LIBERAL TAIL (タマタ)
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妖精の尻尾 序編
第01話: 妖精の尻尾


 


世界のどんなところでも使われる魔法。ここは魔法世界。魔法は奇跡などではなく、人の中を流れる気と自然の波長が合わさり、具現化される。その魔法はいつしか世界の隅々にまで澄み渡りいつの間にか魔法世界となった。

 

世界中の幾多も存在する魔導士ギルド。魔道士達に仕事を仲介する組合組織の様なところであり、魔導士達に欠かせないものでもあった。

どこにでもある魔導士ギルドの中の一つのギルド、妖精の尻尾。

今日も彼らはいつも通りに暴れ回っていた―――。

 

 

 

左右対称に造られた建物、それは評議員の集会場であり、会議場である。大きく立派な建物の中に評議員達はいた。

コロコロコロ、と水晶でできた玉を転がし、割れては元に戻っていた。この静寂に包まれたこの区域では似合わない音だ。

 

 

「ウルティア。遊ぶのはよさないか」

 

 

腰にリボンを付けている服を纏い、黒髪を長く垂らして、口を開いた。

 

 

「だってヒマなんですもの。ね、ジークレイン様…」

 

 

青い髪が小さな風で揺れ、大きな態度で座り、足を組んで笑いながら言った。

 

 

「ヒマだねぇ…。誰か問題でも―――」

 

「――つ、慎みたまえ!!何でこんな若僧どもが評議員になれたんじゃ!!」

 

「ふっ…魔力が高ェからさ……。じ・じ・い」

 

「ぬっ!?ぬぅ~~~~!!」

 

 

睨み合う二人の魔力が僅かに上がっていく。次第に机や椅子が少しずつ小刻みに揺れ始めた。大きく目が開いた直後、一つのつつましい口調により、止められた。

 

 

「これ、双方魔力を抑えよ。魔法界は常に問題ごとが山積みじゃ…。中で早めに手を打っておかねばならんのは………」

 

 

また静寂に包まれて、風の囁きが耳に僅かに届く。

 

 

「“妖精の尻尾(フェアリーテイル)”の馬鹿共じゃ」

 

 

強調されたギルド名を聞いた評議員達は頭を抑えてその悩みを抱え込むかのような表情でため息をついた。冷静に会議を進めたのだった。

 

 

 

 

騒がしい歓声がギルドの中で響き渡る。喧嘩する者もいれば、ジョッキを掲げて打ち鳴らす者もいた。

 

 

そんな中で桜色の髪、首に鱗の模様のマフラーを巻く少年、ナツが特に騒いでいた。怒号を上げて、黒髪の露出男、グレイと殴り合っている。これはいつもの事だ。

 

 

「今度こそ決着つけんぞ、こらぁ!!」

 

「上等だぁ!!」

 

 

怒鳴り合い、腕を振るう。砂塵が暴れるように舞い、長机や長椅子を粉砕しながら暴れ回る。腕と腕がぶつかり合い、ますます、騒がしさが増した。

その中でもゆっくりと苺ケーキを愉快そうに味わう緋色の長い髪をして、銀色の鎧を身に付けているエルザはいつもより大人しかった。

その横で金髪を側頭部で青いバンダナで束ねている少女、ルーシィは乱闘の起こっている場から一歩でも遠くに行きたそうな表情で手を顎につけて肘を机に置いて、乱闘を眺めていた。

 

「はぁー…いつも通りね…」

 

 

そのため息は長く続いたが、やがて、消え失せていた。

 

 

「ぶほぉッ!?」

 

 

一人の男が吹っ飛んできてエルザの苺ケーキが乗っている机にぶつかった。苺ケーキはその衝撃で一瞬にして、形が崩れ、零れ落ちるように床に落ちた。

 

 

「な……!!!!!!」

 

 

大いに驚愕したエルザの顔には怒り狂っているということが見て取れた。その後、エルザの魔法、《換装》でハンマーを出した。

ルーシィはその姿を見た途端、耳の横から一粒の汗を流した。

刹那、エルザが怒号を上げて、凄まじい速度で飛び出した。

 

 

「わたしのォォォォォォォ……苺ケーキィィィィィィィ!!!」

 

 

見る間に人は薙ぎ払われ、吹っ飛び、潰され気絶。だが、エルザはその緋色の髪を激しく揺らしながら暴れ回る。

 

 

いつの間にか、ナツ、グレイ、巨体のエルフマン達をも易々と再起不能にさせてしまった。

こうして、ギルドの中はいつも通りよりちょっと酷い感じとなって一日を過ごした。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁッ…」

 

 

フィオーレ王国内に位置する街、ハルジオンの街で桜色の少年は胃が狂ったかのように苦しそうに息を吐いていた。列車の中の赤い長い座席に腰を下ろしたまま、体を背凭れに任せる。

その横で無表情の青いネコ、ハッピーがピョン、と座席から飛び降りて、駅員に言った。

 

 

「いつもの事なので…」

 

 

ハッピーはさっさと列車から降りて、黒々として黒光りする列車を眺めた。窓からはナツが上半身を乗り出して下を向いていた。

 

 

「うぷっ…」

 

 

吐きそうになるナツは口を押えて無理やり嘔吐物を喉に押し込む。

その時、列車が動いた。

 

 

「…あ」

 

 

ハッピーが助けようと思えば、列車はどんどんと離れて行き、ナツはどんどんと離れて行ってやがて、小さくなっていった。

 

 

「た~す~け~て~!」

 

 

ナツの苦しそうな悲鳴が木霊したのであった。

 

 

 

 

「列車には二度も乗っちまうし」

 

 

とぼとぼと俯いて歩くナツの横を小さなネコ、ハッピーが続ける。

 

 

「ナツ乗り物弱いもんね」

 

 

更にナツが弱音を吐く。

 

 

「腹は減ったし……」

 

 

ナツが言った直後、腹から空腹の合図が長々しく鳴った。それに続けてハッピーが言う。

 

 

「うちらお金ないもんね」

 

 

いじけた表情のナツを下から見上げるハッピーは励ます様な表情になった。その時、ナツが言う。

 

 

「はぁぁぁぁ。なぁ、ハッピー火竜ってのはイグニールのことだよな?」

 

「火の竜なんてイグニールしか思い当たらないよね」

 

 

表情がパッと明るくなり、両腕を大きく上げて元気溢れる大声で叫んだ。

 

 

「やっと見つけた!!!……ん?」

 

 

悲鳴が微かにナツの耳に届いた。ハッピーに分からないようだが、獣のような耳にはちゃんと聞こえた。

 

 

「ハッピー!!行くぞ!!」

 

「どこか見つけたの?」

 

「違ぇ!!!悲鳴だ!!」

 

 

ナツはもの凄い速さで突っ走る。その背中で揺れる大きな布団にハッピーは乱暴に振り回されながら付いて行った。

 

 

 

 

「いい加減にしろッつってんだよ!!」

 

「きゃぁぁぁッ!!」

 

 

そこには青い髪の男性とピンク色の長髪に淡い緑色の瞳を持つ少女がいた。

明らかに見てわかる。少女が尻餅を地に付き、青髪の男性が何度も激しく少女を蹴飛ばしていた。少女は両腕でなんとか防ぐもののそのか弱い腕では防ぐことなど到底、不可能に思えた。

 

 

「おい、テメェ…」

 

「…あ?なんだ小僧…」

 

 

ピンク色の少女がナツの顔を見上げる様に見た。その顔には傷や血が付いていた。

 

 

「おめぇが悪党だろうが、知った事はじゃねぇが……」

 

「うるさい小僧だ…!!殺れ!!!」

 

 

ナツの声は遮られ、青髪の合図の直後、大勢の盗族らしき男性たちが凄まじい勢いでナツに跳びかかって行った。

 

 

「「「死ねぇぇええッ!!!」」」

 

 

大勢の男性に囲まれ、姿が確認できなくなったナツだったが、直後、ナツの大きな叫び声が轟いた。

 

 

「うおりゃああああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

塊の様になっていた男性たちが四方八方に吹っ飛び、壁にぶつかり、地を滑り、地に強打する者。

 

 

「つ…強ぇ……」

 

 

一人の男性がそう言って頭を地に置き、力尽きた。

 

 

「ほぅ…やるな、小僧……」

 

「おめぇのせいで火竜、イグニールを探す時間が少なくなったじゃねぇかぁッ!!どうしてくれんだぁあ!!」

 

 

怒るところが青髪の男性とずれていた様で男性は思わず転びかける。

 

 

「ゴチャゴチャうるせぇ………餓鬼だッ!!!」

 

 

青髪の男の腕から炎が放たれた。その炎はナツを包み込み、激しく燃え上がる。

 

 

「ちょっと…!!」

 

 

少女が助けに行こうとする身振りを見せると、ハッピーがいつの間にか翼を出し、少女を制していた。

 

 

「大丈夫。ナツは強いから」

 

 

ハッピーの自慢げに言うその言葉は信用できないことかもしれないが、黙って少女は見届ける。

炎の中から、桜色の髪を逆立たせ、凄まじい威力で地を蹴飛ばし、真っ直ぐ男目掛けて、ナツが飛んでいく。

 

 

「これでも………」

 

 

「うわああぁぁあッ!!!や、ややめろッ!!分かった分かった―――ぶべら!!!」

 

 

「くらぇぇぇえええぇぇえッ!!!!」

 

 

ズトォオォオオォン!!!

 

 

 

ナツの拳が青髪の頬に直撃し、男性は耐えきれずに空へと吹っ飛んだ。

 

 

「はっはっはっは!」

 

 

ナツはそうやって高らかに笑った。

 

 

 

 

あの後、ナツとハッピーは助けた少女、“リーナ”に奢って貰い、満腹になったのであった。

 

 

 

 

「ぷはぁー!食った食った!」

 

「あい!」

 

 

街が坂になっているハルジオン街は坂街とも呼ばれているみたいだ。その中間らへんでナツとハッピーは膨らむ腹で嬉しそうに会話していた。ハッピーは柵の上で海を眺めていた。

 

 

「そいや船上パーティーやるって誰かが言っていたよね。あの船かなぁ」

 

「…船?うぷっ…!気持ちワリ……」

 

「想像しただけで酔うのやめようよ」

 

 

ナツが地を見つめながら、口から出そうな物を抑え込んだ。

 

 

「あ!あれってあの有名な火竜って呼ばれている魔導士が開いている船よ~!」

 

「“妖精の尻尾(フェアリーテイル)”の魔導士なんだってね…!!」

 

「私も行きたかったなあ」

 

 

ナツの目つきが変わる。

 

 

「「!!」」

 

 

ハッピーの耳がピンと張りたち、驚愕した表情に瞬時に変わった。ナツの顔も苦しそうながら驚愕している。

 

 

「い、今…」

 

 

「あぁ、言ってた……」

 

 

ナツが続ける。

 

 

「イグニール!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ったのかぁぁッ!!?」

 

 

呆気にとられたハッピーは沈黙する。

 

 

「違うと思うよ…」

 

「んじゃぁ!!イグニールは兄弟だったのかぁぁッ!!?」

 

「…多分、アイツじゃないかなぁ?あの青髪の……」

 

「すまねぇ、全然分からねぇ…」

 

 

唖然としているハッピーはナツを可哀想に見る。

 

 

「…妖精の尻尾……」

 

 

ナツは疑うようにしゃがみ込みながら、小さく煙を舞い上げる船を眺め続けた。

 

 

 

 

「な!!!何なのよコレ!!?」

 

「気づくのが遅ぇんだよ。ようこそ、我が奴隷船へ…」

 

「なっ…!!?あ、あんたは!!」

 

「ハッハッハッハ!!さっきはよくもやってくれたなぁ…」

 

 

火竜は拳を後ろにめいいっぱい下げてからぶん殴った。

 

 

「お返しだァァ!!」

 

「きゃあぁぁッ!!!」

 

「あんたはここに来てから商品なのさ…」

 

 

リーナは体をもがくように暴れるが、怪力の男達の力には到底かなうはずもない。それどころか、ぐっと握り締められ、腕が折れるほどまで痛んだ。

 

 

「奴隷の烙印を入れさせてもらうよ」

 

「うっ…!」

 

 

蒸発している赤い判子の様な鉄がゆっくりと近づいてくる。リーナの目から涙が一粒、落ちた。

 

 

 

バキッ!!!

 

 

 

「なっ!!?…昼間のガキ!!?」

 

 

ナツが天井を豪快に突き破り、床に降り立った。だが、壁にもたれ掛かり俯いて、激しく酔っている。

 

 

「ハッピー!?」

 

 

リーナが涙を拭きながら天井から見下げる様にしているハッピーを見つけ、声を掛ける。

 

 

「行くよ!!」

 

「えっ!?なにが!?…キャッ!!!」

 

「逃げよ」

 

 

ハッピーは翼を器用に使い、リーナの襟を掴み取ると、尻尾を使ってリーナの細い腰に巻き付けそのまま、飛び去って行く。だが、リーナは驚いた表情でまだ理解しきれず、とにかくハッピーに叫んだ。

 

 

「ナツは!!?」

 

「あい、二人は無理…」

 

 

リーナは呆気にとられた様子でハッピーを見つめた。

 

 

「逃がすかぁッ!!!」

 

 

火竜が巨大な炎を放ち、天井を突き破ってハッピー達に襲い掛かるが、ハッピーは見事に避けて空へと舞い上がる。

 

 

「チッ!!アイツ等ぁぁっ!!二人を追え!!!」

 

 

五、六人くらいが外へと出て、舵を取る。ハッピー達はどんどん岸の方へと逃げる。それに対し、船も大きくハッピー達を先導にフルスピードで追いかけた。そのため、船が大きく揺れる。

 

 

「おぉぉおおぉぉ…」

 

 

大きく船が揺れることに比例し、ナツの酔いも増す。

 

 

「ふっ…!」

 

 

ハッピーはリーナを素早く岸に下ろし、舵を取る二人に向かって超高速で向かっていく。それに対し、銃を乱射する。銃声が鳴るにつれ、弾丸がハッピーの横や上を通り抜ける。ハッピーが舵を蹴飛ばした。

 

 

「うぉい!?ヤベッ…!舵が壊れたぁぁぁッ!!」

 

 

船は行く先をなくしたように暴れ回り、やがて、岸に横倒しになって凄まじい轟音とともに滑った。船尾が砂に突っ込む様に逆さまになっている。砂塵が舞い、港が大騒ぎになる。砂が撒き散らされ、大半が削れる。

 

 

 

パラパラ…ガラっ……

 

 

 

破片が落ちて、小さな音を立てる。傾いている船に違和感を覚えるが、ナツは立ち上がった。

 

 

「止まった…。揺れが…止まった…」

 

「ナツ!!だいじょ……!」

 

 

ナツの放つ威圧感に思わず恐怖したかのように思えたリーナは足を止めて、驚愕する。

 

 

「小僧…またやるのか?今度は……知らんぞ…?」

 

 

何故か上着を脱ぎ、後ろに豪快に投げ捨てる。ナツはそのまま、睨み続ける。

 

 

「オイ!さっさとやっちまえ…!!」

 

「「はっ!」」

 

 

二人の男がナツ目掛けて走って行く。

 

 

「おまえが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士か」

 

「それがどうかしたか?」

 

 

笑うかのように火竜はナツの質問に答える。

 

 

「よォくツラ見せろ」

 

 

ナツにどんどんと近寄っていく二人の男。ナツの視線はその二人を見ておらず、ましてや気づいているのかさえ、分からない。

 

刹那、頭と頭が激突した。

 

 

「オレは妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツだ!!!おめぇなんか見たことねぇ!!!!」

 

 

皆、驚愕し、沈黙が流れる。

数秒後、一人の男が呟いた。

 

 

「ボラさん本物だぜ!!」

 

「バカ!!!その名で呼ぶな!!」

 

 

ハッピーがピクッと震え、呟くように話す。

 

 

「ボラ…プロミネンスのボラ。数年前、タイタンノーズっていうギルドから追放された奴だね。魔法で盗みを犯してたんだ」

 

 

ナツがギリッと鋭い歯を擦り、音を立てる。

 

 

「フン!何で怒っているのか分からんが、これを相手に…できるのか?」

 

 

自信いっぱいに言ったボラは微笑むかのようにナツを睨み付けた。

その後ろでは、あの男達がなにか紫色の液体を飲んでいる。喉が膨らんでは落ちていき、やがて、液体が無くなった。

 

 

「なにあれ!?」

 

「なにやったか分からねぇけど…行くぞォ!!!」

 

 

ナツが飛び出した。

体が一瞬、浮き上がったの様な素振りを見せ、男一人が飛び出した―――速い!

 

 

 

ビュゥゥゥン!!!

 

 

 

「な!!?」

 

 

ナツは思ってもなかったもの凄い速度に足を止めてしまい、思いきり殴られた。その速さが殴る威力を上げ、ナツを壁に向かって吹き飛ばした。腰を後ろに、ナツは壁に激突した。

 

 

「へっへっへ…!」

 

「ナツが…吹っ飛んだ……?」

 

「ふっ…。これは、ストリングAPっと言ってな…」

 

「知ってる…!でもそれって……」

 

 

リーナがそう驚く様に叫んだ。

 

 

「そうさ。これは販売中止となった。言わば……禁物の薬品だ。これを飲んだ者は強大な力を手にする。それは何倍にも及ぶと言われている。だが、これを飲んだ者は寿命が縮む…」

 

 

確かに、飲んだ者の体が大きくなったような気がする。肉体が発達し、目つきも変わった気がする。ハッピーの後頭部に汗が流れた。

 

 

「ちくしょォ…!!」

 

 

「これなら、貴様にも勝てる!!!」

 

 

「汚い勝ち方ね!!」

 

 

「ふ、何とでも言え」

 

 

ボラは笑いながら、ナツと男を見つめた。

床が深く抉られ、破片が後ろに飛ぶ。男は凄まじい速度で飛び出し、ナツに襲い掛かる。

 

 

「いっ!!?」

 

 

ナツは抵抗できずに、腕を交差し、ガードを試みる。

だが、強烈な一撃を抑えることはできず、ナツは壁に強打する。更にそこから怪力は更に怪力を加え、やがて、壁を打ち破り、ナツは外に出て、吹っ飛んだ。

 

 

「ぐぅぅぅッ!!!」

 

 

ナツは逆さまになった船の甲板を滑り落ちた。ナツはなんとか止まろうと、手をついて踏ん張って滑る勢いを抑えるが、前方からまたあの男が飛び掛かって来た。

 

 

 

ズドォォォォッ!!!!

 

 

 

甲板に大きく穴が空き、破片が四方八方に飛ぶ。砂塵が舞い、その中から男が飛び出てくる。

ナツは既に飛び退いて、地に降り立っていた。

だが、そこにまた別の男が飛び掛かって来ていた。男は拳を握り締め、ナツ目掛けて振るう。

ぐっと握った拳と拳がぶつかり合った。刹那、二人共、後方に地を滑る。五メートルくらいでようやく止まった。

 

 

「もらったぁあああッ!!!」

 

 

また他の男が上から襲い掛かってきている。足が斧のように重そうに襲う。ナツは後ろに飛び退いて逃れる。だが、地についた直後、男は大きく前に躍る。

 

 

「うぐ…!」

 

 

ナツは無理やりしゃがみ込んで避ける。だが、目の前から木の様に太い脚がもの凄い勢いで振るわれた。

空を裂くような音が聞こえる。ナツはなんとか、後ろに態勢を崩しながら飛んで避けた。だが、その態勢はあまりにも苦しい。

 

 

「ここだぁッ!!」

 

 

男がまた前に蹴り上げた脚がナツの顔面に直撃した。

 

 

「がぁあッ!!!」 

 

 

ナツは悲鳴を上げることなくそのまま、壁に叩きつけられた。砂ぼこりが舞い上がり、ナツの周りに立ち籠る。

 

 

「いぎぎっ…!強ェなぁ……」

 

 

ナツは首を抑えて煙の中からその姿を現す。

 

 

「こっちだよ…!!」

 

 

気づけば、後方に回り込んでいた男が腰を思い切り蹴飛ばした。

 

 

「ごはっ…!!!」

 

 

ナツはそのまま、吹っ飛んでいき、地に落ちる瞬間―――

 

 

「――でりゃあああッ!!」

 

 

他の男がナツを蹴り飛ばした。

 

 

「がはっ……」

 

 

ナツは腹部に強烈な一撃を食らい、血を吐いた。ナツは空へと打ち上げられていた。そこへ男がナツの高度より高く飛んで両手の指を絡め、一つの拳を作って、振り下ろした。

轟音が響き渡り、ナツは天と地が逆になり、地へと急降下していった。コンクリートでできた地へと激突したナツを煙が包み込む。

煙からふらふらと現れたナツの姿はボロボロ。服の裾などが削れ破れ、額の右上からは血が目を通って流れていた。ポタッと雫となって落ち、血がコンクリートに染み込んでいく。

 

 

 

「逃がすかぁあッ!!!」

 

「きゃああぁッ…!!」

 

「わぁぁあああッ!!!」

 

 

ハッピーがボラの放たれた炎に襲われ、その姿は炎の中へと消える。僅かに黒い影が薄らと残る。ハッピーはリーナを連れて飛んでいたが、炎を避けきれずにやむを得ずにリーナを離し自らが攻撃を食らった。

 

 

「ハッピー!!」

 

 

リーナが急いで落ちていくハッピーを追う。ダイビングしてハッピーを地に付けずに腕で受け止める。

その光景を唖然として、沈黙してナツは見ていた。

 

 

「おい!!よそ見してんじゃねぇぞ!!!」

 

「ハッ…ピー…を……」

 

「あぁ?聞こえねぇな」

 

 

ナツは俯きながらだんだんとその力を上げていく。魔力が膨らみ出し、ナツの周りの空気がゆっくりと熱くなる。

 

 

「ハッピーを……!!!」

 

「いい加減…死ねぇッ!!」

 

 

男三人が一斉にナツ向かって飛び出す。

 

 

「火竜のォォオオオオオォォオ!!!」

 

 

男三人とナツの間合いはたった数歩、その状態からナツが一歩前に踏み出し、

 

 

「鉄拳ッ!!!!」

 

 

殴った。

三人一気に仕留め、吹っ飛ぶ。炎を纏った拳は威力が増し、相手に火という追加ダメージを与える。三人は倒れ、動かなくなった。

横から飛んでくる男を肘で落とし、上から来る男を蹴り上げて逆さまの状態になり、後ろに炎を纏った足で蹴飛ばす。前方から来た、四人を見、大きく長く強く息を吸った。顔を上げて、

 

 

「火竜のォ咆哮ォオオオッ!!!!!」

 

 

紅蓮の業火を放った。

四人は一瞬にして黒焦げになり、倒れる。

ナツはそのまま、地を蹴り飛ばし、一気に前に飛び出して、ボラの所へと向かう。

 

 

「なっ!!!」

 

 

足を止め、踏ん張り、睨み付け、殴り掛かる。

下から思い切り振り上げ、顎に激突する。骨が折れた様な音が僅かに聞こえたが、ナツは構うことなく上に吹き飛ばした。ボラは船の甲板に落ち、滑り落ちていくが、ナツがそこに飛び上がり、蹴飛ばして咆哮を上げた。

 

 

「全部、二倍にして返してやらぁぁぁああッ!!!!!」

 

 

ナツは甲板から飛び降りて、地についた刹那、凄まじい速度で飛び出す。

 

 

「妖精の尻尾を勝手に語った分!!!!」

 

 

炎を纏った拳で殴る。

 

 

「ハッピーを傷つけた分!!!!」

 

 

炎を纏った足で蹴る。

 

 

「リーナを傷つけた分!!!!」

 

 

壁まで追い込んだナツは思い切り殴りかかった。壁にぶつかった瞬間、ナツが更にそこに力を加え、壁が豪快に破壊され、家の壁を突き破っていく。

 

 

 

ゴッ!!!ドォン!!!ズドドドォ!!!!ドガァァアァアア!!!!!

 

 

 

「この騒ぎは!!!何事かねぇぇぇぇえええッ!!!!」

 

「良かった!軍隊が来ッ―――キャッ!!」

 

「ヤベ!!逃げんぞ!!!」

 

「あい!!!」

 

「何で私までぇぇぇ!!?」

 

「来いよ…!俺達のギルド(フェアリーテイル)……!!!」

 

「…うん!!!」

 

 

嬉しそうに頷いたリーナの笑顔は先程までの戦いを忘れさせてくれたみたいだった。

こうして、三人(?)は軍隊から歓喜に満ち溢れた表情で逃げて行った。

 

 

 

そう、これからだった。このことから始まったんだ、俺達の物語は…………

 

 

 

 




 FARIY TAIL好きなので、執筆してみました。上手くできないところもございますが、どうか温かい目で見守り下さい。初小説なので…。
 早速、オリキャラを加えて、ちょっと原作変えてみました。
 ま、これからもよろしくお願いします。どんどんと原作崩壊していきます………。


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第02話: DAY BREAK(日の出)

「ただいまー!!!」

 

 

怒鳴るような大声がギルド全体に響き渡った。それに気づいた全員の視線が発言者、ナツに向けられ、静寂が一瞬、包み込んだが、気にすることなく皆は会話の続きや喧嘩などを再開していた。

 

 

「ただー」

 

 

ナツの後に続けてハッピーが手を挙げながら小さな体に似合う小さな声で言った。

 

 

「ナツ、ハッピーおかえりなさい」

 

 

白い髪が長く、赤いワンピースに胸らへんにリボンピンク色のリボンをつけている服装の女性、妖精の尻尾の従業員でもあり、グラビア、看板娘でもあるミラジェーンがお盆を片手に返事をした。

その横で座っている一人の男が笑いながら、ナツに話しかけた。

 

 

「またハデにやらかしたなぁ。ハルジオンの港の件…新聞に載っ……」

 

 

ナツの足裏が男の顔面寸前まで飛んできていた。

 

 

「…て」

 

 

「テメェ!!!火竜の情報ウソじゃねェか!!!」

 

 

思い切り顎を蹴飛ばされ、男は机を割って吹っ飛んだ。

 

 

「ナツが返って来たってぇ!!?おい、ナツ!!この間の決着付けんぞ!!!」

 

 

上半身裸の男が大声で怒鳴りながら出てくる。その後ろには巨体で白髪の男が出てきていた。

 

 

「漢ぉぉぉぉ!!!」

 

「うるせぇ!!」

 

「コンノヤロウ!!!」

 

「おぉ!!?」

 

「邪魔だっての」

 

 

殴って蹴って肘打ちして、膝蹴り、机を投げ飛ばし、椅子で頭を激突させ、跳び蹴り、回し蹴り、瓶投げ、頭突き…体の至るところを使って全身で喧嘩をしていた。喧嘩、というよりこれは一つの祭りの様な大乱闘だった。

大乱闘の中、リーナはただ一人、感激に震え、一人呟いた。

 

 

「すごい…」

 

 

その言葉に込められた想いは確かなものだった。

 

 

「あらぁ、新入りさん?」

 

「あっ、ミラジェーンさん!!!…ってかあれ止めなくていいんですか?」

 

「いつものことだからぁ。放っておけばいいのよ」

 

 

ニコッと笑い、嬉しそうに見つめるミラジェーンは母が子を見つめる様な表情でナツ達を見つめた。その笑顔には嘘はない。

だが、大乱闘は次第に悪化し、皆が魔力を高めだした。

 

 

「あんたらいい加減にしなさいよ……」

 

 

酒が大量に入った樽に両足を置き、魔法の札を額の前で構えて、魔力を注ぎ込んだ。髪が雷の様に動き回る。

 

 

「アッタマきた!!!!」

 

 

右で拳を作り、親指の方を左の手のひらへと乗せ、凍える様な魔力を高めだす。その周りに氷の様な冷たい風が吹き始めた。

 

 

「ぬおおぉおおおぉぉおおおッ!!!」

 

 

巨体の体の剛腕の腕が次第に魔力を大きく膨らみ始め、一瞬、黒い布の様な魔力が包み、その後、鋼鉄の様な剛腕が現れた。

 

 

「困った奴等だ…」

 

 

右手の一差し指に装着した指輪に魔力が集結し、純金の光が輝きだす。指輪は光源となり、更なる眩い光を放つ。

 

 

「かかって来い!!!」

 

 

両手に炎を纏い、大きく開いて上げ、熱く燃え上がる魔力を放つ。周りの空気が次第に温かくなり、紅蓮の炎が燃え盛る。

 

 

「魔法!?」

 

「これはちょっとマズイわね」

 

「やめんかバカタレ!!!」

 

 

大きな怒号が鳴り響き、ギルド全体が静まり返った。黒い大きな巨人はそのまま、地響きを立てて歩き、リーナに近づいて行った。

リーナはその迫力に押し負け、恐怖というより、驚愕し、唖然としている。

 

 

「ふんぬぅぅうぅう……!」

 

 

巨人の声を合図に見る間に小さくなり、やがて、小さな老いぼれたじいさんとなった。

 

 

「ええぇッ!!?」

 

「いたんですか、マスター…」

 

「うむ。よろしくネ!」

 

 

小さな手を挙げてリーナに軽く挨拶を言うと、足に力入れて、

 

 

「とう!!」

 

 

と言って、体を後ろに向かって回しながら、二階に躍る。

格好良く、途中まではいったものの、最後に柵に後頭部を強打し、しばらくの間、沈黙した。その情けなく格好悪いその姿を皆は平然として表情で見つめていた。

 

 

「まずは…グレイ、密輸組織を検挙したまではいいが…その後街を素っ裸でふらつき、あげくの果てに干してある下着を盗み逃走…。エルフマン!要人護衛の任務中に要人に暴行。カナ、経費と偽り某酒場で呑むこと大樽15個…。しかも請求先は評議員。次にロキ…。評議員レイジ老師の孫娘に手を出す。損害賠償が送られておるぞ。ルーシィ、護衛する運搬する船を岸に押し戻し、時間を遅らせる…」

 

 

次々に呼ばれ、数々の厄介事を簡単に口に出していく。それぞれ、皆、愚痴や言い訳を呟いている。

 

 

「だって裸じゃマズいだろ…」

 

「漢は学歴よ、なんて言うから…つい……」

 

「ばれたか…」

 

「それはアクエリアスが…」

 

 

最後にマスターは首をがくん、と下げてから俯きながら詠唱するかの様に言う。

 

 

「そして…ナツ……。デボン盗賊一家壊滅するも民家7軒も壊滅。チューリィ村の歴史ある時計台倒壊。フリージアの教会全焼。クレナル村で大乱闘、原因であり、主催者になる…。バルカン討伐するものの雪崩を起こす…。山一つが大火事…」

 

 

ナツは黙ったまま、聞き過ごしている。

 

 

「貴様等ァ、ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞぉ…」

 

「そら、そうだ…」

 

 

グレイが呟く。

 

 

「だが…」

 

 

怒りに満ち溢れたマスターの全身が今にでも手を出しような雰囲気となる。全身がプルプルと震えている。

 

 

「評議員などクソくらえじゃ…」

 

 

マスターは先程のことと裏腹に違う行動ととった。

 

 

「上から覗いている目ン玉気にしてたら魔道は進めん。評議員のバカ共を恐れるな」

 

 

その言葉とともに皆の気持ちが膨れ上がり今にも爆発しそうになる。

 

 

「自分の信じた道を進めェい!!!それが妖精の尻尾の魔導士じゃああ!!!!」

 

 

ギルドの中は静寂からまた大きく高らかに笑った。

外は暗くなり始め、やがて、夜を迎える。だが、妖精の尻尾の中だけはまだ昼間の様に騒がしくその笑い声が一晩中、止むことがなかったという。

 

 

 

 

古くから魔法が盛んな商業都市、マグノリアの街。この街、唯一の魔導士ギルド、妖精の尻尾が見えてくる。

その街からすると小さな家だが、二階建ての家で家賃は7万J(ジュエル)と結構高いのだが、収納スペースや間取りも広いし、ちょっとレトロな暖炉と竈もついていて、かなりの良い家であった。

そこには二人の少女が住んでいた。

 

 

「今日も疲れたなぁ」

 

「そうだね」

 

「でも…やっと安らげる私の……」

 

 

と言って木の香りがするドアを勢いよく開いた。それは、自分の部屋へとつながるドア。

 

 

「あたしの部屋ぁぁぁあああッ!!!!」

 

「よっ」

 

「お邪魔してまーす!」

 

 

そこにはスナック菓子をバリバリと口から溢しながら豪快に食べるナツと魚の頭から噛ぶり付く幸せそうなハッピーがいた。

 

 

「なんであんた達がまたいるのよー!!!」

 

 

上段回し蹴りがナツとハッピーの頭を押し潰し、壁に激突。潰れた二人(?)の顔の幅は2センチ…。

 

 

「だって、リーナがここに来るって聞いたから…」

 

「聞いたから何!!?勝手に入って言い訳!?」

 

「あい、勿論です!!」

 

「ヒゲ抜くわよ?」

 

 

ナツとハッピーは気にすることなく辺りを荒らし出す。

 

 

「いい部屋だね」

 

 

とか言って壁で爪をガリガリと砥ぐ。

 

 

「爪砥ぐなッ!!」

 

 

ナツは机の上に置いてある文書の塊を見つけ、手に取る。

 

 

「ん?なんだコレ」

 

「ダメェぇぇぇえっ!!!」

 

 

ルーシィが勢いよく飛んできて文書を強引に奪い取る。

 

 

「おい、盗むなよ…」

 

「コレあたしのだから!!?」

 

「コレはなんですか?」

 

 

と、言ってリーナが机の上に置いてある紙の束を持ち上げた。そして、内容を見ようとすると、ルーシィがまたもや飛んできた。

 

 

「それもダメェ!!!」

 

 

ルーシィが強引に奪った紙の束はルーシィの胸と腕の間に抱えられ、震えながら力をいっぱいに入れて抱えている。

 

 

「帰ってよぉぉ!!」

 

「やだよ、遊びに来たんだし」

 

「超勝手!!!」

 

 

泣きながらルーシィは叫んだ。

 

 

「いいじゃない…」

 

 

リーナはそう言うが、ルーシィは前にもこんなことがあったのだ。だから、もう帰って欲しくて仕方がない。一度、家具が壊され、鍵を失くされ、と毎回、毎回、嫌なことになっているのだ。

 

 

「紅茶飲んだら帰ってよね…」

 

 

結局、肘を机に付き、手のひらを顎に下につけてふぅ、とため息をついて言った。

ナツとハッピーの前には紅茶が置かれていて、僅かに湯気が立っている。

 

 

「あ!そうだ」

 

「なによ…?」

 

 

嫌な予感がいっぱいでルーシィの頭は今にも混乱しそうだ。

 

 

「俺とリーナでチーム組んだんだけどよォ、ルーシィも来ねえか?」

 

「う~ん…」

 

 

嫌な予感しかしないルーシィにとっては疑ってしまう。

 

 

「ルーシィさんいいの?」

 

 

リーナが訊いた。

そう問い詰められるとどうも拒否できない状態となってしまったので、仕方なく許可した。

 

 

「早速、仕事行くぞ!」

 

「えっ!?」

 

 

リーナが驚く。

紙を一枚、机に置いた。ルーシィはそれを取り上げ、内容を見る。リーナも横から覗いて読んでいった。

 

 

「本を盗んだだけで20万J!!?」

 

 

「オイシー仕事だろ?」

 

 

「あら???あららららら……!!?」

 

 

ルーシィが注意書きを読んだ瞬間、青ざめるような顔で少なからず驚く。

注意書きにはこう書かれている。

金髪メイド募集。とにかく女好きで変態でスケベ。

 

 

「ま、まさか…」

 

「ルーシィ金髪だもんな!!!」

 

「ハメられた………」

 

 

ルーシィはもう混沌の中に陥れられた様な表情で唖然と沈黙した。

 

 

 

 

てなわけで!!!

 

 

 

 

「馬車の乗り心地はいかがですか?ご主人様…」 

 

 

無愛想に言ってその言葉には意地悪な気持ちも込められていた。

 

 

「冥土が見える……」

 

 

苦しそうにするナツの横で怒って叫ぶハッピー。

 

 

「ご主人様役はオイラだよ!」

 

「うるさいネコ!!」

 

「あ、もうすぐ着きますよ?」

 

 

窓から覗いてリーナが言った。見えるのはシロツメ街、今回の依頼主が住む街。

 

 

 

 

そして、ナツ達は仕事内容の詳細、金額が値上がったこと聞き、早速、エバルー公爵邸に向かったのであった。その時、ルーシィには一つの小さな疑問に悩んでいた。その悩みはどこか引っ掛かるようなそんな感じがもやもやと残った。

 

 

(DAY BREAK……日の出……どこかで聞いたことあるっていうか…なんていうか…ああもう分かんない…!!!)

 

 

 

 

「すみませーん!誰かいませんかぁ!」

 

 

ルーシィが黒と白のメイド服でエバルー公爵邸の門前で人を呼ぶ。

すると、門から、では無く、下から大きな巨体の女性とは言いづらい女性が噴き出してきた。

 

 

「ひっ!!」

 

「メイド募集?」

 

「うほっ!」

 

 

その巨体に驚き、びっくりする。

リーナもその姿を見て、ちょっと退いている様だ。その表情は驚愕していて、唖然としている。

すると、今度はまた穴から噴き出してきた。

 

 

「ボヨヨヨーン!吾輩を呼んだかね」

 

 

ルーシィの肌が震え始め、鳥肌が立つ。

 

 

「どれどれ…いらん、帰れブス…」

 

 

(((早っ!!!)))

 

 

リーナとハッピーとナツの思いが重なった。

ルーシィも結構、自信があったようだったので、その言葉はちょっと逆鱗を触れられたようだ。それでも必死に我慢して声を掛けようとするがエバルーが先に話だした。

 

 

「吾輩の様な偉~~~~い男には………」

 

 

すると、また地面から四人の女が噴き出してきた。

 

 

「美しい娘しか似合わんのだよ。ボヨヨヨ……」

 

 

そこには太ったメスブタゴリラ。細長いきゅうり女。顔が異常に横に長い、毛だらけナマケモノ。腐った卵の様な顔のツインテールの老朽女。

その姿を見た時には吐き気がして堪らなかった。

ルーシィは強引に巨体の女に無理やり放り投げられてしまった。

 

 

「これは駄目ね…」

 

 

リーナは手を顔に当てて、首を振った。

 

 

「こうなったら突撃だな…」

 

「突撃ぃ!!」

 

「あのオヤジ絶対許さん!!」

 

 

 

「性懲りもなくまた魔導士が来おったわい。しかもあのマーク。今度は妖精の尻尾か」

 

 

エバルー公爵の邸の中。

そこには大きな態度で座るエバルーの後ろにいる二人の影が大きな威圧感を放っていた。

 

 

「さーて……今度の魔導士はどうやって殺しちゃおうかね」

 

 

そしてこの時、また一人、大きな巨体の男が動き始めていた。

 

 

「ボヨヨヨヨヨ!!!」

 

 

その不気味な笑い声はこの部屋へと響き渡った。




やっと第02話できました。なんか色々と飛ばして行ってます~ ><


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第03話: 潜入!エバルー屋敷!

 


 じゅぅぅぅううううう!

 

 

窓のガラスが熱により、一部だけが溶け、風穴がぽっかりと空いた。そこに手を入れ、強引に窓の鍵を捻った。

 

 

「さすがね、火竜」

 

 

開いた窓から身を乗り出して、中へと入る。中はどうやら物置らしく、ほとんどがゴミとなった古物が置かれていた。

それに、結構、臭い。鼻をつまむほどでもないが。

ドアをそっと開けて静寂に包まれたこの邸で潜む影四つは速やかにでも静かに行動していた。ハッピーが骸骨の被り物を付けながら、確認し、そっと廊下に出た。

ルーシィ、ナツ、リーナの順に壁に寄り添いながら進む。

 

 

「こうやって探していくつもりなのか?」

 

「トーゼン!」

 

「なんか忍者みたいだね…」

 

「忍者かぁ…」

 

「リーナ、変なことあまり言わないでね。こいつ等、変なところにスイッチあるから…」

 

 

ルーシィが注意を払いながら言った。

すると、床から噴き出す五人の個性、豊かな(?)女達が現れた。

 

 

「見つかったぁ!」

 

「おぉぉおおおぉっ!」

 

「えっ!?」

 

 

リーナが驚いた時には既にナツは跳躍し、足に炎を纏って蹴飛ばし、蹴散らした。

 

 

「忍者ぁっ!!!」

 

「あ~あ…やっちゃった…」

 

「まだ見つかるわけにはいかんでござるよ…」

 

「にんにん!」

 

 

マフラーを顔に巻いたナツの膝の上にハッピーが乗って印を結んで忍者の真似をしていた。

 

 

「隠れるわよ!早くっ!!」

 

 

リーナとルーシィは慌てて近くのドアをこじ開けて飛び込んだ。ナツはルーシィに襟をつかまれ部屋に放り投げられた。

 

 

「ここって、本だらけだね。ラッキー♪」

 

「さて、探すぞぉ!」

 

「えっとぉ、これ…じゃない、ってかなにコレ……」

 

 

呆気にとられて、リーナはその本を見た。

 

 

「うぅん、結構、この本棚から探すのはキツイわねぇ…」

 

「おぉ!コレどうだ?」

 

「あいさー!」

 

「うほっ、炎の本だ!」

 

「こっちには絵本だ、こっちには魚図鑑!」

 

「金色の本みっけー!!!」

 

 

楽しそうにするナツとハッピーの声を聞いてルーシィは次第に怒り始め、やがて、頭にきたらしい。

 

 

「あんた等まじめに探せぇ!!!」

 

「おっ、コレって…!日の出!!!!」

 

「もう見つかったの?」

 

「あっ!!!それってケム・ザレオンの作品のじゃない!?うっそぉ!!?未発表作ってことぉ!!?」

 

 

ルーシィが感激しながら、日の出を取り上げ、ずっと見つめている。

 

 

「早く燃やすぞ…!」

 

 

「え~~~…これは文化遺産よ!!」

 

 

「!!?…ルーシィ!!」

 

 

ナツが急激にルーシィに飛び込んで押し倒した。直後、ナツとルーシィを追うように床からエバルーが飛び出してきた。

 

 

「もたもたしてっから!!」

 

「ご、ごめん…」

 

「やはり狙いは日の出だったのか…」

 

「ルーシィ燃やすぞ!!!」

 

「絶対ダメ!!」

 

「ルーシィッ!!!」

 

 

ナツの表情が圧倒的に変わっている。かなり怒っているようにも見える。

 

 

「来い!!バニッシュブラザーズ!!!」

 

「なっ!?」

 

 

ナツが後ろを振り向くと、本棚がどんどんと離れて行き、やがて、黒い影の中から二人の影が出て来た。

 

 

「グッドアフタヌーン」

 

「こいつ等が妖精の尻尾の魔導士か?」

 

 

ハッピーが二人のそれぞれ、右腕、左腕についている布の紋章に気づき、大声で言う。

 

 

「あの紋章、傭兵ギルド南の狼だよ!!」

 

「…ナツ、リーナ!!」

 

「なに!?」

 

「少し時間をちょうだい!!この本には秘密があるみたいなの!!」

 

「は?」

 

 

ナツが引き止めようとすると、ルーシィは勝手に部屋を飛び出し、さっさとどこかへ行ってしまった。

 

 

「こうしてはおれん!!!作戦変更じゃ!!吾輩自ら捕まえる!!!その小僧と少女は任せたぞ!バニッシュブラ―――!!!」

 

 

言葉が途中で遮られた。床に潜って行ったため、途中で声が聞こえなくなってしまったのだ。

 

 

「ルーシィあっちだぞ」

 

 

驚愕した表情でナツが指を差しながら言う。

 

 

「ハッピー、リーナ…ルーシィを追ってくれ…!」

 

「で…でも!」

 

 

ナツは腕をぐりんぐりん、と回し、体操し終わった後、紋章が刻まれている右腕を体に引き付け、更に左手で体に押し付ける。その状態のまま言った。

 

 

「一人で十分だ」

 

 

挑発するかの様に言ったその言葉にバニッシュブラザーズのボサボサの髪の男がキレる。

 

 

「あ?テメェ!ママに言い付けんぞ!!」

 

「落ち着け、クールダウンだ」

 

「行くぞ、黒コゲになる準備はできてるか?」

 

 

ナツのこの言葉が闘いの幕を開けさせたかのように闘いは始まった。

 

 

「とう!!!」

 

 

頭の一部だけに髪が生え、その髪は後頭部であり、長く束ねられている。男が巨大のフライパンを持ちながら、飛び出してきた。

 

 

「おっと」

 

 

振り下ろされた巨大フライパンを見事にいとも簡単に躱したナツ。だが、空中にいる身動きの取れない状態の中で大きく尖った鼻を持つ、男に服の裾を掴まれた。

 

 

「うぉ!?」

 

 

一つの本の入っている薄茶色のタンスに投げられた。

ナツはどうすることもできず、大声に叫びながら吹っ飛んで行った。

 

 

「ぉぉぉおおぉおおおおお!!!」

 

 

 

ズゴォ!!!

 

 

 

壁がブチ破られ、大きな邸の広間に出る。ナツはそこで廊下に沿う柵に掴んだ。直後、自分が吹っ飛んできた方に首を振ると、大きな黒いフライパンが見えた。

黒いフライパンは柵と廊下を粉砕し、砂塵を舞い上がらせる。ナツはそこから速くも離脱しており、すぐさまに一階の大広間に降り立った。

 

 

「雇い主ん家そんなにブッ壊してもいいのか?」

 

 

砂塵の中から現れた二人はナツの質問には応答せず、無言で話を進める。

 

 

「貴様は魔導士の弱点を知っているかね?」

 

「乗り物に弱い事か!!?」

 

 

心を見抜かれた様な表情のナツは大いに驚愕している。

 

 

「よ…よく分からんがそれは個人的なことでは?」

 

 

ナツは今にも酔いそうな表情になっている。考えただけでも酔ってしまう程のその宵への弱さにはいつも呆れるというか情けないというか。

 

 

「肉体だ」

 

「肉…体!?」

 

 

ナツにはその言葉はマッスルの男二人ぐらいしか思いつかないほどの想像のなさというか、空気が読めていないというかまぁ、そこは置いておくことにしよう。

 

 

「魔法とは精神力と知力を鍛錬せねば、身につかぬもの。結果、魔法を得るには肉体の鍛錬は不足する。すなわち、日々、体を鍛えている我々には…“力”も“スピード”も遠く及ばない」

 

 

黒々と光るフライパンをナツ目掛けて振り回す。だが、ナツはそれを見事に躱す。身を横に投げ出し、逆立ちの要領でバク転して躱す。

鼻の尖った男がナツ向かって殴り掛かった。それをナツは横に体を流して躱す。距離を取るが、後ろからフライパンが迫り来る。

ナツは跳躍して躱す。

だが、そこに鼻がでかい男が躍って来た。

右の拳が僅かにギュッと握られた。

ナツはその攻撃に対し、腕を交差し、ダメージを和らげる。

だが、それほど痛みはなく、床を蹴ってすぐに態勢を立て直した。

二人の男が同時に迫ってきて、同時に腕、フライパンを振るう。振るわれた二つの攻撃はナツに掠りもせずに空だけを裂き、通り過ぎた。

その状態からナツは床を蹴って二回転バク転してから着地した。

 

 

「攻撃、当たらねぇぞ?」

 

 

不気味に微笑んだ鼻の尖った方が飛んだ。

 

 

「合体技だ!!!」

 

「OK!」

 

 

フライパンの平たい部分を蹴り、高度を上げると、またトン、と降り立った。

 

 

「俺達が何故、『バニッシュブラザーズ』と呼ばれているか教えてやる!!」

 

「“消える”…そして、“消す”からだ」

 

 

緊張感が少しだけ高まる。

 

 

「ゆくぞ!!天地消滅殺法!!!」

 

 

「HA!!!」

 

 

怒号の様な合図とともに平鍋に乗っている男性が上に思い切り打ち上げられた。影となった一人の男性は天井にぶつかるほどまでに打ち上げられていた。人には手の負えない高度だ。

ナツは完全に打ち上げられた男性に気を取られている。その隙を狙い、平鍋を後ろに疾駆した。

 

 

「天を向いたら…」

 

 

一気に駆け寄った平鍋を持つ男性は振るった。

 

 

「地にいる!!!」

 

「ごあっ!!」

 

 

平鍋がナツの側頭部に激突。ぱこぉん、と甲高い音が鳴った。

 

 

「ちっ…!」

 

 

ナツが平鍋を振るう、男を見た時、上から声がした。

 

 

「地を向いたら」

 

 

ナツが上を見上げようとした瞬間、先程まであんなにも打ち上げられていた男が天地ひっくり返った状態で急降下してきていた。

 

 

「天にいる!!!」

 

「ふぼォっ!!」

 

 

ナツの脳天から両腕が体重と急降下する速度を加えて強烈な一撃を放った。床が砕け散り、砂塵が舞う。ナツの頭は床へとめり込む。

 

 

「これぞ、バニッシュブラザーズ合体技、天地消滅殺法!!!」

 

 

「これを食らって生きてた奴は…」

 

 

ナツが床から頭を脱出させ、ピョンと飛んで、着地した。そして、二人を睨み付け、言った。

 

 

「生きてた奴は…何?」

 

「…なっ!!?………生きてたやつは…お前が初めてだ…」

 

 

話の内容をちょっとでも誤魔化そうとした男が発した言葉がこれだった。

 

 

「もういいや!コレでぶっ飛べ!!!」

 

 

ナツが右手を前に突き出し、重心を後ろに限界までした直後、口が僅かに膨らんだ。そして、体を一気に前に出し、口から炎の塊を吐き出した。

 

 

「火竜の咆哮!!!」

 

「来た!!火の魔法!!」

 

「終わった」

 

 

二人は嘲笑うかのように微笑むと、一人の男性が平鍋を体の真横に出し、声を張り上げて叫んだ。

 

 

「対…火の魔導士専用……兼、必殺技!!火の玉料理!!!」

 

 

ナツの噴き出した炎は平鍋へと吸い取られ、凝縮させられ、消えたかと思った刹那、平鍋が一瞬だけ光り、先程の炎だと思われる炎の威力を増幅させ、噴き出した。

 

 

「!!!」

 

 

凄まじい火炎がナツの全身を包み込み、大きくもの凄い威力で燃え盛った。

 

 

 

 

「ア…アンタなんて最低よ…文学の敵だわ…!」

 

 

壁から出てきている顔と両腕のエバルー公爵はルーシィの両手首を握り、自分の方に引き寄せて縛っている。ルーシィは痛み堪えながらも表情がキツイ感じになっている。

 

 

「うっ…!ルーシィ!!!」

 

 

リーナは四人のメイドたちに苦戦している。ほうきを振り回し、通せんぼされる。

 

 

「きゃっ!!」

 

 

ほうきを振るう四人から離れながらもルーシィを気にするリーナ。

 

 

「あー、もう…!!!」

 

 

リーナの表情が変わる。怒っているというより、なんか、イライラしている様子だ。

 

 

「小さな光達よ…我、命令に従え。一点に集中し…大いなる光を抱け!」

 

 

リーナの翳す手の前に光が集まり、純金で光り輝く。その光は眩い光から太陽の様に輝き出し、放たれた。

 

 

「放たれよ!!!シャイン!!!」

 

 

光の玉の様な魔法はメイドの四人目掛けて飛んでいく。

 

 

 

カッ!!!ズドォオン!!!

 

 

 

光が爆発するように輝いた刹那、爆音の様な凄まじい轟音がこのエバルー公爵邸の下水道に鳴り響いた。

砂塵の中から誰一人として出て来はしなかった。

 

 

「やった!」

 

 

 

「リーナ凄い!」

 

 

いつの間にか、エバルーから離れ、悪戦苦闘しているルーシィはなんとか、耐えていた。ハッピーによりエバルーから逃れることができたみたいだ。

 

 

「あの娘、やるな…だが、ブスい…」

 

 

その声はリーナには届かなかったみたいか、リーナはうんともすんとも言わなかった。

 

 

「さぁ、早く本を返せっ!!そして、その秘密を教えるのだ!!」

 

「あんたみたいな…脅迫させてまで書かせる奴には渡さないし、秘密も明かさない!!!」

 

「脅迫?」

 

 

ハッピーがルーシィの言葉の脅迫、という単語に疑問を抱く。

 

 

「それが何か?書かぬという方が悪いに決まっておる!!」

 

「あんたなんか…あんたなんか許せない!!!」

 

 

ルーシィは自分の怒りのすべてを言葉に込めてぶつけた。腰に下げる小さな金色と銀色の鍵の中から金色の鍵を掴んだ。

 

 

「開け!!巨蟹宮の扉!!キャンサー!!!」

 

 

目をめいいっぱい開き、輝かせたハッピーが歓喜しながら、叫んだ。

 

 

「蟹キタァァァァァア!!!…絶対、語尾に“カニ”つけるよ!!カニだもんね!!オイラ知ってるよ、お約束って言うんだ!!!」

 

「ルーシィ…今日はどんな髪型にする“エビ”?」

 

「空気呼んでくれるかしら!!?」

 

「エビィィィィ…!!!?」

 

 

とにかく気を取り直し、ルーシィは叫んだ。

 

 

「戦闘よ!!アイツをやっつけちゃって!!!」

 

「あの少女の髪を切ればいいのかエビ…!」

 

「違うぅ!!!それはリーナだから!仲間だから!後、髪切るんじゃないし!」

 

「では、あの倒れているメイドさんエビか?」

 

「いい加減にしてくれるかしら?あのヒゲオヤジよ!!!いい?ヒ!ゲ!オ!ヤ!ジ!!!」

 

「そんなにしなくともわかるエビ…。OKエビ…」

 

「なんかムカつくわね…」

 

 

口論し合う二人の会話を聞いてハッピーは完全に唖然としている。

 

 

「退いてくれるかしら?」 

 

 

邪魔なハッピーを退けた後、ルーシィは向き直った。

すると、いきなりエバルーが大きな声を出して、叫び出した。

 

 

「ぬぅおおおおぉぉっ!!!」

 

「え?なに!?」

 

「ルーシィ気を付けて!!オナラよ!!!」

 

 

リーナにボケに、

 

 

「は!!?…な訳ないから…。こんなに大声で叫んでオナラする人初めて見るわ~…」

 

 

こう答えた、ルーシィ。

 

 

「えっ?ルーシィ本当だと思ってたの?ぷぷっ…」

 

 

手で口を押えて馬鹿にするように笑う。

 

 

「肉球つねるわよ…」

 

 

そして、エバルーが金の鍵を突き出し、

 

 

「開け!処女宮の扉!!バルゴ!!!」

 

 

唱えた。




 なんか、ちょっと飛ばし過ぎですかね…。まぁ、話しの内容は分かってもらえると思って信じてますが…^^;信じているだけですが…。


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第04話: 親愛なるカービィへの手紙

「火竜の翼撃!!!」

 

 

大声がエバルー公爵邸の大広間に轟き、爆音の様な音が鳴り響いた。その後、比べれば小さな音がボスッと音を立てた。男、二人が床に落ちた音だった。

 

 

「ふぅ…なんだったんだ…。コイツら…」

 

「傭兵っす…」

 

 

気絶寸前に言った言葉。

ナツは両手の指を絡め、後頭部で組むと、暇そうに歩いた。

 

 

「!!?」

 

 

ナツの目つき、口元、鼻、表情が変わった。驚愕。

振り向けば、巨体の腕が襲い掛かってきていた。

 

 

「うぉわぁッ!!」

 

 

ナツは態勢を崩しながらもその巨腕を避けた。遠くから見れば、それはかなりの大きさであった。巨人の腕を見ているみたいだ。その大きさはナツの身長くらいだった。

振るわれた巨腕は振り抜くことなくピタッと止まった。その時、またこちら目掛けて襲い掛かって来た。

空中にいるナツは身動きがとれない。

 

 

 

ゴッ!!!

 

 

 

ナツが腕を交差し、なんとか、ガードするが、その威力はかなりのもので轟音とともにナツは吹っ飛んだ。

 

 

「うぐぅッ!!!」

 

 

右目を閉じ、苦しい表情になる。

その表情のナツを不意打ちした何者かが追撃を狙おうと、疾駆していた。その腕はその体に少し合わず、でかい。というか、でかすぎる。

だが、ナツの口は膨らんだ。そして、唇の僅かな隙間から炎がちらっと見えた。

気づいた。

少なからず見えたのか、不意打ちをしてきた男は制止しかけた。だが、ナツの方が速い!

 

 

「火竜のォ…咆哮!!!」

 

 

ナツの放った業火は男に真っすぐ向かった。そして爆発する様な威力で煙を上げた。

砂塵がナツの両手を追う。ナツは床に手をついて踏ん張り、なんとか壁に当たるのを防いだ。

 

 

「んだよ!この野郎!!不意打ちなんてせこいぞ!!!」

 

 

怒っているのか、ナツは片足を床に何度も踏みつけ、とにかく怒る。

 

 

「よくあの状態から反撃をしたな…。さすが、妖精の尻尾の魔道士だ。火竜(サラマンダー)だっけか?」

 

「誰だよ…」

 

 

砂塵から出て来たのは巨体の男。その白髪の上に全部伸びている髪型。前髪はなく、顔が余計に大きく見える。

 

 

「退けよ、邪魔すんな」

 

「退くかよ、仕事だからな、と言ったら?」

 

「黒コゲにしてやんよ!!」

 

「上等だ!!」

 

 

二人の口論が終わり、構える。

 

 

 

ダッ!!!ダッ!!!

 

 

 

ほぼ同時に床を蹴り、凄まじい速度で飛び出した。弾丸の様に飛び出した二人は拳を握り締める。だが、巨体の男の腕は断然に大きい。ナツの全身と同じくらいだ。その腕だけが大きく体に変化はない。腕だけが巨人。

 

 

「うおらぁああッ!!!」

 

「どりゃああッ!!!」

 

 

二人の拳がぶつかり、砂塵が舞い上がる。

二人はそれぞれ、衝撃により、後方に5メートル程度、滑るが、すぐに踏ん張ってから飛び出した。ナツが反撃に出る。

 

 

「いっくぞぉお!!!火竜の…鉤爪!!!」

 

 

ナツが蹴り上げた脚には炎が纏われていて燃え上がる。だが、その蹴りは空だけを裂き、相手には掠りもしない。

 

 

巨腕(ジャイアント)!!!食らえやァ!!」

 

 

大きくなった腕がナツの全身にぶち当たった。

 

 

「ぐぅぁッ!!」

 

 

ナツが吹っ飛ばされる。そのまま、壁にぶち当たり、砂ぼこりが舞う。その中から数秒後、直ぐに砂ぼこりを円状に風だけで退かし、飛び出してきた。

 

 

「ふっ…!」

 

 

微笑んだ巨体の男の腕はすでに戻っている。

 

 

「笑ってんじゃねぇぞ!!こらぁ!!」

 

「雑魚が…!」

 

「んだと!!!ゴラァア!!!」

 

 

ナツがキレた。

思い切り拳を振るう。だが、巨体の男には届かない。バックステップされていた。だが、ナツは直ぐに追いつく。

 

 

「バカみてぇに追って来てんじゃねぇよ!巨拳(ジャイアント)!!」

 

 

巨大な拳がナツを襲う。

 

 

「あがっ!!!」

 

 

ナツはまたしても吹っ飛び、床に何度も強打した。そして、踏ん張って止まる。

 

 

「なんだよその魔法!!!」

 

巨体(ジャイアント)…体の一部分を巨大化させる魔法だ。その威力もあげることができるが、制限もあるがな。魔力を大きく消耗するが、体全体を大きくすることだってできる」

 

「へぇ…面白いな」

 

「こちらも訊きたいことがある。貴様の名前はなんだ?」

 

「ナツ…ナツ・ドラグニル…おめぇは?」

 

「ラルド…だ」

 

 

互いに名前を言い合った後、また構えだした。

 

 

「さて…少し本気で行くぜェ!」

 

「燃えて来たぞ!!」

 

 

ナツの口癖が発せられた。直後、巨大なラルドの拳がナツに襲い掛かる。だが、ナツは跳躍して躱した。それから、数秒くらい滞空してから床に降り立ち、炎の拳を振るう。

 

 

「オラァ!!」

 

 

ナツが振るった拳がラルドの腹に直撃する。ラルドは少し後退するが、直ぐに態勢が立て直った。

 

 

「いい拳だ。だが、効かねぇな…」

 

 

口の右端をつり上げて見せ、不気味に微笑んだ。拳が振るわれ、ナツは大きく躍る。

 

 

「逃げんなよ!!!」

 

「逃げかっよ!!火竜の咆哮!!!」

 

 

炎の塊がラルドに襲いかかる。炎の中からなにごともなかったかの様にラルドは巨大な腕を盾に向かってきた。

ナツは驚愕しながらも巨大な脚や拳、腕を、全身を使って避ける。バク転からの側転、さらに右に飛んで後ろに後退してからくるっと回って着地した。

 

 

「逃げてるじゃねぇか…よ!!!」

 

 

ラルドが振るった巨大な拳をナツは両手受け止める。稲妻の様な痛みが全身を後ろ目掛けて駆け巡る。

 

 

「うぐぅ…!」

 

 

だが、耐えている。というよりギリギリ、堪えている。踏ん張る脚が地道にじりじりと下がっていく。床が少しだけ浅く削れる。

 

 

「喰らいやがれ!!!」

 

 

巨大な拳が真っ直ぐナツ目掛けて振るわれた。その巨拳はナツを押し退け、轟音を轟かせた。大広間に轟音が何度も響く。

ナツはガードしているが、大きく吹っ飛ぶ。半端なものではない速度でナツは吹っ飛んで行く。

ナツは止まろうと、体を反転させる。

天地が逆転した。床を手でなんとか、触り、勢いを殺す。その時、手がなにかに当たった。思わず掴んだ。

刹那、目の前が真っ白になった。

 

 

「消えた…?」

 

 

ラルドは驚愕し、唖然とその光景を見つめ続けた。ただ一人だけのこの大きく広い大広間で。

 

 

 

 

「ナツ!!!」

 

「お!!?」

 

 

ナツはいつの間にか下水道に瞬間的に移動していた。

 

 

「なぜ貴様がバルゴと!!!」

 

「あんた…どうやって!!?」

 

「ラルドはどこだ!!?ん!?おめぇかぁ!!!」

 

ナツが掴んでいる正体はバルゴ。先程、掴んだのはバルゴの服だったのだ。だが、今、ナツはバルゴのことをラルドだと勘違いしている。

 

 

「こんの野郎!!!ラルドぉぉぉおおおお!!!」

 

 

掴んでいる左手で服をぐいっと強引に引っ張り、炎を纏った右拳で思い切り、頬を殴った。地面に叩きつけられたバルゴは瞬殺。地面は大きく割れ、砂ぼこりが舞い、地面の破片が飛ぶ。

 

 

「ルーシィ!!!行くよ!!」

 

「うん!!」

 

「エビ!!」

 

「我、魔力を糧に…力を与えよ!!!ブースト!!!」

 

 

リーナが魔法を唱えると魔力が高まり、ルーシィを赤いオーラが包んだ。更に、リーナは続ける。

ルーシィの力が全身の芯から湧き上がる。

 

 

「なにコレ!?」

 

「力、増幅の魔法よ!!!」

 

「アリガト!!」

 

 

鞭を持ったルーシィは鞭を器用に振るい、エバルーの首に巻き付けた。苦しそうにするエバルーに容赦なく鞭を思い切り上にあげる。

 

 

「あんたなんか…」

 

 

キャンサーとルーシィが滞空しているエバルーを前と後ろの両方から挟み込んで狙う。

 

 

「ワキ役で十分なのよっ!!!」

 

 

ルーシィは見事、鞭を振るい、着地した。キャンサーも鋏を使い、切り刻んだ。

 

 

「ハデにやったな。ルーシィ!!……あ!!ラルドの野郎!!!」

 

 

「「…ラルド?」」

 

 

この後、ナツがエバルー公爵邸の中を走り回ってラルドを探すハメになってしまったのであった。

 

 

 

 

カービィ・メロンは過去のことをすべて語った。

父は腕を自ら切り落とし、作家を辞めたこと。そして、その後、すぐに自殺したことを。

 

 

 

「私が…私があんなことを言わなければ…父は死ななかったかもしれない…。それがそれが、なんとも悔しくて私の一番の後悔なんです…」

 

 

ナツはその言葉を納得しない様子で聞いていた。ちょっとだけ首をかしげている。リーナは同情している表情で静かに聞いていた。

 

 

「だからね、せめてもの償いに父の遺作となったこの駄作を…父の名誉のためこの世から消し去りたいと思ったんです」

 

 

カービィはマッチを擦って火をつけた。

 

 

「これで父もきっと…」

 

「待って!!」

 

 

ルーシィの言葉がまるで、それを解いたかのように本は輝きだした。

 

 

「な…なんだコレは!!!」

 

 

本の題名、DAY BREAKは浮き上がり、急に入れ替わり始めた。そして、できた言葉は、

 

 

DEAR(ディア)KABY(カービィ)!!?」

 

 

移り変わった文字はそう書かれていた。本当に不思議で感動的な瞬間だった。

 

 

「彼がかけた魔法は文字が入れ替わる魔法です…」

 

「凄いわね。三十年間もずっと魔法がその本に生き続けるなんて…。相当な魔導士だわ…」

 

 

リーナがあまりの驚きに感激している。

本は自ら開いてまた光り出した。

そして、本から出た無数の文字は空へと舞い上がり、踊り始めた。絶景と言えるほどの光景を目の当たりにし、皆は見惚れ、幸せな心弾むような感情へと変わった。この魔法は人を幸せにしたのであった。

文字は竜巻という風に乗るように舞い、その範囲を広げた。

 

 

「わぁー!!!」

 

 

リーナが感激。

 

 

「きれー!」

 

 

ハッピーが喜ぶ。

 

 

「おおっ!!!」

 

 

ナツの好奇心が上昇。

 

 

「彼が…作家を辞めた理由は…最低な本を書いてしまった他に……」

 

 

ルーシィが微笑みながらまた、その文字が踊る絶景を眺めた。

 

 

「最高の本を書いてしまったことかもしれません…カービィさんへの手紙という最高の本を」

 

 

無数の文字は何かに従うかの様に列を成し、本の中へと戻り、閉じられた。それと同時にあの光り輝く本は普通の本へと戻った。

カービィの目からは涙が流れた。

そして、頭の中を父のいつも言っていた言葉が過ぎていった。

 

 

 

『いつもお前のことを想っていたよ…』

 

 

 

「私は父を…理解できていなかったようですね…」

 

この出来事は皆に幸せという感情を捧げ、喜び、笑顔を与えた。

ケム・ザレオンの遺作はただ見れば、ただの駄作。だが、見方を変えれば、それは幸せで世界一の本になったのであった。

 

 

 

あの後、カービィとその妻はナツに言われた通り、報酬は払わず、実家に帰り、この世界一の最高の本をじっくりと読んだのであった。 




ラルドさん…新しいオリキャラですね。次回の次回ほどにまた登場するかな?多分ですが…。


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空の運命編
第05話: 鎧の魔導士


 


 蒼い大空。

 流れる雲。

 輝く太陽。

 囀る鳥声。

 上がる煙。

 そこに、超巨大な銀の塊。飛行船。それは、鉄によって造られた飛行船であった。ゆっくりと空を旅し、飛行船は邪魔する雲を裂いて進む。

「天の魔力持つ者…リーナ…。作戦決行だ!」

 その不気味な笑い声はその要塞に広がって聞こえた。

 

 

 ここはマグノリアの街。そして、魔導士ギルド、妖精の尻尾。いつも通り騒音が鳴り響くギルド。

「エルザが返って来た!!」

「オレ…帰るわ…」

 ロキが急にギルドを出た。その後、緋色の髪をしたエルザが巨大で立派な怪物の角を背負うというかまぁ、ここは持ってにしておこう。

 エルザがそのまま、大きな角で地響きを立て、床に落とすと、訊いた。

「マスターはおられるか?」

「おかえり!!マスター定例会よ。一週間くらいになるみたいよ」

「やけに遅いのだな」

「なにか大きなことでも起こったのかしらね」

「そうか。ナツとグレイはいるか…。頼みたいことがある」

「グレイとナツならここよ?」

 ミラジェーンはナツとグレイがいる場を指さした。エルザはその方向へ行きながら、「すまない」とだけ言い残し、歩いて行った。

エルザと向き合う、ナツとグレイに緊張が迸る。会話をしているように見えるそこには皆が注目し、一斉にして騒音は鳴り止んだ。

「二人の力を貸してほしい…ついてきてくれるな」

「はい!!?」

「えっ!?」

 驚愕した二人は一瞬、唖然とし、無言になってしまった。

「出発は明日。待っているぞ…」

 緋色の髪をしたエルザは怒号を上げるナツとグレイに構わずに荷物を持って何処かへと去って行った。その背中を見つめるグレイとナツはただ落ち込んでいた。

「ふっざけんなぁぁぁぁッ!!!!」

 ナツの大きな怒号がギルドに大きく轟いた。

 ギルドの中は騒めき始め、次第に大きくなる。ミラジェーンがルーシィとリーナの横で呟いた。

「これって…妖精の尻尾、最強チームかも…」

「「え!!」」

 ルーシィ、リーナともに驚き叫んだ。

「でも、最悪チームかも…」

「えぇ!!?」

「だって、仲がギクシャクしてるってところが不安なのよ~。ルーシィとリーナで取り持ってくれないかしら?」

「ごめん、私達、ちょっとこれから食事の予定があって…」

「あら、そう?それは残念ね…」

 大きく落ち込むミラをちょっと励ますルーシィとリーナ。

(断っただけなのに…!?)

 ミラジェーンは何故か少し落ち込み度が激しかった。

「やっぱり心配だわ~…。街一つ崩壊して帰って来なきゃいいけど…」

(地味に怖い事いうんだね…ミラジェーンさんって…)

 ミラジェーンの言葉に少し驚くリーナはコップに入っている水に映る自分を見つめて一杯、呑んだ。

 

 

 エルザが仕事から帰って来た翌日、ナツ、グレイ、ハッピー達はマグノリア駅に行くこととなってしまった。

「なんでエルザみてぇなバケモンがオレたちの力を借りてえんだよ」

「知らねぇよ。つーか助けならオレ一人で十分なんだよ」

 怒りをぶつかあう二人はいつも通り喧嘩を始めようとする。

「すまない、待たせたか?」

 後ろには荷台の様なところに無数の鞄がぎっしりと詰まれていた。全部、エルザのみたいだ。

「来た…」

「どうした。ナツ。何故、私を睨む…」

「なんの用事か知らねぇが、今回はついていってやる。条件つきでな…」

 エルザは疑問を抱き、問う。

「条件?言ってみろ」

 ナツは決心をしたかの様にエルザの方に振り返り、真顔で偽りではない真剣な顔になった。

「帰ってきたらオレと勝負しろ。あの時とは違うんだ」

「はやまるなっ!!死にてぇのか!!?」

「…いいだろう。受けてたつ」

「おしっ!!!燃えてきたァ!!!」

 と、ナツは大声で言ったものの…列車の中では激しく酔っていたのであった。

 列車の中ではナツはエルザの強烈な一撃を腹に喰らって今は沈黙し、気絶。グレイとエルザだけで今回、エルザがグレイとナツを誘った根拠を聞いていた。 

「少々、気になる連中がいてな…」

 エルザが過去のことを語り始めた。

 

 オニバス駅の近くにある魔導士達が集まる酒場。そこで、迷惑な態度でまるで、他の人達に見せつけるかのように強引な態度だった。酒を大いに飲み、酔っている。

 怒号を上げて、注文を急かす。女性の従業員は慌てて、ビールを運んだ。

 エルザはその強引な態度に気になり、少しだけ、その連中を見張ることした。大抵、こういう連中はなにかを起こす。そう思ったからだ。

「ちくしょう!コンノヤロウ…」

「そう怒るな…」

「そうだ、うるさい」

「あぁ?だってよォ、これから仕掛けるんだろ?サグナイル村に一気に…」

「それがどうした…?というか声がでかい…」

 その連中はどうやらそのサグナイル村というところになにかを仕出かすらしい。そのサグナイル村はここからかなりの距離がある。マグノリアの街からすると、一日くらいでやっと着くくらいだ。

「ふっ…なんでもねぇ。ただ、この罪悪感がなんとも言えねぇや…。はっはっは!!」

「声でけぇ…うん…」

 エルザはその言葉に疑問を抱いていた。なので、調べたのであった。

 

「そう、私はサグナイル村というのを調べてみたのだが、そこでは王国が造らせている兵器があるらしいのだ」

「兵器?」

 グレイがその兵器に疑問を抱く。兵器がある村に仕掛ける、やっとわかった。

「そいつら…!!まさか…」

「そうみたいだな。兵器を使って何かを出来事を起こすようだ」

「へぇ、面白そうだな」

 その会話をこっそりと聞く、二つの影。その影はゆっくりと席を立ち、密かに動いた。

 

 

 一時間という時が流れた。かなりの時間が経ったが、日没も近づき始めた。

 列車の中ではグレイとエルザ、そして、横たわるナツの姿が見られた。

「今日の夜には着くぞ」

「遅ぇな。もうちっと早く行けねぇのか?」

「無理だ」

 即答。エルザの言葉はちょっと厳しい気がしたグレイ。

 そのグレイの耳に僅かになにか怪しげな声が聞こえた。グレイが動く。

「なんだ!!テメェ等!!?」

 即座に動いたグレイの行動に驚愕したエルザは一瞬、戸惑う。グレイは立ち上がり、後ろの席にいる人影に向かって行った。

 そこにいたのは、二人の男性と一人の少女。

「…なんだ?」

「なにアンタ…」

「誤魔化してんじゃねぇぞ!!!全部、聞こえんだよ!!」

「はぁ?」

 エルザがグレイを止めようと横入ろうと動いた刹那、グレイの言葉にまた驚愕することとなった。

「テメェ等…さっき、サグナイル村のこと話してただろ!!?」

「なんのこと――」

「――とぼけんじゃねぇ!!!」

 グレイが魔力を高める。

 その瞬間、一人の男が何か、筒の様な道具を取り出し、投げた。

「なっ!!?」

「なんだコレは!!?」

 薄水色の煙が列車の中に立ち籠める。その瞬間、驚いてこの騒ぎを見ていた人達がどんどんと倒れていった。

「マズイ、これは催眠筒だ…!こんな道具を…使いおって…くっ…」

 眠気がどんどんとエルザ達の意識を奪い取っていく。

「おい、止まれ…」

 念話で話しているもう片方の男が言った。すると、急に列車は止まった。エルザとグレイは急な停止に反動で転ぶ。

 ナツは席から落ち、目が覚めた。

「うぷっ…気持ち悪……くねぇ?」

「ナツ…!!」

「くっ…ナツ、この煙、どうにかしろ!!!」

「あぁ!!?んだってグレイ!?」

「いいから早くしろォ!!!」

 エルザの怒号にナツは驚きながらも魔法を放つ。

「どうにかしろって言われてもよォ…うおりゃあぁ!!!」

 ナツは取り敢えず、炎を纏った拳で列車の壁に風穴を開けて空気を外へと逃がした。催眠の煙はたちまち、外へと出て行き、風にのって消えた。

「はぁ…はぁ…!」

「やべっ、まだ眠い…」

「ちっ…。まぁ、良い。どうせだ。潰すぞ」

「キャッキャッキャ!遊んであげる!」

「お?おぉ?なんかいっぱいいる!!」

 睨み合う五人。ナツはグレイとエルザの後ろでうろちょろとしている。戸惑っている様子だ。

「私はそこの変態男ね。キャッキャ!!」

「だれが変態男だ、コラ!!!」

「では、私は妖精の女王を…」

「いいだろう。かかって来い…」

「じゃ、俺は余りモンのアイツを…やるかね」

「やんのかオラァ!!!…良く分かんねぇけど…」

 ここに今、列車での決戦の火蓋が勢いよく切って落とされた。

 




今度は新しい、変わった僕のオリ原作でございます。ちなみに鉄の森編と悪魔の島編、あと、幽霊の支配者編はお亡くなりになりました。<m(_ _)m>


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第06話: 本当のターゲット

 線路上で止まる黒々と光る列車。煙はとうに消えてなくなり、出なくなっていた。

 列車が止まったこの場はとある町の近く。そこの駅に止まるはずだったのだが、ある四人の者によって止められてしまった。中にはナツ、エルザ、グレイ、ハッピーの四人(?)が今も列車の中にいる。

 列車の側方部分が急に眩い光が中から一斉に一定の場に漏れだす。

 刹那、光が発せられた場が爆発した。

 煙が中から立ち籠め、空へと舞い上がる。そこから飛び出してきたのはナツと一人の男だった。

「おりゃああああッ!!!」

「うぐぉ!!?」

 男はナツの拳によって吹っ飛ばされ、地を転がり、岩へとぶつかった。

「へっ、この程度かよ?」

「これからだよ、クソたれ!!」

 男が声を張って怒鳴りつけた。ナツは動揺すらせずに立ち向かった。

 

「うぐっ!!?」

「キャッキャ!!弱すぎ~」

 グレイは身長が小さ目の少女と戦っていた。グレイは相手が少女ということもあってどうも戦いづらいらしい。なので、少し押され気味だ。

「くそっ、調子乗りやがって…!」

「シシシ、弱い犬ほど良く吠える…!キャッキャッキャ!!」

 グレイは右手の拳を左の手のひらに乱暴に叩くと魔力を高めだした。そして、本気となる。

「一瞬で決着(けり)つけんぞ…!!」

「言ってくれるね~。弱いくせに…ぷぷっ」

 手で口を押えて馬鹿にするように笑った。

 

 人型の魔法で動く機械を操り戦う男と剣を振るう、騎士(ザ・ナイト)のエルザは睨み合っていた。

「貴様等、何故、私達が動くと分かったのだ」

「そうやって言われて、教える奴がいるか?」

「ならば…力尽くでやるまでだ!!」

「面白い、俺様の魔法、“魔道機”を見せてやる!!!」

 そう宣言した後、男は魔力を糧に魔法を繰り出す。緑色の魔法陣が男の前上に発生し、そこからなにか機械様な魔道機の足が現れる。

「魔道機とは…この魔道機という機械を使い、敵と戦うものだ!!!お前の様な接近戦タイプからすれば、不利なんだよォ!!!」

 魔法陣から現れたのは男の魔法によって造られた魔道機。その顔は無限のマークが目となっており、後は口も鼻もついてはいなかった。その無限のマークは緑色に光り、なんとも言えない不気味な容姿だ。

 体はちょっと濃いめの茶色で、ガタガタ、と僅かに動いた。

 数は三。

 男がなにか手振り素振りをした瞬間、合図だったかの様に魔道機は動いた。腰に差してある銀に輝く真っ直ぐな剣を抜き、足の裏から飛び出す、強大に噴き出す空気と熱で凄まじい速度で襲い掛かってきた。

「なっ!?」

 少なからず驚いたエルザだったが、すぐさま、己の得意とする魔法、換装。

「換装!飛翔の鎧!!!」

 防御が欠けるこの鎧だが、その変わりに速度を各段と上げてくれる特徴的な鎧だ。

 エルザはその飛翔の鎧の効果により、易々と魔道機を潜り抜けると、双剣を手に、振るった。だが、切ったのは男ではなく、魔道機。しかも、刃は通ってはおらず、逆に弾かれた。

「ぐぅッ!?」

 腕に走る強烈な痺れに危うく双剣を手から離しそうになった。だが、バックステップで大きく飛んだ。

「これは、防御用の盾だ。堅いぜ?後な…忠告しておくが……そちらには…」

 その言葉でハッとエルザは理解した。男が言っている意味を。

「しまった!!」

 後ろでは剣を構える魔道機、三機がいたのだった。待ち構えるその魔道機の姿はまるで、獲物を狙う肉食動物の様であった。

 エルザはその発達した洞察力と運動神経、動体視力でなんとか、魔道機の振るった剣から跳んで逃れた。だが、空中にいるエルザを狙う影。

「これでも…食らえやぁ!!」

 男が放った銃弾はエルザの髪を擦れる。だが、一発だけではなかった。胸を撫で下ろすのはまだ早い。

 銃声。何発撃たれたか分からないほどの素早さ。

「ぐわぁああッ!!!」

 エルザは双剣を盾に身を守るが、その鎧では防御は不足。銃弾はエルザを襲った。

「くっ…」

 床に立ったエルザは膝をつく。

「あれぇ?もう終わりかい?妖精の女王(ティターニア)さんよォ…」

 エルザは歯を食いしばり、男を睨んだ。

 

「アイスメイク・槍騎兵(ランス)!!!」

 手先から無数の槍が飛び出し、少女を襲う。だが、少女には当たらない。当たる寸前で氷の槍は砕けた。

「な、なんだ!?」

「魔法だよ…!そんなんも知らないの~!キャッキャ!!だっさ~~」

「うるっせぇんだよ!!!さっきから…!」

「キャッキャ!!怒ってるぅ!」

「食らえ…アイスメイク……」

 グレイは気づいた。周りを僅かに見て、思ったのだ。先程まではつい熱くなりすぎて気を配らなかったけど、今やっと気づいた。

(ちっ…こんなところで暴れちまったら…この客に被害が及ぶじゃねぇか!!)

 グレイは高めた魔力を抑え込み、放とうとした魔法を中断した。

「あっれぇ?魔法使わないの~?キャッキャ!」

「テメェなんか魔法なくても十分っつーか楽勝だぜ」

 表情と威圧感が急変し、少女は低い声で言った。

「なに調子こいてんだー……。このくそ男がぁぁ~…」

 怖い表情でそう言った。

「食らいな、エア・メロディー!!!」

 手が旋風に包まれ、そのまま、グレイ目掛けて風の如く疾走し、振るった。旋風によって威力の上がったその力にグレイはガードするものの、僅かに吹っ飛ぶ。

「うぐっ!!」

「さ~ら~に~…エア・バンド!!」

 加えて、手に纏っていた旋風を流れる様に投げた。グレイにぶち当たった。グレイはその旋風に押し負け、踏ん張っても床を擦れるように滑る。

 グレイはそれでも、床を蹴って前に出る。

「よっわ~い~~」

 馬鹿にする少女は笑いながら魔力を高めた。

「エア・オーケストラ!!!」

 手から放たれた空気を纏った竜巻は周りの客に掠ることもなく、グレイだけを包み、切り刻む。グレイの頬や肩、足から血が飛ぶ。

「ぐっ…!!こんな風ぇ……。あぁぁああぁぁッ!!!」

 グレイは雄叫びを上げ、風を裂いて突き進んだ。

「うぅ!!?」

 グレイが突き進み、少女の目の前まで来た時、少女は思わず驚愕した。そして、瞬時に対応をしようと試みた刹那。

 

グゥッ!!!

 

「痛!!?」

 グレイが少女の細い手首を思い切りその強大な握力で握り締め、ぐぅぅっと掴んだ。

「逃がさねぇ…」

 グレイは笑うかのように言って、思いきり頬を殴った。

 少女は軽い体重なので、大きく吹っ飛び、床を二度バウンドしてから横転し、後転した。そして、席にぶつかって止まった。

「なめんなよ…」

 グレイはそう言った。

 

「火竜のォ…」

 ナツがそう言って大きく後ろに反る。その後、一気に仰け反る様にしてその勢いで口にいっぱいに含んだ炎を吐き出した。

「…咆哮!!!」

 ナツの噴く炎が男向かって襲い掛かる。男は黒い影となって燃える。

「うぐぁあああぁぅぅああッ!!!」

 熱で服が破け、溶ける。

 炎が男を過ぎとおった後、ナツが地を蹴り、前に飛び出して、男に炎を纏った拳、足、肘で思い切り連続攻撃する。

 肘打ちしてから、思いきり拳を叩きつけ、更に、足で蹴りあげてから蹴飛ばした。そして、すぐさま、飛んで上から思い切り拳を振り下ろした。

「どぅりゃあああぁっ!!」

 地が割れ、破片が飛び上がる。

「ごはぁぁッ!!!」

 男はかくっとなって首を地に倒した。

 

 客に向かって伸ばす手。そこに割り込もうとするグレイ。だが、少女の伸ばした手は急激にこちらに向かった。そして、魔力が高まる。そこにまるで、風と空気が集結されているみたいに見える。

「バーカ…」

 客を囮に少女はグレイを引き付け、強力な魔法を放った。

「エア・クラシック!!!」

 

ブフォオオオォオオオオオオッ!!!

 

 放たれた風は大いに暴れ回り、まるで、嵐の様に吹き荒れた。グレイは簡単に切り刻まれ、大きく吹っ飛んで壁に激突。

「うぐぁああぁぁッ!!!」 

 グレイは壁にもたれて動かなくなった。

 

「どうした…。先程までの勢いがなくなっているぞ?」

 エルザが余裕を持って魔道機を破壊していく。

 避けて、斬ってから上手く躱す。すると、挟み撃ちした魔道機の二機は同時に互いに両断した。空へと跳んだエルザはそのまま、舞い降りて換装した。

「換装!黒羽の鎧!!!」

 黒い羽の生えた暗黒の鎧を身に纏い、エルザは一気に斬り掛かる。だが、

「おっと、攻撃したらコイツの命はないぜ?」

 男は腰に差してあったナイフを客の首元に当てた。

「なっ!?卑劣な…!」

「なんとでも言え!!!今だ…死ね…」

 エルザの後ろにいつの間にか回り込んでいた魔道機が剣を振り翳していた。そして、エルザの背中を斜めに斬った。

「あぐっ!!」

 エルザは前に押し出される様にして前屈みになる。その背中からは血が流れる。

「うっ!?な、なんだ…体が…」

「ふ、それは麻痺性の剣だからなぁ、もう直ぐで動けなくなるだろうよ。じゃ、俺はこの辺で…」

「ま、待て…逃げるのか…!!」

「逃げるわけじゃねぇよ。迎えが来たからな…てことで、じゃあな、妖精の女王さんよ…」

 そう言い残して男は列車の外へと出た。その後を少女が追って行った。体が言うことをきかないエルザはただその光景を見届けるしかできなかった。

「うっ、体が……!?痺れ…る……」

 エルザはそうして、這いつくばったまま動かなくなった。

 

 列車の上を大きく覆う影。それは要塞。銀色の飛行船型の要塞だった。巨大な大きさは列車を遥かに上回る大きさだった。その要塞から一つの黒色のロープが吊るされそこからたった今、男と少女が要塞の中へと消えた。

 その光景を見つめるナツ。訳が分からず、自分の横に倒れる男を見つめた後、列車の上に躍った。

「でっけぇー…!」

 グレイが列車の中から出て来た。ナツは気づいて、声を掛けようとするが、グレイが急に魔力を高め出しと思えば、あの巨大な要塞に魔法を放った。

 砲撃。

「アイスメイク・氷雪砲(キャノン)!!!」

 放たれた氷の大きな弾は要塞に激突した。だが、要塞にはまるで、アリが当たったかのような様子だった。

 もう一度、グレイが攻撃しようと仕掛けた時、風がグレイを襲った。

「うぐあぁぁッ!!?」

 グレイはガードしてその身を守る。

「キャッキャ!!攻撃してんじゃないわよ!弱いくせに~!」

 それはあの少女だった。グレイは腹を立てる。

 その時、横に誰かが降り立った。グレイは慌てて驚きその姿を見る。それは、

「よっ、あのでっかい奴を止めればいいのか?」

「フン…俺一人で十分だ…」

「あぁ?んだと、こらぁ!!」

「ちっ、今はそんなことしてる場合じゃねぇだろうがよ!!行くぞ、ナツ!!!」

「おう!!!」

 グレイは右拳を左の手のひらに乱暴に合わせてから唱える。冷たい、凍える風がグレイを包み込むように巡った。

「アイスメイク・氷槌(アイスハンマー)!!!」

 柄の長い巨大なハンマーが氷によって造りだされた。それはナツの後ろに聳えた。

「行くゼェ!!!」

 グレイはそのハンマーを操り、ナツに目掛けて飛ばした。

「うおらぁぁああっ!!!」

 ナツはそれに合わせてジャンプ。

 そして、全身に炎を纏った。

 氷のハンマーがナツの足を捉え、確実に思い切り前方より少し上に飛ばす。その威力は凄まじく、ナツの速度は残像が見えるほどであった。更に、グレイは魔法を付け足す。

「アイスメイク・槍騎兵(ランス)!!!!」

 無数の氷の槍が手先から発射された。いつもよりも多く鋭い気がする。その槍はナツの周りに戯れるように集まり、ナツを全方位から囲む。

 ナツの魔法を唱える叫び声が轟く。

「火竜の劍角!!!!」

 合体魔法(ユニゾンレイド)

 魔導士、彼らはそう呼ぶ。

 ナツの額が強烈な音とともに要塞に激突した。要塞の中が僅かに揺らぐ。更にナツは空中にいながらも態勢を立てて、殴る。

「火竜の鉄拳!!!」

 殴った拳の後を炎が追う。

「まだだァッ!!!」

 ナツが更に殴り続けその要塞の拳とぶつかり合うところが僅かに焦げた。

「だぁりゃあああぁぁッ!!!」

 ナツはどんどんと高度を下げていった。そして、拳が届かなくなってしまう。だが、ナツは口を大きく膨らませ、十秒ほど溜めてから一気に放った。

「火竜の咆ォォォ哮ォオオオオオォオォ!!!!」

 ナツの放った強烈な業火が要塞にぶち当たる。要塞の高度が僅かにずれ、揺らいだ。

 ナツが着地し、上を見上げた時には要塞は既にゆっくりと動いていた。

 

「ふっ、小賢しい奴等め…」

「どうします?」

「少しだけ…楽しむか…。オレの魔法、大自然(ナチュラル)でな…」

 男の周りの空気が凍り付く。誰もが動かなくなった。

「……落雷!!!」

 男が唱えた魔法。その言葉はこの大広間に広がって消えた。その後、黒雲が現れ、光った。

 

「なんだありゃ!?」

「おい、ヤベェんじゃねぇのか!?」

 その瞬間、グレイの言った通り、黒雲からもの凄い威力の雷が落ちた。

「あがぁあッ!!!」

「がぁあッ!!がはぁッ!!!」

 ナツとグレイ、二人は落雷によって倒れた。凄まじい落雷は地面を抉り、二人の男を倒れさせた。

「ぐっ…何なんだ…ちくしょォ…」

「強ぇぞ…この魔法…」

 二人は痺れる体でなんとか立とうとするが、立てずにその大きな要塞を見送った。

 

 体が動けるようになった二人はナツが倒した奴に全てを吐かせることにした。

「おめぇ等がしてぇことはなんだ?言わねぇと黒コゲになるぞ!!!」

 ナツが右拳に炎を纏う。その炎は激しく燃え盛り、今にも飛んできそうだった。

「教えるかよ…馬鹿じゃねぇのか!!」

「ブッ飛ばすぞ!!!」

 ナツが威嚇する。そして、殴り掛かった。

「ヒィッ!!!わ、分かった、分かった…!!」

 男は閑念したのか、全てを打ち明けることとなった。

「俺達は空の運命(スカイ・デスティニー)っつぅギルドだ。俺達の狙いはただ一つ、お前等のギルドに襲撃を与えることだ。詳細は知らねぇ…。だから、お前等をこうしてこちらに連れて来て、戦力を激減させたんだよ」

「おい…本当か…」

「そんな…オイラたちのギルドが…やられる訳ないよ…!」

「本当だっつーの!だって現に俺はこうし――――おごほォッッ!!!?」

 男はナツの拳により、大いに吹っ飛んだ。

「結局殴るんじゃねぇか…」

 と、言って男は悔し涙を流し、首を倒して、気を失った。

 

チ~ン………

 

「俺達のギルドは…ぜってぇにやられねぇぞォ!!!空の運命(スカイ・デスティニー)ィィィイイイイイッ!!!!」

 ナツはそう天に向かって怒号を上げた。




ま、こんな感じですね…。これから進展させてギルドVSギルド的な?感じに仕上げたいと思いますぅ。敵の容姿が出てませんが、そのうちでるかなぁ、とは思います。ま、二回戦で出るんだと思います。思いますではダメなんですけどね…。


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第07話: 怒りの咆哮

 走り抜ける魔道四輪という車。列車の後ろにあった魔道四輪だった。借りたというよりは奪ったという方が正しい。だが、今はそんなことグレイ、エルザ、ナツ、ハッピーにはどうでも良かった。

 セルフエナジープラグが膨張し、どんどんとエルザの魔力を奪い取る。

 街を駆け抜ける魔道四輪の後ろ砂塵が追っている。曲がり角も最低限の最速限の速さで曲がる。余りにも速いため、屋根にしがみ付くグレイが警告する。

「エルザ!!いくらなんでも飛ばし過ぎだ!!!」

「私は大丈夫だ!!いざとなったらナツとグレイには期待しているぞ!!」

 ナツはというと、魔道四輪後ろについている部屋の中で暴れ回っている。激しく酔っているナツはとても苦しそうだ。

「あぐぅッ…うぷぅっ…!?おふぅ!」

 吐きそうになる口を無理やり押さえて耐える。

 曲がり角を大きく曲がる。

 

ギャギャギャギャギャ!!!

 

 砂塵が舞い、魔道四輪が傾く。その時、目の前にいきなり子供が現れた。

「なっ!!?しまった…!!!」

 エルザは急ブレーキをかけるが間に合う様子は微塵もない。

「くっ…一か八か!!!」

 グレイが手から魔力が出された。凍える様な風がグレイを包み込む。

「アイスメイク・飛爪!!!」

 氷の爪がついた鎖が造りだされた。グレイはその鎖を右にある家の壁へと投げつけた。壁を爪が突き破り、固定された。

 

ガキィィイン!!

 

「ヒィィ…わっ!!?」

 壁の中にいる女性が壁を突き破った氷の爪に驚愕した。

 

「うぉっぷ!?うぷぅうぅッ!おぷぅ…」

 相変わらず青ざめた顔のナツは魔道四輪の中で大いに暴れ回り、激しく酔っていた。早く着かないか、とずっと願っているばかりだった。だが、怒りは消えうせてはいなかった。今にも溢れ出しそうでならなかった。

 それは、グレイもエルザもハッピーも同じ事であった。心配と怒りが入り混じったその感情を抑え込むだけだった。

グレイはその鎖を右手で思い切り握り締め、左手で魔道四輪の屋根の端を掴み、思いきり鎖を引っ張った。

 すると、魔道四輪の進路は僅かにずれて、子供と衝突することなく、済んだ。

 エルザはやっとグレイのお蔭で助かったということを知り「すまない!!助かった!」と心からお礼を言った。

 グレイは上を見上げる。要塞はゆっくり動いている様に見えて、速い。雲を裂き、風を退け、どんどんと妖精の尻尾へと向かっていく。既にここはマグノリアの街なのだ。

 要塞を見上げるマグノリアの街の連中は騒めき始める。その魔道四輪を見てもまた騒めき始めた。今となってはこの出来事がマグノリアの街の半分以上の人には知られている。

「また妖精の尻尾がなにかやってるの~?」

「ホンット迷惑よねぇ…」

「…ねぇ……」

 女性たちが発した言葉はエルザ達には全く聞こえずにそのまま、真っ直ぐの道を直進した。その速度は凄まじい。

「後、もう直ぐでギルドに着くぞ!!」

「グレイ!見えないか!?」

「まだだ!まだ見えねぇ!!」

 グレイは風で開け難いが、片目を半開きで見ていた。だが、ギルドは一向に見えない。

 要塞とはどんどんと離されていた。

「くっそぉ!!!」

 この距離にグレイは腹を立てはじめる。ぐっと拳を握り締めた。

「無事でいてくれよ!!!妖精の尻尾!!」

 グレイが心の底からその願望を叫んだ。

 

「まだ追っているのか?あいつ等は…」

「そうみたいですね…」

「叩きますか?」

「いや、ここで動くと、少々、厄介なことになるからなぁ…。評議員なんかが来たら面倒くせぇ。振り払え…」

「はっ」

 

 

「おい!!アイツ等!スピードを上げやがった!?」

「なんだと!?」

 グレイは先程までは見上げていたのだが、今となっては首を少し上げるだけでその姿、形がくっきりと見える。

 その頃、ナツはというと、ひたすら振り回される中で必死に吐くことだけは避けていた。

 

 

「なんか外が騒がしいわね…」

「そうだね。なにか有ったのかしら…?」

「妖精の尻尾じゃなきゃいいけど……」

 ルーシィが軽い冗談を言う。でも、有り得ないことはない。

「そうかもね…」 

 苦笑いでリーナは答え、目の前にある飲み物を飲んだ。

 

 

『妖精の尻尾!!警告する!!!今すぐ、リーナ・バナエールを渡してもらおうか!!渡さないというのなら…砲撃を開始する!!どうする!!?妖精の尻尾!!!』

 要塞から届く拡声器によって大きくなった声。ギルドの中は混乱状態というより、大きな怒号を上げている。

「ふざけんな!!!」

「リーナは渡さねぇ!!」

「仲間は死んでも渡さないよ!!!」

「そうだ、そうだ!!!」

 ギルド全員の想いが一致した。

 今、このギルドの中には実際、リーナはいない。マスターもおらず、いつもより、戦力が不足している。

『そうか…死んでも渡さねぇか…。なら、地獄を見て…死ねぇぇぇぇぇ!!!』

 大きな怒号が響き渡ると同時に連撃砲が連射された。魔法で造られた銃弾がギルドに風穴を開け、どんどんと中の人々を襲う。机や椅子などに銃弾が貫く。人々に銃弾が掠る、当たる。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォ!!!!!

 

 連射される砲撃は止まることなく、ギルドの壁を貫通し、中を荒らす。銃声がずっと続き、食器が割れ、机が粉砕し、床に風穴が空き、木の破片が飛び、血が飛び散り、ギルドが壊れていく。半壊状態というのには相応しいのかもしれない。

「「「うぐぁぁああぁぁッ!!!」」」

「「いぐぁぁあぁぁッ!!!」」

「「「「「ぁぁぁああぁああぁぁあぁぁぁぁぁああッ!!!!」」」」」

 悲鳴、ギルドに轟いた。

 

 砲撃が止み、砂塵が舞い、荒れたギルドの中。煙が見え、痛みの声が聞こえる。

「み…みんなっ……大丈夫かぁ!?」

「な、なんとか…」

「はぁ…はぁ…はぁ…はっ…」

「痛ぇっ…!」

 また、要塞から先程の声が届く。

『渡す気になったかぁ?…………おい……返事をしろっ!!!』

 またしても怒号が聞こえる。すると、ギルド全員はまた、怒りに満ち溢れ、叫び出す。

「俺達の想いは変わらねぇ!!!」

「リーナはここにはいねぇ!!いても渡さねぇ!!!」

「俺達は妖精の尻尾だぁッ!!!仲間は売らねぇ!!!それが、俺達の道だァアアッ!!!」

 皆の怒号が要塞にいる男の耳に何度も響く。そして、男はキレた。

『いいだろう!!!そんなに死にてぇなら死よりも辛ぇ地獄を味あわせてやるゥゥゥ!!!!』

 大きな大砲の先端が突き出た。そこに魔力が凝縮され、どんどんと溜められる。いつの間にか、空気が震え、地が揺らぐ。

 黒々と光る砲身の穴には光り輝く魔力の塊が見える。どんどんと膨らみ始め、やがて、発射する寸前まで近づいた。

 そして、発射された。

 

 

「行くぞォ!!!」

 グレイが雄叫びを上げて、氷の道を造り出す。

 その氷を全力で駆け上る魔道四輪。

 運転席から飛び出たエルザ。

 そして、魔道四輪は要塞にぶつかって、粉砕した。

 エルザは要塞を飛び越え、空を舞い、ギルドへと向かった。

「ギルドと仲間は!!やらせん!!!!」

 エルザが金剛の鎧に換装し、発射された魔力の塊とギルドの間に死にもの狂いで突っ込んだ。

 

ドゴォォォオオオオオオオッ!!!!!

 

 大きな爆音が轟き、煙が爆発するかのように吹き荒れる。風圧がギルドの屋根を乱暴に剥がす。爆音は何度も響き、耳に波となり、伝わる。

「エルザ!なのか!!?」

「エルザが返って来たなら!!!グレイとナツも!!!きっと…!!!」

 ギルド全員に怒りに満ち溢れた希望の三人の表情が頭の中に浮かんだ。

 

 粉砕した魔道四輪から落ちて来た桜色の髪をした少年。上手く着地する。その後ろに黒髪の少年が降りて来た。

 桜色の髪をした彼は、魔法で全身に炎を纏い、大きく咆哮を上げた。抑え込んでいた怒りと心配の入り混じった気持ちが今、全てが外へと吐き出された。

「俺達のギルドはやらせねぇぇえええええッ!!!!」

「ぜってぇ、守ってやる!!!!」

「許さんぞ!!!空の運命ッ!!!!」

「「「俺達が相手だァァァァアアアア!!!!!」」」

 

 




文字数が最近、超バラバラなんですが、みなさんには違和感はないでしょうか?もしあるのならば、タグを付けておいた方が良いでしょうか。まぁ、そんなことはどうでもいいのですが。もう、あっという間に7話ですね。結構、早い感じがしますよ。これからもどうぞ、よろしくお願いします!( なんか言って見たかっただけです…(;^ω^) )


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第08話: 開戦

「オレの邪魔ばっかしやがって…!!クソ野郎がぁ…!撃て!!打ち殺せ!」

 男の命令により、また、強力な魔力の塊の砲撃が開始された。

 だが、屋根の上でその砲撃をすべて全身で受け止めるエルザの想いは揺るがない。ずっと仁王立ちで耐えている。

 五発。撃たれただろうか。エルザは膝もつかず、息をすることも忘れ、ただその砲撃に耐えていた。急に砲撃は止んだ。

「すいません!砲撃の魔力切れです!!」

「なんだとっ!?」

「私達が行きます…!それでかまいませんよね?」

「十分だ…。待っているぞ…」

 男はそう命令を下した。

 一人の男と二人の女はこの要塞を出、ギルドに襲撃を開始した。

 

 

「ハッピー!」

「あいさー!!」

 ナツの一声でハッピーはその意味を理解した。ハッピーはナツの襟をつかみ、翼を出して、ナツごと飛んだ。

 そして、要塞の上に辿り着き、ハッピーはナツを降ろさずに滞空した。

「俺達のギルドに攻撃すんじゃねぇえええええ!!!!」

 ナツの渾身の一撃が要塞に激突した。だが、一発では終わらない。二発、三発、四発と加えていく。

 ナツの拳が要塞を僅かに揺るがした。それに気づいた巨体の男が出て行く。

 そのことに気づかずにナツは思い切り殴り続けた。炎を纏った拳が要塞の一部を焦がした。薄く黒くなった。

 ナツの動きが一瞬、止まってからナツは叫ぶ。

「ハッピー!降りるぞ!!」

「あ…あい!!」

 訳が分からず、とにかくナツのその言い方に戸惑いながらも要塞から離れて、地に降り立った。

「よく、気づいたな…。火竜(サラマンダー)…!」

「へっ、またおめぇか…。燃えて来たぞ!!!」

「行くゼェ!!」

 

 

 一方、ギルドの中では。

「痛てててて…!」

「だ、大丈夫!?」

「こっちにも負傷者だ!」

「ちっくしょぉ!一応、砲撃は止んだようだな…」

 ギルドのメンバーは愚痴や悲鳴を上げていた。その時――

 

―――ズガァァアアアァン!!!

 

 正面出入り口のドアが打ち破かれ、破片が舞い散った。その爆発の様な威力で舞い散ったドアに驚き、皆の視線が移る。

「脆いドアだなぁ…」

「ガジルさん…十分ですよ?」

「キャッキャッキャ!十分ね~。楽勝じゃん!」

 皆の視線が移されたその砂塵の中からは一人の黒髪長の男と黄髪のツインテールの少女。その後ろには青い髪をして、両側の髪の先端がくるっと回っている女。

 いかにも強そうな威圧感を放ち、三人は現れた。

「リーナという人を渡してください…」

「ちっ、ぜってぇに渡すかよ!」

「行くゼェ!鉄竜の…咆哮!!!」

 ガジルが放った砂鉄みたいな鉄が凄まじい速度で回転する竜巻を口から放つ。

「こ…こいつ…!?滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!!?鉄竜のガジルかっ!!?」

「な…なんでこいつが!?」

 ガジルの放った咆哮が大勢の人に向かって襲い掛かる。

 

ズガガガガガガガァァァァ!!!

 

「ギヒッ…。あん?」

「テメェ等…」

「ほぅ…」

「俺が相手だ!!!」

 グレイが三人全員を怒り溢れる眼で睨んだ。

「面白れぇ!!!ぶち壊してやる!!」

「ジュビア急いでいるので…容赦はしません…!!」

「キャッキャ!!もう一度、吹き飛びな!!!」

 言い合いが終わった刹那、ほぼ同時に弾丸の様に飛び出した。

 

 

「だぁありゃああぁッ!!!」

 ナツが雄叫びを上げて、殴りつける。だが、相手の腕は巨大化されており、なんのダメージもない。男は口の端をつり上げて見せると、巨大な腕を振るった。

「おっと…!」

 ナツはそれをいとも簡単に避けると、大きく飛び退いた。

「変わってねぇなぁ!!火竜(サラマンダー)!!!」

「うっせぇ!!オレはお前を超える!!!」

「やってみろォ!!クズが!」

 ナツは大きく飛び退いた後、体を大きく反って上半身を思い切り、後ろに倒すと、そこから前に体全体を押し倒すように火を噴いた。

「火竜の咆哮ォ!!」

 ナツの吐いた火は大きな塊となり、ラルドを襲った。だが、ラルドは巨大な二つの剛腕で守り抜く。だが、ナツの咆哮は止まらない。

「火竜の咆哮!!咆哮!!!咆哮!!!………咆哮ォォォオオオオ!!!!」

 がむしゃらに吐きまくるナツの火は全く通用しているようには見えない。

「やっぱり、そうやって適当に攻撃するんじゃねぇかよォ!!火竜(サラマンダー)!!!」

「適当?なにを惚けてんだお前は…」

「なっ!!?いつの間に!?」 

 ナツはいつの間にか炎を潜り抜け、ラルドの懐にいて、拳を構えている。その拳には燃え盛る炎が纏われている。

(目くらましだったのか!!)

「いくぞ!!火竜の……鉄拳!!!」

 ナツは思い切り腹部に拳をぶち当てた。

「あがっ!!!がはぁッ…!!!」

 

 

「アイスメイク・槍騎兵(ランス)!!」

「当たらねぇな!!」

 ガジルはグレイの放つ氷の槍を上手く避け、腕を鉄の棍棒へと変える。

「鉄竜棍!!!」

「アイスメイク…(シールド)!!」

 グレイの造り出す盾がガジルの魔法を防ぎ抜く。ガジルは力をいっぱいに入れたようだが、突き破れない、と判断したのか手を元に戻す。

「ジュビア、負けない!!!」

「三人相手はさすがにキツイぜ!!」

 グレイはそう言いながらも互角ほどではないが、まともに闘えている。

「鬱陶しい奴だ!!!鉄竜の……」

「アイスメイク・大槌兵(ハンマー)!!!」

「なっ!?間に合わねぇ!!」

 ガジルの魔法よりも先にグレイの魔法が先手を取る。

 グレイの魔法により、造り出されたハンマーは急にガジルの真上で造り出されており、振り下ろされた。

 ガジルはハンマーの下敷きにはあと一歩というところでならなかった。

 しかし、

「アイスメイク・氷欠泉(ゲイザー)!!!」

 グレイの次なる魔法がまたしても、ガジルに襲い掛かる。氷が床から凄まじい威力でまるで、噴水の様に噴き出した。その氷の先端はかなり尖っている。それが、今、ガジルを襲った。

「いぎぎっ!?」

 ガジルも連続の追撃に耐えきれず、グレイの魔法をモロに食らう。

水流斬破(ウォータースライサー)!!!」

 ジュビアが放つ、水はカッター状になり、グレイ目掛けて飛ぶ。だが、グレイはそれを跳んで避け、反撃を狙う。

「アイスメイク…」

「おっそ~い。エア・バンド!!」

 後方からの急襲にグレイは襲われる。

「遅いのはどっちだよ!!!」

 グレイはくるりと、空中で回ってジュビアに向かって放とうとしていた魔法を少女に放った。

「…氷雪砲(キャノン)!!!」

 大砲を造り出し、砲撃。

 風の旋風はまるで、そよ風の様にいとも簡単に裂かれ、消え失せる。そして、勢いを止めない巨大な弾は少女を襲う。

「うっ!!」

水流拘束(ウォーターロック)!!」

 グレイの全身が入る大きさの水塊がグレイを包み込んだ。全身拘束されたグレイは動かなくなり、口から激しく泡を出す。苦しそうに。

「ジュリアの水は強い!!」

(ぐぅッ!!こんなモン!!!)

 グレイの全身に力と魔力が集まる。

「あああぁぁっ!!!」

「え!?ジュビアの水が!!?」

 グレイを拘束していた水塊は氷となって砕け、破片は飛び散った。床に突き刺さっていく。グレイは拘束された身から脱出した。

「あなたはジュビアたちには勝てない!今なら退いても構わないわ」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。オレは全力で戦うぞ…!!!来るなら来やがれ!!!」

「鉄竜棍っ!!」

 ガジルの腕は鋼鉄の棍棒となり、グレイの腹部に向かって飛んでいく。

「うぐぅッ!!!」

 グレイはそれを腹と腕で受け止め、足で踏ん張って耐える。だが、仲間がいる壁の方にどんどんと滑らせていき、やがて、壁に激突した。

「ぐあぁぁああっ!!!」

「冷っ…なっ!?」

 鋼鉄の棍棒の先端が妙に冷たいと思えば、どんどんと凍り付いていた。

「凍りつけぇぇッ!!!」

 グレイは魔力を大いに使ってガジルの全身を凍らせた。冷たい空気が漂う。

「ハァ…ハァ、ハァ…ハァ」

 

バキィィィイイン!!!

 

「ちっ…もう出られたのかよ…」

「大気観測!!」

 黄髪の少女がそう魔法を唱えると、大気が一瞬だけ震える様な感じがした。だが、体には何の異常もない。

「な、なんだ!?」

「見~つけた…」

「どこですか?」

「いっくよ~。向こうだぁー」

 そう言って少女はギルドを出て行く。

「な!?逃げんのか!?オイっ!!!」

「今度会ったら潰すぞ…!!!最後に一発お礼だ!」

 ガジルはそう言ってギルドを出る次いでに振り向くと、大きく体を反った。

「鉄竜のォ………」

「ヤベッ!!?全員、下がれぇぇええっ!!」

 グレイが警告した直後、右拳を左の手のひらに乗せ、叫ぶ。

「咆哮ォォォォォォォオオオオオオオオオッ!!!!!」

「アイスメイク…城壁(ランパード)!!!!」

 ほぼ同時に叫ばれた。

 ギルドに轟いた刹那、大きな爆発が起きた。

 大きな城壁に鉄竜の咆哮が激突したのだった。

 分厚い城壁は貫通することはなく、完全にガジルの全力の咆哮を受けとめた。

「なっ!?ふっ、まぁ良い…。また、今度会ったらぶっ潰してやる!!!」 

 そう言い残し、ガジルはギルドを出て行った。

「ハァー…ハァー……ハァー…フゥー。ヤベッ……」

 グレイはその場で倒れた。

 

 

「どういうこと!?」

「なんなのコレ…!」

「リーナ!?」

「アイツがリーナか…。火竜(サラマンダー)…邪魔だ、退け…!!」

「リーナ、今すぐ逃げろっ!!!」

 ナツはラルドの言葉に即座に反応して、リーナを逃がすことにする。

「させるかよ!!!」

「行かせるかぁッ!!!リーナは…俺が守る!!!」

 ナツはリーナに向かって走るラルドを殴りつけた。

 ラルドはその衝撃に耐えることができず、壁に吹っ飛ぶ。壁の一部が砕け、破片が飛ぶ。

「なんだが良く分からないけど…だけど、私だけ逃げるのは嫌!!!私も戦う!!!」

「逃げるわけじゃねぇよ…!俺達が守るんだ!!!」

「ナツ…あたしはどうすればいい!?」

「リーナを…頼む!!」

「分かった…!ナツは!?」

「オレは…ここで食い止める!!!」

 ルーシィはずっとナツの背中を見つめてから、言った。

「死なないでね…!ナツ…」

「おう!任せろ!!」

 ルーシィはリーナを連れてこの場を去って行った。どんどんと遠くなるその後ろを姿を見つめた後、ナツは向き直る。

 すると、前からはラルド、だけではなく、他の四人が堂々と吹き荒れる砂塵の中から現れた。

火竜(サラマンダー)じゃねぇか…」

「そこを退いてはくれませんか?」

「死んでも通さねぇ…!!!」

「キャッキャ!!この数を相手にするわけ~?」

「ここはオレが守るッ!!!!」

 ナツは堂々と立ちはだかり、天に向かって大きく叫んだ。

 

 

* * *

 

 

「ハァ…フゥー…ここは……通さ…ね…え…。がふっ、がはっ、ハァ…ハァー!」

「ナツぅ!!」

 血を口から下に向かって吐き、ふらふらと立ち上がる。動きはヨロヨロとしていて、また今にでも転倒しそうな態勢だ。

(まだ立つのか!!?)

「ジュビア驚き!!」

「フン、熱い男だ…」

「ボロボロじゃ~ん」

 だが、その身体はボロボロ。服も破け、額から血が流れ、体の所々に傷がある。

「オレが…リ……ナ…まも…」

 ナツがそう言いかけた時、とうとう、気が薄くなり、次第に遠退いていった。

「やっと沈んだな…火竜(サラマンダー)…」

 少女が両手を思い切り開けて、大気に伝わる感覚を体の脳に伝える。リーナが大気と当たる空間を探し出し、リーナの所在地を見つけてしまう魔法だ。

「大気観測!……こっち~!」

 と、言ってリーナの方に迫っていくのであった。

  

 

「捕獲完了…しんしんと……」

 空の運命の五人の中のジュビアがそう呟いた。その横には水塊があり、その中にはリーナが入っていた。その口からは息が漏れ、気絶しているようだ。身動きもとれないその状況の中、必死にもがいていたみたいだった。その証拠にリーナには傷がある。

 そして、その五人の後ろには傷だらけのルーシィの姿があった。

 

 

* * *

 

 

「遅ぇじゃねぇか…」

「すいません…少々、手こずってしまいました…。ですが、妖精の尻尾は全滅…させました」

「まぁ、良い…。今はいい気分だ…。行くぞ…終焉の遺跡だ……」

 男はそう言って、煙草を投げ捨てた。

 

 

 男の言った通り、マグノリアの街では所々に身体がボロボロで倒れている妖精の尻尾の紋章を刻む者達がいた。



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第09話: 動き出した竜

 ギルドの壁や屋根など所々に穴が空き、風が通り抜けていく。中は傷だらけのギルドのメンバー達がいた。色々と愚痴や言い訳を叫んでいる。

「痛て…」

「ちくしょぉ!」

「納得いかねぇぜ…」

「リーナが誘拐された。俺達は…ギルドの一人も…守れやしねぇのかよ……クソッたれ!!!」

 と言って机を蹴飛ばした。すると、そこに、奥の部屋から頭に包帯を巻いたナツが出て来た。

「リーナが誘拐…されたのか…?」

「あ…あぁ…。マグノリアの住民がそう言ってやがった…」

 このなんとも、苦しい空気が増している。沈黙が流れた。

 

 

「な…なにココ!?」

 リーナは高く聳え立つ遺跡の上で丈夫そうな蔓に体を縛られていた。何故か、力が抜けていく。気づけば、魔力がどんどんと吸われていた。

「やっと気づいたか…」

「なによコレ!!放してよ!!!」

「クハハハッ!テメェはこれから、魔道兵器の動力として働いてもらうぞ!!!」

 リーナの魔力はある大きな魔水晶(ラクリマ)に集結していた。既に膨大な魔力が吸われてしまっていた。

「ふざけないで!!こんな物…うぅ!!」

「おっと…!暴れんじゃねぇぞ……」

 と、言って男はそのリーナを縛り付ける蔓を強く乱暴に締め付けた。

「ああぁぁあっ!!!」

 全身が締め付けられ、苦しそうにリーナは悲鳴を上げた。

 

 

 

ピクッ

 

 ナツが一瞬だけ、震えた。そして、床だけをじっと見つめている。

「リーナの声が…聞こえたぞ…」

 そう呟いた。

 近くにいたハッピーがその言葉に問いかける。

「…ナツ?」

 急にナツは包帯を強引に振り解き、投げ捨てる。そして、机を叩き、席を立った。その姿を見て、グレイが叫んだ。

「オイ…!ナツ!!テメェ…行く気じゃ…」

「ハッピー……飛べるか?」

 ナツの真顔にハッピーも真顔で答える。ナツは本気だ。

「あい!!!」

「行くぞ!!」

 ナツが正面出入り口に向かって走る。その姿を見て、ギルドのメンバーが叫ぶ。

「オイ、ナツ!!勝手に一人で行くんじゃねー!!」

「これだから、餓鬼はよォォ!!!」

 ナツはどんなに言われようと走った。その襟をハッピーが掴む。そして、リーナの元へと飛んで行った。

 あっという間に小さくなって空に消えた。

「あの馬鹿…」

 誰かが、そう呟いた。

 

 

「うぅ…あぁッ!!…こんな…こと…して…なにする……つもり?」

 蔓に縛られ、身動きが取れず、息苦しいリーナはそう言った。魔力が吸われていき、やがて、もがく気力さえ無くなってしまった。

 男の顔は恐怖にあふれた、悪人の顔になっていた。

「立場をわきまえてもらおうか。テメェは捕虜だ。テメェに目的を言う理由はねぇ。テメェはただ魔力を魔水晶(ラクリマ)に吸われればいいんだよ…」

 リーナは一つ、今、やっと気づいた。

(なんで…あたしの魔力が多いってことが知られてるの!?)

「ちっ、魔力の吸力が遅ぇな…。テメェの魔力はそんなんじゃねぇだろぅ?天の魔力を持っている、リーナ…」

「な、なんでソレを!!?」

「んなことどうだっていいだろうがよ!!少し黙っていてもらおうか!!!」

 と、叫んで男は更にぐっと蔓を縛り付け、リーナを苦しませた。リーナは最後にまた大きな心の声で救助を叫んだ。

(あたしはここにいる!!!助けてっ!!!)

 

 空を一定のスピードで飛ぶ、蒼い空に重なる白い立派な翼が生えた青いネコと桜色の髪に、白色の竜の様な鱗のマフラーを着た男がいた。それぞれの体の一部に同じ紋章が刻まれている。

「まただ…。リーナの声が聞こえたぞ…」

「オイラも聞こえたよ。…そういえば、ナツ。リーナの場所、分かるの?」

「あ、えっと~…どこだっけなぁ……」

 誤魔化そうとしたとにかく、惚けたナツだが、分かっていないということが丸分かりだ。

「知らなかったんだ…」

 ハッピーは呆れ顔で言った。

「勘で行くぞ!!!ハッピー!!!」

 真顔でそう言われると、どうもややこしいのでハッピーは気のない返事をした。

「あ、あい…!」

 ハッピーはこの先がちょっと心配になるのだった。

 

 

* * *

 

 

 高く聳え立つ遺跡。その一つ頂上にいるのは一人の男と蔓に縛られる少女。少女の方はかなりの疲労が体に負担を与え、既に俯いて口を開きもしない。

 男は段に座り、ずっとその時を待っている。

「…きっと……」

「あ?」

 リーナが急に言い出した言葉に目を向ける。耳を傾け、小さな声をはっきりと聞いた。

「きっと、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が来てくれる…」

「クハハッ!まだ信じてんのかよ…。笑えるなぁ…。テメェの仲間は重症だ…。来れるはずがねぇ…くだらん妄想だな…」

「絶対、来るよ!!!来てくれるモン!!!」

「根拠はあるのか?あぁ?」

「あるよ。だって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は私の…家族だから!!」

 

 

「ナツ!!あれっ!!!」

 ハッピーがずっと向こうに続く果てしない空を見て言った。

 ナツもその動作に続く様にずっと向こうを見た。そこには、あの要塞らしき影が見える。その真下には高く聳え立つ薄暗い影が見えた。

「全速力だ!!!ハッピー!!!」

「あいさー!!」

 ハッピーはめいいっぱいに魔力を振り絞り、全力で向かった。

 風の抵抗が大いに増し、髪が逆立つ。目を開けているのもかなり厳しい状況の中ナツはあの要塞を見つめ続けた。雲を裂き、雲に大きな穴を空けた。そして、ハッピーとナツはあの巨大な要塞を目の当たりにする。

「ハッピー!!俺を放してくれ!!!」

「あ、あいぃ!!」

 ハッピーは戸惑いながらもすぐさま、手を離した。

 ナツの足裏から炎が噴き出す。その反動でナツの速度は増す。そして、要塞に激突した。

「うぉおおおぉおおおおっ!!!」

 要塞と激突したナツの勢いはどんどんと増していき、やがて、要塞にヒビが入った。

 そして、黒く焦げ始め、次第に割れる音が聞こえ始めた。最後だ、そう確信したナツは思い切り炎を噴き出した。

 

ドッゴォオオオオオオオオオン!!!

 

 要塞の壁はぶち破られ、破片が内側に飛び散る。要塞に降り立ったナツの前に既に大勢の部下達がぞろぞろと待ち構えていた。

 足を肩幅より少し広めに開き、右肩の紋章を見せつけるように右腕を前に出し、下げていた顔を上げた。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)だぁぁああああッ!!!!」

 と、叫んだ。

「リーナを返せぇぇえええええっ!!!」

 ナツはそう言いながら両拳を打ち付けた。その拳の前には赤い魔法陣が現れる。

 体を後ろに向かって大きく反り、息を思いっきり吸った。その分だけ体の体積が膨らんだような気がする。

「火竜の咆哮っ!!!!」

 前に全身を押し倒し、炎を噴き出す。炎の塊は竜のブレスとなり、大勢の部下達を吹き飛ばし、焼き焦がせた。一気に半分くらいが戦闘不能になる。

「怯むなっ!!!!かかれぇぇぇええっ!!!」

「まだまだァ!!!火竜の鉄拳!!!」

 右腕を横から大きく振って、また大勢に人を横薙ぎに払った。更にそこから両腕を後ろの上らへんで構えた。

「火竜の翼撃!!!」

 両腕は火竜の翼と化し、多数の部下を撃退する。暴れ回るナツの姿は怒り狂った、そんな表情だった。

 あっという間に人影はなくなり、倒れているだけの無惨な姿へと急変した。

 

 

『た、大変です!!!ラグード様っ!!』

 魔水晶(ラクリマ)から聞こえる声に気が付き、魔水晶(ラクリマ)に映されている部下の顔に話しかけた。

「なんだ?鬱陶しい…」

『すいません。それよりも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の奴等…奴が来ました!!!桜色の髪に白色の竜鱗のマフラーをきた少年と青いネコが一匹です!!!』

「なんだと…?」

『既に要塞に入り込み、中で暴れ回っています!!!』

 魔水晶から聞こえるそのつつましい口調とは全く反対の言葉に腹を立て、ついに頭にきたらしい。

五つの矛盾(ファイブウェルド)はなにをしている!!?さっさとその餓鬼をくたばらせろ!!!」

『はっ』 

 その言葉を境に会話は終わった。

「ナツとハッピーだ!」

 リーナが喜びながらそう言うと、ラグードは怒り狂った表情でリーナを見つめた。

「どこまでオレの邪魔をすれば気が済むんだ!!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!!!」

 そう怒声を叫び、ラグードは一度、吐息と吸息を何度も繰り返してから、また座った。

 

 

「そういえば、ナツ…。なんで酔わないの?」

「はっ!そう言えば…うぷっ、気持ち悪っ…!」

「それ想像しただけだよね…」

「やっぱ、無理…降りるか…ハッピー…」

 すると、

火竜(サラマンダー)…!!!そこまでだ!!」

「アァ?」

 ナツが振り返れば、またあの男がいた。ラルド。

「なんだ…。またテメェか…」

火竜(サラマンダー)…テメェとだけは決着つけたいんでなあ。本気で行くゼェ!!!」

「燃えて来たぞ!!!」

 いつの間にか酔いが消えていたナツは炎を手に纏い、構えた。




難しいな…。本当に小説は難しいです。ところで…僕は情報を掴むのが遅いのか分かりませんが、いつごろになると、フェアリーテイルのアニメは再開されるのでしょうか…。なるべく早くなって欲しいんですが、今だに再放送を見ているだけなので…思わず催促しようになります。そのうちまた始まるというのはご存知ですが、いつか…となるとまだわかりません。いつぐらいかなぁ…♪


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第10話: 激戦、開幕!

 要塞の中にずっと続く通路。その狭く長い通路に二人の男と青いネコはいた。男同士で睨み合い、威圧感をぶつけ合っている。

「二つ…訊きてぇことがある…」

「なんだ、言ってみろ…」

 ナツが出した言葉にラルドは少なからず驚いて返す。

「何でリーナを欲しがるんだ…?」

「フン。そんなことか。俺達、空の運命(スカイデスティニー)の復讐のため…とでも言っておこうか」

「どういう意味だっつーの…!」

「これ以上は言えねぇなぁ……」

「言いやがれ、この野郎!」

 ナツは床をばんばんと踏んで腕を振り上げ怒った。

「で?二つの目の質問は?」

 一瞬、沈黙が流れ、緊張感が高まった。その時、ナツが口を開いた。

「…なんで俺は酔わねぇんだ?」

「知るかっ!!!」

 思わぬ変てこな質問に思わず転倒しそうになったラルドはツッコミを入れた。

「ま…いっか。行くぞっ!!」

「フン、早く来い…!」

 そして、二人は弾丸の様に飛び出した。

 拳が重なり、風圧が散る。

 急激にラルドの力が前へと抜け、バランスが崩れる。ナツが咄嗟に拳を退けて、力を抜けさせてバランスを崩させたのだった。

 無防備なラルドの腹にナツの蹴りが直撃する。

「火竜の鉤爪!!!」

 炎を纏った脚はラルドを大きく吹っ飛ばす。空中で一回転したラルドはすぐさま、起き上がり、態勢を立て直す。更なる追撃を狙うナツにカウンターをかけた。

巨腕(ジャイアント)!!!甘いわ、火竜(サラマンダー)!!」

 と、声を張り上げて叫んだ。

 急に足を止めることはできず、ナツは真正面から飛んでくる腕を避けることはできなかった。ましてはガードすらできずにモロ食らった。

「あがっ!!!」

 ナツは床を転がる。その後を砂ぼこりが追い上げる。砂ぼこりの中にナツの姿が消えた、と思った瞬間、砂ぼこりが急に穴を空け、そこから炎の塊が飛んできた。

「火ぁ竜の…咆哮っ!!」

 ナツの吐いた炎はラルドを包み込んだ。ラルドは紅の炎に包まれた黒い影と化す。

 黒煙が立ち籠めた。その黒煙も既に消え失せていた。

「効かねぇな…」

「いっくぞぉおお!!!」

 床を蹴り飛ばし、身を前に押し出して突っ込む。

巨脚(ジャイアント)!!」

 その声とほぼ同時にラルドの脚が巨大化する。その脚はラルドの上で弧を描かせた。

 そして、天井をほんの少しだけ剥がし、ナツの脳天から降りかかった。ナツの頭と脚の間合いがほんの数センチまで縮んだ瞬間、思いっきり床を蹴り飛ばし、ラルドに向かって跳んだ。

「なにっ!?」

 足が床に着く瞬間に張り上げられたいい声と炎を纏った熱々しい拳が同時に放たれた。

「火竜の…鉄拳ッ!!」

 顔面に直撃した拳はそのまま、振り抜かれた。ラルドは大いに吹っ飛ぶ。床を砂塵が舞い上がってラルドは滑った。

「仲間のためなら…俺は強くなれる!!」

「そうか…。面白い。なら、見せてみろっ!!仲間の力と言う奴を!!!」

 そう言った直後、ラルドはお得意の魔法により腕を大きくさせて、向かってきた。速い。先程とは全く比べ物にならない。驚いたナツは一瞬、反応が遅れた。

「らァッ!!!」

 怒声の様な声がナツに耳に入る。ほぼ同時に巨大な拳が鉄の床を砕く、轟音が鳴った。

 横から振られた拳を躍って避ける。 

その直後、ラルドは蹴り上げる。ナツは後ろに体を倒して避けた。

前から襲い掛かる巨大な拳をバク転して避けてから、飛び退いた。

「仲間の力は避けるだけの力かぁ!!?笑わせるなっ!!」

 ラルドはそう言って巨大な拳、腕、脚を振るう。だが、ナツはそれをバク転して、側転して、飛びのいて、避ける。

 ラルドは短く舌打ちを零した。

 がむしゃらに振るってナツに当てようとする。だが、ナツはすれすれで躱していた。

 大きく飛び退いたナツは後ろに違う道があるということに気がつく。そして、そちらに急いだ。

 ナツの考えはこうだ。

(壁に隠れて不意打ちしてやる!)

 とのことだった。

 分かれ道の右に曲がり、身を潜めた。匂いと足音を頼りにタイミングを見計らう。そして、その時は来た。

「おりゃぁぁあッ…!!!……いっ!!?」

 目の前に現れたのは既に拳を構えたラルドだった。思わず驚愕する。そして、殴り掛かっていた思考や体はすぐさま、飛び退いた。

 

ズゴォオオオッ!!!

 

 砂ぼこりが舞い上がった。三段ほどの小さな階段が砕け散り、轟音が響く。

 その砂ぼこりから轟音が鳴った直後にナツが飛び出してきた。高く飛びあがっていたナツはその真下に着地し、違和感を覚えた直後、理解した。

 そこは鋼鉄の黒々と光る柵が鉄の橋に沿って造られた小さな短い橋だった。

 だが、そんなことに気を囚われていてはならない。目の前からは既にラルドが拳を構えて突っ込んできていた。

 振り下ろされた拳は鉄の橋を僅かに砕く。だが、橋が壊れる気配がない。かなりの丈夫さだろう、と考えられる。

 ラルドの追撃を避け、着地したナツは足の裏から炎を噴き出させ、突撃した。

「火竜の劍角!!」

 全身に炎を身に付け、凄まじい勢いで飛び出す。

 しかし、ラルドはその攻撃を素早く最小限の動作で避けてから、拳を横殴りに振った。

 後ろを確実に取られたナツはどうすることもできずにそのラルドのカウンターを受けて壁に激突した。激突した真ん中らへんから砂ぼこりが飛ぶ。

「うぐぐぐっ…!」

 ナツは再び突っ込んで行く。壁を蹴ってラルドに向かっていった。

 足に炎を纏い、振る。

「火竜の…鉤っ!!?」

 攻撃を放とうとして蹴った瞬間、全身が圧迫感を覚えた。あの巨大な拳で全身を締め付けられている。向こうからしては握っているのだ。

「いぎぎぎぎっ…!!」

 あまりの圧迫感と苦痛に声が漏れる。

 ナツは数秒も経たずに橋の外側、つまり、真下の階に投げ飛ばされた。

「いっ!?」

 空中に投げ出されたナツは落下する。その後を追うようにラルドを自ら飛び降りる。その瞬間。

「火竜の劍角ッ!!!」

 大きな瓦礫に脚を任せていたナツは体を炎で包み、踏ん張っていた。そして、ラルドが飛び降りて来た刹那、思いきり瓦礫を蹴って飛んだ。そして、その勢いでラルドの腹部に強烈な頭突きを叩き込んだ。

「ごはぁっ!!!」

 上に打ち上げられたラルドは一瞬、なにが起きたのか理解不能になる。だが、理解するのにはそう時間は要らなかった。

「あぐっ…おのれぇ~~」

 打ち上げられたラルドは橋の上にまた降り立つとすぐさまナツに向かって突撃していった。着地したばかりのナツには反撃する有余がなく、一旦、飛び退いた。

 埃が舞い散る。砕けそうになった橋だが、まだ耐える。

「らァ!!!うるァアッ!!!」

 ラルドが振るう巨大な拳はナツには当たらず、橋を滅茶苦茶に壊す。終に橋の一部が砕ける。

 その時、ほんの少しの隙があった。反撃できていなかったナツは半分ぐらいしかないこのチャンスを逃さないと言うように跳び付いた。しかし、

 

ガッ!!

 

「ありっ!!?」

 動かなくなった右足に驚き、振り返る。振り返れば、右足は鋼鉄の柵に引っ掛かっていた。

「ラッキーだな…!」

 その声に反応したナツだが、間に合うはずもない。

「オラアァ!!!」

「ぶほっ!!」

 巨大な裏拳で殴られたナツは橋の粉砕した方に吹っ飛んでいき、橋が切れたところの切れ目にぶつかってから跳ね上がり、奥にある道の方へと回転しながら吹っ飛んでいった。

 だが、反撃した勢いを殺さずにナツは立ち向かっていく。

「だぁりゃあぁぁッ!!!」

「オラッ!!!」

 タイミングを合わせてラルドは思い切り殴った。巨大な拳はナツの全身を捉え、押し倒す。が、

「効かねぇなぁ…」

「な、何!!?」

 ナツは拳をモロ喰らったはずなのにそこから微動だにしていなかった。

「くたばれぇぇえっ!!!!」

 そして、巨大な拳を潜り抜けて、ラルドを思い切り回転の要領で蹴る。

「ゴハッ!!」

 柵を破り、下の階へと落下する。

 ナツも続けて自ら落下した。

 

ズゥゥウウウン!!

 

 二人同時に着地した。自分を円の中心として、その周りに砂塵が小さく舞う。

「行くぜっ!!すぐ終わらしてやる!!双巨腕(ダブルジャイアント)!!!」

 先程までずっと一つの拳だったのが、今は両腕が巨大化している。

「いっ!?」

「オラオラオラッ!!!」

 その両腕を乱暴に振るってナツに襲い掛かった。

 その巨大な両腕を躱すナツだが、周囲を状況を判断できていなかった。背中がなにかにぶつかる。

 壁だ。

「もらったぁあああ!!!」

 壁に気を囚われ、反応が遅れたナツは巨大な両腕をモロ喰らった。

 

ズゴゴォォォオオオオオオ!!!!

 

 ラルドの背中向きに砂塵が吹っ飛ぶ。壁の破片が混じって飛んでいた。轟音はこの大広間に何度も響いた。

「もう一発!!」

 ラルドはそう言ってまた殴った。その度に壁が大いに削られていく。辺りは砂塵だらけで立ち籠めていた。

「ふっ…この程度か…。火竜(サラマンダー)……」

 その時、白い翼の生えた青いネコ、ハッピーがこの大広間に追いついた。だが、遅かったことをすぐに理解した。

「ナツぅぅぅぅ!!!」

 大声で叫ぶその声も虚しくナツはラルドに持ち上げられた。そして、後ろに向かって放り投げられた。

「そういえば、ここがテメェの入ってきた場所か…」

 ラルドは一つの大きな壁に空いた風穴を見つけ、そう確信した。その跡には証拠の焦げた後があるし、後ろには倒れ、焦げていしまっている部下達がいる。

 ナツは片腕を床にバンッ、と叩きつけ、ふらふらと起き上がる。

「最後にちょっとしたお詫びをやろう。…オレの最強の魔法でテメェを吹っ飛ばしてやる」

 無言で立ち上がったナツはまたふらふらと歩く。そして、また立ち尽くし、やがて、倒れ込む。

「ナツぅ……」

 叫ぶ言葉を失ってしまったハッピーはただその光景を見ることしかできなかった。

「ヤベェ…動…け…ねぇや」

 諦めたような声を出して、ナツはまた立ち上がろうとする。足に激痛が走る。

「ボロボロだな!火竜(サラマンダー)!!今、楽してやるよぉ!!」

 そういった途端、片腕が白く光った。腕の付け根らへんから魔法陣が現れる。魔力が高まり、小さな破片をほんの少しだけ浮かせた。

超巨腕(メガント)!!!!」

 この広間を潰してしまいそうな超巨大な腕がラルドの後ろに聳えた。大きな影をつくり、辺りを暗くしてしまう。

「終わりだぁっ!!!堕ちろッ………サラマンダァァァァァァァァ!!!!」

 超巨大な腕は床を削り、破壊し、凄まじい勢いでこちらに向かってくる。風圧がその後を追って来るかのようだ。まるで、向かってくるのは突進してくる像。ナツには錯覚なのかそう見えた。

 

ドンッ!!!!!

 

 ナツは全身でその腕を受け止めるが、踏ん張る脚も虚しくどんどんと滑っていく。足の先からは砂塵が吹き荒れるように舞う。あっという間に直ぐ後ろには大きな風穴の空いた、壁があり、そこには果てしなく続く青い空があった。だが、そこはナツにとっては墓場の様な場所であったように思える。

 その時だった。諦めかけている自分を奮い立たせる様な希望の声が、家族の声が。

相棒(ハッピー)”の声が聞こえた。

「ナツゥゥウウウウ!!!」

 全身の芯に力が入り、士気が跳ね上がる。体中が熱く燃える。一滴、一滴の血液が紅に染まり、激しく燃え上がった。

「うぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

体のすべてを使って、受け止める。

「なっ!!?うお……らぁぁぁああっ!!!」

 ラルドも精一杯の力を振り絞って押し出す。

 全身が真っ赤に燃え上がり、周囲に激しく燃える紅蓮の炎がまた勢いを上げた。

「まだ増えるのか!!?チィッ!コイツ…どんだけの魔力をォ!!!?」

 その時、巨大な腕の奥に―――凄まじい怒号を上げる火の竜(イグニール)がいた。

「竜っだとォ!!?」

「ぁぁあああぁぁぁああっ!!!!」

 止まった。

 かかとに当たった鉄の破片が広大な大地へと落ちていく。

「!!!」

 とまっただけでは無い。ラルドの腕は押し返された。

「いぎぁああッ!!!」 

 ラルドは壁に向かって吹っ飛んだ。その大きな反動はラルドの体力と魔力、気力を奪った。自分の最強の魔法を押し返されてしまったラルドはただ、唖然と絶望の入り混じった感情に立ち尽くす。

 ハッと気づけば、自分の直ぐ下には桜色の男が拳を構えていた。

「何なんだ!!?お前はっ!!!」

「俺は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だぁあぁぁぁああ!!!」

 もの凄く燃え上がる業火に包まれた、仲間のための拳がラルドの頬に炸裂し、轟音を轟かせた。

 

ドッゴォオオオオオオオオオオン!!!!

 

「覚えておけ…これが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ」

 ナツはそう言い残しハッピーを連れて、この大広間を出た。

 

 

* * *

 

 

「なんだよ、コレ…」

 焼け焦げた後。倒れている空の運命(スカイデスティニー)の部下。壁にもたれ掛かる男。

「さすがだな。ナツだろう…」

「アイツか!」

「こうしてはおれん!!私達もすぐに別れてリーナを探すぞ!!」 

 そう言ったのは緋色の髪をしたエルザだった。

「俺はこっちだ!!」

「じゃあ、私はこっちね!!…強い人がいませんよぅに……」

「では私はこちらへ行こう!!」

 そう言って、分散したグレイ、エルザ、ルーシィであった。

 

 

「フゥー…ハァ…フゥー…ハァ……!」

「匂いで辿り着いたか!火竜(サラマンダー)…。だが、潰す価値もねぇなぁ!!ギヒッ」

「行くぞ…鉄竜(くろがね)のガジル!!!」

「遊んでやるよ!!火竜(サラマンダー)!!!」

 

「しんしんと…ジュビアは五人の矛盾(ファイブウェルド)の一人にして雨女…」

「何じゃそりゃ…。悪ィけど…女だろうが子供だろうが仲間を傷つける奴ぁ容赦しねぇからよォ」

 ジュビア 対 グレイ

 

「やはり、貴様か…。ザーロ」

「俺の名前を知っているのか、妖精女王(ティターニア)。久しぶりに楽しもうじゃねぇか…」

 ザーロ 対 エルザ

 

「アンタ、弱い女じゃんー!キャッキャッ!!早く終わりそぅ~~~!」

「私だって妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士なんだから…!!」

 シェルナ 対 ルーシィ

 

「この空に二頭も竜はいらねぇ。堕としやるよ……火竜(サラマンダー)のナツ」

「燃えて来たぞ、鉄クズ野郎」

 ガジル 対 ナツ

 

 今、妖精の尻尾(フェアリーテイル)空の運命(スカイデスティニー)の激戦が――――

 

 ――――開幕!!!




いやぁ…とうとう、本番ですね~。マカロフいないのに、マスターどうやって倒そう…と今、悩んでます。一応、この話にも深い(?)理由的な奴があるとは思います。そういうのがあって妖精の尻尾は面白いんで…。では、次の話でお会いしましょー!
 おまけ…です。

ハッピー)「そういえば、ラルドって人、激戦としてはカウントされてないみたいだね」
ナツ)「そりゃぁ、俺が圧倒的に勝ったからなっ!」
ハッピー)「えぇ?でもナツ、諦めかけてたよ?オイラのおかげで助かったんだよねー」
ナツ)「違ぇッ!!あれは……ルーシィの家賃の悲鳴が聞こえたんだぁ!」
ハッピー)「怖いねぇ~~~~!」
ルーシィ)「怖くなぁぁぁい!!!あ、でも確かに家賃…払えない……」
 へこむルーシィであった。


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第11話: それぞれの激戦

響き渡る高音が戦いの激しさを知らせる。間合いのない連続の斬撃を経験と神経を頼りに避けていた。そして、強烈な斬撃を確実に与え、着々と魔動機の数を減らしていたエルザも体力がかなり減少したのか、細かな息が微かに溢れていた。

 

「面白いぞ、妖精女王(ティターニア)。俺の魔動機相手にここまでやってくれるとはな、驚いたぞ」

 

「ふっ、そうか。ならば、こちらも全力を尽くす・・・換装!天輪の鎧!!」

 

「行けぇっ!」

 

ザーロが作り出した魔法陣から数々の魔動機が現れた。目測だけでは検討がつかないほどの数だった。100、いや、もしかしたらそれをも優に超えているのかもしれない。

しかし、臆することなくエルザは立ち向かい、体勢を少しの間、低くしてから跳びかかっていく。

 

「天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)!!!」

 

魔動機とエルザがすれ違う様に、魔動機の大群と匹敵するほどの無数の剣が魔動機をことごとく切り裂き、粉々にした。それでも、魔動機の数は半分、減っているかどうかであった。

 

「けっ、やるじゃねーか。だが、これからだぜ?」

 

包み込むように包囲されたエルザは鎧の周りを浮遊する剣で自分を囲むようにして、隙を作らないようにした。しかし、魔動機は無感情の兵器。死を恐れずに向かってきた。

 

「甘い・・・!」

 

エルザは浮遊させていた剣を精密に操り、魔動機に突き刺し、切り裂いた。魔動機が一瞬で数を減らしていった。

その時、1機に魔動機が剣の嵐を掻い潜りエルザの懐に潜り込んだ。すぐさま、飛び退くがさらに詰め寄ってくる。すると、わずか数歩しかないこの近距離で手のひらから筒のようなものを発射してきた。

 

「くっ・・・!はあぁっ!!」

 

右剣を振り上げて、筒を真っ二つに切り裂いたエルザはそのまま、距離をおこうとした刹那、筒が急に破裂した。その瞬間、エルザの鎧のわずかな隙間に細かな針が何本も突き刺さった。

 

「くぅ・・・!?な、なんだこれは・・・・・・!」

 

「その筒の中に仕込んだ麻痺針が全方位に飛ぶ仕組みになっている・・・。強烈な麻痺性だ。そう簡単に動けねーだろ・・・」

 

「うくっ・・・動け・・・な・・・い」

 

「終わりだな、妖精女王(ティターニア)

 

魔動機がエルザの方へとゆらゆらと浮いて、近づいていく。そして、1本の剣を振りかざした。そして、エルザの脳天めがけて振り下ろされた。

 

「なっ・・・!?やるじゃねーか。気力で動くとはな・・・」

 

「ハァ、ハァ・・・ハァ」

 

ふらふらと立ち上がり、剣が落ちそうな握る力で目が半分くらいしか開いていなかった。身体の節々がピリピリと痺れているのが、肌で感じられる。

 

「そろそろ、終わりにしようじゃねーか・・・!!」

 

「いいだろう、ハァー・・・ハァ」

 

ザーロの後ろにいる無数の魔動機の標準が一斉にエルザに向けられた。次の瞬間、魔動機が一気に足裏からものすごい強烈な空気を発射し、ものすごい速度で突撃していった。

それに対し、剣の数を増やし、飛び上がったエルザはたったひとりで突撃していった。

 

「はぁぁぁあぁあぁっ!!!」

 

偉大な雷声を上げて、エルザは猛烈な気迫で魔動機の大群の中へと入り込んだ。そして、魔動機の大群の中でまるで、爆発が起きたかのように魔動機達が粉砕し、真っ二つに割れ、吹き飛んだ。

 

「換装!!黒羽の鎧!!!」

 

すぐさま、換装してから猛勢な勢いで魔動機を切り裂いていく。次々に吹き飛び、切り裂かれていく。

 

「黒羽・月閃!!!」

 

攻撃力を跳ね上げ、斬撃を繰り出した。次々に呑み込まれ、魔動機達は粉々にはじけ飛ぶ。

 

「換装・・・飛翔の鎧!!!くらえ・・・飛翔・音速の爪(ソニッククロウ)!!!」

 

両手に握られた双剣で一瞬にして魔動機を切り刻んだ。そして、最後となった魔動機に向かって剣を×印型に交差させ、切り付けた。

 

「ハァー・・・ハァ・・・ハァー」

 

「へっ・・・・・・流石だぜ・・・」

 

一瞬に間合い詰めたエルザは剣先をザーロに向けていた。ザーロは身動きが取れずに額に汗を流しつつ、冷静さを装う。

 

「リーナはどこにいる?」

 

「フン、教えるとでも・・・おもったかよっ!!」

 

「な!!?」

 

後ろから魔動機が吹き飛んできたのをすぐさま、横薙ぎに払った。魔動機が一瞬にして破壊されたが、ザーロに背を向けてしまっていたエルザは隙だらけだ。

 

「どうせ、死ぬなら一緒だ、クソヤロー!!!」

 

「爆弾っ!!?」

 

ザーロの手には魔法によって作られた、爆弾らしきものが握られていた。今にも爆発しそうな緊張感を醸し出す。

 

「堕ちろぉぉぉおおお!!!妖精女王(ティターニア)ァァァアアア!!!」

 

要塞の一部に強烈な光が生じ、刹那、大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

「ジュビアを甘く見ないほうがいいわ」

 

ジュビアはそうグレイに自信満々の忠告を放った。

 

「そうかい。なら、俺も忠告しておくぜ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)をなめんなよ」

 

「そ、そう・・・私の負けだわ。ごきげんよう・・・・・・」

 

何故かジュビアは頬を赤らめてグレイに背を向けてしまった。その行動に深い意味が見られないグレイは思わずコケそうになった。

 

「オイオイオイ!!」

 

「(自分のものにしたい!!!ジュビア・・・・・・・・・止まらない!!!)」

 

ジュビアは急激に振り返り、グレイを睨みつけるような狂気な殺気を放った。驚くグレイに容赦なく魔法を放つ。

 

水流拘束(ウォータロック)!!」

 

グレイをあっという間に水塊に閉じ込めた。

 

「ごぽっ・・・うぎぃっ・・・!」

 

グレイは以前、シェルナにやられた傷口が開き、激痛に耐えられず、おもわず声が漏れた。

 

「まあっ!!怪我をしていらしたなんて!!ど、どうしましょっ・・・解かなきゃっ!!!」

 

急いで魔法を解こうとするジュビアより早くグレイが力を振り絞った。

 

「ぁぁあ・・・あぁぁああっ!!!」

 

グレイは水を自ら氷へと凍らせ、自力でジュビアの拘束から脱出した。

 

「やってくれたなぁ・・・コノヤロー・・・・・・痛てて」

 

腹の傷を抑えながら、服を脱ぎ捨て、ジュビアを睨んだ。その姿を見るジュビアはさらに頬を赤らめた。グレイは気づかずに魔力を高めだした。

 

「アイスメイク・槍騎兵(ランス)!!!」

 

数本の槍をジュビアに放った。しかし、ジュビアの身体に命中したのだが、槍はジュビアを通り抜けていった。いつの間にか、ジュビアの身体は液状化していたことにグレイが気づいた。

 

「な、なんだ!?」

 

「ジュビアの体は水でできているの」

 

「はぁ!?水だぁ!!?」

 

ジュビアの尋常ではない能力に驚愕するグレイは思わず2歩、後退した。対するジュビアはなぜか悲しそうな表情で魔法を放った。

 

「さよなら、小さな恋の花!!水流斬破(ウォータースライサー)!!!」

 

「なに言ってんだコイツ―――っ!!」

 

ジュビアの魔法をギリギリで避けたグレイはそのまま、攻撃態勢に入った。そして、右拳を左の手のひらに乗せる。そして、唱えた。

 

「アイスメイク・戦斧(バトルアックス)!!!」

 

造り出された巨大な氷の斧をジュビアめがけて横一閃に振るうがジュビアの体はまたしても、液状化し、攻撃は無意味になっていた。

 

「あなたはジュビアには勝てない。今ならまだ助けられる。リーナを諦めて頂戴」

 

グレイにそう交渉をだしたのだが、グレイはそれを大きく否定するどころか怒声をあげる。

 

「ふざけたこと言ってんだじゃねーぞ。リーナは仲間だ。命に代えても連れ返すぞ!!」

 

「ッ!!」

 

グレイの言葉を聞き、頭は上の空になったジュビアは傘を落とし、目に涙を浮かべた。その様子に戸惑いながらも、グレイは気迫を出し続ける。

 

「キィィイイイイイイッ!!!」

 

「な、なんだ!!?」

 

「ジュビアはリーナを許さない!!リーナを決して許さない!!!」

 

なぜか衝動的に動いていたジュビアは帽子を脱ぎ捨て、突如体のいたるところから湯気が沸い出てきた。そして、一瞬にして温度が上がる。その水しぶきがグレイの頬に掠る。

 

「あちっ!!熱湯っ!!?」

 

急襲にグレイは飛び退いて避けるが、回り込まれてまたすぐに追撃を狙われるハメになる。

 

「くっ!!」

 

それを身体の屈伸運動のみで反動をつけて跳び上がり、またしても避けた。しかし、ジュビアもすぐさま、方向を変え、突進してくる。

 

「くそっ!!速ぇな、ちくしょぉ!!」

 

熱湯がグレイに迫っていく。空中では身動きのとれないグレイは無防備であった。

 

「アイスメイク・(シールド)!!!」

 

しかし、グレイは空中でいながらも魔法を放ち、氷の盾を一瞬にして造り上げた。その盾に豪快にジュビアの熱湯がぶち当たる。だが、幸運もつかの間、氷の盾は高温の熱湯によって溶け始めていた。

 

「ゲッ・・・マジかよ!!くそっ・・・ぐぁあぁぁッ!!!」

 

熱湯は盾を突き破り、グレイに直撃した。グレイはそのまま、床を転がりながらも、態勢を立て直し、攻撃態勢に入ろうとしたが、目の前には熱湯が迫ってきていた。

 

「速ッ!!!うぐぁ!!」

 

熱湯に呑まれ、そのまま、流れるように屋根を突き破り、屋外へと飛び出た。

 

「熱っ・・・皮膚が焼けて」

 

身体中に火傷を負っていた。このままではマズイとグレイも対策を考え出した。

 

「んのヤロォ!!!凍りつけぇ!!!」

 

自ら片手を熱湯の中に差し出し、大量の魔力を消費して最寒の冷気を起こし出す。一瞬にして熱湯は高温から低音へと引き下がり、やがて、完全に凍りつき、氷の柱へと変貌した。

 

「そ、そんな、ジュビアの熱湯が・・・・・・凍りつくなんて・・・・・・」

 

氷の中で驚愕するジュビアにグレイは無言で得意げな表情を浮かべた。

 

「ん、雨なんか降ってたか?氷が溶けちまうじゃねーか、うっとうしい雨だな・・・」

 

「(はっ・・・この人も同じ・・・・・・・・・)」

 

その瞬間、氷付けにされていたジュビアの体が燃え上がるように高温の熱湯を繰り出し、みるみると氷を溶かし始めた。そして、あっという間に氷は溶けていき、雨と混じりあった。

 

「同じなのねぇぇぇぇ!!!」

 

「うおっ!!?」

 

湯気を豪快に噴出するジュビアは先程とは全くの別人にも見え、グレイは驚愕した。

 

「来るならきやがれ!!!」

 

「(ジュビア・・・・・・もう・・・恋なんていらないっ!!!)」

 

再び高温の熱湯に呑み込まれた、グレイはもがきにもがくが全く成果はでない。

 

「また、凍らせて・・・さっきより高温なのか!!?」

 

魔力を絞り出しても氷は出る気配もなく、グレイは熱湯とともに暴れまわった。

 

「負けられねぇんだよ!!!」

 

「シエラァァァァ!!!」

 

そして、グレイが雄叫びをあげ、魔力をできるだけ解放した。そして、熱湯は徐々に凍りつき、やがて、雨までも凍りつき始めた。

 

「雨までも氷に!!?・・・なんて魔力・・・!!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)をなめんなよぉぉぉおおぉおお!!!」

 

「うっ・・・ジュビアの熱湯が・・・凍りつ―――っ!!!」

 

氷欠泉(アイスゲイザー)!!!」

 

「ああぁぁああぁっ!!!」

 

熱湯ごと凍らされ、悲鳴をあげるジュビアは氷の中から出てきたもののその場に倒れ込んだ。そして、グレイはその場に近づき問いかける。

 

「どーよ?熱は冷めたかい?」

 

「・・・・・・・・・あれ・・・雨が・・・雨が・・・・・・止んでる・・・」

 

ジュビアは空を見上げながらそう感心しかかのようにつぶやいた。青空が広大に広がり、それはとても綺麗な青空であった。

 

「お、やっと晴れたか・・・」

 

「(綺麗・・・これが青空!)」

 

「で・・・まだやんのかい?」

 

涙を流す、ジュビアにそう問いかけたが、ジュビアは返事をすることなく、その場に目をハートへと急変して気絶した。

太陽と重なったグレイ表情はとても晴れやかに一人の少女を雨という呪いから救い出したのであった。

 




ちょー久しぶりですね・・・。結構、間が空いちゃいました。すいません。もう打ち切りと思った方も多いのではないでしょうか。本当にすいませんでしたぁ。


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第12話: 激突、火竜と鉄竜

怒りに身を任せ、ナツはガジルを殴り飛ばした。

 

「ぐおっ!」

 

殴り飛ばされたガジルは負けずと転倒を堪え、そのまま、ナツに突進し、殴り返した。

 

「うぎっ!」

 

どつき合う二人の激しさは増していく。しかし、既に体力をかなり消耗しているナツは到底のこと不利であった。怒りに身を任せるが、どんどんと押されていた。

 

「喰らえや、鉄竜棍!!!」

 

ガジルは自分の腕を鉄の棍棒へと変化させ、ナツに殴りかかった。しかし、ナツはその棍棒を脇に挟んで腕でがっしりと抑えた。

 

「へっ、捕まえたぞ」

 

「チィッ!離れねぇ・・・」

 

ナツは脇に押さえ込んだ棍棒を力いっぱいに振るった。突然、ガジルの体は浮き上がり、壁に叩きつけられた。

 

「オラァァア!!!」

 

さらに棍棒を振るおうとしたナツだが、ガジルが脚を鉄棒へと変形させ、腕部めがけて飛んでくるのを横目で確認した。しかし、ナツは避けようとせず、そのままの状態で鉄棒を自ら喰らった。

 

「いぎぃっ!!」

 

「なっ・・・!?くそっ、離れろっ!!!」

 

「ハァ、ハァ・・・。離すかよ、クソ野郎・・・!!オラァアァアッ!!」

 

またしても、棍棒を豪快にふるって、ガジルを壁に叩き込んだ。砂塵が舞い、ガジルの姿が呑み込まれる。

 

「っ!!?」

 

突如、脇に挟み込んでいた棍棒は急変し、鋭く尖った剣となった。それを挟み込んでいたナツは勿論のこと、すぐさま、痛覚を覚え、飛び退いた。今度は砂塵からものすごい勢いで出てきた鉄の破片を含んだ竜巻のようなブレスがナツを呑み込んだ。

 

「あがぁぁぁあっ!!!」

 

いとも簡単にナツの体を切り刻んだガジルの放ったブレスは壁にぶち当たり、壁を豪快に削り取り、消えていった。

 

「う・・・・・・ぐ・・・」

 

「フン、口ほどにもねぇ・・・。堕ちろ、火竜(サラマンダー)!」

 

「ハァ、ハァ・・・ハァー・・・・・・ハァ・・・ゼェ」

 

痛々しい体で何度も吐息を繰り返す、ナツはふらふらと立ち尽くしている。

 

「鉄竜の・・・」

 

「ぐぅ・・・火竜の・・・」

 

互いに大きく空気を吸い込み、頬を限界にまで膨らませ、体を後ろに反る。

 

「「咆哮!!!」」

 

叫ぶ否や、灼熱のブレスと鉄の嵐のブレスが激突し、信じられないほどの衝撃が辺り一面に広がる。衝撃に耐えられず、床が削り取られ、壁が剥がれていく。砂塵がブレスの交点を中心とし、円形状に吹き飛ぶ。

 

「お互いの竜の性質が出ちまったなぁ、火竜。たとえ、炎が相手を焼き尽くすとしても鋼鉄には傷一つ付けられん。逆に鉄の刃のブレスは貴様の体を切り刻む」

 

「うぎぎぎ・・・・・・がはっ!」

 

ナツは吐血し、その場に膝を付け、やがて、胸から倒れていった。

 

「ナツぅぅぅぅぅううう!!!」

 

その直後、ハッピーの大きな声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「エア・メロディー!!!」

 

「きゃあっ」

 

シェルナの魔法を間一髪で避けたルーシィはその場で転がってから金色の鍵を掴み取った。そして、突き出した。

 

「開け、金牛宮の扉!!タウロス!!!」

 

「モォォォォォオオ!!!」

 

突如、鍵の先が鍵穴の扉となり、巨大な斧を持った巨体の牛が現れた。

 

「タウロス、お願い!!!」

 

「エア・バンド!!」

 

手に纏った旋風を流れるように投げ飛ばした。しかし、その旋風はそよ風のようにタウロスの斧によって切り裂かれた。

 

「遅い・・・よ~!!」

 

「MOふぅっ!!」

 

一瞬で回り込まれ、後ろから手に纏った旋風で後頭部を殴られたタウロスは頭を前に突き出すように前屈みに倒れた。それでも、シェルナは魔力を高めた。

 

「エア・バンド!!」

 

「ぉもおっ!!!」

 

またしても後頭部を狙われ、タウロスは顔面を床にぶつけた。それに対し、シェルナの攻撃は止まない。

 

「オラオラァ!キャッキャッキャ!!」

 

「ちょっと、止めなさいっ!!!」

 

そこにルーシィが割って入り、腰に装着させていた鞭を取り出し、奮い立たるように振るった。その鞭はシェルナの腰、右の手の甲、左足にぶち当たった。

 

「痛っ!!!この金髪女がぁ~~~・・・!!!」

 

急に表情が変わり、狂気的な殺意を肌で感じとったルーシィはすぐさま、飛び退いて、様子を見る。

 

「エア・オーケストラ!!!」

 

「きゃっ!うわぁあ!!」

 

なんとか台風のような暴風を避けながら、シェルナから距離を遠ざける。しかし、今度は先程よりもはるかに大きく遥かに強い暴風が襲いかかってきた。

 

「きゃっ・・・!!痛っ―――きゃあぁぁぁあぁあっ!!!」

 

暴風に呑まれ、ルーシィの体はズタズタに切り刻まれ、服も至るところが細かく破られていた。そのまま、暴風に呑まれたルーシィは暴風もろとも、鉄の壁に大激突した。要塞の一室が震えるような威力で爆発が起きた。

 

「うっ・・・ハァ、ハッ・・・・・・。痛っ・・・」

 

体全身傷だらけになったルーシィは立つこともできずその場に倒れた。

 

「キャッキャッキャッキャッキャッ!!よっわい~~」

 

「うぅ・・・」

 

「もっと痛めつけてあげるぅ!」

 

そう言って、風を操り、刃のようにしてルーシィにぶつけた。

 

「きゃあぁっ!!!」

 

ルーシィは死にもの狂いで転がり、肩をかすめるだけで済んだものの、またしても、シェルナは容赦ない攻撃を放つ。

 

「まだ動けるんだ・・・。じゃー、もう一度~!エア・オーケストラ!!!!」

 

「ぅぅぁああぁあああっ!!あぁぁぁあっ!!!」

 

強大な暴風に呑み込まれ、あっという間に壁に激突し、心も体も傷だらけになったルーシィはピクリとも動かなくなった。

 

「あっれぇ~?もう終わり~?」

 

「うっ・・・ぅぅ・・・・・・」

 

シェルナは足の下に細かく吹く風をつくり、自分の体を浮き上がらせた。そして、そのまま、頭上に風の刃をいくつも作り出す。その後、ルーシィを風で浮上させた。

 

「遊んであげる、キャッキャッ!!」

 

そう言って、刃を容赦なくルーシィにぶつけていく。

 

「きゃっ!うぅあ!!あぁっ!!あぐっ!!」

 

「キャッキャッキャッ!!」

 

そう狂気的な笑い声を上げた次の瞬間、突如、ルーシィの後ろにあった壁から膨大な勢いで水が大砲のようにドバドバと飛び出してきて、シェルナを呑み込んだ。

 

「(・・・うぅ・・・・・・水・・・?)」

 

シェルナが放った風の刃が壁を切り裂き、外側にあった水道管に切れ目を入れたのだ。

その時、ルーシィの頭に一つ、奇策が思いついた。

 

「やるしか・・・ない!!!」

 

そう決心したかのように叫ぶと、腰にぶら下げてある金色の鍵を掴み、飛び出ている水に突っ込み、大きく唱えた。

 

「開け、宝瓶宮の扉、アクエリアス!!!」

 

突如、水着姿の青い髪をした人魚が現れ、水瓶を振りかざし、大量の水を急に放った。

 

「おらぁぁああぁぁぁあああっ!!!」

 

「うぶぶぅぐぐぐっ!!!ぐあああぁぁぁああああぁぁっ!!!!」

 

あっという間に要塞の一室が水浸しとなり、天井からポタポタと雫が落ちている静寂な一室へと急変した。ルーシィはというと、シェルナの力で浮上していたため、どうってことなかった―――とも言えない。

 

「しばらく呼ぶな・・・いいな?」

 

「分かったわ、ありがとう、アクエリアス」

 

そう言い残し、アクエリアスという人魚の星霊は消えていった。

 

「ん、あれ・・・操縦室みたい・・・」

 

スカートもほぼビリビリに破け、服も二割程度が破けているルーシィは手で隠しながら操縦室と称されている室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァー・・・ゼェー・・・・・・ハァ・・・フゥー・・・」

 

「もうテメェには用はねぇ。消えろクズ!!」

 

ふらふらと立ち上がるナツの身体はボロボロで戦える状態ではなかった。しかし、気力だけで立ち向かおうとしているのか、1歩、1歩、静かにゆっくりと歩いていく。

 

「オレは手加減って言葉知らねぇからよぉ。本当に殺しちゃうよ。ギヒヒッ」

 

「ハァー・・・ハァー・・・ゼェ・・・やって・・・みろ・・・よ」

 

「あん?聞こえねぇよ!」

 

そういうと容赦なく鉄の鱗へと変えた裏拳でナツの頭部を殴りつけた。ナツはものすごい威力で吹っ飛び、壁に背中を強く打ち付けた。

 

「ガハッ!!ゲホッ・・・がはっ・・・」

 

「いい加減沈めよ・・・火竜(サラマンダー)!!死ねやぁッ!!!」

 

そう言って、腕を連なる刃がある剣へと変形させ、ナツの脳天めがけて、振り下ろした。ナツはピクリとも動かなかった。ガジルは確信した、ナツは死ぬ。

 

「アイスメイク・氷雪砲(キャノン)!!!」

 

「な!!?ぐぉわッ!!」

 

突如、大きな大砲がガジルに直撃し、この部屋に轟音を轟かせた。

 

「へっ。突っ込んでいった割にはボロボロじゃねーかよ。クソ炎」

 

「ハァー・・・ハァー・・・。グレイ・・・邪魔だ・・・・・・コイツぁオレの相手だ。邪魔すんな!」

 

「よくゆーぜ。その体でよー」

 

「うっせぇ・・・がはっ・・・ハァー・・・ゼェ」

 

グレイはナツの声に構わず、ガジルの前に立ちはだかった。

 

「今度はテメェが相手か?ギヒッ・・・」

 

「アイスメイク・氷欠泉(ゲイザー)!!」

 

グレイが床に両手をついた瞬間、ガジルの足元から複雑に入り混じった氷の柱が噴水のように飛び上がってきた。ガジルは鉄の鱗で防いだつもりだが、グレイの魔法の方が速かった。

 

「いぎぃっ!!」

 

「いくぜぇ!!アイスメイク・戦斧(バトルアックス)!!!」

 

「あがぁっ!!!」

 

造り出した斧を横一閃に振るったが、ガジルは右手を鉄棒へと変形させ、その右手を左手で押さえ、グレイの攻撃を最小限に抑え込んだ。

 

「おもしれぇ!!鉄竜の・・・」

 

「アイスメイク・・・・・・」

 

その時だった。要塞が急激に傾き、揺らいだ。激しく揺らいだ要塞は空をのたうち回る様に飛んだ。

 

「なぁ!!?」

 

「なんだっ!!?ぐぉおっ!!」

 

グレイは態勢を崩し、壁に空いた風穴に足を滑らせ、遥かしたの地上へと姿を消した。

 

「おゎぁぁあああああぁぁぁっ!!!」

 

だんだんと小さくなるグレイの悲鳴も虚しく、要塞はさらに揺らぎ始めた。

 

「おぷっ・・・気持ち悪ィ・・・」

 

そして、ナツは酔うのであった。

 

「何なんだ!?一体よぉ!」

 

 

 

 

 

 

「ちょっ・・・きゃぁぁぁっ!!」

 

ルーシィはというと、操縦室に入ったのはいいが、部下に見つかり、操縦室で色々と、やっていたため、要塞がぐらぐらと揺らいだのであった。

とりあえず、要塞は安定し始め、大きな揺れも収まった。

 

「イタタタ・・・ん、あれ」

 

ルーシィが頭を抑えて、立ち上がると操縦していた部下たちは頭を壁にもたれかけて、倒れていた。どうやら、あおの不安定な状況の中で頭を打ち付けたらしい。気絶していた。

 

 

 

 

 

「まだ潰れねぇのかよ・・・火竜(サラマンダー)

 

「ハァ・・・ハァ・・・・・・ハァ」

 

立っているのがやっとナツは右腕を左手で抑え、右目を閉じ、苦しそうに吐息を繰り返す。

 

「オラァ!!」

 

「がっ!!」

 

ガジルはナツの腹部に殴りつけ、顎らへんまで蹴り上げた。

 

「あがっ!!!」

 

床に倒れ込んだナツの腹に自らの腕を鉄の棍棒へと変形させた状態で押し付け、そのままぐいっと押し込んだ。

 

「がはっ・・・あがぁっ!!」

 

「ギヒッ・・・。潰れちまいな。火竜(サラマンダー)

 

「うぐぐ・・・ら・・・・ァ」

 

「・・・あん?なっ!?」

 

「ァァ・・・ラァァア!!!」

 

「ぐぉ!!?」

 

ナツは渾身の力で棍棒を掴み、なぎ倒した。ガジルは床に頭を打ち付けた。ナツは吐血しながらもふらふらと立ち上がった。

 

「炎さえ食べれば、ナツは負けないんだ!!!」

 

「・・・あん?そうか、炎を食べたいってか。だったらよぉ、鉄を食いな!!!」

 

ナツの背中に棍棒を押し付け、そのまま、床にナツを叩き込むようにしながら乱暴に擦りつけた。

 

「あががががががっ!!!」

 

そして、ナツは壁に叩きつけられた。砂塵の中にナツの姿は消え、棍棒は元の腕に戻っていた。そして、今度は腕を剣へと変形した。

 

「トドメだ火竜!!!」

 

そう言ってナツめがけて剣を振り下ろした。

 

「あぁぁぁぁああっ!!!」

 

「な!!?ぐぉわあっ!!!」

 

突如、ナツが裏拳で機材を思いっきり殴りつけ、機材を豪快に爆破させた。その爆破にナツとガジルは呑み込まれ、ガジルは飛び退いてすぐに出てきた。

 

「炎・・・・・・だと?」

 

炎に呑まれたナツはなんともなかったかのように炎をガブガブと食べ始め、あっという間に炎を吸い込んでしまった。ガジルが驚愕している間にも炎は全て食べ尽くされ、代わりにナツの体から灼熱の炎がいくつも噴き出す。

 

「火を食ったくれーでいい気になるなよ!!これで対等だということを忘れんな!!」

 

ガジルはそう大声で言いながら、殴りかかった。それに対し、ナツはガジルにもの凄い気迫をぶつけ、錯覚を覚えるほどの目つきで睨みつけた。

 

「んぎぃっ!!」

 

ガジルの拳を左手で握り潰しそうなくらいまで乱暴に掴み、右拳を限界まで後方に下げた。

 

「なっ!!?」

 

「だらぁぁああぁっ!!!」

 

「おごっ!!がっ!!ぐぁあぁっ!!!」

 

 

右拳でガジルの拳を思い切り殴り飛ばしたナツはその後、振り抜いた右拳をぶらぶらと下げ、右肩にある紋章をガジルに見せつけるようにして、言い始めた。

 

「どれだけのものを傷つければ気が済むんだお前らは!!!」

 

「う、うるせぇぇ!!!鉄竜の咆哮!!」

 

ガジルが放った竜巻のような鉄のブレスはナツの力いっぱいの魔力によって弾け飛んだ。

 

「バカな!!?このオレがこんなやつに・・・」

 

ナツはガジルに一瞬にして間合いを詰め、右手に魔力を集中させ、激怒の思いを込めて、渾身の魔法を解放した。

 

「紅蓮火竜拳!!!」

 

「ぐぉぉおあぁぁあああぁぁあっ!!!」

 

間髪いれずの炎の連撃をガジルの身体中に直撃させた。その連撃は範囲を広げ、この一室全体を揺るがした。一室全体はほぼ崩壊寸前まで陥り、最後に一発。

 

「うおぉ・・・りゃああああぁあ!!!」

 

ガジルの頬に炎の拳を殴りつけた。

 

「ぐあぁぁぁぁああっ!!!」

 

ガジルは壁を突き破り、別の室へと突っ込み、目を真っ白にして、倒れ込んだ。

 

「これで・・・おあいこな」

 

ナツはそう言い残し、その場にバタリと倒れた。

 

「ナツぅ・・・!!ナツぅ!!」

 

「おぉ、ハッピーか・・・」

 

「大丈夫!!?ナツ!!!」

 

「へへ・・・・・・もう、動けねぇや・・・」

 

そうナツは笑顔でハッピーに答えた。

 

 

 

 

 

「あぎっ、おごっ、がぁ、ぅぐぉお!!」

 

グレイは要塞から落ちて、とても高い塔に落ちた。緑の太い蔓に何度もあたってから塔に落ちた。

 

「痛ててて・・・助かったァ・・・」

 

そこはリーナが囚われ、魔力を魔水晶(ラクリマ)に吸われている現場だった。そこには空の運命(スカイデスティニー)のマスター、ラグードの姿があった。

 

「テメーがマスターか・・・?」

 

「なんだテメェは・・・」

 

「リーナはどこだ・・・」

 

「グレイ!!」

 

頭上から聞こえた声にグレイはすぐさま、反応し、見上げる。そこには蔓によって身動きを封じられ、魔力を吸収されるリーナの姿があった。

 

「リーナ!!今助けるぞ!!」

 

「させるかよ!!!」

 

「んなっ!!?」

 

ラグードが叫んだ刹那、グレイの足元の床が動き始めたと思えば、まるで、タイル型の床が噴水のように飛び上がったのだ。

 

「うぉおっ!!」

 

「行かせねぇよ・・・」

 

「じゃあ、テメーぶっ飛ばしてでも行ってやらァ」

 

次の瞬間、リーナの蔓がなにものかによって切り裂かれ、リーナの身が自由になった。そして、リーナを抱きかかえた者はグレイの横に着地した。

 

「すまない、待たせた!!」

 

「エルザか!!」

 

「みんなぁ・・・ありがとう・・・・・・」

 

ザーロの爆弾を受け、要塞から空へと飛び出されたエルザだったが、黒羽の鎧についていた羽で無事だったらしく、この塔を目指していたらグレイが落ちているのを見て、急いできたらしい。

 

「チィっ!!!五人の矛盾(ファイブウェルド)は何をしているんだ!!!」

 

「へっ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を甘くみんじゃーねぞ」

 

「どこまでオレの邪魔をすれば気が済むんだ!!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!!!」

 

エルザが床に降り立ち、グレイが構える。ラグードは押しつぶすような気迫を放ち、戦闘態勢に入った。

 



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第13話: 負けられぬ戦い

「ナツ!!」

 

「ん・・・?ルーシィか!」

 

「大変!!急いでっ!!グレイとエルザが下の塔でマスターと戦ってるみたい!!」

 

「っ!?よし、俺たちも行くぞハッピー!!」

 

「でも、ナツのその体じゃ――」

 

「――行くぞっ!!!」

 

「あいさー!!!ルーシィ、あとで迎えに来るね!」

 

ルーシィは頷いてからナツとハッピーを見送った。そして、両手の指を絡み合わせて、願った。

 

「無事でいてね・・・みんな」

 

 

 

 

 

「がはっ!!?」

 

「うぅぁぁっ!!!」

 

「クハハハッ!!もう終わりにしようぜ!!処刑だ!!!」

 

ラグードは手を突き出すとその両手に魔力を次々と注ぎ込み、集中させていった。あっという間に渦巻くように炎が塊となっていく。その炎は最大限にまで凝縮され、大きな塊と化した。

 

「やべェぞ!!」

 

「くっ・・・」

 

「クハハハハッ!!!終わりだァ!!!」

 

炎の大塊はラグードの手から離れ、エルザとグレイの方へと向かって放たれた。

 

「ぐっ、チクショォ!!」

 

「うぅぁ・・・」

 

その時だった。

 

「ラグードォォォオオォオオオオ!!!!」

 

火竜(サラマンダー)ッ!?」

 

「ナツ!!!」

 

「ナツか!!」

 

ナツはハッピーから離れ、炎の大塊へと呑み込まれた。

 

「な!!?」

 

炎に呑み込まれたナツはあっという間に大量の炎を食い尽くし、自分のエネルギーとした。

 

「(最上級といっても過言ではねぇ炎を最大限に凝縮してあの大きさだぞ!!?そんな炎を食えば・・・・・・)」

 

「おぉおおおおおぉおおおっ!!!!」

 

もの凄い衝撃がナツを中心に放たれ、勇ましい咆哮が轟いた。

 

「くっ・・・まさかここまでやるとはな・・・!!」

 

ナツの体は紅炎に包まれ、熱気を放っている。ナツの周りの温度が上昇していく。飛んできた葉も燃え上がり、灰となって散った。

 

「祭り前の最後の余興だ。楽しませてくれよ?」

 

体全体から紅炎を噴出させるナツは周りの仲間たちの姿を黙視してから、体を小刻みに震えさせた。

 

「グレイ・・・エルザ・・・・・・リーナ・・・」

 

そして、俯いた直後、顔を上げて、耳が痺れる様な声を腹の奥から出した。

 

「俺の仲間に何をしたんだっ!!!!」

 

「やかましいぞ!!!ボケぇええ!!!次から次へと邪魔ばっかりしやがって・・・もう我慢の限界だ!!!」

 

頭に血を昇らせて、怒声をあげるラグードは右手を翳すと魔力を集中させた。すると、右手の中で風が渦巻くように巻き起こり、大玉と化した。そして、それをナツめがけて発射する。

 

「ぶっ殺してやるッ!!!」

 

大玉の風はナツに直撃して、さらに大きな旋風となってナツを呑み込んだ。ナツの姿は旋風の中に消え、旋風はナツの体を切り刻む。

 

「どうだ!!火竜(サラマンダー)!!!」

 

「くらわねぇなぁ・・・」

 

「なにっ!?」

 

ナツはラグードの魔法をモロ喰らったのだがその場に静止したまま、体に傷一つつけずに立っていた。その姿にラグードは焦りと驚きを感じる。その隙を狙って、ナツは足裏から炎を勢いよく噴出させ、距離をあっという間に詰め、ラグードの頬に炎の拳をぶつけた。

 

「うぉらぁああっ!!!」

 

「ぐふっ!!」

 

ラグードの首が捻れ、体が吹っ飛ぶ。

 

「ぬっ・・・」

 

ラグードは態勢を立て直すと血相変えて、追撃を狙ってくるナツ向かって魔法を放つ。

 

「ぁぁあっ!!」

 

腕を横一閃に振るった直後、その腕を追うように塔の床に生えていた雑草が伸び、鞭のようにナツを襲った。

しかし、ナツは背面跳びをして避けてから、両手と両足を床に付いた瞬間、一気に前に飛び出した。そして、ラグードの腹部に蹴りを炸裂させる。

 

「ごふっ」

 

「オラァ!!!」

 

ナツは態勢を低くしてから飛び上がると同時に拳を上に振り上げ、ラグードの顎に拳を直撃させた。

 

「ぐぁっ!!」

 

「うぉおお!!!」

 

さらにナツは飛び上がった状態から蹴りをラグードの顔面に炸裂させる。そこから上半身を後ろに反ってから前に突き出し、口に多く含んだ空気を発した。その空気は紅炎と化し、ラグードを襲った。

 

「火竜の咆哮!!!」

 

「くうぅぅ・・・」

 

床に着地したナツは鋭い目付きでラグードを睨みつけた。

 

「チッ、お遊びはこれぐらいで十分だ」

 

「あぁ、ぶっ飛ばしてやる!!!」

 

「死ねっ。森林(フォレスト)!!」

 

手を突き出したラグードはそう唱えると、魔力を消費し、魔法を放つ。床から緑色の細い蔓を生やし、ナツを追わせた。

ナツはその蔓を飛び退いて避けると、その場に着地した。しかし、ラグードの追撃は止まらない。

 

大地(アース)!!」

 

「くぅ!?」

 

ナツの足元の床が噴火するように飛び上がり、ナツを襲った。ナツはその場でぐるん、と回ってまた床に着地すると、ラグードの方へと走っていく。

 

「くらえ、大気(エア)!!」

 

「なっ!?うぐっ・・・」

 

風がナツを包み込むように巻き込み、切り裂くようにナツを襲った。ナツはその場からすぐさま、離れると一旦、距離をおいて吐息を繰り返した。

 

「ハァ、ハァ、何なんだお前の魔法は・・・・・・」

 

「・・・教えてやろうか?俺の魔法は“大自然”(ナチュラル)だ。木、火、風、地、水、雷とあらゆる自然を操ることも創り出すこともできる。だが、規模も限られているがな・・・」

 

そう言い終わるとラグードは肩を回し、ナツを睨んだ。

 

「見せてやろう・・・オレの魔法の力が・・・・・・・・・如何なるものか」

 

そういった瞬間、ナツの足首が細い蔓に掴まれ、ナツは驚愕した。次の瞬間、ナツの頭上に黒雲が現れ、カッと光った刹那、雷が落とされた。

 

「あがぁぁっ!!!」

 

ナツの体全体が痺れ、麻痺する。そんなナツに岩石が乱暴にぶち当たり、あっという間にナツの姿はゴツイ岩石の中へと消えた。

 

「ナツ!!!」

 

グレイはそう叫んでもナツの声は返っては来なかった。

 

「処刑だ」

 

その瞬間、岩石を取り囲むように草が生え、その蕾が開き、一瞬にして花が開いた。その花から花粉があたり一面に広がった刹那、小爆発が10、100と起きた。

 

「ぐあぁぁぁああぁあぁああぁぁっ!!!!」

 

ナツの痛恨の悲鳴が響き渡る。

 

「クソヤロー・・・・・・。これが、マスターの力なのか・・・」

 

「クハハハハッ・・・。この程度か?火竜(サラマンダー)・・・いや、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

ナツはその場で倒れ込んだまま、動かずにずっと静寂にしていた。

 

「フン・・・」

 

ラグードが鼻息を荒く出すと怒りを沈めるように吐息を一回、長くした。

 

「ハァ・・・ゼェー・・・・・・ハァ・・・!」

 

「(コイツ・・・やるじゃねーか・・・)」

 

ラグードは気力で吹き返したナツを見て、感心していた。驚愕しながらも感心するラグードはナツを睨む。すると、後ろの方で青い猫が金髪の少女を掴んで舞い降りて来た。

 

「グレイ!!エルザ!!リーナ!!みんな、大丈夫!!?」

 

「アイツがマスター!?」

 

ルーシィは床に降りると、すぐさま、エルザ、リーナ、グレイの元へと向かった。そして、そこでしゃがみこんで三人の状態を確認する。

 

「みんな、大丈夫!?」

 

「こんなモン、どうってこと・・・痛てっ!?」

 

無理矢理、立とうとするグレイだったが、膝を折り、がくんと倒れてしまった。かなりの負担がかかっている様だ。

 

「・・・ナツは?」

 

「向こうで戦ってやがる・・・」

 

「(・・・ナツ・・・・・・)」

 

ルーシィは片手を胸に当て、ナツをとても心配そうに見つめ、ナツの無事を願った。その片手に刻まれた桃色の紋章が堂々と目立った。

 

 

 

「フゥー・・・ハァー・・・フゥー・・・・・・フゥー」

 

荒い息を吐き出すナツは苦しそうに立っている。それに対し、ラグードは余裕ぶりを見せている。圧倒的にナツが押されているのは一目でわかる。

 

「しぶとい奴だ・・・」

 

「お前なんかに・・・負けっ・・・かよ・・・」

 

「クハハハハッ!!やってみろっ!!!」

 

そう叫んでラグードは手を翳す。そして、勢いよく振り下ろした。刹那、ナツに雷がぶち当たる。

 

「がぁぁああっ!!!」

 

ナツの足元や周りから芽が芽生え、その芽は種子をつくり、その種子をまるで、弾丸のようにナツに発射した。その数は目測では検討もつかないほどだった。

 

「ぐあぁぁぁああああぁぁっ!!!」

 

弾丸がナツの体全体に命中していく。種子の連射が終わったとナツはその場で倒れそうになる脚を踏ん張って堪え、必死にラグードを睨むが、ラグードはいたるところに転がっている石や岩を浮遊させると、その無数の岩石をナツにぶつけ始めた。

 

「あがっ!!ぐぉっ!!!ぐぁあっ!!がっ!!ごはっ!!いぎっ!!あぐぅあぁ!!!ぐあぁぁああぁぁああっ!!!!」

 

無数の岩石がナツの腕、脚、腹、頭へと激突しては砕けていく。ナツの体はどんどんと負傷していき、やがて、痣ができてきていた。

 

「うぎぎぃ・・・」

 

「フゥー・・・なんつーしぶとさだ・・・。くたばれ!!!」

 

ナツの左右から巨大な大木が挟み込むようにして向かってくる。その速度は半端なものではなく、空を裂きながらナツへとめがけて飛んでいく。ナツは動かない、いや、動けなかった。

 

「ぐぅぉおおっ―――!!!」

 

ナツは大木の間に挟まれ、身動きがとれない状態になる。さらに、両方から激突された威力は体が潰されるような気の遠くなるような激痛だった。

さらにラグードは指を器用に使い、水の細い剣を出し、ナツを大木、もろとも切り刻み、裂いた。

 

「ぐあああぁぁあぁぁぁっ!!!」

 

ナツの体に無数の痣と傷ができ、血が床へと流れる。それでも、ナツは片手を床に強引に押し付けると、片腕の力だけで上半身を起こし、左腕を使って完全に起き上がった。

 

「まだ立つか・・・。フン、まぁいい。面白ェ魔法を見せてやろう」

 

そういうと、また落ちている岩石を浮遊させ、今度は自らの頭上にどんどんと固めていく。岩石がどんどんと固めていき、やがて、巨大な隕石のような岩石へと変貌した。

 

「これをくらって立ち上がれた奴は一人もいねぇ・・・終わりだ」

 

そう忠告し、その巨大な隕石をナツめがけて思い切り飛ばした。

 

「マジでヤベェぞ・・・!!」

 

「ナツー!!!」

 

「ナツ避けろ!!!」

 

「ナツぅぅぅううううう!!!」

 

ナツの目の前まで巨大な隕石は飛んできている。もう避けられる間合いではない。そして、隕石はナツと床まるごと、呑み込むように大激突した。

 

 

ズガガガアァアアァァァァァン!!!!

 

 

吹き荒れる強大な衝撃がグレイ達を襲う。塔の一部を破壊した巨大な隕石は塔の一部と同時に砕け散った。砂塵が至るところに舞い上がり、視界を遮る。砂塵が消えるまでにはそう時間もかからなかった。

 

「ヒマつぶしくらいにはなったぜ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)・・・」

 

そう言うラグードの視線には、僅かな砂塵に包まれるナツのボロボロで血だらけの姿があった。

 

「ナツ・・・!!!」

 

「くっそぉ!!クソォォォオオ!!!」

 

グレイがそう悔しい思いを込めた叫び声を放った。

 

「ナツ!!立て!!!テメェの力はそんなモンじゃねーだろうが!!!」

 

グレイの猛烈な声援。

 

「ナツ・・・力を解放しろ!!お前は私を超えていく男だ!!!」

 

エルザの必死な声援。

 

「ナツお願い・・・立って!!!」

 

ルーシィの願望な声援。

 

「ナツ、がんばれぇぇぇえ!!!」

 

リーナの決死の声援。

 

「(仲間のギルドの想いは・・・・・・オレが・・・!!!)」

 

ナツの耳に届いた声援は体中を燃え上がらせ、ナツを決死の想いで立たせる。

ラグードは先程、口に食わえた煙草をおもわず落とし、目を大きく見開き、何滴もの汗を垂れ流し、愕然とした。

 

「(コイツ・・・た・・・・・・立っただと!!?)」

 

今にも転倒しそうな立ち方だが、立っている。その勇ましい姿は誰にも真似できない勇敢な姿だった。

 

「な、なぜだ!!?なぜ、立てる?」

 

「ハァー・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・ハァー・・・・・・」

 

気力と根性だけで立つナツに対し、驚愕するラグードは思わず声に出して問いかけていた。

 

「(生への執着かっ・・・。勝利への執着かっ・・・この男ッ―――

 

―――どこにそんな力がっ・・・!!!)」

 

ナツは一瞬にしてラグードとの距離を縮め、思い切り叩きつけるように殴り飛ばした。

ラグードは頭部を床に何度も強打し、バウンドするように信じられないほど跳ね上がっていった。

 

「くっ・・・どこに・・・どこに、そんな力がある!!?」

 

鼻血をみっともなく垂らしながらラグードは驚愕し、ナツにしつこく問い詰める。

 

「仲間・・・ための・・・・・・力だ!!!」

 

「フン・・・だったらオレはテメェのその力を全力で叩き潰してやろう!!」

 

「お前・・・こそ・・・・・・・おまえ・・・・・・の目的・・・は何・・・なんだ・・・よ」

 

「あ?そういやぁ、言ってなかったなぁ・・・教えてやろう、空の運命(スカイデスティニー)の目的を・・・・・・・・・」

 

ラグードがひと呼吸する間にナツの鼓動が果てしなく上がる。

 

「・・・評議員を潰す!!!」

 

「!!!」

 

発せられた言葉に思わず息をすることも忘れ、時は少しずつ流れていった。




ルーシィ「突然ですが、これから質問コーナー的な企画を始めたいと思いま~す!」

リーナ「質問したいことをドシドシと感想にお書き込み下さい。内容はネタバレにならない程度にお願いします。それ以外ならなんでも受け付けます」

ミラ「解答はこの後書きにさせてもらうけど、いいかしら?ちなみに、解答は私たち三人でやりたいと思いますのでご協力の方、お願いします。といっても、作者のヒマつぶしなんですけどね~」

ルーシィ「それは言わない方が・・・・・・」

ルーシィ・リーナ・ミラ「では、質問をどんどんと送ってきてくださいね~!待ってま~す!!!」


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第14話: 終戦

ラグードが放った驚愕の発言。その言葉にナツは声も出ないほどにまで驚いていた。

 

「評議員を潰すだとぉ!?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「なんで、んなことすんだよ!!!」

 

「4年前だ。俺たちのギルド、空の運命(スカイデスティニー)ができたのは・・・」

 

 

 

 

 

 

「なぁ、クウザ」

 

「なんだよ、ラグード」

 

ラグードとクウザと呼ばれた男は空が広大に広がり、森や山が夕日に照らされている絶景の丘に二人だけで座り、その景色を眺めていた。

 

「俺達でよぉ、ギルドをつくらねぇか?」

 

「ギルド?魔導士達のか・・・?」

 

「あぁ、そうだ。そんでよ、もうギルド名は決まってんだ・・・」

 

「なんつーんだよ」

 

クウザは少し恥ずかしがりながらもひと呼吸終えてから、口を開いた。

 

空の運命(スカイデスティニー)っつーんだ。空の運命はよぉ、自由で、限りなく、無限に広がってんだろ?そんな運命みたいに俺達も自由に、限りなく、無限に旅をするんだ」

 

「いいじゃねーか」

 

そして、また二人は頭上に広がる、果てしなく続く空を眺めたのであった。

 

 

 

そして、また時は流れ、空の運命(スカイデスティニー)が正規ギルドとして任命され、1年が経った時くらいだった。

ギルドは空飛ぶ要塞。唯一無二の空飛ぶ要塞として、空の運命(スカイデスティニー)はその名を世界に轟かせた。

ラグードは最愛である妻、シイナと親友のクウザと楽しい日々を送り、生活はより豊かになり、やがて、ギルドメンバーは100をも超えていった。

 

しかし、ある事件が空の運命(スカイデスティニー)を襲った。

評議員が放った砲撃が空の運命(スカイデスティニー)の要塞のエンジン部分に直撃し、要塞は墜落した。

多くの仲間達が亡くなり、そして、最愛の妻までもが失われた。途方に暮れた残された仲間達は評議員を恨んだ。ラグードの懸命な抑えで仲間達は評議員に襲撃をすることを止めた。

 

 

 

時は戻り、現在の時へ。

 

 

 

「あん時は必死だった。妻を亡くしたはオレはどうすることもできなかった。あのあと、すぐに評議員は俺達に謝罪してきたぜ。だがよぉ、そのあとだ。・・・アイツ等は俺達のギルドは原因不明の墜落事故として報道しやがった!!!!」

 

「!!?」

 

ナツはその言葉に驚きを隠せなかった。

 

「そして、俺の仲間達は評議員に襲撃をした。だが、仲間達はことごとく殺され、やがて、俺達は追放された。だが、それに抗ったクウザは殺されたッ―――あれからだ・・・オレは評議員を潰すことだけを考え、牢獄のなかで評議員を恨んだ!!!!」

 

怒り狂うようなラグードは拳を思い切り握り締め、食いしばった。

 

「そして、天の魔力の膨大な魔力を注いだ。この遺跡に眠る空間までも消滅させる大砲を手に入れた。この砲撃でオレは復讐する!!!評議員になぁあ!!!」

 

「ふざ・・・けんなよ・・・」

 

「あぁ?ふざけんてるの評議員の方だろーが!!!オレはただ仲間のために復讐しているだけだ!!!俺だけが幸せになれず、ただオレは幸せを求めているだけなんだよ!!!!邪魔するなぁぁあああ!!!ナツゥウアァァア!!!!」

 

「これがお前の幸せかぁぁあ!!!!ラグゥウドォオォォオオオ!!!!」

 

互い怒声をあげ、殴りかかる。

 

「うらぁぁああぁっ!!!」

 

ナツが1秒ほど速く、頬を殴り飛ばした。

 

「ごあぁっ!!!」

 

「お前の好き勝手にはさせねーぞ・・・。ラグード!!!」

 

「ほざけ!!!魔力のねぇテメェになにができる!!!」

 

「仲間がいれば、オレは強くなる!!!」

 

ナツが上げた偉大な咆哮に少したじろいたラグードだが、すぐさま、気を取り直し、魔法を放つ。

ラグードの足元から急激に生えた蔓達はナツめがけて襲いかかり、ナツの頭上から包むようにして放たれた。

 

「ぐぅぅ・・・なめんじゃねぇぞ・・・・・・オラァア!!!」

 

「なっ!!?」

 

ナツはそれを横薙に腕をふるって蔓を引きちぎった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

「ゼェ、ゼェ」

 

 

 

 

「(ナツ・・・)」

 

両手の指を絡め、必死に願うリーナは視界の端に僅かに見えた魔水晶(ラクリマ)に気がつき、ずっと見続けていた。

 

「(あの魔水晶(ラクリマ)が私の魔力なら・・・みんなに・・・・・・私の魔力をっ!!!!)」

 

グレイ、エルザ、ルーシィの懸命に戦おうとする姿を見、リーナは決心の想いで魔水晶(ラクリマ)に取り込まれている自分の魔力を遠隔操作で仲間達に分け与えようとする。

横目で見るとナツが必死に死に物狂いで立ち向かう姿があった。1秒でも速く、みなに希望(まりょく)を与えるため、リーナは歯を食いしばり、両手に入る握力を強め、そして、魔力に願うように集中した。

 

「(お願い!!!!)」

 

次の瞬間、魔水晶(ラクリマ)が光りだす。

 

「!!?」

 

「な、なんだ!!?」

 

ナツ、ラグード、及びグレイ、エルザ、ルーシィ、ハッピーが驚く。

光は次第に膨れ上がり、増していく。

 

「お願いっ!!!みんなに私の魔力をっ!!!私の想いを!!!!届いて!!!!」

 

リーナの奮迅の叫び声は塔から周りの森へと響いた、次の瞬間、魔水晶(ラクリマ)はガラスが割れるかのような音とともに破裂した。そして、中からは光り輝く閃光の様な魔力が星のように輝きながら、4つに枝分かれし、仲間の元へと届いた。

 

「えっ?これって・・・」

 

「魔力が回復して・・・」

 

「魔力が元に戻っていく・・・」

 

「この魔力・・・温けぇ」

 

グレイ、エルザ、ルーシィ、ナツ、それぞれにリーナの魔力が届いた。四人を包んだ星のように輝く魔力は見る間に体の傷を癒し、魔力をどんどんと上げていく。

 

「あれぇ、オイラはぁっ!?」

 

自分に魔力が届いていないハッピーは自分の影の薄さに口を大きく開けて唖然とし、端に座り込んですねていた。

 

「オイラ・・・そんなに影薄いかな~・・・・・・」

 

ナツ達に魔力が注がれる光景にラグードは驚愕し、怒り狂った声で目を大きく見開き、顔のそこら中に血管を浮き上がらせ、血が出るほどにまで歯を食いしばって激怒の声を上げた。

 

「消えやがれェェェエエエエ!!!フェアリーテイルゥゥゥゥウウウウウウ!!!!」

 

「勝つのは俺達だァァァァァアアアア!!!行くぞォ!!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!!!」

 

「これが最後の一撃!!!」

 

「全部、ぶつけてやる!!!」

 

「まだ、未完成だけど・・・やるしかない!!!」

 

全員、魔力を一斉に高め始めた。全魔力を解放し、全精力を相手にぶつける。

 

「ブースト!!!」

 

「ん!?」

 

「力、増幅の魔法よ!!やっちゃって!!!」

 

「おぉっ!!サンキューな!!リーナッ!!!」

 

ナツはそう感謝の言葉を言い残すとラグードを睨みつけた。

ナツの横をルーシィが横切る。

 

「行くわよ!!!星々の力は聖なる魔法を生み出す!!!」

 

ルーシィの頭上に星屑が一斉に集まり出し、やがて、その星屑は無数に増え上がり、その星屑達は純金の光に包まれる。

 

星屑の躍進(ヴァルナメテオ)!!!」

 

「ぅぐあぁぁああぁぁぁッ!!!」

 

純金の光を纏った無数の星屑はまるで、弾丸のようにラグードに放たれ、ラグードに猪突していった。

 

「ぬっ!?」

 

一気に詰め寄ったグレイが右拳を左の手のひらに押し付けると、凍える気が辺りを覆い尽くす。

 

「アイスメイク・氷創騎兵(フリーズランサー)!!!!」

 

「ぬぅわぁぁぁああっ!!!」

 

無数の氷でできた槍を高速で放ち、ラグードを次々と突貫していく。

 

「くぅぅう・・・っ!?」

 

すぐさま、後ろにラグードの背後に回り込んだエルザが白く天使のような鎧に換装し、その背に数本の剣を浮遊させている。

 

「天輪・三位の剣(トリニティソード)!!!!」

 

「がはぁあぁあぁッ!!!」

 

エルザは三角形を描くようにラグードを激しく切り裂き、エルザは倒れるラグードを背にしゃがみ込むように態勢を取った。

 

「ぅぐぐっ・・・こんのォ、餓鬼共ォォオ―――なっ!?」

 

ナツがラグード死角で深々としゃがみ込み、その状態から右手に豪炎を纏わせ、全精力を集中させ、殴りかかった。

 

「紅蓮火竜拳!!!!」

 

「ぐあぁぁあああぁあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ナツの右手に纏われた豪炎が拳の威力を増幅させ、激しい連続の火拳がラグードに放たれる。

 

「ぐぁぁっ―――がはぁッ!!!」

 

その後、何度も床に体を打ち付け、大木のように太い柱に激突し、柱とともにラグードは崩れ落ちた。柱の瓦礫によって埋もれたラグードを黙視した直後、ナツはその場に倒れ込んだ。

そして、そのまま、なにも言うことなく目を閉じたのであった。

 

「ハハハ・・・クハハハハハハッ!!!」

 

「なっ!!?アイツ・・・っ!!」

 

「まだ立つのか!!?」

 

「そんな・・・」

 

「ハァー、ハァ・・・ゼェ・・・」

 

「貴様等、ごときが俺を倒せるわけがねぇんだよボケェ!!!」

 

そう言うと、魔法を発動する。床が急に噴き上がり、ぐわっと曲がるとナツ達めがけて襲いかかってきた。

 

「ぐあぁぁぁぁッ!!!」

 

「きゃあぁぁっ!!!」

 

「うぎぃ・・・ちくしょお!!」

 

「これほどとは・・・!!!」

 

ラグードは大きく高笑いすると、ボロボロで立てそうもないナツ達を見て、また高笑いした。

 

「クハハハ!!!その程度かぁ!!?」

 

立ち上がる様子もない者たちにそう言うとラグードは手を翳し、魔力を集中させ、その手だけに魔力を増幅し始めた。

 

「終わりだァッ!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!!」

 

「終わらねぇ・・・ぞッ!!」

 

「なっ!!?チッ、絶望しろォ!!!クソガキ共ォォォォオオオオ!!!!」

 

そう怒声を上げながら、頭に血を昇らせる。それに対し、ナツ、グレイ、エルザ、ルーシィ、リーナは死に物狂いで立ち上がり、鋭い目付きでラグードを睨む。

 

「絶望なんかしねぇ!!!俺達には仲間がいる!!!妖精の尻尾(ギルド)がある!!!俺達は一人じゃねぇ!!!いつでも仲間の想い背負って・・・・・・」

 

「ッうるせぇぇええッ!!!」

 

「生きてんだァ!!!!」

 

ナツが仲間の想いを背負い、仲間を背に向けて、ラグードの方へと駆け抜けていく。風を切り、床を削り、力を入れ、思い切り跳躍した。

 

「死ねぇぇッ!!!」

 

「ああぁぁぁぁあぁぁぁあああぁっ!!!!」

 

刹那、塔の先端は眩しく輝き、大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・フゥ・・・ハァ・・・フゥ」

 

煙が薄らと漂う中、立っていたのは――――――ナツだった。

それはつまり―――ナツの“勝利”を意味するモノだった。

 

「ぅぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の勝利とともに終戦の境とし、ナツの大きな勝利の雄叫びが木霊したのであった。

グレイ、エルザ、ルーシィ、リーナ、ハッピー、そして、ナツ。それぞれが勝利という充実感を噛み締め、大いに歓喜したのであった。

 

 

 

 

 

戦いから少しの時間が過ぎた頃だった。

 

「お主の件、私が調べておこう・・・」

 

「は?何言ってんだ貴様・・・」

 

「もしも、主が言っていることが本当ならば、これは大きな事なのでな」

 

「クハハッ・・・。お人好しな奴等だ。余計なお世話だ・・・」

 

エルザはラグードとそう会話を終えると、情報を聞きつけた評議員の飛行船へと足を進めた。

一方、瓦礫から這い出てきたラグードは評議員に抵抗すらせず、その勇ましく、誇らしいナツ達の背を見つめ、微笑むと空を広大で晴れやかな大空を見上げ、綺麗に架かる虹を眺めながら、つぶやいた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)・・・・・・か・・・」

 

「むっ、なにか言ったか?」

 

「なんも・・・」

 

呟いた言葉に評議員は問いかけるが、それを気のない返事で返したラグードはまた空を見つめ、天に語りかけるように心の中で呟いた。

 

「(これで良かったか?クウザ、シイナ、仲間達・・・)」

 

そう心の中で呟くラグードはとても快い笑顔で飛行船の中へと消えた。

 

 

 

 

 

ラグードの頭の中には幸楽だった過去をゆっくりと一つ一つ、思い出していた。

 

華のような笑顔のシイナ。

 

熱のように元気なクウザ。

 

虫のように荒れ騒ぐギルドメンバー。

 

そして、そこに太陽のように煌くラグードの姿があった。




~ LIBERAL TAIL
        Q&Aコーナー ~

ミラ「あら、質問きたのね」

ルーシィ「えっ、こないと思っていたんですか?」

ミラ「えぇ。この小説、人気どころか端っこのような存在の小説でしょ?」

ルーシィ・リーナ「えっ!!?ちょっとそれは・・・」

ミラ「それより、面倒くさいからさっさとやってしまいましょ。私、このあと、片付けあるから」

ルーシィ「は~い♪」


シュン様からの質問

1、一話からずっと気になっていました。LIBERAL TAILの“LIBERAL”とはどういう設定でつけられましたか?またどういう意味ですか?


ミラ「これね~」

リーナ「私、知ってます!」

ルーシィ「えっ、私知らな~い・・・」

リーナ「私が説明するね。LIBERALは自由っていう意味で、この小説は自由に執筆して、自由に作ったからそうなったみたいなの」

ルーシィ「へぇ~そうなんだ」

ミラ「そうね。簡単に言ったらテキトーに作った作品ね♪」

ルーシィ・リーナ「えっ!?(汗)」

ミラ「次ね・・・」


2、ルーシィが初めてフェアリーテイルに入った時の事が番外編として見てみたいです。


ミラ・ルーシィ「あららららら・・・(汗)」

リーナ「私これ知りたい!!」

ルーシィ「えっとねぇ。これ、どうやら考えていないらしいの」

リーナ「えぇぇ?」

ミラ「面倒くさいってことね」

ルーシィ「ま、まぁ、タマタ=作者さんも頑張ってみてはいるらしいけど・・・」

ミラ「ってことで次!」

リーナ「早っ!」


3、もう、フェアリーテイルに入るオリキャラは出ませんか?


ミラ「入るかもしれないわ。次!」

ルーシィ「ちょっと、ちょっと。早すぎですよ・・・ミラさん」

ミラ「だって早く片付けしたいもの」

リーナ「もう少ししゃべりましょうよ。ミラさん・・・」

ミラ「仕方ないわね。ドラゴンスレイヤーが入るって噂が広まってそうで広まってなさそうね」

ルーシィ「どーゆー意味!?」

リーナ「他はしらないんですか?」

ミラ「これ以上はタマタ=作者さんがネタバレダメ!っていうからできないわね」

リーナ「そうですか・・・」

ルーシィ「じゃっ―――」

ミラ「―――次!」

ルーシィ「言おうとしたのに(泣)」


4、リーナのプロフィールをお願いできますか?


リーナ「えっ、私?」

ルーシィ「これはちょっと、気になる」

ミラ「え~っと面倒くさいから次回やるわ」

ルーシィ「そんな面倒くさいとか、言わないでください(汗)」

リーナ「タマタ=作者さんが考える時間が欲しいらしいので私のプロフィールは次回に出します。私もまだ心の準備が・・・」

ルーシィ「リーナファンができたのかしら?」

ミラ「それはないわね」

リーナ「えぇ!!?」

ミラ「ホラ、さっきも言ったでしょ?この作品は人気がないからファンどころか、見てもくれてないだけよ?間違えてクリックしちゃったか、おもしがってクリックしたくらいよ」

ルーシィ・リーナ「(今日のミラさんなんか怖いっ!!!)」

ミラ「ってことで質問はおわりね。さっ、片付け手伝ってね♪」

リーナ「え、私、これからナツと仕事に・・・」

ルーシィ「私もこれから・・・」

ミラ「手伝ってね(怒)」

ルーシィ「あはは・・・はいぃ」

リーナ「はぃ・・・(ごめん、ナツ・・・)」





ナツ「リーナおっせぇなぁ!!何やってんだ、あいつ」

ハッピー「あい!」




リーナ「泣いてますぅ(泣)」

と、布巾を持ちながら食器を洗うリーナだった。


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第15話: 夜空に戻れない星

妖精の尻尾(フェアリーテイル)空の運命(スカイデスティニー)の白熱した戦いはゆっくりと幕を閉じ、それはもう、昨日の出来事となっていた。

 

―― ここは、定例会が行われる会議室 ――

 

「これにて定例会を終了する・・・む?」

 

老人は兵隊らしき若者に一つの紙を渡され、老人は目を動かしながらすらすらと読んでいった。突如、表情が変わり、呆れた様子で妖精の尻尾(フェアリーテイル)総長(マスター)であるマカロフに話しかけた。

 

「マカロフ。少し残れ」

 

「・・・なぜじゃ―――まさかっ」

 

「そのまさかじゃ。主のガキどもが“ギルド一つ”壊滅させおった」

 

「なぁぁぁぁぁっ!!?」

 

マカロフは絶望と驚愕の感情が入り混じり、口と目を大きく開け、出す言葉すらも見つからずに沈黙していた。

 

 

 

* * *

 

 

 

そして、また一日が過ぎ、マカロフはギルドへと戻り、皆から事情を聞き、愕然としながらも納得していた。

 

「こりゃあ・・・またハデにやられたのう・・・」

 

マカロフは半壊したギルドを見て、腕を腰の後ろらへんで組んで突っ立っていた。

 

「あ・・・あの・・・マスター・・・・・・」

 

とても弱気で小さな声でリーナがマスターに話しかけるが、マスターは少し無愛想に言った。

 

「んー?お前も大変な目にあったのう」

 

マカロフは振り返り、リーナの目を見つめた。そんなマカロフに対し、リーナは罪の意識だけを感じ、今にも泣きそうになっている。肩が震え、目の端に薄らと涙が溜まっている。

 

「ごめんね。リーナ。私があの時、助けられなかったから・・・」

 

そうやってリーナに謝罪するルーシィに対し、リーナは下を向きながら何度も首を横に振った。その時、涙が目から零れ、地面に染み込む。それと同じようにリーナの心に大きく傷が染み込んでいる気がした。

 

「リーナ。楽しいことも、悲しいことも全てまでは行かないが、ある程度は共有できる。それが、ギルドじゃ」

 

励ますように言う、マカロフは微笑みながらその小さな背で俯いて聞いているリーナの顔を覗き込んで続けた。

 

「1人の幸せは皆の幸せ。1人の怒りは皆の怒り。そして、1人の悲しみは・・・みんなの涙。顔を上げなさい。既に君は共有しておる」

 

その後、少し間があいた後、マカロフは太陽と重なり、微笑みながら伝えた。

 

「君は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員なんだから」

 

その時だった。リーナは大粒の涙を、大きな泣き声を、座り込んで空へと響かせるように泣いた。

 

 

 

* * *

 

 

 

あれから、1週間という長いような短いような日が流れ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の跡地で汗を流しながら木材を運ぶメンバーの姿があった。

 

一方、その中に必死に大量の木材を体全体で運ぶナツの姿があった。とても苦しそうな顔で運ぶナツはグレイに挑発していた。

 

「重てぇ~・・・」

 

「はっはー!!グレイは軟弱だからこれぐれーのは持てねぇんだろぉ・・・」

 

「あぁ?んなモン、楽勝だぜ」

 

そう言ってナツよりも大量の木材を担いで、グレイはナツに挑発し返した。しかし、明らかに辛そうだ。大量の汗を流し、根気強く粘る。しかし、量は然程ナツと変わらない。

 

「どっちが速く運ぶか競争だ、グレイ!!」

 

「やってやろぉじゃねーか、ナツ!!」

 

そう言い合った二人は睨み合いながら、脚に力を入れ、走る態勢に入る。

 

「よーい、ドン!!」

 

その合図とともに二人は大量の木材を激しく揺らしながら騒々しく駆け抜けていった。

 

「「おぉぉぉおおぉぉおっ!!!」」

 

遂には大声までも出していた。気合の入った声はルーシィの耳には段々と小さくなっていき、やがて、消えていった。

 

「バカねー」

 

「そう・・・ですね。・・・・・・ん?」

 

熱いような殺気の視線を感じ、驚いて物陰を見るが、誰もいなかったため、気のせいだ、思い込んでその場を後にしたリーナであったがそれが、ジュビアの視線だったということはまだ誰も知らない。

 

 

一方、ナツVSグレイの決着は。

 

「オレのが速かったぞ!!」

 

「いいや、オレだっ!!」

 

勝利したほうが分からないまま喧嘩に繋がっていた。

 

「おーい、ナツ!グレイ!勝ったのはどっちでもいいけどよぉ、その木材もう、いらねぇから!」

 

「は!?」

 

「んだとぉ!?」

 

そのことを聞いてとぼとぼと木材を元の場所に返していくナツとグレイだった。

 

 

「そこ!!なにをしている!!遊んでいる暇があったらさっさと運ばんか」

 

少々、起こり気味に言っているエルザはかなりの気合が入っているようで指示を次から次へと出している。とても忙しそうだが、木材を運んでいない点に対してはどうも、納得がいかないメンバー達は逆らえず、その思いを喉に抑え込んでいた。

 

 

 

* * *

 

 

 

一ヶ月という月日は流れた。ようやく、ギルドも形として成り立ってきていて仕事の受注も再開し始めていた。そして、机に座り込んで、リーナとルーシィが会話していた。

 

「ねー、リーナ」

 

「なに?ルーシィ」

 

「えっとね、ちょっと気になっていたんだけど、天の魔力って何なの?」

 

ちょっと戸惑ったリーナを察してすぐさま、先ほどの質問を取り消そうとするルーシィより先にリーナが口を開く。

 

「母さんから受け継いだ魔力なの」

 

「え・・・?どーゆーこと?」

 

「天の魔力っていうのはね、天空のエネルギーと匹敵するほどの膨大な魔力なの。この世界に一つしかない魔力でどうやって作られたのかはまだわからないらしいの」

 

次々に説明していくリーナの顔には少し悲しげな笑みが浮かべられていた。

 

「それでね。私の母さんは突然、病気で体が弱くなってしまったからその天の魔力を私に与えるっていう事をして私がこの天の魔力を貰ったって事」

 

「へぇ・・・そうなんだ」

 

ルーシィはなんだか嬉しそうにその話を聞いていた。

 

「これは母さんから受け継いだ大切な魔力だから、絶対に悪いことに使わないように誓ったの。これは唯一の母さんの遺産なんだからね」

 

「大切にしなきゃね。・・・私もね、小さい頃にはママとパパがいたんだけど、いろんなことがあってギルドに迷惑かけちゃったんだ」

 

「えっ!?ルーシィが!?」

 

「うん。リーナと一緒ね」

 

そうやって微笑みながら会話する中にナツとグレイ、ハッピーが割入ってきた。

 

「何話してんだ?」

 

「どうだっていいじゃねぇか!グレイ・・・勝負だ!」

 

「なんでそーなんのよ」

 

「面倒くせぇからあっち行ってろ。ナツ」

 

そんな他愛もないいつもの会話をして、盛り上がっている時。突如、いつもとは少し違い怒声が後ろの方から聞こえてきた。

 

「もういっかい言ってみろ!!ラクサス!!!」

 

「この際だ。ハッキリ言ってやるよ。弱ぇヤツはこのギルドには必要ねぇ」

 

そうやって少し怒り気味に言っているラクサスはその場で立ち上がって、怒声を上げた者を乱暴に退かし、去っていった。

 

「ラクサス・・・あんのヤロォ。今度、会ったらぶん殴ってやる」

 

そこにエルザが歩いてきて、場の空気を明るくしようと話を持ちかけてきた。

 

「アイツと関わると疲れる・・・。それよりどうだろう、仕事にでも行かないか?」

 

エルザの誘いにナツは一瞬、目を丸くして驚く。

 

「もちろん、グレイ、ルーシィ、リーナも一緒だ」

 

「はい!?」

 

「え!?」

 

「私も・・・ですか!?」

 

何故か、敬語を使うリーナ。やはり、まだエルザの怖さに慣れない様子だった。

そんな中で、仲の悪いあの二人は互いににらみ合い、呟く。

 

「「こ、こいつ・・・と・・・」」

 

そこにエルザが、

 

「・・・どうした、グレイ、ナツ。私の意見が不満か?」

 

「「いえ、滅相もない!!」」

 

と、一瞬にして厄介事は片付いた。

 

「では、仕事だ。カルーラ城にいる嬢王が闇ギルドの浪人どもに狙われているらしい。その浪人どもを叩く」

 

「それって、エルザだけで一瞬で終わるんじゃね?」

 

グレイがそう聞こえない程度に呟くが、エルザはそれを聞き逃してはいなかった。

 

「いや、向こうの数も未知数だ。それに、もしもの場合もある。期待しているぞ」

 

そのエルザの声はなんだか、少しだけヤル気になったナツ達であった。

 

 

 

* * *

 

 

 

ギルド建設中の前に一人、静かに考え事をしているマカロフ。右手には酒の入ったビン。頬は既に紅潮している。明るい三日月に照らされながら、マカロフは一杯、酒を喉に押し込んだ。

 

「引退・・・か」

 

そう悲しげに呟くマカロフは三日月を眺めながら黙り込んで、一人、上の空へと入っていた。引退を前提に考えているマカロフの自問自答もそろそろ、答えが纏まっていくその時だった。

 

「マスター!こんなトコにいたんですかぁ~!」

 

「ん?」

 

なんだか、少し懐かしげな声が聞こえ、その方を見れば、ミラが書類を振って、マカロフを見上げていた。

 

「またやっちゃったみたいです」

 

「なぁ!?」

 

ミラの言葉に段々と先が読める。迫り来る絶望にとうとう気持ちが大きくなる。

 

「エルザ達がカルーラ城を半壊させたそうですよー!あと、闇ギルドを一つ潰したみたいです~!」

 

「おおお・・・おっ・・・。は・・・・・・は・・・半壊・・・」

 

目を真っ白にしてマカロフの魂は抜けていく。そして、気づけば立ち上がり、大きな声で夜空に向かって叫んでいた。

 

「引退なんかしてられるかぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

* * *

 

 

 

時間は少し遡り、ナツ達が仕事を終えたすぐ後の話。

 

「だー、暴れ足りねぇ!」

 

「十分暴れたじゃねーかよ。ナツ」

 

「いや、暴れすぎだと思うけど・・・」

 

「暴れすぎどころか関係のない人まで巻き込んじゃったね」

 

「しょうがないではないか。こういう時もある」

 

と、言ったものの報酬を貰うどころか、依頼主にさんざんと文句を言われ、帰宅する途中だったエルザ一行は森への入口へ差し掛かろうとしていた。

すると、遠く離れた場所に茶色の髪した男、ロキをナツが見つけた。

 

「あれ、ロキじゃねーか?」

 

「ホントだ」

 

「あれ?」

 

ロキの方もこちらに気づいたらしく、こちらを見つめている。ナツはその方へと向かい、話しかけた。

 

「偶然だなぁ。お前もこの辺で仕事してんのか?」

 

「いや。僕はただ、ここら辺が騒がしかったからと来てみたけどナツ達だったのか。ん?・・・・・・どぅあっ!!ルーシィ!!?」

 

そう飛び退くような驚き様でロキはルーシィを見つけた。

 

「じゃ、俺、帰るわあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

と、いってロキはルーシィが近寄るのを酷く拒むように走り去っていった。

その後ろ姿を見つめるルーシィはポカーンとしていた。そして、怒りっぽい様子で小さくなっていくロキを睨む。

 

「な・・・なによ、アレ~・・・」

 

「お前、アイツになにをしたんだ?」

 

グレイがあの様子からしてとても酷いことをしたと感づいてルーシィに問いかける。そこにナツが首を突っ込む。

 

「相当、避けられてんぞぉ。ルーシィ、謝っとけ」

 

「なにもしてないぃぃ!」

 

ルーシィはナツとグレイに向かって大きく否定し、また怒った。

 

「まぁまぁ、ルーシィがなにかをしたのは放っておいて、今日は宿に泊まりません?」

 

「私はなにかをした前提!?」

 

ルーシィがリーナの言葉にツッコミを入れつつ、少し機嫌悪そうに落ち込んだ。

 

「いいアイデアだ」

 

と、エルザは言って周りに紫の雲をたなびかせる夕日を眺めた。そして、エルザ達はまたカルーラ城下町へと引き返した。

 

 

一方、勢いよく走り去ったロキは。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

辛そうに息が上がっている様子は全力疾走したからではなさそうなほど、辛く見えた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・僕の命ももう・・・・・・」

 

木の幹にもたれ掛かる。悲しげな表情をしたロキの視線には白い花が茶色っぽく濁り、散っていく光景があった。

 

 

 

* * *

 

 

 

ここは、日がすっかり沈んだカルーラ城下町。そして、その中にあるかなりの有名な温泉宿。

カルーラ城下町の東にある山から取れる温泉をここまで、流しいれたという人気の観光地である。

エルザ達はこの温泉宿で一晩を過ごすことにしていた。

 

「それにしても・・・なんなのよ、ロキの奴」

 

湯船にゆったりと浸かるルーシィは未だにロキのことについてブツブツと文句を言っていた。その隣にリーナが寄ってきて、話しかける。

 

「いいじゃない。ロキだって色々あるんだよ。きっと」

 

「う~・・・それもそうね。今は楽しみましょ」

 

気を取り直して湯船で体を癒すルーシィを見て、リーナは安堵するとともに月を眺めた。

 

「月が綺麗だな」

 

「そうね・・・って鎧ぃ!!?」

 

「この方が落ち着くんでな」

 

鎧のままで温泉に入るエルザを見て、ルーシィは唖然とし、リーナは呆気にとられながら笑うのであった。

 

 

 

浴衣姿でそう叫ぶのはナツだった。

 

「枕殴り始めんぞ、コラァ!!」

 

「枕投げだよ・・・」

 

ナツは早速、枕を両腕に挟んで布団に入っているグレイに投げ飛ばした。

 

「テメェ!!コノヤロォ!!」

 

「だぁっはっはっ!!だっせぇ、グレイ!!」

 

そして、グレイは自分が寝ている時に使っていた枕を掴み取り、ナツめがけて投げた。

 

「ぅおらぁっ!!」

 

「ぶほぉ!」

 

ナツの顔面に枕が激突した。ナツは壁に頭を突っ込みながらも無傷で立ち上がった。

 

「次はぁぁ、エルザだ!!」

 

「・・・やるな。グレイ」

 

エルザはグレイが投げた枕をいとも簡単に受け止め、そう言った。

 

「オラオラァ!!」

 

「うぱー!」

 

そんな楽しそうなところをルーシィとリーナは見ていた。参加しようとも思っていたが、その迫力にどうも参加できなさそうな二人だった。

 

「うぉおおっ!!」

 

と、その時。ルーシィの方に飛んできた枕が見事、ルーシィの腹部に直撃し、ルーシィは枕もろとも、外へと放り出された。

 

「おっと、ルーシィすまねぇ!」

 

そうやって、ノーテンキにいったナツはすぐさま、枕殴り(?)に枕戦争に再戦した。

 

「ルーシィ!大丈夫!?」

 

「だめ、死んぢゃう」

 

そう言って、ルーシィは倒れ込んだ。

 

「ちょっと、待ってて。なんか、持ってくる!」

 

心配そうにリーナはどこかへ走っていった。

ルーシィはリーナの背中を見つめながら、空を眺めた。すると、向こうの方で草ががさっと揺れたのがわかった。

 

「ん?なんだろ・・・あれ・・・ロキ?」

 

と、ルーシィは向こうの方でうろちょろするロキを見つけた。




ちょっと、へんな終わり方でしたが。しかも、題名と本文の繋がりがあまりわからない気もしますね・・・。あ、そうだ。リーナのプロフィール!



~ リーナ・バナエール ~

‐所属ギルド‐ フェアリーテイル

‐年齢‐ 17歳

‐魔法‐ 天穹の魔法&基礎魔法(少しだけ)&援護・強化魔法

‐好きなもの‐ 甘い物、仲間、妖精の尻尾

‐嫌いなもの‐ 苦い物、辛い物、仲間を馬鹿にする人、怖い人は苦手例)エルザ


 


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第16話: 星霊王

ロキを見つけたルーシィはその場から痛む体を無視して、ロキ方へと駆けた。浴衣なので走りにくいルーシィはなるべく、早く走った。

 

「ロキ!」

 

「ん・・・?ルーシィ!?」

 

「ちょっと、今度は逃げないでよね」

 

「分かった、分かった。逃げないよ」

 

ルーシィはそうやってロキを止め、ロキも普段のようにルーシィに解釈していた。

 

「あのさ・・・」

 

「ん、なに?」

 

ルーシィはひと呼吸おいてから、決意したように言った。

 

「ちょっと、付き合ってよ・・・」

 

「えぇ?」

 

少し鈍ったような声を出すロキの表情はとても驚いているように見える。

 

「ダメ?」

 

「う、うん。いいよ」

 

焦りながらもロキはルーシィの頼みを許可した。

 

「じゃ、行こっか」

 

その二人の姿を影から覗く青い影があったことにはまだ二人は知らなかった。

 

 

 

「あれ、ルーシィは?」

 

枕戦争をしていた3人にリーナが訊くが、聞く耳すら持たない3人は宛にならないとリーナは1人、ルーシィを探しに行った。

 

「ルーシィ!!」

 

そうルーシィを呼ぶように駆けていった。

 

 

 

「ねぇ・・・」

 

「ん、なんだい?」

 

カルーラ城下町のとある飯処にロキとルーシィはいた。だが

 

「そんなに離れなくても・・・!」

 

ロキとルーシィの座っている距離に思わずルーシィは焦りながらロキに注意した。

 

「ご・・・ごめんっ」

 

とか、謝りながらもロキは座る位置をちっとも変えるようすはなく、水を飲んでいた。仕方なく、ルーシィがロキの隣に腰を下ろす。

 

「前から気になってたんだけど・・・アンタ、星霊魔導士になにか酷いことされた訳?」

 

しかし、ロキは俯いたままなにを考え、なにを見ているのかルーシィには分からない態度を取っていた。そのため、ルーシィは頬をぷっくりと膨らませた。少し怒ったルーシィだが、ロキには言えない程、辛いんだ、と伝えようとしているのかもしれない。そう思うと、ぷっくりと膨らませた頬も戻っていた。

 

「別に言いたくないんだったら良いんだけさ・・・」

 

「ごめん。もしも、僕が君を傷つけたなら謝るよ。ホント・・・」

 

「ううん。今日はありがと♪付き合ってくれて・・・」

 

立ち上がって去ろうとするルーシィに背を向けたまま、ロキは座っている。返事もしなかった。

 

「それじゃ。ナツ達も待ってるかもしれないし・・・」

 

ルーシィがそう言い残し、店を出ようとした時だった。

 

「んっ?」

 

いきなり手首を掴まれ、ルーシィは少なからず驚き、振り返った。

 

「待って」

 

ロキがそう言った瞬間、いきなり席から立ち上がり、ルーシィに自ら抱きついた。頬を真っ赤にし、ルーシィは驚いて声も出せない。

 

「ルーシィ・・・」

 

「あっ、あぁ・・・はい!」

 

そして、いきなり声をかけられ、どうしていいか分からず、可笑しな感じに返事をした。すると、さらにロキはルーシィの腰まで腕を回し、耳元で呟くように、とても悲しげに伝えた。

 

「僕の命は・・・あと・・・僅かなんだ」

 

驚きの発言にルーシィは出す言葉も忘れ、息をすることも忘れていた。ロキの温かさだけを感じ、そのまま、頭の整理をする。やっと、見つかった言葉も結局は声には出せなかった。

 

「あ、あの・・・」

 

すると、ロキはようやく、ルーシィの体から離れ、ルーシィの顔をずっと見つめた。そして長い時を沈黙し続けたその時、ロキは―――笑った。

 

「引っ掛かったね~。これは女の子を口説く手口さっ!泣き落としの一つでねぇ、どう?結構、びっくり―――」

 

――パン、それはルーシィの平手打ちの音だった。

 

「あたし・・・・・・そーゆー冗談キライ!!」

 

涙目になってそう叫ぶルーシィはロキをずっとにらみ続けた後、その場を大きく足音を立てて、店を出て行った。戸を閉める音が小さく短く、響いた。

 

「なにをやっているんだ・・・僕は・・・」

 

そうやって、まだじんじんとする頬に気を遣いながら平手打ちされた時に落ちた眼鏡を拾い上げ、付け直した。

 

「(感情に流されるんじゃない。ルーシィを・・・巻き込むな!!)」

 

そう自分に言い聞かせ、真剣な表情になった。

今日の三日月は明るく、暗い夜を薄く照らしていた。

 

 

 

 

「(もう!なんなのよ!!ロキの奴・・・。でも・・・なんだか・・・ウソじゃ・・・なかった気がする。なんだろ?なんだか、すごく嫌な予感がしてくる・・・。行かなきゃ!何か分からないけど・・・行かなきゃ!!!)」

 

確かにロキがしていることには腹が立った。しかし、あの時のロキの声がルーシィの頭の中から離れなかった。ずっと心に深々と残っている。あの言葉が。そして、あの時のロキの本当の表情が、感情が。

 

「(ロキに何かが起こる気がする!!)」

 

ルーシィは一心不乱に近くにある少し広い場所を探した。すると、少し向こうに誰もいない灯りのついた噴水がある広場を見つけた。そこへ駆け、銀色の鍵を手に取った。

 

「開け、南十字座の扉!クルックス!!」

 

星霊を呼び出す魔法により、空中に胡座をかきながら浮く、星霊、クルックスが現れた。

 

「ほマ」

 

「お願いがあるの。クル爺の力で、前にロキと関係がある星霊魔道士を調べて」

 

クルックスはほマ、とだけ言ってから集中せずに、寝た。

それから、数秒が経ち、クルックスが大げさに目を大きく開けて、起きた。

 

「個人情報が星霊界の方でも適応されていますので、あまり・・・詳しくは申せませんが。ロキ様と深く関係している星霊魔道士はカレン・リリカ様でございます」

 

クルックスの言葉にルーシィが少し表情を変えた。

 

「それって、とても有名な星霊魔道士じゃない!カレンとロキがどう関係しているっていうの?」

 

「これ以上は申し上げられません」

 

「ちょっと!もう少しくらい・・・」

 

と、言いかけたがまたクルックスが大きないびきをかいて、寝ていた。

 

「まぁ、いいわ。アリガト」

 

そう言って、クルックスを閉門させ、ルーシィはその場にあったベンチに座り、ずっと考え込んだ。

 

「カレンとロキ・・・かぁ・・・。あれ、ちょっと待って・・・。もしかして!!!」

 

ルーシィはそのまま、ハッとする様な仕草を見せ、すぐに立ち上がり、ロキのある言葉を思い出した。

 

 

『僕の命は・・・あと・・・僅かなんだ』

 

 

「(もしこれが当たっているなら・・・ロキは“あそこ”にいる!!!)」

 

そう言って、ルーシィは一気に疾駆していった。

 

 

 

* * *

 

 

 

大きな滝が流れる音。そこには細く滝の方へと向かって突き出る岩があった。そこには一つの墓があり、その前にはロキの姿があった。その表情は罪を感じているようでとても申し訳なさそうだった。

ずっと、墓を見つめ、ただ滝の音だけを聞き、沈黙している。

 

「ロキ!」

 

そこにルーシィが息を切らせながら走ってきた。

 

「ルーシィ!?」

 

見ただけでわかるような驚き様でロキはルーシィを見つめていた。

 

「星霊魔道士・・・カレン・・・」

 

「えっ!!?何故それを・・・」

 

「あなたのオーナーよね。星霊ロキ・・・いや、獅子宮のレオ」

 

驚愕したロキだったが、今はどこか寂しそうにしていた。どうやら、また沈黙するような、そんな様子だった。だが、そこでロキが口を開く。

 

「よく気づいたね」

 

「あたしも星霊魔道士だからね。もっと・・・もっと早く気付くべきだったのよね」

 

そう心配そうに言う、ルーシィは焦る気持ちを必死に抑え、説明しているように見える。

 

「カレンが死んで・・・契約が解除されたはずでしょ?なのに、アナタは人間界にいる。どういう理由で星霊界に帰れなくなったの?教えて!あたしならまだ―――」

 

「――ムリだ。助けはいらない」

 

そうやって、向こう見、ルーシィと目を合わせそうとしないロキは無愛想にルーシィの優しさを切り捨てた。

 

「このままじゃアンタ、本当に死んじゃうのよ!!」

 

「簡単なことさ。オーナーと星霊の間の禁止事項を破ってしまったんだ。僕は星霊界を永久追放となった・・・」

 

「永久・・・追放・・・?」

 

驚きを隠せないルーシィはただロキの言葉を聞いているだけになっていた。

 

「僕は最低だ。・・・オーナーであるカレンを・・・この手で・・・・・・殺めた」

 

ルーシィはロキの最後の言葉にもう声も出せなかった。ただ、瞳を震わせ、滝の音を聞いていることしかできなかった。

 

「僕は消えていく。彼女の墓の前で・・・」

 

「そんな・・・」

 

そして、ロキは自分の過去の話をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「え~。私、これからエステだから」

 

そう幸せそうに話すカレンの姿を憎たらしそうに見つめる女魔道士達。

 

「鬱陶しいわねぇ。開け、白羊宮の扉、アリエス!」

 

「お呼でしょうか?すみませ~ん・・・」

 

と、登場した瞬間に謝ったのはもこもこの服を着た、白い羊のような女性だった。

 

「めんどくさいからソイツ等の相手してあげて」

 

カレンはそう言い残すと、アリエスが困って呼び止めようとするのを無視して、青い天馬(ブルーペガサス)のマスターの方へと歩いて行った。そして、カウンターの机に腰を下ろした。

 

「カレンちゃん、駄目よ~。星霊にそんな意地悪しちゃ~」

 

「はぁ?いいじゃない。どうせ、アイツ等、ただの道具よ」

 

カレンがそう星霊をゴミように軽蔑した目で言うと、マスターの表情が急変した。

 

「カレン!星霊だって生きてるの!!今度は・・・あなたが苦しむことになるわよ!!!」

 

いつの間にか、表情とともに声がとても低くなっていた。そのマスターの威圧感にカレンは身を引いて、ぞっとするような目でマスターを見た。

 

 

 

「マスター、ボブを怒らせやがって!!洒落になってねぇんだよ!!」

 

そう厳しく怒声をあげるカレンは片手に木の棒を持ち、アリエスを本気で叩いていた。

 

「すみません・・・」

 

「そうね~・・・。アンタには7日間、人間界にいてもらう」

 

「7日間!?カレン様の魔力が持ちませんっ!!ひっ・・・」

 

と、否定しながらも、アリエスは怯えながら体を後ろに引いた。

 

「私をあまく見ないことね。それより、自分のしたらどぉなの?星霊が7日間も人間界にいたら、どぉなるのよ?興味があるわ・・・ふふっ」

 

そうやってアリエスをさらに怯えさせるカレンは頑丈そうな首輪を垂らした。その時だった。アリエスは桃色の雲となって、星霊界へと帰った。代わりに

 

「違う・・・僕が無理やり、入れ替わったんだ」

 

と、光り輝く獅子宮のロキがカレンの手首をぐっと握った。

 

「いい加減にしないか、カレン!」

 

そう言う、ロキの目付きはかなり怒っている様子だった。

 

「これ以上、アリエスにこれ以上、酷いことすれば・・・僕は君を・・・・・・許さない!!!」

 

両手をズボンのポケットに突っ込みながらロキはずっとカレンに威嚇し続ける。カレンも少しずつ後ろに退いている。

 

「精霊ごときが何様のつもり!?」

 

そうやって、強がるカレンだが、体が小刻みに震えているところを見ると、怯えていると分かる。

 

「僕とアリエスの契約を解除してほしい。君は星霊魔道士、失格だ」

 

 

 

 

 

 

「これからだった。僕はずっとカレンを待ち続けた。・・・3ヶ月、ずっと」

 

「・・・3ヶ月」

 

ルーシィはロキの放った言葉にカレンの意地の張り様とロキの辛さを同時に感じていた。

 

「そして、僕がそろそろ、カレンのもとへと帰ろうとした時だった・・・」

 

 

 

 

 

 

「あれから、3ヶ月。そろそろ、カレンを許してやるか。またアリエスに酷いことをすれば、僕が助ければいいんだし」

 

と、言ってレオはまた西の廃墟を出、帰ろうとしていた時だった。向こうから青い天馬(ブルーペガサス)のマスターがゆっくりと歩いてきた。その姿を見た、レオの頭に嫌な予感が通りすぎる。

 

 

 

「そんなっ!!」

 

そう悲鳴のような大声を上げながら、レオは巨像を殴った。巨像に乗っていた埃や石が落ちる。

 

「私の許可もなしに・・・あの子。無理に仕事を引き受けたの」

 

そう言いながら、ボブは涙を流した。レオは巨像に手を押し付けたまま、両膝を地面に付き、俯いて言った。

 

「僕はカレンに考え直して欲しかっただけなんだ。星霊は・・・道具じゃないって・・・」

 

レオは涙目になり、やがて、大量の涙を流し続けた。そして、両拳を地面につけて、零れおちていく涙を見ていた。

 

「こんな・・・」

 

そう呟いた後、レオは声を張り上げて、廃墟にずっと響くような大声で叫んだ。

 

「こんな事を望んでいたんじゃない!!!」

 

その声はずっとこの廃墟に染み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「これが、僕の犯した罪だ」

 

ルーシィは驚愕の真実にただ、声も出さずに話し続けるロキを見ていた。その時だった。ロキの体が一瞬、振動し、表情が大きく歪んだ。そして、その場にしゃがみこみ、辛そうな声を発す。

 

「ちょっ、ちょっと!!ロキっ!!」

 

「有難う、ルーシィ。最期に素晴らしい星霊魔道士に出会えた」

 

「あたしはそんなの望んでないよ!!絶対、助ける!!あきらめないで!!」

 

「無理・・・だ。掟は・・・掟だからね・・・」

 

「あたしは!!!だって・・・だって、それは不幸な事故じゃない!!ロキが・・・ロキが死ぬことなんてないじゃない!!!」

 

そう叫びながら、体が薄く、透明化していくロキに抱きつき、ルーシィは必死に唱えた。

 

「開け!!獅子宮の扉!!!ロキを・・・ロキを星霊界に帰して!!」

 

「ルーシィ・・・」

 

そうやって、自分を助けようとするルーシィに感激の言葉を漏らしたロキに生きる希望が与えられた。

 

「開いて・・・お願い・・・だから」

 

ロキの体はもう、透き通るまでに透明化していた。それでも、まだ実在している。

 

「ルーシィ・・・もういいんだ・・・」

 

「目の前で消えていく仲間をあたしは見捨てたくなんかない!!!」

 

そう大声で叫ぶと、ルーシィの髪が浮き上がっていくと同時に、膨大な魔力がルーシィから放たれる。そんな無理をするルーシィに驚愕し、ロキが必死に止めようとする。

 

「ルーシィ!!そんなに一度に魔力を使っちゃダメだ!!」

 

「言ったでしょ!!あたしは仲間を見捨てない!!!」

 

「やめてくれ!!!ルーシィ!!!」

 

ルーシィの周りから魔力が信じられないほど暴れまわり、増幅していく。

 

「絶対、死なせない!!ロキはあたしの仲間なの!!!」

 

「これ以上、僕に罪を与えないでくれェ!!!」

 

肉体的にもちそうにない、ルーシィは痛みと悲しみで涙を浮かべていた。そして、莫大な魔力を放つと同時に大声を放った。

 

「何が罪よ!!?あたしは仲間を助けたいだけ!!!それは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が教えてくれたことだから!!!!」

 

その時、ロキがハッとしたような表情を見せた直後、ルーシィとロキの間になんらかの衝撃が起き、二人が突き放された。

 

「な・・・なんなの!!?」

 

急激に夜空に星が幾つも流れ、大量の滝の水が一気に吸い上げられるように渦巻きながら一点に集中していく。異次元の扉ような物が大きな衝撃で大地を揺るがすような魔力を放った。

 

「そんな・・・星霊王!!!」

 

ロキの驚愕の発言にルーシィは一瞬、言葉を失い、目の前にいる巨人に怯える。

目の前に聳えるように立つ、星霊王は腕を組み、上からルーシィとロキを見下ろす。

 

「古き友よ・・・」

 

たった一声でここ全体に響くような声で星霊王はその堂々たる態度で言った。

 

「人間との盟約において、我らは借りをもつ者を殺めることを禁ずる。直接ではないにせよ、関節にこれを行った、獅子宮のレオ・・・。貴様は星霊界に帰ることを許されぬ」

 

ルーシィはそう言う、星霊王に対し、立場を考えずに一心不乱に言葉を叩きつけた。

 

「ちょっと、それじゃ、あんまりじゃない!!!」

 

そんなルーシィにロキがすかさず、注意しようとするが、星霊王が先に言葉を発した。

 

「古き友。人間の娘よ。その法だけは変えられぬ」

 

「仲間のためにやったのよ!!?仕方ないことじゃない!!!」

 

「もういい・・・。ルーシィ。僕は誰かに許してもらいたいんじゃない!!罪を償いんたいんだ!!このまま―――」

 

「―――アンタが死んだってカレンは帰ってこない!!!新しい悲しみが増えるだけよ!!!」

 

星霊王はその光景をただ黙り込んだまま、見続けていた。

 

「あなたが消えたら、あたしが、アリエスが、ここにいる皆が、また悲しみを背負うだけ!!!そんなの罪を償うことにはならないわ!!!」

 

そう獅子奮迅に叫ぶ、ルーシィの魔力は次第に、信じられないことになっていた。そして、ルーシィの星霊、全員が洗われる。

 

「うっ・・・うぅ」

 

しかし、一瞬にして星霊達は消え、ルーシィはその場に倒れ込んだ。その様子を必死にロキが心配する。

 

「アンタも星霊なら、ロキやアリエスの気持ちが分かるでしょ!!!」

 

「ルーシィ!なんて無茶なことをするんだ!」

 

そうやって、怒りながらも内心、とても喜んでいるロキは倒れそうになるルーシィを支えた。

 

「ん~・・・」

 

星霊王はルーシィの決死の覚悟と星霊を大切に思う姿に感動したのか、唸ってからしばらく考え込んだ。

 

「古き友にそこまで言われては・・・間違っているのは法かもしれんな。同胞、アリエスのために罪を犯したレオ。そのレオを救おうとする古き友。その・・・美しき絆に免じ、この件を例外とし、レオ・・・貴様に星霊界への帰還を許可する」

 

その言葉に息すら忘れるほど驚愕し、ロキの体中が震動する。衝撃的な現実にまだ、ロキは今起きていることを信じられていない。

ルーシィは決死に腕を動かし、拳をつくってから、親指だけを上に突き出して、言った。

 

「いいとこあるじゃない・・・」

 

星霊王はルーシィに満面の笑顔を見せると、ロキにこう言い残していった。

 

「それでも罪を償いたいのならば、その友の力となって生きることを命ずる。それだけの価値のある友であろう。命を賭けて守るがいい」

 

そして、星霊王は星の欠片となって姿を晦まし、眩しく輝く十字架にとなって光は消えた。直後、膨大な水の量が一気に振り落ちてきた。いつの間にか、絶景だった流星群も消えていた。

一気に力が抜けたような二人は少しの間、黙り込んでいた。

 

「ありがとう・・・ルーシィ」

 

そうやって、ロキは獅子宮のレオをとなり、星霊界へと帰っていった。

 

 

 

そして、ルーシィの手のひらには金色に輝く、『黄道十二門 《獅子宮のレオ》』の鍵が太陽に照らされ、たくましく輝いていた。

 




いや~、とても長くなっちゃいました。すいません。なるべく、2話で終わらせようとしていたので。この部分はやらないつもりでしたが、気分的にやっちゃお!と思ったので頑張りました。
質問、待ってます・・・。


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楽園の塔編
第17話: 過去の悪夢


カルーラ城下町からギルドに帰還した、ナツ達はマカロフにしつこく怒鳴られた後、建設中のギルドに滞在していた。

 

「勝ったのは俺だっつーの」

 

「テメェは枕投げ如きで全力すぎんだよ、ナツ」

 

そうやって、体の至るところに怪我をしているナツとグレイは枕投げの勝敗に関して、言い合いをしていた。

 

「なんだよ、アレ」

 

「宿で枕投げしてあぁなったんだとよ」

 

「枕投げで普通、あんな大怪我するかよ」

 

「宿の部屋は半壊らしいぜ?」

 

「オイオイ、枕投げだろ?どんな枕使ってんだよアイツ等」

 

そうやって、喧嘩する二人を見ながら、マカオとワカバが笑いながら会話していた。

 

「「ルーシィ!勝ったのはオレだよな!!」」

 

取り敢えず、まだ、ギルドは建設中のため、テントを仮設のカウンターとしていた。その椅子に座っているルーシィに勝敗を訊いた。

 

「そんなことどうだっていいでしょ?てか、あたし、いなかったし」

 

と、いつもどおりの返事するルーシィはまたむこうを向いて、食事し始めた。

 

「やめないか、二人共」

 

と、そこにエルザがナツとグレイを止めに入った。さすがのナツとグレイも対抗できずに小さく、「はぃ」とだけ返事をした。

 

「さすがはエルザだ」

 

「勝ったのは私だからな」

 

「えっ?・・・結局、エルザも勝敗を気にしてたみたいだな・・・」

 

「だな・・・」

 

止めに入ったのか、自分が勝った、と忠告したかったのか、分からないエルザの言葉にマカオとワカバはまた、笑いながら話していた。

 

「ジュビアの中ではグレイ様の勝ち」

 

と、木材の裏でグレイを輝きの目で見ているジュビア。

 

「グレイ!!もう、面倒くせぇ!!!ここで勝負だぁ!!!」

 

「いいだろう、望むところだァ!!!」

 

「馬鹿者ォォォオオオ!!!」

 

エルザは喧嘩しようとする二人を手加減しながらも、切り刻み、周りの木材、ルーシィの衣服をも切り裂いたのであった。

 

「きゃぁぁあああっ!!!」

 

ルーシィの悲鳴と観衆の歓声が響いた。

 

 

 

 

 

結局、あれから、ルーシィは自宅に戻り、シャワーを浴びてから、着替え、廊下を歩いていた。その足元には小犬座のニコラ、プルーの姿があった。

 

「もう、ホント最悪。なんで、あそこで服を斬るかなぁ・・・」

 

「プーン」

 

相変わらず、プーン、としか言わないプルーは小さな歩幅でルーシィに合わせて歩いていた。その姿を見れば、癒されるというか、とても、和やかな気持ちになれていたルーシィだったが。

 

「まぁ、いっか。あたしの部屋でゆっくり休も・・・」

 

と、言ってから扉を開けた瞬間、自分の部屋の状況に泣き叫ぶ。

 

「なんで、アンタ達がいるのよー!!!」

 

そこにいたのは豪快にくつろぐナツと魚を嬉しそうに食べるハッピー、そして、なぜか上半身裸のグレイ。その隣にリーナがいた。

 

「んなことよりさぁ、ハッピーから聞いたんだ。ルーシィ、ロキと付き合ってのか?」

 

「私もそれ聞いて来たの!」

 

「えぇ!?そんな訳、ないじゃない!いつからそんな噂広まったの!?」

 

「えぇ、だってオイラ見たんだよ。ロキとルーシィが飯処で一緒にでぇきてぇるぅ・・・」

 

「あ・・・そうだった。忘れてた。実はね・・・・・・」

 

と、ルーシィはロキが獅子宮のレオだったということの説明をした。ナツは全然、理解していなかったが。そして、いつの間にか、レオが勝手に扉を開けて、現れた。

 

「星霊だとぉ!!?」

 

「星霊だったんだ・・・!」

 

「お前、牛でも馬でもねーのにかぁ!?」

 

「よく分からないけど、そういうこと」

 

「バルゴだって人間の姿だったでしょ?」

 

と、リーナがいうが、ナツは首を横に振り、否定した。

 

「だって、アイツはゴリラにもなんだぞ!」

 

「そうだったわね・・・・」

 

と、リーナは呆れた様子で言った。

 

「ロキはね、獅子宮のレオっていう星霊よ」

 

「獅子ってアレだろ、毛がボサボサの奴だろ?」

 

「よく分からないけど、そうじゃない・・・多分」

 

ナツの理解しにくい質問に取り敢えず、適当に返事をしたルーシィはそろそろ、レオに退場してもうおうとした時だった。

 

「ちょっと待って、ルーシィ。みんなに渡したいものがあるんだ」

 

「火かっ!?」

 

「嬉しいのアンタだけでしょ・・・ソレ」

 

と、ルーシィはツッコミを入れていた時にはレオはポケットの中から何枚かのチケットを出した。

 

「なんだ、コレ。こんなの食えねーぞ」

 

「アンタ、食べることから離れたどうなの?」

 

「人間界に長居する事もないし。君たちにが行くとイイよ。これはリゾートホテルのチケットさ」

 

「おおおっ!!!ウマいもん食えんのか!!?」

 

「いい加減、テメェは食うことから離れろってんだ」

 

チケットを受け取ったナツとグレイ。ナツは泊まるということにあまり興味はないらしいが、食事には興味があるらしい。なので、大はしゃぎして、部屋を走り回った。

 

「さっき、エルザにも渡したんだ。事情も説明してある」

 

「アンタ、勝手に出てきてくんの止めてくれない?」

 

「僕はルーシィのピンチの時にさっそうと現れる白馬の王子様役―――」

 

「―――はいはい、分かりました」

 

「じゃ、僕はこれで失礼するよ。楽しむといいよ、旅行」

 

とだけ、言い残し、レオは星霊界へと戻っていった。

 

「んじゃ、早速、行く準備しなきゃね!」

 

「なに言ってんだ、まず宴だろ!」

 

「お願いだから、やめて。アンタ達の宴は家を壊すから・・・」

 

そして、ナツ達はやっとのことで帰宅し、ルーシィも準備に取り掛かったのであった。

 

 

 

てな、わけで・・・

 

 

 

ここは、アカネリゾート。王国でもっとも人気のある海辺の観光地である。綺麗なビーチ、高級のホテル、幸楽のパークとたくさんの絶好の観光地なのである。

 

そこにナツ達一行はレオに貰ったチケットで一時の休息を取っていた。

 

「あはははっ!!」

 

ツインテールで髪を束ね、白色に桃色の花の絵が描かれている水着を着た、ルーシィが楽しそうに笑っていた。空気の入ったボールでビーチバレーをしていた。

 

「よいしょっ、ルーシィ!」

 

「えいっ!エルザ!」

 

「ほっ、グレイっ!」

 

「おうっ!行ったぞナツ!」

 

ボールがナツの頭上に高々と飛び上がる。

 

「おらああぁ!!」

 

と、なぜか右手に炎を纏い、飛んでいくボールと同じくらいの高度まで跳躍。大声を上げながらボールに強烈な一発を叩き込んだ。そして、ボールは焼失した。

 

「だぁはっはっは!!おれの勝ちだぁ!」

 

「オイオイ、ビーチバレーになってねぇじゃねぇか、ナツ!」

 

 

 

「きゃはははっ!!きゃあぁ、あはははっ!!」

 

「おぅぅ・・・おぷぅ・・・。下ろしてくれぇ・・・」

 

海の生き物に小さなヨットを引っ張ってもらい、その爽快感を楽しむルーシィの後ろでナツが酷く酔いながら下ろしてくれと情けなく要求していた。

 

「アンタが乗るって言ったんでしょぉ!」

 

そして、ルーシィは呆れ顔でナツに言った。

 

 

 

「美味しいね、このカキ氷」

 

と、話しかけたのは桃色の苺シロップの染み込んだカキ氷を左手に水着を着たリーナだった。

 

「そうだね」

 

「オレの造った氷で食べるともっと美味しいぞ」

 

「面白いアイデアだな、グレイ」

 

と、カキ氷を食べながら畳に座り、海辺を眺めながら、ナツ達は楽しんでいた。

 

「グレイ!どっちが先に食えるか競争だ!」

 

「やってやろうじゃねぇか負けねぇぞナツ!」

 

と、言って冷たいカキ氷を猛烈に食べ始めた二人はたった数秒で。

 

「あぁぁぁ・・・頭がぁぁ・・・」

 

「ヤベッ。うぁ」

 

頭がキーンと割れるような不快感を覚え、二人は一旦、カキ氷を食べるのを辞めていた。そして、グレイはその場でうずくまり、なぜかナツは浜辺を駆け回っていた。

 

「頭がぁぁぁぁぁぁ、何じゃこりゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ナツの悲鳴のような叫び声が浜辺に木霊していた。

 

 

 

「ハッピー見てろぉ」

 

と、言ってナツは大量の空気を吸ってから、海の中へと潜っていき、そこから勢いよく炎を噴いた。

 

「うわぁ!すごいよ、ナツ!水の中でも炎を出せるほどにまで強くなったんだ!!」

 

「かっかっかっ!こんなの楽勝だっつーの!」

 

とは言ったものの、炎というよりは火で、威力もかなり弱まっていた。しかも、その火が―――

 

「熱っ!!オイ、コラッ、ナツ!!熱いじゃねーか!!!」

 

「当たる奴が悪ぃんだよ!!グレイ!!!」

 

「んだとぉ、コラァッ!!」

 

と、叫んでグレイはあっという間に海の水を凍らせていく。

 

「おっと、危ねぇ!」

 

だが、ナツは海から飛び出して、間一髪で避けていた。

 

「ちょっ、ちょっとグレイ。こっちまで来てるからッ!!!」

 

あっという間にルーシィや大勢の旅行客が凍り付けにされていた。しかし、ルーシィの後ろで煌く野獣のような怒った目が気配だけで感じられたルーシィは嫌な予感を感じとった。

 

「これほどの迷惑を・・・。ナツ、グレイ!!」

 

エルザの怒声が氷にヒビが入るほど響き渡る。

 

「ひぃ、エ、エルザ!!」

 

「あいぃぃ!!」

 

なぜか、ナツはまたハッピーの口癖が移る。

 

「私が許さんぞぉ!!!」

 

と、言いなぜか、黒い水着から鎧へと換装。そして。

 

「はああぁぁぁあぁぁっ!!!」

 

あっという間に氷もろとも、ナツ、グレイ、そして、なぜか、ルーシィの水着を切り裂いた。

 

「きゃあぁぁぁぁっ!!!」

 

「あがぁぁっ!!」

 

「ぎゃぁぁあぁっ!!」

 

「ふっ、これからは気を付けんだぞ、グレイ、ナツ」

 

「なんで、こうなるかなぁ・・・」

 

と、いつもどおりに暴れまわったナツ達であった。そして、その姿を笑いながら見守るハッピーとリーナの姿があった。

 

 

 

そして、現在はリゾートホテルの部屋のベランダにある白と青のビーチチェアに寝転び、太陽の日差しを浴びていたエルザの姿があった。

 

「(それにしても、楽しい一日だった)」

 

今日という日に満足しているエルザはやがて、目を閉じているうちに静かに眠っていた。

 

 

 

 

 

そこはどこか、暗い洞窟のような場所。辺りには目をみはるほどの見張り役の兵たちが、奇妙な魔物を連れて、自分を見張っている。

 

両手には手枷がはめられ、服は汚れた汗が染みているワンピース。決して綺麗ではなく柄もないただのワンピースだった。

 

目の前には怒声をあげる人間と威嚇をし続ける奇妙な魔物。

 

その姿に泣き叫ぶ緋色の髪をした少女。

 

目の前で自分を庇って死んでいく老人。

 

そして、変わってしまった青髪の少年。

 

 

『エルザ・・・この世界に自由などない』

 

 

その言葉だけが最後に告げられた。

 

 

 

 

 

ゆっくりと息を整え、まるで、絶望したかのような表情で額の汗を拭うエルザ。自分の状況を理解するのには然程、時間は要らなかったが、まだ体が震えているような気がする。

 

「・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・」

 

何度も、息を吐いては吸い、その場で立ち上がった。

 

「いつの間にか、寝てしまっていたのか」

 

そう独り言を呟くエルザはどこか真剣な眼差しで飛び去っていく数羽の鳥を夕日に重ねて眺めていた。

 

「エルザー!!あれ、まだ水着なの?」

 

と、駆けてきたのか少し息が漏れているルーシィがいた。その姿はいつも間にか、ドレスになっていた。

 

「地下にカジノがあるみたいなんだけど、エルザも行かない?ナツとグレイとリーナはもう楽しんでるよ」

 

エルザはすぐさま、換装し、一瞬にして紫色で赤い花柄のドレスを身に着けた。

 

「さっ、行こ行こ!エルザ!」

 

 

 

一方、ナツは魔導スロットのボタンを連打し、子供のようにはしゃぎながら叫ぶ。

 

「来いぃ!」

 

「頑張れぇ!」

 

スロットが動き始め、左から順に止まっていく。そして、止まっている数字は7。次に止まったのも7だった。

 

「あっ、行けるんじゃない!」

 

「うぱー!」

 

「来い!7だぞ!」

 

そして、スロットは3、4、5、6となり、7に止まった―――かに見えたが、ナツとハッピーの夢を奪うかのように8になった。

 

「「なぁぁぁ!!?」」

 

「あらら・・・」

 

「だぁぁぁぁぁ!!!ふざけんなぁぁぁぁ!!!」

 

と、怒ってボタンを何度も乱暴に叩き始めた。まるで、その後ろ姿は幼稚のようだ。

 

「惜しかったわね。ナツ」

 

「1000J入れたんだぞォ!!なんでなにも起こらねぇんだあぁぁ!!」

 

「1000Jも入れたの!!?アンタ・・・ホント馬鹿ね・・・」

 

「お・・・お客様、困ります」

 

と、従業員がナツをていねいな口調で止めに入る。

 

「だって、7に一回、なったじゃねぇかぁ!!!酷ぇなぁ!!」

 

「ナツ、うるさいから・・・」

 

 

 

「ったく、うるせぇな。ちょっとは静かにできねぇのかよ、アイツ等は」

 

「グレイ様」

 

急に話しかけられたグレイは少なからず驚き、声がした方を見る。そこにいたのはジュビアだった。

 

「お、お前は・・・」

 

「ジュビア、来ちゃいました」

 

「誰だった・・・かな・・・。すまねぇ、思い出せねぇ」

 

「そんなっ・・・」

 

グレイの予想だにしない反応にジュビアは深々と落ち込みながら言った。

 

空の運命(スカイデスティニー)で・・・」

 

「あぁ、お前か!すっかり忘れてたってなんでいんだよ!?ん・・・その首飾り・・・」

 

と、グレイは金色に光る妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドマーク形の首飾りがあった。

 

 

 

「だぁ、もう、カジノなんて2度とやんねーぞ!」

 

「あい!」

 

「そこまで怒らなくてもいいじゃない・・・」

 

「7で止まったんだぁ!」

 

「もういいでしょ!いい加減に・・・」

 

そういいかけたリーナだったが、不快感に見舞われ、声が表情を一変させた。

 

「どうした?リーナ。晩飯、食いすぎたか?」

 

「そんなんじゃないってば!」

 

「待ちな、ボーイ&ガール。1つイイ事、教えてやるゼ。男には2つの道しかねぇのサ」

 

「カッ・・・カクカクぅ!!?・・・なんだか、よくわかんねぇけど俺にはいっぱい道あんぞ?」

 

と、好奇心多性にいうナツはどこかズレている。

 

「ダンディに生きるか・・・止まって果てるか・・・・・・だゼ」

 

次の瞬間、男の腕が銃に変形した。そして、あっという間に距離を詰められ、銃口がナツの口元に当てられた。

 

「がっ・・・」

 

「なにをする気!?」

 

「ナツー!」

 

「エルザはどこにいる・・・だゼ」

 

 

 

一方、グレイはジュビアとカジノの端にあるバーで会話をしていた。

 

「そんでよぉ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りてぇのか?」

 

「はい。ジュビア、入りたい」

 

グレイはジュビアに敵性を無くし、普段の態度で会話していた。

 

「グレイ・フルバスター?」

 

「ん・・・?」

 

と、振り返った瞬間、ガタイの大きな男が立っていて、目に魔法陣が現れ、あっという間にバーが吹き飛んだ。

 

 

 

その頃、エルザとルーシィはカードでギャンブルを楽しんでいた。しかも、エルザの強運が何度も勝利へと導き、どんどんと稼いでいた。

 

「また、勝った!」

 

「ふふ・・・今日は運が良いな」

 

黒い肌が特徴の青年がディーラーを退かし、代わりにトランプを手早くシャッフルすると、エルザの前に立ち、言った。

 

「だったら、特別なゲームをしよう。ルールは簡単・・・」

 

そうやって、少し不気味なオーラを放ちながら、5枚のカードをエルザとルーシィの前に素早く投げ捨てた。そのカードに示されていたのは

 

D E A T H

 

そう示されていた。そう死を意味する。

 

「・・・なに、死?」

 

「そう正解」

 

ルーシィ、エルザともに緊張感が高まった。少なからず驚いている二人の前で青年は不敵な笑みを浮かべ、告げた。

 

「命賭けて遊ぼぉ、エルザ姉さん」

 

「・・・ショウ・・・っ!!?」

 

エルザは目の前にいる黒肌で金髪の青年がショウという名で呼ぶ。

 

「・・・ショウ?知り合いなの?」

 

そう訊いたルーシィはエルザの顔をみて思わず飛び退いた。

 

その顔はなんだかとても悲しそうで驚愕していた。体が震え、手に持っていたカードを落とした。その表情はルーシィには信じがたい表情であった。




楽園の塔編に突入ですねー!文字の関係もあって少し微妙なところで終わっちゃいました。もう少し後らへんで終わりたかったのですが。なんだか、リーナの出番が少なすぎなような気がしてならないのですが、やっぱり少ないかな・・・。と、まぁ、雑談はこの辺にして楽園の塔編!頑張っていきたいと思います!


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第18話: 楽園の塔

「・・・ショウ・・・なのか?」

 

「久しぶりだね。姉さん」

 

声が恐怖するように震え、顔を驚愕に染め、エルザはショウを見つめた。

 

「姉・・・さん?」

 

状況の把握ができないルーシィはただショウという青年とエルザを交互に黙視することしかできずにいた。そうしているうちにエルザがまた口を開く。その唇は僅かにぷるぷると、震えていた。

 

「無事・・・だったのか?」

 

「・・・無事?」

 

「あ・・・いや・・・・・・なんでも」

 

完全に動揺しているエルザはショウを見るのも辛そうにしていた。

 

 

 

その頃、グレイとジュビアは巨体の男と睨み合っていった。

 

「エルザはどこだ?」

 

「教えるかよ!」

 

グレイと男は互い睨み合い、威圧感をぶつけていた。その間合いにジュビアが流れるように割って入り、両手を広げて、グレイを庇うように言う。

 

「グレイ様には傷一つ付けさせない。ジュビアが相手します」

 

「ジュビア・・・」

 

「エルザさんにキケンが迫っています・・・。すぐにでもエルザさんの下へ」

 

ジュビアは相手に聞こえないように小声で伝えた。突如、男が指を頭に翳し、ブツブツをつぶやき始めた。

 

「見つかっただと?だったら、もう、始末していいんだな・・・。了解」

 

グレイが見つかった、という言葉に驚き、急いでエルザの方へと疾駆しようとすると、突然、辺りが真っ暗に染められ、視界が真っ黒になった。

 

「なんだコレはぁ!!?」

 

「グレイ様、下がってください!!」

 

「闇の系譜魔法、闇刹那」

 

次の瞬間、鈍い音だけが響き、グレイとジュビアに痛覚が走った。暗闇の中に二人の短い悲鳴が響いた。

 

 

 

「が・・・!?」

 

口に銃を突かれているナツは上手く話すことができず、辺りが暗くなったことに戸惑っていた。

 

「なにコレ!?停電・・・じゃなさそうね」

 

「どこー!!」

 

ハッピーやリーナの声がするものの、姿が見えずナツは叫ぼうとするが、銃が邪魔で叫ぶことができない。すると、眼前から声がした。

 

「グッナイ・・・ボーイ!」

 

「んがっ!?」

 

銃声。そして、リーナとハッピーの声が暗闇に響く。

 

「「ナツぅぅぅ!!!」」

 

「ネコと嬢ちゃんも眠りな」

 

ウォーリーがそう告げた瞬間、リーナの背中になにかが突き当たり、しだいに意識が朦朧とし始めていた。

 

「うっ・・・何コレ・・・意識が・・・」

 

意識は飛び、やがて、リーナが地面に倒れる音が小さく聞こえた。

 

 

 

エルザとルーシィも暗闇に戸惑いを隠せず、驚きの声を上げていた。

 

「暗っ!!」

 

「これは一体!?」

 

少しずつだが、辺りが薄らと明るくなり始めていた。いつの間にか辺りに光が戻っていた。すると、突如、辺りの床にカードが散らばっていた。

 

「カ・・・カードの中に人!!?」

 

「ショウ、お前がやったのか!!?」

 

「姉さんと同じように俺も魔法を使えるようになったんだよ」

 

エルザはただ驚愕した様子でショウという男ばかりを視線に向けていた。不敵な笑みを浮かべたショウを見ていると、今度は向こうの方から声がした。

 

「みゃあ」

 

「えっ?きゃあ!!?」

 

ルーシィが声に驚いて振り返ろうとした時には橙色のチューブが体を縛り付けていた。そして、完全に身動きの取れない状態になった。

 

「ルーシィ!!」

 

縛られ、横たわるルーシィの後ろのテーブルに座るネコのような少女がエルザに話しかけた。

 

「みゃあ。元気最強?」

 

「その声はミリアーナか!!?」

 

ミリアーナをみて驚愕するエルザの不意を付くように後ろから声がした。

 

「すっかり色っぽくなっちまってョ」

 

「ウォーリーか!?」

 

次々に現れる衝撃の人物達にエルザは驚くばかりであった。

 

「コツさえ、つかめば魔法は誰にでも使える。なあ、エルザ」

 

突如、気配がなかったが背後にいた巨体の男に気づき、エルザは飛び退きながら言った。

 

「シモン!?」

 

いきなり現れた四人組にルーシィが縛られ、辛そうにしながらもエルザに質問を投げ掛けた。

 

「エルザ・・・こいつら一体なんなの!!?」

 

「本当の弟ではない。かつての仲間達だ」

 

その言葉に疑問を抱くルーシィはまた問いかける。

 

「え!?でも、エルザって幼い頃から妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいたって・・・」

 

「それ、以前ということだ。頼む、ルーシィを解放してくれ」

 

いつもの勢いあるエルザではなく、なぜか、頼むように言っていた。

 

「それはできないな、姉さん」

 

「なにをしに来たというのだ!?」

 

「連れ戻しに来たのサ」

 

「みゃあ」

 

「帰ろう、姉さん」

 

「言うこと聞いてくれねぇとヨォ」

 

と、ウォーリーが片腕を銃に変形させ、銃口をルーシィに向けた。すぐさま、焦るようにエルザが叫ぶ。

 

「よ、よせ!!頼む!!ルーシィは仲間なんだ!!」

 

「僕たちだって仲間だったでしょ?姉さん」

 

エルザを困らせるように放つショウの言葉に動揺するエルザ。その隙を突いてウォーリーは銃になっていた腕を消し、エルザの背後に出現させた。

 

「ぅあ・・・」

 

一瞬にしてエルザの腰部が撃たれ、エルザは重心を前に倒していった。

 

「エルザ・・・痛っ!?」

 

「目標確保。帰還しよう」

 

「ちょっと!!エルザをどこに連れて行くつもりよ!!返しなさいよ!!!」

 

拘束されているルーシィは必死に叫ぶが、四人はルーシィを無視して去っていく。そして、ミリアーナがルーシィに人差し指を向け、ルーシィを縛るチューブを強めた。

 

「痛ッ・・・!!」

 

「そういや、ミリアーナ。君にプレゼントだゼ」

 

ウォーリーがミリアーナに差し出したのは青い猫、ハッピーだった。

 

「わぁ!!ネコネコ~!!貰っていいの!?」

 

ハッピーをぐぅっと抱きしめながらはしゃぐミリアーナ。

 

「姉さん、帰ってきてくれるんだね。楽園の塔へ」

 

と、ショウは言い残すと、去っていった。

 

「・・・楽園の塔?何よそれ・・・痛ッ!!!」

 

ショウの言い残した言葉にルーシィは疑問を抱くが、チューブにまた強く縛られた。思考を変え、チューブから脱出することを念頭においた。

 

 

 

* * *

 

 

 

「痛えぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

炎を噴き上げて立ち上がるナツ。

 

「あんの四角野郎!!逃がすかコラァ!!!」

 

そういって、会場を駆け抜け、怒り狂った表情で出口に向かっていく。その姿を見つけたルーシィは必死に呼び止める。

 

「あっ、ナツ!!!ちょっと、ナツ!!待って!!!」

 

「四角ぅ・・・ん?ルーシィ!?」

 

「このチューブ外してくれない!!」

 

「いいけど、なに遊んでんだ?」

 

「遊んでるわけじゃないわよ!!」

 

縛られ辛そうにしながらも、ツッコミをいれたルーシィに向かってナツの片手に炎が纏われる。

 

「それより、ナツはどうしたの?」

 

「あぁ?四角野郎にがよぉ、弾を口にぶち込みやがって。普通、口に弾ブチ込むかよ!!?痛ぇだろ!?へたすりゃ大ケガだぞ!!?」

 

「そ・・・そう。普通の人なら死んでたけどね」

 

「チューブ燃やしてやる、動くなルーシィ」

 

「熱いから!!ナツちょっと・・・辞めっ」

 

ルーシィの止める言葉を無視してナツが大量の炎を噴き出した。

 

「熱ぅぅぅううう!!!」

 

「どーだ。よかったな、ルーシィ。チューブ外れっ―――ごふっ」

 

ナツが無邪気に言っている途中でルーシィが激怒しながらナツの顔面に拳を叩き込んだ。

 

「なにすんだよ、ルーシィ!!」

 

「なにすんだよじゃないわよ!!!アンタのせいで服、燃えちゃったじゃない!!熱かったし!!」

 

「なんで燃えてんだョ!!?」

 

「アンタのせいよ!!!」

 

「うごっ」

 

と、またナツにアッパーを叩き込んだルーシィであった。

 

「それで・・・どこいこうとしてたの?」

 

「あ、そうだ!!四角野郎ォォォオ!!!」

 

と、怒声を上げながらまた出口の方へと疾走していくのであった。

 

「はぁ・・・。ま、いっか。それよりグレイ達を探さなきゃ」

 

懸命に探すルーシィの前で崩壊したバーが視界に入った。そこに壁にもたれかかり、ピクリとも動かないグレイの姿があった。

 

「グ・・・グレイ!!?」

 

一気に駆け寄り、グレイの頬に手を添える。そして、絶望と驚愕の入り混じった表情で悲しげに呟いた。

 

「冷た・・・い」

 

体が冷たい、それは死を意味することに繋がった。ルーシィの頭に嫌な予感が通り過ぎる。すると、ルーシィは必死にグレイの体を揺さぶった、次の瞬間、グレイの体に幾つも亀裂が入り。

 

「え?」

 

粉々に砕け散った。

 

「きゃあぁああっ!!」

 

しかし、よく見るとそれは氷であったことにようやくルーシィは気が付いた。すると。

 

「安心してください」

 

すると、すぐ傍の床から水が漏れ出し、その水がやがて人型へと変わっていった。

 

「ア・・・アンタは!!?」

 

「グレイ様は私の中にいました」

 

「ゲホゲホ!!」

 

と、ジュビアの下からグレイが出てきた。口から水を吐き出すグレイは苦しそうに言った。

 

「突然の暗闇だったんでな。身代わり造って様子、見ようとしたんだが」

 

その言葉に先ほど壊してしまい、粉々になった氷の破片をルーシィは見つめた。

 

「敵に気づかれないようにジュビアがグレイ様をお守りしたのです」

 

「余計なことしやがって。逃がしちまったじゃねーか」

 

「ガーン!」

 

グレイの厳しい言葉に落ち込むジュビアだった。そんなジュビアを無視してなんとか、グレイがルーシィに問いかける。

 

「・・・つーか、なんでお前、裸なんだよ。俺の真似すんじゃねぇ」

 

「アンタと違って脱いだわけじゃないから!!?」

 

そんな冗談は置いといて、すぐさま、表情を変えたルーシィは簡単に状況の説明をする。

 

「エルザが攫われたの!!アイツ等、確か楽園の塔とか言ってたわね。あと、ナツが追いかけて行って・・・」

 

「どこに行った!?」

 

「えっ!?」

 

「ナツだよ!!アイツの鼻は獣以上だ!!」

 

グレイがルーシィを急かす中、瓦礫が崩れ、中から人が出てきた。

 

「ナツなら、四角い人を追っていったわ」

 

「リーナ!?」

 

「リーナ!大丈夫!?」

 

瓦礫から出てきたリーナが小さく咳き込み、駆け寄ってくるルーシィになんとか、事情を説明した。

 

「ケホ、ケホ。・・・睡眠弾を撃たれたから頭がクラクラするけど、平気・・・」

 

「良かった」

 

「ていうか、なんでルーシィ裸?」

 

「帰りたくなってきた・・・」

 

リーナをゆっくりと起こすルーシィにまた、グレイが急かすように叫んだ。

 

「安心している場合じゃねぇみたいだぜ!!急ぐぞ!!!」

 

いつも以上に急ぐグレイの背中を見ながらルーシィ達も駆け始めた。

 

 

 

* * *

 

 

 

薄暗い、汚れた空気の中に不気味な塔、楽園の塔が邪悪なオーラを放って、聳え立っていた。その塔の一室である場に玉座に座る影がった。その影は灰色の服を身に付け、フードを深々と被っている。その青年は足首まで長い黒髪の男を見下ろすようにしていた。

 

「ジェラール様。エルザの捕獲に成功したとの知らせがありました。こちらへ向かっているようです」

 

お辞儀をしながら黒髪の男はそう言った。ジェラールと呼ばれた玉座に座る青年は口の端をつり上げて見せた。

 

「しかし、何故、今頃になってあの裏切り者を?ジェラール様の力があれば、あの女など容易く消せるのでは?」

 

「ふっ・・・ふっはっはっは。それじゃあ、ダメだ」

 

「なぜ・・・でしょう?」

 

「この世界は面白くない」

 

ジェラールが放った言葉に首をかしげる黒髪の男は少しの間、黙り込んだ。

 

「時はきたのだ。オレの理想の為に生け贄となれ。エルザ・スカーレット」

 

荒れ狂う海がより一層、この辺りを不気味にさせていた。

 

 

 

楽園の塔へと向かう船はゆっくりと薄暗い海を航海していた。荒れ狂う波を諸共せず、突き進んでいた。その船の中にある倉庫でエルザとショウは会話をしていた。

 

「オレは会いたかったんだ!本当に!姉さん!」

 

「ショウ・・・」

 

「できれば、こんな事なんてしたくなかった」

 

ショウは必死に拘束されているエルザにしがみつく様に抱きついていた。涙がエルザの肩に落ちてくるのがエルザには分かった。

 

「なんで・・・なんで俺達を・・・ジェラールを裏切ったァ!!!」

 

急激な怒声にエルザは驚愕し、目を大きく開かせ、瞳を揺らめかせた。

 

「もうすぐ、楽園の塔だ。帰ってきてくれるんだね、姉さん」

 

そんな会話をしている間にも刻々と時間は過ぎていき、楽園の塔は目視できるところまできていた。

 

「(ジェラール・・・)」

 

そう何度もジェラールの顔を頭に隅々に巡らせているエルザは過去の幼年期だった頃のジェラールと自分を思い出していた。

 

 

 

恐怖に震える自分に手をそっと差し伸べ、安堵させてくれるような暖かい視線でこちらを見つめてくれていたあの優しかったジェラール。

 

「俺達は自由を手に入れるんだ。未来と夢を。行こう、エルザ!」

 

手を差し伸べてくれたジェラールの手を僅かに戸惑ったものの、歓喜の籠った返事とともにその手に。

 

「うん」

 

自分の小さな手を重ねた。そして、優しく握り合った。

 



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第19話: 真実

エルザが攫われ、その後を追跡していたナツ達はある一隻の小さな船で追っていたが、もうすでに一晩を明けていた。もうすでに今は明朝であった。

 

「ジュビア達、迷ってしまったんでしょうか・・・」

 

「ナツ、本当にこっちであってるの?」

 

船に乗る際に仕方なくビーチで使っていた水着を着たルーシィが訊く。

 

「うん・・・っぉぶ・・・」

 

「オメーの鼻を頼りにしてきたんだぞ!!もし迷ったりしたら容赦しねぇからな!!!」

 

「グレイ様の期待を裏切りなんて・・・信じられません!」

 

ジュビアはそうナツに怒りを込めて、言い切った。その後、ジュビアは暗そうな表情になり、口を開いた。

 

「エルザさん程の魔道士がやられる―――」

 

「―――やられてねぇ!!エルザのことを知りもしねぇで、そんな口、叩くんじゃねぇ!!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

グレイのジュビアに対する怒声と目つきでジュビアの身体はぶるっと震え上がった。グレイの気持ちが収まらず、次の言葉を発しようとした時にルーシィが割って入った。

 

「グレイ、落ち着いて!!」

 

グレイはその後、短く舌打ちを零すと、重々しい表情に変わる。

 

「あの四人組、エルザの昔の仲間って言ってた。エルザ自身からも。あたし達だって、エルザの事・・・全然、分かってないよ」

 

グレイはようやく、落ち着き、エルザのことを考え直していた。皆がルーシィの言葉に対し、沈んだ空気になり、全員が黙り込んだ。

 

「!!」

 

その時、いきなり、ナツを看病していたリーナがその場で立ち上がり、驚いた表情で向こう側を見つめていた。

 

「どうした!?リーナ!」

 

「この魔力・・・邪悪な魔力を感じるの・・・」

 

そして、リーナの視線の先には何もない場所で次々に鳥が死に、海へと落ちていく光景があった。その数が10となると、さすがに不思議に思えた。

 

「一体、どうなってんだ?」

 

皆が死にいく鳥を見ていると、船がぐらっと揺れ、水面に視線を向ければ、そこには大量の死んだ魚達が水面上に現れだしていた。

 

「魚もか!?」

 

「ハッピー喜ぶだろうな・・・」

 

いつの間にか、この出来事に勘づいたナツは魚を見て、そう呟いた。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」

 

「グレイ様、あれ!!」

 

突然にジュビアが声を発す。振り向いたグレイはジュビアが人差し指で示した方向に視線を向けた。

 

「あれが、塔ではないでしょうか?」

 

「そうだな・・・」

 

「あれが、楽園の塔・・・」

 

「あそこにエルザさんが」

 

「よし、行くぞ!!」

 

それぞれが楽園の塔へと視線を向けた。そして、楽園の塔へ向かって船は動き出した。

 

 

 

ここは楽園の塔、内部。檻の中で拘束されるエルザの前にはショウが立っていた。そして、檻の付近にはシモンが堂々と立ちはだかっていた。

 

「儀式は今日の夜中だよ、姉さん。それまではここでいてね」

 

「(儀式!!?Rシステムを作動させるのか!!)」

 

目を大きく見開き、エルザは驚いた表情でショウを見つめた。両手首はミリアーナのチューブによって固く縛られ、足が軽く地面に付く程度で吊るされていた。

 

「裏切った姉さんが悪いんだ。こうなるのは当然だよ。ジェラールは怒っている。でも、光栄なことだよ。儀式の生贄は姉さんに決まったんだよ」

 

顔を近づけて、エルザに恐怖を与えるショウはまるで、面白がっている。

 

「楽園の塔のためだからしょうがないよね」

 

ショウはエルザの両手に目を向け、震えていることに気づき、また続けた。

 

「生贄になるのが、怖いの?それとも、ここが・・・あの場所だから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

塔から脱走しよう企み、計画を立てて、決行したエルザ達だった。しかし、見張りに運悪く見つかり、拷問をされていた。

 

「誰だって訊いてんだよ。立案者は・・・」

 

「わた―――」

 

「―――オレだ!この立案者であり、この指揮した!!」

 

エルザが涙を流しながら、自分と主張しようとすると、青髪の幼年、ジェラールが自らが立案者だと言い張った。しかし、男はジェラールを見つめると、こう言った。

 

「ほう・・・。なぁるほど・・・違うな。お前じゃねぇ。そこの女だ」

 

そう言い、指を差されたのは大粒の涙を流すエルザだった。

 

「連れてけ!!」

 

「違う!オレだ!!オレがやったんだ!!エルザは関係無い!!」

 

それでも、ジェラールは必死に自分がやったと言い張った。しかし、その反乱も虚しく男が放った紫色の雷でジェラールは悲鳴を上げた。

 

「うるせぇんだよ」

 

「・・・・・・エルザを・・・放せ!!」

 

脇に挟まれ、段々と遠く離れていくエルザを悔しそうにジェラールは見つめる。エルザは抵抗せずに俯いたまま、涙を堪えていた。

 

「私・・・私は大丈夫。全然、平気・・・」

 

まるでそれは、自分に言い聞かせるようであった。声も小声で泣きながら言っているのが一目で分かる。

 

「エルザ!!」

 

ジェラールが必死に名を呼ぶ。それに対し、エルザは涙を決死に我慢し、満面の笑顔を見せた。

 

「ジェラール言ってくれたモン。全然、怖くないんだよ・・・」

 

「ぅぐっ!!」

 

その言葉に決死に我慢するエルザの感情を読み取り、ジェラールは自分の力の無さに怒りを覚えた。そして、この悔しさを抱え込んだまま、呟いた。

 

「エルザ・・・・・・」

 

そして、今度は悔しさを声に変えて、放った。

 

「エルザぁぁぁあぁぁあぁああ!!!」

 

その声はエルザの耳に悲しげに響き、楽園の塔に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

「あの時はゴメンよ、姉さん。立案者はオレだったんだ。けど、怖くて言い出せなかった。ホント・・・ずるいよね」

 

ショウは自分の情けなさに落ち込むようにエルザに謝罪した。しかし、エルザは話を変えようと試みた。

 

「そんなことはもういい・・・ずっと昔のことだ。お前たちはRシステムで人を蘇らせることがどれほどの危険性を持っているのか理解しているのか?」

 

「へぇ、Rシステムについて分かってるんだ。意外だね」

 

「リバイブシステム・・・」

 

「そう。大勢の生贄と引き換えに一人の死者を生き返らせる。それがRシステムだ」

 

「やっていることが奴らを変わらんではないか!!」

 

「違うね。ジェラールの考えていることは違う。ジェラールがあの方を復活させる時、世界は生まれ変わるんだよ」

 

そういいながら檻を出ていこうとするエルザはその隙を突き、ゆっくりと足を使って身体を浮き上がらせ、逃げ出そうと試みていた。そんな事に気づかないショウは次々に語り続ける。

 

「俺たちは支配者となる。全ての者に悲しみ、絶望、恐怖を与えてやろう!!!そして全ての者の自由を奪ってやる!!!俺たちが世界の支配者となるのだァ!!!」

 

狂ったショウは可笑しな事を叫び始め、やがて、その表情は狂った邪心を持った悪者へと変貌していた。

 

「な!!?」

 

いつの間にか、拘束されていた身を解放し、エルザはショウの懐まで屈みながら疾走していた。そして、縛られている両手でショウの顎に両拳を炸裂させた。

 

「ぐぁ!!!」

 

ショウは檻の柵に後頭部を打ち付け、その場に倒れ込んだ。

 

「ショウ・・・」

 

エルザは昔の無邪気で楽しそうにするショウの笑顔を思い出した。そして、今のショウとその表情を比べ合わせる。すると、無意識に両肩が震えだした。

 

「何をすれば、ここまで人は変わる・・・」

 

そして、エルザは颯爽といつのも鎧に換装し、血相変えて、怒りの籠った表情を露わにした。

 

「ジェラール・・・貴様のせいか」

 

 

 

「ジェラール様・・・先程、申し上げた通り、エルザが脱走しました」

 

「ふっはははは!!やはりエルザは良い女だ。そうでなくは面白くない。俺が勝つか、エルザが勝つか。Rシステムの余興だ。せいぜい、暴れるがいい。楽園ゲームでな・・・」

 

 

 

「見張りが多いな・・・」

 

「突っ込むか?」

 

「ダメよ」

 

「見つかって逆に返り討ちにされちゃうわよ」

 

「だったら、負けなかったからいいんだろ?」

 

「バカね。ハッピーやエルザが危険になっちゃうわよ」

 

楽園の塔に上陸したものの、一歩も近づけないナツ達は討論を繰り返していた。なぜか、そこにはジュビアの姿はなかった。

 

「そりゃ、分が悪いなぁ・・・」

 

「不味いわね」

 

「やっぱ、突っ込むか?」

 

皆が悩んでいる時だった。水中から現れたジュビアが水中から地下へと続くルートを見つけたと言った。

 

「よっしゃ!ナイスだ、ジュビア!!」

 

一旦、陸に上がったジュビアは距離とかかる時間を説明した。

 

「10分くらいなんともねぇよ」

 

「楽勝だぜ」

 

「ムリムリ・・・」

 

「できるわけないでしょ」

 

「では、これを被ってください。水中でも息が出来るよう酸素を閉じ込めてありますので」

 

「おぉ・・・」

 

「スゲェなお前。つーかお前誰だ?」

 

ジュビアは自分の存在感の無さに落ち込む。ナツは悪気がなかったようにジュビアの出した水塊を被った。

 

「んじゃ、行くか!」

 

そう言って、全員が海の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「ここがあの塔の地下か・・・」

 

「エルザとハッピーはどこだぁ?ここか?」

 

「なわけないでしょバカ!」

 

ナツが岩を退かしながら探す姿にリーナがツッコミをいれる。

 

「それじゃあ、こっからは慎重に行くか」

 

「グレイ様の言うとおりです・・・」

 

「そうね。見つからないように救出しないと・・・」

 

「よし、じゃあ、もう突撃していいんだなぁ!行くぞ、コラァア!!!」

 

いきなり、ナツが火を体全体で噴きながら颯爽と駆けていく後ろ姿を見ながらリーナが叫ぶ。

 

「話、聞いてたぁ!!?」

 

「バカやろッ!!勝手に行くな!!くそナツ!!!」

 

そして、呆気なく騒がしいナツは見張り役の兵に。

 

「侵入者だぁぁぁぁ!!!」

 

見つかってしまった。

 

「やば!」

 

「最悪・・・」

 

「もう、こうなったら・・・」

 

「やるしかねぇな!」

 

駆け抜けていくナツの背中を迷惑そうに見ながら、それぞれ戦闘態勢に入る。

 

「うぉぉおおおお!!!」

 

「な、なんだ貴様!!?」

 

「アァ!!?教えてやんよ!!!」

 

身体中に火を纏い、壁を伝いながら兵達の立っている橋に降り立った。そして、大声で叫びながら兵が群がるところに突っ走る。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ!!!バカヤロウ!!!」

 

叫びながら兵達に向かって強烈な火拳を叩き込む。

 

「ぐあぁっ!!!」

 

「うわぁ!!」

 

その衝撃で橋は崩壊し、一気に崩れ落ちる。大きな爆発と崩れ落ちる橋の轟音が響き渡ったのを境に、他の者も戦闘を始めた。

 

「開け!!処女宮の扉!!バルゴ!!」

 

「お呼でしょうか?姫・・・」

 

呼び出したバルゴはあっという間に兵達をなぎ倒していく。

 

 

 

「なっ!!?コイツぅ!!」

 

水流斬破(ウォータースライサー)!!!」

 

「ぐぅあぁ!!」

 

作り出した水の刃が兵達を切り裂く。

 

 

 

「シャイン!!」

 

「ぅごぉお!!」

 

リーナが作る光の弾が兵達を吹き飛ばす。

 

 

 

「アイスメイク・戦斧(バトルアックス)!!」

 

「がぁあぁぁ!!!」

 

グレイの巨大な斧が兵達を薙ぎ払う。

 

「オイてめぇ、四角はどこだ!!」

 

「通じる訳ないでしょ・・・」

 

「粗方、片付いたな」

 

兵達は呆気なく倒されていき、ほぼ全滅だった。しかも経った数分しか経っていなかった。

辺りは騒然とした空気から束の間、静寂とした空気へと一変し、静まり返っていた。

 

「…んだ?」

 

微かな異音に気付いたナツがその音源の場所へと目を向ける。

上へ続く階段が現れ、まるで、誘っているかのような雰囲気を醸し出す。

全員がその階段へと視線を送り、疑問符を浮かべる。

 

「上へ来いってか?」

 

「どうする?」

 

「んだよ、決まってんだろ!行くぞ!!!」

 

ナツの一言で全員が上る決心を決め、上へと上り始めた。

 

 

 

* * *

 

 

 

上の階へと着々と足を進めるナツ達は現在の階を駆け回っていた。

 

「どこだぁあ!!四角野郎!!!」

 

「うるせぇ、黙れクソ野郎」

 

その大声に察したグレイがナツを押し止める。その光景を一瞥しながら、ルーシィとリーナは辺りの捜索を行っていた。

 

「本当、ナツってば…」

 

「でも、今更、隠れたところで無意味じゃ」

 

互いに思案しながら、捜索を行うものの進展する気配はなく、途方に暮れていた。その時…

 

「侵入者だぁぁ!!!」

 

流れ込む様に人の大群が押し寄せてきた。各々、武器を掲げ、大声を上げながら、此方へと接近してくる。ルーシィとリーナは短い怯えた悲鳴を上げながら、後退する。一方は対照的でナツとグレイ、ジュビアは前へと出た。

ナツは拳をパキパキ、と鳴らし、戦闘態勢に入る。

 

「懲りねぇ奴等だな」

 

拳に炎を纏ったその時、大群は一斉にして崩れ、あっという間にその人数は減少した。

まるで、川に別の激流が押し入った様だ。束の間、兵は全滅し、そこに立っていたのは剣を流れる動作で振るう―――

 

「「エルザ!!」」

 

「良かった…」

 

「か…か、かっこいい」

 

其々がエルザの登場に感想を述べ、喜びの声を上げた。一方ではエルザはその皆の登場に驚愕し、僅かに立腹している。

 

「お…お前たち、何故ここに…!!?」

 

「何故もクソもねぇよ!!このまま、引っ込んでられるかってんだ!!」

 

グレイが唐突にそう、声を荒げた。全員、一致の意見である。

 

「帰れ」

 

エルザは冷たくそう言い放つと冷徹な光を瞳に湛えた。剣先を此方に向け、もう一度、言い放った。今度は圧倒的な威圧感が込められて。

 

「ここはお前たちの来る場所ではない」

 

「ふざけんなっ!!ハッピーが捕まってんだ!!ぜってぇ、助けるぞ!!!」

 

「ハッピーが?…ミリアーナか」

 

ナツはエルザの呟くその人物名に耳を傾け、気迫の篭った雰囲気で問う。

 

「ソイツはどこだ!?」

 

だが、エルザは答えることなく俯き、無視していた。分からない、そんな雰囲気がナツに伝わる。

 

「ハッピーが待ってる!!今行くぞォ!!!ハッピー!!」

 

そういうとなりふり構わず駆け出した。すると、その後ろ姿を見兼ねたリーナが追う様に駆け出した。

 

「待ちなさいよ!!ナツ!!!」

 

怒鳴りながら、その後を追う。二人、この場からあっという間に居なくなってしまった。

 

「追うぞ!!!」

 

グレイも続けざまに大声を放つ。だが、

 

「いっ!!?」

 

「駄目だ。帰れ」

 

グレイの眼前には剣が突き出され、その行動を征した。グレイは仰け反る様に後退し、剣を突き出すエルザを睨む。そして、次の言葉を待った。

 

「お前たちを巻き込みたくない。すぐにここを離れろ」

 

背を向け、そう言い放つ。勿論の事、総員、納得するハズなど微塵もない。

 

「巻き込みたくねぇだぁ?ふざけた事言ってんじゃねぇぞ。さっきのナツを見ただろ」

 

「そうだよ、エルザ一緒じゃなきゃ!!」

 

「私達、力になるよ?どんなエルザだって受け入れられる…絶対に」

 

ルーシィのその優しい声にエルザは首を横に振る。背を向けたまま、弱弱しい声で、再び…

 

「か……帰れ…」

 

と、告げる。

 

「…らしくねぇな。いつものエルザじゃなきゃ、こっちが戸惑うじゃねぇか」

 

と、軽口をたたきながら、グレイは頭を掻く。その後、漸くエルザが振り返る、その眼に涙を浮かべながら。

 

「エル…ザ……?」

 

涙を拭いながら、「すまん」と告げると顔を上げた。

 

「この戦い…勝とうが…負けようが…私は表の世界から姿を消すことになる」

 

「えっ…!?」

 

「どういう事だッ!?」

 

唐突な言葉に総員は驚愕の言葉を無意識に発し、声を荒げていた。表の世界から姿を消す、つまりは死。

 

「これは、抗う事の出来ない事。私が存在しているうちにすべてを話しておこう」

 

エルザは意味不明な微笑みを一度だけ浮かべ、全てを露にし、語り始めた。

 

「楽園の塔。別名Rシステムは死者を蘇らせる魔法の塔を建設しようとしていた。勿論、非公認の作業だった為、各地から集めた人々を奴隷としてこの塔の建設にあたらせた。幼かった頃、私もその一人だったのだ」

 

そして、全てを露にするのだった。エルザを連れ去った四人組が、この塔の主であるジェラールが、奴隷であった事を語り、エルザを庇い、罰を受けるジェラールを助けるために反乱を起こしたことを語り、それを境にジェラールが悪に染まり、楽園の塔の完成と共にゼレフを蘇らせると告発したジェラールの事を語った。

 

「私は非力だった…」

 

「そんな事ないよ」

 

「あぁ。そんな苦しい現実を仕舞い込む程の心を保てるのはスゲェ事だぜ」

 

「すまん」

 

そういいながら、流れそうな涙を再び拭うとエルザは表情を一変させた。

 

「私は……ジェラールと戦うんだ」

 

そうして、一つの頑固たる猛然な決意を言い放ったのであった。暫くの間、受け入れがたい現実に皆は呆然とし、言葉を失っていた。

 

「おい、ゼレフってのは…」

 

「ああ、魔法界の史上、最凶最悪と言われた伝説の黒魔導士ゼレフだ。動機は分からんがな…」

 

「そうか…」

 

そして、再び一同は言葉を失った。重く沈んだ空気に口を閉ざされ、沈黙が流れた直後であった。これを機会にしていたかの様に突然にして声を発した影が現れた。

 

「……ど…ど…どういう事だよ?」

 

突如として現れたのは四人組の一人であるショウという少年であった。その表情には驚愕と激怒が込められている。

 

「俺たちの事を何も知らないくせに!!!八年もかけてこの塔を完成させた!!!ジェラールだけが俺たちの救いだったんだ!!!八年だ!!!ジェラールの為に!!!」

 

悲痛な叫びが断末魔の様に轟く。やがて、その声は衰え、更に弱々しいものへと変わった。

 

「その…その全てが嘘だって?正しいのは裏切り者だった姉さんで、間違っているのは救世主だったジェラールだと言う…のか……?」

 

「…そうだ」

 

エルザではない、その声はまたショウの出てきた曲り角から聞こえてきた。そこにはあの巨漢の男がいた。

 

「…シモン」

 

僅かに涙を浮かべながら、振り返ったショウがその巨漢の男にそう呟く。シモンはその場で重々しく頷き、一同に敵ではないと語る。

 

「全員騙されていたんだ。オレはそのフリをしていた。迂闊に動く事はできない、機が熟すまでは。オレは初めからエルザを信じてる。八年間、ずっとな」

 

シモンはそういいながら照れ臭そうに告げると、頭を掻いた。呼応する様にエルザが歓喜の笑みを浮かべ、シモンへと返した。

 

「なんで……何で、俺は姉さんを信じ…られなかった。何でみんなは…信じられる…」

 

そう言いながら、膝を折り、その場に泣き崩れる。そんなショウを全員が同情し、視線を投げかけた。

 

「くそぉおおぉおおぉぉっ!!!」

 

ショウの悲痛な叫びが木霊する。

 

「何が真実なんだ!!?俺は…俺は…俺は!!!」

 

やがて、困惑し、怒り狂い、心が狂い始めていた。

 

「今すぐに全てを受け入れるのは苦しい。私はこの八年間、お前たちを忘れたことなど無い。私は非力だ、何もできなかった、すまなかった」

 

そう謝罪し、泣き崩れるショウを優しい温もりで包み込んだ。

 

「だが、今ならできる。そうだろ?」

 

シモンが近寄り、そう問いかける。エルザは立ち上がり、その勇ましい背中を向けながら、頷いた。



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第20話: 孤独な鎧

ほぼ同時刻、とある部屋でナツとリーナがハッピーの捜索に掛かっていた。

 

「ネコだらけじゃない」

 

周囲にはネコの被り物やネコの肉球などといった猫に関する物ばかりが溢れた場所であった。

 

「ここにハッピーが…ってねえ?聞いてる?」

 

そう呟きながら、辺りを見回すリーナは背後の存在が居なくなったことに気が付く。振り返るが先程までいたナツの姿はなく、再び周囲を見回す。

 

「あははっ!面白れぇなぁコレ!!」

 

「何やってんの!!?」

 

当のナツはネコの被り物を被り、騒ぎ遊んでいた。

 

「早く取りなさいよ」

 

真剣に探していたリーナの心をぶち壊しにしたナツ。そんなナツに怒り気味の声をぶつけた。しかし、ナツは止まる事を知らない。

 

「ほら、お前もコレ被ってみろ」

 

などと言って、猫耳型のカチューシャをリーナに無理に被せた。白色の猫耳カチューシャを被せられたリーナはついに怒鳴りつけた。

 

「それ取って、さっさとハッピーを探して!!!まったく…」

 

と、言ってカチューシャを外そうと試みるが、

 

「…あれ?…え?」

 

中々外れないカチューシャに疑問符を浮かべ、少し乱暴に引っ張る。

 

「あれ、どうなってんの!!?」

 

そうやって、悲鳴の様な叫び声を上げるリーナを見兼ねたナツがそのカチューシャを握る。

 

「何やってんだ、こうやって外すんだよっ―――あっ!」

 

乱暴に引っ張ったナツだが、その力量は半端なものではなく、リーナを引っ張ってしまった。抵抗する事無く、ただ悲鳴を上げながら、引っ張られるリーナは体勢を崩し、猫に関する物が溢れる山へと突っ込んでいった。

 

「ちょっ…きゃっ!!?」

 

「おぉぅ…」

 

ナツも引っ張った勢いのまま後ろに倒れ、物の山に埋もれる。

 

「あぁ~いってぇなぁ。何やってんだよ、オイ」

 

そういいながら、立ち上がり、物の山に埋もれるリーナに視線を飛ばす。

 

「いたた…もう最悪…」

 

呟きながら、山から脱したリーナは頭を抑える。そして、不意にその感触が可笑しい事に気が付く。手に少しの重みが感じられる。

 

「ぷぷっ」

 

隣で口を押えるナツの表情を窺えないものの笑っている事だけはしっかりと理解した。奇妙な重みが残る手へと視線を向ける。そこには…愛らしい肉球があった。

 

「ちょっと、何コレ!!?」

 

手には白い毛に桃色の肉球が付いた手袋があった。しかも、かなり大きい。更に、両手に。

 

「だははっ!!ハッピー驚くだろうなぁ!」

 

「笑ってんじゃないわよ!!アンタのせいだからね!!!」

 

怒鳴り付けるが、その姿では全くもってその怒りが伝わらず、ナツは笑うばかりである。一層の事、殴ってやろう、そう思ったが、この手、この肉球では殴っても無意味だ。取り敢えず、ナツを睨んだリーナは不意に視界に入った男に驚く。

 

「ナツ、後ろ!!」

 

「おぉぉ!!?」

 

訳も分からず、突き飛ばされたナツは無抵抗に転がる。一方、飛び込んだリーナはそのまま、地面に伏した。直前までナツがいた場所を弾丸が飛来する。

 

「っんな!?四角!!」

 

臥したまま、その弾丸を撃ち出した正体を見、すぐさま反応したナツ。それに呼応してリーナもナツから退くと戦闘態勢に入るが、その容姿に違和感を覚える。

 

「うぅ…この手が重い……」

 

「オイ、コラ!!四角野郎!!!」

 

被り物をしたナツはその内から叫ぶがその声は普段よりもかなり小さい。それに、声も少し可笑しい。そんなナツに戸惑う男であったが、すぐに銃口を此方へと向けた。

 

「ネコネコいじめちゃだめぇ~!」

 

だが、そこに猫っぽいの姿をしたミリアーナが割って入り、男の邪魔をする。

 

「ウォーリって男かしら?」

 

「どうでも良い!!黒焦げにしてやる!!!」

 

被り物を被っているせいか、その怒りの形相は全く伝わらないが、両手には炎を纏っていた。

 

「ぅうぉおお!!」

 

ナツの両拳の迎撃であっけ無く二人は巻き込まれ、戦う体力を無くした。

 

「だぁっはっはっは!!!リベンジ完了ー!!」

 

と、叫びながら両腕を上げるナツの背後では臥しながらも銃を構えるウォーリーの姿があった。

 

「ナツ、危ない!!」

 

「んぁ?」

 

銃声。だが、ナツに当たる事は無く、ナツの脇腹辺りをかすめるだけであった。

 

「っべぱっ!!」

 

銃を構えたウォーリーであったが、どこからか飛んできたハッピーがその腕にけりを一発叩き込みソレを阻止する。

 

「「ハッピー!!」」

 

「あい!」

 

ナツとリーナの声に呼応したハッピーが元気よく声をだし、着地する。

 

「ハッピー無事だったのね!」

 

喜びの声を上げながら、走り寄るリーナを見掛けたハッピーは後退しながら、口を押え、嫌がらせをする様な目でこちらを見る。不意に疑問符が浮かんだリーナは止まる。

 

「ぷぷ。猫が喋ってる、ぷっ」

 

「笑うな!!ってか、アンタには言われたくないわ!!!」

 

ハッピーの冗談らしい言葉に豪快なツッコミをした後、猫耳カチューシャを外そうと努める。一方のナツも被り物を乱暴に引っこ抜くとこうしていた。そんな二人のお似合いの姿を見ながら、笑うハッピーであった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「やはり、ゲームはこうでないとな」

 

そういいながら、駒を巧みに動かすのは青髪の男、ジェラールであった。楽しげなその姿を見た男が口を開く。

 

「ジェラール様、はやくエルザを捕らえ、儀を行いましょう。もう遊んでいる場合じゃありませんぞ」

 

「…ならば、髑髏会、特別遊撃部隊・三羽鴉(トリニティレイブン)。お前たちの出番だ」

 

そういいながら、三人の其々、梟、女性、男性を指名する。ジェラールはまた駒を動かし始めた。

 

「ゴォトゥヘェェェル!!!地獄だ!!最高で最低の地獄を見せてやるぜぇぇえ!!!」

 

「ホーホーホホウ」

 

「散りゆくは…愛と命の…さだめかな。今宵は…祭りどす」

 

そうして、三人の暗殺ギルドの者達が動き始めたのだった。

 

 

 

* * *

 

 

 

時はかなり過ぎ、今に至る。

 

「クソ!!何がどうなってやがる!!!」

 

突如として現れたジェラールの思念体が告げた言葉、『楽園ゲーム』。

楽園の塔への扉が開けば、ジェラール達の勝ち。つまりはエルザをジェラール達が捕らえ、生贄に捧げれば良いのだ。

それを阻止するのが、此方の目的。敵は其々三体の戦士を配置させた、と言う。つまりはその三人を倒さなければジェラールを倒す事はできない。

さらに、ルールが追加され、評議員がすべて消滅させる究極の破壊魔法、エーテリオンをこの空間に落とせば、この空間の人や物は全て消滅し、引き分けに終わる。

このゲーム開始直後、ショウがエルザをカードへと閉じ込め、一心不乱に駆け出していた。それからだ。歯車が狂い始め、全員は其々、別れ、三人の戦士の撃退に掛かるのだった。

少しずつ頭の整理をし終えたグレイは真っ直ぐ続く道を眺めた。

 

「遠いな、クソ…」

 

と、吐き捨て再び走り出した。

 

 

 

* * *

 

 

 

「何が何だか分からねーがよぉ!!ジェラールって奴倒せばいいんだろ!!」

 

塔の付近を上昇しながら、そう叫ぶナツに返答したハッピーは遥か上空を見上げる。薄暗い上空を見上げていたハッピーは不意に頂きがあるのか、疑った。

 

「ハッピー一気に最上階まで行くぞッ!!」

 

と、叫び、足裏から膨大な炎を噴き、加速する。それに対してハッピーも加速する。

 

「あいさー!!」

 

すると、横目で見た小さな光に気を取られたナツは其方へと視線を飛ばす。ハッピーも伝心されたかのように止まり、その方向を見つめた。ナツは目を細め、その光を凝視する。

 

「…何か来る」

 

急に張り詰めた空気は漂った。その光は段々と此方へと向かってくる。次の瞬間、奇声を上げた光が急速し、眼前に接近していた。

 

「ホーホホウ!!」

 

「うぐっ!?」

 

唸りながらも掠る程度でその未確認飛行する者を避けた。そして、再び振り返ってその正体を見止めようとしたが―――

 

「―――ホホウ!!」

 

既に後ろに回り込まれ、気が付いたら、顔面に拳を喰らっていた。

 

「うごぉわっ!!!」

 

その拳に吹き飛ばされ、あっけなく楽園の塔へと続く穴へと入って行ったのであった。その後を加速して追う者もその穴へと入って行った。

 

 

「ハァ…ハァ!」

 

階段を登っているシモンは響く程の音に驚きながら、その音源に目を向ける。

 

「うぐぐ…」

 

巨大な人が四人ほど入りそうな鳥かごの上で唸り声を上げるのは桜色の髪をした男、ナツであった。その後ろには青い猫が翼を広げて佇んでいる。

 

「何だ、今のは…?」

 

「サラマンダー!!!」

 

「あぁ?何だお前?」

 

シモンはナツに向かってそう叫ぶと状況を説明する。

 

「ホントなんだな?」

 

「あぁ」

 

シモンが自らを味方だと説得させ、ナツもそれに根拠もなしに面持ちだけで認める。

 

「何だジェラールってのは?」

 

「奴は評議員のジークレインの弟だ。評議員がエーテリオンを使う事などとっくに読んでいただろう」

 

「な~んだ、兄弟喧嘩か?」

 

ある意味、変なところで納得したナツに声を掛けようとしたが奇妙な異音に耳を傾けたナツ、シモン、ハッピーは会話を停止した。

 

「ホホウ」

 

鎖に着地したのは、見た目は梟、声も梟の奇妙な奴であった。

 

「コイツは…!!」

 

「正義の名のもとにお前を成敗してくれる!!!ジャスティス戦士、フクロウ参上!!!」

 

と、言いながら訳の分からないポーズを決め付けた。

 

「鳥だぁ!」

 

「鳥が正義とか言ってんぞぉ!オイ!!」

 

そんなフクロウを見たシモンは急いで魔法を唱えようとするが、一瞬にして後ろへと回り込んだフクロウに驚愕する。

 

「なっ…!!」

 

「ジャスティス…ホーホホー!!!」

 

訳の分からない奇声を上げながらも光の纏われた拳をシモンへと衝突させ、吹き飛ばす。シモンは悲鳴を上げる暇もなく、倒れ込んだ。

 

「これほどとは、暗殺ギルド、髑髏会…」

 

「暗殺ギルド!!?」

 

シモンの小さな声にハッピーは過剰に反応し、そのフクロウともう一度見つめる。

 

「ただ人を殺すだけのプロ…!!!逃げろ、サラマンダー戦っちゃいけねぇ!!!」

 

シモンの必死な叫び声にナツは佇むばかりである。その隣では驚愕ばかりするハッピーがいる。

 

「ギルドってのは俺たちの夢や信念の集まる場所だ。くだんねぇ仕事してんじゃねぇよ!!」

 

怒りの形相になったナツは両手に炎を燃え上がらせ、戦闘態勢に入る。シモンの叫ぶ声も耳に届かず、ナツはフクロウを睨み付けた。

 

「気に入らねぇ!!気に入らねぇからぶっ飛ばす!!!かかってこいやぁ、鳥ィ!!!」

 

「この世には生かしておかねぇ悪がいる!!噴射!!!」

 

と、言って噴射機から魔法陣が発生し、フクロウの身体を空中へと飛ばした。

 

「うぐっ…火力なら負けねぇぞコラァァア!!!」

 

腹部にぶつけられた巨大な拳を両手でつかみ取り、鳥かごへと投げつける。そうして、自分は他の鳥かごへと着地した。

 

「また噴射!!」

 

鳥かごにぶつかったにも関わらず無傷でこちらへと突っ込んでくるフクロウを見たナツは直ぐに跳んだ。だが、跳んだ際に足を掴まれる。

 

「なっ!?」

 

そのまま、捕まれた状態で飛行し、その勢いのまま、鳥かごに衝突させられる。

 

「うぐぁっ!!」

 

土煙の中から落下してきたナツは鳥かごへと落ち、土煙と共に唸り声を上げる。

 

「いってぇな畜生!」

 

臥しながらも負けじと言葉を発し、立ち上がる。その全身には浮かび上がる血管が見られた。

 

「うおらぁああ!!!」

 

そして、鳥かごを淡々と伝いながらフクロウへと飛び出していった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「次はフクロウVSナツ・ドラグニル。そして、ルーシィ&ジュビアVSヴィヴィルダス。……うーむ、ナツとリーナにここに来てもらいてぇんだが……」

 

そう呟きながら、チェス盤に淡々と駒を並べていく。リーナをこの最上階へと送り込み、赤い竜の駒、つまりはナツとフクロウと対峙させる。そうして、楽しげな笑みを浮かべて顎に手を当てた。

 

「ナツ・ドラグニルは少し分が悪いか。しかし、天の魔力を見られるだけでも充分か…」

 

そう言って駒から目を離し、静かに入り口へと目を向けた。

 

「来るがいい」

 

その小さな声は反響する事無く静かに消えていったのだった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「何するんだお前ぇ!!」

 

ハッピーの怒鳴る声が反響した。ハッピーとシモンが目の当たりにしているのはナツがあのフクロウに食われている場面である。既にナツの身体の上半身は口内にある。やがて、ナツの姿は口内へと消えた。

 

「ああぁぁあ!!!ナツがぁぁぁあ!!!」

 

「サラマンダぁぁあ!!!」

 

フクロウは小さく溜息をつくと共にハッピーとシモンへと目を向ける。壮絶な殺気を込めながら。

 

「ナツを返せぇ!!」

 

そう言いながら、翼を生やし飛び掛かるハッピーであったが、不適な微笑みを浮かべるフクロウの魔法、凄まじい炎によって呑まれた。

 

「うわぁああ!!」

 

「これは…!!サラマンダーの魔力を消化して取り込んだのか!?」

 

片手に炎を纏い、佇むフクロウは次なる敵、シモンへと殺気を送る。

 

「トドメェ!!!」

 

そう叫びながら、また莫大な炎を手から発射し、シモンへと飛ばした。

 

「ぐっ!マズイ!!」

 

両腕を交差し、防御の体勢に入るシモン。その眼前を人影が飛来する。

 

「アイスメイク・(シールド)!!!」

 

氷の盾が瞬く間に造られ、炎と共に消える。そして、蒸気から現れたのは上半身を露出したグレイであった。

 

「グレイ!!」

 

ハッピーがそう叫び、シモンが驚く。

 

「仲間か!助かった…」

 

「テメェ、エルザを探していたんだじゃねぇのか!!?」

 

「コイツに足止めをくらっている…!」

 

グレイはフクロウへと振り返り、睨み付けた。

 

「新手のご唐来ホウ!」

 

「お前はエルザを探しに行け。コイツは俺が……」

 

そう言って、鳥かごを飛び降り、フクロウが佇む鳥かごへと降り立ちながら、

 

「片づける!!!」

 

と、言い放ったのだった。

 

「分かった!ソイツの腹の中にはサラマンダーがいる!!気を付けろ、奴はサラマンダーの魔法を使うぞ!!」

 

「グレイ、ナツを助けてぇ…!!」

 

泣き叫ぶハッピーを背中に向け、グレイは怒りの形相を浮かべた。そして、静かに子供の頃を思い出す。

 

 

 

 

 

時はグレイが幼年期だったころ。

 

「うぐぅ…」

 

「だはは、グレイ、またやられたのかぁ!?」

 

「お前も懲りねぇなぁ!」

 

「だぁ!!うるっせぇ!!」

 

グレイのボロボロな姿を見た若いワカバとマカオが笑い合っていた。そんな二人に押し寄り取り敢えず、強引に怒る。

 

「あのグレイをここまでやるんだ、スゲェよなぁ」

 

「未来を背負って立つエルザ様ってかぁ~?」

 

まるで、グレイに嫌がらせをする様に笑うワカバとマカオに更に腹が立ったグレイはつい怒鳴ってしまった。

 

「俺はあんな奴、仲間とは認めねぇ!!!」

 

 

 

 

 

「エルザを…連れて帰るんだァアア!!!」

 

 

 

 

 

黄昏の頃。夕焼けに紅く染まった朱色の柔らかな雲が上空を悠々と浮遊する時刻だ。河原へと来たグレイは橙色に染まる河を見つめていた。

 

「…エルザ?」

 

河を眺め、一人寂しそうな雰囲気を漂わせ、座り込んでいたエルザに急襲を掛けてやろう、と思いついたグレイは颯爽と草原を駆け降りる。その足音に反応したエルザが振り返った瞬間、グレイの心と足が止まった。

 

「ぬぁ……あっ…」

 

夕日が背景に広がり、赤々しく綺麗に輝くというのに、エルザの周りは寂しそうでなにより、辛そうであった。何粒か目から離れた涙さえも赤々しくと染まっていた。そう、エルザの眼には孤独な涙が伝っていたのだ。

 

「いいだろう、かかってこい」

 

「い、いやぁ…あの…」

 

「どうした、もう降参か?」

 

泣いていたという事実に戸惑うグレイはあまり上手に言葉が見つからず、その場に茫然と佇むだけであった。その頬は夕日に染められ、赤らめたのではなく、素直に恥ずかしい、そう思えたからであった。

 

「何でいつも一人なんだよ」

 

「ひ、一人が好きなんだ」

 

静かに漂う緊迫した空気に二人は気まずくなる一方だが、グレイは意を決したかのように目を見開いた。

 

「じゃ、じゃあ!!何で一人で泣いてんだよ!!!」

 

そういって、歩み寄り、豪快に乱暴に、恥ずかしそうにエルザの傍へと座り込んだ。喉かに流れる朱色の流麗な河を背景に二人は静かにその場で佇んでいたのだった。

 

 

 

 

 

時は戻り、現在に至る。

 

「おらぁあ!!」

 

フクロウとグレイの拳が衝突し、ただならぬ衝撃波を辺りに散らす。グレイが押し負け、違う鳥かごへと着地した。だが、グレイの雰囲気は決して押し負けた様な雰囲気をしていなかった。

 

「退けぇ!!今、エルザは一人何だ!!!孤独なんだ!!!」

 

グレイの辺りを冷気が漂い始め、やがて、魔法陣が腕と肘に現れる。そして、氷の鋭利で先鋭な刃が発生した。そして、鳥かごを蹴り、一気に跳び上がる。そのまま、フクロウへと切迫した。

 

「食らえ!!氷刃・七連舞!!!」

 

肘と腕に付けた氷の刃で連続的にフクロウを切り裂き、凄まじい衝撃を与え、吹き飛ばした。膝を折り、顔を俯かせ、両腕を広げて、着地する。そして、その氷の刃は砕け散った。辺りにはまだ冷気が漂う。結果を見上げる様に顔を上げ、フクロウを睨む。

 

「ホォオォオオ!!!」

 

対するフクロウは断末魔を上げ、空へと舞い上がり、冷気を漂わせながら、ナツを口から吐き出した。そのまま、鳥かごの柵を破り、中へと入った直後、その鳥かご共に奈落の底へと沈んでいった。

 

「やったぁ!!!」

 

ハッピーの喜びの声が上がる。直後、鳥かごが地面と衝突した轟音が鳴り響く。佇んだままのグレイは何かを思考していた。

 

「(アイツは…いつも孤独で…心に鎧を纏い…泣いていたんだ…)」

 

直後、ハッピーのナツぅ、という声が聞こえる。

 

「エルザは妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいなきゃならねぇ!!涙を流さないために!!!」 

 

グレイの咆哮の様な叫び声が木霊したのであった。



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第21話: Rシステム完成

「もうナツったら…いっつもこうなんだから……」

 

階段を駆け上がりながら、ぶつぶつと呟くリーナの息は乱れつつあった。そして、塔の頂きを見上げようと視線を飛ばすが、頂点は見えそうになかった。

 

「はぁ…何処まで続くのかしら」

 

溜息の混じりの呟く声は反響する事無く消え失せていった。

 

「オイ!!」

 

聞き慣れぬ声が急に此方へと向かって飛ばされた。不思議と自分に向けられたと分かったリーナは驚きながらも振り返る。

 

「な、なに!?……アンタは確かっ!!」

 

突如、現れたシモンに対し臨戦態勢に入ったリーナだが、その背負われている者に目を引かれ、自然と力が抜けていた。

 

「ま、待て!!俺は味方だ!!」

 

必死に説明をするシモンに取り敢えず、納得したリーナは不安を抱えながらも近寄って、並んで走り出した。

 

 

 

* * *

 

 

 

「ジェラァァァアアル!!!クソッ、クソッ、くそぉお!!!」

 

大音声を響かせながら、駆け抜けるのは金髪の男、ショウであった。怒りの形相を浮かべ、一心不乱に駆け抜けていた。

 

「騙しやがって…!!姉さん傷付けやがって…!!!」

 

怒りとは別に悔しさから目に涙を浮かべ、次々に言葉を吐き出している。止まる気配は無い。

 

「ショウ…!!落ち着けっ!!私をここから出せっ!!」

 

と、ショウの胸のポケットから聞こえる声はエルザの声であった。カードの中に閉じ込められたエルザは必死に出せ、と要求するがショウは聞く耳を持たなかった。

 

「大丈夫だよ、姉さん。姉さんは絶対、俺が守る!!!」

 

頑固な決意が揺らぐ事は無く、ショウは駆け抜けるのみであった。すると、一変変わった、場所へと辿り着いた。桜色の花びらが舞い降り、鳥居が何重にも重なっている通路であった。しかし、ショウは気にした様子もなく駆ける事を辞めない。

 

「っ!!?」

 

そして、漸く目の前の敵に気付き、足を止めた。ゆっくりと近づいてくる桜色の髪をした和風という雰囲気を纏った女性が口を開いた。

 

「うちは斑鳩(イカルガ)と申します」

 

対してショウはカードを指の間に挟み込み、構えを取った。

 

「退けよ…」

 

斑鳩(イカルガ)は敵対している様子もなく、悠長と佇む。苛立ちを覚えたショウはカードを投げ、魔法陣を発生させ、カードを強靭な武器へと化した。

 

「てめぇなんかに用はねぇ!!!」

 

そう叫んでカードを投げる。だが、悠長と佇んだ状態から一瞬にして構えを取った斑鳩(イカルガ)はあっという間に把持していた刀でカードを全て切り裂く。

 

「バ、バカな…」

 

「うちに斬れへんものなんかあらしまへんで」

 

突然、ショウは倒れ、訳も分からず、痛み始めた。斑鳩(イカルガ)の魔法でショウの神経を斬り裂いたというのだ。ショウが倒れた際にポケットからエルザが入ったカードが舞う。

 

「いやぁ、そんなとこにいはりましたん?エルザはん?」

 

「ショウ!!!私をここから出せ!!」

 

「大丈夫だよ、姉さん。そのカードはプロテクトし―――なっ…!!?」

 

次の瞬間、斑鳩(イカルガ)が一太刀振るっただけでカードの中のエルザは剣を突き立て、衝撃を防いでいた。

 

「空間を越えて…斬ったのか!!?」

 

すると、その言葉に頷く様子も見せず、斑鳩(イカルガ)は柄に手をやり、無数の斬撃を繰り出した。

 

「ぐああぁぁぁっ!!!」

 

「くっ…!!!」

 

ショウはその斬撃を真面に食らい、エルザは辛うじてその剣で防ぎきっていた。

 

「姉さん…」

 

突如、カードが消え、光の球体からエルザが現れた。

 

斑鳩(イカルガ)とか言ったな?貴様に用は無い、消えろ」

 

「挨拶代わりどす」

 

刹那、言葉の直後にエルザの鎧に亀裂が奔り、瞬く間に砕け散った。右腕に痛みを覚え、直ぐに抑える。すると、エルザの目つきが一瞬で変わった。

 

「そうそう…その目」

 

(姉さんが本気になった…!!)

 

ショウは置物に背中を預けるのみで2人の睨みあいを見届けるだけであった。

 

「御出でやす」

 

無数の斬撃が繰り出され、異様な風切り音が舞う。エルザの放った無数の剣が斬り裂かれ、1つとして当たっていない。一方、敵は真っ赤な炎をエルザに浴びせ、凄まじい衝撃を与えた。

 

「後悔するがいい、換装!!!煉獄の鎧!!!」

 

跳躍し、大剣を豪快に振り落す。瞬く間に衝撃波が轟き、水がはじけ飛ぶ。しかし、その凄まじい衝撃も斑鳩(イカルガ)の刀によって流されていた。通路が砕け、爆発的な轟音が響く。大剣を刀で伝いながら、接近してきた斑鳩(イカルガ)は華麗に宙へと舞い上がり。

 

「ぐあぁぁあっ!!!」

 

エルザの鎧をいとも簡単に砕け散った。

 

「うちの刀には……ん?」

 

すると、振り返ったエルザは再び換装した。その行動にあきれ顔になったのはエルザ以外のショウと斑鳩(イカルガ)である。

 

「な、なんだ!?あの鎧…いや、装束か…?」

 

「何の真似どす?」

 

包帯を胴囲に巻き付け、長い赤い装束を穿いただけの鎧ではない装束。両手には2つの直刀が握られていた。

 

「うちも舐められたもんどすなぁ」

 

ただの布だと確信した斑鳩(イカルガ)は不敵な微笑みと共に告げた。エルザは無言のままである。

 

「どうしたんだよ…姉さん!!姉さんはもっと強い筈だろォ!!?」

 

「私は強くなど無い…強くなんか…。弱いから何時も鎧を纏っていた。ずっと…脱げなかったんだ」

 

「…たとえ相手が裸やろうとうちは切りますえ?」

 

「鎧は私を守ってくれると信じていた………だが、それは違った」

 

「何が…どす?」

 

一呼吸を置いたエルザの目つきが変わる。

 

「人と人との心が届く隙間を私は鎧でせき止めていたんだ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)が教えてくれた。人と人との距離はこんなにも近く…」

 

そして、言い放った。

 

「温かいものなのだと…」

 

そして、体勢を整え、構えを取ると、宣告する。

 

「もう迷いはない。私の全てを強さに変えて―――討つ!!!」

 

静寂が舞い降りる。この緊迫した空気をさらに強める静寂は長いものであった。そして、

 

「ハァ!!」

 

床を蹴り、駆け出した。そして、2人は一瞬にしてすれ違った。直後、旋風が巻き起こる。そして、一瞬の時を終えて―――エルザの片方の刀が砕け散った。

 

「ふっふっふ…勝負あり」

 

次の瞬間―――

 

「―――お見事どす」

 

と、言い残し、斑鳩(イカルガ)は倒れ込んだ。

 

 

 

* * *

 

 

 

「さっきウォーリーから通信があった。倒れているルーシィとジュビアを発見し、倒れている三羽鴉(トリニティレイブン)の1人を見つけたらしい。そこにショウも合流したそうだ。ショウの通信によると、斑鳩(イカルガ)をエルザが倒したそうだ。エルザと俺たち以外は全員、塔から脱出に成功したようだ」

 

駆けあがりながら、説明をしているシモンに耳を傾ける、ナツとリーナ。

 

「残る敵はジェラール1人。そこはエルザが向かっている。あいつは全ての決着を一人でつけようとしているんだ。あの2人には8年にわたる因縁がある。戦わなければならない運命なのかもしれない。だが、ジェラールは強大過ぎる…頼む、エルザを助けてくれ」

 

「やなこった」

 

ナツは不貞腐れたように手を後頭部に回し、そう言う。

 

「エルザの敵はエルザが決着をつけりゃあ良い。俺が口をはさむ問題じゃねぇんだよ」

 

「そういう事…」

 

リーナもナツの言葉に同意する。檄を飛ばすシモンに対して、2人はかなり冷静であった。

 

「いや…エルザではジェラールに勝てない」

 

「あぁ!!?」

 

「そんな筈ないわよ!!!エルザさんの力がどれだけ―――」

 

「違う!!!力や魔力の話じゃねぇんだよ!!」

 

更に会話は悪化し、やがて、駆け上がる足は止まっていた。

 

「エルザは未だにジェラールを救おうとしているんだ。俺には分かる、アイツにジェラールを憎む事はできないから」

 

ついに2人は黙ってシモンの次々に出される言葉に聞き入っていた。

 

「ジェラールは狡猾な男だ、エルザのそういう感情も利用してくる。状況はさらに悪い。評議員がここにエーテリオンを落とそうしている事は知ってるな。勿論、そんなものを落とされればここの者は全員、全滅だ。ショウの話ではあと…10分か……」

 

「何ッ!!?」

 

「嘘っ!!?」

 

シモンは振り返り、頂上を見上げた。

 

「エルザの事はお前たちが良く知っているだろう?まさかとは思うが…エーテリオンを利用して、ジェラールを道ずれにする気かもしれん」

 

「確かに…エルザさんなら…」

 

ナツの歯を食いしばる音だけが静かに聞こえた。無意識にリーナは駆けあがっていた。ナツは魔力を震わせ、大きく雄たけびを上げる。

 

「エルザはどこにいるんだァアアア!!!」

 

 

 

* * *

 

 

 

一方、王座の間では激しい攻防が繰り広げられていた。エルザとジェラールによるものである。

 

「ハァアアア!!!」

 

エルザの全撃を全て躱したジェラールはエルザの足元に奇妙な魔法を出現させ、エルザをいともたやすく閉じ込めた。

 

(みんな…)

 

閉じ込められたエルザは全員の優しい言葉をふと思い出していた。すると、自然に力がこみ上げ来て―――魔法を切り裂いた。

 

「んなっ!!?」

 

あっという間に距離を詰め、エルザはジェラールの腹部に一撃を与える。そして、一瞬にして馬乗りになり、その首元に剣を突き立てた。

 

「お前の本当の目的は何だ?私とて、8年間、何もしていなかったわけではない。Rシステムについて調べていた。このRシステムは完成などしていない。魔力が足りていないハズだ」

 

「……」

 

ジェラールは黙ったまま、エルザの言葉を聞き流していた。その表情から目的は読み取れない。

 

「…お前は何を考えているんだ?」

 

「エーテリオンまで、あと3分だ…」

 

不適な微笑みと共に黙り込んだ状態から言ったのはそれだけであった。

 

「ジェラール!!お前の理想はとっくに終わっているんだ!!!このまま、死ぬのがお前の望みかっ!!!」

 

自然とジェラールの手首を握る力が強くなり、ジェラールはその痛覚に顔を顰める。それから、少し静寂が続いた後、ジェラールが口を開いた。

 

「…俺の身体はゼレフにとり憑かれた。何もいう事を聞かない、ゼレフの肉体を蘇らせるだけの人形なんだ」

 

「…?」

 

エルザはその言葉にただ沈黙を続け、つぎの言葉を待った。

 

「全ては始まる前に終わっていたんだ。Rシステムなど完成するハズがないと分かっていた。しかし、ゼレフの亡霊は俺を止めさせなかった。もう…止まれないんだよ。エルザ…お前の勝ちだ…ここで終わらせてくれ」

 

その言葉に動揺を隠せないエルザは束の間、戸惑う。そして、剣先が震え始めた。それとほぼ同時に地鳴りが生じ始める。エルザはジェラールの言葉を無視し、

 

「私が手を下すまでも無い。この地鳴り、既に衛星魔法陣(サテライトスクエア)が上空に展開されている。終わりだ、お前も…私もな」

 

刀を捨て、そう言葉を吐き捨てた。その表情はあまりに悲しみに浸っていた。

 

「…不器用なやつだな」

 

「お前もゼレフの被害者だったのだな」

 

エルザの言葉に少しの安堵と安らぎが感じられる。

 

「私もお前を救えなかった罪を償おう」

 

「俺は………救われたよ…」

 

あまりに小さな声は地鳴りによって消え失せた。そして、互いに抱きしめ合い、その時を待った。

 

「「………」」

 

 

 

「うっ…もう間に合わない…!!!」

 

「エルザァアァァア!!!」

 

 

 

地鳴りは激しくなり、やがて、海の波が荒れ狂い始めた。この空間の全ての大気が恐怖する様に震動し、辺りを揺るがす。まるで、この空間のみが別空間の様である。そして、エーテリオンが落とされた。

 

 

この時、エルザは気付いてはいなかった。ジェラールの思惑を―――邪悪な心の笑みを――――。

 

 

「…終わった」

 

 

そして、全てが光に消えた。

 

 

 

* * *

 

 

 

エーテリオンが落とされたほぼ同時刻、ERAでは次々に大声が飛び交い、辺りは騒音に包まれていた。

 

「エーテリオン、目標に命中!!繰り返す、エーテリオン、目標に命中!!!」

 

「破壊は成功か!!?確認急げ!!」

 

「エーテルナノ融合体濃度上昇。異常気象が予測されます!」

 

何人もの評議員の人達が慌ただしく動き回り、次々に言葉を飛び交わせる。そんな現状を柵に手を置き、不安を積もらせながら見下ろす老人、オーグは片手で鼻翼をつまんでいた。

 

「あの塔に何人の者がいたのか……」

 

目を塞ぎ、そう呟くオーグは少なからず俯いた。

 

「ゼレフの復活を阻止したのだ。その為の犠牲ならやむを得んよ」

 

同じく議員のミケロはそう言うが、オーグの表情が晴れる事なかった。増々、悪化している、そうも思えた。

 

「我々のした事をどう正当化しようと……犠牲者の家族の心は癒されんよ」

 

その頬には汗が伝っていた。罪悪感に浸りながらも動くことなく見守るだけであった。

 

 

 

* * *

 

 

 

場所は変わり、エーテリオンが落とされた場所。

 

「え…?生きてる…?」

 

自分の両手を見、そう呟いたエルザは呆然と座り込む。一方、抱き合っていたハズのジェラールは既に立ち上がり、不適な笑みを浮かべていた。

 

「クク…あははははははっ!!」

 

「…どういう事だ?」

 

「ついに…ついにこの時が来たのだァ!!!」

 

高笑いしながら、そう叫ぶジェラールは考えられない程の達成感に満ちていた。

 

「おまえ…」

 

それに対して、エルザは全く状況が掴めず、動揺を隠しきれない。その後、ジェラールの笑い声は止んだ。

 

「くくく、驚いたかエルザ。これが、楽園の塔の真の姿、巨大な魔水晶(ラクリマ)なのだ。そして、評議員のエーテリオンにより、27億イデアの魔力を吸収することに成功した!!!ここにRシステムが完成したのだっ!!!」

 

未だにイマイチ状況が飲み込めないエルザはただ動揺し、少しずつ頭の整理をする。騙された、それだけはしっかりと理解していた。

 

 

 

* * *

 

 

 

「目標健在!!何だ、あれは…巨大な魔水晶(ラクリマ)!!!」

 

一方、映像に映し出された気の遠くなる様な高い塔に眺め入り、更に慌ただしい驚愕と興奮がERAでは竜巻の様に巻き起こっていた。

 

魔水晶(ラクリマ)がエーテリオンの魔力を吸収したァ!!?」

 

「何じゃと!?」

 

この時、全員は完全に完敗したのだ。全てはジェラールの思惑通りに…未だに計画は崩れてはいなかった。刻一刻とゼレフ復活へと進展しているのだった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「だ…騙したのか……」

 

漸く状況が飲み込め、再びジェラールは邪悪に染まっていたのだと、感じる。いや、我に返っただけのなのかしれない。

 

「かわいかったぞ、エルザ」

 

突如、後ろから声を掛けられ、エルザはその声に聞き覚えがあったことで、更に驚き、振り返る。

 

「ジェラールも本来の力を出せなかったんだよ。本気でやばかったから、騙すしかなかった」

 

「ジークレイン!!?」

 

本来ならば、ERAに滞在している筈のジークレインがこの場にいる、それは驚愕を超えたのものであった。

 

「な…なぜ貴様がここに!!?」

 

「初めて会った時の事を思い出すよエルザ。マカロフと共に始末書を提出しに来た時か、ジェラールと間違えてオレに襲い掛かって来た。双子を聞いてやっと納得してくれたな。しかし、お前の敵意はむき出しになっていたがな…」

 

「当たり前だ!!貴様は兄のくせに、ジェラールのやろうとしている事を黙認していた!!それどころか、私を監視していた!!!」

 

気が動転するあまり、つい怒鳴ってしまうエルザの息が乱れつつあった。

 

「そうだな、そこはオレのミスだった。まぁ、しかし、お前に出会ったしまったこと自体が1番の計算ミスだな」

 

「…ならば…空の運命(スカイデスティニー)の飛行船が墜落した件を改竄し、誤報したのは…貴様かあぁッ!!?」

 

瞬く間にエルザは怒りの形相へと変わり、2人を睨み付ける。だが、敵は不敵な笑みを浮かべるだけで答えようとしない。興奮するエルザは更に怒鳴りつけた。

 

「貴様“等“がやったのか!!!答えろ!!!」

 

「貴様…“等”?クク、知らんなぁ…」

 

その態度、表情、言葉。明らかに自分達の仕業だと示していた。エルザは更に拳を強く握り締めた。

 

「あぁ、そうだ。だが、お前の言葉には少し誤解があるみたいだな」

 

ジークレインがそう言葉を吐く。

 

「…誤解?どういう事だ?」

 

冷静ではなくなった、エルザの言葉には焦りが見えた。

 

「貴様“等”ではない…」

 

ジェラールがそういうと、エルザの表情が驚愕に染められた。

 

「まさか…!!?」

 

「そう、オレ達はひとりの人間だ。最初からな」

 

そう言うと、ジークレインだった筈の人物は透明化し、ジェラールへと融合する様に消えていった。

 

「思念体!?」

 

「やっと気づいたか。そう、ジークは俺自身だよ」

 

「バカな…!!!ならば…」

 

「ククク、察しが良いな。かりそめの自由は楽しかったかエルザ」

 

邪悪の笑みを浮かべ、圧倒的な殺気を放ちながら、ジェラールはこう言い放った。

 

「全てはゼレフ復活させる為のシナリオだった」

 

と。

 

 

 

* * *

 

 

 

その頃、ERAでは。

 

「な、何だこれは!?」

 

施設の至る所に無数の亀裂が奔り、施設全体が崩れ始めていた。そこで誰かが呟く。

 

「建物が急速に老朽化している?失われた魔法(ロストマジック)“時のアーク”じゃと!!?」

 

「あかん!!!崩れよる!!」

 

誰かが叫ぶ。

 

「レイジ老師!!」

 

また誰かが叫ぶ。

 

「うわあぁあ!!」

 

「ひいぃぃいい!!!」

 

「ひゃあぁあ!!」

 

幾つもの絶叫が響き、建物が崩れ落ち、全て崩壊する。瓦礫が地響きを立て、柱が倒れ込み、砂埃が大量に舞い上がる。柱が柱と激突し、壁を潰す。やがて、建物は完全に崩壊を遂げていた。

 

「あの方の理想(ゆめ)は今ここに…」

 

その言葉を呟く女性、ウルティア。この老朽化を発生させた張本人であり、黒幕であり、失われた魔法(ロストマジック)である“時のアーク”の使い手であるのだ。

 

 

 

「叶えられるのです」



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第22話: 天に舞う竜

楽園の塔付近の海に浮かぶ一艇の船は不特定に揺れていた。そのしかし、その船はひっくり返り、その船の周囲には人はいない。まだ微かに波が荒れていた。

 

エーテリオンが落とされた。この周辺全てが光によって包まれ、いつの間にか、巨大な魔水晶(ラクリマ)の塔が出来上がっていた。ジュビアの水によってできた球体の中に避難していたルーシィ達は光り輝く眩しい水晶の塔を目の当たりにし、唖然としていた。

 

「な…何……アレ…」

 

「外壁が崩れて…中から水晶…?いや、魔水晶(ラクリマ)か!?」

 

「ねえ、無事…だよね。ナツも、エルザも、リーナも、シモンって人も……」

 

爆発的な衝撃波に巻き込まれた現状からして、中には凄まじい被害が出ていると考える事が妥当だ。ルーシィの不安も当然の事である。

 

「Rシステムだ」

 

先程まで黙って見ていたショウが唖然とした表情で呟いた。

 

「何!?完成したのかぁ!!?」

 

「って…事は、まさか、ゼレフが復活するの!!?」

 

「作動してる」

 

ミリアーナが座り込んだまま唖然としながら、その塔を眺め入っていた。

 

「分からない、オレ達だって作動してるのは初めて見るんだ。でも…間違いない。何かが起こるんだ」

 

ショウの『何かが起こるんだ』その言葉に全員の不安が積もり、更なる沈黙が続いた。

 

(ナツ…リーナ…エルザ…無事だよね?)

 

ルーシィは胸元に手を当て、そう祈るのみであった。その手の甲に印された妖精の尻尾(フェアリーテイル)の象徴であるマークが刻まれていた。まるで、そこへと願いが込められ、集まっている様であった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「ジェラァァアアァル!!!」

 

場所はうつり、塔の内部。その頂上。エルザの吼えた大声が反響し、大きな剣が振り落された。しかし、大きな剣は水晶を破壊するのみで空を切っただけである。目標のジェラールは既に回避を終え、手を翳していた。

 

「うっ…!!?な…何だこれは!!?」

 

エルザの右肩甲骨部分が急に痛み出し、やがて、自由を奪われる。大きな剣は手から離れ、別空間へと戻った。

 

拘束の蛇(バインドスネーク)。さっき抱き合った時につけておいたものだ」

 

エルザの肩甲骨につけられた禍々しい紋章はやがて、エルザの身体中に這い回り、呪術の様にエルザの実動きを封じた。

 

「体が…動かん!!」

 

「Rシステム作動の為の魔力は手に入った。あとは生け贄があればゼレフは復活する。もうお前と遊んでる場合じゃないんだよ、エルザ。この魔水晶(ラクリマ)にお前を融合する。そして、お前の体は分解され、ゼレフの体へと再構築されるのだ」

 

そう言うと、身動きの取れないエルザを片手で突き飛ばし、魔水晶(ラクリマ)の一部へとその身体を差し出した。水晶に呑まれていくエルザは必死に絶叫するが何の得も無い。

 

「偉大なるゼレフよ!!!今ここに、この女の肉体を捧げる!!!」

 

まるで両腕で世界の規模を教えるかの様に広げ、そう大音声を響かせた。その後、全体が揺れるのではないか、と思えるほどの膨大な魔力が動き出す。

 

「ジェラール……」

 

段々と体が水晶へと呑まれていくエルザは抗うのを止め、目に涙を少なからず浮かべた。

 

「ジェラァァアルゥゥ!!!」

 

まるで、断末魔の様な叫び声が木霊する。だが、ジェラールの表情は一変もしない。

 

「おっと」

 

突如として姿を現したのは――――ナツであった。呑まれるエルザを引っ張り出した。

 

「ちっ、食らえ!」

 

ジェラールが突然、手を翳し、魔力をかき集めた光の球体を放った。衝撃波が辺りに散る。砂煙が舞う。

 

「危ないわね」

 

砂煙から姿を露にしたのは手を広げ、目前に天使の様な翼を重ねた魔法を創り出したリーナであった。重ねられた二枚の翼でジェラールの魔法を防いだのである。

 

「エルザさんは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士です」

 

「渡さねーぞ」

 

「ナツ…リーナ」

 

ナツはエルザを抱えたままその場に座り込むとエルザを床に伏させ、その表情をうえから静かに見下ろした。一方、リーナはジェラールと対峙している。

 

「な~にしてんだよ。早く帰って仕事行かねぇと今月の家賃払えねぇぞ」

 

とナツは言う。その後、ルーシィが、と付け足した。エルザは一瞬、安堵と安らぎの笑みを浮かべると共に頷いた。

 

「ス…スマン。体が動かなくて……」

 

胡坐をかきながら、聞くナツの表情が一瞬変ったかと思えばいきなり、「ほ~う」と言うなり、エルザの脇をくすぐり始めた。

 

「や…やめっ」

 

か弱い声が静かに聞こえる。ナツのくすぐりによって零れた声である。その行動をリーナが言で静止させると共に気を取り直したエルザが言う。

 

「ナツ…リーナ。今すぐここを離れるんだ」

 

「やだね。お前が無理なら代わりにオレがやってやっからさ」

 

「そーゆーこと。因みにオレじゃなくて私達ね」

 

と、リーナが背を向けながら付け足す。

 

「よせ…相手が悪い。お前はアイツを知らなすぎる。

 

「知らなきゃ勝てねぇモンなのか?」

 

「さぁ、やってみれば分かるんじゃない?」

 

すると、エルザの左目が潤いはじめ、ついには涙を流した。そのエルザの顔はあまりにも不思議で幻想的で、なにより、辛かった。普段見せるあの勇ましい威圧はもうここにはない。か弱い不憫な儚いものに過ぎない。ナツの表情が一瞬、変わる。

 

「よっ」

 

「な…何を…」

 

「エルザ、オレもおまえを全然、知らねぇ」

 

エルザの顎を自分の肩に乗せ、抱き上げるとそのまま、自分に凭れかかせたままそう言い始めた。その言葉に疑問を抱いたエルザが言葉を発しようとした時。

 

「けど勝てる!!!」

 

「がっ!!」

 

そう叫ぶと何とエルザの腹部に拳を一撃喰らわせたのだ。たった一撃でエルザは気絶し、ナツはエルザを再び寝かせる。

 

「噂以上の傍若無人ぶりだな」

 

「反論できないけど…」

 

と、リーナが微かに呟くがそれは全くもって二人の間には聞こえてはいない。

 

「エルザが…泣いてた」

 

「私は泣いていたエルザさんなんか見たくない。強くて格好いいいつものエルザさんが大好きなんだ」

 

「凶暴なら凶暴で格好いいなら格好いいで強いなら強いでいいじゃねーか。それをテメェはぶち壊した」

 

「分かってるわよね?」

 

二人の間に僅かながら殺気が漂う。だが、ジェラールが怖気づいた様子は一切ない。

 

(悪い夢)が覚めた時…」

 

「いつものエルザでいてほしいから…」

 

「私が!!!!」

 

「俺が!!!!」

 

二人の呼吸、感情、目的全てが調和する。

 

「「戦うんだ!!!!」」

 

言い放った二人の言葉は更なる威圧を生み出し、一斉にジェラールへと圧し掛かる。だが、一切の反応も見せないジェラールは挑発する様に手招きし、こう告げる。

 

「面白い。見せてもらおうか、ドラゴンと天空神(ゼウス)の力を」

 

次の瞬間、鐘も撞鐘もないが瞬く間にナツが駆け出し、その後をリーナが即座に追い始めた。静かな激突であった。だが、決して聴覚には聞こえない興奮が互いに衝突し、ただならぬ威圧感を放ち合っていた。その威圧感はこれから起こる物凄まじい人智を超越した戦いになる事を静かに物語っていた。

 

 

 

 

 

 

第22話

§天に舞う竜§

 

 

 

 

 

 

「うぉおぉぉおおぉっ!!!」

 

一瞬にして距離を詰めるナツが雄叫びを上げる。その後をリーナが魔力を高めながら必死に駆け出す。ナツの前髪が向かい風で逆立ち、距離を増す。右手に炎を纏い、一気に殴りかかる。

 

「らぁ!!」

 

だが、その拳は空を切り裂いた。しかし、直後を追い詰めていたリーナがジェラールの腹部へと接近し、両手をその腹部へと押し付けた。両手に光が集中する。

 

星屑(シャイン)!!!」

 

かき集めた光を玉へと変形させ、無距離から放つ。腹部へと炸裂した光の玉をジェラールを後退させる。ジェラールが直ぐに顔を上げるが、目前にはリーナの姿がなかった。

 

「ん…?」

 

「うぅぁああ!!」

 

懐へと入り込んだナツは跳躍し、その勢いを足に乗せて蹴り上げる。勿論の事、ジェラールは重力に逆らい、宙へと上がる。即座に地面へと水晶の床へと踏み込んだナツが一気に宙へと飛ぶ。拳を振り下ろし、地面へと叩き付けた後、顎へと拳を激突させる。

 

「だぁっ!!」

 

再び宙へと舞い上がったジェラールのさらに上へと跳び上がったリーナは両手をジェラールへと伸ばし、標準を定め、両手に魔力を集めた。光が渦巻き、集結する。

 

星屑の砲撃(シャイン・シュート)!!!」

 

光の球体―――先程放った球体を上回る大きさの光の球体が手から離れ、大砲の如く撃ち出された。ジェラールとリーナの直線上にいたナツに被害が及ぶと思ったが、ナツはいなかった。既に移動している。これも、信じられる者同士ができる連携である。

 

「まだだァ!!!」

 

ナツが咄嗟に飛び込み、ジェラールの腹部へと拳を突き出す。更に脚、拳、肘、頭で激烈な追撃を繰り出し、徐々に押していく。そして、大きな動作を加えてナツが動く。

 

「火竜の翼撃!!!」

 

両腕の炎を翼に見立てて、ジェラールへと一撃をくらわす。更に。

 

「と」

 

両脚に炎を纏う。左足の炎を燃え上がらせ、その勢いで跳躍、直後、舞い上がった状態から右足を思い切り振り落した。

 

「…鉤爪!!!」

 

全くもって素早い攻撃である。瞬く間にジェラールは水晶の床へと転がる。ナツはその姿を捉えながら、叫ぶ。

 

「リーナ、行くぞォ!!!」

 

「うん!!!任せて!!!」

 

互いに魔力を高めだし、ジェラールを視界に捉える。狙いを定め、神経を研ぎ澄ませる。そして、全てを爆発させる。

 

「火竜の咆哮!!!」

 

天穹の魂抱擁(スピリット・レイ)!!!」

 

リーナの創り出した無数の光り輝く天の魂がナツの物凄い程に砲火した炎を飛来する。その量は増し、やがて、その閃耀までもが炎を光らせた。やがて、光り輝く紅と金の混じり合った炎がジェラールを呑み込んだ。物凄い衝撃波が散り、爆煙が舞う、だが。

 

「それが本気か?」

 

ほぼ無傷のジェラールは屑を払い落としながら、そう言い放つ。確かに服は破れたが、ジェラールに傷らしい傷は見当たらない。しかも、服はほぼ自らが破いている。

 

「この手で消滅させちまう前に一度、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)天空神(ゼウス)の破壊力を味わってみたかったんだが……この程度なら怖れるに足らんな」

 

ジェラールは挑発を加えた言葉を放つ。ナツはまんまとその挑発に乗って掛かり、食い付いた。

 

「なんだとォォオ!!!」

 

「バカっ!!!ナツ、止めなさい!!」

 

リーナの静止も無視にナツは一目散に飛び掛かっていく。その動きはあまりにも単調で見切りやすいものであった。

 

「よくも儀式の邪魔をしてくれたな。オレの“天体魔法”のチリにしてやるぞ」

 

直後、ジェラールの全身が黄金の光に包まれた。

 

流星(ミーティア)!!!」

 

次の瞬間―――ジェラールの姿が消えたと思えばナツの背後に回り込み、ナツの背中を殴打していた。

 

「うがっ」

 

即座に振り返ったが、その姿は消えていた。いや、超速で移動している。ナツが驚愕している時、リーナが必死に駆け寄ろうとするが。

 

「えっ!!?」

 

目前に迫っていたジェラールがその勢いを利用して痛々しい膝蹴りを繰り出してきた。顔面にその膝を食らったリーナは悲鳴を上げる暇もなく、少なからず吹っ飛び、床へ横臥した。

 

「うぅっ…!!」

 

「リーナ…ぅぐあ!!!」

 

倒れ込むリーナに向けて心配したナツだが、腹部に数発蹴りを食らって吹っ飛ぶ。更に頬に拳を数発食らって追撃を受け、よろよろと後退する。心配している暇などない。

 

「ヤロォ!!!」

 

ナツががむしゃらに殴りかかったが、ジェラールは悠々とした表情で避け、後ろへと回り込んで後頭部に蹴りを入れる。

 

「くそ!!速すぎる!!!」

 

「目で追っちゃいけないわ!!!」

 

「あぁ!!」

 

ナツは神経を研ぎ澄まし、目を閉じる。集中する為である。一方のリーナは魔力を蓄積し、その時を待っていた。

 

「臭い…感覚…音…動きの予測…集中!!!」

 

段々と呟いたナツが駆け出しながら、視覚以外の五感を使い、敵を見つける。

 

「集中」

 

ナツの頬に汗が伝う。嗅覚、感覚、聴覚が現実と合致する。後ろ。

 

「そこだ!!!」

 

「今っ!!!」

 

リーナもナツの声と視線に合わせて、その方向へと光の球体を撃ち出す。そこには僅かにしか見えないが邪悪に微笑むジェラールの姿があった。当たった、と思ったが。

 

「まだ速くなるのか…!!?」

 

「嘘!!そんな…!!」

 

「お前たちの攻撃など二度と当たらんよ」

 

そんな声が辺りから何度も反響する様に聞こえる。超速で移動している為、そう聞こえるのだ。

 

「ぐあぁぁああっ!!!」

 

「きゃあぁああっ!!!」

 

ジェラールは台風の風の様にナツとリーナの周りに常に動き回り、激しい猛攻を繰り出す。二人の悲鳴が木霊する。

 

「とどめだ。お前たちに本当の破壊魔法を見せてやろう」

 

上昇しつつ、そう言い残したジェラールは更に遠くの夜空へと飛び上がる。そして、ピタッと上昇を止め、両手をナツとリーナへと添える様に伸ばす。

 

「七つの星に裁かれよ」

 

「マズイ…!」

 

「うぐぅうあぁ…おりゃぁ!!」

 

必死に動作でリーナを抱え上げ、ナツがリーナを投げ飛ばす。リーナは従うままにその場を離れ、手を伸ばしながら直前までいた空間に叫ぶ。

 

「ナツぅぅうう!!!」

 

七星剣(グランシャリオ)!!!!」

 

直前までいた空間に七つの光が降り注ぐ。強大な爆発と共にリーナの悲鳴は掻き消され、爆風が襲う。ナツの悲鳴すら聞こえない。爆風に吹き飛ばされたリーナは床を転がり続けた。

 

「隕石にも相当する破壊力を持った魔法なんだがな、よく体が残ったもんだ。それにしても少し派手にやりすぎたか。これ以上、Rシステムにダメージを与えるのはマズイな。魔力が漏洩し始めている。急がねば……なあ、エルザ」

 

そう言うと、着地したジェラールは倒れ込むエルザへと目を向けた。近寄ろうとする、直後、叫び声が反響する。

 

「許さない!!!」

 

「なっ!!?」

 

いつの間にか、倒れたはずのリーナが切迫し、強大な魔力を集結させていた。この距離では避けるどころか、防御も間々ならない。

 

「ハアァァァアアアア!!!」

 

リーナの全身へと光が集結する。黄金の耀きを放ち、強烈な閃光へと化す。眼を開いてはいられない、とジェラールは腕で目を覆い、堪らず目を瞑る。魔力が激昂し、水晶の床が小刻みに震え出した。

 

「三大天空魔法陣」

 

詠唱が続く。リーナの目前に巨大で複雑な黄金の魔法陣が三つ重ねて展開する。そして、魔力が爆発的な上昇を遂げる。

 

星月夜の秘劔(スターライトセイバー)!!!!」

 

「ごはッ…ああぁぁあっ!!!」

 

三大の天空魔法陣を貫いた巨大な閃光する剣が凄まじい衝撃と共にジェラールへと突き抜けていく。明るい光を螺旋状に纏いながら、風を貫き抜け、大幅に水晶で出来た床を削り取っている。直後、巨大な幾つもの突起のある水晶へと衝突し、強烈な衝撃波を撒き散らしながら、大量の塵共に魔法は止んだ。

 

「ハァ……ハァ…ゼェ…ハァ……」

 

肩で息をする。目立つ傷はないが、かなりの疲労が見られる。覚束ない足取りで立っている。立っているのが、やっとの様子であった。

 

「くく…流石は天空神(ゼウス)の力と言った所だな」

 

煙から現れたのは口角から流れる血を拭くジェラールであった。目立つ創痍はその体にはない。

 

「…だが、その魔力。制御しきれていない様だな。その証拠にオレにそんなにダメージはない。だが、貴様の魔力は膨大に減少している」

 

「ハァ……まだ…くぅうぅ!!」

 

膝を折り、手を付いたリーナは必死に戦意を見せる。その表情は衰えない。だが、体力にも限界というものがある。気力で無限になるなど不可能なのだ。

 

「ハァ…フゥ……まだ戦える!!!」

 

「ふっ…もう貴様に用は無い。消えろ」

 

そう呟くと、ジェラールは素早い手捌きで詠唱を唱えることなく、魔法を放つ。

 

「あぁあっ!!!」

 

その魔法を真面に食らったリーナは必死に堪えながらも力尽き、意識の途絶が訪れる。その場に力無く倒れ込み、静かに塵を舞い上げた。その後、微動だにしないリーナを認めたジェラールが振り返り、エルザへと向こうとした、その時だった。

 

「うぉおらぁぁあああぁぁあぁっ!!!!」

 

「なっ―――ぐべぇぁ!!!」

 

必死に立ち上がり、一瞬で間合いを詰めたナツの拳がジェラールの頬へと炸裂する。ジェラールは宙へと舞い上がり、激しく回転しながら、水晶の床を転がり滑り、少し大きめの水晶へと塵を舞わせながら激突する。

 

「この塔…つーか水晶か?壊されちゃあマズいんだろ?」

 

塵から立ち上がったジェラールは少しよろめきながら、しっかりとした足取りで立ち上がった。そして、ナツへと目を向ける。

 

「運が悪かったな!!!」

 

「よせ!!!」

 

ナツは思い切りジェラールの想いを踏みにじるかのように床へと拳を叩き付けた。拳には穴が穿たれ、削られる。

 

「壊すのは得意なんだ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士は。序でに言うと、仲間を傷つけられたら、黙っておかねぇ。倍返しにしてやんよ」

 

ナツはそう言い放ちながら、野獣の様な威圧感を常に放ち、立ち上がる。

 

「燃えてきたぞ!!!今まで最高にだ!!!!」

 

「このガキがぁぁぁぁ…」

 

ジェラールの表情が怒りへと変わる。先程までの冷静な雰囲気は無くなっている。完全に怒りの形相だ。

 

「一瞬で終わらせてやる。立ち上がったことを後悔しながら…地獄へ行け!!!」

 

「しぶとさには自信があるんだ。やれるモンならやってみやがれ」

 

互いに強気の発言をぶつける。そして、視線が火花を散らすほどにぶつけ合っていた。沈黙の刹那、ジェラールは魔法を放つ。

 

「つぇあっ」

 

黄金の刃を幾つも放つが、ナツはそれを単調な動作で躱し、側転してまた躱す。ジェラールはその隙を狙って構えを取った。ナツはその光景を捉えている。

 

「来いやぁ!!!」

 

ジェラールはお構いなしに魔法を放つ。電気の様な音と共にナツへと魔法が衝突する。ナツは両腕を交差させ、必死に堪え、やがて。

 

「だぁっ!!!」

 

魔法を気力と力だけで掻き消した。その非常識な行動にジェラールは目を疑う。その頃、エルザが音を聞きつけて起きているのはまだ二人は知らない。

 

「どうした?塔が壊れんのビビッて本気が出せねぇか?ぜんぜん、効かねぇな……」

 

「いつまでも調子に乗ってんじゃねぇぞガキがっ!!」

 

再び魔法が放たれ、ナツを吹き飛ばす。

 

「ぐはぁ」

 

「ナツ!!!」

 

エルザが叫び、ナツが床を転がる。その姿をジェラールは僅かにナツから目を逸らしてエルザへと目を向けた。ナツは転がりながらも器用に少し体勢を立て直す。床を蹴って、僅かに床と自分の間を作った。そして、両手を絡め、1つの拳へと化す。

 

「火竜の…煌炎!!!」

 

攻撃する訳も無く、水晶の床へと強力な魔法をぶつけた。床が豪快に砕け、魔力の漏洩を促す。

 

「あいつ…塔を…」

 

ナツの行動にとうとう激怒したジェラールの顔に血管が浮き上がる。魔法と怒りが膨れ上がった。

 

「貴様ァ!!!許さんぞォ!!!」

 

ナツが立っているのもやっとだと、気付いたエルザは心配の声を心の中で呟く。次の瞬間、自分が僅かだが、風に押されているのに気が付いた。

 

「うわっ」

 

「くっ」

 

影が逆の方向へと伸びていく。何度も不思議で奇妙で不気味な光景である。

 

「何だこの魔力…気持ち悪ぃ!!!」

 

「この魔法は!!!」

 

「無限の闇に堕ちろォォ!!!ドラゴンの魔導士ィィ!!!」

 

突如として叫んだジェラールは魔力を一点に集中し始めた。その時、ある者が駆け出す。

 

「貴様に私が殺せるか!!?ゼレフ復活に必要な肉体なのだろう!!?」

 

「ああ…しかし、今となっては別におまえでなくてもよい」

 

そう言って魔法の進展を促す。ジェラールの頭上には巨大な絶望の塊が仕上がっていた。不気味な雰囲気を放ちながら、邪悪な魔力を生み出す。その巨大な球体には僅かに星の様な光が見えた。まるで、球体の中に宇宙がある様だ。

 

「エルザ!!!退け!!」

 

「お前は何も心配するな。私が守ってやる」

 

そう言うエルザの表情は自信が篭った微笑みだった。だが、ナツにはその表情は窺えない。焦りが増すばかりだ。

 

「やめろォォォォオオオ!!!」

 

ナツの断末魔の様な叫び声が夜空へと舞い上がる。

 

「天体魔法!!!暗黒の楽園(アルテアリス)!!!!」

 

刹那、全てが闇に呑まれた。ナツの断末魔、魔法の轟音、水晶が砕け散る爆音、永遠の一瞬が過ぎた頃、目前に立っていた者に全員が驚愕した。

 

「シモン…」

 

そう―――そこには偉大に立ち塞がり、ナツとエルザを生命の炎を投げ出して、庇う者―――両腕を死に物狂いで広げる―――シモンの姿があった。



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第23話: 覚醒、秘められた真の力

今宵、夜空に星は無く、孤独な月が幻想的に光っていた。月が照らす巨大な水晶は綺麗に反射し、輝く。その頂上に点在する黒い点。2つの点の前に1つの点、それとそこから少し離れたところにまた1つの点が散開している。その周囲は煙に囲まれ、まるで、煙幕の様であった。その黒い点は見え隠れし、その状況を詳しく覗える事はできなかった。やがて、徐々に煙が晴れた。そこには両手を広げ、大きな背中を見せた男、シモンの姿があった。一同はその光景に言葉を失っていた。束の間、シモンはその場に力無く横臥した。

 

「……エル…ザ…」

 

倒れるシモンに駆け寄るエルザ。その左目には涙が浮かべられていた。突如として現れたシモンは2人を庇い、自らの命を投げ出した。そして、そのシモンを軽蔑し、あざ笑うのはジェラールだった。

 

「まだうろうろしてやがったのか、虫ケラが」

 

「…………」

 

ナツはその光景をただ呆然と見届けていた。エルザがシモンに駆け寄り、その首に腕を回して、頭を上げる。だが、その首に力は無く、重々しいままである。

 

「なんでお前が!!!逃げなかったのかシモン!!!」

 

必死に声を掛けるが、返って来る声はない。シモンの顔に生気は消え失せはじめ、力無い声が薄々と聞こえる。覚束ない目は焦点が合っていなかった。

 

「よ…よかった。はぁ……はぁ。いつか…おまえの役…に立ちたか――ゲホッ、ガファ!」

 

その力無き声は激しく咳き込み、途絶えられた。エルザが心配そうに涙を流しながら必死に声を掛ける。まるで、生きろ、そう語りかける様に。

 

「分かった!!!いいからもう喋るな!!!」

 

そんなエルザの声が瀕死状態の為、聞こえていないのか、それとも自分はもう死ぬと覚悟し、言葉を残そうとしているのか、シモンの言葉は続いていた。

 

「お前は…いつも…いつも…優しくて…優しくて……はぁ…ウグゥ、ガハッ!!」

 

その呼吸は荒く困難になっている。声も細く、弱弱しい。既に彼は死を覚悟している。エルザはそれを受け止める事が出来ず、全身を震わせていた。

 

「………………」

 

その後、シモンが声を出す事は無い。

 

「シモン…」

 

ふと、シモンは少年期だったころのエルザの微笑ましい笑顔を脳裏に浮かべた。その笑顔に現在の自分も微笑み、これが走馬灯であることを察した。そして、眼帯の逆の眼から大粒の涙を流し―――

 

(大好き…だった……)

 

静かにその息を引き取った。まるで、最大の幸せをつかみ取った表情でろうそくの火が消える様に目を閉じた。その目はもう2度と永遠に――――開かない。

 

「イヤァァァアアアァ!!!」

 

エルザの凄まじい絶叫が響く。シモンの死がまるで、エルザの声となり、感情となった様であった。

 

「くだらん!!!実にくだらんよ!!!そういうのを無駄死にっていうんだぜ!!!」

 

「シィモォォオオォン!!!」

 

ジェラールの高笑い、嘲笑いがこの頂上に反響し、儚い命を無駄死にと言い付けた。その声は夜空へと舞い上がり、そして、ある男の耳に大いに刺激を与える。そして、その男が束の間、足跡を残して―――消えた。

 

「大局は変わらん!!!どの道、誰も生きてこの塔は出られんのだからなァ!!!」

 

ジェラールの嘲笑う声が有頂天に達する、まさにその刹那。

 

「黙れぇぇ!!!!」

 

燃え盛る炎を拳に纏ったナツが思い切り感情を拳に――ジェラールの頬へとぶつけた。

 

「ごはァ!!」

 

ジェラールは逆らうことなく、吹っ飛び、床を滑る。その口から大量の血が噴き出していた。だが、直ぐに立ち上がり、愕きの光景を目にする。

 

「バキ、ガブ…もしゃもしゃ」

 

喰っていた。食べ物でも炎でもない―――魔水晶《エーテリオン》のカケラであった。

 

「お…お前…何を…」

 

(コイツ…!!!エーテリオンを喰ってやがる!!!)

 

ジェラールの表情が驚愕に染まる。その信じられない光景に驚愕と恐怖を同時に感じ取るジェラール。

 

「オオオオォォォオオォオ!!!!」

 

ナツの雄叫びが木霊する。凄まじい炎が噴き上がり、魔力が衝撃波を撒き散らす。床が砕け、気が震え、水晶を焼く。

 

「アァアッ!!!」

 

叫び声の様な絶叫の様な声がナツの口から吐き出される。ナツは大量の炎を噴出しながら、水晶の床に両腕を思い切りたたきつけた。まるで、衝動的にしている様にも見える。その衝撃が瞬く間にジェラールを襲う。

 

「ごはぁ!!!」

 

「何てバカな事を!!エーテルナノには炎以外の属性も融合されているんだぞ!!!」

 

「がっ…ぐはぁああぁ」

 

ナツの絶叫が鳴り渡る。明らかに苦しみ、明らかに自滅である。それを内心、恐怖から解かれたように嘲笑うのはジェラールである。だが、ナツは一同の予想を超越していた。

 

「なっ!!?」

 

(まさか…ドラゴン!!?)

 

エルザが叫び、ジェラールが内心で驚愕する。

 

「オォオオォォオォオオ!!!!」

 

ナツの体から天に向かって高々と噴出したのはドラゴンの形をした魔力であった。その凄まじい勢いと迫力に皆が言葉を失う。ナツの咆哮はやがて、治まり魔力の暴走も止んだ。束の間、沈黙が流れる。

 

「こいつ…エーテリオンをとり込んで―――ぐほぉぉ!!!」

 

ナツは一瞬で距離を詰め、膝蹴りを放つ。顔面に放ったナツはそのままの状態から片腕を振り落し、ジェラールの腹部へと炸裂させる。そのまま、全力を腕へと乗せ、床を砕く。そのまま、勢いを止めず、大音声を放ちながら、下の階、下の階へと床を砕きながら、降りていく。

 

「お前がいるからァァア!!エルザは涙を流すんだァァア!!!」

 

床を突き破り、段々と勢いよく下っていく。床は粉々に砕け散り、その原型を留めてはいない。魔力の漏洩も更に激しくなっていた。

 

「オレは約束したんだ」

 

そして、ナツは全力の勢いを静めること無く、そういう。そして、もう2度と見ることできない筈のあの太陽に様に明るく温かいシモンの笑顔を脳裏に閃かせた。

 

 

 

 

 

 

『ナツ。エルザを頼む』

 

 

 

 

 

 

まるで、天からの声であった。

 

「約束したんだぁあぁあっ!!!!」

 

その叫び声から更に勢いが強くなっていた。すると、ジェラールが反抗の意思を見せ、叫ぶ。

 

「こざかしい!!!流星(ミーティア)!!」

 

そういうと、ナツの拳から逃れ、空へと逃げていく。その高速を誇り、見下ろしながら軽蔑の笑みを浮かべる。

 

「この速さにはついてこれまい!!!」

 

だが、粉々になった中で人一倍、大きい床の破片を見つけ、その間に入り込む。そして、両脚で両側の大破した床に足を預け、力強く踏ん張る。一瞬、ナツの落下が止まった、と思った刹那―――けたたましい破裂音が聞こえた。

 

「がはぁっ」

 

一瞬の間、ナツはジェラールの腹部へと到達し、その勢いを充分に発揮した一撃を腹部へと炸裂させた。拳がジェラールの腹部へと食い込む。ナツは束の間、あの場所から超速で大破した床を蹴って、上昇し、ジェラールに追いつくという超絶な技を見せたのだ。

 

「バ…バカなっ!!!」

 

再び、頂上の床を突き破り、頂点の階へと到達する。その光景を驚きながら見つめるのはエルザであった。

 

「オレは負けられない!!自由の国をつくるのだ!!!」

 

そう言い放ちながら、ナツの拳から逃れる。その脳裏には酷く辛かったあの少年期の頃の苦しい情景が浮かばれていた。

 

「痛みと恐怖の中でゼレフはオレに囁いた。真の自由が欲しいかと呟いた!!!そうさ…オレにしか感じる事ができない!!!」

 

そう言うと、皮肉で邪悪な笑みを浮かべながら、闇に染まった雰囲気で訴える。ジェラールはただならぬ異常な優越感に浸っていた。

 

「オレは選ばれし者だ!!!オレがゼレフと共に真の自由国家を作るのだ!!!」

 

「それは人の自由を奪ってつくるものなのかァアァアア!!!」

 

そんなナツとジェラールの言葉の競り合いが続く中、床に立ち上がるリーナの影があった。先程までは意識を手放し、気絶していた筈のリーナが気力で吹き返したのだ。そして、そんなリーナは空を見上げ、状況を把握すると、よろよろと歩きながら、エルザへと話しかける。

 

「エルザ…さん。私をあそこまで…飛ばせますか?」

 

「な…リーナか!?大丈夫なのか!!?」

 

「そんな事…言っている場合じゃないんです!!!お願いします!!!エルザさん!!!」

 

が、そんな意志も虚しくリーナがその場に力無く倒れ込む。それに動じてエルザが駆け寄ろうとするのをリーナが手で静止させた。そして、立ち上がる。

 

「私だって…シモンさんと…約束したんだ!!!絶対、守らなきゃいけない!!!」

 

決して揺るがないその瞳。真っ向からその瞳とぶつかるエルザ。そう訴えかけるリーナに圧倒されたエルザは別空間から巨大な剣をとりだした。そして、それを両手で持ち、その先端を床に突き刺す。

 

「分かった!!!私がやろう!!!」

 

と言い放ったのであった。

 

 

 

「くっ」

 

エルザにやられた時の傷が痛みだし、発動し掛けていた煉獄砕破(アビスブレイク)を停止させた。いや、強制的に停止した。

 

「クソォ!!!まだだァア!!!」

 

と、必死に叫びながら、再び詠唱を唱え、がむしゃらに魔力を高めだす。が。

 

「うぎっ…!!?」

 

突如、全身の骨が軋む様な激痛を覚え、体が硬直する。そして、ジェラールが脳裏に浮かべたのはリーナの強大な魔法、星月夜の秘劔(スターライトセイバー)であった。あの時のダメージが今になってジェラールの体に痛感させたのだ。

 

「有り得んのだ!!!こんな事が…こんな事が起こるなど!!!オレはゼレフと共にっ!!自由の国を…!!!!」

 

その時、突如、下から襲い掛かる様な声が聞こえたのだった。

 

「いけぇええ!!!」

 

その声の直後、リーナが超速で上昇し、ジェラールの頭上まで到達した。下を見れば、大剣を振り切った後のエルザがいた。あの大剣に乗せたリーナをここまで飛ばしたというのだ。

 

「有り得なくない!!!ナツとエルザが生きているのもシモンさんの想いが繋がっているから!!!私達がここまで来れたのも仲間の想いが繋がっているから!!!さっきアンタが魔法を発動できなかったのも、私とエルザさんの想いが繋がっているから!!!」

 

そうやって、訴えかけるリーナの声は魔力と同様に増していく。その奥ではナツが水晶を蹴り、此方へと接近していた。

 

「仲間の想いは繋がっているんだ!!!!」

 

「お前は自由になんかなれねぇ!!!亡霊に縛られてる奴なんかに自由はねぇんだよ!!!」

 

その時、ジェラールの目には映っていた。古代、永遠の眠り付いたと記される決して現れる筈のない“竜”を。そして、それを光で包み込み、優しく支える天空の“神”を。

 

「ナツ!!!受け取って!!!!」

 

そう言うと、リーナは手を翳し、ナツへと向ける。その手は少しずつ耀きだし、やがて、大きな光となった。そして、それは偉大な耀きを放ち、別れ、小さな光の魂と化した。

 

「私の全てを込める!!!!天穹の魂抱擁(スピリット・レイ)!!!!」

 

眩い光の魂が其々、展開し、躍動感溢れながら、ナツの周囲を踊り回る。まるで、光の魂は暗澹と横たわる大気を射貫く様に耀きを増した。その光跡は如何にもナツの周りを躍っていた。やがて、光の魂がナツへと染み込み、ナツを光輝させ、筋骨隆々たる腕を伝い、紅焔を纏った隕石の様な握り拳へと蒐集する。紅焔が耀き、黄金となり、金塊の様な揺らめく凄まじい力を秘めた光焔が――――振り落された。

 

「自由を解放しろォォォオオォオオオ!!!!ジェラァアァアアル!!!!」

 

刹那、塔を覆う程の大量の風塵が重々しい響きと共に爆発したのだった。ありとあらゆる物が砕け散り、爆発的な被害を及ぼす。頂上の階はほぼ大破し、無数の瓦礫が飛来し、轟音が鳴り響く。ジェラールは凄まじい速度で塔の芯部分を突き破りながら、塔の中間辺りで大きな爆発を生じさせた。塔の半分は崩壊し、瓦礫の山が残る。風塵により、状況はあまり詳しく覗えない。だが、これだけは確信していたのがある。これはこの光景を目の当たりにしている者全てが悟ったことである――――妖精の尻尾(フェアリーテイル)が勝利したのだ。

 

 

 

 

 

 

『これが滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)天空神(ゼウス)!!!!!』

 

 

 

 

 

 

立っていたのはナツとリーナであった。

 

 

 

――こうして、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の勝利により―――“終わろう”としていたのだった。

 

 

 

 

 

 

第23話

§覚醒、秘められた真の力§

 

 

 

 

 

 

この全ての元凶であるジェラールが崩れ落ちた。そして、ここに妖精の尻尾(フェアリーテイル)の勝利で終わった合図の様にナツとリーナが見合わせ、笑みを浮かべる。すると、突如、ナツは笑みを浮かべながら、倒れ込んだ。

 

「ナツ!!」

 

リーナがしっかりとナツを支えるとエルザが急速に駆け寄って来る。

 

「お前たちはすごい奴だ。本当に」

 

そういいながら、エルザは2人を両腕で包み込み、嬉しさのあまり少しの涙を左目から流した。突然、塔の魔力の漏洩が急速に促される。

 

「!!」

 

「な、なに!!?」

 

エルザが愕き、リーナが言葉を上げる時、既に塔の崩壊が促進していた。

 

 

 

塔の頂きから段々と下に降りていく様に魔力があらゆる方向に噴出しはじめる。

 

「塔が…!!」

 

「何アレ!!?」

 

「ま…まさかエーテリオンが暴走してるのか!?」

 

グレイがそう予測でしかない声を放つ。だが、その予測は明瞭していた。確かに魔力が暴れはじめる様に荒々しく噴き出している。

 

「暴走!?」

 

「元々、あれだけの大魔力を一ヵ所に留めとくこと自体が不安定なんだ」

 

ハッピーが付け足す。その付け足しに更に納得した総員は更なる不安を積もらせた。中の人物達はどうなった、次々に不安が脳裏を飛来した。

 

「誰が助かるとか助からねぇとか以前の話だ。オレ達を含めて………全滅だ」

 

と、グレイが言うと共に塔の崩壊がすぐそこに迫っていた。

 

 

 

「くっ、はぁ…はぁ…」

 

「うぅっ!」

 

エルザはナツを背負い、リーナは瓦礫を跳んで懸命に落下する水晶を避け回った。しかし、互いに息が荒くなり始め、速度も段々と遅くなっていった。

 

「アレ…!?シモンさんは!?」

 

「………中だ」

 

そのエルザの表情には慟哭と罪悪感が混じられていた。助けたかったはずだ。だが、現実を理解し、必死に衝動的な感情を押し殺し、自ら背を向けた。その辛さがリーナには充分過ぎる程に分かっていた。だから、左目を潤わすエルザを盗み見るだけで何も口にはしなかった。

 

「あっ…うわっ!」

 

「リーナ!!うあっ」

 

魔力の爆発的に噴出したせいか、2人の足元が揺らぎ、体勢を崩されて転ぶ。エルザは背負っていたナツを放ってしまっていた。曲がり曲がるほぼ液体状となった水晶を見、エルザが思考する。

 

(器…魔水晶(ラクリマ)をも変形させるほどの魔力か……。想像以上の破壊力を秘めているだな。これでは外に出ても爆発に巻き込まてしまう)

 

エルザは思考の末、怒りを床へとぶつけた。拳を振り上げ、思い切り床へと叩き付ける。

 

「くそ!!!ここまでか!!!」

 

と、叫びながら、放られた安らかに目を閉じるナツの顔を眺めた。すると、後ろから訴えかける様に叫ぶリーナがいた。

 

「諦めちゃ駄目です!!まだ…まだ手はある筈です!!!」

 

「…そうだな。諦めるものか…」

 

と、呟きながらエルザはすくっと立ち上がる。その背中には勇ましいまるで、その姿を見ている者を魅了する何かがあった。

 

(私とエーテリオンを融合できれば、この魔力を操り爆発を止められるか!!?)

 

激しい思考の末、エルザの表情、眼差しが覚悟へと変わった。

 

(これにかけるしかない!!!)

 

「あぐっ」

 

「エルザさん!!?何をっ!!!」

 

リーナは這いながらもエルザの方へと必死に近寄る。だが、水晶が揺らぎ、リーナを転がらせてそれを阻止する。構わず、リーナは力一杯に立ち上がるが、直ぐにその場に膝を折る。そして、リーナの声に気が付いたナツが静かに目を開ける。

 

「うう…ぐぅ。リーナ…スマン」

 

水晶へと手を突っ込んだエルザは痛みをこらえながらも僅かに心にもない歓喜をする。リーナは必死に這い、エルザに死に物狂いで訴える。

 

「エルザ…」

 

「ナツ!!?」

 

「な…何してんだ…お前……体が水晶に…」

 

「ナツっ!!!お願い、エルザさんを止めてぇっ!!!」

 

リーナは涙を浮かべながら、そう叫び、必死に体を這わせる。エルザはその姿を横目で見つつ、ナツへと目を向ける。そのナツは驚愕としていた。明瞭な表情である。

 

「エーテリオンを止めるにはこれしかない」

 

「どういう事だ?エーテリオンを止める?―――っ!!」

 

その瞬間、ナツは辺りが膨大な魔力によって荒れ狂っているという事を初めて理解した。動揺のあまり気が付いていなかったらしい。

 

「じきにこの塔はエーテリオンの暴走により、大爆発を起こす。しかし、私がエーテリオンと融合して抑える事ができれば」

 

「バカヤロウ!!!そんな事したら…お前が!!!」

 

「エルザさん止めてっ!!!嫌っ!!!」

 

「うあっ」

 

必死に痛みに堪えながらもじりじりと体を水晶へと入れていく。その度にエルザは短い悲鳴を上げる。だが、その闘志は揺るがない。

 

「エルザ!!」

 

「お願いだから…やめて!!!」

 

「何も心配しなくていい。必ず止めてみせる…」

 

「ああぁぁあ」

 

エルザの悲鳴がやがて、少しずつ少しずつ大きな悲鳴へと変わる。尋常ではない痛みだと考えられる。

 

「お願いだから……お願い…だから…」

 

リーナはその場に泣き崩れ、顔を両手で覆う。その指の隙間からは涙が零れ落ちていた。

 

「ナツ…リーナ…」

 

すると、半分体を埋め込んだエルザが手を伸ばす。這い動くナツの頬に、泣き崩れるリーナの頬に優しく当てた。

 

「私は妖精の尻尾(フェアリーテイル)なしでは生きていけない。仲間のいない世界など考えられない」

 

優しい言葉を2人は沈黙しながら、聴いていた。這っていたナツは動きを止め、泣いていたリーナは顔を上げた。

 

「私にとって、お前たちはそれほどの大きな存在なのだ」

 

「エルザ…」

 

「嫌ぁっ!!」

 

泣き崩れ、必死に手を伸ばすが、その指に絡まることなく、虚しく離れていく。ナツの手がリーナの手が、エルザの手から離れていく。エルザがこの世から静かに去ろう、としている。

 

「私が皆を救えるのなら何も迷う事はない。この体など…」

 

エルザは親愛なる仲間たちの顔を想起していた。ナツ、リーナ、ハッピー、ルーシィ、グレイ、ジュビア、ウォーリー、ミリアーナ、ショウ、フェアリーテイル………それを最期にし、覚悟と共にエルザは―――水晶の中へと全身を入れ込んだ。

 

「くれてやる!!!」

 

手を大きく広げ、水晶の中へと入り込む。

 

「いやぁああ!!!」

 

「エルザ!!!出てこい、エルザ!!!」

 

リーナが泣き叫びながら、水晶を叩き、ナツが怒り叫びながら、水晶を叩く。だが、エルザは既に水晶の中―――もう死んでしまう運命。

 

「ナツ、リーナ…皆の事は頼んだぞ」

 

そう言うと、エルザは優しくその左目だけに涙を浮かべながら…

 

 

 

 

 

 

『私はいつもおまえたちのそばにいるから』

 

 

 

 

 

 

「エルザ…」

 

「エルザさん…」

 

二人が呟き、大粒の涙を流し、水晶の中で段々と消えそうになるエルザへと潤った眼を向け、叫んだ。

 

「「エルザァァァアァァァアア!!!!」」

 

刹那―――全ては“終わった”



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第24話: 仲間の為に

あの後、エーテリオンは凄まじい暴風と衝撃を放ちながら、その破壊力を見せつけることなく空へと消えた。まるで、竜巻の様に魔力が流れ、束の間、エーテリオンはその場から姿を消失させた。この辺りには海の水が少なくなり、水ばかりが辺りに絶え間なく動いているのであった。そして、残されたものはただ目を丸くし、エーテリオンと共に消えた仲間に想いを馳せ、待機するのであった。

 

 

 

* * *

 

 

 

時は過去へと。鬱蒼と茂る森の中の小屋に1人、難しそうな顔をする女性とその前にまじまじと見られる緋色の髪をした少女、そして、その光景を少し離れたところから見守る小柄な老人がその空間にいた。他に動物らしい動物は存在しない。

 

「酷いキズだねぇ。もう一度見える様にするのは大変だよ」

 

「そういわずに頼むわい。せーっかく、綺麗な顔なのに不憫で、不憫で…」

 

女性、名をポーリュシカといい、有数の治癒魔導士の1人である。もう1人、数少ない聖十大魔導の称号を持つ、小柄な老人、マカロフは同情した様子で緋色の髪をした少女を見つめた。

 

「ちょっと来なさい」

 

「痛っイタタっ…」

 

強引にもマカロフの耳を引っ張るポーリュシカに涙目になりがら、抗うマカロフも虚しく少女から少し離れたところまで連れて行かれる。一方の少女は表情1つ変えずにただ佇み、右眼を覆う眼帯を元に戻した。

 

「大きくなったら手ェ出すつもりじゃないだろうね」

 

その言葉はまだ少し優しいが、その怒りの表情はその言葉に殺意を齎す。

 

「ま…まさかぁ~」

 

「どこの子だい?」

 

「それが、ロブの奴に世話になってたみたいで…」

 

「ロブ!!?アイツ今どこに!?」

 

「死んだそうじゃよ」

 

先程まで冷静に振る舞っていたポーリュシカが興奮したのも束の間、またもや黙り込み、少女を眺め入っていた。同情と不憫という情を込めて。

 

「……」

 

一方の少女は俯くまま、無言でいるのだった。

 

 

 

あれから、数時間した後。小屋へと案内され、言われるがままに静かにし、されるがままに動いていた少女に巻かれた包帯が漸く解かれた。

 

「どうだい?」

 

鏡見れば、先程まで痛々しい苦痛の傷を負った右眼は元の様に戻っていた。まるで、昔の自分と対面したみたいであった。

 

「な…治ってる」

 

「見えるかい?」

 

「はい」

 

と、少女は左眼を閉じ、右眼で再び自分の顔を見直した。治っていた、治る筈がないと思い込んでいた自分の顔が蘇っていた様だ。心の積もった暗雲が静かに晴れ上がっていた。

 

「だったら、さっさと出ておいき。アタシァ人間が嫌いでね」

 

「治ってる…」

 

未だに信じられないのか、ずっと鏡を見つめたまま、感動のあまり涙を流していた―――が。

 

「アンタ…その目…あれおかしいねぇ。片方だけ涙が出てない」

 

その言葉に一瞬だけ言葉を失った少女だったが、急いで本を捲るポーリュシカに向き直り、満面の笑みで応えた。

 

「いいんです。私はもう半分の涙は流しきっちゃったから」

 

数時間前までは無言で一切の表情を変えることなく佇んでいた少女はまるで、別人の様な笑み。その言葉に納得したのかどうかは分からないが、ポーリュシカ一息だけ溜息を吐くと、それ以上は追及しなかった。俯いた表情は微かに暗い。

 

「そうかい。なら出でおいき。そうだ、序でに名前も聞こうか」

 

「はい、いいですよ」

 

そう言うと、緋色の少女は左眼だけに流れた涙を拭い、一度、顔を俯かせ、感動と謝礼を丹精込めた笑顔を創り出し、

 

「エルザです!」

 

と、言い放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

第24話

§仲間の為に§

 

 

 

 

 

 

気付けば、そこは白世界。辺りには何も存在しない。ただ、真っ白な世界。何も無い、白だけの世界。

 

 

『ここは…!!?エーテリオンの中!?いや…違う……もっと温かくて…』

 

 

真っ白な世界に保護色の真っ白なドレスを身に包んだエルザは安らかな眠りから目が覚める。場の状況も分からず、戸惑うエルザだったが、ふと視界に入った足元に広がる光景を見、全てを悟った。

 

 

『そうか…』

 

 

そこには―――全員、黒い服を統一し、静かに言葉を出す事もせず、強い雨に打たれ続け、マカロフを先頭に葬式を行う妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間たちがいた。

 

 

【エルザ・スカーレットここに眠る】

 

 

墓にはそう記されていた。

 

 

『私は…死んだのか…』

 

 

俯いたまま、涙を堪え、強い雨に打たれ続け、微動だにしない仲間たち。その者の前に1人の老人、更にその前には自分の墓があった。華麗で衰えない石彫があり、雨に負けることなく堂々と見えない耀きを放つ。

 

 

「彼女…エルザ・スカーレットは……」

 

 

強い雨に気を向けることなどせず、必死に涙を殺し、感情を殺し、俯いたまま、口を開いたマカロフの声は静かに雨音に混じりながらも反響する。

 

 

「神に愛され、神を愛し…そして我々、友人を愛しておった」

 

 

次々と言葉が雨音に混じりながら、反響する。その声と音以外、1つとして物音も、一声も聞こえる事は無かった。

 

 

「その心は悠久なる空より広く、その剣は愛する者の為に毛深く煌めき、妖精のごとく舞うその姿は山紫水明にも勝る美しさだった」

 

 

淡々と告げられるマカロフの言葉。全てが総員の心に深く、重く、刻み込まれた。

 

 

「愛は人を強くする。そしてまた、人を弱くするのも愛である」

 

 

だが、これを境にマカロフの声が震え出す。このまま、過ぎ去っていいのか、このまま、自分が告げ終われば、彼女は―――本当に二度と―――逢えなくなってしまうのではないか、と。

 

 

「ワシは……彼女を本当の家族の様に………」

 

 

そう思うと、涙が溢れ出し、止まる事を知らなくなった。幸いにも雨が涙を見せまい、と降り続ける。しかし、我が泣けば、皆が泣く。必死に堪えていたのだ、マカロフは感情を押し殺して、最期の言葉を告げた。

 

 

「彼女が…安らかなる事を祈る…」

 

 

直後、評議員の面々が衣装と統一し、罪悪感という雰囲気を漂わせながら、静かに墓へと歩ませた。

 

 

「魔法評議会は満場一致で空位二席の一つを永久的にこの者に授与する事を決定した」

 

 

オーグを筆頭に、それぞれの評議員の者達が現れ、淡々と事を進める。

 

 

「エルザ・スカーレットに聖十大魔道の称号を与える」

 

 

石彫と墓の前でそう宣言したオーグが俯き、祈りを捧げた。それに連れて次々に祈りを捧げる面々―――と、次の主幹である。

 

 

「ふざけんなァァっ!!!」

 

 

一際大きな叫び声が葬式をするこの暗い空間に響いた。その声に全員が愕き、振り返る。

 

 

「なんなんだよみんなしてよォ!!!」

 

 

そこにはいつもの格好で怒号を上げるナツがいた。雨に濡れながらも、震えることなく全員の気持ちを揺さぶる。

 

 

『ナツ……』

 

 

その態度と怒声にエルザが不甲斐ない目線で暴れるナツを見る。

 

 

「こんなもの!!!」

 

 

「よさんかぁ!!ナツゥ!!!」

 

 

ナツが暴れ回り、人々を退けて、飾られた華麗な花々を蹴散らす。そのナツの行動に本心では思い切り同意したい。だが、現実はあまりにも残酷だ。

 

 

「ナツ…やめて…」

 

 

「テメェ」

 

 

「エルザは死んでねぇ!!!」

 

 

ナツの気持ちが大きくなり始め、やがて、全員の気持ちを大きく揺さぶり始める。

 

 

「お願い…だから…止めてよ、ナツ」

 

 

優しく声を掛けるのは―――リーナであった。

 

 

「もう…やめて。お願い……だから。皆、信じたくないの、苦しいの、エルザさんが死んだなんて認めたくないの。だから…お願い」

 

 

涙声でそう優しく声を掛け、リーナがナツの後ろからそっと音も立てずに抱き付く。

 

 

「もう…やめて」

 

 

雨の寒さを大いに勝るその優しく温かな声に一瞬、ナツが止まる。総員は気持ちをその言葉に揺さぶられ、涙を流し出す者もいた。

 

 

「止めろっ…だったら、オレはエルザを信じる!!!エルザは死ぬ訳ねえだろォォオ!!!」

 

 

リーナを乱暴に退かし、ナツが再び声を荒げる。そして、一斉にメンバー達が駆け寄り、荒ぶるナツを止めに入る。

 

 

「現実を見なさいよォォォッ!!!」

 

 

溜まった感情を叫び出すルーシィ。それを境に全員の涙が、溢れ出しそうだった大粒の涙が雨に混じりて流れてゆく。

 

 

「私だって…私だって、信じたくないよぉ。エルザさん…帰って来てよぉ!!!嫌だよ…お願いだから…また笑って下さいよ…」

 

 

大粒の涙を流し、震える声でそう言いながら、ずぶ濡れの地面に座り込み、泣き崩れゆく。

 

 

「放せぇぇぇえっ!!!エルザは生きてんだァ!!!!」

 

 

じめじめと薄ら寒いわびしい様な雨に混じって、涙が地面へと流れゆく。その流れた涙の分だけエルザには罪悪感が溜まり、次第に左眼の涙となって流れゆく。自分の希望は行動は目的はこんな未来ではない。心の底から否定した。

 

 

懺悔。

陳謝。

哀哭。

 

 

『私は…ナツの…リーナの…みんなの未来の為に……なのに…』

 

 

エルザの左眼に涙が篭る。

 

 

『これがみんなの未来…』

 

 

慟哭する仲間たち。

 

 

『残された者たちの未来…』

 

 

号泣する仲間たち。

 

 

『頼む…もう泣かないでくれ…私はこんな未来が見たかったのではない…私はただ皆の笑顔の為に……』

 

 

もう見てられない。共に笑い合い、泣き合い、怒り合い、ぶつかり合った親愛なる仲間たち。だが、もう二度とその仲間たちと会えることは許されない。永久に笑い合えず、泣き合えず、怒り合えず、ぶつかり合えず、顔を合わせることさえ―――不可能になった。昔の自分はどんなに幸せだったことか。

 

 

全力でエルザの死を否定するが、大粒の涙を流すナツ。

 

 

泣き崩れ、両手で顔を覆い、座り込むリーナ。

 

 

空を仰ぎながら、号泣するハッピー。

 

 

グレイは腕で顔を覆い、そのグレイに抱き付く構わず泣くルーシィ。

 

 

涙を必死に拭いながら、俯くレビィ、そしてその泣き顔を見せまいと隠すジェット、その後ろで泣き喚くドロイ。

 

 

拳を強く握り締め、俯きながら静かに涙を流すマカロフ。

 

 

全て、自分の守りたかった仲間たち。未来の為にとその仲間たちを残し、自ら天へと旅立った。

 

流れゆく涙。

降りゆく雨。

死にゆく我。

 

願った。夢であってほしい、何度も何度も。

思った。これからの人生どうすればいいのか。

望んだ。また聞きたい、あの懐かしい家族の声を。

 

また聞きたい「ただいま」と。現実を受け入れたくないと喚く者は笑って見られそうだ、だが、とても受け入れられない。だが、現実は残酷なのだ。

 

 

 

 

 

 

もういない、のだと。

 

 

 

 

 

 

夜空が広がり、月光が闇を払い除ける鮮やかな夜―――エルザは静かに目を覚ました。

 

「ここは…!?」

 

呆然としていた。彼女の背中はいつの間にか、冷たく、耳には水音が弾ける音が聞こえてきた。

 

「「「「エルザぁあぁあぁぁあぁぁぁ!!!!」」」」

 

全員の言葉が一斉に混じって聞こえる。訳が分からぬまま、静かにその音源へと目を向けた。

 

「良かったぁ!!無事だった!!!」

 

「どんだけ心配したと思ってんだよ!!」

 

「姉さぁぁあぁん!!!」

 

「ど…どうなってるんだ?」

 

自分には手があり、足があり、身体があり、そして―――存在が、生命がある。その事に問い詰めた。だが、答えは直ぐ傍にあったのだ。

 

「私は……」

 

自分を抱え、押し黙りながら、月光を背景に佇むナツ。その背中には疲れ切ったリーナが背負われていた。過労からか、ナツの肩に乗ったその顔は寝顔の様であった。安らかに、しかし、安堵の笑みを浮かべて。

 

「ナツ…お前が私を?でも…どうやっ………」

 

そう問うエルザだったが、静かに言葉を失った。押し黙るナツは虚空を見るだけで、エルザや仲間や景色を眼中に入れていない。

 

(あの魔力の中から私を見つけ、リーナと共に救っただと?な、なんという男なんだ…)

 

エルザの思考が途切れたのはその直後であった。突如として、重力の法則に逆らっていた自分は急速に落下し、水の上に飛沫を弾かせながら、水面に落ちる。

 

「同じだ…」

 

「え?」

 

ナツの脳裏にはエルザの言葉が浮かび上がっていた。

 

 

 

『私は…妖精の尻尾(フェアリーテイル)なしでは生きていけない。仲間のいない世界など考える事もできない』

 

 

 

ナツの言葉に首を傾げ、ナツはエルザの言葉を脳裏に浮かべながら。

 

「二度とこんなことするな…」

 

「ナツ…」

 

エルザが謝罪の言葉を出そうとした直後、ナツがそれを言葉で静止させた。

 

「するな!!!!」

 

「うん」

 

というエルザの応答が静かに発せられ、また続く。

 

「ナツ…ありがとう」

 

ナツの頬にはいつの間にか、涙が伝っていた。その涙は青空より綺麗で蒼海より輝くものであった。

 

(そうだ…仲間の為に“死”ぬのではない。仲間の為に“生”きるのだ)

 

その時、流れぬはずのエルザの右眼から―――

 

(それが幸せな未来につながる事だから…)

 

―――涙が流れた。

 

 

 

* * *

 

 

 

エルザは昔の仲間であるショウ、ウォーリー、ミリアーナに妖精の尻尾《私達のギルド》に入らないかって紹介したいみたい。その時、ジェラールの声が聞こえた気がしたんだって。エルザはその時思った事を恥ずかしそうに私にだけそっと話してくれたの。

 

それはあの塔の爆発を防いだのはもしかしてジェラールかもしれないって事。あの時、ゼレフの亡霊から解放されて、昔の優しいジェラールに戻ったのね。そして、エルザの代わりにエーテリオンと融合して魔力を外に逃がしたの。

 

だからエルザの体は元々、分解なんかされてなかったって説。確かにそう考えるとけっこう辻褄が合うんだよね。だって分解された人間をナツが見つけんのよ。っていうか、どうやって元に戻すの?

 

けど本当にジェラールがあの時、昔の自分に戻れたとしたら、なんか可哀想だな。ジェラールだってゼレフの亡霊の被害者だもんね。

 

後ね、ナツがエルザを助け出したって言ってたけど水晶に入ったエルザを出したのはリーナだったらしいの。そんな引っ張り出して、気絶したリーナとエルザをナツが救い出したって。スゴイよね。今日の朝もちょっとその話をしててね。ちょっと紹介するよ、“お母さん”。

 

と、ルーシィは手紙に記していくのであった。

 

 

 

* * *

 

 

 

高笑いが響く高級ホテルの一室で。

 

「そういえば、リーナもジェラールと戦ったんだよね?」

 

「うん、そうだよ?何で?」

 

「だ、だって、ジェラールって人、とても強いんでしょ?リーナちゃん、なんかすごいなぁ…って」

 

ルーシィの問い、すんなりと答えるが実際にリーナはあの聖十大魔道の称号を持つ者と戦闘しているのである。しかも、こうして、生き延びているのだ。

 

「でも、実際にスゲェことだよな」

 

グレイがそうやって呟くが、リーナは「何もしてないよ~…」との自分は弱いとの一点張りであった。

 

「そういえば、気になる語があったな…天空神(ゼウス)だったか?ジェラールが口にしていた言葉だったが…」

 

「あ、それ!!オレも聞いたぞっ!!」

 

飛び跳ねるようにして起き上がったナツは唐突にそう叫んだ。

 

「起きるの早っ!!?」

 

すかさず、ルーシィのツッコミが飛ぶ。

 

「ほっとけ、相手するだけ無駄だ。なぁ、食物連鎖野郎」

 

「くかー」

 

「また寝たー!!!」

 

ナツは一瞬にしてまた身体を倒し、寝た。一瞬だ。その光景にハッピーが目を丸く、大きくして叫ぶ。そして、事は本題へと道を訂正した。リーナが「あ、それは…」と説明の切口に入った。

 

「元々は私のこの膨大な魔力は母さんから授かった魔力で何故、母さんにこの魔力が宿ったのかとかは私も知らされてないの。天の魔力持つ者って簡単に呼ぶ人もいるけど、本当の言葉で言えば、天空神(ゼウス)の力を持つ者」

 

淡々と事を進め続けるリーナの言葉一つ一つを聞き、ごくりと生唾を飲み込む。一同。

 

「天の魔力っていうのは、言ったら、天空神(ゼウス)の魔力、力かな?大地を揺るがし、歴史を塗り替える程の魔法も使えたんだって…」

 

「歴史を塗り替えるだぁ!!?オイオイ…魔法じゃねぇだろソレ…」

 

「それじゃあ、昔のオイラを魚塗れにしてよ!ねぇ!」

 

「うるさいわね、出来る訳ないでしょ。黙ってないと、ひげ抜くわよネコ科動物」

 

「続きを聞こうか」

 

「うん」とだけ言うと、少し間を空けてリーナがまた口を開いた。

 

「その天空神(ゼウス)っていうのが、ジェラールの言っていた事で私の眠っている“真の力”を目覚めたとき、私が天空神(ゼウス)って呼ばれるようになるの。序で言うと、天空神(ゼウス)は天空を創り出したと言われてるの。何処かの地方ではその天空神(ゼウス)を謳い、神と祈りながら、守護神にする人達もいるみたい。だから、天空の創造主とも謳われるって聞いたの」

 

天空神(ゼウス)…私も本で読んだ事があるんだけど、天穹や蒼穹、星までもが創り出したと記されていたわ」

 

と、ブツブツ呟きながら、顎に手を添えるルーシィは難しい顔をする。そんなルーシィを見たグレイが締めくくる様に言葉を告げた。

 

「何がどうあれ…リーナはリーナでいいじゃねーか。神とか天空とかどうだって構わねぇ。いつもの笑うリーナだ。これからもな」

 

「そうね…リーナちゃんはリーナちゃんだし!!」

 

「うぱー!!」

 

「んごぉぉおお」

 

「まったく…」

 

そうして、話は締めくくられ、リーナが満面の笑みで応えたのだった。

 

「うん!!ありがとう!!!」

 

と。



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