インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 そしてお久しぶりです。そこそこ書き溜め&Fate離れが出来たので、これからちょくちょく更新していこうと思います。

 実はサブタイトルは投稿再開と本文の内容両方を指してたりする。

 さて、前話のヌシ釣りを節目として、今話以降は少しずつ原作からオリジナル部分を含んだゲームシナリオ展開へと移行していきます。

 ゲームをしている方なら先を読める……かもしれませんが、若干変えていますので、予想通りにいくとは限りません。

 またゲームをしていない、あるいはSAOそのものは知らない方も居るっぽいので、出来るだけ解説を挟んでいこうと思います。ややこしいと私も思った場合は後書きに纏めるので、ご安心下さい。

 では今話についてです。

 視点は前半リアルで翠(直葉の実母)視点、後半はユウキ視点。文字数は約二万八千。

 翠視点では直葉がSAOへ乱入してしまった後、リアルではどうなっているかを描写しております。かなりシリアスです。

 反面、ユウキ視点ではサブタイトル通り、漸く《弓》クエスト時にアシュレイと交わした約束を果たす場面です。要はキリト着せ替え劇場。プライベート版キリトは攻略時と百八十度真逆の反応を見せます……まぁ、シリアスもあるんですがね、割と切実なお話。

 ではどうぞ。



第五十一章 ~約束の履行~

 

 ピッ、ピッ、と無味乾燥な電子音が部屋で無感動に響き渡る。

 この音が途切れた時、娘の命が喪われるのだと思うと、胸が締め付けられる。

 私の前にある病床で眠っているのは、自分と夫である峰高さんとの間で授かった、血を分けたという意味では一人娘となる直葉。

 《織斑一夏》であった和人を拾ってから、あの子を羨んで少しずつ伸ばしているという黒髪は、あのデスゲーム開始の日からもずっと伸ばして今では肩甲骨辺りまである。

 剣道をするには邪魔だからと肩口まで切っていた頃に較べて長くなったなと思う。愛されなかった義弟を愛する中で精神的に成長した事が影響したのかその肢体はとても女性的な丸みを帯び、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるという、正直自分も羨んでしまう程のスタイルを得ていた。

 和人が帰ってきたら驚かせてやるんだ、とその光景が来るのを信じて疑わずに微笑んでいた光景を、まるで昨日の事のように思い出せてしまう。

 だからこそ、だからこそ、今目の前で眠り続けているこの子の状態を見て歯痒く、そしてデスゲームにした黒幕を憎く思う。

 桐ヶ谷家の長女である直葉は、今からおよそ三週間前に、《アミュスフィア》を被ったまま目覚めない状態に陥った。

 私が帰った時に使った食器が無く、また部活関連で連絡が学校から来て、更にはあの子をALOに誘ったという友人の少年が心配して見舞いに来た事で、これはおかしいと悟った。

 この時、私は二つの選択を迫られていた。

 まず一つは《アミュスフィア》のコンセントを外す事。

 理由は至極単純。《アミュスフィア》は《ナーヴギア》と違って内臓バッテリーが存在しておらず、必ずコンセントに差した状態でなければ稼働しないから、コンセントを抜けば強制的にログアウトさせられるのだ。

 だから最初はその行動を取ろうと思った。

 しかし私はそれをしなかった。少年の話でALOにずっとダイブしていないらしいし、他にゲームをしているという形跡もパッケージ関連で無い事から、では何故囚われているかが気になったのだ。

 自分の意志でログアウト出来なくなったのかもしれない、と少年に言われた瞬間、私は咄嗟に《アミュスフィア》を外そうとする手を止めた。

 その言葉は、今現在も義弟が囚われているデスゲームを彷彿とさせた。

 故に私は残されたもう一つの手段を取った。それが篠ノ之博士に連絡を取る事。

 まさかVRとは言えMMOで混線などあり得ないだろうが、以前情報誌を纏める際、《アーガス》が倒産した話の時にそこに就職していた技術者達がALOを運営する企業に流れたという話を聞いていた。

 というかニュースにも上がっていたのだ、SAOを超えるゲームと銘打って、《アミュスフィア》の安全性を謳いながら。だからこそ私もVRMMOに思うところはあれ、直葉にそれをプレイする事を許した。《アミュスフィア》なら大丈夫だろう、という根拠無き安心感と共に。

 その結果がこれだ。

 《アーガス》の技術者達が居るからとは言えないだろうが、篠ノ之博士の解析によって、ALOに居る筈の娘が何故かSAOに居る事が判明した。この子のハードの中にはALOのデータしか無く、SAOのゲームチップなどは無いというのにだ。

 無論すぐさま私は、和人がSAOで最強のプレイヤーという事で接触を図って来た《SAO事件対策チーム》のリーダーである総務省の役人にコントタクトを取った。菊岡誠二郎と名乗ったその男性は、常に和人のログを追っているという話だったから、ひょっとすると気付いているかもと思ったのだ。

 その際、どうやって娘がSAOにいる事を説明するかに迷った。

 篠ノ之博士の解析によって判明した事実だが、当然私がそんな解析出来る筈が無いし、彼女と知り合いであるとバレる訳にもいかない。かと言ってこのまま娘を放っていては餓死してしまうのは明白だったため、博士も腹を括って、話してもいいと言ってくれた。

 では連絡を取ろうというところで、あちらから連絡がきた。その内容が正に直葉がSAOに囚われている事だったため、別の意味で驚愕してしまったものである。恐らくあの男性は、あのSAOに囚われた、という意味で取っただろうが。

 話を聞いていくと、SAOにログインしているアカウント総数が増えていた事に気付いたから、確認を取る為に連絡をしてきたらしい。

 SAO正式サービスにログインした者達総勢一万人のアカウントは、その作成日時が全て2022年11月7日の午後一時から午後五時半までで固まっている。また、ログインハードのIDも全て《ナーヴギア》製のものであり、《アミュスフィア》製のハードIDは一つとして存在しない。

 これはログインが可能なサービス開始時刻からデスゲーム宣言の時間までを意味する。VRゲーム初のRPGタイトルという事もあって誰もが意気揚々とログインしていったのだ、和人の様子を見ていたからそれは容易に想像出来た。

 そしてあのデスゲーム以降、《ナーヴギア》は既に発売されていた分も含めて国が主導となって回収されている。外国にも出荷されていたものだから交易関連に凄まじい打撃を与えたとニュースで見た覚えがあるくらいだ、それだけ力を入れているという事である。

 故にSAOのアカウント作成日時とハードIDは、全てのアカウントに於いて一定時間内な上に同一IDである筈。

 しかし直葉が目覚めない事に私が気付いた前日の夜、対策チームがアカウントで生存者と全損者を見ていたところでIDが違うものに気付き、そこからアカウント作成日時がおかしい事にも気付いたという。

 直葉がプレイしていたゲームVRMMORPGの《アルヴヘイム・オンライン》の発売及びサービス開始日は2023年11月20日、およそSAO開始日の一年後という事になる。

 直葉がプレイを始めたのは同年12月25日、クリスマスプレゼントで購入した時からだ。アカウント設定も私がしたのでよく覚えている。名前の設定だけはあの子がしたが。

 だからこそ、役人から教えてもらったアカウント作成日時が私の記憶にあるものと一致し、更にプレイヤーネーム名までもが一致した事で、篠ノ之博士から事実を聞いた時と同様に再び血の気が引いた。アカウントから住所までもが割れるので間違いないと男性は踏んでいたらしいが、それでも確認という訳である。

 ここで直葉の入院先で揉める事になった。

 そもそも《ナーヴギア》のコンセントを抜いて病院へ搬送出来たのは、ひとえに殺人を行えるだけのバッテリーを内蔵していたからであり、バイザー型の《アミュスフィア》には到底それだけの電池が存在しない。故に外した瞬間直葉はログアウトする事になる。

 だからコンセントを抜けば直葉はSAOから脱出出来ると考えたのだが、現実は非情だった。

 フルダイブ中に強制的に《アミュスフィア》の電源が落とされた場合、全身に電気が走ったかのような感覚の痺れと共にアバターに移されていた電気信号が肉体へと走っていき、現実へと復帰するらしい。

 《ナーヴギア》はその電力が凄まじいが故に高出力マイクロウェーブで脳を振動させ、破壊出来る代物となっているが、その真価は全感覚を完璧にシャットダウンするその機能にあるという。

 ちなみに《アミュスフィア》はそれが99%に抑えられている。スペックダウンと安全性の両方を取ったが故の数字だ。

 外すかどうかで問題になったのはその感覚シャットダウン機能だった。

 《ナーヴギア》が脳を破壊するシークエンスはSAOのデータの中に紛れ込んでいるから、条件を満たした瞬間そのシークエンスが起動するように設定されている。

 その条件とは内部でのHP全損の他、強制的なハードの除装や破壊の試み、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク切断の計四つ。

 この内、外部電源切断の時間に関しては《ナーヴギア》だからこそ存在している、というよりは実現できている猶予だ。重量の三割を占めるバッテリーを内蔵しているのだから外部電源が無くとも待機状態でフルダイブを維持出来る。

 しかし《アミュスフィア》はそれだけのバッテリーセルが無いのだから、コンセントを抜いて維持は出来ない、そもそも抜いた瞬間にログアウトする事になるから維持出来ない事実が既に出ていた。

 そして脳を破壊するシークエンスは、SAOにログインしている者にのみ適応されるのか、《ナーヴギア》を被ってログインしているからこそ適応されるかは不明のままだ。

 仮に後者であれば直葉は《アミュスフィア》を外しても助かるが、前者であった場合、延髄部分でシャットしている感覚系に脳破壊シークエンスが起動した事で、《ナーヴギア》よりは弱い電磁波を一気に流される危険性は十分考えられた。微弱とは言え直に脳波の計測および感覚遮断――厳密に言えば仮想世界のアバターへ反映する為に読み取っている――の為にマイクロウェーブが放たれているのだから、それが一点に集中して放たれれば、《アミュスフィア》でも普通に人体へダメージを与えられる。

 流れるのは大脳から延髄部分、つまり生命線とも言える部分だから死ぬ可能性は否めないし、仮に死なないにしても一生後遺症を持って生きる事になるかもしれない。花の十代、更に全国の剣道大会で優勝する程の腕を持つ子なのだ、そんな未来を奪うあるいは死ぬ危険性のある手段は取れなかった。無論対策チームメンバーも同じ。

 故に直葉を移動する事は叶わず、入院させられず、我が家の直葉の部屋で、他のSAOプレイヤーと違ってずっと眠り続けている。

 対策チームの人が派遣してくれた看護師安岐ナツキさんが点滴や着替え、空調の管理といった世話をしてくれているから、私が仕事で居なくても安心出来ているが、それでもやはり不安は拭えない。

 混乱に満ちたあの日から三週間が経過している今、直葉は《リーファ》として、和人こと《キリト》と共に行動しているという。昼の間は頻繁に離れているらしいが、朝と夜は大抵一緒にいる事から、恐らく互いの事を知っているのだと役人は言っていた。

 また、《リーファ》のレベルが《キリト》と出会って数日で一気に上がった事から、レベリングをしているのだろうとも教えてもらっている。

 きっとデスゲームでも果敢に戦っている義弟を助けるべく奮起しているのだろうと、私は直葉の様子を思い浮かべてすぐさま納得した。和人を拾った時まではとても純粋な子だったのに、それから劇的な変化と言える成長と変化をしたのだから、それくらいはしそうなものだった。

 あの子にとっての初恋なのだから、尚更だ。

 ずっと剣道に打ち込んでいて、友達もいるもののそこまで深い関係では無く、あまり他人に対して興味を抱いていなかったあの子があそこまで執着したのだから、私には和人に惚れたのだとすぐ分かった。それが何時からなのかまでは分からないが、女性的な成長をし始めた頃には既に恋心を抱いていた筈だ。

 ともすれば、SAOがデスゲームと知った時の錯乱ぶりから見るに、それよりも前からなのかもしれない。

 私はそれを良い事だと思う。和人が仮に従弟で昔から一緒に住んでいたらちょっとなーと思わないでもないが、あの子は完全に血の繋がりが無い他人だったのだ。義弟として家族になったとは言え、だからと言ってその感情を抑えられる筈も無い。

 それに、何かと直葉の事を慕っていた愛くるしい様を見せ付けられては、可愛いものには案外目が無く、加えて弟優先思考な直葉は堪らないものだっただろう。何かにつけて面倒を見ていたのがその証拠だ。それで更に直葉を慕うようになるのだから面白いくらい循環していると思う。

 だからSAOに入ってしまった事も、こちらに較べれば深刻に考えていないかもしれない。ひょっとすると『和人の手助けが出来る』と言って意気揚々とレベル上げに勤しんでいるかもとも私は思っている。

 そう考えると、何だかんだで直葉も和人と一緒に帰って来るような、そんな気がした。

 故に、寝たきりの直葉と和人を見るのは心苦しいが、まだ生きているという事でもあるから、密かな楽しみでもある。何れは『ただいま』と言ってくれる事も心待ちにしている。

 

「生きて、帰って来なさいね……」

 

 この三週間ですっかり衰え、細くなってしまっている直葉の手を軽く握って武運を祈ってから、私は仕事へ向かうために家を後にした。

 

 ***

 

「やっぱり素材が良いとどれも似合うから悩むのよねぇ」

 

 ズラリと衣装部屋であるかのようにハンガーから掛けられた服が並ぶ部屋に、派手な服装の男性が腕を組んで首を捻る。時折近くの服を見ては、また目の前にいるモデルの人物に視線を戻す、それを何度も繰り返していた。

 その男性は《アインクラッド》で《裁縫》スキルを最も速く極めたカリスマお針子、第五十七層で店舗を構えているアシュレイさんだ。

 

「あんまり変なのはお願いだからやめてくれよ……」

 

 アシュレイにジロジロと何度も見られている人物は、リーファやシノン、ストレアに寝床となるホームに居候させているキリトだ。

 彼は先日色々とあってアシュレイから素材を貰う折に一日彼のモデルになる事を承諾した。ここに居るのはその約束を履行出来る時間が出来たからだ。何時また忙しくなるか分からない以上時間がある時にしておこうという判断かららしい。

 その少年は今物凄く恥ずかし気に顔を赤くしているのだが、それはそれで、そんな珍しい様子を見れるこちらからすればとても微笑ましく映るのでわざと止めないでいる。

 何回か助けてと視線を送って来るのだが、当然ながら満面の笑顔でスルーを決め込む。途端に眼つきが鋭くなるのだが真っ赤な顔に涙目で見られても《ビーター》の顔の時に較べて威圧感なんて感じられない。

 ぶっちゃけ可愛い。

 

「えー、確約しかねるわねぇそれは。だって今日一日はモデルになってくれるんだし、色々と着せたいと思ってるのよねぇ」

「くっ……安易に約束したのが運の尽きか……ッ!」

「キリトー、格好良く言ってるけど傍から見たら涙目で可愛いだけだからねー?」

「……俺、こんな容姿でも男なんだけどな……」

「……可愛いに男女の別は無いんじゃない?」

「俺に味方はいないのか……ッ!」

 

 ボクの言葉に対するキリトの言葉に、シノンが苦笑を浮かべて言えば、キリトはがっくしと肩を落として言った。

 何このコントと思わないでもない。攻略や戦闘になると物凄く真面目で隙が無くなるキリトだが、こういう彼にとって慣れないプライベート関連になると途端にポンコツになるというか、子供らしくなるというか。とにかく戦闘や《オリムラ》関連との温度差が激し過ぎる。

 それが可愛いのだけど。

 基本的に腹を括れば大抵の事には動揺せず泰然とするキリトだが、どうも彼はアシュレイと二人きりですると思っていたらしく、リーファ、シノン、ボク、姉ちゃん、サチが居るのは予想外だったようなのだ。

 顔を赤くして恥ずかしがっているのは、実は似合って褒められるかが不安だからではないかなぁと思っていたりする。主にリーファに視線を向けている辺りその心情が透けて見えて、尚更、こう、色々と心を擽って来る。

 正直に言うと撫で回して蕩けさせたい。

 ――――撫でると言えば、普段はキリトと別行動を取っているナンも今回はアシュレイさんの店に一緒に居るのだが、キリトがあんな調子なので、ここ最近行動を共にしているリーファの肩に乗って主人であるキリトを眺めている。

 何だかナンの主人はリーファと勘違いしそうになってきた、この階層に来てから一緒に行動しているのをあまり見ないのが原因だ。

 ……そういえば、ふと思ったのだが、ナンは何だかリーファの傍にいる事が多過ぎる気がする。キリトと一緒にいる事もあるが、よくよく思い出せば《圏内事件》の時もリーファとシノンと一緒にいたし、頻度としてはリーファと一緒のいる事の方が遥かに高い。

 まるで、リーファを護る為にいるかのような……護衛的な意味では無く、まるでこの世界には本来来る筈が無かった不運な者だからこそ傍で見守っているような……もしかするとナンは高度な人工知能でも有しているのだろうか。キリトにとって大切な存在だから見守る為に動いている、とか。

 シリカの使い魔ピナは、主人の危機に際して本来アルゴリズムには無い筈の庇う行動に出たらしいし、可能性は低いもののあるいはとも考えられる。

 

『……キュー?』

「……そんな訳無いか……」

 

 じっと見ていたからか、リーファの腕に抱かれていたナンがこちらを見て小首を傾げて声を発してきた。その様はピナと何ら変わらないように見える。

 ……どこか知性があるようにも思えたのだが、ボクの思い違いだったのだろうか。思い違いと思えばそんな気もするし、かと言って本当に何かが宿っているような気がすると思えばそんな気もする。

 考え過ぎ、なのだろうか……?

 

「ユウキ? どうかしたの?」

 

 視線をナンから外しても難しい顔をしていたからか、隣で椅子に――ちなみにアシュレイさんとキリト以外は――座っている姉ちゃんから訝しむように声を掛けられた。

 

「んー……いや、ちょっと考え事をね」

「この状況で? キリト君に似合う服とか、もしかして今日のお昼ご飯についてとかかしら」

「……」

 

 姉ちゃんのあまりな物言いに若干眩暈を覚え、頬が引き攣るのを自覚しながら、思わず額に手を当ててしまう。

 この世界に来てから色々と考える必要が――主にキリトの事で――あったから、ログイン前に較べればかなり思慮深くなった感はあるのだが、姉ちゃんからすればボクは何時までも腕白な子供という事だろうか。

 確かに他の皆に較べれば結構楽天家、もとい爛漫な性格だと自覚はしているが、流石にこの状況でそれは考えない。お腹が空いているとかお昼が近いならまだしも、現在時刻は午前九時半、朝食を食べてからそんなに時間は経っていないのだから、それでは食いしん坊と思われているようで少し傷付く。美味しいものに目は無いが、生憎とボクのお腹はブラックホールでは無いのだ。

 

「姉ちゃん、前者はともかく後者についてはちょっと傷付くよ」

「あら、ごめんなさいね。ユウキって気が付けばお腹空いたって言ってる気がしたから」

「……姉ちゃん、最近あんまり手合わせしてなかったし後でデュエルでもする?」

「……ごめんなさい、からかい過ぎたわ」

「分かればよろしい」

 

 普段突っ走りがちなボクを抑える側の姉ちゃんだが、稀に茶目っ気を出してからかってくる事がある。それも大抵はすぐやめてくれるのだが偶にこんな風にしつこい時があるので、その時はデュエルをちらつかせれば、姉ちゃんの方が折れてくれる。いや、折れるまで叩きのめす、の方がこの場合は正しいか。

 案外ボクは根に持つ方なので結構コテンパンに叩きのめす、それが姉ちゃんにとってちょっと心に響くらしい。

 からかう方が悪いのだ、注意ならともかく。まったく。

 姉ちゃんは全体的な指揮や采配などに秀でている反面、剣の技量はボクより若干下なので、全力のデュエルをすれば八割の確率でボクが勝利する。

 《ナーヴギア》より上のスペックを誇る《メディキュボイド》を利用しているからか他の人より反応速度=機械とのレスポンスがかけ離れているボクと姉ちゃんは、他の人とのデュエルで基本的に勝利出来るが、それはスペック差によるもの。キリトのように真の強者と言えるプレイヤーには勝てないし、ステータスの相性的な問題でヒースクリフさんにも勝てない。

 姉ちゃんとの勝負になればスペック差は機械からお互いの肉体的要素になるので、そういう意味でボクの方に軍配が上がる。ボクは運動大好きっ子だったので運動神経は抜群なのである。

 とは言え、知略や戦略に秀でている姉ちゃんもこちらの裏を掻こうとしてくるので、安易に突っ込むのは下策。だから戦闘中にフェイントを入れたり、本命の前に幾つか手を講じたりするようになった。

 キリトとのデュエルで《ノヴァ・アセンション》を叩き込めたのも、根幹は姉ちゃんとのデュエルが要因なのだ。

 そういう意味で、剣の強さ的にはボクの方が上だが、指揮を執るなら姉ちゃんの方が適任という事で《スリーピング・ナイツ》のリーダーは姉ちゃんという事になっている。姉ちゃんなら他のギルドとの対外折衝をこなせるからだ。

 ボクはその際の手札という事にすればいい。その為に強さを保たなければならないが、別に苦では無いから大した事でも無い。

 ぶっちゃけキリトに追い付く方が大変で必死なので手札となれるだけの強さはその過程で手に入るのだから苦労なんてほぼ感じないに等しい。

 それにしても、《ナーヴギア》でログインしている筈の彼が、アレより数倍のスペックを有するらしい《メディキュボイド》を使用しているボクより強い事については、割と真面目に疑問を覚えている。

 キリトには割と甘々な節があるリーファすらもが贔屓目無しで才能が無いと酷評を下していたのを考えると、神童のような先天的な要素は関係ないだろう。

 けれど遊びが入っていたとは言え神童の四倍速の刺突をある程度捌けて、八倍速の斬撃には完全に反応出来て、反撃に一瞬で九つの斬閃を繰り出す攻撃を見せた辺りを考えると、どうにも経験やステータスといった後天的な要素が関わっている線は皆無では無いものの、少し弱い気もする。

 《メディキュボイド》でログインしているボクと姉ちゃんですら完全に見失ったあの八倍速に反応し、全撃相殺し、更には一撃叩き込んでみせた。どちらにもダメージが入っていた相討ちであればまだしも、全撃的確に相殺してみせたのなら、少なくとも神童の八倍速は見えるスペックを有している事になる。

 経験や予測などでどうにか出来ていたとはあの状態のキリトでは思えないから、多分素の能力がアレなのだろう。

 となると、ここで神童やリーファの細かな部分は異なるが一応の共通見解である『才能皆無』というのと矛盾してくるのだが……

 考えられるとすれば、姉ちゃんのようにリアルでは運動が好きでないし才能もあまり無かった人物が、この世界では異様に強いといったものくらいだろうか。

 キリトは全体的に動作が自然だ。

 仮想世界への適応率というものが高いと自然にアバターを動かせるだけでなく、ハードとの信号のやり取り、所謂反応速度というものが人よりも遥かに速いと聞いた事がある。《メディキュボイド》でダイブしているボクと姉ちゃんが年の割に強者足り得ているのもこの反応速度という強みがあるからこそ。ボク達の場合、肉体面に於ける反応速度では無く、機械とのレスポンス速度になるのだが。

 神童に関してもデュエルの経過を見て、その最中にキリトが言っていた事を聞いた限りでは肉体面の素の反応速度が並外れているようだし、似たようなものだろう。

 しかし余程の事が無い限り、神童はリーファと同じくバッテリーセルを外した《ナーヴギア》の後継機である《アミュスフィア》を装着し、ダイブしている筈だ。

 そしてキリトは当然SAO初期プレイヤーなので《ナーヴギア》を装着している。

 バッテリーセルはスペック上昇の為に取り付けられたという話だから、それを外して電磁波を微弱にすれば、安全性の約束と引き換えにどうしてもハードスペックによる差で処理能力が相対的に低下し、アバターの動作にも影響が出て来るに違いない。

 つまり素のスペックは神童の方が上でも、ハードのスペックが神童の反応速度に追い付かずにラグってしまい、キリトのハードのスペック上限が上回った為に勝利を掴めたのではないか……という推測も成り立つ。

 謂わばハードのスペック差による勝利と言うべきか。

 あまりキリトの事を酷く言いたくは無いが現実的な見方をすればこの仮説が最も有力だ。曲がりなりにも勝利し、後味が悪かったとは言え常に自身を見下した人間を超えたのに、一切喜んでいる様子が見られないのもキリト自身がこれを考えているからだと思う。

 八倍速が神童の最速だという話だが、それが『仮想世界で出せる認識可能な限界速度』なのか、あるいは『認識は出来ないが放てる最高速度』の事なのか明確にされていない以上、彼も悪い方で考えている筈。

 ボクとしては、繰り出したのにどうやって防がれたか認識出来ていなかった辺り、神童は後者だと思っている。だからキリトの九連撃と競り負けたのだろうなと。

 とにかく、きっとキリトはリアルで勝利しなければ満足しないと思う。あの神童自身が、未だ全損者で死者が出ていないもののこのデスゲームを『たかがゲーム』と軽んじた辺り、この世界で幾ら負けてもプライドをへし折るなんて出来そうにないから。『所詮仮想世界だから』と逃げそうな気しかしない。

 

「何だか、その様子を見てるとどっちがお姉さんか分からないですね」

 

 姉ちゃんとやり取りをしてからボクがそんな思考をしていると、それを暇だからか見つつナンの柔らかな蒼い毛並みを撫でていたリーファが、くすくすと笑いながらそう言ってきた。

 

「あー、姉ちゃんは基本落ち着いてるけど、実は……」

「ちょ、ちょっとユウキッ!」

 

 お返しするべく色々と暴露しようとしたら、隣に座っていた姉ちゃんがむぎーと頬を抓って来た。

 《圏内》コードに弾かれる程では無かったし、別に痛くないので気にしないし、発音もシステム的にキチンと可能だが喋り辛い。

 

「それは内緒って言ってるでしょ……ッ?!」

「えー、ぶっちゃけ隠す必要性皆無なんじゃないかなーって思うんだけど」

 

 姉ちゃんが実はそれなりに人をからかうくらいには茶目っ気がある性格を半ば必死に隠そうとするのは、ひとえにキリトに知られたくないかららしい。

 何でもキリトにはお姉さんとして頼ってもらいたいのだとか何とか……待っても無理なら押すしかないと思っているボクも、その気持ちは分からなくも無いのだが、義姉が来た時点でその目論見は崩れ始めているのには聡明な我が姉の事だから理解していると思う、同居している時点で姉として頼られる事は無いと思うし。

 これで姉ちゃんは押し切れない、悪く言えば逃げ腰なところがあるのでこんな状態になっている。ボクは色々と曝け出し始めているのだが、まだ隠すと言うのだろうか我が姉は。

 当のキリトが何を着せるか選び始めたアシュレイによって店の奥にあるという試着ブースに連れて行かれたので、知られていないという点ではまだクリアなのだが、何だかなぁと思ってしまう。

 姉ちゃんがキリトに好意を抱いているのは分かるのだが、やはり以前のボクのように、親愛の情か異性としての恋情か迷っている節がある。

 ボクは今のキリトでは無理だろうと抑えつつも異性として意識してからある程度スキンシップを取り始めたが、姉ちゃんは多分逆、負担になると思っているからこそ親愛の情だろうと思い込もうとしている感じだ。優しさ故に、そしてキリトの過去の重さ故に抑え込もうとしているのだろう。

 その気持ちも分からないでもないが、流石にそこに関してボクが四の五の言える訳でも無いし、言える資格も無いから、今のところは静観を決め込んでいる。一先ずボクの決意はキリトに告白しようとしておじゃんになった日の夜に話しているので、多分内心で焦っている筈だ。

 焦りを抱く事そのものが、ボクの時のように既に答えが出ているのだが。

 ――――などと、うだうだと悩んでいたボクが、偉そうに言える立場では無いのだけど。

 

「な、何だか必死ね、ラン……」

「キリトにお姉さんとして頼られたくて、子供っぽいとこを必死に隠そうとしてて」

「サチさんが裏切ったッ?!」

 

 シノンが若干苦笑しながら言えば、何故姉ちゃんが必死なのかをサチが端的に教えてしまった。思わぬ伏兵に姉ちゃんはガビーンと愕然とする。

 ちなみに、『お姉さんとして頼られたい』という前半部分でリーファが、後半部分で更にシノンも顕著な反応を見せた。心境までは察せないが何に反応して何を思ったかは分かるくらいには、面白いくらい自分と似ている二人である。

 

「…………という事は、ランさんもキリトの事が……」

「う…………その、まだ、迷ってます……」

「ぶっちゃけると開き直る前のボクと同じ状態だね。ボクは神童との遭遇を契機に開き直ったけど、姉ちゃんにはまだ決定的な契機が訪れてないんだ」

 

 ボクはデュエルが決定打となった。何せ第一層ボス部屋へ向かう道中の時点で既に彼の剣に惹かれていた身だ、彼の強さを直に理解させられるデュエルが決定打となったのは、そう予想外でも何でもない。

 その後の罵ってくる人をそれでも庇う姿、たった一人でも立ち向かう勇敢な様に目を奪われ、そして幼いながらの美貌を見せたあの時に惚れた。

 彼が積み重ねた強さ、彼の生き様を示す精神性、そしてそれらを象徴するかのような美しい容貌に、ボクは心惹かれたのである。今まで色々と考えて目を逸らそうとしてきたが、それそのものが認めているも同然だったから、デュエルをきっかけにボクは抑えるのを諦め、正直になる事にした。

 正直になったからと言って押し付けるつもりは一切無いけども、少しでも異性として意識して欲しいから、ちょくちょく行き過ぎない程度にアプローチを仕掛ける所存だ。

 まぁ、今は状況だけでなく年齢的にも、これまでと同じような触れ合いが限界だろうけど。

 

「あー……私は色々と世話を焼いてもらい続けて、瀕死のところを助けてもらった事で開き直ったしね……」

「あたしはそもそもあの子を拾ってから一年近くは面倒見続けて……その間に次第に惹かれていったから、これといった契機は無いかもです。強いて言うなら、貰った名前を口にしながら泣いて喜んでた、病室で顔を合わせたあの時かなぁ……」

 

 ボクとシノンは状況こそ異なれど想いを確固としたのが何かを契機とした開き直りで、リーファの場合はリアルで暮らしている次第にという訳だ。

 特にリーファが口にした状況はそりゃあ惚れてもある意味仕方ない気もする。貰った名前に泣いて喜ぶとか純粋過ぎてこっちが泣けてくるし、《オリムラ》の名前にそれだけ疲れ果てていたという事なのだろうなぁと悲しく思ってしまった。名前を重く感じる、あまつさえ否定されるなんて、想像を絶する程に辛いに違いない。

 何故か流れ的に何時想いを自覚したのかというガールズトークになってしまっているが、それはそれでいいかもと思っているのか、割と否定的な空気は無く次とばかりにサチに全員の視線が向かった。

 

「……え? これ、私も言うの?」

「むしろ何で言わなくていいって思うの?」

 

 素で返すと、きょとんとしていたサチは苦笑を浮かべた。一応想定内ではあったらしい。

 

「そうだね…………ユウキ達と一緒とは限らないけど、何て言うか、キリトはほっとけない感じかな。テツオ達を護れなかった時も、ケイタが外周部から飛び降りた時も、キリトは常に冷静で……むしろ冷静であろうとしてたから、逆に頭から離れなかった。現にクリスマスイベントの時はそれこそ命を捨てる勢いで思い詰めてたし……」

「「……」」

 

 ボクと姉ちゃんは、サチの言葉で当時のキリトを思い浮かべた。

 確かに、何があっても取り乱せば死を招くという意識から、攻略組は基本的に取り乱さない事を第一として冷静に対処するようにしている。これは未知の領域である最前線を進む中で不測の事態に対処出来るよう言われる事だ。

 仲間が死んでも、それを悔やみ悼むのは全ての戦いが終わってからと、そう心掛けているからこそ、キリトはその場では決して涙を見せなかったのだろう。哀しみや混乱は伝播していくから、サチを落ち着かせるために、努めて冷静であろうとしたのだ。

 あるいは、彼らが死んだのは自分のせいという意識が、被害者であるかのように振る舞うのを決して良しとしなかったのか……

 

「正直に言うと、キリトに惹かれてる自分も確かにいるよ。あれだけ素直で、一生懸命で、色々と面倒見てくれる優しい男の子だからね……――――でも、これ以上キリトに近付くのはダメだって言う自分もいるの」

「それは……どうして、ですか?」

 

 微笑んでいたサチが、沈んだ表情になって言った言葉に、リーファが問い掛けた。

 ボクは何となく、サチが言うだろう言葉が予想出来ていた。仮にボクがサチの立場だったらと考えれば容易に浮かんだからだ。

 

「現実で死んでなくても、テツオ達を護れなかったのも、ケイタを自殺させてしまったのも、キリトは自分のせいって考えてる……でも、本当は私達が、《月夜の黒猫団》が弱かったせいであんな結末になった。ケイタなんて、私が生き残ってるのに、それなのに私を置いて逝ったんだから、キリトを責める権利なんて無い……ううん、キリトを責める資格なんて、私達の誰も持ってない。だって悪いのは私達で、キリトは私達の頼みを受けて、これだけ忙しいのに攻略の合間を縫ってまで力を貸してくれてただけなんだから」

 

 それは普段物静かで主義主張をしないサチにしては珍しい、どこか憤懣を感じさせる物言いだった。

 確かに、テツオ、ダッカー、ササマルという三人を護れなかったのは事実だが、キリトは最初から《ビーター》であると明かして情報提供を怠らなかった、レベリングや資金稼ぎで赴く場所の情報は逐一渡していた筈だ。

 それなのに勝手にダッカーというクラウドコントローラーが宝箱を開けたからトラップが発動し、三人が死んだ。

 レベルや階層を考えればキリトが彼らを護れなかった事を悔やむ気持ちも、それに罪悪感を抱くのも、何らおかしくは無い。普通なら護り切ってもおかしくはない。

 だがサチから聞いた限りでは、キリトを信用していたサチはともかく、他の三人は混乱してキリトの注意を喚起する声も聞かず――あるいは耳を傾ける余裕も無く――、身を固めないで叫びながら我武者羅に武器を振り回していたという。

 《咆哮》というシステム外スキルがある。これはタンクプレイヤーが大声を上げる事で、意図的にアクティブモンスターのヘイトを集めるという一種の技法である。

 システムスキルでも何でもない行動一つでもヘイトが向くようになっているこの世界で、モンスターに襲われたからと言って絶叫するなど下策も下策、愚かに過ぎる行為。それを理解していたかは知らないが、件の三人は迷宮区な上にポッピングトラップで呼び出された事で自分よりレベルがかなり高いモンスターの軍勢を前に、そのような行為をしてしまい、キリトが援護する前にタゲが集中し、圧殺されてしまった。

 それでもキリトはどうにかサチだけは護り切った。

 サチは叫ぶのではなく、キリトを頼り、彼の指示の通り防御に専念してとにかく生き残る事だけを考えていたから。対抗はせず、キリトに任せて自分は身を護る事だけをするという、一種のプライドを捨てた行為を取った。

 それはキリトを信用していたからだ。彼の言う事が生き残るには一番正しいと、ある意味盲目的に信じていたからこその選択が、彼女を生かした。

 件の三人がキリトを信用していなかったかどうか、そこまでボクは言及しない、何故ならボク自身は彼らを一切知らないから。ただ話から聞いて、その人となりや大まかな人格を知っているだけで、キリトとの関係については一切分からないのだ。それはサチも雲を掴むような感じで把握していないし、キリト自身も多くは語らないから。

 とにかく、情報提供に注意喚起を始めとした、およそキリトに出来得る事は全てしていた。これは紛れも無い真実である。

 だと言うのにケイタというリーダーは、生き残ったサチを置いて、彼女を連れてどこかへ去るのではなく、彼女を置いて自殺を選んだ。

 聞けば件の男四人は小学校の頃からの幼馴染で、サチは高校の部活で偶々一緒になったから仲良くしていて、頑張ってSAOを手に入れてログインした間柄だったらしい。

 それなりにゲーム好きだったサチはデスゲームになった事で恐怖を抱いていたが、男四人は恐れこそ持ちつつも陽気さを以てしてそれらを跳ね除け、フィールドへと繰り出した。サチの恐怖を知らず。

 サチはある意味で不遇だったのではないかと思う。五人パーティーの紅一点にして分かり合っている四人から無意識の内に弾かれ、恐怖を理解してもらっていなかったというその状態は、ある意味で酷いと言える。

 それらを考えれば、むしろ《月夜の黒猫団》の壊滅は必然の事象だったのかもしれない。キリトが関わっていなくても何れ何かしらの形で壊滅していた可能性は十分にあり得る、キリトが情報提供していたにも関わらずトラップを自ら踏んだのだから、リーダーのケイタがいても死んだだろう。

 

「だからキリトは悪くない……でも、ケイタが恨みを遺したのは事実だから、今も彼の心にはケイタの恨みが棘になって残ってる。それを取り除けるのは、私達《月夜の黒猫団》全員が生還した未来、リアルでケイタ達全員から赦しを貰った時だと思う」

 

 たとえサチに赦しを貰ったと言っても、恨みを残したのはケイタという男だ。

 キリトが命を捨てる勢いで蘇生アイテムを求めていたのも本当はケイタを蘇らせる為だったのだと思う。

 ただ赦しを請うて罪を贖う為だけに、そして、一人ぼっちにしてしまったサチの許へ一人でも仲間を還す為に、命すらも代償にしようとしていた。

 それは親しい存在を奪われる事を知っているからこそ追い詰められた、自分を追い詰めたキリトの行動だったのだろう。

 

「キリトを苦しませたのは《月夜の黒猫団》の弱さのせい……その最後の生き残りである私は、キリトを支えるために近くにいても、少なくとも今は決してそういう想いを向けちゃダメだと思う。私が想いを向けたら……多分、キリトは自分で自分を縛っちゃうから。今度こそは護る、今度こそ喪わせないって……今も彼が抱いている『誰かの為に』という想いをそんな風に歪めるのは、嫌だから」

「サチさん……」

 

 サチの悲壮ながら確固たる決意を感じて、話には聞いていたリーファが僅かに眉根を寄せた。多分想いを向ける如何をそれで制限するのは、と思っているのだろう。

 けれど、サチが言いたい事も分かるようで、彼女はそれ以上口を開かなかった。

 サチが言った、自分で自分を縛るというのは容易に想像がつく。

 キリトにとって《月夜の黒猫団》との関係はトラウマそのものだ、だからこそ最後の生き残りであるサチを何が何でも生き残らせようと、あらゆる手段を講じる。恐らくその末に自分が死ぬとしても、それが贖罪なのだと割り切って行動する。

 極論、サチが彼に『自殺して』と願えば、彼はその通りに自ら命を絶つ可能性だってある。逆に『私を愛して』と言えば、同様にキリトは自らの全てを以てサチを彼なりに愛し、護ろうとするだろう。

 だからサチは決して想いを向けないと言っている。そんな人形のような行動をするキリトを見たくないから。

 仮にケイタ達が全員生還して、その上で全員から赦しを貰ったら、キリトは長きに渡って自身を苛んだ苦しみから解放される。その時に初めてサチは想いを向ける事が許されるだろう。幾らかの罪悪感は残っているだろうが、少なくとも現状のような強迫観念に突き動かされる危険性を孕んでいる可能性は極めて低い筈だ。

 しかし……しかし、もしも《月夜の黒猫団》の誰か一人でも死んでしまったら。

 その時は、サチがキリトに向ける想いを明かす機会は、逆説的に永劫喪われる事になる。

 死んだ者の妄執に囚われて選択を狭めるのは愚か。そう言いたいところだが、当時の事に殆ど関わっていないのではそんな事を軽々しく口に出来ない。

 一応サチを鍛えた者でありキリトから託された者なので、何かしら言う権利はあると思うが、少なくともケイタ達の死が確定的でない以上今は何も言わない方が良い。

 

「それに、今のキリトに私が想いを口にしても、拒否する未来しか見えない。キリトは一人だからこそ、一人になる苦しみを知ってるから。私を独りぼっちにしたって……ずっと前、クリスマスの時は私に打ち明けてくれたし、それより前も《黒鉄宮》で泣いてたから」

 

 月に一度、《月夜の黒猫団》壊滅の月命日にサチは《黒鉄宮》へ赴くのだが、その度にキリトと鉢合わせするとは聞いていた。

 恐らくその際に聞いてしまったのだろう、その慟哭を。

 以前、エギルの言葉を契機にキレたキリトが口にしていたという内容も含め、クリスマス時期のキリトの言葉を色んな人と共有して知ってはいるが、やはりそれが一番重い。仲間を護れなかった事、ケイタの自殺を止められなかった事を含め、サチを独りぼっちにさせてしまったという事が、何よりも。

 

「だから私は、少なくともリアルでケイタ達に赦しを貰って、その呪縛からキリトが解放されるまで、絶対に想いを向ける訳にはいかない……それがキリトの心を傷付けた、《月夜の黒猫団》の生き残りである私なりのケジメだと思ってるから」

「「「「……」」」」

 

 サチの固い決意の言葉に、それまでガールズトークのように語らっていたボク達は誰もが口を噤んでいた。ここまで重い話ともなれば噤まざるを得ない。何せ人の命、そして恋慕を向けるキリトの心の傷が関わっているのだから。

 よくよく考えればサチに振っていい話では無かったと、ボクは心底先の自分の行動を恥じた。

 自分がサチの立場だとすれば同じ決断をするに違いないから、容易に想像出来たからこそ恥じ入る気持ちは大きかった。

 

「はいはーい、お待たせ皆ー……って…………何かあったの?」

 

 そんな状況に、陽気な声と共に割り込んできたアシュレイさん。そりゃこちらの話なんて聞こえている筈も無いので仕方ないが、すぐに何か察したらしく、真剣味を帯びた面持ちでボク達を見て来た。

 

「……あー…………えっと、キリトとサチの話を、ちょっと……」

「……ああ……なるほど、だからこの空気なのね。察するにあの少年に何時アレを向けるようになったとか、そんなとこかしら?」

「「「「「どうして分かった……ッ?!」」」」」

 

 重い空気になった理由を察したのはボクが何かと話しているからだが、だからと言ってそこにいくまでに何を話していたかまで察してくるとは思いもせず、五人同時に驚愕と共にアシュレイさんを唖然として見る事になった。

 そんなボク達の様が面白いのか、アシュレイさんは口元に手を当てて上品に笑い、一つウィンクをかましてきた。

 

「これでも人を見る眼は鍛えてますからねー、あんた達が【黒の剣士】クンに向ける眼を見れば大体分かるわよ。とは言え何を話していたかっていうのは完全に予想だったんだけどね?」

「……アシュレイさんって、ちょっと心臓に悪いよね」

「誉め言葉として受け取っておくわよ、ユウキちゃん……さて、それはともかく、早速コーディネート第一弾が終わったから早速見てもらおうかしら。ほら、入ってらっしゃい!」

 

 どこか面白がるように、恐らくカーテンで仕切られている試着ブース側にいるであろうキリトにアシュレイさんは声を掛けた。

 

「……うー……」

 

 数秒の後、どこか渋るような唸り声を上げながら、キリトはカーテンを開けてゆっくりと出て来た。

 耳まで真っ赤にし、瞳なんて若干涙で濡れているという全力で恥ずかしがっているキリトの恰好は、普段の黒尽くめの恰好から途轍もなく変わっていた。

 一言で言うなら、そう……

 

 

 

「……メイド服?」

 

 

 

 ぽかんと、普段冷静なシノンらしからぬ唖然とした面持ちで言った言葉が、端的にそれを言い表していた。

 そう、一言で言うならメイド服。

 宗教性を思わせる瀟洒な黒地の服は上下一体のもので、メイド服らしいスカートは足首近くまでのロングバージョン。

 上から端にフリルが付けられた白いエプロンを掛けていて、スカートから覗く羨む程に細い脚なんて黒いストッキングに包まれ、靴は鋲付きブーツから黒いローファーに変えられ、頭の上にはボクのバンダナがある位置に白いヘッドドレスが載せられている。

 極め付けに、前に回されている手には配膳用の丸い銀トレイがある始末。

 どこからどう見てもメイド見習いにしか見えないキリトだった。

 こうして見るとまるっきり少女にしか見えない。顔を赤くして恥ずかしがっているから普段よりも少女らしさが増し増しだ。

 正直、これだけで結構理性に罅を入れる破壊力があった。

 一瞬ではあったがくらっとくる程なのは、流石は素でそこらの女性を超える美貌を持つキリトと言える。成長していない事で映える魅力というか、幼いからこそのマッチ感というか。

 ――――いや、それよりも。

 

「ね、ねぇ、アシュレイさん……キリトは、モデル、なんだよね?」

「ええ、そうよ?」

「……それが、何でメイド服?」

「ああ、それは単純に、私の知り合いでプレイヤー喫茶店を開きたいっていう人がいて、それの試作品だからよ。一応私の趣味だから作った訳では無いと明言させてもらうわ。彼に着せたのは単純に似合いそうだったから」

「あ、ああ……なるほどね……」

 

 もしアシュレイさんが率先してこういう服を作っていたのだとすればちょっと関係を考え直さなければならないかなとも思ったが、仕事で作っていたのなら仕方が無い。

 ……いや、待て。

 

「ちょっと待って。そのメイド服、明らかに女性用なのに、何で男性のキリトが着れてるのさ。いくらキリトの容姿がそこらの女性よりも女の子らしいとは言え流石に概念で性別は超えられないよ」

「ユウキ……それはフォローじゃないと思う……」

 

 ボクの言葉にキリトがか細く抗議してくるが、一旦それはスルーさせてもらった。ごめんキリト。

 

「あら、そこに気付くとは……まぁ、それは簡単な話よ。作る際にオプションで男女設定が可能なんだけど、私はそれを基本は男女共有設定にしてるから。ほら、女物が似合う男性、男物が似合う女性っているでしょ? この世界だとそこら辺が制限で狭まってるから、明らかに女性用あるいは男性用と言える代物以外は基本的に共有設定で作ってるの……で、実はそれも共有設定。他に作ってるのは女性用なんだけど、それだけ間違って共有で作っちゃってねー……」

 

 失敗したわー、とどこか乾いた笑みと共に虚空を見上げて言うのを見て、これはマジで素で間違ったんだなと理解した。どうやら共有でメイド服を作った事に他意は無いらしい。

 まぁ、これなら別にいいかと思って、改めてキリトへ視線を移した。

 華奢な肢体を女性用にしか見えないメイド服に包み、細い脚も黒いストッキングに覆い、恥ずかしそうに口元を銀トレイで隠している姿は、全く男性とは思えない。言われても真実か疑ってしまう程だ。

 

「……どう、かな……?」

 

 再び、今度は羞恥でか細く言ってくるキリトは、更に涙目でこちらを見て言ってきた。

 ……ちょっとだけ、いぢめたいなぁと悪戯心が頭を擡げたが、本気で泣かれると対応に困るので断念する。

 

「ちょっとあんた達、【黒の剣士】クンが決死の覚悟で訊いてるんだから、何かコメントしてあげなさいよ」

「「「「「凄く似合ってる」」」」」

 

 ……アシュレイさんに急かされて口を開けば、五人揃って感想が被ってしまった。

 キリトはぱぁぁぁぁっと目に見えて嬉しそうにするが、アシュレイさんにはダメだこりゃとばかりに呆れられる。

 何だろう、デートでダメ出しを喰らう彼氏のような状況下に置かれてるのって。性別的に逆だと思うのだが……あ、でもキリトが着てる服を考えると合ってる?

 ……あれ? でもキリトって男の子な訳だから……間違ってるのか。

 でも服が似合ってるか訊くのって女子の定番だし……

 …………んんっ?

 

「面白いくらい困惑してるわねー……【黒の剣士】クン、もういいから次の服に着替えて来て。言った順にね」

「わかった!」

 

 キリトはアシュレイさんの指示に従って意気揚々と再び試着ブースへと戻って行った。その足取りはとても軽く、褒められた事がとても嬉しかったのがありありと分かる、多分内容が被った事では無く褒められた事が重要なのだろう。

 アシュレイさんはそう思っていないようで、それがありありと分かるようにボク達の前で腕を組んで仁王立ちした。

 

「まったく、彼の純真さに感謝するのね。今のじゃ普通絶対不満を持たれてるわよ」

「うー……だって本当に似合ってたんだよ」

「うん。ある意味予想通りなんだけど、その上で予想外だったというか……」

「というか、あの着こなしは一体何ですか。冷静に考えたらあり得ないのに何で違和感を覚えなかったんでしょうか……」

「男の子って知ってても普通に女の子にしか見えなかったよ……」

「……ちょっと、ご主人様って言われてみたかったかも……」

 

 順にボク、リーファ、姉ちゃん、サチ、シノンである。

 最後にぽつりとシノンが欲望を洩らし、それを意図せず拾ったボクは脳裏でその光景を思い浮かべた。

 家事の一切を取り仕切ってくれて、疲れた時には紅茶を淹れてくれて、何かと世話を焼いてくれる小さな子。その子はボクの事を慕っていて……

 

『朝ですよご主人様! 起きて下さい! って、言ってる傍から二度寝しないで下さいッ! というか引きずり込まないでッ?! 嬉しいですけどダメですよッ?!』

 

『今日のご飯も腕によりを掛けたのでお腹いっぱい食べて下さいね! お代わりもたっぷり作ってますから! え? そんなに食べられない? いやいや、毎日これくらいぺろりと平らげてる方が何を言ってるんですか今更……まぁ、それくらい食べて頂ける方が、作り甲斐があって嬉しいですけどね?』

 

『今日の紅茶、特別なんですよ! ……何で特別か? そりゃ決まってますよ、ご主人様の為ですからね! 毎日作り方を変えてるので一度も同じものではない特別製です! 後で感想聞かせて下さいね!』

 

 あ、ダメだこれ。なんか色々とフィルター掛かってご主人様=ボク大好きっ子になってる。しかも性格が明らかにキリトじゃないし。

 いや、素で明るいキリトがご主人様第一義なご奉仕メイドだったらあり得たのだろうか……ちょっと考えづらいなぁ、敬語はともかくここまで明るくは無いと思う。多分キリトは普段は冷静沈着だけど誰も見てないところでは甘えまくるタイプだし。

 ……あれ、そう考えるとこの妄想も割と合ってたりする? 妄想の中では姉ちゃんの影が一切無かったから二人っきりという点は合ってるのだし。

 …………どうしよう。物凄く従順なメイドキリトを見てみたい。それから撫でくりまわしたり抱き締めたり色々としてみたい。

 

「あーはいはい、あんた達揃いも揃って、そのだらしない顔を何とかしなさい!」

「「「「「はっ?!」」」」」

 

 アシュレイさんの声で意識が現実に――仮想世界だが――戻って来た。どうやらボクだけでなく他の四人も揃って妄想に耽っていたらしい。

 キリト……メイド服一つでここまでさせるとは恐ろしい魅力の持ち主である。

 というか何気に姉ちゃんとサチも何だかんだでキリトに嵌っていたようだ。気持ちは凄く分かるから茶化す気も起きない。

 

「まったく……まぁ、メイド服なんて色物はこれが最初、後は結構マトモなものばかりだから、これからはキチンとコメントしてあげなさいよ? 最初だからよかっただけで、アレが何回も続いたら流石に不安がるから」

 

 アシュレイさんの忠告にボク達は素直に頷いた。

 確かに似合ってるか、褒めてもらえるかで既に羞恥と不安を抱いていたキリトの事だ、流石にまた同じコメントを返しては不満の一つも抱くだろう。

 

『準備出来たぞ』

「あら、思ったより早かったわね。じゃあ入って来て」

 

 喜びながらブースに戻ったからか、キリトは割と躊躇い無く用意されていた服を着たようで、一分と経たずに準備完了の旨を伝えて来た。アシュレイさんも少し意外に思ったようでコメントした後、入って来るよう促す。

 それを受けてカーテンの向こうからカコン、カコンと音を立てながら姿を現したキリトの恰好は、また一段と変わったものだった。

 彼が着ている服は祭りで男性が着る浴衣だった、着流しと言うのだろうか。青みがかった限りなく黒い着流しに、深蒼の帯を腰に巻いてはだけないようにしていた。

 履物は凝っていて下駄、無論彼はそれを裸足で履いていた、今までほぼ見た事が無い白い生足、正確には足首より下くらいだけだが惜しげもなく晒されている。

 彼の首元から掛けられているネックレスは、チェーン部分は見えるものの、雫の部分は人目に触れないよう着流しの中に仕舞われていた。

 

「これは今年の夏頃にあるだろう祭りイベント時期に先んじて売り出そうと思ってる男性用の浴衣でね、そのシリーズの中でも一番高値の代物よ」

「わぁ……! キリト、凄く似合ってる! やっぱり黒系統は似合うね!」

「ん……ありがと……」

 

 若干さっきと同じコメントとなったものの、本心から言ったのが分かったのかキリトは頬を朱に染めながらはにかんでお礼を返してきた。リーファ達からも次々と称賛を受けてはにかむその姿は、やはり純朴で純真なキリトらしく可愛らしい姿だ。

 男物の浴衣の筈なのにキリトが着ると何故か女性物に見えてしまうのだが……まぁ、それも彼の魅力というものだろう。

 ちなみに、途中から褒められ過ぎて悶え始めていた。

 

「それにしても、アシュレイさんって本当にセンス良いんですねー……刺繍とか凄い細かい」

 

 その時、悶えてるキリトの頭を撫でて微笑んでいたリーファがふとそんな事を口にした。

 リーファが言った刺繍というのはキリトの浴衣に散りばめられている模様の事だ。

 どうやら青がかった黒は夜景を表現しているらしく、まるで蛍が飛び交っているような光の玉が幾つか、そして川辺を表現しているかのように光を反射している波模様が複数描かれているのである。恐らく深蒼の帯は闇夜に沈む青草を表現しているのだろう。

 それらを見て指摘された事で、離れたところでボク達の様子を笑顔で見守っていたアシュレイさんがにこりと微笑んだ。

 

「お褒め頂いて嬉しいわ。これでもリアルでもファッションデザイナーを志していた身ですからね、それなりにセンスはあるつもりよ?」

「いや、これはそれなりどころじゃないと思うのだけど……」

「本当ですよねぇ……」

「ふふっ、ここまで真剣に褒められたのはユウキちゃん以外は初めてかもしれないわねぇ」

 

 くすくすと、本当に嬉しそうにほほ笑んで言ったアシュレイさんは、でも、と言葉を止めた。それから未だに耳まで真っ赤にして悶えるキリトに視線を向ける。

 

「服は誰かに着てもらってこそ脚光を浴びるものだから、今回は素材が良かったって事だと思うわよ。そんじょそこらの男じゃ似合わないものだもの」

「……あー……」

 

 アシュレイさんの言葉を聞いて、今キリトが着ている浴衣を仮にクラインやディアベル、ヒースクリフさん、エギル、シンカーさん、キバオウ達が着てもここまで似合ってるとは思えないだろうなと思って、納得の声を上げた。

 クラインとヒースクリフさんは赤系統、ディアベルは青系統、エギルとシンカーさんは緑系統が似合いそうな感じである。キバオウは知らない。

 

「よかったね、キリト。凄く褒められてるよ」

「…………嬉し過ぎて、恥ずかしぃ……」

「ふふっ、可愛いなぁもう」

 

 真っ赤になった顔を両手で隠しながら言うキリトに、リーファが我慢ならないとばかりに抱き締めて頭を撫で始めた。

 それでキリトは更に耳を真っ赤にするのだが……まぁ、確かに可愛いし初々しいので、偶に見るならいいかなぁと思っている。今まで見て来たキリトのイメージから完全にかけ離れているこれをきっとギャップ萌えと言うのだろう。男の子に萌えるのもどうかと思わないでも無いが、そこはそれ、気にしてはいけない。

 それはともかく、大胆にもリーファが抱き締め始めたのでそこはかとなく羨ましく思ってしまうのだが、流石に恋人になっていない現状でライバルでもある義姉に敵う訳もなく、キリトも拒絶していない事からボク達は大人しく見守る事にした。リーファも常識があるから流石にこれを続けるとも思えない。

 それからすぐにリーファはキリトを解放し、彼はアシュレイさんの指示に従ってまた試着ブースへと戻って行った。

 

「……浴衣で思い出したけど、ユウキちゃん達、今年はお祭りに参加するの? 確か去年は出てなかったわよね?」

「あー……どうしよっか」

「キリト君も安定してますしねぇ……」

「去年は私の事で大変だったからね……」

「その言い方だと、ユウキさん達は参加した事無いんですね」

「まぁ、キリトの事が心配だったから」

 

 このSAOも人力の運営では無いとは言え、季節感が再現されている事から予めプログラムされていた季節ごとのお祭りというものはあるし、お祭り中の限定イベントというものも存在する。

 春のお花見、夏の祭りと海――厳密には湖――、秋の飽食祭、冬のクリスマスなどだ。

 それらの期間中に出るイベントはキリトが挑んだような超難敵なボスが出るものもあれば、単純に楽しむ事を目的とした簡単なクエストだって存在するので、種々様々な楽しみ方がある。年に一回しか訪れない季節性のイベントは、それはもう《アインクラッド》全体がイベントエリアになるくらい大規模に発生する、クエスト自体は勿論受注した階層が基本らしいが。

 らしい、と言うのにも理由がある。デスゲーム開始から一ヶ月が経った頃のクリスマスイベントはおろか、キリトは基本的にどのイベントにも参加せず攻略を続けていたので、同じようにボク達も攻略組の付き合い以外では参加しなかったのだ。

 攻略組の一員とは言えSAOで絶対的に少ない女性パーティーだから声を掛けられることが多くて面倒なのだ、その癖鼻持ちならない者達ばかりだから嫌気が差す。

 また、去年の夏頃からはサチを頼まれ鍛えていた事、そして《月夜の黒猫団》壊滅を契機に元から不安定だったキリトが尚更病んだ事が気掛かりで、イベント関係は一切度外視していた事もあって、実はボク達は率先して季節ごとのイベントに参加していないし、付き合いで行ってもマトモに楽しんだ事が無かったりする。報酬なんて攻略に役立つものは殆ど無かったので完璧度外視だ。

 むしろその期間中は最前線から人が少なくなるから、キリトとこっそり会って精神的なケアをするのにはうってつけだった。何だかんだでサチの事を心配していたし、顔を合わせに行くのと並行してケアをしていた。これでも幼い頃から病院に通っていたのだからその辺は姉妹揃ってお手の物である。

 

「今は漸く休みも取って安定してるから、一回湖に泳ぎに行ったりするのはどうかなって考えてるかな」

「キリト君の場合、人が多く集まる祭りには立場上行くのはやめておいた方が良いですしね」

「……そういえば、リーファさんはキリト君とリアルでお祭りに行った事は……」

「無いですね。今はどうか知らないですけど、拾ったばかりの頃は人込みが大嫌いだったので……それに人目に付く場所に行って知られたらと思うと誘えなかったんですよ。だからデパートとか、ファミリーレストラン、海とかにも行った事は無いです」

「「「「「あー……」」」」」

 

 確かに、人目がある場所では何時どこで彼の素性を知られるか分かったものでは無いし、その判断はこの上なく適切と言えるだろう。

 

「雪が降った時期はまだそこまで遊ぶ事に意義を見出してなかったので、雪合戦などもした事は無いですね。多分ウチに来る以前もした事無いんじゃないんですかね」

「じゃあ小学校はどうだったの?」

「普通に転入生という形で入りました、人込みが嫌いなだけで悪意さえ無ければ表向き平気そうにするので一応溶け込めてはいたみたいです。流石に小学生で《織斑一夏》の顔まで覚えてた子は居なかったみたいで、私もあの子も心底ホッとしましたね……教師陣は微妙な顔をしていたのでかなり冷や冷やさせられましたけど」

「ああ……まぁ、大人なら知っていてもおかしくないわよねぇ。このご時世、検索ワードに『織斑』や『IS』、『《モンド・グロッソ》』、極論『弟』とか打ち込めば普通に顔写真にプロフィール付きで調べられるもの。個人情報保護法が一切機能してないくらいの暴かれっぷりは幾ら同情してもし足りないくらい」

「あたしも調べましたけど、アレには一生涯で最大級と断言出来るくらい絶句させられましたね……人の悪意って本当に際限が無いって痛感させられました」

 

 どうやらネットで調べた事があるらしいアシュレイさんとリーファが遠い眼をし始めた。ボクと姉ちゃんは積極的に調べた事が無い、というかそんな余裕も無かったので知らないが、どうも想像を遥かに絶する結果だったらしい。

 というかリーファも調べた事があるのか。

 そう問うと、彼女は何とも言えない複雑そうな表情を浮かべた。

 

「義理とは言えあの子の姉を名乗るならせめてどういう状況だったのかを知っておくべきだと思ったんです。そうでないとあたし自身が義姉を名乗る事を許せなかったし、あの子を姉として愛するのに相応しくないとも考えてたから……剣道の鍛錬を休んでまで土日を調べもので終えたのは、アレが初めてだったと思います」

「ふぅん……なら、少なくともリーファちゃんは織斑千冬よりはお姉さんをしっかり出来てるんじゃないかしら。あの世界最強は家族思いって知られてるから、仮に知ってたら止める為に暴れてたでしょうし、それが無かったっていう事は逆説的にそう言えると思うわ」

 

 織斑千冬が家族思いというのはボクもどこかで聞いた事がある。それであの女性を《モンド・グロッソ》決勝戦辞退へ追い込む為にキリトは誘拐されたのだ、彼からもその話を聞いている以上は真実だろう。

 それでいながら彼を虐げる行動が過激になるばかりだったのはそれを知らなかったからだ。キリトも話さなかったし、神童の兄も隠していたし、世界最強も詮索せず知ろうとしなかったから、きっと《織斑一夏》はリーファの義弟キリトになったのだ。

 

「……確かに知っていたらもっとあの子の事を見ていたでしょう……でも、神童の様子から察するに、あの家に留まっていたら今頃は多分命を落としていたと思いますね。拾った当時のあの子は、本当に見るに堪えないくらい衰弱してましたから……」

 

 最初は話し掛けても反応しない事の方が多かったですから、と拾って入院している間の事をリーファは端的に語った。

 学校があっても、剣道の試合があっても、毎日欠かさず見舞いに行っては会話を試みた結果、一ヶ月が経って家に引き取った時にはある程度の会話は可能になるほど回復したという。医者や彼の世話をしていた看護師達から言わせれば、それは異常を超えた奇跡の一言に尽きるくらいの目覚ましい回復力だったらしい。

 それでも彼はISのCM、織斑の単語を聞いただけで錯乱する程に傷付いていたという。

 

「それはとある契機に収まりましたけど、精神科医の話では何時ぶり返すか分からないんです。正直あの男がいると聞いた時は冷や汗どころじゃなかった。そのすぐ後に遭遇したと聞いて心臓の拍動が速まる程でしたし」

「ああ、あの時の……」

 

 リーファの言う『契機』が何なのかは分からないが、多分篠ノ之博士との邂逅なんだろうと予想出来た。ISの事で錯乱する程だったのに彼は篠ノ之博士に対しては好意的な意識を持っているらしいし、恐らくその人との間に何かがあったから収まったのだ。

 そしてリーファが続けて言った遭遇とはリズベット武具店での話だろう。実際キリトは錯乱を通り越して恐慌を来していた、あのまま放っていたら異常脳波を感知出来ず回線切断を起こすか、精神崩壊を起こしてマトモな生活を送れなくなっていた筈だ。

 《オリムラ》の呪いが齎すキリトへの影響は、どれだけ用心してもし足りない程に巨大で陰湿だから、常にあらゆる危険性を考慮しなければならない。

 疲れはするしぶっちゃけそんな苦労を背負いたいと普通は思わないのだが……これが惚れた弱みと言うべきか、キリトの為ならその程度と思えてしまう。

 この辺り、ボクはもう引き返せないところまで進んでしまっているのだろう。

 

「なるほどねぇ…………って、着替えるだけなのにいやに今度は時間掛かってるわね……?」

「そういえば……アシュレイさん、キリト君に次は何を着るよう指示してるんですか?」

「水着よ。泳いでいいタイプの撥水性パーカーとトランクスタイプの」

「……恥ずかしがってる、のかな」

「まぁ、さっきの様子を考えればあながち間違ってもない気はするわね」

 

 姉ちゃんの問いに端的に返された答えに、サチとシノンがちょっと首を傾げながら言った。確かに恥ずかしくて来ないという可能性は無きにしも非ずだ、それが肌を多く見せる水着ともなれば尚更に。

 でも、腹を括ったら結構開き直るキリトが、今更それで止まるとも思えないのだけど……

 

「水着……肌、露出…………あっ」

 

 多分同じ事をボクと考えて疑問を一様に首を捻る中、何事かを繰り返し呟いていたリーファが何かに思い至ったかのように小さく声を上げた。それに一斉に視線を向けてしまう。

 その中で、シノンが我先にと口を開いた。

 

「何、何か分かったの?」

「あー……えっと、まぁ……少なくとも恥ずかしがってるからではないと思いますね……」

「それ、どういう事?」

 

 恥ずかしがってるからじゃないとするなら一体何で来ないのかと問うと、リーファは凄く思い悩む表情になった。

 

「これは……流石に、あたしの口からは言えないです。あの子本人の問題なので」

「肌を見せたくない理由…………ああ、そういう事……」

 

 最初は分からなかったが、理由を察した事で何故リーファが言い淀んだのか理解した。

 顔や髪、手足があれだけ綺麗なキリトだが、あの神童が暴力を振るわない筈が無いのだから、恐らく服で隠れる部分にその痕があるのだ。リアルの体格を再現する為にキャリブレーションを行っても流石に体の傷は再現出来ないが、リアルの写真を撮った場合は更に細かく再現されるので、傷なども再現されるようになっている。

 恐らくキリトは、写真を撮っていたのだ。だから服で隠れる部分には古傷が無数にあるのだろう。

 きっとその傷が自分自身を象徴するものだと思ってそれを遺したのだろうが……よもやそれが仇となるとは、キリトも予想していなかったに違いない。というか多分そういう事をしようとすら考えてなかったのだろう。

 それがここに来て、まさかのモデル試着の中に水着が入っていたのだから固まっている、と……

 …………これは流石にスルーさせるべきではないかと思った。幾らなんでも、割と信用を向けられているボク達に傷を見せる事は厳しいだろう、少なくともボクなら絶対拒否する。

 

「お、お待たせ……」

 

 そう考えていたのだが、予想に反してキリトはさっきと変わらない様子で出て来た。

 

「「「「ぶふっ?!」」」」

「わ、わー……」

「あ、あらあらまぁまぁ……予想以上の着こなしっぷりね……」

 

 彼の恰好を見た瞬間、リーファ、シノン、姉ちゃん、ボクの四人は一斉に噴き出し、女性陣の中でも年長だからかサチは噴き出さなかったものの顔を赤らめながらまじまじと彼の姿を見つめた。アシュレイさんは予想を超えた着こなしに唖然としている。

 彼の恰好はシンプルだった。キリトに合わせたかのように黒で統一されたリアルでも普通に売ってそうなデザインのパーカーを羽織り、左太ももの方にサークルに包まれた白い十字架のワッペンが入ったトランクスタイプの水着を履き、そしてサンダルを履いていた。

 多分エギルみたいな筋骨隆々な人なら凄くワイルドな感じになるのだろうが……如何せん、着ているモデルが少女の如く華奢なキリトだから、むしろ煽情的に映った。なまじ羞恥に頬も耳も真っ赤に染めているのだから尚更だ。恥ずかしいからか微妙に体を隠そうとするが、それが却って艶めかしく、淫靡に映る。

 そして彼は、生々しい無数の傷跡が刻まれた体を、パーカーを前開きにして隠す事無く見せ付けていた。その肌は治り切っていない傷の色で塗り潰され、固そうな印象を受けた。

 一番目に付いたのは乳頭があるであろう二ヶ所と臍を結んだ逆三角形の中央に当たる部分、胸骨の剣状突起があるだろう場所だ、そこは見るに堪えかねるくらい凄惨な手術痕があり、縫合の痕も無数にあった。

 そこには明らかに人工物と分かる代物が埋め込まれる形で肌から露出している。話に聞いた、人体実験で体に埋め込まれたというISのコアだ。直径三センチ程の球体という異物がそこにはあった。

 あの、闘技場《個人戦》と《レイド戦》の最後に出て来たホロウが暴走した時に見せたものと、全く同じものが、再現されて彼の胸にあったのだ。

 

「キリト、あなた……」

 

 さしもの傷を見せたくないから来ないのではと真っ先に予想したリーファもこれには唖然として固まる。キリトの事を恐らく最も理解しているであろう彼女ですら、この行動は完全に予想外だったらしい。

 その様を見たキリトは、苦悩を含む笑みを仄かに浮かべ、微笑んだ。

 

「ここに居る人なら……見せても、大丈夫だから……」

 

 それはキリトの心情的にか、あるいはその傷を見てボク達が嫌悪感を見せない事を信じての事か、ボクには分からなかったが、それでも分かる事はあった。

 キリトは、ボク達に見せても良いと思ってくれた事だ。

 ここで驚いてばかりでは傷付けてしまう、嫌悪するなど以ての外だと理解したボクは、一つ深く息を吸って思考を整えてから笑みを向けた。

 

「……さっきも言ったし、月並みだけど、似合ってるよ。やっぱりキリトには黒が一番だね」

「……傷痕が、あっても……?」

「それも含めて言ったんだよ。確かにちょっと予想を超えた数だったけど、それでキリトの魅力や輝きが損なわれるとは、ボクは思わないかな」

「なッ…………な、ぅ……あぅ……」

「「「「「…………」」」」」

「……あれ?」

 

 不安そうに訊いて来たから、安心させるように微笑みながら本音を言ったら、何故か空気が凍った。キリトは顔を真っ赤にして狼狽えるかのように瞳を揺らがせ動揺し、リーファ達は唖然やら嫉妬やら愕然やら様々な視線を向けて来る。

 正直な事を言ったのに何この空気、と思って首を傾げ。

 

「え、ぅ、あぅ、あぅ……ふきゅぅ……」

「き、キリトッ?!」

 

 丁度そのタイミングで顔を真っ赤にして動揺し続けていたキリトが、耐えかねたように壁に寄りかかり、眼を回して座り込んでしまった。

 慌てて駆け寄って様子を見ればただ気絶しているだけのようだった。

 

「……疲れが溜まってたのかな……」

「いや……単に褒め殺ししただけでしょ、それ……」

「あのキリト君を褒め殺しで気絶させるって……」

「ユウキって、実はキリト以上に天然な男殺し……?」

「何でだろう。喜色を表してた事は、昔を考えたら凄く安心出来る事の筈なのに、何故か素直に喜べないあたしがいる」

「ユウキちゃんと【黒の剣士】クン、性別逆転させたらイイ感じになるんじゃないかしらねー……」

 

 何故かサチとアシュレイさんから納得し難いコメントを受けた。他の皆も唖然か呆れのどちらかだし、リーファなんて妙な事を言ってるし……

 キリトに喜んでもらいたいのもあったけど、それを抜きに本気で褒めたのに、何故こんな事になったか分からなかった。

 この後、すぐに気絶から回復したキリトはすぐさま顔を真っ赤にして起き上がって試着ブースに引っ込み、けれど約束は約束だからとモデルは続行。それからも次々と様々な衣装のモデルをしていったのだが、その感想を言う度にキリトは悶え、他の面々からは冷たい視線を受ける事になった。

 ただ正直に、且つキリトが喜ぶと思って感想を言っただけなのに、何故そんな視線を受けなければならないのか分からなかった。

 何でさ……?

 




 はい、如何だったでしょうか。

 ゲームでは『自らの意志で友達(多分レコンこと長田)が隠し持っていた《ナーヴギア》でログインした』設定ですが、本作では『意図せず《アミュスフィア》で乱入してしまった』状態なので、病院へ搬送されていません。何故なら《アミュスフィア》には重量の三割を占めるバッテリーセルが無いから。搬送時間を作っている筈のコレが無いからこそ搬送出来ない状態。

 バッテリーセルが無いなら外してもいいのでは、と思うかもしれませんが、本文で語られているように万が一を考えると取れない手段です。安全第一なら現状維持が一番ですから。

 リアル直葉の体の世話をしているのが、原作GGO編以降で出て来た安岐ナツキ看護師なのは、あの眼鏡の役人が手を回したから。将来的に色々と接触しようとしている気が丸見えです(笑)

 次にキリト着せ替え編。

 正直私にはこれが限界でした……着せ替えは《ロスト・ソング編》と《アリシゼーション編》の後にもしようと考えているので、あまりやる訳にもいかなかったんです。ネタは出来るだけ残しておきたいですし。

 単純に私自身がファッションに興味ないのもあるんですがね……(´;ω;`)

 まぁ、文字数や着替え中の話題に限界があったのもあるんですが。

 サチヒロイン化は《月夜の黒猫団》の事があって寸前で止まっている状態……逆に言えば、これさえ無ければ堕ちたも同然。リアルではまだ死んでいないケイタ達が生還し、尚且つキリトを許すか否かが肝ですね。

 ……実は《リアリゼーション》のプレミアとサチを会わせたかったりしてます。似てるんですもの、あの二人。性格じゃなくて見た目が。

 ランは以前のユウキみたいな状態。性格がアスナ寄りで色々と考えてしまうので、ユウキよりも悩んでいる状態な訳です。悩んでいる時点でお察しと言ってはいけない。

 リーファとシノン、ユウキは言わずもがなですね。既に吹っ切れてるんで。

 さてさて……シリカ、リズ、レイン、フィリア、ストレアはどうすれば自然に堕とせるでしょうか。そもそもヒロイン化していいのかと思わないでもない。

 正妻一択か、それともハーレムルートか。ある意味究極の命題ですね。

 それでは、次話にてお会いしましょう


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