インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 少々遅くなってしまいました。色々と闘技場のボス戦の進みを考え直していた結果、とってもキリトが苦しむ戦いにする事にしました。まぁ、クリア後は途轍もなく彼が強化されるんですがね……そのための戦いになります。

 さて、今話では和人と束の関係について語られます。以前にちょこっと名前と関係性が出ていますが、和人が束に信頼を寄せているストーリーが一部分語られます。

 そしてこれまで名前だけ、一部の登場だけだった誅殺隊と《ビーター》&《織斑一夏》アンチ達の本格登場です。正直、まだ触りですので、アンチが嫌いな方は本気で本作がキツイものになるかと思います。お覚悟下さい。

 ではどうぞ。最初はキリト視点の回想、次に久し振りのシリカ視点で、最後にシノン視点です。全て第七十五層闘技場へキリトが向かった直後のお話です。




第十九章 ~気高き仮面~

 

 

 昨日に引き続き今日もまた驚く事の連続だったなと、まだ朝起きてから数時間と経っていないのに、俺は南東に位置する転移門がある小さな村《コラル》へ向かう道すがらそんな事を思っていた。

 朝食に出したシーフードカレーに、つい昨夜に偶然作り出したばかりの限りなく米に近い食材を添えただけで、リー姉は驚くし、同じ料理人であるアスナは絶句、消沈、教授の請願と慌ただしかった。まぁ、美味しいと言ってもらえたのは素直に嬉しかったし、米も絶賛されたから偶然の産物と言えど作れて良かったと思う。ユイ姉も食べてくれるかと思ったものの、予想以上の食欲を見せたので、驚きもしたが同時にとても嬉しかった。今朝義姉弟の関係になったばかりとは言え、やはり家族に喜んでもらえるのは何よりも嬉しい事だと思う。

 この喜びを素直に受け入れられるのは、俺が唯一、神童の兄《織斑秋十》と世界最強《織斑千冬》の二人に勝っていると胸を張れる事だからでもある。

 俺が《織斑一夏》だった頃に作っていた料理は、《桐ヶ谷和人》と名を贈られてから作ってみると直姉からも母さんからも父さんからも十分過ぎると言われる程だった。米、味噌汁、肉や漬物、時にはサラダを出したりもしたが、基本的なメニューは必ず出していたかららしい。献立の栄養もそこまで意識していた訳では無く、単純に給食として出されるものを参考に作っていただけだったのだが、むしろ給食を参考にしていたのが功を奏してとても整っていたのだ。

 まだ幼かった俺が《料理》を満足に出来た最たる理由としては必要に迫られたからだろう……しかし、勿論他にも要因はある。

その一つが学校の給食献立表だ。栄養素、使用される食材名、またカロリーなどもしっかり計算された上で記載されていたものが、小学校では配られていて、俺はそれを主に参考にして作っていた。まぁ、小学生になったばかりの頃は勝手が分からなかったし、給食と被ったら殴られていたので、途中から姉が通っていた中学校の献立表も参考にし、更に篠ノ之家の献立も参考にしていた。献立の豊富さに関してはこれらが一番関係しているだろう。

 次に調理道具の扱いや調理法に関してだが、これは篠ノ之家の家事を一任されている篠ノ之忽那さんのお蔭だった。

 篠ノ之家は道場主であった龍韻さん、師範代であった忽那さん、天災と言われている束博士、そして剣道少女と言われていた箒の四人家族で構成されている。束博士だけが頭脳系に特化しているが、他の三人は全員が武道に秀でており、二日しか通っていないが俺もまた篠ノ之道場の門下生だったので全員と顔見知りだ。龍韻さんには篠ノ之流剣術を、忽那さんには料理を教えてもらったので、とても恩義を感じている。

 束博士からはISについて教えてもらっていた。勿論俺が名を改めてからである。それは俺の体に埋め込まれたISコアの調整をしてくれる際に、もしも束博士が駆け付けられない状況にあった場合を想定しての事だ。俺も曲がりなりにもISを扱えるので知識を溜め込んでおく事は吝かでは無かった、むしろ必要だったと言えるので、その申し出は有難い話だった。

 俺の体には一つのISコアが埋め込まれている。

 それは心臓直上、服を脱げば胸のほぼ中央に位置する形で直系三センチほどの黒い球が埋め込まれている。たった三センチの球がISコアだと見抜ける者はIS製作に携わっている者だけだろうが、それでも生体に埋め込むと拒絶反応を起こすのは割と有名な話らしいのですぐに否定するだろう。俺が主に使用するコアではあるが、束博士曰く特殊なコアであるためコアの型番を見破られる事は無いらしい。一応製作者である束博士は起動したコアの跡は追えるので、それで俺を探し出せたという。逆に言えば、これを埋め込まなければ俺は未だにあの研究所に居た可能性が高いので、無事に適合したのはある意味で助かったと言えるのかも知れない。

 この心臓直上にあるコアは、ISの機能として操縦者の身体状況を把握・調整する為か、俺の体内にあるホルモン系や神経系の調節をしてくれる。この調節によって大人の ホルモンバランスに整えられるので、俺の思考は節々が大人のように冷静……なのだという。俺も詳しくは知らないし、もっと複雑な話があるらしいのだが分かりやすく噛み砕いてもらってこれだった。

 大人のバランスに整えられるのならどうして俺の体は男らしくないのかと問えば、そもそもISコアネットワーク上に流れているホルモンバランスデータの大半が女性ばかりで、男性のものは限りなく少ないため、女性データを参考にされているからと推察している、という答えが返って来た。果てしなく哀しくなったのは未だに覚えている、俺が埋め込まれたコアは二度と外せない、イコール男らしい体つきになるように調整されないという事だからだ。

 ISは女性にしか扱えないのに男性のデータも少ないながらあるという点は製作者本人にも分からない事で、SAOに入る以前の時点では目下調査中だった。

 ただISコアを扱えるのは女性だけ、というのは誤りであるらしい。正確には《明らかな反応を示すのは女性》であり、《明らかでは無いが微弱な反応を見せるのは男性》と言えるらしい。それが歪んで伝わってしまったのだという。それを否定出来ないくらいに微弱な反応で、更には機器で精密な検査をしなければ分からないため否定するのも難しく、あれよあれよという間に女尊男卑風潮が広まってしまっていた。

 そんな中で俺は明らかな反応を見せてISコアを起動出来た訳だが、その理由こそ俺のホルモンバランスが関与しているらしかった。簡単に言えば、俺のデータとISコアネットワーク上に存在している女性達のデータが大きく一致した為だったのだ。更に言えばDNAが史上最高の適性ランクを叩き出した《ブリュンヒルデ》と血族な為に同じだからこそ、俺は起動出来たという。適正値で言えば、恐らく同じように起動出来るであろう神童の兄より上というのは束博士の見解である。

 そんな風にISに関する様々な事を教えてくれた束博士は、当初これを贖罪と言っていた。自分がISの発表をもっとキチンとしていれば酷い目に遭わなかった筈だから、と。俺が神童の兄の扇動で虐げられていて、その中には女尊男卑によるものがあった事を理解していたからこそ、俺が束博士を恨んでいると思っていたらしい。

 確かに、俺を虐げて来た者達の中に、その風潮に毒された者が居なかったと言えば嘘になる。俺の容姿は、あまり認めたくないが酷く女の子らしいもので、直姉からもよく羨ましがられる程に肌が綺麗だったため、それを妬んでやっていた者も居たと思う。その風潮の大本はISで、更に言えば束博士が原因とも言えたからこそ、俺が恨んでいたのだと思っていたらしい。

 そう思っていたから、束博士は俺が《織斑一夏》であった時、あまり関わろうとしなかったのだという。恨まれていると思うと会うのが怖かったと涙ながらに語られ、予想外な事に唖然としてしまった。

 結果的に言えば、俺は束博士の事は恨んでいない。恨むという事は、つまりISを否定するという事……あの人の夢を否定するという事でもあったからだ。まぁ、そもそも虐げて来ていたのが別の人々で、束博士ではなかったからでもある。

 そしてあの人は、俺に夢を語ってくれて、そして俺の夢を肯定してくれた人でもあったのだ。

 何時だったかはもう定かではないが、宇宙という無限に広がる黒い海を飛び回る夢の結晶がISなのだと語ってくれた。そして俺が胸に秘めていた、家族に凄いと言われるようになるという夢を、初めて肯定してくれた人だったのだ。実兄からは無理だと言われ、実姉からは何も言われなかった、学校の誰からも認められなかった夢は、初めて束博士によって肯定されたのだ。

 だから俺は束博士を恨んでいなかった。夢を認めてくれて、応援していると後押ししてくれた人だったから、恨むなんて嫌だった。俺を初めて見てくれた人だったから。

 俺が《織斑一夏》の時にあの人と話せた回数は、恨んでいるのではと思い込んでいたあの人が避けていた為にそこまで多くは無かったが、それでも俺の心の支えになっていたのだと後から思った。他人には勿論、あの二人にも知られていないあの関係性があったからこそ、きっと自殺だけはしなかったのだと思う。束博士が居なければとっくの昔に自殺していたと思う。あの人があの頃の、唯一の心の頼りだった。

 それが今はどうだ。《織斑一夏》として、更には悪として振る舞っているのに、《Kirito》の悪評や《織斑一夏》の名前に関係なく俺自身を見てくれている人達が一杯居る。束博士、直姉を始め、アスナやユウキ、恨んでいてもおかしくないサチ、リズにシリカ、ヒースクリフやディアベル、エギル、そしてベータ時代からの付き合いであるアルゴと正規版から最も馴染み深いクラインといった多くの人々が、表立っては出来ないけれど確かに味方で居てくれている。シノンとストレアも昨日が初対面で、俺の話を聞いても、むしろ怒ってくれる程に優しかった。

 もっと、もっと早くに出会いたかった。きっとこの世界に閉じ込められたからこそ得られたのだろう事を考えると、俺はこの世界がデスゲームになった事の全てを拒絶する事は出来そうになかった。ここが俺達にとっての現実になったからこそ得られた関係なのだと思うと、嫌いになれない、むしろ好きとも言える。

 勿論楽しい事ばかりでは無い。攻略は苦しいし、俺は半ば自分から意図的になったと言えどソロを貫いているから死ぬ確率が高い。死ぬ事は、もうかつてのように望んでいない、むしろ怖いと思うようになっているから一人で戦う事をここ最近は辛く思ってもいる。だから第七十四層ボスを倒した日、アスナが協力を申し出てくれたのは好都合だった、生憎とパーティーは組んでいなかったがとても楽だったのは覚えている。アレを知ってしまうと、一人で戦うのは辛いとしか思えない。

 けれど俺は、一人で戦わなければならない。《ビーター》と疎まれ、《織斑一夏》として蔑まれる者だからこそ、誰かと共に戦う姿を見せる訳にはいかないのだ。

 闘技場の《個人戦》に限って言えばアスナ達には劣ると言えども攻略組の一人であるキバオウすら一瞬でやられてしまった事を考えると、怪我の功名と言えるのかも知れないが。

 それに元々は疎まれ者として振る舞う為に《ビーター》を名乗っているので、直姉達には見せている俺の素を出さずに演技をしなければならないのは非常に疲れる。それに、俺を殺そうと狙って来るグリーンプレイヤー達の相手も結構面倒な上に数が多いからキツイし……仮に俺がオレンジになったら多分ここぞとばかりにキバオウやリンドを筆頭に誅殺隊が来ると思うから、圏外で遭遇した時は下手に相手出来ないというのが辛い所である。

 とは言え、今は圏内に居るので、普通に反撃は出来るのだが。

 

「本当に来たぞ……オイ、皆に知らせろ!」

「おう!」

「出来損ない織斑一夏! 今日こそ、絶対に転移出来ないように手足を切り落として、転移結晶はおろかストレージのアイテム全部没収した上で空に放り出してやる!」

 

 第七十五層に転移してすぐ、俺が今日ここを訪れると知っていたのか誅殺隊で見た事のある男達が犇めき合いながら各々の武器を抜いて、俺に突撃してくるのが視界に入った。

 それを見た俺もまた、背中に交叉して吊っている二剣の内、漆黒の剣エリュシデータだけを抜き、左半身を前に前傾姿勢となって後ろ手に構えた。カチリ、と意識上での整合音が鳴った気がしたのと同時、少しだけ気が抜けていた気持ちが一気にピンと張り詰めるのを自覚する。

 

「面倒な……」

 

 少し乱暴に吐き捨てて、俺は迫り来る誅殺隊を迎え撃つ為に肌色の煉瓦で敷き詰められている地面を蹴った。

 

 ***

 

「彼はまだですかねー?」

「きゅるー?」

「きゅー?」

 

 第七十五層闘技場近くで出ているNPC経営の屋台でホットドッグのようなものを購入し、それを食べながら時間を潰していたあたしは、完食したのを契機にホットドッグに付けられていた脂取り紙を青いポリゴンへと散らせながら退屈そうに呟いた。それに、昨日から預かっている待ち人の使い魔ナンちゃん、あたしの使い魔であるピナという青色の和毛に包まれている《フェザーリドラ》達が合の手を入れてくれた。

 青い和毛、紅い瞳に尾の先が二枚の羽のように分かれているこの子達を見分ける方法は、羽毛の色と瞳の赤みの深さしか無い。ナンちゃんの方が和毛は更に蒼が深く、更に瞳の色も燃え盛る炎のように深い紅色だ、ピナはどちらも薄めで水色に赤色くらいである。

 あとここ最近判明した事だが、ピナはオスでナンちゃんはメスらしい。二匹はとても仲が良いので顔を合わせた時は鼻先を必ず合わせる挨拶を交わしている。

 まぁ、ピナはキリトくんにもしているのだが……きっと友好の証なのだろう。彼が居たからこそ蘇れたという事をきっと理解してくれているのだ。

 

「あんたねぇ……まだ九時になってないでしょ、ちょっとはしゃぎすぎなのよ」

 

 そんなあたし達に呆れたような口調で苦笑を浮かべながら言ってきたのは、攻略組御用達の武具店を営んでいるリズベットさんだった。昨日は彼女に用事があって、そのまま面倒なのでリンダースの宿を取っていたので、一緒に第七十五層にキリトくんが姿を現すと聞いて来たのである。

 その彼女の指摘に、あたしは少しばかり頬を膨らませて見せた。

 

「だってあの子が戦う場面をあたしは見た事無いんですよ? 攻略組最強だってアスナさんやヒースクリフさん、ディアベルさんという名立たるプレイヤー達が揃って言うんです、是非ともこの目で一度は見てみたいんですよ! …………まぁ、件の話の事もあるので、心配というのもあるんですけどね」

「むしろあたし達にとってはそっちの方がウェイトを占めてるわよねぇ」

 

 あたしが言った《件の話》とは、第七十四層ボスをほぼほぼ単独で倒してしまった後に泣いてしまった出来事の話だ。アレは又聞きでしか聞いていないし、一応ナンちゃんを預かった時は普通のように見えたものの、休暇は数日から数週間は続くと思っていたものだからよもや一日で終わると思っていなかったので、本当に大丈夫なのかと心配になっているのだ。

 恐ろしく危険に満ちた最前線の情報を一番に届ける為に一日たりとも休まなかったあの子が漸く取った休暇、それがたった一日などと聞いて心配にならない筈が無かった。

 

「……というか、何か騒がしくなってきてない?」

「本当ですね……何かあったんでしょうか?」

 

 期待と心配を抱きながら闘技場施設の外で待ち続けつつ談笑している内に、何時の間にか周囲に疎らにいたプレイヤー達が矢鱈忙しそうにしている事に気付いた。更には遠くから雄叫びのようなものまで聞こえて来て、明らかに街中で起こるものでは無かったので、顔を顰めてしまう。

 しかし何も分からないというのも嫌なので周囲の人達に何があったのか訊こうと思った。情報は生命線、知っていれば危機を回避出来る事は多い。特に性差別によって強く女性を憎み嫌悪している者が関わっていたら、何がトリガーになって命を狙われるか分からない……と、ユウキさんやランさんからも忠告されているから、尚更その意識が強い。攻略組ですら警戒する事は、中層域で活動しているあたしにとってすれば未曾有の危機にも等しいのだから。

 なので、あたしはリズベットさんと相談してから、近くを歩いていた女性プレイヤーに話を聞くべく近付いた。フードがついたベストっぽい蒼のスカーフ、プレストプレートを胸に付けたへそ出しルックの軽装な女性だった。武器はあたしと同じで短剣らしく、後ろ腰には峰の部分に刃を引っ掛けて折る為に敢えて作られたギザギザがあった、確かソードブレイカーと呼ばれている武器破壊の為の大振りな短剣だ。

 

「あの、何かさっきより騒がしくなってるみたいなんですけど、一体何があったんでしょうか?」

「え? ああ、あの姿を消してた《ビーター》がついさっき転移門から情報通りに出て来たからって誅殺隊が応援を呼んでるみたい。今は《ビーター》VS誅殺隊の様相になってるから転移門には近寄らない方が良いよ、最早一方的な有り様だから……あそこまで強いだなんて、やっぱりフロアボス単独撃破の実績は伊達じゃなかったって事ね……」

 

 あたし達に情報をくれた金の髪に蒼の瞳をした女性は、何かを噛み締めるかのような呟きを漏らしつつ、闘技場の中へと姿を消した。

 お礼を言いそびれてしまったが、あたしとリズベットさんはそんな事を気にしていられなかった。さっきの女性の話が真実ならば、転移門がある所でキリトくんが誅殺隊に襲われ、交戦しているというのだから。

 まぁ、一方的と言っていたし、ここは圏内だから大丈夫なんだろうけど……抜け道というものもあるにはあるので、あまり安心は出来なかった。

 

「リズさん、行きましょう!」

「ええ……まったく、あの子は何時もこんな感じなのかしら……!」

 

 あたしが促し、リズベットさんも頷いて同時に転移門へ向かって走り出した。少しだけ離れてはいるが、そもそも闘技場自体がこの第七十五層主街区《コリニア》の目玉なため転移門からさして離れておらず、そのお蔭で一分も走り続けたらすぐに目的地に到着した。

 そこで見たのは、正に一方的な戦いだった。

 

「死ねぇ!!!」

「このぉッ!!!」

 

 二人の片手剣使いが挟み撃ちするように剣を振りかぶった時に辿り着いたあたし達は、長棍と黒い剣を交えて鍔迫り合いをしているキリトくんの姿を認めて、あのままでは左右から強烈な攻撃を喰らってしまうと危惧した。圏内なのでHPダメージは受けないが、しかし衝撃はしっかりと受ける、最悪それで気絶してしまいかねないので危険だと思ったのだ。彼らは本気でキリトくんを殺そうとしているのだから、気絶したらこれ幸いとばかりに高所落下で殺そうとするに違いなかった。

 中には攻略組メンバーもいるらしく、他の人達よりも装備が上等な人も混ざっていたので、もしもそうなったら攻略組ではないあたしやリズベットさんではどうにも出来ないのは分かり切った事。

 だからあたしは危ないと、そう叫ぼうとした。

 

「甘い」

 

 しかし、その必要は無かった。あたしが注意を喚起するよりも一瞬早く、彼は動きを見せた。押し込もうとする長棍使いに対して後ろに一歩引いて見せただけだったが、それがとても効果的だった、挟み撃ちにしようとした二人の片手剣による一撃を受けたのはキリトくんでは無く、位置をずらされた長棍使いだったからだ。

 前によろけていた為に頭部へ二人の攻撃を諸に受けた長棍使いは、がふっ、と低い呻きを上げて仰け反った。片手剣使い達はフレンドリィファイアをしてしまって狼狽え、その大きすぎる隙をキリトくんが見逃す筈も無く、蒼い横一閃の一撃《ホリゾンタル》によって思い切り吹っ飛ばされる。近くの煉瓦で作られた家に背中から叩き付けられた三人は、呻きを上げた後に動かなくなった。気絶したのだ。

 

「もらったぁッ!!!」

 

 三人が気絶したのを目視で確認した彼の油断を突くように、今度は彼の背後から長槍による突進攻撃を仕掛ける男が居た。

 しかし、それも意味は無かった。彼は振り返る事も無く、長槍使いから見て半歩右に移動した、それだけで槍の鋭い穂先が空を切る。

 

「ふんッ!」

「がはぁっ?!」

 

 避けられると思っていなかったらしい長槍使いが唖然と口を開いて固まっている間に、キリトくんは大きく時計回りにその場で回転し、遠心力と身体の捻転を加えた右薙ぎを長槍使いの背面へ叩き込んだ。強烈な一撃を唐突に背中から受けた男は、呻きを上げた後に大きく吹っ飛び、さっきの男達と同様建物の壁に今度は顔側叩き付けられ、気絶する。

 誅殺隊にとっては必殺と思っていた連携をいとも簡単に破られたのが信じられないのか、周囲の民家の壁や地面で気絶している者達の残り、未だ武器を構えている男達はじり、と半歩後ろに下がる。

 その男達を、キリトくんは今まであたしが見た事無いくらい冷ややかな目つきと凍り付いた無表情で一瞥し、右肩にエリュシデータを担いだ。勿論肩には剣の腹を乗せており、刃は立てていない。

 

「今更この程度で俺を殺せると、一撃与えられると本気で思っていたなら、相当に舐められたものだな。自分達の実力を過大評価、あるいは俺を過少評価し過ぎじゃないのか? そんなのでよく攻略組をやって来られたな、リンド?」

「黙れ! 《ビーター》の貴様さえマトモに動いていれば死者はもっと少なく出来た筈なんだ、何千人と死ぬ事は無かった、第一層での死者をもっと減らせた……いい加減、死を以て贖え!」

「だったら俺を殺してみろ。あと一分でデュエルが終わる。わざわざ《完全決着》モードで、しかもそっちは多勢で受けてるんだ、いい加減誰か一撃くらい当てないと面子が丸潰れなんじゃないか? 本当なら速攻で武器を壊して終わらせても良い所を、スリークォーターという事もあってわざわざ武器破壊をしないようにしてるんだぞ」

「舐めるな、ビーターがぁぁぁぁあああああああああああッ!!!」

 

 無表情……と言うより、最早何の感慨も浮かんでいないとも読み取れる表情で彼が言い放った言葉に、リンドと言うらしい蒼髪白銀鎧の曲刀使いが怒声を響かせながら、紅い光を曲刀から迸らせて斬り掛かった。かなりの速度だった袈裟、逆袈裟、左斬り上げ、大上段から軽く飛び上がっての唐竹割りからなる四連撃を、彼はひょいひょいと身のこなしだけで躱し、不発に終わった。空気を切り裂く音がかなりの大きさで聞こえた。

 ソードスキルには全て例外無く技後硬直というものが課されており、それは高威力のスキルほど長くなるのが基本となっている。勿論デメリットの多い無手の《体術》などは、それを補うようにして硬直が極端に短いという例外もあるが、武器系スキルは基本この原則から外れる事は無いと言って良い。

 故に、リンドという男はガチリと、避け得ぬ硬直を課された。しかも彼の目の前で。

 

「シッ……!」

 

 そんな分かりやす過ぎる隙を逃す筈も無く、キリトくんは左腰に構えた黒剣から紫色の閃光を迸らせ……一瞬で、左に振り抜いていた。真一文字のように紫色に煌めく斬閃が綺麗なそれは、《片手剣》二連撃ソードスキル《スネークバイト》、余りにも速過ぎて一撃にしか見えないがしっかり右薙ぎと左薙ぎからなる二連撃を放つ技だ。

 あたしはキリトくんと関わってから、短剣だけで無く簡単な武器ならある程度使えるよう、《片手剣》、《片手棍》という《短剣》を含めて斬突打の三属性を自由に扱えるようスキルを鍛えていた。だからこそ、アレが《スネークバイト》という中位に入り掛けの使い勝手のいいスキルである事が分かったのだ。

 構えてからの攻撃が他のスキルよりも圧倒的に速いそれは、つまり速度によるダメージ倍率が他よりも圧倒的に高いという意味でもある。これが使い勝手のいいスキルと言われる最たる由縁で、他にも発動時間が短いからこそ隙も小さく済み、中位に入り掛けの威力だからこそ硬直も短く済む事も挙げられる。《ホリゾンタル》より攻撃範囲もそこそこ広いため、敵が眼前に複数居たらあたしもよく使っているスキルである。

 その一瞬二撃を受けたリンドという曲刀使いは、思い切り吹っ飛び、どうやら本当にデュエルを受けているらしくHPがゴッソリ削れた。フルだったゲージが一気に減っていき、残り一割を切ったギリギリのところで減少が止まる。多分壁に激突した事で追加ダメージが入ったのだと思う。

 圏内でのデュエルは、戦うプレイヤー同士に掛けられている《アンチクリミナルコード》という圏内と呼ばれる所以のシステム防御コードが解除され、HP減少がしっかり発生するようになっている。しかもデュエルをしているプレイヤーは完全に圏外と同じになるため、圏内コードが掛かったままのプレイヤーによる妨害も普通に受ける……つまり決闘者以外のプレイヤーからの攻撃でもダメージを負う事になるため、そもそもからしてあまり行われない。

 デュエルを行うとすれば、それは互いの意見を勝った方が押し通すといったような、手出し無用の場所でするのが通例とされるらしい。少なくとも攻略組ではそうだという。

 しかもデュエルのモードもこれは問題だった。デュエル開始から一発目のソードスキルか初撃クリティカル、それで決まらなかったらHP半減で終了する《初撃決着》、HP半減によって終了する《半減決着》、そして恐らく普通のゲームとしては当たり前で、このデスゲームでは選ぶ事すら非常識なHP全損によって終了する《完全決着》の三つのモードがある。

 彼はさっき、このデュエルが《完全決着》であると口にした。そして曲刀使いのHPがレッドゾーンに入ってもデュエル終了のメッセージが出ない時点で、これが本当に《完全決着》であると証明していた。野次馬として面白がっていた誅殺隊では無い者達が驚き、表情を歪めるのをあたしは見た。

 もしかすると、この《完全決着》デュエルをけし掛けたであろうリンドや多勢に無勢なのを承知の上で割って入っている誅殺隊に顔を顰めたのでは、キリトくんを理解している人は案外居るのではと、そう思った。

 そう思っていたら、ある男性プレイヤーが一歩踏み出し、口を開いた。

 

 

 

「卑怯なやり口だな、《ビーター》! どうせリンドさんを殺す為に、わざと《完全決着》を選択するよう煽ったんだろ?!」

 

 

 

「え……?!」

 

 しかし、あたしが抱いた想いは、アッサリと破られた。

 男性の口から放たれたのは悪罵、しかしそれは誅殺隊に対する諫めの言葉では無く、キリトくんが全面的に悪いと言うものだった。どう見ても、彼を殺そうと大人数――気絶していた人も含めておよそ二百人ほど――で襲い掛かっている男達の方が、悪にしか見えないのに。

 

 

 

「そうすれば邪魔者を消せるもんなぁ、ホント悪知恵だけはよく働くよな! 流石は屑だ!」

 

 

 

「裏で殺すPoHみてぇな奴より、お前みてぇな堂々と殺しをやる奴の方がよっぽど問題だぜ!」

 

 

 

「消えろよ、人殺しをして平然としてるやつが生きてていい筈無いだろうが!」

 

 

 

「とっととユニークスキルとかいう《二刀流》スキルを死んで他の攻略組に明け渡せ!」

 

 

 

「この人殺しが!」

 

 

 

「この卑怯者が!」

 

 

 

「ゲームで強いからって調子に乗ってんじゃねぇぞ、この出来損ないが!」

 

 

 

「何がフロアボス単独撃破だ! どうせ情報を独占して、良い思いをしようと独走したんだろうが!」

 

 

 

「ていうかアレ自体嘘だろ! どうせ軍のメンバーを囮に使って、HPが良い感じに減った辺りで乱入して、お披露目で目立つのも兼ねて倒したんだろ?! 結局ソロじゃねぇじゃねぇか、嘘流してんじゃねぇよ屑!」

 

 

 

 その男性の悪罵を皮切りに、次々とあたしが抱いたものとは違う悪罵が投げられる。誅殺隊では無く幼い彼に、たった一人で戦い続けているキリトくんに、周囲の野次馬達は死ねと、消えろと、そう言い続けていた。

 途中で時間制限を設けていたのかデュエルが終了し、《Winner》の表示がキリトくんの顔写真の横に表示されたのを見て、一気に転移門に集まっていた数百人の野次馬達が、男女問わずにブーイングを上げ始めた。

 

「「「「「消えろ!!! 消えろ!!!」」」」」

「「「「「死ーね!!! 死ーね!!!」」」」」

 

 そしてとうとう、そんな事を声を揃えてコールし始めた。誰もが顔を醜悪に歪め、周囲を一瞥した後に黙ったまま剣を背負い直した彼は、その大勢の声を背中に受けながら歩き出す。方向は闘技場方面だった。

 途中で、あまりにも酷過ぎる光景に固まっていたあたしとリズベットさんの近くを通ったが、声を掛けようと口を開きかけたあたし達を眼だけで威圧して何も言わせないようにして、立ち止まる事も声を掛ける事も無く、眼を向けただけで通り過ぎていった。

 ずっと人の為に戦い続けているのに、諸悪の根源は別にあるのに、全て悪い事にされている彼は決して涙を流さず、表情を凍り付かせていた。

 あたしには、その凍り付いた表情こそが泣き顔で、あたし達に見せている背中が決して華奢だからだけでは無く寂しさと辛さを堪えているから小さくなっているようにしか思えなかった。

 あたしはこの時、初めて《ビーター》と《織斑一夏》に纏わり付いている闇に触れた。想像以上に遥かに酷く、そして彼が教えてくれていた事は明らかに軽く伝えられている事を理解した。全然、何一つも彼が背負っている重みを理解していなかったのだと、痛感させられたのだった。

 

 ***

 

「……何なのよ、アレ……」

 

 沈痛な面持ちで唇を噛むアスナ、泣きそうなくらいに表情を歪めながら怒りの面持ちのリーファ、呆気に取られて哀しそうなストレア、涙を流してリーファに抱き付いているユイちゃんと一緒に居た私は、眼前で繰り広げられてた私の常識外の光景に、ぽつりとそう言うのが精一杯だった。余りにも余りな光景に、悪い意味で思考が停止し、理解が及んでいなかった。

 いや、理解するのを拒んでいた。

 私は昨夜、キリトによって家に案内された時に本人の口から彼自身の過去としてきた事を教えてもらった。彼がずっと織斑の名によって不当に虐げられてきた事も、新たな家族に拾ってもらった事も、そしてこの世界で行ってきた行為の数々を赤裸々に語ってもらった。無論、殺人快楽者の集まりであったレッドプレイヤーという――殺人を率先して行う者達をシステムカラーでは無いがそう呼ばれる――者達を、実に二十人以上も殺害した事だって教えてもらった。何れ知る事になるから、早い内に話した方が良いと判断したかららしい。

 だからこそ、私はキリトという幼い子の事を信用し、また信頼した。記憶も無く、身寄りも無く、更には素性も不明で迷惑しか掛けられない私に、彼は根気強くシステムの扱いやこの世界の常識についてヒースクリフやアスナ以上に教えてくれたし、家にも無償で置いてくれた。同居は最初渋ってはいたが、それも私達を案じての事だったから、彼は信用に足る人物であると判断出来たのだ。

 まぁ、義姉のリーファに対しては物凄い懐き様で、あくどい事など考えそうにない純粋さも垣間見たからもあったが。

 そして記憶が無い私にとって、キリトのこの世界での評判なんて知らなくて、彼と接した生の情報だけが判断材料だった。彼に抱いたのは、とても純粋で、優しくて、脆い子供という印象だった。とても思慮深く、心が強くて、何でも背負い過ぎな他人想いな子なのだと……

 故に、《ビーター》というだけで、《織斑一夏》というだけであそこまで否定され、拒絶され、悪罵を投げられる事が理解出来なかった。

 《ビーター》という仇名だって、そもそもからして他の人達が少しでも協力して戦えるよう演じた結果についたもので、更にはベータテストでの知識を悪用する者という意味があるのだから、ベータで進んだ第十四層よりも遥かに上の現在では全く意味を為さないとしか思えなかった。それがここまで悪罵を投げられる要因になっている事、先ほどのリンドとか言う男が怒鳴りながら口にしていた内容が、不可解で、理不尽で、怒りを覚えずにはいられなかった。

 悪罵の中には彼を人殺しと蔑む者も居たが、じゃああなたはどうなのと、そう思った。

 キリトが《笑う棺桶》というレッドギルドのメンバーの多くを殺めたのは、討伐に向かった攻略組からなるレイドで死者が出掛かり、その人達を護る為だとアスナから夜の女子のみで開かれた――実質キリトとヒースクリフ以外――女子会で教えてもらった。

 アスナ達は、もしもの時に彼らを殺す事を覚悟していなかったらしい。いや、したつもりではいたのだが、所詮はつもりで、実際にあと数ドットで全損してしまうのに躊躇なく戦いを挑んでくる者達と対面して思考が鈍り、動きが鈍り、殺され掛かってしまったのだという。誰もがそうだったのだ。

 そんな時に、まだ暴れる者達を殺したのがキリトだったという。彼は幹部だったらしい毒ナイフ使いとエストック――細剣カテゴリの中でも刺突にのみ特化した武器――をコレクションしていた二人組を真っ先に殺し、周囲が動揺して動きを止めた隙に近くに居た抵抗し続ける《笑う棺桶》メンバーを次々と殺し、転移結晶で逃走を図ろうとしていたPoHへ毒ナイフ使いが死んだ事で床に落とした麻痺毒ナイフを投げ付けて麻痺させ、首を撥ねて斬殺し……それを契機に、《笑う棺桶》の首領へ付いていた生き残り十人余りが投降した事で、討伐戦は幕を引いたという。

 後日、キリトが裏で情報屋に指示してわざと《ビーター》に悪印象を更に与え、《アインクラッド》中のヘイトを集め、稀に出ていた自殺者を減らそうとしたらしい。また、犯罪を好んで行うオレンジプレイヤーや殺しを進んで行うレッドプレイヤー達に対する警告としたという。そのまま悪行を続けていれば殺しに行くぞ、という無言の警告に。

 全て、彼の行いは全て人の為だったのだ。それで正当化される訳では無いとキリト自身も認めているらしかったが……その全てが悪だと断じる事は、私には出来そうになかった。彼がそうしたからこそ救われた者がいる、殺されていたかも知れない人が生きているのだと思うと、全くの過ちだとも思えなかった。

 

「リンドさん、大丈夫ですか?」

「あ、ああ……クソッ、また負けた……!」

「仕方ないッスよ。あの屑があそこまで強いなんて土台おかしいんスから、どうせベータ時代のチートやってるに違いないッス」

「それに迷宮区の宝箱とかフロアボスのLAは軒並み取ってるから、それで装備を限界まで強化してるんでしょ。経験値も独り占めだし、アイテムも独り占め、それくらいしないと攻略組に居られないくらい弱いって証左に違いないって」

「そうだな……しかもユニークスキルまで……何であんな奴なんかに……!」

 

 それを理解せず、ただただあの子を貶めて自尊心を護ろうとしている男達を、私は冷ややかに睨んだ。彼が強いのはベータ時代の経験もあるかも知れない、けれどそれ以上に彼の心が強いからこそ辛い環境や最前線での苦境に耐え抜けているのだ。チートなんて、そもそもそんなのデスゲーム化させた犯人がさせる訳が無いし、それ以前に彼の事を見下しているならそんな高度な技術を持ち合わせていないという考えに至らないのかと思った。

 都合よく彼の事を悪くして、矛盾している事には目を向けない……そんな愚かな男達に、私は心底反吐が出そうだった。これ程腸が煮えくり返りそうな怒りなんて、多分記憶喪失になる以前ですら経験した事は無いだろうと思える程だ。

 そして、立ち去る時に見えたキリトの顔は、凍り付いていて……泣き顔にしか、見えなくて。《ビーター》であり《織斑一夏》の顔の時はずっとあの仮面を被っているのだと思うと、何だか哀しく思えて来てしまった。《リーファの義弟》の時に見せてくれた、あの子供らしい柔らかな表情の欠片も無くて、まるで別人のようにしか見えなかった。

 ほんの二十分ほど前に柔らかな笑みを浮かべて分かれたキリトとは、到底思えないくらいの変わりよう……アレこそが、周囲の人間達に不当な拒絶をされ続けた少年の顔なのだろうと、理解させられた。

 あの子が人恋しそうに、そして義姉に物凄く甘えて安心しきっていた様子も、この光景を見ればとても納得がいく話だった。人の温かみに、彼は飢えているのだ……

 

「キリトは……あの子は、ずっと、こうだったんですか……」

「……今日は一段と、酷かったよ。《二刀流》っていうユニークスキルの事、第七十四層での出来事もあったから…………今までなら、何か挑発めいた事を口にして煽るんだけど、今日は無かった……」

 

 何時もしていた挑発をしなかった。それは私達が居たからか、それとも……

 

「……アタシが思うに、さ……キリト、もう本当に限界だよ……」

「きー……泣いてた……こころが、泣いてた……!」

「……ええ、そうね……泣いて、いたわね……」

 

 ストレアの悲痛な面持ちでの呟きに同調するようにして、ユイちゃんが嗚咽を漏らしながら小さく言った。その彼女を抱き締めているリーファは、僅かに涙を浮かべながら、ゆっくりと小さな少女の背中と頭を撫でる。

 

「……理不尽、過ぎるわよ……こんなの……何なのよ、本当……!」

 

 何故あんなにも人の事を思える無垢な子ばかりが虐げられるのか、そもそもどうしてあそこまで虐げられなければならないのか……そんな事をする人間達とは一生相容れる事は無いだろうと、私はその確信を持ちながら歩き去った黒の子の事を想っていた。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 実は《笑う棺桶》討伐戦での経緯も明かされました……ぶっちゃけると原作キリトを更に酷くしてる感じですね、原作ではPoHがそもそも居なかったのですが。

 PoHに投げたナイフに関しては、GGOアニメの討伐戦後シーンで、《笑う棺桶》メンバーの武器と思しきものが散乱してましたので、その中で《ジョニー・ブラック》こと毒ナイフ使いの武器を投げたという感じにしてます。

 SAO編でもアスナ死亡時にランベントライト残ってますしね、何でか《スカル・リーパー》の時にやられた人達や《月夜の黒猫団》は武器ごと砕け散ってましたけど。《圏内事件》ではキッチリ残ってるし……あの辺を統一して欲しい……

 さて……では本題。ちょいちょい名称だけ及び一部分だけ登場してはすぐに退場していたアンチメンバー、そして久し振りのリンドのアンチ振り、如何だったでしょうか。例のビーター宣言をオマージュしておりますが、シリカの予想との対比でより酷さが克明になったかなと思っております。

 前書きにもありましたが、先に待ち構えているアンチ――と言うよりアンチ達の凶行――に較べれば、今話のはまだまだ序の口ですので、本気でお覚悟下さい。

 ちなみに原作を呼んでいる方ならお気付きの方が居るかも知れませんが……シノン視点を出したのには意味があります。記憶喪失に陥っていても、本人の気質や無意識での思考回路はそのままですからね……原作の彼女の状況を思い出しながら読み返して頂ければ、もしかして、と思う事があるかもです。

 では、次話にてお会いしましょう。

 設定集にヒースクリフの紹介、第十三章以降の概要及び時系列を追記致しました。


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