ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「ふふふふふ……ぎゅー……」「うあー……ほぐれるぅー……」

「……あれ、何してるんですか?」「『きよひーのへびへびまっさぁじ』だとさ。ヘビの体で締めながら整体してるらしい」「ばっきぼき聞こえるんですけど大丈夫です?」「……さぁ? でもまぁ、もう四回目くらいらしいからね。慣れたんじゃない?」「……でもあれですね。見た目は完全に……蛇に捕食されたようにしか見えないですね」「ように、じゃなくてまさに、だね。あの後性的に搾り取られるらしいよ。……あれはあれで、いい関係なのかもね……」

「よし、次はきよひーをぎゅーっとしてやろう」「きゃっ、ますたぁ様のぉ、け・だ・も・のっ」


それでは、どうぞ。


第四十話 戦いに備えて引き締まる

 俺たちが向かうのは『ヴュセンタール』と言う飛行船らしい。マスターと気配遮断状態の小碓を乗せたヴィマーナで飛んでいくと、艦隊が見えてきた。……おー、壮観だなぁ。この距離だと……向こうが気づくまでにもうちょっとありそうだな。今のうちに後の行動を確認しておくか。

 

「マスター、船に行ってからのことは聞いているのか?」

 

「え? ……えと、「『ヴュセンタール』号へ向かえ」しか聞いてないわ」

 

「……アンリ……。まぁ、こういうことには慣れてないだろうしな。そこは俺がフォローすればいいか」

 

「……むぅ」

 

「ん? ……むくれるなよマスター」

 

 そう言って髪の毛をわざとくしゃくしゃと撫でてやると、マスターは顔を赤くして抵抗する。

 

「や、やめなさいよぉ、もーっ」

 

 口ではやめろと言っているが、少しだけ顔が嬉しそうだ。抵抗と言ってもフリだけみたいなものなので、この機会にとマスターのふわふわな髪の毛を楽しむ。

 

「あぅぅ……も、もぅやめて……」

 

 ……おっと、熱中しすぎた。艦隊に近づくまで時間があるからか、いちゃいちゃが止まらな――

 

「ふふっ」

 

 ――いや、そろそろやめておくとしよう。そういえば俺とマスターのほかに小碓もいたのを忘れていた。小碓はため込んでため込んで爆発させるタイプの嫉妬するからな……ため込ませないのと、定期的に発散させるのが大事なのだ。

 マスターも息を荒くしつつも手櫛で自分の髪を直しているし、取りあえず続きは二人きりになった時にやるとしよう。……お?

 

「竜騎士……かな? 出迎えが来たようだ」

 

 ちなみにここまでヴィマーナで来ているのだが、これは対外的には数人しか乗れない飛行船型のマジックアイテムということにしている。……さすがは魔法の世界だ。『マジックアイテム』と言って置けば大体の不思議な道具をごまかせるからな……。

 竜騎士は手信号でこちらに付いてくるようにと示した。了解の手信号を送って、ヴィマーナを竜騎士の後ろをついていくように操作する。相当な低速だが、ヴィマーナに失速の二文字はない。ぴたりと速度を合わせて、『ヴュセンタール』号の後ろに付いた。そこから許可をもらって段々と真上に持って行って、マスターを抱えて飛び降りる。ヴィマーナは後方に下げて、宝物庫へ収納する。見られても面倒だし、姿を消す機能があるとか言って置けばいいだろう。

 

「ようこそ『ヴュセンタール』号へ。甲板士官のクリューズレイです」

 

 護衛を連れた貴族らしき男が、そういうや否や踵を返して船内へと向かっていった。おっと、そういうタイプか。……これは、連れていかれる場所によっては気を付けないといけないかな……?

 

「荷物はこちらへどうぞ」

 

 まず案内されたのは俺たちが使用する個室だった。二人入ればいっぱいになるような広さではあったが、個室を与えられたというのは大きいだろう。荷物の大半は宝物庫の中にあるが、それだと怪しまれるということで持ってきた擬装用の荷物をその部屋に置いていく。部屋を出るとクリューズレイが待っていて、俺らの姿を見るなり踵を返して歩き始めてしまった。……無愛想な男である。まぁ艦隊戦の『切り札』が小さな女の子じゃ不安になる気持ちもあるよな。

 艦内をジグザグ歩くと、ある部屋の前にたどり着いた。クリューズレイがノックをすると、扉の向こうから「どうぞ」と聞こえてくる。クリューズレイが扉をあけてくれたのでそのまま二人で部屋の中に入ると、中には肩章や飾緒がもりもりと付いた将軍たちがずらっと座っていた。おおう、これは壮観だな……。

 

「アルビオン侵攻軍総司令部へようこそ、ミス『ゼロ』」

 

 そう言って、一人の男がこちらに微笑みかけてくる。一番上座にいることから、この中での上位者なのだろう。

 

「総司令官のド・ポワチエだ。こちらは参謀総長のウィンプフェン」

 

 総司令官の左隣に座っていたしわの深い小男が一つ頷く。

 

「そしてこちらがゲルマニア軍司令官のハルデンベルグ侯爵」

 

 角のついた兜を被ったカイゼル髭の将軍が、深く頷く。

 なるほど、この船はかなり大きいからな。こういう船を旗艦にして総司令部を置くのは間違っていないのかもしれない。……まぁ、空母に総司令部とか結構やばい気もするけどな。一番狙われる艦だろうし。……まぁ、今そんなことを言ってもしょうがないだろう。あるもので戦わなければいけないのはどの時代どの軍でも一緒だ。

 

「さて各々がた。我々が陛下より預かった切り札、『虚無』の担い手を紹介いたしますぞ」

 

 総司令官がそう言っても、部屋の将軍たちは誰も反応を返さない。……胡散臭そうな顔をしているのばかりである。まぁ、実際に見てないのに信じられないのは当然である。上の人間は判断することが仕事なので、そうなんでもほいほい信じるわけにはいかないのだ。……たぶん女王になったばかりのアンリが送ってきた切り札と言うことで信頼されていないのもあるのかもしれない。

 それから、総司令官はタルブの村でのことを話した。それでようやく将軍たちが反応したのだが……こんなに早く虚無のことを伝えちゃって大丈夫なのか? ……まぁ、アンリとマスターも話し合いをしてのこの結果だろうからあまり言わないようにするか。

 

「……さて、それでは軍議を始めましょうか」

 

・・・

 

 ……総司令官達の軍議は難航していた。理由としてはいくつかある。この艦隊の目的は六万の兵をアルビオンへ降ろすこと。そのために障害があるのだ。前回の戦いで『レキシントン』やら色々と落としたものの、アルビオンにはまだ残存している艦があるし、それも今回は時間があったから再編成されてしまった。こちらは艦隊の数で勝るとはいえ、相手は艦隊戦に長けている。数の差をひっくり返されてしまうかもしれないのだ。

 もう一つは、上陸する地点だ。六万と言う兵力を下せる場所は二つに絞られる。王都から見て南の空軍基地ロサイスか、北部のダータルネス港の二つだ。設備、規模からして一番望ましいのはロサイスだが、当然相手も警戒している。そこに馬鹿正直に突っ込んでいけば、兵力も消耗してしまうし、王都にある城は落とせなくなってしまう。

 だから、なんとかしてダータルネス港に向かっているように偽装し、相手の警戒の目を逃れながらロサイス港へ兵を降ろさねばならない。そして、軍議が難航しているのはその手段がないからなのだ。総司令のいうことには、敵の航空戦力を相手にしてひきつけ、艦隊を殲滅するか、ダータルネス港に上陸すると思わせるかのどちらかをマスターに頼みたいとのことだった。

 

「以前タルブの上空で起こしたというあの光……あれで敵の艦隊を壊滅させることはできんのか」

 

「あれほどの魔法には、今の精神力では……」

 

 将軍の一人の言葉に、マスターが答える。……しまった。止めればよかったな。そんなことを言えば大体返答は決まってる。

 

「ふん、そんな不確定なものを『兵器』とは言えんな」

 

 ……予想のさらに上を行ったな。俺の予想では「そんなものを切り札にするとはな」とかその辺だと思っていたんだが……思わず言葉を失ってしまったよ……。

 

「……マスター、行こう」

 

「え? ちょ、なんでよっ」

 

 俺がマスターの手を引いて部屋を後にしようとすると、マスターは抗議の声を上げた。会議中ということもあって小声だったので、俺もそれに合わせて耳元で話す。

 

「流石の俺も、マスターを『兵器』呼ばわりされて不快に思わないほど人間出来てないんだ」

 

「……確かに、そこは私もイラッと来たわ。……よく杖を抜かなかったと自分を褒めたいくらいよ。――けどね」

 

 そこで一旦言葉を切ったマスターは、自分を落ち着かせるためか深呼吸をして続けた。

 

「戦争に首突っ込もうっていうのよ。……これくらいのこと、流せるようにならないと」

 

 俺を見上げるその瞳には、強い力が込められていることがわかる。……マスターは、マスターの覚悟をもってここにいるんだな。そんなことを再確認した。……そうだった。そうだったんだよ。元々マスターは気高い精神を持っている。魔法が使えないと言われていた頃も、諦めることも折れることもなく模索し続け、使い魔召喚の儀式でも何度も挑戦したおかげで俺もマスターに出会えた。……まぁ、遠因には土下座神様の仕業もありそうなんだけど……ま、それを差し引いたってマスターは楽な道には逃げない強さがある。その反動というか、強く固く意思を持ち続けてるせいでしなやかさに欠けるっていうところもあるんだけど……そこをフォローするのも俺の務めだ。

 マスターの瞳を見てそう思いをはせた俺は、ため息を一つついて、マスターの肩を軽くたたいた。

 

「そういうなら、俺は何も言わないことにしよう。……ただ腹は立つから呪っておくとしよう」

 

 実用的な呪いの道具はいくつもあるぞ。『藁で出来た人形』から『映した相手を不幸にする鏡』やら『謎のVHSビデオ』とか……あ、最後のはこの世界では意味ないか……。

 最終的に、先ほど話に上がった二つの内どちらかをこちらに頼みたい、と言うことで決着し、俺たちは退室を促された。

 

・・・

 

「さて、それじゃあこれからのことを話そうか」

 

 俺たちに与えられた部屋に戻ってきて、小碓も含めての作戦会議を始める。

 俺たちに出来そうなのは艦隊のせん滅になるが……その場合、目立つ上にカルナのようにサーヴァントからの襲撃がないとも限らない。それをしのぎながら数万の艦隊を撃破するのはかなり手間になるかと思う。……宝物庫の絨毯爆撃も出来なくはないが、カルナが出てきたときにも継続できるかと言うと自信はない。あの宝具を撃って弱体化しているはずのカルナを相手するには、他のことに気を取られている余裕なんてないのだ。

 かといってダータルネスへの入港を装うなんてのも難しいだろう。……いや、できなくはないけど。自動人形フル稼働して適当な船を宝物庫から出して風の力を持つ宝具で浮かせて、っていうのをやれば、なんとか形にはなると思うが……。まぁ、今は自動人形も649人しか……え? 721人になった? ……だ、第六世代……だと……!? もうそろそろ追いついちゃうじゃないか! っていうかどうやって増えてんの!?

 ……ま、まぁそれは後で自動人形に聞くとして……今俺が考えたことを伝えると、マスターも小碓も頷いてくれた。

 

「……確かにそうね。でも今の精神力じゃ『エクスプロージョン』もそんなに威力は出ないし……ギルだよりになっちゃう」

 

「んー、それは構わないんだが……カルナみたいなのが出てきたときに対応できるか、が問題なんだよなぁ。ジャンヌ達は学院の守護があるから呼ぶわけにも行かないし……」

 

「そうよね……んー……! どうにも上手くいかないわねー!」

 

 大きな声を上げて背伸びをするマスター。……服の裾から見える臍が少しだけ色っぽい……ではなく。今は解決策を探さねば。

 

「……そういえば『始祖の祈祷書』はどうなんだ? 新しい呪文を出してくれたりはしてないのか?」

 

「んー……だめね、『どういうものが必要なのか』っていうのがしっかりしてないから出ないんじゃないかしら……」

 

「なるほど……。ある程度の指針は必要ってことか」

 

 二人して頭を抱えていると、小碓がそう言えば、と口を開いた。

 

「その『虚無』っていうのはどういうことができるんですか? ……ボク的には『対象を選べる爆発』しか知らないから何とも言えないんですけど、相手を騙すような魔法は無いんですか?」

 

「騙す?」

 

「はい。『ダータルネス港に行った』って思いこませるようなのがあれば、それを使えばいいんじゃないかなーって思ったんですけど……」

 

「ふむ……そうだよな。何も攻撃するだけが魔法じゃないもんな」

 

 マスターには『相手に思い込ませられる魔法』を強くイメージして祈祷書を探してもらった。……やっぱり、傍目から見ても白紙の本なんだよなぁ。マスターには『爆発』の呪文とか注意事項が見えているらしいんだけど……。

 「むむぅ……」と唸るマスターの背後からのぞき込んでみても、真っ白な紙面しか見えない。反対側からのぞき込んでいる小碓も小声で「見えないなぁ」と呟いているので、小碓も見えていないのだろう。

 

「……っ!」

 

 唐突に祈祷書を持って立ち上がったマスター。俺と小碓はマスターにぶつかりそうになって慌てて後ろに下がる。……あっぶね、急だったから少し後ろにたたらを踏んでしまった。尻餅をつかなかったのは自分で自分をほめてやりたいくらいだ。

 

「あった……! あったわ! 解決策!」

 

 そう言ってマスターは真っ白な祈祷書をこちらに向けてくる。……申し訳ないけど、見えないんだよなぁ。まぁ、もし見えたとしても古代語で書いてあるらしいから、俺には解読できないんだけどね。この世界の現代語も少し怪しいのに、古代語なんて覚えてないんだよなぁ。

 

「どういう呪文なんだ?」

 

「ふっふっふー。『幻影(イリュージョン)』よ!」

 

「『イリュージョン』……幻影か。なるほど、相手に幻影を見せられるんだな?」

 

「そうよ! これでダータルネス港に船が入っていくっていう幻影を見せれば、相手は勘違いするわ!」

 

 すごいな、虚無。そんなピンポイントな魔法まであるのか……。

 

「とりあえず、その話をしに行って、今後の作戦を立てないとな」

 

「あ、そうね」

 

「その時に実践しないといけないだろうけど、魔力は大丈夫か?」

 

「うん。ここしばらく使ってなかったし、余裕はあるわ」

 

「それならよかった。じゃあ、行こうか」

 

 向かうは総司令部室だ。一刻を争うだろうし、急いでいかないとな。

 

・・・

 

「……ジャンヌ」

 

「ええ、わかりますよ謙信さん。……敵です」

 

 まだ日も登らない時間。正座の姿勢で瞑想をしていた謙信さんが、目を開いて私の名前を呼ぶ。……私だってサーヴァント。この魔力の動きには流石に気づく。

 

「空から降ってくるなんて、面白いことをするんだね」

 

 にぃ、と好戦的な笑みを浮かべる謙信さんは、魔力で鎧を編むと、刀を取って窓から飛び出して行ってしまった。……はー、卑弥呼さんたち、呼んでこないとなー。

 

「っと。あら、謙信はもう行ったのね」

 

「あ、卑弥呼さん」

 

「壱与もいますからねー」

 

 私も戦装束を纏って立ち上がると、それと同時に窓から二人が入ってきた。……呼んでくる手間は省けましたねー。

 

「卑弥呼さん、壱与さん、たぶん狙いはここにいる生徒たちです。……どこか一か所に集められますか? 守るためには、ばらけられていると不利です」

 

「……しゃーないわね。壱与、行くわよ」

 

「りょーかいです! 鬼道で全員叩き起こして集合させますね!」

 

「相性いいやつはそういう使い方できていーわねー」

 

 二人と別れて、私は走り始める。……炎の匂い。嫌な臭い。もしもこれが罪なき誰かを焼く炎なのだというのなら……。私はそれを許せない。

 みんなが住んでいる塔の入り口。そこに数人の人影が見えた。

 

「あ?」

 

「……あなたたち、この学園の人ではありませんね」

 

 扉の前に立ちふさがり、相手の顔を見る。一番嫌なにおいがする男の人と、他に三人。全員私を見て嫌な笑いを浮かべる。

 

「ほぉ? なんだ、一丁前に鎧なんて着こみやがって」

 

「へへ、また若い女ですよ。ほんと、もったいねえなぁ」

 

 全員杖みたいな物を持っている。……メイジだ。私が一番有利に戦える相手。

 

「……ふーっ」

 

 一つ息を吐く。私の仕事は、みんなが避難するまでここで守り続けること。そのために、剣を抜く。旗を振るう。

 

「……私はジャンヌ・ダルク! この先へ進みたいというのなら、この私を超えてゆきなさい!」

 

 そう言って、二つの宝具を抜き放つ。

 

「『三聖人の声聞き立ち上がる少女(ラ・ピュセル)』! 『先駆け鼓舞する旗持ち乙女(アン・ソヴェール・オルレアン)』!」

 

 どこかで謙信さんが戦っているのなら、私の補助が役に立つはず。この学院の中ならば効果を届けることができるし、卑弥呼さんたちの助けにもなるだろうと二つの宝具を発動する。

 駆けだそうとした瞬間、嫌な予感がして半歩横にずれる。不可視の何かが、背後の壁にぶつかる音がする。……たぶん、風の魔法かな? ああいうのを前に見たことがある。『エア・カッター』だったかな?

 

「今のを避けるか。少しはやる」

 

 なんだか感心したように、リーダーっぽい人が表情を変える。……危ない危ない。私の対魔力のランク的に、少しだけとはいえ魔法を反射してしまうことがある。それで相手を殺してしまってはいけない。……本当の本当にどうしようもない時以外、人の命は奪いたくないのだ。……我儘かもだけど、人には悔い改めるチャンスが必要なのだ。

 今度こそ駆けると、相手も分散して魔法を放ってくる。相手は四人。後ろに通さないように、全員を止める……!

 

「っち! こいつ本当に人間か!? 魔法を剣や旗で振り払うなんて尋常じゃないぞ!?」

 

「人間ですとも! しっつれいな!」

 

 魔法を唱えた後の隙をついて、一人を旗で打ち据える。くの字に曲がって飛んでいったけど、生きてるからオッケー!

 

「ちっ、囲め! たかが女ひとりに何してんだっ」

 

 後ろにいた強面の人が杖を抜く。……あの人が、一番嫌な感じがする。

 

「だがまぁ、こういう活きの良い女程焼いたとき良い声を上げるんだ」

 

 にやりと笑った強面さんが、杖を振るう。……この魔力の動き、他の人より上だ……!

 

「燃えろ!」

 

 大きな炎球が、こちらへ向かってくる。……しかも、追尾してくるようだ。

 

「面倒な……!」

 

 旗で払えば爆発し、熱風が体を叩く。……むぅ、衝撃は消しきれないと思っての手段ですか……戦い慣れてるなぁ、この人。……と言うよりかは、『人を壊し慣れて』る。どうすれば人が動けなくなるのか、どうすればダメージが通るのかを理解している。

 

「そこの盲目のあなた! ……一体……一体『何人壊した』んですか!?」

 

「あぁ? 変なこと聞くなぁ、嬢ちゃんは。その質問は俺にとって『なんでメシを食うのか』と一緒の意味だぜ?」

 

 ああ――。そっか。

 

「納得しました。……そうですか」

 

 『お前は今までに食べたパンの枚数を覚えているのか?』と言われたようなものだ。……なんだっけこのセリフ。なんかで聞いたことあるような。

 

「あなただけは、止めなくてはいけない。……そう、理解しました」

 

「ほお? じゃあ、どうする? また切りかかってくるか?」

 

 吹っ飛んでいった人を除いた三人が、私に杖を向けてじりじりと間合いを詰めてくる。どうするかって? そんなもの、決まってる。

 

「私も一人じゃない。……お願いします!」

 

 そう言いながら盲目の人に向けて走り出す。両サイドで杖を構えていた二人が呪文を放とうとして――。

 

「ぐあっ!?」

 

「う、腕がぁ……!?」

 

 上空からの光線と光弾で止められた。最初から私のやることは一つ。魔法使いさんの相手なら、同じく……。

 

「キャスター、卑弥呼。待たせたわね」

 

「壱与もいますよーっ」

 

 上空に浮かびながら銅鏡を構える、卑弥呼さんたちに協力してもらうこと!

 

・・・




「そういや、ジャンヌが魔術とか弾いてるの見たことないな。どうやってやってるんだ?」「どうやっても何も、意識してやってるわけじゃないですからね……こう、自然と、『ぱいーん』って感じで……」「『ぱいーん』って感じ……?」「はい、なんかこう、白いイルカが殴ってるようなイメージで……」「白いイルカ……?」


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