IS 俺の前世は俺だったようだ   作:ナインキューブ

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冒頭部分は同名で自分がにじファン様に投稿していた作品に少々手を加えたものなので、見覚えがある人もいるかもしれませんが、お気になさらずに読んでください。


第一話  邂逅する一と零

IS《インフィニット・ストラトス》と呼ばれる存在がある。それを定義することは難しい。否、説明することは可能だ。

多くの人はこう答えるだろう、

 

 

「女性のみが使うことのできる、世界最強の兵器」と、

 

 

人は、国は、世界はそう認識していた。しかし、ISが創られた当初の理由である、宇宙空間での活動は製作者である篠ノ之 束(しののの たばね)が起こした【白騎士事件】により、驚愕とともに、捻じ曲がった認識で受け入れられた。

 

そのように受け入れられた原因である【白騎士事件】とは、日本を射程範囲内とするミサイル基地のコンピューターが何者から一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが発射されるが、その約半数を「白騎士」と呼ばれるISが迎撃する、という冗談のような話であった。しかも、開発途中であった荷電粒子砲の完成というオマケを引っさげてである。

それを見て「白騎士」の捕獲もしくは撃破を目論んだ各国が大量の戦闘機や戦艦などを送り込んだが、軍事兵器の大半を撃破されたが、死者は皆無という結果の圧倒的な敗北であった。

これにより多くの人々のISに対する認識は固定されたといってもいい。

 

 

この存在の出現によって世界は急激な変化を余儀なくされた。そう、望むと望まざるとに関わらず、嵐に翻弄される木の葉には飛ばされるという、選択肢以外がないのと同じように。

 

ISという強すぎた機械は、すぐさま軍事転用された、ということもなくスポーツの延長のような扱いに落ち着いた。

 

早い話、各国はその力を持て余したのである。そのため、表向きはそのような扱いを、実質は抑止力としてかざすことを選んだ。

 

そして、世界を嵐へと放り込んだ張本人である、天才はその天才にのみ造ることのできるISのコア、その467番目を造り終えるとともに、行方をくらました。

 

各国はこれに焦り、全力をあげて捜したが、全く手掛かりを得られずに終わった。

そのため、各国はますますISの開発に力を入れた、量ができないのなら質を追求せざるを得なかったともいえる。

 

そうなれば、競わずにはいられないのが人というものである、そうして生まれたのが、21の国と地域が参加して行われるIS同士での対戦の世界大会。格闘部門など様々な競技に分かれ、各国の代表が競うことになる。各部門の優勝者は「ヴァルキリー」と呼ばれ、総合優勝者には最強の称号「ブリュンヒルデ」が与えられる。それが【モンド・グロッソ】である。

 

 

 

 

そして、物語は第2回モンド・グロッソ決勝戦当日へと時を進める。

 

 

 

                       ◇

 

 

 

薄暗い無機質な部屋が広がっていた。

そこに一人の軍服らしきものを纏った男がいた。

その男は50代後半の様に見えるが、老いによる衰えは身体には見られず、むしろ鷲のような凄みがあった。

相対している女を見て問う、例の件は順調か?―――と。

そう問われ、バイザーで顔を隠した女が答える。

 

「ああ、ブリュンヒルデの弟はさらってきた。今はまだ夢の中だろうな」

その声からは愉快で仕方ないという雰囲気がにじんでいた。

 

それを聞き男は鼻を鳴らし、

「フン、あんな島国の野蛮人が世界最強などであってたまるものか」

なぜなら―――と、つづけ

「頂点に立つのはわが祖国こそがふさわしい」

よくみると軍服にはドイツの国旗が縫い付けられていた。

 

女は男から視線を逸らし、横に鎮座している剣と盾が装備された鎧―――待機状態のISであった。

それを見て

「それで、こんな簡単なことの報酬でIS一機ねぇ…。そこまで邪魔をしたかったのか?」

 

「所詮は失敗作だ。お前らを雇うために使えるならいくらでもくれてやる」

と、忌々しそうに顔を歪める。

 

失敗作―――このISは欧州全体で行われていたとある極秘プロジェクトの核として設計されたものであったが、稼働実験の段階で事件が起きた。

搭乗者の一次移行《ファーストシフト》の完了と同時にISが搭乗者の意識を奪い、エネルギーが尽きるまで暴れまわり、プロジェクトに携わっていた人員は全て亡くなり、搭乗者も死に追いやられた。

もちろん、そんな事件があったのだから軍はすぐさまコアの初期化を試みたが、ISのコアに強固なプロテクトが掛けられており、プロテクトをこじ開けようとしたところISがカウンターアタックを仕掛けてきた。などいわくありのISなのだ。

 

「失敗作、ね」

 

「ああ、そうだ。そいつさえなければ…」

男は、ハッすると、

「ともかく、ソイツは煮るなり焼くなりしてくれてかまわない」

 

女は嘲るように

「なんだ?死んだ搭乗者ってのはお前の身内だったのか。さぞかし弱っちい奴だったんだろうなぁ…!」

 

「貴様ッ!!」

男は思わずといった風に激昂する。

 

その怒りをものともせずに女は告げる。

「まぁ、どうでもいいや。こっちの件も済んだし、娘のところに送ってやるよ」

ご苦労さん、と部分展開されたISの武器が男の腹部を貫く。

「っ!?」

 

「安心しろ、娘の仇はこっちで有効活用してやる」 

そして、女がISを起動した。

 

「あとは残りを始末をするだけだな」

 

そこから始まったのは殺戮だった―――

 

悲鳴、絶叫、怨嗟さまざまな顔を浮かばせ、次々と人間が物言わぬ骸に変えられる。

 

 

その時警報が鳴り響いた。

 

『ISと思われる熱源が接近』

 

「なっ、いくらなんでも早すぎる!?」

 

結果として現れたものは、女が危惧したモノ《ブリュンヒルデ》ではなかった。

 

 

―――轟音

 

 

ISから凄まじいエネルギー反応の感知が伝えられる。

惨劇の舞台と化していた無人研究所に破壊音が響き渡る。

 

「なんだこりゃ!?こんな出力のIS聞いたことねぇぞ!」

遠くからでも突然来襲してきたISの破壊活動の音が聞こえてくる。

「チッ、さっさと織斑 一夏《本命》を済ましときゃよかったぜ!」

はき捨てるように怒鳴ると、ISを織斑 一夏が囚われている部屋の前まで移動させると、頑丈そうな鉄扉を強引にこじ開ける。

 

びくり、と身体をこわばらせて部屋の隅にうずくまってこちらをみてくる、まだ顔に幼さを残す黒髪の少年がいた。

「ッ…!?」

 

「いよう、はじめましてというべきかな?織斑 一夏クン」

そして―――

「さよならだ」

 

武器を向けられ、反射的に目をつぶる少年。

手にしたカタールを振り下ろそうとした瞬間―――ISから警告アラートが鳴る。

女は咄嗟に後ろへ飛び退く。横合いの壁が破壊され、視界を覆いつくさんばかりの暗い紫色の光芒が、さっきまで女がいた場所を通って行った。

戦慄を禁じえないほどの破壊力であった。我に返った女はさきほどまでそこにいたターゲットを煙のなかから探すが、見つからなかった。

 

「どこいきやがったぁ!?餓鬼ぃ!!」

 

仮にあの攻撃を放ったISと戦闘となれば、女の駆るISでは勝てる見込みはほとんどない、戦うにしても装備を整えるひつようがあった。

そのため女は速やかにターゲットを仕留めなければならなくなってしまった。焦るのは当然といえる。

ISのセンサーで確認すると、さきほどの光芒によって破壊された横穴をくぐり外へ逃げたとわかった。

そうそう咄嗟の判断でできることではない、まだ幼さを残す少年ならばなおさらだ。

 

しかし、少年は生身、対して女はIS、逃げ切れるはずもなく―――

 

 

 

 

 

 

 

 

                       ◇

 

 

 

 

 

織斑 千冬は今、恐らく今までの生涯で最も焦っていた。

 

事の発端は世界最強のISの搭乗者を決める戦い―――モンド・グロッソの第2回目の決勝戦当日に起きた。

第1回モンド・グロッソ優勝者であり、最強の称号である【ブリュンヒルデ】を冠する日本の国家代表、今大会でも優勝候補と目されている女性―――【織斑 千冬】、その弟である【織斑 一夏】が何者かによって、誘拐された。

 

このことで、ドイツ軍は独自の情報網により真っ先に居場所を特定し、情報提供をした。

ここに世界最強に貸しを作る、という思惑があったのは想像に難くない。

 

(無事でいてくれ、一夏ッ!)

 

自分の大切な家族の無事を祈り、彼女は急いだ。

 

(しかし妙だ、一夏の誘拐が目当てならわざわざ護衛を生かしておく必要は無いはず)

 

ISというのは国家の技術の粋を集めてできていると言っていい、国家代表の機体となればなおさらだ。

故に、国は全力を挙げてその機体の搭乗者とその弱み足りえる存在である家族を守ろうとするのである。

世界最強ともなればそのことには、いやでも近くなる。

いつもであれば千冬という文字通り最強の護衛がいるが、大会出場時であったために国からの申し出を受け、護衛を任せたのだが、決勝戦当日に護衛の人間が全て気絶させられているのが、護衛の交代をするための別の要員が訪れたときに見つかった。

 

(ということは、目的は私が優勝することを阻止するためか)

 

事実、日本という国は篠ノ之 束によるISの発表という事件によって世界各国からすれば面倒極まりない存在となりつつあった、ここのきて日本の国家代表による、世界最強の二連覇目前という現状。こんなことになれば誰かが馬鹿なことを考えてもおかしくはない。しかし、結果としてその“馬鹿なこと”は成功してしまった。そのため千冬は決勝戦出場を棄権し、ここにいる。

 

(誰であろうと私の家族に手を出したんだ、それ相応の報いは受けてもらうぞ)

 

そのためには、あの自他共に認める天才を頼ることさえ選択肢に入れていた。

 

奴も私の頼みならば了承するだろう、などと黒い思考をしていると、

 

『そのまま前方50キロにある廃棄された研究施設に誘拐犯と弟さんがいるとのことです』

と、ドイツ軍の女性オペレーターからの通信がISへ入ってくる。

「了解、協力に感謝する」

 

 

 

 

 

                        ◇

 

 

 

「フン、悪足掻きもここまでだな」

女は逃げ出した少年、一夏を追い詰められていた。火の手の上がる研究所の中は逃げ出すことが難しく、瞬く間に追いつかれてしまったのだ。

全力疾走したせいで乱れている呼吸を整える暇もなく、彼は女の駆るISによって殺されるだろう。

 

 

「ま、がんばったほうだよ、お前は。恨むんなら強すぎた姉を恨むんだな」 

女はそう言うと手にしたカタールが振り下ろされる。

 

 

――――――しかしそれが彼に届くことは無かった。

 

 

壁をブチ抜いて現れた、影を凝縮させたような黒をした突撃槍がカタールを受け止めていた。

 

 

「チッ!何だコイツはぁ!?」

 

カタールを引いて突撃槍から距離を置いた女が叫ぶ。

 

破砕された壁から出てきたのは【黒いIS】だった。それも珍しい全身装甲タイプの物だ。

だがその黒はあまりにも異様だった。漆黒ですらまだ白い、暗黒がISの姿を借りて顕現していると言われたほうが納得できる。

光を全て飲み込むかのような【黒】は右手に持つ突撃槍を女に向ける。その際に槍の柄から黒いISの手首に伸びる鎖がジャラリ、と鳴る。

幾つもの角錐を繋ぎ合わせてできたようなシルエットの突撃槍は、どの国のISにも搭載されていないものだ。

 

二体の距離は一瞬で詰められ、その突撃槍が女のISを貫かんとするが

「っああぁぁぁ!!!」

 

女は大きく上体を捻ることで左肩装甲を犠牲に紙一重でかわした。

そしてそのまま体の前にある突撃槍に組み付く。

 

「どこのどいつだか知らんが、そのISは頂いていく!!」

と叫ぶや否や、女のISの背部から黄色と黒の禍々しい配色をした、蜘蛛の脚を模したかのようなパーツが出現する。

 

意図的に展開させていなかったパーツを用いた奇襲。相手の虚を突くことができれば勝機はある。

その攻撃を必中させるために相手の武装、IS本体と繋がっているものを無力化させた。

そして先端が研ぎ澄まされた八本の装甲脚は黒へと殺到する。

 

 

―――しかし、その凶爪が黒へと届くことは無かった。

 

 

 

黒いISの胴体、正確には人で鎖骨と脇腹にあたる部分を通るようにそれぞれ二本ずつ、背中から伸びるやや細長い真っ黒な鉤爪が現れていたのだ。

 

逆に虚を突かれる形になった女の動きが一瞬硬直するのを逃さず、黄色と黒の禍々しい配色をした装甲脚は黒い鉤爪たちに引き千切られていた。

 

 

「か、はっ…!!」

 

 

黒いISの左腕、右腕に比べてやや大型化しているのは砲撃機構でも搭載しているのだろう。

それに鷲づかみされた女は苦悶の吐息を洩らす。

 

そんなことはお構いなしに、黒いISはギリギリと女をISごと握りつぶそうと力をかけ続けている。今はまだシールドバリアが干渉してその圧殺を阻止しているが、それも時間の問題だろう。

ISのエネルギーが切れたときが彼女の命が尽きるときだ。

 

 

「駄目だッ!」

 

 

その声に反応するように黒いISは圧搾を緩めた。

 

「ッ!!!」

その瞬間、女はISを部分的に解除することで隙間を作り、左腕から脱出すると一目散に逃げていった。

 

黒いISは一瞬だけそちらに意識を向るが、すぐに興味をなくしたのかのように声の主へと視線を向ける

 

ほんの一瞬だけその異様に少年は息を呑んだが、すぐに睨み返す。

 

その姿を見極めるように注視していた黒いISは、右手に持つ突撃槍を手放すとゆっくりと一夏へと近づいてくる。

生身の人間などISにとって武器を使う必要も無く殺せるだろう。もしくは嬲るためか。

 

 

―――真っ黒な右手が一夏へと伸びる。

 

 

しかし伸ばされた手が届くことは無かった

 

 

「一夏ッ!!!!!!!!!」

艶やかな黒髪をたなびかせ戦女神が黒へと刀を振り下ろしながら降りてくる。

 

黒は即座に後方へと飛び退ると、右腕下部から伸びる鎖を引き戻して突撃槍を手繰り寄せ戦闘態勢を取る。

 

「無事か、一夏?」

相手から視線を逸らさず最大の警戒心を持って【織斑 千冬】は口を開く

 

「千冬姉!!」

その声を背中で聞きながら彼女は内心で安堵の吐息を洩らす。

 

「そこのIS。所属を言え!」

無言のまま変わらずに黒はあった。

 

「だんまりか…。ならば―――」

 

彼女が刀を構えて切りかかる寸前、黒いISが“崩れた”

 

 

―――水が掛けられた砂のように四肢の末端からザラザラと崩れていく

 

 

「なん、だ…これは…!?」

千冬の後ろにいる一夏もその光景に目を奪われている。

 

 

―――崩れていく暗黒は虚空に散ることなくどんどん拡大していく

 

 

もとのISが完全に原型を失ってもその動きはユラユラと揺らめいていたが、急にピタリと胎動をやめると、それらは戦女神へと殺到する。

 

 

しかし彼女は仮にもブリュンヒルデ。隙を作るようなことはなく構える。

 

「ハアアァァァァァァ!!!」

裂帛の気迫とともに迫りくる黒き奔流を切り裂こうとする。

 

 

 

だが迫りくる【黒】にとって彼女はただの障害物でしかなかった。

   

黒い奔流は二手に分かれるように彼女をすり抜け

 

 

――― 一夏を飲み込んだ

 

 

「あ…?」

彼の驚愕する顔もすぐに黒く塗りつぶされた

一夏を中心として繭を作るように黒が渦巻き始める

 

「一夏!!?」

千冬が叫ぶが動けない。伸ばした腕は弾かれ、中心に生身の人間である一夏がいる以上刀で切り開くこともできない。

 

 

時間にすれば二十秒にも満たなかっただろうが、彼女にとっては永遠にも思えてしまった。

 

 

黒が薄れていき、その中心には倒れ付した一夏がいた。

 

 

「一夏ッ!」

 

彼女の叫びが無人の廃墟にこだまする




時系列は少々いじっております
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