ある日、ある場所で、極限状態の男が二人いた。

二人は何を話すのだろうか。

1 / 1
戯言

 この場所をなんと表現していいか分からない。灰色の空。立ち込める硝煙。鉄を焼いているのか、何かを焼いているような音と臭い。むせ返りそうだ。

 

「ったく、ガタガタだこりゃあ」

 

そんな世界の中で、男が誰に言うのでもなく吐き捨てる。男は苦悶の表情を浮かべている。それもそうだ。男の足はあらぬ方向を向いている。

 

「よお、お前さん大丈夫…ではなさそうだ」

 

別の男が話しかける。この男も人の心配をしている場合ではない。地面を這いずるのがやっとの状態だ。

 

「あんたよりはましだよ。それより、世間話でもしねえか?」

 

男が提案する。男はなぜか笑みをこぼしている。その提案は、現実逃避のようにも聞こえる。

 

「それで、何を話そうってんだ?」

 

だが別の男は、その提案に乗った。自らが置かれた状況から、少しでも気が休まると思ったのだろうか。その真意は定かではない。

 

「いや、簡単なことだ。今、何でもできると言われたら、何がしたい?」

 

男は、人の心をくすぐるような笑みを浮かべ、質問する。それに対し男は少し考え、一息つけると、質問に答えた。

 

「そうだな、安心して寝たいよ」

「というと?」

 

男は質問の答えに対し、続けざまに質問する。男は答えの理由を、ゆっくりとではあるが、しっかりと説明する。

 

「何も心配せず、何も悩まず、何も考えないで寝たい。それは簡単なようで、難しいことだと思うんだよ」

 

男の表情は、何かを噛みしめるように感じた。

 

「確かに、今ここで寝ろと言われれば、簡単に寝ようとするが、だが目を瞑ればいろんなことを考えちまう。なるほどな」

 

男は笑みを浮かべながら頷く。さて、今度は別の男が質問する番だ。

 

「で、お前さんは何がしたいんだ?」

「そうだな、俺は忘れられたものが行きつく場所に行ってみたい」

 

男は遠くを見つめながら答えた。別の男は、困惑している。それもそうだ。何を言っているかさっぱり分からない。

 

「なんだそれは」

「そのままの意味だよ。そいつのことを忘れちまったんだったら、そいつはどこへ行っちまったんだろうな」

 

男の困惑は増すばかりだ。

 

「皆が忘れてしまっただけで、そいつはそこにいるんじゃないか?」

「いや、そいつが忘れられちまった。認識もされない。なら、そいつがそこに“いる”ということにはならないんじゃあないか?」

 

男は悟ってしまった。この男が何を言いたいのかを。

 

「だから、その忘れられた先を見てみたいんだ」

 

先があるのだろうか。忘れられたものはただ、消え去るだけではないのだろうか。だが、それはそこにある。だとすれば、それは一体何なのだろうか。

 

 

 そして数分の沈黙。その静かな時間を打ち破るかのように、空気を切り裂くような爆音がこの一帯に響き渡る。その爆音は、こちらに近付いている。その音は、二人の近くで、鳴りやんだ。

 

「はは、どうやらその先にはいけないようだぞ」

「ふん、余計な事しやがって」

 

二人の表情は、何かを受け入れるようだった。

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。