艦これ海上護衛戦   作:INtention

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この物語も早い物で10話となりました。
この話は枠組みを作ってあるので、完結させたいですね。

さて、秋刀魚を最終日ギリギリで30尾釣り上げた提督です。
(毎日1-5、3-3に通ってましたがあまり釣れませんでした。なんでや)


第十話 遠すぎた島

「司令は艦娘をどう思っていますか?」

 

参謀の一人が突然聞いてきた。

 

「艦娘ねぇ…。よく分からないな」

「私もです。あれは人間なのか機械なのか。どちらでしょうね」

 

素直に返すと、その若い参謀(俺だってまだ若い方だが)も同意した。

 

「少なくとも、人類の希望となるだろうな」

「司令はあの兵器が怖くないのですか」

「怖い?」

「あれは優れた思考能力と武器を兼ね備えた強力な海上兵器です。しかし、人間レベルの知能を持っている以上、人間に歯向かう可能性があります」

「まあそうかも知れない。だが、その対策くらいしてるだろう。プログラムか何かは知らないが」

「そもそも現代の技術で作れるものなのでしょうか」

「君はあれが機械じゃなくて人間だと言うのか?」

「判断出来ませんが、それはそれで脅威ですね。海上を滑るように移動し、旧式の兵器で現代艦でも倒せない敵を倒す。少なくともサイボーグにされている事は間違いない」

「君はSFが好きか」

「えぇまあ」

「俺だって興味があるし、議論してみたいとは思うが、今は任務中だぞ?」

「あ。失礼しました」

 

若い参謀の間の抜けた声に思わずため息が出た。

現代っ子にしては珍しく空想が好きな若者なのだろうが、緊張感にかける。

艦娘は敵ではないし、それより現状の作戦に集中すべきではないか。

この参謀と話していても仕方が無いので艦長に話を振った。

 

「艦長、異常はないか?」

「はい。艦隊は計画通りに南下中です」

「そうか」

 

俺は今、艦隊の司令として旗艦のCICにいる。

10隻程の艦隊だが、現代では大規模な艦隊だと言える。

全てが軍艦という訳ではなく、数隻の貨物船も含んでおり、それらを中心にした輪形陣を敷いている。

艦隊は台湾とシンガポールの中間くらいの位置を南下している所だ。

この海域は艦娘の働きによって、それほど危険ではなくなったが、艦内は緊張感を保っている。

そのため、若い参謀のような楽観的な考えは困るのだが、彼は戦いがどのようやものかをまだ理解していない。今回が初陣と言っていたからだ。若い士官も実戦経験をさせようという事だろうが、彼は参謀としてここに立つには若過ぎる。

経験豊富な士官だけで維持するのは難しいのは分かるが、新人同然の士官をこの大事な作戦に参謀として入れるのは如何なものか。

彼には立派に成長して欲しいが、司令部の緊張を乱さない事を願う。

 

「レーダーが不明機を捉えました!」

 

俺が考えていると、レーダー操作員が大声を上げた。

 

「何機だ!」

「1機です!11時の方角からこちらに向かって来ます」

「敵か」

「分かりません。データからすれば、敵では無さそうですが」

「うーん。念のために目視確認だ」

「ヘリを上げますか」

「そうだな。頼む」

 

常時待機させていたようで、数分で駆逐艦の甲板からヘリが飛んでいった。

 

十分後、敵航空機と接触した艦載ヘリは不明機が古風な水上機で、赤い丸が描かれている事を報告した。

 

「不明機は艦娘が運用していると思われる搭載機の模様」

 

CICに安堵の声が漏れた。

どうやら敵では無さそうだ。

 

「航空機から電文を受信。"こちらは日本海上護衛軍第三艦隊旗艦、足柄である。貴艦隊の付近を通過するが、攻撃の意思はない"だそうです」

 

艦娘はどの艦船にもこのような電文を飛ばす。敵意が無い事を民間船などに伝えるためだ。例え同じ国の船でも正式に名乗るのは普通の船と違って特異な存在なので気を遣っているためだと言われている。

俺も何度か見た事があるが、女性達が武器を持って海上を進む光景はやはり異様だ。だが、彼女らは笑顔で手を振るため、乗組員達からは海の女神として人気がある。

今回も艦娘を一目見ようと甲板に出て手を振る水兵が出て来るだろう。

いつもなら咎めるところだが、今回は見逃す事にした。

 

「艦長、主砲を仰角最大にして、艦娘から砲口を背けろ」

「はい」

 

彼女らはただ通過するだけだし、大袈裟かも知れないが敵意が無い事を示す国際マナーだから仕方が無い。

 

 

 

間もなくレーダーが艦隊を補足、単縦陣でこちらに向かって来た。ちょうど反航する形だ。

俺も艦娘を見るために艦橋へ上がっており、敬礼をした。

すれ違う際に敬礼を交わすのはいつもだが、何か違和感を感じる。

 

「やつら無表情だな。何かあったんだろうか」

 

艦橋にいた士官のつぶやきで気がついた。

いつもなら笑顔も見せる艦娘が無表情でこちらを見つめている。

艦舷を見ると、水兵達も違和感を感じているようだ。

艦長も気が付いたようで、俺に進言してきた。

 

「兵を配置に戻しますか」

「敵意は無さそうだ。兵を急に戻したりしたらそれこそ怪しまれる。考え過ぎだ。きっと何かあったのだろう」

 

艦長の懸念を一蹴する。

だが念のため通り過ぎたら警戒を強めるように指示した。

 

艦娘とすれ違う。

おもむろに主砲をこちらに向け、撃ってくる事を想像したが、ただの杞憂であった。分かってはいたが、安堵のため息がでる。

 

「何も起こりませんでしたね」

「まあ特に悪い事をしている訳ではないからな」

「目的地まで後3時間です」

 

航海長の言葉に頷く。後ろめたい気持ちを払拭するため、作戦内容を確認しにCICに戻る事にした。

 

 

 

「…ここに展開すれば任務は終了です」

「よし。いいと思う」

 

CICで参謀長と作戦内容を確認していると、水兵に呼ばれた。

 

「司令。水上レーダーが不審物を捉えました」

 

レーダー操作員がモニターを指差す。

 

「不審物?」

「水上に2つ反応がありましたが、すぐに消えました」

「消えた?」

「はい。敵味方識別信号には反応していませんので、船や飛行機では無いかと」

「ふむ。消えたのは見つけてからどれくらいだ」

「1分程です」

 

1分か。もし不審物が敵だったとして、考えられるのは潜水艦。

だが潜行するまでが早すぎる。しかもこちらは最新鋭の346型レーダーを搭載している。普通のレーダーより遠距離を探しているのだ。敵だとしてもこちらに気がつくはずがない。

 

「司令、どう思いますか。敵ですかね」

「そうだなぁ」

 

敵潜水艦かと認定すれば攻撃準備に移る必要があるし、もし違えばイルカか何かだろう。ミサイルは有限じゃないし、イルカに対潜ミサイルを撃ったとなれば笑い話の種になる。

俺が悩んでいると、隣にいた中年の副官が口を開いた。

 

「司令、この海域に我が軍や同盟国の艦船はいませんか」

「ああ。いない」

「ではあれは敵です」

「敵だと!?」

 

CICがざわめく。

副官は空気に飲まれる事なく、無表情で進言してきた。

 

「敵潜に攻撃を進言します」

「攻撃!?まだ決めつけるのは…」

「いいえ。あれは敵です」

 

副官は俺の言葉を遮り、強い口調で断言した。冷淡な言葉の裏に何やら強い意思を感じる。

俺は落ち着いて進言を確認した。首筋に汗をかいている。

 

「貴官は不審物が敵潜であると判断。本作戦の障害となる事態を防ぐため、()()()が攻撃を要請していると捉えてよろしいか」

「はい、その通りです。本作戦は何としてでも成功させなければなりません」

 

士官の言い分は尤もだ。もしあれが敵潜水艦なら一大事である。

 

「…分かった。攻撃だ」

 

俺の言葉に隊員が走って配置に着く。

 

「距離は3万(m)です」

「3万…ソナーは?」

「範囲外です」

 

ソナー担当の士官が答える。

30kmは遠い…。

艦首にソナーがあるが、探知範囲は10〜15kmまでである。

 

「1万5千(m)まで詰めろ」

「は!」

「最大船速!」

 

足元から響く機関の音がジェット機のような甲高い音に変わる。

巡航用のディーゼルエンジンから速度が出るガスタービンに切り替えた音だ。

 

「2隻は輸送部隊を守れ」

「了解」

 

艦隊から3隻のDDGが前進し、対潜ミサイル攻撃を行う。残りのDD2隻は輸送艦の護衛だ。

 

「まもなく1万5千です」

「捉えたか!?」

「…まだです」

 

こちらへ向って来ているのなら既に発見していても良さそうだが…。逃げたか?出来ればここで沈めておきたい。

 

「ソナーに反応なし!」

「くっ…不審物発見地点に対潜ミサイルを放て!」

「目標は?」

「後で捉える。発射後も誘導可能だろう?」

「はい。では弧を描くように投射します」

「頼む」

 

砲雷長が指示を伝える。

 

「対潜ミサイル発射!」

 

操作員がボタン発射を押した。

 

 

 

艦橋前方のVLSの蓋が開き、ミサイルが煙と共に撃ち出された。

ケースから飛び出たミサイルはすぐに固体燃料に点火。可動ノズルで前方へ向くと、マッハ0.9で飛んでいく。

10km程飛行すると、後部のロケットを切り離し、パラシュートで減速して海面へ落ちて行った。

 

「長纓3号が海面に突入しました!」

「ソナーは?」

「反応ありません!」

 

やはりイルカだったか…。後ろの中年士官をちらりと見る。

彼は汗一つかかず、涼しい顔をしている。俺がどうするのか見守っているのだろう。

俺が唇を噛みながら逡巡(しゅんじゅん)していると、ソナー員が喜びの声を上げる。

 

「前方2、11時方向よりスクリュー音!」

「いくつある!?」

 

俺はその情報に食い付き、叫んだ。

 

「スクリーンに投射します!」

 

円形のスクリーンに目標(ターゲット)が浮かび上がった。

そこには、3隻の艦艇に向かってくる12本の航跡が映っていた。

 

「まずい!魚雷だ!全力回避!」

「面舵いっぱい!」

 

全員が再び弾けるように動き出す。

左側へ床が傾き、30ノットで走る巨体が右へ急旋回して行くのがわかる。

 

「密度が狭いです!一本は躱し切れません!」

 

艦長が悲痛な叫びを上げた。

 

「衝撃に備えろ!」

 

咄嗟に机へ掴まり、体勢を低くした。CICからは外の様子が見えない。

時間が永遠に思えるように感じる。

 

数秒後、体が投げ出されるようなショックを受けた。

 

俺はしっかり掴まっていたので無事だったが、転倒したり椅子から転げ落ちた隊員もいた。

 

「被害を報告!」

「左舷後方に穴が空きました!速度が落ちます!」

「346型レーダーシステムは無事か!」

「現在損傷確認中です」

「"合肥"より入電!"銀川"の反応がありません」

 

情報が錯綜している。とりあえず現状を把握せねば。

俺は順番に聞き直した。

 

「346型システム正常!」

「364レーダー異常ありません!」

 

対空管制システムや航海レーダーは無事か。

 

「浸水箇所は一部のみです」

「反対側にも注水し、バランスを取れ!」

「はい!」

 

船体への被害も許容範囲内。

 

「ソナーは?」

「SJD-8/9も稼働しています。アクティブソナーの感度は中。パッシブソナーの感度は気泡その他の影響で良くないです」

 

雷撃による振動と、スクリュー音を掻き消すために作動したマスカー装置の泡で水中の探査は難しくなった。

敵潜を見つけるのがより厳しくなる。

 

「水上レーダー戻ります」

 

スクリーンが復帰して点が2()()浮かび上がった。

 

「1つ減っている!?」

「"銀川"は」

「艦橋へ繋いでくれ」

 

隊員が受話器を渡してきた。

俺はそれを受け取る。

 

「航海長。無事か」

「はい。艦橋への被害は軽微です」

「"銀川"は見えるか」

「残念ながら沈没しました」

「…なんて事だ」

「"合肥"からも煙が出ています」

 

一瞬にして最新鋭の駆逐隊が壊滅してしまった。

第三次中台戦争で米軍のアーレイバーク級イージス艦の脅威を見て以来、人民解放軍が必死になって作り上げた中華神盾(ドラゴンアイ)を搭載した駆逐艦も海からの攻撃には無力だった。

幸い、一時間程周囲を索敵したが、それ以上の攻撃は無かった。

今優先すべき事は何か。焦燥感が募る。

 

「司令。救助を優先すべきです」

「うむ…」

「いえ、作戦遂行あるのみです」

 

スタッフが救助を具申する中で、中年の参謀はその一点張り。制帽の赤い星が鈍く光る。今まであまり司令部に干渉せず、ただ座っているだけだったが、今は俺に詰め寄っている。

 

「この作戦は党の指導の元、行われている。つまり私、"政治将校"の言葉は党の意見なのです」

 

党に逆らえばキャリアは終わりだ。むしろ反逆罪で逮捕もありえる。

 

「052D型駆逐艦の損失は残念だが、艦隊の作戦能力はまだある。作戦続行だ」

「この作戦は本当に党が望んでいるのだな?政治将校殿」

「同志政治将校で構いませんよ。司令が仰る通り、これは党の意向です」

 

俺は頷いた。

 

「"合肥"は手負いです。作戦遂行の足を引っ張る可能性がある。"修理"のため離脱するが構わないな?同志政治将校」

「良いでしょう」

 

被害が大きい"合肥"はこの場に残り、救助に当たるように命令した。

副官である政治将校もこれには了承した。

司令部の全ての士官を敵に回した政治参謀だが、党の威光には従わざるを得ない。今俺が出来る反抗はこのくらいだ。

 

"合肥"を残し、後方の輸送船団の護衛に向かわせる。

念のため対潜ヘリを向かわせると共に、対潜哨戒機を要請した。

だがハイナン(海南)の海軍航空隊の哨戒機がスクランブル状態で待機しているとは限らない。

今から慌てて始動させても間に合うかは不明だ。

現状の自艦と旧式艦2隻で対応なければならない可能性を考えねばならないかも知れない。

難しい顔をしていたのだろう。情報参謀が俺に進言をして来た。

 

「先程すれ違った日本海軍に防衛支援を要求しては?」

「日帝の協力など不要!それに、本作戦の目的を知られる訳にはいきません」

 

政治将校は若いスタッフの意見を一蹴した。

政治参謀は副官としての役目があるが、これではあいつが司令官ではないか。

だがあいつではなく、俺が司令官として立ち続けるために今すべき事は南洋に陸軍を送り届け、五星紅旗を立てる事だ。

そのために最善の努力をしよう。

 

南威(チュオンサ)島まで後どれくらいだ」

「420kmです」

 

明日の朝、日の出と共に揚陸を開始する。間もなく日没なので、後10時間だ。

 

「夜間は目視が出来なくなる。それはやつらも同じだ。むしろ電子機器で察知出来るこちらが有利となる」

 

CICの全スタッフがこちらを見つめている。

 

「対潜警戒を厳とせよ。水中に動く物があれば攻撃せよ」

「は!」

 

 

 

日が沈むと、何もない海上では星明かりだけになる。満月ではないが雲が少なく、比較的明るい夜と言えるだろう。

艦隊は厳格な灯火管制を行っている。CICだけでなく、艦内も赤色ライトしか明かりがない。

窓の外は闇に包まれており、目視は出来ないが、航行はレーダーがあるので問題ない。

これなら敵も発見するのは難しいのではないか。

そういう根拠のない期待をしている。現代艦同士なら昼も夜も無いが、相手は機械でなはい。

残念ながら中国に艦娘はいないため、本当かは分からないかが、実際に生存率は上がっているらしい。

 

俺は気分転換にデッキに出た。

南洋特有の湿気の多い空気は不快たが、波の音は心を穏やかにする。

しかし今夜は穏やかにはならなかった。

戦闘への緊張もあるが、それは後方の光に気が付いたからである。

 

艦隊の後方、揚陸艦や貨物船から光が点滅しているのが見えるのだ。

こんな時間にモールス信号をやりとりする予定はないはずなのだが…。

まさか誰かに信号を送っているのだろうか…。なかなか反革命的(面白い)な行動をしているが、あちこちから光が出ているので違うだろう。

気になったため、艦長に聞いてみる。

 

「光の点滅ですか」

 

艦長は少し考え込んだが、ふと顔を上げた。

 

「もしかして煙草じゃないですか?」

「煙草?」

「火気厳禁の艦内ではなく、デッキで煙草を吸うのはよくありますね」

「そういえば」

「流石に今のご時勢に夜明かりを付けるやつはいませんが、後ろは陸軍を載せた貨物船ですからね」

 

暇を持て余した陸軍兵士が煙草を吸っているようだ。航海慣れしておらず、知らない人も多いのだろうが、こちらから見れば命知らずな行動としか思えない。

 

「今すぐ止めさせろ!」

「はい」

 

後ろの貨物船に無線で注意する。

貨物船からは了承の返事が来たが、十分経っても明かりは一向に減る様子がない。

 

「一体何をやっているのだか」

 

焦りが出てきた。

もう一度注意しようとしたその時、

レーダー操作員が大声を上げた。

 

「数秒程、何か電波を受信しました」

 

CIC全員がスタッフの方を向く。

 

「方位60です」

「左後か…」

「戦闘用意だ!」

 

念のため、非番の水兵を起こし、臨戦態勢を取らせる。

艦内電話で警告を出し終わった後、今度はソナー操作員が叫んだ。

 

「ソナーがスクリュー音を探知しました!近いです」

「魚雷か!?回避せよ!」

「多いし近いです!距離一千!」

 

1000mだと!?艦隊が密集してもそんなに距離を近づける事は無い。それ程近くに魚雷があるのだ。

 

「電波を発信した地点に対潜ミサイルを放て!」

 

砲雷長が指示を出す。

 

「マスカー始動します」

「待て!それではソナーが使えんぞ」

「誘導魚雷ならマスカー装置による泡が一番効果的です」

 

音響魚雷を避けるには、的になる機関を止めるか、マスカーでかく乱するしか無いか…。

 

「260の方角に何か見えます!」

「機銃掃射しろ」

 

艦の前後にある730型CIWSの30mm機関砲が火を吹く。

海上に線状の水柱が立った。

 

「どうだ?」

「浮遊物は確認できません!」

 

元より期待していない。牽制になれば十分だ。

 

「司令官。全弾避けきれそうです」

「いいぞ」

 

なんとか回頭が間に合ったようだ。

CICのモニターでは本艦のすぐ脇を数発のターゲットが高速で通り過ぎている所が写っていた。

 

「流石。よい腕ですな」

 

汗を滝のように流した政治将校が額を拭っている。

艦内はクーラーが効いているのだが、この人は暑がりなのだろうか。

 

ホッとしたのも束の間、後方から爆発音がした。

 

「揚陸艦"沂蒙山"がやられました!」

「何!?」

 

さらに数発の爆音がした。

隣の"長白山"だろうか。

 

「ソナーに反応はあったか?」

「いえ。後方は揚陸艦以外の反応はありませんでした」

「そうか」

「その反応もノイズが多く不鮮明です」

 

前回の襲撃から推測していたが、確信に変わった。

1000m以内にいるのに探知出来ないのは、ソナーの性能が低いからだ。

我々の艦艇のソナーの品質か悪い事は有名だが、ここまで無力とは。

 

「みんな!救助と現状報告を。只今より本艦は反転して救助に向かう」

「は!」

「報告します。貨物船、揚陸艦共に激しい傾斜が見られます」

「政治将校!もはや作戦継続は不可能です!」

「……」

 

政治将校は苦々しい顔をこちらに向けている。

少し考え込んだ後、政治将校は吐き捨てるように言った。

 

「仕方ない。作戦は中止だ」

「了解です」

「司令!新たなスクリュー音です!」

「北方より艦隊が高速で接近中!」

「なんだと…」

 

潜水艦が攻撃だけでなく、新たな水上部隊とは…。踏んだり蹴ったりだ。

宗教には疎いが、よっぽど神に見放されていると見える。

CICスタッフらの顔から正気が失われている。士気は最悪だ。

 

「フリゲートの"宜昌"が被弾しましたが、それ以外は避けきりました」

「"宜昌"の状態は?」

「浸水が発生中ですが、沈没は免れそうです」

 

艦隊の80%以上が何かしらの損害を受けている。

ジリ貧だが、敵の魚雷も無限ではないだろう。避けながら離脱するしかない。

 

「報告します。北方の艦隊は日本海軍の第三艦隊です」

「第三艦隊…艦娘部隊か!?」

 

昼に出会った艦隊がなぜこちらに急行しているのかは不明だが、この女神を利用しない手は無い。

 

「日帝の助けを受けるとは屈辱だが、仕方ないな」

 

政治将校も苦悩に安堵が混ざった顔をしている。

俺は参謀達にCICを任せ、艦橋に上がった。どうせ救助が終了するまでCICにいても何か出来る事は無い。

 

目視出来るほど接近した日本の艦隊は先頭の艦娘が探照灯を付けて索敵を始めた。後ろの艦娘は隊から分離して爆雷を投げ始める。

驚くほど前時代的な攻撃方法だが、各地で水柱が上がる様子を見ると、不思議な安心感がある。

対潜ミサイルや短魚雷で狙うよりも物量で制圧する方が効果的かも知れない。

駆逐艦らしき小さな艦娘が狂ったように爆雷を投げていく光景は十分程続いた。

 

 

「…こちら日本海上護衛軍第三艦隊"足柄"です。敵潜水艦は全艦撃沈しました」

「司令。信じて良いものでしょうか」

「我が艦隊は彼女ら以外に対抗できる戦力はない。日本は敵国では無いのだし、信じるしかないだろう」

「畏まりました」

「司令、救助作業は後一時間程で終了する予定です」

「分かった。日本海軍にお礼と、そうだな…海南島くらいまでの護衛を頼もうか」

「図々しくないですか」

「構わん。我々中国人は使える物は何でも使う現実主義者だからな」

 

日本艦隊から了承を得て、南沙諸島奪還艦隊は帰還する事になった。

艦娘達がこの作戦に気がついていたかは分からない。

奪還に失敗したのは残念だが、この作戦は戦時の混乱に便乗するという下劣な作戦であり、俺はこれで良かったという気もする。

最新鋭の駆逐艦を含む数隻が沈み、被害も大きいが、以外にも犠牲者は少なかった。上陸を準備していた陸軍部隊も投棄した装備以外はほぼ無事であり、ボロ負けの海戦としては損害は軽い方だろう。

日本艦隊の登場など、疑問に思う点もあるが、この奇跡が無ければ海に沈んでいた。艦娘には感謝をすべきかも知れない。

帰ったら戦訓として、ソナーの強化と、ヘッジホッグの復活を上申しようと思う。

 

 




いっつも隣国の海軍が負けているような気がしますが、気のせいです。
海軍力がある東アジアの国が米・中・露・日であり、
その中で南方通商路しかない中国が被害に遭っているだけです。
ちなみに中規模な海軍国は深刻な打撃を受けて引き籠っています。(WW2のイタリアみたいに)

今回は久しぶりの戦闘回(しょぼいのは許して)と、一人称視点を活かした内容です。
森博嗣さんの『スカイクロラ』シリーズで、これは誰視点だろう…というシーンがあるのですが、それを一度やってみたかったのでこのような形となりました。

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