IS 俺の前世は俺だったようだ   作:ナインキューブ

2 / 3
第二話 姉弟?兄妹?

私、【織斑 冬霞(おりむら とうか)】は今年IS学園に入学する十五歳だ。

                      

これでも日本の国家代表候補生の一人だ。

この苗字のせいで候補生を目指していたときには様々な色眼鏡で見られたが、今ではもう良い思い出だ。

だが正直なところ姉と同性である私よりも、双子の兄の方が色々と理不尽な経験もしたはずだ。

 

 

いや、そうでもないか。友人の姉曰く

 

―――いっくんのことはこの束さんにもよくわかんないね! 

 

と心底嬉しそうな声をしながら抱きついていたのを心底困った顔をした兄の顔と一緒に覚えている。

そのあと姉にアイアンクローされているのまでが流れだ。

そして友人の姉が言うようによくわからないが兄がそういった関係で大きなトラブルに巻き込まれることはほとんど無かった。

 

 

そんな兄は私の目の前の席にいる。

本来女性しか動かすことのできないIS、それに関する様々なことを学ぶこの学園の一年一組にである。

 

 

というのも兄が言うのには、「偶然ISに触れたら起動しちまった」らしい。

そのことで一時期大変なことになったが、今は割愛する。

 

世間では注目の的となっている兄だが、今は私を含む四十人近い女子生徒からの視線が突き刺さっているのが堪えるのか、居心地が悪そうに体が揺れている。

 

 

「皆さん入学おめでとう。私は副担任の【山田 真耶(やまだ まや)】です」

教室のドアが開き、一人の女性が入ってくる。顔つきが童顔なためか、制服でも着せれば同学年でも通用しそうだ。

だが同年代では済まされない部分があった。

 

―――でかい

 

 

思わず自分の戦闘力を見る

 

―――丘…

 

 

相手の戦闘力を見る

 

―――アルプスッ!!

 

 

 

 

冬霞はこんなことを考えていて山田先生の言葉に気付かずスルーしていたが、他の女生徒は彼の兄にして世界で始めてISを動かした男性である【織斑 一夏】に注目していたため、結果誰一人として反応する者はいなかった。

 

 

 

「それでは皆さん、今日から一年間、よろしくお願いしますね」

めげずに山田先生は言葉を続けるが、誰一人として彼女に目を向けていない。

 

そんな中一人だけ反応するものがいた。件の彼だ。

 

 

 

「ゴッ!?!?」

盛大に額を机にぶつけていた。

 

―――寝てた?

―――寝てたね

―――寝てたんだ

 

顔を上げて一瞬キョロキョロと辺りを見回していたが、前を向いたかと思うとまたユラユラ揺れ始めた。

居心地が悪かったんじゃなく、船漕いでた。

 

 

「そ、それじゃあ自己紹介から始めましょうか。名前の順でお願いしますね」

このままではSHRが終わってしまうと危惧してか、強引にでも流れを作ったのは正解だっただろう。

 

 

自己紹介をしてもらえば、一夏の情報を得られると踏んだのか少女たちは目配せすると即座に行動に移していた。

 

 

 

 

寝ていたのは今日の夜明けごろにドイツから帰ってきたばかりで時差ボケをしているのだろうか。

兄は一時期、姉に連れられて共にドイツに行っていたが、姉が日本に帰ってからもドイツ留学と言う形で向こうにいた。

 

それからしばらくして、兄が世界で初めてISを動かした男性ということがニュースになった。

今考えると姉はこのことを知っていて、ドイツでの教官役を引き受けたのではないだろうか。

 

と言うのも、兄がISを動かしたというニュースが世間を賑わすその数ヶ月前は、日独間でのIS共同開発が話題になっていたのだ。

                          

                      ▽

 

 

 

表向きは欧州連合の統合防衛計画である【イグニッション・プラン】の第3次期主力機の選定のためにドイツが日本に第三世代機ISに関する技術交流を持ちかけた、というものだ。

 

このことに欧州各国は表立って非難することはなかったが、後の選定に大きな影響が出たことは想像に難くない。

自分たちの主力機の技術を他国が知っているなどありえないからだ。

故にドイツの第三世代である【レーゲン型】はイギリスの【ティアーズ型】、イタリアの【テンペスタⅡ型】の二つに水をあけられたものと見られていた。

 

しかし後にドイツで日本人のISを動かせる初めての男性―――私の兄、織斑 一夏の存在が発表された。

 

 

 

 

 

日独で共同開発された最新鋭機のテストパイロットとして開発計画に参加しているという情報と同時に、だ。

 

 

 

 

 

世界で唯一ISを動かせる男性が既に日独に所属しているという事実に世界中で議論が紛糾した。

ただ各国の言い分は「日独だけで貴重なデータを独占するのはアラスカ条約を違反しているのではないか」という難癖つけるようなものだったが。

アラスカ条約ではISの情報開示と共有が記されているのであって搭乗者を公表しなければならないというものは無い。(まぁ国家代表やその候補生ともなるとアイドル紛いのこともしたりするのだが…)

しかし二国と世界の国々では圧力に抗しきれず、開発において主導であったドイツがペナルティを自らに課して強引に各国の干渉を撥ね退けることで解決した。

 

 

 

―――ISのコアの権利、その一つを放棄したのだ。

 

 

 

世界で467個しかないISのコア、各国に分配された有限かつ貴重なその一つを放棄するのだ。これ以上のペナルティはそうそう無い。

 

アラスカ条約では【各国家、企業、組織・機関の間でのコアの取引はすべての状況下において禁止される】という条項があるのだが、この死角を突くようにドイツはさらに世界の度肝を抜いた。

 

 

―――ISのコアを【織斑 一夏】“個人”へ譲渡したのだ。

 

 

ドイツの言い分は「世界で唯一ISを動かせる男性である彼の自衛手段としてISを与えるのは何らおかしいことではない」

 

加えて「各国がデータを得ることができるように織斑 一夏をIS学園へ入学させる」とも。

この提案にISの開発に後れを取っている国々は諸手を挙げて賛成した。

アメリカ、ロシアなどの大国は難色を示したが、「彼への危険を少しでも減らすため」という建前では強くは出ることができなかった。

もしここで強く反対姿勢を取れば、彼に危害を加えるつもりがあると声高に叫ぶようなものだ。

そうなれば各国に自国を非難する大義名分を与えてしまい、面倒なことになる。

 

 

 

そして世界の思惑は混ざることなく渦巻きながら、世界で唯一ISを動かせる男性のIS学園入学は決定された。

 

 

 

                         ▽

 

 

 

 

と色々愚考していたが、きっともっと複雑怪奇な事象が絡んでいるのだろう。私は政治屋ではない以上そんなことはわからないし、わかったとしても深入りするのは遠慮したい。渦中の人物が身内で何を今更とも思うが。

 

 

私が考え事をしているうちに、どうやら自己紹介は進み、兄の番が回ってきたようだ。

 

「じゃあ次は織斑 一夏くん」

 

 

 

「…了解ッス」

まだ寝ぼけ声だが、起きたようだ。

 

 

兄が立ち上がり、口を開く。女子たちはすごく集中しているのが気配でわかる。

 

 

「織斑 一夏です。これから一年間よろしくお願いします」

口を閉じる。

 

…沈黙が痛いってこういうことなの。

 

 

「――以上です」

教室中からずっこける音が聞こえてくる。

どうやらドイツでの生活も兄を根本的に変えることはできなかったようだ。

 

「あ、あのー」

真耶が兄の後ろでやや涙声が割り増しになっていた

 

兄はすごく微妙そうな顔をしてる。その後ろに近づく者がいる。

 

 

「…あ」

私が一夏に注意を促す前に彼に鉄槌が下されてしまった。済まぬ

 

 

スパァン!!

 

 

快音が響くと同時に一夏の頭が沈み、立ち上がる前へ巻き戻すかのように崩れ落ちた。

 

 

響いた快音は後ろに一夏の後ろ立つ女性が出席簿で叩いた音だ。

 

そして女性――織斑千冬は何事も無かったかのように教卓へ向かう。

 

「山田先生、クラスへの挨拶を任せてしまってすまなかったな」」

 

「いえ、副担任なんですからこれくらい…」

 

山田先生と入れ替わりに教壇の前に立つ姉を見て、教室の空気が静まる。

 

 

「諸君、私が織斑 千冬だ。お前たち未熟者を一年から三年の間に使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言う事はよく聞き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。だが、座して待つだけの馬鹿者に教えてやれるものは無い。お前たち自身のことだ。流されるのではなく自らの意思で選べ」

 

姉は平然と口を開いたけど、ダウンしてる兄を見てあげて。

 

私は後ろの席という地理的特性を活かし、兄を回復させようと手を伸ばしたが――――

 

「ぐぅ…」

寝てる……ッ!?

後ろの私が気付くくらいだから、当然真ん前の姉が気付かないはずが無い。

姉の攻撃の三倍ダメージは兄が危ない!

 

しかし審判が下されることは無かった。

 

「キャ――――――! 千冬様、本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!!」

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

世界的なIS操縦者である元ブリュンヒルデを前にして、十代女子たちは己のパトスを抑え切れなかったのか。

黄色い声に叩き起こされた兄は目を白黒させていることだろう。しかも位置的には収束点に最も近い。

 

黄色い声の元である姉は呆れたように

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

「それと織斑兄(おりむらあに)、自己紹介も満足にできんのか、貴様は?」

織斑兄――――なら私は織斑妹(おりむらいもうと)?

弟と呼ばないあたり、姉としての威厳を保ちたいのか。

 

「…すみません。あと千冬姉さん俺は兄ではなく弟じゃ――」

 

スコン★

 

ああ!一夏が出席簿の角でやられた!

 

 

「まぁいい、自己紹介を続けろ」

いいの?この学園唯一の男子生徒の意識がベイルアウトしてるけど?

 

そんな私の耳にクラスの女生徒の声が入ってくる。

 

「え……?織斑君ってやっぱり、千冬様の弟……?」

「まさか世界で唯一男でISを使えるっていうのも、それが関係してるの……?」

「羨ましいなあ、代わってほしいなぁっ」

 

少しだけ自分の眉が上がるのがわかる。それでも姉から次は自分の番だと促されているので立ち上がる。

 

 

「織斑 冬霞です。織斑 一夏は私の双子の兄になります。あと日本の国家代表候補生です」

一夏が兄という部分に大多数が反応し、後の代表候補生という言葉に幾人が視線に力を込めたのを感じたが無視して席に座る。

 

あ、兄も頭をさすりながらだが復活した。

休み時間になったら色々聞こう、こうして長くいられるようになったのは久しぶりだから。

 

兄がドイツに行って数年、家事が苦手な織斑家の女には辛かった。それを見かねた私や姉の友人が色々手助けしてくれたのは本当にありがたかった。

もしそうじゃなければ、年に数度だった兄の帰省は、全て家の片付けに費やされていたことだろう。

 

 

 

ぼんやりとこれからのことを考えているうちに、自己紹介は滞りなく終わった。ただそのうちの一人にやたら睨まれた。何故?

 

 

 




オリキャラの妹を出したら、頭の中がほとんど兄についてのことになっていたでござる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。