インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今話もサブタイトルから分かる通り、あの人と邂逅します。そして屑だとか何とか言われていたキリトの潜在能力が幾らか発揮される回でもあります。

 初っ端からいきなり暗いですが、まぁ、本作のキリトは根本的にこんな感じです。ご了承下さい。

 ではどうぞ。最初だけキリト視点、そして初のキャラ視点替えがあります。




第三章 ~光との邂逅~

 

 

 クラインを見捨て、ソロで活動し始めてから、一体どれほどの時が経っただろうか。

 どれくらいの時間戦い続けているのか、時間間隔も最近は曖昧だ。

 食事、睡眠、休憩の全てを極限まで削っての戦闘。冴え渡る集中の端に、冷たくにじり寄る冷気を憶える、この感覚。これはきっと、自分の体を蝕む毒なのだろうなと、何時からか思うようになった。

 思えばあの日、デスゲーム開始の日から一夜たりとも熟睡出来ていない。家族がいないとここまで自分は弱いのかと、今更ながらに自分の愚かさ加減に反吐が出そうになる。本当に自分はダメなヤツだと思う。誰かが一緒にいないと何も出来ない、屑で出来損ないなんだと。

 思えば今までもそうだった。ISに関するトラウマだって家族に迷惑を掛け続けていたし、そもそも自分を拾ってくれた時点で迷惑しか掛けていないではないか。

 それなのにどうして、俺は強くなったとか、そんな勘違いをしていたのだろう。

 目の前でレベル6の《ルインコボルド・ナイト》という剣を持った狼が鎧を着たような魔物相手に、そんな事を考えながら戦っていた。

 現実逃避だ。ソロというのは多大なリソースを独り占めできるという魅惑がある反面、危機に陥っても助力を得られないという巨大なリスクが存在するのだ。

 そして今、俺はそのリスクを思いっ切り踏み抜いて自身を死の淵へと立たせていた。

 ナイトのHPはまだ四割はあるが、俺のHPは既に一割も無い。そりゃそうだ、モンスターポッピングトラップという、かつてのMMO定番のモンスターハウス並みの量をポップさせる罠を、俺はソロなのにも関わらず踏み抜いたからだ。残り一体、つまりコイツだけだから五十体以上も一気に押し寄せてきた大群を捌いているので、頑張った方ではあると思う。

 

「……もういい加減、楽になって良いかな……」

 

 ぽつりと、呟いた。途端に体の緊張も解けて構えも落ち、どさっと膝を突いてしまう。頬を何かが伝った。

 鉄鎧を着た狼剣士はじゅるりと舌なめずりをして、こちらに少しずつ歩み寄ってきた。そして俺の数十センチ前まで歩いて、その両の手に持っている無骨な大剣を大上段に掲げ――――

 

「――――何言ってるのよ、あなた」

 

 ズパァンッ! と閃光一閃、凄まじい薄翠色の一条の閃光が狼剣士を貫き、蒼い結晶片へと変えた。すたん、と俺の前に降り立つ誰か。

 今の速さと突き技、そして色から察するに細剣スキルの《リニアー》だ。

 声音と口調から女性か…………一体、誰……と思いながら顔を上げると、逆光で暗いが栗色の長髪と、赤いフーデッドローブ姿が見えた。持っているのはアイアンレイピアではなく、フィールドモンスター《ウィンド・ワスプ》からの低確率ドロップのウィンドフルーレ。輝きから恐らく何回か強化されている。

 

「何で、助けたの……」

「……どういう意味?」

「リソースの奪い合いは、プレイヤーの絶対数が多いほどに過激になる。ここで俺を助けても、良いことは……」

「じゃああなた、この世界で死にたいの?」

「…………どう、なんだろう……お、れ……は……――――」

 

 ふと、ぐらりと視界が揺れた。途端に五感が遠くなり、どさっという音と女性らしい声が聞こえるも、次第にそれも小さくなっていった。

 

 ***

 

「……どうしよう、この子」

 

 とりあえずポーションを飲ませてHPを危険域から安全域まで回復させたけれど、正直私ではどうにも出来なさそうなのが実状だった。一応パーティーメンバーはいるのだけれど、実は私はトラップに引っ掛かって回転扉で別フロアに来てしまい、安易にここを動けないのだ。

 回転扉で来てしまったフロアで凄まじい戦闘音が聞こえたためにそちらへ足を向けてみると、目の前で倒れた黒衣黒髪の少年がギリギリで戦っていたという訳だ。

 それにしても、と思う。

 

「この子……クラインさんが言ってた子に、似てる……?」

 

 クラインさんはデスゲーム開始から一日が経つ前に、情報屋の鼠のアルゴさんと一緒になってベータと新たな正式サービス版のデータを広めて回っていた、無精ひげの男の人だ。私のパーティーメンバーでありリーダーでもある。

 私はアルゴさんに細剣の腕を見込まれ、新進気鋭のビギナーということで一緒にクラインさんと行動を共にしているのだ。

 その時に彼は、悔しそうに涙を流しながら話してくれた。アルゴさんと共にベータ版と正式サービス版のデータを集めて送ってくれている、ベータテスターの事を。

 

『あいつはよぉ……たった一人で何もかも背負い込んで、先に進んじまったんだ。俺を誘おうともしてくれてたんだぜ……まだたったの九歳のガキが、大人の俺よりもよっぽど冷静だったんだ。早く追いついてやらねぇと、あいつは背負ったモンの重さに耐えかねて潰れちまうよ……』

 

『キー坊はね、ベータの時もだったんダ。ただの一度も誰ともパーティーを組まず、けれど情報だけは平等に広めていタ。どんな理不尽な要求を言われようと二つ返事で承諾してたし、殿は必ず受けて出ていたんダ。本当にあの子は恐ろしいよ、いろいろな意味デ……けどね、だからこそ、オネーサン達がしっかりして支えないとダメなんダ。キー坊には絶対に支えが必要なんだ、けどあの子はそれを自覚してないんだヨ。早くしないと死にたがっちゃウ』

 

 二人は悔しそうに語っていた。美少女のような容姿に黒を基調とした服装、背中に吊った片手剣、長い黒髪に幼すぎる容姿。

 どれをとっても話に聞いた【キリト】というプレイヤーと一致する。

 

 

 

『もういい加減、楽になって良いかな……』

 

 

 

 ふと、脳裏でそんな言葉が蘇った。疲れ切って生きる気力すらも失っていた声音は、ともすれば絶望の声を張り上げていたあの広場の誰よりも、宿屋ですすり泣いていた自分よりも酷い状態なのではないかと思う。たった一人で最前線を進む彼は、自分が無自覚に背負った重みに耐えかねて悲鳴を上げているのだ。それに気付いていない。

 危うい、危う過ぎる。十五歳の私でさえも危うかったのに、更に六つ下の九歳の子供が、こんな異常な状況に耐えられる筈が無い。

 

「おーい、アスナ!」

 

 ふと、この一ヶ月近くで聞き鳴れた胴間声が響き、徐々にこちらに走り寄ってくる複数人の影。クラインさんとその友人さん、そして偶然一緒になった禿頭褐色の斧使いエギルさんだ。丁度私を入れて八人パーティーである。

 エギルさんが走り寄りながら安心したように安堵の溜息を吐いた。

 

「無事だったか……良かったぜ。いきなり回転扉で離れちまうんだもんな」

「いえ、私は無事なんですけど……この子が」

「ん? って、キリトじゃねぇか?! 何でここに倒れて……」

「さぁ……けど、私が助けに入った時点でHPは一割切ってましたし、直後に倒れたので詳しくは…………」

「…………とにかく、キリトを連れて今日は引き上げよう。丁度今日の午後四時にはボス攻略会議だしな」

 

 そう、この一ヶ月で漸くだが、やっと第一層のボス部屋が発見されたのだ。アルゴさん伝手で、発見したのは目の前でエギルさんに担がれる小柄な彼らしい。結構進んでる私達ですら二十階ある内の八階までしか進んでないのに、彼はソロで全部昇りきったのだ。アルゴさんに渡されているマッピングデータを見るに、どうやら全ての部屋を見て回ったのも彼らしい。

 何故これほどまでに精力的に、でも生きるためでなく死にたがって戦っているのだろうと思った。

 三十分近く掛けて迷宮区を抜けた私達は、最も近い主街区トールバーナへと赴いた。時間はまだ一時なので、三時間も猶予があるという事になる。

 

「さて……キリトをどうするかだよな…………下手にその辺に寝かせると妙な連中がちょっかい出すかもしれねぇし……」

「っ、つ……ぁ……?」

 

 その時、微かな呻き声が上がった。ぴくりとエギルさんの肩に担がれている彼の体が動く。

 

「あ、気が付いた? 大丈夫?」

 

 エギルさんに下ろしてもらい、噴水近くでふらふらとよろけてベンチへと腰掛ける少年キリト。頭を押さえながらふらふらと周囲を見渡して、私に視線を定めた。

 私は中腰になって彼の顔を覗き見るようにした。

 

「……ここ、どこ……?」

「トールバーナ、迷宮区から最寄りの街よ」

「…………ありがと、助けてくれて…………俺、キリト……」

「私はアスナよ。よろしくね、キリト君」

 

 右手を出すと、彼も右手を出して、ふと触れる直前に止めてしまった。首を傾げて待っていると、そのままそろそろと戻ってしまう。

 人見知りの子なのかなと思いつつ、初対面だし仕方ないかなと納得して私も右手を戻した。

 

「よぉキリト、久しぶりだな」

 

 クラインさんのその声に、キリト君はさっきまでの緩慢とした動きが嘘のようにばっと素早くクラインさんへと顔を向けた。途端に顔を驚愕に染める。

 

「ク……ライ、ン……?」

「おう、お前ぇを追いかけて来たぜ」

「……何、で……予想より、早い……」

「お前ぇが回した情報のお陰で、俺らだけじゃなくて多くのプレイヤーが生きてるんだ。そりゃ成長も速いに決まってんだろ」

「……そっか……アスナを、加えたんだ……そっちの大きい人も……」

「エギルだ、よろしくな」

 

 さっと同じように手を出したが、やっぱり触れる前で引っ込めてしまう。顔を見るに、握手はしたいけど、何かを恐れているという感じだろうか。

 エギルさんも首を傾げつつ深く追及しようとはしなかった。

 

「それでキリト、お前ぇ、まだソロでやってんのか。何時か本当に死んじまうぞ。聞いた話じゃあ一割切ってたらしいじゃねぇか」

「……うん」

「何でそんな無茶した?」

「ポッピングトラップを踏んじゃって……」

「? えっと、それ何ですか?」

「そうだなぁ……アスナにも分かるよう簡単に言えば、部屋中モンスターだらけで脱出不可能になるトラップだな。所謂モンスターハウスってヤツだ」

「ええ?! そ、そんなトラップがあるんですか?!」

「MMOでは昔からの定番だけどな……けどキリト、あそこは通路があったろ? せめてポーション使って逃げて、時間稼ぎしながら戦えばよかったじゃねぇか」

 

 キリト君の前に同じように中腰になり、彼の肩をぽんぽんと叩くクラインさん。キリト君は俯いたまま口を開いた。

 

「……ポーション、切らした」

「おいおい……このデスゲームの危険性はお前ぇが一番分かってんだろ? ベータテスターでもあるんだ、何で切らしたんだ」

「何日も入ってたし……ボスと、戦ったから」

 

 その瞬間、私達八人は一斉に固まり、そしてはぁ?! と大きな声を上げてしまった。

 

「ぼ、ボスとって、お前ぇ……何でそんな無茶を……!」

「ベータテストと正式版との変更点は、本当に些細なもの。それが、ベータテスターを殺す要因になるし、ベータのデータがある十四層まではそのデータで慢心を生むから……だから、早く確認しなきゃって……今日は、その帰りで……」

「おいおい……幾らなんでもソロじゃ危険すぎる。いやそもそも、ボスってなぁ取り巻きがいんのが定石だろ。そいつらごと相手したのか」

「俺のレベル、24だから」

「なんっ……」

 

 クラインさんががちんと固まり、エギルさんも眉をぴくぴくさせて固まっていた。

 暫くその状態が続いたけど、そこでクラインさんも追及をやめたらしい。質問を変えた。

 

「はぁ…………それで、何か変更点はあったのか」

「ん……ボスのHPは四段、ベータでは残り一段になるとタルワールっていう湾刀になるけど、それが細長いカタナになってた」

 

 キリト君の言葉に、少し興奮気味にクラインさんが食いついた。

 

「カタナがあんのかっ?」

「え、あ、ああ。多分曲刀を鍛えていったら、エクストラスキルとして出るんじゃないかな……ベータでは十層の迷宮区に……あそこを突破出来たの、ソロの俺を除けばワンパーティーだけだけど…………人数が少ないほどリポップが激しかったから、死ぬほどカタナスキルは見た……だから見切れる」

「そうか……じゃあ今回の攻略本にも――――」

「うん、載せるよう頼むよ。お願い、アルゴ」

 

「――――任せなキー坊」

 

「「「「「わぁッ?!」」」」」

 

 キリト君が言った後、すー……っと幽霊が現れるようにしてアルゴさんが出てきた。キリト君のすぐ隣に腰を下ろして現れて、いると思っていなかった私達はびくぅっと驚く。

 にししと笑いながらアルゴさんはキリト君を見る。

 

「流石はキー坊、オネーサンのハイディングをよく見破ったネ?」

「違和感があった」

「……ちなみに、Modの看破ハ?」

 

 Modとは、スキル熟練度が五十上がっていくごとに自由に選べる、プレイヤー好みにスキル強化が出来る強化オプションの俗称らしい。

 

「まだ取ってない。取ってる強化オプションは索敵範囲増大とマッピング範囲増大。まだ隠蔽スキル使うモンスターいないから看破強化は取ってない」

「本当に違和感だけで見破ったのカ……オネーサン、自信無くすヨ」

「これくらい出来ないと、俺、この世界に来れてないから」

 

 淡々と言い切ってデータをアルゴさんに渡し、それを複雑な表情で受け取る。

 

「それで、今日の午後四時に、攻略会議があるんだったかな。何人くらい集まるかな……」

「俺が見たとこ、大体四十人ちょいじゃねぇかな」

「オレっち調べでは、恐らく四十一人。フルパーティーが五つにソロプレイヤー一人だナ」

「……そのソロプレイヤーって、キリト君の事ですか?」

「他にいると思うかイ? オレっちはソロとはまた違うし、知る限りではキー坊以外にソロなんていやしないヨ」

 

 ジト~……とアルゴさんが小柄なキリト君を見るも、彼はぽやぽやした表情で街の風景を見回していた。それに違和感を覚えて質問する。

 

「ねぇキリト君。あなた、もしかしてトールバーナは……初めて見るの?」

「初めてじゃないけど、武具屋とか道具屋に寄ったらすぐに迷宮区か、アルゴとの会談だったから……ゆとりを持って見てはないかな。途中のフィールドボスもすぐに倒したから印象薄いし」

「アレ倒したの、やっぱりキー坊だったのカ……道理で速いわけだヨ。二日目にはもうトールバーナ前の最後のフィールドボスまで倒されてたから、まさかって思ってたんだけどサ…………無理し過ぎだよ、キー坊」

「これくらい出来ないと……俺、は…………」

 

 途端に表情を暗く歪めた彼は、また唐突に元のぽやぽやしたそれに戻した。さっきから感情の浮き沈みが矢鱈と激しい少年だと思う。

 

「……そういえば聞いてなかったんだけど、攻略会議開く人って誰?」

「青い髪にナイトを自称してる爽やかお兄さんだヨ。名前はディアベルだネ」

「……多分それ、悪魔っていうディアブロと掛けてるんだろうけど、それでナイトって…………何か不安」

「まぁネ……ああ、そうそうキー坊。まーた例の商談だヨ。今度は四万九千八百コルだってサ」

「絶対に売らない。俺の大切な相棒なんだ、この剣は」

 

 唐突に始まった商売の話に、私達は首を傾げた。アルゴさんがこっちを見て困ったような苦笑を浮かべる。

 

「キー坊のアニールブレード+6を買い取りたいってヤツがいるのサ。キー坊はそれを断り続けてるんだけど、なんとしてでも買い取る気なんだろうネ…………既に払おうとしてる金額がアニールブレード本体と強化素材の合計金額を超えてるのにネェ……」

 

 ぎゅっと背中に吊っていた剣を抱えるキリト君。その姿は、まるで剣に自分自身を預けているかのようだった。

 はぁ……と溜息を吐いて、アルゴさんが「じゃあ、先方に拒否の意を伝えるヨ」とメールを送った。

 するとすぐに返信があったらしい、アルゴさんはうぇという顔になった。

 

「直接会って商談させろってサ…………どうするキー坊?」

 

 正直、九歳という子供の上に、男の子とはいえ美少女顔負けの容姿に小柄さも相俟って相手に舐められやすいだろうから、その申し出は危険だと思っている。クラインさんやエギルさん、クラインさんの友達にアルゴさんも難色を示している。

 

「……その人が払ってる口止め料、幾ら?」

「千コル」

「二千払うから、教えてもらえるか聞いてくれない?」

「ン……――――良いってサ。名前はキバオウ、粗野で暴力的、高圧的な男だヨ。正直、あの手この手でどうにかしてでもキー坊からその剣を買い取ろウ……ううん、奪い取ろうという魂胆透けて見えるから行かせたくないんだケド…………面倒な事に、コイツ、攻略会議出席予定のプレイヤーなんだナ……必然的に顔をあわせる事になル……どうすル?」

「会議で大揉めになるのは絶対に避けたい……そんなの、命を不意にするのと同じだ…………会うよ。場所の指定希望聞いて」

 

 ハア~……と大きく溜息を吐いて、アルゴさんがメールを送った。すぐにまた返信があり――――集合場所は、なんと四時に街の演劇場だった。ボス攻略会議の時に商談をしようと言うのだ。

 

「莫迦かコイツ……?! 何でよりにもよって、攻略会議の時ニ……!」

「――――……べー…………ギ……の……が……」

「え?」

 

 眉を顰めたキリト君が、ぼそぼそと何かを呟いた。けれど何を言っているかまでは聞き取れなかったため、結局聞けず終いになるのだった。

 

 *

 

「じゃあ皆! そろそろ第一層ボス攻略会議を始めようか! 俺はディアベル! 職業は気持ち的に、ナイトやってます!」

 

 午後四時、指定された通りの時間に会議が始まった。演劇台に立っているのは白銀色の軽甲冑に身を包み、背中にカイトシールドを背負って左腰に幅広な片手剣を佩いている青髪の男性ディアベル。今回の攻略会議の司会役でもある人だ。

 好意的な野次が飛んでそれに多少の反応を返し、少し収まってから彼は口を開いた。彼を含めた総勢四十一人のプレイヤーが一同に会する様は、多少圧巻の光景だ。ちなみに、私の左隣にはアルゴさんが、右隣には黒いフーデッドコートを買って身に纏ったキリト君が座っている。

 アルゴさんは人数から除いていたので、正確には四十二人いることになる。

 

「実は昨日、ボス部屋が発見されたという報告があった……更にもう一つ、良いニュースと悪いニュースがさっき更に上がった。皆はどっちから聞きたい?」

 

 そこで一気に声が上がり、結果的に悪いニュースからとなった。景気の良い話は後にするほうが士気も上がるからだろう。

 

「じゃあ要望通りに悪いニュースからだ。どっちもボス戦に関することだから、しっかり聞いてくれよ。まず悪いニュースだが、ボスの武器と取り巻きリポップにベータとの違いがあった。続けて良いニュースを言うと、その変更点と対処法が分かっている事だ。武器はタルワールからカタナへ、取り巻きはベータだと残り一本になった時の武器換装から出現しなくなったのに、今回は無限リポップだそうだ」

 

 嘘だろ……という感じの内容のどよめきが起こるも、ディアベルは手を叩いてそれを鎮めた。努めて明るいニュースを続ける。

 

「こらこら、まだ話は続くんだぞ? 良いニュースなんだからな、景気良く行こうか。それで対処法なんだが、カタナスキルに関してはこの、鼠のアルゴ完全監修の下に作られた攻略本に、実際にベータテスターの一人が戦って全てのスキルを叩き出してきたらしい対処法とスキルの見極め方が全て網羅されている」

 

 え?! と両隣をちらりと見ると、茶色のフードの奥でアルゴさんがじと~とキリト君を見ていた。キリト君は茫洋とディアベルさんを見ている。

 

「つまりだ、この攻略本を読んでスキルの見極めや軌道を知れたら、少しは苦労や犠牲も軽減できるって事だ。どうだ、良いニュースだろ?」

 

 爽やかに笑みながらの言葉に、周囲のプレイヤー達が沸いた。それにくすっとキリト君が笑う。どうやら満足しているようだけど、金輪際こんな無茶はしないで欲しいと思う。

 

「さて! そろそろパーティーの役割を決める前に、それぞれ好きな人と組んで――」

「ちょお待ってんか!」

 

 ディアベルの言葉を遮るようにして響いた男の声。聞こえたほうを見れば、スケイルメイルをじゃらじゃら鳴らして茶髪をツンツンにした男性が椅子式階段をだんっ、だんっと飛び降りて舞台に上がった所だった。

 ディアベルの誰何に答えた彼は、キバオウと言うらしい。

 キバオウ。それはキリト君の大切な相棒を買い取ろうとしている男の名だ。隣にアルゴさんを見れば小さく頷き、キリト君は剣を抱えて震えている。ぽんぽんと背中を撫でつつ叩いても、その震えは一向に収まらない。歯の根があっていないのかカチカチと音まで聞こえる。

 

「……大丈夫?」

「……っ……ぁ……」

「……?」

「――――こん中にワビィ入れなあかん奴らがおるはずやで。いままでに死んでいった三百人に詫びを入れなあかん奴ら――βテスターが。ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略に入れてもらお考えてる小狡い奴らが! そいつらに土下座させて、こん作戦のために金やアイテムを軒並み吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預かれんと、ワイはそう言うとんや!」

 

 そう言い切った後、キバオウはこちらを――キリト君を指差した。

 

「ほなキリトはん! さっさと商談成立しろや!」

「ちょっと待ったキバオウさん。商談、とは何の話だい?」

「ワイはなぁ、キリトはんが持つ、アニールブレードを買い取ろうと思てんねや。しかもただのアニブレちゃうで、+6モンや!」

「だから待つんだ。確かにアニールブレード+6は凄まじい性能を誇るだろうが、それを買い取って何になると言うんだい? 悪戯にキリトというプレイヤーの戦力を、引いては全体の戦力を下げることになりかねないんだ。悪いけど、その商談は攻略隊リーダーを務める俺が容認できない」

 

 おお、毅然と言い切った……と思って見ていると、歯軋りをして呻いていたキバオウが唐突にキリト君に向けて剣を突きつけた。

 

「キリトはん! 決闘や! ワイが買ったらそのアニブレ貰うで! 勿論タダでなぁ! ワイが負けたら二度と買い取ろうなんぞせんわ!」

「なっ?! ちょっとあなた、いい加減に――――」

「……わかった」

「キリト君?!」

 

 短く了承の声を返したキリト君に呆然としていると、彼はフーデッドローブをたなびかせながら跳躍を繰り返し、軽やかに舞台へと上がった。

 

「デュエルによる一本勝負、半減決着や。それで文句無いな?」

「……ディアベルさん、すいません。離れて下さい」

「……分かった」

 

 厳しい顔つきで舞台から一旦ディアベルは降りた。そして演説台となっていた舞台が、一瞬にして闘技台へと変わる。デュエルの待ち時間の60の数字が刻一刻と減っていく。

 

「行くで……覚悟しぃや!」

 

 その瞬間、デュエル開始の合図と共に、キバオウがキリト君へソニックリープを放った。薄翠の光芒を引きながらの突進斬りは、しかし彼には当たらなかった。一瞬で彼は背後を取り、技後硬直で短いながらも決して動けないキバオウは、諸にキリト君のホリゾンタルを喰らって吹っ飛び、台から落ちた。

 その一撃で呆気なくデュエルは終了した。キバオウのHPは真っ赤に染まり、二割あるか無いかまで減っていた。

 

「俺の勝ち」

 

 幼く高いながらも威厳に満ちた声音で、キリト君は勝利宣言をした。左右に剣を振り払い、背中の鞘に音高く収める。そしてまた跳躍で私の右隣へと帰ってきた。

 キバオウは負けたことに顔を真っ赤にしていたけれど、しかしそれ以上何かを言い募ろうとはしなかった。

 その後、パーティーを組むにあたってやはりキリト君はソロのままとなった。他は八人フルパーティーの連携で完結していたから、今更変えられなかったのだ。

 この会議の二日後、私達はボス戦に望む事になったのだった。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 キバオウ、本当は好きなキャラなんですが、ここで一度暴走。彼がどうしてあそこまで辛く当たるのかは今後分かります。

 そしてクラインの再登場、アスナ、アルゴとエギルの登場となりました。先に言っておくと、原作通りこの四人はキリトの良き理解者となります。決して敵対はしません。

 では次回にてお会いしましょう。


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