徐々にアクセス数が下がってきているあたり、やっぱりオリジナル要素って難しいんですねぇ。いや、今更抜くのも無理なのでがっつり入れますが。
さて、今回は前回の後半といったところ。
楽しんでいただけると嬉しいです。
材木座と海老名さんに助っ人を頼み、休日をまたいだ放課後。
会議室は発表用に様変わりしていた。
会議室前方のスクリーンロールが下ろされ、パソコンに接続されたプロジェクターからは白い画面が投影されている。
一通り問題がないか確認し終えたところで、城廻先輩に親指を立てて伝えるとあっちもサムズアップしてきた。
「さ、それじゃあ始めようか。相模さん」
「は、はい……これから、第二回の体育祭運営委員会を開始します」
呼ばれた相模が、やや緊張した面持ちで起立し会議の開始を宣言する。
週末を挟んでいくらか覚悟が定まったのか、震えてる割にはしゃんとした声の号令に皆が答えた。
「えっと、じゃあひなちゃん……と、そっちの二人。お願いできる?」
「まっかせなさーい♪」
「うむ、よろしく頼む」
「お願いしまーす」
一方は軽快に挙手をし、一方は固い声で腕を組み、その一方にくっついてるのがぺこりとお辞儀する。
「ねえ、あの人ちょっとかっこよくない?」
「えー、でもあの一年生の子が彼女なんじゃないの?」
「そっかぁ、残念」
近くからそんなヒソヒソ話が聞こえてきた。まあ、材木座は普段の言動はともかく見てくれはいいからな。
ただ今の女子が言った通り、最近の一緒にいる頻度を鑑みるに、マジでいろはが狙ってんじゃないのかと疑っている。
無論、材木座の奇行を見ている奉仕部二人は微妙な反応をする。残念イケメンとは奴のための言葉だ。
そうこうしているうちにプレゼンが始まり、まず先発は海老名さんだった。
材木座が後回しなのは、二人でやる自分たちの方が時間がかかるという、いろはの配慮によるものだ。
海老名さんはスクリーンの前に立つと、作成してきたパワーポイントを立ち上げる。
「えっと、私の案は『棒倒し』です」
あれ、意外にまともな案だな。てっきり文化祭のホシミュ☆の原案と同じ展開になるかと思ったが。
まあ、真面目にやればアイデアもスキルも、ついでにイケイケで人を引っ張っていくリーダーシップもあるからな。
「今回のポイントは、ズバリ大将の存在。カリスマ性を重視することで目立つ競技にできるかなと思ってます」
なるほど、つまり生徒たちに人気の高いやつを大将に据えてやるってことか……そうなるとやっぱり奴か?
「そこで、サッカー部部長の葉山隼人くん。彼をこの棒倒しでの大将にすることで、生徒全体からの関心を引こうと思います」
パッとスライドが変わって表示されたのは、やたらキラキラした葉山の顔……うん、単純にうぜえ。
今も継続して噂の鎮火に手を貸してもらっているわけだが、それとこれとは別問題だ。
だが、げんなりしているのは俺や雪乃たちだけで、他の女子たちはキャピキャピしている。
まあ、この様子だと他の女子も似たような反応をするだろうし、集客力のある葉山をキャスティングするのは良策だ。
しかし、その素晴らしいプランにも欠点があるのだろうか、海老名さんの表情は優れない。
「葉山くんは白組だから、赤組側にも誰か大将が必要なんですよね。ってことで、誰か良さげな人いませんか?」
ざわざわと会議室に喧騒が広がる。
そんな中、雪乃と由比ヶ浜から微妙な目線が向けられた。きっと今の俺の表情は渋いものになってるだろう。
どうか話が逸れてくれと思う俺の願いも虚しく、ウンウンと頷いていた城廻先輩が断頭台のレバーを下ろす。
「この中で赤組の人、挙手してみてー」
そこかしこからちらほらと手が上がる。おおよそ全体の半分ほどだろうか。
その中には雪乃と由比ヶ浜も含まれていた。面白いことに、奉仕部の女性陣は同じ赤組だったのだ。
そして……
「……ヒッキー」
「八幡くん」
『……わかってるよ』
二人に促され、嫌々ながらも右手をあげる。
幸か不幸か、俺も赤組に配属されていた。3人揃い踏みでなんとなく嬉しい反面、嫌なこともある。
会議室をぐるりと見渡していた海老名さんが俺を見た瞬間、眼鏡をキランと光らせた。やっぱりな。
「ヒキタニくん赤組だったの!?」
『……まあ』
「じゃあもうヒキタニくんで決まりでしょ!最近隼人くんと仲睦まじくしてるし、文化祭で知名度もバッチリだし!これはキマシタワー!」
…………ええはい、こうなると思ってましたよ。
叫ぶ海老名さんに、全員の視線がこっちを向く。
男子の大多数は嫉妬のこもった目を、女子のほとんどが興味ありげな顔を。数人はなぜか赤い顔をしていた。
後でいろはに聞いた話だが、俺の演技を見て、ちょっとした隠れファンみたいなのができたらしい。
悪役のハマりっぷりがすごくて、おかげで勢力拡大できましたとかなんとか。いや正気か?
自分で言うのもなんだけど目腐ってるよ?クレール役の先輩の方が断然イケメンだよ?
「ほう、彼奴も赤の者であったか……」
「同じですねー」
材木座といろはも赤色らしい。なんだかんだで既知のやつとは全員同じか。
「そんな二人が敵対する大将同士の棒倒し!これほど熱い展開はないって!ついでにあっちの棒も立たせブハッ」
そこまで言って、海老名さんは鼻血を拭いて動かなくなった。怒涛の勢いにメンバーの顔が引きつる。
城廻先輩が頷くと、シュバッと生徒会役員たちが動いて海老名さんを引きずっていった。
あんたらやっぱ忍だろ……
────
「で、比企谷くん。どうかな?大将はできそう?」
海老名さんが回収され、城廻先輩がこっちに話を振ってくる。いいタイミングだ、ここで話を潰しとこう。
『俺は運営委員あるので無理っすね。棒倒しやるなら他の人を推薦で』
「そうだよねー。それにまだ、もう一つのアイデアを聞いてないし」
座って腕組みしてる材木座を見て言う城廻先輩。そう、まだあいつの発表が残っているのだ。
断ったことで興味が削がれたのだろう、自然と会議室の空気が材木座の発表への期待に変わっていく。
「えと、それじゃあ二人。お願いします」
「うむ」
「はーい」
二人がスクリーン前に移動し、準備をし終えると材木座がわざとらしく咳払いをする。
「うおっほん」
「発表をはじめまーす。こっちは材木座義輝先輩で、私は一色いろはと言います。よろしくお願いします」
ぺこりと丁寧にお辞儀をするいろはに追随し、材木座もへこっと首だけ下げる挨拶をする。
それから材木座がエンターキーを押してレジュメのスライドを表示させると、『体育祭競技提案』というタイトルが。
こっちも案外まともっぽい。シンプルイズベストという感じだが、さて中身の方はどうなのか。
「私たちが提案するのは、騎馬戦を題材にした競技です」
あ、スピーチの方はいろはが受け持つのね。
『材木座のやつ、人前に出ると死にかけの蚊みたいな声しか出ないからな……』
「へぇ、そうなんだ」
『ああ、緊張しすぎて最悪ほとんど聞こえないまま終わる』
「もはや発表の意味をなしていないわね……」
騎馬戦と聞いて、男子どもの表情に明らかにやる気がみなぎった。男って騎馬戦好きだよな。
「提案する内容はこちら。その名も……」
ドドン、という効果音とともに、スクリーンに達筆な文字フォントで『千葉市民対抗騎馬戦』と表示された。
「千葉市民対抗騎馬戦、略してえええええ!チバセンっ!」
タイミングよく大仰な手振りで叫ぶ材木座。もしかして最初から狙ってたのか?
「ルールは基本の騎馬戦を主軸に、鎧を着てコスプレした大将騎を複数決め、その撃破した数の多さで競うものです」
某イラストでデフォルメされた鎧武者が騎馬になって戦うイメージ画像を元に、説明がされていく。
ルールもシンプルかつ、なかなかに面白そうだ。流石、計画することだけは一流なだけはある。
「さっき海老名先輩も言ってましたが、やはり注目すべきは大将。これをどう動かすか、どう守るかといったところで戦略性が追加され、注目する要素になると見込んでいます」
「うむ、まさにその通りである」
スライドはそこまでだった。『ご清聴ありがとうございました』という一文を最後に、発表が終了する。
もう一度お辞儀をする二人にパラパラと拍手が送られ、その後に委員長と生徒会長に目線が集まる。
「うんうん、どっちのアイデアもいいね。相模さんはどう思う?」
「はい、どっちも意外性があっていいと思い、ます」
「じゃあ、決を取ろうか」
相模が頷き、会議室を見渡して若干震える声を張り上げる。
「棒倒しがいい人ー」
パラパラと手が上がる。その中には相模自身も含まれていた。葉山の雄姿を拝みたいのだろう。
「じゃあ次に、騎馬戦やりたい人ー」
またまばらに手があがる。その人数は先ほどとほぼ同じで、つまり全体の半分ほどということになる。
「拮抗、してるね……」
よく見るとわずかに棒倒しの方が多いので、優勢なのはそちらだろうか。
さて、困ったことになった。多数決において一番難解なのは、二択になった場合同じ数の支持者がいることだ。
どちらか一方が圧倒的に少なければ、元から少数派だったしと諦めて鞍替えすることもできる。
しかしこうなった場合、ほとんど差はないのにという不満が少なからず生まれるだろう。それにどう対処するかだが……
「提案でぇす」
そこで一つ、手が上がる。
城廻先輩が返事をすると、その女子生徒は立ち上がって相模に言った。
「男子は棒倒し。それで、女子は騎馬戦ってことにするのはどうですかぁ?」
「えっ、でもそれは……」
確かに、それは良い折衷案のように聞こえる。
しかし裏を返せば、その分人員や物資が半分に減って一人相当の負担が増えるということでもある。
ちら、と友人二人を見る相模。自分と違って部活に入っている彼女たちに負担をかけたくないのだろう。
しかし、もとより半分ずつに分かれていた会議室の面々は妙案だと表情を和らげた。
「……じゃあ、その方向で」
「ありがとうございまぁす」
その空気に押し負け、相模は了承してしまう。雰囲気に流されるところは変わってない、か。
そんな相模より、着席した女子に目を向ける。先週もこっちに話を振ってきたあいつだ。
ほとんど他人になど関心が湧かないのに、どうしてあの女子の行動にはどこか違和感を覚えるのか。
……考えてもわからない。会議の方に集中した方が有意義だ。
「プログラム一覧を配ります。自分が担当したいものを前にきて書いてください」
生徒会役員たちの手によってプリントが配られていく。
ここからはフリータイムだ。雪乃たちと相談しようとすると、城廻先輩がトコトコと歩み寄ってきた。
「みんなは当日、運営本部として動いてもらうつもりだから担当は決めなくていいよ」
「あ、そうなんですか」
「では、私たち首脳陣も割り振りをしましょうか?」
『その方がいいな』
考案者である材木座たち……一応海老名さんも引きずってきてもらった……と相模も呼び寄せて会議を始める。
必要な役職の確認、各競技を行う際の人員編成に救護や放送、当日までの準備品の製作、会場設営、エトセトラエトセトラ。
首脳陣より現場班の方が多いので、適度にそちらに任せられる仕事を裁く。
「あ、そういえば目玉競技は全校参加だよね」
「じゃあ、男女全員参加しないとダメかな」
「そうですね……相模さん、お願いできるかしら」
「うん、わかった」
相模は立ち上がって、できる範囲で目玉競技は参加するよう宣言した。
自分の仕事や他の出場競技の兼ね合いもあり、多少不満の声は漏れたが強制ではないということで了承される。
そうして、議事は進んでいった。
────
「皆さん、そろそろ下校時刻です。キリのいいところで話を終わらせて帰りましょう」
そうこうして話を進めているうちに、最終下校時刻になってしまう。
監督の教師の言葉に従い、各々話をある程度までまとめて現場班が帰っていく。
それは首脳陣も例外ではなく、塾やバイトなど止むに止まれぬ事情で一人、また一人と抜けた。
「今日はここまで、ですかね」
「そうだねー。みんな、お疲れ様ー。これからも続くと思うけど、頑張ろう!」
やがて、俺たちを含めわずかに残っていたメンバーも城廻先輩の一声で帰り支度を始めた。
最初に相模が帰り、次に材木座がいろはとともに退室して、城廻先輩たち生徒会もお役御免。
「ゆきのんごめん。あたし、ママに買い物頼まれてるから今日は先に帰るね」
「ええ。また明日」
「うん!ヒッキーもバイバイ!」
『おう』
奉仕部で一番最初に行ったのは由比ヶ浜だった。
程なくして雪乃も帰り支度を終え、鞄を肩にかける。それから未だに座っている俺の方を見た。
「まだ帰らないのかしら?」
『ああ、ちょっとスケジュールをまとめてから帰るわ』
各運動部の動きがよくわからないので、文化祭の時ほどかっちりしたものじゃない。
しかし目に見える予定というものがあれば、後は各々で自分の方の予定と合わせて折り合いをつけてくれるはずだ。
「……文化祭の時のような真似をしてはダメよ」
『ああ、わかってる。また倒れたらたまったもんじゃないからな』
「そう。ならいいのだけれど」
答えたきり、雪乃は隣に突っ立ったままで動かなかった。
「……?」
てっきりすぐ帰ると思っていたので、不思議に思い顔を上げた瞬間……すっと頬に手が添えられる。
え、と間抜けな声を首輪が発する前に、左の頬に小さなリップ音を立てて柔らかいものが落とされた。
まさかこんな場所でそんなことをされるとは思っておらず、シャーペンを机の上に取り落とす。
『……えっと、雪乃さん?』
「……これは無理をしないための印よ。誰かに見られているかもしれないから、頬が限界だけれど」
素早く離れていく雪乃。その拍子に清涼な香りが鼻をくすぐる。
見上げると白磁の頬は朱に染まり、それを見られるのを恥じるように雪乃は踵を返して出入り口に向かった。
「さようなら八幡くん。また明日」
『お、おう』
バタン、とやや大きな音を立てて鉄扉が閉まるまで、俺の心臓は若干高鳴ったままだった。
ドギマギしつつも、会議で決めた情報を整理してルーズリーフに今後の予定を書き連ねていく。
しばらくすると精神も落ち着いてきて、サクサクと予定を組んでいった。この調子なら五分もあれば……
「あれ、まだ人がいたんだぁ」
作業を進めていると、扉が開く音とともにそんな声が聞こえた。
顔を上げれば、そこにいたのは……あの一年生。パッチリとした目を驚いたように瞬かせ、こちらを見る。
またこいつか。こんなところに一体何をしに戻ってきたのだろうか。
硬直したのはわずか数秒のことで、ニコリとどこか薄っぺらさを感じる笑顔を貼り付けて話し出す。
「お気になさらず続けてくださぁい。忘れ物を取りにきたんで」
『……そうか』
あちらから事情を言われた以上、立ち入る気もないので言われた通りに作業を続ける。
その間にそいつは会議室の中に入り、自分の座っていた場所を探る。
いやでもおなし部屋にいる以上その音を聞いていると、お目当ての何かを見つけたのか足音が扉の方に移動した。
「あ。そうだぁ」
しかし、扉の前に立ったところでまたしても声を発する。
若干嫌な顔をしつつ頭をあげ──そいつの顔を見た瞬間、凍りついた。
「助っ人さん、すごかったですよぉ。あんなお知り合いがいたんですねえ」
可笑しそうに、愉しそうに、そいつは笑う。
「ほんとすごい。助け合って、群れて、馴れ合って……ふふっ」
俺が滑稽で仕方がないと、材木座たちに頼ったことが、まるでバカのようだと嘲笑うように。
あまりに邪悪なその嘲笑は、これまでどこか感じていた悪寒の何倍も俺に本能的な嫌悪を抱かせる。
それはまるで、
「まるで
吐き捨てるように言い残して、そいつは会議室を出ていった。
扉が閉まった瞬間、いつの間にか張り詰めていた空気はなくなり、俺は立ち上がって扉に近づく。
勢いよく開けて廊下に出た時──そこにはもう、誰もいなくて。
『……なんなんだ、あいつ』
俺の独り言が、無人の廊下に木霊した。
読んでいただき、ありがとうございます。
……上手く纏まらないなぁ。
次回はまるまるオリジナル。そしてこれが最後の日常回でございます。
コメントをいただけると励みになります。