今回は会議での話です。ゆきのんとの絡みあり。
楽しんでいただけると嬉しいです。
早いもので、今日から実行委員会を始めるらしい。
時刻は三時五十分。
部活のあるもの、あるいはそのまま帰宅するものたちと、教室に残留するものの二つに分かれる。
俺は自分の歩く速度と、先ほどルーム長から伝えられた会議をする場所との距離を計算して、荷物を持って立ち上がった。
こういうスキルは、ぼっちには必須のスキルだ。誰も教えてくれないので、全ての予定と時間を常に把握しなければならない。
「ヒッキー!」
そうして教室を出て、少ししたところで呼び止められた。
足を止めて振り返れば、そこにいるのはやはり由比ヶ浜だった。
『どうした?』
「あの、えっとね」
『おう、なんだ』
「さ、さっきのって、さ」
言いあぐねているのか、たどたどしく言葉を紡ぐ由比ヶ浜。彼女の断片的な言葉から、その真意を探る。
さっきの、ということは、短時間内における俺の行動を示唆していることになる。そして該当する特別な何かは一つだ。
由比ヶ浜は、俺が相模を睨んだところを見たのだろう。なぜなら彼女は、ずっと俺を見ていたから。
自意識過剰に思えるかもしれないが、話の主軸は俺と由比ヶ浜であったし……俺は彼女に告白された。
そのことを思い出した途端……ふと、不安になる。
『なあ、由比ヶ浜』
「な、何?」
『俺とお前は、友達だよな?』
少なくとも、今は。
そう言外に続きを言って、ゆっくりと下を見下ろす。すると由比ヶ浜は、俺の目を見て少し驚いていた。
しかし、空気を読むことに長けた彼女はすぐに言葉にしない俺の意図を察して、ふっと優しく微笑む。
「そうだよ。あたしとヒッキーは友達。そんで、クラスメイトで奉仕部のメンバー」
少なくとも、今は。
彼女の言葉にも、その続きがある気がした。
『そうか。なら別にいい』
「むー。別にいいってどういうことだし」
『どういうことでもねえよ。じゃあ、また明日な』
「うん。バイバイヒッキー」
手を振って別れ、俺は実行委員会へ。由比ヶ浜は、教室に居座る三浦たちの元へ行く。
パタパタと、軽い足音が教室の中へ消えていくのを聞きながら、俺は廊下を歩き出した。
足を動かし、会議へ向かいながら考える。なぜ自分は、由比ヶ浜結衣に対してあのような質問をしたのかと。
なんのことはない。俺はただ、不安になったのだ。俺が相模南に怒った所以たる、由比ヶ浜との友情があるのかを。
『それできっと──ヒッキーのこと、好きになるよ』
また、あの顔がフラッシュバックする。ここ数日の寝不足の原因だ。
告白とは、その行為自体が大きく人間関係を変えてしまう。時には周囲の人間さえも巻き込んで。
では、比企谷八幡と由比ヶ浜結衣の関係は?
少なくとも、俺には変えるつもりがない。彼女は大切な友人、それで完結している。
でも、彼女は一歩踏み出してきた。この数ヶ月で築いた時間のすべてを賭けて、想いを伝えてきた。
俺も……そしておそらく、彼女自身も答えをわかっているはずなのに。
『……いや、そうか。
また、無意識に首輪が心情を吐露する。アップデートのお陰で、小さい音量だったのが救いだ。
俺は、失いたくないのだ。由比ヶ浜結衣といいう、俺と友達になりたいと……好きだと。そう言ってくれた少女を。
奉仕部で一緒に過ごしてきた時間の中で、いつしか由比ヶ浜結衣という少女を大切な存在の一人と見ていた。
『我ながらチョロいな』
昔は人間なんかすべて滅んでしまえとさえ思っていたのに、気がつけば随分と弱くなった。
……俺は、弱くてもいいのだろうか。悩み、迷う人間でいてもいいのだろうか。
その問いは到底学校の廊下で結論が出るようなものではなく、気がつけば所定の部屋の前にいた。
文化祭実行委員に割り当てられたのは、会議室だった。普通の教室の二倍ほどあり、椅子も机もそれなりのものが用意されている。
中に集まっていたのは半分ほど。適当に席を見繕って、早々に机に突っ伏す。
ただでさえ精神的疲労が溜まっていたというのに、道中余計なことを考えたせいでさらに疲れた。
「ていうか、ゆっこも委員でよかったー。うち、なんか委員にされちゃってどうしようとか思ってさー」
「あたしもじゃん負けしてさぁ」
「それ私もー。あ、相模さん、みなみちゃんって呼んでいい?」
「いいよいいよー、うちなんて呼べばいい?」
「遥でいいよ」
「遥あれでしょ?ゆっこと同じ女バスだよね?」
「そうそう」
「いいなー、私も部活やればよかったかも」
(ふっふっふ、比企谷君と同じクラスのメンバーは実行委員にならないようにと言われたけど、他クラスの私は問題なし!)
……うるさい。声からして相模だろうが、どうしてこう女三人寄ると姦しいのか。何、話さないと死ぬの?
まあ、それは相模たちに限ったことではない。少し耳を傾ければ、他の奴らも普通に話している。
開始時刻に近づくにつれて一人、また一人と人が増えていき、自然と音が増えた。煩わしいのは眠気のせいか。
もう眠れそうにもないので、諦めて顔を上げた──その瞬間。
ガラッ。
音を立てて、ドアが開く。そして入ってきた人間に、騒いでいた誰もがしんと静まり返った。
水を打ったような静寂の中、雪ノ下雪乃は音も立てずに歩く。その姿に、俺を含め全員が見とれた。
氷のように冷たい顔をした雪ノ下は、室内を一瞥して、俺の姿を認める。
「あら、こんにちは比企谷くん」
その瞬間、まるで雪解けのように可憐な微笑みとともに挨拶をしてきた。バッ!と全員の視線が俺に向く。
それまで興味もなかったのに、一斉に何十人もの……それも射抜くような視線に少したじろいだ。
俺の醜態も、周りの反応もお構いなしに、雪ノ下は先ほどより軽い足取りでこちらに歩み寄り、隣の席に腰を下ろす。
「どうしたの? そんなゾンビが鉄砲玉を食らったような顔をして」
こてんと首を傾げて、雪ノ下はいつも部室でそうするように、からかい半分の言葉を投げかけてくる。
『いや、別に。ていうか腐ってるのは目だけだから』
「ふふ、そう」
それだけのやりとり。だというのに、雪ノ下は楽しそうに笑う。
周囲の実行委員の生徒たちの間に、衝撃が走る。おそらく、氷の女王たる雪ノ下のこんな顔を見たことはないのだろう。
あの雪ノ下雪乃が、男と仲良さげに話している。学校という狭いコミュニティの中ではそこそこの出来事だ。
それに少しの気恥ずかしさと優越感を感じていると、再びドアが開いて数人の生徒の人間が入ってくる。
プリントを抱え、連帯感のある生徒たち。続いて教師たちのほうは、体育教師の厚木と平塚先生だ。
生徒たちは会議室の前方に集まると、一人の女生徒の顔を見る。すると、ほんわか系の女生徒は頷いた。
それを合図に、生徒たちは書類を各人に配布し始める。全員に行き渡ったことを確認すると、女生徒が立ち上がる
「それでは、文化祭実行委員会を始めまーす」
そうして、会議は始まった。
──ー
「えっと、生徒会長の城廻めぐりです」
先ほど生徒たちにうなずいた女生徒は、自己紹介を始める。
肩まであるミディアムヘアーは前髪がピンで止められ、つるりと白いおでこが綺麗だ。
制服は所々アクセントが入っており、彼女が単なる模範的な着方をするのではなく、着こなしていることがわかる。
「皆さんのご協力で今年も恙無く文化祭が開催できるのがうれしいです……だから、えと……み、みんなで頑張ろう、おー!」
城廻めぐりと名乗った彼女は、途中で言うことが無くなったのかヤケクソ気味にそう言った。
あ、この人天然だ。そう思った瞬間、生徒会と思しき生徒たちが拍手をした。それにつられて、他の奴らもパラパラと拍手する。
俺も適当に手を叩くと、城廻先輩はうんうんと頷いて話し出した。
「ありがとうございます〜。それじゃあ早速、委員会のリーダーの選出に移りましょう」
その宣言に、室内の空気がざわつく。
おそらくは、生徒会長が実行委員長を務めると思ったんだろう。登場タイミング的にもそれっぽい。
その勘違いの空気を察したのか、城廻先輩は苦笑いを浮かべると弁明を始めた。
「知っている人もいると思うけど、例年、文化祭実行委員長は二年がやるの。ほら、私は三年だからね」
なるほど。時期的に、今の三年生は受験勉強真っ只中。学校行事に割ける時間は、人によっては皆無だ。
「それじゃあ、誰か立候補する人!自他共に推薦してね〜」
そう言うものの、誰も手をあげない。仕方があるまい、そんな大それた役職ビビるに決まっている。
それに、ここがアウェイの空間というのもある。そもそも彼らの文化祭への情熱は、仲間内やクラスに向けられているに違いない。
で、あれば。そこまで興味もなく、なのに責任が伴う実行委員長というのは厄介なものである。
「誰かいませんかー?」
再度城廻先輩が呼びかけるも、返答はない。
「なんじゃお前ら、もっとやる気を出さんかい。破棄が足らんぞ、覇気が。いいか、文化祭はお前たちのイベントなんじゃぞ」
痺れを切らしたか、厚木がやや大きな声で呼びかける。どうやら厚木は、この実行委員会の顧問的存在らしい。
おそらく、隣にいる平塚先生も同様であろう。腕を組んで瞑目している先生に反して、厚木は生徒たちを一人一人見ていく。
そして、俺……ではなく。横にいる雪ノ下に目を止めた。
「おお、お前。雪ノ下の妹か!あの時みたいな文化祭を期待しとるけぇの」
身勝手かつ、無責任な期待。
それは言外に、「お前も雪ノ下陽乃のように委員長としてこいつらを導け」という押し付けのようにも感じる。
厚木の言葉で気がついたのか、城廻先輩も「あ、はるさんの妹なんだ」と呟く。年齢的に、後輩だったのだろう。
……まただ。また、イラつく。それはいつか、川崎沙希が雪ノ下に嫌味を言った時の気持ちに似ている。
『厚木先生。それはいささか無遠慮では?』
だから、気がついたら首輪から声が出ていた。パッと雪ノ下の目線がこちらに向いたことを感じる。
「ん? どういう意味じゃ」
『確かに、俺は実際に見たわけじゃないですが、雪ノ下の姉の行った文化祭は凄かったんでしょう。ですが、それとこれとは違います。そういうことは、雪ノ下の仕事の腕を見てから言うべきかと』
いつもより少し感情的なせいか、反論を許さず捲し立てる。きっと、後で黒歴史になるだろう。
でも、これだけは言いたい。かつて川崎に実家のことでそう思ったように、また雪ノ下陽乃と雪ノ下は違う存在なのだと。
「む、それもそうか。すまんかったな、雪ノ下の妹」
「い、いえ」
少し困惑しながらも、そう答える雪ノ下。よし、いつかの球技大会の大暴れで厚木に気に入られていたのが功を奏した。
「うーん、えっと……そうだ!委員長になるとわりとお得だよ?ほら、内申とかさ。指定校推薦狙ってる人とかはいいんじゃないかな」
結構露骨なメリットで勧誘する城廻先輩を見ていると、不意に机の下でブレザーの右側の裾を引かれた。
要するに、雪ノ下に呼ばれたのだ。さすがにあれは余計なお世話だったかと、恐る恐る隣に意識を向ける。
「比企谷くん、ありがとう」
しかし、雪ノ下が告げたのは非難ではなく、感謝の言葉だった。耳元近くで囁かれて少しゾワっとする。
『……おう』
辛うじて、小さな音量で返答を返す。ふふ、とまた笑うのが聞こえた。
「えーっと……どう?」
それからしばらくの間、城廻先輩の呼びかけが続いた。されど誰も申し出ることなく、会議は行き詰まってしまう。
これは、少しまずい流れだ。俺がそう思ったのは間違いないようで、雪ノ下がやればいいのでは、という雰囲気が流れ出す。
「………………ふぅ」
「…………!」
突然、雪ノ下が小さくため息を吐いた。まるで何かに諦めたような反応だ。
畜生、俺のフォローも無駄だったか。わざわざ目立ってまでやったのだが、やるせない気持ちになる。
「あの……」
だが、まだ諦めるには早かった。妙な緊張感の張り詰めた会議室の空気を、どこか自信なさげな声が破ったのだ。
「他のみんながやりたがらないなら、うちがやってもいいですけど……」
声の出所は、俺と雪ノ下の席から三つほど隣の四人グループの人。相模南だった。
その申し出は城廻先輩にとっても助かったのか、喜色に顔を染めた城廻先輩は手を打つ。
「本当?嬉しいな!じゃあ、自己紹介してもらえる?」
促された相模は、深呼吸して調子を整えてから口を開いた。
「えっと、二年F組の相模南です。こういうの、少し興味あったし……うちもこの文化祭を通して成長したいっていうか……あんまり先頭に立つのとかは得意じゃないんですけど、そういうとこも含めてスキルアップしたいっていうか?とにかく、頑張ります」
いや、お前の成長のために使われも困るのだが。
まあ、意気込みとしては十分か。他の連中も依存はないようで、そのまま相模は委員長候補に決まった。
「うんうん、いいと思うよ。それじゃあ相模さん、よろしくね」
「は、はい!」
ちらほらと拍手が上がると、相模は照れ臭そうに一礼すると座り直す。
一番大事な立ち位置の立候補が決まったことが嬉しいのか、城廻先輩は上機嫌でペンで【実行委員長:相模】と板書する。
「さてと、じゃああとは各役割を決めます。議事録に簡単な説明をつけておいたから、読んでください。五分後に希望を取りますね」
言われて、俺たちは議事録に目を落とした。
──ー
配布された議事録は、なかなかわかりやすくなっていた。
宣伝広報、有志統制、物品管理、保健衛生、会計監査、記録雑務……まあ、大きく分けるとそんなとこか。
やたらかっちりした役職名だが、まあ、高校生の文化祭だ。規定通りのことをすれば、多少の無理があっても大変じゃないはず。
「何にしましょうか」
『そうだな、どれもある程度は大変そうだ』
雪ノ下の言葉相槌を打ちながら、議事録を見つめて、一つ一つ確認していく。
まずは宣伝広報。
これはあれだな、近隣地域への勧告みたいなものだ。ポスター貼りとかで人と交渉することが多くなるだろう。
これに関しては、この地域に在住している義父さんの会社の人や、組織のちょっとした伝手を頼ればすぐできそうだ。
が、わざわざ学校行事ごときで時間を取らせるのも気が引けるので却下。
次に、有志統制。
うちの学校では、クラス展示以外の部活などはほとんど出し物をしない。代わりに、有志として参加する。
代わりに体育館でライブとかダンスとかやるんだ。宣伝広報より陽キャとの関わりが多い。あまり合わないだろう。
物品管理。
主に各クラスで使う机の貸し出しや、機材の運搬管理。これは俺の身体能力を遺憾なく発揮できる。候補の一つ、と。
保健衛生。
職務は食品系の申請と管理。これはダメだ。万が一俺の血液の一滴でも混入しようものなら、大惨事になる。
会計監査。
お金関係の取り扱いだ。数字にはさほど弱くはないが、かといって好きでもない。
主にあそこで散々見たバイタルチェックのモニタのせいで。それを抜きにしても、一番責任が大きいだろう。
最後に、記録雑務。
これは各部署の書類の取りまとめと整理、そして修正した上での実行委員長の可決申請などが主な仕事。
程よく大変そうで、かつ当日は写真を撮って記録を取るだけでいい。うん、ここが俺の事務能力を最大限発揮できそうだ。
議事録を机に置いて、んっと伸びをする。すぐに結論が出てよかった。
「決まった?」
『まあな』
首輪で答えつつ、議事録の記録雑務を人差し指で指し示す。
雪ノ下は少し息を呑んだ後にクスリと笑って、俺の指に自分のほっそりとした指をくっつけてきた。
びっくりして、彼女を見る。するとどうだ、いつも部室でゲームをするときみたいに悪戯げに笑っているではないか。
「一緒ね、私たち」
ああ、そういうことね。こいつも同じ記録雑務を選んだのか。
まったく、いきなり心臓に悪いことしやがって。仕返しに軽く指を弾くと、クスクスと面白そうに笑う。
……可愛い。
(なにあれ、あっま。こりゃ、昔を知ってるメンバーが推すわけだわ)
雪ノ下と同じ部署というわずかな喜びを得たところで、周りを見てみる。
他の奴らもだいたい決まったのか、暇そうに呆けてたり、携帯をいじったりしていた。
「ノリで実行委員長になっちゃったよ、どうしよ〜」
「大丈夫大丈夫、さがみんならできるって」
「あたしたちも手伝うからさ」
(比企谷君と雪ノ下さんを見守るのに問題ない範囲で、だけど)
「ほんと?約束だよ〜?」
その中には、談笑する相模たちもいた。やや大きめな声で話す会話の内容に、思わずげんなりする。
薄々わかっていたが、やはりその場のノリで名乗り出たようだ。それが悪いと言わないが、責任の重さだけは理解してほしい。
「彼女、どうなるかしらね」
『さあな、なるようになるんじゃねえの』
大ポカだけはやらかさないといいがな。
「そろそろいいかなー?」
あらかじめ与えられていた五分が経って、城廻先輩がパンパンとクラップ音をならせて注目を集めた。
本人の人間性か、大きな声で怒鳴りつけるよりよっぽど意識を集めるほんわかした声に、全員の視線が向く。
「みんな、だいたい決まったかな。それじゃあ相模さん、あとよろしく」
「え?う、うちですか?」
「うん、ここからは委員長さんの仕事だと思うし。最初の仕事だよ、頑張ってね」
「は、はい」
手招きする先輩に、相模は不承不承といった様子で立ち上がり、生徒会の一団に紛れるように前に出た。
「そ、それじゃあ、決めていき、ます……」
今にも消え入りそうな声で、相模は言う。
それでも静けさが支配する会議室に響いたが、それは決して心地よい類の沈黙ではない。
まるで、品定めをするような緊迫した空間。さながら獲物を定めたハゲタカのテリトリーのようだ。
有り体に言って、柄が悪い。誰かが吹き出しでもしようものなら、一斉に嘲笑が始まりそうだ。
「まずは、宣伝広報を、やりたい、人……」
それでも健気に頑張る相模の尻すぼみの言葉に、誰も挙手しない。
「はい、宣伝だよ。ついでに広報だよ。知らせるついでにいろんなところに行けちゃったりするよ」
すかさず城廻先輩のフォローが入る。さすが生徒会長というべきか、こういう場の進め方を心得ていた。
それが効いたのか、ようやく相模を包囲する雰囲気の檻は鳴りを潜めて、ちらほらと手が上がった。
各人の氏名と総人数が確認されると、次に移る。
「じゃ、じゃあ、有志統制」
文化祭の花形ともいうべきか、目立ちたい盛りの奴らは一斉に手を挙げた。さっきの宣伝広報の比じゃない。
「多い、多いよ!じゃんけんで決めるから、みんな手を出して!」
またしても城廻フォロー。もうめぐりんフォローとか命名してもいいと思う。なにそれ癒されそう。
それからも随時城廻先輩のフォローが入り、そんな感じでなんとか役職決めは停滞せずに最後まで終わった。
俺と雪ノ下も、ちゃんと「記録雑務」の一員として収まっている。早速各部署に分かれての自己紹介が始まった。
「えっと、誰からします?」
「それじゃあ……」
「えーっと」
「あ、じゃあ私から」
なんて、名前とクラスだけの簡素な自己紹介をして、あとは部署のリーダーをじゃんけんで決めて終わりだ。
「お疲れ様でした」
ごく一般的、要するになんの変哲も無い一言で会議は終了し、パラパラと解散していく。
「それじゃあ比企谷君。また明日、部活で」
『おう、それじゃあな』
雪ノ下と挨拶を交わして、俺も荷物を持って会議室を後にした。
その道すがら、ふと隅っこの椅子でしょげている相模が視界の端に映り込んだ。どうやら落ち込んでいるらしい。
最初の仕事は、出来としてはうまくいかなかっただろう。つい1時間目キレた俺がいうのもなんだが、頑張ってほしい。
兎にも角にも、こうして俺は文化祭実行委員会の一員となったのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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