アーサー王物語群のさりげない重要人物に性別転換してなっていた件について   作:八雲 来夢

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冒険が始まった。

なんかもう一年経ってた。

ケイ卿には相変わらずいびられてるけど別になんともない。

 

同じ台所仕事の人たちとは結構仲良くなれたと私は思っている。あちらがどう思っているのかはわからないけど。

朝っぱらだが急がないと冒険に出られなくなる。リネット嬢が来たのは朝だったはず。やべぇ。

 

早歩きで玉座のある大広間へ向かった

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

 

 

とある少女が王宮に現れて12ヶ月、即ち一年が経った聖霊降臨祭の朝。

 

騎士達と王が大広間に集まった時に、一人の乙女が駆け込んできた。

乙女は王の前に膝をつくや否や、矢継ぎ早に用件を口にする

 

 

「お力添えが欲しいのです。私が仕えますリオネス姫が、とても、困っております。

  横暴で冷徹残虐な[赤の国の赤い騎士]によってお城を包囲され、自分の城ながらに、囚われの身となってしまっているのです。

赤い騎士の所為で姉の国は、すっかり枯れ、荒れ果ててしまいました。そして赤い騎士は、姫その人を寄越せと要求しているのです」

 

 

[赤の国の赤の騎士]とは、危険極まりない故に、彼を知る全ての者から、世にも危険な騎士の一人と称されている騎士であった。

 

 

 

話が終るか終わらないかのうちに、いつのまにやら台所へと通じている通路の脇に立っていた少女が、その目を輝かせながら玉座の前へと歩み寄り、王に向けて口を開いた。

 

「アーサーさま、この一年間頂戴しました、食物、飲物、心地よい寝床に感謝を申し上げます。

  さて、十二ヶ月が経ちましたので、お約束くださいました三つの贈り物の残りの二つを、今、お願いしたいと思います」

 

「言うがよい」 

 

「まず、この乙女の冒険を、私に引き受けさてください。それだけの働きを十分にしたと、私の心中にはございます」

 

「うむ。それはわたしの心の中にもある。して、三つめの贈り物は?」

 

「湖のサー・ランスロットに、一緒に来ていただきたいのです。そして、私が騎士にふさわしい働きをしたと判断するまでいてもらいたいのです。騎士にしていただくなら、サー・ランスロットにお願いしたい。」

 

 

王は少女からランスロットへと目線を動かして是非を問うた。

そして、元より少女を気に入っていたランスロットは、その問いに確かに頷いた。

 

「そなたの望み通りにしよう」

 

 

 

 

王が言葉を紡いだその時、それまでひざまづいていた乙女が、急に立ち上がった。

 

 

「では、私の力添えとして、料理番の見習いしかくださらないのですか?

  この大広間には、世にも一流の騎士達が星空の様に揃っているというのに!?

 

 

   そんなことならば、お力添えなど願い下げですわ!!!」

 

怒りで頬を真っ赤にしながら言い捨て、乙女は憤然としたままに大広間を後にした。

そして中庭にいた従僕をヒステリックに、叫ぶように呼んで、心に怒りの炎を燃やしながら宮廷を立ち去った。

 

 

乙女が大広間を後にしたのと入れ替わるように、小姓の者が王に伝言を伝えに来た。

 

去年少女と一緒にやって来た付き人が戦馬と立派な剣を携えて中庭に来ており、御主人が出てくるのを待っている所だと述べているのだと言う。

少女は大広間にいたほとんどの騎士に付き添われる形で、中庭へと出ていった。

 

少女は昔からの忠臣の様に付き人に声をかけると、彼の持ってきた剣を腰につけ、2倍の差もありそうな大きな戦馬に楽々とまたがり、乙女を追いかけて行くのであった。

そしてランスロットも、自分の馬を呼び、武具を持ってくるよう命じた。そして瞬く間に鎧を纏い馬にまたがり、二人の後を追った。

しかし、ランスロットだけでなく、ケイもまた、自分の馬と武具を持ってこいと叫んだ。

 

 

「私も、料理番の小娘を追いかける。騎士にしてやるために台所に放り込んだんじゃないのだからな。まったく、しゃしゃり出やがって!今に見ていろ」

 

 

「サー・ケイ。お前は来ない方が良いぞ」

 

「まったく。貴方は城にいて、飯でも食ってる方が身の為です」

 

 

ランスロットとガウェインが忠告をするが、馬に乗ったケイは耳を貸そうともしない。ケイはそのまま一生懸命に馬を走らせ、ランスロットを追い抜いて行ってしまった。

ランスロットは顔を兜の中に隠したまま、半ば呆れた様に口元を少しばかり緩めるのだった。

 

 

少女が乙女に追い付くのと同時に、ケイも二人に追い付いた。

ランスロットは少し離れた所にいた。何が起こるか様子を窺っていようと思ったからだ。

 

「おい、ボーマン!貴様、私が何者か分からぬはずはあるまいな」

 

呼びかけられた少女は、くるりと馬の首をケイの方へと向けた。そして、いままでとはがらりと変わった声でこう答えた。

 

「ええ、勿論。宮廷にお仕えする無作法で無礼千万な騎士とお見受けいたします。ですから、あまり私を侮らないでいただきたい。サー・ケイ」

 

「なにを!!」

 

ケイはそのまま槍を構え、少女めがけて突進した。

少女は剣を抜き、接触する直前に馬をひねり、ケイの持っていた槍を剣ではたいた。そして剣の切っ先をケイの鎧の肩あての縁の下にすべるように差し込んでぐいっと押した。

たったそれだけで、槍をはたかれた時に体勢を崩していたケイは馬から落ち、意識が朦朧となった。

 

少女は馬を降り、ケイの持っていた槍と盾を手に取ると、また馬に乗って乙女の後を行くのだった。

 

ランスロットはもう意識のないケイの元へと寄ると馬を降り、ケイの傷を確かめた。彼の傷が大したことはない事を確認すると、担いでケイの乗ってきた馬に乗せ

 

「こいつを城まで運んでやってくれるか。こいつなんかより、お前の方が物が分かる」

 

そう言って、馬の首をトントンと軽くたたいた。そして、自分の馬に乗り、先を急いだ。

 

 

馬は、確かに城へと自分の主を運んで行くのであった。

 

 

 

 

 

ケイが馬に担がれている間に、少女は乙女に再び追い付いた。しかし、乙女からは優しい言葉など一言も掛けてもらえなかった。

というのも、この乙女はとても美しく、小鳥のヒワを意味するリネットという名であり、いかにもたおやかそうな乙女だが、その二つとは裏腹に、その性質には優しさの欠片もない。そんな乙女リネットは大きな声で怒鳴った。

 

「よくもまぁ付いて来るわね!台所に帰ったらどう、ボーマン?ええ?あんたの名前、知ってるわよ。あんな卑怯な手を使って倒した、あの騎士に着けてもらったようね。あんたの手がちいさくて、ガッサガサに荒れていて、鵞鳥の毛むしりやら焼き串の世話ばかりしている手だから、そんな名前になったんだそうね!

 どうしてもというのなら、私からもっと離れなさい!台所臭くてかなわないわ!!」

 

 

「何とでもお言いなさい」

 

少女は終始落ち着いた様子だった。

 

 

「私は帰らない。貴女の冒険は、私が解決するべき冒険なのですから。

  王様が下されたのです。命がこの身体に宿っている限り、私は絶対に逃げも隠れもしません」

 

「解決するですって?あんたみたいな台所の騎士が?

 今に恐ろしい敵が出てきて、”こんな恐ろしいのを敵にするなら、アーサー王の台所で今まで啜ってきた美味しいお粥を全部お返しします”なんて、泣き言を抜かすに違いないわ!」

 

女は嘲った。

 

「力の限りを尽くすだけです。まぁ、どうなるか様子を見ては如何ですか」

 

と、少女は優しく言った。

そして、女から少し遅れるようにして馬を進めるのであった。

 

 

 

 

森をしばらく行くと、枯れた黒いサンザシの樹があった。

その枯木の枝には、黒い槍と、黒い盾が吊るしてある。その樹の根元には黒い石があり、全身を真っ黒な甲冑に身をつつんだ、とても小柄な男の騎士が座っていた。近くで真っ黒な馬が草を喰んでいる。

 

 

「さぁ、あの騎士が馬に乗る前に、さっさと谷をくだって逃げるのよ。あれは[黒の国の黒い騎士]、誰も太刀打ちなどできやしないわ」

 

「そうですか。御忠告ありがとうございます」

 

 

と、少女は言ったが、何も聞いていなかったかのように真っ直ぐに進んだ。

その距離が縮まると、黒い騎士が立ち上がって尋ねた。

 

 

「乙女よ、これがアーサー王の宮廷から連れてきたそなたの騎士か?」

 

「とんでもない!この人は脂じみた料理人よ。私は嫌だっていうのに、お構いなしについてくるの。だから、お願いよ、痛い目に遭わせて追い返して頂戴!台所の臭いにおいはもう飽き飽きだわ!」

 

「ほぅ、そんなことなら。その結構な鞍からはたき落してやる。料理番の見習いごときが、馬に乗ってはいかんのだからな。それに、そいつの馬はやけに立派じゃあないか。わたしが使わせていただくことにしよう」

 

 

黒の騎士は口笛を鳴らし、自分の馬を呼びながらそんな事を言った。

 

 

「私の馬について、随分と勝手なことを言ってくれるじゃないですか。手に入れることが出来れば、無論あなたの物ですが。さぁ、かかってきなさい。それとも脇に退いて、こちらの乙女と私を通しますか?」

 

「いいや、そいつぁ不味い。一介の料理番が、嫌がる上流の令嬢につきまとうのを許すわけにはいかん」

 

 

「台所の騎士といってもどんな騎士か、上流の令嬢といってもどんな令嬢か分からないではないですか。それに__」

 

 

いままで冷静でおだやかであった少女が、珍しく波を立たせてこう続けた

 

 

「__私は一介の料理番などではない。お前なぞよりも、よほど立派な血筋の者だ」

 

 

 

黒い騎士は馬に乗り、枯木から槍と楯を持つと、互いに互いから距離をとった。

 

 

そして、それなりの距離が開くと二人は振り返り

 

 

 

 

雷鳴のような地響きを鳴らしながら馬を駆けさせ、槍を突き立てた

 

 

 

 

 

 

黒い騎士の槍は、少女の持っていた盾を粉々に打ち砕いた

 

 

 

そして、少女の槍は、黒い騎士の鎧の繋ぎ目を通し、鎖帷子とその身を貫いた。

 

 

 

まるで弓に射抜かれた鳥の様に、黒い騎士はまっさかさまに馬から落ちた。

落ちた際に首の骨でも折ったのだろう、黒い騎士は息絶えた。

 

それに気付いた乙女は、馬の首をねじるようにして向きを変え、狂ったように拍車を馬の腹に蹴りこみ、一言も口を聞かずに進んで行ってしまった。

 

しかし少女は馬を降りた。

そして黒い騎士の鎧をはぎ取ると、それを身に付けた。

 

黒い騎士の鎧は美しい黒一色で、太陽の光に照らされ青紫に輝いていた。

 

 

 




沖縄土産のちんすこう食べてたりサトウキビ齧ってたりしてたらなんかランキングに載っててファッってなりました。
こんなにわか者ですが温かい目で見守ってやって下さい。

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