インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは。初めましての方は初めまして、そして《ソードアート・オンライン》を原作としている《闇と光の交叉》を既に読んで下さっている方は改めまして、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 実は上記の作品の加筆修正で、ネタはあるけど書く気が来ないというスランプ来たんで、書き溜めを投稿しようと思いました。

 あらすじで書いていないのは、読む際の参考にする際として見る時、こういう文があると雰囲気台無しだなと私自身で思っているからです。なので前書きを利用しています。


 ちなみに、私の小説に共通する事をここで書いておきます。

 時間経過や場面替え、回想ではアスタリスクマーク《*》が一つ。キャラの視点は変わりません。

 キャラ視点替えは《***》三つになります。キャラの視点替えによる時間経過はあり得ます。

 また、キャラの一人称、口調はそれぞれ変えているつもりです。「」セリフカッコが続く場合、別のキャラが交互に会話しているという事で、同じキャラの連続した台詞ではありません。


 さて……では私の二作目となる本作、短いですがお楽しみ下されば幸いです。

 ではどうぞ。




第零章 ~ありがとう~

 少年は歩いていた。どことも知れない街中を、十にならないくらいの少年が襤褸切れを纏って歩く様は、異様に映った。

 時刻は夕陽が落ち、既に闇へと景色が沈む時間。少年が歩き過ぎる家からは暖かい光と食べ物の芳しい香り、そして狂おしいほどに羨ましいとさえ思える団欒の声があった。

 少年の姿はみすぼらしかった。白い柔肌は擦り切れ土で汚れ、服は最低限のものしかない。冬も本番へと変わりつつある季節だ、当然夜は冷える。これでは簡単に風邪を引いてしまうだろう。

 けれど、この少年に居場所など無かった。

 インフィニット・ストラトス。

 略称、IS。宇宙進出を目的に少年の知り合いの女性、篠ノ之束博士が発明した世紀の発明。宇宙空間でも活動できるよう考えられて作成されたマルチフォームスーツは、しかし重大な欠陥があった。

 ISは女性にしか扱えなかったのだ。この欠陥はISを動かす原動力であるISコアを作れる唯一の人物である束博士でも、その謎を解明できず、勿論改善なども出来ていない。故に世は女尊男卑の風潮となっていた。少しでも女性に逆らえば即座に刑務所へと入れられ、裁判では必ず女性が勝つようになる世へと。

 そのISは最初こそ世界に認められず、日本政府からは鼻で笑われた。それにキレた束博士は自分の天才的なハッキング技術をフル活用して、全世界の軍事的なCPへとハッキングを仕掛け、二千を超えるミサイルを日本へと向けて放った。それを織斑千冬が搭乗した《白騎士》によって全て撃墜され、その軍事力を得ようとあらゆる兵器が差し向けられるも死者ゼロで逃げられた。ちなみにハッキングと白騎士搭乗者の名前は知られていない。

 これによって世界はISを受け容れたのだ、軍事的な力として。そもそも宇宙進出の技術も殆ど進んでいないのだから、あまりに進みすぎた技術は軍事転用にもってこいだったのだ。

 とはいえ、アラスカ条約というものでISの軍事的活用および転用は堅く禁じられており、IS委員会という組織に加盟している各国家は現在世界に現存している467個のコアを分けて、スポーツという建前で競い合っている。モンド・グロッソという、ISの武道大会のようなもので。

 ISは女性にしか扱えない、これは不変の絶対原則だ。故に男性は虐げられる立場にある。

 しかし、少年はそれでは済まなかった。第一回モンド・グロッソで優勝し、第二回モンド・グロッソ優勝に王手を掛けた女性――織斑千冬。いや、王手を掛けた所か見事二連覇を果たした織斑千冬には、二人の弟がいた。

 一人は織斑秋十。周囲から『織斑千冬の弟らしい天才児、神童』と囃し立てられている十二歳の少年。

 一人は織斑一夏。周囲から『織斑千冬の弟らしくない落ち零れ』と悪罵を投げられている八歳の少年。

 日本代表で出場していた織斑千冬は、世界から良い意味でも悪い意味でも注目の的だった。日本からは優勝を期待され、IS委員会加盟の他国からは優勝しない事を願われていた。その後者にあたる存在が、二人の弟を誘拐した。

 そして脅迫した、『弟達の命が惜しくば棄権しろ』と。しかし日本政府は男性を軽んじる風潮を最も強く受けていた。当然だ、IS発祥の国なうえにIS発明者と世界最強のどちらもが日本人女性なのだから。

 織斑千冬にはその脅迫メッセージが伝えられなかった、家族想いな千冬に伝えると棄権されるから堪らないと。よって千冬は何も知らずに出場し、見事優勝した。

 この時、秋十は何とか自力で逃げ出した。一夏に誘拐犯の注意が向いている間に逃げ出したのだ、一夏を見捨てる事で。

 何時も何かと虐めてきた秋十といえど、兄には変わりない。たかが八つの子供に何が出来ると言うのだ。精神的にも肉体的にも秋十よりも未発達な一夏は、泣き叫んで助けを求めた。秋十はそれを、笑いながら見捨てた。

 誘拐犯達は追いかけようとしたが、しかし神童の秋十は身体能力の面でもそれなりだった。悪知恵も働く為、簡素なトラップで時間を食った誘拐犯は捕まえるのを諦め、標的を一夏に絞った。

 一夏は姉と兄、最低限家族として愛されていると思っていたのに見捨てられた事に心が耐えられず、既に意識を手放し自失していた。

 誘拐犯は腐っても織斑千冬の弟なのだから、人体実験で良い結果を残せそうだと思って研究所に連れて行き、そこでありとあらゆる人体実験が行われた。

 体中に電極を貼り付けての訓練、肉体訓練、断食、耐久力上昇の長時間の超高電圧流し、人間兵器にする為の暗殺や戦闘術、生身でもISを制圧するための改造。

 ありとあらゆる非道な人体実験をされていた。そして究極の改造と言って、体内にISコアを埋め込まれた。

 ISコアはブラックボックスな部分が多くあり、生体に埋め込むと拒絶反応を起こして死亡する判例が多くあった。機械になら良いのだが、生体だとISコアから流れるエネルギーに耐えられないのだ。

 しかし一夏は適合し、普段こそリミッターが掛かって常人とほぼ変わりないが、常人を遥かに超える身体能力を手に入れた。わざわざ待機状態にしなくとも男性であるにも関わらずISを動かす事も出来た。それを研究者達は喜んだが、即座に一夏の叛逆によって命を刈り取られた。

 一夏はその足を以て研究所から逃げ出した。無論、研究所そのものを破壊して追っ手は皆殺しだ。荒野を駆けて砂漠を駆けて海を越えて、とうとう一夏は日本へと帰ってきたのだ。

 そう、闇夜に包まれた街中を、襤褸切れを纏って歩いている少年こそが、家族に捨てられた織斑一夏なのだ。既に判然とした意識は無く、ただただ本能に従って家族を求め歩いている。ずるずると長い外套にも見える襤褸切れを引き摺って、亡霊にも見える姿で。

 

「ふ、ゆね……あき、に…………」

 

 ぽつりぽつりと呟き、限界が来た。どさっと倒れ、それでも進もうと足掻く。けれどもう這いずってでも動くほどの力すら、一夏の体には残されていなかった。

 何も考えられない思考で、死ねると漫然と思いながら一夏は眼を閉じた。街灯が遠くにあって薄暗い夜道の端に、襤褸切れになって一夏は横たわった。二度と瞼が開かないとでも言うように、蒼白い顔色ながらも安らかな表情で。

 

 *

 

「ねぇお母さん、今日のごはんって何?」

 

 利発としているおかっぱ頭の黒髪の少女が、手を繋いでいる女性を見上げながら声を上げた。

 

「んー、そうねー…………今日は寒いしねぇ……時間が遅いからアレだけど、今日はお鍋にしましょうか」

「お鍋?」

「そうよぉー。とっても暖かくて具沢山のね」

「わー! なら早く帰ろ!」

「あ、ちょっとこら、待ちなさいって」

 

 暖かいお鍋を食べられると知った少女が手を引いて走る。それを母親らしい女性が苦笑しながら追った。

 家までもう百メートルも無い夜道に差し掛かったあたりで、母親の視界に何かを映した。少女も同じなのか、道の端を首を傾げて見ている。

 

「お母さん、アレって何?」

「さぁ…………これは、布、かしら……ボロボロねぇ……」

 

 訝しく思いながらも少し近寄る母親。娘は母親が自分の体を間に挟む事で、急に飛びついたりしないようにしている。

 何なのかしらと思って見ていると、ふと茶色に煤けた襤褸切れの端から小さな何かが見えた。それは母親にとっては見覚えがありすぎるもの――――汚れ切って茶色になり、擦り切れて血が流れているが、少し前の我が子と殆ど同じの、子供の足だった。

 

「?!」

 

 顔を強張らせてばっと襤褸切れを剥ぐと、そこには最低限の茶色に汚れ切った袖なしのシャツと短パンに身を包み、顔色を蒼白くしている長い黒髪を持った子供がいた。かなり前なのか、所々出血の痕がある。

 母親は怯える娘をあやしながら即座に救急車を呼んだ。

 

 *

 

 倒れていた黒髪の子供を救急車で病院へと搬送してもらい、親元がわからないから一緒に来て下さいと言われた母子は子供と一緒に病院へと赴いていた。現在は治療処置が行われている最中で、娘はあの子は大丈夫かなと涙を浮かべながらしきりに言っていた。

 

「――――桐ヶ谷さん」

 

 埼玉県埼玉市の病院でも名医と名高い男性が、桐ヶ谷という母子を呼んだ。二人はすぐに立ち上がり、治療室から出てきた男性にどうですかと聞く。

 男性は顔を少し緩めながら口を開いた。

 

「幸いでしょうか……ギリギリで命は繋げられました」

「そう、ですか……」

「しかし……あの子、男の子なんですが、彼は酷く衰弱しています。肉体面だけでなく精神面でも」

 

 治療に精神面でも弱っていると言ってきたことに、少し首を傾げる。男性は更に言葉を重ねた。

 

「医療や医術というのは万能ではなく、本人の怪我の治癒の手助けに過ぎないんです。病は気からという言葉があるように、怪我の治癒も本人の気次第なんです。ですが…………あの少年はそれが酷く弱い。ともすれば、すぐに命を散らしてしまってもおかしくありません」

「そんな……あの子、助からないの……?」

「いや、それはまだ大丈夫だよ…………桐ヶ谷さん。織斑、という名に憶えはありますよね」

「え、ええ……」

 

 いきなりの会話の転換に、母親は少しどもりながらも頷いた。

 

「ならば、一夏という名前は?」

「あ、その名前知ってるよ! あれでしょ? えぇっと……織斑家の恥晒しって言われてる子!」

「…………まさか」

 

 そんな、と目を見開く母親に、男性は残念ながらと言いながら答えた。

 

「あの子の名前は織斑一夏……今年の夏にロシアで開催された、第二回モンド・グロッソの頃から行方不明になっていた、織斑家の次男です」

「そんな……どうしてその子が、襤褸切れを纏って倒れて……」

「恐らく、ですが…………少しだけネットで検索を掛ければ、彼に対する誹謗中傷なんて山のように出てきます。今の世は女尊男卑、しかも彼は織斑家の次男だ。最も較べられやすく見下されやすい立ち位置にあった。どういう経緯でかは流石に分かりませんが、彼は家族に…………捨てられたと、見るべきでしょう」

「そんな……?!」

「彼が行方不明になっていた事もネットに上がっていますし、それを喜ぶ声まで上がっています。こちらも最善は尽くしますが……家族に捨てられたと気付いてしまった彼の心は、恐らく崩壊寸前です…………ISはともかく、織斑の名に関わった途端に崩れる危険性が高過ぎます。このまま家に帰すのは、彼の死に直結するでしょう…………」

 

 陰鬱と告げる男性医師。桐ヶ谷母ともども、女尊男卑や織斑の恥晒しだとか言う事を良く思っていない二人だからこそ、二人は暗鬱とした気分になった。

 

「……………………あの子は、どうなるんですか……?」

「…………このままいけば、恐らく施設に入れられるでしょうが…………彼の名前は、世界に広く知られすぎている。どこに行っても彼を阻み傷つけるだけでしかないと思います…………ですが、一つだけ、私が考えた事があります……桐ヶ谷さん。あなたは彼を引き取る気がありますか」

「引き取る、ですか?」

「今の彼には癒しが、家族が必要なんです。彼は友人にも環境にも、そして家族にも恵まれなかった。悪罵を投げられても彼が彼足りえたのは、それは彼が家族を最後まで信じていたからです。心が崩壊寸前というのは、家族を欲している事の裏返しなのです。彼が新たに名を得て愛を注いでくれる家族が出来れば、彼はきっと強く生きるでしょう…………彼は幼すぎただけ、これからはきっと強くなります。苦しみを知った子というのは、得てして逞しく育ちますから…………」

 

 哀しそうに微笑む医師の言葉に、桐ヶ谷母は数瞬目を瞑り――すぐに開いて、頷いた。

 

「引き取ります……彼を見つけたのは私なのですから。それに……直葉にも弟が出来ますし」

「弟?」

「家族が出来るって事よ……直葉、新しい弟を、受け入れてくれる……?」

 

 直葉という少女の両肩に手を置いて言う母親に、直葉は満面の笑みで頷いた。それを見て母親も男性も顔を少しだけ明るくする。

 

「先生……彼が目を覚ましました」

 

 そこで看護士が病室から出て、男性を呼んだ。丁度良いと言って母と子を病室へと誘う。ネームプレートに、名前は無かった。

 母と子、そして男性医師が病室へと入って仕切りのカーテンを開けると、病人用ベッドで横になって判然としない虚ろな目をしている少年が視界に入った。

 母親はそれを見て、惨い……と思った。たった八つの子供がする目ではないと。

 母は少年の傍に寄り、放り出されている右手をぎゅっ……とゆっくりと優しく両手で包んだ。それを見てか、それとも肌で感じたからか、虚ろな目は母親へと向いた。

 

「ふ、ゆねぇ……?」

 

 虚ろでか細いながらも、未だに裏切った家族を求める純真さに胸が詰まるような思いをしながら、母親は口を開いた。

 

「私はね……あなたの、新しい家族よ……」

「かぞ、く……?」

「そう…………翠……桐ヶ谷、翠よ……こっちが私の娘で、あなたのお姉さんになる……」

「直葉だよ! よろしく!」

「みどり……すぐ、は……? かぞく……?」

 

 遥かに幼子のようなたどたどしい呟きで繰り返す少年に、とうとう翠が涙を流した。直葉も涙を流しながらも笑みを浮かべて、少年の左手を握っている。

 

「おれに……かぞく…………? きりがや……?」

 

 肯定的な声音で呟く声は、翠に対して投げられた問いだった。自身の名前は何なのかと、たどたどしいながらも聞いているのだ。

 翠は考えていた名前を出した。

 

「和人……平和な人生を生きられますように……その願いが込められた名前……桐ヶ谷和人…………これからの、あなたの名前よ……」

 

 平和である人生を生きられますように、という願いが込められた名前。

 平和な人生を。称して、和人。

 

「かず、と…………きりがや、かずと…………」

 

 虚ろな瞳に、光が戻ってきた。両手で包む手に、力が篭ってきた。焦点の合っていなかった目に、涙が、揺れる光が…………

 

「きりがや、かずと……おれの、なまえ…………おれの、かぞく……!」

 

 少しずつ涙が溜まり、その少年を直葉と翠は抱いた。強く、優しく、包み込むように。

 織斑一夏……いや、桐ヶ谷和人は静かに涙を流し、慟哭を上げた。ただただ静かに、小さな慟哭を上げた。

 

 

 

 ありがとう、と。

 

 

 

 

 





 はい、如何だったでしょうか。

 割とIS二次創作にて、一夏が虐げられて捨てられた末に拾われて改名する事はあるんですが、そういうパターンは大体能力魔改造だったり、成長後即無双パターンが多かったりします。別に嫌いじゃないんですが、成長過程を見てみたいと常々思っておりました。

 なら、私は読んだ覚えが無い《SAOの桐ヶ谷家に引き取られたら》というネタが出てきて、書き上げています。

 つまり原作SAOの主人公《桐ヶ谷和人》に、IS主人公が改名してなるという事です。当然ながら本来の原作和人は存在しておりません、翠の姉夫婦が最初から居なかったという設定です。

 今後、《織斑一夏》と《桐ヶ谷和人》の名称を混同して呼ぶことがありますが、どちらも本作主人公の事です。基本、原作キャラで昔に拘っている人は一夏呼び、それ以外は和人呼びです。私も和人と呼ぶことにします。


 今話は第零章、すなわちプロローグのようなものです。次の第一章ではSAO入りします。

 ……が、本作の和人、原作SAOと異なって直葉の弟です。そしてタグにあるように、最年少とあります。

 私が手掛けているもう一つの作品の主人公よりも年下になっているので、ある意味、他の方の作品より突っ込みどころは出て来ると思いますが、長い目でお付き合い頂ければ幸いです。


 では次話にてお会いしましょう。


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