ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント!   作:AUOジョンソン

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「ふぬぬぅ~……こ、ここが分水嶺ぃ~……」「あれ何してるんですか?」「知らん。さっきからちょいちょい俺の手とか顔とか見てはああして机の前で唸ってる」「……ふぅん。……新刊かなぁ……」「なんか言ったか?」「いえ! なんでも! とりあえず壱与さんにお茶淹れてお菓子用意して肩もんでトーンとベタ手伝ってきますね!」「まるで壱与のほうが神様みたいな扱いだな土下座神様……」「そりゃあ! 壱与さんはある意味『神』なので!」

それでは、どうぞ。


第五十五話 ここがみんなの踏ん張りどころ

「よし、ちょっとドキドキするな」

 

 すでにマスターは会場に入っていて、俺は少し時間を空けてからくるようにと言われていた。自動人形に肩を揉んでもらったりしながら一休みして、こうして会場前の鏡の部屋までやってきたのだ。ちなみに生徒じゃないのに、と言う問題については、オールドオスマンが機転を利かせてくれたらしく、俺の参加が認められたのだ。『相手がだれかわからない状態で、相手を知りたければ礼儀を持って話しかけるしかない』と言う場面で、使い魔と言う立場の俺がいるというのはおもしろそうだというのが理由の八割だとは聞いているが。これで問題はあと一つ。俺がこの鏡で『理想の姿』になれるかどうかだ。勝負だ、俺の対魔力!

 

「おお! なんか体が光ってる!」

 

 受け入れる気持ちを持って鏡の前に立つと、俺の体は光に包まれ始めた。抵抗しようという気持ちがなければ対魔力があってもこういうマジックアイテムの効果を通してくれるのかもしれない。……確かに対魔力がすべての魔術を弾くのであれば、治癒の魔術すら弾くことになるからな……。その辺は意外と応用が効くのかもしれない。

 

「さて、俺の理想の姿は……」

 

 視界をつぶすほどのまばゆい光が収まり、鏡に映った俺の姿は――。

 

・・・

 

「……どこにいるのかしら」

 

 私を探すようにしたいから、と半ば強引にあいつに遅れてくるようにと命令した後鏡で『理想の姿』になって会場に入ったけれど……周りをみてもあいつらしき姿は……ちょいちょいみるわね。それだけあいつにあこがれてるやつがいるって事かしら。……まぁでも? わからないでもないっていうか、あいつが活躍しているのはみんなちょいちょい耳に入れているはずだし、何だったらあいつが召喚したセイバーたちの姿も見たりする。……セイバーたちは参加していないはずなので、これはあの姿を『理想』だと思った生徒か教職員の誰かと言うことになる。

 

「……ん?」

 

 あいつらの影響力意外と馬鹿にできないわね、なんて思いながら辺りを見回していると、とある人物に目が行った。と言うか、目が行かざるを得なかった。……だって、私なんだもの。あそこできょろきょろしながら不安そうに歩いてるの! 私! なんだもの!

 

「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!?」

 

 一応パーティ会場なので、声を押さえたが、それでも驚きの声が出てしまっていた。いやだって! この私が! 『ゼロ』と呼ばれたこの私が! この『スレイプニィルの舞踏会』に! いるんだもの!

 

「でへへぇ」

 

 頬が緩んでしまってしまうのを止められなかった。……でも、私も今は『理想の姿』。この姿の人物に迷惑をかけないためにも、鋼の精神力で表情を固定する。……とりあえず、あの人に声でもかけてみようかしら。あいつが来るまでの暇つぶし……と言ってしまっては失礼だけど、このパーティに参加していて何もしないというのも少し気にかかる。そう思ってそちらに歩みを進めようとしたその瞬間……。

 

「……大丈夫か? どうやら困っているようだけど」

 

「ふぁいっ! ふぇっ、あ、ふぁい!」

 

「え? ファイトって言ってる? これから戦おうってことか……?」

 

「ち、ちちち違います!」

 

 ――ど派手でゴージャスな……独特なセンスをした『夜の帝王』みたいな恰好の、あいつ(バカ使い魔)が、私の姿をした誰かに声を掛けていたのだった。 

 その時、私の行動は早かったと思う。この会場に何人いてもわかる、あいつの……独特なセンス! まったく緊張しないで他人に声を掛けるあのスタイル! 流石に声を掛けようとして近づくと、あいつはこちらに気づいて……

 

「ああ、マスター。どうやらアンリが何か困っているみたいなんだが……聞いてみてあげてくれないか?」

 

 ……私の頭を真っ白にする一言を、なんでもない事のようにのたまったのだった。

 

「え、あんた、な、んで、私って……」

 

「? ……そりゃわかるだろ。どれだけ一緒に居たと思ってるんだ。姿形が変わっても、振る舞いからマスターだって分かったよ。アンリも、話しかけたらすぐわかったよ」

 

 今の私の姿は、ちぃ姉さまの姿をしてる。そのままだとすぐにわかっちゃうからと髪型とか変えてみたりしたんだけど……それでも、あいつは近づいてきた私を見てすぐに私だと言って声を掛けてきたのだ。

 

「はっはっは、そういえば俺の姿はどうだ? 俺の理想の姿! 『人生を最大限に楽しんでいる俺の姿』は!」

 

 ……私の格好をした姫様と少し見つめ合って、またギルの姿を見る。……こいつ、他人を理想とするんじゃなくて、『理想の自分』になったんだ……! なんて自己愛の強さ! っていうか自分に対する信頼が凄いわね……!

 

「い、いいんじゃない、でしょうか……?」

 

 姫様が、私でもなかなか見ないくらいの困った顔で、首を傾げながらそう答えた。……私の顔でそんなに困った顔をしないでほしいと思うのは我儘かもしれないけれど、たぶん私も同じ顔をしているので、何も言わずに深く呼吸をして心を切り替えた。……こいつのこういう常識外れな部分は今に始まったことじゃない。召喚した当初だって、平民のメイドのために貴族に決闘を挑むし、しかも勝つし……学院にフーケが来た時も、アルビオンへ密命で赴いた時も……こいつはこの世界に囚われない、『王の振る舞い』とでもいうべき自由奔放さで、私と共に歩いてきてくれた。

 ……まぁ正直? 宝具にもなるレベルの女癖の悪さはちょっとどうかと思うっていうか、こいつメイドとか姫さまとか手を出し過ぎっていうか……あれ? なんで私マスターなのに周りの女に先を越されているのかしら? あいつとその、そういう関係になって、そういえばまだ手を出されていないというか……い、いや、手を出されたいわけじゃないけどね!? そんな、結婚もしてないのにそれはまだはやいというかそれで踏み切った姫様がちょっとおかしいというかなんだけど、それでもこれまでもそういうことが一度もなかったっていうのはなんていうか尊厳的にもかなりむかつくというか……胸? やっぱり胸なの? でも卑弥呼とか壱与とかはたまに相手してるみたいだし……あーもう!

 

「とりあえずそこに正座っ!」

 

「そんなにダメだったか!?」

 

 私の一言にショックを受けたようにのけ反るギル。……取りあえず流石に目立つということで正座はまた今度と言うことにしたのだが……。

 

「いやー、それにしても結構楽しいな! 俺の姿してるやつもいるし、謙信とかの姿をしてるやつもいる! 面白いパーティーを考えたものだなオスマンは!」

 

 そのあとに「こんなに感動したのはバケツパーティー以来だ!」と表情を輝かせているギルに、なによそのパーティー、と思っていると、どこから持ってきたのかワインの入ったグラスを私と姫様に渡してくれた。それを受け取って、一口飲む。とりあえずその謎のパーティーについて聞いてやろうと口を開こうとしたその時、私たちの体を光が包み……姿が元に戻ったのだ。

 

「え……?」

 

「……! しまった、なんて無様な……! 『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』!」

 

 そう言ったギルが手をかざすと、見慣れた波紋が空中に浮かび上がる。そこから放たれたのは雷光。窓の方へ走る雷光が、何かとぶつかって激しく発光する。

 

「襲撃だ! アンリ、マリーを呼べ! マスター、離れるな!」

 

「はっ、はい!」

 

「わ、わかった!」

 

 先ほどまで魔法がとけたことによる困惑が広がっていた会場に、悲鳴が木霊する。この状況で、学院に襲撃が来るなんて!

 

「狙いがわからん以上、離れん方が良いな」

 

「……相棒、気を付けな。近くにいるぜ」

 

 私を背中にかばってくれたギルがデルフを抜くと、そのデルフがギルに警戒を促す。近くに? どういうことかしら……。

 

「……敵か。よくわかったなデルフ」

 

「そりゃそうだ。相棒によく似た気配だからよくわかるよ。……これは、ミョズニトニルン! 始祖の使い魔の一人だ!」

 

「なら、狙いはマスターか……マリー、ここを守れるか?」

 

「……私一人は難しいと思うわ。セイバーかライダーのどちらかが来てくれれば心強いのだけれど……」

 

「わかった。ここは任せる。俺はマスターを連れてこの場を離れるよ」

 

 狙いが私なら、被害を他の人に向かわせないようにと言うことなのだろう。私もそれには同意なので、こちらを見てきたギルに同意の意味を込めて頷きを返す。

 

「よし、なら行くぞマスター!」

 

・・・

 

 マスターを抱えて窓から飛び出すと、外にはすでに何かが浮かんでいるのが見える。暗闇でも見通せる目を持っているためわかるが、翼の生えた異形のヒト型のようなものが無数に飛んでいると分かった。

 ……生物ではないな。石か何かで出来た人形のようなものだろう。最初にされた攻撃はおそらく別のものだが、今のこれは……。

 

「ち……! 結構動くぞ、噛まないように口閉じてろ!」

 

 魔力を回し、鎧を構築。そのまま体に回した魔力で身体能力を上げて、魔力を放出。一度の跳躍で数十メートルを飛び、その途中でいくつかの石像を破壊して、そのうちの一つを足場にもう一度跳躍する。

 

「くっそ、かなり囲まれてるな」

 

 鯖小屋の方も襲撃を受けているらしく、シエスタや聖杯を守りながらの戦いになってしまっているため誰もこちらに来れないと言われてしまった。……こんな時に直はどこに行ってるんだ、全く……。

 

「仕方ない。久しぶりに一人だが……マスターを守るのは元々俺の使命! いっちょ頑張るとしますか!」

 

 石像……おそらくガーゴイル……をまた蹴散らし、足場が無くなってしまったので着地する。迎撃しながら飛び回っていたので、あんまり学院からは離れられなかったようだが、人気はない。一息つけそうかなと周囲を見渡すと、ガーゴイルではない気配。それと同時に、氷が飛んできた。

 

「相棒! 俺で吸え!」

 

 デルフの声に反応して、その氷にデルフをぶつける。魔法を吸収するのを見届けるより早く、次弾がとんでくる。それも吸収し、マスターに当たらないよう切り払う。

 

「……タバサ。お前の差し金か?」

 

 『始祖の使い魔』の主ではないだろう。彼女の使い魔は風竜のシルフィードだ。それに、タバサは風と水の属性を使えることがわかっている。虚無の使い手はそれ以外を使えないということがわかっているので、おそらくタバサの後ろに、『虚無』の使い手……今回の黒幕がいるということなのだろう。

 

「……」

 

 無駄なことを話すつもりはないのか、こちらの問いには答えずに再び杖を振るうタバサ。

 

「誰かに言われてやっているのか? ……なら、俺が代わりになるぞ」

 

「……私の欲するものをあなたは持っていない。それは取引にならない」

 

 冷たくそう言い放ったタバサは、空中に待機させていた氷の矢を発射してくる。それをデルフで吸収しながら、タバサを説得するべく口を開く。

 

「どうにもやりづらいね、相棒」

 

「その通りだよデルフ……出来れば傷つけたくないしね」

 

 そう言って再びデルフで魔法を吸収する。……コレ上限とかないんだろうか。俺放出方法知らないんだけどさ。

 タバサの氷を吸収し、ガーゴイルを切り払う。……うーむ、サーヴァントが出てこないのが不思議なくらいだな。とりあえず、タバサを行動不能にして、事情を聴くのと……。

 

「いい加減この鬱陶しい玩具をなんとかしないとな」

 

 意外と硬くてランクの低い攻撃では二発ほど撃ち込まないと破壊できなさそうだが、今のところ見える範囲のガーゴイルは掌握できたし、ちょこまか動き回るタバサもある程度動きを終えるようにはなった。マスターをかばっての戦い方も慣れてきたし、そろそろ行くか。

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

 そういうと同時に、宝物庫を開く。魔力によって発射された宝具たちが、俺たちを囲むガーゴイルたちに突き刺さる。外したのも何体かいたが、追加で発射して突き刺すと、周囲のガーゴイルは落下して動かないただの塊になっていく。タバサにもいくつか発射したが、彼女はそれをいなして……死角から伸びてきた『貪り食うもの(グレイプニール)』がタバサの杖を持つ手を縛り上げた。それに驚いたタバサが行動を止めた瞬間に、他の四肢も縛り、簀巻きのようにされたタバサがべたんと地面に落ちた。しばらくはもぞもぞと動いていたが、抵抗できないと悟ったのか目を閉じて大人しくなった。仕込んでいたナイフか何かで切断を試みたのだろうが、人間用ではないとは言え宝具の縄だ。神秘のないナイフで切断はできまい。

 

「これで落ち着いて話が出来そうだな。……色々と聞かせてもらおうか」

 

「ちょっと! あんまり乱暴なことはしたら駄目よ!」

 

 こきこきと指を鳴らしていると、マスターが心配そうな顔をして俺にしがみ付いてそう言った。もちろん拷問なんてことしないってば。ちょっと呼吸困難寸前まで笑ってもらおうかとは思ったけど。……え、それも拷問? でもみんな、女の子がくすぐられて無理やり笑わされてるの好きでしょ? ……え、それは性癖? ……まぁ、俺の性癖のことは置いておいて。

 

「タバサ、これでも俺は王さまなんだ。だいたいのことは力になれると思うんだけど……話してはくれないか?」

 

「……私は、」

 

 タバサが口を開いた瞬間。直接頭に届いたような声が響いた。

 

「手古摺っているようね。私たちの忠実なる番犬」

 

「む。新手のガーゴイルか」

 

 先ほどのよりも巨大なガーゴイルが、手下のガーゴイルを連れて現れていた。その新手のガーゴイルから声は響いているらしい。黒幕……とまではいかないだろうが、タバサを俺たちにけしかけた裏方の人間であることは確かだろう。

 

「タバサの雇い主か?」

 

「そうなるわ。流石の北花壇騎士と言えども、英霊にはかなわないようね」

 

 新手の巨大ガーゴイルが羽ばたくだけで凄まじい風が吹くが、俺はそもそも耐えられたし、マスターとタバサは俺が掴んでいたので二人とも風に目を閉じるだけで済んでいた。

 

「仕方がないわね。こうなっては一度退こうかしら。……北花壇騎士殿。失敗の責任は取ってもらうわよ」

 

「とらせんよ。タバサは今から俺の騎士だ。君には渡さん」

 

「責任を取るのは本人ではないわ。……北花壇騎士殿はわかるわよね?」

 

 そんな不穏な言葉を残して、ガーゴイルは飛び去ろうと上昇する速度を上げていく。

 

「……追うか」

 

 そんな不穏なことを言われては逃がすわけにはいかない。『黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)』を宝物庫から取り出して三人で乗り込む。

 

「タバサ、色々と説明してもらってもいいか?」

 

「……分かった」

 

 ヴィマーナで巨大ガーゴイルを追いつつ、こちらにカラスのようにたかってくる量産型ガーゴイルを打ち落としていくと、タバサはあきらめたように色々と話してくれた。

 

「なるほど……ガリアの王族で母親が監禁されていてそれで裏の依頼を任されていたと」

 

「だから暗殺者のような動きをしてたんだな」

 

 説明を聞いた俺が納得の意味を込めて頷くと、デルフが先ほどの戦いで得た知見を教えてくれた。確かに、どちらかと言えば小碓っぽい動きをしていたように思える。同じように小柄だったし……彼女が英霊かしたらキャスターではなくアサシンになるのだろうか。

 

「……そんな……そんなことになっていたなんて!」

 

 マスターはタバサの話にかなり怒りを露わにしていて、顔を赤くして憤慨している様子を隠そうともしなかった。最近ではあまり見なくなったガチギレマスターである。

 

「ギル、行ける?」

 

「ああ。もちろんだとも。タバサ、君のお母さんはどこに囚われてるんだ?」

 

「……どうして?」

 

「助けに行く。先ほどは勢いで言ったが、君を俺の騎士にしたい。……そのために、ガリアとの関係は切るとしよう。君のお母さんを助けて匿い、タバサに味方になってほしい」

 

 それに、と俺は言葉を続ける。

 

「それを抜きにしても、俺は君にずいぶんと助けられた。その借りを返せるし、タバサを俺の騎士にもできる。こんなにいいことはないからな!」

 

 俺がそう言うと、タバサはいつもの感情の見えないジト目でこちらを見てくる。

 

「私は元々敵。それなのにあなたの騎士にするの?」

 

「もちろん! タバサが元敵だったとしても、俺はタバサを信じてる。……そこに迷いはないよ」

 

 そんなことを話していると、巨大ガーゴイルの取り巻きは全滅したため逃げるのをあきらめたのか、親元の巨大ガーゴイルが向きを変えてこちらに襲い掛かってきた。

 

「……流石に根城まで追いかけさせてはくれないか」

 

 巨大な爪の一撃を避け、お返しにと宝具をいくつか発射するが、羽ばたきの風圧で飛ばされ、威力も減衰されて本体に届く前に落ちてしまった。それを回収しながら、もう一度発射。前方の宝具を落とされる前に背後から打ち込み、羽をちぎる。バランスを崩したところに他の宝具が突き刺さり、ガーゴイルの目に灯っていた光が消え、落ちていくのが確認できた。

 

「……とりあえず危機は去ったか……」

 

 そうつぶやきながら、俺は機首を学院に向けるのだった。……ここからが、アベンジだ。

 

・・・

 

「……で? 話を聞かせてもらおうか」

 

「……この扱いは非常に不本意。人道的扱いを希望する」

 

 鯖小屋へ集まった俺たちは、タバサを中心にして事情を聴こうとしていた。タバサは未だにぐるぐる巻きの状態で椅子に座らされている。それに対してジト目で抗議されるが、ほどくとどこ行くかわからないので、話を聞くまで開放しないことにしたのだ。

 さて、ここにいるのは俺とその召喚サーヴァント、マスターのルイズ、お忍びで来てるアンリとそのサーヴァント、マリーも来ている。自動人形とシエスタもいるし、結構鯖小屋も手狭になってきたな。そろそろ広くしないとなー。

 

「それで? いい加減観念して話しなさいよ」

 

 卑弥呼の言葉に、タバサはあきらめたように瞳を閉じてから、話し始める。自身がガリアの王族に連なるものだということ。現国王の弟がタバサの父なのだが、現国王派に殺されてしまい、母親はタバサの代わりに毒を飲んで心を病んでしまったのだという。そこからは厄介払いとしてトリステインへ留学させられていたが、何か面倒ごとがあれば母親を盾にタバサへと押し付けてきていたのだとか。

 

「やっぱりここね!」

 

 タバサの話にうなずいていると、急に扉が開いてキュルケが乗り込んできた。顔は凄い笑顔で、自動人形に案内されるがままリビングのテーブルに座り始めた。

 

「キュルケ!? あんたなんでここに!」

 

「あんたの部屋に行ったらこの侍女しかいなかったから、どこにいったのかって聞いたらここを教えてくれたのよ!」

 

 おそらく部屋で待機している自動人形に案内されてここまで来たのだろう。他の気配察知に長けたサーヴァントたちは、キュルケだと知っていてスルーしていたのだろうな。追加でお茶を淹れてもらったキュルケは、優雅な所作で口を付けた。……成り上がりとよく言われているが、それでも貴族なりの教育は受けているのだろう。前に一緒にティータイムを過ごした時もとても美しい所作だったのを覚えている。

 

「それでタバサ。どの辺まで話したの?」

 

「……基本的なところはだいたい」

 

「そ。ならダーリン、やることは決めてるのよね?」

 

 きらりと白い歯を覗かせながら俺に笑いかけるキュルケに、俺ももちろん、と笑いかける。

 

「まずはタバサの母親の救出。そして治療だ」

 

「……治療……?」

 

「当たり前だろタバサ。俺はともかく俺の宝物庫を舐めるなよ。直接タバサの母上を診てみないと細かくはわからないが、神代の薬もこちらにはあるんだ。期待はしてもらっても構わんぞ」

 

 そういうと、タバサのいつものジト目に、少しだけ生気のようなものが宿ったような気がした。やはり母親が心を病んで幽閉されているというのはかなりの心労を抱えていたのだろう。

 

「それならば……できる限り隠密に……そして最大戦力で奪還する! ……ここの守りをアンリとマリーに任せたい。一週間で良い。何か予定を入れてこの学院にいられないか?」

 

「そうですね……先の戦火に対する慰問と言うことでなら、おそらく行けるでしょう」

 

「よし、それで頼む。自動人形を付けるから、絶対に一人にはならないでくれ」

 

「……はいっ」

 

 俺の言葉に、アンリは頬を染めて嬉しそうに頷いた。心配してもらって嬉しいとかそんな感じの乙女心なのだろうか。とりあえずこれで学院の守りは大丈夫なのだが……。

 

「本当なら直にも協力してほしかったんだが……あいつコルベール先生と一緒にどこかに消えたんだよなぁ」

 

「あ、それならゲルマニアに行っているはずよ!」

 

 独り言に反応したのは、まさかのキュルケだった。……え、なんでゲルマニア行ってんの?

 

「なんかナオシが製鉄技術に長けたところを知らないかってコルベール先生に聞いたらしくてね。それで私の紹介でゲルマニアに行ってるってわけ。なんだかコルベール先生もワケアリらしいし? ちょっとほとぼりを冷まさないといけないってことでね」

 

 なるほど、長期休暇を取っているっていうことか。コルベール先生戦争とか嫌いそうだし、今の学院にいるのも少し気まずいのだろう。しっかし、なんで製鉄技術を求めてるんだ、直は……?

 

「……まぁ、いない人間を期待しても仕方がないか。とりあえずメンバーを選抜しよう」

 

 そう言って俺はリストを作った。まず俺とタバサは確定。そうなると俺のマスターであるルイズも行きたがるし、タバサの親友たるキュルケも行く。そしたら俺の召喚したサーヴァントたちも全員行くし、ここに残しては危険だからシエスタも来てもらうことになるだろう。道中の食事は専属メイドに任せたいしな。

 

「……そうなると移動手段が問題だな」

 

 これだけの人員の輸送手段となると相当大きいものが必要になってくる。いつものヴィマーナだと乗れて五人だし、襲われて何かあった時に全力機動できるのは俺が一人で乗っているときのみだ。希望としては、巨大な戦艦のようなもので向かって、襲われた際に俺たちが直掩機として梅雨払いをするというのが理想だろう。表立ってではないといえど、一つの国に対抗するのだ。準備しすぎてやりすぎと言うことはないだろう。

 

「……む」

 

 宝物庫になにかいいものあったかなと探そうとすると、謙信が腕を組んだまんま何かに反応した。どうしたのかと視線を向けると、ため息を吐きながら指を一本天井に……いや、上空に向けた。空からなにか……? もしかして、ガーゴイルの再来かと思ったが、ここまで謙信が落ち着いているということは敵ではないということだろう。

 確認するために鯖小屋から出ると、先ほどまでと違って巨大な影が掛かっていた。……なんだ? 上空の雲が晴れて……あれは……!

 

「飛行機……か……?」

 

 この世界特有の空飛ぶ船とは違い、巨大な翼の生えた、少し形の違う……それこそ、下から見たら『飛行船』ではなく『飛行機』と呼んで差し支えないシルエットが見えたのだった。巨大なプロペラも見えることから、『風石』だけで飛んでいるわけではないのだろう。……ああいうのを作る人物には、俺は二人しか心当たりがない。……そして多分、その二人ともがあれに乗っているのだろうというのは容易に想像できた。

 

「あっちの草原に降りるみたいだな。行くぞ!」

 

 鯖小屋から出てきていた他のみんなも俺と同じように空を見上げていたため、俺の言葉にすぐに反応してみんなで草原へと向かうのだった。……お、アンリも来てる。

 学院そばにある少し広い草原。そこには、巨大な飛行機が停泊していた。プロペラはゆっくりと停止していき、乗っている人間が重りを降ろしたりタラップを降ろしたりして、降りる準備をしているのが見えた。

 そこには、俺の予想通り、心当たりの二人……コルベール先生と直が、元気そうに手を振っているのだった。

 

「おーい! 元気だったかね!」

 

 降りてきた二人は、今まで何をやっていたのかを説明してくれた。コルベール先生は直と一緒にゼロ戦のエンジンの分析、解析を行っており、それを利用したこの世界での初の機関を利用した飛行機を作成しようと、製鉄技術の盛んなゲルマニアへ行き、そこで意気投合……たぶん柔らかい表現でこれなので、おそらく直がだいぶ強引に巻き込んできた人たちと一緒に、この飛行機……正式名称を『蒸気機関式試作飛行機零号』として完成させ、試験飛行がてらトリステインに飛んできたのだという。

 なんと……この世界で『蒸気機関』を完成させたのか。流石にガソリン式の内燃機関はまだできなかったのかな。

 ついでと言っては何だが、こちらからも現在の状況を伝えて……この飛行機使えるんじゃないかと思ったのだ。

 

「コルベール先生」

 

「ふむ……今の話で大体想像はつくとも。ミスタバサの母親を助けるためにガリアへ行きたいということだろう。この飛行機ならばメイジは魔力を節約することができるし、それなりの人員を輸送することができる。生物ではないからかなりの高度からアプローチできるというのも大きいだろうな」

 

 それはかなりいいことだ。ここにアンリもいることだし、女王としてのお墨付きをもらっておくことにしておこう。

 

「なるほど。……ならば、隠密とはいえ責められないように一つ命令書でもしたためましょうか。内容は『アルビオンにおけるガリアの湾港使用に関する契約書』とでもしておけばいいでしょう。

 

幸い王さまはオルレアン辺境伯としての立場もあることですし、何か言われるかもしれませんがいいわけの一つにはなるでしょう」

 

「なるほど、それで行こう」

 

 細かいところを打ち合わせて、出発は明日の日の出と同時と言うこととなった。それまでは各々準備をするために 解散となった。

 

・・・




「……いつまで縛ってるの?」「……あ、ごめんごめん。今ほどく……いや、これはこれでアリか……?」「……? どうしたの?」「いや、縛られてる女の子が転がってるって……いいかもしれないな」「……てやっ!」「あいたっ」「まったくもう、変な性癖をこんなところで発散しないのっ。……まったくもう、今ほどくからねー」「いてて……まったく、宝具のロープを放り捨てないでくれよなー」「こんな幼気な少女を縛って喜ぶなんて……」「……王さまがしたいなら、あとでしても良い」「え、マジ? ならあと、でっ!」「……まだ早いよ、君にはねっ」「二発目っ!?」


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