてフィールドの中央に行く。

 

「最初は拙者が行こう」

 

向うからは霞刃という奴が出るらしい。

 

「それでは、これより“ノーネーム”VS“ノーネーム”の決闘を開始します!

第一回戦 久遠飛鳥VS霞刃 スタートです!」

 

審判は向うの黒ウサギが務めることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、お手柔らかに頼むわ」

 

「異世界の飛鳥殿の力、見せて頂こう」

 

そう言って刃は一本の短剣を出す。

 

それを素早く飛鳥に投げつける。

 

飛鳥は避けれないと判断し、ドレスで防ぐことにした。

 

すると刃は刀を出し斬り込んでくる。

 

「『動くな!』」

 

飛鳥のギフトで一瞬動きを止めるも、すぐに動き出す。

 

飛鳥は転がるようにして攻撃を躱す。

 

飛鳥はギフトカードから二つのガントレットを取り出し両腕に装着する。

 

六本傷から貰ったもので片方には水樹の種子、もう片方には龍角の欠片を埋め込んだものだ。

 

どちらも精々、水を出したり、軽い炎を起こす事しかできないが、飛鳥のギフト“威光”を使えば十分な力を発揮することの出来る武具になる。

 

だが、飛鳥の力が強すぎる為あの程度のものだと数回使えば壊れてしまう。

 

そう何回も使えないだろう。

 

「きゃっ!?」

 

刃は飛鳥を足払いし地面に倒す。

 

持っていた刀を逆手に持ちそのまま飛鳥の顔の隣に刀を突きさす。

 

「勝負ありだ。飛鳥殿、潔く降伏を」

 

「だ、誰が降伏なんて!私はまだ戦えるわ!」

 

「しかしこの状況からどう勝利をする?飛鳥殿が反撃する前に拙者の方が先に一撃を決めることが可能だ」

 

「…………………そうね、どう見てもこの状況じゃ私よりも貴方の方が先に剣を振ることが出来るわ。でも、だからと言って引くほど私は弱くはないわ」

 

そう言うと飛鳥は二つのガントレットから大量の水と炎を生み出し互いにぶつけた。

 

それにより水蒸気が発生し、刃の視界を奪う。

 

「むっ」

 

刃は飛鳥の力の事を知っているため一度下がり様子を伺った。

 

水蒸気がはれる飛鳥はその中で立っていた。

 

「刃君……だったかしら?………貴方の本気で来なさい」

 

「何故(なにゆえ)だ?」

 

「勝った時、「本気じゃなかったからだ」なんて言われるのはごめんだからよ」

 

「……………承知した。拙者の本気で行かせてもらおう」

 

刃はそう言って地面から巨大な剣を抜いた。

 

「聖剣・龍殺しの剣(アスカロン)、これにてお相手致そう」

 

「来なさい、霞刃。貴方の本気と私の本気どちらか上かはっきりさせましょう」

 

そう言うと飛鳥はギフトカードから白銀の十字剣を取り出し構える。

 

だが、飛鳥自身の力はそこまで高くない。

 

剣の扱いだって素人だ。

 

対して向うは剣の扱いに慣れているみたいだ。

 

刃は自分の身長よりも遥かに高い長さの剣を持ち飛鳥に斬り掛かる。

 

あれだけの大きさなら重さもかなりあるはずなのにそれを持って走れるなんて凄いな。

 

飛鳥はというと防御の構えすらしていない。

 

そして、剣が飛鳥を襲う。

 

「剣よ『力を失いなさい』!」

 

飛鳥が叫んだ。

 

そして、剣は飛鳥に当たるか飛鳥を斬ることは無かった。

 

「一か八だったのだけど、よかったわ」

 

そう言って会うかは剣を振り下ろした。

 

刃は直ぐに後ろに下がったので肩を浅く斬る程度にすんだ。

 

「まさかアスカロンの攻撃力を無くしたとはな」

 

「私も驚きよ。まさかそんなことが出来るなんて」

 

攻撃力を無くした剣を構え刃は僅かに笑う。

 

「飛鳥殿の本気見せて貰った。だからと言って負ける気はない」

 

そう言うと飛鳥の背後に回り込むように動き剣を振る。

 

飛鳥は驚く。

 

攻撃力を失った剣で何をするのか。

 

そう思っていると刃が降った剣が柄から外れた。

 

そして、外れた剣の中から細い刀身が現れた。

 

「え?」

 

飛鳥は目を丸くして驚く。

 

「すまない、飛鳥殿。この剣は龍を殺した剣。刀身は一つではない」

 

そして、飛鳥は斬られ倒れた。

 

倒れた飛鳥に向うの黒ウサギが駆け寄る。

 

兎「久遠飛鳥、戦闘続行不能!この勝負、霞刃の勝利!」

 

こうして我ら“ノーネーム”の初戦は黒星でスタートになった。

 




次回は耀VS花音

お楽しみに


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コラボ4話 春日部耀VS日比野花音

「ごめんなさい、負けてしまったわ」

 

飛鳥は落ち込みながら俺達の下に帰ってくる。

 

「気にすんなよ」

 

「お嬢様にしてはかなりいい戦いっぷりだったぜ」

 

「うん、すごかった」

 

俺達は飛鳥を慰め励ました。

 

兎「それでは第二回戦の選手をお選びください」

 

「じゃあ、次は私が出る!」

 

花音が声を上げて前に出てくる。

 

「誰が行く?」

 

「じゃあ、私が出る」

 

耀が手を上げる。

 

「いいのか?別に俺が出てもいいんだが?」

 

「闘っていやらしいことを合法的にするつもり?したら、許さないよ」

 

拳を握り、音を鳴らしてくる。

 

「いえ、どうぞ」

 

「行ってくる」

 

親指を立てて花音の下移動する。

 

「お!よったんが相手?」

 

「よったん?」

 

「うん!よっちゃんはもうこっちのよっちゃんの渾名だから、異世界のよっちゃんは、よったんね!」

 

「……わかった」

 

「それでは、第二回戦!春日部耀VS日比野花音 スタートです!」

 

耀は試合を速攻で決めるつもりなのか、光翼馬のブーツで花音の背後に回り蹴りを入れる。

 

だが、その蹴りは見事に受け止められた。

 

「え?」

 

鎧を身にまとい、手には槍を持った一人の男がいた。

 

「この程度の攻撃、防げぬ呂布ではない」

 

アレは三国志で有名な呂布。

 

花音のギフトは変身?いや、見た感じあれは変身じゃない。

 

まさか、憑依させた?

 

「くっ!」

 

驚いていた耀だが、すぐに攻撃に移り、再度蹴りを放つ。

 

「甘い!」

 

たが、軽く受け流され、槍でのカウンターが来た。

 

なんとか避けきった耀だが、顔に焦りの色が見え始めていた。

 

光翼馬のブーツは素早さがあるが威力に欠ける。

 

そこで、耀は光翼馬のブーツを解除し、別の物に作り替え始める。

 

「ふん、そんな時間………与えると思うか!」

 

呂布になった花音は槍を構え、突進して来る。

 

そして、花音の持つ槍が耀に突き刺さる。

 

だが、槍は様に突き刺さってはいなかった。

 

何故なら、槍の先は溶けていたからだ。

 

そして、耀は紅い鎧をまとっていた。

 

「不死鳥の鎧、貴女は私に触れることはもうできない」

 

「…………そっか」

 

すると急に花音は元の姿に戻り、笑顔になる。

 

「少し、よったんのこと舐めた。ごめん」

 

「……別にいい。でも、今から本気で来て」

 

「分かった」

 

そう言うと花音は深呼吸する。

 

「宿れ 太陽の騎士!」

 

そう叫ぶと、花音は甲冑を身に纏い、剣を持っていた。

 

円卓の騎士の一人、ガウェイン

 

アーサー王の甥で、円卓の騎士で優秀な騎士として活躍したと言われている。

 

朝から正午にかけて力が三倍になる特性を持ち、強情で勇猛果敢。

 

持っている聖剣ガラディーンも、昼間の間は力が強くなるとされている。

 

力が三倍の時ならランスロットよりも強いと言われている。

 

今は、だいだい11時。

 

もし、力や特性も同じとしたら耀に勝ち目がないな。

 

「来たまえ、耀殿。円卓の騎士が一人、ガウェインがお相手する」

 

剣を鞘から抜き構える。

 

剣には炎が纏われている。

 

「私も本気で行く」

 

ガラディーンは日輪の剣。

 

不死鳥の鎧は効かないと思い、耀は不死鳥の鎧を解除した。

 

そして、今度は巨大な矛を創りだした。

 

耀の身長の倍はある。

 

よく見ると矛は雷を帯びていた。

 

まさか、麒麟か…………

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

「せやああああああああああああ!」

 

麒麟の矛とガラディーンがぶつかる。

 

炎と雷がぶつかり辺り一帯を焦がす。

 

熱風が頬を撫で、雷鳴が耳を支配する。

 

煙が晴れると、地面が抉られ、その中央に二人が立っていた。

 

どっちの勝ちだ?

 

周りが黙る中、中央に居た二人の内一人が動いた。

 

「………花音は強いね」

 

そう言って耀は倒れた。

 

「ふう、なんと勝てた。でも、危なかった」

 

向うの黒ウサギが駆け寄り、耀の安否を確認する。

 

確認が終わると手を上げ声高らかに言う。

 

「春日部耀、戦闘続行不能!日比野花音の勝利!」

 




なんか無茶苦茶になってしまった気がする……………

次回は黒ウサギVS八咫烏

お楽しみに


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コラボ5話 黒ウサギVS八汰鴉

「耀!」

 

耀が倒れるのを見て俺は真っ先に耀に駆け寄った。

 

「耀、大丈夫か!」

 

耀を抱え、体を揺する。

 

「落ち着け、修也。どうやら気を失ってるだけだ。暫くすれば目も覚ますだろう」

 

十六夜に言われ安心する。

 

「修也、暫くの間、春日部を介抱しといてやれ」

 

「そうね。膝枕で介抱しなさい」

 

え?何で膝枕?

 

「男ならぐだぐだ言ってないでさっさと膝枕しなさい」

 

飛鳥はそう言って俺の背中を叩く。

 

「分かった。分かったから背中を叩くな」

 

正座をして、膝の上に耀の頭を置く。

 

…………なんか五月雨の視線が痛い………

 

兎「それでは第三回戦出場の方、前へ」

 

「じゃあ、僕が行きます」

 

そう言って八汰鴉が前に出る。

 

「八汰鴉か」

 

「かなり強そうだが誰が行く?」

 

十六夜の言葉に俺は考える。

 

後戦えるのは俺、十六夜、黒ウサギ。

 

向うは十六夜、五月雨が残ってる。

 

十六夜は十六夜が相手をするとして、ここで出るのは俺か黒ウサギ。

 

どちらも強い。

 

五月雨とはやってみないと分からないが、八汰鴉ならなんとか倒せると思う。

 

なら、俺が出るべきか?

 

いや、黒ウサギが五月雨に勝てるとは思えない。

 

となると向うの十六夜の相手は黒ウサギがやって、十六夜が五月雨の相手をするに変えた方がいいか?

 

「ここは黒ウサギが行きます」

 

「え?いいのか?」

 

「はい。確かにあの人は強い。それは黒ウサギにもわかります。修也さんが何を考えてるのかもわかります。ですが、私にも“箱庭の貴族”としてのプライドがあります。絶対に負けません」

 

黒ウサギは真剣な瞳で見つめてくる。

 

「分かった。なら黒ウサギにここは任せる」

 

「はい。では行ってきます!」

 

黒ウサギは小走りに中央に移動する。

 

「では、八汰鴉さん、お手柔らかにお願いします」

 

「黒ウサギ……さん、が相手?」

 

「YES!」

 

「………そうか、それじゃあよろしく」

 

「では第三回戦 黒ウサギVS八汰鴉スタートです!」

 

黒ウサギの開始の合図と共に黒ウサギは飛び出し、八汰鴉に拳を当てる。

 

そして、今度は蹴りを放ち、すかさずまた拳を放つ。

 

「黒ウサギが押してるわ!」

 

飛鳥は黒ウサギが怒涛の攻撃を繰り返し、八汰鴉に反撃をさせてないのを見て声を上げる。

 

「いや、そいつは違うぜ。お嬢様」

 

どうやら十六夜は気づいてるみたいだな。

 

「ああ、あの八汰鴉って奴、本気じゃない」

 

「おまけに黒ウサギの攻撃は全て取ってるように見えるが、あいつは全て受け流してる。ありゃ、ダメージ零だ」

 

「だが、その割にはカウンター技をする気配もないし、攻める気配もない」

 

「おそらくだが、アイツ、相手が黒ウサギだから手を足さずに黒ウサギの体力の消耗を狙ってる」

 

「でも、どうして?」

 

「こっちの黒ウサギと八汰烏は付き合ってるからな。異世界の黒ウサギとはいえ、黒ウサギとは戦いたくないんだろう」

 

なんというか随分自分勝手な理由だな。

 

黒ウサギも薄々感づいているな。

 

そこで、黒ウサギは攻撃の手を止めて一歩下がる。

 

「どうしたんですか?」

 

「八汰烏さん、貴女は本気じゃありませんね」

 

「……はい、本気じゃありませんよ」

 

「何故です?いくら温厚な黒ウサギでも真剣勝負の場で本気で来られないのは些か不満があります」

 

「………僕は黒ウサギさんとは戦いたくない。それは異世界の黒ウサギさんでも同じです。僕は黒ウサギさんを傷つけたくない。それに、君も分かるだろ?僕と君とじゃ、実力の差がありすぎる。これ以上はいくらやっても無駄だ。大人しくここは降参してくれないか?でないと、僕も本気で行かざるを得ない」

 

そこで八汰鴉は殺気を出す。

 

飛鳥は八汰鴉の殺気にビビり足をすくめている。

 

十六夜は平然としているが冷や汗が流れている。

 

俺も、体から震えが止まらない。

 

気絶しているが耀も感じ取ったのか俺の服の裾を掴んだ。

 

「舐められたものですね」

 

見ると黒ウサギは怯まず凛と立っていた。

 

「そんなことで黒ウサギが退くとでも?大間違いです。既に私達は二敗しています。そして、ここで黒ウサギが降参したら。私達の負けは決まってしまいす。黒ウサギは必ずここで勝ち、十六夜さんと修也さんという希望に繋げなくてはなりません。なにより、“箱庭の貴族”としてここまで舐められるのは気分が悪いです。黒ウサギを過小評価しないでください」

 

いつになくやる気に満ち溢れている。

 

一体どうしたんだ?

 

「………そうか、なら、本気で行くよ!」

 

するとその瞬間、八汰鴉の姿が変わった。

 

背中には片翼だけで八汰鴉の身長と同じぐらいの長さの羽が生えた。

 

「僕は中国の怪鳥“鳩(ぜん)”の血を引くハイブリットの幻獣なんだ」

 

そう言って翼を振るうと、羽が舞い散る。

 

黒ウサギは直ぐに動き、羽を回避する。

 

だが、一歩間に合わなく、体に羽が触れる。

 

「触れたね。今のは遅効性の麻痺毒。直に君は動けなくなる。そして、その毒は動けば動くほど毒の周りも早くなる」

 

まずい。

 

八汰鴉と黒ウサギを比べると力は向うが上。

 

だが、黒ウサギはそれを補うスピードがある。

 

いま、あのスピードを封じられた今、黒ウサギに撃てる手は少ない。

 

「それでも、黒ウサギは前に進みます!」

 

そう言うと黒ウサギは特攻を仕掛ける。

 

今の黒ウサギに打てる手は、“叙事詩・マハーバーラタの紙片”でインドラの槍を召喚し、倒す方法だ。

 

だが、それをするには相手の懐に潜り込まないといけない。

 

八汰鴉の反応速度を考えると、至近距離でぶつけないといけない。

 

そして、八汰鴉との距離が残り2mという所で八汰鴉は手に陽の光をを集めそれを放った。

 

そう言えば、五月雨から聞いたが八汰鴉は“神の導き手”とからしく、太陽となって神武天皇を導いた功績で“導の陽光”とか言うギフトが使えるそうだ。

 

太陽光線を放ち、周囲を照らし、光を浴びた者の行くべき未来を見せるギフトらしいが、それを応用してレーザーを撃つことや熱を操ることもできるらしい。

 

あれは太陽の光を集めてレーザーとして撃とうとしてるんだろう。

 

あれをくらったら一溜りもない。

 

(こうなれば、黒ウサギさんは太陽の鎧を出さずにはいられない。インドラの槍は勝つための布石だろうけど、自分の身を守らないといけないから太陽の鎧を出すはずだ。攻撃を防ぐために使えば、勝つのはもう無理。仮に出さなくても僕の勝ち)

 

そして、八汰鴉の放ったレーザーは、黒ウサギ目掛け飛ぶ。

 

「擬似神格解放!穿て“軍神槍・金剛杵”!」

 

なんと“擬似神格・金剛杵”の神格を解放した。

 

“アンダーウッド”で戦った時も使い、半壊状態で見つかり半泣きしてたのを覚えてる。

 

そして、またしても神格を解放するとは…………

 

それのおかげで、八汰鴉のレーザーは相殺に成功した。

 

「出でよ!インドラの槍!」

 

“叙事詩・マハーバーラタの紙片”でインドラの槍を召喚し、そして…………

 

「貫け!」

 

黒ウサギの一撃が、八汰鴉の腹に入る。

 

兎「!?八汰鴉君!?」

 

向うの黒ウサギが慌てて駆け寄る。

 

そして

 

「…八汰鴉、戦闘続行不能!黒ウサギの勝利!」

 

向うの黒ウサギがそう宣言する。

 

それと同時に大慌てて八汰鴉の手当てを始める。

 

愛は偉大なり。

 

「皆さん!勝ちまひしゃよぉ~~」

 

最後の言葉の呂律がうまく回らず、倒れる。

 

どうやら八汰鴉の麻痺毒が聞き始めたみたいだ。

 

毒をどうにかしてもらおうにもその本人は気絶してるし、暫くはこのままか。

 




次は十六夜VS十六夜

後、次の話を含めて三話で終わる予定です。


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コラボ6話 逆廻十六夜VS逆廻十六夜(異)

「う、う、ひゃらばが、ひびれまひゅ(訳:う、う、体が痺れます)」

 

体が痺れて動けない黒ウサギが俺達に助けを求めてくるが、取りあえず無視をした。

 

理由?

 

そんなもの特にない。

 

向うの黒ウサギが言うには、時間が経てば毒の効果が消えるとのことなのでほっとくことにした。

 

十「次は俺が行くぜ!」

 

向うからは十六夜か……なら

 

「十六夜、出番だぜ」

 

「おう!」

 

十六夜は待ってましたと言わんばかりに飛び出す。

 

余程戦いたかったんだな。

 

「よう、俺。やっとお前と闘えるぜ!」

 

十「俺の相手は俺かよ。は!いいね、おい!盛り上がって来たぞ!」

 

この戦い荒れそうだな。

 

兎「では、第四回戦 逆廻十六夜VS逆廻十六夜(異)、スタートで「「うおっりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

*(異)と付いてる方が隼さんの十六夜君です。

 

黒ウサギの合図を待たずに、二人は同時に飛び出し、攻撃を繰り出す。

 

拳のラッシュ、蹴りの押収、関節技、絞め技、填め技、とにかく力と力による勝負が始まった。

 

二人が拳を振ればその衝撃で辺りの地面が抉れ、飛び上がれば地面を陥没させる。

 

もう滅茶苦茶だ。

 

力が互角となれば、体力勝負だ。

 

こっちの十六夜とあっちの十六夜どっちが先に体力が尽きるかが、勝負の要だ。

 

「やるじゃねぇかよ、俺」

 

十「そっちの俺もやるな。まさか、ここまでくらいついてこられるとは思ってなかったぜ」

 

十六夜と十六夜が互いに笑みを浮かべながら会話をする。

 

てか、十六夜と十六夜って違和感があるな。

 

むこうの十六夜の事は逆廻と呼ぼう。

 

十「でも、それもこれで終わりだ」

 

逆廻が手を手刀の様に構える。

 

十「一の業 夜勤貫徹!」

 

次の瞬間、逆廻は早すぎる速度で十六夜に手刀での突きを放つ。

 

十六夜は体を大きく逸らすことで直撃を免れた。

 

直撃は。

 

「……マジかよ。早すぎるぜ」

 

十六夜の頬に、大きな切り傷が出来ていた。

 

「夜勤貫徹を躱すとは流石は俺」

 

逆廻はすぐさま次の反撃に出る。

 

十「三の業 聖夜晩餐!」

 

両手をクロスさせ、薙払ってくる。

 

十六夜は体を後ろに仰け反ることまたしても躱すが、躱しきれず、学ランのボタンが引き千切られる。

 

いや、引き千切られたように見えた。

 

「おい、まじかよ」

 

よく見ると、十六夜の学ランのボタンは引き千切られていなかった。

 

見事に、ボタンはの上の部分は斬られ、ボタンの脚の部分はしっかりと学ランに付いている。

 

なんちゅう、切れ味だよ………

 

十「余所見してんじゃねぇえ!五の業 熱帯夜酷!」

 

「しまっ!?」

 

今度は両手で掌底を打ってくる。

 

行き成りのことで十六夜は回避どころか、防御の構えすら十六夜は取ることが出来ずに、腹に掌底を食らう。

 

その瞬間、十六夜は口から大量の血を吐いた。

 

「ぐぼはぁ!」

 

十「安心しろ。手加減はしたから、死にはしないぜ」

 

「て、テメェー、手加減だと……舐めてくれるじゃねぇか」

 

血を手で拭いながら、十六夜は逆廻を睨みつける。

 

さっきの業、鎧通しって奴か。

 

衝撃を内部に与える技。

 

逆廻の奴、十六夜の何倍も強いじゃねぇか。

 

「お前とは真正面からやり合うのは危険だ。だがら」

 

そこで、十六夜は素早く動き、逆廻の背後に移る。

 

「後ろからテメーをやる!」

 

拳を握り、振り下ろそうとする。

 

だが

 

十「八の業 夜心謳歌!」

 

逆廻は拳を握り、それを振り回す。

 

範囲技らしく、さらに威力もあり十六夜は軽々と吹き飛ばされる。

 

十「九の業 生彩冥夜!」

 

十六夜に近づき、十六夜の左肩を拳で殴りつける。

 

地面に降り立つと、十六夜は自分の左腕を見て驚いていた。

 

「な!?左腕が動かねぇ!」

 

もしかして、腕を麻痺させたのか?

 

まずいぞ………

 

これは、十六夜が負けるかもしれない。

 

十「そろそろ終わらせるぞ」

 

逆廻は新たな構えを取る。

 

十「この技、十六夜流には十六の夜(業)がある。その技一つ一つが一撃必殺レベルの威力を誇る」

 

一つ一つが一撃必殺レベルって、ありかよ………

 

確かに、さっきの熱帯夜酷って業は確かに一撃必殺ものだ。

 

当たり所によっては、死ぬこともあり得る。

 

十「だが、俺は驕らない。どんなに強い力を持っていても、俺は更に力を求める。俺達の家族を、飛鳥を守る為に!」

 

そして、一気に十六夜との間を詰める。

 

ダメージの蓄積量が多く、十六夜はまともに動けない。

 

十「最終奥義 十六夜晩!!」

 

十六夜に十六の業がぶつかる。

 

夜勤貫徹に始まり、左手からの掌底、聖夜晩餐、横回し蹴り、熱帯夜酷、蹴りあげるサマーソルトキック、膝蹴り、夜心謳歌、生彩冥夜、バックステップからの拳、右手を横薙ぎに払って衝撃波を起こし、側面に回り込んでから腹と背を挟むような一撃を決め、踵落としを放ち(双国輪夜という業だったはず)、懐から顎をかち上げ、肘鉄を撃ち、最後に蹴りを放つ。

 

十六全ての業を食らった十六夜は先程よりも大量の血を吐き、倒れた。

 

「い、十六夜……君?」

 

「い、いひゃよいしゃん(い、十六夜さん)………」

 

飛鳥と黒ウサギは驚いていた。

 

あの十六夜が、俺達四人の中で最強であろう十六夜が負けたことに驚きを隠せなかった。

 

目が覚めた耀も、口を開け驚いている。

 

十「俺の勝ちだ、俺」

 

そう言って逆廻は踵を返して向うの“ノーネーム”の所に帰ろうとしていた。

 

「待ちな」

 

逆廻を呼び止める声が上がった。

 

十「なっ!?」

 

血まみれでボロボロの十六夜は立ち上がり、笑っていた。

 

「あれで、俺を倒せたと思ったか?甘ェんだよ!!」

 

次の瞬間、十六夜は動き出し、逆廻の両腕を掴み、両足を踏みにじっていた。

 

十「嘘だろ!?どうして、腕が動かせる!?嫌、それ以前に、お前はもう動けないほどボロボロだ。なのに、どうして」

 

「動けるかか?決まってんだろ」

 

十六夜はニヤリと笑い告げる。

 

「ここで俺が負けたら、“ノーネーム”の負けになっちまう。だから、俺は勝つ。そして、修也に俺達“ノーネーム”の勝利を託すんだよ!」

 

十「なるほどな。だが、お前も両腕両足は塞がってる。どれか一つでも解けば、すぐにでも俺の攻撃が来るぜ」

 

「いや、攻撃の手段は………まだあるんだよ!」

 

そう言うと十六夜は頭突きを逆廻にあてる。

 

ゴスンッ!

 

もの凄い衝突音が聞こえた。

 

十「っつう!?」

 

「まだた!」

 

逆廻が頭突きで怯んだ瞬間、いざよいは素早くアッパーを出し、空中に放り出したら、自分もジャンプし、蹴りを叩き込む。

 

地面に落ちた逆廻は、地面にクレーターを作る。

 

そして

 

「これで、しまいだぁ!」

 

十六夜の踵落としが逆廻の腹部に当たる。

 

あたりが静寂に包まれる。

 

そして、十六夜がゆっくりと立ち上がる。

 

「お前の敗因は、油断し過ぎたことだ。これからは油断するんじゃねぇぞ」

 

兎「逆廻十六夜(異)、戦闘続行不能!逆廻十六夜の勝利!」

 

これで二勝二敗か。

 

次で勝負が決まるな。

 



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コラボ7話 月三波・クルーエ・修也VS五十嵐五月雨

「十六夜、お疲れだ」

 

「ああ、後は任せたぜ」

 

ボロボロになった十六夜とハイタッチを交わし、十六夜は手当、俺は最終戦に向かった。

 

「修也君、あと一勝よ。頑張って」

 

「いえしゅ!しゅーやしゃんなら、じぇったひにかちぇましゅ!(YES!修也さんなら絶対勝てます!)」

 

「修也、信じてるから」

 

「ああ、行ってくる」

 

みんなに激励の言葉を貰い、中央に進む。

 

「よぉ、五月雨。俺がお前の相手だ」

 

「まぁ、僕としては修也と戦いたかったから嬉しいけどね」

 

俺と五月雨は軽く握手をし、距離を開ける。

 

兎「では、最終戦 月三波・クルーエ・修也VS五十嵐五月雨 スタートです!」

 

黒ウサギの合図と共に、五月雨は金と銀の剣を出し、斬り掛かってくる。

 

白牙槍で、銀色の剣を、ハープーンガンで金色の剣を受け止める。

 

「デュランダルで斬れないとは良い槍だな」

 

「そっちこそ、この槍に斬り掛かって刃こぼれしないとは恐れ入るぜ」

 

次の瞬間、互いに距離を取り、離れる。

 

ハープーンガンを五月雨に向け撃つ。

 

五月雨はこの銃の威力を分かっているかのように、素早く避ける。

 

ハープーンガンから飛び出した銛が、地面に突き刺さり、紙面を抉る。

 

「うお、すげぇ~。あれ、受け止めてたら大変なことになってたな」

 

「初見でよくコイツの威力を理解できたな」

 

ハープーンガンの威力を見切られたとなるともう使えないと判断し、大人しく仕舞う。

 

代わりに血の小瓶を取り出し飲む。

 

「……それ、血か?」

 

「あ、言ってなかったな。俺、吸血鬼なんだ」

 

そう言うと、俺は素早く移動し、背後を取る。

 

そして、白牙槍を振る。

 

「ちっ!」

 

五月雨は金の剣で斬撃を受け止め、銀の剣で斬りつけてくる。

 

後ろにのけ折ることで銀色の剣の一撃を躱す。

 

「まさか、吸血鬼だとはな!」

 

「へ!ついでだ、良い物見せてやるよ」

 

俺は槍に風を集め、そして一点に集中させる。

 

そして、突きを放つ。

 

突きを放つと、槍の先に集まってた風が一気に飛び出し、巨大な風の槍になって五月雨を襲う。

 

風の槍は、五月雨に直撃したように見えた。

 

砂煙が酷くて良く見えないが、おそらく「これで、倒せると思ったか?」

 

いつの間にかは背後に五月雨が立っていた。

 

「まさか、グリフォンのギフトが使えるとはな。それもギフトか?」

 

「ああ、幻獣の血を飲むことでその幻獣の力を一時的に使うことが出来る。俺のギフトの一部だ。それで、お前はどんな方法であの一撃を交わした?正直、あれを倒せないにしろ手傷ぐらいは負わせれると思ったんだが?」

 

「ああ、それはこうしたんだよ」

 

次の瞬間、五月雨はまた俺の後ろに居た。

 

「光+速度、これで俺自身の素早さを瞬間的にあげて光速の速さをだした」

 

「おもしろいことするな」

 

そして、再び槍と剣が切り結び合う。

 

「雷+発射+拡散」

 

今度は雷を俺に向け発射してきた。

 

おまけに拡散していて攻撃範囲がでかい。

 

翼を出し、上空に避難する。

 

「そこだ!風+斬撃+拡散!」

 

俺が上空に避難すると分かっていたらしく、俺は風の刃に切り裂かれる。

 

 

「くっ!」

 

体中を切り裂かれ、ヒリヒリとした痛みが体を襲う。

 

このままじゃ、こっちが負ける。

 

なら………

 

もう一度、槍に風を纏い、風の槍を放つ。

 

だが、狙うのは五月雨じゃない。

 

俺はそのまま、風の槍を地面に叩き付けた、

 

地面に激突した風の槍は地面を抉り、そして、砂煙を巻き起こす。

 

さっきのよりも威力を高めたので砂煙が俺たちだけでなく、十六夜達も襲う。

 

「修也のヤロウ!やりすぎだぞ!」

 

「ゲホッ!ゲホッ!無茶苦茶じゃない!」

 

「……二人が見えない」

 

全員の視界が塞がってる。

 

やるなら、今だ!

 

俺は素早く耀の背後に回り、耳元でささやく。

 

「悪い。あとで、何でもしてやるから」

 

「え?」

 

耀が頭に疑問符を浮かべた瞬間、俺は耀の首に噛みついた。

 

「あうっ!」

 

ゆっくりと耀の血を口に含み、飲み込む。

 

飲み終わると、傷口は舐めて塞ぐ。

 

「あひゃ!」

 

耀の血を飲んだおかげで、傷も塞がり、力が湧いて来る。

 

「五月雨、決着と行こう」

 

「どうやら、何かしたらしいな。いいだろ、とっておきを見せてやる」

 

そう言うと、五月雨は、二本の剣を交差させた。

 

「全能の神嵐・十閃(ゴッドテンペスト・クロス)!」

 

あれは、まずいな。

 

素早く腕を切り裂き、血を撒き散らす。

 

「我が血よ!我が名のもとに従え!我が命を守りし盾となれ!」

 

血に命じ、血の障壁を造りだし、五月雨の攻撃を受け止める。

 

だが、血の障壁はそれを全て受け止められず破壊される。

 

「まさか、あれを防ぎきるとはな」

 

五月雨が感心そうに言う。

 

俺はというと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、はは、ははははははははははは!あはははははははははははは!」

 

高笑いしていた。

 

「おい、どうした?笑いだしたりして?」

 

「いや、十六夜以外だとお前が初めてなんだよ。人間で、俺と対等、いや、それ以上の奴と戦うのは」

 

「それで?」

 

「…………ありがとな。お前のおかげで箱庭がもっと楽しくなりそうだ。案外、探せばいるかもしれないな。お前みたいな奴」

 

「……そうか。僕も、お前みたいな奴は初めてだ。この世界で会えたら家族になりたかった」

 

「お前と戦うのは楽しいが、そろそろ終わりにしよう」

 

「そうだな」

 

そう言うと五月雨は金の剣を仕舞い、銀の剣を正眼に構える。

 

俺は槍に自分の血を塗り、そして、麒麟の血を飲む。

 

「我が血よ。我が名のもとに従え。その血に流れる力を槍に纏わせよ!」

 

槍に血の力が宿り、麒麟の雷が纏わりつく。

 

「行くぞ!」

 

五月雨は銀の剣に光を集め収束する。

 

「くらえ!血の雷槍(ブラッティ・サンダースピア!)」

 

「全能の神嵐・裂斬(ゴッドテンペスト・スラッシュ)!」

 

槍と剣がぶつかり、巨大な爆発を起こした。

 

そして、勝負は…………………

 




次回、コラボ最終話


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コラボ最終話 異世界からの帰還

「悪い。負けた」

 

俺は目の前の十六夜、飛鳥、耀の三人に土下座をしている。

 

そう、五月雨との戦いで俺は負けた。

 

俺と五月雨の技がぶつかり合い、巨大な爆発と衝撃を生み出し十六夜達よりもさらに凄いクレーターを生み出した。

 

砂煙があがり、視界が悪くなったところを五月雨が銀の剣(デュランダル)で斬られ、俺は敗北した。

 

「俺は任せたって言ったはずだぜ?それで、お前は任されたって言った。それなのに負けたってのはどういうことだ?」

 

「まったくね。どうしてなのかしら?」

 

「私は信じるって言ったら、修也は分かったって言った。でも、負けた。私の事裏切った」

 

「み、皆さん。そんなに修也さんの事を責めないでください」

 

怒ってる問題児三人を落ち着かせようと右往左往する黒ウサギだった。

 

「いいんだよ、黒ウサギ。どんな理由にしろ、俺は三人の期待を裏切った。お前だって金剛杵の擬似神格も解放して勝ったのに、俺は負けたんだ」

 

正直、黒ウサギと十六夜には悪いことをしたと思う。

 

十六夜なんか体をボロボロにしてまって勝ったってのに…………

 

「ま、ゲームには負けたが、中々楽しめたし、今回は許してやるよ」

 

「そうね、その代り、貸し一よ」

 

「修也、貸し一とさっきの事守ってね」

 

どうやら、全員に貸し一ということで今回は許された。

 

「修也、お前強いんだな」

 

「五月雨。負けた相手に言われると正直、嫌味でしかないぜ」

 

「そうか、悪かったな」

 

「でも、楽しかったぞ」

 

「ああ、僕もだ」

 

そう言って俺と五月雨は握手をする。

 

「よ、俺、気分はどうだ?」

 

十「ああ、最高に最悪だぜ。でも、お前のおかげで分かった。俺はもっと強くなる必要がある」

 

「今のままでも十分強いがな」

 

十「それでも、もっと強くならないとだ。でないと、飛鳥を守るなんてできない」

 

「やはは、本当にこっちの俺はお嬢様が好きなんだな」

 

十「当たり前だろ。飛鳥は俺の妻だからな」

 

十六夜は向うの十六夜の惚気話に苦笑。

 

「ねぇ、私、どうして、十六夜君なの?人としてならともかく、男としてはかなり問題があると思うわよ?」

 

飛「あら、そんなこと無いわよ?結構男らしい所もあるし、何より私が選んだ、最高の夫よ」

 

「そ、そう」

 

飛鳥は向うの飛鳥の惚気に自分も赤くなり、照れてる。

 

これって、飛鳥が十六夜を好きになるフラグか?

 

「よったん、凄かったよ!もしかしたら、私負けてたかもしれないよ!」

 

「ううん、花音は強かった。そして、私は弱かった。だから負けた。でも、次は勝つ」

 

「うん!また、いつか戦おう!」

 

耀と花音は固く握手をした。

 

「皆さ~ん!」

 

その時、館の方からジンが小走りで走って来た。

 

兎「どうしました、ジン坊ちゃん?」

 

「うん!実は転移用ギフトなんだけと、さっきまた起動したんだ」

 

「ほ、本当でございますか!?」

 

「うん!ちゃんと、元の時間軸に戻れるような設定だから、これで帰れるはずだよ」

 

てことは、五月雨たちとはお別れか………

 

「……お別れだな。僅かな間だったけど、楽しかったぜ」

 

「僕も楽しかった」

 

「じゃあな、またいつか会おう」

 

「ああ、必ず」

 

十「じゃあな、俺。次会うときはもっと強くなってろよ」

 

「俺も、慢心するんじゃねぇぞ」

 

飛「さようなら、次は是非私と戦いましょう」

 

「ええ、私もあなたと戦いたいわ」

 

耀「じゃあね、私。応援してる」

 

「うん、ありがとう」

 

「それでは、黒ウサギ達は帰ります」

 

兎「はい、お互い頑張りましょう(主に胃痛と頭痛に)

 

「YES!(主に胃痛と頭痛に)」

 

「それじゃあ」

 

「「「「「じゃあな(あばよ)(さようなら)(…さよなら)(さよならです)!」」」」」

 

そして、俺達は再び光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~アンダーウッド 倉庫~

 

「お、戻って来たな」

 

「中々、いい体験だったぜ」

 

「そうね、異世界の自分に会うなんて“箱庭”でしか体験できないわね」

 

「…また会えるといいな」

 

「大丈夫だ。だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ったな」

 

耀「うん」

 

なんというか、不思議な奴等だったな。

 

耀「また、会えるかな?」

 

「会えるさ。だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「会おうって約束したからな!」」

 




初コラボ終了!

とても、貴重な体験ができました。

さて、次回から本編に突入です!

では、次回もお楽しみに


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プロフィール紹介

今更ですけど修也とクルーエ、そして、修也の母についてのプロフィールを紹介します。


名前:月三波・クルーエ・修也

 

年齢:16歳

 

容姿:ストライクザブラットの暁古城を銀髪銀目にした感じ

 

所有ギフト “忠義の吸血騎士(ロード・オブ・ヴァンパイアナイト)”

      “ヒューメルーン”

      “ハープーンガン-パイドパイパー-”

      “白牙槍”

      “フェルナ”

      “幻獣の血”

 

ギフトの説明

 

“忠義の吸血騎士(ロード・オブ・ヴァンパイアナイト)”

 

修也が生れた時から所有してるギフト

 

人間の血を吸うと治癒力の上昇し、吸血鬼の力の開放ができる。

 

自分の体を傷つけ血を撒き散らし「我が血よ、我が名のもとに従え」と言い、その後、命令をすることで自分の血で攻撃をしたり、防御したりできる。

 

どんな無茶な命令も、大体はこなす。

 

幻獣の血を吸うと、その幻獣の力を一時的に使用できる。

 

 

“ヒューメルーン”

 

ギフトゲーム“ANOTHER HAMELIN”での景品

 

自分以外の相手を回復できる。

 

軽度の怪我なら完治、重度の怪我でも応急処置ぐらいにはなる。

 

 

“ハープーンガン-パイドパイパー-”

 

ギフトゲーム“ANOTHER HAMELIN”での景品

 

初期のころは水中銃みたいな形で、4本の銛を飛ばすモノだったが、“ペルセウス”で改良してもらい、総弾数が6発になり、見た目もリボルバー銃みたいになってる。

 

大きさもそれなりに小さくなり小回りにも使えるようになってる。

 

威力はかなり高く、銛が当たった対象は弧を描くように吹き飛ぶ。

 

 

“白牙槍”

 

ギフトゲーム“必勝の一撃”クリア記念に白夜叉から貰った槍

 

材質は“金剛鉄”で、一級品のモノ。

 

グライア=グライフとの戦闘で折れてしまい、今はショートスピアみたいに使ってる。

 

 

“フェルナ”

 

問題児たちが異世界から来るそうですよ?乙の話で出てきた少女の人形。

 

ギフトゲームの後、修也が回収し、“ペルセウス”の手により復活。

 

だが、スペックはダウンしてしまい、「フェルナン」としか喋れず、攻撃力はそこら辺のチンピラより強い程度。

 

基本的に自立行動ができるので、敵地での潜入、索敵をメインに活躍する。

 

 

“幻獣の血”

 

 

グリーとのギフトゲームで勝利した報酬として白夜叉から貰った

 

現段階では鷲獅子の血が二本、麒麟の血が一本、光翼馬の血を一本所有。

 

 

備考:時代としては十六夜より未来で耀より過去の人間

 

   仲間想いで、仲間が傷つくのが大っ嫌い。

 

   自分のことより仲間を優先してしまい、度々怪我をする。

 

   吸血鬼だけに身体能力は高いが泳ぐことが出来ない。

 

   ある程度の幻獣や動物との会話ができる。

 

   耀に告白されて現在は返事を待ってもらっている。

 

 

 

 

名前:クルーエ=ドラクレア

 

年齢:???

 

容姿:とある魔術の禁書目録の上条刀夜の銀髪銀目にした感じ

   身長は190㎝程、口髭が生えてる

 

所有ギフト:??????????

 

備考:初代“竜の騎士”にして吸血鬼最強と呼ばれた男

 

   同族大量虐殺により、箱庭を追放された。

 

   だが、独自で箱庭を行き来できる方法を編み出し、ちょくちょく箱庭に来ていた。

 

   旧“ノーネーム”メンバーとは知り合いで、たびたびプレイヤーとして力を貸していた。

 

   耀の父親、春日部孝明とは親友の間柄で、最強のコンビと呼ばれていた。

 

   白夜叉とも仲が良く、旧スク水とブルマでのぐっと来る仕草を語り合う為に、三日三晩戦った

   りもした。

 

   繋がりを大事にしている。

 

   四年前に事故で死亡しているが…………………

 

 

 

名前:月三波 涼香

 

年齢:?

 

容姿:Fate/Zeroのアイリスフィール・フォン・アインツベルン

 

所有ギフト:????????

 

備考:修也の母親。本編では名前は出てない

 

   元二桁の魔王コミュニティのリーダー、元魔王。

 

   クルーエに一目ぼれし、自らのコミュニティを自らの手で崩壊させ、クルーエの下に

   嫁いだ。

 

   修也を産んでから間もなく交通事故で他界。

 

   元々はごく普通のギフトを所有する人間だった。

 



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番外編 料理は腕と愛情だそうですよ?

問題児シリーズの新刊発売しましたね。

皆さんはもう買いましたか・

私は買いました。


収穫前夜祭

 

俺は耀と飛鳥と共に売店市場で買い物に来ている。

 

半ば耀に無理矢理連れてこられたんだが…………

 

こっちは“ノーネーム”が六桁に昇格に必要な連盟旗の為に、連盟となるコミュニティとの交渉の準備で忙しいって言うのに…………

 

ちなみにジンは“ウィル・オ・ウィスプ”“六本傷”との交渉をし、俺は“インフォーマント”と“ペルセウス”の交渉をすることになった。

 

ネズさんの所はともかく、ルイオスの所はどうだろうか…………

 

俺との関係はともかく、十六夜達との関係が悪いな。

 

とくに飛鳥とか……………

 

「修也、聞いてる?」

 

「あ?……あ、ああ、聞いてる!」

 

ヤッベ!

 

全然聞いてなかった。

 

「……飛鳥にこの服に合うかって話」

 

耀が俺を疑いの目で見つめ、話してた内容を教えてくれる。

 

飛鳥が手に持ってる服は股下から大胆に割れ目の入ったオーバースリットのスカートだ。

 

「飛鳥って日焼けとかしてないからそういう肌を見せる服とか結構似合うと思うぞ」

 

「そ、そうかしら?」

 

俺の言葉に飛鳥は頬を赤くし、照れる。

 

「む~~~」

 

すると耀は頬を膨らませ明らかに不機嫌さをアピールしてくる。

 

そんな耀が可愛く思え、俺はご機嫌を取る意味も込めて頭を撫でる。

 

暫く撫でてやると耀は機嫌が直ったのか、ふにゃっとした笑顔になった。

 

「はぁ~、いちゃつくなら他所でしてほしいわね」

 

飛鳥が何か言ってるが良く聞こえなかった。

 

「飛鳥はどんな服が好きなの?」

 

耀は頭を撫でられながら飛鳥に問う。

 

「可愛ければ洋も和も好きよ。着物だって昔はよく来てたもの」

 

「私も着物は好きだな。来ていて身が引き締まる感じがする」

 

「そうね。一着ぐらい持っていた方がいざという時困らないし、機会があったら“サウザンドアイズ”に探しに行きましょう」

 

二人は笑い合いながら頷いた。

 

すると、両手に荷物を抱えた十六夜とリリが見えたので、手を振った。

 

十六夜達も気づき手を振って応える。

 

「よお、買い物か?」

 

「少し時間が開いたからだとさ。俺は耀に無理矢理」

 

「返事待たせてんだから、少しぐらい我儘聞いてやれよ」

 

ヤハハと笑い十六夜が肩を叩いて来る。

 

「それで、お前たち、黒ウサギに渡すプレゼントは決まったのか?」

 

「ええ、水樹の幹から削り出した紅塗りの櫛よ」

 

「寝癖も一差しで綺麗になる優れもの。三人でそれぞれ違うデザイン」

 

二人は胸を張って自慢げに応える。

 

 

 

「なるほどな、修也は?」

 

「俺はコイツだ」

 

ギフトカードに収納していたある物を取り出す。

 

それは赤い宝石が埋め込まれた、金色の簪だ

 

「うわ~、綺麗」

 

「これは、何なの?」

 

「赤い宝石は血宝石って言って、血が炭素と結合してできた宝石なんだ。輝きは良し、硬度も良し。それに、血宝石には、魔除け恩恵が付与されているんだ」

 

俺の説明に耀と飛鳥は凄いっと言った感じで簪を見る。

 

「現地の高級品か。捻りは無いが王道だ」

 

十六夜は上から目線で感心してくる。

 

「それで、十六夜君は決めたの?」

 

「いや、まだだ。市場には別件で来たからな」

 

「十六夜様がパンプキンキッシュを御馳走してくれるというので…………皆さんもご一緒しませんか?」

 

リリは二尾をパタパタと嬉しそうに揺らす。

 

「十六夜君が料理ねえ。本当に作れるの?」

 

「当然だ。お前たちよりも上手いぜ」

 

「……それはちょっと聞き捨てならない」

 

「全くだな。十六夜、お前だけが料理できると思ったら大間違いだ」

 

流石に俺も今の十六夜の言葉にカチンと来た。

 

耀と飛鳥も同じらしく、いざよいに対して挑戦的な目を向けている。

 

「種目は?」

 

「欧風だ。メインはキッシュだから残るはスープと前菜、デザート」

 

「了解、行こう」

 

耀の声を合図に俺達は食材置き場に向かった。

 

そんな俺達を十六夜はヤハハと笑って見送った。

 



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番外編 マッチョ人形襲撃だそうですよ?

「クッハー!なんでえ、なんでえ!お前さんら調理も人並み以上に出来るんじゃねえか!こりゃ調理大会に出なかったのが惜しまれるな!」

 

俺たちが作った料理をガロロさんは絶賛した。

 

「…………馬鹿言うなよ。俺の料理スキルなんざ趣味の範疇でしかねえよ。出るとしたら、春日部一択だろ」

 

十六夜は少しむっとした表情で耀を見る。

 

「そうね、まさか春日部さんがこんなに料理が上手だったなんて…………私なんて焦がしてひっくり返してしまったのに………」

 

飛鳥はしょんぼりとした表情でショックを受けてる。

 

「てっきり耀は食べること専門だと思ってたが………人は見かけによらないな」

 

「それってどういう意味?」

 

また耀が不機嫌になってこっちを睨んでくる。

 

「私だって……女の子だもん」

 

拗ね方が可愛い……………

 

「悪い悪い。でも、料理は滅茶苦茶うまいぞ」

 

「……本当?」

 

「ああ」

 

「………そっか」

 

素っ気なく返事をするが、顔は笑っていた。

 

「それにしても素晴らしい。これは調理法もそうだが具材選びにも拘ったと見える」

 

同席していたサラが口元を緩ませながら耀に聞く。

 

「素晴らしい部分を見つけるのは得意。私、独り暮らしだったから、ご飯を美味しく食べる様にしてたら、いつの間にかこうなってた」

 

少し得意げになって言うように対し、十六夜はまたむっとし、飛鳥は更に落ち込んだ。

 

そんな中、何故かリリは上の空と言った表情でキッシュに手を付けてすらいなかった。

 

「リリ、食べないの?」

 

「え?あ、はい。いただきます」

 

リリは慌てて両手を合し、キッシュを口に運ぶ。

 

だが、歓声も上げずやはり上の空でいる。

 

「リリ、何かあっただろ?」

 

「え?」

 

「いつものリリらしくないぞ。何があったなら話してくれるか?」

 

俺がそう言うとリリは少し困ったような表情をして、話し始めた。

 

リリが言うには、今日俺達と別れた後、路地で店を見つけ、そこの店でいいブローチを見つけた。

 

それを黒ウサギへのプレゼントにしようと思ったのだが、ギフトゲームに勝利した者のみが買うことを許された店だったそうだ。

 

おまけに店主は不在。

 

ガロロさんが言うには、盗賊に対するトラップか何かなんじゃないかとのことだ。

 

「とにかくそんなブービートラップ紛いな店があるのは物騒だな。議長さんよ。悪いが主催の一人として現場を見て来てくれないか?」

 

「分かりました危険な店なら破壊しても構いませんね?」

 

「ああ、やっちまってくれ」

 

こうして、俺達四人とサラ、リリの六人はその店に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリの言ってた店に行くには市場を通り過ぎて断崖の割れ目から入るそうだ。

 

そしてその場所に向かってみたが明らかに不自然だった。

 

人が通れるぐらいの大きさなのに、誰一人として気にしていない

 

「なるほど。簡単には入れないようになっているのか」

 

「そうだな…………人払いの恩恵を使っているのかもしれない」

 

「なら、どうしてリリはこの亀裂を見つけられたの?」

 

「そ、それはその…………暴れ牛に跳ね飛ばされて…………」

 

『暴れ牛?』

 

なんというか物騒な話だ。

 

「暴れ牛って闘牛でもやってたのか?」

 

「暴れ牛に跳ねられて隙間に入る………偶然にしては凄い偶然だな」

 

「暴れ牛に跳ねられて隙間に………少し出来過ぎてるわ」

 

「うん。偶然に暴れ牛がやってきて、偶然にもリリを跳ね飛ばすなんて。そんな偶然が」

 

 

「うわあああ!暴れ馬だああああ!!!」

 

 

「ひゃー!?」

 

「「「……………………」」」

 

行き成りやって来た暴れ馬がリリを撥ね飛ばし、リリはそのまま隙間の中に落ちてしまった。

 

行き成りの出来事に俺達は呆然としてしまった。

 

「おい、何をしている!早くあの子を追うぞ!」

 

「「「「ッ!!」」」

 

サラに一喝され、俺達もあわてて隙間の中に入った。

 

隙間に入って五分ぐらいでリリは直ぐに見つかった。

 

「お前ら、明日の夜は、暴れ馬の馬刺しなんてどうだ?」

 

「賛成。ついでに暴れ牛の焼肉もしないとね」

 

この二人、あの暴れ馬を食う気だ…………

 

まぁ、確かに俺もあの暴れ馬どもを許せない。

 

暫く歩いているとリリの言ってた店が見つかり、話の通り、店の扉には『ゲームクリアした者のみ売買可』との『契約書類』があった。

 

中に入ると中には雅な装飾品や骨董品があった。

 

だが、どれも値段が異様に高く、現“ノーネーム”の生活費十年分は掛かる物もあった。

 

店の奥には店主が座る椅子があり、そこには一体の人形とその人形が持ってる“契約書類”があった。

 

 

『[───わたしはせかいいちのはたらきもの───

 

ひとりめのわたしはせかいいちのはたらきもの!

 

だれのてをかりなくてもうごいてうごいてうごきつづけたよ!

 

あまりにうごきつづけたから、はじめのとうさんもおおよろこび!

 

だけどあるひ、それがうそだとばれちゃった。

 

ひとりめのとうさんとわたしは、うそがばれてこわれちゃった。

 

 

ふたりめのわたしはせかいいちのはたらきもの!

 

ともだちがてをかしてくれたから、うごいてうごいてうごきつづけたよ!

 

あまりのもうごきつづけたから、つぎのとうさんもおおよろこび!

 

だけどあるひ、それがにせものだとばれちゃった。

 

でもふたりめのわたしととうさんは、ともだちのおかげではたらきつづけたの。

 

 

さんにんめのわたしはほんとうにはたらきもの!

 

まだうまれてないけど、えいえんにはたらきつづけるの!

 

はやくうまれろ!はやくうまれろ!みんながそういいつづけたよ!

 

だけどあるひ、わたしがうまれないとばれちゃった。

 

だからさんにんめのとうさんは、さんにんめのわたしをあきらめたの。

 

だけどそんなのゆるさない!たくさんのとうさんがわたしをまっている!

 

とみも!めいせいも!じんるいのゆめも!わたしがうまれたらてにはいる!

 

だからお願い……私を諦めないで……!例え、真実が答えでも……!』

 

なんというかかなり変則な文面だな。

 

こんな“契約書類”もあるんだな。

 

「悪いが私にはさっぱりだ。お前たちに任せるよ」

 

「おいおい新しい“階層支配者”がそんなんでどうする」

 

どうやらサラは謎解きはあまり得意じゃないようだな。

 

「それにしても真実が答えでも……か。此奴はまた残酷なゲームだな」

 

ん?十六夜は答えが分かったのか?

 

そう思ってると、急に店全体に地鳴りのような音が響いた。

 

「気を付けろ!何かがいるぞ!」

 

「それも多分…………一つや二つじゃない…………!」

 

サラと耀が声を上げて警告する。

 

地響きがする方向を見ると『従業員以外立ち入り禁止』と書かれた扉の方向だった。

 

十六夜はリリを肩車する。

 

「リリ、絶対に離れるな」

 

「は、はい!」

 

「来るぞ!」

 

ハープーンガンを取り出し扉の方に向ける。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉から大量のマッチョ人形が現れた。

 

「「「「―――――うわお」」」」

 

俺達四人はコンマレベルの狂いが無いぐらい完璧に同じタイミングでそう言った。

 

てか、マッチョ人形、滅茶苦茶リアルだな。

 

制作者の趣味嗜好はともかく人形作りの技術としてはかなりのレベルだ。

 

等と感心しているとマッチョ人形はエレガントのポージングを取り、白く輝く歯を見せて

 

「………ムキッ!」

 

「ムキ!?」

 

「ムキ!!?」

 

「ムキって鳴いた!!?今ムキって鳴いた!??」

 

「落ち着け女性陣。今のは泣き声じゃない」

 

「おそらく掛け声だろう」

 

女性陣は混乱し、俺と十六夜はなんとか耐える。

 

すると、マッチョ人形は臨戦態勢に入り

 

「………マッチョ!」

 

「マッチョ!?」

 

「マッチョ!!?」

 

「今マッチョって鳴いた!!?今のは絶対マッチョって鳴いた!??」

 

「そうだな。今のはマッチョって鳴いたな」

 

「確実に鳴いたな」

 

更に女性陣は混乱し、俺と十六夜ももう諦め半分で匙を投げた。

 

互いに睨み合い(?)先に動いたのはマッチョ人形だった。

 

「……雄々オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!」

 

雄々しいとしか表現できない雄叫びを上げ俺達に向かってマッチョ人形は迫って来た。

 

『きゃああああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

女性陣はあまりの恐怖から全力で退避した。

 

「キ、キモイ!キモイわ!!」

 

「ない、アレはない」

 

飛鳥と耀は漢の夢を体現したような筋肉に真っ青になり、後退する。

 

サラはもう店の外に居た。

 

十六夜は後ろ走りしながらマッチョ人形を見つめていた。

 

「……一体欲しいな」

 

「なんでだよ!?」

 

「やめて!」

 

「ヤメテ」

 

「や、止めてください!」

 

十六夜は残念そうに溜息を吐く。

 

溜息吐くほど欲しかったのかよ…………

 

てか、さり気なく飛鳥を脇に抱えてるし…………

 

心なしが飛鳥の頬がちょっと赤い気がする…………

 




タグに十六夜×飛鳥を加えようか悩んでる今日この頃

私はどうしたらいいのでしょう?

じっくり検討しようかと思います。

それでは次回もお楽しみに



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番外編 メイド・イン・父親だそうですよ?

“アンダーウッド”主賓室

 

俺は自分に割り当てられた部屋にこもり、先程の“契約書類”について考えた。

 

『───わたしはせかいいちのはたらきもの───

 

ひとりめのわたしはせかいいちのはたらきもの!

 

だれのてをかりなくてもうごいてうごいてうごきつづけたよ!

 

あまりにうごきつづけたから、はじめのとうさんもおおよろこび!

 

だけどあるひ、それがうそだとばれちゃった。

 

ひとりめのとうさんとわたしは、うそがばれてこわれちゃった。

 

 

ふたりめのわたしはせかいいちのはたらきもの!

 

ともだちがてをかしてくれたから、うごいてうごいてうごきつづけたよ!

 

あまりのもうごきつづけたから、つぎのとうさんもおおよろこび!

 

だけどあるひ、それがにせものだとばれちゃった。

 

でもふたりめのわたしととうさんは、ともだちのおかげではたらきつづけたの。

 

 

さんにんめのわたしはほんとうにはたらきもの!

 

まだうまれてないけど、えいえんにはたらきつづけるの!

 

はやくうまれろ!はやくうまれろ!みんながそういいつづけたよ!

 

だけどあるひ、わたしがうまれないとばれちゃった。

 

だからさんにんめのとうさんは、さんにんめのわたしをあきらめたの。

 

だけどそんなのゆるさない!たくさんのとうさんがわたしをまっている!

 

とみも!めいせいも!じんるいのゆめも!わたしがうまれたらてにはいる!

 

だからお願い……私を諦めないで……!例え、真実が答えでも……!』

 

この文面から考えるとわたしって言うのは内容からして人物ではない。

 

おそらく創作物、かりに創作物Xとしよう。

 

そして、とうさんと言うのはその創作物Xを作ろうとした製作者A、B、Cとすれば、“わたし”が共通に対し“とうさん”が複数人で表してる矛盾が解ける。

 

制作者Aは失敗談、製作者Bは副次的な成功談、製作者Cは創作物Xの未来。

 

即ち、主催者は三度に渡って研鑽された特定の人造物・あるいは研究の成果が擬人化した者か…………

 

「三世代にわたって研究・研鑽された何か……………となるとアレか」

 

文面から考えるとクリア方法は…………

 

「おいおい、残酷だな」

 

十六夜が残酷だと言ってた理由が分かった。

 

「……………よし、もう一度あの店に行くか」

 

俺は椅子から立ち上がり、もう一度あの店に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店に続いてる隙間には立ち入り禁止の看板があった。

 

「ま、いっか」

 

看板をスルーし、俺は隙間の中を進む。

 

隙間の中を進み、店に着くとちょうどリリが中に入ろうとしていた。

 

「こら、リリ」

 

「ひゃう!?しゅ、修也様………」

 

「ここは危ないから近づいたら駄目だって言っただろ」

 

「す、すみません………」

 

リリはしょんぼりして下を向く。

 

俺はリリの頭に手を置き優しく撫でる。

 

「一人は危ないから俺と行こうな」

 

「あ、はい!」

 

リリはしょんぼりとした顔をすぐに笑顔に変え、笑う。

 

リリと一緒に店の中に入ると、店の中には先ほど変わらず椅子の上に人形があり、その手には“契約書類”があった。

 

リリはその隣の机に置いてある木彫りのブローチが欲しいらしい。

 

「ありました!………でも、やっぱり買えないのかな」

 

リリが考え込むと誰かが声を掛けた。

 

「金銀ではなく木製のブローチが欲しいのですか?」

 

あわてて後ろを振り向くとそこには先程の人形がまるで生きてるかのように喋っていた。

 

「………お前はこのゲームの主催者か?」

 

俺は驚きながらも人形に尋ねる。

 

「いいえ。私はこのゲームの進行役であり、この館の主、名をコッペリアと言います」

 

「お人形さん?」

 

「はい」

 

「わぁ……こんなきれいなお人形さん、初めて見ました!」

 

「ありがとうございます、フォックス。貴女の狐耳もキュートで可愛いですよ」

 

「そ、そうかな?」

 

どうやらコッペリアとリリは相性がいいらしく仲良くなってる。

 

「なぁ、コッペリア聞きたいことがるんだが」

 

「はい、何でしょう?」

 

俺はあることをコッペリアに尋ねた。

 

「お前はこの店の主、要するに店主ってことでいいんだよな?」

 

「はい、私はこの店の売買を預かる身分です。代金を頂ければ品物と交換いたしますが」

 

「なら、リリがこのブローチを欲しがってるんだ。こいつを売ってほしい」

 

俺はリリが欲しがっていた木製のブローチをコッペリアに向ける。

 

コッペリアはそれを手に取ると、少し困ったように言う。

 

「これは売り物ではありません。私が手慰みに彫ったもの。値段はありません。欲しければどうぞ、フォックス」

 

フォックスってリリのことか?

 

まぁ、狐だしフォックスでいいのか………

 

「てか、このブローチお前が作ったのか?」

 

「はい、拙い技術ですが……」

 

「いや、結構なモンだと思うぜ。な、リリ」

 

「はい!すごく可愛いブローチです!」

 

俺たちの言葉が恥ずかしかったのかコッペリアは困ったように頬を染めた。

 

「どうして、この店に一人でいるの?」

 

リリは思い出したかのようにコッペリアに尋ねた。

 

コッペリアは自分の身体を抱きしめながら呟いた。

 

 

「棄てられた……からです。私を作ろうとした父に」

 

「え?…………父親に、棄てられた……?」

 

「はい、父の愛が私の存在理由でした。しかし、その愛を失ったのです。………いいえ、初めからそんなものなかったのでしょう。父が本当に欲してたのはそこにある付加価値。なのに私は、人類に求められてると錯覚を抱き、私を完成させてくれる人を待ち続けています。そんな運命の人など…………来るはずもないのに」

 

コッペリアは大粒の涙を流し、泣く。

 

「そんなことないよ」

 

リリがコッペリアに近づき、コッペリアの頭を撫でる。

 

「母様が言ってました。どんなに離れていても、親は子供を想ってくれますって」

 

「それこそ、幻想です、フォックス。この館は棄てられたものが集う場所。さらに奥に進めば、他にも棄てられたものたちで溢れかえってます」

 

「そ……そう、なんだ」

 

どうやらあのマッチョ人形を思い出したようだ。

 

あれもかつては人に求められてたのか…………なんか嫌な風景だな………

 

「じゃあ、お前が持ってた“契約書類”は、」

 

「あれは、私を完成させる方を探すためのもの。ですがあのゲームは」

 

そこでコッペリアは口を不自然に閉ざす。

 

するとリリはコッペリアの手を取り、で口を指差す。

 

「此処を出よう。こんな所に居ても新しい父様は見つからないよ」

 

「……出来ません。もし逃げようとしたら………アレが襲ってくる………」

 

「だ、大丈夫!筋肉の人形なら修也様がやっつけてくれるから!」

 

え?アレを俺が倒すの?

 

「違う………!!この館は、もっと恐ろしい物に見張られているのです………!!」

 

コッペリアが体をカタカタと揺らすと、俺たちの間を鈍色の風が通り抜けた。

 

何だ、今のは?

 

「に、逃げてください、お二人とも!」

 

コッペリアは急に声を上げて叫ぶ。

 

「奴が………“退廃の風”が来る!」

 

その瞬間、館の中を鈍色の風の嵐が吹き荒れる。

 

そして、中の豪華絢爛な内装を軒並み風化させ、その輝きを食らうように暴れる。

 

これはまずい!!

 

「リリ、コッペリアを抱きしめてろ!」

 

「はい!」

 

「え?」

 

戸惑うコッペリアをリリがしっかり抱きしめるのを確認すると俺は二人を抱え、逃げようとする。

 

その時、コッペリアが座ってた、椅子の近くの机に見慣れない機械が目に入った。

 

それが気になり俺はそれを素早く取り、ギフトカードに収納させる。

 

「しっかり掴まってろ!」

 

鈍色の風が俺たちを襲う瞬間、翼を出し全速力で出口を飛び出す。

 

「修也、それにリリも!」

 

館の外には耀がいた。

 

耀だけでなく飛鳥と白雪姫もいた。

 

「修也君、それにリリも!どうしてここに?ここは立ち入り禁止のはず……」

 

「話は後!あの館に近づくのは危険だ!とにかく、今は引き返すぞ!」

 

俺の言葉に耀たちは頷き、来た道を引き返す。

 

隙間を抜け、外に出ると俺はさっき自分が回収した物を見る。

 

ギフトカードに収納したから名前があるはず………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“クルーエ・ドラクレア作:第三永久機関(未完成)”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、親父かよ………………

 



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番外編 第三永久機関だそうですよ?

退廃の風

 

“徘徊する終末論(ラスト・デカダンス)”

 

“最果ての暴君(グリード・クラウン)”

 

“共食い魔王”

 

神仏、生命、星々の輝きを食らう生粋の魔王

 

風に触れた瞬間、恩恵は有無を言わさず食い殺され、霊格をすりつぶされてしまう。

 

以上が白雪姫から聞いた話だ。

 

どうやらあの風は思ってたより危険な存在らしい。

 

そして、今俺達は主賓室で十六夜とガロロさんを交え琴の顛末を話した。

 

話をした後、ガロロさんは厳しい表情をして、低いうなり声を上げた。

 

「今すぐその人形を屋敷に返してこい」

 

ガロロさんはそう決断を下した。

 

「そ、そんな!今あの館に戻ったらコッペちゃんが危険です!」

 

「だろうな。だが、このままじゃ“アンダーウッド”全域に危険が及ぶ。しかも相手は“退廃の風”倒すことが不可能とされてる怪物を相手にどうするっていうんだい?」

 

「そ、それは………」

 

反論しようとしたリリだが、結局はなにもできずに二尾を萎れさせる。

 

「なぁ、本当に“退廃の風”を追い返す方法は無いのか?」

 

俺の問いに白雪姫が口を開く。

 

「厳密に言えば追い返す方法はある」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「……修也よ、お前はあの風の色を覚えているか?」

 

「色?確か鈍色だったが」

 

「“退廃の風”はその色で桁数が変わる。黒が最も強く、白が最も弱い。あれは、五桁に該当するとみていい。“退廃の風”を追い返すには“該当する階層以上の旗印が必要”だ」

 

「要するに、あの“退廃の風”を追い返すには五桁以上のコミュニティの旗印が必要だってことか」

 

「ああ」

 

俺達“ノーネーム”には五桁のコミュニティに旗印を貸してもらうほどのコネクションはない。

 

ネズさんの所は七桁、ルイオスの所も今じゃ、五桁から六桁に下がってるし………

 

「どうにも……ならないんですか?」

 

リリはすがるように俺達を見つめてくる。

 

「………ゲームをクリアする」

 

俺は呟くように言う。

 

「ガロロさん、あの“退廃の風”はゲームのロジックで呼び出されたってことであってるよな?」

 

「………ああ、今回のケースは間違いなくそのケースだ」

 

「よし、じゃあ、飛鳥。ディーンはまだ持ってるか?」

 

「ええ。でも、片腕がまだ損壊してるから戦闘に出すには」

 

「いや、戦闘に出す必要は無い。あとは………」

 

俺はコッペリアの方を向く。

 

コッペリアは下を俯いたままだ。

 

俺はコッペリアに近づき、腰を下ろして顔を下から覗きこむようにみる。

 

「コッペリア。話を聞いてたか?今、お前さんの処遇について話してるんだが」

 

「そんなこと、話し合うまでもありません。私が追憶の檻へと帰れば済む事です」

 

「……確かにそれが一番安全な方法だ。だけどな、それだとリリは納得できないし、俺も納得できない」

 

「しかし、ゲームをクリアするなんて不可能です!それは“わたし”を完成させること!今まで幾百幾千の研究者が挑み、到達できなかった。“わたし”は人類が最後に夢見た幻想―――」

 

「第三永久機関、だろ?」

 

俺の解答にコッペリアは目を見開き絶句し、十六夜は不敵に笑み、耀と飛鳥は驚いていた。

 

「あ、あら?」

 

「……このゲームって第三永久機関が答えじゃないの?」

 

「違ぇよ。これは第三永久機関を完成させるまでが解答だだからこそ解答の無い……越えられない試練、“パラドックスゲーム”って訳さ」

 

二人の疑問に十六夜は答える。

 

やはり十六夜も解答に気付いてたか。

 

「そう……貴方たちは2000年代から召喚されたのですね。ならば知ってるでしょう?永久機関と言う、人類の夢の末路を」

 

「……ああ」

 

第三永久機関とは、文字通り、永久に動き続ける機関の事だ。

 

だが、これは熱力学、エントロピーの増大測が確立されたことで実現不可能とされた。

 

「栄光と言う輝きの残滓……それが“わたし”の正体。“わたし”は存在そのものがパラドックス。存在することを前提に永久機関の名前を与えられ、試練の恩恵として用意されながら、決して到達できない存在。“退廃の風”を止めるにはゲームをクリアし、永久機関の輝きを得るしか」

 

「だから、その輝きを与えるのさ」

 

コッペリアは再び絶句した。

 

「ここをどこの世界と思ってる?修羅神仏が集う神々の箱庭。人類の力では永久機関は完成しなかった。だが、恩恵を使えばそれらしい形に生まれ変わることは出来る」

 

そして、俺はギフトカードから一つの機械を取り出した。

 

「そのための布石はここにある。それに、ここで挫けちまえば、親父の名に傷がつく。それは、息子としては絶対に嫌なんでね」

 

俺は腕を組み、コッペリアに宣言した。

 

「今日からお前は永久機関コッペリアじゃない。俺達“ノーネーム”が造る新たな存在―――――――神造永久機関コッペリアだ」

 




決めました。

タグに十六夜×飛鳥を追加します。

追加するのは飛鳥に十六夜のフラグを建ててからにします。

では、次回もお楽しみに


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番外編 神造永久機関コッペリアだそうですよ?

月が“アンダーウッド”の頂に上る頃、俺は飛鳥とジャックと共に、“アンダーウッド”の地下工房に向かった。

 

第三永久機関を造るためだ。

 

十六夜、耀、白雪姫、リリは例の館に向かってもらい退廃の風を食い止めてもらうことにした。

 

本当はリリには行かせたくなかったが、リリが自分の何か手伝いたいと必死に懇願してきたので、無理をしないということを条件同行させることにした。

 

まぁ、十六夜もいるし大丈夫だろう。

 

「修也さん、第三永久機関を造ってほしいという依頼は無理がありますよ。私はただの鍛冶師ですから」

 

「だが、ジャック以外に頼めそうな奴はいないし、作れそうなやつもいない永久機関の理論は知ってるだろ?」

 

「ええ、ですが、あれはエントロピーの増大則の確立によって実現は不可能とされたはずですが?」

 

「それなら問題ない。ディーンを使えばな」

 

ジャックと飛鳥は首を傾げる。

 

「どういうことなの?」

 

「飛鳥は、蒸気機関車がどうやって動くかは知ってるか?」

 

「え、ええ、確か周囲の熱と気圧を使って車輪を動かしてるのでしょう?」

 

「ああ、石炭を燃やして温度差を作り、そのピストン運動で動かしてる。だが、温度差がないとピストンは動かなく、エネルギーは抽出されない。これが熱力学第二法則。エントロピーの増大則だ」

 

「な、なるほど」

 

飛鳥は納得したように手を叩く。

 

「だが、その問題を解決する方法はディーンにある。ディーンは神珍鉄でできてる。神珍鉄は伸縮する金属。ピストン運動を神珍鉄の伸縮で補えば簡単な構造で永久機関が完成する」

 

ジャックは納得したように頷き、手を叩く。

 

「ようやく納得しました!後は構造の簡略化と、飛鳥嬢の許可ですね」

 

「ああ………飛鳥、話は聞いての通りだ。永久機関を造るにはディーンの神珍鉄が必要だ。小さな破片でいいんだが、小さな破片一つでもディーンの霊格が僅かに縮小しちまう。それを承知の上で頼む、神珍鉄を譲ってくれないか?」

 

頭を下げ、飛鳥に頼む。

 

飛鳥は少し黙り込むと、溜息を尽いた。

 

「………今の流れて引き受けないわけにはいかないでしょ」

 

「ありがとな。その代り、ディーンの修理費は俺が払う」

 

「………え?」

 

飛鳥は、言葉の意味が一瞬理解できず真顔になり、数秒後、やっと言葉の意味が理解できた。

 

「ディ、ディーンを修理できるの!?」

 

「ああ、ジャックの話によるとな」

 

俺はジャックの方を向き、尋ねるように聞く。

 

「ヤホホホ!造作もありませんよ!神珍鉄の加工には手間がかかるでしょうけど、一ヶ月もあれば修理は可能です!それに、修也殿からは既にお代を頂いておりますし」

 

飛鳥は、ジト目で俺の方を見て、そして、呆れたように笑う。

 

「始めからこのつもりだったでしょ、修也君?」

 

「ああ、俺はしっかり切り札は隠しておく主義なんでな」

 

そして、ギフトカードから一つの機械を取り出し、ジャックに渡す。

 

「これは親父が作った第三永久機関の未完成のモノだ。構造はコレを元に頼む」

 

「ヤホホホホ!分かりました」

 

ジャックはそれを持ち作業を開始し始める。

 

俺は台座に寝転がり、施術の時を待ってるコッペリアに近づく。

 

「よお、気分はどうだ?」

 

「そう……ですね。期待と恐怖が半々と言ったところでしょうか」

 

自分が完成されるかどうかの問題だからな。

 

そうなっても仕方がないか。

 

俺はコッペリアに手を伸ばし、頭を優しく撫でた。

 

「リラックスしろ。嫌なことは考えず、楽しいことだけを考えろ」

 

「楽しいこと?」

 

「例えば……完成したお前が俺たちと仲良く食事するとかだ」

 

そう言って笑うと、コッペリアは呆けた表情になり、そして、くすっと笑った。

 

「そうですね。そう考えましょう」

 

 

「ああ」

 

俺たちの会話が終わると同時に、ジャックが近寄って来た。

 

「これより施術を行いますが。よろしいですか。コッペリア嬢?」

 

「ええ、お願いします、スミス・パンプキン」

 

そう言ってコッペリアは目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの日だったか覚えていない。

 

あの日、一人の男性が館を訪れた。

 

男性は“契約書類”を読むと、館を早々に出て行った。

 

数日後、男性は手に見慣れぬ機械を持ってやって来た。

 

男性は申し訳なさそうに、その機械を私の近くの机に置いた。

 

「すまないな。今の俺にはこれが精一杯だ。だが、いつの日か必ず君をここから救ってくれる人が来る。それまで、耐えてくれ」

 

大きな武骨な手で私の頭を撫でると、男性は優しく微笑んだ。

 

「またいつの日か会おう。踊る人形さん」

 

そう言って男性は館を去っろうとした。

 

「あ、あの!」

 

私は初めて自分から話しかけた。

 

男性は歩みを止めこちらを振り返る。

 

「……貴方様の、お名前は?」

 

そう聞くと男性は笑い、答えた。

 

「クルーエ=ドラクレア。ただのおっさんさ」

 

その笑顔は、先程のあの方ととてもそっくりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施術自体はそんなに時間はかからなかった。

 

数十分後にはコッペリアの中に第三永久機関が埋め込まれ、コッペリアは完成した。

 

「気分はどうだ?」

 

「とても、いいです」

 

「よし、なら行こう。お前の為に頑張ってくれてる皆の所に」

 



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番外編 “ラスト・エンブリオ”と“マッチョ狩りハード”だそうですよ?

館に着くと、何故か巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

「十六夜、俺は時間稼ぎをお願いしただけで、なにも町を破壊しろとは言ってないが?」

 

「こうするしか、方法はなかったんだよ。それより、できたんだな?」

 

「ああ、役者は揃った」

 

そう言って俺は上空を見る。

 

そしてのその先には翠色の髪と蒼い瞳の人形コッペリアがいた。

 

「お待たせしてすみません。施術は無事終わりました。そして」

 

コッペリアは一枚の“契約書類”を取り出す。

 

そして、“契約書類意”は一枚の大きな旗になった。

 

真っ赤な生地に、重なり合う歯車と幻想をはらんだ蕾が刻まれている。

 

コミュニティ“ラスト・エンブリオ”の旗印だ。

 

「ゲームクリアです。“退廃の風”よ。もはや貴方では私を滅ぼせない。去りなさい“わたし”の終わらない夢、“パラドックスゲーム”は終了しました。これ以上の限界は契約違反に該当します。そうなれば如何に不倒の魔王といえど、箱庭から追放されるのを逃れられません」

 

凛とした声で告げるコッペリア。

 

だが、退廃の風は去ろうとしない。

 

確かにこの輝きはお前にはご馳走だな。

 

だが

 

「いい加減にしろよ。退廃の風。それ以上我儘を言うってんならことらも相応の態度を取るぜ」

 

十六夜が前に出て、右手から極光を放った。

 

十六夜から放たれた極光は夜の都市を照らした。

 

だが、退廃の風は光にかき乱されながらも気配を衰えはしなかった。

 

むしろ、徐々に歓喜を帯びてる気がした。

 

その時、一瞬笑みのようなものが見えた気がした。

 

そして、退廃の風は、傍聴したかと思うと、一直線に箱庭の中心、世界軸へと駆けた。

 

「………一件落着、かな?」

 

「………そう、かな?」

 

俺の隣で耀が相槌を打つ。

 

十六夜は“ラスト・エンブリオ”の旗印を見上げている。

 

遠くから白雪姫とリリがやって来た。

 

「皆様、ご無事ですが!?」

 

「おう、こっちは無事だ」

 

そう言って十六夜は手を広げる。

 

「さて、祝勝会代わりに、パンプキンキッシュでも食うか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員で主賓室に集まり、十六夜作のパンプキンキッシュを食べることとなった。

 

リリはこの前とは違って嬉しそうにしている。

 

切り分けられたパンプキンキッシュが目の前にお変えると同時に、隣に居たコッペリアが話しかけてきた。

 

「あの、少しよろしいでしょうか?」

 

「どうした?」

 

「私がこうして、この場で皆さんと食卓を囲めるのも、全ては貴方のおかげです。ありがとうございます」

 

「俺だけの力じゃない。リリも耀も、十六夜、飛鳥、ジャック、白雪姫。皆が頑張った。俺だけ特別に言われることは何もしてないよ」

 

「そうですか。……………一つ思い出したことがあります」

 

コッペリアは何かを語りだした。

 

「はるか昔に、一人の男性が私の為にギフトゲームをクリアしようとしました。でも、彼は結局クリアできませんでした。でも、彼はこういいました。」

 

『いつの日か必ず君をここから救ってくれる人が来る』

 

「その言葉通り、私を救ってくれた人がいました。貴方たちです。そして、その男性は……………貴方の御父上です」

 

やっぱり親父か。

 

まぁ、予想はしてたけど………

 

「彼に私は恩を感じてます。彼がいたから今日があるのでしょう。その恩にも報いるためにお願いがあります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を、貴方様の眷属にしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなりのことで少し驚いた。

 

「駄目……でしょうか?」

 

コッペリアが上目づかいで見上げてくる。

 

「う~ん、俺はいいが、皆はどうだ?」

 

十六夜達に聞く。

 

「いいんじゃねぇか。永久機関を組み込まれた人形が仲間だなんておもしれぇ」

 

「私も賛成よ。ディーンを使ってまで造り上げたのよ。仲間にでもなって貰わないと」

 

「私も賛成。仲間が増えるのは嬉しい」

 

「わ、私も勿論賛成です!」

 

どうやら皆に異論はないらしい。

 

「じゃあ、これからよろしくな。コッペリア」

 

「ハイ、マスター」

 

コッペリアは嬉しそうに笑う。

 

こうして新しい仲間が増えた。

 

そして、パンプキンキッシュも全員に行き渡り、一同が手を合わせようとした。

 

その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああああああああ!!暴れマッチョだあああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

え?マジで?

 

俺は思わずコッペリアに聞いた。

 

「………おい。あの筋肉人形、ゲームの一部じゃなかったのか?」

 

「ご冗談を。あれは追憶に追いやられた何某かの具現です」

 

「なるほど、お前の同族か」

 

「…………面白い冗談ですね、如何にマスターといえど、その侮辱は聞き流せません」

 

「そりゃおもしろい。永久機関の力とやらを拝見したいと思ってたんだ。ゲームのお題は『収穫祭前夜〜マッチョ狩りハード〜』とかなんとか」

 

十六夜は席を立ちあがり嬉しそうにする。

 

「ま、まさか私達も参加しろとか?」

 

「せ、せめて、パンプキンキッシュを食べ終わってから」

 

「そんな暇はないぞ」

 

「その通り。それに昔の偉人は言いました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「“働かざる者、食うべからず”ってな」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「え?フェルナを強化できる?」

 

「はい、実は私もギフトを持っていまして。これがそのギフトです」

 

コッペリアが差し出した、グラスグリーンのギフトカードには“複製術”“踊る人形撃”と書かかれたギフトがあった。

 

「この複製術は文字通りコピーを作れます。最も品質や霊格などはオリジナルより劣ります。コレを使って私の第三永久機関をコピーすればこの子も進化するかと」

 

なるほど。

 

第三永久機関には神珍鉄が使われてるから、劣化してもそれなりの力を宿してるわけか。

 

それはいい。

 

「じゃあ、頼めるか」

 

「YES」

 

そう言うとコッペリアはギフトを発動した。

 

淡い青色の光が放たれ、そして、手の中にはコッペリアのと同じ永久機関があった。

 

「これを埋め込んで」

 

コッペリアが施術を行い数分後

 

 

 

 

 

 

 

「できました、マスター」

 

そういうコッペリアの近くには、リリと同じぐらいの背丈になったフェルナがいた。

 

「えっと、お久しぶりです」

 

「ああ、久しぶりだな」

 

「第三永久機関を埋め込んだと同時に前の記憶も蘇ったみたいです」

 

フェルナは、申し訳なさそうに俺を見てくる。

 

「あおの、私、皆さんに酷いことを………」

 

あの時の事を言ってるのか

*問題児たちが異世界から来るそうですよ?乙 参照

 

「寂しかったんだよな」

 

俺はフェルナを撫でながら言う。

 

「前のコミュニティを残したかったって気持ちは分かる。でも、団長たちはそう思ってないと思うぞ」

 

あの時、団長はサーカスを終わらせ、フェルナの事を俺達にお願いしたかったんだと俺は思う。

 

「過去を忘れろとは言わない。過去を忘れずに、前へ進む。団長たちもそう思ってるさ」

 

「………修也さん」

 

「これからは俺達“ノーネーム”がフェルナの家族だ」

 

「………はい!」

 

「改めて、よろしくなフェルナ」

 

「はい!ご主人様!」

 




フェルナが強くなった。

フェルナにもギフトを持たせます。

そしてコッペリアの“ノーネーム”加入。

原作を変えてしまった。

だが悔いはない。

次回は蒼海の覇者編、スタート!

いよいよ、修也と耀の関係が加速し、飛鳥に十六夜のフラグが、十六夜に飛鳥のフラグが!?

次回もお楽しみに!


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降臨、蒼海の覇者
第1話 人外ではないそうですよ?


多くの人たちの手により今日から収穫祭が再開されることになった。

 

だが、その収穫祭で使われるはずだった食材が巨龍との戦闘で使い物にならなくなってしまった。

 

そのため、ギフトゲーム形式で危険な幻獣を狩り、その獲物で補うことになった。

 

「それじゃあ、お前たちの力見せて貰うぞ」

 

「YES、マスター」

 

「はい、ご主人様」

 

コッペリアとフェルナは張り切ってこのギフトゲームに参加し、俺は二人の保護者として付いている。

 

「では…………“踊る人形撃 第一幕 斬劇”」

 

コッペリアがそう言うと、コッペリアの周りに円状に銀色の剣が並ぶ。

 

そして、その剣は上空に居た数匹のペリュドンを切り裂き、落した。

 

すると、近くに居た魔獣がコッペリア目掛け襲い掛かる。

 

だが、その攻撃は奇怪な人形たちの手により阻まれた。

 

フェルナの持つギフト“操り人形作成(マリオネット・メイカー)”と“操りの糸(マリオネット・コントロール)”だ。

 

“操り人形作成(マリオネット・メイカー)”は、意志を持った人形を作りだし、単一な命令ならこなせる人形江を作るギフト。

 

“操りの糸(マリオネットコントロール)”は指から、透明な糸を出し、意識がない者を自分の意のままに操るギフト。

 

操る対象の霊格が自分より小さければ意識があっても操れるそうだが、今のフェルナにはそこまでの力は無いらしい。

 

“操り人形作成(マリオネット・メイカー)”で操り人形を召喚し、“操りの糸(マリオネットコントロール)”で、その人形を操る。

 

フェルナにとっては二つのギフトがあってこそこの戦いが出来る。

 

コッペリアとフェルナの連携により、次々とペリュドンや魔獣は倒れていき、夕暮れには数十匹を超える量になった。

 

「二人共お疲れ様」

 

「「はい!」」

 

俺が労をねぎらうと二人は嬉しそうに笑う。

 

「だが、まだ甘いぞ」

 

そう言って俺は右手に持った(短くなった)白牙槍を振りかぶり、投げる。

 

投擲された槍は、背後に居た巨大なペリュドンの心臓を貫き、命を狩った。

 

「どんな奴も勝利を確信した瞬間は隙が出来る。気を付けるんだぜ」

 

「「は、はい」」

 

「よし、コイツら回収して耀たちの所に行こう」

 

ギフトカードに狩猟の成果を収納し、移動する。

 

ちなみに、コッペリアとフェルナはギフトカードには収納せずギフトではなく仲間として扱っている。

 

一応、ギフトカードには二人が眷属である証に、“眷属:フェルナ”“眷属:コッペリア”と記載されてはいるが。

 

三人で合流地点まで行くと何故か嫌な雰囲気だった。

 

耀と飛鳥はなんか不機嫌だし。

 

「何かあったのか?」

 

「まぁ、ちょっとな」

 

ガロロさんに聞くとガロロさんは冷や汗を掻きながらはぐらかす。

 

「まぁいいや、それより俺たちの収穫だ」

 

ギフトカードを取り出し、馬車の荷台に獲物を乗せる。

 

すると荷台には数十匹のペリュドンと魔獣、そして、他のペリュドンと比べ物にならないぐらいのペリュドンが乗る。

 

「おお!コイツはスゲェ!俺達の収穫の二倍はあるぜ!」

 

「………修也君、これ一人で狩ったの?」

 

「まさか、俺が勝ったのはこのデカい奴だけ。残りはフェルナとコッペリアだ」

 

「……それでも、この大きさを一人で倒すのは凄いと思う」

 

「……私、自分の力に自信がなくなって来たわ」

 

「ご主人様は自分の力を過小評価し過ぎです」

 

「僭越ながら私もそう思います、マスター」

 

「……………俺って、十六夜並に人外?」

 

「「「「人外ってか吸血鬼(ハーフ)じゃん!」」」」

 

……………あ、そうだった

 




次ぐらいにフラグを立てれるようにします。


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第2話 初めての感情だそうですよ?

狩猟祭の結果、優勝は“ウィル・オ・ウィスプ”で、俺達“ノーネーム”と“六本傷”は上位入賞に収まった。

 

耀と飛鳥は、制限が無ければ優勝できたと文句を言ってたが、手の内をさらす理由は無いからと宥めた。

 

そして、とうとう収穫祭が始まり、開会式も終わった。

 

まさか、白夜叉が美幼女から美女になっているとは思わなかったのでかなりびっくりした。

 

立食会が始まり、俺はネズさんの所に向かった。

 

「よ、ネズさん」

 

「よぉ、シュウ坊!お前さんも飲むカイ?」

 

手に持ったラム酒が入ったコップを片手に聞いて来る。

 

「いや、今はいい。それより、話がある」

 

「ン?何ダ?」

 

「俺達“ノーネーム”と同盟を組んでほしい」

 

「ほぉう」

 

声色が変わり、雰囲気も変わる。

 

「俺達“ノーネーム”が六桁に昇格するには旗が必要だ。だが、俺たちには旗印も名もない。そこで、連盟旗を作るつもりだ。そのためにネズさんのコミュニティと同盟を組みたい」

 

「………なるほどネ。………悪いケド、簡単に首を縦に振るわけにはいかないナ。これでも、オイラはコミュニティの長ダ。長だからこそ、そう簡単に同盟の話には乗れない」

 

確かに、同盟になるってことは、魔王が襲撃した際には助けに行くってことにもなる。

 

ましてや、俺達は魔王に喧嘩を売ってる。

 

そう簡単には乗ってくれないだろう。

 

「それは分かってる。もし、ネズさんのコミュニティが魔王の襲撃を受けたら必ず助けに行く。これは、俺達“ノーネーム”全員の意志だ」

 

「そうは言ってもネ。それが確実だって保証はないだロ。悪いが、やっぱり乗れないネ」

 

話は平行線になりそうだ。

 

俺は、懐から一つの短剣を取り出す。

 

そして、それを勢いよく自分の左腕に突き刺した。

 

短剣は左腕を貫き、刃に血が伝う。

 

「な、何ヲ!?」

 

「我、月三波・クルーエ・修也は、この傷と名と、誇りに掛けてコミュニティ“インフォーマント”が魔王に襲われた際、必ず救援に行くことを誓う。………………これが、俺の覚悟だ」

 

ネズさんは口を開けたまま固まる。

 

そして、溜息を吐く。

 

「はぁ~、シュウ坊は少し、自分の身体を大切にすることを覚えるべきダ。いいだろう、その同盟受けるヨ」

 

「ありがとな」

 

「とりあえず、腕出しナ。治療スル」

 

短剣を突き刺した左腕を差し出すと、ネズさんは手慣れた手付きで治療していく。

 

「たく、親父さんと似てシュウ坊もアホとはナ」

 

「悪い。でも、こうしないと言信じて貰えないと思ってさ」

 

「まぁ、同盟の件はいいとして、オイラたちのコミュニティは情報屋みたいなものだ。魔王のゲームに参加するにはお荷物だゾ?」

 

「ネズさんのコミュニティにはゲームに参加してもらうつもりはないさ。情報を定期的に流してくれればいい」

 

「まぁ、それぐらいならいいゾ」

 

治療終わりっと言ってネズさんは包帯を巻かれた俺の腕を叩く。

 

「イッツ!?……叩かないでくれよ」

 

「アホにはいい薬サ!」

 

そう言うと、ネズさんはこれから仕事だからっと言って去って行った。

 

「同盟の件はなんとかなりそうだな。後は“ペルセウス”だけか」

 

最後の同盟相手候補“ペルセウス”について考えてると、十六夜とリリの姿が見えた。

 

「おーい、十六夜、リリ。何してんだ?」

 

「あ、修也様!」

 

「よぉ、これからグリーの所に肉を届けようと思ってな」

 

そう言って十六夜は担いだ麻袋を指す。

 

「なるほどな。リリはどうするんだ?」

 

「私は年長組を一度集めます。“六本傷”の料理がもうすぐできあがるそうなんで」

 

「ああ、あの“斬る”“焼く”“齧る”の三工程で食べる料理か」

 

「はい!レティシア様曰く『焼けた肉を食べるための肉料理』だそうです。一度食べて見たくて」

 

「なら、俺もリリに付いて行く。一人じゃ心配だし、それに俺もその料理に興味がある」

 

「それ、私も行く」

 

俺の背後に耀が現れた。

 

何故か気絶した女性店員と飛鳥を背負って。

 

「それ何処にあるの?」

 

「えっと、いつ上の断崖だと思いま」

 

「なら、早く行こう。飛鳥達が目を覚ます前に、さぁ、レッツ、立食」

 

そう言って俺の首根っこを摑まえ、リリを担いで飛び出した。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜SIDE

 

素早い手際で春日部の奴、修也とリリを連れ去ったな。

 

取りあえず、目を覚ましたお嬢様に手を差し出す。

 

「よぉ、何やってんだよ、お嬢様」

 

「……十六夜君には関係ないわ」

 

あれまぁ、拗ねちまった。

 

まぁ、可愛いからよしとしよう。

 

「ちょっとそこの貴方つかぬ事を聞きますが」

 

店員が立ち上がり何かを言ってきた。

 

少しからかうか

 

「着物捲れて下着見えてんぞ」

 

「こぶしぐらいの精霊を―――って嘘!?」

 

「嘘だ」

 

その瞬間、薙刀が振り下ろされた。

 

それを真剣白羽取りで受け止める。

 

へぇ~、早いな。

 

「あんた、ただの店番じゃなかったんだな」

 

「店番が武術を心得ていて当然です。貴方のような不埒者を切り捨てるために」

 

「実は………本当に丸見えよ」

 

お嬢様も乗ってきやがった。

 

「嘘!?」

 

「嘘よ」

 

すると、手刀がお嬢様に落とされる。

 

「貴方たちのコミュニティにはバカばっかりですか!?」

 

「「否定はしない」」

 

「そこは嘘でも否定しなさい!」

 

顔を真っ赤にして女性店員は去って行った。

 

「………で、お嬢様はどうするんだ?」

 

「……そうね、折角だし、収穫祭でも見て回るわ」

 

「そうかい、ま、楽しみな」

 

グリーの所に向かおうと足を進ませるが、何かが俺の袖を掴み俺の動きを止めた。

 

俺を止めたのはお嬢様だった。

 

「…どうした、お嬢様?」

 

「え?いや、あの、その………」

 

何故かお嬢様は顔を真っ赤にして、狼狽える。

 

「い、十六夜君さえ良ければ、一緒に回らない?」

 

………こいつは驚いた。

 

まさか、お嬢様からお誘いが掛かるとはな。

 

さて、少しからかって

 

「その、駄目………かしら?」

 

その瞬間、俺の思考は一瞬停止した。

 

お嬢様が頬を赤らめて、上目づかいをしてきた。

 

それも、今にも消えそうな弱々しい声で。

 

顔に血が回って、熱くなるのが分かった。

 

な、何なんだよ、こいつは!?

 

「あ、ああ、いいぜ。俺がエスコートしてやるよ」

 

いつの間にか口が勝手にしゃべりだしていた。

 

「ほ、本当!?良かった」

 

お嬢様は嬉しそうに笑顔になる。

 

その笑顔を見た瞬間、俺の心臓は激しく鼓動した。

 

本当に何なんだよ!?

 

「じゃ、じゃあ、手、お願いね」

 

「お、おう」

 

お嬢様の手を取り、収穫祭を見て回り始めた。

 

手を握ると、さっき以上に激しく鼓動した。

 

だが、それがとても心地よかった。

 

それにしても、この鼓動と感情は何だ?

 




取りあえず、十六夜にフラグは立った。

後は、もうひと押しで飛鳥は完全に落ちます。

では、次回もお楽しみに。


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第3話 第三幻想種だそうですよ?

最近の私はどうもおかしい。

 

異世界の“ノーネーム”に行ってからずっと十六夜君のことを意識してしまってる。

 

始めは異世界の私と十六夜君の関係に戸惑ってしまい、それで意識してるだけだと思った。

 

でも、あれから私は十六夜君のことを目で追ってしまってる。

 

十六夜君の声が聞こえた気がして思わず振り返ってしまう。

 

気が付くと十六夜君を捜してしまう。

 

十六夜君と話してると楽しい。

 

十六夜君が黒ウサギと一緒に居るのを見てモヤモヤしてしまう。

 

これだけで嫌でもわかる。

 

私は十六夜君が―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ

 

“六本傷”主催 立食会場

 

その光景に俺は唖然とした。

 

耀の恐ろしい食欲に。

 

いや、知ってたけどさ、まさか、ここまでとは………………

 

会場に居た人たち全員が、押し黙ってしまうほど耀の食べっぷりは凄かった。

 

だが、品無く食べてる訳で無く、ちゃんとナイフとフォークを使ってる。

 

皿を口元に寄せて食べてる訳でもない。

 

それなのに、皿からは料理が次々と消えてってる。

 

「ば、バカな!?食べるスピードが尋常じゃねえ!」

 

「まさか、収納する類のギフトを!?」

 

「いいや、そんな小細工じゃねえ!単に噛んで飲むのが早いんだッ!!」

 

絶句する料理人。

 

息を呑む観衆たち。

 

変わらず食べ続ける耀。

 

「目視すらできないほどの光速の、大食漢だと!?」

 

「おもしろいじゃねえか!」

 

「応さ!十年前の二人の英雄を思い出させてくれる戦士だ!野郎ども!食糧庫からありったけ持ってこい!全面戦争だああああああ!!」

 

周りの声によって耀はゆっくり食べるのを止めた。

 

遠慮なしに、食べるスピードを速め、鍋に火が点くより、鍋に熱が伝わるより、刃が肉を斬るよりも速く食べる。

 

明らかに全員が徹夜明けの会議のノリだ。

 

だが、ここでツッコミを入れてしまえば、耀と料理人たちはただの痛い人になってしまう。

 

リリとフェルナ、コッペリアも空気を読んで、応援してる。

 

「…………フン。なんだ、この馬鹿騒ぎは。“名無し”の屑が、意地汚く食事をしているだけではないか」

 

行き成り、会場に冷めた声が響いた。

 

「連中はアレですよ。巨龍を倒して持て囃されている猿共ですよ」

 

「ああ、例の小僧のコミュニティか。…………なるほど、普段から残飯を漁っていそうな、貧相な身形だ」

 

「“名無し”である以上、一次の栄光ですからな。収穫祭が終わる頃には皆、奴等の事など忘れております」

 

「所詮、屑は屑。如何なる功績を積み上げても“名無し”の旗に降り注ぐ栄光オナ祖ありはしないのだから」

 

「そんなことありません!!」

 

リリが叫びに観衆の視線が一斉に集まった。

 

「なんだ、この狐の娘は?」

 

「私は『ノーネーム』の同士です!貴方の侮蔑の言葉、確かにこの耳で聞きました!直ちに訂正と謝罪を申し入れます!」

 

「ふむ。君の身分は分かった。しかし、君はこの方が誰だか分かってるのか?この御方は二翼のコミュニティのリーダーにして幻獣ヒッポグリフのグリフィス様ですよ?」

 

相手が誰かと分かるとリリは一瞬たじろぐ。

 

だが、そんなリリを支えるかのようにコッペリアが前に出た。

 

「そんなこと関係ありません。謝罪を要求しているのは私達です」

 

「ふん、“名無し”如きに頭を下げていてはコミュニティの品が落ちてしまうわ」

 

「子供に喧嘩仕掛けるコミュニティの品なんて高が知れてるよ!」

 

フェルナも負けじと怒鳴る。

 

「貴様!分を弁えろ!グリフィス様は次期“龍角を持つ鷲獅子”連盟の長になられるお方!南の“階層支配者”だぞ!」

 

「ちょっと待て。それはどういうことだ?」

 

取り巻きの言葉に俺は思わず反応した。

 

隣では耀も同じような反応をしている。

 

「あの女は龍角を負ったことで霊格が縮小し、力を上手く使いこなせなくなった。実力を見込まれて議長に推薦されたのだから、失えば退陣するのが道理だろ?」

 

「……それ、本当?」

 

「何なら本人に聞いてみると言い。龍種としての誇りを無くし、栄光の未来を手折った、愚かな女にな」

 

グリフィスの、そして、取り巻きの品の無い下卑た笑い声。

 

それがたまらなく不愉快で堪らなかった。

 

「………訂正しろ」

 

「何?」

 

「サラが龍角を折ったのは、“アンダーウッド”を、仲間を守る為、霊格が縮小するのを覚悟の上だった。お前にその覚悟はあるのか?あるわけないよな。血筋のみが取り柄の三下にはな」

 

「小僧。貴様いい」

 

加減にしろっと言う前に取り巻きの男は空高く飛んでいた。

 

耀が光翼馬のブーツで取り巻きの男の腹部に輝く風を叩き込んだからだ。

 

「助けはいらないぞ」

 

「助けたんじゃない。私もムカついた」

 

「そうか」

 

その時、別の取り巻きの男が襲い掛かって来た。

 

振り下ろされた角材を片手で掴み、砕く。

 

そして、素早く男の背後を取り、首に牙を突き立てる。

 

なるべく派手に血を吸う音を出し、吸い終わるとそのまま軽く蹴り飛ばし、地面に放り出す。

 

「…………鷲獅子と、光翼馬のギフトに……………“箱庭の騎士”、だと………!?」

 

残りの取り巻きは顔面蒼白にし、後ずさりする。

 

「もう一度だけ言う」

 

「私からも一言」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「訂正しろ」」

 

最後通牒だと言わんばかりに、俺は言葉と視線に殺気を込め、耀は光り輝く旋風を掌で圧縮させる。

 

だがグリフィスは俺たちを前にしても余裕の笑みを崩さなかった。

 

「……ふん そういえばもう一匹 馬鹿なまねをして誇りを手折ったものがいたな 奴は元気にしているか? “名無し”の猿を助けるために鷲獅子の翼を失い 愚かで陳腐な姿となった我が愚弟は!!」

 

俺は愕然とした。

 

あの高潔なグリーに、こんな屑にも劣る兄がいるとは思わなかった。

 

その隙にグリフィスは距離を取り、人化の術を解いた。

 

『思い知るがいい!まがい物の小娘に誇りを捨てた愚かな吸血鬼!このグリフィス=グライフこそ第三幻想種―――“鷲獅子”と“龍馬”の力を持つ、最高決闘の混血だと!!』

 

雄叫びと共に、稲妻と旋風が吹き乱れる。

 

耀を突き飛ばす形で、後ろに下がらせ、白牙槍を構える。

 

「来る!」

 

決戦を覚悟し、戦おうとした瞬間

 

「そこまでや」

 

男の声が聞こえたと思ったら、俺の意識はそこで消えた。

 




現段階で、修也がクルーエの息子だと言うことを知ってるのは“龍角を持つ鷲獅子”連盟ではサラとガロロしか知りません。

まだ紹介していないからです。


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第4話 “覆海大聖”蛟魔王だそうですよ?

「………ん、い、いつつ」

 

ふっと水分を多量に含んだ空気と、頭の鈍痛で目が覚める。

 

体を起こすと、そこは俺に割り当てられた部屋の中だった。

 

「ご主人様!大丈夫ですか!?」

 

「マスター!御身体は大丈夫ですか!?」

 

「フェルナ、コッペリア」

 

ベットの近くで、俺のことを不安げに見ているフェルナとコッペリアに気付きく。

 

「一体何があたんだ?」

 

「えっと、“二翼”の長と、ご主人様が今にも決闘しそうなとき、一人の男性の方が乱入し、ご主人様を凄い力で殴りつけたんです」

 

「殴りつけた?」

 

「はい、それも地面に叩き付けるように」

 

………吸血鬼の力を解放した俺を殴りつけれる奴か…………

 

そんなことできるとしたら、そいつはかなりの手の者だな。

 

「皆は今どこに?」

 

「はい、“アンダーウッド”収穫祭本陣営に居ます。“ノーネーム”側から、耀さん、十六夜さん、飛鳥さん、黒ウサギさん、ジン君に、、“龍角を持つ鷲獅子”連盟からサラさん、それと、“二翼”の代表で頭首のグリフィスが居ます」

 

「そうか、じゃあそこに向かおう」

 

「え?で、でも」

 

「俺は大丈夫だ。ほら、案内してくれ」

 

「は、はい!」

 

「では、こちらに」

 

フェルナとコッペリアの案内で俺は収穫祭本陣営に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

収穫祭本陣営に着くと中では、一触即発の状態だった。

 

なかで馬肉野郎がギャーギャーと喚き散らしてやがる。

 

頭を掻き、溜息を吐いて扉を開ける。

 

「よ、白熱してるな」

 

「修也!」

 

中に入ると真っ先に耀が寄って来た。

 

「大丈夫?」

 

「ああ、特に問題は無い」

 

様の頭に手を置いて軽く撫でる。

 

「やぁ、先程ぶりやな」

 

眼帯に細身で細目、胡散臭い笑みを浮かべた関西弁の男が近づいてきた。

 

「アンタは?」

 

「僕は蛟劉。好きに呼んでいいで」

 

「そうか、所で俺を殴ったのはアンタだな」

 

「うん、そうや」

 

隠しもせずに肯定する。

 

「随分と、はっきり言うんだな」

 

「隠してもしゃあないやろ?それに、君ならあの力で殴っても大丈夫屋と確信したからやったんや」

 

胡散臭い笑みで笑い言う。

 

「所で、君の名前は?」

 

「ああ、悪かったな。月三波・クルーエ・修也だ。よろしく、蛟劉」

 

「クルーエ? そうか…………そっくりや」

 

今度は胡散臭い笑みではなく、安らかな笑みだった。

 

「蛟劉も親父と知り合いか?」

 

「そうやね、知り合いと言うより、酒飲み仲間に近いかな?」

 

へらへらと屈託のない笑みで笑う。

 

ひとしきり笑うと、席に座ってるグリフィスに向き直る。

 

「話を戻そっか。で、グリフィス君。オマエ何処の誰に喧嘩売ったと思ってるんや?」

 

「何を今更。私はそこの名無しの屑に」

 

「阿保、この子らは問題ない。そしてサラちゃんも問題ない。大きな問題は白夜王の同志を侮辱したこととこの子を愚かな吸血鬼って言ったことや。あの鷲獅子は“サウザンドアイズ”の同志やぞ。同士が負った名誉の傷を侮辱されたと、身内贔屓の白夜王が知ったら―――“二翼”は今日明日中に皆殺し屋やで?」

 

グリフィスは言葉を飲み、蒼白になる。

 

しかし、思い出したように言葉を上げる。

 

「わ、我が弟のことは理解した!だが、そこの吸血鬼を侮辱したことが何故問題なんだ!?」

 

「決まっとる。この子がクルーエ君の子やからや」

 

「く、クルーエ?………ま、まさか!こ、この小僧が、あのクルーエ=ドラクレアの息子だと言うのか!?」

 

「そのまさかや。クルーエ君は十年前“アンダーウッド”を救った。“アンダーウッド”の住民たちにとっては英雄や。それだけやない。クルーエ君は、“龍角を持つ鷲獅子”連盟に所属しとるコミュニティの長と君の親父さんとも親交があったし、“箱庭”では、神の様に崇めとるコミュニティもあれば、ファンクラブのようなコミュニティもある。更に“サウザンドアイズ”“ケーリュケイオン”“クイーン・ハロウィン”と言った大型のコミュニティまでも、クルーエ君には一目置いとったし、敬愛もしとった。特に白夜王とクイーン・ハロウィンのお気に入りや。白夜王との仲は言わずもがな、クイーン・ハロウィンが最初に寵愛したのはクルーエ君やしね。

そして、その息子を愚かな吸血鬼って言ったことは、間接的にクルーエ君の血筋を馬鹿にしたことにもなる」

 

グリフィスは先程以上に顔面蒼白になり、体を震わせ始めた。

 

「分かったかいな?要するに君は、最強の“階層支配者”にして白夜の精霊、加えて太陽の主権を十四もそろえとる。早い話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマエ、十四の巨龍と“龍角を持つ鷲獅子”連盟、“箱庭”に存在する半数以上のコミュニティと戦えるか?」

 

誰もが戦慄した。

 

あの巨龍が十四体に、“龍角を持つ鷲獅子”連盟、“箱庭”に存在する半数以上のコミュニティが一斉に襲い掛かってきたらどうなるか容易に想像できる。

 

「そして…………僕も黙っておらんし、僕の義兄弟、特にあの人も黙っておらんよ」

 

グリフィスは顔から表情を無くし、震えている。

 

「ま、今回は素性を知らんかったことやし、この子の侮辱の件は不本意ながら目をつぶったる。そんで、君を止めたのもこういう理由や。落日なんて、若いうちから経験するものやないよ」

 

グリフィスは不満そうにするが蛟劉の言い分はもっともだし、何よりあれだけの数を相手にするほど度胸、戦力もない。

 

舌打ちをして、扉に手をかけようとするがそれを十六夜が止めた。

 

「待てよ馬肉。何勝手に話をまとめてやがる。逃げてんじゃねぇよ。白夜叉の一件なんてそっちの都合だろ。何で俺たちが譲歩しなきゃいけない」

 

「ちょっと落ち着けよ少年。気持ちは分かるが、先に手を出したのはそっちやで?本来なら、君たちが裁かれるべき立場でもおかしくないんやから」

 

「なら、公衆の面前で、口舌で切りつけるのは無罪か?口舌は刃も無く、相手の体に傷も付けなけりゃ、痣も残らない。代わりに魂を傷つけ、涙を流させる。俺に言わせりゃその方が悪辣で卑劣。畜生以下のクソッタレだ。ましてや斬られたのは十歳のガキとあっては尚更だ。それに……………俺は自分の親友を侮辱されて黙ってられる様な人間じゃねえ。白夜叉が牙を剝くとしたらそれは同じ口上のはずだ。……………違うか?」

 

十六夜に睨まれ蛟劉も一考する。

 

「なるほど。一理ある」

 

「な!?」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

そこで俺は声を上げる。

 

「十六夜はこの結果に納得がいかない。そんで、そこの馬に……グリフィスもまた納得してないが、状況が悪いから大人しく引く。このままじゃ、互いに遺恨を残す。なら、ギフトゲームで決着を付ければいい」

 

「なるほど。それは良い案や。確か、二日後の“ヒッポカンプの騎手”が収穫祭で一番大きなゲームやったな」

 

「なら、それで決着を付ける。どうだ?」

 

「いいぜ。敗者は勝者に壇上で土下座だ。異論はあるか?」

 

「…ふん。今から恥を掻く準備をしておくのだな」

 

「俺のセリフだ、馬肉。お前の抜いた刃は収める鞘の無い諸刃の刃。お前が虚仮にしたグリーの傷は、俺の手足の代償。その代償は必ず支払わせるからな」

 

十六夜の怒気に気圧されながらも、グリフィスは舌打ちをしながら本陣営を後にした。

 

蛟劉は溜息を吐いて頭を下げた。

 

「すまんな、少年。ッ君の言い分は一々尤もや。よう我慢してくれた」

 

「別に、アンタの為じゃない」

 

十六夜は鼻をフンと鳴らし椅子に座る。

 

そして、思い出したかのようにニヤリと笑う。

 

「………けど驚いたぜ。強いと思ってたが、まさか、西遊記の蛟魔王とはな。アンタの記述は無いに等しい。一度聞いてみたかった」

 

「あら、なそれを言うなら私も聞きたいわ」

 

「そういいうことなら黒ウサギも聞いてみたいのです!」

 

「へぇ~、蛟魔王か。そいつは驚きだな、俺も是非聞かせてほしい」

 

「修也が聞くなら私も聞きたい」

 

「及ばせながら私も拝聴させていただきたいです」

 

「あの、私も聞きたいです」

 

“ノーネーム”一同、目を輝かせて蛟劉に詰め寄る。

 

「あーいやいや、年寄りの昔話なんてそんな」

 

「美味い肴はあるぞ」

 

「美味しい前菜もあるわ」

 

「おいしいお酒も…ありますけど果汁ジュースで手を打ってくださいな!!」

 

「逃げることはできないぜ」

 

「大人しくしたほうがいい」

 

「は、ははは、これはこれは」

 

蛟劉は観念したように笑い、席に付いた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃の収穫祭、舞台壇上では

 

「 と い う わ け で ! 収 穫 祭 の メ イ ン ゲ ー ム ・ “ ヒッ ポ カ ン プ の 騎 手 ” の 水 馬 の 貸 し 出 し は ! 全 員 、 水 着 の 着 用 を 義 務 と す る ! 」

 

「 う お お お お お お お お お お お お お お お お お !」

 

「 白 夜 叉 様 万 歳 ! ! 白 夜 叉 様 万 歳 ! !」

 

「 “ サ ウ ザ ン ド ア イ ズ ” 万 歳 ! ! 」

 

「 尚 ! 専 属 審 判 の 黒 ウ サ ギ は ! ! 審 判 中 は 常時 ・ ビ キ ニ 水 着 だ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ! !」

 

「 シ ャ オ ラ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ! ! 」

 

「 大 正 義 白 夜 叉 様 万 歳 ! ! 」

 

「 黒 ウ サ ギ の 水 着 姿 万 歳 ! ! 」

 

「 フ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ! ! ! 諸 人 よ 、 我 を 讃 えよ ! ! ! 神 仏 よ 、 我 を 恐 れ よ ! 我 こ そ は 不 落 の 太 陽 の 具 現 ! ! ! 遥 か な 地 平 の 支 配 者 ! ! ! “ 白 き 夜 の 魔 王 ” 白 夜 王 也 ! ! ! 」

 

白夜叉が暴走していた。

 

そして、観衆も暴走していた。

 

そして、夜空の三日月は生ぬるく彼らを見つめていた。

 




近々、タイトルを変更しようかと考えています。

取りあえず、蒼海の覇者編が終わってから変えようと思います。

後、タグに十六夜×飛鳥を追加しました。


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第5話 “ペルセウス”との同盟だそうですよ?

翌日、俺は“境界門”を使い、六桁にある“ペルセウス”の本拠に来た。

 

「修也殿!今日は一体どのようなご用件で?」

 

門番をしていた兵が敬礼をしながら、聞いて来る。

 

「ああ、ルイオスにちょっとな。今、ルイオスはいるか?」

 

「はっ!ルイオス様は只今執務時間ですので、執務室に居るかと!」

 

「そうか、ありがとな」

 

「いえ!………所で、修也殿、今度お時間がありましたら、また我々に稽古を付けて頂けないでしょうか?」

 

「ああ。じゃあ、今度時間作る。その時でいいか?」

 

「ありがとうございます!」

 

嬉しそうに門番は敬礼をし、門を開ける。

 

“ペルセウス”本拠を歩き、ルイオスの執務室へと向かう。

 

執務室の前に立ち、扉をノックする。

 

「ルイオス、俺だが入っていいか?」

 

『兄貴ですか?どうぞ』

 

許可を貰い、扉を開けると大量の書類に囲まれながら、紙に羽ペンを走らせてるルイオスがいた。

 

「すみません。ちょっと急ぎの仕事がありまして、申し訳ないんですが、仕事しながらでもいいですか?」

 

「ああ、構わねぇよ」

 

ソファーに腰を下ろし、一息つく。

 

「で、兄貴。今日はどうしたんですか?」

 

「ああ、ちょっと重要な話をな」

 

そう言うとルイオスは羽ペンの動きを止め、ベルを鳴らし、側近の人を呼んだ。

 

「ルイオス様、どうかされましたか?」

 

「人払いを頼む。それと、僕が許可するまで誰一人としてこの執務室に近づけるな」

 

「はっ!」

 

側近の人は足早に執務室を出ていき、兵士たちに何か呼びかけていた。

 

「……その重要な話と言うのは、かなり重要なんですよね?」

 

「察しが早くて助かる」

 

ルイオスは椅子から立ち上がり、俺の向かい側に座る。

 

「で、話とは?」

 

「要件を言う。俺達と同盟を組んでほしい」

 

「同盟………ですか?」

 

「俺達“ノーネーム”が六桁に昇格するには旗が必要だ。だが、俺たちには旗印も名もない。そこで、連盟旗を作るつもりだ。そのためには三つ以上のコミュニティが必要。現段階では“ノーネーム”“六本傷”“ウィル・オ・ウィスプ”“インフォーマント”の計四つのコミュニティが同盟になることが決まってる。数としては十分だが、俺達は“ペルセウス”の力も貸してほしいと思ってる」

 

俺の話にルイオスは真剣に聞き、考える。

 

「兄貴、この同盟には、連盟旗を作る以外にも、理由があり、そして、同盟コミュニティにメリットがあってのものですか?」

 

ルイオスは真っ直ぐに俺を見つめ聞いて来る。

 

“ペルセウス”リーダーとして、真剣な眼差しと表情だった。

 

「ああ、ちゃんとメリットがあるし、“ペルセウス”と同盟を結びたい理由もある」

 

「………わかりました。同盟の件、引き受けます」

 

「助かる。それと、コイツを見てくれ」

 

懐から、一枚の紙を出し、ルイオスに見せる。

 

「こ、これは!金剛鉄の鉱脈の見取り図!?それに、この推定採掘量!?…………こ、これは?」

 

「早い話、金剛鉄を“六本傷”のメンバーが採掘、“ウィル・オ・ウィスプ”にそれの錬成。そして、“ペルセウス”には恩恵付与をして貰いたい」

 

「…………」

 

ルイオスは絶句したのか、口を開けたまま固まってる。

 

「利益分配については、今度ジン達と話し合ってくれ」

 

「あ、は、はい。分かりました」

 

いまだに呆然としているルイオスを放置し、俺は執務室を出た。

 




ルイオスの性格が変わりすぎたかな?


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第6話 背後の影だそうですよ?

翌日、“ペルセウス”で一晩過ごし、俺は“アンダーウッド”に戻って来た。

 

“アンダーウッド”では、今日のメインのギフトゲーム、“ヒッポカンプの騎手”が始まりそうになっていて大賑わいとなっている。

 

取りあえず、俺は“ノーネーム”に割り当てられた更衣室テントに向かう。

 

その時、有翼人が三名ほど俺たちのテント側から走って行くのが見えた。

 

確か、彼奴らは“二翼”の「修也?」

 

声を掛けられて振り向くと、そこにはセパレートタイプの水着を着た耀が居た。

 

「耀?どうしてここに?」

 

「お腹空いたから何か食べに行こうと思って」

 

相変わらず色気より食い気だな。

 

「修也も付き合って」

 

「分かったよ。その前にこれ着とけ」

 

流石に水着姿でうろつかせるのもあれなので、俺が着てる黒いコートを着せた。

 

「うん、ありがとう」

 

「よし、じゃあ行くか」

 

右手で耀の左手を掴む、耀は一瞬驚きの表情になったが、すぐに笑顔になった。

 

「そういえば、“ヒッポカンプの騎手”って個人戦からチーム戦になったんだよな?」

 

「うん。私達は飛鳥が騎手で、私、修也、十六夜がサポートって風になってる」

 

なるほど。

 

ディーンが壊れて使えない飛鳥はサポートに向かないし、なによりヒッポカンプのスピードに付いて行けないだろう。

 

そう考えて、飛鳥を騎手にして、空を飛べる俺と耀、ヒッポカンプに付いてこれる十六夜が護衛か。

 

「修也……お腹空いた」

 

「ああ、そうだな。それじゃあ、どこか屋台でも行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜 SIDE

 

黒ウサギがテントを出て、白夜叉の所に向かい、春日部も腹が減ったと言ってテントから出て行って、今テントの中では俺とお嬢様しかいない。

 

正直、水着姿のお嬢様と居ると調子が鈍る、

 

普段なら軽くセクハラ発言して、からかうのが俺なのにそれができない。

 

くそ、本当にどうしちまったんだよ…………

 

「ね、ねぇ、十六夜君」

 

「お、おう。どうした、お嬢様?」

 

やべぇ、今声が上擦っちまった。

 

「その、私の水着、やっぱり変かしら?」

 

「……あ?」

 

「だって、春日部さんや黒ウサギの水着は褒めてたけど、私に関しては何も言わなかったから。だから、変なのかなって………」

 

「そ、そんなことねぇよ!むしろ似合いすぎてるぐらいだぜ!」

 

「そ、そう?……でも、黒ウサギと比べると私、胸もあまり無いし」

 

「そんなの関係ねぇえ!俺はお嬢様の方がいいと思うぞ!」

 

………………は!

 

お、俺何変なこと言ってるんだ!?

 

「い、十六夜君………」

 

お嬢様は耳まで真っ赤にして、俺を見てくる。

 

そんなお嬢様が色っぽいと思い、俺は思わず視線がお嬢様の唇、首筋、胸、腹、そして………………

 

「お、俺、ちょっと外出てるぜ!」

 

俺は火照った顔を覚ますために、慌ててテントを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥SIDE

 

十六夜君が去って行って方を見つめ私は高鳴る自分の胸に手を当てる。

 

「………凄いドキドキ言ってるわ」

 

これが…………恋………

 

そう思うと恥ずかしい反面楽しく思えた。

 

まさか、私の初恋の相手が十六夜君だなんて、思ってもみなかったわ。

 

春日部さんも、修也君を想ってた時はこんな感じだったのかしら?

 

恋って素敵なのね。

 

「……多分、黒ウサギも十六夜君が好きなのよね」

 

あの反応を見てれば、黒ウサギが十六夜君に好意を抱いてるのは一目瞭然ね。

 

確かに、私は黒ウサギ程、愛嬌もないし、胸もない。

 

でも、黒ウサギと同じぐらい……いいえ、黒ウサギ以上に十六夜君の事を想ってるわ!

 

「……負けないわよ」

 

誰もいないテントで私は一人ぼそっと呟いた。

 

その時、急に背後から何者かが私の口を塞いだ。

 

「!?ん~~~~~~!!」

 

慌てて抵抗するが、口に押し当てられた何かのせいで、私の意識は徐々に薄れ、そして意識を無くした。

 



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第7話 選手交代だそうですよ?

“ヒッポカンプの騎手”が始まるまで後三十分。

 

俺達は必死に“アンダーウッド”を走っていた。

 

「くそ!飛鳥の奴、何処だ!」

 

そう、飛鳥が消えた。

 

消えたことが知ったのは、約三十分前の事。

 

十六夜が言うには、外に出て、テントに戻ってくるまでの僅か十分足らずで飛鳥が消えたとのことだ。

 

トイレか何かだと思い、暫く待ってみたが、開始時間が迫ってるにも関わらず飛鳥は戻ってこなかった。

 

そこで一度、全員で参加者待機場所からなるべく離れずに飛鳥の捜索をすることになった。

 

だが、まだ見つからない。

 

待機テントに戻ると、耀、十六夜、黒ウサギ、ジン、フェルナとコッペリアが戻っていた。

 

「おい、見つかったか!」

 

「ううん、見つからなかった」

 

「俺もだ」

 

「私も、箱庭の中枢に問い合わせてみたのですが、分かりませんでした。こんなこと、有り得ません」

 

「僕も聞いて回りましたけど、誰も飛鳥さんを見なかったそうです」

 

「私達も飛鳥さんを見た人はいないって」

 

「同じくです」

 

どういう事だ?

 

飛鳥は“アンダーウッド”をディーンを使って守った。

 

それを多くの奴等が見ている。

 

だから、飛鳥を見れば覚えていてもおかしくないはずだ。

 

それなのに、誰一人として覚えてないなんて……………

 

「俺のせいだ。あの時、俺がお嬢様の傍を離れなければ…………」

 

十六夜が悔しそうに拳を握る。

 

「十六夜、何もお前のせいじゃない。そう気に病むな」

 

「だが、事実だろ!俺さえお嬢様から離れなければ、こんな事態にならなかった!全部俺のせいだ!」

 

いつもの十六夜らしくない。

 

普段なら、こんな時でも冷静に状況を判断し推理して、状況を覆す奴なのに。

 

一体どうしたんだ?

 

「オイ、シュウ坊!」

 

急にネズさんが走りながら俺の背中に声を掛ける。

 

「ネズさん、どうしたんですか?」

 

「やばいゾ。シュウ坊の所の赤いドレスのお嬢様、“二翼”の連中が連れ去っちまったぞ!」

 

「んだと!」

 

俺が声を上げる前に、十六夜が声を上げ、ネズさんに近づく。

 

「お前、お嬢様が連れ去られるのを黙って見てたのかよ!」

 

「しょ、しょうがないダロ!オイラは戦闘は無理デ、情報収集と逃げ足しか自信ないんダ!だから、この情報をシュウ坊たちに」

 

「早く言え!あの馬肉共は、何処にお嬢様を」

 

「十六夜」

 

「んだよ!今、」

 

そこまで言うと十六夜は黙った。

 

いや、黙らせた。

 

俺が一発頬に拳を叩き込んだからだ。

 

十六夜は吹っ飛ばされ、近くのテントを巻き込んで倒れた。

 

「ッ痛!テメェ、修也!何しやがる!」

 

「少し落ち着け。いつものお前らしくないぞ」

 

「落ち着けだと!お嬢様が馬肉共に誘拐されたんだぞ!それなのに落ち着いていられるか!」

 

「そこがお前らしくないんだよ!」

 

十六夜の胸倉を掴み、持ち上げる。

 

「いつものお前なら、どんな時でも冷静に状況を判断し推理して、状況を覆す。なのに、今のお前は冷静の欠片もない。そんな状態じゃ、ないもできないだろ」

 

「………すまねぇ。冷静じゃなかった」

 

十六夜は、申し訳なさそうに俯いて誤って来た

 

十六夜を地面に下ろしネズさんの方を向く。

 

「ネズさん、取りあえず情報をくれ」

 

「あ、ああ。オイラの所の同士に尾行させた情報によると、ドレスのお嬢ちゃんは、“アンダーウッド”の収穫祭に使う備品を置いてある倉庫に連れ込まれたそうダ。見張りに二人、中には推定で十人は居るはずだ」

 

「そうか…………十六夜」

 

「……なんだよ?」

 

「飛鳥を助けに行け」

 

「!………だが、俺には」

 

「その資格が無いってか?そんなわけないぜ。きっと飛鳥はお前の事を待ってる。行ってやれ」

 

「……修也」

 

「必ず、揃って無事に戻ってこいよ」

 

「……おうよ!」

 

十六夜はいつもの笑み浮かべ掌を拳で叩いた。

 

「ま、待って下さい!飛鳥さんが居ないのもそうですが、十六夜さんまで抜ければゲームへの参加が」

 

「黒ウサギ、控えメンバーの事忘れてないか?」

 

「え?い、いえ、覚えてますよ。ですが、私たちのコミュニティには、控えになるメンバーは」

 

「いるだろ。ここに」

 

そう言って俺はフェルナとコッペリアの肩を叩く。

 

「「え?」」

 

「万が一のことを考えて、この二人を控えの選手として登録しといた。飛鳥と十六夜の代わりに出てもらう」

 

「で、ですが、それは無茶かと」

 

「黒ウサギ、俺とコイツらを信じてくれ」

 

俺は黒ウサギの眼を見つめる。

 

「く、黒ウサギさん!私、どこまで出来るかわからないけど、やらせてください!」

 

「やるからには尽力を尽くします!」

 

フェルナとコッペリアは任せてくれと言わんばかりに胸を張る。

 

「……分かりました!皆様を信じます!」

 

「よし!ネズさん、十六夜を案内してやってくれ」

 

「任せナ!付いてきな、金髪の兄チャン!」

 

「おう!」

 

十六夜はネズさんと共に飛鳥救出に向かった。

 

「フェルナは飛鳥の代わりとして騎手を頼む。コッペリアは俺たちとフェルナの護衛だ」

 

「分かりました」

 

「承知しました」

 

「黒ウサギは審判ですので、申し訳ありませんが、舞台から応援します」

 

「皆さん、くれぐれも気を付けてください」

 

「ああ…………よし、十六夜と飛鳥の分まで、絶対に優勝するぞ!」

 

「「「おおー!」」」

 



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第8話 常識に囚われず、我が道を行け!だそうですよ?

完成したので投稿します。

修也「久々の出番か」


『ながらくお待たせしました!これよりギフトゲーム“ヒッポカンプの騎手”を始めさせていただきます!司会進行は毎度お馴染み、黒ウサギが』

 

雄々オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

黒ウサギの登場により、観客が大地を揺るがすほどの大歓声を上げる。

 

こんな光景、前にも見たな。

 

それに今回は水着だしより、会場の熱気と雄叫びが凄い。

 

取りあえず、フェルナには目の毒なので、見ないように言っといた。

 

『えー諸君!! まず一言 黒ウサギは実にエロいな!!』

 

『さっさと開始してくださいお馬鹿様!!!』

 

黒ウサギの投げた鋭利な石が白夜叉に突き刺さり鮮血が吹き出す。

 

痛そうだな。

 

『それでは本当に一言 黒ウサギは本当にエ』

 

ガシュ!ザシュ!ズガシュ!

 

『流石にこれ以上は痛いから本題に移ろう。この度の収穫祭は我々“サウザンドアイズ”からも露店を出しておる。しかし、残念ながらギフトゲームを開催する準備の時間が無かった。そこで、ヒッポカンプの騎手の優勝者にはサウザンドアイズからも望みの品を贈呈すると宣言しておくぞ!』

 

白夜叉の言葉に熱狂的な歓声を上げる者と、参加しなかったことに後悔する者の声が一斉に上がった。

 

『それでは、“ヒッポカンプの騎手”の最終ルール確認を行います!

1、水中落下は即失格!ただし、陸や岸辺に上がるのはOK!

2、進路は大河だけ使用すること!アラサノ樹海からは分岐点があるので各参加者が己の直感で進んでください!

3、折り返し地点の船長に群生する“樹海”の果実を収穫して帰ること!以上です!』

 

ルール確認が終わると、白夜叉は両手を開き準備を整える。

 

『参加者達よ。指定された物を手に入れ、誰よりも早く駆け抜けよ!此処に、“ヒッポカンプの騎手”の開催を宣言する!』

 

白夜叉が開催宣言をするや否や、フェイスが行動に出た。

 

素早く蛇腹剣を抜き、範囲内の参加者を斬る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水着だけ。

 

『きゃあああああああああああああああああああ!!?』

 

水着のみを切り裂かれた女性は、己の裸体を隠す為水に飛び込む。

 

男の参加者の中には鎧を着てる奴もいたが、そいつらは鎧の隙間を縫って斬り裂かれ、素っ裸になった。

 

フェイスはそんな参加者に見向きもせず騎馬を進め、参加者の水着や衣服を通りすがりに斬り裂いていく。

 

俺はフェルナの傍に移動し、水着を斬り裂かれそうになるのを槍で防ぐ。

 

耀も同じようにコッペリアを光翼馬のブーツで剣を弾く。

 

『流石は我が仇敵が選んだ騎士!冷徹な判断力と、肌に傷一つ付けずに水着のみを斬り捨てる剣技!宿敵の臣下なれど見事! 

っ つ う か も っ と や れ ヤ ッ ホ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ! ! 』

 

『 ヤ ッ ホ オ オ オ オ オ オ オ オ ! ! 』

 

“箱庭”にはバカしかいないのだろうか……………

 

 

 

 

 

フェイスの攻撃により、参加者は十分の一までに減った。

 

そのおかげで俺たちもサポーター同士の決着が早く付き、今では半数にまで減った。

 

『さあ、残り五チームになりトップは“ウィル・オ・ウィスプ”よりフェイス・レス。二位は“ノーネーム”よりフェルナ。そして三位から五位は“二翼”の選手たちです。そして、いよいよアラサノ樹海の分岐路に入ります。此処からはどの経路を選ぶかで勝負が決まりますので己の直感を信じて突き進んでください!』

 

“二翼”が残ってるか。

 

戦略的に、早めに潰したい。

 

まぁ、戦略関係なしに潰したいがな。

 

「耀」

 

「何?」

 

「戦略的に“二翼”を潰してきてくれ。あくまで、 戦 略 的 に 」

 

“戦略的に”を強調して、耀に指示を出す。

 

「了解。戦略的に潰してくる。あくまで、 戦 略 的 に 」

 

そう言って耀は“二翼”を潰しに飛ぶ。

 

「フェルナ、コッペリア。このままじゃ、フェイスに追いつけない。だから、近道するぞ」

 

「ですが、マスター。どの道が近道かわかりません」

 

「ご主人様は道が分かるのですか?」

 

「いや、分からん。だから、近道を造る」

 

「「え?」」

 

俺は耀の血が入った小瓶と鷲獅子と鳳凰の血を飲む。

 

「我が血よ。我が名の下に従え。その血に流れる力を槍に纏わせよ!」

 

白牙槍が血の力で強力なオーラを纏い、更に、鷲獅子の旋風で鳳凰の焔の威力が上がり、その焔が槍を包み込む。

 

「血の劫火槍(ブラッティ・フレイムスピア)!」

 

俺が放った槍は、樹海の木々を焼き尽くすかの如く焼き払い、大地を抉り、更に大河で縄張りをつくっていた“水霊馬”をも焼き払った。

 

そして、俺たちの目の前に、新たに一直線の大河の道ができた。

 

「よし、これで時間短縮になるはずだ。フェルナ、コッペリア、進むぞ」

 

二人に声を掛けると、二人は「「あ、はい」」と、口を揃えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃の会場~

 

会場では修也がやったことに観客が口を開けたままの状態になった。

 

木々を薙ぎ倒して進むならまだしも、まさか自分で新しい道を造り、障害になる“水霊馬”までも倒すとは誰もが思いもよらなかった。

 

「み、見事!常識に囚われずに、我が道を行く!その行動、発想……まさしく、クルーエ=ドラクレアの再来とも言えよう!流石は我が旧友の息子!“箱庭の英雄”にして“吸血鬼の神”の血は健在!その力も、父に劣らぬ物!流石はクルーエの息子………いや、流石は月三波・クルーエ・修也じゃ!」

 

沈黙が漂う会場の空気を壊したのは白夜叉だった。

 

白夜叉の目は爛々と輝き、身を乗り出しかねない勢いでまくし立てる。

 

白夜叉の言葉に会場は一気に歓声を上げる。

 

“ノーネーム”がこんなことをしたらブーイングの一つ起きてもおかしくなかったが、会場から誰一人として不平不満を言う者はおらず、皆が、クルーエ=ドラクレアのことを褒め、そして息子である修也を褒め称えた。

 




ちなみにコッペリアの水着はビキニで、色は黒。

腰にはパレオが付いてます。

フェルナはピンクの水玉模様のセパレートで、ボトムスがスカートみたいになってます。

最初はスク水にしようと思ってました………………


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第9話 修也VS蛟劉だそうですよ?

どうも違和感を感じていたが、どうやら正しかったらしい。

 

俺が作った近道を通り、樹海を抜け、山河に着くと妙な匂いを感じた。

 

俺の気のせいだと思っていたが、気のせいではなかった。

 

「まさか、山頂に海があるとはな」

 

目の前に広がる大海原に俺は驚く。

 

以前食べた魚が鯵に近い姿から、上流で海水と混流してるのかと思っていたが、まさか、山頂の海から流れてるとは思わなかった。

 

「マスター、あれが海樹です」

 

コッペリアが指さす方には、様々な樹が海面に立っていた。

 

「てことは、あの赤い果実が海樹の果実か」

 

海樹に近づき、身をいくつか取って袋に詰める。

 

「よし、後は山河の流れに沿って降りればいいだろう。だが」

 

「マスター、彼女が来ました」

 

コッペリアも気配を感じたらしく、そちらを見ると、フェイスが別ルートから山頂に上がって来た。

 

「やはり辿り着いたのは貴方たちだけでしたか」

 

そう言うとフェイスは蛇腹剣を抜き、一瞬で海樹の果実を袋に詰める。

 

これで俺たちとのアドバンテージはなくなった。

 

俺は白牙槍を握り締め、構える。

 

フェイスも蛇腹剣の柄を捻って刀身の仕込みを解く。

 

手綱を握り締め、互いに走り出すきっかけを探る。

 

その時異変が起きた。

 

足場が揺れ始め、波風が強くなり始めた。

 

「まさか、こんなお遊びのようなゲームで、動くのですか?“枯れ木の流木”と揶揄された男が………!」

 

フェイスがうわ言のように呟く。

 

すると、滝から巨大な水柱が上がり。その水柱にヒッポカンプと騎手がいた。

 

まさか、滝の流れを逆流させてここまで登って来たのか?

 

「いやぁ、参った参った!寝坊したらこんな時間になってしもうた。無理矢理ねじ込んでもらったのに白夜王には悪いことしてもうたな」

 

胡散臭い関西弁を話してるが、昨夜までの雰囲気がまったく感じらない。

 

最後の参加者の蛟劉こと蛟魔王が水にぬれた髪を掻き上げながら現れた。

 

「でもよかった。君らがこんなところでトロトロしてたおかげで、簡単に追いつけたわ。これなら、優勝も容易そうやな」

 

この自信と覇気、昨日とは別人みたいだな。

 

「フェルナ、コッペリア行け。俺が食い止める」

 

「……分かりました。マスター、御武運をお祈りします」

 

「コッペリアさん、ご主人様を置いてくんですか!?」

 

「フェルナ、マスターは私達に行けと命じた。なら、眷属であるあたしたちはその命に従う義務がある」

 

「でも……」

 

「マスターを信じましょう。マスターがこの程度の輩にやられはしないと」

 

「……はい!」

 

そう言ってフェルナとコッペリアはこの場をは離れようとする。

 

「君ら、色々相談してるとこ悪いけど、時間かけすぎで。おかげでこっちの準備が整ってもうたやないか」

 

蛟劉が右腕を掲げると、先程よりも強い地鳴りが響いた。

 

そして、巨大な津波が押し寄せてきた。

 

覆海海大聖の名は伊達じゃないな!

 

「フェルナ、コッペリア逃げろ!このままじゃゲームオーバーだ!」

 

水中に落ちたものは落馬扱いで失格。

 

このままじゃ、津波に巻き込まれて失格になる。

 

そんな中、フェイスは騎馬を走らせ、100mはある高さの滝から飛び降りた。

 

「フェルナ、私達も飛び込みますよ」

 

「はい!」

 

二人はそのまま走り出し、滝へと向かう。

 

あの滝から落ちるなんて自殺行為だ。

 

仮に助かったとしても、ゲームオーバーになるかもしれない。

 

だが

 

「二人とも、後は頼んだぞ!」

 

あの二人なら大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滝から飛び降りたフェイスレスは水面に着地する瞬間、二本の剛槍を取り出し、水面にぶつけ、落下の衝撃を完全に殺すことで、無事飛び降りることに成功した。

 

そして、フェルナはというと

 

「うりゃ――!!」

 

“操りの糸”を使い、水中に居た水霊馬を引きずり出し、それを足場にして降りることに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せいっ!」

 

襲ってくる巨大な津波に向け、白牙槍を振り下ろす。

 

振り下ろされた衝撃で津波に亀裂が入り、二つに分かれる。

 

「流石や」

 

「お前もな。これだけの津波を起こせるなんて流石は覆海大聖だな」

 

「お褒め与り、光栄やね」

 

他害ににやりと笑い、蛟劉は騎馬から降りた。

 

「降り立って事は相手になってくれるんだな」

 

「ああ、白夜王に頼まれて参加したゲームやけど、君とも戦いたいと思っとたんよ」

 

「俺と戦いたいとか余裕だな。このままじゃ、フェルナたちが先にゴールするぜ」

 

「安心し。あの程度なら、すぐにでも追いつける」

 

「なら、尚更止めないとな!」

 

拳を握り走り出す。

 

蛟劉は腰に曲刀を差しているが抜く気配が無い。

 

肉弾戦で戦おうってか。

 

一気に距離を詰め、拳を顔面に向けて放つ。

 

蛟劉は片手を出し、受け止めようとする。

 

だが、次の瞬間、顔に焦りの色が現れ、受け止めようとせず、両腕をクロスさせて防御した。

 

俺の拳が当たると、蛟劉は勢いよく後ろに吹き飛ぶ。

 

「危なかったわ。後一秒でも防御が間に合わんかったら、君の勝ちやったね」

 

「良く言うぜ。あの僅かな時間でコレを見て、その力を測り、尚且つ防御まで行う。いい目してるじゃねぇか」

 

そう言って俺は自分の両腕を見せびらかすように出す。

 

俺の腕はルビーのようなもので覆われている。

 

これは俺の両腕を斬り、吸血鬼の血で俺の腕を覆ったものだ。

 

吸血鬼の力で俺の筋肉を強化させ、元々ある俺のスペックに力を上乗せさせる。

 

さらに、血の力を解放し、それを宿らせることで強力な力を生み出す。

 

手の先が鋭利な爪の様になっているし、グリムゾン・クローとでも名付けるか。

 

「それかっこええな」

 

「これの良さがわかるとは、やっぱお前とはいい酒が飲めそうだ」

 

「酒は二十歳からやで」

 

「こちとら、義務教育時代から飲ませられてたんだ。いまさら関係ないだろ」

 

「ぎむきょういく?」

 

「いや、忘れてくれ。要するに、ガキの頃から飲んでるから気にするな」

 

「さよか」

 

蛟劉は一息つくと、俺を見ながら言う。

 

「久しぶりや。こんな気分は、もう我慢できひん。死ぬなよ」

 

蛟劉は海流を操り、俺の懐に入る。

 

そして、ねじり込むように掌底を俺の胸に当てる。

 

血流が逆流する程の嘔吐感を感じながらも、それに耐え、拳を蛟劉の死角となってる左側から殴りつける。

 

だが、蛟劉はそれを片手で受け流し、躱す。

 

しかし、俺は攻撃の手を止めずに蹴りを放ち、蛟劉の腹に当てる。

 

「いい掌底だ。内臓が潰れるかと思ったぜ」

 

「今の一撃受けて、反撃してくるとは驚きや。今の一撃、君の意識を刈り取るつもりやったんやで」

 

「吸血鬼舐めんなよ」

 

互いに一歩も譲らずに、睨み合い、出方を伺う。

 

「いい殺気や。心地良いで」

 

「そう言える奴なんて、そうそういねえだろうな」

 

「せやろうね」

 

そう言うと、同時に動き出し、拳をぶつけ合っていた。

 

「悪いが、ここから先は絶対に通さねえ」

 

「僕も、やらないといけんことがある。是が非でもそこは通さしてもらう」

 

互いに反発し合うように離れ、再び走り出す。

 

「行くぜ、蛟魔王!」

 

「来い、修也!」

 




報告

活動報告でも言いましたが、タイトル変更しました。

次回、十六夜SIDEの話になります。


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第10話 舞台袖での戦いだそうですよ?

“アンダーウッド大樹の地下倉庫”

 

「おい、こいつで間違いないんだよな?」

 

「ああ、グリフィスさんの話だと、この女が騎手らしい。こいつさえ、攫っちまえば“ノーネーム”の屑どもはギフトゲームには参加できねぇ」

 

………ん?私………気絶してたの?

 

目覚めると、私は暗い倉庫の中に居た。

 

ギフトゲーム参加前だったので、水着を着ていたので少し肌寒い。

 

「でもよぉ、“ノーネーム”如きにそこまでする必要あるのか?」

 

あれは………“二翼”のメンバー?

 

そういえば、控室のテントに居た時、後ろから…………

 

「あの“ノーネーム”にいる銀髪の吸血鬼、あのクルーエ=ドラクレアの息子なんだってよ。所詮息子だと思ってたがよ、ありゃ、クルーエ=ドラクレアにも劣らねぇ強さだぜ」

 

「マジかよ!?てか、グリフィスさん、その吸血鬼の事、侮辱したんだよな」

 

「ああ、聞いた話だとな。まだ、このことは“アンダーウッド”の住民は知らねぇ。もし知られたりすれば、“二翼”はとんでもない目に会うぜ」

 

「それだけで済むかよ。下手すりゃ“龍角を持つ鷲獅子”連盟での居場所も失うかもしれねぇぞ!」

 

「こりゃ、グリフィスさんに付いているのもまずいかもな」

 

「早いうちに、見限るか」

 

最低な連中ね。

 

自分の所属するコミュニティの長が窮地に立たされていながら、助けようともせず、見限るなんて。

 

ま、あんな奴がリーダーじゃ、“二翼”も早々に潰れてたでしょうけど。

 

「おい!“ノーネーム”の連中が“ヒッポカンプの騎手”に参加してるぞ!」

 

「なんだと!?騎手は捕まえたはず!」

 

「控えのメンバーがいたらしい!それだけじゃない!グリフィスさんも“ノーネーム”の女にやられた!“二翼”の参加者は全滅だ!」

 

「なんだと!?」

 

どうやら、予想とは違う結末になったみたいね。

 

まぁ、十六夜君と修也君がいれば問題は無いでしょうね。

 

「おい、どうする?このままだと、俺達…………」

 

「“ノーネーム”を不参加に出来なかったってことで、グリフィスさんに…………」

 

「くそ!…………こうなりゃ、そうそうに逃げるぞ。元々、俺たちは先代のリーダーの部下なんだ!グリフィスさん、いや、グリフィスの野郎に従ってんのも先代への義理があったからだ」

 

「なぁ、この女どうする?」

 

一人の男が私を指差しながら言ってくる。

 

「そうだな…………よく見りゃ、良い体型してるじゃねぇか」

 

その言葉に身の毛がよだつ気がした。

 

「慰み者にでもして持ってくか」

 

「お前、いい趣味してるな」

 

「なら、早いとこ連れて行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

修也たちが“ヒッポカンプの騎手”の終盤に差し掛かった時、十六夜とネズは、“二翼”のメンバーが飛鳥を連れ去ったと言う場所に着いていた。

 

倉庫の前で警備していた“二翼”のメンバーは既に気を失ってる。

 

「おい、ここにお嬢様が連れ込まれたってのは本当か?」

 

「ああ、間違いないヨ。オイラの部下がしっかりと張り付いて、尾行したんだからナ」

 

十六夜は中の様子を探ろうと、扉に耳を当てる。

 

『おら!こっち来い!』

 

『いや!離して!』

 

『いくら喚こうが、ここには誰も来ねえよ!』

 

「………彼奴等!」

 

「落ち着ケ!」

 

「離せ!今どういう状況か分かってんのかよ!」

 

「分かってるから落ち着ケ!今ここで暴れても得策じゃナイ。今、警備任務をしてる“一本角”と“五爪”のメンバーをオイラのコミュニティの仲間が連れて来ル。いくら、お前らが“アンダーウッド”を救ったって言っても所詮は“ノーネーム”。“二翼”と問題を起こせば、お前らにも処分が下される。下手すれば、コミュニティ間での戦争もあり得る」

 

ネズの言い分は正しかったので、十六夜は耐えた。

 

拳を握り、爪が掌に刺さり、血が滴る。

 

『いっそのこともうここで襲うか』

 

『そいつはいい。おい、この女の手を押さえろ』

 

『嫌!助けて、十六夜君!』

 

その瞬間、十六夜は拳を倉庫の扉に叩き付けた。

 

扉は砕け散り、倉庫内の埃を巻き上げる。

 

中では、飛鳥の水着は抜かされかけていた。

 

それを見て、十六夜は完全にキレた。

 

「テメーら!殺す!」

 

近くの男に飛びかかり、そのまま床に叩き付ける。

 

叩きつけられた床は、クレーターを作り、男の頭から血は血が噴き出す。

 

次に、飛鳥を押さえていた男の鳩尾に向け、蹴りを放つ。

 

丁度踵が入るように打ち込まれ、男は壁に叩き付けられる。

 

音速をこえた蹴りの衝撃は男の内臓にまで伝わり、口から盛大に血を吐いた。

 

おそらく、内臓がいくつか潰れた。

 

他にも、中に居た“二翼”のメンバーを十六夜は狂ったように殴り、蹴り、潰し、投げた。

 

そして、飛鳥に手を出そうとした男の前に立つ。

 

「ひ、ひい!?」

 

「お前だけは、絶対に許さねぇ」

 

「ま、待ってくれ!俺はグリフィスの命令で誘拐したんだ!オレの意志じゃない!」

 

「お前は、お嬢様に手を出そうとした。それだけでも十分だ」

 

「あ………ああ」

 

「安心しろ。一発で終わらせてやるよ」

 

拳を握り、高く上げる。

 

そして、第三宇宙速度で男の頭を殴りつける。

 

だが、その拳は止められた。

 

「お、お嬢様」

 

「ダメよ。十六夜君」

 

飛鳥が手を広げ、十六夜の前に立ちはだかった。

 

「……どけ。そいつはお前を」

 

「それでも、殺してはダメ」

 

そう言うと、飛鳥は十六夜の手を握る。

 

「十六夜君の手は……こんなことに使うものじゃないわ。もっと大きなことに使うもの。私の為に怒ってくれるのは嬉しいわ。でも、そのために人殺しになってほしくない。私は大丈夫よ」

 

飛鳥はそう笑顔で応えた。

 

「…………分かった。今回はお嬢様に従ってやる」

 

「ええ、ありがと」

 

その時、十六夜は気づかなかった。

 

男が、転がっていたナイフを手にしていたことに。

 

「何、呑気に会話してんだよ!“ノーネーム”!」

 

ナイフが、飛鳥に振り下ろされる。

 

十六夜は咄嗟に飛鳥を抱き寄せ庇おうとする。

 

飛鳥を抱きしめ、背中を相手に向ける。

 

目を固く閉じ、襲い掛かってくるであろう痛みを耐えようとする。

 

だが、いつまでたっても痛みは来なかった。

 

「まったく、危なっかしいゾ。イザっち」

 

男の首に、細長い銀色の針が刺さっていた。

 

針を投げたのはネズだった。

 

「オイラの投擲が間に合わなかったら、今頃お陀仏ダゼ」

 

「あ、ああ、助かった」

 

その後、すぐにやって来た“一本角”と“五爪”の旗印が描かれた羽織を着た警備員がやって来て、倒れている“二翼”の連中を連れて行った。

 

幸い、全員大けがを負っているが、命に別状はないそうだ。

 

今回の件はネズが証人となったので、“二翼”はゲーム参加妨害と誘拐の罪に問われることになった。

 

十六夜に関しては、ネズが裏で取引をして不問にした。

 

「十六夜君、助けてくれてありがとう」

 

「………いや、こうなったのは俺が原因だ。俺があの時、テントから離れなけりゃこんなことには………」

 

「でも、助けてくれたじゃない。それだけで、私は十分。ありがとう」

 

「…………お嬢様。ありがとな。そう言ってくれるとこっちも気が楽になる」

 

そう言って十六夜はいつもの笑顔を浮かべる。

 

「あ、そう言えば“ヒッポカンプの騎手”はどうなったの?なんか控えの選手がどうとか」

 

「ああ、俺とお嬢様の代わりにフェルナとコッペリアが出てる」

 

「そう、となると暇になったわね」

 

「折角だ。俺達は客席から修也たちの雄姿を観戦しようぜ」

 

「そうね」

 

「では、お手をどうぞ。お嬢様」

 

「……ふふ、ならエスコートお願い。十六夜君」

 

二人は手を繫ぎ、そして、楽しそうに観客席へと向かった。

 

まるで、恋人のように。

 




後、二話ぐらいで終わる予定です。

では、次回もお楽しみに


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第11話 修也VS蛟劉 決着だそうですよ?

修正版、投稿しました。

修正前のは、ただ単に十六夜のセリフを修也に言わせただけで、オリジナル性がありませんでした。

そのことを、指摘され、自分でも直した方がいいと思って修正しました。

それでは、ゆっくりお読みください。


蛟劉と俺の攻撃がぶつかり合うたびに、大地は抉れ、海水は吹き飛び、木々は衝撃波で薙ぎ倒される。

 

蛟劉は棍を二本取り出し、巧みに操りながら水流を操り攻撃を仕掛けて来る。

 

俺も白牙槍で応戦しつつ、血の力を使い攻撃する。

 

互いに一歩も譲らない攻防戦。

 

長期戦になれば、俺の方がヤバイ。

 

血の力は一見便利そうに見えるが、使い続けるってことは、大量の血を流すってことだ。

 

いくら吸血鬼でも、血を流し続ければ死ぬ。

 

なら、戦いを早々に終わらせないとな。

 

その時、蛟劉が一気に突っ込んでくる。

 

「おらっ!」

 

槍を地面に突き刺し、そのまま持ち上げる。

 

ちょうど、根が張ってる部分を突き刺したので、根っこごと地面を抉り取り、壁にする。

 

蛟劉はそんなのもお構いなしに、粉砕する。

 

その隙に背後に回り、首を狙う。

 

しかし、持っていた棍を背後に回し、防御する。

 

「そう簡単にやられてはくれないか!」

 

「当たり前や!こんなおもろいこと、簡単に終わらせたら勿体ないで!」

 

蛟劉は嬉しそうに笑みを浮かべながら叫ぶ。

 

「ハハハッ!楽しそうだな、蛟劉!」

 

「ほんま、楽しいで!ほんまに………ほんまにな」

 

嬉しそうにしながらも、蛟劉は悔しそうに顔を俯かせる。

 

俺は溜息を尽きながら、踵落としを地面に落とす。

 

地面は割れ、ヒビが蛟劉の足の間を走る。

 

蛟劉は躱そうと移動する。

 

移動場所をあらかじめ予測し、蛟劉の鳩尾を殴りつける。

 

殴られた衝撃で蛟劉は飛ばされるが、崖下に落ちそうな所で踏ん張り、落下を防いだ。

 

「こんなもんかよ!蛟魔王って言っても大したことないな!」

 

「…………ええで、この一撃、防ぎきったら君の勝ちや」

 

蛟劉は棍を捨て、海水を操る。

 

手の平に海水が集まり、渦をつくる。

 

「高速で回転する渦潮。これにちょっとでも触れてみ。体、斬り飛ばされるで」

 

そう言うと、俺目掛けて渦潮をフリスビーの様に投げる。

 

その時、跳んできた水しぶきが俺の頬を切り裂いた。

 

なんちゅう切れ味だよ!

 

そして、渦潮は地面を削り、木々を斬り倒し、俺に向かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………度胸は戦いにおいて重要なことや。君には何事にも物怖じせず、真っ向から戦いに行く度胸がある。そして、強さもや。でも、度胸と無謀は違うで」

 

そう言って蛟龍は土煙に向かって語る。

 

「これは、高めの授業料や。身を持って痛みを知れば、無謀な挑戦も、戦いも仕掛けんやろ」

 

蛟劉は海樹の果実に手を掛けようとする。

 

これを手に入れ、ゴールすれば白夜叉との契約は完了。

 

そして、蛟劉がもっとも会いたい人に合わせて貰える。

 

「待てよ。世捨て人が。まだ終わってねーぞ」

 

蛟劉はその声に驚き後ろを振り向く。

 

そこには、全身を切り刻まれていたが、槍を手に立ち上がっている修也が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……驚いたな。殺すつもりはあらへんかったけど、少なくとも立てなくなるぐらいの威力やったはずなんやけど」

 

「こいつだよ」

 

俺は僅かに血が残った小瓶を見せる。

 

「水龍の血。こいつを飲んで、水流を操って渦潮に穴を開けた。後はそこを潜り抜けて攻撃を躱したんだよ」

 

「渦潮の中に飛び込むって………下手すれば死ぬで。なのに、どうしてそこまで命を賭ける?“ノーネーム”が負けても、サラちゃんは“階層支配者”になる。僕がそう指名するからや。なのに、どうしてそこまで意地になって自分たちで勝とうとする?」

 

「決まってんだろ」

 

俺はにやりと笑う。

 

「強者に勝ちたいからだ!」

 

「……は?」

 

「お前は強い。だからこそ俺はお前を倒したい。だから、勝つ!」

 

「……“階層支配者”のことはええの?」

 

「いや、よくねえよ。ただ心配してないんだよ。耀は“二翼”を叩き潰すし、フェルナとコッペリアも必ずフェイスを倒して、優勝する。だから、俺は自分のするべきことをする。それが、お前の足止めだ。フェルナとコッペリアが優勝するその時まで、俺はお前をここにとどめる。そのついでに、お前に勝つ!」

 

「…………この蛟魔王を捕まえて、ついでかいな。ほんまおもろいわ」

 

「おもろいのはお前の方だろ。そんな腑抜けた面で“斉天大聖”に会おうってんだからな」

 

「!?……白夜王から話聞いとったんか?」

 

「いや、推測だ。枯れ木の流木と呼ばれてるお前が動く理由となればそれ以外に思いつかねぇよ」

 

俺は肩を落とし、蛟劉に向きなおる。

 

「はっきり言う。今のお前が“斉天大聖”あった所でどうなる?大海の大聖者が、三途の川に沈められるぞ」

 

「三途の川、か………笑えそうやけど笑えんわ」

 

「………蛟魔王と呼ばれ、あらゆる修羅神仏と戦った男が、今じゃ、“枯れ木の流木”と揶揄さえる始末。………それでいいのか?」

 

俺の問いに蛟劉は答えない。

 

「今のお前が言っても“斉天大聖”を失望させるだけだ。いや、最悪泣かれるかもな」

 

いくら言っても蛟劉は答えない。

 

「蛟劉、答えろよ。今のお前は………胸張って自慢できる功績が一つでもあるか?」

 

「……………やれやれ、僕も随分落ちぶれたもんやな。こないな若もんに、大事なこと気づかされるなんてな」

 

蛟劉はやれやれといった様子で首を振る。

 

「ジャッジマスター!僕の負けや!“覆海大聖”は、戦いを辞退する!」

 

その声が黒ウサギに届いたのか、蛟劉の名前が書かれた“契約書類”は音もなく燃え落ちた。

 

「あんがとな、修也。お陰で大事なことに気付けた」

 

「そうかい。そいつは良かった」

 

「ああ、今の僕には何もあらへん。だからこそ、胸張って会えるだけの功績が必要や」

 

それにっと蛟劉は付け加える。

 

「君とは本気で戦いたいしな。そのためにもこのゲームは少し、狭すぎや。じゃあな、修也。次に会うときは…………蛟魔王の“主催者権限”でお相手する」

 

「……ああ、その時はとびっきり面白いルールで頼む」

 

「もちろんや」

 

にこやかに笑って、蛟劉は滝の上から飛び降りる。

 

その横顔は覇気に満ち溢れていて、晴れやかな色をしていた。

 




次回、いよいよ最終話になります。

そして、エピローグを書いて蒼海の覇者編は終了となります。

では、次回もお楽しみに。


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第12話 少女たちの恩返しだそうですよ?

『皆さん、見えてきました!トップは“ウィル・オ・ウィスプ”のフェイス・レス!二番手は“ノーネーム”のフェルナ!サポーターのコッペリアも健在です!』

 

“ヒッポカンプの騎手”最終局面。

 

現在、フェイス・レスの後ろをフェルナたちは一定の距離を保ちながら後を追っていた。

 

これ以上フェイス・レスに近づけば、蛇腹剣が水着を脱がしに来る。

 

そのため、これ以上近づくことが出来ない。

 

「このままじゃ追いつけないよ!」

 

フェルナは声を上げコッペリアに言う。

 

「ですが、これ以上近づけばあの剣の餌食になります」

 

コッペリアは、起きてしまう危険を考え、フェルナが前に出るのを止める。

 

せめて、修也か耀のどちらかが居てくれればフェイス・レスを抑え、その隙に通り抜けることもできるだろう。

 

そのどちらもいない状況では、コッペリアが抑えるしかない。

 

だが、コッペリアの力量ではフェイスと戦うことはおろか、足止めする事すら難しい。

 

「お姉ちゃん、このまま突っ切るから援護お願い!」

 

ちなみに、フェルナはコッペリアの事をお姉ちゃんと言って慕っている。

 

「ダメです!それじゃあ、貴女が大変な事に」

 

「それでもやる!ご主人様は私達に頼んだって言ったんだもん!だったら、私はそれに応える!それが、私を助けてくれたご主人様への恩返しだから!」

 

「…………分かりました、私もマスターへの恩があります。やるからには全力で行きます!」

 

そう言うと、コッペリアはフェイス・レスに一気に向かう。

 

フェイス・レスは焦ることなく、蛇腹剣を抜きコッペリアの水着を脱がしにかかる。

 

「“踊る人形撃 第四幕 衝劇”」

 

コッペリアが掌から衝撃波を放ち、水着を斬ろうとしていた蛇腹剣を弾く。

 

弾かれると思っていなかったフェイス・レスは驚きの表情を僅かにするが、すぐに気を引き締め、剣を構える。

 

「水着を斬りに来ると分かっていれば、防御はたやすいです!」

 

衝撃波を防御に使うと、素早く銀色の剣を生み出し、斬り掛かる。

 

フェイス・レスは蛇腹剣を剛槍に換装し、切り結ぶ。

 

コッペリアは槍の特性を考え、フェイス・レスの懐に潜り込む。

 

フェイス・レスは、ヒッポカンプの上なので自由に動けない。

 

だが、コッペリアは空を飛べるので上下左右から攻撃を繰り出す。

 

その隙に、フェルナはヒッポカンプで脇をすり抜ける。

 

後は、フェイス・レスの間合いを抜けば、全速力でゴールするだけだ。

 

そのことで、コッペリアは安堵してしまった。

 

「甘いですね」

 

フェイス・レスは、持っていた剛槍を捨て、コッペリアの足を掴む。

 

「しまっ!」

 

最後の言葉を言う間もなく、コッペリアは水面に叩き付けられる。

 

一方、フェルナはまだ、間合いの中に居た。

 

「幼子の水着を抜かすのは忍びありません。ですから、落ちてもらいます」

 

そして、今度は弓を取り出す。

 

不安な足場で弓を構え、矢を放つ。

 

鏃の部分は斬り落とされ、代わりに黒いゴムが付けられ当たっても死なない様になっている。

 

放たれた矢は、目にも止まらぬ速さでフェルナに向かう。

 

背後から来る矢の威圧を感じフェルナは振り返る。

 

そして、矢はフェルナの側頭部に当たる。

 

それによりフェルナは一瞬気を失う。

 

持っていた手綱の手も緩み、離してしまう。

 

「フェルナ!」

 

コッペリアが声を上げる。

 

「………ま」

 

その時、フェルナが声を上げた。

 

緩めた手で、離れそうにな手綱を強く握りしめる。

 

「負けるもんかッ!」

 

フェルナは上半身の力だけで起き上がり、体勢を立て直す。

 

「な!?」

 

あの状況から起き上がれると思っていなかったフェイス・レスは驚き、声を上げた。

 

だが、距離はまだ十分に追いつける距離だった。

 

すぐにヒッポカンプを走らせようとすると、奇怪な人形が数体、ヒッポカンプの走行を妨害する。

 

フェルナは、駆け抜けながら、“操り人形作成”で、人形を作りだし足止めにしていたのだ。

 

剣を抜き、人形を破壊している間にも、フェルナとの距離はどんどん広がる。

 

全て壊す頃には、もう追いつけないほどに距離があった。

 

「くっ!」

 

それでも、騎士として、プレイヤーとして最後まで死力を尽くし駆ける。

 

だが、勝敗は決した。

 

「私たちの勝ちだ!」

 

フェルナが高らかに勝利宣言をし、フェルナはゴールする。

 

“ヒッポカンプの騎手”をトップでゴールしたフェルナに、観客は喝采を送った。

 

こうして、収穫祭で一番大きなギフトゲーム、“ヒッポカンプの騎手”は“ノーネーム”の勝利で幕を閉じた。

 




次回、エピローグにて、蒼海の覇者は終了となります。

そして、修也と耀の関係に変化が!

それでは、次回もお楽しみに


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エピローグ

“ヒッポカンプの騎手”が終わってから、数日。

 

今日は収穫祭の最終日で、サラの南の“階層支配者”就任式が行われた。

 

その様子を眺めながら俺達は収穫祭を振り返った。

 

「これで“龍角を持つ鷲獅子”連盟も落ち着くかな」

 

「そうですね。グリフィスも出奔し、反発する声はほとんど無くなったでしょうから」

 

グリフィスはサラが“階層支配者”を継ぐことが決定するとすぐにコミュニティを去ったそうだ。

 

まぁ、長の座を賭けて戦ったんだ。

 

敗者が去っていくのは、別におかしいことじゃない。

 

“二翼”のメンバーもすぐに現状を受け入れていた。

 

ちなみに、飛鳥をさらった連中はコミュニティを追放になり、“箱庭”の法の下、裁かれるらしい。

 

「サラの折れた龍角も“鷲龍”の角があれば大丈夫なのよね?」

 

「元々がドラコ=クライフの龍角だから一本だけだしね」

 

「他にもギフトを授かるそうだし、サラの腕なら大丈夫だろ」

 

飛鳥はそうと相槌を打つ。

 

そう言えば、心なしか十六夜と飛鳥の距離が近い気がする。

 

何かあったか?

 

そう思ってると、大樹の天辺で炎の嵐が吹き荒れた。

 

それと同時に、乾杯の音と音頭があちらこちらで鳴り響いた。

 

「………お疲れ様です、サラ様。黒ウサギ達も負けずに頑張るのです」

 

“アンダーウッド”を見上げ、羨望と祝福を込めて黒ウサギが呟く。

 

その時、年長組の中からリリが走り寄って来た。

 

「あの、黒ウサギのお姉ちゃん」

 

「……リリ?どうしました?」

 

神妙な顔をしてるリリに、黒ウサギは小首を傾げる。

 

リリは顔だけでなく、狐耳まで真っ赤にしながら抱きしめていた小袋を手渡しする。

 

「これは?」

 

「プレゼント。十六夜様や、修也様や、飛鳥様や、耀様や、ジン君たちや、私達みんなで選びました」

 

黒ウサギはその言葉にウサ耳を逆立てて驚く。

 

こちら視線を向けてくると、十六夜達は別方向にそっぽを向く。

 

「ま、こんな面白い場所に招待してくれたからな」

 

「連盟も組んで、一つの節目が出来たわけだし」

 

「だから、全員で感謝を形にしようってことになったんだよ」

 

「いつもありがとう、黒ウサギ」

 

十六夜、飛鳥、俺、耀の順番で話、最後は用が笑顔で締めた。

 

「あ、ありがとう………ございます…………!大切にさせてもらいます…………!」

 

黒ウサギは涙を流して喜んだ。

 

「ほら、泣かないの。折角のお祝いなんだから」

 

「そうだぜ。今夜は最終日、飲んで食わないでどうするってんだよ!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!プレゼントの確認を」

 

「そんなのは後回しだ」

 

「行きましょう、黒ウサギ!」

 

慌てる黒ウサギを十六夜と飛鳥が黒ウサギの手を掴み、引っ張る形で広場に向かう。

 

その様子を俺と耀は笑って見送る。

 

「まったく落ち着きのない奴等だ」

 

「そうだね」

 

俺に賛同しながら耀も笑う。

 

「修也、私たちも行こう」

 

「…………耀。少し、話がある」

 

そう言って俺は耀の手を取って耀を連れ出す。

 

俺はある決心をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴が賑わう中、俺は耀を連れ出し、ある場所に向かった。

 

そこは、数日前、耀に告白された場所だ。

 

「……修也、ここって」

 

「ああ、そうだ」

 

耀が後ろから声を掛けて来る。

 

おそらく耀は何を言われるのか分かっているだろう。

 

俺は後ろを振り向き耀と真っ直ぐに向き合う。

 

「耀、あの後俺なりに考えた。俺にとって耀がどんな存在なのか」

 

耀は黙って俺の話を聞く。

 

「最初はさ、耀の事最初は、不思議な子だと思った。でも、その後結構ノリがよくて、そして、ちょっとしたことですぐ不機嫌になって、なんか子供っぽい所がある女の子。でも、いざというときは体を張ってまで敵に立ち向かう。とても強い意志を持った子だと思った。そんな耀だからかな」

 

そこで一拍置き耀の眼をしっかりと見る。

 

「俺は好きになった」

 

耀は目を見開き驚きの表情をしていた。

 

「本当は、あのときにはもう答えが出てたのかもしれない。でも、不安もあったし、何かの間違いと思って返事を先延ばしにした。でも、それ以上に俺は怖かったんだよ。耀の告白に答えて、恋人になったら十六夜たちとの中に亀裂入るかもとか、距離ができちまうんじゃないかって。そんな勝手な理由で俺はお前の気持も思いも踏みにじっていたんだよ。ごめんな」

 

頭を下げ、耀に謝る。

 

耀は慌てた様子で俺に何かを言おうとする。

 

耀の事だからフォローでもいれるんだろう。

 

でも、俺はそのフォローを遮るように声を上げる。

 

「俺は、もう逃げない!自分の気持に正直になってお前の想いに応える。耀、こんな頼りの無く、ヘタレな俺だけど、お前さえ良ければ、俺と付き合ってくれ」

 

「………ずるいよ。私の気持ち、知ってながら聞いて来る」

 

「ごめん」

 

耀は涙目になりながら、そして、嬉しそうに笑う。

 

「……私こそ、よろしくお願いします」

 

「ありがとな。それと、お待たせ」

 

「うん、待ったよ」

 

俺は耀を抱きしめる。

 

耀も俺の背中に手を回し、しっかりと抱きしめる。

 

そして、見つめ合い唇を交わす。

 

「大好きだよ、修也」

 

「ああ、俺も大好きだ、耀」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“アンダーウッド”最高貴賓室

 

白夜叉は、貴賓室でグリーに“ノーネーム”が要求した『“サウザンドアイズ”の同士、鷲獅子のグリーが翼を失った原因は“ノーネーム”にあり。故に、傷がいえるまで彼を預かりたい』という恩賞の内容を伝え、それを見送ると、その後、蛟劉に東の“階層支配者”代行の任を引き受けてもらい、一息ついていた。

 

そして、キセルで煙を吹かしながら、呟く。

 

「いつまでそこにおる。さっさと出てこんか」

 

「ありゃ、バレてた?」

 

屋根の一部が開き、そこから一人の青年が現れる。

 

「おんしの気配を感じるなんぞ容易いわ。なんせ、私の自慢のバカ息子じゃからの」

 

「自慢とバカ息子って矛盾してね?」

 

「ふん、五年前、自身の所属するコミュニティを離れ、それから音信不通。そんな奴、バカ息子で十分じゃ」

 

「まぁ、それは悪かったと思ってる。ところで、“アルカディア”の皆は元気か?」

 

「………おんし、本当に知らんのだな」

 

「え?」

 

「“アルカディア”は魔王に名と旗印が奪われ“ノーネーム”となった」

 

「な!?本当か!黒ウサギや他の皆は!?」

 

青年は先程とは打って変わって取り乱した。

 

「落ち着け。“ノーネーム”は人材がいなくなり、メンバーはジンと黒ウサギ以外戦闘に参加できない子供だけじゃった。しかし、今は新たな同士が四人おる。その四人のお陰でレティシアを奪還し、今や“ノーネーム”を知らん奴等はおらんほどじゃ。なんせ、打倒魔王を掲げるコミュニティなんじゃからの」

 

「………打倒摩王って。それ本気だとしたら余程の実力者かアホだぜ」

 

「なら、見に行くか?」

 

「え?」

 

「わけあって私は、表立った行動が制限されることになった。そのため、私が不在の間、蛟劉に代行を頼んだ。じゃが、いくら彼奴でも最初は苦労するじゃろ。そこで、おんしに蛟劉の補佐をして欲しい。仕事の時以外は好きにして構わん。“ノーネーム”に出入りしてもじゃ」

 

「…………分かった。いいだろ。引き受けてやるよ」

 

「そう言うと思った。それと、これはとっておきの情報じゃ」

 

「んだよ?」

 

白夜叉の勿体ぶりに青年は少しイラつき始める。

 

「新たな四人の同士の一人は、クルーエ=ドラクレアの息子じゃ」

 

クルーエの名を出した途端、青年の目つきは鋭くなった。

 

「あってみたいじゃろ?」

 

「………ああ、お陰でな」

 

そう言うと立ち上がり、窓の縁に足を掛ける。

 

「会ってくるか。黒ウサギと、新たな同士。そして、まだ見ぬ俺の弟にな」

 

「喧嘩せぬようにな」

 

「善処する」

 

青年は、漆黒の翼を広げ、部屋を飛び出した。

 

その様子を見送り、白夜叉は懐から色あせた一枚の写真を取り出す。

 

「………同じ血を引き継ぐ者同士が会うか。一体どうなるかの。クルーエ?」

 




オリキャラの登場と、修也と耀が恋人になりました。

今回、最後で少し出ましたが、次章はオリジナルになる予定です。

その前に、問題児乙の三巻の内容と、ある話を書こうと思います。

では、次回もお楽しみに


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第二弾コラボ 英雄志望者との再会

今回はコラボとなります。

私にとっては二回目のコラボとなります。

タイトルから分かる通り、クラッカーVさんの作品『英雄に憧れる問題児が来るそうですよ?』の要弥生くんとのコラボになります。

ゆっくりとお読みください。


今日、俺は自室に籠り、白牙槍の研磨をしている。

 

いつ敵が襲撃に来るかわからないんだ。

 

いつでも戦えるように武器のメンテをしとかないとな。

 

それに、今日は暇ですることがない。

 

白牙槍を研ぐのは、ちょうどいい暇潰しになる。

 

そう考え、再び白牙槍を砥石に当てようとすると

 

 

 

ズッド―――――ン!

 

 

 

巨大な音が響き、部屋を揺らす。

 

「何事だ?」

 

槍をギフトカードに仕舞い、部屋を出る。

 

館から出て、音の発信源を捉える。

 

そこでは、十六夜が誰かと戦っていた。

 

いや、戦っていると言うより…………

 

「オラァ!」

 

「うわぁ!」

 

一方的なリンチだな。

 

…………てか、今の声、どっかで聞いたような…………

 

「何処のどいつだが知らねぇが、とにかくぶっ潰す!」

 

「こっちの十六夜も好戦的すぎる!てか、なんで会って早々バトルなんだよ!」

 

うん、やっぱり聞いたことある声だ。

 

「修也君!一体何事!」

 

「修也……何があったの?」

 

耀と飛鳥も騒ぎを聞きつけて、やって来た。

 

「ああ~…………十六夜が敷地に侵入してきた侵入者とバトルしてる」

 

やって来た耀と飛鳥に状況を説明すると、二人は目つきを鋭くして、臨戦態勢になる。

 

「二人とも、待て」

 

今にもリンチに参加しそうな二人を制する。

 

「何?相手は私達の敷地に無断で侵入したのよ。なら、それ相応の対応をしてあげるべきよ」

 

「その侵入者なんだが、心当たりがある」

 

「「え?」」

 

「取り敢えず、二人はジンと黒ウサギを呼んできてくれ。ちょっとややこしい話になりそうだ」

 

俺の言葉に二人は疑問符を浮かべ首を傾げる。

 

俺はグリフォンの血を飲み、ギフトカードから出した白牙槍に風を纏わせる。

 

槍を振りかぶり、そして。

 

「喧嘩は………そこまでだ!」

 

風の槍を十六夜と侵入者にぶつける。

 

「うをっ!」

 

「へぶっ!」

 

十六夜は見事風の槍を躱すが、侵入者は風の槍を躱すも、風の槍の余波で吹っ飛ぶ。

 

「おい、修也!俺も巻き込むつもりか!」

 

「こうでもしないとお前は止まらないだろ」

 

十六夜にそう告げると、俺はうつ伏せで倒れてる侵入者に声を掛ける。

 

「よぉ、気分はどうだ?」

 

「手荒い歓迎だな」

 

「文句は十六夜まで頼む」

 

「十六夜に文句なんて言えるか」

 

「違いない」

 

そう言って俺達はくくっと笑う。

 

「まぁ、事情は後で聞くことにして、今は」

 

そこで言葉を切り、俺は手を差し出す。

 

すると、そいつは差し出された手を取る。

 

「久しぶりだな、弥生」

 

「久しぶり、修也」

 

そいつは、要弥生。

 

一度、異世界で出会った、俺の友達だった。

 




いかがでしたでしょうか?

次回は弥生くんとの再会を祝い、そして、バトル展開になる予定です。

弥生くんのキャラが壊れてないといいですが。

では、次回もお楽しみに。


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第二弾コラボ最終話 吸血鬼VS英雄志願者

今回で、クラッカーVさんとのコラボが終了となります。

クラッカーVさん、コラボ協力ありがとうございました。


「取り敢えず、紹介する。こいつは要弥生。別分岐の“ノーネーム”所属で、英雄志望の奴だ」

 

「要弥生だ。英雄目指して特訓中だ。よろしくな」

 

弥生を紹介すると、何故か、十六夜達は小声で話し始めた。

 

「どうした?」

 

「……弥生。お前、中二病か?」

 

十六夜の発言に時間が止まった。

 

「その中二病が何かは知らないけど、英雄目指してるとか子供っぽいわ。いい年なんだからそういうことは控えなさい」

 

「……むしろ、痛い」

 

「修也の代わりにアレが来てたらと思うと、ぞっとするぜ」

 

「そうね。私なら、顔合せるたびに罵詈雑言をあびせてるわ」

 

「修也が居ない………まったくもって信じられない」

 

「お前ら、止めろ!弥生が泣き出したぞ!」

 

体育座りをして、泣き出す弥生を慰め、なんとか元気を出させる。

 

「で、弥生。お前は何しにここに来たんだ?」

 

「ああ~それが良く分からないんだよ。いつも通り自室で寝て、目が覚めたら廃墟の中。十六夜達の悪戯かって思ったら、行き成り攻撃されるわで、こっちが此処に来た理由を聞きたい」

 

う~ん、俺達が五月雨のいる別分岐の“ノーネーム”に行った時とはまったく違うな。

 

これだと、明確な帰り方が分からない。

 

「取り敢えず、暫く弥生さんは“ノーネーム”の客分として迎え、帰りの目途がつくまで滞在してもらいます。皆さんも異存はないですね」

 

ジンの決定に従い、弥生を迎えることになった。

 

部屋はいくつか開いてるのだが、十六夜が監視した方がいいと言ったので俺の部屋で寝泊まりすることになった。

 

まぁ、そんな心配いらないんだが…………

 

「俺、とことん信じられてないな」

 

「まぁ、お前にとっては仲間でも彼奴らにとっては今日会ったばかりの人間だ。そうなっても仕方がないだろ」

 

部屋に置かれてる椅子とベッドに座り話し込む。

 

暫く話してると、扉がノックされた。

 

「ご主人様、お茶をお持ちしました」

 

「おう、入ってくれ」

 

入って来たのはメイド服に身を包んだフェルナだった。

 

「どうぞ」

 

フェルナは丁寧に俺と弥生の前にカップを置く。

 

紅茶のいい香りがする。

 

「あ、フェルナ。紹介しとく。こいつは要弥生。俺の異世界の友達だ」

 

「初めまして、弥生さん。私はフェルナです。ご主人様の眷属にして専属メイドです」

 

そう言ってフェルナは下がる。

 

「おい、修也。流石にロリをメイドにするのは問題があるぞ」

 

「よし、表に出ろ」

 

等と、二人でバカ騒ぎしたり、飲み明かしたり(弥生は未成年)などして、過ごした。

 

弥生が“ノーネーム”に滞在して一週間、十六夜達とも打ち解け合い、もう問題は無いだろうと思った。

 

で、今、俺は弥生と向かい合って、バトルをしている。

 

「ちょっと待て!どうしてこうなった!?」

 

弥生が慌てて制する。

 

「いや、十六夜が、俺とお前、どっちが強いか気になるから戦えってよ」

 

「なんてこしてくれてんの!?」

 

「ま、俺もお前と一度闘いたかったし………丁度いいよな!」

 

白牙槍を取り出し振り下ろす。

 

「どうしてこうなるかな!?」

 

『Stand up,"Music HERO"!!』

 

『Barrier music』

 

弥生はすぐにiPodを使い、ギフトを発動する。

 

俺の攻撃はバリアに阻まれ届かなかった。

 

だが

 

「しゃらくせぇ!」

 

今度は振り下ろさず、槍で突く。

 

全身全霊、力を込めた一撃によってバリアは破壊される。

 

「腕力でバリア壊すってどんだけだよ!?」

 

「取り敢えず、眠っとけ!」

 

槍を横薙ぎに振ろうと構える。

 

「行け!クラッカーヴォレイ!」

 

弥生がそう叫ぶと、何故かアメリカンクラッカーを投げてきた。

 

ふざけてるのか?

 

身体を捻り、回避する。

 

「弥生、今のはなんだ?ジョジョのジョセフの真似か?流石に戦い中にふざけられると俺もキレるぞぉ!?」

 

後頭部に何かか当たった。

 

当たった何かは弥生の手元に戻っていく。

 

あれは……さっきのアメリカンクラッカー!?

 

「真似じゃねぇぜ。このクラッカーヴォレイは本物だ」

 

「テメー、あの時といい、今回といい。ふざけた技や真似してくれるよな」

 

「あれ?………もしかして、まだあの時の事怒ってる?」({番外編}箱庭家族の穏やかで騒がしい毎日 ダジャトル・隼作 戦いの行方ー驚愕の正体参照)

 

「当たり前だ!だが、俺に一撃入れるなんてな。正直、驚いた。十六夜と五月雨以外、俺に一撃入れた人間はお前が初めてだぞ」

 

「お、それはいいね」

 

「だから、こっちも本気で行こう」

 

グリフォンの血が入った小瓶を飲み、グリフォンの力を宿す。

 

「くらえ!」

 

旋風を起こし、弥生にぶつける。

 

だが、

 

『iPod HERO!!Element album! Wind music!!』

 

俺が巻き起こした旋風は弥生に吸収された。

 

「な!?風を吸収しただと!?」

 

そう言えば、弥生のギフトって詳しくは知らないんだよな。

 

弥生の戦ってる様子は見てだが、どんなギフトかまでは見てない。

 

これは少し厄介だな。

 

「へぇ~、弥生の奴中々やるじゃねぇか」

 

「英雄を目指してるだけあってやるわね」

 

「修也、ファイト」

 

外野の三人が感想を言う。

 

てか、耀のは感想じゃなくて、応援だな。

 

「耀に応援されて……羨ましいじゃねぇか!」

 

「彼女が彼氏の心配するのは当然だろ!」

 

「はぁ!?お前、まだ付き合ってないはずだろ!?」

 

「いつの話かな!今じゃ、立派な恋人だ!」

 

「くそ!爆発しやがれリア充!」

 

「悔しけりゃ、お前も耀に告白してみろよ!玉砕覚悟でな!」

 

「振られるの前提かよ!」

 

一見ただ言い合ってるように見えるが、この時俺と弥生は必死の攻防をしていて。

 

俺は旋風を起こしたり、風の槍を放ったりし、弥生は風の吸収や風を操り攻撃してくる。

 

俺は今度は麒麟の血を飲み、雷撃を纏って攻撃をする。

 

『iPod HERO!!Element album! Thunder music!!』

 

しかし、先程同様、雷も吸収された。

 

「さっきから攻撃を吸収しやがって!」

 

「これが俺のギフトだからな」

 

攻撃を吸収するギフトか………

 

考えると厄介だな。

 

くそ!

 

「なら、こいつはどうだ!」

 

今度は槍に風と雷を纏わせ、放つ。

 

例えるなら、血の風雷槍(ブラッティ・エアロサンダースピア)か。

 

風の刃を纏った雷の槍が弥生に向かう。

 

「まずっ!?」

 

『Barrier music』

 

弥生は、バリアを展開し、それを五重に張る。

 

槍がバリアを突き破る前に、弥生は『Sonic music』とか言うのを発動させ、攻撃を躱す。

 

吸収せずに回避した?

 

まさか………

 

「なるほど。攻撃を吸収するってのは厄介だが、吸収できるのは一つの属性までだな」

 

「うへぇ~、バレちったか。まぁ、どうせバレると思ってたけどね」

 

「どうする?降参か?それとも、まだ戦うか?」

 

「英雄がそう簡単に諦めるかよ!諦めたら、そこで試合終了だ!」

 

『Reload,Blue dragon』

 

弥生はiPodから青い剣を取り出す。

 

『Element album!Freeze music』

 

青い剣に氷を纏わせ斬り掛かってくる。

 

無論、槍で迎え撃とうとすると、弥生は行き成り剣を地面に突き刺した。

 

『Blizzard!』

 

すると、俺の周りを氷が囲ってきた。

 

俺を捕獲するためのものか?

 

なら、どうして、俺の正面を開けとく・

 

槍を使い、破壊しようとするが、クラッカーヴォレイが飛んできて俺の槍に絡みつく。

 

さらに、もう一つのクラッカーヴォレイも俺の足に絡みつき、俺の機動力を奪う。

 

『Element album! Thunder music Lighting』

 

今度は雷を纏い、剣を振る。

 

すると、大量の雷が放出され、俺に襲い掛かる。

 

そうか、この氷の囲いは俺を捉えるものじゃない。

 

雷の威力を殺さないためのものか。

 

氷の内側に大量の雷撃が入り、四方に散らずに、内側で爆発的に暴れる。

 

「焔の大佐がやってたことを参考にしたぜ!いくら吸血鬼でもこれなら」

 

「倒せたと思ったか?」

 

氷の壁を派手に破壊し、砂煙から姿を現す。

 

「まじで?」

 

「やるじゃんかよ。弥生、咄嗟に血の壁を作らなかったら、負けてたかもな」

 

それでも、わずかに間に合わず、左手がやられたが…………

 

「ただのギフトを持つだけの人間が、吸血鬼の俺にこれだけの手傷を負わせる。やっぱ、お前凄い。それに、囲いを作って威力を逃がさないように工夫。柔軟性も高い」

 

「柔軟性ってか、あれ、漫画のネタみたいなものだぞ?」

 

「元が漫画でも、それをうまく活用するのは本人だ」

 

槍を手の中で一回転させる。

 

「じゃあ、そろそろ終わりにしようぜ」

 

「はぁ~、もう体がギスギスなんだけどなぁ~。あえて言わせてもらおう。不幸だ」

 

『Reload,Red dragon』

 

今度は赤い槌を取り出し、構える。

 

「行くぞ!」

 

「行くぜ!」

 

同時に走り出し、槍と槌がぶつかる。

 

吸血鬼と人間ではもとのスペックの差があるため、弥生が押され気味だ。

 

だが、それを考えても、弥生の身体能力は高い。

 

槍に血で真っ赤に染め、叫ぶ。

 

「我が血よ。我が名のもとに従え。その血に流れる力を槍に纏わせよ」

 

『Element album!Burn music Explosion』

 

「これで、決めさせてもらうぞ!」

 

「それはこっちのセリフだ!まずその舌の根から焼き尽くしてやる!」

 

血の力を宿した槍の一撃に、弥生は真っ向から立ち向かい槌を振り下ろす。

 

その瞬間、爆発が起き、辺り一帯に熱風が吹く。

 

しまった!

 

今の衝撃で聴覚がいかれやがった!

 

おまけに、煙で視界も封じられた。

 

「そこだ!」

 

弥生は俺の背後から現れ、槌を横薙ぎに振る。

 

そして、槌は俺の脇腹に当たる。

 

「がはっ!」

 

その一撃に、俺はその場に倒れる。

 

「まだ終わらねぇぞ!歯を食いしばれよ、最強。俺の最弱は、ちっとばっか響くぞ」

 

止めと言わんばかりの一撃が俺の頭に落ちる。

 

おっして、俺は動かなくなる。

 

「ふう、まぁ、吸血鬼だし、あれで死なないよな」

 

まさか、俺が倒れるとはな。

 

だが、まだ甘い。

 

「なんとか勝てたし、この勝負は俺の勝ちってことで」

 

「誰の勝ちだって?」

 

「………え!?」

 

弥生が首を百八十度程回転させる。

 

「兵は詭道なり。だまし討ちも立派な戦略なのだよ。 英雄の」

 

弥生の真似をして、某大佐の名言を口にする。

 

取り敢えず、弥生の顔面に裏拳を当てて、俺の逆転勝ちになった。

 

「くそっ。まさか、やられたフリだったなんて………」

 

「吸血鬼が頭を殴られたぐらいで、気絶するかよ」

 

倒れてる弥生を起こし、笑い合う。

 

「あの修也に、あれだけ奮戦するとはな。正直、驚いたぜ」

 

「伊達に英雄を目指してないわね」

 

「うん、凄かった」

 

十六夜達は口々に弥生を褒める。

 

弥生は照れくさそうに笑い、頭を掻く。

 

あれ?

 

「弥生、お前、手が消えてるぞ」

 

弥生の手が消えていた。

 

いや、消えてると言うより全体的に薄くなり始めてる。

 

「まさか………帰れるのか?」

 

「………多分」

 

弥生は自信なさそうに言う。

 

「そうか………弥生、一週間楽しかったぜ」

 

「……ああ、俺も久しぶりに修也と会えて楽しかったぜ」

 

「運が良ければまた会おう」

 

「おお!俺は運がいいしな。必ず会おうぜ」

 

そう言って、弥生は消えかかっている腕を上げる。

 

俺も腕を上げ、そして

 

「「じゃあな、英雄!」」

 

手を叩きあった。

 

既に消えている右手だったが、確かに、俺は弥生の手と触れ合った感覚があった。

 

「帰っちまったんだな」

 

「もう少し仲良くしたかったわね」

 

「ちょっと残念かな」

 

「なーに、大丈夫さ。どうせ、また会える」

 

そう言って、俺は空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、一週間ぶりの“ノーネーム”か。皆は元気か気になるな」

 

「そうか。俺は、お前が一週間も行方を眩ましてたことが気になるぜ」

 

「そうね。一体何処で何をしていたのか。はっきり言ってもらおうかしら」

 

「弥生、覚悟はいいね?」

 

「……………は、ははっ…………不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弥生、お前は強くなった。

 

だが、この先、もっと強敵が現れる。

 

そのためにも、お前は今以上に強くならないといけない。

 

だから、経験を詰め。

 

強くなれ。

 

そして…………お前が目指す英雄になれ。

 

今回の一件は、お前への試練と思え。




戦闘シーン…………大丈夫だったかな?

弥生らしい戦いになっていたか心配です。

では、次回からオリジナルストーリーになると思います。


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特別編  吸血姫の恋

今回は100話記念と言うことで、一つ特別篇と言うことで作りました。

この話は本編とはまったく関係ないIFストーリーとなります。

お題は『もし、レティシアがヒロインだったら』です。


「……………」

 

「ちょっと、レティシア。大丈夫?」

 

「うん?……ああ、大丈夫だ」

 

「そうは言うが、先程から同じ皿を三十分も拭いておられるぞ」

 

「……ああ、そうだったか」

 

どこか上の空でレティシアは吹き続けてピカピカとなった皿を置き、別の皿を取る。

 

既に拭き終った皿を。

 

「レティシア、それも拭き終ってる」

 

「……ああ、そうだったか」

 

やはり上の空で仕事を始めるレティシアだった。

 

その様子がいつもと違うことにペストと白雪姫は気が付いていた。

 

いや、正確には随分前から様子は違っていた。

 

一週間ほど前からレティシアの様子はおかしかった。

 

料理をすれば塩と砂糖を間違えるから始まり、ウーロン茶とめんつゆを間違えて出す。

 

その結果、飲んだ十六夜は盛大に吹き出していた。

 

掃除をすれば、花瓶やら窓やらを割り、洗濯をすれば洗ってはいけないものまで洗う。

 

いや、最近のレティシアは様子がおかしいと言うより、むしろポンコツになっている。

 

これ以上メイド業務に支障が出るのは困るのでペストはある行動に出た。

 

「というわけだから、アンタ達にそれとなくレティシアから事情を聞き出してほしいの」

 

ペストは“ノーネーム”の主力である十六夜、飛鳥、耀、修也、そして、昔からの馴染みである黒ウサギ、ジンに頼むことにした。

 

「流石にこれ以上メイド長がポンコツになり過ぎるとコミュニティ全体に影響が出かねないわ。かと言って、私達が聞くとメイド長の威厳もあるから、聞いても教えてくれない可能性がある。だから、貴方たちに聞いて欲しいの」

 

黒ウサギとジンはレティシアの行動がおかしいのは気づいていたので快く承諾してくれた。

 

問題児たちも、レティシアの行動に気が付いていたし、ペストの言い分は一理あると思い承諾した。

 

そして、承諾すると同時に、メイドとしての貫録が染みついてるなっとも思った。

 

 

 

 

 

一番手 ジン=ラッセル

 

「レティシアさん」

 

ジンは廊下をモップで掃除してるレティシアに声を掛ける。

 

「ん?ああ、ジンか。どうした?」

 

「最近仕事でミスが多いとペストから聞いたんです」

 

「そうか。それはすまなかった。以後気を付ける」

 

「いえ、それはいいですよ。ただ、お疲れなら仕事の方を休んでもいいですよ。一日ぐらいならペストと白雪姫の二人でなんとかなりますし、それに、黒ウサギや僕もできるだけの事はしますから」

 

「そうか。だが、心配はいらない。私は大丈夫だ」

 

そう言ってレティシアはバケツを持ち上げ、移動をする。

 

その際、何もない所でつまずき、バケツを引っくり返し、雑巾で廊下を拭いていた。

 

一番手 ジン=ラッセル 敗北

 

 

 

二番手 黒ウサギ

 

黒ウサギは厨房で料理をしているレティシアに声を掛けた。

 

「レティシア様」

 

「黒ウサギ。待っていてくれ。もう少しで味噌汁が完成する。そしてら、昼食だ」

 

「あの、それはいいのですが……お体の方はよろしいですか?」

 

「そうか、ジンだけでなく黒ウサギにまで心配を掛けていたか。ジンにも言ったが、私は大丈夫だ。心配をかけてすまなかった」

 

「………レティシア様。そのお鍋、ワカメと豆腐以外入ってませんよ」

 

「あ……味噌と出汁を忘れていた」

 

二番手 黒ウサギ 敗北

 

 

 

三番手 飛鳥&耀

 

飛鳥と耀の二人は休憩中のレティシアに話し掛けた。

 

レティシアは椅子に座り本を読んでいた。

 

本を逆さまにした状態で。

 

本も、読んでいると言うより、ページだけをただ捲っているだけだ。

 

「レティシア、ちょっといいかしら?」

 

「ここ、座るね」

 

「飛鳥、それに耀。………今日は、よく話掛けられるな。二人も私の心配か?」

 

「ええ、早い話そうね」

 

「なにか悩みあるなら相談のるよ?」

 

「こんなに心配されて私も幸せ者だな。だが、私は大丈夫だ。心配してくれてありがとう」

 

本を閉じレティシアは立ち上がる。

 

「折角だ、お茶とお茶請けのお菓子でも持ってこよう」

 

そう言って持ってきたケーキと紅茶を途中で転んだことで、盛大にぶちまけていた。

 

ケーキは耀が空中でキャッチもとい食べたが、紅茶は偶然通りかかっていた黒ウサギの頭にかかった。

 

三番手 飛鳥&耀 敗北

 

 

 

四番手 十六夜

 

「修也、行って来い」

 

「は?次はお前の番だろ?」

 

「俺よりお前の方が適任だ。なんせ、従弟だからな」

 

「いや、そうだが」

 

「他人には話せない事でも身内になら話せることもあるはずだ。ほら、行ってこい」

 

十六夜に背中を押される形で修也はレティシアの下へ向かう。

 

その時、修也は気づかなかった。

 

十六夜の顔がこれまでにないぐらいに笑っていたことを。

 

 

 

四番手 修也に変更

 

レティシアは昼食に使った皿を洗い、拭いてる最中だった。

 

それを気にせず修也はレティシアの背後から声を掛ける。

 

「レティシア」

 

バリンッ!!

 

すると、レティシアは声に驚いたのか、皿を握り潰し砕いた。

 

「しゅ、修也!?」

 

レティシアは後ろを振り向き、驚く。

 

「お、おいおい、皿割れちまったぞ」

 

「あ、ああ、お前の声に驚いてな」

 

「そうか、悪かった。行き成り背後から声掛けたりして」

 

「い、いや、気にするな」

 

そう言ってレティシアはそっぽを向く。

 

その時、修也はレティシアの顔が赤くなっていることに気付いた。

 

「レティシア、顔赤いぞ、熱でもあるのか?」

 

レティシアに近づき、修也は手をおでこに当たる。

 

「ひうっ!?」

 

「熱いな。やっぱり熱があるんじゃないか」

 

そう言う修也を余所にレティシアの顔はどんどん赤くなる。

 

「あれ?なんか、さっきより熱い気が……」

 

「さ、触るな!!」

 

レティシアは行き成り足を振り上げ、修也の股に当たる。

 

「ぐほっ!?」

 

修也は股を抑え、蹲る。

 

口から泡を吹き出し、白目を剥きながら。

 

「修也の………バカァァァァァァァ!!」

 

レティシアはその場から全力疾走で走り離脱した。

 

 

 

 

修也の下から全力で逃げ出したレティシアはというと、自室の隅っこで体育座りをし、自分の仕出かしたことを後悔している。

 

そんな情けないメイド長を見ながらペストは溜息を吐く。

 

「まったく、自分を心配してくれる従弟に向かって股蹴りするとか何考えてるのよ?」

 

「ふ、ふふふ……私は……もう、自分で何がしたいのかすら分からない。もう、全てが嫌になった。こんなメイド長でごめんなさい。これからは箱庭の騎士(笑)とでも呼んでくれ。ああ…………貝になりたい」

 

とうとう自虐し始めるレティシアにペストは再び溜息を吐く。

 

「いくら好きになったからって、動揺し過ぎでしょう」

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

「大声出さないでよ。うるさいわ」

 

「お、おま、な、何言ってんだ!?」

 

若干キャラが崩壊気味になりながらペストの肩を掴みがっくんがっくんと揺らすレティシアだった。

 

「ちょ、ちょっと!落ち着きなさいよ!」

 

「なんで私が修也の事を好きにならないといけないんだ!?」

 

「は?好きだから、あんなに動揺してるんでしょ?」

 

「違う!」

 

そう言うレティシアだったが、顔だけでなく耳、首まで真っ赤にしており、説得力が無かった。

「大体、何故修也が好きになる!?私達は従姉弟だぞ!?それに、私から見れば修也はまだ子供だ!それに年齢もかなり離れている!血縁関係の事もそうだが、色々問題あるだろ!そりゃ、修也は叔父上に似てカッコいいし、イケメンだ!モテるだろう!それに、私の初恋の相手は叔父上だからな!そして、親の七光りなどにも頼らず、さらに、英雄の息子であること理由に威張ったり、他人を見下したりもしない!頭の回転も良いし、知識もある!力も強いが、何より心がとくに強い!“ペルセウス”の時だって、ガルドとのギフトゲームで怪我をし、病み上がりでありながら私を助けるために立ち上がってくれた!本当にいい男だ!従姉弟でなければ、思いっきりアプローチしたさ!」

 

「…………ふ~ん。要するに、好きなんじゃない」

 

「違うもん!」

 

若干どころか完全にキャラが壊れ出したレティシアだった。

 

「……分かったわ。貴方はあの男が好きじゃない」

 

「そうだ!」

 

「じゃあ、私がアプローチしてもいいわよね?」

 

「え?」

 

ペストの発言にレティシアは固まる。

 

「アイツ、結構いい男だし、それに、英雄の息子って箔もいいわ。私の伴侶にしてもいいかも」

 

レティシアに顔を向けずに、ペストは明後日の方を見ながら言う。

 

レティシアはというと、動揺が見え隠れしながら体を震わせる。

 

「決めたわ。さっそくアプローチしてくる」

 

「だ、ダメだ!」

 

レティシアは声を上げ、ペストの服の袖を掴む。

 

「どうして?貴女はアイツが好きじゃない。なら、どうしようか私の勝手じゃない」

 

「そ、それは……私が……アイツの従姉だから」

 

「だから?貴女が従姉だからって、アイツの恋愛事情には関係ないでしょ」

 

レティシアの手を振り払い、部屋を出て行こう扉に手を掛ける。

 

「ああ、その通りだ!」

 

すると、レティシアは大声を上げて、ペストの動きを止める。

 

「私は修也が好きだ!好きになった!従姉弟だとか、血縁だとか、年齢だとか関係ない!私は、修也の事が大好きだ!」

 

レティシアは顔を今までにないぐらいに真っ赤にして、腕を組み、胸を張って言った。

 

その行動にペストは唖然とした。

 

レティシアはというと、言ってやったぞっと言いたげな表情をしている。

 

「………はぁ~、最初からそう素直になりなさいよ」

 

そう言ってペストはドアノブを回し、勢いよく扉を開ける。

 

そこには、聞き耳を立てていたらしい修也が居た。

 

まさかいるとは思っていなかったレティシアは表情を固まらせていた。

 

「はい、後は本人同士で話し合いなさい」

 

軽く修也の背中を叩きペストは廊下を歩き、その場を離れる。

 

「「………………」」

 

互いに一言も話さず、沈黙だけが流れる。

 

「しゅ……修也」

 

「お……おう」

 

先に沈黙を破ったのはレティシアだった。

 

「さ……さっきのことだが………私は本気だ。私は、お前が好きだ」

 

レティシアは俯き、話す。

 

「………お前の返事を聞かせてほしい」

 

レティシアは顔を上げ、羞恥と緊張、不安と言った表情で修也を見つめる。

 

「………お、俺は」

 

修也は頬を赤く染めながらも言葉を続ける。

 

そして、その答えは………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~十年後~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「ふぅ。今日の仕事はこれで終わりだな」

 

レティシアはいつもの業務を終わらせ一息つく。

 

すると、背後から二つの足音が聞こえる。

 

「母様―――――!」

 

「母上―――――!」

 

一人は銀髪にレティシアと同じぐらいの長髪の女の子。

 

もう一人は金髪の男の子だ。

 

「詩音、零夜」

 

「ただいま、母様!」

 

詩音と呼ばれた女の子は勢いよくレティシアに抱き付くと、元気いっぱいの笑顔を浮かべる。

 

「母上、只今帰りました」

 

零夜と呼ばれた男の子は息を切らしながらも、礼儀正しく言う。

 

「ああ、おかえり。疲れただろ。手を洗っておやつにしよう」

 

「「はーい!」」

 

二人は元気に返事をして走りながら館へと向かう。

 

そんな我が子を見ながらレティシアは微笑を浮かべた。

 

その時、レティシアの背後に誰かが立っていた。

 

身長は十年前より伸び、大人としての風格が出ており、何処かとある吸血鬼の神と呼ばれた男と同じ雰囲気を纏っていた。

 

その男の姿を見るとレティシアは先程より一層喜びの表情を浮かべる。

 

男もそんなレティシアの笑顔を見て、無意識のうちに笑みを浮かべる。

 

「ただいま、レティシア」

 

「おかえり、修也」

 

二人は人目も憚らず抱き合う。

 

そして、どちらからともなく唇を重ねた。

 




これを書いてる間、レティシアがヒロインでもよかったのではっと思いました。

この物語が終わったら、書いてみようかな…………

では、次回からオリジナルストーリーの続きを書きます。

次回はプロローグ③です。


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番外編 シンデレラ

オリジナルストーリーの息抜きに


むかしむかし、あるところに女の子が住んでいました。

 

女の子は大きなお屋敷で、両親に大切に育てられていました。

 

しかしある時、母親を亡くしました。

 

その後、父親は再婚し、新しい母親と2人の姉と暮らす事になりましたが、程なくして父親も亡くなってしまいました。

 

絵に書いたような不幸ぶりです。

 

以来、意地悪な継母と継姉逹に財産を奪われ、いびられながら暮らす事となってしまった可哀想な女の子は、いつしか、灰かぶり、シンデレラと呼ばれるようになりました。

 

 

 

 

 

 

ある日、シンデレラが住む国の王が、城で舞踏会を催しました。。

 

しかし舞踏会と言うのは建前で、本当は王の妃を見つけるためのイベントだったのです。

 

王は16歳という若さで国の王となり、最初の頃、その若さ故、民から不安に思われていましたが、善政を行い、他国の侵略を許さず、他国を侵略せずを貫き、すぐに民から慕われる王となりました。

 

そんな王の妃になれるチャンスを逃すまいと、継母は義姉達を連れてお城の舞踏会へと向かいましたが、シンデレラは家に留守番させていました。

 

シンデレラは自分一人しかいない家を見渡し、溜息を尽きました。

 

シンデレラは別に舞踏会に行きたいわけでも、王子の花嫁になりたいとも思ってませんでした。

 

ですが、王の姿を一目見て見たいと思っていました。

 

シンデレラは前王を慕っており、その前王の息子である現王がどのような姿をしているのかどうしても見たかったのです。

 

ですが、舞踏会に行くにもシンデレラが持っている服はメイド服のみ。

 

流石にメイド服で舞踏会に行く女性はいないだろうっとシンデレラは自虐気味に笑います。

 

「………だが、見て見たいな。クルーエ王の息子、シュウヤ王のお姿」

 

「なら、舞踏会に行かせてあげるわ」

 

「誰だ!?」

 

行き成り聞こえた声に、シンデレラは驚き、壁に立てかけてある槍に手を伸ばす。

 

「安心しなさい。私は魔法使いよ」

 

「魔法使いだと?」

 

「シンデレラ、貴女は毎日、継母や義姉達のいびりに屈せず、文句も泣き言も言わずに日々を過ごしてるわ。だけど、そのために貴女は自身の人生を無駄にしてるわ。私は、あんな連中の為に貴女の人生が浪費されるのが我慢ならないの。そこで、今夜、一晩だけだけど、貴女を御姫様にしてあげるわ」

 

そう言うと魔法使いはシンデレラの返事も聞かずに、魔法をシンデレラに掛ける。

 

メイド服は黒を基調としたドレスになり、髪も丁寧にセットされていた。

 

「次は、馬車と馬ね」

 

そして、今度は机の上のカボチャを投げ飛ばし魔法を掛け、馬車に変え、近くに居た鼠を馬へと変えた。

 

「さぁ、これで準備は整ったわ。さぁ、舞踏会に行きなさい」

 

「いや、私は行くとは一言も」

 

「良いから乗りなさい」

 

魔法使いはシンデレラを脇に抱え、馬車の中に放り込むように投げる。

 

「十二時には魔法が解けるからそれまでに帰って来なさいよ」

 

魔法使いの言葉を聞き、シンデレラは御城へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュウヤ王のご登場です!」

 

その声と共に、シュウヤ王は姿を現す。

 

金髪のイケメン。

 

その姿に、舞踏会に来た女性たちは黄色い歓声を上げる。

 

そして、我こそはと言う勢いで王に近づき、自身をアピールし始める。

 

そんな中、シンデレラはその様子を静かに見ていた。

 

暫くすると、舞踏会を後にし、城の庭へと出る。

 

星空を眺め、昔、父と母に連れられて星空を見に行ったことを思い出していると、横から声を掛けられた。

 

「王に会われないのですか?」

 

横を振り向くと、そこには銀髪に銀目の青年がそこにはいた。

 

身なりからして、城で働いてる者だとシンデレラは推測した。

 

「いえ、私は今の王の姿を一目見たかっただけなので」

 

「変わっておられますね」

 

「私は、前王をお慕いしていました。その前王の跡継ぎであられる現王がどのようなお姿なのか、気になっただけです」

 

「どうでしたか?王の姿は?」

 

「そうですね。正直におっしゃいますと、現王が行ってる善政からはあの容姿は想像できませんでした」

 

シンデレラは素直にそう言うと、青年はくすくすと笑っていた。

 

「正直な方ですね」

 

そう言う青年に、シンデレラはあることに気付いた。

 

「敬語苦手ですね」

 

「分かりましたか?」

 

「はい。私に、敬語なんか使わなくてもよいですよ」

 

「なら、アンタも敬語はよしてくれ」

 

「……ああ」

 

シンデレラと青年は敬語を止め、とりとめのない話を始めた。

 

シンデレラは城下街での出来事を、青年は城での出来事を。

 

二人は時間を忘れ、ずっと語り続けた。

 

その時、城の時計が十二時を告げる鐘を鳴らした。

 

シンデレラは魔法使いに言われたことを思い出し、慌ててその場を離れようとする。

 

「おい、何処に行くんだ?」

 

「すまない!もう帰らないといけないんだ!」

 

名残惜しかったが、青年にメイド服姿の自分を見せたくはない。

 

そう思い、シンデレラはその場を離れる。

 

「待ってくれ!アンタの名前は?」

 

シンデレラは、一瞬立ち止まり、そして振り返る。

 

もう長いこと呼ばれていない、自身の本当の名前を。

 

「レティシアだ!またいつか会おう!」

 

そう言い残し、シンデレラもといレティシアは今度こそ、城を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞踏会から数日が経ったある日。

 

レティシアは、あの日の夜に出会った銀髪の青年の事が忘れられなかった。

 

またいつか会おう。

 

そう約束したが、多分あの約束が果たされることは無いと思っていた。

 

だが、それでももう一度彼に会いたい。

 

レティシアはそう思ってた。

 

その日、レティシアは継母に言われ城下街で買い物をしていた。

 

籠の中に買ったものを詰めてもらっていると、店員がレティシアに話しかけた。

 

「そう言えば、知ってますか?王がこの前の舞踏会である女性に一目惚れなさったそうですよ」

 

「ほう。まぁ、王が決めたお方ならお妃としては大丈夫だろう」

 

「ですが、その女性が何処にいるのか分からないそうなんですよね」

 

「せめて、家の場所を聞くべきだったね。王は」

 

「実は特徴を聞いてるんですが、その特徴に貴女が一致してるんです。貴女、先日の舞踏会に出席しましたか?」

 

レティシアはそのはずはないと心で思った。

 

確かに舞踏会に行ったが、王とは会っていない。

 

会ったのは、一人の青年だけだった。

 

「いや、残念だが私は行ってないよ」

 

そう言って、レティシアは籠を受け取り、家へと帰った。

 

「ちょっと良いか?」

 

「オーナー、どうかしましたか?」

 

店の奥からオーナーである女性が現れ、店員に話しかける。

 

「その王が一目惚れした女とはどのような奴じゃ?」

 

「えっと、金髪の長髪でリボンを付けて、背が小さく、レティシアという名前だそうです」

 

「…………それレティシア本人ではないか?」

 

「そうですよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レティシアが買い物から帰ると、扉がノックされた。

 

レティシアは、扉の前に移動し、扉を開ける。

 

すると、そこには城の衛兵たちがいた。

 

「この家にレティシアという名の女性が居ると聞いたのだが、おるか?」

 

「……私がそうですが」

 

衛兵の質問にそう返すと、衛兵たちは喜びの声を上げた。

 

「レティシア殿。お迎えにあがりました」

 

「はい?」

 

「貴女様を、シュウヤ王のお妃さまとしてお迎えにあがりました」

 

衛兵が何を言ってるのがレティシアには理解できなかった。

 

あの夜、舞踏会には確かに行った。

 

だが、シュウヤ王とは会話もせず、ただ遠目にレティシアが見ただけだった。

 

「あの……何かの間違いではないでしょうか?私は舞踏会には出席しておりません」

 

「そいつは嘘だな」

 

そう言って衛兵の間を掻き分けてきたのは、先日見たシュウヤ王だった。

 

「シュ………シュウヤ王」

 

レティシアは王が目の前に居ることに驚き、唇を震わせながらそう言った。

 

「悪いが、俺は王じゃねぇ」

 

その言葉にレティシアは、頭に?を浮かべる。

 

そして、よく見ると、彼の服装は先日見た王の服装ではなく、周りの衛兵たちと同じ造りの制服に腰には剣を帯びていた。

 

「そいつはイザヨイ。俺の護衛をやってくれてる親友だ」

 

そう言ってイザヨイの背後から、あの日の夜に出会った銀髪の青年が現れた。

 

「よぉ、レティシア。俺がシュウヤだ」

 

シュウヤが言うには、あの日、シュウヤは王としてではなく一人の男として自身の伴侶となる女性を探していた。

 

だが、舞踏会自体、大臣たちが無理矢理企画したもので、シュウヤ自身はあまり乗り気ではなかった。

 

むしろ、こんなことに税金を使うべきではないと考えていた。

 

会場をふらつき、替え玉にしたイザヨイにアピールしまくる女共に呆れていた。

 

そこで、外で休憩しようとした時、レティシアと出会った。

 

自分を飾らず、ありのままの姿で接し、王ではない自分を見てくれた。

 

そんなレティシアにシュウヤは心を惹かれたのだった。

 

「レティシア。俺の伴侶として生涯隣に居てくれないか?」

 

膝を降り、シュウヤは手を差し出す。

 

「…………はい」

 

レティシアはその手を取り、シュウヤの申し出を受け入れた。

 

こうして、レティシアはシュウヤの妃となり、共に国を治めて行きました。

 

めでたし、めでたし。

 



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オリジナルストーリー
プロローグ


今回からオリジナルストーリーとなります。

タイトルは未定です。


ん?誰かが隣に居る……

 

確か、昨日は風呂に入った後、すぐに寝た。

 

その時、ベッドの中には何もいなかった。

 

となると………

 

眠気に耐えながら、布団をめくる。

 

すると、そこには、耀がいた。

 

気持ちよさそうに目を閉じて、俺の左腕にしがみついて眠っている。

 

耀を起こさないようにそっと腕を外し、ベッドから起きる。

 

軽く伸びをし、手早く着替えを済ませる。

 

「………人の寝姿を観察するのは悪趣味だと思うぞ」

 

「へぇ~、俺の気配に気づいてたか」

 

背後に向かって声を掛けると、返事が返って来た。

 

そこには、黒い着物の上から白い袖の無い羽織を着た青年が居た。

 

歳は俺と変わらないぐらいか?

 

「自己紹介がまだだったな」

 

青年は、軽く頭を下げ、口を開く。

 

「黒鬼(こくき)だ。よろしくな」

 

「そうか。俺は、月三波・クルーエ・修也。修也でいい」

 

「そうか。……それにしてもいい天気だ。外に出ようぜ」

 

二人っきりになりたがってる。

 

「いいだろ」

 

部屋を出ると辺りは静まり返ってる。

 

まだ誰も起きてないようだ。

 

人気のない廊下を渡り、館から出る。

 

丁度朝日が昇った所だ。

 

「で、外に呼び出してどうしたいんだ?」

 

「決まってるだろ。あの箱庭の英雄の血を引く息子の力を見たいんだよ」

 

そう言うと、刀が俺の首のあった位置を一閃した。

 

俺は咄嗟に身をかがめたので首から下がお別れになることは無かった。

 

「ほぉ、躱したか」

 

「喧嘩ならいくらでも買ってやるよ。その前に、“契約書類”を用意しろ。喧嘩はそれからだ」

 

「いいだろ。すぐに用意しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名:日の出の決闘

 

プレイヤー名:月三波・クルーエ・修也

       黒鬼

 

勝利条件:相手に敗北を認めさせる又は、相手を戦闘不能にする

 

失格条件:相手の殺害

 

宣誓 上記のルールにのっとり、“月三波・クルーエ・修也”“黒鬼”の両名はギフトゲームを行います。』

 

「これでいいだろ。じゃあ、始めようぜ」

 

黒鬼は刀を抜き、構える。

 

「さっさと終わらせよう。後一時間もすれば朝飯だ」

 

俺も白牙槍を構え、間合いを測る。

 

互いに腹の内を探り合い、タイミングを計る。

 

そして、俺と黒鬼の間を風が通り抜け、砂を巻き上げる。

 

その瞬間、俺の槍と黒鬼の刀が交差した。

 

暫く、互いの武器をぶつけ合い、距離を取る。

 

黒鬼が、刀を地面すれすれに移動させ、斬り上げる。

 

槍を振り下ろし、刀を受け止める。

 

そのまま刀を弾き、槍を横薙ぎに振る。

 

黒鬼は、素早く刀を引き戻し、防御する。

 

拳を握り、黒鬼の顔を目掛けて殴る。

 

黒鬼は、口をすぼめて何かを吹きだす。

 

すると、俺の右目の下に痛みを感じ、俺は動きを止める。

 

その間に、黒鬼は、足払いをして俺を転ばす。

 

そのまま、刀を俺の心臓目掛けて振り下ろしてくるが、左手を突き出す。

 

左手は刀によって貫かれたが、わずかに時間が作れた。

 

脚を振り上げ、黒鬼の後頭部に蹴りを叩き込む。

 

その隙に、距離を取って、痛みを感じた場所に手を当てる。

 

触ると何かが突き刺さっていて、抜いてみると細長い針だった。

 

なるほど、仕込み針か。

 

針を投げ捨て、血の入った小瓶を取り出し、飲む。

 

左手から滴る血を撒き散らし、唱える。

 

「我が血よ。我が名を持って命ずる。敵を捕らえる拘束具となれ!」

 

血は動き出し、一斉に、黒鬼に向かう。

 

両手と両足に、血が絡みつき、黒鬼の動きを封じる。

 

「これで終わりだ」

 

殺しはルール違反、てか、殺しOKでも殺す気はない。

 

だから、拳を握り、全速力でつっ込む。

 

そして、拳が黒鬼の身体に触れた瞬間

 

「!?アツッ!!」

 

思わず手を引っ込めてしまった。

 

右手を見ると、手が赤く火傷していた。

 

「残念だったな」

 

黒鬼がそう言うと、拘束具となった血が次第に溶け出し、蒸発した。

 

「俺のギフト“紅炎操作(プロミネンス・コントロール)” 。俺は紅炎を自由自在に操り、そして生み出すことかできる。そして、紅炎をこのように纏うこともできる」

 

そう言うと、刀に紅い炎が纏わりつく。

 

そこそこ距離はあるのに、熱さがこっちにまで伝わってくる。

 

「さぁ、これで終わりにしよう」

 

「いや、終わらせねぇよ」

 

槍を血で赤く染め、血の力を槍に纏わせる。

 

「“紅刀斬撃波”!!」

 

「“血の白牙槍(ブラッディ・スピア)”!!」

 

紅炎と血の力がぶつかり合い、衝撃波を生み出す。

 

衝撃波により、地面が抉れ、木々が薙ぎ倒される。

 

衝撃が止むと、黒鬼は、地面に倒れ伏せていた。

 

「……勝てた」

 

勝てた安堵感から、地面に座り込む。

 

それにしても、こいつ何者だ?

 

かなりの実力者だったが………

 

「やれやれ、派手にやってくれたな」

 

上を見上げると、メイド服を着たレティシアが居た。

 

レティシアは辺りを見渡しながら地面に降り立つ。

 

「レティシア、実は」

 

「いや、何も言わなくていい」

 

そう言うと、倒れてる黒鬼の元に行くと、レティシアは行き成り踏みつけた。

 

「ぐぼう!?」

 

「いつまで、倒れ込んでる。さっさと起きろ」

 

「ちょ、レティシア!?俺、今、結構ボロボロなんだけど!?」

 

「知らん。自業自得だ」

 

「酷っ!?」

 

行き成りのレティシアの行動に驚きながらも、レティシアに尋ねる。

 

「レティシア。黒鬼を知ってるのか?」

 

「知ってるも何もこいつは」

 

レティシアは踏みつけるのを止め、黒鬼を指差す。

 

「旧“ノーネーム”のメンバーにして、五年前から行方不明になっていた男。そして、白夜叉とクルーエ叔父上の息子。早い話、修也。お目の異母兄弟だ」

 




はい、蒼海の覇者編のエピローグに出てきたオリキャラは、修也のお兄ちゃんです。

次回もお楽しみに


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プロローグ②

残念。

まだプロローグの段階だ。


「改めて言おう。黒鬼だ。クルーエ・ドラクレアと白夜叉の息子だ」

 

正直驚きだ。

 

あの親父が、白夜叉との間に子供を作っていたなんて………

 

聞いた話によると、ある日、親父と白夜叉が三日三晩に渡って酒盛りをしたらしい。

 

そして、気付いたら生まれたままの姿で白夜叉と共に布団の中だったそうだ。

 

親父も酒の勢いとは言え、過ちを犯したことに変わりはないから、責任は取るとのことでそのまま結婚。

 

白夜叉も満更じゃなかったそうだ。

 

親父も白夜叉の事は好きだったとかで、結婚自体問題は無かったそうだ。

 

だが、その後、例の大量虐殺事件がきっかけで、親父は“箱庭”を追放。

 

このままだと、白夜叉もろとも追放になるから、白夜叉の事を考えて別れた。

 

白夜叉も自分も付いて行くと言って、話を聞かなかったそうだが、結局は折れて、別かれる形になった。

 

その後、親父は独自に“箱庭”を行き来する方法を見つけ、“箱庭”に訪れたが大っぴらに行動は出来ないため、白夜叉とよりを戻すことは無かった。

 

そして、再び親友と言うか悪友の関係になったそうだ。

 

ちなみに、親父がお袋と結婚することになった時、盛大に祝ってくれたそうだが、その後三日程寝込んだとか………

 

「以上が、俺がお袋から聞いた話と見た話だ」

 

「何と言うか、親父凄いことしてたんだな」

 

黒鬼はケラケラと笑いながら、親父と白夜叉のことを話してくれた。

 

「てか、俺は白夜叉の事を母さんとでも呼べばいいのか?」

 

「多分、喜んでくれるんじゃね?」

 

ちなみに、今俺達はレティシアの自室に居る。

 

俺の部屋では耀が寝てるし、客間には黒鬼自身が行きたくないそうだ。

 

なんでも、黒ウサギと顔を合わせれないとか。

 

ん~~~~~、黒ウサギとの関係が気になるところだ。

 

「黒鬼も親父の子ってなら、お前も吸血鬼なのか?」

 

「ああ、一応な。でも、あるのは治癒能力ぐらいだ。俺は親父よりもお袋の方の血を濃く引いてるみたいだ」

 

まぁ、あれでも太陽と白夜の精霊らしいし、紅炎を扱えてるあたり、白夜叉の血が濃いんだろう。

 

「じゃ、俺帰るわ。蛟劉の仕事も手伝わないといけんし」

 

「いいのか?せめて、黒ウサギやジンに会っていったら」

 

「……俺はあいつらに会う資格はない。特に、黒ウサギにはな」

 

「……黒鬼」

 

「本当ならお前と少し話したら帰るつもりだったんだがな。結局戦いたくなって、レティシアにばれちまった。……レティシアも、俺が帰って来て迷惑に思ってるさ。コミュニティの一大事に、コミュニティ、特に、黒ウサギの傍に居てやらなかったんだからな」

 

黒鬼は目を伏せ、悔しそうに呟く。

 

「悪い。湿っぽくなっちまったな。もう行く」

 

そう言うと、黒鬼は窓から出ようとする。

 

「なぁ、黒鬼」

 

俺は逃げるように帰ろうとする黒鬼を呼び止める。

 

「お前が、何考えてるかはわからない。でもな、ジンや黒ウサギはお前に会いたいっと思ってるはずだぜ」

 

「……そう思うか?」

 

「思う。だって、仲間なんだろ」

 

「……そうだな」

 

黒鬼は笑みを浮かべ、俺に向かって言う。

 

「サンキューな。でも、俺はまだ会えない。でも、必ず会いに行く。だから、それまで俺の事は内緒だ」

 

「分かったよ。また会おうぜ」

 

そう言うと、黒鬼は何処かすっきりした顔で部屋を後にした。

 

「うん?黒鬼の奴、帰ったのか?」

 

部屋の扉を開けて、レティシアが入ってくる。

 

手にはお盆を持ち、その上にはコーヒーの入ったカップが三つあった。

 

「ああ、たった今な」

 

「まったく、相変わらずせっかちな奴だ。コーヒーぐらい飲んで行けばいいのに」

 

「……なぁ、レティシア。黒鬼の事をどう思ってる?」

 

「あいつのことか?………そうだな」

 

レティシアは少し考えると微笑んで答えた。

 

「どうしようもなく、放浪癖があり、ことあるごとに黒ウサギを泣かせる男で、そして………大事な仲間さ」

 

「……そうか」

 

レティシアは今だに黒鬼をコミュニティの仲間と思ってる。

 

恐らく、黒ウサギや、ジンも思ってるだろう。

 

それより

 

「レティシア、黒ウサギと黒鬼について聞いてもいいか?」

 

「ほほう、話してもいいが、長くなるぞ?」

 

「それは楽しみだ」

 

「その話僕も聞きたいな。聞かせてもらってもいいかな?」

 

「ああ、聞くといいぞ。………ちょっと待て」

 

「うん?」

 

「ナチュラルに会話に入って来たお前は誰だ!?」

 

「うをっ!?誰だお前!?」

 

今気付いたが、こいつ誰だ!?

 

黒いコートに、顔はフードで隠れてよくわからん。

 

俺とレティシアは警戒態勢に入り、構える。

 

「ちょ、ちょっと!!別に僕は貴方方と敵対する気はありません。ただ、少しお話をね」

 

「前置きはいらん。用件を言え」

 

「あ、はい。………あの、用件言う前に一ついいですか?」

 

俺達は警戒の手を緩めずに頷く。

 

「なんか、食べ物下さい」

 

その直後、空腹音が部屋中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ

 

こいつ、凄い食欲だな。

 

耀と同じぐらいか?

 

今俺たちの目の前にいる男はガツガツと出されたおにぎりと味噌汁を食っている。

 

それも凄い量を凄い速さで。

 

「……負けたくない」

 

「春日部さん、妙な対抗意識燃やさないで」

 

なんかいつの間にか耀たちも集まって来た。

 

「おい、修也。こいつは誰だ?」

 

「いや、俺も分からん」

 

十六夜が聞いて来るが、俺だって分からないんだ。

 

正直困ってる。

 

「やれやれ、今日は来客が多いな」

 

レティシアはおにぎりを握りながらぼやく。

 

幸いと言うか、黒ウサギは急な用事があるとかで今はいない。

 

ジンも同盟の件で話がある為、ペストと共に、出かけてる。

 

「いや~、食った食った。ごちそうさま」

 

男は手を合わせてごちそうさまをする。

 

「さて、腹も満たされたことだし、お前が誰なのか教えてもらおうか」

 

「ああ、そうだったね。貴方たちには、初対面でも、僕にとってはもう何回も会ってるんですけどね」

 

そう言うと男はフードを取る。

 

そして、現れた顔に俺達は驚いた。

 

その顔は耀そっくりだった。

 

耀は固まり、飛鳥は思考が停止してる。

 

十六夜ですら、口を開けて驚いてる。

 

確かに耀そっくりだが、それ以上に、髪と瞳の色にも驚いた。

 

それは、銀色だった。

 

「初めまして、そして、お久しぶり。僕は、春日部廉。春日部耀と、月三波・クルーエ・修也の息子です」

 

その瞬間、俺の口から魂的な物が飛び出した気がした。

 



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プロローグ③

三ヶ月ぶりの更新です。

プロローグはこれで終了

次回から、オリジナルストーリーになります。


息子……息子ってアレだよな。

 

子供の事だよな。

 

あれ?子供って何だっけ?

 

男と女が夫婦の営みをすると生まれる愛の結晶。

 

コウノトリが運んでくる。

 

キャベツ畑から生まれて来る。

 

あれ?子供ってなんだっけ?

 

こいつが、俺と耀の………

 

「息子!?」

 

「うん、そうだよ」

 

目の前に居る自称俺と耀の息子は笑顔で言う。

 

「……この子が私と修也の…」

 

耀、なんで嬉しそうなの?

 

いや、確かに自分の子供と会えるのは嬉しいけど、ここには十六夜や飛鳥もいるんだぞ。

 

絶対冷やかされるに決まってる!

 

「なるほど、修也は既にやることをやっているって訳か」

 

「そんな訳あるか!?」

 

耀ははまだ14歳だぞ!

 

せめて18からだろ!

 

「ふむ、修也の息子か。となれば、私は叔母さんなのか?」

 

「従姉だとそのへんはどうなのかしらね?」

 

レティシアと飛鳥は別の事を考えてるし…………

 

「いや~、皆若いなぁ~。ボクと同い年ぐらいかな?」

 

自称息子の廉はその光景を見つめてニコニコと笑っている。

 

「ところで、廉だったか?一つ聞かせろ」

 

「何、十六夜叔父さん」

 

「叔父さんか、ヤハハ、悪くねぇ響きだぜ」

 

十六夜は笑みを浮かべ、廉に聞く。

 

「お前の名字だが、なんで春日部なんだ?修也と春日部が結婚したんなら春日部の名字は月三波になるはずだろ?それとも、修也が婿入りしたのか?」

 

「ああ、それか。それはちょっと複雑な事情があるんだけど、あえて言うなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「形式上夫婦なんだよ、父さんと母さんは」

 

形式上?

 

どういうことだ?

 

「形式上夫婦ではあるけど、正式には夫婦じゃないってことかな。父さん、結婚式前日に失踪したから」

 

は?失踪?

 

ちょっと待て!

 

無視できない単語が出てきたぞ!

 

「失踪ってどういうことだ?」

 

「まぁ~、話せば長くなるんだけど、なんでも南側の若い幻獣たちが幻獣で頂点はどの種族なのかを求めて喧嘩して、それを止めるために南側に行ったきり。まぁ、元々夫婦同然だったし、形的には夫婦ってことになってるよ。名字が違うのはそのためだよ」

 

それって…………俺死んだってこと?

 

いや、精々行方不明?

 

てか、どっちにしろ最悪じゃねぇか!

 

「修也………ご愁傷様」

 

「修也君………安らかに眠って」

 

「私、若くして未亡人になっちゃったんだ」

 

「妻子を置いて先立つとは最低だな」

 

「お前ら!勝手に未来の俺を殺すなよ!」

 

こいつら、ここぞとばかりに悪ノリしやがって。

 

「いや~、楽しいな!」

 

「元凶が何言ってやがる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分ほど、皆でわいわいやっていると廉が急に立ち上がって、そろそろ帰る時間だと言った。

 

「少しの間だったけど、楽しめたよ」

 

「そうか。そいつは良かったな」

 

「うん、じゃあ、またね。父さん」

 

廉は少しだけ寂しそうに言う。

 

そんな廉を見て俺は手を伸ばし、頭を撫でる。

 

「未来の俺が迷惑かけたな。ごめんな、廉」

 

「…………はは、母さんの言った通りだな」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「いや、別に」

 

そう言うと同時に廉の身体が光に包まれた。

 

「もう行かないと。じゃあね、父さん、母さん。それと皆さんも」

 

そう言って廉は姿を消した。

 

「あれが俺の息子………」

 

「私そっくりだった。でも、髪と瞳は修也そっくりだったね」

 

「性格は若干十六夜みたいだったがな」

 

俺がいないから十六夜が父親代わりだったのかもしれないな。

 

そう思うと、未来の俺は本当にどうしたんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが僕の父さんか」

 

廉は自分が本来居るべき時間軸の“箱庭”に着き、過去で会って父親の事を振り返っていた。

 

「………母さん」

 

母から譲り受けた“生命の目録”を見つめ、母の事を思いだす。

 

ベッドの上に横になり、指一本すら動かすことのできない弱り切った母親を。

 

そんな母親が、言っていたこと。

 

『あの人は、仲間や友達の為なら自分の命も惜しいとは思わない人。一度は死にかけたこともあった。そんな姿を見て、私はとても辛かった。でもね、それがあの人なの。だから、母さんはあの人を恨んでいない。むしろ、自分の遣りたいことを我慢して欲しくない。廉もいつか、あの人に会えばわかるはず…………廉、いつかあの人と会えたら伝えてね。ずっと愛してるって』

 

廉は今日まで父の事を恨んでいた。

 

母が大事な時に、会いにも来ない、父が憎かった。

 

だが、今日、過去の父親と会い、父が本当に母を愛していたことを知ることできた。

 

廉にはそれだけで十分だった。

 

「………ごめん、母さん。伝えれなかった。だって、今の父さんと母さんは幸せそうだったからね。でも、いつの日か伝えるよ。母さんの最後の言葉を」

 

「れ――――――――ん!」

 

遠くで自分の名前が呼ばれ振り返ると、赤いドレスを纏った少女がやってくる。

 

「こんな所でなにしてるのよ!さっさと食材の買出しに行くわよ!」

 

「ごめん、明日菜。行こっか」

 

少女と並ぶようにして、廉は“ノーネーム”の敷地を歩き出す。

 

父と母が、仲良く寄り添っていたように。



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第1話 TSUKIMINAMI・C・SHUUYAだそうですよ?

ギフトゲーム名:????????

 

プレイヤー名:クルーエ・ドラクレア

 

ゲームマスター:??????

 

クリア条件:ゲームマスターの殺害

 

敗北条件:プレイヤーの死亡

 

ゲーム詳細

*プレイヤー並びにゲームマスターは自身のコミュニティからプレイヤーを参加させても良い

*但し、ゲームマスターの殺害はプレイヤーのみ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルーエ=ドラクレアは一本のロングソードを手に荒野を駆ける。

 

周りでは自分の仲間たちが敵と戦い、敵を殺し、敵に殺されている。

 

自身に襲い掛かってくる敵を斬りながら、このゲームの“主催者”である魔王のいる館へと入る。

 

数々のトラップを潜り抜け、最上階の部屋の扉を蹴破る。

 

大きな窓の前に椅子を置き、そこには顔を包帯で覆い、フードを深く被った者が居た。

 

包帯の隙間から、赤く光る眼がクルーエを見つめる。

 

「お前がこのゲームの主催者、いや、魔王か?」

 

「……イカニモ」

 

「なら話は早い、早速死ね」

 

「ソウ カンタン ニ コロサレル カ」

 

魔王と呼ばれた者は手に槍を持ち構える。

 

クルーエも剣を手に走り出す。

 

槍と剣がぶつかり合うたびに火花が散り、互いの身体に傷を負わせる。

 

魔王は袖の中から、数多の触手を出し、攻撃を繰り出す。

 

その触手を一本ずつ素早くクルーエは剣で薙ぎ払う。

 

その内の一本を斬り逃し、クルーエの脇腹に深く突き刺さる。

 

「くっ!」

 

触手は脇腹を抉るように貫き、徐々にクルーエの体内へと侵入する。

 

クルーエは触手を引き千切り、脇腹から引っこ抜く。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

襲い掛かる触手をすり抜け、男の懐へと潜り込む。

 

剣が一筋の光となって一閃される。

 

魔王の首はゆっくりと胴体から離れ、床に落ちる。

 

「これで、終わりだ。あの世で、自身の行いを反省するんだな。終焉の魔王よ」

 

血がにじむ脇腹を抑えながら、クルーエは剣を鞘に納め、館を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クックック マダ オワラン ノロイ ハ スデ ニ ウエテ アル ソレ ガ メブク トキ シン ノ シュウエン ガ オトズレル ソシテ シュウエン ノ セカイ デ タッタ ヒトリ イキツヅケ ソシテ クルシメ。タトエ メブク トキ 二 オマエ ガ コノヨ 二 イナクトモ オマエ ノ コ マゴ ガ クルシム。キサマ ノ イチゾク 二 ミライ ハ モウ ナイ」

 

誰もいない部屋の中、首だけになった魔王は囁く。

 

包帯の隙間から見える赤い目は徐々に光を無くし、消える。

 

そして、これが後に“箱庭”に脅威を振るうとはこの時、誰一人として思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜!」

 

「任せろ!」

 

晴れたある日、俺は十六夜と飛鳥、耀の三人と出かけ、飛び入り参加OKのギフトゲームに参加した。

 

簡単なバトルロワイヤル形式のゲーム。

 

流石に結構名前が知りわたられ過ぎていたので俺達には力を制限するギフトが付加された。

 

が、結局は圧勝だった。

 

最後のプレイヤーを俺が片手で空中に投げ飛ばし、十六夜が腹に蹴りを一発入れて、ゲームは、終了した。

 

「ナイス蹴り」

 

「ナイス投げ」

 

十六夜とハイタッチをし、互いに褒め称える。

 

「十六夜君と修也君も終わったのね」

 

そう言って飛鳥は、土下座している男に足を乗せている。

 

「こっちも終わった」

 

耀は相変わらずの無表情で男の関節を逆方向にねじっている。

 

「そう言えば、景品ってなんだ?」

 

そう言えば、バトルロワイヤル形式で面白うそうだったから参加したが、景品が何かは知らない。

 

「あ、景品はこちらです」

 

ゲームの主催者が現れ、俺達に何かを差し出す。

 

「我がコミュニティが作ったアクセサリー四点セットです」

 

差し出されたアクセサリーは髪留め、指輪、チョーカー、ペンダントで、どれにも十字架が装飾されていた。

 

「おっ、こりゃいいじゃねぇか。四人で分けようぜ」

 

十六夜の意見に全員が賛成し、それぞれアクセサリーを分け合う。

 

飛鳥は髪留め、十六夜はチョーカー、耀は指輪で、俺はペンダントになった。

 

「へぇ~、似合ってるじゃねぇか。お嬢様」

 

「ありがとう。十六夜君もそのチョーカー似合ってるわよ」

 

なんか十六夜と飛鳥はいい雰囲気を作ってやがる。

 

俺もペンダントを付けようとすると、耀が袖を引っ張て来た。

 

耀の方を振り向きながら、ペンダントをコートの懐に入れる。

 

「どうした?」

 

「付けて」

 

そう言って、俺に指輪を渡してくる。

 

やれやれ、うちのお姫様も随分積極的になったものだな。

 

そう思いながら、左手を手に取り、薬指にはめる。

 

「ちゃんとしたものは後二年後な」

 

「………うん」

 

耀はそう言いながら薬指にはめられた指輪を見つめる。

 

視線を感じ、後ろを振り返ると、十六夜と飛鳥がにやにやと俺を見ていた。

 

「………ちょっと飲み物買ってくる」

 

二人の視線が俺の恥ずかしさを増幅するので、その場を後にする。

 

「なにか飲んで、気分を落ち着かせるか」

 

「…………助け……」

 

飲み物を買える場所を探してると、何処からか人の声が聞こえた。

 

あっちか?

 

聞こえた方に検討を付けて、向かうと人が倒れていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

近づき声を掛けると、倒れている人は弱々しく呟いた。

 

「……ありがとう……ございます」

 

女の声だ。

 

それにしても衰弱してるな。

 

「一体どうしたんですか?」

 

「人を………待ってたんです」

 

「人?」

 

「はい…………あなたです」

 

その瞬間、女性は手にした何かを俺に向けた。

 

その手を払い、その何かを弾く。

 

弾かれた物はその場に転がる。

 

あれは…………石?

 

「こっちですよ」

 

背後から声が聞こえ、振り返ると別の女性が立っており、手に持った何かを俺に向ける。

 

「しまっ!」

 

攻撃をしようと試みるが、間に合わず俺は光線をモロに食らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、そこには何もなかった。

 

いや、正確に言うと墓石が一つだけあった。

 

そこに彫られた名前を見て俺は驚愕した。

 

[TSUKIMINAMI・C・SHUUYA]

 

「俺の…………墓?」

 

その時、背後から誰かの足音を聞こえ、俺は近くの木の上へ隠れる。

 

「修也さん、おはようございます。今日もいい天気ですね」

 

俺の墓に向け、声を掛けたのは一人の青年だった。

 

約170cmはあると思われる身長に、ローブを来た青年。

 

だが、その顔は見覚えのある顔だった。

 

「修也さんが亡くなってもう五年、月日は速いモノですね」

 

ジン=ラッセル。

 

俺のコミュニティのリーダーだ。

 

だが、俺の知ってるジンは十一歳。

 

あのジンは、見た感じ十八ぐらいだ。

 

「ジンく~ん!」

 

今度は割烹着に狐耳を生やした少女が来た。

 

こっちにも見覚えはある。

 

リリだ。

 

だが、こちらもジン同様成長してる。

 

「またここに来てたんだね」

 

「うん。ここに来たら、修也さんが居てくれるんじゃないかなって思ってね」

 

「…………会議始まるよ」

 

「分かった。すぐ行くよ」

 

そう言ってジンとリリはその場を去った。

 

これで確信が持てた。

 

ここは………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは…………未来の“ノーネーム”いや、未来の“箱庭”だ。

 



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第2話 出会うは未来の友だそうですよ?

一応この世界、というか未来で俺は死んでいるらしいから、俺は“ノーネーム”の敷地内を離れ、“箱庭”を歩く。

 

歩いてみて驚いたのは、かなり荒れていた。

 

店は壊れ、壊れた店の軒下や、道の脇で浮浪者が寝転んでたり座り込んでいたりする。

 

一体、“箱庭”で何があったんだ?

 

それより死んだ俺がここで出歩いているのを俺を知ってるやつが見たらパニックになりかねない。

 

変装しないとな。

 

「なぁ、アンタ」

 

「……あん?」

 

軒下で比較的服装が綺麗な男性に話しかける。

 

「物は相談なんだが、アンタのその服くれないか?もちろんタダでとは言わない。そっちの言い値で買う」

 

「はん!このご時世じゃ、金に意味なんかねぇよ」

 

「なら、何となら交換してくれる?」

 

「そうさな………食い物だ」

 

「食料ねぇ…………」

 

俺はギフトカードを取り出し、中から水と干し肉、パンを取り出す。

 

「これでどうだ?」

 

「…………まぁ、いいだろ」

 

そう言って男もギフトカードを取り出し、中から新品の服を出した。

 

「見ず知らずの俺に食い物を恵んてくれた礼だ。やる」

 

「サンキューな」

 

来ていたコートを脱ぎ、貰った服を着る。

 

服は黒い袴で、羽織も貰った。

 

そして、俺は羽織に着いてる旗印を見て驚いた。

 

それは双女神の紋章だった。

 

「これって“サウザンドアイズ”の!?あんた“サウザンドアイズ”の人間か?」

 

「ん?ああ、“サウザンドアイズ”ね…………随分とまぁ、懐かしいコミュニティだな」

 

「懐かしい?」

 

男は俺から貰った干し肉をパンと齧り、水を飲むと再び口を開いた。

 

「あのゲームが始まって、“サウザンドアイズ”は即座にゲームクリアへと乗り出した。だが、負けちまった。白夜叉様もゲームへと参加したが、白夜叉さままでも敗北した」

 

白夜叉が…………負けた?

 

「あの事件ってなんだ?」

 

「あん?忘れたのか。終焉の魔王のゲームだよ」

 

「終焉の魔王?」

 

「終焉の魔王まで知らないとはな。終焉の魔王は、かつてこの“箱庭”を崩壊の危機まで追い込んだ災厄にして最悪の魔王だ。どんな手練れのプレイヤーも修羅神仏すらも凌駕する存在。それが蘇ったんだよ」

 

「…………ゲームの内容は?」

 

「これだ」

 

男が出した黒い“契約書類”を手に取り内容を読む。

 

 

 

 

 

 

 

ギフトゲーム名:終焉の訪れ

 

プレイヤー:“箱庭”に存在する全ての種族

 

ゲームマスター:シュウエン ノ マオウ

 

クリア条件:終焉を討伐する者が訪れる時

 

敗北条件:終焉が全てを飲み込むとき

 

ゲーム詳細

*ゲームは挑戦型

*参加人数・殺害方法は問わず

*ゲームに負けたコミュニティは名を失う

 

 

 

 

「終焉を討伐する者?」

 

「要するに、ゲームマスターを殺せってことさ。話を戻すぞ。それでゲームに負けた“サウザンドアイズ”は名前を奪われた。旗印は今だに残っているが名乗る名前がないんじゃ、“ノーネーム”と一緒だ。それで、自然と“サウザンドアイズ”は崩壊、そして、解散さ」

 

それっきり男は口を開かず、黙々と食料を食い始めた。

 

俺は再び“箱庭”を歩き、情報を集め始めた。

 

ネズさんに会おうにも、俺は死んでるし会うこともできない。

 

その前に、俺の姿だな。

 

服装は変えたが、顔は俺のまんまだ。

 

取り敢えず、顔の方はついでに貰った仮面で隠しておくか。

 

仮面を着け、再び歩き出そうとすると頭上から何かが飛んでくるのを感じた。

 

咄嗟に飛び退き、躱すと俺がいた場所に槍や矢、剣が突き刺さっていた。

 

「良い反応するじゃねぇか」

 

そう言って、荒れた店の中から獣人が現れた。

 

一人だけじゃない。

 

路地裏や俺の背後からも現れ、その数は50人ぐらいはいる。

 

「その羽織、あの“サウザンドアイズ”のものだろ。なら、食料や金目のものたっぷり持ってるはずだ。大人しく渡せば、命だけは助けてやるぞ」

 

テンプレなセリフだな。

 

「悪いが、お前たちにくれてやる食料も金目のものもない。他をあたれ」

 

「そんな嘘、引っ掛かるかよ。いや、この際それはどうでもいい。取りあえず、ストレスの捌け口にでもなってもらおうか」

 

獣人が指を鳴らすと、周りの獣人が次々と武器を構える。

 

仕方がない。

 

相手をするか。

 

ギフトカードから白牙槍を取り出そうとすると、背後から強烈な音と、悲鳴が聞こえた。

 

「な、なんだ!?どうしたんだ!」

 

「おいおい、このご時世にカツアゲかよ。くだらねぇな。やるなら、もうちょっと面白くしろよ。例えば、こんな風にな」

 

そう言って現れた男は、獣人の頭を鷲掴みし、手にはその獣人のものと思われる財布があった。

 

「き、貴様は!?」

 

「最近巷を騒がしているあの“ノーネーム”の!?」

 

「正解だぜ!こらぁ!」

 

男は頭を鷲掴みにした獣人を投げ飛ばし、獣人の群れにぶつける。

 

「間違いない!この馬鹿力、そして、このぶっ飛び加減…………逆廻十六夜だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え………えええええええええええええええええええええええええええええ!!?

 

あ、あれが十六夜!?

 

俺が知ってる十六夜は、学ランで金髪に悪者のような笑みを浮かべる奴だ。

 

だけど、この十六夜は黒髪で、学ランじゃなく俺が着てるような黒いコートを身に纏ってる。

 

どう見ても不良なんかじゃない。

 

どう見ても好青年にしか見えない。

 

言動は十六夜だけど。

 

十六夜は襲い掛かってくる獣人を蹴っては殴り、掴んでは叩き付けている。

 

恐ろしい、五十人は居たと思われる獣人がもう半数ぐらいの人数になった。

 

「くそ、死ね!」

 

すると獣人の一人が、飛び道具らしきギフトを使い十六夜を狙う。

 

俺は咄嗟に、その獣人に飛びかかろうとすると

 

『地面にひれ伏しなさい!』

 

何処からか鋭い声が聞こえ、獣人はその場にひれ伏した。

 

そして、赤いドレスに日傘をさした女性が何処からか舞い降りて地面に降り立った。

 

「あ、あの赤いドレスに、日傘は!?」

 

「ま、まさか…………」

 

その女性にも見覚えはある。

 

成長して、少し見違えたが。

 

間違いない。

 

あの凛とした態度に、赤いドレス。

 

そして、あの黒い髪。

 

あれは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間違いない!逆廻飛鳥だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………はあああああああああああああああああああああああああ!!?

 




現在、活動報告にてアンケート実施中。

問題児に関するものではありませんが、もしよければアンケートに参加してください。

では、次回もお楽しみに。


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第3話 呪いの恩恵だそうですよ?

ええええええええええええええええ!?

 

逆廻飛鳥って何!?

 

え?もしかして、そうゆう関係なの?

 

俺が知らないうちにお前らデキてたの?

 

確かに、最近いい雰囲気だな~って思ってたけど、まさか、マジで!?

 

そんな事を考えている俺を放置し、十六夜と飛鳥は次々と獣人を薙ぎ倒し、気が付けば全員倒していた。

 

「で、あんた無事か?」

 

十六夜が俺に話しかけてきた。

 

声でばれるとまずいし、変えておくか。

 

「いや、助かった。ありがとう」

 

「あら?その旗印、“サウザンドアイズ”のものよね」

 

「あ、ああ、そうだけど」

 

「おかしいぜ」

 

「おかしいわね」

 

二人がそう言うので俺は内心驚く。

 

「な、何がおかしいんだ?」

 

「あの魔王とのゲーム以降“サウザンドアイズ”は自然崩壊になったが、一部の幹部たちで密かに活動している。そのため、時が来るまで“サウザンドアイズ”とわかるものは着用してないはずだ」

 

「仮に貴方が“サウザンドアイズ”の一員だったとしても。こんな所で、大っぴらに旗印を掲げるはずがないわ」

 

「怪しいぜ」

 

十六夜が拳を鳴らしながら近づいて来る。

 

「ま、待て十六夜!俺の話を」

 

「おい、なんで俺の名前を知ってやがる?」

 

し、しまった!?

 

思わず名前を言っちまった!

 

なんとかして切り抜けないと!

 

「いや、実は俺と修也は親友でさ。君たちの話をよく聞かせてもらってたんだよ!俺、異世界の“箱庭”で、君達と同様に召喚された人間でさ。随分前に、こっちの“箱庭”に来ちまって、そん時に知り合ったんだよ訳あって、“サウザンドアイズ”に所属してるんだよ。」

 

「何?修也と?」

 

俺自身の名前を出すと、十六夜は眉を寄せて、俺を上から下まで見る。

 

「そんな話、修也君から聞いたことないんだけど」

 

「てか、名前は?」

 

名前……………名前、どうしよう……………

 

 

 

 

 

 

 

「え、修也さんのご親友ですか?」

 

「南月八鍬(みなみつき やしゅう)だ。異世界の“箱庭”では訳あって“サウザンドアイズ”に所属している」

 

取り敢えず、本名を並び替えた偽名を使い、何故か、“ノーネーム”の本拠へと連れてこられた。

 

「そうでしたか。このコミュニティのリーダー、ジン=ラッセルと申します」

 

ジンの奴、立派に成長したな。

 

聞いたところ、この世界は俺の居た時代から十年経っているそうだ

 

「それにしても、大変な時に来てしまいましたね。御存じとは思いますが、今この“箱庭”は魔王のゲームにより、危機的状況に陥っています」

 

「そのことについては、様子を見たから知っている」

 

「そうでしたか。ではもう一つ教えましょう。このゲームの主催者、終焉の魔王についてです」

 

ジンの話をまとめると、終焉の魔王は、かつて“箱庭”を襲った災厄にして最強の魔王。

 

それを討伐したのは俺の親父。

 

だが八年前に、再び現れ、“箱庭”を破壊するつもりなのか、呪いの恩恵をばらまき、“箱庭”住まう者たちを呪い、そして殺し回った

 

そして、勝てば呪いを解くと言いう条件を付け、ギフトゲームを行った。

 

「…………なぁ、一つ聞いていいか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「………修也は何故死んだ?」

 

こう言ってはなんだが、俺が簡単に死ぬとは思えない。

 

なら、なにかしらの理由があったはずだ。

 

「それなんですが、厳密に言うと生死は分からないんです」

 

「え?」

 

「八年前、突如修也さんは出かけると言って、そのまま帰って来なかったんです。最後に修也さんと会話した人の話だと、西に向かったそうです。それも、かつて終焉の魔王が討伐された地に」

 

それって……………

 

「おそらく修也は、終焉の魔王が復活することを予期していたんだろう」

 

すると、メイド服でレティシアがお茶を運んできた。

 

姿は十年前と変わらない。

 

「よく来たな、異世界の同志よ。まぁ、飲め」

 

「ああ、サンキュー」

 

お茶を一口飲むと、レティシアは語り出した。

 

「叔父上はあの時、確かに終焉の魔王の首を獲った。私もゲーム終了後、確認したから間違いない。だが、奴は一筋縄で逝く相手ではなかったらしい。こんなことなら、魂を冥府から引きずり出して封印しておくべきだった」

 

そう言うレティシアは、悔いるように歯ぎしりし、拳を強く握る。

 

「レティシアさん、そう自分を責めないでください。誰も、こうなるとは予測できなかったんですから」

 

「だが、その所為で修也は……………。これは私達“箱庭の騎士”たちが残してしまった負の遺産だ。本来なら、私が決着をつけるべきことだ。なのに、アイツは勝手にそれを背負い、揚句、耀まで……………」

 

「よ………こっちの耀がどうかしたのか?」

 

「…………耀は」

 

そっから先の言葉を聞きたくなかった。

 

だが、俺は聞いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「耀は、魔王の呪いの恩恵により、後、半年の命も無い」

 



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第4話 共闘提案だそうですよ?

レティシアに案内された部屋には耀がいた。

 

ベッドに横になり、そして、健康的だった姿は衰え、痩せこけていた。

 

レティシア曰く、今はあるギフトを使い、呪いの進行を遅らせてるとのことだ。

 

だが、あくまで呪いの進行を遅らせることしかできない。

 

呪いは徐々に耀の体を蝕み、確実に死へと導いてる。

 

そして、呪いが体を蝕むたびに耀は苦しむ。

 

耀を呪いの苦しみから助けるには、魔王を倒す。

 

それしか方法は無い。

 

「…………こんなにもやつれちまって………見違えちまったな」

 

誰にいう訳でもなくぽつりと呟く。

 

「こんな時でも修也の奴は顔を出さねぇ」

 

いつの間にか十六夜が来て、俺の隣に立っていた。

 

「薄情な奴だ。テメーの嫁さんが死ぬかもしれないって瀬戸際なのによ………」

 

「……十六夜は修也が生きてると思うか?」

 

「ああ、生きてる」

 

即答に俺は少し驚いた。

 

「もう十年だろ。終焉の魔王が討伐された地に向かって、そして、終焉の魔王の復活。どうみても絶望だと思うが」

 

そう言った瞬間、十六夜は俺の胸倉を片手で掴んだ。

 

「テメーにアイツの何が分かる?ちょっと会ったぐらいでアイツの事知ったつもりでいるなら大間違いだぜ。アイツは、仲間やダチを残して死ぬ奴じゃねぇ!それは親友の俺が一番知ってる!これ以上修也が死んでるとか言ってみやがれ!テメーを叩き出す!」

 

そう言って十六夜は俺の胸倉を離し、耀に視線を移す。

 

「それに、春日部自身が修也の事をまだ生きてるって信じてるんだ。それなのに、俺達が信じなくてどうするんだ。こうして、苦しい思いまでして、今を生きようとしてるのだって。まだ修也が生きてるって信じてるからなんだぞ」

 

声を落とし、十六夜は拳を握る。

 

その時、部屋の扉が開きの女の子が出てきた。

 

「………パパ?」

 

え?パパ?

 

「ああ、わりぃ起こしちまったか」

 

「ううん、トイレ………誰?」

 

女の子は目を擦りながら俺を指差してくる。

 

「ああ、廉のパパのお友達だ」

 

「廉のパパの?」

 

「ああ、そうだ。ほら、もう寝な」

 

「うん……」

 

寝ぼけながら頷き、女の子は部屋を出ていく。

 

「………今の子は?」

 

「ああ、俺の娘の明日菜だ」

 

うん………まぁ、予想は出来てた。

 

飛鳥も十六夜と同じ苗字なんだし、子供が居てもおかしくないな。

 

てか飛鳥とよく似てるな。

 

………十六夜みたいな雰囲気もあったが…………

 

てか、今の話からして、廉ももう生まれてるみたいだ。

 

十六夜と部屋を出て、館の外に出る。

 

石階段に腰を掛け、十六夜に言葉を掛ける。

 

「なぁ、父親になるってどんな感じだ?」

 

「……そうだな。護りたい者が増えた。そんで、愛しい奴も増えた」

 

そう言う、十六夜は嬉しそうに言う。

 

「十六夜君、ここにいたのね」

 

飛鳥もやって来て、十六夜の隣に立つ。

 

うん、二人が寄り添ってるのを見ると、本当に夫婦なんだなって実感できるな。

 

「………多分、そう長くは無いってレティシアが………」

 

「………そうか」

 

「………春日部の容態はそんなに悪いのか?」

 

そう尋ねると飛鳥は無言で頷いた。

 

「これ以上“サウザンドアイズ”の連中を待つことは出来ねぇ。俺と飛鳥で終焉の魔王に立ち向かうか…………」

 

「それしかないかもね。でも、どう戦うの?あの魔王と」

 

十六夜と飛鳥は悔しそうに唇を噛む。

 

そんな二人の姿を見て、俺はある話を持ちかけた。

 

「なぁ、十六夜、飛鳥。一つ提案がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と一緒に終焉の魔王を倒そうぜ」

 



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第5話 処刑される知り合いだそうですよ?

遅くなってしまい大変申し訳ありません。


十六夜たちに共闘の話を持ちかけた翌日。

 

俺は二人の後ろを歩いていた。

 

早い話、共闘の話は断られた。

 

まぁ、アイツ等にとって俺は、見ず知らずの人間で、この“箱庭”に呼び出された人間じゃないって思われてるからそれも仕方がないか。

 

こんなことなら、過去から来ましたって正直に言えばよかったかもしれん。

 

ていうか、共闘の話を断ったの十六夜だけなんだよな。

 

飛鳥の方は警戒しているが、割と友好的に接してくれる

 

何故なんだ?

 

「で、お前はいつまで付いて来るんだ?」

 

十六夜がウザったそうに俺の方を振り返って聞いて来る。

 

「着いて行ってねぇよ。偶然、お前達と行く方向が一緒なだけだ」

 

そう言うと、十六夜は何か言いたそうだったが、すぐに前の方を向く。

 

このままだと話が続かなさそうだから、飛鳥の方に尋ねる。

 

「なぁ、飛鳥。今、何処に向かってるんだ?」

 

「黒ウサギと白夜叉、後情報屋さんの所よ」

 

情報屋ってネズさんのことか?

 

「あの三人は一緒に居るのか?」

 

「ええ、ちょっとした訳アリでね」

 

「飛鳥、こんな見ず知らずの奴に其処までは話す義理はねぇ。さっさと行こうぜ」

 

十六夜がそう言い、さっさと前を歩く。

 

そんな十六夜に飛鳥は呆れたように肩を竦め、その後を追った。

 

こうしてみると本当に夫婦なんだなって思う。

 

二人に連れられて(後を付いて行って)着いたのは、人がやたら多い河原の橋だった。

 

「こんな所にあの三人が?」

 

まぁ、人を隠すなら人の中って言うぐらいだし、この人だかりなら、密会してもバレないだろう。

 

「八鍬君、こっちよ」

 

飛鳥に連れてかれたのはなんと人だかりの前の方だった。

 

「なぁ、飛鳥一体黒ウサギたちは何処に?」

 

「あそこよ」

 

目を移すと、河原の岸に黒ウサギが腕を後ろに縛られた状態で断頭台に置かれていた。

 

ついでに死んだ目で。

 

「月の兎だってよ」

 

「初めて見る月の兎が罪人とはな」

 

野次馬たちの言葉が聞こえて来た。

 

「……………えっと………これは?」

 

「黒ウサギったら一ヶ月前ぐらいに審判の仕事で出掛けたら、実はそこが賭博会場だったのよ。それで、どっかのコミュニティが治安維持の為に、その会場に乗り込んでそこに居た黒ウサギは捕獲。黒ウサギは箱庭の法に倣って、公開処刑よ」

 

「…………何やってんだよ!あの駄ウサギ!」

 

思わず橋の手すりにしがみつき、前のめりになる。

 

アホな奴と思っていたが、そこまでアホだったか!

 

何捕まってるんだよ!

 

自慢の足はどうした!?

 

逃げろよ!

 

「そうだ!白夜叉は!黒ウサギはアイツのお気に入りだ!あの変態幼女の事だ!絶対に助けに来るは………ず………」

 

思わず、言葉が途切れた。

 

何故なら、次に現れたのは黒ウサギ動揺腕を後ろで縛られた白夜叉だった。

 

ちなみに目は死んでないが、何処を見てるのか分からない眼差しだ。

 

「白夜叉様だぞ」

 

「白夜叉様も犯罪者になっちまったか」

 

………どうしてこうなった?

 

「………これは?」

 

「白夜叉ったら、黒ウサギのスカートの中を盗撮しようと黒ウサギの後を付けていて、賭博の参加者だと思われて捕まって、公開処刑よ」

 

「あの駄神も同じ理由かよ!アホかよ!アホとアホが奇跡的にコラボしたぞ!」

 

俺が怒鳴っていると、白夜叉はこっちに気付いたらしく、処刑人に頼んで、髪と筆を貰っていた。

 

筆を口に加え何かを書き始めた。

 

「何を書いてるんだ?」

 

十六夜が目を細めて見る。

 

「まさか、何か情報を伝えようと!」

 

そして書き終わったらしく、白夜叉は口に紙を加え、書いたものを見せる。

 

『チラリズム最高。特に太腿いい』

 

「…………十六夜、飛鳥。俺、アイツ見捨てたいんだけと」

 

「同感ね」

 

「お前と同じ意見ってのは癪だが、全く持って同感だ」

 

白夜叉はそれだけやって満足したのか、黒ウサギの様に断頭台に置かれた。

 

「どうするんだよ、このままじゃ二人が処刑されちまうぞ」

 

「待て、まだ終わりじゃない!」

 

十六夜が叫び、再び処刑場に目を移す。

 

現れたのはネズさんだった。

 

「情報屋のネズミだ」

 

「アイツの情報ヤバいからな。処刑も仕方ないか」

 

うん、まぁ………なんていうかね……………

 

「アンタかよ!いや、薄っすら予想してたけど、もしかしてってこともあるじゃん!だけど、予想通りかよ!」

 

頭を抱え、その場に膝から崩れ落ちる。

 

「俺達が来たのも、あの三人の救出の為だ。本当ならサウザンドアイズのメンバーも来るはずだったか、今日までなんの連絡もない。だから俺達でやる」

 

十六夜が拳を鳴らし、何時でも飛び出せる準備をする。

 

「飛鳥、俺が飛び出したら広範囲に威光を頼む」

 

「分かったわ」

 

「南月。お前は好きにしろ。傍観するのもいいし、勝手に暴れるのもいい。だが、助けたりしねぇぞ」

 

「………上等だ」

 

そう言って立ち上がり、飛び出せる準備をする。

 

「あいつが、処刑をしようとした瞬間に飛び出すぞ」

 

俺達は無言で頷く。

 

処刑人が刀を抜き、ギロチンを支える縄を切ろうとする。

 

その瞬間―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刀が処刑人の手から零れ、処刑人が蹲る。

 

見ると、処刑人の腕から血が出ていた。

 

そして、処刑人の背後には刀を持った黒装束に白い半そでの羽織を着た男が居た。

 

「おいおい、人の嫁さんと母親を処刑しようとはいい度胸だな」

 

男は怒気と殺気を放ちながら、周りにゆらりと紅焔を出す。

 

「ちょっと痛い目見てもらうぞ」

 

現れたのは、黒鬼。

 

俺の兄だ。

 



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