ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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第47話 真価

緩やかな視界の中、ありとあらゆるものが破壊されていく。

 

悲鳴を上げる階層内を満たすのは炎、雷、冷気、熱線に隕石、レフィーヤの視界内にある全ての消滅が遅く写し出された。

 

恐らく、自分の死がすぐそこまで迫っているから世界がゆっくり見えるのだろう

 

だけど自分は生き延びている。それは何故か?

 

答えは一人の狐人(ルナール)に護られているからだ。

 

半月を連想させる銃を構えた彼女は、強力な障壁を作り出す『弾丸』を三ヶ所に的確に撃ち込み、見事にその場に居る冒険者を守っていた。

 

だが、その障壁にも限界があるようで、次第に(ひび)が走り初める。

 

「ッ!?」

 

入り込んで来た障壁外の『死』で頬を焼かれながらも狐人(ルナール)は新たな『魔弾』を撃ち出した。

 

障壁の消滅と同時に撃ち込まれた新たな『魔弾』から障壁が非常に遅く展開される。

 

(――――このままじゃ)

 

一瞬でもタイミングを間違えれば、この場に居る人間は骨も残さず消滅するだろう。

 

『魔銃』の引き金に指を掛けている狐人(ルナール)の頬に一筋の汗が流れる。

 

コマ送りの様な遅さで新たな障壁が消滅していくのと反比例するかのように、レフィーヤの頭の回転は加速度的に上昇していった。

 

(――――お願い)

 

遅い、遅すぎる。

 

恐らく人生で初めて感じるであろう莫大な焦燥感の中、レフィーヤは漸くその口を開いた。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う 。森の先人よ】!!」

 

今まで行ってきた詠唱とは全く異なる叩き付けるような詠唱

 

必死の形相で召喚魔法から呼び出すのは自身が知る最硬の結界魔法

 

(速くッ!!)

 

炎に焼かれて死ぬ

 

冷気に当てられて死ぬ

 

雷に貫かれて死ぬ

 

隕石に潰されて死ぬ

 

熱線(ブレス)に溶かされて死ぬ

 

そう、間に合わなければ死ぬ。簡単に死ぬのだ。

 

(もっと速くッ!!!)

 

「【至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい】!!」

 

レフィーヤがこの『遠征』に付いていくと決めた理由は、自分と同じLvぐらいの冒険者との遠征を経験してみたいと思ったからだ。

 

しかも色々な噂が飛び()い交流のある【ヘスティア・ファミリア】なら、自分をより鍛えられる冒険が出来るだろうという打算もあった。

 

そして、その考えがどれだけ甘かったのかを身に染みて理解させられた。

 

「【舞い踊れ大気の精よ、光の主よ。森の守り手と契を結び、大地の歌をもって我等を包め】!!」

 

詠唱時間中ずっと守ってくれる壁役(ウォール)何て居ないし、前衛後衛が入れ替わるタイミングは唐突だし、精神力回復特効薬(マインド・ポーション)を無理矢理飲まされるし、恐怖心で少しでも足が竦めば危ないからと投げ飛ばされる。

 

そして一番理不尽なのが、そのどれもこれもが一歩間違えたら死に直結する事だ

 

正直、今までの【ロキ・ファミリア】の遠征がどれだけ安全だったのかを涙と共に味合わされた。

 

まるで天窓付きのふかふかのベットで寝るのと寒空の下の固い地面で寝るぐらいの違い、なんて何度思った事か。

 

しかし、だからこそ

 

これまでの経験がレフィーヤの心に火を灯していく。

 

(もっと速く動いてッッ!!!!)

 

「【我等を囲え大いなる森光(しんこう)の障壁となって我等を守れ――我が名はアールヴ】!!

 

守ってくれる何て甘えるな、詠唱時間が足りなかったら速く歌え、精神力(マインド)が尽き掛けたら回復薬(ポーション)(あお)れ、緊急時に指示を待つな自分で考えろ

 

そうだ、自分が動かなければ、自分が動かなくちゃ、自分が護らないと!!

 

「【ヴィア・シルヘイム】!!!!!」

 

体と頭がチグハグになりながらも、ありったけの精神力(マインド)をつぎ込んだ結界は、仲間の死を拒絶するかのように消滅する障壁内に張り巡らされ、そこでようやくレフィーヤの視界は通常の速さを取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが収まった時、その階層に原型を留めている物質は何もなかった。

 

あの状況で人が生きていられる訳が無く、モンスターですら生存出来ないだろうと予想される

 

だからこそ、この状況で生き延びた彼らは()()()と呼ばれるのかもしれない

 

「はぁ…はぁ…ナイス判断です。命様」

 

「い、いえ、ウィーネ殿が居なければどのみち色殿とリリ殿を近くに持ってくるのは無理だったので」

 

「うううん、命が声を掛けてくれなかったらワタシも皆も死んじゃってた。ありがとう」

 

「は、はは」

 

気絶している色を背負っているウィーネにから笑いで返答した命の脇には、回復途中だったリリが抱えられている。

 

最初のブレス三本を防いだ直後に、これは不味いと直感した彼女は急いで《スキル》で二人を探しだし、ウィーネに指示を出して次の攻撃で障壁の範囲外に漏れないように移動してきたのだ。

 

それが無ければ階層を埋め尽くさんと言わんばかりに放たれた『魔法』と砲撃(ブレス)に障壁が届かず、動けない二人は助けようとしたウィーネ諸共、為す術もなくやられていたかもしれない。

 

「レフィーヤ様も助かり―――」

 

「いいから次の指示を!!」

 

「………今ので『魔弾』は残り一発になりました。()()()()()()()

 

礼を言う時間すら惜しいとばかりに指示を急かしてくるレフィーヤに答えるように、春姫はこの場に居る全員に現状の報告と次の指示を飛ばす。

 

「ウィーネちゃんは持てるだけの回復薬(ポーション)類を、ヴェルフ様とフィルヴィス様は色様とリリ様をお願いします。レフィーヤ様は(わたくし)を背負って下さい」

 

「わかりました」

 

何の疑問も持たずにレフィーヤ達は春姫の指示に従う。

 

ヴェルフは色をフィルヴィスはリリを背負い、ウィーネは回復薬(ポーション)類の入ったバックパックを背負った。

 

「それでは皆様、撤退します」

 

背負われた春姫の声に従い、冒険者達は破壊され尽くされた薄暗い階層内でレフィーヤを先頭に()()()()()()()に向けて走り出す。

 

「一点に強力な攻撃が可能な《魔法》の準備を、(わたくし)も詠唱を始めるので、これからは手で指示を行います」

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ】 」

 

「【大きくなれ。()の力に()の器。数多(あまた)の財に数多の願い】」

 

走るレフィーヤと春姫の詠唱が重なる。

 

言葉は要らない、返事もいらない、欲しいのは皆で生き残る(すべ)だけ。

 

レフィーヤの集中力が極限まで高められていく。

 

「【同胞の声に応え、矢を(つが)えよ。帯びよ炎、森の灯火(ともしび)】」

 

「【鐘の音が告げるその時まで、どうか栄華(えいが)と幻想を】」

 

苛立ち、焦り、力み、緊張、不安、プレッシャー

 

付きまとう感情に振り回されるな。

 

「【撃ち放て、妖精の火矢。 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

 

「【大きくなれ。神撰(かみ)を食らいしこの体。神に(たま)いしこの金光(こんこう)】」

 

感情も身体も全部、コントロールしろ

 

戦友(みんな)を守る為の力を!!!

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!!」

 

妖精の魔法が完成したと同時に、前方から極彩色の光が放たれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(追い……付けない!?)

 

春姫はその妖精(レフィーヤ)の詠唱速度に驚愕する。

 

本来なら彼女の魔法が完成するより前に自分の魔法が完成しているはずだった。

 

何故なら遠征が始まってから彼女の……いや、遠征メンバーの全員の魔法の詠唱速度は頭に叩き込んでいたからだ。

 

多少早くなったとしても問題は無い筈だったのだが、春姫の計算はレフィーヤによって大きくズレた

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!!」

 

(マズいですね)

 

前方から竜の砲撃(ブレス)が放たれる。ほぼ計算通りの攻撃だが、自分の魔法は未だ完成せず、レフィーヤの魔法は完成しているのは完全に計算外だ。

 

(賭けますよ、レフィーヤ様!!)

 

元々、この場から無事に逃げきるなんてことは不可能だった。

 

ここまでグチャグチャに壊された階層では降りる道も上がる道も分からず、今進んでいるのだって一%未満の希望に縋っての事だった。

 

せめて誰一人死なずに切り抜けるには、ここにいる全員の力を一切の狂いなく完璧にぶつけなければならなず、運よく事が運んでもどれほどのリスクを背負う事になるか分からない

 

なのに、ここに来てその綱渡り的な計算を前提からひっくり返されたのだから堪らない

 

しかしだからこそ。自分の計算を越えて来るレフィーヤにすべてを託す覚悟を決め、スッと魔法を放とうとしているレフィーヤの前に手を伸ばした。

 

「【権限せよ――全ての厄災を()つ神々の(やいば)】」

 

その間もなく訪れる砲撃(魔法)砲撃(ブレス)がぶつかり合うと予想される場所に入って来る人影が一つ

 

「【険しき道を切り開く原初の(かたな)――――神武闘征(しんぶとうせい)】 」

 

一人だけ()()()()()()()()()()()()その少女は、『魔法』の詠唱を終えると同時に鞘に納められている刀の(つか)を緩やかに握った。

 

「【トツカノツルギ】」

 

三閃の煌めき

 

同時に春姫の指示通りに放たれた【ヒュゼレイド・ファラーリカ】が巨竜の放った三発のブレスと激突する。

 

「――――ッッッ!!」

 

そのとてつもない衝撃にレフィーヤの顔が歪んだ。

 

それもそのはず、ただでさえ走りながらの魔法行使は高度な技術が要求されるのにも関わらず、巨竜の砲撃(ブレス)はレフィーヤの魔法の数段上の威力を誇っているのだ。

 

普通なら拮抗する間もなく一同は消し炭になっていた筈だが、レフィーヤは必死に両手を前に突き出しその砲撃(ブレス)を自身の砲撃(まほう)で受け止めきった。

 

「ッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「【ウチデノコヅチ】!!!」

 

咆哮するエルフに狐の妖術が掛けられる。

 

その瞬間拮抗していた砲撃の均衡は崩れ、まるで滑るように三本の熱線(ブレス)はレフィーヤ達の上を通り過ぎた。

 

(ここまで一緒に冒険して来たからとはいえ、砲撃(まほう)を少し下の角度から正確に撃つという無茶な注文を指の指示だけで遂行されましたか。威力も、命ちゃんの魔法もありましたがあのブレスを一瞬でも止められたのは素直に称賛できますね)

 

春姫の中でどんどんレフィーヤの評価が書き替えられていく。

 

本来なら命に掛けるはずだった妖術すらも彼女につぎ込むぐらいには今のレフィーヤを春姫は信頼していた。

 

しかし、その言葉を出す時間など敵は与えてくれない

 

『『『【火ヨ、来タレ】』』』

 

「!?」

 

()()()()()()()()禍々しい詠唱を耳にした狐の全身の肌が粟立つ。

 

アレをまともにやり合うのは不味いと生存本能が全力で警鐘を鳴らし、春姫は即座に次の指示を出した。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う 。森の先人よ、誇り高き同胞よ】」

 

『『『【(タケ)ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ(チカラ)ヲ借リ世界ヲ閉ザセ】』』』

 

「【我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか力を貸し与えてほしい】」

 

『『『【燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命】』』』

 

「【エルフリング】」

 

最早春姫には聞き取れない程にレフィーヤの詠唱が速さを増していく。

 

畳みかけるように発せられる詠唱(ことば)は、巨竜の三つの咢から発せられる詠唱(ほうこう)の速度を完全に上回っている。

 

『『『【全テオ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲(ゴウホウ)ヲ我ガ愛セシ英雄(カレ)ノ命ノ代償ヲ】』』』

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬―――終焉の訪れ】」

 

己の出来る限りの力と速さを込めて行われる高速詠唱は―――更に連結

 

「【間もなく、()は放たれる。忍び寄る戦火、(まぬが)れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。】」

 

『『『【代行者ノ名二オイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊(サラマンダー)炎ノ化身(ケシン)炎ノ女王(オウ)】』』』

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲な猛火、汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣、我が名はアールヴ】」

 

巨竜(かいぶつ)妖精(エルフ)の同時詠唱は遂に終わりを迎え

 

『『『【ファイヤストーム】』』』

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!!!!」

 

その場に居る全員の視界が紅に染まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

撃たれたのは本来王族(ハイエルフ)の王女のみに許された『連結詠唱』から呼び出される地獄の火炎。

 

対するは火の精霊を彷彿させる、極大の炎嵐―――その三重

 

正面から喰らい合うお互いの『長長文詠唱』から放たれた魔法(ほのお)によって、世界は灼熱に包まれた。

 

その激突は先ほどダンジョンを破壊しつくした地獄ですら越えようとする程の光景だ

 

しかし、無謀にもその業火に突っ込んだ一人の冒険者が、世界を切り裂くように己の刀を抜刀する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「レフィーヤ様、二属性回復薬(デュアル・ポーション)です」

 

「んぐ」

 

後ろから口に突っ込まれた二属性回復薬(デュアル・ポーション)を無理矢理喉の奥に流し込みながら、私はそれでも足を前に進める。

 

自分でも不思議なぐらい力が湧いて来るのを実感していた。背中に器用にしがみついている春姫さんの重さだって今は全く感じない、これが春姫さんの妖術ですか…………

 

いやいやいや、あり得ないでしょうこれ!?

 

確かに遠征の途中で春姫さんの妖術(まほう)について聞かされましたが、全てのステイタスを少し上げる程度って嘘ですよね!?少しどころじゃないですよね!?

 

なんかもう、凄い威力の『魔法』打てちゃってるんですけど!?まるでランクが一つ上がったような―――

 

『【黄昏ヨリモ暗キ存在(モノ)、血ノ流レヨリモ赤キ存在(モノ)】』

 

何ですか、この魔力!?

 

そんな私の考えを断ち切るように、今度は巨竜ではなく穢れた精霊(デミ・スピリット)が詠唱を始めた。

 

その『魔法』には、圧し潰されると錯覚するほどのあり得ない量の魔力が込められている事が、まだかなり距離が開いているにもかかわらず分かる。

 

もし、【ヘスティア・ファミリア】の遠征に着いてくる前の私ならば、なにも出来ずに膝を屈していたかもしれない

 

『【時間(トキ)ノ流レニ埋モレシ偉大ナル汝ノ名ニオイテ我ココ二闇ニ誓ワン】』

 

「盾の展開を」

 

「【ウィーシェの名のもとに願う 。森の先人よ】」

 

だけど私は背中から下された命令に何の反論もせず、即座に詠唱を始めた。

 

自身の《スキル》か春姫さんの妖術の影響か、先ほどから()()()()()()()()()()身体が噴火する火山のように熱を持っているように感じる。

 

しかし逆に心の方は悲鳴を上げたくなるほどのピンチの連続なのに、まるで鳥も魚も居ない凪いだ水面のように落ち着いていた。

 

もしかしたらこれがリヴァリエ様が言っていた『大木の心』なのかも

 

『【我ラガ前ニ立チ塞ガリシ全テノ愚カナルモノニ】』

 

「【どうか力を貸し与えてほしい―――】」

 

考えよう。

 

あの穢れた精霊(デミ・スピリット)に対して今更盾一枚でどうにかなる筈がない。それに今度の指示は手じゃなくて言葉だ。つまり今、春姫さんは手で指示が出せない……両手が塞がっている?

 

「【エルフリング】」

 

『【我ト汝ガ(チカラ)モテ等シク滅ビヲ与エンコトヲ】』

 

そこでレフィーヤは両手で春姫の足をがっちりと固定した。走る歩幅も小さくし、彼女の体を安定させるように

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(さかずき)】」

 

フィルヴィスさんの盾、これであの魔法に対抗できないのは明白だ。

 

でも、多分私の考えが正しければあの魔法は…………

 

『【ドラグ・スレイブ】』

 

「【ディオ・グレイル】」

 

レフィーヤの予想通り、その魔法は発動しなかった。

 

いや、正確には()()()()()()

 

「ッ!!」

 

大規模な魔力暴発(イグニス・ファトゥス)の余波をレフィーヤの盾が受け止める。

 

彼女の肩越しに、いつの間にか置かれていた槍のような銃の先端。これがこの現象を起こした原因だ。

 

【炎刀・刹那(せつな)

 

魔弾の超長距離射撃を想定して作られたこの魔銃は、【虚空(こくう)】の線や【(まどか)】の面とは違い、点の攻撃を意識して造られており、その究極までに絞られた魔弾の威力は最硬金属(オリハルコン)すら容易く貫く

 

しかし、如何せん魔弾を使うような場面は大量のモンスターに囲まれている時か、階層主と戦う時ぐらいなのでその小さな攻撃範囲が生かせずあまり使えなかったのだが、相手が『魔法』を使うと言うのなら、その凶悪な攻撃力は充分有効だ。

 

装備している魔防の装飾の数々なぞ歯牙にもかけず、喉元を貫かれた穢れた精霊(デミ・スピリット)は、詠唱を完成させる間際で『魔法』のコントロールを手放し暴発した。

 

「命様!!」

 

「御意」

 

次の瞬間、春姫は背中から飛び降り自分の足で走り出す。

 

唐突な行動にレフィーヤが疑問を浮かべるよりも速く、背中に他の重みが追加される。

 

「頼んだ!!」

 

そう言って担いでいた色をレフィーヤの背に乗せたのはヴェルフだった。

 

命とヴェルフの二人は己の武器を構え、一同の前に躍り出る。

 

この時点でレフィーヤも理解した。

 

どうして春姫が降りたのか、色を任されたのか。

 

それは次の対応が自分では間に合わないから

 

『魔法』が失敗したあの精霊がどういう行動を取るかなんて火を見るよりも明らかだ。

 

一斉掃射

 

全ての巨竜の首から、またも極才色の砲撃(ブレス)が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二度目の八首同時攻撃(フルバースト)

 

最後の魔弾を失い、主力の二人(色とリリ)が戦力に数えられない【ヘスティア・ファミリア】にとって、この攻撃は致命的だった。

 

しかしそれは、もしこの砲撃(ブレス)がこの場面(タイミング)で撃たれて無ければの話である。

 

「護れ!!」

 

ヴェルフの大刀(魔剣)が、その幾何学模様の刀身を紅に染め上げていた。

 

その魔剣は、()()()()()()()()()()という特性が付与されており、これまでの強大な『魔法』の衝突で蓄えた『魔素』の量はとんでもないことになっている。

 

「ぐっ……おおおおおおおお!!!」

 

しかし蓄積された魔力は、今はただの魔力の塊に過ぎず、このままでは魔剣は自壊を始めてしまうだろう。

 

だからこそ、鍛冶師はその場で魔剣を()()()()()

 

「おおおおおおおお!!」

 

咆哮と共に魔剣を握っているヴェルフの両腕が膨れ上がり、背中に刻まれた【ステイタス】に熱が宿る。

 

『全刀・不滅』

 

後に『魔剣・不冷(イグニス)』と名付けられるその完成された魔剣の真価は成長

 

新たな発展アビリティ『神秘』により造られたそれは、本来ならあり得ない己の《魔剣血統(スキル)》と【鍛冶(アビリティ)】を発動させ、戦闘中に打ち直す事が可能なヴェルフだけに扱うことが許された魔剣であり特殊武装(スペリオルズ)

 

真っ赤に染め上げられた刀身がヴェルフの雄叫びと共にドクンと脈打ち、魔剣の10倍程の蓄えていた魔力を使い果たして元の幾何学模様に戻っていく。

 

そうして一同を包むように造られたのは防壁(シェルター)だ。

 

これで、巨竜の砲撃(ブレス)をやり過ごそうと言うのだろうか?

 

いや、そうではない

 

あくまでこれは、これから起こる事の余波から身を護る為のもの

 

東洋からやって来た少女が、一歩前に躍り出る

 

「【トツカノツルギ】――第六の太刀(たち)

 

眼前に迫る八条の熱線(ひかり)にヤマト・命は真っ向から対峙し

 

「【天羽々斬(あめのはばきり)】」

 

群青色の鞘に納められた刀の柄に手を添え―――抜刀した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この『魔法』が発現したのは、力試しと称して行ったダンジョン探索で階層主(ウダイオス)を倒した翌日だった。

 

「いやー、すまんすまん。まさか気絶するとは思わんかった」

 

「いやー、すみません。まさか体がグチャグチャになるとは思いませんでした」

 

はっはっはっと笑いながら『迷宮の孤王(モンスターレックス)』に全力で挑み、全力で自滅した馬鹿二人(色とリリ)は、朝食の席で笑いながら詫びている。

 

そんな二人に呆れた視線を送るのは春姫だ。

 

「笑っている場合じゃありません。とても大変だったのですよ?次からは気を付けて下さいね、お二人とも」

 

「「すみませんでしたぁ!!!!」」

 

「えぇ!?」

 

(たしな)められた二人は椅子から飛び退き全力で土下座。春姫はそんなに必死で謝られるとは思っていなかったのか、オロオロしている。

 

そんな様子を端眼に捉えながら、命は小さく溜息を吐いた。

 

「どしたの、命ちゃん?」

 

「色殿?」

 

さっきまで土下座していたと思っていた色が、下を向いていた命の顔を覗き込んでいる。その速さに少し疑問を持ったが、それほど自分の気が抜けていたのかもしれないと思い直した。

 

「いえ、少々自分の『魔法』について考えておりまして」

 

「『魔法』?」

 

問い返す色に、命は自身の悩みを打ち明ける。

 

「階層主との戦いで思ったのです。自分の結界魔法では決定打にならないと」

 

「決定打?………うーん、確かに【フツノミタマ】だけじゃ階層主は倒せんかもしれんけど、強力な足止めって時点で俺らなら詰みに持って行けるから、それだけで十分だろ?」

 

「それは、わかっているのですが……せっかく魔導の『発展アビリティ』が発現したのに……」

 

歯切れが悪くなる命の思考を色は汲み取る。

 

つまり、勿体ないと思っているのだろう。

 

アビリティの魔導は確か、『魔法』の威力を上げるものだったか?

 

それなのに切り札(フツノミタマ)を持ってしてもモンスターを倒せないのが口惜しいのかもしれない。

 

ならば、とそこまで考えた色は何処かから一冊の本を手にした

 

「命ちゃん、これ読んでみて」

 

「えっ?は、はい」

 

言われるがまま、命は手渡された本を広げ

 

――――憤慨した

 

「色殿ォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

「ど、どうしたの命ちゃん?」

 

「どうしたもこうしたもありません!!!一体どういうことですかこれはッ!!!」

 

命はかつてない程怒り狂っていた。

 

一冊の使い終わった魔導書(グリモア)を持って。

 

「やったじゃん命ちゃん。新しい『魔法』ゲットだぜ!!」

 

「ゲットだぜじゃない!!!」

 

バチコーンと、両手に掴んでいる使い終わった魔導書(ガラクタ)を親指を上げて笑っている色の頭の上に落とした。

 

勿論、『反射』されたが

 

「何処でコレを手にしたのですか!!」

 

「フェルズから貰った」

 

「だったらそれは色殿の報酬でしょう!?どうして自分に使ったのですかッ!!!」

 

「え?だって命ちゃん新しい『魔法』欲しかったんだよね?」

 

「あぁもうっ!!!」

 

話にならないと、命は頭を抱えた。

 

「どうしたんだい、二人とも?」

 

そんな二人に声をかけるのは、命が魔導書を視ている間にとっくに朝食の後片付けを終わらせたヘスティアだ。

 

「どうしたもこうしたも無いです!!聞いてください、ヘスティア様!!」

 

正に神頼り。

 

どうか叱ってくれと言う意味を込めて、捲し立てるように命はヘスティアに事の顛末を説明する。

 

しかし

 

「なんだ、新しい『魔法』を覚えたのなら結果オーライじゃないか。良かったね命君!!新しい『魔法』ゲットだぜ!!」

 

色と全く同じように親指を上げるヘスティアを見て、命はとうとう机に突っ伏した。

 

眷属()主神(おや)を映す鏡とはよく言ったものだ。

 

ヘスティアも色も全くといっていいほど、数億ヴァリスは下らない魔導書(グリモア)を命に渡した事に気にも掛けない。

 

「いいですか?自分はいずれこのファミリアを去る身なんですよ?」

 

「そうだな……」

 

「そうだね……」

 

向かい合った机の向こうから少しだけ寂しそうな声色が聞こえる。

 

その声に胸が痛くなるが、今はそうは言ってられない。

 

「そんな自分に貴重な魔導書(グリモア)を使ってどうするのですか?ああいうのは最初期にファミリアを支えられたベル殿や色殿が使うべきです」

 

とてもとても真剣に、命は直談判を始める。

 

一年で抜ける予定の自分にどうして貴重なアイテムを使うのか、というよりこれ以上恩を売られたくないのだ。恩を返す為に『改宗(コンバート)』したのにこれでは本末転倒である。

 

「まぁまぁ俺の国じゃあ『損して得取れ』って言うし、気にしなくていいって」

 

「そうだぜ命君。それにどうせタケミカヅチの所に戻るんだったらずっとボクの眷属()のようなものさ!!」

 

「…………はぁ」

 

全くと言っていい程()()()()()()()なんて感じていない二人に、命は深い深い溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで手にした『魔法』だが、ものすっごく使いづらかった

 

どれぐらい使いづらいというと、あり得ない程限定された条件で一撃しか使えないと言うのに、その制御(コントロール)が非常に難しく、さらに発動するまでにかなりの危険が伴うという徹底ぶりだ。

 

しかし、それを乗り越えれるのなら――――

 

「【トツカノツルギ】――第六の太刀(たち)

 

『魔法』を開放する呪文を唱え、鞘に納められた荒れ狂う(うばいとった)力が発動鍵(スペルキー)により指向性を形成する。

 

「【天羽々斬(あめのはばきり)】」

 

奪った攻撃量に比例して第十段階まで変化する【トツカノツルギ】の斬撃

 

その第六段階目の発動鍵(スペルキー)

 

天羽々斬(あめのはばきり)

 

抜刀と同時に放たれたその斬撃(まほう)の特性は、奪った攻撃に対する()()()()

 

たった一閃

 

たった一閃で眼前に迫る八条の砲撃(ひかり)を全て断ち切る。

 

更にその巨大な斬撃は砲撃(ブレス)を放った巨竜に届き、強固な鱗に傷を追わせた。

 

『『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!??』』』』』』』』

 

始めてその巨竜は痛みで悲鳴を上げ、極東からやってきた一人の少女に戦慄く。

 

それは、その背に君臨する穢れた精霊(デミ・スピリット)も同じだった。

 

切り裂かれた巨竜の砲撃(ブレス)の残骸は、威力が減少しても階層に深刻なダメージを与えている。

 

にも関わらず、赤髪の青年が展開した防壁によって冒険者達には届いていない。

 

黒髪の少女と赤髪の青年を血走った眼で精霊は睨みつけた

 

またアイツラが邪魔するのか……と

 

『先二アイツラヲ殺シテ!!!』

 

巨竜に命令し、精霊(じぶん)は詠唱を始める

 

先ほどからギリギリの所で敵を倒せていない事に、彼女(せいれい)は多大なストレスを感じていた。

 

本来ならとっくの昔に殺せているはずなのに、黒髪の女が攻撃の威力を弱め(うばい)、耳の尖った女が攻撃を凌ぎ、着物を着た女が『魔法』の邪魔をしてくる。

 

私はただ敵を殺したいだけなのに!!!!

 

だから、穢れた精霊(デミ・スピリット)は周りの人間を殺すことにした。

 

まずは黒髪の女と赤髪の男だ、あの二人が最も邪魔だと精霊はこれまでの経験で理解していた。

 

「ファイアボルト!!!」

 

「リル・ラファーガ!!!」

 

『グッ、ウウウウウウウウウウウ!!!』

 

しかし、その隙を二人の冒険者は見逃さない。

 

これまで巨竜に邪魔されて思うように行かなかった二人の攻撃がようやく精霊(ほんたい)に届き、さらなる隙を生み出す

 

顔を焼かれ、右腕を落された精霊が怒りのまま自身を攻撃した冒険者を殺すよう、巨竜に命令を下そうとするが

 

「撤退!!!」

 

「うん!!」

 

「にげるのか!?」

 

ベルとアイズは脱兎のごとく巨竜の攻撃範囲から脱出、少し遅れて女戦士(バーチェ)も追走する。

 

三人が目指す先は春姫たちのいる場所だった。

 

ここでようやく、【ヘスティア・ファミリア】遠征連合は全員集合する。

 

そんな冒険者達に怒り狂った精霊は容赦無く『魔法』を落す。

 

『【天光満ツル処二我ハ在リ黄泉ノ門開ク処二汝在リ出デヨ神ノ雷】』

 

とても『短文詠唱』とは思えない量の『魔力』が込められているその『魔法』は、信じられない事に集合した冒険者達の頭上に展開された。

 

『【インディグネイション】』

 

『魔弾』も使い切り、『魔法』を使う間もない冒険者達は、雷の白光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな一同を守るように

 

「『雷鱗(スケイル)』!!!!!」

 

漆黒の雷が展開された。

 




本来なら前の話の中に入れる予定だったのに長くなって途中で投稿したりしてるから予定より話数が増えていくことになんだかなぁって感じ。
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