人理焼却された世界で転生者が全力で生き残ろうとする話   作:赤雑魚

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彼と彼女の話

 

 適当に見繕った家の中で、煙を燻らせるように『闇』を薄く身体に纏わせる。

 

 几帳面に全身を覆う必要は無い。

 というか覆えない。

 

 特異点という過去の世界で活動するには、カルデアからの存在証明が必須となる。

 三流魔術師が単独で過去に点在できるほど、世の中は甘くない。

 

 だからこそ、カルデアが完全に俺の存在を見失うのではなく()()()()()()()()()に闇の存在遮蔽を留めてある。

 

 存在が不安定な程度であればカルデア側が必死になって維持してくれる。

 

 なにせ今の俺は人理焼却の重要参考人である。

 カルデア側としてはなんとしてでも捕らえて情報を吐かせたい存在だろう。

 

 今頃、不安定な俺の存在証明に躍起になっているだろうと大体の予想がつく。

 カルデア職員たちには頭が下がるが、あきらめて己の職務を全うしてもらおう。

 

 闇による潜伏が有効であるという事実ははっきりした今、カルデアの強制送還から逃げおおせればこっちのものだ。

 

 まあ、あくまで観測不安定止まりなので大まかな俺の居場所はバレている筈、定期的な拠点の移動は必要だろうが。

 

 たぶんアルトリア・オルタが追いかけてきてるだろうし。

 

 

 

 だが、まあ、しかし________

 

 

「......やっちまったなぁ」

 

 あまりにもあんまりな状況に頭を抱える。

 

 第一特異点での介入タイミングから始まり、各特異点での効率的な立ち回りが若干不審に思われていたのは把握していた。というかそこを気にしないのならば、転生者はみんな人理救済RTAをするに決まっている。

 

 もともと評判の良くなかった俺だ。その多少睨まれる程度であれば許容しようという方針だったのだが___

 

「アルトリアの奴、やってくれたよなぁ」

 

 騎士王の実力行使でカルデアの不審が浮き彫りになった。

 

 俺とカルデア、しばらくは互いに様子見で済ませておく方針だったのだろうが、表面化してしまえば組織は対処せざるを得ない。

 というかカルデアからすれば、気になる点を一気に解消できるいい機会だろう。

 

 とりあえずカルデアで事情聴取、問題なければ騎士王の過失で済む話だ。

 おそらく騎士王も俺をぶっ殺すつもりではなかったはずだ。たぶん。

 

 だが洗いざらい吐かされれば転生者であることがバレるのは明白。そしてそれは魔術の世界では致命傷も良いところだ。人理を救っても自分が魔術師の研究材料になっては意味がない。

 

 まあ立香と魔術王との邂逅も相当に不安な要素であったというのもあるが。

 

 結局、特異点から離れる選択肢のない俺は逃げるしかなく、おかげで心証は最悪。

 たぶん二度と笑顔でカルデアの敷居は跨げないレベルの状況になっている。

 

「はぁ......」

 

 いよいよ後がなくなってきている。

 

 これなら騎士王と殴りあっていたほうがマシだ。

 アルトリアをとち狂ったサーヴァントとして処理しておけば、まだ適当な言い訳ができたかもしれない。

 

 というか、あの場には沖田とジャンヌがいたのだから、戦力的に考えればいくら騎士王とはいえ殺せたはずだ。

 

 アルトリアを受け持った時から、そのくらい理解していたはずなのだ。

 

 

 

 俺も、もちろん騎士王も。

 

 

 

「クソ......ッ‼」

 

 出所のわからない苛立ちを紛らわせるつもりで、闇をいじって動物を創り出す。

 鳥が、蝶が、猫が、魚が、影から抜け出したかのように狭い室内を舞い上がる。

 

「マスター、お茶入れてみましたよー」

 

 家の中を適当に物色したのだろう。

 紅茶の香りを漂わせながら沖田が部屋に入ってくる。

 

「......紅茶、淹れられるのか」

 

「ええ、食堂でエミヤさんに教えてもらったんですよ。......しかも自信作です!」

 

 少しばかり意外に思いながら紅茶を受け取る。

 

 まあ、平時であればカルデアはなかなか穏やかな場所だ。

 気の合う鯖同士であれば交流もそれなりにあるのだろう。

 

 適当に納得して紅茶を飲む。

 

「......」

 

 あまっ。

 

 大量の砂糖でも入れたのだろうか。めちゃくちゃ甘い。

 紅茶というよりは温かい砂糖ジュースだ。

 

 沖田がじっと見つめてくるが、反応に困る。

 

 どうコメントするべきなんだ、これ。

 

「どうですか?」

 

「......ああ、美味しい。疲れた体には最高の一杯だ」

 

「ふっふっふ、そうですとも! マスターのためにいっぱいお砂糖を入れましたから!」

 

 気をよくしたのか、腰かけて沖田が鼻歌交じりに紅茶を飲み始める。

 

 ロンドンは雨なのだろう。

 

 しとしとと雨が降る音が聞こえる。

 

 静かに流れる時間を、少しだけ心地よく感じる。

 このまま時の流れる感覚に身を任せたくなる気持ちを払い、今後の計画を練り直す。

 

 だが、結局のところ無駄なことをしていることは解りきっている。

 自身の置かれた状況と、今後の展開を照らし合わせれば、自然と行き着く結論だ。

 

 この特異点で俺の評価を挽回することはもう無理だろう。

 

 数えることすら億劫な何度目かの、『詰み』の再確認。

 

 どうしようもない状況に目を閉じて、静かにため息をつく。

 

「......マスターは、どうしてカルデアの味方として戦っているんですか?」

 

 静寂の中、唐突に隣で沖田が口を開いた。

 

 静かに視線をずらした先で、彼女は影絵の猫をつつきながら暗い表情をしていた。

 

 少しばかり、困惑する。

 世界を救うためだとかいう大前提の目的の話ではないだろうが、質問の意味を捉えかねる。  

 

 考える俺をよそに、俺の視線が合わないように目を伏せたまま、沖田はぽつりぽつりと話し出した。

 

「だって、可笑しいじゃないですか。マスターは必死に戦って、傷ついてここまで来たのに、こんなことになってます」

 

「............」

 

「私、知ってます。マスターがやさしい人だってこと。私に......人斬りにここまで気安くしてくれた人なんて今までいませんでした。どうにかカルデアの職員やサーヴァント達と仲良くなろうと努力してたことだってわかってます!」

 

 せき止めていたものが流れ出すように、沖田の言葉は止まらない。

 

 感情の混ざったそれを黙って聞き続ける。

 

「言いたくないことなんて、誰にでもあるじゃないですか......。皆のために戦ったのに、怪我もたくさんしたのに、結局は裏切り者呼ばわりされて。こんなの私___」

 

 

 

 悔しいです。

 

 

 それだけ言って、彼女は口を閉じた。

 

「___ああ」

 

 それだけの話を聞いて、ようやく自分が心配されていることに気が付いた。

 

 少しばかり気恥ずかしくなって頭を掻く。

 

 まさかここまで自分のことを考えてくれるとは思ってもいなかった。

 せいぜいサーヴァントとしての役割を果たすために、仕事として付いて来てくれていたのだと思っていたのだが。

 

「まあ、カルデアでの扱いに不満はないわけじゃないが......、秘密主義の嫌われ者なんだからこんなもんだろ。別にカルデアの奴らが悪いわけじゃないさ」

 

 カルデア職員のお人好しさというか、善性は知っているつもりだ。

 

 なにせ某白い獣が、大きくならないような職場環境を作るような奴らだ。

 こんな状況になったのは、俺がカルデアを信頼しきれなかったというのもでかいだろう。

 

 自業自得といえば自業自得だ。

 

「......マスターは諦めが良すぎます」

 

「なにせ、できないことに固執してる余裕がないもんで。物事の判断はなるべく早くすることを心掛けてるのさ」

 

 人生は妥協だって、偉い人が言ってたし。

 

 押してダメなら諦めろとも聞いたな。

 

「あとな、こういうことは自分で言うのは変だが、俺はやさしくないぞ」

 

 本当にやさしいっていうのは藤丸のような奴だろう。

 

 やさしい奴はレフの爆破テロを見逃したりしないし______なにより人理焼却の情報を黙ったりしない。

 

 

「でも、マスターは私の願いを考えて、いつも戦場に連れて行ってくれるじゃないですか」

 

 沖田の願いは『最後まで戦い抜くこと』だ。

 

 おそらく彼女はそのことを言っているのだろうが____

 

「バッカお前、そりゃ最強のサーヴァントは常に連れ歩くにきまってるだろ? しかも燃費もいいしな」

 

 適当な言葉で濁す。

 

 どこのどいつが優しいかなどという、馬鹿らしい話はこれで終わりだ。

 

「......もう、マスターがそれでいいなら、かまいませんけどっ」

 

 どこか沖田が呆れたような、拗ねたようなに話す。

 

 重苦しい雰囲気が少しだけ軽くなったのを感じて、場の空気を切り換えるために勢い良く立ち上がる。

 

「まあカルデアからの信頼を回復する方法なんていくらでも思いつく。帰ったら甘いもんでも食べようぜ! もちろん俺の奢りだ!」

 

「本当ですか!? やったー‼」

 

 嘘だ。

 

 カルデアの信頼を修復する方法は思いついていない。

 ただ自分のサーヴァントを落ち着かせるための方便に過ぎない。

 

 だが、自分のやるべきことだけはわかっている。

   

 

 

 藤丸立香と魔術王ソロモンの邂逅を見届け、危険があれば守ること。

 

 

 

 俺が成すべきことはそれだけだ。

 

 今回の特異点の解決は立香に丸投げさせてもらおう。

 六章、七章を攻略することを考えるのであれば、ロンドン程度は自力で乗り越えてもらわねば困る。

 

 俺が現れるタイミングは終盤でいいだろう。 

 

 ニコラ・テスラ、そしてランサーとして現界した騎士王との戦闘になれば、雷で嫌でも見つけられるだろうし。

 それまでは隠れながら今後の身の振り方を考えればいい。

 

「___あの、マスター」

 

 振り返って沖田を見る。

 

 桜色の少女剣士は、どこか寂しげな表情を浮かべていた。

 だがそれも一瞬、気が付けばいつも通りの陽気な表情でほほ笑んでいた。

 

「......やっぱり、何でもないです」

 

「えぇ......いいけどさ」

 

 まあ、何か言いたいことがあるのだろうが、言いたくないのなら無理強いはするまい。

 

 窓辺から外を覗く。

 

 霧に包まれたロンドンの街に雨が降り続ける光景を、ただぼんやりと眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

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