ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ
――懺悔します。主よ。始祖ブリミルよ。私は、望まない男の人と関係を持ってしまいました。貞操を守るべき修道女としてあるまじき……でももう修道女じゃないからいいのかな……? い、いや、心に想う人がいるのに、その人以外とするなんて修道女関係なく問題じゃ……いやでも今の私はガリアの女王なんだし、政略結婚と言われればそりゃまぁ望まない人とのアレやコレやだってあるわよね……。
「……お、起きたか。おはよ」
固く祈ってから目覚めると、すでにベッド横の椅子に座っている王様がいた。……その姿を見ると、どうしても昨日のことを思い出してしまって恥ずかしくなり、再びシーツを被ってベッドに横たわる。……そうだとは思ってたけど、今の私は何も着ていない状態である。シーツに潜った私を見ても、王様は声をかけてくることなく椅子に座っているままだった。
……確かに、望まない交わりではあった。する前はジュリオに何度も謝ったし、いつもの癖で始祖にも祈ったりした。……でも、でも想像より遥かに……。
――気持ち、良かった……! もちろんこんなことで絆されてるつもりもないし、これからもそんなつもりはないが……こうして婚約してしまった以上、これからも王様とはこうして子作りの機会もあるだろう。そんなときに苦痛ではない、というのは相当喜ばしいことであったのだ。こ、心はジュリオを思っている。このままジュリオの計画のため、すべてを擲つ覚悟は変わりない。それは絶対不変であるだろう。……でも、この王様、だいぶお上手だった……! 姉と何度もしているというのもあるのだろうが……なんか、すごい、語彙がなくなるくらい気持ちよくさせられてしまったのだ。……最後の方はもっともっとと言っていたような気もするが、それは意識が朦朧としていた故の夢であったと思いたい。初めては痛い、とも聞くが、その痛みすらちょっとしたアクセントになったというか……人生の大半を祈って過ごしていた私が、そんなふしだらな感想を抱くなんて……と自己嫌悪もかなりある。
「……どうした? 昨日のが痛むか?」
さすがにベッドの上でもぞもぞ悶えていたら、心配そうに声をかけられてしまった。……うるさい。こちとらあなたの所為でこうなっているというのに、お気楽なものである。
「……痛くはない。大丈夫」
「そうか? それならよかった。……まぁしばらくは違和感もあるだろ。メイドを置いていくから、何かあれば伝えてくれ。大体のことはやってくれる」
そういって、王様……ギルは、飲んでいた紅茶のカップを置いて出て行ってしまった。残されたのは、昨日からいる有能な無言メイド……。気まずい……が、色々お節介はしないだけマシか。……これ、お股のところちょっとムズムズするのは……こ、これってその、まだ足りないって思ってるってコト……? そんな、破廉恥な! 私は敬虔な修道女! 一回そういうのやったからって今までの反動でドハマりするとか……くぅ……! 昨日の感覚が蘇って……! じゅ、ジュリオのことを考えるの! ジュリオ、ジュリオジュリオ……!
「……ふぅ」
――少し落ち着いた。やっぱり想い人のことを考えると心が落ち着く。……まったく、あの金色の王様ったらこっちが初めてってことも気にしないで好き勝手いろんなところまさぐってきて……! ……ダメダメ、それを思い出すのはダメよジョゼット。せっかく落ち着いたのに意味なくなっちゃう。……そう! これからのことを考えよう。これから私はシャルロットとして、あのアルビオンの王を利用し、エルフの国への『聖地回復のための遠征』を実行しないといけない。そのために、私はあの王を繋ぎとめておく必要がある! だからこれからもするのはジュリオへの裏切りなんかじゃない。むしろ、ジュリオのことを思っているからこそ私にできる、最大限の協力なのだ。あの王さまはサーヴァント……一度だけあったことがある、ライダーっていうジュリオの使い魔みたいな女の人みたいな、強力な力を持つ存在……。それがこちら側の計画に乗ってくるというのなら、ジュリオの……ロマリアの計画成功のために、最大限利用するまで……! そもそも向こうが警戒するまでなら全然問題ない。こちらの邪魔をするような懸念を抱かせなければいいのだ。なら、それをするのが私の役目! ……頑張ろう。
「入るよ」
「……ねえ、その『入るよ』ってやめれる? 決定事項みたいに言わないで。いったん許可を取って」
「ああ、まぁ、良いでしょそのくらい。君も私も、そんなことを気にする間柄じゃないし」
そういって、にっこり笑う剣の騎士。呼び方に困っている私が戸惑っていると、彼女はセイバーと呼んでほしい、と言った。
「それで、何か用?」
「ん、そうだね。今日の園遊会の準備はどうするかなって。ほら、ここ……ずいぶん『ネズミ』が多いし」
そういって、セイバーがネズミの尻尾を掴んで見せてくる。
「なーんか、紙を運んでるっぽいんだよねー。……こういうのたくさん来ても困るからさ。早めに動いてもらおっかなって」
……まさか。ジュリオは幻獣を操る力を持っている。それを利用して隙間を縫えそうな生物を送ってきている……? それを目ざとく見つけるセイバーに、私は恐ろしさを感じた。……やっぱり、ジュリオとの連絡は取れないと思っていい。……最初に聞いた計画のため、こちらでも動くしかない……!
「さ、それじゃ行こうか」
有無を言わせないセイバーの言葉に、私は頷くしかできなかった。
・・・
園遊会二日目。俺の元には自動人形のほかに、何人かのサーヴァントの姿があった。白いドレスのカルキ、こちらの世界ではあまり見ないエキゾチックな雰囲気のドレスの卑弥呼と壱与。背格好が似てるから、卑弥呼と壱与は服とかをそろえると姉妹に見えないこともないな。……ジョゼットとシャルロットのことがあってからか、姉妹という言葉に少し敏感になってるのかもしれないな。
「→ギル。これは結構もったりしている。何かあった時動きにくいかも」
「ああ、それスカート部分外れるようになってるんだよ。なんかあったら腰の留め具外したらいい」
そうすればフリルのついたスカート部分がばっさり落ちて、ハイレグみたいな格好になる。それはそれで恥ずかしいだろうが、カルキの戦闘時に着ているものと似通っているので、着せた時も特に何も言わず受け入れていた。
卑弥呼と壱与のドレスもいつも着ている戦闘用の服に似せている。和服というよりは原始的な服ではあるが、デザイナーの手によって意匠を取り込んだこのドレスは、違和感なく二人に似合っている。
「さて、今日三人に来てもらったのはほかでもない。昨日の騒ぎでどこも浮足立っているだろうし、そんなときじゃないとできない情報収集もあるだろう」
そのためにオールラウンダーなカルキ、頭脳派の卑弥呼と壱与に来てもらったのだ。……ちなみに信玄は『アニエス』としてアンリの近衛として参加しているし、小碓はもうすでに園遊会に紛れ込んで情報収集してるだろう。この三人は俺の側近として参加させるために、この待合室で一緒に待っていてもらっているのだ。
「ジョゼット周りには自動人形や謙信についてもらっているけど、ロマリアの方で何か動きがあれば卑弥呼達に動いてほしい。カルキは何かあった時のために緊急時以外は俺の隣から動かないでくれ」
「→ダーリン。隣から離れるなっていうのはプロポーズ? 早速留め具を外す時が来た」
「……それ一度外すとつけるの時間かかるから今はやめとこうな。卑弥呼。そのまま壱与を抑えといてくれ」
簀巻きにされて猿轡まで嚙まされている壱与の上に、今卑弥呼は座っている。ぐねんぐねん暴れてはいるが甲虫王者にすら勝てない非力さでは振りほどくことは不可能だろう。今のカルキの発言でさらにびったんびったん跳ね始めたので、舌打ちをした卑弥呼の踵が腹に刺さっていた。……弟子に容赦ないなこの女王……。
「さて、二日目は……何々?」
この園遊会は何日か続くらしく、その日その日のプログラムみたいなものも事前に貰っている。一日目は立食パーティーと、楽士たちによる音楽演奏、あとは庭園の開放とか何とか。二日目である今日は一日目とほぼ同じ……間に劇が入ったり、音楽が昨日とは違うものになったりはするらしいが、おおまかには変わらず屋外での立食パーティーだ。
「うん、これなら問題なくみんなを連れ歩けるな」
屋内であれば、身の回りに連れていける人数も絞られたりしてしまうだろうが、屋外なら別だ。ここで呼び出されるのを待って、園遊会の会場に向かうとしよう。
・・・
かなりの人が参加しているこの園遊会では、一人一人の声は小さくともこれだけ集まればざわめきとしてかなり大きいものになるなぁ、と今までのパーティーを思い出して、苦笑する。ま、こんだけ騒がしければこそこそと話していてもわからないだろう。
「壱与、会場は掌握できたか?」
「もちろんです、ギル様。この場にいる精霊を説得しておりますし、壱与の鏡も精霊が隠してくれていますが会場中にばらまいてありますよ」
「……」
「……ど、どうかされましたか、ギル様?」
私なんか変なことやりましたか? とこちらを見上げてくる壱与に、俺はいいや、と頭を撫でながら言う。
「なんか……真面目にやってる壱与見ると調子狂うな……」
「な、なんとぉっ!? 壱与はいつだって真面目ですぅ! 真面目にギル様のためにお仕事しますし、真面目にギル様からのご褒美も楽しみますし、真面目に卑弥呼様をぶっ殺そうとしてます!」
「コイツマジでいっぺん決着つけないとだめかしらね……?」
俺を挟んで壱与とは反対側に立つ卑弥呼が、ぱきぽきと指を鳴らす。……喧嘩は後でなー。
「カルキ、今日は俺の秘書としての動きで頼む。俺に接触してきた人物を覚えておいてくれ」
俺ももちろん覚えておくつもりだが、人が多い上にやり取りが数秒の人間もかなりの数存在する。そんな人物まで完璧に覚えてられるかと言われると自信ないので、そこは最新にして最強のAIたるカルキに任せようと思う。
「→ギル。了解。何もないとは思うけど、困ったら声をかけて」
そういって、カルキは少しだけ動きを変える。……コイツすごいな。今の一瞬で、『戦える』感じをなくしたぞ。ある程度の実力者が見ても、カルキが戦えるような人間には見えなくなった。非戦闘員のような体の動かし方に変わったのだ。先ほどまでだと俺も勝てるかわからんな、と思っていたけど、今だと普通に押し勝てそうだと思ってしまえる。それほどまでに、体の使い方のようなものが変わっているのだ。……実際はそう見えているだけで一瞬で戦闘モードにはなれるんだろうが……ここまで一瞬で切り替えられると、さすがの人工知能と言わざるを得ないな。
そんな三人を連れて園遊会を歩くと、いろんな参加者から声をかけられる。そのたびに乾杯だのぜひこれは食べてくれだの今度アルビオンの方に難民や孤児を受け入れてほしいだのそちらの王宮や省庁で人を募集していないかだの手合わせ願いたいだのいろんなことをいろんな口調でいろんな人から言われた。カルキがいてくれてよかった。俺はこの内容を覚えきれる自信はない。
「お、劇をやるみたいだぞ」
「あら、ほんとね。……演目は……げっ、暴君と忘れ形見の王女ぉ……? 趣味悪いんじゃないの、こいつら」
あー……まぁ、シャルロットの戴冠の記念園遊会だし、今回の王位は正しいものだって示すための劇なんじゃないかなー……まぁ、こういうプロパガンダみたいなものは権威を背に動くものたちにとって必須のものである。俺もよくやったものだ。生前小柄な子ばかりが妊娠してしまったときは意図したものじゃないとお触れを出したし、逆に年上ばかりが妊娠してしまったときは行かず後家が好きなわけではないとお触れを出した。……効果は全然なくて、いろんな立場の人間から妹や娘を紹介されたり、姉や未亡人を紹介されたりした。なんだってあんなに極端に動くのか……結局そういう極端なことが起きた方がみんなの記憶に残るからかな……。いやまぁ、将の中でも結構な年上三人同時妊娠は確かに話題に上るほど極端なものだけども。
「はえー、劇ってあんまり見たことないんですよね。むかーし卑弥呼様と壱与の子どもたちにやってあげた人形劇ってやつとは別なんですよね?」
「ん? あー……まぁ、似たようなもんだよ。人形じゃなくて人でやるってところ以外はね」
「なるほどー……じゃあ血とか内臓とかは出るんですか?」
「普通の人は出たら死ぬから出ないと思うよ」
なんで変なところでバイオレンスなところ出してんだ壱与は。こいつ俺に対してはやられる方が好きなくせにそれ以外だとやる方が好きみたいだからな。本当に倒錯した子である。
「……壱与の血とか内臓とか見ます?」
「見ない。先回りして潰しておくけど座に帰ってても見ない」
「いけずぅっ! でもしゅきっ!」
こちらを見上げながら自分のお腹を指さす壱与に、冷たく言い放つ。ここで冗談でも頷けば普通にこいつは切腹するだろうしな。迷いがなさ過ぎて怖すぎる。そのあとのこととか考えないんかコイツ……。
「っていうかそんなことして壱与が座に戻ったら寂しいだろ。そんなこと言うなよ」
「ええ……なんでこんなところでいいこと言ってんのコイツ……」
「きゅん……は、はひぃ、ギルしゃまぁ、壱与はギルしゃまを寂しくなんてさせましぇん……」
「ええ……なんでこんなところでうっとりしてんのよコイツ……」
壱与の顎を持ち上げて決めてみると、どうやら刺さってくれたようだ。うっとりして俺にしなだれかかってきている。可愛い奴め。それを見て卑弥呼がドン引きしているが、卑弥呼だって最初のころは軽いスキンシップで気絶したりしてたんだからあんまり言う資格ないと思う。
「→ギル。すっかり放置されてる優秀な人工知能が存在感出すために質問してあげる。ガリア女王にはいつ話しかけに行くの?」
「……すねるなよ、優秀な人工知能。ジョゼット……いや、シャルロットにはもう少しあそこで悶々としてもらおう。敢えてからかわない方が、可愛い反応を見せてくれたりするものだ」
「→女の敵。なるほど。流石は手慣れてる。……焦らしプレイがお好き?」
「そうでもないよ。するときは新鮮なまま食べたりもするし」
「→絶倫王。……私も、新鮮」
こちらを見てそう言ってくるカルキ。……いやまぁ確かに最新の英霊と言われればそうなんだけど……なんせ人類の末期に生まれるという英雄なんだし……。まぁこの子はその皮を被った最後のAIなんだけど。……そう考えると本当に新鮮……ああいや、最新の英霊っぽいな。
「はいはい。いちゃこくのは後でねー。今はこっちに集中なさい。……わらわも後で構う様に。新鮮じゃないけど……こなれた女が恋しいときもあるでしょ?」
ぱちん、とウィンクを一つ飛ばす卑弥呼。おー、今のは所謂『いい女』っぽいムーブである。流石は我が公国の頭脳其の一である。
「ま、あの影武者に今話しかけないのはわらわも賛成。こんな衆人環境の中じゃ、わらわ達じゃなくて向こうが出すボロがこっちに火の粉を飛ばしてくることもあるしね」
「→古の女。確かにそれはそう。こちらで見た限りだと、彼女は別段智謀や武力に優れているわけではなさそう。素質はあるんだろうけど、今はまだ『虚無』の力を見出されただけの女。こちらから仕掛けるのは得策じゃない。……こちらが、受け身になる方がまだやりやすいと思う」
「ふむ……まぁ俺の戦い方もそうだが、守りを固めて相手を跳ね返す方が性に合っている。その動き方で行こう。……ただ、何が起きても良いように準備だけはしておくぞ」
こうして園遊会でいろんな国の貴族たちとパイプを作っておいたりするのも、準備の一つである。トリステインは問題ないだろうが、ガリアやロマリア、ゲルマニアがどう動くか、それを早く察知するためにも、目や手を増やしておくのは大切だ。
そうこうしているうちに、劇の準備が整ったのだろう。ジョゼットが護衛に先導されながら、舞台がよく見える位置へと案内されていくのが見える。……あそこに呼ばれた王族が行くんだよな。うーむ、緊張する。っていうかどういう席順なんだろ。ヴィットーリオと隣とかだとだいぶ気まずいぞ。今のうちに会話デッキでも作っておくか。ええと『天気良いですね』『好きな食べ物なんですか?』『犬派ですか猫派ですか?』『きのこたけのこ』……おっと、これは禁止カードだったか。犬派猫派もまぁまぁ制限カードではあるが、あの優し気な法王のことだ。にっこりして『どちらも好きですよ』くらいは言ってくれるだろう。……この世界だと『竜派ですか?』とかにも派生できるだろうか。ううむ、会話デッキとは奥が深い。もっと上級者になると『今日の下着の色は何色ですか?』と『今日の靴下の色は何色ですか?』を使いこなすらしい。なんて世界だ。
「……壱与、今日の下着は何色だ?」
「? 白ですけど……あ、ちょっと濡れてるので灰色かもしれません……」
「ありがとう。冷静になれたよ」
もじもじしながら答えてくれた壱与を撫でてあげながら、俺にこのデッキはまだ早いな、と頷く。結構考え込んでいたからか、俺の元にも案内の人間が来て、舞台真正面にある特設の席、その最上段に案内された。へー、こういうのってやっぱり序列とか作らないためにみんな横並びなんだ。……まぁ正面から顔見るよりはましか。隣がアンリでありますようにっと。
「お」
「あら」
俺の祈りが通じたのか、それとも普通に幸運がいい仕事してくれたのか、ど真ん中に座るジョゼットとアンリの間に案内された。その反対側にはヴィットーリオ、さらに向こうにはゲルマニアの皇帝アルブレヒトが座っている。……ゲルマニアの皇帝ともあんま話したことないからな。ギャル風に言うと『あんま絡みないけどよろしく~』みたいなもんだ。……ギャルと言えばギャル女神とも久しく会ってないな。つながりがほんのりうっすらになってるから向こうも繋げられないんだろうが……寂しいものである。
「ふふ、空席でしたから、もしやと思っておりました。……嬉しいですわ、王さま」
後半はかなり声を落として、俺に囁くアンリ。……なんていうか、こういう時の色気はすごいもんである。ルイズが『その色気と同じくらい政治の手腕があればよかったですね』とか真顔で皮肉を言うくらいだ。もちろんそのあとは普通に喧嘩してたが。女王と公爵家の娘がやるキャットファイトにしては、ずいぶんと乱暴だった。髪の毛とかがっしり掴んでたしな。高そうなドレスとか全然蹴ってたし、なんだったらアンリも動きにくかったのか自分で破ってたし。マザリーニに本気で怒られてしょんぼりしてたけど、まぁそういうやんちゃなところもかわいいよな。
そんなアンリに俺も嬉しいよ、と返すと、反対側からちらちらとみられているような気がする。……いや千里眼で見れるので『気がする』ではないのだが、ジョゼットの視線だけがこっちを見たり反対側を見たりと忙しそうである。昨日閨を共にした俺が隣にいるのと、自分の味方であるロマリアが逆側の隣にいるのとで、落ち着かないのだろう。こういう時声をかけると向こうも慌てて変なことを言ったりするので、ここはスルー一択。それぞれ背後にお供を一人か二人連れてきているので、ヴィットーリオの後ろにはジュリオもいる。だが、ジョゼットの後ろには自動人形と謙信がいるので、うかつな話はできない。ヴィットーリオ達もそれがわかっているのか、ジョゼットともゲルマニアの皇帝ともあたりさわりのない話をしているのだろう。そしてこちらの後ろにはカルキと壱与がついてきている。卑弥呼は会場で小碓と接触し、情報交換をする予定だ。アンリの後ろには、マリーと信玄。ま、だろうなという人選である。
……え? こういうところに壱与を連れてきて大丈夫かって? 卑弥呼は一人で動いてもらっても安心できるけど、壱与はむしろ手綱を引いておかないと安心できないからな。少しくらい向かなくてもこうして手元に置いておいた方がいいのだ。それにこういうところでTPOわきまえて我慢してる壱与を見るのも、乙なものだしな。
「……王さま、何やら昨日はお楽しみのようで」
「……わかってるって。今日の夜はそっちの部屋に行く予定だったから」
「……なんだか、催促したようで申し訳ないですわね」
おほほ、と上品に笑うアンリ。引き続き目は笑っていないので、今日の夜約束通り部屋に行かなければたぶん明日あたりは常に俺について回ってきそうな感じがする。眠らなくてもいい英霊の身体でよかったと本当に思う。この園遊会の間は、たぶん寝る暇ないんだろうなぁ……帰ったらルイズに膝枕でもお願いしてみるか。ダメそうならテファにお願いすれば、対抗してやってくれるだろうし。
先の楽しみを考えながら、俺は椅子に座りなおす。背もたれに背中を預けつつ、寝ないように気を付けよう、と気合を入れなおすのだった。
・・・
……きょろ。……きょろ、きょろ。
……お、落ち着かない――! ガリア女王である私の席が真ん中なのは良いとしよう。その辺は覚悟してた。両隣がロマリアとアルビオンなのは聞いてない……!
「――のようですね?」
「え? あ、はい」
混乱していたからか、教皇さまの言葉を上の空で聞いてしまっていた。……ロマリアの方々はこちら側の方なので、最悪表に出るくらい変な対応さえしなければ問題はない。教皇さまもそれをわかっているのか、にっこりと笑顔を浮かべ、反対側のゲルマニア皇帝とのお話を始められたようだ。ふ、ふぅ……生きた心地しない……。教皇さまの背後に控えるジュリオと視線を交わすけど、それも一瞬。私の背後のセイバーを警戒してるのか、ジュリオは自然に周囲を見回すように視線を動かしている。
「おほほ」
「っ」
反対側。アルビオン公王とトリステイン女王が座る方から、上品な笑いが聞こえてくる。……このぉ、私を放っておいてご歓談とはいい身分……いや、実際にいい身分なんだった。私も含めて……。
ど、どうしよう。ここで一番怖いのは、アルビオンとトリステイン側から国どうしの大きな話を振られたりすること。一応それなりにこの辺の地理とか国の関係とか見たけど……。それでも、私が考えなしに決定するとまずいこととかもある。教皇さまがいる方は抑えてくれているけど、アルビオン公王やトリステインの女王から何度も質問なんかされたら……っていうか公王さまの方は私がシャルロットだって知ってるからむしろ狙ってやってくる可能性も……昨日の夜の感じだと、結構意地悪な人だからだいぶ可能性高そう……!
「うぅ……」
話しかけるなという空気を出しておく。姉の真似をして、基本は無口無表情。なんかあれば一言二言くらいで返す。わからないこととか即答が難しいときははぐらかすか返答を待ってもらう! それで行くしかない……!
……あ、劇が始まった。劇をやってる間は流石に静かになるから、そこは安心かな。……それにしても、あれは姉の前にガリア王だった、暴君ジョゼフとの話か。……大まかには聞いていたけど、結構すごいことやってたんだなぁ……。っていうかそのジョゼフって私の叔父なんだよね。んー……実感ないなぁ。姉ですらほとんど他人みたいな距離感だったのに、会ったこともない叔父なんてそれよりどうでもいいというか……。でも、この内容で何か話さないと駄目なことあるかもだから、真剣に見ないとな。……え、火石を取り込んで化け物になった? 艦隊の三分の一を飲み込む爆発……!? きょ、虚無ってそんなこともできるの!? わ、私にもその虚無の力があるらしいんだけど、私も化け物になっちゃうのかな……!?
……あ、あれは公王さま……叔父と戦っていた時は辺境伯だったんだっけ。化け物になった叔父と辺境伯が戦い、そこで姉が参戦して叔父にとどめを刺し、このガリアは救われました、ってお話みたい。……役者たちも美男美女ばかりだけど、公王さまについては、本物の方が顔は整ってるよねぇ。
「――っ」
馬鹿なことを言った……! くぅ、無駄に意識させて……! 今までロクに話しかけてこないのもなんかそういう作戦なんでしょ絶対! この劇にも口出してるに決まってるわ!
……そんなことを考えていると、劇に参加していた役者たちが壇上に上がり、挨拶をしていた。……ふぅ、内容は何とか覚えてる。私がいた修道院では娯楽もなかったから、こういうのは新鮮で頭に残りやすかったっていうのもあるんだろうな。修道院で今まで過ごしてきた長い年月の記憶よりも、そこから連れ出されてこうして外で過ごしている一週間の記憶の方が、ずっと心に残っている気がする。何もかもが新鮮で、キラキラしているというか……ま、まぁ、そのキラキラの九割はジュリオなんだけど……ふふっ。
「ぼうっとしてないで。拍手したら?」
「……わかってる」
後ろから、セイバーが耳打ちしてくるのを聞いて、それもそうだ、と小さく拍手をする。みんな静かにしているからかその音はとても響いて、私と同じ段にいる王様たち、そして下にいる貴族たち、と拍手は伝播していって、とても大きな拍手になっていった。……剣の騎士、というから武勇一辺倒なのかと思ったら、こういうところも気が利くのね、と変な関心をセイバーに抱いてしまった。……お礼は後でいっか。むしろ二、三の無礼をされた記憶があるからお礼なんてしなくてもいい気もしてくる。
「さて、あとは立ち上がって先導に従い戻るだけだ。……足腰は大丈夫?」
「……馬鹿にしないで。夜のことなら回復してる」
セイバーにそう言い返して、すっと立ち上がる。うん、練習通りの立ち居振る舞いができているだろう。後ろのセイバーからもよしよし、と馬鹿にしたような感心したような声が聞こえてきたので、問題ないのだろう。近衛兵たちが作った道を、先導を受けて歩いていく。ここからはまた先ほどの会場に向かって、続きをしていくのだろう。
とりあえず公王さまのことだけは常に気を付けておかないとな、と心の中だけでため息をついて、私は転ばないように気を付けて段上から降りていくのだった。
・・・
「……というかなんであなたが私の側近みたいになってるの?」「うん? ああ、もうガリアには色々とウチから出向してきてる人とかいるからね。……うちの殿はシャルロットちゃんと仲もいいし、もう周りは固めてたんだよね。そんなところで考えなしに乗っ取りとかするから……」「……私が悪いみたいな言い方しないで」「はいはい。あ、ほら、こっちの方がいいよ。普通に座るとまだちょっと違和感あるでしょ?」「……こういう気遣いできなかったらすぐにクビにするのに……!」「はっはっは。卒業したての小娘に隙見せるほど甘くはないよー」
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