幼馴染は女神様   作:丸焼きどらごん

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幼馴染は女神様

 僕にはとても美人な幼馴染が居る。といっても、美人は美人でも面倒くさい美人だ。

 

 

 

 

 出会いは近所の家がいきなりたくさんの子供を引き取ったと聞いて、好奇心で覗きに行った時だった。

 

 こっそり忍び込んでみれば、たしかに子供がたくさんいる。多いと言ってもせいぜい10人程度だろうと思っていた僕はその数にまず驚いた。ざっと見積もっても50人以上居たんじゃないか? しかもその人種は様々で、見慣れた黒髪から北欧系の白い肌に薄い金髪までと幅広い。しかしわざわざ引き取った割に、子供たちは全員似たような質素な服装で表情はあまり楽しそうでは無かった。

 

 けど、僕はその理由をすぐ理解することになる。

 

 そのまま物珍し気に見ていた僕だったが、子供たちの中に紅一点が現れた。ピシっとした乗馬服を着こなしていたのは、もともとこの家の子供である女の子……城戸沙織だった。

 初めこそ、可愛い子だなって見惚れたさ。だけどその幻想は次の瞬間崩れ落ちた。

 

 

「誰か馬になりなさい!」

 

 

 ドン引きである。

 あの女、本格的な乗馬服を着て鞭まで持っているくせに乗る馬は人間ときたもんだ。しかも耳を澄ませて子供たちの会話を聞けば「いつものお嬢様のお遊び」だっていうじゃないか。最悪だなって思った。以前からお父様の仕事の関係のパーティーで何度か見たことあったけど、本性を知らないまま見た目に釣られておべっか使って話しかけなくて本当に良かったと思ったね。

 

 で、馬になれと言われた男の子が嫌だと言えば「お前は自分の立場が分かっているの? 口ごたえは許しません! お前たちは孤児院からおじい様のおかげでこの城戸家へ引き取られた身! いわば奴隷も同然の身なのよ!」だってさ。しかもこれ、鞭でその男の子を叩きながら言ったんだぞ? 凄い神経してるよね。思わず隠れているのも忘れて「君ってすっごい性格ブスだね!」って指さして笑っちゃったよ。

 そしたら怒る怒る。ちょっと反抗されたからってあれだけ酷い事出来るんだもん。今まで正面から罵倒されたことなんてなかったんだろうね。

 

「な、なんですって!? あなたは誰です! 無礼にも人様の家に入り込みながらなんて侮辱を……!」

「だって本当のことじゃないか。もう一回言おうか? ブース」

「な、なななななッ」

「あはは! 饒舌だったさっきまでが嘘みたい! 君って弱い者虐めしか出来ないんだ?」

「お、俺は弱くないぞ!」

 

 途中で鞭で打たれてた子が割って入ったけど、別に君自身が弱いって言ったわけじゃ無いよ。痛いだろうにその気概は、むしろ強い方だね。嫌いじゃない。

 

「立場的に弱い人相手にってことだよ。いくら君のおじいさんが引き取ったからって、人間は玩具じゃないんだ。少なくとも僕の目には最低の行為に映ったね」

 

 とかなんとか、そこから始まってお綺麗な顔を崩して怒る姿があんまりにも滑稽だから煽りまくったら最終的に取っ組み合いの喧嘩になった。辰巳とかいうボディーガードが止めに入ろうとしたけど、僕は城戸家のグラード財団ほどじゃないけど結構いい家の子供だからね。それをちらつかせたのと、ヒートアップした僕たちが「「邪魔(するな)(しないで)!引っ込んで(ろ)(なさい)!!」と彼を蚊帳の外に放り出したことで戦いのゴングは鳴ったのだ。

 

 ひっちゃかめっちゃかに取っ組み合って、相手は女の子、僕は男だけど結構軟弱ってこともあって結果は引き分け。……家に帰ってからお父様に凄く怒られた。「城戸家のご令嬢になんてことをするんだ!」って。でも、あそこでへこへこ引き下がってたらカッコ悪いじゃないか。僕は弱いけど、カッコ悪いのは大嫌いなんだ。

 

 

 

 しかしその後、何故か僕は城戸家に招かれた。

 

 

 

 初めは仕返しでもされるのかと思ったけど、絆創膏を張り付けてぶすくれた顔をした沙織は「ごめんなさい」と言ったのだ。

 何でもあの後、僕に言われたことをよく考えたらしい。今まで男の子たちからの拒否はあっても、誰も大人たち上の立場の人間(といっても城戸家じゃ彼女の祖父くらいしか言えないだろうが)は彼女に注意しなかった。だから自分の行動に疑問を感じなかったし、自らの振る舞いは当然受け入れられるべきで、否定する方が悪いのだという考えだったらしい。城戸家の教育方針を疑う。

 だけどそれを外部の人間……僕に真正面から否定されたのだ。それも「ブス」という産まれて初めて言われただろう罵倒と共に。あいつ、外っツラはいいからね。こんなに性格悪いだなんて、パーティーに出席しているような人たちは知らないだろうさ。僕だって初めはまんまと騙されてたんだから。きっと今まで「聡明」だの「お美しい」だのという美辞麗句しか浴びてこなかったんだろうと簡単に想像できた。

 

 しかし、沙織は馬鹿じゃなかった。

 

 聡明な彼女は考えた。何故あんな事を言われたのか。

 そして葛藤の末に、自分が悪かったんだと認めたようで……だから僕を呼んで謝って来たんだとさ。見るからに高飛車でプライド高そうなお嬢様がよく謝れたもんだと感心したけど、僕は自分で言うのも何だけど素直じゃない方だし、喧嘩の傷もまだ痛かったから「謝るつもりなら自分から出向くべきじゃない?」と憎まれ口をたたいてしまった。で、そこからまた口喧嘩。

 でもなんだかんだで、その喧嘩があったから僕たちは一応「友人」というものになれたのだ。あいつは猫っかぶりだし、僕も僕でひねくれてるから本音で話せる友人なんてお互いに居なかったからな……。

 

 

 

 そこから腐れ縁が続き、気づけば6年目である。

 

 

 

 家が近所だから事あるごとに茶に付き合えと呼び出されたり、光政翁が亡くなってからはやれ仕事を手伝えだの相談に乗れだのパーティーでエスコートしろだの、煩いこと煩いこと。僕だって暇じゃないのに幼馴染の友人を何だと思っているのか。「僕はお前の召使いじゃないんだ」とぼやけば「あら、そんなつもりはありません。頼りにしているのですよ?」ときたもんだ。6年間で猫に磨きがかかった沙織の笑顔は美しいが、それに騙される僕じゃない。

 ずっと口酸っぱく「相手の気持ちも考えろ。自分の感情ばかり押し付けるな」と言い続けているが、それは僕以外の相手に発揮されるようで僕相手にはまるでその教えの効果は表れない。…………なんだかんだで付き合ってしまうあたり、僕も沙織の事は嫌いじゃないんだけどね。でも面倒くさい。すっごく面倒くさい。たまに「調子乗んなよブス!」と言って引っ叩きたくなる。というか実際引っ叩いて、そして倍以上の力でたたき返される。今でも僕と沙織は喧嘩友達だ。

 

 

 ある日「実は自分は女神アテナの化身だ」とカミングアウトされた時には「とうとう頭沸いたか」と言って今までで一番強烈なビンタを食らった。でもビンタの後沙織を表情を見たら涙目で、きっと凄く勇気を出して言ったんだろうなと思った。「別に沙織が本気でそう言ってるなら疑わないさ。君、嘘はつかない子だし」と言ったら泣かれた。どっちにしろ泣くのかよ! 僕にどうしろっていうのさ。

 

 そして聞かされた沙織の生い立ちから始まるアテナ、聖闘士、聖域の話。そんなこと話されても僕は戦う力もないし何も出来ないぞと言えば「別にあなたに何か求めるつもりはありません。ただ、聞いてほしかったのです。これから私は人としてでなく女神としての使命に生きていく定め……。だからせめて、人で居られるうちに友人であるあなたに私の事を知ってほしかった」とか言い出した。本当に面倒くさい女だよ。「もしかして、君が女神だからって僕が友人を辞めると思ってる? だとしたら見くびられたもんだね。君が人だろうと神だろうと、僕は城戸沙織って女の子と友達になったんだ。むしろカミサマと友達なんて光栄だね。ま、それならご利益の一つも貰いたいもんだけど」と、皮肉たっぷりに言ってやったらまた泣かれた。なんだよ、いつもこれくらいで泣くようなたまじゃないくせに。

 

 

 けど事情を聞いたからって、僕に出来る事なんて本当に何もなかった。

 

 

 銀河戦争の開催時にちょっと手伝ったくらいで、十二宮での戦いとやらも、世界中を巻き込んだ災害であるポセイドンとの戦いも、全部後になってから聞かされた。あーだこーだと、こんなことがあった、大変だったと愚痴る沙織の話を聞いてやるのがあいつにとっちゃ気晴らしになっていたようだけど……僕としては、凄く心配したんだぞ。絶対に言ってやらないけど、話を聞くたびに沙織がちゃんと生きて目の前にいることに酷く安堵した。沙織は知らないだろうな、沙織の話を茶化しながら笑って聞いてる僕がこんなに心配してるってことを。

 

 この時僕は初めて彼女を守って戦える聖闘士たちが少しだけ羨ましいと思った。いや、本当に少しだけで、戦いとかまっぴらごめんだけど。僕はインテリ系なんだ。

 

 

 

 

 そして極めつけはこれだよ。

 

 

 

 

「宗一郎、ただいま戻りましたよ!」

 

 晴れやかな笑顔で、ごっつい鎧を身にまとって帰って来た沙織。その背後でボロボロになってひどく疲れた様子ながら「やりきったぜ」感たっぷりの星矢達。更にその後ろでは困惑しきった表情で居心地悪そうにしているキンキラと目に痛い黄金の鎧をまとったやたら美形な男ども。……たしか黄金聖闘士だっけ? え、でもなんかいっぱいいるけど結構死んだって言ってなかったっけ?

 

「で、今度は何があったんだい?」

 

 眉間を押さえながら聞くと、沙織は興奮したように捲し立てた。

 

「ええとですね、なんと長きに渡るハーデスとの戦いについに決着がついたのです! わたくし頑張りましたのよ! ハーデスがあんまりにも人間が愚か愚かと言うものですから、まず閉じ込められていた大甕から復活がてらあのご自慢の美しい顔に一発叩き込んでやりましたわ!」

「うん」

「本当は綺麗さっぱり因縁を消すために倒したかったのですが、それだと冥界という大きな世界の秩序が無くなり地上にも影響が出てしまいます。だからひるんだ隙に人の持つ愛について語りながら、必死に説得を続けました」

「うん、説得(物理)な」

「長かったですわ。時間をかけすぎてうっかりグレイテストエクリップスが完成してしまいましたが、そこで交渉を諦めては女神アテナとして、グラード財団総帥としての恥。ギリギリまで説得を続けたのです」

「ああ、そういやちょっとの間ありえない日食が観測されたよね。僕マジ世界滅ぶと思った。そっかー、そんなこと出来る相手と戦ってたんだー」

「そしてついにあの引きこもりから交渉権を勝ち取ったのですわ! 顔を重点的に攻めたら最後の方なんてちょっと涙目でしたわね! ホホホホホ! 神話時代から大事に大事に保存してきた体とはいえ、ちょっとニケで殴られたからって軟弱ですこと! これならまだあなたの方がお強いですわ!」

「沙織さんああ言ってるけど、ハーデスにやったみたいな攻撃されたら宗一郎お前一瞬で塵になるぞ」

 

 星矢の言葉に俺は「そうか」と頷いた。どうやら普段のビンタは女神パワーを押さえてとても手加減してくださっていたらしい。

 

「地上が危機に晒されてもわたくしに投げっぱなしでまっっっったく役に立たないゼウスお父様にも出向いていただきました。お父様の仲介の元、以前封印したポセイドンおじさまも復活させて冥界、地上、海界の不可侵条約を結びましたの。あと、お互いにくだらない戦いで命を散らさせてしまった戦士達の復活も勝利者特権で強行いたしました。もう、全部、まるっと手に入れましたわ! ああスッキリした!」

 

 晴れ晴れとした顔でのたまう沙織に色々言いたいことはあるが、とりあえずこれだけ先に言っておこう。

 

 

 

「おかえり、沙織」

 

「ただいまですわ、宗一郎」

 

 

 

 にっこり笑った沙織を、この時ばかりは色んな事に目を瞑って素直に可愛いと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 僕にはとても美人な幼馴染が居る。といっても、美人は美人でも面倒くさい美人だ。

 

 そしてその彼女は、地上を救った女神さまである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




たまに二次で3世界が協定を結んで聖闘士も冥闘士も海闘士もみんな生き返ったよ!という世界観を見かけるので、どんな風にそうなったのかなー、そっか沙織さんが超強くなって財団総帥仕込みの交渉術で全部丸く収めればワンチャンあるかもだぜー! と妄想したのがきっかけ。みんな丸く収まった世界があってもいいじゃない。


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