ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ。
「……退いたみたいだな」
静かになった森の中で、俺は独り言ちる。向こう側の損害も増えたからか、唯一残ったキャスターも撤退したらしい。後はキャスターの勢力しか残っていないから、向こうの脅威度はだいぶ低くなっただろう。次の機会があれば確実に打ち取ろう。相手側の英霊、謎の勢力の敵と二正面で戦うのは得策ではないしな。どっちかと戦っているときにどっちかに奇襲されたりなんてことがあったりしたらたまらないしな。
「……一度戻ろう。向こうの動きも確認しないといけないしな」
「そうだね。行こうか」
そういいながら、エルキドゥが俺の手を取る。……なんか妙に近いな? アーチャーたちと合流するまでの間、少しの気まずさを覚えてしまった。
・・・
「――っと。ただいま」
「あっ! ギル様! おかえりなさいませ!」
先ほどいた屋根の上に現界すると、壱与が出迎えてくれた。近くに謙信と信玄もいたので、こちらは一通り落ち着いたのだろう。パレードも終わったようで、街の人たちは騒いではいるものの先ほどまでの熱狂は落ち着いているようだ。
「→ギル。おかえり。今のところは特に危険もなし。お疲れ様」
「ああ、ありがとうカルキ。カルキもお疲れ様」
「→ギル。ん。言葉での褒美もいいけど、物理的にも希望。なでなでとか。上か下の口でのキスでもよい」
「よくはないだろ。屋外だぞ」
俺がそう突っ込むと、カルキは横に持つ個人用宇宙船だかをポンと叩いた。……いや、それがあるからオッケーでしょとばかりに主張されても。軽く首を振っておくと、目に見えてしょんぼりされてしまった。……いや、ごめんとは言わないぞ?
「ひょーぉ! ひっさしぶりの鎧姿……はぁ、はぁ……えへへ、お舐めしますね、ぐへへ」
「えぇ……?」
確かにこの全身鎧着たのは久しぶりだけど、舐めたくなるぅ……?
「とりあえず舐めなくていいよ。汚いし」
鎧の足先を舐めようとしていた壱与の首元を持ち上げてやめさせる。某子供名探偵みたいな持ち方をされた壱与は、そのまま俺の頬をぺろぺろ舐めてきた。おっと。なんだなんだ。今日はワンコの気分か? ……首輪つけてするかぁ、今夜……。
「こっちにもガリアの軍を押し返した話は来てるよ。それで今お偉い人たちはてんやわんやだ。国境超えていけるとこまで行くんじゃないかな」
俺が今日の夜の予定を考えていると、謙信が俺がいなかった間の情報を教えてくれた。俺たちのこともあり、ガリアの『反乱軍』を押し返して、進軍中とのことだ。
「……少しは時間も空きそうだな」
「ふむ、そのようじゃな。一度目途もついたことじゃし、御館様のところにでも戻ろうじゃないか」
「おーおー、そうしようじゃないか。ワシも久しぶりに運動したからちょー疲れちったしの。このぷにぷにぼでーでも疲れるんじゃのー」
アルキメデスが肩をぐりぐり回しながら自分の肩をもむ。……ずいぶん柔らかそうだけどな……?
「おっ、なんじゃそんなに見て。揉みたいのか? よいぞよいぞ。年長者の肩を揉むのは若者の仕事じゃしの。……ほれ」
そういってこちらに背中を見せるアルキメデス。……たぶん俺のほうが数百年くらい年上だけど、まぁ従っておくとするか。その肩に手を当てて優しく揉んでみる。……やっわらか! なんだこれ。信じられないくらい溶けた雪見大福みたいな感触する……何にも凝ってないぞこれ……。
「ふぉ~……そこそこぉ~……」
……本人は気持ちよさそうだし、良しとするか。きっと本人にしかわからん凝りがあるんだろ。
ちなみにだが、そのあともう少し下を揉まされそうになり、他のサーヴァントたちに四肢を拘束されて壱与にぽかぽか殴られていた。……まぁ壱与の力はクワガタと戦ってギリ勝てるくらいなので、たぶんそんなに痛くないだろう。……見た目的には寄ってたかって小さな女の子を組みしだいてリンチている現場なので、もう少ししたら止めるとしよう。
「おぉー……ちょうどよい力じゃぁ……全身の関節が伸びて首のコリも取れるぅ~……」
……本人的にも良いストレッチとマッサージになってるっぽいし、止めなくても良いか……。
・・・
あれから、俺たちの知らないところでいろいろと動きがあったらしい。ガリアの軍を押し返したこちらの軍は、かなり押し返し……ガリアの領土を少し削ったところで止まったとのことだ。止まったのはお互いにこれ以上進めなくなったからという単純な話だ。ロマリアの軍はガリアの軍に比べて少なく、全勢力をかけるわけにはいかないため。そしてガリア軍は数は多くロマリア軍に勝っているものの、ロマリア軍が掲げる『聖戦』という大義名分にしり込みしている、というところだ。今は何とかという大きな川を挟んで対峙しており、その間にある中州のようなところで決闘をしながらちょっとずつ小競り合いをしているそうだ。
……また聞きみたいな言い方をするのは、俺が今そこにいないからである。どこにいるのかというと……。
「ギル様! 南地区の再開発がほぼ完了しました! 今は西の崩壊した地区の瓦礫除去も完了したため、そちらに人員を回す許可をください!」
「辺境伯様! 商人が謁見を申し込んできております! 空いた日はございますでしょうか!」
「オルレアン様! トリステイン女王より書簡が届いております! 返事は今すぐと言われております!」
アルビオンの執務室である! 少し放置しすぎたというか、卑弥呼達に任せすぎてそこからジャンヌとペトルスに任せたらそりゃ崩壊するよなとか色々と思うところはあるんだけど、ジャンヌから本気のヘルプ念話が来ては帰るしかあるまい。ほぼ壊滅的な空飛ぶ島とはいえ、俺の領地なんだし、さすがに放置しすぎていたなと反省はしているんだが……。
「本当に最低限何とかなってるって感じだな」
住んでいる民たちは飢えてはいないし住むところもあるけど、発展はしないだろうなぁ、という状況である。……ここからは内政のターンかな。あー、俺も天空の神殿からかわいらしい天使に全部任せて天災振りまくだけの仕事したいなー……。
「人員の割り振りはそちらの長に任せる。報告書だけ持ってこい。商人は応接室で待たせておけ。後で担当の者を向かわせる。アンリからか……なになに……?」
文官たちから上がってくる報告やら許可申請やらを処理してから、アンリからの書簡を広げる。……孤児院? ……ああ、そういえばうちにも作ってたな。色々引き取ってたけど……今度見に行かないとなぁ。どんな子たちがいるのか気になるし、将来的に何が向いてそうかも確認したいし……。で、その視察ねぇ……えーっと、なるほど、こっちの孤児院にアンリが視察にきて、今度は俺が向こうに視察に行く感じか。ふぅん……お互いの孤児院経営の手法を共有し、運営状況を向上させる……ねぇ……。これアンリの止まる場所俺の居城になってるし俺の止まる場所がトリステインの城になってるから、アンリが会いたいだけなんじゃ……。ま、まぁ、大義名分としては十分だし、良しとするか……。
「うん、日付的にも問題なさそうだな。トリステイン側の指定した日程で問題ないと返しておいてくれ」
「はっ!」
さて、あとは溜まってる書類を片付けてっと……あー、生前を思い出すなぁ……。
「それやりながらでいいからわらわ達の話聞ける?」
書類仕事をしている俺の対面に座る卑弥呼が、頬杖を突きながら半目でこちらを見る。……なんだその「よくわからないけど、なんかわかった」とか言い出しそうな目は……。
「一応……い・ち・お・う! あっちにはボケの壱与を置いてきたけど……ほんとに大丈夫なわけ?」
「ああ、壱与だけじゃなくてエルキドゥもいるし、小碓もついてくれてる。マスターたちを置いてきても守ってくれるって思ってるから壱与を置いてきたんだよ」
鬼術で色々と補助ができる壱与を置いてくるのが一番だろう。……本人は泣き叫んでたけど。めちゃくちゃ足に縋り付いてきたから思いっきり振り払ってきたけど。そのあとびったんびったん跳ねて喜んでたみたいだからよかったよかった。
「……で? 次はどうすんのよ。ろまりあの『聖戦』にまだ付き合う気?」
「んー、この戦争を利用して少しガリアには食い込みたい気もするんだよな」
何せタバサのこともあるし、向こうにいる『虚無の使い魔』のこともある。まだ最低でも一騎、あっちにはサーヴァントが残ってるはずだしな。それにしっかり片をつけてから、あの謎存在に対応したい。多正面作戦は避けたいしな。
「ふーん? なら、またろまりあで戦争? いーわよぉ、また吹っ飛ばしてきてあげる!」
ぶん、ぶんと銅鏡を卓球のラケットみたいに振る卑弥呼。……それの使い方それで正しい? 完全に火サスの犯人の灰皿の振り方だけど……。ま、まぁ誰かを害するという意味では同じだけどさ……。
しかし、特殊な存在とは言えだいぶこの世界に食い込んでしまったなぁ……まぁ俺は特殊な存在だからその辺は織り込み済みでここにきてるんだが……。
「……ん?」
報告書の中に、見覚えのある名前を見つけた。……え、旅行? 確かに景観はいいけど観光地になるくらいの整備とかしてないぞ? ……アルビオン観光地化計画か……うん、草案くらいは作っておこう。
報告された人物に対する招待状と一緒に、アルビオンの一区画……国有の土地にしているところを事業化する草案をまとめる。
「……さて、受け取ってこの城に来るまでには時間がある。……自動人形たち、もてなしの準備をしておいてくれ」
外見はともかく、中は物がそろっているから、彼女を迎えるくらい問題はないだろう。……ガリア以来だな。ああ、戦火に巻き込まれないように『旅行』ということで出国させたのかな? まぁ、立場的に分散してくれないと危ないしな。
「……しかし、イザベラがここにいるとはなぁ……」
ほんと、なんの偶然なんだか。
・・・
「っしゃー! 十二連勝じゃあ!」
赤い鎧の人物が、澄んだ声で勝ち鬨を上げる。ガリアとロマリアの両軍がにらみ合っている川の中州でいつの間にか行われるようになった一騎打ちによる領土争奪戦は、今のところロマリア側だという通称『鎧の騎士』が二日ほど占領し続けている。
ロマリア側からは歓声が上がり、ガリア側からはブーイングが飛ぶ。これもここ二日ほど毎度のことであった。
「かっか! なっさけないのぅ『がりあ』の貴族どもは! ここまで手加減してもわしを破れぬか!」
最初は全身鎧だった『鎧の騎士』も、三戦目で兜を脱ぎ、五戦目で手甲と脚甲のみになり、七戦目からは手のひらから放つ謎の光も使わなくなり、徒手空拳となったが、いまだに彼女を破る貴族は出てきていなかった。その豪快な性格と全身鎧から偉丈夫を想像されていたが、兜を外して女性だと知られたあたりからは一騎打ちついでに求婚されていたりもしたが、『わしを打ち破れぬ者になど嫁ぐかボケ』と言われてしまい、今ではこの魔法すら拳で弾く謎の女性騎士を手に入れようとガリアの貴族たちは躍起になっていた。
「……はぁー……あいつも馬鹿だなぁ……」
ロマリア側の陣地でそれを見ながらため息をつくのは『剣の騎士』と呼ばれている美しい黒髪の美少女である。こうして中州での一騎打ち騒ぎが始まって一時間もしたころにはあくびをしながら鎧まで脱いでしまう始末であった。今はもう完全に気を抜いて空を見ながらボケっとしていた。
「……殿も領地に帰っちゃったしぃ……はーっ、あのバカ鎧の面倒押し付けられちゃったしぃ……んあー、味方でもいいから斬ろうかな……」
何かしらこちらを監視する気配は感じているので、そんな剣呑な言葉も漏れだす。
「お、十三人目も飛んだみたいだね」
思いっきりぶん殴られて水切り石みたいに水面を跳ねてガリア側に戻っていった挑戦者を見ながら、『剣の騎士』……謙信はもう一度ため息をついた。
「はーっ……おそら、きれいだなぁ」
快晴の空に、信玄の笑い声が響くのだった。
・・・
「はー、よくわからんものをつくるもんだなぁ」
陽の光の差さぬ、しかし極度に明るい地下室で、エルフの一人が両手を虚空に挙げて目の前に『何か』を作っていた。
それは『火石』と呼ばれる『火の力』を凝縮したもので、自然に取れることはほぼない、希少価値の高いものであった。
「んー、この体の知識で何とか作ってるけど、あの……あの……えっと、そう、ジョゼフとやらはこれを何に使うんだろうか?」
周りを囲む巨大な櫓を燃やし、そこで生まれた熱を凝縮して作成しているため、これだけ炎が燃え盛っているのにこの地下室は真冬の外のような寒さである。この体の持ち主はそれを特に感じていないため活動に制限はかかっていないが、『非効率的なエネルギー源の作り方するなぁ』と面倒には思っていた。
「こんなことするくらいなら恒星をちょちょっと引っ搔いて固めればいいのに……」
それができないから私もこうやってるんだけどな、と自嘲気味に独り言ちる。この体に乗り移ってからというものの、能力に若干の制限を受けることになってしまっていた。この地に降り立った時点ですでに『テクスチャ』の影響を受けているのに、さらにそこにある『器』の影響まで受けては、実際の力をマイナス何乗すればいいかわからないほどだ。
「うおー、炎の精霊、こーい」
面倒なので省略した呪文を使い、燃え盛る炎に宿る精霊をまとめ上げ、固め、圧縮していく。『小さな太陽』と言えば聞こえはいいが、ほんとに小さすぎて暖炉の火くらいだろこれ、と思うくらいには効率の悪い(本人談)『火石』が完成する。
「んー、こんくらいでいいのかねー。量が欲しいのか質が欲しいのか言われなかったからだいぶ適当に作ったけど……」
出来がいいものでこちらで言う半径20リーグほどを焼き尽くせるほどのエネルギーの秘められた『火石』を、このビダーシャルと呼ばれるエルフはこれで10個ほど作成していた。
「本来のこの体の持ち主ならこの期間で三つ……いや、五つが限度だったろうが……ふっふっふ、私のこの才能が怖いな。まぁ、我々のいたところではこの形のエネルギーが一番汎用的だし、扱いやすいのもあるが……これ、何に使うんだろ? ここの星の生態系でこんなエネルギー必要な生態してるやついないはずだし……ま、いっか! 二つほど私のお菓子としてとっておこう!」
そういって、ビダーシャルは適当に取った『火石』を三つほど口の中に放り込んだ。体内に仕舞っておけば、あとで必要な時に開放するだけでエネルギーが得られるからだ。
「おっと、そろそろジョゼフも来る頃だな。薪も追加しておかなくては。ふんふんふーん。私って働き者だなー」
・・・
「ねえアンリ」
「? なにかしら、マリー」
「……この案、とってもいいとは思うわ。これを受けない人間なんていないってくらいにはね」
「ならいいじゃないの」
トリステインに戻り、『戦争を止める手段』を考えていたアンリエッタは、家臣たちに猛反対されつつも編み出した一つの『外交案』をまとめ上げているところだった。そこに、その様子を見ていたマリーが少し悲しそうな顔をして口をはさんだ。
「……相手が、同じ思考をする『人間』……ならね」
「?」
「『王族』っていうのは、基本的には人間とは違う生物よ。違う思考で動いて、違う論理で動いて、違う動機で動くわ。アンリはまだそれを知らないようだけど……本当の『王』というのは……意味の分からない別存在よ」
そういったマリーの表情には、自嘲気味な笑みが浮かんでいた。
「私からすれば、あのジョゼフとかいう王は……アンリや私より……王さまに……ギルに近いわ」
マリーの言葉に、アンリは少しだけ赤面する。愛する男の名が唐突に出てきたからだ。そういえばしばらく閨に呼ばれていないから、これがひと段落したら突撃しに行こうかしらと悶々とした考えが頭に浮かんで……マリーに軽く頭をたたかれる。
「あいたっ」
「真面目に聞いて?」
「……はい」
笑顔って怖いときもあるのね、とアンリは少しだけ自身のサーヴァントに恐怖を抱きながらも、マリーに向き直る。すでに書簡は作成済みで、覚悟さえ決まれば後はこれをガリアに持っていくだけだからだ。
「……その案に、たぶん向こうは乗ってこない。『世界征服』なんてものじゃない、何か別の……彼の個人的な野望のために、彼は『聖戦』を引き起こさせた。だから、アンリ、それをもっていくということは……あなたは進んで『地獄』を見に行くということよ」
「……マリー……ありがとう」
「え?」
話にそぐわない急な礼の言葉に、マリーは戸惑った。そんなマリーに微笑みかけながら、アンリは言葉を続ける。
「あなたが私のサーヴァントで本当によかったわ。私は最高の友と、最高の恋人と、最高の仲間を得たのね。……マリー、私と一緒に『地獄』を見に行きましょう。私、おともだちに約束したの。『戦争を止めて見せる』って。万が一、億が一、これでガリア王が止まるなら……私はそれにかけたいの。女王として未熟でも、一つづつ進んでいきたいの。私、トリステインの『女王』なのよ」
「アンリ……」
その瞳に、決意の光を見たマリーが、諦めたように息を吐く。
「本当に強情ね、あなた。……まぁいいわ。一緒に地獄を見に行きましょう。何かあれば、私が一緒に突っ切ってあげる」
「ふふ、ありがとう、マリー。……それに、マザリーニにも心労をかけてるわね。……無事に帰ってこれたら、安心できることでも言ってあげようかしら」
「あら、いいわね。お休みあげるとか?」
今回の『外交案』に重臣たちが猛反対する中、一人だけ草案を見て晴れやかな表情でアンリの前に膝をついたマザリーニ枢機卿が、アンリの脳内に浮かぶ。
「ええ! 私、この戦争が終わったら、王さまと……ギルと結婚するの!」
「――ああ、ごめんなさい王さま。次に相まみえるのは……座でのことになるかしら」
とても晴れやかな顔で言い放つアンリの前で、マリーはギルに別れの言葉を告げるようにつぶやく。座で学んだ言葉のうちの一つにあった『死亡フラグ』という言葉が浮かんでしまったのは、仕方のないことだろう。
・・・
「結局15連勝か。だいぶ稼いだんじゃない?」
途中からギーシュたち水精霊騎士団のみんなが負けた貴族を捕らえ、身代金の交渉をして返すという作業を挟んでいたので、信玄の懐は少し暖かくなった。「少し」というのは、得た身代金の半分ほどをギーシュたちに「手数料だ」と渡してしまい、さらに残りの半分もロマリアの軍に「これで酒でも飲め」と渡したからである。
「んむ。まぁ稼いだが。……これ以上に稼ぐのが我が主じゃろ。それ考えると虚しいもんじゃて」
「……なにさ。テンション低いじゃん」
身代金をまとめている袋を渋い顔で見る進言をのぞき込む謙信。「んーむ」と少し悩んだそぶりを見せてから、信玄は小声で謙信につぶやく。
「妙なことになってしもうた。ほれ。これじゃ」
そういって、信玄は袋の中からくすんだ色の封筒を取り出す。
「え、何さ。身代金の中に恋文入れられてたの?」
「違う。あの青髪の……なんじゃったか。たばさ? とかいうおなごがおるじゃろ」
「ああ、あのちっこい。それがどーかした?」
「あやつの知り合い……『しゃるろっと』という本来の名を知る者からの手紙じゃ。向こうの者共に看破されぬよう、身代金とともに持ってきていたのじゃ」
「あー、なるほど。……陰謀のにおいだなぁ……殿に相談する?」
「その方がよいだろな。たばさはあやつの良い人の一人じゃ。報告せねばいかんだろうな」
しばらく信玄は目を閉じて黙る。それが念話しているということだと気づいた謙信は、タバサ宛だという封筒を太陽に当ててみたり矯めつ眇めつしてみるものの、それで中身が透けて見えるわけでもなし、とため息をつきながらぽいと信玄の持つ袋の中に封筒を戻す。
「とりあえず伝えてはおいた。今日の夜に一度寄るらしいから、その時に直接渡しに行くそうだ」
「はえー、愛されてるねぇ、たばさちゃんは」
「うむ、ムネナシ族じゃからの。じゃなきゃ貴様ほどの真面目面倒女相手にせんじゃろ」
「は? 殺すよ」
「は?」のあたりですでに振るわれていた謙信の刀を、笑いながら避ける進言。
「はっはっは! そう熱くなるな! ……じゃがあの中州での一騎打ちでまだ不完全燃焼であったからな。夜まで時間もあるし……相手してやろう!」
「首が胴から切り離されても文句言うなよ……! クソジジイ!」
二人の勝負は日が暮れてやってきたギルにため息をつかれながら止められるまで続いた。
・・・
「急に呼び出すなりのもてなしはできるみたいね」
俺の目の前で少し不機嫌そうにしながらも紅茶を優雅に飲むイザベラに、俺は笑いかけた。
「そりゃこちらがホスト側だからな。イザベラに失礼にならないくらいのもてなしはするよ」
さて、呼び出して色々と話しては見たが、やはりロマリアとの戦争の話は聞いていたらしい。急いでガリアに帰ろうと準備しているところを、俺がタイミングよく呼び止められた、ということらしい。
「それで、帰るなってどういうこと? 私の国が攻められてるのよ!?」
話しているうちに気持ちが高ぶってきたのか、後半のほうは机をたたきながら立ち上がるほどだった。それもそうか。祖国が……しかも自分の父親が王をやってる国が『聖戦』と称して攻められてるんだし……一刻も早く帰りたいと思うのは当然だろう。……だが、ここでイザベラが帰るとその戦争に巻き込まれる可能性もある。王族の一人娘だ。いくらでも利用価値はあるだろうし……。
「それは……! そう、だけど……」
俺の説明に、イザベラは反論しようとしたが、そのままソファに腰を下ろす。頭の中では納得してくれたらしい。自動人形が注いだ紅茶を口にする。
「それに、俺としてはこうして俺の領地に来てくれたんだし、もうちょっと一緒にいたいな。……嫌か?」
「ん゛ん゛っ゛! ごほっ、ごほっ! ……い、いきなり何を……! い、嫌じゃないわよ! 嫌じゃないけど……!」
俺の言葉のタイミングが悪かったのか、イザベラは飲んでいた紅茶でむせてしまったようだ。まぁこの子ツンデレだから多分今の言葉は本心なんだろうけど……。
「……と、トリステインの貴族としてそんなこと言っていいわけ? ……その、一応ロマリア側でしょ? トリステインは」
「まぁそれはそうだけど……だからと言ってイザベラと仲良くしちゃいけない理由にはならないだろ? ……止めなきゃいけないのは、ジョゼフなんだし」
「それも……そうね」
とりあえず落ち着いたであろう、と思い、俺は座っていたソファから立ち上がり、イザベラに手を差し伸べる。
「夜に少し出かけないといけないから、今のうちに……アルビオンを案内したいんだ。エスコートさせてくれるかな?」
俺が安心させるように笑いかけると、イザベラもふっと笑って、手を取ってくれる。
「とりあえず景色良いところ行きたいわ。あんたの領地なんだし、いろいろ知ってるんでしょ? ……楽しませてくれるのよね?」
いつものように気の強そうな笑みを見せてくれるイザベラと、アルビオンを色々と回った。……泊まる場所はいいところがなかったのでこの白亜の城の客間に泊めることにした。……夜這い? ……しないよ。夜は忙しいって言ったろ?
・・・
「なんだ、貴様がこの部屋に来るとは珍しいじゃないか」
「ふん。そろそろジョゼフ様の計画も佳境だからな。お前の仕事がどうなったか、確認しにきた」
「なんだお前は。敏腕編集者気取りはやめてもらおうか。仕事は俺のペースでやる。それでお前もジョゼフも納得したはずだ」
陽の光が差し込む豪奢な部屋で、俺の背後から今回のマスターが話しかけてくる。なんでかは知らないがあの変人王にほれ込んでるらしく、こうして俺にあの王の『物語』を書くように依頼してきた変人マスターだ。まったく、俺はあまりマスター運がないのかもしれないな。
「まったく、普段はロクに話しかけもしないくせに、『進捗どうですか?』だけ聞いてくるのは優秀な編集者とは言えんぞ」
「はん。もっと会いに来いってかい? そんなナリしてるぶん子供みたいなこと思ってるんだね」
「おいおい、俺がガキに見えるのか? ならその目を医者に診てもらうんだな。少しは人を見る目がまともになるだろう」
「ガキ以外の何に見えるってんだい。……まぁいいわ。とりあえずこれからエルフのところに寄って、そこからロマリアに向かう。ここからはあんたにも同行してもらうよ」
「ほう」
ここからが佳境というのは間違いではないらしいな。ここで俺を連れていくとは……ついに俺の『宝具』を使う可能性ができたということだろうな。……ふむ、俺も仕事が終われば楽にはなる。少しは付き合ってやるか。脱稿という響きは気分がよくなる。これさえ終わればまた引きこもって好きな物語でも書くとしよう。
「……ちなみに進捗はどれくらいなんだい?」
「聞くな。そんなに絶望したいのか? 物好きな女だ」
「お前の宝具にジョゼフ様のこれからがかかってるんだ! 真面目にやらないと令呪で縛ってでも書かせるからね!」
「馬鹿か! そんなことに令呪を使われてはいい物語などかけるものか! 本当に貴様ら取り立てる側というのは叩けば何かが出てくると思う病気のようだな。診断は受けたか? 頭のだぞ?」
「はん! 医者に掛かって治るくらいならこんなことはしてないよ! ……とにかく! 作戦決行の日までには目途をつけておくんだね!」
そういって今回のマスター……ミョズニトニルンは出ていく。言いづらい名前だ。何度間違えそうになったことか。
「だが……そうさな」
今のやり取りで大分やる気も出てきた。ラストスパートだ。本当に嫌ではあるが、自分に追い込みをかけるとしよう。
・・・
「はぁ? ガリアに乗り込む? あ、ちょっとまて、タバサが王に? え、何これ。俺が少し離れた間になんでそんな話進んでるんだ!?」
それぞれの場所に送り込んだサーヴァントたちからの念話に、俺は執務の手を動かしながらもパンクしそうになっていた。きょ、許容量を超える問題が起きている……! ひりついてきたねぇ……!
まずはマリーから。アンリエッタがガリア王ジョゼフを止めるためにハルケギニア大王とかいう地位を作ってジョゼフをそこに推薦し、その代わりエルフと手を切ってもらおうと直談判しに行くという報告が来た。それはやめておいた方がいい、と思い、信玄を向かわせてるが……間に合うかどうか……。
そして次にその信玄……ではなく、その近くにいた謙信からの念話で、中州での決闘騒ぎの時にタバサを王に擁立し、ジョゼフに従う兵士たちに向け『正当な王位継承者』として立ち上がってもらいたいという手紙をもらったとのこと。タバサがガリア王族の『シャルロット』であるというのは聞いていたが……ここで来たかぁ……。うーむ、かなり妥当な線だし、ロマリア側から……というかヴィットーリオ側としてもそれを待っていたっぽいところがまぁ……怪しいところではあるな。
そして今やってる執務の内容が戦争中であり、侵攻されているガリア側からの難民及び孤児の受け入れの手続きである。戦火が近くなり逃げだすガリア国民やら逃げ場所のない孤児院からの要請があり、こうして土地に余裕のあるアルビオンが選ばれ、こうして人数を確認しながら受け入れているところなのだ。……あー、頭ぐるぐるしてくるぅ~。
「まずは今日タバサに会いに行くからその時に細部聞くとしよう。彼女としてもガリアをジョゼフから取り戻したい、とかって思いがあるかもしれないしな」
あとジョゼフのところに単身突っ込んでいくとかいう女王としてあり得ない行動をしてるアンリをいざという時助け出せるように準備しておくのと、向こういくついでにジャンヌとペトルス連れて行って難民たちの移動をやらせるか。『聖戦』にかかわるのは良しとしないだろうが、戦火から逃れる民たちを助けるためならばやる気を出してくれるだろうし。
気になるのはヴィットーリオとジュリオだな……あそこはサーヴァントもいるし何か腹に一物どころか十物くらい抱えてそうだからうちの頭脳担当の卑弥呼か壱与か謙信の意見は聞いておきたいしなー……。
・・・
「ある……よね、私も。……まぁ、揉めるかっていうとちょっと微妙だけど……」「どうしたの、ケンシン? おっぱい揉みたくなっちゃった? 私の……揉む?」「……くっ……いや、やめておくよ……今の私が揉むと……ちぎる可能性がある……!」「ち、ちぎっちゃダメなんだよ!?」「わかってる……! わかってても私はこの腕を……止められない……に、逃げてくれ……!」「え、ええ……? し、心配だわ……お、王さまに相談しなくちゃ!」「や、やめてよぉ……デカパイに嫉妬して千切りかけたとかバレたら死んじゃうぅ……」「……いつも凛としてるのにこういう時はかわいいのね……えっと、よしよし」「うぅ……抱きしめられてちょっと安心するけどこの大きいのに包まれてるとまたちぎりたくなるぅ……」「こ、怖いけど……よ、よしよし……」
誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。