どこにでもあるようなガハマさんとヒッキーのお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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 いきなり二話から。
 というわけで、まずはこもれびさん作【リミ・ライ】をどうぞ。

 ⇒第一話:オレガイル https://syosetu.org/novel/163060/60.html

 一応こちらもとある映画作品のクロスとなっております。


彼ら彼女らの【未来について】
第二話 マシン(side:T)


 あの日───由比ヶ浜が消滅した日からどれほど経っただろう。跡形も残らず、なんて、言ってしまえば最高に“綺麗な死に方”だと言うヤツも居る。

 悪気はないのはわかっている。信じたくないだけなのだ。

 だが、その“跡形も残らず”を、逆に見つけられていないだけなのではないかと思い、探す馬鹿も居る。

 そして、そういう馬鹿というのは得てして、失くしてから無くなったものの大切さに気づく馬鹿ばかりで……そんなことは自分が一番知っていると常日頃から考えていたくせに、やはり失くしてから気づく馬鹿こそが───俺だった。

 現実を受け止めきれず、由比ヶ浜を探す日々ばかりが続き、ふと誰かに腕を掴まれ止められた時、自分が時間を無駄にしていたことに気づいた。

 俺を止めたその誰かは小町であり、俺を見ては泣いていた。

 もう由比ヶ浜は居ないのだと。

 お願いだから受け止めてよと。

 俺に、そんな行動はやめてくれと唱え続けていた。

 ……その言葉に頷いたわけじゃない。

 ただ、他にやれることを探す気になった。     

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 元があるからフィクションは生まれる、なんて言った人が居た。

 誰だったかを思い出すつもりはない。

 その言葉を希望に、モヤのかかったフィクションに手を伸ばした。

 先なんてまるで見えない。

 まるでなにかに取り憑かれたように頭の中を理論と空想で埋め尽くし、足りないものを図書室や図書館で埋める日々。

 その合間にも、由比ヶ浜のことを忘れてしまった雪ノ下と“普段通り”の関係を続ける。

 戸塚や材木座、驚いたことに葉山にまで心配されたが、歩を止める気はなかった。

 

……。

 

 いつからか変人と呼ばれるようになった。

 急遽行くつもりだった大学を変更、必要な知識がありそうな場所へ合格、そこで見かけられるたびに言われる言葉。

 まるでそれしかないかのように研究に没頭、それ以外では金の捻出のためにバイト、生活の切り詰め、体が軟弱にならないための運動。

 なにを目指しているのかと教授に言われて、寝不足のためかつい口が緩んだ俺を前に、教授は笑った。

 以降、俺はその教授を信じなくなった。

 

……。

 

 たまに雪ノ下が会いに来る。

 大学も違うのに、よくやる。

 なんとなくいつかのノリでもしかして友達も居ないのか? なんて言ってしまったら、それが地雷だったと知った。

 やだもう……! この娘ったらあの頃からあまり成長できてない……───って、それは俺もか。

 

「あなたは今も馬鹿みたいな研究を?」

「ちょっと? カタチはどうあれ、人が夢中になっているものに対して馬鹿みたいはないんじゃない? 俺泣いちゃうよ?」

「そうね、ごめんなさい。けれど結果も先も見えていないのでしょう? その、一応……心配しているのだけれど」

「………」

 

 マジか。雪ノ下が素直に心配を口にするレベルでやばいのか、俺。

 一応身だしなみにも気をつけてるし、寝不足の方もまあ、時間が取れたら取れた分だけ寝ていて、最近は“死んだ魚のような目”から“ミスター・デッドアイ”って呼ばれてるんだが。いやそれもう死んでるからね? “ような”を超越しちゃってるから。

 

「……そう。冗談を受け止められる程度には落ち着けたのね」

「元から落ち着いてるよ。当時の周囲が言葉を選べなかったって、それだけのことだろ」

「……そう。その……由比ヶ浜……さん、の、ことは……まだ……?」

「おう」

 

 特にこれといって伝えられる成果はない。伝える必要があるかどうかもわからないからだ。

 ただいつか、由比ヶ浜マに許可を得て由比ヶ浜の部屋へと雪ノ下を連れていった時、奉仕部関連の写真を見て、思い出せないながらもこいつが涙を流したのを思えば、こいつらの関係はうすっぺらではなかったと確信は持てたし……完全に居なかったもの、として振る舞われるよりは、俺は冷静で居られたのだ。

 

「ところで雪ノ下」

「? なにかしら」

「お前、タイムマシンって知ってるか?」

「馬鹿にしているのかしら。フィクションとはいえ、それを知らない人は相当少ないでしょう」

「ああ、すまん、訊きたかったのは知識としてじゃなくてな。……現物だ」

「……? 現物、って……あなた、まさか」

「ああ、出来た。正直出来るとしか思ってなかったとはいえ、いや……思い込もうとしていただけではあったんだけどな」

「……。濁している部分があるわね。比企谷くん、それにはどういったリスクがあるのかを答えなさい。今すぐに」

「作れたことに対して疑問を抱かないんだな……ああいや、正直話が早くて助かるが。べつに濁したわけじゃねぇよ、言ったところで信じてくれるのかって部分が大半だ。ただ、わかってるよな?」

「ええ。作ったからには使うのでしょう? ただその、それは……」

「成功はする。確実にだ。ただ、懸念材料はそこじゃない」

 

 タイムマシンは出来た。ハッキリ言って偶然だし、けれどアホみたいな超常の話でもあれば、目指したのはそういう場所なのだからと納得出来ることでもあった。

 が、やはり懸念材料はどうしても存在する。それは、これを作ろうと思ったきっかけの作品……そう、言った通り、フィクションのことだった。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 雪ノ下に大した説明もせず、実験は実行された。

 言ったところで受け入れられないとわかっていたからだが、べつに彼女が来た日にやる必要はなかったと言える。

 が、恐らく俺も心の中では“繋がり的ななにか”を求めていたのだろう。あるいは、彼女が居ればきっと、と思うなにかを。

 

「───……」

 

 そうして、疑いも持たずに実行されたそれは、俺をあの日の事故が起こる直前まで飛ばした。

 助かったのは、まだ迫る危機が少しでも遠くにあったこと。それに気づき、すぐに行動。

 二人を迫るトラックから強引に引っ張ることで回避させ、急に引っ張られて驚いている彼女らの後ろを、トラックが呆れる速度で走っていく。それを知ると、彼女らは息を飲んで……やがて轟音を立てたそれらを、黙って見つめていた。

 

「っ……あ、ッ……あり、が……ありがとう、ござい、ます……」

 

 いきなりなにを、離して、などととりあえずいきなり腕を掴まれた女性が叫ぶであろう言葉を、一通り耳にした俺だったが……危機であったことを知れば、届くのは感謝だった。

 が、まあ。こっちから言えるのも感謝だ。

 お前らが無事で、本当に───と、炎上するトラックから視線を戻した時のことだ。

 

  ……由比ヶ浜が、消えていた。

 

 未だ動揺が抜けていない雪ノ下は気づいていない。

 だが俺はそれを見て、嫌な予感が的中したことに……ただただ、泣きたくなった。

 

  タイムマシンという映画がある。

 

 事故で最愛の人を亡くした主人公が、過去に戻って彼女を助けるために研究し、ついにはタイムマシンを作り、過去に飛ぶ、というものだ。

 ただし世界は繋がっていて、過去に○○をしたから未来が○○した、なんてことにはならない、“やり直しの利かない世界”のお話。

 たとえば……ニュースで報じられたように、死者0名、行方不明者1名と……世間が由比ヶ浜結衣という少女を“そう認識した”から、俺は過去に戻ってその存在を救い、行方不明を報じたやつらと、探索を無駄だと言ったやつらに証明しようとした。彼女はここに居るのだと。

 

  だが、“彼女が行方不明にならなければタイムマシンは作られなかった”。

 

 そこにどうしても矛盾が発生する。

 だから世界は、由比ヶ浜を危機から救ったとしても、結果として俺がタイムマシンを作らなければいけない未来にしてしまう。

 助けたのに消えた……神隠しに近い状態が現在のそれで、今もいろいろ考えているであろうこの時代の俺が、タイムマシンを作るきっかけを作った、ということだ。

 そして、そうであるならば。

 雪ノ下も記憶を失わなければいけないわけで。

 

「!? 雪ノ下!」

「え、あ───」

 

 トラックの炎上、爆発とともに、なにかが飛んできた。

 咄嗟に動いたのに間に合わなくて、音に反応してそちらへ向いてしまった目の前の少女の額に、それが衝突する。

 

  ソレが、世界というものだ。

 

 過去に戻っても得られるものはない。

 世界はどうしようもなく繋がっていて……こんな機械が作れても───

 

「うわぁああああああああああっ!!」

 

 そこ居ない“俺”が知らない限り、ここに来た“俺”が、額から血を流し、倒れる少女を見てしまうことに、なんの不都合もないのだ。

 ただそれだけの装置。

 未来の俺が、どれだけ救おうと足掻こうと、結果だけが残るこの未来を俺は、抗えば抗うほど目の前で見ることになるのだ。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 それでも、を信じた。

 可能性ってものを信じて、消える原因はなんなのかを知ろうとして、助けても消えて、忘れられて。

 どうあっても消えてしまう由比ヶ浜と、どうあっても頭に衝撃を受けて由比ヶ浜を忘れてしまう雪ノ下を、もう何度見ただろう。目の前で消える人、傷つく人を見ては心が叫び、泣き叫び、手が届いたところで救えもしない状況に、心が折れそうになった。

 それでも繰り返し、やがて考えることが辛くなり、涙も流しすぎたと……自分を振り返ることが出来るようになってきた頃。

 

『む? 過去を変えるやり方? いやあの八幡? 我今締め切りとかいろいろ───』

 

 すがる思いで電話をかけた先で、今尚中二病的な小説を書いている男が、泣き言を唱えた。

 落ち着かない気持ちで、すがっているのに早くしろよとばかりに尖ってしまう心を落ち着かせ───

 

『決まっていることは変えられぬのだ、八幡よ。ただし、本当に戻れるのだとしたら、単純に考えてみればよい。どんなSFを見たのかは知らんが、行方不明と記憶喪失……あれ? これ、かつての奉仕部の……?』

「材木座、すまん。そういう詮索無しで頼む」

『……。いつからかお主がおかしくなったと思ってしまったが。───作れたのか?』

「材木座」

『八幡、我……いや。俺は真面目に訊いているぞ。出来たのか、出来ていないのか』

「…………。……出来た。過去に戻れる。けど、戻れるだけだ、どれだけ助けても、守っても、次の瞬間には由比ヶ浜は消えていて、雪ノ下が頭に衝撃を受けて忘れちまう。どんなに頑張っても、どんなに叫んでも……助けられなくて。どれだけすがっても、どれだけ頼っても、真面目に聞いてくれる人も、もう……! ざぃっ……材木座っ……俺はっ……俺はよぅ……!」

『……───……そうか。ならば結論はひとつだ八幡よ! 中二先生と囁かれる我の、これは世界に対する挑戦である! いいか、まず───』

「───」

 

 材木座の口から語られる言葉に、ただただ耳を傾け続けた。実行はする。絶対にだ。だって、もう八方塞がりだった。

 教授には笑われた。周囲も変人呼ばわり。

 なにも言いはしなかったが、時々会いにくる平塚先生でさえ、背を押すのではなく諦めを提案してきた。

 なのにこいつは……!

 ああ、だからやってやる。どんなことだって、やってやるさ───!

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 そうして、やることは「はぁ!?」と思わず言ってしまうようなことで、けど……実に馬鹿な行動でも、希望は抱いてしまう行動だった。

 

「っ……」

 

 まず、過去に戻る。

 もう何度も見て、何度も失敗して、何度も泣いた光景に、心が“もう嫌だ、やめてくれ”と叫ぶ。

 だが諦められないから走り、腕を掴み、引き、まずはトラックの事故から二人を守り───

 

「え、な、な───《ごすんっ!》ふきゅんっ!?」

「ゆきのんっ!?」

 

 次に、助けた雪ノ下の額にマジ頭突きをかまし、痛がっているうちにトラックの破片が飛んでこない場所まで移動。

 次に───

 

「は、離してください! こんなことして───え? ひ、ヒッキー……?」

 

 俺の顔を見て驚く由比ヶ浜に、心からすまんと言って。

 俺は雪ノ下の腕だけを離し、その場でタイムマシンを使った。

 ……それが、材木座が口にした、未来の変え方、というものだった。

 

 

     ×   ×   ×

 

 

 受話器の先で、そいつはふざけるでもなく想像から外れたことを口にし続けた。

 研究や、本になら書かれていないような発想だが、以前のラノベやゲームに傾いていた俺の頭だったら、きっとひねくれつつも頷いていたであろうこと。

 

『いいか八幡。貴様がしてきた経験を聞くに、恐らく作ればいいのは単純な結果だけだ』

「単純な……結果?」

『うむ。過去の貴様がタイムマシンを作らなくては、と思うような過程はどうしても必要だ。そしてそれには、どうしても貴様が憎からず大事に思う者や物の消失が必要となるだろう』

「いや……待ってくれ、それは」

「もちろん、人が……すまぬが言わせてもらうぞ。もちろん人が一人死んだ程度で、人は自分の人生を台無しにするやもしれん行動にはなかなか出ない」

「───。~……すまん、続けてくれ」

「うむ」

 

 程度、と言われて腸が煮えくり返りそうになったが、それを抑える。

 だが実際はそうだろう。

 きっと親しい人もおらず、対して興味もなければ、俺だって誰かが消えた程度でこんなにも心を動かされなかった。

 ○○が死んだと聞いても、その時には泣いても、やがて受け入れるのだろう。

 だが今回は由比ヶ浜が消えて、雪ノ下が記憶を失った。消えたというのが不可解で、雪ノ下が忘れてしまった、というのが問題なのだ。それは譲れない。いずれ時間が解決するとはいえ、じゃあ時間で解決してやれないのかと唸っていたら、ここに辿り着いたのだから。

 

『だからな、八幡よ。“貴様が攫えばいい”』

「───え?」

『貴様は過去に戻れる。戻って、由比ヶ浜嬢と雪ノ下嬢を事故から救い、その上で雪ノ下嬢の頭に“強烈な一撃”を加え、由比ヶ浜嬢を攫い、“その場から消えればいい”』

「はぁっ!?」

『結局、由比ヶ浜嬢が消えるのを見たのは雪ノ下嬢のみで、その本人も記憶喪失。“どう消えたか”もわからないのであればな、八幡よ。そこに、過去に付け入る隙というものが生まれるのだ』

「付け入る……」

『研究と馬鹿正直な考察ばかりで幻想を忘れたか、八幡。このような搦め手は、貴様こその十八番だったろうに』

「…………俺は…………あいつらを、救い、たくて……」

『わかっている。貴様が我に相談するとなれば、相当行き詰ったからこそだろう? だが、あえて言おう。……よくぞ相談してくれた。辿り着いてくれた。諦めなかったからこそ伸ばせた手と思考である』

「~……悪い、すまん、ありがとう、~……すまんっ……」

『もははははは! なんのなんのナンジョルノ! 我と貴様の仲であろう! あ、でも……これで救えなかったらなんかごめん……』

「いや。そん時はまた連絡する。……一緒に考えてくれ。何度も、何度でも」

『うむ! その時は強力であるが故に協力しよう! 微力などと卑下はせぬぞ! 人を救うというのに微力を謳ってなんとする!』

「ははっ……ああ、頼む」

『うむうむ然り!! あ、ところで我の仕事のネタ提供も手伝ってくれr《ブツッ》』

「あ、やべ」

 

 話しているうちに、心があの頃へと戻っていくような気分だった。

 心の底から励まされた……そんな気さえした。

 雪ノ下が由比ヶ浜を忘れ、一番覚えていてほしい人から、まるで赤の他人、全く知らない人を語られる恐怖を知っている。

 でも……救うという言葉を疑わず、背中を押してくれる人はまだ居たのだ。

 

「………………ぁあ、ちくしょう……っ……」

 

 深く思う。

 ぼっちだどうだとどれだけ言おうと、俺はきっとあの高校で出会った人達にこそ恵まれたのだと。

 戸塚は出会う度に心配してくれた。平塚先生も、心配だからこその言葉だったのだろう。

 それを、応援してくれないだのと悪い方向に考えていたのは俺だけだ。

 だって、普通は戻れなくて当然なのだ。そんな幻想のために人生を燃やす……そんなかつての生徒を心配するなっていうのは、あの先生にしてみれば……ああ、確かに、無理なことだったんだ。

 ああ、そうか……俺、またつまんねぇ勘違いを……。

 すんません先生、今度ラーメンでも奢らせてください。

 

「~……よしっ」

 

 滲む視界を乱暴に拭うと、さあ、あとはやるだけだとタイムマシンを起動させるのだった。

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