宮永咲の白糸台生活   作:タマアザラシ

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宮永姉妹と夢乃マホ

・・・長野県のとある墓地

 

「お姉ちゃん、お水を汲んできたよ」

 

「ありがとう咲」

 

インターハイの出場が決まった宮永咲と宮永照は本来なら白糸台で練習に明け暮れなければならないのだが、二人はこの日、監督と菫の許可をもらって長野へ向かい、そしてとある墓の掃除をしているのだった

 

掃除を終え、花も新しくした咲と照は線香をあげた後、手を合わせ、そしてしばらく拝んだ後に申し訳なさそうな顔を浮かべるのだった

 

「・・・本当だったらお盆の時に来るべきなんだけど、私と咲の最初で最後の一緒に参加できるインターハイだから、報告に来たんだ」

 

その墓には『宮永家之墓』と書かれており、そしてそこにはとある少女の名前が刻まれているのだった

 

「私も咲も絶対に負けられない試合がこれから続く、だからどうかあなたに見守ってほしいんだ

 

 

 

 

・・・・みなも」

 

その少女の名前は宮永湖(ミヤナガ ミナモ)・・・咲と照にとってもう一人の姉妹の名前であった

 

______

 

「「ま、迷った」」

 

・・・墓参りを済ませて今日は長野のホテルに宿泊する予定であった咲と照であったが、久しぶりの地元と二人の迷子スキルによって自分たちが今いる場所がどこかわからないまま迷ってしまったのだ

 

「咲、ずっとここに住んでたのにここがどこかわからないの?」

 

「つ、通学路やよく買い物に行く場所ならわかるんだけど普段めったに行かないところはちょっと」

 

もしかして私たちはこのまま帰れないのではと二人の頭によぎっていた

 

「・・・とにかくいろんな人に話を聞きながらどうにかしよう」

 

「そうだね・・・」

 

二人は道行く人たちに話を聞きながらなんとかしようと歩き出した、その時だった

 

一人の中学生の女の子が自分たちの横を通り過ぎた瞬間、初めて自分たちと同じ『存在』と出会った時のプレッシャーを感じ取ったのだ

 

「「ッ!?」」

 

二人は思わずその女の子の方に振り返ったが、その時には先ほど感じたプレッシャーは感じられなかった

 

(勘違い?でも・・・)

 

(お姉ちゃんも反応してたし・・・)

 

自分の勘違いかと思ったが、姉妹で同じ反応をしたことから勘違いとは考えられず、さっきのは一体何だったのか首を傾げていると

 

「あう」

 

なんとその目の前の女の子が足を躓いて思いっきり地面に倒れてしまい、二人は驚いてその女の子に駆け寄った

 

「だ、大丈夫?」

 

咲はしゃがみこんでその女の子の手を取り、女の子は涙目になりながら咲の手を握るのだった

 

「す、すみません、ありがとうございます・・・」

 

女の子は咲の手を取って立ち上がった瞬間、咲の顔を見た瞬間に固まり、照と咲はどうしたのかと首を傾げた・・・二人は知らないが白糸台の宮永姉妹については姉がチャンピオンであり妹の咲もインターミドルチャンピオンだったこともあって多くの麻雀雑誌に取り扱われた、つまり照もそうだが今では咲も麻雀業界の間では有名人なのだ、つまりそんな有名人が目の前に現れれば

 

「み、宮永咲さんと宮永照さんーーーー!!!???」

 

当然、ものすごく驚かれるのだった

 

_____

 

咲と照は女の子が驚きの声を上げたため、その子を連れて近くの喫茶店へ入り、飲み物を注文した後に目の前の女の子と向き合うのだった

 

「あの、さっきは大きな声を上げてしまってすみません!!」

 

「う、ううん、別に気にしてないよ」

 

ペコペコ謝る女の子に咲は気にしなくていいよと言いながら先ほどからずっと黙っている照を横目で見ており、照は女の子の方をじっと見つめて、考え事をしていたので、咲は女の子の対応は自分でしなければならないと感じたので優しく女の子に話しかけるのだった

 

「えっと、さっき思いっきり転んだけど大丈夫だった?」

 

「ハイ!!マホは昔から体が丈夫だって言われてますから大丈夫です!!」

 

女の子・・・喫茶店に入るまでに軽く自己紹介をした夢乃マホは元気よく答え、見たところ目に見えた怪我は確認できないことから大丈夫だろうと咲は判断した

 

「あ、あの」

 

「ん?どうしたの?」

 

「み、宮永咲さんと宮永照さんはどうして長野にいらっしゃるんですか?確か、東京でしたよね」

 

「あ、うん、今は東京に住んでるんだけど私もお姉ちゃんも生まれは長野だったんだ、親の仕事で東京に移り住んだんだけど今日はちょっと長野に用事があってお姉ちゃんと二人で来たんだ」

 

「そうだったんですか」

 

マホはこんな近くに有名人が居たことに感動した様子を見せ、咲はマホの一つ一つの幼い動作にどこか淡ちゃんと似ているなと思いながら笑みを浮かべていると

 

「夢乃さん」

 

「は、はい」

 

今まで黙っていた照から突然話しかけられてマホはインハイチャンピオンから話しかけられたためかびくびくしながら返事をすると

 

「・・・今から私たちと一局打ってもらえないかな?」

 

「・・・・・・・はい?」

 

えええええええええええええええええ!?

 

照からの申し出にお店に迷惑になるほどの絶叫を上げるのだった

 

_________

 

『おい、あれってインハイチャンピオンじゃないか?』

 

『んな馬鹿な、チャンピオンがこんなところに居るわけがないだろ』

 

『いや、でもあの顔とあのツノは・・・そういえば出身は長野(ここ)だって話だぜ』

 

『じゃあ後ろの似た顔は妹さんか?もう一人は・・・誰だあれ?』

 

マホの絶叫にお店に迷惑をかけてしまったと思った咲と照はひとまずマホを連れてお店から出た後に近くの麻雀店に立ち寄ったのだ。お店側もいきなりのチャンピオンの登場に騒めいていると、照は気にすることなく受付を済ませ、三人はひとまず麻雀卓に座ると、今までずっと黙っていた(というか放心状態だった)マホは照に話しかけるのだった

 

「ほ、本当に一局打ってくれるんですか!!あ、でも、その、マホはそんなに強くないですよ?」

 

チャンピオンと一局打てることは光栄なことだが、マホは自分の実力は初心者に毛が生えた程度であると、周りの人の話からそう思っていたので自分には打つほどの価値はないと言いたかったが、照はマホをジっと見ながら静かに語った

 

「・・・・あなたを見ても、何も感じなかったから」

 

「はい?」

 

マホは意味が分からずに首を傾げていたが、咲は照のその言葉を理解すると同時に驚いた。

 

照の能力の一つ・・・照魔鏡、相手の本質を見抜くその力は日常の中でも発揮することができるのだが・・・どういうわけはマホに対して発動しても『何もわからない』のだ。照と、そしてそれに気づいた咲もその事に驚きながらもマホに対して興味が湧くのだった

 

「お姉ちゃん、弘世部長から外ではあんまり打つなって言われてなかった?」

 

「ん、一局だけなら大丈夫?」

 

「なんで疑問形なの?・・・まあ、私もちょっとマホちゃんに興味が湧いたけどね」

 

「・・・なんか?県大会が終わってから変わった?」

 

「うん、まあいろいろと吹っ切れたからかな?」

 

「え?え?」

 

何故か咲からも注目されるようになったマホはどうしてこうなったのか涙目となり、周りの人たちもこの光景を二匹の野獣に囲まれた小動物を見てる気持ちになるのだった

 

_____

 

そうしてお店の店長(照と咲のサインを渡したら無料で貸してくれた)を交え、半荘一回の麻雀が始まった。最初は咲と照と打つことに戸惑っていたマホも、いざ始まれたこんな機会はめったにないと意気込むのだった

 

(せっかくお二人が誘ってくれたんだから、マホもしっかり打たないと!!)

 

と意気込むマホであったのだが、数順後

 

「カン」

 

「え?」

 

咲はマホが捨てた牌を大明槓すると、嶺上牌に手を伸ばすと・・・

 

・・・マホの前に白い花びらが舞うのだった

 

「ツモ、嶺上開花。8000」

 

マホは自分の責任払いで振り込まされたことよりも、先ほどの咲の姿に見とれたのだった。そのころ照は照魔鏡を発動しても結果はさっきと変わらない事に疑問に思っていたが

 

「・・・すごい、マホもあんな風になりたいです」

 

マホのその小さな呟きが聞こえた瞬間に、マホからのプレッシャーが一気に跳ね上がったのを感じ、咲もこの急な変わりように驚くのだった

 

(・・・これはもう一度見た方が良いかもしれない)

 

照は普段なら一局のうちの最初の一回しか発動しない照魔鏡を再び発動し、次の局を始めるのだった・・・そして二人は信じられない光景を見るのだった

 

「カン」

 

((・・・え?))

 

今度は暗槓なのだが、それは先ほど嶺上開花で和了った咲ではなく・・・なんとマホだったのだ、そしてマホは先ほどの咲と同じように嶺上牌に手を伸ばすと

 

 

・・・咲の前に同じ花びらが舞った

 

「ツモ、嶺上開花。2000・4000です」

 

今度はマホが嶺上開花で和了した事に咲は驚いて目を見開いていると、照はマホの本質に気づいたのだった

 

(・・・そうか、彼女の能力は)

 

咲は呆然と、照は驚愕に染まる中、次の局が始まった・・・のだが

 

『あれ?お嬢ちゃん、牌が多くないかい?』

 

「え?ああ!?」

 

「「え?」」

 

店長からマホが多牌・・・つまりチョンボした事にマホはしまったと声を上げ、照と咲はその事にまたもやおどろかされるのであった

 

______

 

マホはその後もチョンボを繰り返して最下位、途中でギアを上げた照がトップという形でこの一局は終わった(なお咲は当然のようにプラマイゼロ)

 

「うぅ」

 

マホは自分の不甲斐なさに涙目になるなか、咲は席から離れる店長に付き合ってもらったお礼をした後に照に視線を向けてアイコンタクトを交わした

 

(お姉ちゃん、マホちゃんの能力ってもしかして)

 

(うん、彼女の能力は『模倣』、それも私達(牌に愛された子)クラスの能力も完璧に模倣できるほど強力な能力)

 

発動条件はまだ不確定だが、自分たちと同じ、つまりは常人では理解できない不可解な、それでいて強力な力を使うことができるのだ。つまり咲と照が感じ取ったマホのプレッシャーはその潜在能力を感じ取ったものだったのだ

 

(でも、それならなんでお姉ちゃんはその事に気づかなかったの?)

 

しかし咲は不可解だと思う点が一つある。ただの模倣の能力なら照の照魔鏡でそれを感じとることができるはずだ、それなのにマホが能力を発動しなければ照ですらわからなかったことに咲は首を傾げていたが、その理由は照はすでに分かっていた

 

(たぶん、彼女の本質は何もない真っ白・・・ううん、空っぽだからだと思う)

 

照が東二局でみたマホの変化、それはマホの本質そのものが咲とほぼ『同じ』になっていくという変化。いわば彼女は他人の本質を簡単に受け入れる器そのもの・・・自分たちとはまた違うベクトルでの異質な存在なのだ

 

「・・・やっぱり、マホは全然ダメですね」

 

咲と照がマホの能力を考察していると、ふとマホがポツリと自信がなさそうな声で呟いた

 

「マホは、一日に一回だけ和先輩や優希先輩みたいなすごい打ち方ができるのに、それ以外だと失敗ばかりするんです。和先輩やムロからは他人の真似事しようとするから同じ失敗を繰り替えすんだって注意されて・・・・マホも失敗しないように何度も何度も勉強しても、それでも・・・やっぱり同じ失敗を繰り返すのです。」

 

マホは周りから見れば『偶然』他の人の真似事ができる初心者程度としか思われてこなかった。マホが口にした二人の人物もマホのためを思って注意し、マホもそれを直そうと今でも麻雀教室に通っているのだが、結果はでないでいた

 

それでもインハイチャンピオンの照と妹の咲に誘われた事で自分はもしかしたら・・・と思っていたが、それは自分の勘違いだとマホは思い込んでいた

 

「あ・・・・あ、あの、すみません、急にこんな事を言っちゃって、照さんや咲さんとは今日初めて会ったばかりなのに」

 

思わず弱音を吐きだしてしまったマホは二人に謝った後に席に立って二人から離れようとしたが

 

・・・咲と照はその場から離れるマホを引き留めるようにその手を掴むのだった

 

「え?」

 

「えっと、ごめんねマホちゃん、マホちゃんがそんな悩みを抱えてるなんて知らずに一緒に打とうだなんて言って」

 

まず咲はマホに謝った、自信がなかったマホに自分たちが話しかけた事で期待を持たせ、結局は期待通りにはならなかった事にショックを与えてしまった事に対してだ

 

「でもね、マホちゃんは自分や周りの人たちが思っているよりもすごい才能を持ってるんだよ」

 

「え?」

 

マホは咲のその言葉に驚きを隠せずにいた、マホはいろいろな人から注意されても直すことができず、心無い人間からは才能がないとまで言われ、自分自身もダメダメだと思っていた・・・それなのに目の前の咲は自分には凄い才能があるとそうはっきり言ってくれたのだ

 

「で、でもマホは本当に全然だめで、それにさっきだって」

 

「それはあなた自身が自分の力に気づいていない事と、あなたの能力を受け入れる程の相手が居なかっただけ」

 

それでも自分を否定しようとするマホだが照は静かに、それでいてよく通る声でマホに語り掛けるのだった

 

「貴女は空っぽの器。その器を入れるだけの相手が居ないから空っぽのあなたはあんなミスを繰り返してしまう」

 

マホは照が何を言っているのかをいまいち理解できなかった・・・理解できなかったが、照の言葉には自分の中にある何かにとてもよく響いていた

 

「だけど・・・その空っぽの器を満たすだけのたくさんの存在が居れば、あなたはきっと誰よりも強くなることができる」

 

強くなる・・・その一言がマホがどれだけ欲していたか、どれだけ言ってほしいと願っていたか、どれだけマホの救いになったのか照は知らない、しかし照はまるでずっと苦しんでいた彼女を救うように手を指し伸ばすのだ

 

「夢乃さん、あなたは白糸台に来るべきだ。あそこならあなたの才能(器)を満たすことができる」

 

マホは照の指し伸ばされた手に対して、一瞬自分が慕う二人の先輩とよく面倒を見てくれる友人の姿を思い浮かんだ・・・だけど、それ以上にマホは初めて自分のことを認めてくれた事の喜びが勝り、そして

 

 

 

 

・・・マホは照が差し出した手を握るのだった

 

 

・・・これは少々未来の話になるのだが、今年の冬に白糸台高校では冬休みに一人の中学生が出入りする姿が見られるようになった

 

・・・そして翌年、インターミドルで今まで全く無名といっていい程の選手がインターミ

ドルチャンピオンに君臨した、その時のインタビューで彼女は嬉しさのあまりにカメラの前でこういったのだ

 

 

 

咲さん、照さん、マホやりました!!・・・・と

 


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