打ち鳴らせ!パーカッション   作:テコノリ

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新サクラ大戦が楽しすぎる


第30話 子供の頃は、冬より夏休みの方が好きでした

 夏の風物詩と言えば何が思いつくだろうか。

 海、プール、夏祭りに花火大会。キャンプに肝試し、ビアガーデン。あとは有明での特殊な催しもあるな。

 人それぞれ多種多様なものが浮かぶ。中にはそれをすべて実行したいと考える人もいるだろうが、だからといって、同じ二週間を一万五千四百九十八回も繰り返すのはやめて頂きたい。いくら記憶がリセットされていたってね。香織は、全部覚えていそうだが。

 先程いろいろと例を出したが、その中に俺の本命は無い。

 俺が夏の到来とともに心待ちにするもの。その名も『全国高校野球選手権大会』――通称甲子園。

 連日朝から晩まで部活が入っているため、今年はNHKの中継にかじりつくことが叶わない。しかし今日明日だけは別だ。何故なら、学校閉鎖期間とやらで強制的に部活が休みだからである。

 この二日間は甲子園中継をたっぷり見よう。さあて今日はどこの試合があるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーっ! 嫌だ! だって俺は外はめちゃめちゃ暑いんだよ! ねえ、どうしちゃったの? 二人ともバカなの? 毎年毎年記録的な猛暑だってのに、どうして偶の休みなのに外に出たがるの? 子供なの? 二人とも外で遊びたがる子供と同レベルなの? そんなにお外に出たいって言うのなら、二人だけで行ってきて!」

「誰が子供よ」

「今の篤の方が子供みたいだよ」

 

 

 

 甲子園中継を楽しんでいたはずがいったいどうしてこうなったのか。紐解くためにも、少々時間を遡らせていただこう。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 久々の引きこもりdayだというのに八時前に起きた俺は、野球中継の前にかかっている朝ドラを何となく聞き流しながら最低限の身支度を整えていた。まあ、別にどこにも出かける用事があるということでもないのだが。

 たっぷりの牛乳と砂糖を入れたコーヒーをパンと一緒に胃に収めているうちに第一試合の中継が始まった。試合を見つつ、父さんとあーでもないこーでもないと話しているうちに試合が終わった。結果は、初代怪物と呼ばれる選手を輩出した高校の圧勝。試合を見ているよりも初代怪物であるスーパー投手の話に夢中だったな。

 第二試合までの時間の内に、両親は帰省ラッシュを後押しする一員となるべく家を出ていった。例年なら俺もついていくのだが、今年はこの前後にも部活が目白押しの為断った。一応受験生の身ではあるが、それはあまり関係ない。

 この時間の内に積読していたものをいくらか解消しようと自室へ行こうとした。その直前に玄関の戸が開かれる。

 何か忘れ物でもしていったのだろう。「お早いお帰りで」なんて言おうと思ったのだが、聞こえてきた声は両親のものではなかった。

 

 

「篤いるー?」

 

 

 俺はその時ギョッとしたね。だが何故こいつが来るのか、なんて見当をつけようという気はさらさらなかった。現在の俺の望みを反することを持ち込みやがることに違いないからだ。

 返事をせず、物音も立てないでそのまま二階にある部屋へ進んだ。

 しかし、玄関に靴は出しっぱなしだし、カフェオレは飲みかけだし、極めつけにテレビはつけっぱなしであるから、居留守を決め込もうとしていることはすぐにわかられる。

 あいつなら状況証拠だけで、俺がテレビが一番見やすいソファの位置に戻ることぐらい推測するまでも無かろう。戻った時にそこにあすかが我が物顔でいることも自明の理だ。両親のどちらかがいれば多少遠慮はするのだが、俺だけなら遠慮というものをワームホールで五千十二光年離れた宇宙に飛ばしたような振る舞いになる。外に車がないから両親がいないというのも確認済みなんだろう。我が幼馴染ながらしっかりしてやがる。

 何冊か漫画をもって階下へ歩みを進めていると、あすか以外の人の声がした。儚げで優しい、今は少し遠慮がちな声。ああ、君もいるんですね。

 俺が座っていた辺りにほぼピンポイントで座っているヤツをシッシッと移動させ、天使には適当な場所に座るよう促す。なるべく日光の当たらない場所に漫画を置いてから、俺はようやっと口を開いた。

 

 

「何しに来た」

「言うの遅くない?」

 

 

 飽きるほど顔を見慣れた黒髪の美人は、サーブした覚えのないアイスコーヒーを口に含んでからそう言った。ついと視線を茶色がかった黒髪の持ち主の前に向ければ、そこにも出した覚えのない紅茶があった。

 付き合いの長い幼馴染が黒田家の戸棚の中身を好きに扱うのは三人とも了承している。だけどもさ、勝手知ったるどころじゃないでしょ、これ。料理作ってないだけ某メインヒロインよりは加減されているか。

 あすかは連日の部活の疲れを感じさせない口調であっけらかんと疑問に答えた。

 

 

「香織とプールに行くんだけど」

「嫌だ」

「最後まで言わせなさいよ。プールに行くんだけど」

「嫌だ」

「聞きなさいって。別にカナヅチのあんたを泳がせようってつもりじゃないんだから」

「カナヅチじゃねえよ。ちょっと苦手なだけだ」

「はいはい。それでね、ナンパ除けについて来てくれない?」

 

 

 ………? なんだって?

 脳が理解を拒絶しようとしたようで、すぐに返事を出来なかった。

 テレビを見れば、灼熱の甲子園中継は未だ再開されず、ドラマの広告が流れている。終戦記念日特別ドラマねえ。敗戦の日だろ。そんな見栄を張りたいお年頃なのかしら。んなアホな。

 エアコンを効かせた室内では外気温がいまいちわかりにくい。今日の朝刊を手繰り寄せ、天気予報の欄を見る。

 そして、回想前に戻るってな寸法だ。

 

 

「俺は行かないからな、絶対に。つーかナンパされたくないならそもそもプールに行くなよ。家に引き籠って大人しく受験勉強してろ」

 

 

 野球実況のアナウンサーの声がしたが、試合開始まではまだ時間があるようだ。先ほど手繰り寄せた新聞を流し読みしようとすれば、横目にあすかの不満げな顔が見えた。

 

 

「それじゃつまらないじゃない」

 

 

 つまらなくてよろしい。この夏つまらない思いをして過ごした日々が、来年の春に大いなる喜びをもたらしてくれるのさ。

 俺がキョンだったらこのモノローグをもってセリフとなるが、残念ながら俺は宇宙人、未来人、超能力者なんかと一緒に変な団に入れられていない。

 言葉として届けちゃいないが、十数年もの付き合いがあれば態度だけで言いたいことが察せるらしい。

 

 

「これでも受験勉強は順調なの。偶には息抜きするのもいいでしょう?」

「過度な息抜きは知識も抜けるぞ」

 

 

 それに、だ。あすかの方は大丈夫だとしても、香織はどうなんだよ。まさか強引に付き合わせたわけじゃあるまいな。

 

 

「私も順調に進んでるし、偶にはいいかなって」

 

 

 ああ、香織さんがなんだか眩しい。この奥ゆかしさ、爪の垢を煎じてあすかに飲ませたいね。いや、あすかが少しでもこうなれば、俺は宇宙の果てから地球に帰れると思っていたら目指すべくは地球じゃなかったのを知ったポリ姉のように、顔を青くして驚くだろう。

 そういえば、ナンパ除けについて来いと言うのはあすかだけの意見なのだろうか。ちょいとお尋ねしましょうか。

 

 

「俺行った方が良い?」

「うーん、差し支えなければ」

「ほら、香織もこう言ってるよ?」

「おまーちょっと黙ってなさい」

「香織ぃ、篤がいじめる~」

「俺がいじめられてる気分なんですけど」

 

 

 ここに晴香がいれば話は別……じゃねえな。どっちにしろ行くって選択肢はない。そういや晴香は、親御さんの帰省に付き合ってるんだったか。お疲れさんでーす。

 腐れ縁故に俺の強情さを感じ取った艶やかな長髪の美人が溜息をついた。

 

 

「あんた、引き籠ることだけは熱心よね」

「引き籠って何をするかに熱心なんだけどな」

「同じようなものじゃない」

「いいや違うね」

 

 

 あー話が進まん! このままじゃゆっくり野球見れねえじゃねえか。

 

 

「と・に・か・く、俺は行かない引き籠る! 不安なら防犯ブザーでも買ってけ」

 

 

 俺は高らかに宣言した。意見を翻すことは無い。この二人なら、揺るがぬ意志を感じ取ってくれるだろう。

 あすかは優美な動作でコーヒーを口に運ぶ。それからこう言った。

 

 

「そういえば、希美ちゃんの様子はどんな感じ?」

「いきなり話飛んだなおい」

 

 

 俺の休日の過ごし方への関心はその程度ですかそうですか。

 まあ慣れるからいいんですけどね。安芸くんみたいにいちいちツッコまないですよ。

 読み終えた新聞をバサリと折り畳みながら答えた。

 

 

「さあな。休み前数日会ってねえし」

「どういうこと?」

「そのままの意味」

「理由と目的は?」

「お前に報告する義務でもあんのか?」

 

 

 淡々と言葉を返す俺に、わけがわからないとでも言いたげに尋ねるあすか。

 尋ねるなんて表現よりも、詰問すると行った方が妥当か。

 

 

「私はあんたに裁量権を委託した。つまり元は私。だったら知る権利はあるでしょう?」

 

 

 おっとこいつは一本取られた。下請けの俺はそんな義務があったし、お上のこいつも知る必要がある。

 勿体ぶる必要も無いからさっさと言うか。

 

 

「希美が戻れない理由を二人に考えさせてる」

「はあ? あんた正気?」

「正気じゃなかったらこんな判断してねえよ」

 

 

 希美を復帰させない理由。それはみぞれを守るためで、真実を知った際に希美が傷つかないはずがないだろう。だからあすかも堂々巡りになる様な言葉しか送れなかった。

 だが俺は敢えてそこを考えさせている。せめてもの配慮をしていたあすかからすれば、俺の行動はさぞや悪辣非道に感ぜられるだろう。

 

 

「目的は?」

「可能性の排除」

「可能性?」

 

 

 ふと、それまで会話の聞き役に徹していた香織が口を開く。

 

 

「晴香や滝先生に直談判されないようにってこと?」

 

 

 That's right.ヒートアップしてちょっち頭の固くなっている副部長殿より先に辿り着いてくれてありがとう。

 口元を緩め、仰々しく言った。

 

 

「その通りだよ、中世古くん。そのためには自分で、自分の意志で復帰しないことを選んでもらわなくてはならない」

 

 

 そこで一旦あすかに向き直る。そして目線だけで問いかけた。異論は?

 彼女は二秒ほどの硬直の後、顎で続きを促した。文句はあるが取り敢えず聞く、という意志表示だろう。

 

 

「どれだけヒントをやっても希美は答えに来れないだろうから、夏紀に考えさせてる。何度か話したが、そろそろわかるはずだ」

「ちょっと待って。それ、夏紀にかなり酷じゃない?」

「ああ、悩むのは目に見えてる。その為に色々と相談に乗る予定でいるさ。自分で考えることを選んだ子にはご褒美を上げなきゃな」

 

 

 粗方俺の計画を話し終えたのだが、異論反論抗議質問口答えなどは特にないらしい。

 さて、と思考の切れ間に金属バットの快音が耳に届いた。

 

 

「あ……試合、始まってる……」

 

 

 現在二回裏。嘘だろ意外と進んでる。まあでもまだ序盤。セーフセーフ。

 

 

「篤が何でもやるの?」

「はっは。何でもはやれねえよ。やれることだけ」

「そうじゃない。あたしが聞きたいのは……」

 

 

 野球観戦モードに入っていた俺の意識を現実にグイと引き戻した幼馴染の声は、声音こそ美麗なアルトであるものの、どこか子供の様だった。

 言葉は尻すぼみになり、紡ぐ言葉を探していた。言いたいことを探しているような、結論はあるのに理由がわからないような感じ。

 なんだ、これ。

 わかんねえけど、こいつがガキみたいなリアクションをする事案といったらひとつしかない。

 

 

「大丈夫だ。余計なことはしない。つかする気もない」

「わかってるわよ、そんなこと」

 

 

 拗ねた? こいつが? 俺に?

 いやいやいや気のせいだろ。うーむ、更にわかんねえ。

 

 

「あんたキャパオーバーとかないの? 部活に一応の受験勉強に文化祭の準備に、目白押しじゃない」

「それ言ったらお前もだろうが。まあ俺の方はどうとでもなる。余裕で許容範囲内だ。俺の心配なんてするくらいなら、自分のすることやっとけ」

 

 

 あすかの心情はいまひとつわからんが、このままいると駄目だってことはわかった。あすか自身もそれをわかってて、ずっと困惑した顔をしている。

 某メインヒロイン(本日二度目の登場)のように存在感を消して佇んでいた香織に向かって声を掛ける。

 

 

「香織、これからプール行くんだろ? 早く行かないと、いい感じの時間逃すぞ」

「そうだね。お昼近いし、そろそろ行こうかな」

 

 

 いうやいなやあすかを連れて家を出ようとする。あすかが俺たちに背を向けた僅かな間に、アイコンタクトをとった。すまん、と。香織は柔らかに微笑み、首を横に振った。

 ああ、香織には頭上がんねえなあ。

 

 その後、なんだか甲子園中継を引き続き見る気になれず、漫画を読む気にもなれず、自室に戻った。

 頭の中をカラッポにするか別のことで埋め尽くすかしたかった。

 選んだのは思考で埋め尽くすことで、結局この日は一日中、目についた問題集を片っ端から解くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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