ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「先走り液!?」「我慢汁!?」「カウパー氏線液!?」「なんで君らそういう微妙な下ネタ詳しいんだよ。おかしいだろ」「犯してやる!?」「いや違うよ。どういう聞き間違えしたんだよ」「どういう立ち松葉してんだよ!?」「違うよ。体位を気にしてはいないよ。き、き、ま、ち、が、え! どうしたんだよ、鼓膜破れちゃったの?」「処女膜? やだなー、ギルさんに捧げたじゃないですかー。もう破れてますよー?」「重症だな……鼓膜だけじゃなくて常識も失ってる……ん? なにこれ。『中学生薬』? あぁ、確かに下ネタへの反応速度と言うか、妙な変換機能と言うか……確かにその辺っぽい感じはするけど……」

ちなみに、この後一日ほどして効果は切れましたが、顔中真っ赤にして床を転がる数人の女性サーヴァントがいたとかいないとか……。

「え? ボク? なんか恥ずかしいこといったかなー? まー、そんなの気にしなくていーじゃんかー!」とは、ある桃色髪の理性無き子のセリフ。


それでは、どうぞ。


第三十八話 鞘走らずにはいられない。

 マスターの実家……と言うか領地に着いたのは学園を出発してから二日後のことだった。……しかも領地に着いただけでまだ家までは半日ほどかかるとのこと。俺だけヴィマーナで飛んだらダメかなぁ。……ダメだよなぁ。

 

「む、止まるのか?」

 

「あぁ、旅籠に着いたようですね。私は霊体化しておきますね」

 

 そう言って謙信が消えるのと、シエスタが馬車から出ていくのはほぼ同時だった。……なにしに行くのかと見ていれば、マスターたちの乗る馬車の扉を開けに行ったようだ。……あー、そういう仕事するんだな、おつきの侍女って。俺は基本的にヴィマーナで飛んで宝物庫にしまうか、飛行宝具で単身飛んでいくだけだったからなぁ。俺も遅れて馬車から降りると、視界の向こうから土煙と轟音が。むむ? なんだあれは。この近くに住む人たち……領民と言う奴だろうか。

 

「エレオノールさま! ルイズさま!」

 

 ……あ、お姉ちゃんの名前エレオノールっていうのか。なんか頭よさそうな響きである。女教師の格好とかしてほしいかもしれない。

 近づいてきた領民たちは二人を取り囲み、さらに俺まで取り囲んできた。……今の俺はお付きの平民って感じなんだが、どうしたんだろうか。

 

「俺には構わなくても大丈夫だ。貴族ではないからな」

 

「それでも、エレオノールさまとルイズさまの御家来には変わりあるめぇ。どちらにしろ失礼してはいけねぇだ」

 

 そう言って、腰の剣をお持ちしますだ、だの色々と世話を焼こうとしてくる領民たち。……まぁ、この腰のデルフは見せかけだけでもとつけてきただけだし、預けても問題はないが……。そんなことを思いながら、鞘ごとデルフを渡す。やけに丁寧に運んでいく村人から視線を戻すと、マスターとエレオノールはとある建物に誘導されていった。あそこで休憩するらしい。たぶん、ヴァリエール家の人たちを歓迎するための屋敷かなんかなんだろう。道すがら聞いた話によると、ヴァリエール領はかなり大きいらしく、現代で例えるなら小さめの市くらいはあるとのこと。

 

「はー、公爵ってのは凄いもんだ」

 

「……君、王だったよね?」

 

 いつの間にか霊体化を解いた謙信が後ろからぼそりと突っ込む。あー、いやまぁ、遠い記憶だけどね?

 

「おっと」

 

 領民が俺も呼びに来たのを見て、謙信はまた霊体化する。……ツッコミいれるために霊体化解いたのかこの子。

 

「こちらでごぜぇます、御家来さま」

 

「ん、ああ。ありがとう」

 

 案内をしてくれる領民についていくと、一人の少年が馬に乗ってかけていくのが見えた。……伝令だろうか? たぶん領地に着いたからそろそろ着くよって前触れでも出したんじゃないだろうか。俺が生きていた時の世界でもそんなのがあった気がするし。

 屋敷の中に入ると、椅子を引かれて二人が座っているところだった。休憩ついでにお茶でも飲むらしい。……シエスタが後ろに立ってるし、俺も立っておいた方が良いだろう。

 

「あと半日か……」

 

「あと半日も一緒に居れるんですね」

 

 隣に立つシエスタが俺のつぶやきに小声で答える。……もう半日くっつくのかぁ。……んー、このままだとマスターの家でシエスタといたすことになりそうで怖い。

 領民の一人が、『エレオノールさまはご婚約されたとか』なんていうと、空気が少しぴりついた。……んー?

 

「ばっか! おめえ、そんなこというでねぇ!」

 

 一人がその婚約話をした男の頭を叩いた。……だが、エレオノールは未だピリピリとした空気を崩さない。……なんか変な人と婚約したんだろうか。それとも婚約を……? と俺が一人考えていると、シエスタがぎゅう、と俺の腕を握る。……お、おぅ。おっぱい凄いなコレ……。

 

「あ、あの、姉さま……」

 

 そんな空気の中、マスターが口を開く。……あ、マスター空気読めないから多分……。

 

「ご婚約、おめでとうございます」

 

 アンリの時とは違い、おずおずとはしているものの祝いの気持ちを持ってマスターはそう言った。だが、エレオノールには地雷だったらしい。マスターの頬を引っ張り上げて、ぎりぎりと締め上げる。

 

「ど、どぼじででずか! おねぇざま!」

 

「婚約はね! 解消したのよ!」

 

 ぎりぎり締め上げながらマスターにそう叫ぶエレオノール。え、婚約解消されてたのか。……なんでだ?

 

「な、なぜ!? なぜでしょうかっ!」

 

 締め上げから解放されたマスターが、頬を抑えたままそう聞く。確かに気になるな。公爵家の子女なら相当なことがなければ婚約なんて解消しないと思うけどなぁ……公爵家ともなればなおさら。

 

「さぁね! バーガンティ伯爵に聞いてちょうだい! なんでも『もう限界』だそうよ!」

 

 えぇ……婚約段階で『限界』って言わせるってどういうことなんだ……。逆に気になるぞ……。

 

「……ギルさん、ああいう方がお好みなんですか?」

 

 隣からの声に顔を向けると、少しだけ頬を膨らませて『私不満です』と顔に出したシエスタがいた。それと同時に抱きしめている俺の腕に胸を押し付けるようにしてくるので、こんな場だけれど……その……ぼっ

 

「いてっ」

 

 俺の思考をさえぎるように、宝物庫から侍女パンチが飛んできた。……なんだよ、俺は下ネタ考えるのもダメなのか。

 

「……むぅ。私も自動人形さんと同じ気持ちですっ」

 

 そう言ってシエスタはぷいっと顔をそむけるが、たぶん違う気持ちだと思う。自動人形の方は下ネタに対するツッコミ……って、待てよ? なんで俺の考え筒抜けなんだ……?

 

「……ごめんな、シエスタ。今度埋め合わせするから、機嫌直してくれよ」

 

 そう言って、シエスタの頭を撫でてやる。髪を梳くようにして頬を撫でてやると、その手に頬ずりをしてくれたので、たぶん許してくれたのだと思う。甘えん坊なメイドだなぁ。そこがいいのだけれど。

 ……さて、そんなことをしている内にもマスターはエレオノールから責め立てられている。昔のことまで引っ張り出されてお説教を受けているのを見るに、長くなりそうだ。ある程度で割り込んでやるべきか。しょぼくれたマスターの顔を見ているとなんだか庇護欲を掻き立てられるから不思議なものである。そう思って踏み出そうとした足を、俺は一瞬でもどした。なにやら凄い速度で駆けてきたからである。……悪意は感じないけど……と思っていると、思い切り開けられる扉。

 

「あら! あらあら!」

 

 まるでマリーのように朗らかに笑ってマスターたちを見るのは、桃色ブロンドの髪をした、まるでマスターを成長させた未来の姿のような女性。その顔には満面の笑みが浮かべられており、さらに胸の前で両掌を合わせて喜びを表しているのを見るに、相当喜んでいるらしい。

 そんな闖入者に、真っ先に反応したのはマスターだ。先ほどまでのしょぼくれた顔はどこへやら。キラキラと輝くような顔で「ちぃ姉さま!」と席を立った。……姉? 二人目なのか。と言うか、そういえば家族構成聞いてなかったな……。あとどのくらい家族がいるのだろうか。貴族だからやっぱ大家族なのか……?

 

「見慣れない馬車が止まっているから何かと思って見に来れば! エレオノール姉さま、帰ってらしたの?」

 

「……カトレア」

 

 ……え、エレオノールのほうが姉なのか……!?

 

「ちぃ姉さま!」

 

「まぁ、ルイズ! 私の小さなルイズ! あなたも帰ってたのね!」

 

 そう言って、二人は抱き合ってきゃいきゃいと姦しく盛り上がる。……髪の色から瞳の色、顔だちまでそっくりな姉である。エレオノールはなんでここまで違うんだろうか。髪の色も金だし……なんか複雑な事情が……?

 そんなことを考えながら二人目の姉……カトレアを見ていると、カトレアもこちらに気づいたのか、マスターから離れて寄ってきた。……おお! これは、キュルケよりもメロンの品質が良い……!?

 俺の目の前で止まったカトレアは、俺の目をじっと見ると、にこりと笑った。

 

「あなた! ルイズの恋人ね?」

 

「うん? なんだ、マスターから聞いていたのか? そうだとも」

 

「あら、まぁ!」

 

 俺の答えを聞いて、カトレアはさらに明るく表情を変えた。

 

「ちょ、ちょっとギル!?」

 

「む? なにか問題でも……? と言うか、マスターが伝えていたんじゃないのか?」

 

 焦ったように俺を呼ぶマスターに、首をかしげる。……え、もしかしてあてずっぽうで言ってたのか、この子。

 

「あのルイズにこんな素敵な恋人ができるなんて!」

 

 大声でそんなことをいうものだから、エレオノールの耳にももちろん入った。

 エレオノールは「は?」と低い声でつぶやくと、眉間にしわを寄せてこちらをにらむ。

 

「……ルイズ?」

 

「は、はひっ!?」

 

「……どういうことか、話してくれるわよね?」

 

 エレオノールの低い声に、マスターは壊れたおもちゃのようにこくこくと首を縦に振るしか無いようだった。

 

・・・

 

 合流したカトレアの乗ってきた馬車に、俺たち全員は乗せられていた。エレオノールだけは「平民と一緒の馬車なんて……」とか言っていたが、カトレアに押し切られていた。……いやまぁ、俺から話を聞きたいというのが多分にあると思うんだけど。

 

「それでそれで!? ルイズ、あなたは使い魔とお付き合いしているの!?」

 

「ちょ、ちぃ姉さま声がおおき……いひゃいいひゃい、えひぇおおーうへーさふぁ、ほっへふぁいふぁいれふ」

 

 隣に座るカトレアから質問されそれに反応したルイズが逆側に座るエレオノールから頬をつねられていた。……なんとなくこの姉妹が仲いいっていうのはわかってきたぞ。姉が二人ともルイズ大好きじゃないか。

 

「まぁまぁ、そこは俺から説明しようじゃないか」

 

 そう言って、カトレアに話しかける。

 

「改めて自己紹介しよう。ジルベール・ド・オルレアン伯爵だ」

 

 そこから、俺は適当なホラを吹いた。使い魔召喚でマスターに召喚されたこと、領地のことは家族に任せて使い魔として協力していること、風のトライアングルであることなどなどをカリスマを発動しながら話す。……カリスマと言うのは対人スキルとしては最高峰のものだと思う。俺のランクだとなおさらだ。

 不思議そうな顔をするシエスタに、人差し指を口に当てて笑うと、何かを察したようにうなずいてくれた。マスターは最初混乱していたが、あの『設定』を思い出したのか、うんうんうなずいていた。頷いてばっかりだな君ら。

 

「まぁ、そこから色々あってね。今は清いお付き合いをさせてもらってるんだ」

 

 そう言って締めくくると、カトレアが「まぁまぁ!」と興奮した。俺の隣に移って手を取ると、ぶんぶん上下に振って楽しそうに笑う。

 

「そう! そうなのね! ルイズをよろしくね、オルレアンさまっ」

 

「うん、よろしくされよう。……それにしても、凄い数の動物だな」

 

 話に夢中になっていて後回しになっていたが、カトレアの馬車の中は凄まじいことになっていた。ほら、足元に虎なんているし、種類はわからないがちちちと鳥が鳴いている。……動物園かな? 動物に愛されているのだろう。カトレアに懐いているのが、初めて会った俺にもわかるほどだ。

 

「ええ、私、動物のことが好きなのよ。いつもお城に閉じこもっているけれど、お友達がたくさんいるから寂しくないわ」

 

 そう言って、カトレアは俺とは反対側に座っている熊を撫でた。……いや、行儀の良い熊だなおい。

 それからは、俺の話に終始した。マスターはエレオノールから逃れられてほっとしているようだった。

 

「オルレアン領……聞いたことはあるわ。こんな領主だったのね」

 

 鋭い目をさらに鋭くして、俺をじっと見つめるエレオノール。可愛い妹の恋人だからか、見定めるのに真剣らしい。……怪しい者じゃないよ? ほんとだよ?

 

「……まぁ、伯爵なら問題はなさそうね」

 

 そう言って、ふいと視線を外すエレオノール。……うん、これで「元王さまで現英霊の英霊王ギルです。嫁は三桁以上、子供は四桁以上です!」とか言ってたら物理的に首が飛びそうだった。俺の経歴ってなんかの冗談みてぇだな!

 ちなみにシエスタについては俺の膝でダウン中だ。この動物馬車に乗って最初の方に天井から降りてきたヘビと目が合ってそのまま目を回してしまったのだ。……可愛いメイドめ!

 

「……そろそろね」

 

 懐中時計を開いたエレオノールがそう言って馬車の外を見る。俺もつられて窓から外を見ると、夜なのにはっきりとわかる大きな城が見えた。……あれがヴァリエール家。流石公爵の家だ。城も凄いけれど、城壁もあって巨大な門もあってさらに堀まである。……あの橋の両隣で鎖を持ってるのはゴーレムか? フーケのあのゴーレム並みの大きさのものが二対、門の両隣で立っているのが見える。……はー、凄いもんだ。

 

・・・

 

 深夜の到着になったにも関わらず、マスターの母、ヴァリエール夫人は晩餐会のテーブルの上座に座って待っていた。……髪色と美貌は母親から受け継いだんだな、マスター。結構厳しそうなお母さんだなぁ、なんて思いながら姉たちと同じように席に着くマスターの後ろに立つ。

 これについてはマスターが「自分で紹介するので、初めは付き人として扱ってほしい」と姉二人に頼んだからだ。俺は護衛としてこうして壁際に立っているが……なんというか、食事の進まなさそうな空気感である。ピリピリしているというか……。

 

「母様、ただいま帰りました」

 

 エレオノールのそんな言葉から始まった晩餐会は、初め静かに進んでいった。流石は貴族令嬢たち。食事の音が一切聞こえない。それをいいことに、俺は謙信と念話を繋げる。霊体化を解いて場内を回っているらしい。城内のマッピングをしてくれているので、助かっている。

 謙信の感想を聞きながら念話していると、唐突にバンと大きな音が鳴った。なんだ? と思って意識をマスターたちに戻すと、マスターがなにやら激昂している様子だった。

 

「バカげたことじゃないわ! どうして陛下の軍隊に志願することがバカげたことなんですか!?」

 

「あなたが女の子だからよ! 戦争は殿方に任せておけばいいの!」

 

「今は女の子も男と肩を並べる時代よ! だからこそ魔法学院でも席を並べているのだし、姉さまだってアカデミーの主席になれたんじゃない!」

 

「戦場がどんなところなのか知っているの? 少なくとも、あなたみたいな女子供が行くところじゃないのよ」

 

 呆れた、と言う顔で首を振るエレオノール。……まぁ、そういうことになるよなぁ。大事な妹ならなおさら。俺が絶対に守ってやるってことを信じてくれればいいんだけど……。虚無のことを話すわけにもいかないし。

 

「女子供だから戦場に行かないというのは間違っているわ! 私は知っているもの! 女だろうと、戦場を駆け抜ける者はいるって!」

 

 だけど、マスターはそこで折れなかった。……たぶんだけれど、マスターはジャンヌや謙信、卑弥呼のことを言っているのだろう。……そうなんだよなぁ。俺と絆を結んでくれた英霊たちは、性別なんか関係なしに戦場を駆け抜けた英傑たち。……それを、マスターは知っていてくれていたのだ。

 

「はぁ? なによそれ。変なことを……母様からも何か言ってください!」

 

「……食事中よ。その話は、お父様が帰ってきてからにしましょう」

 

 そう言って、この話は終わりだとばかりに視線を切るヴァリエール夫人。……なんていうか、一つの信念を感じる母親である。と言うか、ウチの英霊たちに似てる気質な気が……旦那さん尻に敷いてたりしないよね……?

 そんな気まずい晩餐会は、気まずいまま終わったのだった。

 

・・・

 

 俺に与えられた納戸で宝物庫から出した椅子に座りながら、どうするかなと悩んでいると、目の前で光の粒子が人を象っていく。……霊体化を解いた謙信が、俺の目の前に現れたのだ。

 

「……ルイズ嬢、良い啖呵切ってたね?」

 

「うん、俺のマスターながら、素晴らしい子だよ」

 

「ふふ、すぐ女の子好きになるんだから。……あ、可愛い男の娘もだね」

 

 くすくす笑う謙信が、俺に近づいてくる。

 

「……それで? マスターのお姉ちゃんたちも可愛らしかったね? ……食べちゃう?」

 

「いやいや、流石にそれはマスターも許さないさ。それに、これ以降あんまり接点もないだろうしね」

 

 今回は従軍の許可と俺とのお付き合いの話をしに来たんだし、それが終われば夏休みも終わりだ。しばらくは戦争で忙しくなるだろうし、そうなればこちらに来ることもなさそうだし……。

 

「ま、この人ならいつの間にか落としてるでしょ」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「んーん。何も言ってないとも。あ、そういえばどうする? 今日は……んふ、私が相手しようか……?」

 

 妖しい笑みを浮かべた謙信が、鎧の内に来ていた服を肌蹴させる。……むむ、確かに夜は長いし暇だし……と思っていると、部屋に近づいてくる気配が。謙信もそれを感じ取ったのか、いそいそと服を治して不機嫌そうに顔をゆがめた。

 

「……んもー、何しに来たんだろシエスタ嬢は。……まーいーや。情報収集しに行ってくるから、その間に相手してあげなよ」

 

 そう言って、歩き去るように霊体化した謙信と入れ替わるように、扉が叩かれた。どうぞと声を掛けると、扉が開いて顔を赤くしたシエスタが入ってきた。……え、なに、そういう感じ?

 

「こ、こんばんわ。その……来てしまいました」

 

「ああ、別に構わないよ。……と言っても、こんなところで申し訳ないけどね」

 

 まぁ座りなよ、ともう一つ椅子を出し、テーブルを並べる。このくらいなら、宝物庫経由で全然問題はない。シエスタは出した椅子を俺の隣にずらすと、そのまま座って俺の肩に頭を寄せてきた。……ん? なんか酒臭い気が……。

 

「なぁシエスタ? お酒飲ん」

 

「まぁ、とりあえず飲みましょう!」

 

 俺がシエスタに尋ねるも、シエスタは俺の言葉を遮るように服の中から酒の瓶を取り出して、テーブルの上にだんと置いた。……あれ、シエスタって酔うと性格変わるタイプ?

 

「……いや、シエスタは水を飲んだほうが」

 

「いいから。飲め」

 

「え、ちょ、口調違くない?」

 

「飲め」

 

「あ、飲みます」

 

 駄目だこれは。適当に付き合って寝かせてやるしかないな。……ってアルコール強いなコレ。ワインとかじゃないな? なんだろ……まぁ公爵家にあるお酒なだけあっておいしいけど……まぁ、これ飲んだら普通の人なら酔いつぶれるだろうなぁ。

 

「んふ~、良い飲みっぷりれすねぇ……!」

 

 あ、顔赤くしてたのは恥ずかしかったからじゃなくて、酔ってたからなのか。……もうべろんべろんじゃないか。よし、ベッド出しておくか。

 

「んあ? ふぁー、ベッドれすねぇ……」

 

 そう言って、シエスタは俺が宝物庫から出したベッドにふらふらと倒れこんだ。……はぁ、これで静かになるな。

 俺がため息をつくと、ベッドに倒れこんだシエスタが声を掛けてくる。

 

「んぅ……ギルさぁん。ギルさんも一緒に寝ましょう……?」

 

 そう言って、仰向けに寝転がっているシエスタがベッドの空いているところをぽんぽんと叩く。……いやー、酔ってる女の子を襲うのはなー……。

 

「えへー、ギルさんと一緒に寝たいなー……ダメですかぁ……?」

 

「……うん、よし、明日土下座するか」

 

「んひゃっ!? ギルさん……? ふぁ、なんで服脱がすんれすかぁ? あっ。暑いからですねぇ?」

 

「んー、ああ、その通りだとも。ほら、ばんざーい」

 

「ふぁー、ばんざーい」

 

 ――ちなみに、まさにしている最中に謙信が帰ってきて、謙信も一緒に混ざって乱れまくったとさ。

 

・・・

 

「……うーん、やりすぎた感はある」

 

 あれからしばらくした後に、俺はため息をつきながらベッドの上の二人の少女に布団を掛けた。……シエスタが出血しちゃったけど……まぁ、シーツは後でなんとかするとしよう。そんなことを考えながら外の空気でも吸うかと立ち上がると、ゆっくりと静かな足音が。ちょうどいい、と部屋を出ると、予想通りマスターが立っていた。毛布を自分に巻き付けるようにして歩いてきたらしい。……寒いけど、今この納戸に案内するわけにもいかないし……。

 

「やぁ、マスター。こんばんわ」

 

「ん、あ、えと、こんばんわ。……い、良い夜ね?」

 

「そうだな。……それで、こんな真夜中にどうした? あんまり夜更かししてると、大きくなれないぞ?」

 

 俺の言葉にマスターは少し怒ったように目じりを吊り上げ、こちらに詰め寄ってきた。

 

「余計なお世話っ! ……っとと。それよりもあんた! 姉さまたちには言っちゃったけど……本当にお父様とお母様にも伝えるの? その、私の……恋人って」

 

 指同士をツンツンとしながら、恥ずかしそうにこちらを見上げてくるマスター。そんなマスターの頭を撫でてやりながら、安心させるように屈んで視線を合わせる。

 

「マスターはいやか? 俺の恋人の一人になるのは」

 

「んぅ……恋人『の一人』ってところには文句があるけど……まぁ、今更だしね」

 

 そう言って、マスターは深いため息をつく。それから、ゆっくりと目を閉じて顎を少しだけ上げた。なにをしてほしいか察した俺は、静かにマスターに口づけた。

 

「ん……ぷは。……舌いれた」

 

「駄目だったか?」

 

 そう言って笑うと、マスターは恥ずかしそうに首を横に振った。……さすがはむっつりマスター。やらしいことに興味津々とは、年頃だなぁ。

 

「……ね、ギル?」

 

「うん?」

 

「……お父様とお母様……説得できるかしら」

 

 そう言って、不安そうにするマスターを俺は抱き上げる。……今回はしっかりと体を綺麗にしたから、匂いもないはずだ。現にマスターは俺の首元に顔をうずめているが特に何も言うことなく背中に手を回してきている。

 

「……『虚無』のことも言えないからみんなの中では私は『ゼロ』のままなのよ。だから、信用してくれないんだわ。姫様の女官だっていうのも理由を言えないし……」

 

「そうだな。……だけど、マスターの後ろには俺がいるよ。だから、安心してぶつかり合ってくるといい。そうそう、謙信もこっちに来てるんだよ。何かあれば頼ってくれていいからな」

 

「謙信が? ……それは頼りがいがあるわね。……あ、そうだギル! あんたの宝物庫に、凄い霊薬あるわよね!?」

 

「うん? もちろんあるぞ。……調子が悪いのか?」

 

 マスターは「私じゃないの!」と首を振って、俺にカトレアのことを説明した。なんでも、元来体が弱く、色んな薬や魔法を頼っているがどうしようもないこと、その体質から学院にも行けず、嫁ぐことも出来ずに城の中でずっと過ごしていることを放してくれた。……それは、かわいそうなことだ。……マスターの姉だし、手助けすることに否はない。

 

「もちろん助けよう。……だけど、まずはカトレアを診断してからだな。適当に霊薬……エリクサーぶっこんでも治らないかもしれないからな」

 

 今の俺の『眼』ではあんまり正しく見通せないだろうから、宝物庫の中にある宝具に頼ることにはなると思うが……。ま、なんとかなるだろ。

 

「よし、さっそく見に行くとしよう。マスター、案内してくれ」

 

「あ、うんっ」

 

 嬉しそうに頷いてマスターと手をつないで、カトレアの部屋に向かった。

 

・・・

 

「ちぃ姉さま!」

 

「あら、ルイズ? それに……あなたは」

 

 ベッドから上半身だけを起こしているカトレアに出迎えられ、俺たちは部屋へと入った。

 ……ここも凄い動物の数だ。色んな動物たちがカトレアを中心に集まっている。動物たちを観察している間に、マスターはカトレアに色々と事情を説明していたようだ。あらあらまあまあとカトレアが口元を押さえて驚いているのが見える。

 

「そうなの。ルイズの使い魔で幽霊……英霊さんなのね?」

 

「そうなんだよ。生前は色々やっていてね。診断から治療まで任せてほしい」

 

「……でも、今まで何人ものお医者様や水魔法使いの方が診てくださったんだけど、症状を抑えるくらいしか……」

 

 そう言ってうつむくカトレアをマスターが必死に励まし、とりあえず診てもらうだけ診てもらう、と言う判断に至ったところで、マスターが俺に視線で促す。俺は頷きを返して、宝物庫から診断宝具を取り出す。眼鏡型のスキル補助宝具を取り出し、聴診器型の診断宝具も取り出す。……残念ながらこれは直接当てなくても診断ができるので、あの巨大なスイカにタッチはできないのだ。残念。

 

「……よし、準備完了だ。ちょっとじっとしてろよ」

 

 そう言って、俺は千里眼と診断宝具を連動させる。……なるほど、病気と言うよりは体質みたいなものか。エリクサーでは治らなさそうだな。ここは俺のスキルも使うとしよう。

 元々俺には『女神の加護』と言うスキルがあって、ランクもEXあるのだが、神様があんな状態になってからは使用できなくなり、前に会いに行ったときに書き換えられたのだ。そのスキルの名も、『癒しの加護』と言うスキルだ。呪い、毒、病気などを快癒させることの出来るスキルなのだ。……まぁ、元のスキルも『生命、運命、太陽の女神の内どれかからの協力を得られる』とか破格のスキルだったんだけど、このスキルも凄まじい。なんて言ったって神様産のスキルだ。多分あのガングロ神様の権能だからなのだろうが、『元の状態に戻す』というものではなく、『望む状態に戻す』と言うのがキモなのだ。これならば、カトレアの体質を『元の体質』ではなく『望む体質』に変えることが可能だ。

 と言うわけで、スキルを発動。右手をカトレアに向けて意識すると、カトレアの体を少しずつ作り替えていく。……と言っても元々の体質……『魔力が流れると体の変調が起きる』と言うところを失くしているだけだが。

 

「……うん、これで大丈夫」

 

 もう一度診断してみるが、身体に異常はなさそうだ。これで、魔法も使えるし日常生活に何も問題は無くなる。

 俺の言葉を聞いたマスターがカトレアに抱き着く。……カトレアはマスターの反応に戸惑いながらも、身体をぺたぺた触ってから、ゆっくりベッドから立ち上がった。おもむろにベッドサイドのテーブルに置いていた杖を取り、呪文を唱える。魔法により生み出され、操られた水が部屋を駆け巡り、最終的に動物たちの水飲みへと流れていく。

 魔法を使ったカトレアが、不思議そうに自分の胸に手をやり、しばらくして、口を開いた。

 

「……苦しくない。調子の良いとき……いいえ、それ以上の……」

 

 流石と称するべきなのか、カトレアの魔力量は相当なものだ。十六年間溜め続けたマスターがあれほどなのだから、それ以上溜め続けたであろうカトレアのそれは虚無に目覚める前のマスターに匹敵する。カトレアは調子を確かめるようにいくつかのドット・スペルを唱えると、魔法で窓を開け放ち、空へ向かっていくつかの魔法を放った。

 

「凄い……体が軽い! こんな気持ちで魔法を唱えたなんて初めて! もう、何も怖くないわ!」

 

「……なんだか、それはそれでいけない感じが……」

 

 流石に首が飛ぶことはないだろうけど……あ、でもあの子とは巨乳と言う共通点があるな……。心配だ。しばらくは監視することにしよう。

 それから、喜んで魔法を唱え続けたカトレアをマスターが落ち着かせて一緒にベッドに入ったところで、俺はお暇した。……ここからは姉妹で喜びを分かち合ってほしい。理由は違えど、魔法を自由に使えなかった同士、積もる話もあるだろう。

 

・・・




――ステータスが更新されました。

クラス:■■■■・■■■■■■

真名:ギル 性別:男性 属性:混沌・善

クラススキル

■■王:EX

終■■■■叙事詩:EX


保有スキル

軍略:A
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの持つ対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍、対城宝具に対処する際、有利な補正が与えられる。

カリスマ:EX
大軍団を指揮、統率する才能。ここまで来ると人望だけではなく魔力、呪いの類である。
判定次第では敵すらも指揮下に置くことが可能。

黄金律:A++
身体の黄金比ではなく、人生においてどれだけ金銭がついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ぴかぶり。一生金には困らないどころか、子孫代々が生活に困ることは生涯においてない。

■■■■:B+

千里眼:B
視力のよさ。遠方の標的の補足、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
更に高いランクでは、未来視さえ可能とする。
「これよりいい『眼』も持ってるんだけどね」とは本人の談。

癒しの加護:EX
『女神の加護:EX』が女神本人によって改変されたスキル。本来のスキルの能力である『生命・運命・太陽の女神の加護』が受けられなくなってしまったが、権能が変わったらしい女神の『癒し』を扱えるようになる。このクラスになると、自分にだけではなく他人にもその『癒し』を与えることが可能。単純な状態異常回復スキルと言うわけではなく、本人にとっての『癒し』……つまり、『望ましい状態』に戻すスキル。ただし、女神の権能を借りている状態なので、戦闘中などの精神的に余裕のない状態では使用できない。

英霊指輪(クラスリング):A
左手の小指に付けている指輪の力。十二個の指輪が組み合わさり一つの指輪となっている。英霊召喚宝具を使用した際にそのクラスに合わせて召喚され、その英霊とのつながりなどが強化される。

能力値

 筋力:A++ 魔力:A+ 耐久:B++ 幸運:EX 敏捷:C+++ 宝具:EX

宝具

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

ランク:E~A+++ 種別:対国宝具 レンジ:―― 最大補足:――

黄金の都へ繋がる鍵剣。元々は剣として存在していたものだが、現在は能力の鍵として体内に取り込まれた。
空間を繋げ、宝物庫の中にある道具を自由に取り出せるようになる。中身はなんでも入っており、生前の修練により種別が変わっている。

全知■■■全能■■(シャ・ナクパ・イルム)

ランク:■X 種別:■人■具 レンジ:―― 最大補足:――

詳細不明。解析中。――注意。権能に類する可能性あり。

■海■・ナ■■■■■■■■波(■■■・■日■)

ランク:A■■ 種別:■■宝具 レンジ:―― 最大補足:――

詳細不明。

天地乖離す開闢(エヌマ・エリシュ)

ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:―― 最大補足:――

乖離剣・エアによる空間切断。
圧縮され鬩ぎ合う風圧の断層は、擬似的な時空断層となって敵対するすべてを粉砕する。
対粛清ACか、同レベルのダメージによる相殺でなければ防げない攻撃数値。
STR×20ダメージだが、ランダムでMGIの数値もSTRに+される。最大ダメージ4000。
が、宝物庫にある宝具のバックアップによっては更にダメージが跳ね上がる。
かのアーサー王のエクスカリバーと同等か、それ以上の出力を持つ『世界を切り裂いた』剣である。
更に、その上には『■■■■■の再現』や、『三■の巨大な■■■』を生み出したりもする。

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