選ぶべき道や進路が多すぎて選べない、ってなこと。
余裕が生まれると、ようやく人は周囲のことに目を向けられるようにもなるわけで・・・。
次回投稿は月曜日を予定。
――これで収まってくれるといいが
ダイアモンドシティの市長室を出たばかりのレオは、そう思うと一度大きく胸に息を吸い込む。
ほんの少しの間、目を離しただけなのに。
ミニッツメンはいきなりにして、とんでもない山場を越えさせられていてレオにとっても参ってしまった。
いや、それでは事を小さくとらえすぎている――わかっているのだ。
この事が、自分がわずかにも勝手に動いた数週間の空席が生み出した。そのことへのしっぺ返しであるということを。
レオがそもそもにしてミニッツメンの統率者。
将軍などと呼ばれる地位に、請われたからとはいえ。そこに座ったのには理由があった。善意を振りまくようにしてみせておきながら、その実は外側だけをそれらしく飾ったものを押し付けて離れようとしていたアキラに対し。
もっと誠意をもって、彼らの復活に手を貸してやらないかと。そう導くことが、Vault111から這い出た2人には必要ではないか。
そう考えたからあえて、自ら飛び込み。困惑するアキラをも、そこに巻き込んで残させたというのに。
だが、それがどうだ?
ふたを開けてみれば、自分も結局はアキラと同じではなかったのか?
ショーンの行方を、息子の行方を探るには。出来れば友人達を、ミニッツメンを近づけてはならないと思っていた。そう考えた。
そしてケジメのためにケロッグとの対決の場へと自分はむかったのは。これは間違ってはいないのだと、ずっとそう自分に言い聞かせてもきた。
(連絡を絶って数週間。なにもかも、ひどいありさまになってしまったじゃないか)
胸の奥にチクリと痛みを感じる。
ケロッグとの対決を越えて、インスティチュートへの至る道を探そうと。
単身であのB.O.S.へと乗り込んでいった。ジェームズ・ボンドではないが。スパイの真似事から、彼らからは一定の情報と信用を得ることは出来たが。
このことがミニッツメンとの距離を生み出してしまい。
将軍がいない間を、友人のガービーは。彼のミニッツメンは、大きなトラブルにまみれて。危うく取り返しのつかない失敗をしでかすところであった。
そのギリギリで戻ってきた自分は、決してヒーローなどではない。
すでにこちらへと不信をあらわにしているケイトは別としても、あの戦いで生き残った若きミニッツメン達の表情の中にも。
あの日、キャピタルからの私兵たちと共にあらわれたレオに対し。疑惑と困惑の入り混じった、視線がこの背中にも向けられている。
そしてそれは、このレオ自身が招いたことでもある。
マーケットを覗いて、気持ちを切り替えようとひとつヌードルでもと考えていたが。
そんな場合でもないだろうと、考え直して町の出口へと足を向けた丁度その時である。
「ああっ!ミスターだ、こんなところにいるぅー」
「やぁ、ナット。元気だったかい?」
「そりゃ元気だよ。バリバリ元気だよ。それよりミスター、どこに行ってたの!?皆、心配していたんだよ?」
「ああ――そりゃ、悪いことしたかな。パイパーは、お姉さんはどうしてる?」
知り合いに今、会うのはあまりうれしいことではなかった。
それでもそれを表情に出すまいとして、微妙な笑顔を浮かべ。適当なことを口にして誤魔化そうとした。
「はァ、ミスター。そんなこと聞いているようじゃ、駄目だよ。あんな姉でも、一応は乙女なんだからさ」
「ナット?」
「だから言ったじゃん、皆で心配していたって。もちろんパイパーもそうだよ」
「あ、ああ。悪かった」
「だから、そうじゃないって。ミスターが死んだかもって騒ぎがあってね、ミニッツメンのプレストン・ガービーって人からの依頼で。ニックやパイパーは、出かけちゃってるんだよ」
「なに!?ガービーの依頼……」
まさかの展開だった。
そんな話になっていたとは――なるほど、ラスト・デビルでなぜコズワースを連れまわしているんだと思ったが。
あの時の旅の仲間とは、ニックもあそこにいたということか。
「ケイトはそんな話、してくれなかったな」
「ああ、あの女ね。なんかミスターのことに怒ってて、知ったことかってついていかなかったんだよ。パイパーからそう聞いてる」
「どこに行くと言っていた?へ―ゲン砦の他に」
「砦?いや、それは知らない。サンクチュアリって居住地を目指すって言ってたよ。あの人のことだから無事だと思うけど、少し時間がたってるんだよね。今度はあたしがここで心配してるってワケ」
あっけらかんとした顔でそう語るナットを見ると、なんだか急に力が抜けていくのを感じ。
私は町の出口へと続く階段脇の手すりに寄りかかるようにして、地面に腰を下ろす。
「――ひどいものだな」
「ミスター?」
両手で顔を覆い、拭うふりをして思わずそれを口に出してしまう。
感謝、申し訳なさ、不甲斐なく、悲しく、そして嬉しい。多くの感情がいきなり胸の中にあふれるのを感じ、大きく。しかし力強く揺さぶられることで。涙腺がかなり、刺激されていた。
――やはり私は、自分勝手に過ぎたんだろう
自分の都合だけ認めるようではダメだ。
知り合って間もない私のために、この連邦を飛び出していってくれた彼らに。
心配をかけ、怒らせた自分に。私は今一度、ちゃんと自分のことを整理して。反省せねばならないと、思い直していた。
だが、ナットはそんな私を困惑して見つめ。
おずおずと、彼女らしくない話の切り出し方をする。
「実はさ、ミスター。それとちょっと関係ないんだけど、相談があって」
「――ああ、すまない。それで?」
「実はさ、ちょっと困ったことがあって。本当はパイパーに相談するべきだったんだけど、あの人。いないから」
「なにかあったのか?」
「多分ね。その、アキラのことなんだ」
驚く私に、ナットはパブリック・オカレンシズまで来てほしいと言った。
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ヌカ・ワールドは今、にわかに騒がしくなっていた……。
というのも、先日電撃的に就任した新たな総支配人――オーバーボスその人が、なんとここから姿を消したという噂がついに証明されたから。
「こりゃ、今度こそポーター・ゲイジの奴もオシマイだな」
それぞれに属するレイダー達はまるでコピー人間のようにそこかしこでこの言葉を口にすると。誰が一番先に我慢しきれずに暴発するか――願わくばそれが自分の組織であるようにと乙女のように清らかな気持ちで祈っていた。
そしてそんなレイダー達に「オシマイ」などとすでに見捨てられてしまったゲイジの元には客人が訪れている。
マギー・"マグス"・ブラック、それが彼女の名だ。
ここに存在する3つのレイダー集団のひとつ、オペレーターズを掌握する美しい女ボスである。
「これはこれは、ご機嫌いかがな。マギ……」
「そういうのはいらない。今日は説明を求めに来たわ」
「説明?なにかな?」
「……とぼけなくていいわ。
ここに新たなオーバーボスを迎えてから、私たちは何度もボスへの面会を求めてきたわ。覚えている?」
「そのことか。それなら、ああ、覚えている」
美女の目が細くなり、冷たく光りを放つ。
「ところでマーケットじゃ噂が随分と流れているの、知っているかしら?
オーバーボスはフィズトップマウンテンにいない。このヌカ・ワールドを出ていってしまった、と」
「噂はあるよな。それは俺も聞いていた」
「事実なの?」
ズバリ、と踏み込んでくる相手にゲイジは変わらぬ調子で逆に問いかけていく。
「――それに答える前にまず聞いておきたいんだが。
まさか、あんたはそんなことを俺に聞くためだけにわざわざここへやってきたと、そういうんじゃないだろう?違うといってくれ」
「なぜ?あなたが困るから?」
「いいや、違う。あんたが言われているほど、ケツの穴の締りはよろしくないと証明してしまうからさ。俺はこれからのオペレーターズを心配して聞いておきたいんだ」
「いうじゃないか、ポーター・ゲイジ」
冷笑を浮かべる女ボスだが、それくらいでは挑発ですらないとまだ怒りは表面に浮かんでは来ていなかった。
「すでに同じことをディサイプルズからも聞かれたはずよ」
「ニシャか?ああ、それはそうだ。
だが、彼女と俺とはあんたよりも付き合いがとても長いし。以前からよく顔も合わせている」
「そうね」
ゲイジは両手をひらひらと上へ返しては戻しを繰り返す。
「――それだけだ。今更、変に勘繰られるようなことではないと思うが?」
「礼儀と、信用の問題よ。
ボスがいないなら、まずはこちらにそう説明があるべきであったし。
信用については、お前には随分と甘くしてきてやったのに。こんな態度を見せつけられては、考え直さなくてはと。こちらが同盟の価値を無意味と感じても、おかしくないとは考えない?」
明らかに同盟離脱を匂わす脅迫にも近かったが、ゲイジはそのくらいでは慌てない。
「確かにあんたの口にしたその2つについて、俺はなんの言い訳もできない立場ではあるが。
困ったことに別の視点から見ると、あんたのその言い草は何ともわずらわしいだけのくだらないことだと断言できてしまうから、それをあんたにどう伝えたらいいだろうか?」
「――私を、侮辱して何もないと思っているの?」
「そうは言っていない――嫌、言っているな。
違う、賢いアンタがなぜそんな馬鹿な奴のふりをするのかわからないと、そう言っているだけだ」
「説明を、ゲイジ」
ゲイジはここまで表情はなにもあみせてはいない。
「わかってもらいたいのは、オーバーボスにとってそんなものはどうでもいってのが。今回の話の難しいところなんだ」
「オペレーターズを認めないと?」
「いや、まさか。それはないさ。
新たな俺達のオーバーボスは冷静で冷酷、状況を理解し、なにが一番なのかはちゃんとわかっている」
「なら、なに?」
「オーバーボスは就任と同時にあんたらボスたちにあいさつに回ったことがあっただろ?
どうも、それが彼に悪い印象を与えたようなんだ。それぞれの力を認めてはいるが、それをまとめているボスたちに本当にその力があるのかどうか。どうもそれをまだ信じ切れないと――」
「冗談でしょ?」
「いや、本気さ。ここだけの話、戻ってきたボスに俺は『どうだった?』と聞いた。
それぞれの力をほめる一方、それをまとめるボスたちへの印象はひどいものだった。ニシャは分裂症も患うサイコパスだと苦笑いしていたし。メイソンは間抜けに見えると、困惑さえしていた」
「一人足りないわよね?」
「まさか、ここでそれを聞きたいのか?ボスのあんたへの評価を?」
「もちろんそうよ」
「アンタにはいい女だと褒めていたよ。是非、ベットを共にしたいとも口にしていた」
「――殺してやる」
「なぜ?何が不満だ?実際、あんたは美人なんだ。
ボスはただ、そういう印象を持ったというだけで。別になにかふざけていたわけじゃない」
「そんな言い訳をっ!」
「なぁ、マグス。落ち着いてくれよ。
ならば、はっきり言うが。ボスの前歴がどうこう話し合っていたところを、あんたらは本人にうっかり聞かれてしまったんだろ?そんなこと普通であっても、噂された方は不愉快な気持ちにもなるさ。
それはアンタたちのミスだ。
ニシャも、メイソンも。いきなりそんな失礼は、ボスにはしなかった。あんたが面会をしつこく求めていたことも、それを挽回したいと考えてのことだったんだろ?」
「……」
「とにかく理解はしてくれ。オーバーボスはあんたらをまだ、完全には信用してはいないってことを」
マグスはそこで大きく息を吐き出した。
本人は自覚がないのだろうが、そのしぐさには妙な色っぽさを見るものに感じさせる。だが本人にしてみれば気持ちを切り替え、冷静になろうとしたというだけのことだ。
「あの出会いはあまり良いものではなかったかもしれない。
だが、オーバーボスがここから消えたというのが事実を。まだ納得はしているわけではないわ」
「参ったね。まだそんなことを口にするとは、アンタはどうもまだ冷静ではいないようだぞ」
「なんですって!?」
「これは察してほしかったことなんだがな――」
「……続けて」
「新たなオーバーボスは、アンタらの忠誠心をはっきりと疑っている。そう、アンタたちのミスが原因だ。
背景の興味を持ち、過去を調べ上げようとまで言ったのだろ?」
「彼からそれを聞いた?」
「というより、ひどく警戒心を見せるから俺が聞きだしたんだ。
弱点をいきなり見つけ出そうと話し合う可愛げのなさに、俺はさっきの印象を聞き出す流れがあった」
「こちらの落ち度だと非難するの?ゲイジ」
「非難だって?そんなこと誰がしているんだ、マグス」
押さえてくれとばかりに両手を前に押し出すしぐさを見せるゲイジは
「あんたらはボスにもう少しかわいげのあるところを見せてやってほしいだけだ。そうすれば、俺もボスにもっと肩の力を抜いてやってくれていいと、助言ができる」
「こちらが焦っているというの?」
「ディサイプルズは自然に近づいてきて、会話のついでにそれを聞いてはきた。そしてパックスはそもそも十分以上におちついたもので、問い合わせてくることさえしてこない。
ところが今、ここに来て会うなりいきなり神経質に責め立ててきたのは、あんたのところだけだ」
「――誤魔化されないわよ。ボスはどこ?」
「言えるわけがないだろう。
アンタに続いて俺もオーバーボスの信頼を一緒に失えって?
大丈夫だ、ボスは戻ってくるさ。外にも用事があるというから、区切りのいいところまでやってくればいいと言ってやったんだ」
「帰ってこないかったら?」
「最高のレイダー集団を3つも束ねるボスの座を手に入れておいて、そこから逃げ出すだって?まさか!そんなこと、あるわけがないだろう」
「コルターのおかげでこっちは1年を無駄にした。新しいボスが本当に違うと、なぜ言い切れる?」
ゲイジはそこで大げさにため息をついてみせる――。
「やれやれ、これは本当は内緒の話なんだがな……あんたを一発で冷静にさせる、ビッグニュースがある」
「誤魔化すの?」
「いや、聞いた方がいいぞ。聞けば、アンタすぐにもここに来たことなんて忘れようとするはずだ。ヤサに戻ったら不満顔の部下には大丈夫だ、信頼しろと言いもする。間違いなく、そうなる」
「?」
ゲイジの予言は的中した――。
オぺーレーターズのボスは突然、黙りこくると。
謝罪の言葉を口にして、そのまま無言でここに背を向け出て行ってしまったのだ。ゲイジはそれを眺め、意地悪く心の底で中指を手を振る代わりにかざしておく。
あの不気味なオーバーボスはここを立ち去る前に、ゲイジの求めに応じるとヌカ・ワールドのエリアの一角をすでに落としていたのである。
そこは今は空っぽのエリアということになるが。彼は利口にもそれをどのボスに任せるかまでは決めずに立ち去った。
「女どもは欲深で困る。少しは慎みってやつを、持たないとな」
想像通り、オペレーターズとディサイプルズは我慢しきれずにこちらに探りを入れてきた。
ゲイジはそのこと自体は悪いとは考えていないが、あのボスは連中が逆らうような態度を見せたと聞けばきっといい顔をしないだろう。
「しばらくはこれでおとなしくなるだろうが――。もっとじっくり互いを焦らしてやらないと。俺の首も危うくなる、か」
当面は、楽しくやらせてもらっていいという自分へのご褒美だ。
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少女が一人で住まう家に、良く知っているからとはいえ男が入って長居をするのはよくない。
それが元々、この町の市長を批判する立場にあるこの姉妹ならばなおさらだ。とはいえ、普段はあまり悩みそうのない少女からのたっての頼みでは。それを断ることもできなかった。
「アキラが、どうした?」
「それもどうかわからないんだけど――とにかく、ちょっと聞いてね」
ナットはそう言うと、小さな事件について話し始める。
姉がこの町を発ってから数日、家の中に何者かが侵入して、2つの袋に一杯のガラクタを詰まってそれが置かれていたのだそうだ。
そんなことをしたのは残されたメッセージから、アキラだとわかった。
「彼は?ここを訪問した、わけじゃないんだね?」
「そうだよ、泥棒みたいに。寝ている隙に、入ってきて。出て行った、みたい」
「――彼らしくないな。なんでそんなことを」
「それがね。そのちょっと前に、ここのマーケットでアキラにあったかもしれないってことがあってね」
「この町に彼が?」
「でも、それは確実じゃないんだよね。
だって今のミスターと同じ、あのVaultスーツを着てなかったし。顔を隠そうとして、それに黄色のスーツなんか着ちゃっててさ」
ナットはあの一瞬のことを思い返す。
自分を見つめた彼のあの眼。
以前は目つき悪いと言いはしたが、それでも親しみのようなものは感じることが出来たのに。
ナットを見つめるソレは、まるで価値のないものを見るときのそれであり。そしてナットから見たその目は、目玉のない2るの大きな闇の淀んだ洞のよう。
あの彼からは、そんな吐き気を覚える、気持ち悪さを本能的に感じ取っていた。
「アキラ、なにかあったのかな?ミスターは知らない?」
「――彼とはしばらく会っていないんだ」
「そうなんだ。それでね、困ったことってそのアキラが置いていったバッグの中身のことでさ」
残されたメッセージは、荷物を預かってほしい。扱いやすく処分してくれても構わないとあったので、ナットはさっそく翌日にはマーケットにそれをキャップに変えたいと申し出たのだそうだ。
「そしたらさ、それが5.000キャップ近くになったって言われちゃって」
私は思わず、その数字に息をのむ。
大金だから驚いたわけではない。アキラの残したことで、この少女はとんでもない立場に追いやられたのだと知って、絶句してしまったのだ。
「そ、それで?大丈夫なのか、ナット」
「よくわからないよ。とりあえず、留守にしているお姉ちゃんの知り合いがどうこうとか適当に言い訳したけど」
「そのキャップは?」
「マーケットに預かってもらってる。あんなのここに持ち帰ったら、落ち着いてここで生活なんてしていられないよ」
「さすがパイパーの妹だな。いい、機転だったと思うよ」
商人たちはキャップに関しては鋭敏だ。
正義を口にする新聞社が大金を用意したと噂を耳にすれば、その使い道に関しても情報を集めたくもなるだろう。
そうやって、町には美人姉妹の情報が広がっていってしまう――。
アキラはなにをやっているのだろうか?
私の知る、賢い彼ならば。ナットがこんな風に悩まなくてもいいように気を遣うことが出来るはずだったのに。
それとも、彼にもその余裕はないということか?
「確かにそのキャップはマズイな。君たちにとって、特にそうだ」
「どこかのレイダーから巻き上げたんだろうなって思うけど。まさかそんな大金になるとはわからなかったから――」
「とにかく、何とかしないといけない」
このままマーケットに預けるのは、パイパーたちの迷惑にしかならない。
とはいえ、ミニッツメンでそれを引き受けるというのも問題だ。
ハングマンズ・アリーは今。立て直しに心を一つにせねばならない時なのに、自分の近くに大金が運び込まれたなどと知っては。激戦を生き延びたばかりの若い兵士達が邪な欲望を抱かないとは言い切れない。
突然、私は脳裏に全く関係のない過去の情景を思い浮かべていた。
それはノーラが、ショーンを出産する直前のものだ。
おなかの中の息子と共に待っていた彼女は「間に合ってくれた」と言って、抱きしめると泣いて喜んでくれた。
出産の時は、いきむ彼女の手を取って。男はなんて無力なんだと、近くで見ているしかなかったが。
苦しい時は終わり、涙を流して喜ぶ2人には新しい家族が――。
そこで急に私は現実に戻ってきた。
なにを現実逃避しているんだ。それはもう200年以上も昔の話だ。そして家族はもう、この世界には厳密には1人しかいない……。
「わかった、一晩考えさせてほしい」
「うん」
「それじゃそうだな。とりあえず、マーケットには僕と君で話をしにいくと伝えておいて欲しい」
「わかった」
「それと、このメッセージカードは借りてもいいかな?」
「袋に入っていたもの?別に構わないけど」
そうして私はまたも宿題を抱えて、ダイアモンドシティから立ち去ることになる。
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――とにかく扱いやすいようにして預かってほしい。
アキラのメッセージを読み直し続け、一晩を考えぬいた私はそれを額面通りに理解することにした。
そしてそれでいいなら、話は簡単であった。
翌日の朝、私はナットを連れてマーケットを訪れると。
その大金はミニッツメンのうんぬんだと、適当な話をした後で。その半分をこのマーケットに投資したいと申し入れることに成功した。
そして残る半額で、この町にある空き家をひとつ購入する。
自分は数字に強いわけではなかったが。
軍隊時代には、除隊後にバラ色の隠居生活を夢見て投資に励む奴がチラホラといた。
そしてあのアキラがサンクチュアリで見せた、悪党のようなふるまいも参考にして、この方法を考え付いた。
さっそく戻ったら、今日から数人のミニッツメンに。そこで寝泊まりするように指示しなくちゃならないだろう。
それはこの町へのにらみを利かすということにもなるし、知らないうちに家を手に入れたあの若者だって。特にどうしろとは言ってないのだから、満足してくれるはず。
そうやって肩の荷が下りたと、再び出口へと続く階段を上る私は。
ふいに青い空を見上げて思った。
――アキラ、君は今。どこにいるんだ?
ケロッグの事、インスティチュートの事、そしてB.O.S.の事。
それらにようやく区切りがついたと思ったが。
今、思い知らされるのは。友人たちの事、ケイトの事、ミニッツメンの事。
そして、同じくこの世界に飛び出すことになったあの若者の事を忘れていたのだと恥じ入るばかりだった。
なのに、なぜだろう。
私は今すぐにでもあの若い友人に会って。このおかしなスパイ生活と、それに至ったひどい経験について語りたいと思っている。
【新たな技能を取得しました】
・Cap Collector=商人との取引に加え、投資にも有利な条件が出来るようになった。