打ち鳴らせ!パーカッション   作:テコノリ

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第31話 この誘惑に、抗うことなどできない……

 男女比1:9でこんなにもえない(漢字変換は任せる)合宿は知らない。こんな中身の合宿はしらないっ。

 

 

「覗きイベって男のロマンだよなあ」

「俺としちゃ、勝手に動く体が欲しいけどな。あとそれで許される人徳」

「無理だろ」

「だよなあ」

 

 

 需要がヌル・プロッツェントどころかマイナスなんじゃないかと思われる、野郎の入浴シーンでござーい。

 本日より北宇治高校吹奏楽部は二泊三日の合宿を行っている。一日目の予定がほぼ終わり、あとはパートリーダー会議と就寝を残すのみとなった。個人的には、熱闘甲子園視聴というイベントもあるのだが。

 

 

「もし誰か一人だけ覗けるとしたら誰がいいっすか?」

「純一。不用意にそういうこと言うな死ぬぞ。社会的に」

「怖いんですけど!」

「こんなこと言ってるからモテないんだよ」

「後藤テメエ! このむっつりエロ巨人! どーせ長瀬さんの裸想像してんだろ? 結構スゲエ身体してそいってえ!」

「うるっさい……」

 

 

 こんな会話も合宿らしいといえば合宿らしいのだろうか。話のタネになっている女性陣には申し訳ない。

 男連中の風呂なんてのは大抵烏の行水なのだが、誰の身体がどうこうなんて話はうっかり部屋じゃできない。人にもよるが、女子達は結構遠慮なしに男部屋に入ってくるものなのだ。不公平だよなあ、逆は許されないんだぜ。

 ま、下卑た思惑があったのか、それとも単に長風呂好きが多いのかわからん。ただ、裸の付き合いは順調だといえるかね。

 

 

「先輩、もう上がるんすか?」

「ああ。長風呂は苦手だ」

「そっすか」

 

 

 自分から尋ねておきながら、俺の動向に一瞬で興味をなくしたちびっこい方の一年生。彼はどこか純一と通ずるところがあるのか、覗きに関する願望を滔々と述べた。

 

 

「俺は田中先輩、中世古先輩、あと高坂は気になりますね。それと新山先生も。でも一番の大穴は部長っすよ部長。パート練のときのTシャツの破壊力とかマジヤバいっす……」

 

 

 風呂場の戸に手を掛け振り返って見れば、夏場×風呂であるのに、皆一様に青ざめた顔をしていた。なんだ。そんなに恐いもんみたのか?

 視線は自然とちかおにむかい、ちかおも恐る恐る俺を見上げる。

 そこで自然と言葉が出た。

 

 

「今度晴香をそういう目で見たら殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の脅しマジでシャレにならないからやめとけって。……ちっ」

「うっせ。お前の立場だったらどうだったんだよ。……おっ盃。や~めた」

「ああもう! またかよ!」

「安易にこいこいするお前が悪い」

 

 

 パートリーダー会議は入浴の後に行われることとなっているのだが、女子の入浴時間はかなり長めにとられているのでその間我々男子部員は暇を持て余す。人数少ないし。全部員六十三名のうち男子部員はたったの八人。女子部員のおよそ七分の一。そりゃ時間余るっつーの。

 パートリーダーはそれなりに優先順位が高めらしい。パート毎の区切りをぶち抜いて早く済ませられることになっているのだ。そうなってくると会議の開始時間がいつになるかの予想はしにくい。時間通りに行ったら女性陣揃ってましたーとかなるのは嫌だ。

 なのでパートリーダーを務める男子、俺とヒデリはとっとと会議室(仮)に行っておくことにした。特にすることなかったし。

 高校三年生ならばこの間に勉強しておけと思われるだろうが、合宿に来てまで受験勉強に精を出すような勤勉さは持ち合わせちゃいない。

 

 

「役何」

「月見酒と花見酒。あとカス」

「ひっでえ。俺親権でも負けてたっつーのに」

「マジで? 悪いね野口クン」

「うざ」

 

 

 今どきの男子高校生が暇つぶしで使うものに花札は含まれるのだろうか。いや俺達やってたけど。多分メジャーじゃないよな。まあいいだろ。

 トータルで負けた方には罰ゲームを。つっても、自販機でジュース奢りって程度だ。そんな重くない。

 

 

「毒マムシジュースでいいか?」

「そんなんねえだろあってもいらねえよ。金色の缶コーヒー。プルタブじゃなくて回転蓋の方」

「ああ、いつものか」

「よろしく~」

 

 

 ヒデリの足音が遠ざかっていったかと思えば、近づいてくる足音が一つ。誰だろう……

 ちょっと待って今頭ん中にLIPS出てきた。新サクラ大戦やりたすぎでしょ、俺。発売十二月なのに。

 脳内Lスティックを動かすことなく、沈黙の選択肢をとった。太正時代の蒸気が噴き出す。

 

 

「もう来てたの?」

「暇だったんでな」

 

 

 やってきたのは、使い込まれたクリアブックを片手にした部長。風呂上がりのためか髪はいつものお下げ髪でなく、一つに束ね肩口に流している。そういうギャップって卑怯だと思いますです。

 晴香は普段通りの議長席に荷物を置いてから俺の正面に腰を下ろした。

 

 

「一人?」

「ヒデリが自販機のとこ行ってる。他は知らん」

「他の人たちはまだお風呂か上がってきたばっかりじゃないかな」

「だろうな。あれ、晴香長風呂好きじゃなかったっけ?」

「そうなんだけど、なんかやること考えてたらそれどころじゃなくて」

「風呂ぐらいゆっくりしてこいよ……」

 

 

 この人大丈夫か? 社会人になったら社畜一直線じゃない? 仕事が気になってゆっくりできないとかバヤイんじゃない?

 部長の心労に思いを馳せてガックリと首を落とす。ポーズとして目もつぶる。視覚を遮断すると、別の感覚が少し鋭敏になった。

 繋いでいた手の感触をゆっくりと確かめるように動く、柔らかな手。俺の手より一回りほど小さくて、丸みを帯びている。

 少し照れたような声で言葉が続いた。

 

 

「それにね、お風呂だけじゃなくて、彼氏でも癒されたかったから」

「自爆覚悟でやるんだったらもう少しさらっとやろうな。こうかはいまひとつだ」

「……」

「いっ。爪でつねらないでもらえます?」

「誰の所為よ」

「俺の所為じゃないよねえ」

「……」

 

 

 どうしよう、そっぽ向かれちった。

 それでも手はちゃんと繋がれているあたり、本気で機嫌損ねられてないというか、そんなところがかわいいというか。

 どうでもいいような内容で、ひたすらに幸せな時間がずっとずっと続いてほしいとは思うがそういうわけにはいかない。誰かが来たらこの状態は解除しなきゃいけないし、そっぽ向かれたまま部長とパートリーダーに戻りたくない。

 ふむ、と顎を擦ろうとしたがやはり手は繋がれたまま。ほどこうと思えば簡単にほどける強さだけれど、離したくない。

 突然グイと体がひかれ、そのまま唇どうしが重なる。彼女らしからぬ挙動に僅かながら動揺した。だが動揺したままだとなんだか負けたような感覚になるので見栄を張る。唇の上で囁いた。

 

 

「わーおダイタン」

「ヘタレな誰かのおかげでね」

「嫌いになってもいいんだぜ?」

「いいの?」

「嫌だけど」

「こんなことで嫌いになるなら、最初から付き合ってない」

「そうかい」

 

 

 それからまた、しっかりと唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おい篤ー」

「んあ? ぅおっと危ねえな。あと遅えよ」

 

 

 パートリーダー諸氏が徐々に集まってきたなか、一人の男がちんたら登場した。もったいつける必要もない。ヒデリだ。俺に奢る分を買うついでにちゃっかり自分の分も買っている。左手には中身の減ったペットボトルのコーラを携えていた。

 

 

「さっきから注文多いな。正体山猫なんじゃねえの」

「お前なぞ喰いたくもねえよ」

 

 

 しかも注文の多い料理店の山猫は最終的に猟犬に邪魔されてるじゃねえか。

 またツッコむと文句を言われそうだ。受け取ったそれの蓋を開けようとすると、”振らないで下さい”の文字が見えた。あの野郎、投げて寄越すんじゃねえよ。

 

 

 

 

 

 この後予定時間より少し早くパートリーダー会議が始められた。

 俺がボイコットしたほどやる気のなかったころの彼らはどこへやら。そう思うほどに熱が入っていた。一日中練習をして疲れているというのに、まだ足りないと言わんばかりの様子で。入れるものなら精神と時の部屋に入りたいのだろうか。

 コーヒーを飲んでいた弊害か、真面目な会議中にどうしてもトイレに行きたくなった俺は、こっそりと断りを入れてから部屋を出た。何気に広い施設なだけあって、トイレは何か所かに点在している。

 

 

「ふい~」

 

 

 用を足して手を洗っている時に気が付く。ハンカチ持ってねえ。ここのトイレは使い捨てのペーパータオルも無いようなので、手を払って切れるだけ水気を切る。そして行儀が悪いのは重々承知の上、ジャージの表面で軽く拭った。濡れたままだと気持ち悪いんだもん。

 トイレからの帰りに、ベランダみたいなところで物思いにふけっている後姿が見えた。思わず声を掛ける。

 

 

「何やってんだ?」

「……脅かさないでくださいよ。びっくりしたじゃないですか」

「言葉のわりに落ち着いてるな」

「まあ、黒田先輩ぐらいだと思ったんで。こんなことするの」

「はっは。だろうな」

 

 

 人工的な灯りではなく月の光の中に佇んでいたのは亜麻色の髪の乙女。トレードマーク(むしろ本体?)のリボンがない姿で非日常を感じた。

 ぼっちタイムを邪魔されたからか、はたまた脅かされたからか、ジトッとした視線を向けてくる彼女にカラカラ笑って尋ねる。

 

 

「で、優子はここで何やってんだ? 黄昏れてんの?」

「そんなところです」

 

 

 どこか沈んだ様子で持っていた缶の中身を流し込んだ。流石に気になる。だが現在真面目にパートリーダー会議をしている真っ最中なので、あまり踏み込むわけにいかない。

 ふむ、と顎を擦ると、優子の方から口を開いた。

 

 

「希美、戻らせないんですか?」

「あー、まあ、現時点で戻らせねえなあ」

 

 

 それが何か? 視線だけで問いかけると、彼女は首を横に振った。

 そういえば、優子に訊いてみたいことがあったんだ。

 

 

「なあ、みぞれと友達?」

「はい?」

「いいから。早く」

「友達ですよ、大切な」

「大切な?」

 

 

 こくんと力強く頷かれた。

 はっは、そうかい。ぽすんと頭に手を乗せ、くしゃりと撫でまわす。文句を言われるがそんなもんは聞き流す。

 

 

「なにするんですか」

「頼むな」

 

 

 やりたいようにしてから元居た部屋に戻る。

 何かあっても大丈夫だろう。みぞれに優子がついてるなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




年内最後となります。皆さま、よいお年を

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