ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
「……なんでギルさんは人類に恐怖抱いてるんです?」「ほら、前に人たらしと性別不詳のスパイにハメられてハメることになったらしくて……」「あー……」
「たいちょー! ということは王族じゃないし貴族じゃないしスパイじゃなくて神性も持ってなくて鬼種も持ってない上に人類じゃない私はどうでしょうか!」「……月の民……アリだな」
「ちょ、あれぐやさんの一人勝ちになりますよね! 黄金領域全域のサーヴァントに告げます! みんなでご主人様を励ましますよ! これは、人類史の……人理を守る戦いです! ある意味!」
……このくだらない人理の危機は、二日くらいで収まりました。
それでは、どうぞ。
出発の日。この日のために用意していた馬車に乗り込み、俺たちは宝さがしの旅兼タルブ村へのあいさつへと出発した。
「こんなに大きい馬車まで入ってるのねぇ……」
「馬は流石に入ってなかったから借りたけどな」
「四頭引きって言ったら凄い渋い顔されたけどね」
そこは許してもらいたいところだ。大きくなればなるほど馬力が必要になるのだし。本当は四頭でも重さ的にはぎりぎり引けないのだが、そこは宝物庫に頼った。『馬を強化する』なんて単純な効果を持った道具なんて、宝物庫には万単位で入っているのだ。物理的には四馬力にしか見えないが、神秘的にはその数百倍だといっても過言ではない。空は流石に走れないが、それ以外では神牛レベルで引いてくれるだろう。今回はそこまで速度を必要としないので、最低限の強化にとどめたけど。
さて、話は変わるが今向かっているのは最初の目的地である、『ブリーシンガメル』なる首飾りが眠るとされている寺院跡だ。……宝物庫に『
「んー、地図からするとこっからは徒歩のほうがいいかもなぁ。オークが出るらしい」
「殴苦?」
「オーク。伸ばす感じだよ。……字面的には間違ってなさそうだけど」
貴族たちが統治する土地と言えども、その貴族が住む土地から遠くなれば遠くなるほどそこの住民はないがしろにされやすい。
今から行く寺院があった場所も、元々は村があったのだとか。その村にオークがやってきて、村の自警団程度では相手にならず、かといって領主が兵士を差し向けてくれるかというと距離的にあり得ない。そういうことがあって、その寺院がある村は放棄されたのだが、その時に神父が寺院のチェストに隠したとされるのが……。
「その『ブリーシンガメル』ってわけか」
「……ほんとなのぉ? それ、災厄を退けるとか言われてるんでしょ? オーク来てる時点で退けられてないし、そもそもそんな効果あるなら神父もってくでしょ」
マスターがキュルケからの説明を確認した俺に向かって、ジト目で聞いてくる。……と言われてもなぁ。
「おっと、オークだ」
だん、と音を立てて飛んで行った宝具が、オークの頭を吹き飛ばす。その音でぶひぶひ寄ってきた別のオークを、また宝物庫からの射撃が襲う。こうして、歩いては寄ってくるオークを宝物庫による半自動射撃で壊滅させながらも、目的地の教会までまっすぐ進んでいく。
「……いやー、すごい光景ねー」
「これだけのオークが一瞬も耐えられずに壊滅とは……」
「そりゃそうでしょ。あんたらはステータス表なんて見たことないかもしれないけど、こいつの宝物庫ってかなりやばい性能なのよ」
後ろの学生組が、左右を彩るオークの死体を見ながら顔を青くしている。まぁ、一撃で頭だけ吹っ飛ばしたから、あんまり気分悪くはなってないみたいだけど。
「お、先行してたアサシンが帰ってきたぞ」
前方から、いつも通り白い服に身を包んでいるアサシンが走ってくるのが見えた。あの子には地図を持たせ、先行して安全を確かめてきてもらっていたのだ。
「ただいま戻りました、主っ」
「どうだった?」
「目的の教会は朽ちていましたが、大きく崩れてはいないようでした。中の探索も可能でしょう。あの巨大な豚の化け物も何体かいましたが……これを見る限り、なんの問題もないですね」
そういって、アサシンは周りのオークの死体を見てうなずいた。
「さ、行きましょうか」
・・・
その日の夜
、俺たちはシエスタの料理を食べながら、たき火を囲んで今日の成果の確認をしていた。
「それで……これが今回の狙いの『ブリーシンガメル』ってわけかい君ぃ」
胡坐をかいて座っているギーシュの手には、真鍮でできたボロボロのネックレスが握られている。すぐそばの地面には、チェストから見つけた同じくボロボロな銅貨やらが入った木箱が置いてある。まぁ、マスターの予想通り、教会のチェストにはお宝と言っていいものはなく、あったのは数枚の銅貨、そして真鍮製のアクセサリーが数点。
どう見ても、魔力的な加護のあるものではないし、オークの群れを突破してこれでは、割に合わないとギーシュが憤るのも当然だ。
詰め寄られてる側のキュルケはつまらなさそうにつめの手入れをしているし、タバサに至っては本を持って完全に自分の世界に入ってしまっている。
「まぁ、全部が全部『当たり』なわけはないわよねぇ。これの中には『もしかしたら本物があるかもしれない』ってだけなんだから」
「俺の黄金律と幸運でも、流石にキュルケが見つけてきたものまでは働かなかったかぁ」
そういって、ギーシュと同じく胡坐をかいている俺は、膝の上を枕にしているマスターの頭を撫でながら苦笑した。俺本人でも血のつながった身内でもない状態だと流石の黄金律も働かないようだ。
ちなみに寝ているマスターだが、チェストからガラクタしか出てこなかった時点で「だから言ったじゃないの」と唇を尖らせて拗ねはじめ、シエスタの作ってくれたご飯を食べ終わった時点でこうして寝てしまった。……前回の旅で少しはこういうことに抵抗がなくなったのか、下に少しクッションを置いただけで眠れるようになったようだ。……用意していたこの対人宝具(偽)の『人をダメにするクッション』の出番はもう少し先かなぁ。まぁ、今回使わなくても学院に帰ってから使えばいいか。
「グギギ……この子娘ぇ……ギル様のお膝を枕代わりとかなんてうらやま……ねたま……うらめし……ええと、罰当たりな!」
「本心全然抑えこめてないじゃないの、あんた」
「逆に聞きますけど卑弥呼さまは平気なんですか? 壱与はバーサーカーになってるとか関係なく狂いそうですけど。……! ……はっ!」
卑弥呼に問いを投げかけていた壱与は、急に何かに気づいたような表情をした後、手元の木の枝を両手でつかんで、気合の声と共にへし折った。
「す、すごい……これがバーサーカーの狂化スキル……! こんな壱与でも木の枝が折れるなんて……!」
「え、あんたこんな小枝も折れなかったの?」
「まぁ、カブトムシと戦って五分五分くらいだったので」
「よくあんた天寿を全う出来たわね」
壱与と卑弥呼の邪馬台国組は『どのカブトムシまでなら戦えたか』を話し始めてしまったので、横に座るシエスタに話を振ることにした。
「シエスタ、料理ありがとうな。おいしかったよ」
「ひゃいっ!? あ、そんな、食材も道具も宝物庫からお貸しいただけたものですし、私のしたことなんてその、アリよりも小さいことですわ!」
「それでもだよ。誰かのために何かをしたのなら、感謝されてしかるべきだ。……魔術で結界を張ってるから、安心して寝るといい」
「だ、ダメですっ。ご主人様が休まれてないのにメイドの私が休むなんて……!」
「いや、それ言うなら俺睡眠いらないからシエスタ寝れないぞ。……ほらほら、命令だ、命令」
そういって、シエスタを強引に休ませる。
キュルケやギーシュたちも、各々寝る準備は終わっているみたいだ。
……ちなみに、寝る場所については村の教会を使わせてもらっている。雨風はなんとかしのげるし、朽ちていない部屋も見つけたので、そこをキャンプ地として寝床の整備をした。
「その、それではお先に失礼します」
「おう、お休みー」
「あら、シエスタは寝ちゃうの? ……なら、私も寝ちゃおうかしら。タバサ、どうする?」
「……見張り、いらない?」
キュルケに声を掛けられたタバサは本を下して、首をかしげる。
そんなタバサに、俺は一つ頷いて、問題ないことを伝える。警報が鳴るだけの簡易なものとはいえ、一応結界は張ってあるし、俺たちサーヴァント組は寝なくても問題ない。だから、寝ずの番ぐらいは引き受けられる。
「遅く起きてていいことはないからな、君たちくらいの年だと特に。……ついでだ。マスターも連れて行ってやってくれ」
マスターを見て、キュルケは魔法を唱える。『レビテーション』だ。これを使えば、女の子でもかなりの重量を運べるらしい。……基本貴族しか使えないから、工事現場なんかで活躍することはあんまりなさそうだけど。
全員が部屋に入っていったのを見送ると、周りをサーヴァントに囲まれていた。
「おお? どうした?」
「聞きましたよギル様! 卑弥呼さまとまぐわ……魔力供給したって!」
少しだけ頬を赤くした壱与が、俺を問い詰める。てへ、とでも言いたげな卑弥呼を横目で見るに、情報源は卑弥呼本人のようだ。
「隠語にすることによって普通の言葉もやらしさ感じちゃうよね。魔力供給(意味深)みたいな」
「っていうか壱与ちゃんに言葉を濁すなんて大人の対応できたんですね」
「確かに。ギルのことに関してならほんとバーサーカーになるからね、この子は」
「……壱与さんは、やらしいんですね」
「はぁぁぁぁ!? いつの間に攻撃の矛先壱与になってんの!? あれ!? ここは卑弥呼さまを攻め立てる場面ですよね!? あっ、ギル様は私を責め立ててくださ……!」
「しっぺ」
「あっひぃぃぃん!? あっ、イっ……ふぅ」
「……ぶれないわねぇ」
「性欲の獣ね。……この場合はビースト扱いでいいのかしら、この子」
「人類悪扱いはやめてやれよ。流石に人類に迷惑はかけてないだろ」
対俺用英霊なだけで、壱与はただの可愛い女の子なのだ。
「それにしても、この宝の地図……どれも外れっぽいわねえ」
「だなぁ。……俺のスキル『コレクター』も『黄金律』も反応しないし」
まぁ、シエスタの故郷、タルブ村へ行くのが主目的だから、こっちで何も見つからなくてもキュルケは満足するだろうけど……。
「さ、そろそろ一休みしよう。……たぶんなんも来ないと思うけど」
「賊とか……も寄り付かないですよね、オークのいるというところなのですから」
ジャンヌが傍らに旗を置いて、くあ、とあくびをする。
それを横目に、俺はそのままごろんと寝転がる。サーヴァントやっていたより、王をやっていたより、一番旅人であった時間が長い俺は、こうして地面の上で眠るのも慣れたものだ。……まぁ、最悪ベッドとか出せたし、一時期やさぐれてた時期なんかはベッド使い捨てとかしてた。あれは黒歴史である。
「右横ゲット」
寝転んで昔の黒歴史を思い出していると、するりとアサシンが俺の右手を抱いていた。……添い寝か? 別に構わないけど……。
「あっ、ずるいわよ小碓! ……わらわ左横ゲット!」
なんてことをしていると、卑弥呼が非難するような声をあげつつも左手側に滑り込んできた。両手に花である。……アサシンは花でよいのだろうか。
「えっ、あっ、二人ともずる、え、私も君と寝たい……上ゲット」
ぼふん、と俺の体の上に飛び乗ってきたのは、謙信。……甘えたがりなのは変わらずか。
ジャンヌは突然の出来事に驚いてワタワタするだけだし、壱与はまだしっぺの余韻に浸っているのか、女性にあるまじき顔で涎を垂らしている。
「なっ、皆さんずる……私の場所なくないです!?」
「……下とか?」
「壱与さん枠!?」
「土の中?」
「お芋枠だった!」
「……みんな寝てるんだから静かになー」
最終的に我に返った壱与が「? 全員でギル様の肉布団になればいいのでは?」とかまじめな顔してアホなことを言い、そこからヒントを得たのか、ジャンヌが「あ、じゃあ私は膝枕しますね!」と俺の頭の所で足を崩して座ってくれたので、遠慮なく膝枕をしてもらうことに。
余ってしまった壱与は、俺の周りをぐるぐる回りつつ、場所を探すが……まぁ、流石にここまで周りを囲まれては空き場所はあるまい。
「あ、あれ? ほ、ほんとに壱与の場所ない感じです?」
「……俺の下の土の中が空いてるらしいが」
「挟まれると隣の世界行っちゃうんですよ壱与は!」
「え、第二魔法ってそんな精神のヴィジョン的なものなの?」
「……思い出しなさい、ギル。壱与はバーサーカーよ」
「ああ……」
言外に「ほっとけ」と言われたので、そのまま寝ることにした。
……っていうか圧迫プレイとかやったことあるはずなんだけど……。あ、いや、その、安全面には配慮した圧迫プレイだよ? 強化ガラスで挟んだりはしてないよ?
「……覚えてろよォ……」
修羅の顔をして卑弥呼を睨む壱与は、とりあえず放っておくことにした。……帰ったら構ってやらんとな。
・・・
あれから、いくつか地図の場所へ行ってみたものの、大きな収穫はなく、最後の方にはキュルケですらやる気をなくしていたほどだ。
「はぁ~……ほんっとなんもなかったわね~」
「だなぁ……これがこの数日間の成果かぁ……」
俺の手には、今回の旅で見つけたガラクタの数々が入った木箱が。
価値にして……あー、価値はなさそうだなぁ。店に買い取ってもらえないタイプの中古品だよ、これ。逆に引き取りのための料金が必要になるやつだ。
「これで、あとはタルブ村だけかぁ」
最後に残った地図を見ながらつぶやく。道中シエスタに聞いた話によると、タルブ村にあると言われているのは『竜の羽衣』というもの。なんと、シエスタのひいおじいちゃんのものらしく、それを使って東の土地から来たのだとか。だが、タルブの村の人たちが「飛んでみろ」と言っても言い訳をして飛ばなかったので、村人からは信じられなかったらしい。だが、そのひいおじいちゃんは村で働き、お金を稼いでその『竜の羽衣』に『固定化』の魔法までかけてもらうよう依頼するほど、いれこんでいたらしい。
『竜の羽衣』以外ではとても良い男性だったらしく、結婚し、家族を持ち、最後はタルブ村で命を終えたとのこと。
「……なんというか、不思議な話だな」
「そこまであからさまだと本物っぽいですよね」
ジャンヌがくすくすと笑う。
「ま、それも確認してみればいい話だ。……よし、今日はタルブ村まで行くぞー。今からなら、日が暮れる前にたどり着くだろ」
「りょーかいです! 行きますよー!」
シエスタと共に御者席に座るジャンヌが、はいよー、と気の抜けた声で馬を走らせる。流石は村娘。とっても様になっている。一応騎乗スキルはあったはずなので、不安はない。……ランク的に言えば謙信のほうが上手いけれど。
「そういえばキュルケ、今回のお宝探しはどうだった? 満足できたか?」
「んー? そーねぇ……ダーリンと一緒に旅ができた、っていうお宝を見つけられたから、今回は満足かしら?」
そういって、キュルケは俺にしなだれかかりながら、その綺麗な指先で俺をつつつ、と妖艶に撫でる。……凄い技術だ。「とりあえず寝てるベッドに潜り込んであとは流れで」みたいな誘い方してくるウチの三国志最強英霊に見習わせたいほどの。
「あーっ! こら、私の使い魔に手を出すなっての!」
キュルケに抱き着くように止めにかかったのは、我がマスターである。ちみっこい体を全力で使い、キュルケを俺から引きはがそうと頑張っている。
「……揺れる。うるさい」
本から視線だけを向け、じとりとにらんだタバサは、つい、と杖を振るう。
「わっ」
「ひゃっ!?」
突然吹いた風に、二人は馬車の座席から転げ落ちて尻餅をついてしまっていた。……あ、紫とピンク……。うん? いや、なんでもないとも。ただ、今日のラッキーカラーはなにかなぁ、と思い立っただけだよ。それだけだってば。
「あいたたた……ま、最後のお宝がもしインチキだとしても……そういうのを求める好事家っていうのはたくさんいるのよ」
「……強かだなぁ……」
こういう子だけど、キュルケはたぶんいい奥さんになるだろう。家計的な意味で。
「っていうか、シエスタは持ってっても大丈夫みたいなこと言ってたけど……ほんとに大丈夫なのかねぇ……」
そんなことを思いながら、俺達はタルブ村まで向かうのだった。
・・・
タルブ村に到着したとき、かなりの騒ぎが起こった。
そりゃそうだ。貴族四名に神性持ち四人、聖女がシエスタと共に帰ってきたんだから。
貴族にまずびっくりして村長が呼ばれ、その村長がジャンヌを見て腰を抜かし、小碓と謙信を見て跪き、壱与と卑弥呼を見て祈り始め、俺を見て村人たちが俺たちを囲み、わいのわいのと騒ぎ始めた。この感覚は久しぶりである。これは……そう、旅の途中で休息にはいったとき、目覚めたらいつの間にか休息状態の俺を神体として、新たな宗教団体が出来てた時と同じ感覚である。
「シエスタには七人も弟妹がいるのか……おっと、頭に乗るのか? うむうむ、いいともいいとも」
シエスタを含め八人の兄弟らしく、シエスタは長女。下の子たちの面倒を見ることになれているらしく、それがメイド仕事にも表れているのだろう。
「さて、一休みしたなら『竜の羽衣』を見に行くかー」
「あ、はい! 道案内をしますね!」
村から少しだけ離れたところに、その寺院はあった。
……なんというか、見たことがあるというか……。……んお?
「これは……シエスタ、これが『竜の羽衣』なのか?」
「え? はい、そうですけど……?」
「……そう、か」
なら、シエスタのひいおじいちゃんっていうのは、たぶん……。
「シエスタ、その髪と目、ひいおじいちゃんに似てるって言われないか?」
「! その通りです! ……でも、どうしてそれを?」
「……『海軍少尉佐々木武雄 異界ニ眠ル』」
「む、それって」
『竜の羽衣』の近くにあった墓石に書かれている銘を読む。シエスタが言うには、ひいおじいちゃんが自分で用意した墓石なんだとか。
俺の呟いた言葉に、謙信が反応する。
「『異界』って言葉、それに『海軍少尉』って肩書……」
「んむ? あ、今情報来た。っていうかこれ不便ねぇ。聖杯と違ってあんたからの情報しか来ないから」
「壱与的にはギル様からの情報が脳内に直接来るなんて脳内も支配されてるみたいでとっても嬉し……あ、うれ、うれし……」
「……そういえば、犬って嬉ションするんだよね、いや、今は関係ない話だけどさ。……関係ない話だけどさ?」
もじもじしている壱与を見ながら、謙信がなぜか犬知識を俺に教えてくれる。……それ、もしかしてあっちに駆け出して行った壱与に関係ある?
「……壱与さんの名誉のために黙っておいてあげるよ」
「それほぼ答え言ってるようなもんよね?」
謙信の言葉に、半目になりながらツッコミを入れる卑弥呼が、話を元に戻すように視線を『竜の羽衣』とその傍らにある墓石に向ける。
「で、これがその『佐々木武雄』の乗ってた」
「ああ、確か、名前は『零式艦上戦闘機』……『ゼロ戦』だな」
それが、目の前にある『竜の羽衣』の正体だった。
一応これに関する英霊は知り合いにいるものの……別に、宝具というわけでもないな。霊基が消滅した後にも残る宝具っていうのは一応あるけど……それだと次はシエスタの存在がわからなくなるしな。英霊なら、子供は残せないし。……いやほら、俺はスキル『終わらない叙事詩』持ってるし……。え、もう一個? いや、あれは呪われた装備というかスキルというかなので……。って、俺は誰に言い訳を……。
「それで? そのゼロ戦がなんでこんなところに?」
「さぁ……シエスタ、このひいおじいちゃんの日記とか残ってないか?」
「は、はい! ちょっと聞いてきますね!」
そういって去っていったシエスタから目線を外して、再び墓石を見る。
「……んぅ? なんだろこれ」
謙信が、墓石の裏に何かを見つけたようだ。……どうしたんだ?
「これこれ。なんか、大きいくぼみと小さい窪みが……片方は取っ手っぽいね」
そういった謙信が指さした場所を見てみると、確かに取っ手らしき部分と、それよりも大きな窪みが見える。
……?
「お待たせしましたぁっ!」
サーヴァント組でなんだこれ、と頭をかしげていると、シエスタがなにやらもって帰ってきた。
「ひいおじいちゃんの残したものは、あの『竜の羽衣』以外にはこれだけみたいです」
そういってシエスタが手渡してくれたのは、古びたゴーグル。……? なんだこれ、変な光り方をする……。?
「んあ? なにこれ、変な術かかってる……?」
「変な術?」
「うん。こっちの魔法っぽいけど……」
そういって矯めつ眇めつする卑弥呼は、首をかしげながら壱与を蹴る。……かなりのキックである。筋力Eとはいえ、相手は壱与。なぜか「はんぺんっ!?」と叫びながら吹っ飛んだ壱与は、ゴロゴロ転がってから立ち直る。
「なにごとぉっ!? って、卑弥呼さまの蹴りですか。んむぅ、なんかあんまり愛を感じないので、ギル様っ、卑弥呼さまに見本を見せるために壱与をお蹴りくださいっ! さぁ!」
「……謙信、しっぺ」
「えー、私がぁ? ……まぁ、やるけど。しっぺ!」
「あぐぅっ!? 筋力Cのしっぺやべえ! 見てくださいギル様っ。これっ。腕赤くなるどころじゃないですよっ。紫! 紫色してる! 壊死!? 壊死してます!?」
「してないしてない。これ光の加減で紫色に見えてるだけだから。そんな強くできるのはあそこにいる旗振り芋ゴリラだけだよ」
「なんですかその無駄に語呂の良い貶し言葉! もしかしなくても私のあだ名ですよね!?」
宝具の効果で三ランク筋力がアップする上に魔力放出で際限なくゴリラになれるらしいので、俺が絆を結んでいるサーヴァントの中では上位に食い込むレベルでゴリラなのである。
ジャンヌは納得でき無いようで発言者である謙信に詰め寄るが、謙信にとってその程度はそよ風のようなもの。適当にあしらっているのが見えたので、こっちはこっちで壱与と話をすることにする。
「で、壱与? これ、なんかわかる?」
「んあー? あー……なんだろこれ。変なのぉ。わかんないこともないけどぉ……」
「なによ。変に嫌がるじゃない」
「……卑弥呼さまは、『これすっごいおいしいから!』って言われたからってナマコ素手で捕まえられます?」
「あ、いや、ほら、そういうのはわらわの仕事じゃないし」
「……んもー。あ、ギル様のナマコなら全然素手で行きますよ! むしろ何だったら美味しくいただきますとも!」
「お前人の股間にあるものを海洋生物扱いするんじゃない」
目線が下に向く壱与の頭を軽くたたいてから、話の続きをする。
「……まぁ、そんな感じなんですよ。『やれないことはないけどちょっとやだ』みたいな?」
「それは……けどまぁ、ちょっと我慢して探ってくれよ」
「ギル様の頼みなら喜んでー!」
そういって、ゴーグルを銅鏡の上に置く壱与。そして、なにやらぶつぶつとつぶやくと、ゴーグルが光り始める。
「これ、なんかのメッセージを残す魔術……? んー? あ、鏡に映しますね」
ふわり、と光が銅鏡へ移ると、その銅鏡に文字が映り込む。
「なになに? 『コノカラクリニ気付イタ者ヘ。コノ異国ノ地ニテ、私ノ後ニ迷イ込ンダモウ一人ト一機ノ場所を記ス』……だって。読みずらいから変換しますね。もうちょい長そうだし」
そういって、壱与が銅鏡に手をかざす。すると、波紋のようなものが広がり、文字が読みやすいように変換されていく。
「にしてもこれ、最初の文を見るにここに来たのは佐々木さんだけじゃなさそうですね。……なんで隠したんだろ」
「さぁ。ま、続きを見ればわかるだろ」
そういって、俺は銅鏡の文字を追っていく。いつの間にか、銅鏡の周りにはキュルケたちもやってきていた。
「ちょ、見えづらいじゃないツェルプストー!」
「いいじゃないの。それにしても、こういうのワクワクするわね! もしかしたら本当の財宝の位置だったりして!」
「そういえば、父にこの墓石の話をしたら、遺言を残していたそうで。なんでも、『あの墓石の銘を読めるものが現れたら、そのものに『竜の羽衣』と遺品を渡してくれって」
「ほう……」
「一応拝んでる人とかもいるんですけど、村のお荷物だったりして……父もギルさんが必要なら持っていって構わないと言ってました!」
それから、とシエスタは話を続ける。
「あと、銘を読めた人にもう一つ伝えてほしいことがあると言っていたらしいです。『『竜の羽衣』を、なんとしてでも陛下にお返ししてほしい』と。……どこの陛下なんでしょうね?」
「……それは」
……おそらく、その陛下とは――。
「いや、だが、返すことを約束しよう。……必ず」
異世界にて何もわからず、けれどただひたすらにこの機体を残した彼に敬意を払って、祖国と『陛下』の下に返すことを誓おう。
「……さて、続きを読んでいこうか」
銅鏡の続きには、「『竜の羽衣』の座席後方。通信機。その底に、手がかりを残す」と書いてあった。
「座席の後方? 小碓、見てこれるか?」
「お任せください!」
俊敏な動きで座席に上り、ハッチを開いた小碓命は、そのまま座席後方、通信機が置いてあるらしい場所へと潜り込んでいった。
しばらくガコガコ音がした後に、ひときわ大きく何かを破壊したような音が聞こえ、小碓命が飛び出してくる。
「……破壊はしてません。ちょっと硬くて、外すときに大きな音がしただけです」
俺の考えていることが分かったのか、小碓命はそういって俺にはい、と一つの箱を渡してくれた。
「これだけ素材も何もかも違ったんでわかりやすかったですね」
確かに、渡された箱は木で作られたなんの変哲もないものだ。……だからこそ、あの近代兵器の中では不釣り合いだったんだろうけど。
「中身は……手紙と……なんだこれ」
中には、手紙と、謎の物体。
手紙には、佐々木氏がこちらに来て数十年後、また別の機体がやってきたこと、その人物を知っていたため、こちらに迷い込んだことを説明したものの、その機体も動かなくなってしまったため、お互いに帰還は不可能。それを知った彼は、機体を佐々木氏に預け、そのまま「帰る手段を探す」と言い残し、どこかへ去っていったという。
「『残した機体の名は『紫電改』。乗っていた人物の名は――『菅野直』と言う』」
それが、二機目の『竜の羽衣』の名前と持ち主だった。
・・・
「『性欲の獣・Hビースト1』! 壱与!」「『独占の獣・Hビースト2』! 迦具夜!」「『嫉妬の獣・Hビースト3』! 小碓命!」「『騙欺の獣・Hビースト4』! フランス仮面!」「『不変の獣・Hビースト5』! えと、洛陽仮面、です!」「『平穏の獣・Hビースト6』! ご、ゴリラ、仮面……!」「『■■の獣・Hビースト7』! 土下座仮面!」
『七人揃って! ビーストレンジャー!』
「……なにアレ」「あんたに対して『要求したいけど言ったら困らせる』欲望を表に出した獣の姿らしいわよ。ちなみに匿名希望の奴は仮面つけてるわ」「……いくつか常に表に出てる獣性があるんですけどそれは……」「その辺はほら、モノホンのビーストだって一つ現れたら連鎖的に顕現するでしょ? それと同じよ」「……っていうか頭についてる『H』って何?」「そりゃあんた、決まってるでしょ。っていうか、あんたとかわらわならすぐにわかるわ」「……?」「『HENTAI』の頭文字の『H』よ」「……人類史は、一度やり直した方がいいのかもな……」
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