声を失った少年【完結】   作:熊0803

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こんばんは、作者です。
今日は間に合いました。
お気に入り登録をしてくださる皆様、毎回読んでくださる皆様、いつもありがとうございます。そのおかげでどうにか書き続けていられる所存です。
さて、オリジナル要素を加えつつ体育祭編。

楽しんでいただけると嬉しいです。


77.声を無くした少年は、会議に参加する。

 城廻先輩がやってきた次の日から早速、俺たちは会議に参加する。 

 

 

 

 会場に選ばれたのは、文化祭でも使った会議室。あの部屋でぶっ倒れたので、あまり近づきたくはないのだが。

 

 とはいえ依頼である以上行かないということもできないので、今度は由比ヶ浜を加え3人で向かう。

 

 しばらくぶりに訪れた会議室は、文実の時と違って整然としていた。

 

 すでに何人か体育祭運営委員もいるようで、彼らの多数は見覚えがある。城廻先輩を含め生徒会の役員たちだ。

 

 他のメンバーはジャージ姿の生徒たち。体格や雰囲気から察するに、運動部だろう。

 

 事前に聞いた話だが、体育祭運営委員会といっても文実とはまた違い、生徒会と運動部からの有志の集まりらしい。

 

 その中において俺たちは生徒会側……つまり企画や指揮をする首脳側。

 

 対する運動部たちが、当日などの現場班という括りになってる。

 

 席を探しがてら室内を見渡すと、前方に監督の教師の他に生徒会じゃない生徒を見つける。

 

「うちは大丈夫……うちは大丈夫……」

 

 それは奇しくも、文化祭で実行委員会委員長を務めた(?)相模南だった。

 

 青ざめた顔をして小声で呟く様は、文実で陽乃さんに乗せられて調子こいてたやつと同一人物とは思えない。

 

 武者震いしてるようには見えず、むしろまた責任重大な立場になったのにビビってんだろう。

 

 ……あの様子だと、知らぬ間に委員長にされたっていうのは本当のようだ。ちょっとだけ同情する。

 

「み、南、落ち着いて、ね?」

「あんまり緊張するとよくないよ?」

 

 どうやら友人二人も健在のようで、明らかに緊張してる相模を気遣わしげに励ましてた。

 

 そういや女子バスケ部とかなんとかいってたな。それで駆り出されてきたのだろう。

 

「さがみん、すごい不安そうな顔してる……」

「失敗から学んだようで何よりだわ」

『まあ、ある意味自業自得ではあるがな』

 

 依頼通りできる範囲のサポートはしようと思いつつ、また室内を見渡すとある女生徒と目が合う。

 

 昨日、部室への帰り道でぶつかった一年だった。

 

 サッカー部のグループにいる彼女はこちらに気づき、薄く笑ってこちらに会釈する。

 

 ……また、微かに寒気を感じた。

 

「あ、あそこ空いてるよ」

『……おう』

 

 我ながら訝しみつつ軽く頭を下げたところで由比ヶ浜が席を見つけ、そこに移動した。

 

 ほどなくして全員が集まり、城廻先輩が手を叩くと全員の視線が前方へと集まっていく。

 

「はーい、それじゃあ会議始めまーす」

 

 ゆるりとした声音にも関わらず、好きなようにくっちゃべってた運営委員たちはが少しずつ静かになった。

 

 数秒して完全に沈黙したところで、先輩はうんうんと満足げに頷き隣にいる相模に目を向けた。

 

「うちは大丈夫……」

「相模さん、挨拶してくれる?」

「んえっ? あ、はいっ!」

 

 変な声をあげて勢いよく立ち上がる相模。オーバーなリアクションにクスクスとおかしいような微笑が起こった。

 

 相模はカッと顔をタコのようにしながらも、腹を括ったのかしっかり背筋を伸ばして自己紹介を始める。

 

「えっと、今回委員長をすることになった相模南です。文化祭実行委員会でも委員長をやりました」

 

 生徒会以外の奴らが意外そうな反応をする。まあ、文化祭の準備期間中に会議室にでも来なければ知るまい。

 

 確か……ゆっこと遙、だったか? あの二人や俺たちのように事情を知るものは苦笑いを浮かべてしまう。

 

「文化祭の時は、ほんとみんなに助けてもらって……あの、色々と至らないところもありますけど、うち頑張るんでよろしくお願いします」

 

 ぺこり、とお辞儀をした相模にパラパラと拍手が送られた。日本人は殊勝で謙虚な姿勢を好むからな。

 

 相模が着席し、ふうと安堵の息を吐いたところで入れ替わりに城廻先輩が立ち上がり進行役を始める。

 

「今日の議題は、体育祭の目玉競技です」

 

 役員から受け取ったペンを使い、ボードに丸っこい字で『目玉競技』と書いて振り返る城廻先輩。

 

「みんな、どんどんアイデア出してね!思いついた人から挙手!」

 

 城廻先輩が一堂を見渡すが、誰も手をあげるものはいない。挙げろと言われるとあげにくいのが高校生だ。

 

 しかし、その中においても先陣を切れる奴はいる。由比ヶ浜がピシッと元気よく手を挙げた。

 

「はい、由比ヶ浜さん!」

 

 さすがは一周品の空気読みスキルを持つ由比ヶ浜。こういう時に真っ先に案を出して心理的ハードルを下げてくれる。

 

 一日あったのでいくつかは考えてきたものの、他の意見に織り交ぜながら出そうと思ってたので好都合だ。

 

「部活対抗リレーとかどうですか!」

「うーん、それだと部活に所属してない人が参加できないなぁ」

 

 由比ヶ浜の意見は遠慮がちな監督の教師の一声により却下されてしまう。

 

 ボードの上に書かれた『部活対抗リレー』の文字に線が引かれた。すごすごと座る由比ヶ浜。

 

 次に手を挙げたのは雪乃。指名されると、すっと立ち上がり意見を出す。

 

「借り物競走というのはどうでしょう」

「生徒の所持品を使うと、紛失とか破損のトラブルも起きるんだよねぇ」

 

 のんびりとした声で、またしても痛いところを突く中年教師。しみじみとした顔は昔そういうトラブルがあったのだろう。

 

 そうですか、とさほど気にした様子もなく座った雪乃に変わり、3番手で俺が挙手する。

 

「じゃあ、比企谷くん」

『クラス対抗の大綱奪いで、多い本数を取った方が勝ちってのはどうですか』

「衝突事故とか起きて大怪我をしたりすると、あとでクレームが来るなぁ」

 

 これもダメか。

 

 俺の案が却下された後も、生徒会をはじめとして様々な案が出たが、ことごとく反対意見が出た。

 

 挙げては潰され、挙げては潰され。

 

 城廻先輩や相模が案が出るたびに懸命にフォローするものの、最終的にはどこかしらから穴を突かれてしまう。

 

 時には学校側の責任になりそうなことになると教師も口を挟み出す始末。

 

 何かと規制の激しい昨今、教師陣としても保守的な考えにならざるを得ないのだろう。

 

 

 

 

 

 そんな風だからまともに会議が進むはずもなく、空気は悪くなっていく一方だった。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 歩き慣れた街道を、のんびりと進んでいく。

 

 

 

 

 

 といっても退勤ではなく、コンビニでガス代光熱費その他諸々の支払いをした帰りだ。

 

「ふふん♪」

 

 片手にはついでに買った酒の入ったビニール袋を持ち、足取りも軽やかだ。

 

 必要な仕事は持って帰っているものの、休みともなれば年甲斐もなく鼻歌など歌ってしまう。

 

 

 教師という職には、明確な休みというものがほとんど存在しない。

 

 

 春に一、二日、夏に長くて二週間、冬に取れて二日。それが例年の有給の使い方である。

 

 その間に実家に帰省したり、年末年始には卒業生や親御さんなどからの葉書に返信する。

 

 それに疲れを感じたことはあれど、億劫に思ったことはない。私にとって教師は何よりやり甲斐のある仕事だ。

 

 まだ未熟で、生き方に悩む子供たちに力の限り寄り添い、手助けをすることは生き甲斐になっている。

 

 その点で言えば、比企谷や雪ノ下は実に教え甲斐のある生徒だ……私より先に恋人が出来た点はともかく。

 

 

 私だってあと何年もしないうちに三十だ。親からの結婚しないの?というプレッシャーも重い。

 

 

 わ、私だってまだまだいけるはずだ!世間一般で言えば若手だから、若手だからぁ!

 

 と、ともかく。教師は私のライフワークであり、子供たちにアドバイスをするのは己の責務だと思っている。

 

 私が教師を目指そうと思った発端は、高校生の時に度々相談をしていた担任の教師だった。

 

 

 

 

 

『私が思うに、人生というのは一つの化学実験なの。時に慎重に、時に正しく、時に成功し、時に間違い、時に道を外れ、少し望んだ結果を手にして、代わりに多くのものを失う。その繰り返しの、長い長い実験の過程』

 

 

 

 

 

 科学教師だったあの人は、進路に悩む私の前で白衣の裾を翻し蕩々と語った。

 

 

 

 

 

『でもね、失敗のない過程なんてつまらない。成功しかない実験なんて何も学べない。だけど、間違ったことにさえ気付けないなら何も意味がない』

 

 

 

 

 

 だからね、と綺麗な茶髪を揺らして振り返り、恩師は私に自信ありげに笑った。

 

 

 

 

 

教師(私たち)の役目は、失敗を学ばせること。そこから新たな成功へ導くこと。一番波乱万丈な時期の子供たちにそれを教えられるなんて、お姉さんは嬉しくて……それに楽しくって興奮しちゃうな♪』

 

 

 

 

 

 恩師の言葉は私の胸に残り、こうして同じ教職へと導いた。

 

 あの人は今、どうしているのだろうな。()()()()()から連絡が取れなくなってしまったが……

 

「っと、歩きながら考え事はいかんな」

 

 危うく壁に肩をぶつける寸前で止まり、現実に思考を引き戻す。

 

 気がつけばもう自宅のアパートまでついていた。ポストを確認してから、錆びた階段を上がっていく。

 

 3階建ての真ん中、左から三番目の203号室が私の自宅である。

 

 鍵を出そうとして、ふとポケットに手をかけたところで思い出す。

 

「……そういえば、かかってないんだったな」

 

 そのまま右手をドアノブにやり、回して引き開けた。

 

 鉄の扉が開き、玄関が露わになったところでふわりといい匂いがする。

 

「帰ったぞ」

 

 ここ数年、実家に帰った時以外誰にも使う機会のなかった言葉を言う。

 

 返事を待たずにノブを手放し、靴を適当に脱いでから短い廊下をリビングに向けて進む。

 

 ドアを開けると、整理整頓されたリビングにお出迎えされた。

 

 ちらほら散見していたゴミは一切なく、まとめ洗いをしていた洗濯物の山もなく。DVDや漫画は本棚にしまってある。

 

 二日前までとはえらい違いだ。悔しいことに、私に家事能力は皆無だからな……

 

「あ……静さん、お帰りなさい」

 

 ドアの開いた音で、机に教材を広げていた男が顔を上げる。

 

 その言葉がじんと心に響くのは、きっとまだ新鮮だからだ。私に同棲人がいなかったからではない。

 

 いや、一人いたがあれは彼氏とも呼べん。家財道具一式かっぱらってっただけの泥棒である。

 

「あの、静さん……?」

 

 おっと、不安げな顔でこちらを見ている。あいつと同じ顔でそんな表情をされると、やはり妙な気持ちがするな。

 

「……ああ、ただいま」

「はい。ご飯にしますか? 一応、料理本にあったものは一通り作れますが……」

 

 ひ、一通りだと?私はたった三日で匙を投げたというのに……

 

「け、今朝渡したばかりのはずだが」

「はい、勉強の合間に読んでレシピは覚えました」

 

 マジか、と言って大口を開けなかったのは、私に大人としてのプライドがあったからだろう。

 

 凄まじい学習能力だ。ここに来たばかりの時は、基本的な常識すら曖昧だったのに……

 

「とりあえず、食事はまだいい。それよりも勉強をしているだようだが、何かわからないところはあるかね?」

「はい、この文章の問題なのですが……」

「ほう、国語の問題集だったのか。どれ、見せてみろ」

 

 自然と仕事の時の意識に切り替わって、隣に移動してノートを覗き込む。

 

「な……」

 

 そこでまたしても面食らった。

 

 綺麗な字で書かれたノートの中身は、既に中学三年相当だったのだ。

 

 たったの一週間でここまで解けるようになったというのか。

 

 こいつの素性はなんとなく察していたが、尋常ではないな……

 

「どうかしましたか?」

「……いいや、気にすることはない。で、この問題だったか」

 

 いつも授業でやっているように、なるべくわかりやすいよう説明していく。

 

 こうしていると学生時代、塾講師をしていたのを思い出すな。まるであの頃に戻ったような気分……

 

 はっ、ま、待て。別に懐かしむほど昔でもないぞ静。たったの二、三、いや五……くっ!

 

「ふむ、なるほど……」

 

 現実と言い訳の境目で苦しんでいるうちに、既に解き方を理解したのか一人で問題を進めていく。

 

 もう何度目かわからない自分への慰めのような思考を中断して、真面目に取り組む姿を見守った。

 

 真剣なその横顔は、やはり見れば見るほどあいつに……比企谷に似ていて。

 

 ただ一つ違うことは、目が腐ってないということか。顔のパーツは一緒なのに、それだけで全く違うように見える。

 

 それでもあの大雨の日にここまで連れてきてしまったのは、やはり同じように迷える子供に見えたからなのだろう。

 

 

 

 

 

 あのぼっちを自称する厄介な問題児のことを思い返しながら、私はじっと見守った。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 結局いくら時間は経てども協議の内容は決まらず、会議室には陰鬱な空気だけが漂っている。

 

「あ、あのぉ……誰か、意見ないですかぁ……」

「なんでもいいので、アイデア出してくださーい……」

 

 率先して意見を聞いていた城廻先輩は疲労困憊、自身も数回アイデアを出すも一瞬で蹴られた相模は涙目。

 

 これは確実に悪い流れだ。一度このようなサイクルにハマってしまうと、どんな妙案でも否定的な反応になってしまう。

 

「先ほどから同じ展開の堂々巡りで、どうしようもないわね……」

「ど、どうしよヒッキー」

 

 雪乃は疲れた様にため息を吐き、何回も意見を出して頑張っていた由比ヶ浜はこっちに潤んだ瞳を向けてくる。

 

 こいつらも疲弊してきているのだろう。まあ、俺もいくつか厳選してきた案は全部没られたんだけど。

 

 何か返そうと首輪にメッセージを送り、口を開いた瞬間だった。

 

「そういえばぁ、比企谷先輩は文化祭の時雪ノ下先輩の補佐さんだったんですよね?何かないですかぁ?」

 

 まるで見計らった様なタイミングで、鼓膜を這い回る様なキャピキャピした声が響く。

 

 その発生源は昨日の一年生。派手な外見の彼女は、その見た目に違わぬ軽薄な口調で聞いてくる。

 

 その瞬間、また心の隅に嫌な感覚を覚えた。

 

「文化祭の時は演劇であっと驚く展開を見せてくれたわけですし、もう少し何かアイデアがあったりするんじゃないですかぁ?」

 

 自然とこちらに会議室中の視線が集まる。それはまるで、俺を値踏みする様な無遠慮なもので。

 

『……待て、ちょっと考える』

 

 不審に思いながらも、とりあえず返答して思考を回転させる。

 

 この会議には諦めムードが漂っており、劇的に空気を払拭するだけの何かが必要だ。

 

 頭を捻るものの、どうにもうまく考えがまとまらない。突然頼られてもパッと思いつけるほど……

 

『あ、そうか』

 

 俺自身に策がないのなら、誰かを頼ればいいんだ。

 

 既に俺も、ここにいる全員も出せる知恵は絞りきった。あとはもう、新たなものに期待するしかない。

 

 どの道このまま会議が続いてもどうにもならないのならば、前提をぶち壊してしまえばいい。

 

「八幡くん、何か思いついたのかしら?」

 

 肯定の意味を込めて頷いたところで、ざわりと会議室の空気が揺れた。

 

 ……そういや人前で名前呼ばれるの初めてだっけか。

 

 おいそこ、「マジであんな腐った目のやつと……」かとか言うのやめろ。全部聞こえてるからね?

 

 とりあえず外野の反応は無視して、城廻先輩の方を向いて話しかける。

 

『先輩、追加でアドバイザーを呼んでもいいですか?』

「あどばいざー?」

「……ばいざー?」

 

 こてん、と首をかしげる天然な生徒会長、ついでにワンコ系ギャル。どっちを見てもほんわかするな。

 

『俺たちだけじゃいい案が出ない以上、専門のプロを読んだ方がいいと思うんですが』

「それなら別にいいけど……相模さんはいいかな?」

「へっ?」

 

 早速うまくいかなかったせいか落ち込んでいた相模は、また変な声を出して顔を上げた。

 

 一応この委員会のトップは相模だ、あいつがノーというのならばいよいよ頼みの綱はなくなる訳だが。

 

「えっと、どうぞ。それで何か決まるなら是非とも呼んでください」

 

 あちらとしても元から断る理由はないので、あっさりと了承された。

 

『ありがとう』

 

 礼を言ってから、早速スマホを使ってある奴にラインを送る。

 

 まだ学校にいたらしいあいつは、【すぐに馳せ参じるで候】と返信してきた。相変わらずキャラが定まってねえな。

 

『由比ヶ浜』

「ほえ?」

 

 間に雪乃を挟んでいるため、状態を前に倒してこちらを見る由比ヶ浜。

 

 その拍子に机の上で胸が潰れ、男子連中の視線が釘付けになった。

 

 俺?いやいや別に見たりしてないからあれ何カップあんだよとか全然これっぽっちも考えてないから。

 

「………………」

 

 痛い、痛いです雪乃さん。机の下で太ももつねるのやめて。本当に変なこと考えてませんから。

 

 澄まし顔で嫉妬する彼女の攻撃に耐えつつ手短に要件を伝えると、由比ヶ浜は頷いて携帯を取り出す。

 

 どうやらすぐに連絡が繋がった様で、こっちにサムズアップしてきた。一応サムズアップし返す。

 

 

 

 十分ほどして、アドバイザーたちはやって来た。

 

 

 

「失礼しまーす」

「失礼仕る」

 

 会議室の重たい鉄扉を開けて入って来たのは、海老名さんと材木座の二人。

 

「お邪魔しまーす♪」

 

 ……と、ついでに小悪魔な後輩も来た。

 

「あ、先輩今ついでとか考えました?ひどいですよ、こんな可愛い後輩呼びつけといて」

『いや、お前は呼んでないんだが』

 

 メールを送ったのは前の二人だけである。ていうか今はコンタクトつけてるのになんで考えてることわかんだよ。

 

 まあ、どうせ材木座と一緒にいて面白そうだとかでついて来たんだろう。

 

「ヒッキー、その子と知り合い?」

 

 由比ヶ浜が不思議そうにする。普通に考えて俺が後輩と知り合いだとは思わんだろうからな。

 

「……随分と仲が良さげだけれど、どういった関係なのかしら?」

 

 続けて雪乃も問いかけてきたが……少し声が冷たい。付き合い始めてから感情表現が顕著になった気がする。

 

 できれば明るい方の感情表現が多いといいんだけどね。いやほら、別にそういう趣味ないんで。

 

「ああ、心配しなくてもこのコミュ障の仲介役なので気にしなくていいですよ〜」

「ちょ、一色嬢酷い」

「じゃあ先輩、みんな前で発表とかできます?」

「……ノーコメント」

 

 目をそらす材木座にケラケラといろはが笑ったところで、海老名さんが前に出る。

 

「ね、ゆい。なんで私呼ばれたの?」

「えっとね、体育祭の目玉競技を出そうってなったんだけど、なかなか決まらなくて……」

「どうしても良い案が出なかったから、外部に頼んだのよ」

「なるほどなるほど。でもなんで私?」

「ヒッキーがそういうの向いてそうだからって」

「へえ、ヒキタニくんが……」

 

 海老名がちらりとこちらを見る。頼みますという意味を込めて頭を下げた。

 

 文化祭のクラス展示を見てたらわかったが、海老名さんは企画やプロジェクトの管理が上手い。

 

 その上急遽変更があってもすぐに対応できる柔軟性を持っているので、うってつけだと思ったのだ。

 

 ちなみに材木座も、企画や計画をするだけなら役に立つので呼んだ……指揮は絶望的だけど。

 

「……ま、いいよ。どうせ暇だったし、そういうことなら任せなさい!」

「ありがとねー姫菜」

「八幡、我も頑張るぞ」

『おう、頼むわ』

「任せてください♪」

 

 なんでお前が答えるんだよ、と内心突っ込みつつ、新たな助っ人に俺は期待を寄せる。

 

 

 

 

 さて、体育祭は一体どうなる?

 




読んでいただき、ありがとうございます。

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