声を失った少年【完結】   作:熊0803

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これでラスト。ダンまち劇場版見てたら遅れました。なんだあれ神すぎるだろ

楽しんでいただけると嬉しいです。


番外編 由比ヶ浜結衣誕生日記念 後編

『由比ヶ浜(結衣、先輩、殿)、誕生日おめでとう!』

 

 

 

 

 

 クラッカーが鳴らされ、部屋にパンと乾いた音が木霊する。

 

 後片付けのことを考え、音が出るだけのタイプを選んだクラッカーは良い感じに開始の音頭を取ってくれた。

 

 祝われるのはもちろん、真ん中で紙製のとんがり帽子を頭に乗せている結衣。照れ臭そうにはにかんでいる。

 

「改めて、誕生日おめでとう由比ヶ浜さん。今年もこうして祝えて嬉しいわ」

「おめでとう、由比ヶ浜さん」

『おめでとさん』

「えへへ、ありがとゆきのん。ヒッキーと八兎っちも」

「こうして祝うのも、今年で3度目であるな」

「私は2度目ですけどねー」

「おめでとう結衣〜」

「由比ヶ浜さん、おめでとうございます!」

 

 メンバーは俺、雪乃の奉仕部メンバー。

 

 それと八兎、材木座、いろは、海老名さん、小町。高校生の時の事件以降、何かと親交があったメンバーだ。

 

 既に先日三浦たち葉山グループで全員の日程が合う時に一度祝ったらしく、海老名さんはこれで2度目だ。

 

 場所はレンタルルームという、時間制で貸し切りにできる場所。結衣と小町以外の全員で割り勘だ。

 

「はい、じゃあ乾杯しましょう!みなさんコップを持ってください!」

「そう急ぐないろは殿。受験勉強中で少ない休みなのはわかるがな」

「ぶう、義輝さんはいいですよね。もう大学生で時間がありますし」

 

 この中で唯一の受験生組であるいろはのふくれっ面にはは、と笑いながらもコップを取り、乾杯する。

 

 それからしばらく、食って飲んで騒いでの宴会状態だった。特に受験勉強真っ盛りのいろはがはしゃいでたように思う。

 

 あとそれを見てる材木座の顔がキモかった。年下の彼女にデレっとしてる残念イケメンとか誰得だよ。

 

 そして、数時間ほど楽しんだ後はいよいよデザートとプレゼントの時間だ。

 

「今年もケーキを作ってきたわ」

「ほんと!ゆきのんのケーキ美味しいから超嬉しい!」

「ふふ、そう言ってもらえると作った甲斐があるわね」

 

 持ってきたケーキを紙袋から出して、既に色々と料理が並んでいるテーブルの上に置く。

 

 箱を開けると、そこには大きめのホールケーキ。最初に結衣の誕生日を祝った時と同じ桃のケーキだ。

 

 レンタルルームにあった包丁を持ってきて、雪乃が人数分にカットしていく。俺は皿の固定である。

 

「ぬふふ、様になってますなぁお二人さん」

「ええ、そうでしょう?」

『恥ずかしがりもしないのはどうなんですかね……』

 

 小町が超ニヤニヤしてる。高校生になってからより一層可愛さを増した我が義妹であるが、ウザさも増した。

 

 それでも許せちゃう。だって妹だもの。千葉では妹というだけで正義なのだ。これテストに出るから必修な。

 

「でもほんと、二人とも仲良いよね。高校の時はよく部室で仲良さげにしてたし」

「ですねー。雪の(ノ)下先輩が先輩の膝の上に座ってた時とかびっくりしましたよ」

「あっ、あれは……」

『ちょっと雪乃さん?いきなり動くと包丁がブレて危ないから。いろはも茶化すな』

「はーい」

 

 ったく、こいつは相変わらずだな……一瞬もう一人の後輩が浮かんできたが、あれは100%悪意なのでノーサンキューだ。

 

 どうにか平常心を取り戻した雪乃がケーキをカットし終わり、全員でその美味さを堪能する。

 

「んー、美味しいですね。雪乃さん、今度お菓子作り教えてくれませんか?」

「あ、雪ノ下さん。私もいいかな?」

「ええ、いいわよ。お口にあったようで何よりだわ」

「んー、幸せー」

 

 犬耳と尻尾がついてればふりふりと揺れていそうな機嫌でケーキを頬張る結衣。

 

 そちらに意識が集中している間に、隣の雪乃に目配せする。あいつはうなずき、他の皆も同じように首肯した。

 

「それではプレゼントを渡しましょう。各自、用意してきているかしら?」

『ああ』

「はい」

「もちろんです!」

「うむ、当然であるな」

「あったりまえですよ〜!」

「私も二度目だけど、一応ね?」

「みんな、ありがとね!」

 

 笑顔の結衣に自然とこちらも同じ表情になり、それぞれ持ち寄ったものを結衣に渡していく。

 

「私からはこれよ。まだ料理の練習をしているようだし、自炊しているならば必要でしょう?」

「ありがとーゆきのん!昔もらったエプロンと一緒に大切にするね!」

 

 雪乃はミトンだ。案の定ネコ柄である。そのうち結衣の料理するときの格好が全身猫で埋まりそうだな。

 

『あー、俺はハンカチだ。まあ、あんまり重いのもな』

「ううん、ありがとうヒッキー。これ結構いいやつでしょ?」

『まあ、流石に大学生になって千なんぼのものっつうのもあれだろ』

「ふふ、そういうとこが嬉しいんだし」

 

 ニコニコと笑う結衣から、思わず癖で視線を逸らす。こいつの屈託のない笑い方は、どこか眩しい。

 

「私は髪飾りを。由比ヶ浜先輩大学生になってから髪伸ばしてますし、必要な時に使ってください」

「わっ、すごく可愛い!いろはちゃんセンスいいね!」

「えっへん」

「我からはアロマキャンドルだ。身に付けるものとなると、どうも意味合いが違ってきてしまうからな」

「中二もありがとっ」

「いつまでも我のあだ名が変わらない……」

 

 そりゃ大学生になっても基本的な喋り方変わってないからな。まああのハイテンションは鳴りを潜めてるが。

 

「私はこの前渡したから、簡単にお菓子をね。あんまり自信ないけど」

「いやいや、姫菜のお菓子すごい美味しいじゃん。この前も作ってきてくれたし、嬉しいよ」

「そう言ってもらえると嬉しいな♪」

 

 二回目なので、海老名さんは消え物だった。もう既に形のあるようなものは渡したのだろう。

 

「小町からは香水です!」

「あ、これ今流行ってるやつ……小町ちゃん詳しいね」

「義兄と違って普段から社交的ですからねー」

『地味にこっちに被弾させるのやめようね小町ちゃん?』

 

 この妹、頭を撫で回して髪をぐしゃぐしゃにしてやろうか。喜びそうだから意味がないな。

 

「みんな、一杯ありがとね。私、本当に幸せ……今日もらったもの、ちゃんと大切にするよ」

 

 少し涙ぐみながら言う結衣は、初めて出会った時から変わっていない純粋さを持っていた。

 

 この場にいる誰もが訳ありで、どこか腹の中にイチモツを抱えている。そんな中で唯一変わらずに笑う結衣。

 

 少なからず、ここにいる全員が思っていることだろう。由比ヶ浜結衣は、俺たちにとって大事な存在だと。

 

 ほぼ全員からプレゼントを渡したところで、材木座といろはが立ち上がっていそいそと手荷物をまとめ始めた。

 

「あれ、二人ともどうしたの?」

「実はいろは殿の受験勉強があまり芳しくなくてな。基礎的なところを教えなくてはいかん」

「ライフルを使うときの計算と、学校の数学は違いますからねー」

 

 テヘ⭐︎なんて言いながら物騒なことを話しているが、驚かないあたり結衣も毒されてきている。

 

「あ、そっか……大切な時期なのに、呼び出してごめんね?」

「いえいえ〜、とても良い息抜きになりました。それでは皆さん、失礼します」

「それでは皆の衆、この後も楽しんでくれたまえ」

 

 ぺこり、とお辞儀をしたいろはと無駄に偉そうにサムズアップした材木座を見送り、少し部屋が広くなったように感じる。

 

「じゃあ、片付けをしましょうか」

『だな。小町、手伝ってくれるか?』

「はいはい、了解です」

「私もやるねー」

「え、でも……」

「由比ヶ浜さん、兄さんたちに任せよう」

「え、八兎っち?」

 

 立ち上がろうとした結衣を、八兎が止める。

 

 内心ニヤリと笑いつつ、俺たちは纏めた食器をレンタルルームのキッチンに持っていった。

 

 割と高めのレンタル料なだけあって、結構キッチンも広い。俺たちは四人で分担し、食器を洗った。

 

 そしてあちらでは、八兎と由比ヶ浜の二人きりになっている。誰にも邪魔されずに、だ。

 

「成功すると思うかしら?」

『まあ、なんだかんだ八兎もやるときはやるやつだ。そうヘマはしないだろ』

 

 そうね、と笑う雪乃。そこには何か別の意味が含まれている気がしたのは、俺が疑り深い性分だからだろうか。

 

「びっくりしたよ、お義兄ちゃんからいきなり電話が来たときは」

「私は面白かったよ。それに、結衣には幸せになってほしいしね」

『ま、あいつ次第だな』

 

 行ってから、四人全員であちらを見る。

 

 水の音でよく聞こえないが、何やら話している二人は特に問題が起きているようには見えない。

 

 やがて、八兎の話を聞いていた結衣の顔が驚きと赤に染まり、俯き……そして八兎に何かを言った。

 

 

 

 

 そして、気色満面の笑顔を浮かべた八兎が結衣の手に自分の手を重ねたところで、俺たちは微笑むのだった。

 




呼んでいただき、ありがとうございます。

こうしてたまに番外編を落とすかもしれません。

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