リリカルなのはINNOCENT×EX‐AID~天才ゲーマー「F」~ 作:放仮ごdz
結界で外の世界と隔絶された全てを受け入れる地、幻想郷。その有数の湖である霧の湖の畔に存在する目が痛くなるほど紅い館、今や外の世界では忘れられてしまった吸血鬼の住む「紅魔館」の地下室で、一人の少女が暗い部屋で何やら熱中していた。
彼女の名はフランドール・スカーレット。今彼女は、外の世界と繋がっているオンラインゲームに勤しんでいた。次から次へと「敵」を撃破し、一切の無駄なく自陣を勝利へと導くその姿はまさしく勝利の女神。しかし、現実の少女はそうではない。
窓一つなく真っ暗な中で唯一輝くモニターの画面から漏れる光を受けて輝く髪は人ならざる美しさを持つ金糸であり、その瞳は血の様に深紅に染まっている。何よりも背中から伸びる、宝石の様な物が付いている異形の翼と、口元から覗く鋭い牙。カチカチと鳴らしているリモコンを握っているその手には、鋭い爪が生え揃っているにも拘らず器用に操作している。
薄汚れた悪魔。人間からそう非難され迫害を受けた種族、吸血鬼の名門スカーレット家の次女。それが彼女と言う存在だ。そして何より、この幻想郷の者なら誰しもが持つ「程度の能力」は彼女にとって忌々しい力だった。
【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】
生まれた時から持っているそれは、文字通り全てを破壊してしまう、幻想郷でも規格外の物だ。「悪魔の妹」と呼ばれるぐらい、姉は悪魔と呼ばれてはいるが、自分の方が悪魔なんじゃないかと思う。
だから、何も壊さないでいられるゲームの世界と言うのは彼女にとって唯一とも言える逃げ道だった。破壊衝動を抑える事無くゲームの中で暴れて解消し、それでも現実では何も壊れない。
これに気付いた姉が数年前に香霖堂から買って来てくれたテレビゲームで、彼女の顔に純粋な笑顔が戻ったことがどれだけ姉が嬉しかったのか。そのことを彼女は知らないがそれでも、姉には感謝していた。
「あなたが、コンティニューできないのさ!」
元々コンティニューなんかできないゲームだが、決め台詞の様な物であるその言葉と共に、敵を撃破。【win!】と画面に表示され、フランはコントローラーを置いてググッと伸びをする。
「うーん、ゲームクリアー♪人間も強い人いるけど、さすがにこれは勝てないよねー♪」
このゲームはいわゆるサバゲーだ。彼女が行なったのはただ一つ、「狙撃銃のスコープをゲーム開始時から付けたままプレイする」それだけだ。本来ならばスコープを付けると表示がなり相手にもそれが分かる仕様になっているのだが、フランはそれを気付かれない様にしたのだ。
言うだけなら簡単であろうが、そうはいかない。スコープを付けたままだとスコープ外の様子がまるで分らずろくに移動もできないからだ。しかし、彼女は天才的センスでそれを可能とした。場所が分からない狙撃程恐ろしい物は無く、あっけなく敵陣は全滅した。これがプレイして一日でフランが編み出した、このゲームの必勝法である。
「ヘル・ゲイツだっけ?王だかなんだか知らないけど、私の敵じゃないよ」
彼女が知らないが、そのヘル・ゲイツと言う男は近接戦闘・・・CQCプレイならば世界最高峰の男である。仮にも世界最大のゲーム会社のCEOを務める天才プログラマーでもあるプロゲーマー相手にそう豪語する彼女は、天才ゲーマーと呼んで然るべき腕前だろう。
メニュー画面に戻し、傍に置いておいたコップに注がれているトマトジュースを飲み干し、一息つくフラン。すると唐突に天井に付けられた蛍光灯に光が灯り、彼女は眩しげに眼を細めて恨めしいと言う感情を大いに表情に表して入り口付近を睨む。そこには、お盆を持ったメイドがいた。
「妹様、薬を持って参りました。…また電気も点けずにゲームしていたのですか?」
「咲夜。眩しいから電気を付けるのは言ってからにしてよ…」
「言っても「点けないで」って言うのがオチでしょう」
「ぶーぶー、いいじゃないの。暗い方がゲームに集中できるんだから」
そう文句を垂れる相手は、紅魔館のメイド長を務める銀髪が特徴の人間の少女、十六夜咲夜。この地下室に訪れる数少ない一人である彼女に、フランは頬を膨らませて抗議するが慣れているのか咲夜は譲らない。
「そのうち、目が見えなくなりますよ」
「いいもんだ。もう目は悪いもんだ」
「そう言う問題じゃないでしょう」
すちゃっと紅いフレームの眼鏡をかけ、誇らしげに胸を張って踏ん反り返るが一蹴されてしまい不満げにお盆を受け取ったフランは部屋の中央に置かれた机にそれを置き、欠伸をして咲夜に尋ねた。
「今何時?」
「昼の十二時です」
「もうそんな時間?地下だから気が付かなかったわ」
「お嬢様はもう就寝なされました。妹様も、ゲームは休んで早めに就寝なさってください」
「いいじゃないの。お姉様と違って私に昼夜なんて関係ないし」
「よくありません。寝ないのは健康に悪いですよ」
「…分かったわよ。寝ます、寝ればいいんでしょ」
「はい。お休みなさいませ」
笑顔で一礼した咲夜が出て行くと、フランはお盆の上に置かれた錠剤の入った瓶と水・・・の様な液体の入ったコップを見やると、錠剤を三つ取り出して口に含み、水の様な液体で流し込んだ。
「…苦い。もう少し味をどうにかできないのかしら、甘くするとか」
今度の診察の時にあの薬師に文句言ってやろうと心に決め、パソコンの電源を切ると灯りを消し、布団に潜り込んだ。外は既に真昼、吸血鬼にとっては真夜中同然の時間帯だ。自然に眠気が彼女を支配し、フランは目を閉じた。
「起きなさい。いい加減に起きなさい、フランドール・スカーレット!」
「ほえ?」
目を覚ますと、そこは周囲を不気味な目がギロギロ睨んで囲んでいる空間で、目の前に浮かんでいたのは見覚えのある金髪の毛先をいくつか束にしてリボンで結んでいる特徴的な髪型と、紫にも金色にも見える瞳を持つ女性。フランは辺りを見渡して誰も居ないことを確認するとギロッと睨んで口を開いた。
「レディが就寝中にこんな所に落とすなんて、不作法極まりないんじゃないの?…八雲紫」
「生憎様、私達にとっては起きている時間なのよ。寝ているのは貴女と今も夢の中の姉ぐらいよ」
「…で、お姉様じゃ無くて私をこのスキマに連れ出したのはどういう了見?今度こそ幻想郷から出て行ってくれって?」
「当たらずも遠からずよ。貴女にはこれから外の世界に行ってもらうわ。もちろん、拒否権無しでね」
いい笑顔でほざく諸悪の根源にイラつき思わず拳を握りしめながらフランはただ睨みつけ、言葉を紡ぐ。
「だが断る。もちろん、力づくでね。ゲームを置いて行けるかって話よ」
「あら、残念ねえ…せっかく、面白そうなゲームをプレイできるって言うのに…」
「…ゲーム?」
意地悪そうに笑った賢者が次げた言葉に、好奇心が惹かれたのか興味津々に耳を寄せるフラン。その様子に満足したのか、紫は話を続けた。
「外の世界でブレイブデュエルってゲームが開発されてね?画期的な発明で、私もちょっと興味を惹かれたんだけど…異変が起きたの。そのゲームから発生したゲームウイルスが現実にまで干渉できる様に進化してしまって、貴方の姉が予知したところによると、いずれ貴方を始めとしたゲーマーの持つゲームから増殖して幻想郷まで侵食するらしいのよ」
「ウイルスって、幻想郷には薬師も居るし、妖怪が病気になんてそんな簡単にかからないでしょ。いらぬ心配じゃないの?」
「そのウイルス「バグスター」に感染した病気・・・ゲーム病を患った人間が、ウイルスに身体を乗っ取られて消滅するとしても?」
「!」
その言葉で、全てを悟った。幻想郷を隔絶する結界は、ただ一人の人間の存在により現状を保たれていると言っていい。それにフランの親友である魔女や、紅魔館唯一の人間たる咲夜・・・それらが消滅したら、それこそ一大事どころではない。前者に限ったらそれは、幻想郷の消滅を意味する。理解してしまった大事に、フランは戦慄する。…と同時に疑問が生まれた。
「…それが事実だとして、ゲームをプレイできるってのはどういう意味?遊んでいる暇なんてないんじゃないの?」
「考えて見なさい。ゲームから生まれたウイルスなのよ?対抗できるのも、ゲームしかない。さすがにゲームと現実の境界を歪めたら大変な事になるからね。そこで、幻想郷の頭脳が集結して発明したのがこの「ゲーマドライバー」よ」
「…なにこれ、ゲーム機?」
手渡されたのは、蛍光グリーンと蛍光ピンクと言う目が悪くなりそうなカラーリングがなされたゲーム機の様な掌大の物。フランからしたら本当に大きく、両手で受け取る。
「残念ながらバックルよ。これを挿して使うの」
「これって…マイティアクションX!?」
【MIGHTY ACTION X】と書かれた、薄いカード状のテレビゲームのカセットにグリップがついていると言う変な形状のアイテム「ライダーガシャット」を受け取り、それに書かれた題名を見てフランは最近噂のゲームだと思い出す。
「…つまりこれって…マイティアクションXの主人公、マイティの力を使ってそのゲームウイルスと戦えって事?」
「バグスター、ね。大まかに言えばそんな感じよ。使い方は説明書を見てね。それで、引き受けてくれるかしら?」
「…何で私なの?やっぱり、厄介者だから?」
唯一残った懸念。それは、自分が異端だと分かっているからこそ過る考え。しかし、紫は首を振ってそれを否定した。
「貴女の姉から頼まれたのよ。…ゲームの世界を現実で体験できるなら、貴女にやらせてあげてって。妹思いのいい姉ね。でも私が頼んでいるのはバグスターの「破壊」よ。そこは忘れないで」
「…ゲーム、なんだよね?」
ガシャットとゲーマドライバーを握り、俯いてプルプル震えるフラン。その表情は、陰になっていて見えなかった。
「ゲームなら私、クリアできるよ。霊夢も魔理沙も、咲夜も死なせたくない。ゲームで現実が破壊されるのは嫌だ。だから、バグスターは私が倒す!」
「…そう返事するとレミリアが予言していたわ。…いや、アレは確信かしら。…ああそうそう、言って置くけど私が頼んでいるのは貴女だけじゃないわ。幻想郷の他の人間にも協力を頼んでいる、だから貴方一人だと言う事は決してない」
「うん、分かった。あ、でもゲームは…」
「安心しなさい、住居が決まったらスキマで貴方のゲームは全部送ってあげるわ。それと、あの世界で怪しまれないために境界を弄って置くわね。どこがどう変わったのかはすぐ分かると思うから」
「え?ちょっ・・・」
いきなり宣告された魔改造宣言に、慌てて止めようとするフランだったが既に足下には新たなスキマが開いており、一瞬浮遊感が彼女を襲う。
「じゃあ、よろしく頼むわね。天才ゲーマー「F」さん?」
フランの意識が飛ぶ前、最後に見たのは、憎らしい程綺麗な笑顔を浮かべた紫の姿だった。
「ほらなのは、すずか。目的地はすぐそこよ」
「見えて来たよ、なのはちゃん。早く早くっ」
「二人共待って、人混みが…やっと出られたぁ。ってうにゃっ!?」
聞き慣れない三種類の声が聞こえ、何かに脇腹を蹴られてフランの意識は覚醒した。
目を開けると、彼女は横たわっていた様で痛む上体を起こすとそこには、幻想郷では絶対に見ないビルが立ち並んだ市街が広がっていた。自分を蹴りつけて来た張本人の顔を見ようと顔を向ける。
「い、痛い…散々なの…」
「なのはって本当にどんくさいわね…」
「あ、あの、大丈夫ですか?」
そこにいたのは、自分を蹴った・・・というか躓いたのか倒れてちょっぴり涙目になっている茶髪を青いリボンで短いツインテールにした少女と、茶髪の少女に溜め息を吐きながらも手を貸して立ち上がらせる金茶髪の少女、そしてこちらを心配し手を差し伸べて来る紫色のロングヘアーの少女だった。
「…うん、大丈夫。ありがとう」
その手を借り、立ち上がるフランだったがそこで違和感を感じる。…吸血鬼なら一秒で回復するはずの蹴られた箇所の再生が一向に始まらない…?それに、背中の翼の感触も…?
立ち上がり、目の前で心配している紫髪の少女を無視して自分の手を見てみる。意識が無くなる前まではあったはずの、鋭い爪が無い。背中に触れる。そこにあったはずの歪な翼が消えていた。空を見る、太陽の下。雲一つない青空だった。どうやら季節は夏らしい。
「!?」
いや待て、可笑しい。フランドールは吸血鬼だ、日光を苦手とする闇に生きる種族。もちろん、太陽なんか直に見た事なんてこれまで一度も無かった。なのに、焼け爛れるはずの肌は白いままで、別に苦しくもなんともない。服装を見てみる。パジャマから赤を基調とした私服になっており、頭にはちゃんと帽子も被っていた。
「まさか、境界を弄るって…」
目の前で困惑する少女三人組を無視し、フランは何かを確かめる様に周囲を見渡す。そして背後に建つビルの、そのショーウィンドウの映る自分の姿を見て確信した。…吸血鬼は鏡に映らない。太陽の下では生きられない。翼も爪も、鏡に映る姿を見るからに牙も無くなっている。
其処に映っていたのは10代前半ぐらいの、金髪と紅い瞳を持つ、人間の少女だった。
「…そ、そう言うことかぁ…」
「「「?」」」
境界を弄られ、人間にされてしまった少女は思わず咆哮しそうになり、そして思い止まって一言漏らす。別段困る事は何一つない、むしろ吸血鬼でなくなった事を喜ぶべきだ。そう考え直し、ふと前方を見てみる。
「ホビーショップT&H……ブレイブデュエル・・・?」
ご丁寧な事に目的地にまで飛ばしてくれたらしい。変な所で仕事をこなす賢者にフランは苦笑して溜め息を吐いた。そして、やっと少女三人に向き直ると一言。
「で、貴方達、誰?」
「それはこっちの台詞よー!」
コミュ症でぶっきらぼうにしか話せないその発言に、金茶髪がキレた。下を見る、そこにはゲーマドライバーとガシャットが転がっており、ギャーギャー騒ぐ金髪少女の声を無視してそれを拾ったフランはガシャットをポケットにしまい、ゲーマドライバー片手に手をヒラヒラと上げた。
「フランドール・スカーレット。これでいいよね?じゃあ私、あのブレイブデュエルってのに用があるから」
「ああそれはどうも、アリサ・バニングスです…じゃないわよ!貴方が倒れていたせいでなのはが転んだんだから、落とし前付けてもらうわよ!」
「お、落ち着いてアリサちゃん・・・あ、私は月村すずかと言います」
「私、高町なのは。さっきは蹴っちゃってごめんね?」
「ん。寝ていた私も悪かったから…」
初対面にも関わらず自己紹介してくる、自分よりも少し幼く見える少女達に戸惑いながらも何とか言葉を返すフラン。しかし金茶髪少女…アリサは食い下がらなかった。
「何でこんな外で寝ていたのよ!?」
「えっと…」
どうしたものか。馬鹿正直に言ったところで馬鹿にしてんのか!と逆上するオチだろう。かといって、何で寝ていた(気を失っていた)のか説明しないと多分、納得しない。この数分でそれは何となく分かった。そして、ギャルゲーまでこなしてきたフランの脳内がフル回転し、打開策を思いつく。
「…何でこんなところで寝ていたのか、思い出せない…」
「はあ?」
「もしかして…」
「記憶喪失・・・なの?」
「…多分、それかなぁ…」
しかし事実だ。アリサは訝しんでいるがどうやらすずかとなのはと言う紫髪と茶髪の少女は納得してくれたらしい。コミュ症で流暢に話せないのが功を差した。
「…分かったわ。だったら、私達もそこのT&Hに行こうと思ってたのよ。ちょうどいいから貴方も着いて来なさい」
「…三人がいいならそれで」
一人で人が大勢いる場には行けなかったので助かる提案にすがる思いで承諾する。
これが始まり。純粋な思いで駆け抜けた少女達と、ゲームに想いを託した少女の出会いで
――to be continued?
始まりは何時だって紫さんである。
この作品のフランは色々特殊です。
天才ゲーマー、引き籠り、眼鏡、何かの薬を服用している、コミュ症などなど。「破壊」を義務付けられた少女にとってゲームは本当に救いだと思います。姉の真意は如何に…
今回名前が登場したフランの対戦相手、ヘル・ゲイツは「電波教師」のキャラクターです。ナイフ一本でゾンビに立ち向かう姿がかっこいい人です。
次回は変身します。お楽しみにしてくださると嬉しいです。感想をいただけると励みになります。