今回は新しい生活の始まり。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「──さい」
……綺麗な声に、安眠を妨げられる。
「──なさい」
数年に渡る家事により5時半にセットされた体内時計は、しかし川のせせらぎの如き美声に拒絶を示す。
むしろ、小町とは違った心地良いその声に俺の心は安らぎ、より一層眠りへと誘っていくようで。
まるで何かから遠ざかるように深く沈んだ意識は、泥のような無意識の底にしがみついていた。
「──起きなさい。それとも口付けによる起床がお好みかしら」
「……っ!」
しかし、奇しくもそれは耳元で囁かれたとんでもない脅迫で遮られる。
意識と無意識の中間地点を吹っ飛ばし、一気に自我が覚醒して目を見開いた。
そのまま脅迫した相手の方に首を捻って──
「あら、起きたのね。おはよう八幡くん、気分はどう?」
「──っ!?」
間近にある恋人の顔に、一瞬で羞恥の炎が燃え上がって全力で身を引いた。
起き抜けで脱力しているにも関わらず、俺の体は遺憾無く力を発揮してベッドから転げ落ちる。
「〜〜っ」
「何をしているのかしらこの男は……いくら何でも大げさというものよ」
頭を打って悶絶していると、ため息を吐くのが聞こえた。
ジンジンと痛む後頭部を抑えながら、ベッドの縁に手をかけて下手人をもう一度しっかりと見る。
呆れた顔で立つのは、絵画から出てきたような目の覚める美少女。
カーテンの隙間から射し込む陽光に照らされ光輪の浮かぶ黒髪は艶やかで、白い寝巻きは天使の羽衣のようだ。
「それで、今度こそ目は覚めて?」
「……(コク)」
「それなら身支度をしなさい。朝食は作っているから」
必要なことだけを述べ、雪乃は部屋から出て行った。
後にポツンと残された俺は、しばらくその場で呆けたままでいたが、やがて立ち上がって動き出す。
枕元の棚に置いた首輪を手に取って、改めてこうなった経緯を思い返す。
……何故雪乃が、俺を起こしに来たのか。
それは雪乃が突然隣の家に引っ越してきたとか、ギャルゲーにありがちな展開ではなく。
むしろそんなチャチなもんじゃなくて、いっそエロゲー寄りっつーか……まあ一言で言うとあれだ。
俺、彼女と同棲し始めました☆
『……改めて考えると、なんだこの状況』
首輪をつけて接続してからの第一声はそれだった。
朝で眠気が残ってなかったら、この訳がわからん事態に今すぐにでも発狂していたことだろう。
いや、訳は分かっている。
事の始まりは、今から三日ほど前……ナンバーズ同士の会議で例の事件の報告をした時のこと。
『貴方には──雪乃さんの家で暮らしてもらいます』
『…………………………………………は?』
そんな雪ノ下母の一言により、俺はこのマンションに(強制的に)送り込まれた。
名目は〝組織関係者の護衛〟。それも期間は無制限とかいう、出鱈目にもほどがある指示だ。
しかもあの場で言われた時点で正規の任務として処理済みだったようで、俺が異論を挟む余地は無かった。
こういった任務は本来、護衛対象者の事情も考慮して、同性のエージェントなどを送り込むはずなのだ。
だがしかし、そこは組織の絶対頂点。暗黙の了解など、雪ノ下母の権力の元には紙屑に等しい。
……権力者怖い。
そういうわけで、突然の単身での引越しが決まった。
うちにあった俺の私物、生活用品やスーツ、その他諸々全て運び出されてこの部屋の空き部屋に運び込まれ。
そうするとあら不思議、見事に生活環境が整った……俺の意思はガン無視で。
『生活費などはこちらで全て用意します、じゃねえよ……』
パジャマを脱ぎながら、一人でぼやく。
前から話には聞いていたこのマンション、雪ノ下建設の建設物で権利は雪ノ下母が持っていた。
高校生になる際に一人での生活を望んだ雪乃に、せめて目の届く所にと配慮をした結果らしい。
そのため、一人の移住程度好きなようにできるのだ。戦闘力以外はなんちゃってナンバーズの俺も含めてな。
そんな感じで、デートやら手作り弁当やら、そういった甘い過程全部すっ飛ばして同居が始まったのだが……
『何より問題なのは、当のあいつがそれを受諾してるってことだろ』
むしろ快諾と言っていい。
雪ノ下母からその旨を伝える電話の時、即答で了承したと本人の口から聞いた。
そしてもう一人、この任務に快諾してたのが……あろうことか義父さんである。
小町が俺に抱きついて泣きじゃくり、義母さんが頭痛で寝込んだ中、いい笑顔で送り出してくれた。
十七で家を出る息子に『次は孫を連れてこいよ』とか言うか?小町にぶん殴られてたけど。
ていうか雪乃さん、覚悟決まりすぎじゃない?俺も男だよ?若さ故の過ちとか犯すかもしれないよ?
……いや、彼氏だからそういう事をしてもいいのか?
まだダメだろ。付き合いだして二ヶ月も経ってないぞ。そもそも期間が問題じゃないし。
ああ、今ようやく分かった。
俺が起きるのを拒絶した理由は、一緒に暮らすにあたってルールを遅くまで決めていたのもあるが。
……それ以上に、この現状を受け入れたくなかったからなのだろう。
『あーくそ、もういいわ』
考えるのすら面倒になってきた。どうせ逃げ出そうとしても絶対権力者二人に包囲されてるし、諦める他ない。
押してダメなら諦めろが俺の座右の銘だ。せいぜい、この現実に慣れることを未来の俺に丸投げしよう。
などとゴチャゴチャ考えてる間に着替え終わったので、洗面所……すげえ広い……で顔を洗って歯を磨く。
「ニャー」
ん?
『ようリエ、おはよう』
「ニャー」
足元にいたのはこの家の飼い猫であるリエだった。名前の由来は白を意味するリエフコからとか。
どうやら挨拶をしに来ただけなのか、すぐに洗面所を出て行った。カマクラもそうだけど気まぐれだな。
「やっと来たのね。さあ、もう準備は済んでいるわよ」
身支度を整えてリビングへ行くと……既に朝食の準備が終わっていた。
丁度飲み物を運んでいた制服姿の雪乃が、こちらを振り返る。
『おう、サンキュ』
まだ慣れないソファに座る。
雪乃も人一人分ほど空けて腰を下ろし、手を合わせていただきますと心の中で唱えて手をつけた。
「昨日は眠れたかしら」
『……まあ、そこそこだな』
ベッドは俺の部屋から運ばれたものだが、同じ部屋の中に雪乃がいると思うだけで眠気が覚めた。
それでも心労で半分無理やりに寝たので、いつもに比べると睡眠時間は削れている。
「そう。授業中に居眠りをしてはいけないわよ。八幡くんならば平気だと思うけど」
『いや、俺は寝る時は何の躊躇もなく寝るぞ。何なら平塚先生じゃなかったら国語も寝てる』
「あら、それは大変ね。登校したら報告しておくわ」
『おいやめろ、抹殺のラストブリットが飛んでくる』
くだらない事を言い合いながら、和やかな朝食の時間を過ごす。
確かに色々と飛び越えたせいで度肝を抜かれたが、それでも雪乃と一緒に居られる時間が増えて嬉しくないはずがない。
護衛というのもただの建前でもない。俺の居場所を奴が知っていた以上、狙われる可能性は十分にある。
『気を引き締めていかないとな……』
「? なんのことかしら」
『ああいや、居眠りしないようにな』
「そう」
適当に誤魔化しつつ、とりあえずは食事を続けた。
────
これまでとは違う新たな通学路を、自転車で駆け抜けていく。
秋に入った朝の道路は寒く、かじかむ指先に力を込めてハンドルを握り、坂道を下る。
「ふふ、案外いいものね」
『じっとしてろよ、バランス崩れやすいから』
後ろに乗せた雪乃を振り落とさないよう、うまくバランスをとりながらペダルを漕いでいく。
幸い相乗りスキルは小町によって鍛えられているので、力調節は慣れたものだ。
……小町を乗せることはしばらくなさそうだけどな。
『ていうか、こんなことしていいのかよ優等生。見つかったら大目玉喰らうぞ』
「あら、それなら心配いらないわ」
『へえ、何か対策でもあるのか?』
そういうことはやらないと思っていたが……案外そこらへんは柔軟なのか?
「ええ。リスクを恐れる臆病な恋人が、見つかる前に降ろしてくれることを期待しているもの」
『……そりゃ確実だ』
いい笑顔でヘタレを信じられた。思わず口元が引き攣る。
とはいえその言葉は的を射ており、学校に近い場所で下ろすと並んで歩き始めた。
『で、昼飯は?』
「あなた、もう忘れたの?これからはずっと部室で取りなさいと言ったはずだけれど」
『へいへい、わかってるよ。ていうか俺は持ってねえし』
俺のも含めて、弁当は二つとも雪乃が持っている。
それが昼食を自分と一緒に取らせるための策なのだとしたら、まごうことなき策士である。
男子高校生に昼抜きとか死ねと同じ意味だからな。俺だって死なないからといって腹が減らないわけではない。
そういや小町はどうしてるだろうか。あいつも家事はできるし、一通りインラスの世話は教えたが……
「ならいいのよ。恋人の記憶力が脆弱でなくて安心したわ」
『むしろ記憶力はいい方だぞ。何なら余計なことまで覚えてて引かれるまである』
ソースは小学校低学年の時の俺。
などと考えているうちに、前方に学校が見えてくる。
『すっかり元通りだな』
「流石、というべきかしら」
校門までやってきて、完璧に元通りになった学校を見上げる。
事件後の一週間の自宅謹慎は被害者たちの安全を考慮したのもあるが、本命は半壊した校舎の修繕だ。
そういうことに特化したエージェントたちの手で直された建物は、どこからどう見ても何もなかったようだ。
それは俺たちの横を通り過ぎていく、生徒や教師も同じこと。
彼らは、あの惨劇を忘れている。
それでいい。あんなものを背負う義務はない。親しい者の死をトラウマとして受け止める必要などないのだ。
ただ……彼らから命を奪った奴らと同じ、化け物の俺たちさえ忘れることがなければ、それで。
『……行くか』
「ええ」
校門前で突っ立ってるのも邪魔なので、感傷を振り払い足を進める。
当たり前だが、二人で歩いていれば周りの生徒たちから視線の集中砲火は必須。
だが、何でか同棲までしてしまった今の俺にはこの程度の居心地の悪さなど何ともない。
毒を毒で制しながら校舎に辿り着き、そこで雪乃と別れて靴を履き替える。
「ヒッキー!」
靴箱の蓋を閉めたところで、覚えのある声で呼ばれた。
『……由比ヶ浜か』
わかっていながらも、自分に意識させるようにそう言って振り返る。
俺の方を見て仁王立ちした由比ヶ浜は、傍らに海老名さんを引き連れている。
「はろはろ〜、ヒキタニくん」
『おう』
手を振ってくる海老名さんに手を振り返しつつ、由比ヶ浜に目線を戻す。
『……その様子だと元気そうだな』
「うん……その」
そこで言葉を止め、もじもじとし始める。それはまるで、言いにくいことを言う前の小町のようだった。
……まただ。部室で雪乃に組織のことを明かした時と同じ嫌な予感が、また頭の中をよぎる。
告白を断って、同じこの場所で友達として認識を改めた時とは到底比べ物にならない。
彼女は知っていたからこそ受け止めてくれた。だが耐性を除けば、由比ヶ浜はただの一般人だ。
到底受け入れてもらえるとは……思えない。
「ヒッキー」
『……おう』
……今度こそ、覚悟を決めるべきか。
「おはよう!」
そう思ったのに、告げられたのは拒絶でも罵倒でもなかった。
代わりにあったのは……いつもの笑顔。由比ヶ浜結衣の、俺が知る限り一番優しい女の子だった。
……ああ、どうやら俺はこいつの強さを見誤っていたようだ。
『……おう、おはよう』
「うん!……それよりもヒッキー」
スタスタと足早に近づいてきた由比ヶ浜は、ズイッと体ごと身を乗り出してきた。
やばいやばい!いい匂いするし胸に柔らかい爆弾が二つ当たってるし顔近いしヤバくて柔らかい!
「あたし、名前で呼んでって言ったよね」
『え、あ、おう。結衣?』
「それでよし。じゃあ後でね!」
ローファーに履き替え、由比ヶ浜は走り去っていった。
「ふふ、嬉しいよね」
その後ろ姿を目で追っていると、いつの間にか隣にいた海老名さんが微笑んでいる。
「じゃあね〜」
由比ヶ浜の後を追って、海老名さんも行く。
『……俺も教室に向かうか』
ローファーを足に引っ掛け、俺も歩き出した。
廊下を歩いている中で、無意識に周囲の喧騒に目を向ける。
一見いつも通りに見えるそれは、しかし多くの犠牲をなかったことにして作られた偽物の日常だ。
本来ならば許される隠蔽ではない。だが俺たちは正義の味方でもなければ、警察のような存在でもないのだ。
こうする以外にはない。目を逸らしては、いけない。
「……っ」
激しい違和感を感じ、ポケットの中で拳を握りしめて足早に通り抜ける。
思ったよりも早く教室に辿り着き、扉に手をかけて一瞬躊躇した。
数秒して恐る恐る開けると、数人がこちらに目を向けて、すぐに興味をなくしたように会話にも持っていく。
ここでも戻った光景に違和感を感じて、それを振り払い席につく。
「おはよう八幡くん!久しぶりだね!」
HRまで寝ようとしていたら、天使が近づいてきた。
『……戸塚か。調子はどうだ?』
「え? うん、別になんともないけど……でもびっくりしたよね、
……そう、今回はそういうことになっている。被害者も、メディアに対してもそうでっちあげた。
『……そうだな』
「うん、一週間も休みになるから体が鈍っちゃった」
『テニスが好きなのはいいけど、怪我するなよ』
「うん!」
いい笑顔で戸塚は離れていった。
その後ろ姿を追い、ふとその途中で窓際のグループが目に映る。
「そうだべ?それでさぁ」
「はは、大変だったな」
「……確かに」
「ふーん、つまらないし」
「まあまあ、優美子」
「あはは……」
……彼らもいつも通りだ。けれどそこには一人、メンバーが足りない。
このクラスは、一番被害が少なかった。それは言わずもがな、海老名さんが奴らを殺したから。
たった二人。
だがその二人は数字だけならなんてことなくても、誰かにとって必要だった二人だ。
そうやって見続けていたからだろうか、ふと由比ヶ浜がこちらの視線に気づいたように振り向く。
それから逃げるように、俺は狸寝入りをした。
────
「お前ら席につけ、ホームルームを始めるぞ」
大きな声で、浅い眠りの淵から意識を引き上げる。
のろのろと顔をあげると、教壇に平塚先生が立っていた。どうやらホームルームの時間らしい。
「諸君、一週間の自宅謹慎で怠けているかもしれないが、今日からしっかりと勉学に励むように。それでは出席を取る」
はーい、とちらほら返事が上がり、出席順に名前を呼ばれるたびに手をあげていく。
「大和……じゃ、なかったな」
そして平塚先生は、途中までその名前を言いかけて押し止まった。
ちらりとある席に先生が目を向け、目を細める。
一番後ろの列のその机はもう……本来の持ち主で埋まることはないのだ。
……生徒を何より思うあの人のことだから辛いのだろう。あいつを保護さえしなければ、忘れられたものを。
「よし……全員……いるな。では来週の小テストだが……」
一通り……大和ともう一人を除いた……出席が確認され、諸連絡に移る。
さほど多くもない連絡事項はすぐに全て伝えられ、平塚先生はプリントを教卓に置いた。
「さて、君達に一つ伝えることがある。このクラスに新しい仲間がやってくるぞ」
ザワ、と空気が揺れた。
新しい仲間とはつまり、転校生がやってくるということ。季節外れのこの時期に来ることに疑問が広がる。
また、こういったときの定番のように可愛いか、それともかっこいいかという話題も耳に入ってきた。
しかしあれだな。教師はよくクラスメイトを仲間と称するが、果たしてそれは本当に仲間であるのだろうか。
一つの教室に収まっていてもその実、カーストや男と女、陽キャと陰キャ……そういった枠組みで分かれている。
そして既に完成されたその枠組みに、このような中途半端な時期に入っていくことは非常に難しい。
ともすれば俺のようにぼっちになる可能性も高く、しかし差別はしたくないから教師は仲間という大きな枠に収めようとする。
つまり仲間とは大人にとって都合の良いケージの名称であり、真にその意味を発揮してはいないのである。
「では紹介しよう……入ってきてくれ」
そのお仲間が、平塚先生の一声で扉を開けて入ってきた。
「失礼します」
その瞬間、クラス中が静まり返る。
それは予想以上の期待によるものではなく、かといって予想以下の落胆からによるものでもない。
ただただ、驚愕。
そいつが前に立ち、黒板に自分の名前を書いて振り返るまで、誰もが驚いていた。
「平塚八兎です。今日からこのクラスで一緒に学ぶこととなりました。どうぞよろしくお願いします」
総武高校の制服に身を包み、俺と同じ顔をしたその男は、青い瞳でクラスメイトを見渡しそう言った。
「彼は私の遠い甥っ子のようなものでな。わからないことも多いから、色々と教えてやってくれ」
ぺこり、と頭を下げる平塚に、クラスメイトたちも無意識に軽く会釈する。
あいつは先生の指示を受け、空いている席……つまりもう一人の被害者の席だった、俺の後ろに来た。
「1時間目は現国だ。遅れるんじゃないぞ」
平塚先生が一旦出ていき、教室は微妙な空気に包まれる。
誰もが平塚に興味を惹かれているものの、見ているだけで誰一人として話しかけようとはしない。
あと時々俺に飛んでくる視線がうぜえ……顔のパーツは同じだから、どうせこの腐った目と見比べてんだろ。
授業開始まであと二十分……ずっとこのままの状況とか、居心地悪いにも程がある。
「やとっち!」
その中で一人、果敢にも話しかける勇者がいた。
由比ヶ浜は小走りで、平塚……先生を呼び捨てにしてるみたいだから八兎でいいや。八兎に駆け寄る。
「やあ由比ヶ浜さん。これからよろしくね」
「うん!わかんないことあったら聞いてね、教えるから!」
「由比ヶ浜さん、平塚君と知り合いなの?」
近くの席の……ええとなんだっけか、村川さん?が問いかける。
「うん、前にちょっと相談乗ってもらったの。やとっち優しいし、それに強いんだよ!」
「へえ、そうなんだ。強いってどういう意味で?」
「いえ、少し力持ちな程度で……」
由比ヶ浜と村川さん(仮)の会話を皮切りに、様子見をしていたクラスメイトたちが徐々に集まっていく。
五分もすれば、あっという間に八兎の周りには人だかりができて質問の嵐になっていた。
あれーおっかしいなー。俺が一年時に遅れて入った時は何も聞かれなかったのになー。
やはり目が普通だからか?そのせいで中途半端に整ったこの顔がイケメンに見えるからなのか?
「どこの学校にいたの?」
「いえ、実はしばらく行ってなくて。この新しい環境でまた学んでいけたらなと思います」
「彼女はいたりするの?あるいは彼氏でもOK!」
「はは、僕のような存在にそんなものはもったいないですよ」
……まあ、この調子ならそう時間もかからずに馴染めそうだな。
奴らの試作品である八兎に対して、組織は人間社会での生活を送らせることにした。
奴についての情報を全て提供した時点では本部に送って研究材料に、という提案もあった。
が、意外にも義父さんの鶴の一声で解剖は免れ、それよりも貴重なクローンのサンプルとして観察する方向に。
俺のクローンであるこいつに同情したのか、あるいは利用価値を見いだしたのか、それはわからない。
だが本人の強い希望もあり、引き続き監視付きで平塚先生とともに外で生活させる方向に決まり。
そしてナンバーズの俺と、全員がナンバーズと同等の戦闘力を持つ陽炎の一員である海老名さんのいる総武に送られた。
それがどのような結果を招くにせよ……いざという時は、俺たちが殺す。
「へえ、これが結衣の新しい恋人候補か。まあ、そこそこいいんじゃない?」
「ちっ、違うから!そういうんじゃないから!」
「はは……」
……まあ、由比ヶ浜を助けてくれたし、あまりそうしたくはないがな。
ていうか人の後ろでギャーギャーうるせえ。俺の存在完全に忘れてるよね?なんなら空気まである。
耳障りな喧騒にうんざりしながら、イヤホンを耳に装着して机に突っ伏した。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回はついに、八幡の過去について明かします。
コメントをいただけると嬉しいです。