ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
「――おはよう」
「ヒッ!」「あっ、はっ、あ、あ、死、逃、不可能、死――!?」「ちょ、ちょっと待って! 出来心! 出来心だったんであいだだだだだだ! すごいなにこれ頭握られてつぶされ中身出ちゃうのぉぉぉぉぉぉぉ!」「な、なにもやってない! 私は何もやってな……ひぃっ、足掴んだら、だめ、あ、足首折れちゃう! ダメダメダメダメ……」
「――言いたいことはそれだけか」
それから一週間、彼の座である『黄金領域』の玉座の間には、『変態宇宙人です』と言う看板を下げた女の子と、『むっつり聖女(芋)』と言う看板を下げた女の子が、逆さづりにされていたとかいないとか。
それでは、どうぞ。
翌朝。しかもかなり早い時間。起きたら全裸だったというシエスタに昨日会ったことを話すという羞恥プレイをした後、宝物庫の中にあった『お湯がとめどなくあふれる桶』を使って身体を清めさせた。謙信についてはいつの間にかいなかったので、霊体化したかなんかして汚れを落としたのだろう。英霊はそういうところ楽である。
「そ、それで、ヴァリエールさまのお姉さまの体質を……?」
夜中に起きた話をしていると、シエスタが恥ずかしそうにそう聞き返してきた。
「ああ。俺の『癒しの加護』っていうスキルでな。……他人に使うのは初めてだったけどな」
「え、確信もないスキル使ったんですか……?」
「ん? ああ。でも、英霊っていうのはスキルの使い方……っていうか、そのスキルで『何ができるか』っていうのを感覚でわかるもんなんだよ」
『千里眼』を持っていれば『どこまで見れるか』がわかるし、『黄金律』があれば『それが何をもたらすか』がわかる。そして、それはランクが高くなればなるほど『できる』の範囲がより広く、より細かくわかるようになるのだ。
「なるほどぉ……」
「さて、服は着たか? ……なんかどたばたしてるから、ここにも来るな」
俺がそういうや否や、ばぁん、と扉が開かれる。
「ひゃあっ!?」
入ってきたのはこの城に勤めているメイドだ。ここは納戸なので、掃除道具やらなにやらがおいてあるのだ。……え? なんで伯爵扱いなのに納戸に住んでるかって? ……そこはほら、当初の予定と俺の偽の肩書のすり合わせの所為と言うか……。
当初の予定だと『使い魔でお付きの男』扱いだったから納戸で十分となっていたのだが、道中で『実は伯爵』とわかったせいで、急に部屋を用意しなければならなくなった。しかし、広大で何部屋もあるとはいえ、伯爵を迎えるには準備不足であった。……そこで、俺から(あとマスターからも)の要請もあり、更にはヴァリエール三姉妹しかその身分を知らないということもあって、『お付きの男』と言う扱いでこの公爵家にお世話になることになったのだ。……まぁ、それにしてはエレオノールからの微妙な納戸推しがあったような気もするけど……妹に先を越されたからってその相手に八つ当たりするとかないよね……?
「あなた! あなたも手伝って!」
「え? いや、私は王さまのメイ……ひゃあああああぁぁぁぁぁぁ……」
「……あ、連れていかれた」
俺がそんなことを回想していたからか、シエスタが連れていかれてしまった。……人手が足りなさそうだったし、ここで恩を売っておいて損はないだろう。
「それにしても、このあわただしさ……あの竜の運んできた籠と関係があるとしか思えないな……」
そういえば昨日はここの家主……ヴァリエール公爵がいないなと思っていたのだ。……何か所用でここを離れていて、それが今朝帰ってきたというのが順当なところだろう。
「だとしたら、今頃はマスターたちと朝食でも囲んでる頃かなぁ。……変なこと言ってないといいけど」
エレオノールも、カトレアも、マスターも、全員俺関係で変なことを言いそうだからな……。
「さて、その間は暇の極みだな……何をするかな……」
本を読んだり編み物をしてもいいが……最近自動人形も増えてきたからな……今何世代と同じだったかな……490人だったから、四世代か……。このまま順当に行くと800人超えるんだけど……。絶対追いつかないな……。
「あ、観光でもするかなぁ」
そういえばこの屋敷……っていうか城に来てからここと食堂くらいしか行ってない気がする。……謙信の方がこの城については詳しいと思う。誰一人として存在は知られてないけどな。なんだあのセイバー……アサシンみたいなことをしてやがる……。
まぁ日本の剣豪由来のセイバーなんてアサシンと紙一重みたいなところあるからな……沖田とか沖田とか沖田とか。
「そうときまれば……ん?」
再びのドタバタとした騒ぎ。……さっきよりも人が多い気がする。
扉を開けて外の様子を見てみると、メイドがきょろきょろしながら歩いているのが見えた。……まさか、マスター……。あの子、父親に戦争行くの反対されて逃げたのか……!?
「いや、反対された程度で逃げるような性格してないな……じゃあ、何か父親か母親か……エレオノールに妙な条件を出されたか……?」
パスを通じて場所を探ってみると、屋敷にはいないようだ。敷地内の、少し離れたところに一人でいるらしい。
向かうか、と部屋から出ると、曲がり角から桃色ブロンドが見えた。あれは……カトレア? 向こうも俺が見えたらしく、微笑んでこちらに小走りでやってきた。……元気になってから、アグレッシブさが増したように感じる。……根っこのところではやはりマスターの姉妹と言うことか。と言うか母親の気性が影響しているとしか思えない。なんか気の強そうな感じだったもんなぁ。
「ああ、ギルさん! よかった、間に合って!」
「間に合って? どういうことだ?」
「……あのね、落ち着いて聞いてほしいんだけれど……ルイズとギルさんの関係がばれそうになってね……」
そう切り出したカトレアの話は、今日の朝食時のヴァリエール家の様子についてだった。戦争に行く、と言ったマスターに、ヴァリエール公爵はもちろん首を縦には振らなかった。そればかりか、そんなことを言うのは婚約者が裏切ったからだ、と新たに結婚話を持ちこもうとしたのだ。それを聞いてマスターは激昂し、さらに公爵夫人に問い詰められ、恋人がいるっぽいことまで察せられてしまったのだという。……やっぱり墓穴を掘ることに関してはマスターの右に出る者はいないな。
「それで、お父様はルイズをこのお城から出す気もないようだし……ギルさんもいやでしょう? ルイズが結婚するの」
「それはもちろん。なるほど、それならそんなことが起きる前に逃げた方が良いか」
「……ルイズは中庭にいるわ。あそこには池があって、小舟が浮かんでいるの。ルイズは小さいころから嫌なことがあるとそこに逃げ込む癖があってね……」
「……池の小舟? ……ふむ」
なぜだろうか。そこで毛布に包まって小さくなるマスターが脳裏に浮かんでしまった。……さらに、そのあとに俺の黄金領域にマスターが立つ姿も。
……マスターとサーヴァントのつながりで、マスターがいつか俺の夢か意識下に来てしまったのだろうか。まぁ、その辺は後にして、今はマスターでも迎えに行くかな。
「お城の外まで連れ出したら、街道に馬車を待たせています。学園のメイドに御者をさせていますから、そのまま逃げてください」
「なにからなにまですまないな。……さて、じゃあ行ってくるよ」
「あっ、お待ちくださいっ」
そう言って俺の手を引いて止めるカトレアに、どうした、と立ち止まる。
「か、関係ない話になってしまいますが……私の体質の治療、ありがとうございます。あの後、ルイズからあなたの不思議な力のこと、色々と聞きました」
そう言って、カトレアは胸の前で手を組んで俺を見上げた。おっほ、巨乳が胸の前で手を組むのはやばいな。生前も桃色の髪で巨乳の子は胸の前で手を組んで破壊力上げてたけど……なに、そういうのしなきゃいけないっていう運命なのかな? ……運命の女神さまなんかやってんのかな。あんまり運命いじらないけど弄るときは大胆にやるからな……。
「あー、そうなんだ」
「はい。あなたが生前に偉業をなした英霊だということも、その時は王であったということも」
「そ、そうなんだ」
そこまで話しちゃったのか。
「あ、ルイズを責めないでくださいね、ギルさん。私が無理やり聞き出したようなものだから……」
「もちろんだとも。マスターのことは信頼して素性は明かしているんだ。マスターが言ってもいいと判断したんなら、大丈夫だよ」
たまに口を滑らせて喋ることもあるけどな! ジェシカの時とか!
「それならよかった。まぁ、カトレアのことを聞いて助けてあげたいと思ったのは確かだし、元気になってくれたならよかったよ」
今俺の目で見ても、彼女の体には全くよどみは見られない。……体、と言うか胸のあたりを見ていたからか、カトレアが恥ずかしそうに手を胸で隠して頬を染めた。
「あ、あの……確かに対価が必要、だとは思うんですけど……そ、その、まだあまり、覚悟が、できてなくて……」
「え? ……あ、いや、そういうことじゃない! 確かに一目見たときから素晴らしいと思っていた……じゃなくて! そういう対価を求めてるわけじゃないから!」
「そ、そういう対価……! る、ルイズは確かにこういうことはできないものね……お、お姉ちゃんが頑張らないと、なのかしら……!?」
すごいぞこの姉! 思い込みが強いというか、一度自分の中で決まったことは動かないというか……。マスターもこんな感じだったもんな……。
「ちょ、ちょっと待つんだカトレア。それはほぼ揚げ足取りに近いぞ……!?」
落ち着かせようとがっしと肩を掴むと、カトレアは耳まで真っ赤になってあわあわ言い始めた。
「ま、待って! そ、その、まずはルイズが先だと思うの! わ、私はそのあとで……って、そ、そうじゃないのよ!? き、期待してるとかじゃなくてね!?」
やばい。カトレアもむっつりなのか……! マスターもむっつり、カトレアもむっつりだと、エレオノールもむっつり疑惑が……もしかして、婚約破棄されたのってむっつりだったから……? 凄い気になるぞ……今度エレオノールにもセクハラぎりぎりの下ネタぶち込んでみようか。
「ま、まぁ、とりあえずその話は後でしようか。マスターと逃げたら、またこっそり来るから。その時にじっくり話をしよう。な?」
「じ、じっくり……え、ええ。わかったわ。じ、じっくりね……じ、じっくり……なにをされちゃうのかしら……!」
……なんだか性格も変わっている気がする。もうちょっとなんていうか、おっとり系のお姉さんって感じだった気がするんだが……。え、あの性格もあの体質だったから、なのか……? 体質でいつも苦しかったから、性格もおっとりして落ち着いていたからってことなのか……?
「と、いうわけでマスターを迎えに行ってくるな!」
「あ、そ、そうね! 行かなきゃね! ……その……気を付けてね?」
そう言って笑うカトレアに手を振ってから、俺は駆け出すのだった。……カトレア、凄い子だな……。
・・・
途中で謙信に出会ったので、中庭までの道を案内してもらう。城内を歩き回っていたからか、謙信は中庭の池の場所を知っているのだ。小舟の話をすると、「ああ、そんなものもありましたね」と言っていたので、確実だろう。
「ああ、ここだよここ」
そう言って振り返る謙信に礼を言って頭を撫でると、笑顔で霊体化していく謙信。小舟に視線を向けると、一つだけこんもりしている毛布が乗っている小舟があった。あれにいるのだろう。……よく今まで気づかれなかったな。
「マスター」
がばっと毛布を取り去りつつ声を掛けると、小舟に丸まっていたマスターが驚いた顔をしてこちらを見上げていた。
「ギル……」
「カトレアから色々聞いたぞー。結婚させられそうなんだって?」
「そ、そう、なの。……ギルのこと、あんまり言えないし、言ったら言ったでお父様絶対認めないだろうし……」
公爵家の三女と伯爵家の当主は釣り合わないのだろうか? ……その辺詳しくないからなぁ、俺。……え? 王様だったんだろって? ……いや、俺が治めてた時は貴族とか関係なかったし……愛し合っていれば結婚全然オッケーだったしな! 一夫多妻も多夫一妻もオッケーだったぞ! 俺が一夫多妻やったくらいで他にやってたやついなかったけどな!
「お城から出さないって言われたし、戦争もダメって……お父様、ワルドの一件でやけになってるんだろう、って。……だから、婿を取れば落ち着くだろうって……」
「なるほどな。……俺の名前を出してもよかったのに」
「それは違うって思ったの。……確かにあんたは使い魔だし伯爵だしこっ、こ、恋人、だけどっ! 姫さまの力になりたいって、戦争に行きたいって思ったのは私の意思だもん」
そう言って、マスターがぐっと服の裾を掴んだ。ワンピースのスカート部分が、ぎゅうと握りつぶされる。
「マスター……」
「それに、あんたの名前を出して恋人がいるっていっても、どうせ戦に行くのは反対されそうだし……」
「まぁ、それもそうだ。……なら、家出だな」
「ふぇ?」
「家出だよ、家出。世の少年少女が親に対抗するための、最強にしてもっとも愚かな行為だよ」
そう言って、マスターを横抱きに抱き上げる。……白いワンピース姿のマスターは、こうすると本当にお嬢様だ。まぁ、今の状況的に囚われのお姫様っぽいけども。
「ひゃっ、ぎ、ギルっ?」
「マスター、俺はマスターがしたいことを聞きたいな。……このままこの城にいるっていうのも、一つの選択肢だと思うぞ。少なくとも安全だし」
「……あんたのそば程安全なところはないでしょう? それに、私はあんた以外と結婚するつもりもないのっ」
「それはうれしいことを言ってくれるな、マスター。……と、言うわけだヴァリエール公爵!」
「えっ!?」
マスターを抱えたまま、小舟の上で振り返る。そこには、この池を囲むように立つ使用人たちと、怒りにプルプル震えるヴァリエール公爵の姿が。横には夫人とエレオノールの姿もあった。まぁ、気持ちはわかる。娘がどこの馬の骨とも知らぬ男と結婚するとか、父親的に許容範囲外だ。……俺の娘そんなこと言ったことないけどな! 全員「パパと結婚する」で貫き通したからな! ……いやまぁ、嬉しいけどそれはそれでどうなんだ? と思ったこともあった。
「お、お父様……お母様に姉さまも……」
「俺の名はジルベール! ジルベール・ド・オルレアン伯爵だ! まぁ色々と詳細は省くが、お宅の娘さんは俺が貰った!」
「伯爵……!?」
しまった。公爵に対する口調じゃなかったな……。まぁいい。大切な娘の内一人を連れ去るんだ。ここは悪役になりまくった方が良いだろう。
「えー、初めましてだな伯爵。今まで見たことはなかったが……今後も見ることはなさそうだ」
そう言って、公爵は隣に立つ執事らしき男に指示を出す。
「ジェローム。ルイズは塔に監禁しておきなさい。最低でも一年は閉じ込めておくから、そのつもりでな。それで伯爵は……あー、打ち首。不幸な事故にあったってことで。でも首は一か月くらい晒すから。台を作っておきなさい」
「わかりました」
わかりましたじゃないんだよなぁ。私刑で死刑はやりすぎだと思う。いや、俺もその立場だったらやるけど。バビるけど。
公爵の指示で、使用人たちが色んな獲物を持って襲い掛かってくる。あ、宝物庫から武器を出しておけばよかった、と思いながら、マスターを持ち直してから腰のデルフを抜く。
「おーおー、相棒、ご無沙汰だねー」
「ああ、そういえばそうか。ま、手加減には最適だからな、デルフは」
左手にマスター、右手にデルフを持って、襲い掛かってきた使用人の第一陣を受ける。
「せいっ」
「きゃっ!」
「う、うおっ!?」
流石に魔法も使っていない使用人たちに負ける俺じゃない。空いた隙間を通って、包囲を抜ける。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!」
激昂した公爵が俺に向かって杖を抜いたが、その程度で留められる俺じゃない。デルフリンガーの先端で掬うように杖を払い、はねあげる。一瞬とはいえ杖が手から離れてしまったので、魔法は発動できずに終わる。夫人も何かしようと動いたようだが、その時にはすでに俺は中庭から離脱している。そのまま正門から出ようとしたのだが、ゴーレムが跳ね橋を上げてしまっていた。
「チッ。しょうがないな、ヴィマーナを出すか……?」
そう思って宝物庫の扉を開こうとした瞬間、妙な魔力の動きを感じた。背後の公爵たちかとも思ったが、俺たちに追いつけてはいないはずなので違う。それに、魔力の発生源は城の中だ。疑問に思っていると、跳ね橋の鎖が土に代わり、鎖が千切れた。当然鎖で支えられていた跳ね橋は落ち、目の前に道が出来る。
……カトレアか。彼女なら魔力も魔法の才能もあるから、あの距離で干渉できたのだろう。
「ありがとな、カトレア」
聞こえないだろうけど声を掛け、俺はヴァリエール家から脱出するのだった。少し走ると、一つの馬車が。普通と違うのは、引いているのが馬ではなく竜だということだろう。
「あ、ああっ。ギルさんっ、こっちです!」
「シエスタか。カトレアに貰ったのか、コレ」
「はいっ。馬じゃ追いつかれるからって! っていうか早く乗ってください! 竜滅茶苦茶怖いです!」
「シエスタ、降りていいよ。この馬車……竜車かな? こいつは囮にするよ」
シエスタが首をかしげながらも竜車から降りたので、そのまま竜を走らせる。そのままシエスタを先導してから、ヴィマーナを取り出す。
「わ、わぁ……お船ですね……!」
そういえばこの世界の船と言えば空を飛ぶものだから、シエスタもあまり驚かないのかもしれない。今のシエスタも、驚くというよりは感動しているという感じだ。
「これで逃げるぞ。乗り込め」
「は、はいっ!」
三人乗り込んだ後、ヴィマーナを上昇させて、ステルスを起動する。見づらくなる程度のものでしかないが、それで十分だろう。囮の竜車も走らせてることだしな。
「よし、マスター、もう安心だぞ」
音もなく飛ぶヴィマーナの上でマスターをおろす。途中で強く抱き着いていたからか、少し恥ずかしそうだ。小声で「ありがとね」と言って、遠ざかる公爵家を見るマスター。
「……ごめんなさい、お父様」
結界で弱められたそよ風が、マスターの髪を流す。……なにも言わずに飛び出してきたのだ。しばらくは帰り辛いだろう。少なくとも、この戦が終わるまでは。
「……マスター、とりあえず学院に戻るぞ。シエスタもおいていかないといけないし」
「うん。……お願い」
ここからなら数十分でつくだろう。……空を飛ぶ乗り物と言うのは、便利なものだ。
・・・
学院に着いた俺たちは、戦場に向かうための準備として一旦部屋に戻った。俺の準備はあってないようなものなので、マスターを自動人形に任せて俺はコルベールの研究室に向かった。コルベールはゼロ戦の前で、なにやらやっているようだった。……あ、直もいる……。
「新しい武装になんでヘビなんだよ!」
「いいだろうヘビ! 私の好きな動物なんだよ!」
「あぁ!? ……まぁいいか。とりあえず試しに行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ! 『がそりん』が全然足りないんだよ! どれだけ飛ぶつもりなのかね!」
「それを『錬金』するのがお前の役目だろうがソルベール!」
「私の名前はコルベールだ!」
なにやら言い合っているので割り入りたくはないが……マスターの準備もそんなにかからないだろうし、急いだ方が良いだろう。そう覚悟を決めて、二人の下へ近づく。
「二人とも」
「あん? あんだ、金ぴかか。……あ、そうだお前! ガソリン持ってねえのかよ! 宝物庫になんでも入ってるんだろ!」
「入ってないよ。ガソリンは効率悪いからね。エーテルエネルギーとか核融合エネルギーならあるんだけど……」
「あんだよ、使えねえな……」
ため息をついた直に苦笑いを返して、コルベールに声を掛ける。
「そういえば、新しい武装とか言ってたけど……なにを付けたんだ?」
「おおっ、聞いてくれるかね! そう、この翼の下に取り付けたのは……」
「おい! そんなもん本番で試せばいいんだよ! 説明書もつけたんだろ? 飛びながら見るから寄越せ!」
「あっ、おいナオシ! ……まったく。とんだやんちゃ坊主だよ……息子を持つ父親と言うのはみなこういう気持ちになるのかね?」
そう言って俺に笑うコルベール。……いや、俺には息子数人しかいなかったからなぁ……。反抗期もなかったし、ちょっとわからんな。また苦笑いで答えると、今後の予定を伝える。
「そうそう、コルベール。学院が攻められるところまではいかないだろうが、数人護衛として残していくよ。守勢が得意なジャンヌと謙信、あとは……卑弥呼と壱与もおいていくよ」
この学園には生徒たちだけではなくマルトーやシエスタみたいな平民や、俺の鯖小屋もある。小屋自体はどうでもいいんだが……その地下には聖杯もあるしな。慎重になって悪いことはないだろう。
小碓は連れて行こうと思っている。カルナが出てきたときや、他にサーヴァントが出てきたときのための補佐をしてもらおうと考えている。
「なるほど、ナオシは守りに致命的に向いていないからね……そうしてくれると助かるよ」
そう言ってコルベールは笑う。うん、この世界にしては珍しく考え方が柔軟な貴族だからな……それに、生徒のために動ける教師でもある。
「……ん、マスターも来たみたいだ。それじゃあ、留守を頼むよ、コルベール」
「うむ。任されよう。……と言っても、サーヴァントのみんながいるのなら、私の出番はないだろうけどね」
あっはっは、と笑うコルベールに手を振って、研究室を後にした。……うわ、ゼロ戦飛んでる……。もう行くのか、直は……。
・・・
「はぁ……ギルさん……素敵な方……」「ち、ちぃ姉さま?」「……私の下にさっそうとやってきて、その不思議な力で私を治してくれた白馬の王子さま……!」「ちぃ姉さま!」「でも、ルイズの恋人なのよね……で、でも、王さまって言っていたし、私にも側室としての道も……!? きゃ、きゃーっ。健康になったし、こ、子供も産めるわよね……!? 今までの人生、私はギルさんに会うためにあったんだと思うわ――!」「ちぃ姉さま! ……ダメね。はぁ……ちぃ姉さま、結構少女趣味なところあるんだから……っていうか、ギルのこと好きになっちゃって……むぅ。あいつの性質的に仕方がないとはいえ……むーっ!」
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