ロウきゅーぶで貞操観念とか逆転もの   作:ワンコ派

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今回10000文字超えて長くなってしまいました。
サブタイトルは相も変わらず空耳。
最近ランキングにもあがっているようで、皆さんに感謝です。
ありがとうございます。

パソコン画面の前で、ひっそりと喜びのドラミングをしているゴリラがいたらきっとそれがわたしです。


6話 泣きそうだった心を温めてくれた芭蕉

水曜日の放課後、練習三日目。

この学園に来ることはこれで二回目だけど、やはり体育館に向かうまでにじろじろと通りすぎる女児たちに見られている。

体育館につくと、今回は既に皆は体操服に着替え終わっていた。

挨拶もほどほどに、俺も着替えてくることにする。

今日からは俺も一応、動きやすくするために学校指定の体操服を持ってきていた。

男子更衣室を借りて着替える。

 

「途中で乱入とかはないか」

 

不自然にならない程度にゆっくり着替えてみたが、漫画にあるような覗きだったり乱入だったりで合法的に女児の前でパンツ姿を披露することにはならなかった。

まぁ当然か。

これが女子高生だったら7割以上の確率で発生していただろう。

つまり5人もいれば一人は高確率で行動を起こしている。

やっぱり同年代はケダモノだな。

 

 

着替え終わると、準備運動から開始する。

等間隔で広がって、前と同じように数を数える。

うむ、女の子が体をほぐしているのは実に目の保養になるな。

あと愛莉が昨日教えた通り、ちゃんとスポーツブラをつけてきたようで安心する。

クーパー靭帯を痛めないためにも大事だからね。

あれは単なる布切れに見えて、ちゃんと体の動きに合わせて補助するよう計算されて作られているものだから。

ミホ姉はちゃんと仕事をしてくれたようだ。

他の4人は相変わらずノーブラか。

何故わかったかって? ……襟元から見えたんだよ。

 

 

準備運動の後、おなじみの基礎練習をワンセットずつ行った。

今日でコーチして三日目だが、初日より昨日、昨日より今日と一日ごとにかなり進歩している。

彼女たちは智花以外初心者であることからも、飲み込みが早いのもあるのだろう。

真帆はすでに安定してドリブルもパスも問題なくこなしている。

シュートだけはあまり精度が高くないから、自分の中で得意な位置取りを探してやるのがいいだろう。

紗季も真帆同様、試合をする上では特に問題なさそうだ。

あとは試合の動きによるが、真帆よりもシュートの精度が高いからどんどんゴールを狙っていきたい。

反面、やはり体力が劣るので前半で息切れしないかが問題だな。

こればかりは一週間でつくものでもないので、ペース配分に気を使う必要が有る。

ひなたちゃんはドリブルしながら動き回っても、ボールの動きに合わせて頭が上下しなくなった。

あれはあれで可愛かったが、お遊戯ならともかく試合であの調子ではさすがに最低限の動きすらできそうになかったからな。

体の小ささを活かして、空いているスペースに潜り込んでもらうようにしよう。

実際パスを出さないにしろ、そこにいるだけで相手は警戒しなくてはいけなくなる。

囮だと思われて放置されるならそれでもいい。

警戒がなくなったタイミングで効果的なパスを一度成功させてしまえばこちらの思う壺だ。

愛莉は気の弱さもあることから、あまりドリブルで自分から攻めていくことが難しそうだ。

なので、ディフェンスでゴール下を守護してもらうのがいい。

基本的なドリブルやパスは大丈夫だと思うので、あとは残り数日で相手を前にしても怖がらない勇気が必要か。

 

「今日は昨日と同じくオフェンスとディフェンスに別れる前に、ワンオンワンをする。

一対一でボールを取り合って相手を抜けるように練習しよう。そのあとで昨日同様の練習をすることで、よりパスのタイミングや位置取りを考えるようになるだろう」

『はい』

 

元気の良い返事をする女子たち。

 

「まずは全員で当たれるようにしようか」

 

一回制限時間30秒。

あまり時間を取りすぎても、夢中になりすぎて体力を使い果たしてしまってはこの後の練習に支障をきたす。

それに一対一の状況での30秒というのは、短いようで思いの外長く感じるものだ。

結果は想定内。

智花は誰にも負けることはなかった。

真帆と紗季は、メンバーの中では幼馴染ということもあってか、互いが相手だとライバル心が働いてか白熱していた。

ひなたちゃんは全部負けてしまっていたが、特に気にしている様子もないどころか純粋に楽しんでいる。

うーむ、楽しめるのはいいことだが競争心が全くないのも困ったものだ。

愛莉は攻撃ではドリブルで攻め込めず、その場から無謀なシュートを打って外してしまいがち。

ただ、回を重ねるごとにディフェンスでは相手の進路上に手を出せるようになってきていた。

あとは体でも進路を塞ぐようにできればなぁ。

 

「よし、最後は俺がディフェンスでやってみよう」

「おぉ、すばるんが相手か!」

「が、頑張ります!」

 

ここまでの練習、智花にとっては技術向上とまではどれもいっていない。

だから俺が相手をしようと思った。

依怙贔屓にならないように全員を相手にするけど。

 

「よーし、俺を抜けた人には何かご褒美あげようかな?」

「ご褒美! 何、ジュースおごってくれんの!?」

 

褒美と聞いて真っ先にジュースが思い浮かぶ感じ、やっぱり真帆って子供だよなぁ。

そもそも発想が金持ちっぽくない。

 

「ご褒美……ふ、ふひ」

 

智花は何を想像しているのだろう。

都合のいい妄想でもしているのか、にやにやしている。

あぁ、この子絶対耳年増な上に妄想癖とかありそうな感じがするな。

三日目にもなるとさすがに解ってきたぞ。

じゃんけんで順番を決めて、紗季、愛莉、ひなたちゃん、智花、真帆の順となった。

動いている時に紐が絡まって相手に怪我をさせてはいけないので、ホイッスルを外す。

順番が最後の真帆にホイッスルを渡した。

 

「えっ、私?」

「あぁ、真帆が順番最後だろ? 開始と終了のホイッスル頼んだよ」

「で、でもこれすばるんと間接キスじゃ……」

 

露出の高いメイドコスプレしてみたり、俺にじゃれて抱きついたりしてくるのは大丈夫でも、間接キスは恥ずかしいようだ。

薄っすらと頰を赤くして躊躇している。

そしてなんか無表情でホイッスルをガン見している智花がちょっと怖い。

さっきまでの笑顔はどうした。

 

「何、恥ずかしい? ……それとも俺が使ったやつなんて口つけたくない?」

「そ、そんなことないよ! だいじょーーーぶ!」

「無理しなくてもいいのよ真帆、なんなら私が……」

「だ、だから大丈夫だって。もぅ、もっかんもすばるんも何言ってんのー?」

 

うむ、本人が大丈夫と言っているのだしいいだろう。

この程度じゃあ羞恥プレイというわけでもないし可愛いものだ。

だから智花ちゃん、その変な顔で友達をガン見するのやめなさい?

 

 

練習を開始するため、順番が最初の紗季とコートの真ん中で対峙する。

他のメンバーはコートから出て観戦だ。

 

「よろしくお願いします!」

「あぁ、じゃあ今から30秒……スタート!」

 

俺の声に合わせて、ピヒュルルル……と力の抜けるような音を出す真帆。

一瞬がっくりと力が抜けそうになるが、気にせずはじめよう。

真剣な顔でドリブルしながら抜こうと頑張る紗季。

色々と考えて左右に振ってきたりしているが、さすがにまだ手の動きと体を別にしてのフェイントまでは使いこなせないため、少しバスケをかじったものになら動きがわかってしまう。

全国大会レベルならともかく、小学生の部活で楽しむ程度なら上出来なんだけどね。

 

「くっ、ダメ、全然抜けない」

 

俺からはボールを積極的に奪いにはいっていないが、進路を塞ぐだけで紗季はゴールに近づくことができないでいる。

制限時間ぎりぎりになって、賭けに出たのかその場で跳躍。

しかしその場しのぎのシュートで初心者が点を決められるほど、バスケットは簡単ではない。

予想通り、ボールはゴールを外れて見当違いの方向へ飛んでいく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

膝に手をついて、前かがみで息を整えている紗季。

彼女の肩に手を置いて、顔をあげさせる。

 

「紗季」

「はい……は、長谷川さん!?」

 

顔を上げて俺と目を合わせた紗季は頰を赤らめる。

まぁ近いですからねぇ。

あと一歩近づけばキスしそうな距離でにっこりと笑ってやる。

うーん、この距離でにっこり笑うとかただしイケメンに限るというやつだな。

大丈夫大丈夫、ありがたいことに俺周囲からよくイケメンて評価されてるから。

イケメンに産んでくれたお母様、遺伝子提供してくれたお父様ありがとうございます。

自分の容姿が優れてるなら利用しないと勿体ないでしょ。

そこの君、単純に羨ましいとか思うなよ?

容姿が優れているってことはそれだけ狙われるってことだぜ?

例えば50代のオバさんに痴姦されたりレイプされそうになったり。

おっと思い出すとぶるってきそうになるからこれ以上はいけない。

 

「紗季の動きは良くなってきてるけど、まだまだ素直すぎるかな。せっかく賢いんだから、フェイントとかも織り交ぜられるようになればもっといいかもね」

「な、なるほど……」

「まだ試合まで日数があるからね、失敗を気にせず色々試していこう」

「はい!」

 

 

 

次は愛莉の番だ。

入れ替わるようにコートに入ってきた彼女は、おっかなびっくりといった様子で俺の前にやってくる。

 

「よ、よろしくお願いします」

「うん。よろしく」

 

今度はちゃんとしたホイッスルが鳴る。

ボールをドリブルし始める愛莉の前で、軽く手を開いていつでもかかってこいとアピールする俺。

 

「…………?」

 

しかし、5秒ほど経過してもその場から動かない。

 

「愛莉、動かないと俺を抜いてゴールを目指せないぞ」

「は、はいぃ」

 

返事をする彼女はがちがちに固まっていた。

どうやら俺が怖い、というよりも男が怖いのか?

女子メンバー相手には練習で動けているが、これはちょっと問題かもしれない。

試合ではまだまだちびっこい奴が相手とはいえ男子は男子。

躊躇って動けなければいくら練習で動けても意味がない。

 

「動かないならこっちから行くぞ」

「えっ、ひゃうい!?」

 

このままでは制限時間まで動かないので、俺の方からボールを奪いにいった。

といっても本気で取るつもりはなく、俺のボールを取る真似に対して逃げるように動けばいいかと思ってのことだ。

しかし、それは成功とはとても言えるものではなかった。

あろうことか、愛莉は左右に俺を避けるように動くのではなく、後ろに逃げるように動いたのだ。

がちがちに固まっているせいで足をもつれさせ、背後に倒れそうになる愛莉。

 

「わっ、きゃ!」

「危ない!?」

 

慌てて倒れそうになる愛莉を抱きとめる。

おっと、このラッキーはさすがに想定外だ。

無意識に動いた結果、愛莉は俺の腕の中で真っ赤になっている。

鼻先数センチに愛莉の顔。

このどさくさに紛れてならおっぱい揉んでも大丈夫なんじゃないかと悪魔の囁きが聞こえたが、他のメンバーならいざ知らず愛莉の場合本気で恥ずかしがって泣いてしまいかねない。

いや、他のメンバーならいいのかよ。

よくない……よ、良くないよ、ね?

おいこらGOサイン出すな昴2号。

おかしいな、最近脳内のマルチタスク分身が俺の意思よりも本能を重視しすぎている気がする。

こんな思考遊びをしている間にも、腕の中の愛莉は真っ赤になって目尻に涙をためてぷるぷるしている。

今にも表面張力が限界を迎えて、涙がぼろぼろと流れ落ちそう。

 

「悪い愛莉、大丈夫か?」

「は、はい……」

 

抱きとめていた姿勢から解放し、その場に立たせると少し落ち着いてきた。

 

「愛莉はまだ、男子と相対するのが怖いのかな」

「あぅ、ごめんなさい」

「謝らなくてもいいさ。試合までになれればいい」

 

本当なら男に慣れるためにエロいことする前世でお世話になったエロ本のシチュエーションを試したいところだけど、それだと速攻でお巡りさんと署内でお茶することになる。

とりあえず場を濁すために彼女の頭をなでておく。

再び真っ赤になってうつむくが、今度は泣きそうではない。

さらさらの髪を手櫛で梳くように、ゆっくりと撫でながら目尻に残った涙を指で拭いてやる。

 

「愛莉は、俺のことも怖い?」

「こ、怖いとかじゃ……長谷川さんは他の人みたいに意地悪しないし。その……」

「じゃあこれから慣れていこう。な?」

 

さて、ここいらで次の練習に移ろうか。

いい加減こちらを見ている面々がキャーキャー言って騒いでいるからな。

 

 

次はひなたちゃんか。

メンバーの中で一番体が小さいからか、同じ大きさのはずなのに、抱えているボールがより大きく見える。

 

「おー、ひながんばります」

「はい、じゃあよろしくね……スタート」

 

ひなたちゃんが構えたのを合図に、真帆のホイッスルが鳴った。

正直あまり運動神経が良いとは言えないひなたちゃんではあるが、ぽわぽわしているものの頭が悪いわけではないようで、色々自分なりに考えて動こうとしている。

先の二人のものを見ていてか、上手くいっていないが左右に振ったり、急に立ち止まってみたり工夫してみせた。

ただ、その工夫の結果としてボールが手からこぼれていったり、無意識のうちにダブルドリブルになっていたりと修正すべき点も多くある。

結局、制限時間を使い切っても俺を抜けそうになる場面はなかった。

 

「はぁ、ふぅ、ひな……がんばったけどダメでした」

「それでもよく頑張ったじゃないか。まだまだ直さなきゃならないところはあるけど、色々考えて動けてたね」

 

ひなたちゃんには、そうやって考えて試合中に動いてもらう必要がある。

さしあたってその方向性へと本人が動けるのであれば良しとしよう。

ダブルドリブルとかは反則とられちゃうから修正しないといけないが。

 

「おにーちゃん、ひなえらい?」

「おう偉いぞー」

「じゃあひなにもご褒美ください」

 

そういってこちらに頭を下げて何かを待つひなたちゃん。

あぁ、頭を撫でろってことね?

そんなことでいいのならいくらでもしてあげよう。

 

「えへへ、お兄ちゃんにほめられたー」

 

頭を撫でられただけで花の咲いたような笑顔になるひなたちゃん。

あぁ俺、シスコンの気もあるかもしれない。

この子お持ち帰りしちゃダメ?

お兄ちゃんっていってるし、もう長谷川家の子供にしていいんじゃないかとか考えてしまった。

 

 

次、この練習をすると決めた切欠である大本命の智花。

これで何かしらを掴むなり、自分の問題点を感じてくれるなりしたらいいのだけど。

無理であっても、自分よりも上の実力の者と練習するのは経験値的にも良いものになるはずだ。

智花がいくら天才的とはいえ、現時点での実力は年齢も上の俺の方が高い。

 

「智花、君は他の皆より上手いから、俺もボールを積極的に奪いに行くよ」

「はい!」

 

自分の中の縛りとして、トップスピードは出さない。

勿論全力のスピードではないので、4体分身のステップは封印。

してもせいぜい普通の分身ステップだ。

シュートをするならゴール真下からのダンクのみ。

 

「それじゃあスタート!」

 

真帆のホイッスルと同時、智花が重心を低くして急加速する。

キュギッっと体育館の床をシューズで擦る音とともに、俺の右側を通過しようとする智花。

しかし俺も腕を伸ばして軌道を塞ぐと、彼女はフェイントをかけて今度は左へと方向転換した。

おぅ、この急激な方向転換。

最初から全力なようだ。

コートの外で他のメンバーが息を飲むのがわかった。

急制動をかけて動き回っているのに体の軸がぶれていないから、安定してボールを操れている。

この子、俺が小学六年生の当時よりも上手い気がする。

いいねいいね、教える側の俺も楽しくなってしまう。

ただ、これだけ上手いと相応に試合中はマークがつくだろう。

最初から最後まで全力では体力も持たないし、他のメンバーに任せるべきは任せてしまって流れに緩急が必要だな。

それと、智花自身はおそらくまだあまり経験がないようだが、ディフェンスにとっても実力が上なのであればフェイントも有効であるということ教えよう。

あえて俺の片足の反応を一歩遅らせ、タイミングのずれを作ってやる。

智花ほどの実力なら、考えるまでもなく直感的にそこが抜けると思うだろう。

こちらの狙い通りに急制動をかけて姿勢を入れ替えると、作り出された隙間を抜けようとする智花。

その動きを勿論想定していた俺は、彼女の手からボールがドリブルされて床から跳ね返った瞬間にすくい上げるように指先を絡める。

俺の指によりベクトルの向きを変換されたボールは彼女の手に戻ることなく、反対側の俺の手へと納まった。

 

「えっ?」

「ほらほら智花、まだ時間はあるぞ」

 

いつのまにか俺がボールの主導権を奪っていたことに驚く智花。

制限時間は残り15秒。

気持ちを切り替えて俺からボールを奪わないと、彼女の勝利はありえない。

それどころか俺にシュートを決められても敗北が決定する。

こちらに向き直った彼女は、懸命にボールを奪いにきた。

それをバックステップでかわし、ボールを股の下をくぐらせるようにしてドリブルさせて、背後の手へと入れ替える。

これだけで俺の正面にいる彼女は、ボールを奪うためにはなんとか俺の背後に回らなければいけない。

試合中ではこのように背後で隙だらけのドリブルを続けているわけではないが、これはワンオンワン。

相手が一人しかいないからこその状況だ。

 

「残り5秒!」

 

真帆が残り時間を告げる。

さて、せっかくなので智花に上の世界を一つ見せてやろう。

技というのは目で見て盗むもの。

是非とも将来、この技を君に会得してほしいと願いを込めて。

 

「いくよ智花」

 

足の親指に込めた力を爆発させる。

横にステップし、着地の瞬間。

ブレーキをかける際、その力を制御しているのは足の小指である。

つま先が床に触れた瞬間に、制動をかけようとする小指に力が入ると同じくして親指の力を再び爆発させる。

爆発させるといってもそれはあくまでイメージの問題で、実際に火を吹いて爆発するわけではないよ。

あっ、解ってらっしゃる? めんごめんご。

要するに、反復横跳びを人の目で追えるのは、一つの動作をした後に次の動作に移る瞬間、どうしても硬直しているからだ。

ならば硬直時間をなくせばいい。

あらかじめ着地と同時に跳ねるようにしておけばいいのだ。

結果として生まれるのは、認識のズレからくる意識の空白と、残像のような幻影だ。

智花の目には俺が一瞬二人に増えたように見えたのだろう。

体が反応できずに硬直している一瞬の隙をついて俺は横を抜き去った。

残り2秒。

それだけあればバスケットには十分。

ゴール真下から跳躍して、ダンクシュートをゴールに叩き込んだ。

 

「うおおお! ダンクだ! すばるんすげー!!」

「おー、お兄ちゃん格好いい」

「私ダンクシュート生で見たの初めて」

「凄い……」

 

大人気なかったかもしれないが、尊敬の眼差しでこちらを見ているからまぁいいだろう。

智花はその場で、俺が抜き去った時の体勢のまま固まっていた。

 

「……これが……神ステップ」

「うん? ……智花? とーもーかー?」

「…………えっ、あっ、ひゃい!」

 

よほど衝撃だったのか、俺の問いかけにも反応しない。

目の前で名前を呼びながら手をひらひらと振るとようやく気がついたようだ。

 

「あ、あの、あの……凄かったです! 長谷川さんがビュバッって二人に増えたように見えて、それで、それで、あの!!」

「ああ、解った解ったありがとう」

 

うぅむ。めちゃくちゃ興奮している。

ここまで感動してくれるのであれば披露した甲斐があったというものだ。

 

「難しいかもしれないけど、ステップは極めるとあんなことができるようになる。智花はどう、今の動きできるようになりたい?」

「私が、長谷川さんの神ステップを? ……はい、できるようになりたいです!」

「簡単じゃないぞ、習得するのにはかなりの練習が必要だ」

「大丈夫です!」

 

よし、気合は十分のようだ。

しかし智花は俺の長谷川流分身ステップの世間での呼び名を知っているようだ。

神ステップとか俺はちょっと恥ずかしいから自分で名乗ったことないんだけどな。

雑誌とかでも特集されたことあるから、それを読んだことがあるのかな。

なら難しさは他の子よりも知っているだろう。

これは個人レッスンが必要かもしれないね。

 

 

さて、最後に相手するのは真帆か。

今まで真帆が担当してくれていたホイッスルは、智花がやりますと主張してきたので彼女にやってもらうことにした。

 

「こ、これが長谷川さんのホイッスル……」

「でも長谷川さんの後に真帆が舐めちゃってるわよ?」

「ぐぎっ」

 

そんなやり取りをしている誰かさんがいるがスルーしておこう。

 

「すばるんからのご褒美はあたしがもらうぜー!」

 

そう言って元気に人差指を天井にかかげて、勝利のポーズをとる真帆。

やる気があるのはいいが、そういえばご褒美とか言ってたな。

でもジュースを奢るとか真帆は言っていたが、そんなに俺の奢りでジュースを飲みたいのだろうか?

別の生臭い飲み物ならいくらでも用意ができるのだけど、法律が禁止しているから駄目なんだよな。

えっ、どんな飲み物かって? …………酒ってことにしとけばいいんじゃない?

 

「それじゃあ始めようか」

「えっと、スタート!」

「よっしゃー!!」

 

先ほどの智花とのやり取りで感化されたのか、テンションの上がってやる気満々の真帆は、大きな声で気合をいれると俺に向かって突撃してきた。

このままぶつかるかという至近距離に来て、無理やりに床を蹴り体を横へスライドさせる。

おお、この急制動はまだまだ未熟だが智花のそれに近い。

先ほどのを見ていて真似したのか。

だが、そんな付け焼き刃で抜けるほどこの俺は甘くはないぞ。

体で真帆の進路を塞ぐようにしつつ、ボールの軌道の先に手を移動させて邪魔してみる。

本能的にこのままでは突破できないと悟った真帆は、その場で止まる。

 

「ぬー、そう簡単にはいかないか」

「ふふ、流石にびっくりしたけどな」

「でもまだまだー!!」

 

しかし諦めていない真帆は、反対方向へと切り替えて再チャレンジしてくる。

時折、つたないながらもフェイントをまぜようとしてくる事からも言動はおバカでありながらも、決しておつむが悪いというわけではないのだろう。

ただ、素直すぎるのでフェイントであるというのがばればれだ。

 

「ふぎゃ!?」

 

ついには、慣れない急制動を多用した動きのでせいで足をもつれさせて転んでしまった。

 

「だ、大丈夫か真帆」

「いてて、転んじゃった」

「もう、大丈夫? 真帆」

「おー、まほ痛そう」

 

見れば、真帆は左腕の肘をすりむいていた。

うっすらと赤く血がにじんでいる。

 

「大丈夫だって、こんなのつばつけときゃ治るよ」

 

前の記憶にある男子のような事をいう真帆。

色々と価値観が逆な現世ではそれが正しいのだろうけど。

つばを付けるなら指で塗れば届くだろうに、必死に自分の肘を舐めようとして届かないでいる真帆を見て、やはりおつむは良くないのかもしれないと思い始めた。

 

「真帆、ちょっとごめんよ」

「えっ? …………す、すばるん!?」

 

俺は真帆の代わりに、彼女の左腕を掴むとその肘の傷を舐めてやる。

突然のことにうろたえる真帆。

他人の血を舐めるのは本来良くないらしいけど、よくある傷を舐めてやるシーンやってみたかったんだよね。

うん、鉄の味がする。

さすがに美少女の血だからといって甘いとかそんなわけもなく、普通に血の味だった。

これで美味しいとか感じたら、本格的にやばい人なので病院にいかなければならないじゃないか。

俺の味覚はいたって正常ですので安心してください。

医療行為だからね、不可抗力不可抗力。

 

「うん、たいした傷じゃないみたいだからすぐにカサブタになるだろ。真帆、痒くても引っ掻いたりすんなよ?」

「う、うん」

 

真っ赤になって借りてきた猫のように大人しくなる真帆。

嫌がっていたならさすがに傷つくが、この子の場合、本気で嫌なら今も掴まれている腕を振りほどこうとすると思う。

されるがままになっているという事は、少なくとも嫌というわけではないのか。

顔が茹で蛸のように真っ赤になっている。

おぉ、照れてる照れてる。初心なやつよのう。

 

「キャー! 傷をぺろって!」

「おにいちゃん、いたいのいたいのとんでけもしないとだめですよ」

「ほわぁ……漫画みたい」

「は、はしぇがわしゃん……わたしも血が……」

 

後ろで姦しく騒いでいるメンバー。

あと智花、視界の端に映っていたけどその傷自分で今つけたろ。

指先をかじってたの見てたぞ。

まぁでもせっかくだし。

俺は真帆の頭をぽんぽんと軽くあやすように叩いてから、智花のところへと向かった。

ぷるぷると震えながらこちらに見せてくる指先を見ると、けっこうがっつり噛んでんなおいと言いたくなる傷だ。

利き手じゃない方をしている辺り、理性が働いた結果もあるだろうが、この子はなんというかえらく積極的だよなぁ。

まだ幼いながらも発散できない性欲を持て余している気がする。

このままでは俺の幼馴染のように残念な女性に成長しないか心配である。

適度にガス抜きしてやる必要があるかもなぁ。

そんなことを考えつつ、その場で片膝をつくと彼女の手をとった。

彼女の左手の人差し指には、血が滲んでいた。

先ほども言ったかもしれないが、本来は他人の血を舐めるのはよろしくないのだが医療行為だからしかたないね。

 

「はわぁぁぁぁあああぁ」

 

ぱくりと口に咥えて気がつく。

そういえば智花がかじった跡ということは、ある意味これも間接キスともいえるだろう。

口の中で舌で指を包むように、優しく傷を舐めて唾液を刷り込んでやる。

智花は恍惚とした表情を浮かべていた。

しばらくすると舌に感じる血の味が薄まったので、出血が少しましになったようだ。

チュポ……という小さな音をたてて指と俺の唇が離される。

 

「はふぅふふ、もうわたしこのてあらいましぇんんん」

「いや洗いなさい」

 

俺は真顔で即答した

 

「はひぃいいい」

 

ちょっとこの子はバスケ以外についてポンコツすぎじゃないですかね。

 

 




感想をいただいたものを見ていると、作者の友人について気になるといったものが多くて大変恐縮です。
この間、年が明けて一緒に飲んだ時にそのことについて照れている友人を見て少しイラッ⭐︎としたのは間違っていないと思いたい。

年末年始で考えていた内容をとりあえず書いてしまったので、もともと不定期更新ではありますが、ここからは更新が少し遅くなっていくかもしれません。
といっても、二日おきくらいだったのが三日おきから一週間とかくらいのつもりではいるのですが。
あっ、でもこの後の幕間チャットの話は案外すぐできるかもしれません。
もしくはそれすらもすぐにできないかもしれません。

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