ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
「Laー♪」
「あー」「あぁ」「あぁ……」「普通俺個人じゃなんともできないレベルの存在なんだけど、何で懐いたんだろ」「あのほら、緑色の赤ちゃん的な?」「……え、なんか血筋に関する問題なの!?」
それでは、どうぞ。
しばらくの空の旅。その間にマスターに『サーヴァントとは』とか『スキルの有用性』だとかを説明し、アサシンとジャンヌを紹介した。ステータスやらは俺を介して許可を出せばマスターも見れるらしく、色々と驚いていた。うん、ジャンヌのスキルの多さとか驚くよねぇ。まだ全部解明されてないけど。あの辺どうなってるんだろ。
びゅうびゅうと吹く風が、結界に阻まれてそよ風くらいに軽減され頬を撫でる。……その風はマスターの桃色の髪も乱すが、マスターはそんなもの関係ないとばかりに自分の世界に入ってしまっている。たまにぶつぶつ聞こえるので、なにやら自分の考えをまとめているらしい。流石は座学トップクラス。頭の回転もいいのだろう。結構駆け足で説明したような気もするけど、それを今彼女は自分なりに取り込んでいるのだ。
「あの、主さま?」
「ん?」
「一つ、質問いいですか?」
それを見ている間に、アサシンから真剣な顔でそんなことを言われたので、ちょっと緊張しながらもいいぞ、と許可を出す。なんか妙なこと聞いてきそうだけど……。
「……主さま、なんか隠し事してません? それも、結構致命的なこと」
う、と詰まる。いや、隠しているわけじゃなくて、原因不明だから声を大にして言えないっていうか……。神様の所に行けばきっと解決するだろうことだから黙ってたんだけど……。
「あ、神様の所いけば何とかなるって考えてました?」
「うぐっ」
「あー……あの土下座の」
ジャンヌが得心いったように頷く。え、なんでそれで広まってるんだろ。まさか、ジャンヌにも土下座したのかなあの女神様。
「でも、なんとかできるかなぁ。私が召喚される前、手紙渡すときすごいことになってたけど」
「ああ、あの顔色が変とかいう?」
「はい。服も最初に見た時とは違って、なんていうか、はっちゃけてたような……」
「服? 服まで変わってたのか?」
なんだそりゃ。今までイメチェンなんて髪型しかしてこなかった神様がどうしたんだろうか。とにかく、俺の宝具のことを知っているのはおそらく神様だ。いくつか無くなっている宝具とか、そのあたりについてもおそらく知っているだろう。……さて、となると次の問題は神様の下へどう向かうか、だけど……。
「……んー、どうするかな」
ま、そのあたりは向こうに無事ついて、アンリエッタ姫に報告してから、だな。
「お、見えてきたな。あれが城か」
なんだかんだで、初めて見るな。
・・・
あの衝撃的なアルビオンへの任務の帰り。タバサの風竜に乗ってトリステインの王城へとたどり着く。
道中では、ギルからマスターとしての基本的なことを聞いた。なんでも、『礼装』とやらがあればサーヴァントに有利な魔法……いや、『魔術』を掛けられたり、能力を上げたり、できるらしい。でも、こことギルのいたところでは『魔術基盤』というのが違うらしくて、ギルが持っている魔術礼装を付けたからと言って魔術が使えたりするかは未知数……らしいので、帰ったら色々検証することにした。
あとは、ギルの宝具の問題点。無敵に思えたあの『宝物庫』が、実はまだ完全ではないとか、信じられないことを聞いた。気づいたのはギルも最近だったらしく、これも帰ってからなんとかする、と意気込んでいた。所持してるのはギルだし使うのもギルだけれど、保守管理? しているのは別の人らしく、その人に話を聞くのだ、と言っていた。……どこにいる人なんだろう。
どんどん近づいてくる王城の上には、マンティコアにまたがった兵士たちが巡回していて、この辺は飛行禁止だと叫んでくるけど、そんなの聞いている暇はない。強行突破で王宮の中庭に着地した。少し離れたところにギルの反応があるので、たぶんギルは騒ぎにならないように上空で待機しているのだろう。
「現在トリステイン上空は飛行禁止命令が出ている! 触れを知らんのか!」
駆け寄ってきた兵士たちが私たちに武器を向け、その中でも指揮官のような兵士が私たちを警戒しながら近づいてきた。いかつい体にひげの生えた顔。他の兵士たちとは雰囲気も違う。周りからレイピアのような杖を向けられながら、私は竜から降りる。
「杖を捨てろ!」
そういわれてムッとしたけど、タバサの「宮廷」という言葉に渋々杖を捨てる。後ろからも音が聞こえるので、他の三人も捨ててくれたのだろう。
「私はラ・ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しいものではありません。姫殿下に取次ぎをお願いします」
「ラ・ヴァリエール公爵さまの三女とな」
「いかにも」と言いながら、私は胸を張って目の前の隊長の目をまっすぐ見つめた。……あ、ギルから念話。何々? 「王女様に話をしたから、すぐそっちに行くと思う」……ですって!? あいつ、なに普通に姫様の部屋に侵入してるのよ! 帰ったらお仕置きなんだから!
「……確かに目元が母上そっくりだ。して、用件を聞こうか」
「……言えません。密命なのです」
まさか任務内容を馬鹿正直に伝えるわけにもいかず、言葉を濁す。とにかく、ギルが話をつけてくれた姫様が来るまで、なんとか話を伸ばさねばならない。私の言葉に、隊長は顔をしかめた。まぁ、私も同じ立場ならその顔になるだろう。
「それでは通すわけにはいかない。用件も聞けずに通しては、こちらの首が飛んでしまうからな」
その言葉に、うなずきかける。そりゃそうよね、って言いそうになったけど、たぶんもう少しで姫様が来るはず、と顔に力を入れる。
らちが明かない、と隊長が後ろの兵士たちに捕縛を命じようと振り返った瞬間、ギルから念話。
『こちらをみろ』という短い念話に、ギルの気配の方へ顔を向けると……。
「ルイズ!」
そこには、駆け寄ってくる姫様の姿が。思わず笑顔になってしまう。暗いことしかなかったあの旅のことも、今だけは忘れられた気がした。
「姫様!」
掛けてきた姫様を抱き留めると、姫様も私に手を回して抱きしめてくれた。
「無事に生きて帰ってきてくれたのね……。うれしいわ、ルイズ」
「姫、さま……」
思わず、涙が頬を流れて行ってしまった。でも、まずは成果を伝えないと。
「件の手紙は、無事に」
実際は宝物庫の中なのだが、あそこほど安心できる場所もないだろう。見せることができないのは残念だが、姫様は信じてくれたらしい。大きく頷いて、私の背中に回していた手をほどいた。私も姫様から離れたが、姫様はすぐに私の手を取り、両手でぎゅうと握った。
「あなたはわたくしの一番のおともだち。……任務を果たしてくれたことももちろんうれしいですが、無事に帰ってきてくれたことが一番うれしいわ」
「……そんな、もったいないお言葉です」
首を振りながらそう言うと、姫様はそれからようやく周りを見られる余裕ができたようで、後ろのギーシュたちに視線を向けた。それから、悲しそうな顔をして、うつむきながらつぶやく。
「ウェールズさまは、やはり父王に殉じたのですね……」
「……はい」
姫様はそれから何度か頭を軽く振ると、また表情を戻して私に問いかける。
「して、ワルド子爵は? 彼の姿が見えませんが……別行動をとっているのかしら?」
そういってから、姫様は自身の口を手で覆い、「まさか、敵の手にかかって……?」と目を見開いた。
説明しようとするけど、口がぱくぱくと動くだけでどうも声が出ない。……ショック、だったのだろう。まだ引きずってしまっているらしい。
「ワルドについては、ここで話さないほうがいいだろう。……な、マスター」
声の方向……シルフィードの方を向くと、その陰からギルが出てくるのが見えた。……たぶん、霊体化してシルフィードの裏に回って、見られないように出てきたのだろう。確かサーヴァントはそれができると聞いているし。
「あなたは……ですが、確かにそうですね」
姫さまが周りを見回してうなずく。周りを魔法衛士隊に囲まれているこの状況で、密命の話をこれ以上するのはまずいと気づいたのだろう。
「では、わたくしの部屋でお話を聞かせてください。他の方々には別室を用意しますので。……隊長、持ち場に戻ってもらって構いません。彼女たちはわたくしの客人ですわ」
「おお、さようですか」
姫様がそういうと、あれだけ警戒していた魔法衛士隊たちはあっさりと杖をおさめて、去って行ってしまった。
「それでは、行きましょうか」
・・・
他の三人……ギーシュたちは別室へ案内され、私とギルは姫様の私室に通された。そこで、私は事の次第を説明する。
旅を始めたときのことから、ウェールズ皇太子の最後まで。そして、ワルドの豹変と、『レコン・キスタ』と新たなサーヴァントの話。
そこでギルから手紙を受け取った私は、それを姫様へと返還して、なんとか『レコン・キスタ』の野望は防ぎ、トリステインとゲルマニアの同盟は守られた……けど、姫様の表情はすぐれない。受け取った手紙を握りながら、涙を流し始めてしまったのだ。
「子爵が……裏切り者だったなんて。まさか……魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて……!」
涙を流す姫様の手を取り、泣いてほしくないと何か言おうとするけど、言葉にはならなかった。
「わたくしが……ウェールズさまの命を奪ったようなものね。裏切り者を使者に選ぶなんて……なんてことを」
いいえ、と首を振った。皇太子さまは最初からあの国に残るつもりだったのだ。……おそらく、姫様のことも考えたうえで。
「あの方は、私の手紙を最後まできちんと読んでくれたのかしら?」
「ねえ、ルイズ」と聞かれ、私はうなずいた。あの人は手紙をきちんと最後まで読んで、わかったとうなずいていた。……そのことを聞いてくるということは、やはりあの手紙には……。
「姫様、あの手紙でやはり亡命をお勧めになったのですね?」
姫様は小さく頷く。やはり、皇太子さまは嘘をついていたのだ。「亡命を勧める文などない」と。
「ええ。死んでほしくなかったんだもの。愛していたのよ、私。……でも、ウェールズさまは私を愛してはいなかったのね」
そのまま、姫様はため息をついてつぶやいた。
「わたくしより、名誉のほうが大事だったのかしら」
恋や愛のことはよくわからない。家族ではなく、異性に向けるものというのならなおさらだ。……私の後ろで無言を貫いてくれている使い魔ならわかるのだろうか。なんか、やけにジャンヌとかアサシンに好かれてるみたいだけど。……王様だったっていうから、そういうのも知ってるのかしら。
悲しむ姫様が落ち込んでしまったので、助けを求めるように後ろを振り向く。
「ん?」
私と目が合ったギルは、今ようやくこの状況に気づいたとでも言わんばかりに声を上げる。……でも、ギルに助けを求めて、答えをもらって……それは、良いことなんだろうか。
そんな私の心境を読んだわけじゃないんだろうけど、ギルは一歩踏み出すと、私の肩に手を置いて首を横に振った。
「失ったときの人は、そこに何かを入れるまでにとても時間がかかる。……そんな時に掛ける声に、正解も間違いもないよ。マスターが思う通りに、声を掛けていい」
小さな声で私にそう伝えたギルは、続けて「今言って無意味でも、彼女に残るその言葉は未来に意味を持つ」とも言った。
……そう、よね。姫様のこの様子じゃ、確かに何を言っても元気を取り戻しそうにはない。意を決して、姫様の手を取る。勢いでやってしまったから言葉なんて浮かんでないけれど、姫様を悲しませたくなくて、なんとか口を開く。
「姫様っ。皇太子さまは、姫様のことを軽んじていたわけではありませんっ」
「ルイズ……?」
「皇太子さまといたお時間は短く、お話しした時間もわずかでした……でもっ、お手紙を渡したときのご様子、返していただく手紙を読み返すときのあのお顔……あれは、姫様のことを軽んじていたり、忘れているようなご様子ではありませんでした!」
思い返すのは、手紙に口づけする皇太子さま。「宝箱なんだ」と姫様の肖像画のついたあの箱を撫でる表情。手紙を読み返すあの顔は優しく……そして、悲しそうだった。恋を知らない、ワルドへの思いも憧れでしかなかった私ですら、二人が羨ましいと思えるほど、その想いは美しかったのだ。
だから、姫様よりも名誉をとったわけじゃないのだ。言葉にするのは難しいけれど……きっと、皇太子は――『姫様のために、名誉をとった』のだ。
言いたいことがいっぱいあって、それが、口を開いたらどんどんと溢れてきて……。
「だ、だからっ――!」
「――うん。……いいのよ、ルイズ」
そういって、姫様は私の手を握り返した。片手で私の目元を拭う。
「ふふ。あなたが泣いているじゃない」
「っあ、も、申し訳ありません……」
「いえ、いいの。いいのです。あなたが、わたくしの一番のおともだちなのだと……今、それを再認識したわ。ありがとう……ありがとう、本当に」
姫様の目にも、涙が浮かんだ。なんだか、とても悲しいのに、なんでか、とてもうれしいのだ。
遠くなってしまったと思っていた、姫様が。私をおともだちと呼んでくれて、一緒に涙していることが、どうしようもなく心を震わせるのだ。
それから、しばらく二人でひとしきり泣いた後、そうだ、と懐を探る。取り出したのは、姫様から預かっていた、水のルビー。
「姫様、この水のルビー、お返しいたします」
「……いえ、これはそのままあなたが持っていて、ルイズ」
そう言って、姫様はルビーを差し出した私の手をやんわりと押し返す。言われたことが一瞬受け入れられなかったが、すぐに慌てて口を開く。
「そっ、そんなわけには! これは王家に伝わる大切な……!」
「だからこそ、大切なあなたに持っていてもらいたいの。……忠誠には、報いるところがなければなりません……ということにして、持っていきなさいな」
「……謹んでお預かりいたします」
そういって、礼をする。再びなくさないように懐に戻すと、ギルが一歩前に出た。……?
「アンリエッタ姫。……落ち着いた今の姫になら、伝えても心乱さないだろうと思って伝えるよ。……ウェールズからの伝言だ。『勇敢に戦い、勇敢に死んでいった』。そう伝えてほしいといわれた」
「勇敢に、ですか。……ふふ、殿方の特権ですわね」
姫様が少し自嘲気に笑い……それを見たギルが、姫様に手を差し出した。その手の上には、水のルビーに酷似した指輪が。
「そして、これを。ウェールズから、姫へ渡してほしい、と託されたものだ」
「これは……風のルビー」
それを受け取った姫様は、指輪を通して、小さく呪文を唱える。指輪がマジックアイテムだからなのか、ぶかぶかだったリングは一瞬で姫様の指にぴったりと合わさった。それを撫でて、姫様は微笑んだ。
「ウェールズさまは勇敢に戦い死んでいったと……そうおっしゃいましたね、不思議な使い魔さん」
「ああ、そうだとも」
「では、この指輪を受け継いだ私も……勇敢に戦い……生きていこうと思います」
姫様の目には、先ほどまではなかった光が生まれていたように思えた。……『生きよう』と言ったのが、その何よりの証左だ。
ギルを見上げると、私の視線に気づいたのか、ギルがこちらに振り返る。……ありがとう、と言葉には出さずに伝えた。……確信はないけど、きっと伝わってると、そう思えた。
……だから、優しくなでてくるこの使い魔に立場を教えるのは、またあとにしようと、今はその手を受け入れた。
・・・
帰りの空の上。トリステインに来る時と同じように分かれた私たちは、近くを飛ぶシルフィードからツェルプストーが質問を飛ばしてくるのを、なんやかんやと受け流していた。
「で、任務のことは教えてくれないわけ? もう、何が起きてるかはわからないし、子爵は裏切り者だっていうし、なんか人は増えてるし……」
はぁ、とため息をついて、ツェルプストーはその長い赤髪をかき上げる。タバサもこちらをじぃっと見つめている。まぁ、『気になるもの』の塊みたいなのが隣飛んでたら、そりゃ見るわよねぇ。アサシンがニッコリ笑って手を振ったけど、ふい、とタバサは視線を戻してしまった。あんまり人に慣れてないんだろうか。
私から情報が引き出せないと知ったツェルプストーは、その矛先をギルに変える。
「ね、ダーリン? 裏切り者が出たりしてたみたいだけど……どんな任務だったの?」
「うん? そうだねえ、とても得るものの多い任務だったよ」
「そんな当たり障りのない社交辞令みたいな……!」
いつものようにやんわりと流したギルに聞いても無駄だと思ったのか、次にギーシュに目標を変えたようだ。
「ね、ギーシュ? ……ギーシュ?」
「ああっ、大丈夫だとは思うけれども! そうやって銜えられて痛くはないのかい!?」
「……ギーシュ?」
「うん、うん……ああ、もちろんだとも! 帰ったらおいしいご飯を用意するとも!」
「……ちょ……あの……えいっ」
あんまりにもスルーされたからか、キュルケは少し困惑した後に、ギーシュを蹴り落とした。うん、まぁ、気持ちはわかる。落とされたギーシュは杖を持っているので大丈夫……なのだが、ぐん、と黄金の飛行船が動き、船首の辺りでギーシュをキャッチした。
「ぐふっ!?」
……えと、あー、地面に降りた時よりダメージを受けているような気がするのはスルーしておくとしよう。歩いて帰る羽目にならずに済んだのだし。
「ああっ、そんな自然な流れであの船にっ、羨ましいわよギーシュ!」
「……あの子はなんていうか、バーサーカーとキャスターの適性持つっていう不思議な子になりそうだ」
風龍の上できゃーきゃーと騒ぐツェルプストーを見て、ギルが苦笑いしながらつぶやく。……バーサーカーってあれでしょう? 狂気に身を任せてステータスをアップするっていう……。あ、あとあれね。『話が通じない』っていう特性もあるらしいわね。……ちょっとだけ見てみたい、かも。
「むっ!? ここは……おや、いつの間にこっちの船に? ……まぁいいか。ああ、そうそう君っ!」
着地のダメージから立ち直ったギーシュが、ギルに詰め寄る。……まぁいいか、って……記憶混濁してない? 大丈夫なの?
「姫様とお話ししたんだろう!? どうだったかね、その、なんだ。ほら! 姫様は僕のことを」
「いいや、何も?」
「ちょ、そんな食い気味に……! あ、そうだ! もしかしたら手紙を」
「貰っていないとも」
「なんで僕の言いたいことがわかるのかね!?」
「さ、帰ろうか。シエスタ元気かなー。マルトーのご飯も食べたいよなぁ」
「おい君ぃ! ほら、姫様はほかに……!」
「……男って馬鹿ねー」
ギルの横でやり取りをすべて見ていた私は、自分でもわかるくらいじっとりとした目をしながら、そうつぶやいた。
・・・
――こちらの世界の歴史には詳しくないが、ここはかつて名城と謳われたらしいというのはマスターから聞いた。俺があの英霊と戦ったところもなかなかの惨状となっていたが、ここには瓦礫だけではなく無残な死体も散乱している。
マスターを連れて離脱した後、空を飛ぶ船からの砲撃によって、わずかな時間でこの状況とは。……しかし、相手も凄まじいな。聞いたところによると、三百の王国軍に対して、こちらの損害は死傷者すべて含めて四千人を超えるらしい。そして、この城の位置もよかったのだろう。岬の突端に立ったこの城を攻めるには、密集して一方向から攻めるしかなく、相手の斉射をくらったのだという。おそらく、この戦いは……伝説となるであろう。
「ランサー。なにをしている?」
「……いやなに、兵士もはしゃぐ姿は子供のようだなと感心していた」
目の前では、マスターの所属する組織『レコン・キスタ』の兵士たちが宝物庫をあさり、貴族の死体から質の良い杖を見つけてはしゃいでいる様子が見えた。
「ふん。まぁ、貴様のような存在からすれば、兵士も子供と変わらんか」
マスターはそういって、あの戦いのあった礼拝堂へ向かい、瓦礫の山に魔法を放つ。
……そういえば、こちらでは『魔術』は『魔法』と名前を変え、秘匿されず、市民権を得ているらしい。……というよりむしろ、貴族の象徴となっているとのこと。上空に浮かぶ二つの月といい、世界の基盤自体が違っているのだろう。いつものように召喚されてからの『聖杯からの知識』というものがないところから、俺を召喚したのはイレギュラーな事態なのがわかるし、マスターの手に光る令呪が一画というのも正規の召喚ではないことを示している。
「……む?」
いつの間にやらマスターと一人の女性、そして聖職者のような恰好をした男が一堂に会し、なにやら会話をしているようだった。
……先日マスターと話した際、『貴様は言葉が足りんところがあるから、基本的には離れて護衛の任務に着け』と言われてしまったので、こうして現場から離れ辺りを警戒しているので口は挟まぬが……あの男、あの雰囲気は……。
少し考えて、視線を外すことにした。あの男が誰であろうとマスターの敵にはならぬだろうし、あの男がマスターを害するようならば倒せばよい。そうして視線を外して少しして。
「――!?」
妙な魔力に振り返ると、そこには、起き上がる死体が。あれは、通常の魔術――魔法というのだったか――ではない。何だろうか。神の権能……ほどではないな。精霊か。それに近いものを感じる。
不思議なものだな。あの起き上がった死体は……『死んでいるけれど、生命は続いている』という状態だ。摂理に逆らってはいるが……精霊の力でごまかしているのだろうか。
「何にせよ、あの力……あの男の力ではないようだな」
死してなお動く彼は苦労だと思うが、こちらもマスターに力を貸すと決めた身。マスターが何も言わぬのならば、戦略として受け入れるとしよう。
「……まったく。英霊が召喚されるときというのは、どうしてこうも企みの匂いがするのやら」
それとも、もしかすると。
「……『企んでいるのが英霊』なのかもしれないな」
・・・
魔法学園に到着した。これから、きっとトリステインとゲルマニアは正式に婚約を発表し、同盟を締結するのだろう。
アンリエッタ姫からオスマンに話は行っているらしく、公休扱いにしてくれたようだ。……うん、まぁ、王女からの密命だ。そうしてもらえて助かった。
で、今は参加した生徒たちは全員休養ということで、部屋に戻ってきていた。
「……ふぅ。ようやく、帰ってこれたわね」
「そだな。……ただいま」
「あ、ずっといてくれたのね。ただいま」
マスターの部屋に一人残していた自動人形に挨拶をすると、彼女もぺこりと挨拶を返してくれる。うんうん、いい子だ。
「さてと。洗濯物出して、荷物整理してっと。遠出した後はこういうの大変だよなぁ」
宝物庫から持って行った着替えやらなんやらを籠の中に直接出して、マスターはベッドに腰掛け、俺は定位置となった場所に椅子を出して座る。
「礼装に関しての検証も色々やりたいけど、今は休もうか。終わったばかりで、心も体も疲れてるだろう?」
「……そうね。ちょっと、ひと眠りしたいかも」
それならば、と自動人形に着替えの手伝いを頼み、俺は宝物庫からいくつかの宝具を取り出す。
「……やっぱりだ」
いくつか宝具がなくなっているのは少し前に気づいたが、どんなものがなくなっているか、については今わかった。神に関する宝具がいくつか消えているようだ。……宝物庫の内容量的に、『いくつか』というのは『大量に』というのと同義だ。
さて、マスターも寝入ったことだし、俺も眠って神様のところに行くかな。……ええと、これとこれ、この礼装をこの宝具で強化して……。
「これで、ラインを辿って神様のところに行けるようになると思うけど……」
ジャンヌやアサシンの話を聞くにかなり不思議なことになっているだろうし、少し無理やりにでも行かねばならないだろう。
「……うん、大丈夫そうだ」
魔力を流してみたが、あの白い空間に行くときの身体が引っ張られるような感覚がしたので、間違いなくこれを使用すればあの空間に行けるだろう。
「何が起こっているかはわからないが……『何か』は起こってるんだろう。今行くぞ、神様」
最後にぐっすり寝ているマスターを撫でて、後のことを自動人形に任せ、俺は椅子に体を預け、ゆっくりと意識を落とした――。
・・・
「……む」
きた。この感覚は、あの白い空間だ。
そう確信して、目を開けると……。
「あれ?」
いつもの白い空間ではなかった。……かといって、マスターの部屋というわけでもない。
感覚的にはちゃんと成功して神様の下へと来たと思ったのだが……。
「……」
周りを見渡す。いつもは白い空間に高級そうなテーブルと椅子がおいてあって、テーブルの上にはお茶やお茶菓子が置いてあったりするというのが常なのだが、今は……。
「……テーブル」
ピンク色である。
「……椅子」
ピンク色である。
「ティーセット」
なんかデコレーションされてる上にオレンジジュースが注がれている。
「お茶菓子……」
薄切りにした芋を揚げたスナック菓子やら、棒状にしたお菓子が置いてある。
周りを見渡してみると、いつの間にかこの空間には窓が出来ていて、なんかかわいらしいカーテンが掛けられていた。
それもドぎついピンク色で、追加で置いてあるソファは真っ黒。あれだけ白が好きな神様にしては……というか、神様を映し出すこの部屋で、あの神様を表す『白』以外の色があるのが不思議だった。
「……やはり、何かあったようだな」
周りを見渡し、色々と物色して確かめていると、空間に響く声が。
「あっっれぇー?☆」
……なんていうか、クリームたっぷりのケーキに蜂蜜をかけた後に、炭酸ジュースをぶっかけたような、甘ったるい、パンチの聞いた妙な声がした。
「どしたしー?☆ こっち来るなんて、めっずらしー!☆」
ふわり、と。
空間を転移してきたのだろう。唐突に表れたその存在は……。俺の知っている声を……その、一応しているような、そんな感じの存在は……。
「やっほ!☆ ひっさしぶりぃ~☆ ウチ、神様だよぉ?☆」
きゃぴるん。
いちいち挙動の度になにやら星が跳ねている様な空気を巻き散らかしながら、俺の前に降り立ち。
「んぅ?☆ どしたどしたー?☆」
透明感のある白い肌を
「あ、これぇ?☆ ちょいイメチェンっていうかぁ☆」
天女のようだった清らかな衣装は女子高生のような制服に代わり、さらにそれを着崩し、下着が見えるぎりぎりのラインまでスカートの丈を短くし、足元はだるんだるんのルーズソックス。
「まぁ、ウチ的にはもうちょい攻めたかったっていうか?☆」
俺に見せつけるようにくるくる回るたびに華美につけられた
「具体的にはもっと腕にシルバー巻くとかさ☆」
そういってあげた腕には、シルバー……鎖の形をした装飾品が揺れて……って、それ『天の鎖』ィ! こんなところにあったのかよ!
ま、まさか……これが……この、時代を間違えたガングロ原宿系ヤマンバギャルスタイルのこの存在が……!
「へーい!☆ ぴぃーす!☆」
横ピースとかふざけたポーズ取ってるこの存在こそが……!
ジャンヌやアサシンの言っていた……『様子のおかしい土下座神様』だ……!
・・・
「あーもー! 中途半端で行っちゃったから追加で情報と、スキルの変更と、あ、そうそう、新しい宝具の『召喚権』も調整しないとだし……ま、次あの人が寝たときに引っ張り出して……って、あれ? 『宝物庫』からいくつかものが抜かれて……っ! あなたっ、どうやってここにっ、ぐぅ!? こ、これって、『天の……くさ、り』……? あう、霊基、保護、しないと……!」
「……」
「ん、んーっ!☆ よく寝たー!☆ って、あるぇー?☆ 何だろこの服ー……?☆ ま、いっかー☆ 可愛いしー☆」
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