それからしばらく談笑を続け、やがて晩飯を食べ終わると食後のティータイムとなる。
「……フ」
雪ノ下が淹れた紅茶をすすりながら、一息ついた。
高原の夜は少し冷えるものだが、小学生たちが撤退を始めて静かになるとより涼しげに感じる。
さわさわと梢が揺れ、どこからか川のせせらぎが耳に流れ着いてくるのだ。
もうじき、小学生たちは就寝時間だろう。しかし小学生がおとなしく眠るわけもなし、おそらく枕投げやお菓子を食べて語り合う、なんてことをしていると予想できる。
しかして、例外に早々に眠ってしまう子も一部いるだろう。
そういうやつは大体3種類、はしゃぎ疲れて爆睡しているか、周りに興味がないマイペースなやつか、輪に加われないやつに分類される。
後はたまーに、気を遣って自分を気にしないで遊べるようにそうする奴もいる。まあ、そんなこと基本気づかれないので脇腹こちょこちょとかされるのだが。
ほんとやめてね?声出ないのに身悶えて変なことになるから。
「今頃、修学旅行の夜的な話してるのかな?」
葉山がことり、とカップを置きながら言う。
高校生になってから、俺たちはまだ修学旅行には行っていない。
修学旅行は二年生の二学期に予定されているからだ。もしあいつが総武にいれば、きっとまたいろんな所に引き摺り回されたに違いない。
そこでふと、脳裏に留美の顔がよぎった。そういえばあいつは、どうしているのだろう。
溶け込めているとは思えないが、しかし孤立しきっているか?と聞かれるとあの女子たちの反応からして言い切れない。
少し、複雑である。
「おや比企谷、何か心配事かね?」
シュッ、とライターを擦り、煙草に火をつけた平塚先生はこちらに問いかけてくる。
先生のクールな表情が木の下闇にぽっと照らし出された。紫煙が立ち上り、足を組み替えるのと同時に煙も揺らめいた。
どうやら顔に出ていたらしい。もしここにいるのが俺じゃなくてオクタだったら、おそらく誰にも気づかれることはなかっただろう。
『……まあ、少し』
だが、俺はあいつではない。
だからこそ、素直とは言いがたいが機械に声を送り答える。
「ふむ、話してみたまえ」
幾分か真剣身を含んだ顔をする平塚先生にこくりと頷き、今自分が懸念していることを話す。
すると他の奴らも気づいていたのか、ちらほらと相槌を打った。
『……そんなわけで、少し孤立していまして』
「なるほど……それで、君たちはどうしたい?」
どうしたい?と平塚先生に問われ、皆言葉に詰まったように押し黙ってしまう。
何故か?簡単だ、どうしていいのかわからないからだ。
テレビで戦争や貧困のドキュメンタリーを見て当事者達にただ同情するのと同じように、実際にそれを体験してもいないもの達はそれに対する打開策を知りえない。
当然だろう、そいつらは彼ら彼女らの苦しみを味わったことがないのだからどうしたらいいのかわかるわけがないのだ。
しかし、だからといって何もしないとして何か動き始めるか?と言われれば否である。
物事が起きるには要因が必要であり、それがなくては現状は続いていく。
いや、そもそも俺たちが留美に対して何かするのはただのお節介なのではないのか?
彼女が今の状態を望む、あるいは諦めている場合、外側から干渉するのは迷惑以外の何者でもないだろうし。
でもつい先ほど、俺の言葉に留美は目を逸らした。
それはつまり、少なからず現状に嫌気がさしているのではと考えられる。
まあ、俺はいろはのような能力は持っていないので真意はわからないが、俺が見た限りではそうだった。だったら、見てしまった以上は何かしてやりたい。
一体どうしたものか……
「俺は……」
俺が悩んでいると、葉山が重々しく閉ざされていた口を開いたのは葉山だった。
一度思考を止め、そちらに意識を向ける。
「できれば、可能な範囲でなんとかしてみんな傷つかないようにしてあげたいと思います」
その葉山の答えに、俺はひどく落胆した。
同時に、あの時の記憶が脳裏にフラッシュバックし心の底にしまいこんでいた憎悪と怒りが湧き上がってくる。
ああ、こいつは本当に、何も変わっていない。
その甘い心意気も、優しく見える言葉も、具体的な解決方法も何もないその穴だらけの同情も、何も。
だから俺は、真っ向から葉山隼人を否定する。
『「お前(あなた)では無理だ(よ)。いい加減にしろ(なさい)」』
驚いて横を見る。
すると、目を見開いた雪ノ下と至近距離で顔を付き合わせることになった。急速に頰が熱くなっていき、慌てて顔をそらす。
……やはり、彼女は覚えていたのか。
ちらりと横目にもう一度見れば、少し頰を朱に染めながらこほんと一つ咳払いし、それから雪ノ下は冷たい、射抜くような視線を葉山に突き立てた。
その負の感情のこもった瞳に、心の奥がズキリと痛む。
俺はあの時、彼女からこれを取り除くために最低なやり方をしたのではないのか?なのに、まだ消しきれていない。なんてザマだ。
そうやって俺が勝手な後悔をしている時、葉山は臓腑を焼かれたように苦しげな顔をしていた。
「……そうだな。でも、」
「今は違う、とでも?いいえ、変わってないわ。さっきの言葉がその証拠。あなたには、何もできない」
言い繕おうとする葉山を、夜闇の中でランタンに照らし出された彼女は髪を払うと、葉山を冷たく斬って捨てる。
誰もが予想していなかった二人のやりとりを目にして、それきり空間に重い沈黙がたれ込める。
不謹慎にもそれで意識をそらすことができた俺は、黙ったままその様子を伺った。
嫌だな、また雪ノ下にこういう空気を作らせるのは。
できるのなら、彼女にはずっと微笑んでいてほしいなどという、俺の気持ちの悪い願望が叶うことはないのだろうか?
「やれやれ……」
暗くなった雰囲気を変えたのは平塚先生の仕方がないとでもいうようなため息だった。
先生はもう一本煙草に火をつけると、ゆっくりそれを吸って吐く。そして、今度は雪ノ下に水を向けた。
「雪ノ下、そういう君はどうしたいのかね?」
問われると、雪ノ下は顎に手をやり黙考した後、すっと透き通る声で答える。
「……先に一つ、確認します」
「何かね?」
「これは奉仕部の合宿でもあると仰っていましたが、その期間にこなすことも部活動に該当しますか?」
雪ノ下の問い返しに平塚先生もしばし考え、静かに首肯した。
「無論だ。そもそも、林間学校のボランティアを夏の活動と位置付けているわけだからな。原理原則から言えばその範疇になるだろう」
「そうですか……なら私は、彼女が助けを求めるならどんな手段を使ってでも解決します」
枝葉を鳴らしていた風に乗って、雪ノ下の決然とした宣言は全員の耳に届いた。
凛とした、決して揺らぐことのない意思を言葉に宿している。
その答えはどうやら平塚先生にとって満足のいくものだったようで、大きく頷いた。
「それで、彼女は助けを求めているのかね?」
「……いえ、それはまだ」
『ですが、見た限りでは留美は現状に嫌気がさしているのは確実かと』
雪ノ下の言葉を俺がフォローし、それに由比ヶ浜がうんうんと頷く。
どうやらあの時こいつはただしょぼくれてた訳ではなく、留美のことを見ていたらしい。さすがは空気を読むのに長けていると言ったところか。
感心する俺をよそに、平塚先生は俺たち三人を見て微笑みを浮かべ、今一度頷く。
「雪ノ下たちの結論に反対のものはいるかね?」
ゆっくりと首を巡らせ、各人の反応を伺う。
だが、誰からも否の声は上がらなかった。それを確認すると平塚先生は立ち上がり、その場を離れていった。
「よろしい。ではどうしたらいいか君達で相談してみたまえ。私は眠いので寝る」
ひらひらと手を振る平塚先生に、俺たちはお疲れ様ですと言うのだった。
ーーー
全会一致でこの問題を解消することが決定されて数分、話し合いはかなりカオスなことになっている。
三浦が留美は可愛いから他の可愛い娘とつるめばいいと言えば海老名さんが趣味を作ればそこから交友が広がるかもしれないと言う。
それなら学校外にも範囲が広がると思いいい案かと思ったら、突然雪ノ下にBLの布教をし始めて三浦に連れてかれたり。
「海老名さんは私に何を勧めようとしていたのかしら……」
「ゆきのんは知らなくていいと思う…」
げっそりとした様子で由比ヶ浜が答える。なるほど、こいつは既に布教されたパターンか。ご愁傷様。
しかし、例えばBLに限定してもカップリングの相違や腐女子だと思ったらただの女オタクで物別れになったりと、趣味の世界は趣味の世界でまた複雑な問題が立ちはだかるだろう。
その後もぽつぽつと意見が出るものの、現実的な妙案は出てこない。
議論が活性化しなければ当然意見の数も減る。そしてやがてシンとしてしまうのだ。
「……やっぱり、みんなで仲良くできる方法を考えないと根本的な解決にならないか」
その一瞬を突くように放たれた葉山の言葉に、ブチリと頭の血管が切れた気がした。いや、切れてもこの体だとすぐに治ってしまうのだろうが、今はそんなことどうでもいい。
こいつは何度言えば懲りるのだ。
学習しないとはいえ、ここまでくるともはや罪である。一度大きな失敗してもなおそれを張ろうとするのは虚栄以外の何者でもない。
そもそも、人間に差異のある心がある時点でみんな仲良くというものは決して実現しない。
だが教師はそれを強制しようとし、結果それを順守せんがために必然的に生まれる軋轢を「無視」で成立させる。
どうしたって性格が合わないやつはいる。嫌いで仕方がないやつだって出てくる。
そこで面と向かって嫌いだ、関わり合いたくないと言えば発展の可能性はあるものの、押し殺してうわべだけ仲良くしようとするから無理が出る。
そうやって、人間関係というのは少ない生と潜んでいる不滅の負が混ざり合ってできているのだ。
だから、葉山隼人のくだらない、理想ですらない妄想は現実ではありえない。
何より、それができないから留美は孤立しているというのに。
けど、そこにまだ少しの希望があるから俺はそれを活用してこの問題を解消しようとしている。それを、どうでもいい妄想で邪魔立てすることは絶対に許さない。
そう思ったのは、どうやら俺だけではなかったようで。
「そんなことは不可能よ。万に一つもあり得ないわ」
雪ノ下の凜とした声音が、俺の機械から発せられる偽物の声などよりよほど冷徹な言葉が葉山の意見も思想も粉砕する。
それに便乗して俺もギロリと睨めば、葉山は聞こえない程の小さな悲鳴を上げた後目を逸らした。
これで静かになるかと思ったが、それを目の当たりにした三浦が吠えた。
「ちょっと雪ノ下さん?あんた何?」
「何、とは?」
語気の荒い三浦に対して雪ノ下はいたって冷静に返す。それは三浦をさらに熱くさせたようだ。
「さっきからその態度のこと。せっかくみんなで仲良くやろうってしてんのに、なんでそういうこと言うわけ?」
「ま、まあまあ優美子」
怒涛の勢いで感情をぶつける三浦を由比ヶ浜がなだめようとする。
が、一方の雪ノ下も治める気は全くないらしい。
「そういうこともなにも、事実を述べたまでよ。それを受け入れられないあなたたちが幼稚なのではなくて?」
「っ!だから、そういうことーー」
『三浦、黙れ』
「「「ーーッ!?」」」
そのひどく冷たい声に、全員がこちらを振り向いた。
彼ら彼女らの視線を、俺は汚く濁った瞳で正面から受け止める。
おそらく、今の俺はかなり怒っているような表情をしているだろう。当然だ、時間が限られている中でそんなくだらない言い争いを続けられたら、流石の俺でも堪忍袋の尾が切れる。
人のことを言える状態ではないが、少し冷静にならないと話にならん。
「……これ以上は、話し合いは無理そうね」
雪ノ下の言葉に恐る恐るといった様子で全員が頷き、結局一度頭を冷やして各自考えて明日に持ち越しということになった。
俺も自分が冷静ではないのを自覚していたので、大人しく退散することにした。
ーーー
……ん。
ふと目が覚める。
差し込む月光が顔を照らし、それに少し居心地の良さを感じながらもう一度布団をかぶろうとした。
しかし、微睡みかけている意識の中に先の話し合いのことがよぎった。それはもやもやと頭の中にとどまり、やがて形を変えると胸にわだかまる。
それによって目が覚めてしまい、一度意識が完全に覚醒してしまうと寝付けなくなってしまった。
仕方がなく布団から這い出て立ち上がると、充電してあった携帯を立ち上げる。意外なことに、まだ十二時を回ったところだった。案外、都心部から離れると時間の流れがゆっくりと感じるものらしい。
耳をすませれば騒々しい音一つない、静かな夜だ。これなら、夜風の一つでも浴びながら散歩でもすれば気分も落ち着くだろう。
葉山たちを起こさないように足音を忍ばせながらバンガローの外に出ると、そのまま歩き始める。
高原の夜。静謐な涼しさに少しずつ気分を落ち着き、時折聞こえるほーほーというフクロウの鳴き声が心地よく感じた。
葉がざざっと鳴れば、その風は俺の髪も揺らす。
しばらく足を進めていると、不意に木立の間に人の気配を感じた。なんだ、木の精でもいるのか?
そう考えながらそこへ近づいていくと、それそこ精霊や妖精の類と幻視するような、どこか現実離れした光景があった。
ぼんやりとした月明かりに照らされて、白い肌は浮かび上がるように仄かに光を放つ。
そよ風が踊るたびに、なびく髪が舞う。妖精じみた彼女は月光を浴びながら小さな、とても小さな声で歌っている。
少し肌寒い闇の森中で、ささやくような歌声は不思議と頭に染み込んだ。
俺はその光景をただ眺めている。一歩踏み入れてしまえば、彼女の綺麗な世界を壊してしまうかもしれない。そう思うと、音を立てることすらはばかられた。
だからだろうか。普段の俺ならば早々に退散するはずが、じっと眺め続けてしまう。
それこそ、彼女が歌うのをやめ、目線を感じて不思議そうにするくらいには。
「……比企谷くん?」
それから二、三秒たったところで、雪ノ下は俺の名を呼んだ。俺は大人しく暗闇の中から足を踏み出し、月光の下に姿を現す。
そうすると、彼女は少し恥ずかしそうにこちらを見る。
「……いつから見ていたの?」
『……ついさっきからだ』
「……そうだったのね」
『ああ、そうだ』
もう一歩、機械に声を送りながら雪ノ下に近づく。雪ノ下は後ずさるようなこともなく、その場で立ったままだった。
それが無意識に心を許している証な気がして、少し勇気を出して彼女の隣に立ってみる。
そして、先ほどの彼女のように空を見上げた。それにつられて雪ノ下ももう一度顔を上げる。
それからしばらく、無音の時が訪れた。
しかし気まずくはなく、いつもの部室のようにただ静かに二人同じことをする。都会に比べて自然の中なので、星がよく見えて綺麗だった。
「……三浦さんと少し言い争いになってしまって、泣かせてしまったから気まずくて出てきたの」
唐突に、俺が問いかける前に雪ノ下は語り出す。
なるほどな。そりゃあ空気が悪くなるだろう。由比ヶ浜や戸塚がいるからそこまで激しくはならなかったのだろうが、それでもなくほどの議論を交わしたことは想像に難くない。
「三十分ほどかけて完全論破してしまったわ……それに」
「……?」
「その……三浦さんが、比企谷くんをけなすようなことも言ったから。だから、少しムキになってしまったの」
ドキン、と心臓が強く高鳴った。
なぜ、彼女が俺をけなすようなことを言ったらムキになったのか?その答えは簡単なものの、恥ずかしくて認めにくい。
でもそれは事実であり、すでに確定した過去であるがゆえに否定することは不可能で。
だからこそ、気恥ずかしかった。
『……そうか』
「……ええ。今は、由比ヶ浜さんが宥めてくれていると思うけど」
さしもの雪ノ下も自分の言ったことが恥ずかしかったのか、ちらりと横目に見れば頰が朱に染まっている。
右腕で体を覆い、少しもじもじと肩を揺らした。や、やめろよ。そういう動きするともっとドキドキするだろうが。
数秒もすると雪ノ下はんんっ、と咳払いし、風でなびく髪をなで付けると話題を変えた。
「あの子のこと、なんとかしなければね」
『やけにやる気だな』
「そう、ね……他人事に、思えないからかしら」
それは、昔のことを言っているのだろうか。
確かに、多少状況は違ったがあの時の雪ノ下と今の留美は酷似している。
だからこそ、経験者としてなんとかしてやりたいと思うのだろう。いや、いろはじゃないからわかんないけど。
「……ねえ比企谷くん。一つ、お願いをしていいかしら?」
俺があれこれ考えていると、唐突に雪ノ下はそう言った。
夜空から目線を外し、彼女の方を向いてなんだ?とジェスチャーで問う。それが通じたようで、雪ノ下はふっと微笑んで……
「じゃあ、お願い」
……え?
気がつけば、雪ノ下の顔が間近に迫っていた。
そのまま雪ノ下は形の良い薄い唇を俺の耳に寄せると、耳朶を震わせるような美しい声で何事か呟く。
ざざっと風が走り木々の梢が揺れ、まるで水面に雫を落としたように葉鳴りが広がる中、しっかりと彼女の声は届いた。
「ーー〝あの時〟みたいに、留美さんも助けてあげてね? でも、傷ついてはダメよ」
それを言い終えると、ぱっと雪ノ下は俺から離れる。
そして、いたずらが成功したかのような僅かな微笑みを浮かべた。
「……今回はここに来れて良かったわ、色々な意味で。それじゃあ、おやすみなさい」
挨拶をし、くるりと踵を返して雪ノ下はバンガローのほうへ帰っていく。
俺は先ほどとは違う意味で、ただただそれを呆然と眺めていることしかできなかった。
雪ノ下は街灯も何もない道を危なげない足取りで歩いていき、やがてその後ろ姿は夜の闇の中へ薄らいでゆく。
しばらくの後、俺はハッと我を取り戻す。
しかしすぐに先ほどのことを思い出し、込み上がってきた羞恥を押しつぶすようにがりがりと頭をかくと自らもバンガローへときた道を戻り始めた。
「………」
歩き出して、ふとまた星空を見上げる。
そういえば、星々の光ははるか過去のものなのだそうだ。それこそ幾星霜の時を超えて、昔日の光を飛ばしている。
誰もが過去を振り返る時がある。
どんなに先に進んでもそれはかつて確実に存在したもので、今更変えることはできないもの。
ふとした瞬間にあの星の光の如く降り注いでくるのだ。それは笑うことのできるようなものもあれば、消し去りたくても消せない辛いものもある。
……あるいは甘酸っぱい、とても大切なものも。
それらは生きている限り永遠に誰しもの心の片隅に持ち続け、どのような時でも蘇ることがあるのだ。
葉山隼人にも、雪ノ下雪乃にも……多分、俺にも。
(ゆきのんを呼びにきたけど…あんな光景見ちゃうなんて。二人とも、すごい自然に一緒にいた。それにゆきのん、最後何言ったかはわかんないけど、幸せそうな顔だった。やっぱり、二人は……)
そうして物思いにふけっているせいで、俺たちを見ていたもう一人がいたことに気づくことはなかった。
段々と積極的になるゆきのん。
感想をいただけると嬉しいです。