恋姫†国盗り物語   作:オーギヤ

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第三十一話

 

 溢れんばかりの才能と、眩いばかりの美貌。

 武芸・統治・詩・料理と何をしても超一流でありながら、同性の目すら釘付けにする容姿。

 

 曹操の人生は順風満帆そのものであった。

 それは曹操の経歴を振り返ってからも見てとれる。若くして孝廉に推挙され、そのまま一切躓くことなく領主へと駆け上がる。上官の覚えも常にめでたく、同僚達は誰もが一目置いた。

 

 先の南陽の乱においてもそうだ。敗勢濃厚の討伐軍の中で気を吐き、悪名高い月影に一太刀浴びせた武勇は天下に轟いている。統治も十全で武勇も高く、何をさせても超一流の完璧超人。

 

 南陽での敗戦も曹操は『非常に得る物が多かった』と前向きに捉えていた。全てに超一流でありながらも、飽くなき向上心を忘れない姿勢は民衆の心を掴み、その名声を天高く昇らせてゆく。

 

 全てにおいて完璧で順風満帆な曹操の人生。誰もが悩みとは無縁だろうと噂をするも、当の本人は大いに悩んでいた。年相応の乙女らしく、異性との関係に頭を悩ませていた曹操。

 

「────どうして返事が来ないのかしら」

 

 私室で寝台に寝転びながら呟く曹操。

 宿敵である月影へ向けて文を送ったものの、その返事が一向に来ないことに思い悩んでいた。

 

「彼の狙いが読めないわ。私達の関係で返事をしない理由がないし。まさか何者かが、私達の深い仲を引き裂くために妨害工作を? でも遣いの者は送り届けたと言ってたわね。ふむ────」

 

 まさか返事が来ないとは夢にも思わなかった曹操。その後の対応も不味かったと振り返る。

 意気揚々と一通目を送り、月影からの返事を待ち侘びていた矢先のこと。冀州討伐軍第二陣が布告され、その陣容に加わることとなった曹操軍。参戦は事前に決めていたことであった。

 

 軍を率いて本拠地を離れることとなったため、返事が来る前に二通目を送ってしまう。

 冀州へ向かう道中も、本拠地へ動向を知らせるための文と一緒に、月影へ向け三通目、四通目を送っていた。これは返事が来ている前提で、こちらからの返答を待たせないための配慮。

 

 そして張角を討ち取っては、帰り道で義勇軍を率いていた劉備軍の活躍を文に綴る。五通目を送り終えては『彼からどんな返事が来ているだろう』とウキウキしながら帰路へと向かう。

 

 だが、曹操を待っていたのは、まさかの返事無しという現実。あると考えていたものが無かった時の衝撃は計り知れない。その理由を考え続ける曹操。そして脳裏に電流が奔る────。

 

「────ハッ!? まさかこの状況を事前に読んで返事を保留している? 彼ならあり得る!」

 

 曹操はこれが駆け引きの類であると理解した。

 月影が敢えて返事を焦らすことで精神的優位に立ち、こちらに揺さぶりをかけているのだと。

 

 一通目で気づいていれば挽回も可能だった。

 だが、五通も送った後では極めて難しいと曹操は思う。今更になって弁解なんて出来ないと。

 

「この私を手の平の上で踊らせるなんて、やはり只者じゃないわ。ただ今の状況は、ほんの少し不味いわね。まるで私が一方的に文を送り続けている痛い女みたいじゃないの…………もうっ!」

 

 やってくれたわね、と憤る曹操。

 謀られた悔しさからゴロゴロと寝台を転がり、枕をポンポンと叩いては不満を露わにする。

 

 それでも言葉とは裏腹に、その表情は楽し気で現状に対する満足感を隠し切れていない。

 

「────こうなったら緊急会議よ! 春蘭、秋蘭、桂花の三人を直ちに呼びなさい!!」

 

 そして寝台から起き上がっては高らかに宣言し、廊下を歩く城の人間を遣わし幕僚を集める。

 

 どう転んでも楽しめているあたり、恋愛は追いかける側が有利かもしれない。この裏で『マジで狙いがわからん……』と頭を抱えている月影がいることなど露とも知らない曹操であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様の文を無視するなんて反逆者風情が良い度胸じゃない! 即刻吊るしましょう!」

 

 曹操の召集から一刻と経たぬうちに謁見の間に集った夏侯惇、夏侯淵、荀彧の三名。

 荀彧は月影の無礼な振る舞いに大いに憤っては拳を握り、物理的な制裁を提案する。

 

「私に軍を率いる許可をお出しください!」

「攻め込む理由としては流石に弱いわね」

「反逆者がなんぼのもんですか! ぺんぺん草も生えぬよう徹底的に破壊し尽くします!」

 

 この場に集まった四人の中で唯一、南陽での戦いに不参加であった荀彧。

 夏侯惇と夏侯淵は荀彧の発言に目を合わせ『そんなに簡単な相手だったらな』と息を吐く。

 

「もし月影が返事をしていれば?」

「華琳様と文通ぅ!? そんなことは当然許せません! 筆を持てぬ手にしてやります!!」

 

 月影が曹操の髪を斬ってからというもの。荀彧の怒りは怒髪天を衝き倒していた。

 そして荀彧は言葉だけでなく時間を見つけては鍛錬にも励み、来る決戦に向け備えていた。

 

 元々は武力5程度の荀彧が、今では武力10と二倍にまで急成長を遂げている。

 荀彧の弛まぬ努力の跡が窺えるが、それでも月影とはまだ十倍近くの開きがあったりする。

 

「だがヤツを倒すのは至難だぞ。桂花」

「私の矢も当然のように弾いていたしな」

「アンタらがそんな弱気でどうするのよ。見つけ次第仕留める。その気概を私は忘れないわ!」

 

 軍師のイキが良いのはどの勢力も共通か。

 小柄なほど血気盛んで、大柄なほど大らかな傾向が強い。小柄な荀彧には勢いがあった。

 

 夏侯惇と夏侯淵の言葉にも荀彧は強気な姿勢を崩さない。荀彧には自信があった。なぜ自信があるのかは定かでないが、荀彧は自分ならば月影を討ち取れるとなぜか信じてやまなかった。

 

「決着をつけるのは当然として、今は過程を楽しみたいのよね。貴女達、何か良い方法は……」

 

 最終的に戦場で雌雄を決することを曹操は望んでいたが、それまでの過程も楽しみたいと考えていた。返事が来ないからといって武力行使に乗り出すなんてのは現状、もってのほかである。

 

 世間体も悪ければ、攻める理由としても弱すぎる。今はまだ、その時ではない。今は文を通して互いの事を知り合うことが望ましいと曹操は思う。そのためにはどうすればいいかと問う。

 

「ふむ、時に姉者。もし南陽軍の者から文が届いたとしたら、どう対応する?」

「敵からの文など読まずに突っ返す。慣れ合う理由が無いし、要らぬ誤解を与えかねん」

「なるほど。私は読まないということはないが、返事はどうだろう。まず警戒心が先にくるな」

 

 夏侯惇と夏侯淵の会話を耳に聞いた曹操は内心『え、そういうものなの?』と不安に思う。

 表情にこそ出さないが、返事がないのが一般的という会話は気になる。返事があって然るべきだと思っていた自分はズレていたのかもしれないと。それなのに既に五通も送ってしまっている。

 

「け、桂花はどうかしら? 南陽軍と直接的な関りはないけど、仮に文が届いたとしたら」

「想像したくもないですが、まず文を届けた者を激しく罵倒することは確実ですね。敵方の者であればその場で始末し、その首を返事とすることで強硬な姿勢を示すことも重要であるかと!」

「そ、そう。そういうものなのかしら……」

 

 信頼する三人の答えが揃って否としていることに、強い不安を感じる曹操。

 戦時下でないだけに荀彧の発言は過激であるが、夏侯惇と夏侯淵の発言は妥当も妥当。

 

 文鴦や鄧艾のように『別にいいんじゃねえの』とあっさり答える方が稀なのかもしれない。

 

「華琳様の文を無視するなんて舐めてるわね!」

「その通りだ! ヤツに常識はないのか!?」

「案外、月影はまともな感性をしているのか? いや、それは流石にないか。流石にな……」

 

 それでも曹操至上主義の荀彧と夏侯惇は、返事をしない月影に不満を示す。

 夏侯淵は一人天井を見上げながら考えるも、それはないかと思い直す。曹操は『時間を巻き戻せたら』と弱気に思うも時は刻み続ける。素直になれない曹操は意地を張り続けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 月影の性格からして返事を求めればそれに応じていたが、曹操にはそれが出来なかった。

 一通目で一文『交友を深めることを望む』とでも要求していれば、月影は『そういうスタンスか』と快く了承し、有意義なやり取りとして曹操と文を交わし合っていたことだろう。

 

 初手でその機会を逸していた曹操が、それ以降に求めることなんて出来なかった。そんなことは覇王の誇りが許さない。覇王の誇りが、そして乙女心が下手に出ることを許さなかった。

 

 それでも一方通行はやはり寂しい。月影から返事を引き出そうと躍起になる曹操。こちらから求めることが出来ないのならば、なんとか向こうから返事を出す気になるように仕向けたい。

 

「────彼が好む話題がいいでしょう。そうなると荒事。最近の荒事関連といえば……」

 

 私室で筆を手に取り、書簡に向かって月影から返事を得るべく考えを巡らせる曹操。

 幸いにも荒事関連は事欠かない時代。現在幽州で勃発中の張純の乱。並びに冀州で勃発中の黒山賊の乱。并州でも領主が殺害されるなど、南陽・黄巾の乱以降も大陸の情勢は不安定であった。

 

 朝廷には立て続けに起こる乱に対し、新たに討伐軍を派遣する余力が無く、反乱勃発地点から近い領土を守護する諸侯に討伐の触れを出す。張純の乱は袁紹と公孫瓚が対峙し、黒山賊の乱には劉備が中心となり周辺諸侯と共に対峙する。

 

荊州から遠く離れた地の反乱に対し、月影が高い興味を示すことはなく『物騒だな』と呟いては、周泰を通して裏取りを行い、情報に間違いがないことを確認してはウンウンと頷いていた。

 

「益州でも反乱の兆しがあったかしら。この情報の真偽は定かでないため過信は禁物……っと」

 

 大陸全土に広い情報網を持つ曹操。

 流石としか言いようがないが、それを無償で教えられている月影はやはり困惑を隠せない。

 

 なんらかの意図があると考えるのが自然である。その意図が読めぬ以上、闇雲に返事をするのは危険と考える。その間も続報が届くのだから、やはり警戒せざるを得ない状況であるといえる。

 

「それと西園八校尉創設の噂ね。私と彼が選出されたら、都で逢えたりしたりして……ふふっ」

 

 さらには昨今、噂されている西園八校尉という皇帝直属部隊創設の話題を曹操は挙げた。

 

 今なお大陸各地で勃発している反乱。

 その原因の一つに、朝廷の威光が失われているという問題が大きく取り出さされていた。

 

 朝廷の威光回復に向け、優れた人物を八名選出し、その八名を中心として部隊を編成する。

 有事の際には民兵を徴兵するばかりではなく、専任の強兵が討伐にあたることで反徒を速やかに打ち倒し、国軍の強さを民衆に示すことで朝廷の健在さを大々的にアピールする狙いがある。

 

 その候補は先での反乱鎮圧に貢献した諸侯。

 曹操、孫策、袁紹の名が挙がる中、月影の名を挙げる者も朝廷内には複数存在した。

 

 反乱側の主犯格の名前を挙げる行為は波紋を呼ぶも、影響力がある点は誰もが認めるところ。

 国内で騒ぎを起こせば南陽軍が討伐に来るという破壊力は、かなり強力な手札となり得た。劇薬であることに違いなくとも、即効性という点では高い効果が見込めることになるだろうと。

 

 選出会議は難航していたが、それでも近く答えが出る。朝廷もなんらかの変化を求めていた。

 

 

 

 

 

「────さてさて、書きますか。今日は何がいいかしら。高名な占い師と会った話でも……」

 

 その後も曹操は文を書き続ける。

 毎日少しずつ思いを籠めて書き連ねる。すっかり月影へ向け文を書くことが日課になっていた。

 

 来る日も来る日も書き連ね、月影からの返事を待ち続ける曹操。頭の片隅には常にあり、誰かが訪ねて来る度に考えが過ぎるも、中々それが実を結ぶ日はやって来てはくれない。

 

「ぐぬぬ……反逆者月影。華琳様を焦らすなんてなんたる悪党。はらわたが煮えくり返るわ!」

「いっそコチラから返事を急かすか?」

「止めておけ姉者。華琳様は楽しんでおられる。我々が余計な手出しをするべきではない」

 

 私室で筆を持つ曹操の背を見つめる三つの影。

 荀彧、夏侯惇、夏侯淵は主人である曹操の葛藤に気づいていても力になれずにいた。

 

 他ならぬ曹操自身が助けを求めておらず、独力で打破しようとしている現状。三人は陰ながら様子を見続ける。そして曹操が楽しそうにしている様子を見ては『はよ、返事しろ』と思う。

 

「生臭い話題ばかりではいけないわ。隅に髑髏の絵を添えて、柔らかい雰囲気を演出しないと」

 

 曹操の努力は時として明後日の方向を向いてもいたが、それでも日々書き連ねる。

 月影へ向け文を書く行為は、曹操にとって楽しい時間であった。月影を想いながら筆をとり、時には空を見上げながら反応を想う。それは安らぎを感じる瞬間であると曹操は感じていた。

 

 

 

 

 

 やがて季節は移ろい春になった。

 曹操が九通目の文を届けてから半月後のこと。ようやく曹操の努力が実を結ぶ時が訪れる。

 

 その日は月影の下に書簡を届けていた遣いの者が、これ見よがしに堂々と城を闊歩していた。

 その手に持つは一通の書簡。風を切りながら歩を進め、謁見の間に集う曹操、荀彧、夏侯惇、夏侯淵の前で跪いては、ようやく自身の役目が果たせたことに胸を張り、声高に報告を述べる。

 

「────えっ? 月影から書簡が届いた?」

 

 報告を受けた曹操は驚き、その目を見開く。

 咄嗟に出た声は、自分の口から放たれたとは思えないほど甲高く、見事に浮ついていた。

 

「ぬわぁぁぁぁぁ。遂にこの日がぁぁぁぁぁ!」

「さ、さっそく読んでみましょうか。おかしなことを書いているかもしれないし、さっそく!」

 

 全身に甘い痺れが襲う。

 胸の高鳴りが抑えきれず、すぐ横で頭を抱えて悶える荀彧の姿が目にも入らない様子の曹操。

 

 書簡に飛びつき、中の文章をマジマジと眺める。すぐに曹操の表情がパッと明るくなると、荀彧は鉛のような身体をなんとか起こし、夏侯惇、夏侯淵と共にひょっこっと書簡を覗き見る。

 

「うん? 思っていたより普通だな」

「妙なところがないのが逆に妙でもあるが」

「はぁぁぁ!? 散々焦らしておいてクッソつまらん典型分並べるなんて舐め腐ってますね!」

 

 月影からの返答はなんてことない、ありきたりな典型文と社交辞令が並ぶものであった。

 

 夏侯惇、夏侯淵はその簡素で面白味のない文章に疑問符を浮かべ、荀彧はどうあっても憤慨していたが、当の曹操は余すことなく読み切っては、満足そうに目を瞑っては思いに耽る。

 

「彼って思っていたより丸っこい字を書くのね。文字の大きさも均等だし、意外な一面だわ」

 

 曹操にとっては返事が来ることが重要であり、内容なんて実際なんでも構わなかった。

 

「筆圧とか私に近いと思わない? これって私と彼とで近い性質って捉えてもいいわよね!?」

 

 些細なことからでも喜びを見い出す曹操。

 傍にいる荀彧の両肩を手で揺らしながら独特の着眼点で月影との共通点を見つけ、はしゃぐ。

 

「筆圧なんてわかんないです……」

「何言ってるのよ桂花。もっとよく見なさい。この文字の跳ね方とかそっくりじゃない!」

「いや、そんなこと別にどうでもいいです。ジッと見てるとなんか頭が痛くなってくる……」

 

 荀彧にとって敬愛すべき主人である曹操の喜びは自分の喜びのはずであったが、月影関連に関してだけは素直に喜べずにいた。主人を取られかねない危機感を抱かずにはいられない荀彧。

 

「返事は早めに返してあげましょうか。その差で器の大きさを示すのよ。三人共わかるわね?」

「ハッ! 勿論わかります!」

「はい。華琳様が楽しそうで何よりです」

「私も月影に果たし状でも送ろうかしら……」

 

 夏侯惇が間を置かず返事をし、夏侯淵がそれに続いて喜ぶも、荀彧はやはり不満気であった。

 

 そして翌日の朝。とんでもない量の書簡を一晩のうちに書き上げては目を輝かす曹操。

 積み上がった書簡の山を見ながら三人は『また返事が来なくなりそう』と内心で思うも、曹操はそんなことを微塵も思っていない様子。送り届けられる書簡へ、にこやかに手を振り見送った。

 

「やったわ、二通目よ! そして前回よりも百八十文字も多いわ。大きな進歩ね!」

「一気に倍に!? これは完全に流れがきている証拠!? ど、どうしましょう……!」

「前回より文字数は減っているけど密度は今回の方が数段上。進展していると見做すべきね!」

 

 その後は継続的に月影と交友を深めることが叶った曹操。その喜びは大変なものであった。

 

 日々浮かれる曹操。そんな曹操に対してある時、幕僚の三人が訊ねた。月影を懐柔するつもりなのかと。交友を深め親しくなることで、将来的に配下に加えやすくしようと考えているのかと。

 

 曹操軍麾下の将達は月影軍の実力を身に染みて認識していた。戦うとなれば相応の犠牲が生じることは必至。仇敵であることに違いないが、戦わずして降せるのであればそれに越したことがないのもまた事実。主君である曹操のカリスマであれば、あるいはそれが可能かもしれないと。

 

「月影との決着は何れ必ず戦場で白黒付ける。その一点に変わりはないわ。ただ私は────」

 

 曹操はそれも悪くはないと考えていた。

 それでも月影が懐柔に応じる相手でないことを曹操は誰よりもよく理解していた。

 

 降せるのであれば打ち破った後。その認識が揺らいだことは一度たりともない。それでも曹操は筆を手に取る。戦う相手を知ることは戦略的に重要なこととして。そして何よりも────。

 

「────私は悔いを残したくないの。人の生涯はとても短い。徒に月日を費やすぐらいなら、私らしく真っ直ぐに進みたい。私は誰かに遠慮したり、自分の気持ちに決して嘘はつかないわ」

 

 好いた相手を深く知りたいと思う気持ち。

 この気持ちは誰にも負けないと曹操は自負する。誰が相手だろうと決して遅れは取らないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────孫策の妹。なぜ貴女が月影の傍に?」

「あら、月影。この睨んで来る人は知り合い?」

 

 そして曹操は華の都にて恋敵と出会う。

 孫権。そして劉備と出会った瞬間、曹操は直感した。生涯を賭して倒すべき敵であると。

 

「三人共、天下の往来で暴力はやめとけよ」

「暴力で成り上がった男は言う事が一味違うわね。暴力こそが貴方の生業じゃないの?」

「お兄さんが暴力を制止するなんて。昔は尖っていたのに成長しましたね。私は嬉しいです!」

 

 曹操、孫権、劉備が一堂に会する舞台は洛陽。

 都で繰り広げられるはキャットファイトならぬ、竜虎相搏つ天下の頂上決戦か。

 

「ふうん、劉備。貴女も、なのね」

「知らない人ですね。はじめまして!」

「大物ぶってると恥をかくわよ。曹操殿」

 

 目と目が合った瞬間、場の全員が察する。

 目の前の連中が主君の敵であると。曹操陣営。孫権陣営。劉備陣営の放つ空気が鋭さを増す。

 

「春蘭、秋蘭、凪」

「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、星さん」

「思春、明命、亞莎」

 

 どんな戦場も真っ青になりかねない殺気が支配する場。各々が無言で得物へと視線を送る。

 

 曹操側に夏侯惇、夏侯淵、楽進。劉備側に関羽、張飛、趙雲。孫権側に甘寧、周泰、呂蒙。

 時代を代表する武のトップ層が互いの射程圏内で睨み合う緊迫の場。なんとか場を収めようと少し離れた後方で見守る孫策に声をかける月影。孫策はそんな様子をニコニコと笑って見ていた。

 

「コイツら何で急に揉めてんだよ……」

「あははは! 人気者は辛いわねえ。月影」

「なあ、孫策さんよ。悪いが止めてくれんか。君の妹達が今にも暴れ出しそうなんだけど」

「そんな無粋な真似は出来ないわよ。女の戦いは手段を選ばない。見てる分には愉快ねえ!」

 

 孫策は月影の頼みに応じることなく、睨み合う三人を盛大に囃し立てては楽しんでいた。

 都へなんて来るんじゃなかった、と肩を落としては争いの渦中に取り込まれていく月影。

 

 中平二年(185年)夏。群雄、相見える。

 

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