死の支配者と英雄の王の邂逅   作:霞梳卯狩

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続いちゃいます


旅路1

エ・ランテルより東北に位置するカルネ村に向けて、馬車で進むルートは大きく分けると二つある。北上し、森の周辺に沿って東に進むルート。それと、まず東に進み、それから北へ進路を変えるルートだ。

今回選んだのは前者のルートである。

森の周囲に沿って進むのは、モンスターとの遭遇率が若干高まり警護という観点からすると間違った選択ではある。

にも関わらずそのルートを選択したのはアインズがペテル達と最初に受けたモンスター討伐の依頼のためだ。二兎を追うものは一兎をも得ずという危険もあったが、それでも「モモンたちがいる」という強力な存在がいるのならばという安心感がこのルートを選ばせた。それと、街の外で第三位階の魔法が使えるという証明としてナーベラルと岸波白野が使用した〈雷撃〉や〈電撃球〉もその一因となっているだろう。

そもそも森の奥ではなく、平原との境界では、それほど強大な力を持つモンスターは出現しないならば対処も十分に可能だろうし、実戦を行うことで互いのチームの能力を確かめられるという判断から、行きはそのルートを使おうというに話がまとまった。

ェ・ランテルを出立し、太陽が頂点を過ぎる頃、遠くに視線を向ければ黒緑の塊としか思えないほどのうっそうと茂った原生林がその姿を見せた太い木々が直立し、その見事な枝を大きく広げているために日差しが入らない森の中は視界が悪く、闇に飲み込まれていくような感覚すら覚える。ぼっかりと開いた木々の隙間が、飛び込んでくる獲物を待ってロを開いているような、そんな得体の知れない不安を煽った。

一行は中央に馬車を据え、御者は当然ンフィーレア、馬車の前を歩くのが野伏ルクルット、馬車の左側に戦士ペテルとギルと岸波、馬車右側に森祭司ダインと魔法詠唱者ニニャ、後方にアインズとナーベラルという隊列で移動をしてきた。

視線が通るということもあり、ここまでさほど警戒してこなかったが、ここに来て始めてペテルが少しだけ堅い声を発した。

「モモンさん。この辺りからちょっと危険地帯になってきます。対処不可能なモンスターは出ないと思いますが、念のため少しだけ注意してください」

「了解しました」

額きつつ、アインズはふと思う。

ゲームであれば遺遇するモンスターは場所によって決まっている。しかし現実でそんなことはありえない。どんな厄介な敵が出るかはまさに神のみぞ知るだ。

アインズは先日のカルネ村での戦い、そしてそこで捕まえた陽光聖典の者たちからの情報によって、己の強さには自信を持っていた。しかしながらそれは魔法詠唱者としての強さだ。今のアインズは魔法によって作り出された鎧を着ており、殆どの魔法が唱えられない。

そんな自分の長所が殺された状態で前衛としてどれだけ通じるか。更に護衛である以上、敵との戦いに勝つのではなく、ンフィーレアを守るという勝利条件を達成しなければならない。こうしたことを考えて若干の不安を抱いていた。

いざというときは鎧を消し去って、魔法で対処するつもりだが、共に旅するこの一行を殺すか記憶操作するかしなくてはならなくなるので、そうなっては欲しくない。

(面倒だからな)

アインズは頭を動かし、ナーベラルと岸波に視線を送る。それを受け、ナーベラル達が一つ領いた。

いざというときはナーベラルと岸波が第三位階より上位、最高で第五位階の魔法を唱える手筈となっている。それで片がつけば良し。無理であればギルが王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を使用し、アインズが鎧を脱ぎ去り、少しばかり本気を出す。

そんな二人のアイコンタクト〈アインズは面頼付き兜を被ったままだが〉を見て、何を勘違いしたのか、ルクルットが戯けるような軽い口調で話しかけてくる。

「大丈夫だって。そんなに心配することはねぇって。奇襲でも受けない限りそんなにやばいことにはならねって。そして奇襲なんか、俺が耳であり目である限りは問題ナッシング。なぁナーベちゃん。どうよ、俺すごくない?」

キリリッと真剣な表情を浮かべる男を、ナーベラルは嘲笑する。

「この下等生物は……叩き潰す許可をいただけますか、モモンさん?」

「ナーべさんの冷たい一言頂きました!」

親指を立てたルクルットに対し、みな苦笑いを浮かべているが、きつい言葉をかけたナーベラルには誰も何とも思っていないようだった。ナーベラルが人間という種全般を下等生物と呼んでいるのではなく、特定個人のみに言っていると思ってくれているようだった。

アインズはナーベラルの本気の懇願を却下し、ないはずの胃が痛むような感覚を抱いた。人間と共に旅しているのだから、もう少し隠せ、である。

そんなアインズの態度を別の意味に捉えたのだろう。シフィーレアが口を挟む。

「大丈夫ですよ。実はこの辺りからカルネ村の近辺まで、 『森の賢王』と言われる強大な力を持つ魔獣のテリトリーなんです。ですから滅多なことではモンスターは姿を見せないんですよ」

「森の賢王ですか」

アインズはカルネ村で得た情報を思い出す。

森の賢王とは魔法すら使用する魔獣で、恐ろしいまでの力を持つらしい。森の奥を生活の場としているために目撃情報は皆無に等しいが、存在自体は濫か昔から語り継がれており、一説では数百年の時を生きている蛇の尻尾を持つ白銀の四足獣とのことだ。

「それってオランウータンとかでしょうか」

「ギル君それこの辺りにいるものなの?」

「どうでしょう」

「おらんうーたん?それってどういうモンスターですか?」

「僕らのいたところでは大柄の猿のようなモンスターがそう言われてましたね」

などとギルたちの会話を流し聞きながらアインズは考える。

(会ってみたいものだな。眉睡ではあるが長寿であれば、驚くような知恵を持っているかもしれないな。何より森の賢王という名前なのだから。捕えることが出来れば……ナザリックの強化にも繋がるはすだ)

アインズはぼんやりとその魔獣の姿を思い浮かべる。

(森の賢王というと、滅んでしまった動物でそんなのがいたな猿に似た生き物でああ、オランウータンだ。森の人……賢者だったっけ?それに尻尾が蛇……そんなモンスターいたぞ?)

ユグドラシルにもいたはずだと考えたアインズはようやく答えに辿り着く。

(鵺!……確か猿の顔、狸の胴体、虎の手足、尾は蛇か……。ユグドラシルのモンスターがいるかは不明だが、天使が召喚されたように、その可能性は十分にあるな)

ユグドラシルの鶴のデータをアインズが思い出していると、ルクルットが再び軽い口調でナーベラルに話しかけていた。

「ま、うんじゃ、仕事を完壁にしてラブリーナーべちゃんの好感度を上げるとするかね」

ナーベラルの返答は心底嫌そうな舌打ち一つだ。

ショックを受けた素振りのルクルットを慰めようという人はいない。コンビ芸のように認知されはじめたらしい。

そんなお喋りを交えながら、一行はジリジリと肌を焦がすような太陽光を背負いつつ歩く。革靴には草を踏み潰した際に微かな汁が付着し、青い臭いを放つ。

惨みだした汗を拭う一行を見て、アインズは照りつける日差しも一切苦にならず、重量鎧を着ても疲れを知らないアンデッドの肉体に感謝する。

黙々と歩く仲間達に、ルクルットだけは元気に軽口を続ける。

「みんな、そんなに警戒しなくて大丈夫だって。俺がしっかり見てるからさ。ナーべちゃんなんか俺一を信じてるから超余裕の態度だぜ」

「あなたじゃありません。モモンさんがいるからです」

ナーベラルの眉間に戴が出来る。もう少しすればパンと割れて、何か途轍もないことが起こりそうな予感を覚えたアインズは、ナーベラルの肩に手を載せると瞬時に表情が和らいだ。そんな二人を見ていたルクルットはある質問を投げかけた。

「なー。やっぱ、ナーべちゃんとモモンさんは恋人関係なの?」

「こ、っここいびと!何を言うのですか!アルベド様という方が!」

「おま!!」アインズの絶叫が迸る。「何、言っているんだ!ナーベ!」

「あ!」

ナーベラルが大きく目を見開くと口を押さえ、対して咳払いしつつアインズが冷たい声を出した。

「ルクルットさん。詮索は止めていただけませんか?」

「……あー失敬。ちょっとからかうつもりでした。あー、モモンさんにはもう決まった相手がいるんですか」

ぺこりと頭を下げたルクルットはあまり反省している素振りはないが、アインズはさほど腹は立ってなかった。今回の件に関してはナーベラルがあまりにも愚かだ。

人選を誤ったかと思うが、彼女以外に動かせそうな人材がいないことにアインズは内心で頭を抱え異形種で構成されていたアインズ・ウール・ゴウンではメンバーが作ったNPCも殆どが異形種であり、人間の都市に潜り込めるような人材は非常に少ない。ナーベラルは偽りとはいえ数少ない人間の外見を持つ一人だったのだが……性格までは考慮していなかった。

今となってみれば、同じ戦闘メイドの一人であるルプスレギナ・べータの方が最適だったかもしれないが、いまさら遅すぎる。

自分の失態に青ざめた表情のナーベラルの背を、安心させるようにアインズは数度軽く叩く。立派な上司は部下の初めての失敗ぐらいは許してやるものだ。繰り返されたときにがつんと行けばよい。

それに落ち込まれたり萎縮されたりして、今後の行動に差し支える方が不味い。

何よりアルベドの名前が出ただけだ。記憶操作をする必要性もないだろう。多分。

「ルクルット。もう無駄話はよして、しっかり警戒してろ」

「了解」

「モモンさん。仲間が申し訳ない。他人の詮索は御法度だというのに」

「いえいえ。今後気をつけていただけるのであれば、今回は水に流しますとも」

二人は同時にルクルットの背中に目をやり、「あー、ナーべちゃんに嫌われたよ。うおー好感度完全にマイナスじゃん」

という言葉を聞き肩を落とす。

「あのバカ……あとで強く言っておきます。それと先ほどの話は聞かなかったことにしておきますので」

「それはまぁ、うん。よろしくお願いします。それでルクルットさんが警戒しているならばお任せして、私も少しお喋りをさせてもらいますね」

「どうぞどうぞ。ご迷惑をおかけした分、しっかり働かせますから」

ペテルの笑顔を受けながらアインズはニニャとダインに並ぶ。それと交代にダインが後ろに下がっでナーベラルの横につく。

「魔法について幾つか伺いたいのです」

ニニャが了解の意を示すのを確認し、アインズは質問を投げかけた。それに興味を抱いたのか、ンフィーレアが眺めてくる。

「魅了、支配などの魔法によって操られた者は、自分の持つ情報をあらかた喋ってしまうと思いますが、その対策として特定状況下で複数回質問された場合、その人物が死亡するという類の魔法は存在しますか?」

「そんな魔法は聞いたことがないですね」

アインズは頭を動かし、ヘルム越しにンフィーレアを眺める。

「僕も知らないですね。魔法修正強化で時限式発動ってありますけど、そこまでのことが出来るとは思えないんですよね」




あれ…?ギルの出番が…
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