ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

22 / 64
「あのっ、これ、クッキーです。よければ、食べてくださいっ」「ああ、いただくよ」

「あ、タオル、使ってください」「お、ありがとう。助かるよ」

「これ、作りすぎちゃって……食べてくれますか?」「おお、肉じゃが好きなんだよ」

「あ、お掃除しておきましたよ。そろそろ夏物も出しておきましょうか」「う、うん? いや、その前になんで家に……」「晩御飯は何がいいですか?」「……あー、ハンバーグで」

「明日はキャベツがお安いみたいですね。色々と買い足しておきますよ」「いや、悪いって、君も明日は用事が……」「あなたより大切な用事なんてありませんよ」「そ、そうか。……いやー、申し訳ないねぇ」


「――い、一途ですねぇ、この子」「……この後いつの間にか同棲することになっていつの間にか籍入れることになってたけどな」「い、一途……なんですよね?」「おそらくは」


それでは、どうぞ。


第二十一話 あんなに一途な子はいない。

 ここは、夢の中。……だと思う。何でそんなふわっとした感想なのかというと、神様ゾーンでもないし、さっきまでマスターと一緒にいた生前の城壁の上でもないからだ。

 未だやったことはないんだけど、乖離剣の全力解放……その際に割れた世界の外側に酷似した宇宙空間のようなところに、俺は立っていた。

 

「……え、なにここ」

 

 ふわふわと宙を漂う俺の声は、どこにも響かず消えていく。

 場所は、太陽系……だと思う。少し遠くに見えているあの青い星が、地球なのかハルケギニアなのかによって変わるけど……。

 体勢を整えようとするも、どうにも自由が利かない。宝具もスキルも使えないみたいだし……その二つを封じられてしまえば、宇宙空間に漂う俺なんて無力な存在である。夢だし、と割り切ってリラックスしながら視線だけを動かしてみる。

 ……体感時間で十分ほど。ぷかぷか浮いているだけでそろそろ眠たくなってきたな、と夢の中なのに眠気を感じたりしていると、小さな光が目の前にやってきた。

 

「なんだ?」

 

 光が現れてからすぐ。目の前の青い星の向こうから、黒い大きな何かと、無数の小さな――。

 

・・・

 

「――っ!?」

 

 起き上がる。ベッドには一人のようだ。周りを見渡すも、セイバーはいなくなっていた。……マスターのほうへ行ったのか?

 ベッドから降りて、マスターのいるベッドの方へと向かう。

 

「セイバー?」

 

 声を掛けながら仕切りから顔を覗かせる。マスターの寝ているベッドは天蓋からカーテンが下りているのだが、それが閉められて少しだけ明かりが漏れているのが見えた。……起きてるのか? そういえばセイバーの姿も見えないが……。

 ここには自動人形しかいないようだ……なんて思っていると、小さな話し声が。……ベッドのほうから? マスターの寝言だろうか。耳を傾けてみると――。

 

「それでね、これがパーティーの時のギルで――」

 

「なにこれっ。テーブルも椅子も……全部黄金じゃないっ」

 

「ああ、彼の玉座があるのはあの駄女神の領域の一部――黄金領域にあるからね」

 

「そのまんまね……」

 

「ちなみにその神様がいる領域は白光領域っていうらしいよ。……ギルしか呼ばれたことないからよくわからないけど、神様が一番力を振るえる場所らしいね……忌々しい」

 

「? でもギルみたいな英霊がいる場所って『座』っていうところなんでしょ?」

 

「んー、なんていうんだろ。神様の座の一部と、ギルの座を重ねて、英霊でもあって神霊でもある状態を作り出してる……とか言ってたけど、専門じゃないからよくわからないや」

 

 よくわからないのか。……いやまぁ、俺も完全に理解しているかと言われれば首をかしげるけども。というか、二人ともそこで夜更かししてたのか。なぜ俺の話をしているのかはわからないが、セイバーはともかくマスターは寝かせてやらねばなるまい。

 

「……そ、それよりもっ。あいつの話、他にないの? ほ、ほら、さっきちらっと言ってた、好きな食べ物、とか……」

 

「ん? ほぅ? ほほう?」

 

「あ、あによ……」

 

「なるほどねぇ。君も立派なレディなわけだ。いいよ、色々と教えて――」

 

 ……あんまりこっそり聞いているわけにもいかないな。意を決して声を掛ける。

 

「マスター、セイバー」

 

「っ!」

 

「ふぇっ!?」

 

 どたどた、ばたん、がさごそ、ごとん。

 色々な音がして、カーテンの向こうに映る二人のシルエットがあわただしく動くのが見えた。そんなに慌てなくてもいいのに。

 

「ちょっ、まっ、起きたのかいっ!?」

 

「セイバー!? まだしばらく寝てるからって、あんたさっき!」

 

 相当慌てているのか、ベッドから転がり落ちるように二人が出てきた。……まったく、何やってんだ二人とも。

 それから、二人に少しだけお説教。セイバーには、マスターを夜更かしさせないように、と変な道に誘わないように、の二点。マスターには、変な人の言うことは聞かないこと、あと夜更かししないでちゃんと寝ること、の二点。二人とも反省している様なので、早々に切り上げる。……お説教してる俺が夜更かしさせるわけにもいかないしね。

 

「――ふぅ。反省してまーす、って感じの顔しておくの、成功したみたいだね」

 

「……あんた、良い根性してるわね」

 

 なにやら二人でこそこそとしているが、まぁ明日の予定かなんかだろう。二人ともわかりづらいだけでいい子だし、ちゃんとわかって反省してくれているのだ。えらいえらい。

 

「ま、続きは明日だね。流石に明日はギルも鯖小屋にこもりっきりになるだろうし」

 

「……そうなの?」

 

「寂しそうな顔するようになっちゃってぇ。このこのぉ」

 

「ちょ、この、うざいっ」

 

「ほらほら、今日はこの辺にして、寝るぞー」

 

 俺の声に、二人は返事をして、マスターはベッドに横になり、セイバーは窓際の椅子に座った。

 

「ギルはその……『夢』の方はいいのかい?」

 

「うん? ああ、気遣いありがとう。けど、今はちょっと難しそうだ」

 

 神様のところにつながるかな、なんて軽い気持ちで寝てみたけど、過去の夢と……謎の宇宙の夢を見ただけで終わってしまったからな。

 

「そ。じゃあ、こっちで私と警備だね」

 

「そうなる。……マスター、いい夢を」

 

「ん。……お休み」

 

 マスターが杖を軽く振るうと、ふ、と明かりが消える。そういうマジックアイテムらしい。魔力があれば使えるらしいので、マスターでも活用できるんだそうだ。

 

「じゃ、ゆっくりと警備しようか」

 

「緊張感は持った方がいいと思うけどな」

 

 そんなツッコミをしながら、俺は明日使う宝具の選定を始めるのだった。

 

・・・

 

 ――ついにやってきた、運命の日。と言っても、ただサーヴァントを召喚するだけだ。え? 時間が飛んでる? いやほら、あの後と言えばマスターと一緒に詔考えたり地下室拡張したりと地味なことしかしてないからな。あとはセイバーの刀とからくりこれくしょんを見たり語られたりアサシンとかくれんぼ(ナイトメアモード)をしたりジャンヌとシエスタの村娘コンビによるスーパー芋煮会とかくらいしかしていない。

 

「よし……」

 

 体内の魔力を回す。宝具『全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)』が俺の座とつながる。念のためにと置いた触媒を元に、英霊、クラスが決定される。そして、俺が呼びだそうとする英霊が応える――。

 

「この名、この魂に覚えがあるものよ……魔力を回す。来い! 『全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)』!」

 

 廻った魔力が宝具に力を与え、英霊をサーヴァントとして召喚する――。って、あれ?

 

「なんだ、これ。宝具が暴走……!? いや、ちがう……! こちらからの干渉に、向こうからの反応が『大きすぎる』!?」

 

 一体分じゃない。その倍の魔力を引っ張られている……! 

 宝具への魔力供給を止めたところで、すでに英霊を引っ張り出すための魔力はつぎ込んでいるため、召喚は止まらない。……これはマジで、狙ってない『やばいの』が来るかもしれないぞ……。

 そんな風に一人勝手に戦慄していると、目の前で魔力が人の形を成していき――。

 

「っしゃあ! わらわが先よね!? っしゃおら! キャスター! 召喚に応じ参上したわ!」

 

「っあ゙ー! そこ私が盗ろうと思ったのにー……! っがー! バーサーカー! 召喚を求められてはいませんが参上しました!」

 

 もみくちゃになりながら、ガッツポーズをするキャスターと、地面を叩きながら悔しがるバーサーカーが、そこに現れたのだった……。

 

・・・

 

 ……二人から聞いた話によると、最初俺が召喚しようとしていたキャスターの枠に、現バーサーカーが無理やり侵入を果たそうとしたのだが、それをキャスターが察知して防御。召喚までの時間キャスター枠を守り切ったのだ。

 だが、ここで問題が発生。俺が要求した『キャスター』の枠は一つ。そこに二人が入ろうとどたばたやらかしたせいで、本来のキャスターと、もう一人がくっついて召喚されることになってしまった。……そのもう一人もクラス適性はキャスターなのだが、すでに埋まってしまっていた枠からはじき出された彼女に割り振られたのは、『バーサーカー』。……まぁ、その辺に関しては適性ありそうだと思っているのでいいのだが。

 ともかく。俺の魔力が大量に引っ張られたのはその所為だったようだ。……まったく。人騒がせな。

 

「……というわけで、これからよろしくな、卑弥呼、壱与」

 

「もちろん! わらわをキャスターとして呼んだこと、後悔はさせないわ!」

 

「……私をバーサーカーにしたこと、絶対後悔させてやります……」

 

 にっこにこしながら俺の腕に抱き着く卑弥呼と、ぶつぶついいながら俺の手にしがみつく壱与に挟まれつつ、俺は状況の説明をする。

 

「……とりあえず、話を聞いてくれるか?」

 

「ま、ある程度はあんたから流れてきてるけど……詳しい話聞こうじゃない。あんたの新しいマスターとかメイドとか、気になるしね」

 

「……新しい女ァ……?」

 

 キャスターはジト目で見上げてくるだけだが、バーサーカーは何やら目が血走っている気もする。……大丈夫か?

 

「……めっちゃ怖いわねこの壱与。狂化どんだけかかってんのよ」

 

「いや、ランクとしてはE+くらいなんだけど……」

 

「……ギル様は、まぁ、そういう方なんで納得してますけどぉ……それでも抑えられないんですよぅ」

 

 そういっていじいじと人差し指同士を合わせる壱与を撫でてやると、少しだけ猫のように目を細めた後、満足そうに笑った。

 

「むぅ。ギル様は私の扱い上手いんだからぁ……あっ。……っとと」

 

 急に俺から離れたかと思うと、壱与はすぐに太もも辺りで手を振って、ほっと息を吐いた。

 ……なにしたんだろ、これ。魔力を感じたからなんかの魔術……鬼道を使ったんだろうけど。

 

「……気になってるって顔してるから忠告しとくけど、クッソくだらないことに使ってるから知らないほうがいいわよ」

 

「そ、そうか」

 

「あ、ちなみに今のは下着を乾かしました! びしょびしょになりましたので!」

 

「……そ、そうかー」

 

 せっかくの卑弥呼の好意をすぐにふいにしてくれる壱与に、いつもどおりだなーと嫌な納得をしつつも、とりあえず現在の状況を説明する。

 今のマスターの話、これまでに戦ったサーヴァント、そして、今の脅威と神様の状態について。

 

「……ああ、やっぱりあれは変よね。今召喚されてるあんたのサーヴァント、それとあの女神の様子に関してはちょっと考えてることがあるのよ。……ま、それについてはあとで話すわ」

 

「とりあえずは、今のマスターをシメ……お話ししないとですね!」

 

「シメるって言いそうになったかおい」

 

 不穏なことを言いそうになった壱与の頭を強めに掴んで振った後、地下の召喚室を後にする。

 地下の召喚室は俺の部屋に直接つながっており、部屋から出た後に扉の水晶に魔力を通すと、壁と同化するように土の魔術が掛かり、扉を隠してくれた。……これは俺の魔力か、マスターの魔力じゃないと開かないようになっている。

 さらに俺の部屋を抜けると、鯖小屋のリビングへ。

 そこでは侍女人形一人とシエスタが作業をしていて、こちらに気づいたシエスタが作業を止めてぱたぱたとやってきた。

 

「お疲れ様ですっ、ギル様っ」

 

「お疲れさま、シエスタ。……こっちの二人は、新しく来てくれた仲間で、キャスターとバーサーカーだ。こっちのことでわからないこともあると思うから、助けてあげてくれ」

 

「は、はいっ! ギル様の専属メイドをしております、シエスタと申します! よろしくお願いいたします」

 

「ん、よろー。わらわはキャスター。呼びにくければ卑弥呼でもいいわよ。そっちの方が呼ばれ慣れてるし」

 

「バーサーカー、壱与です。……一つ気になったんですけど、専属メイドって言いました? え、夜も? 夜も専属ですか? だとしたらなんてうらやま……ふしだらな! 私と変わってくださいよ!」

 

「ふぇっ!? そ、そんな、夜のお世話なんてまだ……えと、任されてません、けど……」

 

「『まだ』!? まだって言いましたよギル様このメイド! 狙ってるぅ……ギル様の夜の専属メイド狙ってるよこの娘ぇ……!」

 

「ね、狙ってって、そんな、ギル様の……きゃっ」

 

「あざとい! あざといですよこの女ァ! 気を付けてくださいギル様っ。こういうおしとやかっぽいのに限って酒癖悪かったりするんですよ! 酒飲んだらエロくなったり!」

 

 壱与はシエスタがお気に召さないようで、かなり食いついている。言葉遣いもだんだん最初の頃のとがっていた壱与に戻ってきているようだ。

 

「その辺にしておけって、壱与。酒癖の辺りは完全に言いがかりだろ」

 

「だぁってぇ……うぅ。……謝ります、メイドさん。ごめんなさい」

 

 反論しかけた壱与だが、それでも根は良い子だ。すぐにシエスタにぺこりと頭を下げた。

 そんな壱与を再びなでてやると、くすぐったそうに笑う。

 

「ふひひぃ……」

 

「えぇと……と、特徴的な……方ですね?」

 

「いいんだぞ、シエスタ。変態だなって言っても」

 

「そ、そんな! 本当のことでも言ってはいけないことがあるってお母さんにも言われてますので……!」

 

「あ?」

 

「えっ?」

 

「えっ」

 

「あっ」

 

 驚いてそちらを見る壱与と卑弥呼と俺、そして口を押えるシエスタ。

 ……空気凍ったぞ。

 

「……いや、ま、その辺の話はまた今度で。……次は厨房に顔を出しておこうか。コックのマルトーがかなりいい人でな。気に入ると思う」

 

 そういって、俺たちは食堂へと向かうことに。

 シエスタが見送ってくれるのにかみつこうとする壱与を抑えつつ、鯖小屋を出る。昼も過ぎたことだし、厨房も落ち着いていることだろう。

 

「そういえばその丸藤(まるとう)ってどんな奴なのよ?」

 

「……マルトーな。気の良いおやじって感じの人だよ。料理の腕がピカイチでな。俺の食材を使って食事を作ってもらうこともあるんだ」

 

「おっさんか……女じゃないなら大丈夫ですかね」

 

「なに判定出してんだ壱与は」

 

 謎の『○』と書かれた札を上げた壱与は、うんうんとうなずく。なにそれ。どっから出したん?

 鯖小屋を建てたところから厨房はほど近く、少し歩けばすぐに厨房へたどり着く。いつものようにどったんばったん大騒ぎはしていないので、今は落ち着いている時間帯なのだろう。

 

「マルトー、いるかー?」

 

「あん? この声は……ギルじゃねえか! 今日もまた別の嬢ちゃん連れてんだな! お前さんがモテるのは知ってるけどよ、ウチのシエスタのことも可愛がってやれよ?」

 

「やっぱあのメイド……お手付きじゃないですか!」

 

「違うぞ!?」

 

「なんだよ、もう可愛がってやってんのか。それなら安心だぜ。……泣かすなよ?」

 

「だから違うんだって! そんなに信用無いか!?」

 

「いや、逆に信用ありすぎなのよあんた。村娘と言いつつあんな顔よし器量よし胸よしなメイドがあんた専属なんて知ったら、だいたいの奴は『あ、手出してるんだな』って思うわよ」

 

 なんだその変な信用。俺そんなに無節操に見えるのか?

 

「見えますよ?」

 

「見えるっていうか、事実じゃない」

 

「ぐへぇ」

 

 二人の口撃(誤字ではない)にぐぅの音も出ない俺を見て、マルトーががっはっはと笑う。

 

「いいじゃあねえか! 『英雄色を好む』っていうしよ! 幸せにできる力持ってるんだから安心だ!」

 

「マルトー、そんな、他人事みたいに……」

 

「他人事だからな! はっはっは!」

 

 ……この料理長はこれだから……シエスタを任せられている身として、そんなこと言わないでいただきたい。

 

「……って、当初の目的忘れるところだった。マルトー、こっちがキャスターとバーサーカー。二人とも、挨拶して」

 

 俺の紹介で、二人が前に出る。

 卑弥呼はともかく、男が苦手だった壱与も成長したものだ。俺との交流で苦手なものを一つ克服してくれたのだと思うとうれしい。

 

「わらわがギルの最高の右腕、キャスター。名前は卑弥呼よ。どっちで呼んでも構わないわよ」

 

「えっ!? なんですかその称号! 壱与聞いてない!」

 

「言ってないもの」

 

「むきー! 絶対霊基破壊して座に戻してやります! そしたら私がクラスチェンジしてキャスターに……!」

 

「なれるの?」

 

「なれませんけど?」

 

「……しっぺ」

 

「あひぃん! 急にご褒美!?」

 

「……バーサーカーの壱与っていうんだ。こういう子なんで、あんまり真に受けないで半分聞き流すくらいでちょうどいいと思う」

 

 くだらないこと言い始めたので、お仕置きついでにマルトーには俺から紹介を入れる。

  

「おう! そういうのは貴族の坊ちゃんたちで慣れてるから大丈夫だ!」

 

「貴族っていうか王女なんですけど。……ふぅん。でも、良い設備してますね」

 

 壱与が厨房へ入り、中の設備を見て回り始める。

 『ふーん、へー、ほー』とか言いながら、何に納得してるのか、うなずいてこちらに戻ってきた。

 

「これなら、ギル様のお口に入れても問題ない料理が作れますね。良しとしましょう、丸藤(まるとう)

 

「お、おう? ……なんてーか、お前の仲間に変なのがいるのは慣れたつもりだったが……もっと変なのいるんだな」

 

「あー、まぁ、否定はしないよ」

 

「ギルー。そろそろお暇しておいた方がいいんじゃない? 邪魔になってもいやよ」

 

「それもそうだな。……マルトー、邪魔したな」

 

 結構失礼なこともしちゃったなー、という気持ちを込めての謝罪だったのだが、この程度はいつも貴族に食事を出しているマルトーからすれば可愛いものらしい。がっはっはと笑って「次は飯でも食って行けよ!」なんて寛容なことを言ってくれた。……ありがたいことだ。

 

「よし、それじゃあ色々回ってから、マスターの部屋で帰りを待とうか」

 

「いいわね。あんたのマスターがどんなやつか、見てやろうじゃないの」

 

「きっと幼児体系ですよっ。ギル様はたぶんこれからも巨乳のマスターには当たらないと思うので!」

 

 なにそれ。呪いなの?

 「あー……」という卑弥呼の納得したような声に、妙な恐怖を覚えるのだった。

 

・・・

 

「……で、この二人が新しいサーヴァントなわけ?」

 

「そうそう。キャスターとバーサーカー」

 

「ばーさー……狂戦士!」

 

 マスターが壱与を見て後ずさった。クラス説明の時にバーサーカーは理性を失う代わりに能力値を上げるクラスだと説明したからか、俺を盾にするように隠れてしまった。おぉ、こういうところは身長も相まって小動物みたいで可愛いな。

 かくかくしかじかとバーサーカーと言えど理性は保っていることを説明し、「ほんとに? 噛まない?」と別ベクトルの怖がり方をしているマスターと壱与を仲介してやったりして、時間が経っていくにつれて普通の変な子だと分かったのか、会話ができるようにはなってくれた。

 

「っていうかキャスターって魔術師……あんたのところでいうメイジよね? ……こんな格好してるのねぇ」

 

「いや、魔術師が全員こんなかっこはしてないんだけども……」

 

「失礼な小娘ね……」

 

 ほへー、と卑弥呼を見るマスターに、壱与がジト目でつぶやく。

 

「これでサーヴァントが五体か……俺は問題ないけど、マスターは大丈夫か? 気分悪くなったりしてないか?」

 

「え? 別に問題ないわよ。あんたを召喚してから今まで、変化はないもの」

 

「それはよかった。……そういえば詔は思いついたか?」

 

「うぐ」

 

「え。まさか……」

 

 俺の質問に気まずそうに眼を逸らすマスターをさらに見つめてみると、「だって仕方ないじゃない!」と着火してしまった。

 

「詩的な表現なんて思いつかないし……セイバーに聞いたら変に色っぽいことしか言わないし、アサシンのはなんか怖いし……ジャンヌは、ほら、芋っ子でしょ?」

 

「芋っ子!? え、皆さんの私のイメージ芋ですか!?」

 

「……派手な感じではないよね」

 

「素朴っぽくていいと思いますよ、私は」

 

「武将、王族に女王に王女、って来たらねえ? ちょっと派手さでは負けるわよね」

 

「いいじゃない、芋娘。ギル様もたまにはフルコースよりも素朴なお味噌汁を召し上がりたいときもあるでしょうし」

 

「みなさんのイメージひどい! これは風評被害ですよ! 無辜の怪物スキルと同じですよこれは! 私がほっぺたもちもちで駆逐艦みたいな顔になったのも絶対その所為です!」

 

 確かにジャンヌはちょっと一人だけ作風違うというかルーラーやアベンジャーのジャンヌとはちょっと違う感じするけど(胸含む)も、セイヴァージャンヌも彼女でとてもいい子なのだ。ちょっとおっちょこちょいでドジっ子属性もあるが、それを補って余りある心優しさがある。

 まぁ、それを某作家の無辜の怪物扱いするのは無理あるけど。

 

「じゃああんたはなんかいい表現思いつくわけ? 魔法の四属性への感謝を詩的に表現するわけだけど」

 

「う。……えっと、火は、お料理に必要です……?」

 

「水は?」

 

「んと……お、お洗濯?」

 

「風」

 

「風が吹けば桶屋が儲かる……?」

 

「なぜことわざ……? 最後、土」

 

「豊かな土壌は豊作の要!」

 

「最後に村娘出てきたわね……」

 

「すっごい生き生きしてますわ……」

 

 全員のため息をよそに、ジャンヌは言い切った満足感を表すようにむふー、と息を吐いている。なんでこんな胸張れるんだこの子は……。

 

「……とりあえず! ジャンヌもあてにならないことがわかったわね」

 

「だな。……気分転換でもあればいいんだけど……」

 

「気分転換……お散歩でも行きます?」

 

「上空とかどうでしょう? ギル様のお舟であれば行けますよね?」

 

 いけるけど……アルビオンから帰ってきたばかりのマスターが空を飛んで気分転換できるかと言われれば首をかしげざるを得ないな。

 現に少しだけマスターは苦笑しているし……。

 

「その気持ちだけ受け取っておくわ。……ありがとね」

 

 少しだけ顔を赤くしたマスターが、俺たちを見回していった。

 彼女はあの旅から、少しだけ素直になってくれたようで、こうして気持ちを言葉にしてくれるようになったのだ。

 

「ま、あんまり根を詰めすぎてもいいのは浮かばないだろう。……あ、そうそう、この本でも読んでみたらどうだ?」

 

 俺はそういって、宝物庫から一つの本を取り出す。以前借りておいた、詩的な表現が学べそうな本だ。

 マスターはしばらく表紙を見て、そのあと中をぺらぺらと捲り、中を確認すると、少ししてその本を閉じ、机の上に置いた。

 

「ちょっと読むのに時間かかりそうだから、明日にするわ。とりあえず私は食事に行くけど……あんたたちは?」

 

「ああ、もう晩飯の時間か。一旦俺たちは鯖小屋の方へ下がることにするよ。一旦全員集まることにするから、何かあったら鯖小屋に来てくれ。その間は自動人形をつけるよ」

 

 あんまり目立たないように、アサシンモードの侍女になってしまうが。学院内だし、サーヴァントが攻めてくることも可能性は低そうだ。油断はしないが……それでも、サーヴァントが全員そろって色々と話もしたいしな。これからのこと……あの、逃げられたワルドとランサーのことを、話し合わないとな。

 

・・・




――ステータスが更新されました。

クラス:キャスター

真名:卑弥呼 性別:女 属性:秩序・善

クラススキル

陣地作成:A+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
『工房』を上回る『神殿』を形成することが可能。
その中にいる間、彼女の真名、容姿などの情報は決して判明しない。

道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。甲羅の割れ方で行方を占える道具などを作れるが、結構眉唾。

保有スキル

カリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
邪馬台国を女性の身ながら治め、戦乱を収めた才覚。

鬼道:B+
卑弥呼の使用する魔術と似た技術。霊的存在に魔力を使用して依頼することにより、様々な奇跡の行使を可能とする。
霊的存在に依頼するだけの魔力が必要なだけなので、かなり省エネ。卑弥呼はシャーマンであったのではないか、という説から、かなり親和性は高いため、成功率は高い。

神性:A
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
卑弥呼の場合、天照大神と同一なのではないかという説より、神霊適正は最高クラス。

能力値

 筋力:E 魔力:EX 耐久:E 幸運:B 敏捷:D 宝具:EX

宝具

『合わせ鏡:金印』

ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:? 最大補足:?

卑弥呼の習得する『第二魔法』が宝具化したもの。平行世界を銅鏡を介して覗き見ることによる擬似的な未来予知、数多ある世界を自分に接続し、無制限の魔力運用など、応用の幅は多岐にわたる。
鏡を辺り一面に散らばせ、そこから魔力光線を発射することが可能。ただし、上限は約百枚まで。


『■■■■:■■■』

ランク:EX 種別:? レンジ:? 最大補足:?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。