スーパーメタルクウラ伝【本編完結】 作:走れ軟骨
トランクスは、目の前で繰り広げられた圧倒的な戦闘風景に飲まれていた。
言葉も出ず、1000体のメタルクウラと二柱の神の戦いを眺めるしか出来なかった。
割り込むことすら出来ない。
――今度は、この圧倒的な武力と人海戦術で、メタルクウラこそが侵略者になるのでは。
そんな懸念は、トランクスには最初から無い。
メタルクウラにその気があれば、既に自分の命など無い事は理解できるし、ブルマを助けるという行為もするわけがない。
ブラックを圧倒した戦力が、そのまま自分に向く等という事は微塵も考えはしない。
トランクスが冷や汗をかきながらメタルクウラと接しているのは、それは単純に隔絶した戦闘力を持つメタルクウラの気迫に飲み込まれているからだ。危機感からではなかった。
「ク、クウラさん…その…す、すごいですね。あのブラックを…こうも一方的に倒してしまうなんて…。オレは、自分の未熟を痛感しています…」
少し俯くトランクス。
その前に立っているメタルクウラは既に一人だけで、あれだけ大量にいた機械軍団は、まるで潮が引くようにあっという間に姿形も無く消えていた。
空に浮かぶ機械惑星・ビッグゲテスターも霧がかき消えたように失せていて、月一つが浮かぶいつもの夜空が帰ってきていた。
「…勘違いをするな。今のはただ数の暴力に物を言わせた殲滅だ。戦いですらない」
「それでもです。数がいても…その数一つ一つがある程度の力が無くては、意味は無いって事ぐらいオレも解ります。本当の強敵は、いつだって格下を蹴散らしていた。…実力差があり過ぎちゃ…数も無意味なんだ」
トランクスが思い出すのは、人造人間に一方的に蹂躙されハンティングされるのみだった人類軍。そしてブラックに虐殺されるだけの存在だった抵抗軍。
力無き者が寄り集まった所で、出来ることはたかが知れていた。
それを嫌というほど味わい続けてきた人生を、トランクスは送ってきたのだ。
命あるものならばどんな些細な力でも助力になれる〝元気玉〟という存在もあるにはあるが、あれは孫悟空だけが完全に使いこなせた秘技であり、ほぼ悟空の専売特許で例外と言えた。
「…その通りだ。力無き者はただ奪われるだけ……自分の生き死にの選択すら許されない。それは…この世界に生きるお前なら良く解るはずだ、トランクス」
「……はい」
だからこそ、コルド一族は強くあろうとし続けたし、そうして宇宙最強の一族と恐れられるようになり、奪う者へと成長を遂げた。
散々に虐げられ、それでも追従の笑みを浮かべて、コルドに、フリーザに、そしてクウラに媚び諂う醜い弱者達を見てきたが、弱いとはひたすらに惨めなものだ。
「…この世界は、酷く虚空だ。ザマスが宇宙中の人間を滅ぼしたせいで、知的生命体が存在する惑星はもはやここだけだろう。お前達、地球人は孤独な存在となったが…それゆえに、もはやサイヤ人であるお前に敵はない。宇宙を支配しようが、お前の思うがままだ」
宇宙の果てを見透かすようなメタルクウラの言葉。
実際、クウラには視えているのだ。今はそれがトランクスにも良く解る。
「世界の支配なんて…興味ありません。オレは…ただ守りたいだけです」
「フッ…それは容易いだろうな。何せ、もう地球人以外に人間はいない」
「そうとも限りませんよ。ザマスのように、他の次元からやってくる侵略者もいますからね。第2第3のザマスが現れた時の為に…やっぱりオレはもっと強くならなくては…!」
その返事に、メタルクウラはどこか満足そうにトランクスを見た。
それでこそ真のサイヤ人だと、クウラが望むサイヤ人の姿がそこにあった。
だが、トランクスは既にこの時空世界では最強の戦士だ。
消去法でそうなっただけで、強者達を全て打倒し登りつめた上での最強ではない。
自分一人だけでの孤独な修行では、いくらサイヤ人といえどもレベルアップには限界がある。
むしろサイヤ人の真骨頂は、格上との戦いで命を捨てるような戦いで己を痛めつけ、そして強靭な生命力でレベルアップを繰り返していく所にある。
修行に工夫を凝らす〝修行巧者〟の孫悟空ですら、優れた師と良い戦によって爆発的成長を繰り返す下地を作ってきたのだ。
トランクスには良き師はいたが、トランクス自身も、そしてその師匠・孫悟飯も良い戦に恵まれたとは言えない。
もったいない…とクウラには思えた。
(宝の持ち腐れだ。才能でいえば、トランクスは間違いなくベジータや孫悟空に匹敵する)
フリーザも、そして自分の時空の孫悟飯もそうだったが、才能ある者程驕りやすい。
なまじ生まれ持った力が強いだけに、自分を高める事以外に興味を持ちやすいらしい。
――自分が導いてやれれば
一瞬、クウラにそんな考えがよぎる。
亀仙人との修行でも、そして眺めるだけだった天使と孫悟空の修行でも、師匠役である二人が言っていた事がある。
『弟子に教えられる』
その言葉は知識としては元々知っていた事だが、未だ実践していないクウラには未知なるものへ興味でもあった。
部下も腹心もいるが、弟子というものは今まで存在したことがない。
「…」
気付けば、メタルクウラは黙ったままトランクスの目をまじまじと観察していた。
当然、ハーフのサイヤ人と目が合って、そしてどうもそれは渡りに船だったようで、目が合ったのを幸いに、トランクスは意を決したように口を開いた。
「あ、あの!」
機械仕掛けの鉄面皮の観察は続き、メタルクウラはジッと次の言葉を待つ。
「あの…クウラさん。オレを……………オレを、鍛えていただけませんか!」
「…鍛える?」
「そうです!オレは、まだまだ弱い…悟飯さんや、父さん、悟空さんに教えてもらった事は今も修行の役にたっています」
けど…、とトランクスは言葉尻を弱めた。
「最近では、それも限界を感じていました。かつて悟飯さんがぶち当たった強さの壁…それを最近、オレも感じるんです。情けないとは思います…でも、そんな事はもう言ってられない。クウラさんは、オレに巡ってきた最後のチャンスなんだって思うんです!………だから…、お願いします!!厚かましいお願いなのは解っています!でも、どうかオレを鍛えてください!」
礼儀正しく腰を折って願うトランクスは、サイヤ人といえど育ちの良さを感じる。
こんな荒廃した世の中で、これ程の好青年に育て上げた
「俺に貴様を鍛えろ、だと?」
クウラにとっても渡りに船の提案だったはずだが、クウラは誇り高い男だった。
つまり、その精神性に少し面倒くさい性質があるという事だ。
だから、敢えて知らせなければスムーズに事が進む事をわざわざ口にし、トランクスに教えるような事をする。
たとえば己の一族とサイヤ人との因縁。
「知っているか?トランクス。かつて、貴様が過去時空に渡り、そこで葬ったフリーザとコルドを」
「え…?も、もちろん知っています」
パチクリと目を瞬かせるトランクス。
「あれは俺の弟と父だ」
「え、…えぇと?……えぇっ!?」
初遭遇時、確かにトランクスはフリーザの特徴をクウラに見出した。
ひょっとしたら同族かもしれないとも考えた。
しかし、まさかそこまで近しい血縁関係だったとは、さすがのトランクスにも解らなかった。
そして、それに気付いた今、トランクスの顔が少しずつ青褪めていく。
「そ、そんな…」
これでは鍛えてもらうどころか、むしろ復讐対象だ。
しかし、トランクスにしても、かつてのフリーザ親子討伐には名分がある。
当時、色々と予定が変わってしまった事は多かったが、つまりは地球と、恩人達を守る為。
あのままフリーザ親子を放置しても、帰還した悟空が倒すという運命は知っていても、その時のトランクスにとっては必死だったのだ。
だが、それはトランクスの言い分であり視点。
クウラから見れば、またそちら側の理論と事情があるのは、頭のいいハーフサイヤ人には理解できる。
「では…オレは、むしろあなたの…敵という事ですね」
そう言ってみたものの、トランクスは別段、構えもとらず闘志も漲らせない。
ただ俯いて、悲壮な顔でそう言うのみだった。
それはきっと、理性的には、彼我の戦力比を考えて抵抗は無意味という結果が既に出ているからだろうし、それ以外にもトランクスには無意識下に感じている理由がある。
(それを知っていて、なんでクウラさんは…母さんとオレを助けたんだ)
やはりそれに尽きた。
その一点で、クウラが
そんなふうに思考に没頭しているトランクスを知ってか知らずか。
メタルクウラは、その機械の鉄面皮を少しだけ緩める。
「フッ……もっとも、下等な猿にしてやられたのは自分の責任だ。俺にとっては、フリーザと父の復讐などはどうでもいい」
そんなクウラの言葉に、トランクスは「え?」と目を丸くする。
「じ、自分の…実の弟と、父親なんですよね?」
「その通りだ。だが、お前もサイヤ人ならば解るはず…。敗北の責任は全て己が負うべきもの。その結果、一族の顔に泥が塗りたくられるというなら、その雪辱は果たすが、な」
「………つまり、雪辱戦は今…という事ですか」
「思い上がるな」
「っ!」
ピシャリとメタルクウラが言い放つ。
静かだが力強く言い切るその言葉の迫力に、トランクスの肩がやや跳ねた。
「フリーザの全力を真正面から叩きのめしたのは孫悟空だ。おまえじゃない。……………フリーザと父は……思い上がり慢心したところを、お前に始末されたのだ。当然の帰結……ただひたすらに愚か。父に至っては、真の形態に戻る前に猿に敗北した。もはや笑い話だ」
思い返してみれば確かにそうであった。
トランクスは、サイヤ人の多くが陥る、舐めきった様子見をしない。
セルとの戦いでは慢心を見せてしまった事もあるが、基本的には殺せる時に、全力で殺す。
それが、この絶望的な世界で戦士として磨かれたトランクスという男で、戦いにおける甘さの無さ ――いっそ冷徹とまで言える―― は師・悟飯譲り。
多少の機械的強化で自惚れ、
「フリーザと父の死に対して、お前に責任は無い」
「…そ、そうですか…」
断言され、少々複雑な顔のトランクス。
喜んでいいのか、クウラの冷徹さに哀しめばいいのか、微妙な所だ。
「むしろ、問題は貴様の感情だ。俺には忌避感はないが、お前はどうなのだ。フリーザの兄と知って…それでも俺を師と仰げるのか?」
メタルクウラの問いかけに、トランクスは瞑目して沈思する。
確かに、思うところは色々とある。
だが、もはやトランクスにとっては過去の事で、クウラが問題ないと言っている以上、トランクスにとっても問題はないと思えた。
それに、正直言えば、フリーザとコルドに対して、孫親子やベジータほどの関わりも無いし、悪感情もない。
トランクスの血統のルーツを辿れば、サイヤ人とその故郷を滅ぼした原因と言われても…トランクス自身、惑星ベジータがどうのこうの言われてもピンと来ないし、この青年にとっては父が若かった時代に一悶着あった人物…という認識でしかない。
ベジータが聞けば嘆くかもしれないが、トランクスにとっては、あくまでも故郷は地球であり、同胞同族もまた地球人だという考えの方が強い。
トランクスが目を開けた。そしてジッとメタルクウラの赤いツインアイを見つめる。
「お願いします、クウラさん。オレを…鍛えてください!」
トランクスは悪魔と契約を交わした。
その選択に、もはや躊躇いは無かった。
役に立たぬ神よりも…人間を滅ぼす神よりも…、味方になってくれる悪魔の手をとるのは当然の判断。
ニヤリと、銀色の機械戦士は笑う。
「ならば…俺の〝本体〟のもとまで案内しよう…。そこで真の地獄をお前に見せてやる」
悪魔が齎す地獄のトレーニング。
その恐ろしさをまだトランクスは知らない。
「はい!お願いします!!」
だが、待ち受ける先が地獄だと知ってもトランクスの決意は揺るがないだろう。
それだけの過酷な人生を、この年若い青年は送ってきたのだから。
―
――
―――
その後、生き残った仲間たちと、そして母の見送りを受けて旅立つトランクス。…とメタルクウラ。
腕を組み、仲間との別れの一時を過ごすトランクスを眺めるメタルクウラの姿は、どこか一匹狼だったベジータを彷彿とさせて、トランクスとの別れを済ませたブルマは彼の事が気になっていた。
「そういえば、ちゃんとお礼を言ってなかったわね」
離れて見ていたメタルクウラの所まで、わざわざ歩み寄って来たブルマ。
しかしメタルクウラは、ちらりとブルマを見ただけで目線すら合わせようもしない。
「くすっ」とブルマは微笑んだ。
「なんか、ベジータと似てるわね。あなた」
「……………俺が猿に似ているだと?フン…冗談も休み休み言え」
「ほら、そういう所よ」
「…せっかく拾った命だ。余計な口を叩くと、その命が消える……よくよく考えて口を開け」
「う~ん…そういうとこなのよね、やっぱり……」
ニカッと笑うブルマに、メタルクウラは舌を打って顔を背けた。
どうも相手にするだけ無駄なタイプと見て取ったらしい。
(俺の時空のブルマもこういう奴だったな。ベジータめ…さぞ苦労しているだろうよ)
完全なる機械ではあるが、メタルクウラの超高度なAIはクウラ本体の思考パターンを完璧に模倣しているし、しかも時空を超えた次元間通信で常に〝本体〟とリンクしている。
つまり、こういった非常に人間臭い感情も抱けるのだ。
「トランクスの挨拶はまだちょっと時間かかりそうだし、ちょっと付き合ってよ」
「なぜ俺が貴様なんぞに」
「ねっ、お願い!あなたって全部機械なんでしょ?ちょっとさー…イジらせて欲しいっていうか…」
「断る」
一拍の逡巡も無く断るクウラ。
取り付く島もないとはこの事だが、こんな事で簡単に諦める程ブルマはヤワではない。強かな女だった。
「えー?いいじゃない。トランクスから聞いたわよ?あなたっていっぱいいるんでしょ?一体や二体、ケチケチすることないじゃない」
「ふん…ビッグゲテスターの超科学は、お前のような
そこまで言ってメタルクウラは、はたと気付く。
この女は、ドラゴンレーダーや、質量と時間経過を無視し劣化せずに保存するホイポイカプセル、そもそもかつてクウラとビッグゲテスターですら躊躇した時間移動を、かなりの精度で可能にしたタイムマシンを発明しているではないか…と。
地球には、超サイヤ人の初期タイプを遥かに超える戦闘力を持った人造人間を造り出したドクター・ゲロという科学者もいたし、それにブルマの父・ブリーフ博士はフリーザ軍の
「地球人、侮りがたし」と思えるデータは一通り揃っていた。
今も「けちー」とかブーブー言っているブルマに、
「――いいだろう」
メタルクウラは態度を一変させる。
「え?ほんと?」
これにはブルマも目をキョトンとさせた。
ウソじゃないわよね、等と何度も確認しつつ、ソワソワし始めるブルマ。
よほど、目の前の超技術の塊を弄くり回したいらしい。
メタルクウラは首を縦に振った。
「本来ならば許される事ではない。だが、貴様は…まぁある程度は優秀な頭脳をしているし…俺の弟子となったトランクスの母親だ。俺の一体程度ならば、許可してやろう」
「やったー!」
年甲斐もなく飛び跳ねて喜ぶブルマの姿が、他の者達と挨拶をし続けているトランクスの視界にも飛び込む。
まるで孫悟空と出会った時の、まだまだ落ち着きのない少女の頃のブルマがそこにいるようだった。
(…母さん、あんなに喜んで)
あれ程喜んだ母の姿は、トランクスが過去から戻り、人造人間とセルを瞬殺した時と、そして今回のブラックとの戦いに終止符が打たれた時。
トランクスの記憶にも2度程度だった。
多くの時、母は独り泣いていた。
気丈にも涙は見せなかったが、それでも、トランクスがたまたま夜中に目覚めた時、深夜遅くまで一人でタイムマシンの制作を急いでいる母の背中を見た時、その背は酷く寂しそうだった。そう感じた夜は一度や二度ではない。
(メタルクウラさんなら…母さんの孤独を吹き飛ばしてくれるかもしれない)
メタルクウラが母の側にいてくれれば、母は家族も仲間も全て失った悲しみに浸るだけという事も無くなるだろう。
残った唯一の家族である
キャッキャと喜ぶ母の隣に、時空振を起こし、空間をスパークさせながら新たなメタルクウラが一体出現すると、ブルマは早速そのサイボーグに抱きついて頬ずりしていた、そんな光景を、トランクスともう一体のメタルクウラはそれぞれ違うタイプの溜息をついて眺める。
「わぁー!すごい!この表面…!鏡みたいに磨き抜かれてる!強度も充分で、しかも…関節なんてすっごく靭やかで…!素材の生成からして私の知らない技術が使われている!すごい!すっごいわよ~これは!ねぇねぇ!ほんとうに、これは私のなのよね!?分解してもいい!?」
「……貴様がメタルクウラを弄るデータは、全て…上空に残していく
月の横に浮かぶ、再度召喚された人工惑星を指差しながら、メタルクウラが冷たく言ったが、ブルマは意に介さずワーキャーと喜ぶのみ。
「レッドリボン軍じゃあるまいし、あんたは味方なんだから、そんな変な小細工仕込まないわよ~♪私が思いつく限りの強化をメタルクウラにしたげる!安心してよ!」
鼻歌を歌うブルマを、鼻を鳴らして冷厳に見つめるメタルクウラ。
だが、そんな光景はトランクスの心を奥底から安穏な空気で満たしてくれていた。