ですので、今回はかなり短めになってしまいました。久々の投稿なのにすみません。
グレモリー対バアルの試合。
観客の予想を良い意味で裏切り続けたその試合は終わってみれば、誰もが熱気に当てられ、未だ会場には多くの悪魔達の姿があった。
それは彼らだけに限った話ではなく、来賓席で試合を観ていたジャンヌやゲオルクも試合が終わってもその場に立ち尽くしていた。
もっとも、それは感動などとは程遠いものだが。
(あれで神器が目覚めてから一年にも満たないなんて……王が目をつけたのも頷けるわね)
ジャンヌの目から見て、イッセーの実力は異常だった。
神器が発現したのが悪魔になったのとほぼ同時期。それから今日に至るまでイッセーはごく普通の高校生であり、特別体を鍛えているわけでも、格闘技をしているわけでもなかった。
だが今はどうか。
半年足らずで禁手に至り、さらに次の段階へと進んでいる。少し前まで神器はおろか、悪魔や天使が実在することさえ知らなかった普通の高校生だった人間にしては桁違いの成長速度だ。
これを異常と言わず、何と言うか。
歴代最弱と呼ばれていると耳にしていたが、所詮それは発現して間もない頃の情報でしかないと言わざるを得なかった。
当人に自覚はないだろうが、歴代の中で最も異常な速度で特異な成長を遂げている。サイラオーグとの激闘の最中、目覚めた力もその一つだ。
試合直前にはわかっていたことだが、実際に試合の最中にその一端を垣間見る事になるとは夢にも思わなかった。
イレギュラー中のイレギュラー。
それが指す意味はーー。
「……ンヌ。ジャンヌ」
「っ……なによ、ゲオルク」
「なによ、じゃない。王が兵藤一誠とサイラオーグ・バアルの元へ向かわれるそうだ。俺達もついていかねばならないだろう」
「兵藤一誠とサイラオーグ・バアルの?何故ーー」
「それは俺にもわからない。何か思う事があったんだろう」
試合が終わって少しの間、ギルガメッシュが鋭い眼差しで会場を見つめていたことにゲオルクは気づいていた。その鋭い眼差しが何を意味しているかまではゲオルクにもわからない。
「だが、いくら王には
「っ、そんなことは」
「ない、とは言い切れないな。今日の試合を観れば尚更」
あの二人の闘い。流れは間違いなくサイラオーグにあった。
ギルガメッシュとの修行で得た力も、『
イッセーはそれを土壇場で覆したのだ。敗北寸前の状態から勝利を掴んだ。
「……この続きは帰ってからにしましょう。他の幹部の意見も聞きたいわ」
「俺もそう思っていた。王にとっては未だ脅威足り得ないが、このペースで成長を続ければ決して無視出来ない存在になる」
ギルガメッシュにとって脅威となる存在になれば、その時はジャンヌ達にはどうにもならない実力をつけてしまっていると言うこと。
イレギュラー要素の塊がギルガメッシュと同等の実力を持ってぶつかるようなことがあれば、はたして勝つのはどちらか。ギルガメッシュがどれだけ有利に戦いを進めても、後一歩のところで逆転勝ちを収めてしまうのではないかという考えがチラついてしまう。
ともかく今はギルガメッシュについていかなければ。
僅かに抱いた不安を隅に置き、ひとまずギルガメッシュとともに二人の病室に向かうのだった。
ー◇◆◇ー
原作通り、兵藤一誠とサイラオーグ・バアルの戦いは熾烈を極めた。
原作と同じレベルに成長している兵藤一誠と、原作よりもダメージを受けているサイラオーグ・バアル。
ひょっとしたらあっさり決着がついてしまうのではないかという予想も杞憂に終わり、胸を撫で下ろした。
サイラオーグ・バアルの『兵士』レグルスの禁手ーー『
兵藤一誠のリアス・グレモリーへの 『
なにより、二人の勝利への執念。
それによって繰り広げられたのは単純な力のぶつかり合い。戦術も戦略もない、純粋な殴り合い。かわすことも防ぐこともない。様々な想いが籠められた拳を叩きつけあっていた。
負けられない戦いがそこにある。と断言できる試合だった。ぶっちゃけ試合の勝者はどっちでもいいかもしれないとさえ思った。兵藤一誠が勝たないとダメなのに。二人揃って主人公力高すぎるんじゃが。
あまりにも熱く、滾らせる試合に感動すら覚えた。というか、サイラオーグ・バアルの事情を知る身としてはちょっとうるっと来た。まさか戦いで感動を覚えようとは。涙目になるのもかっこ悪かったから最後の方は目に力を込めて堪えきった。
……まぁ、ちょうど涙目になるのを堪えようとしたところで二人が振り返ったことで、そのかっこ悪いところが見られてしまったわけだが。
その後『王が我々を同伴させた理由がわかりました』と言っていたから、俺が二人を連れてきた意図が伝わったようでいいんだけど。これでなんで泣いてたのなんて聞かれた日には目にゴミが、と見え見えの苦しい言い訳をせざるを得ない。
ともあれ、あの兵藤一誠とサイラオーグ・バアルには感謝せねばなるまい。
これからの悪魔界を担っていく悪魔がああいう弱者の気持ちがわかるやつらだったら、例え俺が死んだとしても、サーゼクス達が魔王でなくなったとしても、友好的な関係を築いていけるだろう。
神様転生したって言っても、所詮人間だからね、俺。不死身じゃないし、不老不死でもないからね。早いところ英雄派の安定を確保しとかないといけないと考えていた身としては異文化交流を通じて少しでも同盟相手のイメージを良くしてくれれば御の字だったわけだから、今日のような試合は最高だ。本当に二人には感謝しなければ。
ーーそんなわけで、感謝の念を胸に俺は兵藤一誠とサイラオーグ・バアルの病室に向かった。
やはり感謝の気持ちは直接伝えなければなるまい。それでこそ人の上に立つ資格があるというもの。特にマイナスなことはともかく、プラスなことは積極的に伝えるべきだ。
特にイッセーなんかは俺の無茶苦茶な修行をなんとか乗り切るだけでなく、俺が身につけて欲しかった力までちゃんと目覚めてくれたわけだから。ちょっとは褒めてあげないと可哀想だ。
そう思って向かったまでは良かった。
今度は迷わないようにジャンヌやゲオルクを連れているわけだ。
これで絶対に着く。
………ああ、確かに。道には迷わなかったよ。
「お?おいおい、いるとは聞いてたが、こいつはスゲェのに出くわしたな。こんなところでなにしてんだ。英雄王ギルガメッシュ」
ばったりと出くわしたのは護衛らしき者達を引き連れた男。五分刈り頭に丸レンズのサングラス、アロハシャツ、そして首に数珠とすさまじくラフな格好をしていた。久しぶりに外国から帰って来たおじいちゃんみたいになってるぞ。
「まさか本当に三大勢力に癒着してるなンてな……いや、案外癒着してんのはあいつらの方か?」
開口一番、凄まじい言われようだった。
「……何を言いたいのか知らんが、下衆の勘繰りはやめておけ」
俺たちはあくまでも対等な関係のつもりだ。いや、でないと同盟なんて成立しないし。
「HAHAHA!そんな怖い顔すンなよ、英雄王。今のは客観的事実を言っただけだぜ?聞けばお前はギルガメッシュの子孫らしいが、見てくれから俺ら『神』に対する態度まで同じと来たもンだ。そんなら俺さまだけじゃなく、他の神話もそう思ってンよ」
勘違いも甚だしい。
そりゃ確かに王らしく振舞う努力はしてるが、俺なんて本家ギルガメッシュに遠く及ばない贋作だ。だからこそ、他者との信頼関係を大切にしている……つもりだ。天上天下唯我独尊な王様が出来るほどの能力が俺にはないのだから。
とはいえぶっちゃけた話、相手がどう思ってるかなんて俺にはさっぱりわからない。俺はそれなりに良い関係を築いているつもりだけどね。
「さっきもアザ坊に言ったがよ。どこの勢力も表面じゃ平和、和議なんてもんを謳ってやがるが腹の底じゃ『俺らの神話こそ最強!他の神話なんて滅べ、クソが!』って思ってンよ。例外的に甘々な神もいるが、大抵の神は異教なんざクソ食らえが基本なんだ。おまけにただでさえ他神話に攻め込まれて信者を持ってかれた挙句に民間の伝説レベルにまで信仰を落とした神がいるんだ。神が恨みつらみに正直なのは、お前のご先祖が身をもって体験してるはずだぜ?」
おそらくエルキドゥのことを言っているんだろう……いや、こっちの世界じゃエンキドゥか?まあ、どっちにしても誰のことを言いたいかはわかる。知りたい人はギルガメッシュ叙事詩をどうぞ。
「それに、だ。神から信仰心を奪ったって言や、お前が一番重罪だぜ?」
「脅しのつもりか?」
「まさか。この程度でビビってくれるんなら、誰もお前さんを敵視しねェよ」
神との完全なる決別を計ったのはギルガメッシュだ。元から崩壊しつつあった神と人との関係だが、間違いなくギルガメッシュがとどめを刺した形になる。他にも色々やらかしていることを考えても神たちがギルガメッシュを恨むのは当然のことだ。ていうか、別人だってわかってるみたいなこと言ってたくせに俺のせいにしないで欲しいんだけど。したくなる気持ちは分からなくもないけどね?
「ま、当面のところはなんもしねェよ。仮に勝てても、消耗したところを他神話に攻め込まれて滅んだんじゃ笑い話にもならねェしな」
「そうしておけ。無益な争いは俺も望むところではない」
そもそもあんたらが攻め込んで来たりしたら俺たちも笑い話じゃ済まないってば。タイマンならまだしも軍団で来られたらそんなん無理ゲーですやん。実力があっても、こっちは紙装甲なんだから。
しかも勝ったところで原作になんの影響が出るかわからないという不安に駆られる。どっちみち俺は得しない。
「無益ねェ……ロキを屠ったお前がそれを言っちまうのか?」
「あれは放っておけば世界に破滅と混沌をもたらす。害があると判断した以上、静観する理由もあるまい」
放っておいてもグレモリー達+αが倒しただろうけどね。ただ、ヘラクレスが首を突っ込んでるっていうなら流石に放っておくわけにも行かなかった。
「そうかい。……
そう言うと、踵を返して去っていく。
……結局のところ、あいつ誰だったんだ?神がどうのこうのって言ってたし、おそらく神なのはわかるんだけど。
まあ、いいか。誰でも。
知らないにしろ、覚えてないにしろ、そこまで原作に影響を与えなかったやつなんだろう、そう思うことにした。
途中で変なのに出くわしたわけだが、目的地には予定通り着いた。
後は中に入ってーー
「ーーおや、キミも彼らに用かな。英雄王」
ドアに手をかけようとしたところでドアが開き、中からサーゼクスが現れた。
「用、というほどのことでもない。今日は良いモノを観たからな。その当事者達に褒美を、と思ったまでよ」
ご褒美をあげると言ってもバビロンに入っているものになるわけだけどね。まぁ、宝物とか伝説の武具とかなら入ってるし、モノによれば期待に添えるだろうけど、
「それは彼らも喜ぶだろう。かの英雄王からの褒賞だからね。是非……と言いたいところだが、今は彼ら二人だけにしておいてあげてほしい」
「都合が悪いか?」
「都合が悪い、とまでは言わないが、やはり拳を交わした者同士。積もる話もあるだろう」
なるほど。あそこまで後腐れなく殴り合いを演じた後は友情を深め合うということか。元々、原作でも二人は似ている部分もあるし、仲もかなりいいはずだから、そうなるのは自明の理か。
「とはいえ、英雄王。キミも一勢力のトップとして招待した賓客であるし、どうしてもというのなら私も止めるわけにはいかないが……」
「いや、お前の言い分も一理ある。俺が顔を出して水を差すわけにも行くまい」
せっかく楽しく談笑してたのに全く関係ないやつが顔出したら白けるもんな。特にサイラオーグなんて初対面だし。絶対微妙な空気が流れる。そうなったら申し訳なさがハンパない。
「申し訳ない、英雄王」
「気にするな。急な訪問をしたのはこちらだからな」
しょうがない。また日を改めるか。
……次いつ会うかわからないけど。
余談だが、道中に出会った神は帝釈天ーーインドラだったらしい。
そうと分からずに話していたとは口が裂けても言えなかった。
次話は気が向いたら姫ギル回になるかも(絶対やるとは言ってない)