ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

35 / 64
「……え、なにここ」「……見てしまったな、ジャンヌ」「ふぇ? マスター? え、もしかしてここって隠し部屋だったりします?」「……さ、こっちにおいで」「……ちょ、質問に答えて……後ろに何持ってるんですか?」「いや、これは……ほら、ただの猿轡と結束バンドと頑丈なロープだよ」「それ監禁の道具! え、私もしかしてやばいです!? やばいですよね!?」「……さ、ちょっとゆっくりしていこうか」「ひ、ひにゃー……!」


それでは、どうぞ。


第三十四話 見知らぬ、部屋

 昨日の騒ぎがあったものの、店はまたやっているようだ。開店と同時に来たのだが、マスターの姿が見えない。

 

「あれ? 昨日優勝したから、『魅惑のビスチェ』とやらを着て自信満々に出てくると思ったけど……」

 

「ああ、大主からこれ、預かってます」

 

「え? ……招待状?」

 

 アサシンから受け取ったのは、丁寧に作られた招待状だ。……なんだこれ。『場所:屋根裏部屋』って書いてあるけど。

 

「いま屋根裏部屋に住んでるので、そういうことだと思います。……えっへっへ、愛されてますねー」

 

「あー、まぁ、だいたい想像つくけどさぁ……どうしよ、マスター襲っちゃったら」

 

「いいんじゃないです? ……誘われてるんだと思うけどなぁ」

 

 アサシンはそうつぶやくが、マスターは結構箱入りでこういう男女の機微とかにはあんまり慣れてなさそうだけど……。やっちゃっていいものかなぁ……。

 

「まぁ、ほら、最初に強くぶつかって後は流れで」

 

「え、八百長しろって?」

 

 結構危なめのネタをぶち込むアサシンに問い返しながら、俺を取り囲む女の子たちに酌をしてもらう。隣のジェシカも話に入ってきて、にやにやと笑う。

 

「あんなツンツンしてる子に好かれてるなんて、流石だねぇ、王さまはっ」

 

「……アサシン?」

 

「えへへ。喋っちゃいました」

 

 まさかのジェシカの『王さま』呼びにアサシンを問い詰めると、あざとくテヘペロする

。いや、可愛いけど。まぁ、可愛いからいいかー。

 

「まさか、今日一日しか着れない『魅惑のビスチェ』を王さまのために使うなんて……愛されてるじゃない。あーあー、いいわねー」

 

 ため息をつきながら、一口酒を飲むジェシカ。俺の席に座っていて何も出さないのもなと俺の蔵から出したワインとか、それを利用して作ったシャンパンなんかを出して飲ませる。これが人気で、アリスちゃんなんかこれを飲むために他のお客さんを放ってこちらに来る始末だ。……依存性はそんなにないはずなんだけど……。

 

「で、その『ザ・夜の帝王』みたいな服なんなんですか?」

 

「ん? やー、宝物庫っていつの間にか服とか増えてるんだよね。何のタイミングなのかはわからないんだけどさ。そこにヒョウ柄のヤバめの服があったから自動人形に預けてリメイクしてもらったんだよ。ワンポイントならまぁまぁイケてるだろ?」

 

「え? あ、えっと……そ、そうですね!」

 

 わざとらしいくらいにニッコリと笑ったアサシンが、ワインを一口飲む。

 

「……自動人形も困ったろうなぁ。リメイクしてこれだもんなぁ……」

 

「ん? なんか言ったか、アサシン」

 

「い、いえ! なんでもないですとも! ……ささ、ご一献……」

 

「ありがとうな。……そうだ、スカロンに『あの話』は通してくれたか?」

 

「あ、はい。結構乗り気でしたよ。……でもまさか、こんなことを提案するとは……」

 

「はっはっは、まぁ、ジェシカを現地協力者にしたときに思いついたんだよ。やっぱりこういうお店には情報が集まるからな」

 

 俺がスカロンや……他の酒場に根回しをしているのは、酒場を利用した俺の情報収集網の構築である。俺が資金を提供し、提携している酒場は情報をこちらに伝える。まずは酒場から始めていって、他の店にも広げていく予定だ。この王都に情報網を構築できれば、これから何かあった時に情報収集がはかどるし、この国で活動するときにバックアップももらえるし。表だって動けないときの隠れ蓑は大切だな。

 

「……っと、もうこんな時間か。マスターの所に行ってくるよ」

 

「はーい。頑張ってくださいねー」

 

「王さまー! ファイトー!」

 

「一発キメちゃいなー!」

 

「……こういう時は女の子の方が盛り上がるよなぁ」

 

 ジェシカやアリス、ジャンヌ(ウチのじゃが芋ではないほう。この店のナンバースリーらしい)の声援を受けながら、俺は店の裏に入って、屋根裏部屋へと足を進めた。

 

・・・

 

「おじゃましまーす」

 

 そう言いながら、梯子を上った先の屋根を外し、屋根裏部屋へと立ち入る。入る前から見えていたが、ランタンでもつけているのだろうか、灯りが漏れている。きぃ、と古い蝶番がきしむ音を立てながら、天井部分が上に開く。

 

「あ、よ、ようこそ」

 

「おー、マスター、それが……む。……それが、『魅惑のビスチェ』か」

 

 一瞬、精神に干渉する『魅了』らしき感覚がしたものの、俺の素の対魔力で弾ける程度の物だ。うぅむ、『魅惑のビスチェ』……本当に効果があったのか……。けれどまぁ、こうしても着てるのを見ると……普通に衣服としても優秀だよなぁ。マスターの色っぽさが強調されている。

 

「ええ。……どう?」

 

「とっても似合ってて綺麗だな。……そのまとめた髪も、いつもと違っていいと思うよ」

 

「そ、そう? ……そ、そうよね! そりゃあ、私だもの!」

 

 ふふん、と恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、いつものように腕と足を組んでいるマスターが、いつも通り自信たっぷりに言い放つ。

 それから、すっと立ち上がったマスターはテーブルの上の燭台に火を灯した。……え、マジ? 料理?

 

「これどうしたんだ? ……まさか……」

 

「……作ったのよ。ジェシカとかセイバーに聞いてね」

 

 そのまさかだった。手作りか……確かに少し焦げていたりするところがあるものの、見た目はとてもおいしそうだ。失敗らしい失敗はしていないと言っていいだろう。

 

「冷めないうちに食べましょ?」

 

「ああ。……それにしても屋根裏部屋っていうからもうちょい汚いの想像してたけど……意外と綺麗だな」

 

「掃除したからね」

 

 そう言いながら、マスターはワインをお互いのグラスに注いだ。

 

「……ほら、早く座りなさいよ。乾杯するわよ」

 

「お、おう」

 

 かなり変わったマスターに困惑しながらも、俺は唯一存在している椅子に座る。マスターは椅子がないからなのか、ベッドに腰掛けている。

 

「……優勝おめでとう」

 

「ん……。ありがと」

 

 ちん、とグラス同士がぶつかる音。お互いに静かにワインを口に運び、さっそく料理に手を付けてみる。

 まずはシチューかなー。いまだにホカホカと湯気を立てているシチューをすくって、一口。

 

「お、美味しい」

 

「そ、そう? ……良かった」

 

「なんだ、味見してなかったのか?」

 

 味見は大事だぞ?

 

「し、したわよ! ほ、ほら、あんたって王さまなわけだし……舌肥えてるかと思って……その、料理なんて初めてだったし……」

 

「なんだよマスター、可愛いなぁまったく。ほら、さっき撫でてやれなかった分撫でてやろう。おいでおいで」

 

「ばっ、ばっかじゃ……ん、んぅむ……だ、誰にも言わないでよ……?」

 

 一瞬立ち上がって否定しかけたマスターだったが、少し考え込んだ後、おずおずとこちらに近づいてきて、座る俺の目の前で両手を広げる。おぉ? どうしたんだろう。今日はやけに素直だ。そこまでされてはやってやらないわけにもいかないので、小柄なマスターを抱え上げ、座っている俺の脚の上にまたがらせる。

 そのまま頭を抱き寄せてやって、結っている髪を避けて頭を撫でてやる。……ふわっふわだぞ、この子の髪。こんな状況なのに、よくこの髪質維持できたな。

 

「よしよし、よく頑張ったな、お疲れ」

 

「んぅ……私頑張ったわよね? こんな酒場で住み込みで仕事して……私公爵家なのに……魔法も最後まで使わなかったし……」

 

「そうだなぁ、偉いぞ」

 

「……もっと褒めなさい。あ、ついでにそれ食べさせて」

 

 そう言って、マスターが埋めていた頭を放して、テーブルの上を指さす。指の先には、バゲットが。仕方がないなぁ、と薄くスライスされているバゲットを取って、マスターの口に運んでやる。餌を待つひな鳥みたいに素直に口を開けたマスターは、口元に持って行くと、はむ、と可愛い声を出しながら銜える。……小さい口だなぁ。

 

「……? あによ」

 

 一口分を咀嚼して飲み込んだマスターが、首をかしげながら不思議そうに見上げてくる。おー、これは……可愛いなぁ……。

 

「ん? ……あっ」

 

「え? ……あっ」

 

 何かに違和感を覚えたらしいマスターが、下に視線を向けて、何かを悟ったような声を上げた。それを見て、俺も何が起こったのかを察した。……と言うより、俺のほうに原因があるわけだしな。

 

「……んと、す、する? あんた、キャスターとかバーサーカーとかと、たまにしてるもんね……?」

 

「え、見てたのか」

 

「……あんな近くでやってたらいくら寝ててもわかるわよ。……ったくもう」

 

「やらしいなぁ……」

 

「やらしくないっ! ばか! せっかく私がここまで……その、してあげようって言ってんのに!」

 

 そう言って怒るマスターを抱き上げて、ベッドに座らせる。

 

「やー、マスターがそう言ってくれるなら凄いうれしいけど……良いのか?」

 

 そんな、俺のこと好きそうな素振りとか見せてなかったけど……。

 いや、していいっていうならするよ、そりゃ。据え膳はお代わりまでするタイプだからさ、俺は。正直こっちの子たちも魅力的だし、いつかシエスタには手を出すだろうなって俺自身も思ってたし……。

 

「ん。私だって、結構前からあんたのこと……まぁ、悪くは思ってなかったし」

 

 そう言って頬を赤らめながらそっぽを向くマスターに苦笑しながら、横に座って肩を抱き寄せる。マスターの顎を持ってこちらに向けさせて、ゆっくりと顔を近づけていく。なにをするかわかったらしいマスターは、唇を突き出して目を閉じた。

 それを見てから、俺はゆっくりとキスをして、少ししてから離した。……そういえば、マスターから聞いた話だと、俺が召喚されてからやろうとしていた『コントラクト・サーヴァント』の魔法は、キスをすることが必要だったんだとか。……まぁ、それが今になったってことで。

 

「……ん。あんた、慣れてるわね……」

 

「そういうマスターは……その、緊張気味だった……な?」

 

「そりゃそうでしょ……初めてだったんだから……」

 

「そうだったのか。……まぁ、マスターそういうところ身持ち固そうだしな」

 

「当たり前でしょう! 私は貴族なのよ!? も、もう! 変なこと言わせないの!」

 

 照れ隠しなのか、声を荒げるマスターを落ち着かせる。

 

「……で、その、する……?」

 

 自分の体を抱くように腕を回しているマスターが、不安そうに聞いてくる。

 

「んや、今日はこれでいいよ。マスターの気持ちがわかって満足だしね。……それに、マスターも初めてならちゃんと思い出に残るようなところが良いだろ?」

 

 まぁ、こういう屋根裏部屋っていうのもなんか秘密感でて興奮しそうだけど、それはそれ。初めてならば、ロマンチックに行きたいと思うのは俺のエゴだろうか。

 

「……ん。その、ありがと」

 

 恥ずかしそうにはにかむマスターが、お礼を言ってくる。

 

「いいってことさ。……それに、そこで出歯亀してるのもいることだしな」

 

「えっ!?」

 

 俺が視線を向けているところにマスターも驚いたように視線を向けると、小さく「やべっ」という声が聞こえて、屋根裏部屋に続く床板がパタンと降りるのが見えた。……たぶん仕事が終わったセイバーとかアサシンかジェシカあたりが見に来ていたのだろう。……セイバーとアサシンは後で大変可愛がってあげよう。ジェシカは……んー、まぁ、嫌がらなさそうだったら口説くとしよう。ああいう幼馴染系女の子はあんまり見ないからな。

 

「って、マスター、魔法はまずい!」

 

「う、うううううるさいうるさいうるさーい! せ、セイバー! 邪魔しないって言ったのにぃ!」

 

 なるほど、焚き付けたのはセイバーか。……うん、気絶コースだな。甲斐の虎を猫かわいがりしてやるよ。

 でもまぁ、あれだけツンだったマスターが素直になってくれたんだ。感謝しないとな。

 

「まぁまぁマスター落ち着いて。……みんなで飯食べようか」

 

「……うー……!」

 

「ほら、セイバーたちも上がってこいよ」

 

 俺がそう声を掛けると、ゆっくりと床板が上がり、見覚えのある黒髪二人が顔を覗かせる。気まずそうに苦笑いしているセイバーと、ずっとにやにやしているアサシンだ。……アサシンに関しては俺が女の子とこういう関係になるたびににやにやしている気がする。

 

「さーっすが主! ツンツンな大主をここまで見事に落とすとは!」

 

「……なんていうか、小碓殿がなんでこんなにうれしそうなのかよくわからないんですけど……」

 

「え? だって主が新しい女の子を落としたってことは、それだけ主の血が残るってことですもん! 優秀な(おのこ)は優秀なややこを残す義務がありますからね! 次はシエスタ嬢、ジェシカ嬢なんかどうでしょうか主ぃ!」

 

「なにこの子凄い怖い」

 

 マスターの声に、セイバーが頷く。いや、可愛い子と仲良くなるのは俺もいやじゃないからね? ほら、遠ざけたりはしないけど……。

 

「まぁいいや、とりあえずマスター、みんなにもごはん分けてもいいか?」

 

「……はぁ。……仕方ないわねぇ。ほら、取り皿」

 

 いくつか余っていた取り皿とフォークを二人に渡して、全員でテーブルを囲んだ。椅子は一脚しかないので、ベッドに俺が座り、両サイドをセイバーとアサシンが挟み、マスターは対面の椅子に座って食事をとった。マスターは俺の脚の上でもいいと誘ったのだが、恥ずかしいのか、拒否されてしまった。

 ……まぁ、たぶんマスターはツンデレだから、二人きりの時じゃないとデレてくれないのだろう。今度部屋で二人きりになった時にいちゃつくとしよう。

 

「あ、ということはマスターの家族にもあいさつに行かないとなぁ」

 

「っ!? な、なに言ってんのよ!」

 

「いやー、こういうのは早く言いに行くのがいいんだよ。……前のマスターの時は家族とかいなかったからなぁ」

 

 夏休みだし、帰省するときに一緒に行って、挨拶するのがいいだろう。

 

「まー、主は王さまだし、優良物件だと思いますよー?」

 

 「ねー?」と俺の腕に抱き着きながら笑うアサシンに、俺も笑い返す。まぁ、甲斐性という意味では問題ないと自分でも思う。絶対に幸せにするしな。

 

「んむー……ま、まぁ、その辺は心配してないけど……」

 

 スプーンを加えながら、もごもご何か言うマスター。……行儀悪いぞー。貴族なんだろー?

 

「……まぁ、その、あんたは使い魔だけど、その、私のこい……こ、こここっ」

 

「……こけっこっこー?」

 

「いや、烏骨鶏かもしれん」

 

「酷寒かもしれませんよ?」

 

「恋人! こ、恋人……で、良いのよね……?」

 

 言い切った後、マスターは不安げに俺に確認を取ってくる。……まぁ、はっきりと言ったわけじゃないからな。

 俺はマスターにうなずきを返す。

 

「そうだな、マスター。これから甘やかすから覚悟しろよー?」

 

「……甘やかす……うぅ、巨大な後宮……侍女長……黒い月……」

 

「宝具による甘やかし……吹っ飛ぶ壱与嬢……殿のマスター甘やかし……」

 

 なにやら俺の言葉に反応したらしい両サイドの二人が、何かをぶつぶつ言ってうつむいてしまった。……どうしたんだろうか? 少しして、二人同タイミングで顔を上げ、マスターの方へ駆け寄り、それぞれがマスターの左右の肩を掴んで、苦虫をかみつぶしたような顔で口を開く。

 

「ルイズ嬢、気を付けるんだよ? 殿の『甘やかし』は凄まじい……!」

 

「大主、気を確かに持つんですよ! あの人は、マスターをダメにするサーヴァントなんですから!」

 

「え? え? え、ええ……?」

 

 急に二人にまくし立てられたマスターは、困惑しながらも頷きを返した。……まったく、マスターをダメにするとは言ってくれる。現に、俺の前のマスターはダメにならなかったぞ?

 それを二人に伝えると、大きなため息をつかれた。……お前らな……。

 

「とにかく! 大主、何か変だなと思ったら相談してください! 力になるんで!」

 

「そうだよ。困ったら私たちになんでも相談してくれたまえ。……あ、コレ初代マスターが作った『マスター会』の会員証」

 

「な、なんなのよぅ……」

 

 困惑するマスターと、必死に説得しようとする二人を見ながら、俺は大きくため息をつくのだった。

 

・・・

 

 今日も今日とて情報収集。やっている最中、アンリエッタに貴族としての席を用意できないかと相談してみたところ、なんと宰相がいくつかそういう『隠れ蓑』を用意しているらしく、そのうちの一つを貸し出してくれたのだ。なので、俺は今この王国の貴族としても活動できるようになり、とても助かっている。ちなみに、その貴族の家名は『オルレアン』。爵位は伯爵。と言うわけで、『オルレアン伯』として、俺は今活動している。

 ……まぁ、フランスとこのあたりって似てるからなぁ。もしかしたら地名としてあるのかもしれないが……ま、それでも偽名としてはなじみ深いからいいだろう。ウチのフランス村娘の宝具名と近しいからな。何かしら幸運値でも働いてるのかもしれない。

 というわけで、俺のフルネームは『ジルベール・ド・オルレアン』となった。うん、カッコいいし、いいんじゃないかな? ちなみに、卑弥呼と壱与の偽名は適当でいいということなので、『キャス』と『バーサ』となった……クラス名とは便利だなぁ。

 

「……で? あんたの好みのこのクラシカルなメイド服着せられてるわらわたちにまたなにさせようっての? ……まぁ、夜の相手ならいつでもするし? まんざらでもないけれど?」

 

「むしろ夜の相手以外メイドらしいことできませんけどね! 家事とかなんてほぼ自動人形で回してるようなものですしね! おかげでコスチュームプレイは上達しましたけども!」

 

 目の前でシエスタのようなヴィクトリアン調のメイド服に身を包んだ二人が、俺の目の前でくるくる回ってみたり、スカートをめくってみたりして、俺の目の前でアピールをする二人。……なにやってんだこいつら……。

 俺は擬装貴族の建前として、いくつかの書類を処理しながら、二人をじとりとした目で見る。

 

「……で、情報は?」

 

「あー、そうでしたそうでした! これが街中に設置した鏡からの情報で――」

 

 壱与の鬼道で監視カメラのようになった銅鏡を、二人は町の中に設置していたようだ。その映像から得られた情報を、壱与と卑弥呼が整理して、俺に報告してくれる。俺は、それを普通の書類に偽装した報告書として作成し、王宮へと送っている。

 ……あーもー、暗号化めんどくさいなぁ。

 

「……っと、できた」

 

「お疲れ様ですー。肩をお揉みしますね!」

 

「いや壱与の力カブトムシ以下だからいいや」

 

「それは過去の話! 今ではカブトムシ以上クワガタムシ以下になりましたので!」

 

「甲虫から離れたらお願いしようかな」

 

 っていうか壱与って筋力Eじゃなかったっけ。人間よりは力あるはずなんだけどなぁ……もしかして、『これ以上下がない』って意味でEなのだろうか。

 それだと計測不能とかで『―』とか表記不能になってそうだけど。

 

「さて、今日もマスターを見に行くかなー」

 

「……セイバーめ。眠れるツンを起こしやがって……」

 

 俺がそう言って立ち上がると、壱与がむきー、とエプロンを噛んで怒りを表している。……でも、弱すぎて引っ張り切れてないけど。

 

「ま、そっちも引き続き頼むよ」

 

「はいはい。……いってらー」

 

「行ってらっしゃいませ、ご主人様!」

 

 二人の見送りを受けながら、俺は町へと繰り出したのだった。

 

・・・




「主、主っ。今のところこの世界では大主の好感度とシエスタ嬢の好感度が高めですよ! キュルケ嬢はその次くらいで、ジェシカ嬢はもうちょっとって感じでしょうか! タバサ嬢は……まだ知り合いレベルくらいですね! でもチャンスはあると思いますよ! ……フーケさんは……子供産めるんですかね? 適齢期過ぎてたりしてたらおすすめはしないんですけど……ま、主なら年増もロリもどっちもいけますよね! ところで今日はシエスタ嬢の所に行くのがお勧めですよ! プレゼントはお菓子が良いかもです!」「お、おう。……そ、そうか」

「……なにあれ」「ん? ああ、何だったか……そう、『何故かぎゃるげのひろいん達の好感度がわかる友人ぽじ』もーどなんだってさ。ちなみにすでに本人自体は攻略されてるから、隠しるーとは無い、って言ってたなー。どういうことかはわからないんだけど」「……そう。……っていうか、あいつまだ恋人増やすのね。……私のこと、あんなにぎゅってしたのに……」「……おやおや、『とりすていんの女は嫉妬深い』と言うのは本当みたいだなぁ。……頑張れ、殿」


誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。