インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 サブタイトルから分かる通りあのキャラの登場……ですが、原作と内容を変えております。

 また今回で幼い筈のキリトが大人顔負けに冷静なのかの理由が、若干明かされます。

 ではどうぞ。オールキリト視点です。




第六章 ~蒼竜の少女~

 

 

 クリスマスをサチと共に過ごした後、俺は多大な迷惑を掛けてきたエギル、クラインと五人、ユウキとラン、アスナ、ヒースクリフ、ディアベル、アルゴ、そしてサチの合計十四人に謝罪をしに行った。何も見ていなかった、迷惑を掛けてきてごめんなさい、と。

 最初、あわや自殺のためかと心配された。流石にそれはサチも一緒に否定してくれたが。

 何故サチもいたかと言うと、俺一人ではヒースクリフとディアベルの二人に会う前に門前払いされてしまうため、彼女に二人へ謝罪する場をわざわざセッティングしてもらったのだ。彼女は快く引き受けてくれたが、やはり迷惑を掛けてしまったと思うと申し訳ないと思う。

 ヒースクリフとディアベルも、俺が謝罪した時は口をポカンと開けて唖然として固まった。直後に同じように誤解もされたが。流石に死ぬ気は無いと言って、謝罪をした十四人とサチだけには俺のリアルも多少話した。そうでなければデスゲームより一年と少しの俺の行動を理解してもらえないだろうと思ったから。

 第二回モンド・グロッソで兄が俺を嗤いながら見捨てて逃げ、そして姉は兄しか救わなかった点について十四人全員が憤慨していた。更に俺が研究所へ連れ去られて筆舌に尽くしがたい実験をされた事も話した。体内にISコアを埋め込まれている事も極秘と言って話している。精神や思考の成熟はコアネットワークが関係しているからだ。

 そして八月中旬に行われたモンド・グロッソより三ヶ月経った2021年11月7日に別の家族に拾われ、今に至ると。新たな名を得た自分の誕生日はその日、つまりデスゲーム開始と同日になっている。あまりにも出来すぎた偶然だと見解が一致したが、とにかく俺の話はそこで終わった。

 全てを話し終えてから、これからどうするのかと聞かれた。

 今の《キリト》は織斑一夏の噂や悪評を利用しているため、織斑一夏としての動きが主体となっている。新たな名として生きている今、それは変えなくて良いのかと。

 俺は結局は変えずに行くと決めた。この世界をクリアした後、俺は《キリト》という剣士が築いた全てを捨てる、と。この世界は仮想世界、現実ではあるが本物じゃないから、この世界を生きる俺の全てを虚飾にする、と。そうすれば現実に戻ったとしても意識が引き摺られる事は無いと。

 

「でもキリト君、この世界は現実と同じ顔なんだよ? もしも都心に行ったりしたら…………」

「今のアバターは九歳の俺を元にしてるから、流石に大人になった時は多少は変わると思うよ」

 

 逆に変わってなかったら俺悲しい。

 

「……しかしキリト君。君は体内にISのコアがあって、IS適正があるのだろう? 発覚すれば無理矢理にでもIS学園とやらに入学となるか、また人体実験させられるのではないのではないかね?」

「…………まぁ、束博士には見つかっちゃってるけど、あの人も俺の意志は尊重してくれるらしいから、下手に見つからないか、誰か男性が動かしちゃった時に男性一斉に適性検査さえしなければ大丈夫じゃないかな」

 

 まぁ、俺がコアを埋め込んで適正があったんだから兄も適正はあるだろうし、無駄な願いだろうが。

 それに最悪、束博士と一緒に雲隠れという選択肢もあるにはある。今の家族や友人に迷惑を掛ける事になるし、今の母さんや父さん、直姉と離れ離れに何てなりたくないけど。

 

「そっか…………うん、まぁ、キリト。これからは一人で無理に背負ったりしないでね」

「本当ですよ? 私達もかなり心配してたんですから。というか、四十九層をフラグボス討伐の足でそのまま倒すって、どんだけですか」

「本当だね。キリト君、これからはそんな無茶はやめてくれ。俺達も相当冷や冷やしてたから…………良いかい?」

「うん…………皆、本当にごめんなさい」

 

 かなり省いているが、概ねこんな感じだった。

 それからどこかギルドに入らないかとか、サチと一緒に行動しないかと聞かれたが、それは全てソロで行くと返答した。

 確かに俺はまだ十歳の子供だけど、それでも今までソロを貫いてきた攻略組きっての片手剣使いと自負している。攻略組でないプレイヤーからすれば、いくら俺が憎悪の対象だとしても多少の希望になり得る。だからそのためにソロで行くと言ったのだ。

 それに俺は攻略組の中でもリンドとキバオウを筆頭に、それなりの大人数に憎悪と嫌悪を向けられている。俺が所属した、あるいはパーティーを組んだプレイヤーは必ず悪意の対象にされるだろうから、俺は一緒に行こうという全ての申し出を拒否した。

 血盟騎士団、スリーピング・ナイツ、風林火山は攻略組きってのギルドだし、ディアベル率いるアインクラッド解放軍も現在こそ最前線から身を引いているが、キバオウ筆頭の反キリト派の巣窟だ。下層・中層プレイヤーの支えとなっている組織に俺が属すると、十中八九内部崩壊を起こしてしまうだろうから、入れない。

 他のギルドもそうだから、俺はソロでいくと決めたのだ。元々ビーターという憎悪の対象として振舞う必要がある以上、誰かと一緒にいるだけで行動が制限される。最悪人質に取られて自殺を迫られるかもしれない。

 俺は確かに人に頼らなければ自分を保てないだろうが、それのせいで誰かを犠牲にするのは御免被りたいのだ。だから表面上は、俺は今までと変わらない態度を取って生きるつもりだ。無論、アルゴに情報は渡し続けるし、ソロでいくのも変わらない。

 そう伝えた時の皆の表情が、複雑な感情を持っているのを察せられるくらいに微妙なものになっていた。しかし俺の言う可能性が残念ながらゼロでない以上、そうしなければならなかった。

 だから俺はソロで基本的に動くようにするのは何時も通りなのだが、フレンドメールは時折するよう約束された。驚いた事にヒースクリフも、俺とフレンド登録をしたがっていた。

 俺はその場にいた十五人全員のフレンドリストに名を連ねて解散した。

 それから一ヵ月と少し。未だ木枯しが吹く季節の末に、俺は一人のビーストテイマーと邂逅する事になった。

 

 *

 

 とある日、俺はアルゴから三十五層に来てくれというメールを受け取った。頼み事が有るらしく、指定された宿【風見鶏亭】の一室に入って、アルゴと依頼人から話を聞いていた。

 

「なるほど…………つまり、アルゴの隣にいる……えっと、シリカさん? の使い魔の蘇生方法を知らないか、と……」

「うン。オレっちには心当たりがさっぱりなんダ。だからキー坊になら分かるんじゃないかと思って、こうして訊きに来たってわけなんだヨ。何か無いかイ?」

 

 そう言って隣に座る、俺よりは体が大きい茶髪ツインテールの少女シリカをアルゴは慰める。

 シリカは昨日の夕方五時過ぎに、ある野良パーティーで三十五層迷いの森(よくよく縁があるな……)で狩りをしていた。

 シリカと赤髪十文字槍使いのロザリアという女性と、男性四人のグループだったらしい。それで報酬を山分けしようとした時、ロザリアがシリカを挑発したらしい。「あんたにはトカゲのヒールがあるから、別に要らないでしょ」と。

 ロザリアの指した『トカゲ』とは、第七層のみで超々低確率でテイムできる小型モンスター《フェザーリドラ》のことだ。蒼い和毛に包まれた小さな体を蒼い羽毛で飛ばせる小型ドラゴンで、使用スキルにヒールブレスや支援のバブルブレスなどがある。小範囲ながらも索敵能力もあるため、相棒にはもってこいな種族だ。

 しかし、そもそも会える確率が超々低確率な上に、テイムイベント発生確率は更に低い。加えて同種――この場合はフェザーリドラ――を殺しすぎているとテイムイベント自体が発生しないのは確実と言われているため、事実上アインクラッドでフェザーリドラをテイム出来たのは二人だけ。

 一人は目の前で泣く短剣使いのシリカ。そしてもう一人が――――

 

「キー坊もフェザーリドラをテイムしてるから、何か関連した事を知らないかなと思ったんだケド……」

 

 そう、もう一人は俺なのだ。

 というのも先日、サチにメールで『革防具作成に必要な素材が無いんだけど、どこに有るか分からない?』と訊かれて、それが七層で稀に手に入るものだと知っていた俺は、ギルドの方で攻略に行くらしいサチの代わりに取りに行った。俺はその日は休もうと(皆に謝罪してから精神的な余裕が出来たから)考えていたし、下層ならまだ楽だ。気分転換も兼ねて行った。

 そして素材を丁度集め終わってさあ帰ろうという時に、偶々蒼い和毛の体毛を持つドラゴン《フェザーリドラ》と対面した。誰かがテイムしたとは知っていたが初めて見るので可愛いと思い、ついつい近寄った。すると攻撃的なカーソルなのにも関わらず、フェザーリドラは俺に擦り寄ってきたのだ。

 可愛いなと思いながら適当に練習も兼ねて息抜き用で作っていたクッキーを与えると、図らずもテイムが成功したという訳だ。流石にボス攻略には連れていっても後方で待機するアルゴに預け、HPがヤバいプレイヤーにヒールブレスを頼んでいるが。それでも偶に従わずにヒールを使わないこともある。大体俺に敵愾心を向けるプレイヤーに多いようだった。

 アルゴリズムから離れているがとても可愛らしいと思った俺は、結構そのフェザーリドラを可愛がって抱いている事が多い。その柔らかく小さい体から得られる癒しは、俺のささくれ立った心を癒すには十分だ。

 そして、それが喪われた――――使い魔を死なせてしまった時の事を考えると、確かに恐ろしい。それが分かるからこそ、アルゴは俺に蘇生手段は無いかと聞いてきたのだろう。一時期蘇生アイテムを取得するためにあらゆるクエストを受け、街へ赴き、情報収集を続けながらレベリングをしていたから、もしかしたらアルゴが知らなくても俺が知ってるかもと思ったのだろう。

 俺は俺のフェザーリドラ――名前は《ナン》だ――を抱いて泣いているシリカを見ながら、何かあったかと記憶を探っていた。

 

「…………どうでしょうか……?」

「……蘇生、蘇生……使い魔……………………シリカさん。そのピナが亡くなった時、シリカさんに何かを遺した?」

「ピナの心、という羽が一つ……」

 

 そう言ってストレージから、一本の蒼く煌く羽を出してもらった。彼女に断りながら、その羽の説明文を出す。

 説明文をざっと要約すると、これは使い魔が死亡してから三日が経つと形見になってしまうらしい。

 つまり、蘇生猶予は今日入れてあと二日。情報の洗い出しや収集をするには足らなさ過ぎる。

 

「それで、何か分かったかナ」

「…………アルゴ、最前線って何層だっけ」

「ン? 五十三層だナ」

「推測するに、多分蘇生アイテムは四十層以上にしか無い筈。使い魔は場合によっては凄まじいアドバンテージになり得る、下層には無いと思う」

 

 事実、フェザーリドラだけでもHPを一割だけだが回復するヒールブレスなんて代物があるのだ、下層域には無いだろう。

 中層も怪しいところだ。使い魔は主人となるプレイヤーのステータスを持つが、HPは主人の半分しかない。最前線でも五十層以降から難易度が上がっているので、使い魔を持つプレイヤーは五十層で打ち止めとなる可能性が高い。つまり、その辺で死にやすいのだ。

 茅場晶彦がSAOを最初からデスゲームにする気で作ったのなら、必ず五十層手前に蘇生アイテムがあるだろうと思っている。

 

「という事は、キー坊は五十層前後あたりにあると考えるわけだネ?」

「うん…………しかも恐らく、攻略組が行っていないだろう場所。そして迷宮区側ではなく別の道で、かつそこまで見返りが無い場所。そしてそれにも拘らず妙にリポップ速度が速かったり敵が妙な技を使ったり、搦め手で厄介な場所だと思う。あと、SAOは最低限のMMOの定石は外さないから、多分そういったダンジョンの名前にも符牒があると思う。心ってあるから、それに類する何かじゃないかな」

「なるほどネ……わかっタ。そっち方面でマップを洗いざらい見ていってみるヨ」

 

 アインクラッドの中でも迷宮区塔は危険な為、攻略組が必ず率先して通る激戦区には無いだろうと思われる。もしも激戦区にあったら、下層域のプレイヤーにはどうする事も出来ない。だからわざわざ搦め手や、一体一体は弱いのにリポップ速度で補うようにする。そして蘇生アイテムがあると印象付けるようなマップ名を付ける筈なのだ。SAOは異常なデスゲームだが、MMOとしてもRPGとしても、ゲームとして定石は外さない。

 アルゴが明日の朝来ると言い残して部屋を去り、部屋には俺とシリカ、そして俺の使い魔のナンがいるだけとなった。ナンは涙を浮かべるシリカに撫でられながら抱かれ、時折滴る涙を舐め取っている。嫌がっているわけではないらしいので、俺も特に止めはしない。

 

「……あの……」

「ん?」

 

 最近頭の痛い記事が多いな……と思いながら情報屋発行の羊皮紙数枚分の新聞を読んでいると、向かいから恐る恐る声を掛けられた。ストレージから出して振舞った飲み物が入っていたコップをテーブルに置いて、羊皮紙から顔を上げる。

 シリカはこちらに訝しげな顔を向けていた。俺何か妙なことしたっけと思っていると、シリカは恐る恐る口を開いた。

 

「キリト君が……十歳の子供って、本当……?」

「うん、そうだけど」

「どうして、最前線で戦うの……? 中層でも良いんじゃ……?」

 

 幼いなら怖がって当然、無理に戦わなくても良いのではと言外に言ってくるシリカの問いに、俺は新聞を置いて腕を組んで悩んだ。

 正直この手の質問は多く受けているが、返すのには結構困るのだ。

 

「色々と理由があるけど…………強いて言うなら、俺が戦いたいから」

「戦いたいから? どうして?」

「シリカさんは、俺が織斑一夏っていうのは知ってる?」

「新聞で読んだ」

「なら、俺がどういう扱いを現実で受け、そしてこの世界で受けてるかを知ってるって思って良い?」

 

 顔をくしゃっと歪めながら、こくりと頷いた。

 

「そうだね、何から話そうかな…………織斑千冬はブリュンヒルデとして讃えられて、織斑秋十は神童と讃えられた。でも俺は、どれだけ努力しても褒められなかったんだ。姉ならもっとできる、お兄さんならもっと良いのに、織斑の子供なのにこんな事もできないの…………いつも、いつも家族と、家族からも他人からも、同い年の人から教師、小さな子供にも較べられてた。何をしても下に見られ、仮に上になってもマグレで済まされる。どれだけ努力しても、現実では敵わないんだ、あの二人に」

「……………………」

「けど……ゲームは、この世界は違う。皆多少スタイルや武器が違えど、必ずレベル1からスタートするし、スキルも同じ。プレイヤー自身の要素を除けば、皆平等なんだ。戦えば戦う分だけ強くなるし、人と接すれば得られるものも有る。ここは現実世界とは違う、もう一つの現実世界なんだ。努力すればした分だけ報われるし、評価もされる。だってこの世界は、0と1の二進法で作られたデータ世界。あらゆる結果は全てデータで出されて、そこにマグレだとかが入り込む余地なんて無い。ドロップ確率とかクリティカル率とか、そういうのも全て行動の結果であって、努力の偶然にはなり得ない。この世界に偶然は無いし、マグレも無い」

 

 シリカは俺の言葉を真剣に聞いてくれていた。ナンを撫でる手も止まっていた。

 俺は、不謹慎な話だけど、と続ける。

 

「俺はさ、こんな異常なデスゲームで沢山人が死んでても、それでもこの世界が好きなんだ…………この世界なら、俺は俺でいられる。現実世界で否定され続けた織斑一夏であれて、そして織斑一夏として死ねる。だって皆、この世界では現実とは違う面を自分で持って、過ごしてるんだから。この世界に、俺を虐げるISは無いから、俺は俺らしくあれるんだ。だから俺は、この世界で自分らしく生きたい。剣を持って戦いたいから、俺は最前線に居続けるんだ。この剣で、この世界を生き抜いて、この世界を終わらせて、織斑一夏としての生に終止符を打って、現実世界へと帰りたいんだ」

 

 今腕に抱えている五十層LAボーナスである漆黒の片手剣エリュシデータ……解明者、という意味を持つそれを、ぎゅっと強く抱きしめる。俺の身長とほぼ同じ長さがある黒の剣は、俺に温かみを与えてくれる相棒だ。

 この剣は、第一層のボス戦途中から使い出したアニールブレード+8をインゴットに戻し、それを剣に鍛え直すという【継承】と名付けた事をしてきて作成された剣ウェイトゥザドーンを、エリュシデータの融合強化に使用して強化された剣だ。自分の魂を映した半身である剣を捨てられなかった俺は、数パーセントしか成功確率が無い融合強化を、失敗すればどちらも喪う危険性を理解しながらとある鍛冶屋に頼み込んだ。

 エリュシデータは外見上でこそウェイトゥザドーンの面影は無いが、しかし剣身から伝えてくれる温かみは引き継いでくれていた。俺を励まし、吹雪吹き荒ぶ雪原で凍える俺を温めてくれるかのような熱を伝えてくれる。ずっとずっと長い間、俺の相棒として支えてくれたのだ、とても心強かった。

 だから融合強化が成功したのも、ある意味で運命的に定められた必然か、そうでなければウェイトゥザドーンとエリュシデータが俺を認めてくれたのではないかと思っている。

 その剣を抱いて、シリカに伝える言葉を締める。

 

「俺は、この世界にまで負けたくない。現実世界の織斑一夏は、死んだから。だから、この世界の織斑一夏は、絶対に負けたくない。だからこそ、負けないために戦うんだ。誰に何と言われようと、屑だとか出来損ないだとか悪罵を投げられ殺されかかっても、俺は絶対に負けたくないから戦うんだ」

 

 きっぱりと言い切ると、シリカは暫く目を見開いたまま固まり、くしゃっと表情を歪めて涙を流し始めた。そして唐突に、俺へ頭を下げる。

 

「ごめんなさい…………あたし、今まで織斑一夏っていう人の事を、見下してたんです…………ごめんなさい……」

「…………謝られても困るかな……それで赦すって言っても、どの道この世界から抜けたら『織斑一夏としての《キリト》』は消えるし…………現実の方では既に織斑一夏なんて人間はいないし、謝られても、はいそうですか、って赦せる訳じゃないんだ。それはシリカさんだけじゃなくて、今まで俺の事を知っても何をするわけでもなかった傍観者も、勿論それを覆せなかった俺も同罪だ……………………だから代わりに、シリカさん、一つお願いがあるんだ」

「…………何?」

「俺の、友達の一人になってくれないかな。織斑一夏としてのキリトの、そして……織斑一夏じゃなくなった未来のキリトの、友達に」

 

 言外に、リアルでも友達になろうと言った。

 シリカはまた目を見開いていたが、即座に頷いてくれた。それに俺も頷き、シリカが飲み干していたコップを引き寄せ、新しくストレージから飲み物を出す。ぶどう酒のような芳醇な香りがする飲み物だ。

 シリカが普通の飲み物ではないと分かって首を傾げたので、俺はこれの説明をする。

 

「【ファンタズゴマリア】…………背教者ニコラスから手に入った数百のアイテムの内の一品だよ」

「…………確か、幻想世界、ていう意味だっけ」

「うん。これを飲むと、筋力値と敏捷値のポイントが十加算されて、セットしてるスキルも十上がるんだ。ステータスも十上がるしね」

「ええ?! そんなレアすぎるの、あたしに……」

「良いんだ。友達になろうって思った人と飲んでるからさ…………それにこれ、実は一人じゃ飲めない設定のアイテムなんだ。ストレージもかなり圧迫するから、どうせなら楽しもうと思って遠慮なく飲むようにしてるんだよね…………」

 

 ほんと、これの容量マジで大きいんだ……だってエリュシデータ二本分だ。ステータスが高い装備は得てして容量も大きくなるし、魔剣ともなると一線を画す。それが二本分だから、相当ストレージが圧迫されていて正直困る。まずレベル120超えをしている俺でなければ、まず最前線に居続けられないであろうくらいだ。これに更にまだまだ沢山のアイテムを持っているのだから、本当ギリギリだったりする。レベルアップボーナスポイントは専らストレージ拡張目的で筋力値に回している。最近は余裕が出てきたので敏捷値にも振っているが。

 まぁ、一週間のインターバルを置かないとステータス等の上昇効果は無いんだけど…………それにこれ、実は飲める限界量が決まってない、つまり無限回飲めるというわけだ。宴会には持ってこいな代物で、ニコラスは中々アジな物を残したものだと思う。超レアだけどストレージを凄まじく圧迫するから、手が引っ込んじゃう代物なのだ。茅場晶彦は効果対代償を凄まじい天秤に掛けたな。

 ちなみにシリカに言った『一人じゃ飲めない』というのは、誰かと一緒じゃないと効果が無い代物だからである。まぁ一人でこんなモン使って強くなって犯罪に走られたら目も当てられないからなぁ…………一昔前の俺なら迷い無く捨てるか売るかしていたが、今は割と夜になると頻繁に知り合いに会っているので、俺が持っている。他の皆では持てるほどストレージに余裕が無いからだ。ちなみに一人でも飲めはする、効果が無いだけで。

 ファンタズゴマリアが並々注がれたガラスコップを持って、お互いにカーテン、と音を鳴らす。声は上げず、笑い合いながらそれを飲み――――

 

「ッ?! ~~~~~~ッ?!」

 

 飲んだ瞬間にシリカがくわっと目を見開き、一気に飲み干した。これ、初めて飲む人が必ずといって良いほどにする行為。

 なぜならこれ、メチャクチャ味が最高だから。

 とりあえずステータス上昇効果が出るのは最初の一杯だけだが、それでも何度も飲めはするのでシリカは自棄酒を呷るかのように何杯も御代わりしてコップを空け、いつの間にか眠りこけた。シリカを部屋のベッドに寝かせ、ナンも一緒に抱かれたまま眠ってもらう。というかナン、シリカが飲み続けている間も膝の上で寝てたんかい。

 

「…………それで、情報は集まった?」

 

 俺は静かに開け放った窓から入ってきて、俺とシリカのやり取りをずっと見ていたアルゴに声を投げた。窓の近くの壁にもたれていたアルゴが、すーっとハイドを消して姿を現す。表情は苦笑。

 

「……あのさキー坊。一年前から思ってたんだけどサ。キー坊って実は超人並にポテンシャル高いんじゃないのカ? 何で《隠蔽》スキル使ってるのにすぐわかるんダ?」

「違和感」

 

 だって窓から入ってくるときの月光が歪んでたし。

 

「……………………まぁいいカ。とりあえず報告すると、四十七層フローリアの南に、【思い出の丘】っていうとこがある、そこが怪しいと思うヨ。あそこは観光地で有名で、攻略組もたった三日で攻略して進んじゃったからネ。まだまだ未探索地域の所が多いシ…………そのフィールド型ダンジョン、キー坊が言ってた怪しいポイントを完全に網羅してるんダ。ほぼ当たりと見て良いだろうネ。そこで手に入るアイテムも競売に掛けられてるヨ」

「プネウマの花、か…………」

 

 話には聞いていた。使い魔が死んでから三日以内に思い出の丘の最奥に行けば、花が咲いて心に雫を垂らすことで蘇生が出来る、と。事実聖晶石についてやモミの木の情報を洗い出している途中で、蘇生関連で知った。先ほど聞かれたときにも真っ先に思い浮かんでいた。

 

「知っててオレっちを働かせたのかイ?」

「正直、眉唾物だと思った。使い魔とはいえ、この世界で死んだ存在が生き返るのは有り得ないって思った。【還魂の聖晶石】の時のように…………自信が無かった。それを取りに行ってもしも間違っていれば、シリカさんの心は壊れてた筈だ…………俺には立ち直れる過去と、そして支えてくれる人がまだいた。けど、シリカさんはいなくなった《ピナ》が支えなんだ…………俺も、サチまでも死なせていたら、どうなっていたことか…………」

 

 今こうしてアルゴやシリカと一緒にいるような、織斑一夏としてのキリトを保てているかは定かではない。

 サチは言っていた。もしも私が死んだ時のために、まだキリトと共有してるストレージにメッセージ録音クリスタルを入れていたと。赤鼻のトナカイの唄や、俺と一緒にいてどう思ったかのクリスタルは、今でも共通ストレージの中にある。時折、それを俺は聞いていた。

 サチが今でなく過去の人になっていたら、俺はどう思ってそれを聞いたか。聞いて、それからどう行動したのか…………剣を捨てる、自殺する、戦い続ける……この選択肢の中では、伝えられていた内容からやはり戦い続けていただろう。それでも、今ほど落ち着いてはいないだろうけれど。

 シリカが眠るベッドに腰掛け、シリカの頭を撫でる。寝ぼけているのか、「うにゅ……」と安らかな寝顔だ。ピナではないが同じ種族のナンを抱いているから、変わらない寝心地に落ち着いているのだろう。

 シリカの頭を撫でていると、いつの間にか近くに来ていたアルゴが頭を撫でてきた。ぎしっとベッドを軋ませながら隣に座り、俺を見てくる。

 

「キー坊……大丈夫かイ?」

「…………正直、まだ引き摺ってるかな……サチの仲間の命を、俺は奪ってしまったんだから…………けど、俺は生きるよ。この世界で俺を案じてくれる人もいるし、向こうの世界には家族がいるんだ……死んでなんてやれないよ。この世界に、負けてなんか……」

「…………大丈夫かイ?」

 

 再びの同じ問い。俺は小さく頷くに留めた。

 

「…………そっカ。なら、オネーサンはこれ以上聞かないヨ……――――話は変わるケド。それで、どうするんだイ?」

「シリカの依頼も引き受けた上に丁度良いタイミングでぶつかったからね……受けるよ。ただ嫌な予感がするから…………アルゴ、また頼まれてくれないかな」

「オネーサンは高いよ?」

「人の命のためなら、何だって幾らでも払うよ」

 

 にやっと鼠の顔で微笑んだ商売人兼依頼人に、俺も受領者兼依頼人として不敵な笑みを浮かべた。彼女は俺の頼みを快く引き受けてくれた。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 過去に人体実験を受け、生体兵器化されかけた和人は体内にISコアを埋め込まれています。ISコアネットワークを利用して、あらゆる情報の収集や知識の取得を行っていたので、ある程度の冷静さを持っていた訳です。

 でも所詮知識なので、経験には劣ってしまい、《赤鼻のトナカイ》の歌を知りませんでした。こういう所で子供らしさを出せていけたらなと思います。

 そしてSAO内でのキリトの決意の表明、戦う理由が明かされました……今後も温かく見守って頂ければ幸いです。

 では、次話にてお会いしましょう。

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