IS 俺の前世は俺だったようだ   作:ナインキューブ

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すごく難産でした。


第三話 篠ノ之 箒の在り方

後ろの席からいつの間にか机に突っ伏して寝ている兄の背中を凝視しているが起きていたら、さぞ居心地が悪かっただろう。

 

その理由は簡単。世界で唯一ISを動かした男を一目見ようと大量の女子が包囲網を敷き、視線で集中砲火を繰り出しているから。

 

というか三年と二年の生徒も混じってない、アレ?

 

耳を澄ますと会話が断片的に聞こえてきた。

 

「あの子が世界で始めてISを動かした男の子だって」

「あなた話しかけてみなさいよ!」

「落ち着きなさい。功を焦ると…死ぬわよ」

「そうね!敵情視察は基本よね!!」

 

好き放題言ってるけど、寝ている相手に行動を移さないのは冷静な判断だと見ておこう。

 

「一夏、少しいいか?」

冷静になれてない者が一人―――何だ、箒か。

 

【篠ノ之 箒(しののの ほうき)】私と一夏の幼馴染にして、ISの生みの親である【篠ノ之 束(しののの たばね)】の妹。

世間的に見れば間違いなく後者で有名だろう。

小学4年生の時から政府の重要人物保護プログラムにより日本各地を転々とさせられていたらしい。

お互いぶっ飛んだ肉親を持つと苦労するね。

色々郷愁とでもいうべき感情があったが、それよりも―――

 

なんだあの胸部装甲。

 

私の視線は小ぶりなメロンでも詰めてんじゃなかろーか、と思うほどの円周率πに釘付けだった。

 

「…何か用か?」

寝起き特有の声で一夏が箒に応答している。

 

「着いて来てくれ。ここでは話しにくい」

 

「…わかった」

緩慢な動作で立ち上がった兄は、先を歩く箒の後ろに着いて行ってしまった。

兄の前でモーゼのように人の波が左右に割れていくのが、傍目から見ても凄まじい。

 

「間に合うのかなぁ」

 

IS学園は入学初日だろうとガッツリと授業が入っている。SHRから一時間目までの時間はそんなに長くない。

そして遅れれば―――言うまでもない

 

 

 

 

 

                      ▽

 

 

 

 

校舎の屋上で一組の男女が向かい合っているが、そのどちらもしばらくは無言で春先の青空を見上げていたが、片方が口を開いた。

 

「挨拶が遅れたけど、久しぶりだな。箒」

少し歩いたことで目が覚めたようで、先ほどよりもしっかりとした言葉を紡ぎだす。

 

「気付いていたのか…?」

どこか嬉しげな感情を必死でかみ殺したかのような声で応える。

 

「おう。髪型も変わってなかったし、緊張してるとしかめっ面になるのも相変わらずだったしな」

その言葉に眉根を寄せ、箒は口を開いた。

 

「「顔つきは生まれつきだ」」

悪戯が成功したような顔で彼は笑みを浮かべる。どこか眩しいものを見るかのような笑みを。

 

しかしその笑みに隠された感情に気付くことなく、少女は再会した幼馴染の片割れへと突っかかる。

「何だその顔は!大体お前は昔からそうだ―――」

 

どこか愚痴じみたそれを少年は穏やかな笑みを浮かべて聞いていたが、話の切れ目で割り込んだ。

「そういや箒、剣道の大会で優勝したらしいじゃないか。ちょっと遅いかもしれんがおめでとう」

 

 

「…どうして知っている?」

 

「いや冬霞がキープしてくれてた新聞を帰ってきた時に見た」

 

それを聞いたっきり少女は黙り込んでしまった。

「………」

 

 

                       

 

                      ▽

 

 

 

 

私の前にいる【織斑 一夏】という人間は私が好意を寄せている相手であり、もう二度と会うことは無いと諦めていた人間でもある。

 

ISという兵器を姉が開発した時から私の世界は一変してしまった。

あらゆる全てが私という個を透明にし、【篠ノ之 束(しののの たばね)】の付属パーツとしか見てくれなかった。

 

そのことに対してどうすることもできない自分が嫌で、小さい頃から――冬霞や一夏と共に励んでいた頃から続けていた剣道へと逃げていた。

そう、逃げていたのだ。立ち向かうのではなく。

 

私は去年、剣道の大会で優勝した。

 

 

―――武ではなく暴力によって

 

 

どうやって勝ったのかよく覚えていない。私の記憶にあるのは、目の前で私が踏みにじってしまった者が流している涙だけだ。

 

メダルと賞状を受け取り、私はそこから逃げるように去った。

 

聞こえてくる嗚咽が自分を攻め立てているようで―――

 

自分の唯一の逃げ場もなくなってしまうようで―――

 

 

 

 

それからただただ忌まわしいという感情に支配されて、その元凶であるメダルを八つ当たり気味に捨てようとして手に取ったときにふと、一夏の顔が浮かんだ。

その頃はちょうど一夏がISを動かせるということが世界的なニュースになっていて、その事が私のなかで複雑な感情として渦巻いていた。

私という個を奪った兵器が、私の大切なものまで奪っていったような、そんな感情だ。

 

くすんだ金色のメダルの表面にボンヤリと映る自分の輪郭が、かつての懐かしい感情を想起させたのかはわからないが、無性に一夏が恋しくなった。

 

そんなときだ。少しでも気を紛らわせようとしてつけていたテレビから、一夏がドイツで第三世代機のテストパイロットとしてイタリア、イギリス、アメリカの三国の第三世代機同士のエキシビジョンマッチに参加するというニュースが流れたのには運命のようなものを感じた。

 

週に一度一試合ずつ行い、三週間掛けて行うそれを全世界生中継で放送するという、いやでも一夏に世界が注目しているかがわかる力の入れようだった。

 

 

ニュースから数日後、テレビの画面越しとはいえ久々に見た幼馴染は背丈が伸び男らしくなっていたが、紛れも無くかつて自分たちと共に切磋琢磨していた一夏だった。

 

その身に黒いIS―――【シュバルツェア・レーゲン】だったか?を纏い、アリーナに姿を現したときに本当に一夏はISを動かせるのだと認識した。

 

 

 

第一戦目はイタリアの【テンペスタⅡ型】だったが、姉の件から毛嫌いしていてISについて素人だった私にもわかるほど一夏の腕は卓越していた。

あらゆる攻撃を紙一重で回避し、的確に油断している相手を削ることで敵を焦らせ生まれた隙を突いて一気呵成に勝利をもぎ取って行った。

幼馴染の雄姿を見て興奮冷めやらぬ気持ちで私は一週間を過ごし、またテレビの画面に噛り付いていた。

その間に必死に一夏を理解しようと、毛嫌いしていたISの知識を深めていたのは今思うと滑稽にも程がある。

 

 

 

 

 

そして第二戦目のイギリス製第三世代機【ブルー・ティアーズ】との試合。

ビット兵器による単機での十字砲火を可能とした機体を相手に一夏は、背後に目でもついているかのようにその全てを叩き落し、後は一試合目の焼き直しだった。

自分ならどうやって距離を詰める?前後左右だけでなく上下からも襲い来るレーザーをどうやって捌くか、それが勝利の鍵だろう。

今度はそんな事を考えながら、一週間を過ごした。

 

 

 

 

 

最後の試合はアメリカの第三世代型実験機【ファング・クエイク】。《安定性と稼働効率》を重視した機体らしいが、一夏の駆る【シュバルツェア・レーゲン】は近接から遠距離射撃までこなす万能型、相性は悪くないはず。

 

しかし私の予想は裏切られ、一夏は苦戦を強いられていた。

 

その理由は相手の戦法が明らかに一夏への対策を練った上でたてられていたのだ。

遠距離から中距離は武装で撹乱し、その隙に一気に相手の懐にもぐりこみ絶対に喰らい付いて離れず、そこからの近距離格闘による連撃で押し勝つ。

それに対してファング・クエイクが取った戦法は、ショットガンとマシンガンを両手に構え弾幕を張りつつ後退し続けることで徹底的に接近されることを拒んだのだ。

 

この二週間で調べてわかったことで、まだ第三世代機は特殊兵装の搭載を目的とした実験機の域を出ずにいるというものがある。そしてそれ故にどの機体も燃費効率の低さが問題ということも知っていた。

そのことから私は一つの結論を出すことができた。

 

同じ実験機でも、稼働効率を重視したファング・クエイクと万能機を目指したシュバルツェア・レーゲン、長期戦が後者にとって不利なのは明らかだ。

私の拙い知識でさえ出せた結論だ。今戦っている両者も理解しているだろう。

 

少しずつ一夏の機体に損傷が見え始め、六基あるワイヤーブレードのうち二基が破壊され、ついには大型レールカノンの接続部が破壊されてしまう。この射撃戦で唯一決定打となりうるのはシュバルツェア・レーゲンに搭載された遠距離武装であるレールカノンだったのだ。

 

「一夏ッ…!!」

もうダメだと私が声を洩らした時、試合が動いた。

 

 

 

試合を見ていたほとんどが一夏の敗北を確信していたが、一夏は勝負に出た。

破壊されたレールカノンの残骸を手に取り、即席の盾とすることで強引に距離を詰め始めたのだ。

ドイツ製の頑健な銃砲のフレームは負荷の高いジョイント部が壊れた程度で揺らぐものではなく、ショットガンやマシンガン程度では表面を削ることしかできず、見る見るうちに二機の距離が小さくなる。

 

予想外の突撃に焦ったファング・クエイクは両手の銃器を投げ捨てると、グレネードをその手に呼び出すと同時に間髪を入れずに為された射撃を狙い違わずレールカノンへと直撃させた。

 

 

―――腹這いになる勢いで体勢を低くしたシュバルツェア・レーゲンとギリギリですれ違いになるように

 

 

背部から伸びるワイヤーブレード、今は焼ききれているそれは残骸を押すことで突撃の速度をカモフラージュした上で、一夏に勝利の最大のチャンスをもたらしたのだ。

 

炸裂する榴弾の爆発すら利用した瞬時加速(イグニッション・ブースト)で最後の距離を詰めようとする一夏。

もはや機体はボロボロで脚部に至っては爆発に巻き込まれISでの脛から足首に相当する部分から砕け、ギザギザした断面から内装が露出している。

 

しかしそれでも自分の距離へと持ち込んだ一夏は、展開されたプラズマ手刀でファング・クエイクへと踊りかかる。

 

だが、ファング・クエイクの搭乗者もまた一流。

そのまま膾切りにされるのではなく、背部4基スラスターによる個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を敢行する。

地面ギリギリから掬い上げるように延びるプラズマ手刀の斜め上前方に向かって飛ぶ。

 

――― 一回

僅かに初速が足りずに脚部とスラスター一基を切り飛ばされる

 

 

 

――― 二回

伸びてきたワイヤーブレードを強引に振り切ったがその際にスラスターをさらに一基潰される

 

スラスター二基を失くした事で空中でバランスを大きく崩したが、一夏の決死の突撃を振り切ることはできた。

成功率が四十パーセントを切るこの技能をこの局面で成功させてみせた彼女は本物の一流だろう。

 

だが、それでも――――――

 

 

『オ、オオオオォォォォォォッ!!!!』

 

 

バランスを崩しているファング・クエイクの眼前に巨大な鉄塊が現れると同時に叩き落した。

 

 

 

その鉄塊は榴弾の直撃を受け、ひしゃげ使い物とならなくなっていたはずの大口径レールカノンだったもの。

 

 

 

スラスターを潰すためだと思っていたワイヤーブレードは、この鉄塊へと伸ばすための布石。

二本のワイヤーブレードに絡めとられてる鉄塊こそが一夏の最後の札だったのだ。

 

一夏はファング・クエイクの位置を見ると同時に、両手を地面に叩きつけ強引なブレーキをかけた。

瞬時加速の勢いはそれだけでは殺しきれずに、機体は倒立前転のような軌道が描く。

そして破損した脚部の断面にワイヤーを引っ掛けて、自身を柄とした即席のフレイルを作って奇襲したのだ。

 

 

同時にワイヤーブレードを基部からパージ、ハンマー投げのように鉄塊が飛んでいくがそんなことには気にも留めずに倒立前転したことで、天地逆さまになったままファング・クエイクへと突撃すると同時に一撃を叩き込み。

そのまま砕けた脚部さえ鋸刃のように利用した連撃で相手を沈めた。

 

 

 

――――――勝利したのは一夏だ

 

 

 

 

 

「よしッ!!!!」

接戦の末の勝利に私は思わず立ち上がって歓声を上げていた。

 

だがそれは画面の向こうでも同じだ。アリーナを埋め尽くす観客が大歓声を上げている。

 

 

やはり一夏は強い、私なんかよりもずっと。

 

 

その強さはISに乗っていても変わらなかった。

彼と共に並び立ちたいと思った。

 

幸いIS学園への入学は【篠ノ之 束】の関係者として決まっていたので、再会できると知りとても嬉しかった。

 

 

 

―――強くなりたい

 

 

今の私にとっての願いが決まった瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 

                         ▽

 

 

 

「どうした箒?」

眼前を覗き込むようにしている幼馴染がいた。

 

「うひゃああ!?」

咄嗟に押しのけてしまった

 

「うぶ」

 

「い、い、いきなり婦女子の顔を覗きこむとは何事だ一夏!?」

顔が真っ赤になるのが自分でもわかる。そっぽを向くことで誤魔化したが、一夏は気付いていないだろうな?

 

「いや時間がヤバイって件なんだが―――」

 

 

キーンコーンカーンコ-ン

 

 

 

「チャイムが鳴りましたね、箒さん」

ギギギと錆び付いた音が聞こえそうな動きでこっちを見てくる一夏

 

「ええい、諦めた顔をせずに走れ!!千冬さんの怒りが爆発しないうちに急ぐぞ!!」

 

「うん、たぶん火山の噴火に巻き込まれるか火口に飛び込むかの違いだと思うんだが」

 

 

 

 




戦闘描写が長引いているのは箒がどんどん知識を深めているからだと解釈してくだせぇ
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