彼女の両親は優秀な魔法使いだった。「不死鳥の騎士団」という、ヴォルデモートに対抗する組織に入って、何度も死線をくぐり抜けてきた。
友人も多く、自然と人が集まる魅力を持った人達だった。
彼女もまた、優秀な魔女であった。学生にして莫大な知識を持ち、その魔法の力はあの偉大な魔法使い、アルバス・ダンブルドアをも驚かす程だった。
だが彼女は、両親とは違って、人と馴れ合うのを嫌っている、冷たい人。
ーーように見えるらしい。
これは、冷淡に見えるとある魔女の話。
*
ホグワーツの「禁じられた森」のすぐ近くには、巨大な森番の小屋がある。
森番は野蛮だというから、誰もそこには近づかない。おまけに「禁じられた森」には恐ろしい化け物が非常に多く生息している。
森番は、いつも小屋でペットの犬と二人きり。やる事といえば、森に入ろうとする生徒を捕まえたり、森に住む生き物達の管理をしたりするくらい。退屈な毎日だ。
だがこの頃、森番ーールビウス・ハグリットには、とある楽しみが出来ていた。
「ハーグリィーットォオー! 遊びに来たぞォ!」
今日もまた、”彼女”の声が聞こえる。
綺麗な声を持っているのに、わざわざ叫ぶなんざ勿体無い。
ハグリットはため息をつき、小屋のドアを開け、”彼女”を中に招き入れる。
「声デカイんだよお前さんは。...まぁ、中入れや」
「ありがとうハグリット。じゃあ、お邪魔します」
今年の九月に、ホグワーツに入学してきた一年生の”彼女”。
名前は、アイル・ポッター。
あのジェームズ・ポッターとリリー・エバンズの娘だそうだ。それを聞いた時、教職員方は大層喜んだという。優秀なあの二人の娘だ、きっと偉大な魔女になるに違いない。
教員の期待した通り、彼女は優秀だった。
おまけに、リリー以上に容姿端麗ときたら、将来有望だ。...と、思っていた時期があった。
「アイル、お前さん、友達はいないのか? いっつも俺んトコに来て...」
「私の友達はハグリットよ。それに、ハグリットだってどうせ暇でしょ」
「決めつけんじゃねぇよ」
品行方正、才色兼備...性格も悪くないというのに、友達が一人も出来やしない。
勉強も出来るし容姿も良い事への嫉妬や、高嶺の花という印象があるのは分かる。だが、入学から二ヶ月も経っているのに、いつも一人で過ごしているのは心配になる。
昼休みや休日になると、同学年の友達と遊んだりするわけでもなく、決まってハグリットの小屋に来るのだ。
まぁハグリットも、同じ”魔法生物好き”として通じるものがあるし、自分を迫害せず、友達として接しくれるアイルに好感を持っている。
だが、それとこれとは話が別だ。
「何で友達が出来んのかねえ」
「だから、ハグリットが友達だって言ってるじゃない。ね?」
小さくそう言うアイル。
彼女の寮はグリフィンドールだ。獅子寮は、何方かと言うと問題児の塊のような連中ばかりなので、アイルも友達が出来るだろうとハグリットは考えていたが、存外そうでもない様子。
寂しくないのか?と聞くと、ハグリットとファングがいるから平気、と返された。
複雑な気分だ。
「それに、組み分けの時は違ったけど、今では誰も話しかけてくれないの。まぁ、一人の方が、何の
「...そうか」
アイルがそう言うのならば、何も言うまい。
無理をしているようには見えないし、ジェームズ曰く、元々こういう子らしい。冷淡そうに見える子、だそうだ。話せば楽しい子なのにな。
それにアイルは、日常生活では滅多に笑わない。時々、微笑か嘲笑を浮かべる程度。
ただでさえ綺麗な容姿を持っているのに、笑みを重ねないのは勿体無いと思わないのだろうか。
「作った笑顔は、所詮ただの飾りでしょ? 私、化粧は嫌いなの。自分を偽ってるみたいで。だから私は、本当に楽しいと思った時にしか笑わない」
「なら良かった、俺といる時、お前さんは楽しいって事だな」
「当たり前じゃない。こんなに話の通じる人、そういないわ」
アイルはファングを撫でながらそう言った。
笑顔は普通、自然と出来るものだ...つまり彼女は、日常を楽しいと思っていないのだろうか。
「私は嫌いよ、こんな世の中。『暗黒時代』なんて...さっさと終われば良いのに。そうすれば私も、少しは普通に笑えるようになれるかもね」
「良いさ、お前さんは、そのままで」
「...そうね」
妖艶な彼女の笑みは、今でも頭から離れない。
惚れる...とは少し違う。滅多に笑わない少女の見せた、僅かな喜びが垣間見れた気がして、何となく彼も、嬉しくなったのかもしれない。
*
それから時は経ち、アイルは五年生になった。
相変わらずボッチ。この五年間で称号が、「ボッチ」から「真性のボッチ」に変わった。
ヴォルデモート卿の力は益々強大なものとなり、イギリス中に暗雲が漂っていた。年を重ねる毎に、アイルの顔からは笑みが消えていった。
つい二年前にダンブルドア校長の好物がポテチだと知ったアイルは、新作ポテチで彼を買収。
図書室の禁書の棚への「永久入室許可証」を手に入れ、血塗られた歴史から闇の魔法まで、幅広く知識を蓄えた。
一部では、アイルが闇の方面へ堕ちるのではと心配の声が上がったが、ダンブルドアが「ポテチをくれる人は皆正義じゃ! ジャアスティス!! ハイル・ポテチ!」と諌めた事もあった...気がする。
アイルは二年生時から、グリフィンドールのクィディッチ選手として活躍していたが、その人気は凄まじかった。
シーカーとして、髪をなびかせ、金のスニッチを追いかける姿は、一体どのように映ったのだろうか。クィディッチの時だけは、彼女は楽しそうに笑っていたかもしれない。
だがそのクィディッチ選手としての人気が、アイルのボッチさに拍車をかけた。
「あれ、アイル・ポッターじゃん」
「うわぁ、綺麗」
「お前話しかけてみろよ」
「無理だろ、あんな完璧人間と」
「でも何か、冷たそう。笑わないし」
「赤い目もちょっと恐いかな...」
誰の遺伝かも分からない赤い瞳も、人を近寄らせない空気を漂わせていた。
おまけに、目の形は父親譲りなので、少し吊り目で目付きが悪く見える。
と、いうわけでーー
「ハグリット、ユニコーン見たい」
「無茶な事言うな。俺でも滅多に見られないんだぞ」
相変わらず休みはハグリットの小屋なわけで。
「お前さん、一年生の時からほとんど性格変わってないな」
「褒め言葉として受け取っておくわね」
「ボッチめ」
「私には、ハグリットっていう親友がいるから良いの」
これで普通に笑えば、丸っきりあの二人の子供なのになぁ...。
*
「ハグリット、ノーバーに会いにきたよー!」
あれから、十年以上の時が流れた。
ヴォルデモート卿はハリー・ポッターに打ち砕かれ、魔法界には再び平和が戻った。
ついこの間、ハリーはホグワーツに入学し、アイルは今度は教師としてホグワーツに舞い戻ってきた。かつての親友と、また語り合える...こんなに喜ばしい事が他にあるだろうか。
この頃、森番ーールビウス・ハグリットには、また、とある楽しみが出来ていた。
「声のデカさは相変わらずだな...仕事はせんで良いのか?」
「バカにしないで。私を誰だと思ってるの?」
「晩年ボッt「天下無敵のアイル様よ」
自信家で、綺麗で、優しくてーー
「何で友達が出来んかったのかねぇ」
「ハァ...未だにそんな事を言うのねハグリット。私の友達は、いや...親友は、今も昔も貴方よ、ハグリット」
そう言うと、冷淡に見える彼女は、満面の笑みを浮かべた。