「よぉよぉ、そこな青年よ。ちとばかし顔を貸してくれやしねぇか」
またか、と思いながら山中謙介ことやまけんはため息を吐く。身長の足りなさと、顔つきの幼さ故にか里に出るとこういったチンピラに良く絡まれる。
絡まれる度に返り討ちにしてやるのだが、こういった輩はいくらでも沸くらしい。しかも今日は予定があるのだ。こんなところで油を売っている場合ではない。
手早く済まして、さっさと行かないと、と思いながら振り返る。が、そこにいたのはそこらへんのチンピラなどではなかった。
「なんで…??俺が…!?」
そこにいたのは紛れもない自分自身の姿。すわ、緑の野郎の仕業かと疑うがあいつは家を出るときには爆睡していたはずだ。
愕然としているとその自分自身が口を開く。
「いやぁ、俺も腑抜けたもんだぜ。まさかの自己犠牲の塊ときたもんだ。反吐すら出ねぇや」
その言葉に雷のような衝撃が走る。
「お、お前…は…!!」
「おお、ようやく気付いたって感じか腑抜けてるだけじゃなく間抜けにもなっちまったらしい。全く、鳥頭にもほどがあるってんだ」
自分自身のようで自分自身ではないそいつは相変わらずの毒を吐き続ける。
「いやはや、久しぶりに現世に来たと思ったらこんなやつを目撃するとはな。これなら地獄にぶち込まれて永劫の責め苦を受けてた方がマシだぜ」
「過去の俺…!!」
恥ずかしながらやまけん自身にも緑並みに荒れていた時期はある。多数の友人との出会いによって今はどこへ出しても恥ずかしくはない好青年だと自負はしている。喧嘩さえ吹っ掛けられなければ。
しかし、そんなことはどうでもいいのだ。大事なのはその自分自身が目の前にいるという異常事態である。
「なんで…??俺が…!?」
「おいおい、さっきと同じリアクションだぜ??そんなんじゃピエロだってしょぼくれちまう」
ニヤリと笑う自分自身に背筋が震え一歩自然と下がりそうになる。
だが、そんな後ろ向きな気持ちを踏みつぶして答える。
「なんで、いまさらお前が出てくるんだ。『山中謙介』は俺だけだ!!お前がどんな手を使って出てきたのかは知らねーがこの事実は曲げられない!!とっと失せろ!!」
しかし、自分自身は大きく嗤う。そのことに不本意ながらたじろいでしまう。
「はー…笑いすぎて腹が捻じ切れちまう。いいか、それはあくまでもお前が存在する限りだ。その限りにおいて、確かに俺は『山中謙介の過去』としか存在はできない。」
「何が言いてぇ!!」
「簡単な話だ。バカ野郎。俺がお前を殺しちまえばいいのさ」
目の前の存在が纏う雰囲気が一気に冷たくなる。氷のような冷たさではなく、金属を思わせるような冷たさだ。
「お前が存在しなくなりゃ、俺は晴れてこの世界にただ一人の『山中謙介』になれるっつーわけだ」
「そ、そんなこと…死体が出ちまえば…」
「そう、そこが問題だ。死体の跡形もなしにお前を消し去らなくちゃなんねェ…だがここにはそれを行うのにちょうどいい対決方法があるじゃねぇか」
「…
「おお、そこそこおつむは回るようになってきたな。エンジンかかる前にやられちゃいましたーなんてならねぇようにな。俺が恥ずかしいぜ。」
「無駄口はやめろ、こんなとこで命まで賭け合うような決闘を始めれば管理者どもにばれるぞ」
命がかかっていると理解すると自分でも恐ろしいくらいに心が冷えていくのがわかる。
こいつと自分がぶつかれば勝率は5分5分。だが、緑なり誰か他人が来さえすれば、その確率を傾けることが出来る。
自分のすべきとはあいつらが気づくまでの時間稼ぎだと考えたところで自分自身が口を開く。
「まさか、異常事態が起きてるのが自分だけと思ってるとはな、やっぱり平和ボケしてやがったか」
「な…!?そんなんじゃそれはもう」
「そうさ、異変だなぁ??こんなんじゃ、お前のお仲間も助けにはこれねェなァ!!」
自分自身が声を歪ませる。これはもう覚悟をするしかない。
「いい顔だ!!ルールは簡単、ライフが0になった方が勝者に吸収される。いやぁ、便利なもんだなぁ。このシステムはよォ…何でも無理を設定できる。さぁ、どうする??受けるか??」
「…!!」
ここで受けないということもできるという選択肢もあると相手は示してきた。つまり、やまけんは今、
ぷっつんと何かが切れた。
「上等じゃねェか、このクソガキがァ!!てめェの力量も分からず、挑んできたことを後悔させてやらァ!!」
「いいぜ、いいぜェ!!それでこそこの俺だ!!よかったなァ!!最後の死に様は無様じゃねェ!!」
「「